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同僚から紹介された相手とどうするのがよいでしょうか…
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子ありと子なしはどちらが老後安泰?

コイアイのテーマ

レス481 HIT数 49727 あ+ あ-

Saku( SWdxnb )
10/05/18 22:44(更新日時)

誰にでも、たった一人、
忘れられない人が居るハズ…


私にとって、彼は、
かけがえのない
大切な人。


淡くて、霞んでしまいそうな日々は、
キラキラ輝いた思い出の日々でもあったー

No.1259632 10/02/28 00:51(スレ作成日時)

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No.151 10/03/24 19:16
Saku ( SWdxnb )

>> 150 映画館を出ると、すぐ横のベンチに敦史がぼんやりと座っていた。

「敦史?…」

「おう…終わった?」

「うん…」

私は敦史の隣に座った。

「体調でも崩した?」

「イヤーー大丈夫」

そう言って、笑った。

「映画、つまんなかったな~」

「そう?私は楽しめたよ」

「俺はダメだ、こういうの。見てて、イラついたよ」

「そんなに?」

イラつく要素なんてあったかな…?

No.152 10/03/24 21:15
Saku ( SWdxnb )

>> 151 「でも、加世が清涼剤だよ」

敦史は立ち上がって優しい眼差しを向け、手を差し出した。

「飯食いに行こうか」

「うん」

私は笑顔で敦史の手を取った。


そして、デパートを出て、いつものファーストフード店へ向かった。

No.153 10/03/25 12:59
Saku ( SWdxnb )

>> 152 それから、いつもの様に色々話して、笑い合ったりして、あっという間に時間は過ぎて行った…

私たちは、思い出の池を囲む公園へやってきた。

12月の空は夕方にはもう真っ暗で、寒いのもあって、人の姿も見えなかった。

だけど、今日一日、ずっと人の多い場所にいたから、二人きりになれて、何だか嬉しかった。

「寒くない?」

敦史が聞く。

「うん、大丈夫」

本当は、生足のせいで出ている部分が寒くて、辛かった。

No.154 10/03/25 21:50
Saku ( SWdxnb )

>> 153 私たちは、これまた思い出のベンチに並んで座った。

「カモ、いるか分かんねぇな」

「そだね」

「カヨカモな」

「やめてよ」

私たちは笑いあった。

真ん丸に近い月が、真っ暗な池の水面に映っていた。

「この間、電話でありがとうね…」

「ん?何だっけ?ああ…加世、
何かしてほしいって言ってなかったっけ?」

「えっ!?」

うっすらとだけど、敦史がニヤリとしているのが分かった。

No.155 10/03/26 12:36
Saku ( SWdxnb )

>> 154 「さっきから、イジワルだね…」

「う~ん…、照れ隠しかな」

「照れ隠し?」

前を見ていた敦史は、肩の力を抜くようにして笑うと、
私の方に顔を向けた。

「今日ずっと、加世にドキドキしてたから」

「ーー」

そんな事言われたら私の方がドキドキするよーー

敦史はソッと手を繋いできた。
その手はヒンヤリと冷たかった。

No.156 10/03/26 12:50
Saku ( SWdxnb )

>> 155 「敦史、手が冷たいよ…」

私は敦史の手を暖めようと、両手で挟んだ。

「加世の頬っぺで暖めてよ、あったかそうだから」

挟んでいた手を持って頬に当てた。

「ほら、あったかい」

「うわっ、冷たい」

思わず首をすぼめた。

敦史は笑って、私の手を取ると、両手共指を重ねてギュと握ってくれた。

そして、いつもの優しい眼差しで私を見つめた。

私も敦史を見るーー

敦史は顔を近付け、
私は目を閉じたーー

私のファーストキス

ソッと唇が触れただけの敦史の優しさが分かるキスだった。

No.157 10/03/26 20:00
Saku ( SWdxnb )

>> 156 帰りが遅くなり、敦史が家までーー正確に言うと、家の前の公園まで、送ってくれた。

「あれがウチ」

「でっかい家だな~」

敷地内には両親の歯科医院もあった。

「2階の一番右側が私の部屋なの」

「ヘェ、じゃあ今度忍び込んでみるわ」

私は敦史を見た。

「冗談だよ」

と敦史は笑った。

No.158 10/03/26 20:27
Saku ( SWdxnb )

>> 157 「今度遊びに来て」

「おっとー…?大胆発言」

「フフ、ちゃんと親に紹介するから」

「フフ、そういうことか」

後はバイバイするだけなのに、別れがたい…
「じゃあ」と、相手が言うのを、二人とも待っている雰囲気だった。

「加世の親に紹介されたら、悪いこと出来なくなるな」

「悪いことって?」

と、聞いた瞬間、敦史は短くキスをした。

「こういうこと」

またまた一気に顔が熱くなった。

「悪いこと、なの?」

「加世はどう思う?」

「私は…」

胸の中の正直な気持ちを探った。

「ちょっと恥ずかしいけど…敦史だから嬉しいし
ーー幸せだよ」

敦史は優しく微笑んだ。

「それはこっちの台詞だよ」

そう言って、またキスをした。
唇の暖かさが分かる長めのキスだった。

No.159 10/03/27 08:58
Saku ( SWdxnb )

>> 158 「また、明日な」

唇を離して、敦史が囁くように言う。

「うん…」

恥ずかしくて、俯きながら頷いた私は、
家の方へ歩きだした。

公園を出て振り向くと、見送ってくれていた敦史が、片手を挙げて爽やかに笑んだ。

たった10M離れただけの敦史に、胸がトキメイた。

私も小さく手を挙げて、
別れがたい気持ちのまま、家へ入って行った。

No.160 10/03/27 18:27
Saku ( SWdxnb )

>> 159 「ただいま」

玄関の中に入ると、
『マンタ』がフローリングの床をシャカシャカと蹴りながら来て、出迎えてくれた。

「加世~?」

奥から母の声がした。

「うん。ただいまー」

ブーツを脱いでると、エプロン姿の母が出てきた。

「おかえり。
映画どうだった?」

「うん。楽しかったよ」

答えながら、母の顔を見られず、階段へと向かった。

「ご飯の準備出来てるから」

「うん。着替えてから下りてく」

階段を上がって行くと、後からマンタもついてきた。

「お前もくるの?」

上目使いでシッポをワイパーの様に振る仕草が可笑しくて、笑いながら、一緒に階段を駆け上がった。

No.161 10/03/27 18:42
Saku ( SWdxnb )

>> 160 「着替えるからね」

そう言うと、マンタはドアの横におすわりをして伏せた。

「着替え」と言えば、必ず外で待つ。
母がよく
「マンタ以上の彼氏を見つけなきゃね」
なんて冗談を言うくらい、紳士的な雄犬だ。

私はマンタの頭を撫でて、部屋に入り、電気をつけた。
ーーと、瞬間的に窓が目に入って、『もしかしたら』という気持ちで、カーテンを開けた。

No.162 10/03/27 19:20
Saku ( SWdxnb )

>> 161 すると、公園前に立つ敦史を見つけた。

敦史もこちらを見上げて、ポケットから携帯を取出して、耳にあてた。

バックの中から着信音の『TSUNAMI』が流れたのに反応して、マンタがドアを押し開け部屋に入ってきた。

「マンタ、待て!」

マンタはバックの前でおすわりをした。

私は携帯を取って、通話ボタンを押した。

No.163 10/03/27 20:42
Saku ( SWdxnb )

>> 162 「敦史?」

「うん。
カーテン開くと思ったんだ。だから、5分待ってみようってね」

さっきまでと変わらない、優しい声だった。

「私も、敦史が居る気がしたの」

「ヘェ、以心伝心ってやつだ」

「フフ、そうだね」

足元でおすわりしたままシッポを振るマンタと目が合った。

「そうだ、敦史ーー」

私は携帯を肩で挟んで、マンタを抱き抱えた。

「マンタだよ、見える?」

「おっ、ライバル!」

母の冗談や紳士話も話していた。

「部屋に入ってるじゃん」

「あぁ…マンタもねTSUNAMIが好きで、着信音が鳴ったから入ってきちゃったんだ」

「俺も好きですけど」

「ハハ、そうだよね。
敦史が好きだったから、私も好きになったんだもん」

息をはく様に敦史は笑った。

「マンタは、退散」

私はマンタを降ろし、
入口の方を指差すと、マンタは大人しく部屋を出て行った。

No.164 10/03/28 06:52
Saku ( SWdxnb )

>> 163 「加世、気になってるから聞くけど…」

「うん?」

「今日の奴…
映画の前にあった奴、何者なの?」

「……」

「教えたくないならーー」

「2日前に、初めて会った人なの!」

敦史に隠し事は嫌だった。
一昨日美咲と一瞬の時、偶然田神さんに会って、陽介さんも交えて食事して、送ってもらったと、事実を話した。

「それで、香水?」

「美咲へのプレゼントのついでだよ」

「はぁーん…そういうこと…
今日は違う女連れてたよな…」

No.165 10/03/28 14:22
Saku ( SWdxnb )

>> 164 「……」

「加世も、気をつけろよな」

「きっと、もう会うことはないよ」

敦史は、陽介さんを遊び人と受け取ったようだけど、
私は悪い人だとは思えなかった…。

「ありがと、なーー
これで夜眠れる」

「フフ…」

そんなに気になってたんだね…。

「そろそろ行くわ」

「うん…。
気をつけてね」

「おう」

その後、二人して無言…
またも漂う別れがたい雰囲気を、敦史が吹っ切る感じで

「じゃあ、また明日」

と言って電話を切った。

敦史は笑顔で手を振って、去って行った。

No.166 10/03/28 21:15
Saku ( SWdxnb )

>> 165 敦史の姿が見えなくなるまで見送った。

見えなくなったトタンに、恋しい、切ない気分に包まれた。

ハァ…

カーテンを閉めながら、ため息が出た。

着替えようとして、フイに鏡に映った自分を見たら、
今日一日、敦史にはこんな私が見られていたのかと、気恥ずかしくなった。

そして、敦史とのキスがリアルに蘇ってきて、陶酔するように、手が止まった。

きっと、この先もずっと忘れることは無いだろう。

相手が敦史で良かったーー

No.167 10/03/29 08:16
Saku ( SWdxnb )

>> 166 翌日のHR直前、ベランダの窓枠からチョコンと美咲が顔を出した。

「昨日どうだった?」

「わっーーおはよ…
うん、楽しかったよ」

笑顔で答えたけど、美咲の顔が見れない。

その時、始業チャイムが鳴った。

「詳しくはお昼に屋上でね」

そう言って美咲はウインクをして帰って行った。

昨日見たこと…美咲に話すか話さないか、昨日からずっと悩んでいた。

どうしよう…

ベルが鳴り終わると同時に、敦史が入ってきた。

「オース」

けだるい感じに挨拶を交わしながら、
途中から、私を見ると、目を離さずにやってきた。
また胸がトキメクーー

「オス」

「おはよ」

私の椅子の背もたれをポンと叩いて、後ろの席に座った。

No.168 10/03/29 19:46
Saku ( SWdxnb )

>> 167 その日、敦史とは話す機会が少なくて、でもよく目が合う一日だった。

そして昼休み。
屋上で美咲と会って話した。

「うわーおッ!
グロス作戦、成功したね!」

美咲は予想が的中してハシャイでいた。

「美咲…」

「なぁに?」

その笑顔に何も言えずーー

「ううん…
これ、本当にありがとう」

と、グロスを差し出した。

「それ加世にあげるよ
次のデートにもつけていきなよ」

「ありがとう」

美咲はニヤリと笑んだ。

「今度は初体験しちゃうかもね~」

「え"っ!!」

No.169 10/03/29 19:57
Saku ( SWdxnb )

>> 168 「アハハ!
相変わらず反応いいな~。

でもさ、二人は相思相愛なんでしょう?だったら自然な展開だと思うけどな」

「そんな…まだまだ、まだまだ、早いよっ!」

私は慌てて言い返した。

「まぁ、焦ることはないけどね。
でも、初めての相手は嫌でも忘れられないから、
『この人』っていう大好きな彼と出来たら幸せだよ」

「ーー」

「私も陽ちゃんだったら良かったのにぃ…」

手摺りに寄り掛かかりながら呟いた美咲を見て、
美咲は陽介さんの事が大好きなんだーーと感じた。

その時の美咲に、真実を伝えることは出来なかった。

No.170 10/03/29 20:56
Saku ( SWdxnb )

>> 169 午後の授業が始まる間際、席についた敦史は、頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。

何だか、懐かしいーー
大好きな姿だ。

私が席に戻ると、敦史は微笑んで、手を伸ばして椅子を引いてくれた。

「ありがとう」

「なぁ、終了式後に買物いこう」

「いいよーー何買うの?」

その時、先生が入ってきた。

「また後で」

敦史は小声で言って笑んだ。

No.171 10/03/30 12:04
Saku ( SWdxnb )

>> 170 後でーーと言われながら、結局、何を買うのか教えてもらえないまま終了式の日がきた。

買物は敦史の地元でーーと言われ、一旦帰宅して、午後一で待ち合わせの約束をした。

家に帰って軽く昼食を取り、何を着ていくか迷ったけど、デートの時の格好の上だけを変え、
美咲からもらったグロスを薄く付けて出掛けた。


久しぶりに電車に乗るーー
たった一駅だけど、ソワソワした気持ちだった。

No.172 10/03/30 18:50
Saku ( SWdxnb )

>> 171 駅に着くと、改札口を出た所で敦史が待っていてくれた。
目が合い微笑み合った時ーー

「敦史じゃん」

私の後ろから、他校の制服を着たグループの一人が、敦史に声を掛けた。

「よお」

私は敦史の後方に離れた。

「もう休み入ってんの?」

「今日終了式。そっちは?」

「明日。どこも終わってんのに、タリィよ」

その時、敦史が私の居場所を確認するようにチラッと振り向いた。

「ーー彼女?」

「うん」

「ヘェ、相変わらず、羨ましいね~。ーーじゃあな」

「おう、またな」

敦史の友達は、こちらを見て小さく頭を下げると、待っていた仲間達と去って行った。

「ゴメン、行こうか」

私服姿の敦史は、今日もまた格好良くて、私はドキドキしていた。

No.173 10/03/30 19:33
Saku ( SWdxnb )

>> 172 敦史の地元は栄えていて、駅周辺はテナントの入ったビルや色んなお店が建ち並んでいた。

「ココ、俺のバイト先」

駅から程なくした所にあるピザ屋だった。

と、敦史は誰かを見つけて店内に入って行った。
ヒョロっと長身で眼鏡をかけた男の人と敦史が話している時、私は入口付近に立っていた。

「タカヤーンお願い!」

敦史は拝み倒す姿勢だった。

「ウッソーン!無理だから~」

「借りはちゃんと返すから!」

フイに男の人がこちらを見た。

「おっと…彼女?」

「そう。だから今日の一時間って貴重でしょ?

「こんにちはー。
マセタ年下に上手いこと使われてる高谷でーす」

高谷さんは、敦史の頭の上から私に挨拶してきた。

「こんにちは、真中です」

私も頭を下げた。

「イイ子そ~う。
アッシの為じゃなく、真中さんの為にーー1時間な!」

最後は敦史を見てどすを利かせた声で言った。

「ハハ、タカヤン最高!」

敦史は高谷さんとハンドタッチをして出てきた。

No.174 10/03/30 20:25
Saku ( SWdxnb )

>> 173 「ーーって事で、7時までは一緒に居られる」

「大丈夫だったの?」

「大丈夫。さっきの高谷って店長だから」

店長を、タカヤンって…
でもご満悦な敦史を見ている内に、つられて笑ってしまった。

「ねぇ敦史?今日は何を買うの?」

「これから行くよ」

敦史は、横目で意味深に笑んだ。

No.175 10/03/30 23:21
Saku ( SWdxnb )

>> 174 駅を離れ、商店街の中を歩くーー
その間、敦史は2度、知り合いから声を掛けられた。

「敦史って、友達多いね」

私が聞くと、

「地元だからな」

とサラリと答えた。
私が地元を歩いていても、こんなに声を掛けられる事無いな…
思いながら、ついて行ってると、

「アチャー…」

敦史は呟いて歩みを遅めた。
私が不思議に思って、敦史の顔を見るとーー

「ニィ!」

No.176 10/03/30 23:48
Saku ( SWdxnb )

>> 175 向かいから、見るからにヤンチャそうな学ラン姿の4人組が歩いてきた。

みんな敦史に頭を下げて、挨拶しているーー
一人だけ、目鼻立ちのハッキリした色黒の男の子が、笑顔で私の前にやってきた。

「こんにちはー、彼女さんですかぁ?」

「寄るなや」

敦史は私の前に遮るように立った。
男の子は顔を横に倒し、

「加世さんですかー?」

「…はい」

「やーっぱり!」

敦史は観念したように振り向き、

「弟の洋史」

無表情に紹介してくれた。

No.177 10/03/31 00:10
Saku ( SWdxnb )

>> 176 そういえば前に、2コ下の弟が居るって、敦史言ってたっけーーって事は中2?
洋史君は、敦史よりも背が高く、筋肉質な体型で、もっと年上に見えた。

私がそんな事を考えていた時、兄弟で話しはじめた。

「家行くの?」

「いかねぇよ」

「じゃあ別の場所?」

「行くかよ、バーカ」

「俺、今日も帰んないし、遠慮しないで使っていーよ」

「お前もテキトーな事してんなよ。
また捕まっても、もう迎えに行かねーぞ」

「あーいよ。
じゃあ加世さん、またぁ」

そう言って屈託のない笑顔で手を振る洋史君に、
私も微笑んで手を振った。

No.178 10/03/31 19:12
Saku ( SWdxnb )

>> 177 「洋史君って、敦史とあまり似てないね」

見送りながら、考えずに敦史の隣で呟いた。

「ああーー父親が違うから」

「え…あっ、ゴメン…」

「いいよ、事実だしーー」

敦史は平然と、
その後も話しを続けた。

「俺もアイツも、顔は父親似らしいよ。
俺の父親は死んで居ないけど、洋史の親父は、産まれてすぐに女と逃げて、行方不明なんだと」

「……」

敦史の複雑な家庭環境が垣間見えて、同情する気持ちに包まれた。

「ついて来れてる?」

「う、うん…」

敦史は、笑っていたけど、
私は、話しも歩幅も敦史に近づくように、歩みを早めた。

No.179 10/03/31 21:44
Saku ( SWdxnb )

>> 178 「洋史君、家に帰ってないの?」

「寝に帰ってきてるけど、母親が居る時は、まず居ないな」

「……」

「逃げた男にソックリなせいで、母親に邪険に扱われてるからさ」

「敦史は?ーー敦史は、大丈夫なの」

大丈夫ーーなんて変だけど…心配になった。
案の定、敦史はケラケラと笑っていたけど、

「俺の父親は逃げなかったんじゃね?」

そう言いながら、もの悲しい横顔だった。

No.180 10/04/01 19:37
Saku ( SWdxnb )

>> 179 それから、小さな若者向けのショップが点在する路地に入り、
一見、雑貨屋の様に見える、アクセサリー屋の前で敦史は止まった。

「ココ」

中に入る敦史についていくと、小さな店内には、シルバー類のアクセサリーが所せましと並べられ、
店舗の隅では、お店の人が金属を削る作業をしていた。

「こういうの、どう?」

敦史が手に持って見せてくれたのは、ペアになっているストラップだった。

No.181 10/04/01 19:59
Saku ( SWdxnb )

>> 180 「すごく、可愛い」

それぞれのチャームはシンプルなのに、二つを合わせると、クロスの形になった。

「今までは、こういう、揃えちゃうのって絶対イヤだったんだけど…
加世とは、持っていたいと思って…」

棚に並ぶストラップを見ながら、
不器用に話した。

「加世はどんなのがいい?
俺は、ここらへんが良いと思うんだけど」

敦史が指差したものは、シンプルながらもオシャレで、どれも素敵だったけど、
私は、最初に敦史が見せてくれた、クロス型になるものに目がいった。

No.182 10/04/01 20:13
Saku ( SWdxnb )

>> 181 「これ、イイ?」

敦史が私の目線に気付いて、また手に取る。

「うん。
シンプルだけど、イイなって…」

「俺もコレ、第一希望」

敦史はニコッと微笑んだ。

「決まりな。
じゃあ、これは俺からのクリスマスプレゼントってことで」

その時初めて、ぶら下がった値札を見た。

「でも高いよ」

2個セットで一万円を越えていた。

「言うと思ったけど、
今回は絶対買うから」

「私も半分ーー」

敦史の手で口を押さえられた。

「それもーー
絶対俺が出すから」

メッと、子供のイタズラを叱る親のような目で見られた。

No.183 10/04/01 20:39
Saku ( SWdxnb )

>> 182 卒業後の学費や上京費用の為に、バイトしてお金を貯めている敦史には、無駄遣いしてほしくなかったけど、
今回ばかりは、敦史の気持ちを、素直に受け取ろうと思った。


「コレに、メッセージとか彫ってもらえるんだってーーどうする?」

メッセージの例文一覧表には、英語とはいえ、熱い文面が並んでいて、見ているだけで照れてしまった。

「敦史から貰ったのが分かると嬉しいな」

「A to K 、とかにする?」

「うん」

敦史はレジに行き、メッセージをメモしている様だった。

No.184 10/04/01 20:56
Saku ( SWdxnb )

>> 183 「30分位かかるって」

お店の外で待っていた私の元にきて敦史が言った。

「私からのクリスマスプレゼントはどうしよう…
敦史、何か欲しいものない?」

私が聞くと、敦史はいらないと答えた。
でも、何かプレゼントしたいと引き下がらない私に対して、

「うーん…じゃあ、加世の全て」

「エッ?!」

敦史はクックックッと笑った。

「じゃあ加世の私物で、俺にあげてもいい物ちょうだいよーーパンツとか」

「エッ!!」

今度はお腹を抱えて笑いだした。

「どこまで本気なのっ!?」

私が怒って聞き返すと、
笑うのを止め、

「加世のものなら何だって嬉しいってことだよ」

とドキリとする男前な顔を向けられた。

No.185 10/04/02 20:38
Saku ( SWdxnb )

>> 184 おどけて私をからかったり、
唐突に抱きしめたり、
無邪気にはしゃいだり、
シャイだったり…

付き合うようになってから知る、魅力的な敦史には参ってしまう…。

でもどんな時も敦史は誠実な人だ。
だからいつも安心していられたし、信じられたーー。


30分たって、受け取ったストラップには
A to Kの後に『with』と一文字入っていた。

「色んな気持ちの集大成」

敦史はそう言ってはにかんだ。

No.186 10/04/02 23:51
Saku ( SWdxnb )

>> 185 その後、敦史の地元を歩いて回った。
中学校や、よく買い食いしたというお店など、
知らない敦史の過去に触れられて嬉しかった。

あっという間に時間は過ぎて、
敦史と一緒にいられるのもあとわずかだな・・・
と、ストラップをつけた携帯で時間を確認していると、

「他にどこか見たいとか、行きたい所ある?」

と敦史に聞かれた。

「敦史の家とか?」

さっき洋史君も言ってたもんね――
なんて、軽い気持ちで聞いてみた。

「家には絶対連れて行かない」

「え、なんで?」

絶対とまで言われて、気になった。

「いろんな意味で、加世を汚したくないから」

「・・・」

「あ、もうタイムオーバーぎりぎり!
さ、戻るぞー」

敦史は踵を返して歩き出した。

No.187 10/04/03 00:17
Saku ( SWdxnb )

>> 186 そんなに遠くなければ、家に行く時間はあったのに――
汚す・・・って、どういうことかな?

そんな事を考えながら、敦史の後をついて行った。

少しずつ、ネオンの明かりが増えていく――
繁華街の裏路地辺りに来たとき、
敦史が歩みを止めた。

「?」

隣に立って、顔を覗くと、
敦史の視線は、道路の赤信号で止まっている一台の車に向いていた。

「あれ?・・・」

その車は運転席に見慣れた顔の男性と、助手席に女の人が座っていた。
青信号に変わると、車は左折して
私たちの前を横切り、狭い路地へと入っていった。

「今のって、担任の先生だった、よね?」

私が言うと、敦史は無言で頷き、車の背後を見送った。
車はゆっくりとラブホテルの中へ入っていくところだった。

No.188 10/04/03 00:41
Saku ( SWdxnb )

>> 187 薄暗い路地裏で、そのホテルの看板は、煌々と眩しい位の光を放っていた。

「担任の隣の女見た?」

敦史はホテルの方を向いたまま聞いた。

「チラッと…ハッキリは見えなかったけど…」

でも、ほんの一瞬でも凄くキレイな人だと思った。

「あれ、ウチの母親」

「エッ?!ーー」

振り向いた敦史は、笑っていた。

「担任には感謝してるよ
サカリのついたメスブタを相手してくれてるんだから」

「そんな言い方…」

「ヤッバー
加世には過激すぎだな」

敦史は両手で私の耳を押さえ、そのまま、自分の胸に抱き寄せたーー

「だから、加世が清涼剤なんだ…」

No.189 10/04/03 10:50
Saku ( SWdxnb )

>> 188 私は顔を上げて敦史を見た。

「敦史ーー大丈夫?」

心配顔の私を見て敦史はフッと笑った。

「本当に、担任には感謝なんだよ…
うちの母親は男が居ないとダメな人間で、
相手が担任だろうと、相手がいる間は、バカな事も酒に溺れることもないーー
俺も安心していられるんだ」

「……」

「加世には、理解しがたいよな…」

私は首を振った。

「色んな人が居るって分かってるつもり…
私が気になるのは、敦史の気持ちなのーー
辛かったり、悲しかったりしないかな、って…」

敦史はまた、ソッと抱きしめてくれた。

「加世が居てくれたら大丈夫…マジで」

私は『うん』と頷いた。

No.190 10/04/03 16:22
Saku ( SWdxnb )

>> 189 実際、敦史の表情は清々しい位で、声のトーンも穏やかだったーー

きっと敦史は、前からこの事実を知っていたんだろう…。

担任が敦史と別れた方がいいーーと、しつこく言ったのは、
敦史のお母さんとの関係を知られたくなかったから?
ーーそう考えると辻褄が合って、心が軽くなる気がした。


「ゴメンな、ホームまで見送れなくて」

駅前ロータリーに着いた時、既に19時5分前で、駅へと続く階段下で別れる事になった。

No.191 10/04/03 16:31
Saku ( SWdxnb )

>> 190 「いいよ。敦史のこと見送ってるから、もうバイト行って」

「悪い…。加世、帰り気をつけてな」

「うん」

私は笑顔のまま、胸元で手を振った。

敦史は歩きだし、5、6歩行った所で振り向くと、スタスタと戻ってきた。

何か忘れた?
ーーと、見ていた私の前にやってくると、流れるように首を傾げてキスをした。

「じゃあな」

唇を離した敦史は小さく笑んで、そのまま踵を返して去って行った。

私は胸の高鳴りとは真逆に、ボーっと立ち尽くしたまま、離れていく敦史を目で追っていた。

No.192 10/04/03 20:53
Saku ( SWdxnb )

>> 191 電車に乗り、立ったまま、車窓に映る自分の唇をなぞったーー

敦史と離れた直後に襲う、この渇望感が悩ましい…

敦史とずっと一緒にいられたらいいのに……


私はフイに思い出して、携帯を取り出し、ストラップと、チャームに刻まれた文字を見つめた。

そして、敦史にメールを打った。

No.193 10/04/03 21:14
Saku ( SWdxnb )

>> 192 『プレゼントありがとう。大切にするね。バイト、頑張ってね。

Be with you

カヨ』


そばにいるーーって、
一番敦史に伝えたくて、でも、私も欲しい言葉だった。


メールを送信したことで、悩ましい気持ちを解放できた私は、
リング型のストラップを微笑みながら揺らし見ていた。

No.194 10/04/04 22:28
Saku ( SWdxnb )

>> 193 帰宅し、真っ先に、部屋の棚に置いた宝箱を開けた。

敦史に言われた時から決めていたーー

それは、
初めて家族で行った海外旅行のオーストラリアで、父親が自分のために買おうとしていたキーホルダーだった。

レジの上で、光に照らされ、丸い黒石の中から、七色に輝いた魚が浮かび上がったーー

「この魚なぁに?」

「マンタだよ」

「キレイ…」

父は同じものをもう一つレジに並べ、袋を別にして、一つを私にくれた。

「旅行の思い出にーー大切にするんだぞ」

父に言われた通り、私はビニール袋に入れ大切に宝箱へ入れておいた。

だから新品の様にキレイーー
海をモチーフにした映画が好きと言った敦史に、喜んでもらえる気がした。

No.195 10/04/04 23:17
Saku ( SWdxnb )

>> 194 夜の11時過ぎ、バイトを終えた敦史からメールが届いた。

『今日は楽しかった。

おやすみ。


stay with me
あたってる?』

何度も読み返し、何度も微笑んでしまった。

『あってるよ。

私も同じ気持ち。
おやすみ。

with love カヨ』

夜遅くに精一杯のラブメール・・・
最後の一文送ってしまった後にハラハラして、
逃げるように布団の中に飛び込んだ。

No.196 10/04/05 20:31
Saku ( SWdxnb )

>> 195 敦史は、「冬休みはめいいっぱい稼ぐ」
――と宣言していた通り、
オープンから昼時間と、夕方から最終まで、毎日の様にバイトに入った。

私は触発されて、敦史がバイトしている時間、勉強に勤しんだ。
同じ時間、勉強とはいえ、集中することで、
敦史と繋がっている気持ちになれた。

それに、何もしないと、敦史のことばかり考えてしまって、
会いたくなってしまうから、朝から机にかじりついていた。

でも、そんな私を両親は心配した。

「散歩にでも行ってきたら?」、「美咲ちゃん呼んだら?」、

「少しは出かけなさい!」
――仕舞には、そう背中を押されて外に出た。

No.197 10/04/05 20:57
Saku ( SWdxnb )

>> 196 外は快晴、でも風がヒンヤリと冷たかった。
私は歩きながら、思い出の池を囲んだ公園へとやってきた。

明日はクリスマスイブ・・・
ピザ屋は忙しくなる一日だけど、
プレゼントも渡したいし、少しの時間でも会いたいな――

そう思いながら携帯を出して時間を見た。
14時――
バイトの中休みの時間かと思い、
私は敦史にメールを打った。

『バイトお疲れさま。

明日か明後日、
ほんの少しでも会えたら嬉しいよ。

でも無理なら大丈夫。
カヨ』

No.198 10/04/05 21:04
Saku ( SWdxnb )

>> 197 送信ボタンを押して、
敦史からもらったストラップをニヤケて眺めている時、
『TSUNAMI』が鳴って、慌てて、通話ボタンを押して耳にあてた――

「もしもし・・・」

「加世?」

「敦史・・・」

「メール見たよ。今どこ?家?」

「池の公園だよ」

「じゃあ今から行くわ。待ってて」

「えっ?えっ――」

既に電話は切れていた。

No.199 10/04/05 21:29
Saku ( SWdxnb )

>> 198 それから20分経って、自転車に乗って敦史がやってきた。
この寒空の中、息をきらし、汗いっぱいの顔で、

「早いっしょ?」

とニコッと笑んだ。

「大丈夫?」

手ぶらで家を出たけど、
唯一持っていたハンカチで、敦史の額の汗を拭いてあげた。

「サンキュ」

敦史は今度は照れたように笑って、

「あ―、疲れたぁ」

と、ベンチに倒れるように座った。

「そうだよね。疲れたよね・・・」

隣町から自転車で20分なんて・・・
すごく急いで来てくれたのが分かった。
ちょっぴり申し訳ない気持ちで敦史の隣に座ると、

「でも、俺も加世に会いたかったんだ」

と優しい笑顔で言った。

No.200 10/04/05 21:51
Saku ( SWdxnb )

>> 199 「夕方からもバイトだよね?」

「うん、17時な。
だから――2時間居られる。
なぁ、冬休み中、この時間に、ここで会わない?」

「でもバイトで疲れてるのに、
この往復もじゃ・・・大変」

「逆に、疲れが吹っ飛ぶんですけど」

敦史はイーと笑った。

「じゃあ、私が敦史の地元に行くよ」

「いいって、俺ココ好きなの」

「私も」

「じゃぁ、決まり」

そうして、冬休み中は
中抜けデートをすることになった。

  • << 201 午後2時から、5時まで―― 敦史が自転車の往復をする約1時間を除けば、 たった2時間だったけど、毎日敦史に会えると思うと嬉しかった。 クリスマスイブの今日も、私は朝から勉強し、 14時に「散歩」と言って、水筒とプレゼントを持参して家を出た。 両親は出かけるのを喜んでいた。 ゆっくり歩いて15分で着いた。 もう少しで敦史がやってくると思うだけで、ドキドキした。 そんな緊張した私を和ませてくれるように、 カモが目の前の水面を行き来してくれた。 30分過ぎても敦史は来ない―― 1時間過ぎた時、知らない番号から着信があった。 「もしもし・・・?」 「加世、オレ」 「敦史?」 「うん。悪い、まだバイト先でさ、 マジ混みで、まだ引かなくてさ」 苛ついているのが分かった。 「大丈夫だよ、気にしないで」 「マジごめん。又連絡するから」 「うん」 そのまま電話は切れた。
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