白銀翼の彼方
しばらく違う所に書いていたのですが、思いきってここに載せてみようと思いました。
ヘタクソですが長い目で見てやって下さい。
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>> 350
羽根がまた、昇達を襲った。その時、土蜘蛛が光った。それと同時に鉄馬の月光も光り出した。
『どうした?月光が光っている…何かに導かれているように…』
『鉄馬様…』
鉄馬の月光が握った腕から離れようとする。鉄馬は離さないように力を入れるが、凄い力で引っ張られていた。そして手から離れ、昇の下に飛んで行った。昇達に向かっていた羽根はその光に弾き飛ばされた。昇の上で止まった。昇はそれを見つめると、ゆっくり手を差し出した。月光は昇の手に落ちて来た。すると土蜘蛛が月光を挟むように1つになった。それは白い光を放っていた。
『何なんだこれは?』
『それは星黄泉!』
『星黄泉?凱が言っていた奴だ…そうか!月光も草薙の剣の一部分だったのか!』
『若様!今ならあ奴らを倒せます!』
『おう!』
昇は星黄泉を構え気を集中した。昇の周りに炎の渦が包みだした。そして無意識に叫んだ。
『土龍連弾!!』
土が龍のように星黄泉から隼人に向かって飛んで行く。隼人は身構え羽根で壁を作ったが、それをもろともせず突き破り隼人の体を貫いた。隼人はそのまま粉々に吹っ飛んでしまった。昇は鉄馬達の方を向いた。
>> 351
『なんだ…今のは…』
鉄馬は震えながら言った。
『鉄馬様!ここはひとまず…』
『あ、ああ…』
そう言ってその場から姿を消した。
『若様…これを…』
猿飛は昇に薬を渡した。
『これが、星黄泉ですか…やはり素晴らしい!』
『しかし、そこまで変化したと言う事は、事態は悪化を辿っている事になるな…』
茶々丸はそう言うとジロっと昇を見た。昇達は黙ったまま立っていた。
『ここは一度、里に戻った方が良さそうだな』
『ふん、若僧が偉そうに…』
昇はムッとすると懐から何かを出すと茶々丸の目の前にちらつかした。そして遠くにそれを投げると、茶々丸は犬の習性かそれを追っかけて行った。
『若様…』
猿飛は呆れた顔をした。昇は必死に走って行く茶々丸を見ながら笑っていた。
その頃、凱は1人南の国を目指していた。不意に凱が立ち止まった。
『…ん?何だ…この気は!』
凱は西の方を見つめた。
『まさか、昇の身に何かあったのでは…いや、猿飛さんも茶々丸も居るんだ。大丈夫だ。とにかく、急がないと…』
凱は再び走り出した。山道を走っていると前を阻む者達がいた。それは俗に言う山賊だった。凱は仕方なく立ち止まった。
>> 352
『こらっ若僧。ここから先はタダでは通さんぞ!』
口髭を生やした男が刀の鞘の方で小突くようにした。後ろに居る3人が笑った。
『タダで通さん?とはいったいどういう事だ?』
凱がそう尋ねるとヒゲの男は鼻を鳴らし言った。
『へん!貴様の持っている物を全て出せって事だ!』
山賊達はまた笑っていた。凱は指で頭を掻きながら言った。
『それは、俺に言っているのかな?』
『当たり前だろう!ガタガタ言ってないで、早く出しやがれ!』
ヒゲの男は鼻息も荒く言って来た。凱は月黄泉を握った。
『おう若僧!俺達とやろうと言うのか?面白いやってやろうじゃないか!後で泣きべそかくなよ!!』
山賊達は刀を抜くと凱に切りかかった。凱はヒョイと飛び上がると山賊達を飛び越えた。そして後ろ蹴りで山賊の1人を蹴った。よろめきながら山賊達は倒れた。
『こらっ若僧!!何をしやがる!』
『何しやがるって…仕掛けたのはそっちだろう!』
『くそ~今度は本気で行くぞ!』
凱は「今までも本気でやってたのじゃないのか」と思いながら、仕方なく今度は素手で構えた。
『一斉に飛びかかれ!』
山賊達は飛びかかった。
>> 353
凱はヒョイとしゃがんだ。山賊達は頭をぶつけフラフラと後ろに転げた。
『いたた…コイツすばしっこいな…』
凱は腕を組んで立っている。山賊達は立ち上がるとまた刀を構えた。
『まだ、やるつもりか?お前達では、俺は倒せないぞ』
『何っ?!なんかコイツムカつく!!』
ヒゲの男は地団太を踏んだ。
『誰かコイツを倒せ!!』
凱は山賊達の目の前から一瞬にして消えた。
『えっ…?!き、消えた…まさか…ゆ、幽霊?!うわっ~~~』
山賊達は一目散に走って逃げた。凱は実は木の枝に飛び上がっただけだった。山賊達が居なくなったので下に飛び降りた。
『あははは…幽霊と勘違いしたか…まあ、良いか。先を急ごう!』
凱は再び、南の国を目指し走り出した。山を越えると南の国の街が見えて来た。街は何事ないように普段通りの賑わいだった。凱は通りを素早く通り過ぎ風雅の里を目指した。凱は里に着くと辺りを伺いながら、鬼火の屋敷を目指した。不意に声がした。
『おう!凱ではないか!』
そこに立っていたのは妙斬だった。
『妙斬さん来られていたのですね』
『ああ、時村様の命でやって来た。どうした?かなり慌てておるようだが?』
>> 354
『はい…次に阿修羅が攻めて来るのが、北の国だろうと雷鳴様がおっしゃいまして、それで鬼火様に手を貸して貰おうかと思いまして!』
『なるほど、ならば大丈夫だ。今、儂も鬼火様に会ってその事を伝えたところだ』
妙斬の言葉に凱は驚いていた。妙斬はそれに気づいて続きを話した。
『あははは…驚く事はない。時村様も同じ事をお考えだったのだ。お主が去ってすぐに儂に命じられたのだ』
『そういう事だったのですか。それで鬼火様はなんと?』
『自分で聞いて来い。まだ屋敷におられる』
妙斬は鬼火の屋敷の方を指差した。凱はその方を見ると頷いた。屋敷に入ると門番が2人立っていた。
『鬼火様にお目通りしたいのですが?』
『お主は何者だ?』
『月影の凱と申します』
『月影と言えば、北の国の忍。わかった。しばらくまたれい』
門番の1人が屋敷の方へ走って行った。
『しかし、今日は客が多いな…何かあったのか?』
残った門番が凱に尋ねた。
『話すと長くなるのですが…』
『それでも良い。聞かせてくれ』
『分かりました。では……』
凱が言いかけると先程、屋敷に行った門番が戻って来た。
>> 355
『鬼火様がお会いになる中に入れ。こっちだ』
門番は手招きをした。もう1人の門番が話を聞きたかったのか、名残惜しそうな顔をして凱を見つめていた。その横を通り過ぎ屋敷に入って行った。
『お主はこの前来た者だな。まあ中に入ったら良い』
鬼火はニコニコしながら手招いた。凱は近くに寄った。
『ところで今日はどうした?』
『はい、実は阿修羅についてなんですが…』
『ほう、先程も東の妙斬だったが来て言っていたな。それで、どうした?』
『はい、妙斬殿が言われたように次は北の国に攻めて来るのではと思っております。そこでこの風雅の里に手助けを求めて来ました』
『我々にな…』
『今は全ての国が1つになり、阿修羅を倒すべきと考えております。是非ともお力をお貸し下さい』
鬼火はしばらく考えていた。凱は黙ってそれを見ていた。
『わかった。それではすぐに向かおうではないか』
『ありがとうございます。では早速…』
『ちょっと待て。こちらも手垂れを準備したい。半時待たれい』
『それは任せます。私は街の方で待たせてもらいます』
『わかった』
鬼火は立ち上がると部屋を出て行った。凱もそれに続き部屋を出た。
>> 356
『鉄馬か?入れ…』
鉄馬は楓とその男の前にひざまずいた。
『お主…私の命じたようにすぐに北の国に行かなかったようだな』
『………』
鉄馬は黙っていた。
『まあ良い。見たところ刀を失ったようだな?』
鉄馬はうつむいたままだった。
『ならば、この刀をお主に与えよう』
その男は漆黒の刀を鉄馬の目の前に差し出した。鉄馬はそれを受け取ると見つめた。
『それは、黒龍刀。草薙が光ならば、それは闇だ。お主ならば扱えるはずだ』
『黒龍刀?!』
鉄馬の体の中に何かが流れ込んで来た。顔付きが少し変わった。楓はそれを見て少し恐怖を覚えた。
『鉄馬よ。それでにっくき月影の忍達を倒すのだ』
その男は振り返るとどこかに消えた。新たな刀を持った鉄馬は楓を引き連れ北の国を目指す為、外に出た。そこには数百人以上の阿修羅達が待っていた。
『鉄馬様お待ちしておりました』
『北の国など、我らで十分です。鉄馬様は高みの見物の気分でいて下さい』
その阿修羅達は今までとは違う雰囲気を漂わせていた。
『ならば者共参るぞ』
『オー!!』
阿修羅達の声が響いた。そして北の国を目指し進軍が始まった。
>> 357
その頃、昇達は北の国を目指していた。
『猿、この星黄泉は俺でも扱えるだろうか?』
『若様なら大丈夫です』
猿飛がそう言うのを聞いて、昇は少しホッとした。
『それはわからないぞ』
それを聞いていた茶々丸が言った。
『何故だ?』
『草薙の剣は神の剣。誰でも扱える訳ではない。八雲様でさえ、その力に翻弄されたのだ。昇、お主も同じ道を辿るかもしれん…今は大人しい星黄泉もいつその牙を剥くかわからない。そうならない為にも、気を自分の物にしないとな』
茶々丸の言うことは正しいのかもしれかった。昇は星黄泉を見ながら溜め息をついた。
『案ずることはありません。若様はちゃんとした継承者。だからこそ、その手に握られておられるのです。茶々丸殿の言うように、気を高める事が最優先かもしれません』
『わかった。2人共ありがとう。なんか勇気が出て来たよ』
『ほう、お主が珍しいのぉ…』
昇は懐からまた何かを取り出すと茶々丸の目の前にチラつかせ投げた。
『ふん!』
茶々丸は犬の習性か追いかけ行った。
『若様……』
『あははは……』
昇と猿飛は見合って笑った。茶々丸は投げた何かをくわえ帰って来た。
>> 358
『くそぅ…また、つい走ってしまった。このクソガキが…』
茶々丸は息を切らしながら言った。昇はまた懐に手を入れた。猿飛がそれに気づき言った
『若様!もうお止めなさい』
昇はニッコリ笑うと懐から手を出した。
『わかったよ。さて、里へ急ごうか?』
『はい』
昇達は北の国を目指した。その頃、凱達も北の国を目指していた。風雅の忍を大勢引き連れていた。先頭には鬼火と凱が居た。
『凱よ。阿修羅とはどんな輩なんだ?』
『はい。幻術を使い、時には人を獣に変えます。それにも幾つかの種類があるようで、私が見たのは狼、熊、鷲の3種類です。まだ究極があるみたいですが…』
『なるほど、凄い技を使うようだな。しかし、我らの風雅にも妖術はある。それは……』
鬼火はそう言いかけて止めた。辺りをキョロキョロしていた。
『どうしました?』
『我々をつけている者がいる。囲まれているようだ』
鬼火は凱に小声で言った。そして手をあげ指を色んな形に曲げたり開いたりしていた。後ろを歩いていた数人が列から離れた。
カキン
近くで争っている音がした。凱はその方を見た。さっき離れた数人が何かと戦っていた。
>> 359
戦っていたのは、狼の姿をした阿修羅だった。
『なぜ、こんな所に?』
『確かに…本隊は北に向かっているはずだ……。まさか?!』
『どうしたんですか?』
『北に行くと見せて各国を手薄にするのが、目的か…?』
鬼火は腕組みしながら考えている。
『宇摩!』
『はっ!』
宇摩は細身で顔は頭巾を被っている為、目しか見えないがキリッとした男前だろう。
『すまないが、一度里に戻ってくれないか?』
『分かりました』
宇摩は風を巻き上げ姿を消した。
『宇摩はこの世で一番脚が速い。探らせるならアイツが一番だ。さて、あの阿修羅をどうするかだな?』
風雅の忍と阿修羅はまだ戦っていた。以前より少し強くなっているように見えた。
『それなら、私がやります』
凱は月黄泉を抜いた。
『まさかそれは月黄泉!』
『はい。月黄泉です』
『そうか、お主がそうだったか』
鬼火は意味あり気に言った。凱は月黄泉を構えると気を高めた。凱の周りに風が舞い上がった。
『すみません。皆さんをどかして下さい』
『わかった』
ピーッ
鬼火は口笛を吹いた。すると風雅の忍はスッとその場から離れた。口笛が合図になっているのだろう。
>> 360
『くらえ~昇龍爆風斬!!』
風の渦が龍のように空高く上がり阿修羅達に向かってあっという間に切り刻んで行った。鬼火達をその凄さに驚いていた。
『凄い。見事だな』
鬼火は凱の肩を叩いた。すると、凱はスッと倒れた。鬼火はしゃがみ凱に声をかけるが返事が無かった。凱は気を失ってしまっていたのだった。
『おお…やっと起きたか。一時はどうなるかと思ったぞ』
『私はいったい?』
凱は起き上がった。
『無理はするな。技を出した後、いきなり倒れたんだ』
凱には何故倒れたのかはわからなかった。これは月黄泉と何か関係あるのかもしれない。
『すみません。まだ慣れてないのに使った性でしょう。もう大丈夫です』
『それなら良いが、無理はするな』
『ところで宇摩さんは?』
『さっき戻って来た。今のところ異常はないようだ。儂の思い過ごしのようだ。さて、ゆっくりもしとられん。先を急ごうか?』
『そうですね。先を急ぎましょう』
凱と鬼火率いる風雅の忍は北へと歩き出した。
『ところで、月黄泉の事はどこまで知っているんだ?』
『草薙の剣の一部である事は知っています。それ以上は詳しくは知りません』
>> 361
『なるほど。そこまでは分かっているようだな。しかし、草薙の剣に対する刀がある事は知るまい?』
鬼火は凱をチラッと見た。凱は頭を横に振った。
『やはりそうか…儂も詳しくは知らないが、遥か昔、スサノオがヤマタノオロチを倒して尻尾から出てきたのが、草薙の剣だ。だが、本当はその1本だけでは無かった。もう1つ出てきたのが、黒龍刀だ』
『黒龍刀…』
『草薙の剣が光ならば黒龍刀は闇。この世の中はすべて陰と陽で出来ている。この2つも同じ事だ。お互いが凄い力だった為、黒龍刀はどこかの洞窟に封印され、誰にもわからないようにした。そして草薙の剣は5つに分けられ各国の長に託された。お主の持つ月黄泉がそうだ。もしかすると、お主が耐えきれなく倒れたのは、黒龍刀の封印が解かれた性かもしれない。おそらくだが、星黄泉が現れているかもしれないな』
『星黄泉…土蜘蛛と月光が合わさると現れるのですよね』
『確かにそうだが、何か気になる事でもあるのか?』
『はい。実は土蜘蛛は我が月影の忍で昇が持っています』
『それなら良いではないか』
『ところが、もう1つの月光を阿修羅になった鉄馬が持っているのです』
>> 362
『なるほど。それは困ったな。何とかしてこっちに渡ると良いが…』
『そうですね』
凱は昇達の事を案じた。
『そう言えば、黒龍刀の封印された洞窟はどこにあるのですか?』
『儂も良く知らないが、八雲様が修行に使っていたと聞いた事はあるがな。この辺りには洞窟が幾つかあるから、その中の1つだろう』
『それなら、一度行った洞窟かもしれません』
『ほう。それなら確かめてみたらどうだろうか?』
『しかし、今は早く北に戻らないと…』
鬼火は笑った。
『我々だけで行こうではないか。後の者達を先に行かしたら良いだろう。とにかく、黒龍刀の行方を確認するだけだ』
凱は悩んでいたが鬼火を見たら言った。
『分かりました。行きましょう』
『それなら早速。皆の者聞けぇ~!我々は別行動をとる。お前達は先に北を目指せ。良いな?』
オーッ!!
風雅の者達は凱と鬼火を残し北を目指した。
『それでは、行こう』
凱は以前、昇達と行った洞窟に向かった。
『こっちです』
凱達は山道を進むとあの洞窟に近づいて来た。
『確か…』
『どうしたんですか?』
『ちょっと昔に聞いた話を思い出したもんでね』
『それは何ですか?』
>> 363
『まあ、とりあえず洞窟を調べてみよう』
凱は頷いた。洞窟に入ると手前にあった松明に灯りを灯した。
『ほうそんな物があったか』
『ここで八雲様が龍の彫刻をしていたようで。その時に使っていたようです』
『なるほどな。それで龍の彫刻はどこに?』
『この奥です』
凱達は奥へと進んだ。しばらく歩くとそこに龍の像があった。だが、以前とはまったく違う事になっていた。そう破壊されていたのだった。
『何故、こんな事に…』
『簡単な話だよ。黒龍刀は既にないと言う事だ』
鬼火は龍の像の欠片を拾い上げながら言った。
『ならば、黒龍刀は誰かの手に渡ったと言う事ですね』
『ああ、多分な。凱、もう少し奥に行ってみよう。』
凱は以前来た時に感じた物が何か分かった気がした。凱は松明を照らすと奥へと進んだ。この先は凱も知らない。不安の中進むと祠のような建物があった。扉が開かれ荒らされていた。
『これが、黒龍刀を封印してた所でしょうか?』
『いや、これは単なる祠だろう。封印されていたのはそこだ』
鬼火が指差した方を見ると、大きな石で出来た蓋が開きズレ落ちていた。その蓋には何か文字が書かれていた。
>> 364
《八岐大蛇の中より出し刀を此処に封じる》
『ここが、間違いなく黒龍刀を封印していた場所だな。何か巨大な力で封印されていたはずだが、簡単に開けてしまっている。これからすると、かなりの力の持ち主と言う事になるな』
『阿修羅…』
『多分な』
凱達はしばらくその石の蓋を見つめていた。
『さあ、行こうか?皆もそろそろ北の国に着いているだろう』
『そうですね。行きましょう』
凱達は洞窟を出ると北を目指した。2人は走る事にした。しばらく走っていると前を歩く者達がいた。生意気そうな男に、老人と犬、凱はその者達を知っていた。
『昇~!!』
そう。そこに居たのは、昇達だった。昇達は振り返った。
『おう凱!何故、お前がここに?あれっそっちの人は鬼火様?!』
『今、南からの帰りだ』
『そうか。南の国に行っていたのか』
凱達は昇達と合流した。
『お主!その背中の刀は…まさか、星黄泉か?』
昇はチラッと刀を見ると頷き言った。
『はい。これは星黄泉です』
『そうか。お主が受け継いだか』
鬼火はニッコリと笑って凱の肩を叩いた。凱も鬼火を見て笑った。昇はその笑いの意味がわからなかった。
>> 365
『どうして笑っているんだ?』
『ああ、ちょっとな。星黄泉の話をしていたからな』
『星黄泉の話?』
『その話は後で話す。ちょっと急ごう』
凱達は北の国へ急いだ。里の入口近くで、誰かが騒いでいた。それは伝助だった。
『伝助どうした?』
『…ん?凱に昇じゃないか!ちょうど良かった。今さっき凄い大軍がここを通って行ったんだよ。俺どうしたら良いかわからなくて…』
『それで1人ここで騒いでいたのか?』
『もうどうしたら良いかわからなくて…』
『ちなみにどんな感じだった?』
伝助はしばらく考えて言った。
『確か…忍で…あれは…あっ南の風雅だ!!』
『あははは…』
凱達は一斉に笑った。
『なんで笑うんだよ。俺はこの目でちゃんと見たんだ!』
『伝助よ。なら、この方はどなただ?』
凱がどいて後ろに居た鬼火を見せた。
『えっ…ふ、風雅のお、鬼火ぃぃぃぃさ、さ、様?!』
『そうだ。風雅の鬼火様だ。月影の援軍として貰ったんだ。お前が見たのはその風雅の忍で間違いないのさ。その前に雷鳴様の話聞いてなかったな?』
『あの…その…聞いてなかった』
伝助は顔を赤らめ申し訳なさそうにしていた。
>> 366
『さあ、もう少しです。急ぎましょう』
凱達は歩き出した。
『それにしても伝助は早とちりが過ぎるよな』
『もうそれを言うなよ。反省しているんだから…』
『あははは…それはすまなかった』
里が見えた。そこには皆が集まっていた。出迎えてくれたのは、雷鳴だった。
『おう凱ご苦労だった。鬼火久しぶりだな。わざわざ、来て貰ってすまなかった。さあこちらに』
『お主の頼みだ。気にする事はない』
凱達は屋敷の中に入って行った。
『さて、雷鳴よ話を聞かせてもらおうか。阿修羅の事をな…』
雷鳴は今までの話を話し出した。そして全てを話し終わると1人の忍を呼んだ。
『雷鳴様お呼びですか?』
『皆に紹介しよう。雷太だ』
呼ばれた忍が出てきた。
『ご紹介にあずかりました。雷太です。情報を集める事を専門に動いております』
凱達はポカンと見ていた。どこかで見たような?
『あっ!!』
凱と昇は見合った。2人が考えたのは同じだった。
『雷鳴様の息子の雷太!!』
『あははは…そうだ。我が子雷太だ。お主達久しぶりだろう?』
凱と昇は後ろに下がり出した。
『凱、昇久しぶりだな。何故下がっている?』
>> 367
実は凱達には苦い思い出があった。この雷太に関わるとろくな事にならなかった。一緒に修行した時も雷太の投げた手裏剣が屋敷の中にある親方様の壷を割ってしまい。その責任を凱達に押し付けて逃げたのだった。数えたらきりが無かった。
『ところで、阿修羅の動きはどうだ?』
『はい。今は気配を消しています。阿修羅に行かせた者の報告では鉄馬と言う男が、こちらに向かった事までは分かっています。その後の報告はありません』
『なるほど。分かった。また、引き続き調べてくれ』
『はっ!』
雷太はそう言うとその場から去った。凱達は少しホッとした。
『雷鳴。面白くない話がある』
『面白くない?なんだそれは?』
鬼火は凱をチラッと見た。凱はそれで何の事を言うのかは分かった。
『実はな。黒龍刀の事はわかるな?』
『ああ、ある程度なら…それがどうした?』
『それがな…阿修羅によって封印を解かれ持ち出されていたんだ』
『持ち出された?何故そんな事がわかる?封印されている場所もわからないはずだ。そんな物が持ち出されるとは…』
鬼火は組んでいた腕を外し床を叩いた。皆は一斉に鬼火を見た。
>> 368
『実はここに来る途中に凱と確認して来た。そこで見たのは、封印が解かれ持ち出された跡だった。しかし、封印は簡単に解けるものではない。そんな事が出来るのは阿修羅以外考えられない。阿修羅とは我らが思うより計り知れない力を持っているのかもしれない』
皆は黙ったままだった。
『だがな、こっちには月黄泉と星黄泉が揃った。決して負けた訳ではない。ここをどう切り抜けるかが問題だな』
『しかし、何故に黒龍刀の事が気になった?』
雷鳴はそう聞いた。
『それは簡単な話だ。月黄泉が現れた。そうなると星黄泉もいずれ現れると思った』
『それが黒龍刀とどう関係あるんだ?』
雷鳴が尋ねると鬼火は言った。
『お主も知っているだろう。草薙の剣と黒龍刀は対である事を…黒龍刀は闇の剣だ。それを封じていたのが草薙の剣。それが元に戻ろうとしている事からも、早い時期に封印は解かれていたと考えたのだ。いずれにしても黒龍刀は阿修羅の手にあると考えて間違いない』
『なるほど、そう言う事か。ならば、凱と昇には頑張ってもらわないといけないな』
皆は凱と昇を見た。
『そう言われても困ります』
凱は慌ててそう言った。
>> 369
『何を言われます。お二人は継承者なんですから』
猿飛が凱達を見てそう言った。
『凱よ!今はお主らに頼るしかない時なのだ。分かってくれ!』
雷鳴はそう言うと凱達に近づき肩を叩いた。
『分かりました。出来る限りやってみます』
『すまない。だが1つ新しい情報がある』
雷鳴は何かの新しい情報を持っていた。多分、雷太が集めて来たのだろう。
『それは、草薙の剣についてなんだ』
『草薙の剣…』
『お主らの持つ月黄泉と星黄泉は草薙の剣の一部分であるのは分かっているだろうが、だが5つに分けられた内の4つを持っている事になる。残りの1つの行方なんだが…』
『分かったのですか?』
凱は驚き聞いた。しかし、雷鳴は頭を横に振った。
『行方はわからないのだが、何なのかがなんとなく分かった』
凱達は黙って雷鳴の話を聞いた。
『目には見えないが、月黄泉と星黄泉を繋ぐ何かが存在すると言う事だ。武器でも勾玉のような宝物でもない。それが何かと言うのは、お主ら継承者しかわからぬ事なのだ。多分、扱っている内に見えてくるのかもしれないな』
凱も昇も雷鳴の話が分かるようで、わからなかった。
>> 370
『いずれにしても、お主らにかかっている。ひとまずは少し休んでおけ』
雷鳴はそう言うと鬼火達と奥の部屋に入って行った。
『凱どうする?』
『どうするも何もとりあえず休もう』
『その前に腹減った…』
『昇相変わらずだな』
凱達は自分達の小屋へと向かった。小屋に近づくと良い香りがして来た。小屋の扉を開けると、そこには咲が料理を作っていた。
『おかえり!無事だったのね』
『そりゃそうさ。お前と約束したからな。なぁ凱?』
『ああ、そうだな』
『それにしても良い香りだ。あっ俺の好きな焼き魚だ。それにお新香もある』
『おいおい。昇お前はなんでも好きじゃないか!』
『バカ言うな。俺も嫌いな物ぐらいあるわ!……ない…ないぞ。嫌いな物が考えてもないぞぉぉぉぉ~!』
昇は頭を抱えて騒いでいる。凱は呆れて見ていた。
『うふふ…昇ったら。さぁ出来たは食べて』
咲は料理を置きながらそう言った。頭を抱えていた昇もスッと料理の前に座った。
『いっただきま~す!!』
昇は凄い勢いで食べ始めた。
『凱もちゃんと食べてね』
『ああ、ちゃんと食べるよ』
凱は珍しく箸を持つと目の前に並ぶ料理を食べ始めた。
>> 371
凱は前で咲とはしゃいでいる昇を見ながら微笑んだ。食事が済むと今までの疲れが出たのか凱は深い眠りについた。
《が…凱…ぃ…お前には我が血が流れている…》
凱はこの声に聞き覚えがあった。真っ暗な中に浮き上がる影…それは幼い頃に見た光景…。
《さぁ次はこれだ…これを狙え…》
幼い凱は手裏剣を構えて投げた。投げた先には人の形をした的があった。
《上手いぞ…次はこれだ……》
幼い凱は嫌がった。それは野ウサギに的がつけられていた。幼い凱は泣き始めその影は困った顔をしていた。
《凱…お前は我が血を継いでいる…いずれ…長になるのだ……さぁ早くやるんだ…》
幼い凱は無理やり手裏剣を投げさせられた。野ウサギはギリギリでそれをよけ逃げた。しかし、その影が素早く手裏剣で仕留めた。
《うわあああん…》
幼い凱は泣き叫ぶ。影は闇に消えて行った。
《凱…この場所を覚えておけ…》
幼い凱は頷いた。そこは見た事のある場所だった。
《逃げるんだ!早く逃げろ……》
幼い凱は泣き出した。その影は力強く凱を押した。
《お前は私の息子だ……いつか……いつか…》
その影を大きな獣が襲った。幼い凱は必死に逃げた。
>> 372
『うわっ?!』
凱は飛び起きた。体中から凄い汗をかいていた。
『凱、大丈夫か?』
昇が近づき聞いた。
『すまん。変な夢を見た…』
『あははは…お前も夢を見るか?』
凱は額の汗を拭うと水瓶から水をくみ飲んだ。
『よほど怖い夢みたようだな?』
凱は昇を見た。
『いや…昔の自分の夢を見ていた…誰かと一緒なんだが、それが誰なのかわからない』
シュルシュル…
パンッ!!
小屋の近くでそのような音がした。凱達は外に出ると弓を持った髪の長い男がいた。髪の長い男は近くにある手裏剣用の的に弓を引いた。
シュルシュル…
パンッ!!
的のド真ん中を貫いた。髪の長い男は振り返った。
『久しぶりだな…凱!』
『お前…お前は首里か?』
『ああ、そうだ首里だよ』
『元気だったか?』
凱と首里は抱き合った。
『5年ぶりか?』
『そうだな…あれから5年経つな…』
首里は遠くを見つめていた。昇がその顔を覗き込む。
『うわっ!!お前は…昇か?』
『昇かじゃないだろ!その髪はなんだぁ~?』
『これは、俺の修行の証だよ』
昇が呆れて下を向いた。
『その長い髪のどこに証があるんだ?』
>> 373
『それは俺の目標かな…それで5年間切っていない』
『なんじゃそりゃ!ところで首里…今までどこで何していたんだ?』
『ああ…』
首里はしばらく黙ったままだった。すると鳥が羽根を広げたような弓を構えて矢を放った。それは先ほど刺さった矢をとらえ真っ二つにした。
『これを探していろんな所を回っていた。そしてある師範の下で修行をしていた』
首里は手に持った弓を凱達に見せた。
『…ん。なんだその弓は?』
『こいつは、孔雀!』
『孔雀?』
首里は弓を背負うと腕を組み話し出した。
『昔、源平の戦いの時、与一が平家の立てた扇を射抜いた時の弓だ。ずっと与一以外は誰にも扱えなかった。しかし、俺はこの弓を扱えるようになったのさ』
首里は長い髪を払った。すると昇が飛びつき首里の髪を切ろうとした。
『何をする?人の証を勝手に切るな!』
『鬱陶しいだよ!!』
『そんな事で勝手に切るな!!』
昇と首里はもみ合っている。凱が止めに入るが、跳ね飛ばされた。すると咲が近づいて来て怒鳴った。
『いい加減にしなさ~~~い!!』
咲は腕を組み仁王立ちしていた。昇と首里は組み合ったまま止まった。
>> 374
『久しぶりにあったのでしょう。みんな仲良く話そうよ』
凱達はコクコクと頷いた。
『お前達の性で俺までとばっちりだよ』
凱は囲炉裏の前に座って怒っていた。
『ところでその弓見せてくれないか?』
『ああ良いよ』
首里は凱に孔雀を手渡した。
『凄い弓だな!まるで鳥のようだ。今にも飛び立ちそうだな』
『そうだな。名前が孔雀と言うだけあるな』
『孔雀とは鳥なのか?』
『伝説の鳥で瑠璃色の綺麗な尾を広げ飛ぶ。聞いた話では海の向こうにある大きな島には、それが居ると聞いた。一度見てみたいもんだな』
『そうだな。俺も見てみたい』
凱達は夢見る顔で天井を眺めていた。
『気持ち悪いわね。3人揃って乙女のような目をしてさ。何の話をしていたの?』
お茶を持って来た咲は気持ち悪がった。
『この弓の話だ』
『何で弓の話であんな目になるの?』
凱は弓を見せるとさっきの話をした。
『そうなんだ。私もその孔雀の飛ぶ姿見てみたいな…』
咲も夢見る顔で天井を見つめた。
『ほらみろお前もなっているじゃないか』
昇は軽く咲を小突いた。
『あははは…本当だ』
『あっところで首里はいつ戻ったんだ?』
>> 375
良く考えたらその事を聞くのを忘れていた。
『今朝方帰って来た。変な噂を聞いたからな』
『変な噂?それはなんだ?』
『3日前かな…今、どの国もある大きな組織から狙われていると…確か、阿修羅とか言ったな!それをいち早く教えようと思ってな。だが、既にお前らは知っていた…いや、戦っていたんだな』
『ああ…阿修羅は強い。ただ、何者なのかわからない。その上どこから来ているかさえわからない』
『それなら、聞いた話では北の方にある国だと聞いた』
『やはり北か!』
『我が師範が修行をしていた頃、北に旅した時の話だ。我々とは違う目をし、髪の色は黒くなく、良くわからない言葉を話していたそうだ。多分それが阿修羅ではないだろうか?』
凱達は今まで阿修羅の本当の姿を見ていない。目の色など気にしていなかった。もしや首里の言う話が本当ならば俺達は未知の者と戦っている事になる。
『お前はそれを雷鳴様に言ったのか?』
『いや、まだ言ってない』
『それならば、すぐに話に行こう』
凱達は雷鳴の屋敷に向かう事にした。里には東西南北の人が集まっていた。屋敷に入り雷鳴達の居る部屋を目指した。一番奥に雷鳴達はいた。
>> 376
『雷鳴様!!』
『慌ただしいな。どうした?』
雷鳴と鬼火そして妙斬までがいた。
『首里から新しい情報があります』
『おお、首里ではないか。何年ぶりだ?』
『5年ぶりになります』
『そうか…5年か…それで半蔵師範に会えたのか?』
『はい、会えてなんとか修行をさせてもらいました』
『ほう、あの頑固な半蔵師範がなあ…それはそうと話を聞かせて貰おうか』
首里は師範から聞いた話をした。
『う~ん…目の色が違うか…』
『はい、そう聞きました』
『まあ、何にせよ。敵には間違いない。皆、気を引き締めるんだ。分かったな!』
『はっ!!』
キャー!!
突然、悲鳴が聞こえた。凱達は慌てて外に出た。
『どうした?』
そこには伝助が腰を抜かし座り込んでいた。
『あ、あれ……』
その指差した方を見ると獣人を従えて鉄馬が立っていた。しかし、以前見た鉄馬とは少し違う感じだった。
『あははは…忍共、今日がお前らの命日になる。覚悟するのだな!!』
鉄馬の手には漆黒の刀が持たれていて、不気味な雰囲気を漂わせていた。凱はもしやあれが黒龍刀ではないかと思った。
『鉄馬!!お前らの好きにはさせないぞ!!』
>> 377
『またお主か!だが、今までのようにはいかない!これがある限り俺は負けない』
鉄馬は刀を抜くと号令をかけた。獣人達が一斉に里の中に入って来た。首里が弓を放った。
シュルシュル…
矢は凄い勢いで先頭の獣人を貫きそして後ろに獣人をも貫いた。孔雀の凄さを見せつけられた。
『孔雀の凄さを見たか!』
続けて鉄馬に向け矢を放った。矢は鉄馬を目指して飛んで行く。鉄馬はニヤリと笑った。持った刀を大きく構え、振りはなった。矢は真っ二つに割れ左右に分かれ鉄馬の後ろへと飛んだ。
『そのような速さでは、蚊が飛んでいるようにしか見えないな』
『何っ!!』
首里は再び矢を放った。また、鉄馬は刀を構えた。そして再び矢を真っ二つにした。
『何度やっても同じ事よ!』
『くそっ!!』
首里は自分の不甲斐なさに両膝をついた。
『首里!お前が弱い訳ではない。奴が強すぎるのだ。それに奴の持っているのは、黒龍刀だ。』
『黒龍刀?』
『伝説の刀だ。持った者が、力が増しても不思議ではない。奴は俺が仕留める』
凱は月黄泉を抜き、鉄馬目指して走り出した。
『凱よ!皆より先に倒してくれるわ!!』
鉄馬も凱に向かって走り出した。
>> 378
『うりゃーっ!!』
ガシンッ!!
凱と鉄馬は組み合ったまま動かない。
『首里、俺達も行くぞ!!』
昇は阿修羅に向かって走り出した。首里は矢を放つ。獣人達はバタバタ倒れていく。
ウギャー!!
悲鳴にも似た叫び声をあげ迫って来る。昇は星黄泉を構え気を集中した。そして後ろ斜めに構え直し振った。すると土の龍が獣人達目指して飛んで行った。
ズドドド…
轟音を響かせて獣人を貫いた。
『星黄泉の力を得て強くなったようだな!』
『雷鳴様!』
雷鳴が昇の横に立っていた。
『しかし、まだ、俺の方が上だ!』
雷鳴は自分の刀を抜くと天にかざした。すると雨雲が空を覆い、そして一筋の光が刀に落ちた。
『さぁこれからが本番だ。この雷鳴と言う名の由来見せてやる』
雷鳴は雷で帯びた刀を獣人に向け振った。刀より稲妻が放たれ雷鳴を轟かせ獣人目掛け飛んでいく。獣人は稲妻を受け、痺れながら倒れていく。
『昇よ見たか?これが、雷鳴轟激!!』
雷鳴の持つ刀はまだ電気を帯びていた。
『その刀は?』
『これは、雷神刀だ。父がくれた刀だ。さぁ~また、阿修羅さんがおいでなすった。昇行くぞ!!』
『はい!』
>> 379
雷鳴達は獣人目掛け走り出した。電気を帯びた刀を地面ギリギリに滑らせ獣人めがけ斬り上げる。獣人は2つに切れ崩れ落ちた。昇は星黄泉を振り獣人を弾き飛ばしていた。すると新たな獣人が空から現れた。鷲の姿をした獣人だ。凄い勢いで降下して昇と雷鳴を斬りつけて行く。
『くそっ!!』
なんとか交わしている。
『苦戦しているみたいだな!』
『…ん。首里か!!』
『飛んでいるのなら俺に任せろ!』
首里は獣人に目掛け矢を放った。続け様に何本も矢を放つ。矢は獣人を貫いて行く。だが、獣人は増える一方で追いつかない。
『くそう…数が多いな…仕方ない。あの技を使うか』
首里は孔雀を両手で持った。そして何かを唱えると孔雀が2つに分かれた。への字の形になっているそれを構えた。
『獣人共これでも喰らえ!!』
首里をその2つを投げるとクルクル回って飛んで行った。獣人を切り裂きながら飛んで行く。そして円を描いて戻って来た。首里は手を交差した形で受け取った。
『おい、それは?』
見ていた昇が尋ねた。
『孔雀は弓だけでなく、色んな武器になる。今のも飛龍と言う武器だ。いくつかあるがいずれ見せてやるよ』
『凄いな!』
>> 380
『昇また来たぞ!』
昇は陸を首里は空の獣人達を倒して行った。その頃、凱は鉄馬と戦っていた。
『腕を上げたようだな。いや、月黄泉のおかげか?』
『何を?!』
ガキンッ!!
凱と鉄馬は離れ間合いを取った。
『仕方ない。本当の力を見せてやる』
鉄馬は黒龍刀を縦に構え呪文を唱えた。すると黒龍刀が不気味な光を放った。その光が鉄馬を包むと手の方から硬化していく。まるで鎧を着たような体になった。
『これが、黒龍刀と一つになると言う事だ!!』
漆黒の体は不気味に光っていた。闘気のような光は鉄馬を大きく見せた。
『ウリャーッ!!』
鉄馬はそう叫ぶと闘気が弾けた。それが凱にぶつかると弾け飛ばされ転がった。
『うう…なんなんだ…この気は……』
『これが黒龍刀の力』
鉄馬は黒龍刀を横に払った。
『それだけではない。獣人達を強くしてやる』
漆黒の闘気が獣人達に流れて行く。獣人達は唸りながら変化していく。その体は虎の形に変わった。
『もう、これでお主達は勝てない』
『何だと…』
『今までの中で一番強い獣人達だ。自分達の力のなさに嘆くがよい』
鉄馬はそう言うと笑った。強化した獣人達が迫って来る。
>> 381
虎の姿の獣人達が迫って来る。確かに今までの中で一番強いのは一目で分かった。
『凱、どうする?』
『昇か!俺達にはこれがあるではないか!』
凱は月黄泉を見せた。獣人が襲いかかる。素早くよけ月黄泉で斬った。獣人の体から血がほとばしる。唸り倒れた。獣人は斬られた体でまだ立ち上がろうとしている。凱は留めを刺そうと構えた。
《た…助けて…》
凱は意外な言葉を聞いた。敵である獣人が助けを求めているのだ。
『今更、何を言う』
《た、た、助けて…我らを…助けて…》
凱には理解出来なかった。目の前の獣人はそう言って息絶えた。
ズバッ!!
凱の後ろで音がした。
『何をしている?』
そこには昇が獣人を斬り立っていた。
『凱、何をそんな所でぼーっと立っているのだ?』
『…ん。いや、別に…』
『それなら、奴らを倒しに行くぞ!』
凱達は再び獣人達に向かって行った。凱は振り返った。さっきの息絶えた獣人が元の人に戻っていく。その時、気が付いた。目の色が違う事に…。だが、止まる事なく走った。虎の姿の獣人も今の凱達には、大した相手では無かった。
『昇龍爆風斬!!』
『土龍連弾!!』
凱達は一斉に唱えた。
>> 382
放たれた2つの技は獣人目掛け向かって行った。
ズドドド……
『ぐわーーーっ!!』
技を受けた獣人達は倒れていく。あっという間に獣人のほとんどが居なくなった。近くで見ていた鉄馬が再び凱達の前に立った。
『思ったよりやるな…しかし、この黒龍刀の威力を見せてやる?!……ううう?!』
鉄馬は突然、膝をつき頭を抱え苦しみ出した。すると1人の少女が現れた。
『鉄馬様、大丈夫ですか?』
『か、楓か……頭が割れそうだ…』
『ここはひとまず、引きましょう!』
楓は鉄馬の肩を抱えると凱達の目の前から消えた。
『待て!!』
昇が叫ぶが、鉄馬達はそこには居なかった。
『畜生!!逃げられた』
昇は近くにあった石を蹴った。
『仕方ない。それより残りを始末しないとな』
近くに居る獣人達を見た。ところが、獣人達は逃げ出した。他の皆も呆気にとられていた。
『どうやら、術者が居なくなったからだろう』
昇と何人かが追っかけようとした。
『ほっとけ!もう何もして来ない』
『しかしよう』
昇が振り返り言った。
『無益な殺生は止めろ!!』
凱の一言で皆も追いかけるのを止めた。
>> 383
『昇…ちょっと気になる事がある。こっちに来てくれ』
凱は昇を倒れている獣人の所へ連れて行った。すでに人に戻っていた
『凱よコイツがどうした?』
『目を見てみろ!』
『…ん!俺達と違って青いな』
『そうだ。前に聞いたように異国の民かもしれない。他も見てみよう』
『髪の色も違う…』
『息絶える時に言ったんだ。我らを助けてとな』
『どう言う事だよ?』
『俺にも分からん。だが、阿修羅はもしかしたら本当の敵ではないのかもしれないな…』
凱達は改めて倒れている獣人を見た。すると、雷鳴や首里が近づいて来た。
『どうした?』
『いえ、我々は何の為に戦っているのでしょうか?』
『それは国を守るの為だろう』
凱は倒れた獣人を指差した。
『なら、奴らは何の為に戦っているのでしょう?』
雷鳴は凱の言動に何かを感じた。
『凱どうした?何かあったか?』
『奴らを見ているとそんな事を思ってしまいます』
『……そうだな』
雷鳴は凱が言いたい事がなんとなく分かった気がした。
『さぁ、またいつ奴らが来るかわからない。帰るぞ』
『はい!』
阿修羅は去ったが凱達の戦いはまだ始まったばかりだった。
>> 384
しばらくは、平和な日々が続いていた。あれから阿修羅の動きは無かった。凱はまだあの時、獣人の言葉が頭から離れ無かった。
《助けて…我らを助けて…》
『おい!凱どうした?そんなにぼーっとして』
昇がそう言って近づいて来た。
『…ん?ちょっとな』
『最近、お前いつもそうだな』
『………』
凱は遠く見つめていた。昇はそれ以上は言わずにその場を去った。
『よう、昇どうした?浮かない顔して』
『首里…いやな…最近の凱の様子が変なんだよ。ほらっあそこ』
首里は凱の方を見た。凱は相変わらず遠くを見つめていた。
『本当だな…何があったと言うんだ?』
『俺も良く分からねー。この前の戦いの後からだな』
『まあ何か考える事があるのだろう。ところで、今暇か?』
『藪から棒になんだよ。暇って言えば暇だけど』
首里がニヤリと笑った。昇の腕を掴むとどこかに引っ張って行った。
『ここだ!』
『ここって…まさか?!』
『そう。温泉だよ』
里の近くに温泉があり、頻繁に里の人が入りに来るのだった。中には遠くから来る人もいた。
『温泉って、俺は入るつもりはないぞ』
首里は手を横に振りながらニヤけた。
>> 385
『違う違う。とりあえずこっちだ』
首里は相変わらずニヤニヤしながら温泉の外壁を昇を連れて回った。
『此処だよ』
外壁の一部に穴が開いていた。
『この穴を覗いてみろ!』
『えっこの穴か?』
『そうだ。覗いてみろ!』
昇はその穴を覗いて見た。そこからは温泉がみる事が出来た。
『…ん?温泉が見えるけど…』
昇は振り返り首里に言った。
『そう温泉が見えるんだ』
『だから何なんだ?』
『お前も鈍い奴だな。考えてみろよ。ここに人が入って来たらどうなる?』
『………うわっ!!見えちゃうな!』
『そういう事だ。どうだ?良いだろう?さっき、隣の町から来た娘5人組が、温泉の事を聞いていたから、間もなく入って来るはずだ』
『うんうん!!』
昇は目を輝かせていた。すると誰かの入って来る音がした。
『おっ来たぞ』
2人は外壁にへばり付いた。湯気の向こうから人影がぼんやりと見えた。
『畜生!湯気ではっきり見えないな』
『この湯気なんとかならないかな?』
首里と昇は考えた。
『よし、見ておけ』
首里は孔雀を持つと空を目掛け投げた。孔雀はクルクルと回りながら飛んで行った。
>> 386
『あれを投げてどうするんだ?』
『まあ見てたらわかるよ』
そう言うと何か呪文を唱えた。空を飛んでいる孔雀が大きくなった。そのまま首里の元に戻って来る。すると凄い風が吹き、湯気を吹き飛ばした。
『おーっこれは凄い。湯気が飛ばされて行くぞ』
『見えて来た。見えて来たよ』
首里と昇はニヤニヤしている。
『おいおい、背中が見えているよ』
『本当だ!』
昇の鼻から血が出ていた。
『お前鼻血出ているよ』
昇は鼻血を拭くとまた覗いた。
『畜生…もうちょっとで見えるのに…』
その時背中を見せていた人が振り返り立ち上がった。
『えっ??』
ガァーン!!
『な、な、無くて良い物がある……』
『誰だ?』
シュシュ!!
コンコン
その人は手裏剣を昇達目掛け投げて来た。
『うわっ!!』
昇達が見たのは、仁王立ちの雷鳴だった。昇達が必死になって覗いていたのは雷鳴だったのだ。その後、雷鳴に捕まりこっぴどく殴られたのは言うまでもない。
『昇…首里…どうしたその顔は?』
凱が近づいて来て言った。
『…ん。ちょっとな』
昇達はしょんぼりして歩いて行く向こう側で5人組の娘が温泉に向かって行った。
>> 387
『あははは…何やっているんだよお前らは』
凱は大笑いしながら転げ回っていた。
『やらしい!!』
咲は軽蔑の目で見ていた。
『だって首里の奴が面白い事あるって引っ張って行くからよ…』
『何言ってやがる。お前も必死に覗いた上に鼻血出していたじゃないか!』
『何を!』
『何だよ!』
昇と首里は取っ組み合いの喧嘩が始まった。
『止めろよ!お前ら!』
凱が間に入って喧嘩を止めていた。
『おーい召集だ!』
伝助が呑気な顔をして来て言った。凱達は振り返った。
『…ん?何かあったのか?』
『わからん?とにかく呼んで来いと雷鳴様が…』
凱達はお互いを見て、雷鳴の屋敷に向かった。雷鳴の屋敷には各国の代表達も居た。
『やっと来たか。まあそこに座れ』
『呼んだのは他でもない。お主らには阿修羅を探しに行って貰いたい』
『我々がですか?』
『ああ、そうだ。雷太も探しているのだが、限界がある。だから各国の代表が数名ずつ出し、今度はこちらから攻める事に決まったのだ。すまないがお主らも今から行って来て貰う』
凱達は不安はあったのだが、雷鳴の命令でもある為頷いた。雷鳴は凱達の前に巻物を置いた。
>> 388
『それは、雷太達が今まで調べた地図である。お主らにはその地図の北西の所を探して貰う事にした。そして、赤い点のある所が雷太達の中継点だ。そこには情報が集まって来る。まずはそこを目指してくれ』
凱は巻物を見て確認して、出発の準備をする為に自分達の小屋へと戻った。
『みんな!何だったの?』
『ああ、また出掛ける事になった』
『えっまた出掛けるの?』
咲は不安そうな顔をしている。
『今度は我々が阿修羅を見つけに行くだと』
昇が面倒くさそうに言った。
『そうなんだ……それでいつ出るの?』
『支度が済んだらすぐに出るつもりだ』
咲の質問に凱が答えた。
『それなら少し待ってて』
咲はそう言うと小屋を出て行った。凱達は旅支度を始めた。
『あまり余計な物は持って行くなよ』
凱がそう言うと昇は風呂敷から何かを戻していた。良く見ると枕を持って行こうとしていたようだ。凱がジロッと見ると昇は言った。
『この枕じゃなきゃなかなか寝れないのだよ』
『馬鹿言え!いつも枕無しでガーガー寝ているじゃないか!』
『うるさいな。持っていかないよ』
そんな事を言っていたら咲が戻って来た。
>> 389
『はい。これを持って行って』
咲が差し出したのは、手作りの弁当だった。
『私はこんな事しか出来ないけど、絶対に戻って来てね』
そう言うと凱達1人1人に弁当を手渡した。
『もう見送らないよ。じゃあね!』
咲は小屋を出て行った。
『咲!ありがとう!!』
凱は叫んだ。咲は振り向く事なく、右手を上げ振った。
『昇!首里!行こうか?』
『そうしますか!』
『いざ、いかん!』
凱達は里を旅立った。しばらく、北西を目指して歩いていた。すると首里が何かに気づき言った。
『誰かにつけられている』
『ああ、1人…いや2人だな!』
凱も気づいていたのか、そう答えた。
『違うな。1人と1匹だ』
昇はニッコリ笑って言った。それが何か分かっているようだ。
『そうだよな?猿!茶々丸!』
木の陰から現れたのは、昇の言う通り、猿飛と茶々丸だった。
『ははははは…さすがは若様!お気づきでしたか?』
『そりゃ分かるさ。仲間だろう!』
昇は猿飛の肩を叩いた。
『ふん!少しは成長したようだな!』
茶々丸が下からそう言った。
『お前はいちいちうるさいよ!』
昇が蹴る真似をした。すかさず茶々丸が飛び上がった。
>> 390
『相変わらず良い2人組だな。あっははは…』
凱が笑った。しかし、1人だけ話が見えていない者がいた。それは首里だった。
『誰なんだい?』
『紹介しておくよ。こっちが猿飛さん、そしてこっちが茶々丸だ』
凱が2人を紹介した。
『お主は首里だろ?』
『えっ犬が喋った?!』
首里が転びそうになる。
『あははは…やっぱり驚くよな』
凱は笑いながら言った。
『そうだよ。犬のクセに生意気なんだよ』
昇が頭の後ろに腕を組み言った。
『ううう…ワン!!』
案の定、茶々丸が昇に噛みついた。昇は噛みつかれたまま走り回っている。
『痛たたたた…』
しばらく走り回っていた。
『本当に仲が良いな』
『大丈夫なのか?』
『あれで仲は良いのだよ』
『あれでね…』
首里にはイマイチ分からなかった。すると猿飛が凱に言った。
『凱殿、若様は星黄泉を持たれてから少し成長したように思います。猿は本当に嬉しゅうございます』
感極まったのか泣いている。しかし、凱は浮かない顔をした。
『凱殿どうされた?』
『実は、月黄泉を持ってから、たまに目眩のような事があるのです』
>> 391
猿飛は腕を組み考え出した。
『それはもしかすると、力を吸い取られているのかもしれませんな…』
『吸い取られている?』
『簡単に言いますと、気を吸い取って技にすると言う事です。凱殿が技を出す時に月黄泉が一時的に力を蓄え放出しているのではないでしょうか?逆に言えば、凱殿が気を高めれば高めれるほど、技が凄い物になる訳です』
『……なるほど。ならば気を高める修行を続けないと…』
『ちょっと待って下さい。確かこの方に行くとある村に行き着きます。そこに法然と言う身分の高い僧侶がおりまして、不思議な勾玉を持っていると聞きました。もし宜しければ寄ってみませんか?』
『勾玉ですか…それで強くなるのであれば、行きましょう!』
『まずはあの2人を何とかしないと…』
そう。昇と茶々丸はまだふざけあっていた。どちらかというと本気になりかけていた。
『昇!茶々丸!行くぞ!!』
暴れ回っていた2人がピタリと止まる。
『もう行くのか?分かった。茶々丸行くぞ!』
『俺に命令するな!』
まだ、ふざけあうようだった。
『いい加減にしろっ!!』
凱がマジ切れして怒鳴りつけた。2人はシュンとなって小さくなった。
>> 392
凱達は猿飛の言う法然の居る村を目指す事にした。しばらく歩くと広い草原に出た。かなり先まで見える。時より吹く風に草が揺れていた。空は晴れていて、ゴロンと寝転んで寝てしまいたい衝動にかられる。
『今日は良い天気ですな』
『そうですね。ここしばらくは、空なんてゆっくり見てなかったですからね。気持ち良いですね』
『そうですな』
凱と猿飛は空を見ながら歩いた。
『上ばっかり見ていたら、鳥に糞を落とされるぞ』
昇は笑いながら言った。久しぶりの平和な時を凱達は過ごしていた。草原の先に小さく建物が見えた。多分それが法然の住む村だろう。たまに野ウサギが凱達に驚いて走って行く。やっと村の入口にたどり着いた。しかし、村の中は静まり返っていた。
『誰も居ませんね』
凱がそう言った。
『誰か居ませんか?』
昇が大きな声で叫んだ。
『返事がないな…何かあったのかな?』
『おかしいな…とりあえず皆で探してみよう』
凱がそう言うと皆は散らばり村を捜索した。
『誰か居ませんか?』
家を一軒一軒見て回った。村全ての家を見たが人っ子一人居なかった。
『やはり誰も居ないな…どうしたんだろう?』
>> 393
不思議な事に全てをそのままに居なくなっていた。沸かした鍋はそのままで、農具も使ったまま畑に置いてあった。本当にさっきまで居たような状態であった。村の奥に変わった形の寺があった。
『後はあそこだけだな。行ってみよう!』
凱達は寺に向かった。
『すみません?誰か居ますか?』
『誰じゃあ?』
中から声がした。
『誰か居るぞ』
凱達はその声の主を待った。寺の入口の扉が開いた。
『うるさいな…お主らは誰じゃあ?』
無精ひげを生やし、汚い服を着ていた。その男は頭を掻きながら無愛想に言った。
『私達は月影の里から来た者です。法然と言う方を探して参りました』
凱がそう言うと無愛想に言った。
『法然なら儂じゃが…月影の忍が何の用じゃ?』
『実は不思議な勾玉をお持ちだと聞きまして来ました』
『…勾玉?勾玉の事を聞いてどうするつもりじゃ?』
『今、私達にはそれが必要な事が起きています。出来ればそれをお貸し下さい』
『貸してくれか……まあ、立ち話もなんだ。中に入れ』
そう言うと法然は寺の中に凱達を手招いた。寺はかなり昔に建てられたのか、あちこちが壊れていた。寺の中央にある部屋には大きなお釈迦様の像があった。
>> 394
『立派なお釈迦様ですね』
『お釈迦様は立派だが、寺自体はもうボロボロじゃ。いつ壊れるか分からないから気をつけろ。あははは…』
法然は呑気に笑うが聞いた凱達には不安が増えただけである。凱達は床が軋む度にビクついた。
『ところで、村に誰も居なかったのですが?』
『あははは…当たり前じゃあ!この村には儂しかおらん!』
豪快に笑いながら法然は言った。凱達には理解出来なかった。
『前はかなり居たのだがある時、皆揃って出て行ってしまった。儂も誘われたが断ったんじゃ』
『何があったと言うんですか?』
『何…化け物が出たんじゃあ』
『化け物ですか?』
凱達は法然の話がまだ見えてなかった。
『そうじゃ。獣の姿をした化け物じゃあ!』
凱達は獣と言う言葉で全てを理解した。
『それなら、私達も知っています』
『…ん?お主らも見た事あるのか?』
法然は驚いた顔をして言った。
『はい。私達は今その化け物と戦っているのです』
『なんと、あんな化け物と戦っているのか?』
『はい。奴らは阿修羅と言う集団で、人を獣にして戦っているのです。奴らを倒す為にも勾玉が必要なんです』
>> 395
法然は腕を組みながら笑った。
『なるほど、そう言う事になっているのだな!しかし、勾玉はここにはないぞ!』
『勾玉はないのですか?』
『無いとは言ってもここにはないと言う事だがな。がははは…』
また、豪快に法然は笑っている。
『えっならばどこかにあるのですか?』
『そうじゃ。その化け物が出る剣間山にある。この村から北西に行った所にある山じゃ。そこにある祠の中に締まってあるわい。がははは…』
『ならばそこに行ったらあるのですね』
『そうじゃ。あるが化け物がまだ居るからのぉ…』
法然は渋い顔していた。
『それなら私達が行って退治して来ますよ』
法然は驚いている。そしてキリッとした顔をして言った。
『見た所、かなりの腕を持っているようじゃな!それなら取って来たら、勾玉をお主らにやるわい。まあ、怪我をせぬようにな』
法然は凱達の実力をいまいち信じていないのかそう言った。
『関係ないけどさ、ずっと気になっていたのだが、鍋をそのままにしてあったけど、本当にあんただけなの?』
昇は気になっていたようでそう聞いた。すると法然が何かに気づいたのか驚き言った。
『しまった。鍋をしていたのを忘れておったわ』
>> 396
凱達はこけた。
『早速、鍋を見に行かないと…あっそうじゃ。お主らも一緒にどうじゃ?』
そう言われれば腹が減っていた。咲の弁当もある事だし一緒に食べる事にした。鍋は畑で採れた野菜と近くで捕った猪だった。しかし、坊主は生臭さは駄目のはずだがと思いながらも法然と凱達は鍋を食べた。
『その阿修羅…いや化け物はいつぐらいに現れたのですか?』
法然は箸を止めた。
『あれは3ヶ月前ぐらいかな…山に化け物が出たと村人が騒ぎ出してな。儂も武道家の端くれじゃ。退治する為に山に向かったのじゃ。しかしなあ…化け物は自らは攻撃をしようとはしなかったのじゃ。どちらかと言うと死にたがっているようにも見えたわい』
『死にたがっていた…』
凱はぼそりと言った。凱はあの時の獣人の言葉を思い出していた。
《助けて…我々を助けて…》
その意味がまだ分からなかった。
『凱、どうした?また、ぼーっとしているぞ』
『あっすまん。ちょっとな…それはそうと食事も済んだ事だし行こうか?』
『ちょっと待て!』
凱達は祠を目指して行こうとした時、法然が止めた。
『忘れておったわい。勾玉は簡単には取れないようになっておる』
>> 397
『取れないって、さっき取って来たらやると言ったではないですか。そう言う事は早めに言って下さいよ』
『がははは…最近は物忘れが激しくてな。儂が術をかけて簡単に盗られないようにしていたのを忘れておったわい』
『なら、どうやれば術が解けるのですか?』
凱が尋ねると法然は考え込んだ。凱達はジーッと法然を見ていた。
『がははは…忘れてしまったわ!がははは…』
法然は禿げた頭をペンペンと叩いて笑っていた。凱達は途方に暮れていた。
『ちょっと待て。思い出すから…』
法然は座禅を組み考え始めた。どこかで見たことのある光景だ。確か一休み?だったかな?そんな事はさておき凱達はしばらくそれを見ていた。
『凱!コイツ噛んで良いか?』
イラついているのか、茶々丸がそう聞いてきた。
『茶々丸落ち着け、しばらく待とう』
茶々丸は左右に行ったり来たりしている。
『こらっクソ犬!チョロチョロするな!かえってイライラする!』
『何~っ!!やるか小僧?!』
『望む所だ。表に出ろ!』
昇と茶々丸は外に出て行った。しばらくすると外で争っている声が聞こえて来た。凱はただただ呆れているだけだった。その時、法然が目を開けた。
>> 398
『すまなかったの。やっと思い出した』
『良かった。それでどうやって術を解くのですか?』
『なに簡単じゃ。儂が言って“解”と言うだけじゃ』
凱はまたこけた。凱は立ち上がりながら苦笑いした。
『あはっあはっ。ならば一緒に来てもらえますか?』
『そりゃ構わんよ』
法然は頭をペンペンと叩いた。そして凱達は表に出た。そこには争い疲れたのか、昇と茶々丸が座り込んでいた。昇が出て来た凱達に気が付いた。
『はーはー。わかったのか?はーはー』
『ああ、わかったよ。祠に急ごう』
『はーはー。わかった』
昇達は立ち上がった。そして祠へと向かった。
その頃、鉄馬はうなされていた。
《誰だ?お前は誰だ?》
鉄馬の前に黒い影が浮かび上がった。その黒い影は何も言わないで立っている。黒い影は刀を抜いた。
《止めろ!来るな!来るな!》
鉄馬は叫んだ。しかし黒い影は刀を振り上げると鉄馬目掛け斬りつけた。
《うわーっ!!》
カバッ!!
鉄馬は目を覚ました。
『鉄馬様大丈夫ですか?かなりうなされていましたよ』
鉄馬は辺りをキョロキョロと見た。そう鉄馬はあの時、倒れてから今まで眠り続けていたのだった。
>> 399
『楓か…俺はいったいどうしたんだ?』
『はい。あの時に急に倒れられて今まで眠っておいでだったのです』
『確かに急に頭が痛くなって…その後は覚えてない』
鉄馬が寝ていて所には、黒龍刀が置いてあった。
『鉄馬様。起きたらあの方が連れて来るように言われていました。早速行きましょう』
鉄馬は黒龍刀を持つと楓に連れて行った。そこは薄暗い部屋だった。
『楓です。鉄馬様を連れて参りました』
『入れ』
その男は低い声で言った。中に入るとその男の他に4人居た。変わった風貌の4人は鉄馬を見るとニヤリと笑った。鉄馬は4人を睨みつけ男の前に座った。
『鉄馬よ。もう大丈夫なのか?』
『はい。もう大丈夫です』
『そうか…しかし、お前に黒龍刀を持たせたのは早かったかもしれないな。そこで、お前にこの者達を付けよう』
さっきの4人だ。
『いえ。私には必要ありません』
『ヒャヒャヒャ戦場で倒れた奴が良く言うよヒャヒャヒャ』
青い鎧を着た男が言った。
『あらっそんな事言ったら可愛そうじゃない。ねぇ~鉄馬ちゃん』
赤い鎧を着た男がそう言った。少し女性のような喋り方をするようだ。
『お前らからかうのは止めろ』
- << 401 白い鎧を着た男が怒鳴る。この中で一番落ち着いている。その横で黒い鎧を着た男は黙っていた。体はかなりデカいのだが、口数は少ないようだ。 『鉄馬よ。私が白虎だ』 白い鎧の男が言った。 『そして青い奴が青竜、赤い奴が朱雀、そして黒い奴が玄武だ。よろしく頼む』 この4人は色で判断出来るようだ。 『だから、俺には必要ない』 鉄馬は黒龍刀で床を叩いた。 『鉄馬…今は奴らを使え。1人1人が阿修羅の獣人100人に匹敵する力だ。お前が黒龍刀を扱えるまでだ。良いな?』 謎の男はそう言った。鉄馬は納得はしていなかったが、頷いた。 『鉄馬ちゃんよろしくね』 朱雀がまた女性のような喋り方で言って鉄馬に抱きついた。 『ヒャヒャヒャ鉄馬。朱雀に気に入られたみたいだな。寝る時は気をつけろよヒャヒャヒャ』 青竜の独特な笑いに鉄馬はムッとした。 『お前ら聞け今から鉄馬が我らの長だ。無礼は許さんぞ』 白虎が一番ましかもしれない。 『さて、鉄馬。お前達に指令を出す。剣間山に祠がある。そこから勾玉を取ってくるのだ。良いな?』 『勾玉ですか?』 『そう勾玉だ。力が増すと言う代物だ。必ず取って来い』 『分かりました』
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