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㍊( wPNK )
10/07/03 00:53(更新日時)

小説なんて書いた事もないので表現力が乏しい上、読み難いかもです。

最近よく見聞きする【虐待】という行いについて考えるきっかけになれればと思い、主役【城(セイ)】の存在を何かに残したかったので…ですからほぼノンフィクションです。

つたない文章ですが、暇潰し程度に読んでください。

虐待を中心に、同性愛的な内容、精神的な問題等、少々生々しい部分も含まれています。
不快に思われた方は素通り願います。
感想スレは別にありますので、読者の方の邪魔にならないよう、レスはそちらにお願いします。

一度自分のミスで削除してしまい…申し訳ありませんでした。
再度よろしくお願い致します。

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No.1301642 10/04/19 21:10(スレ作成日時)

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No.101 10/04/25 20:16
㍊ ( wPNK )

18時
日も少しずつ傾き
肌寒い季節が近付いていた

『おーい、片付け終わったか?帰るぞー。』
男達は腰道具を外して車に積み
現場の水道で手や顔を洗う

『いやー疲れた。』
『今日飯何食おう。嫁居ないんすよ。飯無い!』
『ラーメン食べたいすねぇ~。』

赤い頭の男が言う
『じゃあラーメン食うか、味噌!』
『…何で味噌限定(笑)。』
『川向かった所に旨いとこあるよ。行こ。醤油激旨。』
『決定~!』
『おい!俺の味噌は無視かよ(笑)!』

現場を出た彼らは
川へ向かって走り出す

信号が赤になった所で
何か揉めている3人を見付ける

『何やってんすかね。』
『…キョウさん!アレ…。』
『あぁ…アレな…。ちょっと信号渡ったら車停めてくれ!』

ハザードを付けて停める

3人の内1人は城だった…

No.102 10/04/25 20:40
㍊ ( wPNK )

いきなり出て行ってもと思い
窓を開けて様子を見る

チャラチャラした感じの男達が言う
『いやいやだからさ、人にぶつかってね、そんな大袈裟に痛がるってどういうこと?って聞いてんの。』
『医療費払わす魂胆?』

城が怒鳴る
『絡んできたのはそっちだろうが!正面からよけずに寄ってきやがって…!』

『へぇ~オレらが悪者なんだ?ボク中学生?2千円で許すよ(笑)。』

どうやらカツアゲらしい…
『今時かって手口だ(笑)。』
『あ、キョウさん行った。』

城が虚勢を張ってるのが
すぐ分かった

キョウはわざと城の後ろから肩を軽く叩いた

『おい、ボーヤ。』
『…!!痛ってぇなッ!』

あまりの痛みに
城は確認もせず振り向きざまに
殴りかかった

キョウの左腕に当たる

No.103 10/04/25 21:00
㍊ ( wPNK )

『痛ッ。お前…!俺がか弱い美女だったらどうすんだ…。』

城は言葉が出なかった
(キョウ…?)

『なぁ、話聞いてたんだけど。こいつ何かしたのか?』

2人の男は引くに引けず言う
『いや、当たり屋かと…ぶつかっただけで普通じゃない痛がり方するからさぁ。』
『そうそう。』

途端に城が反応
『違う!お前らから…!』

キョウが止めに入る
『待て待て待て、お前は待てって。今見たろ?本当に肩痛めてんだわ。許してやってくんねーかな。な?!』

ガテン系の赤い頭の男が
上から目線で見下す

その奥でワゴン車から
こっちにガン飛ばす男達数人が見える

2人はすぐ去って行った

まさかまた会えるとは
思ってもいなかった
本心は嬉しい

でも城は
そんな素直な性格じゃない
むしろ前より歪んでいた

No.104 10/04/25 21:22
㍊ ( wPNK )

あの柔らかい笑顔で城を見る
『元気かよ。何か揉めてる奴いると思ったら…そのジャージと帽子で分かった(笑)!』

城は言葉が出てこない
キョウの目を見れない
両手を後ろに隠したが
キョウは見逃さなかった
そして見て見ぬフリをした

『肩完治してないのか?薬悪かったかな…。あれから家帰ってないのか?』

首を横に振る
(声が出ない…)

『先輩とやらはどうした?まだ世話になってるのか?』

また横に振る
(先輩にはもう…)

『あのなぁ…エスパーじゃないから喋ってくれないと分からん(笑)。ラーメン食いに行くんだ、奢ってやるから来い。』

…横に振る

キョウは溜息を付いた
そして小声で言う

『この短期間で何かあっただろ。一時間半…待てるか?一旦会社戻って一時間半後、自家用でここに来るから。いいな。』

今度は頷く
キョウはホッとした顔をしてワゴンに乗り込む

『よし帰る!』
『えっ!ラーメンは!?』

一時間半後まで…
そこの公園で待っていよう…

No.105 10/04/26 07:56
㍊ ( wPNK )

ベンチじゃ目立つから
キョウが来ても見える木陰の垣根に腰を降ろす

下校する学生が通る
今流行の芸能人や音楽の話
ファッションの話
聞いても全く分からない

買物帰りの親子が通る
誕生日のケーキを早く食べたくて楽しみにしてる子供

自分が誕生日を迎えたことも
全然知らない城
祝われたことは勿論無い
日付すらよく分からない毎日

信号待ちの車
中でイチャつく男女
異性に興味をもったことも
意識したこともない

時計の無い城にとって
一時間半は長い
考える時間だけが余計にある

ふと気付く

両手に巻いた血で滲んだ布
見られて問われたら
何て言えばいい?
布切れを外せば下は手錠だ…

こんなみっともない姿
絶対見せられない

思い出したように顔を触る
鏡を見てテープは取ったから
もう付いてないよな?
でももしまだ付いてたら…

次々と気になる

俺臭いかも
小便まみれだったから
シャワーで流したけど
匂いが染みついてて
心の中で軽蔑されたら
臭いって嫌な顔されたら…!

まだまだ気になる

No.106 10/04/26 08:13
㍊ ( wPNK )

背中の火傷
さっきのでまだ怪我してるって気付かれた
もう治ってておかしくないのに

また見せろって言われ
先輩の家からのこと聞かれたら
どうはぐらかそう…

クラスの女子に世話になったとか
食わせてもらったなんて
死んでも言えない

チクられて捕まって…
ロープで繋がれて!
犬の餌を食ったなんて!!
熱湯で気を失って
小便かけられたなんて!!

…言えるかよ!!

ボロボロと涙が溢れる

…本当は助けて欲しい
…でも内容は言いたくない
…話さなければ理解してもらえないだろう

キョウなら何とかしてくれそうな気がした
待ってろって言われて
凄く嬉しかったんだ
あんな気持ちになったことは今まで無い

キョウを信じたい

でも…でも!
信じて…
また裏切られたら…
学校や家に連絡されたら…

会うのはやめよう

城は垣根を降り隠れるように
芝生の上で膝を抱え
声を出さずに泣き続けた

No.107 10/04/26 11:26
㍊ ( wPNK )

最近泣いてばかりだ
しっかりしないと
泣いてどうにかなるワケじゃない

そう思いながら涙を拭き
ぼんやり先を考える

もう時間になったのか
聞き覚えのあるクラクションが鳴る

垣根から覗く
車道を挟んで停まっている
真っ黒い車…キョウだ

もう会わないって決めた…
諦めていなくなるまで待つ

でもキョウは中々諦めない
また鳴らす
クラクションが響き渡る

城は耳を塞いで隠れ続けた

何度も鳴らす
周囲の冷たい視線を無視して

出て来ーい
来るまで鳴らすぞ
周りなんか関係ねーよ(笑)

そう言っているように聞こえる

段々長めに鳴らし始める
通行人や信号待ちの車の人達が
怪訝そうな顔で黒い車を見る

城は耐えられなくなった
キョウが呼んでる
待ってくれてる
俺をずっと待ってる

行かなきゃ…!
垣根を飛び越えて走り出した

キョウも車道の向こうから
城が走って来るのを見付けた
人や自転車をかわしながら
必死に向かって来る

クラクションを止め囁く
『そんな焦んなくてもいいのによ…(笑)。』

No.108 10/04/26 14:12
㍊ ( wPNK )

キョウが停車してる隣に
信号待ちで停まっている車

城は気付いた
…ツートンの祖父の車

今回は城を探して走り回っている雰囲気でも無い
むしろ気付いてさえいない

顔が強張り体をひるがえす

『あれ?何で…?』
キョウが不思議そうに
その様子を眺めていた

『あ…バカ!危ねぇッ!』
車内で思わず叫ぶ

城は車が行き交う大きな交差点に脇目もふらず走り込んだ
祖父から逃げる事しか
もう頭にはない
無我夢中だった

(何で…何でこんなタイミングでアイツが…!!何で!)

キキーーッ!
パーーパパパーッ!
ブーーッ!

急ブレーキをかける車
クラクションを鳴らす車
その後ろで追突音も聞こえた
罵声も飛び交う
通行人達も足を止めて叫ぶ

軽く乗用車と接触はしたものの
交差点を無事渡りきって
城は逃げて行った…

祖父は騒ぎに気付くが
城の姿は見えていない

信号が青になる

『…クソッ!』
キョウはアクセルを踏み込み
無理矢理流れに割り込む

城を追う為に…

No.109 10/04/26 18:04
㍊ ( wPNK )

城は走った

人を押し退け
信号が赤でも全く見ていない
あちこちで
クラクションやブレーキ音
間一髪の瞬間…

キョウは車を飛ばすが
中々追い付けない
とうとう見失う

『何だってんだよアイツは…!死にてぇのか!?』

諦めるか…いや
今捕まえないと
この先会えない気もする
そろそろ体力も限界だろうし
その辺でぶっ倒れる頃だろ
もう少し回ってみるか

そう思って交差点を曲がった

城はその通り
暫く先の方で限界を迎える

道端で膝を付いて
呼吸が落ち着くまで待つ
苦しい…

その姿を心配して
女性が声を掛ける
『あの、大丈夫…ですか?』

ゼェゼェと胸を押さえ振り向く
かすれた声でやっと一言
『…うるせぇ、消えろ…!』

女性はムッとしながら
その場を去った

呼吸を整えながら
パニックに陥っている

どうしていつもあと一歩で現れるんだ!
どうして俺が逃げなきゃならない!
見付けたら自分からケリ付けるって決めたのに!

いつも決意しては
いざとなると臆病になる…
どうして…
どうしてこうなんだ…
情けない…

自分を責め続けるしかなかった

No.110 10/04/26 19:15
㍊ ( wPNK )

クラクションを鳴らしてみるか?
いや…やめておこう
今のあいつなら
逆に逃げるかもしれないし

何に怯えて逃げたのか…
気が変わって逃げた様には
見えなかった

色々考えながら
左右を探して走る

『…いたッ!』

キョウは少し離れた所に車を停め
城の方へ歩き出す

なるべく驚かさないように
斜め後ろにしゃがんで
そっと声を掛けた

『…迎えに来た。』

城は振り向かなかった
視界にキョウのダボダボの作業ズボンが入っていた
彼だというのは分かっていた

『…。』
『行くぞ。乗れよ。』
『…。』
返事が無い

震えている城を見て
どうしていいか困惑する
いつも通りでいっかと吹っ切る

『俺、ハタから見たら苛めてるみたいだから…お願い。移動して(笑)。ねッ!?』

城は黙ったまま立ち上がる
同時に両手を後ろへ隠しながら

No.111 10/04/26 19:51
㍊ ( wPNK )

『頼むから逃げないでくれよ?オニイサンもう歳だから追い付けないからさ!』

車の方向へ歩きながら話しかけ
ドアを開ける
すると城は止まった

『どうした?』
『…乗らない。』
『え?乗らない?…なら牽引するか?安心しろ、牽引免許はあるぞ(笑)。』
そう言ってまた促す

『乗れない!』
城が突然叫ぶ

『…何でだよ。』
『汚くて臭いから!乗れない!汚せない!だから行ってくれ!構わないで行けよ!』

前に会った時を思い出す…
体を見た時だ
汚いからって言ってた
アレか…?

『落ち着けって。あのな、お前は汚くないし臭くないの!前も言ったろ?』

隙をついて
キョウから離れようとした城の服を瞬時に掴み
車へ乗せた

『諦めな(笑)!』

俺…これじゃまるで
誘拐犯みてぇだ…

溜息をついて
やっと車を動かした

No.112 10/04/26 21:16
㍊ ( wPNK )

城はグッタリとして
キョウを見ないようにしている

弁当屋が目に着いた
城の両手首を見てしまったから
店で食べるなんて誘いには
乗らないのは分かっていた

『腹減ったぞ俺は。食べたいモンあるか?』
『…肉。』

食欲があるだけ安心
焼肉弁当と豚汁を買う

『ちょっと持ってろよ。』
弁当を城に渡そうとする

思わず両手を出し受け取る城
しかしすぐ袖を伸ばし
手首を隠した
キョウはまだ知らないフリをするが
確認する為にわざと仕掛けた

『どうして逃げた?軽く車に当たったみたいだけどよ。痛むとかはないのか?』
『…ない。嫌なの見ただけ。』
『嫌なの?』
『…家の奴。』
『なるほどな。車道に飛び出すくらい嫌いなワケね。』
『…。』
『背中は。痛いんだろ。』

城はうつむく
『…またちょっと怪我しただけだから。』

素直じゃねぇなと思いつつ
仕方無いかと納得する
言いたくないこともあるだろう

駐車場に車を突っ込む

城が挙動不審になる
『ここはどこ。』

『俺の城!』

No.113 10/04/26 22:22
㍊ ( wPNK )

ユウナのマンションより大きい
城は車から降りようとしない

『次はどうした。』
呆れた顔でキョウが言う

焦っていた
部屋に上がったら
話さなきゃならない状況になる

手首がバレる
背中も見られる
汚い臭いと嫌われる

嫌われる…
嫌われたくない

先輩とかぶる
優しさに甘えて結局
あんな事して
利用手段として接したのに
いざ亀裂を入れてしまうと
後悔だらけで…
胸が張り裂けそうになる
あんな思いはもう充分だ

また目付きが変わってくる…
『俺、ここに用事は無い!』

キョウの眉間にシワが寄る
何も言わず運転席を降り
乱暴にドアを閉めた

そして城の方に回り
ドアを開ける

持っていた弁当を引ったくり
下に置く

怒らせたかと怯えた目で見る城
その顔を両手で触れ
心を見透く勢いで城の目を見る

初めてハッキリ正面から顔を見た

キョウの目はくっきりとした二重
目鼻立ちもしっかりしていて
顎髭を少し生やしている
いわゆるガテン系色男だった

『…離せよ。』
キョウの両腕を掴む
手首の事なんて忘れていた

キョウも手を顔から離さず
言葉を選んで
静かに口を開く…

No.114 10/04/27 02:46
㍊ ( wPNK )

『よく聞けよボーヤ。』

キョウの腕を掴む城の手は
また震えていた

『赤の他人が首を突っ込んで…お節介だと思うかもしれない。話したくないことも、知られたくないこともあるだろう。それは理解してるつもりだから。』

顔から手を外し
今度は自分の腕を掴んでいた
城の手を取って見た

城はハッとして
腕を引っ込めようとした…が
キョウはそれを許さず
そっと袖をめくる

『見んなよ!!』
顔を赤くして怒鳴る城
力任せに腕を引いた

応急処置で
適当に不器用に巻かれた
赤く染まり汚れた布
手錠までは見えなかった

城はそれでも懸命に両腕を隠す
目には恥ずかしさと怒りに満ち
涙が溜まっている

その姿にキョウも胸が熱くなる…
もうダラダラ話すのはいい

『俺、お前を助けたいんだ。』

城の目から涙が流れる
いつも待っていた言葉
いつも願っていた言葉
いつか誰か助けてくれる
それが城の唯一の【夢】

自分の力だけでは
生きて行くことが出来ない社会

まだ自分のことを知らないのに
この男はどうして?
そんな疑問を抱きながら
腕を隠すのをやめ
服の袖で落ちる涙を抑え続けた

No.115 10/04/27 18:03
㍊ ( wPNK )

泣いてばかりいた俺は
自分の存在価値を問い続け
答えが見付からなくて
自分が人間である自信が
全く無くなっていた

…だって
本当に分からなかったんだ

何故、皆は笑えるの?
何故、皆は人が怖くないの?
何故、皆は愛されているの?
何故、皆は進めるの?
何故、皆は傷を負わないの?
何故、皆と違うの?
何故、俺は帰る場所が無いの?

ロープとドッグフードと小便…
一生忘れない

人間として生きる事を
確実に否定された瞬間だった

どんなに決意して
自分の為だからと
立ち上がり続けても
恐怖心が邪魔をして背を向け
意志と逆の行動を取る

そんな自分が
情けなくて情けなくて
自分で自分を拒否する

もう俺には立ち上がる理由が
何も無くなった…
1人じゃ無理だった…

先生、先輩、ユウナ
ちゃんと話せば
助けてくれただろうか

暴行され、飯も無く、部屋も無く、湯も使えず、縛られ、罵られ、熱湯に怯え、人以下の扱いで、犯されてますって言えば…

キョウ…
助けてくれるんだろ
アイツを殺してくれたら
俺助かるんだ

だから…早く助けてよ…

―城―

No.116 10/04/27 19:17
㍊ ( wPNK )

城が落ち着くまで
キョウは傍らで静かに待っていた

気まずそうに顔を上げる城
キョウが笑いながら声を掛ける
『よし(笑)。行くか。』

先を歩くキョウの背中を見詰める

肩幅があり逆三角形の広い背中
細身なのに
強靱な筋肉で固められた腕

いつか自分も
そんな体になりたいと思った

キョウの部屋は2LDK
やっぱり割と小綺麗にしている

『ま、ちょっと適当に座れ。』
そう言って何かを探し始めた

城は部屋を見回す事もせず
ソファーに腰掛けた
酷い緊張感で汗ばむ

これから何されるか想像はつく

明るい電気の下で気付く
手に固まった血が付いている
巻いた布も含め
もう全てが汚いと思った

『…汚い。』
『えー?何だって?』
『…シャワー貸して。』
『シャワー?いいけど、待てって。順番てのがある。』
そう言ってキョウはまだ何か探す

城は自分の全てが汚れきっていると思い込み
どの家に入っても
シャワーの事しか頭に無い

『汚れるから!早く貸して!』

キョウがハサミとガーゼを持って戻って来る
『分かったから!でもまずはこっち。手、出せ。』

No.117 10/04/27 19:40
㍊ ( wPNK )

城はキョウを確かに信じた
それは間違いない

ただ
祖父から受けた虐待行為の内容に関わる事については気を許していなかった

抵抗してでも
やっぱり見せたくない
俺は気持ち悪いから…
人間じゃなく化物だから…

手を見せろと言われ
目が吊り上がる
手錠が…まだ…

『…見せられない。』
『何でだよ。さっき見たぞ。怪我してんだろ?オニイサンに任せなさい。』
『このままでいい。怪我には触れるな!』
『巻いてる物に触れるから、怪我には触れマセン!』

キョウはお構いなしで腕を取る
硬い物に当たる感触

『何…巻いたんだ?』
嫌がる城を体でガードし
ハサミで一気に切る

ガチッと刃が当たり
手錠が顔を出した

『…。』
言葉を失い振り向いて城を見た

城はソファーに座り込み
ふてくされて向こうを向く

No.118 10/04/27 20:30
㍊ ( wPNK )

『手錠…って…。』

もう片方の腕の布も切り取る
城はされるがまま黙っていた

『家の奴か。』
『…。』
『どんな家だよ…親か?』
『…。』
反応すらしない
『この傷も…相当暴れたんだろ。深いし。』

外さなきゃな…
さてどうするか…
まさかこんな物が…そうだ!

工具箱を取り出し
ガチャガチャと探す

キョウは落ち込む城を見た
『いいか、見てろよ。』

その言葉につい興味を持ち
体を起こして手元を見た

針金のような物で鍵穴を弄る
…取れた!
得意げにもう片方も同じくやる

城は目を丸くした
『…凄い…外れた。』

キョウはニヤッと笑って片付ける
内心ピンで外れる手錠で良かったと安心しつつ…

『尊敬したか(笑)?』

No.119 10/04/27 23:57
㍊ ( wPNK )

城の手首を消毒する
痛みに耐えながら城は
キョウがやる仕草を見ていた

心配したほど
酷い驚き方をしなかった
軽蔑もされてないみたいだ
それだけで安心した

『よし…。風呂入るまでこれでいいだろ。手洗えよ。飯にしよう。』

冷めた弁当を温めて渡す
『…何て弁当?』
『焼肉弁当。不味いか?』
首を横に振る
『これが焼肉…。』
『?』

中学生なんだろうけど
どこかそんな気がしない
もう少し小さな子供を相手してる気分になる
何故かはまだ分からない

『そういや、名前。聞いて無かった。てか教えてくれなかったしな。』
少し考えて伝える
『…ジョウ。』
『ジョウか。名字は?漢字と。』

城はヨウヘイの話を思い出す
佐伯城って城の話

『城って書いてジョウ。名字は秘密。』
『何でだよ(笑)。』
『城跡だから。』
『…??』

会話していても
何だか腑に落ちない…
まぁいっか!

今度は自分の話をする

No.120 10/04/28 01:35
㍊ ( wPNK )

『俺は神崎鏡矢、33歳バツイチです。鏡に矢でキョウヤ。キョウでいいです。ヨロシク。』

(何で敬語…)
城は少し後悔していた
名前ちゃんと教えないと…
この人にだけは…
そうしなきゃいけない気がする
しかしタイミングを逃す

『さ、風呂入るか。いいぞシャワー。…あ。』
背中の怪我を思い出す
『そうだった、背中もだな。どれ見せてみ。』

城の表情が一気に曇る
手首に気を取られて
背中の痛みなど忘れていた

鏡はその表情を見逃さなかった
立ち上がって城の隣に座る

『まだ信用出来ないか?怖がらなくていいから。どんな傷や体だろうと汚いとか嫌だとか思わないから。言っただろ。助けたいって…。』

また熱湯をかけられてから
城は自分の背を見ていない

残っていた鷹の羽先も
消えてしまっただろう

鏡が見守る中
ゆっくりジャージを脱ぐ…

薄暗い車の中と違って
ここは明るい…

No.121 10/04/28 05:45
㍊ ( wPNK )

(あぁ…)
酷いなんて物じゃない
ほぼ治りかけた状態とは言え
やっと再生してまだ柔らかい皮膚とケロイド状になった皮膚が痛々しい

その上から再度浴びせられた
熱湯の跡
水膨れが破損し
服と擦れ合い
ただれてめくれ落ちた皮膚
右半分の背肩が赤く炎症

薄れても一生消えないであろう
深い傷跡

腕は手錠を外すのに必死で
壁に打ち付けた時の痣

空気に触れて痛み出したのか
城の肩が震え呼吸が荒くなっているのが分かった

自分が動揺すると
またこいつは
汚いからと騒ぎ出すだろう…
少しふざけてやるか…

『あららら…よく我慢してたな!さすが男だ(笑)。俺なら死んでる!』
『…そんな酷いの。』
『(ヤベ…)酷いっちゃあ酷いけど、俺注射嫌いだし(笑)。痛いのダメ。』
『手とか傷だらけなのにか。結構喧嘩とかしてたんだろ。』

意外に鋭い所に逆に驚く

『シャワー大丈夫か?しみるぞ?』
『前ので慣れてるから。』
『…そうかい。水で流せよ。熱持ってるし。手伝うか?』
『いらねぇし!』
『冗談だ。照れんな(笑)。』

城の頭をクシャッと撫で
タオルを持たせた

No.122 10/04/28 08:31
㍊ ( wPNK )

今日も長い一日だった

城の背中に薬を塗って
ガーゼを当て
丁寧に包帯を巻く

城はさっきまでの悩みはどこへ行ったのかと思うほど
気持ちが穏やかだった

鏡は無理に虐待の内容を聞かず
サッパリした性格で
どこかヨウヘイのノリに似ていた
親近感が湧いてきたからかもしれない

ソファーに座りながら
ウトウトしている城を見て
鏡も安心した

『明日髪切りに行くか。お前身なりきちんとしたらイイ男だぞ(笑)。それ染めたのか?』
『染めてない。地毛。』
『随分明るいな。きっとハゲるの早いぞ。』
無垢な城には
あまり冗談が通じない

『本当…?マジで嫌だ…。』
本気で落ち込む
『嘘だって。面白い奴!』

明日?
明日は何月何日で何曜日だ?
ふと疑問に思いながら聞く

『明日、仕事?』
『日曜日だから休み。』
『良かった。』

そう言うとまた寝入る
鏡はやっと素直な一面を覗かせた城を見て微笑んだ

自分のベッドに寝るよう促し
鏡はソファーで寝た

No.123 10/04/28 12:15
㍊ ( wPNK )

快晴だった
鏡との出会いを祝うように
雲ひとつない秋晴れ

鏡は朝一
城を美容師に預ける

『じゃ、スカッと丸坊主にしてやってくれな!』
『坊主は嫌だって!』
本気で怒る城がたまらない
美容師も大笑いだ

その間に
城が着れるような服や靴を買い
布団も買った

買物を終え
城を迎えに行く
丁度終わった所だ

『あ、神崎さん!今終わりましたよ。』
『おー、垢抜けたな(笑)!』
城は何も言わず帽子をかぶった
顔が赤い

『照れんなって。せっかくやってもらったのに帽子って…美容師サンに失礼だろ(笑)。』
『坊主はひたすら拒否してましたから。』

車に乗り込み
荷物の多さに驚く

『こんなに何買った?』
『お前が使うモンだよ。ジャージと制服じゃこれからも無理あるだろ。』

城は少し戸惑い始める

No.124 10/04/28 12:43
㍊ ( wPNK )

『俺、金もう無い…いつこの分を返せるかわからない。バイト辞めたし…中学だとほとんど仕事無いし…。それに…。』
段々と口籠る

鏡は相変わらず
笑いながら突っ返す

『バーカ。俺が中坊に見返りなんか求めると思うか?これからの事はゆっくり考える。お前の意思尊重してな。今夜は布団が必要。明日は服が必要。だから買った!文句あっか?金の心配は大人に任せろ。お前は青春する為に女の作り方を考えろ(笑)。俺こう見えても稼ぎはいいんだ。』

『…うん。…ありがとう。』
小さな声だったが
初めてやっと礼を言えた

ずっと居座る訳にはいかない
そればかり考える

金出さないと
鏡だっていつか嫌になる
稼がない働かない穀潰しって
鏡だっていつか愛想尽くす…

それが怖かった

No.125 10/04/28 14:19
㍊ ( wPNK )

『そういや、お前の家ってどこだよ。』

ギョッとした
教えたら連れて行くのか?
もしかして鏡もアイツらと…

『どうして家!?』
『地理分かんないんだろお前。万が一の時の為に持たせてやる。お前の家と俺の家との地図。駆け込み寺にはなるだろ。』

本当に何故ここまで…

『でもここがどこか全然分からない。教えてあげられない。』
『あー…そうだよな(笑)。学校行けば分かるか。』

一旦学校へ寄る
そこから説明する

とうとう家が見えてきた
『そこ。』

2度と帰りたくない家
次連れ戻されたら
最後かもしれない
あの手紙…
これ以上の仕置って
どんな事をされるんだろう

絶対捕まる訳にはいかない!
自然と冷汗が出て来る

『この一軒家か。分かった。悪かったな、見るのも嫌だったろうに…じゃ帰ります!撤収!』

アクセルを思い切り踏み込んで
加速する

そんな鏡の上手な気遣いが
城は大好きだった

その後
ドライブスルーに寄り
ハンバーガーというのを初めて食べた城

食べたことがない
知らないと言っても
中々信じてもらえなかった

No.126 10/04/28 18:57
㍊ ( wPNK )

家へ帰ってから
鏡と2人でじっくり話し合う

一番早いのは携帯を持たせる事
いつでも連絡が取れる
でも城は拒否した

もし見付かった時
携帯なんて持ってたら
手当たり次第調べられる
そうなると鏡に迷惑がかかる
それは出来ない

…とまでは言わなかったが
断じて拒否し続け
鏡が根負けした

じゃあやっぱり
この辺の地図描いてやると
手描きで説明する

これが学校
そしてお前の家
川はここ
お前の先輩の家はここだから
そこからこう来て
ここが俺の家
ついでだから俺の会社も…

『な?分かりやすいだろ。』
『…ここに目印ないの?』
『あ~!ここ歯医者ある。描いとくか。』
『これ信号何個目?』
『えっ?!えーとなぁ1、2…確か3個。多分(笑)。描いとくから。こっちも。』

段々余計な描き込みが増える

城はゴチャゴチャになった地図を手に取り困った顔をする
『…逃げても辿着けない。』

鏡はガックリ肩を落とし
地図をコピーして渡した

『こっちのが細かいし分かりやすいか…。』
『うん。』
『ハッキリ言うなよ…(泣)。』

No.127 10/04/28 19:27
㍊ ( wPNK )

鏡にとっても
城の存在は新鮮だった

初めてコンビニで見た時は
家出中の汚いガキかよという気持ちもあった
あの時の必死な姿を見て
何かを感じ放っておけなかった

城は地図に印を付けようとする鏡を止めた

『このままで覚えられるか?』
『覚える。』
『ならいいけどよ。携帯が嫌ならいざって時は公衆電話しか…小銭やるわ。』
『公衆電話?何?』

鏡はこの『何?』が
いつも疑問だった
普通に誰もが知っている事を
聞き返してくる…

最初の内は悪ふざけかと思った

携帯が普及した今
使う機会が無いにしろ
【公衆電話】くらいは中学生なら流石に知ってるだろう

さっきなんか
『ハンバーガーって何?』だった

少し面倒だなと思い
1度指摘してやれと
わざと強い口調で返す

『何?って…公衆電話くらいは分かるだろーが。そんな奴居ないぞ今時。わざとか?わざとだろ。嫌がらせだろ。吐け。』

それでも
冗談混じりのつもりだった

しかし城はハッとした顔で
下を向いてしまった

あまりにも重い空気が伝わる
鏡は後悔した
本当に知らなかったんだ…

No.128 10/04/28 20:00
㍊ ( wPNK )

『…ごめんな。そんなつもりじゃなかった。』

正直に謝ってみた
そしてついでだから
聞いてしまえと思って言う

『いや、あのな。普通を知らないからダメとかじゃなくて、どうしてそこまで無知なのかと。いやいや、無知って馬鹿にしてるワケじゃないから!』

もうどうでもよくなる

城は昔から賢かった
鏡の言いたい事は分かる

いつか言わなきゃならない事
言わなきゃちゃんと理解してもらえない事
そうしないと
鏡は自分に対して
気を使いっ放しだって事…

虐待されてるのを知ってるから
助けに来てくれた
打ち明けなきゃ…

そしてゆっくり話す

両親は離婚と同時に姿を消し
今の祖父母の家に置いてかれた
暴行は古い記憶で3歳からで
家から出られるのは学校だけ
嫌気がさして家出しても
何も分からなくて怖くて
遠くへ行けず
見付かる度に連れ戻され
また殴られるの繰り返しだと…

暴行の詳しい内容だけは
言えなかった

鏡は城の顔から目を背けず
じっと聞いていた

No.129 10/04/28 20:54
㍊ ( wPNK )

簡単な家庭環境の説明だった
それでも鏡は
ビールを置いて聞いてくれた

話せば問われる
それも覚悟していた

少し間を置いて鏡は口を開く

『肝心な話を聞く前から無神経なことを言ったな俺…謝る。もっと知りたい。暴力振るわれたきっかけは何だ?あるだろ、何か。』

城は記憶を何度も辿ってきた
今でも模索する
だけど…

『無い…見付からない。3歳の時の記憶、名前呼ばれて怖くて壁に張付いてて…気付いたら蹴倒されてて…でも原因は分からない。』

『…何て事を…3歳なら親の都合での暴力だろ。で、今の家でも?爺ちゃん婆ちゃんもか。それは?』

『それもよくは分からない。多分、2人とも母さんが嫌いだったみたいで俺も母さん似だから…。世間体を気にして仕方無く育てなきゃならなかったから、無駄に金かかるから…。』

No.130 10/04/28 21:25
㍊ ( wPNK )

そう言った所で
悲しげな顔で鏡を見た

『金…かかるから。稼がないで飯食って…穀潰しだから…迷惑だろうから…明日出て行く!地図もらったし、もし何かあれば来るから!』

急に辺りを見回し
バッグを探し始めた

鏡は目を閉じうなだれる
バッグが見当たらない
城は慌てる

『バッグ隠したのか?』
『ジョウ…。』
『どこにやった!隠したろ!』
『ジョウ!!』
『…。』

鏡が初めて怒鳴った
城はヨウヘイを思い出す
ここでもまた同じやり取りを…
成長出来ない自分…

(情けなさすぎて嫌になる…)

『金、金って心配するなって言っただろ!1人養うくらいは出来る。居たいなら居てもいいと思ってる。ただ、1度お前の保護者である爺ちゃん婆ちゃんに断らないとさ。誘拐犯になる。あとはお前の意思次第。すぐ決めろとは言わないから…。』

鏡は立ち上がり
引き出しから鍵を取り出した

『ここに居座るのが悩みの種の一部なら、避難場所として好きに出入りしていいから。束縛はしない。自由にしていい。ほら、合鍵。』

No.131 10/04/28 22:26
㍊ ( wPNK )

城は差し出された鍵を受け取る

【自由】
その言葉に反応する
鏡を見上げた

『ちょっと外出るぞ。来い。』

マンションを出て一丁ほど歩くと
公衆電話があった

『電話なんて掛けた事もないんだろ。教えてやる(笑)。』

受話器を取る
10円を入れる
プーーッと音がする
電話番号を押す

『俺の携帯にかけてみろよ。』

言われた通りやる
鏡の携帯が鳴った

『鳴った…。』
『(そりゃそうだろーなぁ…)確か10円で1分かな?使わないから分からないけどよ。』

中学生よりもう少し小さい子供を相手にしている気分になる
その原因をなんとなく知れた気がした

部屋に戻る
鍵と小銭と地図をテーブルに置く

『鏡。俺の本名…佐伯城。セイだけど呼ばれるの嫌なんだ。俺の中ではクソジジイに殴られる合図みたいなものだから。さっきジョウって怒鳴られて思い出した。大分県佐伯市にあるんだって…城跡が。』

鏡は笑った
『それでジョウって呼ばせるのか(笑)。サエキジョウならまさに建物だろ。』
『…建物のがいいよ。』

気が軽くなったのか
少し会話が増えた城

鏡はそれが嬉しかった

No.132 10/04/29 16:47
㍊ ( wPNK )



『ただいま。母さん。』

長身で短髪
サングラスをした一見芸能人みたいな服装の男が大きな鞄を抱え
苦笑いしながら立っていた

『シンジ…!あなた、あなた!シンジが帰って来たわ!』
『シンジが?』

夫婦で12年振りに
里帰りした息子に駆け寄る

『自分勝手で寂しい思いさせて、親不孝でごめん。恥ずかしい事だけど、馬鹿やり過ぎて…頭冷やして帰ってきた。こっちで仕事探そうと思って。』

深い話は上がってからと
2人は喜んで大切な1人息子を迎え入れた

12年前離婚してから
転々と仕事と女を変え
ホストクラブを経営したが失敗し
借金を負い女も逃げた
実家を頼って帰って来たと
親に申し訳なさそうに話した

あんなに水商売の嫁を嫌っていたのに…

夫婦はそんな事はいい
よくある話だ
よく帰って来たなと受け入れた

『城は?どうしてる?』
忘れてはいなかった様だ

反抗ばっかりして
不良と付き合って
無愛想で暴力的で
家出ばかり繰り返して
迷惑掛けてばかりで
今探しているところだ
…2人はそう説明した

No.133 10/04/29 17:26
㍊ ( wPNK )

自分達のせいなんだろうと
一瞬考え込む

『…帰って来るかな。』
『探し出して引っ張ってこないと無理だろう。学校だって行ってないし。見た事の無い服着てウロウロしてるから、女でも作って世話されてんのかもな!』

城の父親はなるほどねと頷く

『まぁ…オレの子じゃないし…。ただ、どんな感じになったかと思って。』
『次捕まえたら二度とそんな気起こさないようにしてやる!周りの目もあるからな。本当に可愛げも無いぞ。』

父親は知っていた
自分の子であるのは間違いないことを…

それも今更言えない
その辺はどうでもいい話だと思っていたからだ

『これからはオレも居るしさ。ちゃんと教育したらなんとかなるよ。今だけだって。』

No.134 10/04/29 20:17
㍊ ( wPNK )

買物袋を抱えて
鏡が仕事から帰ると
城がソファーでふて腐れていた

『何かあったのか?』
『…仕事したい。』

買った物をテーブルに出し
冷蔵庫に片付けながら返す
『だから無いモンはしょーがねぇだろ。てか、お前の仕事は学校行って青春する事だ。その次が勉強。』
『…。』

何を言われても
精神的な傷というのは深い後遺症が残るもので
祖母の言葉が頭から離れず
何もせずに居るのは苦痛だった

かと言って
まだ祖父に会う危険のある外に出る勇気もない
バイトも屋内で働ける仕事だけを探すため
年齢もあって中々見付からない

『トビ手伝いは無いのか?』
『鳶手伝いにコドモは危険なので結構です。内容も知らないくせによ。』
『馬鹿にするな。知ってる。1度近くで見たから。』
『そうか。見た目簡単そうでもキツい。体出来上がってないお前には無理。』
『ヘルメット被るし高い所なら見付からないのに…。』

鏡は晩飯を作り始めながら聞く
『学校でも問題あるのか?』
『あいつらチクッたり家に連絡したりするから行けない。』
『俺だって一応探してやってんだよ。どうせ俺に金入れないととか考えてんだろ。』

No.135 10/04/29 20:47
㍊ ( wPNK )

図星で返す言葉もない

鏡は手早く焼そばを作った
2つの皿に取り分け
城にテーブルに運べと箸も渡す

作業着を脱いで
洗濯機に突っ込み
着替えてテーブルに付く

城が小声で呟く
『情けない…マジ何も出来ない男だ俺…。』

それを聞いた鏡が
咄嗟に提案する
『じゃあさ、掃除と洗濯やってくれ。教えるから。そしたら俺、帰ってゆっくり出来る。最高!幸せ(笑)!』

鏡が楽出来るならやると
城は喜んだ

洗濯機の操作と
掃除の仕方や場所を教え
それが城の仕事になった

それからは
自分が穀潰しだと責める事は無くなった

些細な事柄が少しずつ
城の心の負い目を解消していく

城にとって今は鏡が全てだった

No.136 10/04/29 21:14
㍊ ( wPNK )

鏡が傍に居てくれる
鏡なら何とかしてくれる

いざと言う時は
鍵も小銭も地図もある
鏡に助けてって言える

自由にしていいって
言ってくれた
居てもいいって
言ってくれたんだ

布団も買ってくれたから
安心して休める場所がある

鏡が喜ぶなら
掃除も洗濯もちゃんとやる
それしか出来ないけど…

俺がどんなに困らせても
理不尽に突然
怒ったり殴ったりしない

俺の何?の質問責めも
嫌な顔しないで
丁寧に教えてくれる

今、初めて思った
鏡のお陰で
俺、幸せなんだ
鏡と出会えて良かった

明日久々に外に出てみよう

そう思いながら城は
今夜も気持ち良く眠りについた

No.137 10/04/29 22:08
㍊ ( wPNK )

せっかく外に出たのに
雨が降りそうな
どんよりとした雲

鏡が仕事に行く前に
昼から出掛けるからと伝えると
好きな事してこいって
言ってくれた

鏡の存在の安心感から
気分が大きくなっていた

地図を時々見ながら
気になっていた場所へ向かう

ヨウヘイの家だ

あれからどうしたかな
変な所が当たって後遺症になったりしていないだろうか
きっと凄く怒ってるだろう

着いてすぐ
ヨウヘイの部屋の窓を見上げる

洗濯したてのシャツが
ハンガーで掛けてあるのが見える
それだけで少し安心した

バイクの音が響く
感動したあの日を思い出す

段々と音が大きく響き渡る
(音が…まさか…)

『ジョウ!?』
『先輩…。』

No.138 10/04/29 22:52
㍊ ( wPNK )

ヨウヘイはバイクを停め
駆け寄って来た
城は身動き出来ず立ち尽くす

『ジョウ!よく来たな(笑)。』
何一つ変わらないノリで
城の胸をポンと叩く

それが城には
嬉しいような辛いような
複雑な気分にさせた

『先輩。あの時は…。』
『気にすんなって(笑)!つーかさ、アレで失神する自分が恥ずかしい(笑)!探してたんだよ、気にしてんだろうなってさ。あの後すぐ意識戻ったんだけど、ジョウ既に居ないし!』

城は苦笑いする

『で、お前20万置いてったろ。何でこんな事すんだって怒ってたら彫師から電話来てさ、未払い分払えって伝えろって(笑)。払ってなかったのかよ~ってさ、丁度20万だったから渡しちゃった。な、暇ならちょい走ろうぜ!乗れ!』

城は勢いに押され
謝る間もなかった

『再開を祝して駅前ブッ飛ばすからな!』

アクセルを回しウ"ォンウ"ォウ"ォーンと景気良く発進する

『先輩、駅前は嫌だ…!』
城は青ざめたが
ヨウヘイには
全く聞こえていなかった

No.139 10/04/30 05:45
㍊ ( wPNK )

駅前なんて!
アイツらがよく行く場所なのに!
こんな顔見えるヘルメットじゃ
アイツらだってきっと気付く…

必死でヨウヘイの肩を叩いて叫ぶ

『駅前はやめろ!家の奴ら居るかもしれないから!』
『ん?!そっか分かった!』

…ホッとした
今度は後ろから2台のバイクが
爆音立てて迫って来る
そして両脇に並んだ

『ヨウヘイ!』

『おぉ!久し振り!』『どこ行く?後ろ誰?』
『中学の後輩だ!暇潰しに流してる(笑)!』
『暇だから付いてく(笑)!』
『再会祝いなんだ!再会して走行再開(笑)!』

仲間らしい
気分上々の彼らは
城の言った事も忘れて
賑やかな街中へ向かう

城は必死に止めたが
3台のバイクの騒音が掻き消す

3台並列走行
信号無視
歩行者通行妨害
ヨウヘイはそれは当たり前
しかし3台で昼間は目立つ
更には最悪な事に
パトカーまで追って来た

皆が見る
ヨウヘイ達は笑っている
城は気が気じゃない

(勘弁してくれよ…!)

パトカーもバイクの機動力には敵わず信号待ちの車列にハマり
3台はそのまま逃走した

No.140 10/04/30 12:31
㍊ ( wPNK )

こういう時に限って
不運に不運が重なるのは何故なんだろう…

祖母の行付けのスーパーが近付く
変な店名だから
聞き覚えがあってすぐ分かった

入口を見た
こっちを見ている数人
その中に祖母もいた
傍で見た事のない男も
荷物を持って見ている

目が合う

祖母の口の動きで
声は聞こえなくても
名前を呼ぶのが分かった…

…城…!!

(…勘弁…してくれ…)
城は片手で顔を押さえた

(…もう…嫌だ…)
一気に気分が落ちる
ヨウヘイにも腹立ちを覚える

そんな城の気持ちをよそに
3人は相変わらず
爆音を立てながら
笑っていた

No.141 10/04/30 17:36
㍊ ( wPNK )

河川敷にバイクを停め
4人はバイクを降りた

『帰る。』
無愛想にヘルメットを突っ返す

不機嫌そうな顔の城を見て
ヨウヘイが慌てる

『ジョウ、どした?何か機嫌悪くない?』
『(誰のせいだよ)じゃあな。』
『ちょっと待てって!感じ悪すぎだって。』

その言葉にカチンとくる
『駅前行くなって言ったのに…お陰で家の奴に気付かれた。あんな派手に暴走して…。連れ戻されたらアンタの責任だ。』
『え?あ…もしかしてずっと家帰ってないのか?調子乗り過ぎた!ごめんッ(笑)!』

(笑う所かよ…苛つく…)
フンと鼻で笑い背を向ける

『ジョウ!そう怒るなよ!見られただけだろ?なら、それほど問題無いって。追って来てるワケじゃないしさ。』
『…何て言った今…!』

城は振り向いてヨウヘイに詰め寄る
その【だけ】が
どれほど危険か…!
城にとっては死活問題だ

『だから悪かったって…せっかく久々なのに。ホント短気なんだから(笑)。ごめん!ごめんなさいッ!』
土下座をし出す

(ふざけているようにしか思えない…ヘラヘラしやがって…)
怒りが治まらない

『短気で悪かったな!』

No.142 10/04/30 18:09
㍊ ( wPNK )

その時
ヨウヘイの仲間2人が話に入る

『何かヤバかったの?』
『家出中なのか?』

城は無視した
ヨウヘイが間を取り持つ

『…家が色々うるさいんだって。すぐ手出すみたいだし。なっ、ジョウ。』
『関係ねぇだろうが。』

気まずい空気が流れ
2人が責め始める

『あー…ウン。確かに関係ねーな。でも見られたら見られたで仕方ないし、ヨウヘイも土下座したしー…もういいんじゃね?』
『バイクは目立つモンだし。嫌なら乗らなきゃいいって話(笑)。』
『そうそう。親が手出すの?怒られんのが嫌で家出したの?』
『ギャクタイ(笑)?オレも親に意味無くボコボコにされてよく家出してるけどさ。ギャクタイだー!って騒いでやれば?割と効く(笑)。』

何故笑いながら話せるのか
理解出来なかった

ヨウヘイはヨウヘイで
やめろよとは言うが
どこか少し笑っている

『反撃したら?1度殴り返したら大人しくなるよ。中学なんだからそれくらい出来るし。やらないで怖がって逃げるからダメなんだって。普通やられたらやる(笑)!』

黙って聞いていた
鋭利な刃物で一刺しされた様な痛みが走る

No.143 10/04/30 18:37
㍊ ( wPNK )

普通やられたらやる…

やられっ放しだった訳じゃない
抵抗もした
殴った時もあった
でも敵わなかった…

恐怖心が拭いきれない
見ただけで汗ばむくらいで
震える時もある

なのに【普通】は…
同じように
暴力を受けている奴はやり返し
こうやって
仲間と笑い飛ばせている…

俺自身に問題あるのか?
俺が弱過ぎるのか?

力でも勝てず
反撃すると倍返しで
余計震えが止まらない
笑い飛ばす事も出来ず
それどころか泣いてばかりだ

やっぱり俺は情けないのか…

城の両手が拳に変わる
殴る為じゃない
悔しさで一杯だった

皆が普通にこなしているのに
俺には出来ない

ヨウヘイが声を掛けるが
城は見向きもせず姿を消した

No.144 10/04/30 20:36
㍊ ( wPNK )

夕方から雨が降り出す

20時近く
鏡は慌てて玄関を開けた

『…アレ。帰ってないのか?』
真っ暗な部屋の電気をつける

遅くなって腹空かしてると思って急いで帰って来たのに…
とブツブツ言いながら弁当を置く

(好きにしてこいって言ったしな…先に食おう!)

着替えもせずに
TVの電源を入れチャンネルを変える

久々に1人だなと思い
弁当を開けて食べ始めたが
何だか味気が無い

…弁当を買ってくると
城は必ず
今日は何?って聞いてたなぁ

肉だと笑顔は見せないものの
美味しそうに食べる
魚だと物足りなさそうに食べる

1度だけ意地悪して
買物行く暇無かったと
全部キャベツ大盛りの
生野菜のみにした時

文句ひとつ言わずに
シャクシャクシャクシャク…
ただ一生懸命食ってた
んで、最後に一言
寒い…って真顔で呟いた
爆笑したな~…

可哀相過ぎて
隠してたメンチカツ出してやったら
やっぱり笑顔は見せないけど
心底美味そうに食ってた

雨降ってるのに何してんだ?
ダチ居ないみたいだし…
まさかジジババに捕まったか?
帰って来るかな

あいつ居ないと
1人って割とポツリだ

ポツリってのはつまり…

No.145 10/04/30 21:25
㍊ ( wPNK )

『ハァ…寂しー!』

ガチャリと玄関が開く音
城が帰って来た

今の一言を聞かれていない事を願って平静を装う

『おぅ。遅かったな!弁当で悪いけど食え(笑)。』
『うん。』

どこか元気の無さそうな顔
何かあったかと聞いても
首を横に振るだけ

テーブルに座って早速
『今日は何?』
『カツカレーだ(笑)。』

そうそうこれだよこれと
鏡は自然と笑顔になる

TVで殺人事件のニュースが流れた

『人を殺したらどうなる?』
『どうなるって…捕まる。』
『その後は。』
『裁判もやって牢屋にポイ。』
『それだけ?いつか出て普通の生活出来る?』
『程度によっちゃあ無期懲役とか死刑もあるぞ…って何だよ突然。』
『自分が死んだら意味無い。』

鏡に不安がよぎった
『聞くから言えよ。』

城は日中言われた事を話し
彼らみたいに強くない自分を
ただ責め続けた

抵抗しても敵わない苛立ちが
今回の出来事で膨らむ

もうどんな手を使ってでも
殺してしまえば
懲役受けた後に
また生活出来るのなら
そうしてやりたいと話した

城に殺意が芽生えてきていた

No.146 10/04/30 22:12
㍊ ( wPNK )

ベッドに入りながら
鏡も悩んでいた

城を引き取るにしても
ジジババに会わなきゃならない

今のタイミングで突然押しかけて騒ぐ訳にもいかない…
もう少し時間を取ろう…

『城。起きてるか。』
『…何。セイって呼ぶな。』
『本名だろ。これから城って呼ぶ。【殴られる合図】なんてイメージは俺が払拭してやるから。』
『…。』
『家の奴にお前の虐待行為をやめさせて平穏に暮らすのと、ここに住み付くのとどっちがいい?』

突然の質問に間を置いた

『ここがいい。鏡がいいなら…置いて。』
『…分かった(笑)。』

『鏡。俺の何がいいの。どうしてそこまでする。』

今度は鏡が間を置く

『気が向いたら話す。寝ていいぞ。オヤスミ城クン。』
『…おやすみ。』

No.147 10/05/01 05:41
㍊ ( wPNK )

城は毎日
家事を欠かさなかったが

唯一料理だけは無理だった

熱湯が恐怖…
沸騰した時のボコボコという音
鍋壁に湯が触れた時のジューッという音
湯気の熱気
どれだけ熱いかというのは
誰よりも一番
身を持って分かっている

近寄る事すら出来ない

それでも鏡は
湯を使わない料理ならと試みた
城も興味を持って挑戦した

フライパンの熱でも
手が自然と震えだし
鏡がストップをかけた…

仕方ないと笑う鏡

城は震える腕の見えない部分を
鏡のいない時に
刃物で傷付ける行為を始めた…

料理ひとつ出来ない
鏡が仕事から疲れて帰ってきても飯の支度ひとつすら出来ない

アイツがあんな事をするから
俺の体はおかしくなった
こんな役立たずの腕要らない
アイツが憎い…

No.148 10/05/01 12:47
㍊ ( wPNK )

鏡は初めて城に小遣いをやった

一生懸命覚え
嫌な顔せず家事をこなす姿に
鏡も救われた

2000円を渡し
好きに使ってこいと言うと
城は真剣に何に使うか悩んだ
そんな姿に
鏡はまた微笑む

バイトで稼いだ金は
殆ど使わなかったし
手元にはもう無い
鏡に感謝した

人が混まない時間を狙い
鏡が教えてくれたデパートに行ってみる

たまたま通ったキッチン用品売場で
足を止めた

包丁やナイフが並んでいる

食い入るように眺めた
こんな簡単に手に入るなんて…
持ちやすい果物ナイフを選び
レジに並ぶ…

2000円を取り出した時
思い止どまる…

(こんな物買う為にくれた金じゃない…)

元の場所に戻し
本屋へ移動した

No.149 10/05/01 19:10
㍊ ( wPNK )

車の雑誌を買った

すぐ見たくて
人気の無い公園のベンチで開ける

冬も近付き気温は低いが
太陽が気持ち良かった

鏡と同じ車も載っている
いつか買いたい
車を持てばもっと自由になれる
鏡の車みたいに
格好良く改造するんだ
鏡より格好良くして
悔しがらせてやる

そんな事を考えながら
公園のベンチで1人
ページをめくっていく

集中し過ぎて
人が近付く気配を感じなかった

『君、何してるの?』

驚いて顔を上げると
2人の警官が見下ろしている
こんな近くで話した事はない
動揺した

『学校行ってないの?』
(…どうしよう)
『高校生?って言うより中学生だな?』
(…バイクの件か?)

言葉が出ず
身動きも取れない

中年の警官が質問している間
もう1人の若い警官が無線で何か話していた

上から下までジロジロと見る
そしてちょっと来てと
駐車しているパトカーへ招く

失敗した
俺は中学生だったんだ…
平日の日中1人でウロついてたら
どう見てもおかしいよな…
後悔しても遅かった…

No.150 10/05/01 19:42
㍊ ( wPNK )

放心状態のまま
パトカーに乗せられた

バイクの暴走行為の件だと思い
俺は悪くない
先輩達が勝手に…と
言い訳を考えていた

無線やら電話やらのやり取りを終えて警官が城を見る

『家出の捜索願出てるよ!しかも今までも何度か出てるね。駄目だよ、学校も行かないで。捜索願出てから結構経ってるしなぁ。どこに居たの?』

冗談じゃない!
アイツらが出したのか!?

身震いがする
そこまでしてるとは
思ってもいなかった…

城は懇願する
『帰りたくない!解放して!』

警官は却下する
『無理だね。何かあったの?家の人と上手くいかないのかい。凄く心配してるみたいだよ。連絡付いたし近いから送るよ。』

『…卑怯だ!グルかよ!』
『卑怯じゃないよー。お巡りさんだってね、これが仕事なんだから。グルって失礼だなぁ(笑)。』

城は車内で
お構いなしで暴れ出す
『ちょっ…!おい、お前後ろ乗って抑えろ。』
『あっ、はい。』

行かない!行きたくない!
開けろ!開けろ!
窓を叩きドアを蹴る

若い警官が城の隣に座り
城は取り押さえられた

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