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不純愛

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アキ( W1QFh )
13/03/05 23:46(更新日時)

―この愛は、純愛ですか?



―それとも、不純ですか?

No.1526080 11/02/16 22:04(スレ作成日時)

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No.301 12/05/03 05:58
ゆい ( W1QFh )



週末はいつも人気で混んでるイタリアンレストランも、平日は割と入りやすい。

「ここの、アボカドクリームパスタが美味しいんですよ♪」

誕生日に、好きな人と食事が出来る嬉しさに舞い上がっていた。


「じゃあ、俺それにしよ♪」


先生は、「すいません」と注文する姿もスマートでかっこいい。


さり気ない事なんだけど、先生のしなやかさは昔から憧れる。


「ところで美桜ちゃんさ、彼氏とか作らないの?」


唐突な質問だった。

「彼氏…?そんな…考えた事ないです…。」


何でそんな事聞くの…?


「美桜ちゃん大学でモテるって聞いたよ?
もったいないよ、良い恋愛は女の子を綺麗にするのに…。」

女の子を綺麗にする…


先生とあの人は良い恋愛をしてるんだ…。


「彼氏…なんて、いりませんよ…。
私、大学院まで進みたいし…今は、勉強を頑張りたいですし。」


「美桜ちゃんなら十分、院にも進めるよ。
なぁ、俺の医学部の後輩に美桜ちゃんを気に入ってる奴がいるんだ。
一回、一緒に交えて食事でもしないか?」


何で、そんな事言うの…?


せっかく、20歳になったのに…


「本上先生…私は、先生にとってどんな存在なんですか?
彼氏を紹介しなきゃいけないくらい面倒な存在ですか?」


いい加減、側にいるのが面倒と思っているならハッキリそう言って…


「面倒だなんて…違うよ、俺は美桜ちゃんにとって兄貴みたいな存在でいたいし、美桜ちゃんは誰よりも大切な妹のような存在だと思ってるよ。
ごめん、後輩の話は聞かなかった事にして…?」


私が、聞かなかった事にしたいのは…今、先生が言った事よ。


妹って言われるのが 一番辛い。


この日、私は先生を諦める決意をした。

待ちに待った20歳を…

叶える為ではなく、諦める年にしてしまった…



そして…その2年後―


私は、また恋をする。


一度も会った事のない、顔も知らない人…。


彼の残した研究の記録…


計り知れないほどの想像力と、考えられない位の計算力で導く次の世界。


彼は誰?
どんな人…?


彼の頭の中にはどんな世界が広がっているの?


論文にだけ名前が残る。


(YOSIMUNE NISIJIMA)


「にしじま よしむね…」


刻まれた名前をなぞって、私も彼の様になりたいと強く願った…。

No.302 12/05/03 06:36
ゆい ( W1QFh )

私の中で、まだ見ぬ吉宗さんが膨らんで、気づけば本上先生への恋する気持ちもなくなって行った…。


その間に、先生が弥生と付き合っていたという噂を耳にした。


私と同じ年の弥生は、先生にとってはちゃんとした女性に見えたのだろう…。


正直…それが、決定的な先生への想いを断ち切ったきっかけとなった。


私は…瞳を開けて現代へと時を戻す。


私の話を聞いた先生が、蒼白した顔で私を見つめる…。


「美桜ちゃん…君は、俺を愛してくれていたのか…?」


先生の手が私の頬に触れる…


私は、その手をとって小さく頷いた。


流れる涙に、あの日々のアナタが蘇る。

「先生…ずっと、言えなくてごめんなさい。
もっと早くに言えていたら先生をこんなに、苦しめなくて済んだのに…」


「違う…違うよ…。 美桜ちゃんを想う気持ちに蓋をして、君をちゃんと見なかった…勝手に廃れた俺が悪いんだ…。
美桜ちゃん、すまない…俺は…っ!」


先生は、兄を一番最初に助けようとしてくれた人…


「生きろ」…と何度も呼びかけて諦めないでくれた…


朦朧とした意識の中で、アナタだけが絶望の縁から希望を与えてくれた人だから…


「ありがとう…先生。
もう、アナタは自由に生きられる。
柵から一緒に抜け出して…。」


先生の頭を撫でて、私は立ち上がる。


この先に待つ、私達の運命を変える為に…


絡まって、もつれた鎖を解きに行く…


「美桜ちゃん…?
何をするつもりだ…?」


不安気な先生に、私は笑ってみせる。


「人生を取り戻しに行くの…。」


踵を返して向かう。
光の差す道へ…


失ったものを全部…

取り戻す為の戦いに向かって…

No.303 12/05/05 20:39
ゆい ( W1QFh )



岡田総合病院大会議室―…


総出で手を挙げる幹部達を前に、父さんは静かに眼鏡を外す。


「山城…お前はいつから、爽太の犬に成り下がった?」


眼鏡越しじゃない父さんの瞳を見るのはいつ以来だろう…。

「私は、爽太さんの考えに賛同しただけです。
この病院の行く末を考えた結果でございます。」


瞳に涙を浮かべて山城さんは答える。


俺は…


今日…父さんを院長から失脚させた。


残酷なやり方で…

No.304 12/05/05 21:14
ゆい ( W1QFh )


朝日が昇るとベッドから降りて、俺は黒いスーツを着てネクタイをしめた。


鏡の前で、恐ろしいくらいに父によく似た俺が立っている。

その姿を見たまま、俺は携帯を手にした。


数回の呼び出し音の後で、山城さんが「はい。」と出た。


「…俺です。
計画通りに幹部達を集めて下さい。」


「はい、かしこまりました。
…爽太さん?」


「はい?」


「朝食…ちゃんと召し上がって来て下さいね。」


いつもの山城さんらしい気遣いに、緊張がほぐれる。


「うん…しっかり食べるよ。」


それじゃ、と切った電話の後…


俺は言い付け通りに、家政婦の用意した朝食を残さず食べた。


「爽太さん、今日はスーツなんて着て珍しいですね。」


新しい家政婦には姉さんの存在は知らされていない。


「今日は、お姫様の結婚式なんだ…。」

「お姫様?
爽太さんったら、また変な事おっしゃって…(笑)」


クスクスと笑う彼女に、俺も小さく笑ってみせる。


「ラプンツェル…っておとぎ話知ってるだろ?
高い塔に隠されてたお姫様の話だ。
そのお姫様によく似た境遇の人が、やっと塔の中から世界に羽ばたく日なんだよ…。」


「??難しくてよく分かりませんわね…。」


困惑する家政婦を前に、俺は姉さんを想う。


姉さんが、この家には戻らないと決めて…

父さんと向き合う覚悟を決めた。


岡田家の長男として、俺も一緒に戦う。

もう一度、家族になれる日を夢見て家を出た。

No.305 12/05/05 21:51
ゆい ( W1QFh )



病院に着くと、医師や看護師達はこぞって俺に頭を下げる。

当たり前になっていたそんな光景…


優越感に浸った事は一度もない。


山城さんと並んで進んでいると、向こう側から(亜子)が歩いてくるのが見えた。


俺は、歩みを止める。


「私は、先に行ってます。」


気を使う山城さんに俺は「うん…。」とだけ答えて、亜子はぺこりと頭を下げた。


「人の目があるから、こっちへ…」


腕を取って、亜子はリネン室に俺を連れ入れる。


「大学は?」


「ちゃんと行くわ…それより、爽君が心配で…」


亜子のしなやかな手が、俺の肩に掛かる。


「大丈夫だよ…。
それより、この間はありがとう。
おかけで機密文書が手に入った。
沙羅さんにお礼を言っておいて。」


「えぇ…。
沙羅も乗り気じゃなかったけど、爽君が本上先生の名前は出さないって条件で飲んでくれたのよ。
爽君にも、沙羅からお礼を言われたわ。」


本上の家に保管された癒着の証拠品…


手に入れてくれたのは、兼ねてから本上と関係をもっていた看護師の沙羅さんだった。


亜子の親友だ。


頭の悪そうな振りして、実は相当なやり手の沙羅さんはいざという時に頼りになる人だ。


「爽君、お姉さんは大丈夫なの…?」


亜子の問いに、不安が過ぎった。


うまく…本上を振り切れるだろうか…。

姉さんは、本上に秘密を打ち明けて必ず戻ると言った。


秘密…ってなんだ。

それは…本上を宥め落とす事が出来るくらいの秘策なんだろうか?


「姉さんを信じて待つよ。
亜子、心配してくれてありがとう。
…大好きだよ。」


俺は、亜子を抱き寄せて額にキスをする。


「うん、頑張って。 爽君…スーツ姿カッコいいよ。
惚れ直しちゃった♪」


彼女は、そう言って襟元を直してネクタイを整えてくれる。

「当たり前だろ。」

この先、どうなるかは分からない。


亜子とも…


それでも、この決断を下した事の後悔はしない…

No.306 12/05/05 22:47
ゆい ( W1QFh )


大会議室の観音開きのドアを両手で開ける。


ぐるりと一周する会議室の席に、幹部達が腰を据えて一斉に俺を見る。


その蒼々たる顔ぶれに、思わず息をのむ。


モニター下の中央席には、急遽…しかも勝手に顧問会議を開かれたブチギレ寸前の父さんがいた。


「どういう事だ、爽太。」


姉さんを捨てきった時と同じ眼差しが俺に突き刺さる。


「会議の当事者が爽太…?」

「まさかっ…彼はまだ高校生だろう…?」

「なんの茶番だ…、こっちは午後から手術が入ってるんだ!」
「北先生、忙しいのは外科だけじゃないでしょ!」


招集をかけたのが俺だと気づくと、幹部達が一気にザワつき始めた。


常識で考えれば、その反応は当然のものだ。


「お静かに…!」


山城さんの一声で、野次にも似た罵声が消えた。


俺は息を整えて、機密文書のコピーをモニターに映し出した。


どよめく幹部達に、父さんも後ろを振り返ってモニター見る。


違法な医療献金と、政治家への癒着事実が赤裸々に記された記録。


硬直する父の姿に、山城さんは目頭を押さえて視線を背けた。


長年、父に仕えてその身を一心に捧げてきた。


俺の計画に、苦渋の判断を下してくれた。でもそれは、山城さんにとって父を裏切る行為だ…。


心が痛まないはずがない。


俺は、山城さんを真っ直ぐ見つめて小さく頷く。


それを確認した山城さんは俺に深く一礼する。


俺は意を決めて、父さんの方を見た。


No.307 12/05/05 23:13
ゆい ( W1QFh )


「私…岡田 爽太は、父である岡田 章一の院長解任を求めます。」


大きな波の様に飛び交う怒涛の嵐に、父さんは力無く椅子へと凭れた…。


「爽太…お前っ…!」


憎しみの込められた父さんの視線を受けても俺は続ける。


「なお、これまで第一秘書を努めてきて下さった山城さんには引き続き経営を…そして、新院長には産婦人科医の山城 陽一氏を任命致します。」


幹部席に座っていた陽一さんがスッと立ち上がって全員に一礼する。


「あくまで、僕の肩書きは仮です。
これからマスコミが嗅ぎ付けて当院の不祥事をさらけ出すでしょう…僕は、その尻拭いをやる覚悟で院長に立候補しました。
もし、他に異論や自ら院長になると公言される方がいらっしゃれば、どうぞ名乗り出下さい。」


陽一さんの言葉に、誰もが口を閉じた。

そして次の瞬間、パチパチとまばらな拍手が起こった。


誰も、文句はないと言う事だ。


マスコミ対策の尻拭い…これが効いたか…。


「…悪評から患者が減って病院は潰れないのか…?」


ポツリと誰かが呟いた時…


会議室のドアがガチャリと開いた…。

No.308 12/05/06 00:06
ゆい ( W1QFh )


白いスーツで、パンプスを鳴らしながら姉さんはやって来た。


その佇まいがその場の淀んだ空気を断ち切る程、凛としていて美しかった。


アップに上げられた髪が、見違えるくらいに大人っぽい。


「美桜…さん?」

「まさか…何故、美桜さんが?」


姉さんの登場に、またもや会議室が騒然となる。


「皆さん、お久しぶりです。」


姉さんは、深々と幹部達に頭を下げた。

「今日、こうして皆さんの前に来させて頂いたのは…これを、皆さんにお返しする為です。」


姉さんは、山城さんの運んだトランクを皆の前に開けてみせた。


「「これは…っ!」」


「病院の経営権です…3ヶ月後、岡田総合病院は潰します。」

「美桜っ!!」


怒り狂う父さんが姉さんに近寄よる。


俺と、山城さんと、陽一さんが、その前に立ちはだかってそれを阻止する。


「すみません…父さん。
でも、マスコミを抑える限界は3ヶ月しかないんです…このネタは既に「週刊文明」に売りました。
独占スクープの代わりに3ヶ月待ってもらう約束で…。
その後、一度は病院を手離して今後は陽一さんと幹部の皆さんで経営をして欲しいのです…。
病院のその後の事は…皆さんを信じて、母が私に託した経営権を皆さんにお返しします。」


大手の週刊誌にネタを売る代わりに、他のマスコミに情報が漏れないよう徹底配慮してもらい、さらに売ったネタの発表を3ヶ月後と取引をしたのは姉さんだ。


その間の僅かな時間で、病院の再生準備を計らう…


姉さんが選んだのは岡田家の病院ではなく…患者や、働くスタッフ達の事を一番に考えた末の選択だった。


最高顧問会議では、「経営権」を所持する姉さんが絶対的権力者になる。


企業でいう所の大株主ってとこか…


父さんは、自分以外の誰も信用しない。

それで、病院の心臓部分になる経営権を姉さんと共に隠した。


まさか…こんな風に姉さんが皆の前に差し出すとは、夢にも思わなかったはずだ。


その落胆は大きい…

だから、姉さんは…自分の身を削る覚悟で、これからの父さんを守っていくと決めたんだ。


これが、俺達姉弟が選んだ家族の守り方だった…。


父さんを、病院の繁栄という欲から守るにはこれしか方法はなかった…。


No.309 12/05/06 02:40
ゆい ( W1QFh )



改めて、顧問委員会で全員の院長後退の挙手が挙がると、父は黙ってその場を後にした。


山城さんは心配そうに父の後を付いていく。


俺と姉さんは、今後の対応を説明すべく会議室へと残った。

「これからは皆さんでこの病院を良い病院へと作り替えて下さい。
それから…今まで、父を…岡田 章一を支えて下さってどうもありがとうございました…っ。」


姉さんが最後の挨拶に深く一礼する。


俺も並んで頭を下げた。


最後の一人になるまで頭は上げなかった。


途中、何人かの幹部が姉さんや俺の肩を叩いて労いの言葉を掛けてくれた。


「もう、頭を上げて下さい。」


一人残った陽一さんが、俺らにそう言った。


「陽ちゃん…。」


「良く頑張ったね、美桜ちゃん。
とても立派だったよ。」


陽一さんは、今にも泣き出しそうな姉さんに優しく微笑む。

「お腹の子は?順調かい?」


「ありがとう、陽一さん。」


にこやかに姉さんのお腹をさする陽一さんに、俺は言った。

あの時…陽一さんがいなければ姉さんも、お腹の子も危なかった。


それに…今回の事も…


「爽太君、僕は君が立派な医師になって帰って来るのを待ってるよ。
その時は、預かった院長の椅子を返すから…必ず良い医師になれ…!
それが、僕に対する借りの返し方だ。」

「…はい…っ。」


陽一さんの優しさと、期待に応えたい。

俺は、涙で滲む陽一さんの顔を見つめて誓った。


そして、確信する。

陽一さんの手で、必ずこの病院は生まれ変わる。


俺と姉さんや山城さん達が望む理想の病院へと…

No.310 12/05/06 03:27
ゆい ( W1QFh )



最後に、俺と姉さんは院長室に寄って父さんの荷物を纏めた。


「お母さんだわ…。」


デスクの一番下に、写真立てが隠すように入っていた。


柔らかい笑みを浮かべた姉さんの母さんだ。


雰囲気が姉さんによく似てる。


「爽…これ。」


その写真を取り出すと、後ろに重ねた状態でもう一枚写真が出てきた。


俺は、その人の面影を探る…


「母…さん?」


写真の中の俺を抱いた女性…


この腕の温かさを、その瞬間だけ思い出した。


「母さんだ…。」


「そうよ、爽のお母さんよ…。
父さんはずっと忘れずに、爽のお母さんも愛していたのね…。」


姉さんは俺を抱き寄せて、嬉しそうに微笑んだ。


母さんは父さんに愛されていた…。


嬉しかった。


記憶の断片にしか思い出せない俺の母親を、父さんだけは忘れずに想っていたんだ。


「…それだけじゃないよ。」


突然した声の方に俺達は視線を向けた。

開きっぱなしの扉から、本上が腕組みをしながら入って来た。


黒のYシャツに、白衣姿だった。


「本上…どうして…」

「本上先生だろ? お前、本っ当に末恐ろしいガキだな。
まんまとハメられた…。」


そう、言いながら俺の横をすり抜けて資料庫を開ける。


「先生…?」


何かを探る怪しげな行動に、姉さんが本上を伺う。


「はい、美桜ちゃん。」


本上は、資料庫の奥から取り出したアルバム?を姉さんに手渡す。


「これ…!」


姉さんの驚いたリアクションに、俺もそのアルバムを覗いてみた。


全部が、姉さんの写真だ。


しかも…家を出た後のやつだ…


「中学・高校・大学…高校の臨時教員と最近のものも含めて、あの人は常に美桜ちゃんの動向を気にしてたよ。
君の成長をずっと見て来てた。」


「私の事なんか…気にもしてないと思ってた…。」


俺は、涙ぐむ姉さんの手を握った。


「あの人は、誰も愛さないんじゃない。 愛し方を知らないんだ。
それを伝える術を知らないんだよ…。
俺と同でな。」


「本上先生…。」


「そんな顔で見つめるな…。
また、君を愛してしまうだろ?」


キザ野郎…


だけど…今日くらい姉さんを抱き締めるのを許してやる。


ただし、5秒だけだ。

No.311 12/05/06 03:44
ゆい ( W1QFh )



俺が目を瞑ってる間にさっさと済ませろ……って…!


「テメェ!
何してんだよ!!」

赤面する姉さんの頬に、あいつはキスをした。


「ほ…本上先生?」

「惜しいな…避けなければ口にしてたのに。」


油断も隙もない男だ。


「じゃあな、爽太。」


本上は憎らしい笑みを浮かべながら、俺の頭をポンと叩いて去って行った。


「びっ…びっくりした~!」


「姉さん、隙あり過ぎだろ!」


頬を押さえてペタリと座り込んだ姉さんに、俺は一喝した。

「さっ!
家に帰るよ、父さんとちゃんと向き合おう…!」


座り込んだ姉さんに手を差し伸べる。


「…うん。」


その手を取って姉さんは頷いた。


ここから…


俺達の未来は始まる…

No.312 12/05/06 04:23
ゆい ( W1QFh )

吉宗side~最終章


哲学の道に、降り注ぐ桜の雨…


一年とちょっと前に、同じように降り注いだ桜雨の中で初めて君を見た…


その美しさに戸惑い怯えた。


今…君は、どう生きてる?


僕は…どうにか生きてるって感じだよ。

内容なんて無いんだ…


ただ…息を吸って吐くだけの…


そんな毎日だ。


贅沢だろ?


好きな仕事をして、仲間にも恵まれて…

だけど…


君を失ってから何も感じなくなってしまった。


色のない世界で…


この桜でさえ、僕には白く見えるんだよ…


美桜…


君はちゃんと生きてるか?


笑えてるか?


どうか…笑っていて…


君が…幸せでいてくれるなら…


僕は、この何もない世界でだって息が止まるその日まで生きて行く…


行けるから…


美桜…


同じ空の下、いつものように微笑んで…

No.313 12/05/06 04:56
ゆい ( W1QFh )


季節はあっという間に過ぎていく…


「もうすぐ梅雨明けやって!」


「マジで?
ほな、急いで準備せなあかんやろ!」


学生達が、ラジオから流れた天気情報に慌てて資料をかき集める。


「西島准教授、来週あたり梅雨明けしそうやって、今のうちに早よう出発準備しちゃいましょ!」


「ああ、そうだね。 その資料だけ纏めたら「種」を持って行くから、くれぐれも温度調節管理は頼むよ。」


細菌の核となる種は暑さに弱く、少しの温度変化でさえも死滅してしまう。


より確実にボストンへと運ぶには、梅雨時期が良いと準備は急ピッチで進められた。


「山部君は、引っ越しの準備終わったか?」


僕の助手として、山部君も留学する。


「はい、元々そんなに片づける荷物も無いですしね。」


研究室は山部君の本宅と言ってもいい。

アパートには、テレビや冷蔵庫すらないと言う。


「NHKの集金の人を正々堂々と追い返せるんですよ(笑)」


なる程…テレビないからね。


「でもさ、山部君の携帯ってワンセグ付いてんじゃない?」

僕は、彼の携帯を見て言う。


「付いてますよ?」

「確か、ワンセグ携帯も徴収の対象だよ。」


「えぇーーッ!」


「受信料、ちゃんと払いなさいね。
僕ら、常にNHKのお世話になってるんだから。」


ドキュメンタリー番組はやっぱり民放に限る。


カメラの性能の良さは群を秀でている。

お金をかけているから、ハイビジョンで美しく観れるのだ。

「はい…。」


渋々、山部君は返事を返した。


「良し!
いつか、山部君が偉い研究者になった時の為だよ。」


「取材きますかね?」


「来るさ…プロジェクトX(笑)」


「僕は、情熱大陸が良いですけどね(笑)」


おそらく…こんなアホな研究者達には、どちらも取材など来ないだろうね。


僕は笑いながらパソコンに研究資料のグラフを打ち込んだ。

週末にはボストンだ…。

No.314 12/05/06 21:46
ゆい ( W1QFh )

⚠こちらは本編ではございません🙇

前ページにて、表現の間違いがございました💦


訂正いたします

民放❌

正しくは、国放⭕
となります。

大変、失礼致しました🙇💦

次のページから本編へと移ります。

No.315 12/05/06 23:07
ゆい ( W1QFh )


「よっ!西島君、進んでるかい?」


「井川教授。
えぇ…もう、ほぼ完了に近いですよ。」

どれどれ?と井川教授は僕の資料に目を通す。


「うん、バッチリじゃない。
さすが西島君だ、良い仕事するね~♪」

「ありがとうございます(笑)。」


僕は照れ笑って教授にお茶をいれた。


「おっ、タンポポ茶♪」


「山部君の手製ですよ♪」


路地物らしい…


研究室では毎年、自家製で作り置きしているみたいだが…


僕は一度も飲んだ事はない。


「そうだ、これ西島君にプレゼントだよ。」


教授が僕にA4サイズの茶封筒を手渡す。

「何です?」


受け取ると、僕はその中身を出して見る。


「君の研究に強く賛同した研究者が、君の力になりたいと「種」の培養をより確実にする提案書を送ってきた。」


すごい…


そこに書かれた方法を、どうして僕は思いつかなかったんだろう…


「これを送ってきたのは誰です?」


僕は、その研究者を知りたいと思った。

「うん、数年前に学会で知り合った子なんだけどね…それ以来、可愛がってるんだよ。
今は、福岡一大で研究者してるって言ってたな…そのうちさ、君の研究を手伝ってもらうのにこっちに呼ぼうと思ってる。」


「そうですか…こんな優秀な人がチームに入ってくれるなら心強いですよ。」


僕はもう一度、資料に目を通して言った。


念密に計算された化学式は、その人の繊細さを物語る様だ。

その緻密さは、美しいとさえ思えてしまう。


「…女性ですか?」

僕は、これを書いたのは女性のような気がしてならなかった。


「そうだよ。
でも、もうじき子どもが産まれるらしくてね…こっちには産休明けになりそうなんだ。」


子どもかぁ…


子持ちで研究を続けて行くのは大変だろうなぁ…


でも、


「えらいですね…。 だけど、そうやって女性が活躍出来るチャンスがもっと増えると良いですよね。」


「西島ぐんっ!」


「はい?えっ…?」

しみじみと語る僕に、教授は涙と鼻水を流して詰め寄る。


びっくりだ…!


「彼女…妊娠させたの誰かな゛?!」


教授は僕の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。


「そ…そんなの、ご主人に決まってるでしょ…?
どうしたんですか教授…」


「うぅ…僕の、みーちゃんが…っ!」

みーちゃん?

No.316 12/05/06 23:22
ゆい ( W1QFh )


なんだか猫みたいだな。


「教授は…その…みーちゃんが大好きだったんです…ね。」

振動が激しくて、まともに喋れない…。

「娘の様に可愛がってたんだよぉ…!
どこの馬の骨とも分からん奴に…っ!
くそぉ~、見つけたらその男をぶっ殺してやるッ!」

逆恨みもいい所だ。

僕は、みーちゃんの旦那さんが教授に見つからない事を祈った。




そして…その4日後…


僕は、この愛しき教授と研究室に暫しの別れを告げてボストンへと飛びだった。

No.317 12/05/07 00:28
ゆい ( W1QFh )



3年後―…


「Hey,Yosi. How's it going?」(よぅ、吉宗。調子はどう?)


「Same as usual.」 (変わりないさ。)

僕がこっち(ボストン)に来て早、3年…

研究室以外にも顔馴染みが出来た。


何気ない挨拶も毎朝の日課だ。


大学の広大な敷地内をくぐり抜けて、僕は研究センターへと向かう。


青空が広がって、爽やかな空気が流れる。


空を仰ぐ僕のポケットから携帯の着信音が聞こえた。


ズボンのポケットからそれを取り出して耳に当てた。


「Hello?」

「Yosi?」

「Yes'Iam.」


「Sorry' Could you please send your e-mail again?」


電話の相手は、他のセンターで実施実験を担当するスタッフからだった。


昨日、僕が送ったデーターが不送信で届いてないとの事だ。

もう一度、メールで送って欲しいと頼まれた。


「I Will e-mail you later.」
(後で送ります。)

そう言って、僕はセンターへと急いで走った。

No.318 12/05/07 01:22
ゆい ( W1QFh )

「「「morning!」」」

「morning!」


研究室に入って浴びせられた挨拶もそこそこに…僕は、自分のパソコンを起動させ未送信のメールを再度送信した。


未送信のフォルダー内が0になるのを見届けると、深くイスに凭れ掛かった。


100mはダッシュしたな…


アメリカってなんでこう、どこもかしこも無駄に広いのかな…


…あ…国が広いからか…。


日本の狭い都会で暮らしてたから未だに慣れないよ。


アメリカで狭いのはトイレくらいだ…。

いや…、日本のトイレが広すぎなのか?

あ~…そんな事、どうでもいいな。


バクバクする心臓を押さえて、乱れた息を整える。


少しだけ落ち着きを戻して、僕はパソコン画面のライブラリーに目をやった。


実施実験の様子を24時間ライブで見る事が可能なのだ。


その様子を僕は毎日グラフに記す。


「2・5cm…昨日よりは著しい成長を遂げてる。」


日本から持ち込んだ「種」を培養増殖して、一番植物を成長させる菌を砂漠に見立てた畑に蒔いた。

今の「種」が一番順調に植物を育てている。


このまま行けば、実験は成功とみなされる…あと、もう少しだ。

No.319 12/05/07 01:46
ゆい ( W1QFh )



ランチタイムで賑わうセンターの食堂。

今日のランチセットはツナサンドだ。


当たり前だけど、こうして見ると実に色々な人種が集まっている。


アメリカ人、インド人に、フランス人…数は少ないが、僕ら日本人も。


みんな英語でコミュニケーションをとるけど、逆に僕は英語しか喋れない。


インド人のハリーさんはフランス語が堪能だし、フランス人のアシュレイはドイツ語と中国語が堪能…。


MITに席をおくアメリカ人は大抵、数カ国語を操るバイリンガルだ。


そう考えると僕は、英語しか話せない日本人ってなっちゃうんだよな…。


まぁ…仕方ないけど。


「Hey,Yosi.why don't you get married?」(なぁ、吉宗。お前ってなんで結婚しないんだ?)


同じチームで働いてくれてるジェイクが、何の前触れもなく聞いてきた。


何で…って。


「To get dumped….」(振られたんだよ。)


こっちに来て3年…

その間に、僕にだって恋人がいなかった訳じゃない。


つい最近まではいた。


ジェイクはその彼女との事を聞いてきたのだろう。

No.320 12/05/07 02:12
ゆい ( W1QFh )



彼女は他の研究チームにいた日本人だった。


彼女とは2年前、エドガー教授の家で開かれたホームパーティーで出会った。


飲めない酒を飲まされて、千鳥足のまま庭のプールに落ちてしまった彼女を僕が助けた。


プールに飛び込んで助けようとしたのは僕だけじゃなかったけど、溺れてパニックを起こした彼女には英語は通じなかった。


(落ち着け!)


そう…日本語で呼びかけて、初めて彼女は落ち着きを取り戻し、僕にしがみついたのだ。


それから何度となくセンターで顔を合わせて、たわいもない会話をしたり時には食事や映画も一緒に行った。


付き合おうとか、そういうのもなく…ただ、一緒に居て心地よい相手だったんだ。


そう思ったのは、彼女が美桜と同じ歳だったからだと分かる。


どこかで、僕は彼女に美桜を重ねてた部分があった。


「子ども扱いしないで!」


そう言って怒る彼女を見ると、僕は無性に彼女が愛おしくなったりもした。


それは…


僕が、美桜をまだ愛していたからなんだ…。

No.321 12/05/07 21:08
ゆい ( W1QFh )

「Go on,so What happened?」(それで、何があったんだ?)

ジェイクの問い掛けに、僕は彼女が言った言葉を思い出した。

2ヶ月前…


僕は、その日の仕事が終わると僕の部屋で待つ彼女の元へと急いだ。


半年くらい前から、半同棲に近い生活をしていた。


だから周は、もうじき僕達が結婚するんじゃないかと噂していた様だ。


実際に、僕だって彼女との将来を考えなかった訳じゃない。

しかし…一度結婚に失敗している手前、なかなか踏み出せないでいた。


正直に言えば、美桜との結婚を望んだ程の激しさを、彼女には抱かなかった。


でも、それで良いと思っていた。


こうして心穏やかに、彼女と時間を共に過ごせたら…


僕はそれだけで満たされていたから。


だがそれは、僕の一方的なエゴにしか過ぎなかった。


「私と結婚するつもりある…?」



食事を終えてテレビを見るのにも飽きた頃、並んでソファーに座っていた彼女を抱こうと倒した時だった。


僕のキスを避けて彼女が言った。


「…え?」


「結婚」というフレーズを彼女が口にしたのは初めてだ。

No.322 12/05/07 21:48
ゆい ( W1QFh )


真っ直ぐに僕を見つめる瞳が痛かった。

そして…答えを出せない罪悪感が襲いかかる。


「…ないのよね。」

「…あるよ!」


落胆の色を浮かべた彼女に、僕は咄嗟に嘘をついた。


しかし…そんな僕の嘘を彼女は直ぐに見破る。


「吉宗さん、いつも避妊するでしょ?
私との間に子どもが出来たらマズいからよね…?」


「当たり前だろ。
君だって仕事があるんだ…無責任にできるかよ。
それに、結婚もしてないのにそんなの有り得ないよ。」


僕は、彼女の言わんとする事が理解出来なかった。


「吉宗さんが避妊具をつけてくれるのは分かるわ…でも、なぜ私にもピルを飲ませるの?」


「…君の為だよ。
それに、そのやり方はアメリカやヨーロッパでは一般的なんだよ…何も不思議じゃないはずだ。」


僕の鼓動が早くなる。


なんとなくだが、彼女の言いたい事が見えてきた…。


「最初は、私も吉宗さんが私の事をちゃんと考えてしてくれてる事なんだって思ってた…!
でも…本当は違うんじゃないかって…そう、思うようにもなったの…。」


彼女の瞳に大粒の涙が浮かぶ…


「なぜ、そう思う?」


零れ落ちそうなその涙を、僕はシャツの袖口で拭う。


「吉宗さん…たまに、眠りながら泣くの…。」


「僕が…?」


僕の問いに、彼女は静かに頷く。


泣いてる…?


まったく身に覚えがない。


「美桜って名前を呼んで泣いてるわ…。」


マジかよ…?!うぁあああぁぁ~~……

最悪だ…!


僕は自分自身に腹が立って深い溜め息を吐いた。


最悪…

最低だ……!


「ごめん…自分じゃ分からないんだ。
でも、傷ついただろ…?
ごめんな…。」


彼女の前で美桜を呼ぶなんて、僕はなんて最低な奴だ…!


僕は彼女を抱き寄せて自分を呪った。

No.323 12/05/07 22:23
ゆい ( W1QFh )


「ねぇ…正直に答えて…嘘はつかないで。」


僕の腕の中で、彼女は言う。


「うん、いいよ…分かった。」


僕は静かにそう返す。


「彼女の事を愛していた?」

「うん…。」

「たくさん彼女と寝た?」

「うん…。」

感情を押し殺す様に質問をぶつける彼女に、僕は偽りなく答えていく。


「彼女が大切だった…?」

「うん…。」

震える彼女の声に目を塞いで、脳裏に美桜を思い浮かべる。

大切だった…。

美桜は僕の全てだ。

「彼女ともちゃんと、避妊してた?」


その質問で僕は、彼女の顔を見た。


彼女もまた、僕をしっかりと見つめる。

揺れる瞼に、心が嘆く。


どうしよう…


真実を言えば彼女を失うかもしれない。

僕は…矛盾だらけの大嘘つきだから。


「正直に言って…?」


純粋な瞳が、汚れた僕を映しだす。


「いや…しなかった。」


観念するように、僕は答えた。

No.324 12/05/07 23:12
ゆい ( W1QFh )

最低な僕の…

最低な告白に、彼女は涙を流した…。


「なぜ…?
彼女が大切だったんでしょう…?
それとも、それほどまで…彼女との子どもが欲しかったの…?」


「僕が欲しかったのは…」


僕が欲しかったのは美桜自身だ…。


美桜を僕で満たして汚したかった…。


彼女を抱く時にはいつも、こう思っていた。


美桜が僕の子どもを妊娠すれば良いって…


そして…その一生を僕に捧げてくれと


美桜が僕の側にいてくれるなら…


いっそ、離れられない理由を作ってやろう…って思ってた。

ズルい考えだ。


それでも、美桜はそんな勝手な僕を毎回受け入れてくれた。

そんな彼女を手に入れたくて、僕の欲望は悪循環を巡った。

「彼女を欲しいと思うほど…私を欲しいとは思ってくれないのね…。」


彼女はスッと立ち上がって、上着とバックを取る。


「あなたは、まだ彼女を愛してるのよ。 私には…」


私には……



「Hey,Yosi?」


あの日の事を思い、茫然とする僕に、ジェイクは手をヒラヒラと目の前にちらつかせた。


僕はハッとして意識を現在に戻す。


彼女がその後に付け加えて放った言葉…

私には…


「You are hard to read.… it is' said that.」(あなたの心を読むのは難しい… そう、言われたよ。)


僕はジェイクに彼女が最後に言った言葉を話した。


僕の本当の気持ちを知るのは難しい…


だから、さよなら…と言って出て行った。


僕は彼女に振られてしまった。


他の女性を心に宿していたら当然の報いだ…。


「I feel for you.」(ご愁傷様…)

僕の失恋話に、ジェイクは背中をポンと叩き慰める。


「Never, mind.」
(平気さ。)
僕は彼に笑ってみせた。

今回の事で、一つだけ決めた事がある。

僕は、例え叶わなくとも美桜を愛し続けて行く。


これから一生…。

No.325 12/05/08 08:48
ゆい ( W1QFh )



どうせ、美桜への愛情に蓋をしても無駄なんだ…。


他の誰かを好きになって愛せたとしても、彼女を超える想いには届かない。


ならば…


この命が尽きるその時まで


美桜を愛そう…


僕の心は、また新たに彼女に恋をしたみたいだ…。


片思いでも


心はこの空の様に晴れやかだ。

No.326 12/05/08 10:09
ゆい ( W1QFh )

「Excuse me, Mr.NISIJIMA You have a phone call.」

ランチの後、テラスで仲間達と会話を弾ませていた僕を研究室のスタッフが呼びに来た。


電話か…。


僕は、仲間を残して一足早く研究室へと戻って行った。


「Yosi, Japan is on the line now.」
(吉宗、日本から電話よ。)


「OK,Put on me.」
(うん、こっちに繋いで。)


デスクに座って、回された回線をとる。

「はい、西島です。」

「……………。」


??何も話さないぞ?


「もしもし?お電話代わりました西島です。」


応答の無い受話器の向こう側に僕はもう一度呼びかける。


「…あ、あの…私、京大で井川教授の第一助手をしている…」


オドオドとした話し方だったが、その声を聞いた瞬間、僕の胸がギュッと痛んだ…。


似ている…

彼女の声に…。


「あの…っ」

「ああ、もしもし?西島君?」


その声を確認する間もなく、電話は井川教授に代わられた。

「教授…今の人…」
「今?あぁ、彼女ね。
みーちゃんだよ、やっと口説き落として今月から来てもらったんだ。
いゃさ~福岡一大の佐伯教授が、彼女を手放さねいのなんのって…3年もかかったんだよ?」


みーちゃん…

って事は、子どもがいるって教授の言ってたあの人か…


美桜じゃない。


凄く声の似ている他の人だ…。


それだけなのに、僕の心臓は激しく高鳴る。


「それでさ、この間の資料なんだけど届いた?
数値的には基準を満たしてるし、そろそろ論文を書く準備を…って、西島君?聞いてる?」


「…あ、あぁ…はい、聞こえてます。」

「もう少しなんだから、しっかりしてよ~?」


「…はい、勿論です。
論文の準備は進めます。日本は深夜でしょう?
いつも急がせてすみません。」


同時進行で進めている研究だと、日本のチームは徹夜もザラだ。


特に、教授は老体にムチを打って無理をしている。


「気にしないでくれよ、西島君。
このプロジェクトが成功したら僕、名誉教授になってお金が…っ」

―ガチャリ。


僕は電話を切った。

「Yosiー! Japan is on theline now.」
しつこい…

「I'm Pretend to be Out!」
(居ないって言って!)

No.327 12/05/08 20:54
ゆい ( W1QFh )

その後、何度か井川教授から電話があったけど、僕は居留守を決行した。


大事な用件はメールでやり取り出来る。

あっ、そうだ‥今度はちゃんと、みーちゃんの名前も聞かないと。


優秀な種の増殖を成功させたのは、出発前に貰った彼女の資料のお陰だ。


しっかり御礼を言わなくては…。


そんな事を考えながら、僕は自宅へと向かい歩いていた。


「Bye!See you tomorrow.SO-TA!」

「See you again!」

ハーバードの校門前で、僕は自分の目を疑った…。


「そ…うた?」


背が伸びて、青年と呼ぶのに相応しいくらいに成長した爽太が今、目の前にいる。


僕はもう一度、自分のいる場所を確認する為に、彼が出てきた学校の名前を読む。


ハーバード…だよな。


いつも通るこの有名な学校を間違えるはずがない。


なぜ…彼が?

留学?


「爽太っ!!」


自転車の鍵の施錠に手こずる爽太に叫んで呼びかけた。


カチャ…と鍵がはずれる音と僕の声が被る。


爽太は僕を見つけた様子だが、そのまま自転車にまたがり僕の横をかすめた…。

…人違い?

いや、そんなはずは…っ!


僕は、慌てて彼を追うように後ろを振り返った。


彼は、自転車にまたがったまま止まって僕を見ている。


「Hey, pops!」
(おい、オッサン!)


…なんだと?

あの、憎たらしい目つきは間違い無く爽太だ…。

No.328 12/05/08 21:37
ゆい ( W1QFh )

「Pops?」(オッサン?)

「WOW! You Seem younger!」
(ウソ!若く見えるよ?)


通らすがりのハーバード女子大生が、「オッサン」と呼ばれた僕を見てクスクスと笑う。


「Many people say that.」
(よく言われるよ。)


僕は、彼女達にニッコリと微笑んだ。


「「…Neat!」」
(カッコ良いじゃん!)


彼女達も僕にそう言ってウィンクした。

やったぜ…!


金髪美女達に誉められた♪


「鼻の下が伸びてんだよ、エロオヤジ!」


「Son of a bitch.」(クソガキめ…)


爽太の懐かしいその悪態に僕はまた、彼と同じ子どもになってしまいそうだ…。

憎たらしいのに、会えて嬉しい…愛おしい…


こんな複雑な想いが、胸中に広がって目頭が熱くなる。


僕は爽太に近寄って彼の肩を抱いた。


「爽太…!」


「先生…久しぶり。」


あぁ…この笑顔…


凛々しくなって男性らしさが出てきたが、この柔らかい笑顔が彼女の面影を浮かばせる。


僕は、爽太の頬に手を伸ばす。


「止めてくれる?
こっちで、ホモの称号を与えられたらマジでシャレんなんねーよ。」


「相変わらずだな(笑)」


「…あぁ、先生も(笑)」


僕らは久しぶりの再会に、照れ笑う。


夕陽が美しく西の空を茜色に染める…。

No.329 12/05/08 22:35
ゆい ( W1QFh )


「爽太は、ハーバードに入学したんだな…MITとは目と鼻の先なのに、どうして今まで鉢合わせなかったんだろ。」


しかも、僕は毎日通り掛かるのに…


「俺は、先生を見かけたよ。」


爽太の言葉に、僕は驚いた。


「え?いつ…?
何で声かけてくれなかったんだよ!」


「半年くらい前かな。
仲良さ気に、女と歩いてたからムカついて知らん振りしたんだ。」


彼女と一緒にいる所を見られてたのか…。


「ムカついたって…やきもちか?」


僕は茶化して爽太の頭をグチャグチャに撫でた。


「止めろよ~、セットが乱れる!
だって酷いだろ?姉さんが一人で頑張ってんのに…」


「…え?」


「いや、何でもない…。
姉さんの事を忘れたみたいに他の女とイチャついてんの見たらイラついたんだよ。」


爽太は顔をプイと向けて言う。


「…誤解だよ。
それに、僕は美桜を忘れてない…。
今でも彼女を愛してるんだ。」


「…本当か?」


爽太は、瞳を輝かせて僕を見た。


「あぁ、本当だよ。」


(そうか…)
爽太はそう呟いて微笑んだ。


「そうだ、姉さんは元気か?
孝之と幸せに暮らしているか?」


ずっと気になってた事だが、いざそれを聞くとなると胸が痛む。


彼の返事が、「イエス」でも、
「ノー」でも、僕にはどちらも辛い。


「…姉さんは、結婚してないよ。
ずっと独りだ。」


「……え?」


僕は言葉を失うくらいの衝撃を受けた。

美桜は…結婚してない?


何で…だって…っ!

「うちの病院、潰したんだよ。
岡田総合病院はもうない…新しく違う名前にして経営権も渡した。
俺と、姉さん…そして、父さんは自由になったんだ。」


岡田総合病院が潰れた…?


「…孝之か?」


僕の問いに、爽太は首を横に振る。


「俺と姉さんで決めた事なんだ。
本上は関係ないよ。」


そうか…


でも、それじゃあ…

何で…美桜は、僕の元へと来てくれなかったんだ…?

No.330 12/05/09 09:53
ゆい ( W1QFh )


美桜…

君は、僕も捨てたの…?


「美桜にとって、僕も必要ない人間だったのかな…?」


そんな風には思いたくない…

思えない…


「先生は、本っ当にバカだなぁ…。
姉さんは、先生の事を考えて身を引いたんだよ?」


僕の事を考えて?


「どういう意味だ?」


爽太は小さなため息を吐いた。


「京都行きが決まってたし、それからすぐにMITに行く事も決まったんだろ?
大好きな研究を念願叶って出来る様になったのに、それを自分がジャマしたくないって…姉さん、そう言ったんだよ。」

ジャマだなんて…


僕がそんな事、思う訳ないじゃないか…!


「美桜はバカだよ…。
知っていたら…僕は、何が何でも美桜をボストンに連れて来てたさ!」


…この3年間は一体何だったんだよ!


僕は悔しさから自分の太股を殴った。


「…妊娠してたんだ。」


…………


爽太の口から出た言葉に、頭が真っ白になる……


妊…娠…?


「お前…今…」


身体中の血の気が引いて、指先から硬直していく。


「結婚が決まった時には、2ヶ月に入ったばかりだった…。
姉さんは、子どもを守りたくて誰にも何も言わなかったんだ…もちろん、先生にも。」


美桜の結婚が決まったのは11月…


間違い無く…

僕の子だ…!


「何で黙ってた?」

僕は、爽太に詰め寄った。


「妊娠の事を公にして、最悪…堕胎させられるのを恐れていたからさ…。
あの頃の本上や、父さんならやりかねなかったんだよ。
姉さんは、先生を愛してるから絶対に産みたいって望んでた…。
途中…切迫流産の危機もあったけど、ちゃんと守りきったよ。」


切迫流産…


僕は、何にも知らなかったんだな…


美桜の身体の事も

計り知れない、僕への愛情も…


「子どもは無事に産まれたんだな…?」

僕は、真剣な眼差しを爽太に向けて聞いた。


すると、爽太はゆっくりと頷いて微笑む。


僕は一気に身体の力が抜けてもう、倒れそうだった。


「僕の子どもが…っ」


目眩がおきそうなくらいの歓喜に、僕は泣いた…


大の男が…

しかも…いい歳のオッサンが、しゃくりあげて外で泣いてんだ…


めちゃくちゃカッコ悪い…。


「…おめでとう、兄さん…!」


爽太が、僕の背中を撫でるから…

余計に僕の涙は止まらない…。

No.331 12/05/09 11:13
ゆい ( W1QFh )


僕は、鼻を啜って涙を腕で拭った。


目が腫れてる予感がする。


でも、そんなのどうでも良いさ。


「すぐに、美桜と子どもを迎えに行きたい。
爽太…二人は今、どこで何してる?」


明日、朝一番の飛行機で日本に帰国しよう…。


「兄さん…今、すぐには無理だよ。」


困惑したように爽太は言う。


「なんで?!僕は今すぐにでも会いたいよ!」


「姉さんは…兄さんの研究が成功する日を待ち望んでる。
その日が来るまでは、姉さんは兄さんには会わないよ…それが、姉さんの意地なんだ…!」


美桜の意地…


美桜…本当に…君って人は…!


何故、こんなにも僕を恋い焦がらせる…?


「だからさ…一刻も早く、研究を成功させてよ。
そして、二人を迎えに行ってやって欲しい…。」


その…爽太の言う事を聞いて、僕はスクっと立ち上がった。

「どうした?」


突然の僕の行動に、爽太は目を丸くする。


「…研究室に戻る。データー採取して、今日から論文書くんだよ!
さっさと、完成させて美桜を迎えに行くんだ…!」


僕は笑って、爽太にそう言った。


今日から研究室に泊まり込んでやる!


「Don't be afraid to chase your love!!」


走り出す僕の後ろで、爽太がそう叫ぶ。

(愛に向かって突っ走れ!!)


僕は今年40歳…


最後の恋に向かってただ走る…。

No.332 12/05/09 20:40
ゆい ( W1QFh )


―7ヶ月後…―


12月10日

ノルウェー・ストックホルム


「井川教授~っ!」

「いや~ぁッ!!
揺らさないでよ、西島君ッ!!」


コンサートホール前、タクシー車内。


「そんな事言ったって、授賞式が始まっちゃいますよ!!」

「だぁって!
仕方ないでしょ、腰がピキッてなっちゃったんだもんッ!!」


ピキッてなっちゃったんだもん…って!

ほんと、頼むよ~!

「早く降りて下さいよ!
この日の為に、そのペンギンスーツ買ったんでしょ?!」


(アメックスのプラチナカードをチラつかせて鼻高々で購入。)


「ダァーッ!!
動かすな、この野郎…ッ!!」


この野郎だぁ…?


「もぉ~マジ…勘弁…。」


「そんなに言うなら、君が出れば良いでしょ?!
しっかり、お洒落ジャケット着込んでるじゃない!」


「バカ言わないで下さいよ!
僕は下、ジーパンなんすよ?!
正装じゃないのに、出れる訳ないじゃないですかッ!」


「なぁんだよ!!
僕のスーツ着れば良いだろ!
…何さっ、少しくらいイケメンだからっていい気になるなよーッ!!」


「あんた、ムチャクチャだなっ!!」


僕達が、こんなにテンパってるのには訳がある…。


僕の研究が功をなして、ノーベル賞に輝いてしまったからだ。


授賞の知らせを聞いてから両国の研究室を始め、日本中がその快挙に興奮していた…。


その渦中にいる僕等のテンションは、最高峰に達していた。

特に、ギリギリでぎっくり腰を発症させた教授のテンションは興奮と痛みで可笑しな事になっている。


「お願い…西島君、元々は君の功績なんだから僕の代わりに、授賞式に出てよ…。」


涙目の教授が、僕に訴える…。


参った…


僕は、こういう場が苦手だし…

世界中のメディアの前で、スピーチだって考えてもないのに言わなきゃならない。


自分史上最高のピンチだ…。

No.333 12/05/09 21:10
ゆい ( W1QFh )



痛みに苦しむ教授を目の前に、僕は意を決めた。


「…分かりました、じゃぁ…その燕尾服借りますよ?」


そう言って、僕は痛がる教授の着た燕尾服(ペンギンスーツ)を剥ぎ取る。


「いだだだーッ!! このッ、変態!スケベ!
中途半端イケメン!!ミトコンドリア野郎ッ!!」


動かされる激痛からか、教授の暴言が吐き捨てられる。


因みに、ミトコンドリア野郎とは…


僕のミトコンドリアが、通常よりも遥かに多い事から付けられたアダナ(悪口)だろう…。


ミトコンドリアが多いと新細胞が活性化して老化を防ぐ作用が働く。


さらに、ミトコンドリアは努力次第で増やす事(活性化)も可能…詳しくはWikipediaでどうぞ…って、僕は何考えてんだ!


テンパり過ぎて思考が変になってる!!

「…うぅ…西島君のエッチ…。」


なんとか脱がし終えて、肌着姿になった教授…。


僕は、教授にペコリと頭を下げた。


「行って来ます!」

「しっかりね…」


「うん」、と頷いて僕はコンサートホールの中へと急いだ。


―タクシー車内―


「やれやれ…、世話が焼ける若僧だ。
つーか、あのお洒落ジャケットくらい置いて行って欲しいもんだよ…ねぇ?運転手さん。」


「Good Job!」


それが井川教授の演技で、僕への餞だった事は…教授と運転手さんだけが知る事実…。

No.334 12/05/09 21:31
ゆい ( W1QFh )


トイレで着替えて気付く…


燕尾服の袖丈が非常に短いっ!


つんつるてんもいい所だ…。


「恥ずかし過ぎる…」


しかし…本当にペンギンの山だな。


主催者始め、受賞者はこの燕尾服の着用が義務付けられている。


毎年、ストックホルムはペンギンの山と言われる日があるが…正に、その通りの光景だ。


「ヤバい…緊張してきた。」


スピーチ…どうしよう…。


教授が考えたやつを聞いて来れば良かった。


「あっ!いたいた! 西島准教授ー!」


人をかき分けて向いから、山部君が手を振ってやって来た。

「お待たせ、山部君!」


「良かった、探しましたよ!
さっ、こっちです、急いで下さい!」


もう間もなく始まる、化学・物理学の受賞式…


土壇場で何が言えるか分からない。


だけど僕は、賞賛の光の渦へと入って行く…


ステージから見える、栄光のフラッシュを浴びる…。

No.335 12/05/09 22:23
ゆい ( W1QFh )

「Please,Mr.NISIJIMA!」


名前を呼ばれてステージにあがる。


沢山の歓声と、ストロボの光が僕を包む。


あぁ…心臓が飛び出しそうだ。


「What a winner you are!!
Congratulations!!」
(素晴らしい賞の授賞です!!
本当におめでとうございます!!)


司会者の祝福と、授賞の盾と金メダルが僕に贈られる。


あ…ヤバい…嬉しさが込み上げる。


どうしよう…


「I really don't know how to thank you.…You gave me more than I deserve.」
(何とお礼を言っていいのか分かりません…本当に、身に余る物を頂き恐縮しております…。)


あぁ…堅い…堅いな。


英語ですら僕の感謝の言葉は堅い…


えっと…えっと…


あっ!そうだ、こんな時は普通両親へのメッセージとかも贈るんだよな…!


「You are the best parents anymore could have asked for.」
(父さんと母さんの子どもに生まれてきて良かった。)


「I'm honored to be your son….
Heartfelt Thanks.」
(あなた達の息子である事を誇りに思っています…。
心からの感謝を…ありがとう。)


僕のスピーチとは言えない…ただ、両親への感謝の言葉に、会場内から割れんばかりの拍手が湧き起こった。


その温かさに、僕の目頭が熱くなる…。

司会者ですら、うっすらと涙を浮かべていた。


彼は、他にメッセージを伝えたい人はいないのかと僕に尋ねる…。


それならば…


この、世界中に流れるスピーチで僕は君に言いたい…。

No.336 12/05/09 22:52
ゆい ( W1QFh )

世界中のどこにいても、君が…僕の言葉を聞いてくれているのなら…


「My dear Mio,my happiness is all because of you….」
(愛する美桜、僕は君のおかげで最高に幸せだよ…。)


「I Love you Now and Forever!」
(今も…そして、これからも君を愛してる!)


「美桜、愛してるよ…。
どうか、僕と結婚して下さい…!」


由緒あるノーベル賞授賞式で、前代未聞のプロポーズをした僕は、翌日の地元新聞紙で一面を飾るほどの失態を犯した。

しかし…今日の授賞式は過去に例のないくらいの盛り上がりを見せたのだ。


客席が全員立ち上がり、僕に拍手喝采を浴びせる。


「All the best wishes for your future life!!」
(あなたの将来に幸ある事を心から祈っています!!)


歓声鳴り止まない舞台上で、司会者は僕にそう言った。


「Thank You Very Much!」


僕は晴れやかな気分で、ステージを後にした。


僕の声よ…


どうか、美桜に届いてくれ…


僕は明日、君を迎えに帰るから…

No.337 12/05/10 22:40
ゆい ( W1QFh )

僕は外に出ると空を仰ぎ、白タイを外した。


ワックスで固めた、伸びきった髪をグシャグシャにほぐすと、内ポケットから携帯を取り出した。


「Yes?」

「爽太、僕だ。」


「よう、兄さん…。 やっぱ、兄さんは最高だな!」


電話の向こう側で爽太の笑い声が響く。

爽太の通うハーバードは、数多くのノーベル賞受賞者を輩出した名門校だ…。


今日の授賞式を大学をあげて観ていたに違いない。


「約束だ、爽太…
美桜の居場所を教えてくれ。」


僕は、懇願するように爽太に言った。


「姉さんは、京都にいるよ…。」


…京都?


「兄さん、授賞おめでとう…姉さんの住所はメールで送るよ。
一刻も早く迎えに行ってやってくれ。」

珍しく、しおらしい爽太に…美桜がどれだけ僕を待ち焦がれているのかが分かる。


「ありがとう、爽太。
明日、朝一の飛行機で日本に帰るよ…。」


そう言って電話を切った後、すぐに爽太からメールが届いた。


書かれた住所が、大学と近い場所で驚く。


彼女はいつから、ここに住んでいたのだろう…。


偶然だろうか?


それとも、必然?


まず、君に会ったら僕は何を言おう…


君は、どんな風になったかな?


益々、綺麗になってるんじゃないかな…?


子どもは…?


今…3つかな。

可愛いだろうな…


爽太は最後まで、その子が男の子か女の子を教えてはくれなかった…。


会った時の楽しみにしとけ…と、もったいぶった。


どちらでも良い…

元気で居てくれるのなら。


あぁ…二人は、僕を見て何て言うかな…。


二人の目に、僕はどう映るんだろう…。

急に、怖くなった。

拒まないで欲しい…

どうか…僕の胸に帰って来てくれ…。

No.338 12/05/10 23:15
ゆい ( W1QFh )


京都へと向かう為、僕は関西国際空港に降り立った。


ゲートを抜けて目を疑う。


そこには、僕を待ち構えてスタンバってた報道陣達の姿があった。


まさか…!という思いがあった。


「西島博士!
今回の快挙について何か一言っ!!」

「ノーベル賞授賞式でのスピーチは、あれはプロポーズでしたが、その後のお相手のお返事はっ?」
「授賞式でのスピーチの件で弁解などあったりはしないのでしょうかっ?!」


あっという間に沢山の報道陣に囲まれて、僕は立ち往生となってしまった。


「西島博士!
ストックホルムでの祝賀晩餐会を欠席した理由は何かあったのでしょうかっ?」
「博士!何か、一言コメントを…っ!」

身動きが取れない中で沢山の質問を投げかけられる。


人の群れと、目がくらむほどのフラッシュの嵐…。


「あっ…あの、すみません…通して下さい!」


なんとか押し退けようとしても、僕はすぐに渦に巻き返される。


「おっ…?なんだ?」


そんな時だった。


「…ん?どうした? 子どもだ…!」


大人の報道陣達の微かな隙間を潜り抜けて、小さな女の子が ひょこりと姿を現した。


赤いダッフルコートに、クマのポシェットを肩に提げた、とてつもなく可愛いらしい女の子だ。


その愛らしさに、さすがの報道陣達も道を空けながら、固唾をのんでその女の子に集中した。


女の子はジッと僕を見つめて、トコトコと近寄って来る。


また、報道陣に押し寄せられたらこの子が潰されてしまう…。


「危ないよ…?」


咄嗟にそう思った僕は、女の子を抱き上げた。


その瞬間…


フワリと女の子から、懐かしいあの香りが漂ってきた…。

No.339 12/05/10 23:52
ゆい ( W1QFh )

この香りは…


美桜の香りだ…!


彼女だ…彼女が近くにいるっ…!


ちょっと待った!!

この子が、美桜と同じ香りがするなら…

僕は女の子を抱きかかえたまま、その子の顔を見た。


クリクリとした黒目がちの瞳…


小さくてもスッとした鼻筋…


少しだけ口角の上がった唇…


長い睫毛…


爽太…あっ、いや、美桜によく似てる…。


(ダメだな…最近は、爽太とばかり会っていたから…つい。)


「…パパ?」


「…………っ!!」

い…今…パ…パパ…パ…パパパ…っ!


「海のパパでしょ…?」


海…?


海っていうのか…?

どうしたらいいんだ…


感動し過ぎて…とても、声が出ないっ!

「…子ども?」


「西島博士に子ども…?」


まずい、マスコミが騒ぎ始めた…!


授賞式の失態に続いて、隠し子報道されたら…


美桜と海に、バッシングが向くかもしれない…!


「はい!そこまで!」


僕がわたわたとキョドる後ろから、山部君がジャケットで海を隠した。


「山…部くん?」


何で山部君が…?


「やっぱり、こうなってた~!!
報道陣に囲まれて、困るんじゃないかと心配して後の便で追いかけてみれば…案の定、このザマです!」


「山部くん~!」


君、ナイス過ぎるよ!


「さー、マスコミの皆さん!
僕が、西島准教授の窓口です!
出来る範囲で僕が受け答えますので、こちらでお願いしま~す!!」


(ささっ、准教授はこの隙に行って下さい…!)


山部君は僕にコソッと、そう耳打ちして報道陣達を先導した。


僕はその隙に、海を抱いたままその場を離れた。

No.340 12/05/11 00:11
ゆい ( W1QFh )

美桜の姿を探して広いロビーを見渡す。

…どこだ?

どこにいる…!


「うぅ~…苦しかと…!」


腕の中で、海がジャケットを剥ぎ取ろうともがく。


あっ…そうか、ずっと隠したままだった。


僕は、ジャケットを取って海を降ろした。


「ごめんな、大丈夫か…?」


汗で張り付いた海の前髪を撫でる…。


この子が…僕の…


そう思った瞬間…


涙が溢れた。


海の顔が涙で滲んで見えない…


「どげんしたと?
どこか痛くなったと?
いかんね…パパ、「痛い痛い飛んでけ!」せんとね…。」


そう言って、海は僕の頭を撫でる…。


どうして…博多弁なんだよ…


それって、僕の故郷の言葉使いじゃないか…


「うぅ…うみ…っ!」


僕は、小さな彼女を抱きしめて泣いた。

No.341 12/05/11 01:10
ゆい ( W1QFh )


「パパ…?」


泣きじゃくる僕を心配した様子で海が言う…。


顔を見ると凄く不安そうだった。


「ごめん…大丈夫だよ。」


僕は、涙を拭って海に微笑む。


すると彼女も、にっこりと微笑んだ。


あぁ…美桜と同じ笑顔だ…。


また涙腺が緩む。


「なんで、僕がパパだと分かったの?」

僕は、海の手を握って問いた。


「ママが、ずっと言ってた。」


彼女は、クマのポシェットの中から携帯電話を取り出す。


見覚えのある携帯だった。


昔、彼女(美桜)が使ってたやつだ…。

海は、手慣れた手付きでそれを操作する。


「これ、パパ♪」


差し出された携帯の画面に写る僕…


いつか…そうだ!あの夏に、彼女と行った海で撮った写メだ…!


「…嘘だろ?」


ずっと、大切に持ってたっていうのか?

「海…ずっとこれで、パパの事見とったもん♪
すぐにパパって分かったと♪
凄か?ねぇ、凄か?」


海…そうか…


僕と一緒に行った海に因んで、その名前を名付けたんだな…?


「あぁ、凄かねぇ。 海は、賢か…さすがはパパの娘やね。」

そう誉めて頭を撫でると、彼女はキャッキャッと喜んだ。


そんな彼女を、もう一度抱き上げる。


そして…


「海…ママはどこだ?」


僕は彼女に美桜の居場所を問う。


「あっち♪」


その小さな指がさす方へと身体を向ける。


「よし!じゃぁ、行くよ?」


「うん!」


僕は歩き出す。


愛おしい…君の元へと向かう…。


No.342 12/05/11 02:06
ゆい ( W1QFh )


平日の人数少ない空港内で、ガラス越しに巨大な飛行機を見つめる君を見つけ出す…。


その横顔に…僕は、息をひそめる。


「み…お…?」


僕の声に反応するように、彼女がこっちを見る。


「ママーっ♪」


君は、海の呼びかけにニッコリと微笑んで手を振る。


美桜だ…


信じられないくらい綺麗になってる…


どことなく、少女らしさのあった彼女だが今はその面影はなく…なんというか…

淑女…って言うのかな…?


今の美桜には、大人の女性の色気がある。


ヤバいな…


ドキドキする。


「お帰りなさい、吉宗さん…。」


近寄って優しい笑みをこぼす彼女に、僕は身体を震わせた。

身震いだ…。


それ程までに、彼女は美しいのだ。


手が汗ばむ…


「美桜…。」


「吉宗さん、変わらないのね…あの頃のまま。
あ、髪が伸びて長い(笑)」


伸ばされた彼女のしなやかな手が僕に触れる…


髪を切ってくれば良かった…。


もやし生活が長引いて、つい、だらしなくなってた。


「美桜…君は、とても綺麗になったね…。
見違えたよ…。」


「もう、子どもっぽいだなんて言わないでね…?」


言わないよ…


…ってか、言えないよ。


「海、ちょっと降りててな…。」


僕は、嫌がる海を降ろす。


「ぱぁぱ!抱っこ!」


抱っこをせがむ海を宥めて、僕は美桜の腕を掴んだ。


「ぱぁ~ぱ~っ!」

「ごめん、海。
パパはママを抱っこしたい…!」


泣きべその海に、そう言い放って

僕は、美桜の腕を引き寄せる。


「吉宗さっ…」


バランスを崩しそうになる美桜の身体を、僕は強く抱きしめる。


あぁ…美桜


君の、この感触を僕はずっと求めていた…

君の、この胸を締め付ける声を求めていた…

そして…君のその甘い香りを…


僕は…っ


ずっと、ずっと…


君だけを求めていた…


僕の世界に色が戻る…


モノクロの世界から、彩りの世界へと…

「美桜…愛してる。」


もう二度と…


君を離したりはしない…


No.343 12/05/11 02:57
ゆい ( W1QFh )

「吉宗さん…プロポーズしてくれてありがとう。」


僕の腕の中で美桜が言う…。


「うん…返事を聞かせてくれるか?」


少しだけ引き離し、僕は美桜を見つめる…。


美桜の真っ直ぐな瞳が僕をうつす。


「私…っ!」


~♪♪~…


ここぞと言う場面で、美桜のバックから携帯音が鳴った。


「なんだよ~…」


「…もしもし?」


でるんかいッ!


一気に拍子抜けしてしまった…。


「Tres bien,merci.Et vous?」


??フランス語?
美桜が話してるのは確かに、フランス語だ。


一体どうして…?


「Sil Vous Plait.」

シ…ルブプレ?


今のは、聞き取れたぞ…!

なんの電話だろ…。

「Oui. A tout a l'heure.」
(はい、また後で。)


「なんの電話?」


通話を終えた美桜に、僕は問いた。


「フランスの農場からよ。
今度、吉宗さんが開発したプラント(種菌)を空いた農場に蒔いて臨床実験しても良いって!」


嬉々として話す美桜に、僕は疑問を浮かべた。


「どうして、美桜がそんな事を?」


僕のアシストみたいな仕事だ…


ん?京都…って…


「美桜…今、君はなんの仕事してるの?」


僕の質問に、美桜は目を丸くする。


「なにって…京大で井川教授の第一助手をしてるのよ?」


「…えっ?」


「え?って、吉宗さん知らなかったの?」


僕のリアクションに、美桜は驚いた様子だった。


もちろん、僕も驚いた…。


「美桜が…?えぇーッ!?」


美桜…みお…

み…みーちゃん…


「もしかして…みーちゃんって、美桜の事だったの?」


「あぁ…うん、井川教授は昔から私をそう呼ぶわね(笑)」


美桜は口元を押さえてクスクスと笑う。

笑い事じゃないよ…

「どうしよう、美桜…。」


「ん?」


弱々しい僕に、美桜がキョトンとする。

「僕…教授に、ぶっ殺される。」


「…えッ?」


なぁに?と君は笑うけど…


あの時の、教授の目は本気だったぞ。


君を妊娠させたのが僕だと分かったら…

僕は…


ああ、想像もしたくないよ…!


「大丈夫よ。
私が、吉宗さんを守ってあげるから!」

美桜…君は変わらない。


そうやって、両手を広げる僕の天使だ…。


No.344 12/05/11 03:41
ゆい ( W1QFh )

これで、一つに繋がった。


海が博多弁なのは、生まれ育ったのが福岡だからなんだ。

教授が言っていた。

君はずっと、福岡第一大学で研究員をしていたと…。


3年越しに頼み込まれて、京大に来たんだ。


僕への資料を贈ったのも君だったんだね…。


そして…ずっと、僕の研究を影で支えてくれていたんだ。


「ありがとう…美桜。」


君はずっと、僕の側に居てくれてたんだね…。


「美桜、プロポーズの返事を…」


「ぱぁぱ!抱っこ!」


痺れを切らせた海が、怒って僕の身体をよじ登る…。


あぁ…またしても雰囲気が崩れてしまった。


「ごめんね、吉宗さん。
この子もずっと吉宗さんに会いたがってたものだから…。」

申し訳なさそうに、美桜は顔をしかめた。


「良いさ、僕だってずっと会いたかったんだ…。」


僕は、そう返して海を抱き上げた。


海のぷっくりとした、可愛らしい白い頬にキスをする。


柔らかい…


「ところで、美桜はバイリンガルなの? さっきのフランス語だろ?
かなり発音が良かった。」


論文は英語表記だから当然、喋れるはずだ。


なんだか悔しいな。

「えぇ…一応、英語とフランス語と、あと…」


「あと?!
まだ、話せるの!」

完っ全に負けた…


いや、もう…こうなると勝負にもならないな。


「Ich liebe dich. sei doch immer bei mir nahe zum Greifen….」


ドイツ語だ…。


惚れ惚れするほど美しい発音で、何かを訴えている。


「…なんて言ったの?」


美桜は、海を抱いた僕の腕にそっと手を添えた。


潤んだ瞳が僕を見上げる…。


僕の好きな彼女の仕草だ…。


「あなたを愛してる…。
もう、どこにも行かないで…ずっと、私の側にいて…。」


それは…


「プロポーズの返事か…?」


僕の問いに、美桜はコクリと頷いた。


「吉宗さん…私と結婚して下さい。」


彼女の大きな瞳に涙が浮かぶ…


「海、ごめん!ちょっと降りて!」


「いやぁ~!!」


「せからしかっ!」

しがみついて暴れる海を、無理やり降ろす。


「パパ、なにしよっと!」


海は、ぶぅ…っとほっぺを膨らます。


「ママにキスするんだよ!」


「キス?!
チューばするんね!」

ああ…そうさ…

No.345 12/05/11 04:19
ゆい ( W1QFh )


僕は、ママにキスをする…!


「ちょっ…吉宗さん?」


僕のキス宣言に、美桜は戸惑う。


「なんだよ?」


「海が見てるから…」


両親のキスシーンにやや興奮気味の海が、両手で顔を覆う。

…が、指の隙間からシッカリと覗き込んでいる。


「美桜…結婚しよう。」


「…はい。」


「チューば、するんね!」


大興奮の海に、僕らは笑い転げる。


これじゃ、ムードも何もないな…(笑)


僕は、持っていた山部君のジャケットを海の頭から被せた。

「きゃ~っ!暗か~!」


そして…


美桜を引き寄せて唇を奪う…。


「…んっ!」


「…まだ、離さないで!」


絡める舌に、美桜は戸惑い逃げようとする。


隙あらば離そうとするのだ…。


「ちょっと…待って…もうダメよ…!」

羞恥心で顔を赤らめて顔を背ける。


やっぱり…美桜だ。

可愛い、僕の彼女だ…。


「拒むな…っ!」


僕は…彼女の背けられた顔を、両手で捕まえて深いキスをする…。


もう君は、僕のもの…


僕の…

愛おしい…


たった一つの愛だ。

この世でただ一つ…

僕の身で確認できる愛なんだ…。


美桜…


君に出逢えた奇跡は…


僕の人生の宝だ…。

これから先も輝き続ける


僕の宝物だ…。


「美桜、愛してる…。」

僕は、熱を帯びて潤んだ瞳の彼女に言う。


「私も…吉宗さんを愛してる。」


ずっと…ずっと…

永遠に…


「「愛してる…」」




…――END――…

No.346 12/05/11 08:17
華 ( do56nb )

>> 345 ずっと楽しみに読ませて頂いていました。

お疲れ様でした😄

パート2があったら嬉しいです。

ハラハラしましたがハッピーエンドで良かったです。

  • << 350 華さん✨いつもありがとうございます☺ 最後まで読んで頂き、本当に嬉しく感無量です😢✨ 有り難い事に、思いの外たくさんのご要望を頂いたので、不純愛「特別編」を書きたいと思っております🙇 良かったらそちらも宜しくお願い致します🙇✨ ゆい🌼

No.347 12/05/11 08:22
匿名 ( ♀ 88bFh )

毎日楽しみに拝見させていただいていました。

ハッピーエンドで本当に良かったです😃
気持ちがほっこりしました。

また機会がありましたらお願いします。

どうもお疲れ様でした。


  • << 351 匿名さん✨ご感想ありがとうございました☺ そんな風に言って頂いて私も嬉しいです😢✨ 近々、「特別編」の更新を致しますので、良かったらそちらも読んで頂けると幸いです☺✨

No.348 12/05/11 17:59
敬 ( ♂ RdzNnb )

ゆいさんお疲れ様でした。
ミクルでこのような小説が読めるとは思いませんでした。
吉宗と美桜の世界に引き込まれ、涙が溢れる事もありました。
ハッピーエンドで良かったです(^_^)
次回作に期待してます。

  • << 352 敬さん✨ご感想ありがとうございます☺ 正直、男性にはウケない内容なのかも…と思っていましたが、敬さんのように楽しんで下さる方がいてくれて良かったです☺✨ 男性のご意見は参考になるし、また勇気付けられます🙇✨ この後は不純愛の「特別編」を短編で更新しますが、それが終われば新作も考えいます😊 良かったらまた読んで下さい✨ 宜しくお願い致します🙇✨ ゆい🌼

No.349 12/05/11 18:22
ミルキー ( 30代 ♀ 4ezynb )


ゆいさん
お疲れさまでした☺
不倫されてた話から ノーベル賞受賞まで の話の展開が全く読めませんでした☺

特に私は
人物描写の繊細さが
大好きでした🌼


次回作も期待します☺


  • << 355 ミルキーさん✨ ご感想ありがとうございます🙇✨ 展開が読めなかったですか😲それは…作者冥利につきますシメシメ😁✨ 最高のほめ言葉を頂いてしまいました☺ 嬉しいです😢 この後は不純愛「特別編」を短編で書きますが、終わり次第新しい作品を執筆したいと考えていますので、良かったらそちらも読んで頂けると幸いです☺✨

No.350 12/05/11 21:48
ゆい ( W1QFh )

>> 346 ずっと楽しみに読ませて頂いていました。 お疲れ様でした😄 パート2があったら嬉しいです。 ハラハラしましたがハッピーエンド… 華さん✨いつもありがとうございます☺
最後まで読んで頂き、本当に嬉しく感無量です😢✨

有り難い事に、思いの外たくさんのご要望を頂いたので、不純愛「特別編」を書きたいと思っております🙇

良かったらそちらも宜しくお願い致します🙇✨

ゆい🌼

  • << 357 楽しみにしています😄 ゆいさんの話しは読みやすく、吸い込まれます。
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