白銀翼の彼方
しばらく違う所に書いていたのですが、思いきってここに載せてみようと思いました。
ヘタクソですが長い目で見てやって下さい。
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>> 250
『それでどうして倒れていたんだ?』
凱が聞くと斗一は答えた。
『それがね。どこかの騎馬隊が通り過ぎましてね。いきなりだったので慌てて避けたのですが、木に頭をぶつけたようで』
また頭を掻きながら笑った。
『騎馬隊?』
『そうなんですよ。凄い数の騎馬隊が東から北に向かって走って行ったんですよ』
『東から北?』
『へい、間違いなく東の国からの道から来ましたからね。それでこの道を北に走り抜けて行ったんでね』
『おいおい、そりゃマズいぞ。昇、北に急ぐぞ!』
『おお、そうだな』
斗一はそんな2人を見てキョトンとしている。
『あんた達はいったい何者なんだい?』
凱はニッコリ笑うと言った。
『俺達は月影の忍さ。斗一さんまたな!』
そう言うとその場から風のように去って行った。
『ふっ、奴らが月影の忍か…まあ良い。いずれまた会えるからな…それまでは…見逃してやろう』
そんな様子を見ている忍がそこに居たとは誰も気付いていなかった。
『凱、騎馬隊が北の国に何の用だろうか?まさか戦になるのか?』
『それはわからないな。北に向っているからもしかすると…』
>> 251
凱達は走りを早めた。騎馬隊は東の国の者なんだろうか?それとも、俺達を襲った阿修羅なのだろうか?それはわからない。しかし早くしないと里が危ない。とにかく早く里に帰らないと…。しばらく行くとその騎馬隊らしき集団が見えた。
『あれは、雷鳴様だ。昇、俺達も行くぞ』
雷鳴は騎馬隊の前に憚り、先に行かせまいとしている。
『お待ち下さい、私の話を聞いていただけませんか?』
『うるさい!そこを退けい!退かぬなら、お主とて斬り捨てるぞ』
『今とてつもない何かが動きだそうとしているのです。今あなた方が北の国と戦ったら奴らの思うつぼです。どうかお考え直していただけませんか?』
『何を今更、仕掛けたのはそちらではないか!父の敵はとらせてもらうからな!』
『だから申し上げているではないですか!あれは奴らが仕掛けた罠だと!もし信じて貰えないのであれば、私の首を跳ねてからにして下さい』
雷鳴は騎馬隊の前にデンと腰を下ろし背を向けた。斬るなら斬れと言いたいのだろう。雷鳴の捨て身の説得であった。
『ちょっとお待ち下さい』
そう言って凱達が両者の間に入った。
『凱に昇か、お前らは下がっていろ。これは俺のやり方だ』
>> 252
雷鳴の鋭い目に凱達は固まってしまった。すると騎馬隊の先頭にいた男が馬を下り雷鳴のそばに歩み寄った。
『もう良い分かったから立て。お主の話を聞こうではないか。なあ雷鳴よ』
そう言って雷鳴の肩を叩いて手を差し出した。それに答えるように雷鳴もその手を取り立ち上がった。
『時村様、ありがとうございます』
『それで、どういう事なのか説明して貰おうか』
時村はまだ若いが、しっかりした感じで、体格もがっしりしていた。
『私の調べた限りでは、阿修羅と言われる忍の集団が事を起こしているのは間違いありません。恥ずかしながら我が親方様までも操られているようで、4つの国を仲違いさせ弱った所を攻めいるつもりなんです。もしかすると今、時村様の東の国に攻め込んでいる可能性もあります』
『何、我が国にか?』
『はい、ここは何卒退いては貰えないでしょうか?後は我が月影がなんとかしますので』
『仕方ない。雷鳴よ、お主を信じようではないか。皆の者、国に帰るぞ』
『しばしお待ちを。この者達を時村様にお付けします。この者達は腕が立ちますから』
雷鳴は凱達を指差し言った。
>> 253
『雷鳴様、私達がですか?』
『詳しい事はこれを見てくれ。お前達はとにかく、時村様をお守りするんだ。分かったな』
雷鳴は凱に手紙の巻物を手渡すと頷いた。そして時村に言った。
『必ずこの者達はお役に立てるはずです』
『分かった。お主ら、馬に乗れ』
そう言うと時村達は東の国へと走り出した。凱達は近くの馬に飛び乗った。馬を走らせながら時村が凱達に話しかけた。
『お主達の名前を聞こうか?』
『私は凱と申します。そしてもう一人が』
『昇と申します』
『凱と昇か!なかなか良い名前だな。ところで、今何が起きていると言うのじゃ?』
時村は凱達にそう聞いた。凱はチラッと昇を見て答えた。
『はい、まだ詳しい事はわかりませんが、阿修羅と言われる忍の集団が何かを企てているようなんです』
そして凱は今まであった事を時村に話した。
『確かにお主達が言うように何かが起こっているようだな』
『はい、間違いなく』
間もなく東の国の近くにまで来ていた。すると凱の月黄泉が震えだした。凱は辺りを警戒した。突然、騎馬隊の前に西の国であった、鉄馬が数名の忍を連れて現れた。
>> 254
『時村様はお下がり下さい』
そう言って凱達は前に飛び出た。鉄馬は不気味に笑っている。そして凱達の方に近づいて来た。
『お主達は、北の月影だな?何故、お主達が時村の元にいる?東の国に牙を剥いたのは確か、月影の忍ではなかったかな?』
『………』
凱達は何も言えなかった。
『まあ良い。ここでまとめて始末してやる』
鉄馬は腰の月光を抜いた。凱は震える月黄泉を握った。
『それはもしかして月黄泉か?何故にお主が?』
鉄馬はニヤリとしながら近づいて来た。凱達は身構えた。
『時村様、早くお逃げ下さい。後は私達がなんとかします』
『わかった。後は頼む』
時村は騎馬隊を引き連れ、その場を去って行った。
『おやおや、余計な事を…まあ良い。時村は後からゆっくりと始末しよう』
鉄馬の気迫は凄ましく近寄り難かった。
『者共かかれ』
そう言うと忍達が一斉に凱達に向かって来た。凱は月黄泉ではなくもう一つの忍刀を抜いて攻撃を受けた。今までの忍とは違いかなりの強者であった。だが、凱達の方が少し上回っていた。
『喰らいやがれ!』
昇は手裏剣を投げた。その忍達がそれを弾く。しかし昇の狙いは影の方だった。
>> 255
手裏剣が影を捕らえると忍達は石のように固まった。すかさずそこを凱達は忍達を斬った。
『なかなかやるではないか。だが私にはかてない!』
鉄馬はゆっくりと月光を抜いた。月光の周りに白い炎のようなものが覆った。凱の月黄泉の震えが激しくなる。そして何処からか凱に語りかける声がした。
《今こそお前の本当の力を見せるのだ。我を抜くのだ》
それは月黄泉が凱の頭の中に直接語りかけて来たのだった。凱は月黄泉を強く握るとゆっくりと抜いた。刃からは黒い炎が包んでいる。凱と鉄馬は間合いを取りながら、お互いの出方を見ていた。すると鉄馬が先に斬りかかった。白い炎と共に凱に襲いかかった。すかさずそれを凱は月黄泉で受け止めると、凄まじい光と共に鉄馬は弾かれるように後ろに飛んだ。鉄馬は体勢を直すとニヤリとしながら言った。
『それが月黄泉の力か。まだ月光では歯が立たぬか…。だがこれならどうだ!!』
鉄馬はブツブツ何かを唱えると月光を大きく構えた。月光の周りに白い渦ができ、そして鉄馬の体を覆いだした。そして凱達に向かって振った。すると冷気を帯びた風が刃のごとく襲いかかった。
>> 256
凱は何かに操られるように月黄泉を前に出した。凱達の前に光の壁が出来て、月光から放たれた冷気の刃はことごとく弾き返した。
『何っ!?これも効かぬのか』
鉄馬は苦笑いをした。
『どうやら無駄だったみたいだな。今度はこちらから行くぞ。喰らえ!!』
凱は飛び上がり鉄馬の頭上に月黄泉を振り下ろした。
ガキィン
刀と刀のぶつかる凄い音がした。鉄馬は必死に受け止めている。だが月黄泉の力が勝っている為、膝をついた。凱はさらに押さえつけた。
『ここまでとは…。だが簡単には負けぬぞ』
鉄馬はまた何かを唱えた。その瞬間、凱の体が弾き飛ばされた。
『うわーーーっ!!』
凱は地面に転がった。鉄馬はまだ何かを唱え続けていた。そして月光を構え凱に向かって来た。凱も構えた。するとまた頭の中で月黄泉が語りかけ呪文を唱え出した。それは凱の口から発せられた。唱え出すと月黄泉が金色に輝いた。そして月黄泉を大きく振った。金色の光は鉄馬に向かって行った。それを鉄馬は避けきれずまともに喰らった。
『うわーーーっ!!』
今度は鉄馬が飛ばされて後ろに飛んだ。数回転げ回りながら木にぶつかった。
>> 257
『くっ、なかなかやるな。だがそれは月黄泉の力のおかげだ。お主の力ではない』
鉄馬はぶつけた所をおさえながら立ち上がった。少しふらつきながら月光を構えた。
『また、遭おう』
そう言うと月光を振った。凄まじい風が吹き、土埃と共に鉄馬の姿は消えたのだった。
『チクショウ!逃げられたか…』
『奴とはまた何処で会う事になるだろう』
『会いたくはないけどな』
昇は渋い顔しながら言った。
『それより東の国に急ごう』
『そうだな急ごう』
凱達は東の国に向かって走り去った。しかし、それを見ている男がいた事を凱達は気付かなかった。東の国は農業が盛んで、発展してきた国であった。凱達が走っていると田畑が一面に広がってきた。
『すごい田畑だな』
『さすが、農業の町だけあるな』
『あれが、時村様のお城かな?』
昇が指差す方には大きなお城があった。周りは堀井で囲まれていて敵からの侵入がしにくいようになっていた。入口の門の所には門番が2人立っていた。凱達が門に近くと持っていた槍を向けた。
『貴様ら何者だ?ここは何人たりとも通さぬ』
門番は凄い形相で言って来た。
『俺達は、月影の忍だ。時村様の護衛に来た』
>> 258
『月影が護衛だと?』
門番達は見合わせながら不思議そうな顔をしていた。その騒ぎを聞きつけたのか、1人の家来が走って来た。
『その者達を通せ。時村様がお待ちだ』
門番達は槍をどかすと軽く会釈をした。
『お二方こちらへ』
家来に付いて城の中に入って行った。城の中は静まり返っていた。そして時村の居る部屋へと通された。
『おお、待ちかねたぞ。無事でなによりだ』
時村はそんな風に明るく凱達を出迎えた。
『ところで、あの者達はどうなったんだ?』
『すみません。逃げられました』
凱達は申し訳なさそうに言った。しかし、時村は笑顔で言った。
『逃げられたか、仕方あるまい。かなりの腕の持ち主のようだったからな…やはりあの者達は阿修羅だったのか?』
『いえ、あの者達は西の国の忍、陽炎です。多分、あの者達は阿修羅に操られているのかもしれません』
凱の話に時村はしばらく考え込んだ。
『ならば、あの者達も本来は敵ではないと言う事だな?』
凱は意外な言葉に困惑した。確かに時村の言っている事は間違いではないが、陽炎が阿修羅と手を組んでいる事も考えられる。凱は返答に困った。
>> 259
凱は雷鳴からの手紙の事を思い出し開いた。そこには阿修羅の事が書かれていた。
《阿修羅とは北の遙か彼方に存在する島に存在する忍で、それ以外は謎となっている。それが今動き出した。彼らは操る力を持ち、西の国を既に操っている。その中の鉄馬は、昔その里に入り今にいたる。まずは東と南の国に北の国を襲わせる魂胆になっていたようだ。既に、紅龍は操られていると思われる。ここはまず、東の国と手を組まない事には阿修羅を倒せないと思う。後はお前達に任せる。私は親方様を救う。後は任せたぞ》
と言うような事が書かれてあった。
『ならばやはり、お主達に任せるしかないと言う事だな』
『はい時村様、私達に任せて下さい。必ずなんとかいたします』
『その言葉頼もしいなあ。期待しておるぞ』
時村はそう言った。凱達は頭を下げた。
『さて、今からどうしたら良い?』
『そうですね。とりあえず城を守る為に兵を集めて下さい』
『おっ、それは気がつかなった。では早速…』
時村は家来の1人を呼び耳打ちをした。家来は軽く頭を下げると部屋を出て行った。時村は満足そうに凱達を見た。
>> 260
『後、どうしたら良いかな?』
『後は待つだけです』
『ほう、後は待つだけか。それは面白い。あははは…』
時村はデンと座り、凱達を見ていた。何かに気がついたのか凱に尋ねた。
『お主の持っている刀は素晴らしい。それは何と言う刀だ?』
『はい、これは月黄泉と言います』
『そうか、それと似た物が、我が城にもあるのだが…』
『似た物がこの城に?』
『我が家に伝わる物で、土蜘蛛と言う2つで1つの短刀がある。そうだ見せてしんぜよう。こちらに参られ』
凱達は驚いた。以前聞いた、草薙の剣になる為の1つであった。時村は立つと城の奥に蔵に連れて行った。蔵はその辺りの民家よりも大きかった。
『なんだ。この蔵の大きさは』
昇が驚いている中、時村は錠前を開けて蔵の扉を開いた。中には古い書物や坪、甲冑などが置かれてあった。微かではあるが、凱の月黄泉が震えていた。時村は奥まで行くと1つの木箱を出して来た。
『これだ。その広い所で開けて見せよう』
蔵の広くなった所に木箱を奥と紐を解いた。そして蓋を持ち上げるとそこには蜘蛛の形をした、2つ短刀が現れた。
『どうだ…似ておろう?』
凱はそれを覗き込んだ。
>> 261
確かに柄の所に彫刻が施されていた。そう土蜘蛛が描かれていた。
『これは代々、伝わって来た物だ。家来の誰にも見せた事がない。お主達が初めてだ』
背後に気配がした。凱は後ろ振り向き手裏剣を投げた。手裏剣を呆気なく払い飛ばされた。
『何者だ?』
光を背に向けて見えない顔が少しずつ見えてきた。
『お前は…』
そこに現れたのは鉄馬だった。
『ほほう、そんな所に会ったのか…お主達を追いかけここまで来て幸いだったな。探す手間が省けた』
『何っお前には渡さない』
『また、やると言うのか?私もそんなに暇じゃなくてね』
そう言うと何かを床に投げつけた。すると煙が部屋に立ち込めた。鉄馬は煙り玉を投げたのだった。
『時村様、気をつけて!』
と言うのが早いかどうかの瞬間に時村のうめき声がした。煙ではっきりしない。凱は時村に近づくと、床に人影があった。煙を払いながら見ると時村だった。やっと煙も晴れてはっきり見えた。先ほどまで持っていた木箱がない。
『しまった!』
入口の方を見ると木箱を持った鉄馬がいた。そして不敵に笑うと言った。
『これは頂いて行く。また会おう』
そう言うと姿を消した。
>> 262
『待て!!』
凱達は追っかけて飛び出したが、もうそこには姿は無かった。
『畜生!!逃げられたか』
時村は立ち上がりながら言った。
『まあ良い。あんな物いくらでもやるは…』
凱達はキョトンとした。時村はニヤリと笑うとまた奥の方へ歩いて行った。またそこから木箱を出した。
『これが本当の土蜘蛛だ。さっきのはこんな事もあるだろうと作った偽物だ』
時村は木箱を開けると中にある土蜘蛛を見せた。先ほどとは違い、まるで動きだしそうな見事な彫刻が施されていた。
『時村様、驚かさないでください。だが、無事で良かった』
『すまぬ、昔から言うではないか、騙すなら味方からと…あははは…』
凱達もつられて笑った。すると時村が真面目な顔をして言った。
『お主達に頼みがある。これを貰ってくれないか?多分、凱がこれを持つべき者だと思う』
『それはこの国の宝、私が貰う訳にはいきません』
『凱よ。お主が嫌でもこの土蜘蛛はいずれお主の下へ行くだろう。それが早いか遅いかの違いだ。だから今受け取っても一緒であろう?』
凱は悩んだが時村の持つ土蜘蛛を受け取った。すると月黄泉が共鳴し始めた。
>> 263
すると2つの土蜘蛛が1つの真の土蜘蛛に変貌した。その土蜘蛛が宙に浮かび、何故か昇の手元に飛んだ。昇はそれを掴んだ。そして凱を見た。
『何故、俺の所に来るんだ?』
『さあ?』
時村が閃いたように言った。
『昔、父上が言っていたのだが、物は人を選ぶと…だから、土蜘蛛も持ち主を選んだのだろう』
『でも、何故に私なんでしょう?』
『それは土蜘蛛に聞いてくれ。あははは…』
そう言うと蔵を出て行った。凱達も後を追った。そして時村の部屋に着くとまた話をし始めた。
『ところで、さっきの話だがこれからも待つだけで良いのか?奴は意図も簡単にこの城に入り込んだ。よって守りの強化をしないといけないと思うのだが…』
『そうですね。もっと優れた者を増やさないといけないかと思います』
急に部屋の外が騒がしくなった。そしてそこに1人の男が家来達を押しのけ入って来た。そして時村の前に跪いた。
『殿、只今の件、この妙斬にお任せくださいませんか?』
『おお、妙斬か…お主が居たな!』
妙斬とは明光寺の僧侶であった。東の国は忍はいないが、武術に長けている僧侶の集団が居たのであった。妙斬はその中心人物であった。
>> 264
『はい、私共でしたら対抗する事は可能かと思います。後はこの城の者を集め策を練れば問題ないかと思いますが』
妙斬はチラッと凱達を見た。凱はその視線にドキッとした。余りに鋭すぎる視線は今まで感じた事のないものだった。
『この者達は?』
『北の月影だ。代を守る為にここに来ている』
『このような者が居なくとも、私共が居れば十分ございましょう。早々に帰って頂いてもらいましょう』
妙斬は再び、凱達を睨みつけた。意味のない嫉妬だろうか、変に凱達を敵視している。
『妙斬よ、まあそう言うでない。この者達は一度ならずとも代を助けてくれておる』
『しかしながらこの者達など居なくても…』
妙斬は必要以上にそう言って来た。時村も少し呆れた顔をしていた。そこに凱が割り込み言った。
『時村様、私共は一度里に帰り確認したい事もあります。ここは妙斬殿に任せたいのですが…』
『お主がそう言うならそれでもよいが…』
時村は出来れば居て欲しいようではあった。別に妙斬の力を信じていない訳ではないが、凱達にも居て欲しかったのだ。
『それでは妙斬殿、後は頼みます』
そう言うと凱達は里を目指した。
>> 265
妙斬は凱達の背中を見つめながら、時村に言った。
『時村様、あの者達はお父上である利蔵様を暗殺した忍ではないですか…何故に信用なさるのですか?』
時村は妙斬を見つめ微笑みながら言った。
『あの者達の目を見たら分かる。真っ直ぐな目をした若者だ。妙斬、お前には分からなかったか?』
妙斬は悔しそうにした。
『でも、私には理解出来ません』
『お主が理解出来ぬとも私はあの者達がこの救ってくれる気がする。いずれ分かるだろう』
妙斬はそれ以上は何も言わなかった。その頃、凱達は里に向かっていた。
『凱、この土蜘蛛を俺が本当に持っていて良いのかな?』
『あははは…それは土蜘蛛の意志でお前に行った訳だからな。後はお前が扱えるかどうかだな…』
昇はまだ納得いかないのか悩んでいた。
『昇、その訳を雷鳴様に尋ねようと思ってね。だから一度里に帰る事を決めた』
『雷鳴様なら何かを知っているかもな』
昇は土蜘蛛を腰に収めた。そして凱達は足を早めた。
『やはり、間違いない。あの者が若様だな…』
それを追う1人の男には気がついていなかった。
『凱、お前の月黄泉と俺の土蜘蛛は草薙の剣の一部だよな?』
>> 266
『雷鳴様の話ではそう言う事だな。それがどうしたんだ?』
昇は何か考えながら言った。
『憶測なんだが、俺とお前は何か関係あるのではないかな?』
凱は昇の言いたい事がわからなかった。
『だからどういう事だよ?』
『草薙の剣を4つに分けて各国に渡したのだよな。それで扱えるのは選ばれた者だけなんだから、お前も俺もそれに関わる者の末裔になるのではないかと思ってな』
昇の言っている事は確かに当たっている。ならば昇も4つの国に関係しているのかもしれない。
『なるほど、昇もたまにはすごい事が言えるようになったのだな』
からかうように凱が言うと昇は膨れっ面をした。
『馬鹿にしやがって』
『あははは…すまんすまん。とにかく雷鳴様が何か知っているかもしれないから先を急ごう』
『ああ、そうだな』
そうこうしている内に凱達は里に着いた。里はいつもと変わらぬ様子だった。
『凱、昇無事だったのね』
そう言って現れたのは咲だった。
『よう咲!』
『何かあったのか?』
昇は咲に近づいて言った。
『そうじゃないけど、心配で…』
『俺達は殺されても死にはしないよ』
昇は笑って言った。
>> 267
『もう昇たらっ』
『咲は本当に心配性だな』
昇と咲は凱の目の前で追いかけっこをしている。それを見ながら凱が言った。
『ところで、雷鳴様は戻られていると思うのだがどちらに居られるかな?』
凱は里の中を見渡しながら咲に尋ねた。
『多分、屋敷に居ると思うけど…』
『そうか、ありがとう。咲、すまないが話は後で話す。今は雷鳴様に会わないといけないんだ。昇、早く行こう』
『凱…昇…』
凱達は咲を残し雷鳴の居る屋敷に向かった。屋敷は静まり返っていた。本当に居るのだろうかと思うぐらいだった。屋敷に上がると伝助が障子の前に刀を抱いて寝ていた。
『おい、伝助!?』
伝助はその声に驚き刀を抜こうとした。
『馬鹿、何寝ぼけていやがる。俺達だよ』
伝助は驚いた顔をした。
『凱に昇じゃないか!何やっているんだよ』
『馬鹿か、お前こそそんな所で何寝ているんだよ』
伝助はまだ寝ぼけているのか、状況を飲み込めていないようだった。
『確か、紅龍様を見張っていたのだが、何かが聴こえて来て…それでウトウトして…う~ん後は記憶にないな…』
凱と昇は顔を見合わせた。そして笑いながら言った。
>> 268
『お前、紅龍様に眠らされたな!』
『くそっなんてこった。この俺様が眠らされるとは…』
『お前が紅龍様に叶うわけなかろう』
『何を!!』
伝助が昇に掴みかかろうとすると凱が間に割り込んだ。
『おいおい、2人共止めろ!!』
まだ伝助が手と足をバタつかせわめいていた。
『伝助!!いい加減にしろっ!!』
そう言うと凱は伝助を庭に投げ飛ばした。お尻を強く打ったのか、お尻をさすりながら立ち上がった。
『そんな事より、雷鳴様はどちらに居られる?』
『確か、帰って来られて親方様の所に向かわれたが…その後はわからないな』
『そりゃそうだ。寝ていたのだからな』
昇がまたからかった。
『昇、てめぇーっ!』
伝助が昇をまた殴ろうとした。
『止めろ!!』
凱の一喝に昇と伝助は押し黙った。
『お前らいい加減しろ!今がどんな時なのか、わからないのか?』
『凱すまん』
『俺もふざけ過ぎた。伝助すまない』
『いや、俺もムキになり過ぎた』
凱は2人を見て言った。
『とりあえず親方様の所に行ってみよう』
屋敷の中を親方様の所まで向かった。やはり屋敷の中は静まり返っていた。
>> 269
奥に親方様の部屋の前に来た。やはり中からは何も聞こえて来ない。凱達が覗くと部屋に誰かが倒れていた。
『雷鳴様じゃないか、大丈夫ですか?』
倒れていたのは雷鳴だった。近寄り揺さぶってみる。息はしているので生きてはいる。凱は雷鳴を抱き起こして、顔を軽く叩いた。
『うう…お前達…俺はいったい…』
まだ意識がはっきりしてないのか、状況を飲み込めていないようだった。
『雷鳴様しっかりして下さい』
『まだクラクラする…確か…俺は親方様と話をしにここまで来た。そして親方様の前に来て話をしていた。その時に何かが聞こえたような…その後からの記憶がなくなって…俺は眠らされたようだな…』
『確か、伝助も同じ事を言っていたな』
『ああ、確かにそんな事言っていたな。そうかわかったぞ。それでこの屋敷は静まり返っていたんだ』
『あっそう言う事か!!だから静かなんだ』
雷鳴は頭を抱えながら起き上がるとそこに座り直した。
『やはり奴らがすでに色々な所に出回っているようだ。ところでお前達は何故ここに居る?東の国に居るはずだろう?』
『実は……』
凱は東の国であった事を話し、そして帰って来た理由を言った。
>> 270
『なるほど、鉄馬が東の国にか…それでその東の国の宝とはどんな物なんだ』
『はい、以前の草薙の剣に出てきた土蜘蛛なんです』
凱は昇を見た。昇は腰にある土蜘蛛を取り出し雷鳴に見せた。
『これが本当の土蜘蛛か…ふふふ』
雷鳴が突然、笑いながら立ち上がった。
『愚かだなお主ら!』
『あっ!!もしやお前は!!』
凱達は油断していた。そこに居たのは雷鳴ではなかった。バッと翻るとそこに現れたのは鉄馬だった。
『あの時、奪った土蜘蛛が本物でない事に気がつかないとでも思ったか?すぐにわかって先回りしてお前達の帰りを待たせて貰った』
『貴様!!』
凱達は鉄馬に襲いかかった。鉄馬は腰の月光を抜き横に振った。凱達を風圧が襲い壁に飛ばされた。
『お主らでは俺には勝てぬ。この土蜘蛛は貰って行くぞ』
鉄馬がそう言って立ち去ろうとした瞬間、何かが鉄馬に襲いかかった。その弾みで土蜘蛛が昇のもとに転がって来た。いや自分の意志で戻ってきた。昇はそれを取ると構えた。
『若様、ご無事ですか?この猿飛が来たからにはもう大丈夫です』
凱達は突然の事に何が起こったのか、理解出来ないでいた。
>> 271
その猿飛は忍者特有の刀の持ち方をしていた。刃を後ろに向け走りながら斬るのに適している構えだった。鉄馬睨み合っていた。
『若様!ここは私に任せてお逃げ下さい!!』
どう見ても凱達を見て言っていた。凱達は見合って猿飛の言う通りにその場から逃れた。
『待て!!』
猿飛が鉄馬を遮る。
『お主の相手はこの儂だ』
猿飛は鉄馬に斬りかかった。2人の刀がぶつかり合い火花が散る。
『お主は猿飛ではないか。何故、ここに居るんだ?』
『鉄馬よ、儂はずっと若様を探しておったのじゃ。街で偶然に大きくなった若様を見つけたのじゃ。儂が居る限りお主には殺させはせぬ』
そう言うと鉄馬の足元に煙玉を投げつけた。辺りが煙で見えなくなった。その隙を見て猿飛は姿を消した。
『畜生!!こんな物で逃がしてしまうとは…』
鉄馬は悔しがりながらその場から消えた。その頃、凱達は里の近くの寺の近くに居た。
『ふう~ここまで来たらしばらくは大丈夫だろう。ところでさっきの猿飛とは何者何だろうな?』
『そうだな…俺達のどちらかに若様と言っていたな…』
2人は寺の前に座り込んだ。するとそこに何者かが現れた。それは先程の猿飛であった。
>> 272
『お前はさっきの…』
『若様ご無事で良かった』
やはり凱達のどちらかに言っているようだった。
『改めて私の名は猿飛と言います。ずっと若様を探していました。まさかこんなに立派なられているとは…』
猿飛は少し涙ぐみながら話していた。そして近づいて来た。
『若様、本当に大きくなられた』
『なあ~さっきから若様若様と言っているが誰の事だよ?』
昇は痺れを切らせて猿飛に尋ねた。猿飛は笑いながら言った。
『あははは…それは申し訳ない。会えた喜びで肝心な本人が気がついておられない事に気がつきませんでした。貴方ですよ』
そう言って猿飛は昇の肩を掴んだ。凱達は驚いた。それはそうだ。昇がどこかの若様だったのだ。
『凱…俺が若様だって…』
『そうみたいだな』
凱達の様子見て猿飛が話し出した。
『貴方が間違いなく、西の陽炎の若様なんです』
『陽炎の若様…俺が…』
『そうです。その証拠に貴方は土蜘蛛を持たれている』
昇は土蜘蛛を見た。
『確かに土蜘蛛が昇を選んで受け取った。それが何故、西の若様となるんだ?実際、これは東の国の物ではないか…それが何故に?』
>> 273
凱達の疑問は当たり前だった。それを聞いた猿飛は笑いながら答えた。
『それには訳があるのだ。元々、土蜘蛛は草薙の剣の一部なのはお主らも知っておろう』
『ああ…その事は知っている。4つの国に分けられた事もな』
『そう4つの国に分けられた。だが、一つ一つの力があまりに大きすぎた。選ばれた者が使うととんでもない力が現れてしまう。下手をしたら国一つが吹き飛んでしまい兼ねなかった。それで考えられたのが交換する事だった。東と西、そして北と南で交換して守った。それで東の土蜘蛛は西の物だから貴方が若様と言う訳になる訳だ』
『なんかややこしいが、俺が陽炎の若様なんだな』
『まあ、そういう事だ。だがその前から貴方が若様だとはわかっておりました』
凱達は顔を見合わせて言った。
『じゃあ、今までの話は何だったんだよ』
『まあまあ、そう焦らないで下さい。今から教えますから…』
凱達は呆れた顔をした。猿飛は笑っている。
『実は若様には痣が有るのです。左のおでこの所に星のような形した痣がね』
昇のおでこには確かに星の形をした痣があった。
『だが、それだけでは本当に若様なのかが、わからなったのです』
>> 274
凱達はなんとなく猿飛の言いたい事が分かった。
『確かに痣だと似たよう者がおりました。しかし、土蜘蛛が貴方を選んだ瞬間に若様に間違いないと分かったのです。それに一通り素性も調べさせてもらいました。間違いなく貴方が若様なのです』
『なるほど…俺が若様ねぇ~。なんかピンと来ないな』
昇は頭を掻きながら言った。凱もそれを聞いて頷いた。
『それはそうと何故、俺は捨てられていたんだ?』
『滅相もございません。捨てるなんて!あれは事故なんですよ…』
『事故?』
『はい、事故なんです。あの当時はまだ戦火の最中でした。私は若様を護衛していたのですが、山道の途中で敵に襲われまして不意にも矢を受けてしまい崖の下に落ちてしまいました。その時、若様も一緒に落ちたのですが、私が目を覚ました時には若様がどこにもおられなかったのです。それから方々を探したのですが見つからなくて今に至るのです』
『そうか…俺はてっきり捨てられたのだと思っていた。雷鳴様に拾われる前の記憶が全くなかったからな…』
『申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに若様にご苦労かけさせてしまって…』
猿飛は本当に申し訳なさそうにしていた。
>> 275
『いや、そんな事はないよ。そのおかげでコイツらとも会えたしな…強くなれたと思うよ。猿飛さん』
『若様、そう言っていただけると嬉しゅうございます。それと昔のように猿とお呼び下さい。……とは言っても記憶が無かったのですよね…』
『おいおい…またそんな顔して…猿笑えよ』
『若様、今なんと…』
『えっ、笑えって…』
『いえいえ、その前でございまする』
『猿か?』
『そうでございます。猿とお呼び下さいました。猿は猿は…本当に嬉しゅうございます』
『おいおい…』
凱達はそんな猿飛を見てどうして良いか分からなくなった。それを越えてしまうと笑ってしまった。そしていつの間にか、みんな大声で笑っていた。
『あっそんな事より里は大丈夫なんだろうか?』
『そう言えば本物の雷鳴様も探さなくてはならないな…』
『それならば私もお手伝いさして下さい』
『それなら行こうか!』
凱達は寺を出て里の方に向かった。里に向かう道を降りて行くと誰かが叫んでいるのが聞こえて来た。それはさっき起こした伝助が凱達を探して、里の中を叫んでいたのだった。
『おい、伝助どうした?』
『こんな所に居たのか!探したぞ!』
>> 276
伝助は息を切らしながら言った。
『どうしたんだ?』
『どうしたんだって…お前らが急に居なくなるからさ…何かあったかと思ってな』
『大丈夫だ。この通りピンピンしているよ』
『それなら良かった。ところで雷鳴様がお呼びだぞ』
『何っ雷鳴様は無事だったのか?』
『…ん?どう言う意味だ?』
『わからないなら良いよ。さあ、行こうか!』
『なんか気になるな…』
そう話ながら凱達は雷鳴の下に向かった。
『ところで、その人はどこのどなたなんだ?』
伝助は猿飛を見ながら不思議そうな顔している。
『この人は猿飛さんだ。西の街でお世話になった人だ。こっちにたまたま来たので話をしていた』
猿飛は驚きはしたが昇の話に乗っかって挨拶をした。
『猿飛じゃ!よろしくな』
『そうか、伝助だ。よろしく』
里に着くと辺りを警戒した。まだ鉄馬が潜んでいる可能性もあるからだ。一通り調べたが、何も無さそうなので、雷鳴の部屋に向かう事にした。猿飛には伝助としばらく外に居てもらう事にしてもらった。そして雷鳴の部屋に入るとそこには雷鳴と数人の幹部が座っていた。何か難しい顔をしていた。
>> 277
『おお…待ちわびたぞ。こちらに来い』
『遅くなりました』
凱達は雷鳴の座る所に座った。すると雷鳴が重々しく話出した。
『お前達…ここであった事はわかっているな?』
『はい!』
鉄馬が雷鳴に化けていた事だ。
『今、全ての国は正体不明の存在、阿修羅に狙われている。すでに何人かは操られいるようでもある。これは一大事である事は間違いない。すでに紅龍は奴らの配下となり親方様までも手に掛けていた』
『なんですって?!』
凱達は驚いた。親方様が殺されていたなんて…。
『親方様の遺体が裏山で見つかった。それはかなり前に殺されていたようだ。腐食が酷かったからな。里の者にはまだその事は言っていない。お主らもまだ他の者には言うな。わかったな』
『それなら私が話していた親方様は誰だったのですか?』
『多分、阿修羅ではないかと思う。今は紅龍も里から姿を消している。この事から紅龍も阿修羅に操られているのは間違いない』
『ならば、時村様の暗殺を命令したのも阿修羅と言う訳ですか?』
『ああ…そういう事になる。俺も納得いかなかったのだが…あの時に気がついていたなら…その事が悔やまれてならん』
>> 278
雷鳴は唇を噛み締めた。
『雷鳴、それは仕方ない事だ。我々とて同じ事、お主が悔やむ事はない』
幹部の長にあたる正道がぽそりと言った。
『そう言っていただくと少しは気が楽です』
雷鳴は落ち着いたのか、強張った顔が少し綻んだ。
『それでこの里は阿修羅に対して対策をとる事にした。お主らにも手伝ってもらう』
凱達は頷いた。
『ところで、お主らがここにいると言う事は、何かあったのではないのか?』
『あっそうでした。実は東の時村様から土蜘蛛を頂戴しました』
『ほう…時村様は宝の土蜘蛛を…それでどうしたんだ』
『実はその土蜘蛛が昇を選んだのです』
雷鳴はハッとした顔をした。何かを知っているのだろうか?
『凱の事は以前話したが、昇についてはまだだったな…』
やはり隠していたようであった。
『いずれわかるとは思っていたのだが…確かに昇お主は西の国の者だ』
『やはりそうだったんですね。それで偶然なんですが1人紹介したい人がいます』
『ほう…それはどちらにおられる?』
凱は部屋を出て猿飛を呼んだ。猿飛は雷鳴達の前に現れて座った。
『私は猿飛と申します』
正道が猿飛を見て何か気がついたようだった。
>> 279
『お主は猿飛か?!儂じゃ正道じゃあ~』
『おお~正道ではないか!!懐かしいのぉ~』
この2人はどうも知り合いであったようだった。2人は立ち上がると抱き合い違う部屋に向かった。
『まあ、あの2人はほっといて…昇、お主の話をしておこうな』
『はい!』
『お主はな西の国の山道近くを体中傷だらけになりながらフラフラ歩いている所を俺の弟の雷醒が見つけたのだ。辺りには誰も居らず、記憶もないから里に連れ帰った』
『雷醒様…?』
『お主らは知らぬのだったな…雷醒は俺の弟だ。その後の戦で死んだのだがな…。敵の矢を受けてしまい手の施しようがなかった…昇…お主を本当に可愛がっていたからな…死ぬ間際までお主の事を心配していた。その後、俺が変わってお主を見る事になったのだが、最後に奴はお主の素性の事を教えてくれた。雷醒は自分で色々調べていたようだった。それで最後にお主が西の国の者である事を聞いたのだ。それ以上の事まではわからなかったようだが…以上だ。それ以外は猿飛殿に聞いたのであろう?』
『はい、全てを聞きました。その後の事は今ので分かりました』
昇はそう言った後、何かを考えている風であった。
>> 280
『それで雷醒様の墓はどちらに?』
昇が考えていたのは雷醒に会うことだった。会うと言ってもすでに亡くなっているから墓参りをしたいと言う事だろう。雷鳴はその思いに気がつき答えた。
『裏山の所にある。今は親方様と一緒に眠っている』
『そうですか、後で行ってみます』
『そうか…雷醒も喜ぶだろう』
『ははっ』
昇は雷鳴に頭を下げた。
『ところでお主らには紅龍の行方を探してもらいたい』
『紅龍様を…』
『奴は操れているにせよ、そうでないにしても親方様を手に掛けたのは間違いない。罪は罪…責任はとってもらう。お主らにはその紅龍の抹殺を命じる』
『でも、紅龍様はかなりの実力者…私共で相手になるでしょうか?』
『はははっ…今のお主らであれば十分に勝てる。それにお主らには妖刀が味方にいるではないか!』
妖刀月黄泉、妖刀土蜘蛛この2つはかなりの力を持つとは思うが、阿修羅の力を得た紅龍が簡単に倒せるとも思えなかった。
『凱、昇、自分を信じるのだ。自分を信じて貫き通せ。ならばその力を十分に発揮出来よう。それとこれも渡しておこう』
そう言って雷鳴は巻物を1つ手渡して来た。それは月影の秘伝書であった。
>> 281
『この秘伝書は?』
『それは忍でも優れた者にしか渡せない物だ。それを会得しているのは、この里では幹部4人衆とこの俺だけだ。お主らなら俺達の後を継げる者と思える。その巻物に恥じぬよう修得するのだ。良いな?』
『分かりました。我々2人、皆様に恥じぬよう修得します』
『それでは、早速修行いたせ!!そして紅龍を見つけだせ』
『はっ!』
凱達はその場を下がった。
『なんかとんでもない事になったな…』
『確かにな…期待してもらうのは嬉しいが、荷が重すぎるよな』
『そうだな…さて、その秘伝書を見て見るか?』
『そうだな』
凱達は秘伝書を読んだ。そこには自然の力を自分の物にする技が書いてあった。
『そう言えば、雷鳴様は自在に雷を起こしていたな』
『それは違うだろ!俺達を怒っていただけだ』
『………』
凱達は大笑いした。寒い冗談だった。
『さて冗談はさておき、鍛錬するには時間がないな…』
『なら紅龍様を探しながらだな』
『とは言うものの、さてどこを探したら良いものか?』
凱達が困っていると再び雷鳴が現れた。足下にはコロコロした犬がいた。そう雷鳴の愛犬茶々丸だった。
>> 282
『忘れていた。紅龍を追いかける為にこの茶々丸を使え。こ奴なら探せるはずだ。後はこ奴がお主らに従うかだがな』
雷鳴はニヤリと笑いながら去って言った。茶々丸は後ろ足で頭を掻いている。
『本当にこいつで探せるのだろうかな?』
茶々丸の耳がピンと立った。
『ふん!お主らには負けぬは!』
凱達は飛び上がらんばかりに驚いた。なんと犬の茶々丸が喋ったのだ。
『そんなに驚く事ないだろう。忍犬だから喋る事ぐらい出来るわ!』
凱達は手を横に振って同時に言った。
『普通、犬は喋れない!!』
『何っ!…気にするな喋れる事にしておけ』
『………』
『まあ良い。雷鳴様からちゃんと紅龍の匂いは嗅がせてもらっているから心配するな。では、行くぞ!』
『何故お前が仕切るな!』
まるで喜劇のような出会いの3人…いや、2人と1匹の旅は今から始まる。凱達は咲や伝助、雷鳴様達に見送られ裏切り者の紅龍を探す旅に出かけたのだった。
『若様~若様~』
後ろから誰かが叫んで追っかけて来た。まあ正体は分かっているのだが…。
『若様、待って下さい。私を置いて行かないで下さい』
その声の主はやはり猿飛だった。
>> 283
『は~は~は~若様、お待ち下さい。は~は~私もお供します』
『猿飛さんは無理しなくても…すでにお疲れようで』
『は~は~何をおっしゃいますか!は~は~今まで若様の事を守れなかった分、これからはお役に立つつもりです。は~は~』
猿飛はずっと息をきらしながら喋っている。そして咳き込んでいる。
『仕方ないな…ならついて来たら良いよ。その前に雷醒様の墓参りに行くからな』
昇は猿飛の背中をさすりながら言った。
『懐かしいのぉ~雷醒は良い奴だったのに、惜しい男を亡くした』
そう言ったのは茶々丸だった。
『茶々丸は雷醒様を知っているのか?』
『当然じゃ!儂は雷醒の面倒を見ておったのだからな!』
『面倒を見ていたって……茶々丸はいくつなんだ?』
『…ん、そんな事は気にするな!それより雷醒の話だがな…里では1、2を争う程の忍だった。親方様も一目置いていた。もしかすると雷鳴よりも優れていたかも知れないな』
凱達は茶々丸の話を聞きながら歩いていた。だが1つ気になった。それは雷醒様の事も雷鳴と呼びすてしている所だった。と言う事はもしかすると茶々丸は雷鳴様よりも年上なのかと言う事だった。
>> 284
『お主ら人の話を聞いておるのか?"お前は犬だろう"とつまらない事は言うなよ』
凱達が考えて込んでいると茶々丸はそう言ってきた。だが実際に茶々丸は犬…"お前は犬だろう"って事を言うのをぐっとこらえ、出しかけた手を引っ込めた。もお文句言うのもアホらしくなって来たからだった。
『それもあんなつまらない攻撃でやられるとはな…儂も久しぶりに行くから花でも手向けるか…』
茶々丸は道を外れどこへ居なくなった。しばらくするとひょっこりと現れた。口には山で摘んで来たのか花を何本かくわえていた。そしてスタスタと凱達を追い越し前を歩いて行った。いかにも自分の後について来いとばかりである。しばらく裏山の奥に古びた墓と真新しい墓並んであった。その後ろには歴代の長達の墓も並んでいた。
『ここが雷醒の墓じゃ』
凱達は墓の前に座ると拝んだ。知らなかったとは言え助けもらったお礼と今からの事を報告した。茶々丸は採って来た花を置くとスタスタ行ってしまった。
『さて、昇そろそろ行こうか?』
『そうだな。出発しよう。ところで気になったのだが、さっきから猿飛さんいないような…』
辺りを見るが確かに姿が見当たらなかった。
>> 285
『本当にどこに行ったんだ?』
『仕方ない。ほっといて茶々丸を追っかけよう』
凱達はその場を後にした。空は果てしなく青く、なんとも清々しい日であった。茶々丸は里の外れにあるお地蔵さんの横にちょこんと座っていた。
『お前ら遅い。待ちくたびれた。猿飛殿もくたびれて、あそこで寝ているぞ』
お地蔵さんの横にある大きな木の上で寝ていた。
『猿、猿!』
昇が何度か声をかけた。それに気がついたのか、猿飛はびっくりして起きた。しかし木の上だという事を忘れていたのか、そのまま木の上からずり落ちてきた。だが地面ギリギリで身をひるがえし立った。
『あははは…危ない危ない。さて行きましょうか』
『あははは…じゃないよ。どこに行ったのかと思ったら、こんな所で寝ていたのか』
『私は西の国の忍です。他国の墓に参る訳にはいかないと思いまして、ここでお待ちしておりました。気がついたら寝てしまったようで…』
『仕方ないな…さあ行こうか?』
昇はそう言うと皆は歩き出した。
『茶々丸さてどっちに行けば良いか教えてくれ』
『やっと儂の番が来たか!儂の後について来い』
茶々丸は地面と時より吹く風を嗅ぎながら進んで行った。
>> 286
『間違いない。こっちじゃ、ついてまいれ』
茶々丸は鼻高々に進んで行った。凱達は紅龍を探しているのだが、その上、修行もしなければならない。凱達は密かに修行していた。気を一点に集めるものだった。それを茶々丸の後をついて行きながらやっていた。それはいつでも使えるようにする為だった。
『先ほどから気になっていたのですが、お二人は何をなさっておいでか?』
猿飛は凱達が気を一点に集める修行をしている事に気づいたようだった。
『あっこれか?これは気を一点に集める修行だ。なかなか難しいのだよな』
『ほう、それはかなり難しい事をなさっておいでなんですね。例えばこういう事ですかな?』
猿飛は手のひらに集中するとそれを近くの木にぶつけた。するとその手のひらの形の穴がポッカリと開いた。凱達は驚きポカンとそれを見つめた。
『まあこのぐらいでしたら皆さんも出来ますよね』
凱達は顔の前で手を横に振った。猿飛ほどの忍には容易く出来る事みたいだ。今まで肉体の修行はしてきたが、気の修行は初めての2人には簡単に出来る訳がなかった。
『猿飛さん!すごいじゃないですか!!どうすればそんな風に出来るのですか?』
>> 287
『それはですね…口で言うのも難しいですな…とりあえず見て下さい』
猿飛は近くの木の葉っぱは取ると手のひらに乗せた。しばらくするとその葉っぱが微かに動き出し回転をし始めた。そして空中に回転しながら浮かんだ。猿飛は凱達を見るとにっこり笑い、その葉っぱを掴んだ。
『まあこんな感じなんだがわかりましたかな?』
凱達は揃って顔を左右に振った。はっきり言って余計にわからなくなった。
『あれ?わかりませんでしたか…それは困りましたな…』
猿飛は頭をひねって考え込んでしまった。
『猿飛さん、そんなに悩まなくても…なんとか自分達でやってみますから』
凱がそう言って慰めるが猿飛は落ち込んだままだった。
『お主ら、もう良いか急がないと夜になるぞ』
茶々丸が言うように辺りは少しずつ暗くなって来ていた。
『そうだな、急いで今日泊まる場所を探さないといけないな』
凱がそう言うと猿飛が言った。
『ならこの近くに洞窟があったな』
『それならそこにしよう』
凱達は猿飛の案内で洞窟へと向かった。そして洞窟に着く頃には辺りは暗くなっていた。洞窟は広く、泊まるには十分であった。近くで木の枝を拾って焚き火をした。
>> 288
『夜になると寒くなりますからな。火は欠かさないようにしないといけませんな』
『それにしても腹減ったな…何かないかな?』
『若様はお腹がお空きですか!!ならこの猿が調達して参ります』
猿飛はそう言うとどこかに消えた。その間凱達は気を集める修行を始めた。手のひらに葉っぱを乗せると気を集中した。凱の手のひらの葉っぱが微かだが動いた。それを見ていた茶々丸が言った。
『お前ら、まだ出来ぬのか?儂のを見ておれ!』
茶々丸は何かを唱えながら前にある石に気を集中した。すると石がシュンと飛んで行った。
『茶々丸すげー!犬とは思えない!』
『後のは余計じゃ!とにかくな体の中心で気の渦を作るのだ。それを手のひらに持っていく。それを解放した瞬間に気砲として放たれるのだ』
凱達は体の中心に気を集中させた。
『まずは渦を作れ、頭でそれに集中しろ!それを腕に持っていき、一気に放て!!』
すると凱達の持っていた葉っぱが回転しながら空中に飛び上がった。
『やれば出来るじゃないか!しばらくはそれを繰り返しやったら、儂のように何でも飛ばせるようになる』
『わかりました。ありがとうございます』
凱は頭を下げた。
>> 289
『凱は良い奴だな…それに比べて昇お前はなっとらん』
『何が?』
昇はあっけらかんと言った。
『礼儀ってものを知らん!だいたい最近の若者は………』
茶々丸の小言はしばらく続いた。昇はそれを適当に聞いていた。凱の方は困った顔をしながら聞いていた。
『………と言う事だ。わかったか?』
『はいはい…すみませんでした』
昇はちょこんと頭を下げた。茶々丸も言い返す気もなくなったようだった。
『喋り過ぎた。ちょっと水を飲んで来る』
茶々丸は洞窟の奥に入って行こうとした。すると凱が呼び止めた。
『私も一緒に良いですか?』
『ああ、ついて来い』
『昇、ちょっと行ってくる』
『なら俺の分も汲んできてくれ』
昇は竹で作った水筒を凱へ投げた。それを受け取ると凱達は奥へと入って行った。奥に進むと全く先が見えなかった。すると目の前で炎が上がった。凱は一瞬身構えたがそれは茶々丸が忍術でおこした炎だった。
『凱、そこにある木に炎の火を点けろ!』
凱達の前には誰かが置いて行ったのか、松明が落ちていた。凱はそれを拾うと茶々丸がおこした炎に近づけた。すると松明に火がつき辺りがはっきりと見えた。
>> 290
『なんだこれは?』
凱達の目の前には巨大な龍の像があった。
『誰かがここで彫っていたのだろうな。そこらに色んな道具が置いてあるからな』
確かにその龍の像の下には色んな道具が置いてあった。この松明もその者が置いていったのだろう。それにかなり慌てて出て行ったのか、彫刻も途中で道具も散らばって落ちていた。
『誰がこんな物を…』
『わからんな。しかしかなり昔のようだな…』
道具が錆が酷く埃もかなり積もっていた。
『まあ、誰かが彫っていたのだろう。それより水だ。先に急ぐぞ』
茶々丸はよほど喉が渇いているのだろうか、洞窟の奥へと進んで行った。
『おっこの辺りだな。灯りを照らしてみろ!』
凱は前に松明を照らした。すると目の前に水面がキラキラ光っていた。その洞窟の中の水たまりはかなり奥まであるようで、水底が見えるぐらい澄んでいた。茶々丸はそれをゴクゴクと飲んでいる。その横で凱は昇から受け取った水筒に水を汲んでいた。
『この水たまりはどこまで続いているのでしょうね?』
『さあな?どこまで続いているのだろうな?』
茶々丸は奥を見つめた。そして言った。
『あれなら、少し奥に行ってみるか?』
>> 291
『今は止めておきます。昇も待っていますから』
『そうか、面白そうだったのにな』
凱は出口に向かって歩き出した。先程見た龍の像が見えてきた。後ろから見ても凄い迫力だった。今にも動きだしそうであった。凱を照らした灯りで背中の部分に字が彫られているのを見つけた。
『茶々丸、ここに何か書いてあるみたいなんですが?』
『何っ?』
そう言って茶々丸は凱の肩に飛び乗った。
『本当だな。流石の儂でもちょっと読めないな。言葉は喋れるが字までは読めない』
『そうですか…私もさっぱりわかりません』
『作者の名前か何かではないかな?どんな彫刻にもそんな物が彫ってあるからな』
『そうかもしれませんね。それでは帰りましょう』
『おう!』
茶々丸は凱の肩から飛び降りると昇の待つ洞窟の入り口に向かった。そこには食料を探しに行った猿飛が帰って来ていた。
『おお、猿飛殿戻られておられたのか!ところで何を持って帰られたのじゃ?』
『これですのじゃ』
猿飛が差し出したのは野ウサギだった。近くにはもう一匹と山草やキノコなどがあった。猿飛はこの短時間でそれらを調達して来たのだった。流石としか言いようがなかった。
>> 292
『しばし待たれよ。今調理したしますからな』
そう言うと手際よく調理し始めた。その横で昇は気持ち良さそうに寝ていた。
『昇、起きろ』
『あっ凱!腹減りすぎて気が遠くなって…それで…後の記憶がない』
『お主寝ていたのではなかったのか?』
茶々丸がそう言った。
『失礼だな、こんな時に寝る訳ないじゃないか』
昇は寝たまま少し怒った感じに言った。
『お主だから寝ていると思ったのだがな』
茶々丸は笑いながら言った。それを聞いていた凱達も笑った。昇はそんな見ながら怒っているようだが、腹が減りすぎて怒る力も残ってないようだった。
『皆さん、食事が出来ました』
見るとかなりのご馳走が出来ていた。料理の得意な咲に負けないほどだ。倒れていたはずの昇は、いつの間にか起き上がってご馳走をむさぼり喰っていた。
『お主はまるで餓鬼のようだな!こらっそれは儂の分だ』
『うるさい!早い者勝ちじゃ』
昇と茶々丸はご馳走を取り合っていた。
『ああやっていると2人共、無邪気ですな』
『そうですね。まるで餓鬼じゃなくガキですね』
凱と猿飛は2人で笑った。笑われていると知らず昇と茶々丸はまだもめていた。
>> 293
『おい、そこの2人!いい加減に止めて静かに食べないか?』
食べ物の奪い合いをしていた昇と茶々丸は同時に凱の顔を見た。
『そうだな。こんなバカはほっといて静かに食べるか』
『誰がバカだって?!』
またもめそうだした。凱が2人の後ろに立ち頭を叩いた。2人は頭を押さえた。
『凱、何するだよ。痛いな~』
『いい加減にしないからだ。せっかくのご馳走が埃をかぶってしまうではないか』
凱は昇にキツく言った。流石に昇と茶々丸は静かになった。
『すまなかった。静かに食べるよ』
焚き火の周りで黙ったまま凱達は食事をすました。
『茶々丸さん、さっきの像の事ですが、ちょっと気になっていた事があって』
『おお、さっきの龍の像の事か?』
『文字の最後辺りに月の紋章のような物があったんです。確か三日月だったと思います』
『月の紋章か?どこかで見た気はするのだが…』
茶々丸は考え込んでしまった。その時、猿飛が何かを思い出したように言った。
『もしかしたら、伝説の忍の八雲様の紋章じゃなかったかの?』
『八雲様の紋章ですか?』
『ああ、前の戦いの時に見た覚えがある。背中に三日月の紋章があったな』
>> 294
猿飛は顎に手をあて空を見上げるような仕草をした。
『凱、それならお前の紋章にもなるな』
昇がそう言うと猿飛が驚いた顔をした。茶々丸も驚いた。
『貴方様が八雲様の御子息でしたか。そう言われれば目元が似てらっしゃる』
『何、お主そうだったのか!だからお主を見て不思議な感覚だったんだ。これでスッキリした』
『お二人は八雲様をご存知なんですか?』
凱は自分の父の事を知りたくて尋ねた。
『知っているも何も八雲が俺を忍犬にした張本人だ』
『そうだったんだ。それにしても品がないけどな』
『何っ!』
茶々丸は昇の腕に噛みついた。昇は叫び声をあげた。それでも茶々丸は噛みついたままだった。
『ところで猿飛さんはどんな関係だったのですか?』
『私はな、一緒にあの怪物を倒しに行った仲間だったんだよ』
『あの怪物?』
近くで茶々丸に噛まれた腕を振り回しながら走っていた昇がピタリと止まった。茶々丸も噛みついたまま猿飛を見た。
『それは、皆さんが探している阿修羅の頭領の朱雀だ』
『阿修羅は昔にも来ていたのですか?』
『はい、そうなんです。あれは35年前の戦いがそれになります』
猿飛はゆっくりとその話をし始めた。
>> 295
『それは凄い戦いだったのですのじゃ…』
そう言って猿飛は話し出した。猿飛が言うには、阿修羅の大軍は予告もなく攻めて来て女、子供も関係なく殺戮を繰り返していた。手出しが出来ない状態で猿飛達は戸惑っているだけだった。そんな状況を救うべく現れたのが八雲様率いる斬撃隊だった。それに猿飛も参加したのだった。そのとき勢いを増して攻めて来ていた阿修羅の大軍を次から次へと倒していき、阿修羅は後退を余儀なくされた。斬撃隊の活躍は目を見張る物であった。そして北の外れまで追い込み最後の決戦になった。そこにあの怪物が現れたのだった。山のようなその体は上忍である八雲様達でさえかなわなかった。その時、八雲様の持つ刀が光を放った。すると他の国の伝承者達の刀も光を放ちだした。それが八雲様の刀に集まり1つになり草薙の剣が現れた。八雲様はそれによって力を得て、あの怪物に向かって行った。あの怪物は片腕を無くしそして命からがら逃げて言った。もちろん阿修羅の大軍も逃げ帰って言った。そして戦い終わったのだそうだ。その後草薙の剣は元に戻り4つ分かれた。各、継承者の下に戻り今にいたる。その後何度か阿修羅との戦いはあった。
>> 296
その度に八雲様によって守られて来た。猿飛はいつもそんな八雲様の背中を見つめながら戦っていた。確かにその背中に月の紋章があった事を思い出したと言う事だった。
『なるほど、そんな凄い戦いがあったのですね…』
『はい、今は平和になって良かったと思っていたのですが、また阿修羅が攻めて来ているのじゃな』
『まだはっきりはしていませんが…雷鳴様が話では間違いないかと言う事です』
『そうですか…ところでその像はどちらにあるのかな?』
『それなら、洞窟の中に』
『なら一度見てみましょうか。見ればわかると思いますからな』
『ならちょっと行ってみますか』
食事の途中ではあったが凱達3人と1匹は洞窟の中に入って行った。松明を持って照らしながら奥へと進んで行った。しばらく歩くとさっき見た龍の像が見えた。昇は何の像か知らなかった性もあり、見るや否や悲鳴を上げた。凱は昇に近づき肩を叩いた。昇が驚くのも仕方なかった。その龍の像は今にも動き出さんばかりの出来だった。
『これが、その像ですか?』
猿飛が龍の像を見回しながら聞いてきた。
『はい、これがさっき言っていた像です。そこの背中の所に紋章らしき物が有ります』
>> 297
凱は松明でその部分を照らした。確かにそこには三日月の紋章が描かれていた。
『これは、間違いなく八雲様の紋章です。それにこの龍は斬撃隊の象徴でした。多分、それを彫られていたのでしょうな』
猿飛はしみじみとその像を見ていた。
『猿飛さん、さっきの話なんですが、あの怪物ってそんなに凄かったんですか?』
猿飛はその恐ろしい姿を思い出したのか、身震いした。凱達は洞窟から出てきて焚き火の前に座った。
『さて、その怪物だがな…その姿は人ではなかったんじゃ。まるで色んな獣をかき集めたような姿だったんじゃ』
『なんだって!』
昇は驚いて後ろに仰け反るようになった。その横で茶々丸はクスクス笑った。昇はそれに気づき殴りかかりそうだった。凱がそれを止め頭を横に振った。
『そうとしか言えない体でな、とにかく大きな体をしておったわ。手裏剣なんて刺さりもしない。刀でも斬れないのじゃ。だから怪物じゃ』
『そりゃ怪物だわ!』
『本当に怪物だな』
『最後には八雲様の一撃で体のほとんどが吹き飛んだが、そんな体でも生きておったわ』
昇はまたそれに驚いて仰け反った。
『それは多分、阿修羅が作り出した物だろうな』
>> 298
茶々丸が言った。
『昔、聞いた話だから詳しい事まではわからないがな、阿修羅には不思議な妖術があるらしい。人と獣を合わせてしまう獣人の術と言う物じゃ』
『獣人の術…阿修羅は底の知れない者ですね』
『頭の痛い話だな…俺達で対抗出来るのだろうか?』
『………』
凱達は沈黙の中残っているご馳走を食べ始めた。
『そろそろ寝ておいた方が良いな』
凱達は交代をしながら眠った。最初は凱以外の者が眠った。凱は気を集める修行しながら起きていた。
『やはり気を集めるのは難しい。しかしこれがなければ、阿修羅なんて倒せない…』
『凱、慌てるな…』
そう言ったのは茶々丸だった。
『茶々丸さん起きていたんですか?』
『ああ、もともと犬だからな…人より長くは寝ないからな…少しの音に反応して目が覚めてしまう』
『あははは…そうですか』
『お主は、儂の見たところ素質は十分にある。ただ、何か迷いがあるのではないか?』
『迷いですか?わかりません。でも何か今起きている事が夢を見ているようで…』
『なるほどな、お主も寝ておけ。後は儂が代わるから』
凱は眠りについた。朝まで一度も起きる事ない深い眠りだった。
>> 299
『おい、凱起きろ』
昇が凱を叩き起こした。
『お前にしては珍しいな。俺より後に起きるなんてな』
『すまない。…あれ、猿飛さんは?それに茶々丸さんも…』
『ああ、何か探しに行ったよ』
『何かって?』
『知らないよ。ちょっと行ってくるって言ってどこかに行ったよ。それよりもお前、茶々丸の事さん付けするのやめたら。犬だから呼び捨てで良いんだよ』
『いや、犬とは言え俺には尊敬出来る犬だ。飼い犬みたいには出来ない』
『凱、そう言う所は律儀だよな』
凱達がそう話していると横から声がした。
『バカたれ、凱の方が正しい』
声の方を見ると茶々丸達が立っていた。
『何!このバカ犬が!』
『貴様~!またこの儂をバカにしたな~!』
『止めてください』
凱が中に割って入り止めた。
『しかしな凱よ。このバカが言うように茶々丸で良いぞ。どうもこしょばくての~今からは茶々丸で良いからな』
茶々丸は照れくさそうに言った。その横で昇が殴りかかりそうなのを猿飛が止めていた。
『ところで何を探しに行っていたんですか?』
『これじゃ』
猿飛は袋を差し出した。中には色々な木の実とか薬草などが入っていた。
- << 301 『これは"万力丸"の材料じゃ。これでお二人も万人の力を得られますわい』 猿飛は嬉しそうに言った。 『万力丸って?』 『体力を増す事が出来る特効薬じゃ。いつか役に立つ時が来るわい』 猿飛はそう言って座り込むと作業を始めた。その待つ間、凱達は気の修行をし始めた。気の修行で最初の事よりかなり上手くはなってきていた。 『凱、こんなんでどうだ?』 昇は凱に手のひらの上で葉っぱをクルクル回して見せた。 『大分上手く操れるようになったようじゃな』 茶々丸が2人の横に座り眺めながら言った。 『俺様にかかれば、こんなもん簡単だ』 『調子こくな。お主ではこんな事は出来ぬだろう?』 茶々丸は近くにあった拳ぐらいの石を目の前から凄い勢いで飛ばした。 『昇どうだ?やってみろ?まだお主じゃ無理だろうけどな』 『何っ!見ていろ俺だってやれば出来る』 昇は茶々丸の挑発にのり目の前の石を必死に睨んだ。微かではあるが、石が動いた。昇はぜぇぜぇと息を吐きながら茶々丸を見た。 『どうだ茶々丸、動いただろう?』 『あははは…それで動いたとは言わんが、まあ1日でそこまで出来るようになったのは褒めてやるわ。精進せい』
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