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妊娠中から旦那が無理になった
私はどうでもいい女?
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―桃色―

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*さくらんぼ*( 20代 ♀ ZOnM )
10/10/16 00:25(更新日時)

世の中の男性が、全て同じだとは思って無い。

「私の付き合う人達」が特別だって、分かってる。

でも…

昔からことごとく浮気されて、今の彼に限って私は4番目の女…


そりゃ、男を信じられなくなるでしょ。

ただ、甘い恋がしたいだけなのに…


「おめでとう」の言葉も、プレゼントも無いまま、彼の腕の中で30歳の誕生日を迎えた―

No.1368233 10/07/11 21:34(スレ作成日時)

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No.301 10/08/06 00:25
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコは変わったんだよ?ちゃんと自分の気持ち、伝えられるようになったんだから。私なんか必要無いよ。
それに私…木村君と話しなんかしたら、多分殴っちゃうよ?」

それはダメ!と言うように、私は大きく首を横に振った。
そんな私を見て、里沙はフッと微笑んだ。

「木村君が来るまで、いっぱい泣いておきな?」

そう言って、私の背中を撫でてくれた。

私は泣き続けた。

何て聞こう…

どんな答えが返ってくるんだろう…

聞くのが怖い…

でも、真実を知りたい…

色んな感情が交錯する。


祐輔を待ちながら、涙が枯れるまで泣いた。
だんだん涙も出なくなってきて、放心状態になっていた。

No.302 10/08/06 00:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「…リコっ!?」

――ドキッ

祐輔の声を聞いたら、体がビクッとなった。

汗だくで息を切らしながら、祐輔が私達の元に走って来た。

「ハァハァ…リコ…?なんで泣いて…」

祐輔は肩で息をしながら、前かがみで私の前に立った。

「リコ?大丈夫ね?」

里沙は私の背中をさすりながら、顔を覗き込む。

私は小さく頷いた。

ポンポンッと私の背中を叩いて、里沙は祐輔の顔を見ずに、この場を後にした。

残された私達は、しばらく無言のまま。

(ちゃんと…聞かなきゃ…)

黙って下を向いたまま座り込んでいる私の横に、祐輔が静かに座って、私の頭を撫でた。
私は祐輔のその手を振り払った。

「リコ…?」

「ゆ…すけ…」

「ん?」

心配そうな祐輔の顔を一瞬見て、私はすぐに目を逸らした。

No.303 10/08/06 01:04
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「昨日の夜…どこに居た…?」

答えは分かっているのに、あえて質問する私は卑怯だ…

「昨日の夜…?い、家に居たよ?」

この期に及んで嘘をつく祐輔。
もう出ないと思っていた涙が、また溢れ出した。

「リコ、どうしたの?俺、何かした?」

自分がしてる事に罪悪感は無いのか…?
いつまでもとぼけ続ける祐輔に腹が立つ。

「何かしたって!?自分で分からないの!?」

私は涙を流しながら、祐輔を睨みつけた。

「一体、なんの話なのか…」

「嘘つきっ!!
それに祐輔は、隠し事ばかりだよ!!」

「リコ?お願いだから、ちゃんと話して?」

祐輔も、だんだんと苛立ち始めたようだった。

「昨日の夜、駅で誰かと待ち合わせてたんでしょ!?」

「…えっ!?」


祐輔は、かなり驚いている様子だった。

No.304 10/08/06 12:23
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「なんで知って…」

「聞いたのっ!!」

「誰に…?」

明らかに祐輔は動揺している。
そんな祐輔の顔を見たら、私はもう、自分の感情を抑える事が出来なくなっていた。

「さっきミキさんに会って聞いたの!!昨日、駅で祐輔に会ったって…。
祐輔が彼女と待ち合わせしてるって言ってたって!」

「それはっ…」

「彼女って誰!?私には21時におやすみってメールしておいて…
他の女と会ってたの!?そもそも彼女ってなんなのよぉーっ…!!」

祐輔の言葉も遮り、私はヒステリーを起こして、感情をぶちまけた。
涙がボロボロ流れてくる。もう、顔もグチャグチャ…

「リコっ、聞いて?」

祐輔は、うずくまる私の上体を起こそうと、肩を掴んだ。

―ドンッ…

私は、祐輔を力の限り突き飛ばした。

No.305 10/08/06 12:50
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコ…」

地面に尻もちをついた祐輔は、放心状態だ。
そんな祐輔を私は、冷ややかな目で見ていた。

「あの口紅も、その彼女のなの?」

「口紅…?」

「祐輔の車にあったやつっ!!」

「あ、あれは違う!!」

ムキになって否定する祐輔を見て、私の中で何かが切れた。

(違う…?お店のお客さんのでも無い、昨日の女のでも無い…
なら、一体誰のなの…?)

「祐輔…他にもまだ女がいるの…?」

「違う!俺の話を…っ」

「私だけって、言ったじゃないっ…
1番も2番も居ないって…」

「リコだけだ!信じてくれよ!昨日は…っ」

「信じられない…
もう、ヤダ…もう…」

意識が朦朧としてきた。

「リコ?」

「私…だけ…って…」

―ドサッ…

「リコっ!?」


私は意識を失って、その場に倒れた―――

No.306 10/08/06 13:09
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔の声が聞こえる――

私の、大好きな人の声――


「…コ!?リコっ!?」

目を覚ますと、祐輔が心配そうな顔で私の名前を呼んでいる。

「ゆう…すけ…?ここ…」

「病院だよ!リコ、倒れたんだよ!待ってて、先生呼んでくるっ」

(私…倒れたんだ…)

天井を見ながら、ボーッとしていると、祐輔が先生を連れて病室に入ってきた。

「神谷さん、気分はどうですか?」

「あ、はい…大丈夫です…」

「炎天下の中、興奮状態だったみたいだからね。検査の結果、脳の方に異常は見当たらないから、大丈夫ですよ」

「そう…ですか…」

「もうちょっと休んでいきます?」

「帰っても、いいですか…?」

「神谷さんが大丈夫なら。無理はしないでくださいね?お家でゆっくり休んでください」

「お世話になりました…」

祐輔に支えながら、二人で病院を出た。

No.307 10/08/06 13:27
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

タクシーに乗り込み、まだボーッとしたままの私は、祐輔の肩にもたれ掛かった。

「リコ…ちょっと一緒に来て欲しいんだけど…大丈夫かな?」

「うん…」


祐輔が運転手に行き先を告げて、タクシーが走り出す。


私は祐輔に寄り掛かったまま、また少し眠った。



「リコ?着いたよ」

「ん…」

祐輔に手を引かれて、タクシーを降りた。


「ここ…」

辺りを見渡すと、一軒家が立ち並ぶ住宅街。

「これが俺ん家。入って?」

足元がフラつきながら、祐輔に支えられて、家の中に入った。

No.308 10/08/06 13:43
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ただいまー」

「あ、おかえりー。
…あら?そちらの方は?」

玄関に入ると、奥から祐輔のお母さんが出て来た。

本当なら、初めて彼氏のお母さんに会う時は、緊張するんだろうけど、今の私は緊張する余裕も無かった。

「俺の彼女のリコさん」

「あら~っ!そうだったの!」

「こんにちは…初めまして…」

祐輔のお母さんは、ニッコリ笑ってくれた。

(笑顔が可愛いお母さんだな…)

すると、祐輔のお母さんは私の顔を覗き込んできた。

「リコさん大丈夫?顔色が悪いみたいだけど…」

「ちょっと体調崩してんだ。俺の部屋連れてくから、冷たいお茶出してくれる?」

「あらあら!まぁ~、早く上がって?」

「お邪魔します…」

No.309 10/08/06 13:56
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「俺の部屋、2階の一番奥の部屋だから。先に行ってて?大丈夫?」

「うん…」

私は、ゆっくり階段に向かって歩いた。すると、祐輔とお母さんの会話が聞こえてきた。

「母さん、優希は?」

(優希って、お兄さんかな?)

「あ、さっき帰って来て、シャワー浴びてるわよ?」

「じゃあ風呂から上がったら、優希に俺の部屋に来てって言っといて?」

「え!?大丈夫なの?」

「いいから。このお茶、貰ってくよ?」


(なんでお兄さんを呼ぶの…?大丈夫って、なんだろう?)

私は二人の会話に疑問を抱きながら、やっと祐輔の部屋の前までたどり着いた。


「あれ?まだ入ってなかったの?」

祐輔がお茶を持って階段を上がってきた。

「どうぞ、入って?」


祐輔が部屋のドアを開けてくれた。

No.310 10/08/06 14:12
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔の部屋は、男の子の部屋とは思えない程、綺麗に片付けられていた。

家具は全て腰より低い高さの物だから、とても広く感じた。

「座って、お茶でも飲んでて?
優希が…あ、優希って兄貴ね!もうすぐここに来るから」

「なんでお兄さんが…?」

私は、部屋の真ん中に置かれたテーブルの前に座った。

「リコに、ちゃんと全部話すから」

祐輔は、コップを持ってベッドに座った。

(お兄さんと、今回の事が関係あるの…?)

祐輔が何をしたいのか分からなくて、ただお兄さんを待つしかなかった。

しばらく沈黙が続いていたら、

―コンコンッ

と、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「入って」

中から祐輔がドアの向こう側に声を掛けると、ガチャッとドアが開いた。


ドアの方に視線を移した時、私は言葉を失った。

No.311 10/08/06 22:55
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「えっ、あのっ…」

私は完全にテンパッていた。
言葉がうまく出せない。

頭の中で処理し切れない現実に直面した私は、祐輔に助けを求めるように目で訴えた。

困惑する私を見た祐輔は、クスッと笑った。

「ハハッ…リコ、超テンパッてる」

(当たり前じゃない…だって、この人…)

そう、私の目の前に立っているのは、どこからどう見ても『女の人』…

お兄さんが来ると言われて待っていたのに、何故か目の前に『女の人』が現れた。

思考回路が完全に停止した。

「あの…初めまして…」

『女の人』は、後ろで手を組み、俯き加減でモジモジしていた。

「初め…まして…」

私は硬直していた。

祐輔は立ち上がって、『女の人』に歩み寄った。

「リコ、紹介するね?俺の兄貴の優希。正確には、元兄貴?
今は姉ちゃんか」

祐輔は緊張する優希さんに、安心させるような優しい笑顔を見せた。

No.312 10/08/06 23:11
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

(ちょっと待って!?元兄貴?今は、姉ちゃん?じゃあ優希さんは、いわゆる…)

頭の中で目の前の現実を必死に整理した。

「優希、この人は俺の彼女のリコさん。可愛いだろ?」

祐輔は得意げに私を紹介した。
優希さんは、私の事をじっと見ている。

「あぁ、この人が…
もしかして、ずっと前に私の口紅で、不安にさせちゃった人?」

「そっ!今も俺、フラれそうな勢いで信用無くしてんだ…
悪いんだけど、優希から話してくんない?」

(私の口紅って…あれは優希さんのだったの!?)

目を見開いたままの私の前に、優希さんはゆっくり座った。
座る仕草一つとっても、元男性とは思えないぐらい、本当に綺麗…

「えっと…リコさん?」

「は、はいっ」

私は声が裏返っていた。
祐輔はベッドに座って、笑いをこらえている。

No.313 10/08/06 23:33
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコさんの話は、祐ちゃんからよく聞いてます。いつも、弟がお世話になっております」

「あ、いえっ!こちらこそ…」

私は足を崩していたけど、優希さんの落ち着いた話し方に、自分より年下とは思えず、慌てて正座した。

「あの、リコさんが祐ちゃんの車で見つけた口紅…私のだったんです」

「そう…でしたか…」

「後から祐ちゃんに言われました。『せっかくデートに誘ったのに、お前の落とした口紅で信用無くした』って」

優希さんは、唇をキュッと噛んで控えめに笑った。
私は、自分がちょっと恥ずかしくなって下を向いた。

「祐ちゃんがリコさんをデートに誘った日の前日、私は祐ちゃんに職場まで送ってもらってたんです。その時、車の中で化粧してたから、落としちゃったみたいで…」

「そう…だったんですか…」

No.314 10/08/06 23:57
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

優希さんは女の私から見ても、綺麗としか言いようが無かった。
でも、やっぱり兄弟なんだな。祐輔と顔のパーツが似てる。

「ごめんね、リコ…
俺の口から優希の事言っても、信じてもらえないと思ったからさ…言えなかったんだ」

申し訳なさそうな表情を浮かべる祐輔を見て、私は軽く微笑んだ。

「あ、優希!あと、『小百合さん』の事も話して?
その事で、リコを泣かせちゃったんだ…」

「えっ?祐ちゃん言ってなかったの!?」

「言いにくくて、隠してた…」

優希さんは、呆れ顔で溜め息をついた。

(『小百合さん』…?)

二人の会話についていけず、キョトンとしている私を見た優希さんは、深々と頭を下げた。

「リコさん、ごめんなさい…」

「えっ?」

「馬鹿な弟が隠し事をした為に、リコさんに辛い思いを…」

「えっ、いや…
『小百合さん』って…?」

No.315 10/08/07 00:20
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「話すとちょっと長くなるんですけど…」

私は、真っ直ぐ優希さんの顔を見て話を聞いた。

「私、スナックで働いてるんです。
そこで一緒に働いている女の子が居て、その子が『小百合』っていうんです」

「あの、小百合さんは…その…」

私の聞きたい事を悟った優希さんは、ニッコリ笑った。

「れっきとした、女の子ですよ」

「あ、そうなんですか…」

「スナックのママも、ちゃんとした女性です。
それで、本題なのですが…」

私はゴクリと唾を飲んだ。

「一ヶ月ぐらい前から、よくお店に来るようになったお客さんがいるんです。
その方が、小百合を異常に気に入ったみたいで…毎日お店に来ては、小百合を口説いてたんです」

優希さんの話しを、私は静かに頷いて聞いていた。

No.316 10/08/07 15:38
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

優希さんが言うには…

― 小百合さんは、あまりにもしつこいから、本当は居ないのに、「彼氏が居る」と嘘をついた。
そしたらその男に、「そいつに会わせろ。会ったら諦める。嘘なら許さない」と脅された。
怖くなり、昨日は仕方無く祐輔が彼氏のフリをして、その男に会って話しをしたという事らしい…


なんとなく理解したけど、疑問点がいくつもある…

スッキリしない顔で居ると、祐輔が顔を覗き込んできた。

「リコ?怒ってる…?」

「いや、怒ってるっていうか…スッキリしない…」

「何?
ちゃんと全部話すから、なんでも聞いて?」

優希さんも、心配そうな顔で私を見ていた。

「うん…なんで昨日ミキさんに会った時に、『彼女と待ち合わせ』って言ったの?わざわざミキさんにまで『彼女』って言う必要無かったんじゃない?」

「それはあの時、すでに男が駅前で待ってて、近くに居たんだよ。だから、怪しまれないように仕方無く…」

「どうして近くに居るって分かったの?祐輔は、その男の人の顔を知ってたの?」

祐輔は苦笑いして目線を逸らした。

No.317 10/08/07 22:49
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「俺、旅行から帰ってきた次の日から、優希の居るスナックを手伝ってたんだ。
厨房だったから、表には顔出して無かったんだけど、その男の顔は見てたんだよね…」

「えっ、祐ちゃん。手伝ってた事も言って無かったの!?」

優希さんは、眉間にシワを寄せて呆れていた。

「リコさん、ごめんなさい…
祐ちゃんが旅行から帰って来た日に、急遽連休中だけって約束で、私が頼んだんです…
小さなお店だけど、この時期になると忙しくて、人手が足りなかったんです…」

「祐輔?どうして私に隠してたの…?」

「その…」

「会社がバイト禁止なのに、また規則破った後ろめたさ?」

「いや、バイトとしては働いてないよ。
スナックのママは俺達の親戚の叔母さんなんだ。
親戚の店の手伝いって名目で、ママのポケットマネーからこずかい貰っただけ」

「なら、なんで黙ってたの?」

私が問い詰めると、祐輔は棚から小さな紙袋を取り出し、黙って私に差し出した。

No.318 10/08/07 22:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「これは…?」

祐輔に手渡された小さい紙袋の中には、細長い箱が入っていて、ピンクのリボンがかけられていた。

「プレゼント…開けてみて?」

祐輔は照れ臭そうに笑っている。

箱を開けると、小さなハート型に羽が付いた、ネックレスが入っていた。

「ど…して…?」

「俺、旅行で結構金使っちゃってさ。
店を手伝えば臨時収入が入るから、リコに内緒でそれをプレゼントしようと思って…
今年の誕生日は、何もあげて無かったから…」

私の目から、ポタッポタッと涙が零れ落ちた。
どうして泣いているのか、自分でもよく分からなかった。

「リコ…?どうしたの?」

なんとなく答えは分かっていたけど、私は祐輔に最後の質問をした。

「ど…して、毎晩…21時頃にっ…メールを…」

「それは…
もし店手伝ってる間にリコから連絡きても、すぐに返せないから、怪しまれちゃうかなって思って…
それなら、俺から先にオヤスミってメールしちゃえば、リコから連絡は来なくなるでしょ?」

祐輔の口からは、予想通りの答えが返ってきた。

No.319 10/08/07 23:19
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「祐輔の…」

「何?」

「祐輔のバカァッ!!」

私は優希さんが居るのにも関わらず、大声を張り上げた。そして、ネックレスを握りしめてその場に泣き崩れた。


全て誤解が解けてホッとしたのと、

小百合さんに対するヤキモチと、

思わぬ祐輔からのプレゼントへの喜びと、

それと…

今回、祐輔を信じる事が出来なかった自分への悔しさが、涙となって一気に溢れ出した。


祐輔が優希さんに目で合図をすると、優希さんは小さく頷いて静かに部屋を出て行った。


「リコ、ごめんね?結局俺、リコを不安にさせちゃってたんだね…」

「バカ…バカァ…」

私は『バカ』しか言葉が出なかった。祐輔に対して言ったのと、勝手に妄想を膨らませて祐輔を疑ってしまった自分に対してと…

泣きじゃくる私の首に、祐輔はネックレスを着けてくれた。

No.320 10/08/07 23:35
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私が落ち着くまで、祐輔は私を抱きしめながら、頭を撫でていてくれた。

しばらく泣き続けたら、だんだんと涙も出なくなってきた。

「大丈夫?」

祐輔は優しい表情で、私の顔を覗き込んだ。
目が真っ赤に腫れ上がった私は、顔を上げる事なく頷いた。

「俺の事、嫌いになっちゃった…?」

祐輔の言葉に、せっかく引いた涙が込み上げてくる。

「あぁっ!ごめんっ、リコ…泣かないで?」

「フリでも…嫌だよ…」

「フリ?」

「もう、他の子の彼氏のフリなんか…しないで…。祐輔は…私の彼氏なんだからっ!
うわぁーっん!」

まるで私は、自分のオモチャを取られた子供のように泣いた。
呆れられてもいい…
小さい人間だって思われてもいい…
私は、祐輔が他の女の子と歩くのが許せなかった。

そんな私を祐輔は、息が出来ない程きつく抱きしめた。

No.321 10/08/07 23:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「分かった…もうしない。他には?何かある?」

「もう…隠し事しないで…不安になるから」

「うん、約束する。他には?」

「プレゼントなんか要らない。祐輔にお金が無くてもいい。だから、ずっと一緒に居て…?もっと祐輔と一緒に居たい…」

「俺もリコと一緒に居たい。
俺さ、店を手伝ってる時、すげぇリコに会いたかったよ。でも、昨日で手伝いも終わったから」

「もう、いいの?」

「うん。今日と明日はママが旅行に行くから、店は休みなんだ。俺の連休も明日で終わるし、ちょうど良かった」

「そう…」

気持ちも落ち着いてきて、急に甘えたくなった私は、祐輔の胸に顔をうずめた。

「姉さん、他に何かご要望はありますか?」

祐輔は、ちょっとおどけて私に問い掛けた。

No.322 10/08/08 00:12
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「好きって言って?」

「…大好きだよ」

「愛してる?」

「愛してる」

「ネックレスありがとう…」

「どういたしましてっ」

「疑ってごめんね…」

「俺の方こそごめん…」

「一緒に暮らそう…?」

「うん…えっ!?」

祐輔はビックリして私を引きはがした。

「本当に…?いいのっ!?」

「もう祐輔が隠し事出来ないように、家に閉じ込めとく…」

「鎖でも着けとく?」

「いいかも…」

私達は、コツンと額を合わせて笑った。

「リコ、俺からもお願いしていい?」

「何?」

「キスさせて…?」

「いっぱいしてくれるなら…」

祐輔は私を愛おしむように笑って、キスをした。

お互いの気持ちを再確認するように…

『ごめんね』と伝え合うように…

深く深く、何度も唇を重ねた。

No.323 10/08/08 21:08
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― バンッ

突然部屋のドアが開き、ビックリした私達は、唇を合わせたままビクッと跳ね上がった。

恐る恐るドアの方を見ると、祐輔のお母さんが目を丸くして立っていた。

「あら…ごめんなさいね。続けて?」

そう言い残してお母さんは、そそくさと立ち去ろうとした。

(続けてって…)

私は恥ずかしくなって俯いた。

「母さん!ノックぐらいしろよっ!」

祐輔は恥ずかしさを隠すように、大声を出した。

「何度もノックしたわよ~?なのに全然返事が無いから、何かあったんじゃないかって思って…」

(全然気付かなかった…)

私と祐輔は顔を見合わせて苦笑いした。

「あ、そうそう。もう時間も遅いし、リコさん夕飯食べて行かない?お父さんも会いたいって」

全然時間の事なんか気にして無かった私は、慌てて部屋の時計を探した。

No.324 10/08/08 21:09
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

もう20時過ぎ…

「そうだよ、リコ!
なんなら、泊まってけば?」

「あら、いいわね!
リコさん、ゆっくりしてって?」

「そんな…ご迷惑じゃ…」

思いもよらないお誘いに、私は困惑した。

「遠慮しなくていいのよ~?狭い家だけどっ」

「じゃあ、遠慮なく…」

「あ、母さん!リコと一緒に暮らしていい?」

この場で同棲する事をサラッと言う祐輔に、私は驚いた。

「若いっていいわね~。
一緒に暮らせば、誰にも『邪魔』されないもんねぇ~?」

お母さんは、ニヤニヤしている。

「母さん、何を考えてっ…!」

「んふふふっ。
早く下りていらっしゃいね~」

お母さんは意味深な笑みを浮かべながら、部屋を出て行った。

「ごめんね、リコ…あんな母さんで…」

「フフッ…面白いお母さんだね」

「普通、あの状況で『続けて?』なんて言うかぁ~?」

「アハハハッ…でも、ビックリしたぁ~」

祐輔はちょっと呆れ顔で、私はクスクス笑いながら部屋を出た。

No.325 10/08/08 21:20
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

とにかく、祐輔の御家族は明るい人達だ。
御両親は、女として生きている優希さんの事も理解して、心から応援していた。祐輔も、愛情たっぷりに育てられてきたんだなって、この御家族からすごく伝わってきた。

楽しい夕食の一時を終え、私は後片付けを手伝った。
そしてお風呂に入って、優希さんから新品の下着を貰った。
祐輔の服を借りたらダボダボで、『子供みたいで可愛い』って笑われた。

もう日付が変わろうとしていたから、御両親と優希さんに『おやすみなさい』を言って、祐輔と部屋に戻った。

「なんか、長い一日だったなぁ~」

祐輔は、ベッドに大の字になっている。
私は着て来た洋服を畳んでいた。

「そうだね…
色々あったけど、祐輔の御家族に癒されちゃった」

背中に祐輔の視線を感じる…

「なに?」

「リコ、こっち来て…?」

祐輔はタオルケットにくるまって、甘えた目をしていた。

No.326 10/08/08 22:22
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私が立ち上がると、祐輔は起き上がって布団をポンポンッと叩いた。

ベッドに座ると、祐輔は後ろから私の髪をかきあげた。

「首の跡、消えちゃったね?」

「もうっ、あれから隠すの大変だったんだからっ」

「また付けなきゃね。俺のモノだって証…」

「バカ…」

祐輔は優しく私の首元にキスをした。


こういう雰囲気、もう祐輔とは何度か経験してきたけど…
やっぱり毎回ドキドキする…

私はギュッと目を閉じた。すると…

― コンコンッ

と、ノックの音がした。

祐輔は、ハァ~…と溜め息をついてドアを開けた。

「母さん…今度は何?」

「祐輔っ?分かってるんでしょうね?」

「何が?」

「嫁入り前の娘さんに何かあったら、あちらの親御さんに顔向けできないでしょ?だから、細心の注意を払って…」

「あ~もうっ!分かってるよ!はいはい、おやすみっ!」

「ちょ、ちょっと…」

祐輔はお母さんをグイグイ部屋から追い出して、バンッとドアを閉めた。

No.327 10/08/08 23:05
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私は笑いをこらえるのに必死。だけど、もう限界…

「あははははっ!もうダメっ!お母さん最高っ」

「最高じゃねーよ…
絶対分かってて邪魔してるよ…」

なんだかドラマみたい。こんな時、『超ウケる』って言葉がピッタリだ。

「もぉ~、ムードぶち壊し…まじ泣きそう…」

祐輔はベッドに丸まっていじけた。

やっぱり祐輔は可愛い…
こんな祐輔が、私はたまらなく愛おしい。

私は祐輔に覆い被さって、首筋にキスをした。

「いっ…!?リコ?」

祐輔の首筋に、『私の存在』を強く刻んだ。

「私、初めて彼氏に『跡』付けた…」

「まじで!?写メ撮って?」

「やだよっ!」

「えぇ~」

二人でケラケラ笑いながら横になった。

「おやすみ、リコ」

「おやすみ」

軽くキスをして、祐輔の腕枕で眠った。

― 大好きだよ、祐輔…

No.328 10/08/09 17:22
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― 翌日の昼頃

私と祐輔は玄関に居た。

「昨日は突然お邪魔しまして…」

私は見送りに出て来てくれた祐輔の御家族に挨拶をした。

「いいのよ~、また来てねっ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、行ってくるから」

祐輔が玄関に置いた大きな荷物を持ち上げると、お父さんが首を傾げた。

「祐輔、その荷物は?」

「今日からリコの家に住むから。あれ?母さん言ってなかったの?」

お父さんは、キョトンとしてお母さんを見ている。

「あら、私はてっきり祐輔からお父さんに言ったものだと…」

「なにっ!?母さん知ってたのか!?しかも、突然過ぎるじゃないか!!」

お父さんが声を荒らげると、その場の空気が一気に静まり返った。

「祐輔…」

「父さん、ダメ…?」

二人は真剣な顔で向き合う。

「父さんも連れてけっ!」

「はあっ!?」

No.329 10/08/09 17:34
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「なんで父さんまで来るんだよっ!?」

「こんな可愛い子と一緒に暮らすだなんて…羨ましいじゃないか!」

お父さんは、子供みたいにダダをこねていた。

「お父さん、私がいるじゃない?」

お父さんを諭すように、優希さんが優しい笑顔を見せた。

「おぉ、そうだな!俺にはこんなに可愛い娘がいるんだ!
祐輔っ!さっさと出て行け!」

「はぁ~?意味わかんねーよ…」

私は玄関の壁に向かって肩を震わせながら笑った。
この家族、最高にツボにハマる…

「リコさん…祐輔を宜しくね?」

「はい。急な申し入れで、申し訳ありません…」

ニコッと笑って頭を下げるお母さんに、私も深々と頭を下げた。

「どうせ、まだ部屋の荷物取りに帰って来るから。リコの家も、そんなに遠くないし。
じゃあ、またね!」

祐輔は笑顔で手を振り、私はもう一度深くお辞儀をして、祐輔の家を後にした。

No.330 10/08/10 00:34
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私の住むアパートには駐車場が無い。
だから、月極めの駐車場が決まるまで、祐輔の車は実家に置かせてもらう事にした。

一度祐輔の荷物をアパートに置いてから、昼食を食べるついでに、買い物に出掛けた。

一応余分に食器とかはウチにあるけど、せっかくだから、二人お揃いの食器を買って、あとは生活に必要な日用品と、祐輔の服を入れるクローゼット用の引き出しも買った。

祐輔との新生活に、私はテンションMAX!
あれもこれもと、次々にカートに詰め込んだ。

でも祐輔は、カートを押しながら元気が無い。

「祐輔、どうしたの?」

「すごく申し訳無いんだけど…」

「何?」

「俺…こんなに買うお金、持って無いよ…」

少し沈んだ雰囲気で俯く祐輔の背中を、私はポンッと叩いた。

No.331 10/08/10 00:46
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「心配しないで!
ここは、お姉さんに任せなさいっ!」

「でも…」

「いいからっ!だけど、ちゃんと生活費は貰うからね?」

「それは、もちろんだよっ!!」

祐輔は、すごく悲しい表情だ。

「ほら、祐輔笑って?私一人浮かれてても、つまんないじゃん!」

「うん…」

「なら、出世払いという事で?」

「うんっ!俺、社長になる!」

「無理無理。」

「即答っ!?」

祐輔に笑顔が戻った。その顔を見て、私も一安心。

残りの生活用品と、夕食の材料を買って、荷物が多過ぎるからタクシーで帰った。

No.332 10/08/10 01:04
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

アパートに戻り、荷物を運び込んで、ドッと疲れた私達は大きな溜め息をついた。

「ゆっくり片付けていこうね?とりあえず、夕食の準備するねっ」

私は台所にあるエプロンを着て、買ってきた袋の中から材料を取り出した。

「リコさん!!」

急に大声を出した祐輔の方を見ると、床に正座していた。

「フフッ…どうしたの?」

「木村祐輔、本日からお世話になります!どうぞ、宜しくお願いしますっ」

祐輔は深々と頭を下げて、額を床に付けた。

私も祐輔の前に正座した。

「こちらこそ、宜しくお願いします」

深々と頭を下げ、二人同時に顔を上げたら目が合って、可笑しくなって吹き出した。

「俺、少し片付けるね」

「お願いねっ」

こんな、たわいもない会話一つでも、私は胸が弾んだ。

No.333 10/08/10 01:47
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

今日は簡単にオムライスとスープとサラダを作った。

私が料理をしている間、祐輔は驚異的な早さで片付けを済ませた。

「まだ、実家に荷物あるけど入るかな?」

「玄関の隣の部屋、ほとんど使って無くてスペースあるから、大丈夫じゃない?」

「りょ~かいっ」

「さ、食べよ!」

テーブルに食事を並べると、祐輔は写メを一枚撮って、あっとゆう間に食べ切った。

(本当に作り甲斐があるなぁ)

後片付けを二人でして、交代でお風呂に入った。

さすがに二人共疲れて、すぐに布団で横になった。

No.334 10/08/11 00:12
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

寝転がりながら私を後ろから抱きしめて甘える祐輔に、どうしても聞きたい事がある…

「ねぇ…祐輔?」

「ん~?」

「あのね、言いたく無かったらいいんだけど…」

「何?」

「御実家にお給料の半分を入れてるって、前に言ってたじゃん…?」

「あぁ、その事…?」

祐輔は私から離れ、ゴロンと仰向けになった。
私は祐輔に背中を向けたままでいた。

「家に金入れてるっていうかぁ…優希に?」

「優希さんに?」

振り向いた私に、祐輔はフッと照れ臭そうに微笑んだ。

「優希が女になる為には、何かと金掛かるじゃん?手術とか、整形とか…」

「うん…」

「アイツ、前はニューハーフの人達が働く店に居たんだけど、どうもあの『ノリ』についていけなかったみたいでさ」

「ノリ…?」

祐輔は肘に頭を置いて、私の方に向き直った。

No.335 10/08/11 00:33
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ああゆう店って、元は男であるって事を全面的に売りにするでしょ?
客も変に色々聞いてきたりさ」

私は黙って祐輔の顔を見つめていた。

「優希が20歳の時に親にカミングアウトしてから、1年ぐらいはそうゆう店で働いていたけど、どうしても自分は『元男だった』って目で見られるのが嫌で、辞めたんだ。
それで、事情を知った今のスナックのママが『女』として、優希を雇ってくれたんだよ」


― 優希さんはスナックに勤め始めたけど、やはりお給料は前の店よりも少なく、手術や整形費用が思うように貯まらなかった。
それでも頑張っている優希さんの力になりたくて、祐輔が今の会社に入った時から、お給料の半分を優希さんに、お母さんから渡してもらっていた。


この話しを聞いたら、祐輔の家族に対する想いに感動したと同時に、ここまで想われている優希さんに、少しだけ嫉妬した…

祐輔の実のお姉さん(?)にまで嫉妬する私は、人として恥ずかしいと思った…

No.336 10/08/11 00:49
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

複雑な表情を見せた私の頬に、祐輔の手がそっと触れた。

「リコには、すごく申し訳無いんだけど…
今月の給料までは、半分優希に渡したいんだ…俺も突然出て来ちゃったし」

少し悲しげな表情を浮かべる祐輔に、私は少しだけ微笑んだ。

「リコには既に迷惑かけちゃってるけど…来月からは、ちゃんと生活費も渡すし、今日買った分も必ず返す。
それじゃあ、ダメかな…?」

私は小さく首を横に振った。

「別にお金の事をうるさく言いたかった訳じゃなくて…
ただ、興味本位で聞いただけなの。ごめんね…」

「なんでリコが謝るの?俺がちゃんと話して無かったのが悪かったんだ。ごめんね…」

「ううん、祐輔って…家族想いだね」

「そう?自分では普通だと思ってたけど…」

「私の事も…大事に想ってくれる…?」

私は、すぐに自分の言った事に後悔した。きっと私…最低な質問をしてる…

No.337 10/08/11 01:05
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― 絶対嫌われた…

私が、分が悪い表情で祐輔から目を逸らすと、祐輔はクスッと笑った。

「リコぉ…もしかして、俺の家族にヤキモチ?」

― うっ…
心を見透かされた私の顔が強張った。

「ハハッ、本当にリコって、可愛いな」

(可愛い…?)

思いも寄らない事を言われた私は、祐輔を見上げた。

「家族はもちろん大事だけど…それは家族愛ってヤツ?
リコに対しては、LOVEだね」

「私、最低だよね…家族と比べさせるなんて…」

「それぐらい、俺に惚れてんだろ?」

「…病気じゃないかって思うぐらい」

枕に顔をうずめる私の頭に、祐輔の唇が触れた。

「祐輔…私、祐輔を独占したいと思っちゃう。自分で自分が怖い…」

「俺だって…リコが慎也さんと話すだけで、嫉妬してるよ?
あ、里沙さんにもっ」

枕から顔を上げると、祐輔はニッと笑った。

No.338 10/08/11 01:23
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「祐輔…」

「こんなに嫉妬深い俺、嫌いになった?」

私はブンブンッと首を横に振った。
すると、祐輔は優しく微笑んだ。

「でも、俺はリコを束縛するつもりは無いから。
里沙さんとか、周りの人達と関わってるから、今のリコがいるんだし。でも、リコの心は俺のモノ」

「うん、私も同じ気持ちだよ…」

「リコ、愛してる…」

「私も…」

祐輔が私の首筋に優しいキスをした時…

「あ゛っ!!」

私の、すっとん狂な声に驚いた祐輔が、ガバッと起き上がった。

「どうした!?」

「実はさっき、月に一度のモノが…」

言いにくいそうに目線を外す私の様子に、祐輔が何かに気付いた。

「あ、あぁ~…女の子の…?」

私はコクンと頷く。

祐輔は一瞬何かを考えて…

「お、お大事に?」

ひねり出された祐輔の言葉に、私は真顔で固まった。

No.339 10/08/11 01:49
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔は困った表情で私を見ている。

「ブフッ…フフフフフ…」

こらえきれず、私は吹き出した。

「え?何か俺、変な事言った!?」

「フフフッ、ごめっ…ククッ…ありがと?」

女の子の日になって、初めて『お大事に』なんて言われた。
よく分からないなりに、一生懸命考えて言ってくれた祐輔の『お大事に』が、私のブルーな日を少しだけhappyにしてくれた。

「祐輔っ」

「ん?」

「だ~い好きっ!!」

― ドスンッ

「うわっ!!」

「きゃあっ!!」

たまらず祐輔に飛び付いたら、二人でそのままベッドから落ちた。

床に倒れ込んだまま、二人でいつまでも笑っていた。


― 祐輔の家族にまで嫉妬するなんて、完全に病気じゃん。

カッコ悪い…

もっと、大人になろう…

No.340 10/08/11 10:47
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

    ―桃色― 第4章


      『戦い』




― 私に『強さ』をください…

No.341 10/08/11 11:03
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

お盆休みが明けて、久しぶりに会社の人達と顔を合わせる。
日焼けしている人、遊び疲れてグッタリしてる人、恋人が出来て浮かれてる人…
みんな、思い思いで出社して来た。

私は、浮かれてる部類に入る人間だ。

鼻歌を歌いながら、給湯室でお茶を入れていると…

「リぃ~…コぉ~…?」

「ほわぁぁっ!?」

突然背後から里沙のホラーな声が聞こえてきて驚いた私は、なんとも情けない声を上げた。

「り、里沙!?はぁ~、びっくりしたぁ…おはよう?」

胸に手を当てて、大きく溜め息をつく私を里沙は、口を尖らせてジーッと見ている。

「ずっと…リコからの連絡、待ってたのに…」

「連絡…?あぁっ!!」

(しまったぁ~…
すっかり忘れてた…)

一昨日、祐輔と私を残し、里沙が去って行って…
あれから里沙に一度も連絡をしてなかった…

No.342 10/08/11 11:29
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ごめん…ごめんね!?あれからゴタゴタしてて、その…」

必死で弁解する私を見た里沙は、ニカッと笑った。

「う~そっ!多分、二人なら大丈夫だろうなぁって思ってたから、私からも連絡しなかったんだよねっ」

得意げにピースをする里沙の顔を、私はまともに見る事が出来なかった。

「リコ、何かあったの?」

「あ、いやぁ…
何かあったと言いますか…」

「何!?ちょっと気になるじゃん!」

険しい顔をして、悪い事を想像してるっぽい里沙を給湯室の壁に向かわせた。
身を寄せ合い、私は小さい声で里沙に話した。

「実は…祐輔と、ウチに住む事になって…」

一瞬固まった里沙は、バッと私から体を離した。

「えぇぇーーーーっ!?」

「里沙っ!声が大きい!」

「ごめ…、え?いつから?」

「いつからっていうか、もう昨日から住んでる…」

「えぇぇぇーーーっ!?
モゴッ…!?」

大声を出し続ける里沙の口を、私は両手で塞いだ。

No.343 10/08/11 11:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― キーンコーン…

始業を知らせるチャイムが鳴った。

「また後で聞かせてよっ!?」

「うんっ」

私と里沙は、急いで席に戻った。


連休明けって、頭が働かない。部署内の空気もダラッダラ…

椅子の背もたれに寄り掛かって、チラッと祐輔の方を見る。祐輔も、私と同じ格好で私を見ていた。
祐輔がニッと笑って目線を外した。
とぼけた顔で遠くを見ながら、クイッとワイシャツの襟を指で下ろした。

チラリと見えた祐輔の首元には、

私が付けたキスマーク…

ガタガタンッと座り直した私は、誰かに見られていないかと周りをキョロキョロ。

そんな挙動不振な私を見た祐輔は、手の平を額に当てて顔を隠し、下を向いてクスクス笑っていた。

祐輔のバカバカ!

でもちょっと、優越感…

No.344 10/08/11 23:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

午前中は、祐輔とのやりとりで気分上昇だったのに…
午後になると、私の顔は常に引きつっていた。

「木村せんぱ~い。これぇ、お土産ですぅ」

「受け取ってくださいっ」

新人の女の子達が祐輔を囲んで、次々にお土産を手渡していく…

「あ…ありがとう…」

笑顔は見せないものの、祐輔は渡された物を全て受け取っていた。

女の子達が嵐のように散って行くと、祐輔は溜め息をついて私の方を見た。

私は咄嗟に目を逸らした。

そして私は、澄ました顔でパソコンに向かう。

(お土産ぐらいで何嫉妬してんの!
ダメよリコ!大人になれっ――)


休憩時間になると、祐輔は廊下で、他の部署の女の子達に囲まれていた。


祐輔って、他の部署の子達からもモテるんだ…
全然知らなかった。

そんな光景を見て、イライラッとしながらも、私は頑張って平静を装い続けた。

No.345 10/08/12 00:37
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― その日の夜

「ギャハハハハハハッ」

会社帰りにウチに来た里沙の笑い声が、部屋中に響き渡った。

「里沙、笑い過ぎ…」

「だって、木村君のお兄さんが女になってたって…」

一昨日の出来事を私から聞かされて、いつまでもソファーで転げ回る里沙に、私はコーヒーのおかわりを差し出した。

「私も最初はビックリしたけど…優希さん、本当に綺麗で女性らしいんだよ?色々苦労もしてきたみたいだし…」

「へぇ~。会ってみた~い」

ソファーで寝転ぶ里沙に笑顔を見せて、私は夕食の支度を始めた。

「木村君は、今日は遅いの?」

「少し仕事が残ってたみたいだったけど、もう帰って来るんじゃない?」


― ピンポーン…

「あ、帰って来た!」

私は早足で玄関に向かい、笑顔で祐輔を迎えた。

「ただいま~…
あれ?里沙さん、来てたんですか?」

「お帰り~。お邪魔だったかしら?」

「いえいえ、そんな事は」

ニヤニヤしながらソファーで寝転ぶ里沙に、祐輔は笑顔で答えた。

No.346 10/08/12 00:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「お疲れ様、ご飯すぐ出来るからね」

「も~、俺お腹ペコペコ~!」

「はいはい」

私達のやり取りを見た里沙は、満足げに微笑み、帰り支度を始めた。

「里沙さん、帰るんですか?」

部屋着に着替えた祐輔が、里沙の前で立ち止まった。

「里沙、ご飯は?」

「いらな~い。これ以上、こんな恥ずかしい空間に居られないもん」

「なんで恥ずかしいの?」

「二人でイチャイチャしちゃってさ。
見てるコッチが恥ずかしいわっ」

私と祐輔は顔を見合わせて、照れ笑いを浮かべた。

「あ~あ、私も慎ちゃんと暮らそっかな~。
じゃ~ね、お邪魔しましたっ」

「気をつけてね」

「おやすみなさーい」

私と祐輔は、二人並んで里沙を玄関から見送った。


二人きりになった私達は、ニコニコとリビングに向かった。

No.347 10/08/12 01:04
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

台所で料理の続きを始めると、祐輔が後ろから腰に手を回してきた。

「今日は何作ってんの?」

「ハンバーグだよ」

「わ~いっ」

祐輔はグリグリと私の肩に顔をうずめて甘えている。

きっと、こんな祐輔は私しか知らない…

そう考えると、どんなに祐輔が会社でモテていても、気にならなくなってきた。

「そういえば、祐輔って他の部署の子からもモテるんだね?」

私は余裕の表情で祐輔に問い掛けた。

「見てたの…?」

「たまたまね」

「なんで来てくれなかったの?」

さっきまで甘えていた祐輔の声が、急に低くなった。

「なんでって…」

「俺達の事、みんなにいつ言うの?」

「…」

私は料理をする手を止めて、俯いてしまった。
私から離れた祐輔は、小さく溜め息をついて、ソファーに寝転がった。

No.348 10/08/12 01:18
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

(怒らせちゃったかな…)

腕を頭の後ろに組んで天井を見上げる祐輔を、ただ見つめていた。
何も話そうとしない祐輔が少し怖くて、声を掛けられずにいた私は、ゆっくりとハンバーグを焼き始めた。

「い~匂い…」

私は振り返り、ボソッと呟いた祐輔の方を見た。

「祐輔、私…」

「あのさ…」

言い訳をしようとする私の言葉を遮るように、祐輔が口を開いた。

「俺、いつまでもリコとコソコソ付き合ってたくないよ。最初はリコの言う通り黙ってたけど、なんか…もう嫌だ…」

言葉が出なかった。
私に勇気が無いばかりに、祐輔を苦しめていたなんて、思いもしなかった。

私は黙って、フライパンの上のハンバーグを見つめていた。

No.349 10/08/12 09:40
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

ソファーからゆっくりと立ち上がり、祐輔は私の方へと近付いてきた。

ハンバーグから目を離さず立ち尽くす私の前に割り込み、何も言わずに祐輔はハンバーグをひっくり返した。

「あ~あ、焦げちゃった?」

「あ…ごめ…」

慌てて祐輔からフライ返しを受け取り、再びハンバーグと睨めっこをした。

クスッと笑った祐輔が、また後ろから私の腰に手を回し、頬を寄せる。

「俺、会社でリコの事見てるだけで、気持ちが抑え切れない…」

「祐輔…?」

「真剣に仕事してるリコ見てると、後ろから抱きしめて、そのぷくっとした唇にキスをして、大好きだって言いたくなる…」

祐輔の言葉の一つ一つが、私の胸を熱くする。
私だって同じ気持ち。
真剣に仕事に打ち込む祐輔を見てると、触れたくなる…

No.350 10/08/12 09:50
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「で、でも…みんなに言ったからって、会社でソコまでは…」

祐輔は顔を赤くして俯く私の後ろから手を伸ばし、コンロの火を消した。

「分かってるよ、でも…」

そう言いながら私の手を引き、ソファーに連れて行かれて座らされた。

床に膝をついた祐輔が、私の頬にそっと触れて見つめる。

「それぐらい、俺とリコは愛し合ってるんだって、会社のヤツらに見せ付けたい…
リコ以外の女に言い寄られるの、もう嫌だ…」

「私も、祐輔が他の女の子達に囲まれてるのを見るの、もう嫌…」

見つめ合った私達は、どちらからともなく唇を合わせた。

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