🎈手軽に読める短編小説
皆様こんにちわ‼手軽に読める短編小説始まります…待ち合わせや夜の時間に手軽にサクッと読めちゃう、そんな小説スレです❤貴方はどのお話が好きですか?…
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【①】~999の鶴~
🎒1🎒
私の大親友の雅美ちゃんは白血病というなかなか治りにくい大変な病気だそうです…小さい頃から凄く元気で遊んでたのにある日突然鼻血が止まらなくなりました…その時からずっとずっと病院で生活しています…
『美砂ッ!勝手に院を出てきちゃ駄目じゃない!』
『だって三好先生…私、雅美ちゃんの事が心配だもの…そばにいていい?』
『駄目に決まってるでしょ!先生だってそう何回も無菌室には入れて貰えないのよッ!さぁ…帰りなさい…』
雅美ちゃんが入院している病院の玄関で孤児院の三好先生に見つかった…私が泣きそうな顔をしたから三好先生は困った顔をして私を見た…
『フゥ…仕方ないわね…いいわ!でも窓越しからよッッ!』
私は飛び上がって喜んだ…雅美ちゃんに会うのは一ヶ月振りだ…病院の長い廊下を三好先生は私の手を引きながらゆっくり歩いた…
《雅美ちゃん…起きてる?美砂ちゃんが来てくれたよッ!》
三好先生はガラス越しのマイクから無菌室の雅美ちゃんに向かって声をかけた…
《え!?…うそッ!美砂ちゃん?…美砂ちゃん?》
私は雅美ちゃんのそのかすれた声を聴いた途端何だか涙が溢れてきた…
>> 1
🎒2🎒
雅美ちゃんの髪の毛は殆ど抜けてました…雅美ちゃんは私を見ると恥ずかしそうに頭を隠してうつ向きました…
《雅美ちゃん!元気?》
《……うん、元気…美砂ちゃんは?》
備え付けの面会用のマイクで私の声を聞いた途端、雅美ちゃんはまたいつもの元気を取り戻しました…
《また一緒に遊びたいね!》
雅美ちゃんが悲しそうに私に言いました…
《きっと遊べるよ!また元気に二人で遊ぼッ!》
私は笑顔で答えました…私は三好先生の顔を見て、あの事を雅美ちゃんに言ってもいいかと問いました…三好先生は優しく、うん…と言ってくれました…
《雅美ちゃん!美砂ね、今雅美ちゃんの病気が治るように祈りながら千羽鶴を折ってるんだ!…あともう少しで出来るから待っててね!出来たら雅美ちゃんのベットの横に置いておいてねッ!》
雅美ちゃんは有難うと私に笑いかけてくれました…
《願い…叶うかな…?》
雅美ちゃんが言いました…
《叶うよ!千羽折ったら何だって願いが叶うんだから!美砂の千羽鶴は凄いんだからッ!》
私は雅美ちゃんにガッツポーズをして見せました…雅美ちゃんはガッツポーズで返してくれました…頑張れ!頑張れ!雅美ちゃん!!
>> 2
🎒3🎒
(私は捨てられた…要らない子供だったんだ…)
孤児院にいる時も私は一心不乱に毎日毎日千羽鶴を折り続けました…三好先生も手伝ってあげようかと言ってくれましたが私一人の力で折りたいと無理を言いました…150…360…580…毎日休まず私は鶴を折り続けました…産まれた時からずっと一緒だった雅美ちゃんが居なくなる事なんて信じられません…信じたくありません…私には雅美ちゃんが全てでした…学校で親無し~とクラスメートから苛められても同じ境遇の雅美ちゃんがいるから頑張れました…だから…だから絶対信じません!雅美ちゃんは絶対居なくなったりしません!綺麗な天使になる位なら汚くても悪魔でもこの世の中に居て欲しい…雅美ちゃん以外の誰も私は好きにはなれません!家族の居ない私にとって雅美ちゃんは一番の絆です!頑張って雅美ちゃん!頑張って雅美ちゃん!…私も頑張るから…だから絶対諦めないで!690…830…もうちょっと…もう後ちょっと!!…
>> 3
🎒4🎒
『先生ッ!三好先生ッ!千羽鶴が完成したよッ!』
私は自分の背丈程ある千羽鶴を持って雅美ちゃんの病院に急ぎました…
(出来たよ出来たッ!待っててね、雅美ちゃん!)
私は三好先生と一緒に廊下を早歩きしながら千羽鶴を見た時の雅美ちゃんの喜ぶ顔ばかりを想像しました…無菌室の前で私と三好先生は雅美ちゃんの担当の先生に止められました…暫く待合室の椅子に座らされました…ようやくお呼びがかかり、私は雅美ちゃんの部屋に入りました…そこには椅子に座る孤児院の院長先生と白いタオルをかけられた雅美ちゃんが静かに横たわっていました…
『雅美…ちゃん…?』
三好先生は泣いていました…私はこの時初めて雅美ちゃんはもうこの世にはいないんだという事を悟りました…
『雅美ちゃん?…どうして…私…千羽鶴…折ったんだよッ!雅美ちゃん、どうして!?どうしてッッッ!』
私は雅美ちゃんの亡骸に泣き崩れました…部屋の中に眩しい夕焼けが差し込んでいました…雅美ちゃん…大好きな雅美ちゃん!!…願い叶わなかったね…ゴメンね…
>> 4
🎒5🎒
雅美ちゃんの小さな棺桶は霊柩車に乗せられ、孤児院の子供達や先生らに見送られて焼き場に向かいました…私はもう泣きませんでした…雅美ちゃんは天使になったんです…私を捨てた両親とは違って雅美ちゃんは愛されて産まれた子供でした…赤ちゃんの時に両親が事故に遭い、仕方なくこの孤児院に連れて来られた子供だったから…だから雅美ちゃんは幸せなんです…だって天国の両親に引き取られるんだから…良かったね…雅美ちゃん…部屋に戻り、私は何気なく雅美ちゃんにあげるつもりだった千羽鶴の数を数え始めました…998…999…!
(え…999羽!…そっか…1羽…足りなかったんだ…ゴメンね…雅美ちゃん…)
私は机の引き出しから折り紙を一枚取り出すと最後の千枚目の鶴を折り上げました…
(これで千羽鶴完成!…フフフ…)
私は涙が止まりませんでした…その時突然三好先生が慌てて私の部屋に入って来ました…
『先生どうしたの?そんな慌てて…』
三好先生は一度唾を飲み込むと私に言いました…
『美砂ちゃん…落ち着いて聞いて頂戴ね!?…今貴方のお母さんから電話があって貴方を引き取りたいって!!』
~①999の鶴~完
>> 5
【②】~ジンクス~
🚚1🚚
『大変だぁッ!やっちまった!』
高速の料金所入口を抜けた途端、克美は思わず天を仰いだ…車線変更が遅れ、無理にでも割り込もうとしたが運の悪い事に大型の観光バスが連なり結局克美の乗るトラックは車線変更出来ずにそのまま目の前の料金所を通過したのだった…
(どうしよう!…参ったなぁ…)
降って沸いた一人娘の見合い話に運転がうわの空になり、克美は一瞬気を取られてしまったのだ…
(まずい…あそこの料金ゲートを通らないとエライ事になるんだよッ…)
克美にはジンクスがあった…運送会社に勤務する克美は仕事で毎週東京から大阪まで長距離トラックを走らせる…克美はいつも東名高速道路に入る手前の料金所の一番右のETCの料金ゲートをくぐる事を日課にしていた…何故ならこのゲートをくぐった時は必ずといっていい程納入先の工場へ品物を時間通り届ける事が出来るのである…逆にこのゲートを通らないで他のゲートを通過して大阪に向かうと克美は決まって今まで良くない事が起きていたのだ…
(どうしよう…今更引き返す訳にもいかないしナァ~…)
悲痛な思いで克美は祈りながら深夜の高速道路でトラックを走らせた…
>> 6
🚚2🚚
克美の脳裏に嫌な記憶が蘇って来た…
(前回あのゲートをくぐれなかった時は名古屋で未曾有の大事故に遭遇しちまって4時間も渋滞で足止めくらっちゃったし、その前はサービスエリアでつい仮眠したらそのまま朝まで寝ちまったし…ホントろくな事がないんだよナァ…)
克美のハンドルを握る手が汗ばんできた…
(今回は何が起きるんだろ…何も起きずに納入先の工場に辿り着ければいいんだけど…)
克美は頭の中で工場までのプランを綿密に立てていた…
(まずホントならゆっくり仮眠を取る予定のあのサービスエリアはトイレ休憩だけにしてすぐに出発しようッ!…そしてもし渋滞にはまってもいいようになるべく時間を短縮して目的地に向かおう!…遅刻するのは悪いけど工場に早く着くのは誰も文句は言わないはずだから…)
そう計画を立てると不思議と克美の胸は安堵した…
(そうだ…慌てないで慎重に…しっかり運転してりゃジンクスなんて関係ないんだッ!)
克美はオレンジの鮮やかな道路の灯りをみつめながらもう一度眠気醒ましのガムを噛んだ…
>> 7
🚚3🚚
克美のトラックはその後何事もなくトイレ休憩を取る予定のサービスエリアに到着した…
(フゥ~…ここまでは順調ッ…大阪の工場まであと約半分って所だな…渋滞もまだないみたいだし…)
トイレから出て煙草を吸うと克美は一度伸びをした…
『あのぅ…すみません…』
克美は声をかけられて振り向くとそこにはリュックを背負った20歳代位の若者が立っていた…
『な、何?』
その若者のイデタチを見て克美は嫌な予感がした…克美も過去に何度か乗せてあげた経験がある…これはまさしくヒッチハイカーだ…
『あの…広島まで行きたいんですが…もし同じ方向なら途中まで乗せて貰えないでしょうか…』
克美の予感が当たった…おそらく関東方面から車を乗り継いでここまで連れて来て貰ったのだろう…真面目で純朴そうなそのヒッチハイクの若者は丁寧に克美に頭を下げて来た…
(…広島…カァ…乗せてやりたいのは山々だが…)
いつもの克美ならいいよ!と二つ返事で返す所だが今回に限ってはなかなか気乗りがしなかった…
(きっといつものゲートをくぐっていればこんな卑屈な気持ちにはならなかったと思うんだが…)
克美はスマナイ、他の車を当たってくれと若者の頼みを断ってしまった…
>> 8
🚚4🚚
克美の車は順調に京都府に入った…
(さっきの若者…悪い事したなぁ…)
克美も学生時代、ヒッチハイクで日本一周の旅をした経験があり、そんなヒッチハイクの若者の気持ちは人一倍理解しているはずだった…
(ゴメンよ若者…だがワシも今日は心に余裕がないんだ…ジンクスが破られた以上どうしても時間通りに大阪の工場に到着しなきゃならない…)
深夜の闇を克美のトラックが疾走する…
(!?…ん?…)
数分走ると道路の遥か前方にハザードランプを付けた車が止まっていた…よく見ると後輪のタイヤの周りに若い女性達数人が固まって座っている…
(何だ?…パンクか!?)
一人の女性が克美のトラックに大きく手を振った…
(おいおい…またかよッ!…こんな時に限って!)
元来困っている人を放っておけないタチの克美は仕方なく減速し、トラックを停車させた…
『どうしたの?…』
『パンク…みたいなんです…タイヤ交換とか出来ますか?』
女子大生風の4人組だった…聞けば埼玉から深夜車を走らせ神戸の大学の先輩のウチに遊びに行く途中らしい…克美は悩んだ…ここで下手に時間を取る事はしたくない…何せ今日はジンクスが破られた日だ…
『助けて下さい…お願いしますッ!』
>> 9
🚚5🚚
『ロード…ロードサービス頼んだらどうだい?』
『えぇッ!?…交換…してくれないんですかッ!』
女子大生は克美の意外な言葉に目を丸くした…女子大生達の目はトラックを運転している男性がまさかタイヤ交換も出来ないの!という冷ややかな視線だった…克美も当然タイヤ交換くらい容易だったが何せ今日という日は何のトラブルも背負いたくないというのが本音だった…
『ご、ゴメン…先急ぐからッ!』
後ろ髪を引かれる思いで克美はその場から去った…女子大生の一人が小さな声で《ケチッ!》と呟いた声が克美の胸に突き刺さった…
(ワシだって替えてやりたいよッ!クゥ~ッ!いつものゲートさえ通ってりゃこんな事にはッ!)
今の騒動で克美のトラックは自身が計画していた予定時間より少し遅れ始めた…
(ヤバイ…急がなきゃ!)
克美のトラックはディーゼルのエンジン音を響かせながら目的地である大阪府内に入った…
(大丈夫…大丈夫だ克美ッ…もう大阪だッ!ここまで来たらもう安心だ!ジンクスなんて糞喰らえってんだッ!)
克美の気持ちに余裕が出かかったその時、目の前の光景に克美は唖然とした!
>> 10
🚚6🚚
『じッ、事故だぁッッ!』
克美は思わず目を見開いた…乗用車とバイクの接触事故らしくバイクの運転手らしき男性が中央分離帯のすぐそばで倒れていた!周りには他の車は無かった…
(た、大変だッッ!…まさに今起きたての事故じゃないかッッ!どうしよう…助けなきゃ…救急車呼ばなきゃ!)
克美はすぐさまトラックから飛び出してバイクの倒れた運転手の容態を確かめに行きたかった…しかしその瞬間!何故かまた克美の心にブレーキがかかった!
(だ、駄目だッッ!ここでトラックを降りたら…一時間やそこらじゃ到底済まないッ…警察の事情聴取や何やかんや…アァッ…工場の納品時間に間に合わないッッ!…でもこのまま放っておいたらッッ!クソッ!チキショッッ!…ワシが他の料金ゲートをくぐったばっかりにッッ!どうすりゃいいんダァ~ッッ!)
克美は思わずハンドルを持つ手を頭に置き、目を瞑った!
(ゴメンッッ!ゴメンゴメン!…ワシには…ワシにはやらなきゃならない事がッッ!今日だけはッッ!今日だけはホントにゴメンッッッ!!)
克美のトラックは横たわるバイクの運転手のすぐ脇を抜けて朝日が登り始めた薄明るい高速道路の靄の中に消えて行った…
>> 11
🚚7🚚
『カッちゃん、今日は間に合ったな!ジンクス守れたんやなッ!?ガハハハ!』
産業廃棄処理される鉄クズの納品先の工場長の榎本が煙草を吸う克美の肩をポンと叩いた…克美は朝日が昇る澄んだ空を見上げながらため息をついた…
(破った…ハハハ…ワシの忌まわしいジンクスを今日、見事自分の力で破って見せた!ざまぁ見やがれッッ!)
胸内で散々毒付くと克美は疲れ切った体を持ち上げ、事務所に納品のサインに向かった…しかしこんな些細なジンクスを破る為だけに自分は今日1日一体どれ程の人々を犠牲にしてきたのだろう…ヒッチハイクの若者、女子大生…それにあの事故に遭ったバイクの男性…こんなチッポケなジンクスを破る為だけにワシは…克美が深いため息をついた時、突然工場長の榎本が血相を変えて克美に歩み寄って来た!
『ど、どうしたんですかッ!榎本さん?』
『どうしたもこうしたもあるかいッッ!お前何を運んで来たんやドアホッッ!』
『何って…鉄クズですけど…』
『今トラックの積み荷見たら全部メリケン粉やないけッッ!!』
『……はぁ?まさか…』
トラックの積み荷には大量のメリケン粉が積まれていた…
《そんなアホなぁ~!!》
【②~ジンクス~完】
>> 12
【③】~箱の中のラブ~
🐻1🐻
…もう閉じ込められて二時間にもなる…春先とはいえ、室内は悠に30度を越えていてたまらなく熱い…そして次第に空気も薄くなっているようだ…優は全身汗だくになりながら救助隊の助けを待っていた…さっきの地震の影響でエレベーターのボタンはどれも役に立たない…加えて緊急用の呼び出しボタンですらまるでただの玩具のように外部との通信が断たれていた…
(どういう事よッッ!これじゃ緊急呼び出しの意味がないじゃないのッッ!)
熱さと飢えで優は次第に苛立って来ていた…
『ねぇチョット貴方ッッ!何か食べる物ない?』
優の他に不運にもこのエレベーターに乗り合わせた一人の男性に優は話しかけた…
『………』
『ハァ…相変わらずダンマリねッ…はいはいッッ!いいわよ別に嫌なら喋べらなくてもッッ!』
茶色のコートを着て、帽子も顔が見えないくらい深々と被ったその無口な男性はかなりの大柄でシャツの袖から見える太い腕は毛むくじゃらであった…
(愛想のない人ね…それに中がこんなに熱いんだから服を脱げばいいのに…!)
優はうつ向きがちに静かに座っているその大男に視線を送った…
>> 13
🐻2🐻
(しかし因果なもんね…昔イヤという程遊んだこの団地のこのエレベーターに閉じ込められるなんて…)
30歳の優は保険の外交員で今日は上司から指定された担当地区を保険の勧誘に回っていた…この団地は優がかつて小学校低学年時代を過ごした公団団地だった…親の転勤で引越しを余儀なくされ、それ程長くは生活していなかったのだが優はこの団地があまり好きではなかった…
(あ~ぁ…ここを任された時何か嫌な予感してたんだ…出来れば足を踏み入れたく無かったな…いい思い出なんて一つも無かったし…)
優はうなだれた…小さな余震がまだ続いていた…室内は水を打ったように静かだった…
(かなり揺れたもんね…外だって相当な被害なんだろな…)
優は座り直すと脚を三角にした…そしてゆっくりとまたうつ向きながら黙って座る大男の姿を見つめた…
『ねぇ!』
『……』
『ねぇってばッ!口あるんでしょッ!?…何か言いなさいよッッ!』
『……』
(ハァ~…何とかこの場から脱出しようとかさ…そんな悪あがきとかしなさいよッッ…ったく男のクセに!体だけは一人前に大きいんだからッッ!)
優は大男を見つめながら胸内で散々毒付いた…
>> 14
🐻3🐻
(このまま誰にも発見されずに死んじゃうのかなぁ…私…)
不吉な結末ばかり優の脳裏に浮かぶ…エレベーターは優が脚を組み換える度にギシギシと大きく不自然に揺れた…
『何かロープ一本で繋がってる感じしない?…凄く不安定なんだけど…このエレベーター…』
大男は死んでるのかと思う位にその大きな体を微動だにしなかった…
(確かこのエレベーターに乗った時は10階だったっけ…さっきの揺れで一体どれくらい落下したんだろ…)
優が地震に直面した時、確実に自分の体がフワッと浮いた事を憶えていた…だとしたらこのエレベーターは不安定な状態でかなりの速度で落下した事になる…
『貴方…独身?…歳は幾つ?ここの団地の人?』
優が沈んでいく気持ちを紛らわせるかのように大男におもむろに話しかけた…
『……』
『貴方が話したくないのは勝手だけど…私は気が滅入るから勝手に話をさせてもらうわ…別に面倒なら相槌とか打たなくていいから…もう口を開かないと不安で不安で仕方ないのよッッ!』
元来話し好きな性格の優は大男の返事も待たずに自分勝手に話を始め出した…
>> 15
🐻4🐻
『私さ…小学校1年の時に親の転勤でこの団地に来たんだよね…けど学校にも友達にもなかなか馴染めなくてさ…いつも一人ぼっちだった…』
優は何故か幼少期に住んでいたこの団地の思い出話を始めた…別に話題は何でも良かったのだがどうせ此処に閉じ込められたのも何かの縁だと一人黙々とこの団地での思い出を語り出したのだ…
『けどそんな私にもさ、親友ってのが出来てさッ…この団地に住んでる同い年の女の子…』
突然余震が起こり、優はビクついたが揺れはゆっくり治まっていった…
『仲良かったんだ…最高にね…けどね…ある日大喧嘩しちゃってさ…』
大男は優の話を聞いているのかいないのかさっぱりな反応でじっとそこに座っていた…
『私、腹立ててその子から以前に誕生日プレゼントに貰ったクマのぬいぐるみ…ゴミと一緒に捨てちゃったんだ…そのぬいぐるみはその子がずっと大事にしていたぬいぐるみでさ…あれを捨てたとその子が知った時…凄く泣いてさ…その子とはそれ以来プッツリ…』
大男は肩で息をしているようで少し苦しそうに優には見て取れた…
『どうしてあの時…ゴメンねの一言が…言えなかったんだろって…』
優の息も荒くなって来た…
>> 16
🐻5🐻
『あの子…まだこの団地に住んでるのかな…ハアッ、ハアッ…んな訳ないかッ…あれからもう20年以上だもんね…普通なら…ハアッ…いいお母さんになってる年頃…』
その時遠くで微かに救急車のサイレンが鳴り響くのを優は感じた!
『…救急車だ…ハアッ…ハアッ…聞こえた?…救急車だよッ!私達助かるかも知れないねッ…ハアッ…ハアッ…』
大男も次第に息が荒くなって来た…もう室内に吸える酸素はごく僅かなのだろう…冷や汗を流しながら大男は何度も汗を手で拭った…
『ハアッ…ハアッ…救急隊が先か…ハアッ…私達の命が途絶えるのが先か…ハアッ…ハアッ…』
その時更なる余震がエレベーターを揺らした…
『……マモル…』
『え?…何ッ!?』
騒然とした混乱の中で初めて大男が言葉を発した…
『今何て言ったの!?』
『…マモ…ル…』
『マモル?…え?…それって貴方の名前?』
ゴォォォォォォ!突き上げる地響きと共にいきなりエレベーターが左右に激しく揺れ始めた!
『きゃァッッッッッッッ!!』
ゴゴゴゴゴォォォォォ!!
天井のパネルが落ちて来て中の蛍光灯が衝撃でパリンと割れた!その直後、エレベーターは一気に落下した!!
>> 17
🐻6🐻
《あの時どうしてゴメンの一言が言えなかったんだろ…》
『大丈夫ですかッ!?意識ありますかッッ!?』
瞼を開くと視界に輪になるように救助隊員の顔があった…
『わた…し…どう…しッ…』
『良かった!意識戻りました!生存者一名確保ですッッ!』
優はゆっくり体を起こそうとしたが全身に激痛が走った…
『あ、動かないでッ!全身骨折だらけですからッッ!でも安心してッ!内臓には損傷ありませんし頭蓋部も奇跡的に無傷でしたッ!良かった!良かった!』
優はゆっくり辺りを見回した…よく見るとそこに建ってあったはずの団地は跡形もなく見るも無惨な瓦礫の山と化していた…
『私…あの時…凄い余震が来て…』
優の頭はまだ混乱していた…もう死んだと思った…あの瞬間エレベーターが凄い速さで落下して…建物もこんな悲惨な状態なのにもかかわらず自分がまだ生きている事が優には信じられなかった…
『!…あッ!一緒にいた男性はッ!?私と一緒にエレベーターに乗っていた男性はどうなりましたかッッ!?』
優は思いついたようにあの一緒にいた大男の安否を救助隊に詰め寄った…
『…男性?…貴方の他に男性が居たんですか?』
救助隊員は不思議そうな顔をした…
>> 18
🐻7🐻
『何言ってるんですかッッ!確かに一緒にエレベーター内に居ましたよッッ!茶色のコートを着た大柄な男性がッ!まだ瓦礫の中に居るかも知れないッ!探してあげて下さいッッ!お願いしますッ!』
酸素マスクを付けられて優は必死にまだ男性が中にいる事を救助隊員に告げた…
『奥さん…何度も確認しましたがそのような男性の姿は確認出来ませんでしたよ…ショックで幻覚でも見られたんじゃ…』
『信じてッ!確かに…確かに居たんですッッ!大柄で毛深くてまるでクマのような…』
『あぁ!はいはい…クマねッ!チョット待ってて下さい…』
救助隊員が優の言葉に反応した…一人の救助隊員が優のお腹にクマのぬいぐるみをそっと置いた…その瞬間!優は目を疑った!
『こ、このぬいぐるみ…!まさか…』
『瓦礫の中から貴方を発見した時、頭蓋部を守るようにコイツが重なってましたよ…このぬいぐるみのクッションのお陰で貴方は奇跡的に命拾いしました…良かったですね…これ、貴方のでしょ?』
(うそ…信じられないッッ…ラブだ…私のラブ…じゃああの男性はッッ!?)
ぬいぐるみの胸元のリボンには《ラブと優》の文字が書かれてあった…
【③~箱の中のラブ~完】
どうも、この掲示板内にチラホラ出没しているバトーと申します。以後お見知りおきを。
お手軽に読ませていただきました。先の読めない展開と、濃密な内容に読んだ後すっきり感を覚えました。更新楽しみにしてます。
頑張って下さい。
因みに自分は千羽鶴の話が泣けました。
>> 22
【④】~受精面接~
👶1👶
『次ッッ!《雄FQ28番》君!入りたまえッ!』
長いヒダの廊下をくぐると僕は真っ黄色な部屋に通された…
『受精卵番号《雄FQ28》です…』
『はい、そこに漂ってッ!では只今から受精する母胎を決める受精面接を始めますッッ!』
面接官は見た事もないようなカップクの良い年輩の精子だった…きっと凄いお偉いさんに違いない…彼の周りには取り巻きのように無数の若い精子達がこの様子を見ていた…きっとこれから受精を待つ研修精子達だろう…
『あのぅ…今更なんですがこの場で質問してもいいですか?』
僕は恐る恐る面接官に切り出した…
『手短に頼むよッ!後がつかえてるからね…』
『どうしても今ここで受精する母胎…つまり親を選ばないといけませんか?』
面接官は尾を激しく揺らせた…
『受精卵《雄FQ28》君ッッ!君は今更何ぁ~にを言っておるんだねッッ!?受精卵が親を決めるのは当たり前ではないかッッ!』
カップクのいい面接官は地面のヒダを激しく叩いて怒った…面接官はゆっくりと僕の周りを漂いながらお説教を始めた…
>> 23
👶2👶
『じゃあ何かね《雄FQ28》君…君はこのままずっと受精卵のまま、ここで漂っていたいのかね?折角何十億分の1の確率で受精卵となったラッキーボーイだというのに、晴れて受胎し、人間界に産まれ落ちる喜びを君はみすみす放棄すると言うのかね!?』
面接官は声を荒げた…取り巻きの精子達はそうだそうだ、贅沢だッ!と一斉に僕を罵倒し始めた…
『い、いいえ…そりゃぁ僕だって産まれたいですよ…オギャァ~ッて元気よく…』
『…確かに昔のシステムに子供は親を選べない!なぁ~んてのがあったそうだがそんなのはもう時代遅れ!…今は子供が親を選ぶ時代に突入したのだ…それも受精卵単位からゆっくりじっくり自らの宿り先を決定出来る素晴らしい時代になッ!』
面接官は自分に酔っているような弁達者ぶりで僕に話をした…解ってますよそれくらい…だからこうして僕は真剣に悩んでるんじゃないですかッッ!そうはっきり言い返す勇気もないまま僕はカップクの良いその面接官のお説教をそれから2時間余り聞かされてしまった…
『解ってくれたか?…そうかそうか…では受精卵《雄FQ28》君…本題に入ろう…』
面接官は二組の新婚夫婦を僕の目の前に映し出した…
>> 24
👶2👶
『え~受精卵《雄FQ28》君、厳正なる委員会が選考の結果、君が母胎に宿る権利がある夫婦はこの二組に決定した…』
僕は固唾を飲んで面接官の話に耳を傾けた…
『まずこちらはアメリカ、カリフォルニア州のIT企業の若社長夫婦の長男として産まれ出る権利、もう一方は中国雲南省北部の貧しい農村の三男として産まれ出る権利…』
僕の丸い体は緊張の余り大きく跳ねていた…
『まぁ選ぶまでもなかろう…君はアメリカの若社長の長男って事でじゅ…』
『チョ、チョ、チョット待って下さいッッ!』
周りにいた事務係が当たり前にハンコを押そうとした瞬間、僕はそれを制止させた…面接官と事務係はどうして止めるの!?と不思議そうな顔をして僕を見つめた…
『おい、受精卵《雄FQ28》君ッッ!どういうつもりだねッッ!?結果はもう出ているではないかッッ!?』
『ま、待って下さい…少し考えさせてくれませんか?』
面接官は目と尾を丸くした!
『か、考えるぅ~!?…考えんでもいいように極端な二組を用意したつもりだが…《雄FQ28》君ッッ!君は一体何を考えてるんだッッ!どう見たって社長の息子に産まれた方が幸せに決まってるだろッッ!』
面接官は僕に詰め寄った…
>> 25
👶4👶
『果たして…社長の息子に産まれたからといって…ホントにそれで幸せでしょうか…中国雲南省の農村に産まれても幸せになる可能性はあると思うのですが…』
僕は恐る恐る面接官に言葉を返した…
『呆れたッッ…呆れてモノも言えないぞ…君みたいな受精卵は前代未聞だ《雄FQ28》君!…いいか?中国雲南省の三男の方は超がつくほどの貧乏一家だぞ!?それでもいいのか!?…父親は仕事もせずに博打に明け暮れ、毎日毎日夫婦喧嘩ばかりのろくでもない農村家族の三男だぞ!?苦労するのは目に見えてるじゃないか?君は敢えてそんな修羅場に飛び込んで行くというのか?自分から人生を捨てに産まれに行くようなもんだぞッッ!?まぁいい、時間をやる…よく考えろ《雄FQ28》君ッッ!』
確かに面接官の精子の言う通りだと思う…けど僕には将来が約束されているからとはい、じゃあ!と簡単には飛びつけなかった…面接官はあと2日間やるからよく考えろと言ってくれた…僕は2日後にまたここで面接官に逢う約束をして元来たヒダの道を帰って行った…そうだよな…あそこで即答出来なかった僕はやっぱりバカな受精卵かもしれない…僕は一人孤独感にさいなまれていた…
>> 26
👶5👶
『ホントッ!バカもバカ、超がつく程のバカ受精卵だわ、貴方ってッ!』
帰るや否や、僕は友達の受精卵《雌KW1929》にこっ酷く叱られた…
『だって…自分の人生だろ?…そう簡単に決められないってッ!』
『あのねッッ!いい?若社長の息子か映画スターの子供かって選択ならいざ知らず、そんな馬鹿でも解る二択なんて考えるまでもないじゃないのよッッ!貴方人生を捨てるつもり!?そんな安易に物事運んで死んで行った何十億の同僚に申し訳ないと思わないのッッ!?』
友達の受精卵《雌KW1929》はため息をついた…彼女は受精研修の頃からの同期でついこないだ同じ頃に受精に成功した僕が密かに憧れている将来きっと美人になるであろう雌の受精卵であった…
『まだはっきり決めた訳じゃないよ…ただ考えてみたいだけだよ…自分の人生を真剣に…』
《雌KW1929》は悲しそうに僕の周りを漂った…
『私…貴方はそんな受精卵じゃないと思ってた…もっと前向きで堅実で保守的な受精卵だとずっと思ってきたのにね…あれは間違いだったんだよね…』
『《雌KW1929》さん…』
僕は悲しそうに漂う彼女の丸い体をただじっと見つめるしかなかった…
>> 27
👶6👶
『《雄FQ28》君…私ね…実は昨日、受精面接だったんだ…』
《雌KW1929》さんは静かに言葉を発した…
『でね…私はスロバキア共和国の国王の次女に産まれ出る事にしたの…』
『スロバキア国王ッ…そ、それって…皇族だよね!?…す、凄いッッ…』
僕は思わず声を大にした…
『もし貴方がアメリカの若社長の息子として産まれ出たならまだ万に一つの可能性もあるかも知れない…だけど…中国雲南省の貧乏な農村に産まれても私達は…一国の皇族の私とは二度と巡り逢う事はないでしょうね…』
…間違いない…可能性はゼロ…いや、マイナスだ…
『人間界に産まれ出たなら私達の今の記憶は全て無くなるわ…私も貴方を…貴方もこの私を忘れてしまう…だからこそ貴方には素晴らしい人生を送って貰いたいの!有意義な何でも叶う環境で自分の力を発揮して欲しいのッッ!』
(《雌KW1929》さん……)
『だからお願いッッ!よく考えて結論を出してねッッ!』
《雌KW1929》さんそれだけ僕に告げるとは悲しそうに転がって去って行った…
(そうだよな…一度しかない自分の人生だもんなッッ…有難う…)
僕は思わず外郭から分泌物を出していた…
- << 30 👶8👶 《15年後…》 『皆様、本日はスロバキア国王陛下在位20周年記念祝賀宮中晩餐会にお越し頂きまして誠に有難うございます!』 きらびやかなシャンデリアにオーケストラの生演奏が響き渡る中、スロバキア国王陛下と王妃は二人の娘を連れて壇上に姿を現した… 『本日はお忙しい中各国から私の為にこんなに沢山の方にお越し頂いて感謝致します!』 来賓客から盛大な拍手が起こった… 『本日は私の在位20周年記念もさる事ながら実は次女カーミアの15歳の誕生日でもありまして大変おめでたい日となりました…』 次女カーミアは一歩前に出て両手でドレスを持ち、来賓客に軽く会釈した… 『皆様本日はどうぞごゆっくりとフランス料理のフルコースをお召し上がり下さいませ!』 来賓客の各テーブルにフランス料理の前菜が運ばれてきた… 『さぁ、我々も頂きましょう…』 スロバキア王妃がそう家族に声をかけると国王一家は料理の席についた… 『前菜は南仏サンジュ産のパプリカと茸のトマトソース和えでございます…』 晩餐会は静かに進んでいった…
>> 28
👶7👶
『ホントにそれで…それで君はいいんだね?…後悔しないね?』
『はい、何があろうと覚悟は出来てます…』
約束の日…面接官は渋い表情で何度も僕に尋ねたが僕の気持ちは変わらなかった…
『まぁ君がいいというなら我々も引き留めはしまい…だがもう後戻りは出来ないからそれだけは肝に命じなさいッ!』
僕は面接官に頷いた…
『では受精卵《雄FQ28》君ッ!君は中国雲南省北部の農村で農業を営む【鄭林章・程欄夫妻の三男】として生を受ける事を許可しますッッ!』
事務係は勢いよく書類にハンコを押した…
『…結論出したんだね…』
帰り道の途中で《雌KW1929》さんが僕を待っていた…彼女の顔は淋しそうだった…
『ゴメンね…やっぱり僕…レールに敷かれた人生を送りたくないんだ…自分の人生だもん、どんな事になっても後悔しない…』
『……そう…寂しいけど君が決めた事だから私もう何も言わない…元気でね…《雄FQ28》君…』
『有難う…君も…立派なプリンセスになる事を祈ってる…《雌KW1929》さん…』
僕は彼女と笑顔で別れた…
>> 28
👶6👶
『《雄FQ28》君…私ね…実は昨日、受精面接だったんだ…』
《雌KW1929》さんは静かに言葉を発した…
『でね…私はスロバ…
👶8👶
《15年後…》
『皆様、本日はスロバキア国王陛下在位20周年記念祝賀宮中晩餐会にお越し頂きまして誠に有難うございます!』
きらびやかなシャンデリアにオーケストラの生演奏が響き渡る中、スロバキア国王陛下と王妃は二人の娘を連れて壇上に姿を現した…
『本日はお忙しい中各国から私の為にこんなに沢山の方にお越し頂いて感謝致します!』
来賓客から盛大な拍手が起こった…
『本日は私の在位20周年記念もさる事ながら実は次女カーミアの15歳の誕生日でもありまして大変おめでたい日となりました…』
次女カーミアは一歩前に出て両手でドレスを持ち、来賓客に軽く会釈した…
『皆様本日はどうぞごゆっくりとフランス料理のフルコースをお召し上がり下さいませ!』
来賓客の各テーブルにフランス料理の前菜が運ばれてきた…
『さぁ、我々も頂きましょう…』
スロバキア王妃がそう家族に声をかけると国王一家は料理の席についた…
『前菜は南仏サンジュ産のパプリカと茸のトマトソース和えでございます…』
晩餐会は静かに進んでいった…
>> 30
👶9👶
コースが進むにつれ、来賓客の各テーブルから料理が美味しいとの声が上がりだした…
『このラム肉の柔らかい事ッッ!最高の味付けですわッッ!』
『このスープだって…クセがなくてホントに飲み易いッッ!』
一体誰が作っているのかといった声まで上がるようになっていた…
『これはまた、エライ盛況だね…』
国王が来賓客の反応を見て驚いた…
『お父様、皆様が唸るのも頷けますわッ!だってホントに美味しいんですもの、こんな美味しいフランス料理、今まで食べた事がないですわッッ!』
次女のカーミアが言葉をかけた…
『うむ…確かに上品で繊細で素晴らしい…あ、君!すまんが今日の料理を作っているシェフをここに…』
国王は執事にそう言うと執事は今日の晩餐会担当シェフを国王の前に連れて来た…
『お口に合われましたでしょうか?』
『君が…君がこれを全部作ったのかねッ?』
シェフの余りの若さに国王一家は皆驚いた!
『彼は中国人で初めてドイツの5つ星フランス料理店で総料理長を任された鄭朴孫さんです!彼は6歳の頃に単身フランスに渡り人一倍の努力で15歳という若さでこの地位を勝ち取った正に天才シェフなんです!』
国王はじめ来賓客一斉に拍手が起こった…
>> 31
👶10👶
『素晴らしいッッ!いやぁ、鄭料理長、貴方を見ていると料理の上手さは年齢ではないのだという事をたった今痛感させられたよッッ!若いのにホントに見事だ!』
『お褒めの言葉を頂戴し、誠に感謝します…私事ではございますが幼少の頃から私の農家は貧乏で母の体が弱く、何とか美味しい料理を作りたくて単身ヨーロッパ中の料理店で皿洗い等をしながらフランス料理を学び今日まで来ました…今日ここでスロバキア国王の晩餐会担当料理長に任命された事を名誉だと胸に誓い、これからも頑張っていこうと思います!』
鄭は深々と国王一家に頭を下げた…その鄭の様子を瞬きもせずに見つめていたのが次女のカーミアだった…鄭は静かに頭を持ち上げた時、カーミアと目が合った…
『!?…姫君…私の顔に何かついていますか?』
鄭は不思議そうに自分の顔を見つめているカーミアに言葉をかけた…
『…あの…以前何処かでお会いした事がありますか?』
カーミアは静かに鄭に言葉を返した…
④~受精面接~完
>> 32
【⑤】~素敵なあなたと~
🚨1🚨
『あのぅ…すみません…佐藤由道さんですよね?』
自宅マンションに入ろうと鍵を開けた時、由道(よしみち)は見知らぬ女性に声をかけられた…
『はい…そうですが何か?』
由道は何の用だろうと不思議そうに女性を見た…
『あのぅ…折り入って頼みたい事がッ…』
年の頃は50歳前半といった所か、小太りで黒髪にパーマネントの典型的な《おばちゃん》だった…
『実はですねッ…大学受験を控えているウチの息子が先日バイクの無免許運転で捕まりまして…』
『はぁ…で?』
女性は一呼吸置いた…
『でですねッ…その…貴方のお力でその事実を何とか帳消しに出来ないかと…あ、そりゃタダでとは申しません、それなりのお礼は、はいッ…』
由道は何の事か理解出来ずにただじっと女性の話を聞いていた…
『あの…貴方の息子さんの違反の事を何故僕に?』
飲み込み悪いわねッ!といった顔つきでその女性は言葉を続けた…
『だって貴方警察関係の方なんでしょ?警察関係者なら犯罪の事実隠蔽くらい簡単に出来るんじゃないんですかッ?』
由道は驚いた…
『って言うか、何故貴方が僕が警察関係者だって事を知っているんですかッッ!?』
>> 33
🚨2🚨
警察官をはじめ司法関係者等の特別国家公務員は第3者にみだりに自らの身分を明かしてはならないという規則がある…由道が見た所、その女性は過去に犯罪に巻き込まれた被害者や加害者家族、自身の親戚関係者でない事は断定出来た…間違いなくこの女性はこれまで由道の警察人生に関わった事のない人物だ…
『どうして僕が警察関係者だと解ったんですかッ?』
『この町内じゃ有名ですよッッ!インターネットの書き込みに書いてありました…東雲町サニーハイツ309号室に住んでいる佐藤由道は神奈川県警立木署の現職刑事だって!』
(インターネットだって!?…ま、まさか…個人情報漏洩じゃないかッッ!)
由道は愕然とした…
『お、奥さんッッ!そ、それはどこのサイトですかッッ!?教えて下さいッッ!』
由道は血相を変えて女性に詰め寄った!
『えぇ、いいですけど…もしお教えしたらウチの息子の無免許運転取消して下さいますッッ!?』
女性は何ら悪ぶれる素振りもなく由道に尋ねた…
『そッ、そんな事出来る訳ないでしょうがッッ!さぁ、早く教えて下さいッッ!いいですか?個人情報が洩れてるんです!これは立派な犯罪なんですよッ!』
>> 34
🚨3🚨
『何よそれッッ!まるで悪質なストーカー行為じゃないッッ!』
客に頼まれていた花束を作りながら由道の高校時代からの同級生である美鳩(みはと)は声を荒げた…
『正直参ってる…毎日のように何処の誰だか解らない人から電話が掛かってくるんだ…どこそこのアイツは連続殺人犯だから逮捕しろだとか、裁判の証人に立ってくれだとか…挙句の果てには俺は警察が嫌いだ!だから今からお前を殺しにいくッッ!とか…ハァ~…もうウンザリだよッッ…』
由道は花屋のレジのそばの椅子に腰掛けて頭を抱えた…
『ねぇ由道…そのインターネットに載せている人物が誰だか特定出来ないの?過去に捕まえた凶悪犯だとか…まあね今の時勢、頭の切れる悪いヤツは何だってやっちゃう時代だからね…』
美鳩は出来た!と言って自分の上半身程の大きな花束を奥の棚に置いた…
『いずれにせよ相手は僕の身元や生活を完全に把握しているんだ…僕だけに危害が及ぶならいい…けどもし犯人がエスカレートして僕以外の友達や親戚にまで照準を絞り出したとしたら…』
由道の不安げな表情を見た美鳩は大丈夫だよッ!少なくとも私はッ!と笑顔を見せた…
『だけどフィアンセの友子さんは注意してあげた方がいいかもね…』
>> 35
🚨4🚨
『実はさ…』
非番の日、由道は来月結婚する予定の婚約者、岬友子のマンションにいた…
『嘘だろ…友子それ本当かッッ!?』
『最初は玄関の鍵穴が潰されていて…次は駐車場に停めてあった私の車にスプレーで口にも出せない位猥褻な言葉がかけられていて…次は…』
『まだ…まだあるのかッッ!』
友子は戸棚から一枚の封筒を取り出し由道に見せた…由道は目を覆いたくなった…風俗雑誌の表紙に《お前をいつか犯しに行く!》と記されていた…
『なんてこと…友子、どうしてすぐ警察に連絡しなかったんだッッ!っていうかこの僕に相談位出来ただろッッ!?』
『…だって…由道に余計な心配かけたくなかったんだもん…きっとただのイタズラだと…すぐ飽きてやめるだろって…』
由道の恐れていた事が既に現実になっていた…犯人が何処で調べたのかは解らないが婚約者の友子にまで触手を伸ばしていた事に由道は動揺を隠せなかった…
『由道…私…怖い…』
友子は不安な顔つきで由道を見つめた…
『ゴメンな…理由は解らないが…どうやら犯人はこの僕を困らせて楽しんでいるらしい…チキショッッ!』
震える友子の肩を抱きながら由道は何度も何度も心配ないからと呟いた…
>> 36
🚨5🚨
『許せないッッ!友子にまでそんな卑劣な事ッ!きっと貴方達の結婚に恨みを持つ変態野郎の犯行だわッッ!』
真っ赤なエプロン姿の美鳩は長方形の細長い箱から今朝仕入れたらしい百合の花束を取り出した…
『所轄の先輩刑事や同僚に僕がいない間の友子の監視を頼んでおいた…今度彼女の身辺に何かあればすぐに犯人が解るようにね…』
『けど犯人ってどんなヤツなんだろ…きっとパソコンオタクで変質者みたいな男じゃないかな…』
美鳩は腕組みをして考えていた…
『これは僕の安易な推測なんだけど…もしかして友子が過去に付き合っていた、もしくは訳あって振った男の中に犯人はいるんじゃないかって…ほら、アイツ学生の時から結構モテてたから…』
それは大いにあり得るわね!と美鳩は何度も頷いた…
『ねぇ由道…ハッキリと犯人が捕まるまで来月の結婚式延期にしたらどう?友子だってかなり動揺してると思うし…』
由道は美鳩が入れてくれたコーヒーを飲みながら考えておくよと言った…
『…チクショッ!いったい何処の野郎だッッ!コソコソと卑怯な真似しやがって!僕が憎いなら面と向かってハッキリと言えばいいじゃないかッッ!』
由道は机を叩いた…
>> 37
🚨6🚨
結婚式が3日後に迫った…その後も由道と友子に対する細かなストーキングは続けられていたのだが二人は予定通り結婚式をあげる決意をした…つい先日犯人から《式ヲヤメロ!サモナイト新婦ガ二度ト見ラレナイ顔ニナルゾ!》との脅迫めいた手紙が届いたばかりだったが由道と友子はそんな脅迫には屈せず頑張って式をあげようと誓ったのだ…
『そっか…そうだよね…変質ストーカー野郎にびびってちゃ何にも出来ないもんねッ!』
慌ただしく店の後片付けをしながら美鳩は由道に優しく言った…
『美鳩…お前も来てくれんだろ?…披露宴…』
『あったり前じゃん!私は二人の共通のマブダチじゃんッ!それに友子に披露宴のお花全般頼まれてるしさッ!商売商売ッッ!ハハハ…』
由道は苦笑いを浮かべながらおもむろにポケットにある披露宴で新郎側新婦側両方の若い列席者一覧の紙を眺めた…
(もしかしてこの中に犯人がいるかも知れない…ヤツが本気なら披露宴の最中にも何らかのアクションは起こしてくるはずだ…)
由道は改めて新婦である前に自分は刑事なんだという事を自覚していた…由道は友達の美鳩にサヨナラを告げると彼女の経営する花屋を去った…
>> 38
🚨7🚨
『新郎由道君、新婦友子さん…ご結婚おめでとうございます!』
結婚式当日、由道と友子は無事式を終え披露宴会場の高砂席に座っていた…代表者のお祝いの挨拶も滞りなく終わり、披露宴は何事もなく進んでいった…披露宴の列席者の中に由道と友子の学生時代の友人が多数いた…《正木啓吾》《島原守》その中に友子と以前訳ありだった二人の男性も混ざっていた…
(正木啓吾…友子がボート部のマネージャーをしてた時に付き合っていた部のキャプテン…島原守は友子の職場の同僚…どちらも過去に友子と別れている…)
列席者にビールを注がれながらも由道の目はその二人の男性の行動に敏感でいた…
『どう?怪しい人いる?』
黒のカクテルドレスに真珠のネックレスをつけた美鳩が由道にビールを注ぐフリをして耳打ちしてきた…
『…みんな犯人に見えてくるよ…これも刑事としての性分…自分の結婚式なのに因果なもんだッ…』
『大丈夫よ由道ッ!きっと何にも起こらないわッ!ねッ?美鳩ッッ!』
美鳩と由道の会話に深紅のドレスを着た新婦の友子が入って来た…高砂席の前には花屋の美鳩が用意した薔薇の花束が鮮やかに飾り付けられていた…
『綺麗なお花、有難うねッ!』
友子は美鳩に言った…
>> 39
🚨8🚨
(どうやら…何にも起きなかったようだ…良かった…)
由道の心配をよそに披露宴はもう最終段階に入ろうとしていた…
『では最後に新郎新婦からご両親に花束の贈呈でございます!』
会場が割れんばかりの拍手に包まれ、由道達が席を立とうとしたまさにその時だった!!
『キャァァァァァァッッッ!』
突然友子の席から悲鳴が聞こえたッッ!会場は一斉に高砂席の友子を見た!
(!!…な、何ッッ!)
由道は思わず声を上げたッッ!しかしその悲鳴は友子のものではなく、友子のドレスを介添えしていたホテルの年輩従業員のものだった!
『ギャアァァァァッッ、手がッッ、手が痛いッッ!』
会場は騒然となった!
『だ、大丈夫ですかッッ!?』
思わず側にいた友子がその従業員に歩み寄った!
『駄目だ友子ッッ!離れろッッ!そこから離れるんだァッッ!』
由道は友子とその従業員を引きずるように高砂席から降ろした!
『大丈夫ですかッッ!?どうしましたッッ!?』
由道は従業員を支えた…
『手がッ…手がァァッッ!』
従業員の手を見ると驚く程赤く腫れ上がり、皮膚は焼けただれたようになっていた!
(チクショッ!…や、薬品ッッ!?…こ、これは硫酸ッッ!?何て事をッッッッ!!)
>> 40
🚨9🚨
披露宴会場はパニックに陥った…
『今何処でこれがかかったか分かりますかッッ!?』
由道は硫酸を浴びせられ震える従業員に問い正すと答えも聞く間もなく友子が座っていた高砂席の辺りに不審な物がないか探し始めた!
『待ちなさいッッ!何処に行く気ッッ!?』
その時一人の男性が後ろの扉から出ようとする所を美鳩が腕を掴んで制止していた!
(!…ま、正木ッッ!)
それは披露宴列席者の中にいた友子の学生時代の友人、正木啓吾だった!
『アンタがやったのねッッ!?』
『ち、違うッッ!ぼ、僕じゃないッッ!』
『じゃあ何で逃げようとするのよッッ!』
美鳩は正木の腕をたぐり寄せ会場の真ん中まで引きずり出した!
『正木ッッ!』
『ま、正木さんッッ、ま…まさかッッ!』
由道はそばのホテルの係員にすぐ硫酸をかけられた従業員の救急車の手配を促した…
『し、信じてくれッッ!僕じゃないッッ!』
『貴方確か今繊維会社の研究所に勤めていたわよねッッ!硫酸なんて容易に手に入れれるんじゃないッッ!?』
美鳩は正木の前で仁王立ちになり怒鳴りつけた!両家の親戚達はみな一塊になり震えながら一部始終を黙って見つめていた…
『さぁ、白状しなさいッッ!アンタがやったんでしょッッ!?』
>> 41
🚨10🚨
『間違いないッッ!貴方よッ!由道と友子に執拗に悪質なストーキングを繰り返し、挙句の果ては元恋人だった友子に高砂席の花束に仕掛けてあった硫酸を巧妙に浴びせようとしたのよッッ!』
『ち、違うッッ!僕はそんな事しないッッ!』
由道と友子はゆっくりと美鳩とうなだれている正木の元に歩み寄った…
『正木君…ホントなの?』
友子は由道の体の背後から恐る恐る尋ねた…正木はただ黙ってうつ向いてしまった…
『ほらッッ!何も言えないじゃないッッ!やっぱり貴方が犯人なのよッッ!由道が刑事だって知ってての大胆な犯行…人生で一番の晴れ舞台をこんな形で復讐するなんて絶対に許せないッッ!これは計画的で悪質な殺人未遂よッッ!さぁ、由道ッッ…早く逮捕してッッ!』
美鳩は由道に正木を突きだした!
『……』
『さぁ由道ッッ!早く捕まえてッッ!』
『……』
『どうしたの?何黙ってるの?』
『……猿芝居はもうそれくらいでいいだろ!?…美鳩ッッ!!』
由道の余りにも意外な一言で会場中が騒然となった!
『な、何を言ってるの由道ッッ!美鳩は関係ないじゃないッ!』
友子は由道の言葉に驚愕した!
『…は?…由道どうしちゃったの?』
美鳩は目を丸くした!
>> 42
🚨11🚨
披露宴会場は水を打ったように静まり返った…
『もういいだろ…美鳩ッッ!犯人は君なんだろ?』
由道は静かに美鳩を見た…
『ち、チョット待ってよッッ、ま、まさか由道私を疑ってるのッッ!?信じられないッッ!』
『そうよ由道ッッ、美鳩を疑うなんて、貴方気でも狂ったの!?』
美鳩と友子が一斉に由道の言葉を否定した…
『…信じられないのはこっちの方だよッ…何度間違いであってくれと思った事か…』
由道はため息をついた…
『どういうつもり?…あんなに何でも相談に乗ってあげて親身になってあげていたのに…由道がそんな事私に言うなんて…酷い…』
美鳩はその場に崩れ落ち泣き始めた…
『最初におかしいと思ったのは美鳩…君が執拗に犯人は男性だという事を僕に植え付けさせようとしていた事だよ…パソコンオタクだからって、友子にレイプまがいの脅迫状が届いたからと言って必ずしも犯人が男性だとは限らないと感じたんだ…それにもし犯人が結婚する友子の事がまだ好きならあの式の前に届いた脅迫状のように友子に危害を加えようとする確率は極めて低い、普通は好きな彼女の相手の男を殺したいと思わないか?』
友子は黙って由道の話を聞いていた…
>> 43
🚨12🚨
『ボーイさん、チョットこれお借りします』
由道はテーブルの上にあったオードブル等を掴む小型の万能ハサミを持ち出しそのまま友子が座っていた高砂席に歩み寄った…そして目の前の薔薇の花束の中から一本の小さな香水瓶を万能ハサミで摘み上げた…
『由道…これって!』
友子が驚いた…
『これは薔薇の花束の中に仕掛けられていた硫酸が入った香水瓶です…瓶の横に箱のような物が貼り付けてあって、これはおそらくタイマーで目的時間が来れば自動的に中の硫酸が噴霧される仕組みです…』
『チョット待ってよッッ!それを私が予め薔薇の花束の中に仕組んでおいたって言いたいのッ!?そんなの私が友子を傷付けようとした何の証拠にもならないわッッ!他の誰かが仕掛けたかも知れないじゃないッ!』
美鳩は泣きながら必死に事件との関与を否定した…
『そうだね…でもさっき君は正木を責めている時に大きな失言をしているんだ…』
『えッ!?』
『僕はさっき被害者がかけられた薬品は《硫酸》だなんて誰にも一言も言った覚えはない…なのに君は花束に硫酸が仕掛けられていたと言った…瓶の中身は犯人しか知り得ない情報だよね?違う?』
美鳩の顔つきが変わった…
>> 44
🚨13🚨
『う、嘘…美鳩…貴方なの?…全部貴方の仕業だったの!?』
友子はまだ信じられない様子で美鳩に問い詰めた…
『…私の方が…』
『え?…』
『由道には私の方がふさわしいとずっとずっと…なのに貴方は簡単に私の全てを奪っていった…許せなかった…二人が結婚するって聞いた瞬間…私…気が狂いそうだった…ウゥッ…』
美鳩は唇を噛み締めた…由道は静かに目を閉じて天を仰いだ…全ては由道に好意を抱いていた美鳩の嫉妬心から来る凶行だった…美鳩の周りを張り込んでいた私服警官達が取り囲んだ…
『久留米美鳩ッッ…殺人未遂容疑で署に連行するッッ!』
警官の一人が手錠を填めようとした時、由道はそれを黙って制止した…
『…美鳩…済まなかった…今の今までお前の苦しみを解ってやれなくて…』
由道は頭を下げた…
『ホント鈍感ッッ!馬鹿なんだからッッ…結婚式こんなにしちゃってゴメンね…幸せになってね…』
美鳩はそう言うと自ら警官に手錠を促した…
~⑤素敵なあなたと~完
>> 45
【⑥】~寿命カウンター~
⏳1⏳
《皆さんは超能力って信じますか?…》
…小学1年生だった10年前のある日…隆志は自分には変な超能力がある事を初めて知った…
(14637日…チッ!あの憎たらしい隣の雷親父ッ、まだあと40年以上も生きるのかッッ!)
(チョットやばいよッッ!3211日ッ…駄菓子屋の清美婆ちゃんもう10年切ってんじゃん!)
【人の顔を見るだけで、たった一度だけその人間の寿命が判る】そう…隆志の超能力とはサイコキネシスでもテレパシーでもないその人間の寿命が見えるという凄く奇異で希少な能力だった…隆志が一番最初にその能力に気が付いたのは小学1年の秋、同じ学校にいた3ツ子の同級生と公園で遊んでいる時だった…隆志は突然3ツ子の額全員に【152】という数字が浮かび上がっているのに驚いた…何の数字なのか、どうして友達の額に数字が浮かび上がったのか、幼い隆志には理解出来なかったがそれから5カ月程経過した寒い雪の朝、3ツ子の住んでいた家は火の不始末による火事で不運にも3ツ子の同級生達だけが焼死した…それは隆志が公園で彼らの額に見た数字…正に丁度【152】日目の事だった…
>> 46
⏳2⏳
その事実を知って隆志はただの偶然だと思っていた…でもその後も次々に額に現れる数字とその人の寿命とがピタリと一致しているのに気持ち悪くなってきた…
(そんなはずない…僕がそんな事判るはずないッッ!)
そんな隆志の猜疑心を一気に打ち砕いたのが大好きだった祖父の病死だった…【1093】見たくも無かった、感じたくもなかった隆志の祖父の額に現れた寿命は1日の狂いもなく確実に実現されてしまった…それ以来隆志は自分のその能力を受け入れるようになっていた…
(出来る事ならオヤジや母ちゃん、弟の春彦の寿命だけは見たくないよな~)
高校の部活の帰りの電車に揺られながら隆志がいつも思う事だった…隆志の能力はその人を見たからといってすぐに現れる事ではないらしく偶然、それもその人ひとりにつきたった一度だけ不規則に隆志の身に訪れる不思議な超能力なのだ…幸い隆志の家族はまだ誰も現れていないらしい…
(今日だけで19人…ハァ~…何か今更ながら人の寿命が判るってのは気が重いよな~…さっきのサラリーマンなんて100日切ってたもんな~…)
隆志はなるべく顔を上げず行き交う人の顔を見ずに重い足取りで改札を出た…
>> 47
⏳3⏳
『兄ちゃんまたその話ぃ?死神デュークじゃあるまいしッ!人の寿命を当てられるだなんて信じられっかよッ!』
弟春彦は隆志がその超能力を持っていると告白した唯一の人間だった…
『間違いないんだってッッ!ほら、一年半前にあの人気絶頂のロック歌手があと【663】日目に死ぬって言ったろ?先週その通りになったじゃん!』
『あんなの偶然に決まってるさッ!あの人さ、麻薬中毒か何かの疑惑あったじゃんかッ!元々体が蝕まれてたんだよッッ!死んだ日にちだって単なるまぐれに決まってんじゃんかッッ!』
隆志は二段ベッドの上でため息をついた…
『そんなに言うなら兄ちゃん、俺の寿命当てて見ろよッッ!』
『だから何回も言っただろ?全員が全員のを見たい時に見れる訳じゃないんだって!』
『ほぅら、ヤッパ無理なんじゃんッ!』
弟だけには理解して欲しいと思った隆志だったがやはり聞き入れてもらえない…それにもし弟の寿命が見えて仮に【500】を切ってたりなんかしたら僕は弟に何て打ち明けるんだろ…とも思った…それはそれでかなりヘビーだ…
(ハァ~…特別な能力を持った人間は誰からも認められず孤独だって超能力の全てって本に載ってたっけ…悲しい…クッ!)
>> 48
⏳4⏳
(高校の購買部の尾崎のおばちゃん【10994】…塾の数Ⅱの岸本先生【17639】…西高の憧れの宮城幸子ちゃん【19629】…ハァ~…今日もまた見えちまった…)
塾の帰り、隆志は重い足取りで家路に向かっていた…他人の額に数字が浮かび上がる度に自分は凄く悪い事をしているんじゃないかと頭がどうにかなりそうな時がある…しかし自分の意志に関係なく浮かび上がる人間の寿命日数を見ない訳にはいかない…これも生まれ持った神様が与えた我が宿命なのか…隆志はため息をついた…家の路地に入る大きな交差点で信号待ちをしている時だった…
(…チキショ!今日はヤケに多いなッッ!大漁かよッッ!)
向かい側で信号待ちをしている人々の額に数字が浮かび上がっていた…5、6人の男女の額にポッカリと映る寿命日数…
(【20100】…ヘェ~長生きじゃん!【17800】…【4458】…【276】…ありゃ、この人ヤベッ…)
何気なくその人々を眺めていたその時、突然隆志の目にとんでもない衝撃が走った!
(いッ!?…う、嘘だろッ!?…【1】ぃぃぃッッッ!!?)
隆志は思わず腰を抜かす程驚き、後ろの植え込みの中に尻餅をついたッッ!
>> 49
⏳5⏳
(まッ、まッ、まじでッッ!?い、いや確かに…確かに今【1】って浮かび上がったよなッッ!?…ま、ま、間違いだったのかなッ…!?)
抜けた腰をゆっくり上げ隆志は額に【1】と出た人物を確認した…
(お、女の人ッッ!?…幾つ位だろ…OL?)
隆志の目に【1】と映ったその人物は背の高いとても綺麗な女性だった…仕事帰りだろうか、その女性は足早に交差点を隆志の方に向かって歩み寄ってきた…交差点の端で隆志はその女性とすれ違った…
(だ、駄目だッ!確認できないッッ!もう額の数字、消えちゃってるッッ!)
すれ違い際、隆志はその女性の額を穴が開くほど見つめたがもう数字は消えてしまっていた…
(何てこった…マジかよッッ!今まで最高【75】って人は見た事あったけど…まさか【1】だなんてッ!ってゆっか、【1】って事はつまり…あの人あと…あと1日しか寿命がないって事だよなッッ!)
隆志は動揺した…体の底からこみあげてくる本物の恐怖…そしてこの時初めてこんな能力を授けた神様を心底怨んだ…
(どうする…どうするんだよ隆志ッ!つぅかこのままあの人放っておくのかよッッ!アァ~チキショォォォォォ!!)
ふと気が付けば隆志は思わずその女性の後を追っていた…
- << 51 ⏳6⏳ (ヤバイヤバイ絶対ヤバイよこれッッ!…ど、どうしようッッ…声掛けてみようかな…駄目駄目ッッ!そんな事して何になる隆志ッッ…どうせ超能力の事なんか信じて貰えないよッッ…貴方は今日中に死にますって言われて誰が信じんだよッッ!気違い変態扱い受けるの確実だってッッ!アァッッ…) 隆志は怯えながらゆっくりその女性の後をつけた… (ってゆぅか僕は何で後を付けてんだッッ?…放っておけばいいじゃないか…別に親戚縁者でもあるまいアカの他人の彼女が今日死のうが明日死のうが僕には関係ない事じゃないかッッ!) 隆志の脳裏は最早大混乱に陥っていて簡単に整理が付きそうにない状態だった… (とにかく、とにかく落ち着け、落ち着くんだ隆志ッッ…こうなった以上最後まで彼女に起きる事の顛末を見届けようじゃないか…半分はこの僕にも責任があるッッ!い、いや、責任はないけど…【1】という彼女の寿命を知った以上彼女が何処でどうやって命が断たれるのかを見届る義務がある…!) 隆志は何とかして彼女の寿命を伸ばす方法はないかと考えていた…同時に間近で彼女の死を見届け、自分の超能力の力を裏付けたいと思う興味本位な気持ちがあるのも事実だった…
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