🎈手軽に読める短編小説
皆様こんにちわ‼手軽に読める短編小説始まります…待ち合わせや夜の時間に手軽にサクッと読めちゃう、そんな小説スレです❤貴方はどのお話が好きですか?…
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>> 100
🌟11🌟
『凄くカッコイイですよ、お爺さんッッ!』
残暑も終わり次第に秋風の匂いが肌を触るようになった…夏奈子はその小さな地蔵を《蛍地蔵》と名付けた…雨風を防げるよう夏奈子は町の職員と石材店にお願いしてその地蔵をバス停の小屋の傍に静かに建立した…
『これで良かったんですよね…お爺さん…』
与貴弥吉の葬儀はしめやかに質素に執り行われた…夏奈子はその葬儀に参列した…弥吉の娘夫婦、つまり孫娘、富樫舞子の両親は弥吉の葬儀には来なかった…舞子の死をまだ受け入れられない精神的ショックと娘を救えなかった弥吉への憎悪と妙な確執とが彼らをそうさせたのだと葬儀で弥吉の親類が話していたらしい…
『…お爺さん…私は貴方のようには生きれないと思います…』
夏奈子は蛍地蔵に手を合わせると石材店に別注文で密かに依頼しておいたさらに小さな地蔵をその蛍地蔵のすぐ横に置いた…
『お爺さん…舞ちゃんも一緒ですよッッ…』
>> 101
🌟12🌟
【孫の舞子は蛍が大好きでした…もし書生が死んだ折にはこのお金でどうかあの場所に地蔵を建立して頂きたい…もし舞子を殺めた罪人が改心し、心底その罪を償いし気持ちになれば再びこの地に足を踏み入れよう…その時この地蔵があればその汚れし心、少しは後悔の念悔いてくれれば書生は本望である…地蔵建立に当たり、地元の石材店及び吉備名町役場の連絡先をここに記さん…最後にお嬢さん…舞子の分まで長生きされん事心より祈る…平成○年○月○日…与貴弥吉】
《次のニュースです…今年7月、長野県吉備名郡吉備名町の県道で当時5歳だった富樫学さんの長女富樫舞子ちゃんが轢き逃げされた事件で今日未明、岐阜県大西町の山林で容疑者の遺体と手配車輛が発見されました…容疑者は林元男20歳…調べによると林は事故車輛で走行中誤ってガードレールから転落した模様…事故車輛を調べた所、割れたフロントガラス一面にこの季節には珍しい無数の蛍の残骸が張り付いていたとの事…捜査本部は……》
⑨~蛍地蔵~完
>> 102
【⑩】~ESCAPE GAME~
🔥1🔥
【《ESCAPE GAME》とは中東マスランダ軍最高指導者ダイーが捕虜の身柄解放の為考案した世紀軍捕虜収容所からの脱出ゲームである…】
『痛ッッ!人の体だと思ってそんな乱暴に扱わないでよッッ!』
窓もない無機質な鉛色の牢獄にリサ・ボナコフは粗雑に放り込まれた…
『私は兵士でも技術者でもないタダのジャーナリストよッッ!どうして此処に収容されなきゃならないのッッ!』
牢獄に鍵をかけるマスランダ軍の兵士に向かってリサは必死に訴えた…
『…疑わしきは捕獲しろとのダイー将軍の命令でなッ…悪く思うなよッ!』
銃を小脇に抱えたマスランダ軍の兵士は含み笑いを浮かべながら持ち場に去って行った…
『チキショッッッッ!!』
牢獄の金網を一度思い切り蹴り上げるとリサはその場でしゃがみ込んだ…
『アンタ…ジャーナリストなんだ…フゥ~ン…』
リサの背後で声がした…振り返るとその牢獄には5人程の捕虜らしき女性が座っていた…その内の妙に体格の良い金髪の女がリサの元に歩み寄って来た…
『ようこそ!サガン世紀軍捕虜収容所へッッ!』
金髪の女はリサに握手を求めて来た…
(………!?)
>> 103
🔥2🔥
208○年…世界は残虐な過激派テロの毒牙に蝕まれていた…国連を傘下に置く各国の連合組織からなる《世界平和維持世紀軍(通称…世紀軍)》は中東アラブを基点とする最大規模の過激派テロ組織《マスランダ》との抗争を余儀なくされていた…世紀軍はペルシャ湾一帯に最新鋭の空母を無数に駐留させ、 陸上では装甲車や戦車を駆使し、圧倒的武力でマスランダの聖都を制圧した…だがマスランダ軍も地乗りを生かしたゲリラ戦で応戦し、両軍一歩も譲らないガップリ四ツの《百年戦争》に突入していた…
『……』
『捕まっちゃったんだ、お気の毒に…奴ら世紀軍ってだけで誰かれ構わず目の色変えて捕まえにくっからねッッ…』
金髪の女はリサの横に座りため息をついた…
『アタイはシンディ…シンディ・モーガン…アメリカ海兵隊第26次作戦部隊にいた女性兵士ッ…って言ったって判んないかッッ!ハハハ…アンタは?』
『私?…わ、私はリサ・ボナコフ…ロシア国際日報ジュネーブ支部に所属する新聞記者兼カメラマン…て言ったって…判んないよね?』
リサとシンディは互いの顔を見合わせ笑った…
>> 104
🔥3🔥
『このサガンは砂漠のど真ん中にある…夜になると零下5度位になるから気をつけなッッ…』
シンディは牢獄に収容されている残りのメンバーをひと通り紹介すると奥の棚から毛布を取り出しリサに投げた…
『あ…有難う…』
『シンディは長いの?…ここ…』
リサはカビ臭い湿った毛布を匂い、眉間に皺を寄せた…
『もう2年位になるかなッッ…ルイロの町のゲリラ戦で捕まってそのまま捕虜としてこのサガンに連れて来られたんだ…最初は最低最悪~の生活だって落ち込んでたけど毎晩食事に出てくる豆の煮付け料理のマズさだけ我慢したらまぁまんざら生活しにくい所ではないよッッ…』
シンディは海兵隊員だけあってまるでボディビルダーのような筋肉を備えていて何処を取っても無駄のない締まった体をしていた…
『私は…こんな所何時までもいる気は…ない…』
リサは親指を噛むと真っ直ぐ視線を落とした…
『……まさかリサ、アンタ…入って早々妙な事考えてるんじゃないだろうねッッ!?脱獄なんて止めときなッッ!この収容所は砂漠のど真ん中にあって仮に外に出られても場所も方角もまるっきり判りゃしない…脱獄なんて自殺行為だよッッ!』
シンディは唇を噛み締めた…
>> 105
🔥4🔥
『ここサガン収容所はおそらく世紀軍前線基地がある遺跡都市スラマーの北約100km程にあるはず…』
リサはシンディにこの砂漠収容所サガンは世紀軍の前線基地にさほど遠くないという事を語った…
『…は?、嘘ッ…冗談キツイねッ…サガン収容所が世紀軍の基地のそんな至近距離にあるだなんて…信じらんないよッッ!』
シンディはソッポを向いた…
『シンディ…私、何年この国でマスランダのスクープ記事追いかけて来たと思ってるの!?こんな事冗談で言えるはずないじゃない…』
『……それ確かなのッッ!?』
リサの真面目な顔つきにシンディは思わず組んでいた脚を座り直した…
『かなり信憑性高いわ…正確な方角は私しか知らない…』
『じゃあもし…もしもよッッ?…ここから出られたら…世紀軍に連絡してこのサガン収容所を一気に叩けるじゃないッッ!捕虜を救う事だってッッ!』
シンディの目が期待と希望で爛々と輝いているようだった…
『リサ…アンタまさか…』
『そう!…このサガンの所在地を正確に知りたかったのッ!だからあえて…フフフ…』
シンディはリサの大胆不敵な行動に目を丸くした…
>> 106
🔥5🔥
『食事は私語をせず黙って摂れッッ!制限時間は10分だッッ!』
体育館程の広い部屋に世紀軍の軍事捕虜達総勢200名程が一斉に食事を摂っていた…
『…マスランダ軍の捕虜収容所の中でもここサガンは一番警備が厳しい場所だって聞いたわ…』
シンディの隣の席でリサは看守の兵士に気付かれないよう静かにシンディに話しかけた…
『そうさ…ここサガンは世紀軍の幹部クラスの重要軍人捕虜を収容してる所だって噂だよ…手荒な拷問で上層部から一気に口を割らそうって魂胆らしい…ったく、酷い事するよね…ダイーの野郎ッッ!』
『…そんな難航不落の収容所から抜け出す方法なんてあるのかしら…』
リサは自分からこのサガンに収容された事を少し後悔していた…余りにも尋常でない警備兵の数、入り組んだ施設の地形構造、そしてこの寒暖の気候差…どれをとってもやはり簡単に実行とはいかないようだ…
『…リサ…ここから出たいかい?』
『…え?…何か考えがあるの、シンディ…?』
『面白い話がある…後で話すよ…』
そう言うとシンディは皿に盛られたいつもの豆料理を一気に口に放り込んだ…
>> 107
🔥6🔥
『え?…《ESCAPE GAME》?…それって何なの?』
『2年に一度だけダイーの誕生日6月16日に開催されるマスランダの宗教祭の一環として捕虜収容所の中の希望者だけが参加出来る《生死をかけた脱獄ゲーム》の事さ…』
シンディは見回りに訪れる警備兵の目を気にしながら毛布を被りリサに説明した…
『生死をかけた…って…それどういう事?もし脱獄に失敗したら死ぬ…いや、殺されるって事?』
シンディは射撃の真似をしながらゆっくり頷いた…
『ルールは簡単さ…スタート地点のこの監獄棟から一時間以内に収容所の正門前の広間まで辿り着ければ我々の勝ち…』
『そんなの…15分もあれば辿り着けるんじゃ…』
シンディは目を閉じた…
『それがそう簡単には行かないんだよッッ…正門までの距離は短いが途中に何箇所かの難関があるんだ…それに…』
『それに?…』
『捕虜がスタートして10分後に銃を持った警備兵が逃げた捕虜の後を追いかけてくる…もしそいつらに見付かれば…バキュン!』
『…そ、そんなぁ…酷い…』
リサは思わず頭を垂れた…
『チャンスはやる…が命の保証はない…奴らにすればこれはチョットした娯楽なんだろよッ!』
>> 108
🔥7🔥
『ゲームに失敗すれば収容所からの脱獄犯と見なされやむなくその場で射殺したと言う奴ら独自の判断なんだろね…だがもしこのゲームに成功すれば…その捕虜の地位、階級に関わりなくダイー将軍様から恩赦が与えられるってぇ訳…』
『恩赦…つまり逃して貰えるの?』
シンディは頷いた…
『そんなの信じられないわッッ!ゲームに成功したからってあのダイーがすんなり捕虜の解放に同意する事なんて有り得ないッッ!』
リサは地面を拳で叩いた…そして間髪入れずにシンディに尋ねた…
『…今までにそのゲームに成功した捕虜はいるの?』
『過去に13人の捕虜が自由を勝ち取る為にこのゲームに挑んだけど全員失敗…正門まで辿り着けたけど時間オーバーで命だけは助けられたたった一人を除いてはねッッ…』
リサはゆっくりシンディの方を見た…
『ニヒヒ…その一人ってのは、ワ、タ、シッッ!だけどねッッ…アハハハハ!』
リサは驚きのあまり大声を出しそうになったが慌てて口を押さえた…
『だけどほらッ…アタイはペナルティって事でこんな事されちまってさ…』
シンディは眼帯を取った…右目は焼けただれ見るも無惨な状態だった…
>> 109
🔥8🔥
『これより3日間、《ESCAPE GAME》の参加希望者を募るッッ!偉大なるダイー将軍様のご慈悲である事を真摯に受け止め、勇気ある者、再び生きて祖国の地に足を踏み入れたし者は各監獄棟担当官に参加希望の旨を報告せよッッ!以上ッッ!』
『…どうするリサッ…やるのか、やらないのか…』
リサは牢獄の中で一人考え込んでいた…シンディは深呼吸するとゆっくりリサの横に座った…
『…アタイと一緒にやるってぇなら…勝ち目はあるッッ!』
シンディは力強く言い切った…
『…シンディ…』
『アタイはこのゲームを一度経験している…だから警備兵や他の連中も絶対解らない逃走ルートだってあるんだ…少し厄介な関門もあるけどきっと今度はうまく行く…だからアタイはもう一度やるッッ!…だからリサ、アンタも勇気出してやってみないか?此処から出さえすりゃぁこっちのモンさッッ…後は世紀軍の前線基地に辿り着けさえすりゃ一気にマスランダの主力を壊滅出来るんだよッッ!どうだい?…アタイがアンタを責任持って守ってみせるよッッ!だからやろうよッッ!皆の自由と平和の為にさッッ!』
シンディはリサに笑いかけた…
>> 110
🔥9🔥
『12人か…今回はえらく多いじゃないか…命知らずがッッ!』
アルコール度のキツイ酒を一気に飲み干すとマスランダ軍最高指導者であるダイー・ムハマドは苦笑いをした…
『今年は何人失敗するでしょう…将軍様ッッ!』
側近が悪戯っぽくダイーに質問した…
『おいおい、《何分もつか?》だろ?ガハハハハ!』
黄色いターバンを巻いた顔中が殆ど髭だけのダイーは下品に笑った…
『おい、それはそうと例の話は本当なんだろうなッッ!まさかガゼネタではあるまいなッッ!?』
側近はダイーにそっと耳打ちした…
『それは面白くなって来たな…』
ダイーは砂漠の真っ暗な窓の外を眺めて一人ほくそ笑んだ…
🔥🔥🔥
『決心ついたんだねリサッッ!それでこそ世紀軍の誇りだよッッ!』
次の朝リサは悩みに悩んだ挙げ句、シンディ・モーガンを信じてこの死の脱獄ゲームに参加する意志を固めた…
『いいかいリサ…?まともに正門まで走り抜けるのはタダの馬鹿な奴がする事ッッ…相手の裏の裏をかかなきゃね!逃走ルートは全部私に任せなッッ!絶対に時間内にリサと一緒にゴールしてみせるッッ!』
リサとシンディはその夜から念入りな打ち合わせに入った…
>> 111
🔥10🔥
6月16日…マスランダの宗教祭の日がやって来た…
《これより【ESCAPE GAME】を開始するッッ!》
高らかな号砲とともにこのゲームに参加する捕虜12名がソファーに座るダイーの目の前に並ばされた…
『ダイー将軍のご慈悲を受け、懸命に自由が待つゴールまで走り抜けるがよい!』
無数の花火が打ち上がった…
『いよいよだねッ…』
『う、うんッッ…』
『大丈夫だよリサッッ!アタイがついてるから心配いらないよッッ!』
シンディは緊張するリサの肩を叩いた…
『!?…おやおや、これはこれは…リベンジマッチですかなッッ!?』
突然シンディの姿に気付いたダイーがシンディの目の前に立った…
『…おいオッサン…口臭いからあんまりアタイに近寄らないでよッッ!』
シンディはダイーを睨みつけた!
『一度経験したからといってそんな生易しいモノではないぞッ…フフフ…!』
次の瞬間シンディの顔面にダイーの拳が突き刺さった!流石のシンディでもその拳に吹き飛ばされた!
『ックショ!イテェじゃねぇか!』
『口を慎め、この愚か者がッッ!今ここで殺してやろうかッッ!』
ダイーは今度はシンディのお腹に数発蹴りを打ち込んだ!
>> 112
🔥11🔥
『あんの野郎ッッ、いつか世紀軍の前で土下座させてやるッッ!』
『シンディ、落ち着いてッッ!…挑発に乗っちゃ駄目ッッ!…今は我慢しなきゃ…』
リサはゆっくりシンディを抱き上げた…
《ルールは事前に伝えた通り、至って簡単だ!…此処から正門までの約1、7kmを走り抜け一時間以内にその正門にある扉の銅貨を外したらお前達の勝ちだ…銅貨は人数分だけきちんと用意してある…全員クリアする事を願っている!》
側近の合図と同時にファンファーレが鳴り響いた…参加者12名が横並びにスタートラインについた…
『リサ聞いてッッ!』
シンディが小声でリサに言った…
『スタートしたらあの前方に見えるT字路を右だよッッ!いいねッッ!』
『ち、チョット待ってよシンディッッ!右に行ったら行き止まりだよッッ!確か厨房のはずッッ!』
リサが話し終えないうちにスタートのピストルが鳴ったッッ!!
《スタートッッッッ!!》
(え、…えッッ!?)
突然参加者全員が走り出したッッ!
『あ、ま、待ってよシンディッッッ!!』
『早くリサッッ!チンタラ走ってる時間なんてないよッッッ!!付いて来なッッ!!』
リサは訳も解らずシンディの後を追った…
>> 113
🔥12🔥
生死をかけた【ESCAPE GAME】が今幕を開けたッッ!!参加者12名中、女性はリサとシンディだけだった…腕に覚えのある参加者の男達はまるで亥の大群のように正門のある方向に走り出していた!
『ハアッ、ハアッ…シンディ、シンディ待ってったらッッ!』
さすがに元海兵隊隊員だけあるシンディは男性顔負けの走りを見せていた…リサもシンディのすぐ後を必死で追い掛けた…
『ハアッ、ハアッ、…リサッッ!T字路だよッッ!解ってるねッッ!』
シンディは殆どの参加者が左の進路を取ったのに対し、逆方向の右の進路を選択したッッ!
(大丈夫かな…ハアッ、ハアッ…行き止まりだよッッ!)
一抹の不安を抱えながらリサもシンディの後を追い、進路を右に取った…するとリサの後ろを二人の男性参加者が追って来た…
『シンディ、ハアッ…後ろから他の参加者も追ってきてるよ…ハアッ、ハアッ』
『…だろうねッッ…ハアッ、ハアッ…』
シンディはそうなる事を予想していたかのようにチラチラと後ろの男性二人を眺めながら長い廊下をひた走っていた…
(どうしてみんなッッ…ハアッ、ハアッ…こっちは行き止まりだよッッ!!)
リサはこのゲームに参加した事を少し後悔していた…
>> 114
🔥13🔥
シンディとリサは厨房の扉に辿り着いた…後を追って来た男性二人が同時にそこに着いたその時、けたたましいサイレンが収容所内に鳴り響いた…
『…追跡者よッッ…奴らが来るッッ!』
このサイレンはスタートしてから10分経過した後に追跡を開始する兵士達の合図だった…銃を持って追い掛けてくるマスランダ兵に見つかるとその場で射殺される…これはまさに生きるか死ぬかのデスマッチなのだ…
『ハアッ、ハアッ…どうするのシンディ…ハアッ、ハアッ…』
『厨房のダクトの中に細い抜け道があるッッ…人が一人通り抜けれるかどうかって位の細い通路がねッッ…そのダクトを通れば兵士に見つからずかなり先に行けるわッッ!』
シンディは男性二人と一緒に協力して厨房に入る扉を蹴破った!
『さぁ、こっちよッッ!』
シンディが冷蔵庫の横にある金網を壊すと通気口のような穴があった…
『さぁリサから早くッッ!グズグズしてたら追跡者が追ってくるよッッ!さぁッッ!』
シンディは先にリサを通気口の中に押し込むと自らも続いた…二人の男性も急いで二人に続いた…
『ハアッ…ハアッ…せ、狭いッッ…』
『気をつけて…ゆっくりねッッ…ハアッ、ハアッ…』
>> 115
🔥14🔥
『アタイはシンディ・モーガン…こっちはリサ…ハアッ、ハアッ…アンタ達は?』
『第8監獄棟にいたビルだ、ビル・クロスビー、コイツはスペイン軍人のサラス・アントニオ…ハアッハアッ…宜しくなッッ!』
『色々聞きたい事あるけど後で聞くよッッ!』
その細い通気口は先に行けば行く程段々と狭くなっていく…
『ハアッ、ハアッ…ねぇシンディ…もう限界ッッ…もう人間一人も通り抜けれないよッッ!』
『いいかいリサ!上を向いて両手を上げるんだッッ!背泳ぎの体勢でゆっくり足の裏で地面を蹴って反り進むんだッッ!』
リサはシンディに言われた通りに仰向けで両手を真っ直ぐ上げながらゆっくり進んだ…
『す、凄いシンディ!…ゆっくりだけど確実に距離を取る事が出来るッッ!』
リサはシンディのアドバイスに感心した…
『その背泳ぎの体勢が人間の骨格上、一番細くなれる体勢なんだッッ!覚えときなッッ!』
四人は狭くて暗い空気の薄い通気口の中をひたすら反り進んだ…暫く進んだ後、リサの手に穴から出た感触があった…
『!シンディッッ…風だッッ!手に風を感じるッッ!』
『おめでとうッッ…第1関門見事突破だッッ!』
>> 116
🔥15🔥
『!…ここは?』
『正門のすぐ下の下水道さッッ!ハアッ、ハアッ…』
穴を抜けるとそこは下水道だった…カビ臭い匂いと汚物の悪臭が鼻をつく…
『ハアッ、ハアッ…少し休もう…3分程…』
さっき通り抜けた狭い通気口の中は空気が薄く四人は軽い酸欠状態にあった…
『…で?ビル・サラス…アンタらはどうして他の連中と一緒に左の通路に行かなかったんだい?』
シンディが座り込みながら尋ねた…
『シンディ・モーガンに付いて行けば確実にゴール出来るって思ったからさッッ…アンタ前回のこのゲームの生き残りなんだろ?聞いたぜ…』
白い歯を見せながらビルとサラスは笑った…どちらも人の良さそうな青年にリサには映った…
『俺達だってここから脱け出して祖国の家族に逢いたいんだ…少しでも確率の高い道を選びたかったのさッッ…』
訛りの強い言葉でサラスが言った…
『フッ…それはそれは…エラく英雄扱いしてくれんだねッッ…まぁいいさ、同士は一人でも多い方がいいからねッッ!』
シンディとリサはビル達と握手を交した…
『さて…問題はここからだよッッ…』
シンディはゆっくり腰を上げて辺りを見回した…
>> 117
🔥16🔥
『チクショウ!何てこったッッ!』
シンディは腰に手を当て頭を垂れた…
『…ど、どうしたのシンディ!?』
『ホラ、前を見てみな…落盤さ…』
『落盤?』
リサ達の目の前には無数の巨大な岩が積み重なっていた…
『前回のゲームの時はこの先にある通路から正門の南の井戸に抜ける事が出来たんだけど…おそらく地震か何かでその通路が岩で塞がれちまったみたいだよ…チッ、ついてないよッッ…』
『で、どうするんだよ、シンディ!?』
藁をも掴むような声でビルとサラスはシンディに問い詰めた…
『…仕方ない…大幅に時間はロスだけどもう一つの方法でいくかッッ…』
シンディは大きく深呼吸をした…
『…で、どうするのシンディ?』
リサはじっと考え込んでいるシンディに声を掛けた…シンディは何を思ったのかいきなり汚物だらけの下水道に飛び込んだ!
『!お、おぃ…な、何て事ッッ…き、汚いじゃないかッッ!』
ビルとサラスはシンディの突然の行動に思わず眉間をしからめた…
『さぁ、このままこの下水道の中を歩くよッッ!嫌ならここで殺されなッッ!臭いのを我慢するか天国に行くか…二つに一つだよッッ!』
『わ、私も行くわ、シンディ!』
>> 118
🔥17🔥
『こ…こりゃたまらん…』
四人は鼻を摘みバシャバシャと水をかき分けながら下水道の中を進んだ…無数に浮かぶ汚物と尿の鼻をつく悪臭…自分達が排泄した物とはいえ、その匂いはまさにこの世のモノとは思えない地獄だった…
『大丈夫かい、リサ…』
『ハハ…な、何とかね…けど臭い~ッッ!』
ゴツゴツと水中で体に当たる汚物やドブ鼠に耐えながらリサ達は我慢しながら進んだ…
『だが下水道とは考えたな…こんな臭い下水道を我々が逃げているなんて追跡者もまさか思ってないだろうからなッッ!』
ビルが涙目になりながら笑った…シンディは苦笑いした…長くて薄暗い、まともに息も出来ない程の下水道を抜け、四人は地上に抜ける地下の扉の下まで来た…
『フゥ~さぁ…ここからが本番だよッッ…地上に上がれば追跡兵からの銃撃の危険性も増す…慎重に行くからねッッ…』
体に染み付いた悪臭を我慢しながらシンディはゆっくりと地上に抜ける地下扉をギィ~ッと開いた…
『よしッッ…誰もいない!』
シンディは一番に地上に上がった…
『ここから500m先のマスランダ、ダイーの石像の所まで突っ走るよッッ!』
>> 119
🔥18🔥
その時だった…
ガガガガガッッッ!!
突然銃声が辺りを包んだかと思うと一番後ろにいたサラスがまるでスローモーションを見ているかのように前のめりに倒れ込んだッッ!
『サ、サラスゥゥゥゥッッッッッ!!』
ビルが倒れたサラスに駆け寄ろうとした瞬間!
ガガガガガッッッ!ガガガガガッガガガガガッッ!
さらに激しい銃声が三人を包んだ!
『ビルッッ!危ないッッ!逃げろッッ!!』
シンディがリサの手を掴み、サラスの死体に覆い被さるビルに叫んだッッ!
『バッキャロッシンディッッ!このままコイツを見殺しにする気かッッ!』
『バカはアンタの方さッッ!可哀想だが彼は助からないッッ!早く逃げろッッ、でないとアンタまで死んじまうんだぞっ!!』
ガガガガガッッ!
見つけたぞ!と声を上げ、追跡者のマスランダ兵5、6人がすぐ後ろから迫っていた!
『お願いッビル!シンディの言う事を聞いてッッ!』
突然の銃撃に何が起きたのか解らずリサはただシンディに手を引かれ、後方のビルの安否を気遣いただ叫び続けた…
『!チクショウ、チクショウッッ!』
ビルは諦めてシンディ達の後を追った…
>> 120
🔥19🔥
『チクショウ、アイツらッッ!ハアッ、ハアッ…いきなり殺す事はねぇだろがァッッッ!!チクショウ!チクショウ!』
三人は必死に走り、追跡者をまき、何とか石像の前まで辿り着いた…ビルは仲間のサラスの突然の死に反狂乱状態だった…
『ハアッ、ハアッ…あれが奴らのやり方だよ…ハアッ、人殺しを楽しんでるのさッッ…収容所の中で誰かが死んだとしても咎める者は居ないからねッ…』
シンディは唇を噛み締め天井を仰いだ…
『酷いッッ…許せないッッ!こんなやり方…』
リサは拳を地面に叩き付けた!シンディは暫く考えていたがゆっくりとリサを見つめて言葉をかけた…
『よく聞いて、リサ、…とにかく時間がないッッ…周りには追跡者がウヨウヨいる…ここから先は別行動で行くからね!私とビルはアンタの後方支援に回る!15分後にこの先にある正門の手前の《ルイズーの源泉》で落ち合おう!岩肌から地下水が流れてるからすぐに解るよッッ!いいね、死ぬんじゃないよッッ!』
『私もシンディに付いてくよッッ!』
リサは不安げにシンディを引き止めた…
『駄目だッ!共倒れだけは絶対阻止しなきゃ…大丈夫!アンタならやれる!信じてるよッッ、リサ…』
>> 121
🔥20🔥
リサはシンディに言われた通り、地下水が湧き出る源泉まで死に者狂いで走り抜けた…リサが走っている間も後方で激しい銃声が幾度となく聞こえ、リサはシンディとビルの安否を気遣った…
(し、死なないで…ハアッ、ハアッ…シンディ…ハアッ、ハアッ…)
リサが源泉に辿り着いた時、残り時間はもう後10分しかない事に気付いた…
(早くッッ…早くここまで来て、シンディッッ…時間がないッッ!)
追跡者達に見付からぬよう洞窟の影で祈るようにリサはシンディ達を待った…
『!…シ、シンディ!!無事で良かった…』
数分後、倒れ込むようにしてリサの所までシンディが走ってやって来た!
『シンディ…ビル…ビルはッッ!?一緒じゃなかったの!?』
『ハアッ、ハアッ、…ビルは…ハアッ、ハアッ…撃たれ…た…ハアッ、ハアッ…』
『う、撃たれたってまさか…し、死んだのッッ!?』
『さぁ走れリサッッ!悲しみに暮れてる暇なんてないんだよッッ!止まったら殺されるッッ!さぁ走れッッ!正門はもうすぐよッッ!』
シンディは泥だらけの顔から涙を流しながらリサの服の襟を掴み、走り出した!
『死んだ皆の為にも勝たなきゃ!勝たなきゃ!』
>> 122
🔥21🔥
『走りながら聞いてリサッッ!ハアッ、ハアッ…もう正門まで時間が間に合わない…ハアッ、ハアッ…だから正門には向かわないッッ…』
『え?…ハアッ、ハアッ…じゃあどうするのッッ!?ハアッ、ハアッ…このまま降伏ッッ?』
『冗ぉ~談ッッ!…ハアッ、ハアッ…いい?今からもう一つの出口に向かうよッッ…ハアッ、ハアッ…アタイが何ヶ月もかけて調べたんだ…ハアッ、ハアッ…この収容所の西に小さな扉がある事をねッ…ハアッ、ハアッ…そこから完全に収容所の外に出られるッッ…ハアッ、ハアッ…』
『…つ、つまりもうゲームを無視して本当の脱獄をするって事ぉ!?ハアッ、ハアッ…シンディ貴方もしかして始めから…』
『そうさッッ…こんな馬鹿げたゲームにクソ真面目に参加する気なんて更々無かったんだ…ハアッ、ハアッ…全てはリサと一緒に脱獄する作戦だったって事!どうしてもアンタを逃がしてやりたかったんだッッ!』
『シンディ…』
『さぁ次の角を左だよッッ!走って走って走り抜けるんだッッ!ハアッ、ハアッ、ハアッ…高い塀に監視塔が見えて来たらすぐだよッッ!!』
リサとシンディは長くて暗い砂漠の洞窟をひたすら走った…
>> 123
🔥22🔥
『西口の扉の前に3つの高さ40cm程の石門があるッ…ハアッ、ハアッ…最後の超難関だッ…』
『…それを、それさえ抜ければ外に出られるんだねッッ…ハアッ、ハアッ…』
シンディとリサは必死に走った…
『…3つの石門の距離間隔は均等に50m…ハアッ、ハアッ…最初の石門をくぐり抜けた時点で緊急非常探知機が作動し侵入者を感知、その約20秒後に残りの二つの石門も閉じられるって訳ッッ…ハアッ、ハアッ…つまり20秒以内で100mを走り抜け、尚且つ、高さ40cm余りの石門をくぐり抜けなくっちゃならない…ハアッ、ハアッ…』
『まるで運動会の障害物競争だねッ…ハアッ、ハアッ…』
二人の背後に追跡者のマスランダ兵の声がした!
『やれるかいッッ…リサッッ!』
『やるっきゃ道はないっしょ!』
二人は走りながら固い握手を交わした!目の前に石門が近づいて来た!
『よぉ~しリサッッ!死ぬ気で走り抜けろッッッッ!!』
『シンディもッッ!!絶対クリアしてねッッ!』
石門の遥か向こうに西口の扉が微かに見えたッッ!!
《行くぞォォォォォォォッッッッッ!!》
>> 124
🔥23🔥
リサとシンディは最初の石門をくぐり抜けた!
《シンニュウシャ!シンニュウシャ!》
けたたましいサイレンが鳴り響いた!
『さぁ走れッッ、リサッッ!!』
20秒のカウントダウンが開始されたッッ!
『焦るなッッ!焦りさえしなけりゃ抜け出せるんだッッ!20秒しかないと思うなッッ!20秒もある!と思えッッ!』
シンディはリサにアドバイスすると二つ目の石門をくぐった!
『リサッッ!来いッッ!』
リサも二つ目の石門に滑り込んだ!
『ヨォ~しッッ!最後だッッ!走れリサッッ!まだ時間があるッッ!』
最後の石門のまさに3m手前で意外にもいきなり石門が閉まり始めたッッ!
『!う、嘘だろッッ!?まだ20秒経ってねぇぞッッ!』
『!そッ、そんなぁ!!』
石門はゴトゴトとゆっくり閉まってゆく…
『リサッッッ、飛込めッッッッッッ!!』
『だ、駄目ッッ!挟まるわッッッッ!』
シンディとリサは一か八か石門の僅かな隙間にヘッドスライディングするように飛び込んだッッ!!
ズザザザザァァッッッ!!
リサの体は間一髪抜け出した!
『やったッッ!やったよシンディッッ!…シン…シンディ…シンディィィィッッッッ!!』
>> 125
🔥24🔥
『ウガァァァァァァッッッッッッッ!チキショウッッ!ウガァ!』
『シンディッッ!う、嘘でしょッッ!?イヤァァァァッッッ!!』
リサは目を疑った!シンディは上半身こそ抜け出したものの、膝から下はその最後の重い石門の下敷きになってしまっていた!
『シンディ、しっかりしてッッ!待っててッッ…今助けてあげるからねッッ!』
リサは石門を何度も必死に持ち上げたがビクともしなかった…
『グッ…リサ…む、無理だ…ハアッ、ハアッ…一人で持ち上がるような重さじゃない…ハアッ、ハアッ…アタイの事はいいから早く行けッッ!』
『イヤ!イヤよッッ!せっかくここまで一緒に来たのにッッ!…こんな所でシンディを置いてはいけないわッッ!』
シンディは汗を流しなから怒鳴りつけた!
『バッキャロッッ!せっかくリサだけでも抜け出せたんだッッ!二人共犠牲になる事はないッッ!ハアッ、ハアッ…例えここから出られてもアタイはもう走れない…無理だッッ!さぁ早く行けって言ってんだろがッッ!じきに追跡者が来るッッ!』
『イヤァイヤァイヤァァァァッッ!シンディを置いてなんか…そんな事出来ないッッ!』
リサは何もしてやれない自分の情けなさに号泣した…
>> 126
🔥25🔥
『なぁ…頼むッリサッッ!…こんな所で共倒れしたら何にも…ハアッ、ハアッ…何にもならないだろッッ!?リサが世紀軍の前線基地にここの場所を教えりゃぁ…ハアッ、ハアッ…この収容所にいるみんなを助ける事になるんだぞッッ!アタイに構うなッッ!さぁ行けッッ…ハアッ、ハアッ…』
『シンディ…シンディッッッ!!』
リサはシンディの両手を掴むと慟哭した…
『これ…これは二人の…ハアッ、ハアッ…友達の証だッッ…』
シンディは首にかけていたペンダントをリサに渡した…
『シンディ…ッッ』
『アタイの大切な宝物だッ…これをアタイだと思って…ハアッ、ハアッ…頼んだよッッ…リサ…さぁ行けッッッ!行けって言ってんだろがぁッッ!』
『シンディ…忘れない…絶対にッッ!』
リサはシンディのペンダントを握り締めると暫くシンディを見つめ、涙を拭きながら振り返ると西口の扉に走り出した!
『………リサ…ハアッ、ハアッ…ゴ、ゴメン…』
走り出したリサの後ろ姿をじっと眺めていたシンディは気丈に振る舞っていた精神力も途切れたのか精も渾も尽き果てたようにその場にぐったりと頭を下げた…
>> 127
🔥26🔥
『おぉ、ブラボーブラボーッッ!見事な演技力だったなシンディ…アカデミー助演女優賞とでも言おうかッッ、ガッハッハ…』
突然岩の後ろからダイーの声がした…
『おぃッッ!石門を上げてやれッッ!』
シンディはダイーの側近達に抱えられるようにして石門の下敷きから救出された…
『リサ・ボナコフ…まさか世紀軍のスパイが混じっていたとはなッッ…シンディ・モーガン…お前の緻密な計画と演技のお陰でこれで奴らの前線基地の正確な場所が解り一網打尽ッ…フフフ…』
『命は…せめてリサの命だけは助けてやってくれんだろなッッ!?』
シンディはダイーの側近から冷たい氷タオルを貰い、赤く腫れ上がった太股を冷やした…
『フフフ…そいつは無理だッッ…奴は脱獄囚だッッ!世紀軍の基地の確かな所在が分かり次第、後を付けている狙撃兵によって射殺するッッ!』
『!なッ、や、約束が違うじゃねぇかッッ!?リサをうまく逃がしたらリサの命とアタイの釈放は保証してやるってッッ!クソッ、汚ねぇぞチキショウッッ!!』
側近はシンディを殴りつけた!
『お前は脱獄囚を擁護したとしてさらに期間延長だッッ!』
『!て、テメェッ、騙したなッッ!』
>> 128
🔥27🔥
『フフフ…しかし哀れだなぁ…信頼していた筈の仲間にこうも簡単に騙され、最後は利用されるだけ利用され飼い主の元に帰る途中…バキュンッ!ガッハッハ!こりゃ愉快だッッ!』
ダイーは高笑いした…
『チキ…ショウ、ダイーてめぇ…騙しやがったなッッ!…リサは助けてやるって言ったじゃねぇか…クソッッ!』
《将軍ッッ…只今逃げた女はサガンの南西の砂漠地帯を必死に歩いていますッッ!疲れはあるようですが足取りは確かですッッ!おそらく世紀軍の前線基地に向かい歩いている模様…》
ダイーの無線に狙撃兵からの連絡が入った…
『イシシシ…聞いたか?シンディ…お前に裏切られた女はもうすぐ基地の位置を知らせ、そのまま撃たれ息絶える!ガッハッハ!最高のシナリオだなッッ!』
『こ…殺してやるッッ…ブッ殺してやるッッッ!!』
シンディは足の痛みで立つ事すら出来ない…
『シンディ…お前からあの女の情報と引き換えに祖国への釈放を聞かされた時は正直ワシも迷った…しかし考えた…簡単に逃がしたらつまらんッッ、ゲームをしようとな!』
『脱獄した捕虜なら…簡単に殺せる…そう思いついたって言いたいのかッッ!この人殺しッッ!』
>> 129
🔥28🔥
『逃げろシンディッッ!基地には帰るなッッ!』
『ガッハッハ!聞こえん聞こえん!…もうすぐこの南部一帯の世紀軍は全滅するッッ!ガッハッハガッハッハ!』
『フッ…さて…それはどうかなッッ!?』
いきなりシンディの顔つきが変わった!
『!何だぁ!?負け惜しみか?』
その言葉と同時にバタバタバタと何十台ものヘリの轟音が響き渡った!
『!な、なんだッッ、何事だッッ!?』
ダイーが慌てた!それと同時に収容所の玄関を警備していたマスランダ兵数十人が機関銃の雨を浴びて絶命していた!
『残念ッッ!ダイーちゃん…アンタこそ最期だよッッ!!』
『な、なにぃ!?』
既に収容所の周りはおびただしい数の世紀軍の軍隊が包囲し、降伏した何百人ものマスランダ兵が銃を捨て、両手を挙げていた…
『アンタの負けだよダイーッッ!』
ダイーは世紀軍の軍隊に捕獲された…
『な、な、何故…何故ここがッッ!?厳重な警備で鼠一匹入れないワシのこの鉄の要塞がッッ!ガハッ…』
腰が立たない程動揺しているダイーは今何が起きたのかが理解出来ていなかった…
『マスランダ最高指導者ダイー!只今ここで第一級戦犯として確保するッッ!』
>> 130
🔥29🔥
マスランダの領地であったサガン捕虜収容所は陥落した…200人もの捕虜は世紀軍により解放され皆喜びに満ちた顔で祖国に帰って行った…シンディも世紀軍の医療チームに運ばれ、担架に乗せられた…
『シンディッッ~ッ!シンディッッ~ッ!』
『!…リ…リサッッ!リサァァァァッッッ!』
ヘリに乗せられようとした時、シンディの元にリサが駆け寄って来た!二人は抱き締め合った…
『シンディ、良かった…無事だったんだねッッ…良かった…』
リサは涙を流しシンディをきつく抱き締め続けた…
『リサこそ無事で良かった…良かった…』
『まさか…シンディから貰ったこのペンダントが探知機になってたなんて…』
シンディがリサに手渡したペンダントは収容所の中では電波が届かない高性能な探知機だった為シンディが外部に通じるリサに託した物だった…
『シンディ…貴方初めからこうなる事を想定して…』
リサはシンディを見つめた…
『ゴメン…リサ…アタイ…アンタを…アンタをさッッ…』
『いいよ…もういいんだ…解ったからもう泣かないでッッ…』
砂漠の夕日が二人の長い影を作っていた…
⑩~ESCAPE GAME~完
>> 137
【⑪】~麺食娘~
🍜1🍜
『おいオヤジッッ!よぉ~くもこんなマズいラーメン客に出せるもんだよなッッ!先代のおっかさんのラーメンは最高だったのに息子のお前さんがどうしてその味出せないんだッッ、バーロ!』
あしげく通ってくれていた常連客のサラリーマン風の二人組が遂に我慢しきれなくなり、箸を叩きつけ、鬼のような形相で怒って帰って行った…
『あ、お、お客さんお勘定ッッ!…あぁ…ッッ』
津連(つづれ)勇はオフィス街の一角にあるしがないラーメン屋《つづれ亭》の店長だった…亡くなった先代の勇の母親から続くラーメン屋を継いだのだが勇の作るラーメンに客は皆顔をしかめ母親が切り盛りしていた行列の出来ていたあの頃に比べ客足は遠のき、次第に勇の店は傾き始めていた…
(何が…何がいけないんだろ…母ちゃんの味を完璧に真似してるのにッッ…)
勇は涙を堪えて客の食べ残したラーメンを流しに捨てた…
(あ~ぁ…今日もお客は3人…うち2名は無銭…ハァ~…母ちゃん…俺もう駄目だッッ…店畳んで土木作業員にでも転職すっかな…)
母、トメ子の仏壇の前で勇はため息をついた…
>> 138
🍜2🍜
勇が40年続いたラーメン屋《つづれ亭》を今月いっぱいで閉めようと決心したのはそれから一週間後の事だった…
(母ちゃんゴメン…やっぱり俺じゃ無理だった…母ちゃんの大切な店、閉めるのは忍びないけど…旨いラーメンが作れないんだから仕方ないよな…)
一人仕込みをしながら勇はため息をついた…50前まで独身のまま、公務員として勤務し、母親の死を期に2年前急にやった事のないラーメン屋を継ぐ羽目になった勇にとり、店の存続は最早不可能だった…
(今日も雨か…よく降るな…)
勇はつづれ亭の黄色い暖簾を軒下に吊すと開店準備を始めた…
(!…んッッ…!?)
暖簾をかけ店の中に入ろうとした勇の目に一人店先でびしょ濡れで蹲る女の子の姿が入った…
(…傘もささないで…ずぶ濡れじゃないか…)
その娘はどこかの学生服を着た女子中学生のようだった…勇は声をかけようか迷ったがかかわらないでおこうと店に入ろうとしたが蹲る女の子の事がやはり気にかかり、ゆっくりとその中学生に近づいて行った…
『あ、あのぅ…お嬢ちゃん?こんな場所でなに…』
次の瞬間、その女の子に近づいた勇の目に信じられない光景が入って来た!
『お…お嬢ちゃんッッ…あ、あんた…!』
>> 139
🍜3🍜
勇が驚いたのは女の子がズブ濡れになっていただけではなかった…女の子の持っていた鞄にはスプレーのような落書きが無数にあり、鞄から少し覗いていた教科書にも油性のマジックのような物で一面に落書きがしてあったからだ…
『…お、お嬢ちゃん…こ、これは…!』
勇は女の子にどんな言葉をかければいいのか解らなかった…
『……』
女の子は蹲りただじっと肩を震わせていた…ブレザーの肩にパチパチと雨粒が弾き、かなり水分を吸い込んでいるようだ…
『と…とにかくッッ、ここじゃ風邪をひくッッ、な、中に…店の中に入りなさいッッ、さあっ!』
勇は不器用に女の子の濡れた肩を抱えるとそのまま店の中にズブ濡れの女の子を入れた…
『さぁ、このタオルで頭と体を拭いてッッ!』
勇は店の奥からタオルを持ち出すと女の子に渡した…
『……』
女の子は何も言わず一度静かに勇に頭を下げるとタオルを使い頭を拭き始めた…長い黒髪からポタポタと雨粒が滴り落ちていた…
『……』
勇は床に置いた女の子の落書きだらけの鞄を険しい顔で再び見つめた…
(…いじめ…これはどうみたって明らかにいじめ…だよな…)
勇は腕組みをしながら女の子が体を拭き終えるのを静かに待っていた…
>> 140
🍜4🍜
『……』
勇と女の子の間で暫く沈黙が続いた…勇は前掛けを指でいじりながらこの女の子にどんな言葉をかけたら適切なのか頭の中で整理していた…
(次にな、何て声…かけりゃいいんだろ…)
女の子の鞄の凄まじい落書きの跡は明らかに自分の好みで飾りつけたものではない…その証拠に鞄の側面に《学校来るな!》《死ねッッ!》という文字も勇にははっきりと見て取れた…もしファッションで鞄にお洒落しているのであれば自らそんな言葉を選ぶ訳がない…勇は確信した…これはこの女の子が今現在受けている悪質ないじめなのだと!
『……寒くないかい?服、着替えるか?』
勇はつい心にもない言葉を口走ってしまった…おい勇ッッ!お前は今彼女にそんな事を聞きたい訳じゃないだろ!…もう一人の自分の声がした…
(でも…自分はこの子の担任でも教育者でもない…今辛い事をあれこれ聞いてむやみに彼女を刺激するのはいかがなものだろう…)
勇はそう感じた…
『服着替えた方がいい…そこにシャツ出しておいた…男物で悪いけど風邪ひくよりマシだ…さぁ!』
勇は女の子を店の奥の居間に通すと襖を閉めた…
(ハァ…何かエライ事になってしまったナァ~…)
勇は頭を抱えた…
>> 141
🍜5🍜
店内にモウモウと湯気が立ち始めた…勇は着替えたての服でじっとカウンターの一番端に座り、ただうつ向いて黙っている女の子を尻目に取り敢えず開店準備を再開した…
(今の中学生のいじめって…あんなに酷いものなのか…)
ラーメンの薬味に使う長葱をまな板の上でトントン!と軽快に刻みながら勇はチラチラと時折女の子の様子を伺っていた…
『あ…あれだッ…そのぅ…お、お嬢ちゃん腹、腹減ってないかい?雨で体冷えきってんだろ?ラーメン食って行きなよッッ、な!?』
『……』
女の子はうつ向いたまま反応が無かった…
『……ラーメン…嫌いか?…ハハハ、そんな奴はいねぇよなッッ…遠慮するなよッッ、おいちゃんの奢りだからッッ…!』
勇は丼を一度湯通しすると麺を茹で始めた…
(しかし参ったナァ…)
麺が茹で上がる間、腰に手を当てながら勇は考えていた…
(誰にいじめられたんだって聞くのはナンセンスだし…いちいち事の成り行き尋ねるってぇのもウザいんだろうし…あぁ、俺には子供がいないから解んないよッッ、こういう時どうしてやるのが一番適切なのかがッッ…)
勇は丼にスープを注ぐと茹で上がった麺をゆっくり入れ、薬味を乗せて一度手を叩いた!
『よぉし、完成ッッ!』
>> 142
🍜6🍜
『さぁ遠慮はいらねぇよッッ!当店自慢の豚骨スープが決め手の本格派、《つづれラーメン》だッッ!さぁ、食べて食べてッッ…せっかくの麺が伸びちゃうから!さッ!』
勇は蓮華と割り箸を女の子に手渡すと満面の笑顔をした…女の子は一度ゆっくり勇の顔を上目使いで見つめるとパチン!と箸を割った…
『そうそう、若いんだから沢山食べねぇとなッッ、ハハハ!』
女の子は真っ先に左手の蓮華でスープを掬い、一度目の前で香りを確かめるとゆっくり口にすすり込んだ…
『……どうだ?ハハハ…旨いだろ!?』
『………』
女の子に反応はなかった…其れどころか女の子の眉間にみるみる皺が現れ出した!
『……まず…いッッ…』
『!ま、ま、マズイぃ?そ、そんな事ねぇだろッッ!?』
それは女の子が勇に発した初めての言葉だった…
『スープがなってない…それに麺も硬い…茹でる時の火の通り具合が問題外…』
勇は愕然とした…名だたるラーメン通や料理評論家に言われたのならいざ知らず、まさかこんな中学生に、それもまだ麺すら口に入れていないうちに勇のラーメンを全否定されてしまった事に勇は脳天を撃ち抜かれたような気になっていた!
『残念だけど…これは店に出せる商品じゃない…』
>> 143
🍜7🍜
こんな中学生につづれ亭の味が解ってたまるかッッ!…勇は一瞬そう思ったがどんどん客足が途絶え瀕死の状態でもあるこのラーメン屋の現状を改めて見るとこれは謙虚に受け止めねばならない事実だという事を勇は痛感した…グルメな味に煩いこの年頃の中学生だからこそきちんと何処がいけないのかを意見してもらう意味はあるのではなかろうか…勇は謙虚になろうと決めた…
『ど、何処がいけないんだろね…ハハハ、実は恥ずかしながらウチのラーメン屋は閑古鳥が呆れて逃げちまう程の流行らないラーメン屋でさッ…良ければこのラーメンのどこがいけないのかお嬢ちゃん、教えて貰えないだろうか…?』
女の子は暫く黙っていた…そしてボソリと言った…
『自分自身でどこが悪いのか解らないうちはラーメンの味は良くならないと思う…』
女の子は吐き棄てるように勇に忠告した…
『お、お嬢ちゃんなら解るのかい?…どうすりゃこのラーメンが旨くなるのかが…先代の母ちゃんのような旨いラーメンが作れるのかがッッ!?』
女の子は席を立つと着ている服はいずれクリニングして返しますとだけ勇に告げ、そのまま玄関から出て行った…
(…なん…何だったんだぁ??)
勇はただ呆然と立ち尽くしていた…
>> 144
🍜8🍜
それから数日間やはりお客はゼロだった…沸騰した豚骨スープのアクを掬いながら勇は誰もいない厨房でため息をついていた…
(ハァ~…自分自身で解らないうちは旨いラーメンは作れない…ッッかぁ…ハァ~…)
あの日の女の子の言葉が勇には妙な引っ掛かりだった…
(あんな幼い中学生にマズイ!ってはっきり…尚更舌の肥えたこの辺りのビジネスマンにゃあ到底相手にされる訳はないよなぁ…)
勇から急にやる気が萎え、今日は店を臨時休業にしようと決めたその時…ガラガラガラ…
(!あッ……)
店の戸が開いた…其処にはあの日の中学生の女の子が立っていた…今日は学生服ではなく水色の淡いセーターにジーパン姿だった…手には勇から借りていたシャツが綺麗にクリニングされて持たれてあった…
『や、やぁ…こないだはどうも…わざわざ持って来てくれたのか、それ…あ、有難う…』
勇のその言葉には反応を見せず女の子はクリニングを勇に手渡すとこないだ座っていた一番端のカウンター席に静かに座った…
『…つづれラーメン一つ下さい…』
『!…え?…あ、いや…えぇッッッ!?』
女の子はいきなりラーメンを注文したので勇は驚いた!
>> 145
🍜9🍜
『あ、あの…ラーメンってったって…ハハハ…ウチのラーメン…君は…』
勇は女の子の余りにも意外な行動に目を丸くした…あの日ウチのラーメンを食べた後、あれ程までに味を否定していたにも関わらず、女の子は懲りずに再び勇のラーメンを注文したのだ!
『…ホントに…いいの…かい?』
『…つづれラーメン一つ下さいッッ!』
女の子はそれだけ言うとただ一点を見つめるかのようにじっとラーメンの出来上がりを待っていた…
(何考えてんだろこの子…どう考えたって冷やかしに来たとしか思えないッッ…!)
勇は女の子に不快感を持ちながらも仕方なくラーメンを作り始めた…
『は、はい…お待ちッッ!』
震える手で勇はラーメンの丼を女の子の目の前に置いた…女の子は蓮華を持つとそれをゆっくり浸しスープの濁り具合を確かめていた…
(い、嫌だナァ~…何か試験受けてるみたいだ…アァ…)
勇は生唾をゴクリと飲み込むとラーメンを食べる女の子の様子を凝視していた…
『…ご馳走様でした…』
(!えッ、えぇッッッ!?)
女の子は今度はスープにすら口を付ける事なく勘定だけテーブルに置いて立ち去ろうとした!
『ち、ちょっとぉ、ちょっと待ちなよお嬢ちゃんッッ!!』
>> 146
🍜10🍜
勇は女の子を引き留めた!
『ラーメン注文しておいて一口も口を付けないのって!アンタそりゃ失礼なんじゃないのッッ!?ましてやこないだ散々俺のラーメンをマズイと言っておきながら今日はこうして注文してあから様に残すなんてさッッ!馬鹿にしてるにも程があるよッッ!』
勇は思わず女の子にぶちまけてしまった…
『……』
女の子は黙って勇の怒鳴り声を聞いていた…
『何とか言いなよッッ!最近の中学生はちょっと甘い顔をしたら図に乗ってよッッ!大人をナメてんじゃないよッッ!!』
すると勇の文句を聞き終わるや否や、今度は女の子が振り返り、勇を睨み付けた!
『…私があれほどマズイって言ってあげ、改良点も助言してあげたのに全く改善されていない…それ所か自分の無努力向上心の無さを客のせいにまでするッッ!それこそ楽しみにラーメンを食べに来る私達お客を馬鹿にしてるって事になるんじゃないのッッ!違いますかッッ!?』
『!……うッ……』
その女の子の言葉に勇は何も言い返す事が出来なかった…女の子は何も言わず戸を開けて帰って行ってしまった…
(チキショウ…何なんだよッッ!…クソッ、クソッ!)
やり場のない怒りとイライラに勇はさいなまれた…
>> 147
🍜11🍜
『なぁ母ちゃん…これから俺どうしたらいいんだぁ?…』
母トメ子の仏壇の前で勇は途方に暮れていた…確かにあの女の子の言う事も一理ある…これだけ客にマズイとはっきり言われ続けて来たにも関わらず、自分は何の努力もせずにただ流されるままこの店を継いで来たのだ…《何の努力もせず》…この言葉が勇の卑しい心に響いた…仏壇の写真立てには生前の元気だった頃の勇の母トメ子の写真が飾られている…
(母ちゃん…俺…今の今まで店を存続する事しか頭に無かった…ただつづれ亭を何年続けられるかって事しか…けど母ちゃんの願いはきっとそうじゃないんだよなッッ…この俺が何とかして母ちゃんの味を…母ちゃんが40年間も一人立派に切り盛りしてきたこのつづれ亭を以前のように行列が出来る位の人気店にする事なんだよな…)
勇は母の写真に手を合わせた…
《シャキッとせんねッッ!勇ッッ!》
勇の脳裏に生前母の口癖だった言葉が蘇った…
『母ちゃん…俺やるよッッ…どうせ駄目だっ!て逃げてるばっかじゃ先には進めないもんなッッ!』
勇は思い立ったように立ち上がるとその足で厨房に入り、頭に鉢巻きをギュッと巻き付けると一からスープ作りに取り掛かった…
>> 148
🍜12🍜
『つづれラーメン一つ下さいッッ!』
何と驚いた事に次の日も突然あの女の子が勇の店にやって来て同じラーメンを注文した!
『……い、らっしゃい!』
徹夜でスープ作りに奔走した勇は頭が朦朧状態にあったが女の子の姿を見た途端条件反射のようにその眠りかけていた体は覚醒した!
『へい、お待ちッ!』
勇はいつものカウンター席に座る女の子の前で仁王立ちになるとさぁ、食べてみやがれッ!と言わんばかりに腕組みをして女の子を睨み付けた!
(そうかいそうかいッッ、そっちがそういうつもりならこっちだって!よぉし、こうなりゃ戦争だッッ!この子に俺のラーメンが旨い!と唸らすまでとことん闘ってやるッッ!)
勇は心に誓った…
(ん?……おッッ!)
次の瞬間、昨日とは違い、女の子は勇が徹夜で仕込み上げたスープを一口すすった!
(よしッッ!どんなもんだいッッ!)
勇は僅かばかりの優越感に浸っていたその矢先、女の子は箸を置き、ご馳走様をした!
『なッ、何でぃ!?食べないのかいッッ!?』
勇は焦った…
『…努力しただけの事は見受けられる…スープは悪くない…だけど麺はまるでなってない…』
女の子は帰って行った…
(ち、チキショウ!見てろよッッ!)
>> 149
🍜13🍜
…その日から勇と女の子の奇妙な戦いの日々が始まった…
『スープの濃さが一定してないッッ!ダシ汁との割合が甘いんじゃないのッッ!?』
『このスープには太麺は馴染まないッッ!思い切って繋ぎを使ってない細麺に変えたらどう!?』
『余計な薬味は入れ過ぎないッッ!白胡麻振り掛ければいいって問題じゃないわッッ!発想が単純なの!もっと考えて行動しなよッッ!』
…次から次へと覆い被せられる女の子の駄目出しの嵐に耐えながら勇も負けてたまるか!の勢いで対抗した…雨の日も晴れの日も定休日でさえも女の子は何度も何度も勇の店に現れてはつづれラーメンを注文し続け、ラーメンの味にも注文をし続けた…そんな女の子に勇も必死に喰らい付いた!そして試行錯誤を重ねに重ねた3週間後のある夜の事だった…
『…飲んだッッ…スープを最後までッッ…つ、遂にッッ!やったぁ!!』
女の子はつづれラーメンを最後のスープ一滴まで飲み干し、完食したのだ!
『ハァ~…大将、お見事ッッ!美味しかった!』
女の子はピースサインを出し初めて勇に向かって満面の笑顔を見せた…
『や、やたぁ…つ、遂にッッ…ヤッ…タ……』
徹夜続きと緊張の糸が一気に切れ脱力したせいで勇はその場にヘナヘナと倒れ込んだ…
- << 151 🍜14🍜 『こ…ここは…ウチ』 頭の上に氷のうが乗せられてあり勇は布団の中に寝ている事に気付いた 『よく頑張ったね、おじさん!お医者さんが過労だって…最近ほとんど寝てなかったんじゃない?』 見ると横であの女の子がお粥を茶碗によそっていた 『…あ、有難う…悪いね…君にこんな事させて…』 首を優しく横に振り女の子は静かに笑った… 『で、どうだった?俺のラーメンの味…』 『うん!最高に美味しかったよッ…遂に完成したねッッ…おじさんの味…先代のお母さんに負けないおじさんだけの最高のラーメン…明日からつづれ亭は行列間違いなしだよッッ!』 勇は苦笑いした… 『君は…君は一体何者なんだ?若いくせにラーメンの知識は半端じゃないよ…』 『さぁ…自分が誰だか時々解んなくなる時がある…はい、ここに置いとくからお粥食べてねッッ!』 女の子は帰り支度を始めた… 『ねぇ、君…』 『ん?…なあに?』 勇は一呼吸置いた後切り出した… 『こんな事尋ねられるの…嫌だろうけど君…いじめられてるんだろ?学校で…』 『…………』 女の子の顔からさっきまでの笑顔が消えた… 『俺で…俺で良ければ相談に…乗るよ…』 勇はゆっくり起き上がり女の子を見た…
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(続き) こちらの多宝塔、足利義兼公の創建で、現在の建物は元禄五…(旅人さん0)
286レス 9941HIT 旅人さん -
また貴方と逢えるのなら
まあ、素性も知らない人に名乗るなんてニホンという処では当たり前なのかし…(読者さん0)
6レス 240HIT 読者さん
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🌊鯨の唄🌊②4レス 142HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 148HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 154HIT 小説家さん
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今を生きる意味78レス 526HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 979HIT 匿名さん
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 142HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 148HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 154HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1409HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 526HIT 旅人さん
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35歳以上は無理なのですか?
よく女性は30歳を過ぎたら、価値がないような事を言われてますが、35歳位から婚活を始めても、本気で大…
19レス 565HIT 匿名さん -
妊娠中から旦那が無理になった
旦那(バツイチ)14上 妊娠中変わっていく体型を見てトドみたいだねと言ってきた(笑って受け流せ…
8レス 351HIT 主婦さん (20代 女性 ) -
私はどうでもいい女?
先に約束していたのは私なのに、彼氏に友達と釣りに行く約束をしたとそちらを優先されました。 どこ行く…
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考え無しで発言する旦那に疲れた
旦那に対しての不満を吐き出させてください。 旦那はビッグマウスくんというか基本的に先を見据えた…
24レス 411HIT 戦うパンダさん (30代 女性 ) -
義母との関わり方
義母との関わり方について悩んでいます。 旦那のことが大好きなのか心配なのか、 毎月旦那のシフ…
8レス 232HIT 聞いてほしい!さん (20代 女性 ) -
女です。大食いすぎて悩んでます。
今良い感じの雰囲気になってる男性がいます。両想いみたいです。何度かご飯に行ってますが、ラーメン屋さん…
8レス 261HIT 相談したいさん - もっと見る