不純愛
―この愛は、純愛ですか?
―それとも、不純ですか?
「あ!私、沙希って言います。
美桜とは中学で転校して来た時から仲良くしてて、今も連絡はちょくちょく取り合ってるんですよ(笑)」
早歩きで進みながら、彼女…沙希ちゃんは嬉々として話す。
「ここが、私の家です。
母と祖母がいますが、まぁ…ゆっくりして行って下さい♪」
沙希ちゃんの家は、平屋の立派な民家だった。
しっかりと手入れされた松の木に、雪が積もってなんとも美しい。
「あの…お邪魔します。」
「そんな靴じゃ、靴下まで濡れてしまったでしょう?
乾かしますから、そこに両方置いておいて下さいね。」
「あ、いや…でも。」
「気にしないで良いですよ(笑)
こちらにお客さんが来た時はいつもそうさせてもらってますから。」
悪いな…と思ったが、僕は沙希ちゃんの言葉に甘えさせてもらう事にした。
明るくて良い子だな…
美桜は、こんな娘と仲良しなんだ…。
うん、確かに性格が似てるかも。
「コタツ入って、ストーブにあたって下さい。
お茶入れて来ますね。」
「あっ、お構いなく…。」
コタツ…おぉ!
掘り炬燵だ!
すげー、初めて入る。
「あぁ~温かい!」
冷えた指先が熱を感じて、ジンジンと痛む。
「これ、足を閉じなくていいから楽だなぁ。」
石油ストーブの上に置かれたやかんが、カタカナと蒸気を上げる。
その光景が、実家と似ていた。
こういう家って、落ち着くな…。
居間から庭先に目をやる。
ふわふわな雪が、キラキラと輝いて幻想的だ。
沙希ちゃんの東北訛りが混ざった喋り方も、温かみがあって心地良い。
美桜もあんな風に秋田弁を話すのかな…。
一度だけ聞いた事あったよな…あれ、なんて言ったんだっけ…?
ぼけーっと考えていると、腰の曲がったお婆さんが僕の向かいに座った。
「お、お邪魔しております。」
僕は掘り炬燵に入ったまま、慌てて沙希ちゃんのお祖母さんであろうご老人に頭を下げた。
「あだのなめは?」
ニコニコと、優しそうな笑顔を浮かべて 僕に話し掛ける。
しかし、訛りが強くて何と言われたのか分からない。
「え?すみません…もう一度言って頂けますか?」
「あだのなめ…え~、名前は?」
あっ、名前を聞かれたのか。
「吉宗です。
西島 吉宗。」
耳の遠そうなお祖母さんに、僕は少し大きめな声で返した。
「吉宗さんか、徳川吉宗公だべ?」
「はい、由来はそうです。
父が、吉宗公を好きで…。」
自分で言っていて恥ずかしい。
僕は、仮にも吉宗公とは程遠い性格だ。
名前負けもいいところだよ。
「よがなめさ、づげてもらったな。」
ニコニコ笑顔のお祖母さんに、僕は照れ笑う。
「あれ、おばあちゃんいたの?
吉宗さんと何してたの?」
お盆にお茶をのせた沙希ちゃんが戻ってきた。
「あですた。」
「あどえでやー。」
僕には二人の会話が全く通じない。
「吉宗さん、あぎゃまんま食うか?」
お祖母さんに聞かれて、僕は沙希ちゃんの方を見る。
「お赤飯食べるか?って。
夕飯まだでしょ是非食べて行って下さい。 美桜の話とかしたいし(笑)」
美桜の話。
沙希ちゃんは何か知ってるのかな…
「はい、じゃぁ…頂きます。」
お祖母さんと沙希ちゃんが満足気に微笑む。
客人に優しい人達なのだと思った。
もてなし方が、本当に温かいのだ。
「吉宗さん、これ。」
お祖母さんと、お母さんが夕飯の準備をしている間に、沙希ちゃんは僕にアルバムを見せてくれた。
(高校生の美桜と、沙希ちゃんが並んで写っている…。)
「わぁ…あどけないなぁ。」
爽太が女の子だったら、こんな感じなんだろうな…。
「可愛いでしょ?」
「うん、二人とも可愛い。」
僕がそう言うと、沙希ちゃんはクスクスと笑った。
「え?僕、何か変な事言った?」
「吉宗さんって、モテるでしょ(笑)?」
なぜ沙希ちゃんはそう思ったんだろう。
実際、僕は
「全然!」
モテない。
からかわれる事はあったけど、モテた試しはない。
「うそまげ(笑)!」
「え?なに?」
ほら…こうして笑い転げる沙希ちゃんも、僕をからかっているし。
最初は美桜だってそうだった。
僕は、数冊あるアルバムをゆっくりと捲って見る。
沙希ちゃんとのツーショット
女の子達と数人で写ったもの
一人で照れ笑う写真。
その全部が笑顔だった。
「ここに来たばかりの頃の美桜はどんなだった?」
僕の質問に、沙希ちゃんは少しだけ表情を曇らせた。
「美桜が来たばかりの時は…うん、全然笑わない子だったよ。」
笑わない子…。
「中3の途中で転校して来て、全然喋らないし表情も変わらない子だった。」
僕は、沙希ちゃんの話に無言で頷いた。
そうなった経緯を知っていたから。
まだ…少女の美桜の写真を見る。
その小さな胸に秘めた悲しみや孤独は、きっと計り知れない。
「クラスからも疎外されてね…美桜って、こんな見た目でしょ?
東京から来たって言うのもあるし…気取って見えたんだろうな。
高校に入るまでは、私しか友達はいなかったのよね。」
僕は、美桜の笑顔に触れる。
孝之は、この頃から美桜を好きだったのだろうか…?
だとしたら…苦しかっただろうな。
この時で、僕らは27、8歳だろ?
犯罪だもんな…。
僕だって、この頃の美桜と出会っていたらきっと、こんな関係にはなっていなかったと思う。
「…吉宗さん?」
孝之の心情を思うと胸が痛んだ。
「あ、いや…美桜には沙希ちゃんが居てくれて良かったと思って。
沢山、救われたんだろうね…君に。」
「私、強引ですからね!
言葉を発さない美桜に言ったんです。
そのまま黙ってても良いから、私の友達になりなさい!ってね♪
無理やり一緒に帰ったり、家に遊びに行ったり来させたりして(笑)」
想像出来るよ。
僕を、ここに連れて来たみたいにだよな(笑)?
実の父親に「必要ない」と見放され、最愛の兄を亡くし、可愛がっていた弟とも引き離された…。
そんな絶望の淵にいた美桜を救い出してくれたのは、間違いなく沙希ちゃんの屈託のない明るさだ。
沙希ちゃんは美桜にとって、一筋の希望の光だったに違いない。
「美桜は、沙希ちゃんと出会えて幸せだっただろうね…。」
だから、こんな素敵な笑顔を取り戻した。
「私も、美桜と出会えて幸せですよ。」
一枚の写真を手に取って、沙希ちゃんは微笑む。
「テスト勉強の強い見方♪」
それは、二人で100点満点の答案を掲げ持った写真だった。
「美桜のお陰で、数学で人生初の100点採ったんです。」
「あははっ!」
僕が笑うと、沙希ちゃんも大きな口を上げて笑う。
「…美桜、吉宗さんとも出会えて良かったって言ってましたよ。」
「…え?」
急に寂し気な表情で、沙希ちゃんは話しだした。
「心から愛する人を見つけて、その人にも愛されて…幸せだって。
いけない事だと分かっていても、あなたを離したくないって言ってました。」
「君に…そんな事を?」
沙希ちゃんはゆっくりと頷く。
そしてまた、僕に美桜の気持ちを伝え始める。
それは…僕が気づいてやれなかった美桜の本心だったと思う。
沙希ちゃんは先に、
「恥ずかしがらずに聞いて下さいね…。」
と僕に念を押した。
美桜が大学院生になって、僕の研究資料を見た時から既に僕に興味があったと言うのは以前、本人から聞いたのと同じだった。
淡い憧れを胸に就任したものの、たった僅かで僕から拒絶されてショックを受けた事。
挽回したくて、寝る間を惜しんで役に立つ授業工程資料を用意した事。
僕が、自分に笑いかけてくれたと喜んでいた事。
夜中にハイテンションで電話をかけて来て、いい迷惑だったと沙希ちゃんは言った。
好きになってしまって、苦しいと泣いていた事。
そして…
卑怯な手口で僕に抱かれてしまったと、 泣きながら沙希ちゃんに会いに帰って来た日の事…。
あの、空白の2日間は秋田に帰っていたんだ…。
「吉宗さんを拒絶して、止める事も出来たと言ってたんです。でも、美桜は…あなたにそうして欲しいと望んで受け入れたと…。
その瞬間、奥さんからあなたを奪ってしまった罪悪感を抱えながら…自分を責めながら今の今まで苦しんでいたと思います。
世間では、そんなの悲劇のヒロインとか被害者ぶるなって言うかも知れないけど、美桜はそれでも吉宗さんを諦められないから図々しく生きて行くって決めてました。」
「…それは、僕も同じだよ。」
目頭が熱い…
最近、本当に泣いてばかりだ。
「吉宗さん…美桜はずっと、あなたと一緒にいたいと言ってたんです。
別れを望んだのは、きっと本心じゃない。」
沙希ちゃんのその言葉に、僕は確信を得た。
僕の訴えを聞くと、沙希ちゃんは一枚のハガキを僕に差し出した。
「年賀状?」
「美桜からです。」
色彩の絵の具ペンで 描かれた可愛らしい龍のイラストに、彼女らしい気遣いのあるメッセージがしたためてあった。
今時手書きも珍しいが、美桜らしい。
「裏、見てみて下さい。」
沙希ちゃんに施されて、僕はハガキをひっくり返した。
「…群馬県!?」
差し出し住所は群馬県の高崎市となっている。
美桜は、高崎にいるのか?
なんで…なんの為に?
「美桜からは誰にも言わないでって、口止めされてたけど…吉宗さんの本気が痛いくらいに伝わって、もう黙ってはいられないから。」
「ありがとう…沙希ちゃん。」
僕も、君に出会えて幸せだ。
「そうだ、美桜の秘密を教えてあげます。」
イタズラっぽい笑顔を浮かべて、沙希ちゃんは僕に耳打ちする。
「ここ見て…♪」
彼女の指差す場所に目をうつす。
僕は一瞬にして顔を赤らめる。
全身から火が出そうなくらいに暑くなった。
「あははっ、吉宗さんって本っ当にめんこい♪」
ちょっと…これは、マズい…!
「それ…今は無理でも、いつか必ず叶えてやってね。」
火照る頬を手で覆いながら、僕は沙希ちゃんに頷いてみせた。
これで分かったよ…美桜。
君の気持ちが、今も僕にあるって事が…
その夜、沙希ちゃんのお祖母さんと、お母さんの手料理をお腹いっぱいに食べた。
(おじげっこ)と呼ばれるお雑煮が、素朴だけどとても美味しかった。
仕事から帰ってきたお父さんと、野球の話しで意気投合してお酒も付き合った。
スポーツは苦手だけど野球は子どもの頃から好きだった。
地元が、昔から野球びいきっていうのもあったな。
そして…酒に弱い僕は、あっという間に酔いつぶれた。
「めんけぇな。」
誰かに頬をつつかれる感覚がするが、目を開ける事は出来ない。
「あら、おばあちゃんも好きな感じ?」
「ばがしゃべすなや。」
誰か、ごにょごにょ何か話してる…
僕は寝苦しくて「う~ん…」と唸る。
「…しッ!
美桜の話しじゃ、のさばりさんなんだってよ(笑)」
「お母さんも、吉宗さんなら良いね(笑) ほら、見てみぃ…めんけぇ寝顔。
美桜ちゃんも隅に置けねぇべ!」
クスクスと耳元で聞こえる声を子守歌に、僕は深い眠りへと入っていった。
セーラー服を着た高校生の頃の美桜と、 白衣を着た僕。
教室で、いつもと変わらない授業をしている。
窓辺の席について外を眺める美桜。
その横顔に、僕は見惚れている。
その頃に出会っていたとしても…
きっと僕は、間違いなく君に恋をしていただろうね…
翌朝、やっぱり激しい頭痛に襲われながら起床した。
「…なんか、すっかりお世話になった挙げ句に、こんな醜態をさらして…本当に申し訳ないです。」
僕は、頭痛薬と水を手渡してくれる沙希ちゃんに頭を下げる。
「ううん、みんな喜んでるから気にしないで!
それよりお父さんったら、あんなにお酒勧めちゃって…ごめんなさいね。」
僕は薬を水で流し込むと、首を振った。
それにしても…
あんなに酒を飲んでも何食わぬ顔で仕事へと向かった沙希ちゃんのお父さんって…。
そう言えば、秋田は酒どころだから皆、酒が強いって笑ってたな。
「色々とありがとう、沙希ちゃん。
…これから美桜の所に行って来るよ。」
身支度を整えて、僕は沙希ちゃんにそう伝える。
「うん、必ずまた遊びに来てね。」
沙希ちゃんは、瞳を潤ませて言う。
「あぁ、必ずまた来るよ。」
手を差し出して固く握手をする。
お祖母さんが用意してくれた雪用のブーツを履いて、温かかったこの家を後にした…。
沙希ちゃんから預かった年賀ハガキを胸ポケットに忍ばせて
僕は美桜のいる群馬県へと向かう。
案の定、爽太からの返信メールは返って来なかった。
良いさ…。
美桜…僕は絶対に君を見つけ出してみせるから。
どうか、そこで待っていて…
立ち竦んだまま意を決して、僕はインターホンを押した。
居留守を使われないように、スコープを指で隠す。
カチャリと開いて、美桜の顔が半分覗く。
僕は、ここぞとばかりにドアノブをグイッと強く引っ張った。
「吉宗さん…!」
ひどく驚いた美桜を、僕は無言で抱き締めた。
あぁ…この感触…
この香り…
「美桜…!」
どうしよう…
頭が真っ白になる。
どうしよう…
好きだ…好きで、好きで…好きよりもっと…大好きで…
とても…言葉には出来ない思いに支配されて行く…。
人は、こうまで他人を愛する事が出来るんだろうか?
僕は病気か…?
君を愛する病に侵された…重病者なんじゃないか?
だって…こんなにも苦しいんだ。
苦しくて…苦しくて…
だけど…腕に収まる君を感じて、とても幸せなんだよ…。
「どうして…吉宗さん…?」
耳元で聞こえる美桜の声…。
僕は美桜の頬に手を添えて、じっと彼女を見つめた。
大きな瞳に戸惑いが映る。
「吉宗さ…っ!」
美桜が僕の名前を口にしようとすると、僕は彼女の唇を塞いだ。
「んっ…!」
抱き寄せられた身体を放そうと、美桜は腕に力を込める。
だが、僕はそれを許さない。
彼女の後頭部を、片手で支えて片腕で腰を抱いた。
そして、僕の執拗な口付けから酸素を求めるように彼女の甘い吐息が漏れた。
僕は、その隙間をぬって舌を潜らせる。
甘くて温かいベロの先…
僕の指の間で絡まる彼女の柔らかい髪…
彼女の苦しみもがく高い声…
どれも、全部が愛しい…。
気が狂いそうだ。
「あっ…待って…っ!」
「…待てない!」
僕は、深いキスを続けながら美桜の身体を倒す。
彼女の頬に首筋に…鎖骨へと唇を這らわせる。
「吉宗さん…私…だめなの…!」
美桜はそう言って僕を拒むが、僕はやめない…やめられない。
「…美桜が欲しいんだ。」
僕はもう一度、美桜の唇を塞いだ…。
美桜は、下からグッと僕の肩を押し上げる。
「…だめっ…!」
深い口付けの隙をついて言葉を発する。
「拒まないで…。」
僕は、美桜の両手首を固定して唇を支配した。
しばらくすると、美桜の力の入った身体が次第に柔らかくなっていった…。
彼女の掴んだ手首を放し、今度は互いの指を絡めて繋ぐ。
僕は、顔を上げて美桜を見た。
今にも泣き出しそうな彼女の笑顔がそこにはある。
「…吉宗さん…会いたかった。
ずっと…ずっと…っ。」
「僕も、美桜に会いたかったよ…。」
彼女の頬を伝う涙を舐める。
「愛してる…」
僕の背中に腕を回して、美桜はそう言った。
今の僕達には、数ミリの距離すらない。
ただ、こうして抱き合って互いの鼓動を感じあう。
そして思う…
二度と離れたくないと…
すると、突然!
僕の背中に、謎の重みがのしかかった。
急にバランスを崩し、身体ごと美桜を押し潰しそうになる。
僕はとっさに、腕に力を込めてそれを阻止した。
「人ん家の玄関で何してんだよ…!
この…エロ教師!!」
振り返るとそこには、鬼の形相の爽太がいた。
僕の背中に乗ったのは、彼の右足だった。
「お…お帰り、爽。」
美桜は、いきなりの爽太の帰宅に驚いていたが、僕たちのこの格好にクスッと笑う。
「「何が可笑しいんだよ…!」」
僕と爽太が思わず同じ言葉を口にすると、彼女は慌てて緩んだ口元を手で覆い隠す。
「「お前っ、同じ事言うなよ!」」
言い合う二人に、美桜は背中を向けて肩を震わせた。
「「笑うな!」」
「は…はぁ~い…(笑)」
買い物袋をバシバシと僕に当てて爽太は
「真似すんなよ!」
と繰り返して言う。
「さっきから、痛ってぇ~んだよっ!」
僕も負けじと言い返す。
「あ?当たり前だろ?
これ全部グレープフルーツなんだからよ!」
「痛いって!
どんだけ食うんだよ?!」
僕と爽太の下らないケンカを、美桜は笑い転げながら見守っていた…。
そしてなぜか、3人でテーブルを囲んでグレープフルーツを剥き始める。
「姉さんのは、俺が剥いてあげるねー♪」
ムッとした僕をよそに、爽太は当て付けるように言った。
「あ…じゃぁ…私は、吉宗さんに…。」
あからさまに不機嫌な僕に気を使って、美桜はそう言う。
それに対して爽太は僕を睨み付けるが、反対に僕は爽太に(してやったり顔)を向けてやった。
悔しがる爽太が可愛く見えた。
「姉さんに振られてかわいそうだから、僕が爽太のを剥いてあげような♪」
3人共それぞれせっせと、互いの為にグレープフルーツの皮を剥く。
…なんだろう?
不思議過ぎるこの光景は…?
なんか…
家族団らん?
みたいな?
「爽ちゃん、布巾とって?」
…爽…ちゃん?
「はい。」
「ありがと♪」
こいつ…美桜と、2人で生活していくうちに甘えん坊になりやがったな。
ムカつく…!
見ろ…あの、(してやったり顔)返しを!
「美桜、美桜!
手がベタベタだからそれ、食べさせて?」
剥き終わった一つを指差して、僕は口を開けた。
「これ?
はい、あ~ん…」
「あ~ん…!」
グレープフルーツを持った美桜の指が僕の口元に近づく。
「はい、先生。
あ~ん!!」
実際に中に入って来たのは爽太が剥いた大量のグレープフルーツの方だった。
「そうだ…デメェ~!」
口がいっぱいで上手く喋れない。
「あらら…爽、あまり吉宗さんに意地悪しないで。」
「優しくしてるよ。」
爽太のシスコンめ。
僕は、大量に詰め込まれたグレープフルーツを一気に飲み込んだ。
「どこが優しいんだよ…!」
「…っていうか、いい歳したオッサンの「あ~ん」とか見たくないんですけど?!」
「妬くなよな、このガキんちょめ!」
またしても、取っ組み合いのケンカに勃発…。
美桜は呆れたようにため息を吐いて、スクっと立ち上がった。
「お昼ご飯作るわ。 大好きなハンバーグ作ってあげる♪」
そして、僕らを見て笑いかける。
ハンバーグ…
「「やったね♪」」
僕と、爽太は互いに見合わせて
「俺が好きだからだよ!」
「僕の好物なんだよ!」
と譲らない。
そんなやり取りが続いた中、
「あ~、もうっ!! 2人ともいい加減鬱陶しいよ!」
遂に、美桜がキレた…
僕らはシュン…として、大人しく座った。
肩を落として、目の前のグレープフルーツを貪る。
まるで、「ハウス!」を言い渡された子犬の様にしょぼくれた…。
「そう言えば先生、なんで此処が分かったの?」
口から種を出しながら、爽太は問う。
僕は、沙希ちゃんから預かった年賀状を出した。
「…やっぱり、沙希さんか。
おしゃべりだからな…。」
「困ってる僕を助けてくれたんだ。
彼女を、悪く言わないでくれ。」
そう言って、僕は年賀状をしまう。
コレは、沙希ちゃんからの大切なプレゼントだ。
「…で?
先生は、姉さんともう一度会ってどうするつもりなんだよ。 まさか、結婚を止めに来たの?」
「僕は…美桜の本当の気持ちを聞きに来たんだ。」
爽太は「ふ~ん…」とだけ返事を返す。
美桜の気持ちが僕にあるのは分かる。
けれど、彼女には自由に選ぶ選択肢はない。
孝之か…僕か…?
ではなく、家族の未来か…僕か…なのだ。
それでも、もし…僕を選んでくれるのなら…。
そう…望む自分がいるが、実際に爽太を横にすると、彼と僕を天秤に掛けるのはあまりに残酷だと思った…。
頭では分かってる。
でも、心がどうしようも無くゴネるんだ…。
美桜の、僕に向ける愛情に縋りたい。
手放したくないと、言うことを聞かない。
「…先生。
姉さんはきっと、先生への愛を貫くよ。 例え、身体が自由にならなくても心は常に先生へと向いてる。
先生は一生、姉さんに愛され続けるんだ。
本っ当、ムカつくよ…。」
爽太…。
「ありがとう…。
この上、姉さんの身体まで欲しいと願ったらそれは、欲深いかな…?」
「エロ教師。」
「そういう意味じゃなくて…!」
爽太の一言に、僕は赤面する。
あろう事に、男子高生に向かって誤解を招くような言い方をした自分を恥じた。
「もう既に…姉さんの身体中を先生が支配したんだよ。
だから、いつか姉さんは先生への元へと帰る時がくる。
…それを信じて待っててやってよ。
頼むからさ!」
爽太の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
「信じて、待て。」
寧々や爽太には見えているのか…?
僕と美桜が寄り添う未来が…。
僕は…このまま離れてしまえば、二度と美桜とは結ばれないと思うのに…。
「ご飯出来たよー♪」
キッチンの方から、軽快な美桜の声が響く。
爽太は鼻を啜って頬をパンパンと叩くと、無理やりに笑顔を作った。
「姉さんごめん。
俺、病院に行ってくるよ。」
スクっと立ち上がって、食事を運ぶ美桜にそう言う。
「え~!今から?」
「ごめん、ごめん。 山城さんから呼び出しかかった。
夜には帰るから。」
いそいそと黒のダッフルコートに身を包んで、爽太は出て行った。
僕に、気を使ってくれたんだ…。
「もう~、せっかく作ったのに…。」
肩を落とす美桜の手から盆を取ってテーブルに並べる。
「ラッキー!
爽太の分まで食べられる♪」
僕がそう笑うと、美桜も微笑みを浮かべた。
「じゃぁ、たくさん食べてね!」
久しぶりに2人でご飯を食べる。
美桜とこんな風に和やかに過ごすのは、いつ以来だろう…。
「美味しい?」
「うん、美味い♪」
彼女のこんな笑顔を見るのはいつ以来だろう…。
ひどく懐かしい。
胸がいっぱいで、本当は味なんて分からない。
でも、全部平らげたい。
彼女の作った食事は、一つ残らず体内に入れておきたい。
明日から会えなくなるなら、僕を作る糧になれ…!
僕の身体の中で芽吹いて、明日への僕を作り出してくれ…
そんな願いを込めて、モリモリと口に運んだ…。
「…吉宗さん、お腹空いてた?」
結局、あまり食欲がないと言った美桜の分まで食べて僕は横たわった。
「く…苦しぃ…。」
軽く3人分…。
最近は胃が小さくなっていたのもあり、かなり苦しい。
…が、皿はピカピカだ。
「そんなに、無理しなくて良かったのに…。」
美桜は苦笑う。
「何言ってんだよ! 人間の摂食行動は、血肉を作る必要なタンパク質を…」
「ハイハイ!
そんな、難しく言わなくても食事は大切って事でしょ?
西島先生(笑)」
「…そうです。
だから、篠崎さんもしっかりと食事を取りましょう。」
美桜は、肩をすくめて
(はぁ~い。)
と小く頷いた。
「よし、良くできました!」
僕は、満足気に笑って美桜の頭を撫でる。
「また、子ども扱いする…!」
ぶぅ…と、頬を膨らまして上目使いで僕を見る。
…可愛いなぁ。
「子共じゃん。」
「違うよ!」
ムキになって、僕に言い寄る。
「子供だって。」
「もう、違うってば!」
ニヤニヤとほくそ笑む僕に、美桜の怒りの鉄拳が振り下ろされる。
僕はその鉄拳を手のひらに受けて、美桜の手首を掴んだ。
「それ以上否定するなら…犯すよ?」
今度は拒んでも許さない。
僕は、真剣な眼差しで美桜を見つめる。
「どうする?」
「…あ…後片付け…しないと…。」
顔を赤らめて立ち上がろうとする美桜を、僕は引っ張って抱き寄せた。
「僕が後で、全部洗ってあげる。」
「あ…今…やらないと。」
そう言って、僕の腕からすり抜ける。
(ちぇ…つまんないの。)
僕は内心そう思いながら、動揺する美桜の後ろ姿を見送った。
美桜の失われない初々しさが、僕はとても好きだ。
カチャカチャと音を立てながら、洗い物をする美桜の背後から抱き付いた。
「やめて…!
洗いにくいわ(笑)」
首筋にキスをすると、美桜はくすぐったそうに身体をよじる。
「一緒に洗おう♪」
僕は、美桜の手に自分の手を添えて皿を洗い流す。
「…ダメ、滑って上手く洗えない。」
そう言って微笑みながら振り向く美桜に、僕はキスをする。
一度目は軽く
一度離して、美桜を見つめた。
瞳を閉じた美桜の鼻先を、僕の鼻先でくすぐる。
彼女の口角が可愛らしく上がる。
「美桜…?」
「…うん?」
美桜が、僕を見上げて柔らかい笑みを浮かべた。
僕は濡れて泡の付いた手で、そっと彼女の頬に触れる。
どうか、言わせて欲しい…
答えなんていらない。
返さなくても良いから…
「僕と結婚して…!」
目を丸くする君の唇に、もう一度口付けして…
二度目は
深く…求める…
美桜が背伸びをして、僕の髪を触る。
毛質が多くて、少しゴワゴワの髪をグシャグシャにする。
唇を離すと今度は僕の頬に触れて、鼻や唇へと指を滑らす。
まるで…僕を忘れない様にと、指先に記憶させているみたいだ…。
「ダメなんだな…?」
僕の問いに、美桜は無言で涙を流す。
「どちらかなんて、選べないよな…。
僕が身を引いたら、美桜の気持ちを少しでも軽くする事が出来るか?」
俯いて首を振る美桜に、僕の心が悲鳴を上げそうになる…。
「爽を…見放せないの。
父を…見放せない…。
私、今度はちゃんと家族を守りたいの…!」
僕は、泣きじゃくる美桜の肩に手を添える。
「分かってるよ…だから僕は、君から去らなきゃならないんだろ…?」
清美が僕に言った…
好きだから別れると…
僕はその時ほど、彼女の愛情を感じた事はなかった。
僕も、美桜を愛しているから…
「…別れるよ。」
僕の、そう…言い放った後の君の瞳を忘れない。
真っ直ぐで、悲しみを浮かべた瞳を…
僕は…忘れない。
「先生、プリント集めました。」
美桜と別れて1ヶ月。
僕の世界から色が消え失せた。
メガネを掛けても、モノクロの世界は続く。
「あぁ、ありがとう。
岡田も帰って良いぞ。」
僕と爽太は、普通の教師と生徒に戻っていた…。
「さよなら。」
「気をつけて帰れよ?」
僕に頭をぺこりと下げて爽太は去る。
僕はイスに腰掛けてメガネを外し、ポイッと投げた。
「…ダルい。」
デスクにうつ伏せて瞳を閉じる。
「あ…今度は、ボールペンが無くなってる。」
ふと目に入った白衣の胸ポケット。
僕は、白衣に色々な物を入れたまま準備室に置きっぱなしにしている。
たまに、なぜだか僕の私物は紛失するのだ…。
以前からちょくちょくはあったけど、最近はかなり頻度が高い。
職員室に置いてたカーディガンも無くなってたっけ…?
大物はアレ以来無くならないから同一犯ではなさそうだ。
「あのボールペン、買ったばかりなのに…。」
っていうか、犯人は複数いるようだ。
理科教師の私物を取ると何か良いことがあるってジンクスがあるのか…
もしくは、単なる集団嫌がらせか…
もう、そんなのどうでもいいな…
とにかく、全部がダルい…。
僕は、白衣を脱いでイスに投げた。
カバンを取ると、中で携帯が振動していた。
「はい。」
ディスプレイも確認せずに携帯にでる。
「西島君か?」
誰だか分からない。でも…どこかで聞いた懐かしい声に、僕は戸惑う。
「…は?
はい、そうですが…?」
「私だよ!
京都大の井川だよ、久しぶりだなぁ、西島君!」
(京大の井川教授)
僕は、突然の嬉しい相手からの電話に顔を綻ばせた。
「あぁ~ご無沙汰しております、井川教授!
えっと、お元気でしたか?」
井川教授とは、僕が25歳の時に発表したロンドンでの学会で初めて会った。
日本でも有名な化学者だ。
そんな有名人に会ったものだから、僕は興奮しながら挨拶を交わしたんだった。
懐かしいなぁ…
権威ある人だけに、気難しい人だったら…と、緊張したけど井川教授は素朴な明るい親戚の叔父さんみたいに気さくな人だった。
「元気よ!
西島君はどう?」
「まぁ…はい、ぼちぼちです。」
「はは…!
相変わらず煮え切らんね(笑)
それでさ、西島君。君、去年の夏頃に論文送ってくれたでしょう?
やっとこ一仕事終えて見たんだけど、今度の研究テーマに君の研究が合ってたもんだから驚いてね~!」
爽太に背中を押されて思わず、井川教授に出した論文だった。
すっかり忘れていた…。
「それで、君…本当に教師辞めんの?」
「はい…3月いっぱいで退職します。」
冬休みがあけて一番、僕は理事長に辞職願いを出した。
「それならさ、君の希望通り僕の元で助手してくれないかい?」
「え?良いんですか?」
ダメ元で送った論文だっただけに、嬉しい返事だった。
「まぁ…助手っていっても、研究チームリーダーでやってもらいたい訳さ。
まぁ、国立大の職員じゃ給料は安いけど良いかね…? 」
「もちろんです!」
願ってもないチャンスだ。
また、僕は研究が出来る。
しかも、環境や施設の整った日本屈指の京大でだ…!
まさか…こんな日が来るなんて。
僕の夢が、叶うかも知れないなんて…。
嬉しくて泣きそうだ…。
僕の京都行きが決まって、両親はとても喜んでくれた。
親父は密かに福岡に戻って来るのを期待していたみたいだが、僕が一度は諦めた研究者の道を再び進む事を応援してくれた。
「お兄ちゃん、荷物もちっとコンパクトにまとめんね!」
「一度に沢山いれると、重たくなりようもん。」
3月上旬、引っ越しの手伝いと表して実は東京見物に来た寧々と子ども達…。
僕が東京を離れたら、遊びに来るチャンスが無くなると見通したのだろう。
「しっかし、重たい本ばっかりやね!
頭おかしいんやなかと?」
「お前に言われたくなか!」
寧々と一緒だと、口論ばかりで先に進まない…
(ピンポーン…)
「お兄ちゃん、誰か来よったとよ?」
僕は埋もれた本や資料の片付けに追われて、身動きが取れない。
どうせ、新聞の集金か大家さんだと思っていた。
「すまん寧々、出とって!」
「え~~?もうっ。」
寧々は渋々、玄関に訪問者を出迎えに行く。
そして…
「お兄ちゃ~ん!
大変!!」
血相を変えて僕の所に駆け寄って来た。
僕は、寧々の後ろに身体をヒョイと向けて書斎からリビングの方を見る。
「寧々さん…相変わらずね(笑)」
訪問者は清美だった。
「あれ清美、どうしたと?」
あ…やべっ、訛った。
そんな僕を、清美はクスッと笑う。
「差し入れよ。
皆さんでどうぞ♪」
清美は、保温バックの中からお弁当を出して僕らに見せた。
空腹の僕らは生唾を飲む。
「あら?
寧々さん、お子さん達は?」
部屋には、僕と寧々しか見当たらない。
「今日は、旦那とディズニーランドに行ってます。」
寧々は清美に対して、つっけんどんに言う。
「あら、寧々さんは置いてけぼりなのね。」
清美も負けじと放つ。
この二人は同い年なのに、反りが合わない。
もしかしたら、同い年だからかも知れないな…
「お兄ちゃんの為ですから!」
(何で、別れた女房がここへ来ると?)
寧々はコソッと僕に耳打ちする。
「綺麗に別れたからよね?吉宗。」
苦笑いを浮かべる僕に、清美はにっこりと微笑む。
「地獄耳やね…。」
「まぁ…それはそうと、差し入れ食べようよ!
すごい美味そう!」
いそいそと、ダイニングに向かう僕の後ろで
小さく
「裏切り者…」
と呟く声がした。
「寧々も来いよ!
清美の料理は美味いよ?」
僕が手招きすると、寧々は渋々隣に座る。
「私、お兄ちゃんの東京弁好きじゃなか!」
好きじゃなかって…
さすがに、清美の前じゃ博多弁で喋るのは恥ずかしいよ。
あぁ、そう言えば…
清美と実家に帰ったときも僕は標準語で喋ってた。
家も仕事も全て、清美に合わせていた事を僕の両親も、寧々も快く思ってなかったのかもな…
今になって色々なものが見えてくる。
僕はダメだな…
そういう、人の気持ちに疎かった。
今なら分かるのに…
「寧々さんは、吉宗が大好きなのね…。 私みたいな高飛車な女に、大好きなお兄さんを取られたらそれは嫌になるわよね…。」
「清美は、高飛車じゃないよ。」
肩を落とす清美に、僕はすかさずそう言った。
「吉宗は優しいのね…。」
「なに…お兄ちゃんら、離婚して仲良うなったと?
本っ当に、バカバカしかね!」
むくれる寧々を前に、僕と清美は笑った。
清美とは、何でも話せる親友みたいな…そんな関係になれたら良いなと思った…。
「気に入らなか!
矛盾しとうよ!
お兄ちゃんには、好きな彼女がおるとよ?
清美さんは、何でそんなお兄ちゃんの近くにおると?
お兄ちゃんを憎らしか思わんと?」
寧々が、清美に詰め寄る。
正直、僕には耳の痛い話しだ。
「憎らしいわよ。
でも、それ以上に愛おしいのよね…近くにいたらまたチャンスが来るかも知れないし(笑)」
ね?と言って、清美は僕にウィンクして見せる。
本気…じゃないよな。
「お兄ちゃん、困惑しとうのがバレとうよ…。」
「本当に失礼しちゃう!」
僕は女性に弱い…
と言うより怖い…
あんなに長年いがみ合っていた、寧々と清美が楽しそうに僕の愚痴をこぼす。
もう、僕には二人の間に割って入る勇気はない。
ただ、ひたすら耳に蓋をして弁当を頬張った…。
3月中旬…花粉症の症状がピークをむかえてツラい。
終業式で、僕は生徒達に別れの挨拶を済ませた。
理科室に戻ると、こぞって泣いた生徒達に囲まれた。
「西島先生…っ」
「辞めないで下さいっ…」
その大半が、女生徒で驚く。
こんな…女の子達に囲まれた経験は無い。
「あぁ…泣かないで、ほら…ね?」
抱きつかれて、どうしたら良いのか分からない。
両腕が万歳した状態で行き場をなくす。
「モテ期だな。」
冷めた声に、僕は女子の輪の後ろを見た。
「そ…岡田。」
僕の一言で、女子の輪はあっという間に二股に別れる。
所詮、僕のモテ期など学園の王子様の前では虚しく終わるのだ。
「ちょっと、二人で話したい。」
その…「二人で」というフレーズに興奮気味の女生徒もいたが…何故?
「ごめんね、俺と先生は秘密の関係なんだ。
悪いけど最後なんだ、だから二人きりにしてね。」
「「「きゃあぁぁぁー!!」」」
黄色い声と悲鳴に包まれながら、爽太は僕を準備室へと押し込んだ。
中から鍵をかけて、小窓に破いたノートを貼り付ける周到さ。
「爽太…新学期からお前は、ホモの称号を与えられるぞ?」
僕は、爽太の行く末を案じて冷ややかに告げる。
「俺、女子高生に興味ないから丁度良いよ。」
やっぱり、年上好きか…。
シスコンだしな。
「爽太って彼女いんの?」
僕は思わず聞いてしまった。
内容的に、爽太の逆鱗に触れそうな質問だ。
「いるよ。」
「年上?」
すんなりと答えが返ってきたもんだから、僕は調子にのって更に聞いた。
「医大生の23歳だよ。」
リアルな方じゃないか~!
リアルシスコンだろう!
それは、まずいって…
「爽太ぁ~…。」
僕はうなだれて爽太の肩を掴んだ。
「それより…」
「それよりって…」
爽太がじっと僕を見つめた。
「姉さんの結婚式…4月1日だから。」
4月1日…
僕はもう、東京にはいない。
「…4月の1日。
それを僕に伝えて、どうするつもりだ?」
そんな事を言う爽太に、苛立ちを覚えた。
今更…僕に、何が出来る?
「別に…ただ、知っておいた方が良いと思って。」
知りたくなかった。
僕は、それが答えなんだと言わんばかりに爽太を睨み付けた。
「先生…ごめん。」
「何が…?
どうしたんだよ、お前が謝る事なんて何もないだろ?」
いつもの爽太らしくない…
何だか調子が狂うな…
「僕と美桜の事だったら、お前が気に病む事じゃないよ。」
これは、二人で決めた結果だ。
だから、爽太を責めるつもりはさらさらない。
「そうじゃないんだ…。俺は、姉さんを巻き込んで……いや、何でもない…。
何でもないよ…ごめん…。」
まるで呪文の様に繰り返えされる爽太の(何でもない)が、返って何でもなくないと言っているみたいに聞こえた。
「どうした?
大丈夫か?」
僕は、爽太の頭を撫でる。
いつも対等にケンカばかりしていたけど、爽太はまだ17だ。
大人ぶっていても子どもなんだよな…
背だってこれからまだまだ伸びて、いつかは僕を越える高さになるかも知れない。
「姉さんを…守ってやれなくてごめん。 先生に渡してやれなくてごめん…。」
俯いた爽太の足元に、無数の雫が落ちた…。
彼の涙を見たのも、嗚咽を聞いたのも、これが最初で最後だった。
「良いよ、爽太。
全部…美桜が決めたんだ。
姉さんを信じてるんだろ?
これからも、それで良い…良いんだよ。」
僕は、爽太を抱き寄せて背中をさすった。
この背中に背負う負担の重さ…
僕が半分でも、背負う事が出来たなら
君達は泣かなくて済むのに…
謝るのは…僕の方だ。
爽太…ごめんな…
「兄さん…!」
耳を疑うような嬉しさを強く抱きしめよう…
「至らない兄でごめん…。」
「兄さん…。」
あぁ…終わらない夢があるなら…
もう少しの間だけ…
この愛しき弟と、色々な事を語り合いたかった…
3月下旬…
僕は新居に運ばれた荷物の整理に、早くもウンザリしていた。
本当に書物が多いな…
こだわり通りに並べなきゃ気が済まない性分を呪う。
「クソっ、めんどくさいな。」
僕が梱包した本は、直ぐに仕舞えるようにと予め順番通りに入れておいた。
だが、寧々が梱包したダンボールの方はメチャクチャに入れられてあった。
手伝って貰っといてワガママなのかも知れないが、やるならキチッとしてもらいたいのだ。
「これからもっと増えるよな…。」
書物で部屋が埋め尽くされるだろうと予測して、2LDKの部屋を借りたが…もしかして甘かったかも。
なんとなく、単身者がファミリータイプの部屋を借りる事に抵抗があった。
だって…何だか淋しいじゃないか。
そんな事を思いながら僕は、腕時計に目をやる。
「やばっ…!」
針のさす時間に、僕は片付けも早々に大学へと向かう準備をする。
スーツ?
いや、講師じゃないし…
トレーナー?
じゃ、カジュアル過ぎるか…
結局、ボタンシャツにカーディガンを羽織る。
僕の定番スタイルだ。
髪も少しだけ短く切った。
ヘアワックスおでこを出してみる…
「ダメだ…似合わない。」
無理に大人っぽくさせた高校生みたいだ…
急いで前髪を元に戻す。
鏡の前でいつもの僕が、ぶっちょう面を向けている。
「法令線くらい深くなれよ。」
この童顔のせいで、同年代からは舐めて見られるんだよ…。
ましてや、年下にまでおちょくられるんだ…。
この上、大学に行って学生と間違われようものなら…
僕は、立ち直れない。
憂鬱な気分を抱えて、僕は家のドアを開ける。
そして、新しい生活への一歩を踏み出す。
赤レンガ造りの歴史ある大学の風貌。
時計台が母校を思い出させる。
「やっぱ、似てんな…。」
春休みなのに、行き交う学生の多さに驚く。
何と言うか…さすがだな。
ここの学生は、東大とは違う…どこか、ゆったりとした柔らかい雰囲気を放っていた。
「良い感じだ…。」
僕はポツリと呟き、井川教授の研究室を目指した。
「え~と…」
まず、研究室が多くて迷う。
理数系の極みというように、これでもか!ってくらいある。
「編入の院生ですか?」
案内書を手にうろついている僕に、白衣を着た男性が声を掛てきた。
(院生…。)
無視してやろうかと思った。
しかし、彼には悪気など微塵もない。
「井川教授の研究室はどちらでしょう?」
僕は、白衣の彼に聞いた。
「あ、それなら僕も同じ研究室なのでご一緒しましょう。」
なんと…!
それは、ツイてる。
「良かった、じゃぁ…よろしくお願いします。」
僕は彼に頭を下げてついて行く事にした。
「どちらの大学からいらしたんですか?」
研究室に向かう途中で、彼が聞いてきた。
僕は苦笑いを浮かべる。
きっと、朝からこんな展開を予想していたから。
「僕が、大学院を卒業したのは10年以上前ですよ(笑)」
「えぇ?!」
思った通りのリアクションだ…
いい加減…慣れたよ。
「いやぁ!西島君、久しぶり!!」
研究室に入ると井川教授は、高笑いを上げて僕の肩を叩いた。
「痛っ…ご、ご無沙汰しております。」
相変わらず、テンションの高い人だ…。
「それにしても…変わらないなぁ、君は。
何かしてるの?」
「な…何か?」
戸惑う僕に、井川教授はマジマジと僕を見つめる。
「西島君、ヒアルロン酸入れてる?」
真顔ッ!!
真顔で聞かれたよ!
「入れてませんよ!!」
「入れてない?!
それでこんな、ハリツヤをキープしてんの?」
井川教授は、僕の顔をジロジロと見て一周する。
何だよ…
おじさんに、こんな観察されるのはいい気はしない。
僕の身は縮こまる。
「な…なんですか?」
教授は小さく(う~ん…)と唸る。
「西島君の血液細胞採らせて?
君の体内の細胞に、不老不死のヒントがあるかも知れない。」
「嫌ですよ!
それに、僕だっていつかは死にます!」
(天才は奇なり…)
結局、僕は教授に血液採取された…。
興味のある事は全て調べる。
教授のモットーだ。
「ところで…さっき、山部君に聞いたんですが…僕が、助教授って一体どういう事ですか?」
僕は、消毒液が染み込んだ脱脂綿を腕に押さえて教授に問いた。
「あ、聞いちゃった(笑)?
内緒にしてビックリさせてあげたかったのに♪」
56歳のおっさんがおちゃらける…。
「びっくりしましたよ…。」
「テヘペロッ♪」
テ…へ…ペロ?
なんだろうな…この人。
こんな感じの人だったっけ…?
いまいち、扱い方の分からない人だ。
「あの…井川教授? それって、ドッキリとかじゃないですか?」
遊び好きの教授なら考えられる…
それに…「助教授」ってワードが気になった。
よくよく考えてみれば、2007年に助教授制は改正されたはず…もし、その話が本当ならば助教授ではなく准教授と言われるはずなんだが…。
僕は、からかいやすいからなぁ…。
学生を巻き込んでのドッキリを仕掛けられている可能性が高い。
僕は、疑いの眼差しを教授に向けた。
「あはっ…はははっ! 西島君、君面白いね(笑)」
教授は、そんな僕を見て笑う。
「エイプリルフールも近いしね(笑)
でも、嘘でも冗談でもないよ。
君の論文を読んで賛同したお偉いさん方の推薦もあったし、この研究のリーダーは、発案者の君が一番相応しいだろ?
自然の流れだよ。」
研究リーダー…?
僕が指揮をとるって事なのか…?
「僕は、教授の助手じゃないんですか?」
「うん、僕は責任者。で、君は研究者。 君がやらないで誰がやるの?
西島君さ、自信あるから僕に論文出したんだよね?
いずれ、形にして世の中に出す意欲があったんでしょ?」
世の中に出す…
そこまで行ければ良いとは思っていたが、実際にそれが出来るかどうか…
自信があるかと聞かれたら迷う所はある。
僕は、返事に困った。
「形にしなさいよ。 これは、世界中の注目を集める研究だよ?
地球の緑化を、微々たる菌で実現できるかも知れない。
そうすれば、温暖化だって防げるかも知れない。
君が、未来を作る手助けになるなら国だって費用を惜しまないって言ってるんだ。
迷う暇なんて無いんじゃないのかね?」
教授の熱い眼差しが僕に刺さる。
そこには、あの陽気なおじさんはもういなかった。
僕は、教授の真剣な顔を見て意を決める。
深く息を吸って吐く。
「分かりました。
必ず、成功させます。」
その為に大学へと戻されたなら、精一杯の事をしよう。
もう二度と
後悔はしない。
「よし、よくぞ言い切った!
じゃぁ、これ…任命書ね♪」
教授はニッコリと笑って、僕にむき出しの任命書を手渡そうとした。
僕がそれを受け取ろうと手を伸ばした時だった…
「ん?」と疑問符を浮かべて教授の手が止まる。
「西島君。」
「…はい?」
マジマジと不思議そうに任命書を見つめる教授に、僕も伸ばした手を引っ込めずに止まった。
「いつから助教授を准教授って呼ぶようになったのかなぁ?」
「えぇーーッ!!」
ガチで知らなかったのか!!
本当に、研究以外の事に興味が無いんだな…
と言う事は、山部君も同じか?
僕は苦笑いを浮かべて教授に説明をしたが、
「あぁ、そうだったね…。」
と、まるで興味が無いという様な返事が返ってきた。
誰もがなりたいと狙う准教授の座を、僕はこんな緩い感じで手にしてしまった。
締まらないなぁ~…
でも、そこが井川教授らしい(笑)
気持ちが柔らかくなる。
その日から僕は、ほとんどを研究室で過ごすようになった。
確かに、これだけ籠もってたら外の話題性に欠けるのは納得出来る。
「どう西島君、進んでる?」
「えぇ、土台はかなり進みましたよ。
至って順調ですね。」
研究室に入ってもう、一週間近く経っていた。
「僕の研究も順調だよ~。」
嬉々として話す教授に、僕は困り顔を向ける。
今、こうして教授との会話をしている最中ですら、僕は腕に採血用の注射を刺されているのだ。
「西島君さ、細胞の成長が遅いんだよね…稀にいるんだよ。」
僕の細胞は、ある一定の成長を遂げた後に細胞分裂が遅くなるケースらしい。
つまり、成人した後の成長が遅くなる遺伝子を持ってるという事なのだ。
幸か不幸か…
「成長ホルモンの数は多いのにね、不思議だよねぇ…。
あと…そうだ、これも化学的に言ってもいい?」
「なんですか?」
もったい付けた様な教授の態度に、僕は不安を過ぎらせる。
「最近、恋してた?」
一瞬、心臓がドキッと跳ねた。
「僕が、恋をしていたかなんて化学的にどう関係が…?」
胸を押さえて冷静さを装う。
「うん、だってさPEA数値が高いから。」
PEA…!
僕は自分の体温が上昇していくのが分かった。
「更には、ドーパミン、オキシトシンにエストロゲンもやや高かったし…これは、間違いないんじゃないかと思ってね。 君の肌艶が良いのはそのせいだろう。」
僕は火照った顔を俯いて隠す。
「化学者は嫌いか(笑)?」
教授は僕の表情に、「ビンゴ!」と指を鳴らす。
チクショウ…!
血液なんか取らせるんじゃなかった。
「で?で?可愛いの?
ん?どうなのさ?」
あぁ…鬱陶しい!
「放っといて下さい!」
僕は、採取の終わった腕を乱暴に引いた。
教授はお得意の「テヘペロ」だ。
ドリントル玲奈のファンらしい。
因みに、教授のテヘペロはちっとも可愛くない。
むしろ、イラッとする…。
「ごめんって!機嫌直してよ。
それよりさ、引っ越しの荷ほどき終わった?」
「終わってませんよ…そんな時間無いですもん。」
思い出しただけで憂鬱になる…
「あっそう!
なら、ちょーど良かった♪」
その不敵な笑みに、僕はまた嫌な予感を抱くんだ…。
今度は一体なんだ?
いつも話が唐突で、身構えちゃうんだよな。
「土台作りが完了してデータ採取の準備が出来たらさ、研究の場をボストンに移して本格的にこっち(京大)と連携プレーして欲しいんだよ。」
ボストン…
「西島君、MITに留学経験あるでしょ?
エドガー教授に話したら共同開発したいって、君を呼びたいと頼まれた。」
「留学って、僕は在学中の2年しか行ってませんよ?!
そんな…いきなりMITの研究室だなんて…!」
無茶振りもいい所だよ…
「エドガー教授は君をかってるし、研究規模は半端ない。
これ以上の名誉は、君にも僕にも大学にも無い事だ。」
それは…そうだよな。
僕は、後悔しないと誓ったんだ。
だったら…
「行きます。
これ以上の喜びはありませんから…。」
ボストン…
データ採取の準備完了まで、急いでも3ヶ月は掛かる。
早ければ、夏には日本を旅立つ。
旅じゃないか。
不意に、去年の美桜との夏を思い出す。
カレンダーが、明日は君の結婚式だと知らせる。
僕の胸が焦げて虚しさを掻き立てる。
明日…君は、何を想う?
僕を想ってくれるのだろうか…
美桜and爽太side~
( The Last Wish)
4月1日…
光差し込むステンドガラスに、鳴り響くパイプオルガンの賛美歌…
真紅のバージンロードを純白のドレスに身を包んで一人歩く…。
神の祭壇の前に跪いて赦しを請う。
「どうか…私の罪が、爽太の罪が赦されます様に…。」
…この身が、あの人のものである事を認めて、ずっとそう…あり続ける事を許して下さい。
どうか…
罪深く不純である私をお許し下さい…。
不純だった…
それでも…私には…
眩しいくらいに光輝いていた愛でした…。
たった一つの「純愛」だったと…
そう、思っています…。
この想いと引き換えに、どうか…
私達の罪をお赦し下さい…。
ガチャリ…と大きな音を立てて重い教会の扉が開く。
外の光が伸びて祭壇と私を照らす。
「どういう事だ?
美桜…!」
怒りの表情を浮かべて本上先生が立つ。
「何故、招待客が誰も来ない!」
カツカツと白い靴を鳴らして私に近寄って来る。
「…ごめんなさい。」
手に握った吉宗さんのカーディガンのボタン。
どうか…私に、この人と立ち向かう勇気を下さい…!
「俺を、騙したのか!!」
掴まれた手首を、振り解く事は出来ない。
先生は、怒りに任せて私を招待席へと投げ飛ばす。
咄嗟にお腹を庇って、支える。
もう、二度と(この子)を危険な目にはあわせられない。
「私、本上先生とは結婚出来ません…っ。」
「なんだと?
今更、なに言ってる?
病院がどうなっても構わないのか!!
いいか!俺は本気だっ!!」
何が…アナタをこんな風にしてしまったの…?
私の知ってるアナタは…
私は、脚を精一杯伸ばして本上先生の頬に手を触れる。
「私の好きだった先生は、どこに行ってしまったの…?」
「え…?」
先生…アナタは気づかなかったでしょう。
いつも私を見ている様で、でも…実際はそうではなかったから。
「知らなかったでしょう…?
私の初恋が、先生だった事…。」
本上先生の瞳が、子どものように澄んで私を見つめる…。
「…何だ…って?」
私は、先生を見つめ返して微笑む。
「今…なんて言った…?」
膝から崩れ落ちるアナタを抱き締めて、私は瞳を閉じる…
少しだけ昔の話をしましょうか…。
6年前―…
桜が散って、新緑が生い茂る4月の中旬…
私は、20歳の誕生日を迎えた。
大学に入って2年目。
「付き合って下さい!」
「…えっと…ごめんなさいっ!」
私は、同じ学部の同級生に告白された。
その場を逃げるように、足早に立ち去った。
「みーおっ!」
後ろから、友達の弥生に肩をポンと叩かれる。
「弥生、今からゼミ?」
「うん♪それより、さっきまた告られてたでしょ~?
今年入ってこれで何人目?」
「さぁ…ね…」
この手の話題は苦手…。
元々、男性が苦手なのだ。
「美桜って好きな人いないの?」
好きな人…
私は、本上先生を想って鼓動を高まらせる。
「いるけど…私、相手にされてないわ。 妹くらいにしか見られてないの。」
だって…先生には多分、大人の彼女がいる。
前に、お台場で見かけたの。
先生と、腕を組んで歩く後ろ姿の美しい女の人を…。
先生の表情が、私を見る瞳とは違って…なんだか大人っぽくて艶っぽくて…思わず嫉妬した。
「年上なんだ?
美桜って、可愛いからね~♪こう、小動物って言うか…うん、年上相手ならもうちょっと色っぽくならないとね(笑)!」
色っぽくかぁ…
あの女(ひと)は色っぽい雰囲気だったなぁ…。
女の私が、後ろ姿に惚れ惚れしてしまうほどなんだから…
先生は…
その先を考えると、胸が締め付けられる。
「背がせめてあと、5cm大きかったらなぁ。」
その日、大学が終わると私は路面のショップに立ち寄った。
大好きなセレクトショップの憧れの靴。
本当は、ヒールなしのバレエシューズが欲しかったんだけど…
「これ、履かせてもらっても良いですか?」
棚の二段目にあった、赤いパンプスを指差して店員さんに言った。
「こちらですね、どうぞ♪」
店員さんは、にっこりと微笑んで足元にその靴を並べてくれる。
足を入れて、立って見る世界。
少しだけ目線が高くなる。
「とてもお似合いですよ!」
鏡に映る自分の姿。
似合っているだろうか…?
ヒールに慣れてないからバランスが取りにくい。
少し歩こうとして、足首がガクッとなった。
「きゃっ…!」
絶対転ぶ!!咄嗟に目を閉じる。
「あぶねっ!」
支えられた身体と聞き慣れた声に、閉じた瞳を恐る恐る開けた。
「本上先生っ…何で、どうして?」
こんな姿、恥ずかしい…!
「外から美桜ちゃんが見えたから。
その靴、気に入ったの?」
「あ…いぇ、なんとなく…。」
まさか、大人っぽくなりたくて…なんて言えない。
「う~ん、美桜ちゃんはこっちの方が似合うよ。」
先生が取り出したのは、私が前から欲しいと思っていた方の靴だった。
「履いてみて。」
インスピレーションが同じで嬉しさから、私は勧められるままその靴に足を通す。
「うん、やっぱりこっちだな(笑)」
先生の笑顔に、私も自然と笑みがこぼれた。
「コレ、プレゼントするよ。」
「え?そんな、いいですよ!
ちゃんと、自分で買えますから…!」
一年に一度の誕生日は、父さんから送金されたお金を使うのが私のルールだった。
錯覚でも、祝ってくれている感覚が欲しかったから…そう決めていた。
「美桜ちゃん、今日誕生日だろ?
これくらい、贈らせてよ♪」
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迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 512HIT 旅人さん
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