白銀翼の彼方
しばらく違う所に書いていたのですが、思いきってここに載せてみようと思いました。
ヘタクソですが長い目で見てやって下さい。
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>> 300
『これは"万力丸"の材料じゃ。これでお二人も万人の力を得られますわい』
猿飛は嬉しそうに言った。
『万力丸って?』
『体力を増す事が出来る特効薬じゃ。いつか役に立つ時が来るわい』
猿飛はそう言って座り込むと作業を始めた。その待つ間、凱達は気の修行をし始めた。気の修行で最初の事よりかなり上手くはなってきていた。
『凱、こんなんでどうだ?』
昇は凱に手のひらの上で葉っぱをクルクル回して見せた。
『大分上手く操れるようになったようじゃな』
茶々丸が2人の横に座り眺めながら言った。
『俺様にかかれば、こんなもん簡単だ』
『調子こくな。お主ではこんな事は出来ぬだろう?』
茶々丸は近くにあった拳ぐらいの石を目の前から凄い勢いで飛ばした。
『昇どうだ?やってみろ?まだお主じゃ無理だろうけどな』
『何っ!見ていろ俺だってやれば出来る』
昇は茶々丸の挑発にのり目の前の石を必死に睨んだ。微かではあるが、石が動いた。昇はぜぇぜぇと息を吐きながら茶々丸を見た。
『どうだ茶々丸、動いただろう?』
『あははは…それで動いたとは言わんが、まあ1日でそこまで出来るようになったのは褒めてやるわ。精進せい』
>> 301
茶々丸は笑いながら、近くの木の陰で丸くなって眠った。そんな中、凱は1人瞑想しながら気を高めていた。昇はそれに気づき真似をして瞑想に入った。茶々丸はチラッと見てまた眠った。その頃猿飛は万力丸の材料の最後の仕上げに入っていた。ただ、一口大に丸めるだけなんだが、まるでママゴトの泥団子のようだった。
『よし、これで出来たわい。後はこれを入れたら終わりじゃ』
猿飛は出来上がった万力丸を2つの袋に入れると瞑想をしている凱達の所に近づいて声をかけた。
『猿飛さん、出来たんですか?』
凱は目を開けそう言った。しかし、昇はじっと瞑想を続けていたと思ったが寝ていた。猿飛と凱はポカンと呆れて見ていた。
『…ん?どうした、何をしているんだ?』
昇は寝とぼけた感じで言った。
『お前瞑想していたんじゃないのか?』
『あははは…つい寝てしまった』
『何をやっているんだか』
すると猿飛が2人に万力丸の入った袋を渡した。
『これが、万力丸か…』
昇が袋から万力丸を取り出した。
『おいおい、今食べたらいかんぞ。それはいざという時に食べるんじゃ。即効性はあるが効き目がなくなったら、かなりの疲労感を感じるからな』
>> 302
『そうか、危なく食べてしまう所だった』
昇は万力丸を袋に戻した。
『ところで、どのぐらい保つのですか?』
凱が尋ねた。
『時間で言ったら半刻ほどじゃ。動けなくなるのも半刻ほどじゃ。だから本当に必要な時以外は使うでないぞ』
猿飛は心配そうに言った。
『おお、準備が出来たようじゃな』
それは茶々丸だった。
『茶々丸も起きた所で紅龍を探しに行こうか!!』
凱がそう言うと茶々丸は匂いを嗅ぎ始めた。
『よし、こっちだ』
茶々丸は鼻高々に歩いて行く。その後を凱達はついて行く。向かっているのは、東の国の方角だった。
『若様に凱殿、歩きながら気の集める修行をしましょう』
『えっ、ただでさえ難しいのにそんな事出来ないよ』
昇は渋い顔をして言った。
『何、簡単ですよ。これを使って歩くのです』
猿飛は木の枝を凱達に渡した。
『猿、なんだよこれ?』
『あははは…これはこうやって使うのです』
猿飛は手のひらに木の枝を立てると凱達に見せた。
『これを倒さないように歩くのです。手に集中した上に歩かないといけない。まさに集中させるのに適した修行なんです』
とりあえず凱達は手のひらに木の枝を立ててみた。
>> 303
凱達は猿飛の真似をして手のひらに木の枝を立てた。茶々丸はチラッと見て密かに笑った。
『猿、こんな感じで良いのか?』
『はい、その調子です』
茶々丸が何かを感じたのか、再度振り返り言った。
『おい、ちょっと嫌な匂いがしてきた。辺りに注意しろ!!』
凱達は辺りに目を向けた。
『なるほど、確かに人の気配がしますね』
すると木の陰から手裏剣が飛んで来た。凱達は素早くそれをよけた。
『そこか!?』
凱達は手裏剣を投げ返した。すると3人の忍が現れた。
『何者だ?』
昇が叫ぶとその忍の1人が前に出て言った。
『我らは阿修羅の切り込み隊!お主らの命いただく!』
そう言って間合いをとり刀を構えた。
『3人で、俺達にかなうと思っているのか?』
昇が凄みをきかせて言うと、その忍は笑い出した。
『何がおかしい?』
昇はまた、凄みをきかせて言った。
『我らだけと思ったか!!あまいな良く見て見ろ!』
その忍がそう言うと木々の陰から20人あまりの忍が現れた。
『ちっまだ隠れていやがったか…』
凱達は四方に向き背中を合わせた。
『お主ら死んでもらおう!』
そう言うと一斉に斬りかかってきた。
>> 304
『喰らえ!』
切り込み隊は円をとって迫って来た。凱が飛び上がり切り込み隊の頭の上を飛び越した。すかさず、刀を振り下ろし3人を斬り倒した。昇は正面の忍と刀を合わせにらみ合っていた。猿飛は茶々丸と組んで上と下の同時攻撃をしていた。茶々丸もさすが忍犬だけあって口に短刀をくわえて戦っている。
『噂には聞いたがなかなかやるな!だが、この攻撃ならどうだ?忍法獣陣!!』
後ろにいた数人が構えて何か呪文を唱え出した。すると地面に魔法陣のような物が浮かび上がり、その中に忍達が入ると全身毛だらけの人になっていく。それは狼と人を合わせたような姿だった。それは次から次と変わっていった。陣を構えた者達はスッと消えた。その獣の姿の者達が唸っていた。そして飛びかかってきて凱の頬を爪で傷を付けた。
『早い!昇、気をつけろ!』
『おう、わかった』
凱達は刀でなんとか攻撃をかわしているがおされていた。その時、妖刀が反応した。凱と昇は各々の妖刀を手にすると構えた。獣人達が飛びかかってきた時、凱が月黄泉を振った。すると凄い光と共に獣人の体が2つに切れ転がった。その獣の姿が元の人の姿に変わっていった。
>> 305
獣人達は次から次と飛びかかってきた。まるで本当の獣のようだった。振り下ろす腕の勢いは凄く、外れて木に当たると木が砕け散った。
『くそう!ならば俺のを喰らえー!』
昇は初めて使う土蜘蛛を振った。しかし、獣人達がそれを素早くよけ、土蜘蛛が地面に刺さった。すると地面が割れて土の中から大きな蜘蛛が現れた。
《誰じゃ…我を呼んだのは…》
凱達は驚き身構えた。しかし、昇は堂々とその大きな蜘蛛の前に立って言った。
『俺だ!なんか文句あるか!』
《ふん…貴様か…まだ若僧だな!それで儂に何のようじゃ?用がないのに呼んだわけじゃなかろうな?それならば貴様らを食べてしまうぞ》
『俺達を食べてしまうって…偉そうだな』
《本当に喰らうぞ》
昇は凱を見た。凱は獣人達を指差した。昇は頷き言った。
『ならば、そこにいる獣人達を倒してくれるか?』
大きな蜘蛛は唸っている獣人達を見ると言った。
《あいつらか!喰らって良いのだな?ならば我が力見ておれ》
そう言うと大きな蜘蛛は獣人達に向かって行った。獣人達も大きな蜘蛛に飛びかかって行った。だが、大きな蜘蛛の力は凄く弾き飛ばされた。獣人達はそれでも起き上がって向かって行った。
>> 306
すると大きな蜘蛛が糸を吐いた。獣人達に絡みつくと大きな蜘蛛は一気に糸を吐き出した。すると獣人達は繭になっていった。そして大きな脚で掴むと口に運んだ。獣人達の悲鳴と一緒に骨の折れる音が響き渡った。あっという間に獣人達を食べてしまった大きな蜘蛛は凱達の方を向いた。
《これで良いか?久しぶりの獲物…美味かったぞ。もうなければ我は帰るが?》
すると木の陰にいた切り込み隊の隊長が逃げようとした。大きな蜘蛛はそれに気づき、また糸を吐いた。あっけなく隊長は捕まり、ズルズルと手繰り寄せられた。
《まだ、一匹いたか…》
そう言って隊長を食べようと大きな脚で掴んだ。
『おい!俺を獣人にしろ』
獣陣をする4人が呪文を唱えだした。魔法陣のようなものが輝き捕まった隊長を包んだ。すると糸を断ち切り飛び上がった。
ガルルル…
《なんだ…お前も獣か!だが、我には叶わぬは…》
大きな蜘蛛は脚を大きく振った。それをよけ爪で斬りつけた。大きな蜘蛛も再度、獣人めがけ脚を振った。獣人は飛び上がったが、大きな蜘蛛はそれを待っていた。すると糸を吐き獣人を捕らえた。獣人はもがくが次から次と吐かれる糸に動けなくなった。
>> 307 『阿修羅の力はこんなものではないぞ。お主らはいずれ死ぬのだ!うわー!!』獣人になった隊長はそう叫びながら大きな蜘蛛に食べられてしまった。獣陣を唱える4人の姿はすでになくなっていた。《これで終わりだな?ならばさらばじゃ》そう言って大きな蜘蛛は地中へと消えていった。『何だったんだ?あの大きな蜘蛛はどうして出て来たのだろう?』昇は猿飛を見た。『多分それは若様のお持ちの土蜘蛛でしょう。それが地面に刺さった事により、ツクモの神を呼び出したのかもしれません』『ツクモの神?』『神話であるのですのじゃ。この土地には昔から大きな蜘蛛が現れ人を襲っていたそうなんです。その蜘蛛こそが土蜘蛛なんですじゃ。それを見かねた神が1人の男にその刀を渡し倒すよう命じた。そして戦いの末に倒したのだった。最後のとどめを刺そうとしたとき土蜘蛛が命乞いをしたのだそうじゃ。そして"この力を渡すから助けてくれ"と言ったのだそうじゃ。その男はその頼みをきいて力を手に入れたそうじゃ。それは神の渡した刀に入り土蜘蛛になったと言う話ですじゃ。それからは神の使いとして働くようになり、その後はいつの間にか神としてあ崇められるように
>> 308
なったそうです』
凱は興味深そうに聞いていた。
『そんな神話があったんですね』
『はい、それで土蜘蛛がなまってツチクモ、ツクモとなったようですな。ツクモの神とは土蜘蛛の事のようですな』
『へぇ~なるほどね。ならば困った時には助けてもらえるな』
昇は土蜘蛛を見ながら嬉しそうにしていた。
『昇、それはわからないぞ』
『わからない?どうして?』
『それは今回たまたま呼び出せたが、次は出せるかわからないのじゃないかな?呼び出し方がまずわからないじゃないか』
『えっ!土蜘蛛を地面に刺したら出てくるのじゃないのか?』
『そう思うならやってみろ!』
昇は土蜘蛛を地面に刺した。昇は辺りを見回すが何も起こらなかった。
『凱、これはどういう事だよ?』
昇は凱に尋ねるが、凱にわかる訳はなかった。
『何か呪文とか必要なのかな?』
『そんなんじゃないとは思うけどな…』
それを聞いていた茶々丸が前に出て来た。
『多分それはお主の意志と言うか願いだな!』
『なんだよそれ?』
茶々丸はウロウロ歩きながら昇に向かって言った。
『あの時、お主らは気を集める修行をしていた。そして奴らが現れた訳だ』
>> 309
『それがどうした?』
『うるさい!黙って聞け!』
茶々丸は立ち止まり座った。
『あの後、必死にお主は戦っていたがよけられ土蜘蛛を地面に刺した訳だ。頭の中で倒す事と悔しさが巡ったはずじゃ。それが土蜘蛛を呼び出す事になったのではないかな?』
『と言う事は偶然に呼び出し方を行ったと言う事ですか?』
凱が茶々丸に聞くと見上げるように言った。
『それはわからん…だが、何か困った時には現れてはくれると信じようではないか!そうだろう…昇?』
『茶々丸!なんか格好いいな!』
昇は親指を立て前に出し笑った。
『うるさい!クソガキが!あははは…』
茶々丸が笑った。
『いずれ分かる時がくるかもしれませんね』
凱はそう言って茶々丸を見た。茶々丸は頷いた。
『さて、そろそろ任務に戻りましょうか?』
猿飛が凱達に言った。凱達は頷き紅龍探しに戻る事にした。いつものように茶々丸が匂いを嗅ぎ歩き出した。その後を凱達がついて行った。やはり東の国に向かっていた。
『匂いが強くなってきたな』
『東の国にいるのでしょうか?』
『多分そうだろ』
茶々丸は後ろを見て言った。凱は手に力が入った。
>> 310
紅龍は里でも1、2を争う腕の持ち主だからだ。辺り警戒しながら歩く。
『おい、どこに居るんだ?』
『まあ焦るな…クンクンこっちだ』
茶々丸は街の外れにある、神社への階段の所に歩いて行った。そして階段の先を見て言った。
『間違いないあそこだ!』
凱達は神社の社のある方を見た。
『どうする?このままやるのか?』
昇が振り返り凱に尋ねた。
『そうだな…紅龍様だけでも手強い。もし阿修羅が一緒に居たらこの人数で大丈夫だろうか?』
『そうだよな…』
『ここは一度、様子を見てからにしてはどうだろうか?』
『そうだよな…でも誰が見て来るんだ?』
皆の視線が行ったのは茶々丸だった。
『茶々丸!お願い出来ませんか?貴方なら匂いも分かるし、見つかりにくいと思うのですが…』
『そうだな。儂が適任かな!』
茶々丸は意外と簡単に返事した。
『なら行って見て来る』
茶々丸は階段を上がって行った。どれぐらい経っただろうか、茶々丸が階段を駆け下りて来た。
『待たせたな…やはり阿修羅の忍も一緒に居たぞ。10人は居るぞ』
『それならここは、時村様の所に行きましょう!』
『儂もその方が良いと思う』
皆の意見が合った。
>> 311
その頃、社の中では紅龍達が話していた。
『奴らもそろそろこちらに来ている頃だな!手はずは整っているのか?』
『それは、とうに済んでおります』
『獣陣とは面白いものを…』
『これは阿修羅の妖術、遥か昔より伝わってきた物であります。獣陣によって獣人になった者は数倍の力を得ます。しかし、その分寿命を半分失ってしまいます。我らにとっても最終手段であるのは確かです』
『俺は使いたくないな…』
『紅龍様は、見ていていただければそれで構いません。牙狼様からのご命令ですから…』
『獣人にはどんな物があるんだ?』
『陣人には狼、熊、鷲、虎、龍と5つあります。最初4つなら元には戻れますが、龍は二度と戻れなくなります。以前、龍人になった、左門と言う方は今もその姿のまま体は切り刻まれた状態である洞穴の中に閉じ込められていると言う事です。』
『なるべく龍人にはなりたくないな。名前は紅龍だがな…あははは…』
紅龍は笑った。阿修羅の手下も笑っていた。
『ところで切り込み隊はどうなったのだろうな?』
『あの者達は下忍でしたから、多分やられたと思われます』
『雷鳴は凱達を出したからな…間違いなくダメだろう…』
>> 312
『その凱とか言う者はそんなに強いのですか?』
『あぁ…奴は伝説の八雲の息子だ。それに今は月黄泉を持っているはずだ…』
『…それは困りましたね』
紅龍達はそんな話をしていた。すると1人の男が入ってきた。
『ここにいたか!奴らは月黄泉以外に土蜘蛛も持っているぞ』
『お前は西の鉄馬!』
『ご挨拶だな…お主らの手助けに来たのだがな』
『お前に手助けして貰わなくとも俺達で十分だ』
『それはどうかな…思ったより奴らはやるぞ』
『あははは…そうだな。お主は1度ならずとも2度も負けているから身にしみてわかるか?!』
『何を!』
鉄馬は紅龍に近づき襟元を掴んだ。紅龍はその手をはらった。
『まあ、そう怒りなさんな。仲間でやりあっても仕方なかろう。お主は高みの見物でもしておいたらよい。我が作戦で奴らも終わりよ』
『…ならばそうさせてもらおう』
そう言って鉄馬はその場を去った。
『ふん、あんな役立たずにおられたら勝つものも負けてしまうわ。あははは…』
紅龍は高笑いをした。手下は苦笑いをしていた。
『さてそろそろ、偵察の者も帰ってくるだろう』
そう言って紅龍は表に出て行った。
>> 313
『なんだあの犬は?』
それは茶々丸だった。気づかれた事に気づいて野良犬のふりをした。
『野良犬か。しかし、どこかで見た気もするが…まぁ良いか』
紅龍はそう言いながら茶々丸の前を通り過ぎた。
《危ない危ない》
茶々丸はそう思いながら阿修羅の様子を調べていた。凱達が時村の城に行っている間、阿修羅の事を調べる為に残ったのだった。その頃、凱達は城の近くまで来ていた。そして城の近くに行くと数人の男達が立っていた。
『おお、これはこれは月影の方々ではないですか。何をしに来られたのかな?』
そう言って立って居たのは妙斬だった。相変わらず嫌みたっぷりだった。
『妙斬殿ではないですか、こんな所で何をしておられるのですか?』
『警備をしているだけだ。お主らは必要ない帰れ』
『いや、今回は反対に助けて頂きたいと思って来たのです』
『助けて欲しいだと?』
『はい、この近くに阿修羅が潜んでいて、私達でなんとかしようと考えたのですが、力が足りないと思い時村様を尋ねる所だったのです』
『ほう、ならば我らの力を借りたいと言う事だな?』
『はい、問題なければなんですが…妙斬殿が居れば100人力かと思いまして…』
>> 314
凱はさっきのお返しとばかりに嫌みたっぷりに言った。
『ふん、わかった。力を貸そうではないか』
『それはありがたい。では先に時村様にこの事を話して参ります』
『あぁそれが良かろう。では、時村様の所に参ろう』
妙斬は城の方に歩き出した。その後を凱達はついて行った。
『…凱、さっきの事は本気で言ったのか?』
凱にしか聞こえないように言った。
『昇…ああでも言わないと機嫌を損ねるだろう…現に彼らの力を借りねばならない状況ではあるのだから…』
『それにしても褒め過ぎではないか?あははは…』
妙斬はその笑い声に気づき振り返った。
『どうされた?』
『いや、何でも…こっちの話です』
昇は頭の後ろに腕を組んで口笛を吹く仕草をした。凱はそれを見て呆れた顔をした。城の中に入ると大広間の方に通された。そこには時村が座っていた。時村は凱達に気づき手招きをした。
『帰って来られたか!まあこちらに来て座ってくれ』
凱達は時村の前に座り、妙斬は横に座った。
『実はお願いに参りました』
『さて、どんな事だ?』
すると妙斬が言った。
『この者達は我らの力を借りたい来ております』
凱はそれに続き説明した。
>> 315
時村はそれを聞き終わると妙斬を見た。
『妙斬悪いがこの者達を助けてやってくれ』
『はい。心得ました。まあ既に助太刀するつもりでおりましたが…』
妙斬はチラッと凱達を見た。
『それで今からすぐに参るのか?』
時村は凱に尋ねた。
『はい。とりあえず神社の近くまで行き見張りの者と合流してから阿修羅に仕掛けるつもりです。その間、こちらが手薄になる事が少し気掛かりではありますが…』
妙斬はその話を聞き口を挟んできた。
『それなら大丈夫です。蟻一匹入れないように見張りの強化はしております。明光寺の我々に任せておいて下さい。そこら辺の忍には負けません。それに阿修羅の退治には私を含め3人も行けば宜しいかと思います』
昇はムッとしていたが、時村の前でもあった性か堪えているようであった。それに気がつき時村が言った。
『妙斬、少し言い過ぎだぞ。確かにお主らの力は優れているが、他人を罵るはいかがのものかな?出来れば仲良くやってもらいたいものだかな…』
『申し訳ありません』
妙斬は素直に謝った。忍と比べられてきた過去がある性か、ムキになってしまうのだろう。改めて時村に言われて、妙斬なりに反省をしたのであった。
>> 316
『それでは早速参りましょうか?』
妙斬は頷いた。凱達は時村に頭を下げた。
『私は何も出来ないが、頼んだぞ』
『お任せ下さい』
時村の言葉に凱はそう言って答えた。そして、阿修羅のいる神社に向かった。妙斬は3人のお供を連れてきていた。さっき言った人数より1人多い。時村に言われて1人増やしたのだろう。その真意はわからない。
『あの神社です。あそこには10人ほど潜んでいます。気をつけて下さい』
『10人ほどで、我らに手助けを頼むとは、よほど強いのだろうな?』
『阿修羅は不思議な術を使い人が獣に化けます。その力は人の数倍になります。甘く見ると命を落としかねません。気をつけて下さい』
『わかった。気をつけよう』
妙斬はお供を集め何かを話していた。
『お主らに頼みがある』
『はい、何でしょう?』
『我らにも秘術があるが、術が完成するのに少し時間がかかる。その間、我らを守って欲しい』
『秘術?それはどんなものなんですか?』
妙斬は少し考えて話し出した。
『金剛拳と言って体がまるで鋼のように堅くなる術だ。だが気を練るのに時間がかかる。それに鋼の体になれる時間も短い。
>> 317
だから戦いになってからしか唱えられない。その間頼む』
『分かりました。なんとかやりましょう』
凱は妙斬達のその金剛拳に期待した。しかしその術を唱えるまでなるべく阿修羅を倒しておかないといけないだろう。そんな事を考えていると神社の階段を駆け下りてくる茶々丸が見えた。
『おお、皆来ておったか!』
『茶々丸、中はどうですか?』
『ちょっとマズいかもしれないのう』
『どうしたんです?何かあったのですか?』
『西の…西の鉄馬が合流した。その上手下も連れて来ている。さっきよりも増えているぞ』
茶々丸は困ったような顔をした。
『畜生!せっかく妙斬殿も連れて来たのに…』
凱は悔しそうにした。
『しかし、少しは希望もある。紅龍と鉄馬は仲違いしている。統率のない今ならもしくは……』
『それなら、行きましょう!』
凱は皆に向かって言った。皆はそれに同意した。そして神社への階段を駆け上がった。入り口の鳥居の所に見張りがいるのが分かった。素早く近寄り手裏剣を投げ倒した。
『気をつけろ!すぐそこには奴らがいる』
茶々丸の言葉に身構えた。そして二手に別れる事にした。
>> 318
凱達が攻めている間、妙斬達が金剛拳を唱える事にしたのだった。
『みんな行くぞ!』
凱はそう言うと月黄泉を抜き走り出した。
『うりゃー!!』
凱達の声に阿修羅が気づいて振り返った。凱は思いっ切り月黄泉を振った。すると凄まじい風が阿修羅の手下達に向かって行った。手下達はまともにそれをくらい吹っ飛んだ。その騒ぎを聞きつけ社から次から次に手下達が出て来た。その後ろには紅龍がいた。茶々丸の話とは違い。手下の数はどんどん増えていた。
『茶々丸!話が違うじゃないか!人数がかなり多いぞ』
『知るかそんな事!儂が調べた時はそうだったんだから』
昇と茶々丸はそう揉めていた。
『2人共、良く見ろ!あそこだ!』
紅龍の近くでは4人の忍が魔法陣を発動させていた。光輝く丸い魔法陣から次から次に手下達が出て来ていた。
『なんだありゃ?』
『さっき見たのと少し違うが、魔法陣だな!』
『畜生!あんな事も出来るのだな…こんなんじゃ…』
紅龍が動いた。
『おお、そこに居るのは凱に…昇ではないか!もしかして、この俺を倒しに来たのか?お前らが何人来ようとも、この俺は倒せまい!この刀の錆となれーっ!!!』
>> 319
そう言って紅龍は凱達に向かって刀を振った。素早く凱はそれを受け止めた。
『凱、なかなかやるではないか!しかし、それもこれまでよ!』
紅龍は凱を突き飛ばし、素早く手裏剣を投げる。凱はそれを月黄泉で弾き飛ばした。その瞬間、紅龍を見失った。紅龍は素早く動き、凱の横から突いて来た。凱はそれに気づくのが一瞬遅れた。しかし、誰かが紅龍を蹴り飛ばした。
『紅龍様!相手は凱だけじゃないぜ!』
そこには昇が立っていた。その手には土蜘蛛が持たれていた。
『昇すまない。助かった。』
『凱、気にするな!』
凱達は改めて構えた。
『昇…貴様!!』
紅龍は術を唱え出した。
『火遁の術、紅龍波!!』
ズゴゴゴゴーーー!!
口から吐かれた炎が凱達を目指して飛んで行く。まるでそれは、紅い龍のようだった。すると凱達の後ろから声がした。
『水遁の術、水神壁!!』
凱達の前に大きな水の壁が出来て炎を防いだ。
『何!?』
紅龍は言った。その術を唱えたのは、猿飛だった。続けざまに術を唱えた。
『水遁の術、爆流弾!!』
壁になっていた水の中から弾のような物が飛び出し、紅龍目掛け飛んでいた。
>> 320
紅龍は素早くよけ、その攻撃から逃れた。
『猿!!』
『猿飛さん!』
凱達は驚いて猿飛を見た。
『伊達に年は取っておりませんぞ』
さすがに長年、忍をしてきただけあって術には長けていた。
『おい、来るぞ!』
紅龍が刀を振り上げ迫って来た。
『ここは私がやります。お二人は他の者をお願いします』
猿飛はそう言うと忍刀を構えた。紅龍の振る刀を受け止めた。
『小賢しい奴め!』
紅龍と猿飛を横目に凱達は手下達に向かって行った。手下達はそれほど強くなく、次から次に倒して行った。
『凱よ!コイツら弱いぞ!』
しかし、それは甘かった。倒したはずの手下達が立ち上がりまた迫って来た。
『これは、一体どういう事だ?』
確かに斬ったはずなのに立ち上がってくる。
『まさか、死人?』
『今頃気がついたか!これは死人を操る蘇生陣よ!』
魔法陣を囲む4人集の1人が言った。
『これじゃ、キリがないな!凱、どうする!』
『死人が蘇らないほどにバラバラにするしかないな…ならば…』
凱は何かを唱えながら月黄泉を振った。
『喰らえー!』
月黄泉から凄まじい風が刃となり死人の手下達を切り刻んでいった。
>> 321
さすがにそうなると死人は復活出来なかった。
『やったな凱!』
『ああ…しかし、安心は出来そうになさそうだぞ』
凱が見ている方を昇は見た。さっきまでとは違った光を放つ魔法陣から獣人が現れていた。
『今度は、獣人かよ…どうする?』
『どうするって…やるしかないだろう』
凱達は獣人達に向かって行った。獣人になった手下達は素早くなかなか当たらなかった。獣人の鋭い爪が凱達の服を刻んでいく。
『手も足も出ない』
凱達は獣人に囲まれた。そして獣人達が飛びかかってきた。凱は避けきれなく身構えた。
ガシーン…
鉄のぶつかり合うような音がした。そこに居たのは妙斬達だった。獣人達の鋭い爪を体で受け止めていた。
『手をやいているようだな!』
『妙斬殿…』
『遅くなってすまなかった。やっと金剛拳が使えるようになった。この獣は私らに任せ、猿飛殿を助けてやってくれ』
『わかりました。後は頼みます』
凱達は紅龍と戦っている猿飛の所に行った。2人は凄まじい戦いをしていた。火と水のぶつかり合いだった。しかし、猿飛は高齢の為か、疲れが見えて押されていた。
『猿飛さん!大丈夫ですか?』
>> 322
『ちと、体力がなくなってきてしまいました』
猿飛は肩で息をしている感じだった。
『猿、後は俺達に任して少し休んでいろ』
それを見ていた紅龍が怒鳴った。
『貴様らごちゃごちゃと…まとめてこの俺が倒してやる!』
『黙れ!里を裏切った罪は大きいぞ!死んで親方様にお詫びしろ!』
『ふん!親方様など最初から慕ってはおらぬは!だから、隙を見て…お前達も同じように死んでもらう』
紅龍はそう言いながら笑った。凱の中で怒りがこみ上げてきた。そして凱の中の中の何かが弾けた。
『うりゃーーー!!』
凱は雄叫びのような声を上げた。すると月黄泉が光り月黄泉の周りに螺旋状の風の流れが現れた。そして凱の体を包みだした。
『むむ、これは…』
紅龍は少し脅えた。凱は目をカッと見開くと月黄泉を大きく振った。
『昇龍爆風斬!!』
月黄泉から放たれた風は昇龍のように天高く上がり、そして紅龍目掛けて向かって行った。
『何っ?!やられるか!火遁の術、紅龍波!!』
紅龍の放った炎が、凱の放った風の渦に向かって行きぶつかり合った。しかし、凱の放った昇竜爆風斬にはその炎は消し飛んで行った。そのまま紅龍はまともに喰らった。
>> 323
傷ついた凱を近くの階段に腰掛けさせた。
『これを飲みなされ』
猿飛がそう言って差し出したのは、万力丸だった。
『それは…』
『そう、こういう時にも使うのですよ。多分、痛みは無くなります。万力丸は体を活性化して傷も治してくれますからな』
猿飛は自分の持っていた万力丸を小さく千切り、凱に飲ませた。しばらくすると凱はすくっと立つと飛び跳ねた。
『なんだよこれ?痛みも無くなった』
凱は体を見ると怪我をしていた所がみるみるうちに治っていった。
『若様も少し飲まれたらよろしい』
猿飛はニッコリ笑いながら千切った万力丸を昇に渡した。昇も体力が回復したのか、凱と同じように飛び跳ねてみせた。すると昇がキョロキョロと辺りを見渡した。
『……ん、ところで茶々丸は?』
昇がそう言うと、皆は辺りを見渡した。確かに茶々丸の姿は見えなかった。
『どうしたんだろう?』
『もしかして、さっきの消し飛んでしまったか?』
昇は頬に手を当て恐怖の顔をしておどけて見せた。
『勝手に殺すな!』
声のする方を見ると、茶々丸の姿があった。
『茶々丸!どこに行っていたんだ?心配したよ』
凱がそう言うと茶々丸は答えた。
>> 324
『ちょっとな…鉄馬に匂いをつけて来たのよ!』
『匂い?』
『ああ…鉄馬が逃げるのを追っかけて、この匂い玉をな…』
茶々丸はニンマリと笑った。
『なんだ?その匂い玉って?』
『…ん、これはな。人には匂いは分からないが、犬にはわかる匂いでな、その上匂いが無くならず、遠くからでも分かると言う代物じゃ!どうだ凄いだろう?』
茶々丸は鼻高々に言った。
『流石は茶々丸だな!』
『凱もそう思うか』
茶々丸はニンマリとしている。
『忍犬なんだ。それぐらいするのは当たり前だ』
昇がまた余計な事を言う。茶々丸の顔が引きつった。
ウーガブッ!!
茶々丸が昇の尻に噛みついた。
『痛てぇ~!!離せこのバカ犬!!』
『うるさい!この戯けがぁ~!!』
茶々丸は昇の尻を噛んだまま離さない。
『おいおい、2人共』
猿飛が2人を追っかける。凱は呆れて空を見た。空は雲一つ無く晴れ晴れしていた。その空の下で昇の悲鳴と茶々丸の唸り声と猿飛の止めさせようとする声が響きわたっていた。しかし、そんなほのぼのとした時間は打ち消されようとしていた。境内から見えている城から煙りが上がって来たからだった。
>> 325
『おい!みんな…遊んでいる暇はなさそうだぞ』
騒いでいた昇達は立ち止まった。
『凱、どうした?』
『あれを見てみろ…』
『どういう事だ?城が燃えている!』
『まさか、俺達はここに足止めされていたと言う事か?』
『間違いない。本隊はあっちだ!みんな急いで城に行くぞ』
凱は昇達にはもちろん妙斬達にもそう言った。そして城へと走り出した。城に近づくと本殿から炎が上がっていた。城の周りには逃げ惑う人々と阿修羅の忍らしき者達で、ごった返していた。明光寺の僧侶達と時村の家来が対抗して戦っていた。凱達は加勢に入り、阿修羅の忍は、さほど強くなく本隊とは思えなかった。それはともかく、時村の安否が心配された。すると妙斬が言った。
『ここは儂らに任しておけ、お主らは時村様の所に早く』
『わかった。後は任した』
凱達は城の中に入り、時村が居るはずの大広間に向かった。本殿の炎が広がって行く。それを避けながら奥へと進んだ。
『時村様?時村様?』
凱達は大声で叫んだ。城の中にも阿修羅は居た。しかし、凱達は次々に倒して行く。改めて凱達は時村を呼んだ。
『時村様?時村様?』
『ここだ!』
近くから時村の声がした。
>> 326
その部屋の正直を開けるとそこにうずくまる時村と何人かの家来が居た。
『大丈夫ですか?』
『ああ、なんとか生きている…』
時村はホッとした顔をした。
『凱、来たぞ!!』
昇が叫んだ。阿修羅の忍が4、5人迫って来た。凱は振り返り、月黄泉を抜いた。忍達は飛びかかって来た。
『時村様は下がって!』
凱は月黄泉を振ると凄まじい風が、忍達に向かって行く。すると、目の前の忍達が消えた。凱の攻撃を横によけたのだ。
『ちっ今までの忍とは少し違うようだな。猿飛さん!時村様を連れて逃げて下さい!』
『分かった。時村様こちらに…』
猿飛は時村を連れて城の外に出て行った。忍達もそれを追おうとしたのを凱達が遮った。
『お前達の相手は俺達だ!』
忍達は刀を構えて、凱達と間合いを取る。しばらく、睨み合いが続いた。
『凱、どうするんだ?』
『城の中では、思いっきりやれないからな…』
忍達がジリジリと間合いを縮めて来る。
『なあ…城は燃えているし、思いっきりやっても大丈夫じゃないか?』
『そうだな…ならば…』
凱は月黄泉に気を集中した。
『昇龍爆風斬!!』
凱は無意識にその技を言った。
>> 327
凱の周りに風が渦巻くと月黄泉は振った。その衝撃波は忍達に向かって行く。そして衝撃波は忍達を巻き込み、天井を突き抜け、天高く登って行った。
グガガガガガ…
ガラガラガラ…
城の天井の一部が崩れ落ちた。
『やっぱり室内では、この技は使わない方が良いな…』
昇は天井に開いた穴を見ながら凱に言った。
『若様~?若様~?』
猿飛が慌てて駆け寄って来た。
『若様、ご無事でしたか!…ん、これはどうされましたか?』
猿飛は天井を見上げながら言った。
『まあ…ちょっとね』
凱は困った顔をして、指で頭を掻いた。
『あっそんな事より、こちらに来て下さい!』
猿飛は城の東にある建物の方に向かって行った。するとそこでは、阿修羅の忍達と城の家来達が戦っていた。その中に大きな獣人が居て城の家来達を弾き飛ばしていた。しかし、その獣人は、凱達が知っている獣人とは少し違っていた。凱達の知っている獣人は狼だったが、今居る獣人は熊のようだった。獣人には種類がある事を凱達は知った。
『これはマズいな。助けに行くぞ!』
凱はそう言うと戦いの中に向かって行った。昇達も後を追った。凱達は近くの忍達から斬り倒していった。
>> 328
ガァーッ!!
熊の獣人は凱達に気づき一声あげると迫って来た。鋭い爪が凱の服を掠めた。動きは狼の時より、遅いようであった。凱が月黄泉で斬りつけた。
ガキッ!!
月黄泉は熊の獣人に当たったが、斬れなかった。皮膚が鋼鉄のように硬く、刀では斬れなかった。月黄泉は弾かれ、凱は後ろに飛ばされた。
『何なんだ?コイツ斬れないぞ?!』
『凱!またさっきのを使え!!』
凱は頷くと気を集中させた。気の渦が立ち上る。しかし、熊の獣人が迫って来た。凱は素早くよける。
『くそっ上手く気を集中出来ない』
『凱!俺に任せろ!』
昇は獣人の前に出て、土蜘蛛を振って気を反らした。獣人はそんな昇に気づき向かって行った。その間に凱は気を集中し始めた。気の渦が風を起こす。そして完成すると凱は叫んだ。
『昇!どけ!!昇龍爆風斬!!!!!』
月黄泉から風の衝撃波が獣人に向かって行った。
ズゴゴゴゴ……
その衝撃波は獣人の体を包み込んでいき、切り刻んで粉々にした。
ウォーーーーー!!
獣とも人とも言えない凄い悲鳴が響き渡った。それを見ていた阿修羅の忍達は、戦いを止め慌てて逃げ出して行った。
>> 329
阿修羅の居なくなった城では、負傷した者の治療や死人運ぶ姿が見られた。凱達は時村の所に向かった。すると、後ろから妙斬達がやって来た。
『阿修羅は皆去ったようだな』
『そりゃ凱の技見たら逃げ出すよ』
昇は自分がやったように言った。妙斬は、それを無視するように話し出した。
『しかし、これも本隊ではなさそうだな』
凱は頷いて答えた。
『そうですね。多分まだ下っ端ではないでしょうか?』
『そうだろうな。とにかく、時村様の所に行こうか?』
皆は時村の所に行こうとした。
『そう言えば、時村様はどこにいるんだよ?』
昇の一言で皆はキョロキョロとした。すると、猿飛が言った。
『若様、こちらです』
凱達は、猿飛が時村の居場所を知っていた事をすっかり忘れていた。猿飛は皆を城の裏にある庭園に連れて行き、そこにある石灯籠を押した。
ガガガガガ……
するとその石灯篭が動き下から階段が現れた。
『すげー!!何だよこれは…』
昇は石灯篭を見渡した。
『昇、行くぞ!』
凱の方を見るとすでに皆は階段を下りていた。
『ちょっと待ってくれよ』
昇は慌てて追っかけた。
>> 330
階段を下りると、そこは通路になっていて、松明が灯っていた。
『こんな所に通路があったのですね』
『緊急の時の隠し通路みたいじゃな。どこの城にもあるみたいじゃな』
凱達は松明の灯りの中、奥へと進んで行った。しばらく歩くと階段があった。そこを登ると太陽の光りが眩しかった。周りを見ると城の近くの裏山に出た。そこには小屋があり、その前には明光寺の僧侶が2人立っていた。こちらの気配に気が付いたのか、持っている棍棒を構えた。しかし、妙斬が居る事が分かり、棍棒を直し頭を下げた。
『時村様は、ご無事か?』
『はい!中に居られます』
妙斬を先頭に凱達は中に入った。中では時村が座っていた。
『おお!皆、無事だったか。まあそこに座ってくれ』
凱達は時村の前に座った。
『時村様、城に攻めて来たの本隊ではなさそうです』
『そうか…それでお主達どう考えているのだ?』
『はい、ここは4つの国が1つになるべきかと』
『なるほど、それなら直ぐに手を打たねばな…』
時村はしばらく考えた。
『早速、皆に走って貰いたい。この事を伝えてくれ。そして阿修羅を迎え撃つ手はずを整えるようにな』
>> 331
しかし、昇が言った。
『4つの国は1つにはなれないのでは?』
『何故だ?』
『考えてみろよ。西の国は既に阿修羅に操られているんだぜ!』
凱はその事を忘れていた。
『確かに鉄馬は間違いなく阿修羅に操られているな』
それを聞いていた、猿飛が言った。
『若様、待って下さい』
いったい、何だと言うのだろうか?猿飛の話を聞いた。
『確かに西の国には阿修羅の手が伸びています。しかし、全てが阿修羅に落ちた訳ではありません。里の半分は既に反旗を翻し近くの村で、機会を待っております。それで、ここは若様に来て頭として立って頂きたいのじゃ』
『俺が頭に?!そんなの無理だよ』
昇は手を振りながら少し下がった。
『若様のお父上も待って居られます。今がその時なんですじゃ。若様!』
『そう言われてもな…どうしたものか…凱、どうしょう?』
昇はすがるように凱に聞いた。
『昇、俺は今までお前を見てきた。お前のおちゃらけた性格も皆に対する優しさも、忍としての技もな。お前にはその資格は十分あると俺は思う。後はお前自身が決めたら良い』
昇はその凱の言葉を噛み締めながら考えていた。そして猿飛に向かって言った。
>> 332
『猿!わかった。俺は西の国に行く。そして頭になる』
『若様~!!』
猿飛は泣きながら昇に抱きついた。昇はそんな猿飛の背中を軽く叩いた。
『それでは、昇は西に行ってくれ。後は北は俺が伝えます。南は妙斬殿頼めますか?』
『わかった。急いで行って来よう』
凱達は各自、行くべき国へと散って行った。
その頃、阿修羅達も動いていた。
『隼人!そろそろお前の出番が来たようだな』
『はっ私にお任せ下さい。すぐに始末してみせます』
『頼もしいなあ!後は任した。頼むぞ!』
『はっ!』
隼人は目の前から風のように消えた。
『ふっそれにしても、あの忍は何者なんだ?昔どこかであったような…まあ良いか…』
その男は体中に傷跡があり髭を生やしていた。片手には、どす黒く光る刀を持っていた。柄には龍の装飾があった。
『鉄馬、鉄馬よ!』
『お呼びですか?』
その男の前に鉄馬が風のように現れた。
『さて、鉄馬よ。お前には北の国に行ってもらう』
『はっ!』
『こ奴も一緒に連れていけ』
そこに現れたのは、くノ一だった。
『楓だ。かなりの腕だ。お前の邪魔にはなるまい』
鉄馬はそのくノ一を見た。
>> 333
《何故、俺が女忍なんぞ、連れていかねばならんのだ?しかし、どこかで見たような顔だが…》
『鉄馬様、私の顔に何か付いてますか?』
『いや…別に…』
鉄馬は楓にそう言われ、慌てて答えた。しかし何か引っかかっていた。
『鉄馬様そろそろ行きましょうか?』
『ああ、それでは』
鉄馬達はその場から消えた。
『ふふふ…面白くなって来た。さぁどう出るかな?ふふふ…あははは…』
傷だらけの男は笑った。
その頃、凱は里に帰り着いていた。
『雷鳴様、今帰りました』
『凱、帰ったか!それでどうだった?』
凱は今までにあった事を話した。
『それで昇は居ないのか…それはそれと茶々丸はどうした?』
『はい、昇が心配なのか付いて行きました』
『そうか。それならよいが、しばらく会わないと寂しいものだ』
珍しく雷鳴の弱音を聞いた気がした。何か不安な事でもあるのだろうか?
『凱!里の者を集めろ!』
『はっ!』
凱は里の皆に召集をかけた。里の者はザワザワしながら集まって来た。しばらくすると雷鳴が現れた。
『皆の者聞け!阿修羅が間もなく攻めて来る。女、子供は裏山に、他の者は武器を持ち再度ここに集まれ。
>> 334
阿修羅なんぞに負けられない。わかったな』
『お~!』
里の頭となった雷鳴の初めて、命令だった。誰も逆らう者など居なかった。凱が空を見上げると、雲行きが怪しくなって来た。
『嵐でも来るのか?』
凱はそんな事を言った。
『凱どうした?』
『いえ、ちょっと雲行きが…』
『本当だな…』
空を見上げながら2人しばらく見つめていた。すると雷鳴が言った。
『凱死ぬなよ!』
『はい…』
凱には雷鳴の不意な言葉に戸惑っていた。そして不安がこみ上げて来た。
その頃、昇達は西の国の外れにある村に居た。
『茶々丸、何でお前が付いてくるんだよ?』
『うるさい!お主だけでは心配だからな。儂が居たら百人力だろ?』
『お前は忍犬だろうが!それを言うなら百忍力だ』
『何を言う……?!そ、それで良いのだな。どうしたお主?頭でも打ったか?』
『頭なんか打ってない。お前の実力を認めただけだ』
『おい、止めろ雨が降る』
茶々丸は空を見上げた。
『本当に降りそうだな』
『本当だな。心に無いこと言ったからかな?』
『やっぱり、嘘だったか』
茶々丸は昇を睨み唸った。
『冗談だよ。本当にお前の事は信じているよ』
>> 335
昇が真顔で言うので、茶々丸も唸るのを止めた。いつしか人と犬の間に友情のような物が芽生え始めていた。遠くで稲光が光り、微かに雷の音が聞こえてきた。
『おい、本当に降って来そうだ。とりあえず家に入ろう』
昇達は慌てて家の中に入った。そこには、里の代表達が集まっていた。
『もしやこの方が若様か?』
代表の1人が、猿飛に尋ねた。
『はい、間違いなく若様です』
皆は昇に頭を下げた。昇は照れくさそうに言った。
『正直、何も覚えてないからどうして良いかわからないけど、よろしく頼みます』
昇も頭を下げた。
『ところで鉄馬はどうしているんじゃ?』
猿飛が代表達に聞くと下手にいる1人が言った。
『さっきの報告では屋敷に戻って来ていないと報告がありました』
『若様どうします?』
『どうしたら良いものか?』
昇は考え込んだ。茶々丸がそれを見ていて、鼻を鳴らすと喋り出した。
『まずは、鉄馬の動きを突き止めるのが先決だな。それと出来るだけ術者を集めておかないと無理だな!』
『い、犬が…』
代表達は目を丸くしている。それは、この里には忍犬がいない上に犬が喋ったのだ。当たり前の事だった。
>> 336
『何を驚いている。儂は忍犬じゃ。驚くほどの事ではないだろう』
『茶々丸殿。仕方のない事じゃ。この里には忍犬はいないし、それに喋るとなると誰でも驚くものじゃ。現に若様達も驚いたからな…』
茶々丸は軽く頷いた。
『まあ、驚いただろうが忍として聞いてもらいたい』
代表達は頷き茶々丸の話に耳を傾けた。
『さっきも言ったが、まずは鉄馬だ。捜す為に1部隊欲しい。鉄馬には匂いを付けてあるから捜すのは簡単な事だ』
茶々丸は鼻を突き出し皆を見渡した。その意味がわかったのか頷いた。
『後は、阿修羅は変な術を使う。今のままではやられてしまう。こちらにも術で対抗するしか手はない。この里にはどの位いる?』
代表達は見合わせてから言った。
『こちらには、術に長けているのは10名おります』
『ならばすぐにその者達を集めてくれ』
下手の男が頭を下げると集めに出て行った。
『それと昇はとりあえず、気を集中する修行をしておけ』
『何を言っている?今はそんな事している暇はないだろう』
茶々丸は首を振った。
『それは違うぞ。この戦いはお主にかかっている。凱のような技が出来るかもしれない。お主は継承者なんだからな』
>> 337
『分かった。それならしばらく1人になる』
昇は部屋を出て行った。外ではいきなりの雨に里の者達が慌ただしく走り回っていた。
『この分だとしばらくは奴らも来れないだろう。その間に迎え撃つ準備を急がせないとな…』
しかし、隼人の率いる阿修羅達は近づいていた。隼人は、雨を逆手にとったのだ。
『皆の者聞け~!我らは西の国の反逆者共を倒す。気を引き締めてかかるのだ』
『おーーーっ!!!』
阿修羅達の雄叫びが雷鳴と共に響いた。それは着々と迫って来ていた。
『奴らの驚く顔が見えるわ。あははは…』
その頃、昇は1人、気を集中する修行をしていた。手の上に葉っぱを乗せいた。軽く浮くとクルクルと回り始めた。
『おっ回り始めた。少しは出来るようになった』
しかし、昇は頭をかかえた。そして土蜘蛛を見つめた。
『これを上手く扱えるだろうか?』
溜め息混じりに言った。するとそこに茶々丸が現れた。
『どうだ、少しは扱えるようになったか?』
『ああ…少しはな…』
『元気ないな?どうした?』
『この土蜘蛛を扱える自信が…』
昇は口ごもった。茶々丸は昇を見つめた。
『自分から諦めてどうする』
>> 338
昇は茶々丸を見た。
『お主は最初から扱えないと決め付けているではないか!そんなお主の言う事を土蜘蛛が聞く訳がない。そうは思わんか?』
『………』
『お主の気持ちが土蜘蛛に伝わった時に、また、現れるはずだ。自分を信じてみたらどうだ?』
そんな茶々丸の言葉に昇は何かを悟ったのか、立ち上がると言った。
『茶々丸、分かった。もう少し自分の力を信じてみるよ』
茶々丸は頷くだけだった。そして昇はまた修行を始めた。茶々丸は静かにそれを見つめていた。また遠くで雷が鳴った。その頃、凱達は雷鳴と話し合っていた。
『雷鳴様、阿修羅の術には獣陣と言うのがあります』
『ああ、それは俺も知っている。以前、親方様から聞いた事がある。人が獣になる術だな』
『はい、その力をどうにかしないと、この戦いは不利かと思います』
『それなら、良い考えがある。上忍達を集めてくれ!』
雷鳴は近くに居た者に言った。
『分かりました。すぐに呼んで参ります』
その者は足早にその場を去った。
『凱、お前の術はかなり上達したのか?』
『いえ…まだ、力の加減が出来ていません。自由に扱えてこそ技が生きるのですが…』
>> 339
『そうか…まだ気を上手く扱えてない訳だな?』
『はい、東の国では阿修羅を倒す事は出来たのですが、城までも壊してしまいました。月黄泉の莫大な力が発動しただけで、自分で思ってやった訳ではありません』
『そうか…もしかすると月黄泉に乗っ取られてしまうぞ。その前に気の扱い方を完璧にしないとな』
ピカッ!
ゴロゴロゴロ……
また外で雷が鳴った。しばらくすると雨が降り出した。
ザザザー……
『とうとう、雨が降り出したか…奴らもそう簡単には動けまい』
『俺が、付き合ってやる。気の集中させろ!』
『今ですか?』
『当たり前だ。さあ、早くやってみろ?』
『はい!』
凱は、手の上に気を集中し始めた。雷鳴には見えていた。凱を包む気の渦が立ち上ってくるのが…。
《思ったより、凄いではないか》
雷鳴はそう思いながら凱を見つめた。しばらくすると1つの気の塊が出来た。玉のようなそれは中で渦巻いていた。その時、雷鳴は凱に丸めた紙を投げた。それは凱に当たり弾けた。凱は雷鳴を見て言った。
『雷鳴様、何をするんですか?』
『まだ、気の扱い方を間違えているな!』
『間違えている…?何が違うのですか?』
>> 340
『お前は、気を集中はさせてはいるが、扱えていない。その時点で周りに気を配れていない。そんな事だと死ぬぞ』
『しかし、気を集中したら、周りが見えなくなるのは当たり前ではないですか?』
『あははは…。だから、扱えていないのだ。素早く気を集中出来るようにしないとな。ちょっと見ていろ!』
雷鳴は手のひらを出すとすぐに気の塊を作って見せた。凱は驚いて見ていた。
『どうだ凱?こうやってやるんだ。まあ、俺も3年はかかったがな…』
『そんな…雷鳴様が3年もかかった物を私がすぐに出来る訳ありません』
しかし、雷鳴は笑った。
『何を言っている。俺は気の塊を作るのに3年かかったのだぞ。お前はすでに出来ているではないか…もう少しだ。今はやるしかないのだ』
凱はためらいの中、気を集中させた。それを何度も繰り返した。また近くに雷が落ちた。
ズゴゴゴゴ……
凱はその時、何かが見えた気がした。手のひらの気の塊が、巨大化した。雷鳴はそれを見て微笑んだ。
『やったな。何かつかんだようだな。後はお主次第だ。精進していけば良いのだ』
雨の勢いは激しさを増して来た。近くの木には雨宿りをする雀が、体を震わしていた。
>> 341
雨の音が止んだ。先ほど木にとまっていた雀はいつの間にか居なくなっていた。
『雨が止んだな…』
『そうですね』
『奴らも動くな…』
雷鳴の凱は頷くと外を見つめた。
『凱、お前は南に走れ。そして、南の鬼火に会ってこの事を伝えろ。多分、奴らが来るのはこの里だ。良いな』
『それならば、私ここに残ります』
『ダメだ。まずは南に行って応援を頼むのだ。それが出来るのはお前だけだ』
『しかし、それではすぐには…』
『お主は俺に奴らを引き留める事が出来ないとでも言うのか?』
『いえ、そう言う訳では』
『心配するな。足止めぐらいはこの俺でも出来る。だから早く行け!』
凱は頷くと南に向かって走った。しかし、雷鳴の考えは外れていた。鉄馬は西の国に来ていたのだった。
『鉄馬様、私共は北に行くのではなかったのですか?』
『北か…そんなものは後で良い。まずは隼人と言う奴が気になる。それを見てからだ』
『しかし、それでは…』
『楓、お前は俺の部下だ。黙って俺の言う通りにしておけば良い』
『わかりました』
鉄馬は木の上から下の様子を見ていた。隼人は数人を連れて昇達のいる村に正面から入って行った。
>> 342
『阿修羅だ!』
村人の1人が隼人達に気が付き叫んだ。
シュッ!
シュタタタタ…
その村人は倒れた。騒ぎを聞きつけ昇達が出て来た。
『ここは、我ら阿修羅により制圧させてもらう!死にたくなければ、大人しくしろ!』
数人が隼人達に向かって行った。
『止めろ!』
昇が叫んだ。
『愚か者め…』
隼人は背中の刀を抜くと目に止まらない早さで振った。村人達は隼人の横を通り過ぎ止まった。そして隼人が刀を収めると、その音に合わせて倒れた。
『死にたくなければ、大人しくしろ!』
『貴様よくも。絶対に許さん!』
怒りに燃えた昇からは気の炎が体を包んでいた。昇は土蜘蛛を抜き構えた。
『やると言うのか?そんなに死に急ぐ事もあるまい…』
ガルルル…
獣人が現れた。前の戦いより数は多く圧倒的に阿修羅の方が優勢だった。そして一斉に襲って来た。しかし、今の昇にはかなわなかった。獣人が弾け飛ばされてバタバタと倒れて行く。隼人は刀を昇に向け言った。
『貴様なかなかやるな。だが、我らはこれだけではない』
バサバサ…
空の方で何かが羽ばたく音が聞こえてきた。それは鳥型の獣人だった。昇達目掛け急降下して来た。
>> 343
鳥型の獣人は羽根があり自由に空を飛べた。その上、獣人の動きは、目に止まらない速さで常人には見切れないほどだった。獣人が空より斬りつけて来た。昇には見えているのか、軽々とかわしていた。
『くそっ!早く斬り殺してしまえ!』
隼人の焦った声が響いた。しかし、今の昇には全ての動きが見えるのか、阿修羅達を次から次に倒していった。
『仕方ない。これでも喰らえ!!』
卍型の手裏剣を背中から2つ出すと昇に投げた。手裏剣はグルグルと回り地面スレスレを飛んで行く。昇は飛び上がりそれをよけた。だが、周りにいた村人達を切り刻んだ。バタバタと血しぶきをあげ倒れた。
『しまった!!』
その瞬間、昇の周りの気の炎が消えた。気持ちが揺らいだ性で消えてしまったのだ。猿飛と茶々丸がそれに気づき昇に近づいた。
『昇、大丈夫か?』
『若様?』
昇はそれに頷き、土蜘蛛を構えた。
『畜生!これじゃ村人が危ない』
隼人はニヤリとして言った。
『だから、死にたくなければ、大人しくしろって言ったのだ』
投げられた手裏剣が手元に戻って来た。隼人は構えた。
『どうする?』
昇は猿飛達に聞いた。
>> 344
『あの手裏剣は私が止めます。若様は奴を仕留めて下さい』
隼人はまた手裏剣を投げた。素早く猿飛が動いた。飛んでいる卍型の手裏剣に何かを投げた。それは網状に広がり手裏剣を覆った。しかし、手裏剣は網を切り裂くとゆっくりと旋回した。ところが、手裏剣は失速して落ちた。良く見ると蜘蛛の糸のような物が絡まっていた。
『これぞ、蜘蛛の糸縛りの術じゃ!』
『貴様もしや、蜘蛛一族の生き残りか?』
昇は聞き慣れない名前を聞いた。
『如何にも…蜘蛛一族の唯一の生き残りじゃ!若様を守る為に再び帰って来た』
『猿…お前はいったい…』
『若様、その話は後で!今はこ奴を倒さなければ!』
猿飛は隼人に向かって行った。刀がぶつかる音がした。猿飛と隼人が小競り合いをしている。空からは獣人が攻めて来る。昇はそれに向かって針型の手裏剣を投げた。しかし、獣人はそれをよけ斬りつけて来た。ギリギリでよけ羽根を切り落とした。獣人は落ちてもがいていた。しばらくすると元の人の姿になり息絶えた。それでも空にはまだ、沢山の獣人が飛んでいた。
『くそ…まだあんなに居やがる…』
『若様、こ奴を食い止めているうちに土蜘蛛を呼び出して下さい』
>> 345
猿飛は隼人と小競り合いを続けながら言った。
『しかし…』
『大丈夫です。今の若様なら必ず出来ます。さあ土蜘蛛を!』
猿飛の言葉に昇は土蜘蛛を見つめた。
『儂も居る。さあ早く!』
その声は茶々丸だった。必死に阿修羅達と戦っていた。
『わかった。やって見る!』
猿飛達の言葉に、昇は自分を信じてみる事にした。そして土蜘蛛を構え気を集中させた。昇の周り炎の気が再び包み始めた。昇の体を通して土蜘蛛が反応し始めた。
『今だ!!』
昇は土蜘蛛を突き刺した。地面に稲妻が走った。
ズゴゴゴゴ……
地面が割れ巨大な影が這い上がって来た。
《誰だ……儂は呼び出す者は……》
『やった……また現れた!』
大きな蜘蛛は昇を見ると脚をすり合わせた。
《また、お前か……今度も餌があるのか?》
大きな蜘蛛は辺り見回し言った。
《結構、いっぱい居るな……後は任しておけ……》
『な、何だあれは…』
隼人は驚いて後退りした。大きな蜘蛛は体を完全に地面から出し近くに居る阿修羅の忍を見た。その大きな蜘蛛を見るや否や阿修羅達は逃げ出した。それに目掛け糸を吐き出す。4、5人の忍が捕まった。
>> 346
糸を手繰り寄せると凄い音をたて食べ始め出した。
『うお~!貴様ら何をしている!一斉にかかれば、こんな怪物倒せる!』
隼人が逃げ出した阿修羅に叫ぶ。皆が立ち止まり互いに見合った。そして、大きな蜘蛛に一斉に向かって飛びかかって行った。武器で傷つけられたのか、大きな蜘蛛は体中から体液のような物を飛び散らしながら悶えてだした。隼人は刀で何度も刺した。大きな蜘蛛は体を揺さぶりながら、阿修羅達を払いのける。しかし、空から地上からの攻撃は大きな蜘蛛の体力を徐々に奪っていった。
グワ~~~!!
悲痛な叫び声が響いた。大きな蜘蛛はぐったりした。しばらく脚をピクつかせていたが、それも止まった。
『あははは……見たか我ら阿修羅の力を!!』
隼人は昇達に向かってそう叫んだ。ところが、地響きのような揺れがし始めた。隼人は足元を見た。大きな蜘蛛の体に亀裂が入り始めた。
『な、何なんだこれは?』
大きな蜘蛛の亀裂から小さな塊が這い出て来た。それは、小さな蜘蛛だった。大きな蜘蛛は新たに蜘蛛を生み出していたのだった。その蜘蛛達はどんどん這い出て阿修羅達に飛びかかる。阿修羅達は叩き落とすが、その数はまだまだ増えていった。
>> 347
増えていった蜘蛛が、集まり始めた。
『なんなんだコイツらは?』
足元を凄い速さで動き回り、幾つかの塊を作っていった。するとそれは少し大きな蜘蛛になった。そして近くに居る阿修羅達に飛びかかった。捕まえると、鋭い牙で阿修羅を噛み千切った。阿修羅達の悲鳴に似た声が響いた。気が付くと隼人を含め5人しか残ってなかった。
『なんなんだこの怪物は?』
隼人達を蜘蛛達が完全に囲んだ。
《お前達だけだな……》
『やられてたまるか!!』
隼人は何かを唱えだすと残りの阿修羅達も同じように唱えだした。すると、魔法陣が地面うかび光りだした。隼人達を包んだ。
『獣陣!熊獣人の術!』
そう叫ぶと隼人達の体が変化していき熊のような体になっていく。
グガガガガ……
そこには熊の獣人現れた。
『最後の手段か…』
昇は呟いた。蜘蛛達と獣人の睨み合いが続いた。先に動いたら負けてしまいそうな雰囲気になっていた。その静寂を破ったの蜘蛛達だった。糸を獣人に一斉に吐き出した。だが、獣人達は鋭い爪を使い糸を切り裂いた。そして蜘蛛に斬りつけると蜘蛛は弾けるように粉々になって辺りに散った。良く見ると小さな蜘蛛だった。
>> 348
蜘蛛はすぐに集まるとまた元の大きさに戻った。
『グガガガガ…これではキリがない…』
獣人となった隼人が悔しがる。蜘蛛はまた糸を吐いた。だが、さっきよりも太い糸を吐き出した。獣人達は糸を切り裂さこうとするが、爪に絡み付き取れなくなった。糸はどんどん巻かれていく。
『なんだこれは…』
獣人達はもがけばもがくほど、絡み付いていく。隼人以外の獣人は繭になっていた。蜘蛛はそれを食べ始めた。隼人も徐々に繭になっていく。蜘蛛がジリジリと近づいて来た。
『鉄馬様…あれでは』
『あれじゃ死ぬな…火遁無限火炎!!』
そう言ったのは鉄馬と楓だった。炎でできた刀が蜘蛛達を目掛け飛んでいく。蜘蛛達が炎に包まれもがくが、炎は消える事はなく、徐々に蜘蛛達は消えてなくなった。繭になりかけた隼人が破って飛び出した。
『誰だ?』
昇が叫び、その方向を見た。そこには鉄馬と楓が立っていた。
『貴様は…鉄馬!』
『ほう。土蜘蛛を出せるようになったようだな!』
昇は土蜘蛛を構えた。鉄馬も刀を抜いた。
『て、鉄馬…余計な事をするな!』
隼人は獣人だった体が元の人の体に戻っていった。
『そんな体でどうするというのだ?』
>> 349
『奴らは俺の獲物だ』
隼人は刀を構えた。
『貴様の相手は俺だ。かかって来い!』
昇も土蜘蛛を構えた。
『あの大蜘蛛がいなければ貴様など大した事はない。喰らえ!!』
隼人は昇に向かって斬りつけた。昇はそれをよけると手裏剣を投げた。隼人は刀でそれを叩き落とした。
『貴様の動きは既に見切っている。何をしても同じ事だ』
『何?』
昇は無意識に土蜘蛛を横に構えた。すると土蜘蛛が2つになった。
『ほう…そんな事も出来るのか?だが、この技ならどうだ?翼演舞!!』
隼人の周りに鳥の羽根が舞った。ふわふわとそれは舞っていた。次の瞬間、羽根は昇を目掛け飛んで行った。
『いかん!』
猿飛がとっさに昇の前に土の壁を作り出した。
ズタタタ……
『ちっ!なかなかやるな爺さん!だが、次はどうかな?翼演舞!!』
さっきより多くの羽根が舞った。そして天高く舞い上がり昇達に降り注いだ。
ズタタタ……
猿飛が土の壁を作るが甘かった。羽根は上からだけでなく、至る所から飛んで来た。昇達の体を切り刻んで行く。
『うわっ!』
『どうだ?動きは見抜いたと言っただろう?もっと切り刻んでやる。翼演舞!!』
- << 351 羽根がまた、昇達を襲った。その時、土蜘蛛が光った。それと同時に鉄馬の月光も光り出した。 『どうした?月光が光っている…何かに導かれているように…』 『鉄馬様…』 鉄馬の月光が握った腕から離れようとする。鉄馬は離さないように力を入れるが、凄い力で引っ張られていた。そして手から離れ、昇の下に飛んで行った。昇達に向かっていた羽根はその光に弾き飛ばされた。昇の上で止まった。昇はそれを見つめると、ゆっくり手を差し出した。月光は昇の手に落ちて来た。すると土蜘蛛が月光を挟むように1つになった。それは白い光を放っていた。 『何なんだこれは?』 『それは星黄泉!』 『星黄泉?凱が言っていた奴だ…そうか!月光も草薙の剣の一部分だったのか!』 『若様!今ならあ奴らを倒せます!』 『おう!』 昇は星黄泉を構え気を集中した。昇の周りに炎の渦が包みだした。そして無意識に叫んだ。 『土龍連弾!!』 土が龍のように星黄泉から隼人に向かって飛んで行く。隼人は身構え羽根で壁を作ったが、それをもろともせず突き破り隼人の体を貫いた。隼人はそのまま粉々に吹っ飛んでしまった。昇は鉄馬達の方を向いた。
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