…。
‐登場人物‐
♂壬生崇
(みぶたかし)
♀榊原来美
(さかきばらくるみ)
♂鬼頭新
(きとうあらた)
♀椎名恭子
(しいなきょうこ)
♂藤木仁
(ふじきじん)
♀荒川鳴海
(あらかわなるみ)
etc.
14/03/16 18:47 追記
… は
短編&中編のを好き勝手に考えたやつを載せとります
しかも作者は良く文章表現や脱字・誤字をしますが読者様の頭の中で修正してください😂💦
あと多忙な為、亀レスになりしかも…のタグで飛べません
ご了承お願いします😂💦
はじめから読んで貰えたら幸いです
では失礼おば➰👻
作者のアル🍺より
14/06/23 00:56 追記
最近、ガラからauAndroidスマホに機種変して、なかなかなれましぇん。しかもSNSだとau絵文字が使えません(>_< )
そういえばアプリでАSKノベルゲームメーカー(自分でサウンドノベルゲームが作成できる)っていうのがあって、そこのミドルサーバーでこの …。の一番目の作品を~奇怪~というタイトルにかえてupしとります。もしサウンドノベルゲームが好きな人はお試しあれ。(´▽`)ノ
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>> 50
ガシュン ガシュン
ガシュン ガシュン
2メートル程背丈がある曲線で人型をしたメタリックシルバーのロボットが真横まで来るといきなり止まった。
ウィーッ
頭が割れ無数の触手なものが出てペチョペチョと物に触れていく。二人は地面を這うようにして徐々に後退して裏口の扉を音が鳴らないように慎重に開けると一目散に逃げ出した。
「ハァハァ…ふう生きた心地しなかった。」
大吾は額の汗を拭った。
「ゼェゼェ…あんちゃん、あれに捕まると最後だからな。他の連中が何人か捕まるの見たんだがよ…」
元は汗をタラーッと掻いた。
「どうなるんですか?」
「雑巾のように捻られ血を搾られたり袋に詰められサンドバッグのようにされたり…そりゃもう拷問だ。」
「絶対に捕まったら地獄ですね。」
「あぁそうだな。」
炎天下と今の元さんの話しで大吾は何ともいえない汗を掻いた。
立体映像を見ながらいりくんだ細い通路を進んで行った。
>> 51
ヒューッ ヒューッ ヒューッ
「何の音だ?」
無数の風を切る音があちこちで聞こえる。大吾は辺りを見回すが何も見あたらない。
ピピピッ
シグナルが突然鳴り出す。
「!?」
立体映像に突如赤い反応が4、5、6と増える。
「こりゃ一体…」
元もキョロキョロ辺りを見回す。
ガバッ
大吾はブロック塀に両手をかけ「よっ!」と首だけ覗かせると一ヶ所からミサイルみたいに打ち出されたロボットが飛んできてパラシュートでユラユラ落ちて来るのが見えた。
「空からどんどん降ってきやがる。」
タッ
「元さんこのままじゃジャンク街は追跡ロボットに埋め尽くされる。このエリアは危ない急ごう。」
元を促すと細い通路を抜け出し別のエリアを目指す。
「ハァハァ…」
大分走ると高層ビルが沢山建っている。
だが幾つも入ろうしたが高圧ガラスの扉が閉まって入れない。
「駄目じゃの。」
諦めかけたその時人が1人入れる入り口を元が見つけた。
そこは巨大なショップモールだった。
>> 52
ショッピングモールの遊歩道には左右木々が植えてある。
立体映像を見ても赤い反応は無いので息を切らした二人はベンチに座り休息をとった。
「ねぇあんちゃん何で、ここに来たんだ?」
元が言ったのはショッピングモールの事ではなく何故参加したのか。という意味だった。
「そりゃこの状況から…貧乏から脱出したかったんだ…両親の残した借金のせいで毎日追われるのを打開したかったんだ。」
大吾はベンチをバンと叩いた。
「まぁ俺は骨董収集で財産どんどん使っちまって家族から愛想つかれ逃げられ…まぁ自業自得なんだがな。」
ベンチに片肘ついて横たわっていた元は「よっこらしょ。」と身を起こすと看板を見てエスカレーターに歩いて行った。大吾もそれに続く。
2Fに上がると洋服店や靴屋が沢山連なっている。
元は自分の好みの靴を探し出すとそれを履いた。
プシュー
元の足の大きさに合わせ自動的にサイズが変化する。
ピッ
更に小さなスイッチを押すと色や柄も好みに変化した。
>> 53
大吾も好みのシャツと半ズボンを見つけるとワイシャツとスーツのズボンを脱いで着替えた。
あとは着ているか着ていないか分からないぐらいの超軽量の最新ジャケット勿論自動温度調節装置もついている。
ウィーッ
「こりゃ快適だ。」
大吾は追われているのも忘れて3F雑貨、4F電気製品と色々と展示してあるのを見て回る。
だが5Fのに着くとドキッとした。そこはロボット売り場であった。
今やロボットは半年ごとにバージョンアップしているのが当たり前で数年前のものはだいぶん型落ちとなっていた。
あの追跡ロボットも最新型で展示してあった。
「まさか起動しないよな…」
大吾はゴキュと唾を飲んだ。
「全く…どこ行ったか探したぞ。」
ウィーッと元がエスカレーターで上がって来るとその後ろから1人の可愛い女の子が上がって来た。
「2Fの洋服売り場に隠れているのを見つけたんじゃ。」
小学校3、4年生ぐらいの女の子は可愛いくペコッとお辞儀をした。
>> 54
女の子はツインテールをして薄いピンク色したシュシュでとめている。服も薄いピンク色のワンピースを着ていた。少し白い花柄があしらってある。
顔は涙の跡が残っている。
「お名前何てぇの?誰か一緒にいるのかな。」
175センチの大吾は自分の胸の高さの女の子にしゃがんで優しく尋ねた。
「わ…渡瀬ゆみ…」
恥ずかしいのか下を向いてモジモジしている。
「あのね…お父さんとお母さんと三人でここにお洋服買いに来てたんだけど私トイレに行きたくなって1人で行ったの。そしたら…急にいっぱいの人の叫び声が聞こえて私恐くなってトイレに隠れてたの…」
「うんそれで。」
大吾は相槌をうつ。
「…それでトイレからソッと覗いたら銀色のロボットからみんな逃げてて捕まった人達はヘリコプターに詰め込まれてどっかお空に飛んでたの。あとはずっとお父さんとお母さんをここで探してたの。そしたら、このお爺ちゃんと会ったの。」
ゆみは今にも泣きそうだった。
ゴソゴソ
「嬢ちゃんほら飴玉でもしゃぶりな。」
元は腹巻きから黄色いビニールに包まれた飴玉を取り出すとゆみに手渡した。
「ありがとう。」
ゆみは涙を拭くと子供らしくニッコリ微笑んだ。
>> 55
リンゴーン
リンゴーン
リンゴーン
ゆみの両親が居ないか掛け声をかけながら隈無く探したが見つからず三人がショッピングモールの1Fにエスカレーターで下りた頃、遊歩道中央の噴水の中に建っているオブジェから午後3時を報せる鐘が鳴り響く。
「ウッシッ!夕方5時まであと二時間…」
掌に拳をバシッと合わせると大吾は気を引き締めた。
「大吾。二時間か短いような長いようなってとこじゃな。」
元はそう言うと大吾を見た。
「えぇ。確かにあのロボットから逃げ切るには二時間は長い。けどポジティブに考えるしかない。ゆみちゃんのお父さんやお母さんも無事に生きてるさ。」
大吾のズボンの裾をションボリ握っているゆみを肩車すると両親を探しに行こうと出口に向かった。
大吾は内心ゆみの両親はもう絶望的だろうと考えていた。
(いや待てよ…何で元さんが見た時みたいに直ぐ殺さずヘリコプターで連れて行ったんだ…まだ生きてる可能性はある。いや何考えてるんだ俺は…自ら捕まえて殺して下さいって言ってるようなもんだ。)
大吾は葛藤した。
>> 56
ピッポッパッ
大吾はショッピングモール出口辺りでゆみを肩車から下ろすと、立体映像を出し地図を100メートルから1キロメートルに切り替えヘリコプターが飛んで行ったと思われる場所を割り出した。
「大吾何してんだ?」
元は横から覗く。
「実はゆみちゃんの両親が捕まってそうな場所を探してるんです。」
「なに馬鹿な事言ってんだ大吾ッッ!あと二時間なんだぞ!」
元の怒鳴り声にゆみはビクッと反応し大吾の背中に回る。
「でも…この子が可哀想で…」
チラッとゆみを見ると頭を撫でた。
「おりゃもう知らんせいぜい二人で行ってくれ。」
元は唾を吐き出した。
「げっ元さん…すいません。」
大吾がゆみと手を繋いで出口を出た時に激しい爆発音が聞こえる。
「!?」
ピピピッ
シグナル音が突如鳴り出した。
そして5Fから1Fまでガラス通路をバリンバリン突き破り展示して動かない筈のメタリックシルバーの追跡ロボットが爆音と共に現れた。
>> 57
シュイーッ
ザシュ
ロボットの頭が割れ無数の触手が飛び出してくるとジャンプして大吾とゆみに襲いかかる。
バリンッバリンッ
元はロボットの背後から遊歩道に設置してある植木鉢を次々と投げつけた。
「大吾、嬢ちゃん連れて逃げな!」
元の方へロボットは向きなおす。
「でも…」
「早くしねぇか!嬢ちゃんはな家を出て行った息子夫婦の子供に似ててな…だから…」
グオォオォン
ロボットの触手が元の右腕を引きちぎる。
「ぐぎあぁぁぁッッ!」
元は絶叫をあげた。
更に触手は首を絞め上げる。
「お爺ちゃん!」
ゆみは叫んだ。
「お爺ちゃんか…悪くねぇな…」
ガサ
腹巻きからジャンク屋からくすねてきた高性能手榴弾を取り出すとピンを抜いた。
「ハアハア…あばよ…お前ら楽しかったぜ。」
大吾はその瞬間ゆみを抱き抱えジャンプすると出口から勢いよく飛び出した。
ゴガアァァァ
凄まじい爆音と辺りに煙りがたちこめる。
ゴオオォォォォッ
>> 58
ギィギィギィ
ロボットの触手部分は吹き飛びメタリックシルバーの外装が砕け落ち動きが止まった。
「元さん…」
大吾とゆみは涙を流した。
そこへヒラヒラと端が焦げた白い鉢巻きが大吾の目の前に舞い落ちてきた。
「これは元さんの…」
ギュッ
拾い上げ握り締めると自分の額に巻いた。
「ゆみちゃん行くよ。」
大吾とゆみは手を合わせるとその場を立ち去った。ゆみは「お爺ちゃんさようなら。」と呟くと何度も後ろを振り返る。
ザッザッザッ
立体映像の地図を頼りにゆみの両親が捕らえられているであろう建物を目指した。そこに行くためには険しい山を通って行かなくてはならなかった。
パキパキ
「大丈夫か。」
「うん。」
山の中は高い木々に囲まれ薄暗く腰ぐらいまで伸びた雑草や木々で進みにくくジメジメ湿気をおび岩の苔で滑りそうになる。
ゆみの手を引きながらゆっくり歩いていく。
その時だった耳を覆いたくなるような機械音が突如鳴り響く。
グゥオォォン
「!?」
二人は耳を塞ぎながら顔を見合わせた。
>> 59
グオォォッ
ギャリギャリギャリ
だんだんと音が大きくなるにつれ木々がバタバタと薙ぎ倒されていくのが二人の方に近づいてくる。
グオォォッ
ギャリギャリギャリ
「!?」
それはでこぼこな道なき道を戦車みたいな形状に左右巨大な羽みたいにチェーンソウが付いて唸りを上げて木々を薙ぎ倒していたのだ。
「こっちだ!」
大吾はゆみの手を引っ張ると山肌が見える岩場に向かった。
だがなかなか蔦とかが絡んで思うように走れない。
「きゃっ!」
ゆみが足をとられ転んだ。
「ゆみちゃん!」
グオォォッ
バキバキバキバキッッ
もう20メートルとすぐ目と鼻の先まで近づいて来ている。
大吾はゆみの体を抱えると「ゆみちゃんシッカリ捕まってろよ。うおぉぉっ!」と声を上げて何を思ったのか戦車みたいな乗り物に突っ込んで行った。
ギャリギャリギャリ
「南無三…」
そう呟くと大吾はギリギリひかれない所で跳躍した。
>> 60
バッ
戦車みたいな乗り物にぶつかる瞬間大吾の上着がシュババッと丸くエアバックのように膨らみ衝撃を吸収した。
「ふう~ッ。危機一髪。」
辛うじてかわした大吾は上着の内側からゆみを出すと通り過ぎた戦車みたいな乗り物を見つめた。
ギャリギャリギャリ
キャタピラがこっち方向に回転しだす。
「おいおい…ゆみちゃん、あの沢山蔦が絡まって垂れ下がったところに捕まれ。」
「うん。」
二人は一目散に走り出した。
その方角は切り立った崖がある。
ギャリギャリギャリ
戦車みたいな乗り物が巨大なチェーンソウの音を唸らせながら突っ込んで来る。
「よしッッ!ゆみちゃん行くよ…いち、にのさん!」
ギュオッ
二人は跳躍すると蔦の束に捕まった。
グオォォッ
戦車みたいな乗り物は木々を薙ぎ倒しながら崖下に落下していった。
「やったね。」
二人は顔を見合せ微笑んだ。
その時だった…
バキバキッ
捕まっている蔦のおおもとの巨大な木が倒れ崖の方に蔦の束ごとつき出す。
>> 61
ヒュー
ブラ~ン
「うわっ!一難去ってまた一難かよ。ゆみちゃん大丈夫か?」
「うん、何とか…」
大吾は蔦の束に捕まりながらビル四階ほどある高さの崖下を覗いていた。岩肌が見え途中一本だけ横に木が生えているぐらいだ。
蔦が絡んでいる大木は崖から斜め上に3メールほどつきだしておりそこに二人は簑虫みたいにぶら下がっていた。
「…。」
だんだんゆみの顔色が悪くなって来た。
ズズ…
少しずつ落ちていっている。
「ゆみちゃん!蔦を上れないなら俺より崖に近いから一か八か振り子みたいに揺らして飛びうつれ。」
大吾は叫んだ。
「でっでも…」
ゆみは下を覗いて躊躇した。
「そのまま落ちて死ぬよりましだ。元さんを思い出せ!」
「元さん…」
ゆみの目に力がこもった。
「私やってみる。」
ゆっくり揺らしながら蔦が切れないのを確認するとゆみは徐々に勢いをましていった。
ビュンビュンビョン
最高点に達した時、ゆみはスピードに身を任せ手を離すと勢い良く崖に飛んだ。
>> 62
「ん…んっ…」
ゆみは崖ギリギリに飛び移ることが出来た。
ガラガラ
「きゃっ!」
しかし体勢を崩し体が後ろに反れ落ちそうになる。
ギュオーッ
「ゆみーッッ!」
大吾がその後ろから飛んでゆみを抱きしめ草むらまで転がった。
「ふうっ。何とか間に合った。」
大吾の顔や脛に沢山切り傷がついていた。
「ありがとう。」
涙目でゆみはポケットから可愛らしいハンカチを取り出すと大吾の血が滲んでいるところにあてた。
「良く勇気を振り絞った。」
大吾はニコッと微笑み、ゆみの頭を撫でると立ち上がった。
良く見ると崖すれすれから道なりに行く上の方へ白い病院みたいな建物が見える。
「ゆみちゃん、あと少しだ。」
ゆみの手を取ると崖から落ちないように歩き出した。
やっとの事で建物の近くまで着き茂みから覗くがメタルシルバーのロボットの気配がない。
二人は不思議に思いながらも腰を低くして白い壁までススッと近づくと入り口を探した。
「お父さん、お母さん…早く会いたい…」
ゆみは呟くと大吾の手を握りしめた。
>> 63
白い建物の入り口を見つけると大吾はソッと覗きながら様子を伺った。
中は沢山のLDライトの白光した蛍光灯でますます壁が白く見える。
入り口から見て廊下右手の10メートル先にはエレベーターがあり左手には取っ手が付いた扉が4つ奥まで続いてある。
ササッ
大吾はゆみに目で合図を送ると素早く建物の中に侵入した。
先ず左手の扉に近づいてみたが良く見ると取っ手の横にセキュリティロックがあり暗証番号を入れないと開かない仕組みになっていた。
他の3つとも同じ仕組みになっている。
「こりゃパスナンバーがないと無理だな。」
大吾は苦笑いするとゆみとエレベーターに向かった。
「…三階まであるみたいだな。先に進まないと道は開かれないし…」
っと大吾が考え迷っているうちにゆみがエレベーターのボタンを押した。
「あっ!」
エレベーターが三階から降りてくる。
二人はエレベーター付近の左側の隙間に身を隠す。
チン
ウィーン
大吾は誰も出て来ないか確認するとゆみの手を引っ張って乗り込み二階のボタンを押し「誰も出て来ませんように…見つかりませんように…」と祈った。
「ねぇ口から言葉漏れてるよ。男の人だから頑張ってね。」
小学四年生のゆみは率直に言うと大吾の後ろに隠れた。
ウィーン
チン
二階に着きエレベーターの扉が開く。
>> 64
キョロキョロ
大吾はエレベーターの扉が開くや否や辺りを見回した。
「…誰も居ないみたいだな。」
エレベーターから左右10メートルの廊下が伸びている。エレベーターを出た目の前は高圧ガラスの部屋が直ぐ見え何か分からないアーム型の機械が何本か天井からのびておりその下には白い手術台が7つ見える。
「何だ…こりゃ何か手術室みたいだな。」
「何だか怖い…」
ゆみは大吾の服の裾をギュッと掴んだ。
左側にドアがありそこはナンバーロックすらなく簡単に開閉する事が出来た。
キィ~ッ
中に入ると事務的な机と椅子その上にはデスクトップねパソコンがある。
「何かゆみちゃんの両親の手掛かりになるのないかな…」
カシャカシャ
パソコンを起動させるがパスワードを入力しないと開かないようになっていた。
「くっ…駄目だ…」
大吾はガックリうなだれた。
「ねぇここに何か本棚があるよ。」
ゆみが手術室の奥にある棚を指さして叫んだ。
ガッ
大吾は本棚を開けようとしたが鍵がかかっている。
>> 65
ガシャガシャ
「くっ…棚の鍵がいるな。」
大吾は棚を揺さぶるがびくともしない。
「ゆみちゃん三階に行ったら何かあるかも…」
「うん。」
ゆみはコクッと頷いた。
ピピピ
いきなり左手首の腕時計からシグナル音が鳴り出す。
「!?」「!?」
二人は驚いて顔をみあわせるとホログラムマップを出してみた。
1Fの暗証番号のロックが掛かっていた4つの部屋が解除され各部屋から3体、計12体のロボットの赤い反応が動き出している。
「まっ不味い…ゆみちゃんこの高圧ガラスの部屋を出てエレベーター2Fから3Fまで急ごう!」
「きゃっ。」
大吾はゆみの手を強引に引っ張りエレベーターまで急ぐと上に上がるスイッチを押した。
何故か2Fにある筈のエレベーターが下に降りていたからだ。
「まだ上がってくるな…上がってくるな…」
大吾は不思議に思ったが、それを考えるだけの暇もなくただ手を組み祈った。
ウィーン
チン
エレベーターの中にロボットが居ないかスッと覗いて確認すると二人は素早く中に入り、大吾は三階へのボタンを連射した。
ウィーン
「この真下にロボットが居ると思うとゾッとするな。」
ギャリギャリ
「ねぇ何か変な音がする!?」
ゆみが下の方を向いた。
>> 66
ガゴン
「うわっ!」
「きゃっ!」
いきなりエレベーターが止まり中の電灯がチカチカしだす。
ゆみは大吾のお腹にしがみついた。
ガギャンガギャン
ピピピピピ
腕時計のシグナル音が激しくなる。
「クッ…追跡ロボットがエレベーターの真下に居るんだ!糞ッッ捕まってたまるか!」
大吾は先ほど2Fの手術室みたいな場所で武器になるかもしれないと拾っていた鉄製のバールみたいなものでエレベーターの扉に突っ込み左右に開くようおもいっきり力を込める。
ギギッ
「ぐうおぉぉぉッッ!」
額に玉の汗をかきながら更に力を込めると少しずつ開いていく。
ギギッ
「ハアハア…もうちょいだ。」
ゆみも力が無いながらも加勢をする。
ギギギギッッ
「うおぉぉぉッッ!」
大吾は雄叫びを上げながら左右の指先を入れると扉が開くように力の限り振り絞った。
ガガガッ
何とか扉が開くと大人一人ぶんだけのスペースが出来た。
だが3Fの床は大吾の肩ぐらいの高さにある。
「ゆみちゃん、このままじゃ二人とも助からない。俺が肩車するから、その隙間から逃げろ!」
大吾は真剣な眼差しでゆみに言った。
「いやッッ!お兄ちゃんおいて行けない。」
ゆみは震えながら涙目で訴える。
ガギャンガギャン
エレベーターの床に衝撃が走り揺れる。
グオッ
大吾はゆみを肩車すると少しの隙間に押しやった。
>> 67
ガガガッ
ガゴン
「くっ!!」
ヒュー
ズガガッ
エレベーターの床が抜ける。
「お兄ちゃんッッ!」
ガシャ
何とか大吾はバールみたいなもので3Fの床に片手でかろうじてぶら下がり下に落ちないでいた。
エレベーターの床に貼り付いていた数体のメタルシルバーのロボットは1Fに落ちると床を無造作に押し退けこっちの方を向き頭からウネウネした数本の触手を壁にめぐらせ登ってくる。
「やべぇ…」
大吾の手は汗で滑り落ちそうになる。
「お兄ちゃん待ってて何か持ってくる。」
「ああ頼んだぜ。ゆみちゃん。」
ゆみはそう言うと隙間から顔を引っ込め奥へ走って行った。
ベヂャリベヂャリ
段々と数体のロボットが1Fを通り過ぎ2Fを登って来た。
ベヂャリベヂャリ
もう少しで大吾の足先というところまで迫ってくる。
「ここまでか…」
大吾がそう思った時、足音がパタパタ聞こえた。
「お兄ちゃんッッ!ハイ!!」
隙間から非常用の縄ばしごがパラパラパラと落ちて来た。
シュギィン
追跡ロボットが手を巨大な鎌に変形させ大吾を横に凪ぎ払う。
>> 68
スパン
非常用縄ばしごは揺れ巨大な鎌で切られた部分は1Fに落下していく。
「ひゅーッ!危ねぇ…」
大吾は間一髪体を傾けお腹の皮一枚でかわし非常用縄ばしごだけがスッパリ斬られ落ちていったのであった。
腕だけの力で3Fの床まで上りきると、ゆみが手を貸してくれ隙間へよじ登る事が出来た。
「有難う…ゆみちゃん。」
「どういたしまして。」
ゆみはニッコリ微笑んだ。
ギャリギャリ
エレベーター内の下部の方から音が近付いてくる。
「おっと。」
大吾はエレベーターから見回すと左右に広がる廊下
右廊下突き当たりに非常口と緑色の文字と矢印で書いてあり
そして牢屋が目の前に右・中・左と3つある。
「ゆみちゃんの両親は居るかな…」
エレベーター目の前の真ん中の牢屋を覗くと男女で20人いるが皆ぐったりして項垂れている。
「どう?お父さんとお母さんいる?」
大吾は非常用縄ばしごを引き揚げながら追跡ロボットの様子を隙間から伺うとゆみに聞いた。
「……。」
ゆみはジーッと目を凝らし一人一人見定めていっていた。
「ここには居ない。」
悲しげにゆみは呟いた。
「んじゃ左側の牢屋を先に見てきた方が良いな最後は右側の牢屋だと非常口が近いから。追跡ロボットが来たら何とか食い止めるからゆみちゃん見てきな。」
大吾はバールらしきものを振り回してみせた。
「うん。」
そう言うとゆみは左側の牢屋へ走っていった。
>> 69
タッタッタッ
ゆみが左側の牢屋に着いた頃
大吾はエレベーターの隙間から下を覗くとすぐ目の前に追跡ロボットが触手を伸ばしよじ登って来ていた。
「うおぁ!」
驚いて後ろに飛び退くとバールみたいなものでいつでも殴れるよう野球のバッターの様に構えをとった。
「ゆみちゃん!両親は居たか?」
大声で叫ぶとゆみはタッタッタッと走って大吾のもとに戻って来ると居ない事を告げた。
「じゃあ非常口の方にある右側の牢屋を先に行って確認してくれ俺が時間を稼ぐ。」
「うん分かった。」
ゆみはチラッとエレベーターの隙間から伸びてきている触手を見て素早く走って行った。
ヂャジ
ヂャジ
ピンクや緑色や黄色の触手がウネウネしながら大吾に近付いてくる。
「この野郎!!」
ビヂャ
触手を払いのけるとエレベーターから目を離さず少しずつ非常口の方へさがって行った。
そこへゆみがタッタッタッと走って来た。
「馬鹿何でこっち来たんだ!!」
大吾は怒鳴りつけた。
「多分、お父さんとお母さんだと思うからお兄ちゃん一緒に来て。」
二人は牢屋の方へ走った。
>> 70
ガシャガシャ
大吾は丸めた非常用縄ばしごを担ぎ牢屋の扉に着く。
「あの一番奥の方の服がお母さんのに似てるの…ただこの扉が開けれなくて…」
ゆみは涙声で話す。
「よし分かった。ゆみちゃんどいてな。」
大吾は鉄格子の扉の制御装置をバールみたいなもので壊すと隙間に差し込み腕に名一杯力をこめた。
「ぐおおぉぉぉッッ!」
しかし僅かしか開かない。
ガゴゴッ
エレベーターの方からメタルシルバーのロボット姿が見えた。
「ヤバい。」
大吾は後ろにさがり助走をつけバールみたいなものに強烈な蹴りをかました。
ガシャ
バンッ
「やった!」
ゆみは鉄格子の扉の中に入ると両親であろうと思われる人が居る奥の方のへ行った。
大吾も頭を低くしてくぐると後に続く。
「お母さん。」
ゆみは顔を下から覗いた。
「そんな…」
だがそれは絶望に変わった。
「きゃっ!!やめて…お母さん…」
しかも口からウネウネした触手がゆっくり伸びてゆみの首を絞めていく。
>> 71
ぐおっ
「ゆみちゃん!」
大吾は振りかぶると女性の遺体をおもいっきりぶん殴る。
どさっ
触手が弛むと大吾はゆみを助け出した。
「まさか…ここは…」
大吾は唾を飲む。
ゆみの母親が倒れた横に男性の遺体があり口の他にも耳や鼻から触手がウニョウニョ出てくる。
「お父さん…うっうっ…」
ゆみは涙が止まらない。
そして他に数体ある遺体からも同じように触手が出て二人にゆっくり這ってくる。
ガシュン
ガシュン
「!?」
追跡ロボットの足音が段々近付いてくる。
「ゆみちゃん…お父さんお母さんはもう駄目だ…ここを脱出しよう。ご両親はきっとゆみちゃんに生きてくれるよう願うはずだ。」
「…うん。」
両手を合わせ拝んでいるゆみをなだめ非常口に二人は向かう。
ガゴン
鉄格子から勢いよく飛び出し非常口のドアを開けると外の景色が見え日が少し沈んでいるのが見えた。
一人立てるぶんの足場があり縄ばしごを掛ける為のフックが出ている。
ガコッ
「5時まで後少しだな。何としても生きのびてやる。」
大吾は急いでそこに掛けると下に垂らした。
>> 72
ギチッ
「ゆみちゃん先に降りろ。」
垂直に切り立った白い壁で三階から地面を見ると目の眩みそうな高さだがコクッと頷くと熱風が吹き上げる中ゆみは足場を確認して下を見ながらゆっくり降りていく。
ギチッ
ギチッ
ギチッ
ビュオォォォ
「きゃッッ!」
重りが付いていた縄ばしごの下の部分は追跡ロボットから斬られて無いため風で横に揺られ思うようにゆみは進めない。
「大丈夫か?」
「うん。」
ゆみは何とか一階半の高さまでいったがその先が無くなっているため降りることが出来ないでいた。
きゃしゃな小学4年生の女の子には飛び降りるには高く横を見ると大吾の太い腕ぐらいある木の枝が縄ばしごからあと1メートルというところにあった。
ガシュン ガシュン
大吾に段々と追跡ロボットが近付いてくる。
「くっ…」
非常口のドアを閉めるとゆみの様子を伺った。
ゆみは強風が吹いた瞬間縄ばしごを揺らし白い壁に近付くと壁をおもいっきり蹴りその反動で木の枝に飛び移った。
>> 73
ザザッ
生い茂った葉に当たりながら、ゆみは太い枝に捕まった。
「大丈夫か怪我してないか?」
「うん平気。」
ゆみは葉の間から無事を伝えるため手を振った。
大吾はホッと溜め息をつくと自分も非常用縄ばしごをユッサユッサと降り始めた。
ガゴッガゴッ
追跡ロボットが非常口の中からドアを殴り付け段々と形が変形していく。
ガゴン
ドアが三階の空中を勢いよく飛んでいく。
「くっ!来やがった。」
木に隠れているゆみに大吾は動かないよう無言で指示すると急いで縄ばしごを降り一階半の高さで斬られている場所から地面にジャンプした。
ザシュ
何処に逃げようか左手首の腕時計型ホログラムマップを操作するがウンともスンとも言わない。
「んっ…」
良く見るとさっきの追跡ロボットとのやり取りでヒビが入って壊れている。
「道理でロボットが近付いて来てもシグナル音が鳴らないわけだ。」
そう呟いてるうちに追跡ロボットの一体が大吾の直ぐ背後にジャンプしてきた。
ガシュン
>> 74
ビュン
「うおっ!」
大吾はメタルシルバーに輝く追跡ロボットの巨大な鎌を飛び込み前転をしてかわすと太い木の枝の上に隠れているゆみとは反対の方へ走った。
ガシュン ガシュン
更にもう2体大吾の前に上からジャンプして目の前に現れた。
シュパシュパ
シュパシュパ
シュパパパン
4つの大きな鎌が縦・斜め・横と縦横無尽に動き攻撃してくる。
「くっ…」
大吾も流石にかわしきれずジャケットが切り裂かれていく。
「お兄ちゃんッッ!」
ついゆみは木の上から叫んでしまった。
「ハッ!!」
慌てて口を両手で押さえたがその大きな音声に反応した1体の追跡ロボットが向きをゆみの方へ変えた。
「ゆみちゃん!クソだらーッッ!!」
ゆみの所へジャンプしようとする追跡ロボットを大吾は後ろから羽交い締めした。
が…首の部分から触手が出てくると大吾を締め上げもう2体が大きな鎌を降り下ろす。
ズシャ
ズシャ
1つはジャケットのエアバックを広げたが背中を切り裂き、もう1つは左手の腕時計あたりから切り落とされた。
「ぐああぁぁぁッッ!!」
大吾の意識が朦朧とする。
「ゆみ…ちゃん…」
ウゥーーーッ
その時、気を失う中
耳の奥にサイレンが聞こえた…
>> 75
………
……
…。
「ハッ…ここは…」
大吾は目を覚ますと天井にある眩い蛍光灯に目をしかめた。
ズキン
「ぐっ!」
背中と左手首がおもいっきり疼く。
「良かった…もう目を覚まさないかと思った…」
大吾は医療用ベッドに寝ておりその直ぐ横の椅子に座っていたゆみが泣きながら近付いてきた。
どうやら夕方5時で追跡ロボットの動きが止まりこの場所へ運ばれたようだ。
ブーン
パチパチパチ
「おめでとう御座います。」
ツンツン立った髪型に流行りの白いスーツでコーディネートした男が天井から放出されるホログラム映像で映し出される。
「生き延びた四人の皆様には一人あたり5億円の賞金が贈呈されます。」
大吾は20畳ほどある部屋を見回すと黒いツバのある帽子を被りぼろぼろの黒いジャージ姿の男性と茶髪で髪がショートボブであちこち血まみれの白いシャツにジーンズ姿の女性を確認した。
カガガッ
シュイーン
床の一部が横にずれると20億の札束が積み上げられた透明のケースがせりあがってきた。
ガシュン
「参加者の皆さんご苦労様でした。スリル満点の逃走劇テレビ視聴者の皆様楽しんでいただけましたでしょうか?また来月の全国放送を楽しみに。ではシーユーネクスト。」
ブーン
投影されていた男の姿は消えた。
「何が流行りのテレビ番組だ!金が稼げるからって聞いて参加したのにただの殺戮ショーじゃないか。」
大吾は無くした左手首を見て激怒した。
「お兄ちゃん生きてて良かった。」
ゆみはベッドに上がるとギュッと抱きついた。
「ああっ…」
大吾もゆみを抱きしめると両親を亡くした代わりに一緒に住むことを決意した。
……
…
それから1ヶ月後また別の誰かが参加する死の逃走劇が始まる…
完
>> 78
なおさんどもども🙋
あっ💦ギャグは団扇無いんで
いや…センス無いんで💧タラ~
ホラホラそこの読者凍らないように🆒😂
まぁギャグものは保留ということで…
>万が一他の読者の方ファンレスあったら宜しく<
(^∀^)ノ
http://mikle.jp/thread/1144461/
シャーッ
キュッ
「ねぇ聡~ッま~だ~ッ!」
小百合はシャワールームから声をかける。
シーン
「あれ?聡ってばどうしたの…」
小百合は不思議に思うとシャワールームから白いバスローブを羽織り腰まである長い茶髪はタオルでくるんでアップして出て来ると聡を探した。
部屋は薄暗くコジャレたBGMが流れる中ベッドの上を良く見ると黒い影がぼんやり見える。
「うふッもう聡ったらシャワーも浴びないで気が早いんだから。」
バスローブを脱ぎ捨て19歳とは思えない豊満なボディを露わにすると軽い羽毛の布団を捲りベッドの中に潜り込んだ。
ベッドを触ると何かヌルッと生温かいものに当たる。
「んっ!?」
違和感を覚えた小百合はベッドの枕元にあるライトのスイッチを押した。
カチッ
聡の様子を見て
小百合は全身の鳥肌がたち悲鳴を上げた。
「ヒッッ!ヒィ~ッッ!!」
目はぐるっと白眼を剥き自分の首を両手で掻きむしり口からは血を吐いてビクンビクンと痙攣していた。
「さっ聡ッッ!!」
我に返った小百合は病気かもしれないとフロントに繋がる内線の受話器を取った。
>> 80
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
「302号室なんですけど大変なんです。連れの者が血を吐いて痙攣おこしてるんです!」
小百合はフロントに繋がったと思いきや一気に状況を説明した。
「…………………。」
だがフロントには繋がったものの返事は返ってこない。
「あれっ!おかしいなぁ…」
もう一度フロントに掛け直してみる。
ルルルルル ルルルルル
ガチャ
「……………………。」
「んっもう何で出ないのよ。直接フロントに行かないといけないじゃない。」
ガチャン
思いっきり受話器を降り下ろした小百合は聡の事を気にしながらも急いで就活で着るようなオーソドックスなスーツに着替えるとオートロックのカードキーを抜いて廊下に出た。
直ぐ近くのエレベーターに小走りで近付くと下を向いたボタンを押した。
しかしずっと待ってもなかなか一階からエレベーターが上がって来る気配が一向にしない。
「ここのホテルこれから先、絶対使わないんだから。」
小百合は非常用階段を探した。
緑の表示で奥にあるのを確認しその場に着くと扉をギィと開けて薄暗い踊り場に出て階段を下りだした。
>> 81
カツコツ
カツコツ
薄暗い中にハイヒールの音だけが鳴り響く。
何処かの階の方から何か聞こえる。
ズリュリュ ズリュリュ
「何の音かしら?」
小百合は不信に思いながらも聡を助けたい一心でカツコツ素早く足を交わして下りて行く。
息を切らせようやく一階に着くと勢いよく非常用階段の扉を開けフロントに向かった。
シーン
時計の針が午後7時をさしているが広い玄関ロビーには人っ子ひとり居ない。
「あれっ?何で…あそこのレストランで30分前にディナーを食べて出て来た時にはあんなに人で溢れてたのに…」
案の定フロントには誰の姿もなかった。
しょうがなく小百合は回転式扉を抜けホテルの外に出ると小雪の降るなか人の気配が無い。
ホテルの周りの木々に飾られている小さくて宝石の様に蒼いLDEライトがチカチカ輝いているだけである。
「そんな…」
ホテルの敷地から出て道路に出て見るとたくさんの車も四車線ある道のど真ん中に乗り捨てあり雪がうっすら積もり無人だ。
コッカッコッカッコッカッ
小百合は病院に連絡する事も忘れ独り恐怖にかられると一目散に聡といた302号室へ向かった。
>> 82
「一体どうなってるの。」
小百合は足早に回転式扉を過ぎるとエレベーターに向かう。
コッカッコッカッコッカッ
エレベーターの階数を見ると三階の所で止まっている。
一応上のボタンを押すがなかなか来ない。
「ハァ~ッまた~何かの嫌がらせ。」
小さなため息をつくと非常用階段に向かい三階を目指した。
今度は何の気配もなく三階に着くと302号室のドアにカードキーを差し込んで開けた。
カチッ
部屋の明かりをつけシャワールームやトイレがある洗面所をを通り過ぎベッドを見て小百合は驚愕した。
「えっ…」
大きなダブルベッドに居る筈の聡の姿が無いからだ。
しかもベッドメイキングしたかの様に綺麗に整っており羽毛布団の血糊も残っていない。
「ねぇ聡ッ大丈夫なの?」
聡が痙攣から治ったと思った小百合はシャワールームを覗いた。
ガチャ
誰も居ない…
洗面所横のトイレかもとドアをノックして開けたがやはり誰も居ない…
衣装タンスを開けて見ると来たときのまま木製のハンガーに聡のグレーのスーツがかかっており荷物もそのままになっている。
同じように靴棚を見たが流行りの黒い革靴もそのままだ。
その時だった…
コンコン
302号室の外の廊下側からノックの音が鳴り響いた。
>> 83
ドキン
小百合は恐る恐る物音を立てずドア付近まで忍び足で近付いた。
ドアには小さな覗き穴が付いており廊下の方を誰か来たのか確認するが誰の姿も無い。
「んっ…」
ドアの下の隙間から何かカードらしき物が見える。
「何かしら?」
サッとしゃがむとカードを拾った。
それはトランプみたいな感じで裏返すと奇妙な絵柄が描いてあり小百合はよく分からず首をかしげた。
「何これ気味悪い…人の様にも見えるし悪魔の様にも見えるし…っていうか全然ワケわからない。」
その場にポイッと捨てるとベッドに戻り横になった。
今まであった事をずっと天井を見ながら振り返って考えているうちにディナーで飲んだワインのせいなのか色んな事がありすぎて疲れたのかウトウトしいつの間にか眠ってしまった。
>> 84
……
…
グゥォン グゥォン グゥォン
『我が一族の血を引く娘よ。目覚めるのだ。』
どこからともなく男の様な女の様な声が頭の中に鳴り響く。
『誰!?』
『お前はこれから先、闘い続けなくてはならない。』
『何なのよ闘うって。』
『直ぐに解る…カードを…』
『ねぇってばぁ~ッッ!』
ガバッ
右手を天井に向け伸ばしたまま小百合は全身汗びっしょりになって目を覚ました。
「ハァハァ…へんな夢…っていうか汗かいて気持ち悪ぅぅ。」
玉のような額の汗を拭うとベッドから起き上がり衣服を脱ぎ出した。
シャワールームの脱衣室を通り過ぎようとした時ある事に小百合は気が付いた。
「んっ!」
全身映る鏡の前に立ち止まり自分の左肩に何か大きな痣が見えたからだ。
よく見ると何かの紋章みたいなものが浮き出ている。
「やだッッ何これ!嫁入り前なんだから、やめてよね。」
小百合が鏡越しに紋章を見ていたその時…
バリン
ビュオォォォッ
いきなり窓ガラスが割れ雪が混じった外の冷たい空気が部屋の中へなだれ込んできた。
「きゃっ!」
慌てて目についたバスタオルを腰に巻いて左腕で豊満な胸を隠すとベッドに脱ぎ捨てた衣服を取りに急いだ。
>> 85
スーッ
人間の形をした透明な靄の様なものが窓から入って来る。
シュオン
そしてそれが部屋の床に着くと実体化した。
腰まである長い金の髪に白くて餅のような肌、天使みたいな羽が生えた裸の綺麗な女性が現れた。
「何なの一体…」
ベッドの上にある下着をサッと取ると天使みたいな女性から目を離さず身に付けた。
ゆらっ
ゆっくり光り輝く女性がこちらに振り向いた。
『お前を排除する。』
重く冷たい口調で小百合に言ったかと思うと前に右手を翳す。
シューーッ ピキン
右手には氷で出来た西洋の片手剣を思わせるような物体が現れ、そして剣を小百合に向けた。
「ちょっちょっと!何なの特撮の撮影…」
シュギューッ
小百合が言葉を発するや否や天使みたいな女性は剣を縦に振る。
バサッ
布団からたくさんの羽毛が舞い散る。
『排除!』
今度は顔目掛け横に振った剣が襲いかかる。
シュバッ
幼い頃から新体操をして身体が柔らかい小百合は体を後ろに反らしかわした。
「フ~ッそう言えば変な声の奴がカードが何とかとか言ってたわね。」
玄関付近にカードを捨てたのを思い出すと天使みたいな女性の攻撃を飛び込み前転でかわし床に落ちているカードを拾った。
>> 86
シュパ
黒いカードには紫色で肩と同じ紋章が入っており反対側には、やはり人間の様な悪魔の様なものが描かれている。
「拾ったは良いけど…このカードが何の役に立つのよ。」
じっと小百合はカードをみつめるが何も変化が無い。
ゆらっ
ベッドがある部屋からゆっくり天使みたいな女性が剣を脇をしめ前に突き出して近づいて来る。
ゆらっ
「あんッもうッッ!」
小百合の直ぐそばまで来ると素早い突きを喉元に繰り出してきた。
シュバッ
「きゃっ!」
しゃがんでかわすと氷の剣は分厚い木のドアを容易く貫いた。
その時、カードが手から離れ左肩の赤紫色した痣みたいな紋章に触れた。
キュイーン
眩い光りに包まれると小百合の長い黒髪が白金色に変わり、下着だけの服装が変化していく。
「えっえっ!!」
ベースになる服装は純白なシルクの布で覆われスカートの丈が短い。その上から羽の様に軽くて丈夫な白銀色の胸当て、肩当て、脛当てが装備されいく。
『小賢しい。』
シュバ
天使みたいな女性はドアから氷の片手剣を抜くと小百合の腹部に刺した。
ズガッ
しかしそれは残像で天使みたいな女性の背後に小百合の体は白金の髪を靡かせ回り込んでいた。
シュン
『何ッッ!』
「体が嘘みたいに軽いわ。体重計に今乗ったらいつもより少なくなってるかな。」
シュババババッ
『排除する。』
目にも止まらない速さで連続突きを出して小百合に襲いかかる。
>> 87
小百合の目にはゆっくり剣の動きが見える。
シュー
バー
バー
バー
バーッ
紋章の力が解放され恐ろしい程の動体視力が上がり相手の繰り出す攻撃がスローモーションになって見えているのであった。
更に自分の動きが目にも止まらない素早さになっている為、軽々と氷の片手剣を頭や体をちょっと動かし紙一重でかわしていた。
『馬鹿なッッ!』
天使みたいな女性からは小百合を貫いて見えるが手応えがなかった。
(もしかして力も上がっているかも。)
小百合は相手のお腹目掛けパンチを繰り出す。
「えいっ。」
ドゴッ
『うがッッ!』
バキバキッ
ゴゴオォン
体をくの字に折り曲げドアを突き破り廊下の壁に激突する。
「ひゃ~凄いパワー。壁にヒビが入ってる。」
小百合は驚くと両掌で口を押さえた。
『おのれ~ッ』
ガゴッ
女性の綺麗な顔がみるみる恐ろしい形相になる。
そして背中の翼を広げると無数の先が鋭く尖った羽をマシンガンの弾の様に飛ばしてきた。
シュララララララララッ
流石に動体視力が良く素早く動けても、この無数の羽の刃はかわせない。
『排除!排除!排除!』
その時、床に落ちたカードが光っているのが見えた。
>> 88
シュピ
狭い廊下でかわしきれないと思った小百合は鋭い羽がくる前に素早く輝いているカードを拾うと一か八か左肩の紋章にあててみた。
ピカーッ
また身体があの眩い光りに包まれると今度は両手が炎に包まれた。
ゴオゥッ
「ちょっ火なんて熱いわよ…
んっ全然熱くない。
でっ…この両手の火どうすれば良いのよ。」
半べそをかいている間に無数の鋭い羽がもう目の前にきている。
『これでお前も終わりだ!死ねッッ!』
プツン
小百合の中で何かが切れた…
「私が死ぬ…はんっ天使の羽ぇ~こんな攻撃効かないね!」
小百合は豹変するとボクサーの様にファイティングポーズをとった。
「ウオォォォラララ!!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーッッ!」
目にも止まらないな炎の拳の超ラッシュを繰り出し羽を燃え散らしながら天使のような女性までジリジリ詰め寄っていく。
『なっ何だコイツは!』
女性の顔はいつの間にか怯えていた。
「だいたい聡が血吐いて倒れ消えたのもホテルや外の人達がいなくなったのもアンタのせいね。それに私が何で襲われるか訳分かんない。とにかくアンタが元凶!だからアンタをぶちのめす!」
プッツンモードの小百合は右人差し指で女性を指差し一気にまくし立て喋る。
>> 89
「アンタ覚悟しなッッ!」
ゴゴオゥッ
それに呼応するかのように両手の炎は勢いを増す。
『ヒッッ!』
天使みたいな女性は声にならない声を発した。
「天国に逝っちまいな!ウオォォォラララオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーーッッ!これで終わりだ!!」
ズゴゴゴゴゴッ
女性の体中は小百合の左右の腕から繰り出されるデンプシーロール炎の猛ラッシュをくらい最後に地を這うようなアッパーを喰らい廊下の天井に頭から突き刺さった。
「ハァハァハァ…私を怒らせるんじゃないわよ。」
グウォン グウォン グウォン
シャギーン
ドサッ
小百合は意識を失った。
……
…
ガヤガヤ
ガヤガヤ
「さ…。」
「さゆ…。」
「おいッ!小百合しっかりしろ!」
誰かが頬っぺたをペチペチ叩いている。
「んっんんっ…」
ゆっくり片目を開けると光りで眩く顔をしかめた。
そして両瞼を開け視力が戻ると目の前には聡がいる。しかも抱きかかえて涙を流していた。
「さっ聡…!?無事だったのね。」
一体何がどうなっているのか良くみると廊下には警察官や消防士でごったがえしていた。
「何か爆発みたいなのが俺らの部屋であって、しかもお前下着のまま廊下で倒れていて…良かった生きてて…」
聡は小百合をギュッと抱き締めた。
部屋のドアは割れ廊下の壁は大きくヒビが入っており廊下の天井には穴が空いていた。
(夢だったのかしら…そうよね。あんな事夢に決まってる)
「んっ何だこれ?」
聡は床に落ちているトランプみたいなカードを拾い上げ不思議そうに見つめる。
それは黒に紫の紋章が描かれたカードであった。
>> 90
バッ
「このカード…さっきまでの出来事、夢じゃなかったんだわ。」
聡が持っているカードを取り上げるとジット見つめた。
「おいどうしたんだよ小百合!?顔が青いぞ。どっか具合いが悪いのか?」
聡は小百合の様子を見て心配していた。
「ううん。大丈夫何でもないの。上着掛けてくれてたんだ。ありがと。聡惚れ直しちゃった。」
頬っぺたにチュッとキスをした。
「よせやい。」
一つ年上の聡は照れくさそうに頭を掻いた。
(そう言えば…あの天使みたいな女性は一体どこに…)
小百合は辺りにあの女性が居ないか目で探したが、それらしき姿はなかった。
「ちょっと宜しいですか。爆発の事について伺いたいんですが。」
近くの警察官が2・3質問をしてきたので本当の事は言わず適当に返答した。
(どうせ。警官にまともに話しても信じて貰えず馬鹿にされるのがおちだわ。)
騒ぎは収まり警察官や消防士、野次馬の姿は次第に消えていく。
「もう朝か…」
小百合は背伸びをすると
「聡、お腹すいた~ッ!どっかご飯食べに行こ。」
聡と腕を組んだ。
「うん。その前に、着替えてからだね。」
下着姿に聡のジャケットを羽織っているだけの小百合にウインクした。
「あっそうだった。」
舌をペロッと出して頭をコツンとすると急いで着替えに向かった。
>> 91
「お・待・た・せ。」
小百合はホテルのトイレで就活で着るようなスーツに着替え茶髪の長い髪を持ってるバックからヘアーブラシを取り出し綺麗にして出て来ると廊下で待っている聡の腕を取った。
「じゃあホテルのフロントでチェックアウトしたら小百合の好きな物食べに行くか。」
「うん。」
小百合はニコッと微笑んだ。
フロントで料金を払おうとしたら爆発事故で迷惑をかけた為に丁重に要らないと断られ逆にホテルのレストランサービスチケットを貰い外に二人は出た。
「ラッキー!でも爆発事故のせいで、せっかく小百合の19歳になったバースデー宿泊計画は散々になったけど。」
「ううん。聡と一緒にレストランでディナーを食べれたしプレゼントの可愛い指輪貰えたし嬉しかった。」
(本当は私と天使みたいな女性とで部屋や廊下を滅茶苦茶にしたんだけど…)
「んっどうした?さっきから考え事。」
小百合は聡が廊下で拾った黒いカードを貰いスーツのポケットに入れていた。
歩きながら、そのカードがつい気になって取りだし見つめていた。
「この黒いカードの紫色の紋章って何かしら、それに反対側に描かれている人間のような悪魔のようなもの何だか気になって…」
「確かに変わったカードだね。食事のあとで市立図書館にでも行ってみるか。何か分かるかも知れないし。それに今日は有給休暇とってあるからね。」
聡も一緒に考えてくれるだけで小百合は嬉しかった。
大きな通りを抜け少し脇道に入るとコジャレた看板が見えてきた。
「いらっしゃいませ。」
全体がアンティーク調であしらってある店の中に二人は入るとメニュー表を開き注文した。
>> 92
カタン
「あ~美味しかった。ちょっと化粧なおしてくる。」
聡にそう言うと小百合はトイレに入り洗面台の鏡の前でポーチから口紅を出した。
グウォン グウォン グウォン
「あっまたこの感覚…」
ホテルでの出来事を思いだし緊張した。
キィ~ッ
2つあるトイレのうち奥の扉がゆっくり開くのが鏡越しに見えた。
「!?」
『カルラは失敗したみたいね。』
ズリュ
扉の奥から背が凍りつくような声が聞こえと共に青白い右手がゆっくり這うように出てくる。
小百合は息を飲んだ。
ズリュ
床を這うように左手も出てくるのが見えると濡れた黒髪がにゅっと伸びてきた。
シュルシュルシュル
小百合は慌てて身を翻しスーツのポケットにあるカードを取ろうとしたが濡れた黒髪が一瞬早く体に巻きつき締め上げた。
ギュオッ
ギリギリ
「うぅっ!カードを…」
もがけばもがくほど濡れた黒髪が絡みついていく。
『フフフ…苦しいか。お前は裏切り者の血を引く娘ここでその血を絶やす。怨むなら我々を裏切ったアイツを怨むがいい。』
ギリギリ
「ぐうっ…何言ってんのよ!うちのお父さんは物産会社のサラリーマンだし、お母さんはパートでレジ打ちしてる二人とも普通の人間よ。あんた達みたいな化け物じゃないわ。」
小百合は叫んだ。
ヒュイィーッ
ポケットのカードが光だす。
ボッ
絡んでいる濡れた黒髪がスーツのポケット辺りから燃えだした。
『馬鹿なッッ!?』
「チャンス!」
小百合の右腕の髪が弛むとポケットのカードを取りだし左肩に翳した。
キュイィーン
小百合の身体は眩い光りに包まれ変身していく。
>> 93
ブチブチブチ
小百合の身体に巻きついていた濡れた黒髪を引き千切ると、その長い髪を捕まえおもいっきり引っ張った。
ギュオン
『ぐうっ!』
ドゴオァッ
目の前にヌメヌメと蜥蜴のような皮膚をした女性が出てくると、その顔面に前蹴りをめり込ませる。
『ぶへっ。』
「あのね一族の血だとか裏切り者の娘とか、私は何だか知らないし、もうこれ以上関わらないでくれる。」
ビューッ
シュパ
「ハッ!?」
黒髪の女性の右手が伸びると小百合の左脇腹を長く鋭い爪が白い布を切り裂いた。
「っつう。」
蹴りが相手に当たっている状態で攻撃に気付くのが遅くギリギリかわすので精一杯だった。
「乙女の体傷付けたわね。あったまにきた!!」
グオッ
濡れた黒髪を強く握るとそのまま強引に横に振った。
バリン
洗面台の大きな鏡にぶち当てると今度は反対の右に振り二つあるトイレの扉に叩きつけた。
『くっ…』
濡れた黒髪の女性の黒目が縦に細くなると顔が爬虫類の顔のようになっていく。
『しゃーっ。』
先が二股に別れた舌が伸び小百合の首を締め上げた。
『死ね!』
ギリギリ
「うぅ…」
両手で取ろうとしたが強い力で首を絞められる。
フッ
カードが手のひらに現れ光りだした。
小百合はカードを素早く左肩に翳す。
>> 94
ヴァリヴァリ
ヴァリヴァリ
赤い稲妻が小百合を包む。
パリンパリン
トイレの電球が次々割れて飛び散る。
そして爬虫類のような長いヌメヌメした舌を掴み赤い稲妻を放電させると濡れた黒髪の女性は「ギャーッッ!」と叫び声を上げ舌を引っ込めた。
ヴァリヴァリ
「ごめんなさい。痺れちゃった~」
と言った言葉とは裏腹に小百合は悪びれた様子もなく構えをとると透かさず白金に輝く髪を靡かせ跳躍をし赤い電撃の飛び蹴りを濡れた黒髪の女性に喰らわせた。
ヴァリヴァリ
ゴガッ
『ブフォッッ!』
ズズン
後ろの壁にめり込むと黒髪の女性は意識を失ったのかそのまま動かなくなった。
「全くッッ!聡とのラブラブデートを邪魔しないでよね。」
パタパタと白い絹の汚れを落としていると、ぐわんと変な感覚に襲われた。
グウォン グウォン グウォン
ブーン
「ふ~ッ二度目の変身のせいか今回は気絶しなかったわ。服は元のスーツに戻ったわね。カードも勝手にポケットに入ってるし…不思議な事だらけ…」
目をさっきの濡れた黒髪の女性の方に向けるとトイレの奥壁にはめり込んだ痕は残っているが姿は無くなっていた。
「逃げたのかしら。」
小百合は割れた鏡を覗きながら化粧をなおすと何事も無かったようにトイレを出て聡が座っているテーブルに向かった。
「あんまり遅いからコーヒー頼んで飲んで待ってたよ。化粧じゃなく長いほうだったか。」
聡はニヤッと笑った。
「バカ。あっすいませんウエイトレスさん私もウインナーコーヒーお願いします。」
小百合は注文すると椅子に腰かけ聡との雑談を楽しんだ。
>> 95
チラッ
「さぁ10時回ってるし市立図書館開いたから、そろそろ行こうか。」
聡は腕時計を見ると小百合を促し値段の書き込んであるシートを取り椅子から立ち上がった。
レジで料金を払い二人は外に出る。
ヒュー
「うぅ~寒い。」
冷たい風が吹くと小百合は聡に寄り添った。
聡は自分のライトグレーのマフラーを小百合の首に掛けると自分のコートのポケットに小百合の右手を突っ込ませた。
「暖かい。」
小百合は白い息を吐きながらニッコリ微笑んだ。
しばらく歩くと大きな市立図書館が見えてきた。
「おっきいね図書館。私、初めて来た。」
「俺もだよ。」
ウィーン
自動ドアに入ると広い玄関リビングがあり次の自動ドアをくぐると奥にカウンター更に奥に本が数え切れないほど乗った棚が幾つも平行に並んでおりたくさんの人が見える。
「わぁ広い。」
「あぁそれに暖房もきいて快適な場所だな。」
カウンターに着くと眼鏡をかけた中年の女性から「ご利用の方は、利用カードを発行しますので、こちらの利用者登録申込書に住所・氏名・生年月日・電話番号・勤務先を記入され、本人の住所を証明できる健康保険証か免許を一緒に提出して下さい。」と言われた。
二人は言われるがまま端にある机で書類を書くと、聡は免許証、小百合は健康保険証を提出した。
数分するとカードが出来上がり、眼鏡をかけた中年の女性から「本を借りられる場合は、この利用者カードと一緒に出して下さい。」と言われ手渡された。
カウンター横から中に入るとジャンル別にア行から綺麗に整頓され本が並んでいる。
「しかし一杯あるからどこから探したらいいのやら…」
小百合は溜め息をつきながらボヤいた。
「う~ん。やっぱり紋章で調べたらどうかな。」
「そうね。」
二人は紋章の本を探しだした。
>> 96
パラパラパラ
二人は手当たり次第に紋章に関する本を広いテーブルの上に置き椅子に腰かけると探し始めた。
「結構利用してる人達多いんだね。」
小百合は椅子を聡の横に近づける。
「そうみたいだね。」
聡は紋章の黒いカードと分厚い本を交互に見ながら答える。
小百合は心優しさが滲み出ている聡の横顔が好きだった。
Vooo…Vooo…
聡の携帯電話のバイブが鳴った。
スチャ
「あっちょっとゴメン会社から…」
そう言うと聡は席をはずした。
パラパラパラ
「んっ!?」
小百合は聡とは別に紋章以外の色々な本を取ってきて読み探していると、あるページに目が止まった。
そこにはカード似た紋章が書いてある。
「えっと…この紋章は…古(いにしえ)の文字であり…」
そこへ聡が戻って来て急きょ会社へ行かなくてはいけない事を告げた。
「え~ッ!休みなのに今から。」
小百合はつい大きな声を上げた。
他のテーブルで読書している人達からジーッと無言の冷たい目線が小百合に突き刺さる。
「ごめんこの埋め合わせは次会った時にするから。」
聡は手をあわせペコッと謝ると慌てて図書館の外へと向かった。
「ちょっ…」
ガタッ
勢いよく椅子から立ち上がろうとすると、再び周りの人達からの冷たい目線が突き刺さる。
「あっ。」
小百合は慌てて口をつぐむみ、そそくさと気になった本以外を棚に戻し受付で借りて市立図書館をあとにした。
「久し振りに会えたのに!んもう~聡の馬鹿ッッ!!」
小百合は上を見上げると外の雪は止んでおりどんより鉛色(にべいろ)の空だけが広がっていた。
「聡いないから、なんかつまんないの…」
小百合はボソッと呟く。
付近にあるビルの電光掲示板を見るとお昼を回っていたが独り遊ぶ気になれず自宅のアパートに帰るため駅に向かった。
>> 97
地下鉄の駅のプラットホームに着くと沢山の人が電車を待っている。小百合はなるべく人が少ない所へ並ぶと電車が来るまで五分程あるので、さっき市立図書館から借りてきた分厚い本を開いて続きのページをパラパラと探す。
ドン
「えっ!?」
その時、背中を誰かが強く押す。
小百合は訳が分からないままプラットホームから線路まで落ちた。
ドサッ
「あいたたたっ…誰よ後ろから押したの…」
小百合は腰をさすりながらキョロキョロと上を見て自分が立っていた場所に押した犯人がいないか探したが分からなかった。体を捻って落ちたため腰を強く打ち付けその場を動けないでいた。
そして駅員のアナウンスが流れ出す。
『間もなく電車が参ります。線の後ろまでお下がりください。』
ザワザワ
ザワザワ
しかしプラットホームから「嬢ちゃん大丈夫か?」「電車が来るから早く上がれ。」と言うものの誰も助けようとはしてくれない。
「くっ!足が…」
窪んだセーフティーゾーンに隠れようとしたが更に運悪く線路で左足をくじいて思うように動けない。
ガタッゴトンガタッゴトン
真っ正面の方から電車の光がカーブしたトンネルから段々と近づいて来る。
「グゥ…あと少し…」這いながら少しずつ進む。
ザワザワ
「駅員まだか。早く連れてこい。」
ガタッゴトン
ファーファーン
警笛音がプラットホームに鳴り響く。
キィーーッ
電車はもう目の前…
「いやーーッッ!!」
小百合は叫んだ。
ゴンッ
誰もが引かれた姿を見たくなく目をつぶった。
プシューッ
電車は止まったが小百合が落ちた場所から数メートル過ぎていた。
電車待ちしていた乗客等の後ろでジッと様子を伺うパーカーのフードを深く被っていた者の口元がニヤッと笑うと歩き出し上り階段を上って行った。
>> 98
乗客がざわつく中、数人の駅員等が慌てて線路に降りると懐中電灯をてらし運転席のベコッと凹んだ車両の下を覗きこんだ。
「…!?」
駅員の一人が更に車両の下に潜って暗闇の奥を確かめる。
「だっ誰もいないぞ!?」
「えっ!」
その場にいる全員が狐に化かされたような顔になった。
……
…
「ふう~ッ危なかった~ッ!」
小百合は額の汗を拭った。
トンネルから抜け出しさっきとは別のプラットホームに着いていた。
「危うく死ぬところだったわ。」
他の電車待っている人達にばれないようコソッとプラットホームに上がっていた。
数分前電車がブレーキをかけ小百合とぶつかる手前にカードを左肩に当て変身すると車両とぶつかる瞬間「イヤーーッ!」と雄叫びを上げ右ストレートのパンチを繰り出しゴガッと運転席のフロントに当て更に後ろに跳躍し人には見えない速さで線路を走り次のホームまで着いていたのであった。
幸いその場に居合わせた連中は目を瞑っていたため変身する姿を見られずにすんでいた。
「このカード凄いわ。まだクラクラするけど、ほとんど身体のダメージを戻すんだから。変身したらある程度治癒する能力が備わってるのね。」
プラットホームのベンチに座り小百合は黒い紫色の紋章が入っているカードをまじまじと見つめた。
「誰かが後ろから私を突き落としたのは間違いないわ。新手の刺客かしら。…あッッ!」
小百合は独り呟いているとある事に気が付き立ち上がった。
「しまった!市立図書館で借りた本が無い。」
その場で頭を抱え込んだ。
「どうしよう…あの本…」
一瞬考えたが駅員さんが見つけて保管しているはずだから、あとで取りに行こうとあっけらかんと結論に達し直ぐベンチに腰掛けたのであった。
>> 99
(電車はいっとき来ないだろうなぁ。まぁ自業自得なんだけど…)
携帯のミニゲームで時間を潰しながらそんな事を考えていると背後に気配を感じた。
バッ
「あっ…」
小百合は振り返ると安堵の色を浮かべた。そこには小さい頃から幼馴染みの葵と侑真が立っていた。
「よっ小百合。聡とデートじゃなかったのか?」
左耳にピアスをし白いシャツに黒のジャケット下はブルージーンズの侑真が先に声を掛けてきた。ツンツン立った髪型に180センチで聡より背が高い。
「それがさぁ聡は会社に呼ばれて行っちゃって…」
「何それ!せっかくのお泊まりデートだったのにね。」
金髪ショートボブに白いタートルネックの長袖に首もとにボアがついた焦げ茶色のダウンジャケットベストにブラックジーンズを履いている葵が少し怒った顔になった。
「これからどうすんだ?」
「う~んつまんないからアパートに帰ろうかなって思ってるんだけど。」
「んじゃさ小百合。今からうちらと遊びいかない。」
「えっでも葵らデートじゃ…」
「別に良いのよ。ねぇ侑真。」
「あぁ俺は別にかまわないぜ。」
「じゃあ決まり。行こう小百合。」
「えっ!?あっちょっ…」
葵は小百合の手を引っ張ると地下鉄の出口に向かった。そのあとを笑いながら侑真はついて行く。
その後ろから深くフードを被っている者が跡をついて行く。
駅から出て人混みの中三人は遊技場に着いた。
「結構混んでるね。」
「今日は雪降って特に寒いからな。みんな室内がいいんだろ。」
「小百合、四時間パックにしたから何からやる?ダーツ、ビリヤード、卓球、カラオケ、UFOキャッチャー、ネットゲーム。」
葵ははしゃぎながら喋る。
「じゃ~まずはカラオケで、このうっぷん晴らすわ。侑真もそれでいい?」
「あぁ。」
受付からカラオケルームに行く途中、小百合どこからか視線を感じ辺りを見回したが人混みで分からない。
その時…
グウォン グウォン グウォン
異空間へとまた小百合は引き込まれていく。
- << 101 (こんな時にまた…) 居るのは同じ場所だが目の前の人々が異空間に移動したため消えていく。 (この異空間では、かけた相手だけしか見えなくなるみたいね。 葵と侑真に怪我をさせられない…) そう思った小百合は遊技場の外に出るとスーツのポケットからカードを出し左肩に当て変身した。 ギュアァーッ 外は夕暮れになりかけ薄暗くなってきている。 スタン スタン そこへフードを深く被っている者がゆっくり歩み寄って来た。 『カルラとナーガを倒したみたいだけど僕はそうはいかない。僕の名はガネーシャ!』 ブオォッ 体にズンと重い声が響く。 「もう私に付きまとわないでよ。」 そう小百合が言った時、突風が吹いてフードがめくれた。 「!?」 そこには白い象の顔が現れその風貌に思わず小百合はたじろいだ。 ジリッ 『悪いけどお前には死んでもらう。呪われた血統は滅殺するのみ。』 ズシャ ガネーシャと言った者はそう言うと小百合目掛け自分の鼻を伸ばし鼻の穴から液体を飛ばす。 バシュ バシュ 「あ~ん。もう汚いわね。」 ズシャ 素早く液体をかわすと象の顔をしたガネーシャに白金の髪を靡かせ突っ込むとボディに右腕をめり込ませた。 ズン 「動きが今までの相手より遅いわよ。」 しかしガネーシャは微動だにせず薄笑いをした。 『お前の力はそんなものか。』 「えっ!?」 太い両手で小百合の右腕を掴むとブンブンと振り回し放り投げた。 「きゃーッッ!」 ズゴゴンッ 近くの電信柱の真ん中にぶつかり柱が折れる。 「ぐぅ~何て力なの。」 頭を振りながら立ち上がると構えをとった。 ヴァリ ヴァリ ヴァリ カードが光り左肩に翳すと両足に赤い稲妻が走る。 「これでも喰らいな。」 小百合は跳躍すると凄まじい電撃の蹴りを繰り出した。
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