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レス481 HIT数 49744 あ+ あ-

Saku( SWdxnb )
10/05/18 22:44(更新日時)

誰にでも、たった一人、
忘れられない人が居るハズ…


私にとって、彼は、
かけがえのない
大切な人。


淡くて、霞んでしまいそうな日々は、
キラキラ輝いた思い出の日々でもあったー

No.1259632 10/02/28 00:51(スレ作成日時)

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No.351 10/04/29 13:24
Saku ( SWdxnb )

>> 350 部屋は間接照明の明かりだけになっていた。

ベットにソッと私を置き、
敦史はさっきの続きのような深いキスをした。

唇を離しキラキラと輝く敦史の瞳に
見惚れて、手をかざした。

「キレイな瞳・・・
目は心を映す鏡だって言うよ」

「じゃあ、目だけ別物だ」

「そんなことないよ。敦史の心はキレイだよ」

敦史は、微苦笑した。

「今、心で凄いこと考えてるのに?」

私はその意味するところを感じ取りながらも
敦史から目を離さなかった。
私の心は、それを求めていた。


敦史は見透かしたように、イタズラに微笑むと
私の手を取って、指先を口にふくみ、
それが始まりのように、体の隅々まで調べ上げていった。

No.352 10/04/29 16:01
Saku ( SWdxnb )

>> 351 ベットの上で、敦史の腕の中で、
小さく丸まったり、体を反らせ、くねらせ――
私は気持ちよく泳ぐ魚のようだった。

「敦史・・・もう・・・」

敦史は下から体を起こし、
サイドテーブルのゴムを取ると
私の顔と向かい合った。

「いいの?」

敦史の手はゆっくりと動きを止めない。
小さな快感の波が続く中、小さく頷いた。

「でも・・・」

「でも?」

「少し怖い・・・
何か変わるのかな?」


敦史は優しく見守るように私を見つめた。


「コイがアイに変わるんだ」


「――」


「お互い、もっと深く、もっと好きになる」


私は敦史の確信に満ちた眼差しに、心も体もゆだねた。

No.353 10/04/30 12:56
Saku ( SWdxnb )

>> 352 指の代わりに敦史のものがゆっくりと入る。

「加世、力抜いて」
「俺のこと見て」

敦史の言葉に導かれ、私は敦史を見つめた。

「加世、凄くキレイだよ」

敦史は私を見つめたまま、知り尽くした感じる場所に辿りつき、ゆっくり動いた。

痛かったーーでも感じた事のない快感に、私は声をあげ気を失ってしまいそうだった。


「俺も…モウ…」


しばらくして敦史の動きが早まり、そして私の上に重なったーー。

No.354 10/04/30 13:01
Saku ( SWdxnb )

>> 353 私の目は涙で潤んだ。

「大丈夫…
痛かった?」

「嬉しいの…
敦史と一つになれて」


敦史は愛おしむ様な目で私を見つめ、髪や肩をなで、長く愛情の伝わるキスを交わした。


「愛してる」

「私も、愛してる」


このまま離れたくない。
このままずっと一緒にいたいーー

私だけじゃなく、敦史もそう考えているのが分かる程、私たちはお互いをの肌を求めた。

テーマパークのチケットもあったけど、私たちはチェックアウトぎりぎりまで何度も体を重ね抱き合った。


帰りの電車に乗ってからも、二人きりになりたくて、乗り換えの駅で降り、近くのホテルに入り肌を重なっ合った。

No.355 10/04/30 20:09
Saku ( SWdxnb )

>> 354 もう帰るだけの夜の電車で、敦史は手を繋ぎ私に寄り掛かった。

「帰ったら、学校に入学金払うの、加世付き合ってよ」

「うん…」

敦史は微笑むと、目を閉じ、しばらくして寝息をたてはじめた。
私は心地良い疲れを感じながら、車窓に映る私たちをぼんやりと眺めた。

『コイがアイに変わるんだ』

敦史の言葉が頭に浮かんだ。

『もっと深くもっと好きになるよ』

好き過ぎて、敦史になってしまいたいとさえ思った。

私は目を閉じ、敦史と頭を寄せ合ったーー。



この時、私は心から幸せに満たされ、この先も敦史とずっと繋がっていられると信じていた。

嵐の前の静けさを、平和なまでに過ごしていたんだ……。

No.356 10/04/30 22:01
Saku ( SWdxnb )

>> 355 合格が決まった3年生は、ほぼ自由登校みたいなもので、
翌日、入学金を納めるため、敦史は学校を休むと言い、
私は午後から登校することにした。

待ち合わせは、敦史の地元の駅。
電車に乗り、早く着きすぎてしまった私は、
途中で会えるかと思いながら、敦史の家までの道を歩いていった。


昨日までの2日間ずっと一緒に居て、殆ど密着していたせいか、
別れてから、半日も経っていないのに、
体の一部を探すように、敦史を求めていた。


会ったら最初何て言おう・・・
おはよう、かな?・・・

そんな平和なことを考えている内に、
敦史のアパートの前まで来てしまった。

どこかで、見過ごしちゃったかな?

少し心配になり、背後を見渡したその時――


 ―ガチャンッ!ガッシャーンッ!!―

No.357 10/04/30 22:29
Saku ( SWdxnb )

>> 356 確かに敦史のアパートから聞こえた。

 ―ガッシャーン!!―

アパートの他の部屋から、人が出てきて、
敦史の家の方を見ている――
私は駆け出して、敦史の家のインターフォンを押した。
激しい物音が中から続く――
ドアノブに手を掛けると、ドアが開いた。

中は、
家具が倒され、
物という物が飛び散っていた。

お母さんの部屋で、
敦史がいたるものを投げつけ、
部屋の中央で敦史のお母さんが、
頭を抱えるようにして、小さく丸まっていた。

「敦史!!」

私は部屋に入り、敦史の体に抱きついた。

「ああー!」

興奮している敦史は私を振り払い、
目の前の鏡台を押し倒した。

No.358 10/05/01 08:58
Saku ( SWdxnb )

>> 357 私は敦史を制止させるためにまた腰に抱き着いた。

「敦史、止めて!どうしたの?!敦史!」


「返せよ!俺の金返せ!」

お金…?

「返すって約束したもの!だからもう少し待って…」

お母さんは丸まったまま小刻みに震えていた。


「騙されたんだろうが!その男に棄てられたんだろうが!」


私はハッとして、隣の部屋を見にいった。
開かれた机の引き出しに、敦史のお金はなかった。


ードサッー


その物音に、急いで隣の部屋に戻ると、敦史がお母さんを壁に押し付け、首元を締め上げていた。


「返せよ、今すぐ返せーー殺すぞ


低くどすのきいた声だった。

No.359 10/05/01 09:56
Saku ( SWdxnb )

>> 358 「やめて!」

私が敦史の元に駆け付けるのと同時に、

「ニィ!」

玄関から洋史君が現れて、敦史とお母さんを引き離した。

お母さんは床に倒れ伏し激しく咳込んだ。

「何やってんだよ!
隣のおばちゃんが慌てて知らせてくれたよ。
他の奴が察に電話して、今から来るってよ」

敦史は止まったまま冷静な顔をしていた。

「洋史、加世連れてって」


「分かった」


「私は、敦史と一緒に居る」

「帰れ」

「でも!」

「ウチの問題だよ」

「加世さん行きましょう、早く」

私は洋史君に引っ張られ、敦史の家を出た。

No.360 10/05/01 12:08
Saku ( SWdxnb )

>> 359 外に出ると、入れ違いにパトカーが来て止まった。

数人のやじ馬の中を、洋史君は足早に私の手を引いて、その場から離れた。
私が後ろ髪引かれる思いで振り向くと、2名の警官が敦史の家に入っていく所だった。


「何で、何があったんだよ…」

家から離れ、歩きながら洋史君は悔しそうに吐き出した。

「敦史の学校に払うお金がなくなってて…」

「マジで?!何なんだよあの女は!」

地面を足で強く踏み、吐き捨てる様に言った。

敦史も洋史君も、
実のお母さんを心底嫌う姿が切なかった。

No.361 10/05/01 12:27
Saku ( SWdxnb )

>> 360 洋史君は駅まで送ってくれた。

すると、洋史君の携帯に着信があり、彼は頷きながら話した。
そして電話を切ると私を見た。

「呼び出しです。身元引受人、俺しかいないから」

洋史君は寂しそうに微苦笑した。

「ちゃんと後で連絡します」

「お願い」

今の私には、それが頼みの綱だった。

「じゃあ」

洋史君は小さく頭を下げて、来た道を戻って行った。

私は洋史君が見えなくなると、ぼんやりしたまま、電車に乗り、学校へは行かずに家路についた。

No.362 10/05/01 16:49
Saku ( SWdxnb )

>> 361 その晩、部屋に閉じこもっていた私に洋史君から着信があった。

洋史君が話すには、
敦史の150万円を、お母さんが交際相手の男性に渡したが、渡した直後から男性と連絡がつかないと言う。

警察は初め家庭内暴力で話しを聞いたが、詐欺に切り替えて、遅くまでお母さんから事情を聞いたらしい。


「敦史は?」


「ニィ…兄貴は、落ちついたら加世さんに連絡するって言ってました」

「今どこに居るの?」

「…分かりません」

「お願い、教えて!」

「俺も本当に知らないんです。昼過ぎに家帰って、それから行方知れずで…」


私は洋史君の電話を切り、敦史に電話をかけたーー

と、すぐに留守番電話に繋がってしまった。


『今どこに居るの?
カヨ』

送ったメールはそのまま返ってきてしまった…

No.363 10/05/01 20:28
Saku ( SWdxnb )

>> 362 昨日までずっと一緒に居て、手を伸ばせば
敦史に触れることが出来たのに・・・
今日は、敦史の声さえ聞くことができなくなるなんて――

繋がらない電話とメールを頻繁に繰り返しながら、
心も体も、削がれたピースを探すように、敦史を求めていた。


私は高校が終わってから、電車に乗り、敦史のアパートへ行った。
インターフォンを押し、ドアノブに手を掛けると、ドアが開いた。

敦史が居るわけないのに、緊張しながら、ドアを開ける。
――中は、人の気配はなく、あの日荒らされたままの状態だった。

でも、いつ敦史が帰ってくるかもしれない――
私は靴を脱ぎ、中へ入ると、散らかった部屋の片づけを始めた。

No.364 10/05/01 21:10
Saku ( SWdxnb )

>> 363 翌日も、学校が終わってから敦史の家へ片付けに行った。

その次の日も、片付けをしていると、夕方5時過ぎに
敦史のお母さんが現れた。

「あら・・・」

「あ、こんにちは。済みません、勝手にあがってしまって・・・」

「片付けてくれてるの?」

「・・・」

敦史のお母さんは、自分の部屋へ向かって、
まだ散らばっている部屋の中から、服を数着手に取って袋に入れた。

「ここじゃ眠れないじゃない?
だからずっと、お店に泊まらせてもらってたの。
今日は着替えを取りにきただけだから」


「あの・・・敦史から連絡は?」

「アナタにないの?」

「はい・・・」

「そーう。フフ、
それなら、私にもないわね」

お母さんはあっけらかんとし過ぎているように見えた。

「これからお店なの。お好きなだけ居てね」

お母さんは、靴も数足袋に入れて、出て行った。

取り残された私は、奇妙な違和感を感じながら、
自分で決めた午後7時まで、片づけを続けた。

No.365 10/05/01 21:26
Saku ( SWdxnb )

>> 364 次の日も、また次の日も、
私は敦史の家へ行き、片付けを続けた。

片付けている途中、一冊のアルバムが出てきた。
中を開くと、敦史の子どもの頃からの写真が綴じられていた。
そこでも、違和感を感じた――洋史君の写真が殆どない。
洋史君が写っているのは、敦史と一緒の写真だけだった。

以前の敦史の言葉を思い出す――「母親に邪険に扱われてる」
もし、洋史君がそうなら、このアルバムを見る限り、
敦史はとても愛されている。

きっとお母さんが撮ったであろう、その写真は、
どれも皆、笑顔と愛に溢れた写真ばかりだった。

ページをめくる度に大きくなっていく敦史の写真を見ながら、
たまらなく敦史が恋しくなった。

小学校高学年、中学生・・・
枚数は少なくなっていくが、私の知っている敦史に近づいていく――

でも何だか、写真の雰囲気が変わってきた。
そう、写真の敦史には笑顔が無くなっていた――

No.366 10/05/01 22:20
Saku ( SWdxnb )

>> 365 無表情で斜めにこちらを見ている写真の中の敦史を見ながら、
始業式の日、初めて会った時の敦史を思い出した。

雨の音が聞こえてきて窓を見上げたーー。
真っ暗だけど、もう夜なのだろうか…。

敦史が消えて、今日で5、6日か…。
敦史、いま何処に居るの…?

私は心も体も憔悴していた。


その時、玄関に鍵の差し込まれる音がして、ドアが開いたーー

私は、ゆっくりと立ち上がったーー


「…敦史」

No.367 10/05/01 22:36
Saku ( SWdxnb )

>> 366 そこに立っていたのは、紛れもなく
敦史だった。

私は喜び、敦史の元へ――

だけど、視界から、ゆっくりと敦史が消えていった。

「加世!」

敦史の声だった・・・。

「あつし・・・」

私の視界は、真っ暗な闇に包まれた――。


目を覚ました時、私は病院のベットの上にいた。

「よかったぁ」

寄り添っていた母親が、涙をながした。

「わたし・・・」

「倒れたのよ。睡眠不足と栄養失調ですって」

私の腕には点滴が刺されていた。
敦史が居なくなってから、食事は殆ど喉を通らず、眠れてもいなかった。

「ここには?」

「同級生が連れてきてくれたのよ。薄井くんって言ってたわ」

敦史、本当に帰ってきたんだね・・・。

「彼は?」

「もう帰ったわ。あなたの事、本当に心配していたの。
後で連絡してあげなさい」

涙が出そうになった。
たまらなく、敦史に会いたかった。

No.368 10/05/01 22:46
Saku ( SWdxnb )

>> 367 その日の晩に、私は自宅へ帰れた。
だけど、点滴と薬のせいか、ベットに横になってすぐに、
深い眠りに落ちてしまった。

翌朝早く、私は目覚めた。
私は、まだ静まり返った家のダイニングテーブルに
『外出してきます。加世子』
とメッセージを書き残し、家を出た。

2月の早朝は刺すような寒さで、私は偶然通りかかった
タクシーを止めて、敦史の家へ向かった。

敦史の家の前に着いた時はまだ6時前だった。

私はインターフォンではなく、ドアをノックした。

胸が静かに波打ち始めた時、
ドアが静かに開き、
そこに、敦史が立っていた。

No.369 10/05/01 23:08
Saku ( SWdxnb )

>> 368 「敦史・・・」

敦史は私を中に引き寄せ、ドアが閉まった瞬間に
きつく抱きしめた。

「体、冷たいじゃねーか!」

「――」

敦史は私を抱き上げ、ダイニングのイスに座らせると、
毛布を持ってきて包むようにし、
ストーブを私に向けたり、重ねる布団を運んできてくれた。

「敦史、側にいて」

何かをしようとしていた敦史は、戻ってきて
私の前に座り、私の冷えた手を両手で包んだ。

「大丈夫か?」

敦史の心配した眼差しに心が揺れた。

「どうして・・・
どうして、突然消えたりしたの?」

「・・・・・」

「私・・・」

涙が溢れ、言葉にならなかった。
敦史は私を無言で抱きしめ、
頬と頬が触れ合った私たちは、
どちらからとなく唇を合わせた。

No.370 10/05/01 23:47
Saku ( SWdxnb )

>> 369 敦史は、私にかけた毛布を投げ捨て、
キスをしたまま私の服を脱がせていった。
裸になった私を、抱き抱えると、
自分の部屋のベットへ運び、自分も服を脱いだ。

私たちはちょうど一週間前のようにお互いの体を求め合った。
私の冷たかった肌は、敦史の体温で暖められ、
あつい程に熱を帯びていった。
欠けていたピースが一つ、また一つと埋まっていく様に、
敦史は私の体の隅々まで愛撫し続けた。

ストーブの灯火と、荒い息づかいが続く部屋で、
何一つ言葉を発することなく、
私たちは一つになった――

敦史は、まだ繋がったまま
顔をあげ、私をみつめた。


「他の男と寝ないで――
俺ももう、しないから」


その真剣な眼差しに、私は頷くのではなく、
敦史の首に腕を回し、引き寄せてキスをした。
敦史も深く激しいキスで答えた。

No.371 10/05/02 14:40
Saku ( SWdxnb )

>> 370 しばらくして、敦史は下の服を着てキッチンに立ち、やかんでお湯を沸かしはじめた。

私は毛布を纏い、敦史の後ろに散らばった下着を身につけた。


「ごめんな…抱いたりして」


敦史は気遣ってか背中を向けたまま言った。
私は首を横に振った。


「…嬉しかった」


敦史は、私の服を拾って、私の背後に立った。


「痩せたな」


敦史はそう言って私の肩を撫でた。

No.372 10/05/02 15:20
Saku ( SWdxnb )

>> 371 私は肩に置かれた敦史の手を握ったーーもう離れたくない。放したくない。


「加世、俺働くよ」


「エ…」


「東京で雇ってもらえる所見つけてきた」

「専門学校は?!」

「料理人になるなら関係ない」

「でも…」

敦史は私に服をかけた。

「もう、金は戻ってこないし、あてにもしたくない。
この家に住んでた家賃を一括後払いしたって思うよ」


私は悲しくなった。
一年生の時から、目標を持って、バイトで時間を費やしてきた敦史を見てきたから…

こんなにたやすく敦史の夢が奪われてしまうなんて……


と、その時…

ーガチャー

No.373 10/05/02 19:35
Saku ( SWdxnb )

>> 372 ひどいお酒の臭いに包まれ、派手な毛皮姿の敦史のお母さんが現れた。

「あら、久しぶり」

一瞬にして敦史の顔と体が強張った。

私は慌てて服を身につけた。

キツイ香水の香りも漂わせ、ふらつきながら自分の部屋へ行くと、ベットに腰を掛けて、こちらを向いた。


「ねぇ、あっちゃん、足揉んでくれない?」

「よせ…」

それは、抵抗ではなく、警戒した答えだった。

「なーに?私が疲れた時は、いつも揉んでくれるじゃない」


敦史は全身を強張らせたまま、お母さんの前にひざまずき、ふくらはぎを揉みだした。
まるで、旅行の時、私にしてくれた様に…


「あ~気持ちいい」

お母さんはそう言うと、敦史の頭を撫でた。

「…やめろ」

敦史が小さく言う。
でも敦史のお母さんは、敦史を愛おしむ様に撫で続けた。

「やめろって言ってんだろ!」


手を振り払われたお母さんは異様な眼差しで私を見た。

No.374 10/05/02 19:43
Saku ( SWdxnb )

>> 373 「あんな女のどこがいいのよ!」

それはお母さんの台詞とは思えなかった……
敦史はうろたえ、今にも泣きだしそうな表情で振り向き、

「加世、いいから、出よう」

と細い声で言った。


「敦史、あなたの事を一番に愛しているのは私なのよ。ねぇ分かるでしょう?」


敦史はうなだれ首を振りながら私の方へ歩いてきた。


「早く…行こう…」


絞り出すようなその声は、何かを恐れ、見つかりたくない、逃げ出したいーーそんな声だった。


「加世さん、私ねぇーー」

No.375 10/05/02 20:32
Saku ( SWdxnb )

>> 374 お母さんは少し笑みを浮かべ、おぞましい一言を発したーー


「敦史の子をおろしたこともあるのよ」


その瞬間、敦史の生気が消え失せーーキラキラ輝いた瞳は光を無くした。



私は思考も足元もふらつき、何かに寄り掛かろうと手を滑らせ、床に座りこんでしまった。


敦史が駆け寄り手を差し出すーー

ービクンッー

私は反応してしまった……。

瞬きせずに見つめる敦史は、ゆっくりと手を引いた。

私はーー
敦史の手を掴めなかった私はーー
自ら立ち上がり……立ちくらみする様に又ふらつきーー意識を無くした。

No.376 10/05/03 10:39
Saku ( SWdxnb )

>> 375 私は自分のベットの上で目を覚ました。

外が明るい。時計に目をやると、2時だった。

夢?

――朦朧としていた頭が冴えていくのと同時に、
私の目からは涙があふれ出た。


目を閉じた瞬間に
敦史のお母さんの姿が浮かんだ――

『敦史の子をおろしたこともあるのよ』

私は身震いし、吐き気に襲われ、
枕に顔をつけ咳き込んだ――

そうしている内に、
敦史の姿が思い浮かんだ・・・
あの、気力を失くして立ち尽くす敦史を・・・。


「加世子」

部屋のドアがソッと開いて、
お母さんが入ってきた。

No.377 10/05/03 10:56
Saku ( SWdxnb )

>> 376 私は涙を隠すように、布団を被った。

「気分は?大丈夫?」

「うん」

「後で食べなさい」

そう言ってお母さんは、私の傍らにやってきて
おかゆと飲み物をサイドテーブルに置いた。


「この間の男の子――薄井くんが、タクシーで
連れてきてくれたの。彼、ずっと謝っていた。
もうあなたには会わないって言ってたわ」

私は布団を頭まで被った。
また涙が溢れてきた――。


「加世子は、彼のことが好きなの?」


「・・・うん」

私は布団の中から、涙声で頷いた。


「加世子が好きになった子なら、素敵ないい子ね」

私は布団の中で、声を出して泣いた。
お母さんは静かに部屋を出て行った。


『私、過去の敦史がどんなだろうと気にしないよ。
私が知ってる目の前に居る敦史が好きだから』

前に美咲に言った言葉が蘇った――。

心からそう思ったんだ。
それが、私の本心――

No.378 10/05/03 17:12
Saku ( SWdxnb )

>> 377 私は体を起こし、サイドテーブルに置かれた携帯を手にして、ドキドキしながら敦史に発信した。

『…電源が入っていないため繋がりませんーー』

メールを送っても、アドレス無しで返ってきてしまった。

私は携帯に付けた、敦史から貰ったストラップを見つめ、ギュっと握りしめた。



翌日から私は高校へ通った。
両親は心配したけど、
敦史が登校しているかもしれないーーそう思ったら、家に居るなんて出来なかった。

敦史のクラスまで行ったけど、やっぱり、敦史は学校に来ていなかった。

次の日も、又その次の日も、敦史は学校を休んだ。

そんな日が続いたある日、私の携帯に一本の着信があったーー

No.379 10/05/03 19:51
Saku ( SWdxnb )

>> 378 「加世さんですか?」

洋史君だった。

「ニィと連絡が取れないんですけど、何か知ってますか?」


洋史君は私が敦史と最後に会った日から連絡が取れていないと話した。


「洋史君、会って話せないかな?」


その時の私は、波立つ程の不安を抱え、少しでも敦史に繋がる道を探っていた。


仕事を終えた洋史君は、待ち合わせの駅にやってきた。


私たちは人気の少ない近くのベンチに座った。

No.380 10/05/03 20:15
Saku ( SWdxnb )

>> 379 「加世さん、痩せましたね」

隣に座った洋史君が、私の顔を見て言った。

私は苦笑するしか出来なかった。
敦史が最初に消えた日から半月、
体重は3キロ落ちた。

「最初――警察から帰ってから居なくなった時は、
携帯も留守電だったけど繋がって、兄貴から、
東京に居るって連絡があったんです。
でも、今は携帯を変えちまったのか、全く繋がらなくて――」

洋史君は、歯痒い感じに唇を噛んだ。

「あの女がニィの金を盗んで男に貢いだりしたから!
今まで俺たちはずっと、あの女には振り回されっぱなしなんだよ!!」

話しながら、洋史君は怒りから語尾を荒げたけど、
隣の私を見ると、謝るように小さく頷いた。

「あの女は男が居る間は殆ど、帰ってもこないし、平和で――
でも、男が切れて、酒飲みだすと最悪なんです・・・」

敦史もそんな事を言っていた気がする。
この間も、ひどいお酒の臭いがしていた。

No.381 10/05/03 20:57
Saku ( SWdxnb )

>> 380 「一、二年前は平和だったんだ。
家庭訪問に来た、ニィの担任をあの女がうまい事引っ掛けたから、
ニィも落ち着いたっていうか・・・」

私は洋史君の顔を見つめ、首を傾げた。
洋史君は思い出すように笑み、

「中学時代の兄貴は、めちゃくちゃだったんです。
でも、それは全部あの女のせいで・・・」

「・・・・」

「兄貴、加世さんと付き合いだしてからは、
ビックリするくらい変わったんです。
一途で、何だか幸せそうで・・・」

「――」

「だから、ニィのこと、信じて待っていてください!」


洋史君の話に胸が熱くなった。
泣きそうだった・・・・。


「今、敦史が連絡を断っているのは、
知られたくない秘密を、私が知ってしまったから・・・・」


洋史君はぼんやりと私の顔を見つめた。


「それって・・・・・
あの女とのこと?・・・」

No.382 10/05/03 21:16
Saku ( SWdxnb )

>> 381 「洋史君ーー
知ってたの……」

洋史君は伏し目がちに頷き、話しはじめた。


「何年前からか…
部屋の扉が開いて、ニィがあの女に呼ばれると、俺はいつも大きなヘッドフォンを耳にあてられた。
『これ聞いててな』
って頭を撫でて、ニィは隣の部屋に消えて行ったけど、
いつもCD一枚聞き終わるまでには戻ってきて、ヘッドフォンを外してくれたし、俺も大体寝てしまってーー」


私は黙って洋史君の話しを聞いた。


「でもあの日ーー
俺が小6だったあの晩、
ほんの出来心で、
戸をそっと開けて覗いたんだーー」

No.383 10/05/03 21:30
Saku ( SWdxnb )

>> 382 洋史君は目をギューっと強く閉じた。


「あの女は喘いで、兄貴は無機質に腰を振っていた…」


目の前が又白に変わっていくーー
何度打ちのめされてしまうのだろう……
私はちゃんと敦史に向かい合えるのだろうか……。


敦史が消えた訳を知り、洋史君は、寂しい、疲れた眼差しを私に向けた。


「加世さん……ニィは帰ってこないです…加世さんの所には…」

「……」

「俺が兄貴なら
ーー本気で好きになった女に、こんな事知られて、付き合ってられないから…」

「……」

No.384 10/05/04 21:11
Saku ( SWdxnb )

>> 383 洋史君と別れ、家路につきながら、
私はぼんやりと敦史との過去を思い出していた。


『早く家を出たいんだ』

高一の夏休み、図書委員の仕事をしながら、
卒業後東京へ行くことを初めて聞いた日、
敦史が呟いた一言が思い出した――。


お母さんの話を一切しなかったのも、
女が香水をつけるのがキライと言ったのも、
母親を求める少年の映画をつまらないと途中で見るのをやめたのも、
たまに見せた、イラついた表情や、寂しそうな顔も・・・
――敦史と一緒にいて、腑に落ちないと感じた過去の出来事全て、
答えが分かった私は、自分の不甲斐無さに、涙が出た。

一番近くにいて、一番に敦史を見てきて、
彼がずっと苦しみ悶えていたことに、
何故、気づけなかったんだろう・・・。

私が少しでも寂しいと感じた時、
敦史は必ず側にいてくれたのに――。


家の前で空を見上げると
キレイな満月が浮かんでいた。

『離れていても、今、同じもの見てるじゃん――
――加世が俺を想ってる時、俺も加世を想ってるよ』

私は耐え切れず声を出して泣いた。

私はずっと敦史を想っているよ。
敦史も、私のこと想ってくれてる?――

No.385 10/05/04 21:43
Saku ( SWdxnb )

>> 384 3月になり、私たちが高校を卒業する日がやってきたーー
結局、敦史は行方知れずのまま、学校にも登校していなかった。


体育館で卒業セレモニーが続く。

式が終わりに近づいた頃、手を挙げ、後ろを見る卒業生ーー田瀬君だった。
私は田瀬君が見ている方を見たーー

「!」

入口に、敦史が立っていたーー。

No.386 10/05/04 22:11
Saku ( SWdxnb )

>> 385 髪を短く切り、少し痩せた敦史は、
やってきて田瀬君の近くの席に座った。

式の間中、かすかに見える敦史の髪を見ていた。
敦史は動くことなくずっと前を見ていた。

式が終わり、卒業生が退場していく――
先に退場していく敦史の名前を
思わず叫びそうになった――
私は敦史から目を逸らさずに、その影が見えなくなるまで見送った。


その後クラスのHRを終え、みんなが在校生や先生と交流する中、
私は敦史のクラスへ向かった。教室に敦史の姿はもうなかった。

私は田瀬君を見つけ、敦史の事を聞いた。

「卒業証書もらって、もう帰ったよ」

私はお礼を言って、踵を返した。

「真中!敦史、今日は電車だって」

田瀬君の声に私は手を振り、学校を後にし、
駅へと急いだ。

No.387 10/05/04 23:18
Saku ( SWdxnb )

>> 386 電車に乗っても、敦史の姿を見つけることはできなかった。
たった一駅だけど、心は先を急ぐように落ち着かなかった。

敦史の地元の駅に降り、私は周りを探しながら、
足早に敦史が通るであろう道を辿った。

そうしながら、一緒に過ごした敦史の姿が浮かんだ。
キラキラしたキレイな瞳、優しい声、長い指、大きな手、
骨張った体、敦史の匂い・・・
どれもが全て愛しかった。

私は敦史の事がたまらなく好きなんだ――。


ロータリーへ続く階段を降りながら、
道を歩く敦史の後ろ姿を見つけた。
私は、階段を駆け下り、追いかけるように
駆けていった。

No.388 10/05/04 23:43
Saku ( SWdxnb )

>> 387 そして、敦史の背後に立った。

「敦史!」

敦史は立ち止まり、暫く動かず、
それからゆっくりと、振り向いた。
私の目からは涙がこぼれた。

「どこに・・・行ってたの?凄く心配――」

「もう終わりにしよう」

「!――」

敦史の声も表情も冷静だった。
私は首を横に振った。

「ヤダよ・・・」

「無理だから」

「ヤダ!」

私は強く言い切った。
敦史は下を向き眉間に皺を寄せると、
睨み付けるように私を見た。

「分かってんのお前?
実の母親とやってたんだぜ」

私はそのキツイ眼差しに目を逸らした。

「分かったから・・・」

「何も分かっちゃいねーよ!」

No.389 10/05/04 23:53
Saku ( SWdxnb )

>> 388 声を荒げた敦史は、自虐的に笑った。

「10歳の時からだぜ」

「――」

「フフ、最初はそれが当たり前だって思ってたんだよ――
母親とやるのが・・・
だんだん、普通じゃないって、狂ってるって分かって、
ハハハ・・・中学時代は付き合った女、言い寄ってくる女、
家に持ち帰ってやりまくったよ。
男が切れた母親に誘われりゃ相手してやった――」


苦しくて言葉が出ない。
涙だけが溢れて止まらなかった。

「悪かったな、お前の処女、こんな変態男が貰っちまって」

「・・・・敦史」

「でもそこらの下手な野郎よりは感じてもらえただろうな、
女が喜ぶテクは母親直伝だから」

「敦史!・・・もう、やめて。
お願い・・・やめて・・・。
私は、今の敦史が、本当の敦史じゃないって分かってるから」


「やめるのはお前だから!」

No.390 10/05/04 23:59
Saku ( SWdxnb )

>> 389 私は携帯を――
敦史から貰ったストラップを強く握り締め、
敦史を真っ直ぐにみつめた。


「私は、二人でいる時の敦史を信じるから――」


敦史は更に私を睨み付けると、
私の携帯を取り上げ、ストラップを外した。

「ヤダ、やめて!」

私の制止も聞かず、敦史は自分のも外して、
線路の方へとストラップを投げ捨てた。

そして、私の腕を掴み、引っ張りながら歩き出した。

「敦史、痛いよ」

力をゆるめる事も、振り向く事もなく、
路地裏のホテル街に来ると、歩みを止めずにホテルに入った。

No.391 10/05/05 00:13
Saku ( SWdxnb )

>> 390 部屋に入ると、そのまま腕を引っ張られベットに投げ飛ばされた。

体を起こそうとしたところを敦史に覆いかぶされ、
制服を剥ぎ取られた。

「敦史、やめて!」

遮るように口を唇で塞がられ、
敦史も自ら裸になった。

自分でしごいて硬くすると、私の片足を腕にかけ、
開かれた秘部に挿入した――

激しく、冷たく「グッグッ」と突き上げられる。

「イャ!・・・・ヤッ!・・・」

悲しくて痛くて、涙が止まらない――
なのに、体の奥で感じている自分もいた。

自分勝手に腰を振り、絶頂が近づいて動きが早くなる――

「ンン・・・」


敦史はそのまま私の中に出した――。

  • << 393 付き合っていて、一緒に居て、 切ない位に恋しくて、愛しくて、 何度、私たちの体が溶け合って一つになれたらいいと思ったことか・・・ 今、彼に溶け入ることが出来たなら、 彼の苦しみを一緒に背負えるのに―― 泣き疲れ、私の上で眠ってしまった敦史の寝顔は、 とても安らかで、天使のようにキレイだった・・・・。 私は敦史の髪を撫でながら、また涙が溢れ、声を押し殺して泣いた。 そして、この時が、永遠に続けばいいと願った――。

No.392 10/05/05 00:22
Saku ( SWdxnb )

>> 391 敦史は、脈打つものが治まるまで、私の上で顔を伏せていた。


私はただ宙を見つめていた――
涙が止め処なく流れていった。


「妊娠したい・・・・」


体を起こしかけた敦史が静止する――


「子どもを授かったら、
敦史を愛したかたちが、生まれて残るんだもんね」


顔を上げた敦史の頬も涙で濡れていた。
そして、その顔はみるみる内に崩れ、
敦史は嗚咽しながら、抜け殻のような私をだきしめた。

「ゴメン、加世――
ゴメン・・・愛してる・・・愛してる
・・・ゴメン」


敦史は泣きながら愛撫し続けた――

No.393 10/05/05 00:33
Saku ( SWdxnb )

>> 391 部屋に入ると、そのまま腕を引っ張られベットに投げ飛ばされた。 体を起こそうとしたところを敦史に覆いかぶされ、 制服を剥ぎ取られた。 「敦… 付き合っていて、一緒に居て、
切ない位に恋しくて、愛しくて、
何度、私たちの体が溶け合って一つになれたらいいと思ったことか・・・

今、彼に溶け入ることが出来たなら、
彼の苦しみを一緒に背負えるのに――


泣き疲れ、私の上で眠ってしまった敦史の寝顔は、
とても安らかで、天使のようにキレイだった・・・・。

私は敦史の髪を撫でながら、また涙が溢れ、声を押し殺して泣いた。

そして、この時が、永遠に続けばいいと願った――。

No.394 10/05/05 01:05
Saku ( SWdxnb )

>> 393 いつの間にか眠ってしまった私は、
チェックアウトを知らせるコールで目を覚ました。

部屋に敦史の姿はなかった――

そして、携帯に敦史からのメールが届いていた。


『別れよう

もう、関わらないでほしい』


私は立ち尽くしたまま、ストラップのない
携帯の文面をただただ見つめながら、
敦史との別れを感じて
酷い疲労感に襲われていた。

No.395 10/05/05 21:01
Saku ( SWdxnb )

>> 394 ホテルを一人で出ると、外は雨が降っていた。
周りに傘の屋根が出来る中を、
私はただ呆然と歩いていった。

誰かに支えて欲しかった――
寄りかかりたかった――

『誰か』の答えは、たった一人なのに、
私は心も体も拠り所を無くしてしまった・・・。


「アレ・・・加世子ちゃん?」

名前を呼ばれて、ぼんやり視線を向けると、
コンビニから傘をさして出てきたスーツ姿の男性――
陽介さんが私に近づいてきた。

「・・・・」

「加世子ちゃん?
――どうしたの、その格好?!」

私が握り締めていた、破れたブラウスの首元に気づいた陽介さんは、
自分の上着を脱いで、私にかけた。

「車で来てるから、乗って」

そう言って、路肩に寄せていた車の助手席に私を乗せ、
車を発進させた。

No.396 10/05/05 21:48
Saku ( SWdxnb )

>> 395 走りながら、雨が強くなってきた。
雨粒を追いかけるようにワイパーが忙しく動いていた。

陽介さんは真っ直ぐ前を見据え、ハンドルを握っていた。

「これだけは答えて。
――襲われたの?」

「・・・・いいえ」

陽介さんは私を一瞥し、その後は何も聞かなかった。

そして、泊まっているというホテルの部屋に私を連れて行った。


「シャワー浴びて、これに着替えなよ」

「・・・・・」

ルームウェアを渡され、私が戸惑っていると、
陽介さんは声を出して笑った。

「大丈夫だよ、とって食べたりしないから」

そういうと、バスルームから離れて行った。

私は、バスルームのドアを閉め、シャワーを浴びた。

シャワーを浴びている途中、
脱衣所のドアが開いた気がした。

一瞬、体を緊張させたが、
すぐに出て行く音がした。

体を洗っていく――
私の中に残っていた敦史の痕跡が、
太腿を伝っていった・・・。

初めて、避妊されなかった。

不安や苦しみではない――
もう、頭も心もいっぱいで、何も考えられなかった。

No.397 10/05/05 22:41
Saku ( SWdxnb )

>> 396 バスルームを出ると、トレーを持った陽介さんが、
入口ドアから入ってくるところだった。

「ごめんね、勝手にブラウス持ってったんだけど、
外れたボタンと破れたところ、直してもらえる様に頼んだから。
あと1時間位、ここで待ってなね」

さっきの物音はブラウスを取りにきたんだ。


「これ飲みな」

そう言って陽介さんは、トレーに乗せてきたカップを、目の前のテーブルに置いた。
私はソファーに座り、それを口に運んだ。


「・・・美味しい」

温かいハーブティだった。
向かい側に座った陽介さんは、そっと微笑んだ。

落ち着く紅茶の香りと、陽介さんの行き届いた気遣いに
心が癒され、自然と涙が出た。

陽介さんはそんな私を、包み込むような優しい眼差しで、
真っ直ぐに見つめた。


「他人だから、話せることもあるんじゃない?
――聞くよ」

No.398 10/05/05 23:02
Saku ( SWdxnb )

>> 397 その言葉に私は、思わず声を出して泣いていた。

ずっと誰かに聞いて欲しかった――
今にも壊れてしまいそうな心の内を、
堰を切ったように打ち明けていた。

ただ頷いて聞いてくれていた陽介さんは、
私が全てを話し終えると、目の前から手を伸ばし、
包み込むように私の頬に触れた。


「よく、我慢してたな。
今まで一人で、辛かったろ?」


また、涙が溢れた。
今、陽介さんが居てくれた事が有難かった。

そうしている内に、縫製されアイロンまで掛けられたブラウスが
部屋に届けられた。
私は制服に着替えるため、脱衣所に入った。

「加世子ちゃん」

ドアのすぐ外で名前を呼ばれてドキッとした。

「・・・はい」

「加世子ちゃんが、色々話してくれたから、って
訳でもないんだけどさ――」

私は急ぐようにして着替えた。

「俺、今度結婚するんだ」

「え?!」

No.399 10/05/05 23:15
Saku ( SWdxnb )

>> 398 着替え終わった私は、ドアを開けた。

「美咲とですか?」

陽介さんは俯いて小さく笑った。

「違うよ。加世子ちゃんも一度見たことあるよ」

あ、前に映画を見る前に会った、
あのキレイな女の人・・・

「子どもができたんだ」

「――」

「年貢の納め時、ってね」

陽介さんは微苦笑した。

「美咲には?」

私の問いにゆらりと首を振った。


「ちゃんと話さないとな」

また、美咲が傷つく事を、
私以上に陽介さんが理解している、
苦しく、切ない表情を浮かべていた。

No.400 10/05/06 22:55
Saku ( SWdxnb )

>> 399 帰り、陽介さんは車で送ってくれた。
その車中で、

「明日、向こうの家へ挨拶に行く為にこの街に来たんだ」

と話してくれた。
そして、家の前の公園に着いて車を止めると、

「会社用とプライベート用」

と言って、名刺を2枚渡された。

「こんな風に加世子ちゃんに会ったのも、
縁あってのことだろうし――
今日みたいにどうしようもなく吐き出したくなったら、
連絡しておいでよ」

私は渡された名刺に視線を落とした。
少し、戸惑っていた・・・
陽介さんは、これから結婚する人だから、
頼っちゃいけない・・・。

「話し聞くだけなら、浮気にはならないだろうし」

陽介さんは、私の心を見透かすように
微笑みながらそう言った。

  • << 401 私は名刺を手にしたまま、車を降りた。 「ありがとうございました」 陽介さんが首を傾げて、私を見た。 「最後にちょっとだけ俺の本音吐かせてよ」 私は運転席の方へ回った。 陽介さんは、窓を全開にして腕を乗せ顔を出した。 「いっぱい遊んで、もっと色んな男見な。 せっかくフリーになったんだから」 「・・・・・」 「加世子ちゃんに合う男、他にも絶対居るから」 「・・・・・」 「今はまだキツイかもしれないけど、 時が解決してくれる、ってアレ、本当だから」 「・・・・・」 「――って、言うことありすぎ?」 照れたように笑った陽介さんに、 私もつられて笑っていた。 少しでも、笑う事が出来たのが嬉しかった。 すると陽介さんは、微笑みを消し、 真剣な眼差しで私を見た。
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