霊感ドライバー大沢宗一郎
とりあえず、頑張ります💦
最後まで書けたら👏👏👏拍手して下さい💦
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>> 100
翌日は現場に出た。
自分が現場に出ている間に智江や宗一郎から連絡があるのでは…そう思うと気が気ではなかったが、親方である以上和也や圭一に迷惑をかける訳にもいかない。それに施主や工務店にも申し訳がたたない。
明日には智江や宗一郎に会える…会える保証などどこにもなかったが、そう信じ自分の気力を奮い立たせて現場に出た。
比奈子をオーシャンのママから救う事が、比奈子そのものを救う事になるのか…それはわからない。
ただ…幸之助にはその考えしか思いつかないし、その考えを実行するしかないと思った。それに智江や宗一郎が出て行った現状を考えると、あまり考えてる時間もなかった。
自分と比奈子の関係にケジメをつける…自分と比奈子の間にケジメをつけなければならないような、やましい事は一つもない…かもしれない。
では、何にケジメをつけるのか…?
それは…比奈子に対して自分が抱いてしまった恋心…たとえそれがたった一度だけだったとしても…
今まで自分が一度も嘘などついた事がなかった智江に対してへの罪悪感…
そう考えると…自分自身へのケジメなのかもしれない…そう思った。
>> 101
午後3時の休憩時間に…比奈子に電話をかけた。
比奈子はオーシャンの仕事を終えた午前2時頃にマンションに来てほしいと言った。
幸之助の話の内容が気になるのか、随分聞かれたが…会ってから詳しく話すと言った。
幸之助は出来る事なら外で会いたいと言ったのだが…上着も預かったままだから…と言われ仕方なく了解した。
どうして上着を取りに戻らなかったのか…?とも聞かれたが、それには言葉を濁した。
幸之助は比奈子への電話を切ると、岡島にも電話をかけた。
昨晩最後まで言えなかった自分の気持ちも話したかったし、今晩比奈子に会う事も伝えたかった。
だが…岡島は留守だった。
事務員らしき女の話では出張だと言っていた。
自分を父親と思えばいい…比奈子にはそう言った…
でもその一言が結果的に…智江や宗一郎を傷つけてしまった…
だからと言って逃げるのは嫌だ…逃げるのではなく…比奈子にはせめて最後に父親代わりとして出来る事をしてあげよう…それがケジメだ。
その頃岡島が…昨晩の電話の後、北陸道をぶっ飛ばして…芦屋にいる事など幸之助は知るよしもなかった。
>> 102
午後5時を少し過ぎた頃…帰り支度をしている時だった…幸之助はそれとなく圭一に尋ねた
「圭一は俺に似た親父さんとは随分会ってないのか?」
すると圭一は少し困惑顔で
「ええ…まあ…」
そう言って濁した。
自分達…姉弟を捨てた父親…そんな思いがあってあまり触れられたくなかったのかもしれない
「すまん…つまらん事聞いて…」
幸之助が謝ると…
圭一は言った
「いいんです…会いたくても会えないんですよ…もう死んでますから…」
亡くなっていたとは思わなかった…
圭一は更に続けた
「おやっさんだから言いますけど…俺達姉弟を捨てたあと…悪い奴に騙されて…自殺したんです…首吊って…」
圭一の心の中では既に消化されている思い出なのかもしれない…何故なら、辛い話をさほど辛そうに話している様子がなかったからだ。
圭一が言った
「俺はいいけど…思い出の多かったお姉ちゃんは辛かったと思います…お姉ちゃんが最後に会って…大阪に出て来た翌日の出来事でしたから…」
比奈子にお金を渡した次の日だ…
知らなかった…
「だから…お姉ちゃんは、いまだに認めないんですよ…死んだ事を…」
圭一は比奈子を憐れむような口調で言ったのだった。
>> 103
帰りの車中で考えていた…
父親の死を認めない…のではなくて、認めたくないのだろう…
家族を捨てて出て行った父親はかなり生活に困窮していたらしく…父親が自殺した後には財産と言える物はほとんど残っておらず、所持していた財布さえ空っぽだったらしい。
比奈子と最後に会った時には、既に死を覚悟していたのだろうか…
比奈子に与えたなけなしのお金は父親として最後の…娘への愛情だったのか…
それとも…比奈子になけなしのお金を与えた事で自らの死期を早めてしまったのだろうか…
もしそうなら…自分が会いに行かなければ、例え幾日かでも生きられたかもしれない…比奈子はそう考えたのではないか…
比奈子が…幸之助を通して亡き父親を見る…何となくその気持ちがわかった気がした。
そして…比奈子が気の毒でもあった。
オーシャンのママから救ってやりたい…
出来る事なら美雪という仮面を取って…幸之助だけが知っている素直で自然体の比奈子のままでいさせてあげたい…
救い出す…
自分に出来るだろうか…
そしてその後に…比奈子の全てを絶ちきる事が…自分に出来るだろうか…
>> 104
和也と鳴門で晩ご飯を食べて、家に帰った。
ひょっとしたら智江や宗一郎が帰ってないか…?…玄関の扉を開ける時にふと思う。
だが…今日も家は真っ暗で静かなままだった。
約束の午前2時までは、まだたっぷりと時間がある。
しばらくすれば…比奈子に会い、自分の思いを伝えなければならない…
だが考える事は…比奈子と会うこの後の事よりも明日の事ばかりだった。
智江と会う事が出来るのか…?
もし会えたなら…誤解を招くような自分の行動を素直に謝りたい…
許してくれるだろうか…?
涙もろくて優しい反面、強情で意地っ張りな智江の性格を考えると…会う事すら難しいかもしれない。
だが…信じるしかない…会ってくれると…
幸之助は部屋の掃除と、少し溜まった洗濯をした。
明日…帰るであろう智江に家事を残しておきたくなかった。
テレビでは昔に智江とデートで観た映画が放送されていた。
全ての家事を終えて風呂に入ろうと思い、服を脱いでる時だった…テレビは映画の放送を終わりニュース番組に変わっていた。
そして…その画面には幸之助の知る人物の写真が映し出されていた。
自殺した…テレビのアナウンサーはそう言った。
>> 105
アナウンサーの話ではテレビに映し出された人物は、真夜中の南港の海に車ごとダイブしたらしい。
遺書が残されていた事から自殺は間違いないと思われるが、自殺する何日か前に多額の預金が引き出されていたらしく警察は自殺との関連を調べていると言った。
その写真の人物は、遠藤だった。
遠藤の死に比奈子は関わっているのではないか…?
遠藤とは和解したと比奈子は言っていたが…本当なのか…?
仮に比奈子が無関係だったとしても、オーシャンのママが無関係とは到底思えない。
幸之助はあの夜のバーでの遠藤を思い出していた。
あの日の遠藤の言葉の一つ一つを思い出せば思い出すほど、何とも言いようのない不安が幸之助の心を覆ったのだった。
比奈子なら何かを知っているかもしれない…
もし何かを知っていたなら…警察の捜査に協力するように進言しなければならない。
>> 106
比奈子は意外にも冷静だった。
「死んだ事は知ってる…でもどうしてなのかは知らない…自殺なんてバカね…」
幸之助が遠藤の死を告げると、冷たく突き放すようにそう答えたのだった。
幸之助は疑問に思っている事を聞いた
「比奈子は関係なくても…ママは関係してるのか?遠藤とは本当に解決してたんか?多額の預金が引き出されたのはママが原因じゃないのか?本当に何も聞いてなかったんか?」
比奈子はあからさまに不機嫌な顔色に変わった
「一度にそんな沢山質問されても意味わからない…パパ…まるで警察みたいね…」
今まで幸之助に対して、これ程露骨に不機嫌な表情を見せた事などなかった。
無関心を装おっていても心中はかなりナーバスになっているのだろう
「す、すまん…俺は比奈子が心配やったから…」
比奈子は口元で、ほんの少し笑うと
「比奈子も…ごめんねパパ…もうこの話はやめましょう…ところでパパの話って何?」
そうだった…幸之助が比奈子に言いたかった事は他にあった。
幸之助は…比奈子のマンションから出たところを智江に見られ、誤解されている事を正直に話した。
「へえ…あの人やっぱりパパの奥さんだったんだ」
>> 107
どうして上着を取りに戻らなかったか…?と比奈子に聞かれていたので見られていたとは思わなかった。
「なんや…見てたんか…」
「うん…だって部屋に戻ろうと思ったらパパの大きな声が聞こえたから…」
幸之助が智江の名前を叫んだ時の事だろう。
幸之助は唾を一度大きく飲み込むと…話し出した
「比奈子は俺の事をパパと呼んで…父親のように思ってくれてる…そして俺も今は…比奈子に娘のような愛情を持って…接してるつもりや…そう言う意味で比奈子の事を大事にも思ってる…だけどな…やっぱり俺にはもっと大事なものがある…」
続きの言葉を比奈子が遮った
「でも比奈子はパパを手離さない!比奈子を一人にしないで!」
比奈子は抑えていたものを吐き出すように叫んだ。
しかし、幸之助も今日ばかりは自分の考えを譲る訳にはいかない
「待ってくれ!俺の話を最後まで聞いてくれ!比奈子にたいして出来る事を考えたつもりや!俺なりに…」
比奈子がまた…遮った「ごめんパパ…落ち着きましょう…コーヒー入れるね…」
幸之助も少し興奮してしまった事を反省した
「俺こそ…すまん…」
>> 108
比奈子は椅子から立ち上がると幸之助に背をむけキッチンでコーヒーを入れている。
背中をむけたまま比奈子が言った
「ねえパパ…一緒に住もう…比奈子はパパが必要なの…パパは何にもしなくていい…比奈子が頑張って働くから…パパにお金の苦労はさせない…だから…一緒に住もう…」
幸之助は返事をしなかった。
ただ…比奈子のこの言葉は本当の父親と最後に会った時に比奈子が父親にむけて言った言葉なのでは…何となくそう思った。
コーヒーを二つ入れると、比奈子は再び幸之助の前に座った。
「なあ比奈子…オーシャンを辞める事は出来んのか?ママにまだ借金してんのか?借金があるなら俺が…」
最後まで聞く事なく比奈子は答えた
「借金なんてとっくにないよ…それにオーシャンもママの都合で閉める事になったの…今日言ってた…」
最後のケジメとして考えていた二つの事が…幸之助が何もしないまま解決しようとしている…何だか拍子抜けしたような気分だ。
やはり…ママが店を閉めるのは遠藤の死と関係あるのだろうか…?
そんな事を考えている時だった…
何だか頭がクラクラしてきた…
目がかすむような眠気に襲われた…
ま、まさかコーヒーに…?
>> 110
カーテンの隙間から射し込む陽射しに、幸之助は目覚めた。
「うっ…」
頭が痛い…
幸之助は比奈子の家のベッドに横たわっていた。
洋服は脱がされ、下着だけの姿に変わっていた。
比奈子の姿が見当たらない…
幸之助が眠っていたベッドの少し広い場所に…まだ温もりと比奈子の香水の香りが残っていた…
ついさっき迄…比奈子が隣で眠っていたのだろう…
確か…昨日コーヒーを飲んだ後…
時計に目をやると、時刻は午後11時を少し回っていた。
今日は日曜日だ…和也や圭一に迷惑をかけずにすんだ事だけは…まだ幸いした…
しかし何故…比奈子はこのような手段に出たのだろう…?
気を失う直前に微かに聞こえた比奈子の言葉…
逃がさない…確かに…そう言った…
別に逃げるつもりはない…ただ…自分の比奈子に対する気持ちをはっきりさせたいだけだ。
昨夜の比奈子の話では…オーシャンという店は無くなるらしい…ママからの借金もないと言ってた…
なら…もう幸之助に出来る事は何もないのかもしれない…
だからと言って逃げはしない…それでは自分自身のケジメがつかないし…智江に対しても申し訳ない…そんな気がする。
- << 123 《お詫び》 午後11時➡❌ 午前11時➡⭕ でした💦
>> 111
ソファーの上にきっちりたたまれた自分の洋服を着ると、キッチンへ行き、水を一杯喉に流し込んだ。
それから、幸之助が入った事のない残りの二部屋の扉を開けてみたが、比奈子はいなかった。
幸之助がさっきまで眠っていたベッドに腰かけて、どうすればいいかと考えている時だ…自分が眠っていた枕の上辺りの、目覚まし時計の隣に鍵が置かれているのを見つけた。
そしてその鍵を重しにするように手紙もあった。
比奈子から幸之助への置き手紙だった。
『パパへ
疲れてたのね…急に眠っちゃうんだもの…
でもパパの話は何となくわかりました。
比奈子はパパと絶対に離れたくありません。
比奈子はパパと一緒に暮らしたいと思っています。
比奈子はパパが付いて来てくれるなら、東京の銀座で働こうと思ってます。
パパが比奈子を救うのではなく、比奈子がパパを救います。
パパのいい返事、待ってます。
その時まで…この家の鍵を一つパパに持っていてほしいです。
比奈子』
夫でもなければ…恋人でもない…ただ父親に似てるだけ…
ただそれだけで…どうしてここまで固執するのだろう…?
幸之助は初めて比奈子に恐ろしさのようなものを感じた。
>> 112
最愛の父親を最悪なタイミングで失った過去…
悪い男達にボロボロにされ、女としての自尊心さえ見失ったであろう過去…
手を差しのべてくれた…と思ったママには、お金の為に利用された…
初めて比奈子と出会った時には、そんな暗い影など微塵も感じさせなかった。
逆に夜の世界を自由に飛び回る蝶のような美しさと気高ささえ感じた。
でも…現実は違った…
この世で信じる事の出来た人は、唯一亡くした父親だけだったのかもしれない…
その父親に…何かをしてあげたかったと言う思い…
その父親を…おそらくお金の為に失ったと言う後悔の思い…
その全てを父親に瓜二つの幸之助に果たそうとしてるのではないか…
しかし幸之助にとっても幸せにしてあげたいと思える…そういう存在はいる…
それは智江や宗一郎だ…比奈子ではない…
今でも比奈子を救ってあげたい…そう思っている…
でも比奈子と一緒にいる事が…比奈子を救う事になるなら…
それは出来ない…
幸之助は比奈子の家を出た。
玄関の扉に鍵をかけると、その鍵を扉の郵便受けに放り込んだ。
日を改めてもう一度話しに来よう…
智江…宗…もう少し待っててくれ…
>> 113
幸之助は家に帰った。そしてテレビのある部屋の座椅子に腰かけると、腕組みをして考えていた。
智江や宗一郎を迎えに行こうか…
しかし智江が会ってくれるかは…わからない。
会ってくれたとしても…智江に聞かれるだろう…あの女の人とはどんな関係?…と…
過去は…誤解だと説明して詫びれば許してもらえるかもしれない…
だが…現在の関係があやふやなままでは智江も許してはくれないだろう。
やはり比奈子とはもう一度話さなければならない…
そして比奈子に対する情の全てを絶ち切って…はっきり言おう…自分の考えを…
智江や宗一郎を迎えに行くのは…それからだ。
疲れていた幸之助は、ウトウトとそのまま眠ってしまっていた。
2、3時間眠った頃…幸之助は電話のベルに起こされた。
受話器を取ると、幸之助とは正反対のカン高い声がすぐに聞こえてきた。
「こ、幸ちゃんか?俺や、岡ジや!」
幸之助が思い悩んでいる時に何故かタイミングよく電話をくれる親友の岡島だ。
「おう!どうしたんや?」
幸之助が尋ねると間髪入れずに岡島が言った。
「どうしたも、こうしたもあらへん!幸ちゃん、よー聞けよ…」
「お、おう…何や…?」
>> 114
少し興奮した感じの岡島が言った
「明日の朝、俺が智江ちゃんと宗一郎をそっちへ連れて帰る!全て誤解やて…智江ちゃんには俺から話した…智江ちゃんもわかってくれた!」
幸之助は何が何だかわからず
「えっ…?岡ジが何で…?」
すると岡島は得意気に
「智江ちゃんも強情なとこあるし…幸ちゃんが迎えに行っても会ってくれへんかもしれん…そやけど石川から駆けつけた俺を追い返す事はないやろうと思ったんや!智江ちゃんはちゃんと会ってくれたで!」
幸之助は感謝で言葉もない…いや、上手く感謝を言い表す言葉が出てこない…
明日…智江と宗一郎に会える
明日…智江と宗一郎がこの家に帰ってくる
正直まだ実感が湧かない…
でも…何よりも嬉しい…
「岡ジ…ありがとう…ほんまにありがとう…」
心の底から出てきた言葉だった。
真夜中の幸之助からの電話に、岡島はいてもたってもおられず…車に飛び乗り、智江の実家のある芦屋を目指したのだと言った。
ただ…岡島は智江の実家の場所は知らないはずだった…幸之助がそう言うと…
「出発した時には、そんな事考えてもなかった!」
って…
そこが…いかにも岡島らしかった。
>> 115
芦屋まで行ったはいいが智江の実家がわからず…智江の旧姓を頼りに電話帳で調べたらしい。
智江の旧姓は塩本といった。
ところがこの塩本という名字が意外に多く困り果ててたところに思い出した…それは昔智江と同じ職場で働いていた直子の名字だった。
直子の名字は波間といって珍しい名字だった。
そこからやっとの思いで智江の実家にたどり着いたらしい。
智江の実家の住所など幸之助に聞けば簡単な話だが、幸之助に聞けば芦屋へ来た事自体を咎められると思ったらしい。
幸之助は岡島に嘘をつかない…智江はそう言って岡島の話を全て信じてくれたらしい。
そう考えると…幸之助が会いに行くよりも岡島が会いに行ってくれた事が…結果的に良い答えを引き出してくれたのかもしれない。
岡島の話を聞いた智江は…すぐにでも帰りたいが実家の両親に事情を話したい…それで明日の朝に岡島が迎えに行く事になったらしい
。
いつもながら岡島の行動力には頭が下がる
「岡ジ…いらん苦労させてほんまにすまん…ありがとう…」
「幸ちゃん…何十年親友やってると思ってんねん」
電話口の向こうで、少し照れた岡島が…幸之助には見えた。
>> 116
ただ…そうなると比奈子の事が気がかりだった。
比奈子とはもう一度話さなければならない…そう思っていたが…2、3日は開けようと思っていたからだ。
岡島は何かを察したのか
「ええか幸ちゃん…二度と智江ちゃんや宗一郎に誤解されるような事はしたらあかんで…俺が何を言いたいかわかるな…?」
「わかってる…ただ最後にもう一度だけ話さなあかんねん…それが俺自身のケジメやから…」
岡島はやはり怒った
「幸ちゃん!ええ加減にせい!智江ちゃんや宗一郎より大事なものがあるんか?」
岡島の言う通りだ…智江や宗一郎より大事なものなどない…
「岡ジ…聞いてくれ…オーシャンはなくなるらしい…これであのママとも切れるやろう…だから俺が助けてやれる事はもうないやろう…あのママとさえ切れれば…もう大丈夫やろう…でも一つ言わなあかん事があるねん…それは俺が父親ではない…あかの他人と言う事や…」
もう…比奈子には幸之助という父親の亡霊から解放されて…幸せになってほしい…
父親と思っていい…幸之助のこの一言が、比奈子につまらない勘違いをさせたのかもしれない…
明日には智江や宗一郎が帰って来る…
比奈子と話すのは…
今晩しかない…
>> 117
「幸ちゃん…さっきから聞いてたら意味のわからん事ばっかりやな…あの女の何もかもを知ってるって言ってたけど…いったい何を聞かされてるんや…?」
岡島は真剣に聞いている。
しかし幸之助にしてみれば岡島の質問の方がよっぽど意味がわからない。
幸之助は比奈子から聞いた全ての話を岡島に打ち明けた。
それは比奈子の生い立ちから現在に至るまでの全てを話した。
全てを聞き終えた岡島がゆっくりと口を開いた
「そうか…そういう事やったんか…それで幸ちゃんは救うとか助けるとか言ってた訳か…」
岡島の言葉の意味がわからない
「そういう事って…どういう事や…?」
次に岡島が発した言葉に幸之助は驚いた
「幸ちゃん…あの女が幸ちゃんにした話はほとんど嘘や…福岡時代の話はほんまかもしれん…でも大阪に出て来てからの話はほとんど嘘やな…遠藤を自殺に追いやったのもあの女や…」
「じゃあ…あのママは…?」
今度は岡島が知りうる全てを幸之助に話した
「幸ちゃんが何もかも知ってるって言ってたから…すまん…あの時ちゃんと説明するべきやった…」
いや、幸之助も最後まで聞こうとしなかった
「俺が飲みに行ってた北新地の店にあの女はおった…」
>> 118
「あの女の頼みで圭一を預かるようになって…それが縁であの女もプライベートな話を俺にするようになったんや…その頃のあの女は店での売り上げもナンバーワンで、ようさん稼いでた…ところがその当時付き合ってた店のボーイに、貯金の全部を持ち逃げされよったんや…ここまでは幸ちゃんが聞いてる話と一緒や…それからのあの女は、好きな男に騙されたショックと何千万という大金を失ったショックで…おかしなってもうた…自分を可愛がってくれてた客の弱味を握っては、ゆするようになったんや…その頃のあの女は弱味を握る為なら平気で客と一夜を共にしてた…圭一が意味もわからず…客が家に怒鳴り込んで来たって言ってた…俺も何となく悪い噂は聞いてたんやが…圭一の話を聞いて確信したんや…俺は圭一ごと縁を切ろうかとも思ったけど…幸ちゃんも知っての通り、圭一はあれでなかなか仕事は出来るし頭のええ子や…それで俺は圭一の住まいを面倒見て…あの女から引き離したんや…」
幸之助は言葉が出なかった。
相槌すらうてない…
岡島は更に続けた…
>> 119
「当然その悪い噂は店にも知れ…結局クビになったんや…一度悪い噂が立つとキタやミナミで働く事はほぼ不可能や…まあ自業自得や…でもそんな姉を見かねて圭一が俺に頭を下げて来たんや…どこかいい店を紹介してやってほしいと…圭一はクビの原因を知らんから平気で頼んできたんやなあ…そやけど…さっきも言うたけど一流クラブなんかはどこも雇ってはくれへん…そこで昔から俺が付き合いさせてもらってる明美ママに頼んだんや…ああ見えてあのママは気っ風のええ人で…全ての事情を知った上であの女を雇ってくれたんや…私がその娘を立ちなおらす…言うてな…でも…あかんかった…ママが遠藤の事に気付いた時には手遅れやった…ママは自分の孫を連れて…偶然を装おって遊園地にも行ったけど…全ての話がついてた後やったんやなあ…遠藤を死なせたんは自分の責任やから…そう言って店を閉める決心をしたんや…それを…幸ちゃんには全部ママの責任にしとる…許されへん!」
幸之助はショックだった…
ただ…まだ幾つかわからない事が幸之助にはあった…
岡島はその疑問にも全て答えてくれた
それは…
>> 120
どうして岡島は比奈子に幸之助を紹介したのか…?
岡島は言った…
比奈子は岡島と明美ママの関係を知らなかった…
それは…プライドの高い比奈子には岡島の紹介というよりも、ママが比奈子のホステスとしての実力に惚れ込んでスカウトした…という事にしたからだと言った。
もちろん圭一にも内緒にしていたらしい。
オーシャンで働く事をきっかけに比奈子には立ちなおってほしい…勿論岡島もそう考えていたが…万が一比奈子がまた客を騙すような事をしようとした時には岡島とママが無関係と思わせていた方がお互いに情報が入りやすいと思ったからだと言った。
店で…しかもママのすぐ側で遠藤親子と遊園地に行く約束をしてたくらいだから…その岡島の考えはあながち間違ってたとは言えないだろう。
店にも時々顔を見せ…弟の面倒も見てくれている岡島が故郷へ帰ると聞いて、弟の行く末を心配したらしい…
そこで、比奈子を安心させる為に幸之助を紹介したのだと言った。
岡島は
「まさかあの姉弟の父親と幸ちゃんが瓜二つて…しかも幸ちゃんが一人であの店に行くとは…その時には考えもしてなかったんや…」
申し訳なさそうに言った。
>> 121
申し訳ないのは自分の方だ…
岡島は圭一の親方として…圭一が少しでも仕事に集中出来るようにと…圭一の住まいを考え…姉の就職先まで考えた…おまけに故郷へ帰った後も明美ママとは連絡を取り…自分の責任を最後まで果たそうとした…
岡島とミナミで飲んだ夜…幸之助は一人でタクシーに乗り岡島は乗らなかった…
あの後…岡島は最後に明美ママと会い、比奈子の事をくれぐれも頼むと頭を下げていたのだ。
幸之助は自分が恥ずかしかった…
最初から最後まで自分の保身しか考えてなかった自分が恥ずかしかった。
岡島が諭すように言った
「幸ちゃん…納得出来ん事もあるやろ…そやけど…あの女にはもう関わったらあかん…俺やママもサジ投げたんや…警察も黙ってないやろ…あの女の事は忘れるんや…幸ちゃんは智江ちゃんと宗一郎の事だけ考えたらええんや…わかったな」
岡島の言う通りだ…
「わかったよ…」
そう言って…電話を切った。
本当にわかったのか…?
比奈子はどうして同じ過ちを繰り返したのか…?
幸之助に話してくれた全てが…噂だったのか…?
確かめたい…
比奈子の口から…直接確かめたい…
- << 124 森ノ宮の駅前でタクシーに乗ると比奈子のマンションへと向かった。 昨夜…コーヒーに睡眠薬のような薬物を混入されたのは間違いない … それがわかっているだけに…今日は会いたくなかった… しかし…会って話すには今日しかない…明日には智江と宗一郎が帰って来るのだから… 比奈子を責めるつもりで会う訳ではない… 岡島が言ったように…関わりを持たずに無視すればいいのかもしれない… だが…それでは何か喉の奥に小骨が刺さったままのような気持ち悪さが残る…そんな気がしてならない… 明日帰って来る智江に…何もかも終わった…そう言える形が欲しいだけなのかもしれない… 幸之助はタクシーを降り、マンションの1階から比奈子の部屋のインターホンを押した。 「はーい!」 比奈子は帰っていた。 幸之助はエレベーターで上へと上がりながら考えていた… 比奈子が隠そうとしていた事実を明るみに出し…自分には何も出来ない…そう告げるつもりだ… 幸之助は玄関の扉を開け、中へと入った。 比奈子は買い物へ行っていたのか、玄関から少し入った所にはデパートの紙袋が幾つか置かれていた。
>> 122
申し訳ないのは自分の方だ…
岡島は圭一の親方として…圭一が少しでも仕事に集中出来るようにと…圭一の住まいを考え…姉の就職先まで考えた…おま…
森ノ宮の駅前でタクシーに乗ると比奈子のマンションへと向かった。
昨夜…コーヒーに睡眠薬のような薬物を混入されたのは間違いない
…
それがわかっているだけに…今日は会いたくなかった…
しかし…会って話すには今日しかない…明日には智江と宗一郎が帰って来るのだから…
比奈子を責めるつもりで会う訳ではない…
岡島が言ったように…関わりを持たずに無視すればいいのかもしれない…
だが…それでは何か喉の奥に小骨が刺さったままのような気持ち悪さが残る…そんな気がしてならない…
明日帰って来る智江に…何もかも終わった…そう言える形が欲しいだけなのかもしれない…
幸之助はタクシーを降り、マンションの1階から比奈子の部屋のインターホンを押した。
「はーい!」
比奈子は帰っていた。
幸之助はエレベーターで上へと上がりながら考えていた…
比奈子が隠そうとしていた事実を明るみに出し…自分には何も出来ない…そう告げるつもりだ…
幸之助は玄関の扉を開け、中へと入った。
比奈子は買い物へ行っていたのか、玄関から少し入った所にはデパートの紙袋が幾つか置かれていた。
>> 124
「ちょっとー手が離せないからー、パパー勝手に上がってー」
中から比奈子の声がした。
言われるがまま、幸之助が中へ入ると比奈子はキッチンにいた。
「丁度よかった、今から晩ご飯作るの…パパも食べてね」
比奈子は振り返る事なく、まな板で野菜を刻みながら言った。
幸之助は食卓の椅子に腰掛けると
「晩ご飯はいらん…話があるから…こっちに来て座ってくれへんか?」
出かけていたからか…家ではジーンズをはく事の多い比奈子が今日はミニスカートをはいている。鮮やかな黄色いミニスカートに白い半袖のブラウスという姿だ。
「パパ、後ろから比奈子の綺麗な足、ずっと見てたでしょう」
そう言いながら、初めて幸之助を振り返り、ニコッと笑った。
しかし、幸之助のただならぬ雰囲気を察したのか、その笑顔はすぐに消えた。
そして今度は真面目な顔で比奈子は言った
「パパが鍵を置いて帰ったから…もうしばらく来てくれないと思ってた…」
「うん…俺もそのつもりやった…」
比奈子は小さく呟くように尋ねた
「また…昨日の続き…?」
「とにかく…こっちに座ってくれ…」
比奈子は濡れていた手を手拭いで拭くと、幸之助の向かいに腰掛けた。
>> 125
幸之助が何かを切り出すのを待つように…比奈子は目を反らすことなくじっと幸之助を見つめている。
しばらくの沈黙を破るように幸之助が口を開いた
「明日…嫁と息子が帰ってくるんや…誤解が解けたんや」
比奈子は表情を変える事もなく吐き捨てるように言った
「そう…」
「もう…ここには来られへん…東京にも行かれへん…父親にもなられへん…」
比奈子は幸之助から目を反らすと
「そう…」
幸之助が比奈子の視線を追いかけると、その視線は幸之助に瓜二つの父親の写真にあった。
「最初は比奈子が好きやった…でもその後は父親代わりとして比奈子を救ってあげたい…不運な過去から…現状から…そう思ってた…でも…俺には何も出来ん…」
写真を見つめたままの比奈子は呟いた
「勝手やね…」
「勝手かもしれん…でも嘘はついてないよ…比奈子は俺に出来る事があると思うか…?」
「比奈子は…比奈子はパパに何かしてほしいなんて思ったことないよ…何かしてあげたいと思ったことはあっても…」
比奈子の瞳から一筋の涙が頬を伝った。
「俺は比奈子の父親にはなられへんよ…ただ似てるだけや…」
比奈子は幸之助を睨み付けた
「いやや…いやや…パパの嘘つき!」
>> 126
幸之助はそっと視線をテーブルに落とすと
「嘘つき…?それは比奈子やないのか…?」
比奈子と視線をぶつけたままでは言えないような気がした…。
哀願するように比奈子は言った
「比奈子がいつ…パパに嘘ついたの…?」
「岡ジ…岡島から全部聞いたんや…北新地のクラブでの事…圭一の住まいを面倒みた経緯…遠藤が自殺した原因…」
比奈子は声を荒げた
「岡島さんが何を知ってるって言うの?」
幸之助は諭すように言った
「比奈子…岡島は全部知ってるよ…オーシャンのママと岡島は昔からの知り合いやからな…比奈子を立ち直らせる為に岡島がママに頼んだんや…」
それを聞くなり、テーブルの上に置かれていた幾つかの調味料を両手で払いのけた。
床に落ちた調味料の小瓶が激しく音を立てた。
そして比奈子は両方の手でテーブルを何度も叩きながら
「何よ!人を馬鹿にして!比奈子、比奈子だけが知らんかったやなんて!」
そう言うと比奈子は両手で顔を覆ってテーブルに泣き崩れた。
こんなにも怒りに打ち震えた比奈子を見るのは初めてだった。
「だからと言って…見捨てる訳やない…だけど…俺に出来る事は…もうないんや…すまん…」
>> 127
「パパ…お願い…比奈子を一人ぼっちにしないで…パパの言う事なら何でも言う事きくから…比奈子を叱って…でも…一人ぼっちにしないで…」
何が何でも…全てを明らかにさせるという気持ちは…幸之助にはもうなかった…
「比奈子が誰かに酷い目にあわされてるなら…何とかした…けど…比奈子が誰かを酷い目にあわせてたなら…俺にしてやれる事はないよ…ごめん」
「…」
「ただ…最後に言ってやれる事はある」
「…」
「比奈子はまだ若い…全てを償えるなら償って…やり直すんや…一から人生をやり直すんや」
比奈子は椅子から立ち上がろうとした。
幸之助はぼそっと言った
「コーヒーならいらんよ…まだ言いたい事もあるし」
比奈子は腰をおろした。
そして再び父親の写真に目をやると…
「パパ…最後ってどういう意味…?」
幸之助は躊躇なく言った
「俺は妻子を愛してる…一人になってみてよくわかった…でも…とんだ誤解から二人を傷付けた…もう二度と傷付けたくないんや」
比奈子はそっと瞳を閉じた。
「あの時もパパはそう言った…家を飛び出して比奈子が会いに言った時…」
まただ…
また父親と幸之助が…比奈子の記憶の中で混同している…
>> 128
瞳を閉じたまま…比奈子は続けた
「お金が欲しくて会いに行ったんじゃない…比奈子はパパに助けてほしかった…パパと一緒に暮らしたかった…でもパパは言ったよね…今の家族が大事だと…」
「…」
「でも…そのお金がパパにとってどれ程大事なお金だったかなんて知らなかった…パパが自殺して初めて知った…」
「…」
「パパの新しい奥さんに比奈子は電話したの…そして酷い言葉で散々罵った…お前らなんか死んじゃえって…パパ…ごめんね」
「…」
「だからもう二度と…比奈子はパパを手離さない…逃がさない…」
比奈子がそっと目を開け…幸之助を見つめて呟いた
「ねえ…パパ」
その言葉に…幸之助は心の奥底に恐怖にも似た得体のしれない気持ち悪さのようなものを感じた。
「俺は比奈子の父親じゃない…比奈子の父親は…もう亡くなってるんや…」
比奈子は幸之助の上着の両方の袖口を掴むと激しく引っ張り…そして怒鳴るように言った
「パパはここにいる!比奈子の目の前にいる!パパ比奈子を誉めてよ!パパを苦しめたお金に比奈子は復讐したの!」
「だから手段を選ばす…金の為に他人を騙したんか…?パパはそんな事しても喜ばへんぞ!」
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