夢で見た出来事
今朝方に見た夢が、まるでドラマを観ているような感覚で、鮮明に覚えています😃
誰かに聞いてほしいけど、恥ずかしくて言えないのでこちらに書かせていただきます🙈💦
夢なので、批判中傷はご遠慮ください🙇
新しいレスの受付は終了しました
はるるんさん🌸
お待たせしました☺
これからもゆっくりですが更新していくので、よろしくお願いします😊
また遊びに来てくださいね😉
よかったら、感想スレも立てさせていただいたので、そちらにも来ていただけたら嬉しいです😍✨
『私…小さいときに手術をしたらしくてね、子供が産めないの…。詳しいことは両親が亡くなったからわよくは分からないけど…私には産めないみたいなの…』
次々と楓さんの口から出る言葉についていけず…
私はただただ力なく楓さんを見つめるしか出来なかった。
『…瞬に…子供を産んであげたいのに…私には出来ない…瞬には跡取りが必要なのが百合ちゃんもわかってると思うんだけど…私にはそれが出来ないの…』
楓さんが泣き出した。
私も泣いてしまいそうだった。
楓さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。
だけど…
結笑を手放す勇気もない。
どうしていいのかわからず、私はずっと座ったまま放心状態だった。
『…瞬には…結笑ちゃんしかいないの…お願いします…お願いです…』
どれくらいの時間そうしていたのかな。
結笑のお迎えの時間だ。
楓さんは元気のないまま帰っていった。
気持ちがついていけず、結笑を迎えに行くのがつらくて、勇気さんに電話してお迎えを頼んでみた。
私の様子が変なことに気づいたのだろう…
勇気さんはすぐに了解してくれた。
ご飯…作らなきゃ…
作れるかな…
簡単なものを作り、テーブルに並べなにもする気になれずベッドに横になった。
それからしばらくして、勇気さんと結笑が帰ってきた。
『ママ~💓』
結笑の声がする。
寝室まで私の姿を探しあてて、横になった私の側にくる。
『ママ…頭痛いの?』
心配そうに私の顔をのぞく、かわいい結笑…
すぐ後ろに勇気さんも立っていて、ベッドに腰かけた。
『…どうかした?大丈夫?』
頭を撫でながら聞いてくる勇気さん。
私が答えずにいると、
『結笑っ、ママは具合が悪いみたいだからパパとご飯を食べてお風呂に入ろうねっ!』
っと結笑を部屋から出した。
そして、小さな声で
『結笑のことは僕が見てるから、百合はゆっくり休んでていいよ。結笑を寝せたら話を聞かせてね』
っと言いリビングへ向かった。
『勇気さん…』
何も考えたくない。
考えても答えなんか出ないよ。
広く大きなベッドにうずくまり、布団を頭まですっぽりかぶった。
どれくらいそうしていたのか、気づいたら本当にウトウトと眠っていて、勇気さんに呼ばれて起きた。
『百合…起こしてごめんね。でも、どうしたのか聞きたいんだ』
私は起き上がり、壁に体重をかけながらゆっくりとはなし始めた。
楓さんが来たこと。
楓さんから結笑を娘として迎えたいと土下座されたこと。
子供が授かれないと言うこと…。
話しながら泣きそうになる私を、勇気さんは何も言わず抱きしめた。
勇気さんの腕の中はいつも安心できる。
少し私が落ち着いた頃に、勇気さんからはなしを切り出してきた。
『瞬からは何も言われてないんだよね?』
『…うん』
『じゃあ、これから僕が瞬に電話をかけて聞いてみるけど…いいかな?』
『…うん…ありがとう』
一旦、勇気さんは私から離れ瞬さんに電話をかけた。
『プルルルル…』
『…おぉ!どーしたぁ?』
瞬さんの大きな声は、静かなうちの寝室の中にも声がもれて、私にまで聞こえてくる。
『…今日、楓が来たみたいなんだ』
そう勇気さんが言った瞬間、瞬さんの声が止まった。
『…結笑のこと…引き取りたいと頭を下げに来たみたいなんだ』
『………』
『…瞬、聞いてる?』
『…聞いてるよ』
『………』
『………』
二人の間に無言の空気だけが流れる…。
『…勇気…ごめん…』
『…え?』
『俺から言おうと思ってたんだけど、楓が先に言ったみたいだな…』
『…うん』
『結笑を引き取りたい』
『…瞬、申し訳ないけどそれは出来ないよ。本当の父親が瞬であっても…僕は結笑を手離すつもりはないから』
『…わかってる。勇気が結笑を大切にしてくれてること、すっげー伝わってくる。だけど、俺たちには結笑が必要なんだよ!産まれてから一度だって考えなかった日はないっ!』
瞬さんの大きくなった声が私にも聞こえてきてる。
『…瞬、落ち着いて。会社のことも、楓のことも心配なのはよくわかるよ。結笑を大切な気持ちもわかる。だけど、僕らにとっても結笑は必要なんだ』
勇気さん…
『…瞬、電話じゃなく近々ゆっくり話し合おう』
『…あぁ…わかった』
瞬さんも本気なんだね。
今になって結笑を取り合う日がくるなんて…
勇気さんが側に来てハッキリと言ってくれた。
『…結笑はどこにもいかないよ。大丈夫だよ。それに約束したでしょ?僕が百合のことも、結笑のことも大切にするって。だから…大丈夫だよ』
まるで自分に言い聞かせるように、私に言った勇気さん。
やっぱり不安だよね…
すごく不安だよ…
その夜は手を繋ぎながら眠った。
なかなか寝付けないまま朝になった気がする…。
目覚まし時計を止め、朝食の準備。
しばらくして勇気さんが起きてきた。
『…おはよう。夕べはなかなか寝れなかったみたいだね』
『ごめんなさい…勇気さんの睡眠の邪魔しちゃったよね』
椅子に座りながら勇気さんが優しく答えた。
『僕は大丈夫だよ!それより百合のことが心配だな』
見つめあった私たち。
『…私も大丈夫っ。きちんと瞬さんと楓さんと話し合ってお断りするつもり…それでいいよね?』
『もちろんっ。結笑は僕らの大切な娘だからね』
ニッコリ笑う勇気さんに癒された。
『ママぁ~…パパぁ~…おはよぉ~…💤』
半分寝ぼけながら、まだ目をこすりながら結笑も起きてきた。
『結笑、おはようっ』
『結笑~おはよ!今日は早いね(笑)パパとママの話し声で起こしちゃったかな?』
私は精一杯の笑顔で結笑に語りかけた。
『………💤』
起きてきたかと思えばリビングのソファーに行き、また眠りについた結笑。
『子供ながらに何か感じるものがあるんだろうね…』
勇気さんが結笑を見つめながら言った。
時間になり、結笑を起こす。
『結笑っ、保育園遅くなっちゃうぞぉ~』
慌てて起きる結笑。
勇気さんが笑いながら仕事に行く準備をしてる。
カバンを勇気さんに手渡し、見送った。
『今夜は少し遅くなりそうなんだ…こんなときにごめんね』
『ううんっ、大丈夫。お仕事だもん!いってらっしゃい』
それから結笑を送っていき、またいつもと変わらない一日を過ごした。
好きな人のために作るご飯。
おいしいよって言ってもらえたら、また頑張って作っちゃう。
単純だなぁ~なんて思うけど、みんなから見たらそんな小さな幸せが、私にとっては大きな幸せだった。
結笑を迎えに行き、買い物をして帰った。
夕飯の支度をし、二人で先に食べた。
『今夜は唐揚げで~すっ』
『わぁ~❤』
結笑はおいしそうにパクパクたくさん食べてくれた。
そんな結笑の顔が大好きっ。
お風呂では一日の報告会。
もうすぐ四歳になる結笑はお喋りもお手のもの。
…大きくなったなぁって感じることが増えた。
一人で出来ることも増えて、本当に手がかからなくなった。
これからも一緒にいようね…
…結笑…
しばらくはそんな平凡な毎日が続いた。
でも…
何も問題は解決されてないから、心から笑える日なんてなかった。
今度の火曜日…
結笑を保育園に送り、お昼からなんとか時間を作って楓さんと瞬さんがうちに来る。
勇気さんも少しだけ仕事を抜けてきてくれるみたいで心強い…。
私はハッキリ断るつもりでいる。
だって…
あんなに可愛い結笑を手離すなんて出来ない。
お腹にいるときからずっと一緒にいたのに…
今さら離れるなんて、私には出来ない。
私は結笑のママだから…。
あっという間に時間は過ぎて行き、とうとう火曜日の朝になってしまった。
朝からソワソワしてる私を見て、勇気さんが
『…百合、大丈夫だからね。瞬たちならきっと話し合えばわかってくれるよ』
『…うん。そうだよね』
『じゃあ、会社に行くけど昼前には一度帰ってくるからね』
『はい…いってらっしゃい』
勇気さんを見送り、次は結笑の番。
保育園へ送っていき、玄関でぎゅうっと結笑を抱きしめた。
『結笑…いってらっしゃい』
『うんっ❤』
元気に返事をして中へ入っていく。
結笑の姿が見えなくなるまで目で追った。
掃除をしていても、何をしていてもずっと上の空だった。
『ピンポーン』
『…はぁい』
玄関をあけると、瞬さんと楓さんが立っていた。
『…よぉ』
『こんにちは…百合ちゃん』
『…こんにちは』
なんだかとっても重たい空気。
(勇気さん…)
心の中で勇気さんの名前を読んだ。
お茶をだし、三人で向かい合うものの気まずい雰囲気だった。
会話もはずむわけもなく…
そんな中、勇気さんが帰ってきてくれた。
『ただいま』
『おかえりなさいっ!』
嬉しくて急いで駆け寄った。
『それじゃ、話し合おうか』
四人で席につき、重い空気の中…
結笑についての話し合いが始まった。
『まず、僕らは結笑を手離すつもりがないってことを最初に言っておくね』
『…勇気、百合。俺は結笑のことを大切に思ってる。生まれたときからずっと…遊んで帰る日はいつも胸が苦しかった。ずっと一緒にいたいって思ってたんだ…』
私は胸が痛んだ。
結笑を大切にしてくれていたのは、昔から本当に伝わってきていたから。
結笑と瞬さんを引き離したのは私…。
『瞬が結笑を大切に想ってるのはよくわかるよ…。だけど、僕にとっても大切な娘なんだ』
勇気さんがハッキリ言ってくれた。
すると楓さんが口を開いた。
『…本当の父親は瞬なのよ?こんなこと言いたくなかったけど…百合ちゃんはまだこれからがあるじゃない…。私には瞬の子供はうんであげられない…もう結笑ちゃんしかいないのっ!お願いッ!』
後半は声が大きくなった楓さんを、瞬さんが止めた。
『楓っ…落ち着けよ』
瞬さんに言われ、また口を閉じた楓さん。
『…楓、わかってると思うけど…これから先、もし子供を授かることが出来たって、結笑は結笑だよ。結笑のかわりなんて誰にもなれないよ』
勇気さんが優しく言った。
『結笑ちゃんは…日に日に瞬に似てきたわ。顔は百合ちゃんにソックリでも、芯が強いところも、物怖じしないところも、瞬の小さいときにソックリ…。結笑ちゃんなら会社をしっかり支えてくれると思うの』
楓さんは今にも泣き出しそうだった。
でも泣かないように堪えてた…
そんな姿がまた切なく見えて。
『義父と義母にも孫を…抱かせてあげたいの…』
…肩が震えてる。
私の胸はまたズキンと痛んだ。
お会いしたことはなかったけど、瞬さんのご両親には孫がいることになる。
結笑の存在は知らないだろう…
楓さんは親代わりだった瞬さんのご両親に、早く安心させてあげたい、親孝行したいっと言った。
きっと楓さんは自分を責めているんだろうな…
私には段々と何が正しいのかわからなくなってきた。
結笑にとっての幸せは、私たちが決めることじゃない。
結笑が決めることだから…
話は全く進まず、ついにみんな無言になってしまった。
そんな空気の中、私は重い口を開いた。
『…結笑に決めさせます。』
みんなが一斉に私の顔を見たのがわかる。
『…百合っ、何言ってるの?落ち着こうね?結笑はまだ三歳だよ?』
勇気さんが心配そうに私の肩を掴む。
『…もうすぐ結笑は四歳になります。大体のことは自分で考えて行動できるようになりました。子供は親を選べない…でも、結笑は自分で親を選べます。結笑に決めてもらうのはどうでしょうか?』
言いながら手をぎゅっと強く握りしめた。
すかさず勇気さんが更に私を止めに入る。
『百合っ!自分で何を言ってるのかわかってるのっ…?結笑はまだ小さな子供だよ?あの子に決めさせるなんてそんなこと…』
勇気さんが悲しそうな顔をしているのは、見なくても想像できた。
だから逆に勇気さんの顔が見れなかった。
でも、テーブルの下で、爪が手のひらに突き刺さりそうなほど握りしめている私の姿を見て…
勇気さんはそれ以上は何も言わなかった。
『…結笑が俺らを選べば、俺たちが引き取ってもいいってことか?』
瞬さんが真っ直ぐに私を見つめる。
『…はい。それが結笑の幸せなら私は身を引きます。』
『…そっか、わかった』
そう言いながら、瞬さんは席を立った。
『…楓行くぞ。今日はこれくらいにして一回帰るぞ』
『…うっ、うん。』
慌てて楓さんも瞬さんの後を追って出ていった。
『百合ちゃん…それじゃあ…またね』
『パタン…』
扉の閉まる音が静かな部屋に響く。
『百合…』
私の名前を呼び、勇気さんが優しく抱き寄せた。
その瞬間…
私は我慢が出来ずに泣いた。
『…勇気さん…』
本当はあんなこと言いたくなかったよ。
言いたくなかったけど…
結笑の幸せを考えたら、ああするしかなかったの。
私が結笑を手離さないことが、結笑の幸せなら私は絶対に離したりはしない。
でも…
結笑が大好きな瞬さんといることが幸せなら…
私には止められない。
止めちゃいけないんだよ。
必死に自分に言い聞かせた。
私はバカだよね…
もし結笑が瞬さんたちを選んだら、もう一生結笑と一緒にいることが出来なくなるのにね。
こんなバカなママを許して…
結笑…。
落ち着いてきた頃、勇気さんに仕事に戻るようにお願いした。
すると、こんな私を心配してか結笑のお迎えは勇気さんが行ってくれると言ったので、素直に甘えることにした。
玄関まで見送り、みんなが飲んだカップを洗った。
あっという間に時間は過ぎ、夕方になって玄関が開く音がする。
『ママ~ただいまぁ~❤』
玄関に向かい、
『おかえり~!』
っと元気良く返事をした。
ぎゅ~っと抱きしめて、結笑の温もりを感じた。
あったかい…
『今夜はお鍋にしたんだよっ。さぁ、手を洗ってうがいをしてきてっ』
『はぁ~い‼』
バタバタとかけていく結笑の姿を目で追った。
それから振り返り、勇気さんにも元気よく
『おかえりなさいっ、結笑のお迎えありがとう』
笑顔で勇気さんのカバンを手に取った。
『百合…』
『んっ?』
って、ニッコリ聞き返す私に、
『…いや、何でもないよ』
って勇気さんが言った。
私の気持ちを察してくれてるんだろうね。
ありがとう…。
三人で楽しく夕御飯を食べた。
保育園での出来事。
毎日楽しみにしちゃうくらい、結笑の園での生活が気になっちゃう私。
おうちでは甘えん坊な分、園ではしっかりしているって前に先生がおっしゃっていたから、そんなしっかり結笑さんのお話を聞くのが楽しみだった。
結笑にとっての幸せはわからないけど
ママにとっての幸せはね、こんな小さな楽しみがあるってことが幸せなんだよ。
『パパ~にんじん食べて~…』
『一つだけ食べてごらん?』
『…え~』
『結笑っ!にんじんさんも食べなきゃ大きくなれないよっ』
『…うん』
そう言って、しぶしぶ口に入れる結笑のそんな姿も好き。
大好きだよ。
結笑には心配かけたくないから、常に普通の私でいようと心に誓った。
何も言わなくても勇気さんもそうしてくれた。
そんな空気を読んでくれる彼の優しさにいつも助けられ、支えられてる。
次の日、私はお昼くらいに携帯を手にして電話をかけた。
相手は瞬さん。
『プルルル』
『百合かぁ?どうしたんだ?』
『実はお話があって…』
『…なんだ?』
『しばらく結笑を預かってくれませんか?』
『…はっ?』
『結笑は常に私と一緒にいてくれました…これから先、結笑がどちらを選ぶにしても、瞬さんはあまり結笑と一緒にいた時間ってなかったんですよね…今までごめんなさい』
『…百合…』
『だからっ…結笑としばらく一緒にいてやってください』
私は胸が張り裂けそうだった。
複雑だった…
これで結笑が瞬さんを選んだら、もう私は結笑には会わないだろう…
ううん…
あんなに小さな混乱させてしまうから、会ってはいけないんだと思う…
それでも私は今まで結笑と一緒にいられて幸せだった。
だけど…瞬さんはずっと寂しかったよね…
私最低だったよね…
きっと、これでいいんだよね…
『…わかった。ありがとな…百合。じゃあ、とりあえず一ヶ月くらい結笑を預かるから…』
『…はい。よろしくお願いします』
ゆっくりと電話を切って、携帯をテーブルに置いた。
泣いている暇なんかない。
私は今は忙しく何かをしていないと、もう一生動けなくなってしまうんじゃないかと思うくらい心が痛んだ。
がむしゃらに部屋の隅々まで掃除し、最後に結笑のお泊まりの準備をした。
結笑をお迎えに行く時間だ…
先生にもしばらくお休みさせるって言わなきゃね…
勇気さん…
何て言うかな?
…怒るかな?
…許してくれるかな?
…泣いちゃうかな?(笑)
はははっ…
はは…
…は…
こんなの笑えないよね。
結笑は今週末から一ヶ月間、瞬さん達のところへ行く。
一ヶ月も結笑に会えないなんて…
きっと瞬さんもずっと今までこんな気持ちだったんだろうな。
私はこの寂しさに耐えなきゃいけないね。
でも、一人だったら気が狂いそうだったけど、今は勇気さんも一緒に結笑の帰りを待ってくれる。
だから私は頑張れるよ。
ありがとう。
勇気さんが帰ってきて、結笑が眠ってからはなしを切り出した。
怒られるのを覚悟して言ったけど、勇気さんは…
『百合が決めたことなら、僕は止めないよ…きっと百合のことだからたくさん悩んでこの結果になったんでしょ?僕はちゃんとわかってるから大丈夫だよ』
勇気さんの優しさに胸が温かくなった。
週末になり、とうとう結笑が瞬さんの所へ行く日。
瞬さんはみんなこっちで準備するから何も持たせなくていいって言ったけど…
結笑の大切なうさぎのぬいぐるみと、お気に入りの服と、手作りケーキを準備した。
うさぎのぬいぐるみは、そぅ…
結笑がまだ赤ちゃんだった頃に勇気さんからもらったお人形…
今でも結笑の宝物で、うさぎさんがないと眠れないってくらい大切にしているものだった。
すっかりクタクタなのに絶対に手離さない。
勇気さんはそれが嬉しいみたいで、口には出さないけど、ぬいぐるみを抱いた結笑をいつも優しく見守ってた。
この件も、結笑にしてみたら大好きな瞬ちゃんちへのお泊まり感覚。
朝からそわそわワクワクしてる。
もうすぐ瞬さん達がお迎えが来る時間になる…
瞬さんと楓さんは時間通りに迎えに来てくれた。
『結笑ちゃ~んっ!』
前回会った時とは比べ物にならないくらい、楓さんは元気になってた。
すごく嬉しそうだった…
瞬さんが結笑を抱き上げて、三人ニコニコしながらでうちを後にした。
知らない人から見たら、きっと仲の良い家族に見えるんだろうな。
いつまでも玄関に立ち尽くしていると、勇気さんが 優しく肩を抱いてきた。
『さぁ…中へ入ろう?』
勇気さんにもたれながらリビングのソファーに腰を下ろす。
温かいアップルティーを出してくれる勇気さん。
『どこかデートにでも行きませんか?(笑)』
『…デート?』
『そぅ…なかなか二人っきりなんてないでしょ?たまにはさ、百合も楽しんだらいいよ』
『…うん、そうだねっ』
勇気さんが気を遣ってくれてるのがわかる。
あんまり心配かけちゃダメだよね。
きっと勇気さんも寂しいんだから…ね。
腕を組んでブラブラとショッピング。
可愛い雑貨や綺麗な洋服。
小さな子犬や子猫。
キラキラのジュエリー。
こんなにゆっくり見れたのは久しぶり(笑)
ありがとう…勇気さん。
結笑のいない毎日は、何をしていても張り合いがない。
朝もゆっくり出来るし、洗濯も少ない。
部屋は散らからないし、マシンガントークでお喋りする子もいない。
ご飯は癖で少し多めに作っちゃうし、お皿の数も三枚出しちゃうのがなかなか直らない。
お風呂の湯船にはオモチャをたくさん浮かべる子がいないから広々と入れる。
ベッドだって三人で寝ても余裕があったから、二人で寝るには広すぎて落ち着かない。
テレビの取り合いもしなくていいのに、観たいものもない。
買い物に行ってお菓子をおねだりする子もいないから、意外に早く済んだりする。
『ママのごはんおいしいねっ❤』
って、キラキラ笑顔で言ってくれる子もいない…
私の生活の中にはいつでも結笑がいて…
結笑中心で回ってると言っても間違いじゃないくらい、私には結笑が宝物だった。
少し離れてまた結笑の大切さに気づいたよ…
今ごろ何してるのかな?
ご飯はちゃんと食べてる?
ママのご飯よりおいしいとか言ってるのかな…
迷惑かけてないかな?
おうちに帰りたくないとか言ってるのかな…
きちんとイイコにしてるかな?
うちにいるよりイイコにしてたりして…
ねぇ…結笑…
あなたはどこに、誰といたら幸せなのかな?
ママはあなたが幸せなら…
ママも幸せだよ。
寂しくないと言えば嘘になるけど…
それで結笑がつらくなってしまうなら、ママは喜んで笑顔で送り出してあげるわ。
全ては結笑が幸せであるために。
だって私はあなたのママだもの。
痛いと言っているあなたの手を、引っ張り続けることなんて私には出来ないよ。
ただね…
これだけは忘れないでいてね。
ママは結笑を愛していると言うこと。
ママは何があっても結笑の味方だよってこと。
あなたは強がりだけど、繊細な心も持っているからこれから先、傷つくこともたくさんあるかもしれない。
だけど、それを乗り越える強さも結笑なら持ってるって信じてるから。
だから…
しっかり前を向いて生きて欲しいよ。
どうか、どんな結果になっても結笑が幸せでありますように。
みんなに愛される子になってくれますように。
みんなの笑顔を結べる子に育ってくれますように。
最愛の娘 結笑。
結笑のいない一日はとても長く感じ、時間をもて余すことさえあった。
何度電話をかけようと思ったことか…。
ためらって今日もまた携帯をにぎってソファーに座っていると、突然携帯が鳴った。
ビックリして床に落とした拍子に携帯が開き名前が出ていた。
『楓さん』
今日は結笑が行ってからまだ6日…
何事かと思い慌てて電話に出ると、
『ママァ~❤』
っと、結笑の元気な声が聞こえてきた。
久々に聞く結笑の声。
…久々と言っても、まだ6日しか経ってないのだけれど。
『…結笑?』
嬉しさのあまり小さな声になってしまった。
『ママ❓どうしたの❓どこか痛いの❓』
『…ううん、ごめんね。ママは元気だよ。結笑も元気?』
『うんっ❗元気だよ☺楓ちゃんね、お料理上手なんだよぉ~✨』
『…そっか。いいなぁ~ママも食べたいな』
なぜだかすごく寂しい気がした。
ワガママだよね。
『ママッ❗でもね…』
急に小さな声で喋る結笑。
『結笑はママのハンバーグが一番好きっ❤』
『…ありがとう、結笑』
今すぐ結笑を抱きしめたかった。
電話越しにきゃっきゃっ楽しそうにしてる結笑。
喋ったのはほんの数分だけど、結笑がイイコに元気にしてくれてることが伝わってきて安心できた。
今日は少しだけ心が晴れたみたい。
あとて勇気さんにも電話がきたこと教えてあげよっと!
私が元気がなかったら、勇気さんも結笑も心配しちゃうよね。
結笑も楽しんでいるのがわかったし、私も明るくいなくちゃね。
そうだ…
勇気さんとはほとんど二人の時間ってゆーのがなかったから、そんな時間を楽しむのも悪くないかもしれない。
気分転換にもなるし、勇気さんも喜んでくれるかな…?
家でウジウジしてたって、何も変わらない。
自分で動き出さなきゃ未来なんて明るくないよね。
結笑からの電話で元気をもらったよ。
ありがとう、結笑。
さっそく勇気さんにメールを入れた。
結笑からの電話は会ったときに話すとして…
『お疲れさまです。忙しいかな?今夜二人で外に食事にでも行きませんか?』
送信してしばらくすると、すぐに返事が来た。
『今日はそんなに忙しくないよ。早く帰れると思う。…何か良いことでもあった?』
さすが鋭い勇気さん。
結構私のことをよく知ってるんだよなぁ…私はわかりやすいのかな?
『まだ内緒っ!じゃあ、勇気さんのお仕事が終わる頃に駅前で待ち合わせしましょう』
『了解。待ち合わせとかちょっと照れるね(笑)』
『うんっ。新鮮だね!引き続き、お仕事頑張ってね』
『頑張ります(笑)』
さてっ!
食事も決まったし、たまにはおしゃれにしてビックリさせちゃおうかな。
少し気合いを入れてお化粧をして、勇気さんの好きそうな服を選んで着た。
うんっ、バッチリ。
まだ時間もあるし、たまには本屋に顔でもだそうかなっ。
辞めてから行ってないし、みんな元気かな~。
そそくさと準備を済ませ、家を出た。
久々に行く本屋。
私ここで働いてたんだもんなぁ…
たくさん勉強になったことがあるね。
歩きながらワクワクしていた私。
お店に着いて、『こんにちは』っと一番にカウンターに顔を出した。
『…おっ?おぉっ!百合さんじゃないか~久々だなぁ!相変わらず綺麗で~はっはっはっ(笑)』
振り返ったのは店長さん。
『ご無沙汰しております。店長も相変わらず豪快ですね(笑)』
店長は何にも変わってなくて、少し嬉しかった。
店長と話していると、お店の奥からすごい勢いで走ってくる人がいた。
『こんにちは生垣さん。あっ…今は吉岡さんか(笑)』
息を切らせながら挨拶してきたのは、店長大好き如月さんだった。
『こんにちは。如月さんも元気そうでよかった』
『お前…まだ休憩中だろ?事務所で遊んでろ~』
『…だってっ!生垣さんの声がしたからっ!まさかと思って…』
『なんだよ~ただ久々に会ったから喋ってただけだろぉ?ふぅ…これだからお子ちゃまは(笑)』
『また子供扱いして!』
膨れっ面の如月さんを優しくなだめる店長。
あれ…
この雰囲気ってまさか…
『…あの、お二人ってお付き合いしてるんですか?』
私の一言に、如月さんは顔を赤くしてニッコリ頷いた。
店長は照れ臭そうに頭をかきながら、
『…こいつの根性に負けちまったよ(笑)こんな子供に手を出して、俺は困った大人だよなぁ~』
っと、がっはっはっと笑っていた。
すご~い!
如月さんの想いが通じたんだね。
頑張れば報われるのかな。
如月さんってすごいなっ。
しばらく楽しくお喋りをして、本屋をあとにした。
駅前のパン屋さんに入り、カップケーキと紅茶を買い窓際のテーブルに座った。
平日だからかスーツを着た男性や女性がたくさん行き交っている。
そんな人々の流れを見ながら一口紅茶を飲んだ。
『勇気さんもこの中にいたりして…』
そんなことを考えていると、人と人の間に一瞬だけ勇気さんの姿が見えた気がした。
まさかね(笑)
なんて思ったら、本当に勇気さんがTシャツにジーパンとラフな格好をした男の人と一緒に歩いていた。
男の人って言うより男の子?って感じの人。
すごく楽しそうに二人で笑ってるなぁ~。
あんな無邪気な顔ってあんまり見たことないかも。
あの一緒にいる人って誰だろう。
すぐに勇気さんたちは人混みの中へ消えていった。
夕食のときにでも聞いてみようかな。
ティータイムをゆっくり堪能し、駅の中にあるお店を色々と見て回ったらあっと言う間に待ち合わせ時間に近づいてた。
少し足早に待ち合わせ場所に向かい、勇気さんを待っていた。
しばらくすると肩をポンっと叩かれ、振り返ると優しく微笑む勇気さんが立っていた。
胸がドキドキした。
こんな気持ち久々だね。
『今日の百合は別人みたいだね。化粧をしてなくても綺麗なのに、そうしていると誰かに連れさらわれそうで心配になってしまうよ(笑)』
冗談混じりにクスクス笑う勇気さんを見て、胸のドキドキが止まらない。
他愛のない会話をしながら、勇気さんが予約してくれていたお店へ向かった。
勇気さんはどこをとっても紳士そのものって感じだ。
さりげなく入り口を開けてくれるところや、段差があったりすると一声かけてくれたりしてくれる。
女の子扱いをされるのが嬉しかったり、恥ずかしかったり…
席につき、勇気さんが注文をしてくれて食事がスタートした。
今日ここに来る前に、前の職場の本屋に顔を出したこと。
店長と挨拶をしたと言ったときに、ちょっとだけ勇気さんの顔つきが変わったような気が…
そして、まさかの店長と如月さんがくっついていたこと。
それにはニッコリ笑って『よかったね』って勇気さんが言った。
そして…
結笑から電話が来たことを話した。
勇気さんも嬉しそうに結笑の話を聞いてくれた。
二人でちょっぴり結笑が恋しくなっちゃった。
いけないっ、いけない。
せっかくの食事だったね。
話題をかえようとしたときに、ふっと夕方に駅で勇気さんを見かけたことを思い出した。
一緒にいた人は誰なのか聞いてみよう。
『あっ、そうだ。今日ね、少し早く駅に着いてティータイムをしていたら…』
『うん、していたら?』
穏やかな口調で話す勇気さんが好きだなぁ…なんて思いながらはなしを続けた。
『うん、それでね。私、勇気さんを見たの。若い男の人と一緒にいたの…』
色んな意味でドキドキしながら、勇気さんがこたえるのを待つ。
すると、勇気さんは優しい顔つきになって
『あぁ、甲斐のことだね』
って、微笑んだ。
『…カイさん?』
私はキョトンとしながら、勇気さんに聞いてみた。
『ごめん、ごめん。百合にはまだ紹介してなかったね。甲斐は僕の弟なんだ』
『…弟さん?』
初耳だった。
人は驚くかもしれないけど、私はまだ勇気さんのご両親には会ったことがない。
とりあえずは結笑が慣れるまではと言う勇気さんの計らいで、挨拶もまだいいと言われてたし、式もまだ挙げてなかった。
ご両親のことしか知らなかったからビックリした。
勇気さんのご両親とは電話で挨拶を交わしただけだけど、とても勇気さんに似て優しそうな口調のお義母さん。
これまた大人しそうなお義父さんっと言う印象だった。
駅で見かけた弟さんは、あんまり勇気さんには似てなかったような気がする。
勇気さんはどちらに似ているのかな?
お義父さん?お義母さん?
落ち着いたらご挨拶に行かなきゃだなっ。
頭がパニックになりそうになっていると、勇気さんが私の頭の中が読めるのかクスクス笑い出した。
『…ごめんね(笑)甲斐のことは実家に行ったときにでも話そうと思ってたんだ。アイツ自由人だからさ』
『…自由人?』
『そう。あんまり家にいないかも。好きなことばっかりやってるから。もう子供じゃないんだから、しっかりしてほしいよ』
呆れながらも、心配してるんだろうなぁって顔を勇気さんはしてた。
『あんまり似てないね(笑)勇気さんはどっちに似てるの?』
『んっ?僕は、顔は父親に似てるかな。性格は母親かな?』
『じゃあ、弟さんはお母さん似なんだね。性格はお父さん似とか?(笑)』
『いや…甲斐も父親似だよ』
えっ?
だって、二人は全然似てないよ…?
『…あんまり似てないよね(笑)僕と甲斐は、父親が違うんだよ』
『………えっ』
『母親が僕を連れて再婚して、今の父親との間に甲斐がうまれたんだ。今の父は本当にいい人だよ。だから安心してね』
さらりと話してるけど…
私の頭はついていけてません。
『…勇気さんのお父さんは?』
聞いていいのかわからなかったけど、勇気さんのことを何も知らないんだと思うと悲しくなってきて聞いてしまった。
『…僕の父親はどうしようもないヤツだよ』
一瞬冷たい表情が勇気さんの顔にあらわれた。
あんな冷たい目を見たことがない。
初めて見た…勇気さんじゃないみたいで、すごくこわかった。
すぐに優しい勇気さんに戻ったけど、あんまり良く思ってないお父さんのことをこれ以上聞くことはできなかった。
『…変な空気になっちゃったね、ごめんね。甲斐はね、写真を撮るのが好きでよく色んなところへフラッと行ってしまうんだよ(笑)』
それからは、甲斐さんのこと…ご両親のこと…たくさん話してくれた。
本当のお父さんのこと以外はたくさん。
今の家族は、とても温かい家族だなって感じた。
一通りの食事を楽しんで、うちに帰ってきた。
疲れているからか、勇気さんはベッドに入ると早くに寝息が聞こえてきた。
勇気さんの腕の中へ潜り込み、包まれるような形で私も眠りについた。
どんなお父さんか聞くのはもう止めよう。
勇気さんにとって、今のお義父さんが家族なんだから…。
今がみんな幸せならそれでいいよね。
でも、勇気さんが血の繋がらない結笑を大切に愛してくれるのが何となくわかった気がした。
きっと勇気さんもお義父さんにたくさん愛してもらったんだね。
だから血の繋がりとか関係なく人を愛せるんだね。
今夜はあなたの優しさの原点が見えた気がした夜でした。
次の日、朝食を作っていると勇気さんが起きてきて、
『おはよう、夕べは楽しかった?自分のことばかり話してごめんね』
オチャメに謝ってきた。
『ううんっ、勇気さんのご家族のお話を聞けてすごく楽しかったよ。』
普段は聞き役に回ることが多い勇気さんのはなしを聞けて、私はある意味嬉しかった。
『そうだ…急で悪いんだけど今夜、甲斐をうちに呼んでもいいかな?』
『うん、私も会ってみたいなっ』
さっそく今夜、我が家に勇気さんの弟さんの甲斐くんが夕飯を食べに来ることが決まった。
勇気さんのお嫁さんとして、張り切って美味しい料理をたくさん作らなきゃ。
勇気さんを送り出し、掃除をいつもより丁寧にして買い出しへ。
何を作っていいのかわからなかったけど、もし好き嫌いがあっても食べれる料理があるように品数をたくさん作ることにした。
夕方までしっかり時間をかけて、それなりの料理を完成させた。
たぶん大丈夫だよね。
不安の中、勇気さんの帰りを待っていると玄関のドアが開く音がした。
『おかえりなさい』
パタパタと玄関までお迎えに行くと、
『ただいま』
っと、優しく微笑む勇気さんが立っていた。
その後ろには、子犬のように勇気さんに絡んでる甲斐くんがいた。
『紹介するよ、これが弟の甲斐。仲良くしてやって(笑)甲斐、こちらが僕の奥さんの百合だよ』
お互いに紹介してもらい、軽く挨拶を交わした。
立ち話もなんだからと、奥のリビングまで案内する。
『すっげー‼うまそー‼兄ちゃんいつもこんなん食ってんの?!』
テンションが高くなる甲斐くん。
その様子に少しホッとした。
三人でテーブルにつき食事を楽しんだ。
やっぱり甲斐くんといると勇気さんは無邪気な子供みたいに笑う。
そんな勇気さんを見れて、私はたまらなく胸がキュンキュンした。
甲斐くんはとてもよくしゃべる子。
相手に壁なんかを作らせない、無防備な感じの甲斐くんは友達が多いんだろうなって思った。
私のことも『百合さん、百合さん』と呼んでくれる。
本物の弟が出来たみたいで嬉しい。
勇気さんの携帯に仕事の電話が来て、少し席をはずした。
そのとき、甲斐くんは口にいっぱいパスタを入れて
『前の嫁さんとは全然違うタイプだなぁ~』
っともぐもぐしながら食べている。
『…前の奥さん…?どんな方だったの?』
私は恐る恐る聞いてみた。
『うーん…まずあんまり料理はしない。俺がお邪魔したときも何も出てこなかったなぁ。兄ちゃんが出前とってくれたり、外に食べに行ったりしたっけ』
甲斐くんのその言葉を聞いてビックリした。
さらに話は続き…
『なんか兄ちゃんが作るときが多かったみたいだよ』
そこまで聞くと、もう言葉にならなかった。
私は何て言ったらいいのかわからずにオロオロしていると、甲斐くんが笑った。
『ふふっ(笑)百合さんって面白いね(笑)今はもう関係ないんだし、そんなに気にしないでよ!』
笑いながら料理を頬張る甲斐くん。
なぜか咄嗟にごめんねっと私が謝ってしまった。
また笑う甲斐くん。
…笑った顔が少し勇気さんに似てる。
半分しか血が繋がってなくても、やっぱり似てるとこってあるんだなぁ…なんて感心したりした。
そんな中、しばらくして電話を終えた勇気さんも席に戻ってきた。
『ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったね』
『ううん、大丈夫。甲斐くんから色んな勇気さんの話を聞けて楽しかったから』
『…甲斐~、百合に変なこと言ってないよね?』
勇気さんは甲斐くんに怒るような仕草を見せ、それを見て甲斐くんもわざとらしく目をそらしたりして私たちは笑った。
夜10時くらいになり、甲斐くんが帰ると言った。
私は玄関まで送り、勇気さんは駅まで送って行くと甲斐くんと一緒に出ていった。
『百合さん、ごちそうさまでした。すっごい美味しかったよ!兄さんのことよろしくお願いしますね』
『はいっ、また来てね!』
二人が玄関を出ていくのを見送ったあとに、食器の片付けをし始めた。
それにしても、見事に綺麗に食べれくれたなぁ。
若いってすごいな(笑)
たくさん作った料理もほとんどあまることなく甲斐くんのお腹の中に入っていった。
どこからか『ブーブー』っとバイブの音が聞こえてきた。
音がする方へ近づくと、リビングのソファの隙間にシルバーの携帯電話が光ってる。
私のでも、勇気さんのでもない…。
きっと甲斐くんのものだと思い、すぐに二人の後を追いかけた。
頑張って走ればまだ二人に追い付けるかもしれない…
そう思い、全速力で私は走った。
マンションを出てすぐに、誰かに声をかけられた。
声のする方を見ると、明らかに酔っていそうなおじさんが私に向かって何かを言っている。
怖かった気持ちと、でももしかしたらどこか具合でも悪いんじゃないかと思ったら放っておけずに恐る恐るおじさんに近づいた。
その瞬間っ…
『…キャッ!』
おじさんが抱きついてきた。
言っていることもよくわからない。
恐怖から振り払おうと抵抗するのに、男性の力には勝てず段々とおじさんの顔が近づいてくる。
『あのっ…やめてください…離してっ…』
心の中で何度も勇気さんの名前を呼んだ。
抵抗する力もどんどんなくなってくる。
力が抜けそうになった瞬間…
おじさんが私の視界から急に消えた。
状況を把握できなくて、目だけをキョロキョロさせると…
酔っぱらいのおじさんが左側の地面に倒れていた。
イビキをかいて寝てる…
『携帯を落としましたよ。お怪我はありませんか?』
私はビクッとしながら、話しかけられた方へゆっくり振り向いた。
背の高いジャージ姿の男性が、私が落とした甲斐くんの携帯を差し出してくれている。
『あっ…ありが…とうございます…』
震える手で携帯を受けとると、その場に腰が抜けて座り込んでしまった。
『…大丈夫ですか?どこか怪我でもしましたか?』
ジャージの男性もしゃがみこんで、私の心配をしてくれる。
『だっ…大丈夫です…怪我はしてません…ちょっと…腰が抜けて…』
ガクガク震える手を、携帯を握ったまま胸の前で両手で押さえた。
この男性が助けてくれたんだ…
この人がいなかったら私…
急にまた怖くなった。
『…百合っ!?』
向こうから勇気さんが走ってくる。
『勇気さん…』
『どうしたっ?何があった?怪我はッ?』
心配そうに私の体の隅々まで確認する。
『…怪我はないの。ちょっと驚いただけ。甲斐くんの忘れものを届けようと思って追いかけたら…途中でそこの人に捕まってしまって…こちらの方が助けてくれたの…』
状況を説明すると、
『…妻を助けていただきまして、ありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか…本当にありがとうございました。』
深々と勇気さんが頭を下げる。
『いえ、自分は普段は警察官をしています。ジョギング中にたまたま通りかかったから良かったものの…女性の夜道の一人歩きは気を付けてくださいね。』
警察の人…
どおりで一撃だったはずだね。
警察官の男性は酔っぱらいのおじさんを起こし、近くの派出所まで連れていってくれると言った。
本当に何から何まで…
私は勇気さんに支えられながらマンションに戻った。
部屋に入りソファに座らせてもらうと、勇気さんが温かいミルクティーを入れてくれた。
震えがおさまるまで、ずっと私の肩を抱いててくれた。
落ち着いて来た頃に、勇気さんが『ごめんね…』っと謝った。
勇気さんが謝ることなんかないよ。
私がおじさんに無防備に近づいたから…
『勇気さん…心配かけてごめんなさい…』
私も勇気さんに謝った。
勇気さんは私を抱きしめ、
『百合に何もなくて本当によかった…』
っと、小さな声で言った。
その日の夜は、勇気さんがずっと私を抱きしめたまま眠った夜だった。
次の日の朝、仕事へ出掛ける勇気さんは私を心配してくれて、後ろ髪を引かれるような想いで仕事へ向かう。
…心配かけて悪かったなぁ。
でも、昨日の勇気さんの顔…真っ青だった。
すっごい心配してたし…
勇気さんの心配ぶりにちょっとビックリしたのを覚えてる。
それだけ大切にされてるってことだと思い、怖い想いの中にも少し嬉さもあった。
家事をしていると、お昼くらいにうちのベルが鳴る。
見てみると甲斐くんが立っていた。
ドアを開けると、慌てた様子で携帯を忘れなかったかと聞いてきた。
携帯を手渡すと、『よかったぁ~!!』っと、すごく安心した顔をしていた。
…やっぱり昨日のうちに渡せればよかったな。
悪いことをしたな…
『グゥ~…』
甲斐くんのお腹が鳴った。
『甲斐くんお昼は食べた?』
『いや、携帯探してたら食べる暇なくて…💦』
『私もまだだから、よかったら一緒に食べない?』
『いいんすかぁ?やったぁ~!』
甲斐くんは喜んでテーブルについて待っていた。
たくさん食べてくれる甲斐くんは見ていてとても気持ちが良い。
料理をしながら色んな話をした。
勇気さんのこと、私の小さいときのこと、甲斐くんの夢。
お昼が出来上がり、食事をしながら甲斐くんの夢について詳しく教えてもらった。
『俺はね~プロのカメラマンになりたいんだぁ。自然を撮りたい!花や空や海や山…世界中を回りたいな。』
『すご~いっ!モデルさんとか探すの大変じゃない?』
『ん~…俺はあんまり人を撮るのは得意じゃないんだ。だから撮らないよ(笑)』
『そうなんだぁ。甲斐くんならきっと素敵な写真が撮れるんだろうなぁ。頑張ってね!』
甲斐くんとは昔からの知り合いだったかのように自然に話せる。
時間も忘れて話に没頭した。
気付けばもう夕方4時になろうとしてる。
『やべっ!こんなにお邪魔しちゃった💦』
『もう少ししたら勇気さんも帰ってくるから、会っていかない?』
きっと勇気さんも喜ぶだろうなと思い提案した。
『ううん、これから約束があるから今日はもういきます!どうもごちそうさまでした』
『そっか、どういたしまして。勇気さんも喜ぶからまた遊びに来てね』
帰るために席を立った甲斐くんが、ふっと不思議そうに聞いてきた。
『昨日も気になってたんだけど…あの写真に写ってる子って誰?』
台の上には家族写真や、結笑の写真が飾ってある。
普通は気になるよね。
『…私の娘なの』
甲斐くんがどんな反応をするのか少しだけこわかった。
『あっ、やっぱり!百合さんにそっくりだもんね(笑)可愛いなぁ~名前は?』
連れ子と聞いても普通に接してくれる甲斐くんに救われた。
『結笑…みんなの笑顔を結ぶ子になってほしいって願いで付けたの』
『結笑ちゃんかぁ!うん、いい名前だね。昨日もいなかったけど、どこかに行ってるの?』
『…うん、ちょっと知り合いの家に泊まりにね』
『そうなんだ~じゃあ、次は結笑ちゃんにも会いたいな!こんな可愛い娘が出来たんだから、兄ちゃんが幸せそうな顔してる理由がわかったよ』
靴の爪先をトントンっとして、甲斐くんは爽やかに帰って行った。
やっぱり勇気さんや甲斐くん兄弟は血の繋がりとかなんて関係なく接してくれるから、私はとても嬉しかった。
結笑…
今ごろ何してるのかな。
楽しくてママのことなんか忘れてしまったかな。
結笑の写真を手に取り、無邪気な笑顔で笑う結笑の顔をそっと指でなぞった。
結笑がいないだけで家の中が静かだ…
きっと瞬さんちは毎日がにぎやかなんだろうな。
また無性に淋しさが押し寄せてくるのを感じ、これじゃダメだと写真を置きプリンを作ることにした。
作っている途中で勇気さんが帰ってきた。
『ただいま、甘いいい匂いだね。プリンかな?』
さすが甘党の勇気さん。
顔がニコニコしてる。
*最初に失礼します。
ハンネが『眠り姫』から『月』にかわります。
一番最初も何回か『月』で出ていたので、気になった方がいたかな?(笑)
書いているのは、正真正銘『眠り姫』(妄想大好き✨)なので、お時間があるときに覗きに来ていただければ嬉しいです☺
しばらくお休みしてましたが、またスタートしまぁす❗
『おかえりなさい。今日ね、甲斐くんが携帯を探しに来たの』
『あぁ、さっき甲斐からメールが来たよ。昼ごはんすっごい美味しかったって(笑)』
『甲斐くんはたくさん食べてくれるから、私も作り甲斐があるわ(笑)』
二人で甲斐くんの話をしながら夕食を食べた。
そんなとき…
勇気さんの携帯が鳴る。
『…あれ…瞬からだ』
私は勇気さんをじっと見つめた。
結笑の声が聞けるかもしれないと思うと、ソワソワし始める私がいた。
意外にも結笑の声はすぐに私の耳に届いた。
勇気さんの電話からもれる結笑の声。
『…ママァ~…ヒッ…ママぁぁぁ…』
泣いていた。
私は慌てて勇気さんの電話を奪い取り、結笑の名前を呼んだ。
『結笑ッ!結笑っ…どうしたのっ?!』
電話の向こうが一瞬静かになった。
私は不安になり結笑の名前を呼び続けた。
『結笑っ…結笑っ…!』
『………ママァ…』
小さな声で私を呼ぶ結笑の声がした。
どれくらい泣いていたのだろう…
しゃくりあげて泣く結笑は珍しい。
いつもは本当に本当に手のかからない子だったから…
だから余計に心配になった。
もう一度、結笑の名前を呼ぶと瞬さんが電話に出た。
『…百合。悪いんだけど、今から結笑を迎えに来てやってくれないか?』
『えっ…?何があったんですか?どうして結笑は泣いてるの?』
『…ホームシックになったみたいなんだ。最初はイイコにしてたんだけど…最近はあんまり笑わなくなって、さっきいきなり泣き出したんだ。百合のこと何度も呼んでた。頼むよ…』
『…結笑…今からすぐに行きます。結笑に待っててと伝えてください』
その会話を聞いていた勇気さんは、すぐに車を出しに走ってくれた。
ホームシック…
人見知りの少ない結笑が…
ましてや大好きな瞬さんのところで…
ごめんね、結笑。
ママはあなたが幸せなら、ママが我慢をすればいいと思ってた。
だけど違うんだよね。
我慢をしていたのは小さなあなた。
淋しくさせてごめんなさい。
結笑がママを必要としてくれるのなら…
もう一生その小さな手を離したりはしないから…
ごめんなさい。
ごめんね…結笑…
すぐに行くから、もう泣かないで…
私は勇気さんの車の中で、自分のしたことの重大さに、罪悪感に押し潰されそうになっていた。
すると…
勇気さんが私の震える手をにぎった。
『…大丈夫だよ。結笑は百合のこと責めてるんじゃないよ。ただ大好きなママに会いたかったんだと思う。百合はただ抱きしめてあげればいいんだ。結笑の一番は百合以外には存在しないんだからね』
まっすぐ前を見て運転する勇気さんの言葉に…優しさに…私の目から涙が溢れた。
『…うん、うん』
ただただ頷くだけしか出来ない私。
でも勇気さんはきっとわかってくれたと思う。
しばらく車を走らせると、瞬さんのマンションが見えてきた。
車をおりるとすぐに、私と勇気さんは走り出した。
目指すは瞬さんの部屋。
エレベーターを待つ時間ももったいないからと、私は階段をかけあがった。
瞬さんの部屋はだいぶ上の階にある。
息を切らせながら、私は無我夢中で階段をのぼった。
途中で、勇気さんがエレベーターを捕まえてくれてそれに乗り瞬さんの部屋の階まで。
息が切れてうまく呼吸ができない。
それよりも早く結笑のところに行きたかった。
ずっと会いたかった。
抱きしめたかった。
声が聞きたかった。
…結笑に会いたかったよ。
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