注目の話題
ディズニーの写真見せたら
一人ぼっちになったシングル母
既読ついてもう10日返事なし

NO TITLE

レス500 HIT数 261006 あ+ あ-

㍊( wPNK )
10/07/03 00:53(更新日時)

小説なんて書いた事もないので表現力が乏しい上、読み難いかもです。

最近よく見聞きする【虐待】という行いについて考えるきっかけになれればと思い、主役【城(セイ)】の存在を何かに残したかったので…ですからほぼノンフィクションです。

つたない文章ですが、暇潰し程度に読んでください。

虐待を中心に、同性愛的な内容、精神的な問題等、少々生々しい部分も含まれています。
不快に思われた方は素通り願います。
感想スレは別にありますので、読者の方の邪魔にならないよう、レスはそちらにお願いします。

一度自分のミスで削除してしまい…申し訳ありませんでした。
再度よろしくお願い致します。

タグ

No.1301642 10/04/19 21:10(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.151 10/05/01 22:31
㍊ ( wPNK )

2度と見たくなかった家
まさかまさかの失態
頭を抱え込む

警官が家の玄関に行き
呼び出す

若い警官に促され
渋々車を降りる
これ持ってと言われ
車の雑誌も渡される

足がすくみ
逃げるに逃げられない…

次捕まったら終わりだって
あんなに警戒してたのに!
少し気を抜いただけなのに
何故こんな…俺馬鹿だ!
自分を責める

中から出て来たのは短髪の
鏡と同じくらいの男

(誰だよ…こいつ)
警官が説明して城を引き渡す

男は少し驚いたような顔で
城を家に入れる

『テメェら覚えてろ。』
警官に向かって
やるせない怒りをぶつけるように吐き捨てると
2人はやれやれという顔で
去って行った

祖父のメモを思い出す…
これがアイツのゲームなら
俺がゲームオーバーだ…

No.152 10/05/01 23:04
㍊ ( wPNK )

『触るな!誰だお前!』

男は城が逃げないように
1階の居間ではなく
2階の部屋に城を連れて行く
2階なんて上がった事すらない

部屋に入ると
男の荷物が適当に置いてある
布団も敷いたままだ

男は椅子をドアの前に置き
逃げ道を塞いだ形で腰掛けた

そして城を面白そうに見回し
ニヤッと笑う

城は冷たい視線を浴びせ
抑えた声で話す

『…何黙ってんだよ。誰だって聞いてんだよ。』

男がやっと口を開く
『城クン、大きくなったなぁ。』

(ワケわかんねぇ…)
勿体ぶって話す男に余計苛立ちを覚える

『退け。そこ。』
『退かないよ。親父に言われてるからね。捕まえたら話あるから逃がすなってさ。』

『アンタに関係ねぇだろ。』
…と言った時気付いた

親父に言われてるからね…?
クソジジイの事か?
城が固まる

『12年振りだな。城クン。父さんやっぱり帰って来たよ(笑)。』

No.153 10/05/02 00:06
㍊ ( wPNK )

長い沈黙が続く

不思議と城は冷静だった
物怖じせずハッキリと言い放つ

『どうでもいい。今更。アイツらが帰るまでそこに居る気か?隙見て勝手に出て行く。』

祖父が居なくて良かったという安心感と
突然現れた1人の男にお父さんだとか言われても
安っぽいドラマじゃあるまいしと
妙に冷めた気持ちだった

城が怖いのは祖父だけだ

男に背を向け
あぐらをかいて座り
車の雑誌の続きを読み始めた

(こんなチャラけたような男が本当の父親だとしたら凹む…鏡がそうなら良かったのに)

動揺するかと期待した男は
あまりにも堂々とした
城の様子につまらなさを感じる

『家出して暴走族の仲間入りして、学校行かずに非行やって無愛想。親父が言ってた通り。』
(そんな事言って歩いてんのかあのバカ…)

『家出して女作って世話してもらってるって?』
(挑発してんのかよ…)

『やってる事も見た目もまだまだ子供だな!ガッカリした。』
(うるせぇな…)

『父親が話し掛けてもその態度。無視か。』
(無視)

『なぁ!城(笑)!』
『…。』

No.154 10/05/02 00:39
㍊ ( wPNK )

突然
背中に激痛が走り倒れた

次々と体中に蹴りが入る
腹を踏まれ
吐くように咳込む

髪を引っ張り上げ
男は顔を近付ける

『相変わらず可愛くねぇガキ!変わってねぇなぁ!なぁ!?城クンよ!』

耳元で怒号
男の豹変振りに引く
怒鳴る男の顔は祖父と同じ

城は怯え始めた…

『お父さんが帰って挨拶してんのによぉ、なぁ!どうでもいいとか無視って何だよ。コラ!見ろこっち。』

口調はまるでヤクザだ
負けずに抵抗する

『そんな奴は居ない!存在しない!離せ!』

服を掴んで壁に何度も叩き付け
倒れては引き上げる
服が破ける

傷だらけの肌が露出する

『汚ねぇ…なんだこりゃ。何、親父からもやられてんのか。仕方ねぇよなぁ!昔から可愛くねぇし。』

そう言って服を剥ぎ
火傷跡を見て笑った

『これじゃあ女すら抱けねぇな(笑)!ケロイド移りそうだ!小汚ないガキ!増やしてやるよ、これじゃあ増えてもどうせ分かんねぇ。』

灰皿からタバコを取る
根性焼きだと言って…

恐怖でもう動けない
血の気が無い城の口から出てくるのは同じ言葉だけ…

『…鏡!…鏡!…助けて…!…鏡!…助けて!』

No.155 10/05/02 06:02
㍊ ( wPNK )

17時
片付けて現場を出る準備を始め
仲間と雑談中
携帯に着信が入る

【公衆電話】

アレ、城だ…
また何か触ってブッ壊したかな
大事なギターだけは勘弁しろよ
そう思いながら携帯に出る

『もしもーし。今度は何壊したぁー(笑)?』

消えそうな声が聞こえる
『鏡、助けて…鏡…。』
『城?どうした!?』

不審に思い問い詰める
『助けてって、何だ?捕まったのか?どこだ?』
『…分から…ない。早く…。』

息が切れている
走ったのか?
何かから逃げたのか?
多分交差点に飛び出すくらい
嫌いな家の奴かも…

段々叫び声に変わる
『早く来て…早く!助けてくれるって言ったろ!鏡が言ったんだ!また捕まる、早く!』

パニック状態だ
やっぱりと思いつつ落ち着かせようとする

『城、すぐ行くから、まず落ち着け。な?場所は?どこだ?目印は!』
『分からない!読めない!3文字の青い看板、今どこ?いつ来る!』
『それじゃ分からねぇ…他に目印は?』
『黄色い看板!でも読めない…読めない!』

…公衆電話の時間切れだ
まだ小銭はあるはず
もう一度掛かるだろうと待つが
それきりだった

No.156 10/05/02 08:33
㍊ ( wPNK )

仕事仲間が話を聞いていた

『…何かあったんすか。』
『青い看板…3文字の青い看板って分かるか?』
『沢山あるじゃないすか(笑)。道路にも沢山。』
『だよなぁ…多分漢字3文字かな。小学生レベルには読めない漢字なんだよ。あと近くに黄色い看板。漢字か横文字か…あぁあ~分んねぇ!』

仲間が色々意見する

鏡も焦りながら考える
城の行動範囲は狭い
この辺かあの辺かと考えるうちに思い当たる店が浮かんだ

青い大きな看板と
近くに横文字の目立つ
黄色い看板
公衆電話のある
人がまばらな場所…
多分あの商店だと仲間が言う

『言ってみる。緊急事態なんだ、タクシー走ってるかなこの辺。』
『なら今真直ぐ行けば?別に寄道して会社戻ってもいいよオレら。』

皆が頷く

『本当か!助かる!気が向いたら味噌ラーメン奢るわ!行くぞ。』
『何で味噌すか(笑)。』

鏡が運転する
その場から離れるなよと
祈る気持ちでスピードを上げて…

No.157 10/05/02 11:25
㍊ ( wPNK )

仲間が聞く
『人探し?』
『いや…野良猫拾ったんだ。猫は文字読めないだろ(笑)。』
『意味不。』
『う、うるせぇなっ。』

商店が見えた
電話の場所には城の姿が無い
中に入って店員に聞く
知らないですねと言われ
諦めて出る

『参ったな…。』
『少しその辺探すかい?』
『悪りぃな…いいか?』
『特徴は?』
『お前達見た事あるよ。カツアゲされてたボーヤだ。』
『あ~!…え?』

驚く皆に
野良猫は警戒心強くて人間嫌いですぐ逃げるから
見付けたら電話くれと言い
鏡は車を離れた

ここで見逃したら
あいつからの信用無くす…
見付けてやらないと…
そう思って必死だった

ジョウと叫んでも出てこない
1時間が経過し
皆もいるし
これ以上は無理と判断し
戻ることにした

馬鹿野郎
落ち着けば地図見て
簡単に帰れる場所なのに…

肩を落とし
鏡は車に戻った

No.158 10/05/02 11:40
㍊ ( wPNK )

最後の仲間を待っていた

姿が見え車に駆け寄る
それらしい奴を見付けたと言う

『でも…鏡さん!』
『でも何だ!』
『人気の無い路地裏みたいな所で倒れてるみたいだった…。違ったらごめん!近付けなかった…何となく。』

鏡は叫んだ
『どこだよ!早く!!』

No.159 10/05/02 12:30
㍊ ( wPNK )

どんなに辛い時でも
倒れるなんてこと無かったのに

鏡は走った
走るなんて久々で
あまり速く走れない
けど全力出して走った

『あそこの奥!』
指差された先
人がすれ違えない狭い路地の奥

確かに倒れている
鏡が真っ先に向かう
間違ない…城だ
『城、大丈夫か、おい!』

鏡の声を聞いて頭を動かす
苦しそうに呼吸をしながら
指先が微かに震えている

鏡はハッとした
もしかしてこれは…

心配そうに見る仲間に頼む
『多分、過呼吸かもしれないから…誰か袋、袋貰ってこい!』

そして城を抱き起こす
『お前…!』

靴は履いていない
石でも蹴ってしまったのか
爪先から血が滲む

胸倉から服が破け
胸や腹がハッキリ見える…
また新しい傷、痣、火傷
城を抱く鏡の腕が震えてくる

ふざけやがって…!

仲間の1人が紙袋を持ってきた
口に当て誘導する
『…いいか、ゆっくり吸って吐け。死にはしないからな。吸って…吐く…そう!』

目には涙が滲んでいる
でも流してはいない

仲間の目を気にして
自分の上着を掛ける

傷が見えないように…

No.160 10/05/02 14:36
㍊ ( wPNK )

呼吸の波も戻り
城を立たせた
抱えてやらないと
崩れ落ちそうなくらい
力無い足元だった

仕事仲間が見てるのに気付き
城は震えだした
抱えている鏡にしか伝わらない

車に乗せて一旦会社に行き
自家用に乗せかえよう

そう思って車のドアを開けると
あの日と同じ…
汚いから乗れない
汚してしまうから乗れないと
拒絶する

鏡はやるせない思いで仲間に
愛想笑いをした

隣に人が居るのが怖いんだと
鏡は分かっていた

3人掛けのシートに
真中に俺が座るから
それならいいだろと聞いた

それさえも拒絶した

タクシーで後から会社行くと
仲間に話す鏡を見て
城は自分を我儘だと責める

後ろの荷台
そこに置いて
そこならいい

皆で荷台の工具や道具をよけ
スペースを作る

そこに城は横になる


仕事仲間の連中は気を遣い
この出来事には一切触れず
いつも通り
くだらない話で盛り上げて
会社へ向かった

No.161 10/05/02 18:14
㍊ ( wPNK )

『城、着いたぞ。車そこにあるから乗って待ってろ。』

ゆっくり降りて歩き出す

『背中の傷、治ったかい。』
前回鏡と車内で体を見た男が
声を掛ける

『…はい。』
目も見ずに小声で返事し
鏡の車に乗り込む

『皆、ありがとな…本当、感謝致します!』
鏡が申し訳なさそうに言う

『鏡さん、家に置いてるの?』
『…そうなんですよ。』
『何で敬語(笑)。大丈夫なのか?家出少年かくまって。誘拐犯扱いされるかもしれないぞ。』
『その家が問題なんだよなぁ…いわゆる虐待ってやつだ。放っとけなくてさ。』
『そうなんだ…鏡さんの息子と同じくらいだからじゃね?』
『そうなのかなー?よく分からん(笑)!無垢過ぎて怖いような可愛いような…。』
『そんな子供、鏡んとこ置いといたらろくでもない大人になっちまう!』
『テメェ…(笑)。』

そんなやり取りをし
鏡も車に乗る

城は鏡の上着を頭から被り
シートを倒して寝たフリをしていた

No.162 10/05/02 20:21
㍊ ( wPNK )

家に帰り
晩飯を作ろうとすると
食欲無いからと断られた
あの城が食欲無いなんて…!
鏡は1人
ビールと枝豆だけで済ませた

何があったのか
話を聞こうとするが
話したがらない

傷の手当てをすると言っても
全く応じない

風呂は?と聞くと
それだけは反応して入った

鏡はどうしていいか分からず
ただ途方に暮れる

何気にタバコに火をつけると
逃げるように寝室に行き
もう寝るとドアを閉めた…

タバコはマズかったなぁと
反省しながら風呂に入り
寝ようとした

『鏡…。』
『何だ。』
『俺を見付けてくれて…あ…ありが…。』
最後までは聞こえなかった

『見付けたのは他の奴だ。俺はその時もう諦めてた。そいつのお陰だよ。あんな場所…。』
仲間に心底感謝する

『でも来てくれた…最初に鏡の声、聞こえた…から…良かった…ありがとう。』
泣いているような
そうでないような声

鏡は目を閉じた

こんなに純な奴の
何が気に食わないんだ…
物じゃねぇ、人間なんだぞ…

コロス…

『おやすみな。』

No.163 10/05/02 21:03
㍊ ( wPNK )

城が事実を語らなきゃ
動きようがない…
詳しい内容も知らずに
どうにか出来る訳がない

でも城はひたすら隠す

そんなもどかしさが
流石に鏡も苛立つ時がある

あの出来事から
城は外に出る事すら嫌がる
完全に引き籠ってしまったが
与えられた家事だけは
真面目にこなしていた

土曜
鏡がいつもより早めに帰った

城が咄嗟に何かを隠す
同時に腕まくりしていた袖を
伸ばした所を見逃さなかった

『…?…怪しい(笑)。』
『…何が。』

鏡の前では殆ど見せない
冷たい表情で白を切る

『いや、何が。じゃなくてよ、何隠した。見えたぞ。俺に見られたらマズイ物か?』
『…。』

分が悪くなれば無言…
分かってるけど
今日はこいつ絶対おかしい!
たまに厳しく対応しないと…
そう思って近寄り
隣りにしゃがむ

『見せろ。』
『…何も隠してない。』
『本当だな?』
『うん。』
『城。目ぇ見て話せ。』

チラッと見てまた逸らす
『両手テーブルに上げろ。』

隠していた手元から
床に落ちる小さな音がした
そして
言われた通り両手を乗せる

その音を逃さなかった

No.164 10/05/02 21:34
㍊ ( wPNK )

音がした足の陰を
強引に開いて見た

…カッターだ
手に取り城の目を見る
気まずい顔で逸らし続ける

『…何でこんな物隠す?』
『隠してない。落ちただけ!』

あまりの頑固さに
いい加減呆れる

『腕見せろ。』
『嫌だ。』
『何も隠してないって言ったよな。見せろ。』
『…何で!』
『何でじゃない!』

鏡は嫌がる城の腕を
力ずくでめくり上げた

カッターで切り刻まれた腕

『…やっぱりかよ…。』
袖を伸ばす仕草でピンときた

アームカット…自傷行為

城の頬をバシン!と一発
目を覚まさせたかったが
暴力だけは駄目だと
理性が働く

『あのなぁ…城。殻に閉じ籠っていたら分からない。分かってやれない。どうにも出来ない。助けてやれない。』

それでもまだ城は
鏡を見ようとしない
低いトーンで話し続ける

『…俺の目を見ろ。話してんだ。城。』

城は鏡の真直ぐで
見透かされそうな目が苦手だ
後ろめたい事をした時は特にだ

『…もうやらない。』
『話せよ。どんな内容でも馬鹿にしないで聞くから。な。隠れてこんな事するなら、毎日真っ裸にしてチェックする。分かったか!』

No.165 10/05/03 05:59
㍊ ( wPNK )

話さなきゃならない
鏡も助けてくれようとしてる
言ってしまえばいいんだ
相手は鏡だ
先生じゃない
面倒臭そうに流したりしない

『何から話せばいい…。』

鏡はTVを消し
城のすぐ隣りに腰掛ける
正面で面と向かって座るのは
圧迫感を感じてしまうだろうと
配慮したからだ

やっと話してくれる…
作業着のまま
一言も逃さず聞く態勢に入る

『どこからでもいい。けど、そうだなぁ…この前の事からのが話し易いか。小遣い持って買物に行って、どうしてあんな所であんな事になったか。』

城は暫く躊躇するが
少しずつ話していく

ナイフを買おうとしたのは言えなかった

鏡から貰った金で
車の雑誌を買った
早く読みたくて
近くの公園で読んでたら
警察が声を掛けてきて
パトカーに乗せられた
捜索願が出てるからと言われ
拒否しても聞く耳持たず
真直ぐ家に連れていかれた

知らない男しかいなくて
2階の部屋に閉じ込められて
そいつは
俺の父さんだって言ったけど
今更そんな話はどうでもいいと思って無視してた
そしたら…

言葉を詰まらす
鏡は黙って聞き入る

No.166 10/05/03 08:39
㍊ ( wPNK )

そしたら…

そいつは
普通だったのに
急にヤクザみたいになって怒鳴り
蹴ったり
踏んだり
髪引っ張ったり
壁にぶつけたり…

昔から可愛くない
小汚い
ケロイド移る
汚いのが増えても分からないからって笑って
コンジョウが何とかと言いながら
タバコ…タバコを…

そこで言葉を詰まらせた
汗が凄い
フライパンを持った時と同じく
手がガタガタと震え出す

鏡が片手で城の手を取る
…冷たい

鏡の手の温もりに安心したかのように震えが止まる
そして話を続けた

そこからはよく覚えていない
男が立っていたから
ドアを開ける事が出来て
逃げたと思う
追い掛けてきたのは
何となく覚えているけど
頭の中は真っ白で
気付いたら電話してた

パトカーが走ってるのを見て
逃げて
歩いてる人も怖くて逃げて
逃げて…
段々息が苦しくなって…
そこに鏡が来てくれた

城は無意識に
鏡の手を強く握り返していた

No.167 10/05/03 12:38
㍊ ( wPNK )

…ショックだった…

鏡は城の手を見ていた
手錠の傷跡は今でも
色濃く残っている…

久々に再会した親父が
そんな腐った奴なら
育ての親である祖父は
一体どこまでの奴なのか…

こいつは親父が戻る前も
ただ1人で泣いて
ずっと生きてきたから…
胸が痛い…

城の手の力が緩み外れた
そして口を開く

『ほら。俺、汚いだろ。』
『…汚くないって。』

突然怒り出す
『汚いから…汚いからまた汚される!新しい傷で汚される!汚いことも何回もやった!洗っても落ちないんだ!どうしたらいいんだよ!』

…汚いことも何回もやった?
鏡は静かに尋ねる
『汚いこと…何した?』

すると城は
人が変わった様に
鏡に食ってかかった

『聞くなよ!!』
『…。』
『聞くな!人間じゃないから、犬だから、汚いことやった!俺は汚いし臭いんだ…!鏡、風呂入らなきゃ…毎日入らなきゃ!でも落ちない…落ちない…どうしたらいい…。』

感情のコントロールが出来ない城
その言葉に
鏡の目は赤くなっていた
どんなに言葉を探しても
出て来ない

『鏡、アイツら殺して…。助けてくれるんだろ…鏡が自分で言ったんだ…。』

No.168 10/05/03 17:42
㍊ ( wPNK )

祖父母の話も聞きたかった
この一件で
ここまでおかしくなるなんて…
純粋な城の口から殺せなんて…

確かに俺も思うよ
簡単に出来るなら
殺して解放してやりたい…
でも…

『城、人を殺す行為は駄目なんだ。法とか罪とか…。』
いや
城にこんな説明しても無駄だ

城は鏡の服を掴む
『鏡、お願いだ…。』

今度は城が鏡の目を見る
鏡は顔を逸らした

『お前を助けたい…言ったよ。確かに。けどな、人を殺す事は出来ないから他の方法を…。』

話している途中
城の目付きが変わった
見下しているような
嘲るような
冷酷な目

『アンタも先生と一緒か。』
『…先生?』
『聞くだけ聞いて流すのか。』
『だから、そうじゃなくて!殺すってのは…。』
『殺さなきゃ殺される!他の方法は意味が無いんだ!』

鏡を押し退けた

『アイツらがいるから、俺の体はおかしくなった。震えてばかりで何も出来なくなった…。頭の中で自分と別の自分がゴチャゴチャ言い合うんだ。…もう疲れた。』

そしてバッグに服を詰め始める

『城!』
鏡が怒鳴る

『鏡。ごめん。ありがとう。』

そう言って部屋を飛び出した

No.169 10/05/03 18:48
㍊ ( wPNK )

鏡…聞いて

俺、生まれて初めて
安心して眠れる場所見付けた
幸せってこういうことかって
凄く実感したんだ

鏡が大好きだった

道が見えなくて
前に進めなくて
立ち止まって泣いてた

そんな俺を
必ず見付けて安心させてくれた

美味いアイス食いてぇって
一緒に連れて行ってくれた
海が一望出来る展望台

大きな鳥が
大きな円を描いて
頭の上を悠々と飛んだ時

恥ずかしい話だけど…
背中の鷹が消えてしまったのを思い出して…俺また泣いたよね

焦って戸惑う鏡に
刺青の話と
自由な鳥が羨ましい
だから鳥は好きだって話した
そしたら紙とペン出して

俺の職業な
【鳶】ってこう書くんだ
【鳥】入ってるだろ?
上、見てみ
あの鳥も同じ鳶って名前!

…そう言って笑った
そんな些細な事で感動した

ダボダボの作業ズボン
忍者みたいな格好して
変なのって思ってたけど

俺を見付けてくれる時は
いつもその格好だったし
スーパーマンみたいな印象で
涙の向こうから駆け寄る姿が
本当に格好良かった

俺、いつか鏡と一緒に
鳶の仕事したい
キツくても頑張る
鏡みたいな強い体になるよ

No.170 10/05/03 19:00
㍊ ( wPNK )

鏡が父さんだったら良かった

俺がもしマトモで
こんな汚いガキじゃなかったら

困らせてばかりじゃない
無知じゃない
ちゃんと笑って
好かれるような子だったら…
なってくれたのかな

鏡…本当に感謝してるんだ

これ以上
鏡には迷惑掛けれない
困った顔させられない…

最後あんな酷い事言ったけど
本心じゃないから…

鏡は俺の話
流した事なんてない
分かってるから…

俺はちゃんと
自分で自分のケリ付けるから…

成功するかは分からないけど
俺はもう
泣いてばかりのガキじゃない…

鏡…さようなら

―城―

No.171 10/05/04 08:43
㍊ ( wPNK )



12月
街中がクリスマスに向けて
華やかな飾り付けが目立ち
浮き足立った季節

商店街で足場を組む男達
その中に赤い頭の鏡がいる

足場の上から
ふと見下ろすと

建物の狭間の路地を
一匹の子猫が警戒しながら
親猫を探しているのを見た

(城…)

あれから1ヵ月は経つ
あの日家を出てから
公衆電話から着信は1度も無い
鍵も持っているし
すぐ帰ってくるだろうと
どこかそんな気持ちもあって
無理に引き止めなかったが
鍵は城の布団の枕元にあった

(今日寒いよなぁ…あいつに冬用の上着まだ買ってなかったしなぁ…あ~あ…)
毎日溜息しか出ない


ガンッと頭に何か当たる
『イテッ!』
『あー鏡さん駄目だボケッとしてたら!早く取れよ!ヘルメットしてて良かったな(笑)!』
『あ、あぁ…。』

仕事に支障もきたす

休憩時間になって
仲間が心配する

『鏡さん、最近おかしい。』
『いつか落ちるよアンタ(笑)。』
『追い掛けてた女にフラれた?』
『心なしか…ちょっと痩せたんじゃないすか?』

確かに痩せたかも
城が居ないと晩飯も作る気しねぇしなぁ…

皆が顔を見合わせる

No.172 10/05/04 11:31
㍊ ( wPNK )

『わかった、家出クンだ。』
『…。』
『図星(笑)。』
皆知ってるしいいかと思い話す

『サワ、あんな路地裏から発見する高性能センサー持ってんだろ?また頼む。今あいつはどこだ!』
『あの時はただ小便したくなって…たまたまっすよ!家に帰ったんじゃないかな。』
時間になりまた仕事に戻る

家に帰って平穏無事に過ごせているなら…
それでいい

あんな酷い事を
笑いながらする奴らだ
確率は低い

それに
鏡は城の家に何度か行っていた

クラクションを鳴らせば
気付いて出て来るだろうと
何度か通って試したが無反応

気になって仕方無いから
たった1度だけ呼び出した
多分祖母だろう
思いの他感じのいい雰囲気で
最近見ないから気になって来てみましたと言うと
城は出掛けたまま暫く帰ってないんですよね
問題ある子でごめんなさいって
笑顔で返されて終わった

…暴れてやろうかと思ったが
一応身を引いた

真っ黒の怪しい車が
何度もクラクションを鳴らすので
町内自体が警戒体制に入ってしまい行けなくなった

(城…生きてるのか?飯貰えてるか?布団で眠れてるか?泣いてないか?どこだよ…)

No.173 10/05/04 20:58
㍊ ( wPNK )

仕事を終えた帰りは毎日
城の行動範囲を一周して帰る

似た背格好の子を見ては
城かと思い振り向く

1年の時は学年でも
長身組だった城は
まるで時が止まった様に
身長もそのまま伸びず
今では小柄な方になっていた

今日も何も手掛かりなく
家に渋々入る

盗まれる物も無いし
いつでも逃げて来れるよう
鍵はあの日から開けっ放しだ

小腹が空いたら
ここの食っていいからと教えておいた場所には
ポテトチップスがあるし

布団も片付ける事無く
置いてった数枚の衣服と一緒に畳んであるぞ

息苦しくなった時は
過呼吸になるかもしれないから
袋が無かったら手を使って
自分の息を吸い込むんだぞと
説明はしておいた
死ぬ事は無いから
慌てるんじゃないって…
大丈夫だろうか…

完全に気を許してくれることはなかったなぁ
甘えることも知らず
ただ嫌われたくない一心で
俺の為に一生懸命だった
それで勝手に何かしようとしてはブッ壊して わざわざ電話掛けて謝って…

お前が居ない1ヵ月
お前の事しか考えてない
責任取れよ城

お陰様で俺
仕事中ドジばっかやって
傷だらけだ(笑)

No.174 10/05/04 21:39
㍊ ( wPNK )

昼過ぎ
男は口笛を吹きながら車を降り
誰も居ない家へ入る

タバコに火を付け
真直ぐキッチンへ行く
サッと目玉焼きを作り
隣りに軽く御飯を盛り
2階へ上がった

自分の部屋ではなく
隣りの四畳半の部屋を開ける

『城クン。親父のお帰りだ。』

…生きていた

『お帰りだ…って(笑)。』
『…。』
返事がない

男はフーッとタバコの煙を
城に吹きかける
いつかの日みたいに…

顔を背け
決して男を見ない様に
タバコを見ない様に
無視し続ける

男は笑いながら呟く
『ホンット…可愛くねぇ。』

タバコが恐怖の対象なのを知っててわざと顔面に近付ける

目を閉じ黙って食いしばる城
手先がまたカタカタと震える

『親父様のお帰りだって言ってんだけど?』
タバコを構えながら
声を張り上げる

『…オカエリ…ナサイ。』
やっと口を開く

『よく出来ました(笑)。』
そう言うと
肩に一発蹴り込んで怒鳴る

『最初からそう言え!馬鹿!オラ餌だ。あまり態度悪いと毒入るぞ。』
そう言って部屋を出た

No.175 10/05/04 22:01
㍊ ( wPNK )

城は男の後姿を睨みながら
飯を僅かに一口食べた

(毒…入ってなかった)
安全だと分かると
安心して完食した

食器を置いて
ただ壁の染みを見詰める

与えられた四畳半の部屋に
毛布が1枚だけ

手錠を掛けられていた時期
あの頃に比べれば
部屋もあるし毛布もあるし
手足は自由で
良いと思うだろうか

違う…首輪だった
柔らかい首肌は簡単に擦れ
赤く炎症を起し
出血もしていた

2階にもトイレはある
丁度、隣りの部屋なので
そこまでは行動出来た

【首輪】に【餌】
まるで犬のような扱い
飯は大体少量でまともだが
たまに面白がって
ドッグフードが交ざる

過去に飼っていた犬の名
返事するまでハクと呼び
虐げられる時もある

窓は逃げないように塞がれ
暖房器具の無い部屋は
非常に寒かった…

No.176 10/05/04 22:39
㍊ ( wPNK )

男は夜のクラブで働いていた
日中は男が
夜は祖父が大体家に居る
祖母は2階にすら上がらない

男を父親とは認めず
決して呼ぶ事も無かった
まだ少年とは言えプライドはある

男はスーツを着替え
また城の元へ現れる
面と向かって座り込む
タバコと灰皿を持ちながら…

『城、オレさ。さっきまであんな眠かったのに。今凄ぇ目さえちゃってよぉ。相手してやるわ(笑)。』

(今日は…何する気だ)
睨み付けながら構える
寒いのに汗が吹き出る
手のタバコが気になって仕方無い

『一問一答。無視するとコレ。』
タバコをかざす
手の震えが止まらない

『始めます。①。犬は好き?』
『…嫌い。』
『②。城は犬?』
『…人だろ馬鹿。』
『③。城は汚い?』
『…ッ…汚い…。』
『④。城は童貞?』
『…多分。』
『⑤。城はクズ?』
『…意味分からねぇ。何なんだアンタ。イカレてる。』

男の眉間にシワがよる
『③番しか納得いく答えじゃねぇなぁ…。手貸せ。早く。』

恐る恐る手を出す
即掴みタバコを突き付ける

『ウァアァァッッ…!!』
『脳味噌無いんじゃねぇか?馬鹿ガキ。つまんね。』

そう言って頭を叩き
部屋を出た

No.177 10/05/04 23:27
㍊ ( wPNK )

タバコの跡を押さえながら
毛布に倒れ込む

この程度で済んだ…
殺されなかった…

震えてはいるが
泣いてはいない

一ヵ月前
鏡の元から離れ
手持ちの小遣い全て使い
安いナイフを購入した

その時は
もう鏡への罪悪感など無かった

俺が自分で終わらせる
そうしないと先が無い
だって決めたんだ
今の俺なら出来る
俺は震えてばかりの
情けない男じゃない

そして家に向かった

暫く様子を見ていた
クソジジィと男が居る時は
絶対敵わない

この時間はジジィは帰って居るはずだし
男の車もあるって事は
2人共きっと中に居る…

城はひたすらチャンスを待った

するとスーツを着込んで
男が車で出て行った

今しかない…!
走って玄関を開け叫んだ

クソジジイ!
お望み通り帰ってきた!
やるならやれよ!

祖父母が驚いて出て来る
祖父が怒り狂って
城に掴みかかった…

咄嗟にナイフを振った
手応えはあった
腰を抜かして叫ぶ祖母…

でも簡単にはいかなかった…

No.178 10/05/04 23:44
㍊ ( wPNK )

安いナイフは刃渡りが短く
致命傷を与える事が出来ない

しかも
つい目を閉じてしまったため
祖父の横腹を切っただけだった

それでも祖父は
出血の量と痛みに動揺した

更には最悪な事に
玄関のドアが開き
男が忘れ物を取りに戻って来た

騒然とした様子を見て
城が襲ってくる前に
男は城を張り倒し
取り抑える…

騒ぎになると厄介なので
救急車を呼ぶと
発狂する祖母を止め

城を動けなくなるまで暴行し
縛り上げて
止血処置をして病院へ向かった…

それから今日まで
祖母は城に近付かず
祖父は夜虐げ
父親は日中いたぶった…

城は毎日自分を責める
無力なくせに
一番最悪な結果を招いた
本当に馬鹿だ

だけど
何をされても
人間としての誇りは
絶対捨てない

殺される時が来るまで
それだけは…!

鏡…ごめん
いつも助けに来てくれたのに
自分で穴に落ちて
抜け出せなくなった…
ごめん…
嫌わないで…

No.179 10/05/05 00:21
㍊ ( wPNK )

夕方
男と入れ替えるように
祖父が帰って来る

城は昔から
男より祖父が一番怖かった

今日は!?
ババァは居るのか?
1階の様子は全く分からない
ババァが外泊だったら
また2人きりだ…

『嫌だ…嫌だ…。』
膝を抱えて呟き続ける

階段を上がってくる足音
ドアが開く…
ビクッと体が反応する

『城!』
祖父は部屋を見回し
鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ

『相変わらず臭い部屋だな。来い!洗え!』
首輪を外すのはこの時くらいだ

抵抗するのはやめた
城の痩せた体では
もうそんな気力も力も無い

『虫湧いたら参るしな。家中が臭くなって客に怪しまれたら元も子もない!』

浴室に放り込む
冬なのにいつも通り水
唇も震え出す…
しかし
突然水が湯に変わる

(…?)
機嫌でもいいのか?
洗うのも忘れて呆然とする

『…!何だよ…何なんだよ!』
思わず声を荒げた…

祖父も裸になって
入って来た…

No.180 10/05/05 01:13
㍊ ( wPNK )

『何だ今更。慣れてるだろう(笑)?』
ニヤニヤと不気味に笑う

『何がだよ!出ろよ!近付くな!!行けよ!!出て行け!!』

まるで敵を威嚇する猫の様だ
壁に貼付き少しでも距離を取る

祖父はそんな姿を
ただ面白がっている

そこに膝を付けと命令する
断固拒否する城を叩き付け
言う事を聞かせる

2度と経験したくなかった…
喉に当たる汚い感触…
不気味な男の喘ぎ声…

目を固く閉じ
入った物全てを吐き出そうと
必死に排水溝へ顔を近付ける

『こういう時は可愛くてしょうがないのにな…!』

そして浴槽の縁に手を付けさせ
無理矢理犯す

『やめて…やめてよ…!許して…嫌だ…嫌だ…。』

シャワーの滴る音と共に
喘ぎ声と
泣き声が
浴室中に響き渡る

城は初めて声を出して泣いた…

No.181 10/05/05 05:38
㍊ ( wPNK )

『ハァーーー………。』
『…長い。日増しに溜息が長くなってる(笑)。』
『まだ見付からないすか?』
『見付からん。』
『もう警察なり相談所なり通報したら?』
『却下!』
『だって事件巻き込まれてるかもしれないし。』
『却下!』
『そうすねぇ。割とイイ顔してたから拾われて可愛がられてるかもしれないすねぇ。』
『却下!』
『あぁ、鏡より断然いい奴にな!ボク鏡よりこの人がいいってなぁ(笑)。』
『ウッ…(泣)。』
『自信ないのかよ(笑)!』

…自信なんて無い
あんな偉そうに
助けたいんだなんて言って
結局こうだ

自ら背負った使命の重さを
今まさに痛感している

警察や相談所に行かないのは
城が拒否し続けたから

虐待のTVニュースを見て
警察や相談所の責任者が
報告されていたのに関わらず

注意は促しました
強制立入りする時期を慎重に見ていた途中でした
何度か足を運びましたが親御さんが中々通してくれず虐待を受けている子供に会う事が出来ませんでした

残念です
遺憾です
申し訳ないです
今後改善策を練り直したいと思っています…

そんな大人の様子を見て
怒っていたからだ

No.182 10/05/05 05:57
㍊ ( wPNK )

その時尋ねた事がある
そういう相談所もあるんだよ
…行ってみるか?って

すると城は
どうして言い訳ばかりなの?
どうしてすぐ助けないの?
どうして謝るだけなの?
今酷いことする奴がいて
早く助けてあげたいから
相談するんじゃないの?
死んでから反省するの?

俺、こんな中途半端に知られて
何もされないんだったら
恥晒すだけだから嫌だ!

絶対嫌だ…!
言わないでよね…
知られたくないんだ…
見せたくない!
約束して!
鏡にしか言ってないんだ!

…約束した
こいつは俺以外に信用して委ねられる人間が居ないんだよなと

はっきり言って
こんな難しい問題
相談所に持ち掛けて
一緒に何とかして貰いたい

でも…
そこの人間が干渉してると
城が知った時

それは裏切りと言う
また大きな傷を与えてしまう…
約束したから…

No.183 10/05/05 12:24
㍊ ( wPNK )

鏡は引っ掛かっていた
城の最後の言葉

『殺さなきゃ殺される!他の方法は意味が無いんだ!』

もう殺意しか抱いてなかった
俺が説得しようとしても
全く聞かなかった

もしかして
本当に家に向かったのか?
家の奴は普通な感じだった…
もしかして
行ったはいいけど失敗し
監禁されてるか
最悪…
逆に殺やられて山とかに…

嫌な予感ばかりよぎる

早く見付けてやらないと…
このクソ寒い中
俺の名を呼び続けていたら…
あいつには俺しかいないから…

城…どうしたらいい
城…城…

No.184 10/05/05 14:27
㍊ ( wPNK )

城は知っていた

鏡がクラクションを鳴らして
家の前を走っていたのも

1度だけ玄関を開けたのも…

鏡はわざと大きな声で
『こんにちはー!城君元気ですかー!?最近見ないから気になって来てみましたー!』
と様子を見に来たのも…

城が居るなら
聞こえるだろうと思って
わざと…

でも城は助けを求めなかった
何故?

見られたくない姿だから…
しかも手錠じゃなく首輪だ…
今手元にあるのは
ご飯じゃなくドッグフードだ…

人間じゃない姿
こんな姿
きっと鏡だって引く

しかし心の中では叫んでいた
鏡…鏡…
助けて…見付けて…
でも…でも…!

そのまま鏡は玄関を閉め
去ってしまった
それからはクラクションも聞かない

自分しかいない
どうしたらいいの?
鏡…何でも教えてくれただろ

教えて…

No.185 10/05/06 00:20
㍊ ( wPNK )

鏡…鏡…
『…幻聴が聞こえる。』

『とうとうイッちまったか?』
『ホント大丈夫かよ…。』

鏡が日々消沈していく様子を
仲間はいよいよ心配していた

『また行ってみたらいいじゃないすか。』
『俺の車、あそこの町内に怪しまれてるからさぁ…。』

『手伝う?車貸すよ。』
仲間のその一言に
鏡は顔を上げた

『トオル…そういやお前のクラクション俺と一緒だよな…。』
『鏡さんのと同じ音買ったからね(笑)。』

同じ事しても
意味無いかもしれない
城が俺が来たって気付くのは…
俺の姿見ずに俺だって
分かるのはこれしか無いよな

…もうイチかバチかだ
明日は土曜日
何か起きても翌日は日曜日だし
ゆっくり城を介抱してやれる

後は…
後は城がアクション起してくれれば
クラクション聴いて
反応さえしてくれれば

家に居るなら居るでいい
何でもいいから
俺を安心させてくれや!

『もう1度だけやるか…。』

No.186 10/05/06 00:50
㍊ ( wPNK )

今日はいつも以上に冷え込む

『城クン。なんつーか…クリスマスも近いのに…女すら居ない。お前も父さんもなぁ。似た者親子なのかなー。』
『…一緒にすんな。』

男は仕事から帰って
暇さえあれば酒を飲み
城の前に座り絡んだ
まるで城が酒の肴だ

『金もねーし。パチは勝てねーし。やっぱり昔から疫病神ってヤツだねお前。』
『…。』
『首輪して犬みたいだよ。ウン。犬に服は必要無いよな?』

無理矢理掴みかかる
城は殴られると思い
身を守る態勢に入るが
シャツを引き剥され倒れ込む

『何度見てもキッタねぇな(笑)。皮膚ボロボロ。女抱く以前によ、温泉すら一生入れねぇわ。恥ずかしい息子。触ったら移りそうだ。』

酒をグイッと一気に飲む

寒い…
シャツ一枚でも寒いのに
寒過ぎる…
全身に鳥肌が立ち
歯がカタカタ震える

それでも悟られないよう
虚勢を張り言い返す

『…息子とか言うな…お前なんか存在しない…俺の中では…お前なんか…。』

男は黙って睨み付け一言
『熱湯。』

城はうつむいて黙る
それだけは…

男は酒の空缶を投げ付け
自分の部屋に去った

No.187 10/05/06 01:11
㍊ ( wPNK )

これ以上熱湯浴びせられたら
生きていられる自信がない

城は毛布を纏いながら
頭を働かせる

逃げなきゃ…
逃げなきゃ殺される…

でも首輪を外せないんだ…
風呂に行く時
アイツは鍵を使って外してる…
多分自力じゃ無理だ
鍵が無いと無理だ…

鏡ならまたピンで
簡単に開けてくれるのかな

鏡…どうしたらいい…
俺死にたくないよ…
ここに居るから辛いけど
鏡と居れば幸せだったんだ…
俺馬鹿だ…
帰りたい…
鏡の所に帰りたい…
せっかく来てくれたのに
臆病な自分がチャンス逃した…
助けてって叫べば
きっとお構いなしで
この部屋まで来てくれた…
ダボダボズボンで…

鏡お願い…
また玄関開けて…
犬でも助けてって言うから…
臭くてもちゃんと言うから…
素直になるから…

玄関開けて…!
死にたくない…!

ガチャリと玄関が開いた音
足音は階段を上り
真直ぐこっちへ向いている

『…鏡!!』
…城は叫んだ

No.188 10/05/06 01:38
㍊ ( wPNK )

『お前はまた酒飲んでるのか!もう仕事だろ、早く行け。』
『分かってるよ!』

城は愕然とした
アイツだった…
(来るはずない…)

慌てて支度をして降りて行く男
入れ替えるように
祖父が入って来る

『何て格好だ!』
祖父は鍵で首輪を外し始める
風呂場へ連れて行くのだろう

城は疲れ切った顔で聞く

『殺さないの?』
『あ?』
『殺せば?』
『何を言ってんだ馬鹿が。』
『殺せよ。』
『うるさい。黙って来い。』
『殺せないのか。』
『黙れと言っている!』

1階に降りると
祖母の気配が無い

『ヤるのか。』
『あぁ?何?』
『今日もヤるのかって。』
『うるさい奴だ!何だ今日は!偉そうに…早く入れ!!』
『…。』

今なら自由だ…
アイツは俺が逃げられると思っていないから
油断して冷蔵庫漁ってる…
体力が無いから逃げ切れるか
分からないけど…
今しかない…

無意識に
居間の置き飾りを手に取る

気配を感じて振り向いた祖父を
力一杯殴り付けた…

No.189 10/05/06 02:17
㍊ ( wPNK )

土曜日
今日は早く切り上げようと
仕事に集中する
昼休憩で飯を食いながら話す

『鳴らすだけでいいのかい。』
『それしか浮かばない!』
『勝手に侵入する訳にもいかないすからねぇ…。』
『城に賭ける。あとはもうあいつ次第だ。』
『反応無かったら?』
『…毎晩泣く…。』
『弱過ぎ(笑)。』

…ゴチャゴチャ考えて悩むのは
もういいと思ったんだ
本当に反応無かったら
警察なり相談所なり駆け込む
裏切ったとか言われても
お前の命懸かってるし
監禁されて返事出来ないなら
それ自体が犯罪だし
心配だから仕方なかったと
説得してやる
例え嫌われようとな!
それが嫌なら
この最後のクラクションで
何かしら返事しろ

城…届くか俺の声
お前に逢いたいんだ
お前が可愛いんだよ

もしもまた…
汚い臭い嫌われるなんて
俺に引け目感じて
出て来られないなら…
見付けた時そんな事言ったら…
ケツひっぱたいて
泣かせてやっからな!
覚悟しとけよ!?

男なら勇気出せ
俺はお前の育ての親だ
もっと社会を教えてやるから

お前が俺を嫌っても
俺がお前を嫌う事は無い

城…聞こえるか…

No.190 10/05/06 03:39
㍊ ( wPNK )

か細い腕の城…
ろくに飯も与えられず
力も入らず
長く監禁され体は固まり
走るのもままならない

祖父に殴りかかったが
目の上を切った程度だった
それでも血を拭きながら
慌てふためく隙に
逃げる事には成功した

成功したが…
12月の空気は残酷なほど冷たい

城は上半身裸だった…
鏡が初めて買ってくれたジャージ
血痕が染みとなり
擦れて汚れきって
膝も裾も破れていた
防寒の足しにもならない衣服

長期に渡る虐待によって
閉ざされてしまった城の性格

他人に助けを求める事も
遠くへ逃げる事も出来ず
結局は
大嫌いな家のすぐ近く
家と家との高く隔てられた塀の狭間で倒れていた…

それはまるで
弱ったところを外敵に襲われないように身を潜めたり
大好きな主人や仲間に
こんな情けない姿見られたくないと身を隠したりする
死期を悟った猫の様に…

逃げ出して一晩が過ぎ
丸一日経とうとしていた

160cmの痩せ細った小柄な城は
誰にも発見される事無く
意識朦朧としていた…

No.192 10/05/06 10:17
㍊ ( wPNK )

塀と塀の狭間
日の入らない場所
冷えきった土
寒風が背中を撫でる

全ての条件が
体温を奪っていく

祖父は一晩中
気が狂ったように探していた
きっと
裸の城を誰かに発見されたら
偉い騒ぎになる
だから必死に
探し回っていたのだろう

…城は力尽きた
…もう本当に駄目だった

閉じかけた目に涙は無い
もう寒さすら感じない

1番古い記憶
3歳の時の記憶

痛い記憶
怖い記憶
悲しい記憶
捨てられた記憶

どんなに頑張って
思い出そうとしても
未だに分からない


俺 何か悪い事したかな…
生まれて ごめんなさい…


静かに目を閉じる


もう1度逢いたかった…
鏡が父さんだったら良かった…

何度も見付けてくれたのに
ごめんなさい…
ありがとう…


鏡 さよなら

No.193 10/05/06 11:39
㍊ ( wPNK )

『どこ?まだ?』
『まだ。もうちょい…あ、あそこ左折。トオル、いいか。曲がって300mくらい走ったらT字路に突き当たるから。そこ左折。それまで鳴らし続けろ。停まらなくていい。』
『了解。』

城、もしも家にいるなら
動けるなら
窓開けるか叩くか何かしろ
見てるから…
見付けてやるから!
何周か回るからな…
一発目は様子見だ

居ないなら
警察や相談所
ありとあらゆる所に行く
お前んちに殴り込んででも探す
絶対探し出す!

時間の割には人気の無い住宅街
ウィンカーも上げずに
トオルはハンドルを切り左折する

パァーーーーーーーーーーー………

閑静な住宅街に
景気良く長々と響くクラクション

スピードを出来るだけ上げ
逃げる様に左折して消える

『どう?』
『いや、反応無い…。地下とかに監禁かなー。それか居ないか…。5分経ったら行くぞ。』
『こりゃ町内も怪しむわ(笑)。ましてアンタの車じゃ。』
『コレだって変わらんつぅの!通報されたら俺知らねぇって言うからあとは任せた。』
『酷ぇ~(笑)。』

No.194 10/05/06 12:12
㍊ ( wPNK )

(…鏡?)

遠のく意識を呼び戻す様に
近いような遠いような
聞き覚えのある音…

パァーーーーーーーーーーー………

2回目…
城は完全に目を覚ました

(鏡!!)
叫ぶが声が出ない

冷えきった体は上手く動かず
立ち上がることも出来ない

(待って…行かないで…!)
思い通りにならない体
苛立ちが湧き上がり
悔し涙が浮かぶ

行っちゃう…
行ってしまう…
絶対鏡だ…
待って…待ってよ…
起きろ体…!
動け、動けよバカ…!!

何とか奮い立たせた足
走りたくても
関節が伸び切らない

流石に2回目となると
窓から様子を見る住人も居る

鏡はそれを知って
次は10分後だと
車を待機させる

腕を組んで沈む鏡
『…次で最後にするか。3回が限度だな…うるせぇクラクションだよ…。確かに迷惑だ。』
『アンタが言うのか(笑)。』

城…居ないのかよ…
次で終わらせるぞ…
お前との約束
できれば裏切りたくなかった…
仕方無いよな…

『よし。行くか!』

No.195 10/05/06 12:39
㍊ ( wPNK )

鏡 待って
追い付かないんだ
体が動かないんだ
やっぱり情けない俺…

でも決めた事がある

俺 自分が嫌いだけど
化物みたいな体で大嫌いだけど
それでも鏡は
受け止めてくれてたし
お前は素直じゃない
もっと素直に
甘えればいいのにって
言ってくれてたから…
次逢えたら言おうと思ってた

父さんになってよって

そしたら家族だろ
鏡なら嫌がらないでしょ
鏡がどうして
バツイチになって1人なのかも
知らないけど…
鏡も俺も1人じゃなくなるよ

甘えるとかよく分からない
ただ、お願い…
俺の唯一の我儘聞いて…


やっとの思いで車道に近付く
他人を警戒して辺りを見回す
窓から顔を出していた人々は
もう中へ入っていた

角を曲がって
最後のクラクションが鳴る…

パァーーーーーーーーーーー………

目の前を白い車が
勢いよく通りすがる

(…鏡じゃなかった!!)
膝を付いて唖然とする城

ジョウーッ!!

No.196 10/05/06 13:10
㍊ ( wPNK )

ガックリと手を付く
嫌でも涙が流れる
鏡の車じゃなかった!
白い車だった…!

だけど
最後に鏡の声がした
ジョウって呼んだ気がした

そして車は行ってしまった…


鏡は見逃さなかった
家と家の隙間に
こっちを見て唖然とした顔
城が居たのを

『バッ…バカ!もッ…戻ッ、戻れって!居たんだ!居たんだよ今あそこに!城が居た!早く…!ターンだターン!いやバックだ、バックフル加速で早く!!』
『イテッイテッ!痛いって…まず落ち着けって!てか、ターンもバックも無理だろって!回るから今!』

『…いや…駄目だ!走ってく!ここで待ってろ!』
そう言うと
勢いよく降りて走り出した

そんな後ろ姿を見て
トオルは呟く
『…良かった(笑)。』

No.197 10/05/06 13:30
㍊ ( wPNK )

城の顔は涙でクシャクシャだった

ずっと鏡だと思ってたのに
違う車だったんだ…
終わった…

泥だらけの体で車道へ向かう
塀の隙間から顔を出してみた

『誰も…居なくなった…。』
顔を覆い座り込んで泣いた

冷たい風が余計冷たく感じる
後は死を待つだけ
諦めた…

その時
200m先の角から
忍者みたいな格好の
スーパーマンが現れた…

No.198 10/05/06 16:46
㍊ ( wPNK )

たった…
あとたった200mなのに遠い…
畜生…俺が鈍足なのか…?!


赤い頭の男は
両目も真っ赤にしながら

塀の陰にうずくまり
顔を両手で覆いながら
大きな口を開けて泣く少年
とても中学3年生には見えない
痩せ細って傷だらけの
小さな憐れな少年目掛けて
全速力で走った


城…!城…!!
良かった…生きてた!

やっぱり捕まってた…
よく逃げた…
よく逃げたよ…!

んで、よく気付いた!
賢いよお前は!
後でメチャクチャ可愛がってやる!

しかもこのクソ寒いのに
何で裸なんだよ…
何でそんなガリガリなんだよ…!
あんなに肉食わせただろ…!?

畜生…糞ッタレ共…
俺の城に何しやがった!!
後で覚えてろ…
倍返ししてやるからな!!

城…見えるか…俺だ!
泣くくらいなら離れんなよ…
本当の親父になってやっから…

ウチに来い!!


…鏡は走りながら
無意識に防寒着を脱いでいた

遠い遠い200m
あと…あと10m…

No.199 10/05/06 17:22
㍊ ( wPNK )

城は幼い子供の様に泣いていた

鏡が近付くと片手を伸ばし
少しでも早く
鏡に触れようとした

立つ力はない…
だけど声を振り絞って
叫ぶことは出来た

鏡!!鏡!!鏡!!

鏡は差し延べられた
痣だらけの細い腕を
真っ先に握り締め

冷えてボロボロの小さい体を
馬鹿野郎!と一喝し
強く強く…
抱き締め続ける…


タバコの匂いが染み付いた
懐かしい鏡の香り…

あまりの冷たさに驚き
防寒を纏わせ
両手を城の頬に優しく乗せて
ジッと目を見詰めた

城も今度は
逸らさず見返す

くっきりとした二重の目
目鼻立ちもしっかりしていて
変わらない顎髭
日に焼けた肌
少々痩せた頬

鏡が泣いてる…

相変わらずの柔らかい笑顔で
フッと微笑む

『行くか(笑)!』
『…うん。』
『じゃ帰ります!撤収!』

そう言うと
筋肉質で強靭な両腕で
城を軽々しく抱き上げ
車に向かって走り出した…

No.200 10/05/07 08:36
㍊ ( wPNK )

車のミラー越しに
城を抱え走ってくる鏡が見えた

トオルは車を降り
後部座席のドアを開ける

城を座らせ自分も乗り込み
辺りを見回した

『トオル、毛布かタオル…何かないか!?ヒーター全開にしてくれ!』

鏡に逢って安心した城は
体温が中々上がらず
震えが止まらない
鏡は必死に手足を擦る

毛布無いから
とりあえず俺の上着もと
トオルは鏡に渡す

城はトオルを見て怒鳴る
『誰…誰だよ!見るなよ!』
『城、初めてコンビニで会った時、一緒にお前の背中を見た奴だから…大丈夫。』

トオルは驚きを隠せない
つい最近も見たけど…
こんなに小さかったか?
ここまで細かったか?
…虐待の恐ろしさを実感する

『鏡さん、病院連れてくか?』
城は即答した
『嫌だ…!』
『でも顔色ヤバいし…!』

鏡が言う
『会社へ…車乗換えて家行く。こいつ見た目より強いから大丈夫(笑)!』
『分かった。』

鏡はずっと
擦り続けていた

投稿順
新着順
主のみ
付箋

新しいレスの受付は終了しました

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧