コイアイのテーマ
誰にでも、たった一人、
忘れられない人が居るハズ…
私にとって、彼は、
かけがえのない
大切な人。
淡くて、霞んでしまいそうな日々は、
キラキラ輝いた思い出の日々でもあったー
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>> 400
私は名刺を手にしたまま、車を降りた。
「ありがとうございました」
陽介さんが首を傾げて、私を見た。
「最後にちょっとだけ俺の本音吐かせてよ」
私は運転席の方へ回った。
陽介さんは、窓を全開にして腕を乗せ顔を出した。
「いっぱい遊んで、もっと色んな男見な。
せっかくフリーになったんだから」
「・・・・・」
「加世子ちゃんに合う男、他にも絶対居るから」
「・・・・・」
「今はまだキツイかもしれないけど、
時が解決してくれる、ってアレ、本当だから」
「・・・・・」
「――って、言うことありすぎ?」
照れたように笑った陽介さんに、
私もつられて笑っていた。
少しでも、笑う事が出来たのが嬉しかった。
すると陽介さんは、微笑みを消し、
真剣な眼差しで私を見た。
>> 403
翌日私は、自分の意思というより、心の奥の声に従うように、
敦史の地元に向かった。
敦史のアパートの前まで来たけど、
敦史のお母さんに会ったらどうしようかと、
近づくのを躊躇していた。
その時、隣の部屋のドアが開き、
中年の女の人がゴミを持って出てきて、私に気づいた。
私が思わず頭を下げると、
その女の人はゴミを捨てて戻ってきたところで
私に体を向けた。
「敦史君ねぇ、昨日の夜遅くに、荷物運び出してったわよ」
「そう・・・ですか」
女の人はそのまま部屋へ入っていった。
私は敦史の部屋のドアノブに手を掛けた。
すると、ドアに鍵は掛かってなくて、ゆっくりと開いた。
中に人の気配は無かった。
台所やお母さんの部屋はそのままだったけど、
開けられた戸の向こう――敦史の部屋に荷物が無いのが分かった。
私はその光景を、ただぼんやり見つめていた・・・・・。
>> 405
昨日敦史はここら辺に投げたんだ。
線路脇には細い溝があり、その横は雑草が生茂った小さな空き地だった。
高い鉄柵を越えなければ線路には入らない。
だから、溝に落ちたか、この空き地の中にあるはず・・・
私は必死になって探した。
敦史との思い出を――敦史との繋がりを失いたくなくて・・・
途中、ポツリ、ポツリと雨が降ってきた。
私は気にする事なく探し続けた。
「何やってるの!」
振り向くと、傘をさした老女が立っていた。
「探し物なんです」
「なにをぉ?」
「ストラップ・・・携帯電話に付ける、キーホルダーみたいなものを」
「キーホルダー?」
「みたいな、はい」
その老女は困った顔をした。
「ここ、私の土地なのよぉ」
「す、すみません」
「雨降ってるし、また今度にしたら?」
「・・・はい」
私は何も言えず、空き地から出た。
老女は傘を私の頭にもさしてくれた。
「キーホルダー、見つけたらとって置くわ」
「ありがとうございます・・・
明日も来て、探していいですか?」
私の問いに、老女は困った顔ながらも、
仕方ないというように、うんうん、と頷いた。
>> 407
ゴミの中の枯れ木の枝に、見覚えのある形――
私は、用水路の中を濡れることなど気にせずに渡った。
そして、絡まったソレをほどいて、手に乗せた。
「あぁ・・・」
涙がこみ上げてきた。
間違いなく、探していたストラップの一つ。
シルバーのチャームは黒くくすんで、濡れていたけど、
敦史が持っていたストラップだった。
「あらぁ、ねぇ!危ないわぁ、やめてやめてー!」
上を見上げると老女が下を覗き込んでいた。
私はストラップを持って、上へと上がった。
「なんて格好!ほんとに・・・」
老女の声に私は泣き笑いしながら、
ストラップを見せた。
「これ、見つかったんです」
「あら、良かったぁ」
「あと、もう一つ」
「もう一つ?!」
「はい。明日、また探します」
>> 408
老女も泣きそうな、困った顔をして、笑った。
「はあぁ、そんなに、大切なもんなのぉ?」
「はい」
老女は呆れながらフフフと笑って私を見た。
「手袋とか、長靴とか、用意してきてねぇ」
それから私は、老女の了解のもと、毎日来て探したけれど、
もう一つはなかなか見つからなかった。
そして、明日から駐車場にする工事が始まる最後の日。
関東全域を春の嵐が襲うという予報通り、
日中でも、暗く重い雲が空を覆っていた。
どぶ水をさらい、ごみの中まで探したけど、
やはり、ストラップは見つからなかった。
雨が降ってきて、寂しそうな顔の老女が上から顔を見せた。
「加世子ちゃん、もう、終わりにしな」
私は、その言葉に従うしかなかった。
そして、上へ上がろうと、階段の手すりに手を掛けたとき――
>> 409
ポケットに入れてあった携帯が鳴った。
『種元美咲』
美咲からの着信――出ようとしたら、切れた。
開くと、美咲からの着信2件と、留守録も入っていた。
私は、留守録を聞こうと、携帯を持つ角度を変えた――その瞬間、
「あっ!」
携帯電話が私の手からすべり落ち、
用水路の水の中へと落ちた――
急いで救い拾ったけど、携帯の電源は入らず、
画面は暗いままだった・・・。
『ピー。
加世!陽ちゃんが・・・、陽ちゃんが結婚するって!
――結婚しちゃうって!!あぁ・・・・陽ちゃんが・・・ピー』
この留守電を聞けていたなら――
美咲にすぐに連絡していたなら、きっと何かが違ったはず・・・・・。
上空の暗雲は、美咲の居る東京の空も覆い、
その時、春の嵐をもたらしていた――。
>> 410
帰宅してから、自宅の電話から美咲の自宅に電話をし、
美咲のお母さんに事情を話して、美咲の携帯番号を教えてもらった。
自宅の電話から美咲の携帯に電話をしたが、電源を切っているのか
繋がらなかった。
翌日も何回か電話をかけたが、やはり繋がらなかった。
『用があるなら、きっとまたかけてくるだろう』
私はそう考えることにして、
新しい携帯に、敦史がつけていたストラップを付け、
美咲の携帯番号を登録した。
そして、季節は4月――
私は地元の大学に通う大学生になった。
新しい環境、新しいキャンパス、新しい顔ぶれ――
再スタートを切るには最適な場所だったけど、
やはり、私の心は会えない敦史を引きずったままだった。
入学式を終え、キャンパス内を歩いている時だった――
「あれぇ――?」
>> 411
向かいから、私の顔を覗き込むようにやってきた女の子・・・
「ああ」
私はびっくりした。
その女の子は、満面の笑みで私を見ていた。
「やっぱりぃ!敦史の彼女だぁ」
女の子らしい巻き髪に、色白でぱっちりの目をした
その女の子――アオイさんだった。
「どうして?」
「私?ここの学生だもん」
私は思わず絶句した。
「私ね、遺伝かもしれないけど、結構頭いいんだよ」
アオイさんはあっけらかんと言って笑うと、
あらたまった様に前で手を組んで頭を下げた。
「水沢アオイです」
「ま、真中、加世子です」
「そっか、敦史もカヨって呼んでたもんね、可愛い名前だね」
「・・・アオイちゃんこそ」
「そう?やっぱり?よく言われるんだぁ」
私はすっかりアオイさん・・・
アオイちゃんのペースに乗せられていた。
「私が付き合ってた子たち、おバカな子ばっかでねー、
誰もこの大学に来てないの~、寂しくて・・・。
だから、カヨちゃん、仲良くしよーう!」
このペースに乗せられたまま、
大学生活を送ることになるとは、思ってもみなかった。
>> 412
アオイちゃんとは学部も同じで、
一緒に行動することが増えていった。
アオイちゃんのご両親はお医者様で、アオイちゃんは一人っ子、
敦史の元彼女同士・・・私たちはあらゆる共通点があった。
「敦史ってインテリ女が好きだったのねぇ」
アオイちゃんは悪びれることなく言うのが得意だ。
最初に話しておくと、アオイちゃんは、
決して悪い子ではない。
ただ、かなり独特な性格をしている、と思う。
一言で言えば・・・いや、言えないけれど、
とにかく、あっけらかんとしていて、何も考えてない?能天気?
あと、かなり打たれ強い性格だと思う。
でも、言うことに悪気はなく、純粋とも思えた。
私は嫌いじゃなかった。何度、この性格に救われただろう・・・。
「敦史に襲われたの~?」
>> 414
佐藤君は髪が少し伸び、何だか男らしい顔つきになった気がした。
「同じ大学だけど、なかなか会えないな」
「そうだね」
理系の佐藤君とは利用する校舎も違った。
「サークル、どこかに決めた?」
「ううん、まだ検討中。佐藤くんは?」
「俺も検討中なんだけどさ・・・
真中、天文サークルとかってどう?」
「天文かぁ、星見たりするの、いいね」
「そっか。じゃ、候補に入れといて」
「うん」
そう話して、佐藤君は、私の隣のアオイちゃんに気づいた。
「どうもー」
アオイちゃんは首を傾げてにっこりと微笑んだ。
佐藤君も頭を下げ、
「じゃあまたな」
と笑んで、去っていった。
私が見送っていると、
「彼、カヨちゃんに気持ちありありだね」
「え?!」
>> 415
「暗に天文サークルへ誘ってきたしねぇ」
「佐藤君も検討中だって言ってたじゃない」
「ソコ信じるとこじゃないでしょーう。
何より、私みたいな可愛い子が一緒に居るのに、
一瞥するだけなんて、ありえないもーん」
「ハハハ・・・」
自分の可愛さを十分理解している
――これもアオイちゃんの乗りだ。
「何だか敦史とは真逆だけど、
カヨちゃんにはお似合いってカンジー」
そうだね・・・
敦史と佐藤君は全く違う。
その時、敦史の姿が頭に浮かんだ――
私は切ない気持ちで携帯のストラップに目線を落とした。
「カヨちゃーん!戻ってきてー」
アオイちゃんの声に顔を上げた。
アオイちゃんは、ニコニコッと頬杖をつきながら、
「今度、合コンあるんだけど、一緒に行こうね」
と、可愛らしくウインクをした。
>> 416
アオイちゃんと一緒に居ると、話題に敦史がよく出てきて、
忘れることなんて出来なかったけど、
天真爛漫に話すアオイちゃんのお陰で、
敦史の事を重く引きずる事なく済んでいた。
ある日、私は以前美咲から聞いた話しをアオイちゃんにしてみた。
「『バージンキラー』って?それ、本当だよ」
「え・・・。でも、アオイちゃん、敦史と付き合ってたんでしょ?」
「仕方ないじゃなーい、敦史モテモテだったんだもーん。
私も、敦史に言い寄ってった側だし、
彼女にしてもらえただけでも、優越感だったなー。
他の子とやらないでーなんて言ったら、彼女降格されちゃうでしょ」
「・・・・・」
めちゃくちゃだったという敦史の中学時代が垣間見えた気がした。
その背景には、敦史のお母さんとのことがあったんだ・・・。
勿論、そのことはアオイちゃんには話せない――。
>> 420
翌日、落ち込んだ気持ちを引きずり、大学へ行くと、
ファッション雑誌を見ていたアオイちゃんが、私に気づいて声を掛けてきた。
「ねぇ、このモデルの子って、加世ちゃんの地元出身なんでしょ?」
開いたページには、美咲が載っていた。
「うん。高校も同じだったよ」
「そうなんだぁ。可愛いけど、ガリガリだね。
――見る?」
アオイちゃんから受け取った雑誌を見ていたら、
美咲の声が聞きたくなって、
私は席を離れ、携帯から電話をかけた。
携帯をダメにした時、着信があったけど、
繋がらなくて、そのままにしてしまい、
ちょっぴり気になっていたんだ。
呼び出し音が鳴る――
『カチャ――もしもし・・・』
>> 421
「美咲?」
『・・・加世?』
「うん」
久しぶりに聞く美咲の声に、心が躍った。
「今、大丈夫?」
『仕事中だけど――ちょっとなら大丈夫』
美咲は場所を移動した様だった。
「3月に着信あったのに、連絡できなくてゴメン。
携帯、水に落としちゃって――何だった?」
『ああ・・・。ううん、大したことじゃなくて。
――加世、今大学通ってるの?』
「うん。美咲は、仕事頑張ってるみたいだね」
『うん、まぁね』
その後、少しの沈黙――
共有する話題が見つからなかった。
だからかもしれないけど、私は、
「私ね、敦史と別れて・・・」
『そう・・・』
「今、敦史、女の人と暮らしてるんだって」
誰かに聞いてほしかった胸の内を話していた。
>> 422
『・・・加世、忘れた方がいいんじゃない?』
「え・・・」
美咲にも言われ、何だか、力が抜けていく気がした。
『私も、陽ちゃんのこと忘れたもん』
「あ・・・。聞いた?結婚のこと」
『加世も知ってたんだ』
「偶然、陽介さんに会って、その時に・・・」
美咲はため息をついた。
『私も、もう他に居るの。
加世も一人だけ過去に生きていないで、前向いた方がいいんじゃない?』
「・・・・・」
その時、電話の向こうで美咲の名前を呼ぶ声がした。
『じゃあね、私仕事だから』
「うん」
電話は切れた。
敦史も美咲も、陽介さんも、
みんな新しい道を進んでいる・・・
私ひとり、過去を生きているんだ・・・
私はひどい脱力感におそわれていた。
>> 423
「かーよちゃん」
そんな私の元に、ニコニコとアオイちゃんがやってきた。
「今晩の合コン!医大生だよん、行こーう?」
アオイちゃんは頻繁に合コンに誘ってくるけど、
今まではずっと断っていた。
「・・・うん」
「え!ほんと?ヤッター、じゃあオシャレして行こうねー」
明るいアオイちゃんに、私は微苦笑しながらも、
救われた気分だった。
前に進みたいと思った。
その日の帰り、私は天文サークルへ入会の手続きに向かった。
部屋には、佐藤君が居て、私を見ると、ちょっと驚いた顔をしたけど、
すぐに、クッシャと目をなくす彼らしい笑顔に変わった。
入会後、佐藤君と一緒に部屋を出た。
「ちょっと諦めてかけてたんだ。真中、来ないから」
「ごめんね。色々あって・・・」
「真中・・・あの彼氏とは?」
「うん・・・別れたの」
「そっか・・・」
>> 424
その後、佐藤君は話を変えて、
相変わらずの話上手で、私を笑わせたり、驚かせたり、
佐藤君と話していると、飽きることがなく、
落ち込んでいることを忘れられた。
その晩、アオイちゃんと一緒に合コンへ向かう前に、
お化粧を直しにデパートのトイレに寄った。
入念にお化粧をするアオイちゃんの隣で、私は
「忘れろ」とばかり言われると愚痴ではないけど話していた。
「人に忘れろーって言われて、忘れられるもんじゃないよねー」
鏡に向かって、たっぷりとマスカラを塗るアオイちゃんを、
私はボンヤリと見つめた。
「無理して忘れることないんじゃない?」
鏡越しに、いつもの様にあっけらかんと言ったアオイちゃんの言葉に、
私の目から涙がこぼれ落ちた。
「カヨちゃーん、泣かない泣かない!
せっかくのお化粧が台無しー」
私はティッシュで叩くように涙を拭った。
みんなが「忘れろ」という。
でも私は、忘れられないでいた。
『無理に忘れなくていい――』
その一言を、私は欲しかったんだ・・・。
>> 426
合コンに参加して、色んな出会いを経験したけど、
「この人」と思える相手には出会えなかった。
何度かアオイちゃんは、合コン途中で意気投合した男の子と消えてたけど、
「イマイチだったー」
と翌日話すのが常だった。
「敦史みたいにHの上手な人居ないかなぁー」
「アオイちゃん!?」
TPO考えずに話すアオイちゃんには、こっちがハラハラしてしまう・・・。
「敦史を知ってる私たちって、嫌でもハードル高くしちゃうよねぇ。
あーあ、敦史の外見とHテク+優しくて、お金持ち!って人居ないかなぁ」
「・・・・・」
アオイちゃんの敦史ネタの殆どは、Hの事ばかり・・・。
アオイちゃんが過去に経験した人の中では敦史が一番だったと言う。
でも、それを、私に話す?!普通聞きたくないでしょ?
「だって私たち、敦史に処女を捧げた者同士、姉妹みたいなものでしょ?
隠す必要ないじゃなーい」
――私の抵抗なんて、アオイちゃんには蹴散らされてしまうだけだった。
>> 427
夏休み、天文サークルの合宿に参加することになった。
合宿は天文観測に適した山奥で、日中はキャンプみたいにみんなでワイワイ過ごし、
夜は、望遠鏡で夜空の星たちを眺めるといったものだった。
サークルの仲間たちは、みんないい人ばかりで、
いつも楽しく過ごしていた。
でも気づくと、私の隣には佐藤君が居て、
その場の雰囲気を楽しいものにしてくれてるのも、彼だった。
その夜、私は佐藤君と二人で天文観測をした。
「ほら、あの雲のようなのが天の川」
「わぁ、初めて見た」
本当に夜空を横切る美しい川の様だった。
望遠鏡で見ると、それは、無数の星の集まりだった。
「天の川を挟んで、ベガとアルタイル――織姫と彦星だよ」
「本当に離れてるんだね・・・」
その二つの星は、天の川によって隔てられていた。
>> 428
「織姫と彦星は夫婦だって知ってた?」
「知らなかった」
ずっと、恋人同士の話かと思っていた。
「二人は出会う前、機織と牛飼いの仕事をまじめにやっていて、
引き合わされた途端、相手に夢中になり過ぎて、
それぞれの仕事を全くしなくなってしまったんだ。
そのせいで、離れ離れにされてしまって、
年に一度、七夕の日にだけ会うことが許されたんだって」
「へぇ・・・」
夫婦という絆があるからか、
離れていてもお互いを想い合っている、
その二つの星を、私は少し、羨ましい気持ちで見上げていた。
「寒くない?」
「ちょっと、冷えてきたね」
佐藤君は自分が羽織っていたパーカーを脱いで、
Tシャツ一枚の私の肩にかけてくれた。
「ありがとう・・・。
佐藤君の彼女になった子は幸せだね」
今までずっと、佐藤君を見てきての本心だった。
佐藤君は私の顔を見て、また目線を外した。
>> 431
「俺、何かした?」
私は俯いて、首を横に振った。
「じゃあ、何で避けてんの?」
「ごめんね・・・」
「ごめんじゃ分からないよ。言ってくれたら、なおすし。
俺、真中に嫌われることしたかな、って考えてるんだけど分からなくて・・・」
私は佐藤君の為と言いながら、こんな変な状況を作って、
佐藤君を悩ませていることにショックを受けた。
そして、ありのままに話した。
「俺が勝手に想ってるの迷惑?
好きな気持ちなんて、そんな簡単に無くならないよ」
佐藤君に言われて、私はハッとした。
私も敦史に対して同じ気持ち、同じ立場にいるから・・・。
「彼女になってとか、強制する気はないよ。
ただ、今までと同じように、付き合っていければ、
それでいいんだ」
佐藤君はそう言って優しく微笑んだ。
私も頷いて笑った。
>> 434
「応援させてもらってもいいかな」
私の言葉に、顔を上げた由実ちゃんの目からは涙がこぼれた。
知れば知るほど、由実ちゃんは純粋でとてもいい子だった。
だから、佐藤君と由実ちゃんがうまくいけばいいなぁと、
陰ながら心から思っていた。
ある日の帰り、正門前で、佐藤君が私を呼んだ。
「あのさ、俺、由実ちゃんと付き合うことにしたよ」
「ほんと?おめでとう」
「ああ・・・」
佐藤君は少し考えてから、私を見た。
「俺、今でも真中が好きだよ」
「――」
「でも、由実ちゃんと付き合って、彼女のいい所
いっぱい見つけてったら、真中への気持ちも、
自然と思い出になっていくんじゃないかって、そう思ってる」
「――うん」
「だから真中も、前に進んでみろよ」
「・・・・・」
「俺、応援してるから」
佐藤君はそう言って、いつものように
優しく微笑んだ。
>> 436
「陽介さん!」
車を邪魔にならない所へ寄せている陽介さんの元へ
行こうとした私の腕を、アオイちゃんががっちりと掴んだ。
「すごーい、いい男~!久しぶりにゾクゾクしちゃったんだけどー」
「陽介さんは既婚者だよ」
「えー、じゃあ不倫になっちゃうのかぁ」
「アオイちゃん?!付き合う前提で話さないで」
そうしている内に、スーツ姿の陽介さんが車から降りてきた。
「久しぶり、元気だった?」
「はい。陽介さんも元気そうで」
その時、アオイちゃんが、私の服をツンツンと引っ張った。
「あ、彼女は友達の――」
「水沢アオイです。よろしくぅ」
アオイちゃんはとっても可愛らしく名乗った。
「鳴海です」
陽介さんは、余裕の表情で答えると、
「今日夕飯一緒に食べない?
良かったら、アオイちゃんも」
「ハイ!是非」
いの一番に返事したのはアオイちゃんだった。
>> 438
お酒も飲める開店したばかりのお店に私とアオイちゃんを降ろすと、
陽介さんは、一旦会社へ戻ってくると言って去っていった。
「カヨちゃーん、私陽介さんタイプー」
アオイちゃんは甘えるように私の肩に寄りかかった。
「結婚してるって言ったでしょ?」
「ソレはソレ、コレはコレでさ」
アオイちゃんに常識は通じないのは分かっていたけど、
本気で、陽介さんを口説きにかかりそうな勢いのアオイちゃんを見て、
私は何だか落ち着かない気持ちになった。
「先に確認しておくけど、カヨちゃんは、
彼と、どういう関係なのぉ?」
「何の関係もないよ。
以前は友達の彼だったの」
そうだった。陽介さんは、美咲と付き合っていたんだ。
前に美咲は陽介さんを忘れたと言っていたけど、
高校時代、あんなに好きだった陽介さんを、
キレイさっぱり忘れることができたのだろうか?
私はまだ、敦史を引きずっているというのに・・・。
その時、陽介さんがお店に現れた。
>> 439
「お待たせ。歓迎会、明日にしてもらって抜けてきた」
陽介さんは爽やかに笑うと、三角形のテーブルの一辺に座った。
「早いけど、始めちゃおうか。好きなの頼んでいいよ」
「飲んでいいですかぁ?」
アオイちゃんが、甘えるように聞くと、
陽介さんは、ハッとした顔で私を見た。
「そうか、もう飲める年になったんだ」
「21でーす。カヨちゃんはまだハタチだけどね」
「へぇ、大人になったんだね」
陽介さんは、微笑んだ。
「陽介さんはおいくつなんですかぁ?」
「今年29」
「へぇ、大人の男性ってカンジで、素敵」
「もう親父だよ」
何だか二人のノリに乗れなくて、
私は黙って、メニューを眺めた。
すると、陽介さんは私の持っていたメニュー表を
取りあげて閉じた。
「飲めるようになった加世子ちゃんに、
飲んでほしいのがあるんだ」
そう言うと、店員を呼び、
飲み物や食べ物を注文した。
>> 442
その後、陽介さんの車で、アオイちゃんを自宅まで送った。
私は泥酔しているアオイちゃんを、抱きかかえながら、お母さんに引き渡した。
「ごめんなさいねぇ、
もぉ、アオイちゃんったらぁ――本当にごめんなさいねぇ」
何度も謝られて、逆に恐縮しながら、私は陽介さんの車に戻った。
「まだ9時だし、二人で飲みなおそうか」
「はい」
私も、陽介さんと話したい気分だった。
車で移動する途中、敦史がバイトしていたピザ屋や
ストラップを探した場所が駐車場になっているのを横目に見ながら、
何とも言えない寂寥感に包まれた。
駅から然程離れていない、
ビルの階上のバーに入った。
私はバーが初めてで、何だか、その薄暗くオシャレな雰囲気に
ソワソワとしてしまった。
>> 445
「子どもがいたら、違ってたかもしれないけどね・・・」
「・・・・・」
私は何も言えなかった。
少なくとも、陽介さんは傷ついていると感じたから。
「これでも傷心中なのにさ、別れてすぐに
元妻の地元に出向なんて、酷い話だろ?」
陽介さんは、笑いながら顔をしかめた。
私も、それに微笑んだ。
「それで?加世子ちゃんは、
あの後彼氏できたの?」
「いいえ」
「ダッメだなぁ!遊べって忠告したのに」
「フフフ、遊べはしなかったけど、
合コン行って、色んな出会いは経験しましたよ」
「で?いい男が居なかった?」
「うーん・・・こう、ビビッとくる出会いは無かったです」
「フフ、最初から元彼と比べちゃってるんだ」
「そんなこと・・・」
「あるよ。加世子ちゃんは、あまりにも幸せな思い出に逃げてるんだ」
少し微笑んだまま私を見て言った陽介さんを
私はただ、見つめ返した。
>> 446
「俺、一人で海外に行って思ったけどね、夫婦でも恋人でも、
想いあってるなら、側に居ないとダメだわ」
「――」
「どんなに愛していても、
離れていると、その想いは風化していっちゃうんだ。
生身の人間だから、心も体も手を伸ばした所で欲しくなる――
寂しいけど、それが普通でね」
「――」
「加世子ちゃんは止まったままでも、
向こうはどうかな?」
陽介さんの言葉が、やけに身に沁みた。
前に洋史君から聞いた、敦史が女の人のところに居るという事を、
夢のように捉えていた。
あんな別れ方をされておきながら、
私が敦史を想っている時、敦史も私を想ってくれていると、
今もまだ、そう信じていたんだ。
>> 447
その後、陽介さんとは色んな話をした――
と言っても、ほとんど私の話を聞いてもらっていたのだけど、
あの日、全てを聞いてもらった陽介さんには、
安心して、何でも話すことができた。
その日の帰り、いつものように、車で送ってもらった。
途中、美咲の家を通り過ぎたとき、
「美咲には会いましたか?」
と思わず聞いていた。
「イヤ、結婚するって話した日が最後かな。
その後、酔って電話をかけてきたりしたけど、それも最初の頃だけで――」
「そうですか・・・」
「きっと、俺よりいい男見つけたんだろうね。
仕事も頑張ってる様だしね」
陽介さんが、過去の事と割り切っているのが、
羨ましい半面、寂しくも思えた。
「なに?」
そんな私に気づいた陽介さんが、横目で見て聞いた。
>> 448
「深く付き合って、家族同然、自分の体の一部とまで感じた相手を、
別れたから、『ハイ他人です、関係ないです』って
切り捨ててしまうのが、寂しいなって・・・
あっ、陽介さんの事を言ってるんじゃなくて――一般的に・・・」
「俺も同感」
家の前の公園に着き
陽介さんは家と反対側の道に車を停め、
ハンドルに前かがみに凭れた。
「でも、別れって、悪いもんじゃないって思うよ」
「・・・・・」
「別れがあるから次の出会いがある――ってね」
顔だけを向け、陽介さんは微笑んだ。
そしてそのまま、ジッと私を見つめた。
「下心感じる?」
「フフ、いいえ」
「おおありだよ」
その瞬間、私はドキッとして、困ったような
照れたような気持ちで目線を落とした。
>> 449
「女らしくなってーー
目が離せなかったよ」
陽介さんはそんな私の頬に手を宛てがった。
キスされる?!ーーなんて咄嗟に思ってしまったけど、
陽介さんは私の頬っぺを軽くつまんだ。
「恋したくなった気持ち、ちゃんと活かせよ」
私は笑んだ。
「ーーはい」
「まぁ3ヶ月は、飯とか俺に付き合ってもらってー。
男見る目を肥やしていきますか」
「フフ、そうですね」
すると陽介さんは携帯を出し私にも出す様に促した。
「番号言うから掛けて」
私が発信し、陽介さんの携帯が鳴った。
「ハイ頂き~。
魔のコール始まるから、覚悟しといてね」
陽介ははにかんで笑った。
- << 451 翌日大学へ行くと、アオイちゃんが、覗き込む様に私の顔をジーっと見つめてきた。 「ナ、ナニ?」 「喪失後処女を卒業したかなぁ~と思って」 アオイちゃんが面白いことを言うので、私は笑った。 「何もないよ」 「カヨちゃんさぁ、鳴海さんと付き合えばいいのにー。 彼、カヨちゃんをお気に入りみたいだし、女慣れしてそうだから、絶対にHも上手でしょ?」 「アオイちゃん! 二言目にそれ言うの止めて!陽介さんに失礼でしょ」 「へぇ…やっぱり、カヨちゃんも彼がお気に入りなんだ」 「お気に入りだなんて… ただ陽介さんには、色々助けて貰って…感謝してるの」 本心からそう思っていた。
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高恥順次恥知らず飲酒運転していたことを勘違いなどと明らかに嘘を平気でつ…(自由なパンダさん1)
100レス 3324HIT 小説好きさん -
北進ゼミナール フィクション物語
勘違いじゃないだろ本当に飲酒運転してたんだから高恥まさに恥知らずの馬鹿(作家さん0)
21レス 303HIT 作家さん
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🌊鯨の唄🌊②4レス 143HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 150HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 154HIT 小説家さん
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今を生きる意味78レス 526HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 982HIT 匿名さん
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 143HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 150HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 154HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1410HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 526HIT 旅人さん
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この人はやめるべき?
文章に誤りがあったため訂正します。 アプリで知り合った人に初めてドタキャンをされすごくショックです…
22レス 610HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
女子校に通ってた人は恋愛下手?
高校生の頃女子校に通っていて恋愛はしませんでした。 異性とあまり喋る経験がないまま社会人になりまし…
14レス 382HIT 恋愛初心者さん (30代 女性 ) -
エールをください
17歳年上の男性(独身)を好きになりました。年齢やお互いの環境を気をしにしながらも周囲に内緒で付き合…
9レス 330HIT 匿名さん (20代 女性 ) -
余裕を持った行動はしないのでしょうか。
例えば、13時頃待ち合わせの場合。 電車で行くとして、12:40着と13:05着の便があるとします…
10レス 293HIT 教えてほしいさん -
ファミサポで預かってもらっていたのですが・・・。
2歳の娘がいます。 月2回の2時間〜4時間ほど、ファミサポを利用しています。用事がたくさんある時や…
6レス 250HIT 子育てパンダさん (30代 女性 ) -
食後。お茶でブクブクうがい、その後ごっくん!何が悪い
食後。 お茶で、 お口ブクブク、 その後、ごっくん! 何が悪い? 何が汚い? それを指…
10レス 219HIT おしゃべり好きさん - もっと見る