白銀翼の彼方
しばらく違う所に書いていたのですが、思いきってここに載せてみようと思いました。
ヘタクソですが長い目で見てやって下さい。
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>> 400
白い鎧を着た男が怒鳴る。この中で一番落ち着いている。その横で黒い鎧を着た男は黙っていた。体はかなりデカいのだが、口数は少ないようだ。
『鉄馬よ。私が白虎だ』
白い鎧の男が言った。
『そして青い奴が青竜、赤い奴が朱雀、そして黒い奴が玄武だ。よろしく頼む』
この4人は色で判断出来るようだ。
『だから、俺には必要ない』
鉄馬は黒龍刀で床を叩いた。
『鉄馬…今は奴らを使え。1人1人が阿修羅の獣人100人に匹敵する力だ。お前が黒龍刀を扱えるまでだ。良いな?』
謎の男はそう言った。鉄馬は納得はしていなかったが、頷いた。
『鉄馬ちゃんよろしくね』
朱雀がまた女性のような喋り方で言って鉄馬に抱きついた。
『ヒャヒャヒャ鉄馬。朱雀に気に入られたみたいだな。寝る時は気をつけろよヒャヒャヒャ』
青竜の独特な笑いに鉄馬はムッとした。
『お前ら聞け今から鉄馬が我らの長だ。無礼は許さんぞ』
白虎が一番ましかもしれない。
『さて、鉄馬。お前達に指令を出す。剣間山に祠がある。そこから勾玉を取ってくるのだ。良いな?』
『勾玉ですか?』
『そう勾玉だ。力が増すと言う代物だ。必ず取って来い』
『分かりました』
>> 401
鉄馬達は頭を下げるとその場から立ち去った。男は立ち上がると鉄馬達を見送りながら言った。
『…我が子よ、お前に会うのも近いな…』
そして振り返り奥へ消えて行った。
その頃、凱達は祠の近くまで来ていた。近くの茂みが微かに動いた。
『誰だ?』
凱は茂みに向かって怒鳴った。しかし、何も出て来ない。凱達は刀を抜き構えた。すると茂みがまた右から左へ動いた。
『やはり何かいる。皆気をつけろ!』
凱が手裏剣を動いた先に投げた。するとそこから狼の獣人が飛び出て来た。
ガルルルル…
獣人は唸って威嚇してきた。
『法然さん、化け物とはこいつですか?』
『…ん?違うわい。もっとデカい奴だ』
この獣人以外にまだ居るようだ。威嚇の意味を込めて再び手裏剣を投げた。獣人は素早くよけた。そして祠のある方へ走って逃げてしまった。
『逃げたな。後を付けてみるか?』
昇が聞いた。
『いや。多分、祠の近くに行けばまた会えるだろう』
凱はそう言って祠の方へ向かって歩き出した。
『しかし、何故こんな所に獣人が居るのだろう?』
『そうだな。俺もそう思っていたところだ』
昇の疑問に凱はそう答えた。
>> 402
『ならば行って聞くしかなかろう。がははは…』
法然は呑気に笑った。凱達は祠へと歩みを早めた。祠の周りは高い木がいっぱいあり、昼間なのに薄暗かった。
『この中に勾玉はある。早速、中に入ろう』
法然はそう言うと扉を開け中に入って行った。凱達も中に入ると中央に封印をされた木箱があった。法然がそれを取ろうと近づくと雷のような物が走った。法然は後ろに飛ばされた。
『法然殿大丈夫ですか?』
凱が慌てて近寄った。
『がははは…封印をしていたのを忘れていたわい。がははは…』
法然は相変わらず呑気に笑っていた。法然は起き上がり改めて何かを唱え出した。
『…解!!』
箱の周り貼られた札がボッと燃えて消えた。法然は箱を持つと凱に手渡した。
『これで大丈夫だ。それはお前達にやるわい』
凱は箱の蓋を開けた。中には薄い緑色の勾玉が入っていた。勾玉は首飾りのようになっていた。
『これが勾玉か…』
『だがな、お前達に扱えるかのう?一度、寺に戻ろうかのう?』
凱達は祠を出ようとすると茶々丸が身構えて言った。
『おい。外を囲まれたようだぞ?!』
確かに周りから唸る声と足音が聞こえ来た。
>> 403
凱達はゆっくりと刀を抜き構え扉を開いた。外には色んな獣人が囲んでいた。狼、熊、虎の獣人達だった。威嚇をするように唸っている。
『こりゃ法然さんが言ってた化け物がおいでなすったようだな。先手必勝!!』
昇はそう言うと外に飛び出し飛び上がった。そして目の前前の獣人目掛け星黄泉を振り下ろした。
『止めろ!!』
凱が叫んだ。昇は寸前の所で止め後ろに下がった。
『凱何故に止める?』
『ちょっと待て。そいつらは敵ではないようだ』
そう言われれば獣人達は唸ってはいるが、襲ってこようとはしていなかった。すると獣人の後ろから虎の獣人が、他の獣人をかき分け出て来た。
『ハナシガアル。キイテクレルカ?』
虎の獣人は片目に傷があり、この獣人達をまとめている長だろう。言葉は人の言葉を話しているがやっと話せているようだった。
『わかった。聞こう』
凱達は刀を鞘におさめた。
『ワレワレハ、アラソウツモリハナイ。タダ、ソノマガタマデ、ジュツヲトイテホシイ』
『勾玉で…術を解く?』
凱達には分からない話だった。法然を見ると考えているようだった。
『法然殿。どうなんですか?勾玉にそんな力があるのですか?』
>> 404
法然はまだ考えている。すると地べたに座った。禅を組んだ。しばらくの沈黙が続いた。そして法然が目を開け立ち上がった。
『勾玉には不思議な力が宿っていると聞いた事がある。多分、大丈夫だろう。まずは寺に帰って書見を見ないとなんとも言えないがな。がははは…』
考えていた割には結局分からなかったようだ。
『そう言う事だ。また後でここに戻って来るから待っててくれ』
凱は片目の虎の獣人に言った。
『ワカッタ。ココデマッテイル』
凱達は寺に戻ろうとした。すると茶々丸が言った。
『儂は少し疲れた。ここで儂も待って居るぞ』
『なら、俺もここで待つよ』
茶々丸に続き昇もそう言った。凱は仕方なく法然と猿飛の3人と戻る事にした。
『法然殿、急ぎたいから背中に乗って下さい』
凱はしゃがんで背中を見せた。
『がははは…儂も走れるわい。あまり年寄り扱いするな』
法然はその場で軽く駆け足をすると風のように走って行った。凱と猿飛は呆然と見ていた。やはり法然は惚けているが、人の目を欺く為の芝居をしていたようだ。
『猿飛さん、俺達も急ぎましょう』
そう言うと凱達も風のようにその場から消えた。
>> 405
凱達は法然に追いついた。
『ほほう。流石は月影の忍じゃわい。儂も脚には自信はあったが、かなわないようじゃわい』
『いえ、法然殿が忍として修行していれば、私なんてかなわなかったと思います』
『がははは…月影の忍はお世辞も上手とみえる』
『法然殿、からかわないで下さい』
凱達は寺についた。法然は息切れする事なく、寺の中に入って行った。
『凱殿…ちょっと良いか?』
『はい…』
猿飛が凱を呼んだ。
『ずっと気になっていたが、法然殿はもしかしたら以前の戦いで会ったような気がしているのじゃ』
『前に聞いた戦いですか?ならばどこかの兵だったと言うのですか?それとも忍だと…?』
『流石に昔の話で覚えていないからなんとも言えないが…』
凱は考えた。確かにあの動き、ただ者とは思えない。あの惚けた行動はそれを隠す為としたら…。すると寺の中から法然が凱達を呼ぶ声がした。凱達は寺の中に入った。お釈迦様のある部屋に法然はいた。手には書見が持たれていた。法然はちょこんと座ると凱達の前に開いた。
『これが勾玉の事の書いてある書じゃわい。おお、ここに書いてあるわいなんと書いてあるかな…』
書にはこう書いてあった。
>> 406
‐勾玉には力を増大させる力と全てを元に戻す力を持つ。使う者によって左右されてしまう。これを聖なる者に託す‐
このような事が書かれていた。
『どうも奴らの言う事は正しいようですね』
『そのようじゃな』
『それなら祠に行きましょう』
凱達は寺を出た。その時、空の様子が変わって来たのが分かった。雨雲が広がり今にも雨が降り出しそうだった。
『変な雲行きですね』
『そうじゃな』
凱と猿飛はそんな会話をした。
『ちょっと急いだ方が良さそうですね』
猿飛と法然は頷いた。凱達の後には風が舞い上がった。祠に近づくと騒がしくなった。獣人達が昇に何かを言っていた。
『昇どうした?』
『おう凱か!いや、こいつらが、ここを離れた方が良いって言うんだよ』
凱は虎の獣人を見て聞いた。
『どうしたんですか?』
『マモナク。ヤツラガクル。カナリヤバイヤツラダ。ニオイガモウソコマデ…』
片目の虎の獣人は北西の方を指差した。凱はさっきの胸騒ぎが当たっていた事を実感した。
『ならば寺に戻りましょうか?』
『イヤ、テラハスグニバレル。ワレワレノカクレガニイコウ。ツイテコイ』
片目の虎の獣人は東の方に歩き出した。
>> 407
東にある山の方へ向かっている。杉林の中、獣人達と凱達は歩いて行く。
『水の匂い…』
水の匂いが漂って来た。
『タキダ。ソノウラニワレワレノカクレガアル』
しばらく歩くと滝の音が聞こえていた。目の前にはかなり大きな滝が見えて来た。滝の近くに行くと獣人達が立ち止まった。
『ココガイリグチダ』
滝の後ろに人1人が通れる窪みがあった。そこを抜けると裏側に洞窟があった。滝から差し込む光がキラキラして綺麗だった。
『ココナラダイジョウブダロウ。スマナイガハヤクモトノスガタニモドシテホシイ』
『ああ、そうだな。すぐに準備しよう。法然殿お願いします』
凱は法然に言った。
『儂は使い方までは分からんぞ』
『えっそうなんですか?』
『元に戻す事は出来るのだろうが、使い方までは書いて無かったわい。がははは…』
法然はまた呑気に笑っている。すると法然は勾玉を突き出すと凱に手渡した。
『お主が使ってみろ!』
『私がですか?』
凱は勾玉を見つめた。すると勾玉が光り出した。その光が凱を包んだ。そして勾玉が凱だけに語りかけて来た。
《そのまま、触れるだけで元に戻ります》
『誰なんだ?』
>> 408
《触れるだけです》
そう言い残し聞こえなくなった。凱は言われたように獣人に近づき触れてみた。光が獣人に流れ込み獣人を包むと獣の姿から人と変わって行った。
『凱やったな!』
昇が肩を叩いた。その瞬間、昇の中にも光が流れ込んで行った。
『なんだこれは…力が力がみなぎって来る…』
昇の中で凱に聞こえた声が聞こえていた。
《継承者よ。力を与えよう。そして鏡を探せ》
『誰だ?』
そう言うと周りを見回した。凱は昇を見た。さっき自分に起こった事が昇にも起こった事を悟った。その後、獣人達を次から次に元の姿に戻して言った。元に戻った獣人を見るとやはり目の色が違っていた。
『ありがとう…』
片目の男が言った。虎の獣人だった男だ。
『いえ…俺は勾玉の力を借りただけです…ところであなた達は何者なんですか?』
『我々は穂道と言う北に住む民族だ。私の名前はケムと言う。よろしくな』
ケムは今までの事を話し出した。それはある日、男が現れた。しばらくは普通だったのだが、ところが急に男は豹変した。何かを叫ぶと穂道の民を全て支配したのだった。何かの術をかけ支配を始めた。ケムは最後まで戦った1人だった。
>> 409
北の穂道を襲った男こそ我々の本当の敵なのである。いったい誰なんだろう?凱はケムの話を聞きながらそんな事を思っていた。
『凱!』
不意に昇が呼んだ。凱は昇見た。
『どうした?』
『ちょっと話があるんだが…』
『ああ、なんだ?』
『皆の前では…』
『ならば外に出ようか』
凱と昇は外に出た。
『なんだ話とは?』
『実はお前に触れた後に誰かが言ったんだ。鏡を探せって。なんか良くわからないがそんな声がしたんだ。俺おかしくなったのか?』
『あははは…やっぱりお前にも聞こえたのか』
『聞こえたって…凱、お前にも聞こえていたのか?』
『そうだ。勾玉が光った後からな。その鏡の事は知らないけどな』
『そうか。勾玉の力で聞こえたって事か。ならばあの声は勾玉の中に潜む何かの声って事だよな?』
『そこまでは分からないな。俺も声を聞いただけだからな』
ジャリッ!
すると後ろで音がした。振り向くとそこにはケムが立っていた。
『聞いていたのか?』
『ああ、聞いていたよ。もしかしたら手助け出来るかもしれん』
ケムは鏡について何か知っているようだった。
『鏡について知っているのか?』
>> 410
『詳しい事は知らないがな…』
その頃、祠に近づく者達がいた。そう鉄馬と4人組だった。
『ここがその祠だな…』
『そうだ。この中に勾玉があるはずだ』
白虎は祠の扉を開けた。
『一足遅かったようだな…我々より先に勾玉を持ち出した者がいるようだ』
そう凱達が持ち出したから有るはずが無かった。
『誰が持ち出したかだ…』
『多分、月影の者だろう』
鉄馬は白虎の疑問にそう答えた。
『ならば奴らも勾玉の事を知っていたと言う事か?』
『多分な…』
『勾玉を守る坊主がいるはずだ。そいつに聞いたらわかるはずだ。寺に向かおう。こっちだ』
白虎は寺の場所を知っているのか歩き出した。
『本当にこっちに寺はあるのか?』
『ヒャヒャヒャ…白虎は何でも分かるのだよ。ヒャヒャヒャ…』
『鉄馬ちゃん大丈夫だから心配しないで白虎は地理には優れているから』
相変わらず頭にくる2人だ。するとぼそりと声がした。
『寺だ…』
初めて玄武が喋った。身の丈が高い為、遠くまで見えるようだ。その上特殊な目を持っているようだ。
『寺なんて見えないではないか!』
玄武は鉄馬を持つと肩の上に乗せた。そして指差した。
>> 411
玄武の指差す方を見ると微かだが、村のような物が見えた。玄武にはその中の寺が見えているようだった。村に着くと辺りを見回した。
『ここには、誰も住んでないようだな』
『ヒャヒャヒャ…いやいや住んではいるようだ。あの家には鍋を食べた後があった。火の感じからさっきまで居たようだヒャヒャヒャ…』
青竜は笑いながら言った。鉄馬はそんな青竜を無視して村の奥へ進んだ。
『これが、寺のようだ。人の気配はないようだな』
鉄馬は辺りを見回しながら言った。寺に上がると中を探した。青竜はその辺りを散らかしながら探す。白虎はただ、立って微動だにしなかった。玄武は大きすぎて寺の外に居た。そう言えば朱雀が村に来てから姿を見せない。
『おい。もうどこかに行ったようだ。他を探すぞ』
鉄馬はそう言って寺の外に出た。
『見て見てこれ綺麗でしょう。鉄馬ちゃんどう似合う?』
朱雀は家の中に有った女性物の着物を羽織ってはしゃいでいた。
『………』
鉄馬はジロリと睨んだ。
『そんな怖い顔しなくたって良いじゃない…』
朱雀は玄武の後ろに隠れた。
『ヒャヒャヒャ…鉄馬。まだ匂いが残っている。後を追うか?ヒャヒャヒャ…』
>> 412
青竜は鼻が利くようでそう言ってどこかにあった林檎をかじっていた。
『分かるのか?』
『ヒャヒャヒャ…分かるともヒャヒャヒャ…』
『なら、案内しろ』
『へいへい』
青竜は鉄馬達を連れて滝の方を目指した。
その時、凱はその滝で話をしていた。
『鏡の事が分かるのですか?』
『確か穂道の近くに鏡山と言う名の山がある。そこには、神の時代から祭られている鏡があると聞いた事がある』
『ならば、案内して貰えないでしょうか?』
『それは構わないよ。行くなら急ごう。何か嫌な気がしてならんからな』
凱も感じていた物と同じだった。凱達は滝の裏の洞窟を出て、北の穂道を目指す事になった。
『ケムさん、1つ聞きたいのですが?』
『ケムで良いよ。それで聞きたい事とはなんだい?』
『穂道を襲った男は誰なんですか?』
それは凱達にとって一番聞きたかった事だった。阿修羅を仕切る男が誰なのか知りたかった。
『あの男か…良く分からん』
『分からないってどう言う事ですか?』
『あの男は穂道に来た時に昔の記憶を失っていた。そう自分の名前さえも覚えてなかった』
『記憶喪失と言う事ですか?』
>> 413
『そう言う事になるな。あの男が来たのも倒れていたのを里の人が見つけて連れて来たのだ。体中傷だらけで何かあったのは分かったが、本人は何があったか覚えてなかった。それで我々は男に名無しと言う意味でノーネムと名前を付けたのだ』
『ノーネムですか…それで何故、急に豹変したのですか?』
ケムは空を見上げた。そして凱を見ると答えた。
『その日は雨が降っていて時折、雷が鳴っていた。普段はいつも笑っていたノーネムは何かに怯えていた。里の1人が雷が怖いのかとからかった時に急に叫んだかと思ったら、雨の降る中、どこかへ走って行ってしまった。そして日が暮れる頃、ノーネムは帰って来た。今までの笑顔ではない恐ろしい顔をしてな。その後は前に話した通りだ』
『ならば、ノーネムと言う人が誰なのかと言う事は分からない訳ですね』
『そうだな。ただ、彼の背中には龍の入れ墨があったな…後はそれしか分かる事はないな』
『龍の入れ墨…』
凱はその時、気づいてなかったが、猿飛が何かに気づいていて言おうとして止めたのを。何かを思い出したようだった。
『間もなく鏡山見えて来る頃です』
行く先に山が見えて来ていた。
>> 414
その山が鏡山のようだった。凱達の前には二股に分かれた道があった所でケムが立ち止まった。
『君達すまない。我々はここまでだ。右に行ったら鏡山だ。左に行くと我々の住んでいた穂道の里があるんだ。後は君達だけでも行けるから行ってくれ』
『ここで十分です。後は我々で探します。ありがとうございました』
『いやいや、君達にはいろいろしてもらったお礼だからね。後で里によってくれ。ここから半里ぐらいだから』
『わかりました。後で寄らせてもらいます』
『それではこれで』
ケム達は深々と頭を下げると穂道の里へと帰って行った。それを見送ると凱達は鏡山を目指した。急な坂を登りながら進んだ。するとそこに小屋が見えて来た。
『煙りが上がっているな。人が居る。行って聞いてみよう』
『そうだな。はっきりした場所も分からないからな』
凱は小屋に近づいた。庭には牛が一頭と鶏が十数羽いた。扉を叩いた。
『すみません。誰かいませんか?』
中から扉に近づく音がした。そして扉が開いた。白髪の老婆が現れた。
『あれあれ。こんな山奥に珍しい。どうされた?』
『ちょっとお聞きしたい事がありまして』
『まあ、立ち話しもなんですから』
>> 415
老婆に招かれ中に入った。老婆はお茶をつぎ皆に配った。
『こんな所ですからお茶ぐらいしかないけど、飲んでくだされ』
『ありがとうございます』
凱達はそれを飲んだ。
『それで何を聞きたいのじゃ?』
凱は茶碗を置くと話し出した。
『鏡山にあると言う鏡の事を教えて頂きたいのです』
『なるほど。あの鏡をねぇ~。私は詳しくないが爺さんなら知っとるかもしれん。もう少ししたら帰って来るからそれまでゆっくりされたら良かろう』
『そうですか。それならそうさせて貰います』
凱達はその爺さんが帰って来るのを待つ事にした。茶々丸は牛が気になるのか、ずっと見ていた。
『茶々丸。そんなに牛が珍しいのか?』
『ああ初めて見る。これを牛と言うのか…』
確かに月影には牛は居なかった。茶々丸にとっては初めてみる動物であった。とは言う物の凱達も任務の時に何度か見たぐらいだった。
『…ん?あんたら誰じゃ?』
白い髭をはやした老人がそう言った。
『お爺さんお帰り。この人達は鏡の事を聞きに来たのじゃ』
『鏡…。そんな物は知らん。帰れ!!』
その老人は凄い見幕で言った。そして奥へと入っていった。
>> 416
『すまないねぇ~。普段はあんなじゃないけど、鏡の話になるといつもああなんだよ』
老婆は申し訳なさそうに言った。しかし、こうなると自力で探すしかなかった。
『お婆さん。お茶美味しかったです。お元気で』
凱達はそう言うと小屋を出ようとした。すると奥に入っていたお爺さんが凱達を止めた。
『ちょっとお前達待て…』
凱達は立ち止まり振り返った。
『お前の首から下げているのは、勾玉か?』
凱は首に勾玉を下げていた。
『はい。これは勾玉ですが、それが何か?』
『なら話そう』
『……?』
『鏡の話じゃ』
『教えてもらえるのですか?』
『ああ…だから、もう一度上がれ』
凱達にはもってこいの話だった。
『鏡はここの山の洞窟の中にある。何かに守られていて取る事は出来ぬ。だが、勾玉を持つ者ならそれを取る事が出来ると聞いた。だからお前らならそれが出来ると言う事じゃ』
『それで、その洞窟はどこにあるのですか?』
『ここからすぐの所じゃ』
『わかりました。ありがとうございます。それでは早速行ってみます』
『後1つ話しておこう。鏡は鏡にあらず。そう言う風に前に、父親に聞いた。何か武具に変化するとな。
>> 417
まあ取ってみたら分かる事じゃ』
不思議な話ではあるが、凱達にとってはもう不思議な事ではなかった。そして凱達は洞窟へと向かう事にした。小屋を出ると老夫婦がいつまでも見送ってくれていた。凱達はその洞窟を見つける為、山を登っていた。
『多分、この方向で間違いないはずだがな』
『かなり歩いたように感じるが、通り過ぎたかもしれないな…』
『おい。あれじゃないか?』
茶々丸が洞窟を見つけたようでそう言った。それはかなり小さい入り口で、凱達は勝手に大きいと思っていた。確かに入り口の所に注連縄が飾ってあった。
『ちょっと待っていろ。儂が見て来るから』
茶々丸はそう言うとぴょんぴょんと跳ねながら中に入って行った。凱達も入り口から覗くが、薄暗くて見えなかった。しばらくすると茶々丸が帰って来た。
『ここで間違いなさそうだ。付いて来い!』
茶々丸を先頭に小さな洞窟の入り口に入って行った。
『薄暗いな…』
『こんな事もあろうかとこんな物を持って来ました』
猿飛は松明を差し出した。
『流石は猿だな』
『これぐらいしか役にたちませんから』
猿飛はにっこり笑うと松明に火を付けた。そして洞窟の中を照らした。
>> 418
中は思ったよりも広かった。苔の匂いが漂っている。洞窟の奥に石を積み上げ作られた台があった。
『あれじゃないですか?』
凱は近づいてその台を調べた。勾玉の時は封印がしてあり、さわれなかったがここは問題がないようだ。石の蓋があり、以前黒龍刀を探した時と同じようだった。その石の蓋は思ったより軽く動かす事が出来た。開けると中には、何も入ってなかった。猿飛が改めて松明で照らすが何も無かった。
『どう言う事ですかね?』
『また誰かが先に取って行ったのでしょうか?』
凱達は空になった台を見ていた。
『あははは…』
突然、首里が笑い出した。
『あれを見ろ!』
凱達はそちらの方を見ると同じような台がいくつもあった。
『何だこれは…』
『多分、簡単に盗まれない為の偽装ではないかな?』
『なるほど。ならば片っ端から開けみよう』
そう言うと凱達は石の蓋を開けだした。しかし、全ての蓋をどかしても鏡は見つからなかった。
『やっぱり何も出て来ませんね…』
『いや、ちょっと待てここに何かあるぞ』
そう言ったのは首里だった。台の中から何かを拾い上げると凱に見せた。巻物の入った木箱だった。
>> 419
木箱を開けて巻物を取り出した。かなり古い物なのか、箱も巻物はボロボロだった。破けないように広げると、古い文字で何やら書いてあった。
《蓋の開け閉めによって本当の扉は開く》
まるで、書いた者はそれを楽しんでいるようだ。
『これはどう言う事でしょう?』
『多分、この蓋が鍵になっていて、組み合わせでどこかの本当の扉が開くのだろう。しかし、かなりの組み合わせだな…』
猿飛が言うのも確かに本当だった。石で作られた台は全部で、16個もあった。凱達は途方に暮れていた。
『なあ…周りだけ蓋を置いてみたらどうだ?入り口の口って字になるだろう。もしかしたら中の所に本当の扉が出てくるかもよ。あははは…』
昇は笑いながら言った。悩んでいても仕方ない。昇の言うように周りだけ蓋をしてみた。
ズゴゴゴゴ……
何かが動き出した。昇の言ったのは間違いでは無かった。地面が割れ入り口が現れた。
『あははは…当てずっぽで言ったが、当たっていたようだ…』
よほど大切な物なんだろう。まずは皆ここで諦めてしまうだろう。凱達は偶然、昇の発想から開く事が出来た。しかし、まだ中には問題がありそうだ。凱達は開いた入り口から入って行った。
>> 420
ところが中に入ってみると、真ん中にポツンと鏡が置いてあった。
『そう言えば、あの爺さんが何かに守られているとか言っていたよな。鏡に触った途端に何か出て来るのかな?』
昇はそんな事を言った。とりあえず近づいてみる事にした。鏡の置かれた台の近くまで行った途端に下から槍が飛び出して来た。
『うわ~危ないな!』
昇は危なく刺されそうになった。
『やっぱり仕掛けがあったな!』
『やっぱりあったなって。先に言えよ』
『すまんすまん。入り口がそうだったからな。何かあるとは思ったが槍が出てくるとは思わなかった』
昇は口をとがらせ膨れていた。しかし、忍の素早さがあったからこそ、よけられた訳ではある。
『しかし、これでは取れないな…』
『でもよ。あの爺さんが言っていた、勾玉を持っていたら大丈夫なんじゃないか?』
今日の昇は冴えている。確かにそう言っていた。凱は勾玉を見つめた。
『それは分かったが、勾玉をどうやれば良いか…昇風に言えば、翳せば良いのだろうが…』
凱はそう言うと鏡に向かって勾玉を翳した。すると勾玉が光りだし、それを鏡が受けた。すると地面の一部が浮き上がり道が出来た。
>> 421
これで鏡まで仕掛けを踏まなくて良い事になる。
『これなら大丈夫だ。鏡を取って来よう』
凱は一歩踏み出した。さっきのように槍は出て来なかった。鏡を取ると今まで以上に光りだした。
『なんだこの光は…』
すると鏡は形を変え凱の腕に絡み付いた。まるで小手のようになり光りが消えた。
『いったいどう言う事だ?』
『やはり武具のようだな。普段は鏡で、持つ者によって本来の姿になるのだろう』
『武具になるのか』
『もしかすると、場合によっては、全身を守る鎧になるかもしれんわい』
法然は何かを知っているかのような口振りだった。凱は尋ねるか迷ったが聞くのを止めた。
《あなたは、この世を守る為に生まれてきた。三種の神器を完全な物にするのです》
また、勾玉の時の声が頭の中に響いた。三種の神器と言えば、剣、勾玉、鏡だが、後は剣だけだ。確か月黄泉と星黄泉と何かを合わせたら草薙の剣になると書いてあったが、その何かが分からない。
『さて、ここの用事もすんだし出ましょうか?』
凱がそう言うと皆は外に出た。そして洞窟の入り口まで来ると立ち止まった。すると法然が言った。
『儂はここで寺に帰る事にするわい』
>> 422
『そうですか。色々お世話になりました』
『いやいや大して役にはたっておらんよ。がはははは…』
法然は手を振りながら言った。
『凱!儂もこの法然殿と寺に行く』
そう言ったのは茶々丸だった。
『どうしたんだ茶々丸?』
昇が不思議に思って聞いた。
『法然殿と話がある。その後で、お主達に追いつく。先に阿修羅を探しておけ』
『何だよ。偉そうに』
昇はツンとした。凱が昇の肩を叩き頷いた。言葉にはしないが、言いたい事は分かった。
『さあ、三種の神器と阿修羅を求めて行こう』
『ああ!』
凱達と法然達はそこで別れた。
『寄り道し過ぎたな。とりあえずもう少し先を探してみよう』
言われた場所より北に行き過ぎていた為、西に行く事にした。その方向には畑が広がっていた。
『なんかのどかだな。こんな時はおにぎりを食べたくなる』
『あははは…お前は、何よりも食い気だな』
『なんか急に腹が減って来た』
『そんな事言っても何も無いぞ』
昇はフラフラとしている。すると目の前にみかん畑が見えた。
『あっみかんだ』
昇は一目散にみかんの木に走った。みかんを1つ取ると皮を剥いて食べた。まるで子供のようだ。
>> 423
『誰だ?他人の畑に勝手に入った上にミカンまで食べるとは何事だ!』
木の陰から1人の男が出て来て怒鳴りつけた。昇は驚いて尻餅をついた。
『すみません』
凱は近づき頭を下げ謝った。
『昇、お前もちゃんと謝れ』
『ふふふ、ふんまへん…』
昇はミカンをくわえたまま謝った性か、何を言ったかわからなかった。
『なんだお前ら腹が減っているのか?』
『実はそうなんです。そんな時に、美味しそうなミカンがあったのでつい…すみません』
『それなら、俺の家に来い。大した物はないがな』
そう言うと男はミカンの入った大きな籠を背負うと歩き出した。ミカンの香りが漂う畑の中を通り抜け男の家についた。
『母さん。すまんがコイツらに何か食わしてやってくれ』
『どうしたんだい?その人達は誰だい?』
『旅人みたいだ。腹が減っているらしい。家のミカンを盗んで食べてから連れて来た。よほど、腹が減っているんだ。だから頼む』
男はそう言うと道具を置きに行った。
『アンタらそこに立ってないで中にお入り』
凱達は中に通された。囲炉裏の周りに座ると家の中を見渡した。中は殺風景でどうも親子2人で暮らしているようだった。
>> 424
『大した物は出来ないけど、ちょっと待っててね』
『いえ、こちらこそ押しかけてしまってすみません』
『困った時にはお互い様だよ』
その男の母親は、そう言うと台所で食事の支度をし始めた。そこに男が戻って来て凱達にミカンを渡した。
『飯が出来るまで、これでも食べておけ。家のミカンは国で一番美味いからな』
『確かに美味かった』
昇はさっき盗み食いしたから既に知っていた。
『本当に美味い!!』
凱も驚いた。何とも言えない美味しさだった。甘さに加え身もしっかりしていた。
『私もこんなミカンは初めてじゃ』
『そうだろう。俺達が手塩にかけて作ったからな、だがもう駄目だ…』
男はうなだれて溜め息をついた。
『どうしたんですか?』
男は顔を上げると話し出した。
『最近、よくミカンを盗む奴がいる…色々やってきたが、俺1人ではもう…』
『はいはい、そんな話は後にして食事をどうぞ』
母親が食事を皆に配った。凱達は食べると箸が止まった。そして笑みがこぼれた。ミカンと良いこの食事も一流の板前が作ったのかと思うほど美味かった。
『美味い…』
凱達はそれ以上言う言葉が見当たらなかった。
>> 425
凱達は食事に満足しながら、さっきの男の話が気になった。
『さっきの話ですが、どうしたと言うのですか?』
『ああ、その話か…実はな、朝になるとミカンが無くなっている…夜中に誰かが盗んでいるのは分かっているのだが、なかなか捕まえられない。その前に姿さえ見た事がない』
『姿を見てない…もしかしたら素早い動きの者だな…』
皆は一斉に昇を見た。
『おいおい待て待て。俺では無いぞ。その前にお前らといつも一緒だろう』
昇は必死に言っている。当然、皆はそんな事は分かっていたが、もしや…と言う言葉が頭に浮かんで無意識に昇を見たのであった。
『それならどうじゃろ…今夜、皆で番をすると言うのは?』
猿飛がそんな事を言った。
『そうですね。食事のお礼もしたいし。そうさせて下さい』
凱は男に向かって言った。
『…ん?お前ら何者だ?』
『紹介が遅れました。私達は月影の忍で私が凱、それでミカンを盗んだのが昇、後は首里と猿飛さんです』
『月影の忍…道理で、そんな格好している訳か!俺は柑太だ。それで母のタネだ』
柑太は初めてニッコリと笑った。それまでは仏頂面していた。警戒していたのかもしれない。
>> 426
『人数も多い方が、何かと良いと思いますし。やらせてもらえないでしょうか?』
『それは、こちらは助かるから良いが、急ぎでは無かったのか?』
『ちょっとぐらいなら大丈夫です』
凱は念の為、皆を見た。
『凱、そうしようぜ。この恩は返さないとな。そうさせてくれよ柑太さん!』
柑太は納得したのか頷いた。
『それじゃ、頼む』
『なら、今夜行きましょう』
『分かった』
『ほらほら食事が冷めてしまうよ。早く食べなさい。昇さん、お代わりは?』
タネがそう言って手を出した。
『じゃあお言葉に甘えてお代わり』
ニッコリ笑ってお代わりを待っている昇は、まるで子供のようだった。そして世間話をしながら夜を待った。あっという間に時間は過ぎ夜になった。
『柑太さん行きましょう』
『ああ』
柑太は木の棒を持っていた。それで戦うつもりだろうか。凱達が居るから何を持って来ても関係ないのだが…凱達は二手に別れる事にした。凱と柑太さんと猿飛さんで南側を残りの昇と首里が北側から見て行く事にした。合図は口笛でする事になっている。犯人を見かけたら1回、犯人を追い込む時は2回と決めていた。凱達は身を潜めていると何かが動いた。
>> 427
その気配の先を見るが、夜の性もあって見えない。昇からの口笛が1回聞こえた。すると走り抜ける音がした。
『おい、来たぞ』
しかし、何者かさえ分からない。
『いつもこうなんだ』
『ちょっと厳しいですね』
凱は良い手がないか考えた。すると猿飛が言った。
『罠を仕掛けましょう』
『どうやって?』
『簡単です。柑太さんその棒を貸して下さい』
猿飛は自分の持っていた縄とちょっとした仕掛けを作った。それをミカンがいっぱい成っている木の近くに仕掛けた。
『よし、これで仕掛けが出来た。後は罠に引っかかるのを待つだけだ』
凱達は改めて身を潜めた。しばらくすると昇からの口笛が2回鳴った。こっちに追っているようだ。猿飛の仕掛けの方に近づいて来ている。
コンッ!
シュルシュル
キィー
色んな音が響いた。
『おっ掛かったようじゃ!行ってみましょう』
凱達は仕掛けの方に近づいた。そこには犯人が捕まっていた。
『なんて事だ。コイツらだったか…』
柑太がそう言った犯人は猿だった。足に縄が引っかかってぶら下がっていた。
『凱!捕まったのか?おっ猿じゃないか。そりゃすばしっこい訳だ。どうするんだ?』
>> 428
『逃がしてやってくれ』
柑太は意外な事を言った。
『しかし、これではまた荒らされますよ』
『いや、コイツらも食べ物が無くて仕方なくやったのだろう』
『食べ物がないってそんなに酷いのですか?』
『ここ数年森に異変があるようで、食べ物も少なくなっている』
『異変ですか?』
『西にある森の奥に何かあるみたいだ。そう考えたらその頃からだな盗まれ出したのは…すまないが放してやってくれるか』
『分かった』
昇が猿の足の縄を取ってやると一目散に逃げて行った。
『これからどうするつもりですか?』
『猿は獣の匂いを嫌うと言うから犬でも飼うことにするよ。奴らにも少しはあげるがな』
『柑太殿。それならこの匂い袋を使いなされ』
猿飛は袋を取り出すと手渡した。
『犯人も分かった事だし帰ろうか?』
昇は腕を頭の後ろに組み、鼻歌を歌いながら先に歩いて行った。凱達もその後に続いた。
『ちょっと気になったのですが、西の山に何があると言うのですか?』
『実際に見ていないが、見た者が言うには、変な絵が描いてあったと言う事だ。それ以上は分からないな』
『変な絵ですか…その見たと言う人を教えてもらえませんか?』
>> 429
『教えるのは構わないが、聞いてどうするつもりだ?』
『我々はある任務の為に動いていて、その絵が気になります』
『任務か…まあ、今日は遅い。明日の朝にでも行ったら良い』
『それならお世話になります』
凱達は再び、柑太の家に戻った。
『さて、さっきの話だが、この家を西向かって行けばソイツの家がある。名は橘造だ。少しボケたところはあるが、気にするな。さあ、寝ようか』
『分かりました。それではおやすみなさい』
凱達は明日に備え寝る事にした。時折、遠くで犬の遠吠えが聞こえた。そう言えば茶々丸はどうしたのだろうか?追いつくとは言ったが、半日は経っている。もう、合流してもおかしくないはずだが…。凱はそんな事を思いながら深い眠りについた。
『凱、逃げろ!』
『茶々丸どうした?』
『奴が来る』
『奴とは?』
『逃げろ!』
『何だあれは…』
巨大な影が迫って来る。そして凱を押しつぶした。
『凱、凱、大丈夫か?』
『ううう…』
ガバッ
凱は起き上がった。
『なんだ…夢か…』
『うなされていたようじゃな』
『茶々丸?!』
目の前には茶々丸が座っていた。
『やっと追いついたぞ』
>> 430
凱は茶々丸の気配を感じていて、そんな夢を見ていたのだろう。
『いつ着いたのですか?』
『ついさっきだ。着くとお主がうなされていたからな。驚いたぞ』
『すみません。ちょっと変な夢を見てました。茶々丸も出てきましたよ』
『ほう!儂が出て来たか!それでどんな夢を見た?』
『何か凄く大きい物が迫って来て、私を押しつぶす夢です。阿修羅と戦った性ですかね。あははは…』
凱は苦笑いした。しかし、茶々丸は笑わなかった。
『いや、お主の夢…まんざら夢だけとは限らんぞ』
『どういう意味ですか?』
『ちょっと小耳に挟んだのだが、阿修羅の四天王が現れたと言う話じゃ!』
『阿修羅の四天王…』
『昔から東西南北を守ると言う獣の名を持つ四天王がな。それを本能的に感じたのかもしれんな』
『実はずっと何かいしれぬものを感じてました。鉄馬より遥かに凄い恐怖を…』
『儂の鼻では、まだ近くにはいない。任務を急ごう』
茶々丸は鼻を上げ匂いを嗅いでいる。
『いや、その前に調べないといけない事があるんです。任務に関する事ですから』
『そうか…ならそうしよう。他の奴を起こせ』
『わかりました』
>> 431
昇達を起こそうとすると、皆が一斉に起き上がった。
『何だ…起きていたのか』
昇は頭を掻きながら、不満ありげに言った。
『耳元でそう話をしていたら、誰だって目が覚めるわ。その前に俺達は忍だぞ』
『なら、話は分かっているな』
『ああ』
『それなら行こうか!』
凱達は柑太達を起こさないように外に出た。猿飛は何かを取り出した。
『お礼状を置いときましょう』
猿飛はサラサラとお礼状を書くと扉に差し込んだ。
『これでよし。それでは行きますか』
凱達は柑太から聞いた橘造の家に向かった。朝早いから当人が起きているかが問題だが、とりあえず行く事にした。東の山から朝日が見えて来た。その日の当たる先に橘造の家があった。
『凱、あれじゃないか?』
『この辺りだとあの家だと思うが…寄ってみよう』
目の前にある家は柑太の家より少し古い感じがした。早速、扉を叩いてみた。
『朝早くからすみません…』
中からは返事が無かった。その後、何度か呼びかけたが、やはり返事は無かった。
『留守なのかな?』
『ちょっとこの周りを見てみよう』
『その方が良さそうだな』
凱達は家の周辺を調べ始めた。
>> 432
家の後ろには、馬小屋あり2頭の馬がいた。その馬の近くに何かが居るのが分かった。良く見たら人が藁の中で寝ていた。
『おい、あれが橘造さんじゃないか?』
『そうみたいだな。何故あんな所で寝ているのかな?』
橘造らしき男は気持ち良さそうに藁の中で寝ていた。
『良くあの右の馬見てみろ。もうすぐ産まれるな』
茶々丸が前に出て言った。
『子馬が産まれるのか?』
『当たり前だ。馬から人が産まれる訳なかろう』
茶々丸が笑いながら言うと、昇は怒って言い返した。
『そんな事分かっている!今産まれそうなのかと聞いただけだ』
『そうか。てっきり知らないかと思ってな』
茶々丸はニヤリと笑った。
『このバカ犬!』
昇は茶々丸に殴りかかった。素早くよけ笑っていた。
『お前ら、いい加減にしろよ。仲が良いのは分かったからさ』
首里が呆れて言った。
『仲は良くない!!』
昇と茶々丸が一斉に言った。
『だから、それを仲が良いと言うのだ』
首里は横目で2人を見た。昇と茶々丸は見合うとぷいとそっぽを向いた。凱と猿飛は馬小屋に近づき寝ている橘造らしき人に声をかけてみた。
『うん、うん、産まれたか?あんた達は?』
>> 433
橘造は起き上がると、母馬のお腹の張りを見た。
『橘造さんですか?』
『ああ、そうだよ。あんた達は?』
橘造は馬小屋から出て来て凱達に近づいて来た。
『私達は旅をしている者で、あなたが見たと言う絵を探しています。どこで見たか知りたいのですが…』
『西の山で見た奴の事かな?あれは不気味な絵だったよ』
『不気味?どんな形だったのですか?』
『円がいくつも出来た物だったな。この道を真っ直ぐ行ったら分かるよ』
凱達はその方向を見た。その方向には森が見えた。すると馬が一鳴きした。
『…ん?破水したな。産まれるぞ。あんた達手伝ってくれ』
凱達は言われるがまま、馬の出産を手伝った。すでに脚が見えて来ていて、橘造がその脚を引っ張り出した。
『そこのあんたも一緒に引っ張って!』
凱は慌てて脚を握り引っ張った。少しずつ子馬の姿が見えて来た。
ドサッ
子馬が藁の上に落ちた。母馬がそれに近づき舐め始めた。子馬はピクピクしながら動いている。胎膜が剥がれ落ち子馬はすぐに立とうし始めた。
『おっこいつ立つぞ』
昇は興奮したように言った。産まれてさほど時間は経っていないのに、子馬は立ち上がった。
>> 434
『立ったぞ!!』
凱達は皆で喜んだ。
『ありがとう。助かった』
橘造は凱達に頭を下げた。
『成り行きで、こんな素晴らしい事に遭遇出来て、良かったです』
こういう事はそう滅多に遭遇出来ない事であった。
『あんた達、お茶でも飲んでいきな!』
『いや、私達は先を急いでますからここで』
『そうか…なら気をつけてな』
凱達は橘造に聞いた場所を目指した。
『やはり、魔法陣のようだな』
『聞いた感じではそのようだ。あの森だ急ごう』
森は静まり返っていた。
『本当に何かあるのかな?』
昇には緊張と言う物が無いのだろうか、スタスタと前を歩いている。凱は冷静ではあり、辺りを警戒していた。
『なあ、あれじゃないか?』
先頭を歩いていた昇が、何かを見つけたようだった。見ると木が倒されていて、その中央に円が描かれていた。
『これは、やはり獣人が出て来た魔法陣と一緒だな…』
『ならここが阿修羅達が出て来る所。いわゆる出口か?』
凱達は魔法陣を眺めた。
『いや、これはこのままでは、単なる絵だ。確かあの時は4人が陣を囲っていた』
『ならこれは何だと言うんだ?』
>> 435
『多分、実験をしたのではないかと思う』
『実験って…何の実験なんだよ』
凱は魔法陣を見ながら、昇の質問に答えた。
『それは人を獣人にする実験だ。その証拠にあそこを見ろ』
凱の指差す方を見ると、死骸があった。獣が荒らしたのか、原型をとどめていなかった。
『なんだよこれは?』
『失敗した死骸だろう…』
『なんと惨い事じゃ』
『確かに惨いな』
皆は口を揃えるほど惨い死骸だった。
『しかし、これでこの近くに阿修羅が居る事が分かった。辺りを調べよう!』
凱達は周辺を捜索し始めた。
寺を出た鉄馬達は凱達の後を追っていた。
『青竜、匂いは分かるか?』
『ヒャヒャヒャ…奴らは北西に向かっているようだね。これはもしかして俺達のアジトに向かっている。ヒャヒャヒャ…』
『確かにそうよね。阿修羅の里に向かっているわね。そうでしょう鉄馬ちゃん』
『………』
鉄馬は黙って歩き出した。
『鉄馬ちゃんなんで黙っているの?』
『ヒャヒャヒャ…そうだ。何故黙っている。ヒャヒャヒャ…』
『お前ら少しは黙れ!』
白虎の一声に朱雀と青竜は黙った。この中で白虎は群を抜いて強いのだろう。
>> 436
鉄馬には気安く話しているが、白虎に話している所はあまり見なかった。
『鉄馬様すみません。奴らは悪気は無いのですが、勘弁して下さい』
『いや、大丈夫だ。もとより相手にしてない』
『……ぷっ』
鉄馬は白虎をチラッと見た。今確かに笑ったように聞こえたのだが、白虎は冷静な顔をしていた。
『ヒャヒャヒャ…これは滝の方に向かったようだぜ。ヒャヒャヒャ…』
『分かった』
滝の方を目指した。
『……ん?ちょっと待った。寺で匂った匂いが近づいている。ヒャヒャヒャ…』
鉄馬達は立ち止まった。前を見ると1人の僧侶が歩いて来た。そうそれは法然だった。
『すまないが、待ってもらえるか?』
『儂ですか?さて何の用事で…』
『寺の僧侶とお見受けしますが、勾玉の事をお聞きしたいのだが』
鉄馬は法然を見つめた。しかし、法然はとぼけたような風で答えた。
『勾玉ですか?……ちと分かりかねますな』
『とぼけても為にならないぞ』
鉄馬は刀を指ではじき抜こうとした。
『待たれよ。本当に知らないのじゃ。それに坊主を斬っても刀が汚れるだけです』
法然は苦し紛れにそう言った。
>> 437
『ヒャヒャヒャ…残念だが、祠にあなたの匂いが残っていたよ。ヒャヒャヒャ…』
『……ん?それはいつもあそこには、参っているからな。そりゃ当然だよ』
法然はまた、苦し紛れの嘘をついた。白虎が前に出て来て質問してきた。
『ならば、あそこにあった勾玉の事も知らないと言うのか?』
流石は白虎、鋭い所をついてきた。
『確かに何かが祭られているのは、知っているが何であるかまでは知らんのじゃ』
『………』
白虎は黙ってしまった。
『足止めしてすまなかった』
『なら行っても良いかな?』
『ええ、ご足労かけました』
鉄馬は頭を下げた。完全に疑っていない訳ではないが、匂いを追っかけた方が早いと判断したのだった。
『さあ、行くぞ』
鉄馬達は歩き出した。その一方法然は胸をなで下ろしていた。
『危ない所じゃった。しかし、凱達は大丈夫だろうかな?多分、あれが四天王だろうな。さ~て儂は寺に帰ってお茶でも飲もうかな。がははは…』
法然は悠々と寺へと歩いて行った。
『ヒャヒャヒャ…あれが滝だな。ヒャヒャヒャ…』
鉄馬達は滝の近くまで来ていた。
『この近くに勾玉を持った者がいるのだろうか?』
>> 438
『居なくては困りますがね』
『確かにな…ううう…』
鉄馬は頭を押さえた。
『鉄馬様どうされた?』
『いや、大丈夫だ。気にするな』
鉄馬はあの日以来、たまに頭痛がしていた。黒龍刀の影響であろうと思っていた。
《黒龍刀を使いこなさなければ》
そんな事を思っていた。黒龍刀を強く握りしめた。滝の前に立つと周辺を探した。
『ねぇ、こんな所に洞窟があるよ』
それはケム達が居た洞窟だ。
『ヒャヒャヒャ…中には何もないな。ただ、獣の匂いが漂っているね。ヒャヒャヒャ…』
『玄武お前がそこに立つと暗くなる。外で待っていろ』
『………』
玄武は黙って外に出て行った。
『これは、獣なのか?まるで、人が住んでいたように見えるが』
鉄馬が言うのは当たり前だ。獣人にされた人が住んでいたのだから。
『これはもしかしたら獣人ではないかな?だから獣の匂いがする訳ではないかな?』
『獣人が何故、こんな所に?』
『自分の意志を持って逃げたと言う事ですかね』
『ううう…』
鉄馬はまた頭が痛くなった。一瞬何かが見えた気がした。どこかの村の風景だった。小さな子供が何人かでかくれんぼをして遊んでいた。
>> 439
『鉄馬様大丈夫ですか?』
鉄馬は現実に戻された。
『ああ…大丈夫だ…すぐに治る』
『それなら良いですが、しばらくここで休んではいかがでしょう?』
『本当に大丈夫だ。勾玉はここにも無かった。先を急がなければ…』
鉄馬はそう言うとその場に倒れた。
『ううう…ここは?』
鉄馬は辺りを見回した。
『阿修羅の里に向かっています』
鉄馬は玄武に担がれていた。その横を白虎が歩いていた。
『降ろせ…勾玉を探さなければ…ううう…』
『鉄馬様まだ無理です。少し休まれた方が良いかと。勾玉の方は青竜と朱雀が探しています』
『そうか……』
鉄馬はまた、気を失った。
『玄武急ぐぞ』
白虎達は風のように走り去った。阿修羅の里に着いた。
『鉄馬は倒れたか…術が弱くなってしまったかな?』
謎の男は呪文を唱え出した。鉄馬の体が光り出した。そしてムクッと起き上がった。鉄馬の目は邪悪な物になっていた。
『これでまた、活躍してもらわないとな』
謎の男はどこかへと消えて行った。その頃、凱達は魔法陣のあった所から半里ほど行った所にいた。
『凱、この辺りではなさそうだな』
『何も手掛かりもないな…』
ガサッ
>> 440
『誰だ?』
『ヒャヒャヒャ…やっと見つけたよ。勾玉持っているだろう?ヒャヒャヒャ…』
それは凱達に追いついた青竜と朱雀だった。
『何者だ?』
『ヒャヒャヒャ…俺は青竜、こいつは朱雀だ。勾玉を貰えるかな?そうしないと怪我しちゃうよ。ヒャヒャヒャ…』
『何故、持っている事を知っている?お前達は阿修羅だな?』
『お兄さん良く分かったわね。その通りよ。早く渡した方が身のためよ』
朱雀は長い髪を掻き分けながら、凱に近づいた。
『なんだよ。お前男だろう?女みたいな言い方して気持ち悪い』
昇は吐く真似をした。
『何よあんた私を馬鹿にしたわね!見てらっしゃい』
朱雀は呪文を唱え出した。凱達は身構えた。
『喰らいなさい!火遁、花鳥風月!!』
口から出た火が花のように舞い上がり鳥になり、凱達に向かって行った。
『火遁なら俺に任せろ!水遁、激流壁!!』
首里が呪文を唱えると地面から湧き出した水が激流のように流れ高い壁となった。水と火がぶつかり合い弾け消えた。
『ふっ火には水だよね』
『キィームカつく!!』
朱雀が悔しがっている。
『ヒャヒャヒャ…お前達は忍か。これは難儀だな。ヒャヒャヒャ…』
>> 441
青竜は両手を広げるとそこには手裏剣がいくつも握られていた。
『ヒャヒャヒャ…術が駄目ならこれならどうだ』
青竜は手裏剣を投げて来た。凱達は素早くよけた。手裏剣は地面に次から次に刺さっていく。
『ヒャヒャヒャ…早くよけないと刺さっちゃうよ。ヒャヒャヒャ…』
凱達は次から次に来る手裏剣をよけるのが精一杯だった。凱達は皆違う方に散らばった。
『いつまでもやられていないぞ!』
昇が返しに手裏剣を投げた。しかし、明後日の方向に飛んで行く。青竜の横に刺さった。
『ヒャヒャヒャ…的外れな所に投げてどうする?ヒャヒャヒャ…ヒャ?体が動かねぇ…』
『今頃気が付いたか!忍法影縫い!!お前の影を縫ったもう動けないよ』
昇は油断していた青竜の影を縫っていた。
『くううう…動けない』
『青竜何をやっているの!』
『朱雀助けてくれ』
『青竜待ってて!あなた達許さないわよ!』
朱雀が舞い上がった。
『無限髪地獄!!』
朱雀の髪が広がり大輪のようになったかと思ったら凱達めがけ伸びた。まるで生き物のように凱達を捕らえ巻きついた。
『なんだこの髪は?』
『この髪は鋼より硬いから何をやっても無駄よ』
>> 442
凱はもがくが取れない。
『なんだ取れない』
首里の近くから何かが飛び出て来た。それはクルクル回り空高く舞い上がり、朱雀の髪めがけ飛んで行く。鋼より硬い朱雀の髪がばっさりと切った。髪はバッと舞った。凱達は絡みついた髪を振り払った。
『首里やるじゃないか!』
『孔雀に切れない物などない。例え鋼だろうともな』
首里は少し自慢げに言った。
『くそー!!俺の髪を切ったなー!!!!!』
朱雀の表情が変わった。まるで夜叉のような形相だ。髪が朱雀の体包み、針鼠のようにトゲを出しそして丸まった。
『ヒャヒャヒャ…こうなると手が付けられない。お前達逃げなきゃ怪我するよ。ヒャヒャヒャ…』
『忍法、針鼠弾!!』
朱雀は玉のように凄い勢いで凱達めがけ転がっていく。凱達は素早くよけた。朱雀はそのまま転がり、辺りの木々を削り倒して行った。
『逃げても無駄だ。忍法、針千本!!』
髪が針のようになり四方八方に飛んで行く。猿飛がよけきれないで幾つかの髪の針を受けてしまった。
『しまった…私とした事が…』
『猿、大丈夫か?』
『はい、大丈夫です。ううう…』
猿飛の脚に幾つか刺さっていて、今までみたいには動け無かった。
>> 443
『猿、無理するな。こっちで休んでいろ』
『若様すみません。年は取りたくないですな。うう…』
昇は猿飛を担ぎ、近くの木に連れて行った。
『そこの針鼠!貴様は俺が倒す!』
そう叫んだのは、首里だった。孔雀を構え気を流し込んだ矢を回転している朱雀目掛け放った。矢はまるで火の鳥のように飛んで行った。そして、刺さるかと思った瞬間、朱雀の針のようになっていた髪が、壁のように平らになり、その矢を受けた。
『やった!……ん?』
良く見ると確かに矢は刺さってはいるが、半分ぐらいで止まっていた。すると矢は壁になった髪の中に吸い込まれた。
『こんな矢で倒せるとでも思ったの?甘いわね。倍にして返してあげるわ!!』
そう言うと首里の矢と一緒に髪で出来た矢が一斉に首里目掛け飛んで行った。首里はよける暇なく矢をくらってしまった。
『うわっ!!』
そう叫び後ろに倒れた。
『首里までも…』
昇がそう言うと茶々丸が言った。
『首里は儂がみる。お前は戦いに集中しろ!』
『ああ、分かった。茶々丸後は頼んだぞ!』
昇は刀を構えた。その横で、凱が黙って立っている。その顔は怒りに似たものだった。
>> 444
凱の中で何か底知れぬものが湧き上がり月黄泉が光を放った。月黄泉は数倍の大きさになり光り輝いていた。
『裂光斬月!!』
凱はそう叫ぶと宙を飛び朱雀を目掛け月黄泉を振り下ろした。
『どうしたの?こんなの痛くも痒くも…な、な、ないわ……』
朱雀の体の中央に縦の線が入り、2つに割れて行った。朱雀の後ろの地面を見るとかなり先まで線のように割れていた。
『うぐぐ…』
朱雀は息絶えた。
『ヒャヒャヒャ…なかなかやるね。朱雀を倒すとは。でも、俺を倒す事が出来るかな?』
青竜は呪文を唱えた。すると体が変形し始めた。その姿はまるで龍のようだった。青竜は1人で獣陣の術を使えるのであろう。
『さあ、こうなったら今までみたいにはいかないよ。誰からあの世に行きたい?』
凱と昇は構えた。青竜は胸を張ると口から炎を吐き出した。
ゴゴゴ……
炎は活きよいよく向かって来た。凱達がよけると追いかけるように炎を吐いて来る。近くの木々は燃え上がり、周りは炎の海となった。気がつくと凱達は炎に囲まれていた。
『ヒャヒャヒャ…油断したね。その炎は簡単には消せないよ。ヒャヒャヒャ…』
『こんな炎なんか飛び越してやる』
>> 445
凱達は飛び上がったが、炎はより高く燃え上がった。
『ヒャヒャヒャ…だから、無理だと言ったでしょう』
『何なんだこの炎は…』
炎はジリジリと幅を狭めて来た。
『凱、どうする?』
『月黄泉で切れぬものはない!!』
凱は構えると月黄泉を振った。炎に真空波が当たり人1人通れる隙間が出来た。
『昇、あそこだ。行くぞ!』
凱は炎から飛び出した。炎は縮まり1つの柱になった。
『ヒャヒャヒャ…奴らは丸焦げだな。ヒャヒャヒャ…ヒャヒャ?あれ居ない。どこに消えた?』
『お前の後ろだよ』
青竜は振り返った。そこには凱達が立っていた。
『なぬ、あの炎からどうやって?』
『俺の月黄泉に切れぬ物はない。炎とて同じ事!』
青竜は一躍して凱達から離れた。
『それなら、この技ならどうだ?』
青竜の体のウロコが松ぼっくりのようになり、一斉に飛び出して来た。
シュルシュルル…
凱達は刀でそれを弾くが、弾けてもなお凱達に迫って来る。炎の次はウロコの手裏剣だ。凱達なんとか弾きながらよけているが、きりが無かった。
『くそー!!どうしたら良いんだ?』
『昇、後ろ!』
昇はギリギリでよけた。
『うわっ!!』
>> 446
その声が聞こえた後、ウロコは、全て地面に落ちた。
『…ん?』
凱達は青竜を見ると、胸に矢が刺さっていた。背中から刺さり心臓を貫いていた。
『な、な、なんで……』
青竜は飛んで来た矢の方向を見ると、首里が孔雀を構え立っていた。
『油断していたようだな。そいつらだけじゃないのを忘れていたか?』
『しまった…ヒャヒャヒャ…俺とした事が…ぐふっ…しかし、俺を倒しても俺達より強いのが、まだ居る。いずれお前たちは…ぐふっ…』
青竜はそのまま倒れた。そして元の人の姿に戻った。
『俺達が強くなって無かったら、俺達がこうなっていたな…』
『しかし、まだ強いのがいる訳だよな』
『その為にも修行だな。それより、首里と猿飛さんは?』
2人は怪我はしていたが、大した怪我では無かった。とりあえず治療する事にした。
『首里これを飲んだら良い』
猿飛は懐から薬を出した。そう以前、凱達に渡した万力丸であった。一時的に力が増すのは当然だが、体を活性化する効能もあった。首里が飲み込むとみるみるうちに傷が癒えてきた。
『実際、使ってみた事ないから、こんなに凄いとはな…』
『若様、私の作った物ですよ。凄いに決まっています』
>> 447
『あははは…すまない。そうだよな。猿は凄い。これからも面倒かけるが、よろしくな』
『若様……』
猿飛は涙ぐんでいた。
『猿、それぐらいで泣くなよ』
『すみません…』
『そう言ってまた泣くなよ』
猿飛は涙を拭いた。
『さて、2人の傷も大した事はないが、しばらくは動けないな』
『凱、大丈夫だ。薬のおかげで、ほら!いたたた…』
首里は傷口を押さえ痛がった。
『万力丸が凄いと言っても、完全に治った訳じゃないからな。とりあえずお前達はここで休んでくれ。俺と茶々丸でもう少しこの辺りを探してみるから』
『ちょっと待てよ。何故、茶々丸なんだ?それなら俺が行く』
昇は納得いかないのか、そう言って来た。
『昇には、ここに居てもらう。怪我人を残すには心許ないからな』
『なるほど、そう言う事なら、俺に任せときな』
昇は自慢気に鼻を指で弾いた。茶々丸がまた何か言うかと思ったが、今回は黙っていた。2人の漫才のような喧嘩を見れないのも、物足りなさを感じた。
『茶々丸、行こうか?』
『ああ!』
茶々丸は返事をしたが、人では無く犬である。世の中には不思議がいっぱいだ。2人は歩きながら辺りの様子を調べていた。
>> 448
『茶々丸!』
『何だ?』
『前から思っていたが、鉄馬と言う俺は、阿修羅に操られているのだろうか?それとも、自分の意志で阿修羅に加わったのだろうか?』
茶々丸は急な質問に困惑していた。考えてみると元々は、西の陽炎の忍だったのだが、阿修羅の一員として凱達に戦いを挑んで来ている。
『儂が思うに、間違いなく操られておるな』
『何故、そう思う?』
『前の奴を知っているからな』
『知っている?』
『お前の親父に拾われた後、鉄馬と一緒にしばらくいたからな』
『鉄馬と一緒にいた?』
『小さな時、八雲様に拾われ鉄馬の所に預けられていた。まあ、忍犬として訓練を受けていたのだがな。鉄馬の家は忍犬養成所でもあったからな』
『意外な繋がりだったのですね』
『あの頃とは、やはり違う気がする』
『そうですか…しかし、この辺りにはそれらしき物はないですね』
『そうだな。微かだが、鉄馬の匂いはするのだがな』
凱達は立ち止まり、辺りを見回した。近くには火山があった。そう言えば、さっきから硫黄の香りが漂っていた。茶々丸の鼻も硫黄の匂いに邪魔されているようだ。少しキツいのか、辛そうな顔をしている。
>> 449
『この辺りで一度戻ろうか?』
『儂には少し辛いのう』
凱達は今来た道を戻り始めた。すると近くに白い湯気が上がっているのに、気が付いた。
『茶々丸あれは何だろう?』
『温泉ではないか?火山の近くには良くあるからな』
『ちょっと見てみませんか?』
『別に構わんが…』
岩が少しずつ多い所を湯気の上がる方に向かった。2人は岩の上を飛び跳ねがら進んだ。すると岩に囲まれた所にお湯が沸いていた。凱がそっと手を入れてみると良い湯加減だった。
『良い感じだ。あっそうだ。猿飛さんや首里達をここで休ませよう』
『それは良いな。呼びに行こう』
凱達は早速、皆の元に戻った。そして説明をすると温泉に向かった。
『ヤッホー!!』
ザブ~ン
そう言って飛び込んだのは昇だった。
『止めろ。子供じゃないだろう』
『だってよ。こんな広い所は初めてだからな。それにしても気持ち良いなぁ~』
『そうだな…猿飛さんどうですか?』
『気持ち良いですなぁ~極楽、極楽…』
凱達は温泉を満喫していた。
『ところで、阿修羅の行方は分かったのですかな?』
『それが…まだわからないのです。この近くだとは思うのですが…』
- << 451 ガサッ 近くで物音がした。凱は素早く腰に手をやった。 『しまった。今は裸だ。こんな時に…』 しかし、そこに現れたのは野生の鹿だった。脚でちょこんと湯を触るとそのまま湯に浸かった。人が怖くないのかそのまま気持ちよさそうにしている。 『ここは動物達の温泉みたいですね』 『儂にも良いぞ』 茶々丸が浅い所で気持ちよさそうにしていた。凱達は里に帰り今までの事を報告する為に里に帰る事にした。 『白虎…2人の気が消えた…』 低くく小さな声で玄武が言った。 『あの2人を倒すとはな…鉄馬様どういたしますか?』 『弱い者は強い者には勝てぬのだ。だから、奴らは負けた。ただそれだけだ。白虎、玄武、行くぞ』 『どちらへ?』 『奴らの所だ。決着をつける』 『はっ!』 白虎は今までとは違う鉄馬の冷たい目に寒気を感じた。謎の男の術で余計な感情を取り除かれてしまったのだろう。そして、暗い廊下を抜け出て行った。その後を追う一つの影があった。 その頃、月影の里では調査に出た者達が次々と帰って来ていた。 『……西の方には見当たりませんでした』 『そうか、ご苦労であった。下がって良いぞ』 『はっ!』
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