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㍊( wPNK )
10/07/03 00:53(更新日時)

小説なんて書いた事もないので表現力が乏しい上、読み難いかもです。

最近よく見聞きする【虐待】という行いについて考えるきっかけになれればと思い、主役【城(セイ)】の存在を何かに残したかったので…ですからほぼノンフィクションです。

つたない文章ですが、暇潰し程度に読んでください。

虐待を中心に、同性愛的な内容、精神的な問題等、少々生々しい部分も含まれています。
不快に思われた方は素通り願います。
感想スレは別にありますので、読者の方の邪魔にならないよう、レスはそちらにお願いします。

一度自分のミスで削除してしまい…申し訳ありませんでした。
再度よろしくお願い致します。

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No.1301642 10/04/19 21:10(スレ作成日時)

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No.251 10/05/16 08:28
㍊ ( wPNK )

トオルはソファーで死んだ様に眠る鏡を叩き起こした

『あれ…今何時…?』
『11時回ってる。』
『もう?城寝たかな。』
『起きてるよ。話してた。』
『お前と?!問題なかった?』
『無いよ(笑)。』
『やめろその笑み。怪しい。』
『ホントに無いから。素直な子だった。警戒心強いだけだね。』
『へー。ま、なら良かった。呑むぞ!』
『まだ呑むのかアンタ。』

鏡の声を聞いて
部屋から出てきた城が
鏡の隣に座る

『城チャン、カツ食った?』
『うん。』
『酒、呑む?』
トオルがニコニコしながら声かけると
城が手を出した

『あ"ーっ!テメェ未成年に何て事を!城、お前は牛乳飲め。』
『子供じゃない。』
『(子供だし)…ま、いっか。今日だけだぞ。あと43分な。』
『鏡さん、意外にそういう所キチンとしてるよな。』
『気分による。』
『気分かよ(笑)。芯の無いオッサンだなホント。』
『オッサンつったの?今!お前半年遅いだけだろ、これだからオッサンは。』

1人で悩み続ける鏡
さり気なく支えるトオル達…
自分の為に
動いてくれる大人達が
こんなにいる…
今はもう俺1人じゃないんだ
トオル達に心で感謝した

No.252 10/05/16 22:23
㍊ ( wPNK )

翌朝
酔い潰れた3人…
最初に目を覚ましたのはトオル

ソファーとテーブルの隙間で爆睡の鏡
その隣りで無防備に寝る城

丸見えの首と手首の傷跡
あんなに隠していたのに…
忘れているんだろう

まるで本当の父子みたいだと
思わず笑う

タバコを吸いにベランダへ出る

初めて会った時の城…
鏡の元を飛び出した時…
この前見た時…
サワの嫁に放った罵声…
思い出しては胸が痛む

鏡も起きて出てきた
並んでタバコを吸い出す

『明日行くのかい。』
『そのつもり。』
『城君も?』
『それがいいんだけど…本人がどうかなぁ。かなり怯えてるからさ。』
『体罰だけじゃないだろありゃ。言葉の暴力相当浴びてる。』

鏡が溜息をついて
ためらいながら言う

『…性的虐待…ってヤツもな。』
『本人話したの?』
『いや…寝込んだ時、体調べた…まさかと思って。指の跡…引掻いた傷…押さえ付けた角度から…多分間違ない…。』
『フルコースか。最低だ。クソ共。』
『明日お前の口借りたいよ。』
『アンタの立場になったらどうかな…この口も。』

城も起き顔を出す
タバコを持つ手を外側に出し
見えない様にする

No.253 10/05/16 23:10
㍊ ( wPNK )

『鏡…頭痛い。』
『だから牛乳にしろっつったのに!呑めもしないのに酒呑むからよ。言う事聞かねぇからだ!薬出してやっから部屋で寝て待ってろ。』
『…ごめん。』

落ち込んで去る城を見て
トオルがまた笑う

『親父定着(笑)。』
『親父だから。オッサンじゃねぇ、親父だ!』
『分かったって(笑)。』

中へ入り薬を探す
部屋へ行こうとした時
シャワーの音が聞こえた

城かと思いドアを開けると
脱衣所で裸になりながら
頭を抱えて屈み唸っている

『何やってんだよ。寝てろつってんのに…とりあえず薬飲んで効くまで休め。シャワー止めろ。二日酔いなんだよお前。』
『止めないで…早く洗わなきゃ…昨日入ってないから…。』

またいつものかと諦める

『洗えんのか?それで。洗ってやっか(笑)?』
冗談のつもりだった

『一緒に入って何すんだよ!』
『何もしないよ。冗談だ。ジョーダン!』
『俺の体に触らないで!!』

そう怒鳴って入ってしまった

『何て奴だ全く…。』
『風呂場で悪戯された事あるんだろうか。』
『そんな言い回しだったな。』

顔を見合わせ
2人は片付けを始めた

No.254 10/05/17 01:01
㍊ ( wPNK )

薬を飲んで少し寝ると
頭痛もだいぶ楽になった

トオルの存在にも慣れただろうし
せっかくだから
カラオケに行こうと鏡が言う
勿論城は初めてだ

城にマイクを渡しても
今流行の歌手やグループなんか
全然わからないから歌えない

それでも鏡やトオルが歌うのを
ただ黙って聴いてるだけでも
充分楽しめていた

鏡もトオルも凄く上手い…
鏡は昔バンド組んでた事があり
音楽に馴染みがあったらしい
トオルは素で並以上に上手い

城は次から次へと
言われた曲のナンバーを登録
2時間ビッシリ2人で歌い切った

カラオケを終えて出ると
城はゲームコーナーに興味を持つ

両替して
好きに遊べと城に金を渡す

UFOキャッチャーにチャレンジするが
中々取れず
俺に任せろと
狙っていた車の模型を
鏡が簡単に落としてくれた

対戦レースしようとトオルが言い出し
3人でスタートする
よく分からないまま運転する城
子供みたいに対抗し合う2人
数秒差でトオルが1位
本気で悔しがる鏡

指定数字にボールを当てるゲーム
城が満点を取ったのには
2人共本気で驚いた

No.255 10/05/17 05:49
㍊ ( wPNK )

喫煙所で一服する

トオルが城に一体何を話したのか
鏡は少し気になっていた

確かに
他の仲間より一緒に居る時間も
顔を見る回数も多かった
それだけではない筈だ

トオル、トオルと懐いて名を呼び
次々とゲームを回るなんて…

自分以外の人間に付いて
歩くなんて…
少しは進歩もしたかなと
嬉しく思う

『じゃ、オレ帰るよ。また荒らしに行くから。』
『差し入れ忘れなきゃいいよー。ビールな!』
『…城君、酔っ払いが嫌になったらこっちおいで(笑)。』
『うん。』
『うんって…オイ!そんなアッサリ行っちゃうのかよ!』
『ハハッ。明日成功祈ってる。またね、城君。』
『城だけかい!』
『アンタとは嫌でもすぐ仕事で顔合わすからいーんだ(笑)。』
『あ、そうですね。』

あの時乗った白い車で去る
鏡と同じクラクションを鳴らして…

ゲームで取って貰った景品を
大事そうに抱えて
マンションに入る

『明日か…。』
エレベータで鏡が呟くと
城が考える様に反応した

『…鏡。明日…待って。明日は行かないで。少し…待って。』

No.256 10/05/17 08:28
㍊ ( wPNK )

家に入ってから
ゆっくり話を聞く

『どうした…怖いか?』
『違う。』
『いつまで待つ?明後日にしたらいいのか?』
『それじゃ足りない…。』

足りない?
何かしようとしてるのか?
城は城なりに
考えがあるんだろう…

『明日のが都合いい?』
『いや。お前に合わせるよ。俺の都合の問題じゃないから。準備出来たらちゃんと言えよ。』
『うん。ありがとう。』

そのまま部屋に入る

複雑な気分だった
延期すればするほど
不安が襲う…

誘拐・軟禁問題に発展しないか
でも向こうも騒ぎを広めると
ある意味墓穴を掘る形になる
虐待問題として…
だから多分大丈夫だろう

安心感もあった
まだどう話し合えばいいか
迷走中だったし
もう少し時間が出来た…

ソファーに座って
出会った時からの事を
思い出せるだけ全て
必死に事細かにメモを取り始めた

No.257 10/05/18 02:26
㍊ ( wPNK )

3日…
延期を言い渡され
予定が何も無くなった

昨夜小さい箱をくれと言われ
探して城に渡すと
遅くまで何か作っていたらしく
10時過ぎに爆発頭で起きてきた

『餅食うか?雑煮。』
『ゾウニ?何?』
『…餅スープ(笑)。』
『食べた事ない。餅は好き。』
『マジかい…汁粉は。』
『分からない。』
『御節料理。』
『見た事はある。』
『茶碗蒸し。』
『給食で…味は覚えてない。』
『クソッタレな家だな。』
『うん…クソッタレ。今日は何?』
『鏡矢様特製雑煮作ってやる。餅沢山食って太れよ(笑)!』

シャワーを浴び髪を乾かす間に
具沢山で餅沢山の雑煮が完成

美味いかと聞かなくても
見ただけで分かる

『今日俺暇だし、洗濯やるからいいぞ。』
『うん。俺出掛ける。』
『どこに!?』
『ノート欲しい。ある?』
『無い。大丈夫か…?』
『多分。』

前の事もあるし
1人で行かせるのは不安だった

過保護過ぎてもと思い
了承する

誰かに会っても分からないよう
帽子を深く被って
出て行った…

No.258 10/05/18 05:48
㍊ ( wPNK )

痩せっぽちの体には
芯から堪える寒さだった

マフラーで顔を少し隠す
車で移動とはいえ
鏡と出る時は全然平気なのに
1人だと不安に襲われる

こんな事で
いちいち鏡に頼ってられない
ちょっと出てすぐ帰るだけだ
近場のコンビニで買えば大丈夫

コンビニに入ろうとすると
丁度昼に掛かる時間帯
平日ほどじゃないけど
車も人も少し多い

人に見られる
人が見てる
汚いガキって思ってる…
虐待により植付けられた意識が
また自然と沸き起こる

早く買って出よう

レジに並ぶ人達を気にしながら
帽子をまた深く被り直し並ぶ

外に出ると
まるで重大任務を終えたかの様な安堵感

たった数十分の外出が
城にとっては一大イベントだ
早く帰る事しか頭に無い

後ろから近付く男に
全く気付かない

突然帽子を取られ
叫ぶ間も無く振り向く…

父親だという男が立っていた

『やっぱり(笑)。分かるモンだなぁ息子って。毎日毎日探してた。この辺が怪しいって、時間ありゃ張ってた。手間かけさせやがってなぁ…コラ。』

悲鳴を上げ走り出した

No.259 10/05/18 08:24
㍊ ( wPNK )

『…もう出ない。絶対出ない。出ない。出ない!出ない!!』

この辺張ってるって?
やっぱり探しているのか…

『もう今行ってケリ付けるか?どの道同じだろ。まだ近く探してるだろうし。』
『アイツは話通じない!アイツは人間じゃない…鏡でも勝てない…アイツは駄目だ!』
『…。』

もう考えるのも面倒だし
勢いで行くのもいいかと
正直思ったりもした
ブン殴っちゃいそうだけど

捕まらなかっただけマシか…

『そうだな。逃げられたから良かったけど。帽子はまた買ってやるからさ…。』


仕事も始まり
仲間に延期した事を伝えると
驚いていた

時間が経てば経つ程
鏡にも苛立ちが募る

城の様子がおかしくなったのが
一番の原因だった

部屋から殆ど出てこない
鍵が付いてないのが救いだ

今迄もたまにあったけど
1人で泣く回数も増えた
夜中夢を見る回数も…
やめて、許して、ごめんなさい
連発して泣きじゃくる
あまりに酷い時はなだめる

起きて鏡の前に出る時は
いつもの城に戻る

寝不足も重なり
本気で弱音を吐かない鏡にも
疲れの色が見え始めた

それでも現場や家では
変わらずいつも通り振る舞う

No.260 10/05/18 11:12
㍊ ( wPNK )

仕事を終え会社に戻る
トオルが鏡に近付く

『城君、何かあっただろ。』
『城に何かは付き物だ。』
『オレ行っても無駄か…。』
『今はなぁ(笑)。親父に会ったらしくてパニクッて帰ってきた。毎日の様にジジィと探して、俺んちの近所まで張り出したらしい。完ッッ全引籠っちゃいましたよ(笑)。』

笑ってごまかす…

『ふーん…それだけじゃないね。アンタ寝てないだろ。』

流石鋭いなと思い吐く

『まぁな…元々小学生並だから仕方無いんだけどさ。夢に唸されて怯える頻度が激しいからよ。起きてなだめんので一杯。やめて許してって…俺も疲れて気付かない時は叩き起こしに来る(笑)。ちょい寝不足。』
『こんな時間に仕事終わりで大丈夫か?言ってくれれば…。』
『仕事は仕事だし。そこまで甘やかさなくても今は大丈夫!腹空かしてるな…帰るわ。』
『…事故んなよ。』

いつもの笑顔を向けて
会社を出た

少し打ち明けただけでも
気持ちは楽だった

No.261 10/05/18 12:26
㍊ ( wPNK )

今日は早く寝よう…
寝てくれてりゃ助かるのに…
そう思って家へ着く

20時半
鏡の帰りが遅くて
不安に襲われたのか…
落ち着かなかったのか…
短い廊下で帰りを待ったのか…
雑誌や菓子のゴミが散乱

やれやれとひとつずつ拾い
城の部屋を開けると
カッターを片手に床で寝込んだ城

隠した筈のカッターをどうして…

近付いて起こすが反応無し
腕を見る
5本の傷と固まりかけた血

深い深い溜息をついて
心底泣きたくなるのを堪え
ベッドに上げる

電気の付いてない居間
飯は作らなくて済んだ…
すぐ眠れる…
良かった…
良かった…?

城を救うと
自ら選択した道じゃないか
俺は弱音を吐く立場じゃない!

電気を付けると
城にやった筈の小さい箱が
テーブルに置いてある
下手クソな字で何か書いてある…

【お父さんへ】

セロテープで閉じた蓋を開けた
やった覚えのある紙を開く…

たん生日おめでとう
鏡と会えて良かった。大好き大好き大好き。死なないで。いつもかえってきて。鏡がいれば何もいらない。ずっとおれの父さんでいて。約束して。

『…ウウッ…。』
テーブルに頭を付け鏡は
声を出し静かに泣いた…

No.262 10/05/18 18:45
㍊ ( wPNK )

朝5時
ここ最近で1番眠れた
少しスッキリした…

城がくれたプレゼントは
ベッドの脇に画鋲でとめて
毎日必ず目に付く様にした

顔を洗い髭を剃る
朝飯を作りラップを掛けて
置いておく

作業着に着替え
コーヒーを飲みながら新聞を広げる
ろくなニュースがない…

珍しく城が起きてきた

『早いな、どうした?』
『…見たんだろ…腕。』
こっち座れと隣りに座らせる
袖をめくり消毒しながら話す

『言ったよなぁ…こんな事するなら毎日真っ裸にしてチェックするって。帰ったらやるぞ俺は。』
『嫌だ!…ごめん。』
『嫌ならやるなよ…。隠したカッターをわざわざ見付けて…どうしてだよ。』
『分からない。』
『んじゃ、どういう気分の時にやろうと思う?』
『頭の中で色々思い出す…怒られたこと…言われたこと…アイツらの顔でいっぱいになる…夢にも出てきて捕まえてやるとか、不潔だとか…だから謝るけど…許してくれない。だから切らなきゃ、自分が悪いなら切って罰受けなきゃって…。』

…なるほどね
…ここまで追い込んだ鬼畜共
どういう理由でなんだ!!

もう限界だ…待てねぇよ…
ブッ飛ばして
とっとと終わらせる!

No.263 10/05/18 23:25
㍊ ( wPNK )

『城…悪ぃ。もう待てねぇわ俺。お前がやられ続けてきた事とか詳しい内容知らねぇけどな…充分だ。この手、血で汚してでも解放してやる…殺してって言ってたよな…叶えてやるよ…。仕事終わったら乗り込む。』

今迄に見た事の無い
鏡の猛獣みたいな目
喧嘩慣れした
傷だらけの拳を見る…
話し合いどころか
本気でやるつもりだと思った
城は慌てる

『鏡が捕まったら俺どうしたらいい…!駄目だ!まだ駄目!待って…。』
『充分待った。お前も俺も充分苦しんだ。』
『お願い、もう少し待って…鏡に渡したい物があるから…。』

…渡したい物?
必死に嘆願して止める城を見て
我にかえる

『父さんなのに、帰ってこないのは嫌だ…家族は一緒に居るんだろ…。』

泣きそうな顔で見る城
その言葉で手紙を思い出す

傷だらけの腕に手を置き
片腕で城の肩を抱き寄せる

『…うん。そうだった…すまない。プレゼント…本当に嬉しかった…最高の息子からの最高のプレゼントだよ…ありがとう。お前の不安も恐怖も、その時が来たら1日で全部吹き飛ばす。こんな傷、2度と作らせねぇ…絶対にな。』

上着を着て家を出る
城はすぐ部屋に籠った…

No.264 10/05/19 00:30
㍊ ( wPNK )

2月に入ってしまった

『まだOK出ないの?』
『出ない。』
『鏡…大丈夫かよ。』
『…だいじょばない。』
『何語だ(笑)。』
『目のクマ…見てるだけで移りそうすねぇ。』
『俺はウイルスか?』

城がおかしいのは変わらない
寝不足もピークで
本当にもうヤバかった

『今日土曜だし、行くか?』
トオルが見兼ねて言う

『泊まれないけど嫁も会いたがってたしオレも行くかな。』
サワも言い出す

『明日日曜だしゆっくり寝てられるから心配すんな(笑)。』
相変わらず笑って流す

鏡と長い付き合いの
トオルの目はごまかせない…
トオルの毒舌攻撃

『隠すの下手なクセに隠すな。日曜たってアンタの事だから飯だって作ってやったり何かとゆっくり寝る事も出来ないんだろ。それに城君の髪切るのに連れてかなきゃとか言ってたし。いつ休むワケ。不器用な嘘付くくらいならせっかく手伝うって言ってんだから頼めばいい。サワの嫁だってこの前の件から心配してんだから飯支度任せてさ。自分が置かれた幸運な環境に感謝しろよ、こんないい仲間いないよ。意地張って嘘ついたって俺の目はごまかせない。分かったか。』
『…はい。お願いします。』

No.265 10/05/19 08:16
㍊ ( wPNK )

少し早目に切り上げ
サワは妻子を迎えに行って
後から来ると言う

トオルと近場のスーパーで
食材を揃える

来客を突然入れると
パニックになるのは間違いない
トオルを玄関で待たせ
城の部屋へ入ると
ベッドに座って
窓の外を眺めていた

『城、トオル入れるぞ。』
『トオル?いつ?他は?』
『今玄関に居る。後からサワと…この前来た嫁と子供。いいだろ?』
『…。』
(アレ…無視?やっぱ駄目かな)
『また来ていいって言ったからね…分かった。』
『ありがとうございます、王子様(笑)。』

トオルが顔を出す
『こんにちは、城君。鏡に腹立つことされてない?いつでもやっつけるからね(笑)。』
『変な意識持たせんな…。』

城は少し難しい表情を和らげた
ダボダボズボンの2人
こっちのが見慣れて安心する

トオルは中々目敏い男だ
洗濯物が湿ってるのを見る

『君が洗濯したの?』
『うん。俺の仕事。掃除も。』
『偉いじゃん。』
『俺はずっと家に居るんだから当然のことだ。偉くない。』
『そっか(笑)。』

その考え方にも感心する

城が紙とペンを持って来た
もうトオルに抵抗は全く無い

No.266 10/05/19 09:42
㍊ ( wPNK )

『名前書いて。漢字で。』
『名前?…これでいい?』
『…難しい。何て読むの。』
『梶谷徹(カジヤトオル)。』
『カジ?カジヤ…。覚える。』
『城君の苗字は?』
『…。』

黙ってしまった
キッチンで支度をする鏡が
素早く話に入る

『神崎だよなぁ!俺の息子だもん(笑)。神崎城!そう言っとけホラッ!』
『うん、神崎。』

鏡が苦笑いしながら首を振った
その様子を見て
徹はすぐ察して笑う

『…残念な苗字だね。』
『ぉおい!コラ、徹(笑)!』

そうこうしている内に
サワ一家がやって来た

嫁のお邪魔しますの声
城はすっかり大人しくなった

No.267 10/05/19 11:19
㍊ ( wPNK )

子供はサワが抱いて
決して鏡に渡さない様にする

『城君、この前は色々ごめんね。今美味しいの作ってあげるから!鏡さん休んで。』
『俺の嫁になってください!』
『困りますよ、ナンパは~。』

相変わらずのやり取り
サワの子供を見ている城

『抱いてみる?ジッとしてないけど(笑)。』
サワが薦めると首を振る
子供を降ろすと
はしゃぎながら城の方へ歩く
何か玩具を渡そうとしている

(何だこいつ…)
分からない感情が沸き
徹をまたいで逆側に逃げた

『露骨だなー。逃げる事ないだろ(笑)?』
鏡が突っ込む

汚れの無い人間

自分に近付き触れると
その子まで汚れてしまう
そんな気がして怖かった…

『俺着替えてくるわ。徹、泊まるなら服貸す。』
徹も立ち上がった

『泊まるの?どうして。』

徹が言葉を選んで答える
『家に居ても暇だからさ。遊びに来ただけ。部屋には入らないから安心して。よろしく。』

納得して頷いた

No.268 10/05/19 12:25
㍊ ( wPNK )

『お前の事、相当気に入ったみたい(笑)。』
『何で?』
『名前覚えるとか…初めて。』
『そうなの?アンタよりしっかりしてるからか。見る目あるな(笑)。』
『言ってろ(笑)!』

着替えて居間に戻ると
城が膝に子供を座らせ
硬直していた
サワの嫁が隣りで笑っている

サワがタバコ吸いたいからと
2人を道連れにベランダに誘う

『野郎3人が邪魔なんすよ。少しあのままにしとけば馴染むと思うけど。』
『さっきあんなに嫌がってたのにどうやった?』
『鍋用意するって無理矢理膝に乗せて見て貰ったんすよ。』
『なるほどね。顔真っ赤。』
『何か…悪いないつも…。』

鏡が真顔で言う

『いつも仕事で世話なってるし。いいんじゃない?1人で抱え過ぎなんだって。こういう時しか返せない。』
『虐待行為に関わった鏡さん達見て思う事も色々あったんすよ。嫁とよく話すし。全く徹さんの言う通り。』
『泣くなって。』
『泣いてねぇから(笑)!』
『とりあえずこの2日間で体休めて欲しいすね。』

他人に対する接し方…
城も少なからず
精神面でも成長してる…
感謝、感謝だ

『よし、食おう。』

No.269 10/05/19 14:26
㍊ ( wPNK )

子供が膝の上に落ち着いて
キャッキャッと遊ぶ
城の手は両脇に置いたまま
触れようともしない

『もうちょっと見ててね。』
そう言って箸を
それぞれの場所に置いていく

『…どうして生むの。』
『え?』
『どうして生む?本当に大事だって思ってる?いつか殴ったりするんだろ。今だけじゃないの?こいつ笑ってんの。』

突然の質問
確か物心付いた時から
虐待されてたって聞いた…
適当に答えるなんて出来ない
城の方に体を向ける

『赤ちゃんってね、まだ人の形もしていないこ~んな小さいものが、お母さんのお腹の中で何ヵ月もかけて、やっと人の形になるんだよ。知ってた?』

『…何となく。』

『少しずつ大きくなって、心臓が出来て動いて、初めて命になるんだよ。お腹でひとつの命が動き出す…でもまだまだ会えない。早く元気な命に会いたいから、お母さん達は外からの衝撃から守って、食べ物に気を付けて、健康に気を付けて、大事に大事に一緒に何ヵ月も生きるの。そうじゃないと健康で元気な赤ちゃんなんて生まれない。』

『…それなら俺、どこか健康で元気じゃなかったんだな。どこか分からないけど…だから好かれなかったのか。』

No.270 10/05/19 18:37
㍊ ( wPNK )

『どうして?』

『命に会いたいからお腹で大事にするんだろ。大事だから生まれてからも可愛がるんだろ。捨てないだろ?俺、そんな記憶無い。怖くて痛くて悲しい思い出しかない。きっとお腹にいる時から要らなかったんだ。大事じゃなかったから。だから…どこか分からないけど、健康で元気じゃない体で生まれてしまって、可愛くないって言われて叩かれたんだな。』

沈黙になる…

ベランダの3人は
入るに入れなかった
外は寒いのに…
それどころじゃない…
耳を傾け続ける

『…でもねぇ城君。城君はどう見ても普通の男の子かな。お母さんはきっと大事に…生まれてくるの楽しみにしてたんだよ。中には大事にしてた筈なのに、障害を持ってしまったり、生きる力がなくてお腹で亡くなる子もいる…生まれてすぐ育児に疲れて殺してしまう人もいる…。どんな辛い事されても、城君は生きて普通に動ける。城君のお母さんは途中から間違えた道を歩いてしまったんだね。』

『うん…生きてる…生きる力あるし…健康で元気だ俺。少しの間でも生まれた事喜んで、こいつくらいの、記憶に無い部分の時でも可愛がられたならいい。ずっと生まれた意味考えてたから。』

No.271 10/05/19 19:48
㍊ ( wPNK )

子供がママーと叫び
城の膝から母親の元へ行く

『父親だって男が戻って来たし…母さんもいつか来るかもしれないんだ。3歳の時、【面倒】って言われてジジィの家に置いてかれた。覚えてる。顔は覚えてないのに。お陰でジジィが毎日怖かった…最低だよ…アイツ。どんなに考えても何で【面倒】になったかが分からない。でも原因は俺でしょ。どうしたら分かる?そいつの母親やってるなら分かる?同じ女だろ。』

一瞬考える

『…いつか…会える時が来るかもしれないから…知っておかなきゃ…そして謝るんだ。』

彼女は理解していた

面倒と言うのは育児だろう
でなきゃ祖父母に預けて
消えたりしない
お腹痛めて生んだ子を…
面倒だから捨てた…

でもそんな事言えない

育児が面倒で預けて
そこから祖父母による
過剰虐待が始まったのに…

しかも城は
母親に会いたがってる
何も悪くないのに
許しを得てまで
母親を知りたがっている

どうしよう…
何て答えれば…

『ブェックシュッ!!』
『寒い…!無理無理ムリムリもう無理っす!!』
『何か真剣な話中ごめん。鍋、食べよう…。』

No.272 10/05/20 02:51
㍊ ( wPNK )

やっと体が暖まった

城は普通に
黙々と美味そうに食べ
部屋へ引っ込んでしまった

『分かってても、答えられなかった…。』
彼女は悔しそうに言う

『機会があれば会うつもりなんすかね?』
『会うんじゃなくて会いたがってるの間違いだな。』
『謝る必要なんかねぇだろって。あの歳で生まれた意味なんか考えさせるよう仕組みやがって!俺だって分かんねぇ!』
『考える脳も無いからなぁ。』
『そうゆー事言うの?!言っちゃうんだ!』
『親父も最低、祖父母も最低、母親はそんな悪い印象ないみたいすねぇ。』
『徹が母ちゃんになれば良し!シビアなママっぽい…嫌だなぁ俺は。』
『俺だってアンタみたいなガサツで凶暴そうな手の掛かりそうなの嫌だね。』

フンと2人そっぽ向く
『徹さんまで…子供じゃないんすから(笑)。』

ケーキを買ってきたと
城を呼ぶ

今回はすんなり出て来て
居間で皆と食べる

眠くなったのかグズる子供を
一生懸命あやす様子を見る

自ら彼女の傍に寄り
小さい声で話す

『部屋でずっと、さっき話してたこと考えてた。やっぱりお腹で大事にしてくれてたんだ。』

No.273 10/05/20 03:38
㍊ ( wPNK )

寝入った子の
純真そのものの寝顔を見る

『俺、もっともっと古い記憶思い出せたんだ。』
『どんな…?』
『こいつくらいの記憶。城クンって抱いてキスされてた記憶。あの男から守ってくれてた記憶。思い出せたよ。嬉しかった。ただやっぱり面倒になった原因がハッキリ分からないけど…お姉さんの言う通り、きっと道間違えたんだな。』

彼女が優しく笑って
城に寄り添う
鏡はその様子を黙って見ていた

『この前はごめんなさい。酷いこと言って当たった…。俺もこんな綺麗な体で笑える時期があったんだ。望まれて生まれた。存在して良かったんだ。それが分かっただけで嬉しい。ありがとう。』

そして初めて
子供の顔に手を当てた…

温かくて柔らかい
懐かしいような
いい匂いもする

手を当てたまま
祈るように囁く…

『お前のお母さんは間違えたりする人じゃない。羨ましい。大きくなったら今度はお前がしっかり大事にしなきゃ駄目だからな。』

そしてまた
部屋へ去って行った

少し潤んだ目でテーブルにつくと
鏡と目が合った

柔らかい笑みを浮かべた目
鏡は無言で頭を下げた

No.274 10/05/20 09:17
㍊ ( wPNK )

サワ一家が帰り
鏡は風呂を沸かし徹に勧める

俺が片付けるから
先に入って早く寝ろと返され
スイマセンと鏡が入る…
どっちの家だか分からない

部屋から城も出て来て手伝う

あまりに風呂の時間が長い…
城に見てきてと頼むと
案の定寝込んでいた

叩き起こされ
もう限界とベッドに入る

城が代わりに居間に布団を運ぶ

『城君の部屋で寝るかな。』
『…どうして。』
『せっかくだから。』
『やめた方いいよ。最近、夢見てうるさいから。』
『何の夢?』
『…。』
『嫌な夢見て唸されるようなら起こしてあげるし。駄目?起きて誰かいたら安心するんじゃないの。ね。決まり(笑)。』

嫌だけど
徹なら許せるような…
裏があるような無いような
怪しい笑み…
強引に押し切られてしまった

『もう少し居間で起きてるから、寝るなら寝てていいよ。』

布団を運び
おやすみと言って
部屋から出て行った

No.275 10/05/20 15:41
㍊ ( wPNK )

風呂から出て
1人晩酌を始める

くだらない番組を見ながら
そろそろ寝たかなと
城の部屋へ

突然自分が部屋に居座っても
気が散って眠れないだろうと
寝てから入る
徹なりの気遣いだった

静かにドアを開けると
寝息を立てて眠っている

素早く自分の布団に入り
眠りに付く

1時間くらい経った頃か
目を覚ます

ベッドでゴソゴソ動く音
鼻をすする音…

『城君…?』
大人しくなったが返事は無い
もう少し様子を見よう

徹もまた寝に入る
壁を蹴る音で目を覚ます

慌てて起き上がり
声を掛ける

グシャグシャに泣きながら
まだ夢を見ている

徹は衝撃を受けた…

布団を蹴り飛ばした両足は
膝を立てて全開
もがくように片足は壁を蹴り…

片手は近付く何かを
押し退ける様に空を切り
発する言葉…

痛い…
やめて…やめてよ…
そんなの入らない!
痛い、痛い!
言う事聞くから…
うつぶせに…なるから
熱湯はやめて…
言う事聞きます…
足…開きます…
はい…はい…
ちゃんとくわえます…
ごめんなさい
ごめんなさい…
だから許して…
熱湯…熱湯はやめて…

No.276 10/05/20 16:14
㍊ ( wPNK )

揺さぶり起こしても
夢から覚めない

鏡、鏡!助けて、どこ!

鏡は毎晩
こんな城を見ているのか…?
城命のあいつが
どんな思いでなだめてるのか…
思うだけで辛い

『城君…。城君、起きろ。俺だよ、徹!』

徹!の名前に反応し
パッと目を覚ます

何が何だか分からない様子で
徹の顔を見る

『鏡…?徹…??』
『そう、徹。鏡じゃなくて悪いけど。体起こせるかい。』

部屋の電気を付けると
眩しそうな城
涙で濡れた自分の顔を触る…

『夢…また夢…。』
『うん、夢。夢で良かった。顔拭きな。』
机のティッシュを数枚渡す

『鏡は?』
『寝てる。鏡が起きて来る前に俺が起こした。』
『…どこから…見てた?』

内容はハッキリ覚えているようだ
見て聞いた内容
死んでも言えない…

『鏡、助けてって声で起きたんだ。キッチンにココアあったな…飲む?好きなんだろ。』

放心したまま頷く
良かった…
変な事口走ってなかった…
よりによって
徹の時にあんなシーン…

『夢でも犯される…俺…どうしたらいい…誰か…教えて…。』

とめどなく溢れる涙を
徹が来る前に
一生懸命拭い続けていた…

No.277 10/05/20 19:57
㍊ ( wPNK )

『鏡は優し過ぎる。城君次第だとは言え…もういいだろ?』
『準備は…出来てる。』
『じゃあ、鏡にOK出さないと。君が時間をかければそれだけ2人で苦しむ。見てられない。夢だってこんなに毎日毎日見る事なかったんだろ?』

黙ってココアを飲む

『家の人、探してたんだって?この辺張ってるって言ったんだよね。ここに居るって見付かってからだと余計こじれる。こっちから行くべきじゃないの。』

返事が無い
徹は城の頭をポンと軽く叩く

『鏡を信じてない。』
『…信じてる。』
『信じてるなら行けばいい。一緒に。』
『…一緒に…信じて…。』

行きたくない
見たくない
あんな家…あんな顔

もし、もしも行って
鏡の交渉が失敗したら…?
目の前で失敗して
また居座らなきゃならない状況に陥ってしまったら…?
今度こそ逃げられない
逃げる隙さえ与えられないはず

本当に
本当に最後なんだ…

鏡を信じても
【もしも】が拭えない
思うだけで恐怖だ…

『鏡ならやる。絶対君を守る。普段あんなふざけた奴だけど…誰より何より頼れる男だ。一緒に行って背中を見てきたらいい。俺らの絶対の信用を背負ってきた男だから。』

No.278 10/05/20 20:25
㍊ ( wPNK )

徹がそこまで言う男…
鏡って凄いんだ…

『鏡は?鏡に逢いたい…。』

まるで長い間
会っていないかのようだ

『鏡は疲れてグッスリ寝てる。仕事が色々大変だったからさ(笑)。起こさないでやって。城君も寝な。目が覚めたら鏡はいつも通り居間にいるさ。』

空になったカップを受け取り
部屋を出た

城は悪夢を見る事無く
眠りについていた

No.279 10/05/20 21:05
㍊ ( wPNK )

朝9時
ベーコンの焼けるいい香り…
鏡は飛び起きた

『おはよ、鏡さん。寝れたかい。寝れたよな。寝れないワケが無い。』
『…城かと…。火使えないのに…。何だ、お前か。な~んだ、そういやぁ泊まってくって話だったもんな(笑)!なーんだ!』
『なんだなんだって失礼だな。誰の為だと思ってんの?』
『怒るなって。朝飯まで作ってくれて…嫁になってくれ!』
『こっちにも選ぶ権利ある。』
『あ、そーすか。』

少し眠たそうな顔の徹

『あれ。布団…どこで寝た?』
『城君の部屋。』
『え。ホント?許したの?』
『微妙な感じでね。』
『…どうだった?俺全然起きれなかったけど。』

味噌汁をすすりながら
苦笑いして鏡を見る

『尊敬するよ…。』
『殴られる夢か…?』
『いいや…性虐だった。』

鏡の顔付きが変わる

『鏡さんに助け求めてた…。』
『…だろ。だから行って起こしてやるんだ。俺しかいねぇんだ…。』
『でも毎晩はキツいよ。体持たないだろ。』
『そうも言ってられないから。自分から助けたくてこうなっただけだからさ。』
『流石の俺もショック。』
『ありがとな。』

No.280 10/05/20 21:53
㍊ ( wPNK )

徹から一晩の出来事を
事細かに聞いた
鏡はただ頷いて聞いていた

『多分怖いんだよ。あんな家。そりゃそうだ。』
『ヘマできねぇな。』
『置いてく?』
『無理矢理は連れて行くつもりはない。精神面でおかしくなるくらいなら。』
『城君起きたら聞いてみる。』
『…そうだな。』

丁度城が起きてきた

『おはよう。城君。』
『飯食え!徹の手作りだから胃腸薬飲んでから食えよ!』
『どういう意味だよ。』

洗面所に行って顔を洗う
最近起きたら目が腫れてる
徹のお陰で
2度目は深く眠れた…

鏡がストレートに突っ込む
『また夢見たってか。』
『…うん。』
『ジジィか?男か?』
『…覚えてないんだ。』

白切ったなと徹の目を見る
徹が続ける
『夜中話した事、決めた?』
『…。』
『城、今日でもいいぞ。』

箸を置いて返答する…
『次の日曜日。』

また一週間先か…
でも決めたならキャンセル無しだ!

『分かった。次の日曜日だな。もう待たねぇぞ。限界だ。お前も俺も潰れちまう。いいな?』
『…。』

また返事が無い
鏡が低いトーンで詰め寄る

『城。返事。』
『…はい…。』

No.281 10/05/20 23:00
㍊ ( wPNK )

徹がそろそろ帰ると言い出す
着てきた作業着に着替え
城に挨拶をする

『あ、タバコ切れてるんだ。徹、コンビニまで送って。』
『近いのに…運動がてら歩けば(笑)?』
『やだよ、寒みぃ。城チャンお留守番お願いねー!』

マンションを出てすぐ
短髪で長身の男が立っていて
ぶつかりそうになった

『何だあいつ。邪魔くせー所に…ぶつかるなら美女にぶつかりてぇよ。』
『まだ見てるな。』
『ニャロウ…ガンくれてやる!』
『スモークで見えないって(笑)。窓開ければ?』
『いやだぁ、寒い。諦める。』
『ヘタレだな(笑)。』

コンビニで降ろしてもらい
心から心から礼をして
歩いて帰るからいいと別れた

城の菓子もついでに買い
マンションへ戻ると
さっきの野郎がまだ居た!
しかもまた見てるし

この寒い中
一体何してんだよと
無性に見るだけで腹立つ

タバコを口に咥えたまま
ポケットに両手を突っ込み
顎を上げ目を吊り上げ
睨み付ける

腕からぶら下がる物が
おやつなのがマイナスだな…

そう思いながら
チッと舌打ちして男の前を通過し
マンションに入る…

No.282 10/05/21 00:33
㍊ ( wPNK )

すると男が声を掛けてきた

『あの、すみません。』
『…あ"?』
『佐伯城って子知ってます?』
『…何で。』

この辺張ってるって言ってた…
もしかしたらこいつが…

『父親なんです。家出してから暫く帰って来なくて。探してるんですよ。』

上から下まで
舐めるように見る鏡

自分より少し高い身長
女みたいな顔の城とは逆に
一重で切れ長い目
目を見れば一目瞭然
猫被った話し方
120%向けられた疑いの目差し
…ハッキリ言って似てない

俺と城のが似てる!
少し探ってやろう

『はぁ。そんなの警察か探偵にやってもらった方早いんじゃないの?』
『警察は一般的な家出くらいじゃ動きません。探偵は金掛かり過ぎるので。』
『大事な子供が消えてんのに金額の問題なのかい。』

相手も馬鹿ではない様だ

『まぁそれを言われると…。ただ、建設業やってる格好で赤い頭の男の方が、だいぶ前に城を心配してウチに来てくれたみたいでね。さっき、あなたと居たもう1人の方の格好見て…あなたも赤い髪色してますし。』

No.283 10/05/21 18:42
㍊ ( wPNK )

なるほどね…
間違いなく俺がクロだって
確信してのキャッチかい…

こいつが…
こいつがまだ幼い城を
最初に傷付け踏みにじり…
笑いながら…
充分傷付けられた小さな体に
丁寧にタバコの刻印を刻み
恐怖を与え続けた…
糞〇★※▽×野郎かよ…!

鏡の目が血の飢えた猛獣の様な目付きに変わる…

『あの、違ったら申し訳ありません…。何となくそうかと思いまして。』

下手に出る男
しかし眼鏡の奥のその目は
どこか笑っていて
鏡を挑発しているようだ…

顔面に一発
ブチ込みたい気持ちを抑え
隠す必要はもう無いと判断した

『…痣と火傷と傷の跡が消える事も無く…痩せ細った身体中に見事に刻まれた…15歳なのに…まるで小学生みたいな…佐伯城という子なら…ずっとウチに居ますけどね…。誰かにずっと怯え…泣きながら…もしかして…その子の事ですかね…!』

低い声で
一言一言ゆっくり放つ…
男の口元が緩むのが分かる

しかも平然と
笑いながら返してきた

『あぁあ、やっぱり。良かった(笑)!やんちゃ坊主でね、ろくな仲間とつるまないんです。喧嘩の跡、酷いでしょう(笑)?生まれた時から知遅れで。』

No.284 10/05/21 19:24
㍊ ( wPNK )

バンッ!!

鏡は男を囲む様に
壁を片腕で殴り付けた

やんちゃ坊主…?
喧嘩の跡…?
知遅れ…?
何つった今…!?

顔を近付ける
血管が切れそうだ…

『…白切んじゃねぇよ…テメェ…!本人から聞いてんだ…こっちはよ…!』

一瞬怯む様子を見せたが
まだ笑う…

『何をどう聞いたか分かりませんがね?返して頂けませんか。あんなんでも私の子なので。私達がやったと言う証拠は無いですから。知遅れの少しおかしい子の言う事ですよ(笑)。警察介入しますか?結構ですよ。』

証拠は無いときた…(笑)
あの体を見てもかい…(笑)

どこから来る自信なのか…
城の言う通り話が通じない…

ここで警察入れてこじらせても
俺に勝目は無い…

畜生…糞ッタレめ…
仕方無い…一旦身を引こう…

『…そこまで言うなら会わせてやるさ…。ただ、アンタがこの前コンビニの帰りに脅したせいで、怯えて逃げて行方知れずだ。ここをアンタにウロ付かれても戻るに戻れねぇだろ。次の日曜…日曜に話しに行くからそれまでそっちで待ってろや。察を出すなら出せ。その代わり俺にも言い分はあるから覚悟しとけ…これでどうよ。』

No.285 10/05/21 19:56
㍊ ( wPNK )

男の視線が買物袋へ移り
笑みを浮かべる…

『…そのお菓子は城に買った物じゃないんですか?』
『俺がコアラのマ○チ食っちゃ悪ぃのかよ!何だテメェ。文句あんのか!?』

男は少々引き気味になる

『…ま、分かりました。それなら来週の日曜日夕方6時に来てください。キャンセル無しでお願いしますよ。暇じゃないので。携帯番号はこちらです。城によろしく。』

そう言うと足早に消えた

携帯番号を書いた紙は
即破り捨てる

『誰がキャンセルするか!』

暇じゃないだと?
散々暇そうにウロ付きやがって!

エレベータを呼び部屋へ戻る

明らかに不機嫌な態度…

ドスドスと音を立てて歩き
買い物袋と財布を
テーブルに投げ付け
ソファーにドサッと座り
足をテーブルにバンッと乗せる

あまりの激しい音に
城が恐る恐る居間に来る

『…どうしたの…。』

城の顔を見て
怒りとやるせなさで一杯になる

『…糞ッタレ…糞野郎!』
ソファーにもたれ天井を見詰める

『徹と喧嘩したの…?』
城が心配そうに隣りに座る

『…違う…。』
話す気にもならなかった

No.286 10/05/21 20:31
㍊ ( wPNK )

『だから頭脳戦は無理だって言ったんだ。』
『…スンマセン。』
『口じゃ敵わないすからねぇ…相手徹さん並かも(笑)。』
『…ホントニ。』
『3分持たずに手が出たかぁ~。そいつじゃなくて壁を打つ理性残ってただけ良かったな。』
『…マッタク。』

徹が言う
『まさかアレが親父だったなんてね。マンションまで帰りも送れば良かった。凄ぇ後悔。本当…。』

皆が口を揃える
『…単純(バカ)!』
『誰だ今バカつったの!徹か!徹しかいねぇ!』
『ばれた(笑)?でもひとつだけ、城君かくまったのは正解。当然だけどさ。』

そうだよ
後悔だらけだ
完全に俺の負けだった…

あの口調
あの空気
間違いなく苦手なタイプだ…
参るよ…

『城君髪切るのに外出たの?』
『出たよ。あいつが車で帰る所見たし。それは大丈夫。』

次の日曜が憂鬱だ…
でも凹んでなんかいられない

ある意味先に会って
良かったかもしれない…
どういう男か分かったからな…

『徹で練習するかな…。』
『何の。』
『お前、あの男役。』
『嫌だね、負ける自信無い。』
『俺も勝てる気しねー…。』

No.287 10/05/22 02:32
㍊ ( wPNK )

家に帰ると
珍しく玄関に城が迎え出た

昨日は機嫌悪いまま
あまり相手せずに早々と寝た
今朝も飯作らずに出た…

城なりに気を遣ってるんだな
悪い事をしたと反省する

親父の事は話す必要も無い
不安がるだけだから…

飯を作る間
ずっと居間にいる
普段なら殆ど部屋に居るのに

でも今日も
全く話する気分にならない…
TVの音だけが響く…

『鏡、どうしたの?昨日何か嫌な事あった?』
『んー?何も。忘れた。』
『…俺、ご飯は朝も夜もパンでもいいよ。置いといてくれれば勝手に食べる。』
『疲れてる訳じゃないから(笑)。お前はちゃんと飯食わなきゃならないの!気分だ、気分。テンション低いだけ。ごめんな(笑)!』

こんなんじゃ駄目だと
自分に言い聞かせる…

No.288 10/05/22 05:53
㍊ ( wPNK )

寝付けなくて
メモを読み返す鏡

城に出会った時からの事
関わった内容全て書出したメモ

火、水、木、金、土…
まだ5日もある
いや5日しかない…

早く終わりにしてしまいたい…
もっと時間をかけて
完璧に潰したい…

鏡は1人で葛藤し続ける

城を不安がらせちゃいけない
俺がしっかりしなければ…

ダンッとまた暴れる音
鏡はメモを置いて城の部屋へ

首を抑え…
聞こえる様な聞こえない様な
小さい声で吠える…

ワン…ワン…
俺は犬です…
名前…名前はハクです…

『…城。…城!』

城の手が震え出した
タバコは嫌です…
熱い!やめて…!
嫌だぁ…熱い…熱い!
やめろ!やめろよ!

激しくもがき出した
『城って!起きろ!!』

頬を叩いて起こす

目を覚ますが呼吸が荒い
そのまま胸を抑え
過呼吸が始まった

慌てて袋を取りに行き
体を起こしてサポートする

『城、また夢だ。』
『…夢…もう…嫌だ。』
『いつも傍に居るから。俺のベッドで寝るか?』

涙目のまま移動する
寝息が聞こえるまで
鏡はずっと傍に座っていた…

No.289 10/05/22 08:25
㍊ ( wPNK )

火曜日―

コンビニの帰りに
あの男に会ってからだ
こんなに毎晩
夢を見るようになったのは…
糞ッタレの笑みが頭から抜けない

鏡は仕事をしながらも
ずっと考え続ける
そして非常に眠い…

『おあ…ッ!!』
ボーッとし過ぎて足を滑らす

『鏡さん!!』
『鏡が落ちた!』
慌てて皆が駆け寄る

『お、おい…大丈夫か!?』
『…だいじょばない。』
『どこ打った?』
『…全身。』
『意識あるな…痛む所は!』
『…心と脳味噌。』

徹が鏡のヘルメットを叩く

『問題無いよ、この人。そこの足場1階からちゃんと構えながら落ちただけだから。落ちたってより、足滑らせて無理矢理ジャンプして着地失敗(笑)。』
『鏡、安全帯付けろよ。』
『危ないなー…ボケボケしてると手元やらすぞ。』
『…。』

黙って起き上がり仕事に戻る

昼休憩は車で爆睡
1時になっても起きない
徹が起こす

『鏡さん、時間!』
『あ…ハイハイ…今行きます…。』
『相当ショックなんだね。親父に口で負けたの。』
『…今はそいつの話はどうでもいい…。』
『どうせ考えっ放しなんだろ。見てりゃ分かる!』
『ヘイヘイ、そうですヨ。』

No.290 10/05/22 18:22
㍊ ( wPNK )

3時の一服でも鏡は爆睡

『…どうもならんな。』
『せっかく土日で少しは休めたかと思ってたんすけどねぇ。』
『徹、何とかしてやれ。』
『何で俺さ。冗談じゃない。』

徹が珍しく拒否した

『何でって…鏡の事を一番知ってるのお前だし。』
『ウン、付き合い長いし。』
『つーか、お前に弱いし。』
『徹さんの言う事は聞くし。』
『そうだそうだ!』
『徹さん何とかしろー!』
『そうだそうだ!』

徹は苛っとして言い放つ
『知らないし。あんな馬鹿。さっ、仕事仕事。サワ、鏡起こしてやって。爆睡してるから。』

喧嘩をした訳でもなさそうだ…
皆は不思議そうな顔をしていた

鏡を起こしに行ったサワが聞く

『徹さんに何かした?』
『は?俺が?』
『いつもと違う感じだった。』
『さぁ…。考えても分からん!よく寝た。』
『マジ大丈夫すかぁ?』
『大丈夫すよ!』

鏡と徹は険悪な様子もなく
普通に仕事をこなしていった

No.291 10/05/22 19:13
㍊ ( wPNK )

会社へ戻り
車のエンジンをかける

今夜また唸されて呼ばれたら
起きてやれるだろうか…
やっぱチョットかなり俺…
疲れ抜けてないかもなぁ…

無意識にボーッとしていた

隣りに車を停めていた徹が
エンジンをかけた音すら
全く気付かなかった

『ボケてると人撥ねるぞ!』

窓を開けて徹が怒鳴る
鏡はハッと気付いて苦笑いをし
ドアを閉めた

鏡が先に車道に出て
徹が後ろを走る
帰る方向は同じだ

少しフラついてるように見える

ホントあいつって
バカ通り越して大バカだ!
自分の周りの人間
何も見えてないんだな
いつ気付くんだ?
いつまで抱えるんだ?
また俺から言わなきゃ
潰れるまで気付かないのか?
そうしたいなら
そうしても構わないけどね

しっかし…
寝ながら運転してるのかよ

つーか、前方赤だぞ…
…行くの?
ブレーキ早く踏めよ…
…信号赤だって…あか!
赤だよ…!おい…鏡!!
止まれよ!バカ…!!

『危ないって…!!』

凄まじいクラクションと
けたたましい急ブレーキの音…

No.292 10/05/22 19:49
㍊ ( wPNK )

『ほんっとに大バカだ!冷やっとさせるなよ!!』
徹はハンドルを殴った

間一髪で優先車が止まった

それでも
気付かないのか
普通に走り去る鏡の車

徹は即効
鏡の携帯にかけた

(あれ?携帯…徹だ…)
通話を押した途端
徹の怒鳴り声が響く

『死にたいのか!?それとも死ぬ気か!?何考えてんだアンタ!周りの迷惑も考えろよ!1人で限界な癖に悩んでヘタレな運転で周囲巻込んで死ぬくらいなら城君俺に預けて単独事故って逝っちまえボケ!!』

ブツッ!と切られた

『…何?何の事だよ…?』
突然の罵声に眉間にシワが寄る

クラクションを鳴らされ右を見ると
白い車の窓が開き
徹が親指を下に向け
思い切り睨み付けながら
追い越して行く

鏡の顔は唖然…
お陰で目だけは
既にしっかり覚めていた

No.293 10/05/22 23:21
㍊ ( wPNK )

家へ入ると同時に
城が部屋から飛び出してきた

パニック状態だった…
内容を聞いて
自分の愚かさを…
酷く…酷く痛感した

インターホンが鳴っても
城には絶対出なくていいからと
前から言い聞かせておいた

たまたま玄関を掃除していた時
それは鳴った

出はしなかったが
覗き穴から覗いてみたら
あの男が立っていたと言う
部屋までは知らない筈なのに…

城の話だと
次は隣りのインターホンを鳴らし
更にはその隣りへと
1件1件回っていたと言う

放置された掃除機
鍵の無い城の部屋のドアには
気休めなのか
ドアを開けられないようにと
椅子を立掛けた跡…

あの時
短腹さえ起こさなきゃ
簡単に防げた事なのに…

惨めな自分…

明日仕事行かないでと
懇願する城…
蛇みたいに執拗な野郎…

大体にして
祖父がどんなイメージかも
全く分からない…

心の準備など出来る訳が無い…
虐待された内容も
所詮聞いたのは一部分だけ…

全然大丈夫じゃない…
時間が無い…
どうしていいか分からない…

自信が…無い…

会社に電話して
明日欠勤する許可を得た

No.294 10/05/23 00:18
㍊ ( wPNK )

水曜日―

現場に鏡の姿は無い
今迄こんな事はなかったのに

皆が徹は知ってるだろうと
問詰める

苛々した様子で
俺はあいつの保護者じゃないと
怒り出す始末

鏡の携帯には
仲間達からの数件の着信

城は鏡が居る安心感から
いつも通りだった

鏡も携帯の電源を切り
いつも通り城の相手をする

ソファーで並んで座る城を見る

ガリガリだった少年は
だいぶ健康的に肉付き
太り難い体質を乗り越え
体重もやっと48キロにまで増えた

鏡みたいな体になるんだと
買ってもらった
筋トレグッズを使い

もう少し頑張れば
俺も鏡と同じ鳶職人として
働ける体になるでしょと
真剣な顔で言う

その言葉に勇気を貰い
また聞いてみる

『なぁ、城。警察介入した方が確実に法で守られるんだけどさ。法ってのは…破ったら罰を受ける仕組みで、奴らみたいなイカれたクソッタレには最適だと思うんだよな。やっぱり嫌か?』

考える様子も見せず答える

『俺、中学だよ。虐待されてる子なんだって見られるの恥ずかしいんだ…だから鏡がやってくれる約束だろ。ならあいつら要らない。呼んだら絶交。一生…鏡を嫌う!呼ばないで…。』

No.295 10/05/23 01:20
㍊ ( wPNK )

やっぱり駄目か
まぁ…無理も無いなと諦める

『話さなきゃならないんだろ…体の傷の事。鏡だから見せたんだ。仕事だからって処理するだけの人間なんかに助けて欲しくない…証拠だの何だのってこんな傷や話なんか保存されたくない!中途半端に残して欲しくないよ!鏡は俺が嫌だって言った事はしない…だから…。』
『うん。分かってる。前にも聞いたし。一応確認取っただけだ。俺がちゃんと片付けるって。任せろ。な?』

表情が和らぎ
また鏡の隣りで
筋トレグッズを持ち直す

甘え方を知らなくても
鏡の隣りに座って
何かをする事が
城なりに甘えている行動だった

任せろ…
目を見て言ってやれなかった…
重く重く伸し掛かる責任
もうドン底だ…
俺1人で耐えられるかな…

『鏡。鏡の部屋に布団敷いて寝てもいい?』
『どうぞどうぞ。甘えてんの(笑)?カーワイイ!』
『違う、バカ!1人じゃない方が嫌な夢見ないから。』
『なんなら一緒に寝ますぅ?』
『気持ち悪い。ホント、バカ!』
『…冗談なのに(泣)。徹に似てきたんじゃねぇの…。』

どいつもこいつも
すぐバカバカって…
徹…いたなそんな奴…

忘れてた

No.296 10/05/23 01:49
㍊ ( wPNK )

仕事が終わる時間を見計らい
電話する

徹って思い出しただけで
昨日の件から
城の親父に次いで腹立つ!
バカだのボケだの…
ナメてんのか俺を…!

『何か用なワケ?』
3回もかけ直してやっと出た…
しかも開口一番にそれかよ!
とことん腹立たしい!

『用なんかねぇわアホ!』
『は?!』
『は?!じゃねぇよ、今お前を思い出したら凄ぇ腹立ってよ!昨日の電話、何だありゃ!』
『…何だっけ。』
『忘れちゃってんの?もしかして!その程度の内容?単独事故って逝けボケとか言って!』
『…あぁ…今更その話?』
『そうじゃなかった気もするけどよ!…まぁ、その話だった…つぅかその話を思い出した。今更…確かに今更だよな。じゃあな。』

電話を切る
何だかスッキリした…気がする!

徹は溜息混じりで呟く

ホント…単細胞
先がやられる
そうじゃなかった気もするって言ってたって事は、少しは頼る気だったのか…
仕方無い…
許してやるか…

No.297 10/05/23 08:25
㍊ ( wPNK )

しまった…
喧嘩売る為に
電話したんじゃねぇのに…!

また1人後悔する

口達者なクソッタレ相手にするには
口達者な徹ならどうするのか
ちょっと聞こうと思ってたのに

あぁ 俺って
正真正銘のバカかも…
…ま、流れだ
話の流れに任せて
強引にねじ伏せてやりゃいい

考えるのも疲れた…
ハゲたら嫌だし(笑)

いくら徹に懐いたからって
実際に徹も介入するのは
城はどうなんだ…?

城の部屋を開ける
ノートを開いて
一生懸命勉強(多分)していた
手を置いて振り向く

『何?』
『お前さ、徹はどうなの。』
『どうって?』
『徹に俺が知ってるお前の全て知られるのは嫌か?』
『…。嫌。』
『だよな。』
『徹は嫌いじゃない。でも、嫌だ…鏡は父さんだから…たった1人の家族は鏡だけだから。』

その気持ちは有り難い
でもなぁ…
『徹だって最初の頃から見てきて、ずっと心配してる。顔合わす度お前の話振ってくるし。』

突然の癇癪
『助けてくれるって、鏡が言った。どうして警察や徹が出てくる!?分からないの!?嫌なんだ!俺は中学3年にもなる歳なんだ!ニュースは幼児虐待ばかりなのに!知られたくない!』

No.298 10/05/23 11:14
㍊ ( wPNK )

それは充分知ってるんだけど…
暗い表情で受け止め続ける

『他の奴に助けてもらえるなら言ってる!鏡がいなくても助けてもらった!できないから、頭の中で沢山言い合うから、できなくて鏡と一緒にいる!触られたくないんだ!聞かれたくない!!見られたくない!!きっ…汚いって、可哀相って、思われたくな…。』
『分かってるよ!!』

怒鳴り返す

『俺だってなぁ…っ。』

俺だって
完璧な人間じゃない…
言葉には責任持つよ…
けど八方塞がりなんだよ…

あの調子でのらりくらり
上手く言い逃げされたら
次に打つ手が無いんだ…

いつも考えてるよ
足りない脳味噌でよ…
お前が嫌がる事はしないし
また傷付くお前を見たくない…

こんな弱音見せられないけどな
正直疲れたよ…

俺だって…頼りたいよ…
誰かに…

『俺だって…頑張ってるつもり!もっと頑張ります(笑)!』

城の肩をポンと叩き
作った笑顔を向ける

『俺を信じろ…。』

一瞬うつむいて唇を噛み
部屋を出た

インターホンが鳴る
もしかして…あのクソッタレか!?
よくもまた執拗に…!

確認もせず玄関を開けた…

No.299 10/05/23 12:34
㍊ ( wPNK )

『…ビックリ。』

鏡を押し退け
大きなバッグをドサッと置く

頭にタオル
黒い防寒
グレーの作業着
シルバーでゴツめの愛用ネックレス

仕事を終えて荷物を揃え
すぐに向かってくれたのだろう

『飯、風呂、洗濯。この3点サービス付きで宿泊料は勿論タダね。日曜に話が成功した暁には寿司か焼肉奢り付き。安上がりだろ?』

徹だ…

鏡の胸をドンと軽く殴り
指を差す

『手伝って欲しいなら素直に言えばいいんだ。だからバカって言われる。もう【鏡さん】なんて、さん付けでなんか呼んでやらないからな。』

言葉が喉に引っ掛かって
出てこない…

徹は勝手に居間に行き
荷物をその辺に置いて
ソファーに座りタオルを外す

買ってきたビールを開けて呑み
呆然とする鏡に向かって

水臭い奴!
と鼻で笑いビールを差し出す…

鏡もそれを受け取り開けて呑む

『お前には敵わないな(笑)。』
『当たり前だろ、何年の付き合いだと思ってんの。未だにこういう状況で的確な判断を素直に取らないアンタのが理解に苦しむね。溜息しか出ない!』

…褒めなきゃ良かったと
深く反省しながら
鏡は笑っていた

No.300 10/05/23 19:03
㍊ ( wPNK )

城を呼んでも返事すらない
徹の声は聞こえていた筈だ

親父がここまで来た事や
たった今のやり取りを説明する

『この部屋だってバレなかっただけいいんじゃない。』
『まぁな。それにしても最近すぐ癇癪起こす。』
『甘いからだろ。』
『甘い?俺が?』

思ってもみなかった
でもそうかもと納得する

『爆弾触る様に恐る恐る接してばかりいても同じ事の繰り返しだ。』
『そんなつもり無いんだけど…ずっと見てきて、あいつの気持ちを分かり過ぎただけに引く所は確かにある。』

なるほどね
鏡の立場ならそうかも…

『そこはよく自分で理解してるんだ(笑)。憎まれ役も必要だろ?ちょっと挑発してみよう(笑)。演技。思わぬ収穫を得られたりして(笑)。』
『(どんな収穫だよ)…イキイキすんな、そんな所で。ったく…知らないぞ俺。』
『どうにかなったらいつも通り鏡がなだめてあげなよ。いくらでも何とか出来るし。呼び出してきて。部屋は駄目だ。ここで話そう。』

徹に知られるのを否定したって言ってしまったから
余計火付いたなこいつ…

鏡は仕方無さそうに
居間を出た

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