🎈手軽に読める短編小説
皆様こんにちわ‼手軽に読める短編小説始まります…待ち合わせや夜の時間に手軽にサクッと読めちゃう、そんな小説スレです❤貴方はどのお話が好きですか?…
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>> 300
⚾25⚾
センターの矢のような送球がバックホームに向かって放たれた!
『うっラァァァッッッッッッっ!』
関谷は返球されてくるボールすら目に入らずひたすらホームベースに突進した!
『頼むゥゥゥゥゥッッッ!』
ベンチ、いや…傍野南高校応援団全員が祈るような気持ちで関谷の生還を信じた!ボールは関谷の滑り込んだ足よりも早くキャッチャーミットに納まっていた!
『!ッッ…クッソォォォォォォッッッ!』
渇ききった土のグランドに今日一番の砂埃が舞った…
『!……ど、どっちだッッ!』
誰もが目をつむった…タイミングは完全にアウトだった…
『………』
『!…ッッ、』
球場の全ての目が本塁審判に注がれた!徹はゴクリと唾を飲み込んだ…
《……アウ…》
ナイン全員が頭を抱えようとした!
《…い、いや…セーフセーフセーフッッッ!》
(え?……)
柿添商業の捕手のミットから白球が零れ落ちていた!ウワァァァァァァァァッッッッッッッッ!関谷の足が捕手のミットを捉えていた…関谷の気迫が捕手のキャッチミスを誘ったのだ!
《同点同点ッッ!何と傍野南高校、最終回に同点に追い付きましたぁァッッッ!》
ナイン全員が関谷に覆いかぶさり喜びを露にした…
>> 301
⚾26⚾
(や…やりなやがったなぁコノコノコノッッチキショッめ!)
運転中の廣沢も興奮の余り思わず拳を振り上げていた…同時に車は沖縄県営球場の駐車場に止まった…
『す、すみませんッッ、球場の放送室って何処ですかッッ?』
駐車場にいた警備員に掴みかからん勢いで廣沢は真っ先に球場のアナウンス室の場所を聞きそこに向かい走った!
『す、すみませんッッ!』
『…だ、誰です?』
長い階段を駆け上がり廣沢が扉を開けると熱気立つ狭いアナウンス室の中に二人の男女がいた…
『ち、ちょっと貴方ッッ、誰の許可でこんな場所まで…駄目ですよ入っちゃ!』
眉間に皺を寄せおそらくアナウンスの全てを統括するらしき男性と廣沢は部屋の外に出た…
『た、頼みがあるんですッッ!』
『頼みぃ?見ての通り今試合の最中で忙しいのッッ!話しなら後に…』
『今じゃなきゃ駄目なんですッッッ!』
廣沢の気迫にその男性は一瞬たじろいだ…
『放送室の中にカセットデッキってありますよね?』
『あ…ま、まぁ…』
廣沢は美佳から手渡された紙袋の中身を取り出した…
『カセットテープぅ?…これがどしたの?…アンタまさかッッ!?』
男性は何かを察したような驚いた顔付きになった…
>> 302
⚾27⚾
試合は3-3の延長戦に突入した…10回表、エース蒲地の疲労はもはや限界に達しつつあった…先頭打者に四球を与え何とか2アウトは取ったものの続く2人の打者に連続死球を与え、またもや満塁のピンチを迎えていた…
『大丈夫か?カマ…』
『あぁ、大丈夫…ここは意地でも抑えるからッッ…』
蒲地は捕手渡嘉敷由典にポンと背中を叩かれタイムを解いた内野手が定位置に散った…
《♪4番ファースト、奥村君…》
大歓声と共に7回に逆転の3ランを放った柿添商業の主砲、奥村がゆっくりと打席に入った…
『監督…蒲地…もう限界なんじゃ…』
ベンチで徹が具志堅に言葉をかけた…
『分かってる…しかし予選の試合は全てアイツが投げ抜いて来たんだ…ここまで来たらアイツと心中だ…』
具志堅は片膝に肘をついてじっと戦況を見つめていた…
《ボールスリーッッ!》
カウントは0-3となった…柿添商業スタンドから歓声が上がった…
(まずい…もうボールは投げられないッッ!)
蒲地が投げた4球目のカーブだった…
カキィィィィッッッ~ン!
打った瞬間入ったとわかる打球はグングン伸びてレフト渡嘉敷勝也の遥か上空に消えて行った…
>> 303
⚾28⚾
10回表が終了した…《7-3》…肩を落として失意に満ちた顔で傍野南高校ナインはベンチに引き上げてきた…
『…ごめん…みんな…』
蒲地がナインに謝った…
『バカ…何言ってんだよッッ…お前はよく投げたよ、ここまで…な、みんな!』
主将の島袋が気丈にエース蒲地を慰めるとナイン全員がそうだよッ!と肩を叩いた…
『野球は最後まで何が起こるか解らない素晴らしいスポーツだ…それに巡り逢えたお前らも最高に素晴らしい経験をしてきた…最後まで諦めずに仲間達と一緒に全力を出し切れッ…いいな?』
円陣の真ん中の具志堅はナインにそう告げた…主審が具志堅の元に歩み寄って来てさき程の攻撃時に柿添商業の選手がスライディングで足を怪我したとの事で治療に少し時間がかかると報告してきた…
『という事だ…静かに待て…』
ナインは試合再開までベンチに入った…熱戦に水を差すようにグランド係員が整地を始めた…
『4点差カァ…ハァ~…』
『コラ終わった訳じゃないぞセキッッ…俺達にはまだ《10回裏》が残ってるんだ!』
腕組みをしてため息をつく関谷に徹が言葉をかけた…
『あ~ぁ…神風なんて吹かないかなぁ~』
関谷は天を仰いだ…
>> 304
⚾29⚾
『…事情はよく解りましたが、しかしそんな事この試合で出来る訳ないでしょうがッッ…』
廣沢の必死の懇願に男性は困り顔でため息をついた…
『お願いしますッッ!別にそんな事は駄目だと高校野球大会規約には書いて無いはずですッッ!』
『確かにそうですが…ハァ~…』
『…別にいいじゃないですか、赤城さん…』
廣沢と赤城というその男性の会話に入って来たのはさっき放送室にいた女性だった…
『あ、この試合の選手アナウンスを担当させて貰っています大会ボランティアの手塚と申しますッ…』
手塚という女性は廣沢に丁寧に頭を下げた…
『お話聞こえてしまいました…私に出来る事なら協力させて下さい…元はといえば私だって代役なんですから…』
『あ、ありがとうございますッッ!』
廣沢はカセットテープを取り出すと手塚と共に放送室に入った…赤城はハァ~、勝手にやってよ~というジェスチャーをすると二人に続いて放送室に入って行った…
『幸運な事に今試合が中断している所ですッッ…早く編集しましょう!さ、赤城さん!』
手塚は赤城と一緒にカセットテープの中身を聞き始めた…
>> 305
⚾30⚾
柿添商業の選手の治療が終わり、審判団がグランドに散った…
『よしッ!始まるぞッッ!』
傍野南高校4点差を追う10回裏の攻撃が始まった…
《♪10回の裏…傍野南高校の攻撃…》
この回の先頭打者、セカンド早乙女が打席に入ったその時だった!
《♪8番…セカンド、早乙女君ッッ!》
傍野南ナインが一斉に球場放送室があるスコアボードに視線をやった!
『お、おい…い…今の後の声…』
『う、上原の声…だよなッッ!?』
『ま、まさかッッ!?…上原なのかッッ!?嘘だろッッ!』
ナインは全員総立ちになり驚いた…昨夜喉の緊急手術で今日此処にいないはずのあの上原美佳の声が確かにアナウンスで流れてくるではないかッッ!
『か…監督ッッ!』
徹は具志堅と顔を見合わせただ驚いて言葉が出なかった…
『上原だ…確かに上原の声だッッ!あいつ何でッッ!』
渡嘉敷勝也も由典も島袋も今井もナイン全員がこの場所にいるはずのないその上原のアナウンスの声を確かに聞いたのだ…
《プレイッッ!》
審判の掛け声で試合が始まった…
(美佳…お前ッッ…!)
徹が我に帰ると8番早乙女が初球をレフト前に運んでいた!
『ッッシャァッッ!見てろよ上原ッッ!』
>> 306
⚾31⚾
放送室では手塚と赤城が美佳のテープの編集に右往左往していた…
『次はラストバッター比紀君ですッッ!』
『はいよッ、準備オッケーだ!』
赤城は9番で9回から守備に付いていた比紀雅人のアナウンスを用意した…
『でもこれって凄いですッ…傍野南ナインがどんな組み合わせ、守備、打順の巡り会わせにも対応出来るように選手全てのパターンのアナウンスが録音されてありますッッ!…何百というパターンを完璧にッ…全てを網羅、録音するのはかなり時間がかかったでしょうねッ…』
『確かに…僕も初め彼女からこの話を聞かされた時、まるで信じられませんでした…彼女が我が身を削ってまでずっとこんな過酷な作業をしていたかと思うと何だか…これは彼女の傍野南ナインへの愛情、自分の存在価値を残す為の挑戦だったんでしょう…』
赤城と手塚は改めてまだ見ぬ上原美佳という女子高生の果てなき最後のメッセージを感じずにはいられなかった…
『さぁお喋りは後だッ…次次ッッ!』
赤城は美佳が録音した1番打者、関谷幸生のアナウンスを探した…
(美佳ちゃん…見てるかい…君の天使の声が今からナインに奇跡を起こすからねッッ!)
廣沢は気合いを入れた…
>> 307
⚾32⚾
『神風だ……』
『え?…』
『これが神風なんだよ徹ッッ!』
順平の双子の弟関谷幸生が嬉しそうに徹にそう言うと手にペッと唾を吐き一度気合いを入れ直すとネクストバッターサークルに歩み出した…
(み、美佳…お前いつの間にッッ…まさか自分が近く声が出せなくなる事を予想して…美佳ッッ!)
その時傍野南高校応援スタンドからまた凄まじい歓声が上がった!
《続いたァァァッッ!途中から守備についていた比紀君も内野安打で繋げた~ッッ!ノーアウト1、2塁ッッ、傍野南最後の最後に執念の粘りを見せますゥゥゥゥッッッ!》
『ッッシャァッッ、よう繋げた比紀ッッ!』
ベンチは正にお祭り騒ぎだった…まるで美佳のアナウンスが起爆剤になってしまったかのように各選手がまだいける!逆転出来る!と信じて生き生きとプレーしているようだった…
(上原が…俺の名前を呼んでくれるッッ…)
関谷はゆっくり打席に入った…
《♪1番ファースト、関谷幸生君…》
『ッッッッしゃぁぁッッッッありがとよッ!上原ァッッ!』
上原のアナウンスの声に関谷は打席でバットを大きく二度回すと構えに入った!
『♪かっ飛ばせッッ幸生ッッ幸生ッッ!♪』
柿添商業の投手が投球に入った!
>> 308
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『くぉっレガァァァッ、傍高魂ダァァァァァッッッッッ!』
渾身の力で振り切った関谷の打球は1塁線ギリギリを地を這うように鋭く切り裂いた!
《フェアーッフェアーッッ!》
ウワァァァァァァッッッッ!
1塁審判が大きなアクションを見せると大歓声が地響きのように兒玉したッッ!
『回れッッ、回れッッ!』
3塁コーチャーはじめ、ベンチの傍野南高校ナイン全員が総立ちとなり腕をグルグルと回したッッ!2塁ランナー早乙女が生還した…1塁ランナー比紀も3塁を落とし入れ、打った関谷は2塁へヘッドスライディングをして雄叫びを上げた!
『見たカァァァァッッッッ!ウォォォォォッッッ!』
関谷は泥だらけの顔で腰の辺りで何回もガッツポーズを見せた…
『凄いッッ!いけるぞッッ!美佳の声がッ、ナインに火を付けちまったッッ!』
具志堅は手をパチンと叩くと生還した早乙女とハイタッチした…7-4、なおも無死2、3塁という傍野南高校の大チャンスとなっていた…柿添商業内野手はタイムをとりマウンドに集まった…
『島袋ッッ、いい球だけ狙い撃てッッ!』
ヘルメットを目深に被り主将2番島袋がゆっくり打席に向かった…
>> 309
⚾34⚾
『…す、凄いッ…完全にスイッチ入っちまったじゃねぇか…傍高の選手…』
赤城が頭を掻いた…放送室でも廣沢、手塚、赤城が傍野南の驚異の粘りに目を丸くしていた…
『この声…彼女の声は彼らにとってまるで魔法のおまじないなんですね…』
手塚が廣沢に言葉をかけた…
『えぇ…部活の3年間苦しい時も嬉しい時も励まされ続けて来た彼らにとっての最高の活力剤なんだと思いますッ…』
手塚は廣沢の言葉に優しく微笑んだ…
『赤城さんッ…こんな無理聞いて下さって本当にありがとうございますッ!美佳ちゃんも傍高ナインもみんな喜んでると思いますッ、赤城さんのお陰ですッ!』
廣沢は編集作業中の赤城に頭を下げた…
『よッ、よせやいッ…アンタに礼言われる筋合いなんて…ハハハ…礼なら手塚ちゃんに言っとくれぇな!』
根は優しい方なんですよッ!と手塚が付け足すと赤城は馬鹿野郎ッ、と言って照れ隠しをした…
(さぁ、後は美佳ちゃんの為に奇跡を起こすだけだぞッ!傍高ナインッッ!)
廣沢が再びグランドに目をやったその時ッッ、廣沢の携帯電話が鳴った…
『はい廣沢です……はい…は……え、…何ですって!?…う、嘘…ですよねッッ?』
>> 310
⚾35⚾
《2番ショート…島袋君ッ!》
柿添商業投手がセットに入ると3塁走者比紀、2塁走者関谷がゆっくりリードを始めた…
《♪押~せ~押~せ~押せ押せ押せ押ぉ~せ!》
傍野南高校スタンドから地響きのような合唱が始まった…カウント2-1からの4球目、島袋の構えがバントに変わった!
『な、何ぃッッッ!?』
『スクイズッ…い、いや、セフティースクイズだぁッッッッ!』
島袋は誰もが異表をつくセフティースクイズを試みた!3塁線に転がった打球を見て3塁走者比紀がスタートをかけた!柿添商業3塁手はホームを諦め1塁島袋をアウトにした!
『ッッシャッッ!』
ウワァァァァァァァッッッッ!
『やったな、島袋ッッ!』
してやったりの表情で島袋がベンチに帰って来た…
『あと2点ッッ!あと2点で追い付けるッッ!頼んだぞッ勝也ッッ!』
1死3塁…得点差は2点…
《♪3番レフト…渡嘉敷勝也君…》
上原のアナウンスに渡嘉敷勝也がゆっくりと打席に入った…
(2点差…一発出れば…同点ッッ!)
渡嘉敷勝也はヘルメットをバットでコツンと叩くと構えに入った…
『ッッしゃ来いッッッッッッッ!』
- << 313 ⚾37⚾ 『勝也ッッ!よく球を見ろッッ!』 カウント2-2となり具志堅がメガホンで指示を送ると3番渡嘉敷勝也はフゥ~と息を吐きゆっくりと構えに入った… (頼むッ、勝也ッッ!) ベンチで徹は目を閉じ祈った…柿添商業ピッチャーが5球目を投げたッッ! 『!ッッ…ふんッッ!』 渡嘉敷勝也の鋭い打球はライナーとなり三遊間に弾き返された! 『!ッッしゃぁァァァァッッッ!』 ベンチ全員が打球の行方を追った… (抜けたッッッ!) 誰もがそう思った瞬間、渡嘉敷勝也が放ったライナーはダイビングした柿添商業ショートのグラブの中に吸い込まれていた! 《ア…アウトッッ!》 『チッキショォォォッッッ!』 ベンチのナインはガクリとうなだれた…ツーアウト3塁となり球場内は騒然となった… 『みんなッッ!何肩落としてんだよッッ!試合はまだ終わっちゃいないんだぜッッ!』 徹がいきなり立ち上がりナイン全員に激を飛ばした… 『そ、そうだな…野球は2アウトからだ…』 『そうだ!勝敗なんて最後まで解らないんだッッ!』 最後まで声を出そうとナイン全員がベンチ前に乗り出した! 《4番キャッチャー…渡嘉敷由典君ッッ》 (上原…奇跡を見せてやるッ!)
>> 311
⚾36⚾
『こ、こ、昏睡状態ってッッ…そ、それどういう意味だッッ!?一体何があった!?』
電話越しの廣沢の大きな声に赤城と手塚は驚いた…廣沢はすぐ帰るとだけ告げると悲痛な表情で携帯電話を閉じた…
『廣沢先生…な、何かあったんですか?』
尋常ではない廣沢の顔を見て手塚が声をかけた…
『…美佳ちゃんの…上原美佳の容態が悪化したと病院から…』
『!ッッて、し、手術は成功したんじゃないのかいッッ!?』
赤城が自分の事のように心配した…
『とにかく電話では詳しい事はッ…こ、ここはお二人にお任せしますッ!僕は病院に戻りますッッ!』
言うが早いか廣沢は放送室の扉を開けて廣沢は駆け出して行った…
『…赤城さんッッ!』
手塚は赤城の言葉を待った…
『と、とにかくあれだッッ…少女の方は先生さんに任せてよ、お、俺達は今出来る事を必死でやり遂げるまでさッッ!』
そうですねと手塚は頷いた…
(頑張って美佳さんッッ!彼らだって今必死に闘ってるのよッッ!)
手塚は一度深呼吸をするとテープの編集作業と録音された美佳の肉声を場内に流す作業に集中した…
>> 311
⚾35⚾
《2番ショート…島袋君ッ!》
柿添商業投手がセットに入ると3塁走者比紀、2塁走者関谷がゆっくりリードを始めた…
《♪押~せ…
⚾37⚾
『勝也ッッ!よく球を見ろッッ!』
カウント2-2となり具志堅がメガホンで指示を送ると3番渡嘉敷勝也はフゥ~と息を吐きゆっくりと構えに入った…
(頼むッ、勝也ッッ!)
ベンチで徹は目を閉じ祈った…柿添商業ピッチャーが5球目を投げたッッ!
『!ッッ…ふんッッ!』
渡嘉敷勝也の鋭い打球はライナーとなり三遊間に弾き返された!
『!ッッしゃぁァァァァッッッ!』
ベンチ全員が打球の行方を追った…
(抜けたッッッ!)
誰もがそう思った瞬間、渡嘉敷勝也が放ったライナーはダイビングした柿添商業ショートのグラブの中に吸い込まれていた!
《ア…アウトッッ!》
『チッキショォォォッッッ!』
ベンチのナインはガクリとうなだれた…ツーアウト3塁となり球場内は騒然となった…
『みんなッッ!何肩落としてんだよッッ!試合はまだ終わっちゃいないんだぜッッ!』
徹がいきなり立ち上がりナイン全員に激を飛ばした…
『そ、そうだな…野球は2アウトからだ…』
『そうだ!勝敗なんて最後まで解らないんだッッ!』
最後まで声を出そうとナイン全員がベンチ前に乗り出した!
《4番キャッチャー…渡嘉敷由典君ッッ》
(上原…奇跡を見せてやるッ!)
>> 313
⚾38⚾
渡嘉敷由典はゆっくり構えに入った…
(2死3塁…点差2点…)
『由典ッッ!繋いでいけッッ!』
ベンチの徹が喉が切れんばかりに打席の渡嘉敷由典に叫んだ!
(…頼む由典ッ…美佳の為にッ、傍高みんなの為にッッ…奇跡を起こしてくれッッッ!)
セットポジションから柿添商業ピッチャーの第3球目が投じられた!
(!クッ…あ、甘いッッッ!)
渡嘉敷由典は甘く入ったカーブを思い切り掬い上げたッッ!
カキィィィィィィ~ッッッン!
球場全体がその瞬間時間が止まった…渡嘉敷由典が放った打球はグングン伸びセンター頭上を襲った!
『!ッた!?イッタかッ!』
柿添商業センターが背面に打球を追った!球場内が大歓声に包まれた!
『ぬッ…抜けろォォォォォ~ッ!』
『は、入れッッ!そのままッッ!』
具志堅監督はじめ傍高ナインが身を乗り出すように打球の行方を追った…全員の瞼に薄い入道雲が映り込んでいた…
(よしッッ!入れッッッ!)
徹は思わず天に祈った!その時初夏の青空に一瞬だけ上原美佳のあの笑顔が徹自身の瞼に映り込んだ気がした…三年最後の野球部の夏だった…
>> 314
⚾39⚾
『…こうなってしまった原因は実際の所私にもよく解りません…精神的疲労と術後の一時的興鬱状態から美佳ちゃんの身体に何等かの障害が加わってしまったとしか考えられないんです…』
上原美佳の主治医である廣沢は美佳の両親に彼女が昨日から昏睡状態に陥った経緯をこう告げた…
『咽頭癌摘出のオペは間違いなく成功しました…医者である私がこんな事を言うなどおかしな話なんですが…後は彼女が…彼女自身が奇跡を起こすだけ…ただそれだけです…』
レントゲン灯にかけられていた上原美佳の脳のMRI画像をバサリと引き抜くと廣沢はうなだれる上原美佳の両親に頭を下げた…
『大丈夫だよ…美佳は強いから…』
美佳の両親は長椅子が並べられた待合室で肩を落としていた…
『!…せ、先生…』
美佳の父親が自分達の前に静かに立つ具志堅と香坂徹の姿を見つけた…
『…大変でしたね…』
具志堅は他に言葉が見付からないのかただそう美佳の両親に告げた…
『具志堅先生…残念でしたね…ラジオ聴いてました…』
『…い、いや…選手達はよくやってくれましたから…満足です…』
徹は肩を落としただうずくまりながら泣いている美佳の母親をじっと見ていた…
>> 315
⚾40⚾
開け放した病室から渇いた爽やかな風が吹いて来る…
『お、おばさん…』
『!…トンちゃん…さ、入って!』
何かをしていないと落ち着かないのか、翌日徹が美佳の病室に見舞いに行くと美佳の母親はしきりに林檎の皮を剥いていた…それがすぐそばで死んだように眠る美佳に食べさせる林檎でないにせよ…
『…4日間眠ったまんまなの…まるで生きてないみたいでしょ?だけどちゃんと息はしてるのよ…』
精神的疲労からか美佳の母親はまるで我が子を飼っていた動物か何かのように例えた…
『あ、さっき柿添商業…甲子園出場決まりました…』
『…そう…ごめんね…野球見る暇なくて…』
徹は今この場で話す事でもなかったと後悔した…昏睡状態で生死をさ迷う我が子の看病をする母親にとってそんな事どうでもいい事だ…徹は身を乗り出してじっと深い眠りにつく上原美佳の顔を眺めた…喉元に巻かれた包帯以外はいつも見ていたあの上原美佳の綺麗な顔だった…
『……美佳…ごめんな…約束果たせなくて…負けちゃったよ…傍高…』
『……』
美佳の母親は気を利かしたのか少し散歩に出ると言って病室を後にした…二人きりの病室にまた爽やかな風が舞った…
>> 316
⚾41⚾
『由典の大飛球は柿商センターのグラブにフェンス一歩手前でパシッ!…納まっちゃった…ハハハ…あと一歩だったんだけどな…』
徹の独り言に美佳の身体はピクリとも反応すらする事なくただ呼吸機器のスー音だけが部屋中に漂っていた…
『…なぁ美佳…あのまま傍高が同点に追い付いてさらに延長って事になってたとしたらさッ…俺にも出番あったのかな…どう思う?』
徹はすぐ目の前にある美佳の小麦色に日焼けした細く長い指に触れようとして止めた…
『みんな喜んでたぜッ…幸も島も渡嘉敷兄弟も…お前に名前呼んでもらえて…アナウンスして貰えて…凄く喜んでたんだからなッ…それで始まったんだから…あの奇跡の10回の裏が…』
当然反応のない美佳を見て徹は一度フゥ~と息を吐いた…
『…香坂…徹君だね?』
突然背後から声がして徹が振り向くとそこに美佳の主治医、廣沢が立っていた…
『はじめまして…美佳ちゃんの喉の手術をした主治医の廣沢です…』
『…は、はぁ…』
『ちょっと…いいかな?』
廣沢は徹を廊下に呼び出した…そして試合の延長であのアナウンスが流された経緯を徹に伝えた…
『…美佳の奴…アイツ…』
『美佳ちゃんから君に渡して欲しい物があるって…これ…』
>> 317
⚾42⚾
(カセットテープぅ~…?)
廣沢から手渡されたのは一枚のカセットテープだった…
『な、何ですかこれ…』
徹はカセットの裏に書かれてある文字を見つけた…
『《あの砂浜で…聞け》?…な、何の事だろ…《あの》って何処のだよッ!』
廣沢はそれだけ徹に手渡すと惜しかったな!とだけ告げて長い廊下に消えて行った…
⚾⚾⚾
美佳のお気に入りの夕暮れの砂浜はいつもと変わらぬ風景で徹を迎えてくれた…夕日が射す水平線から何隻もの漁船が長い漁を終え港に帰って来る…つい先週来たばっかりの美佳と一緒でないその白い砂浜は徹にとって何故か何処か他の砂浜に見えてならなかった…徹は砂浜のど真ん中に腰掛けると家の物置から持って来た古びた銀色のカセットデッキに美佳のテープを差し込んだ…
《ヤッホ~!トンちゃんッッ!元気ッッ!?私デェ~す!上原の美佳ちゃんですヨォ~!》
『フッ…わ、解ってるってッッ…』
突然大声で流れ出したテープの声に徹は思わずツッコンでいた…テープから流れる美佳の声に徹は思わず笑った…同時にもう何年も耳にしていないような懐かしさと淋しさが交錯した…
>> 318
⚾43⚾
《…トンちゃんがぁ~このテープを聴いてるって事はぁ~…ウェ~ン…我が青春の母校、沖縄県立傍野南高等学校は見事柿添商業に負けちゃったって事カナ?…ハハハ、当たり?》
『……み、美佳ッ…』
徹はじっと耳を澄ませて美佳の声を聴いていた…
《実はねトンちゃん…美佳はもうすぐ喉の手術に向かいます…残念な事に今日は傍高の大事な大事な準決勝戦なんだけど…こんな事になり悔しいけど仕方ないよねッ!…フフフ、だからこの録音はトンちゃんが美佳の声を聞く事が出来る本当に本当の最後になっちゃいます!…エヘヘ…》
(美佳…お、お前…)
《トンちゃん…私の夢は報道アナウンサーになる事だった…けどその夢もう叶えられそうにないから…だったら最後に…この声が出るうちに部員み~んなにマネージャーらしい事してあげたいと思いました…かなり喉痛かったんだけど頑張って録音しました…みんな…私の最後の声聴いてくれたよね?…フフフ、決して美声ではないけどねッ、キャハ…》
遠くで終業のサイレンがけたたましく鳴った…徹の瞼が熱くなった…
>> 319
⚾44⚾
《傍高の三年間は最高でしたッ!…友達の大切さを学び野球の素晴らしさに感動し…そして叶えられなかったけど自分の夢を見つける事が出来ました…先生や両親、友達や部員、みんなみんなに感謝感謝で一杯ですッッ…》
徹の目から涙が溢れた…
《あ、もしかしてこの辺りで泣いてたりしてェ~!ヤァ~い、トンちゃんの泣き虫ィ~ッッ!》
徹は思わず照れながら涙を拭いた…
《でもね…そんなトンちゃんが…》
『!…ん?』
《そんなトンちゃんが…トンちゃんが…》
『……』
徹は唾を飲み込んだ…
《そんなトンちゃんが大好きですッッ!これからもきっと…人生補欠だって大好きですッッ!エヘヘ…》
(ば、馬鹿ッッ…)
《さぁ立てッ!香坂徹ッッ!早くッッ!》
(へ?…立…つ?)
美佳はその場で徹に立って打者のように構えろとテープで指示した…
《今から人生の延長戦に入りますッッ!》
『…な?…何なんだ?』
《⑦番ピッチャー蒲地君に代わりまして…代打、香坂君ッ!背番号16ッッ!》
(み…美佳ッッ…ありがとう…美佳ッッ!)
地平線に真っ赤な夕日が静かに落ちた…
~10回の裏~完
>> 320
【⑰】~掴む男~
✂1✂
『あ~んッッ!もう少し右だったじゃん!下手くそッッ!』
女子中学生の小枝子はどうしても《超電子戦記コンバットビュー飛鳥》の縫いぐるみが欲しかった…しかし無情にも最後のお小遣いの200円はその想いと共に泡と消えてしまった…
『絶対取ってやるッ!任せろって言ったのは何処の誰よッッ!責任取ってよねッ真ッッ!』
『…んな事言われてもサァ…』
小枝子の同級生で幼なじみの茂田井真(まこと)はフゥ~とため息を付いた…
『だいたいサァ…こんな縫いぐるみ店で買えばいいだろッッ…いちいちUFOキャッチャーなんかで取らなくてもさ…』
『解ってない…真アンタ本当に解ってないよ…いい?この紫の飛鳥は激レアなのッッ!コンバットビューシリーズでも1番人気のこのUFOキャッチャーでしか取れない究極最高のお宝なのよッッ!』
『…し、知らねぇよ…んな事ッッ!興味ねぇもん…』
真は帰るわ!と鞄を背負った…
『ち、ちょっと待ってよッッ!取ってくれないのッッ!』
小枝子は真の袖を持ち引っ張った…
『自分で取りゃいいじゃんか~こんな事人に頼むなって!』
『…酷いッ…私がUFOキャッチャー下手なの知ってるくせにッッ!』
>> 321
✂2✂
(アァ…私の愛しの飛鳥様…)
真が呆れて帰った後も小枝子はずっとゲームセンターのUFOキャッチャーの器械のガラスに顔を押し付け名残り惜しそうにその縫いぐるみを見つめていた…
(…ハァ~…あの愛しの紫の飛鳥様を私のこの手の中に抱きしめさせてくれる王子様…何処かに居ないカナァ…)
先月UFOキャッチャー限定の紫の飛鳥があると知人に聞いた時から小枝子は地元千葉県内のありとあらゆるゲームセンターを探し回ってやっとの思いで紫の飛鳥が一体だけ入っているこのゲームセンターのキャッチャーを見つけたのだ…
(…こんな目の前にいるのに私の思いが…手が届かないなんてッ…まるで甘酸っぱい片思いね…グスン…)
器械に向かってブツブツ訳の解らない事を呟く小枝子を他の客がジロジロと眺めていた…
『苦戦してるようだね、お嬢さん…カッカッカ!』
意気消沈する小枝子に声をかけたのはこのゲームセンターのキャッチャー担当の片桐という年配従業員だった…
『おじさん…お願いッッ!この紫の飛鳥様私に売って下さいッッ!死ぬ程手に入れたいんですッ!』
『カッカッカ…悪いがお嬢さん…それはUFOキャッチャーの景品だ…売る訳にはいかない…カッカッカ!』
>> 322
✂3✂
『どうしても売ってくれないの?』
『あぁ…欲しいなら取るしかないねッ…カッカッカ!』
『私…飛鳥様を取る為にもう幾ら使ってると思ってんですかッッ!ケチッ…ドケチ!』
片桐は私には関係ないといった顔で不精ヒゲを指で整えると勝ち誇ったような顔つきでコインスロットコーナーに去った…
(チキショッ!毎日あしげく通ってる常連にこんな仕打ちってあるッ!?…じ、地獄に堕ちちゃえッッ!ベェ~だ!)
小枝子はまた深いため息をつくと床に置いたままの鞄をゆっくりと担いで肩を落としゲームセンターの玄関を出ようとした…
(!…ん?)
『目標確認ッッ!右斜め前方の俯き加減のアンパ○マン!』
小枝子の耳に大きな声が入って来た…小枝子はその大きな声の方を向いた…
(へ?…)
そこには全身迷彩柄の派手な服を着た40前後の奇妙な男性が立っていた…どうやら人気キャラクターのUFOキャッチャーをしているみたいだ…
(…あんな大の大人が真剣にマァ…ハハハ…馬ッッッ鹿みたい!)
小枝子は玄関を出ようと扉を開けた瞬間また迷彩服男の大きな声がした!
『よしッッ!目標確保ォォォォッッッ!』
その瞬間見事にアンパ○マンが宙に浮いていた…
>> 323
✂4✂
(すッ、凄いッ…チョット凄くないッあれッ…)
目を丸くした小枝子は玄関を出るのを一旦止めると両替械に身を潜めその迷彩男の様子を暫く眺めていた…迷彩男は数あるキャッチャーの器械を物色するようにゆっくりと見て回り、そしていきなり立ち止まると店内に響き渡らんばかりの大きな声を出した!
『次の目標確認ッ!ドラゴンボール孫○空のキーホルダー右手掛けッッ!発射ァァァァァッッッ!』
お金を入れキャッチャーのアームが動き出した…
『…!ムッ、ここだぁァァァッッッ!』
迷彩男は下降ボタンを押した!アームは見事にキャラクターの右手部分に引っ掛かるとアームと共にゆっくりと宙に浮いた!
『確保ぉッッ!オラ、見事孫○空確保ダゾッ!』
迷彩男はキャラクターの物まねをし、高らかに拳を突き上げると周りをも気にする事なく吠えていた…
(…な、何アレ…す、凄い…プロだ…キャッチャーにも…プロがいたんだッッ!)
今の小枝子にはその奇妙な迷彩男の気持ち悪さよりも確実に目標を捕え一発で成功させるそのキャッチャーの腕にただただ驚愕していた!
(これよッ…彼だわ…彼しかいないッッ!私の王子様ッ!)
小枝子は迷彩男に近付いた…
>> 324
✂5✂
『あ…あのぅ…』
小枝子は迷彩男の横に立つと不安げに声をかけた…
『…ん?…何だ少女ッッ…この僕に何か用か?』
(し、少女って…タハハ…)
見るからに奇妙な男だった…頭はスキンヘッドでどこの国の物か解らない腕章をつけ、人一人しまい込める位の黒い巾着袋を肩にかけた誰がどう見ても《あぶない奴》の象徴ともいえる男だった…
『あ…ハハハ、凄いですね…』
『…何がだッ?ん?言ってみたまえ…このイカした身なりがか?』
迷彩男の軍人口調はどこか威圧感があった…
『いや、その…UFOキャッチャー…全部一回で…ハハハ…実は見てましたッ…』
小枝子は頭を掻きながら出来るだけ下手に出ようと決めた…
『当然だァァァァッッッッ!僕を誰だと思ってるんダァーッッ!』
いきなりの大声に小枝子は驚いて耳を塞いだ!
『ッて!…そ、そんな大きな声を出さなくても聞こえますからッッッ!で、誰なんですかッおじさんは!?』
『…名乗る程の者ではない…』
(何よそれッ…さっき誰だと思ってるんダァ~て言ったじゃん…!)
支離滅裂な会話に小枝子は頭が痛くなりそうだった…
『で…僕に何の用だね、少女…』
『あの…実はですね…取って貰いたいキャッチャーの景品がありまして…』
>> 325
✂6✂
『これなんですッ…』
小枝子は迷彩男を紫の飛鳥があるUFOキャッチャーの前に連れて来た…
『…ホゥ…あの紫の小僧の縫いぐるみか…』
(小僧って何よ小僧ってッッ…失礼なッ…飛鳥様よッッ!コンバットビューの窪内飛鳥様ッッ!)
『何回やっても取れないんですッ!けど私どうしてもあの紫の飛鳥様が欲しいんです…だからその…おじさんの腕を見込んで代わりに取って頂けないかと…アハハ…』
迷彩男は腕組みをしながら暫くじっとその縫いぐるみを眺めていた…
『お願いできますか?』
『……』
迷彩男はキャッチャーの器械の周りを一周すると険しい顔付きで言葉を発した…
『少女…結論から言おう…あの小僧を確保するのは無理だッッ!』
『え…む、無理ってそんなぁ…どうしてですかッッ?あんなに身体も浮いてるし…さっきのおじさんの腕ならいとも簡単に…』
『甘いな少女…サトウキビにグラニュ糖かけて食べる位甘いッッッ!』
迷彩男はゆっくり側の椅子に腰掛けた…
『甘いって…どうして出来ないんですかッッ!?』
小枝子は一気に意気消沈した迷彩男に詰め寄った…
『いいか少女…UFOキャッチャーはそんなに甘いもんじゃない…生きるか死ぬかの世界だッッ!』
>> 326
✂7✂
『いいか少女…あの小僧の縫いぐるみをもう一度よく見てみたまえッッ!』
迷彩男は立ち上がると紫の飛鳥の縫いぐるみを指差した…
『身体は完全に浮いてはいるがほぅら…縫いぐるみに付いているタグが下の縫いぐるみに絡み付いているのだ…』
小枝子はそれがどうしたの?と首を傾げた…
『ンア~ッッ、まだ解らんのかッッ!つまり身体の部分がうまく持ち上がったとしてもだッッ!あの絡み付いたタグのせいでいくらアームで引き上げようとしても下の縫いぐるみの重みでおそらくあの小僧は落ちてしまう…』
『…じゃあつまりあのタグの部分を外さなきゃいけないって事?そんなのッッ…お金が幾らあっても足りないじゃないッッ!』
小枝子は迷彩男に詰め寄った…
『だから僕はさっきあの小僧を吊り上げるのは無理だと言ったのだッッ!僕はこう見えても百戦錬磨のキャッチャーの達人…本当の達人はな、負け戦はせんのだッッ!諦めたまえ少女ッッ!ほれ、代わりにこれを進呈しよう…シマシマ寅のしまじ○うの可愛い縫いぐるみだッッ!』
迷彩男は巾着袋からさっき獲得した戦利品の縫いぐるみを小枝子に差し出した…
『い、要らないです…寅は…私は飛鳥様が…』
>> 327
✂8✂
『おじさんお願いですッッ…私千葉県内を探しに探してやっとの思いでここで一体だけ紫の飛鳥様を見つけたんですッッ!毎日取れずに諦め家に帰っても他の誰かにこの飛鳥様を吊り上げられるんじゃないかって不安で不安で夜もろくに寝れないんですってばッッ!だからどうかッッ…どうか私のこの一途な願いを聞いて下さいッッ!』
小枝子は半ば泣きそうになりながら迷彩男に懇願した…
『……なるほど…悲痛な願いだな少女ッ!…縫いぐるみ一つにここまで命をかけれるなんて…まるで俄虫しゃらに青春を駆け抜けた昔の若い僕を見ているようだ…』
迷彩男は暫く腕組みをしながら思案すると小枝子の肩を叩いた…
『!とッ、取ってくれるのおじさんッ!?紫の飛鳥様をッッ!』
『…いいか少女ッよく聞け…人間何事も辛い険しい苦労があってこそ最高の幸せが訪れるものだ…』
『はぁ……で?』
『僕がここであの小僧をいとも簡単に吊り上げたとしよう…少女はそれで本当に満足だろうか…』
『はい…とても満足ですッ!』
『いや違うッッ!それは本当の満足感達成感ではないッッ!』
小枝子はまた首を傾げた…
『本当の満足感とは自らの手で勝ち取るものだァァッッ!』
>> 328
✂9✂
『まッ…まさか…私に取れなんて言わないでしょうねおじさん…』
小枝子は迷彩男の鬼気迫る目に不安を擡げた…
『…これでも私はキャッチャーの達人だ…依頼人と目標確保の契約を交わすとなると莫大な報酬を貰わねばならんッッ…今の少女にそれほどの報酬が払えるとも思えんからな…しかしここで会ったも何かの縁ッ!少女が頑張ってこの小僧確保に精進するというのなら微力ながらこのキャッチャーの達人の僕がアドバイス報酬は無料で力になろうではないかッッ!どうだ?』
『あ…あのおじさん?…そ、そんな大層な事ではないんですよッ…ただおじさんがサクッと手っ取り早くこの紫の飛鳥様を私に取って頂けたならそれでいいんで…ハハハ…』
小枝子は話せば話す程疲れてくるこの奇妙な迷彩男に次第に不快感を覚え出して来た…
『初対面でこんな事を言うのは悪いが少女…そんなやわで中途半端な気持ちの持ちようではこの難航不落の小僧の縫いぐるみは確保出来ないぞッッ!悔しかったら人に頼らず根性見せて自らの手で栄光を勝ち取ってみろッッ!』
『ハァ~もういいです…解りました…おじさんには頼みませんからッッ…』
小枝子は諦めるとゆっくり玄関に歩き出した…
>> 329
✂10✂
(あ~ん私の愛しの紫の飛鳥様ァッッ~!どうか誰のものにもなっていませんようにッッ~!)
学校にいる間も小枝子の心は落ち着く事がなかった…現国の教科書を頭に乗せ祈るような気持ちで小枝子は6時間目終了のチャイムを待った…
『おい小枝子ッ~今からみんなでカラオケ行くんだけどお前も行くだろ?』
『行かないッ…悪いけど帰るッッ!じゃね、バイバイ!』
真の誘いを断り掃除当番も友達に任せると小枝子は急いで鞄に教科書を詰め込み学校を飛び出した…
(飛鳥様ッ…飛鳥様ッ…ハアッ、ハアッ…お願いッッ!今日も無事再会出来ますようにッッ!あの爽やかな笑顔に会えますようにッッ!)
小枝子は電車に飛び乗ると何度も祈りながら隣り街にある例のゲームセンターに向かった…20分後にゲームセンターに到着した小枝子は財布の小銭を確認した…
(神様ァ~!私神崎小枝子、断腸の思いで宝物だった漫画とCDを全て売りに出してお金に替え全身全霊をコンバットビュー紫の飛鳥様に捧げる決心を致しましたッッ!どうか小枝子のこの想い…優しく受け取って下さいッッ!)
小枝子はよし!と拳を握り締めると紫の飛鳥が入っているUFOキャッチャーの台に向かった…
>> 330
✂11✂
『ムフフ…少女…やはり来たかッッ!』
紫の飛鳥のUFOキャッチャーに向かおうとした矢先、背後から聞き慣れた声がした…
『!…お、おじさん?』
振り向くとそこに例の迷彩男が昨日と全く同じ身なりで立っていた…
『来ると思っていたぞ、少女ッッ!やはりあの小僧を諦め切れぬようだな…』
迷彩男はニヤリと笑った…
『あ、あのッッ!もうおじさんには頼りませんから…気が散るんであっち行っといてもらえますッッ!?』
『ほぅ…自らの力で小僧を吊り上げるというのだな…ムフフ…そうだッ!その気合いこそがキャッチャー達人への道の第一歩だッ!』
『あ、あのねおじさん…私は別にキャッチャーの達人になりたいなんてこれっぽっちも思ってませんからッッ…私はただこの紫の飛鳥様さえこの手に抱きしめさえすればそれでいいんです…超満足なんですッッ!』
迷彩男は何も言わず腕組みをすると黙ってキャッチャーの中の景品の山を覗き込んだ…
『ムムッ!…こ、これはッッ!』
キャッチャーの台の中を覗き込んだ迷彩男の驚いた顔に小枝子も思わず動揺した…そして次の瞬間小枝子の目に飛び込んできた事実…
『!…な、ない…む、紫の飛鳥様の縫いぐるみがッッ…な、な、無くなってるッッッ!』
>> 331
✂12✂
『…少女ッッ…残念だが目標は既に猛者により確保されたようだ…』
『…う、嘘ッ…たった一体しかない…む、紫の飛鳥様…だったの…に…あんなに探し求めて…やっと…アァ…』
小枝子は崩れるように膝から落ちた…小枝子はあまりのショックでそこから動く事すら出来なかった…
『ム…たかがキャッチャー…されどキャッチャー…という事だ少女ッッ…この世界はまさに生きるか死ぬかの真剣勝負!キャッチャーはまさに箱の中の小さな戦場なのだッ…悔しいだろうが仕方あるまい…少女はよく戦った…諦めよッ少女ッッ!ほら、僕がさっき確保した《いたずらスティ○チ》の縫いぐるみを進呈しよう…だから元気を出せッッ!』
小枝子の余りの意気消沈ぶりに迷彩男はかける言葉を失いつつあった…そして同時に迷彩男は今までこれほどまでにキャッチャーに命をかけた人間は自分以外見た事がないと半ば驚きを隠せなかった…
『どうしたのお嬢さん…そんな所で寝そべって…』
ふいに声をかけてきたのは年配従業員の片桐だった…
『…と、と…取られちゃったんですッッ…私の愛しの紫の飛鳥様ッッ!何処の誰だか解らないけど…超KYの卑怯者ッッ!』
小枝子は肩を落とした…
>> 332
✂13✂
『アァ…お嬢さんが狙っていたあの紫の縫いぐるみならまだあるよッ…』
『…え…ほ、ホントにッ!?』
小枝子の垂れた重い頭が一気に持ち上がった!
『キャッチャーの機械が調子悪くてね…あの台毎昨日業者に修理に出したんだよッ…あの紫の縫いぐるみならほらッ、あの隅のキャッチャーの台に移してある…カッカッカ!』
片桐の話しが終わるや否や、小枝子はバタバタと一目散にそのキャッチャーの機械に駆け寄った…
『!…あ…アァ、あったぁ~…私の愛しの紫の飛鳥様ァァァ~ッッ!こんな店の片隅にポツンと置かれて…ナ、何ともおいたわしや…』
まるでショウウインドーに飾られた宝石を穴が開く程見つめる女性の如く、小枝子は一瞬にして幸せに包まれた…
『あ…有難うおじさんッッ!私が欲しいって言ってたから紫の飛鳥様だけこっちの機械に移しておいてくれたんですよねッッ…有難う…ホントに有難うッッ!』
『カッカッカ…ウチも商売だからね…ドンドンお金使ってもらわないとね…』
店の事情はどうあれ小枝子には紫の飛鳥と再会出来た事が取りあえず嬉しかった…
『聞き捨てならんな…主…』
突然あの迷彩男が口を挟んで来た…
『ん?…アンタ誰?』
>> 333
✂14✂
『今何と言った?…商売だからジャンジャンお金を使ってもらわないとだとぉ?主、貴様確かに今そう言ったな!?』
迷彩男は小枝子と片桐の間にヌゥ~ッと割って入ると片桐を睨み付けた…
『そ、そうだよッッ…それの何が悪いんだッッ…普通にいとも簡単に景品取られちゃぁ商売上がったりでしょうがッ…』
『ち、ちょっと止めてよッ…口出ししないでよッおじさんッッ!』
小枝子は二人の大人の険悪な雰囲気に割って入った…
『聞き捨てならんッッ…僕は納得いかんぞ主ッッ!』
『部外者のアンタにとやかく言われる筋合いはないよッッ!それにほら、こうしてこのお嬢さんの為にだけこの縫いぐるみを残してあげたんだ…感謝されても非難される覚えはないがねッッ!』
片桐と迷彩男は紙一枚入るか入らないかといった間隔で睨み合いを続けた…
『キャッチャー一筋20年のこの僕を見くびるなよ主ッッ!少女を騙せてもこの僕の目は欺けはしないぞ主ッッ!』
迷彩男はゆっくりキャッチャーの機械の前に仁王立ちした…
『何なんだお嬢さん…このイカれた男は…知り合いか?』
『い、いぇ…昨日初めて…ちょっと変わってるんです、気にしないで下さいッッ!アハハハ…』
>> 334
✂15✂
『ほぅ~…この少女の為だとぉ?そんな上辺だけの冗談をよくもイケシャアシャアと口に出来たものだッッ!』
迷彩男は片桐の胸倉を掴んだ!
『ち、ちょっと止めてよおじさんッッ!暴力反対ッッ!片桐のおじさんは私の為を思ってこうして紫の飛鳥様を取り置きしておいてくれたんじゃないッッ!そんな優しい人の事悪く言わないでッッ!おじさんこそ何よッッ!いきなり変な格好で現れて変な事ばっか言って…少しはキャッチャーが上手いからって調子に乗らないでよッッッ!』
小枝子は片桐にかかった迷彩男の手を解くと咳込む片桐に大丈夫ですか?と優しく呟いた…
『し、少女ッッ、騙されてはいけないッッ!いいかよく聞けッッ…ぼ』
『おじさんの話なんか聞きたくナァ~いッッッ!どっか行ってよッッ!』
小枝子の両手は迷彩男の身体を凄い力で押した!ガタンと迷彩男は飛ばされ灰皿の角で頭を打ち付けた!
『…クッ…そ、そうか…少女…僕の話を聞いてはくれないのか…』
『そうよッッ!どっか行きなさいよッッこの変態UFOキャッチャーおたくッッ!』
迷彩男はゆっくりと立ち上がると巾着袋を肩に抱え、小枝子の顔を一度見るとそのまま店から立ち去ってしまった…
>> 335
✂16✂
(アァ~ン!また駄目ダァ~ッッ!ビクともしないじゃんッッ!)
その日から小枝子の孤独な戦いが始まった…一日500円以内と決めて毎日のように紫の飛鳥が静かに佇むそのゲームセンターに足を運んでいた…
『カッカッカ、どうだいお嬢さん?お目当ての縫いぐるみはまだ取れないのかい?』
ニヤついた顔付きで片桐が近付いてきた…
『ハァ~…おじさん…もう限界ッ…私の虎の子の侘しいお小遣いが底をついて来たヨォ~!…ハァ~…』
『カッカッカ…どうしたんだい、最初の威勢の良さはッッ…まぁ頑張りなさいッッ、カッカッカ…』
(こんなにまで注ぎ込んでるのにッ、このお店に貢献してるのに…何か冷たいんだよなァ…)
顔では優しく振る舞ってくれるがどこか冷たい片桐に小枝子の心は次第に落ち込んでいった…紫の飛鳥が吊り上げられぬまま数日が過ぎた頃通い詰めているコインスロットの常連客から小枝子は奇妙な噂を聞いた…
『うそ…嘘でしょ?そんな事…』
『ホントだよッッ!キャッチャー担当の従業員が縫いぐるみの中に重り入れてるの俺この目でバッチリ見たんだからッッ!ありゃ詐欺だぜ詐欺ッッ!』
小枝子は信じられなかった…まさか片桐さんがそんな事…
>> 336
✂17✂
(まさか…そんな酷い事…しないよね…)
小枝子は常連客の言葉がずっと引っ掛かっていた…片桐さんを信じたいけど確かめたい…その日から小枝子は他のゲームをするフリをしながらそれとなく従業員の片桐を監視していた…
(…う、嘘でしょ…そ、そんなぁ!)
数日後の閉店間際の客が誰もいないキャッチャーコーナーにいた片桐に小枝子は目を疑った!なんと片桐はキャッチャーの人気のあると思われる景品の縫いぐるみの中に何やら黒い物体を入れ込んでいるではないかッッ!
(そ、そんな…酷いッッ!みんなが大事なお金で頑張って必死で吊り上げようとしてる景品の中に重りなんてッッ…あんなのいつまで経っても無理じゃない!あ、あのお客さんの言った事ホントだったんだ…きっと紫の飛鳥様の中にもッッ…ゆ、許せないッッ!)
小枝子の中で怒りの炎が燃え上がった!
『見たよッおじさんッッ!縫いぐるみの中に何入れてるのッッ!?』
小枝子は片桐の前に仁王立ちして不穏な動きをする片桐を睨みつけた!開き直ったのか片桐は詫びる様子もなく信じられない言葉を小枝子に放った!
『これがどうかしたかいお嬢さん…店の景品をどう扱おうか私の勝手だよ、カッカッカ!』
>> 337
✂18✂
『そ、そんな事しておじさん…良心が咎めないんですかッッ!UFOキャッチャーを楽しむのは何も私みたいな学生や大人ばかりじゃないんですッッ!人気キャラクターを吊り上げようと健気に頑張る小さな子供だっているんですッッ…なのにこんな…酷いッッ!酷すぎるッッ!』
『何とでもいいなさい…カッカッカ!一方で原価何円ともかからないこんなチンケな景品欲しさに目が眩み必死に金を注ぎ込む馬鹿な大人だっているんです…ここは私のお店ですッ!私が何をしようと私の自由なんですッ!カッカッカ…』
片桐は小枝子を睨み付けた!
『カッカッカ!悔しいかい?そうだろうね~ッ…悔しかったらほれ、取ってみなさいよッッ!お嬢さんの愛しの紫の飛鳥様をね!ギャハハハハ!』
『鬼ッ!悪魔ッッ!信じてたのにッ…優しいおじさんだって今の今まで信じてた私が馬鹿だったッ!』
小枝子は何も出来ずにただ悔しさと怒りが混じり合って自分をどう制御すればいいのか解らなかった…店の玄関を飛び出した小枝子は泣きながら走り出した…
(クソッ、クッ…このままで済まさないッ!キャッチャーを心から楽しむ人達の為にも絶対に絶対に許さないッッ!)
>> 338
✂19✂
『身長は165㌢くらいで丸坊主、いつも派手な迷彩柄の服を着て黒い巾着袋を担いでる目茶苦茶UFOキャッチャーが上手いちょっと危ない変なおじさんなんですッッ!知りませんかッッ!?』
次の日から小枝子は千葉県内のゲームセンターを次々訪れ、あの迷彩男を捜し回った…
『さぁ…知らないネェ~この店には来た事ないかな…』
『そうですか…』
小枝子はあの日の哀しそうな迷彩男の最後の目を思い出していた…
(おじさん…あの時きっと…きっとおじさんは全部解ってたんだよね…なのに私…おじさんに冷たく当たってしまって…ごめんねおじさん…)
ベンチに腰を降ろすと小枝子は人の中身を見抜けない自分自身が情けなくなった…
(アァ…逢いたいな…おじさん…今の私には…おじさんの力が必要なの…あんなインチキ親父が二度とあんな酷い事出来なくする為には…おじさんの力が必要なの…お願いおじさんッッ!力を貸してッッ!何処にいるのおじさんッッ!)
小枝子は決意した…あの迷彩男を捜し出し、片桐にリベンジする日が来るまでは絶対に諦めないと!…
>> 339
✂20✂
(あ~ァ…何処に居るのッ…おじさんッッ!)
何の手掛かりもなく幾日か過ぎた頃、捜索を続ける小枝子に思わぬ奇跡が起こった…
(お…おじ…さん…お、おじさんダァッッッ!)
隣町の小さな商店街のゲームセンターに男はいた!スキンヘッドに迷彩柄の服、黒い巾着袋に時折あげる奇声…それは間違いなくあの男だった…
『おじさんッッ!おじさんッッ!私ですッッ私ッッ!』
小枝子はプ○キュアのキャッチャーの台を真剣に眺める迷彩男の後ろから肩を叩いた!
『…ん?…誰だ?』
『嘘ッッ、解るでしょ!ほらえ~ッと…あ、紫ッッ、紫の飛鳥様ァ~のッッ!』
『!お、オォ!あの時の少女ではないかッッ!』
迷彩男の持つ巾着袋の中には相変わらず凄い数のキャッチャーの景品が入っていた…
『こんな所で何をしているッッ…してその後あの小僧は確保出来たのか?』
『…ごめんなさい…おじさん…』
『何を謝っているのだ…少女に謝ってもらう筋合いはないが…それよりほら見てみなさいッッ!キュアア○アが…』
『ちょっといいかな…おじさん…シェイク奢るからさ、付き合ってよ…』
小枝子はそう言うと迷彩男の袖を掴みゲームセンターから出た…
>> 340
✂21✂
『ほぅ…これがマ○クシェイクという飲み物カァ…プロテインに似ているな…』
ファーストフード店の3階の1番端の席に小枝子と迷彩男は座った…
『おじさん…ごめんなさい…変態キャッチャーオタクだなんて言っちゃって私…』
小枝子は申し訳なさそうに頭を下げた…
『少女…謝る事はない…紛れもない事実だからな…はっきり言おう!僕は変態だしオタクだ…』
小枝子は少し微笑んだ…
『やっぱりあの片桐の親父…ズルしてたのッッ!景品に細工して簡単に吊り上げられないように縫いぐるみの中に重りを入れてねッッ!酷いと思いませんッッ!?』
『…僕の思った通りだ…以前からアソコの景品にはどこか不審な点が沢山あったからな…』
迷彩男はストローを抜き取ると全体をベロリと舐めた…
『おじさん私悔しいんですッッ!紫の飛鳥様が取れなかった事よりも、みんなが楽しむUFOキャッチャーにあんな酷い細工してるって事がッッ!今までもあのインチキ親父に泣かされてきたお客さんだってかなりいるはずだし…だからお願いおじさんッッ!仇を取って!』
『仇とは…穏やかではないな少女…僕にどうしろと言うのだ?』
小枝子は身を乗り出して迷彩男を見つめた…
>> 341
✂22✂
『片桐のインチキ親父と約束してしまったの…もし片桐の見ている前でたった一回きり、200円だけで紫の飛鳥様を吊り上げる事が出来たならあの親父は今迄の行いを悔い改め、謝ってもいいと…』
『なぬ…で、少女は呑んだのかその約束…』
小枝子は首を縦に振った…
『ねぇおじさんッッ!おじさんのあの目を見張るキャッチャーの極意を私に伝授してッッ!お願いしますッッ!これはUFOキャッチャーを愛する人達の未来をかけたたった一度の最初で最後の真剣勝負、おじさんのアドバイスがないと私…私…お願いします、おじさんッッッ!』
小枝子は深々と頭を下げた…暫く沈黙が続いた…迷彩男はじっと腕組みをしながら目をつむっていた…
『…貧乏だったんだ…』
『…はいッ?』
『僕のウチは超が七つ程つくくらいの貧乏家族でな…両親がくれるのは二ヶ月に一度のたった200円のお小遣いだけだった…しかし僕にはそのお小遣いの日が楽しみで楽しみでならなかったのだ…』
迷彩男は目を閉じながら幼少期の話を始めた…
『その頃ちょうど流行っていたんだよ…こいつがな…』
迷彩男は小枝子の目の前でキャッチャーのアームを掴む真似をした…
>> 342
✂23✂
『おじさん…』
『少女…何故僕がここまでキャッチャーの達人と呼ばれるようになったのか解るか?それは毎日が真剣勝負だったからだ…当時金持ちで何でも買って貰える級友達を見ていて僕は思った…自分は貧乏だ…貧乏は貧乏なりに金持ちと同じように何とか幸せを勝ち取りたいッッ!…それが、その一途な想いがキャッチャーの道へと僕を駆り立てたのだ…何千円も払えば簡単に手に入れれる玩具を持つ金持ち達を見て痛感した…貧乏な僕が残された道はただ一つッッ!この200円という虎の子の金であいつらと同じ物を手に入れてみせる事ォッッ!それが今の私の全てなのだ…』
『あ…熱いですね…相当…』
小枝子は迷彩男の話を真剣に聞いていた…
『とにかく…おじさんはキャッチャーに対する愛情が半端じゃありませんッッ…だからこそ私はこの勝負にはおじさんが…おじさんのその熱いソウルが必要なんですよッッ!どうかお願いしますッッ!私のそばでアドバイスして下さいッッ!』
迷彩男は店員にシェイクのお代わりを頼んだがお金払って下さいと見事に断られた…
『お願いします、おじさんッッ!』
『……良かろう…少女の熱いソウルに免じて助太刀いたすッッ!』
>> 343
✂24✂
『カッカッカ…ようやく来たねお嬢さん…首を長~くして待ってたよ~』
翌日小枝子と迷彩男は紫の飛鳥様があるあのゲームセンターの玄関をくぐった…奥から脳天気な顔付きで片桐が姿を現した…
『いいかいお嬢さん…200円だ、たったの1プレイでこの紫の縫いぐるみを引き上げてみたまえッッ!まぁ100%無理だろがね…カッカッカ!』
いつの間にか小枝子の回りには人だかりが出来ていた…
『!おや?…後ろの男は助っ人かい?おやおや、アドバイスを頼むのかい…カッカッカ!いくら達人にアドバイスを受けた所で所詮ボタンを押すのはお嬢さん…繊細で微妙なアームの落下角度が解りきるとも思えませんなぁ…カッカッカ!』
『少女ッ!相手の挑発には動揺するなッッ!今は集中だッッ!昨夜のイメージトレーニングを静かに脳裏に思い浮かべるのだッッ…』
『う、うん解ったおじさんッッ…』
迷彩男は小枝子の緊張をほぐそうと優しく言葉をかけた…
『さぁ、では始めましょうか…UFOキャッチャー一発勝負ッッ!カッカッカ…』
嫌味な片桐の合図で小枝子はゆっくりと紫の飛鳥が中央に静かに眠る台の前に立った!
>> 344
✂25✂
『いいか少女…この台のアームは落下時に左斜めにずれていく癖がある…予め目標より少し右寄りでアームを止めろッ!』
『う、うん…解った…けど紫の飛鳥様の中には重りが入ってるわ…アームが耐えれるかな…』
『落下ポイントさえ間違わなければ大丈夫だ…落下目標は縫いぐるみの右脇と左頚部、これを外すとまず吊り上げる事は出来ないッッ!いいか、慎重にな…最後は自分自身を信じる事だ…少女ならやれるッッ!自信を持つんだッッ!』
迷彩男のアドバイスに一度大きな深呼吸をすると小枝子は100円硬貨2枚をチャリンと機械の中に投じた…辺りが静まり返った…誰もがその異様な緊張感と雰囲気に呑まれていた…
(まず右→①ボタン…落ち着いて~小枝子ッッ…)
小枝子の指がボタンに掛かった!心臓の音がドクドクと聞こえた…♪ピロピロピロ~電子音が渇いた室内を埋め尽くした…
(!ここだぁッッッッ!)
アームは紫の飛鳥の手前で見事計算通りに止まった!
『よ、ヨシッ、完璧だッッ!左右はこれ以上の位置はないッッ!』
思わず迷彩男が拳を突き上げた…
『問題は前後の位置だ…これで全てが決まるッッ!』
小枝子は一度唾を飲み込むと↑②ボタンを押した!
>> 345
✂26✂
♪ピロピロピロ~緊張感漂う室内には場違いな可愛いらしい電子音が響いた…アームはゆっくり縦方向に軌道を進めた…
(そうだ…そのまま…そのままだッッ!)
迷彩男は祈るようにアームの軌道を眺めていた…その時余りの緊張感で小枝子のボタンを押す手が微妙に狂った!
(は、早いッッッ!まずいッッッ!)
小枝子が思わず心で声を上げた!アームは目標より少し手前で停止すると口を開き、掴む態勢に入った!
(だッ、駄目ッッッ!このままじゃ紫の飛鳥様の胴体部分を吊り上げてしまうッッ!失敗だッッ!)
『カッカッカ…残念ですね…この位置だとアームで吊り上げる事は不可能ッッ!カッカッカ、私の勝ちですなッッ!』
片桐が高笑いを始めた…
『黙れ主ッッ、アームはまだ降りてないッッ!勝負はまだ終わった訳ではないぞッッ!』
迷彩男が片桐を睨み付けた!しかしアームは片桐、小枝子の予想通り胴体部分をガシリと掴んだ!
『む、無理だよッッ、どうしようッ、失敗しちゃったおじさんッッッ!』
『馬鹿ッ少女ッッ、最後まで自分自身を信じろッッ!信じるんダァーッッッッ!』
アームからスルリと紫の飛鳥の縫いぐるみが抜け落ちた!
(だ、駄目ェェェェッッ!)
>> 346
✂27✂
『あ~ぁ…ありゃ駄目だッッ!』
そこにいた客の殆どがそう思ったまさにその瞬間だった!
(……え……!)
諦めに目を閉じていた小枝子がゆっくり目を開いた瞬間にそれは起こった!
『そ、そんなぁ…嘘でしょ!』
片桐が頭を抱えた…
(う…そ…あ、飛鳥様…紫の飛鳥様がッ…宙にッ、宙にう、う、浮いているッッ!)
小枝子は思わずガラスにしがみついた!紫の飛鳥の縫いぐるみはタグの部分が完全にアームに引っ掛かったままそのままゆっくりと吊り上げられたまま景品受け取り口にポトンと吸い込まれた!
『き…奇跡だ…や、やった…遂に…遂に紫の飛鳥様を私がッ…このキャッチャー音痴の私が…嘘…信じらんない…』
『そんな…ば、馬鹿な…有り得ないッッ…』
余りのショックに片桐はその場に倒れ込んだ…ウワァ~ッッ!一瞬間が開いた後すぐにギャラリーからその奇跡的な吊り上げ技に心からの祝福の拍手喝采が沸き起こっていた…
『やった…やったんだ私…』
小枝子の頭の中は真っ白になった…それは念願悲願であった愛しの縫いぐるみ、紫の飛鳥をゲットした事よりもむしろ一つの事を成し遂げた達成感のほうが今の小枝子をより強く彼女を支配しているようだった…
>> 347
✂28✂
『ヤッタァッッッ!ヤッタヤッタッッ~!遂にやったよおじさ…え?…お、おじ…さん?』
小枝子が紫の飛鳥をその手に抱きしめ振り向いた時にはもうあの迷彩男の姿は消えていた…
『おじさん…嘘…何処行っちゃったのッッ!』
小枝子は店の玄関を飛び出し迷彩男の姿を捜したがどこにも確認する事が出来なかった…
(ひ、酷いよおじさん…勝手に居なくなっちゃうなんて…きちんとお礼…言いたかったのに…)
紫の飛鳥を抱きしめながら小枝子は肩を落とした…
✂✂✂
それから数週間が過ぎた…例のゲームセンターは内部職員からの告発による片桐の不正が元で警察沙汰にまで発展し結局店終いし《貸店舗》の貼紙が虚しく張られていた…小枝子はあれから何度か迷彩男を捜したが結局見付ける事が出来ずにいた…
『大事に抱えてんだな…それ…結局取れたんだ…よかったじゃん!』
学校帰りに真が小枝子に話し掛けてきた…
『…うん…』
『何だよ…せっかく愛しの飛鳥様~に会えたってのに元気ないじゃん!』
真が小枝子の顔を覗き込んだ…
『まぁね…ここに至るまではマァ色々あったからね…ネェ~飛鳥様ッッ!』
小枝子は紫の飛鳥に頬擦りをしておどけて見せた…
>> 348
✂29✂
(なぁ~んか変なおじさんだったけど…暖かい人だったナァ~)
イブの夜…自宅の大きなクリスマスツリーのすぐ横のソファーで小枝子は仰向けになりぼんやりテレビ画面を眺めていた…
《次のニュースは少し変わったサンタさんの話題です…千葉県内にクリスマスイブの夜に毎年孤児院を廻りプレゼントを配って回る身元を明かさないサンタさんがいます…そのサンタさんは何と迷彩服を着て黒い巾着を持つという少し風変わりなサンタさんで…》
(!…ん?迷彩…巾着ぅ?)
小枝子は跳び起きて画面に食いついた…
《彼のクリスマスプレゼントは何と彼自身がUFOキャッチャーゲームで獲得した景品でかなりの腕前を誇る自称キャッチャーの達人という事だそうです…》
(お、おじさんッッ!おじさんだッッ!間違いない…)
《彼自身幼少期は貧乏だったそうでそんな同じ境遇の貧しい身寄りない子供達の笑顔が見たいとの事で毎年こうして善意の寄附をして下さっています…》
(おじさん…有難う…有難う…なんか私ッッ…アァ…)
小枝子の目に涙が溢れた…
《なおこのサンタさんの好物は冷たいマ○クシェイクだそうです…》
~掴む男~完
>> 349
⑱~原稿犯~
📝1📝
『イヤァ乗りに乗ってますネェ~俄夢(がむ)先生ッッ!今週号も《雪の微笑み》読者投票断トツの一位ですよッッ!』
少女漫画雑誌では珍しい男性少女漫画作家、涌井俄夢の編集担当である九鬼恭平がニコニコ顔で俄夢の仕事場に入って来た…
『佳境に入ってきた主人公《一之瀬衛》と《日向加奈子》の切ない恋路に読者はもう目が離せないッて感じ…ンン~凄いですよ男性なのにこの先生の微妙に揺れ動く女性の繊細な感性描写はッッ!正に秀逸ッッ!』
つい最近までタメ口を聞いていた俄夢より一回りも年上の俄夢の編集担当である九鬼は俄夢の漫画《雪の微笑み》が大ヒットした途端手の平を返したように俄夢に対して低姿勢で接するようになっていた…
(ハァ~…怖い怖い…)
俄夢は九鬼のあまりの変貌ぶりに売れたら勝ち!の泥ついたこの世界の縮図に一抹の不安を抱くばかりであった…
『先生ッッ…今週号の原稿締め切り明後日ですが間に合いますか?』
主人公の顔にペンで目を入れている最中に九鬼が不躾に話しかけてきた…
『大丈夫ですよ…明日中には仕上がりますから…』
手の平を揉みこねながら九鬼は笑顔でよろしくお願いしますとだけ告げると部屋から出て行った…
- << 351 📝2📝 (フゥ~…あとはこのページにトーンを貼って終りだ…) アシスタントを帰らせた後も俄夢は一人今週号の原稿の仕上げに入っていた…殺伐とした暑い室内で俄夢は飲みかけの温いコーヒーを飲み干すと大きく背伸びをした… (夜中の2時…カァ…ハァ~!) 一気に俄夢に眠気が襲い始めた…この世界に慣れて来たとはいえ、丸二日徹夜の作業は体力のある若い俄夢とてかなりの疲労感であった… (少し休むカァ…) 染みだらけのソファーに横たわると俄夢は毛布を被った… ♪Piriri!Piriri! 突然俄夢の携帯電話が静かな室内に鳴り響いた! 『!ッあッ、ビックリしたぁッッ…ンモッ誰だよッッこんな夜中にッッ!はいモシモ~しッッ!』 《………》 『もしもし?…九鬼さんっスかぁ?』 《………》 僅かに雑音がするが声が聞こえない… 『……ンモッかけ間違いっすよッッ…もう一度番号を確か…』 《……新宿駅ニ爆弾ヲ仕掛ケタ…》 『は…はいぃ?爆…弾ん?…っぅか誰オタク…?』 俄夢は眠い目を擦った… 『あのねッ…爆弾がどうしたか知りませんけどアーミーゲームか何かならよそでやってもらえます?』 《今カラ言ウ事ヲ良ク聞ケッッ!》
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