コイアイのテーマ
誰にでも、たった一人、
忘れられない人が居るハズ…
私にとって、彼は、
かけがえのない
大切な人。
淡くて、霞んでしまいそうな日々は、
キラキラ輝いた思い出の日々でもあったー
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>> 306
翌朝早く、マンタの吠える声で目が覚めた。
時計を見ると朝の5時前。
隣に敦史の姿がない事に気づいた私は、起きて服を着て廊下に出た。
すると、マンタの遊ぶスペースでマンタとじゃれ合っている敦史を見つけた。
私に気付いたマンタが駆け寄ってくると、敦史も振り向き微笑んだ。
「ヨッ」
敦史の元へ喜んで戻っていくマンタの後を私はついて行った。
「居ないから心配しちゃった」
「性的処理にトイレ行ってたの。
好きな子の裸抱いてて、普通じゃいられなくてね」
私は恥ずかしくて、マンタに視線を移したけど、マンタは敦史にお腹を見せて甘えていた。
「マンタァ…番犬なのに」
「もう親友。男同士で話してたんだよな~」
敦史はマンタの体を撫で、私も敦史の隣で膝をかかえ、マンタの頭を撫でた。
>> 307
「おはよ」
敦史は顔を近付け私に軽くキスをした。
「おはよう」
何だか照れ臭くて、目を合わせずに答えた。
「加世よく寝てたな」
「そう、だった?」
「あんな事やこんな事しても起きなかった」
「エッ!?」
驚いて敦史の顔を見ると、敦史はクックックと笑った。
「冗談!
でも、加世の体は目に焼き付けたから、
当分は一人で…フフフ」
「ヤーダ、物凄くエッチ!」
「エッチですよー。
昨日分かったろ?」
敦史は横目で爽やかに笑んだ。
私は昨日の出来事が蘇り一気に顔が熱くなった。
「そろそろ帰るわ」
敦史は立ち上がった。
「え?」
「家でシャワー浴びたいし、遅くなるとご近所さんに見つかるっしょ?」
敦史が言う事に納得した。
ーー納得したけど、たまらなく寂しくなってしまった。
敦史は手を差し出し、その手を掴んで立ち上がった私を抱きしめた。
そしてどちらからとなく唇を合わせた。
「上手になっちゃって…
俺が加世をエッチにさせてんだな」
優しい声、優しい眼差しの敦史がそこにいた。
>> 308
この日以降、今までとは違う感覚で
敦史に恋するようになった――。
高校では期末テストの結果が出て、
貼りだされた順位表の前で佐藤君に会った。
1番は佐藤君で私は5番だった。
「すごいね」
「真中も」
私たちはお互いを誉めあって笑った。
その時、廊下の先で、友だちと笑い合っている敦史を見かけた。
フイにこちらを向いた敦史は、私に気づくと、
優しく微笑み、そのまま友だちと去っていった。
私は微笑ながら、敦史の背中をトキメキながら見送った。
「真中の彼氏なんだってな?」
背後から佐藤くんが声を掛ける。
「・・・うん」
「有名な話らしいけど、俺知らなかったよ」
そう言って佐藤君は微苦笑した。
>> 309
夏休みに入り、私と敦史は休日にお決まりの
敦史のバイト間の中抜けデートを繰り返していた。
でも真夏の日差しを浴びる外で会うのは辛くって、
私が、バスや電車で敦史の地元へ行き、図書館やデパート、
大型スーバーのフードコートなどで会うことが多かった。
その日も私は、フードコートで敦史が来るのを
本を片手に待っていた。
すると、派手で賑やかな女の子のグループが、
少し離れたところから私を見て、ヒソヒソと何やら話すと、
私の元にやってきた。
「ねぇねぇ、敦史の彼女?」
私はキョトンとしてただ見つめるだけだった。
「そうだよね、結構一緒にいるもんね」
と、別の子が聞く。
けど、私は萎縮するように、下を向いた。
「そうだって、ほら、アオイ」
その言葉に私は顔を上げると、
アオイと呼ばれた子が後ろから現れた。
>> 310
その子は小柄で色白で、まるでお人形のような
クリクリの目をした可愛い子だった。
ただ、茶髪とお化粧は似合っていなかった。
「へぇ、敦史の趣味、変わったんだねぇ」
その子はキャハハと、悪びれることなく笑った。
アオイ・・・その名前を聞けば、思いつくのは一人だけ。
敦史の元カノだ。
「ねぇ、敦史とエッチした?」
初対面でそんな質問をされて、面食らってしまった。
その子は、私の耳元に顔を寄せ、
「敦史、いいでしょ?」
と言った。
私は心臓がバクバクして、もう顔を上げることが出来なかった。
その時、
「何してんのお前たち」
敦史がやってきた。
「新旧彼女同士で挨拶してたの」
アオイさんが答える。
「いらないから」
敦史は私と彼女たちの間に立った。
>> 313
敦史の家は、2DKのアパートだった。
DKを抜けると、お母さんの部屋があって、
その隣に引き戸続きで、8畳ほどの敦史の部屋があった。
「狭いだろ?
洋史が居たときは間にカーテン引いて、もっと狭かったよ」
敦史は恥ずかしそうに笑った。
敦史の部屋は殺風景な位、キレイに片付いていた。
そのせいか、ベットがやたらと目立って見えた。
「ごめんな、この部屋クーラー付いてなくて」
敦史は窓を全開にし、2台の扇風機を強くかけた。
それでも、敦史の顔や首もとは汗をいっぱいかいていた。
「俺、シャワー浴びてくるわ」
そう言うと、敦史は私に背中を向けて
Tシャツを脱いだ。
骨張った逆三角形の背中は、細いのに逞しくて、
私は急にドキドキしてしまった。
と、フイに敦史が振り向いた。
>> 315
その時、玄関から、小さな物音が聞こえた。
その後に続く、人の気配で、敦史は唇を離して振り向いた。
と、次の瞬間、部屋の戸が開いた。
「お客さんだったの?」
敦史のお母さんだった。
私は乱れた首元を慌ててなおした。
「勝手に開けんなよ!」
「あら、ごめんなさいね」
敦史のお母さんは微笑み、戸を閉めた。
敦史は眉間にしわを寄せ、新しいTシャツを出して着替えた。
「加世行こう」
「う、うん・・・」
私は敦史の後をついて行った。
戸を開けると、クーラーのかかる部屋で
お母さんがこちらを見た。
「あの、お邪魔しました・・・」
「もう帰るの?ゆっくりしていけばいいのに」
「加世、行くよ」
敦史はお母さんに背を向けたまま、
靴を履いた。
私は敦史のお母さんに会釈をした。
「敦史が彼女つれてくるなんて、久しぶりね。
お名前は?」
「いいよ加世」
「そう、加世ちゃん。どうぞ敦史のことヨロシクね」
私は妙な雰囲気の中靴を履き、頭を下げて
敦史と一緒に外へ出た。
>> 316
外に出て、歩く間も敦史はずっと不機嫌だった。
「敦史のお母さんって、何歳?」
「40」
「へぇ、すごく若くてキレイだよね」
「化けもんだよ」
「・・・」
敦史が、お母さんの事を嫌っているのは
何となく知っていたけど、
私にはキレイで優しそうなお母さんに見えたから、
どうも腑に落ちない感じだった。
歩きながら、いつの間にか私たちは
駅の路地裏周辺に来ていた。
ここは以前、担任と敦史のお母さんの姿を見た辺り・・・
と、突然歩くのを止め、敦史が振向いた。
「シャワー浴びたいんだけど」
そう言うと、敦史は背後に頭を傾げた。
そこらはラブホテルが建ち並んでいた。
「一緒に来る?」
私は動揺して、返事が出来なかった。
>> 318
少し経って、シャワーの音が聞こえてきた。
私は緊張して、ソワソワして、どうしていいか分からなかった。
ふと、目に入った水槽の前に行き、美しくライトアップされた水中を
泳ぐ熱帯魚を目で追った。
そうしている内に、気持ちも落ち着き
ビデオで見たある映画を思い出した。
暫くたって、私の後ろに敦史が立った。
「何してるの?」
「水槽見てて――映画、思い出してた」
「ああ――」
そう言うと、敦史は水槽の反対側に立って、
水中越しにこちらを見て微笑んだ。
「フフ、加世の好きなレオ様には及ばない?」
「――」
及ばないなんて・・・
敦史の濡れた髪、キラキラと輝く瞳、そして眼差し――
全てが、憧れの俳優を超え、たまらなくドキドキした――。
>> 327
美咲は1学期は休みがちで、
ティーンズ向けのファッション雑誌の中で、
チラホラと見かけるほどになっていた。
「そこまでしてて、最後まではダメなんて、
加世ってば、男の生理を分かってないなぁ」
「私じゃないよ。敦史が、してこないの。
責任とれるまでは、って・・・」
美咲は、ポカンとして私を見て、微笑んだ。
「本気なんだね、彼。
加世、愛されてるね」
私は照れくさくて、嬉しくて、少し俯いた。
と、同時に、以前美咲が話そうとして、教えられなかった事を思い出した。
「ねぇ、美咲。ずっと前に敦史の中学時代のこと、
話そうとして止めたけど、何だったの?」
「ああ。・・・今の彼は別人みたいだから言うけど――
すごくモテてて、言い寄ってくる子も多かったみたいで・・・」
「うん」
「その殆どの子と、やってたんだって」
「やる、って・・・」
「H」
「・・・」
「それで、『バージンキラー』って呼ばれてたんだって」
美咲は可笑しく言ってちょっと笑ったけど、
私は苦笑するしかなかった。
>> 330
「小6の時、父親が亡くなってね、
まさに路頭に迷っていた私と母親を、
父の兄で銀行員の叔父さんが、色々面倒をみてくれたの。
保険金の受取から母親の仕事の世話までいたせりつくせりやってくれてた…」
私は美咲の話を、一言一句聞き逃さない様に、相槌もせずに黙って美咲を見つめいた。
「母親は全幅の信頼を寄せていたわ。
伯父さんはよき父親がわりでもあり私の勉強もよく見てくれた。
家庭教師の様に、私の部屋で、マンツーマンでね…」
「ーー」
「でもね、家庭があるのに、頻繁にウチへ来るのを怪しまなきゃいけなかったのよーーうちの母親はさ……」
美咲はぼんやりと窓を見つめながら、思い出すように小さく笑んだ。
「お母さんが伯父さんに不審を抱いた時には、
私はとっくに処女を喪失していたってわけ」
「エッ…」
美咲は私を見て寂しそうに笑った。
>> 333
『バイト終わったー。
朗報。
母親に男ができました。
パチパチパチパチ!』
敦史のお母さんは、男性が居ないとダメな人だって、
以前敦史は言っていた。
でも、『お母さん』なのに・・・。
「はあぁ・・・」
私は、その時『大人』に対して、言いようの無い
嫌悪感を感じた。
何故もっとしっかり出来ないのか?
何故もっと責任ある行動が出来ないのか?
何故?何故??何故???
大人になった今、
擁護するわけでなく答えるなら、
「人は完璧じゃないから」
――なんてご都合主義な答え。
私は気力のないまま、敦史に返信した。
『バイトお疲れさま。
良かったね。
おやすみなさい。
with love 加世」
その日ばかりは、美咲のことで頭がいっぱいで、
敦史へのトキメキは影をひそめていた。
>> 337
「離れること考えるの止め!
今はもっと楽しいことをさ――
そうだなぁ・・・加世は旅行どこ行きたい?」
私は咄嗟に有名なテーマパークを口にした。
「かんべーん」
敦史の困ったような言葉に笑い合い、
その後、旅行の話を楽しんで続けた。
今一緒に居られる時間を楽しんで大切にしなきゃ・・・。
そう切り替えて、過ごせたのは、
今振り返ってみても本当に良かった・・・。
夏休み中、美咲は東京へ引っ越すことになった。
当分は事務所が用意してくれた部屋で一人暮らしをするらしい。
「いつでも遊びにおいで」
駅まで見送りに行った私に美咲は言った。
美咲の両親も寂しそうに、心配そうに見送っていた。
私はこの時、いつか、東京へ行きたいと思った。
美咲が居て、敦史が行こうとしている東京へ――
>> 338
夏休みが終わり2学期になると、
進学クラスの雰囲気は受験モード一色となった。
私の第一志望は佐藤くんと同じ地元の大学。
先生に推薦入学を勧められ、両親とも相談して了承した。
勉強はもちろん続けたけど、何よりも敦史と会う事を優先させた。
敦史とは、池の公園や敦史の地元で会い、
たまに、二人の気持ちがお互いの肌を求めた時、
敦史の家に行くこともあった。
私たちはお互いの体を知り尽くしていたけど、
いつでも最後まではしなかった。
ある日敦史の部屋で、
敦史は専門学校のパンフレットを私に見せながら、
学習机の鍵のかかった引き出しの中身を見せてくれた。
「エ!」
私は思わず絶句した。
中には一万円札の束があった。
「150万。学校に納める分。
後は銀行に東京で生活する分を残してあるの」
敦史が頑張ってバイトして貯めたお金だった。
「凄いね」
ずっと見てきたから、
敦史のことを心から尊敬した。
>> 343
部屋は最上階で、窓からはテーマパークと海が臨めた。
「キレイ」
夜景がとてもきれいで、ずっと眺めていられそうだった。
「風呂、お湯溜めるな」
敦史はそう言って、バスルームへ消えた。
「うん・・・」
私は、ソファーに座り込んだ。
「張り切りすぎたかな――
凄い、足パンパン・・・」
一日中歩き回って、日ごろの運動不足もたたってか、
足が一回り太くなった感じだった。
「裸足になるといいよ」
脱衣所で手を拭きながら振り向きながら敦史が言い、
私は靴と靴下を脱いで、足を揉んだ。
「どれ、かしてみ」
やってきた敦史は、ソファーの前に座り、
私の足を持って、ふくらはぎを優しくマッサージしてくれた。
「気持ちいい・・・敦史、上手だね」
>> 344
敦史は上目遣いで微笑み、マッサージを続けた――
その手は、ひざを越え、ゆっくりと太腿の方へなぞられた。
一気に2人だけの密約の空気に変わった。
敦史はもう片方の足にキスをし、
そのまま上へ上へと唇を這わせた。
私はゾクゾクする快感に息を吐き、
敦史の動きに集中した。
私の足をなぞりながらスカートをたくし上げられ、
下着が露わになる。
敦史は足の付け根を指と舌でなぞった。
「・・・敦史」
私の声に、敦史が顔をあげた時、
バスルームから、お湯が溜まったことを知らせる
アラームが鳴った。
敦史は体を起こして、私と向かい合って見つめ合うと、
長く語るようなキスをした。
「風呂、一緒に入る?」
唇を離した敦史が聞く。
「今は、恥ずかしいから、先に入って」
敦史はフッと笑んだ。
「今は、な」
敦史は立ち上がり、
「次は、・・・な」
そう意味深に笑み、バスルームへと消えた。
>> 345
シャワーの音が聞こえてきた。
敦史とのこんなシチュエーション、何度も経験しているのに、
緊張してしまう・・・
敦史とのキス、肌を重ねること、
イヤラシイと感じていた事も、
もどかしい想いを伝える手段のように思えた。
きっと、私は・・・敦史しか知らない私は
ひどくHな女の子かもしれない。
だけど、私のすべてを受け入れてくれる敦史には、
すべてをさらけ出せた。
だから、ここにこうして居るのも自然なこと。
――だけど、余りにも緊張してしまい、
一人で待っていたら、逃げ出したくなった。
「ガチャ」
バスルームのドアが開いて、
下にバスタオルを巻いて出てきた敦史を見て、
ビクンと反応してしまった。
「イヒヒ!」
敦史は声を出して笑った。
>> 347
シャワーを浴び、湯船にゆっくりと浸かった。
側にあった入浴剤を開けて入れると、お湯がピンク色になり
花びらが浮かび上がった。
「わぁー」
私は思わず感嘆の声をあげた。
「どうした?」
敦史の声が隣の脱衣所から聞こえ、
ドキッとした。
「入浴剤いれたら、ピンク色になってバラの花びらが浮かんだの」
「俺も見たーい」
「えー」
私は湯船に顔が浸かるまで、深く沈んだ。
と、浴室のドアが開いて笑顔の敦史が入ってきた。
「うわっ、まじエロ色」
私はピンクのお湯に隠れるように、更に沈みながら
敦史の顔を見上げた。
「フフ、丸見えなんですけど」
ピンクのお湯は透明だった・・・
「入っていい?」
微笑みながら聞いてきた敦史に
私はコクリと頷いた。
敦史は腰に巻いたバスタオルを外し、
湯船に入ってきた。
>> 349
そうしている内に、私の緊張した気持ちは消えていた。
「のぼせる前にそろそろ出ようか」
「うん」
敦史は、先に立って、バスルームと脱衣所の電気を消し、
洗面台のライトだけの照明だけにしてくれた。
「加世は暗い方がより一層大胆になるもんな」
そんな事を言って笑った敦史だったけど、
さっきから、私を気遣ってくれているのが分かって、
その優しさに又ときめいていた。
私は湯船を出て、脱衣所で待つ敦史の所へ行った。
敦史はタオルで私の体を拭き、ドライヤーで髪を乾かしてくれた。
いつかのラブホテルのことを思い出す・・・。
あの時は恥ずかしくてたまらなかった。
今は、恥ずかしさよりも、早く敦史と肌を重ねたいと思った。
私は敦史の方を向き、頬に手をあててキスをした。
敦史はドライヤーのスイッチを消し、
更に深いキスで答えた。
「やっぱり大胆になったな」
そうニヤリ言うと、裸の私を抱きかかえ
部屋へと向かった。
- << 351 部屋は間接照明の明かりだけになっていた。 ベットにソッと私を置き、 敦史はさっきの続きのような深いキスをした。 唇を離しキラキラと輝く敦史の瞳に 見惚れて、手をかざした。 「キレイな瞳・・・ 目は心を映す鏡だって言うよ」 「じゃあ、目だけ別物だ」 「そんなことないよ。敦史の心はキレイだよ」 敦史は、微苦笑した。 「今、心で凄いこと考えてるのに?」 私はその意味するところを感じ取りながらも 敦史から目を離さなかった。 私の心は、それを求めていた。 敦史は見透かしたように、イタズラに微笑むと 私の手を取って、指先を口にふくみ、 それが始まりのように、体の隅々まで調べ上げていった。
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