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🎈手軽に読める短編小説

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ヒマ人
08/09/06 15:03(更新日時)

皆様こんにちわ‼手軽に読める短編小説始まります…待ち合わせや夜の時間に手軽にサクッと読めちゃう、そんな小説スレです❤貴方はどのお話が好きですか?…

No.1157387 07/10/22 18:10(スレ作成日時)

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No.201 08/01/15 17:37
ヒマ人0 

>> 200 ☺15☺

可憐にとって三島ボートの言葉は衝撃的屈辱的なものだった…

(そんな…この容姿のせいだけで…断られたんだ…私…)

《どんなに話術が優れていて面白く、漫才をする最高の素質を兼ね備わっていたとしても…顔が綺麗過ぎては客には笑ってもらえない…》思いもしていない言葉…綺麗にして来いと言われればまだ手の施しようもある…だが綺麗な物を不細工にするなど聞いた事もない…

『わ…私はどうしたら…』

『元いた場所に帰りなさい…アンサンの居場所はここやない…』

『えッ!?…』

三島ボートは可憐を優しく見つめた…

『アンサンにはアンサンが一番輝ける居場所があるやろ?ってゆうとるんです…』

『…師匠…し、ご存知だったんですか…私の事…』

『当たり前田のクラッカーや…こんな年寄りでも芸能週刊誌くらい見ますがなッ!』

三島ボートは週刊誌に掲載されていたアイドル愛川可憐の記事を指さし微笑んだ…

『…し、師匠…』

『漫才師になるて引退か…まさかワシらの所に来るとはな…ガハハ…』

三島ボートは可憐の正体を初めから解っていた…

『何億円も稼いでるからもっとわがまま高飛車娘かと思ってたけど…フフフ…なかなか出来たお嬢さんで驚きました…』

No.202 08/01/15 18:00
ヒマ人0 

>> 201 ☺16☺

三島ボートはさっきまで首にかけていた愛用の手ぬぐいにササッとサインを書くと可憐に手渡した…

『人間適材適所って言葉があるやろ?さぁ、帰って元気で歌う事に専念しなさい…此処はアンサンのいる場所やない…』

『……』

可憐は俯いたまま黙っていた…

『…別にアンサンの事が憎いとか嫌いやとかやないんや…実は元々ワシは弟子はとらへん主義でな…ハハハ…悪く思いなさんな…けどワシはよう解ったで!アンサンは漫才師になれんでもこんなに素晴らしい礼儀正しい気持ちの持ち主や…ま、だからここまで歌手として成功を収めたんやろうな…ウンウン頷けます…』

『……師匠ッ…』

三島ボートは楽屋の玄関まで可憐を送ってくれた…

『久しぶりに気持ちのええ子に逢えて嬉しかったッ!ハハハ、爽快爽快ッ!ほなね!またどこかの番組で一緒になれるやろか…ハハハ…さいなら!』

手を振り三島ボートは帰って行った…可憐はそこから一歩も動けずただ涙を流した…

(帰れったって…もう私には帰る場所なんてない…)

シトシトと浪花の空から雨が降り出した…このまま車道に飛び出して顔を車に轢かれようか…そしたら不細工な弟子として師匠に認めて貰えるのだろうか…可憐はふと思った…

No.203 08/01/15 18:35
ヒマ人0 

>> 202 ☺17☺

『こんのドアホッ!誰が中山の9R買って来いってゆうたんじゃッ!阪神の9Rに決まってるやろがッッ!見てみぃッ!案の定きとるがなッ、《タニノキャプテン》ッ!ちゃんと買うて来てたら万馬券やったやないかッ!』

すぐ横の路地でバケツが転がる音と怒鳴り声がして可憐は跳び起きたッ!

(私…寝てたんだ…)

可憐は楽屋裏の玄関口の側でうずくまり眠ってしまっていた…

『す、スミマセン…』

『スミマセンで済みませんッ!っていつも口酸っぱなるくらい言ってるやないかボケッ!芸が面白ないんやからせめて言われた遣い位ちゃんとせんかいダアホッ!』

(この声…?)

可憐は起き上がると聞き覚えある声の方向をそっと覗いた…

(ヤッパリそうだッ!三島ヨット師匠ッ!)

小柄な風貌に特徴的なガラガラ声…そこに居たのは三島ヨット・ボートのボケ担当の三島ヨットだった…三島ヨットは弟子らしき若者の頭をこれでもか!と言わんばかりに殴っていた…

(ウワァ…芸風通りだ…何か自由奔放で荒っぽい…ボート師匠とは正反対だ…)

可憐は暫く二人のやり取りを眺めていた…

(まだ殴られてる…よっぽど要領が悪いんだ…可哀相…)

No.204 08/01/15 18:51
ヒマ人0 

>> 203 ☺18☺

『もうえぇわ!お前と話してたらこっちまで疲れてくるッ!ンモ~ほなら夜舞台で着る背広クリニング屋からとって来てくれッ!これやったら小学一年生でも出来るお使いやッ!ほらグズグズせんと早ぅ行かんかいッ!』

弟子らしき若者は三島ヨットに背中を叩かれるとヨロヨロ頼りなく歩き出した…

『ハァ~…ホンマいつまで経っても成長せん奴やなぁ…』

その後ろ姿を眺めながら三島ヨットはため息を付いていた…

(…何かお弟子さんで苦労してそう…弟子…ん?)

可憐はふと気が付いた…

(確か三島ボート師匠は弟子は取らないって言ってた…て事は…さっきの人はヨット師匠の方のお弟子さん…て事は…ッ!!)

突然可憐の目の前が明るく開けたようになった!

(何も弟子になるのはボート師匠だけじゃない…ヨット師匠はお弟子さんがいる…なら私にもまだチャンスがあるかも…顔の事で落とされない限り…そう、そうだよ可憐ッ!…当たって砕けろだッ!)

可憐は三島ヨットに弟子入りの全てを託そうと決意した…絶対このまま泣き寝入り出来ないッ!私は諦めて帰る為にこの聖地に赴いた訳じゃないッ!気が付いたら可憐は三島ヨットのいる場所に歩き出していた…

No.205 08/01/15 19:13
ヒマ人0 

>> 204 ☺19☺

『あのぅ…すみません…』

『ん?……』

可憐は三島ヨットに声を掛けた…

『!てッ…アッ、アッ、アッ…アンサン…あッ!…アイ、アイ、愛川ッ!愛川可憐ちゃんやないかッ!』

三島ヨットはいきなり可憐に抱き着き頬にKissをしたッ!余りの不意な出来事に可憐はただ目を丸くし何も出来ずにいた…

『……あ、ハハハ…あの…』

『愛川ッ!愛川可憐ちゃんやろッ!?なッ?なッ?ウワァ、本物、本物やっッ!』

『あ…』

三島ボートと余りの対照的な歓迎振りに可憐は戸惑った…

『ワシ、アンサンの大ファンなんやッ!CDかて全部持ってるでッ!コンサートかてダフ屋で買ってよう行ってるッ!』

(ハハハ…ダフ屋でね…)

可憐が話そうとすると三島ヨットはまあまあと肩を抱いてお茶でも行こッ!と半ば強引に可憐を連れ出した…

『イヤァ最高最高ッ!こんな所でアンサンに逢えるたぁ…クゥ~実物は想像以上にベッピンさんやなぁホンマ…ガハハ!何食う?お好み焼きか?ん?』

(…ま、まぁいいか…このまま黙って従おう…まさか変な所には連れて行かれないとは思うけど…ハハハ)

しきりに可憐の腰の辺りを摩るように持ちながら可憐は上機嫌の三島ヨットに付いていった…

No.206 08/01/15 19:48
ヒマ人0 

>> 205 ☺20☺

『旨いでッ!ここのミックスジュース』

三島ヨットは松前座近くの喫茶店に可憐を連れ出し大阪名物らしい特製バナナミックスジュースを美味しそうに吸い込んだ…

『あ…あのぅッ…』

『あ~気にせんでもえぇッ!それはワシの奢りやッ…遠慮せんと飲んでやッ!…って言いながらホンマは奢られるの待ってたりして…何ちゅうても年収何億円のアイドルなんやから…ってガハハ冗談冗談ッ!』

(………)

可憐は深呼吸をすると三島ヨットを見た…

『…弟子に…私を師匠の漫才の弟子にして下さいッ!お願いしますッ!』

『ガハハッ!最近のアイドルは冗談も面白いナァ!今度それネタに使わして貰うわッ!』

ガンッッ!

…可憐は勢いよく机を手で叩いた…三島ヨットは可憐の気迫に黙り込んでしまった…

『お願いですからフザケないで下さいッ!私真剣なんですッ!私本気で漫才の勉強したいんですッ!』

『……ま…マジかいな…』

『マジですッ!…限りなくッ!』

三島ヨットの顔つきが豹変した…

『本気で…そんな事言っとるんか?』

『…はい、本気ですッ!』

暫く腕組みをしながら三島ヨットは黙り込み考えていた…可憐は三島ヨットの次の言葉をただじっと待っていた…

No.207 08/01/15 20:37
ヒマ人0 

>> 206 ☺21☺

数分間の睨み合いが続いた…

(駄目と言われても食い下がるッ!頑張れ可憐ッ!)

『……えぇよッ!弟子にしたる…』

『ヤッパリ…ハァ~…駄目ですか……ってえぇッッ!い、いいんですかッ!?』

『うんえぇよッ…』

三島ヨットは満面の笑顔で可憐を見た…その気配が逆に可憐には不気味に感じた…

『あ、あの…わ、私って師匠から見てこの道に…む、向いてないとか…思いませんか?』

『何で?』

三島ヨットはジュースを飲み干した…

『い、いやそのッ…後からヤッパリ向いてないって断られたりしないカナァ~なんて…アハハ…』

『何や…向いてないって誰かに言われたんか?』

『アハハ…じ、実はさっき三島ボート師匠の楽屋にお邪魔して同じように弟子入り志願したんですけど…断られまして…』

『あぁ…ボート君は弟子取らへん主義やからな…あぁ見えて結構な頑固モンやさかい…』

とりあえず可憐はホッと胸を撫で下ろした…

『ただし条件がある…』

『じ、条件?』

真面目な顔付きで三島ヨットはお冷やを飲んだ…

『ワシの決めた相方と漫才コンビを組んで三ヶ月後にあるお笑い新人漫才賞に出て優勝するッ!これが正式な三島一門への弟子入りの条件やッ!』

『!え、えぇッ!?』

No.208 08/01/15 20:53
ヒマ人0 

>> 207 ☺22☺

『ち、ちょっと待って下さいよ、お笑い新人漫才賞ってったら新人漫才師達の登竜門、プロも大勢参加するというあの由緒ある漫才賞じゃないですかッ!む、無理ですッ!どう考えたって優勝なんか出来る訳ッ!私はまだ漫才の《ま》の字も解らないズブの素人ですッ!どんな凄い相方さんがついたって優勝なんて…絶対無理ですッ!』

三島ヨットは可憐の言葉を聞いていた…

『…なら無理や…弟子入りは認めれんッ!今まで通り歌唄ってお客さん喜ばしときッ!』

三島ヨットは店員を呼ぶとその場でミックスジュースの勘定を支払い席を立った…

『ち、ちょっと待って下さい師匠ッ!』

『…お前の漫才にかける情熱はそんなモンなんやな…そんな弱気じゃあ日本一の漫才師には到底なれんッ!ワシの決めた相方とコンビを組みお笑い界の頂点を目指す…お前にはそれしか道はないッ!よう覚えときッ!返事は明日まで待ったる…ほなら!』

三島ヨットは喫茶店を後にした…

(ど、どうしよう…弟子入りの条件が新人漫才賞優勝だなんてッ!…無茶苦茶だよッ…アァ…お婆ちゃん、どうしよう…私一体どうすれば…)

可憐は一人頭を抱えた…

No.209 08/01/16 11:35
ヒマ人0 

>> 208 ☺23☺

『そうかッ…やるかッ!…それでこそ男やッ!』

(…お、女なんですけど…)

近くの格安ビジネスホテルに宿泊した可憐は翌日真っ先に松前座の楽屋裏に訪れた…約束通りそこで待ってくれていた三島ヨットに漫才コンビを組んでやってみます!と返事をした…

『三ヶ月しかないからな…しっかりネタ詰めて頑張りやッ!一応アンサンの立場は事がハッキリするまで《弟子見習い》っちゅう事で…えぇか?』

可憐は返事をした…先の事は不安だったが見習いでも何でもとにかく弟子にしてもらえた事に可憐はホッと胸を撫で下ろしていた…

『アンサンの芸名考えといた…』

『芸名…ですか?』

『本名の《可憐》では何かそのまんまアイドル歌手の延長やと周りから何かと妬まれるかもしれんやろ…せやから師匠のワシが芸名をつけたるッ!お前は人形みたいに可愛いらしいから《ダッチ荒川》…てのはどないや?荒川はワシの本名や…』

『ダッチは…?…人形とダッチとどういう関係があるんですか?』

『こッ、子供は知らんでえぇッ!そんな詳しい事ッ!』

三島ヨットの含み笑いを察した可憐は不審に思った…

『な、何か変な意味なんですかッ!?…なんか嫌ですッ!他の名前にして下さいッ!』

No.210 08/01/16 11:58
ヒマ人0 

>> 209 ☺24☺

冗談や!と笑いながら三島ヨットはポケットから一枚の紙を取り出し可憐に見せた…

『《椿…三島椿》…椿は三島一門の古くからの家紋に使われている高貴な花らしい…その花の名前をお前の芸名にするッ!…えぇか椿ッ…少なくとも三ヶ月の間はお前はアイドル愛川可憐やない…漫才師の卵、三島椿として生活するんやッ!分かったな?』

(椿…椿カァ…ウフフ、可愛い名前だ…)

『師匠有難うございますッ!椿…メチャンコ気に入りましたッ!』

三島ヨットはダッチ荒川の方が売れたかもと仕切に呟いていたが可憐は無視した…

『えぇか椿ッ…どの世界でもそうやが特にこの芸の世界は男女の差などない弱肉強食の実力主義やッ!これまでのお前の輝かしい経歴はここでは通用せんッ!いつまでも自分はアイドルで特別なんや、チヤホヤされるってやわな気分でおったらエライ目に遭うでッ!』

『はいッ!分かってますッ!全てを捨ててこの世界に飛び込んで来たんですから…甘えや泣き事は言いませんッ!死ぬ気で頑張りますッ!』

三島ヨットは改めて可憐の漫才師になるという決意を確かめるようにそう言うとヨッシャ!と可憐の肩を叩いた…

No.211 08/01/16 12:43
ヒマ人0 

>> 210 ☺25☺

『遠慮せんとまぁ入りッ!…』

昨日通された通路を通り可憐は三島ヨットに楽屋裏の施設をあれこれ教えてもらいながら歩いた…

『!ッこ、コラァッ!ボケッか己れッ!今から舞台に履いてでる靴ビチョビチョやないかッ!』

楽屋入口で三島ヨットはいきなり怒鳴り声を上げたので可憐は驚きの余り身を竦めた…

『す、スミマセン…今ドライアーで乾かしますんでッ…』

怒鳴られた先に居たのは昨日三島ヨットに怒鳴りつけられていた例の弟子だった…

『…お前ナァ~、ドライアーで靴乾く訳ないやろがァ~…ハァ…天日干しやッ!裏で乾かして来いドアホッ!』

三島ヨットはそのふがいない弟子を足で蹴り上げた!

『スミマセン、師匠スミマセン…』

弟子は慌てて靴を持ち裏口へ走った…

(こ、怖いナァ~…私もヘマしたらあんな風に蹴り倒されるんだろか…ヤダなぁ…)

可憐は急に不安になって来た…

『ったく!…いつまで経っても…あ、気にせんといてや、いつもの事やさかい…アイツは人一倍要領の悪い奴やさかいに…ガハハッ!』

(そういえば三島一門は弟子には厳しいって雑誌に書いてあったわ…アァ、私ついていけるのかな…)

可憐はため息をついた…

No.212 08/01/16 15:53
ヒマ人0 

>> 211 ☺26☺

二人が楽屋に入ると三島ボートが座っていた…ボートはヨットが連れて来た可憐を見て全てを悟ったのか何も口に出さなかった…

『ボート君、紹介しとくわッ…今度見習い弟子になった椿やッ!よろしゅう使ったってくれ…』

ボートは煙草に火を付け息を吐いた…

『つ、椿ですッ!よ、宜しくお願いしますッ!』

まるで初対面のように可憐は改めてボートに頭を下げた…

『そうか…そこまでして三島の弟子になりたいんか…フフフ、根性だけはホンマ見上げたもんやな…』

物静かに三島ボートは呟いた…

『けどまだ弟子として正式に認めた訳やないんや…三ヶ月後にある上方新人漫才賞に出場して優勝したらッ…の条件付きでなッ!』

三島ヨットはボートに告げた…

『ヨット君、そりゃ無茶苦茶やでッ!余りにもハードルが高すぎるがなッ!』

ボートは目を丸くして驚いたがヨットは大丈夫大丈夫ッ!と笑った…

(だ、大丈夫じゃないって…ほぼ自殺行為だよッ!)

『…まぁヨット君が決めた事や…ワシは何も言わんけどせいぜい頑張りッ!』

三島ボートは可憐に優しく微笑んだ…

『…ボート師匠の弟子になりたかったな…』

『!んッ?何かゆうたか椿ッ!』

No.213 08/01/16 16:13
ヒマ人0 

>> 212 ☺27☺

『椿お前…住む所あるんか?まだ決まってないんやったらワシんとこに来いッ!小汚いアパートやけど…』

『…え、い、いいんですかッ!?』

可憐はまさか弟子入りを認めて貰えるとは思ってもいなかったので住まいをまだ決めてはいなかった…だからまさか師匠の家に住み込めるなんて正に一石二鳥だと喜んだ…午後の寄席の仕事を終えた三島ヨットに連れられて可憐は三島ヨットのアパートに向かった…

(汚いアパートって謙遜してたけどきっと凄いマンションに住んでるんだろな…)

着の身着のままで詰め込んだ黒いボストンバックをヨイショと担ぎ直し、可憐はまだ見ぬ三島ヨットの豪邸に胸を踊らせていた…

『さぁここやッ!遠慮せんと入りッ!』

『……え…ここ…ここ…ぶ、文化住宅…ですけど…』

『何や不満か?築40年のワシの豪邸やがなッ!ガハハッ!』

可憐の期待は事々く崩れ落ちた…

(小汚いアパートって…そのまんま…じゃん…)

そんな事も口には出せず可憐は三島ヨットの後を失意のままついて行った…

『こ、ここに住むんですかッ!?ワンルームじゃないですかッ!あ…私の部屋は…』

『んなもんあるかいなッ!ワシと同じ部屋で寝食を共にするんやッ!』

No.214 08/01/16 16:32
ヒマ人0 

>> 213 ☺28☺

『ギッ!…師匠とこの部屋で…この小さな6畳で寝泊まりするんですかッ!?こ、このまだ18歳になったばかりのうら若き乙女のこの私とぉ?…ま、まさか嘘ですよねッ!?また冗談なんだ…ハハハ、本当はきちんと私の住む部屋を用意…』

『いや、今度ばかりは冗談やない…ここで生活してもらうッ!』

三島ヨットは真面目な顔で答えた…

『だ、だって私はッ…』

『何や…?だって何やと言いたいんやッ?…《私は女やから…特別やから》…そう言いたいんかッ!?ナメるなよッおい!』

三島ヨットの顔がみるみる豹変していった…

『あ、いや…私は…ただ…』

『この世界じゃな、師匠と一緒に寝食共にさせて貰える弟子は数える程しかおらんのじゃッ!師匠と一緒に寝食共にするって事は師匠の芸を盗む一番の近道なんや…それを己は女やからどうだの汚いからどうだの…ナメとったらアカンどコラァッ!』

三島ヨットの雷が落ちた!

『ワシと一緒に住めん言うんならやめてまえッ!荷物まとめて東京帰れドアホッッ!』

三島ヨットは部屋の鍵を開けると可憐を表に残し一人部屋の中に入ってしまった…

『あ…し、師…匠…ッ』

可憐はどうしたらいいのか解らずただじっと部屋の前に立ちすくんでいた…

No.215 08/01/16 17:09
ヒマ人0 

>> 214 ☺29☺

『師匠私…甘えてました…間違ってました…スミマセン…こちらで喜んでお世話になりますッ!』

『…そぅか…解ればえぇんや解れば…』

可憐は何度も三島ヨットに詫びを入れて許しを得た…そして自分の甘さを痛感していた…初めて飛び込む芸の世界…今までアイドル時代に抱えていた常識や偏見はこの世界では通用しないのだ…

『まぁ中に入り…』

迎え入れてくれた師匠の部屋は究極に汚かった…

(…ウプッ…な、生ゴミが散乱してる…)

正直確かに10代の若い娘が住める環境ではなかった…カップラーメンの空、何故かカチカチに固まって開かない雑誌…靴下に何度もご飯粒が引っ付いた…

『そ、掃除…しますね…ハハハ…』

『あ…悪いな…』

三島ヨットは可憐のその言葉を待っていたかのように恐縮した…

(これも弟子の仕事のうちッ!…頑張らなきゃッ!)

鼻を摘みながら可憐は部屋の掃除をした…三島ヨットは座布団をひいて居眠りを始めた…

(ハァ~…まさかいい家政婦さんが来てくれた!…ナァ~んて考えてないわよね…師匠ッ!)

時折居眠りする三島ヨットを睨み付けながら可憐は誇りにまみれた掃除機をブツブツ言いながらかけ始めた…

No.216 08/01/16 19:11
ヒマ人0 

>> 215 ☺30☺

『お!…旨いやないか…何処で教わったんやッ元アイドルのくせに…』

『師匠…その元アイドルって言うのやめて頂けます?』

ひとまず綺麗に整った部屋の真ん中に座ると可憐と三島ヨットは可憐の入れた煎茶をすすった…

『えぇか?日本一の女漫才師になる第一歩は師匠に美味しいお茶を入れれるかどうかで決まるッ!』

『あ、有難うございます…お茶やお華は小さい頃祖母に教わりました…礼儀作法や着物の着付け等も…』

『ヘェ~!意外やなぁ…超人気アイドル歌手やていうからもっとチャラチャラしたイケイケギャルやと思っとったけど…ムフフ…古風なんや…』

三島ヨットは腕組みをして可憐をジロジロと眺めた…早くこのイヤラしい視線にも慣れなければ…

『で師匠ッ…三ヶ月後にある新人漫才賞優勝を目指す私の相方さんという方にはいつ逢わせて下さるのですか?』

可憐は三ヶ月後にあるお笑い新人漫才賞の事で頭が一杯だった…

『あぁ相方か…そやな…明日にでも正式に挨拶させよか…』

三島ヨットはそう告げると風呂の湯沸かし器のスイッチを押した…

『椿ッ…風呂沸いたら先に入りぃや!』

『え!…ふ、お、お風呂…ですか?…アハハ…』

『?…何顔赤ぅしとるんや?』

No.217 08/01/16 19:30
ヒマ人0 

>> 216 ☺31☺

(け、結局一睡も出来なかった…アハハ…)

翌日可憐は眠い目を擦りながら三島ヨットより早く起きて朝ご飯の支度を始めていた…決して師匠の事を信じていない訳ではない、しかし50過ぎたとはいえまだまだ元気な独身男性である事は紛れもない事実…いきなりウブな若い娘が独身男性の狭いアパートで布団を並べて一夜を共にする事自体余り想定出来ない展開だ…

(こんな事が毎日…ハァ~…一日でも早く慣れなきゃ…体が持たないヨォ~)

可憐の心の正直な叫びだった…

『おは…よ…エライ早いやないかッ…』

『おはようございますッ!冷蔵庫の中の物で朝ご飯作っておきました…お口に合えばいいですが…』

三島ヨットは驚いていた…料理まで作れるんかッ!たまげたな…そんな言葉が聞こえてきそうな顔だった…

(よしッ!少しでも点数稼ぎしなきゃッ!フフフ…)

『…椿…』

『あ、はいッ!何でしょう…』

『ワシ…朝はパンて決まっとるんや…谷町六丁目にあるパン屋《ベルモット》の限定10食限りの特製メロンパン…』

『と…メ、メロンパン…ですか…アハハ』

『悪いな…ダッシュやッ!いけぇ~ッ!』

可憐は目が点になった…朝はパン食だなんて、そんなの知らないヨォ~ッ!

No.218 08/01/16 19:50
ヒマ人0 

>> 217 ☺32☺

『師匠ッ…今日のスケジュールは…?』

『ん?あぁ…予定はマネージャーに任せとる…お前は心配せんとワシの身の回りの世話さえしとけばえぇ…』

小柄な三島ヨットに背広を着せながら可憐ははいと頷いた…しかし狭い部屋で二人でこうしていると何か新婚夫婦のように感じ可憐は急にこっ恥ずかしくなった…イヤイヤ勘違いしてはいけないッ!私は漫才師三島ヨットの付き人兼見習い弟子という立場なのだ…それに三島ヨット師匠には悪いが一人の男性として年齢を差し引いたとしても完全に私の恋愛対象でもなければタイプでもない…それだけは胸を張って言える!

『あ…そや!相方の件やけどな…』

『あ、はい…ッ!』

玄関でトントンと靴を履きながら三島ヨットが言葉を発した…可憐の耳がダンボになった…三島ヨットが続きを話そうとした瞬間玄関の扉が激しく開いたと思うとその扉が三島ヨットの頭を直撃したッ!

『!イッ、イッタァ~ッ!こ、コラァッ!このボケがぁッ!いきなり扉開く奴あるかいドアホッ!』

『あ!す、スミマセン…師匠ッ!スミマセンッ!』

(あ…例の要領悪いあのお弟子さんだッ!)

次の瞬間三島ヨットのゲンコツがその弟子の頭を直撃していた!

No.219 08/01/23 09:40
ヒマ人0 

>> 218 ☺33☺

『ほんまにいつまで経っても成長せん奴やねんからッ!あ…そやッ…紹介しとくわッ!この娘は昨日ワシの弟子になった椿やッ!まあまだ見習いっちゅう身分やがな…』

『あ…つ、椿です、よろし…』

コブを作った頭を撫でる三島ヨットに紹介され可憐が挨拶しようとしても安藤という弟子は師匠の靴を揃えるのに必死のようだった…

(な…何ッ!人が挨拶しようとしてるのにッ!)

『そいでこいつはワシの一番弟子の安藤義彦…芸名は《カキフライ安藤》…おいカキッ!ちゃんと挨拶せんかいッッ!』

三島ヨットに促されて安藤という青年は初めて顔を上げて可憐を見た…

『……ども…』

『……』

安藤は身長は可憐よりも低いだろうか…オカッパ頭に思いきり主張した出っ歯…近眼なのか昔のアニメに出てくるがり勉キャラのような眼鏡をかけたまさに見るからにお笑い芸人の典型的な容姿だった…安藤はじっと可憐を見つめた後何かに気付いたような表情になったみたいだがそれから何も口に出さなかった…

『まあワシの弟子はお前ら二人だけやから…仲良うせぇなッ!仲良うっちゅうても間違っても色恋沙汰にはならんといてやッ!ガハハハ!』

(ないない…ぜ、絶対ないッ!)

No.220 08/01/23 13:03
ヒマ人0 

>> 219 ☺34☺

可憐の本格的な芸人修行がスタートした…安藤の運転する車に乗り込んだ三島ヨットと可憐は途中でボート師匠を拾い、TVの演劇番組収録の為に国営放送局があるNOKに向かった…

『どうです?…昨日はよぅ眠れましたか?』

後部座席の可憐のすぐ隣りに乗り込んだ三島ボートは優しく緊張している可憐に話しかけた…

『あ…はい…い、いぇ…』

でしょうねッ!と三島ボートは笑った…

『そらボート君ッ…あんまり可愛いから襲い掛かろうと思ったでッ!何せ皆のアイドルやってんから…ガハハハ…』

助手席から妖怪のようにヌッと首を伸ばし、三島ヨットが話に割り込んで来た…

(…このまま一緒に住んでるうちに本当にやりかねないかも…)

安藤は三人の話を面白くなさそうにムッとしながら前を向いてハンドルを握っていた…

『えぇか椿…お前はワシの弟子やゆうても言い換えたら漫才師三島ヨット・ボートの弟子やッ!せやからワシだけでのぅてボート君の世話もしっかり焼かなアカンのやでッ!』

『あ…はい、そのつもりですッ!しっかり勉強させて頂きますッ!』

…ボートに弟子入りを断られはしたが間接的にこうして二人に勉強させて貰える…可憐の心は弾んでいた…

No.221 08/01/24 12:43
ヒマ人0 

>> 220 ☺35☺

漫才師三島ヨット・ボートの一日のスケジュールはまさに殺人的だった…NOKの演芸寄席の収録が終わると着の身着のまま公民館での営業、雑誌の取材に答えた後、オニギリとお茶で軽い昼食、午後からは地元松前座の定期公演2回をこなす間に上方落語会主催のパーティーに呼ばれ、締めは来月行われる上方芸人運動会の総合司会の打ち合わせを地元TV局と…この日二人が仕事を終えたのは午前様近くだった…途中でボートを自宅で降ろした後タクシーは午前零時過ぎヨットのアパート前で停車した…

『フゥ~どや…一日目で死ぬ程疲れたやろ?…けどこれでも今日仕事少なかった方やッ!』

部屋の鍵を探しがら三島ヨットは可憐に言った…

『大丈夫ですッ!こういう分刻みの地獄のスケジュールには慣れっこなんで…ハハハ』

『あ!…せやった…お前は寝る暇もない元スーパーアイドルやってんものなッ!これくらい朝飯前かッ!ガハハハ…』

部屋に入ると可憐は真っ先にヨットの下着を洗濯機に入れ機械を回した…

『…しかしビックリした…お前は何でもよう気の付く奴っちゃ…』

可憐は少し照れながら首を振った…

『それに引きかえカキの奴はッ…!』

三島ヨットは舌打ちをしてお茶をすすった…

No.222 08/01/24 16:32
ヒマ人0 

>> 221 ☺36☺

『今日かて舞台の袖で待っとけてあれほど言うてんのに楽屋でじっとワシの帰り待っとるんや…アイツ頭の線一本抜けとるんやないやろな…』

背広のワイシャツを無造作に放りなげると可憐はそれを素早く空中でキャッチした…

『安藤さん…師匠についてもう長いんですか?』

可憐は風呂の湯沸かし器のスイッチを入れるとヨットにお茶を差し出した…

『漫談師になりたいて三島の門叩いてもう二年になるかな…どうしてもワシらの弟子になりたいて頼むから渋々ワシが引き受けたんやが…ハッ…見ての通り芸を盗むどころか雑用すらまともに出来ん役立たずやッ!』

『な…何もそこまで…』

可憐はヨットの安藤に対する余りの言いように言葉を無くした…

『…ええ素質…』

『え?…』

三島ヨットはほころびた畳をじっと眺めていた…

『せやけどな、カキの奴…ほんまワシらがいくら頑張って努力しても敵わん芸人としてのえぇ素質持っとるんや…けど…けどアイツはそれをよう発揮せん、いや…発揮の仕方が解らんのやな…勿体ない…アホや…』

(し、師匠…何だかんだ言っても可愛いんだ…安藤さんの事…フフフ…)

畳を触りながらしみじみと安藤の事を口にするヨットに可憐は微笑んだ…

No.223 08/01/24 16:49
ヒマ人0 

>> 222 ☺37☺

『なぁ椿ヨォ…』

『あ、はい…何でしょう?』

『お前何で漫才師になりたいんや…?』

ヨットが手招きしたので可憐はゆっくりとヨットの前に鎮座した…

『な、何故って…ヤッパリ人を笑わせたい…毎日が嫌になったり悲しんだりしてる人達が一人でも多く私の漫才見て笑顔になってくれたらなって…って師匠どうしてそんな事聞くんですか?』

ヨットは目線を窓に移した…今日の仕事疲れなのかヨットの目は明らかに虚ろだった…

『歌で…お前は今まででも歌という形で沢山の人様を幸せに、笑顔にしてきたやないか…なのに何でまた今漫才なんやろか?そう思うただけや…ハハハ気にすんな…』

ヨットはヨイショと腰を上げた…

『…師匠…もうお休みになられますか?お布団しき…』

『…ヤッパリそれしか無いかな…うん!』

ヨットは思い立ったように自分で独り言を呟いた…

『え?…それって何ですか?』

可憐はヨットの後を追うようにヨットの風呂の下着の準備をし始めた…

『…なぁ椿ッ!…今度の新人漫才大賞にな、お前安藤とコンビ組んで出ぇッッ!…』

『!……えぇッッッ!?し、師匠じ、冗談でしょッッッ!?』

可憐はヨットの言葉に目の前が真っ白になってしまった!

No.224 08/01/24 17:31
ヒマ人0 

>> 223 ☺38☺

(…結局一睡も…トホホ…)

昨夜のヨットの一言が可憐を今日も不眠に追いやった…

(安藤さんと組むぅ?…う、嘘でしょッ!?よりによってどうして安藤さんとなのォ~ッッ!)

目の下にクマを作り今朝も可憐は憂鬱なままヨットが仕事に出る支度を始めていた…ヨットが安藤ど漫才コンビを組めといった意図は可憐には全く理解出来なかったし可憐もまだ素人ながらあの根暗で要領の悪い神経質な人間といくら漫才をしてもきっと息すら合わないだろうし面白くもないだろう…何故かそんな確信も抱いていた…

『あ…今日からワシらにつかんでえぇからッ!』

玄関でヨットがいきなり可憐を制止させた…

『え?ど…どうしてですか?』

『新人漫才大賞までもうあと何日もない…今日からお前は相方の安藤とネタ作って新人漫才大賞に備え練習するんやッ!やり方はお前らの好きにせぇ…詳しい事は今朝安藤に電話で話しといたから…ほな!』

『ほな…て…ッ!し、師匠ォォォォ~ッ!』

ヨットは新人漫才大賞の結果が出るまで自分の付き人は要らないと一人鞄を担いで仕事に出掛けた…

(ど…どうしよう…どうすりゃいいのッ?…ンモッ!ンモッ!)

可憐はため息をついたまま頭を抱えた…

No.225 08/01/24 17:59
ヒマ人0 

>> 224 ☺39☺

ぶっきらぼうで無愛想な安藤の電話で呼び出され、可憐は近くの公園に来ていた…公園一面に銀杏の黄色い葉っぱが絨毯のように敷き詰められた都会のど真ん中にある小さなこじんまりした公園だった…

『……あ!おはようございますッ!…』

約束の時間に20分も遅刻しノソリと安藤がいかにも面倒臭そうに可憐の前に現れた…

『……』

安藤は可憐と挨拶どころか目すら合わせる事もなく暫くじっと地面の土を蹴っていた…

『……』

(な…なんか喋ってよ…大人気ないなッ!)

通行人にまっ昼間からこんな人気のない公園で男女が二人何をしているのだろうかといった視線で見られながら沈黙は続いた…

『ヨット師匠から説明受けました…でッ!…あ、あのぅ…とにかく…始めませんか?』

可憐は出来るだけ作り笑いにならないような笑顔で安藤に話しかけた…

『……』

『えぇ~とッ!私…希望は《ボケ》なんですが…ハハハ…どうしてもって言うなら話し合いで…ハハハ…』

『…お前バカかッッ!?』

突然吐き捨てるように安藤が言った…

『え?…ば…バカ…ぁ…』

『何浮かれてんだって言っとんじゃッ!頭おかしいんとちゃうかッ!?』

可憐は安藤の余りにも意外な言葉に呆然とした…

No.226 08/01/24 18:38
ヒマ人0 

>> 225 ☺40☺

『あ…あのッ!いくら兄弟子だからっていきなりバカはないんじゃないですかバカはッッ!』

『バカはバカだろがッ!他に言いようあるかいッッ!』

安藤は傍にあった小石を思い切り蹴飛ばした!

『お前愛川可憐やろッ!?アイドル歌手のッ!』

『だ、だったら…だったら何なんですかッッ!』

安藤のその言葉に一瞬たじろいだが可憐は肩を怒らせ安藤を睨み返した!

『前から言いたかったんや…お前馬鹿にしとんのかッ、えぇッ!?この世界を馬鹿にしとるんかって聞いてるんやッ!』

凄んだその安藤の姿は師匠の前では決して見せないものだったので可憐はかなり驚いた…

『アイドル歌手が真剣に漫才師を目指したらそれって馬鹿にしてる事になるんでッッすッッかッッ!?』

『当たり前じゃッッ!芸の世界を舐めんなよッ!お前みたいな持ち上げられて来た歌手がノリと興味本位だけで通用する程漫才の世界は甘ぅないんじゃッ!』

どうしたどうした喧嘩かッ!?と二人の回りを野次馬が取り囲み始めた…

『そんな文句言う為に私を此処に呼んだのですかッ!?安藤さん、新人漫才大賞に出場して優勝したくないんですかッ!?』

『先に言うとくッ!お前とは絶対コンビなんか組まんからなッ!』

No.227 08/01/24 19:29
ヒマ人0 

>> 226 ☺41☺

『だって師匠が決めた事なんですよッ!そんな事言わないで頑張ってみましょうよッ!とにかくやらなきゃ始まらないじゃないですかッ!』

『アイドルなんかと漫才が出来るかいッ!みんなの笑い者やッ!』

チキショ!チキショ!と怒鳴りながら帰る安藤の後を追いながら可憐は身振り手振りで必死に呼び掛けた…私だって好き好んで貴方とコンビを組みたい訳じゃないッ!でもやらなきゃッ!自分の将来が…夢がかかってるんだからッッ!…どんだけ安藤にこの言葉を浴びせたかった事か…しかし可憐はそれを飲み込んでひたすら安藤にどうか落ち着くように、ゆっくり話そうと諭した…が、みるみる安藤の姿が見えなくなっていく…可憐は追い掛けるのを諦めると一度右足で地面を踏み天を仰いだ…

(な、なァ~んでェ~ッ!…アァ~嫌だ嫌だァ~あのネガティブ精神何とかしてェ~ッ!)

可憐は銀杏の黄色い絨毯にしゃがみ込んでため息をついた…

(お婆ちゃん…ヤッパリ私…無理なのかな…みんなの笑顔…舞台で見る事は出来ないのかな…)

可憐にとって《歌手愛川可憐》がこの時位疎ましく感じた事はなかった…

No.228 08/01/24 20:40
ヒマ人0 

>> 227 ☺42☺

『ガハハハッ!そうかッ…カキの奴えらい剣幕やったんやな珍しい…アイツは女子供だけにはメッポウ強いからなぁ…』

『もう!…笑い事じゃないですッ…結局それ以来丸二日も口聞いて貰えないんですからッ!所詮アイドルはアイドルらしくフリフリのスカート履いて踊ってろだとか、水着になって男に色目使ってりゃいいだとかもう言いたい放題ッ!』

栗ご飯の甘い香りが部屋中に充満した…三島ヨットは大好物のイカの塩辛を可憐の作った栗ご飯に乗せると美味しそうにかきこんだ…

(ってゆうか…どういう味覚ですか師匠ッッ!)

『師匠…安藤さんに何とか言って下さいますよねッ!?私とネタ合わせちゃんとしろっ!て…』

可憐の真剣な眼差しに照れながら三島ヨットは手を横に振った…

『悪いけどそれはお前らの問題やッ!…ワシは関与せんッ!勝手にやってくれ…』

『そ、そんなぁ~師匠ッッ!』

可憐はヨットのご飯のおかわりを無視した…

『クッ…あ、あのな椿…そんな事ぐらいで躓いてるようじゃぁ到底日本一の漫才師にはなれんッ!お前もカキの奴もなッ!』

『どうしても安藤さんとコンビ組まなきゃ駄目ですか?』

『そやな…お前ら二人で新人漫才大賞に出て優勝…それしか道はない…』

No.229 08/01/24 23:24
ヒマ人0 

>> 228 ☺43☺

『師匠…私どうしたらいいんでしょうか…』

安藤からことごとく無視され仕方なくその日も可憐は三島ボートの荷物持ちを手伝っていた…

『師匠のヨット君がそうしろと言ってるんや…従うしかないやろ…』

粋なキセルで粉煙草をふかしながらヨットと全く正反対の上品な三島ボートは休憩中いきつけの喫茶店のコーヒーを飲んだ…

『けど肝心の安藤さんにあんな態度取られたら…私どうしていいのか解りませんッ!ヨット師匠も師匠ですよッ!無責任にお前らで解決しろだなんて…』

『ほんまに…無責任なんかな?』

ボートは瓶の角砂糖を一つ口に入れてねぶり始めた…ボートは無類の甘党で有名だ…

『お前らで解決せぇ…ヨット君はそう言った…その意味解るか?椿ッ!?』

可憐は首を傾げた…

『嫉妬やな…』

『え?…』

『ん…い、いや…何もないッ…ハハハ、まあしっかり頑張りやッ!』

笑うと皺だらけの面長の顔でボートはそれだけ言うと喫茶店を後に松前座の楽屋口へと消えて行った…

(とにかく新人漫才大賞はひと月を切っている…何とか…何とかしなきゃッ!…何が何でも安藤さんに分かってもらわなきゃッ!)

可憐は楽屋まで二人の背広を届けると一人気合いを入れた…

No.230 08/01/25 11:47
ヒマ人0 

>> 229 ☺44☺

『!ッ…な…何やッ!』

安藤の住むアパートは可憐の想像通り、昭和漫画家の聖地《トキワ荘》を彷彿とさせるような典型的な長屋のアパートだった…

『…用があるから来たに決まってますッ!』

半ば怒り気味に可憐は鞄から束になった古い大学ノートを安藤に差し出した…

『…な…何やこれッ…』

『私が小学生の頃から自分で考えて作っていたネタ帳ですッ!これを読んで下さいッ!読めば私が本当に腰掛けや興味本位でこの世界に入ったのかどうかが解って頂けると思います…』

『な、何で俺がこんなモン読まな…』

『読んで下さいッッッッ!』

可憐は強引に安藤の脇にノートを差し込んだ…

『正直内容は人様に披露出来るレベルじゃないかも…救いようがない位つまらないかもしれません…けど…だけどッ!貴方みたいに何でも否定的で自己嫌悪バリバリの何もしないウジウジして他人を批判する人よりは無謀でも馬鹿でもこうして明日を考えてる私みたいな人間の方がまだ百倍マシだと思いますッ!違いますかッ!?』

安藤は視線を床に落として黙っていた…可憐は帰り際振り向き安藤に言った…

『あの公園で毎日一人で練習してますからッ…貴方が嫌でも私、やり通しますからッ!』

No.231 08/01/25 16:49
ヒマ人0 

>> 230 ☺45☺

『チッ!何やあのガキッッ…一丁前な事言いやがってッッ!』

可憐が帰った後安藤はそのノートを思い切り床に叩きつけた!

(お前にッ…お前に俺の何が解るってゆぅんじゃッッ!)

安藤は自分の部屋で大の字になると喚き散らしたッ!

(こんなママゴトノートが何やっちゅうねんッ!)

安藤はコンロに火をかけると可憐の大学ノートを近づけたッ!

(クソッ!こんなノート…燃やしたるッッ!)

安藤の振える手が火に伸びる…

(クッ…クッソォォォ~ッッ!馬鹿にしやがってぇぇぇッッ!)

安藤は寸での所で火からノートを離したが三分の一程焼いた所で我に帰り横の壁に燃えかけの可憐のノートを叩き付けた!

『…何やっとるんやッ!』

『あ…し、師匠ッ…』

玄関に師匠の三島ヨットが立っていた…

『何一人で暴れとるんやッ…』

『あ…いえ…』

猫を被ったように師匠の前で安藤は大人しくなった…

『気になって仕事の合間に来てみた…どや、椿とネタは仕上がったか?』

『………』

『な…何や…どないしたんや?まだ出来てへんのか?』

安藤はただ黙ってその場にへたり込んでしまい、うなだれてじっと窓の外の秋空を眺めていた…

No.232 08/01/25 17:37
ヒマ人0 

>> 231 ☺46☺

『ほれ食えッ!ベルモットの特製メロンパンや…今日は特別やぞッ…』

ヨットは安藤にメロンパンの半分を手渡した…

『……』

『…何やカキお前…椿の事が嫌いかッ?』

うっすらと光の差し込む安藤の部屋の真ん中でヨットは手についたメロンパンの皮の部分をヌチャヌチャと舐めながら尋ねた…

『確かにアイツは何考えてるか解らん所あるな…人気絶頂のアイドルやったのを蹴ってまでこんな芸人の世界に飛び込んでくるくらいやからな…おい、茶やッ!』

安藤はスミマセンとお茶の用意を始めた…

『けどなカキ…お前も二年前はあんな顔しとったで…椿のようなな…』

『え?…』

『この芸の道一筋で食っていくッ!そんなギラギラした目でワシの前で頭下げたんや…』

安藤は熱いのか温いのか中途半端なお茶をヨットに差し出した…

『言っとくけどなカキ…お前にももう後がないんやでッ!』

『え…し、…』

『椿とうまい事いけへんてゆぅんならもうワシの弟子も破門するッ!』

『!…う…そ、そん…な』

安藤はヨットの顔をマジマジと見つめ驚きの表情を見せた…

『お前も椿も前に…ドンドン前に進んで行くしか道はないッ!…道はないんや…わかったな?』

No.233 08/01/25 18:01
ヒマ人0 

>> 232 ☺47☺

《お前も椿も前に進んでいくしか道はないんや…》

師匠の言葉がいつまでも安藤の心に残っていた…

(前に…カァ…)

両手を頭の後ろで組み安藤はじっと天井の模様を眺めていた…高校を卒業し、芸人の世界に憧れこの世界に飛び込んだまではいいがいつまで経ってもウダツの上がらぬ付き人で仕事らしい仕事は殆ど無いただ惰性に生きている空気みたいな存在…安藤はそんな情けない自分を自覚していた…だからこそ可憐に言われた事に腹が立ったのだ…そんな事今更お前に言われなくても解ってるッ!と…《顔が面白いからって即舞台で笑われる一流芸人になれると思ったら大間違いやぞッ!そっからまた一歩努力せんかったら芸人それでおしまいなんやッ!》…いつしか師匠に言われた言葉が蘇り安藤は目を閉じた…

(俺も二年前は…アイツと同じ目を…してたんや…)

安藤はふとさっき壁際に捨てた焼けかけの可憐の大学ノートに目をやった…そしてゆっくり手に取り中身をパラパラとめくってみた…



《平成11年6月12日…今日初めて三島ヨットボートさんの漫才を見た…電気が走ったよッ!凄いッ!二人の漫才を聞くだけでこんなに心が暖かくなれるんなんてッ!私決めたッ!絶対漫才師になるッ!》

No.234 08/01/25 18:21
ヒマ人0 

>> 233 ☺48☺

《平成11年7月26日…今日初めてネタを作りました…本気で嫌がる親友のカナに相方をやってもらいみんなの前で披露…結果散々…でもめげないッ!きっと魚屋って設定が悪かったのよッ!次はネタにしやすい散髪屋で再度挑戦ッ!頑張ろうねカナッ!チュッ!》

《平成11年8月1日…ヤッパリうけない…私がボケ担当の方がいいのかな?…散髪屋のパーマのくだりはチョイ受けあと全滅…ハハハ》

安藤はじっと可憐のノートを読んだ…

《平成11年9月20日…カナが相方を辞めたいって言い出したの…クスン…漫才するのは決して恥ずかしい事じゃないよッ!人を笑わせて幸せに出来る最高のエンタテイメントだよって必死に2時間説得…キャハ!ヤッタァ~ッ!カナ相方続けてくれるって…大好きカナ!》

(……コイツ…馬鹿か?…ハハハ)

安藤は苦笑いするとお茶を入れて今度はゆっくりと腰を据えてノートの続きをまた読み始めた…

《平成11年11月9日…今日はネタ…書きたくない…ごめんなさい私…》

(ん?…)

安藤の目線がこのページで止まった…その日からノートは白紙のページが続いた…

No.235 08/01/25 19:15
ヒマ人0 

>> 234 ☺49☺

冬に差し掛かる肌寒い朝、安藤は例の公園の前にいた…

(……いた!)

安藤は公園の公衆便所の側の金網に可憐を発見した…可憐は金網に向かってブツブツと話しかけながら時には大声で笑ったり身振り手振りで動き回っていた…安藤には明らかにネタの練習をしていると解る後ろ姿だった…

『だからぁ!さっきから言ってるでしょッッ!丸坊主にパーマはかけられないんだってッッ!じゃあどうすんのよッ!お客さんその気になってじっと座ってるじゃんッ!』

(ハァ~…一人二役かよ…落語じゃねぇんだからッ!…み、見てらんねぇ~!)

可憐の漫才の常識を超えたハチャメチャな練習風景に安藤は草場の陰でため息をついた…

『うちは散髪屋だよッ!…そんな…』

『アカンアカンアカンッ!そんな中途半端な設定で客が食いつくかいなッッ!』

『!…えッッ?』

可憐が振り向くとそこに可憐が書いたらしいネタ帳を見つめる安藤の姿があった!

『あ…あ、安藤さんッッ!』

『…なるほどな…散髪屋に来た客と店主夫婦のやり取り…ちゅう訳か…う~ん、イマイチ解りずらいな…客ッ!』

『はぁ?…』

『客やッ!俺を客やと思って話膨らませてみいッッ!』

『安藤…さん…じゃあ…私とッ!…』

No.236 08/01/25 19:34
ヒマ人0 

>> 235 ☺50☺

『せやからぁ!客はパーマをあててもらいたいんやろッ!?そこで店主の《顔剃りますかぁ?》ってクダリは変やって言ってるんやッ!』

『だ、駄目ですッ!ここは譲れませんッ!ボケにボケの繰り返しッ!これっきゃないんですッ!』

気がつくと安藤と可憐のネタ作りはヒートアップし、深夜まで続いていた…二人のテンションの高さに犬の散歩に来た近所の主婦は目を丸くしている…

『ハア~お前と話してたら疲れるわッ!考えが幼稚なんやって!休憩休憩ッッ!』

安藤は一段落付かせるように近くの自販機で缶コーヒーを二本買って一本を可憐に投げた…

『あ…有難うございます…』

コオロギの微かな声が聞こえる公園で二人は土の上にゆっくり腰を下ろした…安藤はため息を付きながら星空を見上げた…

『…来て下さったんですね…有難うございます…』

可憐はコーヒーを両手に囲んだ…

『か、勘違いすんな…俺は…俺はただ…』

俯く安藤に可憐はコノコノ~と肘でコツいて見せた…

『あれからずっと此処で…一人で練習してたんか…』

可憐は頷いた…

『そっか……』

安藤はコーヒーを飲み干した…

『けど不思議やな…こと漫才の事になると自然と身体と頭が…』

可憐は苦笑いした…

No.237 08/01/25 19:54
ヒマ人0 

>> 236 ☺51☺

『俺目醒めたわ…お前に言われた《やらなきゃ始まらない》って言葉にな…』

『…安藤さん…』

安藤が着ていた緑のパーカーの帽子の部分が風に揺れた…

『こんな俺でもな…昔ちょっと売れ出した時期があったんや…大阪のTVのバラエティ番組で前説とかさせてもろたりしてな…ほら、俺て…顔面白いやん?』

『…はい…羨ましい位に…嫉妬します…』

そこは否定せんかッ!と安藤は笑った…

『けどある日先輩芸人に言われたんや…《カキは顔がオモロいだけで人間は全然オモロない…そんな奴の漫才聞いても誰も振り向かへん》って…俺その言葉にかなりショック受けてな…』

『……』

可憐は短く切った髪の毛をかきあげじっと安藤の話を聞いた…

『そこで何クソッと奮起したら…出来てたら俺もう少し変わってたんかもしれん…けど出来んかった…それ以来殻に閉じこもり自分に自信無くしてな…何もかも嫌になってな…このザマや…ハハハ』

『……』

公園の街灯に虫がバチバチと近付いて花火のような音を奏でている…可憐は缶コーヒーを開けるとゆっくり口をつけた…

『ハア~美味しいッ!…昼から喉カラカラだったから…』

それを見て安藤が目線を合わさず苦笑いをした…

No.238 08/01/25 20:39
ヒマ人0 

>> 237 ☺52☺

安藤はポケットから丸めた大学ノートを取り出した…

『これって…』

『すまん…ちょっと焼いてもうた…けど全部読ませてもろた…お前が小さい頃から本気で漫才師に憧れてたって事…どんだけ漫才が好きかって事よう解った…』

焼けた箇所に幾つものセロテープの跡があったので可憐は少し笑った…

『なぁ…一つ聞いてえぇか?』

安藤は猫背の姿勢を正した…

『何で白紙やったんや?』

『白紙?…』

『途中からネタ日記書かんと止まっとったやないか…え~確か平成11年…』

可憐は側の葉っぱを摘むとパラッと撒いてみせた…

『なぁ…気になったんや…あんだけ毎日楽しく書き込んでたのに…な…』

『夢を…』

『えッ…?』

『夢を捨てなきゃならなかったから…だからもう書けなかったんです…』

可憐の顔が曇った…

『夢を…捨てる?』

『父に…事務所の社長であった父に半ば強引にアイドル歌手の道を歩む事を約束させられたその日だったから…』

突然晩秋の冷たい風が銀杏の枯れ葉を引き連れて二人の回りを舞った…

『…椿お前ホンマに…辛かったんや…アイドルになる事…』

可憐は黙って金網の向こうの風のざわめきを聴いていた…

No.239 08/01/25 21:03
ヒマ人0 

>> 238 ☺53☺

『俺正直お前の事見下しとった…何がアイドルじゃッ!漫才師なりたいて馬鹿にしとんのかッ!って…どうせバラエティに興味持つ芸の事全然解りもせんガキが話題性や知名度上げる為の宣伝にでもするんかッ!…て』

『…仕方ないですね…そう思われても…』

可憐は切り替えるようにさぁ!もう一踏ん張りネタ詰めましょうッ!と立ち上がった…

『すまんな…ホンマに…』

『もういいですよッ!過去の事とやかく言ったって戻って来てはくれないじゃないですかッ!前を見ましょうよ前をッ!半月先に迫った新人漫才大賞予選会突破目指してッ!』

可憐は安藤に握手を求めた…

『じゃあ正式にッ!今日平成19年11月14日午前零時22分ッ!私《三島椿》と《カキフライ安藤》の新漫才コンビ誕生ッ!コンビ名は名付けて《カキツバキ》ッ!どうですかッ!?』

『カキ…せ、センス無いなぁ~…まぁえぇわ…』

照れ笑いを浮かべながら安藤は可憐の手を握った…

『いっちょやったろかッ!』

『漫才界に旋風を起こしてやりましょうッ!』

寒空の中漫才の頂点を目指す若い二人は互いに笑い合った…

No.240 08/01/26 13:06
ヒマ人0 

>> 239 ☺54☺

《元スーパーアイドル愛川可憐が漫才コンビ結成ッ!目指すは上方新人漫才大賞ッッ!?》

二人が漫才大賞予選にエントリーしたその数日後、週刊誌にはそんな記事が飛び交っていた…

『さっすがエライ人気やないか椿ちゃんッ!』

『ハハハ、人気だなんて師匠ッ…ただマスコミに半分笑い者にされてるだけですよッ!』

楽屋で週刊誌を眺める三島ヨットの衣装整理をしながら可憐は答えた…可憐と安藤が師匠である三島ヨットの前でコンビ結成の報告をした時ヨットはさほど驚いた様子もなくそうか、しっかりやれ!とだけ二人に告げた…

『で、予選用のネタは仕上がったんか?』

可憐の横で靴を揃える安藤に三島ヨットは尋ねた…

『あ…はいッ…一応…椿と二人で練りに練りまして…ハイ…』

小さな声で申し訳なさそうに安藤は答えた…

『見せてみッ!』

『…え?い、今ぁ?…此処でですかッ!?』

可憐が反応した…

『そや…お前らに任せるとはゆうたがどんな漫才に仕上がったんか興味ある…見せてみぃ!ほら…』

お茶と饅頭でくつろぎながら三島ヨットは二人にこの場でネタ見せを命令した…

『はい…じゃあ…安藤さん…』

『て、照れますね…ヤッパリ…』

二人は立ち位置に収まった…

No.241 08/01/27 08:47
ヒマ人0 

>> 240 ☺55☺

《はいどうも~皆さんこんにちはッ!カキツバキでぇ~すッ!》

三島ヨットはあぐらをかいて真剣に聞くようでもなく新聞を読みながら耳だけ二人に傾けていた…手洗いから帰った三島ボートも加わり三島ヨット・ボートの二人は弟子の漫才を聴いていた…

《実はね椿ちゃん、僕この間散髪屋に行って来た時の話やねんけどな…》
《カキちゃんでも散髪するんやね、河童やから毛伸びないんやと思ってたわッ!》
《オイ待てッ!待てッ!待ったらんかいッッ!…だ、誰が河童やねんッ!ほな何かッ!?この僕の髪の毛の下には皿でも忍ばせとんかいッ!》

ネタは二人が二週間かけて練り上げた例の散髪屋の客と店員の会話だった…椿がおバカな店員になり安藤がそんな彼女に振り回されるお客の役で約3分間の二人の創作漫才が始まった…師匠二人はそれぞれくつろぎながらじっと二人の漫才を聴いていた…

《…てゆうかやめさせてもらうわッ!どうもッ有難うございましたぁ~ッ!》

3分間の《カキツバキ》の漫才が終了した…楽屋内に暫く沈黙が続いた…

『……お、終わり…です…』

『………』

『…で、い、いかがだったでしょうか…』

可憐と安藤は緊張の面持ちで二人の顔を見た…

No.242 08/01/28 20:22
ヒマ人0 

>> 241 ☺56☺

三島ヨットとボートはじっと視線を落とし黙っていた…可憐と安藤はただじっと直立不動で二人の言葉を待っていた…

『うん…まぁ…一つの作品としては及第点は付けられるな…』

鼻をかみながら意外な師匠ヨットの第一声だった…

『基本的な事はきっちり出来てます…つい最近生まれた急造コンビにしてはなかなかのモンや…ネタはしっかりしてます…』

後からボートの優しい声が飛んだ…二人の師匠の余りにも意外な言葉に可憐と安藤は思わず飛び上がりそうになる程喜んだ…

『ただァ~しッッ!』

楽屋中に響き渡るような声でヨットが声を発した!

『…ただし、そんなネタでは新人漫才大賞どころか…予選すら通過せんやろな…』

『……え?…そッ…なッ…ど、どうしてですか?』

喜びもつかの間可憐と安藤はヨットの言葉に動揺した…

『…可もなく不可もなく…ごく普通ぅ~の教えられたような漫才やからや…』

隣でボートもそうやと頷いていた…

『せ、せやかて師匠ッ!俺と椿は来る日も来る日もとことん頑張りましたッ!だから…予選はこのネタで…俺らこの漫才で勝負したいんですッ!』

安藤が珍しく声を荒げた…

『…らしさがないんや、らしさがッ!』

No.243 08/01/31 19:53
ヒマ人0 

>> 242 ☺57☺

『らしさ…ですか…』

可憐と安藤は俯きがちに顔を見合わせた…

『そやッ!…ワシはお前らにしか出来へん漫才があるってゆうとるんや…』

三島ヨットのそばでボートも同じくその言葉に頷いた…

『そんな誰かに教えてもろたような教科書通りの漫才やってて客が喜ぶと思うか?客が見たいのは《お前ら》という人間やッ!お前らの全部を全裸で毛穴の中まで洗いざらい見て貰う程の覚悟がないと客は真剣にお前らと向き合う事はせんのやッ!解るかッ!?』

『…私達という人間?…どういう事か解りません、師匠もっと詳しくはな…』

『アホンダラッッ!甘ったれるなッ!それが解らんようじゃ漫才師どころか予選も通過せぇへんわッ!しっかり頭使うて考えッッ!』

それだけ言うと三島ヨット・ボートは出番の為舞台の袖に消えて行った…

『…らしさ…カァ…難しいなぁ…』

安藤が頭を抱えた…可憐は黙って爪を噛みながらその場に暫く立ちすくんでいた…

(全てをさらけ出す…一体どういう意味だろ…)

可憐は自信満々だったネタが却下された悔しさよりも三島ヨットの言葉の重さにただただ唇を噛み締めていた…

(らしさ…私らしさ…)

  • << 249 ☺58☺ 『らしさ…カァ…師匠も難しい注文出しよるなぁ…』 新人漫才大賞予選会が明後日に迫っていた…安藤と可憐は三島ボートのアパートで途方に暮れていた…三島ボートの言う《らしさ》の意味がイマイチ理解出来ぬまま何の打開策も見出だせないまま悩んでいた… 『ねぇ安藤さん…私解んないよッッ!らしさってどういう意味ですかッッ!?』 『あ、アホッッ!俺に聞いても解るかいッッ!』 『つまり…正統派漫才をするな!…ネタや設定の段階から冒険しろ!という意味ですかね…ア~ン、解んないィ~ッッ!』 せっかく起動に乗り出した可憐の夢も暗礁に乗り上げた形となっていた… 『……もう諦めるしかないんかな…』 安藤が自信なさげに呟いた… 『なッ!何言ってるんですかッッ!安藤さんの漫才師になるって夢、そんなチッポケな物だったんですかッッ!?まだ二日ありますッッ!諦めずに頑張りましょうよッッ!』 可憐は何とか安藤のやる気を奮起させようと必死に自分自身の萎える気持ちと共に闘っていた… 『フフ…さすが元スーパーアイドル…貧相な俺とはモチベーションが違うわッッ!』 安藤は苦笑いした…

No.245 08/02/14 17:03
アル『日 ( 30代 ♂ ycvN )

ビリケン昭和💀さん、こんちくわ😚🍢
元気ですか~ッ💨🔉

~笑い星~☺の続き🌠も寝れず😪💤グウッ…ゴホンッ💦楽しみに待っとります☝😁

ついでに💝🍫も、待っとります😁ニヤリ

では👋😁
アル🍺

No.246 08/02/14 20:50
ヒマ人0 

>> 245 アル様❤いつも有難うございます💦今日は聖バレンタインデーでしたね😉では若輩ながら私ビリケン💀からアル様に💋…
🍫🍫🍫チョコっとね❤😳💦

やだ~💦ビリケンが女だったって事ばれるじゃないですカァ~ぷんぷん💨

No.247 08/02/14 22:16
向日葵 ( dtkN )

>> 246 既にバレてますから…🐯には(笑)アルさん、🐯からもチョコレートあげます😁あ、すいません💢谷間に挟まってました😱ちょっと温いけど…どうぞ(笑)ところで、ビリケンさん…短編小説の更新ストップしてますが…?

No.248 08/02/14 22:28
アル『日 ( 30代 ♂ ycvN )

>> 247 🐯さんまで、💝🍫有り難う😚
で、どちらの谷間で…
😍グフッ💧
あっ すいません💦つい涎が…💦

☝😂🔥🔨100t

💀さん、🐯さん、いただきます😳

アル🍺

No.249 08/03/01 13:23
ヒマ人0 

>> 243 ☺57☺ 『らしさ…ですか…』 可憐と安藤は俯きがちに顔を見合わせた… 『そやッ!…ワシはお前らにしか出来へん漫才があるってゆうとるん… ☺58☺

『らしさ…カァ…師匠も難しい注文出しよるなぁ…』

新人漫才大賞予選会が明後日に迫っていた…安藤と可憐は三島ボートのアパートで途方に暮れていた…三島ボートの言う《らしさ》の意味がイマイチ理解出来ぬまま何の打開策も見出だせないまま悩んでいた…

『ねぇ安藤さん…私解んないよッッ!らしさってどういう意味ですかッッ!?』

『あ、アホッッ!俺に聞いても解るかいッッ!』

『つまり…正統派漫才をするな!…ネタや設定の段階から冒険しろ!という意味ですかね…ア~ン、解んないィ~ッッ!』

せっかく起動に乗り出した可憐の夢も暗礁に乗り上げた形となっていた…

『……もう諦めるしかないんかな…』

安藤が自信なさげに呟いた…

『なッ!何言ってるんですかッッ!安藤さんの漫才師になるって夢、そんなチッポケな物だったんですかッッ!?まだ二日ありますッッ!諦めずに頑張りましょうよッッ!』

可憐は何とか安藤のやる気を奮起させようと必死に自分自身の萎える気持ちと共に闘っていた…

『フフ…さすが元スーパーアイドル…貧相な俺とはモチベーションが違うわッッ!』

安藤は苦笑いした…

No.250 08/03/11 16:54
ヒマ人0 

>> 249 ☺59☺

『あ…安藤さん…今何と…何と言いました?』

突然可憐は何かを思い出したかのように安藤ににじり寄った…

『なッ、何や…気持ち悪いッッ…どないしたんや?』

『今何と言いましたかッッ!?』

可憐は安藤の襟首を掴みユサユサと揺らした…

『ちッ、ちょっと待てッッ、いたい…痛いやろがッッ…さすが元スーパーアイドルやなって褒めただけやがなッッ!』

『!ッッ…そ、それですッッ!分かった!私…分かっちゃいましたッッ!師匠達の言わんとしている事が今ッッ!』

可憐は安藤の手を取ると小躍りするようにその場を走り回った…

『ち、ちょっと…何がッ…何が分かったんや?』

『練習ですッッ!さぁ練習しましょッッ!安藤先輩ッッ!ウフフ…』

『き、気持ち悪いナァ…何が何か俺に解るように説明してくれるか?』

可憐は笑顔で安藤を見た…

『ほらッ…このままで…このまま飾らない私達でいいんですよッ!答えはそれです!』

可憐はそう言うと安藤を定位置に立たせてゆっくり深呼吸をした…

『で…ネタは?』

『そんなモノ要りませんよッッ!』

『……え?…』

  • << 251 ☺60☺ 『よ、予選通過したって…お前らそれ…ホンマけッ!?』 それから三日後、舞台の合間に食堂でキツネうどんをすすっていた二人の師匠三島ヨット・ボートは目を丸くした… 『あ~師匠その顔ッッ!まさか私達弟子の事全然期待してなかったんじゃありませんかッ!?』 『……ま…まぁな…すまんけど…その通りや…』 可憐と安藤は上方新人漫才大賞予選通過者だけに送られる本選決勝大会に出場出来る分厚い封筒を見せた… 『…み、見てみぃボート君…これ…ホンマもんや…』 『…あぁ…コラ驚きました…』 二人は封筒の内容を何度も読み返して信じられない様子だった… 『ネタは?…例の散髪屋のアレでいったんか?』 『いぇ違うネタで…師匠に言われたようにあのネタは封印して私達らしい漫才のネタに変えて…』 ヨットとボートは首を傾げながらそらおめでとうと初めて笑顔を見せた… 『本選決勝大会は来週OBV演劇ホールで全国ネットで生放送ですッッ!師匠ッ…見てて下さいねッ!私達《カキツバキ》きっと新人漫才賞の頂点に立ってみせますからッッ!』 安藤も可憐に続き笑顔を見せた… 『そうか…しかしお前ら二人共えぇ顔しとるッ…見違えたわ…まあ頑張りッッ!』
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