白銀翼の彼方
しばらく違う所に書いていたのですが、思いきってここに載せてみようと思いました。
ヘタクソですが長い目で見てやって下さい。
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主のアルミです🙇
次の作品を書き始めました👮
『ナナの冒険』です😊
話の内容は少年が卵を見つけて、孵ったのがなんとドラゴン😲
そのドラゴンのナナのお話です🐲
ファンタジーアドベンチャーです🙌
良かったら読んで見て下さい🙇🙇🙇
後、「黒い龍」の凱の新たな冒険の話も少しずつではありますが、構想中です📝
それでは新しい作品で✋😊
>> 494
ピピピ…
部屋の計器が警告のランプを回しながら鳴っていた。
『どうした?』
眼鏡を掛けた男が計器の前に座る男に尋ねた。
『また、誰かが時空を越えたみたいですね。』
『場所は?』
『0312249地点ですね。』
計器を見ていた男が振り返りそう言った。すると眼鏡を掛けた男がおもむろに笑いだした。
『ははは…。また、アイツか。』
『アイツってご存知なんですか?』
眼鏡を掛けた男は計器の前に座る男の肩を叩いた。
『常連さんだよ。』
『常連さん?』
計器の前に座る男は不思議そうな顔をした。
『後は俺が変わるからお前は休め。』
そう言うと眼鏡を掛けた男は座っていた男をどかし座った。
『では、お願いします。』
そのまま、仮眠室へと向かった。
眼鏡を掛けた男は時空を越えた常連さんにメールを打ち発信した。
《本当に疲れました。でも、楽しかったですね。また、違う時代を書くかはわかりませんが、その時は読んで下さい。後はパラレル楽しみにしてます。》
そして眼鏡を掛けた男は計器を見ながら微笑んだ。
by アルミ🚬🐢
>> 493
チチチッ
シュタ
パタパタパタ
心地良い風が吹く野原に独りの大柄な男が降り立った。
黒装束に漆黒の鎧を身に付け背には奇妙な形の刀を背負っている。
「ん~ッ良い天気だ。」
男は大きく伸びをすると腰袋から地図を取り出し辺りを見回した。
「おっ!あの家か…」
ザッザッザッ
膝の高さまである草村を歩いて行くと、一つの古ぼけた家が見えてきた。
家の前の木によじ登って腰掛けている小さい男の子の姿を見つけると男は近寄り見上げた。
「坊主、名をなんと言うんだ…」
「おじちゃん、だあ~れ?」
「父上の知り合いだ…」
「ぼく…ガイ!ガイって言うんだ。」
男の子は照れくさそうに足をブラブラとさせる。
「そうか、良い名前だ。俺様の名前は…」
ジャリ
「ガイ!誰か来たのか?」
納屋の方で米を精米していた昇が出てきた。
「うん、お父さんの知り合いの、おじちゃんと話してたの。」
「えっ!?誰も居ないぞ…」
昇と息子のガイは辺りを見回したが、誰の姿も見えなかった。
大柄な男がいた場所に一枚の手紙が置いてあるのを見つけた。
"男の生き様を見せて貰った。これからは俺様の出番だな。ゆっくり次の闘いまで休んでくれ。ηι"
キィー-ン
ギュオーッ
聞いたことも無い様な金属音が鳴り響いていた。
長い間読んでいただいてありがとうございました🙇
「白銀翼の彼方」の番外編「黒い龍」は無事に完結する事が出来ました😊
戦国時代と言う事でそれなりの言葉を使ったのですが、登場人物が多すぎてゴチャゴチャになってしまいました😂
後、「殺す」と言う言葉を使わないと言う事と、時代背景から横文字は使わないようにしました😱
もしかしたら間違って使ってしまっているかもしれませんがご勘弁を🙇
最近は幼児などの殺害予告やいまだに無くならないイジメなど怖い話ばかり、そんな事が無くなる願いも込めました🙋
まあ、こんな話だから矛盾しているだろうと思うでしょうが、その中で生きるとは何かと言う事を問いたかったのです😊
それでは次回の作品でお会いしましょう🙇
>> 491
『……と言うお話でした。おしまい』
女性は子供を見て微笑んだ。
『ねぇーそれから伝説の忍はどうなったの?』
『分からないの。その後の行方はわからないままなのよ』
『そうなんだ…』
子供は下を向いてつまらなそうにしている。
『でもね。絶対どこかで生きているわ。そして私達の前に現れるわ』
子供はその話を聞いて目を輝かせた。
『絶対帰って来るよ!』
子供は飛び跳ねながら言った。
『お~い。咲いるか?おう居た居た』
誰かが外から声を掛けてきた。入って来た男はそう昇だった。
『いつもすまないな』
咲は顔を横に振った。
『お父さん!!』
『良い子にしていたか?』
『うん!また、伝説の忍のお話を聞いたんだよ。凄いよね!僕もなれるかな?』
『ああ、なれるさ。だってお前にはその忍の名前を付けたんだからな。ガイってな!』
『うん!』
昇はガイの頭を軽く撫でた。
『さて、家に帰るぞ。母さんが待ちくたびれているぞ。じゃあ咲ありがとうな。』
昇はガイを連れて帰って行った。見送る咲は空を見上げた。そこにはまん丸なお月様が見えていた。あの時の凱のように輝いていた。
>> 490
そして渦を見ると近づき飛び込んだ。凱の体が渦の中に消えた。するとその渦がゆっくりと消えていった。どれぐらい経っただろうか?昇を起こす声がした。昇は目を覚ました。
『昇、大丈夫か?』
そこに居たのは首里だった。
『…ん?凱、凱は?』
辺りを見回すが凱の姿は無かった。
『俺もさっきから探しているのだが、見当たらないんだ。どこに行ったのかな?』
『そうか…凱は行ってしまったんだな…』
『行ってしまった?』
『いや、何でもない。凱の奴は旅立ったんだよ』
『旅立った?何訳分からない事言ってんだ?』
昇は首里に近づくと孔雀を手渡した。
『これは孔雀。やっぱりこれは俺が一番似合っているな』
首里は孔雀を引っ張って矢を打つ真似をした
。
『さて、帰ろうか?』
『そうだな』
昇は首里の肩を抱いた。
『痛~~~い!!』
首里が叫んだ。
『あれ?まだ治ってなかったのか?すまんすまん。あははは…』
古びた城の中に昇の笑い声がいつまでも響いていた。そして昇達は月影の里へと帰って行った。ここに1つの戦いが終わった。再び世界には平和な時が訪れたのであった。しかし、渦に消えた凱の戦いは終わってはいない。
>> 489
八雲は傷を押さえながらフラフラしながら立ち上がった。
『だが、お前達には従わない!亜空間!!』
八雲は右手をあげた。すると後ろに渦のような穴が開いた。
『この世を滅ぼすまでは何度でも生き返ってみせる。また、いつか会おう。さらばだ!』
八雲はその渦の中に飛び込んだ。
『待てぇーーー!』
凱が追いかけようとすると昇が肩を掴み止めた。
『凱、どうするつもりだ?』
『父を追う!』
『あんな所に入ったら二度と出て来れないぞ。分かっているのか?』
『ああ、そんな事は分かっている。しかし、また同じ事を繰り返さない為にも父を倒すしかない。俺を行かせてくれ』
凱は頭を下げた。昇はしばらく考え凱を掴んでいた手を離した。
『昇、ありがとう』
凱は再び頭を下げた。
『ならば俺も行くよ。良いだろ?』
昇は真剣な顔で言った。すると凱は微笑むと答えた。
『ならば、一緒に行こう』
そして凱は昇に近づいた。
バスッ
昇は力がぬけたようになった。そう凱は昇にみね打ちをしたのだった。
『昇、すまない。お前はここに残って咲を守ってやってくれ』
ぐったりとなった昇をそこに寝かした。
>> 488
凱の気が高まるにつれ黄金の体は輝きを増した。
『仕方ない。降参だ。私の負けだ。好きにするが良い』
八雲は折れた龍剣を捨てて両手を挙げた。凱は意外な言葉に気を高めるのを止めた。そして剣を下ろし、八雲に近づいた。
『父上、本当に諦めてくれるのですか?』
『ああ、私も忍だ。二言はない。さあ、好きにしろ!』
『ならば、ここから消えて下さい。皆の前から永遠に…』
凱は後ろを向いた。
『分かった。ここから消えよう。だが、消えるのはお前達だがな!!』
八雲は背中に隠してあった刀を抜き凱の背中に斬りつけた。
『凱、危ない!!』
それに気がついた昇が叫んだ。八雲の動きが止まった。八雲の体には草薙の剣が刺さっていた。
『何?!これはいったい…私の方が早かったはず…なのに何故?私の言葉に油断していたはず…』
『あのまま、消えてくれれば良かったのに…。父上は自分の力に驕り過ぎたのです。そして父上こそ私に油断したんです』
八雲の口から血を吐き出した。凱はゆっくりと草薙の剣を抜いた。八雲は膝をつき凱を見た。
『もう観念して下さい。あなたはこれ以上は戦えない』
『あははは…そうだな。この傷ではもう無理だな…』
>> 487
八雲の体が龍のようにウロコが現れ龍人に変化した。
『さあ、かかって来い!』
凱は何も言わず素早い動きで八雲に迫って来た。そして剣を突き刺した。龍人になった八雲を突き刺したように見えたが、残像を刺しただけだった。無表情の凱は八雲を見つける為、辺りを見回した。八雲が姿を現すと、地面を滑るように凱は草薙の剣を斬りつけた。慌てて八雲はよけたが、体を切り裂かれた。
『うう…なんと言う早さだ。この私が見切れない』
『父上、あなたはもう私には勝てない』
『うるさい。これしきで勝った思うな!』
八雲はウロコを一枚剥ぐと呪文を唱えた。ウロコは2度光ったかと思うと剣になった。
『お前にこの龍剣を喰らわしてやる!!』
八雲は凱に向かって行く。振り上げた龍剣で凱に斬りつけた。凱は龍剣を手で受け止め握りしめた。
『もうこんな物では私は倒せません』
凱が力を入れると龍剣はパキンと折れた。
『なんだと…。受け止めた上に折るとは…。草薙の力を侮っていた』
『父上、覚悟して下さい。あなたにはもう私を倒す事は出来ない』
凱は草薙の剣を構え、気を高めだした。八雲は後ずさりしたながら凱との間合いを取った。
>> 486
凱は草薙の剣を握りしめ構えると全体が黄金色に光り輝きだした。そして本当の草薙の剣と変化していく。凱の喜怒哀楽全ての気持ちが1つになったそれこそが最後の1つだったのだ。そして凱の体全ての物が黄金色に変わった。阿弥陀如来の後光のように眩しかった。
『やっとその姿になれたようだな。最後の戦いになりそうだ。さあ凱かかって来い!!来ないならこっちから行くぞ!』
八雲は見えない早さで凱に向かって来た。刀を振り下ろした。凱は微動だにせず、八雲の刀を草薙の剣で弾いた。
キンッ!!
『なぬ?』
凱は払った草薙の剣をそのまま八雲に突き出した。八雲はすんでのところでよけた。
《早い…》
凱はすかさず次の攻撃を繰り出した。八雲は後ろに飛んだ。
『なかなかやるな凱!…ん?』
目の前に居た凱が居なくなっていた。八雲が後ろを振り向くと凱が草薙の剣を振り下ろしていた。八雲は刀でそれを受け止めた。
ガキンッ!!
凱は動いていないようで目に止まらない早さで動いていた。その姿は不動明王のようでもあった。草薙の剣に神を呼び起こす力があるのかもしれない。
『こしゃくな!!我が力見せてやる!!龍神変化!!』
>> 485
『もう、俺はダメだ…。お前に斬られるなら本望だ。さあ、やるんだ!!』
『雷鳴放せ!!』
八雲はもがきながら雷鳴を殴っている。凱は草薙の剣を見つめた。何とも言えない気持ちが込み上げてくる。草薙の剣が輝きだす。
『凱、今だ!やるんだ!!』
凱の頬に涙がこぼれ落ちた。草薙の剣を構えると八雲を掴んでいる雷鳴を目掛け突き刺した。
『うわぁーーーっ!!』
ズブッ!!
八雲と雷鳴はそのまま倒れた。雷鳴は元の姿に変わった。だが、八雲は煙のように弾けた。
ボワッ
『何?』
『残念だったな』
近くで声がした。それは無傷の八雲だった。
『何故?』
『最初に言ったはずだ。ここは私が作り出した世界だと。雷鳴の努力も無駄になったな』
八雲は細く微笑んだ。
『雷鳴様…』
『凱、昇、これで良かったんだ。これでな…。後はお前達にかかっている。頼んだぞ…ぐふっ…』
雷鳴は息絶えぐったりとした。凱は泣いた。短な者の初めて死だった。親であり、兄でもあり、師匠でもあった雷鳴が死んだのだ。今までの全てを思い返していた。そして凱は本当の父親である八雲に怒りを覚えたのであった。
>> 484
『お前達は下がっていろと言っただろう…。八雲様と俺との勝負だ』
雷鳴は刀を杖のようにして立ち上がった。
『まだ、やるのか?やめとけ、やめとけお主では勝てぬ』
『ならば、最終奥義雷神闘身体!!』
雷鳴が巨大化して行く、まるで雷神のようだった。雷鳴が八雲になぐりかかる。八雲はそれを受け止めた。2人の闘気がぶつかり合い辺りを風の渦を巻き起こす。
『雷鳴、この技を使えるようになったとはな。だが、私を倒せるまでにはまだまだのようだな』
八雲は雷鳴を押さえ込むような形になった。
『あの技は…』
『どうした凱?』
『あれは、命を使う月影最後の技だ。前に雷鳴様から聞いた事がある』
『ならば、あのまま戦えば雷鳴様は死ぬ』
八雲がまた呪文を唱えている。
『青龍槍撃!!』
雷鳴の体を槍と化した八雲の腕が突き抜けた。
『雷鳴様!!』
凱達は叫んだ。雷鳴はがっちりと八雲の体を掴んだ。
『うう…放せ!!』
八雲は残った腕で雷鳴を殴っている。
『八雲様…殴っても無駄です。さあ、一緒に……凱、今だ!!俺ごと斬れ!!』
『雷鳴様まで死んでしまいます』
>> 483
『ああ…大丈夫だ。その前にお前達は手を出すなと言っただろう…』
『しかし…』
『しかしもくそもない。八雲様は私がやる…。八雲様…本気で行きますよ!』
雷鳴は立ち上がると呪文を唱えた。
『雷神掌!!』
雷鳴の体に電気が帯だし手の方に集まりだした。
『おうおう。まだ、1人でやるつもりか?無駄だ!ここは私が作り出した世界…どうとでもなるぞ』
『八雲様覚悟!!雷神愚挫散!!』
雷鳴の両腕が電気の刀のようになり伸びていく。
『喰らえーーーっ!!』
雷鳴は飛び上がり腕を交差するように振った。
『玄武鉄壁!!』
八雲の前に亀の甲羅が現れて雷鳴の技を受け止めた。
バチバチバチ…
雷鳴は離れて間合いを取った。
『はははは…この程度で倒せると思ったか?今の私には効かない』
『くそぅ…』
再度、八雲に向かって行った。
『来るか!!ならば白虎爪斬掌!!』
八雲の腕が巨大化して鋭い爪で攻撃して来た。
バリバリバリ…
八雲の爪が雷鳴の体を切り裂いた。雷鳴は吹き飛ばされ転がった。凱達が駆けより抱きかかえる。
『雷鳴様、1人では無理です。八雲様は強すぎます。後は私達がやりますから』
>> 482
だが、八雲はすーっと横に障子が開くように動いた。
『変な動きだ。まるで宙に浮いているようだ。…ん、どこに行った?』
八雲の姿が消えた。雷鳴は辺りを見回すが見当たらない。
『ここだよ雷鳴…』
雷鳴が振り向くとそこに八雲は立っていた。雷鳴は慌てて離れた。
《動きが見えなかった…》
当然、凱達にも見えなかった。それだけ、八雲の動きは早かった。
『私は全てを凌駕する忍、お主らごときには超える事は出来ない。1人ずつとは言わず皆でかかって来い』
八雲は凱達に闇器を投げてきた。
スタスタスタ……
凱達はなんとか避ける。そして直ぐに手裏剣を投げ返した。
キンキンキン
『ハエが停まりそうな早さだ。ならば、こうだ!!』
八雲の背中の外套がバッと広がりそこから羽根がふわりと現れたかと思うと凱達に迫って来た。
『朱雀翼撃!!』
ヒュンヒュンヒュン
凱達は避けるが幾つかを体に受けた。
『うっ…』
『おい、大丈夫か?』
凱は昇に聞いた。
『ああ、なんとかな』
昇は刺さった羽根を抜きながら答える。雷鳴を見ると這いつくばっていた。
『雷鳴様大丈夫ですか?』
>> 481
凱達が雷鳴に近づくが炎の勢いが凄く触る事さえ出来なかった。
『水遁、雨の舞!!』
昇が唱え、雷鳴の周りに雨を降らした。しかし、炎の勢いが少し弱まったぐらいで、消えはしなかった。
『畜生!!ならば、水遁、豪雨の舞!!』
雨の舞より激しいもので雷鳴の炎を消していった。煙りをあげながら倒れた。
『雷鳴様大丈夫ですか?』
凱達が駆け寄った。雷鳴は怪我はしているが、まだ動けるようだ。
『なんとかな…。八雲様はもう昔のように優しい人では無くなったようだ。その原因を作ったのが私だ。罰は私が受ける。お前達は下がっていろ』
『はははは…。麗しい師弟愛だな。だが、お主では私は倒せぬ』
『やってみなくては分からないだろう!行きますよ!』
雷鳴は凱達を払いのけ、八雲に向かって行った。
『小賢しい!相手になってやる』
八雲は刀を抜いた。
『うりゃーーーっ!!』
ガキンッ!!
ギリギリ……
八雲と雷鳴は刀を合わせ睨み合っていた。八雲が雷鳴を突き放す。雷鳴は後ろに飛ばされたが、脚を踏ん張り堪えた。
『腕は落ちてはいないようだな』
雷鳴は素早く足元目掛け闇器を投げる。
スタスタスタ……
>> 480
だが、自分自身に嫌気がさしてそれ以上は何もしなかった』
八雲は急に笑い出した。
『はははは…途中で止めたからどうだと言うのだ。お主が私を狙った事には変わりはない!』
八雲の怒鳴る声が響いた。
『あなたを抹殺しようとしたのではないのです。凱の持っている草薙の剣を壊す為。しかし、八雲様はそれを捨てた。それで全ては終わった。だからそれ以上追っかける必要もなかった。上からは八雲様の命も奪うように言われていましたが、その必要はもうなかった。八雲様、考え直して貰えませんか?これ以上戦っても何も得ない。私の命を差し上げます。それで終わりにして貰えませんか?』
『はははは…お前の命で終わりに?片腹痛いわ!私はこの世に飽き飽きしているのだ。もうすでに復讐などではなくなった。全てを破壊して無にする!!』
八雲は鬼のような顔になり、呪文を唱えた。
『火炎風龍波!!』
業火が凱達を襲った。
グゴゴゴゴォ……
凱達は身構え伏せた。その時、雷鳴が前に立ちはだかった。
『うぉぉぉーーー!!』
炎が雷鳴を燃やしていく。
『お願いです…。止めて下さい…。これ以上は…あなたは…。間違っている…』
>> 479
剣から炎が上がり凱達に目掛け放って来た。
ズゴゴゴ……
『こんなもの!!』
昇が黒龍刀を振った。しかし、炎が生きているように絡んで来た。一瞬にして昇は炎に包まれた。
『うわーっ!!』
『昇ーーーっ!!』
雷鳴が呪文を唱えだした。
『水遁、雨の舞!!』
昇の周りに雨が降り出した。
ザァーーー!
すると昇を包んでいた炎が煙りをあげ消えていく。
『ふぅ…助かった』
昇は濡れた体を払っていると雷鳴が近づき言った。
『八雲様の術は、我々のとは少し違う。気をつけろ!』
『はい、わかりました』
凱達は再び身構えた。
『さすがは、雷鳴が育てただけはある。しかし、お主ら…雷鳴には気をつけろよ。同朋にも牙をむくからな!』
凱達には言っている事が分からなかった。
『どういう事だ?』
『そいつだよ。私を抹殺しようとした男はな。正式には依頼されたのだろうがな!もしかするとお主らも強くなりすぎるとわからんぞ?』
雷鳴は刀を下ろし黙り込んだ。八雲の言っている事は本当の事のようだ。
『本当なんですか?』
『あぁ本当だ。役目とは言え八雲様を狙ったのは確かだ。
>> 478
『雷鳴様どうしたんですか?知り合いですか?』
雷鳴はただ、ジッとノーネムを見つめていた。そして重い口を開いた。
『あそこに居るのは八雲様だ。凱お前の父上だ』
凱達は驚き目の前に立っている男を見た。
『あれが…八雲様…俺の父親…』
『何故、八雲様が阿修羅の首領なんですか?』
ノーネムと名乗っていたのは、伝説の忍、八雲だった。
『あははは…知られる前に倒すつもりだったが、知られたのなら仕方ない。お主らが言うように私は八雲。この世は腐りきっている。自分の為なら人をも平気で倒す。あの戦いの後、私をも倒そうとして来た。この英雄である私をだ!私は人を信じられなくなった。1人、洞窟に籠もり外界を断った。その時、私の目の前に現れた者がいた。人だが、人でなくこの世に存在しない不可思議な者だった。私は奴から妖術を学び、偉大な力を得る事が出来た。そして私はこの世の全てを破壊する事にした。しかし、ここで我が子に出会えるとはな。さあ、最後だかかって来い!』
八雲は手を組むと呪文を唱えた。すると八雲の体が一回り大きくなった。そして右手には炎のような形をした剣を持っていた。
『お主らに炎の渦をお見舞いしよう!』
>> 477
ノーネムは笑いながら言った。
『余裕なのはこれまでだ。俺の技を受けてみよ!雷神剣!!』
稲妻が雷鳴の刀に落ち電気を帯びそしてノーネム目掛け放った。
バリバリバリバリ…
ズドーーーーン
稲妻がノーネムにぶつかったが、四方に飛び散った。
『俺の雷神剣が効かない…』
『雷鳴様、奴の周りには見えない壁があるみたいですね』
『今頃、気がついたか…言ったはずだ。ここは私が作った世界だとな』
『ならば、壁を取り除けば、なんとかなるな。凱、昇、俺が呪文を唱えている間守ってくれ』
『わかりました』
雷鳴は何かの呪文を唱え出した。すると見えない壁が見えて薄れていくのが分かった。
『凱、あそこに草薙の矢を打て!!』
昇の指差した所を見ると穴が開いているのが分かった。凱は首里から預かった孔雀を構え、草薙の剣に願った。
《あの時の矢になってくれ》
すると剣から矢に変わっていく。それを孔雀に添え引き放った。矢はその穴目掛け飛んでいき通り抜けた。その矢は更にノーネムの顔に向かった。
パキィーン!!
ノーネムは避けたが、仮面に当たり割れた。そこから顔が現れた。雷鳴の顔色が変わった。
『あなたは…』
>> 476
『なんだよ。その余裕に満ちた態度は?これでも喰らえ!!』
昇は手裏剣を投げつけた。だが、手裏剣はノーネムの前で止まった。
『何っ?』
『残念だな。そのような物では、意味をなさない』
ノーネムは右手を上げると何かを唱えた。手のひらに気の塊が浮かび上がった。それを凱達に目掛け放った。凱達は素早く避けた。するとそれは凄い爆発を起こした。
『なんだよ今のは?』
『今のは気功弾だ。昔、あるお方が使っていたが…。まさかな…』
雷鳴はそんな事を言った。あるお方とは誰なんだろうか?凱はそう思っていると、また、ノーネムが気功弾を放ってきた。凱達はそれを避けた。
『ここは私の作った世界だ。逃げる事は出来ない。出るには私を倒すしかないのだ。さあ、かかって来い』
ノーネムは今度は両手で交互に気功弾を放って来る。凱達は避けながら辺りを駆け巡った。
『逃げてばかりでは、私は倒せないぞ!』
『うるさい。お前は俺が倒す!!昇龍爆裂斬!!』
凱はそう叫び技を放った。放たれた龍の姿の気はノーネム目掛け飛んで行った。だが、凄い光を放ち消えた。
『凄い技だな。しかし、私には意味がない。いろいろ試した方が良いぞ。ふふふ…』
>> 475
その中は全てが歪んでいた。凱達は異空間に入ってしまった。
『扉も壁もない。どう言う事だよ?』
昇は辺りを探るが何もなく、見えるのは歪んだ空間だった。
『待って居たぞ。良くここまでやって来た。しかし、ここでお前達は最後だ』
その声は近くで聞こえた。凱達は辺りを伺うが姿は見えなかった。するとすーっと姿が現れた。その男は不思議な面を被り、背中に袖の無い外套を羽織っていた。
『お前は誰だ?阿修羅の親玉か?』
『あははは…親玉とは面白い。まあ、そのような者だ。私の名はノーネム。本当の名前は知らぬ。ある村の人がそう呼んでいた』
凱は前に獣人にされたから聞いた事を思い出した。
『さて、ここまで来たのは、私を倒す為だろう?』
ノーネムは余裕なのか、そんな風に言った。
『そうだ。お前の性で何人もの命がなくなった。いったいお前の目的はなんだ?何をしようとしている?』
『この世の破壊かな…』
ノーネムは仮面の中で笑っていた。
『そんな事はさせないぞ。俺達はお前を倒す!』
凱はそう言うと草薙の剣を抜いた。
『それはもしかして草薙の剣か?ならば、貴様が選ばれし者か…』
>> 474
『凱、俺が聞いた話だが、草薙の剣の一つに形の無い何かがあると聞いた事がある。もしかしたら武器では無いのかもしれないな』
『武器では無く、形無い物ですか…?』
『どっちにしてもここの城の主を探さないとな』
『あそこに階段があります。登ってみましょう』
凱が指差した先には上に上がる階段があった。
『とりあえず登ってみましょう』
昇はそう言うと倒れている鉄馬に手を合わせ階段を上り始めた。凱と雷鳴もその後に続いた。上の階は静まり返っていた。
『やけに静かだな…』
すると目の前に1人の忍が現れた。それは楓だった。凱達は刀を構えた。すると楓が言った。
『私は闘うつもりはありません。この先にあの方が居ます』
楓は本当に闘うつもりはないようだ。
『お前…何故?』
『それは言えません。友を思う気持ちが全てを終わらせるはずです。さあ、お行きなさい』
楓は奥にある壁を指差した。そこには大きな扉があった。
『わかった。あそこに居るのだな』
凱達は扉の前まで行き開けた。そこは、果てしなく広かった。
『城の一部のはずなのに…何故、こんな広い…?』
凱達が中に入ると扉がすーっと閉まり消えた。
>> 473
『兄さん!兄さーーーん!』
昇は鉄馬に近づいて、涙を流した。初めて知った兄の存在。一瞬だけの兄との時間だった。
『昇、すまなかった…』
『いえ…』
雷鳴の言葉に昇はそう言って頭を横に振った。
『前から猿飛殿から聞いて知ってはいたのだが、お前が聞いたらどうなるのかわからなかったからな…。折を見て話すつもりではいた』
『もう良いです。今はわかっただけでも嬉しいです』
昇は黒龍刀をつき立ち上がった。
『凱、あれ!』
昇は鉄馬の先に刺さっている剣を見つけた。
『もしかしてあれが草薙の剣か?』
凱は近づいて剣を掴んだ。それはさっき放った月黄泉と星黄泉の合わさった矢が変形した物だった。剣全体に弦の絵が描かれていて薄緑色をしていた。引き抜くと凱の中で声がした。
《この剣は草薙の剣…しかし、まだ本当の姿ではない。後一つ…後一つだ…》
『後一つ?どう言う事だ?』
『どうしたんだ?それって草薙の剣だろう?』
『まだ、草薙の剣では無いらしい。後一つを見つけないと本当の草薙の剣ではないようだ』
『何だよそれ?その一つとは何なんだよ?』
昇は混乱していた。すると雷鳴が近づいて来て言った。
>> 472
2人の気が1つになり、荒ぶる龍になった。その時、月龍刀から孔雀が取れた。そして月黄泉と星黄泉が1つの矢になった。凱は孔雀を構えるとそれを放った。
『天龍衝弾!!』
凱はそう叫んだ。それは、鉄馬の体を貫いた。
『ぐふっ…お前達もここまで来たのだな…これなら、あの方も倒せるだろう…』
『何故、避けなかった?』
そう鉄馬は最初からよけようとはしなかったのだ。
『昇…お前は俺の弟だ…』
鉄馬の衝撃的な言葉だった。
『何言っている?俺には兄なんていないはず…』
凱達は鉄馬の言葉に困惑した。雷鳴を見ると頷き言った。
『お前達には言っていなかったが、鉄馬は昇の本当の兄だ』
『鉄馬が兄…』
それ以上言葉にならなかった。
『私は術により、ずっと操られていた…しかし、お前の名前を聞いて全てを思い出したのだ…昇、これを受け取れ…』
鉄馬は黒龍刀を差し出した。昇はそれを受け取った。
『兄さん…』
『兄と呼んでくれるか…これは、伝説の刀…黒龍刀だ…お前に託す…だが、この後…お前達にまだ試練が残っている…この城の主を倒す事だ…お前達なら大丈夫だ…ぐふっ…必ず倒して…く…れ…』
鉄馬はそのまま倒れた。
>> 471
昇の名前を聞いて、鉄馬はまた黒龍刀を下ろし止まった。
『お前…ショウと言うのか?』
『それがどうした?そうとも月影の昇とは俺の事だ』
昇は何故か偉そうに言った。
『ショウ…ショウ…!!』
『何だよ。ショウショウうるさいな!』
『あははは…気にするな。さあ、何人でも良いかかって来い!』
鉄馬は再び黒龍刀を構えると手招きした。
『なめやがって!!俺がぶっ倒す!!』
『来い!』
昇は星を抜き鉄馬に向かって行った。
ガキン
ギシギシ
『お前も大した事ないな』
鉄馬が昇を突き飛ばした。昇はそのまま壁にぶつかった。
『もう、刀技では決着はつかないようだな。こうなったら忍全ての技で勝負だ』
『望むところだ!!』
昇が呪文を唱えた。
『土龍連弾!!』
土の龍が鉄馬を襲う。鉄馬はまともに受けたように見えた。城の壁は壊れぽっかりと穴が開いた。埃が舞い上がる中、鉄馬の姿が現れた。
『何?俺の技がきかない…』
鉄馬の周りには黒い炎が立ち上っていた。
『昇、お前だけでは無理だ。俺と一緒にやるしかない』
『あははは…2人でも無理だ。あきらめろ…』
『何を!!』
凱達は呪文を唱えた。
>> 470
『だが、鉄馬はお前が思うほど、弱くはないぞ』
『大丈夫です。何度も戦ってきましたから』
『しかし…』
『本当に大丈夫です。雷鳴様は獣人達をお願いします』
凱は月龍刀を構えた。
『お前、威勢が良いな!気に入った。ならば、術を使わず刀技だけでやろうではないか』
『望むところだ』
ガキン
凱が鉄馬と刀技だけの勝負が始まった。2人の動きは目に止まらぬ早さであった。常人には見えないだろう。ただ、鉄のぶつかる音が響いていた。そして、2人が見えたのは、間合いを取った時だった。
『貴様なかなかやるではないか…名はなんと言う?』
『月影の凱だ!』
『凱…?』
鉄馬の様子が変だった。名前に覚えがあるのか、黒龍刀を構えていたのを下ろした。
『どうした?降参するのか?』
『…いや…凱か良い名前だ。では参るぞ!』
鉄馬はまたすぐに凱に向かって行った。2人の気がまるで仁王のよう立ち上る。激しい刀のぶつかり合いが続く。少し凱が押されていた。
『凱、大丈夫か?』
そう叫んだのは昇だった。凱と鉄馬の戦いを見てられなくて叫んだようだった。
『昇、俺は大丈夫だ。鉄馬は絶対倒す』
『ショウだと…?』
>> 469
その後を獣人が追っかけようとした。すると妙斬達が獣人達を遮り言った。
『おっと、お主らは儂らが相手だ』
その頃、城の奥を目指した凱達は一階中央の広間に着いていた。そこには鉄馬と楓の姿があった。
『ここまで来るとはな。だが、それも終わりだ。ここで決着をつける』
鉄馬は凱に斬りかかって来た。凱はそれを受け流した。後ろから獣人達が迫って来た。選抜隊は各々獣人相手に戦っていた。
『雷神剣!!』
雷鳴がそう叫び獣人達を痺れ切り裂いていた。
『鉄馬!お前の相手は俺がする。かかって来い』
『雷鳴か…お前では相手にならない』
『俺をなめるな!昔の俺ではない。さあ、かかって来い!』
『仕方ない…では行くぞ』
ガシン
ギリギリ
『腕は落ちてないようだな雷鳴!』
『お前なんぞに負ける訳なかろう』
『だが、私の力を見誤るなよ』
鉄馬が黒龍刀を振ると、雷鳴は吹き飛ばされた。
『うっ…なんだこの力は?』
『雷鳴よ。お前1人では何も出来ないのだよ。全員でかかって来い!黒龍衝撃波!!』
8つの黒い龍が雷鳴達を襲った。すると雷鳴の前に誰かが出てそれを受け止めていた。
『凱…』
『雷鳴様、こいつは俺が倒します』
>> 468
『選抜隊に俺も加わる。今よりあの城を目指す』
『おー!!』
『本隊は我々が突入後、城を囲み阿修羅を1人も逃すな!合図と共に突入せよ!行くぞ!!』
『おー!!』
雷鳴の号令と共に全隊は城を目指した。
『とうとうここまで来たか!!』
鉄馬は城から凱達を眺めていた。
『鉄馬様どういたしますか?』
『迎え討つ!獣人達を前に出せ!』
ズドドド……
獣人達が城の前に出て来た。
『うりゃー!!』
あちこちで刀の当たる音や叫び声が響き渡っていた。城の中央に入り口がありそこに選抜隊が集結していた。
『よし、突入するぞ』
『おーっ!!』
突入しようとするとそこには獣人達が待ち伏せしていた。
『ここは通す訳にはいかない。ここでお前達を倒す』
『望む所だ』
凱が先陣を切って突っ込んで行った。新たに変化していた飛龍で獣人を斬り倒して行く。続くように選抜隊も斬り込んで行った。獣人と鍔迫り合いしていると妙斬が近づいて来た。
『凱、ここは俺達に任せてお前達は先に行け』
『しかし…』
『良いから先に行け!』
『わかりました。ご無事で…』
凱達は妙斬達を残し城の奥に入って行った。
>> 467
『凱やめろよ。恥ずかしいではないか』
首里は凱を少し押した。凱は離れると周りを見渡した。獣人達や味方の選抜隊の何人かが倒れていた。
『大丈夫か?』
まだ、息のある者を見つけ起こした。
『これを食べろ』
凱は猿飛から貰った万力丸を1つ食べさした。
『うっ…俺は…?』
『もう大丈夫だ。しばらくここでジッとしてたら良い』
その倒れていた男の傷はかなり治っていた。万力丸は魔法の薬のようだ。完全まではないが、治癒力は早まるようだ。
『凱、無事だったか?』
そこに現れたのは昇だった。
『お前こそ無事だったのだな。良かった』
『さて、後は阿修羅の本拠地に乗り込む訳だが、選抜隊も半分は負傷して動けないな。どうするんだ?』
凱達は雷鳴を見て聞いた。
『雷鳴様!この後、本拠地への攻撃はどうするのですか?戦いでかなりの負傷者も出ています』
『そうだな…ここはひとまず停戦といきたいが、これを逃せば阿修羅も体制を整えるだろう。ならば、選抜隊の再編成しすぐに奴らの本拠地を攻めるのが得策だとは思う』
『ならば、すぐにでも…』
『選抜隊の者集まれ!』
雷鳴が召集をかけた。
>> 466
すると刀がストンと落ちた。手首から先が無くなっていた。
『て、手が……』
体のあちこちに線が入り白虎は崩れ落ちて行く。
バラバラ……
『鉄馬様ーーー!!』
白虎はバラバラになり地面に落ちた。
『四天王もこれで終わりか。奴ら思ったよりやるな』
近くで見ていた鉄馬が言った。
『凱、さすがだな。日に日に強くなっているな』
『凱!!大丈夫か?』
そう叫んだのは雷鳴だった。後から来る本隊が合流したのだった。
『これは、また大勢で来たようだ。ここはひとまず後退するしかなさそうだな…楓行くぞ』
そして鉄馬は阿修羅達に合図をすると後退して行った。
『待て!!』
『凱、もう良い。それより無事で何よりだ』
雷鳴は凱の肩を叩いた。
『雷鳴様…首里が…』
『…ん?首里がどうした?』
『敵にやられて…』
凱は下を向いた。
『俺がどうしたって?』
そこに立っていたのは、妙斬に担がれた首里だった。
『首里?!』
『何だよ。幽霊見るような顔しやがって…』
『お前やられたのでは?』
『勝手に決めるな。気を失っただけだ』
『そうか良かった』
凱は首里に駆け寄り抱きついた。
>> 465
白虎が動いた瞬間近くで悲鳴が聞こえた。その方を見ると首里が血吹雪を舞上げていた。
『首里!!』
白虎は刀を払いながら凱を見た。
『私には勝てぬ。諦めろ』
『畜生!!うわわわ……』
凱の体に白い炎のような物が立ち上る。月黄泉が輝き出した。そして首里の孔雀も輝き出した。
『凱…受け取れ…』
首里は残った力で持っていた孔雀が凱の元へ投げた。すると孔雀は2つに分かれ凱の月黄泉と一つになり飛龍となった。
『後は頼む…』
首里はそのまま倒れた。
『なんだ…この光は?』
白虎はあまりの眩しさに顔を覆った。凱は飛龍を構えると叫んだ。
『飛龍無限斬!!』
振り下ろされた月黄泉からまるで空翔る龍のような光が白虎目掛け放たれた。
ズドーン
スドドド…
そこには幾つも切り裂かれた白虎が立っていた。
『ぐふっ…これは流石に効いたよ。だが言ったはずだ。私は四天王の全てを持っているとな。鋼の体、疾風の速さ、高僧の術、そして剣豪の技。お前にはこの白虎は倒せない』
『白虎、残念だったな。お前もう俺には勝てない』
『今更、何を言う。勝負はこれからだ』
『自分の体を見な!』
『…ん?』
白虎は体を見た。
>> 464
白虎は不適に笑った。矢は天高く上がると弧を描き玄武目掛け落ちて行った。そして、玄武をとらえた。玄武の動きが止まった。するとゆっくりと玄武が前に数歩歩き出し倒れた。
『玄武…?』
白虎は玄武に近づくとその訳が分かった。首里の放った矢は玄武の頭を貫いていた。そう玄武の弱点は回転をしても動かない頭だったのだ。
『貴様、何故玄武の弱点を…ふん、さすがだな。弱者は強者には勝てぬか』
白虎は刀を前に構えると呪文を唱えた。
『お前らには特別に見せてあげよう』
すると白虎の体が変化し始めた。それは名前のような白い虎の獣人だった。
『昇龍爆風斬!!』
凱が隙をつき技を放った。白虎を目掛け飛んで行く。そしてそれをまともに喰らった。土埃が舞い上がり白虎の姿が見えなくなった。
『やったか?!』
少しずつ土埃が晴れてきた。しかし、そこには白虎の姿はなかった。
『ふふふ…そんな技見切れないとでも思ったか?』
その声は凱の後ろで聞こえた。凱が振り返るとそこに白虎が立っていた。
『残念だな。私は四天王の全てを兼ね備えている。攻防速術全てな。お前達には私は倒せない』
『何を!!』
『ならば見るが良い』
>> 463
矢は玄武に当たって刺さったように見えたが弾き飛ばしてしまった。
『何?!俺の矢がきかない…そんな訳ない。喰らえ~鳳凰連矢!!』
首里は再び弓を引くと何本も繰り返し放った。それはまるで鳳凰が舞っているようだった。しかし、玄武はまた回りだし全ての矢を弾き飛ばした。
『玄武の体は鋼より硬い。何度やっても同じ事…諦めろ』
白虎はニヤリと笑った。その時孔雀が微かに光り声がした。
《良く見よ。どんな物にも弱点はある。見極めろ》
首里は辺りを見渡したが、その声の主が見当たらなかった。孔雀を見つめた。光っていたのが無くなっていた。さっきの声は孔雀自体から発せられたのが分かった。
『どうした?何か見つけたのか?』
『お前こそ、油断するな!!』
凱が白虎目掛け月黄泉を振った。
ガキィーン
また、そこに玄武が遮り凱の月黄泉を受け止めた。
『クソッ!』
凱は後ろに跳び離れた。
『凱!そいつは俺が倒す。離れていろ!』
首里は再び孔雀を構えた。玄武は回転を始めた。
《どこだ…どこに奴の弱点がある…そうか!》
首里は天に向かって孔雀を構え矢を放った。
『どこを狙っている?』
>> 462
『皆、我らの力を見せてやろうぞ!!』
『おー!!』
凱達は向かって行った。
『空の奴は俺に任せろ!』
首里率いる弓矢隊は弓を構えると矢を放った。その矢は獣人を次々と貫いていた。凱達も各々戦いを繰り広げていた。
『喰らえ!!』
ガキィーン
『この程度で私は倒せぬ!』
白虎は凱を突き飛ばした。
『お前は…』
『我が名は白虎。お前の命貰う』
白虎は刀を振り下ろした。凱は寸前で受け止めた。
ギシギシ…
刀の軋む音がする。
『凱!!』
首里が白虎目掛け矢を放った。
ガキィーン
それを玄武が体受け止めた。矢は刺さるどころか弾けてしまった。その体はまるで亀の甲羅で覆われているようだった。
『なんなんだ?俺の矢が刺さらないなんて…』
『玄武の体は何も通さない』
『何?!何も通さないと言うのか?仕方ない我が孔雀の力見せてやる』
首里は気を集め出した。矢にその気が集まりだし赤い炎のようになった。
『孔雀の威力味わえ!!鳳凰疾鎖!!』
ビュン
玄武目掛け矢は飛んで行く。
『玄武甲羅の舞…』
玄武はぼそりと言うと頭や手足を引っ込め回転し始めた。まるで亀のようだ。
>> 461
『俺もそう思っていたよ。あの時の温泉の湯煙が何度も見えた。』
そう昇が言った。
『この辺りに幻術をかけているようだ』
『やはり、この近くに阿修羅の本拠地があると言う事か』
凱達は辺りを見回した。
『この幻術は我らが解こう』
妙斬が3人を連れそう言った。
『出来るのか?』
『こう言うのは我らには得意分野だ。下がっていろ!四方陣!』
妙斬と零、越、剛は四方に分かれ呪文を唱え出した。すると陣の中央が光り出した。見えていた風景が歪み出した。今まで見えていた草木が消え、ゴツゴツした岩が至る所に現れた。その遥か彼方に城らしき物が見えた。
『やった!幻術が解けたぞ!』
『よし、あれが本拠地だな!行こう!』
だが、行方を遮る者達が現れた。それは阿修羅の獣人だった。空にも鳥の獣人もいた。その中央から黒い鎧の鉄馬が現れた。
『よくぞここまで来た。しかし、何人来ようがお前達はこの刀の錆になるだけだ』
『ちっ待ち伏せか…』
『鉄馬!貴様の好きにさせん!!』
凱が叫んだ。
『おお…威勢が良いな。だが、これまでよ』
鉄馬が刀をあげ前に振った。それが、合図なのか獣人達が凱達を目掛け突進して来た。
>> 460
『なんて惨い事を…』
柑太とその母親が血まみれで倒れていた。柑太が微かに動いた。
『柑太さん、大丈夫か?誰にやられた?』
『3人組…勾玉の事を…グフッグフッ…すまない君達の事を話してしまったグフッ……まだ、近くに居る……』
『もうわかったから。それ以上話すな!』
『本当にすまない…』
柑太はそのままぐったりとなった。凱は柑太をそっと寝かせると立ち上がった。
『許さん……許さんぞーっ!!』
凱は叫んだ。すると勾玉が光った。腕にある鏡の小手も光り出しスルスルと凱の体を覆って鎧となった。若草色のその鎧はまるで龍のようだった。
『皆聞けーっ!!これ以上は誰も死なせない!!俺が守ってみせる!!』
『おーーーっ!!』
凱はそう言うと柑太を抱きかかえ、家の中に寝かせた。母親も同様に寝かせた。そして家の側に穴を掘った。柑太達の墓を作る為だ。
『凱よ。俺がお経をあげてやる』
『すまない。2人も浮かばれるだろう』
妙斬は2人の墓にお経をあげた。それが終わると温泉のある方へ向かった。温泉を横目に火山の近くまで来ると妙斬が妙な事を言った。
『少し気になっていたのだが、さっきから同じ所を回ってないか?』
>> 459
白虎は今までにない、鉄馬の残忍さに恐怖を覚えた。凱達が持っている事が、わかった。鉄馬達はいずれ阿修羅の近くに来るのを待つ事にした。
『鉄馬様!』
『なんだ楓も来ていたのか。それでなんだ?』
楓は風のように現れ鉄馬の足元にしゃがみ頭を下げていた。
『はい、どうやら4国が一丸となって阿修羅を目指しているようです』
『なるほど、最終決戦になりそうだな。楓!皆を集めろ』
『はっ!』
楓はその場から消えた。
『白虎どう思う?』
『何がでしょうか?』
『奴らの事だ。俺達は勝てるか?』
『何人来ようが我々だけでも勝てます』
『凄い自信だな』
『………』
『まあ、良い。お前達の実力見させてもらうぞ』
『はっ!』
白虎は鉄馬の変わりように戸惑っていた。
凱達はミカン畑の近くに来ていた。
『柑太いるかな?』
『時間的に家の方じゃないか?』
『そうだな。昼時だもんな』
凱達はそう話しながら柑太の家の方に歩いて行った。柑太の家が見えてきた。その庭先に人影が見えた。
『柑太さ~ん』
昇は駆け寄った。だが、昇は見つめて立ち尽くしていた。凱は不思議に思い駆け寄るとその訳がわかった。
>> 458
『まだ、惚けるのか?ならば、これならどうだ?』
鉄馬は母親の首元に刀を軽く引いた。首元からすーっと血が垂れてきた。
『待ってくれ!わかった話すから母を放してくれ…』
『話が先だ』
鉄馬は強く言った。柑太は仕方なく凱達の話をした。
『そうかわかった』
『早く母を放してくれ』
鉄馬はニヤリと笑うと母を放した。しかし、次の瞬間母の体から刀の刃先が見えた。そう鉄馬が柑太の母親を刺したのだ。
『母さーん?!お前なんて事をするんだ。話が違うじゃないか!』
柑太は鉄馬を睨んだ。すると鉄馬は刀を高く構えたかと思ったら、振り下ろした。柑太は血を吹き倒れた。
『貴様……』
『これならいつまでも一緒に居られるだろう』
『鉄馬様そこまでしなくても……』
流石に白虎達も鉄馬の行動が理解出来なかった。
『どうした白虎?怖じ気づいたか?』
『いや、そう言う訳では…ただ…』
『ただ何だ?』
『殺す必要はないかと…』
鉄馬は血のついた刀を一回祓うと鞘に収めた。
『人はいずれ死ぬ。ただ、それが早まっただけではないか。母親と一緒に死ねたのだ。親孝行出来て奴も幸せだろう。さあ、行くぞ』
>> 457
『おいおい、そんな事言うから、急に不安になって来た』
『それだけの敵だと言う事だよ』
『そうだな。気合い入れて行きますか!オー!』
凱率いる選抜隊は硫黄の匂いが漂う所に向かった。
その頃、阿修羅の本拠地を離れ勾玉を探す為に滝の近くを探していた。
『鉄馬様、あの家で聞いてみましょう』
白虎が指差した方には、凱達が尋ねた柑太の家だった。家の前で藁を叩いている柑太を見つけ白虎が話しかけた。
『すまないが、勾玉の事を聞きたい。知っている事があったら教えてもらいたい』
『勾玉?確かこの先の祠にあるとは聞いた事はあるが、それぐらいしか知らないな』
柑太はまた、藁を叩き始めた。凱達の事は言わないようにしていた。しかし、その微妙な柑太の仕草を見逃さなかった。白虎は刀を抜くと柑太の首元に当てて言った。
『お前、何か知っているな。言わないと命がないぞ』
『本当に何も知らないよ。これ以上は言う事はない。帰れ!』
柑太は刀を押し退かすと立ち上がった。すると目の前に、刀を突きつけられた母親がいた。
『これでも言わないつもりか?』
鉄馬は冷たい目で柑太を睨む。
『本当に知らないんだ。母を放してくれ』
>> 456
流石に人の前に立つのは緊張してしまうようだ。
『皆さん、若輩者ですがよろしくお願いします』
『凱それじゃ、隊長の挨拶じゃないぞ。俺に付いて来いぐらい言わないとな』
昇はニヤニヤしながら言った。
『だから、言ったのだ。俺は隊長には向かないって…』
『凱挨拶などどうでも良い。統率力が一番大事だ。信頼を阿修羅を見つけるまでに得れば良い』
昇の横から茶々丸が言った。
『茶々丸なんでここに?お前は守りの方じゃ無かったか?』
『昇お前はいちいちうるさい奴だな。暇だから居るだけじゃ。守備隊は退屈でたまらん』
『やるか?』
昇と茶々丸は睨み合っている。
『おい、昇、茶々丸!やるなら阿修羅相手にしてくれ』
凱は呆れてそう言った。喧嘩するほど仲がよいとは言うが、ここまで来ると良い迷惑だ。
『これより、北西の地に向かう』
凱はそう言うと里を出た。その後に選抜隊が続く。総勢30名ほどだ。人数が多い分、少しは気が楽ではある。里の方では残した家族が手を振っていた。その中には茶々丸と猿飛も居た。
『凱、これだけ居たら何か勝てそうだな』
『ああ、心強いな。しかし、阿修羅もこんな時の為に対策はしているだろうな』
>> 455
『首里まだ良くないのか?』
『いや、もう大丈夫だ。すっかり良くなった』
首里は肩を回しながら言った。猿飛の作った万力丸は本当に効くようだ。
『皆の衆集まって貰えるか』
雷鳴は皆より一段高い所に立ち叫んだ。すると散らばっていた者達が、雷鳴の元に集まった。
『さて、これから阿修羅を攻める為、動いてもらう。選抜隊の隊長を我が月影より凱を指名する。異議ある者は今の発言してくれ』
『異議あり!』
そう言ったのは凱本人だった。
『凱、何か不満でもあるのか?』
『いえ、ただ私には荷が重すぎます。他に適任の方がおられるかと…』
選抜隊を見渡すと鬼火や妙斬など色々いた。
『凱よ。儂らもお主が適任と思う。気にする事はない。儂らも手伝うからな』
凱はしばらく考えると決意した。
『わかりました。なんとかやってみます』
『それでは、頼んだぞ』
『はい!』
『以上だ。皆決して死ぬでないぞ』
『はっ!!』
皆はそれぞれの持ち場についた。そして選抜隊は里の入り口辺りに居た。
『おい!凱先に挨拶だ』
昇は凱の背中を押した。よろめきながら皆の前に立った。額から汗が流れた。
>> 454
『さて、今回の作戦は阿修羅を追い詰め倒す事が目的だ。出来るだけ命を落とさぬよう気をつけてくれ。強者から選抜隊を作りまずは先陣を切ってもらう。その後、本隊を進める。後の者は国を守る為、残ってもらう。そして、女子供は非難してもらう。各国はその点を注意した上で指令を出してもらいたい。私からは以上だ』
雷鳴の言葉はそこに居た者達を震え立たせた。各国は各々で指令を伝える為に動いた。庭に居る強者の中に、妙斬や鬼火なども居た。
『おっ凱か。この作戦参加させて貰うぞ。紹介しておこう。右から零、越、剛だ。儂を合わせて東の4人衆だ』
妙斬とその3人は忍では無いが、見ただけで人並み外れた体付きをしていた。凱はそれぞれと握手をした。彼らの手には、棍棒と言われる武器が握られていた。6尺はあるそれは鉄で出来ているようで、普通の人には扱えないだろう。
『凱!』
振り向くと昇と首里が居た。
『昇、首里、今度も頼むよ』
『任せとけ。まあ、実力からすれば、俺の方が上だからな。凱こそ頼むぞ』
『昇、言ってくれるな。あははは…』
『及ばずながら、俺も手伝わせてもらうよ。今度は油断しないよ』
首里は肩を押さえながら言った。
>> 453
雷鳴は意外にのんびりとキセルを吸っていた。
『お主ら早いな。もっとゆっくりして良かったのに…まあ、良い座れ』
凱達は雷鳴の前に座った。
『さて、昨日の続きだが、白虎と玄武に関してだが、ちと厄介だな』
『そんなに強いのですか?』
『そう厄介だな。特に白虎は頭が切れて、忍術のほとんどを使えると聞く、そして玄武は如何なる攻撃も効かない体を持つのだ』
『確かに厄介ですね。白虎の術に玄武の防御そして鉄馬の剣術…四天王が半分になっただけでもまだ救いはありますが…』
『凱、どっちにしてもヤバい事には変わりないぜ』
昇が困った顔して言った。
『まあ、そうだけど。あの2人を倒せたんだ。俺達が一丸となって戦えば、なんとかなるだろう』
『凱、油断はするな。敵もこちらの事は把握しているだろう。それなりの対策はしてくるだろうな』
『すみません。そうですね。気を引き締めないといくませんね』
『そうだ。気を引き締めないとな。とにかく、強者を集め再度北西の地を探してみよう』
雷鳴は指示を出す。1人の忍が走り、各国に指令を出した。しばらくするとその強者が集まりだした。雷鳴の元には各国の代表も集まりだした。
>> 452
『しかし、その四天王が何故に阿修羅についたのでしょうか?』
『奴らは阿修羅に何かを見いだしたのだろう。凱よ。油断するな。間違いなく残りの奴らも強いぞ』
『はい…』
『今日はゆっくり休め。話はまた明日だ』
凱達は頭を下げ自分達の小屋に戻った。咲の作った食事を食べると疲れていたのか、凱達は寝てしまった。朝になり目覚めると首里と猿飛の様子を見に行った。
『傷の具合はどうですか?』
『ほれ、この通り良くなりました』
猿飛の万力丸と温泉が良かったのだろう。2人共、傷の跡さえなかった。
『そうか、それなら良かった。早速、雷鳴様の所に行きましょう』
凱達は雷鳴の屋敷に向かった。
『首里どうだ?』
昇が首里の肩を叩いた。
『痛てぇ―!』
『痛いな。治ったと言ってもまだ、完全じゃないのだぞ…』
『へへへ…すまない。すまない』
『痛~~~い!』
昇はまた肩を叩き、笑いながら走って逃げて行く。それを首里が走って追っかけた。
『お前ら、いい加減にしとけよ』
凱がそう言うが2人はまだ走っていた。
『やれやれ…』
凱は首を振りながら呆れていた。2人をほっとき、雷鳴の屋敷に向かった。
>> 451
雷鳴は地図に記しをつけた。
『後は凱達だけだな…』
『雷鳴様!』
1人の忍が走って雷鳴の所に来た。
『どうした?』
『はい、今見張りの者から伝達で北西に行った一行が戻ってきたようです』
『そうか分かった』
雷鳴は立ち上がると外に向かった。するとそこには凱達が帰って来ていた。
『雷鳴様、只今戻りました』
『ご苦労だった。それでどうだった?』
『阿修羅の者とは遭遇し倒したのですが、場所まではわかりませんでした。それで、首里と猿飛さんが負傷しました』
『2人は大丈夫か?』
『処置はしましたので大丈夫です。阿修羅は四天王を出してきました』
『四天王か…どんな奴らだ?』
『朱雀と青竜と名乗っていました』
『そうか朱雀と青竜と言う事は、白虎と玄武が残っていると言う事だな』
『雷鳴様は四天王をご存知で?』
『阿修羅としてではないが、はぐれ忍者でそう言う風に言われていた者達がいるとは聞いた事がある』
『はぐれ忍者ですか…』
『忍の掟に従う事が出来ず、自分の意志で忍の里を出た者の事をそう言うのだ。そうなると盗賊と変わりはない。自分らの思うままにやってしまう。盗賊より技がある分厄介かもしれん』
>> 450
ガサッ
近くで物音がした。凱は素早く腰に手をやった。
『しまった。今は裸だ。こんな時に…』
しかし、そこに現れたのは野生の鹿だった。脚でちょこんと湯を触るとそのまま湯に浸かった。人が怖くないのかそのまま気持ちよさそうにしている。
『ここは動物達の温泉みたいですね』
『儂にも良いぞ』
茶々丸が浅い所で気持ちよさそうにしていた。凱達は里に帰り今までの事を報告する為に里に帰る事にした。
『白虎…2人の気が消えた…』
低くく小さな声で玄武が言った。
『あの2人を倒すとはな…鉄馬様どういたしますか?』
『弱い者は強い者には勝てぬのだ。だから、奴らは負けた。ただそれだけだ。白虎、玄武、行くぞ』
『どちらへ?』
『奴らの所だ。決着をつける』
『はっ!』
白虎は今までとは違う鉄馬の冷たい目に寒気を感じた。謎の男の術で余計な感情を取り除かれてしまったのだろう。そして、暗い廊下を抜け出て行った。その後を追う一つの影があった。
その頃、月影の里では調査に出た者達が次々と帰って来ていた。
『……西の方には見当たりませんでした』
『そうか、ご苦労であった。下がって良いぞ』
『はっ!』
>> 449
『この辺りで一度戻ろうか?』
『儂には少し辛いのう』
凱達は今来た道を戻り始めた。すると近くに白い湯気が上がっているのに、気が付いた。
『茶々丸あれは何だろう?』
『温泉ではないか?火山の近くには良くあるからな』
『ちょっと見てみませんか?』
『別に構わんが…』
岩が少しずつ多い所を湯気の上がる方に向かった。2人は岩の上を飛び跳ねがら進んだ。すると岩に囲まれた所にお湯が沸いていた。凱がそっと手を入れてみると良い湯加減だった。
『良い感じだ。あっそうだ。猿飛さんや首里達をここで休ませよう』
『それは良いな。呼びに行こう』
凱達は早速、皆の元に戻った。そして説明をすると温泉に向かった。
『ヤッホー!!』
ザブ~ン
そう言って飛び込んだのは昇だった。
『止めろ。子供じゃないだろう』
『だってよ。こんな広い所は初めてだからな。それにしても気持ち良いなぁ~』
『そうだな…猿飛さんどうですか?』
『気持ち良いですなぁ~極楽、極楽…』
凱達は温泉を満喫していた。
『ところで、阿修羅の行方は分かったのですかな?』
『それが…まだわからないのです。この近くだとは思うのですが…』
>> 448
『茶々丸!』
『何だ?』
『前から思っていたが、鉄馬と言う俺は、阿修羅に操られているのだろうか?それとも、自分の意志で阿修羅に加わったのだろうか?』
茶々丸は急な質問に困惑していた。考えてみると元々は、西の陽炎の忍だったのだが、阿修羅の一員として凱達に戦いを挑んで来ている。
『儂が思うに、間違いなく操られておるな』
『何故、そう思う?』
『前の奴を知っているからな』
『知っている?』
『お前の親父に拾われた後、鉄馬と一緒にしばらくいたからな』
『鉄馬と一緒にいた?』
『小さな時、八雲様に拾われ鉄馬の所に預けられていた。まあ、忍犬として訓練を受けていたのだがな。鉄馬の家は忍犬養成所でもあったからな』
『意外な繋がりだったのですね』
『あの頃とは、やはり違う気がする』
『そうですか…しかし、この辺りにはそれらしき物はないですね』
『そうだな。微かだが、鉄馬の匂いはするのだがな』
凱達は立ち止まり、辺りを見回した。近くには火山があった。そう言えば、さっきから硫黄の香りが漂っていた。茶々丸の鼻も硫黄の匂いに邪魔されているようだ。少しキツいのか、辛そうな顔をしている。
>> 447
『あははは…すまない。そうだよな。猿は凄い。これからも面倒かけるが、よろしくな』
『若様……』
猿飛は涙ぐんでいた。
『猿、それぐらいで泣くなよ』
『すみません…』
『そう言ってまた泣くなよ』
猿飛は涙を拭いた。
『さて、2人の傷も大した事はないが、しばらくは動けないな』
『凱、大丈夫だ。薬のおかげで、ほら!いたたた…』
首里は傷口を押さえ痛がった。
『万力丸が凄いと言っても、完全に治った訳じゃないからな。とりあえずお前達はここで休んでくれ。俺と茶々丸でもう少しこの辺りを探してみるから』
『ちょっと待てよ。何故、茶々丸なんだ?それなら俺が行く』
昇は納得いかないのか、そう言って来た。
『昇には、ここに居てもらう。怪我人を残すには心許ないからな』
『なるほど、そう言う事なら、俺に任せときな』
昇は自慢気に鼻を指で弾いた。茶々丸がまた何か言うかと思ったが、今回は黙っていた。2人の漫才のような喧嘩を見れないのも、物足りなさを感じた。
『茶々丸、行こうか?』
『ああ!』
茶々丸は返事をしたが、人では無く犬である。世の中には不思議がいっぱいだ。2人は歩きながら辺りの様子を調べていた。
>> 446
その声が聞こえた後、ウロコは、全て地面に落ちた。
『…ん?』
凱達は青竜を見ると、胸に矢が刺さっていた。背中から刺さり心臓を貫いていた。
『な、な、なんで……』
青竜は飛んで来た矢の方向を見ると、首里が孔雀を構え立っていた。
『油断していたようだな。そいつらだけじゃないのを忘れていたか?』
『しまった…ヒャヒャヒャ…俺とした事が…ぐふっ…しかし、俺を倒しても俺達より強いのが、まだ居る。いずれお前たちは…ぐふっ…』
青竜はそのまま倒れた。そして元の人の姿に戻った。
『俺達が強くなって無かったら、俺達がこうなっていたな…』
『しかし、まだ強いのがいる訳だよな』
『その為にも修行だな。それより、首里と猿飛さんは?』
2人は怪我はしていたが、大した怪我では無かった。とりあえず治療する事にした。
『首里これを飲んだら良い』
猿飛は懐から薬を出した。そう以前、凱達に渡した万力丸であった。一時的に力が増すのは当然だが、体を活性化する効能もあった。首里が飲み込むとみるみるうちに傷が癒えてきた。
『実際、使ってみた事ないから、こんなに凄いとはな…』
『若様、私の作った物ですよ。凄いに決まっています』
>> 445
凱達は飛び上がったが、炎はより高く燃え上がった。
『ヒャヒャヒャ…だから、無理だと言ったでしょう』
『何なんだこの炎は…』
炎はジリジリと幅を狭めて来た。
『凱、どうする?』
『月黄泉で切れぬものはない!!』
凱は構えると月黄泉を振った。炎に真空波が当たり人1人通れる隙間が出来た。
『昇、あそこだ。行くぞ!』
凱は炎から飛び出した。炎は縮まり1つの柱になった。
『ヒャヒャヒャ…奴らは丸焦げだな。ヒャヒャヒャ…ヒャヒャ?あれ居ない。どこに消えた?』
『お前の後ろだよ』
青竜は振り返った。そこには凱達が立っていた。
『なぬ、あの炎からどうやって?』
『俺の月黄泉に切れぬ物はない。炎とて同じ事!』
青竜は一躍して凱達から離れた。
『それなら、この技ならどうだ?』
青竜の体のウロコが松ぼっくりのようになり、一斉に飛び出して来た。
シュルシュルル…
凱達は刀でそれを弾くが、弾けてもなお凱達に迫って来る。炎の次はウロコの手裏剣だ。凱達なんとか弾きながらよけているが、きりが無かった。
『くそー!!どうしたら良いんだ?』
『昇、後ろ!』
昇はギリギリでよけた。
『うわっ!!』
>> 444
凱の中で何か底知れぬものが湧き上がり月黄泉が光を放った。月黄泉は数倍の大きさになり光り輝いていた。
『裂光斬月!!』
凱はそう叫ぶと宙を飛び朱雀を目掛け月黄泉を振り下ろした。
『どうしたの?こんなの痛くも痒くも…な、な、ないわ……』
朱雀の体の中央に縦の線が入り、2つに割れて行った。朱雀の後ろの地面を見るとかなり先まで線のように割れていた。
『うぐぐ…』
朱雀は息絶えた。
『ヒャヒャヒャ…なかなかやるね。朱雀を倒すとは。でも、俺を倒す事が出来るかな?』
青竜は呪文を唱えた。すると体が変形し始めた。その姿はまるで龍のようだった。青竜は1人で獣陣の術を使えるのであろう。
『さあ、こうなったら今までみたいにはいかないよ。誰からあの世に行きたい?』
凱と昇は構えた。青竜は胸を張ると口から炎を吐き出した。
ゴゴゴ……
炎は活きよいよく向かって来た。凱達がよけると追いかけるように炎を吐いて来る。近くの木々は燃え上がり、周りは炎の海となった。気がつくと凱達は炎に囲まれていた。
『ヒャヒャヒャ…油断したね。その炎は簡単には消せないよ。ヒャヒャヒャ…』
『こんな炎なんか飛び越してやる』
>> 443
『猿、無理するな。こっちで休んでいろ』
『若様すみません。年は取りたくないですな。うう…』
昇は猿飛を担ぎ、近くの木に連れて行った。
『そこの針鼠!貴様は俺が倒す!』
そう叫んだのは、首里だった。孔雀を構え気を流し込んだ矢を回転している朱雀目掛け放った。矢はまるで火の鳥のように飛んで行った。そして、刺さるかと思った瞬間、朱雀の針のようになっていた髪が、壁のように平らになり、その矢を受けた。
『やった!……ん?』
良く見ると確かに矢は刺さってはいるが、半分ぐらいで止まっていた。すると矢は壁になった髪の中に吸い込まれた。
『こんな矢で倒せるとでも思ったの?甘いわね。倍にして返してあげるわ!!』
そう言うと首里の矢と一緒に髪で出来た矢が一斉に首里目掛け飛んで行った。首里はよける暇なく矢をくらってしまった。
『うわっ!!』
そう叫び後ろに倒れた。
『首里までも…』
昇がそう言うと茶々丸が言った。
『首里は儂がみる。お前は戦いに集中しろ!』
『ああ、分かった。茶々丸後は頼んだぞ!』
昇は刀を構えた。その横で、凱が黙って立っている。その顔は怒りに似たものだった。
>> 442
凱はもがくが取れない。
『なんだ取れない』
首里の近くから何かが飛び出て来た。それはクルクル回り空高く舞い上がり、朱雀の髪めがけ飛んで行く。鋼より硬い朱雀の髪がばっさりと切った。髪はバッと舞った。凱達は絡みついた髪を振り払った。
『首里やるじゃないか!』
『孔雀に切れない物などない。例え鋼だろうともな』
首里は少し自慢げに言った。
『くそー!!俺の髪を切ったなー!!!!!』
朱雀の表情が変わった。まるで夜叉のような形相だ。髪が朱雀の体包み、針鼠のようにトゲを出しそして丸まった。
『ヒャヒャヒャ…こうなると手が付けられない。お前達逃げなきゃ怪我するよ。ヒャヒャヒャ…』
『忍法、針鼠弾!!』
朱雀は玉のように凄い勢いで凱達めがけ転がっていく。凱達は素早くよけた。朱雀はそのまま転がり、辺りの木々を削り倒して行った。
『逃げても無駄だ。忍法、針千本!!』
髪が針のようになり四方八方に飛んで行く。猿飛がよけきれないで幾つかの髪の針を受けてしまった。
『しまった…私とした事が…』
『猿、大丈夫か?』
『はい、大丈夫です。ううう…』
猿飛の脚に幾つか刺さっていて、今までみたいには動け無かった。
>> 441
青竜は両手を広げるとそこには手裏剣がいくつも握られていた。
『ヒャヒャヒャ…術が駄目ならこれならどうだ』
青竜は手裏剣を投げて来た。凱達は素早くよけた。手裏剣は地面に次から次に刺さっていく。
『ヒャヒャヒャ…早くよけないと刺さっちゃうよ。ヒャヒャヒャ…』
凱達は次から次に来る手裏剣をよけるのが精一杯だった。凱達は皆違う方に散らばった。
『いつまでもやられていないぞ!』
昇が返しに手裏剣を投げた。しかし、明後日の方向に飛んで行く。青竜の横に刺さった。
『ヒャヒャヒャ…的外れな所に投げてどうする?ヒャヒャヒャ…ヒャ?体が動かねぇ…』
『今頃気が付いたか!忍法影縫い!!お前の影を縫ったもう動けないよ』
昇は油断していた青竜の影を縫っていた。
『くううう…動けない』
『青竜何をやっているの!』
『朱雀助けてくれ』
『青竜待ってて!あなた達許さないわよ!』
朱雀が舞い上がった。
『無限髪地獄!!』
朱雀の髪が広がり大輪のようになったかと思ったら凱達めがけ伸びた。まるで生き物のように凱達を捕らえ巻きついた。
『なんだこの髪は?』
『この髪は鋼より硬いから何をやっても無駄よ』
>> 440
『誰だ?』
『ヒャヒャヒャ…やっと見つけたよ。勾玉持っているだろう?ヒャヒャヒャ…』
それは凱達に追いついた青竜と朱雀だった。
『何者だ?』
『ヒャヒャヒャ…俺は青竜、こいつは朱雀だ。勾玉を貰えるかな?そうしないと怪我しちゃうよ。ヒャヒャヒャ…』
『何故、持っている事を知っている?お前達は阿修羅だな?』
『お兄さん良く分かったわね。その通りよ。早く渡した方が身のためよ』
朱雀は長い髪を掻き分けながら、凱に近づいた。
『なんだよ。お前男だろう?女みたいな言い方して気持ち悪い』
昇は吐く真似をした。
『何よあんた私を馬鹿にしたわね!見てらっしゃい』
朱雀は呪文を唱え出した。凱達は身構えた。
『喰らいなさい!火遁、花鳥風月!!』
口から出た火が花のように舞い上がり鳥になり、凱達に向かって行った。
『火遁なら俺に任せろ!水遁、激流壁!!』
首里が呪文を唱えると地面から湧き出した水が激流のように流れ高い壁となった。水と火がぶつかり合い弾け消えた。
『ふっ火には水だよね』
『キィームカつく!!』
朱雀が悔しがっている。
『ヒャヒャヒャ…お前達は忍か。これは難儀だな。ヒャヒャヒャ…』
>> 439
『鉄馬様大丈夫ですか?』
鉄馬は現実に戻された。
『ああ…大丈夫だ…すぐに治る』
『それなら良いですが、しばらくここで休んではいかがでしょう?』
『本当に大丈夫だ。勾玉はここにも無かった。先を急がなければ…』
鉄馬はそう言うとその場に倒れた。
『ううう…ここは?』
鉄馬は辺りを見回した。
『阿修羅の里に向かっています』
鉄馬は玄武に担がれていた。その横を白虎が歩いていた。
『降ろせ…勾玉を探さなければ…ううう…』
『鉄馬様まだ無理です。少し休まれた方が良いかと。勾玉の方は青竜と朱雀が探しています』
『そうか……』
鉄馬はまた、気を失った。
『玄武急ぐぞ』
白虎達は風のように走り去った。阿修羅の里に着いた。
『鉄馬は倒れたか…術が弱くなってしまったかな?』
謎の男は呪文を唱え出した。鉄馬の体が光り出した。そしてムクッと起き上がった。鉄馬の目は邪悪な物になっていた。
『これでまた、活躍してもらわないとな』
謎の男はどこかへと消えて行った。その頃、凱達は魔法陣のあった所から半里ほど行った所にいた。
『凱、この辺りではなさそうだな』
『何も手掛かりもないな…』
ガサッ
>> 438
『居なくては困りますがね』
『確かにな…ううう…』
鉄馬は頭を押さえた。
『鉄馬様どうされた?』
『いや、大丈夫だ。気にするな』
鉄馬はあの日以来、たまに頭痛がしていた。黒龍刀の影響であろうと思っていた。
《黒龍刀を使いこなさなければ》
そんな事を思っていた。黒龍刀を強く握りしめた。滝の前に立つと周辺を探した。
『ねぇ、こんな所に洞窟があるよ』
それはケム達が居た洞窟だ。
『ヒャヒャヒャ…中には何もないな。ただ、獣の匂いが漂っているね。ヒャヒャヒャ…』
『玄武お前がそこに立つと暗くなる。外で待っていろ』
『………』
玄武は黙って外に出て行った。
『これは、獣なのか?まるで、人が住んでいたように見えるが』
鉄馬が言うのは当たり前だ。獣人にされた人が住んでいたのだから。
『これはもしかしたら獣人ではないかな?だから獣の匂いがする訳ではないかな?』
『獣人が何故、こんな所に?』
『自分の意志を持って逃げたと言う事ですかね』
『ううう…』
鉄馬はまた頭が痛くなった。一瞬何かが見えた気がした。どこかの村の風景だった。小さな子供が何人かでかくれんぼをして遊んでいた。
>> 437
『ヒャヒャヒャ…残念だが、祠にあなたの匂いが残っていたよ。ヒャヒャヒャ…』
『……ん?それはいつもあそこには、参っているからな。そりゃ当然だよ』
法然はまた、苦し紛れの嘘をついた。白虎が前に出て来て質問してきた。
『ならば、あそこにあった勾玉の事も知らないと言うのか?』
流石は白虎、鋭い所をついてきた。
『確かに何かが祭られているのは、知っているが何であるかまでは知らんのじゃ』
『………』
白虎は黙ってしまった。
『足止めしてすまなかった』
『なら行っても良いかな?』
『ええ、ご足労かけました』
鉄馬は頭を下げた。完全に疑っていない訳ではないが、匂いを追っかけた方が早いと判断したのだった。
『さあ、行くぞ』
鉄馬達は歩き出した。その一方法然は胸をなで下ろしていた。
『危ない所じゃった。しかし、凱達は大丈夫だろうかな?多分、あれが四天王だろうな。さ~て儂は寺に帰ってお茶でも飲もうかな。がははは…』
法然は悠々と寺へと歩いて行った。
『ヒャヒャヒャ…あれが滝だな。ヒャヒャヒャ…』
鉄馬達は滝の近くまで来ていた。
『この近くに勾玉を持った者がいるのだろうか?』
>> 436
鉄馬には気安く話しているが、白虎に話している所はあまり見なかった。
『鉄馬様すみません。奴らは悪気は無いのですが、勘弁して下さい』
『いや、大丈夫だ。もとより相手にしてない』
『……ぷっ』
鉄馬は白虎をチラッと見た。今確かに笑ったように聞こえたのだが、白虎は冷静な顔をしていた。
『ヒャヒャヒャ…これは滝の方に向かったようだぜ。ヒャヒャヒャ…』
『分かった』
滝の方を目指した。
『……ん?ちょっと待った。寺で匂った匂いが近づいている。ヒャヒャヒャ…』
鉄馬達は立ち止まった。前を見ると1人の僧侶が歩いて来た。そうそれは法然だった。
『すまないが、待ってもらえるか?』
『儂ですか?さて何の用事で…』
『寺の僧侶とお見受けしますが、勾玉の事をお聞きしたいのだが』
鉄馬は法然を見つめた。しかし、法然はとぼけたような風で答えた。
『勾玉ですか?……ちと分かりかねますな』
『とぼけても為にならないぞ』
鉄馬は刀を指ではじき抜こうとした。
『待たれよ。本当に知らないのじゃ。それに坊主を斬っても刀が汚れるだけです』
法然は苦し紛れにそう言った。
>> 435
『多分、実験をしたのではないかと思う』
『実験って…何の実験なんだよ』
凱は魔法陣を見ながら、昇の質問に答えた。
『それは人を獣人にする実験だ。その証拠にあそこを見ろ』
凱の指差す方を見ると、死骸があった。獣が荒らしたのか、原型をとどめていなかった。
『なんだよこれは?』
『失敗した死骸だろう…』
『なんと惨い事じゃ』
『確かに惨いな』
皆は口を揃えるほど惨い死骸だった。
『しかし、これでこの近くに阿修羅が居る事が分かった。辺りを調べよう!』
凱達は周辺を捜索し始めた。
寺を出た鉄馬達は凱達の後を追っていた。
『青竜、匂いは分かるか?』
『ヒャヒャヒャ…奴らは北西に向かっているようだね。これはもしかして俺達のアジトに向かっている。ヒャヒャヒャ…』
『確かにそうよね。阿修羅の里に向かっているわね。そうでしょう鉄馬ちゃん』
『………』
鉄馬は黙って歩き出した。
『鉄馬ちゃんなんで黙っているの?』
『ヒャヒャヒャ…そうだ。何故黙っている。ヒャヒャヒャ…』
『お前ら少しは黙れ!』
白虎の一声に朱雀と青竜は黙った。この中で白虎は群を抜いて強いのだろう。
>> 434
『立ったぞ!!』
凱達は皆で喜んだ。
『ありがとう。助かった』
橘造は凱達に頭を下げた。
『成り行きで、こんな素晴らしい事に遭遇出来て、良かったです』
こういう事はそう滅多に遭遇出来ない事であった。
『あんた達、お茶でも飲んでいきな!』
『いや、私達は先を急いでますからここで』
『そうか…なら気をつけてな』
凱達は橘造に聞いた場所を目指した。
『やはり、魔法陣のようだな』
『聞いた感じではそのようだ。あの森だ急ごう』
森は静まり返っていた。
『本当に何かあるのかな?』
昇には緊張と言う物が無いのだろうか、スタスタと前を歩いている。凱は冷静ではあり、辺りを警戒していた。
『なあ、あれじゃないか?』
先頭を歩いていた昇が、何かを見つけたようだった。見ると木が倒されていて、その中央に円が描かれていた。
『これは、やはり獣人が出て来た魔法陣と一緒だな…』
『ならここが阿修羅達が出て来る所。いわゆる出口か?』
凱達は魔法陣を眺めた。
『いや、これはこのままでは、単なる絵だ。確かあの時は4人が陣を囲っていた』
『ならこれは何だと言うんだ?』
>> 433
橘造は起き上がると、母馬のお腹の張りを見た。
『橘造さんですか?』
『ああ、そうだよ。あんた達は?』
橘造は馬小屋から出て来て凱達に近づいて来た。
『私達は旅をしている者で、あなたが見たと言う絵を探しています。どこで見たか知りたいのですが…』
『西の山で見た奴の事かな?あれは不気味な絵だったよ』
『不気味?どんな形だったのですか?』
『円がいくつも出来た物だったな。この道を真っ直ぐ行ったら分かるよ』
凱達はその方向を見た。その方向には森が見えた。すると馬が一鳴きした。
『…ん?破水したな。産まれるぞ。あんた達手伝ってくれ』
凱達は言われるがまま、馬の出産を手伝った。すでに脚が見えて来ていて、橘造がその脚を引っ張り出した。
『そこのあんたも一緒に引っ張って!』
凱は慌てて脚を握り引っ張った。少しずつ子馬の姿が見えて来た。
ドサッ
子馬が藁の上に落ちた。母馬がそれに近づき舐め始めた。子馬はピクピクしながら動いている。胎膜が剥がれ落ち子馬はすぐに立とうし始めた。
『おっこいつ立つぞ』
昇は興奮したように言った。産まれてさほど時間は経っていないのに、子馬は立ち上がった。
>> 432
家の後ろには、馬小屋あり2頭の馬がいた。その馬の近くに何かが居るのが分かった。良く見たら人が藁の中で寝ていた。
『おい、あれが橘造さんじゃないか?』
『そうみたいだな。何故あんな所で寝ているのかな?』
橘造らしき男は気持ち良さそうに藁の中で寝ていた。
『良くあの右の馬見てみろ。もうすぐ産まれるな』
茶々丸が前に出て言った。
『子馬が産まれるのか?』
『当たり前だ。馬から人が産まれる訳なかろう』
茶々丸が笑いながら言うと、昇は怒って言い返した。
『そんな事分かっている!今産まれそうなのかと聞いただけだ』
『そうか。てっきり知らないかと思ってな』
茶々丸はニヤリと笑った。
『このバカ犬!』
昇は茶々丸に殴りかかった。素早くよけ笑っていた。
『お前ら、いい加減にしろよ。仲が良いのは分かったからさ』
首里が呆れて言った。
『仲は良くない!!』
昇と茶々丸が一斉に言った。
『だから、それを仲が良いと言うのだ』
首里は横目で2人を見た。昇と茶々丸は見合うとぷいとそっぽを向いた。凱と猿飛は馬小屋に近づき寝ている橘造らしき人に声をかけてみた。
『うん、うん、産まれたか?あんた達は?』
>> 431
昇達を起こそうとすると、皆が一斉に起き上がった。
『何だ…起きていたのか』
昇は頭を掻きながら、不満ありげに言った。
『耳元でそう話をしていたら、誰だって目が覚めるわ。その前に俺達は忍だぞ』
『なら、話は分かっているな』
『ああ』
『それなら行こうか!』
凱達は柑太達を起こさないように外に出た。猿飛は何かを取り出した。
『お礼状を置いときましょう』
猿飛はサラサラとお礼状を書くと扉に差し込んだ。
『これでよし。それでは行きますか』
凱達は柑太から聞いた橘造の家に向かった。朝早いから当人が起きているかが問題だが、とりあえず行く事にした。東の山から朝日が見えて来た。その日の当たる先に橘造の家があった。
『凱、あれじゃないか?』
『この辺りだとあの家だと思うが…寄ってみよう』
目の前にある家は柑太の家より少し古い感じがした。早速、扉を叩いてみた。
『朝早くからすみません…』
中からは返事が無かった。その後、何度か呼びかけたが、やはり返事は無かった。
『留守なのかな?』
『ちょっとこの周りを見てみよう』
『その方が良さそうだな』
凱達は家の周辺を調べ始めた。
>> 430
凱は茶々丸の気配を感じていて、そんな夢を見ていたのだろう。
『いつ着いたのですか?』
『ついさっきだ。着くとお主がうなされていたからな。驚いたぞ』
『すみません。ちょっと変な夢を見てました。茶々丸も出てきましたよ』
『ほう!儂が出て来たか!それでどんな夢を見た?』
『何か凄く大きい物が迫って来て、私を押しつぶす夢です。阿修羅と戦った性ですかね。あははは…』
凱は苦笑いした。しかし、茶々丸は笑わなかった。
『いや、お主の夢…まんざら夢だけとは限らんぞ』
『どういう意味ですか?』
『ちょっと小耳に挟んだのだが、阿修羅の四天王が現れたと言う話じゃ!』
『阿修羅の四天王…』
『昔から東西南北を守ると言う獣の名を持つ四天王がな。それを本能的に感じたのかもしれんな』
『実はずっと何かいしれぬものを感じてました。鉄馬より遥かに凄い恐怖を…』
『儂の鼻では、まだ近くにはいない。任務を急ごう』
茶々丸は鼻を上げ匂いを嗅いでいる。
『いや、その前に調べないといけない事があるんです。任務に関する事ですから』
『そうか…ならそうしよう。他の奴を起こせ』
『わかりました』
>> 429
『教えるのは構わないが、聞いてどうするつもりだ?』
『我々はある任務の為に動いていて、その絵が気になります』
『任務か…まあ、今日は遅い。明日の朝にでも行ったら良い』
『それならお世話になります』
凱達は再び、柑太の家に戻った。
『さて、さっきの話だが、この家を西向かって行けばソイツの家がある。名は橘造だ。少しボケたところはあるが、気にするな。さあ、寝ようか』
『分かりました。それではおやすみなさい』
凱達は明日に備え寝る事にした。時折、遠くで犬の遠吠えが聞こえた。そう言えば茶々丸はどうしたのだろうか?追いつくとは言ったが、半日は経っている。もう、合流してもおかしくないはずだが…。凱はそんな事を思いながら深い眠りについた。
『凱、逃げろ!』
『茶々丸どうした?』
『奴が来る』
『奴とは?』
『逃げろ!』
『何だあれは…』
巨大な影が迫って来る。そして凱を押しつぶした。
『凱、凱、大丈夫か?』
『ううう…』
ガバッ
凱は起き上がった。
『なんだ…夢か…』
『うなされていたようじゃな』
『茶々丸?!』
目の前には茶々丸が座っていた。
『やっと追いついたぞ』
>> 428
『逃がしてやってくれ』
柑太は意外な事を言った。
『しかし、これではまた荒らされますよ』
『いや、コイツらも食べ物が無くて仕方なくやったのだろう』
『食べ物がないってそんなに酷いのですか?』
『ここ数年森に異変があるようで、食べ物も少なくなっている』
『異変ですか?』
『西にある森の奥に何かあるみたいだ。そう考えたらその頃からだな盗まれ出したのは…すまないが放してやってくれるか』
『分かった』
昇が猿の足の縄を取ってやると一目散に逃げて行った。
『これからどうするつもりですか?』
『猿は獣の匂いを嫌うと言うから犬でも飼うことにするよ。奴らにも少しはあげるがな』
『柑太殿。それならこの匂い袋を使いなされ』
猿飛は袋を取り出すと手渡した。
『犯人も分かった事だし帰ろうか?』
昇は腕を頭の後ろに組み、鼻歌を歌いながら先に歩いて行った。凱達もその後に続いた。
『ちょっと気になったのですが、西の山に何があると言うのですか?』
『実際に見ていないが、見た者が言うには、変な絵が描いてあったと言う事だ。それ以上は分からないな』
『変な絵ですか…その見たと言う人を教えてもらえませんか?』
>> 427
その気配の先を見るが、夜の性もあって見えない。昇からの口笛が1回聞こえた。すると走り抜ける音がした。
『おい、来たぞ』
しかし、何者かさえ分からない。
『いつもこうなんだ』
『ちょっと厳しいですね』
凱は良い手がないか考えた。すると猿飛が言った。
『罠を仕掛けましょう』
『どうやって?』
『簡単です。柑太さんその棒を貸して下さい』
猿飛は自分の持っていた縄とちょっとした仕掛けを作った。それをミカンがいっぱい成っている木の近くに仕掛けた。
『よし、これで仕掛けが出来た。後は罠に引っかかるのを待つだけだ』
凱達は改めて身を潜めた。しばらくすると昇からの口笛が2回鳴った。こっちに追っているようだ。猿飛の仕掛けの方に近づいて来ている。
コンッ!
シュルシュル
キィー
色んな音が響いた。
『おっ掛かったようじゃ!行ってみましょう』
凱達は仕掛けの方に近づいた。そこには犯人が捕まっていた。
『なんて事だ。コイツらだったか…』
柑太がそう言った犯人は猿だった。足に縄が引っかかってぶら下がっていた。
『凱!捕まったのか?おっ猿じゃないか。そりゃすばしっこい訳だ。どうするんだ?』
>> 426
『人数も多い方が、何かと良いと思いますし。やらせてもらえないでしょうか?』
『それは、こちらは助かるから良いが、急ぎでは無かったのか?』
『ちょっとぐらいなら大丈夫です』
凱は念の為、皆を見た。
『凱、そうしようぜ。この恩は返さないとな。そうさせてくれよ柑太さん!』
柑太は納得したのか頷いた。
『それじゃ、頼む』
『なら、今夜行きましょう』
『分かった』
『ほらほら食事が冷めてしまうよ。早く食べなさい。昇さん、お代わりは?』
タネがそう言って手を出した。
『じゃあお言葉に甘えてお代わり』
ニッコリ笑ってお代わりを待っている昇は、まるで子供のようだった。そして世間話をしながら夜を待った。あっという間に時間は過ぎ夜になった。
『柑太さん行きましょう』
『ああ』
柑太は木の棒を持っていた。それで戦うつもりだろうか。凱達が居るから何を持って来ても関係ないのだが…凱達は二手に別れる事にした。凱と柑太さんと猿飛さんで南側を残りの昇と首里が北側から見て行く事にした。合図は口笛でする事になっている。犯人を見かけたら1回、犯人を追い込む時は2回と決めていた。凱達は身を潜めていると何かが動いた。
>> 425
凱達は食事に満足しながら、さっきの男の話が気になった。
『さっきの話ですが、どうしたと言うのですか?』
『ああ、その話か…実はな、朝になるとミカンが無くなっている…夜中に誰かが盗んでいるのは分かっているのだが、なかなか捕まえられない。その前に姿さえ見た事がない』
『姿を見てない…もしかしたら素早い動きの者だな…』
皆は一斉に昇を見た。
『おいおい待て待て。俺では無いぞ。その前にお前らといつも一緒だろう』
昇は必死に言っている。当然、皆はそんな事は分かっていたが、もしや…と言う言葉が頭に浮かんで無意識に昇を見たのであった。
『それならどうじゃろ…今夜、皆で番をすると言うのは?』
猿飛がそんな事を言った。
『そうですね。食事のお礼もしたいし。そうさせて下さい』
凱は男に向かって言った。
『…ん?お前ら何者だ?』
『紹介が遅れました。私達は月影の忍で私が凱、それでミカンを盗んだのが昇、後は首里と猿飛さんです』
『月影の忍…道理で、そんな格好している訳か!俺は柑太だ。それで母のタネだ』
柑太は初めてニッコリと笑った。それまでは仏頂面していた。警戒していたのかもしれない。
>> 424
『大した物は出来ないけど、ちょっと待っててね』
『いえ、こちらこそ押しかけてしまってすみません』
『困った時にはお互い様だよ』
その男の母親は、そう言うと台所で食事の支度をし始めた。そこに男が戻って来て凱達にミカンを渡した。
『飯が出来るまで、これでも食べておけ。家のミカンは国で一番美味いからな』
『確かに美味かった』
昇はさっき盗み食いしたから既に知っていた。
『本当に美味い!!』
凱も驚いた。何とも言えない美味しさだった。甘さに加え身もしっかりしていた。
『私もこんなミカンは初めてじゃ』
『そうだろう。俺達が手塩にかけて作ったからな、だがもう駄目だ…』
男はうなだれて溜め息をついた。
『どうしたんですか?』
男は顔を上げると話し出した。
『最近、よくミカンを盗む奴がいる…色々やってきたが、俺1人ではもう…』
『はいはい、そんな話は後にして食事をどうぞ』
母親が食事を皆に配った。凱達は食べると箸が止まった。そして笑みがこぼれた。ミカンと良いこの食事も一流の板前が作ったのかと思うほど美味かった。
『美味い…』
凱達はそれ以上言う言葉が見当たらなかった。
>> 423
『誰だ?他人の畑に勝手に入った上にミカンまで食べるとは何事だ!』
木の陰から1人の男が出て来て怒鳴りつけた。昇は驚いて尻餅をついた。
『すみません』
凱は近づき頭を下げ謝った。
『昇、お前もちゃんと謝れ』
『ふふふ、ふんまへん…』
昇はミカンをくわえたまま謝った性か、何を言ったかわからなかった。
『なんだお前ら腹が減っているのか?』
『実はそうなんです。そんな時に、美味しそうなミカンがあったのでつい…すみません』
『それなら、俺の家に来い。大した物はないがな』
そう言うと男はミカンの入った大きな籠を背負うと歩き出した。ミカンの香りが漂う畑の中を通り抜け男の家についた。
『母さん。すまんがコイツらに何か食わしてやってくれ』
『どうしたんだい?その人達は誰だい?』
『旅人みたいだ。腹が減っているらしい。家のミカンを盗んで食べてから連れて来た。よほど、腹が減っているんだ。だから頼む』
男はそう言うと道具を置きに行った。
『アンタらそこに立ってないで中にお入り』
凱達は中に通された。囲炉裏の周りに座ると家の中を見渡した。中は殺風景でどうも親子2人で暮らしているようだった。
>> 422
『そうですか。色々お世話になりました』
『いやいや大して役にはたっておらんよ。がはははは…』
法然は手を振りながら言った。
『凱!儂もこの法然殿と寺に行く』
そう言ったのは茶々丸だった。
『どうしたんだ茶々丸?』
昇が不思議に思って聞いた。
『法然殿と話がある。その後で、お主達に追いつく。先に阿修羅を探しておけ』
『何だよ。偉そうに』
昇はツンとした。凱が昇の肩を叩き頷いた。言葉にはしないが、言いたい事は分かった。
『さあ、三種の神器と阿修羅を求めて行こう』
『ああ!』
凱達と法然達はそこで別れた。
『寄り道し過ぎたな。とりあえずもう少し先を探してみよう』
言われた場所より北に行き過ぎていた為、西に行く事にした。その方向には畑が広がっていた。
『なんかのどかだな。こんな時はおにぎりを食べたくなる』
『あははは…お前は、何よりも食い気だな』
『なんか急に腹が減って来た』
『そんな事言っても何も無いぞ』
昇はフラフラとしている。すると目の前にみかん畑が見えた。
『あっみかんだ』
昇は一目散にみかんの木に走った。みかんを1つ取ると皮を剥いて食べた。まるで子供のようだ。
>> 421
これで鏡まで仕掛けを踏まなくて良い事になる。
『これなら大丈夫だ。鏡を取って来よう』
凱は一歩踏み出した。さっきのように槍は出て来なかった。鏡を取ると今まで以上に光りだした。
『なんだこの光は…』
すると鏡は形を変え凱の腕に絡み付いた。まるで小手のようになり光りが消えた。
『いったいどう言う事だ?』
『やはり武具のようだな。普段は鏡で、持つ者によって本来の姿になるのだろう』
『武具になるのか』
『もしかすると、場合によっては、全身を守る鎧になるかもしれんわい』
法然は何かを知っているかのような口振りだった。凱は尋ねるか迷ったが聞くのを止めた。
《あなたは、この世を守る為に生まれてきた。三種の神器を完全な物にするのです》
また、勾玉の時の声が頭の中に響いた。三種の神器と言えば、剣、勾玉、鏡だが、後は剣だけだ。確か月黄泉と星黄泉と何かを合わせたら草薙の剣になると書いてあったが、その何かが分からない。
『さて、ここの用事もすんだし出ましょうか?』
凱がそう言うと皆は外に出た。そして洞窟の入り口まで来ると立ち止まった。すると法然が言った。
『儂はここで寺に帰る事にするわい』
>> 420
ところが中に入ってみると、真ん中にポツンと鏡が置いてあった。
『そう言えば、あの爺さんが何かに守られているとか言っていたよな。鏡に触った途端に何か出て来るのかな?』
昇はそんな事を言った。とりあえず近づいてみる事にした。鏡の置かれた台の近くまで行った途端に下から槍が飛び出して来た。
『うわ~危ないな!』
昇は危なく刺されそうになった。
『やっぱり仕掛けがあったな!』
『やっぱりあったなって。先に言えよ』
『すまんすまん。入り口がそうだったからな。何かあるとは思ったが槍が出てくるとは思わなかった』
昇は口をとがらせ膨れていた。しかし、忍の素早さがあったからこそ、よけられた訳ではある。
『しかし、これでは取れないな…』
『でもよ。あの爺さんが言っていた、勾玉を持っていたら大丈夫なんじゃないか?』
今日の昇は冴えている。確かにそう言っていた。凱は勾玉を見つめた。
『それは分かったが、勾玉をどうやれば良いか…昇風に言えば、翳せば良いのだろうが…』
凱はそう言うと鏡に向かって勾玉を翳した。すると勾玉が光りだし、それを鏡が受けた。すると地面の一部が浮き上がり道が出来た。
>> 419
木箱を開けて巻物を取り出した。かなり古い物なのか、箱も巻物はボロボロだった。破けないように広げると、古い文字で何やら書いてあった。
《蓋の開け閉めによって本当の扉は開く》
まるで、書いた者はそれを楽しんでいるようだ。
『これはどう言う事でしょう?』
『多分、この蓋が鍵になっていて、組み合わせでどこかの本当の扉が開くのだろう。しかし、かなりの組み合わせだな…』
猿飛が言うのも確かに本当だった。石で作られた台は全部で、16個もあった。凱達は途方に暮れていた。
『なあ…周りだけ蓋を置いてみたらどうだ?入り口の口って字になるだろう。もしかしたら中の所に本当の扉が出てくるかもよ。あははは…』
昇は笑いながら言った。悩んでいても仕方ない。昇の言うように周りだけ蓋をしてみた。
ズゴゴゴゴ……
何かが動き出した。昇の言ったのは間違いでは無かった。地面が割れ入り口が現れた。
『あははは…当てずっぽで言ったが、当たっていたようだ…』
よほど大切な物なんだろう。まずは皆ここで諦めてしまうだろう。凱達は偶然、昇の発想から開く事が出来た。しかし、まだ中には問題がありそうだ。凱達は開いた入り口から入って行った。
>> 418
中は思ったよりも広かった。苔の匂いが漂っている。洞窟の奥に石を積み上げ作られた台があった。
『あれじゃないですか?』
凱は近づいてその台を調べた。勾玉の時は封印がしてあり、さわれなかったがここは問題がないようだ。石の蓋があり、以前黒龍刀を探した時と同じようだった。その石の蓋は思ったより軽く動かす事が出来た。開けると中には、何も入ってなかった。猿飛が改めて松明で照らすが何も無かった。
『どう言う事ですかね?』
『また誰かが先に取って行ったのでしょうか?』
凱達は空になった台を見ていた。
『あははは…』
突然、首里が笑い出した。
『あれを見ろ!』
凱達はそちらの方を見ると同じような台がいくつもあった。
『何だこれは…』
『多分、簡単に盗まれない為の偽装ではないかな?』
『なるほど。ならば片っ端から開けみよう』
そう言うと凱達は石の蓋を開けだした。しかし、全ての蓋をどかしても鏡は見つからなかった。
『やっぱり何も出て来ませんね…』
『いや、ちょっと待てここに何かあるぞ』
そう言ったのは首里だった。台の中から何かを拾い上げると凱に見せた。巻物の入った木箱だった。
>> 417
まあ取ってみたら分かる事じゃ』
不思議な話ではあるが、凱達にとってはもう不思議な事ではなかった。そして凱達は洞窟へと向かう事にした。小屋を出ると老夫婦がいつまでも見送ってくれていた。凱達はその洞窟を見つける為、山を登っていた。
『多分、この方向で間違いないはずだがな』
『かなり歩いたように感じるが、通り過ぎたかもしれないな…』
『おい。あれじゃないか?』
茶々丸が洞窟を見つけたようでそう言った。それはかなり小さい入り口で、凱達は勝手に大きいと思っていた。確かに入り口の所に注連縄が飾ってあった。
『ちょっと待っていろ。儂が見て来るから』
茶々丸はそう言うとぴょんぴょんと跳ねながら中に入って行った。凱達も入り口から覗くが、薄暗くて見えなかった。しばらくすると茶々丸が帰って来た。
『ここで間違いなさそうだ。付いて来い!』
茶々丸を先頭に小さな洞窟の入り口に入って行った。
『薄暗いな…』
『こんな事もあろうかとこんな物を持って来ました』
猿飛は松明を差し出した。
『流石は猿だな』
『これぐらいしか役にたちませんから』
猿飛はにっこり笑うと松明に火を付けた。そして洞窟の中を照らした。
>> 416
『すまないねぇ~。普段はあんなじゃないけど、鏡の話になるといつもああなんだよ』
老婆は申し訳なさそうに言った。しかし、こうなると自力で探すしかなかった。
『お婆さん。お茶美味しかったです。お元気で』
凱達はそう言うと小屋を出ようとした。すると奥に入っていたお爺さんが凱達を止めた。
『ちょっとお前達待て…』
凱達は立ち止まり振り返った。
『お前の首から下げているのは、勾玉か?』
凱は首に勾玉を下げていた。
『はい。これは勾玉ですが、それが何か?』
『なら話そう』
『……?』
『鏡の話じゃ』
『教えてもらえるのですか?』
『ああ…だから、もう一度上がれ』
凱達にはもってこいの話だった。
『鏡はここの山の洞窟の中にある。何かに守られていて取る事は出来ぬ。だが、勾玉を持つ者ならそれを取る事が出来ると聞いた。だからお前らならそれが出来ると言う事じゃ』
『それで、その洞窟はどこにあるのですか?』
『ここからすぐの所じゃ』
『わかりました。ありがとうございます。それでは早速行ってみます』
『後1つ話しておこう。鏡は鏡にあらず。そう言う風に前に、父親に聞いた。何か武具に変化するとな。
>> 415
老婆に招かれ中に入った。老婆はお茶をつぎ皆に配った。
『こんな所ですからお茶ぐらいしかないけど、飲んでくだされ』
『ありがとうございます』
凱達はそれを飲んだ。
『それで何を聞きたいのじゃ?』
凱は茶碗を置くと話し出した。
『鏡山にあると言う鏡の事を教えて頂きたいのです』
『なるほど。あの鏡をねぇ~。私は詳しくないが爺さんなら知っとるかもしれん。もう少ししたら帰って来るからそれまでゆっくりされたら良かろう』
『そうですか。それならそうさせて貰います』
凱達はその爺さんが帰って来るのを待つ事にした。茶々丸は牛が気になるのか、ずっと見ていた。
『茶々丸。そんなに牛が珍しいのか?』
『ああ初めて見る。これを牛と言うのか…』
確かに月影には牛は居なかった。茶々丸にとっては初めてみる動物であった。とは言う物の凱達も任務の時に何度か見たぐらいだった。
『…ん?あんたら誰じゃ?』
白い髭をはやした老人がそう言った。
『お爺さんお帰り。この人達は鏡の事を聞きに来たのじゃ』
『鏡…。そんな物は知らん。帰れ!!』
その老人は凄い見幕で言った。そして奥へと入っていった。
>> 414
その山が鏡山のようだった。凱達の前には二股に分かれた道があった所でケムが立ち止まった。
『君達すまない。我々はここまでだ。右に行ったら鏡山だ。左に行くと我々の住んでいた穂道の里があるんだ。後は君達だけでも行けるから行ってくれ』
『ここで十分です。後は我々で探します。ありがとうございました』
『いやいや、君達にはいろいろしてもらったお礼だからね。後で里によってくれ。ここから半里ぐらいだから』
『わかりました。後で寄らせてもらいます』
『それではこれで』
ケム達は深々と頭を下げると穂道の里へと帰って行った。それを見送ると凱達は鏡山を目指した。急な坂を登りながら進んだ。するとそこに小屋が見えて来た。
『煙りが上がっているな。人が居る。行って聞いてみよう』
『そうだな。はっきりした場所も分からないからな』
凱は小屋に近づいた。庭には牛が一頭と鶏が十数羽いた。扉を叩いた。
『すみません。誰かいませんか?』
中から扉に近づく音がした。そして扉が開いた。白髪の老婆が現れた。
『あれあれ。こんな山奥に珍しい。どうされた?』
『ちょっとお聞きしたい事がありまして』
『まあ、立ち話しもなんですから』
>> 413
『そう言う事になるな。あの男が来たのも倒れていたのを里の人が見つけて連れて来たのだ。体中傷だらけで何かあったのは分かったが、本人は何があったか覚えてなかった。それで我々は男に名無しと言う意味でノーネムと名前を付けたのだ』
『ノーネムですか…それで何故、急に豹変したのですか?』
ケムは空を見上げた。そして凱を見ると答えた。
『その日は雨が降っていて時折、雷が鳴っていた。普段はいつも笑っていたノーネムは何かに怯えていた。里の1人が雷が怖いのかとからかった時に急に叫んだかと思ったら、雨の降る中、どこかへ走って行ってしまった。そして日が暮れる頃、ノーネムは帰って来た。今までの笑顔ではない恐ろしい顔をしてな。その後は前に話した通りだ』
『ならば、ノーネムと言う人が誰なのかと言う事は分からない訳ですね』
『そうだな。ただ、彼の背中には龍の入れ墨があったな…後はそれしか分かる事はないな』
『龍の入れ墨…』
凱はその時、気づいてなかったが、猿飛が何かに気づいていて言おうとして止めたのを。何かを思い出したようだった。
『間もなく鏡山見えて来る頃です』
行く先に山が見えて来ていた。
>> 412
青竜は鼻が利くようでそう言ってどこかにあった林檎をかじっていた。
『分かるのか?』
『ヒャヒャヒャ…分かるともヒャヒャヒャ…』
『なら、案内しろ』
『へいへい』
青竜は鉄馬達を連れて滝の方を目指した。
その時、凱はその滝で話をしていた。
『鏡の事が分かるのですか?』
『確か穂道の近くに鏡山と言う名の山がある。そこには、神の時代から祭られている鏡があると聞いた事がある』
『ならば、案内して貰えないでしょうか?』
『それは構わないよ。行くなら急ごう。何か嫌な気がしてならんからな』
凱も感じていた物と同じだった。凱達は滝の裏の洞窟を出て、北の穂道を目指す事になった。
『ケムさん、1つ聞きたいのですが?』
『ケムで良いよ。それで聞きたい事とはなんだい?』
『穂道を襲った男は誰なんですか?』
それは凱達にとって一番聞きたかった事だった。阿修羅を仕切る男が誰なのか知りたかった。
『あの男か…良く分からん』
『分からないってどう言う事ですか?』
『あの男は穂道に来た時に昔の記憶を失っていた。そう自分の名前さえも覚えてなかった』
『記憶喪失と言う事ですか?』
>> 411
玄武の指差す方を見ると微かだが、村のような物が見えた。玄武にはその中の寺が見えているようだった。村に着くと辺りを見回した。
『ここには、誰も住んでないようだな』
『ヒャヒャヒャ…いやいや住んではいるようだ。あの家には鍋を食べた後があった。火の感じからさっきまで居たようだヒャヒャヒャ…』
青竜は笑いながら言った。鉄馬はそんな青竜を無視して村の奥へ進んだ。
『これが、寺のようだ。人の気配はないようだな』
鉄馬は辺りを見回しながら言った。寺に上がると中を探した。青竜はその辺りを散らかしながら探す。白虎はただ、立って微動だにしなかった。玄武は大きすぎて寺の外に居た。そう言えば朱雀が村に来てから姿を見せない。
『おい。もうどこかに行ったようだ。他を探すぞ』
鉄馬はそう言って寺の外に出た。
『見て見てこれ綺麗でしょう。鉄馬ちゃんどう似合う?』
朱雀は家の中に有った女性物の着物を羽織ってはしゃいでいた。
『………』
鉄馬はジロリと睨んだ。
『そんな怖い顔しなくたって良いじゃない…』
朱雀は玄武の後ろに隠れた。
『ヒャヒャヒャ…鉄馬。まだ匂いが残っている。後を追うか?ヒャヒャヒャ…』
>> 410
『詳しい事は知らないがな…』
その頃、祠に近づく者達がいた。そう鉄馬と4人組だった。
『ここがその祠だな…』
『そうだ。この中に勾玉があるはずだ』
白虎は祠の扉を開けた。
『一足遅かったようだな…我々より先に勾玉を持ち出した者がいるようだ』
そう凱達が持ち出したから有るはずが無かった。
『誰が持ち出したかだ…』
『多分、月影の者だろう』
鉄馬は白虎の疑問にそう答えた。
『ならば奴らも勾玉の事を知っていたと言う事か?』
『多分な…』
『勾玉を守る坊主がいるはずだ。そいつに聞いたらわかるはずだ。寺に向かおう。こっちだ』
白虎は寺の場所を知っているのか歩き出した。
『本当にこっちに寺はあるのか?』
『ヒャヒャヒャ…白虎は何でも分かるのだよ。ヒャヒャヒャ…』
『鉄馬ちゃん大丈夫だから心配しないで白虎は地理には優れているから』
相変わらず頭にくる2人だ。するとぼそりと声がした。
『寺だ…』
初めて玄武が喋った。身の丈が高い為、遠くまで見えるようだ。その上特殊な目を持っているようだ。
『寺なんて見えないではないか!』
玄武は鉄馬を持つと肩の上に乗せた。そして指差した。
>> 409
北の穂道を襲った男こそ我々の本当の敵なのである。いったい誰なんだろう?凱はケムの話を聞きながらそんな事を思っていた。
『凱!』
不意に昇が呼んだ。凱は昇見た。
『どうした?』
『ちょっと話があるんだが…』
『ああ、なんだ?』
『皆の前では…』
『ならば外に出ようか』
凱と昇は外に出た。
『なんだ話とは?』
『実はお前に触れた後に誰かが言ったんだ。鏡を探せって。なんか良くわからないがそんな声がしたんだ。俺おかしくなったのか?』
『あははは…やっぱりお前にも聞こえたのか』
『聞こえたって…凱、お前にも聞こえていたのか?』
『そうだ。勾玉が光った後からな。その鏡の事は知らないけどな』
『そうか。勾玉の力で聞こえたって事か。ならばあの声は勾玉の中に潜む何かの声って事だよな?』
『そこまでは分からないな。俺も声を聞いただけだからな』
ジャリッ!
すると後ろで音がした。振り向くとそこにはケムが立っていた。
『聞いていたのか?』
『ああ、聞いていたよ。もしかしたら手助け出来るかもしれん』
ケムは鏡について何か知っているようだった。
『鏡について知っているのか?』
>> 408
《触れるだけです》
そう言い残し聞こえなくなった。凱は言われたように獣人に近づき触れてみた。光が獣人に流れ込み獣人を包むと獣の姿から人と変わって行った。
『凱やったな!』
昇が肩を叩いた。その瞬間、昇の中にも光が流れ込んで行った。
『なんだこれは…力が力がみなぎって来る…』
昇の中で凱に聞こえた声が聞こえていた。
《継承者よ。力を与えよう。そして鏡を探せ》
『誰だ?』
そう言うと周りを見回した。凱は昇を見た。さっき自分に起こった事が昇にも起こった事を悟った。その後、獣人達を次から次に元の姿に戻して言った。元に戻った獣人を見るとやはり目の色が違っていた。
『ありがとう…』
片目の男が言った。虎の獣人だった男だ。
『いえ…俺は勾玉の力を借りただけです…ところであなた達は何者なんですか?』
『我々は穂道と言う北に住む民族だ。私の名前はケムと言う。よろしくな』
ケムは今までの事を話し出した。それはある日、男が現れた。しばらくは普通だったのだが、ところが急に男は豹変した。何かを叫ぶと穂道の民を全て支配したのだった。何かの術をかけ支配を始めた。ケムは最後まで戦った1人だった。
>> 407
東にある山の方へ向かっている。杉林の中、獣人達と凱達は歩いて行く。
『水の匂い…』
水の匂いが漂って来た。
『タキダ。ソノウラニワレワレノカクレガアル』
しばらく歩くと滝の音が聞こえていた。目の前にはかなり大きな滝が見えて来た。滝の近くに行くと獣人達が立ち止まった。
『ココガイリグチダ』
滝の後ろに人1人が通れる窪みがあった。そこを抜けると裏側に洞窟があった。滝から差し込む光がキラキラして綺麗だった。
『ココナラダイジョウブダロウ。スマナイガハヤクモトノスガタニモドシテホシイ』
『ああ、そうだな。すぐに準備しよう。法然殿お願いします』
凱は法然に言った。
『儂は使い方までは分からんぞ』
『えっそうなんですか?』
『元に戻す事は出来るのだろうが、使い方までは書いて無かったわい。がははは…』
法然はまた呑気に笑っている。すると法然は勾玉を突き出すと凱に手渡した。
『お主が使ってみろ!』
『私がですか?』
凱は勾玉を見つめた。すると勾玉が光り出した。その光が凱を包んだ。そして勾玉が凱だけに語りかけて来た。
《そのまま、触れるだけで元に戻ります》
『誰なんだ?』
>> 406
‐勾玉には力を増大させる力と全てを元に戻す力を持つ。使う者によって左右されてしまう。これを聖なる者に託す‐
このような事が書かれていた。
『どうも奴らの言う事は正しいようですね』
『そのようじゃな』
『それなら祠に行きましょう』
凱達は寺を出た。その時、空の様子が変わって来たのが分かった。雨雲が広がり今にも雨が降り出しそうだった。
『変な雲行きですね』
『そうじゃな』
凱と猿飛はそんな会話をした。
『ちょっと急いだ方が良さそうですね』
猿飛と法然は頷いた。凱達の後には風が舞い上がった。祠に近づくと騒がしくなった。獣人達が昇に何かを言っていた。
『昇どうした?』
『おう凱か!いや、こいつらが、ここを離れた方が良いって言うんだよ』
凱は虎の獣人を見て聞いた。
『どうしたんですか?』
『マモナク。ヤツラガクル。カナリヤバイヤツラダ。ニオイガモウソコマデ…』
片目の虎の獣人は北西の方を指差した。凱はさっきの胸騒ぎが当たっていた事を実感した。
『ならば寺に戻りましょうか?』
『イヤ、テラハスグニバレル。ワレワレノカクレガニイコウ。ツイテコイ』
片目の虎の獣人は東の方に歩き出した。
>> 405
凱達は法然に追いついた。
『ほほう。流石は月影の忍じゃわい。儂も脚には自信はあったが、かなわないようじゃわい』
『いえ、法然殿が忍として修行していれば、私なんてかなわなかったと思います』
『がははは…月影の忍はお世辞も上手とみえる』
『法然殿、からかわないで下さい』
凱達は寺についた。法然は息切れする事なく、寺の中に入って行った。
『凱殿…ちょっと良いか?』
『はい…』
猿飛が凱を呼んだ。
『ずっと気になっていたが、法然殿はもしかしたら以前の戦いで会ったような気がしているのじゃ』
『前に聞いた戦いですか?ならばどこかの兵だったと言うのですか?それとも忍だと…?』
『流石に昔の話で覚えていないからなんとも言えないが…』
凱は考えた。確かにあの動き、ただ者とは思えない。あの惚けた行動はそれを隠す為としたら…。すると寺の中から法然が凱達を呼ぶ声がした。凱達は寺の中に入った。お釈迦様のある部屋に法然はいた。手には書見が持たれていた。法然はちょこんと座ると凱達の前に開いた。
『これが勾玉の事の書いてある書じゃわい。おお、ここに書いてあるわいなんと書いてあるかな…』
書にはこう書いてあった。
>> 404
法然はまだ考えている。すると地べたに座った。禅を組んだ。しばらくの沈黙が続いた。そして法然が目を開け立ち上がった。
『勾玉には不思議な力が宿っていると聞いた事がある。多分、大丈夫だろう。まずは寺に帰って書見を見ないとなんとも言えないがな。がははは…』
考えていた割には結局分からなかったようだ。
『そう言う事だ。また後でここに戻って来るから待っててくれ』
凱は片目の虎の獣人に言った。
『ワカッタ。ココデマッテイル』
凱達は寺に戻ろうとした。すると茶々丸が言った。
『儂は少し疲れた。ここで儂も待って居るぞ』
『なら、俺もここで待つよ』
茶々丸に続き昇もそう言った。凱は仕方なく法然と猿飛の3人と戻る事にした。
『法然殿、急ぎたいから背中に乗って下さい』
凱はしゃがんで背中を見せた。
『がははは…儂も走れるわい。あまり年寄り扱いするな』
法然はその場で軽く駆け足をすると風のように走って行った。凱と猿飛は呆然と見ていた。やはり法然は惚けているが、人の目を欺く為の芝居をしていたようだ。
『猿飛さん、俺達も急ぎましょう』
そう言うと凱達も風のようにその場から消えた。
>> 403
凱達はゆっくりと刀を抜き構え扉を開いた。外には色んな獣人が囲んでいた。狼、熊、虎の獣人達だった。威嚇をするように唸っている。
『こりゃ法然さんが言ってた化け物がおいでなすったようだな。先手必勝!!』
昇はそう言うと外に飛び出し飛び上がった。そして目の前前の獣人目掛け星黄泉を振り下ろした。
『止めろ!!』
凱が叫んだ。昇は寸前の所で止め後ろに下がった。
『凱何故に止める?』
『ちょっと待て。そいつらは敵ではないようだ』
そう言われれば獣人達は唸ってはいるが、襲ってこようとはしていなかった。すると獣人の後ろから虎の獣人が、他の獣人をかき分け出て来た。
『ハナシガアル。キイテクレルカ?』
虎の獣人は片目に傷があり、この獣人達をまとめている長だろう。言葉は人の言葉を話しているがやっと話せているようだった。
『わかった。聞こう』
凱達は刀を鞘におさめた。
『ワレワレハ、アラソウツモリハナイ。タダ、ソノマガタマデ、ジュツヲトイテホシイ』
『勾玉で…術を解く?』
凱達には分からない話だった。法然を見ると考えているようだった。
『法然殿。どうなんですか?勾玉にそんな力があるのですか?』
>> 402
『ならば行って聞くしかなかろう。がははは…』
法然は呑気に笑った。凱達は祠へと歩みを早めた。祠の周りは高い木がいっぱいあり、昼間なのに薄暗かった。
『この中に勾玉はある。早速、中に入ろう』
法然はそう言うと扉を開け中に入って行った。凱達も中に入ると中央に封印をされた木箱があった。法然がそれを取ろうと近づくと雷のような物が走った。法然は後ろに飛ばされた。
『法然殿大丈夫ですか?』
凱が慌てて近寄った。
『がははは…封印をしていたのを忘れていたわい。がははは…』
法然は相変わらず呑気に笑っていた。法然は起き上がり改めて何かを唱え出した。
『…解!!』
箱の周り貼られた札がボッと燃えて消えた。法然は箱を持つと凱に手渡した。
『これで大丈夫だ。それはお前達にやるわい』
凱は箱の蓋を開けた。中には薄い緑色の勾玉が入っていた。勾玉は首飾りのようになっていた。
『これが勾玉か…』
『だがな、お前達に扱えるかのう?一度、寺に戻ろうかのう?』
凱達は祠を出ようとすると茶々丸が身構えて言った。
『おい。外を囲まれたようだぞ?!』
確かに周りから唸る声と足音が聞こえ来た。
>> 401
鉄馬達は頭を下げるとその場から立ち去った。男は立ち上がると鉄馬達を見送りながら言った。
『…我が子よ、お前に会うのも近いな…』
そして振り返り奥へ消えて行った。
その頃、凱達は祠の近くまで来ていた。近くの茂みが微かに動いた。
『誰だ?』
凱は茂みに向かって怒鳴った。しかし、何も出て来ない。凱達は刀を抜き構えた。すると茂みがまた右から左へ動いた。
『やはり何かいる。皆気をつけろ!』
凱が手裏剣を動いた先に投げた。するとそこから狼の獣人が飛び出て来た。
ガルルルル…
獣人は唸って威嚇してきた。
『法然さん、化け物とはこいつですか?』
『…ん?違うわい。もっとデカい奴だ』
この獣人以外にまだ居るようだ。威嚇の意味を込めて再び手裏剣を投げた。獣人は素早くよけた。そして祠のある方へ走って逃げてしまった。
『逃げたな。後を付けてみるか?』
昇が聞いた。
『いや。多分、祠の近くに行けばまた会えるだろう』
凱はそう言って祠の方へ向かって歩き出した。
『しかし、何故こんな所に獣人が居るのだろう?』
『そうだな。俺もそう思っていたところだ』
昇の疑問に凱はそう答えた。
>> 400
白い鎧を着た男が怒鳴る。この中で一番落ち着いている。その横で黒い鎧を着た男は黙っていた。体はかなりデカいのだが、口数は少ないようだ。
『鉄馬よ。私が白虎だ』
白い鎧の男が言った。
『そして青い奴が青竜、赤い奴が朱雀、そして黒い奴が玄武だ。よろしく頼む』
この4人は色で判断出来るようだ。
『だから、俺には必要ない』
鉄馬は黒龍刀で床を叩いた。
『鉄馬…今は奴らを使え。1人1人が阿修羅の獣人100人に匹敵する力だ。お前が黒龍刀を扱えるまでだ。良いな?』
謎の男はそう言った。鉄馬は納得はしていなかったが、頷いた。
『鉄馬ちゃんよろしくね』
朱雀がまた女性のような喋り方で言って鉄馬に抱きついた。
『ヒャヒャヒャ鉄馬。朱雀に気に入られたみたいだな。寝る時は気をつけろよヒャヒャヒャ』
青竜の独特な笑いに鉄馬はムッとした。
『お前ら聞け今から鉄馬が我らの長だ。無礼は許さんぞ』
白虎が一番ましかもしれない。
『さて、鉄馬。お前達に指令を出す。剣間山に祠がある。そこから勾玉を取ってくるのだ。良いな?』
『勾玉ですか?』
『そう勾玉だ。力が増すと言う代物だ。必ず取って来い』
『分かりました』
>> 399
『楓か…俺はいったいどうしたんだ?』
『はい。あの時に急に倒れられて今まで眠っておいでだったのです』
『確かに急に頭が痛くなって…その後は覚えてない』
鉄馬が寝ていて所には、黒龍刀が置いてあった。
『鉄馬様。起きたらあの方が連れて来るように言われていました。早速行きましょう』
鉄馬は黒龍刀を持つと楓に連れて行った。そこは薄暗い部屋だった。
『楓です。鉄馬様を連れて参りました』
『入れ』
その男は低い声で言った。中に入るとその男の他に4人居た。変わった風貌の4人は鉄馬を見るとニヤリと笑った。鉄馬は4人を睨みつけ男の前に座った。
『鉄馬よ。もう大丈夫なのか?』
『はい。もう大丈夫です』
『そうか…しかし、お前に黒龍刀を持たせたのは早かったかもしれないな。そこで、お前にこの者達を付けよう』
さっきの4人だ。
『いえ。私には必要ありません』
『ヒャヒャヒャ戦場で倒れた奴が良く言うよヒャヒャヒャ』
青い鎧を着た男が言った。
『あらっそんな事言ったら可愛そうじゃない。ねぇ~鉄馬ちゃん』
赤い鎧を着た男がそう言った。少し女性のような喋り方をするようだ。
『お前らからかうのは止めろ』
>> 398
『すまなかったの。やっと思い出した』
『良かった。それでどうやって術を解くのですか?』
『なに簡単じゃ。儂が言って“解”と言うだけじゃ』
凱はまたこけた。凱は立ち上がりながら苦笑いした。
『あはっあはっ。ならば一緒に来てもらえますか?』
『そりゃ構わんよ』
法然は頭をペンペンと叩いた。そして凱達は表に出た。そこには争い疲れたのか、昇と茶々丸が座り込んでいた。昇が出て来た凱達に気が付いた。
『はーはー。わかったのか?はーはー』
『ああ、わかったよ。祠に急ごう』
『はーはー。わかった』
昇達は立ち上がった。そして祠へと向かった。
その頃、鉄馬はうなされていた。
《誰だ?お前は誰だ?》
鉄馬の前に黒い影が浮かび上がった。その黒い影は何も言わないで立っている。黒い影は刀を抜いた。
《止めろ!来るな!来るな!》
鉄馬は叫んだ。しかし黒い影は刀を振り上げると鉄馬目掛け斬りつけた。
《うわーっ!!》
カバッ!!
鉄馬は目を覚ました。
『鉄馬様大丈夫ですか?かなりうなされていましたよ』
鉄馬は辺りをキョロキョロと見た。そう鉄馬はあの時、倒れてから今まで眠り続けていたのだった。
>> 397
『取れないって、さっき取って来たらやると言ったではないですか。そう言う事は早めに言って下さいよ』
『がははは…最近は物忘れが激しくてな。儂が術をかけて簡単に盗られないようにしていたのを忘れておったわい』
『なら、どうやれば術が解けるのですか?』
凱が尋ねると法然は考え込んだ。凱達はジーッと法然を見ていた。
『がははは…忘れてしまったわ!がははは…』
法然は禿げた頭をペンペンと叩いて笑っていた。凱達は途方に暮れていた。
『ちょっと待て。思い出すから…』
法然は座禅を組み考え始めた。どこかで見たことのある光景だ。確か一休み?だったかな?そんな事はさておき凱達はしばらくそれを見ていた。
『凱!コイツ噛んで良いか?』
イラついているのか、茶々丸がそう聞いてきた。
『茶々丸落ち着け、しばらく待とう』
茶々丸は左右に行ったり来たりしている。
『こらっクソ犬!チョロチョロするな!かえってイライラする!』
『何~っ!!やるか小僧?!』
『望む所だ。表に出ろ!』
昇と茶々丸は外に出て行った。しばらくすると外で争っている声が聞こえて来た。凱はただただ呆れているだけだった。その時、法然が目を開けた。
>> 396
凱達はこけた。
『早速、鍋を見に行かないと…あっそうじゃ。お主らも一緒にどうじゃ?』
そう言われれば腹が減っていた。咲の弁当もある事だし一緒に食べる事にした。鍋は畑で採れた野菜と近くで捕った猪だった。しかし、坊主は生臭さは駄目のはずだがと思いながらも法然と凱達は鍋を食べた。
『その阿修羅…いや化け物はいつぐらいに現れたのですか?』
法然は箸を止めた。
『あれは3ヶ月前ぐらいかな…山に化け物が出たと村人が騒ぎ出してな。儂も武道家の端くれじゃ。退治する為に山に向かったのじゃ。しかしなあ…化け物は自らは攻撃をしようとはしなかったのじゃ。どちらかと言うと死にたがっているようにも見えたわい』
『死にたがっていた…』
凱はぼそりと言った。凱はあの時の獣人の言葉を思い出していた。
《助けて…我々を助けて…》
その意味がまだ分からなかった。
『凱、どうした?また、ぼーっとしているぞ』
『あっすまん。ちょっとな…それはそうと食事も済んだ事だし行こうか?』
『ちょっと待て!』
凱達は祠を目指して行こうとした時、法然が止めた。
『忘れておったわい。勾玉は簡単には取れないようになっておる』
>> 395
法然は腕を組みながら笑った。
『なるほど、そう言う事になっているのだな!しかし、勾玉はここにはないぞ!』
『勾玉はないのですか?』
『無いとは言ってもここにはないと言う事だがな。がははは…』
また、豪快に法然は笑っている。
『えっならばどこかにあるのですか?』
『そうじゃ。その化け物が出る剣間山にある。この村から北西に行った所にある山じゃ。そこにある祠の中に締まってあるわい。がははは…』
『ならばそこに行ったらあるのですね』
『そうじゃ。あるが化け物がまだ居るからのぉ…』
法然は渋い顔していた。
『それなら私達が行って退治して来ますよ』
法然は驚いている。そしてキリッとした顔をして言った。
『見た所、かなりの腕を持っているようじゃな!それなら取って来たら、勾玉をお主らにやるわい。まあ、怪我をせぬようにな』
法然は凱達の実力をいまいち信じていないのかそう言った。
『関係ないけどさ、ずっと気になっていたのだが、鍋をそのままにしてあったけど、本当にあんただけなの?』
昇は気になっていたようでそう聞いた。すると法然が何かに気づいたのか驚き言った。
『しまった。鍋をしていたのを忘れておったわ』
>> 394
『立派なお釈迦様ですね』
『お釈迦様は立派だが、寺自体はもうボロボロじゃ。いつ壊れるか分からないから気をつけろ。あははは…』
法然は呑気に笑うが聞いた凱達には不安が増えただけである。凱達は床が軋む度にビクついた。
『ところで、村に誰も居なかったのですが?』
『あははは…当たり前じゃあ!この村には儂しかおらん!』
豪快に笑いながら法然は言った。凱達には理解出来なかった。
『前はかなり居たのだがある時、皆揃って出て行ってしまった。儂も誘われたが断ったんじゃ』
『何があったと言うんですか?』
『何…化け物が出たんじゃあ』
『化け物ですか?』
凱達は法然の話がまだ見えてなかった。
『そうじゃ。獣の姿をした化け物じゃあ!』
凱達は獣と言う言葉で全てを理解した。
『それなら、私達も知っています』
『…ん?お主らも見た事あるのか?』
法然は驚いた顔をして言った。
『はい。私達は今その化け物と戦っているのです』
『なんと、あんな化け物と戦っているのか?』
『はい。奴らは阿修羅と言う集団で、人を獣にして戦っているのです。奴らを倒す為にも勾玉が必要なんです』
>> 393
不思議な事に全てをそのままに居なくなっていた。沸かした鍋はそのままで、農具も使ったまま畑に置いてあった。本当にさっきまで居たような状態であった。村の奥に変わった形の寺があった。
『後はあそこだけだな。行ってみよう!』
凱達は寺に向かった。
『すみません?誰か居ますか?』
『誰じゃあ?』
中から声がした。
『誰か居るぞ』
凱達はその声の主を待った。寺の入口の扉が開いた。
『うるさいな…お主らは誰じゃあ?』
無精ひげを生やし、汚い服を着ていた。その男は頭を掻きながら無愛想に言った。
『私達は月影の里から来た者です。法然と言う方を探して参りました』
凱がそう言うと無愛想に言った。
『法然なら儂じゃが…月影の忍が何の用じゃ?』
『実は不思議な勾玉をお持ちだと聞きまして来ました』
『…勾玉?勾玉の事を聞いてどうするつもりじゃ?』
『今、私達にはそれが必要な事が起きています。出来ればそれをお貸し下さい』
『貸してくれか……まあ、立ち話もなんだ。中に入れ』
そう言うと法然は寺の中に凱達を手招いた。寺はかなり昔に建てられたのか、あちこちが壊れていた。寺の中央にある部屋には大きなお釈迦様の像があった。
>> 392
凱達は猿飛の言う法然の居る村を目指す事にした。しばらく歩くと広い草原に出た。かなり先まで見える。時より吹く風に草が揺れていた。空は晴れていて、ゴロンと寝転んで寝てしまいたい衝動にかられる。
『今日は良い天気ですな』
『そうですね。ここしばらくは、空なんてゆっくり見てなかったですからね。気持ち良いですね』
『そうですな』
凱と猿飛は空を見ながら歩いた。
『上ばっかり見ていたら、鳥に糞を落とされるぞ』
昇は笑いながら言った。久しぶりの平和な時を凱達は過ごしていた。草原の先に小さく建物が見えた。多分それが法然の住む村だろう。たまに野ウサギが凱達に驚いて走って行く。やっと村の入口にたどり着いた。しかし、村の中は静まり返っていた。
『誰も居ませんね』
凱がそう言った。
『誰か居ませんか?』
昇が大きな声で叫んだ。
『返事がないな…何かあったのかな?』
『おかしいな…とりあえず皆で探してみよう』
凱がそう言うと皆は散らばり村を捜索した。
『誰か居ませんか?』
家を一軒一軒見て回った。村全ての家を見たが人っ子一人居なかった。
『やはり誰も居ないな…どうしたんだろう?』
>> 391
猿飛は腕を組み考え出した。
『それはもしかすると、力を吸い取られているのかもしれませんな…』
『吸い取られている?』
『簡単に言いますと、気を吸い取って技にすると言う事です。凱殿が技を出す時に月黄泉が一時的に力を蓄え放出しているのではないでしょうか?逆に言えば、凱殿が気を高めれば高めれるほど、技が凄い物になる訳です』
『……なるほど。ならば気を高める修行を続けないと…』
『ちょっと待って下さい。確かこの方に行くとある村に行き着きます。そこに法然と言う身分の高い僧侶がおりまして、不思議な勾玉を持っていると聞きました。もし宜しければ寄ってみませんか?』
『勾玉ですか…それで強くなるのであれば、行きましょう!』
『まずはあの2人を何とかしないと…』
そう。昇と茶々丸はまだふざけあっていた。どちらかというと本気になりかけていた。
『昇!茶々丸!行くぞ!!』
暴れ回っていた2人がピタリと止まる。
『もう行くのか?分かった。茶々丸行くぞ!』
『俺に命令するな!』
まだ、ふざけあうようだった。
『いい加減にしろっ!!』
凱がマジ切れして怒鳴りつけた。2人はシュンとなって小さくなった。
>> 390
『相変わらず良い2人組だな。あっははは…』
凱が笑った。しかし、1人だけ話が見えていない者がいた。それは首里だった。
『誰なんだい?』
『紹介しておくよ。こっちが猿飛さん、そしてこっちが茶々丸だ』
凱が2人を紹介した。
『お主は首里だろ?』
『えっ犬が喋った?!』
首里が転びそうになる。
『あははは…やっぱり驚くよな』
凱は笑いながら言った。
『そうだよ。犬のクセに生意気なんだよ』
昇が頭の後ろに腕を組み言った。
『ううう…ワン!!』
案の定、茶々丸が昇に噛みついた。昇は噛みつかれたまま走り回っている。
『痛たたたた…』
しばらく走り回っていた。
『本当に仲が良いな』
『大丈夫なのか?』
『あれで仲は良いのだよ』
『あれでね…』
首里にはイマイチ分からなかった。すると猿飛が凱に言った。
『凱殿、若様は星黄泉を持たれてから少し成長したように思います。猿は本当に嬉しゅうございます』
感極まったのか泣いている。しかし、凱は浮かない顔をした。
『凱殿どうされた?』
『実は、月黄泉を持ってから、たまに目眩のような事があるのです』
>> 389
『はい。これを持って行って』
咲が差し出したのは、手作りの弁当だった。
『私はこんな事しか出来ないけど、絶対に戻って来てね』
そう言うと凱達1人1人に弁当を手渡した。
『もう見送らないよ。じゃあね!』
咲は小屋を出て行った。
『咲!ありがとう!!』
凱は叫んだ。咲は振り向く事なく、右手を上げ振った。
『昇!首里!行こうか?』
『そうしますか!』
『いざ、いかん!』
凱達は里を旅立った。しばらく、北西を目指して歩いていた。すると首里が何かに気づき言った。
『誰かにつけられている』
『ああ、1人…いや2人だな!』
凱も気づいていたのか、そう答えた。
『違うな。1人と1匹だ』
昇はニッコリ笑って言った。それが何か分かっているようだ。
『そうだよな?猿!茶々丸!』
木の陰から現れたのは、昇の言う通り、猿飛と茶々丸だった。
『ははははは…さすがは若様!お気づきでしたか?』
『そりゃ分かるさ。仲間だろう!』
昇は猿飛の肩を叩いた。
『ふん!少しは成長したようだな!』
茶々丸が下からそう言った。
『お前はいちいちうるさいよ!』
昇が蹴る真似をした。すかさず茶々丸が飛び上がった。
>> 388
『それは、雷太達が今まで調べた地図である。お主らにはその地図の北西の所を探して貰う事にした。そして、赤い点のある所が雷太達の中継点だ。そこには情報が集まって来る。まずはそこを目指してくれ』
凱は巻物を見て確認して、出発の準備をする為に自分達の小屋へと戻った。
『みんな!何だったの?』
『ああ、また出掛ける事になった』
『えっまた出掛けるの?』
咲は不安そうな顔をしている。
『今度は我々が阿修羅を見つけに行くだと』
昇が面倒くさそうに言った。
『そうなんだ……それでいつ出るの?』
『支度が済んだらすぐに出るつもりだ』
咲の質問に凱が答えた。
『それなら少し待ってて』
咲はそう言うと小屋を出て行った。凱達は旅支度を始めた。
『あまり余計な物は持って行くなよ』
凱がそう言うと昇は風呂敷から何かを戻していた。良く見ると枕を持って行こうとしていたようだ。凱がジロッと見ると昇は言った。
『この枕じゃなきゃなかなか寝れないのだよ』
『馬鹿言え!いつも枕無しでガーガー寝ているじゃないか!』
『うるさいな。持っていかないよ』
そんな事を言っていたら咲が戻って来た。
>> 387
『あははは…何やっているんだよお前らは』
凱は大笑いしながら転げ回っていた。
『やらしい!!』
咲は軽蔑の目で見ていた。
『だって首里の奴が面白い事あるって引っ張って行くからよ…』
『何言ってやがる。お前も必死に覗いた上に鼻血出していたじゃないか!』
『何を!』
『何だよ!』
昇と首里は取っ組み合いの喧嘩が始まった。
『止めろよ!お前ら!』
凱が間に入って喧嘩を止めていた。
『おーい召集だ!』
伝助が呑気な顔をして来て言った。凱達は振り返った。
『…ん?何かあったのか?』
『わからん?とにかく呼んで来いと雷鳴様が…』
凱達はお互いを見て、雷鳴の屋敷に向かった。雷鳴の屋敷には各国の代表達も居た。
『やっと来たか。まあそこに座れ』
『呼んだのは他でもない。お主らには阿修羅を探しに行って貰いたい』
『我々がですか?』
『ああ、そうだ。雷太も探しているのだが、限界がある。だから各国の代表が数名ずつ出し、今度はこちらから攻める事に決まったのだ。すまないがお主らも今から行って来て貰う』
凱達は不安はあったのだが、雷鳴の命令でもある為頷いた。雷鳴は凱達の前に巻物を置いた。
>> 386
『あれを投げてどうするんだ?』
『まあ見てたらわかるよ』
そう言うと何か呪文を唱えた。空を飛んでいる孔雀が大きくなった。そのまま首里の元に戻って来る。すると凄い風が吹き、湯気を吹き飛ばした。
『おーっこれは凄い。湯気が飛ばされて行くぞ』
『見えて来た。見えて来たよ』
首里と昇はニヤニヤしている。
『おいおい、背中が見えているよ』
『本当だ!』
昇の鼻から血が出ていた。
『お前鼻血出ているよ』
昇は鼻血を拭くとまた覗いた。
『畜生…もうちょっとで見えるのに…』
その時背中を見せていた人が振り返り立ち上がった。
『えっ??』
ガァーン!!
『な、な、無くて良い物がある……』
『誰だ?』
シュシュ!!
コンコン
その人は手裏剣を昇達目掛け投げて来た。
『うわっ!!』
昇達が見たのは、仁王立ちの雷鳴だった。昇達が必死になって覗いていたのは雷鳴だったのだ。その後、雷鳴に捕まりこっぴどく殴られたのは言うまでもない。
『昇…首里…どうしたその顔は?』
凱が近づいて来て言った。
『…ん。ちょっとな』
昇達はしょんぼりして歩いて行く向こう側で5人組の娘が温泉に向かって行った。
>> 385
『違う違う。とりあえずこっちだ』
首里は相変わらずニヤニヤしながら温泉の外壁を昇を連れて回った。
『此処だよ』
外壁の一部に穴が開いていた。
『この穴を覗いてみろ!』
『えっこの穴か?』
『そうだ。覗いてみろ!』
昇はその穴を覗いて見た。そこからは温泉がみる事が出来た。
『…ん?温泉が見えるけど…』
昇は振り返り首里に言った。
『そう温泉が見えるんだ』
『だから何なんだ?』
『お前も鈍い奴だな。考えてみろよ。ここに人が入って来たらどうなる?』
『………うわっ!!見えちゃうな!』
『そういう事だ。どうだ?良いだろう?さっき、隣の町から来た娘5人組が、温泉の事を聞いていたから、間もなく入って来るはずだ』
『うんうん!!』
昇は目を輝かせていた。すると誰かの入って来る音がした。
『おっ来たぞ』
2人は外壁にへばり付いた。湯気の向こうから人影がぼんやりと見えた。
『畜生!湯気ではっきり見えないな』
『この湯気なんとかならないかな?』
首里と昇は考えた。
『よし、見ておけ』
首里は孔雀を持つと空を目掛け投げた。孔雀はクルクルと回りながら飛んで行った。
>> 384
しばらくは、平和な日々が続いていた。あれから阿修羅の動きは無かった。凱はまだあの時、獣人の言葉が頭から離れ無かった。
《助けて…我らを助けて…》
『おい!凱どうした?そんなにぼーっとして』
昇がそう言って近づいて来た。
『…ん?ちょっとな』
『最近、お前いつもそうだな』
『………』
凱は遠く見つめていた。昇はそれ以上は言わずにその場を去った。
『よう、昇どうした?浮かない顔して』
『首里…いやな…最近の凱の様子が変なんだよ。ほらっあそこ』
首里は凱の方を見た。凱は相変わらず遠くを見つめていた。
『本当だな…何があったと言うんだ?』
『俺も良く分からねー。この前の戦いの後からだな』
『まあ何か考える事があるのだろう。ところで、今暇か?』
『藪から棒になんだよ。暇って言えば暇だけど』
首里がニヤリと笑った。昇の腕を掴むとどこかに引っ張って行った。
『ここだ!』
『ここって…まさか?!』
『そう。温泉だよ』
里の近くに温泉があり、頻繁に里の人が入りに来るのだった。中には遠くから来る人もいた。
『温泉って、俺は入るつもりはないぞ』
首里は手を横に振りながらニヤけた。
>> 383
『昇…ちょっと気になる事がある。こっちに来てくれ』
凱は昇を倒れている獣人の所へ連れて行った。すでに人に戻っていた
『凱よコイツがどうした?』
『目を見てみろ!』
『…ん!俺達と違って青いな』
『そうだ。前に聞いたように異国の民かもしれない。他も見てみよう』
『髪の色も違う…』
『息絶える時に言ったんだ。我らを助けてとな』
『どう言う事だよ?』
『俺にも分からん。だが、阿修羅はもしかしたら本当の敵ではないのかもしれないな…』
凱達は改めて倒れている獣人を見た。すると、雷鳴や首里が近づいて来た。
『どうした?』
『いえ、我々は何の為に戦っているのでしょうか?』
『それは国を守るの為だろう』
凱は倒れた獣人を指差した。
『なら、奴らは何の為に戦っているのでしょう?』
雷鳴は凱の言動に何かを感じた。
『凱どうした?何かあったか?』
『奴らを見ているとそんな事を思ってしまいます』
『……そうだな』
雷鳴は凱が言いたい事がなんとなく分かった気がした。
『さぁ、またいつ奴らが来るかわからない。帰るぞ』
『はい!』
阿修羅は去ったが凱達の戦いはまだ始まったばかりだった。
>> 382
放たれた2つの技は獣人目掛け向かって行った。
ズドドド……
『ぐわーーーっ!!』
技を受けた獣人達は倒れていく。あっという間に獣人のほとんどが居なくなった。近くで見ていた鉄馬が再び凱達の前に立った。
『思ったよりやるな…しかし、この黒龍刀の威力を見せてやる?!……ううう?!』
鉄馬は突然、膝をつき頭を抱え苦しみ出した。すると1人の少女が現れた。
『鉄馬様、大丈夫ですか?』
『か、楓か……頭が割れそうだ…』
『ここはひとまず、引きましょう!』
楓は鉄馬の肩を抱えると凱達の目の前から消えた。
『待て!!』
昇が叫ぶが、鉄馬達はそこには居なかった。
『畜生!!逃げられた』
昇は近くにあった石を蹴った。
『仕方ない。それより残りを始末しないとな』
近くに居る獣人達を見た。ところが、獣人達は逃げ出した。他の皆も呆気にとられていた。
『どうやら、術者が居なくなったからだろう』
昇と何人かが追っかけようとした。
『ほっとけ!もう何もして来ない』
『しかしよう』
昇が振り返り言った。
『無益な殺生は止めろ!!』
凱の一言で皆も追いかけるのを止めた。
>> 381
虎の姿の獣人達が迫って来る。確かに今までの中で一番強いのは一目で分かった。
『凱、どうする?』
『昇か!俺達にはこれがあるではないか!』
凱は月黄泉を見せた。獣人が襲いかかる。素早くよけ月黄泉で斬った。獣人の体から血がほとばしる。唸り倒れた。獣人は斬られた体でまだ立ち上がろうとしている。凱は留めを刺そうと構えた。
《た…助けて…》
凱は意外な言葉を聞いた。敵である獣人が助けを求めているのだ。
『今更、何を言う』
《た、た、助けて…我らを…助けて…》
凱には理解出来なかった。目の前の獣人はそう言って息絶えた。
ズバッ!!
凱の後ろで音がした。
『何をしている?』
そこには昇が獣人を斬り立っていた。
『凱、何をそんな所でぼーっと立っているのだ?』
『…ん。いや、別に…』
『それなら、奴らを倒しに行くぞ!』
凱達は再び獣人達に向かって行った。凱は振り返った。さっきの息絶えた獣人が元の人に戻っていく。その時、気が付いた。目の色が違う事に…。だが、止まる事なく走った。虎の姿の獣人も今の凱達には、大した相手では無かった。
『昇龍爆風斬!!』
『土龍連弾!!』
凱達は一斉に唱えた。
>> 380
『昇また来たぞ!』
昇は陸を首里は空の獣人達を倒して行った。その頃、凱は鉄馬と戦っていた。
『腕を上げたようだな。いや、月黄泉のおかげか?』
『何を?!』
ガキンッ!!
凱と鉄馬は離れ間合いを取った。
『仕方ない。本当の力を見せてやる』
鉄馬は黒龍刀を縦に構え呪文を唱えた。すると黒龍刀が不気味な光を放った。その光が鉄馬を包むと手の方から硬化していく。まるで鎧を着たような体になった。
『これが、黒龍刀と一つになると言う事だ!!』
漆黒の体は不気味に光っていた。闘気のような光は鉄馬を大きく見せた。
『ウリャーッ!!』
鉄馬はそう叫ぶと闘気が弾けた。それが凱にぶつかると弾け飛ばされ転がった。
『うう…なんなんだ…この気は……』
『これが黒龍刀の力』
鉄馬は黒龍刀を横に払った。
『それだけではない。獣人達を強くしてやる』
漆黒の闘気が獣人達に流れて行く。獣人達は唸りながら変化していく。その体は虎の形に変わった。
『もう、これでお主達は勝てない』
『何だと…』
『今までの中で一番強い獣人達だ。自分達の力のなさに嘆くがよい』
鉄馬はそう言うと笑った。強化した獣人達が迫って来る。
>> 379
雷鳴達は獣人目掛け走り出した。電気を帯びた刀を地面ギリギリに滑らせ獣人めがけ斬り上げる。獣人は2つに切れ崩れ落ちた。昇は星黄泉を振り獣人を弾き飛ばしていた。すると新たな獣人が空から現れた。鷲の姿をした獣人だ。凄い勢いで降下して昇と雷鳴を斬りつけて行く。
『くそっ!!』
なんとか交わしている。
『苦戦しているみたいだな!』
『…ん。首里か!!』
『飛んでいるのなら俺に任せろ!』
首里は獣人に目掛け矢を放った。続け様に何本も矢を放つ。矢は獣人を貫いて行く。だが、獣人は増える一方で追いつかない。
『くそう…数が多いな…仕方ない。あの技を使うか』
首里は孔雀を両手で持った。そして何かを唱えると孔雀が2つに分かれた。への字の形になっているそれを構えた。
『獣人共これでも喰らえ!!』
首里をその2つを投げるとクルクル回って飛んで行った。獣人を切り裂きながら飛んで行く。そして円を描いて戻って来た。首里は手を交差した形で受け取った。
『おい、それは?』
見ていた昇が尋ねた。
『孔雀は弓だけでなく、色んな武器になる。今のも飛龍と言う武器だ。いくつかあるがいずれ見せてやるよ』
『凄いな!』
>> 378
『うりゃーっ!!』
ガシンッ!!
凱と鉄馬は組み合ったまま動かない。
『首里、俺達も行くぞ!!』
昇は阿修羅に向かって走り出した。首里は矢を放つ。獣人達はバタバタ倒れていく。
ウギャー!!
悲鳴にも似た叫び声をあげ迫って来る。昇は星黄泉を構え気を集中した。そして後ろ斜めに構え直し振った。すると土の龍が獣人達目指して飛んで行った。
ズドドド…
轟音を響かせて獣人を貫いた。
『星黄泉の力を得て強くなったようだな!』
『雷鳴様!』
雷鳴が昇の横に立っていた。
『しかし、まだ、俺の方が上だ!』
雷鳴は自分の刀を抜くと天にかざした。すると雨雲が空を覆い、そして一筋の光が刀に落ちた。
『さぁこれからが本番だ。この雷鳴と言う名の由来見せてやる』
雷鳴は雷で帯びた刀を獣人に向け振った。刀より稲妻が放たれ雷鳴を轟かせ獣人目掛け飛んでいく。獣人は稲妻を受け、痺れながら倒れていく。
『昇よ見たか?これが、雷鳴轟激!!』
雷鳴の持つ刀はまだ電気を帯びていた。
『その刀は?』
『これは、雷神刀だ。父がくれた刀だ。さぁ~また、阿修羅さんがおいでなすった。昇行くぞ!!』
『はい!』
>> 377
『またお主か!だが、今までのようにはいかない!これがある限り俺は負けない』
鉄馬は刀を抜くと号令をかけた。獣人達が一斉に里の中に入って来た。首里が弓を放った。
シュルシュル…
矢は凄い勢いで先頭の獣人を貫きそして後ろに獣人をも貫いた。孔雀の凄さを見せつけられた。
『孔雀の凄さを見たか!』
続けて鉄馬に向け矢を放った。矢は鉄馬を目指して飛んで行く。鉄馬はニヤリと笑った。持った刀を大きく構え、振りはなった。矢は真っ二つに割れ左右に分かれ鉄馬の後ろへと飛んだ。
『そのような速さでは、蚊が飛んでいるようにしか見えないな』
『何っ!!』
首里は再び矢を放った。また、鉄馬は刀を構えた。そして再び矢を真っ二つにした。
『何度やっても同じ事よ!』
『くそっ!!』
首里は自分の不甲斐なさに両膝をついた。
『首里!お前が弱い訳ではない。奴が強すぎるのだ。それに奴の持っているのは、黒龍刀だ。』
『黒龍刀?』
『伝説の刀だ。持った者が、力が増しても不思議ではない。奴は俺が仕留める』
凱は月黄泉を抜き、鉄馬目指して走り出した。
『凱よ!皆より先に倒してくれるわ!!』
鉄馬も凱に向かって走り出した。
>> 376
『雷鳴様!!』
『慌ただしいな。どうした?』
雷鳴と鬼火そして妙斬までがいた。
『首里から新しい情報があります』
『おお、首里ではないか。何年ぶりだ?』
『5年ぶりになります』
『そうか…5年か…それで半蔵師範に会えたのか?』
『はい、会えてなんとか修行をさせてもらいました』
『ほう、あの頑固な半蔵師範がなあ…それはそうと話を聞かせて貰おうか』
首里は師範から聞いた話をした。
『う~ん…目の色が違うか…』
『はい、そう聞きました』
『まあ、何にせよ。敵には間違いない。皆、気を引き締めるんだ。分かったな!』
『はっ!!』
キャー!!
突然、悲鳴が聞こえた。凱達は慌てて外に出た。
『どうした?』
そこには伝助が腰を抜かし座り込んでいた。
『あ、あれ……』
その指差した方を見ると獣人を従えて鉄馬が立っていた。しかし、以前見た鉄馬とは少し違う感じだった。
『あははは…忍共、今日がお前らの命日になる。覚悟するのだな!!』
鉄馬の手には漆黒の刀が持たれていて、不気味な雰囲気を漂わせていた。凱はもしやあれが黒龍刀ではないかと思った。
『鉄馬!!お前らの好きにはさせないぞ!!』
>> 375
良く考えたらその事を聞くのを忘れていた。
『今朝方帰って来た。変な噂を聞いたからな』
『変な噂?それはなんだ?』
『3日前かな…今、どの国もある大きな組織から狙われていると…確か、阿修羅とか言ったな!それをいち早く教えようと思ってな。だが、既にお前らは知っていた…いや、戦っていたんだな』
『ああ…阿修羅は強い。ただ、何者なのかわからない。その上どこから来ているかさえわからない』
『それなら、聞いた話では北の方にある国だと聞いた』
『やはり北か!』
『我が師範が修行をしていた頃、北に旅した時の話だ。我々とは違う目をし、髪の色は黒くなく、良くわからない言葉を話していたそうだ。多分それが阿修羅ではないだろうか?』
凱達は今まで阿修羅の本当の姿を見ていない。目の色など気にしていなかった。もしや首里の言う話が本当ならば俺達は未知の者と戦っている事になる。
『お前はそれを雷鳴様に言ったのか?』
『いや、まだ言ってない』
『それならば、すぐに話に行こう』
凱達は雷鳴の屋敷に向かう事にした。里には東西南北の人が集まっていた。屋敷に入り雷鳴達の居る部屋を目指した。一番奥に雷鳴達はいた。
>> 374
『久しぶりにあったのでしょう。みんな仲良く話そうよ』
凱達はコクコクと頷いた。
『お前達の性で俺までとばっちりだよ』
凱は囲炉裏の前に座って怒っていた。
『ところでその弓見せてくれないか?』
『ああ良いよ』
首里は凱に孔雀を手渡した。
『凄い弓だな!まるで鳥のようだ。今にも飛び立ちそうだな』
『そうだな。名前が孔雀と言うだけあるな』
『孔雀とは鳥なのか?』
『伝説の鳥で瑠璃色の綺麗な尾を広げ飛ぶ。聞いた話では海の向こうにある大きな島には、それが居ると聞いた。一度見てみたいもんだな』
『そうだな。俺も見てみたい』
凱達は夢見る顔で天井を眺めていた。
『気持ち悪いわね。3人揃って乙女のような目をしてさ。何の話をしていたの?』
お茶を持って来た咲は気持ち悪がった。
『この弓の話だ』
『何で弓の話であんな目になるの?』
凱は弓を見せるとさっきの話をした。
『そうなんだ。私もその孔雀の飛ぶ姿見てみたいな…』
咲も夢見る顔で天井を見つめた。
『ほらみろお前もなっているじゃないか』
昇は軽く咲を小突いた。
『あははは…本当だ』
『あっところで首里はいつ戻ったんだ?』
>> 373
『それは俺の目標かな…それで5年間切っていない』
『なんじゃそりゃ!ところで首里…今までどこで何していたんだ?』
『ああ…』
首里はしばらく黙ったままだった。すると鳥が羽根を広げたような弓を構えて矢を放った。それは先ほど刺さった矢をとらえ真っ二つにした。
『これを探していろんな所を回っていた。そしてある師範の下で修行をしていた』
首里は手に持った弓を凱達に見せた。
『…ん。なんだその弓は?』
『こいつは、孔雀!』
『孔雀?』
首里は弓を背負うと腕を組み話し出した。
『昔、源平の戦いの時、与一が平家の立てた扇を射抜いた時の弓だ。ずっと与一以外は誰にも扱えなかった。しかし、俺はこの弓を扱えるようになったのさ』
首里は長い髪を払った。すると昇が飛びつき首里の髪を切ろうとした。
『何をする?人の証を勝手に切るな!』
『鬱陶しいだよ!!』
『そんな事で勝手に切るな!!』
昇と首里はもみ合っている。凱が止めに入るが、跳ね飛ばされた。すると咲が近づいて来て怒鳴った。
『いい加減にしなさ~~~い!!』
咲は腕を組み仁王立ちしていた。昇と首里は組み合ったまま止まった。
>> 372
『うわっ?!』
凱は飛び起きた。体中から凄い汗をかいていた。
『凱、大丈夫か?』
昇が近づき聞いた。
『すまん。変な夢を見た…』
『あははは…お前も夢を見るか?』
凱は額の汗を拭うと水瓶から水をくみ飲んだ。
『よほど怖い夢みたようだな?』
凱は昇を見た。
『いや…昔の自分の夢を見ていた…誰かと一緒なんだが、それが誰なのかわからない』
シュルシュル…
パンッ!!
小屋の近くでそのような音がした。凱達は外に出ると弓を持った髪の長い男がいた。髪の長い男は近くにある手裏剣用の的に弓を引いた。
シュルシュル…
パンッ!!
的のド真ん中を貫いた。髪の長い男は振り返った。
『久しぶりだな…凱!』
『お前…お前は首里か?』
『ああ、そうだ首里だよ』
『元気だったか?』
凱と首里は抱き合った。
『5年ぶりか?』
『そうだな…あれから5年経つな…』
首里は遠くを見つめていた。昇がその顔を覗き込む。
『うわっ!!お前は…昇か?』
『昇かじゃないだろ!その髪はなんだぁ~?』
『これは、俺の修行の証だよ』
昇が呆れて下を向いた。
『その長い髪のどこに証があるんだ?』
>> 371
凱は前で咲とはしゃいでいる昇を見ながら微笑んだ。食事が済むと今までの疲れが出たのか凱は深い眠りについた。
《が…凱…ぃ…お前には我が血が流れている…》
凱はこの声に聞き覚えがあった。真っ暗な中に浮き上がる影…それは幼い頃に見た光景…。
《さぁ次はこれだ…これを狙え…》
幼い凱は手裏剣を構えて投げた。投げた先には人の形をした的があった。
《上手いぞ…次はこれだ……》
幼い凱は嫌がった。それは野ウサギに的がつけられていた。幼い凱は泣き始めその影は困った顔をしていた。
《凱…お前は我が血を継いでいる…いずれ…長になるのだ……さぁ早くやるんだ…》
幼い凱は無理やり手裏剣を投げさせられた。野ウサギはギリギリでそれをよけ逃げた。しかし、その影が素早く手裏剣で仕留めた。
《うわあああん…》
幼い凱は泣き叫ぶ。影は闇に消えて行った。
《凱…この場所を覚えておけ…》
幼い凱は頷いた。そこは見た事のある場所だった。
《逃げるんだ!早く逃げろ……》
幼い凱は泣き出した。その影は力強く凱を押した。
《お前は私の息子だ……いつか……いつか…》
その影を大きな獣が襲った。幼い凱は必死に逃げた。
>> 370
『いずれにしても、お主らにかかっている。ひとまずは少し休んでおけ』
雷鳴はそう言うと鬼火達と奥の部屋に入って行った。
『凱どうする?』
『どうするも何もとりあえず休もう』
『その前に腹減った…』
『昇相変わらずだな』
凱達は自分達の小屋へと向かった。小屋に近づくと良い香りがして来た。小屋の扉を開けると、そこには咲が料理を作っていた。
『おかえり!無事だったのね』
『そりゃそうさ。お前と約束したからな。なぁ凱?』
『ああ、そうだな』
『それにしても良い香りだ。あっ俺の好きな焼き魚だ。それにお新香もある』
『おいおい。昇お前はなんでも好きじゃないか!』
『バカ言うな。俺も嫌いな物ぐらいあるわ!……ない…ないぞ。嫌いな物が考えてもないぞぉぉぉぉ~!』
昇は頭を抱えて騒いでいる。凱は呆れて見ていた。
『うふふ…昇ったら。さぁ出来たは食べて』
咲は料理を置きながらそう言った。頭を抱えていた昇もスッと料理の前に座った。
『いっただきま~す!!』
昇は凄い勢いで食べ始めた。
『凱もちゃんと食べてね』
『ああ、ちゃんと食べるよ』
凱は珍しく箸を持つと目の前に並ぶ料理を食べ始めた。
>> 369
『何を言われます。お二人は継承者なんですから』
猿飛が凱達を見てそう言った。
『凱よ!今はお主らに頼るしかない時なのだ。分かってくれ!』
雷鳴はそう言うと凱達に近づき肩を叩いた。
『分かりました。出来る限りやってみます』
『すまない。だが1つ新しい情報がある』
雷鳴は何かの新しい情報を持っていた。多分、雷太が集めて来たのだろう。
『それは、草薙の剣についてなんだ』
『草薙の剣…』
『お主らの持つ月黄泉と星黄泉は草薙の剣の一部分であるのは分かっているだろうが、だが5つに分けられた内の4つを持っている事になる。残りの1つの行方なんだが…』
『分かったのですか?』
凱は驚き聞いた。しかし、雷鳴は頭を横に振った。
『行方はわからないのだが、何なのかがなんとなく分かった』
凱達は黙って雷鳴の話を聞いた。
『目には見えないが、月黄泉と星黄泉を繋ぐ何かが存在すると言う事だ。武器でも勾玉のような宝物でもない。それが何かと言うのは、お主ら継承者しかわからぬ事なのだ。多分、扱っている内に見えてくるのかもしれないな』
凱も昇も雷鳴の話が分かるようで、わからなかった。
>> 368
『実はここに来る途中に凱と確認して来た。そこで見たのは、封印が解かれ持ち出された跡だった。しかし、封印は簡単に解けるものではない。そんな事が出来るのは阿修羅以外考えられない。阿修羅とは我らが思うより計り知れない力を持っているのかもしれない』
皆は黙ったままだった。
『だがな、こっちには月黄泉と星黄泉が揃った。決して負けた訳ではない。ここをどう切り抜けるかが問題だな』
『しかし、何故に黒龍刀の事が気になった?』
雷鳴はそう聞いた。
『それは簡単な話だ。月黄泉が現れた。そうなると星黄泉もいずれ現れると思った』
『それが黒龍刀とどう関係あるんだ?』
雷鳴が尋ねると鬼火は言った。
『お主も知っているだろう。草薙の剣と黒龍刀は対である事を…黒龍刀は闇の剣だ。それを封じていたのが草薙の剣。それが元に戻ろうとしている事からも、早い時期に封印は解かれていたと考えたのだ。いずれにしても黒龍刀は阿修羅の手にあると考えて間違いない』
『なるほど、そう言う事か。ならば、凱と昇には頑張ってもらわないといけないな』
皆は凱と昇を見た。
『そう言われても困ります』
凱は慌ててそう言った。
>> 367
実は凱達には苦い思い出があった。この雷太に関わるとろくな事にならなかった。一緒に修行した時も雷太の投げた手裏剣が屋敷の中にある親方様の壷を割ってしまい。その責任を凱達に押し付けて逃げたのだった。数えたらきりが無かった。
『ところで、阿修羅の動きはどうだ?』
『はい。今は気配を消しています。阿修羅に行かせた者の報告では鉄馬と言う男が、こちらに向かった事までは分かっています。その後の報告はありません』
『なるほど。分かった。また、引き続き調べてくれ』
『はっ!』
雷太はそう言うとその場から去った。凱達は少しホッとした。
『雷鳴。面白くない話がある』
『面白くない?なんだそれは?』
鬼火は凱をチラッと見た。凱はそれで何の事を言うのかは分かった。
『実はな。黒龍刀の事はわかるな?』
『ああ、ある程度なら…それがどうした?』
『それがな…阿修羅によって封印を解かれ持ち出されていたんだ』
『持ち出された?何故そんな事がわかる?封印されている場所もわからないはずだ。そんな物が持ち出されるとは…』
鬼火は組んでいた腕を外し床を叩いた。皆は一斉に鬼火を見た。
>> 366
『さあ、もう少しです。急ぎましょう』
凱達は歩き出した。
『それにしても伝助は早とちりが過ぎるよな』
『もうそれを言うなよ。反省しているんだから…』
『あははは…それはすまなかった』
里が見えた。そこには皆が集まっていた。出迎えてくれたのは、雷鳴だった。
『おう凱ご苦労だった。鬼火久しぶりだな。わざわざ、来て貰ってすまなかった。さあこちらに』
『お主の頼みだ。気にする事はない』
凱達は屋敷の中に入って行った。
『さて、雷鳴よ話を聞かせてもらおうか。阿修羅の事をな…』
雷鳴は今までの話を話し出した。そして全てを話し終わると1人の忍を呼んだ。
『雷鳴様お呼びですか?』
『皆に紹介しよう。雷太だ』
呼ばれた忍が出てきた。
『ご紹介にあずかりました。雷太です。情報を集める事を専門に動いております』
凱達はポカンと見ていた。どこかで見たような?
『あっ!!』
凱と昇は見合った。2人が考えたのは同じだった。
『雷鳴様の息子の雷太!!』
『あははは…そうだ。我が子雷太だ。お主達久しぶりだろう?』
凱と昇は後ろに下がり出した。
『凱、昇久しぶりだな。何故下がっている?』
>> 365
『どうして笑っているんだ?』
『ああ、ちょっとな。星黄泉の話をしていたからな』
『星黄泉の話?』
『その話は後で話す。ちょっと急ごう』
凱達は北の国へ急いだ。里の入口近くで、誰かが騒いでいた。それは伝助だった。
『伝助どうした?』
『…ん?凱に昇じゃないか!ちょうど良かった。今さっき凄い大軍がここを通って行ったんだよ。俺どうしたら良いかわからなくて…』
『それで1人ここで騒いでいたのか?』
『もうどうしたら良いかわからなくて…』
『ちなみにどんな感じだった?』
伝助はしばらく考えて言った。
『確か…忍で…あれは…あっ南の風雅だ!!』
『あははは…』
凱達は一斉に笑った。
『なんで笑うんだよ。俺はこの目でちゃんと見たんだ!』
『伝助よ。なら、この方はどなただ?』
凱がどいて後ろに居た鬼火を見せた。
『えっ…ふ、風雅のお、鬼火ぃぃぃぃさ、さ、様?!』
『そうだ。風雅の鬼火様だ。月影の援軍として貰ったんだ。お前が見たのはその風雅の忍で間違いないのさ。その前に雷鳴様の話聞いてなかったな?』
『あの…その…聞いてなかった』
伝助は顔を赤らめ申し訳なさそうにしていた。
>> 364
《八岐大蛇の中より出し刀を此処に封じる》
『ここが、間違いなく黒龍刀を封印していた場所だな。何か巨大な力で封印されていたはずだが、簡単に開けてしまっている。これからすると、かなりの力の持ち主と言う事になるな』
『阿修羅…』
『多分な』
凱達はしばらくその石の蓋を見つめていた。
『さあ、行こうか?皆もそろそろ北の国に着いているだろう』
『そうですね。行きましょう』
凱達は洞窟を出ると北を目指した。2人は走る事にした。しばらく走っていると前を歩く者達がいた。生意気そうな男に、老人と犬、凱はその者達を知っていた。
『昇~!!』
そう。そこに居たのは、昇達だった。昇達は振り返った。
『おう凱!何故、お前がここに?あれっそっちの人は鬼火様?!』
『今、南からの帰りだ』
『そうか。南の国に行っていたのか』
凱達は昇達と合流した。
『お主!その背中の刀は…まさか、星黄泉か?』
昇はチラッと刀を見ると頷き言った。
『はい。これは星黄泉です』
『そうか。お主が受け継いだか』
鬼火はニッコリと笑って凱の肩を叩いた。凱も鬼火を見て笑った。昇はその笑いの意味がわからなかった。
>> 363
『まあ、とりあえず洞窟を調べてみよう』
凱は頷いた。洞窟に入ると手前にあった松明に灯りを灯した。
『ほうそんな物があったか』
『ここで八雲様が龍の彫刻をしていたようで。その時に使っていたようです』
『なるほどな。それで龍の彫刻はどこに?』
『この奥です』
凱達は奥へと進んだ。しばらく歩くとそこに龍の像があった。だが、以前とはまったく違う事になっていた。そう破壊されていたのだった。
『何故、こんな事に…』
『簡単な話だよ。黒龍刀は既にないと言う事だ』
鬼火は龍の像の欠片を拾い上げながら言った。
『ならば、黒龍刀は誰かの手に渡ったと言う事ですね』
『ああ、多分な。凱、もう少し奥に行ってみよう。』
凱は以前来た時に感じた物が何か分かった気がした。凱は松明を照らすと奥へと進んだ。この先は凱も知らない。不安の中進むと祠のような建物があった。扉が開かれ荒らされていた。
『これが、黒龍刀を封印してた所でしょうか?』
『いや、これは単なる祠だろう。封印されていたのはそこだ』
鬼火が指差した方を見ると、大きな石で出来た蓋が開きズレ落ちていた。その蓋には何か文字が書かれていた。
>> 362
『なるほど。それは困ったな。何とかしてこっちに渡ると良いが…』
『そうですね』
凱は昇達の事を案じた。
『そう言えば、黒龍刀の封印された洞窟はどこにあるのですか?』
『儂も良く知らないが、八雲様が修行に使っていたと聞いた事はあるがな。この辺りには洞窟が幾つかあるから、その中の1つだろう』
『それなら、一度行った洞窟かもしれません』
『ほう。それなら確かめてみたらどうだろうか?』
『しかし、今は早く北に戻らないと…』
鬼火は笑った。
『我々だけで行こうではないか。後の者達を先に行かしたら良いだろう。とにかく、黒龍刀の行方を確認するだけだ』
凱は悩んでいたが鬼火を見たら言った。
『分かりました。行きましょう』
『それなら早速。皆の者聞けぇ~!我々は別行動をとる。お前達は先に北を目指せ。良いな?』
オーッ!!
風雅の者達は凱と鬼火を残し北を目指した。
『それでは、行こう』
凱は以前、昇達と行った洞窟に向かった。
『こっちです』
凱達は山道を進むとあの洞窟に近づいて来た。
『確か…』
『どうしたんですか?』
『ちょっと昔に聞いた話を思い出したもんでね』
『それは何ですか?』
>> 361
『なるほど。そこまでは分かっているようだな。しかし、草薙の剣に対する刀がある事は知るまい?』
鬼火は凱をチラッと見た。凱は頭を横に振った。
『やはりそうか…儂も詳しくは知らないが、遥か昔、スサノオがヤマタノオロチを倒して尻尾から出てきたのが、草薙の剣だ。だが、本当はその1本だけでは無かった。もう1つ出てきたのが、黒龍刀だ』
『黒龍刀…』
『草薙の剣が光ならば黒龍刀は闇。この世の中はすべて陰と陽で出来ている。この2つも同じ事だ。お互いが凄い力だった為、黒龍刀はどこかの洞窟に封印され、誰にもわからないようにした。そして草薙の剣は5つに分けられ各国の長に託された。お主の持つ月黄泉がそうだ。もしかすると、お主が耐えきれなく倒れたのは、黒龍刀の封印が解かれた性かもしれない。おそらくだが、星黄泉が現れているかもしれないな』
『星黄泉…土蜘蛛と月光が合わさると現れるのですよね』
『確かにそうだが、何か気になる事でもあるのか?』
『はい。実は土蜘蛛は我が月影の忍で昇が持っています』
『それなら良いではないか』
『ところが、もう1つの月光を阿修羅になった鉄馬が持っているのです』
>> 360
『くらえ~昇龍爆風斬!!』
風の渦が龍のように空高く上がり阿修羅達に向かってあっという間に切り刻んで行った。鬼火達をその凄さに驚いていた。
『凄い。見事だな』
鬼火は凱の肩を叩いた。すると、凱はスッと倒れた。鬼火はしゃがみ凱に声をかけるが返事が無かった。凱は気を失ってしまっていたのだった。
『おお…やっと起きたか。一時はどうなるかと思ったぞ』
『私はいったい?』
凱は起き上がった。
『無理はするな。技を出した後、いきなり倒れたんだ』
凱には何故倒れたのかはわからなかった。これは月黄泉と何か関係あるのかもしれない。
『すみません。まだ慣れてないのに使った性でしょう。もう大丈夫です』
『それなら良いが、無理はするな』
『ところで宇摩さんは?』
『さっき戻って来た。今のところ異常はないようだ。儂の思い過ごしのようだ。さて、ゆっくりもしとられん。先を急ごうか?』
『そうですね。先を急ぎましょう』
凱と鬼火率いる風雅の忍は北へと歩き出した。
『ところで、月黄泉の事はどこまで知っているんだ?』
『草薙の剣の一部である事は知っています。それ以上は詳しくは知りません』
>> 359
戦っていたのは、狼の姿をした阿修羅だった。
『なぜ、こんな所に?』
『確かに…本隊は北に向かっているはずだ……。まさか?!』
『どうしたんですか?』
『北に行くと見せて各国を手薄にするのが、目的か…?』
鬼火は腕組みしながら考えている。
『宇摩!』
『はっ!』
宇摩は細身で顔は頭巾を被っている為、目しか見えないがキリッとした男前だろう。
『すまないが、一度里に戻ってくれないか?』
『分かりました』
宇摩は風を巻き上げ姿を消した。
『宇摩はこの世で一番脚が速い。探らせるならアイツが一番だ。さて、あの阿修羅をどうするかだな?』
風雅の忍と阿修羅はまだ戦っていた。以前より少し強くなっているように見えた。
『それなら、私がやります』
凱は月黄泉を抜いた。
『まさかそれは月黄泉!』
『はい。月黄泉です』
『そうか、お主がそうだったか』
鬼火は意味あり気に言った。凱は月黄泉を構えると気を高めた。凱の周りに風が舞い上がった。
『すみません。皆さんをどかして下さい』
『わかった』
ピーッ
鬼火は口笛を吹いた。すると風雅の忍はスッとその場から離れた。口笛が合図になっているのだろう。
>> 358
『くそぅ…また、つい走ってしまった。このクソガキが…』
茶々丸は息を切らしながら言った。昇はまた懐に手を入れた。猿飛がそれに気づき言った
『若様!もうお止めなさい』
昇はニッコリ笑うと懐から手を出した。
『わかったよ。さて、里へ急ごうか?』
『はい』
昇達は北の国を目指した。その頃、凱達も北の国を目指していた。風雅の忍を大勢引き連れていた。先頭には鬼火と凱が居た。
『凱よ。阿修羅とはどんな輩なんだ?』
『はい。幻術を使い、時には人を獣に変えます。それにも幾つかの種類があるようで、私が見たのは狼、熊、鷲の3種類です。まだ究極があるみたいですが…』
『なるほど、凄い技を使うようだな。しかし、我らの風雅にも妖術はある。それは……』
鬼火はそう言いかけて止めた。辺りをキョロキョロしていた。
『どうしました?』
『我々をつけている者がいる。囲まれているようだ』
鬼火は凱に小声で言った。そして手をあげ指を色んな形に曲げたり開いたりしていた。後ろを歩いていた数人が列から離れた。
カキン
近くで争っている音がした。凱はその方を見た。さっき離れた数人が何かと戦っていた。
>> 357
その頃、昇達は北の国を目指していた。
『猿、この星黄泉は俺でも扱えるだろうか?』
『若様なら大丈夫です』
猿飛がそう言うのを聞いて、昇は少しホッとした。
『それはわからないぞ』
それを聞いていた茶々丸が言った。
『何故だ?』
『草薙の剣は神の剣。誰でも扱える訳ではない。八雲様でさえ、その力に翻弄されたのだ。昇、お主も同じ道を辿るかもしれん…今は大人しい星黄泉もいつその牙を剥くかわからない。そうならない為にも、気を自分の物にしないとな』
茶々丸の言うことは正しいのかもしれかった。昇は星黄泉を見ながら溜め息をついた。
『案ずることはありません。若様はちゃんとした継承者。だからこそ、その手に握られておられるのです。茶々丸殿の言うように、気を高める事が最優先かもしれません』
『わかった。2人共ありがとう。なんか勇気が出て来たよ』
『ほう、お主が珍しいのぉ…』
昇は懐からまた何かを取り出すと茶々丸の目の前にチラつかせ投げた。
『ふん!』
茶々丸は犬の習性か追いかけ行った。
『若様……』
『あははは……』
昇と猿飛は見合って笑った。茶々丸は投げた何かをくわえ帰って来た。
>> 356
『鉄馬か?入れ…』
鉄馬は楓とその男の前にひざまずいた。
『お主…私の命じたようにすぐに北の国に行かなかったようだな』
『………』
鉄馬は黙っていた。
『まあ良い。見たところ刀を失ったようだな?』
鉄馬はうつむいたままだった。
『ならば、この刀をお主に与えよう』
その男は漆黒の刀を鉄馬の目の前に差し出した。鉄馬はそれを受け取ると見つめた。
『それは、黒龍刀。草薙が光ならば、それは闇だ。お主ならば扱えるはずだ』
『黒龍刀?!』
鉄馬の体の中に何かが流れ込んで来た。顔付きが少し変わった。楓はそれを見て少し恐怖を覚えた。
『鉄馬よ。それでにっくき月影の忍達を倒すのだ』
その男は振り返るとどこかに消えた。新たな刀を持った鉄馬は楓を引き連れ北の国を目指す為、外に出た。そこには数百人以上の阿修羅達が待っていた。
『鉄馬様お待ちしておりました』
『北の国など、我らで十分です。鉄馬様は高みの見物の気分でいて下さい』
その阿修羅達は今までとは違う雰囲気を漂わせていた。
『ならば者共参るぞ』
『オー!!』
阿修羅達の声が響いた。そして北の国を目指し進軍が始まった。
>> 355
『鬼火様がお会いになる中に入れ。こっちだ』
門番は手招きをした。もう1人の門番が話を聞きたかったのか、名残惜しそうな顔をして凱を見つめていた。その横を通り過ぎ屋敷に入って行った。
『お主はこの前来た者だな。まあ中に入ったら良い』
鬼火はニコニコしながら手招いた。凱は近くに寄った。
『ところで今日はどうした?』
『はい、実は阿修羅についてなんですが…』
『ほう、先程も東の妙斬だったが来て言っていたな。それで、どうした?』
『はい、妙斬殿が言われたように次は北の国に攻めて来るのではと思っております。そこでこの風雅の里に手助けを求めて来ました』
『我々にな…』
『今は全ての国が1つになり、阿修羅を倒すべきと考えております。是非ともお力をお貸し下さい』
鬼火はしばらく考えていた。凱は黙ってそれを見ていた。
『わかった。それではすぐに向かおうではないか』
『ありがとうございます。では早速…』
『ちょっと待て。こちらも手垂れを準備したい。半時待たれい』
『それは任せます。私は街の方で待たせてもらいます』
『わかった』
鬼火は立ち上がると部屋を出て行った。凱もそれに続き部屋を出た。
>> 354
『はい…次に阿修羅が攻めて来るのが、北の国だろうと雷鳴様がおっしゃいまして、それで鬼火様に手を貸して貰おうかと思いまして!』
『なるほど、ならば大丈夫だ。今、儂も鬼火様に会ってその事を伝えたところだ』
妙斬の言葉に凱は驚いていた。妙斬はそれに気づいて続きを話した。
『あははは…驚く事はない。時村様も同じ事をお考えだったのだ。お主が去ってすぐに儂に命じられたのだ』
『そういう事だったのですか。それで鬼火様はなんと?』
『自分で聞いて来い。まだ屋敷におられる』
妙斬は鬼火の屋敷の方を指差した。凱はその方を見ると頷いた。屋敷に入ると門番が2人立っていた。
『鬼火様にお目通りしたいのですが?』
『お主は何者だ?』
『月影の凱と申します』
『月影と言えば、北の国の忍。わかった。しばらくまたれい』
門番の1人が屋敷の方へ走って行った。
『しかし、今日は客が多いな…何かあったのか?』
残った門番が凱に尋ねた。
『話すと長くなるのですが…』
『それでも良い。聞かせてくれ』
『分かりました。では……』
凱が言いかけると先程、屋敷に行った門番が戻って来た。
>> 353
凱はヒョイとしゃがんだ。山賊達は頭をぶつけフラフラと後ろに転げた。
『いたた…コイツすばしっこいな…』
凱は腕を組んで立っている。山賊達は立ち上がるとまた刀を構えた。
『まだ、やるつもりか?お前達では、俺は倒せないぞ』
『何っ?!なんかコイツムカつく!!』
ヒゲの男は地団太を踏んだ。
『誰かコイツを倒せ!!』
凱は山賊達の目の前から一瞬にして消えた。
『えっ…?!き、消えた…まさか…ゆ、幽霊?!うわっ~~~』
山賊達は一目散に走って逃げた。凱は実は木の枝に飛び上がっただけだった。山賊達が居なくなったので下に飛び降りた。
『あははは…幽霊と勘違いしたか…まあ、良いか。先を急ごう!』
凱は再び、南の国を目指し走り出した。山を越えると南の国の街が見えて来た。街は何事ないように普段通りの賑わいだった。凱は通りを素早く通り過ぎ風雅の里を目指した。凱は里に着くと辺りを伺いながら、鬼火の屋敷を目指した。不意に声がした。
『おう!凱ではないか!』
そこに立っていたのは妙斬だった。
『妙斬さん来られていたのですね』
『ああ、時村様の命でやって来た。どうした?かなり慌てておるようだが?』
>> 352
『こらっ若僧。ここから先はタダでは通さんぞ!』
口髭を生やした男が刀の鞘の方で小突くようにした。後ろに居る3人が笑った。
『タダで通さん?とはいったいどういう事だ?』
凱がそう尋ねるとヒゲの男は鼻を鳴らし言った。
『へん!貴様の持っている物を全て出せって事だ!』
山賊達はまた笑っていた。凱は指で頭を掻きながら言った。
『それは、俺に言っているのかな?』
『当たり前だろう!ガタガタ言ってないで、早く出しやがれ!』
ヒゲの男は鼻息も荒く言って来た。凱は月黄泉を握った。
『おう若僧!俺達とやろうと言うのか?面白いやってやろうじゃないか!後で泣きべそかくなよ!!』
山賊達は刀を抜くと凱に切りかかった。凱はヒョイと飛び上がると山賊達を飛び越えた。そして後ろ蹴りで山賊の1人を蹴った。よろめきながら山賊達は倒れた。
『こらっ若僧!!何をしやがる!』
『何しやがるって…仕掛けたのはそっちだろう!』
『くそ~今度は本気で行くぞ!』
凱は「今までも本気でやってたのじゃないのか」と思いながら、仕方なく今度は素手で構えた。
『一斉に飛びかかれ!』
山賊達は飛びかかった。
>> 351
『なんだ…今のは…』
鉄馬は震えながら言った。
『鉄馬様!ここはひとまず…』
『あ、ああ…』
そう言ってその場から姿を消した。
『若様…これを…』
猿飛は昇に薬を渡した。
『これが、星黄泉ですか…やはり素晴らしい!』
『しかし、そこまで変化したと言う事は、事態は悪化を辿っている事になるな…』
茶々丸はそう言うとジロっと昇を見た。昇達は黙ったまま立っていた。
『ここは一度、里に戻った方が良さそうだな』
『ふん、若僧が偉そうに…』
昇はムッとすると懐から何かを出すと茶々丸の目の前にちらつかした。そして遠くにそれを投げると、茶々丸は犬の習性かそれを追っかけて行った。
『若様…』
猿飛は呆れた顔をした。昇は必死に走って行く茶々丸を見ながら笑っていた。
その頃、凱は1人南の国を目指していた。不意に凱が立ち止まった。
『…ん?何だ…この気は!』
凱は西の方を見つめた。
『まさか、昇の身に何かあったのでは…いや、猿飛さんも茶々丸も居るんだ。大丈夫だ。とにかく、急がないと…』
凱は再び走り出した。山道を走っていると前を阻む者達がいた。それは俗に言う山賊だった。凱は仕方なく立ち止まった。
>> 350
羽根がまた、昇達を襲った。その時、土蜘蛛が光った。それと同時に鉄馬の月光も光り出した。
『どうした?月光が光っている…何かに導かれているように…』
『鉄馬様…』
鉄馬の月光が握った腕から離れようとする。鉄馬は離さないように力を入れるが、凄い力で引っ張られていた。そして手から離れ、昇の下に飛んで行った。昇達に向かっていた羽根はその光に弾き飛ばされた。昇の上で止まった。昇はそれを見つめると、ゆっくり手を差し出した。月光は昇の手に落ちて来た。すると土蜘蛛が月光を挟むように1つになった。それは白い光を放っていた。
『何なんだこれは?』
『それは星黄泉!』
『星黄泉?凱が言っていた奴だ…そうか!月光も草薙の剣の一部分だったのか!』
『若様!今ならあ奴らを倒せます!』
『おう!』
昇は星黄泉を構え気を集中した。昇の周りに炎の渦が包みだした。そして無意識に叫んだ。
『土龍連弾!!』
土が龍のように星黄泉から隼人に向かって飛んで行く。隼人は身構え羽根で壁を作ったが、それをもろともせず突き破り隼人の体を貫いた。隼人はそのまま粉々に吹っ飛んでしまった。昇は鉄馬達の方を向いた。
>> 349
『奴らは俺の獲物だ』
隼人は刀を構えた。
『貴様の相手は俺だ。かかって来い!』
昇も土蜘蛛を構えた。
『あの大蜘蛛がいなければ貴様など大した事はない。喰らえ!!』
隼人は昇に向かって斬りつけた。昇はそれをよけると手裏剣を投げた。隼人は刀でそれを叩き落とした。
『貴様の動きは既に見切っている。何をしても同じ事だ』
『何?』
昇は無意識に土蜘蛛を横に構えた。すると土蜘蛛が2つになった。
『ほう…そんな事も出来るのか?だが、この技ならどうだ?翼演舞!!』
隼人の周りに鳥の羽根が舞った。ふわふわとそれは舞っていた。次の瞬間、羽根は昇を目掛け飛んで行った。
『いかん!』
猿飛がとっさに昇の前に土の壁を作り出した。
ズタタタ……
『ちっ!なかなかやるな爺さん!だが、次はどうかな?翼演舞!!』
さっきより多くの羽根が舞った。そして天高く舞い上がり昇達に降り注いだ。
ズタタタ……
猿飛が土の壁を作るが甘かった。羽根は上からだけでなく、至る所から飛んで来た。昇達の体を切り刻んで行く。
『うわっ!』
『どうだ?動きは見抜いたと言っただろう?もっと切り刻んでやる。翼演舞!!』
>> 348
蜘蛛はすぐに集まるとまた元の大きさに戻った。
『グガガガガ…これではキリがない…』
獣人となった隼人が悔しがる。蜘蛛はまた糸を吐いた。だが、さっきよりも太い糸を吐き出した。獣人達は糸を切り裂さこうとするが、爪に絡み付き取れなくなった。糸はどんどん巻かれていく。
『なんだこれは…』
獣人達はもがけばもがくほど、絡み付いていく。隼人以外の獣人は繭になっていた。蜘蛛はそれを食べ始めた。隼人も徐々に繭になっていく。蜘蛛がジリジリと近づいて来た。
『鉄馬様…あれでは』
『あれじゃ死ぬな…火遁無限火炎!!』
そう言ったのは鉄馬と楓だった。炎でできた刀が蜘蛛達を目掛け飛んでいく。蜘蛛達が炎に包まれもがくが、炎は消える事はなく、徐々に蜘蛛達は消えてなくなった。繭になりかけた隼人が破って飛び出した。
『誰だ?』
昇が叫び、その方向を見た。そこには鉄馬と楓が立っていた。
『貴様は…鉄馬!』
『ほう。土蜘蛛を出せるようになったようだな!』
昇は土蜘蛛を構えた。鉄馬も刀を抜いた。
『て、鉄馬…余計な事をするな!』
隼人は獣人だった体が元の人の体に戻っていった。
『そんな体でどうするというのだ?』
>> 347
増えていった蜘蛛が、集まり始めた。
『なんなんだコイツらは?』
足元を凄い速さで動き回り、幾つかの塊を作っていった。するとそれは少し大きな蜘蛛になった。そして近くに居る阿修羅達に飛びかかった。捕まえると、鋭い牙で阿修羅を噛み千切った。阿修羅達の悲鳴に似た声が響いた。気が付くと隼人を含め5人しか残ってなかった。
『なんなんだこの怪物は?』
隼人達を蜘蛛達が完全に囲んだ。
《お前達だけだな……》
『やられてたまるか!!』
隼人は何かを唱えだすと残りの阿修羅達も同じように唱えだした。すると、魔法陣が地面うかび光りだした。隼人達を包んだ。
『獣陣!熊獣人の術!』
そう叫ぶと隼人達の体が変化していき熊のような体になっていく。
グガガガガ……
そこには熊の獣人現れた。
『最後の手段か…』
昇は呟いた。蜘蛛達と獣人の睨み合いが続いた。先に動いたら負けてしまいそうな雰囲気になっていた。その静寂を破ったの蜘蛛達だった。糸を獣人に一斉に吐き出した。だが、獣人達は鋭い爪を使い糸を切り裂いた。そして蜘蛛に斬りつけると蜘蛛は弾けるように粉々になって辺りに散った。良く見ると小さな蜘蛛だった。
>> 346
糸を手繰り寄せると凄い音をたて食べ始め出した。
『うお~!貴様ら何をしている!一斉にかかれば、こんな怪物倒せる!』
隼人が逃げ出した阿修羅に叫ぶ。皆が立ち止まり互いに見合った。そして、大きな蜘蛛に一斉に向かって飛びかかって行った。武器で傷つけられたのか、大きな蜘蛛は体中から体液のような物を飛び散らしながら悶えてだした。隼人は刀で何度も刺した。大きな蜘蛛は体を揺さぶりながら、阿修羅達を払いのける。しかし、空から地上からの攻撃は大きな蜘蛛の体力を徐々に奪っていった。
グワ~~~!!
悲痛な叫び声が響いた。大きな蜘蛛はぐったりした。しばらく脚をピクつかせていたが、それも止まった。
『あははは……見たか我ら阿修羅の力を!!』
隼人は昇達に向かってそう叫んだ。ところが、地響きのような揺れがし始めた。隼人は足元を見た。大きな蜘蛛の体に亀裂が入り始めた。
『な、何なんだこれは?』
大きな蜘蛛の亀裂から小さな塊が這い出て来た。それは、小さな蜘蛛だった。大きな蜘蛛は新たに蜘蛛を生み出していたのだった。その蜘蛛達はどんどん這い出て阿修羅達に飛びかかる。阿修羅達は叩き落とすが、その数はまだまだ増えていった。
>> 345
猿飛は隼人と小競り合いを続けながら言った。
『しかし…』
『大丈夫です。今の若様なら必ず出来ます。さあ土蜘蛛を!』
猿飛の言葉に昇は土蜘蛛を見つめた。
『儂も居る。さあ早く!』
その声は茶々丸だった。必死に阿修羅達と戦っていた。
『わかった。やって見る!』
猿飛達の言葉に、昇は自分を信じてみる事にした。そして土蜘蛛を構え気を集中させた。昇の周り炎の気が再び包み始めた。昇の体を通して土蜘蛛が反応し始めた。
『今だ!!』
昇は土蜘蛛を突き刺した。地面に稲妻が走った。
ズゴゴゴゴ……
地面が割れ巨大な影が這い上がって来た。
《誰だ……儂は呼び出す者は……》
『やった……また現れた!』
大きな蜘蛛は昇を見ると脚をすり合わせた。
《また、お前か……今度も餌があるのか?》
大きな蜘蛛は辺り見回し言った。
《結構、いっぱい居るな……後は任しておけ……》
『な、何だあれは…』
隼人は驚いて後退りした。大きな蜘蛛は体を完全に地面から出し近くに居る阿修羅の忍を見た。その大きな蜘蛛を見るや否や阿修羅達は逃げ出した。それに目掛け糸を吐き出す。4、5人の忍が捕まった。
>> 344
『あの手裏剣は私が止めます。若様は奴を仕留めて下さい』
隼人はまた手裏剣を投げた。素早く猿飛が動いた。飛んでいる卍型の手裏剣に何かを投げた。それは網状に広がり手裏剣を覆った。しかし、手裏剣は網を切り裂くとゆっくりと旋回した。ところが、手裏剣は失速して落ちた。良く見ると蜘蛛の糸のような物が絡まっていた。
『これぞ、蜘蛛の糸縛りの術じゃ!』
『貴様もしや、蜘蛛一族の生き残りか?』
昇は聞き慣れない名前を聞いた。
『如何にも…蜘蛛一族の唯一の生き残りじゃ!若様を守る為に再び帰って来た』
『猿…お前はいったい…』
『若様、その話は後で!今はこ奴を倒さなければ!』
猿飛は隼人に向かって行った。刀がぶつかる音がした。猿飛と隼人が小競り合いをしている。空からは獣人が攻めて来る。昇はそれに向かって針型の手裏剣を投げた。しかし、獣人はそれをよけ斬りつけて来た。ギリギリでよけ羽根を切り落とした。獣人は落ちてもがいていた。しばらくすると元の人の姿になり息絶えた。それでも空にはまだ、沢山の獣人が飛んでいた。
『くそ…まだあんなに居やがる…』
『若様、こ奴を食い止めているうちに土蜘蛛を呼び出して下さい』
>> 343
鳥型の獣人は羽根があり自由に空を飛べた。その上、獣人の動きは、目に止まらない速さで常人には見切れないほどだった。獣人が空より斬りつけて来た。昇には見えているのか、軽々とかわしていた。
『くそっ!早く斬り殺してしまえ!』
隼人の焦った声が響いた。しかし、今の昇には全ての動きが見えるのか、阿修羅達を次から次に倒していった。
『仕方ない。これでも喰らえ!!』
卍型の手裏剣を背中から2つ出すと昇に投げた。手裏剣はグルグルと回り地面スレスレを飛んで行く。昇は飛び上がりそれをよけた。だが、周りにいた村人達を切り刻んだ。バタバタと血しぶきをあげ倒れた。
『しまった!!』
その瞬間、昇の周りの気の炎が消えた。気持ちが揺らいだ性で消えてしまったのだ。猿飛と茶々丸がそれに気づき昇に近づいた。
『昇、大丈夫か?』
『若様?』
昇はそれに頷き、土蜘蛛を構えた。
『畜生!これじゃ村人が危ない』
隼人はニヤリとして言った。
『だから、死にたくなければ、大人しくしろって言ったのだ』
投げられた手裏剣が手元に戻って来た。隼人は構えた。
『どうする?』
昇は猿飛達に聞いた。
>> 342
『阿修羅だ!』
村人の1人が隼人達に気が付き叫んだ。
シュッ!
シュタタタタ…
その村人は倒れた。騒ぎを聞きつけ昇達が出て来た。
『ここは、我ら阿修羅により制圧させてもらう!死にたくなければ、大人しくしろ!』
数人が隼人達に向かって行った。
『止めろ!』
昇が叫んだ。
『愚か者め…』
隼人は背中の刀を抜くと目に止まらない早さで振った。村人達は隼人の横を通り過ぎ止まった。そして隼人が刀を収めると、その音に合わせて倒れた。
『死にたくなければ、大人しくしろ!』
『貴様よくも。絶対に許さん!』
怒りに燃えた昇からは気の炎が体を包んでいた。昇は土蜘蛛を抜き構えた。
『やると言うのか?そんなに死に急ぐ事もあるまい…』
ガルルル…
獣人が現れた。前の戦いより数は多く圧倒的に阿修羅の方が優勢だった。そして一斉に襲って来た。しかし、今の昇にはかなわなかった。獣人が弾け飛ばされてバタバタと倒れて行く。隼人は刀を昇に向け言った。
『貴様なかなかやるな。だが、我らはこれだけではない』
バサバサ…
空の方で何かが羽ばたく音が聞こえてきた。それは鳥型の獣人だった。昇達目掛け急降下して来た。
>> 341
雨の音が止んだ。先ほど木にとまっていた雀はいつの間にか居なくなっていた。
『雨が止んだな…』
『そうですね』
『奴らも動くな…』
雷鳴の凱は頷くと外を見つめた。
『凱、お前は南に走れ。そして、南の鬼火に会ってこの事を伝えろ。多分、奴らが来るのはこの里だ。良いな』
『それならば、私ここに残ります』
『ダメだ。まずは南に行って応援を頼むのだ。それが出来るのはお前だけだ』
『しかし、それではすぐには…』
『お主は俺に奴らを引き留める事が出来ないとでも言うのか?』
『いえ、そう言う訳では』
『心配するな。足止めぐらいはこの俺でも出来る。だから早く行け!』
凱は頷くと南に向かって走った。しかし、雷鳴の考えは外れていた。鉄馬は西の国に来ていたのだった。
『鉄馬様、私共は北に行くのではなかったのですか?』
『北か…そんなものは後で良い。まずは隼人と言う奴が気になる。それを見てからだ』
『しかし、それでは…』
『楓、お前は俺の部下だ。黙って俺の言う通りにしておけば良い』
『わかりました』
鉄馬は木の上から下の様子を見ていた。隼人は数人を連れて昇達のいる村に正面から入って行った。
>> 340
『お前は、気を集中はさせてはいるが、扱えていない。その時点で周りに気を配れていない。そんな事だと死ぬぞ』
『しかし、気を集中したら、周りが見えなくなるのは当たり前ではないですか?』
『あははは…。だから、扱えていないのだ。素早く気を集中出来るようにしないとな。ちょっと見ていろ!』
雷鳴は手のひらを出すとすぐに気の塊を作って見せた。凱は驚いて見ていた。
『どうだ凱?こうやってやるんだ。まあ、俺も3年はかかったがな…』
『そんな…雷鳴様が3年もかかった物を私がすぐに出来る訳ありません』
しかし、雷鳴は笑った。
『何を言っている。俺は気の塊を作るのに3年かかったのだぞ。お前はすでに出来ているではないか…もう少しだ。今はやるしかないのだ』
凱はためらいの中、気を集中させた。それを何度も繰り返した。また近くに雷が落ちた。
ズゴゴゴゴ……
凱はその時、何かが見えた気がした。手のひらの気の塊が、巨大化した。雷鳴はそれを見て微笑んだ。
『やったな。何かつかんだようだな。後はお主次第だ。精進していけば良いのだ』
雨の勢いは激しさを増して来た。近くの木には雨宿りをする雀が、体を震わしていた。
>> 339
『そうか…まだ気を上手く扱えてない訳だな?』
『はい、東の国では阿修羅を倒す事は出来たのですが、城までも壊してしまいました。月黄泉の莫大な力が発動しただけで、自分で思ってやった訳ではありません』
『そうか…もしかすると月黄泉に乗っ取られてしまうぞ。その前に気の扱い方を完璧にしないとな』
ピカッ!
ゴロゴロゴロ……
また外で雷が鳴った。しばらくすると雨が降り出した。
ザザザー……
『とうとう、雨が降り出したか…奴らもそう簡単には動けまい』
『俺が、付き合ってやる。気の集中させろ!』
『今ですか?』
『当たり前だ。さあ、早くやってみろ?』
『はい!』
凱は、手の上に気を集中し始めた。雷鳴には見えていた。凱を包む気の渦が立ち上ってくるのが…。
《思ったより、凄いではないか》
雷鳴はそう思いながら凱を見つめた。しばらくすると1つの気の塊が出来た。玉のようなそれは中で渦巻いていた。その時、雷鳴は凱に丸めた紙を投げた。それは凱に当たり弾けた。凱は雷鳴を見て言った。
『雷鳴様、何をするんですか?』
『まだ、気の扱い方を間違えているな!』
『間違えている…?何が違うのですか?』
>> 338
昇は茶々丸を見た。
『お主は最初から扱えないと決め付けているではないか!そんなお主の言う事を土蜘蛛が聞く訳がない。そうは思わんか?』
『………』
『お主の気持ちが土蜘蛛に伝わった時に、また、現れるはずだ。自分を信じてみたらどうだ?』
そんな茶々丸の言葉に昇は何かを悟ったのか、立ち上がると言った。
『茶々丸、分かった。もう少し自分の力を信じてみるよ』
茶々丸は頷くだけだった。そして昇はまた修行を始めた。茶々丸は静かにそれを見つめていた。また遠くで雷が鳴った。その頃、凱達は雷鳴と話し合っていた。
『雷鳴様、阿修羅の術には獣陣と言うのがあります』
『ああ、それは俺も知っている。以前、親方様から聞いた事がある。人が獣になる術だな』
『はい、その力をどうにかしないと、この戦いは不利かと思います』
『それなら、良い考えがある。上忍達を集めてくれ!』
雷鳴は近くに居た者に言った。
『分かりました。すぐに呼んで参ります』
その者は足早にその場を去った。
『凱、お前の術はかなり上達したのか?』
『いえ…まだ、力の加減が出来ていません。自由に扱えてこそ技が生きるのですが…』
>> 337
『分かった。それならしばらく1人になる』
昇は部屋を出て行った。外ではいきなりの雨に里の者達が慌ただしく走り回っていた。
『この分だとしばらくは奴らも来れないだろう。その間に迎え撃つ準備を急がせないとな…』
しかし、隼人の率いる阿修羅達は近づいていた。隼人は、雨を逆手にとったのだ。
『皆の者聞け~!我らは西の国の反逆者共を倒す。気を引き締めてかかるのだ』
『おーーーっ!!!』
阿修羅達の雄叫びが雷鳴と共に響いた。それは着々と迫って来ていた。
『奴らの驚く顔が見えるわ。あははは…』
その頃、昇は1人、気を集中する修行をしていた。手の上に葉っぱを乗せいた。軽く浮くとクルクルと回り始めた。
『おっ回り始めた。少しは出来るようになった』
しかし、昇は頭をかかえた。そして土蜘蛛を見つめた。
『これを上手く扱えるだろうか?』
溜め息混じりに言った。するとそこに茶々丸が現れた。
『どうだ、少しは扱えるようになったか?』
『ああ…少しはな…』
『元気ないな?どうした?』
『この土蜘蛛を扱える自信が…』
昇は口ごもった。茶々丸は昇を見つめた。
『自分から諦めてどうする』
>> 336
『何を驚いている。儂は忍犬じゃ。驚くほどの事ではないだろう』
『茶々丸殿。仕方のない事じゃ。この里には忍犬はいないし、それに喋るとなると誰でも驚くものじゃ。現に若様達も驚いたからな…』
茶々丸は軽く頷いた。
『まあ、驚いただろうが忍として聞いてもらいたい』
代表達は頷き茶々丸の話に耳を傾けた。
『さっきも言ったが、まずは鉄馬だ。捜す為に1部隊欲しい。鉄馬には匂いを付けてあるから捜すのは簡単な事だ』
茶々丸は鼻を突き出し皆を見渡した。その意味がわかったのか頷いた。
『後は、阿修羅は変な術を使う。今のままではやられてしまう。こちらにも術で対抗するしか手はない。この里にはどの位いる?』
代表達は見合わせてから言った。
『こちらには、術に長けているのは10名おります』
『ならばすぐにその者達を集めてくれ』
下手の男が頭を下げると集めに出て行った。
『それと昇はとりあえず、気を集中する修行をしておけ』
『何を言っている?今はそんな事している暇はないだろう』
茶々丸は首を振った。
『それは違うぞ。この戦いはお主にかかっている。凱のような技が出来るかもしれない。お主は継承者なんだからな』
>> 335
昇が真顔で言うので、茶々丸も唸るのを止めた。いつしか人と犬の間に友情のような物が芽生え始めていた。遠くで稲光が光り、微かに雷の音が聞こえてきた。
『おい、本当に降って来そうだ。とりあえず家に入ろう』
昇達は慌てて家の中に入った。そこには、里の代表達が集まっていた。
『もしやこの方が若様か?』
代表の1人が、猿飛に尋ねた。
『はい、間違いなく若様です』
皆は昇に頭を下げた。昇は照れくさそうに言った。
『正直、何も覚えてないからどうして良いかわからないけど、よろしく頼みます』
昇も頭を下げた。
『ところで鉄馬はどうしているんじゃ?』
猿飛が代表達に聞くと下手にいる1人が言った。
『さっきの報告では屋敷に戻って来ていないと報告がありました』
『若様どうします?』
『どうしたら良いものか?』
昇は考え込んだ。茶々丸がそれを見ていて、鼻を鳴らすと喋り出した。
『まずは、鉄馬の動きを突き止めるのが先決だな。それと出来るだけ術者を集めておかないと無理だな!』
『い、犬が…』
代表達は目を丸くしている。それは、この里には忍犬がいない上に犬が喋ったのだ。当たり前の事だった。
>> 334
阿修羅なんぞに負けられない。わかったな』
『お~!』
里の頭となった雷鳴の初めて、命令だった。誰も逆らう者など居なかった。凱が空を見上げると、雲行きが怪しくなって来た。
『嵐でも来るのか?』
凱はそんな事を言った。
『凱どうした?』
『いえ、ちょっと雲行きが…』
『本当だな…』
空を見上げながら2人しばらく見つめていた。すると雷鳴が言った。
『凱死ぬなよ!』
『はい…』
凱には雷鳴の不意な言葉に戸惑っていた。そして不安がこみ上げて来た。
その頃、昇達は西の国の外れにある村に居た。
『茶々丸、何でお前が付いてくるんだよ?』
『うるさい!お主だけでは心配だからな。儂が居たら百人力だろ?』
『お前は忍犬だろうが!それを言うなら百忍力だ』
『何を言う……?!そ、それで良いのだな。どうしたお主?頭でも打ったか?』
『頭なんか打ってない。お前の実力を認めただけだ』
『おい、止めろ雨が降る』
茶々丸は空を見上げた。
『本当に降りそうだな』
『本当だな。心に無いこと言ったからかな?』
『やっぱり、嘘だったか』
茶々丸は昇を睨み唸った。
『冗談だよ。本当にお前の事は信じているよ』
>> 333
《何故、俺が女忍なんぞ、連れていかねばならんのだ?しかし、どこかで見たような顔だが…》
『鉄馬様、私の顔に何か付いてますか?』
『いや…別に…』
鉄馬は楓にそう言われ、慌てて答えた。しかし何か引っかかっていた。
『鉄馬様そろそろ行きましょうか?』
『ああ、それでは』
鉄馬達はその場から消えた。
『ふふふ…面白くなって来た。さぁどう出るかな?ふふふ…あははは…』
傷だらけの男は笑った。
その頃、凱は里に帰り着いていた。
『雷鳴様、今帰りました』
『凱、帰ったか!それでどうだった?』
凱は今までにあった事を話した。
『それで昇は居ないのか…それはそれと茶々丸はどうした?』
『はい、昇が心配なのか付いて行きました』
『そうか。それならよいが、しばらく会わないと寂しいものだ』
珍しく雷鳴の弱音を聞いた気がした。何か不安な事でもあるのだろうか?
『凱!里の者を集めろ!』
『はっ!』
凱は里の皆に召集をかけた。里の者はザワザワしながら集まって来た。しばらくすると雷鳴が現れた。
『皆の者聞け!阿修羅が間もなく攻めて来る。女、子供は裏山に、他の者は武器を持ち再度ここに集まれ。
>> 332
『猿!わかった。俺は西の国に行く。そして頭になる』
『若様~!!』
猿飛は泣きながら昇に抱きついた。昇はそんな猿飛の背中を軽く叩いた。
『それでは、昇は西に行ってくれ。後は北は俺が伝えます。南は妙斬殿頼めますか?』
『わかった。急いで行って来よう』
凱達は各自、行くべき国へと散って行った。
その頃、阿修羅達も動いていた。
『隼人!そろそろお前の出番が来たようだな』
『はっ私にお任せ下さい。すぐに始末してみせます』
『頼もしいなあ!後は任した。頼むぞ!』
『はっ!』
隼人は目の前から風のように消えた。
『ふっそれにしても、あの忍は何者なんだ?昔どこかであったような…まあ良いか…』
その男は体中に傷跡があり髭を生やしていた。片手には、どす黒く光る刀を持っていた。柄には龍の装飾があった。
『鉄馬、鉄馬よ!』
『お呼びですか?』
その男の前に鉄馬が風のように現れた。
『さて、鉄馬よ。お前には北の国に行ってもらう』
『はっ!』
『こ奴も一緒に連れていけ』
そこに現れたのは、くノ一だった。
『楓だ。かなりの腕だ。お前の邪魔にはなるまい』
鉄馬はそのくノ一を見た。
>> 331
しかし、昇が言った。
『4つの国は1つにはなれないのでは?』
『何故だ?』
『考えてみろよ。西の国は既に阿修羅に操られているんだぜ!』
凱はその事を忘れていた。
『確かに鉄馬は間違いなく阿修羅に操られているな』
それを聞いていた、猿飛が言った。
『若様、待って下さい』
いったい、何だと言うのだろうか?猿飛の話を聞いた。
『確かに西の国には阿修羅の手が伸びています。しかし、全てが阿修羅に落ちた訳ではありません。里の半分は既に反旗を翻し近くの村で、機会を待っております。それで、ここは若様に来て頭として立って頂きたいのじゃ』
『俺が頭に?!そんなの無理だよ』
昇は手を振りながら少し下がった。
『若様のお父上も待って居られます。今がその時なんですじゃ。若様!』
『そう言われてもな…どうしたものか…凱、どうしょう?』
昇はすがるように凱に聞いた。
『昇、俺は今までお前を見てきた。お前のおちゃらけた性格も皆に対する優しさも、忍としての技もな。お前にはその資格は十分あると俺は思う。後はお前自身が決めたら良い』
昇はその凱の言葉を噛み締めながら考えていた。そして猿飛に向かって言った。
>> 330
階段を下りると、そこは通路になっていて、松明が灯っていた。
『こんな所に通路があったのですね』
『緊急の時の隠し通路みたいじゃな。どこの城にもあるみたいじゃな』
凱達は松明の灯りの中、奥へと進んで行った。しばらく歩くと階段があった。そこを登ると太陽の光りが眩しかった。周りを見ると城の近くの裏山に出た。そこには小屋があり、その前には明光寺の僧侶が2人立っていた。こちらの気配に気が付いたのか、持っている棍棒を構えた。しかし、妙斬が居る事が分かり、棍棒を直し頭を下げた。
『時村様は、ご無事か?』
『はい!中に居られます』
妙斬を先頭に凱達は中に入った。中では時村が座っていた。
『おお!皆、無事だったか。まあそこに座ってくれ』
凱達は時村の前に座った。
『時村様、城に攻めて来たの本隊ではなさそうです』
『そうか…それでお主達どう考えているのだ?』
『はい、ここは4つの国が1つになるべきかと』
『なるほど、それなら直ぐに手を打たねばな…』
時村はしばらく考えた。
『早速、皆に走って貰いたい。この事を伝えてくれ。そして阿修羅を迎え撃つ手はずを整えるようにな』
>> 329
阿修羅の居なくなった城では、負傷した者の治療や死人運ぶ姿が見られた。凱達は時村の所に向かった。すると、後ろから妙斬達がやって来た。
『阿修羅は皆去ったようだな』
『そりゃ凱の技見たら逃げ出すよ』
昇は自分がやったように言った。妙斬は、それを無視するように話し出した。
『しかし、これも本隊ではなさそうだな』
凱は頷いて答えた。
『そうですね。多分まだ下っ端ではないでしょうか?』
『そうだろうな。とにかく、時村様の所に行こうか?』
皆は時村の所に行こうとした。
『そう言えば、時村様はどこにいるんだよ?』
昇の一言で皆はキョロキョロとした。すると、猿飛が言った。
『若様、こちらです』
凱達は、猿飛が時村の居場所を知っていた事をすっかり忘れていた。猿飛は皆を城の裏にある庭園に連れて行き、そこにある石灯籠を押した。
ガガガガガ……
するとその石灯篭が動き下から階段が現れた。
『すげー!!何だよこれは…』
昇は石灯篭を見渡した。
『昇、行くぞ!』
凱の方を見るとすでに皆は階段を下りていた。
『ちょっと待ってくれよ』
昇は慌てて追っかけた。
>> 328
ガァーッ!!
熊の獣人は凱達に気づき一声あげると迫って来た。鋭い爪が凱の服を掠めた。動きは狼の時より、遅いようであった。凱が月黄泉で斬りつけた。
ガキッ!!
月黄泉は熊の獣人に当たったが、斬れなかった。皮膚が鋼鉄のように硬く、刀では斬れなかった。月黄泉は弾かれ、凱は後ろに飛ばされた。
『何なんだ?コイツ斬れないぞ?!』
『凱!またさっきのを使え!!』
凱は頷くと気を集中させた。気の渦が立ち上る。しかし、熊の獣人が迫って来た。凱は素早くよける。
『くそっ上手く気を集中出来ない』
『凱!俺に任せろ!』
昇は獣人の前に出て、土蜘蛛を振って気を反らした。獣人はそんな昇に気づき向かって行った。その間に凱は気を集中し始めた。気の渦が風を起こす。そして完成すると凱は叫んだ。
『昇!どけ!!昇龍爆風斬!!!!!』
月黄泉から風の衝撃波が獣人に向かって行った。
ズゴゴゴゴ……
その衝撃波は獣人の体を包み込んでいき、切り刻んで粉々にした。
ウォーーーーー!!
獣とも人とも言えない凄い悲鳴が響き渡った。それを見ていた阿修羅の忍達は、戦いを止め慌てて逃げ出して行った。
>> 327
凱の周りに風が渦巻くと月黄泉は振った。その衝撃波は忍達に向かって行く。そして衝撃波は忍達を巻き込み、天井を突き抜け、天高く登って行った。
グガガガガガ…
ガラガラガラ…
城の天井の一部が崩れ落ちた。
『やっぱり室内では、この技は使わない方が良いな…』
昇は天井に開いた穴を見ながら凱に言った。
『若様~?若様~?』
猿飛が慌てて駆け寄って来た。
『若様、ご無事でしたか!…ん、これはどうされましたか?』
猿飛は天井を見上げながら言った。
『まあ…ちょっとね』
凱は困った顔をして、指で頭を掻いた。
『あっそんな事より、こちらに来て下さい!』
猿飛は城の東にある建物の方に向かって行った。するとそこでは、阿修羅の忍達と城の家来達が戦っていた。その中に大きな獣人が居て城の家来達を弾き飛ばしていた。しかし、その獣人は、凱達が知っている獣人とは少し違っていた。凱達の知っている獣人は狼だったが、今居る獣人は熊のようだった。獣人には種類がある事を凱達は知った。
『これはマズいな。助けに行くぞ!』
凱はそう言うと戦いの中に向かって行った。昇達も後を追った。凱達は近くの忍達から斬り倒していった。
>> 326
その部屋の正直を開けるとそこにうずくまる時村と何人かの家来が居た。
『大丈夫ですか?』
『ああ、なんとか生きている…』
時村はホッとした顔をした。
『凱、来たぞ!!』
昇が叫んだ。阿修羅の忍が4、5人迫って来た。凱は振り返り、月黄泉を抜いた。忍達は飛びかかって来た。
『時村様は下がって!』
凱は月黄泉を振ると凄まじい風が、忍達に向かって行く。すると、目の前の忍達が消えた。凱の攻撃を横によけたのだ。
『ちっ今までの忍とは少し違うようだな。猿飛さん!時村様を連れて逃げて下さい!』
『分かった。時村様こちらに…』
猿飛は時村を連れて城の外に出て行った。忍達もそれを追おうとしたのを凱達が遮った。
『お前達の相手は俺達だ!』
忍達は刀を構えて、凱達と間合いを取る。しばらく、睨み合いが続いた。
『凱、どうするんだ?』
『城の中では、思いっきりやれないからな…』
忍達がジリジリと間合いを縮めて来る。
『なあ…城は燃えているし、思いっきりやっても大丈夫じゃないか?』
『そうだな…ならば…』
凱は月黄泉に気を集中した。
『昇龍爆風斬!!』
凱は無意識にその技を言った。
>> 325
『おい!みんな…遊んでいる暇はなさそうだぞ』
騒いでいた昇達は立ち止まった。
『凱、どうした?』
『あれを見てみろ…』
『どういう事だ?城が燃えている!』
『まさか、俺達はここに足止めされていたと言う事か?』
『間違いない。本隊はあっちだ!みんな急いで城に行くぞ』
凱は昇達にはもちろん妙斬達にもそう言った。そして城へと走り出した。城に近づくと本殿から炎が上がっていた。城の周りには逃げ惑う人々と阿修羅の忍らしき者達で、ごった返していた。明光寺の僧侶達と時村の家来が対抗して戦っていた。凱達は加勢に入り、阿修羅の忍は、さほど強くなく本隊とは思えなかった。それはともかく、時村の安否が心配された。すると妙斬が言った。
『ここは儂らに任しておけ、お主らは時村様の所に早く』
『わかった。後は任した』
凱達は城の中に入り、時村が居るはずの大広間に向かった。本殿の炎が広がって行く。それを避けながら奥へと進んだ。
『時村様?時村様?』
凱達は大声で叫んだ。城の中にも阿修羅は居た。しかし、凱達は次々に倒して行く。改めて凱達は時村を呼んだ。
『時村様?時村様?』
『ここだ!』
近くから時村の声がした。
>> 324
『ちょっとな…鉄馬に匂いをつけて来たのよ!』
『匂い?』
『ああ…鉄馬が逃げるのを追っかけて、この匂い玉をな…』
茶々丸はニンマリと笑った。
『なんだ?その匂い玉って?』
『…ん、これはな。人には匂いは分からないが、犬にはわかる匂いでな、その上匂いが無くならず、遠くからでも分かると言う代物じゃ!どうだ凄いだろう?』
茶々丸は鼻高々に言った。
『流石は茶々丸だな!』
『凱もそう思うか』
茶々丸はニンマリとしている。
『忍犬なんだ。それぐらいするのは当たり前だ』
昇がまた余計な事を言う。茶々丸の顔が引きつった。
ウーガブッ!!
茶々丸が昇の尻に噛みついた。
『痛てぇ~!!離せこのバカ犬!!』
『うるさい!この戯けがぁ~!!』
茶々丸は昇の尻を噛んだまま離さない。
『おいおい、2人共』
猿飛が2人を追っかける。凱は呆れて空を見た。空は雲一つ無く晴れ晴れしていた。その空の下で昇の悲鳴と茶々丸の唸り声と猿飛の止めさせようとする声が響きわたっていた。しかし、そんなほのぼのとした時間は打ち消されようとしていた。境内から見えている城から煙りが上がって来たからだった。
>> 323
傷ついた凱を近くの階段に腰掛けさせた。
『これを飲みなされ』
猿飛がそう言って差し出したのは、万力丸だった。
『それは…』
『そう、こういう時にも使うのですよ。多分、痛みは無くなります。万力丸は体を活性化して傷も治してくれますからな』
猿飛は自分の持っていた万力丸を小さく千切り、凱に飲ませた。しばらくすると凱はすくっと立つと飛び跳ねた。
『なんだよこれ?痛みも無くなった』
凱は体を見ると怪我をしていた所がみるみるうちに治っていった。
『若様も少し飲まれたらよろしい』
猿飛はニッコリ笑いながら千切った万力丸を昇に渡した。昇も体力が回復したのか、凱と同じように飛び跳ねてみせた。すると昇がキョロキョロと辺りを見渡した。
『……ん、ところで茶々丸は?』
昇がそう言うと、皆は辺りを見渡した。確かに茶々丸の姿は見えなかった。
『どうしたんだろう?』
『もしかして、さっきの消し飛んでしまったか?』
昇は頬に手を当て恐怖の顔をしておどけて見せた。
『勝手に殺すな!』
声のする方を見ると、茶々丸の姿があった。
『茶々丸!どこに行っていたんだ?心配したよ』
凱がそう言うと茶々丸は答えた。
>> 322
『ちと、体力がなくなってきてしまいました』
猿飛は肩で息をしている感じだった。
『猿、後は俺達に任して少し休んでいろ』
それを見ていた紅龍が怒鳴った。
『貴様らごちゃごちゃと…まとめてこの俺が倒してやる!』
『黙れ!里を裏切った罪は大きいぞ!死んで親方様にお詫びしろ!』
『ふん!親方様など最初から慕ってはおらぬは!だから、隙を見て…お前達も同じように死んでもらう』
紅龍はそう言いながら笑った。凱の中で怒りがこみ上げてきた。そして凱の中の中の何かが弾けた。
『うりゃーーー!!』
凱は雄叫びのような声を上げた。すると月黄泉が光り月黄泉の周りに螺旋状の風の流れが現れた。そして凱の体を包みだした。
『むむ、これは…』
紅龍は少し脅えた。凱は目をカッと見開くと月黄泉を大きく振った。
『昇龍爆風斬!!』
月黄泉から放たれた風は昇龍のように天高く上がり、そして紅龍目掛けて向かって行った。
『何っ?!やられるか!火遁の術、紅龍波!!』
紅龍の放った炎が、凱の放った風の渦に向かって行きぶつかり合った。しかし、凱の放った昇竜爆風斬にはその炎は消し飛んで行った。そのまま紅龍はまともに喰らった。
>> 321
さすがにそうなると死人は復活出来なかった。
『やったな凱!』
『ああ…しかし、安心は出来そうになさそうだぞ』
凱が見ている方を昇は見た。さっきまでとは違った光を放つ魔法陣から獣人が現れていた。
『今度は、獣人かよ…どうする?』
『どうするって…やるしかないだろう』
凱達は獣人達に向かって行った。獣人になった手下達は素早くなかなか当たらなかった。獣人の鋭い爪が凱達の服を刻んでいく。
『手も足も出ない』
凱達は獣人に囲まれた。そして獣人達が飛びかかってきた。凱は避けきれなく身構えた。
ガシーン…
鉄のぶつかり合うような音がした。そこに居たのは妙斬達だった。獣人達の鋭い爪を体で受け止めていた。
『手をやいているようだな!』
『妙斬殿…』
『遅くなってすまなかった。やっと金剛拳が使えるようになった。この獣は私らに任せ、猿飛殿を助けてやってくれ』
『わかりました。後は頼みます』
凱達は紅龍と戦っている猿飛の所に行った。2人は凄まじい戦いをしていた。火と水のぶつかり合いだった。しかし、猿飛は高齢の為か、疲れが見えて押されていた。
『猿飛さん!大丈夫ですか?』
>> 320
紅龍は素早くよけ、その攻撃から逃れた。
『猿!!』
『猿飛さん!』
凱達は驚いて猿飛を見た。
『伊達に年は取っておりませんぞ』
さすがに長年、忍をしてきただけあって術には長けていた。
『おい、来るぞ!』
紅龍が刀を振り上げ迫って来た。
『ここは私がやります。お二人は他の者をお願いします』
猿飛はそう言うと忍刀を構えた。紅龍の振る刀を受け止めた。
『小賢しい奴め!』
紅龍と猿飛を横目に凱達は手下達に向かって行った。手下達はそれほど強くなく、次から次に倒して行った。
『凱よ!コイツら弱いぞ!』
しかし、それは甘かった。倒したはずの手下達が立ち上がりまた迫って来た。
『これは、一体どういう事だ?』
確かに斬ったはずなのに立ち上がってくる。
『まさか、死人?』
『今頃気がついたか!これは死人を操る蘇生陣よ!』
魔法陣を囲む4人集の1人が言った。
『これじゃ、キリがないな!凱、どうする!』
『死人が蘇らないほどにバラバラにするしかないな…ならば…』
凱は何かを唱えながら月黄泉を振った。
『喰らえー!』
月黄泉から凄まじい風が刃となり死人の手下達を切り刻んでいった。
>> 319
そう言って紅龍は凱達に向かって刀を振った。素早く凱はそれを受け止めた。
『凱、なかなかやるではないか!しかし、それもこれまでよ!』
紅龍は凱を突き飛ばし、素早く手裏剣を投げる。凱はそれを月黄泉で弾き飛ばした。その瞬間、紅龍を見失った。紅龍は素早く動き、凱の横から突いて来た。凱はそれに気づくのが一瞬遅れた。しかし、誰かが紅龍を蹴り飛ばした。
『紅龍様!相手は凱だけじゃないぜ!』
そこには昇が立っていた。その手には土蜘蛛が持たれていた。
『昇すまない。助かった。』
『凱、気にするな!』
凱達は改めて構えた。
『昇…貴様!!』
紅龍は術を唱え出した。
『火遁の術、紅龍波!!』
ズゴゴゴゴーーー!!
口から吐かれた炎が凱達を目指して飛んで行く。まるでそれは、紅い龍のようだった。すると凱達の後ろから声がした。
『水遁の術、水神壁!!』
凱達の前に大きな水の壁が出来て炎を防いだ。
『何!?』
紅龍は言った。その術を唱えたのは、猿飛だった。続けざまに術を唱えた。
『水遁の術、爆流弾!!』
壁になっていた水の中から弾のような物が飛び出し、紅龍目掛け飛んでいた。
>> 318
凱達が攻めている間、妙斬達が金剛拳を唱える事にしたのだった。
『みんな行くぞ!』
凱はそう言うと月黄泉を抜き走り出した。
『うりゃー!!』
凱達の声に阿修羅が気づいて振り返った。凱は思いっ切り月黄泉を振った。すると凄まじい風が阿修羅の手下達に向かって行った。手下達はまともにそれをくらい吹っ飛んだ。その騒ぎを聞きつけ社から次から次に手下達が出て来た。その後ろには紅龍がいた。茶々丸の話とは違い。手下の数はどんどん増えていた。
『茶々丸!話が違うじゃないか!人数がかなり多いぞ』
『知るかそんな事!儂が調べた時はそうだったんだから』
昇と茶々丸はそう揉めていた。
『2人共、良く見ろ!あそこだ!』
紅龍の近くでは4人の忍が魔法陣を発動させていた。光輝く丸い魔法陣から次から次に手下達が出て来ていた。
『なんだありゃ?』
『さっき見たのと少し違うが、魔法陣だな!』
『畜生!あんな事も出来るのだな…こんなんじゃ…』
紅龍が動いた。
『おお、そこに居るのは凱に…昇ではないか!もしかして、この俺を倒しに来たのか?お前らが何人来ようとも、この俺は倒せまい!この刀の錆となれーっ!!!』
>> 317
だから戦いになってからしか唱えられない。その間頼む』
『分かりました。なんとかやりましょう』
凱は妙斬達のその金剛拳に期待した。しかしその術を唱えるまでなるべく阿修羅を倒しておかないといけないだろう。そんな事を考えていると神社の階段を駆け下りてくる茶々丸が見えた。
『おお、皆来ておったか!』
『茶々丸、中はどうですか?』
『ちょっとマズいかもしれないのう』
『どうしたんです?何かあったのですか?』
『西の…西の鉄馬が合流した。その上手下も連れて来ている。さっきよりも増えているぞ』
茶々丸は困ったような顔をした。
『畜生!せっかく妙斬殿も連れて来たのに…』
凱は悔しそうにした。
『しかし、少しは希望もある。紅龍と鉄馬は仲違いしている。統率のない今ならもしくは……』
『それなら、行きましょう!』
凱は皆に向かって言った。皆はそれに同意した。そして神社への階段を駆け上がった。入り口の鳥居の所に見張りがいるのが分かった。素早く近寄り手裏剣を投げ倒した。
『気をつけろ!すぐそこには奴らがいる』
茶々丸の言葉に身構えた。そして二手に別れる事にした。
>> 316
『それでは早速参りましょうか?』
妙斬は頷いた。凱達は時村に頭を下げた。
『私は何も出来ないが、頼んだぞ』
『お任せ下さい』
時村の言葉に凱はそう言って答えた。そして、阿修羅のいる神社に向かった。妙斬は3人のお供を連れてきていた。さっき言った人数より1人多い。時村に言われて1人増やしたのだろう。その真意はわからない。
『あの神社です。あそこには10人ほど潜んでいます。気をつけて下さい』
『10人ほどで、我らに手助けを頼むとは、よほど強いのだろうな?』
『阿修羅は不思議な術を使い人が獣に化けます。その力は人の数倍になります。甘く見ると命を落としかねません。気をつけて下さい』
『わかった。気をつけよう』
妙斬はお供を集め何かを話していた。
『お主らに頼みがある』
『はい、何でしょう?』
『我らにも秘術があるが、術が完成するのに少し時間がかかる。その間、我らを守って欲しい』
『秘術?それはどんなものなんですか?』
妙斬は少し考えて話し出した。
『金剛拳と言って体がまるで鋼のように堅くなる術だ。だが気を練るのに時間がかかる。それに鋼の体になれる時間も短い。
>> 315
時村はそれを聞き終わると妙斬を見た。
『妙斬悪いがこの者達を助けてやってくれ』
『はい。心得ました。まあ既に助太刀するつもりでおりましたが…』
妙斬はチラッと凱達を見た。
『それで今からすぐに参るのか?』
時村は凱に尋ねた。
『はい。とりあえず神社の近くまで行き見張りの者と合流してから阿修羅に仕掛けるつもりです。その間、こちらが手薄になる事が少し気掛かりではありますが…』
妙斬はその話を聞き口を挟んできた。
『それなら大丈夫です。蟻一匹入れないように見張りの強化はしております。明光寺の我々に任せておいて下さい。そこら辺の忍には負けません。それに阿修羅の退治には私を含め3人も行けば宜しいかと思います』
昇はムッとしていたが、時村の前でもあった性か堪えているようであった。それに気がつき時村が言った。
『妙斬、少し言い過ぎだぞ。確かにお主らの力は優れているが、他人を罵るはいかがのものかな?出来れば仲良くやってもらいたいものだかな…』
『申し訳ありません』
妙斬は素直に謝った。忍と比べられてきた過去がある性か、ムキになってしまうのだろう。改めて時村に言われて、妙斬なりに反省をしたのであった。
>> 314
凱はさっきのお返しとばかりに嫌みたっぷりに言った。
『ふん、わかった。力を貸そうではないか』
『それはありがたい。では先に時村様にこの事を話して参ります』
『あぁそれが良かろう。では、時村様の所に参ろう』
妙斬は城の方に歩き出した。その後を凱達はついて行った。
『…凱、さっきの事は本気で言ったのか?』
凱にしか聞こえないように言った。
『昇…ああでも言わないと機嫌を損ねるだろう…現に彼らの力を借りねばならない状況ではあるのだから…』
『それにしても褒め過ぎではないか?あははは…』
妙斬はその笑い声に気づき振り返った。
『どうされた?』
『いや、何でも…こっちの話です』
昇は頭の後ろに腕を組んで口笛を吹く仕草をした。凱はそれを見て呆れた顔をした。城の中に入ると大広間の方に通された。そこには時村が座っていた。時村は凱達に気づき手招きをした。
『帰って来られたか!まあこちらに来て座ってくれ』
凱達は時村の前に座り、妙斬は横に座った。
『実はお願いに参りました』
『さて、どんな事だ?』
すると妙斬が言った。
『この者達は我らの力を借りたい来ております』
凱はそれに続き説明した。
>> 313
『なんだあの犬は?』
それは茶々丸だった。気づかれた事に気づいて野良犬のふりをした。
『野良犬か。しかし、どこかで見た気もするが…まぁ良いか』
紅龍はそう言いながら茶々丸の前を通り過ぎた。
《危ない危ない》
茶々丸はそう思いながら阿修羅の様子を調べていた。凱達が時村の城に行っている間、阿修羅の事を調べる為に残ったのだった。その頃、凱達は城の近くまで来ていた。そして城の近くに行くと数人の男達が立っていた。
『おお、これはこれは月影の方々ではないですか。何をしに来られたのかな?』
そう言って立って居たのは妙斬だった。相変わらず嫌みたっぷりだった。
『妙斬殿ではないですか、こんな所で何をしておられるのですか?』
『警備をしているだけだ。お主らは必要ない帰れ』
『いや、今回は反対に助けて頂きたいと思って来たのです』
『助けて欲しいだと?』
『はい、この近くに阿修羅が潜んでいて、私達でなんとかしようと考えたのですが、力が足りないと思い時村様を尋ねる所だったのです』
『ほう、ならば我らの力を借りたいと言う事だな?』
『はい、問題なければなんですが…妙斬殿が居れば100人力かと思いまして…』
>> 312
『その凱とか言う者はそんなに強いのですか?』
『あぁ…奴は伝説の八雲の息子だ。それに今は月黄泉を持っているはずだ…』
『…それは困りましたね』
紅龍達はそんな話をしていた。すると1人の男が入ってきた。
『ここにいたか!奴らは月黄泉以外に土蜘蛛も持っているぞ』
『お前は西の鉄馬!』
『ご挨拶だな…お主らの手助けに来たのだがな』
『お前に手助けして貰わなくとも俺達で十分だ』
『それはどうかな…思ったより奴らはやるぞ』
『あははは…そうだな。お主は1度ならずとも2度も負けているから身にしみてわかるか?!』
『何を!』
鉄馬は紅龍に近づき襟元を掴んだ。紅龍はその手をはらった。
『まあ、そう怒りなさんな。仲間でやりあっても仕方なかろう。お主は高みの見物でもしておいたらよい。我が作戦で奴らも終わりよ』
『…ならばそうさせてもらおう』
そう言って鉄馬はその場を去った。
『ふん、あんな役立たずにおられたら勝つものも負けてしまうわ。あははは…』
紅龍は高笑いをした。手下は苦笑いをしていた。
『さてそろそろ、偵察の者も帰ってくるだろう』
そう言って紅龍は表に出て行った。
>> 311
その頃、社の中では紅龍達が話していた。
『奴らもそろそろこちらに来ている頃だな!手はずは整っているのか?』
『それは、とうに済んでおります』
『獣陣とは面白いものを…』
『これは阿修羅の妖術、遥か昔より伝わってきた物であります。獣陣によって獣人になった者は数倍の力を得ます。しかし、その分寿命を半分失ってしまいます。我らにとっても最終手段であるのは確かです』
『俺は使いたくないな…』
『紅龍様は、見ていていただければそれで構いません。牙狼様からのご命令ですから…』
『獣人にはどんな物があるんだ?』
『陣人には狼、熊、鷲、虎、龍と5つあります。最初4つなら元には戻れますが、龍は二度と戻れなくなります。以前、龍人になった、左門と言う方は今もその姿のまま体は切り刻まれた状態である洞穴の中に閉じ込められていると言う事です。』
『なるべく龍人にはなりたくないな。名前は紅龍だがな…あははは…』
紅龍は笑った。阿修羅の手下も笑っていた。
『ところで切り込み隊はどうなったのだろうな?』
『あの者達は下忍でしたから、多分やられたと思われます』
『雷鳴は凱達を出したからな…間違いなくダメだろう…』
>> 310
紅龍は里でも1、2を争う腕の持ち主だからだ。辺り警戒しながら歩く。
『おい、どこに居るんだ?』
『まあ焦るな…クンクンこっちだ』
茶々丸は街の外れにある、神社への階段の所に歩いて行った。そして階段の先を見て言った。
『間違いないあそこだ!』
凱達は神社の社のある方を見た。
『どうする?このままやるのか?』
昇が振り返り凱に尋ねた。
『そうだな…紅龍様だけでも手強い。もし阿修羅が一緒に居たらこの人数で大丈夫だろうか?』
『そうだよな…』
『ここは一度、様子を見てからにしてはどうだろうか?』
『そうだよな…でも誰が見て来るんだ?』
皆の視線が行ったのは茶々丸だった。
『茶々丸!お願い出来ませんか?貴方なら匂いも分かるし、見つかりにくいと思うのですが…』
『そうだな。儂が適任かな!』
茶々丸は意外と簡単に返事した。
『なら行って見て来る』
茶々丸は階段を上がって行った。どれぐらい経っただろうか、茶々丸が階段を駆け下りて来た。
『待たせたな…やはり阿修羅の忍も一緒に居たぞ。10人は居るぞ』
『それならここは、時村様の所に行きましょう!』
『儂もその方が良いと思う』
皆の意見が合った。
>> 309
『それがどうした?』
『うるさい!黙って聞け!』
茶々丸は立ち止まり座った。
『あの後、必死にお主は戦っていたがよけられ土蜘蛛を地面に刺した訳だ。頭の中で倒す事と悔しさが巡ったはずじゃ。それが土蜘蛛を呼び出す事になったのではないかな?』
『と言う事は偶然に呼び出し方を行ったと言う事ですか?』
凱が茶々丸に聞くと見上げるように言った。
『それはわからん…だが、何か困った時には現れてはくれると信じようではないか!そうだろう…昇?』
『茶々丸!なんか格好いいな!』
昇は親指を立て前に出し笑った。
『うるさい!クソガキが!あははは…』
茶々丸が笑った。
『いずれ分かる時がくるかもしれませんね』
凱はそう言って茶々丸を見た。茶々丸は頷いた。
『さて、そろそろ任務に戻りましょうか?』
猿飛が凱達に言った。凱達は頷き紅龍探しに戻る事にした。いつものように茶々丸が匂いを嗅ぎ歩き出した。その後を凱達がついて行った。やはり東の国に向かっていた。
『匂いが強くなってきたな』
『東の国にいるのでしょうか?』
『多分そうだろ』
茶々丸は後ろを見て言った。凱は手に力が入った。
>> 308
なったそうです』
凱は興味深そうに聞いていた。
『そんな神話があったんですね』
『はい、それで土蜘蛛がなまってツチクモ、ツクモとなったようですな。ツクモの神とは土蜘蛛の事のようですな』
『へぇ~なるほどね。ならば困った時には助けてもらえるな』
昇は土蜘蛛を見ながら嬉しそうにしていた。
『昇、それはわからないぞ』
『わからない?どうして?』
『それは今回たまたま呼び出せたが、次は出せるかわからないのじゃないかな?呼び出し方がまずわからないじゃないか』
『えっ!土蜘蛛を地面に刺したら出てくるのじゃないのか?』
『そう思うならやってみろ!』
昇は土蜘蛛を地面に刺した。昇は辺りを見回すが何も起こらなかった。
『凱、これはどういう事だよ?』
昇は凱に尋ねるが、凱にわかる訳はなかった。
『何か呪文とか必要なのかな?』
『そんなんじゃないとは思うけどな…』
それを聞いていた茶々丸が前に出て来た。
『多分それはお主の意志と言うか願いだな!』
『なんだよそれ?』
茶々丸はウロウロ歩きながら昇に向かって言った。
『あの時、お主らは気を集める修行をしていた。そして奴らが現れた訳だ』
>> 307 『阿修羅の力はこんなものではないぞ。お主らはいずれ死ぬのだ!うわー!!』獣人になった隊長はそう叫びながら大きな蜘蛛に食べられてしまった。獣陣を唱える4人の姿はすでになくなっていた。《これで終わりだな?ならばさらばじゃ》そう言って大きな蜘蛛は地中へと消えていった。『何だったんだ?あの大きな蜘蛛はどうして出て来たのだろう?』昇は猿飛を見た。『多分それは若様のお持ちの土蜘蛛でしょう。それが地面に刺さった事により、ツクモの神を呼び出したのかもしれません』『ツクモの神?』『神話であるのですのじゃ。この土地には昔から大きな蜘蛛が現れ人を襲っていたそうなんです。その蜘蛛こそが土蜘蛛なんですじゃ。それを見かねた神が1人の男にその刀を渡し倒すよう命じた。そして戦いの末に倒したのだった。最後のとどめを刺そうとしたとき土蜘蛛が命乞いをしたのだそうじゃ。そして"この力を渡すから助けてくれ"と言ったのだそうじゃ。その男はその頼みをきいて力を手に入れたそうじゃ。それは神の渡した刀に入り土蜘蛛になったと言う話ですじゃ。それからは神の使いとして働くようになり、その後はいつの間にか神としてあ崇められるように
>> 306
すると大きな蜘蛛が糸を吐いた。獣人達に絡みつくと大きな蜘蛛は一気に糸を吐き出した。すると獣人達は繭になっていった。そして大きな脚で掴むと口に運んだ。獣人達の悲鳴と一緒に骨の折れる音が響き渡った。あっという間に獣人達を食べてしまった大きな蜘蛛は凱達の方を向いた。
《これで良いか?久しぶりの獲物…美味かったぞ。もうなければ我は帰るが?》
すると木の陰にいた切り込み隊の隊長が逃げようとした。大きな蜘蛛はそれに気づき、また糸を吐いた。あっけなく隊長は捕まり、ズルズルと手繰り寄せられた。
《まだ、一匹いたか…》
そう言って隊長を食べようと大きな脚で掴んだ。
『おい!俺を獣人にしろ』
獣陣をする4人が呪文を唱えだした。魔法陣のようなものが輝き捕まった隊長を包んだ。すると糸を断ち切り飛び上がった。
ガルルル…
《なんだ…お前も獣か!だが、我には叶わぬは…》
大きな蜘蛛は脚を大きく振った。それをよけ爪で斬りつけた。大きな蜘蛛も再度、獣人めがけ脚を振った。獣人は飛び上がったが、大きな蜘蛛はそれを待っていた。すると糸を吐き獣人を捕らえた。獣人はもがくが次から次と吐かれる糸に動けなくなった。
>> 305
獣人達は次から次と飛びかかってきた。まるで本当の獣のようだった。振り下ろす腕の勢いは凄く、外れて木に当たると木が砕け散った。
『くそう!ならば俺のを喰らえー!』
昇は初めて使う土蜘蛛を振った。しかし、獣人達がそれを素早くよけ、土蜘蛛が地面に刺さった。すると地面が割れて土の中から大きな蜘蛛が現れた。
《誰じゃ…我を呼んだのは…》
凱達は驚き身構えた。しかし、昇は堂々とその大きな蜘蛛の前に立って言った。
『俺だ!なんか文句あるか!』
《ふん…貴様か…まだ若僧だな!それで儂に何のようじゃ?用がないのに呼んだわけじゃなかろうな?それならば貴様らを食べてしまうぞ》
『俺達を食べてしまうって…偉そうだな』
《本当に喰らうぞ》
昇は凱を見た。凱は獣人達を指差した。昇は頷き言った。
『ならば、そこにいる獣人達を倒してくれるか?』
大きな蜘蛛は唸っている獣人達を見ると言った。
《あいつらか!喰らって良いのだな?ならば我が力見ておれ》
そう言うと大きな蜘蛛は獣人達に向かって行った。獣人達も大きな蜘蛛に飛びかかって行った。だが、大きな蜘蛛の力は凄く弾き飛ばされた。獣人達はそれでも起き上がって向かって行った。
>> 304
『喰らえ!』
切り込み隊は円をとって迫って来た。凱が飛び上がり切り込み隊の頭の上を飛び越した。すかさず、刀を振り下ろし3人を斬り倒した。昇は正面の忍と刀を合わせにらみ合っていた。猿飛は茶々丸と組んで上と下の同時攻撃をしていた。茶々丸もさすが忍犬だけあって口に短刀をくわえて戦っている。
『噂には聞いたがなかなかやるな!だが、この攻撃ならどうだ?忍法獣陣!!』
後ろにいた数人が構えて何か呪文を唱え出した。すると地面に魔法陣のような物が浮かび上がり、その中に忍達が入ると全身毛だらけの人になっていく。それは狼と人を合わせたような姿だった。それは次から次と変わっていった。陣を構えた者達はスッと消えた。その獣の姿の者達が唸っていた。そして飛びかかってきて凱の頬を爪で傷を付けた。
『早い!昇、気をつけろ!』
『おう、わかった』
凱達は刀でなんとか攻撃をかわしているがおされていた。その時、妖刀が反応した。凱と昇は各々の妖刀を手にすると構えた。獣人達が飛びかかってきた時、凱が月黄泉を振った。すると凄い光と共に獣人の体が2つに切れ転がった。その獣の姿が元の人の姿に変わっていった。
>> 303
凱達は猿飛の真似をして手のひらに木の枝を立てた。茶々丸はチラッと見て密かに笑った。
『猿、こんな感じで良いのか?』
『はい、その調子です』
茶々丸が何かを感じたのか、再度振り返り言った。
『おい、ちょっと嫌な匂いがしてきた。辺りに注意しろ!!』
凱達は辺りに目を向けた。
『なるほど、確かに人の気配がしますね』
すると木の陰から手裏剣が飛んで来た。凱達は素早くそれをよけた。
『そこか!?』
凱達は手裏剣を投げ返した。すると3人の忍が現れた。
『何者だ?』
昇が叫ぶとその忍の1人が前に出て言った。
『我らは阿修羅の切り込み隊!お主らの命いただく!』
そう言って間合いをとり刀を構えた。
『3人で、俺達にかなうと思っているのか?』
昇が凄みをきかせて言うと、その忍は笑い出した。
『何がおかしい?』
昇はまた、凄みをきかせて言った。
『我らだけと思ったか!!あまいな良く見て見ろ!』
その忍がそう言うと木々の陰から20人あまりの忍が現れた。
『ちっまだ隠れていやがったか…』
凱達は四方に向き背中を合わせた。
『お主ら死んでもらおう!』
そう言うと一斉に斬りかかってきた。
>> 302
『そうか、危なく食べてしまう所だった』
昇は万力丸を袋に戻した。
『ところで、どのぐらい保つのですか?』
凱が尋ねた。
『時間で言ったら半刻ほどじゃ。動けなくなるのも半刻ほどじゃ。だから本当に必要な時以外は使うでないぞ』
猿飛は心配そうに言った。
『おお、準備が出来たようじゃな』
それは茶々丸だった。
『茶々丸も起きた所で紅龍を探しに行こうか!!』
凱がそう言うと茶々丸は匂いを嗅ぎ始めた。
『よし、こっちだ』
茶々丸は鼻高々に歩いて行く。その後を凱達はついて行く。向かっているのは、東の国の方角だった。
『若様に凱殿、歩きながら気の集める修行をしましょう』
『えっ、ただでさえ難しいのにそんな事出来ないよ』
昇は渋い顔をして言った。
『何、簡単ですよ。これを使って歩くのです』
猿飛は木の枝を凱達に渡した。
『猿、なんだよこれ?』
『あははは…これはこうやって使うのです』
猿飛は手のひらに木の枝を立てると凱達に見せた。
『これを倒さないように歩くのです。手に集中した上に歩かないといけない。まさに集中させるのに適した修行なんです』
とりあえず凱達は手のひらに木の枝を立ててみた。
>> 301
茶々丸は笑いながら、近くの木の陰で丸くなって眠った。そんな中、凱は1人瞑想しながら気を高めていた。昇はそれに気づき真似をして瞑想に入った。茶々丸はチラッと見てまた眠った。その頃猿飛は万力丸の材料の最後の仕上げに入っていた。ただ、一口大に丸めるだけなんだが、まるでママゴトの泥団子のようだった。
『よし、これで出来たわい。後はこれを入れたら終わりじゃ』
猿飛は出来上がった万力丸を2つの袋に入れると瞑想をしている凱達の所に近づいて声をかけた。
『猿飛さん、出来たんですか?』
凱は目を開けそう言った。しかし、昇はじっと瞑想を続けていたと思ったが寝ていた。猿飛と凱はポカンと呆れて見ていた。
『…ん?どうした、何をしているんだ?』
昇は寝とぼけた感じで言った。
『お前瞑想していたんじゃないのか?』
『あははは…つい寝てしまった』
『何をやっているんだか』
すると猿飛が2人に万力丸の入った袋を渡した。
『これが、万力丸か…』
昇が袋から万力丸を取り出した。
『おいおい、今食べたらいかんぞ。それはいざという時に食べるんじゃ。即効性はあるが効き目がなくなったら、かなりの疲労感を感じるからな』
>> 300
『これは"万力丸"の材料じゃ。これでお二人も万人の力を得られますわい』
猿飛は嬉しそうに言った。
『万力丸って?』
『体力を増す事が出来る特効薬じゃ。いつか役に立つ時が来るわい』
猿飛はそう言って座り込むと作業を始めた。その待つ間、凱達は気の修行をし始めた。気の修行で最初の事よりかなり上手くはなってきていた。
『凱、こんなんでどうだ?』
昇は凱に手のひらの上で葉っぱをクルクル回して見せた。
『大分上手く操れるようになったようじゃな』
茶々丸が2人の横に座り眺めながら言った。
『俺様にかかれば、こんなもん簡単だ』
『調子こくな。お主ではこんな事は出来ぬだろう?』
茶々丸は近くにあった拳ぐらいの石を目の前から凄い勢いで飛ばした。
『昇どうだ?やってみろ?まだお主じゃ無理だろうけどな』
『何っ!見ていろ俺だってやれば出来る』
昇は茶々丸の挑発にのり目の前の石を必死に睨んだ。微かではあるが、石が動いた。昇はぜぇぜぇと息を吐きながら茶々丸を見た。
『どうだ茶々丸、動いただろう?』
『あははは…それで動いたとは言わんが、まあ1日でそこまで出来るようになったのは褒めてやるわ。精進せい』
>> 299
『おい、凱起きろ』
昇が凱を叩き起こした。
『お前にしては珍しいな。俺より後に起きるなんてな』
『すまない。…あれ、猿飛さんは?それに茶々丸さんも…』
『ああ、何か探しに行ったよ』
『何かって?』
『知らないよ。ちょっと行ってくるって言ってどこかに行ったよ。それよりもお前、茶々丸の事さん付けするのやめたら。犬だから呼び捨てで良いんだよ』
『いや、犬とは言え俺には尊敬出来る犬だ。飼い犬みたいには出来ない』
『凱、そう言う所は律儀だよな』
凱達がそう話していると横から声がした。
『バカたれ、凱の方が正しい』
声の方を見ると茶々丸達が立っていた。
『何!このバカ犬が!』
『貴様~!またこの儂をバカにしたな~!』
『止めてください』
凱が中に割って入り止めた。
『しかしな凱よ。このバカが言うように茶々丸で良いぞ。どうもこしょばくての~今からは茶々丸で良いからな』
茶々丸は照れくさそうに言った。その横で昇が殴りかかりそうなのを猿飛が止めていた。
『ところで何を探しに行っていたんですか?』
『これじゃ』
猿飛は袋を差し出した。中には色々な木の実とか薬草などが入っていた。
>> 298
茶々丸が言った。
『昔、聞いた話だから詳しい事まではわからないがな、阿修羅には不思議な妖術があるらしい。人と獣を合わせてしまう獣人の術と言う物じゃ』
『獣人の術…阿修羅は底の知れない者ですね』
『頭の痛い話だな…俺達で対抗出来るのだろうか?』
『………』
凱達は沈黙の中残っているご馳走を食べ始めた。
『そろそろ寝ておいた方が良いな』
凱達は交代をしながら眠った。最初は凱以外の者が眠った。凱は気を集める修行しながら起きていた。
『やはり気を集めるのは難しい。しかしこれがなければ、阿修羅なんて倒せない…』
『凱、慌てるな…』
そう言ったのは茶々丸だった。
『茶々丸さん起きていたんですか?』
『ああ、もともと犬だからな…人より長くは寝ないからな…少しの音に反応して目が覚めてしまう』
『あははは…そうですか』
『お主は、儂の見たところ素質は十分にある。ただ、何か迷いがあるのではないか?』
『迷いですか?わかりません。でも何か今起きている事が夢を見ているようで…』
『なるほどな、お主も寝ておけ。後は儂が代わるから』
凱は眠りについた。朝まで一度も起きる事ない深い眠りだった。
>> 297
凱は松明でその部分を照らした。確かにそこには三日月の紋章が描かれていた。
『これは、間違いなく八雲様の紋章です。それにこの龍は斬撃隊の象徴でした。多分、それを彫られていたのでしょうな』
猿飛はしみじみとその像を見ていた。
『猿飛さん、さっきの話なんですが、あの怪物ってそんなに凄かったんですか?』
猿飛はその恐ろしい姿を思い出したのか、身震いした。凱達は洞窟から出てきて焚き火の前に座った。
『さて、その怪物だがな…その姿は人ではなかったんじゃ。まるで色んな獣をかき集めたような姿だったんじゃ』
『なんだって!』
昇は驚いて後ろに仰け反るようになった。その横で茶々丸はクスクス笑った。昇はそれに気づき殴りかかりそうだった。凱がそれを止め頭を横に振った。
『そうとしか言えない体でな、とにかく大きな体をしておったわ。手裏剣なんて刺さりもしない。刀でも斬れないのじゃ。だから怪物じゃ』
『そりゃ怪物だわ!』
『本当に怪物だな』
『最後には八雲様の一撃で体のほとんどが吹き飛んだが、そんな体でも生きておったわ』
昇はまたそれに驚いて仰け反った。
『それは多分、阿修羅が作り出した物だろうな』
>> 296
その度に八雲様によって守られて来た。猿飛はいつもそんな八雲様の背中を見つめながら戦っていた。確かにその背中に月の紋章があった事を思い出したと言う事だった。
『なるほど、そんな凄い戦いがあったのですね…』
『はい、今は平和になって良かったと思っていたのですが、また阿修羅が攻めて来ているのじゃな』
『まだはっきりはしていませんが…雷鳴様が話では間違いないかと言う事です』
『そうですか…ところでその像はどちらにあるのかな?』
『それなら、洞窟の中に』
『なら一度見てみましょうか。見ればわかると思いますからな』
『ならちょっと行ってみますか』
食事の途中ではあったが凱達3人と1匹は洞窟の中に入って行った。松明を持って照らしながら奥へと進んで行った。しばらく歩くとさっき見た龍の像が見えた。昇は何の像か知らなかった性もあり、見るや否や悲鳴を上げた。凱は昇に近づき肩を叩いた。昇が驚くのも仕方なかった。その龍の像は今にも動き出さんばかりの出来だった。
『これが、その像ですか?』
猿飛が龍の像を見回しながら聞いてきた。
『はい、これがさっき言っていた像です。そこの背中の所に紋章らしき物が有ります』
>> 295
『それは凄い戦いだったのですのじゃ…』
そう言って猿飛は話し出した。猿飛が言うには、阿修羅の大軍は予告もなく攻めて来て女、子供も関係なく殺戮を繰り返していた。手出しが出来ない状態で猿飛達は戸惑っているだけだった。そんな状況を救うべく現れたのが八雲様率いる斬撃隊だった。それに猿飛も参加したのだった。そのとき勢いを増して攻めて来ていた阿修羅の大軍を次から次へと倒していき、阿修羅は後退を余儀なくされた。斬撃隊の活躍は目を見張る物であった。そして北の外れまで追い込み最後の決戦になった。そこにあの怪物が現れたのだった。山のようなその体は上忍である八雲様達でさえかなわなかった。その時、八雲様の持つ刀が光を放った。すると他の国の伝承者達の刀も光を放ちだした。それが八雲様の刀に集まり1つになり草薙の剣が現れた。八雲様はそれによって力を得て、あの怪物に向かって行った。あの怪物は片腕を無くしそして命からがら逃げて言った。もちろん阿修羅の大軍も逃げ帰って言った。そして戦い終わったのだそうだ。その後草薙の剣は元に戻り4つ分かれた。各、継承者の下に戻り今にいたる。その後何度か阿修羅との戦いはあった。
>> 294
猿飛は顎に手をあて空を見上げるような仕草をした。
『凱、それならお前の紋章にもなるな』
昇がそう言うと猿飛が驚いた顔をした。茶々丸も驚いた。
『貴方様が八雲様の御子息でしたか。そう言われれば目元が似てらっしゃる』
『何、お主そうだったのか!だからお主を見て不思議な感覚だったんだ。これでスッキリした』
『お二人は八雲様をご存知なんですか?』
凱は自分の父の事を知りたくて尋ねた。
『知っているも何も八雲が俺を忍犬にした張本人だ』
『そうだったんだ。それにしても品がないけどな』
『何っ!』
茶々丸は昇の腕に噛みついた。昇は叫び声をあげた。それでも茶々丸は噛みついたままだった。
『ところで猿飛さんはどんな関係だったのですか?』
『私はな、一緒にあの怪物を倒しに行った仲間だったんだよ』
『あの怪物?』
近くで茶々丸に噛まれた腕を振り回しながら走っていた昇がピタリと止まった。茶々丸も噛みついたまま猿飛を見た。
『それは、皆さんが探している阿修羅の頭領の朱雀だ』
『阿修羅は昔にも来ていたのですか?』
『はい、そうなんです。あれは35年前の戦いがそれになります』
猿飛はゆっくりとその話をし始めた。
>> 293
『おい、そこの2人!いい加減に止めて静かに食べないか?』
食べ物の奪い合いをしていた昇と茶々丸は同時に凱の顔を見た。
『そうだな。こんなバカはほっといて静かに食べるか』
『誰がバカだって?!』
またもめそうだした。凱が2人の後ろに立ち頭を叩いた。2人は頭を押さえた。
『凱、何するだよ。痛いな~』
『いい加減にしないからだ。せっかくのご馳走が埃をかぶってしまうではないか』
凱は昇にキツく言った。流石に昇と茶々丸は静かになった。
『すまなかった。静かに食べるよ』
焚き火の周りで黙ったまま凱達は食事をすました。
『茶々丸さん、さっきの像の事ですが、ちょっと気になっていた事があって』
『おお、さっきの龍の像の事か?』
『文字の最後辺りに月の紋章のような物があったんです。確か三日月だったと思います』
『月の紋章か?どこかで見た気はするのだが…』
茶々丸は考え込んでしまった。その時、猿飛が何かを思い出したように言った。
『もしかしたら、伝説の忍の八雲様の紋章じゃなかったかの?』
『八雲様の紋章ですか?』
『ああ、前の戦いの時に見た覚えがある。背中に三日月の紋章があったな』
>> 292
『しばし待たれよ。今調理したしますからな』
そう言うと手際よく調理し始めた。その横で昇は気持ち良さそうに寝ていた。
『昇、起きろ』
『あっ凱!腹減りすぎて気が遠くなって…それで…後の記憶がない』
『お主寝ていたのではなかったのか?』
茶々丸がそう言った。
『失礼だな、こんな時に寝る訳ないじゃないか』
昇は寝たまま少し怒った感じに言った。
『お主だから寝ていると思ったのだがな』
茶々丸は笑いながら言った。それを聞いていた凱達も笑った。昇はそんな見ながら怒っているようだが、腹が減りすぎて怒る力も残ってないようだった。
『皆さん、食事が出来ました』
見るとかなりのご馳走が出来ていた。料理の得意な咲に負けないほどだ。倒れていたはずの昇は、いつの間にか起き上がってご馳走をむさぼり喰っていた。
『お主はまるで餓鬼のようだな!こらっそれは儂の分だ』
『うるさい!早い者勝ちじゃ』
昇と茶々丸はご馳走を取り合っていた。
『ああやっていると2人共、無邪気ですな』
『そうですね。まるで餓鬼じゃなくガキですね』
凱と猿飛は2人で笑った。笑われていると知らず昇と茶々丸はまだもめていた。
>> 291
『今は止めておきます。昇も待っていますから』
『そうか、面白そうだったのにな』
凱は出口に向かって歩き出した。先程見た龍の像が見えてきた。後ろから見ても凄い迫力だった。今にも動きだしそうであった。凱を照らした灯りで背中の部分に字が彫られているのを見つけた。
『茶々丸、ここに何か書いてあるみたいなんですが?』
『何っ?』
そう言って茶々丸は凱の肩に飛び乗った。
『本当だな。流石の儂でもちょっと読めないな。言葉は喋れるが字までは読めない』
『そうですか…私もさっぱりわかりません』
『作者の名前か何かではないかな?どんな彫刻にもそんな物が彫ってあるからな』
『そうかもしれませんね。それでは帰りましょう』
『おう!』
茶々丸は凱の肩から飛び降りると昇の待つ洞窟の入り口に向かった。そこには食料を探しに行った猿飛が帰って来ていた。
『おお、猿飛殿戻られておられたのか!ところで何を持って帰られたのじゃ?』
『これですのじゃ』
猿飛が差し出したのは野ウサギだった。近くにはもう一匹と山草やキノコなどがあった。猿飛はこの短時間でそれらを調達して来たのだった。流石としか言いようがなかった。
>> 290
『なんだこれは?』
凱達の目の前には巨大な龍の像があった。
『誰かがここで彫っていたのだろうな。そこらに色んな道具が置いてあるからな』
確かにその龍の像の下には色んな道具が置いてあった。この松明もその者が置いていったのだろう。それにかなり慌てて出て行ったのか、彫刻も途中で道具も散らばって落ちていた。
『誰がこんな物を…』
『わからんな。しかしかなり昔のようだな…』
道具が錆が酷く埃もかなり積もっていた。
『まあ、誰かが彫っていたのだろう。それより水だ。先に急ぐぞ』
茶々丸はよほど喉が渇いているのだろうか、洞窟の奥へと進んで行った。
『おっこの辺りだな。灯りを照らしてみろ!』
凱は前に松明を照らした。すると目の前に水面がキラキラ光っていた。その洞窟の中の水たまりはかなり奥まであるようで、水底が見えるぐらい澄んでいた。茶々丸はそれをゴクゴクと飲んでいる。その横で凱は昇から受け取った水筒に水を汲んでいた。
『この水たまりはどこまで続いているのでしょうね?』
『さあな?どこまで続いているのだろうな?』
茶々丸は奥を見つめた。そして言った。
『あれなら、少し奥に行ってみるか?』
>> 289
『凱は良い奴だな…それに比べて昇お前はなっとらん』
『何が?』
昇はあっけらかんと言った。
『礼儀ってものを知らん!だいたい最近の若者は………』
茶々丸の小言はしばらく続いた。昇はそれを適当に聞いていた。凱の方は困った顔をしながら聞いていた。
『………と言う事だ。わかったか?』
『はいはい…すみませんでした』
昇はちょこんと頭を下げた。茶々丸も言い返す気もなくなったようだった。
『喋り過ぎた。ちょっと水を飲んで来る』
茶々丸は洞窟の奥に入って行こうとした。すると凱が呼び止めた。
『私も一緒に良いですか?』
『ああ、ついて来い』
『昇、ちょっと行ってくる』
『なら俺の分も汲んできてくれ』
昇は竹で作った水筒を凱へ投げた。それを受け取ると凱達は奥へと入って行った。奥に進むと全く先が見えなかった。すると目の前で炎が上がった。凱は一瞬身構えたがそれは茶々丸が忍術でおこした炎だった。
『凱、そこにある木に炎の火を点けろ!』
凱達の前には誰かが置いて行ったのか、松明が落ちていた。凱はそれを拾うと茶々丸がおこした炎に近づけた。すると松明に火がつき辺りがはっきりと見えた。
>> 288
『夜になると寒くなりますからな。火は欠かさないようにしないといけませんな』
『それにしても腹減ったな…何かないかな?』
『若様はお腹がお空きですか!!ならこの猿が調達して参ります』
猿飛はそう言うとどこかに消えた。その間凱達は気を集める修行を始めた。手のひらに葉っぱを乗せると気を集中した。凱の手のひらの葉っぱが微かだが動いた。それを見ていた茶々丸が言った。
『お前ら、まだ出来ぬのか?儂のを見ておれ!』
茶々丸は何かを唱えながら前にある石に気を集中した。すると石がシュンと飛んで行った。
『茶々丸すげー!犬とは思えない!』
『後のは余計じゃ!とにかくな体の中心で気の渦を作るのだ。それを手のひらに持っていく。それを解放した瞬間に気砲として放たれるのだ』
凱達は体の中心に気を集中させた。
『まずは渦を作れ、頭でそれに集中しろ!それを腕に持っていき、一気に放て!!』
すると凱達の持っていた葉っぱが回転しながら空中に飛び上がった。
『やれば出来るじゃないか!しばらくはそれを繰り返しやったら、儂のように何でも飛ばせるようになる』
『わかりました。ありがとうございます』
凱は頭を下げた。
>> 287
『それはですね…口で言うのも難しいですな…とりあえず見て下さい』
猿飛は近くの木の葉っぱは取ると手のひらに乗せた。しばらくするとその葉っぱが微かに動き出し回転をし始めた。そして空中に回転しながら浮かんだ。猿飛は凱達を見るとにっこり笑い、その葉っぱを掴んだ。
『まあこんな感じなんだがわかりましたかな?』
凱達は揃って顔を左右に振った。はっきり言って余計にわからなくなった。
『あれ?わかりませんでしたか…それは困りましたな…』
猿飛は頭をひねって考え込んでしまった。
『猿飛さん、そんなに悩まなくても…なんとか自分達でやってみますから』
凱がそう言って慰めるが猿飛は落ち込んだままだった。
『お主ら、もう良いか急がないと夜になるぞ』
茶々丸が言うように辺りは少しずつ暗くなって来ていた。
『そうだな、急いで今日泊まる場所を探さないといけないな』
凱がそう言うと猿飛が言った。
『ならこの近くに洞窟があったな』
『それならそこにしよう』
凱達は猿飛の案内で洞窟へと向かった。そして洞窟に着く頃には辺りは暗くなっていた。洞窟は広く、泊まるには十分であった。近くで木の枝を拾って焚き火をした。
>> 286
『間違いない。こっちじゃ、ついてまいれ』
茶々丸は鼻高々に進んで行った。凱達は紅龍を探しているのだが、その上、修行もしなければならない。凱達は密かに修行していた。気を一点に集めるものだった。それを茶々丸の後をついて行きながらやっていた。それはいつでも使えるようにする為だった。
『先ほどから気になっていたのですが、お二人は何をなさっておいでか?』
猿飛は凱達が気を一点に集める修行をしている事に気づいたようだった。
『あっこれか?これは気を一点に集める修行だ。なかなか難しいのだよな』
『ほう、それはかなり難しい事をなさっておいでなんですね。例えばこういう事ですかな?』
猿飛は手のひらに集中するとそれを近くの木にぶつけた。するとその手のひらの形の穴がポッカリと開いた。凱達は驚きポカンとそれを見つめた。
『まあこのぐらいでしたら皆さんも出来ますよね』
凱達は顔の前で手を横に振った。猿飛ほどの忍には容易く出来る事みたいだ。今まで肉体の修行はしてきたが、気の修行は初めての2人には簡単に出来る訳がなかった。
『猿飛さん!すごいじゃないですか!!どうすればそんな風に出来るのですか?』
>> 285
『本当にどこに行ったんだ?』
『仕方ない。ほっといて茶々丸を追っかけよう』
凱達はその場を後にした。空は果てしなく青く、なんとも清々しい日であった。茶々丸は里の外れにあるお地蔵さんの横にちょこんと座っていた。
『お前ら遅い。待ちくたびれた。猿飛殿もくたびれて、あそこで寝ているぞ』
お地蔵さんの横にある大きな木の上で寝ていた。
『猿、猿!』
昇が何度か声をかけた。それに気がついたのか、猿飛はびっくりして起きた。しかし木の上だという事を忘れていたのか、そのまま木の上からずり落ちてきた。だが地面ギリギリで身をひるがえし立った。
『あははは…危ない危ない。さて行きましょうか』
『あははは…じゃないよ。どこに行ったのかと思ったら、こんな所で寝ていたのか』
『私は西の国の忍です。他国の墓に参る訳にはいかないと思いまして、ここでお待ちしておりました。気がついたら寝てしまったようで…』
『仕方ないな…さあ行こうか?』
昇はそう言うと皆は歩き出した。
『茶々丸さてどっちに行けば良いか教えてくれ』
『やっと儂の番が来たか!儂の後について来い』
茶々丸は地面と時より吹く風を嗅ぎながら進んで行った。
>> 284
『お主ら人の話を聞いておるのか?"お前は犬だろう"とつまらない事は言うなよ』
凱達が考えて込んでいると茶々丸はそう言ってきた。だが実際に茶々丸は犬…"お前は犬だろう"って事を言うのをぐっとこらえ、出しかけた手を引っ込めた。もお文句言うのもアホらしくなって来たからだった。
『それもあんなつまらない攻撃でやられるとはな…儂も久しぶりに行くから花でも手向けるか…』
茶々丸は道を外れどこへ居なくなった。しばらくするとひょっこりと現れた。口には山で摘んで来たのか花を何本かくわえていた。そしてスタスタと凱達を追い越し前を歩いて行った。いかにも自分の後について来いとばかりである。しばらく裏山の奥に古びた墓と真新しい墓並んであった。その後ろには歴代の長達の墓も並んでいた。
『ここが雷醒の墓じゃ』
凱達は墓の前に座ると拝んだ。知らなかったとは言え助けもらったお礼と今からの事を報告した。茶々丸は採って来た花を置くとスタスタ行ってしまった。
『さて、昇そろそろ行こうか?』
『そうだな。出発しよう。ところで気になったのだが、さっきから猿飛さんいないような…』
辺りを見るが確かに姿が見当たらなかった。
>> 283
『は~は~は~若様、お待ち下さい。は~は~私もお供します』
『猿飛さんは無理しなくても…すでにお疲れようで』
『は~は~何をおっしゃいますか!は~は~今まで若様の事を守れなかった分、これからはお役に立つつもりです。は~は~』
猿飛はずっと息をきらしながら喋っている。そして咳き込んでいる。
『仕方ないな…ならついて来たら良いよ。その前に雷醒様の墓参りに行くからな』
昇は猿飛の背中をさすりながら言った。
『懐かしいのぉ~雷醒は良い奴だったのに、惜しい男を亡くした』
そう言ったのは茶々丸だった。
『茶々丸は雷醒様を知っているのか?』
『当然じゃ!儂は雷醒の面倒を見ておったのだからな!』
『面倒を見ていたって……茶々丸はいくつなんだ?』
『…ん、そんな事は気にするな!それより雷醒の話だがな…里では1、2を争う程の忍だった。親方様も一目置いていた。もしかすると雷鳴よりも優れていたかも知れないな』
凱達は茶々丸の話を聞きながら歩いていた。だが1つ気になった。それは雷醒様の事も雷鳴と呼びすてしている所だった。と言う事はもしかすると茶々丸は雷鳴様よりも年上なのかと言う事だった。
>> 282
『忘れていた。紅龍を追いかける為にこの茶々丸を使え。こ奴なら探せるはずだ。後はこ奴がお主らに従うかだがな』
雷鳴はニヤリと笑いながら去って言った。茶々丸は後ろ足で頭を掻いている。
『本当にこいつで探せるのだろうかな?』
茶々丸の耳がピンと立った。
『ふん!お主らには負けぬは!』
凱達は飛び上がらんばかりに驚いた。なんと犬の茶々丸が喋ったのだ。
『そんなに驚く事ないだろう。忍犬だから喋る事ぐらい出来るわ!』
凱達は手を横に振って同時に言った。
『普通、犬は喋れない!!』
『何っ!…気にするな喋れる事にしておけ』
『………』
『まあ良い。雷鳴様からちゃんと紅龍の匂いは嗅がせてもらっているから心配するな。では、行くぞ!』
『何故お前が仕切るな!』
まるで喜劇のような出会いの3人…いや、2人と1匹の旅は今から始まる。凱達は咲や伝助、雷鳴様達に見送られ裏切り者の紅龍を探す旅に出かけたのだった。
『若様~若様~』
後ろから誰かが叫んで追っかけて来た。まあ正体は分かっているのだが…。
『若様、待って下さい。私を置いて行かないで下さい』
その声の主はやはり猿飛だった。
>> 281
『この秘伝書は?』
『それは忍でも優れた者にしか渡せない物だ。それを会得しているのは、この里では幹部4人衆とこの俺だけだ。お主らなら俺達の後を継げる者と思える。その巻物に恥じぬよう修得するのだ。良いな?』
『分かりました。我々2人、皆様に恥じぬよう修得します』
『それでは、早速修行いたせ!!そして紅龍を見つけだせ』
『はっ!』
凱達はその場を下がった。
『なんかとんでもない事になったな…』
『確かにな…期待してもらうのは嬉しいが、荷が重すぎるよな』
『そうだな…さて、その秘伝書を見て見るか?』
『そうだな』
凱達は秘伝書を読んだ。そこには自然の力を自分の物にする技が書いてあった。
『そう言えば、雷鳴様は自在に雷を起こしていたな』
『それは違うだろ!俺達を怒っていただけだ』
『………』
凱達は大笑いした。寒い冗談だった。
『さて冗談はさておき、鍛錬するには時間がないな…』
『なら紅龍様を探しながらだな』
『とは言うものの、さてどこを探したら良いものか?』
凱達が困っていると再び雷鳴が現れた。足下にはコロコロした犬がいた。そう雷鳴の愛犬茶々丸だった。
>> 280
『それで雷醒様の墓はどちらに?』
昇が考えていたのは雷醒に会うことだった。会うと言ってもすでに亡くなっているから墓参りをしたいと言う事だろう。雷鳴はその思いに気がつき答えた。
『裏山の所にある。今は親方様と一緒に眠っている』
『そうですか、後で行ってみます』
『そうか…雷醒も喜ぶだろう』
『ははっ』
昇は雷鳴に頭を下げた。
『ところでお主らには紅龍の行方を探してもらいたい』
『紅龍様を…』
『奴は操れているにせよ、そうでないにしても親方様を手に掛けたのは間違いない。罪は罪…責任はとってもらう。お主らにはその紅龍の抹殺を命じる』
『でも、紅龍様はかなりの実力者…私共で相手になるでしょうか?』
『はははっ…今のお主らであれば十分に勝てる。それにお主らには妖刀が味方にいるではないか!』
妖刀月黄泉、妖刀土蜘蛛この2つはかなりの力を持つとは思うが、阿修羅の力を得た紅龍が簡単に倒せるとも思えなかった。
『凱、昇、自分を信じるのだ。自分を信じて貫き通せ。ならばその力を十分に発揮出来よう。それとこれも渡しておこう』
そう言って雷鳴は巻物を1つ手渡して来た。それは月影の秘伝書であった。
>> 279
『お主は猿飛か?!儂じゃ正道じゃあ~』
『おお~正道ではないか!!懐かしいのぉ~』
この2人はどうも知り合いであったようだった。2人は立ち上がると抱き合い違う部屋に向かった。
『まあ、あの2人はほっといて…昇、お主の話をしておこうな』
『はい!』
『お主はな西の国の山道近くを体中傷だらけになりながらフラフラ歩いている所を俺の弟の雷醒が見つけたのだ。辺りには誰も居らず、記憶もないから里に連れ帰った』
『雷醒様…?』
『お主らは知らぬのだったな…雷醒は俺の弟だ。その後の戦で死んだのだがな…。敵の矢を受けてしまい手の施しようがなかった…昇…お主を本当に可愛がっていたからな…死ぬ間際までお主の事を心配していた。その後、俺が変わってお主を見る事になったのだが、最後に奴はお主の素性の事を教えてくれた。雷醒は自分で色々調べていたようだった。それで最後にお主が西の国の者である事を聞いたのだ。それ以上の事まではわからなかったようだが…以上だ。それ以外は猿飛殿に聞いたのであろう?』
『はい、全てを聞きました。その後の事は今ので分かりました』
昇はそう言った後、何かを考えている風であった。
>> 278
雷鳴は唇を噛み締めた。
『雷鳴、それは仕方ない事だ。我々とて同じ事、お主が悔やむ事はない』
幹部の長にあたる正道がぽそりと言った。
『そう言っていただくと少しは気が楽です』
雷鳴は落ち着いたのか、強張った顔が少し綻んだ。
『それでこの里は阿修羅に対して対策をとる事にした。お主らにも手伝ってもらう』
凱達は頷いた。
『ところで、お主らがここにいると言う事は、何かあったのではないのか?』
『あっそうでした。実は東の時村様から土蜘蛛を頂戴しました』
『ほう…時村様は宝の土蜘蛛を…それでどうしたんだ』
『実はその土蜘蛛が昇を選んだのです』
雷鳴はハッとした顔をした。何かを知っているのだろうか?
『凱の事は以前話したが、昇についてはまだだったな…』
やはり隠していたようであった。
『いずれわかるとは思っていたのだが…確かに昇お主は西の国の者だ』
『やはりそうだったんですね。それで偶然なんですが1人紹介したい人がいます』
『ほう…それはどちらにおられる?』
凱は部屋を出て猿飛を呼んだ。猿飛は雷鳴達の前に現れて座った。
『私は猿飛と申します』
正道が猿飛を見て何か気がついたようだった。
>> 277
『おお…待ちわびたぞ。こちらに来い』
『遅くなりました』
凱達は雷鳴の座る所に座った。すると雷鳴が重々しく話出した。
『お前達…ここであった事はわかっているな?』
『はい!』
鉄馬が雷鳴に化けていた事だ。
『今、全ての国は正体不明の存在、阿修羅に狙われている。すでに何人かは操られいるようでもある。これは一大事である事は間違いない。すでに紅龍は奴らの配下となり親方様までも手に掛けていた』
『なんですって?!』
凱達は驚いた。親方様が殺されていたなんて…。
『親方様の遺体が裏山で見つかった。それはかなり前に殺されていたようだ。腐食が酷かったからな。里の者にはまだその事は言っていない。お主らもまだ他の者には言うな。わかったな』
『それなら私が話していた親方様は誰だったのですか?』
『多分、阿修羅ではないかと思う。今は紅龍も里から姿を消している。この事から紅龍も阿修羅に操られているのは間違いない』
『ならば、時村様の暗殺を命令したのも阿修羅と言う訳ですか?』
『ああ…そういう事になる。俺も納得いかなかったのだが…あの時に気がついていたなら…その事が悔やまれてならん』
>> 276
伝助は息を切らしながら言った。
『どうしたんだ?』
『どうしたんだって…お前らが急に居なくなるからさ…何かあったかと思ってな』
『大丈夫だ。この通りピンピンしているよ』
『それなら良かった。ところで雷鳴様がお呼びだぞ』
『何っ雷鳴様は無事だったのか?』
『…ん?どう言う意味だ?』
『わからないなら良いよ。さあ、行こうか!』
『なんか気になるな…』
そう話ながら凱達は雷鳴の下に向かった。
『ところで、その人はどこのどなたなんだ?』
伝助は猿飛を見ながら不思議そうな顔している。
『この人は猿飛さんだ。西の街でお世話になった人だ。こっちにたまたま来たので話をしていた』
猿飛は驚きはしたが昇の話に乗っかって挨拶をした。
『猿飛じゃ!よろしくな』
『そうか、伝助だ。よろしく』
里に着くと辺りを警戒した。まだ鉄馬が潜んでいる可能性もあるからだ。一通り調べたが、何も無さそうなので、雷鳴の部屋に向かう事にした。猿飛には伝助としばらく外に居てもらう事にしてもらった。そして雷鳴の部屋に入るとそこには雷鳴と数人の幹部が座っていた。何か難しい顔をしていた。
>> 275
『いや、そんな事はないよ。そのおかげでコイツらとも会えたしな…強くなれたと思うよ。猿飛さん』
『若様、そう言っていただけると嬉しゅうございます。それと昔のように猿とお呼び下さい。……とは言っても記憶が無かったのですよね…』
『おいおい…またそんな顔して…猿笑えよ』
『若様、今なんと…』
『えっ、笑えって…』
『いえいえ、その前でございまする』
『猿か?』
『そうでございます。猿とお呼び下さいました。猿は猿は…本当に嬉しゅうございます』
『おいおい…』
凱達はそんな猿飛を見てどうして良いか分からなくなった。それを越えてしまうと笑ってしまった。そしていつの間にか、みんな大声で笑っていた。
『あっそんな事より里は大丈夫なんだろうか?』
『そう言えば本物の雷鳴様も探さなくてはならないな…』
『それならば私もお手伝いさして下さい』
『それなら行こうか!』
凱達は寺を出て里の方に向かった。里に向かう道を降りて行くと誰かが叫んでいるのが聞こえて来た。それはさっき起こした伝助が凱達を探して、里の中を叫んでいたのだった。
『おい、伝助どうした?』
『こんな所に居たのか!探したぞ!』
>> 274
凱達はなんとなく猿飛の言いたい事が分かった。
『確かに痣だと似たよう者がおりました。しかし、土蜘蛛が貴方を選んだ瞬間に若様に間違いないと分かったのです。それに一通り素性も調べさせてもらいました。間違いなく貴方が若様なのです』
『なるほど…俺が若様ねぇ~。なんかピンと来ないな』
昇は頭を掻きながら言った。凱もそれを聞いて頷いた。
『それはそうと何故、俺は捨てられていたんだ?』
『滅相もございません。捨てるなんて!あれは事故なんですよ…』
『事故?』
『はい、事故なんです。あの当時はまだ戦火の最中でした。私は若様を護衛していたのですが、山道の途中で敵に襲われまして不意にも矢を受けてしまい崖の下に落ちてしまいました。その時、若様も一緒に落ちたのですが、私が目を覚ました時には若様がどこにもおられなかったのです。それから方々を探したのですが見つからなくて今に至るのです』
『そうか…俺はてっきり捨てられたのだと思っていた。雷鳴様に拾われる前の記憶が全くなかったからな…』
『申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに若様にご苦労かけさせてしまって…』
猿飛は本当に申し訳なさそうにしていた。
>> 273
凱達の疑問は当たり前だった。それを聞いた猿飛は笑いながら答えた。
『それには訳があるのだ。元々、土蜘蛛は草薙の剣の一部なのはお主らも知っておろう』
『ああ…その事は知っている。4つの国に分けられた事もな』
『そう4つの国に分けられた。だが、一つ一つの力があまりに大きすぎた。選ばれた者が使うととんでもない力が現れてしまう。下手をしたら国一つが吹き飛んでしまい兼ねなかった。それで考えられたのが交換する事だった。東と西、そして北と南で交換して守った。それで東の土蜘蛛は西の物だから貴方が若様と言う訳になる訳だ』
『なんかややこしいが、俺が陽炎の若様なんだな』
『まあ、そういう事だ。だがその前から貴方が若様だとはわかっておりました』
凱達は顔を見合わせて言った。
『じゃあ、今までの話は何だったんだよ』
『まあまあ、そう焦らないで下さい。今から教えますから…』
凱達は呆れた顔をした。猿飛は笑っている。
『実は若様には痣が有るのです。左のおでこの所に星のような形した痣がね』
昇のおでこには確かに星の形をした痣があった。
『だが、それだけでは本当に若様なのかが、わからなったのです』
>> 272
『お前はさっきの…』
『若様ご無事で良かった』
やはり凱達のどちらかに言っているようだった。
『改めて私の名は猿飛と言います。ずっと若様を探していました。まさかこんなに立派なられているとは…』
猿飛は少し涙ぐみながら話していた。そして近づいて来た。
『若様、本当に大きくなられた』
『なあ~さっきから若様若様と言っているが誰の事だよ?』
昇は痺れを切らせて猿飛に尋ねた。猿飛は笑いながら言った。
『あははは…それは申し訳ない。会えた喜びで肝心な本人が気がついておられない事に気がつきませんでした。貴方ですよ』
そう言って猿飛は昇の肩を掴んだ。凱達は驚いた。それはそうだ。昇がどこかの若様だったのだ。
『凱…俺が若様だって…』
『そうみたいだな』
凱達の様子見て猿飛が話し出した。
『貴方が間違いなく、西の陽炎の若様なんです』
『陽炎の若様…俺が…』
『そうです。その証拠に貴方は土蜘蛛を持たれている』
昇は土蜘蛛を見た。
『確かに土蜘蛛が昇を選んで受け取った。それが何故、西の若様となるんだ?実際、これは東の国の物ではないか…それが何故に?』
>> 271
その猿飛は忍者特有の刀の持ち方をしていた。刃を後ろに向け走りながら斬るのに適している構えだった。鉄馬睨み合っていた。
『若様!ここは私に任せてお逃げ下さい!!』
どう見ても凱達を見て言っていた。凱達は見合って猿飛の言う通りにその場から逃れた。
『待て!!』
猿飛が鉄馬を遮る。
『お主の相手はこの儂だ』
猿飛は鉄馬に斬りかかった。2人の刀がぶつかり合い火花が散る。
『お主は猿飛ではないか。何故、ここに居るんだ?』
『鉄馬よ、儂はずっと若様を探しておったのじゃ。街で偶然に大きくなった若様を見つけたのじゃ。儂が居る限りお主には殺させはせぬ』
そう言うと鉄馬の足元に煙玉を投げつけた。辺りが煙で見えなくなった。その隙を見て猿飛は姿を消した。
『畜生!!こんな物で逃がしてしまうとは…』
鉄馬は悔しがりながらその場から消えた。その頃、凱達は里の近くの寺の近くに居た。
『ふう~ここまで来たらしばらくは大丈夫だろう。ところでさっきの猿飛とは何者何だろうな?』
『そうだな…俺達のどちらかに若様と言っていたな…』
2人は寺の前に座り込んだ。するとそこに何者かが現れた。それは先程の猿飛であった。
>> 270
『なるほど、鉄馬が東の国にか…それでその東の国の宝とはどんな物なんだ』
『はい、以前の草薙の剣に出てきた土蜘蛛なんです』
凱は昇を見た。昇は腰にある土蜘蛛を取り出し雷鳴に見せた。
『これが本当の土蜘蛛か…ふふふ』
雷鳴が突然、笑いながら立ち上がった。
『愚かだなお主ら!』
『あっ!!もしやお前は!!』
凱達は油断していた。そこに居たのは雷鳴ではなかった。バッと翻るとそこに現れたのは鉄馬だった。
『あの時、奪った土蜘蛛が本物でない事に気がつかないとでも思ったか?すぐにわかって先回りしてお前達の帰りを待たせて貰った』
『貴様!!』
凱達は鉄馬に襲いかかった。鉄馬は腰の月光を抜き横に振った。凱達を風圧が襲い壁に飛ばされた。
『お主らでは俺には勝てぬ。この土蜘蛛は貰って行くぞ』
鉄馬がそう言って立ち去ろうとした瞬間、何かが鉄馬に襲いかかった。その弾みで土蜘蛛が昇のもとに転がって来た。いや自分の意志で戻ってきた。昇はそれを取ると構えた。
『若様、ご無事ですか?この猿飛が来たからにはもう大丈夫です』
凱達は突然の事に何が起こったのか、理解出来ないでいた。
>> 269
奥に親方様の部屋の前に来た。やはり中からは何も聞こえて来ない。凱達が覗くと部屋に誰かが倒れていた。
『雷鳴様じゃないか、大丈夫ですか?』
倒れていたのは雷鳴だった。近寄り揺さぶってみる。息はしているので生きてはいる。凱は雷鳴を抱き起こして、顔を軽く叩いた。
『うう…お前達…俺はいったい…』
まだ意識がはっきりしてないのか、状況を飲み込めていないようだった。
『雷鳴様しっかりして下さい』
『まだクラクラする…確か…俺は親方様と話をしにここまで来た。そして親方様の前に来て話をしていた。その時に何かが聞こえたような…その後からの記憶がなくなって…俺は眠らされたようだな…』
『確か、伝助も同じ事を言っていたな』
『ああ、確かにそんな事言っていたな。そうかわかったぞ。それでこの屋敷は静まり返っていたんだ』
『あっそう言う事か!!だから静かなんだ』
雷鳴は頭を抱えながら起き上がるとそこに座り直した。
『やはり奴らがすでに色々な所に出回っているようだ。ところでお前達は何故ここに居る?東の国に居るはずだろう?』
『実は……』
凱は東の国であった事を話し、そして帰って来た理由を言った。
>> 268
『お前、紅龍様に眠らされたな!』
『くそっなんてこった。この俺様が眠らされるとは…』
『お前が紅龍様に叶うわけなかろう』
『何を!!』
伝助が昇に掴みかかろうとすると凱が間に割り込んだ。
『おいおい、2人共止めろ!!』
まだ伝助が手と足をバタつかせわめいていた。
『伝助!!いい加減にしろっ!!』
そう言うと凱は伝助を庭に投げ飛ばした。お尻を強く打ったのか、お尻をさすりながら立ち上がった。
『そんな事より、雷鳴様はどちらに居られる?』
『確か、帰って来られて親方様の所に向かわれたが…その後はわからないな』
『そりゃそうだ。寝ていたのだからな』
昇がまたからかった。
『昇、てめぇーっ!』
伝助が昇をまた殴ろうとした。
『止めろ!!』
凱の一喝に昇と伝助は押し黙った。
『お前らいい加減しろ!今がどんな時なのか、わからないのか?』
『凱すまん』
『俺もふざけ過ぎた。伝助すまない』
『いや、俺もムキになり過ぎた』
凱は2人を見て言った。
『とりあえず親方様の所に行ってみよう』
屋敷の中を親方様の所まで向かった。やはり屋敷の中は静まり返っていた。
>> 267
『もう昇たらっ』
『咲は本当に心配性だな』
昇と咲は凱の目の前で追いかけっこをしている。それを見ながら凱が言った。
『ところで、雷鳴様は戻られていると思うのだがどちらに居られるかな?』
凱は里の中を見渡しながら咲に尋ねた。
『多分、屋敷に居ると思うけど…』
『そうか、ありがとう。咲、すまないが話は後で話す。今は雷鳴様に会わないといけないんだ。昇、早く行こう』
『凱…昇…』
凱達は咲を残し雷鳴の居る屋敷に向かった。屋敷は静まり返っていた。本当に居るのだろうかと思うぐらいだった。屋敷に上がると伝助が障子の前に刀を抱いて寝ていた。
『おい、伝助!?』
伝助はその声に驚き刀を抜こうとした。
『馬鹿、何寝ぼけていやがる。俺達だよ』
伝助は驚いた顔をした。
『凱に昇じゃないか!何やっているんだよ』
『馬鹿か、お前こそそんな所で何寝ているんだよ』
伝助はまだ寝ぼけているのか、状況を飲み込めていないようだった。
『確か、紅龍様を見張っていたのだが、何かが聴こえて来て…それでウトウトして…う~ん後は記憶にないな…』
凱と昇は顔を見合わせた。そして笑いながら言った。
>> 266
『雷鳴様の話ではそう言う事だな。それがどうしたんだ?』
昇は何か考えながら言った。
『憶測なんだが、俺とお前は何か関係あるのではないかな?』
凱は昇の言いたい事がわからなかった。
『だからどういう事だよ?』
『草薙の剣を4つに分けて各国に渡したのだよな。それで扱えるのは選ばれた者だけなんだから、お前も俺もそれに関わる者の末裔になるのではないかと思ってな』
昇の言っている事は確かに当たっている。ならば昇も4つの国に関係しているのかもしれない。
『なるほど、昇もたまにはすごい事が言えるようになったのだな』
からかうように凱が言うと昇は膨れっ面をした。
『馬鹿にしやがって』
『あははは…すまんすまん。とにかく雷鳴様が何か知っているかもしれないから先を急ごう』
『ああ、そうだな』
そうこうしている内に凱達は里に着いた。里はいつもと変わらぬ様子だった。
『凱、昇無事だったのね』
そう言って現れたのは咲だった。
『よう咲!』
『何かあったのか?』
昇は咲に近づいて言った。
『そうじゃないけど、心配で…』
『俺達は殺されても死にはしないよ』
昇は笑って言った。
>> 265
妙斬は凱達の背中を見つめながら、時村に言った。
『時村様、あの者達はお父上である利蔵様を暗殺した忍ではないですか…何故に信用なさるのですか?』
時村は妙斬を見つめ微笑みながら言った。
『あの者達の目を見たら分かる。真っ直ぐな目をした若者だ。妙斬、お前には分からなかったか?』
妙斬は悔しそうにした。
『でも、私には理解出来ません』
『お主が理解出来ぬとも私はあの者達がこの救ってくれる気がする。いずれ分かるだろう』
妙斬はそれ以上は何も言わなかった。その頃、凱達は里に向かっていた。
『凱、この土蜘蛛を俺が本当に持っていて良いのかな?』
『あははは…それは土蜘蛛の意志でお前に行った訳だからな。後はお前が扱えるかどうかだな…』
昇はまだ納得いかないのか悩んでいた。
『昇、その訳を雷鳴様に尋ねようと思ってね。だから一度里に帰る事を決めた』
『雷鳴様なら何かを知っているかもな』
昇は土蜘蛛を腰に収めた。そして凱達は足を早めた。
『やはり、間違いない。あの者が若様だな…』
それを追う1人の男には気がついていなかった。
『凱、お前の月黄泉と俺の土蜘蛛は草薙の剣の一部だよな?』
>> 264
『はい、私共でしたら対抗する事は可能かと思います。後はこの城の者を集め策を練れば問題ないかと思いますが』
妙斬はチラッと凱達を見た。凱はその視線にドキッとした。余りに鋭すぎる視線は今まで感じた事のないものだった。
『この者達は?』
『北の月影だ。代を守る為にここに来ている』
『このような者が居なくとも、私共が居れば十分ございましょう。早々に帰って頂いてもらいましょう』
妙斬は再び、凱達を睨みつけた。意味のない嫉妬だろうか、変に凱達を敵視している。
『妙斬よ、まあそう言うでない。この者達は一度ならずとも代を助けてくれておる』
『しかしながらこの者達など居なくても…』
妙斬は必要以上にそう言って来た。時村も少し呆れた顔をしていた。そこに凱が割り込み言った。
『時村様、私共は一度里に帰り確認したい事もあります。ここは妙斬殿に任せたいのですが…』
『お主がそう言うならそれでもよいが…』
時村は出来れば居て欲しいようではあった。別に妙斬の力を信じていない訳ではないが、凱達にも居て欲しかったのだ。
『それでは妙斬殿、後は頼みます』
そう言うと凱達は里を目指した。
>> 263
すると2つの土蜘蛛が1つの真の土蜘蛛に変貌した。その土蜘蛛が宙に浮かび、何故か昇の手元に飛んだ。昇はそれを掴んだ。そして凱を見た。
『何故、俺の所に来るんだ?』
『さあ?』
時村が閃いたように言った。
『昔、父上が言っていたのだが、物は人を選ぶと…だから、土蜘蛛も持ち主を選んだのだろう』
『でも、何故に私なんでしょう?』
『それは土蜘蛛に聞いてくれ。あははは…』
そう言うと蔵を出て行った。凱達も後を追った。そして時村の部屋に着くとまた話をし始めた。
『ところで、さっきの話だがこれからも待つだけで良いのか?奴は意図も簡単にこの城に入り込んだ。よって守りの強化をしないといけないと思うのだが…』
『そうですね。もっと優れた者を増やさないといけないかと思います』
急に部屋の外が騒がしくなった。そしてそこに1人の男が家来達を押しのけ入って来た。そして時村の前に跪いた。
『殿、只今の件、この妙斬にお任せくださいませんか?』
『おお、妙斬か…お主が居たな!』
妙斬とは明光寺の僧侶であった。東の国は忍はいないが、武術に長けている僧侶の集団が居たのであった。妙斬はその中心人物であった。
>> 262
『待て!!』
凱達は追っかけて飛び出したが、もうそこには姿は無かった。
『畜生!!逃げられたか』
時村は立ち上がりながら言った。
『まあ良い。あんな物いくらでもやるは…』
凱達はキョトンとした。時村はニヤリと笑うとまた奥の方へ歩いて行った。またそこから木箱を出した。
『これが本当の土蜘蛛だ。さっきのはこんな事もあるだろうと作った偽物だ』
時村は木箱を開けると中にある土蜘蛛を見せた。先ほどとは違い、まるで動きだしそうな見事な彫刻が施されていた。
『時村様、驚かさないでください。だが、無事で良かった』
『すまぬ、昔から言うではないか、騙すなら味方からと…あははは…』
凱達もつられて笑った。すると時村が真面目な顔をして言った。
『お主達に頼みがある。これを貰ってくれないか?多分、凱がこれを持つべき者だと思う』
『それはこの国の宝、私が貰う訳にはいきません』
『凱よ。お主が嫌でもこの土蜘蛛はいずれお主の下へ行くだろう。それが早いか遅いかの違いだ。だから今受け取っても一緒であろう?』
凱は悩んだが時村の持つ土蜘蛛を受け取った。すると月黄泉が共鳴し始めた。
>> 261
確かに柄の所に彫刻が施されていた。そう土蜘蛛が描かれていた。
『これは代々、伝わって来た物だ。家来の誰にも見せた事がない。お主達が初めてだ』
背後に気配がした。凱は後ろ振り向き手裏剣を投げた。手裏剣を呆気なく払い飛ばされた。
『何者だ?』
光を背に向けて見えない顔が少しずつ見えてきた。
『お前は…』
そこに現れたのは鉄馬だった。
『ほほう、そんな所に会ったのか…お主達を追いかけここまで来て幸いだったな。探す手間が省けた』
『何っお前には渡さない』
『また、やると言うのか?私もそんなに暇じゃなくてね』
そう言うと何かを床に投げつけた。すると煙が部屋に立ち込めた。鉄馬は煙り玉を投げたのだった。
『時村様、気をつけて!』
と言うのが早いかどうかの瞬間に時村のうめき声がした。煙ではっきりしない。凱は時村に近づくと、床に人影があった。煙を払いながら見ると時村だった。やっと煙も晴れてはっきり見えた。先ほどまで持っていた木箱がない。
『しまった!』
入口の方を見ると木箱を持った鉄馬がいた。そして不敵に笑うと言った。
『これは頂いて行く。また会おう』
そう言うと姿を消した。
>> 260
『後、どうしたら良いかな?』
『後は待つだけです』
『ほう、後は待つだけか。それは面白い。あははは…』
時村はデンと座り、凱達を見ていた。何かに気がついたのか凱に尋ねた。
『お主の持っている刀は素晴らしい。それは何と言う刀だ?』
『はい、これは月黄泉と言います』
『そうか、それと似た物が、我が城にもあるのだが…』
『似た物がこの城に?』
『我が家に伝わる物で、土蜘蛛と言う2つで1つの短刀がある。そうだ見せてしんぜよう。こちらに参られ』
凱達は驚いた。以前聞いた、草薙の剣になる為の1つであった。時村は立つと城の奥に蔵に連れて行った。蔵はその辺りの民家よりも大きかった。
『なんだ。この蔵の大きさは』
昇が驚いている中、時村は錠前を開けて蔵の扉を開いた。中には古い書物や坪、甲冑などが置かれてあった。微かではあるが、凱の月黄泉が震えていた。時村は奥まで行くと1つの木箱を出して来た。
『これだ。その広い所で開けて見せよう』
蔵の広くなった所に木箱を奥と紐を解いた。そして蓋を持ち上げるとそこには蜘蛛の形をした、2つ短刀が現れた。
『どうだ…似ておろう?』
凱はそれを覗き込んだ。
>> 259
凱は雷鳴からの手紙の事を思い出し開いた。そこには阿修羅の事が書かれていた。
《阿修羅とは北の遙か彼方に存在する島に存在する忍で、それ以外は謎となっている。それが今動き出した。彼らは操る力を持ち、西の国を既に操っている。その中の鉄馬は、昔その里に入り今にいたる。まずは東と南の国に北の国を襲わせる魂胆になっていたようだ。既に、紅龍は操られていると思われる。ここはまず、東の国と手を組まない事には阿修羅を倒せないと思う。後はお前達に任せる。私は親方様を救う。後は任せたぞ》
と言うような事が書かれてあった。
『ならばやはり、お主達に任せるしかないと言う事だな』
『はい時村様、私達に任せて下さい。必ずなんとかいたします』
『その言葉頼もしいなあ。期待しておるぞ』
時村はそう言った。凱達は頭を下げた。
『さて、今からどうしたら良い?』
『そうですね。とりあえず城を守る為に兵を集めて下さい』
『おっ、それは気がつかなった。では早速…』
時村は家来の1人を呼び耳打ちをした。家来は軽く頭を下げると部屋を出て行った。時村は満足そうに凱達を見た。
>> 258
『月影が護衛だと?』
門番達は見合わせながら不思議そうな顔をしていた。その騒ぎを聞きつけたのか、1人の家来が走って来た。
『その者達を通せ。時村様がお待ちだ』
門番達は槍をどかすと軽く会釈をした。
『お二方こちらへ』
家来に付いて城の中に入って行った。城の中は静まり返っていた。そして時村の居る部屋へと通された。
『おお、待ちかねたぞ。無事でなによりだ』
時村はそんな風に明るく凱達を出迎えた。
『ところで、あの者達はどうなったんだ?』
『すみません。逃げられました』
凱達は申し訳なさそうに言った。しかし、時村は笑顔で言った。
『逃げられたか、仕方あるまい。かなりの腕の持ち主のようだったからな…やはりあの者達は阿修羅だったのか?』
『いえ、あの者達は西の国の忍、陽炎です。多分、あの者達は阿修羅に操られているのかもしれません』
凱の話に時村はしばらく考え込んだ。
『ならば、あの者達も本来は敵ではないと言う事だな?』
凱は意外な言葉に困惑した。確かに時村の言っている事は間違いではないが、陽炎が阿修羅と手を組んでいる事も考えられる。凱は返答に困った。
>> 257
『くっ、なかなかやるな。だがそれは月黄泉の力のおかげだ。お主の力ではない』
鉄馬はぶつけた所をおさえながら立ち上がった。少しふらつきながら月光を構えた。
『また、遭おう』
そう言うと月光を振った。凄まじい風が吹き、土埃と共に鉄馬の姿は消えたのだった。
『チクショウ!逃げられたか…』
『奴とはまた何処で会う事になるだろう』
『会いたくはないけどな』
昇は渋い顔しながら言った。
『それより東の国に急ごう』
『そうだな急ごう』
凱達は東の国に向かって走り去った。しかし、それを見ている男がいた事を凱達は気付かなかった。東の国は農業が盛んで、発展してきた国であった。凱達が走っていると田畑が一面に広がってきた。
『すごい田畑だな』
『さすが、農業の町だけあるな』
『あれが、時村様のお城かな?』
昇が指差す方には大きなお城があった。周りは堀井で囲まれていて敵からの侵入がしにくいようになっていた。入口の門の所には門番が2人立っていた。凱達が門に近くと持っていた槍を向けた。
『貴様ら何者だ?ここは何人たりとも通さぬ』
門番は凄い形相で言って来た。
『俺達は、月影の忍だ。時村様の護衛に来た』
>> 256
凱は何かに操られるように月黄泉を前に出した。凱達の前に光の壁が出来て、月光から放たれた冷気の刃はことごとく弾き返した。
『何っ!?これも効かぬのか』
鉄馬は苦笑いをした。
『どうやら無駄だったみたいだな。今度はこちらから行くぞ。喰らえ!!』
凱は飛び上がり鉄馬の頭上に月黄泉を振り下ろした。
ガキィン
刀と刀のぶつかる凄い音がした。鉄馬は必死に受け止めている。だが月黄泉の力が勝っている為、膝をついた。凱はさらに押さえつけた。
『ここまでとは…。だが簡単には負けぬぞ』
鉄馬はまた何かを唱えた。その瞬間、凱の体が弾き飛ばされた。
『うわーーーっ!!』
凱は地面に転がった。鉄馬はまだ何かを唱え続けていた。そして月光を構え凱に向かって来た。凱も構えた。するとまた頭の中で月黄泉が語りかけ呪文を唱え出した。それは凱の口から発せられた。唱え出すと月黄泉が金色に輝いた。そして月黄泉を大きく振った。金色の光は鉄馬に向かって行った。それを鉄馬は避けきれずまともに喰らった。
『うわーーーっ!!』
今度は鉄馬が飛ばされて後ろに飛んだ。数回転げ回りながら木にぶつかった。
>> 255
手裏剣が影を捕らえると忍達は石のように固まった。すかさずそこを凱達は忍達を斬った。
『なかなかやるではないか。だが私にはかてない!』
鉄馬はゆっくりと月光を抜いた。月光の周りに白い炎のようなものが覆った。凱の月黄泉の震えが激しくなる。そして何処からか凱に語りかける声がした。
《今こそお前の本当の力を見せるのだ。我を抜くのだ》
それは月黄泉が凱の頭の中に直接語りかけて来たのだった。凱は月黄泉を強く握るとゆっくりと抜いた。刃からは黒い炎が包んでいる。凱と鉄馬は間合いを取りながら、お互いの出方を見ていた。すると鉄馬が先に斬りかかった。白い炎と共に凱に襲いかかった。すかさずそれを凱は月黄泉で受け止めると、凄まじい光と共に鉄馬は弾かれるように後ろに飛んだ。鉄馬は体勢を直すとニヤリとしながら言った。
『それが月黄泉の力か。まだ月光では歯が立たぬか…。だがこれならどうだ!!』
鉄馬はブツブツ何かを唱えると月光を大きく構えた。月光の周りに白い渦ができ、そして鉄馬の体を覆いだした。そして凱達に向かって振った。すると冷気を帯びた風が刃のごとく襲いかかった。
>> 254
『時村様はお下がり下さい』
そう言って凱達は前に飛び出た。鉄馬は不気味に笑っている。そして凱達の方に近づいて来た。
『お主達は、北の月影だな?何故、お主達が時村の元にいる?東の国に牙を剥いたのは確か、月影の忍ではなかったかな?』
『………』
凱達は何も言えなかった。
『まあ良い。ここでまとめて始末してやる』
鉄馬は腰の月光を抜いた。凱は震える月黄泉を握った。
『それはもしかして月黄泉か?何故にお主が?』
鉄馬はニヤリとしながら近づいて来た。凱達は身構えた。
『時村様、早くお逃げ下さい。後は私達がなんとかします』
『わかった。後は頼む』
時村は騎馬隊を引き連れ、その場を去って行った。
『おやおや、余計な事を…まあ良い。時村は後からゆっくりと始末しよう』
鉄馬の気迫は凄ましく近寄り難かった。
『者共かかれ』
そう言うと忍達が一斉に凱達に向かって来た。凱は月黄泉ではなくもう一つの忍刀を抜いて攻撃を受けた。今までの忍とは違いかなりの強者であった。だが、凱達の方が少し上回っていた。
『喰らいやがれ!』
昇は手裏剣を投げた。その忍達がそれを弾く。しかし昇の狙いは影の方だった。
>> 253
『雷鳴様、私達がですか?』
『詳しい事はこれを見てくれ。お前達はとにかく、時村様をお守りするんだ。分かったな』
雷鳴は凱に手紙の巻物を手渡すと頷いた。そして時村に言った。
『必ずこの者達はお役に立てるはずです』
『分かった。お主ら、馬に乗れ』
そう言うと時村達は東の国へと走り出した。凱達は近くの馬に飛び乗った。馬を走らせながら時村が凱達に話しかけた。
『お主達の名前を聞こうか?』
『私は凱と申します。そしてもう一人が』
『昇と申します』
『凱と昇か!なかなか良い名前だな。ところで、今何が起きていると言うのじゃ?』
時村は凱達にそう聞いた。凱はチラッと昇を見て答えた。
『はい、まだ詳しい事はわかりませんが、阿修羅と言われる忍の集団が何かを企てているようなんです』
そして凱は今まであった事を時村に話した。
『確かにお主達が言うように何かが起こっているようだな』
『はい、間違いなく』
間もなく東の国の近くにまで来ていた。すると凱の月黄泉が震えだした。凱は辺りを警戒した。突然、騎馬隊の前に西の国であった、鉄馬が数名の忍を連れて現れた。
>> 252
雷鳴の鋭い目に凱達は固まってしまった。すると騎馬隊の先頭にいた男が馬を下り雷鳴のそばに歩み寄った。
『もう良い分かったから立て。お主の話を聞こうではないか。なあ雷鳴よ』
そう言って雷鳴の肩を叩いて手を差し出した。それに答えるように雷鳴もその手を取り立ち上がった。
『時村様、ありがとうございます』
『それで、どういう事なのか説明して貰おうか』
時村はまだ若いが、しっかりした感じで、体格もがっしりしていた。
『私の調べた限りでは、阿修羅と言われる忍の集団が事を起こしているのは間違いありません。恥ずかしながら我が親方様までも操られているようで、4つの国を仲違いさせ弱った所を攻めいるつもりなんです。もしかすると今、時村様の東の国に攻め込んでいる可能性もあります』
『何、我が国にか?』
『はい、ここは何卒退いては貰えないでしょうか?後は我が月影がなんとかしますので』
『仕方ない。雷鳴よ、お主を信じようではないか。皆の者、国に帰るぞ』
『しばしお待ちを。この者達を時村様にお付けします。この者達は腕が立ちますから』
雷鳴は凱達を指差し言った。
>> 251
凱達は走りを早めた。騎馬隊は東の国の者なんだろうか?それとも、俺達を襲った阿修羅なのだろうか?それはわからない。しかし早くしないと里が危ない。とにかく早く里に帰らないと…。しばらく行くとその騎馬隊らしき集団が見えた。
『あれは、雷鳴様だ。昇、俺達も行くぞ』
雷鳴は騎馬隊の前に憚り、先に行かせまいとしている。
『お待ち下さい、私の話を聞いていただけませんか?』
『うるさい!そこを退けい!退かぬなら、お主とて斬り捨てるぞ』
『今とてつもない何かが動きだそうとしているのです。今あなた方が北の国と戦ったら奴らの思うつぼです。どうかお考え直していただけませんか?』
『何を今更、仕掛けたのはそちらではないか!父の敵はとらせてもらうからな!』
『だから申し上げているではないですか!あれは奴らが仕掛けた罠だと!もし信じて貰えないのであれば、私の首を跳ねてからにして下さい』
雷鳴は騎馬隊の前にデンと腰を下ろし背を向けた。斬るなら斬れと言いたいのだろう。雷鳴の捨て身の説得であった。
『ちょっとお待ち下さい』
そう言って凱達が両者の間に入った。
『凱に昇か、お前らは下がっていろ。これは俺のやり方だ』
>> 250
『それでどうして倒れていたんだ?』
凱が聞くと斗一は答えた。
『それがね。どこかの騎馬隊が通り過ぎましてね。いきなりだったので慌てて避けたのですが、木に頭をぶつけたようで』
また頭を掻きながら笑った。
『騎馬隊?』
『そうなんですよ。凄い数の騎馬隊が東から北に向かって走って行ったんですよ』
『東から北?』
『へい、間違いなく東の国からの道から来ましたからね。それでこの道を北に走り抜けて行ったんでね』
『おいおい、そりゃマズいぞ。昇、北に急ぐぞ!』
『おお、そうだな』
斗一はそんな2人を見てキョトンとしている。
『あんた達はいったい何者なんだい?』
凱はニッコリ笑うと言った。
『俺達は月影の忍さ。斗一さんまたな!』
そう言うとその場から風のように去って行った。
『ふっ、奴らが月影の忍か…まあ良い。いずれまた会えるからな…それまでは…見逃してやろう』
そんな様子を見ている忍がそこに居たとは誰も気付いていなかった。
『凱、騎馬隊が北の国に何の用だろうか?まさか戦になるのか?』
『それはわからないな。北に向っているからもしかすると…』
>> 249
『俺はこの月黄泉を…本当に扱えるのだろうか…』
『凱…お前なら大丈夫だよ。きっと…な…。』
『ああ…』
凱は月黄泉を腰に納めた。
『それじゃそろそろ行きますか』
『ああ行こう』
目指すは西の国の陽炎の里だ。凱達が山道を歩いていると木の陰に何かが倒れていた。
『おい、あれって人じゃないか?』
昇の見つめる先を見ると、確かに人が倒れていた。凱達は近づくと声を掛けた。
『おい、どうした?大丈夫か?』
昇が揺すって起こそとした時に顔が見えた。
『あれっ?こいつって…』
そう西の国に行った時に会った男だった。
『おい、大丈夫か?おいってば』
顔を軽く叩くとその男は目を開けた。男はバッと起きると周りをキョロキョロと見た。
『おい、大丈夫か?』
『私はいったい?あなた方は確か…西の国で会った方ではないですか…何故あなた方がここに?』
『そりゃこっちの台詞だよ。何故こんな所に倒れていたんだ?』
その男は服の汚れを叩きながら立ち上がった。
『まだ名前言ってなかったですね。私は斗一と言います。北の国から来たのですが、西の国の帰りにこんな事になるとは』
斗一は頭を掻きながら笑った。
>> 248
『ぐふっ…この儂が一撃で…だが儂はまだ下っ端…いずれお主は死ぬ事になるのだ…』
左近慈がいき絶え絶えに言った。
『何言っていやがる。今の凱には誰も勝てねぇ~よ』
昇は鼻を指で弾くと言った。だが左近磁は笑いながら言った。
『残念だがそう簡単にはいかないぞ。我が阿修羅に叶うわけがない。お前達は死ぬのだ…』
そう言うと息絶えた。凱達は見合わせた。
『阿修羅だと…噂では聞いた事はあったが、全てが謎で所在さえわかってない。そんな忍が動き出したと言う事か?』
『やはりとんでもない事が起き始めているのだな』
残りの忍が倒れた左近慈を抱き上げるとどこかへ消えてしまった。
『待てぇーっ!!』
『昇、無理だ。間に合わん』
『ちぇっせっかく何か聞き出せると思ったのによ』
『仕方ない。だが一つ分かったじゃないか。阿修羅と言う忍が動き出したと言う事が』
『まあそうだな』
昇は頭の後ろに腕を組みつまらなそうにしていた。だが急に何か思い出したように言った。
『そういえば、その月黄泉凄いな。一振りであれだぜ。まともに使ったらとんでもないな』
『ああ、そうだな』
凱は月黄泉を見つめた。
>> 247
『なかなかやるではないか。しかしこれならどうかな?』
そう言うと左近慈はまた何かを唱え出した。
『受けよ!土遁の術、土斬流!!』
土が川のように流れその中から土の剣が凱達に飛んで行った。いくつかは避けたが、凱達を切り裂いた。
『あははは…どうだ我が術の味は?今度はよけられないぞ』
『調子にのるなよ。お前の術はすでに見切った』
『斬られながら良く言うは!ならばもう一度喰らえ』
そう言うと土の剣が凱達を襲った。すると凱の持つ月黄泉が輝き出し、凱達の前に光の壁が出来た。土の剣は光の壁に当たり消滅した。
『何?』
左近慈は驚いた。凱は月黄泉を見た。すると今なら抜けそうな気がした。そしてゆっくりと月黄泉を抜いた。何もなく抜けたのであった。
『なんだその刀は?』
『お前に教える必要はない』
そう言うと大きく構え左近慈に斬りかかった。左近磁はふわりとよけたが、月黄泉から凄まじい風が放たれた。そして左近慈の体を切り刻み貫いた。
『うわあ~!!』
左近慈は吹き飛ばされ倒れた。
『なんなんだ…この力は…』
凱は改めて月黄泉を見た。月黄泉の周りにはオーラのような物で光っていた。
>> 246
凱達が今まで見たことのない忍であった。
『我らはお主らを抹殺する為に集められた忍。すまないがここで死んでもらう』
その忍達は刀を抜き構えた。それを見て凱達も刀に手を添え構えた。
『お前ら俺達を甘く見るなよ』
昇は手裏剣を忍達に投げた。それを素早く避けると手裏剣を投げ返してきた。
カキン
キーンキーン
凱が手裏剣を刀で叩き落とす。
『お主らはあの方にとって邪魔そのものだ。だからこの世から消えて貰う』
『お前らどうしても戦うと言うのだな?ならば手加減しないぞ』
そう言って凱達は忍達に向かって行った。忍達も向かってくる。だが力の差は歴然だった。あっという間に忍び達の半分が凱達の刀の錆となった。
『うむ…なかなかやるな。だがこの左近慈は簡単には倒せないぞ』
左近慈は何かを唱え出した。地面が少し揺れ始めた。
『喰らえ土遁の術、土岩流!!』
地面が盛り上がると荒れ狂う川のように凱達に向かって行く。凱達は素早く飛び上がりよけた。だが川となった土から弾丸のようになった土が、更に凱達に飛んで行く。すんでのところで何とか交わした。
>> 245
『そうそう、咲は俺達の帰りを飯を作って待っててくれ』
昇がふざけた感じで言った。
『何よもう、昇ったら私はあなた達のお手伝いさんじゃないわよ』
そう言うと咲は膨れっ面をした。
『いや…その…ごめん』
昇が困った顔をすると凱が間に入り言った。
『咲、昇は昇なりにお前の事を励まそうと…』
『分かっているわよ』
咲は舌を出した。
『ワザと怒って見せたのよ』
咲はケラケラ笑い出した。凱達は顔を見合わせた。そして笑い出した。
『ちぇっ、咲にやられたよ』
『でもね、本当に心配しているから、無理はしないで欲しい』
凱は立ち上がると月黄泉を掲げると言った。
『ああ、分かっているさ。この刀に誓ってな』
咲を見てニコリと笑う
『それじゃ、行くとするか?』
『ああ!』
咲が見送る中凱達は里を出た。西の国に行く山1つ越した所で、付けられている気配がしていた。
『昇!誰かが俺達を付けている』
『俺も気づいていたよ』
凱達は見合わせると左右に散った。だがそこには数人の男達が、2人を遮った。
『お主ら月影の忍だな?』
『なんだ貴様らは?』
そこには10人の忍が立っていた。
>> 244
『凱、アナタが言いたいのは、草薙の剣が必要になる事が起きると言いたいのでしょう?』
凱は頷き言った。
『まあ、そう言う事だ。嫌な事が起こりそうでな…』
『そうだな。現に誰かがあのような事を』
『ああ…得体の知らない何かが動き出しているのは間違いない』
凱は顎に手を置き考えていた。それを見た昇が箸をくわえて言った。
『そんな事より早く食べて陽炎に行かないと…』
『ああ…そうだな』
凱は箸を持って食べ始めた。だが昇は既に食べ終わって、楊枝でシーハーシーハー言いいながら腹を鼓のように叩いた。その中、咲は思い詰めた目をして凱達を見ている。そして言った。
『また2人共行くのね』
『ああ、みんなの為だ。そんな悲しい目をするな。俺達は大丈夫だ』
凱は心配しないように思って言った。
『でも…何があるかわからないし…』
咲がそう心配していると昇が言った。
『お前は俺達が死ぬとでも思っているのか?』
『そういう訳じゃないけど…』
咲は困った顔をしている。
『本当に大丈夫だから、心配しないで待っていてくれ』
凱は心配する咲にそう言って心配させないように気を使った。
>> 243
『凱、どうしたの食べないの?』
凱は巻物を見つめた視線を咲に向けて言った。
『いや、俺も少し食べておくよ』
箸を持つと食事を初めた。しかし何かを考えているのか、箸が止まった。
『凱、美味しくなかった?』
『いや、そう言う訳じゃないのだけど…』
『じゃあどうしたっていうの?』
凱達の会話の中、昇の視線は凱達を見ているが、箸は動いたままだった。
『5つに分けたって言っていたよな…』
『草薙の剣の事?確かにそう書いてあったわね。それがどうしたの?』
咲は不思議そうに凱を見つめる。
『俺はその内の2つを持っている事になる?』
『そう言う事になるな』
昇が食べ物を含んだままそう言った。
『なら陽炎で見た月光を合わせると3つだ』
昇が箸を起きお茶を飲むと言った。
『当たり前だ。2つに1つを加えたら3つになるに決まっているじゃないか!凱、何が言いたいのだよ?』
『いやな、既に3つ現れた訳だよ』
昇はイライラして頭をかきむしった。
『畜生!じれったいな。早く言いやがれ』
『そう慌てるな。俺が言いたいのは、巻物に書いてあった"それが現れる"と言う部分が気になってな』
>> 242
『昇、ここを見てみろ月光の事が書いてあるぞ』
昇は巻物を覗き込んだ。
『なんて書いてあるんだ?』
『月光は土蜘蛛と合わさり星黄泉となる。それは正に白い龍のような姿をしている。月黄泉と星黄泉はお互いの力を抑える力を持つ。そして…5つを…。わからないな…?』
『合わせると草薙の剣となる』
凱達は声の方を見ると咲が食事を持って立っていた。
『咲、読めるのか?』
昇がそう聞くと食事を起きながら呆れ顔で言った。
『そりゃあなた達よりは字の勉強しているからね』
『じゃあ、後はなんて書いてあるんだ?』
すると咲は2人を押しのけ巻物を読んだ。
『草薙の剣の力はあまり巨大過ぎた為、5つに分けられた。そして4つの国に1つずつ与えられた。最後の1つは天の力を引き継ぐ者が持つ。それが現れた時にその力は蘇るって書いてあるわね』
『それで終わりか?』
『うん、そこで終わっているね。それより食事持って来たから食べて』
『うひょ~うまそうだ。早速、いただきます』
昇は合掌をすると食べ始めた。そんな中、凱は巻物をまだ見つめていた。咲はそんな凱を見て言った。
>> 241
凱達は小屋に向かった。昇の腹ごしらえの為だ。
『凱、昇!』
2人を呼ぶ声がした。振り返るとそこには咲が立っていた。
『おぉ~咲、良いところに来た。飯を食わしてくれよ。……あれ、お前泣いているのか?』
咲は涙ぐんでいた。
『昇のバカ。私は2人をずっと心配していたんだから…』
それはそうだろう。あの事件以来、凱達は里をほとんど留守にしていた。それにいつ戦になるかわからない中、ずっと待っていたのだからだ、心配しても仕方ない。
『…すまねえ』
昇は咲に謝った。そして凱も言った。
『すまなかった。心配かけたな…。俺達は見ての通り無事だ』
『そんな事じゃないでしょう』
咲は後ろを向いてしまった。その時、昇のお腹がグーと鳴った。咲の体が揺れていた。凱の体も揺れている。
『ぷぷぷ…あははは…こんな時までお前は!咲、すまない飯にしてくれないか?』
『ふふふ…仕方ないわね。すぐに持ってくるから待ってて』
咲はその場を去って行った。凱達は小屋に入り咲を待った。待っている間、さっきの巻物を眺めていた。だがいくら見ても肝心な所はわからなかった。ただ1つ違う事が分かった。
>> 240
『そりゃ参ったな』
『後は雷鳴様が帰ってからにするか?』
『その方が良いかもな。さてどうするかだ。紅龍様を見張ると言ってもな。あのお方は俺達をあまり好まれていない』
『………あっ良いヤツがいるよ!』
昇は凱に耳打ちした。そして部屋を出るとある場所に向かった。
『よっ!』
そこには門の前で見張りをしている伝助がいた。
『どうした、話は終わったのか?』
『ああ、話は終わったよ。ところで伝助お前に頼みがある』
『俺にか?』
『そうお前しか出来ない事だ。それはな…』
昇は伝助に耳打ちした。
『それ本当かよ?分かった。俺様に不可能はない。後で後悔するなよ』
伝助は意気揚々と屋敷に向かった。
『昇、伝助になんて言ったんだ?』
『えっ何簡単な話だよ。奴に紅龍様に触られたら子分になるって言ったのよ』
『あははは…アイツ大丈夫か?紅龍様に殺されるぞ』
『大丈夫!逃げ足だけは、天下一品だからな。それに簡単に触れないしな。後でお仕置きされるかもしれないがな…』
2人は思い切り笑った。
『さて俺達はまた陽炎に向かうか?』
『ああ、そうしよう。だがその前に腹ごしらえだ』
凱は呆れて物が言えなかった。
>> 239
まるで龍のような姿をした月黄泉を凱は見つめた。
『これが月黄泉…』
『まるで黒い龍だな』
昇が言った。
『お前達がそう思うのも仕方がない。まさに月黄泉は龍の剣!龍から生まれたと聞いている。凱、そうだこれも渡しておこう』
雷鳴は巻物を取り出した。
『これも不知火から預かっていた』
凱は受け取ると広げて見てみた。中には月黄泉の事と凱の一族の秘密が書かれてあった。すると雷鳴が立ち上がった。
『俺は今から東の国に行ってくる。そしてなんとか説明して進行を止めてくる。お前達は西の動きと紅龍の動きを見張っておけ。では頼んだぞ』
『はっ』
雷鳴は風のように消えていった。
『凱、なんか凄い事になってきたな』
『ああ、俺もどうして良いかわからなくなってきたよ』
『しかしお前が八雲様の息子で、その継承者だった。そして持っているのがかの有名な残月。さらに円月輪と合わせる事で月黄泉になるとは驚きだよ』
『ここに書いてあるが、龍の力を持っているようだ。それも黒い龍の力をな』
『黒い龍か、凄いな。しかしどんな力なんだろうな?』
『わからん。字が難しくて読めない』
>> 238
『それからしばらくしてからだった、鉄馬が居なくなったのは、友の不知火を殺してしまった自分を許せなかったのだろう。それから今まで誰も鉄馬の行方を知らなかった。いつの間にか帰って来ていたのだな…』
『しかし今の話を聞けば、この残月は使わない方が良いのではないですか?』
『確かにその通りかもしれないな。だがな残月を使うのはお前だ。本当の力がなければその刀は抜けぬ。不知火はまだ未熟すぎたのだ。残月の妖力に支配されてしまったのだ。だが凱、お前は違う。その力を強める為に俺はお前達を厳しく修行して来たのだ。凱わかったな自信を持て、それでお前は残月を自分の物にするのだ。わかったな?』
『はい、わかりました』
『後一つ、その残月はまだ本当の姿ではない。お前が持っている円月輪と合わせる事で月黄泉になるのだ』
『月黄泉?』
『そう八雲様が本来使っていたのがそれなのだ。お前達兄弟に1つずつ与え、力を抑えていたのだ。継承者であるお前なら使えるはずだ。今がその時本当の力を見せてみろ』
『そうなんですね。わかりました』
凱は残月と円月輪を合わせた。凄まじい光を放つとそこに月黄泉が現れた。
>> 237
『不知火は大群の前に立ち、残月をゆっくり抜いた。すると辺りが暗くなり雲に覆われた。そして残月が黒い炎に包まれた。不知火は一度構えそれを振り下ろすと黒い炎が放たれ九首の兵を消し飛ばした。ところがその時不知火の様子がおかしくなったのだ』
『いったいどうなったと言うのですか?』
『不知火は人が変わったように、敵味方関係なく斬り始め、まるで人を殺すのを楽しむようだった。言うまでもないが九首は後退して行った。まだ暴れている不知火を俺達は止めようとしたが、あまりに強大になって不知火を止める事が出来なかった。すると鉄馬が自分の刀の月光を抜いたのだ。止めるにはそれしかなかった。月光は白い炎を放ち、不知火を貫いた。主を失った残月は力を失い炎は消えた。』
『雷鳴様、兄はその後どうなったのですか?』
『死んだよ。だが死ぬ前に不知火が言ったのだ。本当の継承者は自分でなく凱お前だと…そして残月を俺に預けたのだ。お前が扱える年齢になるまでな』
『そうだったのですか…』
凱はうつむいた。
『その後、九首との戦は終わった』
雷鳴は深いため息をついた。
>> 236
凱は始めて聞く話であった。確か九首は海を渡った先にある大きな国であった。海を渡る時、渦に巻き込まれ沈む船が多く、今ではほとんど交流が無いと、そう聞かされていた。しかしそれはもしかして、昔の戦いで交流を避けているのかもしれなかった。
『九首の軍が、南の国に迫って来ていた。俺達四天王は、先陣として敵の中に飛び込んだ。九首の力は巨大ではあった。3万近くの兵を引き連れやって来た。俺達は苦戦を強いられた。斬っても斬っても次から次に兵は迫ってきた。俺達は追い詰められいた。その時、不知火が言った。妖刀残月を使うと。そうお前に渡した残月をだ』
凱は驚いた。残月を使えるのはその直系のみ…と言う事は不知火とはいったい…。その事を雷鳴に尋ねた。
『雷鳴様、不知火と言う方は私と何か関係があるのですか?』
『そう前も言ったが、残月はその一族の直系のみが扱える。不知火はお前の兄だ』
『俺には、兄がいたのか…』
凱は自分の知らない事ばかりであった。不知火の事は全くと言って知らない。その後何があったのだろうか?
『雷鳴様、兄はどうなったのでしょうか?』
雷鳴の顔を見たらなんとなく分かった気がした。
>> 235
雷鳴は凱達の話を聞き終わると腕を組んだ。
『なるほど、陽炎はそんな事を言っていたのか』
『はい、あの御方と言っておりました』
『あの御方か…』
『それ以上は聞き出せませんでした。申し訳ありません』
『相手が相手だからな。しかし鉄馬が帰って来ているとは思わなかったな』
『鉄馬と言う男をご存知なんですか?』
『ああ、昔一緒に戦った男だ』
雷鳴は遠くを見つめるような眼差しで、昔の話をし始めた。
『あれは、俺がお前達より若かった頃、4つの国は争っていなかった。奴とは忍術を磨く為、良く試合をしていた。その頃の俺達は"若き四天王"と呼ばれていて、東の疾風、南の不知火、西の鉄馬、そしてこの俺だ。鉄馬の忍術は俺達の中で群を抜いていた。その中でも奴の剣術は優れていた。何度となく挑んだが一度も勝てなかった。あまりに奴は…鉄馬は強すぎた』
雷鳴はそう言うと悲しそうな眼をした。この話の続きに何があるのだろうか?凱は黙って雷鳴の話を聞いた。
『ある日、4つの国の武将が集まり、南のさらに南にある国、九首が攻めて来るという話があがった。それで里の長達も集められその旨を伝えられた。』
>> 234
追っ手は凱達を見るが、昇の名演技にこちらに全く気づいていなかった。そして横を通り過ぎて行った。
『危なかったな』
『お前の演技のおかげだよ』
『おお、そうか!忍、辞めて芝居小屋に行こうかな?』
『調子こくな』
凱が昇の頭を軽く小突いた。
『痛てぇ~なぁ~』
『あははは…』
緊張がほどけた一瞬であった。
『そろそろ行くか!』
『おう!』
凱達は忍服になると風のように走り去った。空にはまん丸な月が見えていた。
凱達は追っ手から逃げきり、月影の里に帰り着いた。里の中は静まり返っていた。まるで誰もいないようだった。雷鳴の居る屋敷に向かうと、屋敷の前に人影が見えた。凱達は身構えたが、それは伝助だった。
『お前ら帰って来たのか…』
『ああ、今帰った。今日はやけに静かだが何かあったのか?』
『里のほとんどは、例の場所に集まっている』
例の場所とは緊急の時に身を潜める場所だった。
『雷鳴様が中でお待ちだ』
凱達は屋敷の中に入って行った。雷鳴は奥の部屋で待っていた。
『おお、凱、昇、ご苦労だったな。向こうはどうだった?』
『はい、実は…』
凱は西の国の事を話し出した。
>> 233
『まだ追っ手がいる。どこかに入ろう』
『あの飲み屋はどうだ?』
『そうだな』
急いでその店に入ると4、5人の客がいた。
『親父すまない。酒をくれ』
『あいよ』
親父は中に入って行った。しばらくして酒を持って来た。本当に飲む訳では無いが痕跡を残さない為に客に紛れて飲むふりをしていた。
『昇、これ以上は無理だな。様子を見て一旦、里に戻るぞ』
『ああ、そうだな』
凱達は少しだけ酒を口につけた。外の様子を警戒していると気配がすると、1人の男がチラッと中を覗いた。店の中を見渡すとどこかに居なくなった。
『奴らか?』
『多分な…ここもそろそろヤバいな。別の場所に移動しよう』
『わかった。親父、勘定はここに置いておくよ』
『はい、まいどあり』
店の外に出ると酔ったふりをしながら辺りを見渡した。
『おいおい、大丈夫かよ?』
『大丈夫、大丈夫』
昇は酔ったふりしながら町の出口を目指す。すると前から3人の男達が近いて来た。間違いなく追っ手だった。彼らも町に馴染む格好をしているが、殺気だけは常人の物とは違っていた。凱達は素早くそれを見抜いたのだった。
>> 232
“あの御方?”凱と昇は見合った。誰なんだろう?しかしこれで西の国の陽炎が、今までの事をやったのは間違いなかった。突然、凱の刀が震えだした。すると障子が開きあの男が入って来た。
『奴だ』
『ああ…』
凱は震える刀を押さえながら様子を伺った。
『鉄馬様、東の国が動き出しました』
『そうか動いたか…この月光もわかっているのか、震えておるわい。まるで血に飢えた獣のようだ』
鉄馬は月光を見つめていた。チラッと凱達の方を見ると月光を突き刺して来た。凱の顔をかすめた。
『どうされました?』
『ねずみだ』
そこにいた者達が立ち上がった。
『見つかった。逃げるぞ』
そう言うと素早く屋根に出た。下が慌ただしくなった。
『曲者だ。出会え出会え』
凱達はすでに竹林に逃げていた。
スタスタッ
シュンシュン
追っ手をまいて竹林を抜けた。そのまま走り続け町中まで逃げた。素早く服を着替え町人の格好になった。しばらくすると追っ手が現れた。凱達は身を隠し通り過ぎるのを待った。そして追っ手はどこかに行ってしまった。
『まだ追っ手がいる。どこかに入ろう』
『あの飲み屋はどうだ?』
『そうだな』
>> 231
里の中は見張りがいた。至る所に松明が置かれ明るかった。
『どうする?』
『忍び込むには厳しいな…しかし情報得てからじゃないと帰るに帰れないな…』
『一か八か、屋根に飛ぶしかないな』
凱達は意を決して素早く屋根に飛んだ。見張りには気づかれなかった。
『なんとかバレずにすんだな』
昇は頷いた。そして屋根を伝い、変わった刀を持った男の屋敷についた。辺りを伺い瓦をどかし屋根裏に忍び込んだ。息を潜め部屋を探した。微かに話し合う声が聞こえた。
『凱、ここだな』
『ああ…』
天井の一部をこじ開け覗いた。そこには幹部らしき男達が集まっていた。
『東の国が動き出しました。北の国への攻めいるようです。南の国にも仕掛けましたから間もなく動きがあるかと』
『なるほど、それでさっき現れた奴らは何者だ。同じ忍のようだったが?』
『北の月影だと思われます』
『ほう、北の月影か…奴らは我が西を疑っていると言う事か…』
『何故、我らがこのような事をしなければならないのですか?』
『ふっ怖じ気づいたか?戦の世、誰が動いてもおかしくあるまい。あの御方のお達しだ。動かぬ訳にはいかぬだろ』
>> 230
1人の男が昇に襲いかかった。
ガシンッ
ギリギリ
『団子は喰らうが刀は喰らわねぇーよ』
その男を突き飛ばした。離れた瞬間、昇は腰から針型の手裏剣を取り投げた。その男は刀で弾き返した。
『なかなかやるじゃん』
昇はバカにした言い方をした。
『この程度で我らを倒せると思うなよ』
『それはこっちの台詞だ。覚悟しやがれ!忍法、月光影縫い!』
シュシュシュッ
ズバズバズバッ
『ううう…なんだ体が動かない。何をした?』
その男は体が動けなくなった。そう昇の投げた手裏剣によって影を縫い付けられ動けなくなったのだ。この日は満月で夜でも影ができる。月影の忍のみ使える技である。それを使える忍と言う事で月影と呼ばれるようになった。
『残念だったな。これでアンタら明日まで動けないよ』
その頃、凱も同じように影縫いで相手の動きを止めていた。
『凱、大丈夫か?』
『ああ、大丈夫だ。時間を取ってしまった。先を急ぐぞ』
『おう』
凱達は里に向かってまた、竹林を走り抜けた。追っ手は彼らだけだったようだ。周りには気配は無かった。里の近くまで来ると中の様子を伺った。
>> 229
『食った食った…もうこれ以上は食べらんねえ』
『お前の場合食い過ぎだ。普通、腹八分と言うだろうが…』
『何言ってやがる。食える時に食っておかなきゃいつ死ぬかわからないのだから』
『………』
凱は言葉を詰まらせた。忍とはそんな物なのである。いつ死ぬかわからないのであった。昇の言葉は正しいのかもしれない。
『どうしたんだよ?そんな暗い顔をして』
『…ん、何でもない。さあ行くぞ』
『ちょっと待てよ』
凱は昇をほっといて先に歩いて行った。昇は慌てて後ろを追っかけた。辺りは少しずつ暗くなって来た。
『大分暗くなって来たな。そろそろ行って見るか?』
『ああ…』
竹林の中を縫うように走り抜けた。周りに気配がする。多分追っ手だろう。
『凱!?』
『わかっている』
凱達は立ち止まり構えた。竹林の中から手裏剣がいくつも飛んできた。素早くよけ、凱は月型の手裏剣を投げ返した。あっという間に周りの竹が倒れていく。
ドサドサドサッ
バサバサ
そこに3人の忍が現れて言った。
『貴様ら何者?これ以上、里には近寄らせぬぞ』
そう言うと刀を抜き迫って来た。
シュシュシュッ
『喰らえ!』
>> 228
『凱どうする?』
『そうだな…今動いたら気づかれてしまう。やはり夜まで待つしかないな』
『そうだな』
凱の持つ刀の震えは止まらない。グッと握り締めた。
『誰だ?』
その男は凱達の方を見て叫んだ。気づかれてしまった。凱達は里の外に向かって逃げた。里の者達が後を追って来る。争うつもりは元々ない。煙り玉を投げ姿をくらました。
『ふう…ここまで来たら大丈夫だろう』
『危なかったな』
凱は刀を見ると震えはなくなっていた。
『その刀はなんだろうか?』
『雷鳴様は残月だとしか言っていなかったからな。さっきの男の刀と何か関係あるのかもしれない』
『それはそうと腹減らないか?もうこれ以上は動けねぇ』
『あははは、お前はこんな時でも食い気か、緊張感ない奴だな』
『仕方ないだろう。腹減ったんだからよ』
『わかった、わかった。行こう、行こう』
凱達は笑いながら町に向かった。朝寄った団子屋にまた寄った。
『すみません。団子いっぱい持って来て』
『あまり食い過ぎるなよ。まだ夜があるんだから』
『わかって…うむむ…お茶お茶…』
『ほれ、慌てて食べるからだ』
昇は詰まった団子をお茶で流し込んだ。
>> 227
中を伺うと凱達を探しているようだったが、しばらくすると隊長らしき男が合図をすると集まり何か話し合っていた。そして3人が里の外に走り去った。
『凱、どうする?この状況では入るに入れないな』
『ああ、困ったな…』
凱は辺りを見回しながら言った。
『仕方ない夜まで待つしかないな。この地形だと夜の方が侵入しやすいだろうからな』
『そうだな』
凱達は町の方に一旦引く事にした。ところが凱の持っている残月が急に震えだした。雷鳴にもらい持ってはいたが抜こうにも抜けなく、ただ腰に差していただけだった。だが今その残月が震えだしたのだ。
『どうした?』
『シッ…あれを見ろ』
凱が指差した。里の方を見ると髪の長い男が現れた。腕には奇妙な形をした刀を持っていた。
『あの男は…』
『凱、知っているのか?』
『どこかで見たような……わからん、思い出せない』
『なんだよそれ…』
凱はその男を知っているような気がした。頭の中で断片的に映像が浮かぶのだが、はっきりとわからない。喉に骨がひっかかった感じだった。
凱達は息を潜め里の中の様子を見た。微かだが中の声が聞こえてくるがわからない。
>> 226
凱達は刀で弾くと気配のする方に手裏剣を投げ返した。凱の手裏剣は特別で月の型をしていて、ブーメランのように返ってくる。投げた方にある竹を次々と切り倒し手元に返って来た。するとそこに5人の男達が現れた。
『貴様ら月影の者だな?ここから先は何人も入れる訳にはいかぬ。今すぐ立ち去れ!』
そう言って陽炎の男達は刀を抜いて構えた。
『待ってくれ。争うつもりはない。話を聞いてくれないか?』
凱がそう叫ぶが聞こうとせず切りかかってきた。
ガシンッ
刀と刀が重なった。睨み合いが続く。昇は走り回りなんとか攻撃を避けながら逃げている。
『なぁ、頼むから聞いてくれ』
『うるさい、ここまで来て何を言うか』
『仕方ない』
凱はそう言うと男を突き放した。
『忍法、木の葉隠れの術!!』
凱の振った刀の風圧で落ちていた枯れ葉が舞い上がった。陽炎の男達は前が見えなくなり凱達を見失った。
『昇、今の内だ逃げるぞ』
『おう!』
凱達は竹林の中を素早く抜け里の近くまで来て身を潜めた。しばらくすると先ほどの男達が追って来たが、気づかず里に入って行った。
>> 225
『ほう、そうなんだ。それからその旅人はどっちに行ったんだ?』
男は不思議そうな顔をしたが話を続けた。
『西に行くって言っていたな。なんでも知り合いを探していると言っていたな。今頃はこの町のどこかに……ん?』
男は横を見ると凱達はいなかった。そこには団子の代金が置いてあった。
『あれ…どこに行ったんだ?』
その頃、凱達は忍服に着替え陽炎の里に向かっていた。
『まだ何日も経ってないのに、情報が早すぎるな』
『ああ、多分この根源となる者が故意にさせているのだろう』
『本当に誰がこのような事をしているのだろうか?』
『それはわからん。陽炎の里でその全てがわかるはずだ』
凱達は山道を風のように走り去って行った。陽炎の里は中央の町から山に向かって三里ほどの所にあった。里の周りを竹に囲まれており敵が入りにくいようになっていた。
竹林の中を進んでいると辺りに気配がした。凱達は立ち止まった。刀を握り辺りを見回した。右後ろから何かが飛んできた。避けるとそれは地面に刺さった。それは刀剣型の手裏剣だった。まさしく陽炎の物であった。するといくつもの手裏剣が凱達に投げられた。
>> 224
『ちょっとお待ち下さい。お礼と言ってはなんなんですが、ご馳走さしてもらえませんか?』
『いえいえ良いですよ。当たり前の事したんですから』
『それじゃ私達の気が済みませんから、そこの団子屋でお茶でもどうですか?』
しばらくその男は考え頷いた。凱達は団子屋にある長椅子に腰掛けた。
『今からどうされるんですか?』
凱はさり気なく尋ねてみた。その男はニコニコしながら答えた。
『乾物を仕入れて帰ります』
男はそう話すと何か思い出したのか続けて話した。
『あっそう言えば、東の国の時村様が殺されたみたいですね。戦もなくなったと思っていたのにね。息子の利光様が何か動いているようだよ。どうもやったのが北の国の月影の仕業じゃないかって話だ。国を戦に巻き込むつもりなのかな?』
凱達には耳が痛い話だが、何故月影がやった事がバレているのかが不思議だった。確かにやったのは凱達なのだがあの時誰一人逃がしてはいないはず。その男に聞いてみた。
『何故、月影がやった事がわかったんだい?』
『何ね…旅人が見ていたらしいのよ。去って行く月影の忍の姿をね。村に来てそう話していたよ』
>> 223
『あの…すみません』
不意に後ろから声をかけられた。凱達は振り返ると例の男が立っていた。凱と昇は顔を見合わせた。
『あの…』
『はい、なんでしょう?』
意外な展開で凱達は動揺していた。
『これ、あなた達のじゃないですか?』
その男は小さな箱を見せた。
『あっそれ…俺のだ』
それは昇の薬入れだった。
『この町に入る手前であなた方に追い越されたのですが、その時落とされたのですよ。すぐに拾って声をかけようとしたのですが、あなた方は遥か彼方におられましてね。その後追っかけたんですがね』
昇はその男から受け取った。
『いや~参りましたよ。あなた方、足が早いからなかなか追いつけなくて、やっとこの町に入って声をかけようとしたらどこかに居なくなってしまいましたからね。どうしょうか悩みましたよ。だから今日も早くから町の中を探していたら、偶然にあなた方を見つけました。はぁ~これで安心だ』
『そうだったのですか、それはすみません』
『いえいえ、気にしないで下さい。これで一安心だ。それでは私はこれで…』
その男は立ち去ろうとした。それを凱が呼び止めた。
>> 222
周りの小鳥の声で目が覚めた。凱が横を見るとそこには昇がいなかった。驚き起き上がり隣の部屋に行くとそこに昇はいた。
『おはよう、ゆっくり寝れたか?』
『ああ、久しぶりにな…』
昇は凱に気をきかして寝かせてくれていたのだった。本人はほとんど寝ないで見張りをしていたようだった。
『お前、寝てないのか?』
『いや、寝たさ』
『で、あの男はどうなんだ?』
『まだ起きていないようだ』
『それなら先に出て外で待とう』
『そうだな』
凱達は支度を済ませ宿を出た。宿の見える向かいの路地に身を隠した。
『何者だろうか?』
『分からない。忍ではなさそうなんだが』
凱達は待つが一向に出て来る気配がなかった。
『どうしたんだろうな?出てきやしない』
『そうだな。それなら聞いてみるしかないな』
『なら、俺が聞いて来るよ』
昇は宿に走って行った。しばらくして戻って来た。
『どうだった?』
『やられたよ。朝早く出て行ったみたいだ。朝早くから見張っていたのだがな…』
『そうか…宿を出ているなら仕方ない諦めよう』
凱達は諦めて通りに出た。そして陽炎の里に向かう事にした。
>> 221
『それで奴はどうした?気づかれなかったのか?』
『俺には気づいてなかったみたいだから大丈夫とは思うが…』
凱はホッとした。しかし偶然にも同じ宿に泊まるとは驚きだった。
『凱、これからどうする?』
凱は顎に手を置き考えていた。外からは月の明かりが差し込んでいた。
『悩む事はない。俺達は忍だよな』
『と言う事は…』
『そう逆に奴を調べる』
『なるほどね』
昇はニヤリと笑った。凱と昇は忍服に着替えるとその男の部屋を探した。そして部屋を見つけると忍び込んだ。その男は鼾をかいて寝ていた。近くに荷物があった。凱はそれを取ると中を調べた。中には着替えと僅かなお金だけだった。
『凱、どうだ?』
凱は頭を横に首を振った。
『こんなんじゃ何も分からないな…』
仕方なく凱達は部屋を出た。
『どうする?』
『そうだな…相手も気づいていない。とりあえず明日あの男をつけてみよう』
『なるほどね、そうと決まれば寝ますか?』
『そうするか』
凱達は布団に潜り込むと眠りについた。里の事があって以来眠っていなかった。久しぶりの深い眠りだった。
>> 220
昇はホッと胸を撫で下ろした。相手からこの場を去ってくれるとは思いも寄らなかった。
『ヤバい、ゆっくりしてられない。凱は寝たままだ。奴が何者かも分からねぇからな…寝込みを襲われたらいけねぇ。』
昇は慌てて風呂を出て、着替えながら部屋へ向かった。
『凱、凱…?』
呼びかけるが返事がない。布団を見ると凱の姿がない。
『どういう事だ?凱、凱?』
昇は凱を探す為部屋を出ようとした。すると目の前に凱が立っていた。
『凱、凱ってうるさいな。頭に響くじゃないか…何騒いでやがる?』
『お前こそ何言ってんだ。どこに行っていやがった?』
凱は大きな欠伸をしながら言った。
『カワヤだよ、カワヤ…』
『……カワヤ?』
『ちょっと飲み過ぎたみいだな。小便が近くなっていけねぇ。あははは…』
凱は笑いながら布団に歩いて行く。昇はしばらくポカンとしていた。
『昇、それにしてもそんなに慌ててどうしたんだ?』
昇は我に返った。
『聞いて驚け!今、風呂に行ってきたのだけどさ。昼間に俺達をつけて来た男が入って来たんだ!』
『えっ本当か!』
凱は一気に目が覚めた。昇に這うように近づいた。
>> 219
風呂は露天風呂でかなり広かった。
『1人でこんな広い風呂とは贅沢だな』
空には星が広がっていた。昇はそれをなんとなく眺めていた。脱衣場の方で音がした。そちらを見るとここに泊まってる客が1人入って来た。
『こんばんは。今日は星が見えて綺麗ですね』
その客はいきなりそう声をかけて来た。昇は仕方なく返事を返そうとその客を見た。それは昼間、後をつけて来た男だった。相手に気づかれないよう少し背を向けて言った。
『そうですね。本当に綺麗ですね』
『お兄さんはどちらから来られた?』
いきなりの質問に昇は困惑した。なんと言ったら良いのだろう…。どう考えても答えが見つからない。仕方なく正直に答えた。
『北の国ですよ』
『ほう北の国ですか!実は私も北の国の山名の里なんですよ。お兄さんはどちらで?』
昇は困ってしまった。えらく聞いてくるからだ。まさかわかって聞いてきているのではと思った。困っているのに気がついたのか男が言った。
『あっすみませんね。1人旅だったもんで久しぶりに話するもんだからついつい…ご迷惑でしたね。それでは先に失礼します』
そう言って風呂を出て行った。
>> 218
宿屋の前に着くと番頭らしき男が手揉みしながら立っていた。
『お泊まりですか?お連れさん、かなり酔われておられますね。お泊まりなら部屋が開いとりますよ』
『ああ、一部屋頼む』
『わかりました。お客さんだよ、お通しして』
番頭はニコニコしながら奥に声を掛けた。すると何人かの女中が現れた。
『いっらっしゃいまし。こちらへどうぞ』
女中に連れられ部屋の方へ歩いていく。中庭は立派で池があった。昇はそれを横目に凱を背負い部屋に入った。
『お布団敷きますね』
そう言って2人分の布団を敷いた。敷き終わると頭を下げ出て行った。昇は眠っている凱を布団に寝かせた。そこにさっきの番頭が入って来た。
『お客さん、お風呂はいかがですか?』
『風呂か…良いな入ろうかな』
『ではではこちらにどうぞ』
昇は番頭の後について行った。ここの宿は思ったより立派だった。
『番頭さん、風呂上がりに一杯のみたいから準備してもらえないか?』
『はい、わかっておりますよ。すでに用意させておりますから』
『おお、なかなか気が利くね』
『では、ごゆっくり』
番頭は頭を下げその場を去って行った。
>> 217
『はい、お待ちどうさん』
机の上に食事と酒を置くと去って行った。
『凱、とにかく食べようぜ!昨日から何も食べてないからペコペコだよ』
『そうだな…』
そう言って2人は食べ始めた。凱はさっきの話がどうしても離れなくてついつい酒をいつもより飲んでしまった。
『凱、お前飲み過ぎじゃないか?』
昇がそう言って凱の徳利を奪おうとすると手で払った。
『うるさい!』
そしてグッと飲んだのだった。凱の中で何かが弾けた。そのまま飲み続け、いつの間にか寝てしまった。これでは調査どころではなかった。店の人が困り顔で近づいて来た。
『お客さん、こんな所で寝られても困るんだけどね…』
『あっすまない。勘定してくれ』
『えっと50文だよ』
昇は勘定を払うと尋ねた。
『この辺りに宿はないかい?』
『そうだね…店を出て右に行ったら3軒先に宿はあるよ。あんた大丈夫かい?』
『俺は大丈夫だ。こいつはわからないがな。あははは…』
昇は凱を背負って宿の方へ歩いて行った。
『久しぶりだな…お前がこんなになるの』
昇は凱に話しかけるが眠っていて反応がなかった。
>> 216
人の流れは多く、今なら紛れ込むのは簡単だ。凱達は町の中で情報を探っていた。
『なあ、ただ歩き回ってても仕方ないからさ、そこの飲み屋でも入らないか?』
『そうだな。しかしお前は色気の次は食い気か?あははは…まあ腹も減ったからちょうど良い、そこに入ろう』
『やった!よし入ろう!』
凱達は目の前にあった店に入った。店の中には旅人らしき人で賑わっていた。奥に席が開いていたのでそこに座った。店の人が近づいて来た。
『何にしましょうか?』
『とりあえず飯をくれ、後は酒もな』
『はいはい』
店の人はそれを聞くと調理場の方に消えた。あちこちで色々は話しが聞こえて来る。その中で隣に座る町人の話が耳に入った。
『おい聞いたか?東の国の時村様が殺されたってよ!それも北の国の月影の仕業らしいのよ!こりゃまた戦が始まるな!』
『本当か?また困った事しやがる…やっと戦もなく平和になると思っていたのにな…』
凱達は耳が痛かった。自分達のした事が皆を苦しめていると言う事にだ。
『おい、凱…』
『………』
凱は拳をグッと握った。そこに店の人が食事を持って来た。
>> 215
西の国は海が近く、商業の町だった。全国からいろんな物が集まり賑わっていた。今では異国との貿易にも力を入れている。
凱達は町人の格好に変装して西の国へと入って行った。
『おい、凱あれ見ろよ!可愛いなぁ~さすが西の国だ。うわっこっちにも…可愛い子が多いな!』
『………』
『凱、聞いているのか?』
『………』
『何、黙っているんだよ?』
凱は昇の言葉に1つも反応しなかった。昇が不思議そうな顔をしながら凱を見ていると、凱が小さな声で言った。
『俺達つけられている…』
昇が振り返ろうとすると凱が止めた。
『見るな、次の角を曲がったら走るぞ』
昇は軽く頷いた。角を左に曲がると2人は走った。そして建物の陰に隠れた。すると1人の男が慌てて追っかけて来た。しかし凱達を見失ってしまいキョロキョロしている。そして隠れた凱達の前を通り過ぎて行った。見た感じは町人だった。
『なんだアイツ?』
『分からん…街に入ってからずっとつけられていた』
『へぇ~俺は全く気がつかなかった』
『女に見とれているからだ』
昇は申し訳なさそうに頭を掻いた。凱達は誰もいないのを確認すると通りに出た。
>> 214
確かに親方様の様子がおかしい。あの時昇が言った時、凱も本当は納得はしていなかった。親方様の命令は絶対だから仕方ないと自分を納得させてはいたのだが、心に深い傷をおった気分だった。
『雷鳴、お主の考えは良くわかった。それでこれからどうするつもりなんだ?』
鬼火は雷鳴の考えを聞いた。
『とりあえず、こいつらに西の国を調べさせる。俺は里に帰り見張りがてら調べてみる』
『わかった。なら儂は里の者をなだめて、捕まえた奴から情報を聞き出してみる』
『それでは、各自よろしく頼む』
そう言って凱達は部屋を出た。雷鳴の背中を見ながら凱は今までの事を考えていた。それに気づいたのか、昇が声をかけてきた。
『凱、どうした?』
『…ん?ああ、今までの事を思い返していた。こんな事をして誰が一番得するのだろうか?』
『そりゃやっぱり西の国だろ』
昇は当たり前だろうと言いたげだ。
『うう、そうだろうか?』
そんな話を聞いていた雷鳴が振り返り言った。
『そんな事を考える前に真実をお前達の目で見てくるのだ!西の国で何かがわかるはずだ。頼んだぞ!』
『はっ!』
凱達は西の国へと向かった。
>> 213
鬼火は文字通り見た目は鬼のようだった。だが喋りは優しく、時折見せる優しい目は親しみさえ感じさせた。
『まあ座ってくれ』
凱達は囲むように座った。
『雷鳴よ、お主はどう考えているのだ?』
『俺はこんな事が出来るのは、西の国の陽炎ではないかと思っている』
雷鳴の言葉に鬼火は腕を組んで考えた。
『なるほど、ヤツらなら出来ない事もないな。だが何故に陽炎がこのような事をする必要がある?誰がこのような事を?』
『それはな…』
皆が固唾を飲んだ。雷鳴は何を思ったのだろうか?凱達は雷鳴の次の言葉を待った。
『それは我が里の長、萬(よろず)丸様だ』
凱達は驚いた。親方様がこの全ての元凶だと思っていなかったからだ。しかし何故このような事をするのだろうか?だがまだ決まった訳ではない。凱達は雷鳴の話を聞く事にした。
『これはまだ推測であるからなんとも言えないが、最近の萬丸様はおかしい。凱達に東の国の君主である時村 利蔵の首をとらしたり、この騒ぎで戦までさせようとしている。今までならこのような事はしなかったはず。何か見えない力が、働いているように思えて仕方がないのだ』
>> 212
『先ほどの話は聞かせてもらった。実は我が里も何者かに何人かが殺された。斬り口からすると風雅の技…』
『何を言ってやがる!』
里の何人かが騒ぎ出したが鬼火が睨みつけると静かになった。雷鳴は続きを話した。
『だが何か違和感を感じてここに来たのだ』
その話を聞いて鬼火が尋ねた。
『それならお主らは、奴らを知らないと言うのだな?』
里の者が退くとそこには何人かの男達の死体が転がっていた。凱と昇が近づき見たが全く知らない顔ばかりだった。
『雷鳴様、コイツら知らない顔ですよ』
昇が言うと雷鳴は頷いた。
『やはりこれは誰かが仕組んだ罠だ』
そう言って鬼火を見ると最初からわかっていたのか頷き笑った。
『やはりそうだったか…とにかくお主らこちらに来て話をしようではないか?』
鬼火はそう言った。そして里の者達の方を向いた。
『この件は儂が預かる。解散だ…解散!』
それを聞いた里の者は少し不満はあったようだが、自分達の小屋へと帰って行った。凱達は鬼火の後をついて屋敷の中へと入って行った。囲炉裏の前に腰を下ろすと鬼火は言った。
『さて、お主らの考えを聞かせてもらおうか…』
>> 211
風雅の里は怒りに燃えていた。その中央で鬼火が叫んでいた。
『皆の者聞け~!ヤツらのこのやり方、許せる物ではない!だがまだ月影の仕業と決まった訳ではない!』
『何を言っているのですか?この者達は月影ではないと申されるのですか?』
人々の中から1人の男がそう叫んだ。すると鬼火が言い返した。
『お前達も良く考えてみろ。こんな人数で来る事自体がおかしいと思わないか?こんな事をするなら里の者全て集まり総出で来るはずだ。ヤツらも我が里の力を知らない訳ではあるまい』
それを聞いて皆はざわめいた。確かに鬼火の言っている事に間違いはないからである。
『儂はこれには、何か策略的な物を感じる』
その話を聞いていた雷鳴が何も言わず里の中に歩いて行った。凱達もそれに続き中へ入って行った。するとそれに気づき騒ぎ出した。中には刀を抜き構える者もいた。
『待て~!』
鬼火が叫ぶと里の者は静まり返った。
『雷鳴、久しぶりだな』
『ああ久しぶりだな…』
『さて今日は何用で来られた?』
鬼火は里の者を押さえるように手を横に広げている。
>> 210
『そういずれお主は風雅の長となる!』
『俺が長に…』
『そうお主がなるのだ!』
凱には驚く事ばかりであった。
『それでは何故、俺は月影に居るのですか?』
『それはな…お主を守る為だ。いずれ分かると思う。それに今回の事ももしかしたら…』
凱には意味がわからなかった。
『雷鳴様は何かわかったのですか?』
『まだはっきり言えないが陽炎の者の仕業ではないかと思うのだ』
『まさか西の国の?』
『そう西の国だ』
西の国とは文字通り西にある国でそこにあるのが陽炎の里である。彼らは幻術を扱う事で有名であった。
『彼らならば俺達の真似をしたとしても不思議ではない』
昔より4つの国(東西南北)では戦が絶えなかった。だが北と南の提携により今は停戦状態ある。そして凱達が倒した時村こそが東の国の頭首であった。実質上国の崩壊と言う事になる。
『ならばこの全ての要因は西の国と言う事ですか?』
『今の所はな……』
雷鳴はまだ何か考えがあるのか深刻な顔をしていた。そんな話をしていると風雅の里が見えて来た。凱達はその手前で立ち止まった。里の中では人々が集まっていた。
>> 209
雷鳴は部屋に入ると奥の棚から何かを持ってきた。良く見ると長細い物でどうも刀のようであった。
『凱、昇、そこに座れ!』
凱達は雷鳴の前に座った。すると先程の刀らしき物を目の前に出して来た。
『凱、お前にこれを渡しておこう…』
凱は受け取ると聞いた。
『これは何ですか?』
『それはお前の父親の形見、妖刀残月だ。今まで俺が預かっていた』
『父親の形見…?妖刀残月と言うと伝説の忍、八雲様が持っていた刀ではないですか!』
雷鳴は頷いて言った。
『そうお前の父親は八雲様だ』
『俺の父親が八雲様…』
『そうだ…この続きは後で話す。今は風雅に向かうぞ』
『はっ!』
そう言って雷鳴達は里を離れた。走る彼らの早さは常人の目には見えないほどであった。彼らの後にはただ風が吹いたようにしか見えなかった。
『凱、お主ならその残月を使いこなせるはずだ。その刀はその一族でないと普通の刀と変わらぬ…風雅の直系であるお主ならばその力を引き出せるはずだ』
凱は驚いた。それはそうだ、孤児で拾われて来たとばかり思っていたからだ。その上、今向かっている風雅の者だったからである。
『俺が風雅の直系…』
>> 208
『え~いうるさい!誰かこ奴を捕らえよ!牢にぶち込んでおけ!』
紅龍の命令に何人かが凱を捕まえた。
『紅龍様!待って下さい』
『うるさい!早くぶち込め』
凱はぐっと拳を握った。そして牢の方へと連れていかれようとしたその時、雷鳴が言った。
『ちょっと待て…俺もこの件は納得いかない!』
雷鳴が止めに入った。
『雷鳴、貴様まで親方様のお達しが聞けぬと申すのか?』
『いや、聞けぬ訳ではない。だがこれ以上無益な殺生はしたくないだけだ!』
『ならどうすると言うのだ?』
『俺に任してくれ!俺が今一度、風雅へ行ってくる!』
『雷鳴が直々に行くと言うのか?それは面白い。…行って来るがよい!』
『ならば凱と昇をお供につけさしてもらおう!』
『わかった。なら1日だ…1日経っても何も解決出来なければ皆で攻めいる!そしてお主らを反逆者として首を斬る。わかったな?』
雷鳴は頷いた。凱を捕らえた者達を見て言った。
『そいつを離してやれ』
凱は解放された。それを見ると紅龍はニヤリと笑い去って行った。
『凱、昇、俺の部屋へ来い!』
『はっ!』
雷鳴と凱達は部屋へ向かった。何か考えでもあるのだろうか?
>> 207
紅龍がそう言って皆に指図した。そこに凱が駆け寄り言った。
『待って下さい!』
『凱何故に止める?』
『いえ、止めるのではありません』
『止めるわけでなければなんだ?』
紅龍は凱を見下ろしながら言った。
『はい、これは風雅の仕業ではないと思うのです…』
『お主は何を根拠に言っているのだ?』
『はい、私達は先ほど風雅の里を見てまいりました。ところが向こうでも同じように人が斬られました!それも我が月影の者によって…我等以外いないはずなのに…これは2つの里を争わせる誰かの陰謀ではないかと…』
『これが陰謀だと?して誰がやったと言うのだ?』
『それはわかりません…しかし…』
『しかしなんだ?お主、時村の首をとったからと言って調子にのってないか?』
紅龍は凱を睨みつけた。
『私はそのような事は…』
凱は下を向いた。それを見て紅龍が喰ってかかった。
『ふん、お主は親方様のお達しを聞けぬと言う訳だな?』
『私はそのような事は思っておりません…』
『はは~ん、お主はそう言って我等を撹乱するつもりだな!陰謀を考えたのお主だろ?』
『いえ私はそのような事は…』
>> 206
『風雅のヤツらめ覚悟しやがれ!』
『あいつらの仇は俺達で取る!』
そこに凱達が現れた。
『皆待ってくれ!まだ風雅の者がやったとは限らない。親方様の考えを聞くまでは待ってくれ!』
凱は怒りに燃えた里の者達をなんとかしようとしていた。
『皆、聞いてくれ!俺達は雷鳴様言われて風雅の里まで行って来た!』
『何故そこまで行って仇を討たなかった?』
里の者の1人がそう叫んだ。すると周りの者まで共感の叫びを上げた。
『最後まで聞いてくれ!』
そう言うと皆は静かになった。
『…実は向こうでも同じ事が起きていたんだ!それもこの里の誰かがやったのだ!』
皆はざわめいた。それはそうだ。それもそのはず遣られたとばかり思っていたら誰かが仇討ちに行っていた訳だからだ。
『聞いてくれ!しかしおかしいと思わぬか?俺達が行った時にすでにそいつらはいたのだ!』
皆はざわめいた。しばらくして1人が言った。
『ならば誰がこんな事を…?』
凱には答えられなかった。するとそこに雷鳴と紅龍が現れた。
『皆の者聞けー!親方様からのお達しだ!今から風雅の里に仇を討ちに行く!準備しだいここに集まるのだ!』
>> 205
凱は自分の小屋に戻った。小屋に向かう途中、里の裏側に集まる人々が見えた。そう朝方殺された者を葬っているのだった。何故に誰がこの様な事をしたのだろう?そう思いながら小屋に入って行った。
『凱どうだった?雷鳴様はなんて言っていた?』
昇が興味深々に聞いてきた。
『まだ話しは途中だ。だが雷鳴様も不思議に思っておいでだ。その後は紅龍様が来て親方様の所に行ってしまった』
『親方様はどう考えておられるのだろうな?』
『そうだな…雷鳴様が戻られてから聞くしかあるまい』
凱と昇が話していると咲の声がした。
『凱、昇居る?』
『ああ、こっちだ』
咲が現れ、手には食事を持って来ていた。
『戦になるかもしれないから今の内に食べて』
『戦?誰がそんな事を言っていたんだ?』
『里中、その話題で持ちきりよ!』
『何?親方様からまだ何も言われてないのに…』
『襲ったのは風雅なんでしょう?だから仇を討つって!』
『まずいな…皆を鎮めないと…昇行くぞ』
『おう!』
凱は昇と小屋を出て行った。
『ちょっと2人共!食事は?』
咲が呼び止めるが2人には届かなかった。咲はその後を追った。
里の中央では皆が集まっていた。
>> 204
『目…?目がどうした?』
『あれは何かに操られている目だ!』
『操られているって…まさか誰かの陰謀と言う事か?』
『多分な!2つの里に仲違いさせる懇談だ!』
『誰がそんな事を?』
『それはわからん…だがそうとしか考えられん!』
そう言いながら凱達は風のように走り抜けて行った。そして里に着くと雷鳴の元へと言った。
『雷鳴様…』
『凱か?入れ!』
凱は障子を開けると雷鳴のそばにより頭を下げた。
『凱、それで向こうはどうだった?』
『実は…』
凱は向こうで起きた事を話した。雷鳴はその話を聞いた。
『何!この里からはお前ら以外誰も行ってはおらんぞ!?』
『しかしながらあの出で立ちは我が月影!私らも何がなんだかわかりません…』
『うむ…?』
雷鳴は何かに気づき叫んだ。
『何者?』
すると紅龍が現れた。
『紅龍か!』
『ふっ雷鳴!親方様がお呼びじゃ!』
『わかった。すぐ行く』
紅龍は去って行った。雷鳴は難しい顔をした。
『ヤツは信用ならん…お前もヤツには気を許すな』
そう言って部屋を出て行った。
>> 203
『チッ逃がしたか!』
鬼火は1人の男を起こした。
『てめぇーら何故この里を襲った?』
鬼火が睨みつけ言うとその男は口の中で何かを噛み飲み込んだ。すると血を吐き息絶えた。
『自決しやがった…』
鬼火が他の男達を見ると血を吐き自決していった。
『畜生!せっかくの証人が…』
鬼火が悔しがっていると1人の男が人を肩に乗せて現れた。
『よっ兄じゃ!何があった?』
そう言って降ろした。
『おお、砂塵か!そいつはどうした?』
『里から飛び出して来たのを捕まえた。後2人には逃げられたがな!それにしても酷いなぁ~どうしたんだ兄じゃ?』
『儂にもようわからん?』
鬼火は腕を組んで頭を捻っていた。
『そいつは証人だ。自決しないようにして牢に入れておけ!』
そう言うと屋敷の方に入って行った。里の者は亡くなった者達を葬る為に作業を始めた。
『凱どうする?』
昇が聞くと凱は一度空を見ると言った。
『里に帰り、雷鳴様に報告だ!』
『そうだな!』
2人は立ち上がると月影の里に向かった。
『昇よ、不思議に思わないか?』
『何がだよ?』
凱達は走りながら話している。
『襲った者達の目が…』
>> 202
凱達は里の稲垣の所まで行くと中の様子を見た。すると悲鳴が上がった。さっき入って来たヤツらがそこにいた人を斬り出したのだ。
『何っ!?』
凱は驚いた。そこにいる女、子供関係なしに斬り殺しているのだ。昇が飛び出そうとするのを凱が止めた。
『ちょっと待て!今俺達が出て行ったらややこしくなる!もう少し待て』
昇は仕方なく留まった。悲鳴が聞こえて風雅の者達が、飛び出して来た。そしてそこにいる男達に刃を向けた。
シュッシュッ
キンキン
ブシャー
だがその男達は強く、風雅の者達が次々と倒されていく。すると風雅で一番の鬼火が出てきた。
『お主ら!ここが風雅と知っての行いか?』
鬼火の一言で争っていた者が一瞬止まった。
『その出で立ちは月影の者だな!同盟を組んだ我が里に、何故そのような事をする?まだやると言うなら、この鬼火が相手になってやる!かかって来い!!』
鬼火の一声は里中に響いた。するとヤツらは鬼火に向かって斬りかかって行った。だがあまりにも鬼火は強かった。必殺技である火炎が男達を包み込んだ。何人かが火だるまになり転びまわっている。それを避けた3人はその場から消えた。意外にあっけなく終わった。
>> 201
里の人が集まっている中、雷鳴が現れた。
『酷いなこれは…』
『はい、雷鳴様…この斬り口は風雅の者の仕業…』
『確かに似てはいるが…まさかな』
雷鳴はしばらく考え込んだ。そして凱に言った。
『お前頼みがある。昇を連れて風雅の里に行って様子見て来てくれ!』
『わかりました』
凱は昇を見ると合図をした。そして2人は南の国の風雅の里へ向かった。
山道を歩く2人は黙ったまま風のように走っていた。1つの山を越えた頃、凱達は休む事にした。
『凱、正直お前はどう思う?』
『わからん?斬り口は風雅だが…どうも引っかかってな!』
2人はまた押し黙ってしまった。
『とにかく行ってみるしかない!』
『そうだな…』
『先を急ごう!』
『おう!!』
2人は風雅の里へ走り出した。2つ目の山を越えた所に風雅の里はあった。里の中を見渡すが平和そのものだった。すると黒い影が飛び回るのが見えた。
『あれはまさか…月影の者…』
『どういう事なんだ?俺達の里の者が何故に?俺達以外に誰が…』
『わからん?もう少し近づいてみよう』
『おう…』
>> 200
『それなら笑うな!』
そう言って後ろを向いた。凱は最後の一杯を呑むと昇に言った。
『明日も早いから寝るぞ!』
凱は立ち上がり奥部屋へと入って行った。
朝になると辺りで雀の声が聞こえて来た。すると誰かの足音が近づいて来る。凱は身構えた。
『凱、昇、居るか?』
凱は声の方を見ると伝助が立っていた。凱達と一緒にこの屋敷に連れて来られた。孤児であった。あだなは泣き虫伝助だ。
『居た…早く起きろ!里が大変な事になっているぞ』
『どういう事だ?』
『どういう事もくそもない!とにかく早く来い!』
そう言って伝助の後を凱達はついて行った。すると里の至る所で人が斬り殺されていた。
『誰がこんな事を…』
無差別に女、子供も関係なく殺されていた。凱は死体の斬り口を見た。
『この斬り口は…風雅の者…』
それを聞いて昇が言った。
『…風雅?ヤツらは南の忍…俺達とは同盟を組んでいるはずだ…何故にこんな事を…』
凱は立ち上がり伝助の肩に手を置くと言った。
『雷鳴様に伝えて来い』
『おお、わかった』
伝助は屋敷の方へ走って行った。
>> 199
『凱、お前は咲の事どう思っているんだよ?』
『どうとは…?』
『何しらばっくれているんだよ!好きか、嫌いかだよ』
凱は酒をグッと呑むと昇を見た。
『好きだ…妹のようにな…』
『はぁ~そんな事聞いてないだろう!女としてどうだと聞いているのだろうが!!』
凱は杯に酒をつぐとまたグッと呑んだ。杯を床に置くと言った。
『俺達は明日死ぬかわからぬ身…恋など語れぬ…』
昇は黙り込んでしまった。それは忍として育った彼らにとってはつらい話ではあるが、残された者の事を考えると当たり前なのかもしれない。
『昇…』
『なんだよ?』
『お前はどうなんだ?』
『へっ?』
昇は凱の言葉に驚いて目を丸くしていた。
『何がだよ?』
『だからお前は咲の事好きなのか?』
『えっ…俺は関係ないだろうよ…それに先に聞いたのは俺だろうが!』
昇は完全に舞い上がっている。そんな昇に凱はとどめを刺した。
『ふん、好きなんだな!』
昇の顔は真っ赤になり少し慌てていた。
『俺は…忍に生きるんだ。女なんて関係ない!』
『ふふふ…』
『何がおかしい?』
凱はチラッと昇を見ると膨れっ面していた。
『いや…別に』
>> 198
ガッツキながら食べている横で凱は酒を飲んでいた。
『凱、食べないのか?それ俺が喰って良いか?』
『ああ…食べろ』
『すまねえな、いただきま~す!』
昇はどこに入るのか凱の分まであっという間に食べてしまった。
『凱、食べないでお酒だけだと体もたないわよ…』
咲が凱を心配してそう言った。
『ああ…わかっている…』
凱達は戦での孤児であった。それを拾ったのが親方様であった。小さな頃から忍術を叩き込まれて来た。咲はその親方様の右腕である雷鳴の娘にあたるのだ。雷鳴とは名前のごとく稲光のような早さで人を斬る。もし受けたとしても体はしびれて二の手が出ないほどである。凱にとっては憧れの人で兄のような存在であった。
『咲…いつも俺達の為にありがとうな…』
『何を今更…気にしないでよ!』
昇は口に箸をくわえたまま2人の様子を見ていた。何か思いついたのか、咲に向かって言った。
『咲~おめえ~凱の事が好きだろ?』
『昇…何を言っているのよ…バカじゃないの!!』
咲は顔を真っ赤にして小屋を出て行ってしまった。
>> 197
『なんだよ…なぜ、殴るんだよ?』
『うるさい!親方様には、親方様の考えがあるはずだ!俺達がとやかく言う事ではない!』
凱の眼は鋭く昇を睨みつけた。それを見て昇は何も言えなくなった。2人は歩きだし屋敷へと帰って行った。
『親方様、ただいま戻りました』
凱達は膝をつき頭を下げた。目の前には薄いカーテンのような物がかけてあり親方様の顔を見る事は出来なかった。
『時村の首をとりました』
『それはご苦労であった。後はゆっくりとしてくれ』
『はっ!』
凱と昇は頭下げるとその場を立ち去った。
『紅龍…』
『はっ!』
どこに居たのか風のように現れた。
『例の件はどうなった?』
『今着々と進んでおります』
『わかった…任せたぞ』
『はっ!』
そう言うと紅龍は姿を消した。
『ふふふ…間もなく私の願いが叶う…あははは…』
親方様の笑い声が屋敷に響いていた。
凱達は自分達の小屋にいた。朝から何も食べていなかったから食事をしていた。
『咲ちゃんお代わり!』
『昇は良く食べるね!』
『そりゃ朝から何も食べてなかったからな!腹が減っては戦は出来ぬだよ』
昇はニッコリと笑いながら咲からの丼のような茶碗を受け取った。
>> 196
『さて、あんただけになったよ…』
『…まさか…お前ら噂で聞いた…月影だな…?』
『ふふふ…仕方ない、冥土の土産に聞かせてやろう!俺が月影の凱!』
『そして俺が昇!』
そう言うと凱は飛び上がると利村に斬りかかった。そして烈火の如く利村に刀を振り下ろした。凱は着地して刀を収めた。
チンッ…
すると利村の首はゆっくり地面に落ちた。体はまだ馬の上に乗ったままだった。
『ふっ大した相手ではなかったな…よし、昇帰るぞ!』
『ああ…』
彼らは風のように去って行った。空は夕日で真っ赤に染まっている。まるで血のようだった。
『凱!』
『なんだ?』
昇は走りながら凱に尋ねた。
『親方様は何故に時村の命を取れと言ったんだ?俺には納得がいかねー』
『親方様の命令は絶対だ!つまらぬ検索は止めろ!俺達は黙って従えば良い!』
『しかしよう…時村と言えばこの国をあいつらから守った男だぞ!やはりおかしいだろう…』
それを聞くと凱は急に止まった。昇もそれに気づき止まった。凱はしばらく黙ったまま立っていた。その背中は哀愁を感じさせた。そして昇の方を向くといきなり殴った。
外伝 黒い龍
遥か昔、この国では血で血を洗う戦いが続いていた。
ズドドドドド……。
何十頭もの兵を乗せた馬が走り過ぎる。
『あれが敵か?』
『ああそうだ!先頭にいるのが俺達の標的だ!』
『先に回り込むぞ!』
『わかった!』
そう言って黒装束の男達はまるで風のように林の方へと走って消えた。そして道の見える所に来ると木の陰に身を隠した。
ズドドドドド……。
さっきの集団が現れた。
『よし、行くぞ!』
『了解!』
男達は道へ駆け下りると、集団の前に立ち、刀を抜いた。
『貴様ら何者だ?私を時村 利蔵と知った上の狼藉か?』
『ふふふ…すぐに死ぬのに名乗っても仕方あるまい!』
『何を!皆の者ヤツらを切り捨てい!!』
一斉に男達に斬りかかった。風を斬る音と走り抜ける音が響いた。すると十人ほどの兵が倒れた。
『だから言ったろ!すぐに死ぬってね!』
『その者を早く斬れ斬るのだ!!』
時村はそう言うと兵達は斬りかかった。だが男達は強かった。あっという間に兵達は地面に倒れて行った。そして残るは時村だけになった。
>> 194
『赤穂どこに行っていた?』
キキーキ…
『そうか森で遊んでいたのか!』
ガイは幼少の頃から動物の言葉がわかった。なぜわかるのかはわからない。家で飼っていた犬といつも話をしていた。周りはそれを見て気持ち悪がった。それでイジメにあっていた。しかし兄の鉄馬だけは理解してかばってくれていた。かといって鉄馬が動物の言葉がわかっていた訳ではなかった。ただガイの事を信じていたのだ。
しかしある時、能力がある事が周りにもわかった。それはガイが12歳の頃、町長の娘が行方不明になり何日も見つからなかった。そんな時、ガイが動物に聞きながら探し出したのだった。周りは驚きながらもガイの後ろについて行くと山奥にある炭焼小屋に弱り果てた娘を見つけたのであった。それからはガイを見る目が変わったのだった。
『また忙しくなるぞ!』
キキー
赤穂はクルクルと飛び回っていた。
すると後ろから車の近づく音がした。もしや奴らかと思い振り返ると懐かしい顔が見えた。少し通り過ぎると止まった。
『ガイ久しぶりだな!』
そう、やはりアルミ達だった。
『アルミお前も来ていたんだな!』
またアルミ達との冒険が始まる。
>> 193
『お前は何者だ?』
男は後ずさりしながらガイを見ている。ガイは襟元を掴み再度聞いた。
『お前は誰だ?誰に頼まれた?』
ガイの凄い形相に男は口を開いた。
『俺は漁師でヤンだ』
『それで何故俺をつけてきたんだ?』
『それは…どこかのお嬢さんが金をやるからアンタを尾行しろと言われたんだ。金に困っていたし尾行するだけだから俺でも出来ると思ったんだよ』
ヤンは観念してそう言った。ガイは多分ハナナム家の令嬢だろうと思っていた。
『お前もつまらない奴に捕まったな!そいつに言ってやんな洞窟に向かったってな!』
『えっ良いのかい、そんな事言ってアンタは困らないのか?』
『大丈夫、来るなら来いってもんだ!さぁ行きな!』
『すまない助かった!じゃあ…!』
そう言うとヤンは去って行った。ガイはヤンの背中を見送ると再び洞窟へと向かった。しばらく歩くとまた気配がする。まさかまた誰かが尾行しているのか?すると森からバッと何かが飛び出して来た。それは赤穂だった。いつも勝手に歩き回っているから忘れていた。しかしその気配じゃなかった気もする。まあどちらにせよ後でわかる事だ。そう思いながらガイは洞窟に向かった。
>> 192
『多分だが後継者の叔父の行方を聞こうとしていたのではないかな?』
『行方…それを何故ホイル氏が知っている?』
『叔父になる人とホイル氏は友人だったようだ。まぁこれは令嬢が事前に調べていたみたいだが…それ以上の事はわからない…なんならそれも調べておくさ!』
ダンはそこまで言うと煙草を吸った。
『頼む!とにかく俺は洞窟に行ってみる!』
ガイはそう言うと出口に向かった。
『おじちゃんもう帰るの?』
クルミがそう言った。
『ああ、でもまた来るよ!』
『うん、待っているね!』
ガイは洞窟へと向かった。
しばらく歩いているとガイは誰かがつけて来ている事に気が付いた。立ち止まるとその者も止まる。どう見ても素人だ。尾行がバレバレである。ガイは走り出し素早く木の陰に隠れた。その者も慌てて追いかけてきた。ガイは後ろに回り取り押さえた。
『貴様何者だ?』
『………』
その者はバタバタして何も言わない…言わないのではなかった。ガイが締め上げすぎて喋れなかったのだった。その者は気を失い倒れてしまった。良く見るとその者はこの島の20代の男だった。何度か顔を叩くと目を開けた。男は驚きビクビクしている。
>> 191
『それで何を頼みにきたのだ?』
ガイが聞くとダンは腕を組んで答えた。
『それがな…ホイル氏の屋敷を聞かれただけだ!後はこの前頼まれていたレッドイーグルの謎についての事を聞きに来ただけだ』
『レッドイーグル…?』
『レッドイーグルとは【真紅の鷲】と言う赤いダイヤだ。令嬢の家に伝わる家宝だ。今はそれがどこにあるかわからないらしい。本当の後継者の元にあるはず…』
ガイは思いだした。さっき調べた1つじゃないか!それに本当の後継者とはどう言う事だ?
『それはいったいどう言う事だよ?』
『彼女らは本当の後継者ではない…彼女らの父には兄がいたみたいなのだが、ある日を境に行方が分からなくなっている家宝と共に…』
『見つかったとして何をするつもりなんだ?』
『そこまでは俺もわからん…』
2人はどうでも良い話だが引っかかっていた。魔水の宝石の話だった。もしかしたらレッドイーグルが必要ではないのかと…。
『ダン俺も頼むレッドイーグルについて調べてくれるか?』
『ああ、俺もそのつもりだ!もう少しここの書籍を調べてみるよ!』
『それはそうとホイル氏の屋敷は何故聞いて来た?』
ガイの質問にしばし考えて答えた。
>> 190
次の章には5つの宝石について書いてあった。[緑、黒、青、白、赤の宝石と亀、蛇、狼、竜、鷲の紋章を与える。これが1つになれば大きな力を得られる]
そのような事が書いてあった。それが魔水に関する項目であった。しかしこれだけでは良くはわからないのは確かだ。
『なんだよ…結局良くわからない!どうしたもんだろうな?』
『それなら一度洞窟に行ってみるしかないな!』
『……そうだな!行って何かわかるかもしれないな!』
ガイは本を直すと部屋を出た。
『ガイ!俺ももう少し調べてみるよ!ちょっと気になる事もあるしな…』
ダンは顎に手を置き考えていた。そういえば港で見たあの2人との関係が気になる。
『なあ…1つ聞きたいのだけど良いか?』
『なんだ?』
ダンは振り返るとガイを見た。
『さっき港で見たのだが…あの2人はハナナム家の令嬢だよな?いったいどんな関係なんだ?』
ダン少し驚いた風だったが少し笑うと答えた。
『ああ、あの2人は俺のお得意様よ!普通に手に入らない物を俺なら手に入れられるから、良く頼まれるのだけど…ああやって直接会ったのは初めてだ!』
ダンはカウンターの椅子に腰掛けた。
>> 189
そこにはこんな事が書いてあった。
[その者達は遥か昔、大きな舟で空より現れた。その者達の力は巨大であった。地上に降り地上の全てを支配した。そして繁栄を続けた。だが平和はいつまでも続かなかった。空の彼方より邪悪な力が襲ってきた。その者達の大半は死んでいった。戦いの末、その者達の中でも一番力のある者が邪悪な力を水により地下へと封じ込めた。]
最初の所にはそんな事が書いてあった。だが肝心の魔水の事がわからない。
『なんだ結局わからないじゃないか…』
ガイは頭を抱えている。
『まだ最初だろ!続きを読んで見ろよ!』
ダンがそう言うとガイは続きを読みだした。
[その一番力のある者は封印が解けない為にも水の事を記した。命水は遥か宇宙の彼方にあり、そして5つの光と交わり魔水となる。封印は千年に一度弱まる。それを防ぐ為にも我が分身をこの世に残し旅立つ。それをこの紋章与えこの地の者に与える。]
説明はそこまでになっていた。そこには絵が描かれてあり双頭の狼であった。これが意味するのはなんだろうか?確かあの洞窟の中にこれと同じ彫刻があった。やはり間違いなく、あそこにあるのであろう。
>> 188
『部屋はこっちよ』
ガイ達はクルミに案内されクルミの父であるギレンの部屋に入った。そこは漁師とは思えないほどの本の山であった。何かを研究している科学者の部屋と言った方が正しいだろう。
『これがお父さんの部屋!好きなように調べ下さい!私は隣で宿題やっているから…』
そう言って出て行った。ガイは本の山を見回しながらため息をついた。
『こりゃ何日かかるか…』
ガイがそう言うのもわかる気がする。かなりの本の量であった。
『まあ水に関する本と言い伝えの本を探した方が早いだろうな!』
ダンもそう言いながら一緒になって探している。助かる話だ。だがさっきのハナナム家の令嬢と一緒に居たのが気になる。
『おい!これはもしかして…』
ダンが持っている本は古く、今にも破けてしまいそうである。表紙を見ると【島の伝説】と書いてあった。
『それなら何かわかるかもしれないな!』
ガイは受けとると読み始めた。内容はいろんな事が書いてあった。海に怪物が出るとか、この島には9つの宝玉があり集めると願いが1つ叶うとか書いてあった。どこかで聞いたような話だ?そして半ば辺りに魔水の事が書いてあった。
>> 187
中に入ると中央にテーブルと椅子があった。そこにガイ達は腰掛けた。
『学校の方はどうだ?楽しいか?』
『うん凄く楽しい!』
今までは声が出ない事で学校に行けないでいた。ダンが親代わりに勉強を教えていた。余計な事も教えていたようだったが…。
『紅茶しかないけど良いかな?』
『ああ構わないよ』
クルミはヤカンを沸かしながら聞いた。
『ところで話って何かな?』
『クルミは魔水…いや命水を知っているかい?』
ガイはストレートに聞いた。クルミはカップに紅茶を注いでいる。
『魔水…命水…あっ昔お爺ちゃんに聞いたことある!確かこの島の洞窟に不思議な水があるって言っていた!でもそのままでは普通の水だって!』
カップを置きながら何かを思い出そうとしていた。
『熱いから気を付けてね!』
『ああ…ありがとう!それでどうやったら効果が出るのだい?』
『それはわからない…そういえば前…お父さんがそれに関しての本がどこかにあるって言っていたと思うのだけど…』
『それってどこに?』
ガイは食いつくように言った。
『お父さんの遺品はあっちの部屋にあるけど…それがあるかわからない!?』
クルミは自信がないようだった。
>> 186
車を停めると2人は入り口へと向かった。ノックをしてみるが返事がない。
『まだ帰って来てないな…』
『そうだな…しばらく待つしかないな!』
『ああ…』
ガイは小屋の外にある丸太で出来た椅子に腰掛けた。
『ところでそのお前の言う魔水でどうしょうと思っているのだ?』
ガイはそう聞かれて今までの事を話した。空を見ると鳥が飛んでいた。見たこともない鳥だった。
『なるほどね…そりゃ困ったな!それにしてもまたサザナが関わっているのか!何が目的なんだあの男は…?』
『確かにね…ヤツいったい何者なんだ…』
ダンは何かを考えていた。
『ヤツは確か昔どこかのゲリラの一員だったはずだ!』
そう言った。すると…
『あれっ?おじちゃん達どうしたのこんな所で?』
声の方を見るとクルミが立っていた。声が出なかった彼女はあの四角柱により声が出るようになった。
『おおクルミ久しぶりだな!待っていたぜ!』
『えっ!?私を待っていたの?』
『ああ…ちょっと聞きたい事があってな…』
クルミは目をクルクルさせて見ている。
『聞きたい事って何…?こんな所もなんだから中に入ってよ!』
そう言われガイ達は小屋の中に入った。
>> 185
『何故会えないのだ…?』
ガイは不思議に思い尋ねた。
『残念だが亡くなっているよ…漁に出て嵐に巻き込まれてな……』
ダンは思い返すように言った。
『亡くなった…と言う事は他に知っている者はいないと言う事か?』
ガイは確認した。だがダンは意外な事を言った。
『しかし彼には娘がいた…』
『娘?』
『そうガイお前も知っているだろう!……クルミだよ!』
『あのクルミがそうなのか…!?』
そう声の無い少女のクルミであった。クルミの両親が亡くなった事は聞いていたがあの娘だとは…。偶然にも知り合っていたのだ。
『それでクルミは今どこに居るのだ?そう言えば君が店でアギトにはあったがクルミは居なかったが…』
『今は学校じゃないかな?』
そう言われればクルミは学校へ通う年齢ではある。声も取り戻せて楽しんでいるだろう。
『そろそろ学校も終わるだろうから俺が家に送ってやるよ!』
ダンは腕時計を見るとそう言った。ガイにとっては願ったり叶ったりの事であった。
『すまない。そうしてくれたら助かるよ』
ダンは車をクルミの家へと走らせた。南国風の小屋が見えてきた。
>> 184
『実はダンに聞きたい事あるのだが…』
『ん…なんだ?』
『魔水の事知っているか?』
『魔水?……いや知らないな…』ガイはダンの意外な返事に驚いた。
『そんなはずはない…それなら牌原師範を知っているだろう?』
『ハイバラ……あっハイバルね!知っているよ!昔何度かあったな…そのハイバルがどうした?』
『師範がダンに聞いたらわかると言っていたのだが……本当に魔水の事知らないのか?』
『……ああ』ダンは本当に知らないようだ。ガイは諦めて立ち去ろうとした。するとダン呼び止めた。
『ちょっと待ったもしかしてお前が言っているのは【命水】の事じゃないかな…?』ダンはそう言った。命水?また新たな名前が出てきた。
『命水とはなんだ?』
『ここではなんだから車に行こう!荷物も全て載せたから帰りながら帰ろう!』ガイ達はダンの車に乗り込むと話出した。
『まあ俺もそれでも詳しくは知らないのだが、昔からここの島に言い伝えがあってな病気を治す力ある水があるらしいのだ…確かギレンがその在処を知っている最後の継承者じゃなかったかな?』
『それならそのギレンに合わしてくれないか!?』ガイがそう言うと首を横に振った。
>> 183
何故に令嬢達がここに居るのだろうか?それよりもダンと一緒に居る事が謎である。令嬢達はダンが魔水の事を知っている事を知っていたのだろうか?謎が深まるばかりであった。ガイはダン達の近くへ見つからないように近づいた。やり取りの声が微かに聞こえてきた。
『例の……はちゃんと……かしら?』
『ああ!……はあの中に………あるはずだ?』途中の声が聞き取れない。その後も良く聞き取れない中、ダン達を見張っていた。すると話が終わったのか、令嬢達はどこかへ居なくなった。頃合いを見計らってダンの元へ歩いて行った。
『よう、ダン元気にしていたか?』ガイは近づくそう言った。
『誰かと思えばガイじゃないか?久しぶりだな!今日はどうしたんだ?』ダンはガイと握手をして肩を数回叩いた。
『ちょっと君に聞きたい事があってな…少し時間をもらえるか?』
『それは構わないが…どうした?』ダンは作業をしている者達に指示をするとガイと歩き出した。
『それで話とはなんなんだ?金の事なら無理だぞ!』ダンは笑いながら言った。ガイは呆れた顔をした。
『すまんすまん…俺が悪かった…話を聞こう』ダンはさっきとは打って変わって真面目な顔をした。
>> 182
『俺はあなたに助けられた事を聞き情報部に頼み調べてもらった!しかしサツキさんがあの有名なエスだったとは思わなかった…』コードネームエスとは有名な女スパイだった。
『そこまで調べがついていたのね…これ以上は話さなくて良いわね!家族は誰も知らない事だから…』
『それはわかっている!誰にも言うつもりはない!』
『ありがとう!』サツキは頭を下げた。ガイは吸いかけの煙草を消すと入り口の方を向いた。
『それにしてもダンは帰って来ないな?』
『言われてみればそうね…』
『俺ちょっと港の方に行って見てくるよ』ガイは立ち上がりサツキに言った。
『そう分かったわ!もし入れ違いになったら連絡してあげるわ!』
『ありがとう!ちょっと行ってくる!』そう言ってガイは店を出て行った。外ではシュウトがアギトと遊んでいた。港へと歩いて行くと街は賑わっていた。近々祭りがあるらしい。人混みをすり抜けて港に着いた。そこには大きな貨物船があり荷物を下ろしていた。その一角にダンらしき男がいた。ところがその近くに見た事のある2人の女性が一緒に居た。ハナナム家の令嬢達だった。
>> 181
『黒の部隊は烈火の如くゲリラ達を倒して行った…ゲリラは窮地に追い込まれた…後のない彼らは最後の手段に出た…身を捨てた攻撃だった…あらゆる武器を撃ちながら攻めて来る…そして黒の部隊の近くにミサイルが爆発し何人かが倒れてた…』サツキは思い返すようにそう言った。
『そうだったな…あの時俺達の近くで爆発があり俺は気を失った…しばらくして近くで足音が聞こえて来て意識が戻った…ゲリラ達が俺に気づき今にも撃とうとした時、銃声と共にゲリラ達が倒れた…それはサツキさん…君が俺を助けてくれたのですね?その後はまた気を失ってしまったから覚えてはいないがな…』ガイが言うとサツキは微笑み言った。
『いいえ…あの時あなた達が来てくれてなかったら私達はどうなっていたか…お互い様ですね!』ガイとサツキは笑った。
『じゃあやっぱりあの時の女性はサツキさんだったんですね!!』サツキは頷いた。
『そう…私よ…しかし何故コードネームまで知っているの?』サツキはガイがそこまで知っているのか聞きたくなった。
『それは助けてくれた人の事を調べるのは当たり前でしょう!』
『どこまで調べているの?』サツキが聞くとガイはニヤリとした。
>> 180
サツキはニコニコしながら言った。
『実はあれから旦那がこっちでコーヒーの畑を作るって言い出してね…それで仕方なくこっちに居るのだけど…何かしていないと退屈だからダンの店を昼間借りて喫茶店をやらして貰っているのよ!』
『本当にそうなのか…?あの時は言わなかったが…』そう言いかけるとサツキは話を遮るように言った。
『シュウト悪いけど外に出て遊んでくれないかな?』シュウトは黙って店の外へと出て行った。外ではアギトだろうか?犬の吠える声がした。
『ガイさん何が言いたいのかしら?』サツキは腕を組みガイを睨む。
『昔、俺は1人の女性に助けられた…コードネームはエス!あなたですよねサツキさん!?』
『………』サツキはしばらく何も言わなかった。
『あの時意識が朦朧としていたから顔は覚えていないがその腕の傷と声はハッキリと覚えている!』サツキはとっさに腕を隠した。ガイはサツキの目をジッと見た。
『ふふふ…懐かしい話ね…何年になるかしら?あの時はゲリラの襲撃に合い私の部隊も壊滅状態になっていて…私達も必死に反撃していた…そこに黒の部隊が現れた…それがあなたの部隊だった』サツキは椅子に腰掛けた。
>> 179
『港に何しに行ったのだ?』ガイが尋ねるとサツキはジュースをシュウトの前に置いた。シュウトはそれを取り飲みだした。足は相変わらずブラブラしている。そしてサツキは皿を拭きながら答えた。
『ダンは今日届く荷物を取りに行くって言っていたけど…そろそろ帰って来るのじゃないかしら?』
『そうか…ならしばらく待たせてもらうか…』
『久しぶりだからゆっくりしていって!』サツキがそう言うとガイは懐から煙草を出し1本に火をつけ吸い出した。煙を吐き出すと視線を感じた。視線の先を見るとシュウトがジッとガイを見ていた。いや、ガイと言うよりガイが腰に挿している刀だった。
『どうした?これが珍しいか?』そう尋ねるとシュウトは頷いた。ガイは刀を抜くとシュウトに見せた。
『危ないから気を付けろよ!』シュウトはただジッと見ているだけでしばらくすると刀をガイに返した。
『もう良いのか?』シュウトは頷いた。何がしたかったのかは良くわからなかった。刀の柄にあるブラックダイヤを見ていたようだった。まあ珍しい物ではあるからな…。
『ところで何故アナタ達はここに居るのですか?』ガイはサツキに聞いた。
>> 178
『そうなんだ…でも今ダンはいないわよ!ここじゃなんだから中に入りましょう!』そう言うと扉を開け中に入っていった。中には前来たときと少し変わっているように思った。
『好きな所に座って!コーヒーで良いかしら?』
『あぁ頼む!』何か久しぶりにゆっくりコーヒーを飲む気がした。サツキはカウンターでコーヒーを作り出した。コーヒーの薫りが漂って来る。横を見るといつの間にかシュウトが腰掛けていた。足をブラブラさせながらキョロキョロしている。しばらくするとサツキが出来上がったコーヒーを持ってきてガイの前に置いた。
『さぁどうぞ!砂糖とクリームはそこにあるから使ってね!』
『ありがとう!俺はブラックで大丈夫だよ!』ガイはカップを持ち上げて薫りを嗅いだ。なんとも言えないうまそうな薫りだった。ガイは一口飲んだ。
『これはうまいなぁー!!』
『当たり前じゃない!誰が作ったと思っているの!』サツキがそう言う。
『そりゃそうだ!あははは!』ガイはそう言って笑った。
『ところでダンはどうしたんだ?』
『ダンは今港の近くに行っているの!』
『…港?』ガイはカップを皿に置いた。
>> 177
ジェット機に乗ったガイは窓の外を眺めていた。そこには雁の群れが飛んでいた。《先ほど見た雁だろうか?それにしても疲れた…》そんな事を思いながら眠り落ちた。どれぐらい経ったのだろうか?窓の外に9つの島が見えていた。そうナインアイランドに着いたのであった。
『ふぅ~久しぶりだな…』ガイは独り言を言いながら空港を出た。
『ダンの店を探さなければ…確か街の外れ辺りだったな…』ガイはダンの店に向かって歩き出した。しばらく歩くと見慣れた犬!?いや狼が近づいて来る。
『お前は…アギトじゃないか!!元気にしていたか?』ガイはしゃがみアギトの体を撫でた。アギトは気持ち良さそうにしている。そして立ち上がると再びダンの店に向かった。アギトはガイの横をついてきていた。
目の前に店が見えて来た。ガイは店の前に立った。すると後ろからガイを呼ぶ声がした。振り向くとそこにはサツキとシュウトが立っていた。
『ガイさん久しぶりね!今日はどうしたの?』サツキは微笑んでそう言った。
『ちょっとなここの店主のダンに会いにな…』ガイが言うとサツキは近寄り言った。
>> 176
その頃ガイ達は空港に向かっていた。もちろん魔水を探す為ナインアイランドに行く為であった。ガイはジェイに言った。
『ジェイ…俺は何をしていたのだろう?人質も救えず、部下の事さえ分からなかった…』
『隊長!それは自分も同じです!パーフェクトな人間なんていません!それより早く魔水を見つけてしまいましょう!』『そうだな…悩んでも仕方ないな!』ガイはジェイに勇気を貰った。ガイ達は湖の近くを通り過ぎた。湖面から雁の群れが飛び立つのが見えた。ここを過ぎると空港までは後少しだった。
『ジェイ!』
『はい?』
『俺はあの島に1人で行く…』ジェイはガイを見る。
『私も行きます!』『いや…お前にはやってもらいたい事がある…それは奴らを見張って欲しい!それにこの事を村長に伝えて欲しいのだ』
『………』ジェイは返事が出来ずにいた。
『ジェイお前だから頼んでいるのだ…良いな?』
『わかりました…隊長』ガイはジェイを見て微笑んだ。そしてガイ達は空港に着いた。1人ガイは車を降り軽く手を挙げると空港の中に入っていった。そしてナインアイランドへと旅立った。
>> 175
ガイは少し俯きながら答えた。
『仕方ない…私が見つけて来よう!ただしすぐには無理だ!最低でも3日は欲しい…』
『それぐらいは待ってあげるわ!』ミナは長い髪を掻き揚げ答えた。その後ろでムナは何故か悲しそうな顔をしていた。ミナがムナを見ると無理に笑っていた。もしかしたらムナはこんな事はしたくなかったのだろうか?本人に聞く事が出来ないからわからないが…。そんな事を考えているとサザナが口を開いた。
『それでは早速探して来てもらいましょう!』
『わかった!絶対に人質に手を出すなよ!』
『わかっていますよ…だから早く探して来て下さいね…』
『ああ…わかった!』ガイはそう言うとジェイと倉庫から出ていった。サザナはそれを見届けるとミナに言った。
『ミナ様…ヤツは必ず探し出してくれますよ…』
『そうね!彼はそういうタイプだわ!必ず探し出してくれるわ!必ずね!』ミナは振り返ってムナに合図をすると奥の部屋に歩いていった。サザナはマーベックに近づき顎をつかみ言った。
『もうしばらくの辛抱よ!食べたりはしないから心配しないでね…ははははは』笑っているサザナを見ながらマーベックは震えていた。
>> 174
『ガイ様いい加減刀を収めてもらえませんか?』ガイはしぶしぶ刀を鞘に収めた。サザナは首のあたりを触りながら少し下がった。
『さて、先ほどの件ご存知ですよね!?』
『俺は師範から貰ったそれしか知らない!』
『とぼけても無駄ですよ…ちゃんと調べはついているのですから…ねぇケイさん!』
『!?』ガイは驚いた。まさか自分の部下が裏切るとは思っていなかった。ガイは悔しさに拳を握りしめた。
『何故だ…ケイ何故裏切った!』
『裏切った?ご冗談を…私は元々サザナ様の部下…隊長…いやガイあなたを見張る為に部下になっただけ……別に裏切りではないさ』ガイは驚いた。今まで俺は部下達の何を見て来たのだろう…。自分の不甲斐なさに落胆した…。
『まぁそういう事です。では教えてもらいましょうか?…いや探して来てもらいましょう!それで良いですよねミナ様?』サザナはニヤリと笑った。
『そうしてもらえるかしら?』ミナが言うとガイは尋ねた。
『何故そこまでして魔水が必要なんだ?』ミナはガイの方に近づいて言った。
『ふふふ…あれね文字通り魔法の水なの!若返りの薬と言われているの…ご存知かしら?』ミナはそう言ってガイの肩を叩いた。
>> 173
離れた瞬間サザナの手下達が銃を構える。ほぼ同時にガイ達も動いた。ガイは素早くサザナの首元に刀をつけつけていた。
『流石ですな…油断しました。しかしこちらの方が上手だったようですね…』サザナが余裕の顔してマーベックの方を向いた。見るとマーベックの様子がおかしい。助けたジェイも不思議そうにしている。マーベックが急に笑い出した。その声は子供の声ではない。マーベックが顔に手を当てると皮を剥ぎだした。中からはサザナの手下が現れた。
『サザナ…貴様!騙したな!』
『ははは!騙されるアナタが悪いのですよ!』サザナは勝ち誇った顔をしている。
『魔水は頂きましたよ』サザナは瓶をミナに手渡した。
『マーベックはどこにいるんだ?』それを聞いたサザナが合図をすると入り口の所に手下がマーベックを連れて来た。
『ガイ様!!』マーベックがそう叫んだ。
『マーベック待っていろすぐ助かるからな!』ガイはサザナを見て尋ねた。
『サザナお前何が目的だ?』サザナはそれを聞くと話出した。
『ははは…察しが早いですね!それはこの魔水の他に魔水のありかを知ってますよね?』ガイは何故サザナが知っているのか不思議だった。
>> 172
画面が出るとそこにはロープで縛られて横たわっているマーベックが映った。そこはどこかの部屋だろう。太陽の光が差し込んでいる。地下ではない事だけがわかった。
『ご覧の通り無事ですよ!』サザナはガイを見て言った。ガイは納得する訳がない。
『ふざけているのか?こんな物先に撮影する事だって出来る』
『まだ信用していただけないようですね!わかりました!お連れしましょう!その前にそちらも魔水を見せてもらいましょうか?』
『わかった…』ガイは無線機を出すとジェイに魔水を持って来るように言った。ガイは部屋を出て倉庫の方に歩きだした。するとそこに瓶を持ったジェイが立っていた。その横からマーベックを連れた手下も現れた。
『さあこれでよろしいですか?お互い確認が出来ましたよ…渡してもらいましょうか?』
『わかった!ジェイその瓶をそいつに渡せ!しかしサザナ同時に交換だ!良いな?』
『わかりました…そうしましょう!』サザナはニヤニヤしながら手下に指示をした。ガイは部下2人にあるサインを出した後指示をした。手下がマーベックを差し出し、ジェイがマーベックを掴み手下の手に瓶を渡した。2人同時に離れた。
>> 171
『それはこっちの台詞だ!』ガイは怒りを露わにした。
『あらあらそんなに怒らなくても…』何かムカつく感じだ。
『お前…俺達をバカにしているのか!』流石にガイはキレてしまった。今にも襲いかかりそうだ。
『隊長落ち着いて下さい!』ケイが止めに入るとガイは我に返った。サザナの挑発にのってしまった事を恥じた。
『ところで魔水はどこにあるのかしら?早くこちらに渡しなさい!』
『ここにはない!こんな事もあるかと別の場所に置いてある…先にマーベックの無事を確認しないとな…』ガイがそう言うとサザナは後ろにいるミナに何か話しているようだ。
改めて令嬢2人を見ると姉はオテンバ風で妹は逆で大人しそうだ。だが女性は見た目では判断が出来ないところがある。しばらくして話が終わったのかサザナが言った。
『仕方ありませんね…こちらに来て下さい』そう言うと先ほどの奥にある扉に入って行く。ここにいるのか?そんな訳はない。それならあんな言い方はしないだろう。
中に入るとごちゃごちゃしていてテーブルの上にはモニターがあった。この倉庫は事務所も兼ねていたのだろうか…。サザナはモニターのスイッチを入れた。
>> 170
ガイ達は倉庫の入り口に立った。中にはやはり誰もいない。ガイ達は辺りを伺いながら入って行く。奥に扉がありそこに近づくと中から声がした。
《魔水さえ入ればこっちのもんですわ!オホホホ…》
《奴ら持って来でしょうか?》
《あの人質が居る限り持って来るはずですわ!》
《そうですね…ミナ様!》…ミナ?どこかで聞いた名前だ。どこだったかな?確か…ハナナム家の令嬢がそんな名前だったはずだ。まさかな…。近くで足音が聞こえた。
『お前ら何者だ?』ガイ達が振り返るとサザナの手下が銃を向けている。
『お前はガイだな!サザナ様…サザナ様!奴らが来ました!』ガイ達は一歩下がり身構えた。扉が開きサザナ達が出て来た。最後に女が2人出て来た。ガイはそれを見て確信した。ハナナム家の令嬢2人であった。1人は姉のミナ、もう1人は妹のムナである。
『あらあら盗み聞きですか?いけませんね…魔水は持って来たのですか?』サザナがニヤニヤした顔で聞いて来た。
『あぁ持ってきた!マーベックはどこだ?』
『マーベック?…村長の息子ね!彼は他の場所に居るよ!アナタ達が何するか分からないからね!』サザナはさらにニヤニヤしながら言った。
>> 169
眠っていたのではなく意識はあったが動けなかっただけのようだった。しかし牌原の丸薬で動けるようになったみたいだった。ミツキはガイを向きか細い声で言った。
『…ガイ。話は聞こえてました。私は大丈夫ですからマーベックを助けてあげて…』まだ苦しいのかミツキは唸っている。しかし力を振り絞るようにさらに言った。
『本当に私は大丈夫だから行ってあげて…』
『そうだガイ!姫様もああ言っておられる。早く行って来い。後は私に任せろ!』ガイはそれを聞くと頷き入り口まで行き振り返ると深く頭を下げた。ミツキの言葉に感謝したのだった。
さっそくガイは第3倉庫へと車を走らせた。倉庫の近くに着いた。車を降り気付かれないように倉庫に近づいた。先に着いた2人に連絡をとってみた。すると待ち合わせた場所にケイが現れた。スラッとして髪が短い男だ。ガイよりは少し背は低いようだ。
『それで中の様子はどうなんだ?』
『はい!それが人質が見当たらないのです…?』
『見当たらないだと?それならどこに居るのだ?』
『別の場所ではないでしょうか?』
『仕方ない…とりあえず行くぞ!ついて来い!』そう言うと倉庫の中に入って行った。
>> 168
『ジェイとケイは第3倉庫に行って見張っていてくれ!』
『了解!』
『了解!』
そう言うと2人は倉庫に向かった。2人を見送るとガイ達は城の中に入って行った。そして姫の居る部屋に着いた。中に入ると医師達が忙しそうに歩き回っていた。
『姫の容態はどうだ?』近くに居た医師に尋ねた。
『はい、今の所は変化はありません』
『そうか…師範診てもらえますか?』後ろに居る牌原に言った。牌原は頷きミツキの側に寄った。医師達が見守る中、牌原はミツキを診た。しばらくして牌原がガイを見た。
『これは高山に咲くヒワリ毒草の症状に似ておるな!この体に出ている斑点がそうだ』そう言うとガイにさっき渡した丸薬を飲ませるように言った。医師達はミツキにそれを飲ませた。
『しかし症状は和らぐが完全には治らないな…やはり魔水が必要だな…』牌原はそう言うとミツキの側から離れた。
『それならこの魔水を飲ませた方が良いのでは……』
『飲ませるのは良いがマーベックはどうするんじゃ?ましてや姫様も喜ぶまい!』すると医師達が騒ぎ出した。ミツキが目を覚ましたのである。丸薬が効いてきたのだろう。
>> 167
しかしあの島に行って本当に魔水はあるのだろうか?それに姫達の容態がいつ悪くなるか…。だが渡さなければマーベックが危ない…。どちらにせよあの島に行くしかないな!とにかく一度城に戻ろう。そして牌原に話かけた。
『師範は今からどうされるのですか?』
『ワシか…ワシは一度姫の所に寄って容態を見たい。もしかしたら直せるかもしれない!』
『本当ですか!?』
『我が家の秘薬があってな…それを使えばなんとかなるかも…ただ完全には治せないかもしれない…これが秘薬だ』黒い四角な箱を出した。中には5㎜ほどの丸薬が入っていた。
『まずはこれを飲ませるしかないな』
『それなら急ぎましょう!』2人は城へと急いだ。ガイは城に居るジェイに連絡をとった。
『おい!ジェイか…俺だ…魔水はどうした?………それならまだ姫には飲ませるな!しばらく待ってくれ…後10分で着く』そう言って切った。3人は城へと急いだ。そして目の前に城が見えて来た。城の門の前にジェイが見えた。待っていたようだ。
『ようジェイ!姫の様子はどうだ?』
『容態は変わっていません。それと魔水です』ジェイは魔水の瓶をガイに手渡した。
>> 166
ガイは城に戻りながら考えた。もし魔水を奴に渡したら…あれがなければ姫だけでなく城で倒れた者の命も危ない…。何か良い方法はないだろうか?そんな事を考えていた。すると道の先に誰かが立っている。ガイは立ち止まり身構えた。それは牌原だった。
『師匠!どうしてここに?』
『その話は歩きながら話そう』そう言うと城へと歩き出した。
『実はな…お前達が帰った後嫌な予感がして村まで降りてきたのだ。すると目の前を1台の車がすれ違った。それにはお前と一緒に来たマーベックが乗っていた』牌原はそう言うとガイを見た。
『お前は魔水が必要なんだろう?』
『はい、実はマーベックが人質にされ城に持って行った魔水をよこせと言っているのです』
『しかし魔水がないから困っていると言う事かな?』
『はい!そうなんです!…でもあれを持って行くと…』ガイは俯きながら言った。
『ガイよ!お前に言わなかったがあの島行けばなんとかなるかもしれない!』
『もしかしたらあの洞窟にあると言う事ですか?』
『そうだ!あの島に居るダンと言う男にあってみろ!』
『ダンですか!?』ガイは驚いた。あのダンが魔水の事を知っていたなんて…。
>> 165
『村長は返してあげる!しかし坊やを助けたければ魔水を渡しなさい』ガイはしまったと思った。奴らの常套手段だった事を…
『汚いぞ貴様ら!!』
『こういう事に汚いもクソないわ!』サザナがそう言い放った。しかし魔水はすでに姫の元にある。どっちにしてもサザナに渡す物はない。
『マーベックはどこに居るんだ?』村長はそう言うとオロオロしている。
『大丈夫ある場所にちゃんと居るから!それはそうと…さあ魔水を渡してもらえるかな?』
『今はない!それに最後の魔水は今頃、姫に飲ましているはずだ…』
『何!アナタ達は手ぶらでここに来たわけですか!』サザナは頭にきたのか近くにあった椅子を蹴った。しかしすぐに気を取り直し言った。
『仕方ないですね!その姫に持って行った分をすぐにここに持って来て下さい!』サザナが険しい顔をして言った。そう言われても、もう無くなっているだろう。とにかく城に戻るしかない…。
『わかったすぐに城に戻って取ってくる!』ガイはそう言うと村長を連れ村へと戻った。
『ガイ様!マーベックを…マーベックを助けて下さい』
『任せて下さい。必ず助け出します』ガイはそう言うと城へと向かった。
>> 164
『ふふふふ…やはり来ましたねガイさん!』ガイは声のする方を見るとサザナが立っていた。
『何故俺が来ると…』ガイはサザナを睨みつけた。
『あの村に居たのは私の部下達なんですよ!アナタ達が来たのも見ていたのです!いずれアナタが魔水を持って帰ってくると思いまして待っていたのです』
『村長はあくまで囮だったか…しかしお前確かあの時死んだはず…何故生きている?』サザナはガイを見ながら笑った。そして今までの事を語り出した。
『私は不死身なんですよ!』
『不死身だと!ふざけるな!』
『まあ人の話は最後まで聞きなさい!』ガイはサザナの話を聞く事にした。
『確かに私はあの時死んだはずだった…しかしそこに2人が現れて…そして持っていた物を飲ませたの…そしたら私の傷はみるみる治りこの通りよ!』ガイはまさかと思った。そうサザナが言っていた物とは【魔水】の事だろうと思った。しかしその2人とは誰だろう?誰だろうと村長を先に助けるのが先だ。ガイはケイに目配せをした。ケイはわかったようだ。するとガイは腰にある袋に手を入れ煙玉を取った。ところがサザナが言った。
>> 163
そこにいたのはサザナだった。確かあの時斬り倒したはずだ。何故生きている?まさかヤツが本物で倒したのは影!?何を企んでいるのだ?近くで足音がした。ガイは身構えた。
『隊長!私です!』さっき帰ったはず部下の1人だった。
『おうケイじゃないか!何故ここに?』
『村を出る時に怪しいヤツらを見かけたのでジェイに魔水を託し附けてきたらここに来たのです!しかし何故隊長がここに?』
『あれを見ろ!村長が捕らわれている…それで助けに来たのだ!』
『なるほど、それでどうなんですか中の様子は?』
『相手は6人全員銃を持っている!しかし1人手強い相手がいるようなんだ!倒したはずのヤツがな!』ガイは前あった事を話した。中を見ていると1人を残し他はどこかに行った。
『隊長、今がチャンスじゃないですか?』
『そうだな!行くぞ!』ガイ達は裏の扉からそろりと入った。見張りの1人はこちらには気づいていなかった。ガイはケイに指示して見張りを撃たせた。サイレンサーを付けている為音はしない。
プシュッ
見張りが倒れる。村長は何が起きたかと驚いている。ガイは素早く村長に近寄りロープを切った。
>> 162
家の中に入るがそこには誰も居なかった。
『パパ?パパどこにいるの?』辺りは静まり返っていた。テーブルに何かが置いてある。良く見ると手紙のようだった。取り上げて見てみた。
《村長は預かった。助けたければ魔水を港の第3倉庫まで持って来い。》
村長はどうも誘拐されたようだった。その紙の下には《ブラックシャーク》と書いてあった。これはあの時の闇組織のはずだ。あれはホイル氏が解散したはずだ。誰がこんな事を…?とにかく行って見るしかない。
『マーベックここで待っていろ!俺が行って助けてくる!』そう言うとガイは港に向かった。港に着くと大きな倉庫が建ち並んでいた。倉庫前を歩きながら調べていた。言われた第3倉庫があった。辺りは昼間にしては静まり返っていた。ガイは周囲に目をやりながら中をうかがった。すると村長がロープで縛られていた。しかし辺りには見張りがいない。ガイはしばらく様子を見るため裏の方に回った。人の気配はするがどこにも見当たらない。多分不意打ちを狙っているのだろうか?すると動きがあった。村長の周りに数人が近寄って来た。そこの中の1人に見覚えがあった。
>> 161
ガイは魔水の瓶を取ると眺めた。魔水は薄い水色で匂いは無かった。
『それが最後の魔水だ!早く姫に飲ましてやってくれ!』
『ありがとうございます!しかし倒れたのが姫だけではないのです…』ガイは城での話を牌原に伝えた。
『それは困ったな…以前もらったのはそれが最後だからな…』
『それは誰からもらったのですか?』
『その魔水はある島で私が修行している時にもらった物だ。くれたのは漁師でギレンと言ったな。確か娘が居たはずだ。その当時赤ちゃんで目がクルッとして可愛らしい子だったな』
『その島の名前はなんですか?』
『島の名前はナインアイランドだ!そこの洞窟にあるとまでは聞いた!』
『ナインアイランドですか!』
『なんだ行った事あるのか?』
『はい、ちょっと前に行ったばかりです!早速行ってみます!』ガイはそう言うと席を立った。牌原も立ち上がった。固い握手をすると再び会う約束をして小屋を出た。険しい道を戻りそして村に着いた。
『お前達はこれを持って城に帰ってくれ!俺は島に行って来る!』
『わかりました!気を付けて下さい!』そう言って部下2人は村を後にした。そしてガイはマーベックと村長の家に向かった。
>> 160
中は暖炉がありそこではお湯を沸かしているのか湯気が立っていた。真ん中には木で作られたテーブルがありハイバルはそこに腰掛けている。
『まあ座りたまえ!』そう言われるとガイ達は腰を掛けた。ハイバルは白い髭を生やしていた。体はガッチリとしていた。ガイは何か引っかかった。どこかであったような気がしていた。
『ガイどうした?俺を忘れたか?』
『……まさか……師範!』
『やっとわかったようだな!ははははは!』ハイバルは笑った。部下の2人とマーベックは不思議そうな顔をしている。
『懐かしいなガイ!』
『私もです牌原師範!』ガイと牌原はガッチリと握手をした。
『それにしても何故誕生日を聞いたのですか?』
『誕生日か?それはなお前の癖を見るためだ。』
『俺の癖?そんなものありますか?』
『ははははは!男のくせに人の誕生日を良く知っている!』
『あははは…』ガイは照れくさそうにしている。
『冗談はこれぐらいにして姫の様態はどうなんだ?』
『今の所は大丈夫ですが意識は戻っていません!』
『あまり良い状態ではなさそうだな…』
『………』
『ガイお前が欲しいのはこれだな?』牌原はテーブルの上に魔水の瓶を出した。
>> 159
『一応僕が先に行って話してくるよ!』
『そうか…それなら頼む!ここで待っているから…』
『じゃあ行って来るね!』そう言うとハイバルの所に向かって行った。ガイ達は近場の岩に腰掛けてマーベックの帰りを待った。5分ぐらい経った頃帰って来た。
『どうだった?ハイバルは会ってくれそうか?』
『はい!会ってくれそうなんですが…』
『どうした?』
『先にテストをしたいと言っているのですが…』
『テスト?何のテストだ?』
『とりあえず家の前に行きましょう!』ガイ達はハイバルの家に行った。そこには丸太で作られた小屋があった。その前に立つと声がした。
《お前達は本当に姫様の親衛隊なのか?》
『何故そんな事を聞く?間違いなく俺は親衛隊隊長のガイだ!』
《なら聞くが姫様の誕生日を言ってみろ!》
『誕生日…?』
《答えられないのか?》
『わかるさ!姫様の誕生日は7月7日だ!これで良いか?』《………》ハイバルはしばらく黙っていた。ガイ達は顔を見合った。しばらくすると扉が開いた。中からハイバルが顔を出した。
『済まなかった!入ってくれ!』それを聞きガイ達は中に入った。
>> 158
『それは構いませんが少し複雑な場所なのです。私の息子を案内に付けましょう!』
『ありがとうございます!』村長はそれを聞くと席を立った。しばらくすると村長が息子を連れて帰って来た。
『私の息子でマーベックです。コイツに案内させます』マーベックはまだ子供であった。しかし顔のキリッとして意志が強そうな子供だった。
『ガイ様はじめましてマーベックと言います。よろしくお願いします』マーベックはガイに近づいて会釈をした。ガイはしゃがみ視線を落とした。
『よろしくな!』マーベックの頭を撫でた。そしてガイ達は賢者ハイバルのいる場所を目指した。場所は山の中腹にあるらしく険しかった。確かに説明されただけでは分からないだろう。こんな所は登れるのだろうかと言う崖をマーベックはスルスルと登って行く。ガイ達はそれに続いて登って行く。しばらくすると目の前が開けた。マーベックが急に立ち止まった。
『どうした?』
『もう少ししたらハイバル様のいる場所なんだけど…』マーベックが言葉を濁した。
『なら早く連れて行ってくれ?』
『実はハイバル様はなかなか人を受け入れてくれないのだよね』マーベックは困った顔をしている。
>> 157
『彼らも…?』
『実は今回が初めてではないのです…この村が襲われるのは…』村は今まで何度となくこんな目にあっていたようだった。しかしそれを救ってくれたのは賢者だった。だから彼らは賢者の居場所を言おうとしなかったのであった。
『大体の事はわかりましたがその魔水について教えてもらえないでしょうか?』『私も詳しくはわかりませんが、昔ある国の騎士が戦場へ行く途中に倒れ気を失ったのです。そして目覚めるとそこにあったのが魔水だったそうです。それを飲んだ事で元気になり戦場へと向かったそうです。彼はそれを傷ついた仲間に飲ませ傷を治したんだそうです』
『なるほどそんな話があったのですね』
『あくまでも昔話ですから本当かはわかりませんが…』ガイは村長の話を一通り聞いてから言った。
『それでもし良かったら賢者に合わせてもらえないでしょうか?』村長はしばらく考えていた。
『わかりました。ガイ様には助けていただいた。お礼に教えて差し上げましょう』
『そう言ってもらえるとありがたい!早速で悪いのだが教えていただけないだろうか?』ガイは村長にそう言った。
>> 156
『申し送れました。私は城の親衛隊隊長でガイと言います』
『城の親衛隊?あのガイ様ですか!?』
『何私をご存知で?』
『姫様をお助けになった話はこの村でも有名です。そんなお方がこの村にどのようなご用件ですか?』
『実はその姫様が病で倒れられた!その病を治す方法を知っているのがこの辺り住む賢者!その賢者を知っているのはここの長と聞いた。それでここに来ました』村長は驚いた。何があったのだろうか?
『何故そんな顔をする?』
『実はあの者達もその賢者を探していたようで、何が目的なのかは知りませんが…』ガイは何かが起こり始めた気がした。
『あの…ここではなんですから家の方にどうぞ』
『そうかすまない!』ガイ達は村長の家に連れていかれた。村長の家に入るとコーヒーを入れてくれた。そして賢者について話してくれた。
『多分彼らは賢者の持っている魔水が目的ではないでしょうか?』
『魔水…?その魔水とはなんなんだ?』
『魔水とはかなり昔からどんな病も治すと言われる薬です。それを持っているのが賢者であるハイバル様なのです。彼らもそれを使って設けようとしているのでしょう』ガイは村長の話を聞き尋ねた。
>> 155
『いい加減居場所を言ってもらおうか!』
ババババババッ!!
銃を空にめがけ打ち鳴らした。村人は怯えている。
『賢者の居場所を教えなければ1人ずつ殺して行く!』村人はただ怯えている。
『まずはお前からだ!』ひ弱そうな男に銃を向けた。
『止めてくれ…撃つなら私にしろ!』村長らしき男がそう言った。
『なら、お前からだ…』男は村長に銃を向けた。
『隊長!マズいですよ!助けなければ!』
『そうだな!お前達は右側から回ってくれ!そして俺が飛び出すのが合図だ…頼むぞ!』
『了解!』
『了解!』ガイ達は二手に別れ作戦を決行した。気づかれないように回った。そして男が銃を撃とうとした、その瞬間ガイは飛び出した。腰の刀を抜き男達に向かった。それを合図に2人の部下が飛び出した。一斉に男達に斬りかかる。男達は突然のガイ達の登場に一瞬怯んだ。すかさずガイは村長に銃を向けた男を斬り倒した。男達は次々と倒れていく。そして最後の男が倒れた。村人達は突然の出来事に唖然としていた。ガイが指示をして男達を縛り上げた。
『どこのどなたか知りませんがありがとうございました』村長はお礼を言った。続いて村人達が頭を下げた。
>> 154
しかしミツキだけではなかった。城の至る所で人が倒れだした。城では緊急配備がしかれ大調査が行われた。調査の結果、植物から取れる毒である事がわかった。しかしその治療薬がまだ見つかっていなかったのだ。ガイ達は途方に暮れていた。するとこの国に昔から噂になっていた、ある賢者の話が上がってきた。彼なら何か分かるのではないかと言う事なのだ。
『その賢者はどこに居るのだ?』
『アカラ山の近くに居るとは聞いた事はありますが、はっきりした場所はわかりません』
『アカラ山の麓に村がありそこの長なら知っているかもしれません!』
『わかった!俺が行って来る!』そう言うとガイは村に向かった。城を出ると2人の部下が追っかけてついて来た。
『おぉ―お前達!どうした?』
『隊長、俺達もお供します!』
『そうか助かる!それでは行こう!』ガイ達は改めて山の麓の村に向かった。村に着くと不思議な事に人っ子一人いなかった。村の中を見回しながら歩いていると広場に出た。するとそこに人だかりが出来ていた。それは村人が何者か達に銃を向けられていた。
『隊長あれは何ですかね?』
『わからん?しばらく様子を見よう』ガイ達は身を隠した。
>> 153
ガイは慌ててミツキに近寄り抱え起こした。
『姫、姫、大丈夫ですか?おい誰か、誰か来てくれ!』ガイはミツキを見るが意識がない。抱え上げベッドに寝かした。すると世話役達が入って来た。それから医者を呼びしばらくしてやって来た。医者はミツキを診察しだした。医者は難しい顔をしている。
『どうした?姫の様態はどうなんだ?』
『すみません…今はなんとも言えませんが…医療室で詳しく調べないとわかりません!』
『では、早速医療室に連れて行こう!』そう言ってミツキを医療室の方に運んで行った。
それから2時間ほど経って医者が出て来た。
『姫の様態はどうなんだ?』
『今は落ち着いています。意識はまだ戻りませんが1つ気になる事がありまして…』医者は眉間にシワを寄せている。
『なんなんだそれは?』
『実はまだ詳しい事はわかりませんが体内に微量の毒らしき物が見つかりました』
『毒?それはなんの毒なんだ?』
『それが今まで見た事のない物でして…良く調べないと…』
『そうか!なら分かったらすぐ知らせてくれ!』
『わかりました』ミツキは毒を飲まされていたのだろうか?それとも…まあ結果が出てからだな。
>> 152
『もしかしたら水が悪いのではないでしょうか?』
『私もそうではないかなと思って飼育係に聞いたのだけど、定期的に替えているらしいのよ…』ミツキは泣きそうな顔をしていた。しばらく見ていると金魚がプカっと浮かんできた。それを見てミツキは泣き出した。
『ミツキ姫泣かないで下さい。生き物はいつか死ぬのです。多分寿命だったのでしょう』
『そうだよね…命ある物いつかは死ぬのだよね…』
『泣くのは止めて部屋に戻りましょう!』
『うん、わかった!』ガイ達はミツキの部屋に向かった。
『ねぇ…ガイは好きな人はいるの…』
『急にどうしたのですか?私にはそのような人はおりませんが…』
『そうなんだ……』ミツキは少し寂しげな顔をした。ガイは何かまずい事を言ってしまったと頬をポリポリ掻いた。しばし気まずい雰囲気が流れていた。そしてガイ達はミツキの前に着き扉を開け中に入った。
『それでは私はこれで…』
『うん…ありがとうね…』ミツキは少し元気がなかった。金魚が死んだ性か、さっきの返事の性かはわからない。そしてガイが部屋を出ようとした時、後ろで倒れる音がした。振り返るとミツキが倒れていた。
>> 151
『あぁ昨日来たところだよ!今からあの洞窟に向かうところだ!ガイはどこに行くつもりだったんだ?』久しぶりの再会であった。
『実は俺もその洞窟を目指していたんだよ!魔水を探しにな!』
『魔水?なんなんだそれは?』アルミはそう尋ねながら車を降りた。近くの木陰に腰掛けた。皆も車からゾロゾロと降りてきた。
『実は…ミツキ姫が原因不明の病にかかってな…』
『ミツキ姫が…』ガイはアルミを見ると今まであった事を話出した。
『一週間前、城の鍛錬場で体を鍛えていた…』ガイは空を見上げた。
『うりゃー!とぉー!』ガイは刀を振り鞘に収めた。藁俵がバサリと落ちた。居合い抜きのようである。
『ガイ!ガイはどこ?』ミツキ姫の声がした。ガイはタオルで汗を拭きながら返事した。
『ミツキ姫どうなされた?』ガイは何があったのかとミツキに近づいた。
『ガイ…これを見てよ…何か変でしょう?』ミツキが差し出したのは飼っていた金魚であった。30㎝ほどのガラス鉢に2匹の金魚が泳いでいた。
『昨日あたりから元気がないのよ…』そう言われると確かに元気もなく苦しそうではあった。
>> 150
そう肝心な人、長谷川がいなかったのだ。すると玄関から髪を乱しながら長谷川が走ってきた。車の近くに来たとたん何かに躓いて転んだ。持っていたカバンなどがそこら一面に散らばった。それを見ていたアルミ達は笑った。神崎については呆れ顔だった。
『長谷川君大丈夫か?』心配して言っているホイルも下向きに笑っていた。
『あっすみません!すぐ乗りますから…』長谷川は散らばった物をカバンに詰め込み車に乗り込んだ。
『本当にすみません。昔からそそっかしいもので…小さな頃は体中傷だらけでした』長谷川は下を向きもじもじしながら言っている。
『さぁ行くぞ!』ホイルはそう言うと車を走らせた。洞窟への道はいつもと変わらず静かだった。
『あれ…?あそこに誰かいますよ!』長谷川が何かに気が付きそう言った。アルミ達が見るとそこには黒服の男が歩いていた。
『あれはガイじゃないか!車を止めて下さい!』アルミはホイルに言うと車を止めた。ガイもこちらに気づき立ち止まった。
『ガイ久しぶりだな!』
『おぉ誰かと思えばアルミではないか!お前も来ていたのか?』
>> 149
木箱の中には高級そうな葉巻が並んでいた。ホイルは1本取るとカッターで先を切り火をつけた。煙が辺りに広がった。甘い香りが広がる。
『うむ、メキシコ産の葉巻は美味しい!アルミお前もどうだ?』アルミは受け取るとホイルと同じようにして火をつけた。
『叔父さんちょっと気になっていたのだけど…葉巻でメキシコ産ってあるの?これってキューバ産じゃないかな?箱にも書いてあるし!』ホイルは驚いた顔をした。
『あ、あっそうだなキューバ産だった…な!』ホイルは気まずそうな顔をしていた。アルミはそれを見てマズい事を言ってしまったと思った。
『それにしてもなんとも言えないですね!』
『おお、そうだな!この香りがなんとも言えないな!』とっさに言ったが少しは誤魔化せたかな?リーシアがクスクス笑っていた。アルミはチラリと見て舌を出した。
『さてそろそろ洞窟の方に行きましょうか?』
『そうだな!早速準備して出かけよう!皆準備してくれ!』皆はホイルの言葉を聞いて頷き準備にかかった。玄関前に集まると車に乗り込んだ。しかし何か気になって仕方ない。何か物足りないのだ。車の中を見渡してそれがわかった。1人乗っていなかったのだった。
>> 148
しばらく静まりかえっていた。それを打ち破ったのはアルミだった。食堂に来てから気になっていた。
『ところで長谷川さんだけ何故日本食なんですか?』
『あっすみません…私は朝はご飯と味噌汁じゃないと落ち着かないのですよ…どうしてもパンとかだと食べた気になれなくて…』
『あははは!わかるわかる俺も朝はコーヒーじゃないとダメだな』アルミ達はそんな話をしながら朝食を終わらせた。その後談話室で雑談をしていた。
『アルミ、葉巻は吸うのかな?』いきなりホイルがそんな事を聞いてきた。
『普段は煙草ですがたまには吸いますけど…それが何か?』
『実はな…メキシコ産の良いのが有るのだけどどうかと思ってね…』
『良いですね!ならいただきたいですね!』
『わかった…リーシア!私の書斎にあるのを持って来てくれないか?』
『パパ…吸いすぎは良くなくってよ…』
『葉巻は煙草とは違うから良いのだよ…』
『仕方ないわね…ちょっと待ってて取ってくるから…』そう言ってリーシアは書斎に向かった。しばらくして木箱を持って降りて来た。
『これで良かったかしら?』
『それで良い!こっちに頼む…』リーシアはホイルに木箱を渡した。
>> 147
『皆おはよう!』アルミは大きな欠伸をしながら挨拶をした。
『昨日は眠れなかったのか?目が赤いぞ!』ホイルがコーヒーを飲みながら言った。
『色々考えていたらなかなか寝れなくなって…でもいつの間にか寝てしまっていたようですが…』頭を掻きながらテーブル奥の席に腰掛けた。目の前には長谷川が日本食を1人だけ食べていた。
『あははは…お前も考える事があったか?』
『どういう意味だ!』神崎がからかうように言うとアルミは少しムッとして近くにあったサラダの上にあったプチトマトを投げつけた。神崎はパッと手でそれをキャッチした。
『おいおい食べ物を粗末にしたらダメじゃないか!』神崎は手に捕ったプチトマトを食べながらアルミに言った。するとアルミはちょうど握っていたフォーク投げた。神崎は後ろにのけぞるように避けた。
『アルミ危ないじゃないか!俺を殺す気か!?』
『何言っている!食べ物を粗末にするなと言ったのはお前の方だろ?』アルミはニッと笑った。神崎は悔しそうに軽くテーブルを叩いた。
『おいっ…食事中だ!静かに食べられないか?』ホイルの一言に皆は静まり返った。
>> 146
アルミ達は話をそこまでにして明日に控え寝る事にした。客用の部屋に通され就寝した。アルミはなかなか眠れなかった。洞窟の事が気になっていたのだ。
『地底から何が出て来たのだろう…?』ベッドの中でそんな事を思っていた。《まさか怪獣とかじゃないよな?まさかな……。あの白銀色の狼が全ての鍵なんだろうか?しかし何故俺だけに見えているのだろうか?何かを伝えたいのだろうけど…》アルミはそう思いながらいつの間にか眠っていた。
チュンチュン
『アルミ起きろ!起きろアルミ!いつまで寝ているんだ…』
『ん?あっおはよう!朝っぱらからわいのわいの言うなよ…まだ7時じゃないか…たまの休みぐらいゆっくり寝かしてくれよ!』アルミはぐしゃぐしゃになった髪をかき分けながら起こしに来た神崎に言った。
『何を言っている生活の乱れは人をダメにする!つべこべ言わず起きろ!朝食の準備が出来ているから着替えたら下に来いよ!』
『お前は俺のお袋か!』小さな声でアルミは言った。
『何か言ったか?』『いえ何も…』神崎は地獄耳だなとアルミは思った。アルミはベッドから降り乱れた髪を直し服を着替え下に降りて行った。
>> 145
ホイルが何かに躓きそうになるのをリーシアが支えた。
『皆すまぬ…私は飲み過ぎたようだ!お先に休ませてもらうよ』そう言ってリーシアに担がれ寝室に入って行った。しばらくしてリーシアが帰ってきた。
『ところで長谷川さん!棺の文字の事だが食事も済んだ事だし話して欲しいのだが?良いですか?』
『そうですね!良いですよ!』長谷川は先ほど出した紙をテーブルの上に広げた。元々の文字が書いてありその下には解読した文字が書いてあった。最初の方は狼が眠っている事が書いてありその後から水について書いてあった。
『私なりの解釈なんですが…この部分には【我が敵は地の底から這い出て我らの平穏を打ち破った】と書いてあるようです!?』
『地の底とはどういう事だ?』
『私も良くわからないのですが…』アルミは何かとてつもない事に触れてしまったのではないかと思った。
『それでその後はなんと書いてあるんだ?』
『はい!その後は【それを水により塞ぐ】と書いてあるみたいです!』
『と言う事はあの水は地底から出てくるのを防いでいると言う訳なんだな?』
『多分そうだと思いますね!』アルミ達は頭の中が混乱してきた。
>> 144
『いやね…家の娘も年頃だ。そろそろ結婚しても良いのではと思ってな。それで神崎君はどうかなって思って…』
『パパ何言っているのよ!私はまだ結婚なんてしないわよ!』リーシアは顔を赤らめながら慌てて言った。ホイルは大笑いしながら手を叩いた。その中長谷川だけ浮かない顔していた。アルミはそれに気付き声をかけた。
『長谷川さんどうしたんですか?』
『えっいえ別に何も…』今度は長谷川が顔を赤らめた。アルミは思った。もしかしたら長谷川はリーシアの事が好きなんではないだろうか?アルミはそう思いながら長谷川をしばらく見ていた。すると長谷川と目があった。
『アルミさんどうしたんですか?』
『いや別に何でもないよ!』アルミはそう言うとワインを飲んだ。
『おっアルミなかなかいける口だな?もう一杯どうだ?』ホイルはそう言ってグラスにワインを注いだ。
『叔父さんもどうですか?』
『おぉすまないな!』ホイルはかなりのワイン好きのようである。現にワインの瓶を1人で2本も空けている。たわいのない話しをしながら食事は終わった。ホイルはかなり酔っている。少しふらついていた。
>> 143
『すまんすまん!私が聞いたのが悪かった。この話はここまでにしておこう!』ホイルのその言葉で終わりにした。
『そう言えば長谷川さん棺に書いていた文字だけどどこまでわかっているのかな?』アルミは長谷川に話し掛けた。
『あれですか?一応全体的に解読はできました。』
『ほう…全部解読できたのか!』ホイルは流石助教授だと思った。
『えぇ一応ですがあれが狼の墓である事と水の中に何かがあると言っているようで…そのある物が何なのかはまだわかっていません。それは明日また行ってからと言う事になりますが…それでこれが写した物です。』長谷川は一枚の紙をテーブルの上に出した。
『ねぇ…まだ食事中だしそれは後でも良いのではなくて?』リーシアが不機嫌そうに言った。
『そうだな!それは後でゆっくり見せてもらうよ。とりあえず食事を済まそう!』ホイルがそう言うと長谷川はその紙をしまい込んだ。アルミ達も黙ったまま食事をした。するとホイルから意外な質問があった。
『ところで神崎君は独身かな?』
『えっ私ですか?私は独身ですがそれが何か?』神崎は不思議そうな顔をした。ホイルはニッコリと笑った。
>> 142
ホイルの屋敷に着いたアルミ達は食堂の方に連れて行かれた。使用人達が料理を運んで来た。フランス料理のフルコースのような料理が並んで行く。高級ワインを開け皆で乾杯をした。雑談をしながら今の状況などを話していた。
『とこでアルミ会社の方はどうだ?』
『まあまあかな…最近は原油の量が減って値段が上がってしまった。その事もあり昨年より売上が下がったのは事実だ。今は新しい事業を進めている所だ。』
『ほう新しい事業ね…どんな事だい?』ホイルは興味深そうに尋ねた。
『実は…』
『社長!!』神崎はアルミが言いそうになったのを止めた。
『改めて社長と呼ばれるとなんか恥ずかしいなぁ…』
『何言っているんですか?アルミはれっきとした社長でしょうが!』神崎はニヤリとした。
『神崎お前ワザと言っているな!?』
『当たり前だ!アルミが社内の極秘の事を話そうとするからだ!』神崎はアルミを叱りつけるように言った。
『だが、ここにいるのは身内じゃないか?少しぐらい良いではないか?』
『アルミよ…会長が言っていたが、社長の自覚が足りないぞ!』アルミは申し訳なさそうにしている。
>> 141
皆でおそるおそる近づくとそこには長谷川が座っていた。
『長谷川君……おい長谷川君大丈夫か?』ホイルは肩をつかみ軽く揺すった。すると長谷川はびっくりしたのか飛び上がった。
『うわわわ―っびっくりした…あっすみません!つい寝てしまいました。』
『最近寝てなかったみたいだもんね!』リーシアは長谷川にそう言った。
『皆さんが空港に行ったからちょっと休もうと…』長谷川は照れて顔が真っ赤になった。
『でも1つわかった事があるのですよ!』長谷川はムクッと立ち上がり言った。
『この水が何か関係あるみたいなんです!』そう言うと四角柱の方に歩き出した。そして棺の文字の1つを指差した。
『この文字を訳すと【水の中に】となる…だからあの水溜まりの事を調べる必要があると思います。』長谷川はそう言うとホイルに見た。
『なら調べるしかないだろう!』ホイルはそう答えた。
『調べるのか?なら俺も手伝うよ!』アルミは少し興奮している。
『いや今日はこれまでにして明日また調べましょう!』リーシアが言うと皆は納得した。そして洞窟を出る時アルミには見えていた。白銀の狼が……
>> 140
『これは…文字のようだが、古代文字…いや違うな色々な文字が混ざっている…』そう言うとホイルが答えた。
『リーシアとも言っていたのだが暗号だろうとな!』
『それで墓じゃないかなって思ったのはこの文字なんだけど…』リーシアはさっきわかった所を指差した。
『ここに【大切な狼が眠る】と書いてあるの…』
『なるほどな…【大切な狼が眠る】か…確かに墓のようだな…で他に何かわかっているのかい?』アルミは振り返りきいた。
『それが、まだ見つけたばっかりでわからないのだけど…後は長谷川さんが調べてくれているはずなんだけど……あれっ?そういえば長谷川さんがいないけど?』辺りを見渡すが見当たらない。すると後ろからクルミが話かけてきた。
『ねぇねぇあそこに何かいるみたいだけど…?』指差した先に何かがいた。照明の影になっているせいかはっきりしない。何か変な音も聞こえてくる。地の底から響いてくるような音であった。確かにその方向に何かがいるのである。
『アルミ!俺が先に近づいてみる!』そう言ったの神崎だった。神崎はその影にいる物にゆっくりと近づいて行った。すると神崎が振り返りこちらに来るように手招きした。
>> 139
『こんな所に水溜まりがあったのだな…』
『うんそうなの!照明が暗かったからスタッフの1人が気が付かないで落ちちゃってね…それでわかったのだけどね!』リーシアがそう言うと改めてアルミはライトを水溜まりの方に向けた。見た事の無い魚や虫などが蠢いた。水はかなり澄んでいて水底が見えるほどだった。
『これはどこまで続いているのかな?』アルミは興味を示した。
『かなり奥まで続いているようだよ!まぁその前に四角柱に行かないとな…』ホイルは半分困り顔だった。なんの為ここに来たのかわからなくなるからである。
『では行くぞ!』そう言って四角柱のある方へ向かった。扉を抜けてさらに奥へと進む。そして四角柱のある部屋に着いた。
『新しく見つかったのがあそだ!』ホイルは指差した。アルミ達はその中に入る。
『これは……?』アルミは驚いた。
『これは棺のようだ!この中にはアルバート家の言い伝えにある狼が眠っているみたいだ!?』
『狼が…?あの先祖を助けた狼ですか?』
『まだ開けた訳ではないからわからんけどな!ははははっ』ホイルが笑う中アルミは棺のじっくり見渡した。そして棺の上には文字が書いてある事に気が付いた。
>> 138
『まあ少しはわかった!今から行ってみるか?』
『そうだな!行ってみようかな!』アルミ達は車に乗り込み洞窟へと向かった。
『久しぶりに来たな…ここがこんなに綺麗だったとは思わなかった!あんな事があって景色などまともに見てなかったからな……』
『仕方ないさ!まあ今日はゆっくり観光していったら良いさ!』ホイルはアルミに言った。
『そう言えばリーシアは記憶戻ったのか?』
『あの事件の間の事はあまり思い出されないけど…』リーシアは上を見ながら首を傾げ言った。
『お姉ちゃんあの時は本当に怖がったよ!まるで怪獣かと思った!!』
『えーっクルミ怪獣って…そこまで言わなくても…』リーシアは少し落ち込んだ風だった。確かに今のリーシアとは全く正反対の性格だった。クルミにそう言われても仕方ないのかもしれない。そうこうしている内に洞窟に着いた。
『さあ着いた!皆降りた降りた!』ホイルはエンジンを止め真っ先に降りた。ホイルを先頭にアルミ達は洞窟へと入って行った。あの時とは違って松明の代わりにライトが付いていた。明るさも増している為洞窟の中がはっきり見えた。あの時は気付かなかったが洞窟の中には水溜まりがあった。
>> 137
洞窟の前には4駆の車があった。皆はそれに乗り込み空港へと向かった。森の中の道を進む。舗装していないからかなり揺れている。そんな中クルミは楽しそうに歌を歌っていた。声が出るようになったせいか良く歌っている。多分嬉しいのだろう。森の中では時より動物などに遭遇する。さっきも親子の鹿に出くわした。予想通りクルミがそれを見てはしゃいでいた。
『クルミはしゃぐのは構わないが怪我しないようにな!』ホイルは笑いながら言った。
『大丈夫よおじちゃん!もうジッとしておくから!』クルミは後部座席にちゃんと座り直した。そうこうする内に空港に近づいた。車を空港の入り口の近くに停めた。ちょうど空には着陸体制をとっているジェット機が飛んでいた。
『おじちゃん!あれにお兄ちゃん達が乗っているのかな?』『多分そうだろうね!』ホイル達は車の外で待つ事にした。しばらく待っていると空港から次々と人が出て来た。その中にアルミと神崎が見えた。
『お兄ちゃん!』クルミは手を振った。
『おぉクルミ元気にしていたか?叔父さんお久しぶりです。アルバート家の謎は解けましたか?』アルミはそう言ってホイルに近づいた。
>> 136
下には【アキ・ラ・アルバート】と書いている。アルバート家の先祖がやはりここに装置を作りその奥には墓も作ったのだろう。他の所を読むとこの装置を教えてくれたのは白銀の狼である事も書いてあった。もしかすると先祖は狼の姿をした宇宙人と遭遇したのかもしれない。それとも日本では狼の事を【大神】、【神の使い】とも言われていた。まあどちらにせよ不思議な事にあったのは間違いない。今の技術でこの装置は作れるのだろうか…。ホイル達は今までの経緯をアルミに伝えていた。そう今頃アルミ達はジェット機の中だろう。間もなく彼らはここに来る。我が家のルーツがここにある。今後何が見つかるのだろうか…。
『さぁそろそろ迎えに行こうかリーシア!』リーシアは頷く。
『アルミ達元気にしているかな?』洞窟の入り口に近づいたとき小麦色の少女が駆け寄ってきた。
『おじちゃん!』屈託のない明るい声だった。
『おじちゃんそろそろ行くのでしょう?』
『あぁ今から向かう所だよ!』
『私も連れて行って?』
『それじゃ一緒に行こうな!アルミ達も喜ぶだろう!』そう言ってホイル達は空港に向かった。
>> 135
‐後日談‐
ホイル達は洞窟の中にいた。四角柱の辺り調べていた。
『おいリーシアこれを見てみろ!』そこには棺のような物があった。リーシアは駆け寄りその棺を見た。四角柱の奥に扉のような物があり開けるとその中に棺があったのだ。
『ここに何か書いてあるな…。ちょっとわからない何と書いているのだろうか…。』
『パパこれって古代文字じゃないかしら?』
『古代文字?確かにそうは見えるがどちらかと言うと中世の文字にも思えるが…』ホイルとリーシアは2人共頭を傾げていた。
『あははは!それは暗号でしょう!ワザと分かりにくいようにしたのでしょう…』そう言ったのはホイルが雇っている考古学の助教授で長谷川 隆だった。
『多分この中にはよほど大切な物が入っているのでしょう!だってここに【大切な】と書いてありますからね!』長谷川は笑っていた。確かに昔の文字ではあるが“important”と崩した文字で書いてあった。その後にはまるで狼が座っているような絵が彫ってあった。ホイルとリーシアは見合って笑った。皆で読んでいくと【この棺の中には私を助けてくれた大切な狼が眠る】と書いてあった。
『おいおいそれはそうとパーティーはどうなったんだよ!』アルミは神崎に言った。
『何言っているだよ。あんな事になって行けなかっただろう!』神崎はスケジュール帳を見ながら言った。
『明日の予定だが…午前から飛行機でナインアイランドに行くぜ!!』神崎ニヤリとしながら言った。アルミ驚き神崎を見る。
『あははは久しぶりに休暇を楽しみますかね!』アルミの新たなる冒険が始まった。
>> 133
『お兄ちゃん有難う。声が戻って嬉しい。いつかまた遊びに来てね…。美味しい料理作って待っているから…』クルミは今までにない笑顔で手を振りアルミ達を見送った。アルミ達はジェット機に乗り込みその島を飛び出した。窓から見える島は美しい。あんな事があったとは思えない。《いつかまたこの島に帰って来るよ》とアルミは心に思った。
『アルバート様今日は午後から会議です。よろしいですか…。』神崎は相変わらず口うるさい。
『わかった、わかった。』明らかに嫌そうに言った。神崎はまたブツブツ言っている。アルミは隙を見て逃げ出した。
『アルバート様ーっ』神崎は追いかけて来る。アルミは心で思った。
《いつかまた行きたいな…白銀翼の彼方に…》
ー完ー
>> 132
クルミが光の中から出てきた。狼は何がしたかったのだろうか…。すると声がした…。
『アルミ…アルミお兄ちゃん…私話せる…話せるよ』アルミはクルミを見た。クルミの声が戻ったのだ。そしてさっきまでいた狼は居なくなっていた。狼はクルミを使って教えたかったのだろう。この古代の素晴らしい機械の事を…。この仕組みがわかればもしかしたらすべての病を治せるのかもしれない。
アルミ達は洞窟を後にした。
『アルミ、神崎、そして皆世話になったな…。俺の目的も終わらせる事が出来た。またどこかで会えたら良いな…。じゃまたな…。』そう言ってガイは去って行った。
『アルバートよ。助けてくれて有難う。また兄にも会いに行く…。その時は一緒に酒でも飲もう。あの装置はこの後私が調べて実用させてみせるよ。それではまた…』ホイルとリーシアは頭を下げると屋敷へと帰って行った。アルミ達はダンの店に戻った。ダンは1人カウンターに座っていた。
『ダンおかげですべて片付いたよ。』アルミは手を差し出した。握手をすると店を後にした。
>> 131
『この【満月に】が気になってな…。今度の満月はいつだったかな…。』すると神崎が答えた。
『ここに来る時に月を見た。あれは満月だった。』ホイルはそれを聞きもう1つ尋ねた。
『すまない何度も今日は何日だ…。』ホイルの質問に神崎が答える。
『今日は5月31日だ。間違いなく今日は満月だな。』はっきりと答えが出た。
『今夜何かが起こるはずだ。』ホイルがそう言った。洞窟の上から微かに明かりが差し込んで来た。その明かりが一筋の光になり地面にあたる。少しづつ四角柱の方に近づいていく。その光はある物を浮かび上がらせた。シルエットが見えてそして狼が現れた。それは皆にも見えている。そして語りだした。
《選ばれし者よ。胸にあるそのペンダントを光にあてよ。それが最後の鍵になろう》声は耳からではなく直接頭の中に聞こえていた。アルミは胸にしていた母の形見のペンダントを外し光にあてた。すると眩いばかりの光が辺りを包んだ。四角柱が動きだし下からせり出してきた。
《さあクルミよ。中に入りなさい。お前の言葉を取り戻せるだろう》アルミはその言葉は聞きクルミを四角柱の中に入れた。すると光がクルミを包み一瞬今まで以上に光った。
>> 130
洞窟の中は沈黙に包まれていた。ここまで来て最後の鍵がわからないのである。落胆してしまうのも仕方ない事である。だがアルミは1人違う事を思っていた。そう目の前にいる狼の事だった。自分以外誰にも見えていない。だが良く考えるとナスダックに閉じ込められた時に見た狼はアギトではなかったのだろうか。あの時は皆には見えてなかったのだろうか…。
『あの…。皆ナスダックに閉じ込められた時なんだがあの時に狼を見たよな…。』アルミはあえてアギトと言わず狼と言った。
『藪から棒になんだよ…。狼って…。確かにアギトは居たが…それがどうかしたか…。』エドワードが不思議に答えた。
『いやそれなら良いのだが……。』アルミはしばらく考えた。そして話し出した。
『皆には見えていないのかもしれないが実はさっきから目の前に狼がいるのだ。アギトではなく狼がいるのだ…。』アルミはそう言って皆を見渡した。
『そこにさっきから座ってこちらをジッと見ている。』アルミが四角柱を指差した。そこに皆が注目する。しかし誰1人として見えてはいなかった。するとホイルがさっきの紙を見ながら言った。
>> 129
『おい…するとなんだ…。この四角柱がお宝と言う事なのか…。』ガイががっかりした言い方をした。多分海賊などが隠したお宝みたいな金や宝石が山のようにあると思っていたのだろう。アルミもそう思っていた。それよりも元に戻せるとはどういう事なんだろうか…。だがその為の鍵がない…。後1つはなんなのだろうか…。するとクルミとアギトが近づいて言った。
《ねぇもしかしたらこれ違うかな…。アギトがくわえていたの》クルミは手に持っていた物を渡した。それはまさしく破かれた部分のページだった。
『これをどこで…。』クルミは洞窟の入り口の方を指差した。アルミはそれをホイルに渡す。
『おお…これはまさしくさっきの続きじゃないか…。何々…。』そう言いながらホイルは読みだした。それに書かれていた事は【オオカミの導きに従う。満月にオオカミと輝く石が現れるだろう。そしてすべてを包むだろう…。】と書いてあった。肝心な鍵については何も書いていなかった。
『結局残る1つが何かわからなかったな…。まだここに来るのは早かったのかもしれないな…。』ホイルがそう言いながらアルミに近づいた。
>> 128
ブルーダイヤは青く輝きだした。すると像の真ん中から裂け新たに階段が出て来た。これが父が言っていた事なんだろう。そして階段を降りる。松明の灯りが揺らめく。不思議な事が起きた。目の前にアギトが座っていたのだ。その後ろには四角柱の石が建っていた。
『何故お前ががそこにいるのだ…。』神崎がアルミの肩を叩き不思議そうな顔をする。
『アルミお前誰と話しているのだ…。誰もいないと思うのだが…。』アルミは困惑した。目の前にいるアギトに誰もが見えていなかった。と言う前にアギトは皆の後ろに居たのである。では目の前の狼はいったいなんなんだろう。そんな事を考えているとエドワードが四角柱を指差した。
『何か文字が書いてあるぞ…。なんて書いてあるのかわからないな…。』確かにどこの国の言葉かわからない文字で書いてあった。するとホイルが声かけてきた。
『もしかするとこれはフォード家に伝わる文字だ。何々…。』そう言うと解読し始めた。
【ここに来し者よ。汝は選ばれし者。最後の鍵によって我が宝の力を与えよう。如何なる物も全て元に戻せるだろう。汝に任せん。】ホイルはそう読み説いた。
>> 127
どこからか光があたっているのか黒いの宝石が白く輝きだしある一点に光があたる。その壁に蛇のように線が走り壁が動きだし中から階段が現れた。
『階段だな。降りてみるか…。』神崎が言うとエドワードがオドオドしている。
『さぁ行くぞ。』ガイは何も気にせず降りていく。皆もそれに続き降りて行った。ホイルは降りながら書籍を見て言った。
『多分この先にあるだろうな…』アルミ達は胸踊らせていた。階段の先には部屋になっていた。そこには巨大な狼が座っている像があった。目の片方に窪みがある。そこにもう一つのタートルダイヤはめてみた。すると涙のように像の頬を光が走り台座の中央に流れる。それにも窪みがある。しかし1つ皆は忘れていた。タミヤ王国のブルーダイヤの事をあれはミツキ姫が持っているはずだった。するとガイは笑った。
『皆お探しはこれかな…。』見せたのはまさしくブルーダイヤだった。
『何故それを…。』アルミが聞くとブルーダイヤを手のひらで転がした。
『いざという時の為に姫から預かっていた。預かっていて正確だったな。』そう言うと台座に近づきブルーダイヤをはめ込んだ。
>> 126
アギトは鼻をヒクヒクさせながら進んで行く。そして奥に扉らしき物が見えてきた。
『これが最初の扉だな…。』アルミがそう言い扉を照らした。その扉には彫刻が施されていた。良く見ると巨大な狼のようだ。2つの首をした狼だ。調べていくと中央に何か窪みがあった。
『この形はフォード家のだな…。アルバートお前の持っているのをはめてみろ…。』ホイルがそう言うとアルミはタートルダイヤをはめてみた。するとガチャと音がした。そしてガァーと扉が開いた。中を松明で照らした。何かがキラキラしている。皆は宝があると思い近寄る。だがそれは洞窟についた水滴が松明に反射してキラキラしていただけだった。皆は少しガックリとしていた。
『さぁ皆更に奥がありそうだ…。ガイ落ち込み過ぎだぞ。』アルミが言うと皆は笑う。ガイは気まずそうに先を歩いた。また目の前に扉が見えた。そこにも同じように窪みがあり丸い形をしていた。ガイの持つ刀のブラックダイヤが一番近いようだ。柄の下の部分が動きそうだ。今までは気にもしていなかったがスライドしそうである。スライドさせると面白いように宝石は取れた。そしてそれをはめた。
>> 125
クルミは手話で話かけてきた。
《あのね…ダンの店にいたらアギトがここに引っ張ってきたの…。良くはわからないのだけど…。》アルミはそれを見ると言った。
『そうだったか。さっき俺達も助けてもらった。今度も何か意味があるのかな…。』クルミは不思議そうな顔をした。何故なら…。
《アギトはずっと私と居たよ…ダンの店にね》アルミは何の事か分からなかった。確かにアギトと何度かあった。その時はいつもアギトだけであった。
『おいアルミ行くぞ。何考え込んでいるんだ…。』エドワードはそう言うと洞窟の中に入って行く。
『あっ今行くよ。』アルミは走り入って行った。洞窟の中は松明の灯りでほんのり明るい。灯りを頼りに奥へ進んだ。しばらく行くと先ほど閉じ込められた扉が見えた。
『この扉は何だ…。俺が調べた時はこんな物なかったぞ…。』ホイルはそう言いながら扉に近づいた。
『そりゃナスダックが作らせた罠の部屋だ…。俺達も騙されたがね…。』神崎は呆れたように言った。するとアギトが吠えた。洞窟の奥から吠えている。アルミ達はその方向に向かった。アギトは更に奥へと進んだ。
>> 124
確かにそこには石らしき物がはめ込まれていた。ホイルは刀を受け取り石を確認した。
『おうこれこそブラックダイヤではないか…。残るは後1つだな…。そうだその書籍がこの屋敷にあるはずだ…。調べてみよう…。』そう言うと屋敷の書籍の部屋に向かった。アルミはナスダックの服の中を調べた。それは奪われた家宝の1つを探す為だ。内ポケットに何かがある。取り出すとそれはまさしくグリーンダイヤだった。
『あったぞ…。後1つが分かれば…。』するとホイルが何かを持って出て来た。
『書籍はあったが詳しい事が書いた部分のページがない…。』ここまで来て最後に躓くとは思わなかった。
『ちきしょう…こうなったら行くだけ行ってみようか…。』エドワードがアルミに言った。
『もう一度洞窟に行ってみよう。』アルミ達は洞窟に向かう事にした。外にあるワゴン車に乗り込み走らせた。しばらく走らせ洞窟に着いた。周りは少し暗くなってきていた。皆はワゴン車から降りると洞窟の中に入ろうとした。すると森の中からクルミがアギトと歩いて来た。
『クルミどうした…。危ないじゃないか…。』アルミが言うとクルミは駆け寄った。
>> 123
アルミ達は再び上に上がった。先ほどと何も変わらなかった。ナスダックも倒れていた。ガイが近寄りナスダックの体を調べた。ホイルも確認したが間違いなく本人だったようだ。
『おいコイツはナスダックだ。これで本当に全てが終わったな…。』神崎はガイの肩を叩いた。
『お前の兄さんもあの世で喜んでくれているよ。』そう言うと皆で笑った。笑いの中エドワードが言った。
『これからどうする…。』アルミは皆を見た。
『後もう一つ解決しなくてはならない事がある…。我が家の家宝の事だ。もう一度洞窟に行ってみたい。あそこにあるはずだ…。』それにホイルが答えた。
『確かに洞窟の奥にあるようだ。しかし扉がありいくつかの宝石が必要だ。フォード家の2つのグリーンダイヤ、そしてタミヤ王国のブルーダイヤ、どこかの国のブラックダイヤ、後もう一つあるらしいのだがそれが何かはわからない…。』するとガイが不思議そうに言った。
『我が家の家宝に…。いやこの刀に石がはめ込まれているのだが、前兄が言っていたのだがこれはある扉を開く鍵の1つと言っていた。もしかしたらこれがその1つではないだろうか…。』ガイは刀の柄を見せた。
>> 122
『燐銘が…いやリーシアが記憶を無くしているとはいったいどう言う事なんだ…。』アルミが訊くとホイルはアルミを見て何かに気づき話し出した。
『お前アルバートか…。母親に似ているな…。お前がまだ小さい時に一度あっただけだから覚えてないだろうが…。』昔の話を軽くした後またリーシアの話をし出した。
『ナスダックは変わった術を使う。一種の催眠術のような者だ。私も術をかけられていたのだ…。勿論リーシアもだが…。ヤツはそれで私になりすましリーシアを部下にした。それは人質として近くに置いとく為だろう…。何かあった時の切り札に出来る。』アルミは以前ナスダックが言っていた“愛しい人”と言う意味がこれでわかった。ホイルは一通り話すと辺りを見回した。
『ところで君達がここに居ると言う事はナスダックを倒したと言う事だね…。』アルミは頷いた。
『そう倒したよ。このガイ様がね。』ガイはまた誇らしげに胸を張った。しかしホイルは不安そうな顔をした。
『本当にヤツだったのか…。ちゃんと確認したのかな…。』皆の心に不安がよぎった。もしかしたら術に掛かっていたかもしれないと…。
>> 121
全てが終わった。ガイは少しだけ誇らしげにしている。
『皆終わったな。下の2人を助けに行こう。』アルミはそう言うと地下を探した。最初に神崎が閉じ込められた場所の更に奥に部屋があった。
『ここに居るのか…。』神崎が耳を当て確認する。そして中に向けて言った。
『ここに誰か居るか……。』中から物音が聞こえた。
『ドアの近くから離れろ…。』そう言うとドアのノブに向けて銃を撃った。するとドアが開き中が少し見えた。神崎が引っ張りドアを開けた。そこには燐銘と本物のホイルが居た。
『君達は…何者なんだ…。』ホイルはアルミ達を見渡しながら言った。神崎は2人に近づき縛られたロープを切って解放した。ホイルは縛られた所が痛いのか揉むように腕を触っている。
『すまない…。お陰で助かった。コイツは娘のリーシアだ。』燐銘の頭を撫でながら言った。アルミ達は驚いた。
『リーシア……。燐銘ではないのか…。』すかさず聞いたのはガイだった。ホイルはそれを聞きながら答えた。
『それはナスダックが付けた名前だろう…。今は記憶を無くしているようだが…。』ホイルが立ち上がった。
>> 120
『お前の相手は俺だ。兄の敵とらしてもらう。』ガイは叫ぶとナスダックに斬りかかった。それを軽々よけガイに斬りつけた。ガイの服がスッと切れた。それを見てまた斬りかかる。刀と剣が交わり鍔迫り合いになった。
『お前藤堂の弟か…。ヤツは愚かだった。お前を助ける為に俺の言った事を真に受け刀を持たずお前を助けにやってきた。刀を持たぬ藤堂など相手になる訳がない。後はお前がしる所よ…。ふふふふふお前も同じように死んで行け…。』ナスダックはガイを跳ね飛ばすと再び斬り付けてきた。そして刀と剣がぶつかり凄まじい音と共に両者は離れた。キンッと音がしてガイの刀が半分から折れた。
『あはははお前の負けだな…。』ナスダックはガイに剣を向け笑う。
『ナスダックよ…。それはどうかな…。』ガイは不適に笑った。
『何を言って……。うううっ…。何っ…。』ナスダックの体が横に切れた。血を吹き出しながらナスダックは倒れた。
『残念だったな…。俺の刀は折れても真空波がお前を斬ったのだ。あの世で兄に詫びを入れろ…。』ガイは振り返りアルミ達の元に歩み寄った。後ろでナスダックは息絶えた。
>> 119
『なら余計に貴様を倒す理由が増えた。』ガイは刀をナスダックに向けた。そして構えナスダックに向かった。すると目の前にサザナが現れガイの刀を受けた。
『お前の相手は俺がする。』2人の小競り合いが続く。
『ふんお前など一瞬で倒す…。うりゃー。』ガイは飛ぶように離れ再び斬り込んだ。負けじとサザナも剣を振る。ガイはすっと下によけ、すかさず横に斬る。手応えがあった。しばらく2人は立ったままだった。そしてサザナが倒れた。
『お前の動きなどもう見切っている。』ガイはそう言うと鞘に刀を収めた。
『ほーなかなかやるではないか…。だがお前らはここで死ぬ…。』ナスダックは手下達に合図すると周りから一斉に銃が撃たれた。アルミ達は素早くよけ撃ち返した。手下達が何人も倒れていく。神崎が手下達に突っ込みバタバタと倒す。続いてガイも刀を抜き手下達を斬り倒した。援護するようにアルミとエドワードも銃を撃つ。気が付くと残るはホイルだけとなった。ガイが前に立った。
『お前達思ったよりやるな…。だがそれもこれまで…。』ナスダックは持っていた杖を両手で握り開くようにするとそれは剣になっていた。抜くとガイに向けて構えた。
>> 118
微かにホイルの袖が切れ中から腕が見えた。そこには大きな切り傷が見えた。
『お前……。ナスダックだな。その腕の傷が証拠だ。忘れもしない兄がつけた傷だ。』ガイが叫ぶ。ホイルは笑いながら答えた。
『あははは…。バレてしまっては仕方ない…。私がナスダックだ。』すると顔に手を当てビリビリと皮を剥いだ。中からナスダックの素顔が現れた。
『お芝居も疲れた所だった。ちょうど良かった。さてお前らどうしてくれようか…。』アルミ達を見渡した。
『ホイル…いや叔父さんはどうした…。』アルミがそう聞くとナスダックはまた笑った。
『ヤツならこの屋敷の地下に居るさ…。燐銘と一緒にな…。』ナスダックの意外な言葉にアルミ達は驚いた。何故に燐銘までが捕らえられているのだ。
『何故燐銘が一緒なのだ…。』アルミが訊いた。その答えはすぐにわかった。
『ホイルと燐銘は親子だ…。アルミ君の従姉妹だよ…。あははは…』それを聞いて皆の動きが止まった。
『俺と燐銘が従姉妹……。』アルミは確かに驚きはしたが実は薄々気がついていたのだ。会った時から何故か親しみを覚えていたのだ。
>> 117
捕らえられた女は顔に手をあてるとビリビリと音をたて皮を剥いだ。中から出て来たのはサザナだった。アルミ達はさらに驚いた。
『ふふふ…。驚いたかね…。』サザナは笑いながら言った。声はまだ燐銘のままだった。
『おっといけない。声がまだだったな…。』そう言うと口の中に指を入れると小さい機械を取り出した。油断していた。サザナはスルッと抜け出しアルミ達から離れた。
『これで良い。さぁどうする…。』相変わらず甲高い声である。またアルミ達は不利な状況になってしまった。
『アルミ君。助けない訳でもないがどうするかな…。君次第だが…。』ホイルは余裕で言った。アルミは考えたが今の状況はやはり不利である。
『一体どうしたら良いのだ……。』仕方なくそう言った。
『あははは…。観念したかね…。ならば君の持つ宝を出してもらおう。』ホイルはアルミ達に近づきながら言った。皆を傷つける訳にはいかない。アルミは懐に入れたタートルダイヤを取り出そうとした。
『止めろ…。お前は黙って見ていろ…。』止めたのはガイだった。そしてホイルに向かい飛び出した。刀を高く振り上げ斬りつけた。しかしホイルも素早くよけた。
>> 116
手下達の動きが止まった。ガイは燐銘の首元に腕をまわした。そして素早くマーナの縄を切った。
『さぁ兄さんの所に行きな…。』マーナは口に貼られたテープを剥がした。
『ありがとうございます。助かりました。』マーナはお辞儀をするとアルミ達の方へ降りていった。続いてガイ達も降りていった。
『お兄ちゃん…。』マーナはアルミに飛びつくように抱きついた。
『マーナ遅くなったな…。大丈夫か…。』アルミは抱き寄せるとそう言った。マーナは軽く頷いた。そしてエドワードの方に近寄った。
『マーナ無事で良かった。』2人は見つめ合っていた。
『エドワード会いたかった…。』そう言うと抱き合った。見てられなかったのかアルミ達はそっぽ向いた。だがその時男の声が響いた。
『美しい話だ…。再会出来た所悪いが今の状況良く見るがよい……。』それはホイルであった。周りを見るとさっきより手下達が増えていて非常にマズい状態になっていた。
『何を言っているコイツがどうなっても良いのか……。』ガイは燐銘に刀を突きつけ言った。ホイルは笑った。
『そいつが本物ならばな。』意外だった。そんな答えが返ってくるとは思っていなかった。
>> 115
ワゴン車はホイルの屋敷に向かった。そして近くまで来た。
『このまま正面突破だ。突っ込むぞ。』神崎はそう言うとワゴン車を屋敷に走らせた。門の前には手下が数人いる。こちらに気づき銃を乱射してきた。ワゴン車の至る所に銃弾が当たる。だが怯む事なく屋敷に向かった。正面に着くとドアを開けアルミ達は屋敷の扉を開けた。追ってくる手下に向かって銃を撃つ。何人かが倒れる。向こうも負けじと撃ってくる。中に入るとホイルの部屋に向かおうと階段を登りかけた。すると上から声がした。
『銃を捨てなさい…。さもないとこの子の命がないわよ。』その声は燐銘だった。横にはマーナがいる。頭に銃が突きつけられている。口はガムテープで塞がれており何かを言っているが唸っているように聞こえていた。仕方なく銃を投げ捨てた。後ろからぞろぞろと手下共が入って来る。ところが燐銘が急に銃を捨てた。なぜならそこにはガイが刀を首にあてていたからだった。そう正面から入ってきたのは3人だった。ガイは1人騒ぎを横目に違う所から侵入していたのだ。
『はーい皆さんこの人の命欲しければ銃を置きなさい。』ガイは燐銘を突き出すと言った。
>> 114
『あと3人いる……。』手下は震えながら言った。
『多分そいつらだ。そこに隠れよう。』素早く皆は身を隠した。足音が近づいてくる。少し顔を出し覗くと手下が言った通り3人が近づいていた。
『おーい……さっきの銃声はなんだったんだ……。』手下の1人が叫んでいる。ガイと神崎は顔を見合わせ地面を転がり手下共の前に出た。
『お前達は……。』手下の1人がそう叫んで銃を撃とうとしたが遅かった。ガイは腰に下げた刀を抜き右側の手下に切り倒した。そして神崎は銃で左側の手下を撃ち、すかさずもう1人も撃った。バタバタと手下共は倒れた。
『ふーっ。やったな。』ガイと神崎はガシッと手を組んだ。
『さぁ行きますか…。』皆は洞窟の入り口を目指した。外の明かりが見えてきた。外に出ると辺りには木箱が積まれておりその横には機械がいくつかあった。そして離れた所にワゴン車が1台停まっていた。アルミ達はそれに乗り込む。キーはついたままだった。ひねりエンジンをかけた。
『さぁどっちに行ったら良いんだ…。』銃を突きつけている神崎が言った。
『あっちだ……。』手下は指差した。ホイルの屋敷の方だった。
>> 113
『エドワードこいつがホイルの居場所を教えてくれる。これを渡しておく使ってくれ。さっきの銃ではなく懐からもう1つ出し渡した。エドワードは受け取るとガイと出て行った。すると先ほど撃たれた手下が動いた。アルミは驚いた。今になって神崎のウィンクの意味がわかった。
『まさかその銃は…。』神崎はニヤリとして答えた。
『そうだ…。これは殺傷能力はない。せいぜい気絶程度だ。』アルミは思い出していた。前ニュースでやっていた。アメリカの警察が犯人を捕らえる為に開発した銃だった。
『ちょっと改良しているから威力はあるがな……。しばらくは夢の中だよ。こいつはここに閉じ込めて…。俺達も行こうか…。』アルミの肩に手をかけ神崎は出口に向かった。扉を閉めると鍵を掛けた。先を歩いているエドワード達に追いつく。
『おいっ待ってくれ…。何か聞こえないか…。』ガイが辺りを見渡しながら言った。皆は耳をすましてみた。微かではあるが人の足音がいくつか聞こえる。誰かが近づいているのだ。神崎が捕まえた手下に近づき尋ねる。
『お前ら何人居るんだ…。』手下は口を開かない。神崎は先ほどの銃を押し当てもう一度聞いた。
>> 112
手下が目を覚ました。
『うっ貴様ら…。なぜあのガスの中平気なんだ…。』そう聞かれ神崎は近くにあったマスクを見せた。納得したのかその男は下を向いた。
『さぁホイルの居場所を教えてもらおうか…。』襟を掴み神崎は尋ねた。
『ふん…お前らに教えるわけなかろう…。』そっぽを向き答えようとしない。すると神崎は腰にあった銃を抜き手下に向けた。
『これでも答えないつもりか…。』手下は少し怯んだが答えようとしない。神崎は手下の頭に銃を突きつけた。それでも答えない。
『仕方ないな…。』そう呟くと神崎はもう1人の手下に銃を向け引き金をひいた。手下を見ると胸の辺りから煙があがっていた。アルミは驚いた。
『神崎なんて事を…。殺さなくても良いじゃないか…。』そう言うと神崎はウィンクをした。
『どうだお前もああなりたいか…。』手下は震えている。こんな事になるとは思ってなかったのだろう。
『わかった…。だから撃たないでくれ…。』さっきの銃声が聞こえたのだろうガイとエドワードが降りてきた。
『おい大丈夫か…。』アルミは撃たれた手下を見ながら軽く頷いた。
>> 111
煙が洞窟じゅうを埋め尽くした。2人はガスマスクしたまま岩陰に身を隠した。しばらく経って扉が開く音がした。すると煙が薄れてくる。その中から人影がいくつか見えてきた。良く見ると彼らもマスクをしていた。
『おい。ヤツらは見えるか…。』手下の1人が持っている懐中電灯を照らしアルミ達を探している。
『どこにもいないぞ。どこに行った…。逃げる所はないはずだ…。』1人が言うともう1人が言い返した。
『つべこべ言わず良く探せ…。』まだアルミ達の居場所を見つけ出せないようだった。突然1人が倒れた。アルミは驚き横を見たがさっきまで神崎がいたはずなのにいなくなっていた。再び倒れた手下を見るとそこには神崎が立っていた。
『きさらま―。』凄い声をあげもう1人が襲ってきた。結果は見えていた。地面に吸い込まれるように倒れた。
『アルミ…。コイツらに連れて行ってもらおうぜ。』倒れた1人の横にしゃがみ神崎は自分のマスクを外しながら言った。そして手下をロープで縛りマスクを外した。向こうに倒れている手下も同じようにした。
『おい起きろ…。』そう言いながら顔を手のひらで叩く。
>> 110
洞窟内は静まり返っている。アルミ達は座れそうな岩に腰掛けた。アルミは辺りを見渡しながら不思議に思った。それはアギトが居ない事に気が付いた。
『そう言えばアギトはどこだ…。姿が見えないが…。』皆も辺りを見渡したがいない。良く考えたらどこから来たのだろう…。あの崖はどう考えても降りられない…。その時扉から白い煙が入ってきた。
『なんだあれは…。』その声にアルミ達は扉を見た。
『あれは催眠ガス…。逃げないと…。』そう言って神崎はケースを出し開いた。中には色々入っていた。その中から1つを取り出し話出した。
『これはガスマスク。ここには2つある。付けられるのは2人…。誰が残るかだが…。』煙が洞窟を覆ってきた。
『残りは先ほどの穴から洞窟の上に逃げろ。そして2人が残りヤツらを待つと言う事だ。』皆はお互いの顔を見合わせた。
『それなら俺が残る。』言ったのはアルミだった。適任かもしれない。結果アルミと神崎が残りガイとエドワードはさっきの穴から外に出た。
『いいか…。この煙が充満したらヤツらは入って来るだろう。それがチャンスだ。一気にたたくぞ。』神崎はアルミに小声で言った。
>> 109
海はコバルトブルーで遠くまで透けて見えていた。島のほとんどが森でこの洞窟の周りも木が生い茂っている。改めて見ると素晴らしい所である…こんな事にならなければゆっくりと休養をとりたい気分だ。しばらく辺りを見渡していると洞窟の入り口から人が出てきた。ホイル達だ。中にマーナもいた。
『マーナ…。』エドワードが叫びそうになったのをアルミはとめた。
『今俺達の場所がバレたら意味がないだろう…。』それを聞いてエドワードは黙った。
『踏んだり蹴ったりだな…。どうしたら良いものか…。』神崎は海の上に飛ぶ鳥を見ていた。出るには出られたけれど辺りは崖のようになっていて降りるのには道具でもなければ降りられそうにない。本当に踏んだり蹴ったりだ。するとエドワードが話し出した。
『なあ降りられそうにもないから洞窟の中で待った方が良いのではないか…。』言われてみれば武器を取られた訳でもないし無理して降りても怪我してしまったら意味がない…。アルミは決めた。
『エドワードの言う通りだ。中でホイルの動きを待とう。』アルミが言うと皆は納得したのか、さっき登って来た穴から降りて行った。
>> 108
『君達何をごちゃごちゃ言っているのかね…。』ホイルの言葉に皆は黙った。
『そこは鳥籠の中だよ。君達は捕らえられた鳥だ。どこにも出られる場所は無い。』考えが甘い事に今更ながら気が付いた。
『しばらくそこに居てもらおう…。また後で会おう。』ホイルはそう言い残し、それからは何も聞こえてこなくなった。
『おいおい俺達は何しているんだ…。』ガイがそうボヤく。確かに何をしているのだろうマーナを助ける為に来たのに自分達が捕まるとは…。情けない。
『どうするこれから……。』エドワードの言葉に皆は頭を傾げた。すると上に何かが居る気配がした。皆は見上げた。そこにはアギトがこっち見下ろしていた。
『アギト…。なぜお前そこに…。』見上げながら言うとまるでこっちに来いとばかりアギトが吠えた。アルミ達は顔を見合わせ洞窟の壁を登り始めた。壁の上には人が通れるぐらいの穴がありアギトはその中に入っていった。続くように皆はその中に入っていく。しばらく這って行くと明かりが見えて来た。
『おいここは…。』そこから出ると洞窟の真上にだった。辺りを見渡せば島全体が一望できた。
>> 107
そこには銃を持った赤穂が居た。キキィッと言ってそれをガイに渡す。
『よくやった。褒美だホレッ。』赤穂はそれを美味しそうに食べた。改めて扉の彫刻を見た。そして首にしているネックレスを握りしめ母の言葉を思い出していた。〈あなたを守ってくれる…〉そして開かれた扉を通り中に入っていった。
『意外に奥があるな…。しかし不思議だな入り口はあんなに厳重なのにこの辺には人っ子1人もいない…。』その言葉に皆が立ち止まった。皆の頭に浮かんだのは〈罠〉だった。後ろ方で扉の閉まる音が響いた。
『しまった…。はめられた…。』そう言うと洞窟内にあの男の声が響いた。
『残念でしたね…アルミ君。こんな簡単な罠ひっかかるとはね。』その声はホイルの物だった。
『そこはね…。君達を捕らえる為にわざわざ作ったのだよ…。』そう言うと大笑いした。
『ちきしょう…。』アルミ達は悔しがった。そして周りの壁を調べる。
『アルミ壁自体は本物だ。どうする…。』神崎が尋ねる。アルミ達はしばらく考えた。
『奥に行ってみよう…。』そう言い出したのはエドワードだった。
『後ろがダメなら前だよな…。なあアルミ…。』アルミ達は顔を見合わせた。
>> 106
神崎が手を挙げるとニヤリと笑い明かりの方に近づき様子を伺った。すると手招きをして皆を呼んだ。
『見てみろ扉が開いている。』洞窟にある扉が開いていた。扉には狼のような彫刻が施されていた。その狼の目の部分には緑色に光る物があった。多分ホイルが持っているグリーンダイヤだろう。
『どうする…。』アルミは皆に尋ねるみたい
『そりゃ入るしかないでしょう。』ガイはやる気満々のようだ。皆は開いた扉に向かった。そこに居た手下共が気づき銃を向けるが神崎とガイの動きには間に合わなかった。銃は空中に舞い手下共は次々と倒れて行く。そして最後の男が倒れた。その時後ろから声がした。
『残念だったな…。手を挙げてもらおうか…。』アルミの背中に銃を押し当てている。アルミは従って手を挙げる。続いて他の皆も手を挙げた。
『良い子だ…。そこに並んで…。』アルミ達は従い並んだ。ガイがアルミに耳元で小声で言った。
『まあ見ていろ…。』そう言うと口笛を吹いた。
『何している…。殺されたいのか…。』と言った瞬間何かが手下の銃を奪った。唖然としている手下に素早い動きでガイが殴り飛ばした。白目をむいて倒れた。
>> 105
入り口は思ったより広く神崎を先頭に降りて行く。しばらく降りるとそこには平らになった場所があった。アルミ達はそこで辺りを伺った。下の方では何人かの手下共が銃を持ち警戒していた。洞窟はかなり広く高さは10mはあると思われた。壁には見たことのない虫が這っていた。そして苔がびっしり生えている。手下共が居なくなるのを見計らって下に降りた。地面は濡れている性か何度か滑りそうになった。ホイル達がやったのであろう壁に等間隔で松明が置かれていた。その1つを取り前を照らした。
『よし奥の方に行ってみよう…。』神崎が指差して言った。陰になるところで身を隠しながら奥へと進む。目の前で何かが動いた。
『なんだ…。』アルミはそう言うと目を凝らした。それはアギトだった。入り口を見つける前に居なくなっていた。すでにここまで来ていたのだ。アギトは何か言うが如く先を歩いて行く。その後をついていく事にした。
『あそこを見ろ…。』エドワードが何かに気付いたのか指差した。アルミ達はその方向見た。今までより明るく照らされていた。その方向に近づくと何人かの影が揺れていた。アルミ達は身を隠した。
>> 104
アルミ達はホイルのいる洞窟に向かう事にした。森を抜け目の前に洞窟の入り口が見えてきた。辺りでは手下共がウロウロして警戒している。
『まだ警備が堅いな…。どうする…。』ガイは辺りを伺いながら言った。
『以前来た時近くに他の入り口があったがあそこなら…。』アルミは神崎を見ながら言った。
『しかしあそこから高すぎて降りにくい…。』神崎は頭を抱える。
『あの時はクルミが居たから止めたが今回は男4人じゃないか…。多少の事なら大丈夫じゃないのか…。他に方法もないのだから…。』アルミは強い意志を示した。神崎は顔を上げ頷いた。ガイもエドワードも頷いていた。
『それじゃ行きますか…。』アルミ達はもう1つの入り口を目指した。アギトが先に行く。たまに後ろを見ながら歩いている。入り口が見えて来た。神崎が手を横に上げた。皆が立ち止まる。
『まずは俺が入る。問題なければ合図するから…。では…。』アギトはすでに入り口の穴に入っていた。続くように神崎も入って行く。しばらくの沈黙が続く。すると穴からひょこっと手が覗く。神崎が上がって来たのだった。
『大丈夫だ。皆来い。』そう言われ皆は入り口に入って行った。
>> 103
『どのくらい前なんだろうか…。兄とナスダックは同じ師範の道場に居た…。もちろん俺も同じ道場なんだが…。ある日道場内での試合があり最終的に残ったのが兄とナスダックだった。2人の試合は今までになく凄い物だった。その末勝ったのは兄だった。ナスダックは負けた事にかなり悔しがっていたらしく、何日か経ってから闇討ちを仕掛けて来た。しかし兄も負けずナスダックに一撃をくらわしていた。その一撃をよける時ガードする為に出した腕に斬り傷がついているのだ。』ガイの話を聞きエドワードが尋ねた。
『その腕ってどっちなんだ…。』アルミ達もそう思っていたのかガイの方を見た。
『それは左腕だ。左腕の手首近くに大きな傷があるはずだ…。』ガイは自分の左腕を眺めていた。その時アルミはホテルで会った時のホイルの事を思い出していた。あのカートから出た時ホイルが驚いてあげた左腕にあったような無かったような…記憶が曖昧だ。アルミは1人頭の中で記憶を巡らしていた。
『誰も知る者がいないのなら調べるしかないよな…。』神崎の言葉は的を得ていた。確かにわからないのなら調べるしかないのだ。皆の気持ちは1つになった。
>> 102
アルミ達も周りに居た手下共を倒し終わっていた。
『ガイやったな。これで鉄馬さんの仇はとれたな…。』神崎が歩み寄りながら言った。だが皆が思っている答えとは違った。
『いやまだ終わってはいない…。』皆は驚いた。終わっていないとはどう言う事なんだ。アルミは不思議に思い尋ねた。
『なぜ終わりじゃないんだ…。』ガイは洞窟を見つめながら語りだした。
『ヤツがどこにいるのかはわからない…。その名はナスダックだ。』皆はその言葉に驚いた。
『ホイルの手下だったヤツか…。』ガイは頷いた。
『そうナスダックはサザナに兄を殺すように命令した。そして殺したのだ…。』少し涙ぐんでいるようだった。
『それなら俺が調べた話が正しいのなら…。もしかするとあのホイルがナスダックかもしれない…。ナスダックは一度姿を消している…。だがその頃からホイルの様子が変わったらしいのだ…。』エドワードは以前話した事を改めて話した。
『ナスダックだと特定出来る何かがあれば良いのだが…。』神崎がそう言って考え込む。するとガイが思い出したのか話を切り出した。
『それならヤツには兄がつけた傷があるはずだ…。』ガイは確信に迫った。
>> 101
サザナが鋭い蹴りを連発する。ガイは紙一重でよける。すかさずガイが刀を斬りつけた。しかし空を斬り地面に当たる。そのまま地面を走らせ下から上に斬り上げた。だがサザナはそれをよける。
『ふん。その程度の剣裁き見切れるわ…。』サザナは高々に笑った。
『どうした…。かかって来ないのか…。ならば俺から行くぞ。』サザナはニヤリと笑うとガイに向かって行く。袖の中からスルリと剣が出て来た。それで斬りつける。素早くガイは刀で受ける。小競り合いになりお互い一歩も譲らない。いったん離れ構える。
『お前は俺には勝てぬ…。兄のように死ぬが良い…。』そう言うと剣を斬りつけてきた。ガイは素早くよけ刀を振る。2人は目に止まらない動きで戦っている。空を斬る音と刀と剣が当たる音が辺りに響いていた。そして最後の瞬間が訪れた。サザナが剣を刀に当てるとガイは跳ね退け刃先をスルリと滑らせそのままサザナの体を斬った。しばらくそのまま2人は立っていた。サザナが前に倒れた。
『甘かったな…。兄のようにはいかなかったようだな…。』ガイは振り返り微笑んだ。
>> 100
銃弾が足下に当たる。アルミ達は四方に散った。そして奪った銃で撃ち返した。手下の何人かに当たり倒れる。しかしまだ手下共は増える。サザナは笑いながら言った。
『残念だな…。俺は倒せない…。』ガイがそれを聞くとまたサザナに向かって走って行った。サザナがガイに向けて銃を撃った。だが右に避け当たらない。
『サザナお前こそあま~い。喰らえ~。』刀を横に振った。サザナは避け銃を撃った。ガイはしゃがみ今度は斜めに斬りつけた。サザナは片手でそれを受けた。金属同士をぶつけるような音がした。サザナの腕には金属製の小手がはめられていた。その頃周りの手下共をアルミ達は次から次と倒していた。そして最後の1人を神崎が蹴り飛ばした。
『残るはヤツのみ…。』神崎が言うとガイの近くに寄った。
『コイツは俺が倒す。お前らは下がっていろ…。兄貴の仇だ…。』ガイは片手を横に上げて言った。
『兄貴だと…。』サザナが尋ねた。
『俺の兄の名は藤堂鉄馬。知らないとは言わせないぞ。』ガイは構え直した。
『ふはははは…。あの馬鹿な男の事か…。』サザナは笑いながら構えた。
>> 99
しかし何の衝撃も来ない。腕の隙間から覗くと神崎が立っていた。横にはふらつく男が居た。
『お前達は下がっていろ。コイツらは俺達が倒す…。』神崎は構えたまま言った。アルミとエドワードは少し下がった。すると神崎とガイはサザナ達に向かって行った。激しい闘いが始ままった。ガイが腰にある刀を抜いた。目に止まらぬ早さで右側の男に切り込んだ。大柄の割に動きが早くガイの刀をよけた。
『あま―い。』その怒鳴り声が響いたと同時に男は崩れるように倒れた。実は刀を振った後、後頭部に蹴りを入れていたのだ。その横では神崎がもう一人の男に下から突き上げるようにパンチを喰らわしていた。
『さすがですね。目に止まらない早業…。驚きました。』サザナは相変わらず落ち着いている。左側の男はふらついてはいたがまた構えた。再び神崎が連続して蹴りを入れる。男はかわしながらパンチを出して来た。それを受け止めるように神崎は腕を持ち捻った。男は宙に舞い頭から落ちた。すかさず鳩尾に肘を落とすと男は気を失った。
『残るはお前だけだな。サザナ…。』ガイは指差した。すると銃声が鳴り響いた。手下共がやって来たのだ。
>> 98
アルミ達は見合ってからガイの後を追った。しばらく走るとそこにはすでに手下共を倒しているガイが居た。
『遅いぞ…。やられる前にやれだ。』手下3人が倒れていた。落ちていた銃を拾いアルミへ投げ渡した。いきなりだったのか落としそうになった。それを見て皆が笑った。神崎は怪我した所を布みたいな物で縛っていた。するとガイが何かに気づきシッと口に人差し指をおいた。
『おい…。ヤツらは居たか…。』そこに現れたのはサザナだった。2人の大柄な男を連れて歩いてこちらに近づいてくる。
『どうする…。やるか…。』神崎は小声で言った。皆の頭の中ではガイの言った言葉が響いていた。《やられる前にやれ》誰ともなく一斉にサザナ達の前に出た。
『おやおや皆さんお揃いで…。』サザナはたじろぐ事もなくそう言った。そして持っていた銃を空に向け撃った。多分仲間を呼んだのだろう。その時ガイが動いた。右側に居た男に向かって回し蹴りを繰り出した。だがその男は片手で受け赤子を扱うように跳ね飛ばした。ガイは飛ばされ転がる。すると左側の男がアルミに向かって殴りかかって来た。アルミは一瞬の出来事に慌てて顔の前をガードした。
>> 97
残り2人が銃を向け撃つのが早いかどうかと思った瞬間ガイと神崎の蹴りが2人を倒していた。しかし倒れる時に手下は指に力が入ったのか銃声が森に響いた。
『マズいヤツらに気付かれた…。逃げよう…。』そう神崎が言うとアルミ達は森の奥の方に逃げた。手下はまだこちらには気づいていなかった。
『この辺りなら気付かれないだろう…。』神崎は怪我した所を押さえながら言った。
『ここまで来てまた下がらなければならないなんて…。』アルミはぼそりと言った。
『マーナは大丈夫だろうか…。』エドワードの言葉にアルミは神崎の事でいっぱいで話すのを忘れていた。
『マーナはホテルに居た。』エドワードは驚き辺りを見渡した。
『マーナはどこだ…。助けたのだろう…。』食いつくように言った。
『いや…。』アルミは申し訳なさそうに答えた。
『エドワードお前達が洞窟を離れた時マーナは連れて来られたはずだ。』エドワードは落胆の色を落とせなかった。辺りが少し騒がしくなって来た。手下達が近づいて来たのだ。ガイは素早く音のする方へ走った。
『おい…待て。』アルミはガイを止めようとしたが視界から消えた。
>> 96
肩を押さえながら神崎が座っていた。アギトは横に座り心配そうに見ている。
『神崎大丈夫だったのか…。てっきり殺されたかと…。』エドワードがそう言うと苦笑いしながら神崎は言った。
『ふん…。そう簡単に人を殺すな…。俺は不死身だ。弾がかすっただけだ。』するとエドワードが言った。
『でもあの時銃声の後倒れたでは無いか…。てっきり撃たれたと思っていた…。』その言葉に神崎は信じられない事を言った。
『あれは逃げようと思って下がったら足を何かに引っかかってしまい倒れただけだ。』神崎は笑いながら言った。
『神崎笑い事じゃないぞ。こいつはお前が死んだと思い泣いていたのだぞ…。』アルミがそう言いかけるとエドワードが口を押さえるようにした。それを見て皆は笑った。一時の平穏であった。急にアギトが唸り出した。その方向を見ると4~5人の手下が近づいていた。
『ちっ隠れろ…。』ガイはそう言った。アルミ達は素早く身を隠した。手下共は辺りを伺いながら近づいて来る。マズいとアルミが思っていると神崎とガイが動いた。
>> 95
『そうだよエドワード…。まだ死んだとは限らない。行こう…。』アルミが言うとエドワードは立ち上がり大きく頷いた。アルミ達は洞窟に近づいた。入り口辺りでは何人かが辺りを調べている。良く見ると血の後がある…。だが調べている所をみると神崎は逃げたのかもしれない…。アルミは神崎が生きていると思った。洞窟の前に車が何台か停まっている。
『やはりここにホイルが来ているな…。どうする…。』アルミが尋ねるとガイが答えた。
『俺の考えだが先に神崎を探した方が良いと思うのだが…。』アルミ達は振り返りガイを見た。すると森の方で何かが動いた。ガイの肩の上にいた赤穂が飛び跳ねた。その方向を見るといきなりアルミに何かが飛びかかって来た。それは顔を舐めまわして来た。良く見るとアギトだった。
『どうしたアギト…。なぜここにいるのだ…。』アルミが不思議に思うとアギトが服を引っ張り出した。どこかに連れて行こうとしていた。アルミ達はとりあえずアギトについて行く事にした。アギトは森の奥に入って行く。すると草陰から音がした。アルミ達は身構えた。
『神崎…。生きていたのか…。』そうそこには神崎が隠れていたのだ。
>> 94
神崎が言うには車には何も無かった。だから洞窟の中に入って調べてみようと言い出した。俺も一緒について中に入った。洞窟の中は思ったより広く入り口には見張りが2人居て銃を持っていた。気付かれ無いように近づいて神崎がその2人を倒した。ところが1人が神崎に発砲したのだ。神崎はどこかを撃たれたのかそのまま倒れた。倒れた神崎は俺に逃げるよう言った。すると中から発砲を聞きつけた何人かが出て来た。神崎はなんとか食い止めるから逃げろと言った。俺は後ろ髪を引かれる思いでこちらまで逃げた。その時銃声が鳴り響いた。振り返ると神崎が再び倒れていくのが見えた。その後はわからない…。』エドワードは涙を流しているのか目の下を拭いた。
『あの神崎が…。』アルミは言葉を失った。それを見てガイが言った。
『その後はどうなった…。見ていたのか…。』エドワードは頭を横に振った。
『ならまだ生きているかもしれないだろうが…。泣く前にもう一度洞窟を調べて見るしかないだろう…。』ガイは少し怒った風に言った。アルミとエドワードはガイを見た。
>> 93
木の生い茂る中アルミ達は洞窟に向かっていた。その頃ホイル達はちょうど洞窟に着いていた。
『ホイル様着きました。』サザナは車のドアを開けて言った。すると手下の1人が走り寄って来た。
『ところで何が起きたと言うのだ…。』ホイルは洞窟を見ながら言った。
『実は洞窟に侵入者が入りまして…。』手下はそう言うと申し訳なさそうに言った。そして今まであった事を話した。
『しかしその者の姿が見あたらなくて…。今辺りを探しています。』手下は頭を下げ洞窟に走って行った。ホイルは顎を触りながら洞窟に歩き出した。
ホイル達が洞窟に入ってからしばらく経った頃アルミ達はエドワードとの待ち合わせ場所辺りに来ていたのである。
それは最初に洞窟に来た時に隠れた場所だった。辺りを見渡すと木の陰にエドワードが隠れていた。
『エドワード何があったと言うのだ…。』アルミが尋ねるとエドワードは静かに話し出した。
『俺達は受信機を頼りにここまで来た。すると洞窟の近くの木にガイの鳥がとまっていた。辺りを見るとあの車が停まっていた。それで神崎が調べると言って車に近づいた。しばらく調べて戻って来た。』エドワードは話を続けた。
>> 92
『どうした…。何があったんだ…。』ガイはアルミに近づいて言った。
『神崎が…神崎が死んだ…。』アルミはそこに座り込んだ。
『何…。神崎が死んだだと…。』ガイが聞くとアルミは顔を上げ言った。
『エドワードがそう言った…。間違い無い。だがはっきりした事は会ってからと言っていた。』アルミは力なく立ち上がった。
『なら急いで洞窟に行くぞ。アルミボーっとしている暇無い行くぞ…。』ガイはそう言うとアルミの頬を叩いた。アルミは顔を押さえガイを見た。
『今ここで悲しんでいても仕方ないだろう…。本当に死んだかどうかもわからないのだろう…。なら行くぞ。』ガイはアルミを掴み言った。アルミは思い直したのかガイに言った。
『わかった…。洞窟に向かおう…。』アルミ達は扉を開け部屋を後にした。
ホテルを出ると森の中にある洞窟を目指した。森を入り急にアルミは尋ねた。
『なあさっきどうやってロープを取ったんだ…。』アルミはずっと気になっていた。
『あっあれは骨を外しただけだ。俺はこんな事もあると思い訓練していた。やっと約にたてたな。』ガイは微笑んだ。
>> 91
縛られている為動きにくいがアルミはガイの近くまでなんとか寄った。そしてガイに呼び掛けた。
『おい起きろ…。起きろって。』アルミは怒鳴った。するとガイはようやく目を覚ました。
『うう…。あっアルミ。ヤツらは…。』そうガイは尋ねた。辺りは誰も居ない。とうの昔に部屋を出て行ったのだろう。
『ガイこのロープほどけるか…。』アルミは後ろ手に縛られた所見せた。
『アルミ大丈夫だ。こんな紐簡単に外せるさ。』そう言うとガイは何かし始めた。ゴキゴキと凄い音がしたかと思うとスルスルと自分のロープを解いた。
『俺にとっちゃこんなもん簡単さ。』鼻高々にガイは言った。そして足のロープも解いた。その後アルミに近寄りアルミのロープを解き始めた。ロープが解け2人は部屋を調べ始めた。やはり誰も居なかった。
『さっき洞窟が何とか言っていたな…。』ガイが思い出したように言った。
『ああ…。確かにそう言っていた。多分あの洞窟だろう…。行ってみるしかないな…。その前に…。』アルミは携帯を取り出しどこかにかけた。
『もしもし…。エドワードか…。俺だアルミだ…。』アルミはエドワードの言葉に固まった。
>> 90
思わず銃を落としてしまった。振り返るとそこにはサザナが立っていた。落とした銃を燐銘が拾ってこちらにむけた。その時ガイが動いた。近くに居た手下を一瞬の内に蹴り倒し燐銘の銃を蹴り飛ばした。そしてナイフと言うより短めの刀らしき物を燐銘の喉元に突きつけた。だが残り手下とサザナがこちらに銃を向けた。
『はいはい。残念でした。その物騒な物を置いてもらいましょう。』サザナがアルミの頭に銃を向け直した。ガイは仕方なく刀を床に投げた。
『本当に残念でしたね。後もう少しだったのにね。』ホイルがニコニコしながら言った。
『あなた達には眠ってもらいましょう…。』そう言うとサザナと燐銘はアルミ達にスプレーを吹きかけた。催眠ガスの入ったスプレーなのだろうアルミとガイはその場に倒れた。
『お兄ちゃん…。お兄…ゃん…。』マーナの叫び声が倒れ薄れていくアルミに聞こえていた。そしてどのぐらい経ったのだろうアルミは目を覚ました。
『うう…。ちきしょう…。縛られている…。ガイは…。おいガイ…。ガイ居るか…。』アルミは辺りを見渡すとガイは窓の近くで倒れていた。
>> 89
ガイはカートを押しテーブルの近くまで行った。部屋の中を見渡すと手下は3人で、後は燐銘とサザナそしてホイルの6人だ。ガイはタイミングを考えながらテーブルに食事を置いていった。そして最後の一皿になった。その時である。サザナの携帯電話が鳴った。
『はい。どうした…。うんうん。何…。分かった。』サザナが電話を切る。
『どうした…。』ホイルが訪ねた。
『はい。実は洞窟の方でトラブルがあったようです。』サザナが言った。
『何…。食事は後だ。洞窟に行くぞ。』ホイル達はそう言うと立ち上がった。
『こいつはどうします…。』サザナが訪ねるとホイルが言った。
『連れて行く。さあ行くぞ…。』そう言って部屋を出ようとした。するとガイが食器を落とした。全員が振り返った。そうガイの合図だった。そしてアルミはカートから飛び出し銃を構えた。
『動くな…。手を挙げろ…。』不意を付かれたせいかホイル達は手を挙げた。
『お兄ちゃん…。』マーナは泣き叫んだ。
『マーナ助けに来たよ…。さあマーナを離せ…。』アルミはホイルに銃を向ける。しかし1人いない事に気が付いていなかった。不意に後ろから衝撃がアルミを襲った。
>> 88
アルミは嫌そうな顔をした。
『何故俺がこんな所に…。俺は絶対嫌だ。』ガイは困った顔した。
『おいおいそう言ってもどうするんだ…。マーナを助けるのだろう…。』ガイはアルミをなだめた。アルミはしばらく考えていた。アルミは何かを悟ったかのように言った。
『そうだよな。マーナを助ける為だ。こんな事でもめても仕方ない。わかった。』そう言ってカートの下に隠れるように乗り込んだ。
『アルミ…。俺があの部屋に普通に入る。そして俺が食事をテーブルに置いてからワザと食事を落とす…。それが合図だ…わかったな。』ガイが言うとアルミは返事をした。
『ああわかった。上手くやってくれよ…。』その返事を聞いてからガイは帽子を深く被り気合いを入れるように太ももを二度パンパンと叩いた。そしてカートを握り締めホイル達の部屋に向かって押して行った。扉の前に立ち横にあるベルのボタンを押した。
『いよいよだぞ。ガイ頼んだぞ。』アルミが言うとガイは答えた。
『わかっている。任せてお前は隠れていろ…。』しばらくすると扉が開いた。手下が辺りを見渡し手招いた。
『入れ…。』無愛想な言い方だ。ガイはカートを押して中に入って行った。
>> 87
ガイはアルミに近寄りずっと考えていたのかニヤニヤしながら話し出した。
『まずはここのボーイの服を盗んで食事を運びそこでヤツらからマーナを救う方法だ。』ガイは自慢げにその作戦を話した。
『だが、そう簡単に服なんて盗めるのか…。だいたいそれで本当に上手くいくのか…。』アルミは呆れた顔をした。
『あのな、俺の作戦に失敗なんてない。ならお前何か他に考えがあるのか…。』ガイはムッとして言い返して来た。アルミも他に考えがある訳でもない為申し訳無さそうにしていた。するとエレベーターがチンッと言って開いた。
『あっあれ…。あれはボーイだよ。』アルミとガイはお互い見合った。その後の2人の行動は物凄く速かった。あっという間にボーイを捕まえてさっきの所まで引っ張って来た。ボーイは怯えている。ガイはそのボーイにお金を渡し一時的に服を借りた。ボーイはニヤニヤしながら非常階段の扉を開けこちらに手を挙げた。
『これで服は調達出来た。後は突入するのみ。』ガイはやる気満々である。そしてボーイの服に着替えた。アルミは腰にある銃を確認した。
『ところで俺はどうしたら良いかな…。』アルミが聞くとガイはカートの下を指差した。
>> 86
部屋の中には先ほどの2人と後何人かいる。その奥にどっしりと座っている男がいる。
『あれは間違い無いホイルだ。俺の父親とそっくりだから間違えはしない。』アルミはそう言った。
『皆が揃っているのならばもしかしたらここにマーナが居るのでは…。』ガイが言うとアルミは振り返った。
『見る感じではどこにもいないようだが…。』アルミは悔しがる。
『どうしたら良いか…。』アルミ達は悩んでいた。ガイは受信機を見ながらアルミに言った。
『おい皆が動いて奥の部屋に行ったぞ。あっ誰かを連れて出て来た。』確かに受信機に映っていた。
『あっマーナ…マーナだ。間違いないマーナだよ。やはりここに居たのか…。』アルミは走り出した。
『おいっ…。待て…。』ガイも走り出しアルミを止めた。
『何故止める…。マーナを助けないと…。』アルミは怒りに燃えていた。
『待てよ。いきなり入って助けられる訳ないだろう…。居場所はわかったのだから作戦を考えてからの方が良いに決まっている…。だから待て…。』ガイはアルミを思い留めさした。ガイは考えていたのか作戦の1つを語った。
>> 85
『おっ見えるぞ。誰か居るかな…。』ガイはそう言うとズームを変えた。
『奥に誰か居るみたいだな…。一人は燐銘のようだが…。あの黒い服の男は誰だ…。』ガイが言うとアルミは受信機を奪い見た。
『これはサザナだ。間違い無い。あの感じはサザナだ。他に誰かいないのか…。2人が立ち上がった。出掛けるみたいだ。ヤバい隠れないと…。』アルミ達は廊下の突き当たりの影になっている所に身を潜めた。
燐銘とサザナは廊下に出てエレベーターの方に向かっていた。しかしエレベーターには乗らずもう1つの部屋をノックした。しばらくして扉が開いた。そこには部下らしき男が立っていた。頭を下げると中に入るように手を部屋の方に差した。2人は中に入って行く。そして扉が閉まった。
『くそっ中が見えなかった。』アルミが悔しがる。それを見てガイが窓の方に近づく。そこには赤穂がいた。ガイは赤穂に何か言っている。すると赤穂はわかったようにまた窓の外に出て行った。ガイはアルミを見た。
『その受信機を見ろ。奴らの部屋が映るはずだ。』アルミとガイは受信機をまた見た。そこにはさっきの部屋が映っていた。
>> 84
エレベーターは最上階まで上がって行く。そして最上階に着き扉が開く。周りを伺いながら降りる。しかしどこにも燐銘の姿は無い。
『ここからどうする…。調べるにもかなりの部屋がある…。』アルミは困った顔をした。それを見てガイは言った。
『その点は大丈夫。この受信機で調べたらわかる。さてさてどこにいるかな…。こっちだな。』ガイは右側の方を指差した。受信機を見ると点滅した光が段々と近づいている。ある部屋の前まで来たら受信機の真ん中で光が点滅していた。
『多分この部屋に違いない。と言うよりこの部屋だな。』ガイは小声で言った。
『しかし中に居るのが分かってもいきなり入ったらマーナが危ないと思うのだが…。』アルミが言うとガイは肩に乗っていた赤穂を下ろし近くにある窓を開けた。良く見ると赤穂は何かを背負っている。スルスルと窓の隙間から赤穂は外に出て行った。ガイは受信機にあるボタンを押すと画面の中に映像が出てきた。
『おっここは…。部屋の中が見える。』アルミは言った。
『そう。赤穂が背負っていたのは小型のカメラだ。バッチリ映っているな。』アルミ達は画面をジッと見た。
>> 83
『正面切って入るなんてそんな馬鹿な…。そんな事したらすぐ見つかってどうなるか…。』アルミは驚いている。それを見てガイはニヤリとしていた。
『おいおい良く考えてみろ。俺達が入って行っても奴らのアジトに行く訳では無い。奴らも俺達が来ているとは思っていないだろうからな。盲点をつくって訳だ。それに見つかったとしても簡単に手出しは出来まい。そう言う事だよ。』ガイの言っている事は確かだがもし見つかったら…アルミは不安な気持ちでいた。
『さぁ行こう。』ガイは力が有り余っているのか元気いっぱいである。
ホテルの正面にある大きな扉から入って行った。するとエレベーターの所に燐銘が立っていた。
『おい。アルミ見ろよ。あそこに居るぞ。』ガイが顔を寄せて言う。
『本当だ。あんな所に…。どの階に行くんだ…。』アルミ達は気付かれないようにエレベーターの方に近づく。燐銘が乗り込み上がって行った。アルミはすかさず階を表示する所を見ていた。それは最上階まで上がって行った。ガイがアルミを見て言った。
『隣りのエレベーターがある。さあ行こう。』アルミは頷き乗り込んだ。
>> 82
『あっ確かにそのホテルがあるな。そこに向かっているのか…。』アルミは考えていた。確かこの島に来た時に見たホテルだった。あの時不思議な感覚を覚えていた。名前からにしても家宝と似ているからかもしれないが…。
『とりあえずそこに向かってみよう…。』アルミはそう言った。森の中に入ると辺りでは鳥の鳴く声が聞こえてくる。それに反応して赤穂がキョロキョロしている。ガイが受信機を見ると燐銘はやはりそのホテルに向かっている。そこにマーナは居るのだろうか…。無事なら良いのだが…。アルミはそう思いながら歩く。森を抜け海側にあるホテル街に出た。そこには様々なホテルが建ち並ぶ。その中で一際目立つのが俺達が目指しているホテルだ。
『おい。あのホテルだな。』アルミが言う。
『ああ。あのホテルだ。』ガイは答えた。
『あとはどう忍び込むかだ…。』アルミが言うとガイは笑いながら言った。
『気にする事はない。堂々と正面から入れば良い。』ガイは大笑いしながらアルミの肩を叩く。
『そんな事したらバレるではないか…。』アルミは困った顔をした。
『だから良いのさ。』ガイは意味ありげに言った。
>> 81
『シュウト。パパは君の為を考えて行かないのだよ。だから別にカッコ悪くは無い。かえってパパは凄いのだよ。』シュウトの目線に落としてアルミは言った。シュウトはわかったのかニッコリ笑って言った。
『そうかパパはカッコ良いのか。』サツキと謙一郎はアルミを見て頭を下げた。
『では行きますか。お互い頑張ろう。』アルミの言葉に皆ガッツポーズをした。そしてお互いの目指してダンの店を出た。アルミが振り返るとクルミとミツキが手を振っている。その横で謙一郎の家族とダンがこちらを見ている。そしてシュウトがピースサインを出した。ピースサインは幸せを祈るマジナイだ。知ってか知らずか笑いながら出していた。アルミは心の中で成功する事を祈った。
『さてと燐銘はどちらに向かっているのかな…。』とアルミはダンから渡された受信機を見た。
『この方向だと海に向かっているな…。まだ動いているな。やはり海に向かっている。何があるんだこっちには…。』アルミは受信機を見ている。
『俺が来た時その方向にホテルがあったと思うが…。確か「タートルマリナーズ」ってホテルが…。』ガイは思い出して言った。
>> 80
皆の冷ややかな視線に気が付いたのかガイは黙った。
『では早速行きますか。』エドワードが言う。
『ちょっとまてなら俺が飛ばした疾風はどうなるんだ…。』ガイがそう言った。
『確かにそうだな。せっかく飛ばしてあの車の行方を突き止めているのだ、無駄には出来ない。なら二手に別れてやるしかないな…。』アルミは周りを見た。皆が頷いている。
『その案のった。』ガイが手をあげた。
『俺は燐銘を追いかける。エドワードはどうする…。』アルミが聞くとそれに答えた。
『俺は洞窟の方に行ってみる。』エドワードはアルミを見た。
『神崎。お前はエドワードと一緒に行ってくれ。護衛になれるからな。俺はガイと行く。』2つのグループに別れた。
『お前ら本当に気をつけろよ。ホイルの噂はあまり良くないからな。命の保証だってないのだからな…。だから俺は行かないぞ。』謙一郎はそう優しく言ってくれた。
『パパカッコ悪い。』シュウトはふざけて言う。
『ダメでしょうそんな事言ったら…。』サツキが少し怒った風に言う。
>> 79
慌てて皆が駆け寄り中を覗く。確かに燐銘の姿が無かった。そんな皆の後ろでダンが笑った。
『どうした…。何故笑っている…。』不思議に思いアルミは聞いた。
『そりゃそうさ。俺がワザと逃がしたのだから…。』ダンはニヤリとする。
『逃がしただと…。』エドワードがダンを掴み食ってかかった。
『おいおい慌てるな…。これだよこれ…。』ダンは手に持っていた機械を見せた。
『それは受信機のようだが…。それがどうしたと言うのだ…。』アルミは不思議そうに言った。
『おいおいまだ分からないのか…。』ダンは困った顔をした。するとサツキが言った。
『それってもしかしたら燐銘と言う人に発信機を付けているって事かしら…。』アルミはやっとわかった。そしてダンがさっきウィンクした意味も。
『そう言う事か…。さすがダンだな。いつの間に着けたんだ…。』神崎はダンに近づいて肩をポンと叩いた。その言葉で全員がわかった。
『そうだ。これで後は追跡すればホイルの居所がわかるって寸法だ。』ダンは自慢げに言った。
『ワザと燐銘を逃がしホイルを見つけ出しマーナを助け出す。一石二鳥作戦だな。いや一石三鳥だな。』ガイは笑いながら言った。
>> 78
『あれってなんだ…。』神崎がまたワザとらしく言った。
『可哀想ではないですか…。ちゃんと行かしてやったらどうですか…。』言ったのはミツキだった。
『そうだ。行かしてやれ。』続いてガイもそう言った。
『そうだな意地悪はここまでで行かしてやるか…。しかしこれをはめてから行ってもらうぞ。』手には手錠が握られていた。燐銘はしぶしぶ手を出した。
『じゃ俺が連れて行く。』ダンが燐銘を連れて行く。そして何故かアルミ達を見るとウィンクした。アルミはなんの事かその時はわからなかった。
『近くにいちゃレディーに失礼だから終わったらノックしろ良いな。』ダンが紳士らしい事を言った。しばらくしても扉を叩く音がしない。まさかとアルミは思った。そしてダンに尋ねた。
『まさか逃げたって事無いよな…。』試しに扉を叩いて声をかけたが中から返事が来ない。
『ダンこの扉はこちらから開ける事は出来るのか…。』ダンは答えた。
『鍵で開くが…。取ってくる。』そう言って奥の部屋に入り鍵を持ってきた。その鍵で扉を開けてみた。居るはずの燐銘がいない。
『しまった逃げられた…。』アルミがそう叫んだ。
>> 77
皆がもめている中1人店の奥で座っている燐銘が話しかけてきた。
『アンタら話合うのは良いが私の事忘れていないかい…。』皆が話すのを止め燐銘を見る。
『おーすまんお前いたんだな…。お腹空いたろこれを食べろ。』皆に出した食事をいくつか取り燐銘の前に神崎が出す。
『いい加減にしなよ。こんな格好でどうやって食べる…。』燐銘は怒った。それ見てアルミが近づいて言った。
『申し訳ないが簡単に縄を解く訳にはいかない。こっちの質問に答えてもらおう…。』アルミは燐銘に聞いた。
『ホイルはあの洞窟で何をしようとしている…。それにマーナは本当はどこに居るのだ…。』燐銘は横を向く。アルミは呆れたように両手をあげ困った顔をする。
『それなら食事は無しだな…。』神崎が食事を引っ込めようとした。
『ちょっと待って…。』燐銘は慌ててこっちを向き言った。
『何なんか言ったか…。』神崎はわざとらしく言う。
『ちゃんと話すから…。』燐銘は涙目で訴える。
『えっ聞こえないな…。なんだって…。』神崎は意地悪に言った。そしてアルミとエドワードをチラリと見てニヤリと笑う。
『話すがその前にあれに行きたい…。』燐銘は濁した言い方で言う。
>> 76
食べ終えた食器を片付けながら話をし始めた。
『とりあえず洞窟に行って見るしかないけど…。』それしかないと皆思った。
『おいおいあの洞窟に行くのかい…。あそこは止めとけどんな事になっても知らんぞ。』謙一郎はそう言って首を振る。
『どうしたあそこに何かあるのか…。』アルミが尋ねた。謙一郎は険しい顔をした。言いにくいのかなかなか話してくれない。
『謙一郎なんなんだよ…。教えてくれ。そうしないと事が進まない…。』エドワードが強い口調で言った。
『実はな俺もあの近くにコーヒーの木を求め探していた時だ…。探している内に夜になってしまいあの洞窟に入って行ったんだ。雨が降っても大丈夫だと思い泊まる事にした。』一同はその話に聞き入っていた。
『あそこには魔物が住んでいる…。』謙一郎は思い出したのか身震いした。
『魔物なんて…。何言っているのだ。そんな物居るわけないだろう…。』アルミは笑いながら言った。
『いや居たんだって俺が眠ろうと横になった。すると洞窟の奥の方から唸り声が聞こえてきたのだ。そちらの方を見ると光る目が2つあった。それなら俺も驚きもしない…。その目が2つから4つになり、また4つが8つになったのだ…。俺は慌ててその洞窟から逃げたよ。次の朝街の人に聞いたら昔からあそこには何か得たいの知れない何かが住んでいると言っていた。』謙一郎は体を振るわせ言っている。
『あーその話は俺も知っているぜ。あの洞窟を守る何かがいるってね。あそこには宝が眠っていて、それを盗りに来る者から守る為に居るってね。』ダンがそう言った。
『そうか…。しかし俺達も一度あそこには行ったがホイルの一味が居て何かをしていた。ただ全てを見た訳では無いが…。』アルミはそう言いながらエドワードを見た。
『しかし今はあそこに行ってみるしか無いからな…。』エドワードは立ち上がり言った。するとガイが割り込んできた。
『行くならこのガイ様も行くぜ。』胸をポンポンと叩きながら言った。
『それは助かる。じゃ一緒に来てくれ。』アルミは頭を下げた。
『おいおい止めとけって…。何があっても知らないぞ。』謙一郎は本当に怖かったのか真剣に言っている。
>> 75
『あの洞窟は私がまだ小さかった時行った記憶があります。ただ良くは覚えてはいませんが父上からその後聞いたのですがあそこには狼の像がありその奥には宝が眠っていると言っていました。ただ簡単には開かないとも言っていました。』ミツキの言葉は信じられない事にアルフォート家の言い伝えに似ていた。
『その話我が家の言い伝えと類似している。やはり先祖の関係は間違いないのかも…。』アルミはそう言った。
『そうなんですか…。ではあの洞窟に宝が眠っているのですね。だからホイルさんはブルーダイヤの事を欲しがっていたのですね。我が家の言い伝えではこれが開ける為のキーになるって言ってましたから…。』何げに言ったがアルフォート家の2つのダイヤ、フォード家の1つのダイヤがなければ扉は開かないと言う事になる。そうアルミが思っていたら店の扉がギィっと開いた。
『こんにちは。ダン俺だよ。』顔を覗かせたのはサツキの旦那で渡辺謙一郎だった。
『パパ―。』シュウトが駆け寄る。満面の笑みを浮かべ謙一郎はシュウトを抱き上げた。厨房からサツキとダンが顔を出す。
『あっパパやっと来たのね。随分待たされたわよ。』口を尖らせて言った。その横でダンが手を上げる。
『すまんすまん。契約にちょっと手間取ってな。無事契約出来たよ。』頭を掻きながら申し訳なさそうに言った。何かに気付いたかのようにアルミ達を見る。
『アルミなんでお前がここに…。それにエドワードまで…。』驚いた顔をしている。アルミは謙一郎に近づいて今までの事を話した。しばらく経って厨房から料理を持ってサツキ達が出てきてテーブルに並べた。色々な料理が並んでいる。ミツキは満面の笑みを料理を食べ始めた。
『皆さんの分もあるからどんどん食べな。』とダンが言った。さすがに皆もお腹が空いていたのだろう凄い勢いで食べ始めた。テーブルを囲んでの食事は久しぶりだなとアルミは思っていた。食事も大体終わった頃エドワードが話し出した。
『アルミ食事も済んだ事だしそろそろマーナ救出の話をしたいのだが…。』そう言って周りの意見を伺った。
>> 74
ダンはそれを見ながら言った。
『よっぽど喉が渇いていたのだろうな…。もう一杯飲むかい…。』尋ねるとミツキはコップ差し出した。
『お願いします。喉が渇いてしまって…。』地下室では何も口にしていなかったのだろうかと皆は思っていた。ダンが再びコップにジュースを注ぎミツキに手渡した。
『もしかしてお腹も空いているんじゃないかい…。』そう尋ねるとミツキはお腹を押さえながら言った。
『実はペコペコなんですよ。』舌出して恥ずかしそうに言った。すると店の奥に座っていた女性が立ち上がった。
『私が作って差し上げますわ。』どこかで見た事のある人だった。
『あっサツキさん。』アルミはつい叫んでしまった。ここに居るはずの無い人が居るのだ。驚くのも当然である。ここに来る前に立ち寄って来た喫茶店のママが何故か目の前に居る。アルミは不思議に思って尋ねた。
『何故ここに居るのですか…。』それ聞いてサツキが答えた。
『旦那がここに来ていてこっちに来るように言われて店を休みにして来ました。シュウトはほらそこに…。』アルミは脚に痛みを感じた。そうシュウトが脚に蹴りを入れていたからだった。
『この野郎またやったな。相変わらず元気だな。』頭をぐっと押さえた。するとシュウトはニッコリと笑った。
『では厨房を使って良いかしら…。』サツキはダンに言った。
『どうぞどうぞ。』そう言いながら厨房にサツキを連れて入って行った。この店は初めて来た時は意外に広く思っていたが今は妙に狭く感じられる。これだけの人数が居るのだから当たり前なのだろうが…。アルミは急に1つの事を思い出し言った。
『そう言えばマーナの行方はわかったのか…。』そうエドワードに尋ねた。
『この受信機を調べたらガイの鳥は島の中央にある山の所に居るのだが…。』それを聞いてアルミは家宝の眠る洞窟を思い出していた。
『まさかあの洞窟に居るのだろうか…。それなら早速行ってみよう。』それを聞いていたミツキが話して来た。
『洞窟ってあの洞窟ですか…。』ミツキの言葉に全員が振り返った。
>> 73
目の前にダンの店が見えて来た。店の外ではアギトがくるまって寝ていた。気配を感じたのか、顔を上げ嬉しそうに尻尾を振り出した。そしてアルミの方に駆け出し飛びついてきた。ガイの肩に居た赤穂は慌てたように背中に回り様子を伺った。外が騒がしくなったのが分かったのか、クルミが扉を開け顔を覗かせた。
『よっクルミ。帰って来たよ。』アルミがそう言うとクルミが駆け寄り抱きついた。クルミの頭を撫でながら言った。
『みんなは中に居るのかい…。』それを聞いてクルミは頷いた。そして後ろに居る姫を見て不思議そうな顔をした。
《その人は誰なの…》そう手話で聞いて来た。
『詳しい事は中に入ってからだ。』そう言うと店の扉を開いた。中にはエドワード達が1つのテーブルに固まり何かを話していた。ダンはカウンターの中で洗い物をしていた。
『よっアルミ無事だったのか。今皆で噂していたんだよ。』冗談混じりにエドワードがそう言うとその横に座っていた神崎が続けて話してきた。
『その後ろに居るのはアルミが助けた女の子かい…。』そう尋ねるとアルミは後ろ振り返ってミツキを前に出して言った。
『そうだよ。彼女はミツキだ。』そう言うとミツキは頭を下げ改めて自己紹介をした。
『私はタミヤ王国の王女でミツキ・エル・フォードです。よろしくね。』そう言って店の中を見渡した。
『素敵なお店ですね。アナタがここの店主さんですか…。』とダンに向かって言った。ダンは不意に聞かれた為慌ててタオルで濡れた手を拭きカウンターから出て来て挨拶をした。
『褒めてもらえるとは嬉しいね。俺はダン。ダン・カービィだ。よろしくな。』そう言うと手を差し出した。それを見てミツキも手を出し握手をした。
『ところで飲み物を頂けませんか…。ここまで逃げて来るのに喉が渇いてしまいました…。』すると慌ててダンはカウンターに入り冷蔵庫の中からジュースを取り出しコップに注いだ。それをミツキの前に出した。
『ありがとうございます。』そう言ってコップを受け取り一気に飲み干した。皆はそれをポカンとして見ていた。
>> 72
『ではアナタはアルフォート社のご子息なのですね。兼ねてから存じていました。こんな所で会えるとは思いませんでした。それにアルフォート家が騎士の子孫である事も存じていました。それがアナタとは…。とても嬉しく思います。』驚きの中ミツキはそう言った。
『不思議ですね。俺の頭の中でアナタを助けろと言う声がしたのです。』アルミは歩きながらそう言った。
『それでは我が家系はまたアルフォート家に助けてもらった事になるのですね。これはやはり神様のイタズラなのかしら…。』クスクス笑った。
『神様のイタズラって…。』アルミは困った顔をしながら苦笑いした。
『でもこれも何かの縁かもしれません。アルミさんよろしくお願いします。』頭をペコリと下げた。
『あらっ森を抜けそうですね。これからどこに行くのですか…。』急に違う話を言い出した。
『えっ…あっこの島にある酒場に行くつもりです。そこの店のマスターは良い人で俺達を助けてくれています。姫様が行くにはちょっと問題あるかもしれませんが…。』ちょっと皮肉っぽく言った。
『構いません。そこに連れて行って下さい。そう言う所に行ってみたかったのです。特に酒場なんて…。私はあまり世間の事はわかりません。いつも自分の屋敷の中…。この島に来たのもずっと反対されていたのです。結果こんな事になってしまいましたが…。』少しうつむき加減にミツキは言った。
『姫…本当に大丈夫ですか…。かなり汚い所ですよ。そんな所に行かせる訳には…。またどんな危険が待っているか…。』ガイはそう言ってミツキの前に立つ。その肩の上では赤穂が飛び跳ねながら鳴いている。
『大丈夫です。何事も経験です。それにあの地下室に閉じ込められていたのですよ。それに比べたら…。そうでしょう…。』確かにそうだとアルミも思った。ミツキはまたニッコリと笑った。森を抜け道に出た。辺りを見渡したが怪しい者はいなそうだ。足早にダンの店を目指した。
>> 71
それを見つめながらミツキは言った。
『ガイ本当にアナタの性では無いのだから気にしないで…。』ガックリとしたガイは顔を起こしミツキを見つめた。
『そうだ。俺もそう思う。予測して無い事はいくらでも起こるもんだ。実際俺はこの何日か毎日のように色んな事が起きているからな。』アルミはそう言ってガイの肩を叩いた。
『それはそうなんだが…。』よほど悔しかったのだろう。ミツキはすっと立ち言った。
『さあ行きましょう。ここに居ても仕方ないですから…。』アルミ達は再びミツキを見た。
『そうだな。まずは安全な場所に行った方が良いな…。しかしその前に聞いておきたいのだが…。君達はこの島に何しに来たのだ…。』アルミは疑問になっていた事を尋ねた。ミツキ達は困った顔をしているがその疑問に答えた。
『それはあの屋敷のホイル氏に招待されたのです。彼とはかなり前から貿易を通じて面識は有りました。我が国の鉱石であるダイヤモンドの取引で彼はかなりの財を手に入れたのです。そのお礼と言う事で招待されたのです。しかしあのような事が起きてしまったのです。そして彼の本当の目的は我が国の宝ブルーダイヤ〔ブルーウルフ〕なのです。それを見せるのも今回来た訳でも有りますが…。』グリーンダイヤにブルーダイヤこれは何か有るに違いないとアルミは思った。
『グリーンダイヤには言い伝えがあります。それは私の先祖が戦で戦っている時不意に後ろから敵に襲われた時助けてくれたのがアキ・ラ・アルフォートと言う騎士だったそうです。それが縁で彼からもらったのがこのグリーンダイヤだったのです。』意外な所で何かが繋がった。
『それは本当の話なのか…。』アルミは驚いて聞いた。
『ええ本当の話です。嘘をついても仕方有りません。何故そんなに驚かれるのです…。』キョトンとしてミツキは尋ねた。
『その騎士は俺の先祖にあたる人だ。』その言葉に今度はミツキ達が驚いた。
>> 70
部屋を出た途端に赤穂が現れミツキに飛びついた。
『あっ赤穂じゃない。アナタも来てくれていたのね。』頭を撫でると嬉しそうに鳴く。
『姫じゃれている場合では無いですよ。まずは逃げないと…。さぁ行きましょう。』ガイが丁寧に言った。アルミは走りながら尋ねた。
『ガイ。姫様とはどんな関係なんだ…。』ガイはその質問に困った顔をした。何かあるに違いない。間を置いてガイは答えた。
『それはな…。俺はな姫の親衛隊隊長さ。』息切れ一つつかないで答えてくれた。しかし浮かない顔をガイはしていた。それを見て何かあるに違いないとアルミは思った。屋敷の裏口を抜けて森の方に逃げた。しばらくすると屋敷の方からベルの音が鳴り響いた。今になって居なくなった事に気が付いたようだった。その騒ぎの中アルミ達は森の奥へ入って行った。
『もうここまで来たら大丈夫だろう…。ここで少し休もう。』ガイの言葉に一同は賛成し足を止めた。
『本当にありがとうございました。おかげで助かりました。このお礼は必ずさせてもらいます。』ミツキはそう言ってニコリと笑った。まるでお人形のような可愛いらしい笑顔だった。しかし何故お姫様が屋敷に捕らわれていたのだろう…。何かあったに違いない。ガイにそれとなく聞いてみた。
『ガイ…もしかしたらこのお姫様を助ける為にこの島に来たのか…。』苦笑いしてガイは言った。
『実はな…そうなんだ。姫が誘拐された事を隠す為おどけて見せてたのだ。あの時我々は油断していた…。』言いにくいのか言葉に詰まる。
『ガイ余り気にしないで…。アナタが悪い訳では無いのですから。私が話しましょう。』ミツキは高貴な語り口で話し出した。
『私共は訳があってこの島にやって来ました。ここに来てホテルでゆっくりとしていました。もちろんガイもいました。食事の時間になり部屋に食事が届けられました。私共がその料理を食べ終わった頃運ばれてきた台の一部から煙りが立ち込め私は急に意識が無くなり気が付いたらあの部屋に閉じ込められていました。』ミツキはそう言ってガイを見た。
『俺は食事に何か入っていないかまでは調べたのだが…台に仕掛けがあるとは考えていなかったのだ…。』ガックリとして悔しがった。
>> 69
アルミは何もかも嫌になりそうな気持ちになりそうだった。
『何そんな辛気くさい顔しているんだ…。助けに行くのだろう…。俺が付いているぜ。元気だせ…良いな。』ガイの明るい言葉にアルミは笑顔を見せた。
『そうだなガイの言う通りだ。さぁ行こう。』アルミ達は再び屋敷に向かった。先ほど入った裏口から入り中を伺う。辺りには人の気配は無い。そのまま警備室に向かった。扉を開け中を見た。2人の男が縛られて気絶していた。神崎がやった事は知っていた。警備室のモニターをチェックすると1つの画面に捕らわれている女の子が目に入った。
『この子だな。いったいこれはどこなんだ…。』アルミがそう言うとガイが答えた。
『多分これは地下ではないか…。モニターの上に“B1”と書いてある。』アルミは改めて見ると確かに“B1”と書いてあった。
『じゃ地下に行ってみよう。』アルミ達は地下を目指した。赤穂が先頭を招くように走る。その後をついて行く。
『多分コイツは場所が分かっている。』ガイはそう言った。すると目の前に地下への階段が見えた。そこを降りて行く。降りた所に扉がありアルミ達は前に立った。ノブを回すが開かない。するとガイは懐から何かを出した。それを鍵穴に突っ込みガチャガチャとしたと思うと扉が開いた。そして中を見ると1人の女の子が座っていた。こちらを振り向くと驚いたように言った。
『ガイじゃない。どうしてここに…。助けに来てくれたの…。』アルミは驚いた。この2人は知り合いなのか…。
『姫ご無事で何よりです。助けに参りました。さぁここを出ましょう。』ガイが言うとその姫はこう尋ねた。
『その方はどなた…。』ガイはその言葉に答えた。
『この方はアルミと言って偶然出会った者で今回彼に手伝ってもらいここまで来ました。』その姫は頷きながら立ち上がりました。
『私の名前はミツキ・エル・フォード。タミヤ王国の王女です。この度はありがとうございます。』そう言って手を差し出した。アルミはその手を取り握手をした。
『アルミだ。よろしく。まあそんな堅苦しい話は後にしてここを出よう。』そう言ってアルミ達はその部屋を出た。
>> 68
アルミは神崎に近づき言った。
『何か気になるんだ…その子を助けなければならないと思うのだが…協力してもらえないか…。』それに対してエドワード言った。
『マーナはどうするのだ…。お前の妹だぞ。ほっといて他の子を助けるなんて馬鹿げてる。俺は認め無いぞ。』エドワードは凄い勢いで言った。それを聞いてアルミは困った風で頭を掻いた。アルミは頭の中で誰かが助けなさいと言っているようで仕方なかった。
『わかった。この件は俺だけでなんとかする。エドワード達は引き続きマーナの行方を調べてくれ。』すると後ろから声がした。
『その子を助けるのは俺に手伝わしてくれ。』そう言ったのはガイだった。
『ガイ無事だったのだな。かなり暴れていたみたいだったが…。』アルミはホッとした顔をした。
『無理に手伝ってくれなくても良いのだぞ。これは全く意味なくやるのだからな…。』アルミは下向きがちにそう言った。
『それじゃ俺達はマーナの情報を調べる為一度ダンの店に戻る。アルミ気を付けろよ。無理ならすぐ逃げろよ。じゃお互い頑張ろう。』そう言ってエドワード達はダンの店に帰ろうとした。その時ガイが声を掛けた。
『お前ら何か忘れていないか…。』そう言って受信機を見せた。皆はそれを見てハッとした。完全に忘れていたのだ。ガイが鷹を放った事を…。
『忘れていた。車を追いかけて飛ばしてくれてたのだったな。それがあれば何かわかるかも知れないな…。』そう言ってエドワードはそれを受け取った。詳しい説明をガイから聞き改めてダンの店に向かって行った。アルミは屋敷を見つめていた。
『オイどうした…。何を考えているんだ…。』ガイの言葉にゆっくり振り向きアルミは言った。
『いったい俺達はいつまでこんな事をしていなければならないのだろうか…。出会ったばかりの君に言っても仕方ない事だけどな…。』森には小鳥の鳴く声だけがただ響いていた。
>> 67
銃を構えたまま神崎はミッキーを見た。
『ミッキーそいつを縛ってくれ。』それを聞いてミッキーは辺りを探りロープを見つけた。それで倒れた男を縛った。その男は気絶したままだった。そして口にガムテープを貼った。銃を向けられている男は恐怖に震えている。その男に神崎は聞いた。
『ここに女の子が連れて来られているはずだが…。どこに居るか教えろ。』そう言って銃を突きつける。その男は恐怖のあまり言葉にならない。そして1つの画面を指差した。そこにはマーナでは無い女の子が捕らわれていた。
『あの子では無い。他に居るはずだ。』男に問いただすが首を振りこう言った。
『あ‥あの子だけだ今ここに居るのは…。』必死にその男は言った。神崎はそいつの目をジッと見た。男は嘘はついてはいないとわかった。神崎はそういう能力もあるようだ。そして男の方を見たかと思った瞬間男は倒れた。神崎が一瞬の内に気絶さしたみたいだ。その男も縛り上げた。
『ミッキー困ったな…。ここには居ないようだ。アルミ達に知らせよう。』そう言ってその部屋を出ようとした。すると画面の1つにガイが暴れているのが見えた。ヤバいなこれは…。急いで逃げないとな。扉を開き辺りを伺い飛び出した。そして来た道を戻り裏口にたどり着いた。外は静かになっていた。ガイのヤツ大丈夫なんだろうか…。神崎は思いながら外へと飛び出した。アルミ達が居る所まで走った。そこでアルミ達はジッとこちらを伺いながら待っていた。
『神崎どうだった…。マーナは居たのか…。』その答えに頭を横に振った。
『中には居なかった。その代わり見知らぬ女の子が捕らわれていたよ。なぜ捕らわれているのかはわからないが…。関係ない話だな。』その話を聞いたアルミは何か引っかかっていた。その子を助けなければならないと何故か思った。
>> 66
遥か彼方にそれは消えて行った。
『ガイあの鳥に任せて大丈夫なのか…。』神崎が尋ねるとガイはまたまたニヤリと笑った。
『大丈夫心配するな。アイツには発信機が付いているからな。どこに行ってもこれがあれば居場所はすぐにわかる。』自信タップリにガイが説明する。手には受信機を持っていた。
『一体アンタは何者なんだ…。』神崎の問にガイは黙っている。
『まあそんな事より作戦を実行しないのか…。』話をそらしそう言った。
『そうだったな。作戦を開始しよう。ガイ頼むぞ。』神崎の言葉にガイは頷き走り出した。
『後は上手くやってくれよ。』と言いながら屋敷の方へ消えて行った。残された神崎達は様子を伺いながら屋敷の裏口の方へ近づいた。表の方ではガイが上手くやっているのか騒がしくなってきた。扉を開けようとノブを回したが中からカギがかかっているのか開かない。すると足元に気配を感じた。神崎が足元を見ると赤穂が居てクルッと回った。そしてスルスルと屋敷の壁を登って行って2階の開いていた窓から中に入って行った。しばらくするとカギの開く音がした。すると扉が開いた。扉の隙間から赤穂がこちらを覗いていた。
『お前が開けてくれたのかありがとうな。』赤穂を持ち上げそう言った。
『では早速中に入りますか。ミッキーちゃんと付いて来いよ。』と神崎が言うとミッキーはピースサインをした。
『大丈夫ちゃんと付いて行くから心配しないで。』神崎はその言葉を聞くと懐から銃を取り出し構え屋敷の中へ入って行った。屋敷の中は静まり返っていた。ガイが上手くやっているおかげだろう。辺りを警戒しながら神崎達は進んで行く。しばらく行くとそこには警備室があった。神崎はそこに入る事にした。そっと扉を開けてみると中には2人の男がいた。まだこちらに気付いていない。神崎はスッと中に入り手前に居た男を倒し奥に居る男に銃を向けた。
>> 65
その頃屋敷に向かった神崎達は目の前まで来ていた。
『屋敷が見えて来たな。』ガイが言うとミッキーが答えた。
『こっちに裏口があるはずよ。』ミッキーは屋敷の奥の方を指差した。その先を神崎達は見た。確かにそちらの方に扉らしき物が見えた。
『俺達で近づいたらバレてしまうな…。』神崎は考え込んでしまった。沈黙を破ったのはガイだった。
『俺なら顔割れてないぜ。俺が観光に来た人が屋敷に迷ったように近づけば疑われないと思うのだが…。どう思う…。』ガイの意見に反対する者はいなかったが神崎は言った。
『しかしそれでは肝心のマーナが居るか調べるには無理があると思うのだが…。』ガイはハッとした肝心な事を忘れていた。
『それならガイが言ったようにして見張りのヤツらの気を引いている内に屋敷に忍び込むっていうのはどうかしら…。』ミッキーが言った。それを聞いて神崎達はミッキーにしては良い事を言うと思った。
『その手があるな。それではガイは言った通りに観光に来て迷った人のフリをしてくれ。後の皆はその隙を見計らって屋敷に侵入する。それで良いな…。』と神崎が皆に言った。その近くで赤穂が鳴き叫ぶ。〈どうした…〉皆がそう思った。すると屋敷から一台の車が出て来たのだ。それは黒い外車で多分ホイルの車だろう。ガラスは黒のスモークで中は見えなかった。〈もしかしたらあの中にマーナが乗っているかもしれない〉と神崎は思った。するとガイが口笛をピッと鳴らした。空の彼方に何かが見えた。鷹のようだ。それはガイの差し出した腕にとまった。
『よし疾風あの車をつけろ…。』そう言うとその鷹は再び飛び立って車を追いかけるように飛んでいった。
『なんだあの鳥は…。』神崎が尋ねるとガイはニヤリと笑った。
『アイツは疾風。俺の相棒だ。ヤツにあの車の追跡は任せて俺達はさっきの作戦を実行しようぜ。』ガイはそう言うとまたニヤリと笑った。
>> 64
神崎達が屋敷に向かった。後に残されたアルミ達はダンの店で話をしていた。
『どうなんだろう…。マーナはあの屋敷の方に居るのだろうか…。居なかったらどこに連れていかれたのだろう…。』エドワード心配そうにそう言った。アルミは煙草を吹かしながら答えた。
『それを今神崎達が調べに行ってくれているのだ…。しばらく待とう。』小さくエドワードは頷いた。アルミはチラッと燐銘を見た。〈コイツは知らないのだろうか…〉と思った。
『なあお前は何か知らないのか…。』そう聞くと燐銘はそっぽを向いた。
『アンタらに教える訳無いでしょう。』燐銘がそう言うとエドワードが燐銘の胸倉を掴んで殴りかかった。すかさずアルミが止めた。
『エドワード気持ちはわかるが止めろ。殴っても何も始まらない。』エドワードは悔しそうに後ろを向いた。
『面白い代物があるが試してみるか…。』ダンが小さな袋をチラつかした。
『これには自白剤が入っている。ある裏のルートで手に入れた物だ。どうだ試してみるか…。』エドワードは有無も言わずその薬を奪うように取った。そして燐銘に近づいてそれを飲まそうとした。嫌がる燐銘の鼻を摘み息苦しさで口を開けた瞬間に薬を入れた。するとゴクンと飲み込んだ音がした。
『エドワード強引だな…。』ダンは呆れた風に言った。しかし薬を出したのはダンなのだ。アルミはただそれを見ているだけだった。
『どれぐらい経ったら効果が出てくるのだ…。』エドワードは尋ねた。
『多分10分もすれば効果が出てくるはずだ…。』ダンはそう答えた。そして10分が経った。
『そろそろ効果が出るはずだ…。何か質問してみたらどうだ。』ダンがそう言うとしばらく考えた末にエドワードは質問した。
『お前は…女か…。』意外な質問にアルミ達は爆笑した。
>> 63
突然アギトが吠えだした。すると小型のサルが入って来たのだ。リスザルのようだ。
『おい“赤穂”どこに行っていたのだ探したぞ。』それはガイの連れていたサルであった。
『なんだその持っているのは…。』赤穂の持っているのを見た。それは酒瓶だった。ダンの店の酒を勝手に飲んでいたみたいだ。少し酔っているのかフラフラしていた。そしてガイの肩にスルスルと登りしがみついた。アギトは唸っている。クルミがアギトを抱き寄せ落ち着かせた。
『また呑んでいるのか…少しは控えろ。あっそうだコイツに偵察させるか…。』とガイは言ったが赤穂に偵察させても結果はわからない。
『ガイさんよ。偵察させてもサルの言葉がわかるのか…。』ダンが聞くとガイは笑い出した。
『わかる訳無かろう。』やっぱり呑気な奴だ。
『しかし良く盗みはするけどな。』本気でそんな事を言っているのだろうか…。
『ふざけるのはよしてくれ。俺達は真剣に話をしているのだ。邪魔するなら出て行ってくれ。』アルミの言葉に申し訳なさそうにガイは頭をかいた。
『すまない。しかしコイツの盗みの腕を活かせばマーナ救出もやりやすいと思うがね。』と自信あり気にガイは言った。
『例えば閉じ込められた部屋の鍵をコイツに盗まさせたらどうだ…。』ガイの自信満々に言った。確かに良い方法である。アルミ達は再び話あった。
『それなら俺達と一緒に来てくれ。』神崎がそう言った。
『アルミお前にはここで俺達の連絡を待っていて欲しい。』アルミは言い返した。
『俺も行く。マーナを助けたいのだ。』それを聞き神崎は答えた。
『アルミの言う事はわかるがまずは本当に居るのか調べてくる。それからだよ乗り込むのはね。』それを聞いてアルミは仕方なく納得した。
『全員が捕まってしまったら元も子もないからな…。分かってくれるなアルミ。』神崎が言った。まずは神崎達に任せる事にした。
>> 62
『その構えは…。』神崎が言うとガイは不思議そうな顔をした。
『なんだお前知っているのか…。』その問に神崎は答えた。
『昔一度な…。そいつの名前は藤堂…。藤堂鉄馬だ。』それを聞いたガイは驚いた。
『マジかよ。俺の兄弟子じゃないかと言うか俺の兄貴だよ。俺の名前は藤堂凱だ。こんな所で兄貴を知っている奴に出くわすとはな。』ガイの言葉に驚いた。
『そうか。それで藤堂はどうしているのだ…。』神崎の問に悲しそうな顔をするガイは言った。
『兄貴は2年前に死んだよ。アイツに殺された…。そうだよあの屋敷に居るサザナって野郎にな…。多分不意をつかれたのだろう…。』アルミ達は驚いた。この呑気そうにしていたガイの目が憎しみに変わっていたのだ。皆は恐怖を感じた。
『そんな事になっていたのか…。まさかお前その復讐の為に…。』神崎の言葉を聞いてガイはニッコリと笑った。
『そんな訳無かろう。俺はただ楽しい事を探しているだけだよ。』と言いながらおどけてみせる。その心の裏に何があるかは今のアルミ達にはわからなかった。
『しみったれた話はここまでにしてどうするんだ…。俺を連れてってくれるのか…。』ガイはアルミ達に聞いた。しばらく考えてアルミは言った。
『ではマーナ救出を手伝ってくれ。よろしくな。』そう言うとガイは叫んだ。
『ヨッシャ。バリバリ楽しんでやるぜ。』ガッツポーズをしながら喜んだ。
『おいおい。遊びじゃ無いのだから…。』アルミは呆れ顔で言うとガイは申し訳なさそうにした。
『まずはどう侵入するかだが何か良い案は無いだろうか…。』アルミの問にミッキーは言った。
『夕方の6時に交代する際見張りの数が少なくなるよ。その時にしたら良いのではないかな…。』さすがに内部に詳しいだけはある。だが燐銘が急に笑い出した。
『何がおかしい。』アルミが怒った風に言った。
『アルバートさん。あの騒ぎの後にそんな簡単に入れる訳無いでしょう…。いつもより厳重になっているはずよ。』確かに燐銘の言う通りだった。しかし他に方法は無い。アルミ達は再び考え込んだ。そしてしばらくの沈黙が続いていた。
>> 61
周りの様子にガイは気が付いた。
『おっとすまぬ1人で一方的に話してしまった。みんなそんなに退かなくても…。ところでその人何故縛られているのだ…。何かやったのか…。』ガイはまたも1人で話している。
『ちょっと訳あってね。』とアルミが言うとガイは頭を捻っていた。
『訳あってって普通縛らないでしょう…。』ガイはハッとした顔をして口にチャックの仕草をした。そして奥の席に戻って行った。
『しかし今からどうするかだ…。あの屋敷に…。』とアルミが言いかけるとエドワードが止めた。ガイがジッとこちらを見ていたからだ。
『ここでは話にくいだろうから奥の部屋を使え。』ダンが言った。ガイを見ると悔しそうな顔していた。アルミ達は奥の部屋に入って行った。
『話を続けようさて屋敷にはどうやって入るかだが…。神崎どうすれば良いのだ…。』尋ねると神崎は答えた。
『あの時はあまり見張りもいなかったから簡単に脱出できたが今回は見張りも増えていると思う。まずは偵察してからの方が良いとは思うが…。』神崎はそう答えた。アルミは考えて言った。
『そうだな。とにかく屋敷の事を調べてみないとな。』それを聞いていたミッキーが提案してきた。
『私ならあそこの事は少しはわかるよ。だから私も連れて行ってよ。』神崎を見てミッキーは同意を求めた。少しでも役にたってもらえればこれにこした事はない。アルミは賛同した。
『それなら一緒に来てくれ。』と言うと後ろから声がした。
『面白そうだな…。俺も連れて行け。絶対役にたつぜ。』いつの間にかガイがそこにいた。
『おいアンタは関係ないだろう。』エドワードが強く言った。
『なんだよ。俺結構役にたつぜ。なんなら試してみるか…。』ガイは構えて見せた。その構えは日本に伝わる古武術であった。それを見た神崎はハッとした。昔一度だけ勝負して負けた男がいた。その男の構えにそっくりだった。それがキッカケになりグリーンベレーになったようなものだ。一番になる為に。
>> 60
アルミ達はダンの店に向かっていた。
『おい。何でコイツがここに居るんだ…。』アルミが尋ねると神崎は少し笑いながら言った。
『最初にダンの店に行って車の手配をしたのだがコイツがなかなか離れなくてな…。仕方なく連れて来た。だってよ最初は乗せなかったのだがずっと走ってついて来るから可哀想になってな…。』言われてみればそこまでされたら仕方ないかとアルミは納得した。
『だがなぜ付いて来たかやっと分かったよ。アルミお前に会いたかったのさ。さっきの行動見て良く分かったよ。多分俺に付いたお前の匂いに反応したのだろう…。』そう言っている側でアギトはアルミに抱かれて嬉しそうにしている。
『よほどお前の事が好きなんだろうな。』神崎がからかうように言った。アルミは思った。〈こんな風に女性にも愛されたいな〉そう思いながらアギトの頭を撫でた。
そう言っている内にダンの店に着いた。車を降り燐銘を連れて中に入った。店の中にはカウンターにクルミがちょこんと座っていた。奥の席には見知らぬ男がダンと話していた。するとこちらに気が付いて話しかけてきた。
『お前ら無事だったんだな。良かった。』心配してくれていたようだ。
『なんとか無事だったよ。危なかったけどな。ところであの男は誰なんだ…。』エドワードが尋ねた。ダンが話そうとするとその男は立ち上がりこちらに歩いてきた。
『よっ。俺の名はガイだ。色々な所を旅している遊人だよ。よろしくな。今ダンの旦那にこの街の事を聞いていた所だ。楽しくなるような事はないかい…。』黒い服を着て肩にはショルダーが片方に付いていた。あまりに唐突に話されたので皆は黙って見るだけだった。
>> 59
街の近くに着いた。辺りにはホイルの手下達は居ないようだ。神崎が荷台を開けた。
『アルミ俺が別の車を取って来るからここで待っていろ。』神崎が言うとエドワードが言った。
『1人で大丈夫か…。』それは愚問だった。
『おい俺を誰だと思っているのだ。神崎昇だぞ。心配は無用だ。』エドワードは申し訳ない顔をした。確かに元グリーンベレー1人で十分だった。
『私も一緒に行って良い…。』ミッキーが割って入って言った。アルミは思った。〈この2人もしかしたら…まさかな…〉そんな思いを巡らせていると神崎が答えた。
『付いて来るのは構わないが邪魔はするなよ。』神崎はそう言うと走ってダンの店に向かった。残されたアルミ達は荷台に腰掛けて煙草を吹かした。荷台の奥にいる燐銘を見た。まだ拗ねているようだ。
『おい。アンタも吸うかい…。』アルミが尋ねると頭を横に振った。
『私は煙草は吸わないよ。煙草の吸いすぎは体に良くないよ。』と意外な事言われた。
『他人の心配より自分の立場を心配した方が良くないか…。』アルミ達は笑った。燐銘はまたふてくされて後ろを向いた。どれぐらい経っただろう遠くから車の音がした。アルミは草陰に身を潜めて覗いた。それは神崎だった。そしてアルミ達の前に止まった。
『待たせたな。それじゃ行こうぜ。』神崎は1人だった。燐銘を荷台から下ろし車の後ろに乗せようと扉を開けた。その瞬間目の前に大きな影が現れアルミにのしかかった。アルミは目を開けるとそれはアギトだった。顔中を舐めまわしてくる。
『おい止めろ。くすぐったい。』なんとかアギトを引き離すと改めて燐銘を乗せた。
>> 58
トラックをしばらく走らせた。カーブがありそこに脇道がありそちらに曲がった。すぐにトラックを隠すのに適した場所があったのでそこに止めた。窓から追跡する車が通り過ぎる事を祈りながら見ていた。すると数台の車が通り過ぎて行った。
『やったな。なんとか撒いたようだ。』神崎はミッキーを見た。ミッキーはニッコリ微笑むと言った。
『さてと後はどうするの…。とりあえず後ろの2人に聞いてみようか…。』そう言って神崎とミッキーはトラックを降りた。そして荷台の方に行き扉を開いた。中ではアルミが銃を持ち身構えていた。
『おいおい。撃つなよ。なんとか追っ手は撒いたようだが今からどうする…。』神崎が聞くとエドワードが言った。
『俺は今すぐにでも助けに行きたい。アルミお前はどう思っているのだ…。』アルミはしばらく考え込んだ。そして答えた。
『エドワードの気持ちは良くわかるが、ここは一度体制を整えて出直した方が良いと思う。』アルミの言葉にエドワードも考え込んだ。
『俺もその方が良いと思うぞ。まだこの辺りには追っ手がいるだろうから目立った行動はマーナの救出が困難になるだけだと思う。』神崎の言葉にお互い思いを巡らせ顔を見合わせた。その奥で燐銘は黙って聞いていた。
『そうだな。急いで事を仕損じるって言うしそうした方が良さそうだな。』エドワードの言葉に全員が頷いた。
『じゃ一度体制を整えて出直しだ。ではダンの店に行こう。とりあえず街の近くに行ってそこからは歩いて行こう。』アルミはそう言ってエドワードの肩を叩いた。
『ちょっと待て。コイツはどうする…。』神崎がそう言って燐銘を指差した。〈そうだコイツをどうするかを考えていなかった〉そう思っているとミッキーが言った。
『燐銘は内部の事いっぱい知っているから色々聞いてみたら。』アルミ達は確かにそうだと思った。そして一同はダンの店を目指す事にした。
>> 57
突然トラックの前に人が出て来た。急ブレーキを踏み前を見るとアルミとエドワードだった。ウィンドウを下ろすと神崎は言った。
『お前ら死ぬ気か…。危なく引くところだったぞ。』馬鹿笑いしながら神崎は言った。
『無事逃げられたのだな。良かったこんなすぐに会えるなんて。』アルミは神崎達の無事にホッとした。
『ところで今から神崎の捕らえられた場所に行こうと思うのだが連れて行ってくれないか…。多分マーナがそこに捕らえられていると思うのだ。』アルミはそう言った。エドワードも詰め寄った。
『それは構わないが…それなら後ろに居る荷物に聞いてくれないか…。』また神崎は笑った。アルミ達は後ろに回って扉を開けると縛られた燐銘がいた。アルミ達は驚いたがつい笑い出した。
『何がおかしい。笑いたければ笑え。』燐銘は怒鳴ったがもう諦めているのか、横を向いてしまった。
『悪い悪いまさか君が捕らわれているとはねぇ。』そういうとクスッと笑った。燐銘はアルミを睨み付けた。頭掻きながらアルミは燐銘に訪ねた。
『君はマーナがどこにいるのか知らないか…。』しばらくの沈黙があり返事をしない。
『おい。一度戻らないか…。』神崎が言った。アルミは考えて答えた。
『わかった。一度戻ろう。』全員が賛成した。
『じゃダンの店に行こう。また準備を整えたいしな。』すぐにアルミ達は答えた。
『そうしよう。ところで俺達はどこに乗ったら…。』アルミが言うと神崎はニヤニヤしながら荷台を指差した。中で半ば諦めている燐銘を見ると荷台に乗り込んだ。近くで車が近づく音が聞こえてきた。
『ヤバい。ヤツらが追ってきたな。急ぐぞ。しばらく我慢しろよ。』そう言って扉を閉めた。そしてトラックは動き出した。
>> 56
調理場から搬入口を出る。ここまで来たら誰もいない。燐銘を捕らえたまんまで業者のトラックに近づく。そしてトラックの荷台に燐銘を入れた。
『しばらくここでジッとしてな。』燐銘は神崎達を睨みつけ唾を吐いた。
『アンタらこんな事してタダで済むと思っているのかい。すぐに私の部下達がやってくるよ。』荷台の壁を蹴りながら暴れていた。
『話はそれだけか…。捕まえられたお前がドジなんだよ。それじゃな。』神崎はトラックの荷台の扉を閉じた。
『さぁミッキー行くぞ。助手席に乗れ。』2人はトラックに乗り込んだ。動き出すと同時に銃声が響いた。トラックに当たった音がする。そしてミラーが割れた。
『危ないな。荷台にアイツも乗っているというのに…。何も考えてないか、それとも捕まった者の事など関係ないのか…。』トラックは門ぬけ森の道に出た。
その頃アルミ達は森の中で隠れて話をしていた。経緯を話し逃げて来た事を言った。これからどうするか話し合う事にした。
『エドワードこれからどうする…。』それを聞いて答えた。
『俺の意見としてはマーナを取り戻したい。だからもう1つの屋敷に行きたいのだが…。』そう言ってアルミを見つめた。その意見にアルミは頷いた。
『俺もそうしたいと思っていた。まずは屋敷を目指そう。しかし場所がわからない…。』ふと見上げると1台のトラックが走って来る。良く見ると運転席に神崎が乗っている。それに気付きアルミ達は走り出した。
『あれは神崎じゃないか。逃げられたんだな。』エドワードにアルミは話しかけた。それに頷きながら2人はトラックへと走った。
>> 55
その頃神崎は燐銘を人質にして手下共と睨み合っていた。
『いい加減その人を離せ。』神崎は壁目掛けて銃を撃った。
『俺は本気だぞ。コイツを撃つ事など簡単だ。早く離せ。』手下共は見合わせてミッキーを放した。ミッキーは神崎に近寄ってきた。
『ミッキー扉を閉めろ。』神崎がそう言うと扉を閉めた。
『取り敢えずコイツを縛り上げよう。』近くにあったロープで燐銘を縛った。
『アンタらこんな事しても逃げられないよ。ほらどんどん人が集まって来ているよ。』燐銘は脅したつもりだったが神崎は平然な顔をしている。
『お前が居るんだアイツらも簡単には手出しは出来まい。脅しのつもりなら無駄だ。』そう言うと銃を燐銘に向けた。
『ミッキーさてこれからが大変だぞ。どうしたもんか…。まずここから出ないとな。』神崎が言うとミッキーが答えた。
『この部屋は別の出口があるはずよ。部屋を探してみましょう。』そう言って部屋の中を調べ出した。神崎とミッキーは部屋の隅々を調べた。壁の所に小さい文字で【出口】と書いたスイッチがあった。押してみると壁が動きだし階段が現れた。
『これだな。さぁ出よう。しかしなぜこんなにわかりやすく書いてあるのだろう…。』不思議には思ったが神崎は燐銘を引っ張って階段をおり始めた。その後をミッキーもついて降りた。その階段は下の階まで続いていた。そしてそれは調理場の冷蔵庫に出た。扉をそっと開け辺りを見渡した。そこにはこの騒ぎで料理人達が騒いでいた。彼らはこちらには気付いていない。それを見計らって神崎が飛び出し彼らを気絶させた。神崎が手招きするとミッキーは燐銘を連れて冷蔵庫から出て来た。
>> 54
アルミが少し動いた。バーンと銃声が響く。アルミの後ろ壁に穴が開いて煙りが上がる。
『無駄だよ。今はワザと外したけど今度は外さないよ。』燐銘のこの自信はかなりの腕前なんだろう。
『わかったから彼女を放してやってくれ…。これは返すから…。』アルミはタートルダイヤを見せた。燐銘達が一瞬それを見た時、神崎が身構え動いた。あっという間に燐銘の銃を蹴り上げて持っていた銃を頭に突き付けた。手下はうろたえた。
『お前達その人を離せコイツがどうなっても良いのか…。』神崎の凄みに手下はたじろぐ。しかし燐銘はまったく動揺していない。
『私を放した方が良いと思うわよ。今こちらに他の連中がやって来るからね。』その言葉を聞いた神崎が言った。
『俺に任せろ。お前はとにかく逃げろ。』アルミはそれを聞いて頷いた。アルミはそしてその部屋を出た。手下は手出しが出来ずこっちを見ている。
『お前達の相手は俺がしてやる。アルミ早く逃げろ。』神崎がそう言うとアルミは走り出した。階段を降りた時銃声が響く。どうした。神崎は大丈夫か…。至る所から手下共が集まって来る。しかし誰もアルミには気付いていない。アルミは裏口から屋敷の外に出て無線機を取り出しエドワードに連絡をとった。
『エドワード聞こえるか…。』何度か連絡すると応答があった。
『どうした…。何かあったのか…。銃声がしたが…。』エドワードは驚いたような声で言った。
『その事は後だ。今どこにいるのだ…。』アルミが聞くとエドワードはこう言った。
『お前の目の前だよ。』エドワードはニッコリ笑いながら立ち上がった。エドワードは近くの森の中に隠れていたのだ。アルミはエドワードの方に駆け寄った。
>> 53
警報装置が鳴り響く。ホイルの手下共が屋敷中走り回っている。ミッキーがそこで裏側から森に逃げたと言いそちらに気を引いた。その隙を見てアルミ達は2階に向かった。2階の奥にホイルの部屋があった。途中手下共に会いはするが服装のせいもあり誰も気づかなかった。扉に手を掛け神崎は銃を構えた。開けた瞬間部屋の中に銃を向けた。そこには窓の近くに大きな机が有りそれに似合うように大きな椅子があった。右側に書棚が有る。アルミ達はそこに近づき書棚のどこかに有るスイッチを探した。それは意外に簡単に見つかった。本自体がレバーになっていて並んでいる本の中にあった。題名はその物ズバリ【スイッチレバー】そんなに安易で良いのだろうか…。引くと書棚が横に動き奥の部屋が現れた。そこには何も無くガランとしていた。ただ奥に金庫が有りアルミはそれを調べてみた。扉にレバーが有りそれを触ってみた。ガチャンと音をたて開いた。カギがかかってなかったようだ。おかしいとは思ったが開けてみた。中には色々な宝石や重要そうな書類が入っていた。その中にグリーンダイヤがあった。しかし1個だけしかなかった。それを手にした時だった。後ろから声がした。アルミ達は振り返った。そこに立っていたのは燐銘だった。
『残念だったわね。貴方達の動きはバレバレだったのよ。貴方達監視カメラって知っているかしら。』笑いながら銃を向けて来た。まさかミッキーは俺達を填めたのか…。辺りを見渡したがミッキーの姿が無い。
『アルバート様お探しの方はこの人かしら…。』そう言うと後ろ手にされたミッキーを連れて手下が出てきた。
『何をするんだ。その人は関係ない。放すんだ。』アルミは叫んだ。しかし燐銘は笑って言った。
『こいつが手引きしたのも全部知っているのよ私達。そんなヤツが何故関係ないのかな…。』燐銘は改めて銃を向けて来た。
>> 52
『エドワードお前が外でちょっと騒いでくれたら多分見張りがそっちに気が向くはずだ。その間に俺達で宝を取り返す。どうだやってくれないか…。』しばらくの沈黙があり返事があった。
『わかった。どうすれば良いのだ…。』アルミは答えた。
『まず業者の搬入口近くでどうでも良い騒いでくれ…。』と言いかけたらミッキーが話をはさんできた。
『なあ…そんな事するより私が警報鳴らした方が早いんじゃない…。その後エドワードだっけ…その人に逃げてもらった方が効果的だと思うのだけど…。』確かにその方が良いな。神崎を見ると言いたい事がわかったのか頷いた。エドワードにはしばらく待って貰ってアルミ達は話し合った。結果ミッキーに警報装置を鳴らしてもらい、森の方に逃げた事にしてもらいエドワードには近くでバレないよう隠れてもらう事にした。その事をエドワードに伝え作戦を実行する事にした。
『それじゃミッキー頼んだ。でもその前に宝のありそうな場所を教えてくれ。』俺達はミッキーを見ると手を差し出してきた。忘れていた。彼女は金で動いてくれていたのだ。アルミは財布から幾らかの紙幣を出し手渡した。納得したのかミッキーは教えてくれた。それは2階にあるホイルの部屋の書棚の後ろに隠し部屋があるらしくそこに有るだろうと言う事だった。しかし良くそんな事を知っていると思った。かなり内部の事情を調べてある。何者なのだろうか…。疑いはしていたが今は頼りは彼女しかいないのだ。
だが後でとんでもない事になるとはその時まで知るよしもなかった。
俺達は作戦を実行する為各持ち場についた。アルミが作戦開始の合図を出した。屋敷の中に警報装置の音が鳴り響いた。
>> 51
ミッキーは血相をかいて降りて来た。
『おいアンタらマーナって娘は連れ出されたみたいだよ。』アルミ達は驚いた。
『何、いつの間に連れ出されたんだ…。分かるか…。』と訪ねるとミッキーは答えた。
『あー聞いたよ。アンタらが来た時丁度入れ違いで出ていったって見張りのヤツらが言っていた。』わざわざ聞いてくれたようだった。
『どこに向かったかまではわからないのだろうな…。』とアルミは訪ねた。すると頭を縦に振った。そこまではさすがにわからなかったようだ。もしかしたら神崎が閉じ込められた所かもしれない。そこに行ってみるしかないな。その前にエドワードに連絡しておかないと。無線機を鳴らすとすぐに応答があった。
『どうしたマーナに何かあったのか…。』エドワードすでに待機しているようだった。
『実はマーナが連れ出されていたのだ。だからここには居ない。』エドワードの溜め息が聞こえた。すると神崎が割り込むように言った。
『宝を取り返すなら今のうちではないのか…。』そう言われればその通りである。ミッキーに尋ねてみた。
『宝の在処はわからないか…。ホイルの隠しそうな所があるだろう。』ミッキーはニコリと笑い言った。
『それならいつも大切な物を直している場所ならあるよ。そこに隠しているのでは無いかな…。』興奮しているようだった。
『取り返すなら今だ。見張りも少ない。』神崎の言葉に決意した。そしてエドワードに1つの作戦を伝える事にした。
『エドワード頼みがある。オトリになってくれないか…。』エドワードは引きつった声をだした。
『なんだと…。バカを言うなそんな事をしたら捕まるぞ。』当たり前の事だが見張りの気をエドワードに持って行く事で屋敷内の警戒が薄くなるはず。アルミは改めてエドワードに頼み直した。
>> 50
神崎の銃を見てアルミは自分の背中に隠した銃を手で確認した。これを使わずに済めば良いが…。
『おい。地下室の入り口はどこなんだ。』そう聞くとミッキーは両手を上げた。外国人が良くやる呆れた時に使うポーズだ。
『そう慌てなさんな。そこの角を曲がった所だよ。』それを聞いて歩みを早めた。そして入り口の前まで来た。
『ここから降りれば地下室に行ける。後はアンタ達で行きな。私はこれ以上は行けないよ。』地下室がわかれば後は助けるだけだ。
『ありがとう。本当に助かった。後は俺らで行くよ。』握手をした。
『それじゃ頑張って。』ミッキーは今来た廊下を戻って行った。しかしここに来て余りに見張りがいない。どうしたのだろう…。まさか待ち構えているのか…。
『神崎それじゃ降りるぞ。』神崎は親指を立てOKのサインを出した。地下室に向かう階段を一歩づつ確認しながら降りて行く。そして最後の一段になった。そっと覗くと奥に扉が見えた。
『あそこのようだな。』小声で神崎が言った。そこには誰もいない。俺達は扉の近くまで近づいた。そして取っ手に手をかけまわしてみた。すると扉はガチャッと開いた。開いた扉の隙間から中を覗くと中は真っ暗で何も見えない。
『マーナ…マーナ。』小声で呼ぶが返事がない。俺達は意を決して中に飛び込んだ。だがそこは真っ暗で誰もいないようだった。壁を探り電気のスイッチを探した。手先にスイッチらしき物が当たった。スイッチを入れてみた。明かりがつき部屋全体が見えた。しかしそこにはマーナの姿は無かった。すると階段の方から足音が響いて来た。神崎は素早く銃を構えた。アルミも少し遅れて銃に手を置いた。ヤツらだったら撃つしかないのかとアルミは思った。だが目の前に現れたのはミッキーだった。
>> 49
ミッキーが準備していてくれたのか黒い衣装とサングラスを渡された。
『この屋敷ではこの格好の方がバレないからこれに着替えて。』まるでマフィアだな。最初にヤツらを見た時そう思った事を思い出した。
『本当にこれに着替えないとダメなのか…。』アルミは嫌そうに言った。
『アルミお前すぐ捕まるのと着替えてバレないのとどっちが良いのだ…。』そうだよな今捕まったら元も子もない。
『すまないつまらない事だった。すぐに着替えるよ。』アルミと神崎は黒衣装に着替えた。
『行く前に1つ言っておくよ。ここのヤツらの挨拶があって胸に手を当てるのだ。“誓い”と言う意味があるんだって。向こうがして来たら同じように返して。それでOKだから。』そう言われてアルミは少し練習した。昔のアニメであったような…。
『じゃ行くよ。私の後を付いてきて。こっちだよ。』俺達はミッキーの後を付いてく。屋敷の廊下を真っ直ぐ歩いて行く。壁には名画が並んでいた。すると前から男達が現れた。こちらを見るとさっき聞いた挨拶をして来た。こちらも同じようにした。その中にあの時のサザナがいた。ヤバいアイツにだけは会いたく無かった。バレるな。意外にもサザナは横を通り過ぎた。アルミはホッと胸をなで下ろした。それもつかの間サザナが呼び止める。
『そこのお前。』ヤバいバレた。せっかく入り込めたのに。
『ネクタイ曲がっているぞ。男は身なりにも気を使わなければ。わかったね。』サザナに向かって頭を下げた。びっくりしたバレたかと思った。最初からこれだ大丈夫か…。とにかくやるしかない。サザナは階段を登って行った。
『アルミ危なかったな。危なくコレを出す所だった。』神崎は服の前を開き腰に差した銃を見せた。
>> 48
入り口に着いた俺達は車を降りチャイムを鳴らした。意外と警備は薄いようだ。俺は帽子を深く被り顔を見られないよう隠した。出て来たのは女だった。神崎はその女としばらく話している。すると神崎が手招きをして俺を呼んだ。
『アルミこの人がさっき言っていた情報をくれたミッキーだ。』見た感じ普通に見えた。てっきり男が出てくると思っていただけに少し驚いた。
『よろしく。』アルミは手を差し出した。
『ヨロシクッ。』親指と小指をピンと立て手首を左右に回しアルミの手に軽くコンコンと叩いた。まるでDJのようなノリで少しテンションが高い。
『こっちだ入りな。他の奴らは何も知らないから大丈夫だよ。怪しまれないようにしてくれよ。荷物はこっちだ。』一応業者のふりをしなくてはいけないから荷物を持ったが、これがなかなか重たい。少しふらつくとそれを見て神崎があきれている。
『おい大丈夫か…。』そう言われて弱音は吐けぬ。
『ああ大丈夫だ。』自分で無理しているのがわかる。神崎に笑われたくないから今は平気な顔をして荷物を運んだ。20代の頃はジム通いで鍛えていたのだが最近はサボり気味だったから体力落ちたかもしれない。
屋敷の裏口から入るとそこは調理場になっており数人のコックが料理を作っている。そこからまた先に進むと倉庫になっていた。そこに荷物を置くと神崎はミッキーに話し掛けた。
『ところでマーナは無事だったか確認しただろうな…。』それにミッキーは答えた。
『大丈夫だよ。まだ地下室にいるよ。でもね今朝小耳に挟んだのだけどどこかに連れて行くって言っていたらしいよ。まあどこに連れて行くかまではわからないけどね。』もしかしたら燐銘が言っていたように解放してくれるのだろうか…。まさかどこかで殺すなんて事は無いと思うが…。
『とにかくマーナが閉じ込められている地下室に行ってみよう。』とアルミが言いながら業者の服を脱いだ。神崎も同じように服を脱いだ。
>> 47
笑っている場合ではなかった。お互い見合わせてハッとした。
『さあ行こうか。エドワード悪いが残ってくれないか…。』エドワード驚きながら言い返してきた。
『何言っている、俺も一緒に連れて行ってくれ。マーナを助けたいのだ。なあアルミ頼む俺も連れて行ってくれ。』しがみつくようにアルミを掴む。
『その気持ちは分かるがエドワードにはクルミ達を守って欲しい。マーナは俺達に任してくれないか…。』アルミの言葉にエドワードはしばらく考え答えた。
『わかった。マーナはお前に任す。クルミ達は俺に任せておけ。』その言葉は有り難かった。ヤツらが危険なのは分かっている事、彼らを危険にさらしたく無かったのだ。
『取り敢えずダンの所に連れて行ってくれ。それからもし俺達に何かあったらオヤジに知らせてくれ…。そんな事が無いようにするけど…。まったく未知の所だ。何があるか分からないからな。』それを聞いてエドワードはアルミの肩を叩きながら言った。
『お前が言うようにするよ。だがこの子達を送った後この辺りに来ているから何かあれば連絡して来い。分かったな。』無線機を見せるとガッツポーズをした。それを見てガッツポーズを返した。そして俺達はトラックに乗り込み屋敷に向けて出発した。バックミラーにエドワード達が手を振っているのが見えた。窓から手を出して手を振って返した。
『神崎上手くいくかな…。』自信が無いから聞いてみた。
『アルミ今からそれじゃ思いやられるな。大丈夫だ、俺が付いている心配するな。それに次の手は打ってあるから。』神崎の言葉に勇気づいた。改めて決意した。絶対にマーナを助け家宝を取り返す。トラックは門を抜け屋敷の裏手にある業者専用の入り口前に着いた。
>> 46
エドワードからの無線が鳴った。
『おい。アルミ来たぞ。そっちに向かったぞ。』凄い勢いで話してきた。
『わかった。今から倒れておくよ。』少し笑いながら言い返した。
『じゃ俺をそちらに戻る。気を付けろよ。』エドワードの言葉は優しかった。
『神崎後は頼んだ。よろしくな。』アルミは最初の作戦の通り道に寝転んだ。すると何故かアギトがアルミの側に来てグルグルと回り始めた。しばらくすると業者のトラックが近づいて来た。倒れているアルミに気が付いて止まったに見えたが止まったのはアギトがトラックに向かって吠えていたからだった。
運転席から業者が降りて来た。アギトが飛びかからんばかりに吠えている。それを追い払うように業者はしていた。すると助手席のもう1人が降りて来た。油断しているのを確認したのか、茂みに隠れていた神崎が飛び出した。業者に走り寄り一撃を食らわした。業者達は人形のようにバタバタと倒れた。その光景を横目で見ていた。
『よしやったぞ。アルミいつまで倒れている…。こいつらの服に着替えるぞ。』そう言うと神崎は茂みに2人を引きずって行った。そこで業者の服を脱がし用意したロープで縛った。神崎とアルミはその服に着替えた。そこで神崎は思い出したように笑った。
『アルミよ。お前結局倒れた意味無かったな。』自分でもそう思っていたのか同じように笑った。そんな中エドワードが戻ってきた。何故2人が笑っているのか分からず不思議な顔をしていた。
『どうしたんだ…。何笑っているのだ…。』まだ笑っている2人を見て少し怒った。
『笑って無いでちゃんと言えよ。』やっとのことで笑いをこらえながらさっきの経緯を話すと今度はエドワードが大笑いした。それにつられ皆で爆笑した。
>> 45
『俺がこの島の人と似ているなんて…。お前達もそう思うか…。』とエドワードとクルミに聞いた。
『確かに俺もそう思うな。』エドワードが答えクルミを見るとコクリと頷いた。
『そう思うのか…。』アルミは思った。〈この島と俺やはりどこかで繋がっているのだろうか…まさかな…もしかしたら先祖がここで身を隠して暮らしたとしたら…俺がここの人達と似ていてもおかしくは無い…いずれわかるかもしれない…〉
『わかった。その役は俺がやる。どれぐらいで来るのかわかっているのか…。』神崎に聞いた。腕時計を見ながら言った。
『後10分ぐらいで来るはずだ。急いで準備しよう。』その言葉を聞き皆で道の見える所まで移動した。するとエドワードがこう言った。
『俺がこの先のカーブの所に行き、来たら合図する。それならいつまでも倒れていなくて良いだろうアルミ。』笑いながら言ったがナイスアイデアであると思った。
『それならこれを持って行け。』神崎は物を投げた。それは無線機だった。
『こんな事もあるとダンに頼んでいたのだ。すぐに役にたつとはな。』高笑いした。エドワードはグッと無線機を持ちその場所に向かった。アルミはクルミをどうしたら良いか考えていた。クルミを見ると…。
《私達はここで待っているはアルミは気にしないで》とクルミは手話をしてきた。〈有り難い話だがこの子1人で置いて大丈夫だろうか…〉するとアギトが近づいて来た。まるで任せておけと言わんばかりだ。
『じゃクルミはそうしてくれ俺達が屋敷に入ったらダンの所に行くのだぞ。アギト、クルミの事はお前に任した。』そう言うとクルミは頷いた。早速道の近くの茂みに隠れた。後はエドワードの連絡を待つだけだ。しばらく息を潜め待っていた。するとエドワードからの無線連絡があった。
>> 44
森の少し入った所に何人か座れそうな場所があった。皆でそこに座り込み神崎の話を聞いた。
『マーナの居場所はわかったのか…』アルミ達は神崎に聞いた。
『ああわかったよ。マーナはこの屋敷の地下室に閉じ込められている。屋敷に雇われているコック見習いに少し掴ませたら教えてくれた。チョロかったぜ。』得意げに神崎は言った。
『それで助け出されそうなのか…。警備が固いのでは無いのか…。』悔しそうにアルミが言う。
『その事なら任してくれ。それも手を打ってある。まもなく屋敷に食材の業者が来る。そいつに成り変わり屋敷に侵入するのだ。』神崎は元グリーンベレーだけある。
『流石だな。そこまで手を打っているとは思っていなかった。どうやって入れ替わるのだ…。』ニヤリと笑って神崎は手を差し出した。
『アルミそのケースを俺に渡せ。』ケースを渡すとケースを開け中から銃を取り出した。
『これがあれば何とかなるさ。そうだろうアルミ。』そう言われてもどう返事したら良いのかわからなかった。
『わかった。その事は神崎に任した。後はお前の考えでやってくれ。俺達はどうしたら良いのだ…。』銃を懐にしまい考えを説明しだした。
『まずはその業者は森の道を通って来るからまずはアルミお前が道で倒れていろ。必ず彼らは車を止めてお前を助けようとするはずだ。そこで俺が忍び寄り車を奪う。後は業者になりすまして屋敷に入る。』そう言われてアルミは言った。
『その倒れているのは俺でなければならないのか…。』そう言いながらエドワードをチラッと見た。エドワードは顔の前で手を振った。そして背を向けた。よほど嫌だったのだろう。
『ただ単にお前に言った訳では無い。アルミお前はこの島の人に似ている。だから頼むのだ。』その言葉に驚きを感じた。
>> 43
やはりクルミもいつの間にかついてきていてアルミの服を掴んだ。
『おいお前達は来るな。』そう言ったがクルミは掴んだ手を離さない。
『仕方ないじゃないか、この子達も役にたちたいと思っているのだよ。』ダンはそう言った。
『でも…あまりに危険すぎる。相手は闇社会のブラックシャークだ。子供でも容赦ないかもしれない。命の保証がない。』そう言うとクルミは手話で答えた。
《なら屋敷の近くまで案内だけでもさせて。近道知っているから》クルミはニッコリ笑った。
『…仕方ないな。じゃ案内だけ頼むよ。本当に危険になると思うから気を付けろ。アギトはクルミを守れよ。』そう言ってしゃがみ込んでアギトの頭を撫でた。
『さあ行くぞ。目指すはホイルの屋敷。』森の先にある屋敷を目指した。クルミはこの島に住んで居るだけある。森の中を抜けて山の方へ歩きそして屋敷の近くまでやって来た。確かにこうやって来れば誰にも気付かれないで来れる。するとアギトが屋敷の壁に向かって走り出した。
『おい…。アギトどこに行くのだ…。』言いかけるとクルミが服を引っ張った。
《大丈夫だよ。アギトは屋敷にある壁の穴に行ったのよ》確かに良く見ると壁の所に穴が開いていた。
《前、神崎のおじちゃんに教えた場所だよ》そう手話しているクルミに近づき頭を撫でた。
『クルミありがとう。おかげで助かったよ。後は俺達だけでやるからお前達は帰れ。』言いかけるとエドワードがアルミの肩叩いて壁の方を指差した。
『あれ神崎さんじゃないのか…。』穴から顔を出して来たのはやはり神崎だった。
『おお良かった。ここに来ていたか…。手間が省けた。そっちで話そう。』アルミ達は少し奥にある森の方へ歩き出した。
>> 42
いったい何があったと言うのか…。皆目見当がつかない。エドワードは話し出した。
『実はブラックシャークを調べていたらおかしな話を聞いた。』そう言いながらコップをダンに渡し、水をもう一杯と指で示した。
『おかしな話とはなんだ…。』貰った水をゴクッと飲んだ。
『ブラックシャークを作ったのは確かに君の叔父さんらしいのだが…。しばらく内部の抗争があったみたいでかなり荒れていたらしいのだ。2番目に権力を持っていたナスダックと言う男と君の叔父さんは争っていたらしい。ナスダックは非道な男で周りからは恐れられていた。その点君の叔父のホイルは人に対して優しく誰からも信用されていた。それもありナスダックは争いに負け居なくなったと言うのだが…。それからなのだが叔父さんは人が変わったように残忍になったと言うのだ。』そう言うとまた水を飲んだ。
『だが何故そうなったかがわからなかった。それで憶測が飛び回った。それはホイルはナスダックに殺され成り変わられたのではないかと言われているのだ。前組織にいた男から聞いた話だ。』そう話すとホッとしたのか椅子にもたれかかった。
『そんな事ってあるのか…。』驚いたアルミは壁にもたれた。
『単なる憶測だからなんとも言えないがあの変わりようは異常であると思うと組織の人間は皆言っていたそうだ。それにナスダックの右腕だったサザナが今はホイルの元で仕えている。それこそ証拠ではないかとも言っていた。』立ち上がりながらアルミはエドワードに近づき言った。
『どちらにしてもホイルの屋敷に行くしかない。一緒に来てくれエドワード。』そう言うと入り口に向かった。また足元を見るとアギトがついてきていた。
>> 41
エドワードは走って来たのか汗だくだくだ。
『すまん水をいっぱい貰えないか…。』手を差し出すような格好で言った。ダンから貰った水を一気に飲み干し落ち着いたのかアルミを見て話し出した。
『良かったまだここに居てくれて…。マーナはやはり誘拐されていたみたいだな…。』と言いながら近くにあった椅子に腰掛けた。
『あぁそうなんだよ。マーナは捕まっているのだよ。しかし今神崎が調べている。なんとか助けださければいけないが…。』言葉を詰まらせた。
『そうか…。難しいかもしれないな…。何故なら彼らは泣く子も黙るブラックシャークなんだよ。彼らに常識は通用しない。』エドワードはうなだれながら言った。
『その事は神崎から聞いた。だが彼らは解放する事は約束してくれた。だから待つ事も考えたのだが…。』アルミは壁を軽く殴った。
『甘いなその考えは…。奴らはそう言っても闇社会の人間だ。平気で人を殺せるのだ。ここはやはり助けに行くしかないと思う…。』そう言うと拳をグッと握った。
『俺もそう思う。今からヤツの屋敷に向かう。一緒に来てくれるか…エドワード。』問い掛けるとエドワードは立ち上がり頷いた。
『それはそうと何故ここまで来たのだ…。』言われてエドワードはハッとした顔をした。
『すっかり忘れていた。君に言いたい事があってここまで来たのだった…。』そう言うとまた椅子に座り話し出した。
『実はマーナを誘拐した男なのだが…。』そんな事は知っている。今更教えて貰ってもと思い口を挟んだ。
『その事なら知っている。俺の叔父なんだろう…。』と言うと意外にもエドワードは頭を横に振った。
『えっどう言う事だ。違うと言うのか…。』エドワードは真実について語り始めた。
>> 40
そこには事故の一部始終が書いてあった。写真には転覆した船が写っていた。その記事に1人の少女が助かり意識不明で重体であるが、一緒に乗っていた両親は今だ発見されていないと書いてあった。
『この記事の通り両親が行方不明だ。それであの子はその事実知りそれ以来声が出なくなっているのだよ。可哀想だが仕方ない事だ。医者はショックにより一時的に出ないだけだと言っていた。』それであの子は声が出なくなっているのか。でも寂しさ1つも出さずあの笑顔。見習わないといけないな。
『お前たちは今から何をするつもりなんだ。まさかホイルの屋敷に行くつもりなら言わん事はない関わらない方が良い。アイツを相手にしてもろくな事にならん。』意味ありげにダンは言った。
『何があったかは知らないが俺はヤツの所に行かないといけない。そして全てを取り戻さないといけないのだ。忠告はありがたく受け取っておくよ。』真剣な顔で言っているアルミを見てダンは仕方なさそうな顔して銃を向けてきた。
『な‥何をする気だ。』突然の事に驚く。ダンは笑いながら銃をクルリと回してアルミの前に出した。
『こんな事もあるって事さ。この銃は俺からのプレゼントさ。』銃を受け取りそれを懐にしまい手を差し出した。それに答えダンも手を差し出して堅く握手をした。その部屋を出てカウンターで待っているクルミを見ると眠っていた。起こすの可哀想だが…起こそうとしたその時、店の扉がバンと開いた。
『スマンここにアルミは…。おおアルミ居たか良かった。』そう言って入って来たのはエドワードだった。かなり走ったのだろう凄い汗だ。
『何故お前がここに…。』驚いた何故かここにエドワードがいる。どうしたんだろうと思うアルミであった。
>> 39
その男はクルミ達と顔見知りのようだ。神崎の前の話を思い出した。彼女は街の人達に助けられながら生きていたのだ。だから知っていて当たり前なんだな。
『アギト今日も良く食べるな。何も食べてないのか…。おちびちゃんは食べたのか…。』そう言われると頷いた。アギトもさっき食べたのだが足りなかったのか…。食い意地が張ったヤツだ。そうだこの男は俺が探している男なんだろうか…。聞いて見る事にした。
『もしかして貴方がダンなのか…。』と聞くと、男は立ち上がり答えた。
『いかにも私がダンだよ。』アルミはメモを見せた。
『おーやはり君が神崎の言っていたアルミ君だな。品物は奥にある。こっちに来てくれ。』冷蔵庫から取り出したジュースをカウンターに置きながら言った。
『おちびちゃんはここで待っていろな。』とピースサインをした。クルミはニッコリ笑った。アギトは食べ終わったのか満足そうな顔している。奥には部屋があり中にはガラクタのような物が置いてある。その中にカバンケースのような物がある。ダンはそれを取りアルミの前に置いた。するとケースを開けて中身を見せた。中身は銃やナイフなどが色々入っていた。確認が済むとケースを閉じた。
『これが頼まれてた物だ。他に何かあるか…。』と言われアルミはクルミの事を聞いてみる事にした。
『あの子は何故話せないのだ…。貴方ならご存知では…。』そう言うとダンは悲しそうな顔して話してくれた。
『あれは2年ぐらい前になるのだが…。あの子家族は仲がとても良くてな。いつも一緒に漁に出かけていた。その日も両親と一緒に沖に漁に出た。そこで急な嵐に巻き込まれ船が沈んでしまった。』と言うと新聞を取り出しアルミに見せた。
>> 38
アルミは街にある飲み屋に向かう事にした。小屋を出て街に向かおうと歩いていると足元に何かいるような気がした。下を見るとアギトがついてきていた。立ち止まり座りアギトに言った。
『お前は来なくて良いのだぞ。クルミはどうしたんだ…。』と横を見るとそこにはクルミがいた。
『おいおい何故お前達ついてきた…。今から何があるかわからないのだぞ。家に帰れ。』アルミは強めに言った。するとクルミは言い返してきた。
《だって家に居ても暇だし私が居たら早く見つかるでしょう》まあ言う通りだが、小さな子を危険な目に合わす訳にはいかない。アルミは説得するがまったく聞いてくれない。
『仕方ない。ついてきても良いが危ないと感じたら逃げるのだぞ。』クルミは嬉しそうに頷いた。アギトは俺らの周りをグルグルと回っている。クルミの気持ちがわかるのだろうか。何か嬉しそうに回っている。
そして一同は街に向かった。街と言うより村みたいだ。クルミは分かっているのだろう迷わずその奥にある、その飲み屋に向かって行った。そこは扉に〔close〕と札が掛かっていた。その扉をグッと押してみた。すると扉は開いた。中は昼間もあり誰もいない。
『すみません。誰かいませんか…。すみません…。』と呼ぶと奥から声がした。
『まだやって無いよ。夜になったら来てくれ…。』ぶっきらぼうに言った。その男は白髪の混じっていて年の頃は50代だろう。上目でアルミ達を見ると話出した。
『もしかして神崎の知り合いかい…。』と聞いて来たので頷いた。その男はクルミを見てニッコリ笑った。クルミもニッコリ笑い手を振った。その男はカウンターから出て来て餌の入った皿をおいた。アギトはそれに駆け寄り食べた。
>> 37
小屋に帰りアルミ達はとりあえず食事をする事にした。出てきた食事はピラフのようなご飯と魚介類の焼き物だ。それをとりながら神崎に中の様子を聞いた。
『中には5人ほどいる。そして洞窟の奥に双頭の狼が彫り込まれていた岩があった。ヤツらはそこを見張り調べているようだった。』聞いていたアルミは言った。
『もしかしてやはりあそこに我が家の先祖が隠したと言われた宝があるのかもしれない。それなら今奪われた2つの宝を取り返すよりマーナを助け出すのが先だと思うのだが、どう思う神崎。』そう問うと答えた。
『俺もその方が良いと考えていたよ。しかしどうあの屋敷に忍び込むかだな。1人で忍び込むならなんとかなると思う。俺が先に行ってまず調べて来る。その間アルミ、君には準備してもらいたい。』そう言うと1つのメモを渡してこう言った。
『これを持って街にある飲み屋に行け。そこのマスターで【ダン】にこのメモを渡したら俺が頼んだ物をくれるはずだ。それと君の叔父の事を教えてくれるはずだ。とにかく行って見てくれ。』食事が終わり奥でクルミが食器を洗っている。それを見ながら煙草を吸っていた。足元を見ると狼が眠っている。そういえばコイツの名前知らなかったな。クルミに近づき教えてくれるよう聞いてみた。《名前はね。【アギト】って言うの。貴方が好きみたいね。》アルミは頭を掻きながら苦笑いした。すると横にいた神崎はすくっと立って話した。
『今から屋敷に行って来る。アルミは品物を手に入れたら連絡くれ。そして屋敷近くまで来てくれ。わかったな。』アルミは頷いた。
『じゃ、頼んだぞ。』そう言って神崎は出て行った。
>> 36
クルミが言うには《この洞窟の別の入り口を知っている》と言っている。
『ならそこに案内してくれ。それならヤツらにも気がつかれないで済む。神崎行ってみよう。』そう言うとクルミに案内してもらった。そこは洞窟のある山の上の方にあり3人は山道を登り始めた。だが先に入って行った狼はどうしたのだろう。見つかったとしてもヤツらは無視するだろうが…。するとクルミが指を差した方向に人1人が入れる穴があった。
『あそこか。よし入ってみよう。』そう言って入ろうとするとまたも神崎が止めた。
『早まるな。俺が先に見てくる。それまでここで待っていろ。』さすがは元グリーンベレー身のこなしは凄い。あっという間に穴の中に入って行った。しかし入ってからかなり経つがまだ出て来ない。そうしているとクルミが手話で話してきた。
《貴方は何者なの。昔おじいちゃんが言っていたの。狼のペンダントした者が必ず現れるはずだからここに連れて来なさいって》驚いた。俺が来る事がわかっていたのか…。しかし不思議な事ばかりだ。そしてまた続きを話した。
《その者はここに関係ある者だ。私達の先祖から言われている事だから、良くわからないがちゃんとするように言われた》俺の先祖とやっぱり関係があるのかもしれない。突然後ろから呼ばれた。振り返ると神崎が穴から顔出し手招きをしている。近くに寄ると神崎が話してきた。
『残念だがこの穴から行くとかなり高い所に出てしまう。この子がいると足手まといになると思う。一度戻ろう。』穴から出た神崎は山道を降りて行く。それに続きアルミ達も降りて行った。すると物陰からバッと何かが現れた。良く見るとクルミの狼だった。いつの間にか洞窟から出て来たのだ。待てよ。まだ他に入り口があるのか…。いやまずこの子を家に帰してからもう一度来た方が良いな。
>> 35
洞窟を目指して歩く3人+1匹は森の中にいた。そこで神崎は話の続きでマーナの事を話してきた。
『アルミ。マーナの事だが、彼女は今最初に君が連れていかれた屋敷にいると思う。街の人に聞き込みしている時、そこに連れていかれるマーナの姿を見た者がいた。今は屋敷の中の事を調べていたがかなり警備が厳重みたいだ。しかし俺に任してくれ必ず助け出してやるから。』何か心強い言葉に安心した。マーナ待っていろよ。そう誓いながら洞窟を目指して歩いて行く。だが気になるのはそこにいる狼だ。なぜ警戒する事なく俺に体を擦り寄せてきた。チラッと見ると向こうもこちらをチラッと見返してきた。良く見るとどこかで会った気がする。もしかしたら夢に出てきた狼…。いやいやあれは幼少の頃記憶が残っている物…。もし現実の記憶であるなら何十年も前の話だ。ふっ…少しおかしくなったか…そんな事はないな。まぁとにかく今目指している洞窟で何かがわかるかもしれない。そう思いながら森の中を歩いて行く。
『アルミそろそろだ。気をつけろ。もしかしたらヤツらも来ているかもしれないからな。』辺りを警戒しながら洞窟の入り口近くまでやって来た。すると狼は我々の横をスッと通り過ぎ洞窟の中に入っていた。
『おい、待て。』アルミは呼び止めたが無視するかのように姿が見えなくなった。慌てて走り出そうしたアルミの肩を神崎が引き止めた。振り返ると神崎はこう言った。
『おいあそこを見ろ。ヤツらだ。見つかったら元も子もない。しばらく様子を見よう。』そう見つかったら意味が無い。目の前をヤツらは通り過ぎ洞窟の中に入って行った。するとクルミがアルミの体を叩きに手話をし始めた。
>> 34
クルミはアルミを指差した。彼女は何かを伝えたいのだろう。すると手話をし始めだした。それを見てアルミは言いたい事がわかった。意外にも福祉に興味があり手話の勉強をしていたのだ。そしてそれは俺がしているペンダントを見て《それをどうして持っている》と言っているようだ。そう俺はこのペンダントをずっとはめている。10才の頃病弱だった母親からもらったものだ。母親は亡くなる前に俺を呼びこう言った。
『アルミこれを付けなさい。これは貴方を守ってくれるわ。ママはもしかしたら居なくなっちゃうかもしれない。男の子だから泣いたりしたらダメよ。強くなくっちゃ。それをママだと思って強く生きるのよ。それは将来必ず必要になるはず。貴方が持っているべきなの。困った時それを思い出して。』意味ありげな言葉を残した、その3日後母親は亡くなった。それから肌身離さず付けていた。シルバーで出来た狼のペンダントだ。目はグリーンの宝石、多分タートルダイヤだろう。思いに更けているとクルミがまた手話をしてこう言っている。《その形をこの島で見た。私に付いて来て》そう言っている。アルミは付いて行く事にした。
『神崎、クルミがこのペンダントの事で何か分かっているようだ。今からそこに行くようだ。一緒に来てくれ。』そう言うと神崎はコクリと頭を下げ話をした。
『アルミそれはこの島にある洞窟に連れて行ってくれるつもりだと思う。』さっき言いかけていた事だったのだろう。言う前から分かっていたのだな。それなら話は早いすぐに向かう事にした。一同は森の奥にある洞窟へと向かった。
>> 33
その少女は色黒で南国に住んでいる子供らしく目はクルッとしてなんとも可愛いらしい。しかしこの子供は誰なんだ。すると神崎が口を開いた。
『アルミこの子は怪我をした俺を助けてくれたのだ。ただ彼女は口が利けない。名前は【クルミ】だ。』不思議に思った。話しが出来ないのにどうやって聞いたのだろう。そう思っていたがとりあえず神崎の話を聞く事にした。すぐ答えはわかった。
『さっきの続きだが、この子が俺を見つけ人を呼び助けてくれたのだ。』なるほどそれでその人達に聞いたのか…。この子は1人でイヤ狼と一緒に住んでいるのだろうか…。親はどうしたのだろうか…。その答えもすぐにわかった。
『この子の両親は2年前漁に出て船の事故で亡くなっている。今は周りの人に助けて貰いながら1人でここに住んでいる。』可哀想な事だ。こんな年端もいかない子供が1人で生きているなんて…。少し涙ぐんだ。
『この子の事はこれぐらいにして続きだが、怪我もたいした事無かったから俺は街の人に叔父さんの事を聞いて回った。それでわかったのは彼等の組織はかなりの力があるのだ。裏社会では有名な組織【ブラックシャーク】だったのだ。そのボスがお前の叔父さんだ。名前を【ホイル】と言う。』一度聞いた事があった。彼等は己の利益の為には手段を選ばない。世界中の人々から恐れられていた。そのボスが叔父だとは…。そして初めてわかった叔父の全てだった。
『それから何故この島に彼等が居るかって事だが、そうこの島こそ彼等のアジトだったのだ。そしてこの近くに遺跡らしき洞窟があるのだが…』と言うと話を止めるようにクルミが神崎に近づいて何かいいたげに服の裾を引っ張った。
>> 32
まあここでわかった事は神崎が甘党である事だ。コーヒーを飲んでいると神崎が真面目な顔になり話しを始めた。
『ここで色々と調べ回った。』今まであった事を話してくれた。
『まず捕らわれていた場所なんだがヤツ…いやお前の叔父さんの屋敷近くにあるもう1つの屋敷に連れて行かれた。そこの地下にある部屋に閉じ込められていた。そこは昔のワイン倉庫だと思う。ワインがまだいっぱい並んでいた。そこはたいして抜け出すのに時間は掛からなかったよ。しかしカメラで監視されている事に気がついた。だから芝居をしていた。我ながら上手く出来たと思ったぜ。』自慢げにこっちを見てニヤリと笑った。確かに俺自身も完全に騙されていた。
『カメラにパターンがありそれを利用して扉をこじ開け脱出したのだが、おかしいのだ…』話しをいったんやめアルミを見る。
『見張りが全くいないのだ。難なく外にでた。もしやこれは全てヤツの計算の内でこうなっても良いように、次の手だてがあるとすぐに気が付いた。そこで連絡を取ってわかったのだがマーナが誘拐されたいた。』唇をグッと噛み締めた。
『そこで俺はまず近くにある街に向かった。しかし途中で道がわからなくなりさ迷っていた。油断してしまったのか足を滑らせ転がり落ち気を失って気が付くと俺はここに…』と言いかけると不意に扉がガチャと空きそこに現れたのは1人の少女と犬と言うより狼であった。神崎は手招きをすると中につかつか入って来た。狼は見た目より大人しくアルミに近寄り体を擦り寄せた。この感じ…どこかで…アルミは思いを巡らした。
>> 31
神崎の後をついて行きながら話をした。
『神崎無事に出れたのだな。良かった。一時はどうなるか不安で焦ったよ。父親に君の事を聞いて安心したけど。それにしてもビックリだよ。君が俺のボディガードだったとは。しかし何故ジェット機でジャックされた時何もしなかったのだ。と言うより何故やられたのだ。』不思議に思っていた事を言ってみた。
『アルバート様。いやアルミ今からは対等に話させてもらうよ。今は移動中だもう少ししたら着くそこで話そう。こっちだ。』そうすると目の前に少し古びた小屋が見えてきた。南国風の小屋でゆっくりしたくなる。神崎はその小屋の扉を開け手招きをした。そして中に入って行った。その中は思ったより広く真ん中にテーブルがあり椅子が2つあった。
『まあそこに座ってくれ。コーヒーで良いか。』その答えに頭を下げた。神崎はコンロに火をつけ、煙草を近づけ火をつけた。そしてヤカンを置いた。煙草の煙りをフーと吐きながら話し出した。
『あの時俺は秘書の神崎になっていて普段の周りへのアンテナが途切れていた。気がついたらあの様よ。しかし元々こうなる事はわかっていたから後はワザと弱い振りしたんだけどな。そうやって相手を油断させるってワケさ。敵を欺くには味方からってね。』ヤカンが沸いた。それを持ちコーヒーカップに注ぐ。それを持ってテーブルに来た。カップを置き椅子に腰掛けた。
『まあ飲みながら話そう。砂糖はいらないんだよな。俺は甘いのが好きでいっぱい入れるが、ブラックは苦くないのか。』笑いながら砂糖をカップにたっぷり入れている。俺からすれば逆に甘すぎないのかって思う。
>> 30
そう小さな頃俺は誘拐されたらしい。そう言えばたまに見る夢はその時の記憶なのかもしれない。あの白銀の狼はなんなんだろう。そう言えば俺の体に狼の毛がついていたって事はその時の記憶なのかもしれない。
『もう知っているかもしれないがお前を誘拐しアルバート家の宝を頂いたのは私だ。今回は単なるきっかけに過ぎない。』不適に笑う。
『だがあれ以来不可思議な事があった。それは夢の中で狼が出てきて私に話した。【我は2つで1つ真実は1つではわからない】と言う夢をなんども見た。それが気になり我が家の謎解きをしてきた。それで今回事を実行する事にした。お前にはここまで言っておく。またいつか会おう。それでは。』そう言うと携帯は切れた。燐銘は携帯を取り上げ言った。
『まあそういう事だから宜しくて。貴方はここまでですわ。』そう言うとワゴン車に乗り込みこちらに向かってウィンクをした。ワゴン車はそこから立ち去った。
1人残され途方に暮れた。どうしたら良いのだ。このままジッとしていても仕方ない。ヤツの屋敷に向かうか。歩き出した時後ろから声がした。
『アルバート様。お待ち下さい。』その声に振り返るとそれは神崎であった。少し息切れしている。多分ここまで走って来たのだろう。
『神崎、大丈夫だったのか。』そう言うと神崎はコクリと頭を下げた。
『アルバート様。私の事はもうお分かりと思いますがその事は後で話します。取り敢えず私と一緒に来て下さい。』改めて神崎を見ると今まで気が付かなかったがしっかりした体格と目つきをしている。さすが元グリーンベレーである。神崎の言うがままについて行った。
>> 29
『ううう…』後頭部が痛む。すると声が聞こえて来た。
『あら、お目覚めかしら。もう少しで着きますわ。』その声は燐銘の声だ。どれぐらい経ったのだろうか。窓の外にはナインアイランドが見えていた。空港に着いたジェット機は搭乗口に寄りそしてアルミ達は降りて行く。
『何している。何故止まる。』不意に立ち止まりこちらを向く燐銘は言った。
『貴方はもう必要ないわよ。ここまで結構よ。ふふっ』何を言っているのだ。俺は我が家の宝…無い。しまった気絶している隙に取られている。
『おい。汚いぞお前ら。宝はどうした。そんな事より人質は無事なんだろうな。マーナは本当に無事なんだろうな。』すぐに返事があった。
『そんなに興奮しなくてよろしくてよ。時間を見てちゃんと解放しますわ。アルミ様が何もしなければね。』約束は守ってくれるようだ。
『そんな事はわかっている。何もしない。だからマーナが無事か教えてくれ。』そう言うと燐銘は携帯を掛け誰かと言うか、俺の叔父にだろうが。そして携帯の画面をこちらに向けた。するとそこにはマーナが映っていた。
『マーナ…。おいマーナ。俺だお兄ちゃんだ。聞こえているか。』そう言うとマーナはピクリと動いた。目隠しをされていて俺の声に気付いて動いたのだ。エドワードには調べて貰っていたが、やはりマーナは捕らえられていた。
『お兄ちゃん。助けてよ。マーナ怖いよ。』悲痛の叫びが聞こえていた。すると画面が動いてそこに映ったのは父親…。いや違うそれはコイツらのボスで俺の叔父だ。本当にソックリである。そして話し出した。
『久しぶりだなアルミ。そう言ってもお前は覚えていないだろうがな。』不適に笑った。
>> 28
空港の中にある待合室に1人アルミは座っていた。腕時計を見ると待ち合わせまであと5分ちょっとイライラしていた。すくっと立って喫煙所の所で煙草を吸い始めた。最近はどこに行っても禁煙ばかりだ。体に良く無いがついつい吸ってしまう。また腕時計を見た。そろそろ時間だ、待合室に戻ろうとすると胸に入れていた携帯が震えている。見るとエドワードからだった。
『もしもし俺だ。うん。何そうか、残念だが仕方ないな。わかった。それじゃ。』残念だがやはりマーナは誘拐されているようだった。しかしまだはっきりした訳ではない。引き続き調べてくれるから任せるしかない。しばらくすると2人の男を連れて燐銘が現れた。時間ぴったりだった。
『待たせたかしら。じゃ早速行きましょうか。』そういうと搭乗口に向かった。乗り込んだジェット機はまたあの島を目指し飛び立った。
『さて例の物を見せていただきますわ。こちらに渡してもらえるかしら。』そう言うとアルミは言い返した。
『お前達にこれを渡すのは、人質を解放してからだ。2人共な。』意味ありげに言った。すると笑いながら燐銘は言った。
『ご存知のようね。ても今は1人ですけどね。』一瞬驚きもしたがやはり神崎は抜け出したのだ。そして冷静に話を聞いた。
『貴方の秘書の神崎だったかしらあの人いつの間にか居なくなったのよ。なんなのあの方は…まあもう1人いるから別によろしくてよ。』その話を聞いてアルミは言い返した。
『お前らの好きにはさせない‥ぞ…』意識が遠のいて行く。また後頭部を殴られたようだ。アルミは意識を失った。
>> 27
シュウトはアルミを見上げ照れくさそうに笑った。その横でサツキは微笑んでいた。何故ここに来るようになったかと言うと、彼女の旦那はアルミの親友で8年前に脱サラしてこの店を開いた。オープンしてからここには良く来ている。彼は美味いコーヒーの事を調べる為今はブラジルの方に行っている。確かにここのコーヒーは美味い。シュウトは普段遊んでもらえない分こういう行動で示しているのかもしれない。
アルミは店を出てエドワードに手を上げた。こちらに向かってピースサインを出している。お返しにピースサインを返した。そして車に乗り込みまた携帯をかけた。そう燐銘にかけたのだ。
『もしもし俺だ。例の物を持ってきた。あっそうだ。今から空港に向かう。そうだな3時には着くと思う。わかった。3時半だな。』そう言うと携帯を切った。
しかしあのメール以来色々な事が起きる。何がなんだかわからなくなる。我が家の宝タートルダイヤを巡って人と人の争い。なんて醜い事なんだ。ヤツの欲しがっている物は地位なのか、宝なのか、それとも父親に対しての恨みなのかわからない。人間は自分の為ならなんでもしてしまう恐ろしい動物である。今更ながら自分を含めて嫌になる。またあの島に行く。本当にあの島に先祖が隠した宝があるのだろうか…。それはいったいなんだろうか…。結局そんな事を考える俺も嫌な人間だ。ただジッと空を見つめていた。待っていろお前の思うままにはさせないからな。そう決意した。
>> 26
『ほぉーそう言う事か。なかなか複雑だな。しかし困ったもんだな。』愕然とする2人だが全てを聞いたエドワードは思っていた。本当にマーナは誘拐されたのだろうか。そう思って話した。
『なぁ本当に誘拐されているのか。俺はちょっと引っかかるな。』そう言うとアルミはわかっていたのかこう答えた。
『そうかお前もそう思うか。さっき神崎の事は言ったが、もし誘拐されていたら助けてくれるだろう。しかしそうでなければわざわざあの島に行く必要が無くなる。そこでお前に頼みたいのだ。マーナを見に行って欲しい。俺はご覧の通り見張られている。』腕に着いたブレスレットみたいな発信機を見せた。そしてお互い見つめ合い頷いた。そしてエドワードは言った。
『わかった。俺が見てきてやるぜ。大事なフィアンセだからな。もし誘拐されてなかったら連絡するぜ。』そう言ったエドワードは男らしかった。続いてアルミは話した。
『それともう一つ頼みたいのだ。それは叔父の事を調べて欲しいのだ。それによって何か手だてが見つかるかもしれない。』そう言うと残りのトーストをほうばった。しかしこれからどうなるのだろうか、神のみぞ知るってこの事だな。アルミは新たに決意を決めるのであった。
『じゃ頼んだぞ。連絡してくれ。』そう言うと伝票を取ってレジに向かった。痛い。出たシュウトが隙を伺って蹴りを入れて来た。サツキは申し訳なさそうに頭を下げている。
『その元気だ。お母さんを守るんだぞ。』アルミはシュウトの頭をぐしゃぐしゃっとした。
>> 25
『まあ座れよ。それにしても久しぶりだな。』2人は向かい合って座った。ミユが注文を取りに来た。
『いつもので良いか。じゃいつもの2つ。』とピースサインのように腕を突き出した。いつものとはコーヒーとトーストのセットである。注文を聞くと厨房の方へ歩いて行った。その影ではシュウトがこっちを伺っていた。また蹴りにくるのだろうか。まあそれより話だ。そして話そうとしたと同時にしゃべり出した。2人はお互いを見て笑い出した。そしてエドワードが話した。
『で話とはなんだ。たいした事じゃなきゃ呼んだりしないだろうけど。』と言いながら厨房の方をチラッとみた。腹減っていたのか。
『そうなんだ。実はマーナが誘拐された。』それを聞いてエドワードは驚き叫んでいた。
『誘拐。マーナが。何故に。』エドワードはかなり動揺している。
『まあ慌てるな。まだはっきりした事は分かってないのだが、。今から助けるためある島に行く。』そう話していたがアルミは話すのを止めた。ミユが*いつものを持ってやって来たのだ。2人の前に置くと軽く会釈をしてその場を去った。良く厨房を見るとシュウトがいない。どこに行ったのだろう。そんな事はどうでも良い。
『まずは食べようここのトーストは美味いからな。それにこのコーヒーは格別だ。』そう言ってトーストをほうばった。良く良く考えるとずっと何も食べていない。ひと通り食べやっと話し出した。
『多分マーナは大丈夫だ。近くに神崎がいる。なんとかしてくれるだろう。』エドワードは不思議そうな顔をしている。そりゃそうだ俺だって未だに信じらんない。だから父親から聞いた話を話す事にした。
>> 24
父親は立ち上がって自分の部屋に歩いて行った。しばらく経って箱を持って帰ってきた。その箱差し出し手渡した。
『さぁこれを持って行け、そしてマーナを助けてやってくれ。』そういうとアルミの肩を叩いて笑顔で頷いた。
『わかった。必ず助けだしてきます父上。』決意をして頷く。そしてあの島へと向かった。
その頃神崎はというと島にある屋敷の近くまで来ていた。最初に捕まって入れられた所は見張りが薄く簡単に抜け出していた。森の中向かっていて山肌にある洞窟を見つけ辺りを伺いながら入っていった。中は意外にも明るく良く見れば両側に松明があり誰かいるようだった。
『おいおいここはいったいどうなっているのだ。あれは…それにアイツは…』目の前の光景に驚いていた。後ろに気配が振り返るとそこには…
一方空港に向かっていたアルミは携帯をかけていた。
『もしもし俺だ。今から寄りたいのだが。うんうん、分かった。ならいつもの場所に来てくれ。あー分かった。じゃ後で。』そういうと携帯を切った。ヤツに会うのも久しぶりだな元気だろうか。さっきの声を聞けば元気なんだろうがな。待ち合わせ場所は昔から良く寄っていた【人に優しく】と言う喫茶店で、色々な人達が集まる。そこの店主はサツキと言い、息子のシュウトはわんぱく盛りだ。何故か俺が来ると足を蹴って逃げる。今だに何がしたいのか良くわからない。そして中に入るとウェイトレスのミユちゃんが出迎えてくれた。
『先程からお待ちかねですよ。あちらです。』手で示された方を見るとそこに1人の男が待っていた。
『よっアルミ』と言ったのはエドワードだった。
>> 23
俺は叔父がいる事を今の今まで知らなかった。それが何故なのか父親の話でわかるはず。話を黙ってきいた。
『私達は双子として生まれ育った。しかし20歳になった時、父親が私だけを呼んだ。そして我が家の秘密を知る事になる。弟は知らない物だと思っていたがあの時聞いていただろう。それからだった思う。自分の事を呪い私達の事を怨んだ。そして我慢出来ず家を出て行った。それきり行方は分からなかった。しかし最近中国にいるらしい事がわかった。』そう言った父親は少し涙を浮かべているように見えた。
『大体の事はわかったよ。しかし何が目的なんだろうか。やはり手に入れて先祖の宝が目的なんだろうか。わかっておいでか父上は…。』そう問いかけると首を横に振った。現実わかる筈がない。
『お前が言う通りかも知れないが、私に対しての怨みをこういった形でしているのかもしれない。』目から流れた涙を拭っていた。
『もう1つ言っておきたい。それはお前が小さい時誘拐された時の事だ。』すぐに言い返した。
『それは先程言われたではないですか。』父親は答えた。
『あれが全てではない。確かに洞窟でお前は見つかった。だが何故そこに行ったのか分からなかった。その時お前の体には動物のような毛がついていた。それは犬の毛だった。もしかしたらお前は犬に助けられたのかもしれない。あの島は我が家に何か関係があるのかもしれない…。そしてその時の犯人が弟だっただという事だ。』アルミは驚いた。そして謎の男いや叔父と李燐銘が言って事を思い出していた。
>> 22
父親の言う事は全て驚きの事ばかりだ。まずは、神崎が俺のボディガードである事。その上元グリーンベレーだと言う事。それからマーナが誘拐された事。あと、謎の男が父親の双子の弟だったという事。驚かされる事ばかりだ。本当に現実なのか…夢であって欲しい。そう思っていると父親が口を開いた。
『お前も混乱しているだろう。まずは神崎の事を話そう。あれは私が商談でイギリスに行った時の話だ。私が商談が終わり帰ろうとした時数人の男達に囲まれどうする事も出来ない状態になっていた。狙いは我が家の家宝だ。何度か逃げようとしたがダメだった。ところがその男達の1人ガタンと倒れた。その後ろに立っていたのが神崎だった。瞬く間に男達を倒し、私を助けてくれた。それを期に何度か会うようになった。お互いの事を話、する事でどのような人物かがわかった。その後お前に代を譲った所でお前の全てを彼に託す事にした。信頼のおける男だよ。お前が小さかった時の過ちを繰り返したくなっかったしな。』今思うとたまにだが鋭い目をする時もあった。ただそれは俺のワガママに機嫌が悪いのかと思っていた。あれは何も起こらないようにと見張っていたのか…今頃あの島で謎の男の…いや俺の叔父さんの事を調べているのだろうか…。もしかしてマーナの居場所もわかっているのかもしれない。父親は顎を触りながら続きの話をし始めた。
>> 21
我々の部屋に爺が入って来た。コーヒーの代わりを持って来たようだ。目の前のカップにコーヒーをついで出て行く。2人共少し飲んで続きを話し出した。
『神崎は多分今頃抜け出しているだろう。』驚きはしたが話を聞いた。
『彼は元グリーンベレーだったからどんな事にも対応がきく。だから今はヤツの事を調べている頃だろう。』それを聞いてアルミは言った。
『だったらもう渡さなくて良いという事ですよね。』それを聞いて父親は首を横に振った。
『それがそう言う訳には行かなくなった。それはマーナが誘拐された。』父親は肩を落とした。マーナはアルミと一回り下に生まれた妹である。
『マーナが…。今はイギリスに留学しているはず。それが何故に。』と言いながらテーブルに両手を叩きつけ。
『お前が出た日に1本の電話があったそれはヤツからの電話だった。【マーナを誘拐した帰して欲しかったらダイヤを渡せ。わかったな兄さん】と言って電話は切れた。多分そこまで計算に入れていたのであろう。』と言うと深くうなだれた。
『兄さん…どういう事なんです父上。あの男の事ご存知なんですか。それにマーナが誘拐されるなんて…教えて下さい父上。』凄い剣幕でアルミは叫んだ。
『私には双子の弟がいる。しかし我が家は代々長男が後を継ぐ事になっている。だからお前も継承する事になる。だが我らは双子。同じ時に生まれ育って来た。しかし弟は私より少し生まれるのが遅かった事で色んな戒めを受けてきた。今回の事は私にたいしての仕返しなんだろう。』そう言うと背もたれに倒れこんだ。
>> 20
振り返った父親を見つめながらアルミは1つ疑問に思った。それはタートルダイヤが現に我が家にある事だ。何故かわからず父親が話す前に聞いた。
『でもおかしですよ。タートルダイヤは現に我が家にあるではないですか。どう言う事ですか。』それを聞いた父親は苦笑いをしながら言った。
『だから慌てるな今話す。それは我が家の家宝は2つあったのだ。その1つを渡したのだ。』驚く事を父親は言った。
『2つある…それはいったい…』まだ意味が把握出来ない。
『だから人の話を聞け。元々2つで1つになっていたのだ。2つのタートルがお互いお腹を付けた状態であった。しかしその事は我が家の者以外は誰も知らない。それを利用しただけだ。』そう言いながらまた外を見直した。
『前、お前に話した話を覚えているか。あの話の後に続く話がある。それは【2つが揃った時真実の扉が開かれる】だ。我が家は代々亡くなる間際に伝えるようになっている。そうする事によって我が家は安泰だった訳だ。他に漏らさない為の策だろう。』話疲れたのかソファーに腰掛けそこに置いてあったコーヒーを飲んだ。
『だからここにあるのだ。』意味がわかった。
『なら何故神崎が人質になった事をご存知なんですか。』もう1つの疑問を聞いた。
『それは神崎が連絡をくれたのだ。』何を言っているのだ。頭が混乱してきたぞ。
『彼はお前に付けたボディガードだ。こうなる事はわかっていたからな。前のようにならぬよう見晴らせていた。だが彼が人質になるとは思わなかったが。』少し笑いながら続きを話した。
>> 19
『それはお前が4才だった頃。海で遊んでいた時私達もバーベキューの準備でお前の事を良く見ていなかった。気が付くと居なくなっていた。私達は無我夢中で探し続けた。結局日も沈み捜索が困難になった為ホテルに引き上げた。』引き続き話した。
『ホテルに帰ると手紙がドアに挟まっていた。慌てて手紙を開けて見ると【お前の息子を誘拐した。助けたければ、タートルダイヤを渡せ。連絡を待て】と書いてあった。それから1時間ほど経って犯人から連絡があった。お前を助ける為だ、家宝を持って指定された森の大きな木がある場所に行った。そこにはメモがあって【そこから北に歩いて崖まで行け】と書いてあった。』そう言うとまた煙草に火を付け話した。良く吸うなと思いつつ話しを聞いた。
『またそこにはメモが有り【そこから下に落とせ。確認次第子供を解放する。連絡を待て】と書いてあった。信じ難いがお前の為そこから投げた。ホテルに帰り連絡を待った。30分経って連絡があった。最初の大きな木の所に解放したとな。だがお前はそこにいなかった。何故ならお前はそこから1人で山にある洞窟に歩いて行っていて、そこで泣き疲れたのか寝ていたよ。何故そこに行ったかは良くわからない。』そう言うと立ち上がり窓に向かって行った。そこで外を眺めながら話した。
『だがなアルミお前に言ってはいない事がある。実は…』と言うと口ごもった。
『それはなんなんですか父上。』我慢しきれず叫んだ。
『まあそう慌てるな。ちゃんと話すから。』そう言いながらこちらを向いた。
>> 18
車に乗り込んだ、アルミは1人考えていた。そうそれは幼少の頃から見るあの夢の事を。何故あんな夢を見るのだろうか…父親から聞く前から見ていた。聞いた時はさすがに驚いた。しかしいつも洞窟に入った所で目が覚める。あの後どうなるのかは今だにわからない。何か伝えようとしているのだろうか。まあどっちにしてもわからないのだから仕方ない。
窓の外チラチラと朝日が見え始めていた。間もなく屋敷に着いた。車を降り屋敷に入って行く。そこには爺が出迎えに小走りで出てきた。
『お坊ちゃま。今日お帰りでしたか。お帰りは明後日ではなかったのでは。』爺は不思議そうに言ってきた。
『いや訳あって帰って来た。』そう言うと自分の部屋に向かった。部屋の扉を開けるとそこには父親が立っていた。
『父上何故ここに。』そう言うと自分の荷物を机の上に置いた。
『いやお前にあった事は知っている。』そう言うとソファーに腰掛けた。煙草に火を付けまた話し出した。
『我が家の家宝を狙う者は今まで何人もいた。ただ今回のように人質取られるは2回目だ。』どう言う事だ2回目って…それに何故神崎が人質になった事を知っているのだ。
『父上どう言う事ですか…2回目とは。それに何故ご存知で。』そう言うと身を乗り出した。父親は深く腰掛け直して話しだした。
『まあ仕方ないなまだお前は小さかったからな。』小さな頃俺の身に何があったんだ。そう思いながら話に耳を傾けた。
>> 17
狼はしばらく見つめていたが後ろ向き付いて来いと言いたげに歩いて行く。その後を付いて行く。森は白い光に包まれていた。そこを抜けると目の前には山肌に大きな洞窟があった。その中に狼は入って行く。待てここはどこなんだ。お前いったい…と思った瞬間また遠くから声が聞こえてアルミは目を覚ました。目の前には燐銘が顔を覗き込んでいた。どうやら夢を見ていたのだった。これは小さな頃から良く見る夢である。いつも洞窟に入ると目が覚める。我が家に伝わる話のようでもあるが良くはわからない。窓の外を見るとジェット機はどうやら空港に着いたようである。
『アルバート様ここからは貴方には1人で行動してもらいますわ。ただこれを着けてもらいますけどね。』そう言うと腕にブレスレットのような発信機を着けられた。引っ張ってみたが取れそうに無いようだ。〈別にこんな物着けなくても逃げはしないのに神崎が人質になっているのだから…〉
『今からどうしたら良いのだ。あれもそう簡単には持って来れるかわからんしな。事情を説明してなんとか持っては来るが…』そう言いながらジェット機を降りて行った。ゲートを抜けて目の前には高級車が止まっている。そこまで来たら燐銘が話した。
『あと2日ですわ。それまでに連絡いただきたくてよ。よろしくて決して変な真似はしては困りますわよ。それではこの辺で、ご機嫌よう。』そう言うと近くにある車に乗り込んで行った。
>> 16
そのころ謎の男は慌ただしく動き回っていた。
『おい。そこは違うだろう。』もう1人の男に叫んでいる。
『でもこうした方がよろしいかと…』その男は丁寧に答えた。しばらく沈黙があり謎の男は言った。
『まあそれで良いか。しかしどうなるかな…』と言うと部屋を出て行った。屋敷の前には数台の車が止まっている。すべて高級車である。
一方アルミはジェット機の中にいた。こちらに乗って来たジェット機と同じうようだ。あの時の惨劇を思い出していた。だが何事も無かっように飛ぶ準備をしている。〈パイロット達はどうなっただろう…〉すると横に座っていた燐銘が話してきた。
『わかっていると思うけど、馬鹿な真似はしないでね。ところで貴方独身なの…』何を急にそんな事を聞いてくる。〈訳がわからん〉そう思いながらもつい頷いた。女は笑いながら言った。
『素直ね。そんなところ可愛いわ。』と言うとすっと立ち後ろの方へ歩いて行った。〈今なら逃げるチャンスもあるが、奴らは銃を持っている。やっぱり下手な真似は出来ないな…〉アナウンスが流れ出発を告げた。窓の外を見ると夕日がオレンジ色に空を染めていた。疲れていたのか、いつの間にか寝てしまった。どれぐらい経ったのか、窓の外は暗闇に包まれていた。〈まだ眠たい今どの辺りを飛んでいるのだろう〉と思いながらまた眠り落ちた。
『ア‥ミ‥ま…ルミ様』遠くで誰かが呼んでいる。ここはどこだ…俺はいったい…ここは森の中…何かが近づい来る。あれは犬…いや狼。その狼は白銀色に輝いていた。
>> 14
例のごとく黒装束の男がドアを開けた。燐銘は後ろを振り返り誘導する仕草をした。乗り込み奥に座らされた。ふっと窓の外を見るとどこから来たのだろう…
アルミは山を見つめていた。横では笑い過ぎたのか燐銘が噎せている。〈あの山のどこかにあるのか?父親の言った最後の言葉も気になる。まあなんとかして神崎を助けなければならない。どうしたら良いものか…えーいなんとかなる、ならなきゃ困る絶対にな…〉見ていた山の中腹辺りに一瞬光った物が見えた気がした。
しばらくすると森を抜け出していた。するとずっと黙っていたサザナが助手席から振り返り話し出した。
『間もなく空港に着きます。』そういうとまた前をむいた。すると前から白い車が迫って来た。その白い車は高級車で我が家に来た車ほど長くはなかった。そして我々の車の横を土埃をあげながら通り過ぎた。
言ってなかったがここはリゾート地で沢山の人が訪れている。と言ってもセレブな人が主である。島の一部にリゾートホテルがある。この島のほとんどの人が従業員である。〈そう言えばホテルの名前に【タートルマリナーズ】と言うホテルがあったな。何か関係があるのだろうか…〉ワゴン車は空港のターミナル前に止まった。ドアが開き下ろされターミナルへ連れて行かれた。そこで意外な事を言って来た。
『私達はここでお別れです。』サザナがそう言った。〈一緒に来るかと思ったのだが彼らの仕事はここまでなんだろう…〉そうしたら深々と頭を下げるとワゴン車の方へ歩いて行った。ワゴン車の前にたち再び振り返りぽそりと言った。
『3日後お待ちしております。』そう言うとワゴン車に乗り込んでいった。
>> 14
アルミは山を見つめていた。横では笑い過ぎたのか燐銘が噎せている。あの山のどこかにあるのか?父親の言った最後の言葉も気になる。まあなんとかして神崎を助けなければならない。どうしたら良いものか…えーいなんとかなる、ならなきゃ困る絶対にな。見ていた山の中腹辺りに一瞬光った物が見えた気がした。しばらくすると森を抜け出していた。するとずっと黙っていたサザナが助手席から振り返り話し出した。
『間もなく空港に着きます。』そういうとまた前をむいた。すると前から白い車が迫って来た。その白い車は高級車で我が家に来た車ほど長くはなかった。そして我々の車の横を土埃をあげながら通り過ぎた。言ってなかったがここはリゾート地で沢山の人が訪れている。と言ってもセレブな人が主である。島の一部にリゾートホテルがある。この島のほとんどの人が従業員である。そう言えばホテルの名前に【タートルマリナーズ】と言うホテルがあったな。何か関係があるのだろうか…ワゴン車は空港のターミナル前に止まった。ドアが開き下ろされターミナルへ連れて行かれた。そこで意外な事を言って来た。
『私達はここでお別れです。』サザナがそう言った。一緒に来るかと思ったのだが彼らの仕事はここまでなんだろう。そうしたら深々と頭を下げるとワゴン車の方へ歩いて行った。ワゴン車の前にたち再び振り返りぽそりと話した。
『3日後お待ちしております。』そう言うとワゴン車に乗り込んでいった。
>> 13
例のごとく黒装束の男がドアを開けた。燐銘は後ろを振り返り誘導する仕草をした。乗り込み奥に座らされた。ふっと窓の外を見るとどこから来たのだろう、子猫がクリーミングをしている。こちらを見ると立ち上がり一声上げてこちらを見ている。毛はショートで薄茶色をしている。日本で言うドラ猫みたいな子猫である。ただ良く見ると目の色が緑色である。突然子猫は何かに反応して茂みの方へ走って行った。ワゴン車は動き出し空港へ向かって行く。すると燐銘が話し出した。
『アルバート様お宝が隠されている場所はご存知ですの…』そう聞いてきた。ある場所はなんとなくわかっていたが確信はない。その時父親の言っていた事を思い出していた。もしかしたら…。
『貴方も気付いているかしら、そうこの島こそがお宝を隠した場所ですわ。だから今私達はここに居るわけですの。』そう言われたとぼけてみせたが実際は驚いた。ワゴン車はまた森の道を抜けて行く。良く見ると遠くに山が見えていた。〈この島のどこかに先祖が隠した宝が本当にあるのだろうか…隠すほどの宝どの位なのだろう…俺もこいつらと変わらないな〉と思いながら少し笑った。だが我が家の家紋は確かに9の数字と関係はあると思う。もしかしたらこの島で間違いないのかもしれない。そう思っているとまた話して来たた。
『あの山こそ宝が隠された場所ですわ。だいたいの場所はわかっていますのよ。今から楽しみしているのよお宝を手に入れる事を。』そして高々と笑った。
- << 16 アルミは山を見つめていた。横では笑い過ぎたのか燐銘が噎せている。〈あの山のどこかにあるのか?父親の言った最後の言葉も気になる。まあなんとかして神崎を助けなければならない。どうしたら良いものか…えーいなんとかなる、ならなきゃ困る絶対にな…〉見ていた山の中腹辺りに一瞬光った物が見えた気がした。 しばらくすると森を抜け出していた。するとずっと黙っていたサザナが助手席から振り返り話し出した。 『間もなく空港に着きます。』そういうとまた前をむいた。すると前から白い車が迫って来た。その白い車は高級車で我が家に来た車ほど長くはなかった。そして我々の車の横を土埃をあげながら通り過ぎた。 言ってなかったがここはリゾート地で沢山の人が訪れている。と言ってもセレブな人が主である。島の一部にリゾートホテルがある。この島のほとんどの人が従業員である。〈そう言えばホテルの名前に【タートルマリナーズ】と言うホテルがあったな。何か関係があるのだろうか…〉ワゴン車は空港のターミナル前に止まった。ドアが開き下ろされターミナルへ連れて行かれた。そこで意外な事を言って来た。 『私達はここでお別れです。』サザナがそう言った。〈一緒に来るかと思ったのだが彼らの仕事はここまでなんだろう…〉そうしたら深々と頭を下げるとワゴン車の方へ歩いて行った。ワゴン車の前にたち再び振り返りぽそりと言った。 『3日後お待ちしております。』そう言うとワゴン車に乗り込んでいった。
>> 12
『わかってらっしゃると思いますが変な真似はしてもらったら困りますよ。こっちには貴方に言っていない事もありますしね。まあ彼をまずは助けてやって下さい。』一体何を言おうとしているのだ…。まだ言って無い事とは何なんだ。ただ頭が混乱するだけだ下手な事出来ないようだな。
『わかっている。そんな事はしない。ジタバタしてもしかたない。それより一番聞きたいのはお前はいったい誰なんだ。それと言って無い事ってなんだ。』そういうとスクリーンを睨みつけた。しかし男は笑うだけだった。しばらく笑ったかと思ったら男は話し出した。
『いずれ分かりますよ。では3日後にお会いしましょう。あっそれと貴方に彼女を付けさせて貰いますよ。私の優れた部下で最愛の人だ。誤魔化しはできませんよ。』と男が言った後スクリーンはプツンと消えた。
『おい待て…。ちゃんと答えろ…。』そう言ったが返事はなかった。そこにサザナが現れた。
『アルバート様では行きましょうか。』そう言うと玄関の方に歩いて行く。すると玄関の扉が開いた。そこに立っていたのは先ほどスクリーンに映っていた女だ。そして話し出した。
『さあ、私がお供させて貰いますわ。変な真似はしないで下さいね。私の名前は李燐銘。誤魔化しはできませんわ。』そう言うと振り返ってワゴン車に向かって歩いていく。その後に続いてアルミも歩いていった。
>> 11
目の前の画面が変わり、そこには鉄格子にしがみつき泣き叫んでいる神崎が映し出された。スピーカーからその声は聞こえてはいない。すっかり忘れていた。神崎が居たことを…色々あり過ぎて自分の事しか考えていなかった。神崎スマンと心で謝った。しばらくすると元の画面に戻り、2人が現れた。そして謎の男が話出した。
『さあ、どうします…。彼の運命は貴方次第ですよ。渡して貰えますよね。』アルミは考えていた。彼の命と我が家の家宝、渡す価値はあるのだろうか…。何を考えているのだ俺は…。どんな人間でもお金には変えられない。だが先祖代々守って来た物をそう簡単に渡して良いものか…。えーい何とかなる。そう思うとアルミは話し出した。
『分かった。渡そう。彼には決して手を出すな。しかし今は持っていないぞ。』それを聞いて謎の女が話し出した。
『それはわかっているわ。今から3日後までに持って来て貰いましょう。よろしくて。』そう言うと男の方が続けて話しをしだした。
『アルバート君わかっていると思うが彼の命は君にかかっている。』そういうとスクリーンの下に小さく神崎の映っている画面がまた出てきた。叫び疲れたのか、彼は牢の奥で体育座りをして下向きに何かブツブツ言っているようだった。〈大丈夫だ俺が何とかする待っていろよ神崎…。すぐ戻って来るから〉と心で違うアルミだった。神崎は体が小刻みに揺れていた。
>> 10
煙草の煙が入道雲のように立ち込める。そして続きを話し始めた。
『富と名誉を手に入れた騎士は、その後どんな人にも慕われ過ごしていた。だがその富と名誉を得たのはタートルダイヤである事が世間で噂になっていた。それ故に奪いに来る物が増えた。危機を感じた騎士は身を隠しそれで得た宝をどこかに隠したと言われている。』そして煙草を吸い煙をはいた。
『それを隠した場所は分かってはいないがその騎士は我が家の先祖で名はアキ・ラ・アルバートだ。我が家の家紋にはタートルを囲む星が8つある。多分これが宝の在処を記しているのではないかと言い伝えられている。しかしその場所には守り神がいて誰もはいる事ができない。これが入るためのキーであるでは無いかと言われている。アルミよ忘れるで無いこの言葉を…。【白銀の狼の涙落ちる時緑色に輝くそして扉は開かれる】わかったな。』アルミは頷いた。
『わかった忘れない。』そう言った事を思い出していた。
突然、目の前のスクリーンがつきそこに2人の人影が映し出された。1人はさっきから話している男だろう。そしてもう1人はかなりグラマーでまるでモデルのような女性のようだ。そして男は話し出した。
『アルバート君だいたいの事は分かっていると思うが…。私にその宝石渡して貰いたい。』彼の声は体に響く。
『何故俺がお前に我が家の家宝を渡さなければならない』アルミは立ち上がって叫んだ。
『いや別に彼がどうなっても良ければですけどね』さっきスクリーンに映った謎の女が言った。
>> 9
『タートルダイヤだと。あれは我が家に伝わる家宝だ。何故そんな物が必要なんだ。』アルミは叫んだ。
『フフフあれには伝説がある。ご存じかな…。』謎の男は笑いながらいった。昔父親が1つの箱を金庫の中から取り出し私の前に置き蓋を開け話してくれた事を思い出した。
その中にはタートル(亀)の形をした宝石が入っていた。それは薄い緑色をしている。いわゆるグリーンダイヤモンドである。窓から差し込む光に輝いていた。それは数十億する品物で我が家代々伝わる物である。
『アルミよ。これその物もかなりの価値はあるのだが、これには言い伝えがあるのだ。お前にもそろそろ教えておかなければならないな。』2人はソファーに腰掛けた。父親は一度深い呼吸をして話の続きを話し出した。
『今から1000年ほど前の話だ。ある騎士が戦に向かうため馬を走らせていた。ところが彼らの前に出てきた兎に馬が驚きその騎士は落馬してしまった。頭を強く打ったせいで気絶してしまった。目を覚ました時目の前には白銀色した犬がその騎士を眺めていた。その犬はある場所に騎士を連れて行った。そこには眩いばかりの宝がありその中にあったのがこのタートルダイヤであった。振り返って見ると犬はいなくなっていた。その後騎士は戦いに勝利し莫大な富を手に入れた。それ以来これを持つ者富得ると言われている。』そう言うと蓋を閉めた。
『だがこの伝説には続きがあるのだ。』煙草に火を付け話し出した。
>> 8
ワゴン車は屋敷の玄関先に止まった。黒装束の男がドアを開けた。サザナがドアの前に現れ左手を右から左に動かした。レストランでウェーターがやる仕草だ。
『こちらにどうぞ。ご主人様がお待ちかねです。お降り下さい。』アルミはワゴン車を降り屋敷の玄関の前まで連れていかれた。そこで改めて屋敷を見渡しながら〈やはり俺の屋敷の方がデカい〉と思った。ある意味負けず嫌いなのだろう。
前もこんな事があった。セレブ仲間であるホテル王の御曹司エドワードとゴルフの勝負した時だった。2打差で負けてしまい次の日からプロ付けて猛練習続けた。
『エドに負けるなど許されない。絶対に勝ってみせる。』その成果もあり次の勝負は見事に1打差で勝利した。
目の前の扉が開き屋敷の中に通された。入り口の近くにはヨーロッパの騎士の鎧が立っていて、屋敷の中は色んな美術品で埋め尽くされていた。
そして奥方へ通された。またそこには扉がありサザナが扉を開けた。奥には壁一面に巨大なモニターがあった。そしてどこかにあるであろうスピーカーから声が聞こえてきた。
『アルバート君よくいらした。まあそこの椅子に掛けたまえ。』その声は低く体に響くほどである。これもまたマフィアのボスって感じだ。
『君に来て貰ったのは言うまでも無い君が持っているタートルダイヤモンドを頂きたい。』アルミは驚いた。
>> 7
ジェット機は滑走路にあるAゲートに着いた。人口約1000人ほどの島にしては立派な空港である。
『さぁアルバート様着きました。降りて貰いましょう。』後ろでノビていた神崎も起こされたのだろう。辺りをキョロキョロしながら両脇を抱えられ立っている。今にも泣き出しそうだ。普段はメガネの端を持ちながらガミガミ言っている奴とは思えない。
『そいつは例の場所に連れて行け。アルバート様はこちらに…。』そう言うと搭乗口の方へ歩きだした。ジェット機を降りターミナルの方に歩いた。そこには真っ黒なワゴン車が止まっていた。黒装束の1人がスライドする後部のドアを開けた。やはり映画のマフィアのようだ。
ジェット機の方を見ると後から降りて来た神崎が発見された宇宙人のように、もう1台あるワゴン車の方に連れて行かれていった。彼はどこに連れて行くのだろう…。それにしても彼にとっては災難である。私がスケジュールを変えなければこんな事になって無いはずだ。
『さぁお乗りください。』言う通り中に乗り込むと奥の席に座らされた。ワゴン車は空港を出て街というか村の中にある道を森の方へ走って行った。森は島の中央に広がっていて南国の島で見かけるような光景である。しばらく行くと視界が広がり、そこにはヨーロッパ風の屋敷が見えてきた。
『俺の屋敷より小さいな。』とアルミは呟いた。
>> 6
窓の外を眺めていると、微かに島らしき物が見えてきた。島は9つに別れてはいるが真ん中に大きな島があり、その周りに小さな島がある。大きさは東京ドームが9つほどの大きさはある。まだそれよりは大きいと思う。海岸線は白い砂浜で、海水浴には適した所だ。幼少の頃、従兄弟と泳いだ記憶がある。貝殻で足を切り大騒ぎになった。海で切るともの凄く血が出たように思えるがさほど出てはいない。その時の傷は微かだが足に残っている。足を触りながら窓の外に見える島を眺めていた。アナウンスが流れた。
『着陸します。シートベルトを絞めて下さい。』そう言うと機体が傾いて白浜の反対側にある、滑走路へと降りていった。しかしここでいったい誰が待っているのだろう。そう思いながら後ろの席を見ると神崎が伸びたまま座っている。思わず笑ってしまった。何故かこんな状況なのだが、落ち着いている自分に驚いている。黒装束の男達が一斉にこちらを見た。光に反応するペンギンのようだ。それは光を追っかけてペンギンが頭を振るのだ。そんなテレビを前見た覚えがある。ジェットは滑走路に静かに着陸した。今ジェットを操縦している男はかなりの腕だと思う。こんなに静かに着陸したのは初めてであった。大概はかなり揺れるもんである。ジェット機は静かにターミナルの方に近づいて行った。
>> 5
周りを見渡せば5人いる。秘書の神崎は泡を吹いてシートに倒れている。多分私と同じように気絶させられているのだろう。5人の手には銃と言うよりマシンガンほどの自動小銃を持っている。いったい何者なんだろう…。アルミは色々巡らしてみたが思いつかない。その時サザナが話し掛けてきた。
『アルバート様。今からあなた様をお連れする場所ですが太平洋に浮かぶ島、通称ナインアイランドと呼ばれる島です。ご存じですかな。』そう言われると思い出すように言った。
『ナインアイランドだと…。』思い出していた。名前の通り9つの島から出来ている所だ。幼少の頃何度か訪れた所だ。しかし誰がこんな事をするのだろう…。未だに思いつかない。黒装束の大柄な男が2人近づいて来て、アルミの両脇を抱えシートに座らせた。その時機内アナウンスが聞こえてきた。
『サザナ様、後20分ほどで着きます。』忘れていた。コックピットにはもう1人居たのだ。男達は合わせて6人居るのだ。
『まもなくつくそうです。それまでおとなしくして下さい。下手な真似したらこれが火を吹きますよ。』と銃をこちらに向けて言った。相変わらず甲高い声だとアルミは思った。
>> 4
コクピットに向かって左右に揺れ座席を掴みながら前に進んで行く。そして扉までたどり着くとアルミはコクピットの扉を叩き叫んだ。
『おいっどうした…。何かあったのか…。』コクピットの中からは何も聞こえてこない。
『おいっここを開けろ、おいっおいっ。聞こえないのか、開けろ。』やはり中からは何も聞こえてこない。機体が激しく揺れた。左側の壁に激しくぶつかりながら、体勢を取り直してコクピットの扉を蹴飛ばした。しかし簡単には開かない。もう一度勢いをつけ蹴飛ばした。すると扉はバーンと音をたてて開いた。その扉の向こうには、見るも無残な光景が広がっていた。
『これは、いったいどういう事なんだ…。』とんでもない事が起きている。そう思っていると後ろに気配を感じ振り返ろうした瞬間、後頭部に激しい痛みを感じアルミは気を失った。
周りで数人の男達の声が微かに聞こえてくる。後頭部に激痛が走る。
『うっ何が…おきた…。』と頭を抱えながら起き上がると、1人の男が近づいてきた。
『お目覚めですかアルバート様。』その男は160㎝ぐらいで黒い衣装にサングラス、まるでドラマに出てくるマフィアのようだ。
『お前ら何者だ。』まだ頭が痛む。
『お初にお目にかかります。サザナともうします。』意外に声が甲高い。
『ある人の依頼であなた様をある場所にお連れするよう言われております。』今まで気が付かなかったが、機体は先ほどと打って変わって全く揺れていない。やはり揺れていたのは機長達が殺されたせいだったのだ。先ほどのコクピットの光景を思いだし、身震いした。このジェット機はハイジャックされたのかもしれない。
>> 3
ジェット機は安定した飛行をしていた。隣では神崎が1人ぶつぶつ言っていた。うるさくて頭にくるが、彼に少々無理をさせたからここは我慢しておこう。しばらく経ったその時機体が激しく揺れた。〈何事だ、何があったのだ〉とアルミが思ってみると機内アナウンスが流れた。
『只今、乱気流に入り多少機体が揺れますが航行に支障はありません。シートベルトをお締め下さい。』機体は激しくまだ揺れている。
『やはり嵐でも来るのか…。天気予報では言ってなかったのだがな…』空の天候は急に変わる事もあるのだろう。
『た‥確か…い言ってなかった…で‥す』あまりの揺れの激しさに言葉になって無い。その時嫌な感が働いた。大概この感は当たるのだ。〈さっきのアナウンスの声違ったような〉アルミは違和感を感じてシートベルトを外し有無も言わずコックピットの方に駆け出していた。
『アルバート様…。お‥お待ちを…』』神崎が呼び止めるが聞こえていなかった。
>> 2
機長から続いてアナウンスが流れた。
『大変お待たせいたしました。本機は離陸予定より1分遅れで出発します。』周りは少し風が強いようだ。嵐が近づいているのだろうか…。ジェットの音が少しづつ大きくなって行く。最大になった瞬間シートに押し付けられ体中にGがかかる。
機体が滑走路を走り出した。どんどんと地面から離れて行く。アルミは思った。何故こんな鉄の塊が空を飛べるのか…。改めて人間の凄さに脅かされる。関心しながら外を見ながら微笑んだ。
『アルミ様。到着は約1時間後です。』低調に話してきた彼が秘書である神崎昇である。彼は私の一切のスケジュールを把握してくれている。今回は彼に少々無理を言ってスケジュールを開けて貰った。彼はスケジュール帳をめくりながら言った。
『しかし、いつもいつも無理をおっしゃる。なんとか開けましたが、終わってから大変ですよ。本当にお願いしますよ。』仏頂面しながら言った。
『わかっているよ。ちゃんとやるから、君も今日は楽しんでくれ。』神崎は眉間にシワを寄せながらスケジュール帳をめくっている。
『そうおっしゃいますが、後の事考えると楽しめません。』無理を言い過ぎたかな…。ジェット機は安定したのか、シートベルト解除OKのサインが点いた。
>> 1
爺が玄関まで送るとそこには秘書が立っていた。
『いってらっしゃいませ。』爺が頭を下げた。玄関を出るとそこには長さ10mはあるだろう高級車が止まっていた。運転手が小走りでドアの前に立ちドアを開いた。アルミと秘書は乗り込んだ。とても中は広く後部座席は向かい合わせになっている。扉が閉まり運転手が乗り込む。空飛ぶ絨毯のように車はすーっと動き出した。
空港までは30分ほどで着く。今日は意外と空港までの道は空いていた。窓の外には2羽の鳥が飛んでいた。
車はVIP専用の搭乗口の前に止まった。それはジェット機まで直接繋がっている。煩わしい搭乗の手続きが必要ないのである。この飛行機会社の株主である特権である。ジェット機に乗り込み席に着いた。しばらくするとアナウンスが流れた。
『只今、機体の再チェック中であります。もうしばらくお待ち下さい。』それを聞きアルミぐうっと背伸びをした。久しぶりにみんなに会える。意外にワクワクしているアルミであった。まもなくして再びアナウンスが流れた。
『大変お待たせいたしました。只今より出発いたします。シートベルトをお締め下さい。』アルミは微かに笑った。皆に会える喜びが表に出たのであろう。しかしこの後とんでもない事が起きるとアルミは知るよしもなかった。
それは1つのメールから始まった。私の名前はフォード・アルバート通称アルミだ。石油会社の御曹司で37歳の男である。そのメールは昔から仲の良かった、今で言うセレブなヤツらだ。【久しぶりにパーティーをする】からとメールがあった。最近まで多忙だったが、今は大して忙しく無い為、【了解】と返信した。
『爺、爺。』机の上にある内線用のボタンを押しながら呼んだ。すぐに返事はあった。
『はい。なんでしょうか…。そちらに行きます。しばらくお待ちを。』落ち着いている声だ。すると扉が開き爺が現れた。
『すぐに車の準備して欲しいのだが。』パーティーに行く為出かけるのだ。
『かしこまりました。』そう言うと部屋を出て行った。爺は父親が幼少の頃からこの屋敷に仕えている執事である。初老を迎えたばかりであるがそれを思わせない。そして、5分ほど経っただろうか、爺が現れた。
『坊ちゃん準備が出来ました。』どうやら下に秘書が来たようだ。
『わかった。今から出かける。』扉を開け玄関に向かった。
- << 2 爺が玄関まで送るとそこには秘書が立っていた。 『いってらっしゃいませ。』爺が頭を下げた。玄関を出るとそこには長さ10mはあるだろう高級車が止まっていた。運転手が小走りでドアの前に立ちドアを開いた。アルミと秘書は乗り込んだ。とても中は広く後部座席は向かい合わせになっている。扉が閉まり運転手が乗り込む。空飛ぶ絨毯のように車はすーっと動き出した。 空港までは30分ほどで着く。今日は意外と空港までの道は空いていた。窓の外には2羽の鳥が飛んでいた。 車はVIP専用の搭乗口の前に止まった。それはジェット機まで直接繋がっている。煩わしい搭乗の手続きが必要ないのである。この飛行機会社の株主である特権である。ジェット機に乗り込み席に着いた。しばらくするとアナウンスが流れた。 『只今、機体の再チェック中であります。もうしばらくお待ち下さい。』それを聞きアルミぐうっと背伸びをした。久しぶりにみんなに会える。意外にワクワクしているアルミであった。まもなくして再びアナウンスが流れた。 『大変お待たせいたしました。只今より出発いたします。シートベルトをお締め下さい。』アルミは微かに笑った。皆に会える喜びが表に出たのであろう。しかしこの後とんでもない事が起きるとアルミは知るよしもなかった。
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