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🎈手軽に読める短編小説

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ヒマ人
08/09/06 15:03(更新日時)

皆様こんにちわ‼手軽に読める短編小説始まります…待ち合わせや夜の時間に手軽にサクッと読めちゃう、そんな小説スレです❤貴方はどのお話が好きですか?…

No.1157387 07/10/22 18:10(スレ作成日時)

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No.51 07/10/26 18:08
ヒマ人0 

>> 50 ⏳6⏳

(ヤバイヤバイ絶対ヤバイよこれッッ!…ど、どうしようッッ…声掛けてみようかな…駄目駄目ッッ!そんな事して何になる隆志ッッ…どうせ超能力の事なんか信じて貰えないよッッ…貴方は今日中に死にますって言われて誰が信じんだよッッ!気違い変態扱い受けるの確実だってッッ!アァッッ…)

隆志は怯えながらゆっくりその女性の後をつけた…

(ってゆぅか僕は何で後を付けてんだッッ?…放っておけばいいじゃないか…別に親戚縁者でもあるまいアカの他人の彼女が今日死のうが明日死のうが僕には関係ない事じゃないかッッ!)

隆志の脳裏は最早大混乱に陥っていて簡単に整理が付きそうにない状態だった…

(とにかく、とにかく落ち着け、落ち着くんだ隆志ッッ…こうなった以上最後まで彼女に起きる事の顛末を見届けようじゃないか…半分はこの僕にも責任があるッッ!い、いや、責任はないけど…【1】という彼女の寿命を知った以上彼女が何処でどうやって命が断たれるのかを見届る義務がある…!)

隆志は何とかして彼女の寿命を伸ばす方法はないかと考えていた…同時に間近で彼女の死を見届け、自分の超能力の力を裏付けたいと思う興味本位な気持ちがあるのも事実だった…

No.52 07/10/26 18:31
ヒマ人0 

>> 51 ⏳7⏳

(彼女は一体これからどんな形で死ぬんだろ…事故死?それとも病死?…ってゆうかあんなに若くて元気そうに歩いてる…いきなり病死ってのは考えにくいよナァ…)

隆志の一番の関心は最早そこにあった…隆志は塾の重たいボストンバックを肩にヨッコイセとかけ直すと一心不乱に彼女を尾行した…彼女は地下鉄の駅に降りて行った…

(地下鉄ッッ…考えられるのは列車事故?)

隆志は素早く切符を買いホームに降りた…

(…待てよ…もし列車事故で彼女が死ぬ事になるのなら一緒に乗った僕も巻き添え食うじゃないかッッ…)

次の瞬間隆志は閃いた!彼女は一番前の車両に乗り込んだ…電車は幸い少しの間車掌乗り換えの為に停車していた…隆志は車外から彼女の周りの乗客を見つめた…

(良かった…いたぞッッ!【13667】…【20041】…【9342】よしッッ大丈夫だッッ!)

隆志は一番前の車両にそのまま乗り込んだ…

(どうやら彼女はこの地下鉄で事故死する事はないらしい…もしここで列車が大惨事で事故るなら他の乗客に【1】の人が居たって不思議じゃないからねッッ…こんな時この能力は使えるよなッッ…僕って頭ッイイ~!!)

隆志の訳の解らない自我自賛だった…

No.53 07/10/26 18:55
ヒマ人0 

>> 52 ⏳8⏳

(現在午後8時…今日が終わるまであと4時間…カァ…)

地下鉄を降りた女性と隆志は商店街を歩いていた…

(彼女の地元かな…)

土地勘のない隆志は周りをキョロキョロと見回し彼女の《死因》を探した…女性は商店街の外れの一軒のコンビニに入った…

(!…コンビニかぁ…もしかして強盗ッッ!?…あり得るよなッッ…押し入った強盗が彼女を人質に取り彼女だけグサッ!!…さっきの地下鉄とは違いここじゃ他の客の寿命知っても仕方ないよな…殺されるのは彼女だけかも知れないし…)

隆志はあれこれ分析していた…

(…違うのか…なぁんだ!)

女性は何事も無く無事買い物を終えコンビニを後にした…

(彼女本当に今日死ぬんだろうか…僕が勘違いしたんだろうか…)

隆志は不安になって来た…最早ここまで来たら彼女を助ける道を探すどころか本当に自分の示した能力通り彼女が死んでくれるのか否か、誠に不謹慎ではあるが隆志の中の焦点はそこに絞られていた…

(もうすぐ今日…終わっちゃうぞ…さぁさぁどうなるんだよッ!僕の能力を裏付けさせてくれッッ!僕の肉眼にその瞬間を見せてくれよッ、頼むよッ、寿命【1】の彼女ッッ!)

その時突然女性が振り返って隆志を見た!

No.54 07/10/26 19:14
ヒマ人0 

>> 53 ⏳9⏳

『さっきからどういうつもりッッ!地下鉄乗る所からずっと!これ以上ツケてくるなら警察呼ぶわよッッ!』

『!!…あ…』

女性は隆志を睨み付けた!隆志の尾行は完全に女性にバレていた…

『い、いや…あ、あの…そのぅ…』

『私に何の用ッッ?』

『い、いや…用ってゆっか…何つぅかその…』

隆志は思わず顔を伏せた…

『貴方高校生よね?…変態ストーカー野郎には見えないけど…』

女性は腕組みをして更に隆志を睨みつけた…

(ここで本当の事言ったって更に傷口は開くよな…よし決めた!逃げよッッ!)

隆志は女性に背を向けその場から逃げようとした!

『ち、チョット待ちなさいよッッ!逃げるつもりッッ!』

女性が思わず逃げようとする隆志の腕を掴んだその時!酔った車が猛スピードで二人めがけて突進して来た!

『キャァァァァァァァ!!』

『あッ、危ないィィィッッッッ!!』

隆志はとっさに我が身をその女性に被せ、抱きしめるとそのまますぐ横の植え込みの中に身を投げた!

『バッキャロッッ!何処でイチャついてんだバーロッッッ!』

酔った運転手が罵声を飛ばしそのまま去っていった…

『ハァ…ハァ…こ、怖かったぁッッ!!』

『貴方、だ、大丈夫!?怪我はない!?』

No.55 07/10/26 19:47
ヒマ人0 

>> 54 ⏳10⏳

『ハァ?…私の寿命が1日しかないだってぇ?…貴方それ何の冗談ッッ?』

『ほら、ヤッパ信じてくれないじゃん…』

隆志と未菜というその女性は近くの児童公園で傷の手当てをしていた…

『つまり君が人の寿命が見える超能力を持っていてたった1日しか寿命がないこの私を興味本位で尾行してたって訳?』

未菜は隆志の口元の血を持っていたハンカチで拭った…

『ホントごめんなさい…僕、つまらない事言って…帰ります…』

帰ろうとした隆志を未菜は待ってと制止した…

『もし…もしもよ?その話がホントなら…さっきの酔っぱらいの車にひかれて死んでいたかも知れないんだよね、私…』

隆志はハッとした…そうだ…もしかしたら未菜の寿命はさっきの車で消される予定だったのでは!これはもしかして本来起こりうる未来を僕がねじ曲げてしまったのではッ!とすると…

『…でも私…今こうして生きてるよッ!…これってもしかして未来が変わったんじゃないの?』

あくまでも君の話を信じるのが前提としてよッ!と未菜は苦笑いで言った…

(そうだッ!もしかして僕は僕自身の力でこの超能力に打ち勝ったんだッッ!彼女の寿命をこの手で伸ばしたのかも知れないぞッッ!)

No.56 07/10/26 20:23
ヒマ人0 

>> 55 ⏳11⏳

『はい、コーヒーでいいよね?』

未菜はブランコに座っている隆志に缶コーヒーを投げると自分も隣のブランコに腰掛けた…

『…そっかぁ…寿命が見えるんだ…フフフ…面白いねッ…』

未菜はコーヒーを開けた…

『信じて貰えないと思うけどホントなんだ…見たいって念じれば誰かれ見える訳でもない中途半端な能力なんだけどさッッ…』

『信じるよ…私は…』

未菜はブランコを揺らした…隆志は目を丸くした…

『だけど…他人の寿命は見えても…自分の寿命って解らないんだよね?鏡とか見ても駄目なんだッ?』

隆志はそう、と頷いた…

『他人のは見えて自分のは見えない…カァ…何か人生そのものだよねッッ!?何もかも自分の思い通りにはいかないもんなんだよね…素敵じゃない…何かそれ…』

『たまに思うんだ…僕には一体どれだけの寿命があるんだろかって…』

『フフフ…知りたいんだ…だよね…』

未菜はブランコから立ち上がり隆志に握手を求めた…

『助けてくれて有難うッッ!じゃ私帰るね!』

隆志は照れ臭そうにそれに答えようと立ち上がったその時!いきなり背後に人影を感じたッ!

『騒ぐなッッ!あり金全部出せッッ!』

隆志の喉元にナイフが突き付けられていた!

No.57 07/10/26 20:40
ヒマ人0 

>> 56 ⏳12⏳

(……ここは…どこ…僕は…一体…)



何が起きたのか隆志には理解出来なかった…ただ気がつくと病院のベッドらしき場所に寝かされていた…

『気がついたかいッッ!良かったぁ~ッッ!』

『ここは…僕は何故…』

隆志は頭の中を整理していた…未菜という女性と握手をしようとして…そしたら急に…

『君は二時間前に近くの公園で暴漢に襲われて胸を刺されたんだよッ…』

隆志の担当医らしき医師が静かに隆志に言葉をかけた…

『胸を…刺され…た?』

『だが奇跡的にナイフが急所から外れていてねッ…ホントに奇跡としか言いようがないよッッ!君は命拾いしたんだよッッ!』

医師と側にいた看護師達は笑顔で隆志を見た…

『!そだ!未…な…未菜って女性はッッ!?確か僕と一緒にあの場所にッッ…彼女はッ、彼女は無事なんですかッッ!?』

隆志の質問に医師は一気に顔色を曇らせた…

『彼女は…亡くなったよ…ついさっき…』

『亡くなった…って…死んだって事?…そんな…嘘だ…』

隆志は未菜の死を受け入れられなかった…

(寿命を…彼女の寿命を伸ばす事が出来たと思ったのに…何で…何でだよッッッ!!)

No.58 07/10/26 21:25
ヒマ人0 

>> 57 ⏳13⏳

『目撃者によれば君が暴漢に刺された後、彼女は瀕死の君をおんぶして2kmも離れたこの病院まで全力疾走したそうだ…頑張ってッ!頑張ってと励ましながらシニモノ狂いで走ったそうだ…』

『…そんな…未菜サン…そんなぁ…』

隆志は目を閉じて唇を噛み締めた…

『…死因は心臓発作だった…君を抱え一気に全力疾走したので心臓に負担がかかったらしい…元々持病の狭心症を持っていたそうだ…』

隆志はただ黙っていた…

(未菜サン…未菜サン…ヤッパリ…救えなかったんだね僕…こんな能力ッッ!消えてしまえばいいんだッッ!したら誰も傷つく所を見なくて済むんだッッ!)

隆志は泣き崩れた…

『彼女がね…息を引き取る間際に君に伝えてくれって…伝言があるんだ…』

医師は隆志を見つめた…

『な、何ですか…伝言って…』

『《大丈夫ッッ!心配しなくても君は【21054】ッ!大往生だよッッ》…私には何の事かサッパリ…』

(!!…まッ…まさか…未菜サン…あなたッ!!?)

時計は11時55分を刻んでいた…隆志は溢れる涙を止める事が出来なかった…



⑥~寿命カウンター~完

  • << 60 🗿2🗿 柿内恭一郎の職業は俳優である…俳優といってもTVドラマに顔を晒す俳優ではない…主にヒーローショー等の着ぐるみや衣装を着て動き回る、いわゆる《スーツアクター》という専属の役者である…つまり変身ヒーロー役の人間の姿の俳優が変身した後に登場する被り物専門俳優といった所か…人間役の役者達とは違い恭一郎の仕事は子供達に決して顔を晒す事はない地味な仕事とも言える… 『愛美…最近正憲と俺のショー観に来ないのか?』 晩酌をしながら恭一郎は妻、愛美に話かけた…もうすぐ4歳になる愛息子の正憲は奥の部屋で寝息を立てていた… 『…こないだ幼稚園で友達にからかわれたんだって…』 『からかわれた?…何でッッ?』 愛美は恭一郎のグラスにビールを注いだ… 『マー君ちのパパってホントは悪い怪人なんでしょ?…ッて…』 愛美はゆっくり腰掛けた… 『今の子供って現実的よね…正義のヒーローだって中に違う誰かが入ってるって事位周知の事実みたい…』 恭一郎の箸が止まった… 『正憲もまだ小さかった頃は何も解らずただ喜んで観てたけど…あの子ももう4歳よ…良きにつれ悪きにつれ、社会の事何でも吸収しだす年頃なのかもね…』 恭一郎は寝息を立てている正憲を眺めた…

No.59 07/10/27 13:01
ヒマ人0 

>> 58 【⑦】~パパは《悪ター》!?~

🗿1🗿


『柿内さん…さっきの殺陣(たて)の場面さッ…もっとバサッって勢いよく倒されてくんないッスかねぇ~…』

恭一郎が額の汗を拭って水分補給をしていた時、後輩の長谷川忍が恭一郎に声を掛けてきた…

『何かあれじゃシグナルエースが圧倒的パワーで悪の帝王ジャリンガに勝ったって気がしないんスよッ…午後の部はそこん所宜しくお願いするっスッッ!』

シグナルエースのスーツを着たまま長谷川は不服そうに自分の控室に帰って行った…

(チクショッ!忍のヤツ自分の演技が下手な事を棚に上げやがってッッ!主役やりだしてからホント生意気になって来たなッッ!アイツ…)

恭一郎は肩に掛けてあったタオルを床に叩き付けた…

(あ~ぁ…俺も忍くらい若い頃にゃ、バリバリ主役張ってたもんなぁ…だけど今じゃ悪の幹部が関の山カァ…)

いくら経験や演技力が豊かであっても重ねる年齢には勝てないと恭一郎はため息をついた…子供達で埋め尽された会場を袖で眺めながら恭一郎はふと息子の正憲の事を考えた…

(そぅいやぁ最近アイツ…俺のショーを観に来なくなったよナァ~…)

何故だろうと考えながら恭一郎はペットボトルの水を飲み干した…

No.60 07/10/27 13:26
ヒマ人0 

>> 58 ⏳13⏳ 『目撃者によれば君が暴漢に刺された後、彼女は瀕死の君をおんぶして2kmも離れたこの病院まで全力疾走したそうだ…頑張ってッ!頑張っ… 🗿2🗿

柿内恭一郎の職業は俳優である…俳優といってもTVドラマに顔を晒す俳優ではない…主にヒーローショー等の着ぐるみや衣装を着て動き回る、いわゆる《スーツアクター》という専属の役者である…つまり変身ヒーロー役の人間の姿の俳優が変身した後に登場する被り物専門俳優といった所か…人間役の役者達とは違い恭一郎の仕事は子供達に決して顔を晒す事はない地味な仕事とも言える…

『愛美…最近正憲と俺のショー観に来ないのか?』

晩酌をしながら恭一郎は妻、愛美に話かけた…もうすぐ4歳になる愛息子の正憲は奥の部屋で寝息を立てていた…

『…こないだ幼稚園で友達にからかわれたんだって…』

『からかわれた?…何でッッ?』

愛美は恭一郎のグラスにビールを注いだ…

『マー君ちのパパってホントは悪い怪人なんでしょ?…ッて…』

愛美はゆっくり腰掛けた…

『今の子供って現実的よね…正義のヒーローだって中に違う誰かが入ってるって事位周知の事実みたい…』

恭一郎の箸が止まった…

『正憲もまだ小さかった頃は何も解らずただ喜んで観てたけど…あの子ももう4歳よ…良きにつれ悪きにつれ、社会の事何でも吸収しだす年頃なのかもね…』

恭一郎は寝息を立てている正憲を眺めた…

No.61 07/10/27 14:12
ヒマ人0 

>> 60 🗿3🗿

『覚悟しろッッ!悪の帝王ジャリンガッッ!この世にシグナルエースがいる限り、お前の好き勝手にはさせないッッ!』

会場から割れんばかりの子供達の声援が飛び交った!

『フフフ…何度でもほざくがよいッッ!所詮お前はこの悪の帝王ジャリンガ様の相手ではないッッ!ジワジワと苦しめて地獄に送ってやるッッ!』

ジャリンガの言葉に子供達は一斉にブーイングを浴びせた…

《ジャリンガなんかヤラレちゃえッッ!》

《死ねッ!死ねッ!死んじまえッッ!》

《殺せッッ!ブチ殺せッッ!コイツ殺しても犯罪にはなんねぇぞッッ!ヤッちまえッッ!》

ジャリンガの着ぐるみの中で恭一郎は何故か哀しい気持ちになった…それらは最早純真な気持ちでヒーローの活躍を目を輝かせながら見つめる小さな子供の言う言葉ではなかった…

(ハァ…これじゃ正憲に観に来いなんて言える環境じゃないよなぁ…)

まだ自分がシグナルエースであったなら救いはあったのかと恭一郎は思っていた…

『死ね、ジャリンガッッ!シグナルボンバーァァァァァッッッ!!』

シグナルエースのキックが恭一郎の腹にヒットした!…恭一郎はそのまま舞台の下に吹っ飛ばされた…

No.62 07/10/27 14:45
ヒマ人0 

>> 61 🗿4🗿

仕事柄、地方の遊園地や百貨店の出張が多い恭一郎であったが久しぶりに家でゆっくり休める日が出来た…恭一郎は部屋で黙々と超合金のオモチャで遊ぶ正憲の側に座った…

『…なんだ…シグナルエースで遊ばないのか?』

恭一郎は別のキャラクターの玩具で遊ぶ正憲に声をかけた…

『シグナルエース…嫌いッッ!大嫌いッッ!』

恭一郎はそっかぁと少しニヤついた…

『でもジャリンガはもっと嫌いッッ!大大大~ぃ嫌いッッ!!』

(…………凹むナァ…)

『ねぇパパ…』

正憲が列車のオモチャで遊び出した…

『…ん?…』

『パパはどうしてヒーローじゃないの?どうして悪の帝王ジャリンガなの?』

恭一郎は黙り込んだ…正憲のその質問に対しすぐに的確な答えが見つからない…

『正憲は…パパがジャリンガだったら嫌か?』

『………』

『……だぁよな…ハハハ…』

正憲は恭一郎に背を向けるようにひたすら列車のレールを作っていた…暫くの沈黙が続いた…

『正憲ッッ…パパはねッ…昔正義のヒーロー《神話戦隊オメガマン》のオメガレッドだったんだよッッ!スッゴク格好良かったんだから!』

部屋の外からそっと妻の愛美が声を掛けてきた…

  • << 65 🗿5🗿 『嘘だッ!…パパが正義のヒーローな訳ないよッッ!だっていつもシグナルエースにヤラレる役ばっかだよッッ!僕、僕…強くて格好いいパパ見たいよッッ!』 正憲は寂しそうにそう言った… 『マー君…チョット来てごらん…』 愛美は正憲を居間に連れて来るとビデオをセットした… 『恥ずかしいからマー君には見せたくはなかったんだけど…』 愛美はそう言うとビデオの再生ボタンを押した…《神話戦隊オメガマンッッ!》正憲の目の前に五人の鮮やかな戦士達が現れた…それは10年以上も前の戦隊ヒーローのビデオだった… 『愛美お前…こんな古い映像…保管してたんだ…』 恭一郎は驚いた…軽快なオープニング主題歌が流れだし、五人の隊員達の映像が順に紹介されていく… 『!…あッ!パパだッッ!赤いの、パパだッッ!』 いきなり紹介されたオメガマンのレッド役はまさに恭一郎だった…正憲は身を乗り出すようにその映像を見た… (懐かしい…俺が一番輝いてた頃だ…) 隊員が順に紹介され正憲はハッとした… 『?…ママだッッ!これママだッッ!ママだよねッッ!?』 五人目の唯一の女性、オメガマンのピンクは愛美であった…

No.63 07/10/27 17:43
匿名さん63 

新しい小説もよいですが、復帰できたなら、今までなげてた小説完結してもらいたい。次々書いてポイ捨てじゃ、ずっとファンでしたが正直うんざりきます。

No.64 07/10/27 23:14
ヒマ人0 

>> 63 匿名63様厳しいご意見誠に身にしみる思いです…😥今後の反省材料にさせていただきます…💀

No.65 07/10/28 07:17
ヒマ人0 

>> 62 🗿4🗿 仕事柄、地方の遊園地や百貨店の出張が多い恭一郎であったが久しぶりに家でゆっくり休める日が出来た…恭一郎は部屋で黙々と超合金のオモチ… 🗿5🗿

『嘘だッ!…パパが正義のヒーローな訳ないよッッ!だっていつもシグナルエースにヤラレる役ばっかだよッッ!僕、僕…強くて格好いいパパ見たいよッッ!』

正憲は寂しそうにそう言った…

『マー君…チョット来てごらん…』

愛美は正憲を居間に連れて来るとビデオをセットした…

『恥ずかしいからマー君には見せたくはなかったんだけど…』

愛美はそう言うとビデオの再生ボタンを押した…《神話戦隊オメガマンッッ!》正憲の目の前に五人の鮮やかな戦士達が現れた…それは10年以上も前の戦隊ヒーローのビデオだった…

『愛美お前…こんな古い映像…保管してたんだ…』

恭一郎は驚いた…軽快なオープニング主題歌が流れだし、五人の隊員達の映像が順に紹介されていく…

『!…あッ!パパだッッ!赤いの、パパだッッ!』

いきなり紹介されたオメガマンのレッド役はまさに恭一郎だった…正憲は身を乗り出すようにその映像を見た…

(懐かしい…俺が一番輝いてた頃だ…)

隊員が順に紹介され正憲はハッとした…

『?…ママだッッ!これママだッッ!ママだよねッッ!?』

五人目の唯一の女性、オメガマンのピンクは愛美であった…

No.66 07/10/28 09:33
ヒマ人0 

>> 65 🗿6🗿

『でもこんなの僕が生まれるずぅッとずぅッと前の事でしょ!?…今のパパは悪い怪人なんだもん…全然強くないし…すぐにヤラレちゃう…そんなパパ…僕見たくないよッッ!』

正憲は悲しそうに列車のオモチャで遊ぶ為にスネるように部屋に戻って行った…恭一郎と愛美は顔を見合わせ静かにため息をついた…

『俺がいけなかったんだ…もう少し大きくなる迄この仕事の事正憲に隠しておくべきだったんだ…少なくとももうヒーローなんて信じないッていう年頃まで…』

『恭ちゃんは間違ってないわよ…それだけ自分の仕事に誇りを持ってる証拠だわ…早いうちから子供に父親がどんな仕事してるのか教えておくのって私は大事だと思う…私は恥ずかしかったから今の今まで正憲には言えなかったけどねッッ!』

愛美の言葉に恭一郎は少し救われた気持ちになった…同期の戦隊ヒロインで職場結婚し、恭一郎と同じ苦しみを知り尽くしている妻ならではの意見だと恭一郎は感じていた…

『俺の気持ちを理解してくれる君と結婚して良かったよッッ…』

恭一郎は笑顔で愛美に言った…

『さぁて…後は正憲をどうするか!だよねッッ…』

腕組みをしながら愛美は洗濯物を取り込みにベランダに向かった…

No.67 07/10/28 10:57
ヒマ人0 

>> 66 🗿7🗿

『ハァ?…恭ちゃん今何て言ったァ?』

『柿内さん、それ冗談ッスよね?』

次の日の仕事帰り、恭一郎はショーの統括責任者の一ノ瀬とシグナルエースのスーツアクターの長谷川忍に深々と頭を下げた…

『お願いしますッッ!一度でッ、たった一度でいいんですッッ!』

一ノ瀬は目を丸くして驚いていた…

『シグナルエースのスーツアクターを忍と替わってくれって言うのならいざ知らず、今の配役のまま悪の帝王ジャリンガにシグナルエースが倒されてくれって恭ちゃん、そんな事子供達の前で出来る訳ないじゃないのッ!気でも狂っちゃったの!?』

恭一郎は息子正憲の事を二人に詳しく打ち明けた…一度でいいから親父が勝つ姿を見せてやりたいと…

『柿内さん、じゃぁ一度だけ僕、シグナルエースとジャリンガを交替してあげますから…』

先輩に気を使ったのか長谷川忍は言葉をかけた…

『いや、それじゃぁ意味がないんだ…気持ちは嬉しいけど…今の自分のありのままを息子に見せてやりたいんだ…』

『恭ちゃん…気持ちは解るがこれは正義のヒーローショーだ!幕が降りた後に個人的にしてやる事は出来るがショーの開演その真っ只中にそんな事は絶対に許される事じゃないッッ…頭を冷やせッッ!』

No.68 07/10/28 11:22
ヒマ人0 

>> 67 🗿8🗿

『…まぁ誰が考えたって当然の結果よね…一ノ瀬さんに私は全面的に賛成よッ…何処の世界に正義ヒーローショーで悪に倒されるヒーローがいる?それは恭ちゃんが一番判ってる事じゃない…いくら正憲の為だからってそれはやり過ぎ…』

食器を棚に片付けながら愛美は静かに恭一郎に諭した…

『俺だって解ってるさそれ位…けど正憲の為になるなら…』

『恭ちゃん、正憲のせいにしてる…』

『!…え?』

『恭ちゃんはまだ自分の過去の栄光に未練があるのよッ…恭ちゃんは正憲の想いを利用してただあのヒーローだった若くて輝いていた頃の自分を取り戻したいだけなんだ…敵をバッタバタと倒していた頃の自分に…』

愛美は残り物のオカズを小鉢に移し変えた…

『…随分な言い方だな…俺はただ…』

『悪の帝王ジャリンガがシグナルエースを倒したからって…正憲の気持ちがスッキリする訳じゃない、そうする事によって本当は恭ちゃん自身が納得したいだけなんだよッッ!違うッッ!?』

『ジャリンガである恭ちゃんがシグナルエースを倒したとしても…正憲はきっと喜ばないと思うよ…それって何か違うと思う私…』

愛美の言葉に恭一郎はただうつ向くだけだった…

No.69 07/10/28 11:53
ヒマ人0 

>> 68 🗿9🗿

(自身の過去の栄光に未練…カァ…)

爽やかな風が吹き抜ける平日の午後、河原で恭一郎は仰向けになり考えていた…愛美と正憲はすぐ側でボール遊びをしている…愛美の言った事は確かに当たっていた…俺は正憲の気持ちと自らを重ね合わせていたのだ…正憲の願う強い父親像は今の己れ自身に打ち勝つ強さであるという事なのか…過去に縛られない精一杯今の自分を見つめ直す力という事なのか…澄んだ青空にかかる飛行機曇を眺めているうちに恭一郎の中で何かが弾け飛んだ…

『パパッッ!野球しよッ!マー君バッターだよッッ!』

ボール遊びを終えた愛美と正憲が恭一郎の元に帰って来た…

『なぁ正憲…』

『ん?…なぁにパパ…?』

恭一郎は正憲を目の前に座らせた…

『強いパパ…見たいかッッ!?』

『……うん…見たい!』

少し間をおいて正憲は恥ずかしそうに答えた…

『よぉし!じゃぁ今度の日曜ショー観に来いッッ!メチャンコ強いパパを見せてやるッッ!』

『ホントッ!?パパもう倒されない?』

『あぁ、倒されるもんかッッ!反対に返り討ちさッッ!』

今までに見せた事がない正憲の笑顔だった…

『き、恭ちゃんッッ!』

心配そうな愛美に恭一郎はウインクした…

No.70 07/10/28 14:05
ヒマ人0 

>> 69 🗿10🗿

《ッとその時だったッッ!シグナルエースの背後に怪しい影ガァッッッ!》

『グゥッハッハッハッッ!まんまと罠にハマったなシグナルエースッッ!今日こそお前の最期ダァッッ!』

白煙が会場全体を包み込み辺りは真っ暗になった!あまりの恐ろしい演出にすすり泣く子供もいた…観客席の一番前に愛美と正憲は座って恭一郎の出番を待っていた…父親の登場を間近に正憲の目は爛々と輝いていた…

『マー君ッ…ほら、もうすぐパパが出てくるよッッ!』

『パパ本当に負けないよねッッ!?絶対シグナルエースをやっつけてくれるよねッッ!?』

正憲の言葉に隣にいた子供達は驚いた様に目を丸くした…

《ジャリンガッッ!今日こそお前の息の根をとめてやるッッ!》

子供達が一斉に拳を突き上げた!

《それはこっちのセリフだッッ!シグナルエース覚悟しろッッ!》

ジャリンガとシグナルエースが激しく剣で交戦を始めた!

『頑張れッッ!ジャリンガッッ!』

全ての子供達がシグナルエースへの声援を送っている中で正憲だけは胸の前で両拳を握り締め必死にジャリンガに声援を送っていた…

(恭ちゃん…)

愛美も正憲の横で事の顛末を固唾を飲んで見守っていた…

  • << 72 🗿12🗿 愛美はショーの楽屋口で正憲と恭一郎が仕事を終えて出てくるのを待っていた… 『!あッ…マー君…パパだよッ!』 うつ向き加減で恭一郎が出口から出てきた… 『……正憲…ゴメン…』 恭一郎は正憲の視線に自分の目線が届くように中腰になって息子を見た… 『……』 『ほらッ、マー君…!』 愛美が静かに黙っている正憲の背中を叩いた… 『パパな…ホントにシグナルエースをやっつけるつもりで精一杯頑張ったんだ…だけどあんの野郎ヤッパリ正義の味方だからさ、メチャンコ強くってさ…パパ全然歯が立たなかったんだ…ゴメンな…』 愛美は恭一郎の言葉に苦笑いした… 『……』 『強いパパ見せるって約束破っちゃったな…』 『……仕方ないよ…』 正憲が静かに口をついた… 『仕方ないよ…だってシグナルエースは正義のヒーローなんだから…パパが負けちゃうのは…当たり前だよッッ!』 『ま…正…憲…』 恭一郎は愛美と顔を見合わせた… 『でもパパ…格好良かったよッッ!シグナルエースよりずっと…だって僕のパパは悪の帝王ジャリンガなんだもんッッ!明日幼稚園で自慢してやるんだッッ!』 正憲の言葉に恭一郎は涙が溢れた… ⑦~パパは《悪ター》!?~完

No.71 07/10/29 07:58
ヒマ人0 

>> 70 🗿11🗿

シグナルエースと悪の帝王ジャリンガとの激しい交戦が続いていた…

『負けないでッッ…ヤッつけてッッ…パパッッ!』

祈るような気持ちで正憲は目を閉じた…

『大丈夫だよマー君ッッ、パパはいつだって強いんだよッッ!絶対自分から逃げたりしないんだからッッ…』

愛美は正憲の肩を抱きながら息子にそう言葉をかけた…その時ッッ!シグナルエースの必殺技《シグナルボンバー》がジャリンガのお腹にヒットした!

『ウガガァァァッッ、お、おのッ、おんのれェェェェェッッッッ!!』

ジャリンガは黒い煙とともにその場に倒れ込んで動かなくなった!

『!ッ…パパ…パパァァァァァァッッッ!!』

正憲はジャリンガの敗北に顔を覆った…《見たかジャリンガッッ!これでまた地球の平和は守られたッッ!》シグナルエースが拳を大きく突き上げると会場から大歓声が上がった…

『パパ…パパ…負けちゃった…ママ…パパ…負けちゃったよッッ…』

正憲は大粒の涙を溢した…それは自分との約束を守ってくれなかった父親への怒りとは違い、自分の大好きな父親が大勢の観客の前で倒された事への寂しさだった…

No.72 07/10/29 08:44
ヒマ人0 

>> 70 🗿10🗿 《ッとその時だったッッ!シグナルエースの背後に怪しい影ガァッッッ!》 『グゥッハッハッハッッ!まんまと罠にハマったなシク… 🗿12🗿

愛美はショーの楽屋口で正憲と恭一郎が仕事を終えて出てくるのを待っていた…

『!あッ…マー君…パパだよッ!』

うつ向き加減で恭一郎が出口から出てきた…

『……正憲…ゴメン…』

恭一郎は正憲の視線に自分の目線が届くように中腰になって息子を見た…

『……』

『ほらッ、マー君…!』

愛美が静かに黙っている正憲の背中を叩いた…

『パパな…ホントにシグナルエースをやっつけるつもりで精一杯頑張ったんだ…だけどあんの野郎ヤッパリ正義の味方だからさ、メチャンコ強くってさ…パパ全然歯が立たなかったんだ…ゴメンな…』

愛美は恭一郎の言葉に苦笑いした…

『……』

『強いパパ見せるって約束破っちゃったな…』

『……仕方ないよ…』

正憲が静かに口をついた…

『仕方ないよ…だってシグナルエースは正義のヒーローなんだから…パパが負けちゃうのは…当たり前だよッッ!』

『ま…正…憲…』

恭一郎は愛美と顔を見合わせた…

『でもパパ…格好良かったよッッ!シグナルエースよりずっと…だって僕のパパは悪の帝王ジャリンガなんだもんッッ!明日幼稚園で自慢してやるんだッッ!』

正憲の言葉に恭一郎は涙が溢れた…


⑦~パパは《悪ター》!?~完

No.73 07/10/29 12:52
ヒマ人0 

>> 72 【⑧】~戦国ほうむれす~


🎎1🎎

『ほれッ、コレでも食えッッ!?腹減ってるんやろ?…さっきコンビニの裏で捨てられてた弁当やッッ!賞味期限切れててもまだ充分食べれるでぇ~ッッ!』

師走の寒い夜…闇夜にポッカリ浮かぶ鋭利な三日月を寂しそうに眺めている吉田為衛門(ためえもん)に源吉は食べかけのコンビニ弁当を手渡した…

『あんがとな、源吉殿…だどもオラは今腹減ってねぇからッッ…』

『遠慮せんと食わんかいなッ!…袖触れ合うも他生の縁ッちゅうてな、ここ人情の街大阪の人間は誰にでも優しいんやッッ!特にワシらホームレスの人間同士はお互い助け合わなアカンッッ!なッ!ガハハハハ!』

源吉は為衛門の肩を叩いた…

『あ…して、源吉殿ッ…ここは一体何処だぁんべさ?…オラ…』

『だぁからッッ!ここは人情と水の都、大阪やないけッッ!為ちゃん頭打ったんとちゃうかッッ!?河内や河内ッッ!河内の国やッッ!』

『カワチ…ここは河内の国け?…っぅこたぁオラ…まんずこらぁてぇへんな事になったダァ!』

為衛門は頭を抱えた…

『まぁとにかく悩んでないでワシのウチ泊まれやッッ!重ねた団ボールで温熱しとるから温いデェ~!』

源吉は為衛門を連れてウチの中に入った…

No.74 07/10/29 16:40
ヒマ人0 

>> 73 🎎2🎎

『源さん、コレ見てみぃ!行きつけのフランス料理店の裏でキャビアの缶詰見つけたでぇ~ッッ!』

源吉と為衛門が源吉の団ボールハウスにいると外からけたたましい声を上げ、隣の寅江が飛び込んで来た…

『ナァんや寅ちゃん騒々しいなッッ!』

『ホレ、これ3年前に賞味期限切れたキャビアやで勿体無いッッ!まだワテらのお口の許容範囲やがなッ!ガハハハハ!……ってか…源ちゃん、お客さんか?』

『おぅ、昨日公衆トイレの側で糞まみれで倒れてたんや…』

寅江は為衛門を凝視した…

『アンさんこの辺では見ん顔やな…ケッタイな身なりしてどっから来たんや?着物にチョンマゲて…仮装大賞かッッ?』

この寅江という女性は言葉は汚いが悪い人間でない事は源吉と話しているのを聞いて為衛門は理解した…

『…お、オラ…まだあだまン中真っ白で…何が何だか…』

為衛門は源吉に視線を送り事の発端を説明してくれという仕草をした…

『寅ちゃんよう聞きや…この為ちゃんはな、どうやら昨日戦国時代からタイムスキップして来た越後のしがない農民らしいわッッ…』

『………はァッッ?タイムスキップぅ?』

寅江は源吉の言葉に口をアングリと開くしかなかった…

No.75 07/10/29 17:12
ヒマ人0 

>> 74 🎎3🎎

『タイムスキップっちゅうのは…あぁ…その過去やら未来やらを行き来でけるっちゅうマンガ映画のあれけ?』

寅江は半信半凝で源吉と為衛門の話を聞いていた…

『ンダ…オラァ越後長岡藩主村岡実友様を親方に持つ稲作農民のハシクレ吉田為衛門だべさ…親方様の余りにもきんびすぃ年貢の取り立てに我々城下さ農民は一揆を企てたべ…だども村岡様の屋敷に踏み込んだど思った矢先に…気が付いたらこげんな場所に…』

『つまり、原因は判らんがこの戦国時代の農民である為ちゃんは21世紀の大阪に飛ばされたっちゅう訳やッッ…』

源吉は寅江が手に入れたキャビアの缶詰を必死で開けている…チョット!と寅江は源吉の襟元を掴んでハウスの外に連れ出した…

『源さん、まさかアンタあの仮装大賞の言う事信用してるんちゃうやろなッッ!』

寅江は不快そうに眉間に皺を寄せた…

『信用するも何も…行き場がのぅて困っとるんや、いつの時代に生まれようが人類皆兄弟やッッ、ガハハハハ…』

『ホンマに源さんは人がえぇっちゅうか頭のネジ一本抜けてる言うか…まぁ源さんが信用するならワテも信用するけど…』

寅江はしかしそんな事もあるんやな~と感心した…

No.76 07/10/29 17:46
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>> 75 🎎4🎎

大阪市内の高層ビルやマンションに囲まれた小さな公園の一角に源吉達10人程が生活しているテント村がある…家を追い出された、借金で夜逃げした、事業に失敗して文無しになった等…色んな諸事情で宿無しになった者達のここは至極のパラダイスである…戦国時代の世に住む為衛門が何故大阪のこんなテント村にタイムスリップして来たのかは謎であったが源吉や寅江をはじめとするこのテント村の住人はよそ者の為衛門に不信感や不愉快な素振りは微塵も見せる事なくそんな行き場のない為衛門を快く受け入れた…

『ほら、為ちゃん…このソーセージ食えッッ!近所の小学生にもろたんやッッ!』

『為ちゃんッッ、チョット缶集めに行くの手伝ってくれるけ?』

『為ちゃん…織田信長ってヤッパリ凄い奴なんけ?』

元来人当たりもよく優しい性格の為衛門はいつしかこのテント村きっての人気者になっていた…

『疲れたやろ?…一服しよかッッ!』

源吉の引くリアカーの後ろを押す為衛門に源吉が声をかけた…

『ハァ~…どや為ちゃん?こっちの暮らしにゃあ慣れたけ?』

手渡された煙草の使い方が解らず為衛門はキョトンとしていた…

『……もうじき正月やなぁ…』

No.77 07/10/29 19:10
ヒマ人0 

>> 76 🎎5🎎

『源吉殿…ひとつ尋ねてえぇだか?』

『源吉殿なんて呼び方やめてぇなッッ…源ちゃんでえぇッッ!』

煙草はこうやって吸うんだと源吉は為衛門に教えた…

『ここさ人達はみな良か人ばかりだべ…オラみだいなよそ者に優しくしてぐれる…どしてだべ?』

『…そやな、この公園に住んでる奴らは皆人生のスイも甘いも経験し尽くした奴らばっかりやからな…姿形や言葉や身なりで差別せぇへん器のドデカイ人間の集まりなんや!』

為衛門は煙草にむせて咳き込んだ…

『オラ…何がまだ夢さ観てるようで…けんどこれは…誠の事なんだべな…』

道路をひっきりなしに走る車を眺めながら為衛門はため息をついた…

『…帰りたいんか…戦国時代に…そらそやな…乱世やゆうても為ちゃんの故郷やもんな…』

源吉は優しく為衛門に笑いかけた…

『…源き…ッ…うんや、源ちゃんおめぇ…嫁ごさ居るのが?』

『嫁はんか…とっくに別れた…娘は一人おる…』

『そっがぁ…娘コ…いるのが…』

急に為衛門の顔が曇った…

『為ちゃんもおるんか?娘…』

『ンダ…だども…親方様に年貢のカタに取られてしまったべ…それが年貢さ払えねぇ親方様との約束だったべな…』

No.78 07/10/29 19:34
ヒマ人0 

>> 77 🎎6🎎

『しかし酷い話もあるんやな…年貢米のカタに娘を連れてかれるなんて不条理やッッ!そんな事現代社会じゃあ許されへんッッ!営利誘拐やッッ!』

テント村の一足早い忘年会で鍋をつつきながら寅江は源吉から聞いた為衛門の村の話に怒りシントウだった…

『仕方ないんだべ…年貢米の払いが悪けりゃ親方様の戦ば使う兵糧さ減るだ…したらオラらが農地さ別の藩主さモンになるだべ…ンナ事さなったらオラ達の命も無んなんべ…』

仕方ないと肩を落とす為衛門の横顔を源吉はじっと見ていた…そして何かを感じたのかいきなり立ち上がり忘年会に集まっていたテント村の住人達に呼びかけた!

『なぁみんなッッ!為ちゃんを返してやろうやないかッッ!口には出さんけどきっと為ちゃんは娘さんの事メッチャ心配しとるはずやッ!戦国時代からこっちへ来れたんやッッ、こっちから向こうへ返せん道理はあらへんッッ!どやッみんな、為ちゃんの為に一肌脱いだろやないかッッ!』

寅江をはじめ、みんな一斉に声を上げて源吉の提案に賛成した…

『おめぇら…あんがと…かたじけねぇだべ…オラ…何だか…嬉しいべ…もうあっちには帰れんと思ってだども…まっこと嬉しいだ…嬉しいだよッッ!』

No.79 07/10/29 20:34
ヒマ人0 

>> 78 🎎7🎎

翌日…テント村住人は稲作農民、吉田為衛門を元の戦国時代へ戻すべく緊急会議を開いた…まず議長兼為衛門の第1発見者である源吉が紙と鉛筆で説明を始めた…

『まず4日前にワシが為ちゃんを発見したのが公園の公衆トイレのすぐ横の垣根やった…今朝この垣根付近を捜索したんやが特に怪しいモンは無かった…』

『為ちゃんはこっちの世界にタイムスキップしてきたその瞬間は意識あったんけ?』

おッ!それえぇ質問やがなッッ!と寅江の問いに周りの住人から尊敬の声が上がった…

『…オラ…まっこと意識さ無かったべ…気がついたら源ちゃんに助けられてたもんで…』

『けどタイムスキップして来た場所ってのはあの公衆トイレ付近に間違いないんやないけ?』

『源さん寅ちゃん…さっきからタイムスキップっちゅうとるでッッ!タイムスリュップが正しい発音やッッ!』

そんな事どうでもえぇがなッッ!と住人達からため息が漏れた…

『とにかくッッ!為ちゃんは確かにこっちに来れたんやッッ!ほならこっちから向こうへ行ける穴か何かが存在するはずやッッ!明日はその辺りを徹底的に捜索やッッ!えぇか、みんなッッ!』

会議の住人達は一斉に雄叫びを上げた…

No.80 07/10/29 20:57
ヒマ人0 

>> 79 🎎8🎎

テント村住人は総動員で公衆トイレの周りの捜索を開始した…しかし半日も細かく捜索したが為衛門が通り抜けて来れるような穴はひとつも見つからなかった…

『ヤッパリ無理だべか…』

草むらをかきわけながら為衛門は諦めたように呟いた…

『諦めんのはまだ早いッッ!きっと何か…何か見落としとるんやッッ…探せッ、穴という穴を探しまくるんやッッ!』

源吉は必死に探し続けた…

『精が出まんなぁ…立ち退きが近いっちゅうのにコオロギ採集でもしてますんか?』

突然源吉達の背後から声が聞こえた…其処にはブランド物の背広にスーツケースを抱えた男性が立っていた…その男性を見た瞬間、源吉はじめテント村住人の誰もが眉間に皺を寄せて不快な顔をした…

『……何の用だっか!?』

源吉の声は明らかに緊張していた…

『用はひとつに決まってますがな…年末までにこの公園から立ち退いて貰うっちゅう用事です…』

ひとり部外者の為衛門は皆のただならぬ気配にこれから一体何が起こるのかと固唾を飲んでその男性とテント村住人との行動を見守っていた…

No.81 07/10/30 07:55
ヒマ人0 

>> 80 🎎9🎎

『源ちゃん…さっきの男さ、どごの誰だべか?』

テント村に帰り一息ついた時、為衛門は源吉に尋ねた…

『…為ちゃんには関係ない…お前さんは無事に戦国時代に帰る事だけ考えたらえぇんやッッ!』

源吉は吐き捨てるように答えた…

『何が困ってる事があるんやながが?オラァ、源ちゃんや村のみんなに今までまっごど良うしてもろうただ…何がお返しがしたがッッ…』

為衛門の必死な態度に源吉はゆっくり口をついた…

『実はな…このテント村を年末までに撤去しろって大阪市から要請があってな…来年早々この公園取り壊してマンション作るらしいんや…』

『ここが無くなるだが?…そッだら事したら…源ちゃんらの居場所無くなるでねぇかッッ!折角こんな沢山のえぇ仲間が出来たのに…みんな離ればなれになるでねぇかッッ!駄目だべッ、そんな事絶対駄目だべッッ!』

源吉や寅江、他のテント村住人は皆黙りこんだ…

『仕方ないんや…これでもワテらかて必死で抵抗したんやで…けどな…お上の言う事は絶対なんや…従わなアカンのや…』

寅江が悔しそうに言葉を発した…

『そだな…そだな事…そいじゃまるでオラの時代と一緒じゃなががッ!皆はそがな事でえぇがか?離れ離れになってもえぇがかッ?』

No.82 07/10/30 08:12
ヒマ人0 

>> 81 🎎10🎎

『為ちゃんの気持ちは有難いけどな…今はお前はんを無事に戦国の世に送り返すのが先決やッ!あんな市の職員の糞野郎なんかほお…ほ…え!く、糞ぉッッ!?』

源吉が突然何かに気付いたように言葉を止めた!

『そういやぁ確か為ちゃんを見つけた時…為ちゃん全身糞まみれになってた…そうかッッ!!』

源吉は突然外に出ると公衆トイレに向かって走り出した…為衛門や住人達は源吉の不可解な行動に訳も分からずついて行った…源吉は公衆トイレの個室の和式便器の中を覗き込んだ…

『…なるほど…為ちゃんよッッ、謎が説けたでッッ!おそらくお前はんはこの便器の中からタイムスキップして現代の大阪に来たんやッッ!間違いないッッ!』

『けど源ちゃん…どっからどう見ても普通の便器やけど…』

寅江が首を傾げた…

『為ちゃんッッ!お前はんが親方の屋敷に殴り込みに入る時、月はどんな形してたか覚えとるかッッ?』

『ンダ…確かあん夜は綺麗な満月の夜だったべ…』

『ビンゴ!それやッッ!きっとこの便器の中は満月の夜にだけタイムトンネルになるんやッッ!間違いないッッ!』

源吉の確かではないが独特な推測に全員がもしかしたらそうかも!と声を上げた…

No.83 07/10/30 10:01
ヒマ人0 

>> 82 🎎11🎎

『えぇか為ちゃん…新聞の気象欄見たら次の満月は来週の火曜日辺りや…おそらくその満月の夜にあの公衆トイレの和式便器の中に戦国時代と現代を繋げるトンネルが出来よる…そこに一気に飛び込めば為ちゃん、お前はん、無事に戦国時代に帰れるでッッ!』

源吉は焼き芋を頬張りながら為衛門に戦国時代に帰る方法を事細かく説明した…

『源ちゃん…あんがど、あんがどな…オラァ皆に何でお礼さ言っていいのがわがんねッッ…まっごどあんがどな…』

『せやかて為ちゃんは帰っても辛い現実が待っとるで…生活苦しいて一揆起こすのは解るけどあんまり無茶したらアカンで…命あってのモノダネやからなッ…』

『……ンダな…帰っだら親方様に何とか謝っで娘さけぇして貰えるよう頼んでみるだ…』

それがえぇかもな…と源吉は為衛門の肩を叩いた…

『ワシ…為ちゃんに出会えてホンマ良かった思っとる…』

『オラかでさぁ…源ちゃんやテント村のみんなが大好きだべ…』

次第に丸みをおびだした月が二人の別れを惜しむかのように光々と高層ビルに囲まれた小さな公園を照らしていた…

No.84 07/10/30 10:18
ヒマ人0 

>> 83 🎎12🎎

為衛門が空き缶回収で留守の時のある昼の事だった…

『という訳で…再三の立ち退き要求にもかかわらずテントを自主的に撤去する意思がない物と見なして19日水曜日早朝よりこの公園一帯のテントを市の職員により強制撤去させて貰います!』

四角い印鑑が押された一枚の紙が源吉達テント村住人の前に突き付けられた…

『水曜て…そんな殺生な…』

『何度も警告したやないですか…それに従わへんかったアンタらが悪いんですわッッ!』

源吉、寅江は唇を噛み締めた…

『この鬼ッ、悪魔ッ!ほなワシら…ワシらどこに行けばえぇっちゅうんやボケッッ!』

住人の一人が職員に掴みかかろうとしたが源吉と寅江がそれを止めに入った…

『…アンタらは社会のクズですわ…』

職員のその言葉に源吉はじめテント村住人全員の顔つきが豹変した!

『何やて…もうイッペンゆうてみいッッ!』

『や、やめぇ、寅ちゃんッッ!』

源吉は今にも殴りかかりそうな寅江を羽交い締めにした!

『働きもせんと毎日毎日ブラブラ…世間のゴミは早い目に処理せんと他のちゃんと真面目に働いてる人らに迷惑でっさかいなッッ…』

何やとコラッ!と公園内はテント村住人と市の職員とが入り乱れ騒然とした!

No.85 07/10/30 10:42
ヒマ人0 

>> 84 🎎13🎎

とうとう為衛門を戦国時代に返す満月の夜が来た…公衆トイレの前に住人達が為衛門を見送る為にズラリと並んだ…

『何ぞあっただか?…源ちゃん何が元気ないみてぇだ…』

『あ、アホッ、んな事あるかいな…今日は為ちゃんを戦国の世に返す門出の晩やがなッッ…ほら元気元気ッッ!ガハハハハ!』

源吉は水曜日の強制撤去の一件は絶対為衛門の耳に入れてはならないとテント村住人達に固く口止めしていた…変な心配をさせて為衛門を動揺させてはならないという配慮からだった…源吉の推測通り、満月が上がると公衆トイレの和式便器の中に奇妙な渦巻きの不思議な空間が現れていた…

『ほだら…オラァ…けぇるだ…みなほっだら色々あんがどな…ここで受けた恩はオラァ一生忘れねぇだ…』

為衛門は源吉の顔を見た…

『源ちゃん…あんがど…』

『為ちゃん…元気でなッッ…また娘さんと暮らせたらえぇな…』

為衛門はテント村住人達一人一人と握手を交すと和式便器の個室の中に入り、一度だけこちらを見て静かに個室の扉を閉めた…

『行っちゃったな…為ちゃん…』

『…そやな…さぁて、ワシらも今夜で最後やな…みんなで飲もかッ!』

源吉の言葉にテント村住人達はすすり泣きを始めた…

No.86 07/10/30 11:15
ヒマ人0 

>> 85 🎎14🎎

翌朝、作業服を着て軍手をした50名程の市の職員が源吉達のテント村を取り囲んだ…

『お約束通り、全て撤去させてもらいまっさかい…』

背広の職員が誇らし気に言った…

『…どうしても…壊すっちゅうんですな…』

悔し涙を浮かべ源吉はうつ向いた…

『社会のゴミは早い事掃除せんとなッッ…汚のぅて汚のぅてカナイマセンわッッ、ガッハハハハ!…ほな、始めましょか!』

背広の職員が指で合図をすると木槌や電気ノコを持った作業員がテント村のテントに歩み出した…

『さぁ早いトコ済ませましょッッ!他にも仕事山程ありまっさかい!』

背広の職員の号令と共に作業員が一斉に動き出したその時だった!

『ちょっと待つだッッッッ!!』

いきなり茂みから声がしたかと思うと背広の職員の前にチョンマゲ着物姿の男性が現れた!

『た、た、為ちゃんッッッッ!?』

テント村住人が一斉に声を上げて驚いた!昨夜戦国時代に帰ったはずの吉田為衛門が紛れもなくそこに居た!

『な、何やこのオッサン、チンドン屋かッッ!?』

背広の職員は為衛門の突然の登場に目を丸くした…

『た、為ちゃん!帰ったんやなかったんかッッ!?』

為衛門は背広の職員の前でいきなり土下座した!

No.87 07/10/30 11:39
ヒマ人0 

>> 86 🎎15🎎

『親方様、どうか…どうかこの通りだッッ…ここにいるテント村の仲間さ、引き裂かないでくんろッッ!此処のみんなは全員人生を精一杯生きてる、誇りを持って生活してる人間ばかりだべッッ!何も悪い事っだぁしでねッッ!だがら…だがら…取り壊すの勘弁してけろッッ!おねげぇだッ、親方様ァッッ!!』

『為…ちゃん…』

為衛門は額を地面に擦りつけ、必死に背広の職員に懇願した…

『な…こ、これは何の余興ですか?これ…アンサンらが考えた撤去引き延ばし方法か何かでっか?ハハハ、アホらしぃて開いた口塞がりまへんわッッ!』

背広の職員は土下座している為衛門の頭に靴を乗せた…

『おいオッサン、何の演出か知らんけどなッ、貴様らは社会の落ちこぼれなんじゃッッ!こんな粗大ゴミ一刻も早く処理するんが社会全体の為なんやッッ!そんな事も判らんのかッッ、オッサンッッ!』

背広の職員は靴で為衛門の頭を激しく押さえつけた!

『おねげぇしますッッ!どうかッッ、勘弁、勘弁しておくんなましィッッッ!』

『や、やめろッッ為ちゃんッッ、もうえぇッッ!もうえぇからッ!』

源吉が為衛門の側に駆け寄った!

No.88 07/10/30 11:55
ヒマ人0 

>> 87 🎎16🎎

『コラッ、お前らボサッとしてんとはよ取り壊しに掛らんかいッッ!』

為衛門の鬼気迫る迫力ある土下座姿に取り壊し作業員達も圧倒されていた…

『ほ、ホンマに宜しいんでっか…取り壊してもッ?』

困惑した作業員から言葉が漏れた…

『は、はよぅせんかいッッ!』

背広の職員は作業員に怒鳴りつけた!

『!?ッ…な、なんじゃいッッ!お前らッッ!?』

背広の職員が気づくと目の前には何十人もの土下座の山が築かれていた!

『お願いしますッッ!延期しとくれやすッ!』

『どうかッッ!どうか堪忍しとくれやすッッ!』

『この通りですッッ、もう少し、もう少しだけッ、待って下さいッッ!頼んますッッ!此処は…このテント村は…ワシらの…ワシらの全てなんですッッッッ!!』

為衛門に続き、テント村住人全員が地面に頭を擦りつけ、一心不乱に懇願していた…そして背広の職員めがけそのままジリジリとにじり寄って来た!

『な、な、なんや己れらッッ!く、来るなッッ気持ち悪い奴らやなッッ!わ、解ったッ、取り壊し、もうチョットだけ延期したるッッ!けど今度来た時は立ち退いて貰うからなッッ!あ~気持ち悪ッッ!』

そういうと背広の職員と作業員は帰って行った…

No.89 07/10/30 12:25
ヒマ人0 

>> 88 🎎17🎎

『ホンマ…いきなり登場したか思たら無茶な事してからにッッ…』

寅江は救急箱から絆創膏を出すと為衛門の額に貼り付けた…

『…為ちゃん…昨夜戦国の世には帰らへんかったんか?』

アグラをかいた源吉が静かに為衛門に尋ねた…

『ンダ…帰り際の源ちゃんの落ち込んだ顔さ見て感じただよ…もしかして此処を取り壊される日ば近いんじゃなかんべがって…』

『為ちゃん…』

住人達から笑みが溢れた…

『次の満月まで帰られへんねやで!それでも良かったんか?』

寅江が話しかけた…

『…オラ、みんなにこげな世話になったども、何にもおけぇし出来てねぇばこた感じただべ…んだから何がみんなの為さなる事ないか思うて…すごしは恩返しでぎたがッッ源ちゃん?』

『……アホッッ!戦国時代の農民に気ぃ使われたないわッッ!為ちゃんはアホやッッ、アホ通り越してホンマのドアホやッッ!なぁ、お前らもそない思わんけッッ!』

源吉の声にアホや、ホンマにアホや!とあちこちから歓声が上がった…

(そげん照れば隠さんでもえぇだがに…源ちゃん…)

苦笑いを浮かべ笑い合う仲間達を見て為衛門は時代は変われど人の優しさはいつの時代も同じなんだと心底心に響いていた…

No.90 07/10/30 16:45
ヒマ人0 

>> 89 🎎18🎎

『ほッッだら源ちゃんには世話になったべな…』

『ナァ~にゆうとるんやッッ…お礼言わなアカンのはこっちの方や…』

ワンカップ酒を酌み交わしながら源吉と為衛門は冷たい寒風の中、星空を眺めていた…

『あの時の為ちゃんの必死な姿見てな…ワシらも逃げてばっかりやったらアカンて気付いたんやッッ…これからは何でもハイハイ言う事聞かんと立ち向かっていかなアカンなって…』

『源ちゃんは立派だべ…テント村のみんな、よぉまとめて頑張っとるが…きっとあの親方様にも源ちゃん達ば気持ち、伝わっていきよぅが…』

照れるやないけッ!と源吉は為衛門の肩を叩いて笑った…

『次の満月でホンマのお別れやな…』

『ンダな…源ちゃんも元気でな…まだ娘コさ逢えるといいだな…』

二人は固い握手をして笑った…

『…なぁ源ちゃん…今度はオラさうぢ来ねぇだか?』

『…戦国時代へ?ワシがぁ?ハハハ…こりゃ傑作やな…』

為衛門の顔はまんざら冗談でもないようだった…

『気持ちは嬉しいけんどやめとくわ…ワシこの大阪が好きゃし…それに…タイムスキップの途中で糞まみれになるのかなんしな!』

源吉は為衛門の肩を抱くと一緒に大阪ラブソディを合唱した…


⑧~戦国ほうむれす~完

No.91 07/10/30 19:29
ヒマ人0 

>> 90 【⑨】~蛍地蔵~


🌟1🌟

『お爺さんッこんにちは…いつもこんな場所で何をしているんですか?』

夏奈子は今日こそ勇気を出して尋ねてみようと思っていた…緊張の余り声が上擦り、シャツの背中は暑さも手伝って汗だくになっていたが我ながら上手くいったと思った…

『…ハイハイ、お嬢ちゃんこんにちは…ハハハ…』

年齢は90歳を悠に越えているであろうか、背中は収穫間近の稲穂のように頭を垂らして曲がっており、顔の皺は水を流せばそのまま川のように流れて行きそうな深さだった…人も車も殆ど通らない典型的な田舎の県道の脇でその老人は今日も静かにただじっとしていた…夏奈子は暫く老人の様子を観察していたがそれ以上何も話す事がないと思い、首に巻いたタオルで額の汗を拭うとその老人を尻目に今朝通った県道を一人ただひたすら自転車を漕いで帰って行った…

(…毎日1日も欠かさずあそこに座ってる…)

端から見ればその老人の行動は特に異様な光景ではなかった…普通田舎育ちの高齢者になるとあんな風にじっと毎日を過ごす事位何らおかしい事ではなかった…しかしあの老人を見かけてから夏奈子には何か胸につかえる変な感情が芽生えているのは確かだった…

No.92 07/10/30 19:49
ヒマ人0 

>> 91 🌟2🌟

『いつの頃からかしら…確かに毎日あの場所にいるのを見かけるわねッッ…この町内の人じゃないみたいだけど…』

葱の束を包丁でザクリと切ると夏奈子の母和恵はそのまま鍋の中に放り込んだ…

『学校に行く朝も下校する夕方もあそこにじっと座ってるの…炎天下の時も大雨の日だって…ねぇお母さん、何かおかしいと思わない?』

宿題の数学の問題集を勢い良く閉じ、学生服の上からエプロンをかけ、夏奈子は母の台所を手伝い始めた…

『別に普通じゃないの?お年寄りはみんなあぁやって毎日じっとしてるのが幸せなのよ…夏奈子が不思議がるような事でもないでしょ…』

『だけど変じゃない?どんな天候の日だってあんな老人が毎日あの場所に居るんだよッ!きっと何か理由があるのよッッ!』

ハイハイ、その話はまたね!といった仕草で母和恵は冷蔵庫から夫のツマミの枝豆を取り出した…

『何か引っ掛かるんだよね…』

ボールの中の卵を上の空で泡立てながら夏奈子の視線は宙に浮いていた…

『そんな事より夏奈子ッッ、明日は実力テストでしょ?しっかりやりなさいよッッ!』

母和恵の激が飛び、またかぁ~と顔をしからめ夏奈子は今度は真剣に卵をかき混ぜ始めた…

No.93 07/10/30 20:38
ヒマ人0 

>> 92 🌟3🌟

実力テスト最終日、時間が空いた夏奈子は密かに決意した…

(今日こそあのお爺さんと話するぞッッ!)

元来人一倍好奇心旺盛な夏奈子であったがいざ、人前に出るとアガッてしまい我を忘れてしまう所がある…友達とのテストの答え合わせも程々に夏奈子は自転車に跨ると勢い良く自転車を走らせた…30度を悠に越えるうだるような暑さの中、夏奈子は途中行き着けの雑貨屋で麦藁帽子とペットボトルのお茶を購入すると見慣れたいつもの県道をひた走った…

(いたッッ!!)

いつもの場所に今日もあの老人が座っていた…少し遠目に自転車を停めると夏奈子は抜き足差し脚でゆっくりと背後から老人に歩み寄った…

『お爺さんッこんにちは…頭、暑くないですか?これどうぞ…』

太陽を遮る適当な日陰もなく、ただ炎天下の道路の脇に座る老人に夏奈子は麦藁帽子を差し出した…

『ハイハイ、こんにちは…』

老人は夏奈子に満面の笑顔で答えた…電子レンジでチンした後のホットドックのような無数の皺顔で老人は麦藁帽子を有難うとお礼を言って受け取ってくれた…

『あの…横…座ってもいいですか?』

夏奈子は申し訳なさそうに老人に尋ねたが答えの反応が無かった…仕方なく夏奈子は少し離れて座った…

No.94 07/10/31 08:01
ヒマ人0 

>> 93 🌟4🌟

老人は入れ歯が合わないのか、しきりに顎をクチャクチャと動かしながらただじっと目の前にある山の断崖を眺めていた…夏奈子は老人に何と言葉をかければいいのか迷っていたが意を決して話しかけてみた…

『あ…暑いですね…』

『ハイハイ、暑い暑いッ、ハハハ…』

夏奈子は道路の筋向かいにバス停の小さな小屋を見つけた…バスといっても2時間に一本あるかないかの粗末な行路である…

『ねぇお爺さん…ここは日陰がないからあの向かいのバス停の小屋に移動しませんか?でないと熱射病になっちゃいますよ!』

老人はここでえぇんじゃ、有難うと首を振った…幹線道路に伸びるこの細い県道は昼間でも殆ど車や人通りがない…20分程沈黙が続いた…彼岸も近いというのに蝉の騒がしい合唱は止む事はない…その哭き声と道路に照り付けるアスファルトの反射がさらに熱さを助長する…

『あの…これ飲んで下さい…』

夏奈子はタオルで汗を拭きながら老人に水分補給させようとさっき買ったペットボトルのお茶を差し出した…

『ハハハ…お気を遣わせますナァ…ワシは大丈夫じゃて…』

老人は遠慮がちに右手を横に振った時、老人が左手に何か持っている事に気付いた…

No.95 07/10/31 11:02
ヒマ人0 

>> 94 🌟5🌟

(!…遺…牌!?…遺牌だよね…)

夏奈子は老人の左手の中に握り締められている物を何気なく確認した…それは紛れもなく戒名が書かれた金箔貼りのあの仏壇に奉る立派な遺牌のようだった…

『…お爺さん…ご身内でどなたかお亡くなりになられたんですか?』

大きなお世話だと尋ねた夏奈子の方も思ってしまった…ただどうしても夏奈子の中で老人がここに居る理由とその遺牌との接点を確かめてみたくなったのも事実だった…

『一言で…一度でいいんじゃ…』

『……な、何が…ですか?』

『一度でいいから…ハァ…』

『一度で…いい?…何がです?』

夏奈子は老人は何が言いたいのかがイマイチ理解出来なかった…しっかり受け答えが出来ている所をみる限り、認知症やアルツハイマーではないらしい…

『ほたる…』

『ほ…蛍…はい、蛍がどうかしましたか?』

『大好きだったんじゃ…蛍が…』

『え?…お爺さんがですか?』

なかなか話が噛み合わない…夏奈子は老人の気持ちを察してとにかく今日の所は引き揚げようと腰を上げた…

『舞…まいちゃん…』

(!…まい…舞って?)

夏奈子の耳に舞という二文字が入って来た…それから老人はまた黙り込んでしまった…

No.96 07/11/01 18:16
ヒマ人0 

>> 95 🌟6🌟

(!…お、お爺さんッッ!)

何日か過ぎたある大雨の日、例の場所を自転車で通りかかった夏奈子は思わず絶句した!あの老人がいつもの場所にいた…しかしいつもと違うのは老人はビショ濡れのまま倒れ込んでいた事だった…

『お爺さんッッ!お爺さんしっかりしてッッ!』

夏奈子は老人を抱きかかえるとそのまま向かいのバス停の小屋の中へ運んだ…女子校生の夏奈子の力でも容易に運ぶ事が出来る位、老人の体は痩せ細り今にも折れそうだった…

『お爺さんッッ!お爺さんッッ!』

余りの突然の出来事に夏奈子が差していた赤い傘は風で崖の下へ落ちてしまっていた…

『…アァ…こんにちは…ハハハ…』

『!よ、良かったァ~!こ、こんにちはじゃないですよッッ傘も差さないでッッ!死んでしまいますよッッ!』

夏奈子は意識のある老人を見てひとまずホッとした…夏奈子は学生鞄の中からタオルを取り出すと老人の体の水気を拭き取った…

『ここまでしてあの場所にいる理由は何なんです?私凄く気になるんですッ…教えて頂けませんか?』

『……』

老人はじっと夏奈子を見つめた…

『舞…舞ちゃんに似とるのぅ…』

『ま、舞ちゃん…舞ちゃんって誰なんですか?』

No.97 07/11/01 18:37
ヒマ人0 

>> 96 🌟7🌟

『舞ちゃんは蛍が大好きじゃった…夏になると毎日蛍を追いかけとった…ハハハ…』

『舞ちゃんって…お爺さんのお孫さん?』

老人の体を拭いたタオルは水を含んでボトボトになった…夏奈子はタオルを雑巾のように搾ると老人にそう尋ねてみた…老人は静かに頷いた…

『…舞ちゃんは蛍が大好きだったんじゃ…』

『舞ちゃんは…どちらに住んでいるの?』

夏奈子は搾ったタオルを老人の頭にそっと乗せた…

『一度でいいんじゃよ、それでワシも…そして舞ちゃんもきっと…』

『そっか…お爺さんは孫娘の舞ちゃんに逢いたいんだね?…だけどなかなかこっちに遊びに来てくれない…当たり?』

三角座りで少し小首を傾げ、おどけた感じで夏奈子は老人に笑顔で聞いた…

『舞ちゃんは遊びには来ん…もう…』

老人はいきなり号泣しだした…

『!…って…えッッ!?』

老人は左手を夏奈子の前に突きだした…

『ま…まさか…舞ちゃん…って…!?』

その左手にはいつものように金箔の遺牌が持たれていた…

『舞ちゃんは蛍が大好きだったんじゃ…』

その瞬間、夏奈子の胸の奥の隙間は何か軟らかい物で一瞬で埋まってしまう感覚だった…

No.98 07/11/01 19:05
ヒマ人0 

>> 97 🌟8🌟

『あぁ…与貴(よたか)のジィさんだろ?…知ってるよッッ!この辺りじゃ有名だよッッ!』

夏奈子は翌日隣町にある友達の佐野遥の家に遊びに行った時、偶然遥の兄智之から例の老人の話を聞いた…

『ねぇ…あのお爺さんに何があったの?』

『……』

智之は話をしにくそうに一度頭を掻いたが夏奈子の真剣そのものの顔を見て腹をくくった…

『夏奈ちゃん、2カ月程前にあの近辺であった交通事故のニュース知ってっか?』

『…交通事故……こ…!ッッあッ!』

夏奈子は思わず声を上げた…

『ありゃ確か雷鳴神社の夏祭りん時だったっけ…』

智之は腕組みをして宙を見た…夏奈子の脳裏に完全な記憶が甦った…

(夏祭りの帰り道、仲良く手を繋いで歩いていた祖父と孫の背後から白いセダンが突っ込みそのセダンは当時5歳だった女の子を後輪に絡ませたまま100m程引きずりそのまま逃走…!間違いないッッ…地元新聞に載ったあの轢き逃げ事件だッッ…じゃああの老人はあの時傍にいた…孫娘を引きずられるのを真の当たりにさせられた…老人ッッ)

夏奈子は思わず恐怖の余り目を閉じたッッ!

No.99 07/11/01 19:29
ヒマ人0 

>> 98 🌟9🌟

《舞ちゃんは蛍が大好きだったんじゃ…》


左後部バンパーとテールライトに大きな損傷のあるトヨタの白いセダン…当時簡単に見つかるとされていたその犯人と犯行車輛は未だ見つからず事件から90日が経過しようとしていた…夏奈子は遥の兄智之からその事実を知って以来、夏奈子はあの場所に座る老人に声を掛ける事が出来なくなった…老人があそこに座る理由を知ってしまった以上実際何と言って慰めてあげればよいのか夏奈子には解らなかったからだ…

(きっとお爺さん…あそこでずっと悔いてるんだ…あの日の事…助けてやれなかった最愛の孫娘の事…きっと犯人が見つかるまであそこであぁやって供養する事がお爺さんの懺悔なんだ…)

考えれば考える程夏奈子の胸には幼い子供を轢き、そのまま逃走した犯人に対する激しい憤りと恨みを感じずにはいられなかった…

(お爺さん…)

小さな背中を丸め、衰弱した体に鞭を打ち、今日もずっとあの事故現場に座る老人を見て夏奈子は思わず涙を拭いた…

(このままじゃ舞ちゃん…お孫さんが浮かばれないよッッ…)

No.100 07/11/01 19:48
ヒマ人0 

>> 99 🌟10🌟

その夜はまるで無数の蛍が飛び交っているかのような綺麗な星空の夜だった…

(……お爺さんッッ!)

遊びに行った遥の家から帰る途中やはりあの県道に老人はいた…

(こんな夜遅くまで…)

老人は夏奈子に気付いたらしく鶏の手羽先のようなか細い手で夏奈子を手招きした…夏奈子は一度躊躇したが老人の余りにも優しい表情に吸い寄せられるように老人の横に遠慮がちに腰掛けた…

『お爺さん…私の事憶えてくれてたんですね?』

老人は笑いながら夏奈子の手に茶封筒を置いた…

『ん?…何ですか?』

老人は夏奈子の問いには答えず

『……有難う…有難う…』

と夏奈子に両手を合わせてひたすら拝んでいた…

『この封筒…どうすればいいんですか?』

老人はお前さんが大事に持っておいてくれ!という様なニュアンスの行動をとった…

『これ…私が持っていればいいんですね?』

老人は満面の星空を見上げながら一言呟いた…

《舞ちゃんは蛍が…こんな蛍が大好きだったんじゃ…舞ちゃん…舞ちゃん…》

夏奈子が老人のその優しい声を聞いたのはその星空の夜が最後だった…

  • << 101 🌟11🌟 『凄くカッコイイですよ、お爺さんッッ!』 残暑も終わり次第に秋風の匂いが肌を触るようになった…夏奈子はその小さな地蔵を《蛍地蔵》と名付けた…雨風を防げるよう夏奈子は町の職員と石材店にお願いしてその地蔵をバス停の小屋の傍に静かに建立した… 『これで良かったんですよね…お爺さん…』 与貴弥吉の葬儀はしめやかに質素に執り行われた…夏奈子はその葬儀に参列した…弥吉の娘夫婦、つまり孫娘、富樫舞子の両親は弥吉の葬儀には来なかった…舞子の死をまだ受け入れられない精神的ショックと娘を救えなかった弥吉への憎悪と妙な確執とが彼らをそうさせたのだと葬儀で弥吉の親類が話していたらしい… 『…お爺さん…私は貴方のようには生きれないと思います…』 夏奈子は蛍地蔵に手を合わせると石材店に別注文で密かに依頼しておいたさらに小さな地蔵をその蛍地蔵のすぐ横に置いた… 『お爺さん…舞ちゃんも一緒ですよッッ…』
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