注目の話題
気になる人が社内恋愛。それを理由に仕事をやめるのはありか
子ありと子なしはどちらが老後安泰?
同僚から紹介された相手とどうするのがよいでしょうか…

―桃色―

レス500 HIT数 191054 あ+ あ-

*さくらんぼ*( 20代 ♀ ZOnM )
10/10/16 00:25(更新日時)

世の中の男性が、全て同じだとは思って無い。

「私の付き合う人達」が特別だって、分かってる。

でも…

昔からことごとく浮気されて、今の彼に限って私は4番目の女…


そりゃ、男を信じられなくなるでしょ。

ただ、甘い恋がしたいだけなのに…


「おめでとう」の言葉も、プレゼントも無いまま、彼の腕の中で30歳の誕生日を迎えた―

No.1368233 10/07/11 21:34(スレ作成日時)

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No.151 10/07/25 23:57
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

― 里沙と公園で別れた後、二人でホストクラブに行った事。

― そのホストクラブで、祐輔はバイトをしていた事。

― そこで、ミキさんとユカさんと話をした事。

― その後、公園で祐輔が私に告白をし、付き合う事になった事。


何一つ隠す事無く、祐輔は里沙と里田部長に全てを話した。

祐輔が話している間、里沙と里田部長は黙って頷きながら聞いてくれていた。


全て話し終わると、しばらく沈黙が続いた。


穏やかな顔で祐輔の事を見ていた里沙が、ゆっくりと口を開く。


「木村君、ホストやってたんだね。だから、女の人達と街で…」

「はい…黙ってて、すみませんでした…」

祐輔は少し頭を下げた。

「でも、なんですぐにリコに話さなかったの?話せばリコが、変に悩む必要無かったじゃない?」

「それは…」

祐輔は里田部長の顔をチラッと見た。


(祐輔、どうなっちゃうんだろう…)


私も不安げな顔で里田部長を見ていた。

No.152 10/07/26 00:07
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

3本目のタバコを吸っていた里田部長は、タバコの火を消して祐輔の顔を見た。

二人共、すごく真剣な顔。


「木村、会社の規則は分かってんだろうな?」

「はい…」

祐輔は、小さく返事をして俯いた。

里沙は訳の分からない顔をして里田部長を見ている。


「慎ちゃん、規則って?」

「お前、知らないのか?うちの会社は、バイト禁止なんだ。バレたらクビだ」

「えっ!?」

驚いた里沙が、心配そうな顔で私を見た。
私は何も言えなかった。


「それで木村は、それを承知でバイトしてたんだな?」

「はい…」


里田部長は、ソファーに寄り掛かって天井を見ながら、大きな溜め息をした。


「馬鹿正直な部下を持つと、本当に苦労するよ」


「すみません…」


どんどん小さくなっていく祐輔を見て、里田部長がフッと笑みを浮かべた。

「俺、お前がバイトしてんの知ってたんだよなぁ」

No.153 10/07/26 00:17
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「えっっ!?」

思いもよらない里田部長の言葉に、私達3人は声を揃えて驚いた。

その様子を見た里田部長は、クスッと笑っていた。

「慎ちゃん!どうゆう事!?」

里沙がすごい剣幕で里田部長に詰め寄る。

「あの辺の店、よく会社の接待で使うんだよ。
半年ぐらい前に、店の前で客に挨拶する木村を、たまたま見たってワケ」

里田部長はシラッとした顔でタバコに火を着けた。

「なら、リコが木村君の事で悩んでる時に、どうして教えてくれなかったの!?私達にぐらい、教えてくれてもよかったじゃない!」

「里沙、落ち着いてっ」

怒り狂う里沙を私は必死で止めた。

そんな様子の里沙を見ても、里田部長は顔色一つ変えない。
むしろ、呆れていた。

No.154 10/07/26 00:47
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「あのなぁ、社員のプライベートをベラベラ喋れる訳ないだろ?口の軽い上司をお前らは信用できるか?
例え彼女でも、言えない事はあるんだ」

祐輔は、放心状態だった。私も驚いていたけど、それよりも里田部長の事を尊敬した。

里沙も里田部長の言葉に納得したようで、下を向いてしまった。

「まぁ、木村にも何か事情があるのかなとは思ってたし、会社には真面目に来てたからな。特に会社側には報告もしてないんだ」

「祐輔…木村君はどうなるんでしょうか…?」

「なんだお前ら、もう名前で呼び合う仲なのか?」

「慎ちゃんふざけないで!」

私達を茶化す里田部長に、里沙は眉間にシワを寄せて怒った。

「怒るなよ。
バイトの件は、あくまで『会社にバレたら』の話だからな。俺達が黙ってりゃ問題にはならないだろ?」


里田部長はちょっと悪戯っ子のように笑ってみせた。

No.155 10/07/26 00:58
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「それ…じゃあ…」

何も言えずにいた祐輔から、やっと出た声は震えていた。

里田部長は、祐輔に優しい笑顔を向けた。

「バイトの事は、ここだけの話。お前達、黙っとけよ?じゃなきゃ、俺の首まで危ないからな」

安心した私は、涙が出てきてしまった。
「里田…部長…ありがとうございます…」

「ありがとうございます!!」

私と祐輔は深々と頭を下げた。


「慎ちゃん、だいすきっ」

「うわっ、里沙やめろって!」

里沙が里田部長に飛び込み、ドタッと二人で倒れてしまった。

私と祐輔は安心し切ったのと、二人が仲良くイチャついてるのが微笑ましくて、顔を見て笑い合った。


(本当に、本当によかった…)

私は里田部長の事を男性として、そして上司として心から尊敬した。

No.156 10/07/26 18:45
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「そうだ!晴れて二人が結ばれたんだし、ビールで乾杯しようよ!」

里沙は、立ち上がって満面の笑みで提案した。

「こんな真昼間から!?」

私と祐輔は、顔を見合わせて少し戸惑った。

「そうだな。なんだか、めでたいし。飲むかぁ」

そう言いながら、里田部長は台所に向かい、冷蔵庫の中を覗いた。

「あ、夕べ全部飲んじゃったな。木村!買いに行くぞー」

「え!ちょっ…あ、はいっ」

祐輔は戸惑いながら、車のキーを持ってスタスタ出掛ける里田部長を追い掛けて行った。


部屋に残された私と里沙は、コーヒーのカップを片付けに台所に向かった。

No.157 10/07/26 23:47
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

飲み終わったカップを洗う私を、里沙が気持ち悪いぐらいの笑顔で私を見つめていた。

「んふふふ」

「なぁにぃ?さっきから、里沙の顔気持ち悪いよ?」

「気持ち悪いって、極限に失礼じゃない!?」

「ははっ、ごめん、ごめん」

里沙は、怒りながらも嬉しそうな表情を浮かべた。

「リコ、今幸せ?」

「幸せだよ?」

私は自分でも驚くぐらい、素直に答えた。

「ま~、ノロケちゃって」

「里沙が聞いたんじゃん!」

「そうだけどさっ。リコ、いい顔してるね。恋愛してますって感じ」

「そう…かな」

私は照れてしまって、洗い物をする自分の手元から目線を上げられない。

「今日の服、木村君の反応は?」

「可愛いって…」

「んま~!聞いてるこっちが恥ずかしい!」

里沙は両手で顔を隠して、一人でクネクネ、バタバタ暴れていた。

No.158 10/07/26 23:58
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「もうっ、からかわないでよ」

「だって、なんか二人見てると青春って感じでぇ~」

「はいはい、そうですか。
何か、おつまみ作らなくていいの?」

いつまでもクネクネしている里沙に、少し冷たい視線を送った。

「そんな目で見ないでよぉ。リコが幸せで私も嬉しいんだからぁ」

「はい、どーも。
何か材料ある?」

シラッと話す私に不満げな表情を浮かべながら、里沙は冷蔵庫から卵を1パック取り出した。

「卵料理?」

「え、おつまみって言ったら卵焼きじゃない?」

そう言いながら、里沙は次々に卵を割り出した。

「ちょっと、里沙!?何個使うの!?」

「何個って、1パック?」

「そんなに!?」

「普通でしょ?」

ア然とする私なんかは、お構いなしに里沙は黙々と卵焼きを作り続けた。

工程を見る限り、不安だらけの卵焼き…

(里田部長は、いつも『コレ』を食べてるの…?)

私は里沙に、もう何も言えなかった。

No.159 10/07/27 00:14
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

里沙が不安の塊でしかない卵焼きを作っていると、祐輔と里田部長が帰って来た。

「ただいま。おっ、里沙!作ってくれてたのか」

帰ってくるなり、嬉しそうな表情を浮かべながら、里田部長は台所に買ってきたお酒を冷やしに来た。
両手いっぱいのビニール袋の中に、お酒が沢山入っていた。
そして、卵も1パック入っていた。


(里田部長…やっぱり里沙に、この卵焼きを作ってもらおうと…)


私は、なんだか二人が通じ合っている感じが羨ましい半面…
やはり『コレ』をいつも食べている里田部長が、心配にもなった。

「さあ、出来たよぉ~」

祐輔と私で、テーブルの上をセッティングしていると、里沙が自信満々に卵焼きを運んで来た。


ドンッと置かれた卵焼きを見た祐輔が、目を真ん丸くして固まった。

No.160 10/07/27 00:24
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

『リコ…やけにこの卵焼き…デカくね…?』

『1パック分だもん…』

私と祐輔は、極力口を動かさないように小声で話した。

『1パック!?10個分!?多くない?
てか、よくここまで巻けたなぁ…』

『うん…あのフライパンを返すテクニックには脱帽だよ』

『ねぇ、なんでこんなに赤いの?』

『一味唐辛子を瓶の半分入れたからね…』

『うええっ!?ピリ辛どころじゃないじゃん!』

『そして、砂糖も大量に入っております』

「はあっっ!?」

予想もつかない味付けの内容を聞いた祐輔は、思わず大声を出した。


「なぁにぃ?また二人でコソコソと~。見せつけないでってばぁ」

ニヤニヤと漬け物を持ってくる里沙を、『俺達をどうしたいんだ…』という顔で祐輔が見ていた。


里田部長も嬉しそうにマヨネーズを持ってやって来た。

No.161 10/07/27 00:37
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「里沙の卵焼きは、斬新で絶品なんだぞ?」

そう言いながら、里田部長はマヨネーズをお皿にウネウネと絞り出した。

私と祐輔は、

「オイシソ~」

と、棒読みで言うしかなかった。



「さあ!リコと木村君のラブラブを祝して…
かんぱーっい!!」

―――カチーンッ

里沙の号令のもと、みんなでグラスを鳴らした。


「さあ、遠慮せず食べて!」


差し出された卵焼きを箸でつまんだ祐輔は、私に助けを求める表情で見つめている。

私は小さく頷いた。『いけっ』と言うように…

祐輔は目をつぶって卵焼きを口に入れる―――

「ふぐぁっ…!」

祐輔の口から、なんとも言えない声が漏れた。

涙目で私の顔を見てきたが、私は目を逸らした。


(祐輔っ…ごめん!親友がせっかく作ってくれたから…
お願い、飲み込んで!)


祐輔は卵焼きを流すように、ビールをがぶ飲みしていた。

No.162 10/07/27 00:47
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「木村ぁ、マヨネーズ付けるともっと美味いぞー?
うん、里沙の卵焼きは本当に美味い!」

卵焼きに大量のマヨネーズを付けながら、里田部長はニコニコと食べていた。その様子を里沙は、嬉しそうに見つめていた。

(この二人、絶対に味覚が壊れてる…)

私は心配で仕方なかった。

「里田部長…あの…」

「あ~、そうだ神谷。外で部長は止めてくんない?プライベートでまで、部長やってたくないしな。慎也でいいよ」


「あ、はい…じゃあ、慎也さん?」


「んー?」


「体壊しませんか…?」


「いや、むしろ元気になるだろ?」


「あ、そうですか…」

卵焼きを食べ続けながら、笑顔で里沙と見つめ合う慎也さんを見たら、これ以上何も言えなかった…

祐輔は、ひたすらお酒で口の中を洗うように飲み続けていた。

No.163 10/07/27 00:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

飲み始めて30分ぐらい経った頃、祐輔が突然泣き出した。

「里田部長~、俺ぇ、本当に嬉しいっす。里田部長がバイトの事を黙っててくれるなんてぇ」

「わかった、わかったから。お前、酒弱いなぁ」

「さとだぶちょぉー」

「お前も外では、慎也でいいから」

「慎也様ぁー!!」


祐輔は突然、慎也さんに飛びついた。


「うわっ、気持ち悪いからやめろっ!離れろ!」

「ありがどうございまずぅ~」

ワンワン泣きながら祐輔は、慎也さんにお礼を言い続けた。

里沙とその様子を見ながら、お腹を抱えて笑った。

No.164 10/07/27 01:10
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

慎也さんに抱き着いていた祐輔は、一通り泣き終わると、スクッと立ち上がり、席に戻った。そして、そのままテーブルにうずくまった。

「祐輔?大丈夫?」

私は、祐輔の肩を揺すった。

「あ、私お水持ってくる」

「お願い」

里沙から水の入ったコップを受け取って、私は祐輔の耳にコップを当てた。

「水だよ~?祐輔~?」

すると祐輔は、突然顔をガバッと上げて、次は私に飛びついてきた。

「ちょ、ちょっと祐輔!?どうしたの!?」

「リコ~」

祐輔は私の胸に顔をうずめて甘えている。

「ちょっと、やめてよ?こんなトコでぇ」

里沙がニヤニヤしながら茶化す。


「祐輔!ちょっとしっかりしてよ!」

「リコ~、チュウしてぇ?」

「はあっ!?」

祐輔は唇を突き出して私に迫ってくる。

どうしていいか分からず、パニックになった私は―――


――バシャッ


とっさに持っていた水を、祐輔の頭から掛けた。

No.165 10/07/27 23:33
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコっ!?なにやって…木村君、大丈夫!?」

慌てて里沙がタオルを取りに走った時、私は自分がした事にハッとした。

「祐輔!?ごめん、大丈夫!?」

祐輔は、一瞬ビックリしたようだったけど、また私に抱き着いてきた。


「リコぉ…おやしゅみなしゃい…」


そう言って、祐輔は眠りについた。


「うそ!祐輔!?」

私は必死で祐輔の体を揺すった。それでも、起きる気配が無い。
すると、

「プッ…木村君、子供みたーい」

と、里沙が笑い出した。


「ほんと、よくこんな酒弱くてホストやってたな」


慎也さんも、呆れ顔で笑っていた。


「なんなのよ~」


私も体の力が抜けて、笑い出してしまった。


「色々考え事して、一気に気が抜けたんじゃない?」


里沙が毛布を持って来てくれて、優しく声をかけてくれた。

「そうだよね…ここに来るまでバイトの事、気にしてたから…」


私は、スヤスヤと眠る祐輔の頭をそっと撫でた。

No.166 10/07/27 23:46
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

その後は、祐輔を除く3人で楽しく飲んだ。

その間、祐輔はずっと眠ったままだった。

「あ、もう18時だね。明日も会社あるし、早めに帰ろっか」

そう言いながら、里沙が少しずつ片付けを始める。

「全員、家まで送ってやるよ。
…と、木村の家がわからないな。神谷、わかるか?」

「いえ…一駅向こうとしか…」

「まいったな…叩いても起きないぞ?」

慎也さんは、困った表情で頭を掻いている。

私は散乱している缶を集めて、台所に運んだ。

「リコの家に連れてけばぁ~?」

里沙が食器を洗いながら、ニヤニヤと私を見ている。

「そんな事できる訳ないでしょ!?
第一、明日は祐輔どうすんの?着替えも無いし…」

「そんなの、木村君が朝早めに出て、会社に行く途中に着替えて行けばいい話じゃーん」

「…」

あっとゆーまに里沙に問題を解決されてしまい、私は断る理由が無くなって黙り込んだ。

No.167 10/07/28 00:04
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「いいっ!祐輔を起こして家を聞き出す!」

私は気合いを入れて、祐輔の元へズカズカ歩み寄った。
祐輔に掛かっている毛布を剥ぎ取り、思い切り体を揺すった。

「祐輔!?帰るよ、起きて!!家どこ!?」

「うーん…あと5分…」

「そうじゃなくて、家を詳しく教えて!!」

「こんな家に住みたいぃ…」

「もう!!ふざけてないで、ちゃんと答えてよ!」

私はイライラしながら祐輔をバシバシ叩いた。

「神谷…悪いけど、神谷の家に連れて行ってやって?木村だけ、ここに居てもいいんだけど…俺、明日は取引先に出張で、早朝会議だから朝4時には家を出るんだよ…今日中に色々準備もあってな」

慎也さんが、申し訳無さそうにしている。

「分かりました…」

「もしかしたら、送ってる途中で起きるかもしれないし。そしたら家に帰らせればいいしな」


「はい…」

No.168 10/07/28 00:26
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「あ、ダメだ」

慎也さんが、車のキーを持って立ち止まった。

「俺、酒入ってるわ。運転できないな」

「あー、そっかぁ。なら、私電車で帰るぅ。リコはタクシーで帰ったら?」

「あ、うん…」

「悪いな…」


慎也さんがタクシーを呼んでくれて、里沙と私は先に乗り込んだ。
遅れて、慎也さんが祐輔を抱えてタクシーまで連れて来てくれた。


「じゃ、気をつけて。本当に悪いな」

「いえ、お邪魔しました」

「慎ちゃ~ん、バイバ~イ!」

私達が挨拶を済ませたのと同時にタクシーが走り出した。


里沙だけ駅で降りて、二人で私の家に向かった。


アルコールが入っていたせいか、私もウトウトしていたみたい。ハッと気付くと、タクシーは私の住むアパートの近くまで来ていた。

淡い期待は虚しく、祐輔は私の家に着くまで眠り続けていた。

No.169 10/07/28 00:44
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「祐輔?
起きて、歩ける?」

「う~ん?」

祐輔は目を擦りながらフラフラと、かろうじて歩いた。


私はフラつく祐輔を必死で支えながら、なんとか自分の部屋まで辿り着いた。


玄関に座らせ、靴を脱がせて、またフラつきながら祐輔をベッドまで運んだ。

祐輔はドサッと倒れ込み、またすぐに眠ってしまった。


(さすがに疲れた…)

私は力を使い切り、その場に座り込んだ。

私自身疲れているはずなのに、祐輔の寝顔を眺めていたら自然と笑みがこぼれた。


(寝顔は子供みたいなんだなぁ。
会社もクビにならずに済んだし、ホッとしたんだろうな)


私は、そっと祐輔の髪を撫でて、起こさないよう静かにシャワーを浴びに行った。


自分より背の高い男性を抱えて歩いたのは初めてだった。
とにかく必死だったから、全身汗でベタベタ。それが気持ち悪くて、一刻も早くシャワーを浴びたかった。

No.170 10/07/28 00:55
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

(ふぅ…サッパリしたぁ)

髪をタオルで拭きながら部屋に戻った。

「リコ…?」

「わあっ!びっくりした!起きてたの?」

祐輔は暗闇の中、ベッドの上で正座をしていた。

「ここ、リコの部屋?」

「そうだよ~。運ぶの大変だったんだからぁ」

「俺、なんで…」

「覚えてないの?
祐輔、慎也さんの家で酔い潰れて寝ちゃって、起こしても起きなかったから、ここに連れて来たんだよ。祐輔の家もわからないし…」

「そうだったんだ…迷惑かけちゃったな…ごめん」

祐輔は、うなだれるように頭を下げた。

「別にいいよ。それより、もう大丈夫なの?」

「うん、目ぇ覚めた。
あっ、俺の自宅に電話してくれればよかったのに!母さんいるし」

「あ~!そういえば祐輔、まだ家出てないんじゃん!そうだ~…思い付かなかった…」

「ごめんね…」


余りにも申し訳なさそうな祐輔を見て、私はクスッと笑いながら部屋の電気を付けた。

No.171 10/07/28 01:07
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「コーヒー飲む?」

「あ、いいよ!すぐ帰るから!」

祐輔は慌てて立ち上がったけど、まだ足元がフラついていた。

「遠慮しないで。
コーヒー飲んで、酔いを覚ましてからにしたら?」

「じゃあ、いただく…」

祐輔は小さくなって、テーブルの前に正座した。


「はい、どーぞ」

「ありがとう…」

コーヒーのいい香りが広がっている自分の部屋で、祐輔と二人で居るのが不思議な気分だった。
でも、なんだかとても落ち着く。


コーヒーを一口飲む度に溜め息をつく祐輔を見て、思わず笑ってしまった。


「リコ、どうしたの?」

「クスッ…ううん。いい加減、足崩したら?楽にしててよ」

「うん…」

祐輔は遠慮がちに、あぐらをかいた。


「それにしても、リコの部屋って綺麗だね」

「そうかな?物が少ないからじゃない?」

「片付け上手で、美味しいコーヒーが入れられる奥さんっていいな」


―――ドキッ

No.172 10/07/28 01:20
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔の口から出た『奥さん』って言葉に過剰に反応してしまった。


なんて答えていいか分からず、私はひたすらコーヒーを飲み続けた。


「リコ…」


「は、はいっ」


祐輔は真っ直ぐ私を見ている。
私は緊張して姿勢を正した。

「俺…」


ドキドキドキドキ――


(ま、まさか!プロポーズ!?いや、まだ付き合い始めたばかりだし!でも祐輔は真剣な顔だし…あ~!なになになに!?)


私は一瞬で色んな事を考えた。


「俺…お腹空いた」

「はあっ!?」

「だって、里沙さんの凶器みたいな卵焼きと、ビール少ししか飲んで無いんだも~んっ」

「もうっ!毎回、毎回なんなのよっ!」

私は持っていたマグカップをダンッとテーブルに叩き付けて、台所に向かった。

「なに怒ってるの?」

「怒ってなんかない!!」

(乙女心をなんだと思ってるの!)

No.173 10/07/28 01:30
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私は終始無言で、炒飯を作り続けた。

祐輔はベランダでタバコを吸っている。
私の様子を気にしているようだったけど、私は気付かないフリをしていた。


「食べれば!!」

タバコを吸い終わって部屋に入って来た祐輔に、お皿にテンコ盛りになった炒飯を突き付けた。


「わあ~、いい匂い!美味しそう!あ、写メ撮ろう」

「な、なんで炒飯ごときを写メ撮るのよ!?」

「だって、リコが俺に初めて作ってくれた料理なんだよ?記念だよ~」

祐輔はニコニコしながら、写メを連写していた。

そんな可愛い祐輔を見ていたら、さっきまでの怒りが吹っ飛んでしまった。


「祐輔はズルイよ」

「はんへ?(何で?)」

祐輔は口いっぱいに炒飯をほうばっている。まるでハムスターだ。


「そーゆーところ!」

「????」

祐輔は首を傾げながらも、バクバク食べて、あっとゆう間に完食した。

No.174 10/07/28 01:40
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ご馳走様でした!はぁ~、美味かった!」

そう言いながら、祐輔は食べ終わった食器を片付けに台所へ向かった。

「へ~。祐輔、ちゃんと片付けるんだ?」

「なんで?普通でしょ?」

「お母様の育て方がよかったんだね」

「あ~、母さんにはうるさく言われてたかな」

祐輔は流し台に食器を片付け、洗面所に顔を洗いに行った。
私は、食後のコーヒーを入れに台所へ向かった。

「そういえばリコ、シャワー浴びたの?」

祐輔はサッパリとした顔で洗面所から出て来た。


「うん、汗でベタベタだったから」


「ふ~ん…」


横からすごく視線を感じる…


「なに?なんか変?」


「んーん。なんか、色っぽい」

「な、なに言ってんの?
ほら、コーヒー入ったよっ」

私は顔が真っ赤だった。

祐輔は私からマグカップを受け取ると、口を付けずにそのままダイニングテーブルに置いた。

No.175 10/07/28 01:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「飲まないの?冷めちゃうよ?」

「う…ん…」

祐輔は真っ直ぐ私を見つめながら近付いてくる。そして、優しく私の髪に触れた。
私は、変に意識してしまって目を逸らした。

「リコ…」

「ん…?」

「好きだよ」

「うん…」

何度言われても、面と向かって『好き』って言われると、すごく照れる。
私はずっと下を向いたままだった。

「照れてるリコ、やっぱ可愛い…」

「照れてなんか…」

「すぐ否定する。素直じゃないなぁ」

祐輔は意地悪く笑いながら、私の顔を覗き込む。

「キスしてって言ってみて?」

「はっ!?な、なんで私がそんな事言わなきゃいけないの!?」

「いーから。言って?」

祐輔は少し命令口調だ。

さっきまで子供みたいに笑ってた子が、今では別人…

祐輔のこの表情が、いつも私をドキドキさせる。

祐輔のこの声が、いつも私を素直にさせる。

No.176 10/07/28 02:26
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「キ…、キス…して…?」

私は自分で言って恥ずかしくなり、両手で顔を隠した。

祐輔は、そのまま私を抱きしめて、肩に顔をうずめた。

「ヤダ」

祐輔は小さな声で言った。

「ちょっ…!言わせておいて何それ!」

必死で祐輔を突き飛ばそうと思っても、まだアルコールの抜け切って無い私には、そんな力は残されて無かった。

祐輔は何も言わずに私を抱きしめ続ける。

「ゆう…すけ…?」

「失敗した…」

「何が?」

「あんな事言わせるんじゃなかった…」

「なんでよ!?」

また祐輔は黙り込んで、抱きしめている腕にギューッと力を入れてきた。

「祐輔、苦しいよ。どうしたの?」

「理性が…」

「またそんな事!!」

「あんな可愛く言われたら、キスだけで終わる自信無い…」

「祐輔…」

祐輔の鼓動が早くなっていくのが聞こえた。

私もドキドキし過ぎて倒れそう―――

No.177 10/07/28 02:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「俺さ、リコの事大事にしたいんだ」

「どうゆう…事?」

「体目当てじゃない。本当にリコそのものを好きになったんだって、伝えたいんだ」

「充分、伝わってるよ?」

「そう?
でも、これからもっと俺の事を知ってもらって、俺もリコの事を知りたい。
今は酒も入ってるし…そんな状態でリコを抱きたくないんだ」

「祐輔…ありがとう…」

私は祐輔の気持ちが嬉しくて、目頭が熱くなった。

「でも…何も無しじゃ寂しいから、いっぱいキスしていい…?」

祐輔は子供がねだるような顔で、私の顔を覗き込んだ。

「うん…いっぱいキスして…?」

私は素直に答えた。

すると、祐輔にグッと手を引かれ、ソファーに連れて行かれた。

私をソファーに座らせると、祐輔は床に両膝をついて私を見つめた。

「リコ、大好きだよ…」

「私も…」

私達は、優しく唇を重ねた。

No.178 10/07/28 20:53
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔は優しく重ねた唇をゆっくり離した。

見つめ合う二人…

時が止まってるみたいだった。


「リコっ…」

祐輔は私に覆いかぶさりキスをする。

さっきとは違う、激しいキス…

深く、深く…

少し乱暴だった。

だけど、

すごく愛情が伝わってくる…

私も祐輔の気持ちに応えた。


どちらの吐息なのか…

どちらの鼓動なのか…

溶け合ってしまって分からない。


「ん…」


苦しくなってきて、思わず声が漏れた。

すると祐輔は、突然私を引き離した。

「ゆ…すけ…?」

私は、トロンとしてしまって体に力が入らない。
なんだか体が熱く、ほてっている。

祐輔は困った表情で、私を見ている。

No.179 10/07/28 21:11
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「ダメでしょー…」

そう言って、コツンと額を合わせた。

「え…?」

「声、反則だよ…」

「あ…、ごめん…」

「リコ、ちょっと熱い?」

「うん、なんか熱い…」


祐輔は、私の髪止めを外した。
まだ乾ききってない髪が、パサッと肩に掛かる。

「リコ、綺麗…」


「そんなこと、初めて言われた」


祐輔はソファーに上り、私の後ろに回りこんだ。

後ろからギュッと抱きしめられて、手を絡めた。

「俺、変な約束した事後悔してる…」

「変な約束?」

「リコを大事にするって」

「あー…、なんで?」

「今すぐ俺のモノにしたい…」

「フフッ…残念だったね」

「リコ、意地悪だ」

「自分で言ったんでしょ?」

「そうでした…」

祐輔は、まるで犬が甘えてくるみたいに、私の肩にグリグリ顔をうずめていた。

No.180 10/07/28 21:24
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

それから私達は、しばらく何も話さなかった。

くっついているだけで落ち着くし、本当に幸せだった。

祐輔は、ずっと私の肩に顔をうずめたままだった。

すると、急に強く手を握られた。

「もう、今日はチュウしない」

「しないの?」

「ウソ。やっぱする…」

「ハハッ、なにそれ」

「んんん~」

また祐輔がグリグリと顔をうずめる。

そんな祐輔が可愛くて、愛おしくてたまらなかった。

こんなに甘えん坊な男性を見るのは初めて。
母性本能がくすぐられるって、こうゆう事か…

「帰る…」

「えっ!?帰るの?」

「帰りたくない…」

「どっちよっ」

いつまでもウジウジしてる祐輔。
でも、こんな祐輔を見られるのは私だけなんだって思うと、ちょっと優越感。

No.181 10/07/28 21:50
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔は、

ハァ~…

と溜め息をつくと、ソファーから降りた。

「顔洗ってくる」

洗面所に向かう祐輔の背中が、なんだかとても切なかった。

(ものすごい葛藤してるんだろうな)


ちょっと可哀相な気もしたけど、今更私から『いいよ』なんて、恥ずかしくて言えない…

それに、祐輔自身が私を大事にしたいと思ってくれてるのだから、その気持ちを無駄にしちゃいけないと思った。


まだ少し、さっきの余韻が残っていた私は、コーヒーでも飲んで落ち着こうと台所に向かった。


「ねぇ~、リコ~?」


甘えた声を出しながら、祐輔が私の腰に手を回してきた。

No.182 10/07/28 22:03
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「なに?
まさか、また理性が…とか言うんじゃ無いでしょーね?」

「んーん。お願いがあるのぉ」

「何甘えた声出してんの?」

「俺ぇ、ここに住みたいなぁ~」

「ダメ!!」

「即答っ!?
え~、なんで?いいじゃんっ」

「ダメったらダメ!!」

頑なに拒み続ける私から離れて、祐輔はプクッと頬っぺたを膨らました。


「ちぇ~…」


祐輔は子供みたいに、いじけながらコーヒーを飲んだ。

2、3口飲んで、帰り支度を始める。

「帰る?」

「リコが意地悪するから帰る」

「なにそれー」

「フッ…ウソ、ウソ!」

祐輔は私の頭をポンポンと叩いて、靴を履く。

「そういえば!
俺、リコの携帯の番号とアドレス知らないや」

「あ、そういえばそうだね」

私達は連絡先を交換し、それぞれの携帯に登録した。

「これでいつでもリコの声が聞ける」


祐輔はニコッと笑って玄関のドアを開けた。

No.183 10/07/28 22:19
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「あ!!」

「何?忘れ物?」

「うん」

「何?」


チュッ―――


軽くキスをされた。

「ね?忘れ物っ」

「もうっ…」

「ヘヘッ…おやすみ!!」

「おやすみ…」


祐輔は駅に向かいながら、何度も振り向きながら手を振り続けていた。


私は祐輔の姿が見えなくなるまで見送った。


さっきまで二人で過ごして居た部屋が、やけにシーンとしている。

寂しい…

さっき別れたばかりの祐輔に、もう会いたい…


(ダメだ…完全に祐輔にハマッてる…)


そんな自分がなんだか可笑しくて、一人で笑ってしまった。

すると、携帯が鳴った。

(メール…?)


メールを開くと、祐輔からだった。

No.184 10/07/28 22:55
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

――from 祐輔

リコ、会いたい。――


キュンッ…


すごく短い文章だったけど、私の胸を熱くさせるのには充分だった。


――to 祐輔

私も会いたい。
また、明日会社でね――


こういう時、恋人が同じ職場なのは、ありがたい。

次の日には、すぐ会えるんだ―

私はギュッと携帯を抱きしめる。

すぐに祐輔から返信がきた。

――from 祐輔

無理。待てない。――


ピンポーン―――


(えっ…?)


部屋の中に、インターホンが鳴り響いた。

No.185 10/07/28 23:07
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

鼓動が高鳴る…

私は玄関までの短い距離を走った。


ドアを開けると――

祐輔が立っていた。

「お待たせしましたぁ~。ご注文の品を…」


迷う事無く、私はガバッと祐輔に飛び付いた。


自分でもよく分からないけど、涙が出てくる。


「会いた…かった…」

嬉しくて、こんなに涙って出るものなんだ。

泣きじゃくる私の頭を祐輔は優しく撫でてくれた。

「さっき会ったばっかでしょー?
って言っても、俺も明日まで我慢出来ずに来ちゃったけどっ」


照れくさそうに笑いながら、私を抱きしめてくれた。


「リコ…何にもしないから、泊まっていい?朝、早く出るからさ…」

ちょっと遠慮がちに私の顔を覗き込む。

「うんっ…うんっ…」

私は泣きながら何度も頷いた。

――こんなに人を好きになったのは初めて…
私、祐輔に恋してるんだ…

No.186 10/07/28 23:25
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔は私の両腕を掴んで、そのまま私の体を玄関の壁に押さえつけた。

さっきよりも、お互いの愛情を確認するかのような、激しいキスをした。

このまま時が止まって欲しい―

きっと、二人共同じ気持ち…

重ね合う唇から、愛情が溢れ出す。


ゆっくりと唇を離した祐輔は、チュッと私の頬っぺにキスをした。


急に照れて、二人で笑った。


「リコ、シャワー借りていい?走って来たから、汗でベトベトっ」

「あ、うん。いいよ。タオル出すね」

「一緒に入る?」

「変態っ」

「俺、生まれて初めて『変態』って言われた…
母さん、俺…変態だって…」

「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと入りなっ!」

「は~い」



シャワーの音が聞こえてくると、何かしてないと落ち着かなくて、とりあえずお湯を沸かした。

No.187 10/07/28 23:37
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「リコのシャンプー、いい匂~い」

「ちょっとリラックスできる香りのを選んでるからね」

「へえ~。あれ?何してんの?」

「あ、コーヒーでも入れようと…」

「プッ…どんだけコーヒー好きなの?」

「あ、いらない?」

「俺、ホットミルクがいいなっ」

「プッ、お子ちゃま~」

「なんとでも言ってくれ~」

祐輔は、ヘラヘラ笑いながらソファーに座った。

ズボンだけ穿いて、上半身は裸だ。

私は目のやり場に困りながら、ホットミルクを手渡した。

「何意識してんの?
リコのエッチ!」

「っ…!?」

私は、何故か言い返す事ができなかった。

少なからず祐輔の体を見て、変な妄想したのは確かだったから…

No.188 10/07/28 23:55
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私もコーヒーは止めて、ホットミルクにした。

ソファーに二人で座って、フゥフゥしながらホットミルクを飲んだ。

体の芯から温まって、私はウトウトしてきた。

「リコ、眠い?」

「ん~…」

「そういえばさ、今ってリコ、スッピン?」

「うん…」

「あんま変わらないんだね」

「ほとんど薄く塗ってるだけだもん。化粧自体、あまり好きじゃない…」

「そうなんだ?
でも、スッピンの方がなんか可愛い」

「そう…?」

私は眠気がピークで、祐輔の話をほとんど聞いて無かった。

目を擦っていると、急に体がフワッと宙に浮いた。


「へ?」


祐輔がお姫様抱っこでベッドまで運んでくれていた。

普段の私なら必死で抵抗するけど、今の私は眠気との戦い。
素直に連れていってもらった。

No.189 10/07/29 00:04
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

そっと私をベッドに降ろして、毛布を掛けてくれた。

「…ありがと」

「そんな可愛いと、襲っちゃうよ?」

「う~…ん。バカじゃないの…」

「あ、眠くても『バカ』って言葉は出るのね…」

「…うん」


半分まぶたが落ちている私の目に、祐輔がキスをした。


「おやすみ、リコ」

「おやすみ…」

優しい祐輔の笑顔を見ながら眠りにつくのは、本当に幸せだった。


まぶたが完全に落ちた時、祐輔が唇にキスをしたのが分かった。

私は口元が緩んだまま、祐輔の温もりを感じながら、眠りについた――

No.190 10/07/29 09:46
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

さすがに徹夜明けでお酒を飲んでいたせいか、夢も見ない程熟睡した。

「ん~…ん?あれ?」

目覚めると、そこに祐輔の姿は無かった。

「帰っちゃったのかな…」

部屋中を探しても、祐輔は居ない。

昨日の事は、夢だったのかなと思うぐらい、シーンと静まり返っている。

もう一度、祐輔の温もりを感じたくて、ベッドに潜り込んだ。

少し祐輔の匂いが残ってる…

胸の奥が、ギューッと締め付けられた。

しばらく布団の上でゴロゴロしていると、携帯のアラームが鳴った。

ベッドの横に置いてある棚に手を伸ばして、携帯を開く。

(あれ?メールがきてる…)

メールを開くと、祐輔からだった。

――from 祐輔

おはよ、リコ!
黙って帰ってごめんね。よく寝てたからさ。
リコの寝顔、いただきましたっ!!――


「いただきました?あ、添付ファイルが…えっ!?」

No.191 10/07/29 22:25
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

メールと一緒に送られて来たのは…
それはそれは幸せそうに口元を緩ませながら眠る、私の寝顔の写メだった。


「いつのまにっ…!?」

私はすぐに祐輔に電話した。


『もっしも~し?おはよう、リコ~。どうしたの?』

「どうしたのじゃないわよ!何この写真!」

『よく撮れてるでしょ?あまりにも可愛いかったから撮ったんだ~』

「消してよっ!」

『やーだ。離れてる時、これ見て寂しさ紛らわすんだから』

「こんな写真やだぁ…お願いだから消して?」

『愛してるって言ってくれたら考える』

「愛してる!愛してるからっ!」

『気持ちがこもってないから却下。
俺着替えなきゃいけないから~。バイビー』

プーップーップーッ…

「ちょっ…
バイビーって…今時言うか…?」

No.192 10/07/29 22:43
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

私は、祐輔の変な挨拶に、ツッコミを入れずにはいられなかった。

(まぁいっか…
他人に見せびらかす訳じゃないだろうし)

とにかく私も仕度しなきゃ。
急いで顔を洗って、着替えた。髪を縛って、メイクをして、朝食を食べる。

コーヒーを入れようとした時、昨日祐輔とホットミルクを飲んだのを、ふと思い出した。

(また、一緒に飲みたいな…)

今日は、いつものコーヒーを止めて、ホットミルクを飲んだ。

少しでも祐輔を感じたかった。


この間までは、休み明けの出社は気が重かった。
でも、今日は違う。
少しでも早く会社に着きたくて、駅までちょっと走った。
いつもより、早い時間の電車に乗った。


本当なら、電車の中でも走っていたい気分。
意味無いけど…


会社の近くの駅から会社まで、始業時間までは充分時間はあったけど、また走った。


始業時間30分前――

いつもより15分早く着いた。

No.193 10/07/29 22:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

ロッカールームで制服に着替えて、オフィスに入る。

「おはよーございまーす…」

「おはよ…
あれ、神谷さん?今日は早いね」

「ええ、まぁ…」

見渡せば、3人ぐらいしかまだ来ていない。

(この人達は、いつもこんな早く来てるのかな?
仕事熱心だなー…)


とくに急いでやる仕事も無いし、今居る人達にお茶を入れた。

それも、すぐ終わってしまう。
暇になった私は、椅子に座ってクルクル回っていた。

(祐輔、早く来ないかな…)


祐輔からの、昨日のメールを読み返していた。


何度読んでも、胸がキュンッてなる。


たいした内容じゃないけど、祐輔の気持ちが詰まったメール…

携帯を眺めながら、一人でニヤニヤしていた。

すると…

「リコ…?」


ガターンッ!!―――


「きゃあっ!!」

No.194 10/07/29 23:10
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

いきなり耳元で名前を呼ばれて、あまりにも驚いて椅子ごとひっくり返った。

完全に気を抜いてた…

思わず悲鳴を上げてしまった。

私の悲鳴に驚いて、オフィスに居た人達が集まって来た。

「大丈夫!?神谷さん!!」

「あ、はい…すみません…」

尻もちをついている私を見て、祐輔が笑いをこらえていた。

「おい、木村~。お前何かしたのか~?」

先輩達が、祐輔の肩を小突いた。


「何もしてないですよぉ。声かけただけですって」


「すみません、私が勝手に驚いて転んだだけです…」


立ち上がろうとしたら、祐輔が手を差し延べた。
祐輔に引き上げられて、立ち上がる。

「本当に、すみません…」

「神谷さん、本当に大丈夫?
木村~、神谷さんにちょっかい出すなよ?お前なんか相手にされないんだから」

祐輔の肩をポンッと叩いて、笑いながら先輩達は仕事に戻った。

No.195 10/07/29 23:23
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

赤面する私の横で、祐輔は肩を震わせて笑っていた。

『もうっ、ビックリするじゃないっ』

『クククッ…だって、一人で携帯見ながらニヤニヤしてたからさ。何見てたの?』

私達は、周りに気付かれないように小さい声で会話した。

『な、なんでもないって。それより祐輔、早いじゃん?』

『え?いつも通りの時間だよ?』

『うそっ!?』

時計を見ると、始業10分前。

ゾロゾロと、みんな出社してくる。


(もう、そんなに時間経ってたんだ…)


時間も忘れて、祐輔からのメールを見ていた自分が恥ずかしい…

私は、ごまかすようにパソコンの電源を入れた。

『ねぇねぇ、リコ。俺、リコに相手にされないんだって』

『そう見えるんじゃない?祐輔、子供だし』

私はシラッとした目で祐輔を見た。

No.196 10/07/29 23:38
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

『あれ~?そんな事言っていいのかな~?コレ見せて、昨日は熱~い口づけ交わしましたって、言っちゃおうかな~?』

祐輔は私の前で携帯をヒラヒラ見せびらかした。
よく見ると、待受画面が私の寝顔の写真…

「なっ…!!」

思わず大声が出た。
周囲の人達が一斉に私を見る。

私は、また赤面して下を向いた。

「す、すみません…」

クスクスと笑い声が起こる…

祐輔は、ニヤニヤしながら自分の席に向かった。

『ちょっとっ!!』

私の制止を無視して、祐輔は椅子に座ってクルクル回りながら携帯を眺めていた。

(…もうっ!!)

唇を噛み締めて席につくと、里沙が近付いて来た。

「リコ、おっはよ~」

「おはよっっ!!」


私は少し強い口調で挨拶を返した。

No.197 10/07/29 23:54
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

「何、朝から怒ってんの?」

「弱みを握られたの!!」

「弱み?誰に?」

「あの、バカにっ!!」

「バカ?あ~、なるほど…
何かあったの?」

「後で話す!!」

私はパソコンのキーボードをバンバン叩きながら、発注書を作成した。

里沙は、首を傾げながら席に着いた。




―――この会社は、7階建てで広く、そして綺麗だ。

各階にそれぞれ部署があって、私達の所属する開発部は、6階にある。

各階に会議室、給湯室、喫煙ルーム、ロッカールーム、自販機、喫茶コーナーが備わっている。
だから、他の部署の人達と顔を合わせる事があまりない。
あるとすれば、2階にある食堂と、そこにある喫煙ルームぐらい。あとは、よっぽど他の部署に用事がある時ぐらいだ。

No.198 10/07/30 00:12
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

―――ここ、開発部の配置は、
机が横に5個ずつくっついて並んでいて、反対側も同じようにくっついている。
つまり、10個で一つの固まり。

私は端っこの席で、左側には席が無い。右隣に同期の女の子。
正面に祐輔と同期の男の子。その隣に祐輔。
私の真後ろに里沙。
窓際から、オフィス全体を見渡せる席に、慎也さん。


7対3の割合で、女の子が少ない。開発部だからってのも、あるのかもしれないけど。―――



パソコンのディスプレイから、ちょっと右斜め前を覗くと、祐輔が見える。

真剣に仕事をしている祐輔の顔が、すごく男らしい。

(昨日は、あんなに可愛い顔してたのに…)

真剣な顔の祐輔も、また格好良くて見惚れてしまう。

じっと見ていたら、祐輔がこちらに気付いた。

No.199 10/07/30 00:28
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

祐輔は私を見ながら口を尖らせて、指で唇をポンポンッと叩く。

私は意味が分からなくて、首を傾げた。

すると、祐輔は口だけ動かして何か言おうとしている。

――キ・ス・し・た・い

そして、また唇を指でポンポンッと叩いた。

私は祐輔に冷たい視線を送りながら、口だけ動かした。

――バ・カ

祐輔は、いじけた顔で口を尖らせながら、またキーボードを叩き始めた。


思わずフッと口元が緩む。


祐輔と、こんなドラマみたいな事が出来るのが嬉しかった。

歳なんか関係無い。
祐輔は、私を恋する乙女にしてくれる。

―大好きだよ


今すぐにでも、祐輔に伝えたい。


ずっと夢見ていた『甘い恋』は、想像以上に私を変えた。

No.200 10/07/30 00:49
*さくらんぼ* ( ♀ ZOnM )

――昼休み

お昼を知らせるチャイムが鳴ると、みんな一斉に席を立つ。

いつも通り、里沙が声を掛けてくる。

「リコー、食堂行こ?」

「うん、ちょっと待ってて。すぐキリつけるから」

「あーい」

里沙は、私の隣の席に座って携帯を開いた。

「あーあ、今日は慎ちゃん居ないから、つまんな~い」

「出張って言ってたね。でも、夕方には戻ってくるでしょ?」

「夕方まで会えないんだもん。いいよねー、リコはっ」

「何が?」

「すぐ近くにダーリンいるんだもん」

「ちょっと!まだ、みんなには言ってないんだからっ」

「隠す事ないじゃん。ね~、木村君っ」

里沙は、パソコンの隙間から覗き込むように祐輔を見た。

「へ?」

祐輔には、聞こえてなかったらしい。

「あ、木村君も一緒にお昼食べる?」

「えっ、いいんですか!?じゃあ俺、一服してから食堂行きます!」

カチカチッとマウスをクリックして、データの保存をした祐輔は、走ってオフィスを出た。

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