…。
‐登場人物‐
♂壬生崇
(みぶたかし)
♀榊原来美
(さかきばらくるみ)
♂鬼頭新
(きとうあらた)
♀椎名恭子
(しいなきょうこ)
♂藤木仁
(ふじきじん)
♀荒川鳴海
(あらかわなるみ)
etc.
14/03/16 18:47 追記
… は
短編&中編のを好き勝手に考えたやつを載せとります
しかも作者は良く文章表現や脱字・誤字をしますが読者様の頭の中で修正してください😂💦
あと多忙な為、亀レスになりしかも…のタグで飛べません
ご了承お願いします😂💦
はじめから読んで貰えたら幸いです
では失礼おば➰👻
作者のアル🍺より
14/06/23 00:56 追記
最近、ガラからauAndroidスマホに機種変して、なかなかなれましぇん。しかもSNSだとau絵文字が使えません(>_< )
そういえばアプリでАSKノベルゲームメーカー(自分でサウンドノベルゲームが作成できる)っていうのがあって、そこのミドルサーバーでこの …。の一番目の作品を~奇怪~というタイトルにかえてupしとります。もしサウンドノベルゲームが好きな人はお試しあれ。(´▽`)ノ
タグ
ピリリリ
ピリリリ
ゴソゴソ…
「ふぁい…もしもし…」
「おい!何やってんだよ崇。何回電話かけても出ねぇで夕方5時の待ち合わせの時間とっくに過ぎてんぞ。先に行ってるからな。」
ツーツー
「やべぇ。もう6時半。着信が鬼のように入ってる…」
これから高校時代の仲間と数年振りに会うんだけど昨日ちょっと彼女とトラブって寝たのが朝方。
親友の新から怒号で起こされた俺は慌てて着替えると財布と携帯電話をポケットにねじり込みアパートの鍵をかけ月額5千円のパーキングに無造作に停めてある手入れしていない軽の中古車に乗り込んだ。
「ふぅ、あっちぃなぁ。」
崇の車のエアコンはガスが抜けたままで薄暗くなっているのにここ数日の猛暑で送風機をかけても熱風しか入ってこず窓を全開にした。
「しかし、何でまたナビゲーターにも載ってないような山奥なんかでプチ同窓会するんだろ?まあ何人集まってるか楽しみだ。」
崇は地図を助手席に放り投げるとアクセルを踏み込んだ。
>> 1
ブロロロロ
崇は目的地まで後15キロの三叉路で道に迷っていた。
バタン
「この辺に看板かなんか出てないかなぁ。」
車に積んでいる懐中電灯を取りだし辺りを見回したが何も見えてこない。
ポケットから携帯電話を取り出すと親友の新にかけてみた。
『電源が入ってないか電波の届かない…』
ピッ
「あ~もう役に立たない。山奥過ぎて電波入んないんだな。ったく…」
少し考えると指を突きだした。
「どちらにしようかな… …神様の言う通り。うしッッこの道に決めた。まぁ道が違っても片道20~30分でまた戻ればいいかな。」
左の道を行く事にした崇は車に乗り込むと進みだした。
ガタッゴゴッ
だんだんとアスファルトの道が無くなり赤土が剥き出しの小石がゴロゴロしている車が一台通れるかどうかという道へと変わっていった。
左右は走っても走っても真っ暗で高い木々に囲まれている。
「外れ道だったかなぁ…でもUターンする幅ないし…まぁどっかに着くだろ。」
ポツ
ポツ
ついてないことに雨が降りだした。
>> 2
ザーザー
雨粒は段々激しさを帯びて車のワイパーを全開にしてもバケツをひっくり返した様な雨には歯がたたなかった。
車内に雨が入り込む為、車の窓を閉めきると何とも言えない熱気に包まれ体中の毛穴という毛穴から汗を吹き出した。
汗で体に衣服がベタ~ッと絡みつき余計に熱苦しさを感じる。
「今度エアコン修理に出すか。」
その時だった。
ピリリリ
ピリリリ
ドキン
「!?」
携帯電話を慌てて覗くと画面は圏外のままだ。
「何か変な電波でも受けたか…」
いつの間にか雨は上がっていたがその代わり濃霧に包まれ一寸先が見えないような状態だった。
「参ったなぁ…みんな今頃飲んで楽しんでるだろうなぁ。取り敢えずUターン出来る場所探してみないとな。」
崇は恐る恐る車を進めて行くうちに霧が少しずつはれて道は見える様になった。
「んっ。」
ふっと左側の木々の闇の向こうから視線を感じる。
>> 3
ヒューン
それは紛れもない女性の腰までありそうな長い髪が前に垂れ服装は白いキャミソールに白いハーフパンツがぐっしょり濡れた姿であった。
「うわっ!何でこんな場所に人が…」
キィーッ
サイドミラーでさっきの方を確認してみると木の枝に白いビニール袋と草の蔦が絡んでいるだけであった。
「何だ…見間違いか。」
崇はホッと胸を撫で下ろした。
前に向きなおし車を発進させるとバックミラーに何かがチラチラ見える。
「またビニールか?」
良く目を凝らしてバックミラーを見てみるとそれはさっき見間違えだと思った。長い髪に白い服装をした女性が両手を突きだして。恐ろしいスピードで迫ってくる。
「ひっ。」
崇は声にならない声を出してガタガタした険しい山道だがアクセルを踏む。
グオォォォッ
「嘘だろッッ!時速40キロだぞ。」
まだ後ろを追いかけてくる。
訳が分からず迫りくるう恐怖をぬぐうために更にアクセルを踏み込んだ。エンジンが唸りを上げる。
>> 4
ゴガッガタガタ
上下に揺さぶられながら崇は無我夢中でハンドルを強く握りしめ猛スピードで山道を道なりに進んでいった。
「ハァハァ…振り切っか?」
後ろを振り返ってもテイルランプの乏しい光しか見えずよく分からない。背中に冷たい汗をびっしょりかいていた。
「んっ行き止まりか。」
キィーッ
車のライトがあたる先には車が充分にUターン出来る広さがあるがさっきの恐怖心で引き返しきれずにいた。
「あっあそこに階段みたいなのがある。」
雲が割れその隙間から月の淡い光りが差すと膝の高さまである草むらの先の方に土階段が見える。
「高い場所に行ったら携帯使えないかなぁ…」
バタン
崇は懐中電灯を片手に車の外に出た。
いつの間にか霧もはれ密林にいるかのような蒸し蒸したなまぬるい風が吹いて気持ち悪かったが、新と連絡がとりたい一心で丘の頂上を目指して今にも崩れそうな山階段を上がって行った。
>> 5
チーッ チーッ
「うわっ!」
虫の鳴き声にも過敏に反応して懐中電灯の明かりをあてる。
段々と階段を2分ぐらい登り上がっただろうか車を停めた場所では分からなかったが懐中電灯の光りの奥に古びた屋根が見えた。
「もしかしたら、電話があるかも。」
期待が膨らみ崇の両足に力が戻った。
階段を登りきると1LDKぐらいのこじんまりした一軒家があり昭和初期に建てられたような面影がある。
正面は横にスライドさせる玄関扉で表札やポストは無かった。右手に回ってみると昔ながらの木の雨戸二枚で閉めきって中の様子はうかがえない。更に裏に回ると切り立った崖で懐中電灯で下を照らしても高い木々の天辺しか見えない。ただ奇妙なのは2メートル程の高さがある二本の丸太が地面に打ち込んでありその真ん中にはワイヤーと滑車が備え付けてあった。ピンと張ってあるワイヤーの先は森の何処まで続いているのか懐中電灯の明かりでは届かず見えなかった。
>> 6
「こんだけ高台ならもしかしたら携帯つかえるかも。」
ズボンの後ろポケットから取り出すと崖ギリギリの場所でアンテナが1つ点いていた。
「ラッキーアンテナ1になってる。」
ピッピッピッ
携帯電話を試しにかけようとするがアンテナが1になったり圏外になったりと安定しなくて何度試しても繋がらなかった。
「糞ッッ!」
ヒューッ
崖下に吸い込まれそうな感覚にとらわれ崇は慌てて後ろに後退りした。
気を取り直し家を一周まわるように歩き正面の玄関左手は風呂の煙突が出ている。小窓から懐中電灯をあてて背伸びして覗いてみると五衛門風呂が見えた。
「誰か居ないかなぁ。」
その時ゴトンと家の中から聞こえた。
慌てて玄関前に走ると硝子戸を叩いた。
バンバンバン
バンバンバン
「夜分遅くすいません道に迷ってしまいました。誰か居られますか。」
しかし静寂に辺りは包まれ耳をすましても何も聞こえてこない。
>> 7
シーン
「何だったんだ今の音は。」
ふと玄関の扉を横にスーッと動かすとガラガラガラと小さな音を立ててスライドしていく。
崇は悪いことだと分かっていながらも懐中電灯を下に向けながら玄関の中に「お邪魔します。」と聞こえるか聞こえないぐらいの声で入っていった。
スニーカーを脱ぎ靴下になって上がると細い廊下があり右手は襖があり左手は障子。まずは直ぐ左手の障子をスーッと開けるとせまい薄汚れた台所がありその奥にはすり硝子戸越しに風呂場みたいなのが見える。電話を探すが見当たらない。誰か居ないか確認をすると廊下に戻り、今度は襖がある方を慎重に開けた。そこはカビ臭い匂いが立ち込め万年布団が引いてあり角には小さな机が置いてある。
「これじゃ空き巣だよな。」と呟きながら押し入れを開け覗こうとした瞬間…
バ ン
中から何か蠢くものが飛び出した。
「!?」
崇は畳の上に落とした懐中電灯を慌てて広い上げる。
>> 8
チカッ
拾い上げた懐中電灯で蠢くものを照らして見ると手で顔を隠している焦げ茶色のショートボブで赤と白のチェックの半袖シャツに股ギリギリまでのショートジーンズをはいた女性だった。
『すいません勝手に忍び混んでッッ!』と二人同時に声を発した。
「えっ!?」
こっちも驚いたが相手の女性も意表をつかれたのか指の隙間から俺を覗いている。
女性はほっと安堵したのか腰が抜けたのかその場にへたりこんでしまった。
数分後気を取り直したのか「私、荒川鳴海って言います。隣の県からこの地に初めてハイキング来てたんですけど三叉路あたりから道に迷っちゃって、そしたら段々薄暗くなって下の広場みたいな場所まで来たらどしゃ降りにあって階段を登ったら家があるんで玄関叩いても誰も居ないし玄関鍵かかってなくて雨宿りのつもりで勝手に家に上がってたら物音がするから怖くなってつい押し入れに隠れちゃったんです。」と一気にまくし立てた。
「なるほどね。俺はちょっと違うけど勝手に人んちに上がってるから似たようなもんだな。」ハハッっと苦笑いをした。
>> 9
部屋の灯りをつけようと裸電球のスイッチを引いたが電気が通ってないのか、つかないので崇の懐中電灯を天井にぶら下げた。
二人は談話をしていると崇は神妙な面持ちで話を切り出した。
「そう言えば荒川さんここに着く途中で変な人と会わなかった。」
「いや別に誰とも会いませんでしたよ。あっそれから同い年みたいだし鳴海って呼び捨てしてください。」
「じゃあ俺のことは崇って呼んで。」
あまり女の子を怖がらせる事を話さない方が良いかな。と思っていると
グウゥ~ッ
崇のお腹が鳴った。
「そういや朝から何も食べてなかったな…」
鳴海は後ろに置いているリュックサックの中をゴソゴソ探るとカロリーメイトの箱を取り出した。
「ごめんなさい。おにぎりとかお昼に食べちゃったから良かったらどうぞ。」
可愛い顔で微笑んだ。
「あっありがとう。」
天然パーマの頭をかきながら箱を受けとるとカロリーメイトを開け口にほうばり貰った水筒のお茶で一気に流し込んだ。
しかしあの長い髪の女は一体…
思い出しただけで身震いした。
>> 10
ザー‐ッ
夏祭りの露店で買った安い腕時計の針がチッチッチッと9時を回っている。
「また雨が降りだしたみたいだね。」
「本当にやになっちゃうわ。」
ビュオォォッ
激しい雨に加え風も出ている。
家の屋根や側壁に当たる激しい雨音が部屋の中に鳴り響く。
「鳴海ちゃん山階段下った広場に俺のおんぼろ車が停めてあるんだけど良かったら乗っていかない。」
「ほんとですか助かります。」
鳴海はカッパを取り出すと羽織りリュックに防水専用ビニールを被せ準備を整えた。
崇は裏の勝手口付近の納屋にあるカッパをみつけ土埃を払うと無いよりましと白い半袖シャツの上に羽織った。
二人は小降りになったのを狙って一斉に家の外へ飛び出した。
ビュオォォッ
「まだ結構風が強いね。それから山階段は泥で滑りやすいから気をつけて。」
崇は鳴海に聞こえるように叫んだ。それに答えるように頷く。
グシャミチャ
懐中電灯の明かりを頼りに何とか広場にたどり着くと車を見て崇は愕然とした。
>> 11
ビュオォォッ
「なっ何で…」
後ろからついてきた鳴海も自分の懐中電灯で車を照らすとタイヤが四本ともズタズタに切り裂かれているのに気付いた。
崇は懐中電灯で素早く辺りを見回したが、ただ木々が激しく擦りあってるだけであった。
何かを思い出しトランクを開けるとほっとした表情で銀色をした災害非常用の小型リュックを取り出し車の助手席の下から発煙筒を抜きリュックに入れた。
「何かの役には立つだろう。」
そう言うと非常用リュックを背負った。
「鳴海ちゃん一旦さっきの家に戻ろう。」
「えぇ…」
鳴海は何が何だか分からず崇の後を追った。
今度は崇は家の周囲を確かめると土足のまま家にズガズガ上がりこんだ。
「良いんですか?人んちに土足で上がって。」
「鳴海ちゃん話を聞いてくれ…」
さっきまでいた部屋に座り込むと鳴海に今までの経緯を話した。
「それって…」
それから先の言葉を閉ざし鳴海は青ざめこの地にハイキングに来たこと死ぬほど後悔した。
>> 12
「トイレ…」
鳴海は急に尿意を感じトイレが何処にあるか崇に聞いた。
「それなら廊下突き当たり裏の勝手口から外に出て直ぐ左手にあるよ。ぼっとん便所だけどね。崖が近いから気を付けて。」
鳴海は少しモジモジすると「怖いから一緒に着いてきてもらえます。」
もし万が一襲われた時のために、崇は外に出ると風呂場の薪焚きする横に置いてある長さ1メートル太さ1センチほどある先が尖って少し曲がった鉄製の火掻き棒を武器代わりに持って電話ボックスみたいな小屋の便所の前で辺りに気を配った。
「ありがとうございます。」
恥ずかしいのか可愛い顔ではにかんだ。
「ちょっと俺も…」
そう言うと火掻き棒を鳴海に渡し便所小屋で汚い便器には蛆がうようよしているが我慢してブルージーンズを下ろすと用を足した。
「キャーーーッッ!!」
ちょうどその時空気を切り裂く様なかな切り声が表から聞こえた。
「まさか…」
ドグン ドグン
崇は慌ててジーンズを履くと表に飛び出した。
>> 13
ガゴッ
「大丈夫か?」
懐中電灯片手に外に転がり出た崇は鳴海が無事か確認した。
が…
鳴海は頸動脈からピューと噴水のように血を吹き出し口から吐血している。
台所にあった出刃包丁で首を切られ背中から心臓をひと突きにされ目を見開き絶命していた。
「そんな…鳴海ちゃん…うわあぁあぁっ!」
崇は雄叫びをあげた。
鳴海の手から火掻き棒を取り手に持つと「何が目的だ出てこい!」と叫んだ。
だが雨も風も虫の鳴き声さえも止み静寂だけが漂う…
布団まで運んで出刃包丁を抜き仰向きに寝かせるとカッと見開いた目を閉じさせ手を組ませ顔に白い布を被せた。
ほんの数分前まで鳴海と喋っていたのが嘘のようだった。
崇は鳴海に手を合わせ黙祷を捧げた。
それから崇は玄関と勝手口の鍵をかけ部屋に戻ると鳴海のリュックサックに自分の非常用リュックの中身を入れた。
「朝になったらここを出よう。今出歩くのは危険だ。」
懐中電灯を消し体力回復の為に仮眠をとった。
スーッと意識が吸い込まれていく。
>> 14
漆黒の闇の中スーッと崇が寝ている部屋の襖が音も無く動いていく。
生暖かい空気が崇の頬を撫でる。
わたしは…
あなたを
ゆるさない…
「ハッ!」
耳元で背筋が凍りそうな声を感じ目を覚まし見回しすが暗闇で何も見えない。懐中電灯をつけ部屋を四方八方見るがやはり何もいない…
あるのは布団に寝かせてある鳴海の遺体と血生臭さだけであった。
チッチッチッ
時計は10時になる少し前。
「まだこんな時間か。」
崇はふぅっと溜め息をついた。
そしていつしか最初の腰まである長い髪の女の事を考えるようになっていた。
(んっ…待てよ。あの白い服装どっかで見たような…あいつなのか…いやそれはありえない…)
いつの間にか眠りに落ちていた。
ガタガタ
雨戸の音で目が覚め部屋から出るともう朝になっていた。
腕時計を見てみると5時20分を過ぎたぐらいだ。
崇はここを出る準備をした。
>> 15
鳴海の血で汚れたシャツを脱ぎ捨て顔や腹筋が割れあちこち筋肉隆々の体を雨水で湿らせたタオルで拭きあげるとリュックの中から鳴海のシャツを出して着てみようとしたがサイズが合わず断念した。
「やっぱ無理か…俺は176センチ鳴海ちゃんは鼻ぐらいだったから160センチぐらいだろうからな…」
シューッ
押し入れの中に何かないか探してみると一枚だけ桐の箱に入ったワイシャツがあった。風呂敷には黄ばんだランニングシャツがあり他にもあったがボロボロで着れそうになかった。
「お借りします。」
サイズはちょうど良い感じだが筋肉で首が太いため胸元から上のボタンは外した。昔からネクタイするのが嫌いで夏場クールビズになって助かっていた。
鳴海が使っていた青いリュックに懐中電灯をしまいこむと背に背負い「鳴海ちゃん置いていくけど、すまない。」鳴海に手を合わせ一礼した。
左手に火掻き棒を持ち玄関を開け外に出たとたん地面が左右に激しく揺れだした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
>> 16
ゴオォォォッ
「うっ…」
玄関にしがみついたが古い一軒家は激しい揺れでギシギシと軋み玄関の硝子戸は外れ割れた。
家の中からも激しい落下物の音がする。
ガシャンバリン
徐々に揺れがおさまり崇はしがみついた手を放した。
「!?」
家の周りを見るとあることに気が付いた。
山階段が崩れしかも家周辺ぐるっと垂直に切り立った崖になっている。
車を停めていた広場からビル三階の屋上ぐらいの高さがあり無理に降りる事が出来ない状態になっていた。
「どうしたら…これじゃ降りれない。」
崖を覗くが今にも崩れそうだ。
「…。」
「……そうだ。」
家裏の納屋に行くと大きなハンマーを取り出し鉄製の火掻き棒を固い場所に持っていき叩いて形を変形させていった。
「一か八か…もう、これしかない。」
腹を決めた崇はリュックから軍手と太いロープを出した。
裏の丸太二本立ってる真ん中の滑車から伸びているワイヤーに曲げて細工した鉄製の火掻き棒で挟みそれにロープをかけ結び更に体が落ちないように固定した。
>> 17
ヒョーッ
「下を見ないようにして。南無三…」
ロープをしっかり捕まり裏の崖のギリギリの場所から前に跳んだ。
ザシュ
ギャリギャリギャリ
ワイヤーと火掻き棒の摩擦で火花が飛び散る。
ビュオォッ
「風圧が凄すぎて息がしずらい。でも空を飛んでるみたいだ。」
崇はロケットのように滑降していった。
ギャリギャリギャリ
段々高度が低くなりワイヤーの高さが木の天辺に近付いてきた。
「ヤバい。」
バサバサバサッ
崇は腕をクロスさせガードするが次から次へと体に木の枝がぶつかってくる。
その時だった。
バキンッ
ワイヤーにかかっている火掻き棒が摩擦熱で折れ森の中に突っ込んだ。
「うわぁぁっ!」
バキバキバキッ
木の枝を降りながら下に落ちていった。
ドスン
「ふう~ッ。俺生きてる。」
幸い木の枝が落下スピードを殺しリュックサックがクッション代わりとなり腕や顔が擦り傷だけだったのは不幸中の幸いであった。
>> 18
「お~イチチチッッ!」
崇は腰を擦りながら木の天辺を見上げると上空にワイヤーが見える。
「しかし良くあの高さから落ちて助かったな。」
自分自信に感心した。
「さてと…ワイヤーが何処まで続いてるか見届けてやるか。」
朝6時を過ぎ木々の間から曇ってはいるものの明るい空が見えるが崇が落下した森の中は余り光が届かず薄暗い。地面には木の枝や落ち葉が沢山積もっている。しかも、でこぼこしていて歩きにくい。
ザッザッザッ
手頃な太い枝を杖がわりにして木々の隙間から見えるワイヤーを頼りに歩を進めた。
小一時間歩くと何と泥と砂利が混じった道路に出た。
「よっしゃっ!」と崇は小さくガッツポーズをとった。
地理的にいったら右手が家に帰れる筈の三叉路へ続く道。左手は目的地のプチ同窓会があってた場所に着くのか、はたまた違う場所に着くのか。それとも真っ直ぐワイヤーが続くのを辿って何があるのか。崇は自分はどれにも行きたくて、またもや三択に迫られた。
「この三方行に杖だのみにしてみるか。」
いつの間にか鳴海が死んださっきまでの恐怖心を忘れ杖に運命を委ねた。
>> 19
カランカランカラン
杖が倒れたその時だった。左手の方からブロロロロッと音が近付いて来る。
「!?」
それは崇の見なれたアイボリー色の普通車だった。何だか猛スピードで走って来る。
キィーッ
けたたましい音と共にいきなり崇の目の前で急ブレーキがかかり車が止まった。。
良く見ると車をあちこち擦った痕がある。
ウィーン
運転席の窓が下がる。
「た、崇助けてくれ。」
それは悲鳴にも近い声だった。
「新どうしたんだ?プチ同窓会で集まって泊まったみんなは?」
「……。」
新の顔は青ざめて何かに怯えひきつっていた。
まさか…昨日の恐怖の出来事が崇の脳裏をよぎる。
バタム
助手席に乗り込み新が落ち着くのを待っていると、にべ色の空が色濃くなっていく。
「昨日崇に電話してから恭子の叔父さんが所有している二階建ての大きなログハウス風の別荘に行ったんだ。それから…」
新は重い口調で話し始めた。
……
…
>> 20
ガチャ
「こんちは。お邪魔します。」
別荘のドアを開けると「あっいらっしゃい新。遅かったわね。」と彼女の恭子が薄水色のシャツに膝上の白いスカートにエプロンといった姿で微笑んで出迎えてくれた。
「ったく崇の奴、寝坊しやがって待ち合わせ場所でずっと待ちぼうけくらっちまった。」
新は息を荒げた。
「まあ崇らしいわね。」
恭子はクスッと笑った。
「新、おっ久~ッッ!高校以来じゃない。」
だだっ広い玄関入って目の前に木の手作りかんある大きなテーブルの椅子に腰掛けていた来美が立ち上がり声をかけてくる。
「恭子から新とのラブラブな話し耳にタコができるくらい聞いてるわよ。」
おしとやかな黒髪の恭子とは正反対でまっキンキンの金髪にパーマがかかっていて、バブル期を彷彿させるようなド派手な股ギリギリの赤いボディコン姿、耳には五百円玉より大きい金のピアスがついている。
恭子の話しに来美が出てくるが、どうしてこの対照的な二人が仲良いのか不思議だ。まあお互い二人の無いものを補っているからなのか。
>> 21
ギシギシギシッ
机の左から二階に上がる手すりがある階段があり上の方から誰か下りてきた。
「おっ誰かと思ったら仁じゃん久し振り!」
新は下りてきた今時の二枚目ジャニーズ系の顔をしており流行りのネックレスに黒シャツそれに似合うブラックジーンズを履いた仁に軽くパンチを見舞う。
が…軽く左手であしらわれた。
「全くいきなりの挨拶だな。」
「お前こそまだ武術やっているみたいだな。」
二人は笑いながら拳を合わせた。
「あれっ崇は来てないのか?」
「あんにゃろ時間にルーズだから置いてきちまった。」
崇、新、仁の三人は武術を部活で習っていた仲間であった。
恭子から別荘の構造を聞くと一階は玄関から正面が大きな木のテーブル 左手に階段 右手にキッチン テーブル奥の広い廊下左手に二部屋右手に二部屋
その更に奥は左手トイレ右手がシャワールーム
二階には階段を上がると一階と同じように廊下を挟んで左右二部屋ずつ奥はテラスになっているとのことだった。
>> 22
「それから最近ここ買って叔父さんが別荘だったのをペンションにしたから今叔父さんと叔母さんは新も途中通ってきたと思うけど吊り橋のロープの補強しに行ってるの。新、二人に会わなかった。」
「いいや全然見なかったなぁ。」
「あっもしかしたら三叉路と吊り橋の間の抜け道から行けるワイヤーが伸びてる山小屋の方かな…」
キッチンで料理の下拵えをしながら新と話している間に「へ~ねぇねぇ何で山小屋あるの?ワイヤーも?」と来美が割って入ってくる。
「聞いた話しによると昔ワイヤーを使ってワイヤーの先にある一軒家に薪を送ってたみたいよ。後はよく分からないわ。」
「ふ~ん。つまんないの。」
来美はそのまま小説を読みながら自分でドリップしたコーヒーを啜っている仁の横に行った。
「恭子も友達選べよ。」
「あれが良いのよ私に無いものを沢山持ってるから。」
来美の方を見ながら恭子は微笑んだ。
「そんなもんかね。女は良く分からん。」
新は冗談混じりに恭子に言った。
>> 23
しばらくすると外から車のエンジン音が聞こえやがて止まった。
ガチャ
「おっいらっしゃい。」
「はっ初めまして鬼頭新と言います。今日はお世話になります。」新は入って来た恭子の叔父さんと叔母さんを見ると慌てて恭子から離れ深々と頭を下げ挨拶をした。実は恭子の両親は交通事故で亡くなっており中学からは親父さんの弟夫婦が育ての親になっているのを聞いて知っていた。
「まあ緊張せずに気楽にね。」叔母さんは微笑み恭子がいるキッチンに行くと手を洗ってエプロンをかけ料理を作り始めた。
叔父さんも叔母さんも五十代前半で白地に赤と緑のチェック模様にジーンズと二人ペアルックになっていた。
将来は恭子と俺も…と新は頭を妄想で駆り立てていた。
数十分後、沢山のおいしそうな料理がテーブルに並べられ、そこに叔父さんが人数分のワイングラスをテーブルに持ってくるとワインクーラーから高そうなワインを持って来て注いだ。
「崇来てないけど始めていいよな。」
「そのうち来るでしょ。」
「では皆さんプチ同窓会ですが我々ペンションの二人も混ざります。」
みんな頷くと企画者の新が立ち上がり乾杯の音頭をとった。
『乾杯!!』
皆のグラスが鳴り響く。
>> 24
カッチャカチャ
「へぇ卒業後は仁君だけ水泳のインストラクターの仕事をしながら実戦的武術を習っていたんだ。」
「えぇ。」
叔父さんは柔らかそうな分厚いステーキ肉をほうばるとグラスのワインを飲み干した。
「仁君格好良い。」
仁の横に座っている来美はワイングラス片手にうっとりしていた。
「新君は今何やってるんだい。」
叔父さんの質問が飛んでくる。
「えっ俺ですか。俺は某有名会社のゲームプログラマーをやってます。結構寝不足との戦いで大変ですが。」
「新ってオタク!?」
また来美がちゃちゃを横から入れてくる。
「オタクって良くテレビとかで言う。」
叔母さんも会話に混じってきた。
「いや、そんな怪しい仕事では…来美お前こそ何の仕事やってんだよ。」
「私…私は雑誌のモデルやってんの。」
「風俗の間違いじゃないのか。」
「何ですって!」
「まぁまぁ。」
叔父さんは来美のグラスにワインを注ぎながら慌ててその場を取り繕った。
何だかんだかんだ言いつつも昔話で賑わいながら夕食を皆が終えた。
>> 25
「とうとう崇来なかったな。」
昔話に花を咲かせ新は酔いがまわり頬を赤らめテーブルに伏した。
「新、大丈夫…」
テーブルを片付けながら恭子はそっと自分の薄手の上着をかけた。
叔父さんと叔母さんは仲良くキッチンで洗い物をしている。
来美は浴室で体をスポンジで洗いながら唄を口ずさんでいる。
仁は階段を上がり二階の右手奥の部屋に戻りベッドに腰掛け枕元の灯りで小説を読んでいる。
恭子が壁掛けの時計をふと見ると夜11時を回っていた。
キィ~ッ
一階奥のトイレ横の勝手口がいつの間にか開いているのに誰も気付いていなかった。スーッとすぐ近くのシャワールームに影が忍び寄る。
「これからイケメン仁君をこのボディで誘惑しちゃおう。」
来美は豊満な身体をくねらせる。
泡だらけの髪をぬるま湯のシャワーで流していると背後に何かしら気配を感じる。
「誰…!?」
後ろを振り向いても誰も居ない。
「気のせいかしッグゥッ」
ギリギリッ
シャワーのホースが来美の首を蛇の様に絡み付き締め上げる。
>> 26
「誰か…」
来美は首から力一杯外そうとするが更に食い込む。徐々に力が入らなくなりプラーンと両腕が垂れ下がるとそのまま微動だにしなくなった。
ズリュリュ ズリュリュ
勝手口の方に音が消えていく。
「よし全部終わったな恭子ちゃんは先に汗でも流したら。私達は明日の朝食の仕込みが終わってからシャワー浴びるから。ねっあなた。」
叔母さんはそう言うと「うんお疲れさま」と叔父さんも頷いた。
うーんと背伸びをすると恭子はキッチン横の部屋に入ると着替えをとりシャワールームに向かった。
叔父さん等の部屋を通りシャワールームのドアを開け中に入ると脱衣場の蛍光灯のスイッチが入れっぱなしになっている。
「あれ誰か入ってるの?」
ピチョーン
ピチョーン
耳を澄ましても水滴の音しか聞こえない。
横の棚を見ると竹で編んだ籠には来美の衣服が無造作に脱いで押し込んである。
「ねぇ来美いるの?具合いでも悪いの?入るわよ。」
恭子は防水カーテンをシャーッと開けた。
>> 27
「えっ…」
恭子は驚いた。そこには誰の姿も無かったからだ。
下に赤い付け爪が赤い花びらの様に一枚落ちているだけ。
「どうしたのかな来美…結構飲んでたからまさか酔っ払って全裸で部屋で寝てるとか。昔、何度かそういう事あったし…シャワー浴びたら来美の部屋に衣服持って行ってあげよう。」
恭子はスルスルと衣服を脱衣場で脱ぐと折り畳んで置きシャワーを浴びた。
「新君こんなところで寝てたら風邪ひくよ。」
叔父さんはテーブルで寝ている新の背中をトントンと叩いた。
「う~ん。分かりました。」
椅子から立ち上がり叔父さんに敬礼すると。おぼつかない足取りで二階の階段を上がると直ぐ右手の部屋のベッドに寝転んだ。
ガチャ
その隣の部屋の仁は読んでた本をたたむと横のテラスに出た。テラスは白くて丸い鉄製のテーブルに左右白い鉄製のアンティーク的な椅子があり右の椅子に座り外を眺めた森に囲まれ近くには滝の音が聞こえる。
>> 28
マイナスイオンを体いっぱいに感じる。
「これで晴れてたら満天の星空が見えて良かったのにな。」
立ち上がりテラスの手すりに両手をやると下の方を覗いた。
勝手口出て直ぐ右手の方に八畳ぐらいの物置小屋があり叔父さんからここの電気は小屋の中の発電機で補っているとの事だった。
「んっ…物置小屋に灯りが点いている。」
高級な腕時計を見ると深夜12時を回っている。不審に思い一階に下りテーブルを過ぎ薄い広い廊下を通りかかるとと恭子が直ぐ左手来美の部屋から出てきた。
「あっ仁。ねぇ来美知らない?シャワールームに衣服と部屋の鍵置いたまま部屋にも居ないの。」
「今、二階のテラスから物置小屋の灯りが漏れてるの見えたからそこに向かってたんだけど…もしかしたら来美かも。」
恭子は一人心細かったが180センチの仁がいるだけで心強かった。因みに恭子は156センチで二人並ぶと大人と子供みたいな身長差である。
「ちょっと待ってて。」
来美の部屋の真向かいの部屋に恭子は入ると懐中電灯を持って出てきた。
>> 29
薄暗い廊下の奥の勝手口のドアノブを仁は触ると濡れている事に気が付いた。
廊下もシャワールームから勝手口まで濡れた痕が続いている。
「この濡れているのが証拠だ。来美で決まりだな。」
そう言うと仁はノブを回した。
ザッザッザッ
真っ暗闇の中幽かな滝の音と足音だけが聞こえる。仁の後ろから着いていく恭子は懐中電灯を点けて仁に渡した。
物置小屋の扉をギィ~ッと開けると裸電球がぶら下がり点いているが薄暗く気味が悪い。湿気と鼻をつくようなカビの匂いが立ち込めている。奥の方はシートやら色々な機材やら見える。「来美いるの?」と恭子が声をかけるが発電機の音だけが鳴り響くだけであった。
発電機の横壁には配電盤が設置してあり配線が沢山伸びている。
恭子が奥に行くと何かに躓いた。その拍子に恭子は転びブルーシートがめくれる。
バサッ
そこには充血し真っ赤な目を見開き首を爪で掻き毟った来美の体がゴロッと横たわっていた。
>> 30
「ひッッ!」
恭子は声にならない悲鳴を上げた。
「うっ…」
恭子の異変に気付いた仁もその光景を見て言葉を発する事が出来なかった。
気が動転している恭子を後ろにさげると仁は近より懐中電灯で全身を見ると何か紐みたいな物で絞め殺されているのが分かった。
「一体誰がこんな事を…」
仁はそのままブルーシートを被せた。
「ハッ警察に電話しなきゃ…」
少し落ち着きを取り戻した恭子は仁と母屋に急いだ。
ガチャ ギィ~ッ
「携帯電話やスマホは圏外なら固定電話があるはず。叔父さんと叔母さんに事情はなして警察に連絡しなきゃ。」
コンコンコン
「叔父さん!叔母さん!起きて!!」シャワールーム隣の叔父さん等の部屋をノックした。
しかし二人とも熟睡しているのか返事がない。
後ろに立っている仁が「開けてみたら。」と恭子を促した。
「入るわよ。」
鍵は掛かっておらずノブを回した。真っ暗なので入って直ぐ右壁の部屋のスイッチを押すと丸い蛍光灯がチカチカッと点きベッドの一つだけが布団が盛り上がっている。
>> 31
「ねぇ起きてッッ!」
布団を捲るとそこには恐ろしい形相で頭を斧で割られ絶命して横たわっている叔父さんの無惨な姿があった。
ドサッ
恭子はフッと気を失いその場に倒れ込んだ。
「恭子!おい恭子!」
武術で鍛練している仁は軽く恭子を担ぐと新の事が心配になり二階の階段をかけ上がった。
ゴンゴンゴンゴン
「新、無事か!開けるぞ!」
ガチャ
灯りを点けると布団が被さりさっきの異様な光景が脳裏に浮かぶ。
恭子を床にそっと寝かせるとゴクッと唾をのみ布団を捲った。
「う~ん…もう飲めないよ…」
股下をポリポリ掻きながら寝言を言っている新を見て仁はホッと溜め息をついた。
「まったくコイツは…おい新起きろ大変だ。」
頭を揺さぶり起こした。
「何だ…もう朝飯か…。」
新はふあぁっと目を擦りながら起き上がる。
「新、大変何だ!来美と叔父さんが殺されてる。」
「仁、朝から何冗談言ってるんだ。」
「良く聞け今は深夜12時半で本当に二人とも死んでるんだ。」
新は仁の真剣な表情を見てやっと本当の事を言っているんだと理解できた。
>> 32
仁は新たに事の経緯を話した。
「このペンションの何処かに殺人鬼がいるのか…」
新は気を失ってる恭子をベッドに寝かせると各部屋に常備されている懐中電灯を取った。
「殺人鬼の目的が何か分からないが各々武器になるものを探した方がいいな。」
その時だった。
ヒぃーーッッ!!と一階から悲鳴が聞こえる。
「!?」
「叔母さん!叔母さんがまだ一階にいるんだった。」
二人顔を見合わせた。恭子がベッドに横になってる為に新の部屋の鍵をかけ一目散に階段をかけおりるとキッチンから一本ずつ長い包丁を取り出した。
「どうする?」
新は仁に尋ねる。
「ひと部屋ずつ確認するしかないな。」
仁は答えると、まずはキッチン横の恭子の部屋をガチャっと開けると二人は構えた。
ドグン ドグン ドグン
「叔母さん。」
誰も居ない。
部屋を出ると次は叔父さんが死んでる部屋を開けた。
「うっ…」
初めて血生臭い匂いと叔父さんの頭の斧を見て新は吐きそうになった。
>> 33
「叔父さん…」
仁からさっき話しは聞いたが実際見てたまらない新は布団を被せる。部屋を見渡しても叔母さんの姿は無かった。
「んっ…」
仁が気になったのは壁掛に掛かってる筈のマスターキーが全て無くなっている。
「もしかしたら、叔父さんの殺されてる姿見て鍵持ってどっかに隠れたのかな。」
仁が言うと新は青ざめた。
「もし、もし殺人鬼が全部のマスターキーを持ってるとしたら…恭子!仁、悪い叔母さんは任せた。」
「おいっ!」
ガチャン
新は部屋を勢い良く飛び出すと自分の部屋で寝ている恭子が心配で急いで向かった。
「やれやれ…」
仁は部屋を出るとシャワールームに足を向けた。
新は自分の部屋のドアが開いて細く灯りが漏れてるのに恐怖した。
「恭子!」包丁を構え中に飛び込んだその時…
ゴガッ
「うっ…」
新は後頭部に強烈な痛みが走り意識を失いその場に前のめりに倒れた。
その頃、仁はシャワールームに叔母さんが居ないのを確認して出ると勝手口を通り過ぎシャワールームから廊下挟んだ向かいのトイレに行った。
>> 34
トイレは右が女左が男と別れている。
電気を点けると、まず仁は男性用を覗いてみた。洗面台に鏡があり横に小用と更にその横に大用がある。大用の扉はすんなり開くと誰も居なかった。
「もう1時か…」
チラッと腕時計を見ると女性用のトイレに入った。男子と作りは対称で違うのは小用が無く大用が2つある。
「叔母さん。仁です。居ますか?戸を開けますよ。」
ガチャ
出前を開けたが誰も居ない。
奥の戸を開けようとした瞬間後ろに気配を感じる。
ビュオッ
仁は頭を下げると髪すれすれを何かが横切る。
振り返り半身の構えをとったが誰も居なかった。
「ふぅ。」
気を改めて奥の戸を開けると叔母さんが座る便器の中に顔を突っ込んだままの体勢でいた。
顔を引き上げたが既に死んでいた。
新と恭子は大丈夫か心配になった仁は急いでトイレを出ると広い廊下を走った。
フッ
ペンションの灯りが一斉に消える。
「くっ物置小屋の発電機を止めたのか。」
懐中電灯を点け左手に持ち長い包丁はベルトの腰にさした。
>> 35
「あら…」
「あらた…目をあ…」
遠くから何かが聞こえる。
「新、目を開けて。」
ズキンッ
「ううっ…」
新の後頭部に激痛が走る。うっすら目を開けると「良かった。」涙いっぱいにした目で恭子が抱きついてきた。
「恭子…」
「新ごめんなさい。私、目を開けたらベッドに寝ていて来美や叔父さんの死んだ事を思い出して。そしたら部屋の鍵を開ける音が聞こえたから、扉の死角に立って大きな花瓶で入ってきた瞬間に思いっきり殴り付けたの。そしたら新が倒れていて…うっうっごめんなさい。死んだかと思っちゃった…生きてて良かった。」
恭子は綺麗な顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流した。
「もう気にするな。」
ギュッと新は恭子を抱き締めた。
その時フッとペンションの灯りが一斉に消えた。
「ひッッ!!」
ミシミシッ
ミシミシッ
誰が階段を上がって来る音が聞こえる。
新は恭子にシーッと指を唇にあてると懐中電灯を探し床に落ちている長い包丁を拾い扉の死角に二人は息を殺して潜んだ。
>> 36
スタスタスタスタ
ピタリ
漆黒の闇の中足音が新等の居る部屋の前で止まった。
新と恭子は息を呑んだ。
ガチャ
ギッギィ~ッ
ゆっくりと扉が開く。
新は気配を頼りに攻撃を仕掛けようと包丁を低く構える。
「うわあぁぁぁ!」
新は雄叫びを上げ気配の方に向かって包丁を突きだした瞬間…懐中電灯の灯りが見え「おい!新、大丈夫か?」と聞き覚えのある声がする。
「!?」
だが体は急に止まれない。
グサッ
「うぐっ!?」
肉を抉る感触が新の手に伝わる。
扉の死角に隠れている恭子が懐中電灯を点けその場を照らす。
「…うっ…」
そこには脇腹に包丁で刺され血をたらし床に倒れている仁の姿があった。
カラン
「仁…俺、俺何て事を…」
新は震えながら涙を流す。
恭子も涙を流していた。
長身の仁を二人は抱き抱えベッドに寝かせるとシーツを破り包帯の代わりに血が流れている場所をサラシの様にグルグル巻きにした。
>> 37
「うっ…」
脇腹のサラシから血が滲む。
「仁…大丈夫か?すまない。」
新は深々と頭を下げる。
「あぁ何とか大丈夫だ。」
青ざめた顔で仁は二人に心配かけまいと微笑んだ。
そして仁は一階の出来事を重い口調で語った。
「そんな…叔母さんまで…」
恭子の涙が溢れ出す。両親もいなく親同然の叔父さん叔母さんもいなくなり天涯孤独の身になり心が折れそうになっていた。
「俺が絶対にお前を守ってみせる。」
新は真剣な眼差しで恭子を見た。
「…うん」
恭子は小さく頷いた。
「じゃあ俺はサポート役だな。」
三人は手のひらを重ね合わせた。
チッチッチッ
仁は懐中電灯越しに腕時計を覗くと3時を回っている。
「もう夜明けまで後少しだ。このまま三人でこの部屋にいよう。」
「そうだな。襲われても三人居れば違うからな。」
「私もそれが良い。もうたくさん。」
三人は部屋で役にたつものが無いか箪笥や棚など部屋の隅から隅と探した。
>> 38
ガサガサ
集まったのは木のハンガーが3つ、タオルが5枚、バラの香りがする赤いキャンドルが3つ、マッチの箱が1つ
「集まったのはこれで全部だな。」
ビュオォッ
ガタッ ガタッ
「!?」
外は激しい豪雨と強風で強く窓にぶち当たる。
「何だ…風か。」
恭子は新の後ろに隠れるとビクビクして窓の方を見つめた。
大きな窓の遮光カーテンと白のレースのカーテンを新は閉めるとマッチをすりキャンドルを灯した。
懐中電灯を三人は消すと暖かい光りとバラのアロマキャンドルで少しリラックスする事が出来た。
三人はどっと疲れが出ると激しい睡魔に襲われた。
チッチッチッ
恭子はふと目を覚ました。
新と仁はベッド横のソファーに座りながら寝ている。
時計は5時少し手前…
扉の方から何か音がする。
ガリガリ
ガリガリ
「開けて…私よ…」
ドキンッッ!!
一瞬心臓が止まりそうになる。
「!?」
恭子は驚愕した。その声は聞き覚えのある声だった。
>> 39
ガリガリ
ガリガリ
「開けてくれない…」
ドアノブが必要以上にガチャガチャガチャとなる。
「……。」
恭子は部屋の扉から後退りした。
扉の外の音がいきなり止み部屋はシーンと静寂に包まれた。ただ窓がガタガタと鳴り響くだけだった。
ガゴッ ガゴッ
「おいテェメぇここを開けろって言ってんだろッッ!!」
何かで叩いているのか激しく扉が揺れる。
その音で新が目を覚ました。
「どうした恭子?」
新は尋ねると恭子は扉を指差した。
ゴガッ ゴガッ
「開けろっ!」
その声を聞いて新は青ざめた。
「そんな馬鹿なあり得ない。おい!仁、起きろ!」
ソファーで寝ている仁を揺り動かした。
ドサッ
仁は前のめりに床に倒れ込むと微動だにしない。ソファーから下に大量の血が滴っていた。
新は仁を抱えたが体は冷たく顔も全く血の気がなく脈を触ったが全然感じることが出来なかった。
その時だった。
ガシャン
部屋に音が鳴り響く。
>> 40
「!?」
二人は音がした方を振り返ると
扉の少し割れた板の向こうからギョロっと片目が覗く。
「見ぃつけた~ッ」
唇が半分見え口角がニィ~ッとつり上がった。
キャーッと恭子は悲鳴を上げる。
「この声はやっぱり
…来美。」
「だって恭子言ったろ来美は首を絞められて死んでたって。」
「物置小屋のブルーシートで死んでるの仁と見たもん。」
「じゃあ何で…」
ガゴッガゴッ
バキッ
さっきより割れた穴が大きくなり来美の手がズズズッと入って来るとドアノブの鍵を開けようとする。
「糞ッッ!!」
新は走ってドアノブの鍵が開けられないように死守する。
「新、どいて!」
後ろから来た恭子が長い包丁を思いっきりふり降ろした。
ザクッ
ボタッ
右手が部屋の中に落ちると同時に
「ぎぃゃーーっ!」
来美の叫び声が聞こえる。
「…何てね。痛くも痒くもないわ。しかも私、囮だし。」
来美はケタケタ笑い出す。
するとソファー後ろの窓ガラスがバリンと割れビュオォッオォッと風が入ってカーテンが舞い上がる。
>> 41
その風でキャンドルに灯っていた火がフッと消える。
ただ救いだったのはもう朝の6時で外がうっすら明るい事だった。
だが二人がホッとした束の間、二階なのに窓の方に人影が見える。
それを見た恭子は気絶はしなかったものの悲鳴を上げた。
窓から覗いていたのは逆光だが頭を斧で割られたままの叔父さんの姿だった。
「うわあぁぁぁぁ!」
これには堪らず新も絶叫した。
ガチャ
ギィ~ッ
最悪な事に来美がいる扉も開き部屋の中に入って来た。
「くっ!!」
気が動転している恭子の手を握ると来美の方に全力で突っ込んでタックルを食らわせた。
先程恭子からやられ右肘から無くなっている来美はバランスを崩し倒れた。
その隙を新は逃さず恭子と飛び越え階段を下り玄関を開ける。
ガチャ
バンッ
そこには首が変な方向に曲がっている叔母さんが待ち構えていた。
「恭子ちゃんどこ行くの…」
手に持っている出刃包丁を振りかざす。
ガバッ
「駐車場に行け。」
叔母さんの腹に新は回し蹴りを食らわせ包丁は空を切った。
>> 42
新は転びながらも物置小屋手前の駐車場を一目散に目指し走った。
恭子にやっと追い付いたと近寄ると胸に斧が刺さっておりその場に崩れ落ちた。
ガバッ
「嘘だろ!恭子、恭子!!」
抱き抱えると、か細い声で「私はもう駄目…貴方だけでも…逃げてお願い。」
口から吐血する。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。」
「早く…」
その言葉を最後に恭子の手がダラリと下がった。
「恭子ぉぉーーッッ!!」
その背後に叔父さんの姿があり鉄の棒で殴りかかってくる。
「うおぉぉぉっ」と雄叫び数十発殴りつけた。
ドサッと叔父さんがその場に倒れるを見ると自分の愛車の鍵をポケットから取りだし開ける。
バタン
ドアを急いで閉め
ギュルルル
ギュルルル
なかなかエンジンが掛からない。
ドサッ
車の上に落ちたかとフロントガラスに逆さまの状態でさっき死んでいた筈の仁が新を血走った目で覗き込んでいた。
「仁、お前まで。」
ヴオン
エンジンが掛かるとアクセルを踏み込んだ。
>> 43
「くっ!」
ギャリギャリ
仁を振り落とそうと車を左右に振るがなかなか落ちてくれない。
だんだんと吊り橋が見えてきた。
「あのワイヤーを使って…」
新は車のサイドブレーキを思いっきり引くと180度ターンさせワイヤーに引っ掛け仁を天井から転がり落とした。
「すまない仁。」
そう言うと再びアクセルを全開にした。
……
…
「吊り橋を渡り暫くするとアスファルトの上を生気のない顔で立っている崇に会えた。ビックリしたけど普通の崇で良かった。」
新の目から涙が滴った。
「そうか…そんな事が…今すぐこの場を早く離れよう。」
いつの間にか空は晴天になっていた。
三叉路を普通に通り抜け今までの事は何だったのか夢だったのか二人はそう思った。
自分等の住む街に戻ってき見慣れた街並みを見てやっと安堵した。
帰ってからネットで調べてみると昔あの付近で戦争の兵隊を不老不死などの実験していた研究所がありその家族も犠牲になったという噂話しが載っていた。
だが二人は知らない
恭子の死体が新と叔父さんが格闘中にトランクに入れらてる事を…
この街が死者の街になる事を…
完
タッタッタ
「ハァハァハァ…」
うねるような暑さの中大吾は息を切らしながら走っていた。住宅街のアスファルトの表面はユラユラと陽炎が立ち上る。
今年は異常気象で正午前にも関わらず気温は40℃を軽く越えていた。
公園を大吾は見つけると木陰のあるベンチに腰掛けた。
「ふう~ッッ!もう追って来ないだろ。夕方5時までまだ大分時間あるから体力温存しとかないとな。」
明るいグレーのサマースーツをベンチに掛けワイシャツのボタンを胸まで外す。
ミィーンミィーンミィーン
ジィジィジィ
木にとまっている蝉の鳴き声だけが耳に入ってくる。
ピピピッ
腕時計型のレーダーからシグナル音が鳴る。
「チッ!半径100メートル以内に三人か。」
腕時計型レーダーの立体映像で地図をある程度把握すると左腕にスーツを持ち、赤い3つの三角マークが動いているのとは別の方向に大吾は走り出した。
「糞ったれ2分も休んでねぇよ。」
少し走ると片道三車線の大きな道路に出た。
>> 46
ピピピッ
今通って来た道から赤い反応が近づいて来る。
「目の前は道路、左はオフィス街、右はジャンク街か…」
大吾は体を隠しやすいジャンク街に向かい走った。
バルバルバル
上空に何か近づいて来る。
「ヘリコプター!?」
大吾は空を見上げ一瞬唖然としたが気をとりなおして走り出す。
ジャンク街に入ると色々な何かの部品を売る店がところせましと並んでいる。
まぁ強いて言うなら朝8時から逃げ回っているが街の人達とは誰とも会っていない。車も乗り捨ててある。
因みに他人の車で逃げようとしたが俺との認証識別番号が一致しないため動かなかった。
ジャンク屋には旧式の鉛鉄砲や60年前出始めたばかりのスタンガン何かも売ってある。だが薄い財布の中身はカードも無く千円とちょっとの小銭しか入ってない。ケースを割って持って行きたいところだが…
ただし高圧ガラスの中に陳列してあるので無理。
喉がからっからに渇いているので自販機を探すとコーラを買った。
>> 47
カシュ
ゴキュゴキュゴキュ
旧式のタブを開けると喉を鳴らして一気に飲み干した。
「ぷへ~ッッ!!生き返る。この炭酸たまんねぇ。」
タブ式何か今じゃ見ることもなく20年振りに復刻版として限定発売してあるのであった。
「しかし、ひと缶5百円ってぼったくりじゃん。まぁ旨かったけど。」
手で口を拭うとレーダーの反応が無いのでゆっくり歩き出した。
「そういや朝8時に俺と同じ部屋にいた連中はどうしてるかな。」
大吾は呟くと辺りを警戒しながら歩く。
ピピピッ
バルバルバル
また上空をヘリコプターが通り過ぎていく。さっきより飛んでる高度が低くなっているような。
その時だった…
ガタン
「!?」
あるジャンク屋の片隅から物音がすると目の前に人影が現れた。
大吾はサッと身構える。
「何あんちゃん身構えてんだ。俺だよ俺。」
ランニングシャツに白いももひき煮しめ色した腹巻きに額には白いハチマキに左耳上部には鉛筆と何とも風変わりな六十代半ばの白髪の角刈りをしたおっちゃんが立っていた。
>> 48
「いや~100年ぐらい前に家庭で流行ったっていうスタイルに感銘を受けてな骨董品屋で調べてもらって全国から取り寄せてもらって全部で金額1千万だったぜあんちゃん。」
「こっこのスタイルが1千万!」
追われているのに思わず声を上げてしまった。
「シィーッ!あんちゃんでけえ声だすなよ。あぁ何でもこれは木綿糸って超レアな素材で出来ているらしい。」
大吾は慌てて自分の口を塞いだ。
「それなら俺も歴史博物館で見たことあります。」
自分が着ているスーツやシャツは現代でもっともポピュラーな素材で仕立ててある。
本当は体温自動調節装置がついているのが当たり前何だが俺の一張羅は壊れていて修理する金も無くそのままほったらかしにしている。
「ここで会ったのも何かの縁だ一緒に行動しねぇか?」
「まぁ…良いですよ。」
少し大吾は考えたが了解した。
「あんちゃん有り難うよ。俺の事は元って読んでくれ。」
元は鼻を指で擦りながら言った。
>> 49
「あっ、げっ元さん俺は霧島大吾って言います。」
と頭を下げた時に大吾はあることに気づいた。
「元さん何で裸足何ですか。」
「あっこりゃあな下駄ってやつをやっぱり骨董品屋で3百万で買って気に入って履いてたんだけどよ逃げる時にカラッコロうるせぇからその辺の公園に捨てちまった。」
「ええッ!!」
大吾はまた大声を発した。
「ばか野郎大声出すなって。」
辺りをキョロキョロ元は見回した。
「すいません。ジャンク街は結構広いんで夕方5時の時間経つまで紛れていましょうか。」
ピピピッ
シグナル音が鳴り出す。
「!?」
立体映像を見ると四方八方に6つもの赤い反応がある。
「ヤバいいつの間にか囲まれてる。」
陳列ケースの高さまで二人はしゃがむと息を殺しながら立体映像の赤い反応の動きを見つめた。
だんだんと1つの反応が二人の方へと近づいて来る。
ゴクリ
二人は息を飲んだ。
>> 50
ガシュン ガシュン
ガシュン ガシュン
2メートル程背丈がある曲線で人型をしたメタリックシルバーのロボットが真横まで来るといきなり止まった。
ウィーッ
頭が割れ無数の触手なものが出てペチョペチョと物に触れていく。二人は地面を這うようにして徐々に後退して裏口の扉を音が鳴らないように慎重に開けると一目散に逃げ出した。
「ハァハァ…ふう生きた心地しなかった。」
大吾は額の汗を拭った。
「ゼェゼェ…あんちゃん、あれに捕まると最後だからな。他の連中が何人か捕まるの見たんだがよ…」
元は汗をタラーッと掻いた。
「どうなるんですか?」
「雑巾のように捻られ血を搾られたり袋に詰められサンドバッグのようにされたり…そりゃもう拷問だ。」
「絶対に捕まったら地獄ですね。」
「あぁそうだな。」
炎天下と今の元さんの話しで大吾は何ともいえない汗を掻いた。
立体映像を見ながらいりくんだ細い通路を進んで行った。
>> 51
ヒューッ ヒューッ ヒューッ
「何の音だ?」
無数の風を切る音があちこちで聞こえる。大吾は辺りを見回すが何も見あたらない。
ピピピッ
シグナルが突然鳴り出す。
「!?」
立体映像に突如赤い反応が4、5、6と増える。
「こりゃ一体…」
元もキョロキョロ辺りを見回す。
ガバッ
大吾はブロック塀に両手をかけ「よっ!」と首だけ覗かせると一ヶ所からミサイルみたいに打ち出されたロボットが飛んできてパラシュートでユラユラ落ちて来るのが見えた。
「空からどんどん降ってきやがる。」
タッ
「元さんこのままじゃジャンク街は追跡ロボットに埋め尽くされる。このエリアは危ない急ごう。」
元を促すと細い通路を抜け出し別のエリアを目指す。
「ハァハァ…」
大分走ると高層ビルが沢山建っている。
だが幾つも入ろうしたが高圧ガラスの扉が閉まって入れない。
「駄目じゃの。」
諦めかけたその時人が1人入れる入り口を元が見つけた。
そこは巨大なショップモールだった。
>> 52
ショッピングモールの遊歩道には左右木々が植えてある。
立体映像を見ても赤い反応は無いので息を切らした二人はベンチに座り休息をとった。
「ねぇあんちゃん何で、ここに来たんだ?」
元が言ったのはショッピングモールの事ではなく何故参加したのか。という意味だった。
「そりゃこの状況から…貧乏から脱出したかったんだ…両親の残した借金のせいで毎日追われるのを打開したかったんだ。」
大吾はベンチをバンと叩いた。
「まぁ俺は骨董収集で財産どんどん使っちまって家族から愛想つかれ逃げられ…まぁ自業自得なんだがな。」
ベンチに片肘ついて横たわっていた元は「よっこらしょ。」と身を起こすと看板を見てエスカレーターに歩いて行った。大吾もそれに続く。
2Fに上がると洋服店や靴屋が沢山連なっている。
元は自分の好みの靴を探し出すとそれを履いた。
プシュー
元の足の大きさに合わせ自動的にサイズが変化する。
ピッ
更に小さなスイッチを押すと色や柄も好みに変化した。
>> 53
大吾も好みのシャツと半ズボンを見つけるとワイシャツとスーツのズボンを脱いで着替えた。
あとは着ているか着ていないか分からないぐらいの超軽量の最新ジャケット勿論自動温度調節装置もついている。
ウィーッ
「こりゃ快適だ。」
大吾は追われているのも忘れて3F雑貨、4F電気製品と色々と展示してあるのを見て回る。
だが5Fのに着くとドキッとした。そこはロボット売り場であった。
今やロボットは半年ごとにバージョンアップしているのが当たり前で数年前のものはだいぶん型落ちとなっていた。
あの追跡ロボットも最新型で展示してあった。
「まさか起動しないよな…」
大吾はゴキュと唾を飲んだ。
「全く…どこ行ったか探したぞ。」
ウィーッと元がエスカレーターで上がって来るとその後ろから1人の可愛い女の子が上がって来た。
「2Fの洋服売り場に隠れているのを見つけたんじゃ。」
小学校3、4年生ぐらいの女の子は可愛いくペコッとお辞儀をした。
>> 54
女の子はツインテールをして薄いピンク色したシュシュでとめている。服も薄いピンク色のワンピースを着ていた。少し白い花柄があしらってある。
顔は涙の跡が残っている。
「お名前何てぇの?誰か一緒にいるのかな。」
175センチの大吾は自分の胸の高さの女の子にしゃがんで優しく尋ねた。
「わ…渡瀬ゆみ…」
恥ずかしいのか下を向いてモジモジしている。
「あのね…お父さんとお母さんと三人でここにお洋服買いに来てたんだけど私トイレに行きたくなって1人で行ったの。そしたら…急にいっぱいの人の叫び声が聞こえて私恐くなってトイレに隠れてたの…」
「うんそれで。」
大吾は相槌をうつ。
「…それでトイレからソッと覗いたら銀色のロボットからみんな逃げてて捕まった人達はヘリコプターに詰め込まれてどっかお空に飛んでたの。あとはずっとお父さんとお母さんをここで探してたの。そしたら、このお爺ちゃんと会ったの。」
ゆみは今にも泣きそうだった。
ゴソゴソ
「嬢ちゃんほら飴玉でもしゃぶりな。」
元は腹巻きから黄色いビニールに包まれた飴玉を取り出すとゆみに手渡した。
「ありがとう。」
ゆみは涙を拭くと子供らしくニッコリ微笑んだ。
>> 55
リンゴーン
リンゴーン
リンゴーン
ゆみの両親が居ないか掛け声をかけながら隈無く探したが見つからず三人がショッピングモールの1Fにエスカレーターで下りた頃、遊歩道中央の噴水の中に建っているオブジェから午後3時を報せる鐘が鳴り響く。
「ウッシッ!夕方5時まであと二時間…」
掌に拳をバシッと合わせると大吾は気を引き締めた。
「大吾。二時間か短いような長いようなってとこじゃな。」
元はそう言うと大吾を見た。
「えぇ。確かにあのロボットから逃げ切るには二時間は長い。けどポジティブに考えるしかない。ゆみちゃんのお父さんやお母さんも無事に生きてるさ。」
大吾のズボンの裾をションボリ握っているゆみを肩車すると両親を探しに行こうと出口に向かった。
大吾は内心ゆみの両親はもう絶望的だろうと考えていた。
(いや待てよ…何で元さんが見た時みたいに直ぐ殺さずヘリコプターで連れて行ったんだ…まだ生きてる可能性はある。いや何考えてるんだ俺は…自ら捕まえて殺して下さいって言ってるようなもんだ。)
大吾は葛藤した。
>> 56
ピッポッパッ
大吾はショッピングモール出口辺りでゆみを肩車から下ろすと、立体映像を出し地図を100メートルから1キロメートルに切り替えヘリコプターが飛んで行ったと思われる場所を割り出した。
「大吾何してんだ?」
元は横から覗く。
「実はゆみちゃんの両親が捕まってそうな場所を探してるんです。」
「なに馬鹿な事言ってんだ大吾ッッ!あと二時間なんだぞ!」
元の怒鳴り声にゆみはビクッと反応し大吾の背中に回る。
「でも…この子が可哀想で…」
チラッとゆみを見ると頭を撫でた。
「おりゃもう知らんせいぜい二人で行ってくれ。」
元は唾を吐き出した。
「げっ元さん…すいません。」
大吾がゆみと手を繋いで出口を出た時に激しい爆発音が聞こえる。
「!?」
ピピピッ
シグナル音が突如鳴り出した。
そして5Fから1Fまでガラス通路をバリンバリン突き破り展示して動かない筈のメタリックシルバーの追跡ロボットが爆音と共に現れた。
>> 57
シュイーッ
ザシュ
ロボットの頭が割れ無数の触手が飛び出してくるとジャンプして大吾とゆみに襲いかかる。
バリンッバリンッ
元はロボットの背後から遊歩道に設置してある植木鉢を次々と投げつけた。
「大吾、嬢ちゃん連れて逃げな!」
元の方へロボットは向きなおす。
「でも…」
「早くしねぇか!嬢ちゃんはな家を出て行った息子夫婦の子供に似ててな…だから…」
グオォオォン
ロボットの触手が元の右腕を引きちぎる。
「ぐぎあぁぁぁッッ!」
元は絶叫をあげた。
更に触手は首を絞め上げる。
「お爺ちゃん!」
ゆみは叫んだ。
「お爺ちゃんか…悪くねぇな…」
ガサ
腹巻きからジャンク屋からくすねてきた高性能手榴弾を取り出すとピンを抜いた。
「ハアハア…あばよ…お前ら楽しかったぜ。」
大吾はその瞬間ゆみを抱き抱えジャンプすると出口から勢いよく飛び出した。
ゴガアァァァ
凄まじい爆音と辺りに煙りがたちこめる。
ゴオオォォォォッ
>> 58
ギィギィギィ
ロボットの触手部分は吹き飛びメタリックシルバーの外装が砕け落ち動きが止まった。
「元さん…」
大吾とゆみは涙を流した。
そこへヒラヒラと端が焦げた白い鉢巻きが大吾の目の前に舞い落ちてきた。
「これは元さんの…」
ギュッ
拾い上げ握り締めると自分の額に巻いた。
「ゆみちゃん行くよ。」
大吾とゆみは手を合わせるとその場を立ち去った。ゆみは「お爺ちゃんさようなら。」と呟くと何度も後ろを振り返る。
ザッザッザッ
立体映像の地図を頼りにゆみの両親が捕らえられているであろう建物を目指した。そこに行くためには険しい山を通って行かなくてはならなかった。
パキパキ
「大丈夫か。」
「うん。」
山の中は高い木々に囲まれ薄暗く腰ぐらいまで伸びた雑草や木々で進みにくくジメジメ湿気をおび岩の苔で滑りそうになる。
ゆみの手を引きながらゆっくり歩いていく。
その時だった耳を覆いたくなるような機械音が突如鳴り響く。
グゥオォォン
「!?」
二人は耳を塞ぎながら顔を見合わせた。
>> 59
グオォォッ
ギャリギャリギャリ
だんだんと音が大きくなるにつれ木々がバタバタと薙ぎ倒されていくのが二人の方に近づいてくる。
グオォォッ
ギャリギャリギャリ
「!?」
それはでこぼこな道なき道を戦車みたいな形状に左右巨大な羽みたいにチェーンソウが付いて唸りを上げて木々を薙ぎ倒していたのだ。
「こっちだ!」
大吾はゆみの手を引っ張ると山肌が見える岩場に向かった。
だがなかなか蔦とかが絡んで思うように走れない。
「きゃっ!」
ゆみが足をとられ転んだ。
「ゆみちゃん!」
グオォォッ
バキバキバキバキッッ
もう20メートルとすぐ目と鼻の先まで近づいて来ている。
大吾はゆみの体を抱えると「ゆみちゃんシッカリ捕まってろよ。うおぉぉっ!」と声を上げて何を思ったのか戦車みたいな乗り物に突っ込んで行った。
ギャリギャリギャリ
「南無三…」
そう呟くと大吾はギリギリひかれない所で跳躍した。
>> 60
バッ
戦車みたいな乗り物にぶつかる瞬間大吾の上着がシュババッと丸くエアバックのように膨らみ衝撃を吸収した。
「ふう~ッ。危機一髪。」
辛うじてかわした大吾は上着の内側からゆみを出すと通り過ぎた戦車みたいな乗り物を見つめた。
ギャリギャリギャリ
キャタピラがこっち方向に回転しだす。
「おいおい…ゆみちゃん、あの沢山蔦が絡まって垂れ下がったところに捕まれ。」
「うん。」
二人は一目散に走り出した。
その方角は切り立った崖がある。
ギャリギャリギャリ
戦車みたいな乗り物が巨大なチェーンソウの音を唸らせながら突っ込んで来る。
「よしッッ!ゆみちゃん行くよ…いち、にのさん!」
ギュオッ
二人は跳躍すると蔦の束に捕まった。
グオォォッ
戦車みたいな乗り物は木々を薙ぎ倒しながら崖下に落下していった。
「やったね。」
二人は顔を見合せ微笑んだ。
その時だった…
バキバキッ
捕まっている蔦のおおもとの巨大な木が倒れ崖の方に蔦の束ごとつき出す。
>> 61
ヒュー
ブラ~ン
「うわっ!一難去ってまた一難かよ。ゆみちゃん大丈夫か?」
「うん、何とか…」
大吾は蔦の束に捕まりながらビル四階ほどある高さの崖下を覗いていた。岩肌が見え途中一本だけ横に木が生えているぐらいだ。
蔦が絡んでいる大木は崖から斜め上に3メールほどつきだしておりそこに二人は簑虫みたいにぶら下がっていた。
「…。」
だんだんゆみの顔色が悪くなって来た。
ズズ…
少しずつ落ちていっている。
「ゆみちゃん!蔦を上れないなら俺より崖に近いから一か八か振り子みたいに揺らして飛びうつれ。」
大吾は叫んだ。
「でっでも…」
ゆみは下を覗いて躊躇した。
「そのまま落ちて死ぬよりましだ。元さんを思い出せ!」
「元さん…」
ゆみの目に力がこもった。
「私やってみる。」
ゆっくり揺らしながら蔦が切れないのを確認するとゆみは徐々に勢いをましていった。
ビュンビュンビョン
最高点に達した時、ゆみはスピードに身を任せ手を離すと勢い良く崖に飛んだ。
>> 62
「ん…んっ…」
ゆみは崖ギリギリに飛び移ることが出来た。
ガラガラ
「きゃっ!」
しかし体勢を崩し体が後ろに反れ落ちそうになる。
ギュオーッ
「ゆみーッッ!」
大吾がその後ろから飛んでゆみを抱きしめ草むらまで転がった。
「ふうっ。何とか間に合った。」
大吾の顔や脛に沢山切り傷がついていた。
「ありがとう。」
涙目でゆみはポケットから可愛らしいハンカチを取り出すと大吾の血が滲んでいるところにあてた。
「良く勇気を振り絞った。」
大吾はニコッと微笑み、ゆみの頭を撫でると立ち上がった。
良く見ると崖すれすれから道なりに行く上の方へ白い病院みたいな建物が見える。
「ゆみちゃん、あと少しだ。」
ゆみの手を取ると崖から落ちないように歩き出した。
やっとの事で建物の近くまで着き茂みから覗くがメタルシルバーのロボットの気配がない。
二人は不思議に思いながらも腰を低くして白い壁までススッと近づくと入り口を探した。
「お父さん、お母さん…早く会いたい…」
ゆみは呟くと大吾の手を握りしめた。
>> 63
白い建物の入り口を見つけると大吾はソッと覗きながら様子を伺った。
中は沢山のLDライトの白光した蛍光灯でますます壁が白く見える。
入り口から見て廊下右手の10メートル先にはエレベーターがあり左手には取っ手が付いた扉が4つ奥まで続いてある。
ササッ
大吾はゆみに目で合図を送ると素早く建物の中に侵入した。
先ず左手の扉に近づいてみたが良く見ると取っ手の横にセキュリティロックがあり暗証番号を入れないと開かない仕組みになっていた。
他の3つとも同じ仕組みになっている。
「こりゃパスナンバーがないと無理だな。」
大吾は苦笑いするとゆみとエレベーターに向かった。
「…三階まであるみたいだな。先に進まないと道は開かれないし…」
っと大吾が考え迷っているうちにゆみがエレベーターのボタンを押した。
「あっ!」
エレベーターが三階から降りてくる。
二人はエレベーター付近の左側の隙間に身を隠す。
チン
ウィーン
大吾は誰も出て来ないか確認するとゆみの手を引っ張って乗り込み二階のボタンを押し「誰も出て来ませんように…見つかりませんように…」と祈った。
「ねぇ口から言葉漏れてるよ。男の人だから頑張ってね。」
小学四年生のゆみは率直に言うと大吾の後ろに隠れた。
ウィーン
チン
二階に着きエレベーターの扉が開く。
>> 64
キョロキョロ
大吾はエレベーターの扉が開くや否や辺りを見回した。
「…誰も居ないみたいだな。」
エレベーターから左右10メートルの廊下が伸びている。エレベーターを出た目の前は高圧ガラスの部屋が直ぐ見え何か分からないアーム型の機械が何本か天井からのびておりその下には白い手術台が7つ見える。
「何だ…こりゃ何か手術室みたいだな。」
「何だか怖い…」
ゆみは大吾の服の裾をギュッと掴んだ。
左側にドアがありそこはナンバーロックすらなく簡単に開閉する事が出来た。
キィ~ッ
中に入ると事務的な机と椅子その上にはデスクトップねパソコンがある。
「何かゆみちゃんの両親の手掛かりになるのないかな…」
カシャカシャ
パソコンを起動させるがパスワードを入力しないと開かないようになっていた。
「くっ…駄目だ…」
大吾はガックリうなだれた。
「ねぇここに何か本棚があるよ。」
ゆみが手術室の奥にある棚を指さして叫んだ。
ガッ
大吾は本棚を開けようとしたが鍵がかかっている。
>> 65
ガシャガシャ
「くっ…棚の鍵がいるな。」
大吾は棚を揺さぶるがびくともしない。
「ゆみちゃん三階に行ったら何かあるかも…」
「うん。」
ゆみはコクッと頷いた。
ピピピ
いきなり左手首の腕時計からシグナル音が鳴り出す。
「!?」「!?」
二人は驚いて顔をみあわせるとホログラムマップを出してみた。
1Fの暗証番号のロックが掛かっていた4つの部屋が解除され各部屋から3体、計12体のロボットの赤い反応が動き出している。
「まっ不味い…ゆみちゃんこの高圧ガラスの部屋を出てエレベーター2Fから3Fまで急ごう!」
「きゃっ。」
大吾はゆみの手を強引に引っ張りエレベーターまで急ぐと上に上がるスイッチを押した。
何故か2Fにある筈のエレベーターが下に降りていたからだ。
「まだ上がってくるな…上がってくるな…」
大吾は不思議に思ったが、それを考えるだけの暇もなくただ手を組み祈った。
ウィーン
チン
エレベーターの中にロボットが居ないかスッと覗いて確認すると二人は素早く中に入り、大吾は三階へのボタンを連射した。
ウィーン
「この真下にロボットが居ると思うとゾッとするな。」
ギャリギャリ
「ねぇ何か変な音がする!?」
ゆみが下の方を向いた。
>> 66
ガゴン
「うわっ!」
「きゃっ!」
いきなりエレベーターが止まり中の電灯がチカチカしだす。
ゆみは大吾のお腹にしがみついた。
ガギャンガギャン
ピピピピピ
腕時計のシグナル音が激しくなる。
「クッ…追跡ロボットがエレベーターの真下に居るんだ!糞ッッ捕まってたまるか!」
大吾は先ほど2Fの手術室みたいな場所で武器になるかもしれないと拾っていた鉄製のバールみたいなものでエレベーターの扉に突っ込み左右に開くようおもいっきり力を込める。
ギギッ
「ぐうおぉぉぉッッ!」
額に玉の汗をかきながら更に力を込めると少しずつ開いていく。
ギギッ
「ハアハア…もうちょいだ。」
ゆみも力が無いながらも加勢をする。
ギギギギッッ
「うおぉぉぉッッ!」
大吾は雄叫びを上げながら左右の指先を入れると扉が開くように力の限り振り絞った。
ガガガッ
何とか扉が開くと大人一人ぶんだけのスペースが出来た。
だが3Fの床は大吾の肩ぐらいの高さにある。
「ゆみちゃん、このままじゃ二人とも助からない。俺が肩車するから、その隙間から逃げろ!」
大吾は真剣な眼差しでゆみに言った。
「いやッッ!お兄ちゃんおいて行けない。」
ゆみは震えながら涙目で訴える。
ガギャンガギャン
エレベーターの床に衝撃が走り揺れる。
グオッ
大吾はゆみを肩車すると少しの隙間に押しやった。
>> 67
ガガガッ
ガゴン
「くっ!!」
ヒュー
ズガガッ
エレベーターの床が抜ける。
「お兄ちゃんッッ!」
ガシャ
何とか大吾はバールみたいなもので3Fの床に片手でかろうじてぶら下がり下に落ちないでいた。
エレベーターの床に貼り付いていた数体のメタルシルバーのロボットは1Fに落ちると床を無造作に押し退けこっちの方を向き頭からウネウネした数本の触手を壁にめぐらせ登ってくる。
「やべぇ…」
大吾の手は汗で滑り落ちそうになる。
「お兄ちゃん待ってて何か持ってくる。」
「ああ頼んだぜ。ゆみちゃん。」
ゆみはそう言うと隙間から顔を引っ込め奥へ走って行った。
ベヂャリベヂャリ
段々と数体のロボットが1Fを通り過ぎ2Fを登って来た。
ベヂャリベヂャリ
もう少しで大吾の足先というところまで迫ってくる。
「ここまでか…」
大吾がそう思った時、足音がパタパタ聞こえた。
「お兄ちゃんッッ!ハイ!!」
隙間から非常用の縄ばしごがパラパラパラと落ちて来た。
シュギィン
追跡ロボットが手を巨大な鎌に変形させ大吾を横に凪ぎ払う。
>> 68
スパン
非常用縄ばしごは揺れ巨大な鎌で切られた部分は1Fに落下していく。
「ひゅーッ!危ねぇ…」
大吾は間一髪体を傾けお腹の皮一枚でかわし非常用縄ばしごだけがスッパリ斬られ落ちていったのであった。
腕だけの力で3Fの床まで上りきると、ゆみが手を貸してくれ隙間へよじ登る事が出来た。
「有難う…ゆみちゃん。」
「どういたしまして。」
ゆみはニッコリ微笑んだ。
ギャリギャリ
エレベーター内の下部の方から音が近付いてくる。
「おっと。」
大吾はエレベーターから見回すと左右に広がる廊下
右廊下突き当たりに非常口と緑色の文字と矢印で書いてあり
そして牢屋が目の前に右・中・左と3つある。
「ゆみちゃんの両親は居るかな…」
エレベーター目の前の真ん中の牢屋を覗くと男女で20人いるが皆ぐったりして項垂れている。
「どう?お父さんとお母さんいる?」
大吾は非常用縄ばしごを引き揚げながら追跡ロボットの様子を隙間から伺うとゆみに聞いた。
「……。」
ゆみはジーッと目を凝らし一人一人見定めていっていた。
「ここには居ない。」
悲しげにゆみは呟いた。
「んじゃ左側の牢屋を先に見てきた方が良いな最後は右側の牢屋だと非常口が近いから。追跡ロボットが来たら何とか食い止めるからゆみちゃん見てきな。」
大吾はバールらしきものを振り回してみせた。
「うん。」
そう言うとゆみは左側の牢屋へ走っていった。
>> 69
タッタッタッ
ゆみが左側の牢屋に着いた頃
大吾はエレベーターの隙間から下を覗くとすぐ目の前に追跡ロボットが触手を伸ばしよじ登って来ていた。
「うおぁ!」
驚いて後ろに飛び退くとバールみたいなものでいつでも殴れるよう野球のバッターの様に構えをとった。
「ゆみちゃん!両親は居たか?」
大声で叫ぶとゆみはタッタッタッと走って大吾のもとに戻って来ると居ない事を告げた。
「じゃあ非常口の方にある右側の牢屋を先に行って確認してくれ俺が時間を稼ぐ。」
「うん分かった。」
ゆみはチラッとエレベーターの隙間から伸びてきている触手を見て素早く走って行った。
ヂャジ
ヂャジ
ピンクや緑色や黄色の触手がウネウネしながら大吾に近付いてくる。
「この野郎!!」
ビヂャ
触手を払いのけるとエレベーターから目を離さず少しずつ非常口の方へさがって行った。
そこへゆみがタッタッタッと走って来た。
「馬鹿何でこっち来たんだ!!」
大吾は怒鳴りつけた。
「多分、お父さんとお母さんだと思うからお兄ちゃん一緒に来て。」
二人は牢屋の方へ走った。
>> 70
ガシャガシャ
大吾は丸めた非常用縄ばしごを担ぎ牢屋の扉に着く。
「あの一番奥の方の服がお母さんのに似てるの…ただこの扉が開けれなくて…」
ゆみは涙声で話す。
「よし分かった。ゆみちゃんどいてな。」
大吾は鉄格子の扉の制御装置をバールみたいなもので壊すと隙間に差し込み腕に名一杯力をこめた。
「ぐおおぉぉぉッッ!」
しかし僅かしか開かない。
ガゴゴッ
エレベーターの方からメタルシルバーのロボット姿が見えた。
「ヤバい。」
大吾は後ろにさがり助走をつけバールみたいなものに強烈な蹴りをかました。
ガシャ
バンッ
「やった!」
ゆみは鉄格子の扉の中に入ると両親であろうと思われる人が居る奥の方のへ行った。
大吾も頭を低くしてくぐると後に続く。
「お母さん。」
ゆみは顔を下から覗いた。
「そんな…」
だがそれは絶望に変わった。
「きゃっ!!やめて…お母さん…」
しかも口からウネウネした触手がゆっくり伸びてゆみの首を絞めていく。
>> 71
ぐおっ
「ゆみちゃん!」
大吾は振りかぶると女性の遺体をおもいっきりぶん殴る。
どさっ
触手が弛むと大吾はゆみを助け出した。
「まさか…ここは…」
大吾は唾を飲む。
ゆみの母親が倒れた横に男性の遺体があり口の他にも耳や鼻から触手がウニョウニョ出てくる。
「お父さん…うっうっ…」
ゆみは涙が止まらない。
そして他に数体ある遺体からも同じように触手が出て二人にゆっくり這ってくる。
ガシュン
ガシュン
「!?」
追跡ロボットの足音が段々近付いてくる。
「ゆみちゃん…お父さんお母さんはもう駄目だ…ここを脱出しよう。ご両親はきっとゆみちゃんに生きてくれるよう願うはずだ。」
「…うん。」
両手を合わせ拝んでいるゆみをなだめ非常口に二人は向かう。
ガゴン
鉄格子から勢いよく飛び出し非常口のドアを開けると外の景色が見え日が少し沈んでいるのが見えた。
一人立てるぶんの足場があり縄ばしごを掛ける為のフックが出ている。
ガコッ
「5時まで後少しだな。何としても生きのびてやる。」
大吾は急いでそこに掛けると下に垂らした。
>> 72
ギチッ
「ゆみちゃん先に降りろ。」
垂直に切り立った白い壁で三階から地面を見ると目の眩みそうな高さだがコクッと頷くと熱風が吹き上げる中ゆみは足場を確認して下を見ながらゆっくり降りていく。
ギチッ
ギチッ
ギチッ
ビュオォォォ
「きゃッッ!」
重りが付いていた縄ばしごの下の部分は追跡ロボットから斬られて無いため風で横に揺られ思うようにゆみは進めない。
「大丈夫か?」
「うん。」
ゆみは何とか一階半の高さまでいったがその先が無くなっているため降りることが出来ないでいた。
きゃしゃな小学4年生の女の子には飛び降りるには高く横を見ると大吾の太い腕ぐらいある木の枝が縄ばしごからあと1メートルというところにあった。
ガシュン ガシュン
大吾に段々と追跡ロボットが近付いてくる。
「くっ…」
非常口のドアを閉めるとゆみの様子を伺った。
ゆみは強風が吹いた瞬間縄ばしごを揺らし白い壁に近付くと壁をおもいっきり蹴りその反動で木の枝に飛び移った。
>> 73
ザザッ
生い茂った葉に当たりながら、ゆみは太い枝に捕まった。
「大丈夫か怪我してないか?」
「うん平気。」
ゆみは葉の間から無事を伝えるため手を振った。
大吾はホッと溜め息をつくと自分も非常用縄ばしごをユッサユッサと降り始めた。
ガゴッガゴッ
追跡ロボットが非常口の中からドアを殴り付け段々と形が変形していく。
ガゴン
ドアが三階の空中を勢いよく飛んでいく。
「くっ!来やがった。」
木に隠れているゆみに大吾は動かないよう無言で指示すると急いで縄ばしごを降り一階半の高さで斬られている場所から地面にジャンプした。
ザシュ
何処に逃げようか左手首の腕時計型ホログラムマップを操作するがウンともスンとも言わない。
「んっ…」
良く見るとさっきの追跡ロボットとのやり取りでヒビが入って壊れている。
「道理でロボットが近付いて来てもシグナル音が鳴らないわけだ。」
そう呟いてるうちに追跡ロボットの一体が大吾の直ぐ背後にジャンプしてきた。
ガシュン
>> 74
ビュン
「うおっ!」
大吾はメタルシルバーに輝く追跡ロボットの巨大な鎌を飛び込み前転をしてかわすと太い木の枝の上に隠れているゆみとは反対の方へ走った。
ガシュン ガシュン
更にもう2体大吾の前に上からジャンプして目の前に現れた。
シュパシュパ
シュパシュパ
シュパパパン
4つの大きな鎌が縦・斜め・横と縦横無尽に動き攻撃してくる。
「くっ…」
大吾も流石にかわしきれずジャケットが切り裂かれていく。
「お兄ちゃんッッ!」
ついゆみは木の上から叫んでしまった。
「ハッ!!」
慌てて口を両手で押さえたがその大きな音声に反応した1体の追跡ロボットが向きをゆみの方へ変えた。
「ゆみちゃん!クソだらーッッ!!」
ゆみの所へジャンプしようとする追跡ロボットを大吾は後ろから羽交い締めした。
が…首の部分から触手が出てくると大吾を締め上げもう2体が大きな鎌を降り下ろす。
ズシャ
ズシャ
1つはジャケットのエアバックを広げたが背中を切り裂き、もう1つは左手の腕時計あたりから切り落とされた。
「ぐああぁぁぁッッ!!」
大吾の意識が朦朧とする。
「ゆみ…ちゃん…」
ウゥーーーッ
その時、気を失う中
耳の奥にサイレンが聞こえた…
>> 75
………
……
…。
「ハッ…ここは…」
大吾は目を覚ますと天井にある眩い蛍光灯に目をしかめた。
ズキン
「ぐっ!」
背中と左手首がおもいっきり疼く。
「良かった…もう目を覚まさないかと思った…」
大吾は医療用ベッドに寝ておりその直ぐ横の椅子に座っていたゆみが泣きながら近付いてきた。
どうやら夕方5時で追跡ロボットの動きが止まりこの場所へ運ばれたようだ。
ブーン
パチパチパチ
「おめでとう御座います。」
ツンツン立った髪型に流行りの白いスーツでコーディネートした男が天井から放出されるホログラム映像で映し出される。
「生き延びた四人の皆様には一人あたり5億円の賞金が贈呈されます。」
大吾は20畳ほどある部屋を見回すと黒いツバのある帽子を被りぼろぼろの黒いジャージ姿の男性と茶髪で髪がショートボブであちこち血まみれの白いシャツにジーンズ姿の女性を確認した。
カガガッ
シュイーン
床の一部が横にずれると20億の札束が積み上げられた透明のケースがせりあがってきた。
ガシュン
「参加者の皆さんご苦労様でした。スリル満点の逃走劇テレビ視聴者の皆様楽しんでいただけましたでしょうか?また来月の全国放送を楽しみに。ではシーユーネクスト。」
ブーン
投影されていた男の姿は消えた。
「何が流行りのテレビ番組だ!金が稼げるからって聞いて参加したのにただの殺戮ショーじゃないか。」
大吾は無くした左手首を見て激怒した。
「お兄ちゃん生きてて良かった。」
ゆみはベッドに上がるとギュッと抱きついた。
「ああっ…」
大吾もゆみを抱きしめると両親を亡くした代わりに一緒に住むことを決意した。
……
…
それから1ヶ月後また別の誰かが参加する死の逃走劇が始まる…
完
>> 78
なおさんどもども🙋
あっ💦ギャグは団扇無いんで
いや…センス無いんで💧タラ~
ホラホラそこの読者凍らないように🆒😂
まぁギャグものは保留ということで…
>万が一他の読者の方ファンレスあったら宜しく<
(^∀^)ノ
http://mikle.jp/thread/1144461/
シャーッ
キュッ
「ねぇ聡~ッま~だ~ッ!」
小百合はシャワールームから声をかける。
シーン
「あれ?聡ってばどうしたの…」
小百合は不思議に思うとシャワールームから白いバスローブを羽織り腰まである長い茶髪はタオルでくるんでアップして出て来ると聡を探した。
部屋は薄暗くコジャレたBGMが流れる中ベッドの上を良く見ると黒い影がぼんやり見える。
「うふッもう聡ったらシャワーも浴びないで気が早いんだから。」
バスローブを脱ぎ捨て19歳とは思えない豊満なボディを露わにすると軽い羽毛の布団を捲りベッドの中に潜り込んだ。
ベッドを触ると何かヌルッと生温かいものに当たる。
「んっ!?」
違和感を覚えた小百合はベッドの枕元にあるライトのスイッチを押した。
カチッ
聡の様子を見て
小百合は全身の鳥肌がたち悲鳴を上げた。
「ヒッッ!ヒィ~ッッ!!」
目はぐるっと白眼を剥き自分の首を両手で掻きむしり口からは血を吐いてビクンビクンと痙攣していた。
「さっ聡ッッ!!」
我に返った小百合は病気かもしれないとフロントに繋がる内線の受話器を取った。
>> 80
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
「302号室なんですけど大変なんです。連れの者が血を吐いて痙攣おこしてるんです!」
小百合はフロントに繋がったと思いきや一気に状況を説明した。
「…………………。」
だがフロントには繋がったものの返事は返ってこない。
「あれっ!おかしいなぁ…」
もう一度フロントに掛け直してみる。
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
「……………………。」
「んっもう何で出ないのよ。直接フロントに行かないといけないじゃない。」
ガチャン
思いっきり受話器を降り下ろした小百合は聡の事を気にしながらも急いで就活で着るようなオーソドックスなスーツに着替えるとオートロックのカードキーを抜いて廊下に出た。
直ぐ近くのエレベーターに小走りで近付くと下を向いたボタンを押した。
しかしずっと待ってもなかなか一階からエレベーターが上がって来る気配が一向にしない。
「ここのホテルこれから先、絶対使わないんだから。」
小百合は非常用階段を探した。
緑の表示で奥にあるのを確認しその場に着くと扉をギィと開けて薄暗い踊り場に出て階段を下りだした。
>> 81
カツコツ
カツコツ
薄暗い中にハイヒールの音だけが鳴り響く。
何処かの階の方から何か聞こえる。
ズリュリュ ズリュリュ
「何の音かしら?」
小百合は不信に思いながらも聡を助けたい一心でカツコツ素早く足を交わして下りて行く。
息を切らせようやく一階に着くと勢いよく非常用階段の扉を開けフロントに向かった。
シーン
時計の針が午後7時をさしているが広い玄関ロビーには人っ子ひとり居ない。
「あれっ?何で…あそこのレストランで30分前にディナーを食べて出て来た時にはあんなに人で溢れてたのに…」
案の定フロントには誰の姿もなかった。
しょうがなく小百合は回転式扉を抜けホテルの外に出ると小雪の降るなか人の気配が無い。
ホテルの周りの木々に飾られている小さくて宝石の様に蒼いLDEライトがチカチカ輝いているだけである。
「そんな…」
ホテルの敷地から出て道路に出て見るとたくさんの車も四車線ある道のど真ん中に乗り捨てあり雪がうっすら積もり無人だ。
コッカッコッカッコッカッ
小百合は病院に連絡する事も忘れ独り恐怖にかられると一目散に聡といた302号室へ向かった。
>> 82
「一体どうなってるの。」
小百合は足早に回転式扉を過ぎるとエレベーターに向かう。
コッカッコッカッコッカッ
エレベーターの階数を見ると三階の所で止まっている。
一応上のボタンを押すがなかなか来ない。
「ハァ~ッまた~何かの嫌がらせ。」
小さなため息をつくと非常用階段に向かい三階を目指した。
今度は何の気配もなく三階に着くと302号室のドアにカードキーを差し込んで開けた。
カチッ
部屋の明かりをつけシャワールームやトイレがある洗面所をを通り過ぎベッドを見て小百合は驚愕した。
「えっ…」
大きなダブルベッドに居る筈の聡の姿が無いからだ。
しかもベッドメイキングしたかの様に綺麗に整っており羽毛布団の血糊も残っていない。
「ねぇ聡ッ大丈夫なの?」
聡が痙攣から治ったと思った小百合はシャワールームを覗いた。
ガチャ
誰も居ない…
洗面所横のトイレかもとドアをノックして開けたがやはり誰も居ない…
衣装タンスを開けて見ると来たときのまま木製のハンガーに聡のグレーのスーツがかかっており荷物もそのままになっている。
同じように靴棚を見たが流行りの黒い革靴もそのままだ。
その時だった…
コンコン
302号室の外の廊下側からノックの音が鳴り響いた。
>> 83
ドキン
小百合は恐る恐る物音を立てずドア付近まで忍び足で近付いた。
ドアには小さな覗き穴が付いており廊下の方を誰か来たのか確認するが誰の姿も無い。
「んっ…」
ドアの下の隙間から何かカードらしき物が見える。
「何かしら?」
サッとしゃがむとカードを拾った。
それはトランプみたいな感じで裏返すと奇妙な絵柄が描いてあり小百合はよく分からず首をかしげた。
「何これ気味悪い…人の様にも見えるし悪魔の様にも見えるし…っていうか全然ワケわからない。」
その場にポイッと捨てるとベッドに戻り横になった。
今まであった事をずっと天井を見ながら振り返って考えているうちにディナーで飲んだワインのせいなのか色んな事がありすぎて疲れたのかウトウトしいつの間にか眠ってしまった。
>> 84
……
…
グゥォン グゥォン グゥォン
『我が一族の血を引く娘よ。目覚めるのだ。』
どこからともなく男の様な女の様な声が頭の中に鳴り響く。
『誰!?』
『お前はこれから先、闘い続けなくてはならない。』
『何なのよ闘うって。』
『直ぐに解る…カードを…』
『ねぇってばぁ~ッッ!』
ガバッ
右手を天井に向け伸ばしたまま小百合は全身汗びっしょりになって目を覚ました。
「ハァハァ…へんな夢…っていうか汗かいて気持ち悪ぅぅ。」
玉のような額の汗を拭うとベッドから起き上がり衣服を脱ぎ出した。
シャワールームの脱衣室を通り過ぎようとした時ある事に小百合は気が付いた。
「んっ!」
全身映る鏡の前に立ち止まり自分の左肩に何か大きな痣が見えたからだ。
よく見ると何かの紋章みたいなものが浮き出ている。
「やだッッ何これ!嫁入り前なんだから、やめてよね。」
小百合が鏡越しに紋章を見ていたその時…
バリン
ビュオォォォッ
いきなり窓ガラスが割れ雪が混じった外の冷たい空気が部屋の中へなだれ込んできた。
「きゃっ!」
慌てて目についたバスタオルを腰に巻いて左腕で豊満な胸を隠すとベッドに脱ぎ捨てた衣服を取りに急いだ。
>> 85
スーッ
人間の形をした透明な靄の様なものが窓から入って来る。
シュオン
そしてそれが部屋の床に着くと実体化した。
腰まである長い金の髪に白くて餅のような肌、天使みたいな羽が生えた裸の綺麗な女性が現れた。
「何なの一体…」
ベッドの上にある下着をサッと取ると天使みたいな女性から目を離さず身に付けた。
ゆらっ
ゆっくり光り輝く女性がこちらに振り向いた。
『お前を排除する。』
重く冷たい口調で小百合に言ったかと思うと前に右手を翳す。
シューーッ ピキン
右手には氷で出来た西洋の片手剣を思わせるような物体が現れ、そして剣を小百合に向けた。
「ちょっちょっと!何なの特撮の撮影…」
シュギューッ
小百合が言葉を発するや否や天使みたいな女性は剣を縦に振る。
バサッ
布団からたくさんの羽毛が舞い散る。
『排除!』
今度は顔目掛け横に振った剣が襲いかかる。
シュバッ
幼い頃から新体操をして身体が柔らかい小百合は体を後ろに反らしかわした。
「フ~ッそう言えば変な声の奴がカードが何とかとか言ってたわね。」
玄関付近にカードを捨てたのを思い出すと天使みたいな女性の攻撃を飛び込み前転でかわし床に落ちているカードを拾った。
>> 86
シュパ
黒いカードには紫色で肩と同じ紋章が入っており反対側には、やはり人間の様な悪魔の様なものが描かれている。
「拾ったは良いけど…このカードが何の役に立つのよ。」
じっと小百合はカードをみつめるが何も変化が無い。
ゆらっ
ベッドがある部屋からゆっくり天使みたいな女性が剣を脇をしめ前に突き出して近づいて来る。
ゆらっ
「あんッもうッッ!」
小百合の直ぐそばまで来ると素早い突きを喉元に繰り出してきた。
シュバッ
「きゃっ!」
しゃがんでかわすと氷の剣は分厚い木のドアを容易く貫いた。
その時、カードが手から離れ左肩の赤紫色した痣みたいな紋章に触れた。
キュイーン
眩い光りに包まれると小百合の長い黒髪が白金色に変わり、下着だけの服装が変化していく。
「えっえっ!!」
ベースになる服装は純白なシルクの布で覆われスカートの丈が短い。その上から羽の様に軽くて丈夫な白銀色の胸当て、肩当て、脛当てが装備されいく。
『小賢しい。』
シュバ
天使みたいな女性はドアから氷の片手剣を抜くと小百合の腹部に刺した。
ズガッ
しかしそれは残像で天使みたいな女性の背後に小百合の体は白金の髪を靡かせ回り込んでいた。
シュン
『何ッッ!』
「体が嘘みたいに軽いわ。体重計に今乗ったらいつもより少なくなってるかな。」
シュババババッ
『排除する。』
目にも止まらない速さで連続突きを出して小百合に襲いかかる。
>> 87
小百合の目にはゆっくり剣の動きが見える。
シュー
バー
バー
バー
バーッ
紋章の力が解放され恐ろしい程の動体視力が上がり相手の繰り出す攻撃がスローモーションになって見えているのであった。
更に自分の動きが目にも止まらない素早さになっている為、軽々と氷の片手剣を頭や体をちょっと動かし紙一重でかわしていた。
『馬鹿なッッ!』
天使みたいな女性からは小百合を貫いて見えるが手応えがなかった。
(もしかして力も上がっているかも。)
小百合は相手のお腹目掛けパンチを繰り出す。
「えいっ。」
ドゴッ
『うがッッ!』
バキバキッ
ゴゴオォン
体をくの字に折り曲げドアを突き破り廊下の壁に激突する。
「ひゃ~凄いパワー。壁にヒビが入ってる。」
小百合は驚くと両掌で口を押さえた。
『おのれ~ッ』
ガゴッ
女性の綺麗な顔がみるみる恐ろしい形相になる。
そして背中の翼を広げると無数の先が鋭く尖った羽をマシンガンの弾の様に飛ばしてきた。
シュララララララララッ
流石に動体視力が良く素早く動けても、この無数の羽の刃はかわせない。
『排除!排除!排除!』
その時、床に落ちたカードが光っているのが見えた。
>> 88
シュピ
狭い廊下でかわしきれないと思った小百合は鋭い羽がくる前に素早く輝いているカードを拾うと一か八か左肩の紋章にあててみた。
ピカーッ
また身体があの眩い光りに包まれると今度は両手が炎に包まれた。
ゴオゥッ
「ちょっ火なんて熱いわよ…
んっ全然熱くない。
でっ…この両手の火どうすれば良いのよ。」
半べそをかいている間に無数の鋭い羽がもう目の前にきている。
『これでお前も終わりだ!死ねッッ!』
プツン
小百合の中で何かが切れた…
「私が死ぬ…はんっ天使の羽ぇ~こんな攻撃効かないね!」
小百合は豹変するとボクサーの様にファイティングポーズをとった。
「ウオォォォラララ!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーッッ!」
目にも止まらないな炎の拳の超ラッシュを繰り出し羽を燃え散らしながら天使のような女性までジリジリ詰め寄っていく。
『なっ何だコイツは!』
女性の顔はいつの間にか怯えていた。
「だいたい聡が血吐いて倒れ消えたのもホテルや外の人達がいなくなったのもアンタのせいね。それに私が何で襲われるか訳分かんない。とにかくアンタが元凶!だからアンタをぶちのめす!」
プッツンモードの小百合は右人差し指で女性を指差し一気にまくし立て喋る。
>> 89
「アンタ覚悟しなッッ!」
ゴゴオゥッ
それに呼応するかのように両手の炎は勢いを増す。
『ヒッッ!』
天使みたいな女性は声にならない声を発した。
「天国に逝っちまいな!ウオォォォラララオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーッッ!これで終わりだ!!」
ズゴゴゴゴゴッ
女性の体中は小百合の左右の腕から繰り出されるデンプシーロール炎の猛ラッシュをくらい最後に地を這うようなアッパーを喰らい廊下の天井に頭から突き刺さった。
「ハァハァハァ…私を怒らせるんじゃないわよ。」
グウォン グウォン グウォン
シャギーン
ドサッ
小百合は意識を失った。
……
…
ガヤガヤ
ガヤガヤ
「さ…。」
「さゆ…。」
「おいッ!小百合しっかりしろ!」
誰かが頬っぺたをペチペチ叩いている。
「んっんんっ…」
ゆっくり片目を開けると光りで眩く顔をしかめた。
そして両瞼を開け視力が戻ると目の前には聡がいる。しかも抱きかかえて涙を流していた。
「さっ聡…!?無事だったのね。」
一体何がどうなっているのか良くみると廊下には警察官や消防士でごったがえしていた。
「何か爆発みたいなのが俺らの部屋であって、しかもお前下着のまま廊下で倒れていて…良かった生きてて…」
聡は小百合をギュッと抱き締めた。
部屋のドアは割れ廊下の壁は大きくヒビが入っており廊下の天井には穴が空いていた。
(夢だったのかしら…そうよね。あんな事夢に決まってる)
「んっ何だこれ?」
聡は床に落ちているトランプみたいなカードを拾い上げ不思議そうに見つめる。
それは黒に紫の紋章が描かれたカードであった。
>> 90
バッ
「このカード…さっきまでの出来事、夢じゃなかったんだわ。」
聡が持っているカードを取り上げるとジット見つめた。
「おいどうしたんだよ小百合!?顔が青いぞ。どっか具合いが悪いのか?」
聡は小百合の様子を見て心配していた。
「ううん。大丈夫何でもないの。上着掛けてくれてたんだ。ありがと。聡惚れ直しちゃった。」
頬っぺたにチュッとキスをした。
「よせやい。」
一つ年上の聡は照れくさそうに頭を掻いた。
(そう言えば…あの天使みたいな女性は一体どこに…)
小百合は辺りにあの女性が居ないか目で探したが、それらしき姿はなかった。
「ちょっと宜しいですか。爆発の事について伺いたいんですが。」
近くの警察官が2・3質問をしてきたので本当の事は言わず適当に返答した。
(どうせ。警官にまともに話しても信じて貰えず馬鹿にされるのがおちだわ。)
騒ぎは収まり警察官や消防士、野次馬の姿は次第に消えていく。
「もう朝か…」
小百合は背伸びをすると
「聡、お腹すいた~ッ!どっかご飯食べに行こ。」
聡と腕を組んだ。
「うん。その前に、着替えてからだね。」
下着姿に聡のジャケットを羽織っているだけの小百合にウインクした。
「あっそうだった。」
舌をペロッと出して頭をコツンとすると急いで着替えに向かった。
>> 91
「お・待・た・せ。」
小百合はホテルのトイレで就活で着るようなスーツに着替え茶髪の長い髪を持ってるバックからヘアーブラシを取り出し綺麗にして出て来ると廊下で待っている聡の腕を取った。
「じゃあホテルのフロントでチェックアウトしたら小百合の好きな物食べに行くか。」
「うん。」
小百合はニコッと微笑んだ。
フロントで料金を払おうとしたら爆発事故で迷惑をかけた為に丁重に要らないと断られ逆にホテルのレストランサービスチケットを貰い外に二人は出た。
「ラッキー!でも爆発事故のせいで、せっかく小百合の19歳になったバースデー宿泊計画は散々になったけど。」
「ううん。聡と一緒にレストランでディナーを食べれたしプレゼントの可愛い指輪貰えたし嬉しかった。」
(本当は私と天使みたいな女性とで部屋や廊下を滅茶苦茶にしたんだけど…)
「んっどうした?さっきから考え事。」
小百合は聡が廊下で拾った黒いカードを貰いスーツのポケットに入れていた。
歩きながら、そのカードがつい気になって取りだし見つめていた。
「この黒いカードの紫色の紋章って何かしら、それに反対側に描かれている人間のような悪魔のようなもの何だか気になって…」
「確かに変わったカードだね。食事のあとで市立図書館にでも行ってみるか。何か分かるかも知れないし。それに今日は有給休暇とってあるからね。」
聡も一緒に考えてくれるだけで小百合は嬉しかった。
大きな通りを抜け少し脇道に入るとコジャレた看板が見えてきた。
「いらっしゃいませ。」
全体がアンティーク調であしらってある店の中に二人は入るとメニュー表を開き注文した。
>> 92
カタン
「あ~美味しかった。ちょっと化粧なおしてくる。」
聡にそう言うと小百合はトイレに入り洗面台の鏡の前でポーチから口紅を出した。
グウォン グウォン グウォン
「あっまたこの感覚…」
ホテルでの出来事を思いだし緊張した。
キィ~ッ
2つあるトイレのうち奥の扉がゆっくり開くのが鏡越しに見えた。
「!?」
『カルラは失敗したみたいね。』
ズリュ
扉の奥から背が凍りつくような声が聞こえと共に青白い右手がゆっくり這うように出てくる。
小百合は息を飲んだ。
ズリュ
床を這うように左手も出てくるのが見えると濡れた黒髪がにゅっと伸びてきた。
シュルシュルシュル
小百合は慌てて身を翻しスーツのポケットにあるカードを取ろうとしたが濡れた黒髪が一瞬早く体に巻きつき締め上げた。
ギュオッ
ギリギリ
「うぅっ!カードを…」
もがけばもがくほど濡れた黒髪が絡みついていく。
『フフフ…苦しいか。お前は裏切り者の血を引く娘ここでその血を絶やす。怨むなら我々を裏切ったアイツを怨むがいい。』
ギリギリ
「ぐうっ…何言ってんのよ!うちのお父さんは物産会社のサラリーマンだし、お母さんはパートでレジ打ちしてる二人とも普通の人間よ。あんた達みたいな化け物じゃないわ。」
小百合は叫んだ。
ヒュイィーッ
ポケットのカードが光だす。
ボッ
絡んでいる濡れた黒髪がスーツのポケット辺りから燃えだした。
『馬鹿なッッ!?』
「チャンス!」
小百合の右腕の髪が弛むとポケットのカードを取りだし左肩に翳した。
キュイィーン
小百合の身体は眩い光りに包まれ変身していく。
>> 93
ブチブチブチ
小百合の身体に巻きついていた濡れた黒髪を引き千切ると、その長い髪を捕まえおもいっきり引っ張った。
ギュオン
『ぐうっ!』
ドゴオァッ
目の前にヌメヌメと蜥蜴のような皮膚をした女性が出てくると、その顔面に前蹴りをめり込ませる。
『ぶへっ。』
「あのね一族の血だとか裏切り者の娘とか、私は何だか知らないし、もうこれ以上関わらないでくれる。」
ビューッ
シュパ
「ハッ!?」
黒髪の女性の右手が伸びると小百合の左脇腹を長く鋭い爪が白い布を切り裂いた。
「っつう。」
蹴りが相手に当たっている状態で攻撃に気付くのが遅くギリギリかわすので精一杯だった。
「乙女の体傷付けたわね。あったまにきた!!」
グオッ
濡れた黒髪を強く握るとそのまま強引に横に振った。
バリン
洗面台の大きな鏡にぶち当てると今度は反対の右に振り二つあるトイレの扉に叩きつけた。
『くっ…』
濡れた黒髪の女性の黒目が縦に細くなると顔が爬虫類の顔のようになっていく。
『しゃーっ。』
先が二股に別れた舌が伸び小百合の首を締め上げた。
『死ね!』
ギリギリ
「うぅ…」
両手で取ろうとしたが強い力で首を絞められる。
フッ
カードが手のひらに現れ光りだした。
小百合はカードを素早く左肩に翳す。
>> 94
ヴァリヴァリ
ヴァリヴァリ
赤い稲妻が小百合を包む。
パリンパリン
トイレの電球が次々割れて飛び散る。
そして爬虫類のような長いヌメヌメした舌を掴み赤い稲妻を放電させると濡れた黒髪の女性は「ギャーッッ!」と叫び声を上げ舌を引っ込めた。
ヴァリヴァリ
「ごめんなさい。痺れちゃった~」
と言った言葉とは裏腹に小百合は悪びれた様子もなく構えをとると透かさず白金に輝く髪を靡かせ跳躍をし赤い電撃の飛び蹴りを濡れた黒髪の女性に喰らわせた。
ヴァリヴァリ
ゴガッ
『ブフォッッ!』
ズズン
後ろの壁にめり込むと黒髪の女性は意識を失ったのかそのまま動かなくなった。
「全くッッ!聡とのラブラブデートを邪魔しないでよね。」
パタパタと白い絹の汚れを落としていると、ぐわんと変な感覚に襲われた。
グウォン グウォン グウォン
ブーン
「ふ~ッ二度目の変身のせいか今回は気絶しなかったわ。服は元のスーツに戻ったわね。カードも勝手にポケットに入ってるし…不思議な事だらけ…」
目をさっきの濡れた黒髪の女性の方に向けるとトイレの奥壁にはめり込んだ痕は残っているが姿は無くなっていた。
「逃げたのかしら。」
小百合は割れた鏡を覗きながら化粧をなおすと何事も無かったようにトイレを出て聡が座っているテーブルに向かった。
「あんまり遅いからコーヒー頼んで飲んで待ってたよ。化粧じゃなく長いほうだったか。」
聡はニヤッと笑った。
「バカ。あっすいませんウエイトレスさん私もウインナーコーヒーお願いします。」
小百合は注文すると椅子に腰かけ聡との雑談を楽しんだ。
>> 95
チラッ
「さぁ10時回ってるし市立図書館開いたから、そろそろ行こうか。」
聡は腕時計を見ると小百合を促し値段の書き込んであるシートを取り椅子から立ち上がった。
レジで料金を払い二人は外に出る。
ヒュー
「うぅ~寒い。」
冷たい風が吹くと小百合は聡に寄り添った。
聡は自分のライトグレーのマフラーを小百合の首に掛けると自分のコートのポケットに小百合の右手を突っ込ませた。
「暖かい。」
小百合は白い息を吐きながらニッコリ微笑んだ。
しばらく歩くと大きな市立図書館が見えてきた。
「おっきいね図書館。私、初めて来た。」
「俺もだよ。」
ウィーン
自動ドアに入ると広い玄関リビングがあり次の自動ドアをくぐると奥にカウンター更に奥に本が数え切れないほど乗った棚が幾つも平行に並んでおりたくさんの人が見える。
「わぁ広い。」
「あぁそれに暖房もきいて快適な場所だな。」
カウンターに着くと眼鏡をかけた中年の女性から「ご利用の方は、利用カードを発行しますので、こちらの利用者登録申込書に住所・氏名・生年月日・電話番号・勤務先を記入され、本人の住所を証明できる健康保険証か免許を一緒に提出して下さい。」と言われた。
二人は言われるがまま端にある机で書類を書くと、聡は免許証、小百合は健康保険証を提出した。
数分するとカードが出来上がり、眼鏡をかけた中年の女性から「本を借りられる場合は、この利用者カードと一緒に出して下さい。」と言われ手渡された。
カウンター横から中に入るとジャンル別にア行から綺麗に整頓され本が並んでいる。
「しかし一杯あるからどこから探したらいいのやら…」
小百合は溜め息をつきながらボヤいた。
「う~ん。やっぱり紋章で調べたらどうかな。」
「そうね。」
二人は紋章の本を探しだした。
>> 96
パラパラパラ
二人は手当たり次第に紋章に関する本を広いテーブルの上に置き椅子に腰かけると探し始めた。
「結構利用してる人達多いんだね。」
小百合は椅子を聡の横に近づける。
「そうみたいだね。」
聡は紋章の黒いカードと分厚い本を交互に見ながら答える。
小百合は心優しさが滲み出ている聡の横顔が好きだった。
Vooo…Vooo…
聡の携帯電話のバイブが鳴った。
スチャ
「あっちょっとゴメン会社から…」
そう言うと聡は席をはずした。
パラパラパラ
「んっ!?」
小百合は聡とは別に紋章以外の色々な本を取ってきて読み探していると、あるページに目が止まった。
そこにはカード似た紋章が書いてある。
「えっと…この紋章は…古(いにしえ)の文字であり…」
そこへ聡が戻って来て急きょ会社へ行かなくてはいけない事を告げた。
「え~ッ!休みなのに今から。」
小百合はつい大きな声を上げた。
他のテーブルで読書している人達からジーッと無言の冷たい目線が小百合に突き刺さる。
「ごめんこの埋め合わせは次会った時にするから。」
聡は手をあわせペコッと謝ると慌てて図書館の外へと向かった。
「ちょっ…」
ガタッ
勢いよく椅子から立ち上がろうとすると、再び周りの人達からの冷たい目線が突き刺さる。
「あっ。」
小百合は慌てて口をつぐむみ、そそくさと気になった本以外を棚に戻し受付で借りて市立図書館をあとにした。
「久し振りに会えたのに!んもう~聡の馬鹿ッッ!!」
小百合は上を見上げると外の雪は止んでおりどんより鉛色(にべいろ)の空だけが広がっていた。
「聡いないから、なんかつまんないの…」
小百合はボソッと呟く。
付近にあるビルの電光掲示板を見るとお昼を回っていたが独り遊ぶ気になれず自宅のアパートに帰るため駅に向かった。
>> 97
地下鉄の駅のプラットホームに着くと沢山の人が電車を待っている。小百合はなるべく人が少ない所へ並ぶと電車が来るまで五分程あるので、さっき市立図書館から借りてきた分厚い本を開いて続きのページをパラパラと探す。
ドン
「えっ!?」
その時、背中を誰かが強く押す。
小百合は訳が分からないままプラットホームから線路まで落ちた。
ドサッ
「あいたたたっ…誰よ後ろから押したの…」
小百合は腰をさすりながらキョロキョロと上を見て自分が立っていた場所に押した犯人がいないか探したが分からなかった。体を捻って落ちたため腰を強く打ち付けその場を動けないでいた。
そして駅員のアナウンスが流れ出す。
『間もなく電車が参ります。線の後ろまでお下がりください。』
ザワザワ
ザワザワ
しかしプラットホームから「嬢ちゃん大丈夫か?」「電車が来るから早く上がれ。」と言うものの誰も助けようとはしてくれない。
「くっ!足が…」
窪んだセーフティーゾーンに隠れようとしたが更に運悪く線路で左足をくじいて思うように動けない。
ガタッゴトンガタッゴトン
真っ正面の方から電車の光がカーブしたトンネルから段々と近づいて来る。
「グゥ…あと少し…」這いながら少しずつ進む。
ザワザワ
「駅員まだか。早く連れてこい。」
ガタッゴトン
ファーファーン
警笛音がプラットホームに鳴り響く。
キィーーッ
電車はもう目の前…
「いやーーッッ!!」
小百合は叫んだ。
ゴンッ
誰もが引かれた姿を見たくなく目をつぶった。
プシューッ
電車は止まったが小百合が落ちた場所から数メートル過ぎていた。
電車待ちしていた乗客等の後ろでジッと様子を伺うパーカーのフードを深く被っていた者の口元がニヤッと笑うと歩き出し上り階段を上って行った。
>> 98
乗客がざわつく中、数人の駅員等が慌てて線路に降りると懐中電灯をてらし運転席のベコッと凹んだ車両の下を覗きこんだ。
「…!?」
駅員の一人が更に車両の下に潜って暗闇の奥を確かめる。
「だっ誰もいないぞ!?」
「えっ!」
その場にいる全員が狐に化かされたような顔になった。
……
…
「ふう~ッ危なかった~ッ!」
小百合は額の汗を拭った。
トンネルから抜け出しさっきとは別のプラットホームに着いていた。
「危うく死ぬところだったわ。」
他の電車待っている人達にばれないようコソッとプラットホームに上がっていた。
数分前電車がブレーキをかけ小百合とぶつかる手前にカードを左肩に当て変身すると車両とぶつかる瞬間「イヤーーッ!」と雄叫びを上げ右ストレートのパンチを繰り出しゴガッと運転席のフロントに当て更に後ろに跳躍し人には見えない速さで線路を走り次のホームまで着いていたのであった。
幸いその場に居合わせた連中は目を瞑っていたため変身する姿を見られずにすんでいた。
「このカード凄いわ。まだクラクラするけど、ほとんど身体のダメージを戻すんだから。変身したらある程度治癒する能力が備わってるのね。」
プラットホームのベンチに座り小百合は黒い紫色の紋章が入っているカードをまじまじと見つめた。
「誰かが後ろから私を突き落としたのは間違いないわ。新手の刺客かしら。…あッッ!」
小百合は独り呟いているとある事に気が付き立ち上がった。
「しまった!市立図書館で借りた本が無い。」
その場で頭を抱え込んだ。
「どうしよう…あの本…」
一瞬考えたが駅員さんが見つけて保管しているはずだから、あとで取りに行こうとあっけらかんと結論に達し直ぐベンチに腰掛けたのであった。
>> 99
(電車はいっとき来ないだろうなぁ。まぁ自業自得なんだけど…)
携帯のミニゲームで時間を潰しながらそんな事を考えていると背後に気配を感じた。
バッ
「あっ…」
小百合は振り返ると安堵の色を浮かべた。そこには小さい頃から幼馴染みの葵と侑真が立っていた。
「よっ小百合。聡とデートじゃなかったのか?」
左耳にピアスをし白いシャツに黒のジャケット下はブルージーンズの侑真が先に声を掛けてきた。ツンツン立った髪型に180センチで聡より背が高い。
「それがさぁ聡は会社に呼ばれて行っちゃって…」
「何それ!せっかくのお泊まりデートだったのにね。」
金髪ショートボブに白いタートルネックの長袖に首もとにボアがついた焦げ茶色のダウンジャケットベストにブラックジーンズを履いている葵が少し怒った顔になった。
「これからどうすんだ?」
「う~んつまんないからアパートに帰ろうかなって思ってるんだけど。」
「んじゃさ小百合。今からうちらと遊びいかない。」
「えっでも葵らデートじゃ…」
「別に良いのよ。ねぇ侑真。」
「あぁ俺は別にかまわないぜ。」
「じゃあ決まり。行こう小百合。」
「えっ!?あっちょっ…」
葵は小百合の手を引っ張ると地下鉄の出口に向かった。そのあとを笑いながら侑真はついて行く。
その後ろから深くフードを被っている者が跡をついて行く。
駅から出て人混みの中三人は遊技場に着いた。
「結構混んでるね。」
「今日は雪降って特に寒いからな。みんな室内がいいんだろ。」
「小百合、四時間パックにしたから何からやる?ダーツ、ビリヤード、卓球、カラオケ、UFOキャッチャー、ネットゲーム。」
葵ははしゃぎながら喋る。
「じゃ~まずはカラオケで、このうっぷん晴らすわ。侑真もそれでいい?」
「あぁ。」
受付からカラオケルームに行く途中、小百合どこからか視線を感じ辺りを見回したが人混みで分からない。
その時…
グウォン グウォン グウォン
異空間へとまた小百合は引き込まれていく。
>> 100
(こんな時にまた…)
居るのは同じ場所だが目の前の人々が異空間に移動したため消えていく。
(この異空間では、かけた相手だけしか見えなくなるみたいね。
葵と侑真に怪我をさせられない…)
そう思った小百合は遊技場の外に出るとスーツのポケットからカードを出し左肩に当て変身した。
ギュアァーッ
外は夕暮れになりかけ薄暗くなってきている。
スタン スタン
そこへフードを深く被っている者がゆっくり歩み寄って来た。
『カルラとナーガを倒したみたいだけど僕はそうはいかない。僕の名はガネーシャ!』
ブオォッ
体にズンと重い声が響く。
「もう私に付きまとわないでよ。」
そう小百合が言った時、突風が吹いてフードがめくれた。
「!?」
そこには白い象の顔が現れその風貌に思わず小百合はたじろいだ。
ジリッ
『悪いけどお前には死んでもらう。呪われた血統は滅殺するのみ。』
ズシャ
ガネーシャと言った者はそう言うと小百合目掛け自分の鼻を伸ばし鼻の穴から液体を飛ばす。
バシュ バシュ
「あ~ん。もう汚いわね。」
ズシャ
素早く液体をかわすと象の顔をしたガネーシャに白金の髪を靡かせ突っ込むとボディに右腕をめり込ませた。
ズン
「動きが今までの相手より遅いわよ。」
しかしガネーシャは微動だにせず薄笑いをした。
『お前の力はそんなものか。』
「えっ!?」
太い両手で小百合の右腕を掴むとブンブンと振り回し放り投げた。
「きゃーッッ!」
ズゴゴンッ
近くの電信柱の真ん中にぶつかり柱が折れる。
「ぐぅ~何て力なの。」
頭を振りながら立ち上がると構えをとった。
ヴァリ ヴァリ ヴァリ
カードが光り左肩に翳すと両足に赤い稲妻が走る。
「これでも喰らいな。」
小百合は跳躍すると凄まじい電撃の蹴りを繰り出した。
>> 101
ヴァリ ヴァリ ヴァリ
ズガアァッ
「うっ!?」
ギチッ
凄まじい赤い電撃の蹴りを太い両腕でカードされただけでなくフードを破り更に二本の腕が出て来ると右脚を捕まれた。
『こんな蹴り僕には効かないよ。』
ブウォン
ブウォン
ブウォン
ガネーシャはハンマー投げのように超スピードで回転する。
「きゃーッッ!」
『滅殺ッ!』
ビュオォン
目が赤く光ると目の前の遊技場に思いっきり小百合を放った。
バリン
ズガガガガガッ
「ぐはっ!」
小百合は頭を庇いながら自動扉の分厚いガラスを割り受付の台を壊しコンクリートの壁がクレーター状になる程体がめり込んだ。
パラパラ
パラ
ズシャ
小百合は呻きながら床に落ちる。
バガンバガン
スタン スタン スタン
白い象の顔をしたガネーシャは遊技場の玄関を四本の腕で壊しながら入ると受付の方へ近づいて行った。
しかし小百合は受けたダメージが大きすぎピクリとも微動だにしない。
『何だ呆気ないの…カルラとナーガが苦戦したからどんな奴かと思ったけど、とんだ拍子抜けだね。』
ガネーシャは腕組みをし、うずくまっている小百合を見下ろした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
『何だ!?この凄まじい圧迫感は…』
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
ゆら~
カードが眩く光り左肩にフッと触れると、床に倒れている小百合が操り人形の様に立ち上がった。
目が開き赤く光る。そして炎の様な闘気が身を包んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
『何だ…こいつ!?』
ジリッ
圧倒的圧迫感に潰されそうになり一歩後ろに後退りした。
『こんなものはったりだ!』
グオォッ
『ウオオオォォァ』
ガネーシャは二本の右腕を振りかざすと思いっきり小百合を殴りつけた。
>> 102
グシャッ
『!?』
ガネーシャの凄まじい拳圧を小百合は受け止めていた。
ギチッ
『う…動かない…』
太い二本の右腕がびくともしない。
ガネーシャは小百合を見て驚愕した。
『もう覚醒が始まったのか…』
小百合の腕が左右三本ずつに増えていた。
そして無言のままガネーシャの二本の右腕を引きちぎるとその辺りに投げ捨てた。。
『ぐうあぁ~完全体になる前に叩きのめしてやる。この腕の代償は払って貰うぞ!』
ズシャ
ガネーシャはその場で踏ん張ると残った二本の左腕に気を集中した。
みるみる筋肉隆々の元の腕の三倍の太さに変貌していく。
『死ねぇーッッ!滅殺!!』
ゴオアァッ
しかし巨大な拳は虚しく空を切る。
小百合は残像を残し白金の髪を靡かせガネーシャの頭上高く跳躍していた。
『ふん撃ち落としてやる。』
そう言うとガネーシャは気を溜め二つの手をでこぴんの様に構え指を弾いた。
ボボアッ
圧縮された空気弾が小百合を襲う。
炎の闘気に包まれている小百合は六本の腕でガードすると頭からガネーシャへとそのまま突っ込んで行き左腕で空気弾を弾き飛ばすと三本の右腕の拳をギュオッと固め顔面を思いっきり殴りつけた。
ゴオシャ
激しい衝撃でガネーシャを中心にアスファルトに亀裂が走る。
『ぐううぅ。』
ドゴゴゴゴゴゴッ
地面に腰まで埋まって動けなくなったガネーシャを覚醒しはじめ意識が飛び暴走している小百合は六本の腕で怒濤のラッシュを叩き込んだ。
グウオン グウオン グウオン
ガネーシャが作り出した異次元から元の世界へ戻っていく。
そして小百合は元のスーツ姿に戻ると操り人形の糸が切れた様にその場にバタッと倒れ込んだ。
>> 103
「うぅっ…」
小百合は目を覚ますと見慣れない天井と長い蛍光灯がぼんやり見える。
「目を覚ましたのね。良かった…」
涙声だが聞き覚えのある声の女性が小百合の右手をぎゅっと握りその後ろの人影からも「大丈夫か」と声を掛けられた。
暫くすると朦朧とした意識が戻ってガバッと起き上がった。
「葵!侑真!」
ズキン
「ッッ!つう~」
小百合は頭に痛みが走り顔をしかめた。
「小百合、あなた三日間寝てたんだからまだ無理してベッドから起き上がったら駄目よ。寝てなさい。」
そう言うと頭を優しく撫でる小百合の母の姿があった。
体のあちこちに包帯や湿布など治療がしてあり左腕には点滴が刺さっている。
「お母さん、葵と侑真は…。」
「葵ちゃんと侑真君は軽い怪我で半日で退院して家に帰ったわ。葵ちゃん何か大泣きで心配してたんだから。」
「良かった無事で。」
小百合はベッドに横になりながら、ほっとため息をついた。
「あと、さっきまで居たんだけど聡君、毎晩見舞いに来てくれてるのよ。」
母親は枕元の棚にある花瓶の花を指差した。
「聡…」
小百合は聡に会いたい衝動にかられたがグッと我慢をした。
「しかし、小百合が無事で良かった。三日前、母さんから涙声で会社へ電話掛かって来て。警察から連絡あってタンクローリーが遊技場の目の前で事故があって爆発炎上して、一番近くで小百合が倒れて近くの病院に救急車で搬送されたって聞いたから父さん慌てたぞ。」
普段、寡黙な父親だが小百合が目を覚まして安堵したのか話しが止まらなかった。そしてベッドで医者の軽い診察があり、夜9時過ぎ父は母に促され二人は家に帰って行った。
「私…ガネーシャって奴から放り投げられて壁にぶつかったところまでしか覚えてない…」
点滴を見つめながら考え事をしていると、ある事に気がついた。
「あの黒いカード何処にあるの!?」
小百合は何とかベッドから起き上がると点滴を引きずりながら棚やクローゼットを調べた。
「無い!無い!」
血眼になって探したが見つからなかった。
>> 104
(あの遊技場で無くしたんじゃ…この状態で襲われたらひとたまりもないわ。)
小百合は病院の消灯時間になるまで待つと点滴を外し枕や着替えやバスタオルで布団に寝てるように見せかけ、そ~ッと病室を抜け出すと非常階段を下りて行った。
表の自動ドアは閉じてあるので裏口から出ると雪が積もり初めていた。
サクッ サクッ
「うぅ~道理で寒い筈だわ。お母さんが持ってきた褞袍(どてら)着てきて正解だったわ。恥ずかしいけど…」
早くカードを見付けないといけないと気が高ぶっているのかアドレナリンが放出され小百合の痛みが半減していた。
「財布の中身は…ギリ遊技場からこの病院までの往復分足りるわね。」
大きな道路に出ると手を上げてタクシーをとめると急いで乗り込んだ。
「あの~○○町○○の遊技場へお願いします。」
バタン
タクシーの運転手は小百合の格好をミラー越しに覗いて何か言いかけたが止め運転しだした。
(神様、カードが見付かります様に…)
祈りながら遊技場に早く着かないかやきもきしていると「嘘だろ…」とタクシー運転手がボソッと呟き顔がどんどん青ざめて行く。
「どうしたんですか?」
「60キロスピード出てるのに後ろからよく分からないが動物か人影みたいなのが付いてくる。」
「えっ!?」
後部座席でシートベルトをしている小百合は無理な体制でバッ後ろを振り向いた。
ズドドドドドドッ
暗くて良く見えないが確かに爆煙を上げながら何かがタクシーを追いかけて来る。
「ヒッ!」
小百合は声にならない声をあげた。
信号機が黄色から赤色に変わったギリギリで交差点を通過すると後ろ脇から大型貨物車が後ろから追いかけて来るものを阻むように出てきた。
「運転さん、ラッキーッ!このまま振り切っていきましょ。」
「あぁ…」
タクシー運転手がアクセルを深く踏み込んだ。
その時だった
ゴシャーッ
後ろの大型貨物車が宙を舞っていた。
>> 105
「なんなんだアレは!?」
タクシーの運転手は後ろから追い掛けてくるものに対し恐怖で錯乱するとアクセルを更に深く踏み込んだ。
ギャリギャリギャリ
「ちょっと運転手さん危なッッ」
小百合は後部座席でシートベルトをしているが荒い運転で左右に振られ舌を噛みそうになる。
ズドドドドドドッ
爆煙がタクシーの後数百メートルまで近づいてきた。
「んっ…」
小百合は座席に捕まりながら後ろを覗くと丸々した孔雀の上に六つの顔と十二本の腕を持た化け物の姿が見える。
「ヒッ!運転手さん急いで~ッ!」
「わっ分かってるよ!これでも全開だ!!」
二人は雄叫びをあげる。
「ナンマンダナンマンダ…もう悪い事はしませんからどうか神様仏様助けて下さい。」
運転手は泣きそうな顔で拝む。
「もう少しで遊技場だわ。運転手さんあの角を右に曲がったらおろして。」
「んな事したら後ろから迫って来る化け物に追い付かれちまう。」
運転手は首を横にブンブン振る。
「大丈夫よ。どうせ狙いは私だろうから覚悟決めたわ。」
ギャリリッ
バタン
「着いたぞ。お代はいらないからな。」
汗だくになって目的地に着いた運転手はそう言うと後部座席のドアを開ける。
「じゃあな!」
バタムッ
小百合がタクシーから降りるや否やドアを閉めると急発進して行ってしまった。
ズドドドドドドッ
爆煙が数十メートルまでに近づいて来た。
「遊技場の中にカードの気配を感じる…」
小百合は警察の立ち入り禁止の黄色いテープを潜ると遊技場の中へと向かった。
>> 106
数日前のガネーシャとの闘いで遊技場の中は鼻をつくような焦げ臭い匂いが立ち込めていた。
ジャリ
あちこち破壊され瓦礫が落ちている。小百合は無言のまま暗闇の中を奥へとゆっくり進んでいく。
(カードの気配は感じるんだけど一体どこに…)
ズシャッ
ズシャッ
『臭い臭い!どぶくせぇ女の匂いだ!』
丸々した孔雀から降りた六面十二臂の化け物が遊技場の入り口に近づいて来た。
(くっ!まだカードを見付けてないのに…)
『どこに居るのかな…
見つけたらこの槍を心臓にぶっ刺してやるから待ってろよ』
手に持っている槍の先がギラリと光る。
ズキンズキン
身体の痛みに耐えながら壁をつたいカードの気配を強く感じる場所へと何とかたどり着くと一番強い気配がする瓦礫の下を探した。
ズシャッ ズシャッ
六面十二臂の化け物の足音がだんだん近づいて来る。
(どこにあるのよ!)
ビュオォォォォッッ
空気を切り裂くような音が小百合目掛けてくる。
トガガガッ
「ぐうっ!」
辛うじて身を翻して飛んできた物をかわしたが目の前の瓦礫が飛び散り小百合に散弾銃の弾の様に当たった。
「いった~い。」
『フン外したか。まあいい簡単に当たっては面白くないからな。』
その時だった。瓦礫の下から舞い上がった黒いカードがボワッと青白い光りを放ち小百合の血まみれの手に落ちてきた。
「やった!これで変身出来る。」
すかさず左肩にカードを翳した。
ピカーッ
茶髪から白金の髪に変色し全裸になると白い布の上に簡易鎧が装備される。
ズシャッ
『我が名はスカンダお前ごときが勝てると思っているのか!』
ギュオッ
「あんだけ怪我してたのが痛くない。」
拳をグウパーと動かし力が漲ってくるのを確かめると六面十二臂のスカンダに高速の右パンチを繰り出した。
>> 107
ガシッ
『良いパンチだが体重が乗ってないから駄目だな。』
ギュオッ
スカンダは掴んだ小百合の拳を握り締める。
「いったたた…」
小百合は苦痛に顔を歪めながら身体をひねり左膝を繰り出す。
ゴシュ
『甘いなっ。』
スカンダは左膝蹴りを右の腕で抑え正面に立ち両膝で小百合の頭を挟み残りの両腕を胴周りに回し掴むと小百合の身体を反転させながら頭上まで跳ね上げた。
「な…なに…」
訳がわからないまま胴をクラッチされスカンダの頭上高くまで持ち上げられた小百合は恐怖におののいた。
『逝っちまいな!』
スカンダはそう言うとその体勢から遊技場の二階屋根の高さまである吹き抜けギリギリまでジャンプすると自らしゃがみ込みながら小百合を背面からプロレスの変形ジャンピングパワーボムの様に床に叩きつけた。
ゴシャッッ
「ぐはっ…」
あまりの衝撃で一瞬焦点が合わなくなり小百合はふらふら立ち上がった。
『ほ~う。これを食らってもまだたちあがれるか。だがッ!』
シュバッ
小百合の後ろに回ると腰から腹に両腕を回し更に残りの両腕で小百合の両手首を掴むとスカンダはそのまま高速で後ろへブリッジするようにしながら小百合の頭を床にめり込ませた。
ゴシャッッ
(このままじゃ殺られる…)
朦朧とする意識の中カードを左肩に当てた。
ピカーッ
『何をするつもりか知らんが無駄だ。』
六面十二臂のスカンダは腕組みをして小百合の見下ろした。
ガラガラン
炎の闘気を纏い立ち上がると首をコキコキ鳴らし左右に上半身を振った後スクワットをしだし軽く準備運動をすると小百合は「ダッシャーッ!」と拳を上に突き上げ雄叫びを上げた。
>> 108
小百合はスポーツスペースのボクシング体験コーナーに走り跳躍するとクルクルクルと回転しコーナーポストに立った。
「お前を倒す!さぁリングに上がって来い。」
どこで手に入れたのかマイクを持って喋りながらスカンダをポストの天辺から指差した手を返してこっちに来いと言わんばかりにクイクイっと挑発した。
『馬鹿かお前。』
「私が怖くて逃げんのかよ。」
『なんだと!!』
スカンダの形相が険しくなる。
『その誘い乗ってやろうじゃねぇか。後悔するなよ。』
ズシャ
スカンダはその場から跳躍しリング中央に着地した。
小百合はすかさず飛び両足を揃えスカンダの六面の顔面へドロップキックを見舞う。
『ぐへッッ!』
マットへそのまま倒れこんだスカンダにエルボーを喉元に食い込ませる。
「ウィーーーッ!!!」
小百合の目が炎に燃え右手の人差し指と小指を立て右腕を高々と突き上げた。
ふらふらと立ち上がるスカンダの腕を掴み振り回すとロープへふった。
ブーン
小百合をウエンスタンラリアートをお見舞いしようとしたがスカンダの目がギラリと光る。
「!?」
伸ばしたラリアートの腕をスカンダは頭を下へと交わし小百合の背後に回るとそのまま逃げられないよう小百合の両腕をロックしたまま後方へ受け身のとれないスープレックスをスカンダはお返しした。
ドゴアッ
「うぐッッ!」
マットに小百合の頭がめり込み埃が舞い上がる。
『これで終わりだ!!スクリューパイルドライバーーッ!』
バシュ
更に髪の毛をガシッと掴み上げ小百合の頭をスカンダの股に挟み逆さ倒立の様に持ち上げると天井ギリギリまで跳躍しキリモミ状に回転しながらマットに凄まじい勢いで落下する。
>> 109
ギュルギュルギュル
(このままじゃ…やられる)
小百合は力を両腕に集中させた。
『小娘よ死ね~ッッ!!』
スカンダは勝利を確信した。
その時…
ドゴオァーッッッ
スカンダの体が弾かれマットから凄まじい爆風が巻き起こる。
『こっこれは…』
クルクル シュタン
「ふう~危なかった。危うく脳天爆発して死ぬところだったわ。」
小百合はコーナーポスト上に立った。その両腕は紅蓮に燃え上がっている。
小百合は回転落下している時にありったけの気を溜めスカンダの腕を何とか一瞬外すとマット目掛け渾身の炎のパンチを一発繰り出し、その爆風を利用してスクリューパイルドライバーを回避していた。
そのため、マット中央にはバリバリと裂け大きな穴が空いていた。
『ふん!逝く時間が伸びただけだ。』
クルクル シュタン
小百合と正反対のポスト上に立つスカンダは親指を横にし首を切る様にしたあと指を下に下げ地獄に堕ちろとジェスチャーした。
「ふん!あんたこそ!」
小百合も負けじと手の中指を立てて挑発を返した。
そして、言ったか言わないうちにロープに跳躍しその反動を利用してスカンダ目掛け炎を纏ったパンチを繰り出した。
『そんなヘナチョコパンチ返り討ちにしてやる。』
ギラリ
スカンダは小百合の顔目掛けパンチを合わせた。
しかし、小百合はそれをみこおし半回転しスカンダの心臓へパンチを叩き込んだ。
小百合の左頬が斬れ血が滴る。
『ハッハッ効かんぞ!』
ドックン
『うっ…からだが…』
スカンダの動きが一時的に止まった。
「ハートブレイクショット。」
『それがどうしだ!』
「隙の無いあんたの時間を一瞬だけ止められる。」
ゴオウッ
小百合は全身真紅の闘気に包まれる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッッオッラアァーッッ!!!!」
ズゴゴゴオォン
スカンダの体は床にめり込みピクリとも動かなくなった。
「ふう~っ危なかったわ。」
小百合の変身が解けその場にへたり込んだ。
>> 110
再び小百合が目を覚ますと白い天井と蛍光灯が見える。
一瞬、小百合はデジャヴかなと思ったがそれは直ぐ打ち消された。
「意識戻り良かったですね。身体の怪我酷かったんですが、みるみる回復して先生驚いてました。」
見慣れた看護師さんがニッコリ微笑む。
「あんたって娘は勝手に病院抜け出して!夜中、居ないって看護師さんから電話もらった時は心臓止まるかと思ったわよ!朝早くジョギングしている人が遊戯場前で偶然見つけてなかったら…。」
母は罵声を上げそして小百合が寝ているベッドに伏せ嗚咽をもらした。
「心配かけてごめんなさい…お母さん…。」
小百合は母の手を握った。
(私なんとかスカンダに勝てたのね…強敵だったわ…まだ、コレからも闘いは続くのね)
小百合はカードの事、敵の事を考えながら疲労している体を休める為再び眠りについた。
これからの新たなる闘いに備えて…
第一部 完
作者のアル『日ばい(´▽`)ノ
いや~亀レス更新ですいませんでした。物語は途中ですが一応完とさせていただきます。
暇があれば続き書きたいですが分かりません。
1年前に親父倒れ床屋1人で仕事しながら精神病のお袋と認知症の婆ちゃんの世話してて、毎日3~4時間寝れなく睡眠不足で1週間前、夜中2時頃に徘徊している婆ちゃん捜してたら居眠りし人んちの風呂のボイラーと水道パイプにあたり物損事故を起こしてしまいました…。右肋4本骨折と右膝裏の筋痛め、前から持ってる頸椎及び腰部椎間板ヘルニアが悪化し左足が親指とかかと以外痺れ立つのがやっとで全治三ヵ月に…。何とか
お客さんに事情説明してゆっくり仕事させてもらってます。骨折ある程度治ったら腰部をMRI撮って手術するか決めるみたいです。
皆さんも事故に気を付けて下さい。
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