注目の話題
🔥理沙の夫婦生活奮闘記😤パート2️⃣😸ニャ~ン
50代バツイチ同氏の恋愛
旦那がむかつく。

夢で見た出来事

レス400 HIT数 120282 あ+ あ-

眠り姫( Y4xRh )
12/03/04 09:04(更新日時)

今朝方に見た夢が、まるでドラマを観ているような感覚で、鮮明に覚えています😃

誰かに聞いてほしいけど、恥ずかしくて言えないのでこちらに書かせていただきます🙈💦

夢なので、批判中傷はご遠慮ください🙇

タグ

No.1364677 10/07/07 09:54(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.1 10/07/07 10:11
眠り姫 ( Y4xRh )

私は『百合』。
両親を小さい頃に事故で亡くし、母方のおばあちゃんに育ててもらいました。

現在23歳。

ここまで育ててくれた祖母が体調を崩し入院。

私は病院代などを稼ぐために、昼間は病院に行けるように夜の街で働くことにした。

ドレスを来て、お酒を作り、タバコに火を付け、相づちを打つ。

でも、私は笑えない…。

両親を亡くしてからは、笑顔が少ない子になっていた。

あまり喋れる方でもない。

背中まである、長いストレートの黒髪。

父に似て少し高めの身長と、母に似てくっきりした目元。

祖母に育てられた為、女性は大人しく男性の三歩下がって歩くような感じに育てられた。

普段はあまりお化粧はしないけど、お店側から少しはするように言われた為、慣れない手つきで顔を作っていく。

白い肌にはピンクの口紅が合うと、クラブ『アゲハ』に同じ頃に入った『美春』に教えてもらった。

そんなことが繰り返される毎日の中で、お店に来た彼と私は出会った。

No.2 10/07/07 10:25
眠り姫 ( Y4xRh )

私にはあまりお得意様がいなかったから、ヘルプでつくことが多かった。

あの日も、大きな会社を経営している常連の『高柳様』が部下の方を数名つれてご来店。

初めてそこにつくことになり、名刺を差し出す。

私は源氏名も『ユリ』にしていた。

高柳様は、27歳の独身。25歳でお父さんから譲り受けた会社を瞬く間に大きく成長させ、凄腕の方らしい。

長身でがっちりした体型なのに引き締まっていて、隣に並ぶと私なんかはすっぽり収まってしまいそうなくらいだった。

金髪の髪の毛は、毛先が遊んでいてとてもワイルドだ。パーマだと思っていたけど地毛がクセっ毛だったらしい。

目鼻立ちはハッキリしていて、俺様的で、すごく自信に満ち溢れている方だなぁ…と思ったのが第一印象でした。

お店の女の子はみんな、そんな高柳様に惹かれていて、前から常に高柳様の話題で持ちきりだった。

私には興味がない。

違う世界の人間だ。

No.3 10/07/07 10:47
眠り姫 ( Y4xRh )

席につき、お酒を作り高柳様の隣でただただ…盛り上がるのを眺めている自分がいた。

部下の方は、高柳様の右腕とも言われている『吉岡様』、すごく綺麗でグラマラスな秘書の『楓様』、大人しそうな『山崎様』がご一緒に来店してた。

『吉岡様』は、高柳様と同じ年の27歳で、すでに家庭をお持ちのようだった。結婚指輪が左手の薬指に光ってた。一歳の娘さんがいるらしいと、お店の子達が話していたっけ。

温厚で常に優しく笑う雰囲気の方で、遊び好きな高柳様とは正反対な性格で、クラブの女性にも目もくれないので、そこがまたいいと言われてた。

秘書の『楓様』は、パーマのかかった髪をゆるくまとめあげて、わざと残した髪が美しさを更に引き立てていた。
真っ赤な口紅に眼鏡がとてもよく似合い、着こなしているスーツから見える胸の谷間は、女である私から見てもドキッとするくらい妖艶な雰囲気を持った方だった。

なにより、その性格のギャップに驚いた…。なんとも豪快な性格で、綺麗な顔立ちからは想像も出来ないくらいの姉御肌だった…。
秘書として高柳様につかえられるのがわかる気がした。楓様だからついていけるんだろうな。

No.4 10/07/07 10:59
眠り姫 ( Y4xRh )

一番大人しい『山崎様』はまだお若く、私とそんなに年は変わらないみたいだった。
クラブに慣れていないせいか少し緊張ぎみのようでした。そういった方は、言い方は悪いけど『いいカモ』になってしまうので、みんな躍起になってかまっていました。

テーブルには高いお酒やフルーツが並び、テーブルにつく女の子の数も他のお客様と比べ物にならない程ついていました。

こんな人たちって、本当にいるんだなぁ…

そう思いながらお酒に口を付けると、急に頭がクラッとして目の前が歪んで見えた。

それが最後に見たクラブ『アゲハ』。

目が覚めると小さく疼く体の痛みと、見たことのない大きな部屋…

ここはどこなの…

なぜ裸なのか…

パニックにならないように、一つづつ頭の中を整理して、昨日は確か…っと考えていると、隣で

『う…ん』

っと何かが動く声がして、恐る恐る隣を見てみると、そこには…

No.5 10/07/07 11:19
眠り姫 ( Y4xRh )

裸の『高柳様』が寝ていた…。

体が痛い。何が起こったのか、だいたい予想ができてきて空虚な気持ちでいっぱいになってきた。

とりあえず、祖母の病院に行かなきゃいけないので、静かに支度をして着ていたドレスを着てホテルを後にした。

家につき、シャワーを浴びているときに涙が出てきた。

学生時代から誰とも付き合うことはなかったので、私にはすごくショックな出来事だった。

痛む体が現実に引き戻す…

祖母を待たせてはいけないと支度をし、病院に向かう途中…

知らない番号からの着信…

出れずにいると、切れてしまった。

しかし、またすぐにかかってきて私は静かに出た。

『…はい。』

『…俺。お前今どこにいんの?』

『…えっ?』

『だからッ…どこにいるんだよ!』

『あのっ…間違い電話です!』

『…………。』

『…………😥💦』

『お前、クラブアゲハのユリだろ?』

『…えっ…』

『俺、高柳 瞬だけど。起きたらいねーし。勝手に出ていくなよ』

ドクンっと大きく心臓がなる。体の痛みが蘇る。声が震える。

No.6 10/07/07 11:29
眠り姫 ( Y4xRh )

『…なんで番号』

『お前が寝てる間に見た。俺の番号、ちゃんと登録しとけよな。』

急に立ちくらみがしてきて、プツンっと電話を切ってしまった。電源も…。

しばらくその場に立ち尽くし、また歩き出した。
祖母の病院について、他愛ないお喋りをして夕方になったので、

『また来るね』

そう祖母に言って、仕事のために家に帰った。

空が赤く染まり、自分の影がのびる。

ふっと顔をあげると、家の前に黒い車が止まってる。

向こうも私に気づいたのか、運転席から人が降りて後ろのドアを開ける。

見えてきたのは金髪の髪の毛…

私の足は後へと下がった。

降りてきた人を確認すると、そのまま後ろへ走って逃げた…。

サンダルでうまく走れない。

ただひたすら走り続けた。

振り返らず走った。

でも…

左手を掴まれ、その勢いで壁に背中をぶつけた。
『ハァ…ハァ…ハァ…』

息切れをしていると、いきなりガンッと首を掴まれ上を見上げる形になった。

No.7 10/07/07 11:43
眠り姫 ( Y4xRh )

『…ハァ…ハァ…』

『…逃げてんじゃねーよ。』

呼吸を乱しながら、高柳様が言った。

恐怖のあまりに喋れずにいると、

『…お前、クラブアゲハ辞めろよ。店長には話つけてあっから。』

『なっ…!ハァ…ハァ…勝手に決めないで!!』

息が切れているのに、叫んだためにむせてしまった。

首を掴まれた手は取れ、やっと大きく息を吸えた気がした。

『コホッ…コホッ…ハァ…ハァ…』

『なんだ。お前ちゃんと声出んじゃん。昨日は人形みたいに大人しかったのにな。』

ニヤっと高柳が笑う。

睨み付けると、高柳が続けた。

『お前、面白いから俺に買われろよ。金がいるんだろ?ばぁーさんの入院代も稼ぐんだろ』

『…勝手に調べたわね。誰があんたなんかに!』

『断ってもいーけど、お前どこでも雇ってもらえないよ。』

『…何をしたのよ』

『お前を雇う店は俺が圧力かけるから。』

『あんた何様なの!?何がしたいのよッ!』

『だから、俺のものになれよ。また連絡すっから!』

そう言って高柳は帰って言った。

No.8 10/07/07 12:00
眠り姫 ( Y4xRh )

高柳の言う通り、クラブアゲハに戻ることも出来ず、他でも雇ってもらえない…

無力だった。

悔しかった。

高柳が憎かった。

そして私は決めた。

ずっと育ててくれた祖母の為に『人形』になることを…。

こっちから電話した。

『プルルル…プルルル…』

『おうっ。どこもダメだっただろ?それで、気持ちは決まったか?』

電話の向こうから聞こえてくる声は、勝ち誇ったように笑ってる高柳の顔が見えてくるようだった。

『…あなたの好きにしたらいい。』

『へぇ~。じゃあ、今夜この前のホテルのラウンジに9時に来いよ。』

『わかりました。』

電話を切り、部屋でこれでよかったのだと言い聞かせた。

一方、高柳の方では電話を切ったと同時に、社長室にに入ってきた吉岡が高柳に言った。

『…何かいいことでも?』

『まぁな。面白いお人形さんが手に入ったんだ。ふっ…』

『なんだか珍しく楽しそうだね。』

『そ~か?』

『えぇ。あなたはいつもどこかつまらなそうだ。女性遊びもほどほどに!』

『…別に。お前はクソマジメでつまんねーなっ!』

『はいはい…』

No.9 10/07/07 12:13
眠り姫 ( Y4xRh )

社長の高柳に、プライベートでも仕事でも、ズバズバ意見を出していく吉岡は、高柳にとって新鮮だったのかもしれない。

高柳の気をおける人は、吉岡と秘書の楓だけだった。

夜8時45分…

ラウンジで待つ私。

『はえ~なっ!』

目線だけを声のする方に移す。

…私は人形。

高柳に肩を抱かれ、車に乗り込む。

着いた先は、高級そうなドレスや洋服が売っているお店。

高柳が店員と何やら話している。

ガラス越しにキラキラ輝く外を見ていると、

『こちらへどうぞ』

店員に試着室に案内された。

下着から大人っぽい綺麗なドレスが用意されていて、それに着替えるように言われた。

着替えて出ると、新しい靴も用意されていて、美容室に行き、ジュエリーショップに行き、本当のお人形さんのように綺麗にされた。

『いいじゃん!』

満足そうな高柳に連れられ、夜の街へと繰り出す。

No.10 10/07/07 12:31
眠り姫 ( Y4xRh )

高級クラブに入り、高柳はどんどん高いお酒を注文した。

隣についた綺麗な人に

『高柳様とはどういったご関係ですか?』

っと聞かれ、チラッと高柳を見ると

『こいつ?コイツはおれのお人形ちゃんだな!』

周りから

『い~なぁ~』

『ずる~い!』

『高柳さまぁ~あたしもお人形にして~』

そんな声が聞こえてた。

『ねぇ、どうやって取り入ったの?』

綺麗な子が小さな声で聞いてきた。

『…気がついたら隣に彼がいただけ。』

『えー!じゃあ、あなたも薬盛られたんだぁ!』

『…薬?』

『あなた知らないの?高柳様ってゲーム感覚で、その日にお持ち帰りする子のお酒に薬を入れるんだって!それで目が覚めたら高柳様がいてラッキーって子が何人かいて聞いたのよね!』

(薬盛られたんだ…だから、急に眠気が…)

『一夜限りの相手じゃないんだね~!お人形にされるんだぁ!その後がどうなったかだけは、噂にならないから気になってたのよね~!あなたはラッキーね!高柳様の人形なんて羨ましいわよ~』

(…羨ましい?好きでやってるわけじゃない)

薬のことを聞いて、更に高柳を軽蔑した。

No.11 10/07/07 12:49
眠り姫 ( Y4xRh )

その日の夜、高級ホテルのスイートで高柳に抱かれた。

この前は記憶がなかったけど、今度はしっかり刻まれる…。

これでいいんだ。

私は人形なのだから…。

『お前さ、初めてだったんだな。』

『…………。』

『今まで金に群がる女ばっかだったから、お前みたいな女は初めてで面白いわ』

『………。』

『なんか喋ろよ!今後ちゃんと会話しろ』

『…わかりました。』

高柳が会社に行っているときは、私は祖母のもとに行き、夜は綺麗に着飾った私を連れて夜の街に繰り出す。

それが日課になっていた。

夜の街に行くときには、三日に一回は吉岡さんも一緒に来ていた。

『家庭持ちを頻繁に誘うな』とぼやきながら。

たまには楓さんも顔を出したりしていて、お人形になり少ししてから楓さんに

『実は瞬(高柳)とあたしイトコなの!内緒よ(笑)』

っと聞いて驚いた…。

前にみんなが『あんなに綺麗な秘書さんなのに、高柳様が手を出してないわけがない』っと言っていたのを思い出した。

楓さんいわく、兄妹のように育ってきたから、お互いに色恋に見たことがないんだとか。

No.12 10/07/07 13:11
眠り姫 ( Y4xRh )

あんなに綺麗な楓さんなのに、鼻にかけることなく、意外に豪快な楓さんは憎めない人だなと思った。

高柳も派手な生活ではあったものの、祖母の病院代や私の身の回りのものも払ってくれていた。

私は何なんだろう…

たまにわからなくなる日があった。

そんなある日、待ち合わせ場所で待っていると…

『ユリさん…おまたせ』

高柳の声じゃない声に振り返った。

振り返るとそこには、吉岡さんがニッコリ立っていた。

『驚いた顔してるね(笑)当たり前だよね、社長じゃないからね。驚かせてごめんね』

ニコニコ優しく笑う吉岡さんは、

『今日はどうしても外せない会食があって、社長が来れなくなってしまって…代わりに僕が迎えに行くように言われたんだ』

『あっ…すいません…』

『ユリさんって面白いね(笑)ユリさんは気にしないで!社長が゙俺が行くまで相手してろ゙って言うからね。ワガママだよね~(笑)』

No.13 10/07/07 13:21
眠り姫 ( Y4xRh )

無邪気に笑う顔に、つられて笑ってしまった。

人形なのに…。

『ユリちゃんが笑ったの初めて見たな!とても可愛く笑うんだね。社長が手放さないのがよくわかるよ!』

『私は高柳さんにとってただの人形ですから…』

『…まぁ、立ち話もなんだから、行こっか!今日は僕がエスコートさせていただきます』

ニコニコした差し出された手をとるのに戸惑っていると、吉岡さんは私の手を取り軽やかに歩き始めた。

強引に肩を抱く高柳とは全く違う優しい扱いに、温かい気持ちになった。

『社長のブラックカードを預かってきたからね!さぁドレスアップしようかっ(笑)』

なんだかワクワクしているように見えて、子供みたい…

吉岡さんといると、心が軽くなっていくようだった。

高柳が選ぶドレスは、黒や赤など大人っぽいものや、華やかなものが多かった。

でも、吉岡さんが選んでくれたドレスは優しい淡いもも色で、とても可愛らしい感じだった。

高柳より時間の使い方が上手なのか、時間があったので少し何か食べようか?っと吉岡さんが聞いてきた。

『何がいい?』

『えっ…』

No.14 10/07/07 13:31
眠り姫 ( Y4xRh )

いつもは高柳が決めて、自分はついていくだけだったので、聞かれるのには慣れていなかった。

困っていると、それを察したのか

『ゆっくりでいいんだよ。ユリちゃんは何か食べたいものとかない?』

考えていると、あっ!っと声をあげてしまった。

『なぁに?』

優しく私の顔を覗きこむ吉岡さんに、恥ずかしくてつい大きな声になってしまいました。

『あっ…あの…私、ファーストフードが食べたいです!』

急に大きな声を出した私に、吉岡さんは大爆笑…

『はははっ!(笑)うん、食べに行こうね!』

高柳といると高級なレストランばかりだったから普通のことがしたかった。

ただ、お店についてから場違いなことに気づいてしまった。

ドレスアップした私がお店に入るのは、どう考えても浮いてしまう…。

前は普通に入れたのに…少し悲しくなり

『やっぱり…』

そう言いかけたときに、吉岡さんが私の手を引き

『行くよっ!』

無邪気にお店に入った。

No.15 10/07/07 13:42
眠り姫 ( Y4xRh )

やはり場違いで、みんながヒソヒソ言ってるのが聞こえた。

うつむいて席で待っていると、

『おまたせ~はいっ!食べよっ』

『…あの』

『んっ?なに?』

『ごめんなさい…』

『えっ?なんでっ?』

吉岡さんはなんだか焦っていた。

『…私が場違いだから…』

『…そんなことないよ。ちゃんと前を向いて、耳を済ましてごらん?』

『えっ…』

耳を済ませてみると、ヒソヒソが聞こえてきた。

『ねぇ…あの子超可愛くない?』

『どっかで雑誌の撮影でもしてるんじゃない?』

『美男美女だね~』

『彼氏かっこよすぎ!』

『絵本から抜け出してきた二人みたいだね』

顔を真っ赤にしてると、吉岡さんがニッコリ笑って

『さぁ食べようか!』

そう言って、ハンカチを私の膝の上にそっと乗せてくれた。

美味しかったし、楽しかった。

No.16 10/07/07 13:54
眠り姫 ( Y4xRh )

そぅ…。吉岡さんは、スラッとしていて高柳より背は低いものの、それでも私よりは全然高いし、やせ形だから背が高く見えた。

黒髪で短めの髪は、清潔感を出していて、色が白くてとても綺麗な顔立ちだ。

女装したら、きっと女の私より綺麗なんだろうな…なんて考えたりした。

楽しい時間はあっという間に過ぎて、そんな時に吉岡さんの携帯が鳴った。

『はい。うん、うん。わかったよ。それじゃ』

『…奥さんですか?』

『あはははっ!違うよ!社長だよ(笑)終わったから、ユリちゃんを連れてこいって』

『あっ…』

なんだか急に現実に引き戻された感じがした。

『じゃあ、行こうか』

『はい…』

シュンっとしたのが顔に出てしまったのか、吉岡さんが耳元で

『ファーストフードで食事したのは内緒だよ!そんなとこに連れて行ったのかって怒られちゃうからね(笑)』

茶目っ気たっぷりで、人差し指を口先に当てて言った吉岡さんは可愛らしかった。

思わず『ぷっ…』っと吹き出してしまった。

No.17 10/07/07 14:08
眠り姫 ( Y4xRh )

今日はとても素敵な時間だった。

ただまた高柳の人形に戻るだけ。

吉岡さんの言う通り、顔をあげて前を向いたら違ったものが見えるかもしれない。

そう思えた。

一足先についた私たちは、近くの夜景を見ながらおしゃべりしてた。

自分でも驚くくらい。

すると、いきなり後ろから左腕を引っ張られた。

『きゃっ…』

よろけた私は、そのまま倒れそうになった。

『危ない!』

右腕を吉岡さんに掴まれ、そのまま吉岡さん側に引き戻されて、地面におしりをつかずに済んだ。

ほっとして、後ろを見ると高柳が立っていた。

すごく機嫌が悪そうに…。

それを見て、温厚な吉岡さんの口調も少し変わっていた。

『社長…いきなりそんなに強く引っ張ったら危ないでしょう…?』

なんだか険悪な雰囲気に、私は吉岡さんから離れ『今日はたくさんありがとうございました』とお礼を言い、高柳のもとに行きました。

『…行くぞッ。』

高柳は肩を強く抱き、歩き出しました。

振り返り小さく会釈すると、いつもの吉岡さんの笑顔で手をふってくれてホッとしました。

No.18 10/07/07 14:56
眠り姫 ( Y4xRh )

車の中もずっと無言で高柳のマンションに連れていかれ、入ると同時に

『なに笑ってんの?』

っと言われた。

『えっ?』

そう言った瞬間に、ソファーに押し倒されて見下すように

『お前は俺の人形だろ?そーだよなぁ?』

『あっ…はい…』

こわくなって体が動かなかった。

普段は俺様で、強引で、それでもこんな冷めた目で見られたことは一度もない。

今までとは違う何かに、想像ができない恐怖に怯えた。

『なにこの安そうなドレス。』

ビリビリに破き始め、とっさに

『やめてっ…!』

っと始めて高柳を拒否した。

高柳は初めて私が拒否をして更にムカついたのか、それでスイッチが入ってしまった。

もぅどうすることもできなかった。

私は人形…。

そぅ初めから人形だったんだ。

ドレスは無惨に破かれ、乱暴に扱われた体は所々痛かった。

強く掴まれたところも、何ヵ所もアザになっていた。

私はシャワーを浴びた。

そして泣いた。

No.19 10/07/07 15:10
眠り姫 ( Y4xRh )

シャワーから出ると、高柳はいなかった。

うちにも、このマンションにも私用の着替えが揃えられていた。

すべて高柳が用意させたもの。

その中から服を選び着て、マンションを出た。

夜中の3時。

人はまばらにいるくらい。

こんな時間に女が歩いているのはどうなんだろ…。

さっき吉岡さんと見た夜景の場所に向かってた。

タクシーを降りて、階段をのぼり、顔をあげたとき…

そこにはまだ吉岡さんがいた。

なぜだか涙が溢れて止まらなかった。

空を見上げる吉岡さんの、スーツの裾に手をのばした。

泣きながらクイっと引っ張ったら、一瞬だけ吉岡さんがピクっと動いてして、振り返らずに

『ここに何時間いたかな~。なんでまだ僕はここにいるんだろうね(笑)』

って笑いながら言った。

『わっ…ひっく…わかり…ませ…ひっく…ん…』

ゆっくり振り返った吉岡さんが、優しく私を包み込む。

子供みたいに泣いた。

両親が無くなったとき以来にこんなに涙がでた。

ヨシヨシってしてくれる吉岡さんはお父さんみたいだった。

そぅ…この人はお父さんだ。

一歳の娘さんがいるお父さん。

No.20 10/07/07 15:26
眠り姫 ( Y4xRh )

この人に甘えてはいけないと、高柳のお人形でいなきゃいけないと何度も思った。

泣き止むまで側にいてくれた吉岡さん。

空がうっすらと明るくなってきた。

『もぅ大丈夫?』

あの優しい笑顔で私の顔を覗きこむ。

『はい…ごめんなさい…』

恥ずかしくて吉岡さんの顔が見れなかった。

それからタクシーで家まで送ってもらい、泣きつかれたのかそのまま深い眠りについた。

吉岡は早めに会社に行き、社長専用のシャワーを浴び、新しい置きシャツスーツに着替えた。

コーヒーを飲みながら書類に目を通していると、楓が出勤してきた。

『あら、早いのね!』

『あぁ、書類に目を通したくてね!』

『…シャワー室、瞬には私が使ったことにしておくわね!』

『…ありがとう!助かるよ(笑)』

『ねぇ…』

『なに?』

『ユリちゃんは可愛い子よね!』

『…そうだね(笑)』

『あまり深入りしちゃうとツラくなるわよ!』

『ご忠告ありがとう(笑)』

『さぁ!今日もバリバリ仕事しちゃうわよ!』

『はいはい、頑張りますよ(笑)』

No.21 10/07/07 15:43
眠り姫 ( Y4xRh )

少ししてから高柳が出勤してきた。

『おはようございます』

ニッコリ吉岡が挨拶した。

『…おぅ。』

高柳は軽く返事をして通りすぎていった。

ふっと目を開けると、外はうっすら暗くなり始めていた。

『どれくらい寝てたのかな…』

鏡を見るとすごい顔になっていた。

急いで支度して祖母のところに行った。

目が腫れてるのを見て祖母が心配そうに聞いてくる。

『大丈夫だよ!おばぁちゃんは心配しなくても大丈夫!私は元気だよ!』

吉岡さんのように笑ってみた。

なんだか本当に元気が出てきた気がした。

夜になり、私はまた人形になる。

っと思ったら高柳から連絡がこない。

毎日連絡してくる高柳から連絡がないのは、少し変な感じだった。

結局その日は連絡がこなくて、ゆっくりと家で過ごすことができた。

私はなんなのだろう…。

そんなことを考えながら眠りについた。

No.22 10/07/07 15:56
眠り姫 ( Y4xRh )

次の日の夕方、高柳から電話が来た。

『あとで迎えに行くから、待ってろ』

『…わかりました』

それから、少しして高柳が迎えに来た。

ドレスアップして、またお人形の始まり。

とある高級クラブで飲んでいると、

『見つけた~!瞬っ!』

バラのような香水の香りが通りすぎたと 思ったら高柳に抱きついていた。

一瞬なにがあったのかわからずにいたら、

『…離せよ、沙織ッ!お前こんなとこまで来てんじゃねーよ!』

『や~だぁ~離さない~!』

『お前ふざけんなよ!』

『…だって~、昨日は愛し合ったでしょ!』

『…はっ?たかが一回ヤッたくらいで、俺の女ヅラすんなよ。』

『ひっどぉ~い!でも、沙織は諦めないからね!』

『うっせーよ!失せろっ』

すると沙織がこっちを向いた。

『…あんた、瞬の女なワケ?』

『わたしは…』

そこまで言うと、沙織はボーイに外に連れていかれた。

高柳は機嫌が悪くなり、帰るぞッと言ってマンションに帰ることになった。

昨日、連絡がなかったのは彼女と一緒にいたからなんだ。

不思議と何も感じなかった。

No.23 10/07/07 16:11
眠り姫 ( Y4xRh )

マンションについて、高柳が抱きついてくる。

無表情のままされるがままにしていたとき、吐き気が襲ってきた。

『うっ…』

高柳をはね除け、キッチンまで走って行きむせていた。

『まさか…』

後ろに高柳が立っていた。

そのまま後ろを向けずにいると、高柳が抱きついてきて

『お前、ガキが出来たのかよ!?俺のガキかっ!』

嬉しそうに興奮ぎみに聞いてきた。

『おいっ!大丈夫か?』

『だっ…だいじょうぶです…』

『明日、病院行くぞっ!』

『えっ…』

『えっ…じゃねーよ!病院に行くんだよ!』

そう言うと、高柳は携帯を取りだしどこかに電話をし始めた。

『プルルル…あっ!吉岡かっ?』

ドキッとした。

『俺、明日会社休むわ!』

『はい…?無理ですよ…はぁ…(ため息)』

『はっ?無理?じゃあ、午前だけ休ませろ!お前が何とかしろ!』

『…何事ですか?』

『あぁ?ガキが出来たかもしれねーんだよ!ユリになっ!だから明日医者に行くんだよ』

『…そうですか。わかりました。では、午前中だけなんとか開けておきます』

『おぉ!ありがとな!』

遠くで耳鳴りがしてた。

No.24 10/07/07 20:53
月 ( Y4xRh )

珍しく優しい高柳は、上機嫌であたしをベッドに休ませそわそわしていた。

『なにか食いたいのないか?…なんか飲むか?』

『あっ…大丈夫です』

『寒くないか?それとも暑い??』

『…いえ』

『………。』

『………。』

『なぁ…』

『…はい』

『昨日はこの前はゴメンな。痛かったろ…』

『大丈夫ですよ…』

『いや!ガキがいるかもしれないのに、乱暴に扱ってごめん。』

『大丈夫ですから…』

『あと…』

『…はい?』

『昨日…俺さ…』

『………。』

『お前と吉岡が楽しそうに喋ってるの見たら、なんかムカついてさ…俺はお前のあんな顔みたことないから…』

『………。』

『お前に会うことがなんかできなくて、一人で飲みに行ったらクラブにノリのいい女がいて、沙織とそのまま…』

『…別に報告しなくても大丈夫ですよ』

『…そうだな。なんかお前にいいわけしてるみたいで、かっこわりぃな俺(苦笑)』

『…………』

『もぅ寝ろよ。俺ソファーで寝るし。じゃーな。』

『…はい。おやすみなさい』

なんだか寂しそうに高柳は部屋を出ていった。

No.25 10/07/07 22:54
月 ( Y4xRh )

広い部屋なのに必要なもの以外は何もないなさっぱりした部屋。

一人で寝るには広いベッドの上で、たくさん考え事をした。

自分のこと、祖母のこと、高柳のこと、そしてなぜか吉岡さんのこと…。

少しづつ眠くなり、気づいたら眠ってた。

手に違和感を感じて起きたら、私の右手を高柳が握ったままベッドにもたれて寝ていた。

そっと手をはずしベッドを降りる…

外はまだ薄暗い。

そっとお腹に手をあて、

『赤ちゃんいるの?』

聞いてみた。

私は人形。

もしお腹に赤ちゃんがいたら、この子はどうなってしまうんだろう…

おばあちゃんに何て言おう…

テーブルに座り、ただただ外を眺めてた。

しばらくして、朝日が部屋へ差し込むと、バタバタと足音が聞こえてきて、勢いよくリビングのドアが開く。

『バタンッ!』

こんな慌てた様子の高柳は初めてだ。

私の顔を見るなりホッとしたように少し見えた。

『…こんなとこにいたのか。』

『…眠れなくて…』

『お前、いつもいなくなるから、またそうなのかと思った』

高柳の少し寂しそうな顔を見たら

『…ごめんなさい』

そう言葉が出た。

No.26 10/07/07 23:12
眠り姫 ( Y4xRh )

この人はいつも、私が姿を消したときには毎回息を切らせながら、この広い部屋を探しているのかな…そんな風に思った。

軽い朝食を作り、二人で食べた。

私は気持ちが悪くてあまり喉を通らなかったら、

『…食えねーの?』

『…ちょっと気持ちが悪くて…』

『…無理すんなよ。』

『…はい。』

小さく頷いた。

それから支度をして、高柳の運転する外車で病院に行った。

受付を済ませ、内診をしてもらうと…

『見えますか?これが赤ちゃんですよ~』

確かにそこにはちゃんと形が存在してた。

なんだか無意識のうちに涙がこぼれた。

赤ちゃんは今二ヶ月に入ったばかり。

エコー写真をもらい、先生とお話して待合室で待つ高柳のもとへ行った。

『…どうだった?』

『赤ちゃん…今二ヶ月だそうです』

そう言ってエコー写真を見せると、高柳はふっと笑いながらエコー写真を眺めてた。

『…どうするか決めたらまた来てくださいって言われました。』

『…はっ?お前、産まねーの?』

『…えっ』

『産めよ!俺のガキ!』

『…でも…』

『…なんだよ。産みたくねーのかよ?』

No.27 10/07/07 23:32
眠り姫 ( Y4xRh )

『…わからない。』

『わからないって何だよ?』

高柳の声が大きくなり始める。

泣きそうな私を見て『…後で話そう』と言い、会計を済ませて車に戻った。

『…で?お前はどーしたいわけ?』

『………。』

『…言えよ。』

『………。』

『言えってッ!』

大きな声にビクッとなった私は、妊婦だからか精神不安定になり泣き出してしまった。

『…わか…らない。どうしていいか…わからないん…です。赤ちゃんは生みたいけど…』

高柳は私の泣き顔をみたからか口調が優しくなってきた。

『…お前が生みたいなら…俺は生んで欲しいと思ってる。』

『…でも…』

『…結婚はお前の気持ちが落ち着いてからでいい。お前が俺を男として見てないのは初めからわかってた。だから…お前がもし俺と結婚してもいいと思ったときに籍を入れるってのはどうだ?』

『…ごめん…なさい…』

『…謝んなって。俺のガキなんだから生活の面倒も見るし、今までと何も変わらねーから。それでいいか…?』

『…ごめん…な…さい』

『だから…謝んなってッ!頼むから謝んなよッ!俺はそれでいいっつってんだろッ…!?』

No.28 10/07/07 23:43
眠り姫 ( Y4xRh )

言葉にならなかった。

一度も高柳を愛したことがないのを、彼は知っていた。

それでもいいからこのままでなんて、すでに私の頭はついていかなかった。

憎しみから始まった私と高柳の関係に…

私は応えることが出来なかった。

今でも変わらない。

それから、高柳のアパートと家を行ったり来たりするようになった。

妊娠五ヶ月に入り、祖母に赤ちゃんの話をした。

喜んでくれてたし、詳しいことや相手のことは聞かないでくれた。

…昔から変わってない。

私が話したくないことはあえて聞かずに見守ってくれるおばぁちゃん…

ありがとう…。

その手にひ孫を抱いて欲しいと強く思いました。

お腹が大きくなるにつれて、高柳はベビー用品を買ってくるようになった。

おかげで部屋は赤ちゃん色に染まりつつある…。

あんなに俺様だった高柳が、妊娠がわかってからは一度も手を出してこない。

私にはとてもありがたかった。

高柳は飲みに歩く回数も減っていった。

健診にはたまについていくと言い張り、会社で待っているように言われたことが何回かある。

No.29 10/07/08 00:01
眠り姫 ( Y4xRh )

その時に2~3回、吉岡さんや楓さんに会ったくらいで後は会うことはなかった。

吉岡さんは相変わらず優しい笑顔で手をふってくれ、時には

『妊娠おめでとう!ちゃんと前を向いて生きていくんだよ!その子のためにもね!』

そう言葉をかけてくれた。

吉岡さんに会うと、なぜか心が軽くなる感じがした。

会社のどこにいても、吉岡さんを探している自分がいた…。

ある日の朝方、ゆるい痛みから激しい痛みにかわり、病院に行った。

渾身の力を振り絞り、元気な赤ちゃんが生まれた。

女の子だった。

名前は笑顔を結ぶと言う意味で『結笑』。

ゆえは私によく似ていた。

可愛い結笑。

私の結笑。

この子の為なら、強くなれる気がした。

祖母も大切そうに抱いては喜んでくれた。

高柳も娘が可愛いのか、率先して抱いたりしていた。

あの高柳がこんなに変わるなんて…。

それでも私はまだ高柳を愛せなかった。

愛することはできないとさえ思ってた。

きっとそれは、すでに惹かれている人がいたからなのだろう…

ある日の夜、高柳のマンションに吉岡さんと楓さんが遊びに来た。

No.30 10/07/08 00:34
眠り姫 ( Y4xRh )

小さなユエは、吉岡さんを見ても、楓さんを見てもご機嫌。

楓さんが高柳をかまっているときに、吉岡さんが私に

『ユリちゃんに似て可愛いね!』

って、イタズラっぽく笑った。

吉岡さんと喋っていると、ついついつられて笑ってしまう…。

そんな光景を見ていた高柳に楓が、

『もういいでしょ…あの子はあなたではダメなのよ。わかってるんでしょ?』

『…うるせーな。』

『ユリちゃんはもぅ気づき始めてるんじゃないかしら?自分の気持ちに…。』

『………。』

『もぅお金ではユリちゃんを縛れないことを、あなたもわかっているんでしょ?』

『…………。』

『解放してあげなさいよ。あの子のとユエちゃんのことを想うなら…』

『うっせーなっ!ほっとけ!』

そう言って高柳は外へ出ていった。

『あのバカ、外に頭を冷やしに行ったわ』

『えっ…?』

『あっ、気にしないで!(笑)それよりおばちゃんにユエちゃんを見せてちょ~だい!可愛い~』

しばらく三人でユエをあやしていると、楓がタバコを吸いにベランダに出た。

No.31 10/07/08 12:07
まぅ ( Etwlnb )

こんにちは😃

楽しく読ませてもらってます✨

次の展開が楽しみでドキドキしてます😍
こんな夢見たいです🙈
では、続きを楽しみにしてま~す✨
失礼しました🙇

  • << 33 その間、この空間には吉岡さんとユエと私の三人だけ… 緊張した。 すごく…すごく…。 高鳴る心臓の音が、吉岡さんに聞こえてしまうんじゃないかってくらいドキドキしてた。 最初に口を開いたのは吉岡さん。 『…社長と結婚しないの?』 優しく私を見つめる。 『あっ…どうしたらいいかわからなくて…』 恥ずかしさのあまり目を反らしてしまった。 クスクス笑う吉岡さん。 今度は勇気を出して、私から話しかけてみた。 『吉岡さんの娘さんは、吉岡さんに似てますか?』 ユエを見たまま聞いてみた。 『うーん…うちの子は奥さん似かな(笑)』 『そうなんですか…』 会話が終わってしまった。 こんな質問しなきゃよかったと思っていると、いきなり吉岡さんが私の頭をイイコイイコした。 ビックリして、吉岡さんの方を振り向くと… 『ユリちゃんはとても頑張りやさんだね』 優しく、優しく、頭をなでるその手は、その笑顔は、その声は… 吉岡さんが誰にでもかける言葉なんだと思うと、涙がひとつ…またひとつと頬を伝って落ちてきた。 吉岡さんは目を丸くして驚いてた…。

No.32 10/07/08 14:57
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 31 まぅさん☺

ありがとぅございます😍

かなりの妄想壁があるのか、すごく夢を見ます💧(笑)

願望なのかしら😂❓

くだらないことばかり書いていますが、どうぞお暇なときにのぞきに来てくださいね☺✨

No.33 10/07/08 15:10
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 31 こんにちは😃 楽しく読ませてもらってます✨ 次の展開が楽しみでドキドキしてます😍 こんな夢見たいです🙈 では、続きを楽しみにしてま… その間、この空間には吉岡さんとユエと私の三人だけ…

緊張した。

すごく…すごく…。

高鳴る心臓の音が、吉岡さんに聞こえてしまうんじゃないかってくらいドキドキしてた。

最初に口を開いたのは吉岡さん。

『…社長と結婚しないの?』

優しく私を見つめる。

『あっ…どうしたらいいかわからなくて…』

恥ずかしさのあまり目を反らしてしまった。

クスクス笑う吉岡さん。

今度は勇気を出して、私から話しかけてみた。

『吉岡さんの娘さんは、吉岡さんに似てますか?』

ユエを見たまま聞いてみた。

『うーん…うちの子は奥さん似かな(笑)』

『そうなんですか…』

会話が終わってしまった。

こんな質問しなきゃよかったと思っていると、いきなり吉岡さんが私の頭をイイコイイコした。

ビックリして、吉岡さんの方を振り向くと…

『ユリちゃんはとても頑張りやさんだね』

優しく、優しく、頭をなでるその手は、その笑顔は、その声は…

吉岡さんが誰にでもかける言葉なんだと思うと、涙がひとつ…またひとつと頬を伝って落ちてきた。

吉岡さんは目を丸くして驚いてた…。

No.34 10/07/08 15:23
眠り姫 ( Y4xRh )

『ごめんね…。嫌だったかな。』

首を大きく横に振った。

『参ったな…。』

困った顔をした吉岡さんを見て、早く泣き止まなきゃと思った。

そう思えば思うほど、胸が苦しくなってきて涙は流れ続けた。

吉岡さんが立つ。

隣から離れ楓さんのいるベランダへ…

(どうしよう…私が泣き止まないから呆れられちゃった…困らせちゃった…)

吉岡さんが離れたら急に寂しくなって、下を向きながら何度も何度も、手で涙を拭っても止まらない。

カラカラカラ…

ベランダの戸が開き、足音が聞こえてきた。

楓さんだろう…

(どうしよう…変に思われちゃう…)

そう思った瞬間、泣いている私の頭をポンポンっと軽く二回叩いて外へ出ていった。

その行動に驚き、涙は止まった。

すると、次の瞬間…

後ろからふわっと何かが覆い被さる感じがした。

『…参ったな。ユリちゃんを泣かせちゃったよ…』

そう言いながら、吉岡さんがしゃがんで私の方に腕を置いて話しかけてきた。

『…は~。ごめん…』

吉岡さんのオデコが、私の後頭部にコツンと当たった。

何が起きたのか理解できなかった。

No.35 10/07/08 15:39
眠り姫 ( Y4xRh )

軽くオロオロしていると、吉岡さんが言葉を続けた。

『…ユリちゃんのこと…初めて社長に連れていかれた時から、すごく心配だったんだ。』

『僕は結婚もしてるし、奥さんも子供もいる。家族が大切だし、飲み屋も他の子も興味はないんだ。』

そんなこと…わかっていたし、何より吉岡さんの口から聞いたことがショックで放心状態になった。

吉岡さんはまだ続ける。
『なのに…なんでかな。君に惹かれるのは…。君のことが心配で放っておけないんだ。』

『…同情なんか…』

『うーん…同情なのかなぁ…僕は違うと思うんだ。』

『何が違うん…ですか…』

『僕は子供に戻ってしまったみたいなんだ(笑)ただ純粋に君が好きで、ただこうして側にいるだけで気持ちが安らいでいく。手を繋ぎたい…君の髪に触れてみたいって思ってしまう僕がいるんだ。』

僕ってピュアだなぁ~なんて吉岡さんが笑うから、つられて笑っちゃうよ。

私も同じ…

ただ側にあなたがいてくれたら…それだけで私は私でいられる気がした。

No.36 10/07/08 15:51
眠り姫 ( Y4xRh )

どうして私は人形なの…?

どうしてあなたに出会ってしまったの…?

どうして私はあなたに惹かれるの…?

どうして私は…

あなたじゃなきゃダメなの…

こんなの、誰も幸せなんかじゃないよ…

誰かを傷つけてばかりだよ…

こんな私は嫌だよ…

吉岡さん…

吉岡さん…

吉岡さん…

なぜ突き放してくれないの?

なぜ優しくするの?

なぜそんなことを今口にしてしまうの?

こんな気持ち初めてで、どうしたらいいかわからないよ…

私はどうしたらいいのかな…

そんな風に考えていたら、吉岡さんに伝わってしまったみたいで、吉岡さんは笑った。

『…ごめんね(笑)ユリちゃんを困らせちゃったみたいだね。そんなにたくさん考え込まなくても大丈夫だよ…』

また頭をイイコイイコしてくれた。

こんな時間がずっと続けばいいのに…

そう願わずにはいられなかった。

No.37 10/07/08 17:56
眠り姫 ( Y4xRh )

しばらくして涙が止まった頃、高柳と楓さんがマンションに帰ってきた。

高柳は飲んでたみたいだ。

吉岡さんがさっき楓さんに頼んで、高柳を飲みに連れ出したらしい…

楓さんにも悪いことをしてしまったと、胸がチクンと痛んだ。

高柳がソファーで眠ってしまったため、吉岡さんにタクシーで家まで送ってもらった。

今夜はマンションに泊まる気にはなれなかった。

家についてお茶でもとうか…と思ったが、家庭がある吉岡さんには言ってはいけないと思い言葉を飲み込んだ。

すると、吉岡さんの方からから

『…今日はごめんね。』

『いえ…嬉しかったから』

吉岡さんが笑う。

『一緒にいたいけど、今日は帰ります(笑)』

『あっ…はい…』

シュンとする私のオデコに吉岡さんが優しくキスをする。

胸がキュンとして、離れがたくなる。

でも、その気持ちを押さえてサヨナラした。

家に入りベビーベッドに結笑を寝かせる。

そのとき、家の電話がなった。

『プルルルル…』

時計を見ると夜の11時。

そっと電話をとり出た。

『…はい、生垣です。』

No.38 10/07/08 21:41
眠り姫 ( Y4xRh )

『山の下病院ですが、生垣 百合さんですか?』

『…はい。』

『…おばぁさまのキヨさんがお亡くなりになりました。』

『…えっ………』

その瞬間…ガタっと受話器をしたに落とし、その場に崩れ落ちた。

『おばぁちゃん…』

受話器の向こうから何かを言っているけど、何も耳に入らない。

目の前が真っ暗になった…。

小さい頃から育ててくれた祖母。

大好きな祖母。

どうしていいかわからず、とりあえず結笑を抱いて病院に向かった。

病気は持っていたが、祖母は老衰だったようだ。

苦しまずに逝った祖母の顔は、なんとも安らかな顔をしてた気がする…。

祖母にすがりつき泣くのはどれくらいぶりだろう…

小さいときは怖い夢を見ておばぁちゃんに抱きついて泣いたっけ…

あったかかったなぁ…

もう…いないんだね…

それから数日後には、高柳のはからいで無事にお通夜とお葬式が終わった。

部屋の仏壇の前に座っていると、

『…大丈夫?』

吉岡さんの声がした。

No.39 10/07/08 22:27
眠り姫 ( Y4xRh )

『はい…。』

『何か力になれることはない?』

『…いえ…大丈夫です…』

『…わかったよ。何かあったらすぐに連絡して。これ僕の番号だから…』

そう言って、吉岡さんは私に名刺を渡してくれた。

そして耳元で吉岡さんが

『明日、またユリちゃんに逢いに来てもいい?』

心配そうに私を見つめる。

『…はい。明日待ってます…』

心配をかけないように笑ってみたけど…

ちゃんと笑えてたかな…

吉岡さんは帰り、あの高柳も珍しく静かだった。

近づいてきて、高柳は真剣な顔で

『お前…これから俺のマンションに住めよ。』

『…いえ…私は…ここにいたい…です』

『…なぁ。俺たち…結婚しないか?』

『………。』

それからお互いに無言のまま、時間だけが過ぎていった。

No.40 10/07/09 10:03
眠り姫 ( Y4xRh )

私はどうしても高柳を愛することができなかった。

始まりが始まりだったからなのか…。

男性としての魅力を感じないからか…。

だけど結笑の父親だ。

両親を早くに亡くした私には、いつか家庭を持ったときに子供が生まれたら、夫婦揃って愛情をたくさんそそいであげるのがささやかな夢だった。

意外なことに、高柳はとても結笑を可愛がってくれる。

生まれたときも、会社を抜け出して会いに来てくれた。

(すぐに楓さんに連れ戻されたけど…笑)

サッパリした高柳のマンションには、おもちゃがひとつ…またひとつと増えていってる。

洋服だって、高柳の好みでたくさんの服を買ってくる…

(そんなにいらないって言ってるのに…)

高柳にとって、結笑は可愛い娘なんだろうなっと伝わるくらい溺愛してる。

私さえ気持ちを押し殺せば、みんなが幸せなのかもしれない…

ううん…

きっとみんな幸せなんだよね。

私は人形…

そこから始まった高柳との関係。

私は『高柳 百合』になる。

そうすれば…

吉岡さんの家族も幸せだよね…。

No.41 10/07/09 15:04
眠り姫 ( Y4xRh )

次の日の夜、8時頃に吉岡さんがうちに来た。

ついさっき高柳から連絡があり、

『…無理矢理、楓に誘われて飲みに行くから。』

なんだか不機嫌だった。

吉岡さんが楓さんに頼んでくれたんだろうな…

人を巻き込まなきゃ会えない私と吉岡さんは…

きっと神様も間違ってると言ってるんだろうな…

『こんばんわ』

吉岡さんが優しく笑うから…

私もつられて笑うの。

『…いらっしゃい』

あなたは優しいから…

私の嫌な部分も包んでしまうの。

『これ…結笑ちゃんに』

可愛いピンクのフワフワうさぎさんのお人形…

高柳とは全く正反対な吉岡さん。

たまらなく私の好きなものばかり与えてくれる。

『…ありがとう』

あなたといると心から笑える

『…これはユリちゃんに(笑)』

小さなお花の形をした綺麗なネックレス

『綺麗…』

『それユリちゃんみたいでしょ!可愛くて(笑)それ見た時、ユリちゃんのイメージにピッタリだなって思ったんだ』

首の後ろで吉岡さんがつけてくれた。

どうかこのドキドキが吉岡さんに伝わりませんように…

No.42 10/07/09 16:11
眠り姫 ( Y4xRh )

吉岡さんが後ろから抱きしめてきた。

『どうしよう…僕の心臓…ドキドキしてる…』

吉岡さんの鼓動もはやかった。

私だけじゃないんだとわかったら嬉しかった。

優しく…

優しく…

壊れ物でも扱うかのように、ふんわり包んでくれる。

力づくで抱きしめてくる高柳とは本当に正反対。

…こんなときにまで高柳と吉岡さんを比べてる私は最低だ…。

あなたに惹かれるたびに、私の心は醜くなっていくようで…すごくこわかった…

ただ抱き合いながら、私の小さいときの話、吉岡さんの小さいときの話、たくさんたくさん語り合った。

結笑が夜泣きすれば、ミルクを作ってる間に吉岡さんがあやしてくれ、すごく慣れた手つきに胸がチクンと痛んだ…

何をしていても消えることのない事実…

あなたには守るべき人がいる…

帰るべき場所がある…

わかっていながら、あなたに甘える私は最低だよね…

No.43 10/07/09 19:13
眠り姫 ( Y4xRh )

吉岡さんが言った。

『…百合ちゃん…もう社長から解放されたらどうかな?』

『…えっ…』

『こんなことを言ったらとても不謹慎なんだけど…ユリちゃんのおばぁさんは亡くなってしまったから、もぅ病院代とかも社長に援助してもらわなくていいでしょう?』

『…あっ。』

確かに、吉岡さんに言われるまで高柳との不思議な関係を忘れかけていた。

なぜ人形として側にいるのか…

『僕が君を助けたいんだけど…いいかな?』

『吉岡さんが私を…?』

『…そぅ。社長みたいな暮らしをさせてあげることは出来ないかもしれないけど…人並みにはユリちゃんもユエちゃんも暮らせるだけの援助は出来ると思う。』

『…そんな…』

『僕は君を人形として見てるんじゃないよ。君を買うつもりもない。ただ、君が笑っていられる場所を作りたいだけなんだ。』

いつもとは違って真剣な顔の吉岡さん…

本気で言ってくれてるんだと伝わってきた。

高柳から離れる時なのかもしれない。

でも、家庭がある吉岡さんに甘えるわけにもいかない。

吉岡さんはまたいつものように笑って言った。

『後で返事してねっ!』

No.44 10/07/09 22:29
まぅ ( Etwlnb )

こんばんは✨

いや~、素敵な妄想?ですぅ☺
毎日続きが楽しみでドキドキしてます💓
吉岡さんとどうなっちゃうのか…😏

考えただけで興奮しちゃいます😍笑

眠り姫さん、最後まで読ませてもらうので頑張ってくださいね😉💕

No.45 10/07/09 23:03
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 44 まぅさん

こんばんわっ🌙

妄想って楽しいです☺

夢で見た後半まできているので、もうしばらくお付き合いください😁(笑)

読んでくれてありがとうございます😍✨

私的に吉岡ラブです☺(笑)

No.46 10/07/09 23:16
眠り姫 ( Y4xRh )

私は強くならなきゃいけない。

私の為に

娘のために

吉岡さんのために

そして、高柳のために…

吉岡さんは朝方帰っていった。

そのまま会社に行くそうだ。

休んでいってはどうかと聞いてみたけど、

『今日は失礼するよ!離したくなくなってしまいそうになるからね(笑)』

冗談まじりに照れながら言うから、私の方が恥ずかしくなって真っ赤になってしまった。

そんな私を見て

『…困ったなぁ。そんな顔されたら僕の心臓がまたドキドキしてくる。ユリちゃんといると、僕の心臓は忙しいみたいだ(笑)』

二人で顔を見合わせプッと笑った。

ありがとう吉岡さん。

私は強くなります。

あなたが言うように、まっすぐ前を向いて歩いていきます。

もう下ばかり向いている私なんか、過去に置いていくから。

…あなたも私を忘れてください。

No.47 10/07/09 23:28
眠り姫 ( Y4xRh )

たくさん吉岡さんと語り合ったので、一睡もしていない。

それは彼も同じこと。

高柳が仕事へ行く前に会って話がしたかったので、私は支度をして家を出た。

合鍵を渡されていたため、鍵を開けて入る。

目にとまったのは…

ゴールドラメのヒールの靴。

私のではない。

高柳はこういう系の靴を私に履かせない。

一睡もしていないせいか、私の思考回路はおかしくなっていたのかも。

普段の私なら決して中へ入ったりしないだろう。

でも今日は違った。

私はユエを抱いたまま、長い廊下を歩き、リビングの扉を開けた。

…誰もいない。

次に、高柳の寝室へ向かった。

ゆっくり扉を開ける。

『キィィ~…』

部屋には朝日が差し込んでいて、広いベッドに二つの山があった。

私はベッドに近づいた。

ベッドの周りには高柳のスーツや、女性ものの服が脱ぎ散らかされてた。

それらを見ても何も感じない。

ベッドの脇に立ったとき、いきなりユエがグズり出した。

No.48 10/07/09 23:49
眠り姫 ( Y4xRh )

『ふぇ~…』

その声に高柳が目を開けた。

そして寝ぼけながら、ユエの声がする方を向く。

『…おー。来てたのか…あぁぁぁ~頭痛てぇ…』

寝返りをうち、こっちに向いた瞬間…

高柳の動きは止まった。

目がパッチリ覚めたようで、隣で眠る女性に気づいたようだ。

しばらく無言が続き、ユエのグズり声だけが響いてた。

すると、ユエの声で寝ていた女性も起きたのか、目の前にいる高柳に手をのばし…

『う~ん…おはよう❤瞬❤朝からなんか騒がしいわね…どっかから赤ちゃんの泣き声みたいなのがする…』

くるりとこちらに振り返る。

それと同時に、

『…キャーッ!何っ?!何なの?!あんた誰ッ?!』

その声に驚いたユエが大泣きし始めた。

No.49 10/07/09 23:53
眠り姫 ( Y4xRh )

私はその女性を知っていた。

『…沙織ッ!ここでお前こそ何してんだよッ!つーか、結笑を泣かしてんじゃねーよッ!ぶっ飛ばすゾッ!!』

沙織さんの頭の中はパニックしているようだった。

『…何って…昨日あんたが二件目に来た店に、あたしがいて意気投合して三件目に行って、エッチしたんでしょ!覚えてないわけッ?!てゆーか、この状況ってなんなのよーっ!!』

『うるせーよっ!こっちが聞きてーよッ!』

『ふぇーん。ふぇーん…』

『瞬、あんた子供いたの?!てか、結婚してたの?!てゆーか、あんた見たことあるし!前クラブで会った瞬の人形じゃん!瞬、本気でこの子のこと好きなわけッ?!』

『だから、ギャアギャアうるせーんだよっ!ユエが怖がってんだろ!テメー黙れよッ!!』

『ふぇ~ふぇ~ん…』

とりあえずユエを落ち着かせようと思い、

『あのっ!私は結笑顔にミルクあげてくるので、着替えたらリビングに来てください』

そう言って寝室を後にした。

No.50 10/07/10 00:08
眠り姫 ( Y4xRh )

スウェットの下だけはいた高柳が先にリビングに来た。

『おい…。今アイツ帰らせるから…』

『…別にゆっくりしてもらってもかまいませんよ』

『………。覚えてねーんだ。楓と飲みに行ったとこまでしか…。』

『…そうですか。』

ミルクを飲ませながら、ユエだけを見て答えた。

そこに、着替えた沙織が入ってきた。

『しゅん~❤覚えてなくても、やっちゃったもんは事実だからねっ❤』

『うるせーよ、お前は黙ってろッ!つーか、帰れよッ!』

『きゃ~❤瞬の赤ちゃん見せて~❤』

『沙織ッ!俺のはなし聞いてをのかよっ!』

『聞いてるよ~!名前はなんてゆーの?』

『…ゆえです。』

『てか、百合ッ!お前も勝手に答えんなっ!』

『わぁ💡女の子だぁ~❤可愛い~❤』

『いいから帰れよッ!』

高柳が沙織の腕を掴む。
『いったぁ~い!もっと優しくしてよ!昨日はあんなに優しくしてくれたじゃん!』

『…あぁっ?💢知らねーよ。つーか覚えてねーしッ!』

『ひどぉ~い!でもちゃんとヤったからね!あたしも瞬の赤ちゃん欲しいなぁ~❤』

『…ふざけんなよッ!💢帰れよ!!』

No.51 10/07/10 00:25
眠り姫 ( Y4xRh )

高柳が沙織を部屋から出そうとしたとき、私は口を開いた。

『…いいんじゃない?』

二人は声を揃えて言った。

『…はっ?』

私はベビーベッドに結笑を寝かせながら続けた。

『…沙織さん、高柳さんの赤ちゃん生みたいんですよね?いいんじゃないですか?沙織さんに男の子を生んでもらえば。跡継ぎも安泰ですよ。』

今まで自分の気持ちを誰かに伝えるのが苦手で、無口になっていった私…。

それからはあまり口数が多い方ではなかったのに、眠くて頭が働かないせいかどんなことでも言える気がしてた。

No.52 10/07/10 00:26
眠り姫 ( Y4xRh )

『じゃ~あたし、瞬の赤ちゃん生むぅ~❤男の子を生んであげるね❤』

『…そうしてあげてください。ちなみにユエの父親は高柳さんに間違いありませんが、私達は結婚はしてませんから。』

『マヂで~❤❤❤ぢゃ~瞬、あたしと~…』

『…お前、本気で言ってんの?』

高柳がキレた。

『…本気ですよ。祖母が亡くなった今、あなたの言いなりになる理由はなくなりました。』

『…はっ(笑)お前、本気で俺がそんな理由だけで、お前を側に置いてきたと思ってたわけ?』

『…私は…ゆえと二人で生きていきます…。』

『…ふざけんなよ。働き口なんかねーよ?みんな俺の一声でお前なんか雇ってもらえねーよ?どーすんの?』

『…わかってます。それでも私はもうあなたに支配されたくない。私は人形なんかじゃない!』

No.53 10/07/10 00:32
眠り姫 ( Y4xRh )

私が高柳の前で大きな声をあげるのは初めてだった。

また力づくで言うことを聞かせようと思ったのだろう…

高柳が私の両手を掴みかかってきた。

『…ふざけんじゃねーよ!ゆえは絶対に渡さねーし、お前も俺から離れるなんて、絶対に許さねーッ!💢』

『…ガッターンッ!』

『…きゃっ…やめ…』

『…わかったか!許さねーからなッ!!』

倒れた拍子に、高柳が私の上に馬乗りになってきた。

『ねぇ!瞬!やめなよ…っ!』

沙織までもが止めに入ってくれるほど、高柳は周りが見えなくなっていた。

そのとき…

No.54 10/07/10 00:47
眠り姫 ( Y4xRh )

『瞬ッ!もう止めなさい!』

声のする方を向くと、部屋の入り口に楓さんが立っていた。

『…瞬…もう百合ちゃんを自由にしてあげましょう…?あなたは愛し方を間違ってる…。そんな愛し方をして、相手から愛されるわけないじゃない。』

楓さんの顔が悲しそうに高柳を見つめてる。

『…楓ッ!お前…昨日おれに薬盛りやがったなッ!それで沙織とグルになって…ッ!』

『…あなたがやってきたことよ。逆にやられた気分はどうかしら?』

『…テメェ…💢』

『あなたは男だから、そこまで傷つかないでしょうけど、女がされたらどんなに傷つくかあなたにわかる?百合ちゃんがどれだけ心に傷を負ったか…あなたにはわからないのでしょうね…。』

『………。』

『…そんなやり方でしか人を愛せないのは、あなたが忙しい叔父様、おば様に愛し方を教えてもらわなかったからでしょう?』

『………。』

『瞬…お金では手に入らないものも、この世にはあるのよ…』

『…わかってるよ。』

高柳の手の力が抜けた…。

No.55 10/07/10 00:58
眠り姫 ( Y4xRh )

『こんなやり方間違ってる…そんなの初めから…百合を見つけたときからわかってたよ!』

今にも泣き出しそうな高柳の顔は、まるで捨てられた子犬のように私を見つめてた。

『…百合…ごめんな…』

そう言うと、高柳は部屋から出ていった。

沙織は本気で高柳が好きで、楓さんからこの計画のはなしを持ちかけられたときに、少しでも近づきたくて計画にのったらしい…

彼女もまた、愛し方を間違ったのかもしれない…

楓さんのご両親もまた、小学生のときに他界しているらしく、高柳のお父さん夫婦が引き取り、本当の姉弟のように育ってきたと聞いた。

だから、弟のように思っていた高柳が道からそれていくのを何とか助けたかったのだと…

本当にごめんなさいと、楓さんが謝った。

No.56 10/07/10 01:44
眠り姫 ( Y4xRh )

私はもう決めていた。

結笑と二人で生きていこうと。

高柳のことは楓さんが

『アイツは大丈夫よ!性格はかなり曲がってるけど、根性だけはあるのよね(笑)』

豪快に言われたら、本当にそうなんだろうなって思えた。

吉岡さん…

あなたは私にとって、暗闇を照らすお月さまのような人でした。

生まれて初めて人を好きになりました。

あなたは優しい人…

私と出会わなければ、あなたは家族と楽しい時間をたくさん過ごせたはずなのに…

私はあなたにたくさん救われました。

家庭を持っていて、あなたほど真面目な人が、こんな私のために気持ちを伝えてくれたのはどれだけ悩んだことでしょう…

どれだけ罪悪感に襲われたことでしょう…

今度は私があなたを救いたい。

私はこの街を出ます。

誰も私と結笑を知らない街へ行きたいと思います。

おばあちゃんが私名義で、小さい頃からコツコツ貯金してくれていたらしく、アパートなどを借りてもしばらくは結笑と暮らしていけるだけのお金が入ってた…

おばぁちゃん…ありがとう…

最期の最期まで、何一つおばぁちゃんにしてあげられなくてごめんなさい…

No.57 10/07/10 02:01
眠り姫 ( Y4xRh )

出発は早い方がいいと思い、昔両親が亡くなるまで一緒に暮らしていた街にアパートを見つけて、早急に荷造りをした。

出発前夜…

吉岡さんが訪ねてきた。

『…とうとう明日だね…』

『…はい…あの…今までたくさんありがとうございました!』

『…ううん。僕はなにもしてないよ。こちらこそありがとう…』

『やだぁ(笑)私こそなにもしてないですよ!』

『…覚えておいて。僕が君を真剣に想っていたこと。忘れないで、君はちゃんと前を向いて歩ける子だってこと!』

『…はいっ。吉岡さんもわかっていてください。私があなたを真剣に想っていたこと。そして…忘れてください。私のこと、ゆえのこと…。私はもうちゃんと前を向いて歩いていけます!大丈夫だから、どうか私を忘れてください…』

自分で言いながら泣きそうになってきた。

でも泣かない。

ここで泣いたら、また困らせてしまうから…

だから私は精一杯の笑顔で『ありがとう!』って伝えた。

吉岡さんも、私の大好きなあの笑顔で『こちらこそ…ありがとうっ!』って言ってくれた。

No.58 10/07/10 02:13
眠り姫 ( Y4xRh )

本当は…抱きしめてほしかったけど、離れたくなくなるのが怖くて言わなかった。

吉岡さんの手も、一度私の髪を触ろうとしたけど、その手は一瞬止まって触れることなく戻していった。

最後のあいさつは10分くらいで終わった。

別れがつらくなるから…

その日の夜はなかなか寝付けなかった。

それでも朝は来る。

旅立ちの朝。

タクシーに乗ろうとしたら、楓さんが見送りに来てくれた。

『とうとう行っちゃうのね。寂しくなるわ…。何かあったらすぐに私に連絡してね。あなたも妹のように思っていたわ…。』

楓さんが涙ぐむ。

私は笑って

『…お元気で。今までたくさんありがとうございました。高柳…いえ、瞬さんにごめんなさいとお伝えください…。』

『…謝らなくていーのよ!謝るべきはアイツ!(笑)でも…伝えておくわね…。』

『…はい(笑)お願いします』

『ゆりちゃん、これ…』

『…なんですか?』

『あとで読んでやって。瞬が珍しく手紙なんか書いちゃってさ(笑)本当に私もビックリ!』

二人でクスクス笑って

『じゃあ…行きます!』

笑顔で手をふれた。

No.59 10/07/10 02:23
眠り姫 ( Y4xRh )

タクシーに乗り、高柳からの手紙を開いた。

中には…

『百合と結笑へ』

『百合…今までごめんな。俺、お前のこと好きだったよ。好きすぎて自分がわからなくなってたんだ…。いつも押し付けるばかりの気持ちでごめんな…お前が吉岡に惹かれたのがわかる気がした。まぁ…体に気を付けろよな。』

『結笑、ごめんな…大きくなったら、ママを大切にしてやってくれな。俺にはできなかったから…幸せになれよ!』

『今までありがとうな』

そんな内容だった。

この手紙を読んで初めて高柳を許せた気がした。

こちらこそ、たくさんありがとうございました。

そして、たくさんごめんなさい…

次こそは幸せになってほしいと、心から思えました。

さぁ!いよいよ二人の生活がスタートです!

前を向いて頑張ります!

私たちは若さゆえに傷つけあってきた。

どうかみんなが幸せでありますよーに。

No.60 10/07/10 08:45
まぅ ( Etwlnb )

おはようございます😃


とうとう終わってしまいましたかぁ😭

結局ユリは、どちらも選ぶことなく1人立ちしたんですね💦
私も吉岡さんがィィです😍
吉岡さんともうちょっと接近してほしかったなぁなんて思ってしまう私って…😣

眠り姫さん、楽しませてくれてありがとうございました☺
もしまた、面白い妄想?夢?を見ましたらぜひ聞かせてください💕

できたら続きがいいなぁ…なんて😃💦

私もこんな夢見たいよぅ⤴⤴笑

  • << 62 まぅさん😍 最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました😊 吉岡さんはきっと、どこまでいっても『いい人』なのでしょうね😂 夢の百合はどうして一人立ちをすることにしたんだろう… あたしなら吉岡さんにくっついていっちゃうな😁(笑) 吉岡さんにも家庭がありますが、一回もでてきませんでしたもんね💧 でも、出てきたら修羅場でこわかったかも😱(笑) 夢は終わってしまいましたが、今度は妄想で続きを書きたいな~なんて思っちゃったり💓(笑) あたしの現実世界にも、家庭持ちで吉岡さんをちょっとワイルドにした人が会社にいるので、その人に優しくしてもらいたかった願望が夢に出てきちゃったのかもしれません😂💦 かなりの妄想ヤローです💧(笑)

No.61 10/07/10 10:53
1児のママ ( ♀ xGylnb )

こんにちは😄
ずっと読ませていただいてました🎵✨

夢なのにこんなに鮮明に覚えてるんですね⤴すごい😆
私もこんな夢を見て別の人生体験したような気分になりたいな(´∀`*)

眠り姫さん、楽しいお話ありがとうございました❤

  • << 63 1児のママさん😍 読んでくださってありがとうございました🌷 わたしも一児の母なので、夢でだけ違う人生を楽しんでます😂💦 …夢だからいいですよね😥(笑) 夢は結構見る方で、意外と鮮明に覚えています😊 朝起きてドキドキしてたり、続きを見たかったり… なんか心が欲求不満みたいですよね~😂 お恥ずかしい🙈💧 しばらくしたら、その後を妄想で書いていきたいなぁ~っと思ってるので、お暇なときにまたのぞきに来ていただけたら嬉しいです☺

No.62 10/07/10 19:08
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 60 おはようございます😃 とうとう終わってしまいましたかぁ😭 結局ユリは、どちらも選ぶことなく1人立ちしたんですね💦 私も吉岡さん… まぅさん😍

最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました😊

吉岡さんはきっと、どこまでいっても『いい人』なのでしょうね😂

夢の百合はどうして一人立ちをすることにしたんだろう…

あたしなら吉岡さんにくっついていっちゃうな😁(笑)

吉岡さんにも家庭がありますが、一回もでてきませんでしたもんね💧

でも、出てきたら修羅場でこわかったかも😱(笑)

夢は終わってしまいましたが、今度は妄想で続きを書きたいな~なんて思っちゃったり💓(笑)

あたしの現実世界にも、家庭持ちで吉岡さんをちょっとワイルドにした人が会社にいるので、その人に優しくしてもらいたかった願望が夢に出てきちゃったのかもしれません😂💦

かなりの妄想ヤローです💧(笑)

No.63 10/07/10 20:07
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 61 こんにちは😄 ずっと読ませていただいてました🎵✨ 夢なのにこんなに鮮明に覚えてるんですね⤴すごい😆 私もこんな夢を見て別の人生体験したよう… 1児のママさん😍

読んでくださってありがとうございました🌷

わたしも一児の母なので、夢でだけ違う人生を楽しんでます😂💦

…夢だからいいですよね😥(笑)

夢は結構見る方で、意外と鮮明に覚えています😊

朝起きてドキドキしてたり、続きを見たかったり…

なんか心が欲求不満みたいですよね~😂

お恥ずかしい🙈💧

しばらくしたら、その後を妄想で書いていきたいなぁ~っと思ってるので、お暇なときにまたのぞきに来ていただけたら嬉しいです☺

No.64 10/07/10 20:17
匿名 ( 30代 ♀ NWaAh )

眠り姫さんお疲れさまでした。最初からずっと楽しみに見てました。私は吉岡さんより高柳さんのが惹かれまし。最初は嫌な奴だったけど本当は百合のことが好きで愛しかたを知らない可哀想な人だと思って、最後は親子3人幸せになってもらいたかったんですが… 続き楽しみにしてます。

No.65 10/07/10 21:21
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 64 匿名さん😍

読んでくださってありがとうございます⭐

高柳は不器用なんですよね😔💧

百合に愛されたかったのに、愛し方を知らない彼はお金や物で繋ぎ止めることしかできなかった可哀想な人です😭

楓が一番の理解者だったのかなぁって思います😊

人は傷つけて、傷ついた分だけ成長できると思うので、きっと高柳もこれからの物語の中で成長できますよね😉👍

妄想バンザーイ🙌✨(笑)

お時間があるときに、またのぞきにきてくださぁい☺✨

No.66 10/07/10 21:40
トマト ( 30代 ♀ UYGK )

こんばんは😁ドキドキ💕しながら、とても楽しく読まさせていただきました。結婚して家事と育児におわれる毎日で、最近の私にはドキドキ💕する事がなかったので…本当に楽しかったです。
吉岡さんと百合さん…結ばれて欲しかったです😣何か結ばれなかった事に寂しい気持ちになってしまいました⤵
眠り姫さん、是非続編をお願いします🙇百合さんのその後…楽しみにしていますので✨是非続けて下さい🙇

No.67 10/07/10 23:20
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 66 トマトさん😍

読んでくださいまして、ありがとうございます⭐

吉岡と百合は中学生のような恋でした☺

感情を出すのが苦手だった百合がどう変わっていくのか、どうか見届けてください😊✨

わたしも日々生活に追われているから、夢であんな青春のような夢をみちゃうのでしょうね(笑)

吉岡さんも、高柳も、私の近くに似てる人がいます😊

きっとその人たちと一緒に仕事をしてるからイメージが強すぎて夢に見ちゃうのでしょうね😂💦

これからは現実にその方たちとあったことや、妄想をおりまぜて進めていきたいと思っています💓(笑)

これからもどうぞよろしくおねがいします☺✨

No.68 10/07/11 01:07
眠り姫 ( Y4xRh )

『それから三年後』

この街に来てしばらくしてから、私は働くことにして結笑を保育園に預けることになった。

保育園に行ってからは、あっという間に結笑はすくすくと成長していった気がする。

寝返りをうち、ハイハイを始め、つかまり立ちをしたと思ったら、ヨロヨロしながら一歩前に歩いてきた。

それからは、おしゃべりも上手になって、イタズラなんかも増えた。

保育園で何をしてきたのか聞くと、答えてくれるようになり、立派な会話ができるようになった。

私の勝手で、こんな不自由な生活の中でも、結笑は明るく元気な子に育ってくれたことが何より嬉しかった…。

ごめんね、ゆえ。

ありがとう、ゆえ。

楓さんからたまにメールや手紙が届いたりしてた。

高柳は相変わらず俺様だけど、雰囲気が変わったと言ってた。

仕事にも更に力を入れていて、新しいことを始めようと試みているそうだ。

毎日忙しいと嘆く楓さんも、とても充実した毎日なんだろうなって感じた。

そこには…吉岡さんのことは何もかかれていなかった。

こちらから聞けるわけもなく…

家庭がある吉岡さんに連絡なんか出来るわけもなく…

No.69 10/07/11 01:23
眠り姫 ( Y4xRh )

便りがないのは元気な証拠っ!

そう自分に言い聞かせて、忙しい毎日を送ってた。

私は本屋に勤めた。

昔から人と関わるのが苦手だった私は、本が大好きだった。

本を読んでいる間は、主人公になったつもりでストーリーが進むにつれてどんどんハマっていくから寂しくなかった。

職場の人もみんな優しくしてくれる。

私の過去を知ってる人は誰もいない。

私は結笑とこの街で0からやっていくと決めたから、結笑のため、自分のために私は変わった。

内気だった私が嘘のように、今ではだいぶ社交的になり、明るくなったと自分でも感じる。

…吉岡さんのおかげだと思う。

吉岡さんといると私自身も知らない、違う自分がたくさんいることに気づいた。

とても感謝している。

彼に出会わなければ、今の私はないのだから…。

吉岡さん…

あなたは今幸せですか…?

私を忘れてくれましたか?

私はあなたのこと…

忘れられませんでした。

離れたら余計に、あなたの温もりが恋しくて…

優しい笑顔に逢いたくて…

また頭を撫でてほしくて…

『大丈夫だよ』って言ってほしくて…

淋しくなる夜があります。

No.70 10/07/11 01:39
眠り姫 ( Y4xRh )

天気のいい日曜日。

結笑と手を繋ぎ、近くの公園で遊んだ帰り道。

『…あれ?ゆりさん?』

声をかけられてふりむくと、そこには本屋の店長がいた。

『お疲れさまです!』

『おつかれ!娘さんとお散歩かな?ゆえちゃんだっけ?可愛いね~ゆりさんにそっくりだ(笑)』

『よく言われます(笑)公園の帰りなんです。店長は休憩中ですか?』

『あぁ!この辺に旨いコーヒーをいれてくれる喫茶店があってね~』

『へぇ~!いいですねぇ』

『じゃあ…迷惑じゃなかったらゆりちゃん達も一緒に来る??』

『えっ…そんなっ…休憩中のお邪魔したら悪いので(笑)』

『いやいや…一人でコーヒーも寂しいだろ?付き合ってよ(笑)』

『でも…』

『ゆえちゃん!公園の帰りにケーキでも食べない?』

しゃがんで結笑まで目線を落として話しかけてくれる店長。

『…行くぅ~!』

ケーキにつられる娘…

『…決まりだなっ!』

得意気に笑う店長はどこか憎めない人だ。

近藤 克己さん 34歳

私から見たらとても大人な人。

とても面倒見がよく、みんなから好かれる店長。

No.71 10/07/11 01:53
眠り姫 ( Y4xRh )

しっかりしているように見えて、たまに抜けてるところがある。

しかも、本人はそのことに気づいてないから周りはいつも温かい雰囲気になるのだ。

喫茶店に入り、店長はホットコーヒー。

私はアイスティー。

娘はチーズケーキとオレンジジュースを頼んだ。

一生懸命たべている娘を笑いながら見ている大人二人。

はたからみたら、親子に見えるのかなぁ~なんて思ったりした。

すると店長が、

『なんかさ、俺たちって家族みたいだよね(笑)』

『…ふふっ。周りから見ればきっとそうですよね(笑)』

『この街に来てもう三年だっけ?もう慣れたかな?』

『はいっ!おかげさまで(笑)皆さんが優しくしてくれるので頑張っていけますよ』

他愛ない会話をした。

時間はあっという間にきて、店長の休憩が終わりそうなのでお店を出ることにした。

『…マスター、もう行くわ!釣りはいらないから!』

『あっ…これうちの分です!』

『い~って!無理に誘っちゃったの俺だし(笑)俺に恥をかかせるなよなぁ~』

変顔してる店長…(笑)

No.72 10/07/11 02:07
眠り姫 ( Y4xRh )

『では…ごちそうさまでした!ほら、結笑もごちそうさまして?』

『…ごっちゃまでした!』

ぺこりと頭を下げる娘に

『おうっ!いい子だな!また食べに来ような!』

『…うんっ!』

すっかり馴染んでる店長に感心した。

『じゃあ、また明日な!遅刻すんなよ~(笑)』

『しませんよっ!ごちそうさまでした。頑張ってくださいね。』

喫茶店の前で別れ家に帰った。

明日から仕事だから、頑張るぞ~!

たくさん気合いを入れて寝た。

次の日の朝、ゆえを保育園に送り出勤すると、パートさんの宮島さんが

『おはよ~ゆりちゃん!聞いて~昨日店長がね、休憩から帰ってきたらすっごくご機嫌でさ~!デートでもしてきたんですか~?なんて冗談で言ったら、そんなとこ~だって!店長にも春かね~(笑)』

『…そうなんですかぁ~…(苦笑)はははっ…』

(また店長ってば、いつもの軽い冗談なんだから!)

おもしろおかしく騒がれるのが苦手なので、あえて軽く流してみた。

それから店長が出勤してきて…

『おはよ~ふぁぁぁ…眠いなぁ…』

No.73 10/07/11 08:20
眠り姫 ( Y4xRh )

『おはようございます』

普段通りにした。

すると店長が

『おぉ~ゆりさん昨日は…』

宮島さんの前なので慌てて話をさえぎった。

『昨日はすいませんでした!シフト確認のお電話なんかしてしまいまして…助かりました!』

『…あぁ…?おぉっ、そっか!』

店長の頭の中は『?』でいっぱいのようだったが、話をあわせてくれた。

(店長…ごめんなさい!)

宮島さんが目を輝かせながら

『店長~❤昨日のデートの相手はどんな人なんですか😁?(笑)』

『…デートぉぉぉ?』

『昨日、休憩後にご機嫌よく帰ってきてデートか聞いたらそんなとこだって言ったじゃないですか~!』

『…そんなこと言ったかぁ?』

『言いましたよ!なんだ、つまらない』

なんだか残念そうにブツブツと言いながら宮島さんは裏へと行った。

『…ゆりさん、ごめんなぁ~…それでさっきあんな風に言ったんだな』

『いえ!やましくなくても、宮島さんにかかると話が大きくなっちゃうから(笑)すいませんでした』

二人でクスクス笑った。

No.74 10/07/11 08:54
眠り姫 ( Y4xRh )

いつも通りの業務をこなし、ゆえのお迎えの時間になるので本屋を出た。

『お先に失礼しますっ』

『おっ!お疲れさん!また明日なぁ~』

簡単に買い物をして、保育園に向かった。

(ちょっと遅くなっちゃったかな…)

街中の人通りの多い場所で信号待ちをしていると、話に夢中になっている学生の一人にぶつかられ、私はバランスを崩し道路に倒れ込みそうになった…

『…きゃっ!』

その瞬間、私の腹部に腕が滑り込んできて、包み込むような形で後ろに引き戻された。

一瞬の出来事で何が起きたのか理解できなかった。

すると耳元で

『…大丈夫ですか?』

優しい声がした。

『あっ…大丈夫です。ありがとうございました…』

お礼を言おうと振り返ると、そこには吉岡さんがいた…。

No.75 10/07/11 09:04
眠り姫 ( Y4xRh )

お互いに動きが止まってしまった。

『…ゆりちゃん?』

『…よっ、吉岡さん…?』

倒れそうになったときに、手に持っていた買い物袋やバッグを落としてしまい、それを吉岡さんがしゃがんで拾い始めた。

慌てて私もしゃがみこみ、一緒に拾う。

拾いながら吉岡さんが口を開いた。

『…元気だった?』

ニッコリ笑う吉岡さんの笑顔は何も変わっていなかった。

むしろ、大人の色気が増していて更にかっこよくなっていた。

『…ゆりちゃん?どこか怪我でもしたの?』

ハッと我に返って、

『だっ…大丈夫です!』

落ちたペンを拾おうと手をのばすと、吉岡さんの手と触れてしまった。

勢いよく手を離してしまい、吉岡さんはビックリしてる。

『…ごめんなさいっ!』

一人でテンパっている私を見て、吉岡さんがクスクスと笑う。

『…ゆりちゃんは忙しそうだね(笑)』

No.76 10/07/11 09:21
眠り姫 ( Y4xRh )

恥ずかしくて顔が真っ赤になっていると、吉岡さんの手が私の髪を触る。

『…髪切ったんだね。短い髪も似合ってる。でも、綺麗な髪だったからもったいないね(笑)』

『…短い髪にしたことなかったから…やってみたくて』

胸がキュンとする…

三年ぶりとは思えないくらい、自然に話しかけてくれる吉岡さん。

仕事でこの街に来たこと。

高柳の会社を辞めて独立したこと。

『…ゆえちゃんは元気?大きくなったんだろうなぁ~』

『すごく元気で毎日大変です(笑)』

(…んっ…?ゆえ…?)

『…いけないっ!ゆえのお迎えに行く途中だったんだ!私行かなきゃ…』

吉岡さんがまた笑う。

『髪が短くなったら、まるで別人みたいだな(笑)とても明るくなったね。しっかり前を向いているんだね。』

そう言いながら、拾った荷物を手渡してくれた。

後ろ髪を引かれながらも、挨拶を交わしてゆえのお迎えに向かった。

もぅ…会えないかもしれない。

…仕方がないよね。

仕方がないと思いながらも、寂しい気持ちで胸が押し潰されそうだった。

No.77 10/07/11 11:09
眠り姫 ( Y4xRh )

『ゆえ…ハァハァ、遅くなってごめんね』

『ママ~❤』

『帰ろっか!今日はゆえの好きなハンバーグにしようね~』

『うんっ❤』

夕日に照らされ二人の影がのびる。

ゆえを寝かせてから、一人空を見上げた。

月が綺麗に輝いてる。

吉岡さん…

こんなに広い街で、あのとき、あの場所であなたに出会えたこと…

本当に嬉しかった。

私を軽々と支えてくれた、吉岡さんの腕の温もりを思い出してた。

体が…胸が…熱くなった。

吉岡さん…

元気そうで安心したな。

またかっこよくなったみたい。

独立したって言ってたけど…

それで楓さんは吉岡さんのこと言わなかったのかな…

吉岡さんのことを考えずにはいられない夜だった。

No.78 10/07/11 19:14
眠り姫 ( Y4xRh )

あまり眠れず、少し寝不足のまま仕事に行った。

『おはようございまぁす…』

『おはよっ!なぁに?元気ないじゃない!』

宮崎さんはいつも元気だなぁ…(笑)

事務所に入ると、店長がデスクに伏せたまま眠っていた。

『…店長~朝ですよ~?またこんなとこで寝てたんですか(笑)』

肩を揺すって起こそうとすると、いきなり私の手を掴んだ。

まっすぐ私を見つめる。

時間が止まったのかと思うほど、長い間手を掴まれていたように感じた。

でも、そう感じただけで時間にしたらほんの数秒だったのかもしれない…

『ゆりちゃ~ん!店長は起きたぁ~?』

ガチャっと扉が開いた瞬間、私はビクッとしてとっさに店長の手を振り払った。

私が言葉に出来ずにいると、店長が口を開いた。

『ふぁ~…ゆりさん起こしてくれてありがとうっ!さぁ、今日も頑張りますかッ!』

ニカッと笑っていつもの店長に戻ってた…。

ビックリして言葉にならなかった。

No.79 10/07/11 21:18
眠り姫 ( Y4xRh )

それからは普通な態度の店長…

きっと寝ぼけてたんだよね…

お昼になり、店長が休憩に入る。

『俺、家にシャワー入りに一回帰るから、その間みんなよろしくなっ!』

店長は棚卸しとかになると、事務所でずっと仕事をしてる。

仕事が終わると、そのまま疲れて眠ってしまうときがあるみたいで、今日みたいなことがたまにある。

そういうときは決まって休憩中に家に帰るのだ。

店長が抜けてレジで伝票整理をしていると、

『これお願いします。』

っと一冊の本がカウンターに置かれた。

『はいっ。ありがとうございます!こちら950円です。』

No.80 10/07/11 21:24
眠り姫 ( Y4xRh )

目線を本からお客様に向けると、目の前には吉岡さんが私を見て微笑んで立ってた。

『…えっ?!どうしてここに?!』

驚きのあまり声が大きくなってしまった。

とっさに口を手で押さえると、吉岡さんが笑いながら人差し指で自分の口唇にあてながら『し~…(笑)』っとした。

そして吉岡さんはボールペンをレジの上に置いた。

よく見るとそのボールペンには、この本屋のネームが入っていた。

『昨日の忘れ物。落としたときに、僕のカバンに偶然入ったみたい(笑)』

『それでわざわざ…?私がもしここで働いてなかったら、無駄足になるところでしたよ?!』

『大丈夫!きっとここにいると思ったから(笑)前に楓にゆりちゃんが本屋で働いたって聞いたことがあったから…ここで間違いないと思ったよ!』

得意気に笑う吉岡さんはとても可愛らしい…

そっか…楓さん私のことは吉岡さんに話してたんだぁ。

前に聞いたことでも、吉岡さんが私のことを何かひとつでも覚えていてくれたってことが嬉しかった。

後ろに人が並んだので、吉岡さんは『それじゃあ…』っと言ってレジから離れようとした。

No.81 10/07/11 21:36
眠り姫 ( Y4xRh )

(あっ…行っちゃう…)

そう思ったらすごく淋しくて…

もう会えないと思うと悲しくて…

でも引きとめることも出来なくて…

そんな気持ちが顔に出てしまったのだろうか…

吉岡さんの表情が、いつもの笑顔から目を大きく開けてビックリしたような顔を一瞬だけした。

それからすぐにまた笑顔に戻り、そっと小さく耳元で

『仕事が終わったら、食事に行かない?ゆえちゃんと三人で!また後で連絡するから』

私は笑顔でうなづいた。

さりげなく手をふって吉岡さんがお店を出ていった。

嬉しい…

ゆえと三人で食事ができるなんて…

それからは仕事にも力が入り、張り切って仕事をした。

早く仕事が終わらないかな。

ゆえをお迎えに行って一回うちで着替えちゃおうかな。

そんなことばかり考えていた。

ゆえには何て言おうかな…

嬉しさの反面、不安もあった。

No.82 10/07/12 09:43
眠り姫 ( Y4xRh )

仕事が終わるとすぐに支度をして本屋を出た。

胸がワクワク踊る。

結笑を迎えに行き、私も結笑も少しだけおしゃれした(笑)

結笑は不思議そうに聞いてくる。

『どうしてお着替えするの?』

『…んっ?お出掛けするからだよぉ』

『わぁ~いっ!』

結笑はお出掛けと言うことに大はしゃぎしてた。

夕方六時頃になり、吉岡さんから電話が来た。

『お待たせ!出掛け先からかけてるんだけど、駅前まで来てもらってもいいかな?ごめんね…迎えに行きたいんだけど、あまりこっちの土地は詳しくなくて…』

『ううん!この街なら私に任せてください(笑)今から駅に向かいますね』

『うん…僕もこれから駅に向かうよ』

電話を切ってすぐに駅に向かった。

そわそわした気持ちを抑えて…。

駅に着くと、まだ吉岡さんは来てないようだった。

『お腹すいたよぉ~…ママ~…』

『うん。もうすぐご飯だよ~何が食べたいかな?』

六時半だもんな…

ごめんね結笑。

すると、肩をポンっと叩かれた。

『吉岡さ…』

嬉しくて振り向くと、そこには宮島さんがいた…

『あら~偶然ね~!ゆえちゃんとお出掛け?』

No.83 10/07/12 15:05
眠り姫 ( Y4xRh )

『宮島さん…こんばんわ!えぇ…ちょっと人と待ち合わせていて…』

『あらっ!そうだったの~』

世間話をして、帰る気配がない。

どうしても時計と吉岡さんが気になる。

すると、宮島さんの後ろの方に吉岡さんの姿が見えた。

吉岡さんも私に気づき手をふった。

私は苦笑いで小さく頭を下げた。

私が置かれた状況に気づいた吉岡さんは、ジェスチャーで隣の本屋を指した。

そして本屋に入っていった。

こーゆー気の使い方をする彼は出来た人だなぁっと思った。

また胸がキュンとした。

『…ママ~お腹すいたよぅ…』

結笑の一言で宮島さんが帰ってくれた。

『あらあら。おばちゃん喋りすぎちゃってごめんね~じゃあ、また明日ね!』

はぁ…

吉岡さんが本屋に行ってから五分くらい経ってた。

結笑の手を取り本屋に向かった。

キョロキョロ探していると、目の前に本を読んでいる吉岡さんの姿が見えた。

その場から足が動かず、声をかけられなかった。

背筋がピンとのびて、凛とした姿で本を読む吉岡さんは、とてもとても綺麗だった。

No.84 10/07/12 15:49
眠り姫 ( Y4xRh )

『…ママぁぁぁ…⤵』

ハッと我にかえる。

結笑の声に吉岡さんも気づき、ゆっくりこっちを見た。

私たちを見ると優しく笑って読んでいた本を閉じ下へ置いた。

ゆっくり私たちのもとへ歩いてくる。

心臓が壊れてしまうかと思うくらい、鼓動がはやくなってた。

『こんばんわっ』

先に私に挨拶をした吉岡さんは、次の瞬間にはもう結笑の目の前にしゃがんでいた。

『結笑ちゃん、こんばんわ!僕は吉岡 勇気です。今日は僕もご飯を一緒に食べてもいい?』

ゆっくり、優しい口調で結笑が理解しやすいように合わせてくれてる吉岡さん。

お腹がすいた結笑は頬をぷぅ~っと膨らませたまま、下を向いてスネてた。

『ごめんなさい💦結笑ごあいさつは?』

『…ぷはっ!結笑ちゃんのスネてる顔は昔の百合ちゃんそっくりだね(笑)』

『…えっ💧』

吉岡さんはスーツのポケットをゴソゴソしながら笑ってる。

そしてグーに握った右手が結笑の前に出された。

私も結笑もその手をじーっと見てると…

開いた手からアメ玉が三個出てきた。

結笑の顔が笑顔になる。

No.85 10/07/12 16:13
眠り姫 ( Y4xRh )

『ご飯の前だからひとつだけにしようね!あとはポケットにしまっておいて』

そう言って結笑の手を取り、アメをそっと置いてくれた。

『ご飯食べにいこっか!』

『…うんっ!』

『何が食べたい?』

『お子さまランチ~!』

はしゃぐ二人を見ながら、ふっと思った。

吉岡さん…やっぱり子供の扱いが上手だなぁ…

吉岡さんの娘さんがあのとき確か結笑の二つ上くらいだったから、今は五歳くらいかな…

そんなことを考えてたら、胸が苦しくてつらくなりそうだったから、気を取り直して明るくふるまった。

『ママもお腹すいちゃった~!』

No.86 10/07/12 17:06
眠り姫 ( Y4xRh )

三人でレントランに入った。

結笑はお子さまランチ。

吉岡さんはハンバーグ。

私はクリームパスタ。

結笑のお子さまランチに小さなハンバーグがついていて、いきなり結笑が

『ママのハンバーグの方がおいしいよ!』

っと言った。

嬉しいのと気まづいのとで、周りを気にしながら小さな声で

『ありがとう(笑)』

ってお礼をした。

結笑は吉岡さんを見ると

『お兄ちゃんのハンバーグはおいしい?』

と聞いた。

『うん、おいしいよ~食べる?』

吉岡さんが優しく聞く。

『食べるっ!』

小さくして、ふ~ふ~してから結笑に食べさせてくれた。

見ていてちょっと羨ましかったりして(笑)

『やっぱりママの方がおいしいなぁ!お兄ちゃんもママのハンバーグ、ゆえんちに食べに来る?』

『いいの?じゃあ今度、結笑ちゃんちのハンバーグ食べに行ってもいい??(笑)』

『い~よ~💓』

吉岡さんが私を見て笑う。

私もつられて笑う。

楽しい食事。

そして、食後にデザートを頼んだ。

とっても意外なことに、吉岡さんは甘党だった(笑)

No.87 10/07/12 17:30
眠り姫 ( Y4xRh )

『吉岡さん…甘いの好きなんですか?』

チョコレートパフェを食べている吉岡さんに聞いてみた。

『…ははっ。意外かな?お酒より好きかも(笑)』

照れたように笑う顔が可愛かった。

結笑は一生懸命にアイスクリームを食べてる。

私がチョコケーキを食べていると、吉岡さんが優しい顔で見てた。

『…一口食べますか?』
食べたかったのかな?っと思って聞いてみると、吉岡さんはクスクス笑いながら

『大丈夫っ(笑)何でもないから(笑)気にしないで食べて(笑)』

っと…まだ笑ってる。

変な吉岡さんだなぁ…って思った。

デザートも食べ終わり、結笑も寝る時間になるので帰ることに。

席を立つと、吉岡さんが耳元で

『先に結笑ちゃんと出て待ってて。送っていくから。今日は食事に付き合ってくれてありがとう』

そう言ってお会計に行った。

レジで『ごちそうさまです』と、お店のかたに挨拶をして結笑と店を出た。

No.88 10/07/12 18:27
眠り姫 ( Y4xRh )

季節はもうすぐ夏。

日がのびたせいか、まだ空はうっすら明るく風も冷たくない。

『結笑~楽しかった?』

『うんっ!楽しかったよっ!』

『よかった…』

その言葉を聞いて少し安心した。

『ごめんね。おまたせっ』

吉岡さんが出てきた。

タクシーを拾おうと大きな道路に出た。

急に淋しくなった。

もう帰らなくちゃいけない…

でも、家についてしまえばもう吉岡さんには会えないかもしれない…

そんなことを考えていたら、どんどん口数が少なくなってしまった。

タクシーが止まり、吉岡さんが『先にどうぞ』と進めてくれるが、足が動かない。

吉岡さんの顔を見れずに、地面を見てると…

『…すいません。忘れ物しちゃったみたいなんで、乗れなくなってしまいました。すいませんでした。』

タクシーのおじさんに丁寧に謝り乗らなかった。

No.89 10/07/12 18:36
眠り姫 ( Y4xRh )

『あの…!』

そこまで言いかけたとき、吉岡さんは大きく背伸びをして

『ん~っ!最近は仕事ばかりで動いてないから体がなまっちゃったよ(笑)行けるところまで歩いて送りたいんだけど…付き合ってもらっていいかな??』

どこまで優しい人なんだろう…

私のワガママなのに、自分が悪いかのように言ってくれる…

『さぁ…遅くなると悪いから、行こうか!』

暗くなってきた道を三人で歩く。

途中で結笑が眠くなってしまい、抱っこしようとすると…

『僕におんぶさせてくれない?結笑ちゃんおいでっ』

眠くて目が閉じそうな結笑は言われるままに吉岡さんの背中に手をのばした。

すぐに寝息が聞こえてきた。

『…ゆえちゃん疲れてたんだなぁ~(笑)』

『保育園でたくさん遊んでくるから(笑)』

『今日は…付き合ってもらってごめんね』

『…こちらこそ…ごちそうさまでした。楽しかったです。結笑も楽しかったと思います(笑)』

『そっか!楽しんでもらえたら僕も嬉しいよ』

ちょっと照れながら二人で歩く…。

吉岡さんと一緒にいると、とても安心できる私がいた。

No.90 10/07/12 20:09
眠り姫 ( Y4xRh )

夜10時頃にやっと家についた。

夢のような時間だった。

駅からちょっと離れたこのアパートまで本当によく歩いたなぁと思った。

寝ている結笑を私にバトンタッチして、

『それじゃ…』

吉岡さんが行ってしまう…。

勇気をふりしぼって声を出した。

『よっ…よかったらっ!上がっていきませんか?狭いところけど…』

吉岡さんの反応がこわかった…。

言ってしまったけど、拒否されたらどうしよう…

『…いや…今日はこのまま帰るよ!』

『そっ…そうですよね…ははは…』

勇気を出して声をかけてみたけど、吉岡さんには迷惑だったよね…っと、すごく恥ずかしくなった…

『…じゃあ、おやすみなさい…』

部屋に入ろうとしたら、吉岡さんが少し大きな声を出した。

『…明後日の夜!』

『…えっ?』

っと振り向くと…

『明後日の夜はお邪魔してもいい?結笑ちゃんと百合ちゃんのハンバーグを食べさせてもらう約束したからっ!』

ちょっと真剣な吉岡さん。

珍しいな…(←失礼)

No.91 10/07/12 20:22
眠り姫 ( Y4xRh )

『はいっ、頑張ってハンバーグ作って待ってますね!』

そう言うと、吉岡さんはホッとしたようにニッコリ笑って

『じゃあ、仕事が終わったら電話するね(照)』

『…はいっ(照)』

なんだか恥ずかしくて、でも嬉しくて…

その日の夜は、吉岡さんとの楽しい時間の余韻にひたって眠りについた。

吉岡さんはしばらくこの街に出張で来ているみたいで、ホテルに泊まっているそうだ。

ホテルは駅前だから、うちまで送ってもらったのには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

朝起きて、足が少し筋肉痛な気がした…

久々にあんなに歩いたからだろうか。

吉岡さんは大丈夫だったかな…

準備をして、結笑を保育園まで送り仕事へ向かった。

よしっ!今日も一日お仕事頑張るぞっ!

気合いを入れて挨拶をした。

『おはようございます!』

『おっ!おはよーさん』

店長がいた。

『あれ…?宮島さんは…?』

『あぁ、なんか昨日の夜から体調を崩したみたいで、病院に行ってから来るって連絡あったんだ』

『そうなんですか…』

ちょっと気まづい雰囲気が流れていた。

No.92 10/07/13 07:13
眠り姫 ( Y4xRh )

『なぁ、聞いていいか?ゆりさんってシングルマザーじゃん?旦那どーしたの?』

ストレートにと聞いてくる人だなぁ…

店長らしいけどね(笑)

『…私、結婚はしてませんよ?だから旦那はいません。』

『えっ?!じゃあ未婚の母ってやつ?』

『…まぁ、そんなとこです』

高柳のことを思い出した。

今ごろ何してるのかな…

ちゃんと元気でやってるかな

新しいことを始めるって、何を始めるんだろ

楓さんがいれば大丈夫だよね

結笑に会いたかったりするのかな…

可愛がってたもんね…

会わせるべきなんだろうか…

『…りさん…』

『…ゆりさんっ!!』

ハッと仕事中なのを思い出した。

『…大丈夫かぁ?』

店長が心配そうに見てる。

『…すいません💦平気です』

なんだか最近はたくさん考え事をしちゃうなぁ…

でも、吉岡さんに再会できてすごく嬉しかった。

うちに来るって言ってくれたけど…

無理してるのかな…

私があのとき誘わなければよかったのかな

吉岡さんは優しいからあんな風に言ってくれたけど…

良くないことだよね…

私と吉岡さんの関係って何なんだろう…

No.93 10/07/13 09:36
眠り姫 ( Y4xRh )

また悶々と考えてしまった…

なかなか仕事が手につかない。

私と吉岡さんは『友達』?

それもまた違うような気がする…。

吉岡さんはどうして優しくするの?

会えると嬉しい…

でも、さよならする時間はまた淋しくなる。

あなたが恋しくなる…。

どんどん欲張りになってしまう。

吉岡さん…

私を止めて…

突き放して…

優しくしないで…

あなたを忘れられなくて、私はずっと胸が痛いまま…

三年前と変わらずに、あなたに惹かれてる…

あのとき罪悪感から自分で一線を引いたのに…

今度は私からその線を越えようとしてしまいそうになる…

自分がこわい…

この気持ちを伝えてしまったら

あなたは離れていくの?

帰るべき場所へ戻ってしまうの?

あなたに会えなくなるくらいなら、この気持ちは閉まった方がいいよね。

そうしたら…

まだ側にいてもいいですか?

知り合いとして…

でも、知り合いと言えども異性が一人でうちに夕飯を食べに来る?

…ますますわからなくなるの。

胸が痛い。

あなたに帰る場所がなければ、こんなに苦しくないのかな…?

No.94 10/07/13 09:58
眠り姫 ( Y4xRh )

少しして、宮島さんが出勤してきた。

『おはようございます…コホッ』

『あっ…宮島さんおはようございます!…大丈夫ですか?💦』

『…うぅ😳』『

おぉい、大丈夫かぁ?💧今日は帰って寝ていいぞ。早く治して来てくれた方がありがたいしな!』

『…そうですか…じゃあ、そうさせていただきます…失礼します…コホッ』

宮島さんは帰って行った。

お昼になり、店長が

『ゆりさん休憩に入りなよ!』

『えっ?店長は…?』

『今日はいいや!宮島さんがいない分、人手も足りないしな。別に昼くらい食べなくても俺は平気だから!』

『…でも…』

『ゆりさんはしっかり休んでおきな!仕事が終わったらまた家事に育児に忙しいだろ?』

ニカッっと笑う店長。

しぶしぶ休憩に入ることにした。

休憩に入ってすぐにコンビニに走り、アップルティーとパンを買って急いで食べた。

早めに休憩を切り上げ、お店に戻った。

普段はやる気がなさそうな店長も、仕事中はすごく真剣な顔をしてる。

それに、好きな新刊が入る度にはしゃいでる。

本当に本が好きなんだなぁ…って伝わってくる。

No.95 10/07/13 10:15
眠り姫 ( Y4xRh )

そう言えば…

このお店で働くことになったキッカケも、たまたま私が入ったこのお店で、在庫チェックをしてた店長と小説について語ったことが始まりだったなぁ(笑)

『店長っ!』

『んっ?まだ休憩だろ?いーよ!ゆっくり休んでて』

『もうお昼はいただきましたから、店長もご飯食べに行ってください!』

『いーよいーよ(笑)』

『まだまだ夜もあるんですから、栄養つけないと!これ、私のお弁当なんですけど…よかったら食べてください!あんまりたいしたもの入ってないですけどね(笑)』

『…えっ!?ゆりさんは?』

『私はもう食べましたよ』

『…食っていいの?』

『どうぞっ』

『…じゃあ、お言葉に甘えて…いただきます』

なんだか店長、照れてるみたい。

やっぱり赤いお弁当箱は恥ずかしかったかなぁ…

店長も食べ終わるとすぐに戻ってきてくれた。

No.96 10/07/13 10:22
眠り姫 ( Y4xRh )

『ごちそーさん!百合さん若いのに料理上手なんだね~!おじさん感心しちゃったよ(笑)』

『いえいえ、でも、ありがとうございます(笑)小さいときからおばぁちゃんのお手伝いしてたからかな?』

『へぇ~いい嫁さんになるなっ!』

『…どうでしょうかね(笑)』

『またまた、彼氏の一人や二人いるんだろ?』

『…彼氏なんていませんよ(笑)私、店長みたいにモテないですからっ』

『俺かぁ?!俺なんて全く女に無縁だよ!』

『でも、若いお客さんからアドレス聞かれたりしてるじゃないですか?(笑)』

『あんなん、若い子達の遊びのひとつみたいなもんだなっ!まぁ俺は大人かだから子供には興味ないけどね!』

フンッて感じに言い放った店長がおかしくて、笑ってしまった。

『…ゆりさんもそんな風に笑うんだな』

『えっ?私いつもこんな感じですよ?(笑)』

『いや…顔では笑ってても、心はいつもはどこか淋しそうにしてるから。』

ドキッとした。

そんなこと初めて言われた。

店長はいつだって従業員のことをよく見ている。

すごい人だと思う。

No.97 10/07/13 10:35
眠り姫 ( Y4xRh )

『…考えすぎですよ!』

『…そっか。ならいいんだけど…ごめんな』

『…いえ(笑)』

それからは黙々と仕事をした。

店長が変なことを言うから、ちょっと気まづい感じがした。

でも、店長は普通に接してくれるから、そう思ってるのは私だけだったと思う。

上がる時間になり、バイトさんが来たので引き継ぎをして帰ろうとした。

そのとき、店長がやってきて

『ゆりさ~ん!ちょっと待ってっ』

呼びとめられた。

『どうかしましたか?』

『いや、弁当ありがとなっ!中身が可愛くて、食べるのがもったいなかったよ(笑)』

『あぁ…!娘のお弁当に入れてるおかずと一緒だからかな(笑)なんだか恥ずかしいな…』

『いや、素敵な女性だと思うよ』

店長が真剣な顔で私を見てる。

この前の手を掴まれたこともあり、少しだけこわかった…。

いきなり店長が吹き出して、

『…そんな警戒すんなよ!俺は野蛮人じゃねーぞっ!』

私の頭をくしゃくしゃっとした。

『ボサボサでボンバーヘアーだなぁ~はははっ』

笑いながら店長は見せに戻っていった。

『…もうっ!からかうのが好きなんだからッ』

No.98 10/07/13 10:47
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑のお迎えに行き、夜お風呂に入りながら結笑に聞いてみた。

『ゆえさ~ん、昨日一緒にご飯食べたお兄ちゃんがね、ゆえとの約束通り明日うちに来てくれるって!ハンバーグ食べに…』

『…ほんとうっ?!わぁ~い!』

お風呂のお湯をバシャバシャして喜ぶ結笑。

『…お兄ちゃんが来るの嬉しい?』

『うんっ!ゆえあのお兄ちゃん好きっ☆』

『そっか…』

ぶくぶくとゆっくり口まで湯船に沈んだ。

明日は吉岡さんが来る日。

買い物に行って、部屋を片付けて、ハンバーグ作って…

考えただけで鼓動がはやくなった。

早く会いたいな…

吉岡さん…

興奮しているのか、なかなか寝付けなかった。

これが遠足前の子供の心境なのかな?

私が子供の頃は特に楽しみってわけじゃなかったから、興奮して寝れない夜はなかった。

初めて体験する出来事に、ちょっぴり愛しさを感じた夜だった。

吉岡さんに、あなたに出会えて、初めて経験する気持ちがたくさんあります。

ありがとう…

No.99 10/07/13 16:13
眠り姫 ( Y4xRh )

次の日の仕事は、宮島さんが休みなこともあり若いバイトさんがシフトに入ってた。

21歳のフリーターの女の子。

名前は確か…

如月 未来ちゃん。

今時の子だなぁっていうのが第一印象だったかな。

いつも頭の先から指先までおしゃれが行き届いてる可愛らしい子。

従業員の中でもすごく店長を慕ってる子という印象も強かった。

『おはよーございまぁす⭐』

『おはようございます』

『生垣さんとあまり一緒に仕事するときないですよね~😊』

『そうだねぇ(笑)』

『店長きてます?』

『事務所にいると思うよっ』

『はぁ~い』

元気で真っ直ぐな子だよなぁ~

キラキラしててちょっと羨ましいなっ!

少しして如月さんがエプロンをして出てきた。

『店長ケチなんですよーっ!お菓子いっぱい持ってたから、ひとつちょうだいって言ってもくれないんですっ!』

子供みたいにスネてる如月さんは、女の私から見てもとても可愛らしい。

『でも、あんなにいっぱいのお菓子どーすると思います?一人で全部食べるのかなぁ?』

『どうかなぁ…でも、そんなにお菓子食べるイメージないよね(笑)』

No.100 10/07/13 19:33
眠り姫 ( Y4xRh )

如月さんと笑ってると、店長に呼ばれた。

『ゆりさん、ちょっといいかぁ?』

『…はい?』

事務所に行くと、スーパーの袋を手渡してきた。

中を見ると、たくさんお菓子が入っていた。

『…これ何ですか?』

不思議に思って聞くと、

『あぁ、昨日の弁当のお礼だよ!ありがとなっ!』

っと淡々と話す店長。

『そんな…いただけませんよ💦』

『いや、もらってくれないと昨日の夜の勇気が無駄になっちまうだろ~』

よくよく話を聞くと、仕事が終わってからまだやっているスーパーに行き、カゴいっぱいにお菓子を入れてレジに行ったら、すごく変な目で見られて恥ずかしかったらしい…

確かにお菓子の中にはキャラクターのお菓子もたくさん入ってた。

これは変な目で見られるだろうなと思ったら、思わず吹き出してしまった。

『…ぷっ(笑)』

『笑うなよ~💧本当に恥ずかしかったんだからさ。まぁ、結笑ちゃんと食ってくれなっ!』

『すいません(笑)じゃあ…遠慮なくいただきますね』

ひとまずロッカーにしまって仕事に戻った。

No.101 10/07/13 19:52
眠り姫 ( Y4xRh )

『店長なんだったんですかぁ~?』

如月さんが聞いてきた。

お菓子を買う店長を想像したら、また笑いそうになった。

『…うん、昨日宮島さんが急遽休みになっちゃって、店長が休憩なしで出るって言うから…私のお弁当を食べてもらったの』

『…生け垣さんの手作りですか?』

『うん、娘のお弁当を作るついでに自分のもね』

『それで店長は…?』

『えっ?全部食べてくれて、さっきはそのお礼だったみたい』

『…そうなんですか』

如月さん…もしかして店長のことが好きなのかな?

なんだか悪いことしちゃったかな…

でも、如月さんと店長だと歳がけっこう離れてると思うけど…好きな気持ちは自由だもんね。

店長もこんな可愛い子に好かれたら悪い気はしないだろうな。

そうだ、あとで店長にもらったお菓子を如月さんにもおすそわけしてあげたら喜ぶかな。

一通り仕事をして、あがる時間になり事務所に行った。

すると、後から如月さんが入ってきた。

『あの…ちょっといいですか?』

『うん?いいよ!私も如月さんに用があったから』

『えっ?なんですかぁ?』

No.102 10/07/13 20:06
眠り姫 ( Y4xRh )

『これ…もしよかったらもらってくれないかな?店長にお礼にっていただいたんだけど、たくさんあるから』

『それ、生垣さんにあげるためだったんですね。』

『あっ…ごめんね、嫌だったよね…』

『いえ、ごちそうさまです!いただきまぁす✨』

『よかったぁ…』

『生垣さん、番号交換しませんか?』

『えっ…私とっ?!』

『ダメですかぁ…?』

『ううんっ!ダメじゃないです💦』

『よかったぁ💓じゃあ、赤外線っ!』

赤外線送受信して、お互いに登録完了になった。

『わぁい!これからもよろしくお願いしますね💓』

『こちらこそ、よろしくね☺』

なんだかとても嬉しかった。

未だに少し人付き合いが苦手だからか、自分から番号を聞いたりということは出来なかった。

だから、如月さんみたいに自分から行動に起こせる人が羨ましかった。

私もいつかそんな風になりたいな…

『あっ…お迎えにいかなきゃ💦お先に失礼するね』

『はぁ~い、お疲れさまでしたぁ!』

お菓子の袋を持って、買い物をして急いで迎えに行き、家に帰った。

No.103 10/07/13 20:29
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑はお絵描きをしてる。

その間に料理を作った。

そろそろかな…っと思っていると、着信があった。

画面を見ると、

『如月 未来』

っと出てた。

なんだろう?

電話に出てみた。

『はい?』

『お疲れさまです、如月です。いきなり電話してごめんなさい、実は…』

なんだか深刻そうな感じだった。

『…どうしたの?』

『私…店長のことが好きなんです。入店したときからずっと…』

私より先に入ってた如月さん。

そんなに前から好きだったんだ…

少し驚いた。

『うん…好きなのかなぁとは思ってたんだけど、やっぱりそうだったんだね』

『はい…。それで…生垣さんに聞きたいことがあって電話したんです。』

『…なにっ!?』

なんだか不安になった。

『…生垣さんは、店長のことが好きですか?どう思ってますか?』

『えぇー?』

すごく驚いた。

私が店長を好きだと思ってるのかな?

誤解をとかなくちゃ…!

『あのね、私と店長とは何でもないよ?』

『…好きじゃないんですか?』

『うん、だから安心してね』

『…なぁ~んだ!よかったぁ~!』

No.104 10/07/13 20:49
眠り姫 ( Y4xRh )

すごく安心しているようだった。

如月さん可愛いなぁ…

これからは如月さんと店長の恋を応援することを約束した。

電話を切ると、すぐにまた着信があった。

『吉岡 勇気』

今度こそ吉岡さんだ。

電話に出る前から、ドキドキしてきた…

緊張して声が震えそうになる。

『…はい』

『あっ…ゆりちゃん?』

『はいっ、吉岡さんお疲れさまです』

『ゆりちゃんもお疲れさまっ!会社を出たところだから、15分くらいでそっちに行けると思う』

『はいっ!お待ちしてますね』

『うん。待っててね』

電話の向こうから聞こえてくる吉岡さんの声が愛しくて、顔が自然と笑顔になってるのがわかった。

もう少しで吉岡さんに会えるんだ…

どうしよう、私どこか変じゃないかな?

部屋は片付いてるよね?

料理は出来てるし…

あとは吉岡さんを迎えるだけっ!

一人で舞い上がってると、とうとう吉岡さんが来たようだった。

『ピンポーン』

結笑が走って玄関に行く。

『バタンッ』

『お兄ちゃ~んっ!』

『こんばんわ、結笑ちゃん』

吉岡さんが結笑を抱き上げる。

No.105 10/07/13 21:34
眠り姫 ( Y4xRh )

『…こんばんわ、ゆりちゃん』

『こんばんわ』

なんだかお互いに照れくさかった。

『どうぞ』

中へすすめると、

『じゃあ、お邪魔します。あっ、これ会社の子達がおいしいって言ってたお店のケーキなんだ!食後に食べようか』

手土産に有名なケーキ屋さんのケーキを買ってきてくれた。

私も雑誌で何度か見かけたことがあるお店だった。

さすが甘党だなって思った(笑)

結笑が席に案内する。

『お兄ちゃんここ!ここだよっ!』

『ありがとう、結笑ちゃんの隣だねっ!』

アパートなので、低いテーブルに料理が並べていて、丸い形をしているから必然的に私の隣も吉岡さんだった。

全部が並び終えたら、三人でいただきますをした。

結笑がずっと吉岡さんを独占してる…(笑)

嫌な顔ひとつせずに結笑に付き合ってくれる吉岡さん。

私はちょっぴり寂しかったりした(笑)

No.106 10/07/13 21:42
眠り姫 ( Y4xRh )

楽しい食事。

こんなにぎやかな食卓は、この家に来てから初めてだった。

いつも結笑と二人の食事。

今日はいつもよりも結笑がすごくはしゃいでる。

普通のパパがいるおうちなら、これが当たり前なんだよね…

ごめんね…結笑。

時おり吉岡さんは私の方を向きニッコリ笑う。

その度に私はドキッとする。

楽しい食事を終えて、後片付けをしていると吉岡さんが手伝いに来てくれた。

『ごちそうさまでした。すごくおいしかったよ!どんなコース料理より、ゆりちゃんのハンバーグが断然僕は好きだな♪食器は僕が洗うよ』

そう言って、吉岡さんの手が私の泡だらけの手に触れる。

心臓がはやくなった。

私の手からスポンジを取ると、お皿を洗い始めた。

すると、テレビを見ていた結笑が吉岡さんがいないのに気づき、キッチンまで走ってきた。

気づくと結笑が吉岡さんの足にしがみついて

『おにぃ~ちゃ~ん…ゆえとテレビみようよぉ~』

私と吉岡さんは顔を見合わせ笑った。

『私が洗うので、結笑と向こうでテレビでもみて休んでてください(笑)』

『…ごめんね、ありがとう(笑)』

No.107 10/07/13 21:55
眠り姫 ( Y4xRh )

二人が隣の部屋に移動した。

楽しそうな声が聞こえてくる。

お皿を洗い終え、熱いお茶を入れた。

『どうぞ』

『ありがとう、食後のお茶って落ち着くよね…』

『ふふっ(笑)なんかおじいちゃんみたい(笑)』

私がクスクス笑っていると、吉岡さんは照れたように笑った。

可愛い人…

しばらく三人でアニメをみて、

『アニメって意外におもしろいんだね…子供が好きなのがわかった気がしたよ…』

真剣にそんなこと言うからすごくおかしかった。

それがかなり私のツボだったらしく、笑いが止まらなかった。

『ママ~どうしたの?』

結笑が聞いてくる。

『なっ…なんでもない(笑)吉岡さんがおもしろいこと言うから…(笑)ふふっ…』

『そんなに笑われたら困っちゃうな…』

吉岡さんが困った顔をしてる。

そんな顔もまた可愛らしかった。

『ママはどうしてヨシオカサンって言うの?』

その質問に笑いが止まった。

チラッと吉岡さんを見ると、吉岡さんは優しく笑う。

答えに困っていると…

No.108 10/07/13 22:11
眠り姫 ( Y4xRh )

『そうだよね~、吉岡さんじゃ変だよねっ!』

イタズラっぽくニヤッと笑って私を見る。

…さっきの仕返しなのかな?

『うーんもぅお兄ちゃんって歳でもないから、あだ名を決めようか!』

吉岡さんは何だか張り切っている。

『何がいいかな?』

優しく聞いてきた。

困った私がとっさに

『吉岡だから…よっちゃん??』

急に沈黙になった…。

二人の目が点になってる。

先に吉岡さんが吹き出した。

『…ふっ💨よっちゃんは無いでしょ!(大笑)』

ケラケラ笑う。

恥ずかしくなって、ふんってそっぽ向いてみた。

『わぁ~い!よっちゃん!』

結笑がはしゃぐ。

『いやっ!結笑ちゃん?よっちゃんはちょっと…』

焦った吉岡さんが必死に結笑にやめるように説得してる(笑)

そんな姿がまたおもしろくて笑った。

笑っていると吉岡さんの優しい声で

『…勇気です』

って聞こえた。

『…えっ?』

半笑いで聞き返すと、吉岡さんはまっすぐ私を見つめ、穏やかな口調で

『僕の名前は勇気ですよ』

そう言って微笑んだ。

No.109 10/07/13 22:28
眠り姫 ( Y4xRh )

また心臓がはやくなる。

ドキドキが止まらない。

声に出してみた。

『…ゆう…き…さん?』

顔から火が吹き出しそうなくらい恥ずかしかった。

恥ずかしくて目をそらすと

『…はい』

っと…優しい声が返ってきた。

この日から彼を『勇気さん』と呼ぶことになった。

結笑はやっばり『お兄ちゃんが』しっくりくるらしく、そのままだった(笑)

食後にいただいたケーキを食べて、勇気さんが

『長々とお邪魔したから…よろっと失礼するね』

っと席を立った。

結笑が駄々をこねる。

よっぽど楽しい時間だったのだろう…

しまいには抱きついたまま泣き出してしまった。

困った勇気さんに

『すいません💦ここは大丈夫ですから今のうちに…』

っと、結笑を引き離して帰れる隙を作った。

『や~だぁぁぁ~…やぁぁぁ~…』

ジタバタ暴れる結笑に手を焼いていると、勇気さんが私の前に立った。

No.110 10/07/13 22:38
眠り姫 ( Y4xRh )

そして結笑をまた抱き上げ、

『じゃあ、僕もう少しここにいてもいいかな?』

優しく問いかける。

『…う゛ん…ヒック…』

鼻水をズビズビしながら勇気さんに抱きつく結笑。

どうしてこんなにも勇気さんは優しいのかな…

しばらく勇気さんが抱いていると、結笑はそのまま眠った。

はしゃいでいたから疲れたのかな?

泣いたのはもぅ眠かったのかな?

勇気さんが来てくれてよかったね…結笑…。

結笑を寝かせると、勇気さんが

『じゃあ、もう行くね…長い時間お邪魔しちゃってごめんね』

はにかんで笑う。

『いえ…こちらこそ…結笑がたくさんごめんなさい』

私も寂しくなり、下を向いたまま玄関まで送る。

私まで子供みたいだな…と思った。

勇気さんは靴を履き、こちら側へと振り向いた。

ずっと下を向いたまま顔を見れずにいると、勇気さんの手が私の首へとのびてきた。

体が固まっていると、すぅっと首につけていたネックレスを指で持ち上げた。

No.111 10/07/13 22:59
眠り姫 ( Y4xRh )

『これ…まだつけていてくれたんだね…』

懐かしむように眺めてる。

そぅ…

三年前にもらったお花のネックレス…

私はずっとはずせずにいた。

『あの日、ぶつけられて転びそうになった君を引き戻したときに…そのネックレスが目に入ってきたんだ』

ゆっくり勇気さんを見つめる。

『まさかね…なんて思ってたら…振り返ったのは紛れもなくゆりちゃんだった』

話を聞いていたら、私の目から涙がひとつ…

『正直、驚いた。もう会えないと思っていたから…』

そして、またひとつ…

『ペンを届けたのも、もう一度君に会いたかったから…』

次々と涙がこぼれて落ちてゆく…

『…食事に誘ったのも、今日ここへ来たのも…みんな君に会いたかったからなんだ』

ネックレスを持っていた手が、私の頬に触れる。

『君の幸せを願っていたはずなのに…僕はどんどん欲張りになってくよ』

大きな手で私の涙を拭う。

『…君のそばにいたいと思ってしまう僕がいるんだ』

涙を拭ってもらっても、止まることなくまたひとつとこぼれてく…

『…ごめんね…』

今にも泣きそうな顔で笑う勇気さん…

…謝らないで…

No.112 10/07/13 23:22
ぴーち ( 20代 ♀ UIYmnb )

眠り姫様、いつも楽しく拝見させていただいてます。
吉岡さん素敵ですね。
外見はこんな感じかな?洋服はこんな感じかな?表情はこんな感じかな?なんて想像しながら読んでます。
またいずれ高柳さんや楓さんも登場するのかなあ。
店長と主人公の今後も気になっちゃう。
これからもどうぞわくわくする小説書いてください。
がんばってくださいね。

No.113 10/07/14 07:22
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 112 ぴーちさん😍

読んでいただきましてありがとうございます☺

最初は夢から始まったこのお話…

今ではすっかり妄想から出来上がってます😂💦(笑)

『こんな感じかな?』と想像していただけて嬉しいです😊✨

他のキャラもぜひ想像(妄想)してみてくださぁい💓(笑)

これからも更新していきたいと思ってるので、どうぞお時間があるときに妄想小説にお付き合いくださいませ☺✨(笑)

No.114 10/07/14 09:47
眠り姫 ( Y4xRh )

きっと私の気持ちなんて、言わなくても勇気さんには伝わってしまってると思う…

あなたを想うだけでこんなにも切なくて、愛しくて、涙が止まらなくなるのだから…

あなたの態度や言葉に、一喜一憂してしまうのだから…

勇気さんが私を優しく包み込んだ。

二人の心臓の音が重なりあうように聞こえる。

勇気さんはこんなにも温かい…

だけど、すごく遠い人のように感じるよ…

謝るのは私の方

あなたに惹かれてしまってごめんなさい…

大切な家族を裏切らせてごめんなさい…

あなたに甘えてはいけないのに…

あなたの優しさはまるで花の蜜のように、私はあなたの甘い蜜を求めて探してしまうの。

私は静かに泣いた。

勇気さんの腕の中で。

初めは優しく包んでくれていた腕が、今度は少し強く抱きしめてきた。

『…泣かせてごめんね』

勇気さんの声が悲しそうで、なぜだかあなたまで消えてしまうような気がして…こわかった…

私も勇気さんの背中に腕を回して抱きしめた。

どのくらい抱き合っていたかな。

私の涙が止まったころ、勇気さんがゆっくり私から離れた。

No.115 10/07/14 11:58
眠り姫 ( Y4xRh )

泣いた後のひどい顔を見られたくなくて、両手で顔を隠した。

『…どうしたの?』

不思議そうな声で勇気さんが聞いてくる。

『…ひどい顔してるから、見ないでください…』

急に無言になった。

引かれちゃったのかなっと心配になり、そぉ~っと指の隙間から勇気さんを見てみた。

優しい顔で私を見てた…。

引かれたと思っていたから、勇気さんの優しい顔を見たら気が抜けて両腕がゆっくり下がった。

その瞬間…

『ムニッ』

一瞬なにが起きたのか理解できずにいると…

勇気さんが私の頬を両手で挟み、タコクチ🐙にしていた。

『…ぷっ(笑)』

勇気さんが笑う。

『ん゛~っ!!』

恥ずかしくなった私は勇気さんの手首を掴み、必死にどけようと頑張った。

細身の勇気さんでもやっぱり男の人なんだなって感じた。

勇気さんの腕は全然動かない。

すごくニッコリと勇気さんが笑ってる。

勇気さんって…意外にイタズラ好きッ?!

でも、好きな人の前でタコクチなんて嫌~(涙)

すると…

勇気さんの手の力がゆるみ、両手で私の顔を包み込んだ。

No.116 10/07/14 12:50
眠り姫 ( Y4xRh )

ドキドキと鼓動がはやくなる…

ゆっくり…

ゆっくり…

勇気さんの顔が近づいくる。

綺麗な顔。

あっ…まつげが長い…

奥二重だったんだぁ…

切れ長な目が綺麗さを増してるのかな

色も白いなぁ…

とうとう鼻と鼻が触れ合いそうな距離になり、私のドキドキがピークに達した。

目をぎゅっと閉じた。

そのとき、勇気さんの口唇と私の口唇がそっと触れた…。

もう何も考えられない。

勇気さんが好きだよ。

初めて勇気さんとキスをした。

三年前はおでこにキスまでだった。

少しだけあなたに近づけた気がした。

ずっと抑えてた気持ちが今あふれ出る。

ゆっくり口唇が離れ、近い距離で目と目が合う。

『…好きです…』

もう気持ちを抑えることはできなくて、私は初めて想いを口にした。

『…あなたが好きです…もうずっと前から…勇気さんが好き…』

想いと一緒に、止まったはずの涙がまた目にたまる。

『…ありがとう。僕も君が好きだよ。初めて君を見たときから惹かれてた』

胸が苦しくなった…

この想いはどこへいけばいいの?

No.117 10/07/14 16:03
眠り姫 ( Y4xRh )

そのとき…

『…ママァ…』

結笑の声がして、私と勇気さんの体がビクッとした。

『…長居してしまってごめんね…もぅ帰るね(苦笑)』

勇気さんがバツが悪そうに言う。

『…いえ…ごめんなさい…また…会えますか?』

勇気さんを見上げると、ニッコリ笑って

『うんっ!また連絡する』

頬にキスをして『それじゃあ…』っと笑顔で帰っていった。

結笑のもとに行くと、結笑はすやすや眠っていた。

『…寝ぼけてたの?💧』

一気に力が抜けその場に座り込んだ。

勇気さんが触れた感触をはっきり覚えてる。

体全体…

顔…

そして口唇…

思い出したら顔が熱くなった。

すごく愛しい人。

胸に小さなひっかかりは秘めたまま、今は勇気さんと想いが通じたことが何より嬉しかった。

とりあえず、たくさん泣いたので目を冷やしながら眠りについた。

No.118 10/07/14 18:52
眠り姫 ( Y4xRh )

次の日…

鏡を見ると、これくらいならなんとかお化粧でカバーできるくらいの目の腫れ具合だった。

『ママ~お兄ちゃん帰っちゃったのぉ…?』

結笑が残念そうに聞いてきた。

『お仕事があるからねぇ…ほら、結笑も早く支度してっ』

ブーブー言いながら朝ご飯を食べてる(笑)

『…また会えるよ!だから、早く食べちゃいなさぁい』

『また会えるの?!やったぁ~!』

ぴょんぴょん飛び跳ねる。

『こら~っ!ご飯中はバタバタしちゃダメッ』

ペロっと舌を出して『はぁ~い…』っとお返事をする結笑。

今日も一日頑張らなくちゃ!

何も変わりないこの窓から見える景色が、今日は違って見える気がした。

結笑を保育園に送り、本屋に着いた。

マナーモードにしようと思い、携帯を開くと一件のメールが入ってた。

見てみると勇気さんだった!

緊張しながらメールを見ると…

『おはよう』

『昨日は遅くまでごめんね。少しは休めたかな?今日も一日頑張ろうね!』

他の人から見ればきっと普通のメールなのに、私にとっては特別なものだった。

仕事前に返信した。

No.119 10/07/14 19:10
眠り姫 ( Y4xRh )

『おはようございます』

『昨日は色々とありがとうございました。私は元気いっぱいですっ!勇気さんこそ全然休めなかったですよね…ごめんなさい。今日も一日頑張りましょうね!』

パタンと携帯を閉じると、近くに人の気配があることに気づいた。

気配のする方に振り向くと、そこには宮島さんがニヤニヤしながら立っていた。

『…宮島さん!おはようございます。もう風邪は大丈夫なんですか?』

今日もお休みだと思っていたので、宮島さんがいることに驚いた。

『おはよ~!ねぇねぇ…今のメールの相手って彼氏でしょ?百合ちゃんすごく可愛い顔でメールしてたわよ!』

私の顔は正直だった…

真っ赤になってしまい、何を言っても宮島さんには見抜かれてしまっていたと思う。

『ちっ、違いますよ…💦友達です😳💦』

宮島さんはニヤニヤしながら、

『はいはい!若いっていーわねっ!(笑)』

全く話を聞いてもらえなかった。

恐るべし…宮島パワー…

そこへ店長が入ってきた。

『なんだぁ~?事務所が騒がしいなぁ…どうかしたか?』

(…宮島さん、余計なことは言わないでっ!!)

心の中で叫んだ。

No.120 10/07/14 19:28
眠り姫 ( Y4xRh )

『店長~!ゆりちゃんにも春が来たみたいですよ!(笑)』

店長が変な声を出した。

『…春だぁ~?俺がまだ独り身なのに、ゆりさんまで俺を置いていくのかぁぁぁ!!(涙)』

店長が追いかけてくる。

『…きゃあぁぁぁ😫💦!』

本気で少し怖かった…💧

宮島さんが笑いながら叫んでる。

『ふざけてないで、もうすぐお店開けますよぉ~!(笑)』

…誰のせいでこうなったと思ってるの、宮島さ~ん😭(涙)

裏で店長に捕まった。

腕を掴まれたので、店長の方へ振り向いた。

『ハァ…ハァ…ゆりさん意外と逃げ足が速いんだね…』

『ハァハァ…店長が追いかけてくるから…こわくて…必死でした…ハァ…』

店長の顔が真剣になった。

『…付き合ってる奴がいるの?』

手は掴まれたままで、もう逃げようがなかった。

『…わかりません』

そう答えるしか出来なかった。

実際に私と勇気さんの関係は、自分でもわからなかった…。

No.121 10/07/14 19:42
眠り姫 ( Y4xRh )

『…わからない?でも、ゆりさんはそいつのこと好きなの?』

『…はい。』

『…そいつは?ゆりさんのことなんて言ってるの?』

…何で私はこんなことを店長に聞かれてるんだろう…。

黙っていると、店長の手に力が入ってきた。

『…痛ッ。』

店長はまだ離してくれそうにない。

少し店長のことが怖い人のように思えてきて、店長の質問に答えることにした。

『…彼も好きだと言ってくれました。あのっ…もぅ手を離してください…』

更に強く握られた。

『なんでそれで付き合ってるかわからねーの?納得できねーんだけど?』

なんで店長に納得されなきゃいけないのか…

いつもと違う店長に戸惑った。

『手を…離してくださいッ!!』

大きな声を出してしまった。

それでも店長は離してくれない。

『…俺が納得できるまでこの手は離さねーよ』

店長が別人のように見えてきて、怖くなって、離してもらうために勇気さんとの関係を話した…。

『…彼には…家庭があるからッ!好きでも付き合えない理由があるんですッ!…これで満足ですかッ?!…この手を離してください…ッ!』

店長の手が離れた。

No.122 10/07/14 22:35
眠り姫 ( Y4xRh )

『…それで?そいつ、かみさんと別れてゆりちゃんとこに来るわけ?』

まだ店長は質問してくる。

そんなこと…私にだってわからないのに、店長に答えられるわけない。

勇気さんの性格から言って、きっと家庭を見捨てるようなことはしないと思う…。

そうしたら私はどうなっちゃうのかな…。

急に不安になり、胸が押し潰されそうなくらい痛かった。

私は手を解放されたからか、少し強気に出てみた。

ただ、恐怖感から目を見て言う事はできず、下に目線を落として言った。

『…店長には関係ありません。』

実際、本当に全く関係ないのだから…。

『…関係あるんだよ。』

その言葉に思わず店長を直視した。

『…えっ?』

『あんたはどこまで鈍い人なんだ…?それともわざとなのか?』

『…なんのことを言ってるんですか?』

『…はぁ…』

店長は深いため息をつく。

『…関係あんだよ。俺はあんたが好きだから』

言っていることがよく理解できなかった。

それが店長にも伝わったらしく、

『…だ~か~らっ!俺は生垣 百合に惚れてるのっ!二度も言わせんなよ…照れくさい…』

No.123 10/07/14 22:52
眠り姫 ( Y4xRh )

店長が…私を…?

どうしよう…

この状況はどうしたらいいのかな…

言葉に詰まる。

無言な空気が苦手なのか耐えられずに店長が、

『…別に、ゆりさんに付き合ってる奴がいてもいーんだよ。ただ、ゆりさんを泣かせるような奴だったら、俺が諦めつかねーじゃん』

っと、自分の頭をかきながら話す。

ぶっきらぼうだけど、店長なりの優しさなんだろうな…。

だけど、私も誰でもいいわけじゃない。

吉岡 勇気さんだから好きなんだ…。

『…ごめんなさい』

その言葉しか出てこなかった。

店長はまた普段通りに戻って

『まぁ…アレだっ。そいつに愛想がつきたら俺んとこに来なさい(笑)』

さすが大人の男性だな…。

どんな結果も受け止めて、最後はまた空気を元に戻してくれる。

店長が『先に仕事に戻るぞ~宮島さんにま~た怒られちまう』っと、向こうを向いたまま手をヒラヒラと振りながら歩いて行った。

『…はぁ』

最近はいろんな事がありすぎて、頭がついていかない。

…逢いたいな…

…声が聞きたいな…

…今ぎゅうってしてほしいよ…

…勇気さん。

No.124 10/07/14 23:08
眠り姫 ( Y4xRh )

時間差で私も仕事に戻った。

宮島さんがすかさず聞いてくる。

『遅かったじゃない!なにしてたの?』

嘘をつくのが得意ではない私は、宮島さんのように直球ストレートな質問には困ってしまう。

そう言えば…

こんな状況の時はいつも、店長が私の代わりに適当に宮島さんに答えてくれていた気がする。

あれは助けてくれていたんだね。

…今気づいちゃった。

私って本当にバカだな。

いつだって人を傷つけてばかり。

高柳や沙織さんも、私さえいなければ傷つくことなんてなかったよね。

私には誰かを幸せにすることができない。

今はきっと私って人間が存在するだけで、勇気さんや、勇気さんの家族を傷つけようとしているのかもしれない…。

お父さんとお母さんが亡くなったあの事故で、私も一緒に消えていれば…

こんなに苦しい想いもしなくて済んだかもしれないのに。

でも私の体は生きたがってる。

あのときに生還したのも、今を生きているのも、全ては愛しい結笑に出会うためだったのかもしれない。

あぁ…ネガティブに考えちゃったな…

私の悪いところだ。

『前を向いて』生きていきたい。

No.125 10/07/14 23:41
眠り姫 ( Y4xRh )

『聞いてる~??』

ハッ…

すっかり宮島さんのことを忘れてた💧

返事になんて返そうか困っていると…

『ゆりさんが意外にも足が速いから、俺も群がるギャル達から逃げるためにゆりさんに特訓してもらってたんだよっ!』

私の真後ろに店長が立ち、また代わりに答えてくれた。

はっはっはっ!っと笑うも、宮島さんに

『…群がるギャル達ぃ~?店長にぃ~?…無いわねっ💨』

バッサリ切り捨てられていた(笑)

『なんだと~!』

話が自然と店長の話題へと移り、私の話はなくなった。

きっとそうなるのも店長の計算のうちだったんだろうなっと思った。

そう言えば誰かが言ってたな。

店長は名門大学が卒業したのに、なぜか本屋の店長をやってるって…。

本が好きだからこの仕事についたんだろうけど…

名門の大学を出たのに、全てを捨ててこの道を選んだ店長はカッコイイと思った。

やっぱり頭がいいんだろうなぁ。

普段はぐーたらで、従業員に頭が良いと思わせないとこが店長のすごいとこだな~って思った。

気にするようになったせいか、どんどん店長の違う面が見えるようになってきた。

No.126 10/07/15 14:37
眠り姫 ( Y4xRh )

はぁ…なんか朝から疲れたな…っと思い、お昼休憩に入った。

携帯が点滅してる…

着信かメールがあったみたい。

携帯を開くと、メールがきてた。

『今は外回り中…ゆりちゃんは仕事中かな。元気?』

勇気さんからだった。

…元気?って(笑)

思わず一人で笑った。

少し落ち込んでた気持ちも、勇気さんのメールで元気がでた。

離れていても、私のことがわかってくれているみたいですごく嬉しかった。

『ちょっとへこんでたけど、メールをいただいたので元気になりました!ありがとうございます』

色々と悩みながら、結局は無難に返信をした。

送ってすぐ携帯に着信があった。

『吉岡 勇気』

周りをキョロキョロして、誰もいないのを確認して通話ボタンを押した。

『…はい』

恥ずかしくて、声が震えてしまいそう…。

『…ゆりちゃん?お疲れさま。吉岡です。今はお昼かな?』

電話の向こうの勇気さん…

胸がキュンとする。

『はいっ。お弁当を食べてました。…勇気さんはまだ外回り中ですか?』

No.127 10/07/15 14:47
眠り姫 ( Y4xRh )

『ううん、今は会社。誰もいない廊下でこっそり話してる(笑)夜は取引先と打ち合わせをかねた接待に行かきゃならないから、今のうちに声を聞いておこうと思って…』

…ズキューンッ!

私のハートが射ぬかれた。

嬉しくて…

恋しくて…

電話を持つ手に力が入った。

『…どうかした?』

なにも答えない私を心配したのか、勇気さんが聞いてきた。

『…嬉しすぎて、言葉になりません。』

『えっ?』

『声が聞きたいって言ってくれたの…すごく嬉しかったから』

『…クスッ(笑)そんな言葉で喜んでもらえるなら、いくらだって言うよ』

『…そんなにいっぱいはいらないんですっ!』

『そうだね(笑)言い過ぎて、ゆりちゃんに引かれたら大変だ(笑)』

『引いたりしませんよ…勇気さんの言葉なら…』

二人でクスクス笑った。

会社から電話しているからか、勇気さんの声が小さめで囁くように話してる。

想像したら可愛らしかった(笑)

すごく幸せな時間だと思えた。

でも…やっぱり会いたいな…

顔が見たいな。

今はどんな顔で話しているんだろう…

欲張りになる。

No.128 10/07/15 15:11
眠り姫 ( Y4xRh )

ワガママ言ってるみたいで、勇気さんにそんなこと言えないけど…

すると少し会話に間があいたときに、ゆっくり勇気さんから話し始めた。

『…声だけ聞ければいいなと思って電話したのに…逆効果だったみたいだ…』

『…えっ?』

『百合ちゃんに会いたくなってきた…』

同じことを勇気さんも思ってくれてた。

この人は本当に私の欲しいものばかり与えてくれる。

『…ごめんね』

なぜか勇気さんが謝った。

『…どうして謝るんですか?』

『昨日会ったばかりなのに、ごめん』

『ううんっ!謝らないで…私も同じことを思ってました。勇気さんに会いたいって…』

二人の間に無言の時間が流れる。

今どんな顔してるのかな…

表情が見えない分だけ、たくさん不安になる。

『…明日の休憩は何時から何時まで?』

勇気さんが聞いてきた。

『えっと…1時~2時までの一時間…ですよ?』

なんでそんなこと聞くのかわからずにいると、

『じゃあ、明日はお弁当はお休みして、僕とランチに行きませんか?』

『…勇気さんと二人で…?…行きたい!』

No.129 10/07/15 15:23
眠り姫 ( Y4xRh )

『じゃあ、決まりっ!そうだなぁ…あまり時間がないから簡単なものになってしまうけど…いい?』

『はいっ!勇気さんと一緒ならどこでも嬉しいですっ』

『ありがとう(照)』

1時過ぎに本屋の近くのファーストフードに待ち合わせになった。

懐かしいな…

初めて勇気さんと行ったファーストフードのお店。

あの時は、場違いな私なのに勇気さんが『前を向いて』って背中を押してくれたんだよね…

あの出来事があったから、今の私がいます。

勇気さん覚えてるかな?

三年も前のことだから…忘れちゃったかな?

あの日だけ、高柳の人形じゃない自分でいられて楽しかったな。

私を救い出してくれた勇気さん…感謝してもしたりないね。

電話を切って、幸せな余韻にひたりながらお弁当を食べた。

明日はランチデート!

今から何を着ていこうか悩んでしまう(笑)

楽しみができたから、午後の仕事も張り切って頑張れた。

…意外に私って単純?

そう思えるくらい、勇気さんといると素直になれた。

No.130 10/07/15 17:37
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑を迎えに行き、夕飯を作る。

『ママ~、楽しいの?』

結笑が不思議そうに聞いてきた。

ちょっぴり恥ずかしくなった。

子供から見てもハシャいでいる風に見えるなんて…💧

いい歳をして恥ずかしい…⤵

『今日はシチューだよ!』

『やったぁ~💓』

保育園でつみきしてきた~などのお話をして、お風呂へ入り、眠りについた。

最近は少し寝不足だったせいか、早く寝付いたみたいだった。

朝になり目覚ましが鳴り目が覚めた。

とてもよく寝れた気がした。

今日は勇気さんとのランチデート。

気持ちがソワソワしてる。

嬉しさからか、後ろめたさからか、結笑のお弁当も手が込んだものになった。

結笑が見て喜んでる。

支度をして保育園に送って行った。

『早くお弁当の時間にならないかな~』

お弁当をみんなに自慢したいらしく、お昼が待ちきれないようだった(笑)

私の気持ちも結笑と同じ。

お昼が待ちきれない。

でも…

店長に会ったらどんな顔をして会えばいいのかわからない。

普通が一番だよね…。

少しだけ職場に行くのが気が重かった。

No.131 10/07/15 18:02
眠り姫 ( Y4xRh )

本屋に着いてみると、特に何も変わりなく午前が終わり休憩時間になった。

なぁ~んだ…

深く考えることなかったな!

ホッとひと安心した。

これから勇気さんに会えるんだっ!

心が弾む。

お化粧を直して、

『ちょっと出てきます!』

足早に待ち合わせのお店へ向かった。

本屋からかなり近いところにある。

休憩時間が一時間しかないため、勇気さんが私に合わせてこっちまで来てくれた。

緊張しながらお店へ入ると、

『いらっしゃいませ~!』

店員さんの元気な声が飛びかった。

…店内を見渡す。

左から右側へ目線をやると…

いたっ!!

勇気さんは私に気づいていないようだった。

テーブルの下で足を組み、イスに寄りかかるようにして、この前うちの書店で買った本を読んでいた。

ゆっくり近づく。

やっぱり勇気さんの本を読む姿って素敵だなぁ…。

このまま声をかけずに見ていたいな(笑)

No.132 10/07/15 18:07
眠り姫 ( Y4xRh )

そう思っていたのは私だけじゃないみたい。

周りはOLさんや、小さな子供を連れた主婦の方たちで賑わってた。

勇気さんのことを言ってるんだろうな~って感じの内容がヒソヒソと聞こえてくる。

『すっごいイケメンがいるぅ~!』

『何の本を読んでるのかな?!』

『あんなカッコいい人に彼女がいないわけないよねぇ…』

『毎日うちの旦那ばっかり見てるから、目の保養になるわね(笑)』

みんなが勇気さんを見てる。

よっぽど本に集中しているのか、本人は全く気にしてないみたいで面白い光景だった。

そこがまた紳士的な雰囲気を出してるんだろうな~なんて思った。

そんな勇気さんとランチを食べられる私はちょっぴり優越感を感じてたりして(笑)

近くまで行くと私は足を止めた。

あれ…?

なんかいつもと雰囲気が…違う…?

近くで人の気配がしたからだろうか?

勇気さんがこっちへ振り向いた。

目と目が合い、勇気さんがニッコリ微笑む。

『…あっ!』

勇気さんの顔を見て、初めて違和感に気づいた。

No.133 10/07/15 18:43
眠り姫 ( Y4xRh )

『…勇気さん…めがね…?』

そう、勇気さんが眼鏡をかけてた!

『…んっ?あぁ…(笑)普段はかけないんだけどね。仕事するときや、本を読んだりするときにたまにかけるんだ(照)』

照れながら眼鏡をはずす勇気さん。

すごく大人っぽい…。

草食系ですか…?

かなり萌え~なんですけど…

カッコよすぎですッ!

ドキドキが止まらない…

また惚れ直した…

『…座らないの?』

勇気さんが椅子を引いてくれた。

ファーストフードが一転して、レストランみたいに勇気さんがリードしてくれた(笑)

勇気さんが買ってきてくれた。

『ハンバーグをごちそうになったからね!今日はたくさん食べてね…って言ってもファーストフードなんだけどね(笑)』

『私けっこう好きなんです(笑)ごちそうさまですっ』

ハンバーガーを食べる姿も様になるなぁ…

あっ、コーラ飲んでる…

ポテトが熱かったみたい(笑)

食べるのも忘れて、勇気さんを見つめてしまった。

『…ゆりちゃん』

『…はいっ?なんですか?』

『あんまり見られると恥ずかしいんだけど…💧』

『あっ…ごめんなさい💦』

No.134 10/07/15 18:58
眠り姫 ( Y4xRh )

『早く食べないと時間がなくなっちゃうよ(笑)』

『…はぁい。』

しぶしぶ食べ始めた。

一通り食べ終わり、休憩も終わりに近づいた。

お店を出て、勇気さんと街を歩く。

お店の手前で勇気さんに挨拶をした。

『今日はごちそうさまでしたっ。それじゃあ…』
楽しい時間はあっという間で、別れ際はいつも寂しくなる。

『うん。午後も頑張ってね!』

勇気さんはいつもアッサリ引いて帰ってしまう…

勇気さんは寂しいって思わないのかなぁ…

そう思ってるのは私だけなのかな…

その場に立っていると、

『…行かないの?行かないならこのままどこかに連れていっちゃおうかな(笑)』

イタズラっぽく笑う。

『いや…💦』

慌てて手を降ると

『…冗談だよ(笑)でも、そんな顔されたら抱きしめて離したくなくなるよ』

嬉しいけど、恥ずかしくて勇気さんを見れなかった。

『…ほらっ!行っておいでっ』

頭をポンポンと叩く。

触れられたとこを押さえながら、

『…いってきます(笑)』

元気をもらって仕事に戻った。

裏口に入るまで勇気さんが見ててくれた。

No.135 10/07/16 09:34
眠り姫 ( Y4xRh )

エプロンをつけて仕事に戻る。

気持ちにゆとりが出来ると、人にも優しく出来るものだ。

明るい接客ができたと思う。

勇気さんがいてくれると、毎日頑張れる気がした。

毎日が充実してる。

やりがいのある仕事、可愛い娘に、愛しい人…

こんなに幸せな気持ちでいいのかと、逆に不安になるくらいに。

…そんな時、勇気さんの出張が終わり帰らなければいけない日が近づいていた。

週も後半にさしかかり、勇気さんからメールが来た。

『来週の月曜日に本社に戻ることになりました。それでね、日曜日に結笑ちゃんと一緒に水族館に行きませんか?』

嬉しいことと、寂しいことが一気に押し寄せた。

勇気さんが戻ってしまったら、またぽっかり心に穴が開いてしまうのかな…

水族館…

勇気さんも気を遣って言ってくれてるんだよね…

私はワガママだよね…


勇気さんの奥さまも、お子さんも寂しい想いをしてたよね…

私はズルイよね…

勇気さんと気持ちが通じただけで嬉しかったのに、一緒にいたいと願ってしまう私がいる…

結笑…

こんなママでごめんね…

ごめんね…

No.136 10/07/16 18:39
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんが気にせず戻れるように、出来るだけ笑顔でいようと思った。

まずは返信。

『はい。わかりました。向こうに戻ってもお仕事を頑張ってくださいね。水族館すごく楽しみにしてますね!結笑も喜びます。ありがとうございます』

心とは裏腹に、明るいメールを送った。

無情にもあっという間に時間は流れ、約束の日曜日になった。

少し早く起きてサンドイッチをたくさん作った。

荷物は多くなってしまったけど、結笑と勇気さんに食べてもらいたくて頑張った。

9時頃になり、ピンポーン…っと呼び鈴がなる。

結笑が走って玄関に行く。

ガチャ…

『お兄ちゃ~ん⁉』

結笑が驚いた声をあげている。

驚かせようと思って結笑には言ってなかった。

予想以上に結笑は驚いてくれたから面白かった(笑)

『やぁ、結笑ちゃんおはようっ!一緒に水族館にお魚に会いに行こうかっ』

『お魚~❤』

二人でキャッキャッしてた。

荷物を持ち、バスに乗りたいと言う結笑の希望でバスで行くことになった。

朝イチだからか、一番後ろの席が空いていてよかった。

結笑が真ん中をしっかりキープしてたっ(笑)

No.137 10/07/16 23:17
眠り姫 ( Y4xRh )

…他の人から見たら、私たちも仲の良い家族に見えたりするのかな。

『お兄ちゃん!手ぇ☺』

バスを降りて、水族館の入り口までにはしばらく距離があった。

結笑と勇気さんが手を繋いだ。

…結笑さん

あなた羨ましすぎますよ(涙)

勇気さんは左手に結笑、右手に荷物を持ってくれた。

…サンドイッチ、作らなきゃよかったな。

少し後悔した。

入り口に着き、待ってるように言われたので結笑と待っていたら、勇気さんがチケットを買ってきてくれた。

一切お金を受け取らない勇気さん。

なんだかいつも申し訳ないな…そんな気になってくる。

お昼にサンドイッチで挽回しよう!そう割り切り、水族館を満喫した。

大きなサメに結笑は怖がり、イワシの群れはキラキラしていて綺麗だった。

亀はのんびり優雅に泳いでいて、大人二人は『のんびりいいね』っと言って笑った。

日曜なので、人が結構いてまだ小さい結笑には見えないところもたくさん…。

その度に、勇気さんがヒョイっと結笑を抱き上げ見せてくれたりした。

天気も良いので、野外の芝生の上でランチタイム!

サンドイッチを出した。

No.138 10/07/16 23:33
眠り姫 ( Y4xRh )

ぱくぱく口にいっぱい頬張る結笑。

『慌てなくてもたくさんあるから大丈夫だよ!(笑)』

お腹がすいてたのかな~なんて思って見ていた。

『午後からは何をみようか?』

勇気さんが結笑に話しかける。

『ん~…イルカッ🐬!』

午後にあるイルカショーを観に行くことにした。

席がなくなると悪いからと言うことで、ランチを早々と食べ終わりイルカショーがやってるところに向かった。

結笑はよっぽど勇気さんを気に入ったのか、勇気さんにべったり…

父親が恋しいのかな…

ふっとそんなことを考えた。

勇気さんはうまく結笑に付き合ってくれている。

さすがお子さんがいるだけあって、扱いになれてるな…

なんてのも考えたら、更に胸がズキズキ痛んだ。

いけないっ!

今日は笑顔だぁ!

気を取り直して、イルカショーを楽しんだ。

『イルカさんイイコだったねぇ~☺』

テンションの上がる私。

『ゆえもイイコになる❗』

テンションの高い結笑。

そして、私たちを優しく見守る勇気さん。

楽しいな…水族館。

連れてきてくれてありがとう…

勇気さん。

No.139 10/07/17 18:11
眠り姫 ( Y4xRh )

館内にあるお土産売り場で、勇気さんが結笑に

『好きなものを一つ持っておいで!結笑ちゃんに買ってあげる』

優しく語りかける。

喜んだ結笑は、必死になってどれにするか悩んでる。

すると、勇気さんが私の方を向き

『百合ちゃんも一つ持っておいで(笑)百合ちゃんにも買ってあげる』

優しく微笑む。

『じゃあ…、勇気さんも一つ持ってきてください!私が勇気さんに買ってあげます(笑)』

ちょっと勇気さんをマネして言うと

『…ぷっ(笑)本当?じゃあどれにしようかなぁ~』

三人で必死に選んだ。

結笑は大きなイルカのぬいぐるみ。

私はクリスタル硝子の中にイルカが浮かんでいる、小さな置き物。

勇気さん…はイルカの柄のボールペン…?

『ちょうど会社で使うボールペンのインクがなくなってたんだぁ。だからコレにする!』

素で言ってる…。

『…えっ?それ会社で使う気ですかッ?!💦』

『んっ?どうして?おかしい?可愛いじゃんっ』

…天然ですか?

勇気さんが私の問いかけに不思議そうに答える。

『会社で使うのだったら、今度私がもっといいペンをプレゼントしますよ~💦』

No.140 10/07/17 19:27
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんが私の頭に手をポンッと乗せ、

『いいものが欲しいんじゃなくて、これは百合ちゃんと結笑ちゃんとの大切な思い出だからいつも使っていたいんだよ』

どこか少し悲しそうな顔をした気がした。

結笑がイルカのぬいぐるみを抱えて走ってきた。

『お兄ちゃん、ありがとう❤』

『どういたしまして(笑)』

『このイルカさんね、ミミちゃんのお友だちにするの!』

『ミミちゃん??』

『うんっ❤ゆえのピンクのうさぎのミミちゃん!』

イマイチ訳がわからなそうな勇気さんに、私が付け足した。

『…結笑の宝物のお人形なんです。ミミちゃん。覚えていませんか?』

勇気さんをチラッと見ると、何かを思い出したような顔をして、

『…結笑ちゃんもまだ持っていてくれたんだね。そっか…宝物かぁ…嬉しいな…』

優しく優しく結笑を見つめる勇気さんを、私は愛しく愛しく見つめた。

二時頃になり、勇気さんに抱かれていた結笑がうとうとし始め、そのまま眠ってしまった。

すると、勇気さんが右手に持っていた私のカバンを

『…少し持ってもらってもいいかな?』

っと渡してきた。

No.141 10/07/17 19:40
眠り姫 ( Y4xRh )

『あっ…はい💦すいません、ずっと持ってもらっちゃって💦結笑まで…』

すると勇気さんがすぅーっと私の左手をとった。

ドキっとして、勇気さんを見上げると

『…やっと繋げた(笑)』

ニッコリとイタズラっぽく笑いながら言った。

…たまに見せる勇気さんのこのイタズラっぽい顔が好き。

勇気さんの左肩には結笑がもたれて眠っていて、右手は私と手を繋いでる。

私の左手は勇気さんと繋ぎ、右手にはカバンを持った。

しばらくそのままゆっくりと魚の群れを眺めてた。

『…大丈夫?荷物は重くない?』

心配そうに勇気さんが聞いてくる。

『これくらい平気ですよ(笑)結笑の方が重いもん!勇気さんこそ結笑が重くないですか?』

心配になり勇気さんに聞いた。

『全然っ!僕これでも一応、男ですから(笑)』

勇気さん…

あなたは私の心を掴んで離さない人…

心から大好きです。

そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていく…。

明日の出発が朝が早いと言うことで、帰ることにした。

勇気さんは食事でもと誘ってくれたけど、寂しくなるから断った…。

明日からはもう会えない。

No.142 10/07/17 21:49
眠り姫 ( Y4xRh )

うちに着いてから、結笑と簡単にご飯を食べてお風呂に入った。

結笑を寝かせて、ふっと携帯を見ると勇気さんからメールが来てた。

『今日はどうもありがとう。すごく楽しかったよ。ペン大切にするね!』

胸の奥が苦しくなる。

『こちらこそ、今日はたくさんありがとうございました。結笑も、もぅ夢の中です(笑)私も買ってもらったイルカの置き物、大切にします!』

メールって便利だなって思った。

だってどんなに寂しくたって、泣きそうになったって、顔が見えないから相手にはわからないから。

『向こうに戻っても連絡するから。百合ちゃんも頑張ってね。何かあったらすぐに連絡するんだよ』

心配性な勇気さんに、寂しいなんて言えないよ…

余計に心配にさせちゃうから。

私は平気だよ。

今までだってそうしてきたんだからっ!

…でも、恋しいよ。

『大丈夫ですよ!勇気さんは心配せずに、お仕事頑張ってくださいね!私も連絡しますね』

奥さん待ってるよね…

きっと娘さんも、パパに会えなくて寂しかったよね…

勇気さんは私のものじゃない。

たまに忘れかけてしまう自分がこわい。

No.143 10/07/17 22:04
眠り姫 ( Y4xRh )

その日の夜は、勇気さんが恋しくてなかなか寝付けなかった。

勇気さんと過ごした時間が楽しかった分だけ、寂しさが押し寄せてきた。

気づいたら眠っていて、目覚ましの音で目が覚めた。

また前と同じ日常に戻っただけ…

自分にそう言い聞かせて、やる気を出した。

何も変わらないよ。

結笑を保育園に送って、仕事に行って、終わったら結笑のお迎え、ご飯食べて、お風呂に入って、寝て…の繰り返し。

なのになぜだろう…?

前は何も寂しいなんて思わなかった生活。

あなたと再会し、あなたと過ごした時間、あなたと交わした言葉、触れた感触、あなたの優しさ…

この街に来て三年間ずっと平気だったのに、あなたといた一週間が勝ってしまった。

あなたの胸へ飛び込むことも出来ず、あなたを諦めることも出来ず…

私は一体何がしたいのだろう…

お昼休みになり、携帯を見ると勇気さんからメールが来てた。

最近、携帯ばかり気にするようになったな。

前はそんなに使わなかったのに。

気づけば、暇さえあれば携帯を開いてる。

ただ一人の連絡を待って…。

No.144 10/07/17 22:18
眠り姫 ( Y4xRh )

『おはよう。仕事中かな?今やっと会社に着きました。少し仕事をしてから帰ります。』

着いたのは11時頃。

今は13時すぎ…

もう家に帰った時間かな?と思い、メールの続きを読んだ。

『来週、資料を取りにまたそっちへ行きます。』

わざわざ資料を取りに来るの?っと思っていると、しばらく改行した後に



『…何とか理由をつけて、百合ちゃんに会いたいだけなんだけどね(笑)』

イタズラっぽく笑う勇気さんの顔が浮かんだ。

…一人ひっそり事務所で笑った。

来週が待ち遠しい。

私って単純かな?

もう元気になってる。

会える日を励みに頑張れる。

詳しいことは、また近づいたら連絡をくれるとあったから、とりあえず

『お疲れさまです。わかりました。もう会えちゃうんですね(笑)楽しみにしています』

っと返信した。

さっきまで落ち込んでいたとは思えないくらいに元気になった。

ルンルン気分で休憩を終え仕事に復帰すると、その姿を店長がじっと見ていたことに、私は気づかなかった。

No.145 10/07/18 11:02
眠り姫 ( Y4xRh )

しばらく平穏な日は続き、とうとう明日…

勇気さんがこっちに来る日。

あまり時間がないため、またランチデートすることになった。

その日は朝から浮かれていたと思う。

店長が、

『今日はご機嫌だね』

っと聞いてきた。

『えっ…そうですか?』

なんだか気まづいので、話を変えようとすると

『彼とデートかぁ?』

店長は話題を変えない。

仕方なく

『えぇ…まぁ…』

っと答えた。

『ふ~ん…いいなぁ!若いもんわ(笑)』

おちゃらける店長に少しホッとした。

休憩になり、走ってまた前のファーストフードに向かった。

勇気さんに会える。

まだ勇気さんが帰ってからそんなに日は経たないのに、もうすでに恋しかった。

店内を見渡すと…いた。

また先に来てる。

目立つ人だなぁ…

カッコよすぎるもん。

勇気さんは書類を見ていた。

忙しそう…

なんだか申し訳なかったな…

罪悪感に胸が痛んだ。

『こんにちは』

私から声をかけると、いつもと変わらない勇気さんスマイルで迎えてくれた。

書類を鞄にしまい、二人で楽しいランチを過ごした。

No.146 10/07/18 11:13
眠り姫 ( Y4xRh )

ランチ少し早めに切りあげ、手を繋いでゆっくり本屋まで戻る。

すると…

店長がタバコを吸いながら裏口の前に立っていた。

なんで…

私の足が止まっていると、気づいた店長がまっすぐこっちへ向かって歩いてくる。

『よぉ!』

右手をあげて声をかけてきた。

『…勇気さん、こちらこの本屋さんの店長さんです』

紹介すると、勇気さんは優しく微笑み店長へ右手を差し出した。

『…はじめまして。吉岡です』

店長は勇気さんの握手の手をとらない…

『…あんたが百合さんの男か』

勇気さんは手を戻し、顔つきが変わった。

にこやかないつもの顔から笑わなくなり、目はまっすぐ店長を見ている。

『て…店長…!仕事に戻りましょう?』

私は重い空気に耐えられなくなり、声を出した。

店長は動こうとしない。

『…勇気さんも…お仕事に戻ってください…』

勇気さんを帰そうとすると、

『いや…店長さんが僕に話があるみたいだから。百合ちゃんは仕事に戻って?』

私には優しく微笑みかける。

でもそれがこわい…

私はどうしたらいいのかわからなかった。

No.147 10/07/19 01:53
眠り姫 ( Y4xRh )

『百合さんは仕事に戻ってな。』

店長まで言ってきた。

いくら上司の指示でも、聞くわけにはいかないと思った。

『…戻りません。店長が仕事に戻るまでは絶対に!』

ふぅ…💨っと、ため息をつく店長。

ゆっくりと話し出した。

『…お前さ、百合さんのことどう想ってるわけ?』

いきなり核心を…

勇気さんが真剣な顔で答えた。

『…失礼ですが、あなたに僕らのことに口を出す権利は無いと思うのですが?』

店長が鼻で笑う。

『はっ(笑)百合さんから聞いてないの?俺は百合さんが好きだって、本人に伝えたはずだけど。俺には真実を知る権利があんだろ?』

勇気さんが黙ってる。

店長が続けて

『お前、大人しそうな顔してよくやるな。二股?かみさんと子供がいて、よく堂々と百合さんと手を繋いでこの街を歩けるなッ!』

後半は声が大きくなった。

『…店長!勇気さんは悪くありません…私が悪いんです。勇気さんを責めないでください』

店長を止めたくて必死だった。

すると、勇気さんが重い口を開いた。

No.148 10/07/19 02:00
眠り姫 ( Y4xRh )

『確かに僕には妻と子供がいる事実は変えられない。』

私は耳を塞ぎたかった。

勇気さんの顔が見れない…。

『開き直ってんのか?』

店長が攻撃的に質問する。

勇気さんの答えを聞くのがこわくて、目をぎゅっと強く閉じた。

『店長さんは何か誤解をなさっていますね。』

『…何がだよ』

『僕には二年前まで家庭があり、妻も子供も確かにいました。』

『…………』

『…今はもう独り身です』

私は目をパチっと開いた。

『…どーゆことだぁ?』

店長も不思議がっている。

勇気さんが独り身…?

…なぜ…?

No.149 10/07/19 02:12
眠り姫 ( Y4xRh )

頭がパニックになりそうだった。

私が混乱しているのに気づいた勇気さんが、ゆっくり話し始めた。

『三年前、僕は家庭がありながら百合さんに惹かれていました。しかし、家庭も壊す勇気がなかったのも事実…。』

私と店長は黙って聞いていた。

『百合さんがこの街へ引っ越し、一年は普通に過ごしていたと僕は思ってた。けど…』

勇気さんに背中を向けたまま、意識だけが勇気さんの言葉に反応してる。

『妻は違った…。他に好きな人が出来たからと、娘を連れて出ていった。僕では家族を守れないと見限ったらしい。2~3日して妻の欄だけが記入された離婚届が届き、僕も記入をし判を押して提出した。』

嘘…。

そんな話は初めて聞く。

勇気さんはすでに家庭持ちじゃなかったの?

…確かに…

今思えば、三年前までしていた左手の結婚指輪がなくなっている…。

体の力が抜けた。

『あなたが気にしている二股疑惑は解決と言うことでよろしいですか?他には何か?』

勇気さんはニッコリ店長に笑いかける。

店長も驚いて言葉にならなかったようだった。

No.150 10/07/19 02:24
眠り姫 ( Y4xRh )

店長はくるりと体勢をかえて、裏口の前に立った。

『…他にはね~よっ。ただな…』

チラッと店長が私を見る。

『俺は諦めねーぞっ!百合さんのことを!これからもう遠慮はしねーから(笑)』

ニカっと笑い、高らかに宣戦布告をして仕事に戻って行った…。

ホッとしたような、気が抜けたようなでその場に座り込んでしまった。

すると、勇気さんが後ろから優しく腕を掴んで立たせてくれた。

『…大丈夫?』

『あっ…はい…』

なんだか気まづい雰囲気。

『楓から聞いて知っているもんだと思ってた。ごめんね…』

勇気さんが謝る。

『いいえっ!謝らないでください…』

勇気さんの顔が見れない。

『…どうしてこっちを見てくれないの?』

クイっと勇気さんが私の顔を自分の顔の方へ向けた。

『………っ💦』

言葉に出来ず焦っていると、

『…これで堂々と付き合えるかな?なかなかタイミングを逃してしまっていたけれど、僕と付き合っていただけませんか?』

真剣な顔で勇気さんが告白してくれた。

私は嬉しくて、安心して目に涙が溜まってきた。

No.151 10/07/19 02:36
眠り姫 ( Y4xRh )

『…はい…。』

涙がこぼれた。

『…泣くほど嫌だったかな…』

寂しそうな顔をする勇気さん。

『…ちがっ!…嬉しくて…』

言葉にならない。

勇気さんが私を抱きしめる。

二人の鼓動が重なりあって、やっと手が届いた気がした。

勇気さん…あなたが好きです。

嬉しい余韻に浸っていると勇気さんがポツリと言った。

『…僕も聞いてないんだけど?店長さんが百合ちゃんに告白してたなんて』

子供のようにスネている勇気さんが、たまらなく愛しい…。

背伸びをし、勇気さんの首に腕を巻き付け抱きしめた。

『心配かけたくなくて…ごめんなさい。でも、私はあなただけです』

告白のお返しに、私も気持ちを伝えた。

『…ありがとう。好きだよ百合』

初めて名前だけを呼ばれて、なんだか恥ずかしくなった。

これが幸せって言うのかな?

あなたが好きです。

あなたがいてくれれば、私が私でいられます。

しばらく抱き合ったあと、仕事に戻った。

No.152 10/07/20 20:25
眠り姫 ( Y4xRh )

仕事に戻ると宮島さんが

『大丈夫?』

っと聞いてきた。

『…はい?💧』

訳がわからずあたふたしていると

『…店長から聞いたよ。具合悪いんだって?休憩のばしてやったからって言われたからさ~。無理しちゃダメよ~』

『…はい💧すいません』

店長が待ち伏せしてたから、ちょっと休憩時間が過ぎちゃってたもんなぁ…

気を遣って?体調不良ってことにしてくれてたんだ…

なんか何から何まで申し訳ないな…

店長は私なんかのどこがいいんだろ…

私なんかいいとこ一つもないのに。

あっ…

そういえば…

どうしよう…

如月 未来ちゃん…

私、協力するって言ってたんだっけ…

どうしよう…

でも、何て言えばいいのかな…

シフトはあまり組むことはないけど、電話とかがきたら…

悩んでも、悩んでも答えはでなかった。

少しづつ店長に如月さんのいいところを教えてあげるところから始めようかな。

それで、店長が彼女を好きになってくれたら…

丸く収まるかな…

でも、すごく不安。

No.153 10/07/20 22:41
眠り姫 ( Y4xRh )

あれから勇気さんは日帰りですぐにまた向こうに戻り、普通の毎日が過ぎてた。

メールをしたり、たまに電話したり…

きっと普通の恋人みたいにしてたと思う。

私のいる街と、勇気さんのいる街まで、車だったら一時間もかからないで行ける距離。

付き合ってもうすぐ三ヶ月。

何回か休みには三人で遊びに行ったりした。

結笑はとてもなついてる。

勇気さんも優しくしてくれる。

…まだキスまでしかしたことないけど、私は今のままで充分幸せかな。

ただ…

職場では少しづつ何かが変わってきていた。

店長が…

とても積極的にアプローチをしてくるようになり、段々と周りのみんなも何かを感じ始めた。

特に…

如月 未来ちゃんは…。

勇気さんにちょっと前に相談したら

『何かあったらすぐに連絡して。飛んでいくから。くれぐれも一人で動かないように』

って言ってくれたけど…

迷惑かけたくないから言えないよ。

わざわざ来てもらうのも悪いし、勇気さんと店長が直接会うのも少しこわい…

店長にさりげなく普通にしてくれるように頼んでみようかな…。

そうだよね…それがいいよね?

No.154 10/07/20 22:54
眠り姫 ( Y4xRh )

次の日の仕事中に店長と二人で棚整理をしてた。

二人っきりになるのはやっぱりこわかったし、仕事中なら人もいるし…

緊張しながら話しかけてみた。

『あの…店長…。』

『んっ?なんだぁ?』

『最近バイトさんたちが私と店長のこと噂してるの…わかりますか?』

『…あぁ。』

『職場内の空気もありますし、前みたいに普通に接していただけるとありがたいのですが…』

店長を見ることができず、お互いに目の前の本棚に黙々と本を並べていく。

『俺は普通にしてるぞぉ?ゆりさんが露骨に俺を避けてるからみんなが変に思うんじゃないか?』

ニカッと笑ってこっちを見た。

『…そんな…露骨になんか避けてませんよ』

あれ以来、店長とどう接していいかわからずに、確かに一線引いていたところがあったので内心すこしドキッとした。

店長は仕事をしながら話を続ける。

『…それに。』

目線だけ店長にやると

『好きな女には優しくする主義なんだよ、俺はねっ!』

優しく微笑んでた。

慌てて目をそらし、恥ずかしくて仕事をした。

なんて自分に正直で真っ直ぐな人…

No.155 10/07/20 23:07
眠り姫 ( Y4xRh )

とりあえず、話を変えようと如月さんのことをアピールしようとした。

…酷い女です。

『きっ…如月さんって可愛いですよね』

突然何を言ってるのか、自分でも失敗したと思った。

『おぉっ!可愛いな』

ふぅ…店長が普通に返してくれて助かった。

『すごく店長を慕ってますもんね!如月さんみたいな彼女だったら、男性は嬉しいだろうなぁ~ねぇ…店長?』

また目線だけを店長に向けた。

『…まぁな』

恐る恐る本題に入った。

『…店長も如月さんみたいな子はどうですか?』

はぁ~…っと大きなため息を店長がつく。

手を休めて私の方を向いた。

顔が真剣だ。

『あのなぁ~…何が言いたいの?私はやめて、如月さんとくっついたら?とかって言ってんの?』

『いえ…あの…』

『前にも言ったかもしんねーけど、俺はお子ちゃまには興味ないの。俺が興味あるのは生垣 百合だけだから。わかったら、くだらねーこと言ってねーで仕事するぞっ!』

パコン…本で軽く頭を叩かれた…。

自分の無神経さに胸が痛んだ。

そのあとは無言で仕事をした。

No.156 10/07/20 23:29
眠り姫 ( Y4xRh )

どうしていいかわからない。

仕事あがりの時間に近づいて、気まづいと思っていたのは私だけなのか、店長が普通に話しかけてくれる。

店長、宮島さん、大学生のバイトの男の子、私の四人で引き継ぎをやった。

それから結笑のお迎えに行き、なんだか勇気さんの声が聞きたくなったので夜、結笑が寝てから電話を掛けてみることにした。

バタバタと全部終わり、結笑も寝てくれたので携帯を開く。

『今ちょっと電話してもいいですか?』

先にメールを入れてみた。

すると、すぐに勇気さんから電話がかかってきた。

未だに勇気さんとの電話は緊張する。

ピッ…

通話ボタンを押すと、電話の向こうからガヤガヤした感じと勇気さんの声がした。

『もしもし、百合?』

キュンとする。

『はい…勇気さん?今もまだお仕事中ですか?』

お仕事中にしては騒がしいかな…?っと思った。

No.157 10/07/20 23:38
眠り姫 ( Y4xRh )

『いや、今は居酒屋なんだ(笑)今日は部下の送別会があって、仕事がまだあるのに無理矢理ここへ連れて来られてしまって💧参ってるとこ』

勇気さん優しいから(笑)

『そうなんですか…大変ですね(笑)』

『うん、適度なところで抜けてもう少し仕事をするよ。そうだ、これからなんだけど…しばらく忙しくなるから逢いに行けなくなるんだ…』

お仕事忙しそうだな…

邪魔になりたくないから、応援しなくちゃ。

『お仕事だから仕方がないですよ…私は大丈夫です!でも、電話やメールは…してもいいですか?』

『うんっ!返信は遅れるかもしれないけど、なるべく返すようにする。百合や結笑ちゃんのことを聞かせて?それを励みに頑張るよ』

クスッと勇気さんが笑う。

どんな顔で笑ったか想像がつく。

きっと私の好きな顔で今電話してるんだろうな…

ちょっと逢いたくなっちゃったりして…

でも、我慢っ!我慢っ!

『そう言えば、どうかした?何かあった?』

勇気さんが聞いてきた。

そう言えば、店長のことで電話したんだっけ…

『あの実は…』

そこまで言いかけたとき、電話の向こうで声がした。

No.158 10/07/20 23:54
眠り姫 ( Y4xRh )

『社長~っ!何してんすか~?!』

『あーっ❤いたいたぁ~❤吉岡さぁ~ん❤早く来てくださいよぉ~❤』

楽しそうな声がする。

『吉岡さん!電話なんか切って、早くこっちに来てぇ~❤吉岡さんがいないとつまらなぁ~い!』

若そうな女の子が勇気さんの近くに来たのがわかった。

『…野中さん、大事な電話中だからみんなと向こうへ行っててくれないかな…?』

優しい口調で注意する。

きっと今、勇気さんは苦笑いをしてる…。

顔は見えなくても、声でなんとなく表情がわかる。

『や~だぁ~!吉岡さんも一緒にぃぃぃ~』

女性はかなり酔ってるのかな?

『…わかったから、先に戻ってて?電話が終わったら行くから…』

なんだか…電話したの悪かったみたいだな…

『…小林ッ!ちょっと来て!野中さんを連れて先に戻っててくれないか?』

『や~だぁぁぁ~』

『はいっ社長!わかりました!ほら、美雪ちゃん行くぞっ!』

『…ありがとう、助かるよ』

『や~だ~…吉岡さぁ~ん…』

野中…美雪さん?の声が次第に遠くなる。

勇気さんのこと好きなのかな…?

酔ってるだけかな?

No.159 10/07/21 00:06
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんきっとモテるよね…

だって誰から見たって素敵だもん。

こういうとき、離れているのがつらいな。

『…ごめん、百合。みんなすでに出来上がってて…それで、どうした?』

申し訳なさそうに勇気さんが謝ってくれた。

邪魔しちゃ悪いな…

『…忘れちゃった(笑)また思い出したら連絡しますね。忙しいのにごめんなさい…もう戻ってください、みなさんお待ちですよ!』

精一杯強がった。

『…百合』

勇気さんの声のトーンががちょっと下がった。

『本当にごめん…。また電話するから。』

『はいっ!お仕事頑張ってくださいね!』

『…うん。ありがとう』

『おやすみなさい』

『おやすみ…』

電話を切った。

会社の人はいいな…

毎日勇気さんと会える。

仕方がないんだけどね…

でも…ちょっとだけ寂しいかな。

まぁ、声が聞けただけでもいいか!

うん。明日も頑張ろう~。

気になるけど、気にしないようにして眠りについた。

今ごろまだ飲んでるのかな…

もう仕事に戻ったかな…

なかなか寝付けなかった。

No.160 10/07/21 00:40
眠り姫 ( Y4xRh )

ちょっとだけ寝不足のまま一日が始まった。

朝起きたら勇気さんメールがきてた。

時間は朝の4時23分…。

この時間まで飲んでたのかな?

でも、途中で抜けて仕事に戻るって言ってたし…

なんだかまだちょっとモヤモヤしてる。

『今から帰るよ。なんとか区切りのいいとこまで仕事が片付いたから、やっと寝れます(笑)百合はもうすぐ起きて、結笑ちゃんのお弁当作りかな?百合の弁当が食べたいな…なんてね(笑)おやすみ』

…仕事してたんだ。

なんだかちょっと疑った自分が嫌だった。

『勇気さんおはようございます。遅くまでお疲れさまでした。今度、勇気さんにもお弁当を作りますね(笑)ゆっくり休んでください。おやすみなさい』

返信して、朝の準備をする。

お弁当を作り、朝御飯の支度をして結笑を起こす。

眠い目を擦りながら結笑が起きてきた。

さて、今日も一日が始まったよぉ~!

『結笑さ~ん、今日も一日頑張ろうね!』

『うんっ❤』

結笑がとびきりの笑顔で答えてくれた。

あなたの笑顔で元気が出ました。

ママは今日も頑張るねっ。

『おはようございまぁす』

No.161 10/07/21 00:50
眠り姫 ( Y4xRh )

事務所の扉を開けると、そこには如月さんが立っていた。

『…おはようございます』

私の顔を見ない如月さん。

『あれ…宮島さんは?』

確か今日は宮島さんと一緒のシフトだったはず…

如月さんに会わせる顔がなかった。

『昨日、電話が来てかわってくれって言われたんです。』

反応も冷たい気がした。

『…そっか。ありがとう、今日はよろしくね!』

私がそう言うと、如月さんが口を開いた。

『あの、聞いてもいいですか?』

『…何かな?』

『店長のこと…どう思ってるんですか?』

『前にも答えたけど…尊敬する上司以外の感情はないし、私ね…付き合ってる人がいるの。その人のことが大好きだから、これからも今の関係が変わることはないよ』

ハッキリと答えた。

『でも店長は…』

そこまで言ったとき、

『おはよ~二人とも早いなっ!さぁ今日も頑張るぞっ!』

店長が元気に入ってきた。

…聞かれたかな?

別に聞かれても困りはしないけど、気まづいな…

今日はこの三人で仕事かぁ…

一気に気が重くなった。

No.162 10/07/21 12:04
眠り姫 ( Y4xRh )

なんだか気まづい…

すると、そこにバイトの男の子がケーキを持って遊びにきた。

『お疲れさまで~す!三谷で~す!』

私はほとんど会ったことがないよなぁ…

今時の男の子って感じかな。

可愛い系の子。

例えるなら、人懐っこい子犬みたい。

『未来お疲れ!ケーキ買ってきたっ!』

私には三谷くんが如月さんにシッポを振ってるように見える…

『…大和ッ!』

『なぁに??』

名前を呼ばれただけで、三谷くんの顔がパァっと明るくなった。

…これは間違いなく、如月さんを好きだよね?

恋愛に鈍い私でもわかるくらい、分かりやすい子だよね…(笑)

若いなぁ~なんて思いながら仕事をしてた。

『三谷ぃ~お前邪魔しにきたの?』

店長が三谷くんの後ろから、首に腕を回して体重をかけてる。

『店長…重い…💦』

この本屋はみんな仲がいい。

『…大和ッ!仕事の邪魔しないでよ!用事が済んだら帰れば?』

如月さんが強い口調で注意する。

一気に三谷くんのテンションが下がる。

本当にわかりやすい💧

『…未来ごめん。』


シュンってしてる。

可愛いなぁ(笑)

No.163 10/07/22 09:26
眠り姫 ( Y4xRh )

『じぁ、俺休憩室で未来を待ってるね😃』

…めげない。

そんな打たれ強さを私も欲しいなぁ~なんて思ったりして(笑)

『…はぁ?さっさと帰ってよ!!』

如月さんは三谷くんのこと嫌なのかな?

私にはイイコに見えるけど…

『まぁまぁ…如月そんなに怒るなよ(笑)三谷だってわざわざケーキ持ってきてくれたんだから、休憩する順番に三谷の相手をすればいいだろ?』

店長に言われてシュンとなる如月さん。

『…はぁい』

やっぱり店長が大好きなんだなぁ…

『じゃあ俺、休憩室で遊んでるんで😁未来~待ってるよ😍』

それから、三人であまり会話もなく仕事をして、私から休憩に入ることになった。

三谷くんとは挨拶くらいしか話したことないけど、なんだか仲良くなれそうな気がした。

『コンコンッ。失礼しまぁす…』

事務所の扉を開けると、事務所のソファーで横になりながら携帯をいじってる三谷くんがいた。

『ほとんど始めましてだよね?私は生垣です。よろしくね』

ガバッと顔を上げる三谷くん。

『三谷でっす!よろしくお願いします!』

…元気な子だなぁ(笑)

No.164 10/07/22 18:42
1児のママ ( ♀ xGylnb )

一度レスさせていただいた者です😄

引き続き楽しく読ませてもらってます(´∀`*)❤

不倫はよくないよぅ😢なんてハラハラしてたので吉岡さんがフリーになっててよかった😆(離婚なので素直には喜べませんが😁💦)


あの……話に関係なくて申し訳ないし余計なおせっかいなんですか😖
「気まづい」→「気まずい」です😣💦
ごめんなさい💦愛読してるだけに気になっちゃったもので😞

これからも頑張ってください😄✨応援してます⤴⤴

No.165 10/07/22 21:56
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 164 一児のママさん💓

またまた来ていただいて、ありがとうございます☺

きまづい→気まずい

ご指摘ありがとうございます😊

どうも普段から友達と遊びで始めた『ぁぃぅぇぉ』などの小さい文字を多用したり、『つ』ゃ『づ』の方を使ったりしてるのが癖になっちゃって💧💧💧

読みづらいですよね😨

当たり前ですが、『気まづい』だと変換されないので、わざわざ『気』と『まづい』で打ってしまったり😂

変なこだわりがついてしまって、読みづらくてすいませんm(_ _)m💦

やってしまったところは直してるつもりだったんですが、気まづいは普通に使ってました😱💦

慣れってコワイ…😨⤵

気づく範囲で読みやすいように直していきますので、お暇なときにでも読みに来てください☺✨

吉岡さんは嫁さんに捨てられました😨(苦笑)

No.166 10/07/22 22:13
眠り姫 ( Y4xRh )

私は思いきって聞いてみた。

『…三谷くんてさ、如月さんのこと好きなのかな?』

三谷くんの顔が真っ赤になる。

『…俺、なんでバレるのかなぁ…⤵みんなにも言われるんですよね😥』

それだけ顔や態度に出れば、誰でもわかると思うけど(笑)

『三谷くんは自分に素直で、私は羨ましいけどな』

色んな話をした。

『未来と俺、小学校から一緒の幼馴染みってやつで、俺小さいときから泣き虫だったからよくイジメられて…』

幼馴染みだったんだ。

『未来ってあんな性格だから、歳とか性別とか関係なく相手に向かって行って、よく俺のこと守ってくれたんですよね(笑)』

如月さんってスゴイなぁ…。

『って、俺かなり情けないけど💧(笑)進学のときも未来と同じ高校に行って、この本屋でバイトするって言ったときも、俺も絶対にここでバイトするって思って(笑)』

三谷くんのガッツはすごいな…。

『未来と一緒にいたいから、今でも追いかけ回してそれで嫌われて…俺、情けないッス(苦笑)』

ちょっぴり悲しそうに笑う三谷くん。

No.167 10/07/22 22:24
眠り姫 ( Y4xRh )

少し空気が重くなり、私も何かいい言葉はないかと探していると…

『…すいません💦俺だけペラペラ喋って💧未来にもよく喋りすぎだって怒られます😭』

本当に可愛いなぁ三谷くんって(笑)

『ケーキどうぞっ!たくさんあるんで、食べてください😊』

『わぁ!いただきま~す』

箱の中を見ると、六個ケーキが入ってた。

ショートケーキ、チョコケーキ、モンブラン、チーズケーキ、レアチーズケーキ、イチゴタルト。

『三谷くんはどれがいい?』

先に選ぶのは申し訳なかったので、三谷くんに聞いてみた。

『うーんと、俺はイチゴタルトとレアチーズで!』

私は可愛らしい三谷くんに笑ってしまった。

『三谷くんって甘党?!二個も食べれるんだねっ(笑)』

三谷くんがケーキを見つめながら、

『いや、俺は普通に好きくらいかな。未来がね、イチゴタルトが好きなんですよ!意外に乙女チックなんです(笑)でも、レアチーズも好きでいつもどっちにしようか悩んでるから、俺がそれを選べば未来がどっちも食べれるかな~って😊』

『三谷くんカッコイイッ!』

思わず声に出していた。

No.168 10/07/22 22:36
眠り姫 ( Y4xRh )

好きな人の好みまで知り尽くしてる三谷くんは、よっぽど如月さんのことが好きなんだろうなと思わずにはいられないくらい真っ直ぐな子だった。

そう言えば…

よく考えたら、私って勇気さんの好みを知らないような…?

甘党なのはわかったけど、三谷くんみたいにどのケーキが好きとかってわからないなぁ…

今度聞いてみようかな。

私はショートケーキをいただいて食べた。

『ごちそうさまでした!美味しかったよ』

挨拶を済ませて、休憩が終わったので仕事に戻った。

次の休憩は店長だった。

何やら事務所から楽しそうな声が時おり聞こえてきた。

きっと店長が意地悪して、三谷くんをかまってるんだろうなぁ…なんて考えてた。

『…生垣さん』

振り向くと、そこには如月さんがいた。

『…どうかした?』

元気がない感じだな如月さん。

『…前に協力してくれるって言いましたよね?』

あっ…そうだった…。

何て言おうかな…

どうしよう…

私があたふたしていると、如月さんから口を開いた。

『…もう協力してくれなくていいです』

『…えっ?』

私は如月さんをまっすぐ見つめた。

No.169 10/07/23 10:19
眠り姫 ( Y4xRh )

『もう店長から告白されました?』

内心ドキっとした。

『…どうして?』

『…今日一緒に仕事をして、店長が誰を好きなのかすぐにわかりました。』

『………。』

『店長…たまに目で生垣さんを見てるんです。とても愛しそうに…私にはわかります』

店長に見られてたの?

だから、いつも私が困ったときにフォローしてくれるのが誰よりも早かったのかな…

『…だから、生垣さんの協力はいりません。店長の好きな人に協力されるなんてすごく惨めです』

『…如月さん』

それ以上は言葉にできなくて、如月さんと話をすることなく仕事をした。

店長が休憩から戻ってきて、その空気に気づいたのか私に話しかけてきた。

『…ゆりさん、如月と何かあったのか?』

『…いえ、何でもないですよ💦』

『…あいつに何か言われた?』

『何もないですよ💦私、お腹がいっぱいで眠くなっちゃったから静かだったかな…(笑)』

こんなとこ如月さんに見られたくないな…

そそくさと仕事に戻ろうとした。

ふっと店長の後ろを見ると、棚の影から如月さんが見ていた。

きっと会話も聞こえてたよね…。

No.170 10/07/23 10:46
眠り姫 ( Y4xRh )

『店長~❤次わたしが休憩に入りますねぇ』

にこやかに如月さんが店長の腕を組みながら話しかけてきた。

うわぁ…大胆だなぁ…

『…おぉ、行ってこぉい!三谷が待ちくたびれてたぞ』

動じない店長もすごい…

『…大和は関係ないってばっ!アイツはただの幼馴染みだしっ💨この歳になってまでくっついてこられるの、正直嫌だし。』

…如月さん…。

『…如月ぃ~早く休憩に入れよぉ~💧』

店長が呆れたように言った。

『はぁ~い…』

しぶしぶ休憩に入る如月さん。

店長が私の方を向く。

『ごめんな、ゆりさん。』

いきなり謝る店長。

『なんで謝るんですか!?』

わたしがビックリしていると、

『たぶん如月が何か言ったんだろ?言いたくなきゃ言わなくていいからさ。…ゆりさんからケンカふっかけるわけないもんな(笑)アイツが何か言ったなと思ってさ!』

ニカッと笑う店長。

複雑な気持ちだな…。

休憩室ではきっと、三谷くんが如月さんのためにいちごタルトとレアチーズケーキをニコニコしながら出してるんだろうな。

恋愛ってうまくいかないね。

No.171 10/07/23 11:07
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さん…

想いが通じ合うのって、奇跡みたいなことなんですね。

私はあなたに出会えて、あなたと想いが通じて、すごく幸せなことなんだと改めて感じました。

如月さんが休憩室から出てきた。

あれ?休憩が終わるにはまだ早いんじゃ…

『未来っ!待ってよ💦ごめんね😠』

三谷くんも出てきた。

『うるさいなっ!早く帰ってよ!大和は今日シフトに入ってないでしょ!』

周りのお客さんもザワザワし始めた。

『…お前らッ!事務所に来いっ!ここは本屋だぞ!静かにしろッ』

店長が怒鳴る…。

三人で事務所に入っていった。

今日はなんだか疲れたような気がする。

あんなに店長が怒るなんて珍しいな…。

三谷くんと如月さん落ち込まなきゃいいけど…

三谷くんが先に出てきた。

『…失礼します。』

三谷くんが私を見て頭をかきながら苦笑いをする。

『店長に怒られちゃいました⤵仕事の邪魔するなら帰れって😔当たり前ですよね…今日は帰ります。お疲れさまです』

『また遊びに来てね!今度は静かにね(笑)ケーキごちそうさまでした。美味しかったよ』

手を振って帰っていく三谷くん。

No.172 10/07/23 23:23
眠り姫 ( Y4xRh )

少ししてから店長も出てきた。

『…店番ひとりでさせて悪かったなぁ~』

…普段通りの店長だ。

『いえ…大丈夫です。如月さんは?』

如月さんが出てこない。

『あいつまだ休憩時間中だろ?事務所にいるよ』

時計を見ると確かにまだ30分くらいしか経ってない。

『そうですか…』

ちょっとだけ店長と距離を置きながら仕事をした。

ー30分後。

如月さんが休憩から戻った。

『…休憩ありがとうございましたぁ~』

元気に戻ってきた如月さん。

でも、すれ違い様に見た如月さんの目が赤く腫れていた気がした。

…泣いてたのかな?

急に心配になったけど、無神経だよねって思ったら聞けない。

自分の中で葛藤していると、店長が如月さんのところへ来た。

『おっ!反抗期の如月が休憩からあがってきたなぁ~(笑)』

如月さんの頭をくしゃっとしてる店長。

『…反抗期じゃないですよっ!てか、子供扱いはやめてくださいっ!!』

言い返しながらも、如月さんの顔は頬を赤く染めて嬉しそうだった。

…きっと店長のこういうところが好きなんだろうなって思った。

No.173 10/07/23 23:34
眠り姫 ( Y4xRh )

『さぁ~仕事始めるぞぉ~』

店長の一言で、また仕事に戻る。

ふぅ…

今日はなんだか疲れちゃったな。

勇気さんは何をしてるかな…

ちゃんとお昼は食べれたかな?

そういえば、三谷くんと話が盛り上がって携帯見るの忘れてた!

携帯がどんどん気になっていく。

ソワソワしながら仕事が終わり、

『お先に失礼します!』

すぐに事務所に駆け込んだ。

一番に携帯を開いた。

…勇気さんからは何も来てない。

昨日遅かったから、まだ寝てるのかなぁ…?

…そんなわけないよね。

もう夕方になる。

結笑が寝てからまた電話でもしてみようかな…。

そう思い、結笑のお迎えに行った。

『ママ~❤』

結笑の笑顔に癒された。

今日の気疲れなんか吹き飛んじゃうくらい、結笑の笑顔には力があるよ。

オムライスの卵は結笑が割ってまぜまぜしてくれた。

お風呂にはいつもアヒル隊長を浮かべて入る。

寝る前に本を一冊読む。

シンデレラ。

結笑が一番好きなおはなし。

今日も一日が終わる。

結笑はすやすや寝息をたてて夢の中へ…。

隣の部屋に行き、勇気さんに電話した。

No.174 10/07/23 23:50
眠り姫 ( Y4xRh )

『プルルル…プルルル…』

5回コールが鳴る。

…忙しくなるって言ってたもんね。

そっと電話を切った。

気づいたらかけ直してくれるかな?

とりあえず、メールを入れて明日も早いし寝ようかな。

『勇気さん、お疲れさまです。忙しいみたいなのでメールにします。私は先に休みますね、おやすみなさい。体に気を付けて頑張ってください』

当たり障りのないメールを送った。

目を閉じると、よっぽど疲れていたのかすぐに眠りについた。

深く…

深く…

遠くに勇気さんが見える。

『…吉岡さ…ん…勇気さん行かないで…ッ!』

ガバッと起きる。

ハァ…ハァ…

夢だった?

勇気さんがどこかへ行ってしまう夢を見た。

時計を見ると朝の3時過ぎをさしていた。

外もまだ暗い。

私は携帯を開いた。

でも…なにも連絡がない。

勇気さんのことで頭がいっぱいになる。

人を好きになるってコワイ。

どんどん自分が変わっていく。

どんどん欲張りになっていく。

どんどんほんの小さなことで不安になっていく。

何も手につかなくなるのがコワイ…。

勇気さん…コワイよ…。

No.175 10/07/24 00:04
眠り姫 ( Y4xRh )

それから三日が経った。

相変わらず勇気さんとは連絡がとれないまま…。

私の胸は不安で押し潰されそうだった。

でも、結笑のため、自分のため、必死で普通にしてた。

そんなとき、楓さんからメールが来た。

『久しぶり!百合ちゃんも結笑ちゃんも元気?突然なんだけどさ、週末こっちに泊まりで遊びに来ない?』

本当に突然だった。

今日は金曜日…

明日からっ?!

楓さんらしいな(笑)

気分転換に、行くことにした。

あの街に行くのは決意して出て以来、一度も行ってない。

ちょっとコワイ気もしたけど、もしかしたら勇気さんに会えるかもしれないって思ったら、気持ちは行く気になっていた。

…高柳にも会うのかな。

あれ以来、連絡もとってないけど…。

元気にしてるかな。

不思議ともう憎しみは消え、少し懐かしさがあった。

そう思えるようになったのも、勇気さんのお陰だろうなって思った。

…結笑の父親。

複雑な想いを抱えて、あの街へ再び足を踏み入れた。

『百合ちゃ~ん!久しぶりぃ~!』

楓さんが駅まで迎えに来てくれた。

相変わらずスタイル抜群で、綺麗な人だなぁ…

No.176 10/07/24 00:17
眠り姫 ( Y4xRh )

『…お久しぶりです(笑)お招きいただきまして、ありがとうございます!結笑、ご挨拶して?』

結笑の頭をポンポンっとした。

『こんにちは!』

大きな声で挨拶が出来た結笑。

『きゃ~❤あの赤ちゃんがもうこんなに大きくなったの?!可愛い~❤やっぱり百合ちゃん似だね(笑)』

笑っていると、楓さんの後ろの方から声がした。

『…楓ッ!』

その声に少しドキッとした。

忘れるわけがない。

だって、その声の持ち主は…結笑の父親だから。

『…ごめんね、百合ちゃん。うちに泊まるって行ったらアイツがくっついてきちゃってさ💧』

楓さんが謝る。

なんとなく、会ってしまうような気がしてた。

『平気ですよ!結笑にとっては世界に一人の人ですから』

笑ってみたけど、私はちゃんと笑えてるかな?

影がどんどん近づく。

『…よぉ。元気だったか?』

上から目線は相変わらずで…(苦笑)

『…お久しぶりです。お陰さまで私も結笑も元気にしています。ほら結笑、ご挨拶してね』

始めてみる金髪の大きな男性に、結笑は緊張してるみたいだった。

『こっ…こんにちはっ!』

手がグーになってる(笑)

No.177 10/07/24 00:30
眠り姫 ( Y4xRh )

ゆっくりしゃがみ、結笑目線にあわせた。

『…おぅ。こんにちは!でっかくなったなぁ…結笑。』

優しい顔をして、その大きな手で、結笑のほっぺを優しくビョーンっと引っ張った。

そんな光景を見て胸が痛んだ。

ごめんなさい…。

『バシッ❗』

『…イテッ💢』

楓さんがいきなり高柳の頭を叩いた。

私も結笑もビックリして言葉にならない。

『…レディに対してそれはないでしょ❗結笑ちゃんが固まってるじゃない!ゆりちゃんもっ!全くガサツなところは成長しないんだから~💨』

楓さんが腕を組んで高柳を見下す(笑)

『うっせーなッ💢人を叩くようなガサツな女に言われたくねーよッ❗』

高柳が立ち上がり、逆に楓さんを見下す。

本当に似てる二人だなと思ったら、笑いがこみあげ声を出して笑ってしまった。

『…ふふっ(笑)』

みんなが私を見る。

『あっ…ごめんなさい💦やり取りが面白かったから💦』

慌てて言い訳した。

『それ、フォローになってないよぉ(涙)百合ちゃ~ん💧』

楓さんが結笑に抱きつく。

ホッペにチュッチュしてる(笑)

楓さんとも…血の繋がりはあるもんね。

No.178 10/07/24 00:46
眠り姫 ( Y4xRh )

また胸が痛んだ。

すると、高柳が私の前に来た。

『…お前変わったな。前はそんな顔して笑ってるのなんか見たことねーし。明るくなったな』

優しい顔で言う。

『あの時は…』

言いかけたときに、高柳が言葉をさえぎった。

『あっ…前にも一回だけ見たことあったな。吉岡といたときに。』

ドキッとして言葉がでない。

『…そんな顔すんなって(笑)もう気にしててねーよ!』

おデコに軽くデコピンされた。

『…痛っ!』

慌てておでこを押さえる。

『ぷっ(笑)今のお前の方がいいよ!…で、今は吉岡と付き合ってるんだって?』

またドキッとした。

『…なんで知って…』

出ない声を振り絞り、小さな声で聞いてみた。

『…風の噂でね(笑)アイツも独立して、今じゃうちのライバルにもなりかねないからなっ!』

高柳の耳に入ってたんだ…。

きっと立場がなかったよね。

自分の行動の無責任さに罪悪感を感じた。

『…ごめんなさい』

それが精一杯だった。

そしてなぜかまたデコピン…(涙)

『だーかーらっ❗謝んなって💨気にしてねーし、お前にも結笑にも幸せになって欲しいと思ってるよ、俺はなッ❗』

No.179 10/07/24 01:00
眠り姫 ( Y4xRh )

しばらく会わないうちに、高柳は立派になっていた。

『…結笑にも父親だと名乗るつもりはねーよ。今さら混乱させたくねーし…』

今になって気づいた高柳の不器用な優しさ。

始まりは本当に最悪で、憎しみしかなかった感情が、今では罪悪感と感謝に変わってる。

『…ありがとう…』

喋ったら涙が出そうだった。

そのとき結笑が高柳に、

『あーっ❗ママをパッチンした❗ダメーッ❗』

プンプン怒ってる。

どうやら、私がデコピンされているのを見てイジメられてると思ったらしい…(笑)

『…結笑、ママは大丈夫だよ(笑)』

そう言っても、結笑はまだホッペを膨らませてる。

『わりぃ~わりぃ~(笑)そうだよなぁ~俺が悪かったよなぁ!じゃあさ、アイス買ってやるから許して!』

あの高柳が人に…

子供に低姿勢…?!

私が呆気にとられていると、楓さんが笑った。

『…瞬ね、変わったでしょ?(笑)百合ちゃんを失って、大切なものに気づいたみたいなの。人としての情を持ってなかったのは、人形だったのは瞬の方だったのかもしれないわね』

そう言って、楓さんが高柳と結笑を優しく見つめる。

No.180 10/07/24 09:45
眠り姫 ( Y4xRh )

私は高柳からたくさんのものを奪ってしまったのかもしれない…。

『じゃあ、行こっか!』

私はポカーンとした。

『あの…どこに?』

楓さんは笑いながら、結笑のもとへ走って行った。

『遊園地だよッ!』

高柳が結笑を抱きあげ、隣に楓さんが並んで歩く。

旗から見たら家族に見える。

結笑も高柳や楓さんに慣れたみたいで、楽しそうにはしゃいでる。

『百合ちゃ~ん!早く~』

私は足早に三人に追いついた。

私、楓さん、結笑&高柳で歩いた。

『キラキラ!キラキラ!』

結笑が高柳の金髪を珍しそうに触る。

『おいっ、結笑!やめろよっ!髪型が崩れんだろ~💧』

楓さんが結笑をあおる。

『結笑ちゃんもっとぐしゃぐしゃにしちゃえ!(笑)』

きゃはははと笑った。

『楓っ!結笑に変なこと教えんなよ💨結笑もやめろって!』

すごくにぎやかだ。

『キラキラきれ~😲✨』

結笑はご満悦💧(笑)

目をキラキラさせて高柳の髪の毛をいじってる。

『…まぁいいけど。』

あの高柳が照れてる!

そこですかさず楓さんが突っ込む。

『なに照れてんのーっ!』

高柳の背中を叩いた。

No.181 10/07/24 10:03
眠り姫 ( Y4xRh )

『…うっせ!(笑)結笑、楓おばちゃんはうるさいなぁ~』

話をふられた結笑は意味がわからず高柳を見てる。

『私おばちゃんじゃないし💢まだお姉さんよ💨』

楓さんが怒ってる(笑)

昔からは想像できないくらい、楽しい時間を過ごせた。

私は乗り物系が苦手だから、ベンチに座ってティーカップで回ってる楽しそうな三人を見てた。

回り終わって降りてくる三人。

すると、楓さんと結笑が手を繋いでどこかへ行く。

あれ…?っと思っていると、高柳が隣にドカっと座った。

『…あぁ~回りすぎて気持ち悪ぃ…。あっ、楓と結笑はジュース買いに行ったわ』

両腕をベンチの背もたれにかけて空を見上げてる高柳。

『なぁ、百合。』

真剣な顔になった。

『…はい?高柳さんなんですか?』

すると、プッと高柳が吹き出す。

『…瞬でいーよ。これからもお前達がよかったらこっちに遊びに来ればいーし。』

高柳の知らなかった一面がたくさん見える。

…知らなかったんじゃなくて、知ろうとしなかったんだね、私は…。

本当は子供みたいに無邪気で純粋なだけだったんだね。

わかってあげられなくて、ごめんなさい。

No.182 10/07/24 10:18
眠り姫 ( Y4xRh )

『おい百合、聞いてっか?』

その声にハッと我に返り高柳を見る。

『…ごめんなさい。それで何でしたっけ?瞬さん…』

優しく高柳が笑う。

その笑顔を見て、本当に丸くなったなぁっと思った。

『結笑さ、その名前の通り「みんなの笑顔を結んでくれる」優しい子になったな。』

高柳が父親の顔になってる…。

『三年間、一人で大変だったろ?結笑を立派に育ててくれて…ありがとな』

照れているのか、高柳は向こうを向いた。

でも耳が真っ赤になってる。

今までの出来事が走馬灯のように頭の中に流れて、高柳の言葉に涙がこぼれそうになった。

どうして私はちゃんと向き合わなかったんだろう…。

高柳を受け入れられなくて離れて、結笑からも父親を奪って…

たくさん傷つけて…

なのに、いつも高柳は自分が引いてくれた。

私を自由にしてくれて、可愛がっていた結笑も手放してくれた。

私はきっと高柳に甘えてた。

心のどこかで、高柳は私には何もしてこない…。

そんな風に思うようになってたのかもしれない。

私はワガママだ…。

自分勝手だよね。

ごめんなさい、瞬さん…

ごめんね、結笑…

No.183 10/07/24 12:41
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑が戻ってくるから泣いちゃいけない。

必死でこらえてた。

そんな私を見て高柳が、

『…つらくなったらいつでも言ってこいよ。俺、こんなんでも一応は結笑の父親だし?(笑)』

ガキ大将みたいに笑う高柳の笑顔が、昔は嫌いだったのになぜか今は心強く思えた。

私なんて優しくしてもらう資格なんてないよ。

『ママ~❤瞬ちゃ~ん❤』

結笑が手を降りながら走ってきた。

…瞬ちゃん?

高柳を見ると、サッと目線をそらされまた照れてるみたいだった。

『…結笑が俺のことそう呼ぶんだよ…俺は恥ずかしいって言ってんのに、結笑が…』

ブツブツ言ってるけど、結構まんざらでもなさそうなんですけど(笑)

『ママ、楓ちゃんにジュースもらった❤』

ニコニコ顔の結笑。

『はい、瞬はコーラでしょ!結笑ちゃんはコーヒーが苦手だったから、レモンティー😊』

さすが有能秘書だなぁ…

忘れないもんだなぁ…

嬉しくて妙に感心した。

『ありがとうございます!』

四人で少し休憩し、それからまた遊園地で遊んだ。

日も沈み始め、結笑は高柳に抱かれて寝てる。

゛瞬ちゃん゛が気に入ったみたい。

No.184 10/07/24 12:51
眠り姫 ( Y4xRh )

親子だからかな…

何か引かれるものがあるのかな…

自分でも気づかないうちに、声に出して言ってしまってたらしい。

『…知能レベルが一緒だからじゃないかしら?』

楓さんが真面目な顔で答えてくれた。

思わず大爆笑する私。

『楓さん…そんな真剣に答えてくれなくても💦(笑)お腹が…あはははっ💦』

かなりツボだった。

『お前らッ❗俺をガキと一緒にすんなっ💢てか百合は笑いすぎだろッ💨』

高柳がツッこんでくる。

こんなに楽しい時間を瞬さんと過ごせるなんて、あの時は考えられなかったね。

もし、三年前の私たちがこんな関係だったなら…

きっと何だかんだと言いながらうまく行ってたかもしれなかったんだろうね…

瞬さんの新しい一面を知る度に、胸がズキンと痛んだ。

でも…

もう振り返るのはやめよう。

私たちは今を生きてるから。

まっすぐに前を見て生きていかなきゃいけないよね。

今更なにを言ったって、過去に戻れる訳じゃない。

後悔のないように、今を生きていこう。

瞬さんや楓さんに感謝した。

…ありがとうございます。

No.185 10/07/24 13:05
眠り姫 ( Y4xRh )

その日の夜は楓さんの家に泊まらせてもらった。

楓さんと料理を作ってる間に、高柳と結笑は何やら楽しく遊んでる。

『きゃー❤きゃー❤』

『こら待てッ❗』

『ママ~❤』

『あっ、結笑❗ママに逃げるのは反則だぞッ‼』

結笑につられて瞬さんが私を゛ママ゛と呼んだ。

誰に言われても特に何も感じたこともなかったのに、瞬さんに言われると不思議な感じがする自分がいた。

やっぱり瞬さんを他人とは思えなかった。

前に関係を持った人だから?

結笑の父親だから?

瞬さんが変わってたから?

それとも、私が変わったから?

そんなことを考えているときに、なぜだか楓さんの顔がとても悲しそうに見えたのは、気のせいだったのかな…?

『楓っ❗結笑を捕まえろ‼』

瞬さんが楓さんに叫んだ。

『あんた…結笑ちゃんとどんな遊びしてんのよ?💧』

『あぁっ?プロレスごっこだよっ!!』

ぷっ…プロレス…?

その瞬間…ゴツンッ❗

楓さんが瞬さんにゲンコツをくらわした。

『女の子にプロレスなんか教えてどーするの💢もっと女の子らしいことして遊んであげなさいよね💨』

頼りになるなぁ…楓さん。

No.186 10/07/24 13:16
眠り姫 ( Y4xRh )

こんなお姉ちゃんがほしかったな。

強くて、綺麗で、優しくて…

憧れの女性だな。

『…女の遊びってなんだよ。結笑は普段なにしてんだ?』

瞬さんが小さな声で聞いてきた。

『うーんと…お人形さんごっことか…お絵描きとかかな?』

瞬さんの顔が引きつった(笑)

『…お人形…😨』

私も楓さんもきっと同じことを想像したんだろうな。

二人で涙を流しながら大爆笑した。

似合わなすぎる…

瞬さんがお人形ごっこ…

今日はたくさん笑った。

勇気さんのことを考えなくて済むくらいたくさん。

今日も何も連絡がこなかった。

ねぇ…勇気さん…

私今、この街にいるよ。

もしかしたら近くにいるのかもしれないね。

何してるのかな…

三年間連絡とらなかったときは平気だったのにね。

あなたと想いが通じてからは、メールが来ないだけで不安になるよ。

こんな弱い私じゃなかったのにね…。

結笑が寝たら瞬さんも帰って行った。

明日はみんなで買い物に行くらしい。

また楽しい一日になるといいな。

勇気さんのことを気にしなくて済むくらい…。

おやすみなさい。

勇気さん…

No.187 10/07/24 21:17
眠り姫 ( Y4xRh )

『ママっ❗起きて~』

結笑に起こされ目が覚める。

久々にゆっくり寝たような気がする。

楓さんや瞬さんに会って、安心したのかな。

『結笑、おは…』

結笑を見てビックリした。

綺麗に髪を編み込み、白いレースのリボンをつけ、洋服はお人形さんがきているようなフリルのついた服。

そう、まるでどこかのお嬢様みたいな服装をしてた。

『ゆえかわいい☺?』

喜んでいる結笑。

『う…うん…可愛いよ!』

声が裏返っちゃった。

『楓ちゃんがやってくれた❤』

ビックリしすぎて声にならない。

『コンコン。百合ちゃんおはよっ!…勝手にごめんね⤵瞬が結笑ちゃんの為にって用意してたの💧』

瞬さんが…

『いえ…ありがとうございます💦結笑よかったね』

『うんっ❤』

支度をして朝食を食べていると、瞬さんが来た。

『おーす!結笑は起きてっか~?』

『あっ、瞬ちゃ~ん❤』

パタパタと結笑が瞬さんのもとに駆けていく。

結笑を抱き上げ入ってきた。

『よっ~。百合も楓も準備出来たかぁ?』

本当にこのまま結笑に父親の存在を伝えなくていいのか悩んだ。

No.188 10/07/26 15:02
眠り姫 ( Y4xRh )

四人で向かった先は買い物だった。

結笑の洋服やおもちゃ。

みんな高級なものばかり…。

フリフリのドレスのようなお洋服や、綺麗なフランス人形に、お絵描きセットなど。

すぐに着れなくなるからそんなにいらないと言っても

『あって困るもんじゃない』

の一点張り…。

瞬さんと楓さんの価値観はお金持ちの考え方なのかな?

明らかに私とは違った。

綺麗な服ばかりは本当に凄いけど…

どこに着せていけばいいのかな…💧

保育園じゃ浮いちゃうし、お出掛けっていっても買い物くらいだし…

パーティーに出れそうな服はいつ着せればいいの?

着ないうちに着れなくなりそう…

リボンなんか何十個あることやら😠

毎日かえたって一ヶ月は違うのが付けられちゃうよ。

瞬さんがたくさんの物を子供に買い与えるのって、自分がご両親にそうしてもらってたからなのかな。

物より愛情が欲しかったりしなかったのかな。

ちょっとだけ瞬さんが可哀想に思えた。

買い物を済ませ、お昼時になりビル街の中にあるレストランに行くことになった。

周りはランチ時のサラリーマンやOLさんがたくさん歩いてた。

No.189 10/07/26 15:19
眠り姫 ( Y4xRh )

多い人混みにめまいがしそうになった。

どうやらこの辺りに楓さんお気に入りのお店があるらしい。

すれ違う人たちの遠い向こう側に、私の見慣れた後ろ姿を見つけた気がして目で追った。

…勇気さん?!

まさかね…

なんて思いながら前を向こうとすると、若い女性がその男性の腕を掴んだ。

勢いで男性がこちら側を振り向く。

…私は目を疑った。

その姿は紛れもなく勇気さんだった…。

立ち止まり勇気さんと女性のやり取りを見ていた。

離れているからさすがに声は聞こえないが、やり取りは見て伺える。

すごく親しそうだな…。

勇気さんもお昼ご飯だったのかな。

隣の女性は誰?

薄いピンク色のスーツみたいなのを着てるから、OLさんかな?

勇気さんの会社の人かな?

あっ…

勇気さんが笑いながら女性の腕を自分から離した。

頬を膨らませて怒る仕草をする女性。

女性の横顔が見える。

可愛い人だなぁ…。

髪の毛は巻いてるのかな。

爪はネイルがキラキラしてる。

背も低く、とても可愛らしい女性だと思った。

勇気さんに腕を外されたにも関わらず、めげずに攻めていく女性…。

No.190 10/07/26 16:17
眠り姫 ( Y4xRh )

声をかけられなかった。

何度くっついて行ってもかわされる女性が立ち止まった。

勇気さんが振り返る。

笑いながらポケットから何かを取りだしてあげた。

…あめ玉だ。

前、イジケた結笑にもくれたっけ。

勇気さんが下を向いてる女性の顔を覗きこんで何か行ってるみたい…。

私にもそうするね。

あれは無意識のうちにする行動だったんだね。

私だけが特別なわけじゃないんだね。

みんなに優しいんだね…。

すごく恥ずかしくなって、その分悲しくなった。

私は連絡もとれなくて不安で仕方がなかったけど…

勇気さんは違ったね。

私がいなくても笑えるんだね。

あんな勇気さん見たくなかったよ。

こんな醜い私も知りたくなかったよ。

足に重りがついたように、その場から動けずにいた。

涙も出ず、ただただ勇気さんを見ているだけ。

そうしているうちに、勇気さんも女性も人混みに消えていった。

立ち尽くしていると、いきなり誰かに左肩をつかまれた。

『何してるの?暇だったら今からどこかに行かない?』

…見たこともない男の人。

『………』

『…?💧どうかした?おーい💧ねぇ、これからさ~』

No.191 10/07/26 18:06
眠り姫 ( Y4xRh )

知らない男が私の手を引く。

その時…

『…おいッ!ハァハァ…お前みたいな奴がコイツに気安く触んじゃねーよッ💢』

息を切らせた舜さんが私を抱き寄せた。

『…なんだよ…ヤローつきかよ💨』


金髪で背の高い舜さんを見上げて、知らない人は捨て台詞を吐いていなくなって行った。

『ハァ…いきなりいきなりいなくなるから、みんな心配したぞッ!何してんだよッ!』

無表情の私…。

『…オイッ、百合ッ!』

瞬さんが両肩を揺する。

ゆっくり瞬さんを見つめ、ポロっと涙がひとつこぼれた。

『…どーした?』

心配そうに瞬さんが聞く。

『…なんでもないですよ(笑)目にゴミが入ったかな』

とっさに誤魔化した。

けど…きっとバレてたよね。

『…ほらっ、行くぞっ!』

瞬さんが私の肩を抱いて歩き出した。

なんだか昔みたいだね。

聞かないでくれてありがとう…。

その後のランチのことはよく覚えてないけど、きっと笑えてたと思う。

夕方、駅まで送ってくれたのは舜さんだった。

楓さんはいなかった。

『二日間、色々とありがとうございました』

深く頭を下げた。

No.192 10/07/26 18:52
眠り姫 ( Y4xRh )

『…なんかあったら連絡くれれば、俺でよかったら行くから。』

『…ふふっ(笑)ありがとうございます。』

結笑は瞬さんの足にしがみついてる。

『瞬ちゃ~ん⤵ゆえと一緒にいこうよぉ~😫』

私と瞬さんは言葉につまる。

子供って時に大人がドキっとするようなことを口にする。

純粋ってこわい…。

瞬さんが口を開いた。

『結笑~、俺は仕事があるから一緒には行けないんだけどさ、またママとこっちに一緒に遊びに来いよ!約束なっ!』

ニカっと笑って、結笑の頭をポンポンする。

『うん…。』

結笑は名残惜しそうに返事をした。

そんな二人のやりとりを見て、胸がすごく痛んだ。

電車に乗りアパートに帰る。

結笑が隣でウトウトしてる。

携帯を開いた。

けど、勇気さんからは何も連絡はない。

昼間の勇気さんと女性の姿を思い出す。

私は放っておいて、他の女性とは楽しそうにしてるんだね…。

胸が締め付けられるような感覚。

『こんばんわ。今日はお仕事忙しかったですか?』

私は酷い…。

試すようなメールを入れた。

どうか本当のことを言って…。

No.193 10/07/26 20:19
眠り姫 ( Y4xRh )

電車を降りるまで携帯を見続けたけど、何も返事はなかった。

家についてからは軽く夕食を食べて、お風呂に入れて、寝せた。

荷物を整理して時計を見ると、10時を過ぎていた。

携帯を手に取り、開いてみるとメールが一件届いてた。

恐る恐る開いてみると、メールの相手は瞬さんだった。

ちょっとガッカリしてしまった私は最低だと思った。

でもなんで瞬さんが…?

『無事に家に着いたか?』

そっけない短いメール。

だけど、その一言に瞬さんの優しさがたくさんつまっているのがわかった。

だって三年前の瞬さんはメールをしなかったから。

面倒くさいからと全て電話で対処していたし、女性からのメールが来ても一切返信はしなかった。

もちろん、私にも全て電話だった。

って言っても、メールを交換する仲でもなかったよね…。

『はい。無事に家に着きましたよ。結笑はもう寝ました。たくさんお世話になりました。結笑も楽しかったみたいです』

っと返信した。

するとすぐに返事が来て、

『…お前は?』

っとあった。

言ってる意味がわからず、『…私?』っと聞いてみるとすぐに電話がきた。

No.194 10/07/26 20:38
眠り姫 ( Y4xRh )

相手は瞬さん。

『…もしもし?』

なんだか少し緊張して電話に出てみた。

『…だから、お前は?』

いきなりまたそれっ?💧

『…えっ?私?💦なんのことですか??』

怒らせないように慌てて答えた。

『…結笑は楽しかったんだろ?じゃあ、お前はどうなの?…楽しくなかったか?』

あっ…そーゆーことだったんだ。

『ふふっ(笑)』

ついつい笑ってしまった。

『…なんだよ。』

電話の向こうの瞬さんは照れてるのかもしれない。

そう思うと、瞬さんが少し可愛らしく感じた。

『何でもないです!私も楽しかったですよ(笑)』

どうしても笑ってしまう。

『…何笑ってんだよ!』

大きな声を出してるけど、きっと照れてるなって確信した。

昔はこんなに瞬さんのことが理解できるなんて、思ってもみなかった。

しばらく他愛のない話をして電話を切った。

三年前の私には想像もできない未来だったな。

瞬さんと和解できるなんて…。

失礼だけど、実はいい人だったんだな。

あんな出会い方をしなければ、いいお友だちになれたのかもしれなかったのにね。

No.195 10/07/26 20:55
眠り姫 ( Y4xRh )

電話を切ったときに、メールを受信していたことに気づいた。

瞬さんと電話してるときにきてたんだ。

メールをみると、勇気さんからの返事だった。

『こんばんわ。…電話したんたけど話し中だったね。これからまた仕事で連絡できないんだ。ごめんね。…残念だな。百合ちゃんの声が聞きたかったのに(笑)』

…全然、私の質問の答えになってない。

来て嬉しいメールのはずなのに、素直に喜べない自分がいた。

なんだか少しイライラしてどうせ返事来ないしっとひねくれて、冷たい返信をした。

『お疲れさまです。今まで瞬さんと電話してました。盛り上がって長電話になっちゃったみたいですいません。お仕事頑張ってくださいね。おやすみなさい。』

もう寝ようと思い、立ち上がろうとした瞬間…

携帯に着信があった。

みると勇気さんからだった。

…これから仕事で連絡できなくなるって言ってたのに。

電話に出るのをためらった。

ずっと鳴ってる。

ここで電話とらなかったら、もう連絡とれないかな…

ゆっくり電話の通話ボタンを押した。

『…はい』

緊張して声が小さくなった。

No.196 10/07/26 21:41
眠り姫 ( Y4xRh )

『…百合ちゃん?今少しいい?』

勇気さんの声がちょっと低い気がする。

…怒ってる?

気のせいかな…。

『…大丈夫ですよ。急にどうしたんですか?これからお仕事なんじゃ…』

心臓が色んな意味でドキドキしてる。

『…社長から電話きたの?前から連絡とってたっけ?』

普段は優しい勇気さんの口調とは少し違う。

『…楓さんに誘われて、昨日そっちに結笑と行ったら瞬さんも来て…』

『…瞬さん?なんだか急に仲良くなったみたいだね(笑)』

いつもの勇気さんじゃないみたい…。

『瞬さんに名前で呼べって…。』

『そうだね。社長の言うことは絶対だもんね。こっちに来るなら連絡くれれば良かったのに。』

なんだか勇気さんの言い方にカチンっときて、ついつい私もつられて怒り口調になる。

『…私は瞬さんと会ったらいけませんか?それに、連絡をくれなかったのは勇気さんでしょう?勇気さんこそ、今日はとっても楽しいランチだったんでしょうね!』

『…連絡出来なかったのはごめん。今すごく大事な仕事をしてるんだ…。ところでどうして今日のランチが楽しかったかなくて聞くの?』

勇気さんが不思議そうに聞く。

No.197 10/07/26 21:47
眠り姫 ( Y4xRh )

『…私、今日のお昼にビル街に行ったんです。楓さんがお気に入りのお店があるからって連れていってもらって…その途中で勇気さんを見ました』

『あぁ…その店ならたぶん知ってる。でも、見かけたなら声をかけてほしかったな』

また少し声のトーンが下がった。

『…声なんてかけられませんでした。可愛らしい若い女の子と腕を組んで歩いてたから。私には忙しくて連絡くれる暇もないのに、その子とは楽しそうにランチに行くんですね!』

私は興奮ぎみに言い放った。

『…ちょっと待って。だいたいの話しはわかったよ…あの子はうちの新人社員なんだ。それに、ランチに行ったのも仕事のうちだったし、腕を組まれたけどすぐに離してもらったよ。百合は誤解してる』

勇気さんが言ってることはたぶん本当なんだろうなってわかってる。

だけど勇気さんに気持ちがなくても、きっとあの子は勇気さんに気があるのは見ていてわかった。

だからとても不安になった。

私は側にはいれない…。

『…すねてる彼女にアメをあげて、勇気さん優しく笑ってた…』

みんなに優しくしないで…。

私を他の子と一緒にしないで…。

No.198 10/07/26 22:03
眠り姫 ( Y4xRh )

自分がどんどん嫉妬で醜くなってるのがわかる。

『…あれは…なかなか野中さんの機嫌が直らないから仕方なく…。でも、百合が不安になるようなことは一つもないよ。それだけは信じてくれないかな?』

…野中さん?

聞き覚えがあるような…

どこかで会った?

ううん…今日顔を見たけど、全く知らない人だった。

…野中さん…

あっ…

思い出したっ。

確かこの前、勇気さんが飲み会に顔を出してたときに電話してて…

勇気さんを呼びに来た女の子。

確か…野中 美雪さんだった。

声も可愛らしかったな。

…勇気さんのことが好きなんだね。

あんな可愛い子に言い寄られたら、勇気さんだって嬉しいよね。

こんな扱いづらい私より、彼女の方がいいよね…。

部下の女の子のご機嫌取りをするのも勇気さんの仕事なの?

もう何を信じたらいいのかわからない。

わからないよ…

勇気さん…

私こんな自分は嫌だよ。

勇気さんを好きになればなるほど、嫉妬で醜くなっていくようで…

近づけば近づくほど、勇気さんが離れていくようで…

自分のことも、あなたのことも、見失いそうになります。

No.199 10/07/26 22:22
眠り姫 ( Y4xRh )

『もう…いいです。』

考えられなくて、考えたくなくてそう答えた。

『…えっ?百合?』

勇気さんが聞き返す。

『もういいんです…。しばらくそっとしておいてください…今は何も聞きたくない…』

ゆっくり携帯を耳から離し、電話を切った。

携帯を持ったまま、しばらくボーっとしてた。

手の中で携帯が鳴る。

…メールだ。

無心でメールをみると勇気さんからで、

『…傷つけてごめん。ゆっくり休んでね。また時間を見つけて連絡するから…絶対にする。おやすみ』

っとあった。

返信はしなかった…。

する気力がなかった。

明日からまた一週間の始まり…。

頑張らなくちゃ。

結笑のため、自分のためにしっかり前を向かなきゃダメだよね。

…できるかな。

今は少しだけ疲れちゃったな…。

その日の夜は、小さくうずくまって眠りについた。

眠りについても消えるのことない、勇気さんと野中さんのやりとり。

目を閉じれば思い出す。

野中さんの勇気さんを見つめる瞳。

野中さんに笑いかける勇気さん…。

自分に自信が持てない私。

小鳥のさえずりで目を覚ます。

窓には朝日がさしていた。

No.200 10/07/26 22:39
眠り姫 ( Y4xRh )

気づけば、あっという間に時間は過ぎてた。

明日からまたもう週末。

五日間もどうやって生活してたんだろう…

よく思い出せないな。

その間に1~2回着信と、メールを3つ受信してた。

電話には出れなかったし、メールは見たけど返信出来ずにいた。

『…おはよう。今日も一日頑張ろうね!今夜9時半頃に電話します。出てくれたら嬉しいな』

『元気にしてるかな?きちんと食事はとってる?百合のことも、結笑ちゃんのことも心配です。』

『…本当にごめんね。』

この3つだった。

仕事が終わって、結笑のお迎えに行こうとしたとき、店長に呼び止められた。

『百合さん待って!』

振り返ると店長はニンマリ笑ってる。

『最近元気ね~なぁ!ちゃんと食ってっか?かぁちゃんが元気ねーと、結笑ちゃんまで元気なくなるぞっ!』

店長の励ましで少し元気が出た。

『…そうですよね、私が元気じゃないと、結笑まで元気なくなっちゃいますよね』

作り笑いをした。

『…ばーかっ!無理して笑ったって、子供にも俺にもバレバレなんだよっ💨笑うときは心から笑えっ!』

がっはっはっと店長が笑う。

No.201 10/07/26 22:51
眠り姫 ( Y4xRh )

『そ~だ!そ~だ!忘れてた。来週の土曜日に、この本屋の飲み会があるから百合さんも来いよ!』

今までは結笑が小さかったこともあら、一度も出たことがなかった。

『でも結笑が…』

そこまで言いかけたとき、店長が言った。

『誰か結笑ちゃんを預かってくれる親戚はいないのか?百合さんがよかったら、俺らは結笑ちゃんも一緒に来ても全然かまわないんだけどなっ!』

でも夜だし、居酒屋に結笑を連れていくのは少し抵抗があった。

やっぱりやめようかな…。

その考えが店長に伝わったのか、おでこにチョップをされた。

『…ッ⁉💧』

驚いていると…

『…たまには百合さんも息抜きしろよ。最近の百合さんは見ていて痛々しいぞ。俺は明るい百合さんが好きなんだ』

どさくさに紛れて何か言ってる…(笑)

気を遣って励ましてくれてるのかな?

ありがとうございます。

店長…

でも、親戚なんて誰も…

ふっと瞬さんの顔が頭をよぎった。

確かに結笑にとったら父親だけど…

こんなこと頼んでいいのかな…

罪悪感があった。

迷惑だよね。

店長には後で返事をすると伝え、結笑のお迎えに行った。

No.202 10/07/26 23:03
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑を迎えに行き、帰り道で結笑に聞いてみた。

『ねぇ…結笑?…瞬ちゃんにまた会いたい?』

結笑の返事に少しどきどきした。

『うんっ❤ゆえ、瞬ちゃんに会いたい❗』

即答ですか…。

仕事中忙しいと悪いので、メールを入れた。

『忙しいところごめんなさい。実は相談があって連絡しました。言いにくいのですが…来週の土曜日、結笑をみていただけませんか?私は会社の集まりがあって…無理なら断るので大丈夫です』

緊張しながら送信した。

するとすぐに瞬さんから着信。

…早いなぁ💦

緊張しながら出た。

怒られるかな…。

怒られるよね…。

『…はい…』

『あっ、百合?お前、土曜日出掛けんの?』

『会社の飲み会があって…無理なら今回も断るから大丈夫です💦じゃ…』

すぐ電話を切ろうとしたら、向こうで叫んでる。

『待てよッ❗百合ッ‼いーよ、俺でよかったら結笑を預からして。お前、今まで我慢してきたんだろ?行ってこいよ!』

意外な返事だった。

『…行ってもいいんですか?ありがとう…』

少しホッとした。

『…ぷっ(笑)断られると思ってたわけ?お前の頼みなら断らねーし。』

No.203 10/07/26 23:17
眠り姫 ( Y4xRh )

『…ありがとうございます。そう言っていただけると助かります』

肩の力が抜ける。

『…礼を言うのは俺だし。俺を頼ってくれてありがとな。たまにはお前も楽しんでこいよ!』

瞬さん…

なんて素直になったのかな…

開いた口が塞がらないよ(笑)

『…ありがとう瞬さん』

結笑が素早く反応した。

『瞬ちゃん⁉ママ~結笑も💦もしもしする~💦』

私から携帯を奪おうと必死の結笑💧

『…結笑がそこにいんの?ちょっと代わって』

携帯を結笑に手渡すと、結笑は嬉しそうに話している。

『…うんっ❤うん❤元気❗保育園行ってきた☺本当😲⁉わぁ~い✨遊ぶぅ~‼うんっ❤はぁい☺』

電話を私に手渡してくれる結笑。

二人でなんのお話したのかな?(笑)

『結笑ってやっぱり可愛いなッ!じゃあ来週、俺が預かるから詳しく時間とか決まったら連絡くれよな』

ご機嫌で電話をきる瞬さん。

こちらでもご機嫌な結笑さん。

やっぱり親子なんだね…

顔は私にそっくりでも、性格は瞬さんにそっくりだって思うときがたまにあったりする。

とりあえず、飲み会にいけるようになったって店長に来週言わなくちゃ。

No.204 10/07/27 11:17
眠り姫 ( Y4xRh )

月曜日になり、店長に飲み会に出れることを告げた。

『そうかぁ~!よかったな(笑)でも、余計なことかもしれないが誰が結笑ちゃんのこと見てくれるんだ?』

確かに疑問に思うよね…

『向こうに住んでた時の知り合いが…(苦笑)』

空気を読んでくれたのか『そっか!』っと笑って仕事に戻って行った。

ホッと胸を撫で下ろした。

休憩中に瞬さんにメールを入れた。

『土曜日、夜の七時からになりました。私は休みなので、そちらに結笑を連れていきます。よろしくお願いします』

しばらくして返事が来た。

『了解。迎えに行ってやりたいんだけど、午前だけ仕事がどうしても抜けられないから、午後ならいつでも構わないからな』

無理言っちゃったな…と罪悪感を感じた。

『無理言ってすいません…。終わったらすぐに最終で迎えに行きます』

今度は早くメールが来た。

『最終でこっち来たら、帰りタクシーしかないだろ?結笑が泣かなかったら、うちに泊まらせてもいいけど?お前もたまにはゆっくりしてくれば?』

帰りの時間を考えるとお言葉に甘えた方が結笑もいいかな…と思い、そうすることにした。

No.205 10/07/27 16:17
眠り姫 ( Y4xRh )

夕方になり結笑にお泊まりするか聞くと、

『瞬ちゃんと一緒にねんね~❤』

っとワクワクしてた。

ちょっと複雑だったりして…。

うん、泣いたらすぐに迎えに行けるようにしておこう。

勇気さんに連絡しておいた方がいいかな…

でも、なんか今もあの子とイチャイチャしてるかと思うと連絡できなかった。

今日の夜に電話してみようかな…

私が大人げなかったかったよね。

謝ろう

結笑が寝静まってから、緊張しながら勇気さんに電話をかけた。

時計を見ると夜の9時…。

まだ仕事かな?

それとも、もう家かな…

プルルル…

なかなか出ない。

7コール目で出なかったら切ろうと思った。

プルルル…

6コール…。

次で7コール。

プルル…

『もしもしッ?百合っ?』

勢いよく勇気さんが出た。

切らなくてよかった。

『…勇気さん…今もお仕事ですか?』

恐る恐る聞いてみた。

『よかった…もう連絡がとれないかと思って心配した…。うん、今はまた仕事なんだ。一人で会社に残ってる(笑)』

久々に聞く勇気さんの声…。

すごく懐かしく感じた。

この声、好きだな。

No.206 10/07/27 22:15
眠り姫 ( Y4xRh )

『今…少しいいですか?』

『うん、大丈夫だよ』

『…あの私、土曜日に会社の飲み会があって、初めて出ようと思ってるんです』

何て言われるかわからないから緊張した。

『うん、そうなんだ。気を付けて行くんだよ?でも…店長さんももちろんいるんだよね…?』

やっぱり聞かれたかぁ…

『…はい。でも、席は離れて座ろうと思ってます』

『そっか!なら大丈夫だね』

内心、はぁ~良かったっとため息が出た。

『あとさ、結笑ちゃんはどうするの?誰かにみてもらえるの?』

『はい…実は瞬さんに預かってもらおうかと思ってて…』

『………。』

会話が止まった…。

勇気さんが怒るくらいなら、瞬さんに結笑を預けてまで飲み会に行くのはやめようと思った。

『…やっぱり私…』

っと私が言いかけたときに、勇気さんが喋りだした。

『…ごめんね。少し社長にヤキモチやいてたんだ。あんなに拒否してた社長と、今では仲良くしてるみたいで正直不安になってた』

っと言った。

勇気さんが瞬さんにヤキモチ?

勇気さんも私と同じく不安だったの?

なんだか嬉しく思い、勇気さんをより愛しく感じた。

No.207 10/07/28 22:34
眠り姫 ( Y4xRh )

『勇気さんでもヤキモチやくんですね(笑)』

少し笑いながら言うと、

『僕でもってヒドいなぁ~💧(笑)』

って勇気さんが笑った。

そんなとき、なんだか電話の向こうの様子がおかしくなった。

どうしたのかなっと思っていると、勇気さんの声がなぜか少し遠く聞こえた。

『…携帯を返しなさい。』

あれ…?

誰にしゃべってるの?

独り言にしたら変だし…

さっき、一人で会社で仕事してるって言ったよね?

…誰か来たの?

『…返してって言ってるんだけど、わからない?野中さん』

…野中さん?

あの可愛い『野中 美雪』さん?

一瞬で幸せな気持ちから、不安でいっぱいになった。

二人で何してるの…?

『…勇気さんっ!聞こえますか?』

出来るだけ大きな声で叫んでみた。

すると、勇気さんの携帯から女性の声がした。

『…始めまして、あなたが百合さん?』

ドクンっと大きく心臓が鳴る。

『…私、野中 美雪と申します。吉岡社長にはいつもお世話になってます。…色々とね(笑)』

電話の向こうの彼女は笑ってた。

頭が真っ白になり、意味がわからなくなってきた。

No.208 10/07/28 23:18
まぅ ( Etwlnb )

こんばんは😃

ずっと読ませてもらってますよぉ☺
なんだか、ドキドキの展開になってきましたね💦

これからも読ませてもらうので、頑張ってくださぃ✨

失礼しました🙇

No.209 10/07/28 23:44
眠り姫 ( Y4xRh )

『…………』

言葉が…でない。

『…野中さんっ!いい加減にしなさい!』

勇気さんがちょっと怒ってる。

『…きゃっ!そんなに肩を掴まれたら痛いですぅ~女の子にはもっと優しくしてください❤いつもみたいに❤』

『…誤解するような言い方はやめなさい💧さぁ、携帯を返して』

『この電話の相手が噂の百合さんですかぁ?吉岡さんの彼女のぉ~?』

『…そうだよ。わかったら早く返して』

『プツ…プープー…』

電話が切れた。

何が起こったの…?

勇気さんはどうしたの?

彼女は何がしたいの?

頭の中が二人でいっぱいだった。

すぐにかけ直したけど、電源を切られてしまったみたいで繋がらない。

どんどん不安になった。

近くにいれたならすぐにかけつけられたかもしれない…。

この距離がもどかしい。

その後が全く想像もできないために、不安な二時間を過ごした。

二時間後…

やっと勇気さんから電話が来たのは、夜の11時を過ぎた頃だった。

不安で眠ることも出来ずに、携帯を握りしめていたら手の中で鳴った。

すぐに出た。

『…勇気さんッ?』

『百合?…起きてた?』

No.210 10/07/28 23:58
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんの声が聞けて、少しだけ安心できた。

『…心配してました。あの人は…?』

恐る恐る聞く。

『…ごめんね。心配かけて…彼女は帰ったよ』

『勇気さん…今は一人?』

『…うん。会社に一人だよ。だけどもう今日は家に帰るよ』

離れている限り、ずっとこんな不安と戦いながら付き合っていかなきゃならないんだと思うと、涙が勝手にこぼれてきた。

『…勇気さん…』

『んっ?…なに?』

困らせるのがわかってて言ってしまう。

『…さみしい…』

『…うん…ごめん…』

『…逢いたい…よ…』

『…うん…僕も百合に逢いたいよ…』

小さく小さく泣いた。

『…百合…』

『…ひっく…ひっ…』

『…百合?好きだよ…僕が好きなのは百合だけだよ。それだけは…信じて…』

『…う…ん。信じてる…でも…』

きっと勇気さんは困ってる。

悲しそうな顔が目に浮かぶ…。

困らせてごめんなさい。

ただあなたのことが好きなだけなのに…

その夜は勇気さんの

『近いうちに時間を作って必ず会いに行くよ』

の約束を胸に、静かに眠りについた。

No.211 10/07/29 00:09
眠り姫 ( Y4xRh )

まぅさん☺

いつもありがとうございます😁✨

もう妄想が膨らみすぎて、大変です😂💦(笑)

色んな人が出てくるので、読みづらいかもしれませんが…

お暇なときに除きにきてくださいね😍

待ってます🌠

No.212 10/07/29 18:20
眠り姫 ( Y4xRh )

時間を見つけては、一日に一回くらいメールをくれるようになった勇気さん。

無理をさせているみたいで胸が痛んだけど、すごく嬉しかった…。

あっという間に時間は過ぎて、今日は土曜日。

職場の飲み会の日だった。

『今日は飲み会だったね。楽しんでおいで。…くれぐれも飲みすぎと店長さんには注意すること!』

今日もメールが来た。

『はいっ(笑)気を付けて行ってきますね。これから結笑を預けにそちらの街までに行きます。お仕事頑張ってくださいね!』

きっともう返信はないだろうなと思い、支度をして家を出た。

結笑は電車におおはしゃぎ。

『瞬ちゃ~ん❤』

そんなに瞬さんが好きなのかぁ…

結笑…ごめんね。

駅につき、タクシーをひろおうとしていたら携帯が鳴る。

電話だ…誰だろ?

見てみると『吉岡 勇気』っと出ていた。

胸の鼓動が早くなる。

『…もしもし?』

『あっ、百合?もうこっちに着いたかな?』

『ちゅうど今駅に着いたところですよ(笑)すごいタイミングでした!』

『あははっ。ねぇ、今から少しなんだけど会えない?二人の顔が見たいんだ(笑)』

胸がキュンとした。

No.213 10/07/29 22:04
眠り姫 ( Y4xRh )

タクシーをひろい、勇気さんに言われた場所を運転手さんに伝える。

結笑は不思議そうに聞いてくる。

『ママぁ…瞬ちゃん??』

『違うよ~先にちょっとだけお兄ちゃんに会いに行くんだよ!』

結笑は複雑そう…。

悩んでる(笑)

瞬さんか勇気さんかで💧

小さくても女の子なんだね。

ライバルかしら…(笑)

しばらく走ると喫茶店に着いた。

お店全体が木で出来た、あたたかい雰囲気のとても素敵なお店だった。

入り口のドアを開けると『チリンチリン』とベルが鳴る。

日が射す窓側の席に勇気さんが座ってた。

入り口のベルで気づいたのか、ニッコリ微笑みながら手を振ってる。

ドキドキが止まらない。

何から話しかけようか迷っていると…

『お兄ちゃ~ん❤』

結笑が勇気さんのもとへ走って行った。

勇気さんは結笑の頭を撫でて『ちょっと見ない間にまた大きくなったかな』っと言ってる。

『…こんにちは』

緊張しながら勇気さんの前に立つ。

ゆっくりと勇気さんが立ち上がり、自然に優しくハグをしてきた。

『百合、逢いたかったよ』

私の心臓はドキーンッ!っとして、方針状態だった。

No.214 10/07/29 22:19
眠り姫 ( Y4xRh )

そんな私を見て、勇気さんがクスクス笑い椅子を引いてくれた。

『どうぞ』

こういう仕草は紳士だなぁって思う。

結笑はオレンジジュース、私はミルクティー、勇気さんはコーヒーを頼んだ。

しばらく飲み物をのみ、普通に他愛のない話をした。

そんな時間がたまらなく幸せだった。

それから30分くらいしてから、勇気さんの携帯が鳴る。

『…ちょっとごめんね』

そう言って申し訳なさそうに席を立ち、外へ出ていった。

五分もしないうちに戻ってきて、

『…ごめん百合。これから仕事に戻らなきゃいけないんだ…』

言いづらそうに言うから、私は明るく言った。

『はいっ!お仕事頑張ってくださいね。私も結笑が飲み終わったら行きますね。勇気さんは先に行ってください。…会えて嬉しかったです』

ちょっぴり照れながら言う。

勇気さんは私を優しく見つめて、ニッコリ微笑んだ。

そして耳元まで近づいてきて、ポソっと何かを言って笑顔のまま伝票を持ってお店を後にした…。

『今日の百合…すごく可愛いね(笑)』

いつ思い出しても、勇気さんが囁いた右の耳が熱くなる。

勇気さんとの時間はあっという間に過ぎていく。

No.215 10/07/29 22:32
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑がジュースを飲み終わり、ゆっくりお店を出た。

少し大きな道に出て、タクシーを探す。

なかなかつかまらなくて困っていると、着信が来た。

『高柳 瞬』

瞬さんだ…。

電話に出ると、

『もうこっちまで来てるか?わりぃ…仕事でトラブってまだ長くなりそうなんだ。夕方までには、ぜってー終わらせるから待っててくれるか?あっ、それで楓に結笑のこと話したらめちゃくちゃ喜んでさ…💧楓んちに泊めたがってるんだけど…いいか?それなら俺も楓んちに泊まるし』

一気に喋る瞬さん。

マシンガントークだっ…

『あっ…はいっ!楓さんなら心配いらないですね』

『………。』

無言になる瞬さん。

『…どうかしました?💧』

慌てて聞いてみた。

『…やっぱ俺じゃ心配か?』

『えっ…そんなつもりで言ったんじゃないですよ💦結笑も瞬さんに会うのすごく楽しみにしてるし💦』

『…ならいいけど。』

まだ少しスネてらっしゃるご様子…。

『まぁ、いいや!んじゃ、これから楓のマンションに行ってくれるか?』

『わかりました。お仕事頑張ってくださいね!』

『…おぅ。』

小さい声で返事をしてくれた。

No.216 10/07/29 22:44
眠り姫 ( Y4xRh )

もしかして…照れてるのかな?

なんてね(笑)

あの瞬さんがまさかね。

やっとでタクシーを捕まえて、楓さんのマンションに向かう。

着いてインターフォンを鳴らすと楓さんが出て来てくれた。

『百合ちゃ~ん、結笑ちゃ~んいらっしゃい‼』

『こんにちは、今日はよろしくお願いします』

『こんにちは~❤』

挨拶を交わし、結笑の荷物を手渡したあとに、簡単な説明やお願い事をした。

『お茶でも飲んでいってよ!』

っとお誘いがあったけど、これから戻らなきゃいけない時間を考えるとあまり余裕もなかった。

『…このまま行きます。どうかよろしくお願いします、楓さん』

深々と頭を下げ挨拶をした。

『…結笑、イイコにしててね?ちゃんと大人の言うこと聞いてね?それから…』

ハイハイ💨大丈夫よっ(笑)っと楓さんにツッコまれた。

『いってらっしゃ~い❤』

結笑がニコニコしている間に、この街をあとにした。

家に着いてから、軽く支度をして居酒屋へ向かう。

居酒屋の前にはなぜか店長がいた。

『お疲れさまです…なんで店長がここに?💦』

一番最後に鍵を閉めるのにまだ本当なら店にいるはずじゃ…💧

No.217 10/07/29 23:24
眠り姫 ( Y4xRh )

『おぅ!お疲れさん!俺は今休憩なんだ(笑)早く混ざりたくて来ちゃったよ』

がっはっはっと豪快に笑う店長…

元気だなぁ…

吸っていたタバコを消して店長が中に入る。

『ほら、行くぞ!』

個室を貸しきっていて、だいたいみんな集まってた。

店長はもちろん上座のセンター。

私は端に行こうとすると、店長が隣の席をバンバンと叩く。

『ここに座れよ~!』

『…えっ💧いえ私は恥で💦』

『頼む~俺が仕事が終わって戻るまで、この場所を死守してくれ~~~』

店長がからかうから、みんなに笑われ自動的に店長の隣になってしまった。

すっかり店長のペースに乗せられちゃってるよぉ…

それでも店長は場を盛り上げ、みんな楽しそうにしている。

30分くらい経ってから、

『じゃあ俺、休憩が終わるから一回店に戻るわ。みんなは楽しくやってろよ~!俺が来たときにシラフのヤツがいたら減給だ!』

『えっ…💧』

また、がっはっはっと笑って本屋に戻って行った店長。

『…はぁ』

っとため息をつくと、なんだか前からケラケラと笑う声がする。

顔をあげると、目の前に男の人が座ってた。

No.218 10/07/29 23:35
眠り姫 ( Y4xRh )

この人…どこかで見たことがあるような…

マジマジと見ながら考えていると、また男性がケラケラ笑う。

『たまに本屋にお邪魔してるテンチョーの悪友です(笑)』

そう言われて思い出した。

『あっ…思い出した!たまに来て店長と喋ってる人!』

スッキリした。

『百合ちゃんって面白いね(笑)』

また笑う💧

眼鏡をかけて、頭が良さそうな感じの人。

『…なんで私の名前…』

不振の目を向けると

『アイツがさ、よく君の話をするから会ってみたかったんだ(笑)』

『あれ…これ会社の飲み会ですよ?なぜあなたが…』

『あっ、俺は神田!ここ俺の店だから(笑)アイツとは大学で一緒だったんだ(笑)』

よく見ると、そういえばこの人ここの居酒屋の名前が入った黒いTシャツを着てる。

『…神田さん、仕事に戻らなくていいんですか?』

『ん~…そうだね(笑)百合ちゃんも見れたことだし、仕事に戻るかな!アイツが君の話をよくするのがわかった気がする(笑)』

ケラケラ笑いながら仕事に戻って行った。

よく笑う人だなぁ…

No.219 10/07/30 22:53
眠り姫 ( Y4xRh )

でも仕事をしている姿は真剣だった。

見た目がもぅ真面目そうだもんね。

なのに…なんであんなに軽そうな性格なんだろ…

お酒と言うより烏龍茶やジュースばかり飲んでいてトイレに行きたくなった。

トイレから出ると、通路で神田さんとバッタリ会った。

『あっ、百合ちゃんさ、アイツがなんでわざわざ一回さっきここへ来たかわかる?』

いきなり質問をされた。

『アイツって…店長のことですよね?さっき本人が待ちきれなくて来ちゃったって言ってましたけど…?』

私の言ったことを聞いて、神田さんがまたケラケラと笑う。

む~…からかわれてるのかな?

あんまり感じ良くない…

私の気持ちが伝わったのか、神田さんは

『あぁ…悪い悪い(笑)いやアイツさ、君のためにわざわざ一回来たんだよね!』

っと言った。

えっ…私のため?

『まさかぁ~…(笑)』

私が笑うと

『いやいやっ!本当だよ(笑)アイツ店の外でタバコ吸ってたろ?君を待ってたんだよね(笑)』

神田さんにまたからかわれているのかと思った。

『…どうして私を待ってたんですか?』

ちょっと冷たく聞いてみる。

No.220 10/07/30 23:06
眠り姫 ( Y4xRh )

『そんなにコワイ顔しないでよ(笑)君、今回初めて飲み会に顔出すんだってね!アイツ、君がこの場にちゃんと馴染めるようにって早く来たんだなぁ~(笑)』

そんなの、知らなかった…

それが本当なら、すごく店長に悪かったなっと反省した。

『…本当ですか?』

まだ私の疑いの目は神田さんを捕まえて離さない。

『こんなんで嘘なんかつかないよ(笑)』

神田さんはおちゃらけていて信用できないけど、この話は本当そう…

何より店長なら当たり前にそうしそうだから。

私じゃなくてもきっとそうしてたはず。

そーゆー部下想いなところが、みんなに慕わられる理由のひとつなんだろうなぁ~っていつも思う。

自分の隣に私を座らせたのも、店長なりの優しさだったんだろうな。

そんなことを考えていたら、神田さんが変なことを言った。

『アイツさ、よっぽど君のことが大切なんだね(笑)』

爆弾を落として、またケラケラと笑って仕事に戻って行った。

失礼だけど、私は神田さんがちょっと苦手かも…なんて思ったりして。

変なことを神田さんが言うから、店長が合流したときに顔を会わせづらいよ…。

No.221 10/08/02 23:06
眠り姫 ( Y4xRh )

店長が本屋を閉めて合流した。

みんなに追い付くくらい飲んでいる店長。

スゴいなぁ…

お酒強いのかなぁ💧

がぶ飲みだけど、体は大丈夫かな?っと少し心配になった。

でも…やっぱり顔を会わせるのは緊張する。

その異変に気付いた店長が、私に話しかけて来た。

『どぉ~したぁ~❓』

私は目を見て話せない。

『いえ…お疲れさまでした💦』

顔では笑ってるつもり。

『おうっ❗百合さんに会いたかったからよぉ、俺かなり急いできたんだわ(笑)』

…酔ってるよね❓

周りが冷やかしてくる。

『えっ😲店長と生垣さんってそーゆー仲だったんすか⁉』

『店長いつもよりカッコいい✨』

『付き合ってるんですかぁ⁉』

色々な質問が飛ぶ。

どうしよう…

どうしよう…

私は答えられずに困っていた。

そんなとき、すかさず神田さんが部屋に入ってきて店長の頭を叩き

『…酔いすぎだろ❗バカッ💨』

っと言った。

さらに続けて

『俺を捨てるつもり⁉俺に会いに来てるっていつも言ってただろ⁉あれは嘘だったの⁉(女口調)』

店長にからむ神田さん。

みんなが笑う。

…助けてくれたのかな?

No.222 10/08/03 22:38
眠り姫 ( Y4xRh )

とりあえず、なぜか神田さんも合流して話題はみんな神田さんが持っていってくれた。

…店長はと言うと、酔いつぶれてガーガー部屋の隅でイビキをかいて寝てる。

店長の代わりにしっかりと神田さんがまとめてくれてホッとした。

2~3時間飲んだり食べたりしたあと、二次会に行く人や帰る人で居酒屋の前は賑わった。

神田さんが肩に店長を担いで寄ってきた。

『二次会出るの?』

なんだかぶっきらぼうな人だよなぁと思いながら答えた。

『いえ…あたしは、子供がいつ帰ってきてもいいようにもぅうちに帰ります。…神田さんは?』

質問返しをしてみた。

『そっか。俺はコイツを送り届けなきゃいけないし、まだ仕事もあるし、ここまでかな』

店長の顔を呆れたように見てる。

それじゃあ…っと帰ろうと振り返ると、そこには瞬さんが自分の高級車におっかかりながら立っていた。

『えっ…なんでここに⁉』

思わず声に出てしまい、近くにいた人がチラホラと瞬さんを見る。

もちろん神田さんも。

私が驚いて瞬さんを見ていると、女の子達がキャーキャー言い始めた。

『あの人カッコいい‼』

『めちゃくちゃイケメンじゃん💦』

No.223 10/08/03 22:51
眠り姫 ( Y4xRh )

確かに長身に、整った容姿、金髪に外車だと目立たないわけがない。

すると瞬さんから寄ってきた。

『…百合、迎えに来た。帰るぞ』

あんまり機嫌は良さそうじゃないような…。

『えっ?あの…なんでここがわかったんですか?えっ?結笑は…??💦』

私の頭の中は?ハテナ?でいっぱいだった。

周りからは何かを言われてるみたい。

瞬さんがいたことに驚いて、よくは聞こえなかったけどチラホラとは聞こえてきた。

『…生垣さんの知り合い?』

『あんな人とも接点があるんだなぁ~』

『大人しそうな顔して、店長と言い結構遊んでたりして?(笑)』

酔っているのもあるせいか、なんだか話がややこしくなっていた気がした。

瞬さんが前の癖で、私の肩を抱き寄せて歩き出す。

瞬さんには当たり前なのかもしれないけど、若い子や一般の人にしてみたらまるで恋人同士のようだ。

そんな視線やコソコソ言われているのも全く気にしないで、私を助手席に乗せた。

車が発進する。

『あの…結笑は⁉💦』

一番気になっていたことを聞いた。

『んっ?あぁ、楓んちで寝てる。アイツがお前を迎えに行け!って言うからさ、迎えに来た』

No.224 10/08/03 23:15
眠り姫 ( Y4xRh )

『楓さんのおうち…』

楓さんの名前が出てホッとした。

どうして場所がわかったのか聞くと、昼間のうちに楓さんが本屋にバイトの保護者のふりをして電話して聞き出していたらしい。

…さすがだなぁ。

ちょっと感心した。

『このまま楓んとこ行くか?それとも、家に送ろうか?どーする?』

悩んだ結果

『…こんな時間からお邪魔しても悪いし、結笑も大丈夫そうなら…このまま家に帰ります。わざわざ来ていただいたのに、すいません💦明日の朝イチで迎えに行きますね』

『別に~結笑も寝ちまってどうせ暇だしな(笑)じゃ、道案内してよ』

うちまで20分くらい。

結笑の話をした。

一歳の結笑。

一人で掴まり立ちをして立てた日のこと。

二歳の結笑。

おしゃべりが上手になってきて、会話が楽しくて毎日お話してたこと。

三歳の結笑。

好き嫌いもハッキリしてきて、たまに着ていく服でスネたり喜んだり…

小さくても女だなぁ~っと、瞬さんが笑った。

本当なら二人で結笑の成長を見ているはずだったんだよね…

私はひとつも責めない瞬さんを、人としてとても尊敬するようになった。

  • << 227 …また野中 美雪さんだ。 『…あなた野中さんですよね?どうしてこんなことをするんですか?』 勇気を振り絞って聞いてみた。 『…あなた吉岡さんから聞いてないんですか?』 『…えっ?なにを…』 ドクンっと心臓が大きな音を立てた。 『…やっぱりぃ~聞いてないんですね!だからまだ別れてないんだぁ~』 クスクスと彼女が笑う。 『…何なんですか?』 余裕な彼女とは対照的に、よくわからない不安が私へ押し寄せる。 『あたしぃ~吉岡さんと結婚するんですっ❤』 電話の向こうで彼女がはしゃいでる。 『…えっ?あなたは何を言ってるんですか…?』 頭が真っ白になった。 嘘だよね…? 『あなたこそ何言っちゃってるんですかぁ~?あたしたちお見合いしたんですよぉ~❤』 …お見合い? 勇気さんと野中さんがお見合い? どうして? いつ?なんでそうなったの? 仕事で忙しかったんじゃないの? 嘘だよね? 勇気さん… パニックになりそうなのを必死に押さえながら、今すぐにでも勇気さんと連絡がとりたかった。
  • << 228 『…変なこと言わないでください!勇気さんはそんな人じゃありませんからっ!』 声を荒げたのは私…。 どうしても信じられなかった。 信じたくなかった。 『…あっそ。じゃあ今から吉岡さんに電話でもして聞いてみたら~?パパに電話に出るように行っておくから~』 …パパ? 『…勇気さんが今何をしているか知ってるんですか?』 『知ってるし~当たり前じゃん!未来の旦那様なんだから❤』 勝ち誇ったように彼女が笑う。 これだけ自信があるように言うってことは本当なのかな…不安でいっぱいになる。 『…勇気さんは今どこにいるんですか?』 聞きたくなかった。 でも、知りたかった。 『仕方がないから教えてあげるよ~今はね~料亭にいるの!あたしのパパと吉岡さん。アレよ!義親子の付き合いってやつ~!』 …聞けば聞くほど、何を信じたらいいのかわからなくなる。 『…今から勇気さんに電話して聞いてみます。』 『い~よ~!』 電話を切った。
  • << 229 勇気さんに電話をかけようと、画面を見つめる。 指が震えてうまく押せない。 もし… 彼女の言うことが本当だったら… ううん… 勇気さんに限ってそんなことはない… だって、昼間に会ったときは何も言ってなかじゃない。 いつもの優しい勇気さんだった。 私に会いたかったって言ってくれた。 勇気さんは嘘なんかつくような人じゃない。 きっと彼女の片想いだよね。 私はボタンを押した。 『…プルルルル』 電話に出て。 でも…出ないで…。 3コール鳴ったくらいに、画面に通話時間が表示されて電話に出た。 『…勇気さん?』 心臓がバクバクする。 『…うん』 勇気さんの声だ。 『…今お仕事ですか…?』 目をギュっとつぶりながら聞いてみた。 『…うん』 声が少し低い気がする。 そう思ったら、更に心臓が早くなった。 『…今…どこですか…?』 声がかすれた。 勇気さんの返事に全神経を集中させる。 『…今、料亭にいるよ』 目を開けて、そのまままばたきも忘れて涙が出そうになった。 『……野中さんの…お父さんと……?』 声を出したら涙があふれてきた。

No.225 10/08/07 00:38
眠り姫 ( Y4xRh )

今なら理解できるかもしれない。

三年前に瞬さんがとった行動を…。

確かに人として許されるべきではないことなんだけど、愛情に飢えた瞬さんなりの精一杯の表現だったんだろうな。

あのときに、もっと瞬さんを見てあげられたなら…

わかってあげられたなら…

私たちの未来は変わっていましたか?

今ごろは家族三人で仲良く過ごせていましたか?

…誰にもわからないよね。

しばらく走るとアパートの前に着いた。

時間も時間なので足早に車を降りようとした。

その瞬間…

瞬さんが私の腕を掴んだ。

ビックリして振り向くと、真剣な顔をした瞬さんが

『…お前、吉岡と付き合ってんだろ?』

っと聞いてきた。

瞬さんから聞かれると、なんだか…すごく後ろめたいような、罪悪感でいっぱいなような気がした。

『…あっ…はい…』

そう返事をするのでいっぱいいっぱいだった。

『…別に怒ってるとかじゃねーし(笑)あんま気にすんなよ!』

あどけなく笑い、『バーカ』っと冗談混じりにからかう。

No.226 10/08/07 00:53
眠り姫 ( Y4xRh )

『まぁ、いいや。早く寝ろよ!また明日な』

瞬さんが帰っていく。

…本当にただの迎えに来てくれて送ってくれただけ…。

ホッしたような…気がした。

その日は一人で布団に入り眠りについた。

結笑がいないのは初めてだなぁ…

ちょっと寂しいな。

なかなか寝付けない。

勇気さん…

もう寝たかな?

電話は迷惑だから、メールだけならいいかな?

夜11時。

勇気さんにメールを作って送った。

『お疲れさまです。さっき帰ってきて、今寝ようと思っているところです。勇気さんはもう休んだかな?まだお仕事かな…』

返事は期待せずに目をつぶった。

少しして、ウトウトし始めると見知らぬ携帯の番号から着信があった。

何事かと思い、恐る恐る通話ボタンを押した。

『ピッ…はい…』

『…………』

『……あの?』

『…………』

『…どなたですか?』

『…………』

怖くなって電話を切ろうとすると、女性の声が聞こえてきた。

『…吉岡さんと別れてください。』

どこかで聞いたことのある声。

すぐに誰だかわかった。

…あの子だ。

No.227 10/08/07 01:06
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 224 『楓さんのおうち…』 楓さんの名前が出てホッとした。 どうして場所がわかったのか聞くと、昼間のうちに楓さんが本屋にバイトの保護者のふりを… …また野中 美雪さんだ。

『…あなた野中さんですよね?どうしてこんなことをするんですか?』

勇気を振り絞って聞いてみた。

『…あなた吉岡さんから聞いてないんですか?』

『…えっ?なにを…』

ドクンっと心臓が大きな音を立てた。

『…やっぱりぃ~聞いてないんですね!だからまだ別れてないんだぁ~』

クスクスと彼女が笑う。

『…何なんですか?』

余裕な彼女とは対照的に、よくわからない不安が私へ押し寄せる。

『あたしぃ~吉岡さんと結婚するんですっ❤』

電話の向こうで彼女がはしゃいでる。

『…えっ?あなたは何を言ってるんですか…?』

頭が真っ白になった。

嘘だよね…?

『あなたこそ何言っちゃってるんですかぁ~?あたしたちお見合いしたんですよぉ~❤』

…お見合い?

勇気さんと野中さんがお見合い?

どうして?

いつ?なんでそうなったの?

仕事で忙しかったんじゃないの?

嘘だよね?

勇気さん…

パニックになりそうなのを必死に押さえながら、今すぐにでも勇気さんと連絡がとりたかった。

No.228 10/08/07 01:16
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 224 『楓さんのおうち…』 楓さんの名前が出てホッとした。 どうして場所がわかったのか聞くと、昼間のうちに楓さんが本屋にバイトの保護者のふりを… 『…変なこと言わないでください!勇気さんはそんな人じゃありませんからっ!』

声を荒げたのは私…。

どうしても信じられなかった。

信じたくなかった。

『…あっそ。じゃあ今から吉岡さんに電話でもして聞いてみたら~?パパに電話に出るように行っておくから~』

…パパ?

『…勇気さんが今何をしているか知ってるんですか?』

『知ってるし~当たり前じゃん!未来の旦那様なんだから❤』

勝ち誇ったように彼女が笑う。

これだけ自信があるように言うってことは本当なのかな…不安でいっぱいになる。

『…勇気さんは今どこにいるんですか?』

聞きたくなかった。

でも、知りたかった。

『仕方がないから教えてあげるよ~今はね~料亭にいるの!あたしのパパと吉岡さん。アレよ!義親子の付き合いってやつ~!』

…聞けば聞くほど、何を信じたらいいのかわからなくなる。

『…今から勇気さんに電話して聞いてみます。』

『い~よ~!』

電話を切った。

No.229 10/08/07 01:30
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 224 『楓さんのおうち…』 楓さんの名前が出てホッとした。 どうして場所がわかったのか聞くと、昼間のうちに楓さんが本屋にバイトの保護者のふりを… 勇気さんに電話をかけようと、画面を見つめる。

指が震えてうまく押せない。

もし…

彼女の言うことが本当だったら…

ううん…

勇気さんに限ってそんなことはない…

だって、昼間に会ったときは何も言ってなかじゃない。

いつもの優しい勇気さんだった。

私に会いたかったって言ってくれた。

勇気さんは嘘なんかつくような人じゃない。

きっと彼女の片想いだよね。

私はボタンを押した。

『…プルルルル』

電話に出て。

でも…出ないで…。

3コール鳴ったくらいに、画面に通話時間が表示されて電話に出た。

『…勇気さん?』

心臓がバクバクする。

『…うん』

勇気さんの声だ。

『…今お仕事ですか…?』

目をギュっとつぶりながら聞いてみた。

『…うん』

声が少し低い気がする。

そう思ったら、更に心臓が早くなった。

『…今…どこですか…?』

声がかすれた。

勇気さんの返事に全神経を集中させる。

『…今、料亭にいるよ』

目を開けて、そのまままばたきも忘れて涙が出そうになった。

『……野中さんの…お父さんと……?』

声を出したら涙があふれてきた。

No.230 10/08/07 01:42
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 229 『…うん。でも…百合きいて?』

声が出ない。

私は子供みたいに泣いた。

『…百合…百合…聞いて?』

優しく話す勇気さんはとても落ち着いていて…

私だけが知らなかったのだと思ったら、涙が止まらなかった。

『…百合、あのね今…』

私は聞きたくなかった。

もう何も知りたくなかった。

だから…

電話を切った。

電源も切った。

そして一人、部屋で泣いた。

まだ何もわからないのに、決めつけた。

知るのがこわかった。

勇気さんがお見合い…

勇気さんが結婚したら、私はどうなるの…?

どうすればいい?

またあなたを知らなかった日々に戻ればいいだけ?

前よりあなたを好きになってしまって、今さら忘れることなんかできないよ…

勇気さんは何を言おうとしたの?

優しいから今まで言えなかった?

いつになったならあなたの口から聞けてたのかな?

ねぇ…

今すごく悲しいよ。

心が痛い。

ひとりぼっちは嫌だよ…

勇気さん側にいて…

誰か…

私を助けて…

苦しいよぉ…

涙が止まらない。

すると、外から車の音がしてきた。

No.231 10/08/07 01:57
眠り姫 ( Y4xRh )

聞き覚えのある音。

昔、おばぁちゃんの家でこの車が来るのを待ってた。

だからわかる。

…瞬さんの車だ。

今は一人でいたくない。

もし外の車が瞬さんの車じゃなくてもいい…

窓からそっと外を覗いてみた。

すると、運転席から人影が…

目が慣れてきて人影をよく見ると…やっぱり瞬さんだった。

知ってる人の顔を見れたからか、瞬さんだったからなのか、急に涙がまた込み上げてきて、私は両手を顔に覆って泣いた。

『…ふっ…ふぇ…ひっく…』

まるで子供が泣いているみたいだった。

でも涙が止まらなかった。

窓の下まで瞬さんが歩いて近づいてきて、

『…なんだよ。ガキみてぇだな~…ほら、降りて来いよ!そっから連れ出してやっから』

面倒くさそうには言ってるけど、顔は悲しそうに私を見てた。

私は何も持たずにすぐに階段を掛け降りて、瞬さんのもとへと走った。

『…ほらっ』

瞬さんの差し出した手をとったのは、無意識のうちだったのか…

ただ、瞬さんの手はとても温かかった。

車に乗り込み、私たちはアパートから離れた。

No.232 10/08/07 14:39
眠り姫 ( Y4xRh )

車の中でも私は泣き続けた。

瞬さんは何も言わずただただ車を走らせてくれた。

勇気さんの事がわからない。

少しづつ落ち着きを取り戻し、私が泣き止んだくらいに瞬さんが話はじめた。

『…吉岡のことだろ?』

言われてドキっとした。

何も答えられない。

『…アイツ見合いしたんだろ?相手は野中。』

瞬さんの言葉に驚きを隠せなかった。

『どうしてそこまで…』

小さな声を振り絞り、瞬さんに聞いてみた。

『野中商事ってさ、結構デカイ会社なんだよ。俺等ん中じゃ知らない奴がいないくらい。』

…そうだったんだ。

『パーティーで何回か会ったことがある。吉岡も知ってるはずなんだ。』

じゃあなんで…。

『噂によると、野中の一人娘が吉岡をすっげー気に入って、わざわざアイツの会社にコネで入ったらしいんだよな。』

…勇気さんどうして。

『まぁ、吉岡は頭がキレるから…何か考えあってのことだとは思うんだよな。じゃなきゃ、アイツがこんなことする訳ねーじゃん』

…瞬さんってよっぽど勇気さんのこと認めてるんだろうな。

…どうしてそんなに強く信じられるの?

瞬さんは凄い…

No.233 10/08/08 00:14
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 232 『もし…』

瞬さんが小さな声で続けた。

『…えっ?』

『もし、アイツがお前のことを幸せに出来ないなら…俺、また無理矢理にでもお前をつかまえて、今度はぜってー離さないからな』

どうしよう…

だんだん複雑になってきて、私の頭じゃついていけなくなってきた。

『…なぁ~んてな(笑)本気にすんなバカ』

…からかわれた?

いつもの瞬さんでちょっと安心した。

でも…内心ドキドキしたのも確かだった。

私はどうしてしまったの?

瞬さんの冗談は受け流すことにした。

話しているうちに着いたのは、楓さんの家ではなく…

瞬さんのマンションだった。

最後にここへ来てから、もぅどれくらいなんだろう…

さすがに入るのを入り口でためらっていると先に入った瞬さんが振り向く。

『…意識してんなよ(笑)何もしねーよ!お前そんな顔して楓や結笑に会うつもり?』

イタズラっぽく言われた。

確かに、こんな涙でぐちゃくちゃの顔じゃあ楓さんや結笑を心配させちゃうもんね。

時計を見ると、深夜0時を過ぎていた。

さすがにこの時間は迷惑だしね…。

ゆっくりと玄関に足を一歩踏み入れた。

No.234 10/08/08 00:46
眠り姫 ( Y4xRh )

…三年前と何一つ変わってなかった。

結笑の生まれたばかりの時のオモチャは、私が引っ越した時に楓さんが送ってくれたからないけど…

結笑が生まれて、退院した日に着た真っ白なシルクのベビードレスが結笑の部屋のクローゼットにかけられていた。

そうだったね…

あれは瞬さんが結笑のためにって特注で作らせたベビードレス。

結笑に着せた姿を見て、一言だけ言って、すぐに病室を出た瞬さん。

『お前は世界一可愛いな』

あの頃の私の心には何も響かなくて…

その時も私は冷たい目で見ていた気がする。

私はなんて最低なことをしてたんだろう。

結笑の部屋の前で立ち止まっていると、リビングから声が聞こえた。

『…早くこっちに来いよ。ミルクティが冷めるぞ』

瞬さんが私に紅茶を?

一回もいれてもらったことなかったような…

ううん…

一度だけいれてもらった記憶がある。

No.235 10/08/08 00:48
眠り姫 ( Y4xRh )

あれは確か…

結笑を寝かせて、ここに呼ばれた時だった。

…私はあの時、もう休むからいらないと断り飲まなかった。

一口も口をつけるこももなく、私はまた結笑の部屋に戻ったんだ。

瞬さんが初めていれてくれたのに…。

いつもコーヒーを出すのは私の仕事だった。

全ては命令だったから。

私は逆らえないお人形…

リビングの開かれた棚の中をよく見ると、色んな種類の紅茶フレーバーの茶葉が缶に入ってあった。

あの頃は気づかなかった…

私は紅茶しか飲めないから、瞬さんが飽きないようにと色んなフレーバーを用意させてたこと。

いつも一番手前の缶しか手にしなかったから…

『お前いつもコレしか飲まなかったろ?これだけがいつも減ってたんだよな。』

この部屋を三年ぶりに見渡せば…

瞬さんの言葉にしない優しさがたくさん詰まってた。

気づかなかったのは…

見ようとしなかったのは私だけ…

瞬さんはあんなにも私を大切にしてくれてたなんて…

今になってわかることがたくさんあった。

胸が締め付けられて、両手にそっと包んだ紅茶のカップ中に、私の涙が一粒落ちた。

No.236 10/08/08 01:03
眠り姫 ( Y4xRh )

『…何泣いてんだよ?あっ、ちなみにこの紅茶みんな新しいヤツだからな?お前がいなくなってから捨てようと思ったんだけど、試しに飲んでみたらうまかったんだよッ!まぁ、俺はストレート派だけどな』

気取って言っている割りには、子供みたいな態度をとっていることに、きっと瞬さんは気づいていないんだろうな…

なんて考えたら笑えた。

『…なんか…瞬さんに紅茶って似合わないですね(笑)』

何気なく言った悪気のない一言だったのに、瞬さんはスネてしまったようだ。

『…いーから、それ飲んで歯ぁ磨いて、シャワー浴びたらもう寝ろッ!お前がシャワーに行ってる間に、俺の服しかねーけどなんか出しとくからッ!』

タオルを顔に投げられた。

『…きゃ!(驚)…あの、紅茶おいしかったです。ごちそうさまでした。じゃあ…シャワー借りますね』

タオルを持ってバスルームに行った。

このバスルームで、シャワーを浴びながら声を押し殺して泣いたこともあった。

今はもう平気…。

勇気さんのことを考えないように…何も考えずにシャワーを浴びた。

シャワーが終わり出ると洗面台の上に黒いTシャツと、ハーフパンツが置いてあった。

No.237 10/08/08 22:25
眠り姫 ( Y4xRh )

上下ともかなり大きかった。

当たり前だよね(笑)

ハーフパンツは手を離すと落ちてしまう。

シャツも大きくて長いし黒いから、最悪寝るときは脱いでもいいかな…っと考えた。

リビングに行くと、瞬さんはソファーに横になり掛け布団をかけ眠ってた。

寝息が聞こえる。

…疲れてるよね。

朝から仕事で、お昼からは結笑のことみててくれたし、夜は私を迎えに来てくれたり…

さっき話の中で、どうして帰ったはずなの瞬さんがうちの前まで来てたのか聞いたら、

『…別に。ただタバコ買いにコンビニに行ったらたまたまお前んちの前を通っただけ』

って言ってたけど…

それなら帰り道にもコンビニあったから、わざわざうちの近くのコンビニまで戻って来なくてもよかったのにね。

本当は…瞬さんは勇気さんのお見合いの話を私に言おうか迷ってたのかもしれない。

きっとお見合いを知ってたなら、私が普通に生活なんて出来ないのがわかってるからまだ知らないと思ったんだよね。

私は瞬さんのことを何一つとして知らなかったのに、瞬さんは私のことをよく見ていてくれてたんだよね。

『…ありがとう』

そっと掛け布団を直した。

No.238 10/08/08 22:42
眠り姫 ( Y4xRh )

瞬さんが『俺のベッドで寝ろよ!』って言ってくれていたので、久しぶりに瞬さんの寝室に入った。

キングサイズのベッドに一人で眠るには少し寂しかった。

目を閉じて勇気さんのことを考える。

…今ごろ何をしているの?

彼女のお父さんと何の話をしているの?

彼女はそこにいる?

…結婚しちゃうのかな。

私のことはどう思ってくれてるのかな…

なんだかこんなの嫌だな…

どんどん不安になってきて、悪いことばっかり考えちゃう。

瞬さんくらいどっしり構えて、信じられるくらい強くなりたいな…

…なれるかな?

結笑はイイコに寝てるかな?

起きて泣いたりしてないかな?

…何かあったらすぐに瞬さんに連絡くるよね。

そういえば…

私の携帯はうちに置いてきちゃった。

何も持ってこなかったから…

でも、それでよかった。

携帯があったら勇気さんから連絡が来た、来ないとかでまた悩んでしまうんだろうな。

勇気さんとまだ何から話していいのかわからないから、今は携帯はなくていい。

なんか疲れちゃった…

ねぇ…勇気さん。

また同じ街にいるんだよ。

知ったら驚くのかな…

…驚くよね。

No.239 10/08/10 22:12
眠り姫 ( Y4xRh )

次の日。

昨日はなかなか寝付けなかったせいか、朝の9時ごろまで眠っていた。

慌てて起きる。

『…今なんじ?!』

この部屋には時計がない。

リビングへ向かった。

リビングのドアを開けると、瞬さんが新聞を読んでいた。

『…おぉ、起きたか』

『…おはようございます。』

時計を見ると9時15分。

すっかり寝坊してしまったみたいだった。

『…こんなに遅く起きちゃってごめんなさい』

瞬さんはいつも通りに答える。

『別に~たまにはいいんじゃね?結笑もいないしゆっくりしたってさ』

瞬さんがゆっくり立ち上がり、私とすれ違い様に頭をポンっと叩きながら

『まぁ、顔でも洗ってこいよ。』

っとキッチンに向かった。

私は鏡を見て、自分の腫れた目を冷やしながら顔を洗った。

あぁ~あ…

目が腫れちゃって困ったなぁ。

なんだかキッチンからいい香りがしてきた。

顔を拭いてリビングに行くと、テーブルに目玉焼きにトースト、サラダにミルクティーが二人分、向かい合って用意されてた。

そして片方の席には、瞬さん用に牛乳が一杯置かれてる。

No.240 10/08/10 22:24
眠り姫 ( Y4xRh )

前からそうだった。

朝食をとらない瞬さんは毎朝、牛乳一杯だけは必ず飲んでいた。

…だからあんなに背が高いのかな?

『早く座れよ。冷めちまうぞ!』

瞬さんにせかされ席につく。

ジーっと朝食を見つめながら

『…これみんな瞬さんが作ったんですか?』

っと聞いてみた。

ギロっと睨まれる。

『…他に誰がいんだよ』

慌てて訂正する。

『…ですよね!💦凄いなぁって思って💦』

私すごく今焦ってる気がする(笑)

『さっさと食え!』

『はいっ、いただきます』

朝食を食べながら、まじまじと目の前にいる瞬さんを見た。

大口を開けて食べてる姿も男の人っぽくて様になってる。

可憐な勇気さんとは対照的だなぁ…

なんて考えてた。

私が見ていることに気づいたのか、瞬さんが目線を上げ私を見た。

やっぱり目があった。

恥ずかしくて私が目を反らしてしまい、ちょっと気まずい空気になりかけた。

『…あっ…いつから朝食べるようになったんですか?前は牛乳だけだったから…』

とっさに変な質問をした。

『最近だな。俺ももう29だからな~。まぁ、体のことをもっと考えようと思って…』

No.241 10/08/10 22:42
眠り姫 ( Y4xRh )

意外に真面目に答えてくれたことにビックリした。

『すごくいいことですねっ。朝はきちんと食べた方が一日元気に頑張れますもんね』

穏やかな朝食。

三年前はこんな風に瞬さんと会話しながら食事するなんて思ってなかった。

もう少し、私が心を開いていたなら…

あの頃も違っていたのかもしれない。

…今さらそんなこと考えたって遅いよね。

朝食を済ませ、昨日の服に着替えようとすると瞬さんが呼び止めてきて、箱を手渡してきた。

『…お前のだから』

箱を開けると見たこともない清楚な花柄のワンピースが入ってた。

『…?私のじゃないですよ?別の方のじゃ…』

箱を瞬さんに渡そうとすると、

『…三年前、お前のために作らせた服だから…お前のだよ!吉岡の見立てたドレスを破いちまったから…その時に作らせてたんだ。ずっと渡せなくて持ってた』

…胸が痛む思い出と一緒に思い出した。

でも、わざわざ用意しててくれたなんて知らなかった…

しかも、絶対に瞬さんが選ばないような小さなお花が散りばめられた可愛らしいワンピース。

胸が痛んだ。

歪んではいたけど、大切にしてくれてたこと…

今知りました。

No.242 10/08/11 11:20
眠り姫 ( Y4xRh )

『…ありがとうございます』

素直に好意を受けることにした。

『…まだ入るといいなッ!』

ニヤッとイタズラっぽく笑う。

きっと照れ隠しだったんだろうな。

すぐに部屋を出ていった。

『…ッ!そんなに体型は変わってないですよッ!(怒)』

本当に入るのかドキドキしながらファスナーを上げた。

…入ったぁ。

鏡で見てもすごく可愛らしいワンピース。

瞬さんのいるリビングに行った。

『…おぉ。いいじゃん』

満足そうに瞬さんが笑うから、着てよかったと思った。

支度を済ませると、楓さんのマンションに結笑を迎えに行った。

結笑…ちゃんとイイコにしてたかなぁ…

一日離れるなんて始めてだったから、結笑に会えるのが楽しみで仕方がない。

『いらっしゃ~い!』

笑顔で楓さんが迎えてくれた。

その後ろからバタバタと足音が聞こえてきて

『…瞬ちゃ~ん❤』

隣にいる瞬さんに飛び付いた結笑。

『おぉ!結笑イイコにしてたぁ~?』

ワシャワシャ頭を撫でる瞬さん。

『…あっ、ママ❤』

『…結笑😭(涙)』

なんだかママは瞬さんのついでみたい💧

複雑な親心だったなぁ…

No.243 10/08/12 22:26
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑は楓さんにとてもなついたようで、イイコにしていたらしい。

…良かった。

瞬さんが少し用事があるからと出ていった。

楓さんと結笑はクッキーを作っている途中だったみたい。

楽しそうに型を抜く結笑と楓さんを見て、心が安らいだ。

今度は私も結笑と何か一緒に作ってみようかな~なんて考えたりした。

焼き上がったクッキーを三人で食べながらのティータイムをした。

『あっ、そう言えば百合ちゃんのそのワンピ、凄く可愛い!百合ちゃんにピッタリだよね』

っと楓さんが言ってくれた。

『…ありがとうございます(照)』

似合っていると誉められて、なんだかすごく照れてしまった。

『どこで買ったの~?ま・さ・かっ!ヨッシーのプレゼントとか?』

目を輝かせて私の返事を待っている。

…ヨッシーって勇気さんのことだよね?

きっと吉岡だから…(笑)

『あっ…いえ違いますよ💦これはさっき瞬さんからいただいたんですよ💦』

楓さんの顔から一瞬だけ笑顔が消えた。

『…瞬から?』

楓さんの今にも泣き出しそうな表情を見て、何かいけないことを言ったのかと心配になった。

No.244 10/08/12 22:42
眠り姫 ( Y4xRh )

『…楓さん?どうかしましたか?私何か…』

恐る恐る聞いてみた。

すると、パッといつもの楓さんに戻り

『意外だったからビックリしちゃってね~(笑)だって瞬が選ばないような柄だったから(笑)そーゆーのも選ぶんだね~うん。うん。』

納得したようにおどけて見せる楓さん。

…気のせいだったかな?

少し心に引っ掛かって頭から離れない。

そんな私を見て

『…気にしないでね!ほんとなんでもないからさっ(笑)』

そう言いながら、結笑の頭を撫でながら優しく見つめてる。

楓さんの結笑を見つめる瞳が優しいと思ったのは初めてじゃない。

ずっと気のせいだと思ってたけど…

ううん…考えすぎだよね。

『瞬ちゃん来ないね~⤵』

結笑がポツリとつぶやく。

時計を見ると、出ていってから一時間は経ってる。

明日からみんなお仕事だし、昼過ぎには帰らなきゃだから、挨拶くらいはきちんとしてから帰りたいなっと思っていた。

結笑におねだりされて、瞬さんに電話をかけてみた。

『…はい。百合?どうした?』

『瞬ちゃ~ん❤』

『おぉ、結笑だったか!』

『今どこ~?』

No.245 10/08/12 22:59
眠り姫 ( Y4xRh )

楽しそうに電話をする結笑。

こんな姿、初めて見たな。

まだまだ私の知らない結笑のこと、いっぱいあるんだね。

『今、友達と会ってんだ。なんかあったか?』

『つまんなぁ~い…』

『ははっ!わりぃ~わりぃ~(笑)もうすぐ帰るからイイコにしてろよっ!』

『…はぁ~い』

電話を切った結笑がどんな会話をしてたのか楽しそうに教えてくれた。

瞬さんにもよくなついてる。

結笑といるときの瞬さんは、普段とは少し違って空気がトゲトゲしていない。

口調は結笑相手にも変わらないけど、でも結笑に接する態度はとても優しい。

だから結笑もなつくのだろう。

自分が大切にされてると感じるから…。

しばらくして瞬さんが帰ってきた。

四人でお昼を食べに行き、瞬さんの運転手さん付きの黒塗りの車で家まで送ってもらった。

『色々とお世話になりました。ありがとうございます。』

深々と頭を下げると、頭を鷲掴みにされ瞬さんの目線まで上げられた。

『別にたいしたことしてねーし。まぁ…またなんかあったら言ってくれれば、いつでも結笑をみててやっから。』

『…はい(笑)』

笑って手を振りサヨナラをした。

No.246 10/08/12 23:17
眠り姫 ( Y4xRh )

部屋に入り、携帯をゆっくりと開いた。

着信 15件

メール 9件

着信はやっぱり勇気さんからだった。

メールも見てみた。

『傷つけてごめんね…。』

『直接言いたかったけど、今は話したくないと思うからメールにするね。嘘は言わないよ。確かにお見合いしたのは事実なんだ。今回は断るわけにはいかなかったんだ。相手は大企業で、うちの会社にとっても今の僕にとってもとても必要なもので、今ここで社長のご機嫌をそこねるわけにはいかないプロジェクトがあるんだ。でも、誓って言える。僕は彼女とは結婚しない。今はそれしか言えない。ごめんね…』

『…落ち着いたら連絡ください。』

『百合の声が聞きたいです。』

『君を傷つけたくなかったから言えなかった。でも結果、こんな形で知って傷つけてしまったね。本当にごめん…』

『もう少しだけ待っていて。もう少ししたら必ず決着はつけるから。約束する。』

『イイワケばかりだよね。』

『しばらく連絡しないほうがいいかな?』

『勝手なことばかり言ってごめんね。連絡くれるまでいつまでも待ってるから…本当にごめんね。』

たくさんのごめんねがあった。

No.247 10/08/12 23:34
眠り姫 ( Y4xRh )

頭ではわかってた。

仕事の関係上、断れなかったことも仕方がないって思う。

でも、言ってほしかった。

大丈夫だよって。

私だけが知らずに進んでたはなし。

勇気さんは結婚はしないって言ったけど…

彼女は勇気さんのことを想ってる。

あんなに若くて可愛い子に好意を持たれたら、いくら勇気さんだって揺れるかもしれない…。

嬉しくないわけないよね。

きっと勇気さんは『ありがとう、その気持ちは嬉しいよ』って言うんでしょう?

勇気さんはみんなに優しい…。

誰に対しても温厚に接するの。

私もその中の一人なの?

…一緒にしないで…

きっと瞬さんなら、不器用だからただ一人の人にしか優しくできないよね。

前に女の子が瞬さんに告白してる場面を見たことがある。

モデルの子だった。
すごく綺麗な人だった。

でも瞬さんはハッキリ言った。

『お前に興味ないし、告られても別に嬉しくもない。てか、無理だから。』

瞬さんはああ見えて言うときは言うタイプだから、今まで白黒はハッキリつけてきた。

あの時は気にしてなかったけど、今ならわかる。

彼女ならそーゆーのがきっと嬉しいんだろうね。

No.248 10/08/13 22:46
眠り姫 ( Y4xRh )

いつの間にか瞬さんと勇気さんを比べてしまってる私。

酷い女だよね…。

バカみたいだよね…。

勇気さんは勇気さんで私を気遣ってくれて言わなかっただけなのに…。

でも、そんな優しさは欲しくないなんて、特別になりたいなんて私のワガママでしかないんだよね。

もし、仮に勇気さんが彼女を気に入るか、会社のために結婚しなければならない状況になったとしたら…

私は潔く身を引かなきゃいけないよね…。

ちゃんと勇気さんの幸せを願わなきゃいけないよね…。

だって、勇気さんがなぜ私なんかを選んだのか今でもわからない。

勇気さんなら周りにたくさんの素敵な女性がいるだろうに…。

勇気さんはみんなに優しいから時々…気持ちがわからなくなって不安になるときがあるの。

離れているからなのかな?

すぐに会えない距離だから…やっぱり寂しいよ。

勇気さんには何を言えばいいのかわからなかったから、何も連絡をしなかった。

勇気さんから連絡が来ることもなかった。

それでも時間だけは過ぎて行き、飲み会の日から一週間がたった頃。

私の携帯に着信があった。

一度前にかかってきたことのある番号。

No.249 10/08/13 23:01
眠り姫 ( Y4xRh )

すぐに誰だかわかった。

彼女だ…。

野中 美雪さん…。

出たくなかったけど、どうなってるのか知りたい自分もいたから電話に出ることにした。

ちょうど夕飯の準備が終わった時だった。

結笑が部屋でイイコにお絵描きしているのを確認して、深呼吸をしてキッチンで通話ボタンを押した。

『…はい。』

『…生垣さん。私、野中 美雪と申します。ちょっとお時間いいですか?』

社長令嬢だけあって、キッチリしてるなぁっと少し感心してしまった。

『…はい。大丈夫です』

心臓が早くなり、今にも電話を切ってしまいたくなりそうだった。

『…失礼とは思いながら、吉岡さんについて、そしてあなたについて…少し周りを調べさせていただきました。』

耳を疑った。

『…えっ?なぜそんなことを…』

『…あなた…高柳グループの取締役とお付き合いがありましたよね?』

心臓が更にはやくなる。

『…あっ、失礼しました。正確にはお付き合いではなく、¨買われていた¨んですよね?』

クラッと立ちくらみのようなものが私を襲う。

『…どうして吉岡さんがあなたとお付き合いしてるのか、ずっと不思議でした。』

No.250 10/08/13 23:15
眠り姫 ( Y4xRh )

私の息づかいが少し荒くなる。

『…でも周りを調べたらその答えがよくわかりました。吉岡さんはあなたに同情してるからですね。大人しそうなあなたが、前社長に人形のように扱われていたのをきっと可哀想だと思ったのでしょうね。』

更に…私の呼吸は乱れる。

『しかもあなたにはお子さんがいらっしゃいますよね?…高柳さんのお子さんじゃないですか?』

…結笑のことは、瞬さんの立場上、公にはしなかった。

瞬さんは結婚を望んでくれたけど、あの頃の私には受けることが出来なかった。

瞬さんのもとも離れる覚悟もしていた為、認知もお断りしてた。

だから、結笑が瞬さんの子供だと知る人は多くはいないはず。

これだけは絶対に知られちゃいけない。

瞬さんの立場が危うくなってしまうかもしれない…。

今さら迷惑はかけられないし、かけたくない。

『…違います。娘は高柳さんの子供ではありません。』

高鳴る胸を押さえながら、ハッキリ言い切った。

『…そうですか。ならお話は早いですね。』

私がそう言うのを待ってましたと言わんばかりに、野中さんが口を開いた。

『吉岡さんとは別れてください。』

No.251 10/08/13 23:35
眠り姫 ( Y4xRh )

言葉が出てこない。

何を言えばいいのかわからない。

どうしたらいいのかも…。

『どこの男の子供ともわからない子を身籠るような…あなたみたいな女性が、吉岡さんと一緒にいていいわけがない。』

返す言葉も見つからない。

…悔しかった。

私だけならともかく、身勝手な私のせいで結笑のことまで否定されたようで…悲しくて声が出なかった。

でもきっと、世間から見たらそう思われるってわかってた。

わかってたはずなのに…

周りの人に恵まれて、優しくしてもらってたから、気づかないふりをしてきたのかもしれない。

でも…彼女が言ってることって本当だよね。

私みたいな女が、勇気さんの側にいていいわけがない…。

瞬さんだけじゃなく、勇気さんの立場まで私のせいで悪くなってしまうかもしれないから。

¨好き¨な気持ちだけじゃ一緒にいれない。

『…もう…勇気さんには…会いません…』

声を震わせながら、最後の力を振り絞って答えた。

『わかっていただければいいんです。彼は私が幸せにしてあげますから、ご心配なく❤』

満足そうに彼女は電話を切った…。

No.252 10/08/13 23:48
眠り姫 ( Y4xRh )

『ツーツーツー…』

私は携帯を耳にあてたまま動けなかった。

もう勇気さんに会えないと思うと淋しかった。

私では勇気さんの重荷にしかならないのが悲しかった。

結笑のことをダシに使われたのが悔しかった。

こんな私が淡い夢を見てしまったこと自体が、愚かなことだったんだと改めて思い知らされた。

私はいつだって周りの人を不幸にする。

泣き崩れている私を見た結笑が、慌てて走りながら寄ってきた。

『…ママ?…ママ?どこか痛いの?』

小さな小さな手で、一生懸命に私の頭を撫でてくれる。

『…泣かない!泣かない!¨泣き虫¨み~んなお空に飛んでけ~ッ!!』

空に向かって泣き虫の¨虫¨を飛ばす仕草をする。

結笑が泣いたときに、私がそうしてなだめるから…

結笑…

いつまでも赤ちゃんじゃないんだね。

こんなにママ想いのイイコに育ってくれたんだね…。

なのにママは…

ごめんね…結笑。

ごめんね…。

結笑の優しさに、また涙がたくさんたくさん出てきた。

それでもずっと、結笑は何度も話しかけてくれて、何度もお空に¨泣き虫¨を飛ばしてくれた…。

ありがとう…

大好きだよ…結笑

No.253 10/08/14 00:03
眠り姫 ( Y4xRh )

それから気持ちも少し落ち着いた頃、勇気さんにメールを入れた。

『あなたといることに疲れました。どうかお幸せになってください。もう連絡しません。さようなら…』

メールを作りながらまた少し涙が出そうになったけど、こらえてメールを送った。

着信拒否にした。

アドレスも今までのメールも消した。

勇気さんと再会する今までだって、結笑と二人で楽しくやって来たんだから、これからだって何も変わらないよね。

ただ戻るだけ…。

瞬さんにももう連絡するのはやめようと思った。

いつかまた結笑の存在が、瞬さんの立場を脅かすことにならないとは限らないから…。

きっと私たちは住む世界が違ったんだよね。

そう思い込もうとすることで、自分の心にケジメをつけた気がした。

明日は土曜日。

目が腫れちゃってるだろうから仕事がお休みでよかった。

おうちで結笑とまったりしてようかな…

最近はいろんな人に会ってバタバタしてたもんね…

もうそんなこともないよ。

また二人でゆっくり生きていこうね…

…結笑。

夜眠るときに、私が子供みたいに結笑にくっついて眠りについた。

結笑は温かかった。

No.254 10/08/14 00:25
眠り姫 ( Y4xRh )

土曜日は結笑とまったり過ごした。

二人でホットケーキを作って食べたり、積み木をして遊んだり…

今の私には結笑の笑顔だけが癒しだった。

携帯を見ると、勇気さんから何回も着信があったみたいだった。

メールも来てた。

でも、ひとつも見ないでそのままだった。

一日がゆっくり過ぎて行き、夜になり結笑と目をつぶると真っ暗な闇が押し寄せてくるようで怖かった。

父と母を亡くした直後のときみたい。

あの時は、おばあちゃんがずっと手を握って一緒に寝てくれたな…。

今は結笑がいてくれる。

隣で小さな寝息を立てて、私の不安を軽くしてくれる。

結笑を一生守りたいと思った。

ふっと目が覚めて、時計を見るとまだ朝の5時だった。

だから、もう一度眠りにつくことにした。

それから意識がまだはっきりしない時。

ん…

人の話し声がする…

夢…?

結笑の声が…

誰と話してるの?

目を開けなきゃ…

あぁ…目が重い。

まだ腫れてるのかなぁ…

耳に意識を集中させた。

『…ちゃ~ん』

チャン?ちゃんって何?

『お兄ちゃ~ん!』

お兄ちゃん…

結笑がお兄ちゃんって呼ぶのは…

No.255 10/08/15 01:04
眠り姫 ( Y4xRh )

がばっと起き上がり、玄関に走った。

玄関のドアに手をかけている結笑に

『…開けちゃダメッ‼』

っと声を荒げて言ってしまった…。

結笑は肩をビクっとした。

今日に大きな声を出されてビックリしたよね…。

ごめんね…。

でも、間に合わなかった。

ゆっくりと玄関のドアが開いて、そこに立っていたのは…

やっぱり勇気さん。

勇気さんの顔を見たら、胸が苦しくなって…

愛しさでいっぱいで…

今すぐにでも勇気さんの腕の中へ飛び込んで行きたかった…。

どうしてここに…

わざわざ逢いに来てくれたの?

なぜそこまでするの…

もう放っておいてほしいのに…

『…おはよう、百合』

こんな時でも、いつものように優しく微笑むから、胸が苦しくなるよ。

『…帰ってください』

玄関のドアを閉めようと手をかけた。

『…待って。話をしよう』

勇気さんも食い下がらず向こうからドアに手をかける。

『…もう話すことなんかありませんっ。だから帰って!』

『…百合っ!少しでいいから僕の話を聞いて?』

勇気さんが優しく私をなだめる。

No.256 10/08/15 01:11
眠り姫 ( Y4xRh )

『…嫌ですッ!勇気さんの話なんか聞きたくない!もうこれ以上、私を振り回さないで!勇気さんなんかあの人と結婚しちゃえばいいじゃないですかッ!』

今まで押さえつけてきた感情が一気に溢れだし、この時に勇気さんに全てぶつけた。

私…何言ってるんだろう…

こんなのただの嫉妬でしかないよね…

こんな醜い私を、勇気さんにだけは一番見られたくなかったのに。

もう止まらないよ…

ねぇ…軽蔑した…?

なら、もう私なんか嫌いになってほしいよ。

嫌いでいいから、私を忘れないで…。

勇気さんの心の片隅に置いて…。

それを最後のワガママにするから。

私は泣き崩れた。

昨日からどれだけ泣いても涙は枯れることはなくて。

目はこれでもかって言うくらい重く感じた。

『…百合…落ち着いて…少し話をしよう…ここだと周りの人の迷惑にもなるから…少しだけ入れて?…入るからね』

私の肩を抱き、ゆっくり部屋に入った。

結笑は私のこんな情けない姿を見て、驚きとショックなのか言葉にならないようだった…。

ごめんね…結笑。

最近のママ、泣き虫だよね…。

もっと強くならなきゃね…。

No.257 10/08/15 01:24
眠り姫 ( Y4xRh )

私は勇気さんの腕の中で、子供のように泣いた。

温かいよ…

勇気さんの香りがする。

太陽みたいなあったかい匂い…。

すごく心が安らぐの。

勇気さんはずっと私の背中をさすってくれてた。

あまりにも私が泣くから、どうしていいのかわからないような感じもしたかな…。

少しづつ…

少しづつ…

心も落ち着いてきた頃、勇気さんが優しく私に聞き始めた。

『…百合、ごめんね。ツラい想いをさせて…ごめん。』

私は泣きすぎてシャックリが出てきていた。

『…ヒッ…ヒック…』

勇気さんが私をギュウっと強く抱き締める。

細くてもやっぱり男の人なんだね…

少しだけ痛いけど、でもとても落ち着く…

『…百合が言いたいことを全部、僕に教えて欲しいな。溜め込まなくていいから…僕にぶつけて欲しい…どんな百合も支えて行きたいんだ』

私に魔法をかけるように…

そして甘く囁くように…

勇気さんが優しく問い掛ける。

『…言え…ない…私は醜い…から…。勇…気さんにだけには…知られたくない…』

さすがの優しい勇気さんにでも、自分の気持ちを正直に話すのがこわかった。

No.258 10/08/15 23:21
眠り姫 ( Y4xRh )

『どんな百合だって僕は大切にして行きたいと思ってる。』

『…でも…』

『…あのね、実は僕にも醜い悪魔が住み着いているのかもしれないな。百合のことになると、平常心を保てなくなるんだ。普段はあまり人に執着する方ではないけど…百合にはずっと側にいてほしいと思んだよね。それに…本屋の店長さんや、社長に嫉妬してた。』

初めて聞く勇気さんのカミングアウトに、戸惑いながらも嬉しい気持ちでいっぱいだった。

『…勇気さんが…ヤキモチなんてやくの…?』

『…うん。…なんだか情けない話だけどね(笑)』

苦笑いする勇気さんに胸キュンした。

『…情けなくなんかない…。嬉しかったから…』

っと私は呟いた。

勇気さんは私をまたギュウっと抱きしめながら

『…だからね、百合の気持ちも僕に教えて?百合が僕を受け止めてくれたように、僕も君を受け止められる自信があるから大丈夫だよ』

勇気さんの優しい声が、私の心に絡まった糸をゆっくりとほどいて行く。

『…離れていて…寂しかった…連絡とれなくて…すごく不安だった…』

勇気さんが優しく頭を撫でる。

『…うん。ごめんね…』

No.259 10/08/15 23:33
眠り姫 ( Y4xRh )

『…勇気さんが、私なんかのどこがいいのかわからなくて…同情なんかいらなくて…』

『…うん。それと…?』

『…お見合いしたことを…他の人からなんか聞きたくなかった…』

『…そうだよね…うん』

『…勇気さんが彼女を選ぶんじゃないかって…すごくコワくて…』

『…うん…』

『…みんなに優しいのが…苦しくなって…私だけだって言って欲しくて…』

『…うん…』

『…勇気さんの考えてることが、何一つわからなくて…もう辛くなってきて…』

『…うん…』

『…こんなこと間違ってるけど…瞬さんと比べたりしちゃって…』

『…うん…』

『…自分でも最低だと思うけど…寂しくて瞬さんに甘えてた部分があったと思う…』

『…うん…』

一通り溜め込んでいた気持ちを勇気さんにぶつけて、私は黙った。

勇気さんも黙ってる。

…何もかも終わったと思えた。

勇気さんが口を開くまでは…

『…もう溜め込んでいることはない?僕が話してもいいかな?』

私はコクンとだけ頷いた。

No.260 10/08/15 23:50
眠り姫 ( Y4xRh )

『…まず…僕が百合のどこを好きかって言うとね…』

心臓がはやくなった。

『百合の持っている空気だよ。』

『…空気?』

『そう…。百合の真っ直ぐ見つめる目が好き。強がりなくせに淋しがり屋なところも、笑うと可愛いところも、百合の代わりなんて誰にもなれないくらい、僕は君に捕らえられてるよ(笑)』

ニッコリ微笑む。

ほら…前と変わらないあなたの笑顔につられて、私まで笑ってしまうの。

私は泣きながら笑った。

『…百合のことを同情の目で見たことなんか一度もない。君を初めて見たときから、好きになってしまうって感じていたから。』

こんな時に、すごく嬉しい言葉を聞けた…

私も勇気さんのことを、知れば知るほど惹かれてた自分がいたのを覚えてる。

『…僕が何を考えてるのかわからないか…前の奥さんにも言われたな…』

少しはにかんだ笑顔が、私の目には悲しそうに映った。

『…僕はね、実はお見合い結婚だったんだ。』

初めて聞く勇気さんの過去に、興味津々だった。

もっとあなたのことを知りたいから…

No.261 10/08/16 00:02
眠り姫 ( Y4xRh )

『高柳社長の会社に入ってすぐでね、まだ下っぱの僕は上司に薦められて、断れなかったし、条件的にも断る理由もなかった。』

私には理解できない世界だと思った。

『…驚いた?そんなんで一生問題を決めちゃうなんてね…若かったのかな(笑)』

やっぱり寂しそうな勇気さん…。

そんな顔しないで…

『…でもね、気が強くてプライドの高い、僕とは正反対な彼女に惹かれたのも確かなんだ。大切にしたいと思ってた…』

意外だなぁ…

勇気さんがそーゆータイプの奥さまに惹かれたなんて。

でも…男と女なんて誰にもわからないよね。

『…娘も生まれて、僕なりに家族を想い、守ってるつもりだったけど…妻はそうは感じてなかったみたいでね』

やめて…

そんな悲しそうに笑わないで…

勇気さんの心の傷と共鳴するみたいに、私の胸も痛いよ…

『…あなたは何を考えているのかわからないって言われたよ。僕は言葉にするのが苦手だったからね…その頃から少しづつすれ違い始めたのかもしれないな…』

これ以上聞いていいのか迷う…

No.262 10/08/16 00:24
眠り姫 ( Y4xRh )

『あのときに、きちんとお互いに向き合っていれば…未来も変わってたのかもしれないけど、僕は向き合おうとはしなかった。出来なかったんだ。あのクラブで君に出会ったから…』

勇気さん…

『妻を大切にしたいと思ってたのは家族愛でしかなかったことに気づいた。君を見る度に、何か特別な感情が芽生えてきたのが自分でもハッキリわかったよ…』

胸がギューっと苦しくなる。

『妻はそんな僕の変化に気づいていたのかもしれない。妻は妻なりに傷ついていたのかもしれないよね…同級会で再会した、同級生の彼に救われたと言ってたから…』

勇気さんも傷ついたんだよね…

二人があまりにも不器用すぎて…

なんだか胸が苦しくてたまらない。

『…仕事から帰ると、妻と娘の物がなくなっていて、テーブルの上には離婚届と手紙と指輪が置いてあったんだ。』

『勇気さん…もういいです…もう言わなくていいから…』

『…うん。でも最後まで聞いて?百合には知っていて欲しいんだ。それでね…手紙にはこう書かれてた。』

No.263 10/08/16 00:34
眠り姫 ( Y4xRh )

「あなたの考えていることは、私には理解できません。…私はずっと愛されたかった。家族としてではなく、一人の女として。でも、もう私は出会ってしまいました。私を女として見てくれる人を…。どうか私と離婚してください。娘は私が引き取ります。お体に気を付けて…今までありがとうございました。そして…さようなら」

『…きっとさ、心のどこかでこんな日が来るんじゃないかって思ってたんだよね。当たり前だよね…こんな僕じゃ誰も幸せになんかできない。できるわけないよね…(笑)』

悲しそうな勇気さんを見たくなくて、私は勇気さんを抱きしめた。

強く…

強く…

勇気さんも私を抱きしめ返す。

強く…

優しく…

『…僕は妻を引きとめることができなかったんだ…僕の頭の中に君が強く焼き付いて離れない…』

勇気さんはずっと苦しんできたのでしょう…

優しい優しい勇気さん…

奥さまや私以上に、きっとあなたは傷ついて胸を痛めてきたんだね…

罪悪感と言う炎に焼かれながら…

私を救ってくれたのは勇気さんだよ…

自分ばかりを責めないで…

私もあなたと同じ罪を背負っているのだから…

No.264 10/08/16 00:48
眠り姫 ( Y4xRh )

『…妻と娘が今幸せなことが唯一の救いかな…』

『…そうですね…勇気さんのことがわからないなんて言ってごめんなさい…』

自分の発した言葉の重さに気づき、心から謝りたいと思った。

『…こんな話なんか聞きたくなかったよね…ごめんね…百合…でも、君だけは失いたくないんだ』

『…うん、伝わったよ…ちゃんと勇気さんの気持ち…私に届きました。…ありがとう…』

二人で小さく微笑んでいると、結笑が走ってきた。

『…お兄ちゃん!ママをイジメないで!メッ!』

必死に私を守ろうとしてくれる結笑…。

私が子供みたいに泣いちゃったから、いっぱい心配をかけちゃったよね…

ごめんね、結笑。

勇気さんが結笑も抱きしめる。

『…うん。お兄ちゃんはママを泣かせて悪い子だよね。ごめんね…結笑ちゃん。これからは絶対に泣かせないって約束するよ!』

結笑はまだプリプリ怒ってる…

『約束だよ!ママをイジメめたらダメ!』

勇気さんは力強く私と結笑を包み込んだ。

『…約束する!僕が絶対に二人を守るから!』

勇気さんのその言葉に、私は嬉し涙が出そうになるのをこらえた。

結笑にまた怒られちゃうから…

No.265 10/08/16 01:06
眠り姫 ( Y4xRh )

しばらく三人で部屋でコロコロと転がりながらまったりと過ごした。

そうこうしてる間に、結笑がお昼を食べる前に眠ってしまい…

結笑を見つめていると、勇気さんも結笑を優しく見つめてた。

私に気付くと、手を繋ぎ小さな声で話し始めた。

『…これからは…僕もこの街で暮らすことになったから…。よろしくね(笑)』

っとニッコリ笑う勇気さんに対して、私は目が点になってしまった。

『…えっ?』

もう一度聞いてみた。

『新しくこの街にも小さなビルを置いて、わが社の活動の場を広げることを前々から計画してたんだ』

『…えっ?勇気さんがこの街で暮らすんですか?』

『そうだよ(笑)実は…野中社長からのお見合いを受けたのはこの為だったんだ。どうしても、野中商事の協力が必要でね…』

そうだったんだ…

『でも…じゃあ…お見合いは成功して、勇気さん結婚しちゃうんですか…?』

心配はそこだった。

『…しないよ(笑)野中社長は話せばわかってくれる人だったよ。…まぁ、そうだよね。自分の娘には娘を一番に大切にしてくれる人のところにお嫁に行って欲しいもんね。それに、ビジネスはまた別の話しだってさ(笑)』

No.266 10/08/16 01:17
眠り姫 ( Y4xRh )

『でも…それじゃあ、美雪さんは納得しないんじゃ…』

『うん。しっかり向き合って、彼女が納得してもらうまで頑張るよ。だって僕には百合が一番だからね。ちゃんと守るから安心していてね』

『…はいっ』

急に勇気さんの気持ちを疑ってしまった自分が恥ずかしくなった。

ごめんなさい…勇気さん…

瞬さんの考えは当たってた。

勇気さんならちゃんと考えがあってのことだって…

私も瞬さんに負けないくらい、勇気さんを信じられるようになりたいな。

『…あとさ、本当はこの計画はもう少し先の予定だったんだけど…大きな協力を得て計画が早まったんだ。』

まさか…

『…瞬がね。先週の日曜に僕に会いに来てくれて、話を持ちかけてくれたからなんだ』

やっぱり…

『瞬には感謝してる。独立出来たのも、この街への進出も、瞬がいなかったらこんなに早く出来なかったから。』

『…瞬さん…あれ?勇気さん…瞬って…あれ??』

『…んっ?あれ言ってなかった?僕と瞬とは大学が一緒で、入社する前から友達だったんだけど…って、瞬から聞いてると思ってたよ、ごめんね』

開いた口が塞がらない…

No.267 10/08/16 01:31
眠り姫 ( Y4xRh )

ビックリですよお二人さん…

まさか友達同士だったなんて…

全くの正反対だから思ったこともなかった…

だから瞬さんは勇気さんには絶対の信頼を置いてるのかな…

『土曜日…瞬のマンションに泊まったんだって?』

勇気さんはニッコリ笑ってるけど、その笑顔が逆に怖い…💧

『あっ…はい…』

シュンとする私を見て、勇気さんがプッと吹き出す。

『何もなかったって瞬が言ってた。だから信じるよ。でも、もう一人では泊まっちゃダメだよ!』

頭をポンポンする。

…勇気さんもまた、瞬さんを信じてるんだなって感じる。

ずっと瞬さんには助けてもらってばっかりだなぁ…

してもらうばかりで、なにも瞬さんに返せない自分の非力さに少し落ち込んだ。

どうか瞬さんが幸せになってくれますように…

私には祈ることくらいしか出来ないけど、瞬さんが幸せになれるように毎日願っていたい。

楓さんのマンションにいたとき、瞬さんが外出したのは勇気さんに会いに行ってたからなんだね…。

瞬さん…たくさん迷惑をかけちゃってごめんなさい。

それから結笑が目を覚まし、三人で私の手作りお昼ご飯を楽しく食べた。

No.268 10/08/16 22:32
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんは明日もまた忙しくなるからと、夕方くらいに帰ることになった。

またしばらく離れちゃうけど、もう大丈夫!

勇気さんがこの街に来てくれるから、それまで私も頑張ります。

まだ少し時間もあると言うことで、近所のスーパーまで買い物に行くことになった。

結笑を真ん中に、三人で手を繋ぎお喋りをしながら歩く。

とても楽しい時間。

このまま時が止まってしまえばいいのになんて、子供みたいに願ったりした。

スーパーにつき、結笑がカートに乗りたがり勇気さんがひょいと抱き上げ乗せてくれる。

勇気さんがカートを押してくれ、私は隣を歩く。

『今夜の夕食は何にするの?』

勇気さんが聞いてきた。

『うーん…今夜はカレーにしようかなぁ…』

カレーと聞いて結笑が喜ぶ。

『わぁい!カレーだぁ!』

子供ってなぜかカレー好きだよね(笑)

『…甘口?』

勇気さんが真剣に聞いてくるから、あっけにとられながらも

『あっ…甘口!結笑用に結構甘いかな💦』

っと答えると、勇気さんの頭がガクっと落ちた。

『…勇気さん?』

顔を覗きこむとゆっくり私に目線を向けた。

No.269 10/08/16 22:35
眠り姫 ( Y4xRh )

『僕もカレー大好き…しかも激甘なやつ…』

顔が思いっきり残念そうなので、なんだか子供みたいでおかしくて吹き出しそうになる。

『…ふふふっ(笑)じゃあ、勇気さんも夕食を食べてから帰りますか?』

買い物が終わったら帰ると言っていたから、勇気さんに食べるか聞いてみた。

『…そうしたいんだけど…まだ仕事が残ってるんだ⤵百合のことを考えたら仕事も手につかなくて投げ出してきちゃったから(笑)明日までにやってしまわないと(涙)』

すごく残念そうにするから、胸がキュンとなる。

『そうですか…私のせいでごめんなさい😔』

『いやいや💦百合のせいじゃなくて、僕がそうしたかったからそうしただけだよ。それに、今日中に終わらせる自信もあったしね!』

勇気さんは自信たっぷりに笑う。

その笑顔を見て、罪悪感が少し軽くなった。

ありがとう…勇気さん。

『じゃあ、勇気さんがこっちに来たら…食べたいときにいつでも私が作ってあげますからね!おいしいのを作りますよっ!』

私も自信たっぷりに笑い返した。

そんなやりとりに、私も結笑も勇気さんもクスクスと笑った。

No.270 10/08/16 22:48
眠り姫 ( Y4xRh )

カレーの材料を買って、勇気さんが荷物を持ってくれる。

途中、公園があり結笑が遊びたいと言った。

『結笑…今日はダメだよ…勇気さん帰らなきゃいけないし、また明日にしよう?』

私が言っても結笑は

『や~だぁ~!お兄ちゃんと遊ぶのぉぉぉ!』

っと駄々をこねる。

すると勇気さんが、結笑を抱えて公園へ走り出した。

私は慌てて勇気さんの後を追う。

『きゃー❤』

結笑は大喜び。

公園に着くと、ベンチに買い物をした荷物を置き結笑を降ろして追いかけ始めた。

こんな無邪気な勇気さん初めて見るかも…

荷物のあるベンチに座り、二人がじゃれ合うのを微笑ましく眺めてた。

しばらくすると

『あら~百合ちゃんじゃない!』

っと、声のする方に顔を向けると…

そこには本屋の同じパートの宮島さんが、違うスーパーの買い物袋を持って近づいてきた。

(あぁ…長いかも…困ったなぁ…)

内心、少しドキっとした。

『こんにちは、宮島さん』

挨拶をするとさっそく宮島さんのお得意の質問攻めに合う。

『結笑ちゃんと遊んでる人は百合ちゃんの知り合いかい?』

顔がニヤニヤ楽しそうにしてる…。

No.271 10/08/16 23:04
眠り姫 ( Y4xRh )

『えっ…えぇ💦』

戸惑う私を見て、さらに宮島さんはニヤニヤする。

『ふーん…。いい男だねぇ~❤結笑ちゃんもだいぶなついてるみたいだし😁ただの知り合いじゃないみたいだねぇ~😏?』

うっ…するどい…

こーゆーときの宮島さんの人間観察はあなどれないものがある💧

私が返事に困っていると、すぐ後ろから勇気さんの声がした。

『…初めまして。吉岡と申します。』

勇気さんは爽やかにニッコリと右手を差し出す。

堂々と自己紹介をされた宮島さんが、今度は握手を交わしながらドギマギしてる(笑)

『あっ…初めまして💦私は宮島です💦百合ちゃんと同じ本屋の…💦』

笑顔を崩さないまま、勇気さんは宮島さんに話しかける。

『あぁ!あちらの本屋さんの。そうですか百合と同じ職場の方でしたか。それじゃあ、百合がいつもお世話になってますね。』

勇気さんが私の肩を抱き爽やかに、低姿勢で宮島さんを追い詰めていく。

『…そんな💦世話になってるのはこっちですよ💦』

あまりにも勇気さんが堂々としてるから、宮島さんの方が面をくらったみたい(笑)

でも、勇気さん…私はあなたを敵に回したくないと思いました(笑)

No.272 10/08/16 23:24
眠り姫 ( Y4xRh )

『でも驚いたわ~💦こんなイケメンの知り合いがいるなんて、百合ちゃんも隅に置けないわね💦』

宮島さんがガハハと笑っていると、勇気さんの顔が爽やかな笑顔から少し、キリリとした顔になる。

『…百合とは、結笑さんのことも含め、真剣にお付き合いさせていただいてます。宮島さんも、どうか僕たちを温かく見守ってくださいね。』

最後は優しく微笑んだ勇気さん。

…カッコイイ…

心臓が恋の矢で射抜かれたみたいにズキューンって音がしたみたいだった。

…宮島さんも射抜かれたみたい(笑)

勇気さんはマダムキラーでもあったんだね…。

でもね、勇気さんの言ってくれた言葉が凄く凄く嬉しくて、少しだけと目頭が熱くなったよ。

それからは宮島さんは何を言うわけでもなく、『頑張ってね!』っと一言だけ言って去っていった。

宮島さんの姿が見えなくなると、勇気さんがその場にしゃがみこみ…

『…はぁぁぁ、緊張しちゃった(笑)あーゆータイプはこっちから先に攻めていかないと、口では負けちゃうからね(笑)』

オチャメな勇気さん。

愛しくて勇気さんの頭をそっと小さくイイコイイコした。

胸がドキドキしてる。

No.273 10/08/16 23:49
眠り姫 ( Y4xRh )

髪を撫でてる私の手をとり、勇気さんはしゃがんだままで私を見上げた。

目があったまま見つめ合い、どうしていいかわからずに、私の心臓だけが早く動く。

ゆっくりと勇気さんが口を開いた。

『…百合…僕がさっき言ったことは本当の気持ちだよ。百合と同じくらいに結笑ちゃんのことも全力で守っていくと誓うよ。』

勇気さんの真剣な目が私を捕らえて離さない。

『百合のことも、結えちゃんのことも僕は大切なんだ。だから…これから先の人生を僕と一緒に歩んで行って欲しい。』

えっ…

それって…

それって…

『…プロポーズ?…じゃないですよね💦(笑)あははっ…💦』

恥ずかしくて、勇気さんを見れなくて、結笑の姿を探した。

イイコにお砂場で遊んでる。

勇気さんも私の手をにぎったまま立ち上がり、次の瞬間…

冷たいものが私の左手の指を滑って行く。

ゆっくり目線を私の手まで持っていくと…

指輪が薬指にはまっていた。

『…僕と結婚してください』

少し背の高い勇気さんを見上げると…そこには私の大好きな笑顔で勇気さんが笑ってた。

No.274 10/08/17 00:07
眠り姫 ( Y4xRh )

プロポーズの答えは…

『…はい』

たったその一言に、私の気持ちを全て乗せて返事をした。

涙が出るくらい嬉しかった。

それから少し勇気さんと話し合い、勇気さんは結笑の気持ちを一番に考えようと言ってくれた。

例えば、結笑が勇気さんを認めなければ結婚はしないと…

結笑が心から認めてくれるまで頑張ると言ってくれた。

結笑をそこまで想ってくれる勇気さんに、感謝の気持ちでいっぱいです。

勇気さんは向こうに帰って行き、私と結笑も普段通りの生活を送った。

本屋では宮島さんが冷やかしてきたり、みんなに言いふらしてるんだろうなぁ…っと心配してたけど、宮島さんは誰にも言ってないみたいで取り越し苦労だった。

ただ…宮島さんと仕事中に目が合うと、親指を立てて

『グッ(^ε^)g"』

っと意味深にしてくるのが対応に困ったくらい…(笑)

店長も普通に接してくれるし、全てがうまくいくと思っていた。

このときまでは…。

数ヵ月後、勇気さんの会社が私のいる街に進出してきた。

勇気さんのマンションはうちから30分くらいの距離に借りてくれた。

これから明るい未来が待っていると思っていたの。

No.275 10/08/17 02:05
はるるん♪ ( azQ1nb )

きゃあぁぁぁ➰😣
続きが気になるぅ〰😫

…すいません😅つい取り乱してしまって😓
お初です✨今日たまたまこのスレを発見し、読み始めたら…寝るのも忘れ、一気に読破💦続きがめちゃめちゃ気になります😍
頑張って書いてください🎶応援してます💓

No.276 10/08/17 09:29
眠り姫 ( Y4xRh )

はるるんさん☺

寝るのも忘れるほど夢中に読んでくださってありがとうございます😊✨✨✨

誤字や脱字も多々あり、恥ずかしいくらい文章もめちゃくちゃで下手くそですが、お暇なときにのぞきにきていただけたら嬉しいです❤

私の妄想は突っ走りますよぉ~😁⤴(笑)

No.277 10/08/17 16:48
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんがこっちのマンションに来てからの初めての日曜日。

緊張しながら、勇気さんの部屋の片付けのお手伝いに結笑と行った。

『ピンポーン』


『はい、どうぞ』

ガチャっと玄関のドアが開く。

『こんにちは…』

『いらっしゃい(笑)』

なんだか照れ臭くて、恥ずかしくて自然と笑顔になる。

『ママ~ここお兄ちゃんち??』

結笑が不思議そうに聞いてきた。

すると勇気さんが結笑の目線までしゃがみ、

『そうだよ、ここが僕の家だよ😊これからは好きなときに遊びに来ていいからね😉』

っと、結笑の頭を撫でる。

『ほんとっ?!じゃあ、ゆえ毎日くるね❤』

本気か冗談か…(笑)

結笑は勇気さんのことをどう思ってるんだろう…

ちょっとこわくて聞けないな…

でも、一回それとなく聞いてみないと先に進めないよね。

『まだ何も手をつけてなくて散らかってるけど…』

山積みの段ボールに結笑は放心状態(笑)

さてと…

まずは何から片付けようかな。

使いそうなものから出していくことにして、勇気さんと手分けして片付けを始めた。

結笑も(遊びと言う名の)お手伝いをしてくれた(笑)

No.278 10/08/17 22:00
眠り姫 ( Y4xRh )

しばらくすると、ピンポーン…っと誰か来たみたい。

『百合ごめん、ちょっと出てもらえないかな?』

勇気さんは手が離せなかった為、私が出ることになった。

『はぁ~い』

勢いよく玄関を開けると、そこには瞬さんと楓さんが立っていた。

『やっほ~!』

『よぉ~』

私は驚いて言葉にならない。

『どうして…ここに?』

やっと出た言葉に二人が笑う。

『ダチの引っ越しの手伝いにきてやったんだよ!』

ニヤニヤしながら瞬さんが得意気に笑う。

『日曜の今日なら百合ちゃん達も来てると思ったんだよね~(笑)』

楓さんも楽しそう。

…絶対に冷やかしですよね?

確信犯ですよね?

さすがイトコ同士だ…

そっくり(笑)

私が戻ってこないのを心配した勇気さんも玄関に出てきた。

『百合~誰だったの?』

結笑を抱きながら歩いてくる。

視界に瞬さんと楓さんが入った瞬間…

露骨に嫌な顔をする勇気さん。

『…なに?』

態度まで冷たい💧

私がオロオロしていると、

『そんなに露骨に態度に出すことないでしょ!?もぅ…💨百合ちゃんとの時間を邪魔して悪かったわよ!ごめんなさいね!』

No.279 10/08/17 22:15
眠り姫 ( Y4xRh )

楓さんがプンスカ怒りながら謝ってる。

『まぁ~まぁ~、手伝いに来てやったんだからありがたく思えよな!』

さっさと上がり込んで、勇気さんの肩を組みながらズカズカと中へ入っていく瞬さん。

…強い…色んな意味で(笑)

『邪魔しに来たの間違いだろ?』

クールに瞬さんを交わす勇気さん。

そんな二人を見て、仲がいいんだなぁ…っとつくづく思った。

『瞬ちゃ~ん❤遊ぼ~❤』

…結笑は瞬さんが大好きみたいで、瞬さんがいると必ずくっついて行く。

『おぉ、結笑!じゃあ遊ぶかッ!』

結笑と瞬さんが遊ぼうとしたら、勇気さんが後ろから瞬さんの頭にチョップをした。

『バシッ!』

『…痛ッ!💢』

瞬さんが勢いよく振り返るとニッコリ笑う勇気さんが立っている。

『て・つ・だ・い・に来たんだよね?』

ニッコリ微笑む勇気さんの顔が逆にこわい…。

『おっ…おぉ…』

すっ、すごい…

あの瞬さん相手に勇気さんってば…

プライベートだとこんな二人が見れるんだね。

ちょっと得した気分。

そんな二人のやり取りを見て、クスクスと楓さんが笑ってる。

No.280 10/08/17 22:31
眠り姫 ( Y4xRh )

しぶしぶ瞬さんは手伝いに取りかかる。

『(結笑…さっさと片付けて公園に行こうぜ!)』

ポソッと瞬さんが結笑に耳打ちをすると、結笑はすごく嬉しそうに頷いた。

やっぱり人数が増えたのや、男手が増えたのもあってあっという間にいいところまで片付け終わった。

『みんなお疲れさま。あと細々したやつは自分でやれるから、休んでてよ。ありがとう。』

勇気さんがみんなに声をかける。

その瞬間、

『よーしっ!結笑あそびに行くぞッ!』

『はぁ~い❤』

っと勢いよく、瞬さんと結笑が元気に立ち上がり玄関に向かった。

『私も行く~!』

っと、楓さんまでノリノリで玄関へ。

『…疲れてなかったら、百合も行っておいでよ。ここは大丈夫だから』

勇気さんが優しく言ってくれた。

『じゃあ、私も…』

そこまで言いかけたとき、リビングの扉から楓さんがヒョコっと顔を出してニンマリ。

『…百合ちゃんはヨッシーを手伝ってあげて❤結笑ちゃんは私と瞬とで見てるからさ!あんまり二人の時間ってないでしょ…ふふっ☺』

そこまで言うと、再びバタバタと走って行った。

静かになり、私と勇気さんは目を合わせ笑った。

No.281 10/08/17 22:49
眠り姫 ( Y4xRh )

綺麗になった部屋をぐるりっと見渡す…

部屋のあちこちに観葉植物が置かれてる。

リビングには大きな水槽…

中には色とりどりの熱帯魚たちが優雅に泳いでる。

仕事部屋らしきところには机があって、隣には難しそうな本が棚にビッシリと綺麗に片付けられてる。

それからドキドキしながら寝室に入った。

瞬さんと組み立てていたベッドが、部屋の真ん中に置かれてる。

とても大きくて…キングサイズくらいあるような…

一人でこんな大きなベッドに寝るのかな?

確か瞬さんのベッドもこれくらい大きかったし…

男の人って大きなベッドが好きなのかな?

でも、よく考えたら楓さんも一人でダブルを使ってたような…

悶々とベッドを見ながら考え込んでいると、肩が急にズシッと重くなった。

『きゃっ!』

…勇気さんが後ろから抱きしめるように私に寄りかかっていた。

『…そんなにベッドを直視されると恥ずかしいんですけど…(照)』

勇気さんの言葉でハッと我に返り、急に恥ずかしさが込み上げてきた。

『ごっ、ごめんなさい…💦』

自分のしてたことを思い出すとあまりにも恥ずかしくて、両手で顔を隠した。

No.282 10/08/17 23:19
眠り姫 ( Y4xRh )

そんな私の姿を見て、勇気さんが笑う。

『ベッドに何かついてた?(笑)』

からかうように聞いてくる。

『何も…💦』

『じゃあ…なぁに?』

私の返事を勇気さんがワクワクしながら待っているのがわかる。

『…いえ…ただ…一人で寝るには大きいなぁ~って…』

もう恥ずかしくてたまらない。

『…ふふっ(笑)じゃあ一緒に寝る?』

耳元で甘く優しく囁く。

言葉に出来ず、私は首をブンブンっと力強く横に振った。

『…そっかぁ…残念だな(笑)このベッドはね、新しく買ったんだよ。』

勇気さんがベッドを見つめながら話す。

『僕は今まで一人だったから、シングルで充分だったんだ(笑)』

私は黙って聞いてた。

『でもさ、結笑ちゃんがここに来てお昼寝したりするときに、ベッドがシングルじゃ落ちたりとかしたら危ないでしょ?そう思って買い換えたんだ(笑)それに、このマンションも自由に使っていいからね。はいっ』

ベッドを覗く指の隙間から、銀色の何かが光った。

『…これ…』

『…うん。この部屋の合鍵。これは百合が持っててくれる?』

『…はい。ありがとう…』

合鍵をぎゅっと胸に抱きめた。

No.283 10/08/17 23:45
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんが私を抱きしめる。

『…好きだよ、百合』

胸の鼓動が高鳴って、息をするのも忘れてしまいそう。

『私も…勇気さんが好き…』

ゆっくり振り返ると、自然に勇気さんの綺麗な顔が近づいてきた。

白い肌…

切れ長な目に…

長いまつげ…

すっとのびた鼻筋…

柔らかそうな口唇…

目と目が合った瞬間。

口と口がそっと触れる。

私は目をつぶり勇気さんに委ねた。

触れたと思ったらすぐに離れ、また優しく小鳥のようなキスをする。

くすぐったくて、愛しくて、私も手を勇気さんの背中に回し抱きしめた。

このまま…

愛し愛されていられたなら…

どんなに素敵なことだろう…

しばらく抱き合ったまま、勇気さんの胸の鼓動を聞いていた。

トクトクってはやいね…

私と一緒だね。

緊張してるのかな?

勇気さんのことが大好きだよ。

一度ゆっくり勇気さんを離し、背伸びをして手ものばし、勇気さんの肩に腕を回した。

すると勇気さんがひょいと私を持ち上げ、そのままベッドまで歩いて行く。

そして…ゆっくりと私をベッドに寝かせた。

勇気さんの右膝がベッドに上がり、ギシっと音が鳴る。

  • << 285 ↑ ? レス見れてません。夢の続きなら、主さまかどなたかコピーしてくれませんか‥😥

No.285 10/08/18 15:39
彩うさぎ ( EM4L )

>> 283 勇気さんが私を抱きしめる。 『…好きだよ、百合』 胸の鼓動が高鳴って、息をするのも忘れてしまいそう。 『私も…勇気さんが好き…』 ゆ… ↑ ?
レス見れてません。夢の続きなら、主さまかどなたかコピーしてくれませんか‥😥

No.286 10/08/18 15:53
眠り姫 ( Y4xRh )

彩うさぎさん🐰

私の誤字脱字についてのご指摘でした😂💦

読みづらい文章かと思いますが、お暇なときにのぞきにきてくださいませ☺

皆さま、読んでくださっている方々がいて私は嬉しいです🌷

誤字や脱字が目立ち、気になるかもしれませんが、そーゆーやつが書いているのだとおおめに見ていただければ幸いです💦(笑)

これからもどうぞよろしくお願いいたします⭐

夜にまた更新しますね☺

No.287 10/08/18 16:05
モーニングムーン ( vsPinb )

はじめまして。°.+°(=°ω°)ノ。°.+°
私も読ませていただいてます

ゆぇちゃん可愛くて
大好きなんです

いつもたのしませてくれてありがとうです
猛暑の中、マイペースで更新を

No.288 10/08/18 16:52
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 287 モーニングムーンさん☀

読んでくださってありがとうございます☺✨

結笑は明るく元気な、おませさんな三歳児です💓(笑)

結笑ならきっとみんなの笑顔を結んでくれるような存在になってくれると思っています😁⭐

結笑が大きくなって、どんな人とどんな恋愛をするんだろ~なんて妄想するのが楽しかったりして☺(笑)

またのぞきに来てくださぁい❤

No.289 10/08/18 18:15
眠り姫 ( Y4xRh )

ベッドに横になり、勇気さんが覆い被さってる状態。

私の心臓は今にも飛び出してきそうなくらいに緊張してる。

気のせいなのか、勇気さんの顔がいつもよりも男らしく見えるから…

尚更ドキドキしてしまう。

私はぎゅっと目を閉じた。

すると、勇気さんが笑いながら私の隣に寝転がった。

『あはははっ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ(笑)もう何もしないからね(笑)』

…ホッっしたような、残念だったような複雑な気持ち…。

『…残念だったかな?顔にそう書いてある(笑)でもさ、無理矢理触れたりはしないから…大切にしたいんだ、百合のこと。』

また胸がキュンとなる。

コロンと小さく寝返りをうち、勇気さんの腕に頭を乗せた。

トクン…

トクン…

勇気さんに触れられるのは嫌じゃない。

むしろ…安心できるよ。

このままでもすごく幸せだなぁって感じる。

これからは一緒にいれるんだね。

会いたいときに会えるね。

もう寂しくないよね。

勇気さんの香りに包まれながら、気づけば私と勇気さんはそのまま眠ってしまったみたい…。

No.290 10/08/18 21:37
眠り姫 ( Y4xRh )

バタバタと足音がした。
瞬さんたちが帰って来たみたい。

結笑が私を探してる声がする。

『ママ~ただいまぁ~❤』

どれくらい寝てたのかな…

勇気さんを見るとまだ眠ってる。

疲れてるのかな…っと思い、もう少しだけ寝かせてあげることにした。

起こさないようにゆっくりと起き上がり、結笑たちのいるリビングへと向かった。

『おかえりなさい』

『ママァ~❤』

結笑が飛び付いて来た。

『ママ、お兄ちゃんはぁ?』

キョロキョロしながら勇気さんの姿を探す結笑。

『お兄ちゃんね、お仕事で疲れてるからお昼寝してるの。静かにしてようね~』

『うんっ❗』

二人で人差し指を口に当てて『シー』のポーズをして笑った。

『では、結笑ちゃん!手を洗ってうがいをしてきましょう!これから買ってきたケーキをみんなで食べたいと思います!』

『わぁ~!やったぁ❤』

楓さんと結笑が仲良く手を洗いに行く。

『あれ…?』

瞬さんの姿が見えない。

二人が手洗いをしている所まで行き、瞬さんのことを聞いてみた。

『結笑~瞬さんはどうしたの?』

『あっ、瞬ちゃんね、お外で電話~!』

あっ…電話かぁ。

No.291 10/08/18 22:00
眠り姫 ( Y4xRh )

『ついさっき、玄関に入ろうとしたらおじ様から電話が来たみたいなの』

っと、楓さんがわかりやすく付け足してくれた。

『…おじ様?』

私がキョトンとしていると楓さんが笑った。

『…ごめんっごめんっ!瞬のお父さんよ(笑)私の母が瞬のお父さんの妹でね。私の両親が無くなってからはずっと瞬のご両親がよくしてくださったわ…だからすごく感謝してるの!』

素直でハキハキした性格の楓さんは、きっと瞬さんのご両親にも可愛がられたんだろうな。

ケーキとお茶の用意をしていると、瞬さんが電話を終えてやってきた。

『…わり~!なかなか親父がしつこくてさっ…って、あれ?勇気は?』

『小さい声でッ!お兄ちゃんお昼寝ッ!瞬ちゃんシーだよっ!』

声を小さくした結笑に怒られている瞬さん。

『アイツは呑気に昼寝かよ~!よっしゃ、起こしてやる!』

寝室に行こうとする瞬さんを結笑が止めた。

『瞬ちゃん悪い子っ!おしりパッチンしちゃうよ!手洗いしてきなさい!』

『…はい💧』

結笑に怒られ、仕方なく手を洗いに行く瞬さん。

それをしっかり監視する結笑。

…何だか結笑が瞬さんのママみたいだねっ(笑)

No.292 10/08/18 22:32
♂♀ママ ( z0MM )

こんばんは😃素敵な夢ですね💕毎回楽しみにしてます😃

No.293 10/08/19 09:15
眠り姫 ( Y4xRh )

♂♀ママさん♊

読んでくださってありがとうございます☺

夢はいつだって私にトキメキを与えてくれます✨

みんなで妄想して、よりこの物語を楽しんでくれたら嬉しいです❤

またお時間があるときにお越しくださぁい✨

No.294 10/08/19 09:46
眠り姫 ( Y4xRh )

『結笑ちゃんって可愛いなぁ~…』

楓さんが結笑を見つめながらポツリと呟いた。

やっぱり楓さんにとっても血の繋がりはあるわけだから、結笑を可愛いと思ってくれてるのかな~くらいに思ってた。

低めのテーブルにケーキや紅茶を並べ、瞬さん→結笑→楓さん→私の並びで丸くなって座った。

結笑は瞬さんと楓さんの真ん中をしっかりキープ。

楽しいおやつタイム。

結笑はショートケーキをパクパクお口に頬張る。

イチゴは最後のお楽しみかな?

もう半分くらいケーキはなくなってるけど、まだイチゴはそのまま…(笑)

『結笑ちゃんのほっぺ、クリームがついてるよ(笑)』

楓さんが優しく拭いてくれた。

…なんでこんなに素敵な女性なのに恋人がいないのか不思議だった。

結笑を中心に笑い合っていると、勇気さんが起きてきた。

『…楽しそうだね(笑)』

『あっ、勇気さん。ゆっくり休めましたか?』

『ヨッシーおはよ~』

『昼寝なんて生意気すぎっ』

『お兄ちゃ~ん❤結笑とケーキ食べよっ』

一斉に話しかけられて勇気さんはビックリしてるみたい(笑)

『あー…じゃあケーキをいただこうかな(笑)』

No.295 10/08/19 16:51
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんは私と瞬さんの間に座りった。

『久々にゆっくり休めたよ、百合ありがとう』

『私は何も…💦』

ほんわかした空気から一転、勇気さんは真剣にケーキを選び始めた。

『…チョコ…チーズ…モンブラン…イチゴ…タルト…』

すごく悩んでるみたい。

さすが甘党だなぁ(笑)

『うーん…じゃあコレに決めた!』

結局チョコケーキにしたみたい。

可愛いなぁ~…

ニコニコな笑顔でケーキを食べる勇気さんをみんなで見てる。

『あのさ…食べづらいんだけど…』

私がクスクスと笑い、楓さんは大笑いした。

『お前さぁ…よくそんな甘いのうまそうに食うよなぁ…』

甘いのが苦手な瞬さんは、勇気さんが食べているのを見ているだけでも胃がもたれそうだと言った。

一個をペロリとたいらげ、二つ目も食べたそう(笑)

『もうひとついいかな?』

『結笑も~‼』

二人は仲良く二個目のケーキを幸せそうに食べてる。

そんなとき…

瞬さんが結笑を見て

『…結笑はお兄ちゃんが好きか?』

っと聞いた。

私はドキっとし、勇気さんはケーキを食べる手が止まった。

結笑の返答を大人たちは緊張しながら待った…。

No.296 10/08/19 21:54
眠り姫 ( Y4xRh )

『ん~?お兄ちゃん?好きっ❤』

ニッコリ笑う結笑に、私と勇気さんはハー…っと胸を撫で下ろした。

『…そっか…!』

ちょっとだけ、瞬さんの顔が寂しそうに見えた気がした。

なぜか楓さんまで悲しそうな顔で瞬さんを見つめてる。

私はこの場の空気に戸惑った…。

少し無言が続き、そんな空気を和ませてくれたのが勇気さんだった。

『結笑ちゃんありがとうっ。僕も結笑ちゃんが大好きだよ!』

ニッコリと結笑に微笑みかける。

すると結笑も微笑み返す。

『あとね~、ママも、瞬ちゃんも、お姉ちゃんも好きだよ❤』

大人全員が結笑に胸キュンする。

愛しい我が子…

うまれてきてくれて、ありがとう。

楽しい時間もあっという間に過ぎ、夜になり瞬さんちにはまだ食器もそんなに揃ってはいないので、みんなで外に夕食を食べに行くことになった。

結笑はレストランがいいと言い、少し高めのレストランに瞬さんに連れていかれた。

瞬さんと楓さんは慣れているようで様になってる。

勇気さんまでも普通に入っていく…。

私だけ場違いな気がして、少し緊張した。

No.297 10/08/19 21:59
眠り姫 ( Y4xRh )

そんな緊張してる私の手をとり、優しい笑顔でリードしてくれる勇気さん。

だんだん緊張もほぐれてきた。

…結笑はすっかり慣れたご様子(涙)

子供っていいな。

適応能力が高くて…💧

食事をしながら、目の前に座っている瞬さんと楓さんを直視した。

本当に絵に描いたような二人だとつくづく思う。

イトコって聞いたけど全然似てないなぁ…。

食事も忘れて二人に見とれたりして(笑)

『…百合』

小さい声で勇気さんに名前を呼ばれ…

勇気さんにはバレバレだったのかな?

ハッとした私を見て笑ってる。

私はバツが悪そうな顔をして食事を続けた。

結笑は一日騒いで、疲れて眠くなったのか…

食事中からすごく静かで、目がシュパシュパしてる(笑)

『これを食べたら帰ろうね』

っと、勇気さんが切り出してくれた。

こーゆー気が利くところも好きだなぁ…と実感する。

お会計は瞬さんがカードで支払ってくれた。

『…今度は勇気のおごりりなっ!引っ越し手伝ったんだから、飯くらい食わせろよな~』

『…はいはい。また機会があったらね💨ごちそうさま~』

…勇気さんは瞬さんには強い気がするよね。

No.298 10/08/19 22:13
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんが結笑を抱っこすると、結笑はすぐに眠りについた。

…よっぽど疲れてたんだね。

お疲れさま、結笑。

レストランを出て、タクシーを二台つかまえた。

一台は瞬さんと楓さんが乗り、それぞれのマンションに帰る。

もう一台は私と勇気さんと結笑が乗る。

勇気さんが運転手さんに、私のアパートまで行くようにお願いしてた。

瞬さんたちに挨拶を済ませ帰宅する。

タクシーの中では、やっぱり勇気さんが結笑を抱いたまま寝かせ、右手は私と手を繋いでる。

勇気を出して、勇気さんの肩に頭をコツンと置いてみた…。

すると、勇気さんも少し頭を私の方に倒し、無言だけど幸せな時間がタクシーの中に流れてた。

もう少しだけこのままでいたいけど…

どんどん見慣れた景色になり、もうアパートの近くまで来ていた。

走ること数分、

無情にもアパートに着き、勇気さんと離れるのは名残惜しかったけど…

これからは会いたいときに会えるんだと自分に言い聞かせタクシーを降りた。

勇気さんは運転手さんにこのまま待っていて欲しいとはなしてる。

…寄らないで帰っちゃうのかぁ。

明日からお仕事だしそうだよね。

No.299 10/08/20 21:33
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんは眠ってしまった結笑を部屋まで運んでくれた。

ゆっくり布団に寝かせると、小さく動いたけどよっぽど疲れていたのかそのまま眠り続けた。

『…今日、結笑ちゃんに好きって言ってもらえてうれしかったな』

結笑の寝顔を見ながら、勇気さんは優しく見つめてる。

『私も嬉しかったんです。結笑が勇気さんを好きって言ってくれたこと…』

二人で少し結笑を眺め、勇気さんはタクシーのエンジン音が近所迷惑にならないようにと帰っていった。

すぐに携帯が鳴る。

メールだ。

相手は勇気さん。

『今日は片付けを手伝ってくれてありがとう。今度は三人でゆっくりしようね』

タクシーに乗ってすぐにメールをくれたんだろうな。

ついさっきまで一緒にいたのに、もう会いたいと思ってる私がいる。

『今日は色んな勇気さんが見れて楽しかったです。今度は料理を作りに行きますね』

ふふふ…

メールを作りながら、なんだか胸がくすぐったくてつい笑ってしまう。

『楽しみにしてるよ。ゆっくり休んでね。おやすみ』

『勇気さんもゆっくり休んでくださいね。おやすみなさい。』

寝る準備をして眠りについた。

No.300 10/08/20 21:46
眠り姫 ( Y4xRh )

今までと変わらない毎日。

だけど、今までとは違うことも増えていく。

時間が会えば、勇気さんに会えるようになった。

近くにいると思うと心が強くいられた。

何回か合鍵で夕飯を作って置いてきてあげたこともあった。

勇気さんのマンションに、私や結笑の物が増えてること…

休みには三人でお出掛けしたり、マンションでまったりしたり…

結笑と二人の時より、勇気さんが一緒にいてくれれば、更に笑顔がたえなくなった。

結笑も勇気さんになついてくれて助かってる。

最近では、私が少し用事を足しに行くことがあり、勇気さんとお留守番していてもイイコにしているみたい。

逆に『お兄ちゃん、お兄ちゃん』っと後を追いかけていく結笑。

勇気さんと話し合い、そろそろ『結婚』を考えようかと言うことになった。

ある日、結笑に大事な話があるからよく聞いてね…と、勇気さんのアパートで三人正座していた。

『結笑…ママのこと好き?』

『大好きっ❤』

『お兄ちゃんのこと…好き?』

『うん❗好きだよ❤』

『結笑はパパが欲しい❓』

『パパァ~❓❓』

『そう…結笑のパパ…』

『欲しいぃ~‼』

No.301 10/08/20 22:02
眠り姫 ( Y4xRh )

まだ結笑には全ては伝えてもわからないかもしれない…

でも、結笑が拒否すればまた時間をかけて絆を作って行こうと思ってる。

『…僕が結笑ちゃんのパパになってもいいかな?』

優しく結笑に問いかける勇気さん。

私も勇気さんも緊張しすぎて顔が引きつってるかもしれない…

『お兄ちゃんが結笑のパパ?』

真顔で勇気さんを見る結笑。

『…ダメかな?結笑ちゃんも、結笑ちゃんのママも、このお家で僕と一緒に暮らさない?』

『ここで??』

『そう…。結笑ちゃんが嫌ならいいんだよ』

勇気さん…

しばらく無言になる。

ダメだと諦めかけたとき、

『結笑イヤじゃないよ❗お兄ちゃんが結笑のパパ⁉やったぁぁぁ❤』

結笑がピョンピョンと跳び跳ねてる。

その姿を見て、私と勇気さんはホッとひと安心した。

…ありがとう…結笑。

保育園が遠くなるため、マンションの近くの保育園を探すと、ちょうど空きがありすぐに入れるみたいで良かった。

本屋も辞めることにした。

通うのは前とそんなには変わらないけど、しばらくは専業主婦になることにした。

好きな人たちの為に家事をするのがずっと夢だった。

No.302 10/08/20 22:17
眠り姫 ( Y4xRh )

本屋に事情をはなし、店長は快く承諾してくれた。

『幸せになれよ❗』

ガッハッハッと豪快に笑うこの笑顔も、もう見れなくなるのかと思うと少しだけ寂しかった。

シフト的には、フリーターの如月さんが私のかわりに入ってくれるみたいで、案外すぐに辞められることになった。

如月さんは店長と過ごす時間が増えることを喜んでいた。

最近の店長も、如月さんの猛アタックな毎日に、意外にもまんざらでもなさそうな感じなんだよなぁ~なんて思ったりして(笑)

…頑張れ如月さん‼

恋する乙女は強いよね(笑)

パートの宮島さんにも『おめでとぉ~✨』っと祝福され、私は後悔することなく大好きだった本屋を辞めることが出来た。

とりあえず、籍だけ先に入れ落ち着いたら結婚式を挙げようと勇気さんが言ってくれた。

ウェディングドレスが着れる…

すごく嬉しかった。

善は急げと早急に勇気さんのマンションに引っ越しをして、片付けもだいたい終わった。

結笑もすぐに新しい保育園に慣れてくれてひと安心だ。

毎日忙しいけど、充実した日々を送っていた。

No.303 10/08/20 22:27
トマト ( 30代 ♀ UYGK )

こんばんは😁二人が結ばれた事が嬉しくて✨思わずレスしてます🙌毎日更新されるのを楽しみ🎵にしてて⤴私、吉岡さんも瞬さんも大好き💕で。恋💘してまぁ~す😍このまま二人が幸せに暮らしてくれる事を祈ってます💡瞬さんと楓さんも幸せになってくれるといいなぁ⤴眠り姫さん、更新大変だと思いますが…大ファンなので、頑張って下さいね😉

No.304 10/08/20 22:31
眠り姫 ( Y4xRh )

朝、勇気さんと結笑より先に起きて、二人のお弁当を作る。

同時に朝食も作り、出来たら二人を起こす。

結笑も勇気さんも寝起きがいいから助かります(笑)

毎朝、勇気さんが結笑の顔洗いや歯磨きを見てくれて、仕上げ磨きもしてくれる。

勇気さんが寝室へスーツに着替えに行っている間に、結笑の着替えは私が手伝い、なるべく一人で着れるように今は練習中なのです。

支度が済むと、三人揃って朝ご飯。

勇気さんは朝もきちんと食べてお仕事に行きます。

…瞬さんとは違うな~って思っちゃったりした時も最初はあった。

今は勇気さんのことをもっと知りたくて、日々…勇気さん観察をするのが日課になっている私(笑)

先に勇気さんが車で出勤し、少ししてから結笑を保育園に送る。

勇気さんが仕事に行くときは玄関まで見送りし、キスをしてお仕事へ。

『パパ~いってらっしゃ~い‼』

結笑も笑顔でお見送り。

そう…結笑も勇気さんのことをパパと呼ぶようになった。

この呼び方にもすぐに慣れてくれた結笑。

本当に手のかからないイイコに育ってくれたことに感謝しかありません。

私はずっとこんな家庭に憧れてました。

No.305 10/08/20 23:08
眠り姫 ( Y4xRh )

トマトさん🍅

更新を楽しみにしてくださってありがとうございます😊✨

とうとう勇気と百合が落ち着きました😂💦💏

でも、人は変わるものですね😃

最初の人物とは思えないくらい、みんな変わってきているように思います💧(笑)

噛めば噛むほど味が出る…

知れば知るほど素がわかる…

っと言ったところでしょうか😁(笑)

読みづらい文章ではございますが、これからもよろしくお願いいたします😍💕

No.306 10/08/20 23:30
はっち ( 20代 ♀ UIYmnb )

作者様、楽しく拝見しています。勇気さんと百合さんが結ばれてほっとしました。
暖かい家庭を築いて欲しいなあなんて思ってますが…
瞬さんも、最近ちょっと素敵なんて感じてます。
私なら瞬さん?なんて思いながら拝見してます。
最後には百合さんと結笑ちゃんが幸せになれますように

No.307 10/08/21 13:20
眠り姫 ( Y4xRh )

>> 306 はっちさん🐝

読んでくださりありがとうございます☺

はっちさんは高柳 瞬派なのですね💓

俺様な肉食系です😁

逆に、吉岡 勇気は周りに気を配る草食系かな😊

(笑)

楓が肉食女子、百合は草食女子です😂

結笑は…

絶対に肉食女子です✨

これからどうなっていくのか、よかったら見届けてください❤

No.308 10/08/22 00:59
眠り姫 ( Y4xRh )

私は『吉岡 百合』になった。

もちろん結笑は『吉岡 結笑』

まさか私が吉岡になるなんて…。

あの頃は思ってもみなかったな。

そして、我が家では籍を入れてから三人で決めたルールがある。

①敬語は使わない(勇気)

②言いたいことはきちんと伝える(百合)

⑤イイコにしてたらおやつ(結笑)

一緒に暮らし始めたときは敬語がなかなか抜けなかったけど、今では自然に話せていると思う。

勇気さんも結笑ちゃんから、『結笑』って呼ぶようになった。

私のことは今まで通り『百合』だったり、結笑の前だと『ママ』なんて照れながら呼んだりしてる(笑)

三人で暮らし始めて数ヵ月がたった頃。

いつも通り家事をしていると、一通の手紙が届いた。

宛名は『吉岡 勇気様 百合様 結笑ちゃん』

これ…手紙?

にしては大きいような…

…招待状?

差出人を見ると、目を疑った。

新郎『高柳 瞬』

新婦『玉置 楓』

えっ?!

瞬さんと楓さん?

結婚式の招待状っ?!

イトコ同士は結婚できるって聞いたけど…

私は驚きのあまりすぐに勇気さんに電話した。

『プルルル…』

No.309 10/08/22 01:16
眠り姫 ( Y4xRh )

『…百合?どうかした?』

心配そうに電話に出た勇気さん。

『今…結婚式の招待状が…』

『…うん』

『それが…瞬さんと楓さんの結婚式みたいで…』

『やっぱりそうなんだ…』

勇気さんは何か知っている様子だった。

『…わかった。帰ってから話をしよう。今夜は早く帰るよ』

『…あっ、はい。じゃあまたあとで…』

私はまだ状況が理解できずに、その後は家事がなかなか手につかなかった。

結笑のお迎えに行き、夕飯の支度をしていると勇気さんが帰ってきた。

5時半…

本当にはやい帰宅。

『ただいま、結笑~今日は何をしてきたの?』

普段通りの勇気さんは、結笑を抱き上げ一日の報告を聞いていた。

『今日はね~みっちゃんとお砂遊びしたよ!』

両手を使って、体いっぱいでおはなししてくれる結笑。

勇気さんは結笑のはなしの合間に、チラッと私を見て

『後で話そう』

っと、小さな声で言った。

私は了解の意味を込めて頷いて返事をした。

食事を済ませ、家族団らんの時間を楽しみ、結笑は夢の中へ…。

結笑を寝かせてリビングに行くと、勇気さんがソファーに座りコーヒーを飲んでいた。

No.310 10/08/22 21:58
眠り姫 ( Y4xRh )

『これ…』

届いた招待状を勇気さんに渡した。

勇気さんが中を開けてみる。

しばらく黙って招待状を眺めていた。

『やっぱり本当だったんだね…。』

はぁ~っと小さいため息をついて、勇気さんは私に招待状を手渡した。

『やっぱりって…何か知ってたの?』

私は勇気さんを見つめて聞いた。

『…うん。百合、隣においで。』

っと、トントンっとソファーを叩く。

そこにそっと座ると、勇気さんはゆっくりはなし始めた。

『最近さ、二人が結婚するかもって噂が流れてはいたんだ…。ただの噂だと思ってたんだけど…。なんでも、瞬の父親がそう望んでるらしいんだよね。』

『…瞬さんのお父さんが?』

『そう。このところ体調がよくないみたいでね、早く瞬に落ち着いてもらいたいみたいなんだ…。』

『そうなんだ…。』

『楓ならしっかりしてるし、安心して瞬も会社も任せられると思ったんだろうね。ずっと父親代わりだったしね。』

『…うん。でも二人の気持ちは…』

そこが一番心配だった。

No.311 10/08/22 22:06
眠り姫 ( Y4xRh )

政略結婚みたいなのは悲しすぎるから…。

瞬さんや楓さんには好きな人と一緒になって、幸せになってほしいから。

『…そうなんだよね。僕もそこが一番心配だよ…。』

勇気さんが私の手を繋いできた。

だから私も強く強く勇気さんの手をにぎり返した。

『ちょっと、こんな時間に失礼かもしれないけど…瞬に電話してみようか…』

勇気さんは携帯を開き、瞬さんに電話をかけ始めた。

『プルルル…』

私は勇気さんの肩にもたれ掛かった。

しばらく鳴らしても出る気配がない。

『…出ないな。また明日にでもかけてみるよ』

『…うん…』

私は小さく頷いた。

私の元気がなく下を向いていると、勇気さんがおでことおでこをコツンとぶつけてきた。

『…心配?』

っと上目使いで甘えたように聞いてくる勇気さん。

『…うん。』

っと答えると、

『…楓が?…それとも…瞬のこと?』

少し意地悪な言い方で聞いてくる。

『…どっちもだよ』

私も目線を勇気さんに合わせた。

至近距離で目と目が合っている。

No.312 10/08/22 22:23
眠り姫 ( Y4xRh )

『…瞬が結婚するのは嫌?』

なんだか意地悪なことばかり言う勇気さん…。

『…どうして?瞬さんが幸せなら、結婚だって心からお祝いしたいよ?幸せになってほしい。もちろん楓さんも…。今日の勇気さん…なんだか意地悪だよ…』

私がイジケたように言うと、勇気さんが大きな両手で私の頬を覆った。

『…ごめん。悲しそうな百合の顔を見たら、もしかしたらこのまま百合が瞬のとこに行ってしまうんじゃないかって思ったら、つい意地悪な質問をしてたよね…ごめんね。』

…ヤキモチかな?

『私…どこにも行かないよ?ずっとここにいる。あなたの側にいたいから』

優しく優しく勇気さんを包むように抱きしめてあげた。

『…うん、そうだよね。ごめんね、百合。愛してるよ』

そう囁きながら、勇気さんも私を優しく強く抱きしめ返してくれた。

『勇気さん…』

珍しく弱気な勇気さんを愛しく感じた夜だった。

そのとき…

『ピッピッピッ…』

勇気さんの携帯が鳴る。

テーブルに置かれた携帯に名前が光ってる。

『あっ…瞬だ…』

勇気さんは携帯を手に取り電話に出る。

『…もしもし』

緊迫した空気が流れる。

No.313 10/08/22 22:36
眠り姫 ( Y4xRh )

『おぉ~!お疲れ~!電話したか?』

瞬さんの大きな声は電話からもれて、私にまで聞こえてきた。

『…あっ…あぁ…』

テンションの高い瞬さんに、すっかり拍子抜けしたような声を出している勇気さん。

『わりぃ~わりぃ~!さっきまで実家で楓や親父たちと一緒に飯を食っててさ。あっ!招待状はちゃんと届いたか?』

『…あぁ、今日届いた…けど、本気で結婚する気なの?』

淡々とはなす瞬さんに、私も勇気さんも驚いた。

『おぉっ!俺、楓と結婚するわ!結婚式にはちゃんと来てくれよなッ!』

『…わかった。』

それしか言えない勇気さん。

私はすでに言葉が出てこなかった。

『結笑のドレス、俺がプレゼントに送るからさ、それ着せて来いよな~!』

『…あぁ…わかった。』

『…おい、ちゃんと聞いてんのかよ!お前、大丈夫かぁ?』

心配で電話したつもりが、逆に心配されてしまっている私たち。

『あの…!楓さんも結婚に乗り気なんですか?』

私は勇気さんから電話を奪い、瞬さんに聞いてみた。

『おぉ、百合!んっ?楓?ちょっと待ってな…おい、かえで~百合から電話だぞっ!』

No.314 10/08/22 22:50
眠り姫 ( Y4xRh )

あっ、一緒にいるんだ!

『もしも~し!百合ちゃん結婚のこと…ビックリしたでしょ(笑)』

おどけたように話してる楓さん。

『あの…いいんですか?このまま結婚しても…』

私はオドオドしながらも聞いてみた。

『うんっ!おじさまから初めて言われた時はビックリしたけど…逆にそれから瞬を意識するようになって、今まで見てきた男達より全然瞬の方が芯がしっかりしてるな~って思うようになったの!』

『…はい…』

『ふふふっ(笑)心配しないで、百合ちゃん!今までは弟にしか思えなかったけど、今はちゃんと一人の男として見てる。そんな瞬に惹かれたから結婚もありかなって思えたの。』

『…そうなんですか』

『…うん、百合ちゃんのお陰よ。』

『…私?』

『そう…昔の瞬だったら絶対に好きにはならなかったけど…百合ちゃんと出会って、失って、学んで、アイツは人としてすごく成長したわ。周りが驚くくらいにね…そんな瞬をずっと側で見てきて、今では誰かにとられたくないって思っちゃったのよね(笑)』

笑いながら話す楓さん。

…好きなんだなぁ、瞬さんのこと。

私にもちゃんとその想いが伝わってきました。

No.315 10/08/22 23:05
眠り姫 ( Y4xRh )

『そうなんですか!安心しました。どうかお幸せになってくださいね♪』

心からそう思えた。

『ありがとう…!じゃあ、瞬にかわるね』

その言葉を聞いて、私も勇気さんにかわった。

しばらくして、勇気さんと瞬さんは会話が少しずつズレて仕事のはなしになっていたので、私はキッチンにハニーミルクを作りに行った。

二人の想いが通じての結婚に、私は嬉しかった。

キッチンから見える勇気さんの姿。

真面目な顔で仕事のはなしをしてる。

…カッコいいなぁ(笑)

ついつい見とれてしまう。

みんなが幸せになれたらいいね。

そう願わずにはいられない夜でした。

瞬さんとの電話も終わりに近づいたような会話になり、瞬さんが私にもよろしくとでも言ったのだろう。

『あぁ、百合にも伝えておくよ』

っと勇気さんが言って電話を切った。

切ってすぐに、勇気さんはキッチンにいる私を見てニッコリ笑う。

私もニッコリ笑った。

二人で甘めのハニーミルクを飲んで、ホカホカした気持ちで眠りについた。

No.317 10/08/24 00:19
♂ママ ( 30代 ♀ dniM )

今日スレ見つけて一気に読んでしまいました😍💕
続き気になります~✨
自分の息子には吉岡さん系になってほしいけど、私は高柳系に弱いです…🙈💕…主人はどっち派でもない優しいのが取り柄の平凡な人…読んでいて妄想がひろがり、私には主人が一番と再確認しました☺
私も妄想大好き💕妄想万歳🙌です✨

これからも楽しみにしてます💕更新大変だと思いますが頑張ってください💕

No.318 10/08/24 01:20
眠り姫 ( Y4xRh )

コアラさんへ🐨

現実にはないから夢でときめいているのですよ😊

長いのに読んでくれてありがとうございます🌷

コアラさんにも素敵な夢がやってきてくれるといいですね😊


ちなみに私は昔から見た夢はハッキリ覚えてますよ😲

そういう体質なのでしょうか❓(笑)

まぁ後半はさすがに夢で見たものではなく、妄想を織り混ぜて物語を進めているので、そこのところはあまりツッコまないでください😁💧(笑)

これはフィクションです⭐妄想は自由ですよ✨

コアラさんもぜひ妄想をして楽しんでみてくださいね🎵

追伸❤

私には妄想があるので、現実世界で家庭がある方に手を出すことはございません💦

そんな勇気もないです🙈

No.319 10/08/24 01:27
眠り姫 ( Y4xRh )

♂ママさん👶

読んでくださってありがとうございます☺

妄想っていいですよねっ💓

どんどん妄想が広がっていくのはすっごく楽しいです😁✨

高柳と吉岡…全く正反対のタイプに告白されちゃったら、めちゃくちゃ迷っちゃいますよね~❤(笑)

百合のようにモテたかったわ😍

これは妄想ではなく、すでに願望❓(笑)

お暇なときにまたのぞきにきていただけたら嬉しいです☺

No.320 10/08/24 01:41
モコモコ2 ( ♀ sWrSh )

>> 319 眠り姫さん✨こんばんは✨

いつからか のめり込んで 読ませて頂いてます☺

実は ぉ願いが あります🙏
感想スレ📝を 立てて頂けないでしょうか❓

『やったぁ~💕 更新されてるぅ~😁』と 見ると 感想で…😢

ガッツリ✊ ぉ話の中に 溺れたいょ~😭

どぉぞ お願いします🙇🙇

No.321 10/08/24 01:42
眠り姫 ( Y4xRh )

数日後…

結笑宛に瞬さんから贈り物が届いた。

開けてみてびっくり。

…真っ白い天使の羽をつけたフリフリドレス。

これをお二人の結婚式に、結笑に着せて来いって言っているのですか…?

瞬さん…

夜、勇気さんが帰ってきてから見せると勇気さんが放心状態になっていた(笑)

『コレはありえないよね…?』

私に聞いてくる。

結笑は大喜びだったので、

『…とりあえず一回着せてみようか?』

っと、結笑に着せることにした。

着替え終わって結笑が勇気さんのところに走って行くと…

勇気さんは結笑を抱きしめました。

『…可愛い💓』

もうメロメロ(笑)

親バカなはなしだけど、実際に私にも結笑がすごく可愛く見えた。

ただ結婚式にこれはちょっと…ね…(悩)

勇気さんは携帯で結笑を撮りまくってます。

うち、よく撮れた一枚を瞬さんに送信してるみたいだった。

『百合!結笑を抱いてこっち見て』

ニッコリと微笑む勇気さん。

私は照れ笑いをしながら言われるがままにした。

『パシャ』

満足そうな勇気さん。

こっそり後ろから携帯を見ると、私と結笑が待ち受けになっていた(笑)

No.322 10/08/24 02:00
眠り姫 ( Y4xRh )

そんなオチャメな勇気さんも愛しくて、背中にピタッとおでこをくっつけた。

『休みの日に、結笑と百合の着て行く服を買いに行こうね』

勇気さんが左手を後ろに回してきて、ポンポンっと私の背中を叩いた。

手に持っていた勇気さんの携帯が鳴り、メールを見ると瞬さんからだったみたい。

『絶対に着せて来いよなッ!結笑かわいすぎッ!』

っと書かれてた。

ポチポチメールを作り、送信っと。

『…却下。』

勇気さんがまたバッサリ瞬さんを切り捨てる。

瞬さんにこんなこと言えるのなんて、楓さんと勇気さんくらいじゃないかな(笑)

本当に仲良しなんだね。

それから勇気さんは結笑の目線までしゃがみ、頭をナデナデする。

『結笑、すごく可愛いよ~本物の天使みたい(笑)』

『本当っ?!』

ノリノリな結笑はクルクル回って見せる。

『うんっ、すごく可愛い!でもさ、違うドレスもお休みにパパとママとで見に行かない?』

『でもぉ…』

残念そうな結笑。

『…うん。じゃあ、いいのがなかったらそれにしよう!約束だよ』

『わぁ~い❤』

二人で仲良く指切りげんまんの約束をしていた。

No.323 10/08/24 22:10
眠り姫 ( Y4xRh )

あっという間に週末になり、話していたドレスを買いに三人で洋服やさんへ出掛けた。

店内には色とりどりのドレスがたくさん飾られてる。

結笑も小さくても立派なレディー(笑)

目をキラキラさせて店内を見渡してる。

まずは結笑のドレスを探した。

ピンクに黄色、赤に紫、黒に水色…

たくさんあって選べない。

形も種類が豊富で目移りしちゃう。

私は黄色の明るい感じのドレスを手に取った。

勇気さんはやっぱりピンクの可愛らしい感じのドレス。

結笑はどれもあまりお好みではない様子…

やっぱり瞬さんが贈ってくれた白い天使のドレスがいいみたい。

勇気さんと悩んだあげ句、結笑の意見を優先することにした。

自我がハッキリ芽生えてくる三歳。

結笑自身に決めさせるのも大事なことかなっと考えた。

それに、せっかく瞬さんにいただいたドレス。

瞬さんが主役の結婚式に着て行ったら、喜んでくれるかな~と期待した。

白いドレスを着れることになり結笑は大喜び。

結笑のドレスも決まり、お次は私のドレスを探すことになった。

私の目も輝いてる。

どれにしようかな…

どれも素敵だなぁ…

No.324 10/08/24 22:25
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんも真剣に選んでくれた。

黒のドレスが無難でいいかな…

黒いドレスを手に取ると、勇気さんが止めた。

『百合、これなんてどうかな?』

勇気さんが持ってきたのは、水色のロングドレス。

『これ…私にはちょっと派手じゃないかな…』

普段あまり水色は着ないので、心配になった。

『派手じゃないよ。それに…きっとそれなりに地位の高い人ばかりが出席するはずだから、これくらい着ても浮いたりはしないよ(笑)』

クスクス笑う勇気さん。

確かに…

考えてみたら瞬さんの結婚式と言えば、高柳グループの一人息子の結婚式だもんね。

有名人から偉い人やらきっとたくさん来るよね…

今から緊張してきちゃった。

勇気さんの持ってきてくれた水色のドレスを試着してみた。

…私とは思えぬほど大人っぽく見えた。

『とっても素敵だね。百合は細くてスタイルがいいから似合うと思ったんだ』

っと、勇気さんも誉めてくれたので思いきってこれを買うことにした。

すると、勇気さんがドレスに合わせて靴とネックレス、(私はピアスの穴が開いてないから)イヤリングも一緒に買ってくれた。

ありがとう…勇気さん。

No.325 10/08/24 22:56
眠り姫 ( Y4xRh )

結婚式が近づき、勇気さんは更にドレスに合わせてネイルもオーダーメイドで作ってくれた。

家事をするからと、取り外しができるものにしてくれた。

瞬さんの住んでいる街での結婚式なので、当日でも行けるけど美容室に行ったりと朝から忙しくなると思ったので前日からホテルに泊まった。

結笑は初めてのホテルに大はしゃぎ!

『きれー…✨』

キラキラのシャンデリアに、広いフロア、お姫様のような扱いに結笑はシドロモドロ…(笑)

私は支度を整えて、一足早くホテルを出て勇気さんの知り合いの美容室へ行き、髪をアップにしてもらい、プロの方にメイクまでしてもらった。

こんなに気合いを入れてお化粧をしたのはとれくらいぶりだろう…(笑)

我ながらいいところのお嬢様に見えるかも~なんて考えて、一人で笑ってた。

『すごく素敵ですね!これは吉岡さんも惚れ直しますよ(笑)』

『そんな…(照)💦』

勇気さんの知り合いの男性の美容師さんとお喋りをしていると、勇気さんと結笑が迎えに来てくれたみたい。

『そろそろ出来た頃だと思って…』

カランカランっと入り口のドアが開き、勇気さんが入ってきた。

No.326 10/08/24 22:59
眠り姫 ( Y4xRh )

私を見つめ、頭のてっぺんから足の爪先までじっくりと眺めてる。

段々と恥ずかしくなってきて下を向いた。

すると、勇気さんが

『綺麗だよ…百合。すごく綺麗だ』

っと、優しく微笑みながら言ってくれた。

それが嬉しかった。

『もぉ~吉岡さ~ん、朝からイチャイチャ見せつけないでくださいよ~(笑)』

さっきまで私を綺麗にしてくれてた美容師さんが勇気さんに話しかける。

『あぁ(笑)すまない。朝早くから無理を言って悪かったね、アサギ』

『い~え!吉岡さんの為なら喜んで(笑)』

『ありがとう。アサギ、紹介するよ。この人が妻の百合で、この子が娘の結笑。百合、彼は朝木 凌也。高校の時の後輩だったんだ』

朝木さん…

背は低めだけど、おしゃれで可愛らしい感じの男の人。

ホストにいたらナンバーワンとかになってそうだなぁ…。

私の一個上かぁ。

『はじめまして!』

ニッコニコで握手をするアサギさん。

『はじめまして、今日は素敵にしていただいてありがとうございましたっ』

私も笑顔で心からお礼を伝えた。

『結笑ちゃんもよろしくね!』

『うんっ!』

No.327 10/08/24 23:13
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑の髪もパッパっと手早く可愛くしてくれた。

さすがプロは違うなぁと感心した。

私は勇気さんの正装にドキドキした。

カッコ良すぎだよ💦

『あっ、もう行かなくちゃいけない時間だ…じゃあ、アサギありがとなっ。百合行くよ』

『ありがとうございました💦』

『ありがと~バイバ~イ❤』

『いってらっしゃい!結笑ちゃんまたね~』

笑顔でブンブン手を振って見送ってくれる朝木さん。

太陽みたいな、一緒にいるだけでみんなが元気になれるような人だったなぁ。

美容室でくつろぎすきたのか、ちょっとギリギリになり足早に急いで会場に入った。

受付を済ませ中へ入ると…私の想像を遥かに越える大きさだった。

結笑と二人で

『すご~い…』

っと声を揃えて言った。

何人来るんだろう…

テーブルや椅子の数がありえないくらい多いんだけど…

これみんな人で埋まっちゃうの?

瞬さんの凄さを改めて実感した。

式が始まるまでまだ少し時間がある。

勇気さんもここへ来てから、いろんな人に話しかけられ挨拶を交わしてる。

勇気さんの知り合いもたくさん来てるんだなぁ…

ほとんどが仕事関係の方かな…

No.328 10/08/25 16:13
眠り姫 ( Y4xRh )

『百合…こっちへ来てくれる?』

勇気さんがスッと手を差し出す。

その手を取ると、さりげなく私の腰に手を添えてみなさんに紹介してくれた。

『妻の百合です。』

『…はじめまして💦』

…いつもの勇気さんとは少し違うみたい。

場馴れしてると言うか…

積極的と言うか…

顔つきも違う。

いつものニッコリ笑顔なのに、目が笑ってない。

目尻を下げて笑う勇気さんが好きだけど…

こんな勇気さんにもドキドキする。

見たことのない勇気さん。

彼をまたひとつ知ることが出来た気がして嬉しかった。

みなさんと話をしながら、でも鋭い目付きで周りをよく見てる勇気さん…。

前に勇気さんが瞬さんの右腕として会社を急成長させた凄腕だって聞いたことがあったけど…

このときその言葉の意味を初めて理解した。

勇気さんは仕事とプライベートがハッキリしているんだね。

うちじゃあこんな勇気さんは見れないかもしれないなぁ…

結笑は近くをチョロチョロしたり、イイコに手を繋いで側にいてくれたりと、綺麗に着飾った人たちの多さに興味津々の顔をしていた。

No.329 10/08/25 16:18
眠り姫 ( Y4xRh )

キリリとした勇気さんはちょっと近寄りがたい感じがしないでもない…。

勇気さんともし仕事が一緒だったら、私は好きになってたかなぁ…

ちょっと苦手なタイプだったかも…

でも、仕事以外なら優しくて紳士的な勇気さんだろうから…

そのギャップにやっぱり惹かれちゃうのかも…

なんて色々と考え込んでしまった(笑)

うんっ。

どんな勇気さんでも、きっと私は恋をするね。

そんな気がするよ。

挨拶の度に勇気さんは私や結笑を紹介してくれ、少しだけ気疲れもした。

だって、この会場にいるほとんどの人が、私が勇気さんの奥さんだってわかったんじゃないかなってくらい(笑)

でも、ハッキリと『僕の妻です』って紹介してもらえて、私は幸せだね。

式が始まる前から疲れてどうする!

頑張って笑顔で乗りきった。

勇気さんの為に…勇気さんが恥ずかしくないように。

でも少しだけ気になることもあった。

私が瞬さんの人形をしていたときに、会ったことがある人がいたらどうしようかと…。

勇気さんにも、瞬さんにも、結婚をする楓さんにも迷惑をかけてしまうんじゃないかと心配だった。

No.330 10/08/25 16:54
眠り姫 ( Y4xRh )

どうか誰も私を知っていませんように…

仮に会ったことがあったとしても、私のことなんか覚えていませんように…

祈る気持ちで勇気さんの隣で笑ってた。

『皆様…チャペルまでご移動くださいませ。』

司会の方が招待客を誘導し始め、私は少しホッとした。

勇気さんはホッとした私を見て

『…疲れたでしょ?ごめんね…瞬の会社にいたときの取引先や、今の会社での繋がりの人だったりたくさん来ていてね。百合や結笑のことも紹介できるいい機会だと思ったんだ。』

また優しくいつものように微笑む勇気さん。

私や結笑を見つめる目は優しいってわかってるから。

『大丈夫だよ!勇気さんが恥ずかしくないように、私も結笑も粗相をしないようにしてるね』

勇気さんが私の手を繋ぐ。

『いつもの百合達でいいんだよ(笑)無理しなくても大丈夫だからね。僕が側にいるよ』

手を繋ぎ私達三人もチャペルへ向かった。

綺麗なステンドガラスに感動していると素敵な音楽が響き、新郎の瞬さんが入場してきた。

わぁ…真っ白なタキシードにトレードマークの金髪がよく似合ってる。

失礼だけど、今日はすごく真剣な瞬さんだなって思った(笑)

No.331 10/08/25 22:12
眠り姫 ( Y4xRh )

私たちの前を通りすぎるとき、瞬さんは一瞬ニヤっとした。

するといきなり…

『瞬ちゃ~ん❤』

結笑が手を振った。

静かなチャペルに響く結笑の声…

私も勇気さんもその行動にドキっとして、私は慌てて結笑に『シー💦』っと注意した。

すると瞬さんはクルりとこっちへ振り向き、ニカっと笑いながら結笑にピースをした。

…ごめんなさい💦

私はペコペコと頭を下げた。

そんな必死な姿を見て

『ぷっ…(笑)』

っと、口に手を当てて笑いをこらえながら、ゆっくりとまた瞬さんは真っ赤なヴァージンロードを歩いて行く。

すると勇気さんはしゃがみこみ、結笑に何やら耳打ちしてる。

結笑は笑顔で頷いていた。

そして、両手を自分の口に当てて『ウン。ウン。』と首を縦に振り、勇気さんと真剣にアイコンタクトをとってる。

勇気さんはそんな結笑の姿を見て

『グッ(^-^)g"』

っと親指を立てて返事をした👍

瞬さんが深く一礼をする。

次はいよいよ楓さんが入場してくる番だ。

結笑は大丈夫かな…

私は心配でたまらなかった。

No.332 10/08/25 22:30
眠り姫 ( Y4xRh )

そして、後ろの入り口が開く。

楓さんが入ってきた。

隣にいる人は誰だろう…

なんだかちょっと気難しそうな感じ。

誰かに似てる…

あっ、瞬さんだっ!

すると勇気さんが私にそっと

『…楓と歩いてるのが瞬のお父さんだよ』

っと教えてくれた。

そっか…

楓さんもご両親を事故で無くしていたんだもんね。

瞬さんのご両親が引き取ったって言ってたから…。

でも、やっぱり瞬さんに似てるなぁ~。

さすが親子なだけあるよね。

瞬さんも年齢を重ねたら、あんな風に貫禄のある男性になるのかな。

楓さんが目の前を歩いていく。

真っ直ぐ瞬さんだけを見つめ、その顔はとても幸せそうだった。

すごく綺麗な楓さん。

楓さんはスタイル抜群だから、ほっそりしたマーメイド型のウェディングドレスを着てた。

本物の人魚姫みたい。

『ボン・キュ・ボン』って言葉が当てはまる。

ドレスを着こなし、楓さんが輝いて見えた。

花嫁さんって素敵だなぁ✨

結笑も口に手を当てたままイイコにしていてくれた。

誓いの言葉に、指輪の交換、そして誓いのキス…

まるで映画のワンシーンを観ている様だった。

No.333 10/08/25 22:51
眠り姫 ( Y4xRh )

ブーケトスはしないまま一連の流れが終わり、二人が退場する。

みんなで『おめでとう』の言葉と共に、花びらを二人に向けて飛ばした。

瞬さんも楓さんもみんなに祝福されて、とても幸せそうに笑ってる。

二人が出ていった後に一旦扉が閉まり、親族の方々での写真撮影になった。

他の人たちはまた会場に戻って行く。

私達も戻ろうとすると、式場スタッフから呼び止められた。

『吉岡さまっ、新郎の高柳様が親族の写真撮影にぜひご一緒に、吉岡様のご家族も参加してほしい…とのご伝言をお預かり致しております。こちらへどうぞ』

急遽呼ばれ、親族の写真撮影にも入れてもらった。

写真を撮り、今度こそ会場へ戻ろうとすると…

『百合ちゃん!』

っと、楓さんが来てくれた。

『おめでとうございます💦楓さんすっごく綺麗ですっ(涙)』

あまりの感動に涙が出そうになる。

『やだ~💦百合ちゃん大袈裟だよ~(笑)泣くのも早いよっ!(笑)』

すると、照れてる楓さんが私に『はいっ!』っと、持っていたブーケを手渡してくれた。

『次は百合ちゃんがヨッシーにちゃんと結婚式を挙げてもらってね!』

っとウィンクした。

No.334 10/08/25 23:06
眠り姫 ( Y4xRh )

嬉しくてまた涙が出そうになる。

『ありがとうございますっ(涙)大切にしますっ』

『もぉ~百合ちゃんは涙もろいんだから~(笑)』

笑いながら、楓さんが頭をナデナデしてくれた。

こんなお姉ちゃんがいたらよかったのになっと、心から思った。

会場に戻ると、それぞれにみんなが同じテーブルの人々と雑談を楽しんでいた。

私達も席に着く。

結笑には専用の椅子が用意され、可愛く飾り付けされていた。

結笑はずっとニッコニコ。

うちと同じテーブルになったのは、瞬さんや勇気さんと同じ大学を出たお友だちご夫婦だった。

もちろん勇気さんも知っている方々で、学生の頃からお付き合いしていて、そのまま二年前に結婚したと言っていた。

お子さんはまだいないみたい。

『瞬はヤンチャだった』とか、『勇気は昔から真面目だった』とか、私の知らない二人の話を聞けてすごく楽しかった。

『…あんまり結笑の前で変なことは言わないでくれるかな?』

呆れたように勇気さんは言ったけど、でもお二人の話す昔話に勇気さんも懐かしんでいたようだった。

学生の頃の勇気さん…

もっと知りたいなっ!

No.335 10/08/25 23:36
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんが何を学んできたのか。

どんな人たちと同じ時を共に過ごして、笑ったり、喜んだり、怒ったり、時には泣いたりもしてきたのかな。

…恋もしてたのかな?

もっともっと勇気さんのことが知りたいよ。

私の考えていることがわかったのか、勇気さんが

『…百合…恥ずかしいし、普通だから聞かないでね?過去は過去だよ』

っと私を止めた。

普通だって…勇気さんのことなら知りたいのにな。

『そうそう(笑)勇気さ~学生の頃から瞬とばっかりつるんで、女の子の告白を断り続けてたからさ…』

『…おいっ!その話はいいいよっ!』

勇気さんが少し取り乱す。

面白がってお友達の旦那さんがはなしを続ける。

『コイツずっと男にしか興味ないんじゃないかって噂されてたんですよ(笑)』

『…百合、聞かなくていいからね…はぁ…(疲)』

深いため息をつく勇気さん。

そんな噂されてたんだぁ~。

やっぱり学生の頃からモテてたんだろうなぁ。

でも、断ってたんだ…

なんかちょっと嬉しいかも。

No.336 10/08/25 23:44
眠り姫 ( Y4xRh )

変な過去を暴露されちゃって、勇気さんはちょっぴりふてくされ気味?(笑)

『…まぁ、百合さんみたいな素敵な女性と結婚してくれて、僕らもひと安心ですよ(笑)ひょっとしたら本当に…って、内心は思ってたからね(笑)』

っと、お友達が最後はうまく笑い話に変えてくれてみんなで笑った。

その時

『これより、新郎新婦のご入場です』

っと司会の方が言い、ゆっくり入り口が開いてそこには瞬さんと楓さんが腕を組んで立っていた。

盛大な拍手の中を、雛壇まで歩いていく二人。

長い道を歩きやっと席につき、瞬さんが挨拶をした。

すごく堂々としていてカッコイイ挨拶だった。

そんな瞬さんにまた盛大な拍手がおくられた。

乾杯をし、一流シェフの料理が振る舞われ、結笑には豪華なお子様ランチが出てきた。

大喜びで食べてる。

私は飲めないのでジュースをいただき、勇気さんはシャンパンを飲んでいた。

偉い方のおはなしがあり、次は友人代表のスピーチへ。

そういえば、勇気さんが瞬さんから頼まれていたような…

一回も練習してるところとか見てないけど、大丈夫かな…

心配しながら勇気さんを見ていた。

No.337 10/08/26 00:08
眠り姫 ( Y4xRh )

さすがと言うか、なんと言うか…

勇気さんは見事に無難かつ繊細にスピーチをやり遂げた。

カッコイイ…

今日は何回、勇気さんにときめいちゃったんだろう。

もう、今日の勇気さんはいつもよりもカッコよすぎです。

席に戻ってきた勇気さんにお友達の旦那さんが

『相変わらず完璧なヤツだな~(笑)』

っと、冷やかす。

すると、

『別にこれくらい大したことじゃないよ(笑)』

っと、ニッコリとサラリとかわす勇気さん。

式も滞りなく進み、ドレス→着物→ドレスとお色直しも二回した。

幸せな雰囲気に、楽しくておいしい料理、普段とは違う勇気さんもたくさん堪能できた。

瞬さん、楓さん、本当におめでとうございます。

どうかいつまでもお幸せに…。

盛大だったからか、ほぼ一日がかりの結婚式だった。

夕方うちに帰って来た頃にはもう三人クタクタ(笑)

軽めに夕食をとり、お風呂に入ってからテレビをみながらまったりした。

結笑は気づいたらそのまま眠っていて、勇気さんが優しくベッドまで運び、川の字になっり目をつぶると、私も勇気さんもすぐに眠りについていた。

今日は本当に素敵な結婚式でした。

No.338 10/08/26 10:37
まぅ ( 20代 ♀ Etwlnb )

こんにちは😃

すごくぃぃ展開になってきたので、毎日続きが気になってニヤニヤ興奮しながら読ませてもらってます😍

結笑ちゃんもキュートでラブリーです❤

これからも楽しみにしてるので頑張ってくださぃ✨

No.339 10/08/26 21:22
眠り姫 ( Y4xRh )

まぅさん🐱

ありがとうございます😊

これからどんな展開になるのか…

まぅさんも一緒に妄想しながらお楽しみいただけたら、私も嬉しいです✨

人の数だけ、妄想も広がりますよね😁⤴

(笑)

No.340 10/08/26 21:43
眠り姫 ( Y4xRh )

一日経ってもまだ、結笑の興奮は冷めやらぬようで…

結婚式から帰ってからずっと

『結笑もお嫁さんになる‼』

っと意気込んでいます(笑)

『結笑…あんまり早くお嫁に行っちゃうと、パパはちょっと寂しいな…』

なんて、結笑をかまってる勇気さん。

もし…結笑がいつか誰か素敵な人のところへお嫁に行くときは、笑顔で送り出してあげたいな。

小さな私の楽しみも出来た。

瞬さんと楓さんはそのまま海外へ新婚旅行へ行ったみたい。

素敵な思い出をたくさん作ってきてほしいな。

またいつもの生活に戻る。

結笑と勇気さんのお弁当を作り、掃除や洗濯をする。

朝食を食べさせ、たまに勇気さんが結笑を保育園に送ってくれたりするから、私は玄関から二人を見送ったり。

こんな当たり前のことが、私には幸せに感じた。

一週間くらいが経った頃…

楓さんから電話が来た。

『百合ちゃ~ん!昨日ハワイから帰って来たんだけど、百合ちゃん達にお土産があるの☆日曜日に遊びに行ってもいい?』

『おかえりなさいっ!日曜日ですか?大丈夫ですよ。勇気さんにも伝えておきますね』

日曜日に楓さん達が来ることになった。

No.341 10/08/27 09:28
眠り姫 ( Y4xRh )

日曜日に楓さん達が来ることを伝えると、勇気さんは快く承諾してくれた。

結笑も跳び跳ねて喜ぶ。

そして待ちに待った日曜日のお昼過ぎ。

『ピンポーン』

『瞬ちゃんだぁ~❤』

バタバタと玄関に走ってお出迎えをする結笑。

私と勇気さんも結笑に続き玄関へ向かうと…

結笑がフリーズしたまま動かない。

『どうしたの?』

っと、玄関のドアを大きく開き見てみると…

『きゃっ!』

思わず叫んでしまった。

その声に、すぐ後ろにいた勇気さんが

『百合っ!どうかした?』

っと慌てて私を抱き寄せた。

勇気さんに引き寄せられた勢いで、私の手が玄関の扉から離れ閉まりかかる。

その瞬間、すっと小麦色のような黒い手が伸びてきて玄関を開けた。

警戒する勇気さん。

『…よぉ!』

ぬぅ~っと金髪にサングラスをかけて、すごく日に焼けた人が入ってきた。

『瞬…お前それ…』

私を抱いていた勇気さんの手の力がゆるむ。

サングラスをはずすと、結笑がやっと動いた。

『…瞬ちゃん‼』

あまりにも黒くなりすぎていて、結笑には一瞬誰だか理解するのが出来なかったようだね(笑)

本当に黒すぎますよ…

No.342 10/08/27 15:29
眠り姫 ( Y4xRh )

楓さんも健康的そうな小麦色になっていた。

勇気さんは呆れながら

『…二人とも、いい大人なんだから少しは考えなよ。明日からそれで会社に出るつもり?』

っと、ため息をついた。

『…あっ、仕事があったな。一週間近くもハワイにいたから、すっかり仕事のこと忘れてたな…💧どーすっかなぁ…』

瞬さん…考えてなかったんだ。

『まぁ、なんとかなるわよっ!』

楓さんが瞬さんの背中をポンッと叩いた。

『…いてっ‼』

叩かれた瞬間、瞬さんが痛がる。

『あっ、ごっめ~ん💦まだ背中が痛かったぁ?💦』

『いてーよっ⤵』

『自業自得だな…。』

まだまだ背中の日焼けは痛い様子の瞬さんでした(笑)

『…結笑~イイコにしてるかぁ~?』

急に瞬さんは話を変えて、結笑を抱き上げる。

『うんっ❗結笑イイコだよ!』

瞬さんに抱かれてニコニコの結笑。

『そっか!イイコかっ!』

『うん、瞬ちゃんあのね、結笑ね、お嫁さんになるの!』

『おっ、もうそんなこと言う歳になったのか(笑)』

『結笑、瞬ちゃんのお嫁さんになるっ❗』

…大人4人は固まった。

『瞬ちゃんだぁ~いすき❤』

…結笑…

No.343 10/08/27 21:46
眠り姫 ( Y4xRh )

子供の言っていることだから、そんなに気にすることもないんだけど…

結笑…

瞬さんだけはダメなんだよ。

瞬さんは結笑の本当のお父さんだから、お嫁さんにはなれないんだよ。

いつかは…

話さなきゃいけないのかな。

すごく悩む問題だよね。

『結笑あのね…』

私がそう言いかけた時、勇気さんが私の肩を掴んだ。

『結笑はきっと素敵なお嫁さんになるね!』

ニッコリ結笑に話しかける。

『うんっ❗』

満面の笑みで答える結笑。

そしてまた…楓さんが悲しそうな顔をしてた。

たまに見せる悲しそうな顔。

楓さんは何を思って、時々あんな顔をするんだろう…。

『瞬…』

楓さんが弱々しく瞬さんにもたれかかった。

そんな楓さんの姿を見て

『…わりぃ、このあとまだ用事があったんだった!また来るからさ!楓~行くぞッ』

『…うん。百合ちゃんごめんね、またねっ!』

今にも消えそうな笑顔で帰って行った楓さん達。

何か失礼なことしちゃったのかな…

結笑のあれがマズかったのかな…

どうしよう…

私がオロオロしていると、勇気さんが頭を後ろからポンポンしてきた。

No.344 10/08/27 21:59
眠り姫 ( Y4xRh )

『きっと瞬たちも土産を配るのに忙しいんだよ。また今度ゆっくりうちに呼んであげようね。』

優しく微笑む勇気さん。

『…うん…』

まだスッキリはしないけど、勇気さんの笑顔に少しだけ心が軽くなった気がした。

『瞬ちゃん帰っちゃったの?つまんない…』

下を向きながら私のスカートの裾を掴み、口をとがらせてイジける結笑。

『瞬たちは忙しいんだって。じゃあ…うちはこれから結笑の行きたいところに行こうか!』

勇気さんが結笑の鼻先をツンツンする。

思わず笑った結笑が

『じゃあ、ピクニック!』

っと言い出した。

お昼は済ませてたので、近くのお店で飲み物やお菓子をたくさん買って緑のある公園に行くことにした。

結笑はもう元気いっぱい。

勇気さんは子供の扱いが上手だから、何かと助けられることが多い。

娘さんのことは一切口にはしないけど…

もしかしたら会いたかったりするのかな…?

言いづらいだろうから、私から切り出してあげた方がいいのかな…。

娘さんへの想いを断ち切るように、結笑優しくしてれてるのかな…?

勇気さん…

あなたもきっとツラいんだよね。

ずっと側にいるよ。

No.345 10/09/05 22:04
眠り姫 ( Y4xRh )

三人で公園を満喫した。

勇気さんと結笑は、芝生の上でボール遊び。

優しく勇気さんがボールを投げて、それを結笑がキャッチする。

…はずなのに、なかなか結笑はキャッチできずに何回も何回も勇気さんに投げさせる結笑(笑)

『結笑、いくよ~!』

何度でも結笑に付き合ってくれる勇気さん。

なんて幸せなんだろう…

端から見たらきっと仲の良い家族なんだろうな~なんて考えながら二人を見ていた。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、片付けをして帰った。

たくさん遊び、結笑は早く眠りについた。

私と勇気さんは紅茶を飲みながらゆっくりテレビタイム。

会話なんかなくたって、この落ち着いた空気に癒される私。

お日様のような勇気さんの匂いも安心する。

勇気さんが大切にしてくれるこの家族を、私も大切にしたいな。

…ん?…体が揺れる。

私、いつの間にか寝ちゃってたんだ。

目を開けると、勇気さんの顔があった。

眠った私をお姫様抱っこで勇気さんが寝室まで運んでくれている途中だった。

『…勇気さん…』

まだウトウトしながら、勇気さんの胸に頭をコツンと寄せた。

No.346 10/09/05 22:14
眠り姫 ( Y4xRh )

『…うん。ゆっくりおやすみ』

優しくベッドに寝せると、おでこにそっとキスをしてくれた。

私は安心してまたそのままた眠りについた。

素敵な夢を見た気がする。

私たち三人が出てきた素敵な夢…

…あっ!

あまりの心地よさに、目を覚ますといつもより一時間も遅い。

でも目覚ましを止めた覚えもない。

かけ忘れたのかな…

隣には勇気さんの姿はもうない。

いけない💦朝食とお弁当の準備💦

慌ててキッチンへ向かった。

キッチンのドアを開けるといいにおいがしてきた。

Yシャツスーツにエプロン姿の勇気さん。

テーブルにはすでに着替えて、頭も可愛くリボンがつけられた結笑。

『おはよ~ママ❤』

『あっ…おはよ…』

私が入り口に立ったままでいると、勇気さんが笑いながら結笑に朝食を出して言った。

『おはよう。たまにはゆっくり休めたかな?…そんなところにいないで、こっちへおいで(笑)』

クスクス笑う勇気さん。

『ごめんなさい💦私が目覚ましセットするの忘れてたみたいで…』

勇気さんに謝ると

『あっ、僕が止めておいたんだよ。たまには百合にゆっくり寝ていて欲しかったからね』

No.347 10/09/05 22:26
眠り姫 ( Y4xRh )

『…勇気さんが…よかったぁぁぁ…』

寝坊したと思っていたら、勇気さんの優しさだとわかり、私は一気に安心してそのまま床にペタリと座り込んだ。

『そんなところに座ったら体が冷えちゃうよ。紅茶も用意してあるから、朝食にしよう』

私に手を差し出し、立たせてくれた勇気さん。

パンにハムエッグ、サラダに紅茶…

『百合みたいに大したものは作れないんだけどね(笑)』

照れ笑いをする勇気さんに胸キュンした。

『ううんっ、勇気さんすごい!とってもおいしそうっ!ありがとうっ!!』

感動して目に涙がうっすらと浮かぶ。

そんな私を見て勇気さんは

『そんなに喜んでもらえて嬉しいな。こんなのでよかったら、いつでも作るよ』

優しく微笑んでくれた。

『パパスゴいね~😲ゆえお腹すいたぁ…』

『ごめんね💦じゃあいただきましょうか!』

三人で勇気さんが作ってくれた朝食を食べた。

おいしかった。

嬉しかった。

勇気さんのエプロン姿に釘付けだった。

滅多に見れないかも…っと思い、ずっとずっと見つめてた(笑)

『…百合💧(苦笑)』

私の熱視線に勇気さんは苦笑い。

だって似合ってるんだもん。

No.348 10/09/06 20:23
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんと結笑を見送り、掃除をしていると…

携帯が鳴った。

開いて見てみると楓さんからで。

昨日のことも気になっていたし、心配でいっぱいになりながら電話に出た。

『はい、楓さん?』

『…百合ちゃん?今いい?』

元気がないような…

『大丈夫ですよっ!』

『…ありがとう。お昼から少しお邪魔してもいいかな?』

『えぇ、ぜひっ!待ってますね』

『…うん。それじゃあ』

やっぱり元気がなさそうな感じの楓さん。

喜んで欲しくて、急いでパウンドケーキを焼いた。

かぼちゃは好きかなぁ~…

パンプキンパウンドケーキが上手にできた。

お昼を過ぎて玄関のチャイムが鳴った。

『いらっしゃいませ!楓さん』

『これよかったら、みんなで食べて?』

小さな瓶に入った、可愛らしいプリンを差し入れしてくれた楓さん。

『わぁ~おいしそうっ❤いただきますっ』

紅茶とプリンを出して、テーブルに座った。

『なにかあったんですか?』

さりげなく聞いてみると、楓さんが重い口を開いた。

『実は…百合ちゃんにお願いがあるの…』

下を見たままの楓さんの様子に、私も緊張した。

No.349 10/09/06 20:47
眠り姫 ( Y4xRh )

『…なんでしょうか?』

『…すごくね、言いづらいんだけど…』

私は良い話ではないのかな…と感じ、目をゆっくりつぶった。

『…あのね…』

『…はい』

すると、いきなり楓さんが床に座り手をついた。

…土下座…

『…楓さん⁉💦』

『お願いします!結笑ちゃんを…結笑ちゃんを瞬の娘として…正式に迎えさせてくださいっ!!』

楓さんの言葉に一瞬、私の思考回路が止まった。

『…えっ?楓さんいきなり何を…(笑)』

冗談だと思い、楓さんの肩に手をのばし立ってもらおうとした。

『…冗談じゃないのっ!あたし本気でお願いに来たの!結笑ちゃんを、私たち夫婦の娘に…お願いしますッ!絶対に大切にしますからッ!約束しますッッッ!』

頭を床につけて必死に私にお願いをする楓さん…

『…どうして…』

私もその場に崩れ落ち、放心状態で楓さんを見つめた。

結笑を…

瞬さんと楓さんに…?

結笑と離れる?

私の結笑を…

頭が真っ白になり、考えても考えても楓さんの言っていることが理解できなかった。

『…百合ちゃん…あのね…私…』

楓さんがゆっくり話し出した。

No.350 10/09/07 10:54
はるるん♪ ( azQ1nb )

嬉しい😆久しぶりの更新ですね😁興奮して読んじゃいました😍
まだまだ続き✏楽しみにしてます♥

No.351 10/09/07 17:35
眠り姫 ( Y4xRh )

はるるんさん🌸

お待たせしました☺

これからもゆっくりですが更新していくので、よろしくお願いします😊

また遊びに来てくださいね😉

よかったら、感想スレも立てさせていただいたので、そちらにも来ていただけたら嬉しいです😍✨

No.352 10/09/07 18:06
眠り姫 ( Y4xRh )

『私…小さいときに手術をしたらしくてね、子供が産めないの…。詳しいことは両親が亡くなったからわよくは分からないけど…私には産めないみたいなの…』

次々と楓さんの口から出る言葉についていけず…

私はただただ力なく楓さんを見つめるしか出来なかった。

『…瞬に…子供を産んであげたいのに…私には出来ない…瞬には跡取りが必要なのが百合ちゃんもわかってると思うんだけど…私にはそれが出来ないの…』

楓さんが泣き出した。

私も泣いてしまいそうだった。

楓さんの気持ちが痛いほど伝わってくる。

だけど…

結笑を手放す勇気もない。

どうしていいのかわからず、私はずっと座ったまま放心状態だった。

『…瞬には…結笑ちゃんしかいないの…お願いします…お願いです…』

どれくらいの時間そうしていたのかな。

結笑のお迎えの時間だ。

楓さんは元気のないまま帰っていった。

気持ちがついていけず、結笑を迎えに行くのがつらくて、勇気さんに電話してお迎えを頼んでみた。

私の様子が変なことに気づいたのだろう…

勇気さんはすぐに了解してくれた。

ご飯…作らなきゃ…

作れるかな…

No.353 10/09/08 21:58
眠り姫 ( Y4xRh )

簡単なものを作り、テーブルに並べなにもする気になれずベッドに横になった。

それからしばらくして、勇気さんと結笑が帰ってきた。

『ママ~💓』

結笑の声がする。

寝室まで私の姿を探しあてて、横になった私の側にくる。

『ママ…頭痛いの?』

心配そうに私の顔をのぞく、かわいい結笑…

すぐ後ろに勇気さんも立っていて、ベッドに腰かけた。

『…どうかした?大丈夫?』

頭を撫でながら聞いてくる勇気さん。

私が答えずにいると、

『結笑っ、ママは具合が悪いみたいだからパパとご飯を食べてお風呂に入ろうねっ!』

っと結笑を部屋から出した。

そして、小さな声で

『結笑のことは僕が見てるから、百合はゆっくり休んでていいよ。結笑を寝せたら話を聞かせてね』

っと言いリビングへ向かった。

『勇気さん…』

何も考えたくない。

考えても答えなんか出ないよ。

広く大きなベッドにうずくまり、布団を頭まですっぽりかぶった。

どれくらいそうしていたのか、気づいたら本当にウトウトと眠っていて、勇気さんに呼ばれて起きた。

『百合…起こしてごめんね。でも、どうしたのか聞きたいんだ』

No.354 10/09/08 22:13
眠り姫 ( Y4xRh )

私は起き上がり、壁に体重をかけながらゆっくりとはなし始めた。

楓さんが来たこと。

楓さんから結笑を娘として迎えたいと土下座されたこと。

子供が授かれないと言うこと…。

話しながら泣きそうになる私を、勇気さんは何も言わず抱きしめた。

勇気さんの腕の中はいつも安心できる。

少し私が落ち着いた頃に、勇気さんからはなしを切り出してきた。

『瞬からは何も言われてないんだよね?』

『…うん』

『じゃあ、これから僕が瞬に電話をかけて聞いてみるけど…いいかな?』

『…うん…ありがとう』

一旦、勇気さんは私から離れ瞬さんに電話をかけた。

『プルルルル…』

『…おぉ!どーしたぁ?』

瞬さんの大きな声は、静かなうちの寝室の中にも声がもれて、私にまで聞こえてくる。

『…今日、楓が来たみたいなんだ』

そう勇気さんが言った瞬間、瞬さんの声が止まった。

『…結笑のこと…引き取りたいと頭を下げに来たみたいなんだ』

『………』

『…瞬、聞いてる?』

『…聞いてるよ』

『………』

『………』

二人の間に無言の空気だけが流れる…。

『…勇気…ごめん…』

『…え?』

No.355 10/09/09 15:37
眠り姫 ( Y4xRh )

『俺から言おうと思ってたんだけど、楓が先に言ったみたいだな…』

『…うん』

『結笑を引き取りたい』

『…瞬、申し訳ないけどそれは出来ないよ。本当の父親が瞬であっても…僕は結笑を手離すつもりはないから』

『…わかってる。勇気が結笑を大切にしてくれてること、すっげー伝わってくる。だけど、俺たちには結笑が必要なんだよ!産まれてから一度だって考えなかった日はないっ!』

瞬さんの大きくなった声が私にも聞こえてきてる。

『…瞬、落ち着いて。会社のことも、楓のことも心配なのはよくわかるよ。結笑を大切な気持ちもわかる。だけど、僕らにとっても結笑は必要なんだ』

勇気さん…

『…瞬、電話じゃなく近々ゆっくり話し合おう』

『…あぁ…わかった』

瞬さんも本気なんだね。

今になって結笑を取り合う日がくるなんて…

勇気さんが側に来てハッキリと言ってくれた。

『…結笑はどこにもいかないよ。大丈夫だよ。それに約束したでしょ?僕が百合のことも、結笑のことも大切にするって。だから…大丈夫だよ』

まるで自分に言い聞かせるように、私に言った勇気さん。

やっぱり不安だよね…

すごく不安だよ…

No.356 10/09/10 22:29
眠り姫 ( Y4xRh )

その夜は手を繋ぎながら眠った。

なかなか寝付けないまま朝になった気がする…。

目覚まし時計を止め、朝食の準備。

しばらくして勇気さんが起きてきた。

『…おはよう。夕べはなかなか寝れなかったみたいだね』

『ごめんなさい…勇気さんの睡眠の邪魔しちゃったよね』

椅子に座りながら勇気さんが優しく答えた。

『僕は大丈夫だよ!それより百合のことが心配だな』

見つめあった私たち。

『…私も大丈夫っ。きちんと瞬さんと楓さんと話し合ってお断りするつもり…それでいいよね?』

『もちろんっ。結笑は僕らの大切な娘だからね』

ニッコリ笑う勇気さんに癒された。

『ママぁ~…パパぁ~…おはよぉ~…💤』

半分寝ぼけながら、まだ目をこすりながら結笑も起きてきた。

『結笑、おはようっ』

『結笑~おはよ!今日は早いね(笑)パパとママの話し声で起こしちゃったかな?』

私は精一杯の笑顔で結笑に語りかけた。

『………💤』

起きてきたかと思えばリビングのソファーに行き、また眠りについた結笑。

『子供ながらに何か感じるものがあるんだろうね…』

勇気さんが結笑を見つめながら言った。

No.357 10/09/14 21:55
眠り姫 ( Y4xRh )

時間になり、結笑を起こす。

『結笑っ、保育園遅くなっちゃうぞぉ~』

慌てて起きる結笑。

勇気さんが笑いながら仕事に行く準備をしてる。

カバンを勇気さんに手渡し、見送った。

『今夜は少し遅くなりそうなんだ…こんなときにごめんね』

『ううんっ、大丈夫。お仕事だもん!いってらっしゃい』

それから結笑を送っていき、またいつもと変わらない一日を過ごした。

好きな人のために作るご飯。

おいしいよって言ってもらえたら、また頑張って作っちゃう。

単純だなぁ~なんて思うけど、みんなから見たらそんな小さな幸せが、私にとっては大きな幸せだった。

結笑を迎えに行き、買い物をして帰った。

夕飯の支度をし、二人で先に食べた。

『今夜は唐揚げで~すっ』

『わぁ~❤』

結笑はおいしそうにパクパクたくさん食べてくれた。

そんな結笑の顔が大好きっ。

お風呂では一日の報告会。

もうすぐ四歳になる結笑はお喋りもお手のもの。

…大きくなったなぁって感じることが増えた。

一人で出来ることも増えて、本当に手がかからなくなった。

これからも一緒にいようね…

…結笑…

No.358 10/09/15 21:29
眠り姫 ( Y4xRh )

しばらくはそんな平凡な毎日が続いた。

でも…

何も問題は解決されてないから、心から笑える日なんてなかった。

今度の火曜日…

結笑を保育園に送り、お昼からなんとか時間を作って楓さんと瞬さんがうちに来る。

勇気さんも少しだけ仕事を抜けてきてくれるみたいで心強い…。

私はハッキリ断るつもりでいる。

だって…

あんなに可愛い結笑を手離すなんて出来ない。

お腹にいるときからずっと一緒にいたのに…

今さら離れるなんて、私には出来ない。

私は結笑のママだから…。

あっという間に時間は過ぎて行き、とうとう火曜日の朝になってしまった。

朝からソワソワしてる私を見て、勇気さんが

『…百合、大丈夫だからね。瞬たちならきっと話し合えばわかってくれるよ』

『…うん。そうだよね』

『じゃあ、会社に行くけど昼前には一度帰ってくるからね』

『はい…いってらっしゃい』

勇気さんを見送り、次は結笑の番。

保育園へ送っていき、玄関でぎゅうっと結笑を抱きしめた。

『結笑…いってらっしゃい』

『うんっ❤』

元気に返事をして中へ入っていく。

結笑の姿が見えなくなるまで目で追った。

No.359 10/09/17 08:48
眠り姫 ( Y4xRh )

掃除をしていても、何をしていてもずっと上の空だった。

『ピンポーン』

『…はぁい』

玄関をあけると、瞬さんと楓さんが立っていた。

『…よぉ』

『こんにちは…百合ちゃん』

『…こんにちは』

なんだかとっても重たい空気。

(勇気さん…)

心の中で勇気さんの名前を読んだ。

お茶をだし、三人で向かい合うものの気まずい雰囲気だった。

会話もはずむわけもなく…

そんな中、勇気さんが帰ってきてくれた。

『ただいま』

『おかえりなさいっ!』

嬉しくて急いで駆け寄った。

『それじゃ、話し合おうか』

四人で席につき、重い空気の中…

結笑についての話し合いが始まった。

『まず、僕らは結笑を手離すつもりがないってことを最初に言っておくね』

『…勇気、百合。俺は結笑のことを大切に思ってる。生まれたときからずっと…遊んで帰る日はいつも胸が苦しかった。ずっと一緒にいたいって思ってたんだ…』

私は胸が痛んだ。

結笑を大切にしてくれていたのは、昔から本当に伝わってきていたから。

結笑と瞬さんを引き離したのは私…。

No.360 10/09/19 21:34
眠り姫 ( Y4xRh )

『瞬が結笑を大切に想ってるのはよくわかるよ…。だけど、僕にとっても大切な娘なんだ』

勇気さんがハッキリ言ってくれた。

すると楓さんが口を開いた。

『…本当の父親は瞬なのよ?こんなこと言いたくなかったけど…百合ちゃんはまだこれからがあるじゃない…。私には瞬の子供はうんであげられない…もう結笑ちゃんしかいないのっ!お願いッ!』

後半は声が大きくなった楓さんを、瞬さんが止めた。

『楓っ…落ち着けよ』

瞬さんに言われ、また口を閉じた楓さん。

『…楓、わかってると思うけど…これから先、もし子供を授かることが出来たって、結笑は結笑だよ。結笑のかわりなんて誰にもなれないよ』

勇気さんが優しく言った。

『結笑ちゃんは…日に日に瞬に似てきたわ。顔は百合ちゃんにソックリでも、芯が強いところも、物怖じしないところも、瞬の小さいときにソックリ…。結笑ちゃんなら会社をしっかり支えてくれると思うの』

楓さんは今にも泣き出しそうだった。

でも泣かないように堪えてた…

そんな姿がまた切なく見えて。

『義父と義母にも孫を…抱かせてあげたいの…』

…肩が震えてる。

No.361 10/09/19 21:46
眠り姫 ( Y4xRh )

私の胸はまたズキンと痛んだ。

お会いしたことはなかったけど、瞬さんのご両親には孫がいることになる。

結笑の存在は知らないだろう…

楓さんは親代わりだった瞬さんのご両親に、早く安心させてあげたい、親孝行したいっと言った。

きっと楓さんは自分を責めているんだろうな…

私には段々と何が正しいのかわからなくなってきた。

結笑にとっての幸せは、私たちが決めることじゃない。

結笑が決めることだから…

話は全く進まず、ついにみんな無言になってしまった。

そんな空気の中、私は重い口を開いた。

『…結笑に決めさせます。』

みんなが一斉に私の顔を見たのがわかる。

『…百合っ、何言ってるの?落ち着こうね?結笑はまだ三歳だよ?』

勇気さんが心配そうに私の肩を掴む。

『…もうすぐ結笑は四歳になります。大体のことは自分で考えて行動できるようになりました。子供は親を選べない…でも、結笑は自分で親を選べます。結笑に決めてもらうのはどうでしょうか?』

言いながら手をぎゅっと強く握りしめた。

すかさず勇気さんが更に私を止めに入る。

No.362 10/09/19 21:58
眠り姫 ( Y4xRh )

『百合っ!自分で何を言ってるのかわかってるのっ…?結笑はまだ小さな子供だよ?あの子に決めさせるなんてそんなこと…』

勇気さんが悲しそうな顔をしているのは、見なくても想像できた。

だから逆に勇気さんの顔が見れなかった。

でも、テーブルの下で、爪が手のひらに突き刺さりそうなほど握りしめている私の姿を見て…

勇気さんはそれ以上は何も言わなかった。

『…結笑が俺らを選べば、俺たちが引き取ってもいいってことか?』

瞬さんが真っ直ぐに私を見つめる。

『…はい。それが結笑の幸せなら私は身を引きます。』

『…そっか、わかった』

そう言いながら、瞬さんは席を立った。

『…楓行くぞ。今日はこれくらいにして一回帰るぞ』

『…うっ、うん。』

慌てて楓さんも瞬さんの後を追って出ていった。

『百合ちゃん…それじゃあ…またね』

『パタン…』

扉の閉まる音が静かな部屋に響く。

『百合…』

私の名前を呼び、勇気さんが優しく抱き寄せた。

その瞬間…

私は我慢が出来ずに泣いた。

『…勇気さん…』

本当はあんなこと言いたくなかったよ。

言いたくなかったけど…

No.363 10/09/19 22:08
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑の幸せを考えたら、ああするしかなかったの。

私が結笑を手離さないことが、結笑の幸せなら私は絶対に離したりはしない。

でも…

結笑が大好きな瞬さんといることが幸せなら…

私には止められない。

止めちゃいけないんだよ。

必死に自分に言い聞かせた。

私はバカだよね…

もし結笑が瞬さんたちを選んだら、もう一生結笑と一緒にいることが出来なくなるのにね。

こんなバカなママを許して…

結笑…。

落ち着いてきた頃、勇気さんに仕事に戻るようにお願いした。

すると、こんな私を心配してか結笑のお迎えは勇気さんが行ってくれると言ったので、素直に甘えることにした。

玄関まで見送り、みんなが飲んだカップを洗った。

あっという間に時間は過ぎ、夕方になって玄関が開く音がする。

『ママ~ただいまぁ~❤』

玄関に向かい、

『おかえり~!』

っと元気良く返事をした。

ぎゅ~っと抱きしめて、結笑の温もりを感じた。

あったかい…

『今夜はお鍋にしたんだよっ。さぁ、手を洗ってうがいをしてきてっ』

『はぁ~い‼』

バタバタとかけていく結笑の姿を目で追った。

No.364 10/09/19 22:20
眠り姫 ( Y4xRh )

それから振り返り、勇気さんにも元気よく

『おかえりなさいっ、結笑のお迎えありがとう』

笑顔で勇気さんのカバンを手に取った。

『百合…』

『んっ?』

って、ニッコリ聞き返す私に、

『…いや、何でもないよ』

って勇気さんが言った。

私の気持ちを察してくれてるんだろうね。

ありがとう…。

三人で楽しく夕御飯を食べた。

保育園での出来事。

毎日楽しみにしちゃうくらい、結笑の園での生活が気になっちゃう私。

おうちでは甘えん坊な分、園ではしっかりしているって前に先生がおっしゃっていたから、そんなしっかり結笑さんのお話を聞くのが楽しみだった。

結笑にとっての幸せはわからないけど

ママにとっての幸せはね、こんな小さな楽しみがあるってことが幸せなんだよ。

『パパ~にんじん食べて~…』

『一つだけ食べてごらん?』

『…え~』

『結笑っ!にんじんさんも食べなきゃ大きくなれないよっ』

『…うん』

そう言って、しぶしぶ口に入れる結笑のそんな姿も好き。

大好きだよ。

No.365 10/09/20 21:54
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑には心配かけたくないから、常に普通の私でいようと心に誓った。

何も言わなくても勇気さんもそうしてくれた。

そんな空気を読んでくれる彼の優しさにいつも助けられ、支えられてる。

次の日、私はお昼くらいに携帯を手にして電話をかけた。

相手は瞬さん。

『プルルル』

『百合かぁ?どうしたんだ?』

『実はお話があって…』

『…なんだ?』

『しばらく結笑を預かってくれませんか?』

『…はっ?』

『結笑は常に私と一緒にいてくれました…これから先、結笑がどちらを選ぶにしても、瞬さんはあまり結笑と一緒にいた時間ってなかったんですよね…今までごめんなさい』

『…百合…』

『だからっ…結笑としばらく一緒にいてやってください』

私は胸が張り裂けそうだった。

複雑だった…

これで結笑が瞬さんを選んだら、もう私は結笑には会わないだろう…

ううん…

あんなに小さな混乱させてしまうから、会ってはいけないんだと思う…

それでも私は今まで結笑と一緒にいられて幸せだった。

だけど…瞬さんはずっと寂しかったよね…

私最低だったよね…

きっと、これでいいんだよね…

No.366 10/09/20 22:07
眠り姫 ( Y4xRh )

『…わかった。ありがとな…百合。じゃあ、とりあえず一ヶ月くらい結笑を預かるから…』

『…はい。よろしくお願いします』

ゆっくりと電話を切って、携帯をテーブルに置いた。

泣いている暇なんかない。

私は今は忙しく何かをしていないと、もう一生動けなくなってしまうんじゃないかと思うくらい心が痛んだ。

がむしゃらに部屋の隅々まで掃除し、最後に結笑のお泊まりの準備をした。

結笑をお迎えに行く時間だ…

先生にもしばらくお休みさせるって言わなきゃね…

勇気さん…

何て言うかな?

…怒るかな?

…許してくれるかな?

…泣いちゃうかな?(笑)

はははっ…

はは…

…は…

こんなの笑えないよね。

結笑は今週末から一ヶ月間、瞬さん達のところへ行く。

一ヶ月も結笑に会えないなんて…

きっと瞬さんもずっと今までこんな気持ちだったんだろうな。

私はこの寂しさに耐えなきゃいけないね。

でも、一人だったら気が狂いそうだったけど、今は勇気さんも一緒に結笑の帰りを待ってくれる。

だから私は頑張れるよ。

ありがとう。

No.367 10/09/23 01:36
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんが帰ってきて、結笑が眠ってからはなしを切り出した。

怒られるのを覚悟して言ったけど、勇気さんは…

『百合が決めたことなら、僕は止めないよ…きっと百合のことだからたくさん悩んでこの結果になったんでしょ?僕はちゃんとわかってるから大丈夫だよ』

勇気さんの優しさに胸が温かくなった。

週末になり、とうとう結笑が瞬さんの所へ行く日。

瞬さんはみんなこっちで準備するから何も持たせなくていいって言ったけど…

結笑の大切なうさぎのぬいぐるみと、お気に入りの服と、手作りケーキを準備した。

うさぎのぬいぐるみは、そぅ…

結笑がまだ赤ちゃんだった頃に勇気さんからもらったお人形…

今でも結笑の宝物で、うさぎさんがないと眠れないってくらい大切にしているものだった。

すっかりクタクタなのに絶対に手離さない。

勇気さんはそれが嬉しいみたいで、口には出さないけど、ぬいぐるみを抱いた結笑をいつも優しく見守ってた。

この件も、結笑にしてみたら大好きな瞬ちゃんちへのお泊まり感覚。

朝からそわそわワクワクしてる。

もうすぐ瞬さん達がお迎えが来る時間になる…

No.368 10/09/25 11:34
眠り姫 ( Y4xRh )

瞬さんと楓さんは時間通りに迎えに来てくれた。

『結笑ちゃ~んっ!』

前回会った時とは比べ物にならないくらい、楓さんは元気になってた。

すごく嬉しそうだった…

瞬さんが結笑を抱き上げて、三人ニコニコしながらでうちを後にした。

知らない人から見たら、きっと仲の良い家族に見えるんだろうな。

いつまでも玄関に立ち尽くしていると、勇気さんが 優しく肩を抱いてきた。

『さぁ…中へ入ろう?』

勇気さんにもたれながらリビングのソファーに腰を下ろす。

温かいアップルティーを出してくれる勇気さん。

『どこかデートにでも行きませんか?(笑)』

『…デート?』

『そぅ…なかなか二人っきりなんてないでしょ?たまにはさ、百合も楽しんだらいいよ』

『…うん、そうだねっ』

勇気さんが気を遣ってくれてるのがわかる。

あんまり心配かけちゃダメだよね。

きっと勇気さんも寂しいんだから…ね。

腕を組んでブラブラとショッピング。

可愛い雑貨や綺麗な洋服。

小さな子犬や子猫。

キラキラのジュエリー。

こんなにゆっくり見れたのは久しぶり(笑)

ありがとう…勇気さん。

No.369 10/09/26 22:28
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑のいない毎日は、何をしていても張り合いがない。

朝もゆっくり出来るし、洗濯も少ない。

部屋は散らからないし、マシンガントークでお喋りする子もいない。

ご飯は癖で少し多めに作っちゃうし、お皿の数も三枚出しちゃうのがなかなか直らない。

お風呂の湯船にはオモチャをたくさん浮かべる子がいないから広々と入れる。

ベッドだって三人で寝ても余裕があったから、二人で寝るには広すぎて落ち着かない。

テレビの取り合いもしなくていいのに、観たいものもない。

買い物に行ってお菓子をおねだりする子もいないから、意外に早く済んだりする。

『ママのごはんおいしいねっ❤』

って、キラキラ笑顔で言ってくれる子もいない…

私の生活の中にはいつでも結笑がいて…

結笑中心で回ってると言っても間違いじゃないくらい、私には結笑が宝物だった。

少し離れてまた結笑の大切さに気づいたよ…

今ごろ何してるのかな?

ご飯はちゃんと食べてる?

ママのご飯よりおいしいとか言ってるのかな…

迷惑かけてないかな?

おうちに帰りたくないとか言ってるのかな…

きちんとイイコにしてるかな?

No.370 10/09/26 22:41
眠り姫 ( Y4xRh )

うちにいるよりイイコにしてたりして…

ねぇ…結笑…

あなたはどこに、誰といたら幸せなのかな?

ママはあなたが幸せなら…

ママも幸せだよ。

寂しくないと言えば嘘になるけど…

それで結笑がつらくなってしまうなら、ママは喜んで笑顔で送り出してあげるわ。

全ては結笑が幸せであるために。

だって私はあなたのママだもの。

痛いと言っているあなたの手を、引っ張り続けることなんて私には出来ないよ。

ただね…

これだけは忘れないでいてね。

ママは結笑を愛していると言うこと。

ママは何があっても結笑の味方だよってこと。

あなたは強がりだけど、繊細な心も持っているからこれから先、傷つくこともたくさんあるかもしれない。

だけど、それを乗り越える強さも結笑なら持ってるって信じてるから。

だから…

しっかり前を向いて生きて欲しいよ。

どうか、どんな結果になっても結笑が幸せでありますように。

みんなに愛される子になってくれますように。

みんなの笑顔を結べる子に育ってくれますように。

最愛の娘 結笑。

No.371 10/09/27 09:23
眠り姫 ( Y4xRh )

結笑のいない一日はとても長く感じ、時間をもて余すことさえあった。

何度電話をかけようと思ったことか…。

ためらって今日もまた携帯をにぎってソファーに座っていると、突然携帯が鳴った。

ビックリして床に落とした拍子に携帯が開き名前が出ていた。

『楓さん』

今日は結笑が行ってからまだ6日…

何事かと思い慌てて電話に出ると、

『ママァ~❤』

っと、結笑の元気な声が聞こえてきた。

久々に聞く結笑の声。

…久々と言っても、まだ6日しか経ってないのだけれど。

『…結笑?』

嬉しさのあまり小さな声になってしまった。

『ママ❓どうしたの❓どこか痛いの❓』

『…ううん、ごめんね。ママは元気だよ。結笑も元気?』

『うんっ❗元気だよ☺楓ちゃんね、お料理上手なんだよぉ~✨』

『…そっか。いいなぁ~ママも食べたいな』

なぜだかすごく寂しい気がした。

ワガママだよね。

『ママッ❗でもね…』

急に小さな声で喋る結笑。

『結笑はママのハンバーグが一番好きっ❤』

『…ありがとう、結笑』

今すぐ結笑を抱きしめたかった。

電話越しにきゃっきゃっ楽しそうにしてる結笑。

No.372 10/09/28 08:58
眠り姫 ( Y4xRh )

喋ったのはほんの数分だけど、結笑がイイコに元気にしてくれてることが伝わってきて安心できた。

今日は少しだけ心が晴れたみたい。

あとて勇気さんにも電話がきたこと教えてあげよっと!

私が元気がなかったら、勇気さんも結笑も心配しちゃうよね。

結笑も楽しんでいるのがわかったし、私も明るくいなくちゃね。

そうだ…

勇気さんとはほとんど二人の時間ってゆーのがなかったから、そんな時間を楽しむのも悪くないかもしれない。

気分転換にもなるし、勇気さんも喜んでくれるかな…?

家でウジウジしてたって、何も変わらない。

自分で動き出さなきゃ未来なんて明るくないよね。

結笑からの電話で元気をもらったよ。

ありがとう、結笑。

さっそく勇気さんにメールを入れた。

結笑からの電話は会ったときに話すとして…

『お疲れさまです。忙しいかな?今夜二人で外に食事にでも行きませんか?』

送信してしばらくすると、すぐに返事が来た。

『今日はそんなに忙しくないよ。早く帰れると思う。…何か良いことでもあった?』

さすが鋭い勇気さん。

結構私のことをよく知ってるんだよなぁ…私はわかりやすいのかな?

No.373 10/09/28 09:14
眠り姫 ( Y4xRh )

『まだ内緒っ!じゃあ、勇気さんのお仕事が終わる頃に駅前で待ち合わせしましょう』

『了解。待ち合わせとかちょっと照れるね(笑)』

『うんっ。新鮮だね!引き続き、お仕事頑張ってね』

『頑張ります(笑)』

さてっ!

食事も決まったし、たまにはおしゃれにしてビックリさせちゃおうかな。

少し気合いを入れてお化粧をして、勇気さんの好きそうな服を選んで着た。

うんっ、バッチリ。

まだ時間もあるし、たまには本屋に顔でもだそうかなっ。

辞めてから行ってないし、みんな元気かな~。

そそくさと準備を済ませ、家を出た。

久々に行く本屋。

私ここで働いてたんだもんなぁ…

たくさん勉強になったことがあるね。

歩きながらワクワクしていた私。

お店に着いて、『こんにちは』っと一番にカウンターに顔を出した。

『…おっ?おぉっ!百合さんじゃないか~久々だなぁ!相変わらず綺麗で~はっはっはっ(笑)』

振り返ったのは店長さん。

『ご無沙汰しております。店長も相変わらず豪快ですね(笑)』

店長は何にも変わってなくて、少し嬉しかった。

No.376 10/10/07 00:03
桜 ( 20代 ♀ EHABh )

皆さんごめんなさい!!!

↑の方、感想スレがありますよ。
こちらの本スレは読者の方々が更新を楽しみにしているので書き込みは控えた方がいいです。
このレスも削除して構いません。ごめんなさい。

No.377 10/10/07 09:07
眠り姫 ( Y4xRh )

店長と話していると、お店の奥からすごい勢いで走ってくる人がいた。

『こんにちは生垣さん。あっ…今は吉岡さんか(笑)』

息を切らせながら挨拶してきたのは、店長大好き如月さんだった。

『こんにちは。如月さんも元気そうでよかった』

『お前…まだ休憩中だろ?事務所で遊んでろ~』

『…だってっ!生垣さんの声がしたからっ!まさかと思って…』

『なんだよ~ただ久々に会ったから喋ってただけだろぉ?ふぅ…これだからお子ちゃまは(笑)』

『また子供扱いして!』

膨れっ面の如月さんを優しくなだめる店長。

あれ…

この雰囲気ってまさか…

『…あの、お二人ってお付き合いしてるんですか?』

私の一言に、如月さんは顔を赤くしてニッコリ頷いた。

店長は照れ臭そうに頭をかきながら、

『…こいつの根性に負けちまったよ(笑)こんな子供に手を出して、俺は困った大人だよなぁ~』

っと、がっはっはっと笑っていた。

すご~い!

如月さんの想いが通じたんだね。

頑張れば報われるのかな。

如月さんってすごいなっ。

しばらく楽しくお喋りをして、本屋をあとにした。

No.378 10/10/07 09:22
眠り姫 ( Y4xRh )

駅前のパン屋さんに入り、カップケーキと紅茶を買い窓際のテーブルに座った。

平日だからかスーツを着た男性や女性がたくさん行き交っている。

そんな人々の流れを見ながら一口紅茶を飲んだ。

『勇気さんもこの中にいたりして…』

そんなことを考えていると、人と人の間に一瞬だけ勇気さんの姿が見えた気がした。

まさかね(笑)

なんて思ったら、本当に勇気さんがTシャツにジーパンとラフな格好をした男の人と一緒に歩いていた。

男の人って言うより男の子?って感じの人。

すごく楽しそうに二人で笑ってるなぁ~。

あんな無邪気な顔ってあんまり見たことないかも。

あの一緒にいる人って誰だろう。

すぐに勇気さんたちは人混みの中へ消えていった。

夕食のときにでも聞いてみようかな。

ティータイムをゆっくり堪能し、駅の中にあるお店を色々と見て回ったらあっと言う間に待ち合わせ時間に近づいてた。

少し足早に待ち合わせ場所に向かい、勇気さんを待っていた。

しばらくすると肩をポンっと叩かれ、振り返ると優しく微笑む勇気さんが立っていた。

胸がドキドキした。

こんな気持ち久々だね。

No.379 10/10/11 22:31
眠り姫 ( Y4xRh )

『今日の百合は別人みたいだね。化粧をしてなくても綺麗なのに、そうしていると誰かに連れさらわれそうで心配になってしまうよ(笑)』

冗談混じりにクスクス笑う勇気さんを見て、胸のドキドキが止まらない。

他愛のない会話をしながら、勇気さんが予約してくれていたお店へ向かった。

勇気さんはどこをとっても紳士そのものって感じだ。

さりげなく入り口を開けてくれるところや、段差があったりすると一声かけてくれたりしてくれる。

女の子扱いをされるのが嬉しかったり、恥ずかしかったり…

席につき、勇気さんが注文をしてくれて食事がスタートした。

今日ここに来る前に、前の職場の本屋に顔を出したこと。

店長と挨拶をしたと言ったときに、ちょっとだけ勇気さんの顔つきが変わったような気が…

そして、まさかの店長と如月さんがくっついていたこと。

それにはニッコリ笑って『よかったね』って勇気さんが言った。

そして…

結笑から電話が来たことを話した。

勇気さんも嬉しそうに結笑の話を聞いてくれた。

二人でちょっぴり結笑が恋しくなっちゃった。

いけないっ、いけない。

せっかくの食事だったね。

No.380 10/10/11 22:43
眠り姫 ( Y4xRh )

話題をかえようとしたときに、ふっと夕方に駅で勇気さんを見かけたことを思い出した。

一緒にいた人は誰なのか聞いてみよう。

『あっ、そうだ。今日ね、少し早く駅に着いてティータイムをしていたら…』

『うん、していたら?』

穏やかな口調で話す勇気さんが好きだなぁ…なんて思いながらはなしを続けた。

『うん、それでね。私、勇気さんを見たの。若い男の人と一緒にいたの…』

色んな意味でドキドキしながら、勇気さんがこたえるのを待つ。

すると、勇気さんは優しい顔つきになって

『あぁ、甲斐のことだね』

って、微笑んだ。

『…カイさん?』

私はキョトンとしながら、勇気さんに聞いてみた。

『ごめん、ごめん。百合にはまだ紹介してなかったね。甲斐は僕の弟なんだ』

『…弟さん?』

初耳だった。

人は驚くかもしれないけど、私はまだ勇気さんのご両親には会ったことがない。

とりあえずは結笑が慣れるまではと言う勇気さんの計らいで、挨拶もまだいいと言われてたし、式もまだ挙げてなかった。

ご両親のことしか知らなかったからビックリした。

No.381 10/10/11 22:54
眠り姫 ( Y4xRh )

勇気さんのご両親とは電話で挨拶を交わしただけだけど、とても勇気さんに似て優しそうな口調のお義母さん。

これまた大人しそうなお義父さんっと言う印象だった。

駅で見かけた弟さんは、あんまり勇気さんには似てなかったような気がする。

勇気さんはどちらに似ているのかな?

お義父さん?お義母さん?

落ち着いたらご挨拶に行かなきゃだなっ。

頭がパニックになりそうになっていると、勇気さんが私の頭の中が読めるのかクスクス笑い出した。

『…ごめんね(笑)甲斐のことは実家に行ったときにでも話そうと思ってたんだ。アイツ自由人だからさ』

『…自由人?』

『そう。あんまり家にいないかも。好きなことばっかりやってるから。もう子供じゃないんだから、しっかりしてほしいよ』

呆れながらも、心配してるんだろうなぁって顔を勇気さんはしてた。

『あんまり似てないね(笑)勇気さんはどっちに似てるの?』

『んっ?僕は、顔は父親に似てるかな。性格は母親かな?』

『じゃあ、弟さんはお母さん似なんだね。性格はお父さん似とか?(笑)』

『いや…甲斐も父親似だよ』

えっ?

だって、二人は全然似てないよ…?

No.382 10/10/11 23:07
眠り姫 ( Y4xRh )

『…あんまり似てないよね(笑)僕と甲斐は、父親が違うんだよ』

『………えっ』

『母親が僕を連れて再婚して、今の父親との間に甲斐がうまれたんだ。今の父は本当にいい人だよ。だから安心してね』

さらりと話してるけど…

私の頭はついていけてません。

『…勇気さんのお父さんは?』

聞いていいのかわからなかったけど、勇気さんのことを何も知らないんだと思うと悲しくなってきて聞いてしまった。

『…僕の父親はどうしようもないヤツだよ』

一瞬冷たい表情が勇気さんの顔にあらわれた。

あんな冷たい目を見たことがない。

初めて見た…勇気さんじゃないみたいで、すごくこわかった。

すぐに優しい勇気さんに戻ったけど、あんまり良く思ってないお父さんのことをこれ以上聞くことはできなかった。

『…変な空気になっちゃったね、ごめんね。甲斐はね、写真を撮るのが好きでよく色んなところへフラッと行ってしまうんだよ(笑)』

それからは、甲斐さんのこと…ご両親のこと…たくさん話してくれた。

本当のお父さんのこと以外はたくさん。

今の家族は、とても温かい家族だなって感じた。

No.383 10/10/11 23:19
眠り姫 ( Y4xRh )

一通りの食事を楽しんで、うちに帰ってきた。

疲れているからか、勇気さんはベッドに入ると早くに寝息が聞こえてきた。

勇気さんの腕の中へ潜り込み、包まれるような形で私も眠りについた。

どんなお父さんか聞くのはもう止めよう。

勇気さんにとって、今のお義父さんが家族なんだから…。

今がみんな幸せならそれでいいよね。

でも、勇気さんが血の繋がらない結笑を大切に愛してくれるのが何となくわかった気がした。

きっと勇気さんもお義父さんにたくさん愛してもらったんだね。

だから血の繋がりとか関係なく人を愛せるんだね。

今夜はあなたの優しさの原点が見えた気がした夜でした。

次の日、朝食を作っていると勇気さんが起きてきて、

『おはよう、夕べは楽しかった?自分のことばかり話してごめんね』

オチャメに謝ってきた。

『ううんっ、勇気さんのご家族のお話を聞けてすごく楽しかったよ。』

普段は聞き役に回ることが多い勇気さんのはなしを聞けて、私はある意味嬉しかった。

『そうだ…急で悪いんだけど今夜、甲斐をうちに呼んでもいいかな?』

『うん、私も会ってみたいなっ』

No.384 10/10/11 23:32
眠り姫 ( Y4xRh )

さっそく今夜、我が家に勇気さんの弟さんの甲斐くんが夕飯を食べに来ることが決まった。

勇気さんのお嫁さんとして、張り切って美味しい料理をたくさん作らなきゃ。

勇気さんを送り出し、掃除をいつもより丁寧にして買い出しへ。

何を作っていいのかわからなかったけど、もし好き嫌いがあっても食べれる料理があるように品数をたくさん作ることにした。

夕方までしっかり時間をかけて、それなりの料理を完成させた。

たぶん大丈夫だよね。

不安の中、勇気さんの帰りを待っていると玄関のドアが開く音がした。

『おかえりなさい』

パタパタと玄関までお迎えに行くと、

『ただいま』

っと、優しく微笑む勇気さんが立っていた。

その後ろには、子犬のように勇気さんに絡んでる甲斐くんがいた。

『紹介するよ、これが弟の甲斐。仲良くしてやって(笑)甲斐、こちらが僕の奥さんの百合だよ』

お互いに紹介してもらい、軽く挨拶を交わした。

立ち話もなんだからと、奥のリビングまで案内する。

『すっげー‼うまそー‼兄ちゃんいつもこんなん食ってんの?!』

テンションが高くなる甲斐くん。

その様子に少しホッとした。

No.385 10/10/12 13:44
眠り姫 ( Y4xRh )

三人でテーブルにつき食事を楽しんだ。

やっぱり甲斐くんといると勇気さんは無邪気な子供みたいに笑う。

そんな勇気さんを見れて、私はたまらなく胸がキュンキュンした。

甲斐くんはとてもよくしゃべる子。

相手に壁なんかを作らせない、無防備な感じの甲斐くんは友達が多いんだろうなって思った。

私のことも『百合さん、百合さん』と呼んでくれる。

本物の弟が出来たみたいで嬉しい。

勇気さんの携帯に仕事の電話が来て、少し席をはずした。

そのとき、甲斐くんは口にいっぱいパスタを入れて

『前の嫁さんとは全然違うタイプだなぁ~』

っともぐもぐしながら食べている。

『…前の奥さん…?どんな方だったの?』

私は恐る恐る聞いてみた。

『うーん…まずあんまり料理はしない。俺がお邪魔したときも何も出てこなかったなぁ。兄ちゃんが出前とってくれたり、外に食べに行ったりしたっけ』

甲斐くんのその言葉を聞いてビックリした。

さらに話は続き…

『なんか兄ちゃんが作るときが多かったみたいだよ』

そこまで聞くと、もう言葉にならなかった。

No.386 10/10/13 22:37
眠り姫 ( Y4xRh )

私は何て言ったらいいのかわからずにオロオロしていると、甲斐くんが笑った。

『ふふっ(笑)百合さんって面白いね(笑)今はもう関係ないんだし、そんなに気にしないでよ!』

笑いながら料理を頬張る甲斐くん。

なぜか咄嗟にごめんねっと私が謝ってしまった。

また笑う甲斐くん。

…笑った顔が少し勇気さんに似てる。

半分しか血が繋がってなくても、やっぱり似てるとこってあるんだなぁ…なんて感心したりした。

そんな中、しばらくして電話を終えた勇気さんも席に戻ってきた。

『ごめんね、ちょっと遅くなっちゃったね』

『ううん、大丈夫。甲斐くんから色んな勇気さんの話を聞けて楽しかったから』

『…甲斐~、百合に変なこと言ってないよね?』

勇気さんは甲斐くんに怒るような仕草を見せ、それを見て甲斐くんもわざとらしく目をそらしたりして私たちは笑った。

夜10時くらいになり、甲斐くんが帰ると言った。

私は玄関まで送り、勇気さんは駅まで送って行くと甲斐くんと一緒に出ていった。

『百合さん、ごちそうさまでした。すっごい美味しかったよ!兄さんのことよろしくお願いしますね』

『はいっ、また来てね!』

No.387 10/10/13 22:50
眠り姫 ( Y4xRh )

二人が玄関を出ていくのを見送ったあとに、食器の片付けをし始めた。

それにしても、見事に綺麗に食べれくれたなぁ。

若いってすごいな(笑)

たくさん作った料理もほとんどあまることなく甲斐くんのお腹の中に入っていった。

どこからか『ブーブー』っとバイブの音が聞こえてきた。

音がする方へ近づくと、リビングのソファの隙間にシルバーの携帯電話が光ってる。

私のでも、勇気さんのでもない…。

きっと甲斐くんのものだと思い、すぐに二人の後を追いかけた。

頑張って走ればまだ二人に追い付けるかもしれない…

そう思い、全速力で私は走った。

マンションを出てすぐに、誰かに声をかけられた。

声のする方を見ると、明らかに酔っていそうなおじさんが私に向かって何かを言っている。

怖かった気持ちと、でももしかしたらどこか具合でも悪いんじゃないかと思ったら放っておけずに恐る恐るおじさんに近づいた。

その瞬間っ…

『…キャッ!』

おじさんが抱きついてきた。

言っていることもよくわからない。

恐怖から振り払おうと抵抗するのに、男性の力には勝てず段々とおじさんの顔が近づいてくる。

No.388 10/10/13 23:03
眠り姫 ( Y4xRh )

『あのっ…やめてください…離してっ…』

心の中で何度も勇気さんの名前を呼んだ。

抵抗する力もどんどんなくなってくる。

力が抜けそうになった瞬間…

おじさんが私の視界から急に消えた。

状況を把握できなくて、目だけをキョロキョロさせると…

酔っぱらいのおじさんが左側の地面に倒れていた。

イビキをかいて寝てる…

『携帯を落としましたよ。お怪我はありませんか?』

私はビクッとしながら、話しかけられた方へゆっくり振り向いた。

背の高いジャージ姿の男性が、私が落とした甲斐くんの携帯を差し出してくれている。

『あっ…ありが…とうございます…』

震える手で携帯を受けとると、その場に腰が抜けて座り込んでしまった。

『…大丈夫ですか?どこか怪我でもしましたか?』

ジャージの男性もしゃがみこんで、私の心配をしてくれる。

『だっ…大丈夫です…怪我はしてません…ちょっと…腰が抜けて…』

ガクガク震える手を、携帯を握ったまま胸の前で両手で押さえた。

この男性が助けてくれたんだ…

この人がいなかったら私…

急にまた怖くなった。

No.389 10/10/13 23:16
眠り姫 ( Y4xRh )

『…百合っ!?』

向こうから勇気さんが走ってくる。

『勇気さん…』

『どうしたっ?何があった?怪我はッ?』

心配そうに私の体の隅々まで確認する。

『…怪我はないの。ちょっと驚いただけ。甲斐くんの忘れものを届けようと思って追いかけたら…途中でそこの人に捕まってしまって…こちらの方が助けてくれたの…』

状況を説明すると、

『…妻を助けていただきまして、ありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか…本当にありがとうございました。』

深々と勇気さんが頭を下げる。

『いえ、自分は普段は警察官をしています。ジョギング中にたまたま通りかかったから良かったものの…女性の夜道の一人歩きは気を付けてくださいね。』

警察の人…

どおりで一撃だったはずだね。

警察官の男性は酔っぱらいのおじさんを起こし、近くの派出所まで連れていってくれると言った。

本当に何から何まで…

私は勇気さんに支えられながらマンションに戻った。

部屋に入りソファに座らせてもらうと、勇気さんが温かいミルクティーを入れてくれた。

震えがおさまるまで、ずっと私の肩を抱いててくれた。

No.390 10/10/13 23:32
眠り姫 ( Y4xRh )

落ち着いて来た頃に、勇気さんが『ごめんね…』っと謝った。

勇気さんが謝ることなんかないよ。

私がおじさんに無防備に近づいたから…

『勇気さん…心配かけてごめんなさい…』

私も勇気さんに謝った。

勇気さんは私を抱きしめ、

『百合に何もなくて本当によかった…』

っと、小さな声で言った。

その日の夜は、勇気さんがずっと私を抱きしめたまま眠った夜だった。

次の日の朝、仕事へ出掛ける勇気さんは私を心配してくれて、後ろ髪を引かれるような想いで仕事へ向かう。

…心配かけて悪かったなぁ。

でも、昨日の勇気さんの顔…真っ青だった。

すっごい心配してたし…

勇気さんの心配ぶりにちょっとビックリしたのを覚えてる。

それだけ大切にされてるってことだと思い、怖い想いの中にも少し嬉さもあった。

家事をしていると、お昼くらいにうちのベルが鳴る。

見てみると甲斐くんが立っていた。

ドアを開けると、慌てた様子で携帯を忘れなかったかと聞いてきた。

携帯を手渡すと、『よかったぁ~!!』っと、すごく安心した顔をしていた。

…やっぱり昨日のうちに渡せればよかったな。

悪いことをしたな…

No.391 10/10/14 21:09
眠り姫 ( Y4xRh )

『グゥ~…』

甲斐くんのお腹が鳴った。

『甲斐くんお昼は食べた?』

『いや、携帯探してたら食べる暇なくて…💦』

『私もまだだから、よかったら一緒に食べない?』

『いいんすかぁ?やったぁ~!』

甲斐くんは喜んでテーブルについて待っていた。

たくさん食べてくれる甲斐くんは見ていてとても気持ちが良い。

料理をしながら色んな話をした。

勇気さんのこと、私の小さいときのこと、甲斐くんの夢。

お昼が出来上がり、食事をしながら甲斐くんの夢について詳しく教えてもらった。

『俺はね~プロのカメラマンになりたいんだぁ。自然を撮りたい!花や空や海や山…世界中を回りたいな。』

『すご~いっ!モデルさんとか探すの大変じゃない?』

『ん~…俺はあんまり人を撮るのは得意じゃないんだ。だから撮らないよ(笑)』

『そうなんだぁ。甲斐くんならきっと素敵な写真が撮れるんだろうなぁ。頑張ってね!』

甲斐くんとは昔からの知り合いだったかのように自然に話せる。

時間も忘れて話に没頭した。

気付けばもう夕方4時になろうとしてる。

『やべっ!こんなにお邪魔しちゃった💦』

No.392 10/10/18 15:10
眠り姫 ( Y4xRh )

『もう少ししたら勇気さんも帰ってくるから、会っていかない?』

きっと勇気さんも喜ぶだろうなと思い提案した。

『ううん、これから約束があるから今日はもういきます!どうもごちそうさまでした』

『そっか、どういたしまして。勇気さんも喜ぶからまた遊びに来てね』

帰るために席を立った甲斐くんが、ふっと不思議そうに聞いてきた。

『昨日も気になってたんだけど…あの写真に写ってる子って誰?』

台の上には家族写真や、結笑の写真が飾ってある。

普通は気になるよね。

『…私の娘なの』

甲斐くんがどんな反応をするのか少しだけこわかった。

『あっ、やっぱり!百合さんにそっくりだもんね(笑)可愛いなぁ~名前は?』

連れ子と聞いても普通に接してくれる甲斐くんに救われた。

No.393 10/10/18 15:19
眠り姫 ( Y4xRh )

『結笑…みんなの笑顔を結ぶ子になってほしいって願いで付けたの』

『結笑ちゃんかぁ!うん、いい名前だね。昨日もいなかったけど、どこかに行ってるの?』

『…うん、ちょっと知り合いの家に泊まりにね』

『そうなんだ~じゃあ、次は結笑ちゃんにも会いたいな!こんな可愛い娘が出来たんだから、兄ちゃんが幸せそうな顔してる理由がわかったよ』

靴の爪先をトントンっとして、甲斐くんは爽やかに帰って行った。

やっぱり勇気さんや甲斐くん兄弟は血の繋がりとかなんて関係なく接してくれるから、私はとても嬉しかった。

結笑…

今ごろ何してるのかな。

楽しくてママのことなんか忘れてしまったかな。

結笑の写真を手に取り、無邪気な笑顔で笑う結笑の顔をそっと指でなぞった。

結笑がいないだけで家の中が静かだ…

きっと瞬さんちは毎日がにぎやかなんだろうな。

また無性に淋しさが押し寄せてくるのを感じ、これじゃダメだと写真を置きプリンを作ることにした。

作っている途中で勇気さんが帰ってきた。

『ただいま、甘いいい匂いだね。プリンかな?』

さすが甘党の勇気さん。

顔がニコニコしてる。

No.394 10/10/25 22:41
月 ( Y4xRh )

*最初に失礼します。

ハンネが『眠り姫』から『月』にかわります。

一番最初も何回か『月』で出ていたので、気になった方がいたかな?(笑)

書いているのは、正真正銘『眠り姫』(妄想大好き✨)なので、お時間があるときに覗きに来ていただければ嬉しいです☺

しばらくお休みしてましたが、またスタートしまぁす❗

No.395 10/10/25 22:53
月 ( Y4xRh )

『おかえりなさい。今日ね、甲斐くんが携帯を探しに来たの』

『あぁ、さっき甲斐からメールが来たよ。昼ごはんすっごい美味しかったって(笑)』

『甲斐くんはたくさん食べてくれるから、私も作り甲斐があるわ(笑)』

二人で甲斐くんの話をしながら夕食を食べた。

そんなとき…

勇気さんの携帯が鳴る。

『…あれ…瞬からだ』

私は勇気さんをじっと見つめた。

結笑の声が聞けるかもしれないと思うと、ソワソワし始める私がいた。

意外にも結笑の声はすぐに私の耳に届いた。

勇気さんの電話からもれる結笑の声。

『…ママァ~…ヒッ…ママぁぁぁ…』

泣いていた。

私は慌てて勇気さんの電話を奪い取り、結笑の名前を呼んだ。

『結笑ッ!結笑っ…どうしたのっ?!』

電話の向こうが一瞬静かになった。

私は不安になり結笑の名前を呼び続けた。

『結笑っ…結笑っ…!』

『………ママァ…』

小さな声で私を呼ぶ結笑の声がした。

どれくらい泣いていたのだろう…

しゃくりあげて泣く結笑は珍しい。

いつもは本当に本当に手のかからない子だったから…

だから余計に心配になった。

No.396 10/10/25 23:05
月 ( Y4xRh )

もう一度、結笑の名前を呼ぶと瞬さんが電話に出た。

『…百合。悪いんだけど、今から結笑を迎えに来てやってくれないか?』

『えっ…?何があったんですか?どうして結笑は泣いてるの?』

『…ホームシックになったみたいなんだ。最初はイイコにしてたんだけど…最近はあんまり笑わなくなって、さっきいきなり泣き出したんだ。百合のこと何度も呼んでた。頼むよ…』

『…結笑…今からすぐに行きます。結笑に待っててと伝えてください』

その会話を聞いていた勇気さんは、すぐに車を出しに走ってくれた。

ホームシック…

人見知りの少ない結笑が…

ましてや大好きな瞬さんのところで…

ごめんね、結笑。

ママはあなたが幸せなら、ママが我慢をすればいいと思ってた。

だけど違うんだよね。

我慢をしていたのは小さなあなた。

淋しくさせてごめんなさい。

結笑がママを必要としてくれるのなら…

もう一生その小さな手を離したりはしないから…

ごめんなさい。

ごめんね…結笑…

すぐに行くから、もう泣かないで…

私は勇気さんの車の中で、自分のしたことの重大さに、罪悪感に押し潰されそうになっていた。

No.397 10/10/25 23:15
月 ( Y4xRh )

すると…

勇気さんが私の震える手をにぎった。

『…大丈夫だよ。結笑は百合のこと責めてるんじゃないよ。ただ大好きなママに会いたかったんだと思う。百合はただ抱きしめてあげればいいんだ。結笑の一番は百合以外には存在しないんだからね』

まっすぐ前を見て運転する勇気さんの言葉に…優しさに…私の目から涙が溢れた。

『…うん、うん』

ただただ頷くだけしか出来ない私。

でも勇気さんはきっとわかってくれたと思う。

しばらく車を走らせると、瞬さんのマンションが見えてきた。

車をおりるとすぐに、私と勇気さんは走り出した。

目指すは瞬さんの部屋。

エレベーターを待つ時間ももったいないからと、私は階段をかけあがった。

瞬さんの部屋はだいぶ上の階にある。

息を切らせながら、私は無我夢中で階段をのぼった。

途中で、勇気さんがエレベーターを捕まえてくれてそれに乗り瞬さんの部屋の階まで。

息が切れてうまく呼吸ができない。

それよりも早く結笑のところに行きたかった。

ずっと会いたかった。

抱きしめたかった。

声が聞きたかった。

…結笑に会いたかったよ。

No.398 11/03/03 21:10
あぁちゃん ( kXOK )

月さん お元気ですか?
続きを 楽しみにしてます(^^)

No.399 11/08/05 20:20
momo ( ♀ o4FJh )

月さん、まだいらっしゃいますか?
お時間のありますときに、続きをお待ちしております😌

No.400 12/03/04 09:04
momo ( ♀ o4FJh )

月さん、度々すみません。


まだ見ていらっしゃいますか?
続きを楽しみに待っています。

投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

お知らせ

5/28 サーバメンテナンス(5月31日10時-12時)

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧