妄想のお話☆
はじめに、、
これから書くお話は、私の好きな俳優さんの腐的な作り話なので、読みたくない方は、読まないでください。
タクミくんシリーズを知らない人は、よく分からないかもしれません。
唯の、私の妄想話です。
よろしくお願いします。
13/06/25 22:56 追記
追記:
読まれた方の感想などいただけると嬉しいです。
大マオファンの方がいましたら、アドバイスなどもいただけると嬉しいです。
13/11/13 12:20 追記
追記:
登場する人物も私の想像上の実在しない人物が登場しています。
なので、実際の生身の人とは一切関係ないのでご理解下さい。
僕は17歳の不安定なふわふわした足元もまだしっかりしていない、子供だった…
俳優という仕事をしたいと思ったのは、幼い頃父に連れられて見た劇団四季の舞台がきっかけだ。
幼い僕は、そのキラキラ輝く世界に惹かれて心が躍動する心地よさにひかれて、自分も舞台の上に立ちたいと夢を抱いた。
そして…
今、僕は舞台に上がる事ができた、、
とは、言ってもまだ駆け出しの若手俳優が初めて立てるような、出発地点の舞台。
でも、この舞台は、人気があるみたい。
僕の役は、可愛い元気キャラって感じ、
テニスを中心にしたお話だ、、
最初は、発声もままならなくて、カミカミ、、多分初期の舞台を見た人は、僕が何を言ってるのか聞き取れなかったかもしれない。
でも、だいぶ慣れたし、まわりのみんなにも成長したよなって言われるまでになっていた。
そんな頃にマネージャーから映画のオーディションの話をされた。
どうやら、BL…
うーん、、どうしよう…って思ったけど、仕事を選べる立場ではないのは、僕にも分かるよ、、
何事も勉強だ、と思い、主役じゃない脇役のオーディションを受けてみた。
後日、、
マネージャーから結果を聞かされた。
「結果でたよ。浜尾くんすごいよ、主役!主役に決まった!」
え?だって受けたの脇役…
主役?嘘だ〜
どうしよう…まだ心の準備が…
主役って事は、相手役…誰?
いきなりの知らせにグルグルと頭を回転させてしまう。
マネージャーが
「相手役は、今も一緒に舞台やってる渡辺くんだから、、年上だしやりやすいんじゃない?」って…
えぇ⁈ぶ、ぶちょお⁈
渡辺大輔、今やってる舞台の僕のテニスチームの部長役の人。
えー…
とりあえず、落ち着け…
っとりあえず、内容が全然分からない…
ので、マネージャーに聞いたら、原作が小説と漫画みたいなので、世界観を知るために見てみようと思い、本屋に立ち寄った。
本屋…来ては見たけど…女の子のコーナーにあるよねぇ…
あぁーどうしよ、、
女の子のコーナーに行くの、、
行ったり来たりを繰り返し、、悩みに悩んだ結果、自分で探すより早いって思い店員さんに、妹に買って来てって頼まれた風にして聞いてみようっ
「あの、頼まれた本、漫画を探しているんですけど…」ってなんか、若干焦りながら聞くと、店員さんは、手際良くお店のパソコンで検索して、レジ近くで待つ僕の所まで漫画をもってきてくれた。
「ありがとうございました。」目を合わせないようにしてしまった…
うん、いかにもな表紙の絵…
はぁ…ため息…
レジでお会計を済ませて、鞄に漫画をしまって足早に家に帰る。
「ただいまー、。今日新しい仕事決まったよー、この前受けたオーディション受かったんだ…」母さんに報告。
「良かったじゃない、あれ?決まった割に元気ないじゃない?」
「あー…そう?脇役うけたんだけどさぁ、何故か主役になった。」
「え⁈すごい☆」って母さんは言う。
「でもさぁ、映画の内容オーディションの前に話したけどBLだからねっまだ読んでないけど、コレだからっ」
今日買ってきた漫画の表紙の絵を母さんに見せる。
「そっかぁ、後で私にも読ませて☆」
って…
自分の息子なのに他人事だよなぁ
「父さんと兄ちゃんには言うなよっ」
「分かったけど、これもお仕事で、沢山のスタッフさん達も関わってくるんだし、責任もってね?頑張って、、」
「そんなの分かってるよ…」
部屋に入ってドアを閉めて、ベットに倒れこんだ。
とりあえず、読んでみよう。
恐る恐る表紙を開く、、
話は、意外にもシリアスで泣けるシーンもあるような内容だった。
けどっやっぱりあるよな、、キスシーン…
恥ずかしいので誰にも話してないけど、、女の子とだってまともに付き合った事もないのに…
ふざけて、楽屋で同性にキスされたりしたことあるけど、、
あぁ…コレを部長とするの?!
部長は、もう知ってるのかなぁ…
映画の内容と相手役…
まぁ当然ながら、僕が女の子的な役柄で、、部長が男的な役柄、、
経験ないし、こういうシーンは部長に任せようっと。
明日も舞台で会うし、帰りにご飯でも一緒に食べに行って話をしよう。
まだ、僕はこの先の苦悩が待ってるなんて思いもしなかった。
翌日、楽屋で部長に聞いてみた。
「部長お疲れ様でした。あの、映画の話し聞きました?」
「あぁ、聞いたよ」
苦笑い気味の部長…
「この後空いてたら、ご飯食べながら話しませんか?」
「おぅ、いいよ、俺も聞きたいことあったし。」
そんな流れでご飯を食べながら映画について話をしようって事になった。
適当なファミレスに入って、メニューを決めて注文する。
「マオは、もう内容とかきいてるのか?俺はまだ決まったくらいしかきいてないぞ。」
と部長。
「僕は、決まったときに原作が漫画であるって聞いたから、本屋さんで探して買ってきたんだよね。あっ一応もって来たから、、部長見てみる?」
「見るの怖えぇな…」って部長…
「僕、本屋さんで買うの恥ずかしかったよ。」
「マオは仕事が早いな、、真面目だしな、見かけによらず、、初めて見たときは、色黒いしギャル男だなって思ったけどっ」
ってニヤリと笑う部長。
「テニスやってたから、、全然ギャル男じゃないしっ」失礼だな、部長、、よっぽど部長のが、モテるだろうし遊んでそうに見えるぞ、って思ったけど口には出さなかった。
漫画をペラペラめくり出す、、部長の手が止まる…
「マジか⁈コレをマオとやるの?コレだよ?」ってラブシーンのページをズイッと僕に近づけて見せた。
「ちょっ、部長、恥ずかしいからっもう閉じよ、もう僕読んだし、持って帰っていいから家で読んでっっ」
恥ずかしくて顔が赤くなる…
「お前はいいよな、、若いから、だって現役高校生だよ、俺なんて…高校卒業して何年たってんだよ、、それがお前と同級生役って、しかも彼氏役…ブッ」って吹き出す部長。
「まぁ彼氏役は、僕もかわらないんですけどね、、何とかなるかなぁ、どうしよう…部長。」
「どうするもなにも、、やるしかないだろ、、腹をくくるしかないな…たしか、前作があるって言ってて、タッキー、滝口が今回も出るって言ってたから、あいつに現場の雰囲気を聞いとくわ」
そんな会話をして、部長に漫画を貸してその日は、家に帰った。
部長と話したら少しだけ安心できた自分がいた。
部長は、背が高くて、胸板も厚いかなりのイケメン、それでいて、気が利いて頼りになるし、、
相手役が部長で良かったかもって思った。
次の舞台の楽屋で部長が僕に話しかけて来た、
「タッキーに聞いたんだけど、現場は何か男子校みたいな雰囲気で明るくて案外普通らしいぞ。」
って、、
話を聞いた周りにいたメンバーが、
「BLやるんだって?何?チューしちゃうの?」なんて、からかってくる…
僕は焦って上手く言葉が出ないでいたら、部長が、、
「俺もマオも真面目な仕事の話をしてんだよっ」ってフォローしてくれた。
「そんなこと言って部長が、マオくんにときめいちゃったりして☆」
っていう返しには、
「まぁお前が相手役なら100%ときめかないけどなっ相手役がお前じゃなくて良かったわ」
ってサラリとかわす。
そんな部長がすごく大人に見えた。
僕も部長みたいになれたらいいのに…
ただ、この時は大人な部長みたいになりたくて、憧れていた存在だった。
16歳でこの世界に飛び込んだ、舞台はとても広く、大きくて、歌もダンスも、演技も初心者な僕は、只々ついて行くのがやっとな感じで、毎回舞台の前は1人で近くの公園で復習をして、不安な気持ちを涙で流して舞台に立っていた。
その日も同じく、1人で公園で復習、涙が流れていた時に、、視線を感じた…
公園の脇道からだ、、
初めは涙で滲んでよく見えなかったけど、アレは多分部長だったと思う。
泣いてる情けない自分を見られたくないって思って、すぐに拭う、、
近づいて話しかけられたらどうしよう、とか、泣いてたのバレた?とか色々考える。
僕は、結構泣き虫だ、学校でもよくからかわれたりした。
舞台のメンバーに言われてからかわれたりしたら…とか、不安になる。
でも、部長は近づいてこなくて、そのまま何も見なかったように通り過ぎて行った。
後から楽屋入ったらつっこまれたり、言われたりするかもしれないなぁ…
何て考えながら、向かった。
楽屋に入ると何事も無かったように、
「ようっ今日も頑張ろうな、油断せずに行こう☆」ってニッと笑って背中をバシってされた。
この人はこういう人なんだよね、、
何か、一緒にいると安心できる。
そんな部長を本当に尊敬していた。
もうすぐ映画の撮影がはじまる、、
部長となら何とかなるかもしれない…
頑張ろうって思った。
撮影当日、舞台のキャラと映画のキャラと使い分けが上手くできるか不安だった。
舞台のキャラは、明るい元気な可愛いキャラ、映画のキャラは正反対に、暗い過去を持つ、神経質なキャラ…
そして舞台と映画は、表現方法も違う。
予想どうりダメだしやNGばかり、、
かなり落ち込んでしまう…
部長は、堂々としてるし、NGも殆どない。
すごいなぁ
何とか一日目の撮影が終了した。
撮影中、泊まる部屋は台本の読み合わせもしやすいだろうって事で部長と同じ部屋になっていた。
その日の夜早速台本の読み合わせをしようと布団を隣どうしにひいた。
「部長、、僕かなり凹んでるんだけど…
NGばかりだし、監督に浜尾くん〜って言われるたびにまたやっちゃったよぉってなるんだよね〜、部長は、なんでいつもそんな堂々とできるの?」
「そりゃお前、歳が違うだろ、、人生経験値もマオよりも上に決まってるだろ。マオと幾つ違うんだっけ?マオ今16?17?俺は、、25だろ?9歳も違うよ…うわっ凹む、、俺17歳の時何してたっけかな、、何も将来の事なんて真剣に考えてなんかなかったな。って事で、俺には時間がないのっこの業界若さも売りだし、だから仕事にはかなりマジモードなんだよ。お前は、若いからいいな、、」
「そんな事、、僕だって真剣だよっそれに部長だって全然若いじゃんか」
「マオが真剣なのは、分かるよ。でも、一つ言いたいのは、お前はもっと自分に自信持った方がいいよ。だってさぁ、そんな整った小さい顔で、イケメン、あんまいねぇよ?でも自信もてとはいったけど、ドヤ顔とかするマオはみたくないけどな」
って笑う部長。
張り詰めてた緊張の糸がほどけた気がした。
「部長ってかっこいいね☆」
僕が言うと、部長は、
「え?何かおごってほしいわけ?」
って茶化した。
「それよりさ、マオ、もう“部長”はやめよう。今は舞台じゃないし、、」
「大ちゃん?でいい?みんな呼んでるし…」
「あぁ、いいよ。じゃあ読み合わせしよう。」
この日から部長から大ちゃんに変わった。
隣で台詞を言う大ちゃんに部長から大ちゃんに変わった事で少しだけ距離が縮まったみたいで、嬉しくてでも何かむず痒い、そんな感じがして、初日疲れで眠気もあって、読み合わせの台詞も何だか頭に入らなくて、僕は段々意識が遠のいて
気づけば夢の中にいた。
- << 114 こんにちは、私はタクミくんシリーズとダイマオが大好きなので拝見させて頂きました。マオのオドオド感や口調やセリフとリアルマオでした。しいていうならマオは結構ドヤ顔しますし大ちゃんもそんなマオのドヤ顔結構好きみたいなのと大ちゃんは結構マオに突っ込まれてるか二人でボケてるので、もう少しそこが入るとより本物に近づくと思います。すみません、知ったような口調で…でも私実は過去に嫌な思いをしていて異性に対して少しマオに似ているんです。彼氏より心の真から信頼できる友達の方が大事で、異性に触られると全身に鳥肌がたって気持ち悪くなってしまいやすいんで、このタクミくんシリーズのマオ見て克服しようと決めた程私に勇気をくれた作品なので思いいれが強く、発言させて頂きました。でも凄くダイマオを理解して好きでいて下さるのが読んでいて伝わってきました。周りに共感者がいなく嬉しかったです、
今、映画の撮影を撮っている、渡辺大輔25歳は高校生の役だったりする。
しかも、BL…ベーコンレタスではない…
ボーイズラブってやつだ。
急に決まって慌ただしくて、わけも分からないままもう現場にいる、そんな感じだ。
相手役のマオも今一緒に舞台をやってる、知っている奴でそれは、ありがたいと思うし、この作品が二作目という事で前の現場からいるタッキーもいてくれるので、現場の雰囲気もわるくない。
でも、正直、この現場で1番歳上の俺が頑張って引っ張っていかなくては、というプレッシャーはかなりあった。
BLなんて世界は、正直ぜんっぜん理解不能だったので、役に感情移入できるのか、かなり不安もあった。
なんとか、撮影初日を終えたけど、部屋は台本の読み合わせが出来るようにと相手役のマオと同じだった。
マオは、弟みたいで仕草や笑顔が可愛い奴で舞台でもみんなに可愛がられているような、中性的な、俺の友達にはいないタイプだ。
みんなに可愛いって言われるのわかる気もする、かなり天然キャラで突っ込みどころ満載でたまにこいつの発言で本当に身体の力が抜けてしまう。
でも、時折見せる男らしさもあり、不思議なオーラを漂わせていた。
一日撮影を終え、寝る前に台本を読み合わせする事になった。
マオは、NGや失敗にかなり落ち込んでる様子だった。
それに、少し不安そうにも見えた。
やっぱ俺がリードしていかないとな、、
台本を読み合わせしてると、途中でバサって音がしてマオの台詞が聞こえなくなった。
横を見ると顔の上に台本が被さっている。
「マオ?」
返事がない…台本を外すと、寝息をたてていた。
台本が顔に落ちても寝てるなんてよほど疲れてるんだろうなぁ、でもそんな無防備なマオを見ていたら少しだけ肩の力が抜けた気がした。
はだけた布団を直してやると、寝返りをうち俺の方を向いた。
長いまつげ…本当顔小さいな、若いし、恵まれてるなぁこいつっ
そんな事を思いながら、電気を消して眠りについた。
>> 8
目の前に部長がいた。舞台の衣装を着ている、テニスラケットを華麗に振りダンスする部長、、
(やっぱり部長は、かっこいいなぁ)
そんな事を考えていた、
部長がテニスラケットを振り下ろした瞬間、目の前が一瞬明るくなり、部長の衣装が水色のブレザーに変わり、髪の色が明るく変わった。
(あっそうか、今映画の撮影…)
フワッと風がふき、だんだん部長の顔が僕の顔に近づいてきた…
ナニコレ…?
「マオっ起きろよ、そろそろ準備しないと撮影始まるからっ 今日はお前先だろ?」
よかった…「夢か…」ボソっとつぶやく、、
「何だよ?ねぼけてるのか?」
「ううん、大丈夫だよっ」
変な夢のせいで、意識して目をそらしてしまった。
そいえば今日、キスシーンあるよね…
うわーどうしようっ
朝食の味があまり分からなかった。
朝からずっとキスシーンの事が頭を離れず、何だか失敗ばかりだ。
僕はこの話の主人公で葉山託生という、過去に影をもつ人と接することが苦手な神経質な役だ。
大ちゃんは、崎義一という全てにおいてパーフェクトなかっこいい男って役。
崎義一ことギイによってだんだん託生が心を開いて変化していくという、ざっと説明するとこんなかんじ。
役の設定もあって、役に入りやすいように僕は周りと多少距離をおいた接し方をしていた。
まぁ話しかけられれば普通にしていたけど自分からはあえて近づかないようにしていた。
でも大ちゃんは、そんな僕を心配してかみんなの輪の中に入れるように話しかけたり、冗談を言ったりして場を和ませてくれたりした。
朝から僕はフリスクばかり口にしていた、だってキスシーンだよ?
「マオー俺にもちょーだいっ、もうすぐキスシーンだからなっみんな見とけよっ俺とマオのラブ☆」
大ちゃんは、場を和ませようとしてくれてるんだと思った。
「もう、やめてよっハイ」フリスクのケースを渡す。
「軽っフリスクほとんどねぇじゃん、朝からそんな食べてたの?」
「だって、、」
そろそろスタンバイしてくださーい、って僕らを呼ぶ声がした。
このシーンは、ギイがタクミ以外に好きな人ができたと勘違いしたタクミが怒ってみんなで楽しくパーティしていた所を立ち去り、追いかけてきたギイにキスされるっていうシーン。
『もうっギイなんて勝手にっ』
ギイの大ちゃんの顔が近づいてきた、思わず恥ずかしくてはにかんでしまった。
「浜尾く〜ん、今のだめ、笑ったら」
監督にダメだし。
「笑うなよ〜、もう、そこで笑うか笑わないかなんだよ、俺は笑わないし、恥ずかしくない。」
大ちゃんにも言われてしまう…
「すいません。もう平気、ぜんっぜん、恥ずかしないよ?普通。」
自分に言い聞かせる。
『もうっギイなんて勝手にすっ』
よし、今度こそって思い気合いをいれた。
結果、気合い入れすぎた…
「外れた。」って大ちゃん。
監督も、「浜尾く〜ん、外れたのもあるし、力入りすぎ、もう来るのが(キスされるのが)わかっちゃってる感じで、口がンってかたくなっちゃってるよ、ここは不意打ちだから、力ぬいて」だって、、
大ちゃんには、
「俺そんな嫌がられることしたっけな〜?」って…
大ちゃんにそれを言われて、少しだけ力が抜けた。
やっと監督のOKがでた。
その後、メイキング映像のインタビューでキスシーンについて聞かれた。
「いや、意外に普通でしたね。全然すんなりできました。」みたいに話す大ちゃんに、全然すんなりいかなかった僕は、恥ずかしさから、強がって、大ちゃんの言葉に食い気味に、「全然普通でした、本当に、ギイとタクミだったんで、普通でした。」って繰り返してしまい、、後で後悔した。
かなり僕、動揺してるじゃんっ
コレ見た人には、バレちゃう、絶対不自然だよね…
やっぱり、大ちゃんは大人で余裕があってかっこいいよ。
それにひきかえ、僕は…
落ち込むなぁ
キスシーンの撮影、、マオは何だかぎこちない、緊張してるんだろう。
そうだよなぁ、まだ17歳だもんなぁ
こんだけ顔が良くてスポーツできれば、彼女いたことくらいありそうな気もするけど、どうなんだろうか?
このぎこちなさや、緊張の仕方…
もしかして、女いたことないんじゃないのか?
もしそうなら、かなり俺、罪悪感なんだけど…
だってファーストキス男でしたってありえねぇだろっっ
そんな事考えながら、歳上の俺がリードして現場の雰囲気作りや、マオのフォローをしてやらないといけないと気合いを入れて、キスシーンに入る。
案の定、マオのNG連発…
まぁしょうがないよな、とりあえずこいつの緊張をほぐしてやらないと前に進めないなぁって、笑いを交えた会話でリラックスさせた。
なんとか監督からOKがもらえた。
キスシーンを終え、メイキング映像のインタビューでキスシーンについて聞かれた。
まぁ仕事と割り切ってたから「全然普通でした。すんなりできました。」って答えた。
マオは、俺の答えに食い気味で、
「僕も普通でした。ギイとタクミなんでできました。」ってずっと繰り返していた。
多分強がってるんだろう、何か、こいつ可愛いわ、強がりたい年頃だよなぁって感じて、改めて歳の差を感じてしまった。
はぁ…何とか今日終わりだよ〜
大ちゃんは、まだ撮りがあるみたい。
撮影終えた僕が帰ろうとすると、まだ撮りがあるメンバーに引きとめられる。
大ちゃんにも、、
「おまえ帰るのかよーうわーっおまえはそういうやつだよな~」って…
なんか、僕はキスシーンからドキドキしてしまって大ちゃんの顔をまともに見られないので先に上がれるのがホッとしていた。
大ちゃんに茶化して、
「ギイ頑張ってね、バイバイ」って手を振って背中から視線を感じたけど宿舎に向かった。
部屋に入ると、なんだか肩に入ってた力が一気に抜けて体が重い…
疲れた、布団に転がる、昨日から布団は敷きっぱなしだった。
思わず、転がった布団、大ちゃんの寝てた布団だった。
ふわっと香るいい匂いに包まれた瞬間、今日のキスシーンを思い出してしまった。
布団から大ちゃんの匂いがする、、
キスしちゃった…大ちゃんと、
くちびるを触ると撮影のときは、パニックであまりわからなかったけど、あの時のキスの感触が蘇ってきた。
恥ずかしくて一人でのたうちまわる僕…
とりあえず、落ち着こう、まだただのキスシーンじゃないか…
明日は、ベッドで戯れるシーンが…
頭を抱えてしまう、、
はぁ…考えてても仕方が無いや、お風呂入って大ちゃん来ちゃう前に寝ちゃおう。
キスシーンの撮影を終えてから、マオはどこかよそよそしくて、あまり目を合わさなくなった。
うーん…撮影意識しすぎてるな、あいつ…
俺の役は、マオを女に脳内変換すればいつもの恋愛模様とさしてかわらないけど、マオの役は女の子扱いされちゃう役なわけで、複雑なのかもしれないな…
今日は、マオは先に撮影現場をでた。
もう、寝てるのだろうか?
少しだけ明日のシーンの話をしたかったけど。
まぁ何とかなるか、、ってかなんとかしなきゃな。
撮影が終わり、宿舎に帰ると相当疲れてたみたいでマオは首にタオルをかけたままでうつ伏せに布団の上に転がっていて、髪も湿ったままだ。
「おい、風邪ひくぞ」
反応がない…
しょうがないなぁ
マオの下敷きになってる布団を引っ張り出そうとするけど引っかかって上手く出せなかった。
仕方なく、少しだけ抱き上げた。
「軽っ、」思ったよりも軽くて驚いた。
女の子みたいに軽いけど、骨張っていてやっぱり男だ。
マオは、その辺にいるすっぴんの女の子よりも肌も綺麗で可愛い顔をしてて、仕草もちょっと女っぽいとこがあるから、舞台のメンバーにもからかわれて、マオとならキスできる〜なんてよくからかわれてキスされそうになっていた。
そんなメンバーを見て、いやいや…でも男だろっありえん…って内心俺は思っていた。
でも、キスシーンを終えてマオを可愛いと少しだけ思ってしまった俺は、舞台メンバーの気持ちが少しだけ分かってしまった。
男だけど、嫌悪感を全く感じなかった。
多分他のやつが腹出して寝てても放置しただろうなって思う。
放置できなかったのは役に多少入っていて抜け出せないからだと自分に言い聞かせた。
マオは布団を掛けてやると、寒かったのか小さく丸まった。
「だいじょうぶ、ふつうに…できた…」
寝言が聞こえて思わず笑ってしまった。
「おまえは頑張ってたよ」
つぶやいてから、シャワーを浴び、布団に入った。
>> 16
翌日、起きると大ちゃんが隣の布団でねむっていた。
あれ?昨日僕はいつ寝ちゃった?
シャワー浴びて、、布団に転がって、そのままだ…
髪も乾かさずに寝てしまった。
鏡をみると…
「うわっ寝癖すごい…」前髪がカブト虫のツノみたい、、ヤバイなこれっ
押さえても押さえてもピョン
突然後ろから影が、
「マオおはよう☆」
「びっくりしたぁおどかさないでよ大ちゃん」
「いやいや、驚くのはこっちだよ、なんだよその頭は」
慌てて髪を押さえる、
「昨日髪を乾かさずに寝ちゃって、こんなになっちゃったよ」
「おまえ俺が帰ってきて声かけたのに全然起きねぇんだもん。布団も掛けずに寝てたからかけといてやったんだからな。あっおまえ寝言言ってたぞ?ママーって」
大ちゃんがイタズラっぽく笑う。
僕は大ちゃんに軽くパンチをして
「布団はありがとうだけど、寝言は嘘でしょ?だって家は“母さん”って呼んでるもん」
って答えた。
「早く用意して、飯食おうぜ、」
「そうだね、寝癖なんとかしなきゃみんなに笑われちゃうよ。」
僕たちは、朝食を食べるために着替えた。
朝食を取り撮影に入る。
始めは大ちゃんとは別々のシーンだ。
正直、キスシーンなどがある大ちゃんとの撮影は恥ずかしさもあって緊張が半端ないし、大ちゃんをギィという映画の人物として自分がタクミという映画の人物として、恋愛として好きにならなきゃならないのでドキドキしてしまう。
だから別々のシーンの方が緊張も少なく、スムーズに撮影が進む気がした。
午後は、大ちゃんとのシーンの撮影に入る。
僕が大ちゃんにベッドで押し倒されて…
なシーン。
はぁ…どうしよう…
お昼ご飯があまり味が分からなかった。
「マオ、食欲ないの?緊張してんじゃねーよっ、お前歯磨きしっかりしとけよっ」
大ちゃんは、余裕な感じ。
僕は歯磨きをいつも以上に頑張ってしまう。
その後もフリスクをずーっと口に含んでいた。
(撮影入りまーす)
ついに来たっ。
覚悟を決めて、撮影に入る。
「浜尾クーン、固いね、固まってる、表情も身体も、もっとうっとりした感じとか、」
監督にやっぱりなダメだし。
「はい、はい、すいません、」
と僕。
「手も背中に回すだけじゃだめだよ、えーっと、弄る感じ?」と監督。
「あっそっかぁ」照れながら思わず言ってしまった一言にクスクス笑がおきた。
監督なんて脱力してしまっていた。
大ちゃんが「可愛いね〜、そうだよなぁまだ17だもんね、俺が17のときなんて…」
ってブツブツ言ってる声が聞こえてきて、うわぁ僕ってガキっぽい?
頑張らなきゃな、、周りの人に迷惑なんてかけられないよって羞恥心を捨てて役に入り込む。
ギィになった大ちゃんに抱きしめられて、甘い言葉を囁かれる、それに応えるタクミになった僕は、抱きしめられる心地よさを少しだけ知ってしまった。
大ちゃんは、僕と違って胸板も厚くて腕も力強い、そんな大ちゃんの腕の中はとても暖かくてドキドキするけど安心できる、そんな不思議な感じがした。
なんか、ヤバイ。
キスを重ねて抱きしめられる、タクミ。
うっとりしかかったところで、OKの合図。
現実に引き戻されると急に恥ずかしくなる。
〔うわー恥ずかしすぎるっもう、顔隠したいよっ〕
大ちゃんから顔を背ける。
はぁなんとか終わった…
って思ったのも束の間、監督が足を絡ませ合う所を撮りたいって…
大ちゃんは、笑いながらこんな感じで?って笑いながら自分の両手を激しく絡ませてる…
「いやいや、そんな激しくなくていいよ」
って監督が笑いながら言うから、場が和む。
大ちゃんありがとう。
「じゃあ撮るよ〜、浜尾くん足の指ピーンとしてね」
監督に言われた通りに足の指を伸ばす。
あれ??何か、変…
「はい、いいよ、OK」
って言われたけども、足が…指が…
「足、つっちゃった…」
って僕が言ったら、笑がおきた。
テヘって笑っといたけど、
はぁ…最後までかっこ悪い僕…凹む。
大ちゃん、いっぱい迷惑かけちゃってごめんなさい。
何とか、このシーンの撮影が終わった。
午後からマオとの絡みのシーンに入る。
案の定マオは固まっている、カメラ待ちもどこを見ていればいいのか視線が泳いだり、ソワソワ若干挙動不審ぎみになっている。
そんなマオが視界に入り、思わず笑いそうになってしまう。
「マオ、まぁ流れに任せれば何とかなるって」
「そうだね。大丈夫、普通にできそう。」
って強がるマオが見ていてなんだか、よくわからないけど、チクンと心を突き刺す。
絡みのシーンが始まる、やっぱマオに監督のダメだしが入る。
監督のダメだしや説明を恥ずかしそうにきいてるマオが監督の言葉に対して、
「そっかぁ」とつぶやく。
何それ⁈もう力抜ける、、思わず、俺は、
「可愛いね〜」なんて言ってしまった。
男に可愛いなんて今までいったことなんてない、初体験をしてしまった。
だって、今までこんなタイプの同性いなかったから、完全調子が狂う…。
そうだよなぁ、俺今まで付き合った彼女も全部年上だし、なんかこなれたサバサバしたタイプの彼女ばかりだったしな。
可愛い、感じの子はいなかったな。
そんなこと考えながら、ブツブツ自分の17歳の頃は〜なんて、つぶやいていた。
監督のマオへの指導も終わり、また撮影が再開される。
マオも今度は役に入りきってる様子で、背中に回された手が積極的だ。
近づく顔を見つめる、まつげ長いなぁ、触れた頬や唇は柔らかくて、髭もまだ幼くて生えてないんだな、とか不覚にも何だか少し変な気分になってしまった。
カットがかかる、最後に足を絡めた感じをとるという。
緊張するマオをなんとか和ませようとしてしまう。
マオは足の指がつってしまったみたいだ。
「足、つっちゃった…」ってはにかむ。
笑いがおきた。可愛いじゃねぇか。
うわー絶対俺今欲求不満だよ…
こんなのありえないわ、、
前の彼女と別れてからどれくらいたった?
なんか、焦る。
よし、撮影が終わったら遊びまくろう。
俺は、今、欲求不満だ。
自分にいい聞かせた。
濃い絡みのシーンは何とか終わって少しだけホッとした。
大ちゃん、何かやっぱ大人だ。
慣れてる感じ、彼女にもあんな感じなのかな?
モテるんだろうなぁ…
大ちゃん、きっと呆れてるかも…慣れてなさすぎな僕に、、
ボーッとそんなことを考えていたら、
「マオっボーッとしてどうしたんだよっ、
次のシーン終わったら今日は、お終いだろ?明日は最終だから頑張ろうな。」
タッキーさんが声をかけてきた。
「うん…、頑張らなきゃ、大ちゃんに迷惑ばっかかけてる気がするから…」
そういう僕に、
「大ちゃんは、迷惑なんて思ってるわけないって、、まだマオは17歳なんだしそこは人生経験値の違いだよ、あと大ちゃんのギイは、いわゆる攻めってやつで女の子役みたいなタクミのマオとは違うんだし、慣れてんだよ。大ちゃんモテるし。」
「そっか…」
そう答えつつも、大ちゃんやっぱモテるんだ、って少しモヤモヤした。
明日は、海辺のキスシーンの撮影だ…、大ちゃんに迷惑かけないように頑張ろう。
部屋に戻ると、大ちゃんが寝てた。
まだお風呂入ってないみたい、洋服のままだ。
とりあえず、起こさず先にお風呂行こう。
部屋にもシャワーはあるけど、大浴場で今日は、湯船に浸かりたいな…
大ちゃんを起こさなかったのは、一緒に大浴場に行く事になったりしたら困るからだ。
だって、今は恋人同士の役で…
何か、意識してしまうし、誰かいてからかわれたらうまくかわせる自信ない。
多分撮影が終われば普通に戻れるけど、今はタクミとギイだから、、
1人大浴場に行き、脱衣所に入ると、もう風呂から上がったタッキーさんが帰るとこだった。
「マオ大ちゃんは?俺大ちゃんとここで風呂一緒に入ろうぜって約束してたけどこなかったからさ。」
「大ちゃん何か疲れてるみたいで寝てた。
起こそうか迷ったけど、置いてきちゃった。」
「そっか。まぁいいや、んじゃ、マオおやすみ。今風呂誰もいないよっ泳げるぜ」
ニッと笑って言うタッキーさん。
「小学生じゃないんだし、泳がないよっ。おやすみなさい。」
大浴場、誰もいなくてホッとした。
湯気の立ち込めるお風呂に浸かって目を閉じる、今日も一日終了…
突然今日のタクミとギイの絡みのシーンが頭に浮かんだ…
絡み合う手、唇、触れる大ちゃんの手の暖かい感触、キスの時に触れた大ちゃんの髭の感触、思い出してしまったら、撮影が終わり少し落ち着いていた心がまたざわめき始めた。
髭…僕全然生えてないなぁ、大ちゃんって男らしいなぁ、かっこいいって言葉が似合う。
僕は、可愛いって言われる事の方がおおいんだよな…言われ慣れすぎて、もう言われても抵抗なくなってる自分が怖いな…
大ちゃんみたいにカッコ良くなりたいな。
1人で湯船で今日を振り返っていると、ガチャって音がした。
振り返ってみると、大ちゃんがいた。
重なる唇から体温が伝わる…
「ギイ…」
「?」
そうだ、今は大輔じゃなくて、ギイだった。
見つめる大きな瞳、長いまつげ、微笑むとできるエクボ、柔らかい頬、今は全てがギイである俺のもの…
すげぇいい気分…
このまま離したくない…そんな中、
パタンっとドアが閉まった音がした。
「ん…?」
夢か…
何なんだ?あの夢…
マオが、、
俺どうかしてるっ
「あっやべぇタッキー…」風呂に一緒に入ろうぜって俺から言ったのに、まだいるかなぁ。
何か、変な夢見ちゃったし、、
マオまだ部屋帰って来てないし、長風呂してきてマオが寝てるくらいに帰れば顔合わせなくていいだろ…
だぁっ!なんっなんだよっ俺…
マオって本当今までにあったことないタイプで調子狂うわ…
とりあえず、風呂いこ…
風呂にタッキーがいるみたいだな。
脱衣所でさっと服を脱ぎガラッとドアを開けた。
立ち込める湯気の中にいたのは、、
マオだった。
「大ちゃん…」
「おぉ、お疲れっ」
そっか…あの夢の中で聞いたドアが閉まる音、マオが部屋を出た音か…
身体を流してマオの隣に座る。
「マオ、帰ったんなら声かけろよ〜」
「ごめんね、何か疲れてるかと思って…」
あんな夢を見た後だし気まずい…
何か、そんな邪な目でマオを、汚してしまったような罪悪感。
マオって本当、純情そうだもんな…
「明日で撮影終るね、何か短かったけど濃い感じだったね、大ちゃんいっぱい迷惑かけてごめんね。次共演大ちゃんとできる時にはもっと成長するから…」
「迷惑なんて思ってねぇよ、でもまた共演できるといいな、ってかまだ舞台あるけどな」
会話をするけど、何か顔がまともに見れない。
まぁマオも同じく、あまりこっちを見ない。
まぁあんなシーン撮影後だしな…
「大ちゃん、僕先に出るねっのぼせてきちゃった」
そう言うと、ザバッと湯船から立ち上がり足を淵にかけようとした。
その瞬間バランスを崩してよろける、
ヤバイっ倒れるっ
思わず俺は、マオを抱きとめ何とか支えた。
「大丈夫か?」
マオの顔を覗きこむと、顔をパッと背けられた。
「大ちゃんごめっ、大丈夫だからっ腕、、」
パッと腕を離す。
「ありがとっじゃあ先に部屋かえるねっ」
マオが慌てたように出て行った…
あービックリした…
マオが倒れそうになったことに?支えた身体の華奢なことに?
なんだかもう訳わかんねぇ…
とりあえず、身体洗って、頭洗って、、頭冷やして、、って何でだよ、自分に突っ込みをしてしまう。
エッ⁈
「大ちゃん…」
嘘でしょ?
どうしよう、入ってくるなんて思わなかった。
裸だよっ
って当たり前だけどさぁ、目のやり場に困るっ
大ちゃんのガッシリした胸板や腹筋が目に飛び込んできて目が泳ぐ…うわぁ
「マオ、帰ってきたなら声かけろよ〜」
っていいながら、身体を流した大ちゃんが僕の隣に座る。
座った時に肩が軽く触れた
それだけの事でドキドキしてしまって、会話してても目が見れなかった。
もうこの空間に堪らなくなって、のぼせてしまいそうだし先に出ようとした。
その瞬間、グラっとバランスを崩して倒れそうになった。
腰に巻いたタオルから手が離せなくて手が前につけず、頭打つかもって時にザバッと水音がした瞬間に身体が支えられていた。
「大丈夫か?」大ちゃんが咄嗟に支えてくれたみたいだった。
二の腕をしっかり捕まえられ、大ちゃんの分厚い胸の前に僕の顔がある状況。
もう、若干パニック。
そこから、イマイチ覚えてない、ありがとうもいったかさえ…
もう、そそくさと着替えを済まして、部屋に早足で帰った。
部屋のドアの前で座り込む。
大ちゃん部屋に帰って来たらどうしようか、絶対変なやつだと思われたよ…
落ち着け、深呼吸だ。
帰って来たら普通に何もなかったように…
できるかなぁ
はぁ…
なんかヤバイな、この雰囲気…
BLプロデューサーが“受け”の役者を選ぶ時は、ノンケでも可愛い、抱きたいと思えるような役者を探すって言ってたっけ?
今は、プロデューサーが言ってる意味が少しだけわかる気がする。
でもこの時の俺は、ただこの仕事が終わればこの今の心のざわつきも消えるだろうって軽く考えていた。
なんだか、マオがいる部屋にすぐ戻れずタッキーに携帯で電話をかけた。
「タッキー?まだ起きてた?ごめんっ部屋で少し寝ててさっき風呂行ったんだけど入れ違いだったかも、今からさぁ部屋に遊びに行ってもいい?」
たまたまタッキーは一人部屋だ。タッキーの部屋で時間を潰してからマオがいる部屋に戻る事にした。
タッキーの部屋に飲み物と軽くつまめる食べ物を差し入れする。
「お疲れ〜、さっき風呂ごめんな、ねちゃってたわ」
「あぁ、俺が出る時にちょうどマオが入って来たからマオに聞いてた、マオと会った?ってか一緒だった?」
とタッキーが何故かニヤニヤ聞いて来た。
「なんだよその笑は?はぁ…マジでからかうのとかやめろよっ、俺はいいけどさぁ、マオがうまくかわせなくて気まずそうにしてるんだよ」
「ごめん、ごめん。でも大ちゃんもマオも大変だよな、結構キスシーンとか多めだし…やっぱ役に入り切ると気にならないもん?」とタッキー。
「んー…?もう女の子だと思ってしてるよ。だって男だと思ってたら感情入らないよな。」
「でもさぁ、大ちゃんはギィの役だから相手を女の子だと思って演じれるけどマオはタクミ役だからどんなんだろうね?」
「だな。」
タッキーが「でもマオって中性的な雰囲気だよな、どっちもいけそう、みたいな?可愛いし、女子が可愛いって騒ぐのわかる気がする」なんて言うから、俺は何故かそれを全力否定したくなった。
「まぁ天然なとこあるけど、あんだけ顔が良きゃ影で女と遊びまくってたりするんだよ、人は見かけによらないし、俺はチャラく見えるけど真面目だしなっ」
ってドヤ顔で言う。
マオと接してみて、遊んでるイメージなんて皆無だったけどなんだか、そんなマオを想像すればこの説明できないような胸のざわつきが鎮まる気がしたから。
もうマオも寝た頃だろうと部屋に戻ることにした。
「タッキーおやすみぃ〜」
タッキーの部屋を後にして、ペタペタと廊下を歩いて自分の部屋に帰る。
ドアの前に着くと何故かドアを開けるのをためらってしまう…
もう寝てるよな…
そっとドアを開けた。
シーンとしていて部屋の電気も常夜灯になっていた。
眠っているであろうマオの顔を覗き込んでみた、長いまつげも伏せていて寝息もある。
本当、整った綺麗な顔してんなぁ…
眺めてたら、なんだかキスしたい衝動にかられていた。
少しずつ顔を近づける… 唇が触れるか触れないか、
理性を取り戻して我に返る。
何した?何してる?俺…
ヤバイな、、もう、寝よ…
バサっと布団を頭までかぶって横になった。
大ちゃんが帰ってきたら普通にしよう、さっきのお礼を言わなきゃと意気込んでいたけど、大ちゃんはなかなか部屋には戻らなかった。
廊下から微かな足音がするたび大ちゃんかもって緊張してたりした。
でもどの足音も大ちゃんじゃなかった。
もうとりあえず布団に入ろう…
目をつむるけどなかなか眠気は来ない、さっきの風呂場での僕の様子を大ちゃんは、不審に思ってたりはしないだろうか、とか明日の撮影最終日の事を考えたりすると眠れなかった。
明日で終わりなんだ…そう思うとさみしいな、また大ちゃんと共演したいなとそんな事を考えていると、ペタペタと廊下から足音が近づいてきて部屋の前で足音が消え、ガチャリと鍵が開く音がした。
ぼーっと考え事したりしていたせいで、大ちゃんに言うお礼や、普通に接するっていう心の準備が出来てなかった僕は、思わず眠ってる振りをしてしまった。
パタンとドアが閉まる。
ペタペタと近づく足音が僕の横で止まった。
大ちゃんが「寝てるか…」そうつぶやいた。
思わず眠ってる振りをしてしまった僕は、当然ながら目を開けられずにいた。
大ちゃんがつぶやいてから目をつむる視界が微かに暗くなると同時にシャンプーの香りがふわっと鼻をくすぐる。
と、すぐに香りが遠のき視界が微かに明るくなった。
バサっと音がした。
大ちゃんが布団に入ったみたいだ。
何が起こっていたのか?
大ちゃんの顔が近づいた事は確かだった。
眠ってる振りをしながらも心臓は、脈打ち大ちゃんに起きてる事を気づかれてしまうんじゃないかと不安になってしまう。
大ちゃんは、何がしたかったんだろうか?
キスしようとしてた?まさかそんな事しないよね。
たぶん、眠ってるか確かめただけだよ。
何のために?その疑問文の答えは考えたくなかった。
ただ今は、大ちゃんに心臓の音が聞こえてしまわないだろうか?動いたら起きてたってバレちゃう?って不安で余計に眠れなかった。
撮影最終日、昨日はやっぱあんまり眠れなかった。
でも今日で終わりだからなんとかがんばれたんだ。
朝、起きたら大ちゃんはもう起きてて「おはよう、昨日さぁ風呂のあとタッキーの部屋で話ししてたから部屋に戻るの遅くなったんだよ、俺戻ったの気づいた?」
って聞かれた。
「おはよ、全然気づかなかったよ?昨日風呂場で助けてくれてありがとう、あのまま顔ぶつけてたら今日の撮影どうなってたのか…考えると怖いよね」
って、思ったより普通にできてた。
朝食をすまして撮影に入る、今日は外の撮影ばかりだ。
それにしても寒すぎる、末端冷え性の僕にはかなりキツイ…
寒いって言葉しか浮かばない。
ペタペタいたるところにホッカイロを貼ってもまだ寒かった。
ロングコートを羽織りながら撮影の始まりを待つんだけど、当然ながら始まれば水色のブレザーだ。
寒色の水色を見ただけでも寒さが増す気がしてしまう。
大ちゃんに、「僕、末端冷え症なんだよね。」無意識に自分の手を触ってみてよと言わんばかりに大ちゃんの前に出してしまうと、大ちゃんの手が僕の手に触れた。
それからたわいない会話もし、撮影がはじまり、無事この場所での撮影も終わった。
昼食を済ませて、午後は、夕方にキスシーンの撮影だ。
夕日を見ながらの撮影、キスシーンはやっぱり緊張してしまう、監督に演技指導してもらいながらの撮影だ。
ギイと見つめ合う、そして唇を重ねる。
あれ?なんか違うぞ?
「反対、違う、顔が反対なの。」大ちゃんに言われてしまう。
キスするときに顔を傾ける方向を間違えたのだ。
大ちゃんと同じ方向に傾けてしまった…
「それじゃあ鼻がぶつかるから、だから練習しとけっていったべよ」と言われてしまった。
あぁ、なんか情けないな僕。
監督にも何度か注意を受けつつも本番が始まる。
ギイと見つめ合う、少し身体を寄せてゆっくりと唇を重ねる。
心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていた。
『カット』の声が聞こえてきた。
けれど大ちゃんは、動かなくてキスしたまんまだ。大ちゃん気づいてないのかな?
僕もなかなか動けずにいた。
『オッケー』の声が聞こえて、どうしようって思って思い切って自分から唇を引き離した。
息が苦しかった、、
息するの忘れてたっ
でもそんな事バレたらまた大ちゃんにからかわれちゃうかもしれないから、バレないようにさっと立ち上がると大ちゃんから離れた。
やっぱり練習しなきゃ演技にも響くんだなって実感。
大ちゃんは、慣れてる感じだったからきっと数をこなしてきてるんだろう。
僕も大ちゃんみたいになりたい、その時の僕はまだ自分の気持ちに気づいていなかったんだ。
撮影最終日の朝、昨日の俺の行動をマオに気づかれてはいないだろうかと気になっていた。
タッキーの部屋に行っていたと説明をし、「俺帰ってきたの気づいた?」
何気なく確認する。
マオは寝てたみたいだ。
「全然きづかなかったよ。」って言葉を聞きホッとした。
朝食を済まして、撮影に入る。
風が強く寒かった。
撮影の合間にもメイキング用ねカメラが入っているから気が抜けない。
マオと待ちの間に雑談していると、マオが「僕末端冷え性なんだよね、ほら?」って手を差し出す。
ちょっと待てよ⁈コレカメラが回ってんのわかってやってる?
合コンの時に女の子にされた事あったっけ?いかにもボディタッチしたいみたいな下心が見えるやつ…
でも見つめるマオのくもりのない瞳は、、
多分何も考えてないやつだな、うん。
天然だ、こいつは。
指先をそっと触ると、確かに冷んやり冷たい、俺が触った指先を口元と頬にもっていく仕草も可愛い。
可愛いぞ…ヤバイなんだ、本当調子狂うからやめてくれ。
夕方、最後はキスシーンの撮影にはいる。
夕日をバックにタクミとギイは、唇を重ね合わせる。
台本には、淡々と書かれているだけだけど実際は、どの角度でカメラがどう入るか、長さ、細かいところも監督と話し合いしながらの撮影だ。
とりあえず、まずやってみようということらしい。
オレンジ色の夕日が眩しくてキラキラしていた。
タクミとギイが見つめ合う、寄り添う、近づく唇…
ん⁈オイオイっ
思わず、「違う、顔反対」とマオに伝える。
マオは俺と同じ方向に顔を傾けていた。
これギャグ?もう…力抜ける…
マオに「だから練習しとけっていったべよ…」って言うと、マオは、やっちゃったっみたいな顔して「すいません、すいません。」って謝る。
もう…マジでっ勘弁しろよっ
今まで付き合った女でもそんな間違いがいをする子にあったこともないわっ。
17歳、最強だぜ。
気を取り直して本番。
キラキラ輝いてる夕日が2人を包み込む。
見つめ合う、身体を寄せ合い、ゆっくりと顔を近づけて、重なる唇、、
なんだか心地よくて、このまま時が止まればいいのに…そんな気分になっていて、監督のカットがかかっても唇を離せずにいた。
「オッケーオッケー」の言葉が聞こえ、マオがパッと唇を離してサッと立ち上がる。
撮影が終わってしまっても、胸のざわめきもモヤモヤした気分もおさまらない日々がしばらくつづいた。
多分、俺はこの時からマオの事が…
この映画の撮影が終了して、どうにもならないこの気分に蓋をするように、頻繁に飲み会などに参加するようになっていた。
適当に飲んで、騒いでとりあえず自分に近づく女と適当に付き合って、「彼女」を作った。
映画撮影が終わり、けど舞台は続いていて、大ちゃんとは顔を合わせる事も多かった。
けれど未成年な僕と大人な大ちゃんでは、遊ぶ内容だって違う、大ちゃんは成人組のグループと良く飲み会に行ってるみたいだった。
いわゆる合コンってやつだろう。
僕は僕で、違う舞台が決まっていたり、忙しいかった。大ちゃんとは、舞台裏や楽屋で絡むことはあっても一緒に遊びにいくということもなかった。
そんななか、噂で大ちゃんに彼女が出来たらしいという事を知った。
聞いた時には、何故だかチクリと胸が痛んでなんとも言い難い苦しさを感じる自分がいた。
その時僕は、舞台で共演している女の子に付き合って欲しいと言われていた。映画撮影の時に大ちゃんに言われた「練習しとけ」っていう言葉もずーっと引っかかっていて、“大ちゃんに彼女が出来た”って聞くまでは迷いがあったけれど、その噂を耳にした後、迷いが断ち切れて、とりあえず付き合ってみようと思った。
そして、僕にも「彼女」ができた。
彼女は可愛かったし、スタイルもよくて周りの友達にも羨ましがられていた。
何と無く付き合い始めたけど、それなりに楽しくて、付き合うってこんなものかって感じだった。
キスもして、その先も…
彼女は、初めてじゃないっぽかった。
でも何と無く付き合い始めてしまった僕には罪悪感が薄れるのでその方が都合がいいと思った。
何度もキスをして、、その度に練習になってるかな?って大ちゃんのキスを思い出している自分がいた。
大ちゃんも彼女とキスしたりしてるのかな?あの時に僕にしたみたいなキスを…
マオと一緒の舞台も千秋楽を迎えようとしていた頃、噂でマオに彼女ができた事を知った。
聞いた時は、信じたくないようなモヤモヤした気分にとらわれた。
でも、俺にも彼女はいてそれなりに彼女との時間を楽しんでいたりもした。
マオが幸せならそれでいいと思っていた。
でも仲間から俺が聞くマオの「彼女」の噂は、あまりいいものではなくて、俺の仲間とも繋がりのある奴が多くて、いわゆるイケメン好きな肉食系女子って感じだった。
その噂を耳にしてから、マオの事が気になっていて久しぶりにマオと飯でも食べにいく事にした。
「マオ、今日はこの後あいてる?」
……少し間があいた、、もしかしてデートとか?若干不安がよぎった。
「う、うん。予定あったけど、、何とかするよ。大ちゃんとご飯とか久しぶりだもんね。」
ってマオが答えた後、ちょっと電話してくるってその場を離れた。
「マオ、この後空いてる?飯でもいかねぇ?」
大ちゃんに言われた。
この後、実は彼女と約束していた。
でも、大ちゃんが誘ってくれたことが嬉しくて彼女との約束をキャンセルする方を選んだ。
彼女に電話をかける。
「ごめんね、今日急に大ちゃんたちとご飯食べに行く事になったから、今日は無理かも、会えない…」
彼女は不満そうだ。
本当は大ちゃんと2人だけなのに、何故か“たち”と言っていた。
「ごめん、また埋め合わせするからっちょっと急ぐから切るね。」
大ちゃんにまだ彼女できた事報告してない…
でも、大ちゃんからも彼女ができたこと聞いてないから、今日報告会みたいな?だから誘ってくれたのかな?
大ちゃん彼女の話をするのかな…
大ちゃんと久々にご飯食べに行く事は嬉しかったけど、大ちゃんの彼女の話あまり聞きたくないかも…何でだろう。
映画撮影が終わってからもずっとあるモヤモヤした気持ちがまた少し膨らんだ。
遡る数日前、俳優なかまの古川雄大との何気ない会話の中で衝撃を受けていた。
「しってる?大ちゃん、この前噂で聞いたんだけどさぁ、まお、彼女できたんだって。」
「え?まお?聞いてねぇ…」
「そうなの?まお、大ちゃんに懐いてるからきいてるのかと思ってた…話したらまずかったかなぁ…俺も本人からきいたわけじゃないよ?」
「ふ〜ん…、まぁいいんじゃね?あの容姿なら女から言い寄ってくるだろ。」
「でもさぁ、、相手がね…」
「は?何かあるのか?」
「いや、可愛くて、スタイルもすっごいらしいよ?」っと雄大はジェスチャーでくびれを再現しながらニヤニヤしていた。
「何ニヤついてんだよ…」
「いやさ、とうとう、まおくんも喰われちゃったかって思ってさ。」
「そういう言い方すんなよ、別にいいだろ、好き同士仲良くしてんだろ?」
「まぁね、、でもさぁ、俺色々聞いちゃったんだよね…知りたい?」
「なんだよ、言えよっ」
「俺のさぁ友達の友達みたいだよ?」
「別にいいじゃねぇか、そんなん。」
「だからぁ、友達っていうのは…あの、夜の友達的な?」
「オイオイ、それマジ?シャレになんねぇわ…だって、まお、、それ知ってるわけねぇよな…」
「だよね、」
「マジかよ…」
「ショック?」
「え?そりゃあ弟みたいなもんだし…はぁ…」
弟?だよな…
なんだろう、このチクチクした胸の痛みとざわつき、まおが心配だ。
「大ちゃん?ちょっとあんま広めないでね。」
「あぁ、わかってるよ。」
俺は、この話を聞いてから毎日落ち着かない日々を過ごしていた。
無意識にまおを目で追ってしまっていて、目が合うと軽く微笑むまおにハッとさせられた。
久しぶりにマオを食事に誘ってみる事を決意した。
自分でも何の為に?とか考えてもよくわからなくて、マオの口から「彼女」の話を聞くのが嫌だと思っている自分がいたのは確かだった。
マオと久々に夕飯を食べる事になった。
正確に言えばマオと2人で夕飯を食べにいくのは久しぶりだ。
舞台仲間何人かで夕飯を食べる時一緒だったことは何回かあった、でもやっぱ年齢が離れていることもあってか、同年代で座る事が多いし、席が隣同士になる事はなかった。
なので、会話らしい会話は正直映画撮影が終わってからはしていなかった。
というか、映画の人物ギイの役に入りすぎていたためタクミ役のマオに対しても感情が入りすぎてるんじゃないか?と思うところがあってなるべく距離をおいていた。
マオに彼女ができたときいた時もけっこう動揺していた自分にも戸惑った。
更に、彼女の人物像を知った時、マオがもしかしたら傷つけられてしまうんじゃないか?という思いであの時、蓋をした自分のざわめく想いが日に日に増していった。
マオを夕飯に誘った時も彼女との約束があったみたいだ。
でもマオは迷う事なく俺の誘いを優先した。
そのマオの行動に心地よい優越感みたいなものを感じていた。
今日は冷えるな…とか当たり障りない会話をしながら二人で歩いて道を進む。
「居酒屋でもいいか?ちょっと俺飲みたい気分なんだよ。」マオに言うと、
「うん、いいよ。まだ〈俺は〉飲めないけど、居酒屋メニュー好きだよ。」
っていうマオの言葉に違和感を感じた。
いつも〈僕〉だったのが〈俺〉に変わっていた。
違和感を感じたのにでもあえて触れる事は出来ない自分がいた。
居酒屋に着くと、半個室になっている右奥の席に通される。
居酒屋とあってか、席に着くまでの間に2グループぐらい合コンをしているようで少し騒がしかった。
「ちょっとうるさいな、合コンやってるわ」
「そうだね、俺合コンとか行ったことない。楽しいの?だって初めて会う人とそこまで打ち解けられる自信ないなぁ…人見知りだし。」
「あー…まぁ楽しいよ?ワイワイした感じで。めんどくさいときもあるけどな。タバコいい?」
一応マオは未成年だし、タバコの臭いが好きではなさそうだから聞いてみる。
「いいよ〜、別に確認しないでよ。」
近くの席からは、合コンで盛り上がってるだろう声が聞こえてくる。
「大ちゃん最近は合コン行ってないの?」
マオがどこで聞いたのかわからないけど、映画撮影後に俺が合コンに頻繁に行っていたことを知ってるみたいだった。
彼女ができた事をマオに話していなかった。マオは知ってるのか?
「あぁ、最近は行ってないよ。一応彼女できたしな。」
「彼女できたしな。」
意外とサラッと伝えられた。
そのタイミングで初めに頼んだ生ビールとマオの頼んだオレンジジュースがきた。
「お待たせしました〜」
とりあえず、ツマミなど料理を注文しよう。
「まお何食べたい?俺は酒飲むし、ツマミ頼むけど…お前は好きなもん頼んでいいぞ」
「うん。じゃあ俺は…お腹空いてるし唐揚げと…チャーハンにする。」
店員に料理を注文し終えると、まおがふいに…
「大ちゃん、俺もね、彼女できたんだ。」
と言った。
まおに彼女の話を聞こうと思って2人で来たのに、本人からその事実を告げられると動揺している自分に驚いた。
「あ…そっか、まぁ実は噂では聞いてたよ。雄大から聞いた。まぁ雄大も噂で聞いたって言ってたし、まおから聞いたわけじゃないって言ってたけどな。
とりあえず、おめでとさん。」
「へへっ、ありがと」
はにかんで笑うまおを眺めながら、彼女の前でもこんな顔をこいつはするんだろうか?など考えていた。
「大ちゃんの彼女はどんな人?」
と、まおが言った。
「うーん…まぁ綺麗だよ。めんどくさいとこもあるけどな、ヤキモチとか。普通だよ、普通…」
好きは好きで付き合ってはいるけどそこまで思い入れて付き合ってるわけでもなくて、だから答えも適当になってしまう。
最低だな俺。
「そういうまおはどうなんだよ?彼女スタイルいいって雄大が言ってたぞ。」
少し茶化して言ったもののまおの口から彼女に対しての愛情語りを聞きたくない俺がいた。
「え?そんな噂たってるの?嫌だなぁ…まぁ可愛いし、明るくて積極的な感じだよ。
俺が引っ張られてるような感じかも…」
ふふっとまおが笑う。
やっぱ、一人称は「僕」から「俺」に変わったようだ。
彼女の影響なんだろうか?
「お待たせしましたぁ」
頼んだ料理とつまみが並ぶ。
「いただきます。」とまおはお行儀よく口のまえではしを持った手を合わせた。
「唐揚げ大ちゃんも食べる?」
「あぁ、食う。」
何だか空気がぎこちない。
「でも、大ちゃんの彼女は幸せ者だよね、こんなかっこいい人が彼氏なんて…でも大ちゃんモテそうだから彼女心配なんだろうなぁ〜」とまおが唐揚げを口に運びながら俺に視線を送る。
「何言ってんだよっ俺お前が言うほどモテないし…お前のがモテるだろうがっ彼女も苦労するな(笑)」
俺は頼んだビールとつまみを口に含む。
正直味があまりわからない。
まおは、彼女とうまくいっている様子だ。
雄大から聞いた噂をまおに言うべきか、俺から知ったまおはどんな表情をうかべるのか、照れながら彼女の事を俺に話したまおの顔を思い出して、今言うべきではないなと思った。
そこからは、お互い彼女の話にこだわる事なく仕事の話に切り替わり、お互いの仕事の姿勢について語り合ったり、また、まおは俺の話す話に興味深い視線をおくりながら相槌をしたり、頷いたりしていた。
少し離れた合コングループが時間がたって打ち解けてきたのか、かなり盛り上がってる様子だった。
「すごいねぇ、合コンってテンション高いね(笑)大ちゃんもあんな感じで盛り上げ役?」
と聞こえてくる盛り上げ役であろう男の声にまおが反応する。
「まぁね、時と場合によるな。盛り上げ役に徹する時もあれば、そりゃタイプの子がいれば…ね?」
そんな会話をしていると、合コングループからコールが聞こえた。
『“マイちゃん”の、ちょっといいとこ見てみたい〜♪』
そのコールの声にまおが怪訝な表情を浮かべていたのに気付いた。
ボソっと「まさかね…」とつぶやく。
「ちょっとトイレ行ってくる。」
と席を立った。
トイレに行くまおを見ているとトイレに向かう道順にあるさっきコールが聞こえた合コングループの席を気にしてチラリと覗くまおが見えた。
チラリと覗いたまおの目は、驚いてた、口に手を当てながらトイレにまおが向かうのが見えた。
ピンときた俺は、まおにまだ聞いていなかった彼女の名前を雄大に聞く為に雄大にメールを送る。
“まおの彼女の名前教えて”
すぐにメールは返ってきた。
“マイ”
やっぱな…
“マイ”の名前をまおとやっていた舞台の名前と共に携帯で画像検索すると…
グラビア画像が画面に複数表示された。
まおが今度は合コングループの席から顔を背けるように戻るのが見えた。
俺も席を立った。まおと入れ違うように立つ俺にまおは、「?」な顔をしたので
「俺もトイレ」
という。
合コングループの席を何気にチラリと覗くと画像検索して見た“マイ”がいた。
ビンゴ。
サクサク歩いてトイレから戻る。
まおは、何事もないようにしているように見えた。
パクパクと口にチャーハンと唐揚げを口に運んでは飲み込み、食べるスピードが早くなっていたと思う。
「大ちゃん、もっと飲みたい?俺食べ終わったし、違う店にいかない?」
とまおが提案してきた。
「あぁ、いいよ、でよっか。」
2人で会計まで歩く道順にある合コングループは、まだ盛り上がってるようで俺たちが通るのも気にしない感じで盛り上がっていたので“マイ”は気づいてないだろう。
チラリと覗くと男女互い違いに席替えされ、“マイ”は隣の男にボディタッチしているのが見えた。
俺はそれを見たけど、まおは見てないだろう、まおは見ないように視線を外していた。
会計につくと、財布を出そうとしたまおに、「お前はいいよ、今日誘ったの俺だし奢るよ。」
と会計を済ませた。
「ありがとう。大ちゃん。」ふふっと笑うまおが少しさみしげな顔をしていた。
だよなぁ、彼女がアレだし…そりゃ凹むだろ…
店を出ると…
「次どこ行く?大ちゃん。」とまおが言った。
「俺の家にする?」その方がまおから彼女の話を切り出してくれるのではないだろうかという思いがあったからだ。
「え?いいの?大ちゃんの家始めて行くなぁ、じゃあコンビニでお菓子とか買ってっていい?」少しはしゃぐまおが可愛かった。
「またお菓子食うのか?俺が高校生の頃は隠れて友達の家で酒飲んでたりだな…」と言うと、
「大ちゃん不良だね〜」
とまおに言葉を遮られた。
多分まおは、この業界にこの歳で入った故に同年代の同性とちょっとした悪さをする暇さえなかったんだろうなと思う。
「もう結構遅めだし一応親に連絡入れとけよ。」と言うと。
少し離れた場所で家に電話をかける。
「うん、うん、大ちゃんの家。え?みんないるよ。まぁ終電では帰るよ。鍵もってるし、先に寝てていいよ。はい、大丈夫、」
電話を終えたまおが戻ってきた。
電車に乗り、俺の家の最寄り駅に移動する。
電車は混んでいた。細いまおがつぶされないようにさりげなく腕でガードしていた。
こいつ、女じゃないぞ?って自分でも守りたくなる衝動に疑問だ。
何か放っておけない危うさをまおから感じる、そう思うのは俺だけなのかな?
そんな事を考えている間に駅に到着。
俺の家に歩くまでにコンビニがあるのでそこで色々調達することにした。
「俺まだ飲みたいから酒とつまみ買うわ、まおも欲しいもんあったらカゴ入れろよ。」
「うん。コレと、コレと…これもっ」
「ってお前全部お菓子じゃねぇか…アイスまであるし…まぁいいけどっ、飲み物水しかないから飲み物も入れろよ。」
「じゃあ、コレ☆」とまおが入れたのは、パックのいちごミルクだった。
脱力…選ぶもんも女子並みだな…。
会見を済ませる。
「大ちゃんありがとう。」
「いいよー、その代わり家まで買ったやつ持ってけよ〜」
まぁ女の子なら荷物も俺が持つところだけど、まおは男だ。
「大ちゃんの家どんなだろうっ、何か片付いてそうだよね。大ちゃんよく台本とか置く時もきっちり揃えたりするし。」
「そんなでもないぞ、まぁ人呼べる程度にはなってるかな」
彼女ができる前は、忙しいのを理由に片付けも対して気にしてなかったから男の一人暮らしってかんじの汚さだったけど、家に彼女が来るようになるとそれなりに片付けはするようになっていた。
話をしながら歩いているといつも帰る時間よりも短く感じてしまうから不思議だ。
鍵を開けて、ドアを開けてまおを招き入れる。
「どうぞ。」「おじゃましまーす。わぁ、大ちゃんの部屋だ。」ふふっと笑いながら言うまおに、心の中で俺の部屋じゃなかったら誰の部屋なんだよっと思わずつっこんでしまう。
「まぁ座れよ。俺グラスとってくるわ」
「何か、一人暮らしって大人な感じだねぇ」
とまお。
グラスにビールを注ぎながらまおの前に座る。
「まおはさ、彼女と舞台で知り合ったんだっけ?積極的って言ってたから、向こうから付き合ってとかいわれたの?」
「うん…」なんだかあまり彼女の話題には触れて欲しくなさそうだな。
そう思ってた矢先、まおがポツリと話し始めた。
彼女と会う約束をしている日だった。
でも、大ちゃんが食事に誘ってくれた。
単純に嬉しくて、直ぐに彼女になんて断ろうか?って言葉が浮かぶ。
大ちゃんには、行く事を伝えて彼女に断る為に電話をかけた。
「ごめん、今日行けない。大ちゃん達とご飯に行く事になったし、何時になるかもわからないから、だから…」
「えぇ?なんなのそれっ前から約束してたのにっ」と彼女。
「今度埋め合わせするから、ごめん。」
「もう、いいっ」怒って電話を切られてしまった。
でも、不思議とまぁいっか、と思っていた。
大ちゃんが居酒屋に行きたいって事で居酒屋に行く事になった。
久しぶりに大ちゃんとゆっくり話ができるのが嬉しかった。
居酒屋に入ると、合コンしているグループがいて盛り上がっている。
合コングループの横を通り、席に通された。
大ちゃんも合コンしているって噂で聞いてたから、こんな感じで大ちゃんも参加してるんだって思った。
知っていたけど…大ちゃんが
「彼女できた」って。
サラリと言われて、どうしよなんて言おうと動揺していたら頼んだ品が届いて会話が遮られた。
「お待たせしましたぁ」
店員が去ると、何故か
「俺も彼女できたんだ。」って言葉が出ていた。
そこからは、お互いの彼女の話しを少しして、何故かお互い褒め合うという少し痛い会話をしていた。
話が仕事の話に変わり、大ちゃんの話に耳を傾けて聞いていた所で合コングループのコールが聞こえてきた。
「“マイ”ちゃんのちょっといいとこみてみたいっ♪」ん?“マイ”?
彼女と同じ名前だ。「まさかね」思わずつぶやき、気になったのでトイレに行くふりをしてチラリと覗く。
そこには楽しそうに合コンに参加する彼女の姿があった。びっくりした、こんな事ってあるんだ。
鉢合わせするとかいう間抜けな事はしたくないと思った。
食べるスピードをあげて、早く出られるように大ちゃんに、違う店に移動しないかと提案すると、大ちゃんはまだそんなに飲んでもいないのにあっさりといいよと答えてくれた事にホッとした。
会計に向かう途中、合コングループの前の道をとおるときに不自然に避けるように通ってしまった。
大ちゃんに変に思われたかも…
そう思いながら、会計を済ませた。
大ちゃんがおごってくれた。
店を出たところで大ちゃんに、
「次どうする?」
と聞くと大ちゃんは、俺の家に行こうと提案してくれた。
大ちゃんにまた少し近づけた気がして嬉しかった。
雄大は、大ちゃんと仲がいいので大ちゃんの家によくいったりしているみたいだった。
それが羨ましかったんだ。
電車に揺られて大ちゃんの家に向かう。
電車の中でも大ちゃんは俺が潰されないように腕で支えていた。大ちゃんらしい、無意識にしちゃうんだろうな。
そして彼女にもしてあげてるんだろうな…って思って、なぜか少し切なくなった。
駅につき、大ちゃんの家の近くのコンビニに寄ってから大ちゃんの家に向かう。
家までの道を歩きながら空を見上げると建物の隙間から見える空に綺麗な月が見えた。
月を見て横を見ると、大ちゃんの綺麗な横顔が見えた。
大ちゃんの家に着き部屋に通された。
荷物を片付けてグラスを用意する大ちゃんがなんだかすごく大人に見える。
俺の前に座った大ちゃんが俺と彼女との馴れ初めを聞いて来た。
俺は、大ちゃんに聞かれるまで彼女の事を忘れていた自分に驚いた。
彼女が合コンに参加していた事に驚いたもののそれほどショックは受けていなかった。
俺が彼女との事を聞くと、まおは大きな目をさらに少しだけ大きくして戸惑いながら話し出した。
「うん。ずっと付き合おうよって言われてて…言われた時も別に付き合ってる子もいなかったし、でも好きなわけじゃないから迷ってた。好きにさせるからって言われて、どうしよう…って思ってた時に大ちゃんに彼女ができたって聞いたから…」
ん?なんでそこで俺が関係してくるんだよ…
「俺に彼女できたからって…」
と話し始めたらまおに遮られた。
「大ちゃんに彼女できたって聞いたら、映画撮影の時に大ちゃんに言われた“練習しとけ”って言葉が頭に浮かんで…練習しなきゃって思って…」
マジか…そんなん練習しとけなんて深く考えて話してないぞ、俺のせいか…
はぁ…
なんだか脱力してうな垂れてため息が出た。
「大ちゃん??俺ね、でも少しだけ罪悪感感じてたんだよ、彼女に…好きで付き合ったわけじゃないし、でも彼女は俺に好きって感情をぶつけてくるし、だから…
罪悪感がね、、
でも今日ね、少しだけ罪悪感軽くなったかも。」
なんとなくその訳は分かったけどあえて聞いた。
「なんで?」
「……うん、大ちゃん絶対引くよ…あーどうしよう、言おうかな?どうしよ、まぁいいや、大ちゃんだから、、居酒屋でさ、合コングループいたでしょ?そこにさ、俺の彼女がいたんだよね。向こうは俺に気づいてないかもしれないけど…、本当びっくりしたし、こんなドラマみたいな展開あるっ?て…笑っちゃうでしょ?」
とまおが苦笑いを浮かべた。
「カッコ悪いから内緒にしてね。女子って怖っ」
とまおは付け加えた。
「女子は怖い」というまおにかける言葉を考えていたら、まおが
「大ちゃん、そんな顔しないでよっ、俺全然大丈夫、ただびっくりしただけだから。」と言った。
自分はどんな顔をまおにむけていたのだろうか…
「よし、今日は飲むかっ☆って言ってもお前はコレだからな」とイチゴミルクを差し出し、飲みかけのビールを飲み干し、次の感をプシュっとあける。
「大ちゃん大丈夫?飲み過ぎじゃない?だって大ちゃん飲みすぎると寝ちゃうよね?」
「大丈夫だって、今日はまおに付き合ってやるから」
「何それ…俺は大丈夫だって言ってるのにっ」と少しだけ膨れたまおは、可愛い。
「でも、お前、今日の事どうすんの?彼女に言う?責める?」
「どうしよう、もう見なかった事にしたいけど…どうしたらいいかわかんないよ。大ちゃんならどうする?」
と俺に聞く。
「俺に聞くなよ〜、自分のことだろ?まぁ俺なら彼氏いるのに何も言わず合コンに参加してるような女はないな…」
「はぁ…そうか…」まおが凹み出す。
凹むまおの横に移動して背中をバシっと叩く。
「もうっ何?大ちゃん、痛いよっちょっと酔っ払ってきた?」
まおの肩を抱き「お前も飲んでみる?」とまおの顔の前に缶を近づけて酒を勧める俺を「ジュースの方が美味しいからいいよ〜」と止められた。
「なんだよ、お子さまだなぁ…」
傷ついているのはまおの方なのに、なんだか切ない気持ちが止まらない。
まおを黙って見つめていた。
初めは「?」な顔だったまおも真っ直ぐに俺を見つめていて、瞳と瞳がぶつかる。
綺麗な大きい目、曇がないな。
自分の全てを見透かされてるようで少しだけ怖かった。
「大ちゃん、なんでそんな顔してるの?」
「どんな顔?」
「なんていうんだろ、泣きそう?みたいな、酔っぱらいでしょ?」ってまおは茶化す。
「彼女と練習できた?」と聞くと大きい目を更に大きく見開く。
「え…?ちょっ大ちゃん?わっ…ン…」
気づいたらまおの唇を俺の唇が塞いでいた。
重なる唇を離し、「彼女の事好きなのか?
好きにさせられた?」
と聞くと、
「え?」と只々びっくりしてる様子のまお。まおの肩をギュッと掴みまおの胸に頭をうずめる、このよく分からないけど、抱きしめたくてたまらない感情をどうしたらいいのか分からなかった。
「大ちゃん、、酔っぱらってるんだよね??」
「うん、多分酔っぱらってる…事にしといて。」
顔をあげて再びまおの顔を見つめ、キスをした。
拒まれると思った。
でもまおはゆっくり目を閉じた。
啄ばむようなキスを重ねて、この時間が終わって欲しくないと思った。
「大ちゃん、俺、キス上手くなってる?」
とまおが聞いてくるから、この雰囲気で聞かれると思わなくて思わず笑ってしまった。
やっぱりまおは超がつく天然だ。
「なんで笑うの?」と膨れた。
「いや、上手くなってるよ。」
「ねぇ、大ちゃん…俺ね、変なんだよ。映画の撮影が終わってるのに…役が抜けきれてないのかもしれない。変だよね…」
「それは、俺をギイと重ねて見てるってことか?」
「たぶん…キスも嫌じゃないんだ。大ちゃんも?」
「俺は…、」
正直俺は、役が抜けきれてない事はない。
素のまおが気になっていて、守りたくなるこの感情が何なのか分からず、モヤモヤしていた。
でも、役が抜けきれてない事にして、
「俺も…タクミ…」
再びまおの唇に深く口づけをした。
まおから甘いイチゴミルクの香りがした。
深く重なる唇を離すと二人分の吐息が混ざり合う。
「ん… はぁ… 」
まおの目から涙が零れ落ちた。
「ごめん、、」まおの涙を見て咄嗟に口から出た言葉。
「あやまらないでよ、俺、どうしよう…
この気持ちから抜け出せる?」
不安そうに見つめてくる瞳に囚われる。
俺は、ただ抱きしめるしかできなかった。
机に置いていた携帯が震えて床に落ちた。
「大ちゃん、携帯…彼女じゃない?」
まおに言われて画面を確認すると彼女だった。
“終電で家に行くね”と入っていた。
「大ちゃん、帰るよ…」
帰るなよって言葉が喉に詰まる。
掴んだ腕を外され、まおは玄関に向かう。
「今日はありがとう。またね、大ちゃん。」と微笑みながら手を振る。
そして、玄関のドアが静かに閉まった。
部屋に戻り座り込みしばらく動けないでいると、床に落ちた携帯が震えた。
“もうすぐ着くね。待っててね〜”
彼女からだ。
しばらくすると、玄関のチャイムが鳴り響く。
「来ちゃった☆玄関鍵空いてたよ〜不用心だよっ」
と彼女。
「何でいきなり来たんだ?」
「別にいいでしょ?あれ?何これ…」
机にある甘いお菓子や、イチゴミルクのパックを見て彼女が指を指す。
「舞台仲間が来てたんだよ。入れ違いで帰ったよ…あ、女じゃないからな。」
「本当に?だってイチゴミルクとか、このお菓子…女の子が買うみたいなのばっか…」
彼女のこういうところが本当にめんどくさい。
「だから、違うっていってんだろっ」
イラついてしまう。
「怒らないでよ…だって心配だったの。」
彼女が俺に抱きついてくる。
はぁ、ため息をつきながら彼女の背中に腕を回した。
「終電で来たし、もう帰れないから泊まっていいでしょ?」と彼女。
帰れよ、なんて言えなかった。
「大ちゃん… 好き…」
目の前には大きな瞳で俺を見つめるまおがいた。
抱き寄せるとその身体は柔らかくて、男の身体じゃない…
そっか、まおは、女だった?
抱きしめて口付けるととても心地よくて満たされた気持ちになった。
「まお… 好きだ…」離したくない。
このまま一つに溶け合う事ができたらいいのに…
すけ…大輔っ
声がする方を見ると、シーツで胸を隠しながら彼女が心配そうな顔をして覗き込んでいた。
「大輔、どうしたの?なんかあった?涙…」と彼女。
目元に手を伸ばす。
夢を見ながら泣いていたみたいだ。
そんな俺の頭をを彼女は抱きしめる。
「怖い夢でも見た?」
と彼女は言う。
「見てた…」
夢で覚めてくれて、この気持ちも消えたら楽になれるのに…
彼女に抱きしめられながら、まおの事を考えていた。
大ちゃんとキスをした。
正確には、キスされた。
もっと正確には、ギイである大ちゃんにキスされた。
嫌じゃなかった。抱きしめられる心地良さに身を委ねてしまいたかった。
でも、現実に引き戻される。
机にあった大ちゃんの携帯が震えて床に落ちた。
落ちて、光ってる。これは警告?なのかもしれないって思った。
これ以上、進んだらダメだっていう…
「大ちゃん、携帯…彼女からじゃない?」
そう俺が言うと、画面を目の前で確認する、見るつもりもなかったけど、見えてしまった。
“今から終電に乗って家に行くね。”
帰らなきゃ、僕も終電に乗り遅れちゃうよ…
「俺、帰るよ。」そう告げて、大ちゃんの腕をすり抜け玄関に向かう。
「じゃあまたね、大ちゃん。」
玄関のドアが閉まる。
何だか、色々な事が起きて頭がぼーっとする。
大ちゃんとキス…
大ちゃん、さっき俺にしたみたいなキスを今から彼女にもするのかな?
そう考えると胸がズキンとした。
一筋の涙が頬を伝う、後ろを振り返ってもドアは開かない。
来た道を歩く距離が長く感じた。
駅に着いて電車に乗ろうとしたけどちょうど終電が行ってしまった。
どうしよう…
そいえばタッキーさんもこの近くに住んでたって言ってたっけ?
迷惑だよね…って思いつつも、電話してみた。
「もしもし、タッキーさん?今家にいる?
◯駅にいるんだけど…終電乗りのがしちゃって…お願いなんだけどっ始発まで家においてくれない?」
何でそんな駅にまおがいるんだ?って聞かれたけど、まぁいいよ、そこからならタクシーでワンメータくらいだから、住所言えば?って住所を教えてもらった。
手ぶらじゃ悪いと思って、コンビニで色々買い込む。
あ、そいえば大ちゃんの家にアイスも冷凍庫に入れっぱなしだったな…
そんな事を思いながら、タッキーさんの家のインターホンを押した。
インターホンを押すとカチャリと鍵が開く、ドアを開けるとジャージ姿のタッキーさんがいた。
「タッキーさん突然本当にすいませんっ」
「まぁいいから、とりあえず入れば?」
「お邪魔します。本当によかったぁ。コレお土産買ってきたから、」
「おう、サンキュー、ってお菓子ばっかりじゃねぇか…あ、酒もあるか。」
とタッキーさん。
カバンを置いて、座ろうとしたら、ジャージを渡された。
「朝までその格好だとリラックスできないだろ、着替えれば?」
「ありがとう。」
着替えて見るものの、体格が違うからブカブカだった。
「ブカブカだなっアレだよ、タクミくんの時の萌え袖になってるよ、お前っ」とタッキーさんが吹き出した。
「だね、ブカブカ。」
「なぁ、ところでさ何であの駅にいたわけ?」
と、タッキーさんに聞かれた。
「あー…えっとね、大ちゃんの家に行ってたんだよね。」
「そうなの?だったらさぁ大ちゃんの家に泊まればよかったじゃん。」
すぐに答えられなくて俺は黙ってしまった。
しばし流れる沈黙にタッキーさんが、「言えない?」と、一言。
「え?別に……
あの、何かね、今日は色々ありすぎて、混乱してる。」
「ふーん…、ま、いいわ。コレ飲んでいい?」
「あ、いいよ。俺も何か飲もっかな。」
「まおっていつも僕っていってたよな?彼女できたんだろ?[俺]は、彼女の影響だよな〜」
タッキーさんは、何も知らないから仕方ないけど今は耳を塞ぎたい彼女の話をふってくる。
「そうかもね、、でも、今日さ、色々あって…彼女の事好きなのかよくわからなくなったよ。」
俺がそういうと、タッキーさんは驚いていた。
「なんだよそれ〜、話せよ、少しはスッキリするかもよ。」
「ひかない?」
「そりゃ内容にもよるけどっまぁひかないと思う。」とタッキーさん。
「あのね、今日大ちゃんに飯食いに行こうって誘われて……」と彼女が合コンに参加してるのを目の当たりにした事を説明した。
「うわ…それキツイわ。俺だったら乗り込んで本人に問い詰めるかも。だって好きなら嫉妬するだろ?それでまおはどうしたんだよ、」
「バレないように、店を出た…」
「はぁ⁈なんでだよっ」
「だって、、」
「大ちゃんは?知ってるの?一緒にいたんだろ?でも何でそこで好きかわからなくなるんだ?」問い詰めてくるタッキーさんにうまく答えが出せないで、気づいたら涙が頬を伝っていた。
突然涙が意思に反して流れ出し止まらない。
タッキーさんがびっくりしていた。
「おい、まおどうしたんだよっ、泣くなよっ、たかだか彼女が合コンに参加してただけだろうが…」
「ちがうんだよ、違う…そんなんじゃなくて…」
「まぁ、まおは純朴すぎだからな、でもそんなピュアなまおをここまで傷つけるなんて許せねぇわ」
タッキーさんは、彼女に裏切られて俺が泣いてるって思ったみたいだ。
「ありがとう、だいぶ落ち着いた。突然来た挙句に、これだしなんか、タッキーさんごめんなさい。」
「あやまんなよ、まぁさ、ふられたわけでもないし、浮気でもないし。あんま気にするな。好きじゃないって思うなら、そんな女ふってやれよ。」
と、タッキーさん。
必死に慰めようとしてくれてるタッキーさんが面白くなって思わず笑ってしまった。
それからたわいない話をしたあと、そろそろ寝るか、とタッキーさんが布団を用意してくれた。
電気が常夜灯に変わる。
「ねぇ、タッキーさん、もう寝た?」
「ん?何?」
「あのね、俺、今日キスしたんだ。」
「え?」
「大ちゃんと……正確に言うと、ギイ?と…俺おかしいんだよね、映画の撮影終わったのに、俺の中のタクミがいなくならないんだよね…」
「……。」
「驚くよね、そりゃ、、自分でもびっくりだもん、大ちゃんも同じだって…」
「……。」
「どうしよう、タッキーさん。」
「正直さ、びっくりと言うより、やっぱりとか思うとこもあるよ。2人の雰囲気とか近くで見てたし。なんていうか、お互い惹かれ合ってるっぽい雰囲気があって、、
でもまさか、今日そんな事になってる事に驚いた。」
「そっか…」
「でも、そうなら、俺のとこなんて来ないでそのまま大ちゃんのとこに居ればよかっただろ?なんで来たの?」
「彼女、、大ちゃんの彼女からメールが大ちゃんの携帯に、、キスした後に入って来て…内容が見えちゃって、今から来るって…それで、何かね彼女にも罪悪感だし、これ以上踏み込むなっていう警告みたいに感じたんだよね。」
「あー…、そうか、、じゃあ大ちゃんの家には今彼女がいるって訳ね。まおはどうしたいの?」
と聞いて来るけど、
「わからない…」としか答えられなかった。
「でもさ、お互い役が抜け来れてないって自覚があるならさ、時間が経てば解決するんじゃね?だから、あんま深く考えすぎるなよ。役者が役に入り込みすぎるなんてよくある話だよ。大丈夫だから、もう寝ようぜ。」
「うん。おやすみなさい…」
ゆっくり瞼を閉じた。
- << 62 ドキドキして一気読みしました(*^^*) 続きを楽しみにしています
驚いた…
でも、やっぱりなという感想だ。
さっきのまおの衝撃的なカミングアウトにも以外と冷静だった。
映画では、赤池というタクミの恋人役のギイの親友の役で2人のやり取りを身近で見ていて、なんとなく2人の周りの空気感を知っていたからだと思う。
まおは中性的な雰囲気があって、男の俺でもたまにドキっとするような仕草や表情をする事があるから、大ちゃんが惹かれたのも分かる気がする。
まおの寝息が聞こえてくる。
きっと1人で抱えた思いを俺に話すことで少し安心したのかもしれない。
大ちゃんのまおを見つめる目線は柔らかい、まおの大ちゃんを見つめる目線は熱を含んだ感じだ。
これからの2人は、どうなるんだろうか?
役が抜ければ元に戻れるのか…
ただ分かる事は、これ以上進んでも先は明るくない、と思う。
でも好きになる事をやめることもむつかしいと思う。好きになる事は、本能だ。
2人はどうするのか?
まおは俺を信頼してくれたから話してくれたんだと思う。
大ちゃんは、歳上だし自分から俺には何も言わないだろう。
2人の秘密を知ってしまった俺は、2人を見守る責任があるのだと思う。
この秘密は、誰にも知られちゃいけない…
まおの寝息のリズムを聞きながら、2人の行き着く先を考えながら眠れずに朝を迎えた。
まおは、始発が出る時間に目を覚ました。
「タッキーさん色々ありがとう。」と言うと着替えて部屋を後にした。
「まお…好きだ、好きなんだよ…」
ギイの唇が俺の唇に重なる。
まお?僕はタクミだよね?
これは撮影?
もう、そんなことはどうでもよかった。
ただ、目の前にある温かい体温を離したくない…
「ごめん、ごめんな、まお…」謝りながら遠のく温かい身体に不安になった。
「謝らないで、いかないで、好きだから、大ちゃん…」
ここは?横を見ると目を閉じるタッキーさんのかっこいい横顔がある。
そうか、さっきのは夢なんだ。
自分の頬に触れると涙が流れていた。
涙を拭って携帯電話の画面を見ると、もう始発が出ている時間だった。
大ちゃんからのメールは、ない。
タッキーさんを起こさないように静かに着替えて、借りたジャージと布団を畳むと、タッキーさんに声をかけて家を出た。
まだ時間が早いから人もまばらだ。
大ちゃんは彼女とどんな夜を過ごしたんだろうか?
そんな事を考えていると、彼女からメールが入った。
“昨日は、怒っちゃってごめん。会いたかったから…仕事の付き合いだし、仕方ないの分かってるよ。ごめんなさい。怒ってる?”
怒ってもいなかったし、忘れてた。
こっちこそ、ごめんって感じだ。
“怒ってないよ。”とメールを返した。
こんな早くにメールがくるなんて、多分彼女は朝まで合コンだったんだろう。
俺も同罪だ。
彼女を責められない。昨日の事は見なかった事にしようと思った。
昨日帰ると言ったのに帰ってない家に連絡をした。
電話をするとお母さんが出る。
連絡くらい入れなさいと怒られた。
お母さんの声を聞いたら、昨日の出来事がうしろめたくて今日は顔を合わせたくない気分になった。
いつも座れない電車もすいていて座る事が出来た。
電車に揺られながら目を閉じると大ちゃんの香水の香りと伏目がちな瞳に脳内が支配される。
慌てて目を開けると、最寄りの駅だった。
家に着くと、ただいま、と声をかけてお風呂に直行した。
家族に顔を合わせたくない。
と思った所で足元に体温を感じた。
ロクだ。「にゃぉ」という鳴き声を出して足にまとわりついてくる。
「お前は特別だよ。シャワー行くから待ってて。」
と声をかけた。
ロクに触れて何処か張りつめた気持ちが少しだけ緩んだ。
ロクがいてくれてよかった。
舞台は千秋楽を迎えようとしていた。
あれからまおとはまともに話をしていない。
楽屋でみんなとふざけて絡むくらい。
普通にしていないと、、という思いが強い。
でも気がつけば目でまおを追ってしまっている。
こんなんじゃダメだよな…
正直、こんな気持ち周りにバレるのが怖い。
だって、、こんなのは普通じゃないから。
自分も気づくべきじゃなかった。
今なら遅くない、戻ろう、、
そう思っていた。
そんな時に、映画の続編の話があがった。
前回の映画が好感触だったらしい。
正直、まずいと思った。
蓋をしようとした想いがまた暴れ出す気がしたから。
まおは、この話をすんなり受けたのだろうか?
俺もまだ仕事を選べるような立場じゃないし、この話を断る事はむつかしいけど、正直な気持ちは、断わってしまいたい。
続編の話がきた次の日、まおから電話がかかってきた。
「大ちゃん…、今日ね、映画の話を聞いたんだ。大ちゃんもOKしてくれるよね?俺…
相手は、大ちゃんじゃないと嫌だから…
最近、なんか意識しちゃってお互いぎこちないし、もしかしたら…大ちゃんこの話も断わっちゃうかもしれないって思ったら、不安になっちゃったんだ。」
と、まおが言った。
そんな風に言われたら、、
断れないじゃないか。
「大丈夫だよ。次も頑張ろうな。タクミ。」
「うん。ありがとう。」
もうすぐ舞台は千秋楽を迎え、映画の撮影に入る。
映画の続編を撮影するだけで、俺は、ギイになって、まおはタクミに戻るだけ、、ただ、それだけだ。
話の続きじゃないです。
感想スレがありますので、雑談や感想あったらそちらにお願いします(u_u)
いつも読んでくださる方ありがとうございます。
のらりくらりで更新ですが、、
すいません。
2人がくっつくのは、いつなのか…思いつくまま書いてるので私にもわかりませんが、リアリティある話が好きなので、可愛い女の子みたいなまおくん好きだったりする方には好まれないかもしれないなぁ…
私は、男っぽさの中にたまに見える可愛い所があるまおくんが好きなので…
なよなよは好きじゃないんです>_<
リアルな男同士、で悩む葛藤を書いていきたいですね。
でも、なかなか思いどうりには書けないですね;^_^A
むつかしいよーっ
って事で、感想などは感想スレにお願いします。
舞台は千秋楽を迎え、映画の撮影が始まる。
千秋楽で、部長は泣いていた。
そんな部長を見て俺も泣いた。
大ちゃんとの繋がりが一つ減ってしまう事に寂しさを感じていた。
部長と部員の関係は終わってしまった。
今から恋人同士の関係が始まる。
今回の話の流れは、タクミを守る為に冷たくするギイと、その2人を見守る友人たちの絆の話だ。
ギイに冷たくされて戸惑うタクミ…
まぁ、冷たくされてはないけど、今ぎこちない関係の俺と大ちゃんにはぴったりなシチュエーションかもしれない。
ギイに冷たくされて嫌悪症が再発するタクミ役の俺は、撮影中もなるべく1人で行動していた。
「よっ、まお、その後どう?」とタッキーさんが話しかけてきた。
「その後?とくに、、何もないよ、彼女とも…」
「ふーん、そっか、まぁ今回も頑張ろうな、なんか、あれば話は聞くし、抱え込むなよ。じゃ、もう次いくわ。」
とタッキーさんが撮影に戻った。
何か…あるわけない。
大ちゃんと、、
そんな事あっちゃダメだと思う。
今回は、宿舎が四人部屋だった。
修学旅行も行った事ない俺は何だか楽しかった。
大ちゃんと2人きりには、ならない。
そのほうがいい。
多分、今も僕は、タクミに入り込んでるから…
舞台の合間に映画の舞台挨拶があった。
俺は必要以上に友情をアピールしていた。
後ろめたい行為を周りに悟られたくはなかったからだ。
まおは、俺の言葉にも余り反応もしないので、「誤解されるだろ、なんか言えよ」なんて言ってしまった。
どんな想いでまおは、俺の言葉を聞いていたんだろうか?
あの日から、何事もなく過ごして、何もなかったように、舞台は千秋楽を迎えた。
まおとの繋がりが一つ消えた。
映画の撮影が始まる。また恋人同士の関係が始まった。
「葉山タクミ役の浜尾京介です。よろしくお願いします。」頭を下げ、挨拶をするまおは、前回の映画の挨拶よりも堂々として凛々しく男らしく見えた。
「崎義一役の渡辺大輔です。よろしくお願いします。」挨拶を終えると気持ちが引き締まって、役にすぅっと引き込まれる。
撮影が終わるまで、何事もなく過ごせるだろうか?
まおは色々な顔を持っている。
凛々しく男らしい顔、運動神経もかなりいい、どこからどう見ても男な顔。
かと思えば、ふにゃふにゃな笑顔、口に手を当てて笑うしぐさ、ちょこんと座る姿、
熱を含んだような視線。
どっちのまおが本当のまおなのかわからない。
けど、多分後者は、役に入り込んでいるまおだろうと思う。
彼女の前でのまおは、どんな顔を見せているんだろうか?
俺の知らない顔がまだ隠れているのかもしれない。
撮影は、淡々と進み、まおともいつもどうりにたわいない会話で、お互いあの日の事には触れず過ごしていた。
明日は、撮影最終日、キスシーンとまおとの絡みのシーンの撮影で終わる。
部屋は四人部屋だったけど、監督の計らいか、撮影最終日には、他のメンバーの撮影は終わっていて、最終前夜からはまおと2人きりだった。
「大ちゃんおつかれーっじゃあ俺は帰るわっ」っとタッキーが話しかけてきた。
「おう、お疲れ、俺も帰ろうかな〜」と言う俺に、
「おい、まだ明日あるだろ?今日からまおと2人きりだから色々積もる話もあるんじゃないの?」
と意味深な言葉をかける。
「は?なんだよ、それ…」
「まぁ、いいって、とりあえず頑張れよ、大ちゃん。」
そう告げてタッキーは撮影所をあとにした。
「みんな帰っちゃったね。馬場っちいないと静かだね(笑)」
とまおがふわりと笑った。
「あいつは、ガヤだからな(笑)どうする?読み合わせするか?」
「あー…うん。」
そういえば、タッキーが言ってた意味深な言葉が気になった。
「なぁ、まお、タッキーが何か意味深な言葉言ってたけど…」と言うとまおは、明らかに動揺して、マズイという表情になった。
「おまえ、もしかして…あの日の事、、タッキー知ってるのか?」
「だって…」
「何で話すんだよ…はぁ…やめろよ。ばれたらどうすんの??」
「ばれたら、って、自分からキスしてきといてそんな事ばっかり考えてたのかよっ」
まおの表情がこわばる。
「俺は、あの日からずっと悩んで大ちゃんの事考えていたのに…」
まおの目から涙がこぼれた。
そうだ、俺は、自分がした行為を自分で受け入れられていなかった。
最低だな。
「まお、ごめん…」
「もう、いいよ、なかったことにしよう。」
「よくないだろっ このままじゃ明日の撮影にも響くだろ?」
「は?明日の撮影?大ちゃんって大人だよね〜、俺は明日の撮影なんて忘れて話してたよ」
つい、カッとなって言葉が鋭くなる。
「あぁ、そうだよ! 俺は仕事で、ここにいるんだよ、まおもだろ?で、まおは、タクミでギイの俺が好きなんだろ?なぁ?そうなんだろ?」
ドンっとまおの顔の横に腕をついた。
「…。」何も言わずにジッと俺を睨みつけるまおの瞳を見つめながら、俺はまおの唇を塞いだ。
「ん…っちょっと、大ちゃん」
腕で押しのけるまおの頬は上気している。
吸い込まれそうに澄んだ大きな目から視線を外せないでいた、、
その時、
ドアの向こうから足音が聞こえて、ドア付近で止まる、
トントン
とノックが聞こえた。
「何かあった?ドンって聞こえたけど…」
とドアがガチャリと開く。
慌ててドアが開く前に身体を離した。
「大丈夫ですよ、台本読み合わせしてました。な、まお。」
「あ…はい。」
「本当に〜?まくら投げでもしてたんじゃないの?もう、壁に穴とか開けないで下さいね。明日も早いし、二人とも早めに休んで下さいね。」
「了解です。」
じゃあ、とマネージャーは部屋を後にした。
ふぅっと息を吐いて深呼吸した。
「焦った…まお、少し落ち着こう、今の雰囲気のままじゃさ、明日の撮影うまくいかないよ。ごめん、俺が色々大人気なかったとおもってる。撮影が終わったら、時間くれるか?」
「…、俺も、カッとしてごめん。タッキーの事も、勝手にごめんなさい。あの日終電に間に合わなくて…タッキーの家に泊めてもらったんだ、だから…」
「もういいよ、俺があんな時間にまおを帰さなきゃ良かった…俺が最低だよ。タッキーなら大丈夫だと思ったからまおははなしたんだろ?」
「うん。」
「じゃあ、大丈夫だ。」
向かいあって座る二人の間には、越えられない薄い頑丈な壁があるような気がする。
「明日まではさ、タクミとギイで撮影の事だけ考えよう?」とまおがいう。
「そうだな。疲れたから早めにシャワー浴びて寝るぞ。」
「うん…」
眠れるのかわからなかったけど、色々今日は考えたくなかったんだ。
ドンッ
大ちゃんの腕が大きな音をたてながら俺の顔の横に突かれた。
大ちゃんの腕を見つめてから、睨む。
だって、すごく腹が立ったんだ、、
俺は、ずーっと大ちゃんとの事を考えて悩んでいたのに、大ちゃんは…周りばかりきにしている。俺は大ちゃんの事を好きなのかもしれない、でも大ちゃんは、ギイでタクミが好きだ。でも、俺は大ちゃんがギイだから好きになったんだって思った。
でも、伝わらないもどかしい気持ちにつぶされそうになる。
睨む俺にも怯む訳もなく大ちゃんは、だんだん視線を縮めて、大ちゃんの瞳に写る俺が近くなり、気づいたら大ちゃんの唇で口を塞がれていた。心臓がうざい位に脈打つ。
何で?
大ちゃんが何を考えているのかわからない。
でも、自分がどうしたいのかもわからなかった。
こんなのはおかしいって思うし、大ちゃんだって、俺と同じなのかもしれない。
大ちゃんを腕で押し退けた。
「大ちゃん…」
その時ドアの外から足音が聞こえ、ドアの前で足音が止まる。
マズイ、そう思って大ちゃんと距離をとった。焦った、少しだけ大ちゃんが周りの事を気にする気持ちが分かった。
だって、男同士でこんな事、普通じゃない。
マネージャーは、ドンっていう音に心配したみたいだった。
マネージャーが出て行ったあと、二人でため息をつく。
「ごめん。」と大ちゃんはあやまった。
二人で撮影の為にも、今はこんな風にもめてる場合じゃないって…
その通りだ。ついカッとしてしまった俺も悪いと思った。
お互いにあやまって、とりあえず明日の撮影に備えようという事になった。
それからは、お互い朝まで二人での会話なくあまり眠れない長い夜を過ごした。
俺は、大ちゃんの事が好きなんだろうか?ギイの大ちゃんが好きなんだろうか?そんな事をぐるぐる考えながらあまり眠る事ができなかった。
大ちゃんも眠れないみたいで何度も寝返りをうつ音が聞こえた。
気がついたら朝だった。
重い瞼をこすりながら隣をみると、大ちゃんの横顔が見えた。
大ちゃん、まだ寝てる…
整った横顔を眺める。綺麗、、大ちゃんの横顔が好きだ。
ボーっと眺めていると大ちゃんの顔がクルリとこちらを向いてパチリと目が開く、
「あ、、大ちゃん、おはよう…」
「ん…、おはよう、まお、、」
「大ちゃん眠れた??」
「少しな、、まおはずっと起きてたのか?」
「ううん、少しは寝たよ、昨日の…」
と話を続けようとしたところで、大ちゃんの言葉に遮られた。
「今日でラストだな、頑張ろうな。今回もさ、前回みたいに沢山の人が見てくれたら、また続くかもよ?」
と大ちゃんは言った。
続いてもいいの??
と同時に続かなきゃ僕らの関係も終わってしまうかもしれない、という不安。
大ちゃんとずっと繋がっていたい。
だから、、
「そうだね、、頑張ろう。」って答えた。
おかしな話だ、最初にこの映画の話を受けた時は、正直BLなんて世界は理解出来ないって思っていた。
仕事だと割りきってやろうって思ってた。
一回きりだ、選べる立場じゃない、経験値をあげる為に…とか、理由をつけないとやってらんねぇわとさえ思っていたんだ。
けど、今じゃ、この仕事が続けばいいって思っている自分がいる。
続かないと俺とまおの繋がりも途切れてしまう気がした、それが不安なんだ。
今日朝を迎えれば撮影は終わる。
なんとか先に繋げたい、まおと繋がっていたい。
全力で撮影に挑もうと思った。
俺はまおが好きだ。だけどまおは、、まおが好きなのは、、ギイを演じている俺が好きなんだ。
だから俺はギイであり続ける必要があるんだ。
それが、まおに俺を好きでいてもらう為の手段なんだ。
撮影最終日、大ちゃんと俺しかいないから撮影所は賑やかさがなく静かで昨日までよりも緊張感が強い。
音楽堂でのキスシーンの撮影。
今日で最後なんだと思うとなんだか切なさが募る、タクミもきっとギィを想ってこんな胸を締め付けられるような想いでいるのかもしれないって思った。
当たり前だけどキスシーンも肌を重ねるシーンだって撮影だから周りに人が沢山いる、でも撮影に入ると二人だけの世界になるんだ。
現実になんて戻らなくてもいいのに…とさえ思ってしまう。
タクミに引きずられすぎててやばい。
音楽堂が取り壊される掲示板を目にしてタクミを探しに来るギィ、
キスシーン。
唇が重なり合う感触、吐息、抱きしめる腕の力に全て委ねてしまいたい。
目の前にいる人が愛しい。
でも、愛しいと思う人はギィ?大ちゃん?
分からなかった。
『カット』の合図で現実に戻る。
中腰でいた大ちゃんは、体制が苦しかったみたいで顔をしかめていた。
大丈夫かな?と思い、、太もものあたりをトントンする。
「キツイな、、」
と大ちゃん。
スタッフに次のシーンの準備に入ると指示を受け、次のシーンの打ち合わせに入る。
ラストシーンの撮影だ。
シャツを脱がしあい、肌を重ねてキスシーン。
緊張で顔が強張っていたんだろう。
大ちゃんと監督が、気をきかせてリラックスムードを作ってくれた。
撮影が始まる、お互いのシャツを脱がしあい、肌を重ねるシーン、上手くボタンが外せなかった。
監督が、気をきかせて照明の具合を調整し、このシーンの撮影中カメラマンと監督のみにしてくれた。
重なり合う肌と肌の感触や、唇の感触、伝わる鼓動がちから強く感じた。
大ちゃんも緊張してるよね。
こんな風に愛されるタクミは幸せものだろうなぁって思う。
タクミにシンクロして満たされた気持ちになる。
撮影が終了した。
「お疲れ様でしたーっ」と声が行き交う。
「お疲れさま、打ち上げはさ後日にするから、ラスト撮影残ったの2人だけだし、日にち決まったら後日に連絡するから。」
監督が言った。
「そうなんですか?じゃあまお、今日は2人でプチ打ち上げでもする?あ、でもタッキー一応聞いてみるか?」
と笑いながらメールしながら大ちゃんは言った。
「え?いいけど…」
今日は帰ったあと彼女と話をするために会う約束をしていた。
「あ、何か約束あった?お、タッキーはオッケーだって」タッキーから返信があったみたいだ。
「うん、後から行くからさ、タッキーと先きに始めててくれる?」
「…了解」
東京駅についたのは、夕方六時ごろだった。
「じゃあ、後から行くね、お店メールしておいてくれる?」
「おう、またあとでな。」
はぁ、、と大ちゃんはため息をついていた気がした。
俺は、彼女に待ち合わせ場所をメールし、別れの言葉を考えていた。
「ごめん、マイの事、好きなのかよくわからなくなって、、だから、別れたいんだ。」
そう彼女に伝えると、「え?」と一瞬驚いた顔を見せたけど、次の瞬間には真顔で、
「ふーん、そっか、別にいいけど?私、今さぁ付き合ってよって言ってくれてる人いて、迷ってたから…」と言う。
俺は、「そうなんだね、じゃあきっとマイには俺なんかよりもその人の方が相応しいと思うよ。幸せになってね。」と伝えた。
すると見るみる真っ赤になる彼女の顔は、怒りに満ちていた。
「バカにしないでよっ、あんたなんか、最初から本気で好きじゃなかったっ」と、言い、頬を叩かれた。
と、同時に走り去る彼女に驚いた。
しばし呆然…
「イッテェ…俺がふられちゃったよ、、」何故かスッキリした気分になって、ふふっと笑みがこぼれる。
多分、周りから見たら変なやつだっただろう。
若干赤くなった頬をなでながら、携帯を見ると大ちゃんからプチ打ち上げの場所がメールに入っていた。
待ち合わせの店に来るなり「あれ?まおは?」と、タッキーは言う。
「あー…なんかさ、用事済ましてから後から合流するってさ。とりあえず、座れよ。」
まおの“用事”は、何なのか?今日は、本当に来るのか?気になっていたけど、内容を聞く気になれなくて、絶対に来いよ、と言う思いで駅で別れた。
とりあえず一足先に2人でお疲れ様と乾杯をする。
「まおの用事って何?大ちゃん聞いてねぇの?」とタッキー。
「ん?聞いてないよ…」
「気になる?よね、彼女かなぁ」と詰めるタッキー。
「なぁ、、タッキー…まおから何聞いた?」
「まおがさ、大ちゃんの家に行った日にさ、終電逃したまおが始発出るまで置いてって、だから家に泊めて、、彼女の事聞いて、、それからね、さぁ寝るぞって時にボソって、キスしたんだっていうからさ…
まぁ、そんな感じ。まお悩んでたよ、役にはまりすぎて抜け出せない、怖いって、」
俺を見てタッキーは、
「同じなの?」と聞いてきた。
「…わからない、でもまおには、俺も同じで役にはまりすぎてるって、、言った…」
はぁ…
ため息がでた。
「そうなの?違うの?でも分かるなぁ、まお可愛いもんな。大ちゃんは、別に役にはまりすぎて抜け出せないって事ではないんだ。」と言うタッキーに焦る。
「だから、わかんねぇって…」
第三者に言われると、認めたくない気持が強くなる。
「まぁさ、あんま2人とも思いつめないで自分の気持ちに正直にいれば?って思うよ。人生なるようになる、と思うよ。」
そうタッキーに言われ、少しだけ救われた気がした。
「気持ち悪い、、とか思わねぇ?俺、正直に言うと、自分で自分が気持ち悪いって思うから、だって普通じゃない、今までの彼女とかには感じない感情っていうか、この映画の中の世界だけだと思ってたのに現実の自分の感情に引いてるよ…」
こんな話しをできる奴なんていなかったから、つい今までの感情をさらけ出してしまう。
「人間だからさ、人間を好きになっただけだろ?別に今まで好きになった人が異性だっただけで、実はさ、後付なんじゃないの?」
「後付?」
「そ、こいつ好きだわっていう人間ができて、それが異性だったてこと。異性だ、だから好きだわじゃないってこと。だから、誰にでも起こる事なんじゃない?でもさ、俺と大ちゃん、とかは、、想像したくねぇ〜」と笑い出すタッキー…
「それは絶対にありえないな(笑)吐き気がする」
「大ちゃん、そこまでいうか?でもさ、まぁなんかさあったら話しきくからさ、2人がどうなるかなんてわからないけど、考えすぎてると先に進めないと思うぜ。」
「そうだな。」
そんな話しをしているとまおからメールが入った。
「まおがもうすぐ着くって。」
「そっか、頑張れよ、大ちゃん。」
「何が?なるようになるんだろ?」
話しをしていると個室のドアが開いてまおが店員に通された。
「ごめんなさいっ遅れちゃって、お疲れ様でしたっ」と、頭を下げるまお。
席を見渡して着席する。
俺とタッキーは向かい合わせにすわっていて、まおはタッキーと俺の間に座り、テーブルを囲むような座り方になった。
俺と大ちゃんの間に座ったまおは何故か不自然な動きだ。
何が不自然って、あまり大ちゃんの方を見ない。
身体も俺の方に若干向いてる気がする。
会話も普通にあるけどなんだか空気もぎこちない。
大ちゃんは、、多分気づいてるな、多分。
「俺、トイレ。」と大ちゃんが席を立った。
「なぁ、まお、何かあったのか?」
と俺が聞くと、
「ねぇ、分かる?」とまおは言う。
「何が?」
「わかんないんだね、よかった…」とまお。
「よかった、とか意味わかんねんだけど。」
と俺が言うと…
「ほっぺた、、少しだけ赤いでしょ?今日ね、、彼女と別れてきたんだよね。それで彼女にビンタされて…大ちゃんに知られたくなかったから。」
「言われてみりゃ赤いけどさ、わかんねぇよ、だからさっきから大ちゃんの方を向かない訳だ、わかんねぇから大丈夫だから。
でも、何で知られたくないの?」
「…うん…まぁ、とにかく、タッキーさんも言わないで、お願いっ」
「ふーん、、ま、いいけど。」
大ちゃんが席に戻ってきた。
それから、まおは彼女に打たれたほほが気にならなくなったのか大ちゃんの方に身体をむけるように会話をするようになった。
大ちゃんも、まおの態度が普段通りになって表情が軽くなって微妙な空気もすっかりなくなった。
そろそろこの店で飲むのも飽きてきた頃に、次に行かない?と提案してみた。
「大ちゃんの家飲みにしようぜ。」と言ってみた。
「えー、俺ん家?まぁいいけど。まおは帰らなくて大丈夫なのか?家に連絡いれとけよ。」
と大ちゃんは言う。
「あ、そっかまおは実家だったな。もうさ
、今日はオールってことにして、泊まるって連絡すれば?」と提案してみた。
「おいっ勝手に決めるなよっ」
と焦る大ちゃんが面白くて笑う。
まおは、多分何も深く考えてないと思う、
普通に朝に帰るねって電話をしていた。
余計な事すんなよって必死に無言でアピールする大ちゃん、うん、ちょっと楽しい。
今夜はどんな展開になるんだろうか?
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色々買い込んで部屋に到着。
「いきなり人呼べるなんてやっぱり大ちゃんだよなぁ」とタッキーは言う。
「うん、片付いてるよね、男の一人暮らしに思えない。あ、、でも彼女いるから彼女さんとかが片付けてるよね?」
とまおが言った。
まぁ、それもあるけど、まおが彼女の話を出してきたことになんだかまた壁を感じた。
「まぁな、まおもでも綺麗好きだよな?特撮の撮影もうすぐ始まるんだろ?その間は一人暮らしになるんだっけ、、彼女とか呼べばいいだろ?」
まおの表情が一瞬曇ったような気がした。
「あ、、うん。そうだね、でもさ忙しくて多分それどころじゃなくなっちゃうかも。」
「まぁ、まぁ、とりあえず飲もっ」とタッキーが言う。
それからは、演劇や将来の事について話をしてお互いの恋愛話しになる事はなかった。
まおは相変わらずジュースを飲んでいて、俺とタッキーは酒を飲んでいた。
タッキーは結構酒が強い、顔色もあまり変わらない。
そんなに強くない俺は、だんだんと意識を手放していった。
いつ意識を飛ばしたかも覚えてなかった。
トイレから帰ると
「あ、大ちゃん寝ちゃったな。」
とタッキーさんが言うので大ちゃんを見たら、床に突っ伏して寝ていた。
大ちゃんってお酒飲むとすぐ寝ちゃうってみんな言ってたっけ。
自分の家だし、ね、気も緩んでたんだろう。
立ったまま気持良さそうな大ちゃんの寝顔を見つめていたらタッキーさんが
「そんなに見てると穴があくぞっ」と言った。
俺は無意識に見つめてしまっていたらしい。恥ずかしさで言葉が出ない。
「俺さぁ明日午前中仕事入ってるからさ
、帰るわ。まおは、まだいるよな?ってかいないとダメだぞ。大ちゃん寝ちゃってるし、鍵かけてかないとさ、無用心だし大ちゃん起きるまでいてくれよな?じゃ、またな。」とタッキーさんが詰めて話すとあっという間に帰ってしまった。
「え?タッキーさん…もう….ねぇ、大ちゃん、タッキーさん帰っちゃったよ、起きてよ〜」
大ちゃんの身体を揺するけど起きる気配がない。
「どうしよ…」
大ちゃんの寝顔をしばらく見つめていたけど、深く眠ってるだろう大ちゃんはきっとまだまだ起きないだろうなって思って少し喉が乾いたので水でも貰おうと思って大ちゃんの家の冷蔵庫を開けた。
大ちゃんっぽい、冷蔵庫の中も綺麗に缶やペットボトルが並べてある。
「大ちゃんお水もらうね〜」もちろん返事はないけど。水を口に含んで飲み込む。
冷蔵庫の中には大ちゃんは絶対食べないだろうなっていうプリンが入っていた。
何か、見たことある、と手にして見ると賞味期限が前に俺が大ちゃんの家に来た日付の次の日になっていた。
これ、俺が初めて大ちゃんの家に行く時に買ったやつ??
何で入ってるんだろう。
あの日俺と大ちゃんはキスをした。
あの日の出来事をリアルに思い出して心臓が脈打つ。
ドキドキしながら大ちゃんの隣に座る。
いつも完璧なかっこいい大ちゃんの無防備な姿がなんだか可愛い。
横顔がかっこいいよね、と見つめていると大ちゃんの唇がごにょごにょ動いてる。
「ま、、お…」
「?何?」寝てるよ、寝言か、なんだか可愛いなぁ、ふふっと思わず笑った。
次の瞬間、大ちゃんの言葉にびっくりした。
「ま、お… 好き…なんだ、だから、、」
今、何て言ったの?
何の夢を見てるの??聞き間違い?
大ちゃんが俺の事好き?って言った。
何故か胸がぎゅっと締め付けられて、少しの嬉しさと切なさが入り混じるような感覚で涙が止まらなくなった。
「まお、行くなよ…好きだから…、」
そう言って何処か遠くに行ってしまいそうな、まおの腕を掴んだ。
掴んだ腕が折れそうなほど強く、、
掴んで引き寄せた感覚もリアルで抱きしめるとふわっとまおのいつも付けてる香水の香りがした。
探していた物がやっと見つかった様な感覚。
凄く満たされた気持ちになった。
何だか眩しい、朝か、昨日飲んでて…
「ん…?」やべ、俺寝ちゃってたわ。
何だか腕と胸のあたりに心地よい重みを感じた、、
見ると、俺の腕の中にはまおがいた。
「‼」
びっくりして思わず回していた腕を外して上半身を起こす。
ゴテっ
と鈍い音がした。
「痛い…」と声がした。
まおが床に頭をぶつけたみたいだ。
何が起こったのか、、覚えてねぇ
確か、夢の中でまおの腕を掴んで引き寄せた。
まさか、リアルでやっちゃった?
涙が流れ出した。
どうしていいかわからない感情にたまらなくなってこの場を立ち去ろうとした。
その時、大ちゃんに腕を強く掴まれた。
「痛っ」
そしてグイっと引き寄せられてキツく抱きしめられた。
大ちゃんは、何か口走っていたけど寝ぼけているらしく何を話しているかはききとれない。
抵抗しようともがくけど、力が強すぎる。
もう、無理、降参…
ふっと身体の力を抜いた。
大ちゃんの腕の中は力強く温かい、ドクンドクンと心臓の鼓動が伝わる。
大ちゃんは、俺が好き?彼女は?
もう、どうでもいいやって思った。
ただ、夢の中でだけでも大ちゃんは、俺の事が好きだって言ってくれただけで充分だ。それ以上を求めたら何かが崩れてしまいそうで怖かった。
温かい腕の中は満たされた世界で、俺はその心地よさに浸るうちに眠りに落ちた。
「前に大ちゃんにプレスされたのトラウマになってるんだからやめてよね、
もう始発でてるから、、帰るね。」
と、まおは言って立ち上がった。
「あ、あぁ。特撮始まるんだろ?忙しくなるな、、舞台挨拶も顔出せない日もあるかもしれないな。俺がしっかり宣伝しとくわ。がんばれよ。」
俺が言うと、まおはキリっとした表情に変わり、次の役作りに入っているみたいだった。
「大ちゃん、俺頑張るから見てて。」
そういうと、玄関のドアに手をかけた。
じゃあね、とさみし気に微笑むまおはさっきのキリっとした顔のかけらもない柔らかい表情だった。
まおが出ていってパタンとドアが閉まった。
本当は、まだ帰したくなんてなかった。
腕を掴んで強引に抱きしめたい衝動を抑えて冷静さを保つことに必死だった。
パタンと閉まるドアをただ見つめていた。
俺は、まおが好きだ。
役なんて関係ない、今までして来た恋愛は、何だったんだろう。
こんなに切ないものだっただろうか。
きっとこの恋は叶わない。
お互い幸せにはなれないと思うから。
まおはまだ経験していない事が多すぎる。
だから、まおの未来を潰してしまうことはしたくない。
1番近くで見守る兄貴みたいな存在で、俺はいるべきだろう。
開かないドアを見つめ、涙が頬を伝って落ちた。
「じゃあね、大ちゃん。」と言って玄関を出た。
パタリ、と閉まったドアは、開かない。
開かないドアを見つめ、前も同じだったな…とキスした日を思い出すと涙が溢れてきた。
俺は、大ちゃんが好きだ。
役なんて関係ない、たくみじゃない俺が大ちゃんを好きなんだと自覚した。
自覚して、もしかしたら、大ちゃんも俺を好きなのかもしれない。でもこの関係に未来はあるのか?
バレたらどうするの?
付き合う先は?そんな事ばかり頭に浮かんで、大ちゃんも同じ気持ちなんだと思った。
好きな気持ちなんて消えてしまえば楽なのに…
考えていると携帯電話が鳴った。
着信は、マネージャーからだ。
多分スケジュールの事だろう、これからかなり忙しくなりそうだ。
特撮の為にしばらく一人暮らしになる。
マネージャーの着信で一気に現実に引き戻される。
忙しいのは都合がいい。
今は、何も考えたくない、ただ目の前の仕事に集中して、自分の気持ちに蓋をした。
まおが帰った後、タッキーがいなかった事に気づいた。
いつ帰ったのか?まおは何でタッキーと帰らなかったのか?まぁ、多分タッキーは、酔っ払って寝てしまった俺を見て、まおが帰れないような事を言ったのだろう。
タッキーに電話をかけた。
「いつ帰ったんだ?」
「おはよう、とかないのかよ。で、どうだった?まおは??」
「もう帰った。やっぱお前だな、、」
「何が?2人きりになりたいかと思って気を利かせたのになぁ〜」
「……別になんもねぇよ。あるわけないだろ、まおにも彼女いるし、俺だって、」
朝起きたらまおを抱きしめていた、なんて言えなかった。
「彼女ね、、だよねぇ、いいの?それで、大ちゃんよくても、まおは…」
タッキーの言葉を遮るように、
「俺はさ、これでいいよ。まおの兄貴の役で見守ることにするよ。あいつ、ほっとけないとこあるからなぁ、タッキーもそんな感じだろ?」
「まぁ…ほっとけないねぇ、可愛いし。
そう思ってるやつ多いと思うよ?大ちゃん。まぁ、大ちゃんがそう思ってるなら俺はさ、何も言わない。」
「あぁ、またさ、舞台挨拶でな。まおは忙しいから来れない日多いと思うからさ、俺らで宣伝頑張ろうな。」
タッキーに宣言する事で、更に決意が固まったような気がした。
兄貴としてまおを見守っていこう。
朝、携帯が鳴った。
着信は、大ちゃんだ。
「いつ帰った?」
いきなり聞かれた。
話を聞くと、まぁ何事も無かった、とは言っていた。
けど、何も無かったなら連絡して来ないだろうな、とは思う。
大ちゃんは、まおが彼女と別れた事を知らない。
兄貴になる、、と俺に宣言をして話は終わった。
いいのか?それで、兄弟は、キスしないし、できないぞ?
と思ったけど、大ちゃんが決めた事だし、俺が口をだすこともない事だ。
まおってほっとけないよな、と大ちゃんは言った、そうなんだよ、ほっとけない雰囲気をキャッチしてるやつらはたくさんいるわけで、、本当にいいのか?大ちゃんは、兄貴で…
まぁ大ちゃんが言うから仕方ない、でも、、まおはどうなの?
とりあえず、この2人はまだまだ見守る必要があると思った。
2人に未来はあるのか?
次はいつ会える?そんな事を考えてたけど、意外に早く会う事ができた。
スケジュールの隙間をぬっての舞台挨拶だ。
舞台挨拶で会う大ちゃんは、ギイになりきっているのか、ファンサービスなのか分からないけど腰に腕を回してきたり、柔らかい視線を送ってきたり、その度に無駄にドキドキしてしまう。
せめてこの空間だけでも、俺のものでいて欲しい、そう願って短かい逢瀬の時間を過ごした。
そして大ちゃんも同じ気持ちでいると願った。
その日の舞台挨拶は、タッキーさんもいた。
舞台挨拶が終わる時、タッキーさんにこの後銭湯にでも行かねぇ?と誘われた。
大ちゃんも誘われていたけど予定があるからって断っていた。
俺は、次の日撮影もたまたま午後からだったので一緒に行く事にした。
「なぁまお最近どうよ?」とタッキーさんが隣で身体を流しながら聞いてきた。
「ん?最近って?忙しいよ、やっぱ撮影キツイよ〜」
と言うと、
「そうじゃねぇって、大ちゃんの事だって。」
「何にもあるわけないよ〜、そんな事よりさぁ、もうお風呂入ろうよ、あれやってよ、深さチェック」
大ちゃんの話題は避けたかったのでタッキーが銭湯に入る時にいつもふざけてやっているお風呂の深さを潜ってチェックというものをお願いしてみた。
怪訝そうな顔をするもやってくれちゃうタッキーさんは、面白い、久しぶりに大笑いした気がする。
「意外に深いなぁ」というタッキーさんだった。
楽しかった。何だかひとりぼっちな空間に帰りたくなかった。
「ねぇ、タッキーさん、今日さぁ泊まりに行ってもいい?」と聞くと、
「俺は大丈夫だけど撮影間に合うのか?」
と心配してくれる。
「朝に出れば間に合うから大丈夫。」
「そっか、」
タッキーさんの家に泊まることになった。
「おじゃましまーす」
「どーぞ」
今日はまおが泊まりにきた。
とりあえずコンビニで買ってきた飲み物で乾杯をする。
もちろんまおはジュースだけど。
何だかまおは疲れているみたいだ、目の下にはクマがある。
「おまえ疲れてんなぁ…大丈夫か?」
「疲れてるけど充実はしてるよ、忙しいのが今は助かるんだ」
「助かる?なんで?」
「だって、俳優暇じゃダメでしょーっ」
「ははっだよなぁ」
「それに…」
少しまおの顔が曇る。
「それに…なんだよ?」
「べつに、、なんでもないよっ」
とまおは言う。
「まぁいいけどさ、無理すんなよ。」
とだけ答えて、たわいのない話をしてそろそろ寝るか、と横になって電気を常夜灯に変えた。
まおはゴソゴソと寝返りを繰り返していた。
「眠れないのか?」
「うん、、ねぇタッキーさん、この前タッキーさんが先に帰ったあとね、大ちゃんが俺の事が好きなんだって言ったんだ。」
「え??何?」
「あ、ごめんなさい、違う違うくて、大ちゃんは気づいてないっていうか、寝てたからね、大ちゃん」
多分まおの言うことは、寝言で好きって言われたって事だと思う。
こんな展開になってたなんて、多分大ちゃんもびっくりだろう、まさか自分が気づかず告白しているとか、本当にこの2人って、不謹慎だけど面白いって思った。
「なんだよ、告白されてるじゃん。で、どうすんの?」
とタッキーさんはククッと笑いながら言う。
「もう、なんで笑うの?真剣に話をしてるのに…どうにもならないよ。だって大ちゃんは覚えてないんだよ?」
「ごめんごめん、笑うとこじゃねぇよな、
じゃあさ、まおはどうなんだよ?大ちゃんの事好きなの?ギイの大ちゃんが好きなわけ?」
「……」
「分からない?」
「多分……好き、大ちゃんが。」
そう答えると同時に涙が溢れてきた。
「何泣いてんだよ、そっか、じゃあさ、もし先に進みたいならさ、お前次第だと思うぞ」
とタッキーさんは言った。
「俺次第?」
「そっ、おまえ次第。色々障害の多い恋愛だな、これぞ実写版BLだな(笑)映画よりもかなり濃いよな(笑)まぁ、明日も早いし寝ようぜ、大ちゃんはきっとまおの事が好きだから大丈夫だよ。」
実写版BL、とタッキーさんは俺たちを例えた。
もう他人事だよね、と思いつつもこんな話を偏見の目もなく聞いてくれるタッキーさんは優しいと思う。
大丈夫、の一言が今は胸に響く。
「タッキーさんありがとう。じゃあまたね。」
と告げると眠そうな目をこすりながらも起き上がって玄関までタッキーさんはみおくってくれた。
「おう、またな、何かあればさ、話し聞くからさ溜こむなよ。」
手を振り別れた。
今日は特撮の後に映画のインタビューが入っていた。
今は髪色が特撮の役柄の為に茶色で映画の衣装の水色の制服を着ると何だかイメージが変わる。
ギイになったみたいだ、何だかくすぐったい。
インタビューでは、撮影の様子や話の内容、様々な質問を受けた。
撮影では、ギイを本当に好きでしたか?
と聞かれた。
ドキっとした。
「ギイを好きになるタクミの気持ちは分かります。何でもできて、頭もよくてカッコよくて、御曹司で完璧じゃないですか?
またギイを演じる大ちゃんも完璧なんですよね、NGもほとんど出さないし、かっこいいんです。」
言いきってしまった。
これじゃあ俺が大ちゃんを好きって言ってるみたいじゃないか。
大ちゃんは、かっこよくて一緒にいると安心できて居心地がいい。
俺の好きな人だ。きっと俺のこの気持ちが無意識にそうさせてしまったのかもしれない。
本当は、大ちゃんが好きって伝えてしまいたい、でもそれは大ちゃんを困らせる事になるかもしれない、大ちゃんの彼女を悲しませる結末もあるかもしれない。
悲しい結果になってしまうかもしれない。
だから、伝えられないんだ。
タッキーさんは、おまえ次第と言ったけれど悲しい結果を産んでしまうなら伝えない方がいいのかもしれないと思う。
インタビューが終わり、また特撮の撮影現場に戻ると撮影に集中するしかないので、余計な事を考える余裕はなくなった。
舞台挨拶は続いていた。
今日の舞台挨拶はまおも来れるみたいだった。
舞台挨拶で俺はまおが泊まりにきたことを話した。
大ちゃんは、ブツブツまおに向かって何度も「浮気するなよ、」とつぶやいていた。
俺は半分ファンサービス、半分は本心だろうな、と思った。
だって大ちゃんの目は笑っていなかった。
まおは舞台挨拶が終わるとスケジュールが詰まっているといって早々に帰っていった。
案の定楽屋で大ちゃんと二人になると、
「泊まったなんて聞いてないぞ。」と言われた。
「え?大ちゃんの許可制な訳?なになに?弟が心配だから?」と俺が笑いながらいうと、バツが悪そうな顔をして、
「まぁ、いいわ。」と黙る大ちゃん。
そんなに心配するなら、捕まえておけよ、と思う。
もういい加減に自分の気持ちを認めればいいのに。
「なぁ、大ちゃんはさ、彼女と続いてるんだろ??好きなの?」
と聞いてみた。
「別れてないけど、最近は全く会ってないな。もう、自然消滅するかも。」と言う。
こっちの方もどっちつかずなんだな、と大ちゃんの心の中は色々踏ん切りがついてないようだ。
答えなんて簡単なのに。
好き、その一言がお互いに言えない距離がなんとももどかしくて切ない。
「そっか。」とだけ答えておいた。
大ちゃんは大人すぎて、まおは幼い。
はじめは興味本位でドラマをみているような感覚で2人の話を聞いていたのに、俺はいつしか2人が並んで幸せそうに笑っている顔が見たくなっていた。
映画のシリーズ好評みたいでまた続き出るみたいだから、、
とマネージャーに言われた。
「でも、今は無理ですよね、特撮がかなり忙しいからスケジュール的に考えると…」
と言ったら、
大丈夫、今回は主役じゃないから、と言われた。
どうやらスピンオフで三洲と真行寺の2人が主演らしい。
マネージャーから話を聞いたとき、もしかしたらタクミ役を降りなければならないのかと思ってしまった。
忙しいスケジュールの中、撮影は一日だけの参加になる。
その日一日だけでも大ちゃんに会える事が、会える理由ができた事が嬉しかった。
一日だけでもいい、俺のものでいて、そう願わずにはいられない。
舞台挨拶でタッキーに「浮気するなよ」って言ったり、肩を抱き寄せたり、腰に手を回したり、大ちゃんのなす事すべてに翻弄させられる。
叶わないって思っているのに、気持ちが通じ合ってるような錯覚さえするんだ。
でも、いつも現実に戻される。
現実に戻されるのが嫌ならば現実に戻らなければいいんだ。
映画が続く限り、大ちゃんと俺は恋人同士でいられる。
「まおちゃん、何かいいことあった?今日ご機嫌じゃない?」
と、特撮で一緒の千葉ちゃんに言われた。
「あーっ分かるっ今日なんかやけにニマニマしてたりするよ、お兄ちゃん」
妹役のミッキーにも言われてしまった。
大ちゃんにもうすぐ会えるって事が嬉しくて表情に出てしまう。
「え?何もないけど??ほら、お弁当食べよっ」
と言うとみんなお弁当を手にして座る。
「あ、シャッターチャンス、まおちゃんこっち見て」
千葉ちゃんに食べてる姿を撮られた。
「まおちゃんて本当可愛いよね、役はお兄ちゃんだけど絵に描いたような弟キャラ、見て座り方これだし。女子二人も見習ったら?」
今日はブーツを履いていたので座りにくかったので無意識に女子みたいな座り方をしていたみたいだ。
女子二人はささっと座り直す。
「今日はブーツだったから、座りにくかったの!」
恥ずかしくなって座り直すと、
「あ、ごめんごめん、座り直さないでいいよ」と千葉ちゃん。
「今日は、金曜か、ハナキンだな世の中は…」と健人が言うと、「だよねー、でも明日の撮影も早いね。」とみんなは言うけど、俺には“ハナキン”って言葉が分からないし、
「ハナキンって何?TV番組?」と俺が言うと、みんな顔を見合わせて爆笑している。
「もう、まおちゃん最高…もう、ずっとそのままでいてっ」と言われてもポカーンとしていた。
後で聞いたけど、花の金曜日っていう休みの前日の金曜日で夜更かしして遊んだり…みたいな意味らしい。
ハナキンかぁ、最近お休みないなぁと思ったけど、休みがあれば色々考えてしまうから今は忙しいほうがいい。
映画の撮影は、多分もうすぐ始まる、でも俺は一日だけの参加だから泊まりのロケはない。
たった一日だけ、、でもいいから大ちゃんに会いたい。
今日から映画の撮影が始まる、今回はシリーズのスピンオフで俺とまおが主演じゃない、まおは特撮のスケジュールの関係で一日だけの日帰りでの参加だ。
2日目にまおは参加するみたいだ。
一日だけでまおのシーンの撮影を仕上げなければならないのでスケジュールはギチギチだ。
ゆっくり会話する間もないだろうな。
特撮の撮影、無理はしていないだろうか?
現場で挨拶を済ますと、撮影準備に入る、今回は主演ではないから空き時間も多かった。
「大ちゃん、なにボーってしてんだよ。考え事?まおは明日くるみたいだな。一日だけだって、大変そうだな。」
とタッキーが話しかけて来た。
「だな、あいつ無茶するからな。」
「心配してるんだぁ〜、まおは努力家だもんな…、俺さ…もう、黙ってられないかも…」意味深な言葉をタッキーは言うと目を逸らした。
「何の事だよ??気になるだろ。」
そう詰め寄ると、
「ゔ〜ん、だって口止めされてるしさ、どうしよっか…」
「そこまで言ってやっぱ言えないとかはないよな?」睨んで言い放つと、
「じゃあさ、大ちゃんが正直に俺の質問に答えたら教えてやるよ。」と、タッキーは急に真面目な顔に切りかわった。
「なぁ、大ちゃんは、まおのこと好きなんだろ?」
と、タッキーに聞かれた。
「…。」
「答えられない?」
「…、好き、か?というか、ほっとけない、大切な存在、、かな…」
「ズルい答えかたすんなぁ、なんかさ、好きを超えてますみたいにも聞こえるな。」
「勝手に想像するなよっ」と言いつつ、今までの恋愛感情では感じた事のない感情であることは自分でも気づいていた。
「で?答えたけど?」
「はぁ…あのさ、前の映画の撮影後に三人で打ち上げしただろ?まおはあの日に彼女と別れた。降られたんじゃないよ、自分から別れたんだ。」
「は??でも、あの日にあいつ彼女の話してだだろ?なんで?」
「さぁ??そんなん俺にもわかんねぇよ、でもさ、大ちゃんには言わないでって口どめされてたんだよ、俺は。ってか今、言っちゃったけどっバレたら怒るだろうなぁ、まお。」
「なんで、俺には言わないんだよっ、」
「だから、俺にもわかんないけどさ、大ちゃんは彼女と別れてるわけ??、まおはさ、大ちゃんの事好きだと思うよ?多分、バレバレじゃん。大ちゃんだって、気づいてるくせに。まぁさ、見てていい加減もどかしいし、イライラしちゃう〜って感じだな。」
とタッキーが話した所で、タッキーのシーンの撮影準備が整ったみたいで、タッキーは俺から離れて行った。
まおは、彼女と別れたみたいだ。
まおは彼女と別れた、別れていた。
何で俺には、隠していたのか…
タッキーは、まおは俺の事が好きだと言った。
俺もまおの事が好きだ。まおも俺を好きならば両思いだ。
でも、両思いだからってこの恋には障害が多すぎる。
男同士、俳優、年の差。
俺は、色々な恋愛経験もあるけど、まおはまだ足りないくらいだろう、まおは俺と違って役に入り込みすぎてるんじゃないか?と、思う。
この障害の多い恋愛にまおを引きずり込んでしまっていいものか、だから、躊躇してしまう。
まおも躊躇しているから彼女と別れないでいるのかと思っていた。
でも、別れていた。
どうする?俺もそろそろはっきりさせないと、突き放すか、引きずり込むか。
この撮影が終わったら、覚悟を決めよう。
決心したら、ずっとモヤモヤしていた気分が吹っ切れた気がした。
>> 7 撮影当日、舞台のキャラと映画のキャラと使い分けが上手くできるか不安だった。 舞台のキャラは、明るい元気な可愛いキャラ、映画のキャラ… こんにちは、私はタクミくんシリーズとダイマオが大好きなので拝見させて頂きました。マオのオドオド感や口調やセリフとリアルマオでした。しいていうならマオは結構ドヤ顔しますし大ちゃんもそんなマオのドヤ顔結構好きみたいなのと大ちゃんは結構マオに突っ込まれてるか二人でボケてるので、もう少しそこが入るとより本物に近づくと思います。すみません、知ったような口調で…でも私実は過去に嫌な思いをしていて異性に対して少しマオに似ているんです。彼氏より心の真から信頼できる友達の方が大事で、異性に触られると全身に鳥肌がたって気持ち悪くなってしまいやすいんで、このタクミくんシリーズのマオ見て克服しようと決めた程私に勇気をくれた作品なので思いいれが強く、発言させて頂きました。でも凄くダイマオを理解して好きでいて下さるのが読んでいて伝わってきました。周りに共感者がいなく嬉しかったです、
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