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母が亡くなるかもしれない。後悔しないためには?
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―桃色―

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*さくらんぼ*( 20代 ♀ ZOnM )
10/10/16 00:25(更新日時)

世の中の男性が、全て同じだとは思って無い。

「私の付き合う人達」が特別だって、分かってる。

でも…

昔からことごとく浮気されて、今の彼に限って私は4番目の女…


そりゃ、男を信じられなくなるでしょ。

ただ、甘い恋がしたいだけなのに…


「おめでとう」の言葉も、プレゼントも無いまま、彼の腕の中で30歳の誕生日を迎えた―

No.1368233 10/07/11 21:34(スレ作成日時)

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No.351 10/08/12 22:17
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔は、焦げたハンバーグを美味い美味いと残さず食べてくれた。

食べ終わった食器を洗っていると、ソファーでくつろぐ祐輔の視線を背中に感じる。


「…あのさ」

「何?」

「リコは俺の事ばかり言うけど、リコの事も狙ってるヤツがいるの知ってた?」

「えー?知らないよ」

私はエプロンを外しながらソファーに向かった。

「田代さん、リコが好きなんだって」

「田代さんがぁ!?」

田代さんは、私の2歳年上で先輩だ。
イケメンの部類に入る人で、私と同じぐらいの女性社員は、結構狙ってる人がいる。
私は、仕事絡みの会話しかした事が無い。

「誰から聞いたの?」

「今日、喫煙ルームで本人からリコの事を色々聞かれた」

「色々って?」

「彼氏いるのかとか、趣味はとか…。
最近、俺達が一緒に飯食ったりしてるのがかなり気になるらしい…」

祐輔はクッションを抱えて小さく丸まった。

No.352 10/08/12 22:34
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「それで、祐輔は何て答えたの?」

「俺もリコに片思いしてますって…」

「田代さんは?」

「お前には負けないからって…」

祐輔はクッション越しに私を上目使いで見ている。
私はフッと笑って、祐輔の頭を撫でた。

「明日、田代さんに俺達の事言っていい?」

「ん…いいよ」

安心した表情を見せた祐輔が、私の膝に寝転んだ。

「他の男に想われて、嬉しい?」

「嬉しいって言ったら?」

私は少しイジワルっぽく聞き返した。

「ヤダ…」

祐輔は悲しい表情で私を見上げている。

「明日、きっかけがあったら、私もみんなに言うね?」

そう言うと、祐輔はニコッと笑って私の膝の上で甘えてた。

― よしっ!私、頑張る!!

No.353 10/08/12 22:50
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― 翌日

今日の私はいつもと違う。朝から気合いが入っていた。
この気合いは、仕事に向けられたモノじゃないけど…

(さて、どのタイミングで言おう…)

そう、これが問題…いきなり女の子達に声を掛けて打ち明けるのも変だし、まして今ここで大声で公表する訳にもいかず…

そんな事を考えながらパソコンと向き合っていると、後ろから肩を叩かれた。

里沙だと思って振り向いたら、田代さんだった…

「神谷さん、これ…コピーお願い」

「あ、はい…」

昨日、祐輔にあんな事を聞いてしまった為か、変に意識して田代さんの顔が見れない…

差し出された書類を受け取り、祐輔の方に目線を移すと、祐輔は合図をするように小さく頷いた。

私もそれに答えるように頷いた。

「田代さんっ!ちょっと、タバコ吸いに行きません?」

祐輔が田代さんに声を掛け、二人はオフィスを出て行った。

No.354 10/08/12 23:03
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― キーンコーン…

二人が出て行ったと同時に、昼休みを知らせるチャイムが鳴った。

(時間が経つのが早いな…)

祐輔がどうゆう風に田代さんに話すのかが気になったけど、とりあえず里沙と食堂に向かう事にした。

「ごめん、私トイレ行きたい」

「あ、なら私もっ」

私は足早にトイレに向かう里沙を追い掛けた。

― キャハハハ…

トイレの個室に入ると、若い女の子達の笑い声が近付いてきた。
どうやら、鏡の前で話しをしているらしい。

「そういえば、木村先輩と神谷先輩と田中先輩…変に仲良くない?」

話しの内容から、同じ部署の子達みたいだ。

出るに出れなくて、私は個室の中で息を潜めた。どうやら里沙も同じらしく、隣の個室から出る気配が無い。

私達は、彼女達の話しに聞き耳を立てた。

No.355 10/08/13 23:19
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「仲良いって言っても、一緒にお昼ご飯食べてるだけじゃん?」

「でも、木村先輩って『リコさん』って呼んでない?あの二人が怪しい感じ?」

「私もそれ思ったぁ。本当なら最悪~」

「でも神谷先輩って営業部の人と別れてから、あまり間空いてないよね?」

「若い男に乗り換えたって事?」

「遊んでないで、さっさと結婚しろよって感じ~」

「言えてる~」

キャハハハ…

(言わせておけば、言いたい事いいやがって…)

ワナワナと怒りが込み上げてきた。

(ええいっ!今だ!!)

― バンッ

No.356 10/08/13 23:31
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

(あれ…?)

私がドアを開ける前に、隣の里沙の方のドアが勢いよく開いた。

「田中先輩っ!?」

女の子達の恐怖混じりの、驚いた声が聞こえる。

(出そびれたぁぁ…)

今更威勢よく出れるはずもなく、個室の中でドアに張り付いていると…

「リコ、出ておいでよ」

里沙が低い声で私を呼んだ…

私は、そろ~っとドアを開けて顔を出した。

「…っ!?」

私の姿を見た女の子達は、声を無くしている。

「アハハハ…」

私は苦笑いするしかなかった。

目の前に居る5人は、今年入ってきた新人の子達。

みんな俯き加減で顔を見合わせているけど、ただ1人だけ、私を睨み付けていた。
白石紗英、23歳。社内で結構人気のある女の子。
祐輔をデートに誘ったりと、かなり積極的な子だ。

No.357 10/08/13 23:40
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

里沙は、腕組みをして彼女達を睨んでいる。

「あの、えっと…」

言い訳しようにも言い逃れが出来ない彼女達は、お互いに助けを求めるように目をキョロキョロさせていた。

そんな周りの子達を差し置いて、紗英が鋭い眼差しで、一歩私の方に近付いてきた。

「神谷先輩」

「な、何かしら?」

すごい剣幕で睨み続ける紗英に、私は必死で平静を装った。

「木村先輩と、どういう関係なんですか?」

(ナイス質問!!)

私は祐輔との事を打ち明ける絶好のチャンスに、心の中で小さくガッツポーズをした。

「どういう関係って、私と祐輔は、つ…付き合ってるけど?」

精一杯気取って言ってみた。

No.358 10/08/13 23:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「えっ…!?」

俯いてた子達は、一斉に私の顔を見る。
そして、身を寄せてコソコソと話しだした。

(やっと、やっと言えた…)

打ち明けた事への達成感と、この後どんな事言われるのかという不安で、体が少し震えた。

「最悪…」

「は…?」

紗英が驚く程の低い事で呟いた。
とまどう私に、紗英は冷たい視線を送り続ける。

「木村先輩の事、本気なんですか?
ただ、若い子と遊びたいだけなんじゃないですか?」

「は、はぁっ!?」

よくもまぁ、こんな事を先輩に向かって言えたもんだ。
さすがの私も、眉間にシワを寄せて不快感をあらわにした。

「本気に決まってんでしょ?祐輔とは、もう一緒に暮らしてんのよ?」

どうだっ!と、言わんばかりに紗英を睨みつけた。

No.359 10/08/14 00:08
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

そんな私をあざ笑うかのように、紗英は顎を突き出して腕組みをした。

「木村先輩に、いくら払ったんですか?」

「何を言って…」

「だってそうでしょ?お金でも払わなきゃ、木村先輩がおばさんなんかと付き合うはず、無いじゃないですかぁ?」

「紗英っ!ヤバイって!」

さすがにマズイと思った後ろに居る子達は、紗英の肩を後ろから揺さぶっている。
紗英はその手を振り払い、続けた。

「神谷先輩、前の彼氏と別れてから、どのぐらい経ちます?」

「2ヶ月ちょっとだけど…」

「木村先輩と付き合い始めてからは?」

「に…、2ヶ月ぐらい…」

たまらず俯く私を、紗英は呆れたように鼻で笑った。

「ますます最悪」

「あんた、いい加減にしなよ!!」

今まで黙ってた里沙が、さすがに我慢できなくなったのか、大声で紗英を怒鳴りつけた。

No.360 10/08/14 00:17
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

ものすごい剣幕で睨む里沙を、紗英は横目で見ながら微笑した。

「そうやって大声出せば、私がビビると思ってるんですか?
私、喧嘩には慣れてるんで。
田中先輩には関係無い事なので、黙っててもらえます?」

馬鹿にしたような言い回しの紗英に、さすがの里沙もア然として言葉を失った。

「…白石さんは、どうしても私と祐輔の事を認めたく無いみたいね?」

私は、必死で大人の対応をした。

「当たり前じゃないですかぁ。私だって木村先輩の事、本気で好きなんですから」

「でも、祐輔はあなたの気持ちには応えられないって言ってるけど?」

「私は、木村先輩を振り向かせる自信ありますから」

(何言ってんの?この子…)

呆れ返る私と里沙をよそに、紗英は自信満々の表情をしている。

No.361 10/08/14 00:31
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「どんなにあなたが頑張っても、祐輔があなたを好きになるとは思えないんだけど…」

私は同情の目で紗英を見た。

「なら、試してみます?」

「は?」

「木村先輩が私を好きになるかどうか」

「一体何を…?」

「神谷先輩から、木村先輩を奪ってみせます」

「…っ!?」

私と里沙は、ポカンとしながら顔を見合わせた。

「あなたに祐輔は渡せ無いわ?
私も本気で祐輔の事が好きだから」

「私の方が、木村先輩を好きな気持ちが強いと思いますけど?」


この自信は一体どこから来るのか…

呆れて言葉も出ない…

No.362 10/08/14 00:40
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「神谷先輩」

「ハァ…。なに?」

「宣戦布告します」

「…なにを?」

「木村先輩を神谷先輩から奪います」

「だからねぇ…」

「失礼します」

「えっ!?ちょっ…」


紗英はプイッと私達に背を向けて、スタスタとトイレを出て行った。
残りの子達も軽く私達に頭を下げて、紗英を追い掛けた。


残された私達は、しばらく立ち尽くした。

No.363 10/08/14 00:42
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコさん…?」

「なんでしょう、里沙さん…」

「面倒な事になりましたね…」

「そうみたいですね…」

イライラが振り返してきて、グァ~ッと顔を掻きむしった。

― キーンコーン…

虚しく、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響く…

「うそ…?」

「ご飯抜きぃ…?」

私達はヘナヘナとその場にしゃがみ込んだ。

― 白石紗英…

面倒臭い子に絡まれたな…

No.364 10/08/14 23:33
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

午後は…

もう仕事どころでは無かった。

あまりの空腹と、紗英に対するイライラと…


祐輔が昼休みから帰って来た時は、満面の笑みでピースをされた。

多分、田代さんに上手く話せたんだろう。

でも、私は苦笑いする事しか出来なかった…


私の様子を不審に思った祐輔の視線が、パソコン越しに突き刺さっていたけど、気付かないフリをし続けた。

それと同時に、周囲からも冷たい視線を浴びていた。そして、コソコソと話す声も…

(紗英達が、私と祐輔の噂を広めているんだろうな…)

安易に想像がついた。

だけど苛立ちの方が大き過ぎて、周りの事なんか気にならなかった。


多少仕事が残っていたけど、今日は定時のチャイムと同時に、ロッカールームに走った。

No.365 10/08/14 23:51
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

制服から私服に着替え終わると、さっきまで身を寄せ合ってコソコソしてた女子社員が、私と里沙を囲んだ。

「噂で聞いたんですけど…」

(はいはい…)

この子達が聞きたい事は分かってる。

「私と木村君は、真剣にお付き合いしています。今まで隠しててごめんなさい」

私は棒読みでみんなに公表をした。

噂が真実だと分かって、少しザワついた。

(芸能人でもあるまいし…)

多少予想はしていた事だったけど、いざとなると面倒臭い…

私はイライラが増してきて、早くこの場を立ち去りたい。

里沙も私の様子を見て、何も言わずにドアに向かって後ずさりを始めた。

No.366 10/08/15 09:56
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

里沙がドアノブに手を掛けたと同時に、反対側からドアを開けられた。

「あ…」

昼休みに紗英と一緒に居た子達が入ってきて、私の顔を見て気まずそうにしている。
その中に、紗英の姿は無かった。

なんか、ロッカールームの中の空気が重い…
息苦しい…

「あのっ、神谷先輩…」

相当勇気を出したんだろう。紗英の取り巻きの一人が震えた声で私の名前を呼んだ。

「…何?」

「あの…昼休みの時は…。
すみませんでしたっ!!」

「すみませんでしたっ!!」

一人が頭を下げたら、他の3人も声を揃えて頭を下げた。

「別に気にしてないし…」

ちょっと気にしてたけど…

本音を見透かされないように、私は目線を下げた。

No.367 10/08/15 10:43
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコ、帰ろ…?」

この空気に耐えられなくなった里沙に手を引かれて、ロッカールームを後にした。


「大丈夫…?」

「うんっ」

心配そうな顔の里沙に、精一杯笑顔を見せて、会社の前で別れた。


私は帰りの電車の中で、ボーッと窓の外を眺めながら考え事をしていた。

― 年下の男の子と付き合う事が、そんなにいけない事なのかな…
どうして私が、コソコソ噂されて、冷たい視線を浴びなきゃいけないの?



不思議で仕方無かった。

紗英には、『いくら払った』とまで言われるし…



精神的に疲れ切った私は、アパートに着いた時にはフラフラだった。

No.368 10/08/15 10:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

部屋の中に入ると、真っ暗で静まり返っている。
祐輔はまだ帰って無かった。

とりあえず夕食の支度をしようと思ったけど、何もやる気がしない…


化粧だけ落として、ベッドに潜り込んだ。



「ただいまぁ?リコ~?」

(あれ…?)

どうやら少し眠ってしまっていたみたい。

祐輔の声に返事をする気力も無く、ベッドの中で丸くなっていた。

「リコどうしたの!?
具合悪いのっ!?」

何も言わずに寝転がる私を、祐輔が心配そうに揺さぶった。

「…大丈夫。眠いだけ…」

「本当に?」

祐輔の顔を見ていたら、ずっと我慢していた涙が溢れ出した。


「リコ…?」


声を押し殺して泣く私の手を祐輔は強く握りしめてくれた。

No.369 10/08/15 11:07
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「会社で何かあった?」

一通り泣いてスッキリした私に、祐輔がコーヒーを入れてくれた。

私はコーヒーを一口飲んで、今日みんなに打ち明けた事と、紗英に言われた言葉と、みんなから冷たい視線を受けていた事を祐輔に話した。

「あ~、それでか…」

祐輔は何かを思い出したように、小刻みに頷いていた。

「どうしたの?」

「いや、今日帰る時に、白石がやたらと絡んできたんだよ。
うっとおしいから、『彼女居るから』って言ったら、『知ってる』って。『でも、私には関係無い』とか言われて…」

紗英の行動の早さに呆れた。
紗英に対する苛立ちから、私の体が強張った。

「リ~コ?」

唇を噛み締める私の背中を、祐輔が優しく撫でてくれた。

No.370 10/08/15 21:56
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「白石の事は俺もなんか腹立つけど、上手く流すし、リコは何も心配しなくていいからね?」

「…うん」

「それよりもさぁ、なんか変じゃない?」

祐輔は納得いかない表情で、ソファーに寄り掛かった。

「何が?」

「リコが白石達に話したのが昼休みで、午後には、もうみんなに広まってたんでしょ?」

「何か変?」

「それにしても、広まるのが早過ぎない?
しかも、なんでリコがそこまで冷たい視線で見られなきゃいけないワケ?」

「…」

私は『さぁ~?』というように、首を傾げる事しかできなかった。

確かに言われてみれば…

私は手に持ったマグカップをジィ~ッと見つめていた。

No.371 10/08/15 23:04
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「なんか、裏がありそう…」

「えっ?」

不安げに顔を上げると、祐輔は私の頭をポンッと叩いて台所に向かった。

「腹減った~」

「あ、ごめん。夕飯作ってない…」

「いいよっ、今日は俺が作るから!」

「祐輔料理できるの?」

期待の眼差しで祐輔を見ていると、ワイシャツの袖を捲くりながら、流しの下を物色し始めた。

「これぞまさしく、3分クッキング!!」

威勢よく立ち上がった祐輔の手には、インスタントラーメンが2つ握られていた。

「プッ…なんか、ガッカリ~」

「料理は愛情!!」

「まぁ確かに?」

クスクス笑っていると、テーブルに熱々のインスタントラーメンが並んだ。

No.372 10/08/15 23:15
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ところで、田代さんには言ったの?」


私が問い掛けると、ラーメンを口いっぱいに頬張った祐輔が、モグモグしながらピースをした。


「田代さんの反応は、どうだった?」


「ちょっと…いや、かなりショック受けてたみたいだったけど、『二人仲良くな』って言ってくれたよ」


「大人だねぇ~。誰かさんと違って」


「本当ねぇ~。誰かさんと違って」


私の口調をマネする祐輔と、顔を見合わせてケラケラ笑った。

No.373 10/08/15 23:20
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「そういえば、最近クリームソーダ飲んでねぇなぁ~」


「そうだね。次の休みの日に『orange』行こうか?」


「わ~い!愛しのクリームソーダちゃんに会える!」


「クリームソーダにも、ちゃんと私達が付き合ってる事言ってよ?」


ツンッとしながら横目で祐輔を見たら、キョトンとした後に吹き出した。


「リコ、最高!!」


いつまでも笑い続ける祐輔に釣られて、私も一緒になって笑った。


― 大丈夫。

祐輔が紗英なんかに心変わりするはずが無い。

私は自分に言い聞かせていた。

でも、他の女の子達と溝が出来てしまった事が、少し寂しかった…

No.374 10/08/15 23:29
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

翌日からの紗英は…

本当にスゴかった。

仕事中も、やたらと祐輔の仕事を手伝おうとしたり、何度もお茶を入れ直したり…

紗英もタバコを吸うらしく、祐輔が喫煙ルームに行くと、その度に追い掛けて行った。

昼休みの時も、しつこく祐輔を誘っていた。


紗英が祐輔に絡む度に、祐輔は思い切り迷惑そうな顔をして突き放していた。

それでも紗英は、祐輔に話し掛ける事を止めなかった。

私も、紗英と話す事が出来る時は、

「いい加減にしたら?祐輔も迷惑がってるし…」

と何度も言い聞かせたけど、紗英は…

「邪魔しないで下さい」

の一点張りだった。


休みの日が来るまで、こんな日が続いた…

No.375 10/08/15 23:36
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ハァ~…」

「祐輔、大丈夫…?」

やっと土曜日が来て、私達は約束通り『orange』に来ている。

祐輔は愛しのクリームソーダを前にしても、溜め息ばかりだった。

「俺…疲れたよ…」

「そうだろうね…」

私はカフェオレに砂糖を入れて、スプーンでクルクル掻き混ぜ続けていた。

「あぁ、そうだ。
クリームソーダちゃん、紹介します。
彼女のリコです…」

「もぅ、いいって…」

いつもなら笑えるはずの祐輔の冗談も、今日はキレが悪くて笑えない。

No.376 10/08/15 23:45
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

紗英のあまりにも目に余る行動に、痺れを切らした里沙が、

「私からガツンッと言ってやる!!」

と言ってくれたけど、今回は断った。

私達の力で、なんとか解決したかったから。

でも今は、里沙の申し出を断った事を、ちょっと後悔している…


「どうしたらいいかな…」

遠くを見つめながらクリームソーダを飲む祐輔の頭に、一本の白髪があった。

(私がもっと強ければ…)

カフェオレを飲みながら、何気なくお店の出入り口の方を見た時、私の表情が一瞬にして凍り付いた。

No.377 10/08/16 09:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

険しい表情で一点を見つめる私に気付いた祐輔が、ゆっくり視線の先の方に振り向いた。


「ゲッ…!」


思わず声を出した祐輔が、慌てて体を小さくしてソファーに身を隠した。


『リコも隠れてっ!!』


祐輔は小さい声で必死に訴えている。
でも、私は身を屈める事無く、視線の先の人物を睨み続けた。


(この際だから、ここで決着をつけるべきか…)

No.378 10/08/16 10:03
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

視線の先には『白石 紗英』…

私は、空いてる席を探してウロウロしている紗英を見ながら、色んな事を考えていた。


私達の近くの席が空いてる事に気付いた紗英が、こちらに近付いてくる。

席に着いた紗英が、不意にこちらの方を見て、私達の存在に気が付いた。


「あ~!木村先輩だぁ~っ」

紗英は満面の笑みで、鼻にかかった声を出しながら近付いて来た。


祐輔は大きな溜め息と同時に、テーブルにうなだれた。


「木村先輩と、こんなトコで会うなんてっ!やっぱり、私達は運命の相手なんですねっ」

(たまたま偶然会っただけだろーが…)

私は何も言わずに横目で紗英を見ていた。

「あれ、神谷先輩も居たんですかぁ?全然気付かなかったぁ~」

(そんな訳無いだろっ!私…やっぱり、この子嫌い!)

No.379 10/08/16 11:28
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

紗英は、うなだれる祐輔の隣にグイグイ座ってきた。

「なんで座ってくんだよ…」

祐輔は俯き加減で紗英を横目で見た。
見るからに不機嫌そう…


「紗英も、木村先輩とデートするぅ~」

甘ったるい声で、紗英は祐輔の腕に絡みついた。

祐輔は、思い切り紗英の腕を振り払った。

そんな祐輔の態度に、紗英はプクッと頬っぺたを膨らませる。

「ねぇ、白石さん。
何でココに居るの?ハッキリ言って迷惑なんだけど…」

私が冷めた目で見ていると、紗英はタバコに火を付けた。

「家に居ても暇だったから、暇潰しにココに来ただけですぅ。
そしたら、木村先輩が居るんだもん!運命感じるしか無いじゃないですかぁ」

紗英は、頬杖をついて祐輔を見つめていた。

No.380 10/08/17 11:28
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔はクリームソーダを飲みながら、窓の外をずっと見ていた。
紗英が弾丸トークを浴びせても、顔色一つ変える事無く、無視したままだった。

「白石さん?今、私達二人の時間なの。悪いけど、席外してくれる?」

私は平静を装うのに必死だった。

紗英は私の言葉も聞かずに、祐輔を連れ出そうとしている。

私は呆れて溜め息をつくしか無かった。

すると、今まで黙っていた祐輔が口を開いた。

「白石…」

「紗英って呼んでくださいよぅ?」

「嫌だ。
あのさ、ハッキリ言って迷惑なんだけど。お前に興味ないし」

祐輔の冷たい言葉を聞いた紗英は、意味深な笑みを浮かべた。

「そんな事言っても、結局みんな、紗英の事が好きになるんですよ?」

(は…?何言ってんのこの子…)

紗英の言ってる意味が、私も祐輔も理解出来なかった。

No.381 10/08/19 00:03
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

キョトンとする私達を鼻で笑って、紗英はタバコに火を着けた。

私に向かってフゥーっと煙を吐き、不気味に笑う紗英が、少し怖かった。

「俺はリコしか目に入らないし、どう転んでも白石を好きにはならない」

祐輔は真っ直ぐに紗英の顔を見て話し続けた。

「てか、一つ聞きたいんだけど」

「なんですかぁ~?」

「お前、みんなにどうやって俺達の噂流した?広まるのが、やけに早かったみたいだけど」

「なんだ、そんな事…」

祐輔の質問が気に食わないのか、紗英は急にふて腐れた表情を見せた。

No.382 10/08/19 00:13
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「そんなの簡単ですよぉ?社内メールがあるじゃないですかぁ」

「社内メール?」

「っそ。
数人に送っちゃえば、噂なんてあっとゆう間に流れますよ?」

「白石さん…あなた、社内メールをそんな使い方していいと思ってるの!?」

私は紗英のした事に呆れて、思わず声を荒らげた。

紗英は、とぼけた顔をしてタバコを吹かしている。

「お前、どんな内容送ったんだ?」

「真実ですよぉ?」

「嘘だろ?じゃなきゃ、俺達が付き合ってるってだけで、あんなに変な目で見てくるはずないじゃん」

紗英は祐輔を横目で見ながら、小さく溜め息をついて、タバコの火を消した。

No.383 10/08/19 00:32
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「面倒くさ…」

「は!?」

「そんな事よりぃ…
木村先輩、どこか二人きりになれる場所行きませんかぁ?」

「お前なぁ…」

紗英は祐輔の質問をはぐらかし、胸元を強調しながら祐輔にすり寄った。

ここまで来たら、私も黙っちゃいられない!

「あんた!いい加減に…っ」

「白石…ちょっと来い」

「えっ…!?」

突然祐輔が立ち上がり、紗英をソファーから追い出して外に連れ出そうとした。

私は困惑したまま固まっていた。

そんな私を、紗英は勝ち誇った顔で見ていた。

「リコも…」

祐輔は座ったままの私をチラッと見て、紗英を連れて会計をしに行った。

No.384 10/08/19 00:41
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

訳が分からないまま、私も急いで二人を追い掛けた。

祐輔は黙ってスタスタ歩いて行く。

紗英は祐輔の腕に絡みついていた。

私は一人で小走りになりながら二人の後ろを歩いていたけど、なんか惨めな気分…



そんな状態のまま、駅の近くのショッピングモールに入って行った。

(こんな所まで来て、祐輔はどうするつもり…?)

私が後ろから呼び掛けても、祐輔は黙って前を向いたまま歩き続けた。

No.385 10/08/19 00:50
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔の後を追って、人気の無い階段の踊り場に着いた。

小走り気味だった私は、少し息が上がっていた。

紗英は、これから何が起こるのかと、ワクワクしながら祐輔に絡みついたままだ。

「ハァ~…。
ゆ…すけ?一体何を…?」

私が壁に手をついて寄り掛かっていたら、突然祐輔は紗英の腕を振り払って、私を抱きしめた。

「えっ!?ちょっ…、祐輔!?」

『リコ、ごめんな…』

祐輔の理解不能な行動にテンパる私の耳元で、祐輔が小さな声で囁いた。

(一体なんなの…?)

紗英は、あからさまにムッとした表情で私を見ていた。

No.386 10/08/22 13:57
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私を抱きしめたまま、祐輔は一瞬紗英に視線を送り、私の頬を両手で包み込んだ。

「リコ、怒らないでね…?」

「祐…んんっ!?」

祐輔は私を壁に押さえつけて、口を塞ぐようにキスをした。
私は訳が分からず、目を真ん丸にしていた。

引きはがそうにも、祐輔が足をガッチリ絡ませているから身動きが取れない…

「ちょっ…んっ…祐…」

喋る事さえも許さないように、祐輔は深く激しいキスを続ける。

見られているという恥ずかしさから、私は紗英の方を見る事が出来なかった。

No.387 10/08/22 14:12
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

紗英は、目の前で起きている状況を理解出来ないでいるようだ。眉間にシワを寄せて、固まっていた。


祐輔は唇を重ねたまま、私の背中を激しく撫で回し、髪をかき上げる。

だんだん祐輔のキスが心地よくなってきた。

トローンとしながら、祐輔の肩に両腕を回した瞬間…

「いい加減にしてくださいっ!!」

紗英が今にも泣き出しそうな声で叫んだ。

祐輔はゆっくりと唇を離し、私を後ろから抱きしめて紗英を見た。

「一体、どうゆうつもりなんですか…」

紗英は顔を真っ赤にして唇を噛み締めている。

私は紗英の顔がまともに見れなかった。

No.388 10/08/22 14:29
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「俺、リコが大好きなんだよね。もう、一緒に居るだけでムラムラしてくるんだわ」

祐輔は冷めた口調で話し出した。

「そんなおばさんのドコがいいんですか…
紗英の方が若いし、体にも自信がありますっ!!」

紗英の言葉に少し傷付いて俯く私の耳元で、祐輔は大きな溜め息をついた。

「白石…リコはおばさんなんかじゃないよ?可愛い俺の彼女なのっ。
体に自信あるって言われても…俺は今ココでお前が全裸になっても、全く反応しない自信あるけど?」

「ひどいっ…」

祐輔が淡々と冷たい言葉を口にするから、紗英はかなり傷付いたんだろう…

大粒の涙が目からこれ落ちた。

No.389 10/08/22 20:28
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

なんだか、可哀相な事をしてしまったような罪悪感から、私は掛ける言葉が見つからない。

紗英は、その場にしゃがみ込んで小さく丸まっていた。

祐輔の顔を見上げると、ちょっと申し訳無さそうな表情で紗英を見ていた。

「白石…さん?」

私が一歩足を踏み出すと、紗英はスクッと立ち上がり、私達をキッと睨みつけた。

「恥かかせやがって…
ふざけんなっ!!
こんな事して、ただで済むと思うなよっ!?会社に居られなくしてやるからなっ!!」

普段からは想像もつかない程の、どすの利いた声で怒鳴り散らし、紗英は走り去って行った。

私と祐輔はア然としていた。

No.390 10/08/24 22:41
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

紗英が走り去った方を見たまま、私は立ち尽くしていた。

「リコ…?」

祐輔が不安げな表情を浮かべながら、私の手を握る。

でも、私は返事すら出来ないでいた。

なんとも言えない気持ちが、私の胸を押し潰す。

「帰ろう?」

祐輔の言葉に私は小さく頷いて、二人で歩き出した。



帰り道、私は一言も喋らなかった。
祐輔も私の気持ちを察してくれて、何も喋らないでいた。

アパートに着いた頃には18時を回っていて、私はすぐにシャワーを浴びた。

シャワーを浴びれば、少しでも気持ちがスッキリしてくれるんじゃないかなって…

No.391 10/08/24 22:52
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― きっと紗英に、何かヒドい事をされるんじゃないか…

― 会社のみんなに、デタラメな噂を流したりするのかな…

― もっと言葉で、ハッキリ紗英に言えてれば…

― ただ好きな人と一緒に居たいだけなのに、どうして邪魔されなきゃいけないの…


頭からシャワーを浴びながら、私は色んな事を考えた。

でも、今悩んでも仕方ないか…
悔やんでもどうしようもない…

気持ちが晴れないまま、私はタオルで髪を拭きながら部屋に戻った。

(あれ?祐輔が居ない…)

ベッドのある部屋を覗いても、祐輔の姿が無い。

(あっちの部屋…?)

いつもは出入りの少ない、玄関のすぐ横の部屋のドアの前に立つと、中から祐輔の話し声が聞こえてきた。

No.392 10/08/24 22:59
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― コンコンッ

一応ノックをして、祐輔の返事を待たずにドアを開けた。


「あ、じゃあそうゆう事で…はい、すみません。宜しくお願いします。では…」

祐輔は私の顔を見て、慌てて電話を切った。

「祐輔?誰と話してたの?」

「ん、いや、別に!」

「なんで隠すの…?」

「会社に行ってからのお楽しみ!!
浮気なんかじゃないよ~?」

祐輔は、少しふざけながら話しているけど、私は笑えなかった。

「リコ…?大丈夫?」

「わかんない…」

「コーヒー入れてあげるっ!あっち行こ?」

祐輔に背中を押されて、リビングに向かった。

No.393 10/08/24 23:10
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

ソファーで縮こまる私に、祐輔は熱々のコーヒーを手渡して、隣に座った。

「ありがと…」

「リコ、怒ってる?」

「何に?」

「キスした事…」

「別に…」

「ごめんね…
でも、あれぐらいしないと白石みたいなタイプは、諦めてくれないかなって思って…」

「でも、最後にすごい捨て台詞吐いてったね…」


膝を抱えてコーヒーをちびちび飲む私の頭を、祐輔は優しく撫でてくれた。

「大丈夫だよ?リコは俺が守るから」

「…なんか頼りないわ」

「なんですとっ!?」

プクッと頬っぺたを膨らませた祐輔の顔を見て、プッと吹き出した。

そんな私を見て、祐輔は優しく微笑んでいた。

No.394 10/08/24 23:25
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

結局、次の日も気分が晴れないままだった。

せっかくの休みだったけど、私は部屋着のままソファーでゴロゴロしっぱなしだった。

祐輔は私に対して何も言わず、気分転換にDVDを借りて来てくれたり、ご飯を作ってくれたり…

一日中、祐輔に甘えっぱなしだった。


なんだか申し訳なくなって、さすがに夕飯は私が作った…


夜、ベッドの上で祐輔は、後ろから私を抱きしめていてくれた。

「…明日会社に行きたくない」

私は小学生のようにゴネた。

No.395 10/08/24 23:42
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「大丈夫だよ、リコ…明日会社に行けば、なにもかも上手くいくよ?」

「どうして分かるの?」

「それは、俺だからだよ」

「プッ…意味分かんない」

「フッ…やっぱりリコは、そうやって笑った顔の方が可愛いよ?」

「今見えて無いじゃん?」

突然祐輔は私の肩を掴んで、グイッと振り向かせた。

「見えたっ」

「今、私笑って無いけど?」

一瞬考え事をした祐輔は、私にキスをした。
すると口移しで、私の口の中に何かを入れてきた。

「んっ!?なにこれっ!?」

「さっき食べてたスルメ。飲み込むタイミングが掴めなくて…」

「ずっと噛んでたのっ!?」

「うん。あ、そのスルメ返してくれる?」

「プッ…まだ噛むの?」

「ほら、リコ笑った!」

「あ…」

その後は、二人でケラケラ笑い続けた。

―― 祐輔の言葉を信じよう。
二人で乗り越えるんだ!!

No.396 10/08/26 23:57
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

ハァ~…

昨日意気込んで、会社に出勤して来たはいいけど…

やっぱり紗英に会い辛い…

始業のチャイムが鳴るまで、なんだか落ち着かなくて、給湯室でみんなのお茶を入れていた。

「神谷先輩?おはようございます」

― ドキッ

声がする方を振り向くと、紗英が不気味な笑みを浮かべながら立っていた。

「お、おはよう…」

私は挨拶だけして、すぐに視線を逸らした。

「なに、ビビってんですか?」

「え…?」

再度紗英に視線を合わせると、紗英はニヤッと笑って去って行った。

(やっぱり、何かする気なんだ…)

― キーンコーン…

ものすごい不安に押し潰されたまま、始業を知らせるチャイムが鳴り響いた…

No.397 10/08/27 00:09
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

休み明けだけは、朝礼をする事になっている。

私はお茶を入れるのを中断して、みんなが集まっている所に走った。

『おはよ、リコ』

『里沙、おはよう』

里沙と小声で挨拶を交わして、慎也さんの話しを聞いた。

一通り連絡事項などを聞いて、そろそろ朝礼も終わりかなと思った時…

「俺からの連絡は以上だが、今日は木村からみんなに話したい事があるそうだ」

(えっ…!?)

私と里沙は顔を見合わせた。

「木村、前に出ろ」

「はいっ」

慎也さんに呼ばれて、祐輔は背筋をピンと伸ばしてみんなの前に立った。

(祐輔、一体何をする気…?)

No.398 10/08/27 00:21
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「えっと…あっ!!おはようございますっ」

突然の祐輔の登場にとまどい、部署内のみんなもそれぞれ顔を見合わせていた。

「今日は、俺…じゃないや…
僕から、皆さんにお伝えしたい事がありますっ」

私は里沙の腕にしがみつき、ハラハラしながら祐輔を見ていた。

「僕と神谷律子さんは…今、真剣にお付き合いをしています」

部署内がシーンとなる。

「皆さんは既にご存知だとは思います。ですが、多分変な噂が流れていて、皆さんが誤解してる部分があるのではと思い、今日はこの場をお借りして、きちんと僕の口からご報告したいと思いました」

祐輔は、イキイキとした表情で話し続けた。

No.399 10/08/27 23:26
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「神谷さんと僕は確かに年の差はありますが、決して、僕がお金で買われた訳でも、遊ばれてる訳でもありません」

一瞬、部署内がザワッとなる。

「僕が入社した時に一目惚れをして、神谷さんが前の彼氏と別れたのを知ってから、アタックしました。そして、現在に至ります。今は二人で暮らしています」

更にみんながザワつく。

私はハラハラし過ぎて気持ち悪くなってきた…

私は里沙に隠れるようにして、不安げな顔で祐輔を見ていた。
すると祐輔が一瞬私の方を見て、『大丈夫だよ』と言うように、小さく頷いた。

「僕は、神谷さんを心から愛してます。神谷さんも、僕の気持ちに応えてくれています。
なので皆さん、これからは、温かい目で僕たちを見守ってください。
宜しくお願いします」

そう言って、祐輔は深々と頭を下げた。

No.400 10/08/27 23:37
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

どうしたらいいのか分からない様子で、シーンとしたまま、部署内の視線が頭を下げ続ける祐輔に向けられていた。

― パチパチパチパチ…

みんなの視線が、拍手の音がする方に向けられた。
視線の先には、笑顔で拍手をする慎也さん。

慎也さんの拍手に合わせるように、里沙が私に笑顔を送りながら、拍手を始めた。

そして、一人…また一人と拍手をし始め、いつしかその音がオフィス中に鳴り響いた。

祐輔は顔を上げて、照れ臭そうに笑っていた。

(みんなが認めてくれたんだ…)

安心した瞬間、急に涙がこぼれた。

里沙は私の肩を抱いてくれた。


みんなからの祝福の拍手は、いつまでも鳴り止まなかった。

ただ一人、腕組みをして俯いている子がいたけど…

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