白銀翼の彼方
しばらく違う所に書いていたのですが、思いきってここに載せてみようと思いました。
ヘタクソですが長い目で見てやって下さい。
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>> 200
『それなら笑うな!』
そう言って後ろを向いた。凱は最後の一杯を呑むと昇に言った。
『明日も早いから寝るぞ!』
凱は立ち上がり奥部屋へと入って行った。
朝になると辺りで雀の声が聞こえて来た。すると誰かの足音が近づいて来る。凱は身構えた。
『凱、昇、居るか?』
凱は声の方を見ると伝助が立っていた。凱達と一緒にこの屋敷に連れて来られた。孤児であった。あだなは泣き虫伝助だ。
『居た…早く起きろ!里が大変な事になっているぞ』
『どういう事だ?』
『どういう事もくそもない!とにかく早く来い!』
そう言って伝助の後を凱達はついて行った。すると里の至る所で人が斬り殺されていた。
『誰がこんな事を…』
無差別に女、子供も関係なく殺されていた。凱は死体の斬り口を見た。
『この斬り口は…風雅の者…』
それを聞いて昇が言った。
『…風雅?ヤツらは南の忍…俺達とは同盟を組んでいるはずだ…何故にこんな事を…』
凱は立ち上がり伝助の肩に手を置くと言った。
『雷鳴様に伝えて来い』
『おお、わかった』
伝助は屋敷の方へ走って行った。
>> 201
里の人が集まっている中、雷鳴が現れた。
『酷いなこれは…』
『はい、雷鳴様…この斬り口は風雅の者の仕業…』
『確かに似てはいるが…まさかな』
雷鳴はしばらく考え込んだ。そして凱に言った。
『お前頼みがある。昇を連れて風雅の里に行って様子見て来てくれ!』
『わかりました』
凱は昇を見ると合図をした。そして2人は南の国の風雅の里へ向かった。
山道を歩く2人は黙ったまま風のように走っていた。1つの山を越えた頃、凱達は休む事にした。
『凱、正直お前はどう思う?』
『わからん?斬り口は風雅だが…どうも引っかかってな!』
2人はまた押し黙ってしまった。
『とにかく行ってみるしかない!』
『そうだな…』
『先を急ごう!』
『おう!!』
2人は風雅の里へ走り出した。2つ目の山を越えた所に風雅の里はあった。里の中を見渡すが平和そのものだった。すると黒い影が飛び回るのが見えた。
『あれはまさか…月影の者…』
『どういう事なんだ?俺達の里の者が何故に?俺達以外に誰が…』
『わからん?もう少し近づいてみよう』
『おう…』
>> 202
凱達は里の稲垣の所まで行くと中の様子を見た。すると悲鳴が上がった。さっき入って来たヤツらがそこにいた人を斬り出したのだ。
『何っ!?』
凱は驚いた。そこにいる女、子供関係なしに斬り殺しているのだ。昇が飛び出そうとするのを凱が止めた。
『ちょっと待て!今俺達が出て行ったらややこしくなる!もう少し待て』
昇は仕方なく留まった。悲鳴が聞こえて風雅の者達が、飛び出して来た。そしてそこにいる男達に刃を向けた。
シュッシュッ
キンキン
ブシャー
だがその男達は強く、風雅の者達が次々と倒されていく。すると風雅で一番の鬼火が出てきた。
『お主ら!ここが風雅と知っての行いか?』
鬼火の一言で争っていた者が一瞬止まった。
『その出で立ちは月影の者だな!同盟を組んだ我が里に、何故そのような事をする?まだやると言うなら、この鬼火が相手になってやる!かかって来い!!』
鬼火の一声は里中に響いた。するとヤツらは鬼火に向かって斬りかかって行った。だがあまりにも鬼火は強かった。必殺技である火炎が男達を包み込んだ。何人かが火だるまになり転びまわっている。それを避けた3人はその場から消えた。意外にあっけなく終わった。
>> 203
『チッ逃がしたか!』
鬼火は1人の男を起こした。
『てめぇーら何故この里を襲った?』
鬼火が睨みつけ言うとその男は口の中で何かを噛み飲み込んだ。すると血を吐き息絶えた。
『自決しやがった…』
鬼火が他の男達を見ると血を吐き自決していった。
『畜生!せっかくの証人が…』
鬼火が悔しがっていると1人の男が人を肩に乗せて現れた。
『よっ兄じゃ!何があった?』
そう言って降ろした。
『おお、砂塵か!そいつはどうした?』
『里から飛び出して来たのを捕まえた。後2人には逃げられたがな!それにしても酷いなぁ~どうしたんだ兄じゃ?』
『儂にもようわからん?』
鬼火は腕を組んで頭を捻っていた。
『そいつは証人だ。自決しないようにして牢に入れておけ!』
そう言うと屋敷の方に入って行った。里の者は亡くなった者達を葬る為に作業を始めた。
『凱どうする?』
昇が聞くと凱は一度空を見ると言った。
『里に帰り、雷鳴様に報告だ!』
『そうだな!』
2人は立ち上がると月影の里に向かった。
『昇よ、不思議に思わないか?』
『何がだよ?』
凱達は走りながら話している。
『襲った者達の目が…』
>> 204
『目…?目がどうした?』
『あれは何かに操られている目だ!』
『操られているって…まさか誰かの陰謀と言う事か?』
『多分な!2つの里に仲違いさせる懇談だ!』
『誰がそんな事を?』
『それはわからん…だがそうとしか考えられん!』
そう言いながら凱達は風のように走り抜けて行った。そして里に着くと雷鳴の元へと言った。
『雷鳴様…』
『凱か?入れ!』
凱は障子を開けると雷鳴のそばにより頭を下げた。
『凱、それで向こうはどうだった?』
『実は…』
凱は向こうで起きた事を話した。雷鳴はその話を聞いた。
『何!この里からはお前ら以外誰も行ってはおらんぞ!?』
『しかしながらあの出で立ちは我が月影!私らも何がなんだかわかりません…』
『うむ…?』
雷鳴は何かに気づき叫んだ。
『何者?』
すると紅龍が現れた。
『紅龍か!』
『ふっ雷鳴!親方様がお呼びじゃ!』
『わかった。すぐ行く』
紅龍は去って行った。雷鳴は難しい顔をした。
『ヤツは信用ならん…お前もヤツには気を許すな』
そう言って部屋を出て行った。
>> 205
凱は自分の小屋に戻った。小屋に向かう途中、里の裏側に集まる人々が見えた。そう朝方殺された者を葬っているのだった。何故に誰がこの様な事をしたのだろう?そう思いながら小屋に入って行った。
『凱どうだった?雷鳴様はなんて言っていた?』
昇が興味深々に聞いてきた。
『まだ話しは途中だ。だが雷鳴様も不思議に思っておいでだ。その後は紅龍様が来て親方様の所に行ってしまった』
『親方様はどう考えておられるのだろうな?』
『そうだな…雷鳴様が戻られてから聞くしかあるまい』
凱と昇が話していると咲の声がした。
『凱、昇居る?』
『ああ、こっちだ』
咲が現れ、手には食事を持って来ていた。
『戦になるかもしれないから今の内に食べて』
『戦?誰がそんな事を言っていたんだ?』
『里中、その話題で持ちきりよ!』
『何?親方様からまだ何も言われてないのに…』
『襲ったのは風雅なんでしょう?だから仇を討つって!』
『まずいな…皆を鎮めないと…昇行くぞ』
『おう!』
凱は昇と小屋を出て行った。
『ちょっと2人共!食事は?』
咲が呼び止めるが2人には届かなかった。咲はその後を追った。
里の中央では皆が集まっていた。
>> 206
『風雅のヤツらめ覚悟しやがれ!』
『あいつらの仇は俺達で取る!』
そこに凱達が現れた。
『皆待ってくれ!まだ風雅の者がやったとは限らない。親方様の考えを聞くまでは待ってくれ!』
凱は怒りに燃えた里の者達をなんとかしようとしていた。
『皆、聞いてくれ!俺達は雷鳴様言われて風雅の里まで行って来た!』
『何故そこまで行って仇を討たなかった?』
里の者の1人がそう叫んだ。すると周りの者まで共感の叫びを上げた。
『最後まで聞いてくれ!』
そう言うと皆は静かになった。
『…実は向こうでも同じ事が起きていたんだ!それもこの里の誰かがやったのだ!』
皆はざわめいた。それはそうだ。それもそのはず遣られたとばかり思っていたら誰かが仇討ちに行っていた訳だからだ。
『聞いてくれ!しかしおかしいと思わぬか?俺達が行った時にすでにそいつらはいたのだ!』
皆はざわめいた。しばらくして1人が言った。
『ならば誰がこんな事を…?』
凱には答えられなかった。するとそこに雷鳴と紅龍が現れた。
『皆の者聞けー!親方様からのお達しだ!今から風雅の里に仇を討ちに行く!準備しだいここに集まるのだ!』
>> 207
紅龍がそう言って皆に指図した。そこに凱が駆け寄り言った。
『待って下さい!』
『凱何故に止める?』
『いえ、止めるのではありません』
『止めるわけでなければなんだ?』
紅龍は凱を見下ろしながら言った。
『はい、これは風雅の仕業ではないと思うのです…』
『お主は何を根拠に言っているのだ?』
『はい、私達は先ほど風雅の里を見てまいりました。ところが向こうでも同じように人が斬られました!それも我が月影の者によって…我等以外いないはずなのに…これは2つの里を争わせる誰かの陰謀ではないかと…』
『これが陰謀だと?して誰がやったと言うのだ?』
『それはわかりません…しかし…』
『しかしなんだ?お主、時村の首をとったからと言って調子にのってないか?』
紅龍は凱を睨みつけた。
『私はそのような事は…』
凱は下を向いた。それを見て紅龍が喰ってかかった。
『ふん、お主は親方様のお達しを聞けぬと言う訳だな?』
『私はそのような事は思っておりません…』
『はは~ん、お主はそう言って我等を撹乱するつもりだな!陰謀を考えたのお主だろ?』
『いえ私はそのような事は…』
>> 208
『え~いうるさい!誰かこ奴を捕らえよ!牢にぶち込んでおけ!』
紅龍の命令に何人かが凱を捕まえた。
『紅龍様!待って下さい』
『うるさい!早くぶち込め』
凱はぐっと拳を握った。そして牢の方へと連れていかれようとしたその時、雷鳴が言った。
『ちょっと待て…俺もこの件は納得いかない!』
雷鳴が止めに入った。
『雷鳴、貴様まで親方様のお達しが聞けぬと申すのか?』
『いや、聞けぬ訳ではない。だがこれ以上無益な殺生はしたくないだけだ!』
『ならどうすると言うのだ?』
『俺に任してくれ!俺が今一度、風雅へ行ってくる!』
『雷鳴が直々に行くと言うのか?それは面白い。…行って来るがよい!』
『ならば凱と昇をお供につけさしてもらおう!』
『わかった。なら1日だ…1日経っても何も解決出来なければ皆で攻めいる!そしてお主らを反逆者として首を斬る。わかったな?』
雷鳴は頷いた。凱を捕らえた者達を見て言った。
『そいつを離してやれ』
凱は解放された。それを見ると紅龍はニヤリと笑い去って行った。
『凱、昇、俺の部屋へ来い!』
『はっ!』
雷鳴と凱達は部屋へ向かった。何か考えでもあるのだろうか?
>> 209
雷鳴は部屋に入ると奥の棚から何かを持ってきた。良く見ると長細い物でどうも刀のようであった。
『凱、昇、そこに座れ!』
凱達は雷鳴の前に座った。すると先程の刀らしき物を目の前に出して来た。
『凱、お前にこれを渡しておこう…』
凱は受け取ると聞いた。
『これは何ですか?』
『それはお前の父親の形見、妖刀残月だ。今まで俺が預かっていた』
『父親の形見…?妖刀残月と言うと伝説の忍、八雲様が持っていた刀ではないですか!』
雷鳴は頷いて言った。
『そうお前の父親は八雲様だ』
『俺の父親が八雲様…』
『そうだ…この続きは後で話す。今は風雅に向かうぞ』
『はっ!』
そう言って雷鳴達は里を離れた。走る彼らの早さは常人の目には見えないほどであった。彼らの後にはただ風が吹いたようにしか見えなかった。
『凱、お主ならその残月を使いこなせるはずだ。その刀はその一族でないと普通の刀と変わらぬ…風雅の直系であるお主ならばその力を引き出せるはずだ』
凱は驚いた。それはそうだ、孤児で拾われて来たとばかり思っていたからだ。その上、今向かっている風雅の者だったからである。
『俺が風雅の直系…』
>> 210
『そういずれお主は風雅の長となる!』
『俺が長に…』
『そうお主がなるのだ!』
凱には驚く事ばかりであった。
『それでは何故、俺は月影に居るのですか?』
『それはな…お主を守る為だ。いずれ分かると思う。それに今回の事ももしかしたら…』
凱には意味がわからなかった。
『雷鳴様は何かわかったのですか?』
『まだはっきり言えないが陽炎の者の仕業ではないかと思うのだ』
『まさか西の国の?』
『そう西の国だ』
西の国とは文字通り西にある国でそこにあるのが陽炎の里である。彼らは幻術を扱う事で有名であった。
『彼らならば俺達の真似をしたとしても不思議ではない』
昔より4つの国(東西南北)では戦が絶えなかった。だが北と南の提携により今は停戦状態ある。そして凱達が倒した時村こそが東の国の頭首であった。実質上国の崩壊と言う事になる。
『ならばこの全ての要因は西の国と言う事ですか?』
『今の所はな……』
雷鳴はまだ何か考えがあるのか深刻な顔をしていた。そんな話をしていると風雅の里が見えて来た。凱達はその手前で立ち止まった。里の中では人々が集まっていた。
>> 211
風雅の里は怒りに燃えていた。その中央で鬼火が叫んでいた。
『皆の者聞け~!ヤツらのこのやり方、許せる物ではない!だがまだ月影の仕業と決まった訳ではない!』
『何を言っているのですか?この者達は月影ではないと申されるのですか?』
人々の中から1人の男がそう叫んだ。すると鬼火が言い返した。
『お前達も良く考えてみろ。こんな人数で来る事自体がおかしいと思わないか?こんな事をするなら里の者全て集まり総出で来るはずだ。ヤツらも我が里の力を知らない訳ではあるまい』
それを聞いて皆はざわめいた。確かに鬼火の言っている事に間違いはないからである。
『儂はこれには、何か策略的な物を感じる』
その話を聞いていた雷鳴が何も言わず里の中に歩いて行った。凱達もそれに続き中へ入って行った。するとそれに気づき騒ぎ出した。中には刀を抜き構える者もいた。
『待て~!』
鬼火が叫ぶと里の者は静まり返った。
『雷鳴、久しぶりだな』
『ああ久しぶりだな…』
『さて今日は何用で来られた?』
鬼火は里の者を押さえるように手を横に広げている。
>> 212
『先ほどの話は聞かせてもらった。実は我が里も何者かに何人かが殺された。斬り口からすると風雅の技…』
『何を言ってやがる!』
里の何人かが騒ぎ出したが鬼火が睨みつけると静かになった。雷鳴は続きを話した。
『だが何か違和感を感じてここに来たのだ』
その話を聞いて鬼火が尋ねた。
『それならお主らは、奴らを知らないと言うのだな?』
里の者が退くとそこには何人かの男達の死体が転がっていた。凱と昇が近づき見たが全く知らない顔ばかりだった。
『雷鳴様、コイツら知らない顔ですよ』
昇が言うと雷鳴は頷いた。
『やはりこれは誰かが仕組んだ罠だ』
そう言って鬼火を見ると最初からわかっていたのか頷き笑った。
『やはりそうだったか…とにかくお主らこちらに来て話をしようではないか?』
鬼火はそう言った。そして里の者達の方を向いた。
『この件は儂が預かる。解散だ…解散!』
それを聞いた里の者は少し不満はあったようだが、自分達の小屋へと帰って行った。凱達は鬼火の後をついて屋敷の中へと入って行った。囲炉裏の前に腰を下ろすと鬼火は言った。
『さて、お主らの考えを聞かせてもらおうか…』
>> 213
鬼火は文字通り見た目は鬼のようだった。だが喋りは優しく、時折見せる優しい目は親しみさえ感じさせた。
『まあ座ってくれ』
凱達は囲むように座った。
『雷鳴よ、お主はどう考えているのだ?』
『俺はこんな事が出来るのは、西の国の陽炎ではないかと思っている』
雷鳴の言葉に鬼火は腕を組んで考えた。
『なるほど、ヤツらなら出来ない事もないな。だが何故に陽炎がこのような事をする必要がある?誰がこのような事を?』
『それはな…』
皆が固唾を飲んだ。雷鳴は何を思ったのだろうか?凱達は雷鳴の次の言葉を待った。
『それは我が里の長、萬(よろず)丸様だ』
凱達は驚いた。親方様がこの全ての元凶だと思っていなかったからだ。しかし何故このような事をするのだろうか?だがまだ決まった訳ではない。凱達は雷鳴の話を聞く事にした。
『これはまだ推測であるからなんとも言えないが、最近の萬丸様はおかしい。凱達に東の国の君主である時村 利蔵の首をとらしたり、この騒ぎで戦までさせようとしている。今までならこのような事はしなかったはず。何か見えない力が、働いているように思えて仕方がないのだ』
>> 214
確かに親方様の様子がおかしい。あの時昇が言った時、凱も本当は納得はしていなかった。親方様の命令は絶対だから仕方ないと自分を納得させてはいたのだが、心に深い傷をおった気分だった。
『雷鳴、お主の考えは良くわかった。それでこれからどうするつもりなんだ?』
鬼火は雷鳴の考えを聞いた。
『とりあえず、こいつらに西の国を調べさせる。俺は里に帰り見張りがてら調べてみる』
『わかった。なら儂は里の者をなだめて、捕まえた奴から情報を聞き出してみる』
『それでは、各自よろしく頼む』
そう言って凱達は部屋を出た。雷鳴の背中を見ながら凱は今までの事を考えていた。それに気づいたのか、昇が声をかけてきた。
『凱、どうした?』
『…ん?ああ、今までの事を思い返していた。こんな事をして誰が一番得するのだろうか?』
『そりゃやっぱり西の国だろ』
昇は当たり前だろうと言いたげだ。
『うう、そうだろうか?』
そんな話を聞いていた雷鳴が振り返り言った。
『そんな事を考える前に真実をお前達の目で見てくるのだ!西の国で何かがわかるはずだ。頼んだぞ!』
『はっ!』
凱達は西の国へと向かった。
>> 215
西の国は海が近く、商業の町だった。全国からいろんな物が集まり賑わっていた。今では異国との貿易にも力を入れている。
凱達は町人の格好に変装して西の国へと入って行った。
『おい、凱あれ見ろよ!可愛いなぁ~さすが西の国だ。うわっこっちにも…可愛い子が多いな!』
『………』
『凱、聞いているのか?』
『………』
『何、黙っているんだよ?』
凱は昇の言葉に1つも反応しなかった。昇が不思議そうな顔をしながら凱を見ていると、凱が小さな声で言った。
『俺達つけられている…』
昇が振り返ろうとすると凱が止めた。
『見るな、次の角を曲がったら走るぞ』
昇は軽く頷いた。角を左に曲がると2人は走った。そして建物の陰に隠れた。すると1人の男が慌てて追っかけて来た。しかし凱達を見失ってしまいキョロキョロしている。そして隠れた凱達の前を通り過ぎて行った。見た感じは町人だった。
『なんだアイツ?』
『分からん…街に入ってからずっとつけられていた』
『へぇ~俺は全く気がつかなかった』
『女に見とれているからだ』
昇は申し訳なさそうに頭を掻いた。凱達は誰もいないのを確認すると通りに出た。
>> 216
人の流れは多く、今なら紛れ込むのは簡単だ。凱達は町の中で情報を探っていた。
『なあ、ただ歩き回ってても仕方ないからさ、そこの飲み屋でも入らないか?』
『そうだな。しかしお前は色気の次は食い気か?あははは…まあ腹も減ったからちょうど良い、そこに入ろう』
『やった!よし入ろう!』
凱達は目の前にあった店に入った。店の中には旅人らしき人で賑わっていた。奥に席が開いていたのでそこに座った。店の人が近づいて来た。
『何にしましょうか?』
『とりあえず飯をくれ、後は酒もな』
『はいはい』
店の人はそれを聞くと調理場の方に消えた。あちこちで色々は話しが聞こえて来る。その中で隣に座る町人の話が耳に入った。
『おい聞いたか?東の国の時村様が殺されたってよ!それも北の国の月影の仕業らしいのよ!こりゃまた戦が始まるな!』
『本当か?また困った事しやがる…やっと戦もなく平和になると思っていたのにな…』
凱達は耳が痛かった。自分達のした事が皆を苦しめていると言う事にだ。
『おい、凱…』
『………』
凱は拳をグッと握った。そこに店の人が食事を持って来た。
>> 217
『はい、お待ちどうさん』
机の上に食事と酒を置くと去って行った。
『凱、とにかく食べようぜ!昨日から何も食べてないからペコペコだよ』
『そうだな…』
そう言って2人は食べ始めた。凱はさっきの話がどうしても離れなくてついつい酒をいつもより飲んでしまった。
『凱、お前飲み過ぎじゃないか?』
昇がそう言って凱の徳利を奪おうとすると手で払った。
『うるさい!』
そしてグッと飲んだのだった。凱の中で何かが弾けた。そのまま飲み続け、いつの間にか寝てしまった。これでは調査どころではなかった。店の人が困り顔で近づいて来た。
『お客さん、こんな所で寝られても困るんだけどね…』
『あっすまない。勘定してくれ』
『えっと50文だよ』
昇は勘定を払うと尋ねた。
『この辺りに宿はないかい?』
『そうだね…店を出て右に行ったら3軒先に宿はあるよ。あんた大丈夫かい?』
『俺は大丈夫だ。こいつはわからないがな。あははは…』
昇は凱を背負って宿の方へ歩いて行った。
『久しぶりだな…お前がこんなになるの』
昇は凱に話しかけるが眠っていて反応がなかった。
>> 218
宿屋の前に着くと番頭らしき男が手揉みしながら立っていた。
『お泊まりですか?お連れさん、かなり酔われておられますね。お泊まりなら部屋が開いとりますよ』
『ああ、一部屋頼む』
『わかりました。お客さんだよ、お通しして』
番頭はニコニコしながら奥に声を掛けた。すると何人かの女中が現れた。
『いっらっしゃいまし。こちらへどうぞ』
女中に連れられ部屋の方へ歩いていく。中庭は立派で池があった。昇はそれを横目に凱を背負い部屋に入った。
『お布団敷きますね』
そう言って2人分の布団を敷いた。敷き終わると頭を下げ出て行った。昇は眠っている凱を布団に寝かせた。そこにさっきの番頭が入って来た。
『お客さん、お風呂はいかがですか?』
『風呂か…良いな入ろうかな』
『ではではこちらにどうぞ』
昇は番頭の後について行った。ここの宿は思ったより立派だった。
『番頭さん、風呂上がりに一杯のみたいから準備してもらえないか?』
『はい、わかっておりますよ。すでに用意させておりますから』
『おお、なかなか気が利くね』
『では、ごゆっくり』
番頭は頭を下げその場を去って行った。
>> 219
風呂は露天風呂でかなり広かった。
『1人でこんな広い風呂とは贅沢だな』
空には星が広がっていた。昇はそれをなんとなく眺めていた。脱衣場の方で音がした。そちらを見るとここに泊まってる客が1人入って来た。
『こんばんは。今日は星が見えて綺麗ですね』
その客はいきなりそう声をかけて来た。昇は仕方なく返事を返そうとその客を見た。それは昼間、後をつけて来た男だった。相手に気づかれないよう少し背を向けて言った。
『そうですね。本当に綺麗ですね』
『お兄さんはどちらから来られた?』
いきなりの質問に昇は困惑した。なんと言ったら良いのだろう…。どう考えても答えが見つからない。仕方なく正直に答えた。
『北の国ですよ』
『ほう北の国ですか!実は私も北の国の山名の里なんですよ。お兄さんはどちらで?』
昇は困ってしまった。えらく聞いてくるからだ。まさかわかって聞いてきているのではと思った。困っているのに気がついたのか男が言った。
『あっすみませんね。1人旅だったもんで久しぶりに話するもんだからついつい…ご迷惑でしたね。それでは先に失礼します』
そう言って風呂を出て行った。
>> 220
昇はホッと胸を撫で下ろした。相手からこの場を去ってくれるとは思いも寄らなかった。
『ヤバい、ゆっくりしてられない。凱は寝たままだ。奴が何者かも分からねぇからな…寝込みを襲われたらいけねぇ。』
昇は慌てて風呂を出て、着替えながら部屋へ向かった。
『凱、凱…?』
呼びかけるが返事がない。布団を見ると凱の姿がない。
『どういう事だ?凱、凱?』
昇は凱を探す為部屋を出ようとした。すると目の前に凱が立っていた。
『凱、凱ってうるさいな。頭に響くじゃないか…何騒いでやがる?』
『お前こそ何言ってんだ。どこに行っていやがった?』
凱は大きな欠伸をしながら言った。
『カワヤだよ、カワヤ…』
『……カワヤ?』
『ちょっと飲み過ぎたみいだな。小便が近くなっていけねぇ。あははは…』
凱は笑いながら布団に歩いて行く。昇はしばらくポカンとしていた。
『昇、それにしてもそんなに慌ててどうしたんだ?』
昇は我に返った。
『聞いて驚け!今、風呂に行ってきたのだけどさ。昼間に俺達をつけて来た男が入って来たんだ!』
『えっ本当か!』
凱は一気に目が覚めた。昇に這うように近づいた。
>> 221
『それで奴はどうした?気づかれなかったのか?』
『俺には気づいてなかったみたいだから大丈夫とは思うが…』
凱はホッとした。しかし偶然にも同じ宿に泊まるとは驚きだった。
『凱、これからどうする?』
凱は顎に手を置き考えていた。外からは月の明かりが差し込んでいた。
『悩む事はない。俺達は忍だよな』
『と言う事は…』
『そう逆に奴を調べる』
『なるほどね』
昇はニヤリと笑った。凱と昇は忍服に着替えるとその男の部屋を探した。そして部屋を見つけると忍び込んだ。その男は鼾をかいて寝ていた。近くに荷物があった。凱はそれを取ると中を調べた。中には着替えと僅かなお金だけだった。
『凱、どうだ?』
凱は頭を横に首を振った。
『こんなんじゃ何も分からないな…』
仕方なく凱達は部屋を出た。
『どうする?』
『そうだな…相手も気づいていない。とりあえず明日あの男をつけてみよう』
『なるほどね、そうと決まれば寝ますか?』
『そうするか』
凱達は布団に潜り込むと眠りについた。里の事があって以来眠っていなかった。久しぶりの深い眠りだった。
>> 222
周りの小鳥の声で目が覚めた。凱が横を見るとそこには昇がいなかった。驚き起き上がり隣の部屋に行くとそこに昇はいた。
『おはよう、ゆっくり寝れたか?』
『ああ、久しぶりにな…』
昇は凱に気をきかして寝かせてくれていたのだった。本人はほとんど寝ないで見張りをしていたようだった。
『お前、寝てないのか?』
『いや、寝たさ』
『で、あの男はどうなんだ?』
『まだ起きていないようだ』
『それなら先に出て外で待とう』
『そうだな』
凱達は支度を済ませ宿を出た。宿の見える向かいの路地に身を隠した。
『何者だろうか?』
『分からない。忍ではなさそうなんだが』
凱達は待つが一向に出て来る気配がなかった。
『どうしたんだろうな?出てきやしない』
『そうだな。それなら聞いてみるしかないな』
『なら、俺が聞いて来るよ』
昇は宿に走って行った。しばらくして戻って来た。
『どうだった?』
『やられたよ。朝早く出て行ったみたいだ。朝早くから見張っていたのだがな…』
『そうか…宿を出ているなら仕方ない諦めよう』
凱達は諦めて通りに出た。そして陽炎の里に向かう事にした。
>> 223
『あの…すみません』
不意に後ろから声をかけられた。凱達は振り返ると例の男が立っていた。凱と昇は顔を見合わせた。
『あの…』
『はい、なんでしょう?』
意外な展開で凱達は動揺していた。
『これ、あなた達のじゃないですか?』
その男は小さな箱を見せた。
『あっそれ…俺のだ』
それは昇の薬入れだった。
『この町に入る手前であなた方に追い越されたのですが、その時落とされたのですよ。すぐに拾って声をかけようとしたのですが、あなた方は遥か彼方におられましてね。その後追っかけたんですがね』
昇はその男から受け取った。
『いや~参りましたよ。あなた方、足が早いからなかなか追いつけなくて、やっとこの町に入って声をかけようとしたらどこかに居なくなってしまいましたからね。どうしょうか悩みましたよ。だから今日も早くから町の中を探していたら、偶然にあなた方を見つけました。はぁ~これで安心だ』
『そうだったのですか、それはすみません』
『いえいえ、気にしないで下さい。これで一安心だ。それでは私はこれで…』
その男は立ち去ろうとした。それを凱が呼び止めた。
>> 224
『ちょっとお待ち下さい。お礼と言ってはなんなんですが、ご馳走さしてもらえませんか?』
『いえいえ良いですよ。当たり前の事したんですから』
『それじゃ私達の気が済みませんから、そこの団子屋でお茶でもどうですか?』
しばらくその男は考え頷いた。凱達は団子屋にある長椅子に腰掛けた。
『今からどうされるんですか?』
凱はさり気なく尋ねてみた。その男はニコニコしながら答えた。
『乾物を仕入れて帰ります』
男はそう話すと何か思い出したのか続けて話した。
『あっそう言えば、東の国の時村様が殺されたみたいですね。戦もなくなったと思っていたのにね。息子の利光様が何か動いているようだよ。どうもやったのが北の国の月影の仕業じゃないかって話だ。国を戦に巻き込むつもりなのかな?』
凱達には耳が痛い話だが、何故月影がやった事がバレているのかが不思議だった。確かにやったのは凱達なのだがあの時誰一人逃がしてはいないはず。その男に聞いてみた。
『何故、月影がやった事がわかったんだい?』
『何ね…旅人が見ていたらしいのよ。去って行く月影の忍の姿をね。村に来てそう話していたよ』
>> 225
『ほう、そうなんだ。それからその旅人はどっちに行ったんだ?』
男は不思議そうな顔をしたが話を続けた。
『西に行くって言っていたな。なんでも知り合いを探していると言っていたな。今頃はこの町のどこかに……ん?』
男は横を見ると凱達はいなかった。そこには団子の代金が置いてあった。
『あれ…どこに行ったんだ?』
その頃、凱達は忍服に着替え陽炎の里に向かっていた。
『まだ何日も経ってないのに、情報が早すぎるな』
『ああ、多分この根源となる者が故意にさせているのだろう』
『本当に誰がこのような事をしているのだろうか?』
『それはわからん。陽炎の里でその全てがわかるはずだ』
凱達は山道を風のように走り去って行った。陽炎の里は中央の町から山に向かって三里ほどの所にあった。里の周りを竹に囲まれており敵が入りにくいようになっていた。
竹林の中を進んでいると辺りに気配がした。凱達は立ち止まった。刀を握り辺りを見回した。右後ろから何かが飛んできた。避けるとそれは地面に刺さった。それは刀剣型の手裏剣だった。まさしく陽炎の物であった。するといくつもの手裏剣が凱達に投げられた。
>> 226
凱達は刀で弾くと気配のする方に手裏剣を投げ返した。凱の手裏剣は特別で月の型をしていて、ブーメランのように返ってくる。投げた方にある竹を次々と切り倒し手元に返って来た。するとそこに5人の男達が現れた。
『貴様ら月影の者だな?ここから先は何人も入れる訳にはいかぬ。今すぐ立ち去れ!』
そう言って陽炎の男達は刀を抜いて構えた。
『待ってくれ。争うつもりはない。話を聞いてくれないか?』
凱がそう叫ぶが聞こうとせず切りかかってきた。
ガシンッ
刀と刀が重なった。睨み合いが続く。昇は走り回りなんとか攻撃を避けながら逃げている。
『なぁ、頼むから聞いてくれ』
『うるさい、ここまで来て何を言うか』
『仕方ない』
凱はそう言うと男を突き放した。
『忍法、木の葉隠れの術!!』
凱の振った刀の風圧で落ちていた枯れ葉が舞い上がった。陽炎の男達は前が見えなくなり凱達を見失った。
『昇、今の内だ逃げるぞ』
『おう!』
凱達は竹林の中を素早く抜け里の近くまで来て身を潜めた。しばらくすると先ほどの男達が追って来たが、気づかず里に入って行った。
>> 227
中を伺うと凱達を探しているようだったが、しばらくすると隊長らしき男が合図をすると集まり何か話し合っていた。そして3人が里の外に走り去った。
『凱、どうする?この状況では入るに入れないな』
『ああ、困ったな…』
凱は辺りを見回しながら言った。
『仕方ない夜まで待つしかないな。この地形だと夜の方が侵入しやすいだろうからな』
『そうだな』
凱達は町の方に一旦引く事にした。ところが凱の持っている残月が急に震えだした。雷鳴にもらい持ってはいたが抜こうにも抜けなく、ただ腰に差していただけだった。だが今その残月が震えだしたのだ。
『どうした?』
『シッ…あれを見ろ』
凱が指差した。里の方を見ると髪の長い男が現れた。腕には奇妙な形をした刀を持っていた。
『あの男は…』
『凱、知っているのか?』
『どこかで見たような……わからん、思い出せない』
『なんだよそれ…』
凱はその男を知っているような気がした。頭の中で断片的に映像が浮かぶのだが、はっきりとわからない。喉に骨がひっかかった感じだった。
凱達は息を潜め里の中の様子を見た。微かだが中の声が聞こえてくるがわからない。
>> 228
『凱どうする?』
『そうだな…今動いたら気づかれてしまう。やはり夜まで待つしかないな』
『そうだな』
凱の持つ刀の震えは止まらない。グッと握り締めた。
『誰だ?』
その男は凱達の方を見て叫んだ。気づかれてしまった。凱達は里の外に向かって逃げた。里の者達が後を追って来る。争うつもりは元々ない。煙り玉を投げ姿をくらました。
『ふう…ここまで来たら大丈夫だろう』
『危なかったな』
凱は刀を見ると震えはなくなっていた。
『その刀はなんだろうか?』
『雷鳴様は残月だとしか言っていなかったからな。さっきの男の刀と何か関係あるのかもしれない』
『それはそうと腹減らないか?もうこれ以上は動けねぇ』
『あははは、お前はこんな時でも食い気か、緊張感ない奴だな』
『仕方ないだろう。腹減ったんだからよ』
『わかった、わかった。行こう、行こう』
凱達は笑いながら町に向かった。朝寄った団子屋にまた寄った。
『すみません。団子いっぱい持って来て』
『あまり食い過ぎるなよ。まだ夜があるんだから』
『わかって…うむむ…お茶お茶…』
『ほれ、慌てて食べるからだ』
昇は詰まった団子をお茶で流し込んだ。
>> 229
『食った食った…もうこれ以上は食べらんねえ』
『お前の場合食い過ぎだ。普通、腹八分と言うだろうが…』
『何言ってやがる。食える時に食っておかなきゃいつ死ぬかわからないのだから』
『………』
凱は言葉を詰まらせた。忍とはそんな物なのである。いつ死ぬかわからないのであった。昇の言葉は正しいのかもしれない。
『どうしたんだよ?そんな暗い顔をして』
『…ん、何でもない。さあ行くぞ』
『ちょっと待てよ』
凱は昇をほっといて先に歩いて行った。昇は慌てて後ろを追っかけた。辺りは少しずつ暗くなって来た。
『大分暗くなって来たな。そろそろ行って見るか?』
『ああ…』
竹林の中を縫うように走り抜けた。周りに気配がする。多分追っ手だろう。
『凱!?』
『わかっている』
凱達は立ち止まり構えた。竹林の中から手裏剣がいくつも飛んできた。素早くよけ、凱は月型の手裏剣を投げ返した。あっという間に周りの竹が倒れていく。
ドサドサドサッ
バサバサ
そこに3人の忍が現れて言った。
『貴様ら何者?これ以上、里には近寄らせぬぞ』
そう言うと刀を抜き迫って来た。
シュシュシュッ
『喰らえ!』
>> 230
1人の男が昇に襲いかかった。
ガシンッ
ギリギリ
『団子は喰らうが刀は喰らわねぇーよ』
その男を突き飛ばした。離れた瞬間、昇は腰から針型の手裏剣を取り投げた。その男は刀で弾き返した。
『なかなかやるじゃん』
昇はバカにした言い方をした。
『この程度で我らを倒せると思うなよ』
『それはこっちの台詞だ。覚悟しやがれ!忍法、月光影縫い!』
シュシュシュッ
ズバズバズバッ
『ううう…なんだ体が動かない。何をした?』
その男は体が動けなくなった。そう昇の投げた手裏剣によって影を縫い付けられ動けなくなったのだ。この日は満月で夜でも影ができる。月影の忍のみ使える技である。それを使える忍と言う事で月影と呼ばれるようになった。
『残念だったな。これでアンタら明日まで動けないよ』
その頃、凱も同じように影縫いで相手の動きを止めていた。
『凱、大丈夫か?』
『ああ、大丈夫だ。時間を取ってしまった。先を急ぐぞ』
『おう』
凱達は里に向かってまた、竹林を走り抜けた。追っ手は彼らだけだったようだ。周りには気配は無かった。里の近くまで来ると中の様子を伺った。
>> 231
里の中は見張りがいた。至る所に松明が置かれ明るかった。
『どうする?』
『忍び込むには厳しいな…しかし情報得てからじゃないと帰るに帰れないな…』
『一か八か、屋根に飛ぶしかないな』
凱達は意を決して素早く屋根に飛んだ。見張りには気づかれなかった。
『なんとかバレずにすんだな』
昇は頷いた。そして屋根を伝い、変わった刀を持った男の屋敷についた。辺りを伺い瓦をどかし屋根裏に忍び込んだ。息を潜め部屋を探した。微かに話し合う声が聞こえた。
『凱、ここだな』
『ああ…』
天井の一部をこじ開け覗いた。そこには幹部らしき男達が集まっていた。
『東の国が動き出しました。北の国への攻めいるようです。南の国にも仕掛けましたから間もなく動きがあるかと』
『なるほど、それでさっき現れた奴らは何者だ。同じ忍のようだったが?』
『北の月影だと思われます』
『ほう、北の月影か…奴らは我が西を疑っていると言う事か…』
『何故、我らがこのような事をしなければならないのですか?』
『ふっ怖じ気づいたか?戦の世、誰が動いてもおかしくあるまい。あの御方のお達しだ。動かぬ訳にはいかぬだろ』
>> 232
“あの御方?”凱と昇は見合った。誰なんだろう?しかしこれで西の国の陽炎が、今までの事をやったのは間違いなかった。突然、凱の刀が震えだした。すると障子が開きあの男が入って来た。
『奴だ』
『ああ…』
凱は震える刀を押さえながら様子を伺った。
『鉄馬様、東の国が動き出しました』
『そうか動いたか…この月光もわかっているのか、震えておるわい。まるで血に飢えた獣のようだ』
鉄馬は月光を見つめていた。チラッと凱達の方を見ると月光を突き刺して来た。凱の顔をかすめた。
『どうされました?』
『ねずみだ』
そこにいた者達が立ち上がった。
『見つかった。逃げるぞ』
そう言うと素早く屋根に出た。下が慌ただしくなった。
『曲者だ。出会え出会え』
凱達はすでに竹林に逃げていた。
スタスタッ
シュンシュン
追っ手をまいて竹林を抜けた。そのまま走り続け町中まで逃げた。素早く服を着替え町人の格好になった。しばらくすると追っ手が現れた。凱達は身を隠し通り過ぎるのを待った。そして追っ手はどこかに行ってしまった。
『まだ追っ手がいる。どこかに入ろう』
『あの飲み屋はどうだ?』
『そうだな』
>> 233
『まだ追っ手がいる。どこかに入ろう』
『あの飲み屋はどうだ?』
『そうだな』
急いでその店に入ると4、5人の客がいた。
『親父すまない。酒をくれ』
『あいよ』
親父は中に入って行った。しばらくして酒を持って来た。本当に飲む訳では無いが痕跡を残さない為に客に紛れて飲むふりをしていた。
『昇、これ以上は無理だな。様子を見て一旦、里に戻るぞ』
『ああ、そうだな』
凱達は少しだけ酒を口につけた。外の様子を警戒していると気配がすると、1人の男がチラッと中を覗いた。店の中を見渡すとどこかに居なくなった。
『奴らか?』
『多分な…ここもそろそろヤバいな。別の場所に移動しよう』
『わかった。親父、勘定はここに置いておくよ』
『はい、まいどあり』
店の外に出ると酔ったふりをしながら辺りを見渡した。
『おいおい、大丈夫かよ?』
『大丈夫、大丈夫』
昇は酔ったふりしながら町の出口を目指す。すると前から3人の男達が近いて来た。間違いなく追っ手だった。彼らも町に馴染む格好をしているが、殺気だけは常人の物とは違っていた。凱達は素早くそれを見抜いたのだった。
>> 234
追っ手は凱達を見るが、昇の名演技にこちらに全く気づいていなかった。そして横を通り過ぎて行った。
『危なかったな』
『お前の演技のおかげだよ』
『おお、そうか!忍、辞めて芝居小屋に行こうかな?』
『調子こくな』
凱が昇の頭を軽く小突いた。
『痛てぇ~なぁ~』
『あははは…』
緊張がほどけた一瞬であった。
『そろそろ行くか!』
『おう!』
凱達は忍服になると風のように走り去った。空にはまん丸な月が見えていた。
凱達は追っ手から逃げきり、月影の里に帰り着いた。里の中は静まり返っていた。まるで誰もいないようだった。雷鳴の居る屋敷に向かうと、屋敷の前に人影が見えた。凱達は身構えたが、それは伝助だった。
『お前ら帰って来たのか…』
『ああ、今帰った。今日はやけに静かだが何かあったのか?』
『里のほとんどは、例の場所に集まっている』
例の場所とは緊急の時に身を潜める場所だった。
『雷鳴様が中でお待ちだ』
凱達は屋敷の中に入って行った。雷鳴は奥の部屋で待っていた。
『おお、凱、昇、ご苦労だったな。向こうはどうだった?』
『はい、実は…』
凱は西の国の事を話し出した。
>> 235
雷鳴は凱達の話を聞き終わると腕を組んだ。
『なるほど、陽炎はそんな事を言っていたのか』
『はい、あの御方と言っておりました』
『あの御方か…』
『それ以上は聞き出せませんでした。申し訳ありません』
『相手が相手だからな。しかし鉄馬が帰って来ているとは思わなかったな』
『鉄馬と言う男をご存知なんですか?』
『ああ、昔一緒に戦った男だ』
雷鳴は遠くを見つめるような眼差しで、昔の話をし始めた。
『あれは、俺がお前達より若かった頃、4つの国は争っていなかった。奴とは忍術を磨く為、良く試合をしていた。その頃の俺達は"若き四天王"と呼ばれていて、東の疾風、南の不知火、西の鉄馬、そしてこの俺だ。鉄馬の忍術は俺達の中で群を抜いていた。その中でも奴の剣術は優れていた。何度となく挑んだが一度も勝てなかった。あまりに奴は…鉄馬は強すぎた』
雷鳴はそう言うと悲しそうな眼をした。この話の続きに何があるのだろうか?凱は黙って雷鳴の話を聞いた。
『ある日、4つの国の武将が集まり、南のさらに南にある国、九首が攻めて来るという話があがった。それで里の長達も集められその旨を伝えられた。』
>> 236
凱は始めて聞く話であった。確か九首は海を渡った先にある大きな国であった。海を渡る時、渦に巻き込まれ沈む船が多く、今ではほとんど交流が無いと、そう聞かされていた。しかしそれはもしかして、昔の戦いで交流を避けているのかもしれなかった。
『九首の軍が、南の国に迫って来ていた。俺達四天王は、先陣として敵の中に飛び込んだ。九首の力は巨大ではあった。3万近くの兵を引き連れやって来た。俺達は苦戦を強いられた。斬っても斬っても次から次に兵は迫ってきた。俺達は追い詰められいた。その時、不知火が言った。妖刀残月を使うと。そうお前に渡した残月をだ』
凱は驚いた。残月を使えるのはその直系のみ…と言う事は不知火とはいったい…。その事を雷鳴に尋ねた。
『雷鳴様、不知火と言う方は私と何か関係があるのですか?』
『そう前も言ったが、残月はその一族の直系のみが扱える。不知火はお前の兄だ』
『俺には、兄がいたのか…』
凱は自分の知らない事ばかりであった。不知火の事は全くと言って知らない。その後何があったのだろうか?
『雷鳴様、兄はどうなったのでしょうか?』
雷鳴の顔を見たらなんとなく分かった気がした。
>> 237
『不知火は大群の前に立ち、残月をゆっくり抜いた。すると辺りが暗くなり雲に覆われた。そして残月が黒い炎に包まれた。不知火は一度構えそれを振り下ろすと黒い炎が放たれ九首の兵を消し飛ばした。ところがその時不知火の様子がおかしくなったのだ』
『いったいどうなったと言うのですか?』
『不知火は人が変わったように、敵味方関係なく斬り始め、まるで人を殺すのを楽しむようだった。言うまでもないが九首は後退して行った。まだ暴れている不知火を俺達は止めようとしたが、あまりに強大になって不知火を止める事が出来なかった。すると鉄馬が自分の刀の月光を抜いたのだ。止めるにはそれしかなかった。月光は白い炎を放ち、不知火を貫いた。主を失った残月は力を失い炎は消えた。』
『雷鳴様、兄はその後どうなったのですか?』
『死んだよ。だが死ぬ前に不知火が言ったのだ。本当の継承者は自分でなく凱お前だと…そして残月を俺に預けたのだ。お前が扱える年齢になるまでな』
『そうだったのですか…』
凱はうつむいた。
『その後、九首との戦は終わった』
雷鳴は深いため息をついた。
>> 238
『それからしばらくしてからだった、鉄馬が居なくなったのは、友の不知火を殺してしまった自分を許せなかったのだろう。それから今まで誰も鉄馬の行方を知らなかった。いつの間にか帰って来ていたのだな…』
『しかし今の話を聞けば、この残月は使わない方が良いのではないですか?』
『確かにその通りかもしれないな。だがな残月を使うのはお前だ。本当の力がなければその刀は抜けぬ。不知火はまだ未熟すぎたのだ。残月の妖力に支配されてしまったのだ。だが凱、お前は違う。その力を強める為に俺はお前達を厳しく修行して来たのだ。凱わかったな自信を持て、それでお前は残月を自分の物にするのだ。わかったな?』
『はい、わかりました』
『後一つ、その残月はまだ本当の姿ではない。お前が持っている円月輪と合わせる事で月黄泉になるのだ』
『月黄泉?』
『そう八雲様が本来使っていたのがそれなのだ。お前達兄弟に1つずつ与え、力を抑えていたのだ。継承者であるお前なら使えるはずだ。今がその時本当の力を見せてみろ』
『そうなんですね。わかりました』
凱は残月と円月輪を合わせた。凄まじい光を放つとそこに月黄泉が現れた。
>> 239
まるで龍のような姿をした月黄泉を凱は見つめた。
『これが月黄泉…』
『まるで黒い龍だな』
昇が言った。
『お前達がそう思うのも仕方がない。まさに月黄泉は龍の剣!龍から生まれたと聞いている。凱、そうだこれも渡しておこう』
雷鳴は巻物を取り出した。
『これも不知火から預かっていた』
凱は受け取ると広げて見てみた。中には月黄泉の事と凱の一族の秘密が書かれてあった。すると雷鳴が立ち上がった。
『俺は今から東の国に行ってくる。そしてなんとか説明して進行を止めてくる。お前達は西の動きと紅龍の動きを見張っておけ。では頼んだぞ』
『はっ』
雷鳴は風のように消えていった。
『凱、なんか凄い事になってきたな』
『ああ、俺もどうして良いかわからなくなってきたよ』
『しかしお前が八雲様の息子で、その継承者だった。そして持っているのがかの有名な残月。さらに円月輪と合わせる事で月黄泉になるとは驚きだよ』
『ここに書いてあるが、龍の力を持っているようだ。それも黒い龍の力をな』
『黒い龍か、凄いな。しかしどんな力なんだろうな?』
『わからん。字が難しくて読めない』
>> 240
『そりゃ参ったな』
『後は雷鳴様が帰ってからにするか?』
『その方が良いかもな。さてどうするかだ。紅龍様を見張ると言ってもな。あのお方は俺達をあまり好まれていない』
『………あっ良いヤツがいるよ!』
昇は凱に耳打ちした。そして部屋を出るとある場所に向かった。
『よっ!』
そこには門の前で見張りをしている伝助がいた。
『どうした、話は終わったのか?』
『ああ、話は終わったよ。ところで伝助お前に頼みがある』
『俺にか?』
『そうお前しか出来ない事だ。それはな…』
昇は伝助に耳打ちした。
『それ本当かよ?分かった。俺様に不可能はない。後で後悔するなよ』
伝助は意気揚々と屋敷に向かった。
『昇、伝助になんて言ったんだ?』
『えっ何簡単な話だよ。奴に紅龍様に触られたら子分になるって言ったのよ』
『あははは…アイツ大丈夫か?紅龍様に殺されるぞ』
『大丈夫!逃げ足だけは、天下一品だからな。それに簡単に触れないしな。後でお仕置きされるかもしれないがな…』
2人は思い切り笑った。
『さて俺達はまた陽炎に向かうか?』
『ああ、そうしよう。だがその前に腹ごしらえだ』
凱は呆れて物が言えなかった。
>> 241
凱達は小屋に向かった。昇の腹ごしらえの為だ。
『凱、昇!』
2人を呼ぶ声がした。振り返るとそこには咲が立っていた。
『おぉ~咲、良いところに来た。飯を食わしてくれよ。……あれ、お前泣いているのか?』
咲は涙ぐんでいた。
『昇のバカ。私は2人をずっと心配していたんだから…』
それはそうだろう。あの事件以来、凱達は里をほとんど留守にしていた。それにいつ戦になるかわからない中、ずっと待っていたのだからだ、心配しても仕方ない。
『…すまねえ』
昇は咲に謝った。そして凱も言った。
『すまなかった。心配かけたな…。俺達は見ての通り無事だ』
『そんな事じゃないでしょう』
咲は後ろを向いてしまった。その時、昇のお腹がグーと鳴った。咲の体が揺れていた。凱の体も揺れている。
『ぷぷぷ…あははは…こんな時までお前は!咲、すまない飯にしてくれないか?』
『ふふふ…仕方ないわね。すぐに持ってくるから待ってて』
咲はその場を去って行った。凱達は小屋に入り咲を待った。待っている間、さっきの巻物を眺めていた。だがいくら見ても肝心な所はわからなかった。ただ1つ違う事が分かった。
>> 242
『昇、ここを見てみろ月光の事が書いてあるぞ』
昇は巻物を覗き込んだ。
『なんて書いてあるんだ?』
『月光は土蜘蛛と合わさり星黄泉となる。それは正に白い龍のような姿をしている。月黄泉と星黄泉はお互いの力を抑える力を持つ。そして…5つを…。わからないな…?』
『合わせると草薙の剣となる』
凱達は声の方を見ると咲が食事を持って立っていた。
『咲、読めるのか?』
昇がそう聞くと食事を起きながら呆れ顔で言った。
『そりゃあなた達よりは字の勉強しているからね』
『じゃあ、後はなんて書いてあるんだ?』
すると咲は2人を押しのけ巻物を読んだ。
『草薙の剣の力はあまり巨大過ぎた為、5つに分けられた。そして4つの国に1つずつ与えられた。最後の1つは天の力を引き継ぐ者が持つ。それが現れた時にその力は蘇るって書いてあるわね』
『それで終わりか?』
『うん、そこで終わっているね。それより食事持って来たから食べて』
『うひょ~うまそうだ。早速、いただきます』
昇は合掌をすると食べ始めた。そんな中、凱は巻物をまだ見つめていた。咲はそんな凱を見て言った。
>> 243
『凱、どうしたの食べないの?』
凱は巻物を見つめた視線を咲に向けて言った。
『いや、俺も少し食べておくよ』
箸を持つと食事を初めた。しかし何かを考えているのか、箸が止まった。
『凱、美味しくなかった?』
『いや、そう言う訳じゃないのだけど…』
『じゃあどうしたっていうの?』
凱達の会話の中、昇の視線は凱達を見ているが、箸は動いたままだった。
『5つに分けたって言っていたよな…』
『草薙の剣の事?確かにそう書いてあったわね。それがどうしたの?』
咲は不思議そうに凱を見つめる。
『俺はその内の2つを持っている事になる?』
『そう言う事になるな』
昇が食べ物を含んだままそう言った。
『なら陽炎で見た月光を合わせると3つだ』
昇が箸を起きお茶を飲むと言った。
『当たり前だ。2つに1つを加えたら3つになるに決まっているじゃないか!凱、何が言いたいのだよ?』
『いやな、既に3つ現れた訳だよ』
昇はイライラして頭をかきむしった。
『畜生!じれったいな。早く言いやがれ』
『そう慌てるな。俺が言いたいのは、巻物に書いてあった"それが現れる"と言う部分が気になってな』
>> 244
『凱、アナタが言いたいのは、草薙の剣が必要になる事が起きると言いたいのでしょう?』
凱は頷き言った。
『まあ、そう言う事だ。嫌な事が起こりそうでな…』
『そうだな。現に誰かがあのような事を』
『ああ…得体の知らない何かが動き出しているのは間違いない』
凱は顎に手を置き考えていた。それを見た昇が箸をくわえて言った。
『そんな事より早く食べて陽炎に行かないと…』
『ああ…そうだな』
凱は箸を持って食べ始めた。だが昇は既に食べ終わって、楊枝でシーハーシーハー言いいながら腹を鼓のように叩いた。その中、咲は思い詰めた目をして凱達を見ている。そして言った。
『また2人共行くのね』
『ああ、みんなの為だ。そんな悲しい目をするな。俺達は大丈夫だ』
凱は心配しないように思って言った。
『でも…何があるかわからないし…』
咲がそう心配していると昇が言った。
『お前は俺達が死ぬとでも思っているのか?』
『そういう訳じゃないけど…』
咲は困った顔をしている。
『本当に大丈夫だから、心配しないで待っていてくれ』
凱は心配する咲にそう言って心配させないように気を使った。
>> 245
『そうそう、咲は俺達の帰りを飯を作って待っててくれ』
昇がふざけた感じで言った。
『何よもう、昇ったら私はあなた達のお手伝いさんじゃないわよ』
そう言うと咲は膨れっ面をした。
『いや…その…ごめん』
昇が困った顔をすると凱が間に入り言った。
『咲、昇は昇なりにお前の事を励まそうと…』
『分かっているわよ』
咲は舌を出した。
『ワザと怒って見せたのよ』
咲はケラケラ笑い出した。凱達は顔を見合わせた。そして笑い出した。
『ちぇっ、咲にやられたよ』
『でもね、本当に心配しているから、無理はしないで欲しい』
凱は立ち上がると月黄泉を掲げると言った。
『ああ、分かっているさ。この刀に誓ってな』
咲を見てニコリと笑う
『それじゃ、行くとするか?』
『ああ!』
咲が見送る中凱達は里を出た。西の国に行く山1つ越した所で、付けられている気配がしていた。
『昇!誰かが俺達を付けている』
『俺も気づいていたよ』
凱達は見合わせると左右に散った。だがそこには数人の男達が、2人を遮った。
『お主ら月影の忍だな?』
『なんだ貴様らは?』
そこには10人の忍が立っていた。
>> 246
凱達が今まで見たことのない忍であった。
『我らはお主らを抹殺する為に集められた忍。すまないがここで死んでもらう』
その忍達は刀を抜き構えた。それを見て凱達も刀に手を添え構えた。
『お前ら俺達を甘く見るなよ』
昇は手裏剣を忍達に投げた。それを素早く避けると手裏剣を投げ返してきた。
カキン
キーンキーン
凱が手裏剣を刀で叩き落とす。
『お主らはあの方にとって邪魔そのものだ。だからこの世から消えて貰う』
『お前らどうしても戦うと言うのだな?ならば手加減しないぞ』
そう言って凱達は忍達に向かって行った。忍達も向かってくる。だが力の差は歴然だった。あっという間に忍び達の半分が凱達の刀の錆となった。
『うむ…なかなかやるな。だがこの左近慈は簡単には倒せないぞ』
左近慈は何かを唱え出した。地面が少し揺れ始めた。
『喰らえ土遁の術、土岩流!!』
地面が盛り上がると荒れ狂う川のように凱達に向かって行く。凱達は素早く飛び上がりよけた。だが川となった土から弾丸のようになった土が、更に凱達に飛んで行く。すんでのところで何とか交わした。
>> 247
『なかなかやるではないか。しかしこれならどうかな?』
そう言うと左近慈はまた何かを唱え出した。
『受けよ!土遁の術、土斬流!!』
土が川のように流れその中から土の剣が凱達に飛んで行った。いくつかは避けたが、凱達を切り裂いた。
『あははは…どうだ我が術の味は?今度はよけられないぞ』
『調子にのるなよ。お前の術はすでに見切った』
『斬られながら良く言うは!ならばもう一度喰らえ』
そう言うと土の剣が凱達を襲った。すると凱の持つ月黄泉が輝き出し、凱達の前に光の壁が出来た。土の剣は光の壁に当たり消滅した。
『何?』
左近慈は驚いた。凱は月黄泉を見た。すると今なら抜けそうな気がした。そしてゆっくりと月黄泉を抜いた。何もなく抜けたのであった。
『なんだその刀は?』
『お前に教える必要はない』
そう言うと大きく構え左近慈に斬りかかった。左近磁はふわりとよけたが、月黄泉から凄まじい風が放たれた。そして左近慈の体を切り刻み貫いた。
『うわあ~!!』
左近慈は吹き飛ばされ倒れた。
『なんなんだ…この力は…』
凱は改めて月黄泉を見た。月黄泉の周りにはオーラのような物で光っていた。
>> 248
『ぐふっ…この儂が一撃で…だが儂はまだ下っ端…いずれお主は死ぬ事になるのだ…』
左近慈がいき絶え絶えに言った。
『何言っていやがる。今の凱には誰も勝てねぇ~よ』
昇は鼻を指で弾くと言った。だが左近磁は笑いながら言った。
『残念だがそう簡単にはいかないぞ。我が阿修羅に叶うわけがない。お前達は死ぬのだ…』
そう言うと息絶えた。凱達は見合わせた。
『阿修羅だと…噂では聞いた事はあったが、全てが謎で所在さえわかってない。そんな忍が動き出したと言う事か?』
『やはりとんでもない事が起き始めているのだな』
残りの忍が倒れた左近慈を抱き上げるとどこかへ消えてしまった。
『待てぇーっ!!』
『昇、無理だ。間に合わん』
『ちぇっせっかく何か聞き出せると思ったのによ』
『仕方ない。だが一つ分かったじゃないか。阿修羅と言う忍が動き出したと言う事が』
『まあそうだな』
昇は頭の後ろに腕を組みつまらなそうにしていた。だが急に何か思い出したように言った。
『そういえば、その月黄泉凄いな。一振りであれだぜ。まともに使ったらとんでもないな』
『ああ、そうだな』
凱は月黄泉を見つめた。
>> 249
『俺はこの月黄泉を…本当に扱えるのだろうか…』
『凱…お前なら大丈夫だよ。きっと…な…。』
『ああ…』
凱は月黄泉を腰に納めた。
『それじゃそろそろ行きますか』
『ああ行こう』
目指すは西の国の陽炎の里だ。凱達が山道を歩いていると木の陰に何かが倒れていた。
『おい、あれって人じゃないか?』
昇の見つめる先を見ると、確かに人が倒れていた。凱達は近づくと声を掛けた。
『おい、どうした?大丈夫か?』
昇が揺すって起こそとした時に顔が見えた。
『あれっ?こいつって…』
そう西の国に行った時に会った男だった。
『おい、大丈夫か?おいってば』
顔を軽く叩くとその男は目を開けた。男はバッと起きると周りをキョロキョロと見た。
『おい、大丈夫か?』
『私はいったい?あなた方は確か…西の国で会った方ではないですか…何故あなた方がここに?』
『そりゃこっちの台詞だよ。何故こんな所に倒れていたんだ?』
その男は服の汚れを叩きながら立ち上がった。
『まだ名前言ってなかったですね。私は斗一と言います。北の国から来たのですが、西の国の帰りにこんな事になるとは』
斗一は頭を掻きながら笑った。
- << 251 『それでどうして倒れていたんだ?』 凱が聞くと斗一は答えた。 『それがね。どこかの騎馬隊が通り過ぎましてね。いきなりだったので慌てて避けたのですが、木に頭をぶつけたようで』 また頭を掻きながら笑った。 『騎馬隊?』 『そうなんですよ。凄い数の騎馬隊が東から北に向かって走って行ったんですよ』 『東から北?』 『へい、間違いなく東の国からの道から来ましたからね。それでこの道を北に走り抜けて行ったんでね』 『おいおい、そりゃマズいぞ。昇、北に急ぐぞ!』 『おお、そうだな』 斗一はそんな2人を見てキョトンとしている。 『あんた達はいったい何者なんだい?』 凱はニッコリ笑うと言った。 『俺達は月影の忍さ。斗一さんまたな!』 そう言うとその場から風のように去って行った。 『ふっ、奴らが月影の忍か…まあ良い。いずれまた会えるからな…それまでは…見逃してやろう』 そんな様子を見ている忍がそこに居たとは誰も気付いていなかった。 『凱、騎馬隊が北の国に何の用だろうか?まさか戦になるのか?』 『それはわからないな。北に向っているからもしかすると…』
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