🎈手軽に読める短編小説
皆様こんにちわ‼手軽に読める短編小説始まります…待ち合わせや夜の時間に手軽にサクッと読めちゃう、そんな小説スレです❤貴方はどのお話が好きですか?…
新しいレスの受付は終了しました
>> 350
📝2📝
(フゥ~…あとはこのページにトーンを貼って終りだ…)
アシスタントを帰らせた後も俄夢は一人今週号の原稿の仕上げに入っていた…殺伐とした暑い室内で俄夢は飲みかけの温いコーヒーを飲み干すと大きく背伸びをした…
(夜中の2時…カァ…ハァ~!)
一気に俄夢に眠気が襲い始めた…この世界に慣れて来たとはいえ、丸二日徹夜の作業は体力のある若い俄夢とてかなりの疲労感であった…
(少し休むカァ…)
染みだらけのソファーに横たわると俄夢は毛布を被った…
♪Piriri!Piriri!
突然俄夢の携帯電話が静かな室内に鳴り響いた!
『!ッあッ、ビックリしたぁッッ…ンモッ誰だよッッこんな夜中にッッ!はいモシモ~しッッ!』
《………》
『もしもし?…九鬼さんっスかぁ?』
《………》
僅かに雑音がするが声が聞こえない…
『……ンモッかけ間違いっすよッッ…もう一度番号を確か…』
《……新宿駅ニ爆弾ヲ仕掛ケタ…》
『は…はいぃ?爆…弾ん?…っぅか誰オタク…?』
俄夢は眠い目を擦った…
『あのねッ…爆弾がどうしたか知りませんけどアーミーゲームか何かならよそでやってもらえます?』
《今カラ言ウ事ヲ良ク聞ケッッ!》
>> 351
📝3📝
『はい先生ッッ!今週号の原稿確かにッと!…ん?どうしたんですか?浮かない顔して…』
『…いや…別に…』
翌日の夕方俄夢は原稿を担当の九鬼に手渡した…
『じゃぁ早速来週号の原稿のネーム打ち合わせしたいんですが…今晩21時第7東急ホテルでどうですか?…せ、先生ッ?ちょっと涌井先生聞いてますッ?』
『あ…アァすみませんッッ…聞いてます…』
俄夢は上の空で九鬼の話を聞くとおもむろに冷蔵庫のおしぼりを目に当てた…
『…どうしちゃったんですか?何かいつもの元気な俄夢先生じゃないみたいですけど…何かありました?』
上辺だけは心配そうに九鬼が俄夢の顔を覗き込んだ…
『実はね…昨夜ちょっと奇妙な電話がありまして…』
『奇妙な…電話ですか?どんな?』
オカルト好きな九鬼が興味本位で少し食いついた…
『あ…いいや、忘れて下さいッッ…じゃ今晩21時に東急ホテルでまた…』
他愛もない事だと念を押すと俄夢は夜まで少し眠りたいと九鬼に部屋から出ていってくれるよう指示した…
(ハァ~馬鹿馬鹿しいッッ…んな事にいちいち付き合ってられっかっての!)
俄夢はアイマスクをして眠りについた…
>> 352
📝4📝
『えッ!?漫画の主人公を殺せってぇ?でないと東京の主要な駅や施設を次々に爆破するぅ?な、何だよそれッッ!』
二日後俄夢は居酒屋で友人であり同じ漫画家仲間でもある横石保にあの晩の電話の事を話した…
『まぁ軽いいたずらだとは思うんだけど…何か気味悪くてさ…何処で知ったのか俺の携帯番号も…』
『なるほど…で、涌井お前どうすんだよッッ…』
『どうするって?』
横石は梅酒のお代わりを注文した…
『そいつの指示通り…』
『ばッ、よ、横ちゃん冗談言うなよッッ!今佳境に差し掛かってる《雪の微笑み》の主人公、一之瀬衛を死なせたらそれこそ読者から暴動が起こるよッッ…多分俺の漫画を妬んでるか面白がって困らそうと考えてる頭のイカれた輩の仕業だよッ…気にしない気にしない…』
『だよなッッ!ハハハ…んな事いちいち気にしてたら漫画なんて描けねぇもんなッッ!』
さぁ飲み直そうぜと横石は俄夢にも生ビールを注文した…
『明日発売の少女メイト《雪の微笑み》はいよいよ一之瀬衛と日向加奈子の運命の再会の回だよなッッ…俺もいち読者として雪微ファンの一人として胸ワクワクだよッッ!ハハハ…』
横石は梅酒をグイッと飲み干した…
>> 353
📝5📝
予想通り今週号の漫画雑誌《少女メイト》は発売を待ち切れない雪の微笑み目当ての読者が殺到し驚異的な売上を記録した…
『先生~ッッ!凄い凄いッッ!衛と加奈子の再会に心打たれたとメール、FAX、出版社のホームページに応援がわんさかッッ…ハハハ、さすが少女漫画の革命児、涌井俄夢大先生ですッッ!よ、日本一ッッッ!』
『よ、よして下さいよ九鬼さんッッ…』
作業場のアシスタントと打ち合わせに入っていた俄夢はホッと胸を撫で下ろしていた…
(ヤッパリあの電話はいたずらだったんだ…だよなッ…どういう理由か解らないけどこんな若手漫画家ごときいちいち脅迫したって…)
『先生知ってました?今朝新宿駅西口でゴミ箱に仕掛けられた爆弾が爆発して通行人10数人が負傷したの…怖いっすよね~』
『……え?…』
『先生知らなかったんですかッッ!?朝からニュースはそればっかでしたよッッ!』
『新宿…で爆弾が?…ま…まさかッ…』
俄夢の背筋に一筋の生温い汗がつたった…俄夢は思わず側にあるテレビをつけた…《卑劣!新宿駅無差別テロ》真っ赤なテロップが書かれた映像には多くの救急車やパトカーが停まり血まみれの通行人が映っていた!
>> 354
📝6📝
(有り得ない…う、嘘だろッ…偶然?…そ、そうだよ偶然だよ偶然ッッ!)
洗面所で顔を洗いながら俄夢は何度もそう呟いた…俺があの電話の奴の言う通り、《雪の微笑み》の主人公一之瀬衛を死なせなかったから?…まさか…まさかたったそんな事だけであんな大それた事が…ヤッパリ有り得ないッッ!俄夢の両手が小刻みに振るえ出した…
♪Piriri…Piriri…
(!ハッ…ッッ!)
夜の部屋にまた携帯電話の着信音が鳴り響いた!俄夢は少し間を置いた後ゆっくりと電話に出た…
『はい…もしも…し…』
《マダ生キテイルナ…今週号デドウシテ死ナセナカッタ!オマエノセイデ何十人モノ人間ガ犠牲ニナッタ…》
『…ふ、ふざけるなッッ!お、お前があの爆弾テロをやったってのかッッ!?冗談もいい加減にしろよなッッ!どッ、何処の誰なんだよお前ッッ!』
《イイナ…コレデ嘘ジャナイッテ事ガ分カッタダロ…来週号デ主人公一之瀬衛ヲ死ナセロ…!》
『待てッッ…そんな事できッッ…』
《連載ヲストップサセテモ駄目ダ…言ッタ通リニシナケレバ…バンッッ!!次ノ犠牲者ガ出ル…》
電話はそこで途切れた…俄夢の心臓は今にも飛び出しそうだった…
>> 355
📝7📝
『ハァ~しかし前代未聞だな…実際の民間人を人質に漫画の中の架空のキャラクターを殺せって…日本の猟奇的犯罪も堕ちる所まで堕ちたって訳だ…』
『感心してる場合じゃないだろ横ちゃんッ!こっちはどうすりゃいいのかマジで悩んでんだからさッッ!』
そりゃゴメンと友人の横石は頭を下げた…
『警察には知らせたのか?』
『警察には知らせるなって電話の奴…それにこんな話しても警察だってまともに取り合ってくれるとも思えないしな…』
俄夢は頭を抱えた…
『九鬼さんには?編集担当の彼にはこの事知らせたのか?』
『…あの人はあんまり信用出来ない…何でもペラペラ喋るし…』
横石はピスタチオの殻を剥き口に放り込んだ…
『いずれにせよ人気作家のお前の事を妬んでるイカレ野郎の仕業としか考えられないな…《雪の微笑み》の人気を失墜させて喜びを覚えようとする同業者かも知れない…用心に越した事はないぜ…』
『そういう横ちゃんだって同業者だぜッ…ま、まさかッッ!』
アホッ!俺がそんな手の込んだ事すっかよッッ!と俄夢の頭を叩いて笑った…
『まぁも少し様子見なッ…本当の偶然を装った愉快犯かも知れないしな…』
俄夢はサンキュと横石に頷いた…
>> 356
📝8📝
『はぁ~いお疲れ様でした先生ッッ…では今週号の原稿確かにお預かりしましたッ!ニャハハハ…』
九鬼が満面の笑顔で俄夢に頭を下げた…
(ホントにお疲れ様だなんて思ってんのッッ!…アンタはこの原稿さえありゃいいんでしょッッ!)
人気作家の編集担当で有頂天になっている九鬼を横目に見ながら心の中で俄夢は散々毒づいた…
『ね、ねぇ九鬼さん…』
『はい?何ですか先生…』
俄夢は一度視線を落とした後話しかけた…
『この主人公の一之瀬衛さぁ…この先死ぬって設定…駄目かな?』
『なッ、な、何言ってるんですか先生ッッ!先週号でやっと意中の女性、日向加奈子に再会したばかりじゃないですかッッ!今一之瀬衛殺しちゃうなんてそんな事ッッ…いくら奇抜で洗練された先生の案でも、そりゃぁ幾ら何でも無謀ですよッッ!』
一体何て事言うんだこの若造が!九鬼の顔付きが俄夢にはそう見えた…
(…だろうな…編集の立場から言わせりゃ今この順風満帆な連載の流れを主人公が死ぬ事で止めたくはないよな…)
『どうしちゃったんですか?何か二、三日前から少し変ですよ先生ッッ…』
『あ…いや、すみません…忘れて下さいッッ…』
俄夢は手を振り原稿のペン入れに入った…
>> 357
📝9📝
別に電話の爆弾魔が怖い訳じゃない…だけどもしこれが本当なら…爆弾魔が俺の描く漫画《雪の微笑み》の主人公、一之瀬衛を標的にして楽しんでいるのなら…俄夢のペン先がピタリと止まった…考えないようにしてはいるがやはりこのまま連載を続け、一之瀬衛を生かし続けていいのだろうか…複雑奇妙な不安と恐怖感が俄夢の脳裏を支配していた…
(一体誰がッ…他にも儲けてる漫画家なんて五万といるだろッッ…いずれにせよ俺を嫉む人間には違いない…)
『先生ッ…俄夢先生ッッッ!』
『あ…ご、ごめん…何?』
『港とビル街の背景描き終えましたよッッ!……大丈夫すか先生?顔色悪いッスよッッ!?』
アシスタントが心配そうに俄夢の顔を覗き込んだ…
『な、何でもない…』
俄夢は側にある自分の携帯電話を見た…
(頼むッッ…もう掛かってこないでくれッッ!俺が何か悪い事したのかよッッ!これきりにしてくれぇッッ!俺の事はそっとしといてくれよッッ!)
祈るような気持ちで俄夢は携帯から視線を外すと遅れ気味の来週締め切り原稿にペンを入れ始めた…俄夢の描くその原稿の中ではまだ一之瀬衛は生きていた…
>> 358
📝10📝
それから二週間が経過したが俄夢の携帯電話に脅迫めいた電話は掛かって来なかった…
(あれから二週も連載を続けている…一之瀬衛は生きているが爆弾魔からの電話もなけりゃ爆弾事件も起きたというNewsもない…やっぱりあれは偶然だったのか、それとも俺の事もう諦めたのか…)
久しぶりのオフに俄夢は横石保とまた居酒屋で酒を呑んでいた…
『その後どうなんだよッ…例の奴から脅迫電話はあったのか?』
横石は疲れ果てた俄夢に声をかけた…
『いや…それがないんだ…不思議なくらい…』
『まぁ向こうさんも涌井が頑なに漫画の中で主人公生かし続けてるからもう諦めたんじゃねぇの?警察に知らせるまでもなかったじゃんか…』
『うんまぁ…諦めてくれたんならそれでいいんだけど…けど何か気持ち悪いんだよなッッ…』
俄夢はお通しの筍の木の芽和えを口に放り込んだ…
『あの爆弾魔さ…凄く身近な誰かだと思うんだよな俺…』
『え…?』
俄夢がふと呟いた…
『身近な…誰か?…』
横石はジョッキを空にした…
『おいおいッ…まさかこの俺を疑ってんじゃねぇだろなッッ涌井ッッ!』
横石は冗談は休み休み言えッッ!と急に怒りだした…
>> 359
📝11📝
『ふぁ~…先生ッ、じゃお疲れ様っす!』
眠たい目を擦りながら終電間際に五人の俄夢のアシスタントが帰っていった…
(フゥ~…いよいよ告白…カァ…)
俄夢は《雪の微笑み》、出来上がり原稿をしみじみ眺めると主人公、一之瀬衛に一途な日向加奈子が告白し、一之瀬衛がそれを受け入れ、優しくキスをする山場のシーンにもう一度チェックを入れ直した…
(けど…ここで愛する二人に邪魔が入るんだよな…)
俄夢は冷めきったコーヒーを一口飲むといつものソファーにお決まりのように寝転がった…
♪Piriri…Piriri…
(!ハッッッ……)
携帯電話の音に俄夢は敏感に跳び起きた!
(まッ…まさかッッッ!?)
血の気が引いたような気分で俄夢は恐る恐る通話ボタンを押した…
『は……はい…もしもし…』
《あ、涌井先生ッ?私ですッッ、九鬼ですッッ》
(ハァ~…んだよッ、九鬼さんか…)
《どうしたんですか?そんな鬼気迫る声なんて出して…》
『用件は?…原稿は出来上がりましたけど…』
居酒屋だろうか、電話口からは賑やかな男の声がしていた…
《突然なんですけど先生ッ…主人公の一之瀬衛…来週号で殺してみましょうか?》
(……え?…う、嘘でしょ?)
>> 360
📝12📝
《…さっきまで編集長と話してたんですよッ…やっぱりここで一之瀬衛は交通事故か何かで命を落とした方が読者も更にこの先作品に感情移入しやすいんじゃないかってね…ホラ、先生も前に私に言ったじゃないですか…一之瀬衛が死ぬ方向はどうかと…言いましたよね確か?》
『そ、そりゃ…言いました…けどあの時は…』
酒が入っているせいか九鬼の俄夢に対する言葉遣いはブッキラボウに映った…
《まぁ来週号はその線でネーム練りましょうよッ!じゃまた明日ッッ》
一方的に電話が切れた…俄夢は暫く放心状態のまま時を過ごした…
(そんないきなり…無茶苦茶だよッッ!)
俄夢の頭は混乱していた…確かにあの時は爆弾魔怖さに動揺して九鬼にあんな事を口走ってしまったがあの電話が偶然の悪戯だと解ってからは逆に主人公はこのまま生かした方が作品としては絶対いいと感じていた…いくら編集長の意見だからって…まてよ!…もしかして…俄夢の脳裏に一つの考えが生まれた…
(まさか…あの一連の脅迫電話は…いや、有り得ないッッ!俺の編集担当だぞッ…けど…)
考えれば考える程俄夢の頭は混乱していた…九鬼さんがあの爆弾魔に何等かの関与をしている?…そんな馬鹿な…
>> 361
📝13📝
♪Piriri…Piriri…
俄夢が考えを張り巡らせている時また電話が鳴った…
『あ、九鬼さんッ?さっきの件なんですけど…』
《ツクヅク馬鹿ナ男ダナ…》
(はっッッッ…!)
聞き覚えあるその電子音のような無機質な声に俄夢の身体が一気に硬直した!
《一之瀬衛ハマダ生キテイルナ…約束ヲ守レナイノナラ爆弾ヲ爆発サセルシカナイ!》
『まッ、待てッッ!お前一体誰だッ!?どうして俺を付け狙うんだよッッ!俺がお前に何かしたかッッ!?』
《…何カシタカァダト?オ前自分ガシデカシタ事スラ解ラナイノカ…ツクヅク馬鹿ナ男ダ…》
『待てッ、切るなッッ!よ、よし…キッチリ決着付けようじゃないかッッ!何が目的だ?…金か?お金なら出来るだけの事はしようッッ…だから…』
《クックック…売レダスト何デモ金デ済マセヨウトスルンダナ…モウイイ…話シテテモ無駄ダ!最後ダ…本当ノ最後通告ダ…来週号デ一之瀬衛ヲ殺セ!サモナイト今度ハ朝ノ通勤時間ノ渋谷駅ヲ爆破スル!》
電話が切れた…
(な、何なんだよッ、チキショッ!)
それから数時間、俄夢の身体から小刻みな震えが止まる事はなかった…
>> 362
📝14📝
『どうしたんですか先生ッ…私の顔に何かついてますか?』
『あ、いえ……』
翌日俄夢と九鬼は次週の《雪の微笑み》のネーム作業に入っていた…
『一之瀬衛と出会い同棲を始めた加奈子…しかし二人の背後には加奈子を愛する余り無理矢理結婚式を執り行い式の最中に加奈子に逃げられ恥をかかされた政治家の息子、曽我幸一郎が執拗に二人の仲を裂こうと迫っていた…』
九鬼は今後のストーリーについて自分なりの考えを真剣に俄夢に伝えていたが俄夢は当然半分上の空だった…
『復讐鬼と化した幸一郎は一之瀬衛が会社から帰宅途中を狙い殺害を決意、乗っていた車で一之瀬衛をバンッッ!…てな感じいかがですか?』
『…どうしても一之瀬衛を殺害したいみたいですねッ…殺害しなきゃいけない何か特別な理由でもあるんですか?』
俄夢は上目遣いで九鬼を睨んだ…
『へ、変な事言いますね先生ッ…一之瀬衛殺しは昨日の電話で納得して下さったんじゃないんですかッッ?編集長も賛成なんですよ?』
今ここであの脅迫電話の話しをしたらこの男一体どんな表情するのだろうか…俄夢は喉元まで出かかったその言葉を寸での所で飲み込んだ…
>> 363
📝15📝
(だ、駄目だ…ペンが進まないッ…)
俄夢は頭を抱えるとそのままオデコを机に擦りつけた…結局来週号の結末は編集長と九鬼の意向で主人公一之瀬衛を交通事故で死なせる場面で終わる事に決定した…
(この漫画業界って奴は作家無視の酷い所だって聞いてたけど…ハァ~)
俄夢は散々毒付きながらゆっくり主人公一之瀬衛の輪郭を描き上げていった…
(これでいいんだ…これで…)
やり切れない想いが何度も俄夢の頭をもたげた…有名になれば何でも思い通りに自分の世界を表現出来ると思い信じ続けていた自分がつくづく情けなくなった…ここで一之瀬衛を死なせたらきっと漫画《雪の微笑み》の人気は急降下するに違いない…熱狂的ファンからも非難や罵声の手紙が送られてくるかもしれない…仕方ない…こうなってしまった以上…爆弾魔に九鬼らが関わっているという証拠もない…警察に言っても捜査に腰を上げるばかりかまともには信じてはもらえないだろう…
(さよなら…俺の大作《雪の微笑み》…そしてさようなら…一之瀬衛…)
俄夢は一度ため息をつくと最後の生きた一之瀬衛がいるページにペンを入れた…
>> 364
📝16📝
『はい、お疲れ様でした先生ッッ…確かに…』
数日後、編集担当の九鬼は俄夢の原稿の中身をチェックするとためらう事なく受け取った…
『じゃあこれ明日の号で…お疲れ様でした…』
『あ、あの…九鬼さん…!』
『何ですか涌井先生?』
九鬼は不思議そうに俄夢を見た…
『違いますよね?…信じていいですよね?』
『何がです?ハハハ…変な先生ッッ!』
九鬼は微笑むと俄夢の仕事場の扉を開け急ぎ足で出版社に帰っていった…
(これでいい…これでいいんだよな…)
俄夢は三年程前から止めていた煙草に火をつけると一気に吸い込んでため息と一緒にその煙を吐き捨てた…
(人気少女漫画家-涌井俄夢の事実上最期の原稿かァ…)
俄夢はお気に入りのソファーに寝転がるとゆっくり寝息を立てた…
♪Piriri…Piriri…
突然の着信音が仕事場を包んだ!
『は、はい…涌井です……はい…はッ…えぇ!?…う、嘘でしょ!?…く、九鬼さん…がッッ?家に帰る途中に車に撥ねられたぁ!?』
俄夢の意識は一瞬のうちに覚醒し、同時に目の前が真っ白になった!
>> 365
📝17📝
出版社に原稿を手渡し自宅に帰る途中、九鬼は飲酒運転の車に轢かれ帰らぬ人となった…今週号の少女メイトに《雪の微笑み》が掲載されたまさにその日、未曾有の哀しみの葬儀に参列した俄夢は祭壇で九鬼の遺影に手を合わせた…
(九鬼さん…すみません…少しでも疑った俺が馬鹿でした…よくよく考えると九鬼さんはやっぱり作家の感性を重視してくれた数少ない編集担当の一人でした…)
俄夢は悲しみに暮れる親族に一礼すると九鬼の葬儀場である地元の公民館の玄関を出た…
♪Piriri…Piriri…
『はいもしもし…涌井ですが…』
《ヨクヤッタ…約束事ヲ守ッタナ…》
あの爆弾魔の声だった…
『!きッ、貴様ぁ…まだ何かッッ!約束通り主人公は殺したッッ!それでいいだろッッ!?もう俺とは関わらないでくれッッ!』
《次ノ指令ヲ出ス…出来ナケレバ…クックック…》
『いい加減にしてくれッッ!貴様誰なんだッッ!もう貴様の言う事なんて従うもんかッッ!』
《無駄ダヨ…私カラハ逃ゲラレナイ…》
俄夢は思わず携帯の電源を切った…
(チキショッ!チキショッ!一体俺をいつまで追い詰めりゃ気が済むんだよッッ!)
>> 366
📝18📝
【一之瀬衛を失って失意のどん底に叩き落とされた日向加奈子を救ったのは意外にもあの政治家の御曹司、曽我幸一郎だった…幸一郎は加奈子の哀しみを受け入れながらも自ら加奈子への一途な愛を貫き通すのであった…】
この漫画の核である主人公を失ったにもかかわらずその後の斬新な切り口と展開で《雪の微笑み》は俄夢の予想を反してさらに人気が上がっていった…
『こ、この先はこれでいいんだな?』
《ソウダ…ソノママ曽我幸一郎トノ深イ絆ヲドンドン進展サセレバイイ…》
その後も電話越しで俄夢と正体不明の爆弾魔との奇妙なやり取りが続けられていた…当初俄夢は脅迫めいた指示を受け思い悩んだ日々を送ってはいたがこの爆弾魔の指示通り描けば当の漫画は不思議な事に前より益々人気があがる事に半ば驚きを隠せなかった…数日経ったある日出版社のスタッフが俄夢の仕事場を訪ねて来た…
『先生ッ!新しい編集担当が決まりましたんで紹介します…何とビックリ仰天同性同名ですよッッ!関西支社から来られた《曽我幸一郎》さんですッッ!』
(…え……?そ、曽我幸一郎ォ?…まさか…)
~原稿犯~完
初めまして。
最近ここのスレを見つけて、ちょこちょこ読ませてもらってます。
感想を言いたくてお邪魔しました😄
お話は面白くてどんどん先が気になります!全部オリジナルですよね。書きためているんですか?特に私はサスペンスっぽいのが好みです✨ちょっと風刺的要素もあり、厚みが感じられます。
強いて難を言えば文章の終わりの「ッッ」と「…」が多くて読んでいて気になります😓
内容としてはせっかく本格的な小説を書いていらっしゃるのに、幼稚な安っぽい携帯小説のように感じられかねません。勿体ないと思いました。
偉そうにすみません。不愉快に思われましたらスルーして下さいね。
>> 370
⑲~地球最期の夏休み~
🎐1🎐
『なぁ亮介ニュース見たか?…昨日またメキシコに東京ドーム3個分の隕石が落ちたんだってさ…』
河川敷で鉛色の夕方の空を見上げながら相楽時男は呟いた…
『…何かまだ嘘みてぇだよなッ…二階堂総理、《実はドッキリカメラでしたぁ~!国民の皆様ごめんなさい~》って明るく否定してくんねぇかな…』
亮介はそばの葉っぱを掴むと空に無造作に舞い上げた…
『地球環境を考えようだとかECO推進だとかさ…二酸化炭素削減したからって結局そんな事全部無駄だったって事だもんな…あ~ぁ…』
河川敷を散歩する笑顔の老人夫婦を見つめながら亮介はため息をついた…
『なぁ亮介…逃げようぜッッ!』
『逃げるって何処へだよッッ…大気圏外にかよ?』
『……だよな…逃げようないよな…ハハッ』
時男はお尻の葉っぱを掃うとじゃな!と亮介に手を振って帰って行った…亮介は靴下を履かない蚊に噛まれた素足を擦り合わせると学生服のまま暫くその鉛色の空をじっと見つめていた…亮介お気に入りの携帯ラジオからは世界各国のあらゆる宗教の説法が永遠と流れている…
『チッ…たまにはロックとか流せよなッッ!』
亮介は吐き捨てるようにラジオの電源を切った…
>> 371
🎐2🎐
《国民の皆様にご報告致します…》
8カ月前の年末、お笑い番組の途中に突然画面が替わり二階堂総理の演説が始まった…ポテチを頬張りながら亮介と親友の時男はその瞬間を目の当たりにしたのだ…
《回りくどいのはかえって混乱を招きかねませんので率直に言わせて貰います…皆様どうか気を落ち着けて今から私が言う事をしっかり聞いて下さい…そしてゆっくり準備を始めて下さい…》
その総理の心痛な面持ちに亮介と時男はただならぬ雰囲気を感じ取った…次の瞬間亮介と時男は何かの冗談だと笑った…しかし総理を取り囲む画面の大人達は誰一人として白い歯を見せる者は居なかった…
『隕石?…隕石ってあの空から降ってくる石コロの事だよな…』
時男のくわえていたポテチが絨毯にポロリと落ちた…
『石コロ…なんかじゃないみたい…ち、地球の半分の大きさだって…衝…突ッッ…来年の夏にッッ!…う、嘘だろッッ!?』
後ろでテレビを見ていた亮介の母親が思わず手に持っていた食器をガシャリと床に落とした!…
《今世界各国が準備を始めています…我々日本国民もゆっくり始めましょう…》
二階堂総理の顔は全てを悟り諦め、不気味なくらい落ち着き払っていた…
>> 372
🎐3🎐
『予測ではブラジルの東側に落下衝突すんだろ?ギリ日本はセーフなんじゃない?ホラ、真反対側だし…』
『大丈夫だって、アメリカだって馬鹿じゃねぇし…映画のアルマゲドンみたいにきっとガツンッッ!て隕石爆発させっからさ!』
『死なないよね?ねぇ、私10月にミスチルのコンサート行くの、ねぇあるよね?コンサート…』
教室にクラスの半数にも満たない生徒達があれやこれやと噂話をしている…亮介は横目でそれを眺めながらため息をついた…
『めでたい奴らだな…亮介』
時男が隣のクラスからやって来て亮介の隣の空席に座った…
『どう?B組は…』
『今日も一人減って7人…担任もまるで授業なんてやる気ないっ~て感じだし…』
亮介のA組に教頭の真柴が入って来た…
『何だお前達いたのか…帰りなさいッッ!もう学校には来なくていいから…それよりもっと大事な事があるだろッッ…帰って一日でも多く家族との思い出作りなさい…さ、帰った帰った!』
普通なら到底教師が放つような言葉ではなかったが今は普通ではない…
『先生ッッ!私達は勉強したら駄目だって言いたいんですかッッ!もうみんな死ぬから勉強なんてって…そう思ってるんですかッッ!?』
声は亮介のクラスの清原唯だった…
>> 373
🎐4🎐
『タイムリミットが近いからってみんながみんなそんな風に生活しなきゃならないんですかッ?普通にこれまでみたいに毎日を当たり前のように過ごしたい人だって居るはずなんですッッ!少なくとも今この教室に居るみんなはそう思ってます…だからこうしてきちんと学校に通ってるんです!違いますか教頭先生ッッ!』
真柴教頭は生徒会長でもあり生真面目な性格の清原唯の言葉に圧倒されていた…
『し、しかしだね清原君ッッ…』
『人生なんて…人の未来なんてどうなるか解らないじゃないですか…そうでしょ教頭先生…』
清原唯の悲痛な言葉に教室が静まり返った…
(清原……)
その凛とした整った綺麗な横顔を亮介はじっと眺めていた…
『とにかく…昼から授業はないから…それにもうすぐ夏休みになる…どのみち学校はお休みだ…』
早く帰りなさいと教頭の真柴は力無く言葉をかけると教室のドアを閉めた…
『…死ぬのかな…私…お母さんもお父さんも弟も親戚のおばさんもみんなみんな…ヤ…イヤ、嫌だよッッッ!死にたくないよォォォォッッッ!』
さっきまで気丈に笑っていたクラス一のお調子者の里中ゆかりが泣き崩れた…ゆかりの肩を唯はゆっくり抱き上げ泣かないでと笑った…
>> 374
🎐5🎐
『強いよな、清原って…』
『強い?何処が?私はただ最後まで当たり前の事を普通にしたいだけ…人生に悔いを残したくないから…それが強いって事になるの?』
いつも一緒に帰ろうと声を掛けれずにいた亮介だったが今日は何故か勇気が出た…その思いに唯も答える形となった…
『怖くないの?…』
『全~然ッッ!』
『え…嘘でしょ…?』
『嘘ッッ…怖くない訳ないじゃない…でも今更怖がったってどうなるもんでもないんだし…』
清原唯はトレードマークである青い眼鏡を指で持ち上げた…
『世間じゃぁまだ何とかなる、アメリカあたりがきっと隕石の軌道を変えてくれるって安心してる人もいるみたいだけど…ホント映画の見すぎよねッ…現実はそうはいかないもんねッッ…』
楽観的なのか悲観的なのか亮介には唯の性格がいまいち掴みきれずにいた…
『明日も学校来るの?』
『どうしよっかなァ~…教えてくれる先生もいないんじゃね…ハァ~』
『お、俺も同じ考えなんだッッ…ハハハ…今更どうあがいたって…それよか普通に今まで通り仲間と一緒に馬鹿やって笑いたいんだ…』
『……ふぅ~ん…』
唯はそれから何も言わずただ地面の石を必死に蹴って歩いていた…
>> 375
🎐6🎐
『《アラブの大富豪が大枚をはたいてエベレストの頂上付近に住居を建設中》か…ガハハ、笑わせるよなッ…この期に及んでまだ生き残りてぇのかな金持ちって奴はッッ…』
そう言うと亮介の父、長田学は新聞を置き、摘みのピーナツを口にほうり込んだ…
『そいやぁ隣街の建設会社のホラ、永富さん夫婦…先月カナダのロッキー山脈って山に移住したらしいわ…お金ある人はいいわよねッ…そうやって生き残る術があるんだからッッ…』
今度は亮介の母親貴子がお茶をすすりながら新聞に目を通した…
『もっと早くに隕石の接近て解らなかったのかな…』
そういうと亮介が冷蔵庫の中の蜜柑の缶詰を取り出し開け始めた…
『隕石が直撃する可能性がある数年前から世界各国の宇宙開発事業団が協力して何とか隕石の軌道を外す努力をしたそうだが無駄だったようだ…国民には動揺を避ける為に計画断念のギリギリまで隠してたんだとさッッ…フン、政府のやりそうな事だ…何だって後手後手でさッッ…結局国民の事なんて後回しなんだよな…』
学の言葉に亮介は深いため息をついた…
『とにかく後の残された時間をどう有意義に生きて行くかだ…』
亮介は半分まで開けた缶切りを見つめた…
>> 376
🎐7🎐
街は不気味なくらいに淡々と動いていた…数ヶ月前までは日本各地で警察絡みの暴動や店舗強盗等の犯罪が頻発していたが少なくとも亮介の住む街では今はもうそれは殆ど見られない…
『《静かに死を受け入れましょう》《最期の日貴方は誰と何処にいますか?》…か…最近本屋もこんな宗教的な本ばっかだな…』
駅前の本屋で立ち読みした後、亮介はいつものように学校に向かった…学校は閑散としていて人がいる気配がない…校門には《臨時休校》とだけ書かれた貼紙がはためいていた…亮介は3年A組の教室に向かった…
『誰もいないだろな…けどまッ、いいかッ!』
教室の扉を開くと亮介は一瞬ハッと驚いた…
『あ…お、おはよッ…』
そこにはただ一人教室の机で教科書を開くあの清原唯の姿があった…
『おはよ長田君ッッ…どしたの?遅刻だよ?』
清原唯は淡々とした喋り口調で視線をまた教科書にやった…
『誰も…来てないみたいだなヤッパ…ハハハ…』
『………』
亮介は清原の席から斜め後ろの三つ目の窓際の席に腰掛けた…暫くの沈黙が教室内を支配していた…
『親友の雪子がね…』
突然清原唯が話し出した…
『え?…う、うん…』
亮介は座り直した…
>> 377
🎐8🎐
『自殺未遂起こしたの…』
『え…』
『どうにか一命は取り留めたんだけど手首の傷が深くて出血も…こないだお見舞いに行ったらもう逢いに来ないでって…《どうせみんな死ぬんだから仲良くしたって一緒だから…私の事はそっとしといて!》て…私何だか無性に悲しくなって…』
蝉の鳴き声が誰もいない校庭に響いていた…
『人間って脆いよね…まだ何にも起きてないのにこんなに動揺して錯乱して自分を見失うんだ…』
『多分みんな実感が沸かないからだろ…隕石が衝突して地球が大変な事になるって事だけは認識してるけど…いざその時になってみないとその先どうなるかなんて誰にも解らない…だって地球の人間誰一人経験した事ない惨事がこれから起きようとしてるんだから…』
亮介はゆっくり窓の外を見た…
『長田君は…地球最期の日何処で誰といるつもり?』
清原唯は亮介に振り向く事もなく教科書を眺めながら尋ねた…
『え?…最期の日…誰と?…ハハハ、考えた事もないやッッ…』
そうだよね~と清原唯は笑った…
『清原は?』
質問を返されるのを期待していたのかどうかは亮介には解らなかったが清原唯はその時初めて教科書を置いて亮介の方を見た…
>> 378
🎐9🎐
【8月28日】
これまで国民には一切明らかにされてこなかったその《衝突の日》が夕方の臨時放送で開示されたのはそれから数日後だった…
『亮介知ってた?駅前のデパート、遂に品物全品無料奉仕だとさッッ!朝から長蛇の列だって!』
時男が亮介の部屋になだれ込むようにして入って来た…
『今更金儲けしてもどのみち…って思いなんだろな…しかし衝突の日が明確に知らされてから何だか益々世の中が騒然としてきたって感じだな…世界で自殺する人が後を絶たないらしいし…』
亮介は読み掛けの音楽雑誌をパタリと畳んだ…
『噂じゃぁ政府関係者や軍人のお偉方さん達は来月早々秘かに大型シャトルを飛ばして地球からオサラバするって話だぞ亮介ッッ!大事な国民を差し置いて自分らだけ助かろうって腹だよッッ、チキショウ…』
『そうして衝突を免れた所でどうせ帰還する場所はないんだ…宇宙で永遠に迷子になるよかこの地球でパァ~ッと花火みたいに散りゃいいじゃん!』
亮介は時男の前で両手を突き出すとケタケタと笑って見せた…だよな!と時男も笑い返した…《地球最期の日》…一緒に居るのはいつまでも変わらない親友相楽時男でもいいかなと亮介は感じていた…
- << 382 🎐10🎐 夏休みがやってきた…夏休みとはいっても春以降まともに学校は機能していなかったのだからただその休みの延長に過ぎない… (あと約一ヶ月…遂にカウントダウンが始まるのか…) とりあえずスーパーで身の回りの品を買い込んで亮介は周囲の雑踏に紛れながら家に向かって帰っていた… 『…ハァ~また葬式か…最近あの公民館葬式していない日が無いって位毎日のようにあぁして誰かを見送ってるよなぁ~』 亮介は申し訳なさそうに横を通り過ぎようとした… (!…えッ!?…き、清原ぁ?) 公民館の門柱に書かれた名前を見た瞬間亮介の鼓動が早くなった… (清原って…まさかッッ!) 亮介は恐る恐る中を覗き込んだ…目の前に大きな祭壇が飾られ慌ただしく係員が葬儀屋の若い衆に指示を送っていた…そしてその祭壇の端に清原唯が肩を落としてじっと座っていたのだ… (き、清原…嘘だろッッ!) 亮介は改めて祭壇にある遺影に視線をやった…遠くから見ているのではっきり確認は出来なかったが間違いなく飾られたその遺影は二つ並べられてあった… 『まだお若いのに…』 亮介の側を通った喪服の老婆がボソリと呟いた時亮介は全てを理解した! (あれって…清原の両親ッッ!)
こんにちは!わたしは👶が寝た後とかにチョコチョコみてます❤ビリケンさんの作品、とても面白いから楽しみだったんですが、終了と聞いてガッカリしてたとこです💨 が、久々にみたら再開してて嬉しかったです😍また沢山書いて下さい🙇わたし的にはゾンビの話みたいなやつが好きです!
>> 379
🎐9🎐
【8月28日】
これまで国民には一切明らかにされてこなかったその《衝突の日》が夕方の臨時放送で開示されたのはそれから数日後だった…
🎐10🎐
夏休みがやってきた…夏休みとはいっても春以降まともに学校は機能していなかったのだからただその休みの延長に過ぎない…
(あと約一ヶ月…遂にカウントダウンが始まるのか…)
とりあえずスーパーで身の回りの品を買い込んで亮介は周囲の雑踏に紛れながら家に向かって帰っていた…
『…ハァ~また葬式か…最近あの公民館葬式していない日が無いって位毎日のようにあぁして誰かを見送ってるよなぁ~』
亮介は申し訳なさそうに横を通り過ぎようとした…
(!…えッ!?…き、清原ぁ?)
公民館の門柱に書かれた名前を見た瞬間亮介の鼓動が早くなった…
(清原って…まさかッッ!)
亮介は恐る恐る中を覗き込んだ…目の前に大きな祭壇が飾られ慌ただしく係員が葬儀屋の若い衆に指示を送っていた…そしてその祭壇の端に清原唯が肩を落としてじっと座っていたのだ…
(き、清原…嘘だろッッ!)
亮介は改めて祭壇にある遺影に視線をやった…遠くから見ているのではっきり確認は出来なかったが間違いなく飾られたその遺影は二つ並べられてあった…
『まだお若いのに…』
亮介の側を通った喪服の老婆がボソリと呟いた時亮介は全てを理解した!
(あれって…清原の両親ッッ!)
>> 382
🎐11🎐
清原唯の両親の死因は都市ガスを使用しての無理心中だった…清原唯が買い物に出掛けた後決行したらしく突然の両親の死に落胆の色は隠せなかった唯は丸三日も一歩も家から外に出ようとしなかった…しかし葬儀に出向いた亮介の両親の話では清原唯は両親の祭壇の前で何故かにこやかに微笑んだという…亮介には到底理解出来なかったのだが母貴子によると何とも優しい悟りの微笑みに見えたそうだ…
『何かやりきれないよねッッ…私唯ちゃんに何て言葉をかけていいのか解らなかったわ…』
母貴子の言葉が亮介の胸に重々しくのしかかっていた…
『衝突の日を待たずにあぁやって先に逝っちまう方が楽なのかな…』
父学がポソリと呟いた…
『そんな事ッッ、そんな事あるかよッ、どうなるか解らないうちから何もかも投げ出すなんて絶対しちゃいけないんだよッッ!みんなどうかしてるよッッ、死ぬ程怖いのは解るけどそれまでにもっとやらなきゃなんない事あるはずだよッッ!』
亮介は混乱する世界にただ何も出来ないにもかかわらず訳もなく一人牙を向いていた…そうする事で自分の中の恐怖心を拭い去ろうともしているようだった…
>> 383
🎐12🎐
それから数日が淡々と過ぎて行った…《衝突の日》まであともう少しだというのに不思議と亮介の中に恐怖感や焦りのような物は無かった…いや、むしろ何もかも初めての経験で自分でもどう恐怖を感じていいのですら解らない状態だったのだ…《その日》まで一体何をして過ごせばいいのか、どんな心の準備が必要なのか…それを教えてくれる者もなく亮介はただ一人途方に暮れていた…亮介の住む街も表向きは普段と変わりなく動いているように見えたが見えない部分で少しずつ変化もしているようだった…
(あ…き、清原…ッッ)
コンビニの帰りに通った川添いの遊歩道で亮介は偶然清原唯を見つけた…あの両親の葬儀の日に見て以来だったので声を掛ける事を躊躇した亮介だったが黙って通り過ぎる訳にもいかないので思い切って声をかけてみようと決意した…
『清…原…ッッ』
亮介がか細い声で後ろから遠慮がちに声を掛けると清原唯は聞こえたのか聞こえてなかったのかただじっと本を読み耽っていた…
『あ…清原ッッ!』
『!…あぁ…長田君…』
清原唯は無機質な物体でも見るような顔付きで亮介を一度見るとまた本の方に目をやった…
>> 384
🎐13🎐
亮介は清原唯の側に遠慮がちに腰掛けた…第一声が見つからないまま数分が過ぎた…意を決して話しかけようとした時、清原唯の方から先に話しかけてきた…
『もし地球に隕石が衝突したら…どれほどの衝撃なんだろね…』
『え?…』
清原唯から放たれた第一声が余りにも意外な言葉だったので亮介は戸惑った…確かにここは両親を失った友達への同情の言葉より、そんな話題の方がかえって穏やかで差し支えない話題のような気に亮介はなった…
『さ、さぁな…俺には想像もつかねぇよッッ…』
亮介はコンビニ袋から買って来た好物のコンソメ風味のポテチの包みを無造作に開けると食べろよ!と清原唯の前に広げた…空には透き通るような真っ青な空が広がっていて入道雲が押しくら饅頭でもしているかのようにギュウギュウに湧いていた…
『本当に隕石なんて近付いてきてるのかな…何だか私達馬鹿にされてるような気がしない?全部嘘だったら…冗談だったらいいのにね…』
清原唯はポテチを一つ摘むと有難うと亮介に礼を言って笑った…
『…これからどうすんの?』
『どうって?』
『あ、ホラ…その…生活とか…』
清原唯は亮介の言葉に目を細めると微笑んだ…
>> 385
🎐14🎐
『私には兄妹とか居ないし親戚も海外に避難してもう日本には誰一人居ないみたいだし…《衝突の日》までこうして本を読んでる以外にやる事ないじゃんッッ!フフフ…』
『清原……』
眼鏡を指で持ち上げる横顔が何とも哀しそうに亮介には見えた…遠くに見える河原の河川敷で子供達が無邪気に水遊びをしている…
『ねぇこれ見て長田君ッッ…』
清原唯はさっきからずっと読み耽っていた本を亮介に見せた…
『《隕石【ハリソン1970】による世界被害予想概要》?…何だこれ…てゆぅか【ハリソン】って言うんだ今度やってくる隕石…』
『そう…五年前に初めて天体望遠鏡でこの隕石を発見したイギリス、バーミンガム国立大の天文部大学生の名前にちなんでだって!名前なんてどうだっていいよねッッ!』
清原唯のポテチを摘む手が早くなった…
『色々調べたの…ホラ私も学校で天文部だったじゃん、まさかこんな形でその知識を発揮出来るなんて皮肉だけど…』
清原唯はポテチのついた手を右腰あたりでパンパンと掃うとゆっくり隕石【ハリソン1970】について話しを始めた…
>> 386
🎐15🎐
『コラそんな所で二人して何してんだよッッ!ヒュ~ヒュ~!』
いきなり背後から亮介の肩を叩いたのは彼の親友の相楽時男だった…
『あ、お前らいつの間にそんな仲になってたんだぁ~?』
『馬鹿ちげぇよッッ!俺らはただ…』
亮介が清原唯の顔色を伺ったが清原唯は別にどうでも~と言った顔付きだった…
『で、何してんのさ、勉強?やめとけやめとけッ!地球が無くなってから東大行ったって手遅れだっての!ガハハハ…』
『だぁらその地球が今後どうなるかって話をしようとしてた所だよッタコッ!』
清原唯は亮介と時男の掛け合い漫才のような会話を聞いて声を出して笑った…
『俺も聞きたいッッ!隕石がブチ当たった後どうなるかッッ!いいだろ清原ッ?』
屈託のない時男の明るい性格に根負けしたように清原唯はいいよ!と苦笑いで頷いた…清原唯は本の裏から自分の大学ノートを取り出すと草の上に置いた…
『いい?今隕石は地球から275600㌔離れたこの位置、我々惑星とほぼ直角に地球に向かって進んでいるの…』
亮介と時男は清原唯が書いたノートの文字と絵を食い入るように見つめていた…
>> 387
🎐16🎐
『巨大隕石【ハリソン1970】は太陽系の遥か遠くの名もない木星位の大きさの恒星が自然爆発して飛び散った破片なのね…殆どの破片は隕石となり小惑星に衝突したり宇宙をさ迷ったりして消えていくんだけどこのハリソンだけは遥か彼方の我々太陽系の惑星群に本当偶然に軌道を合わせて現れたって訳…それもあろう事かこの第三惑星【地球】に何十億分の1って確率で…本来なら有り得ない天文学的確率なんだけどね…超最悪!どうせ来るなら何百年も後にしてって感じ…』
亮介と時男は唾を飲み込んだ…
『ハリソンは時速何万㌔という速さで今も真っ直ぐ地球に向かってる…到達予定時刻は8月28日午後5時03分…ブラジル、リオデジャネイロ港沖約500㌔の海上付近…到達直前の空は隕石が放つ赤い光で真っ赤に染まり風が舞いこれまで感じた事もないような地響きが起こる…』
清原唯は世界地図を広げブラジル沖の地点を丸く鉛筆で囲んだ…時男の歯がガチガチと震え出した…
『で、地球に隕石が落ちた後は予測ではどうなるんだ?』
亮介がまるで怖い者見たさの少年のように清原唯に尋ねた…
『衝突する角度速さにもよるんだけど…』
清原唯はノートを畳んだ…
>> 388
🎐17🎐
『地球の大気圏を通過した隕石【ハリソン1970】はその速度を緩める事もなくそのまま海面に激突…海溝を突き破り地中内部まで到達…その瞬間嘘のような静寂が辺りを包む…でもそれはこれから始まる壮絶な悪夢の序章…』
『お、おい清原…何か顔こぇ~よ!修学旅行の怪談話じゃねぇんだからさ、もっと普通に話せよッッ!』
時男の怖がりは以前から知っていたが当の亮介も清原唯の話にさっきから冷や汗がとめどなく流れていた…
『次の瞬間海面が異常に盛り上がり巨大な津波が出現し数十分後に各大陸の主要な港にそれが猛然と襲い掛かる!』
『津波ってったって…5m位のだろ?』
時男が亮介の後ろに隠れながら清原唯に尋ねた…
『海抜の低い南北米大陸や西アフリカ、ロシア東部を除くヨーロッパ主要都市ははおそらく第一陣の波で全て水没するッッ!』
亮介と時男は口を開いたまま止まっていた…
『波の高さは推定…5㌔㍍…いっとくけど横にじゃないわよッッ、縦によッッ!縦に5㌔㍍…想像もつかないけどそれが被害予想なの…』
淡々と話す清原唯の声に亮介と時男は改めて事の重大さを痛感していた…
>> 389
🎐18🎐
『言っておくけど津波は後から次々と大陸を襲ってくる…ホラ、水の中に鉄の球をドボンと落とした時何層もの水の波紋が現れるでしょ?あの原理…』
『日本はッッ?で日本はどうなるんだよッッ!』
時男が我慢しきれない様子で清原唯に尋ねた…清原唯は眼鏡を一度クイッと上げた…
『日本は島国…西からの津波は広大で高地の多いユーラシア大陸に阻まれ中国内陸で止まると予想されてるけど怖いのは東、太平洋側からの津波よッッ…北南米大陸で守られてるなんて思ってたら大間違いッッ!第一陣の津波で飲み込んだ北南米大陸の圧迫された海面がさらに膨張し太平洋上を西へ西へと移動…さらに高い津波となってポリネシア諸島、オーストラリア、フィリピン、台湾を飲み込んだ後…日本にやってくる!その津波の高さは想像を絶するわッッ!一瞬で何もかも…水の中に消えてなくなる…』
『…そ、そんなぁ…』
時男は顔面蒼白になって震えていた…
『悲しいかな…地球上の人類の約9割5分はこの津波の被害によって絶命するとされているの…仮に生き残ったとしても後から来る何百年間の氷河期でとても生きては行けない…』
蝉の声が止んだ…
>> 390
🎐19🎐
『…聞かなきゃよかった…まだ足が震えてるぜッッ…なぁ、カルピスソーダ残ってる?喉カラカラ!』
日の暮れた夜道で時男は亮介の自転車の後ろ座席に腰掛けたまま両手で互いの肩を摩っていた…
『…予想はしてた事だけど、いざ清原にあぁやって改めて詳しく聞かされると何か…ハァ~て感じだよな…』
『ナァ亮介、俺思ったんだけどさ…どうせ死ぬんなら死ぬ前に何かこう思い出作りたくね?何でもいいんだ…俺達に出来る事ッッ!』
『思い出カァ…そうだな…』
亮介の押す自転車のペダルが自動的にクルクルと回転している…
『みんなどんな気持ちで来たるべく《その日》に備えてんだろな…』
時男の喉が鳴った…
『さぁ…人の心の内までは解らないよ…その日を穏やかにただじっと迎える奴、神頼みする奴、まだ信じてねぇ奴、先に逝っちまう奴…人それぞれ色々だかんな…』
『なぁ亮介…』
『ん?』
時男はゴミ箱に飲んだ缶を捨てた…
『最期の日も…変わらず一緒に馬鹿やって遊ぼうなッッ…俺達…』
『フフッ…あぁ、約束だぞ時男ッッ!』
パンという掌を合わせる音が真夏の夜道に響いた…
>> 391
🎐20🎐
『だッ!誰に吹き込まれたのそんな馬鹿な予測ッッ!ハハァ…唯ちゃんねッッ!アンタあの子に逢ってまたそんな話ばっかしてるのかいッッ!?』
夕食の席で亮介の母貴子がいきなり怒り出した…
『だって事実なんだぜ…母ちゃんだってもう腹くくってんだろッッ!じゃぁ何言ったって平気だろッッ!?』
『清原さんちは自治会も一緒だしそれなりの付き合いがあったからお葬式には行ったけど…あの子は少し変わってるから付き合うなって母ちゃん言ったよね?ねッッ!?…どうしようもない子だねったくッッ…』
貴子は食器を流しに投げ込むようにほうり込んだ…
『清原は変な奴じゃないよッッ…そりゃ少し根暗な所あるけど…決してオカルトじみた変人なんかじゃないからなッッ!』
亮介は貴子を睨み付けると階段をダンダンと駆け昇り自分の部屋に入った…
『チキショッッ母ちゃん…清原の事何にも知らない癖にッッ!』
亮介はベットの上で大の字になり天井を仰いだ…
(…まぁ俺も憧れってだけでまだ清原の事何にも知らないんだけど…)
亮介はカーテン越しにじっと真夏の大三角輝く夜の星空を見上げていた…
>> 392
🎐21🎐
8月に入った頃から次第に世間が俄かに騒ぎ始めた…世界での自殺者数がこの一年で遂に3000万人を越え、人生に疲れ、どうせ皆死ぬのだからと自暴自棄となった人間が犯す犯罪も一気に加速し、各国で殺人や強盗事件が相次いだ…その余りの件数に警察機構も麻痺し、もはや躍起になって犯人を捕まえる事すらしなかったせいで益々凶悪犯罪に拍車がかかったのだ…
『嘘だろッッ…法務大臣が国連命令で来週にも全国の刑務所や拘置所に収容されている犯罪受刑者の釈放を宣言したってさ…』
亮介は新聞記事に目を丸くした…隣で時男が音楽を聴きながら雑誌を読んでいる…
『…文字通り世も末だぁね…どうせ死ぬんだから最期位お前らも好きにしな!…って事なんだな…これじゃ野放しの狼、益々犯罪に拍車がかかるじゃん!』
亮介は激しい夕立を見つめながらふとまた清原唯の顔を思い出した…
(アイツ…家で一人なのかな…淋しいだろな…)
亮介は時男のTシャツの袖を取るとついてこいッッと傘を差し玄関を出た…
『ち、ちょっと亮介ッッ、何処行くんだよッッ!』
『いいからついて来いってッッ!』
>> 393
🎐22🎐
街灯のついていない清原家はまるでお化け屋敷のようだった…
『…いないのかな…』
何度もインタホンを押すが応答はない…
『親戚んちにでも行ったんじゃね?』
透明のビニル傘を面倒臭そうに肩にかけながら時男が言った…
『親戚はもう日本には居ないってアイツ言ってた…自宅に居るはずなんだけどな…』
『あのな亮介ッ…両親が自殺しちまって同情する気持ちは解るけどさッッ…もうそっとしといてやったら?清原の事は…』
亮介は黙って踵を返すと土砂降りの夜道を歩き出した…角の児童公園を通り過ぎようとした時、亮介は公園の砂場に真っ赤な傘を確認した…
『あれ…もしかして…』
亮介は傘の遮る場所からゆっくり顔が確認出来る距離まで近付いてみた…
『清原だ…』
『嘘ッッ…何してんのこんな土砂降りの夜に…』
『な、泣いてる…ッッ!』
清原唯は両親の小さな遺影を抱きしめて一人激しく嗚咽していた…雨か涙か解らない粒が容赦なく真っ白な頬に次々と弾ける…
『…俺達の前じゃ気丈に振る舞ってさ…本当は…』
『……清原…』
いつしか真っ赤な傘はブランコの側まで飛ばされていた…
>> 394
🎐23🎐
清原唯が汗をかきながら亮介と時男のいる河川敷に現れたのはそれから2日後の8月5日だった…
『きッ、清原どうしたのさッ、』
駄菓子屋で買ったソーダアイスを口に含みながら亮介は目を丸くした…
『ハアッ、ハアッ…大ニュースよ大ニュースッッ、ハアッ、ハアッ…』
『とにかく落ち着けってッッ!ホラ、お茶飲むか?』
時男が渡した烏龍茶のボトルを一飲みすると清原唯は真夏の草の上に腰掛けた…
『私が趣味でやってるHam無線でたまたま政府機関の情報を傍受したのねッッ、ハアッ…ハアッ…したら…』
『…Ham無線ってお前…しかし色んな事やってんだな…女のくせにッッ…』
時男が清原唯に呆れていた…
『ちょっと!人の話を最後まで聞きなさいよッッ!したらね…聞いちゃったのよッッ!』
亮介と時男は顔を擦り合わせんばかりに清原唯に注目した…
『もしかしたら巨大隕石【ハリソン1970】は最悪《摩擦衝突》だけで済むかもってッッ!』
『ま…摩擦?…衝突ぅ?』
清原唯はそんなのも解んないのッッ!というような不愉快な顔をした…
『つまりッッ!隕石は地球に真っ直ぐぶつかるんじゃなくて、地球をかすり、えぐるるように通過してくって事ッッ!』
『…?はぁ…』
>> 395
🎐24🎐
『当初隕石は地球に真っ直ぐぶつかるって予測だったの…でもNASA航空宇宙局の研究者達の見解が少しずつ変わって来たんだって…』
『て事はつまり…隕石の野郎の軌道が当初の予測より微妙にずれて来たって訳?』
亮介の言葉に清原は人差し指を立てて正解!と笑った…
『どういう事?解りやすく説明しろよ亮介ッッ!』
一人だけ蚊帳の外の時男が詰め寄った…
『野球で説明すれば簡単だ…こないだまではバットに真っ芯に当たる予定だったボールがファウルチップで済むかもって事!』
『なるほ~…それっていい事なのかッッ?』
時男は清原唯を見た…
『う、うん…直撃が免れただけでも凄い事だわ…』
『イヤッホ~ッッ!やったやったスッゲ~ッッ!助かるのか俺達ッッ!イヤッヒョ~イ!』
時男は余りの嬉しさに踊り出した…
『ち、ちょっと待ってよッッ!勘違いしないでッッ!直撃しないってだけで隕石【ハリソン1970】は確実に地球に衝突はするんだからねッッ!』
亮介は踊り狂う時男を制止した…
『もっと詳しく聞かせてよッッ…《天文博士》ッッ!』
亮介は清原唯に笑いかけると清原唯は少年のような目でまたノートを取り出した…
>> 396
🎐25🎐
『いい?ここからはあくまでも私の想像…地球を霞んで通過すると言っても安心しないでッッ!その衝撃は半端じゃないからッッ…まず、直撃の津波と違って摩擦衝突の場合は一度に何回も津波は来ない…多分大きな波が1、2回程度…でも接触角度や地形、気候、その他様々な環境で状況は目まぐるしく変わるわ…』
清原唯はノートに何個も円を描いた…
『海面をえぐるのか陸地をえぐるのかでもかなり被害に差が出そう…予定通り海面だと津波、陸地部分だと推定マグニチュード16・0…阪神淡路大震災の約二倍のエネルギーが活断層にかかる…都市部だとまずどんな耐震設備を兼ね備えた建物でも倒れずに残る術はまずないと思うわ…』
亮介は生き生きと話をする清原唯を見た…これが本当に女子高校生なのかと疑う位に清原唯は淡々と自らの推測を理論立てた…
『で結局俺達はどうすりゃ…何処にいれば助かるのさッッ!』
時男が難しい話はゴメンとばかりに清原唯をせき立てた…
『巨大隕石【ハリソン1970】衝突に備えて生き残る方法はただ一つ!あくまでも一時的にだけど…』
清原唯の眉が動いた…亮介と時男は身を乗り出した…
>> 397
🎐26🎐
『私達日本国民が生き残る方法はただ一つ…隕石が東から西へ、それも中国大陸から以西の陸地をえぐるように衝突する事ッッ!そうすれば日本列島かなりの揺れは起きるけど沿岸から到達する津波の影響は最小限に食い止められるのッッ!そりゃ日本沿岸一帯の土地は津波で水没はするだろうけど関東でいうと内陸の山岳地帯、長野や岐阜、それに山梨県北部はかろうじて水没から免れる…』
『じゃさ、今からそこに逃げて衝突すんの待てばいいんじゃんかッッ!生き残る事出来るじゃんかよッッ!』
時男が鬼の首を取ったように言葉を発した…しかし清原唯の顔は曇ったままだった…
『…そんな私達日本人にだけ好都合に隕石は落ちてはくれないわよ…これは私が独断と偏見で調べあげたただの願望シュミレーションなんだから…』
『………』
亮介はなぁ~んだと萎れる時男の肩を叩いた…
『ま、自分達だけ助かろうなんて甘いよな…そだそだッッ…ハァ~』
時男が納得いかない顔付きでボソリと独り言を呟いた…
『落ち込むなよ時男ッッ!奇跡が起こるかもしんねぇじゃんかッッ!落ちてみなけりゃ解らないって!』
亮介は時男の頭を抱えて微笑んだ…
>> 398
🎐27🎐
8月14日…《隕石衝突の日》が二週間後に迫った…世界では未来に希望を失った自殺者を含む犯罪、交通事故等での死傷者の数が遂に9000万人を越えるという最悪の事態に陥っていた…亮介の住む街も殆どの家から人の姿が消えていた…新聞やTV等のメディアも中断され、政府からの隕石衝突について何の情報も得られないまま残された住民は頭を抱えて怯える日々を淡々と生きていた…亮介は迫り来る恐怖に塞ぎ込み布団に震え蹲る母親の看病をしながら自分に何か出来る事はないのかと自問自答の日々を送っていた…
『お、どうしたんだよ…時男』
玄関のチャイムが鳴り出てみるとそこにはボストンバックを抱えた相楽時男がいつになく神妙な面持ちで立っていた…
『どしたんだよ…そんな荷物抱えて…』
『亮介……ごめん…』
時男は亮介に深々と頭を下げた…
『な、何だよ…!』
『母ちゃんが…母ちゃんが…睡眠薬大量に飲んで倒れた…俺…母ちゃんの側にいて看病してやりたいから…だから…約束守れなくて本当にごめんッッ!』
『時男の…お母さんが…う、嘘だろ…』
亮介は時男の顔を見る事が出来なかった…
>> 399
🎐28🎐
『母ちゃんの里、岐阜の大垣って所なんだ…そこに家族全員で移り住もうって今から新幹線で…ホラ、清原が言ってたじゃん…もし隕石が衝突してももしかしたらあの辺りは大丈夫なんじゃないのかって…だから俺決心したんだ…亮介、俺お前も大切だけどやっぱ大事な母ちゃん放っとけねぇし…だから…ごめん…衝突の日は一緒に居られない…』
『…分かってる時男…当たり前じゃんかッッ!お母さんがそんな状態でまだ俺と居るだなんて言おうもんなら今度は俺の方がお前をブン殴るぜッッ…元気でな、時男ッッ!お互い生きてたらまた逢おうぜッッ!』
亮介は時男の髪をクシャと乱した…時男は亮介に目配せするとゆっくり振り向いて亮介の玄関を後にした…
(絶対また逢おうな…時男ッッ…)
亮介の心の中で何かが弾けた…寂しさとどうしようもないぶつけ所のない怒りが交錯し一気に亮介に襲い掛かってくるようだった…《地球最期の日…貴方は誰と何処で過ごしますか?》いつか本屋で見たその言葉が亮介の脳裏を光のように駆け巡った…
- << 401 🎐29🎐 8月21日…とうとう一週間のカウントダウンが始まった…隕石衝突に関する何の情報も得られないまま街ではあちらこちらで白い服を着た団体が神頼みで地球救済を念じて回っていた… (世紀末…フッ…いや…《惑星末》…かッッ!) 必要最小限の食料を買い、亮介は清原唯の家に向かった…野性と化した首輪をした何処かの元飼い犬達が牙を向きながら亮介に吠え立てる… (いるかな…清原…) チャイムを何回か鳴らした後、亮介は広い裏庭に回ってみた… 『何だいるじゃんッッ!返事くらいしろよッッ!』 清原唯は黒のタンクトップ姿でじっと夕方の空を見上げていた… 『……相楽君…行っちゃったんだ…』 『……あぁ…』 清原の身体からほのかに蚊取り線香の臭いがする… 『…長田君は?』 『え?……』 『長田君はどうするの?あと168時間…』 《一週間》と簡単に言わない所が清原らしいと亮介は苦笑いした… 『…そうだな…どうすんべか…段々俺の周りから親しい人が消えてくようで何かやりきれねぇ…』 『……』 『あ…ごめん…そんなつもりで言ったんじゃないからッッ…』 いいよ、気を遣わなくてと清原唯は眼鏡を指でクイッと持ち上げた…
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
君は私のマイキー、君は俺のアイドル9レス 155HIT ライターさん
-
タイムマシン鏡の世界5レス 128HIT なかお (60代 ♂)
-
運命0レス 77HIT 旅人さん
-
九つの哀しみの星の歌1レス 91HIT 小説好きさん
-
夢遊病者の歌1レス 94HIT 小説好きさん
-
喜🌸怒💔哀🌧️楽🎵
爽やかな風 背に受け 内に秘めた想い叫ぶ キラキラ光る海原…(匿名さん0)
39レス 871HIT 匿名さん -
また貴方と逢えるのなら
『その方を死なせずに済ませたいってことですね!私の国では医療が発達して…(読者さん0)
7レス 248HIT 読者さん -
タイムマシン鏡の世界
うん、鏡の世界ね、反物質という、言葉ある。まずはその反物質研究から生き…(なかお)
5レス 128HIT なかお (60代 ♂) -
北進ゼミナール フィクション物語
高恥順次恥知らず 酉肉威張ってセクハラ(作家さん0)
18レス 262HIT 作家さん -
西内威張ってセクハラ 北進
勘違いじゃねぇだろ飲酒運転してたのは事実なんだから生徒のためにはとこと…(自由なパンダさん1)
98レス 3251HIT 小説好きさん
-
-
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②4レス 142HIT 小説好きさん
-
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?11レス 148HIT 永遠の3歳
-
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令1レス 154HIT 小説家さん
-
閲覧専用
今を生きる意味78レス 526HIT 旅人さん
-
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 979HIT 匿名さん
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 142HIT 小説好きさん -
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 148HIT 永遠の3歳 -
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 154HIT 小説家さん -
閲覧専用
おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1409HIT 檄❗王道劇場です -
閲覧専用
今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 526HIT 旅人さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
35歳以上は無理なのですか?
よく女性は30歳を過ぎたら、価値がないような事を言われてますが、35歳位から婚活を始めても、本気で大…
20レス 666HIT 匿名さん -
妊娠中から旦那が無理になった
旦那(バツイチ)14上 妊娠中変わっていく体型を見てトドみたいだねと言ってきた(笑って受け流せ…
8レス 369HIT 主婦さん (20代 女性 ) -
私はどうでもいい女?
先に約束していたのは私なのに、彼氏に友達と釣りに行く約束をしたとそちらを優先されました。 どこ行く…
31レス 1058HIT 聞いてほしいさん ( 女性 ) -
考え無しで発言する旦那に疲れた
旦那に対しての不満を吐き出させてください。 旦那はビッグマウスくんというか基本的に先を見据えた…
29レス 515HIT 戦うパンダさん (30代 女性 ) -
義母との関わり方
義母との関わり方について悩んでいます。 旦那のことが大好きなのか心配なのか、 毎月旦那のシフ…
8レス 245HIT 聞いてほしい!さん (20代 女性 ) -
女です。大食いすぎて悩んでます。
今良い感じの雰囲気になってる男性がいます。両想いみたいです。何度かご飯に行ってますが、ラーメン屋さん…
8レス 271HIT 相談したいさん - もっと見る