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インターネットがない昭和時代の会社員はどう働いたの?
付き合い始めると余裕がなくなる。

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㍊( wPNK )
10/07/03 00:53(更新日時)

小説なんて書いた事もないので表現力が乏しい上、読み難いかもです。

最近よく見聞きする【虐待】という行いについて考えるきっかけになれればと思い、主役【城(セイ)】の存在を何かに残したかったので…ですからほぼノンフィクションです。

つたない文章ですが、暇潰し程度に読んでください。

虐待を中心に、同性愛的な内容、精神的な問題等、少々生々しい部分も含まれています。
不快に思われた方は素通り願います。
感想スレは別にありますので、読者の方の邪魔にならないよう、レスはそちらにお願いします。

一度自分のミスで削除してしまい…申し訳ありませんでした。
再度よろしくお願い致します。

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No.1301642 10/04/19 21:10(スレ作成日時)

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No.1 10/04/19 21:15
㍊ ( wPNK )

『城!!』

小さな男の子は
自分の名前を呼ばれた瞬間
目を見開いてドアを見つめた

小さな手は汗ばみ
体中が熱くなり硬直する
壁に背中を押付け
両腕で自分を抱くように
精一杯身構えて…

激しい音と共にドアが開く

No.2 10/04/19 21:43
㍊ ( wPNK )

入って来たのは
20歳そこそこの若い夫婦
外見も派手な顔立ちも目立つ
丸一日入り浸ったパチンコで
負けた腹癒せだ

父親は息子を見るなり
『あー居た、疫病神!お前生まれてから勝てねーわホント!』
そう言って
突然柔らかい髪を引っ張り
痩せた腹を蹴倒す
壁に頭を打って倒れた瞬間
タバコの煙を吹きかける

城はまだ3歳なのに賢かった
泣けばうるさいと殴られる
大人しくしてればいい
そう思って懸命に耐える

母親はそんな息子を見て
手を叩いて笑う
『マジ城クン面白れぇ顔(笑)!ちょっと、あんまやると虐待とか言われて面倒だしそれだけ気ぃつけてよね(笑)。』
『まーとりあえず死ななきゃいーだろ。』

ぼくのこときらいなんだ

僅か3歳とはいえ
そこだけはよく理解していた

No.3 10/04/19 21:50
㍊ ( wPNK )

ある晩両親が話しているのを
城は聞いていた

『アタシさぁ、タケルと居たいんだけどアンタも他に女いるなら離婚しない?』

『はぁ?チビは?』

『アンタ給料いいんだから育ててよね(笑)。』

『待てって…。母性本能て無いワケ?』

『面倒。タケル子供嫌いだし。うちの親遠いし。アンタの親は?』

『何だよそれ。俺だって…じゃあまぁ遊びに行ったフリして実家置いてくか。』

No.4 10/04/19 22:02
㍊ ( wPNK )

そして数日後

『城クン、おじーちゃんとおばーちゃんち行くよ!』
作り笑顔で演じる母

城はニコリともせず外を見ている

正直嬉しくて仕方無かった
車で外に出るのも
初めて会う祖父母への期待も
毎日痛い思いをしなくていい事に対しても…

40分位走って着いた一軒家
父親は【良い家族】を演じる為
城を抱こうとした

途端に城は嫌がり
腕を蹴飛ばしてしまった

恐怖でしかなかったから…
酔った時にバルコニーから逆さ吊りにされたり
布団に思い切り何度も投げ付けられたり

こないで!

『このガキ…!』
父親はカッとなり足を引っ張ると
城は悲鳴を上げて泣き叫ぶ

『黙らせて!怪しまれんじゃん!城!静かにしなよ!』
『分かってるって…城!死にたいか!?』



まだ幼過ぎる城には
この言葉の意味は分からない
ただこれ以上怒らせたらいけない気がして諦めた

No.5 10/04/19 22:17
㍊ ( wPNK )

『こんにちはー!』
『いらっしゃい。』

玄関を開けると真っ先に
興奮した犬が駆け付け
後ろから満面の笑みで
祖父母が迎え入れる

城は初めて会う祖父母より
父親の足元で飛び跳ねる犬が気になって仕方無い

吠えては鼻を近付けようと
必死な姿がハッキリ言って怖かった
こんな近くで動物を見るのも初めてだから…

『オラ!これがワンコロだ!』
突然父親は床に放り出す

自分と同じ位の大きさの犬が喜んで挨拶に来る
驚いた城は叫ぶ
その声に反応したかのように
犬の懐こい顔が急変した

唸り声を上げ牙をむき出す
袖に噛み付き引っ張りだす
その力に負け城は転がる
犬の変わり様に怯え暴れる
犬も負けじと噛み付こうとした
鼻面が顔面に当たってひっくり返る…

こわいよ!やめて!
城は両親にすがりつく
しかし2人は
面白がって小突き返し
携帯のカメラを構えて動画を撮り
手を叩いて爆笑

『ヤバイ、マジヤバイ(笑)!』
『たかが犬だろ、いちいちうるさいガキだわ。』

No.6 10/04/19 22:28
㍊ ( wPNK )

祖父母が飲み物と菓子を持って入ってきた

孫と犬を見て
『あらら、うちのハク(犬)ちゃんは気が強いから。』
『ギャーギャー何とかならんか、近所に響く。』

そこで父親が一喝
『城!黙れ!殴るぞ!』
『すいませーん、こいつ馬鹿ですぐ泣くから。大声上げないと黙らないんですよー。バカチン、アンタがお座り(笑)!ワンちゃんに謝って。』

…ごめ…なさい

祖母は溜息混じりで
母親を軽く睨みながら
『もう3歳?…にもなるのに、教育出来てないのね。そんなキンキラキンな頭して肌出して。自分の事しか見てないからよ。』
『…(クソババー)。』

一時の沈黙後に父親が切り出す
『俺達、離婚するから。』

No.7 10/04/19 22:43
㍊ ( wPNK )

祖父母は顔を見合わせた

離婚はまぁいい
元々金遣い荒い嫁が気に入らなかったし
子供が出来てしまった以上
籍入れるのは仕方無かったし
ただ…

『城は?』

『それでさ、アサコは経済的に無理だって言うし…俺は仕事で見てられないし。ちょっと家引き払うまでここに置いといていい?』

城は動かず静かに聞いていた
置いてかれる事は分かっていた

おじいちゃん
おばあちゃん
ここにおいて
パパとママはぼくをきらうから
ぼくもきらい
だいきらい

『はぁ…いつまで?』
『とりあえず明日から忙しくなるし、一週間くらいかな。』
『一週間も?』
『うるさいなー。可愛い孫が傍に居るだけ幸せでしょ。頼んだよ。』
『城クン、良かったね!たくさん美味しいもの食べさせてもらうんだよ!』
『アンタは黙りなさい!勝手に生んどいて育てる事も出来ないくせに!』

ムッとした母親は
舌打ちをして立ち上がる
『…チッ。行こ。役所。』
『じゃあまた!アサコの実家には報告しとくわ!』

そして城と
開いた口が塞がらない祖父母は
2人の背中を見つめていた

息子がここに戻る事は
もう無かった…

No.8 10/04/19 23:01
㍊ ( wPNK )



【新入生の皆さんおめでとうございます】

こんな文字が商店街やスーパーの至る所で見られるようになった春先

大きめの制服をぎこちなく着た
まだあどけなさが抜けない顔の
中学生達が登校

その中にポツリと
少し目立つ雰囲気の少年

色素の薄い長めの髪と
繊細な顔立ち
平均よりも高い身長

どこか寂しげで
話し掛け難いオーラを漂わせ
ポケットに手を突っ込み
面白くなさそうな表情

…城だった

売れないモデルだった
母親譲りの顔
女遊びが盛んな
父親譲りの体格と身長

見た目は悪くなかった
上級生の女生徒も
すぐにマークしていた

No.9 10/04/19 23:07
㍊ ( wPNK )

城はクラスの連中に
距離を置かれている

友達を作る訳でもなく
まず自ら喋らない
成績も良くはない
運動も手抜きだから
出来るか出来ないかわからない
席変えも必ず最後列へ移動
学校へ来たり来なかったり

授業や皆に迷惑をかけたりすることもないから担任もあまり深入りしない

クラスの何人かの男子は
たまに城と行動してみるが
裏表が無く変わらないから
よくわからない奴と言う

それをcoolだと言う女子や
面白がってチョッカイを出す生徒もいた

No.10 10/04/19 23:23
㍊ ( wPNK )

そして事件は突然起きる
入学して半年も経たない頃だ

『おはよー、サエキセイ!』

登校時間帯
クラスの中で一番人懐こい男子が
前方に城を見掛けた
何気に脅そうと後ろから軽く背中を叩いて名前を呼んだ瞬間…

城は容赦なく鞄で殴り付けた
顔に金具が当たり
血が吹き飛んだ

周囲を歩いていた生徒達が
悲鳴を上げて取り囲む

『痛ぇ…何する…血?おい、やり過ぎだろ!』
自分の顔から流れる血に驚き
城に詰め寄る
『お前さぁ!暗いしダチ居ないし、それもどうかと思って明るく声掛けたのに…何だよ!』

『誰が頼んだ。』
城が近寄り胸倉を掴んだ
『誰が構えって頼んだ。』

静まり返る

『自己紹介の時言った…名前で呼ぶなって…佐伯城(サエキセイ)でなくジョウって呼べって言っただろうがよ!』
『…そ…だっけ…ごめん…。』

初めて見る城の異常な様子に
どうしていいかわからなくなり
その場に立ち尽くした

『あと俺の背後に近付くな…触るな…死にたいか?』

そう吐き捨てると
学校とは別の方向に消えた

No.11 10/04/20 04:36
㍊ ( wPNK )

夕方まで適当に時間を潰し
祖父母の家の前に立つ

城は深い溜息をついて
ゆっくりドアを開けた
『…タダイマ…。』

口から小さな音を出す

『どこかで1万くらいは稼いできたのかい?』
『…?…あぁ…いや…。』

祖母が居間から出て来て
突然意味不明な事を言うが
城は理解するのに時間は掛からなかった

『ハァン。学校行かない、稼がない、飯は食う、金も食う。本当に穀潰し意外の何でもないわ。さっき学校から電話あったの。私達の育て方が問われるわね。今あの人アンタを探しに行ったけど、もう帰る頃だから待ってな。邪魔にならない所でね!』

祖母の得意な嫌味が炸裂

城は反抗する様子も見せず
黙って聞き流し
居間の隅に座った
自分の部屋なんて無い

祖父が帰って来たら
何が始まるか予想はついている

反射的な行動とはいえ
後悔し続けながら
ただ床を見つめて待った…

No.12 10/04/20 05:28
㍊ ( wPNK )

食卓には2人分の食器
夕飯の良い香りが
城の腹を鳴らす
昼飯も食べていない

車が着く音が聞こえた
城は大きな深呼吸をする

バンッと玄関を開ける音と怒声
『帰って来たか!?』
足音をドンッドンッと立てて
50代とは思えない体格の祖父が現れ城を睨み付ける

城は目を合わさず座ったまま
一直線に向かってくる祖父の足元を見ていた

No.13 10/04/20 05:40
㍊ ( wPNK )

『学校サボッてどこにいた?』
『…。』
『人に怪我させて学校で問題になって、世間様にウチがどう思われるか考えた事あるか?』
『…。』

周囲の目や
世間体ばかり意識する家
叱る部分は間違ってはいない
ただそこが余計

そんな事を思いながら
城は顔を近付けて怒鳴る男に
『…ゴメンナサイ。』
と小さな音を発する

ボフッ!
祖父の蹴りが腹部に入る
前かがみになった城の腕を引っ張り上げる

『ガキが!誰のお陰でここまで生きてられたと思っている!』

城は学年で身長はある方だが
柔道をやっていた祖父は
ガタイもあり力もある
まだ中1の城よりも高さもある

それに空腹で体力も無く
肋骨もはっきり浮きあがるほど
痩せていた
抵抗しても敵うはずもない
じっと耐えるしかない

壁にもたれた孫を
容赦なく殴りつける

頭、腹、太股、背
服さえ着ていれば
他人から見えない所を狙った

No.14 10/04/20 05:52
㍊ ( wPNK )

『何だその目は!』
手入れの途中だったゴルフクラブを手に取り何度も振り降ろす

『親が親なら子も子だ!』

(アンタらがな…)
城は激痛に耐えながら
時が過ぎるのを待つ

…殺されはしない
…世間体が気になる奴だから
…時間さえ経てば終わる
…こんな事慣れてる
…黙ってりゃ飽きる

祖父母は城が気に入らないのだ
大切な一人息子を陥れた女
水商売上がりで奇抜な服を纏う
ド派手な女
近所の人がネタにする

そして城が生まれた
母親似だった
それでも初孫…
当初可愛いと感じてはいた

息子は結婚する気は無く
まだ遊びたかった
まさか孕ませてしまうとは
思ってもいなかった

2人に言った
俺ハメられたんだ
俺の子じゃないと思う
相手方の親の目もあるし
一応籍は入れるけど

間違いなく自分の子なのに

その一言だけを受け止めた2人
息子が嘘付いて
私達を裏切るはずが無い
淫乱な女が他の男と子を作り
面倒見てもらうのに
息子を騙して結婚した

城は何の血縁もない!
可愛くも何とも無い!

No.15 10/04/20 08:25
㍊ ( wPNK )

祖母も加わる
『城、何しようと私達関係無いんだけど迷惑なの。義務教育の内は仕方無いわ。卒業したらどこへでも消えて。』
(今すぐ消えたい…)

『経済的にも辛いしねぇ…。』
(バイトすら許さないくせに…)

『出るなら出てもいいのよ?』
(捜索願いまで出して無理矢理連れ戻して喚くくせにか…)

『ただ、それで私達育ての親に恥かかせるくらいなら死ねばいいわ。』
(死ねば…楽だよな…)

殴り疲れた祖父が言う
『仕事しても顔色ひとつ変えない、不気味な奴だ。昔みたいに泣いてすがればまだ面白かった。風呂入れ。浴槽には浸かるなよ!3分で済ましてとっとと寝ろ!』
(終わった…今日は割と短かった…)

生々しい傷口が湯にしみる
それより3分で洗うのに必死
ゴクゴクとシャワーの水で腹を満たす
ヨレヨレのシャツに着替える
意識が遠のく様に
居間の隅で眠りについた

No.16 10/04/20 08:40
㍊ ( wPNK )

翌朝何事も無かったかのように登校するが
学校はそうはいかなかった

自分のクラスに入ると
ざわついていた教室が
凍て付いた空気に変わる

自分の席に鞄を放り
気にする事も無く黙って座る
城の前に人影が…
怪我をさせた男子の
絆創膏顔が視界に入る

『…おはよう、ジョウ君。オレも悪かったし気にしてないからさ、まぁ仲良くやろ。』

クラスメイトが興味津津で見ている

『…。』
『…(シカトかよっ)。』
バンッ!
彼は城の机を叩いた
『何様?なぁ!普通ならそっちもゴメンの一言くらいあるはずなんだけど!』

クラスがざわめき出す
『謝れー。』
『竹谷シカトされてんの(笑)。』
『傷害罪だなっ(笑)。』

クスクスと女子の笑い声

『あ~もうムカツクわ。佐伯君!名前を呼ぶなって?サエキセイ君!セイ、セイ、セイ!』

クラス中が爆笑しだした
城も肘を付きながらニヤッと笑う

『あ、笑った!何だ、笑えんじゃん!』
『…笑えるよ。』
ゆっくりと立ち上がる

おぉ反応した!
全員が驚く
次の瞬間…

No.17 10/04/20 10:49
㍊ ( wPNK )

チャイムと同時に担任が入る
40歳で口髭を生やした男だ

『席着けー……ん?』
教室の異様な空気を感じ
城を見た
『佐伯。HR終わったら来い。』
皆それぞれの席に付く

短いHRの後再びチャイムが鳴り
担任は城に手招きして
職員室へ連れて行った

『昨日家に電話して話したが…家庭訪問の時も今回電話でもしっかりして感じのいい対応だった。問題は佐伯自身か。何が不満か少しでも話してほしい。小さい時に両親が居なくなって今の祖父母のもとに居るのは聞いてるから。』
(何を急に…知った風な事を)
黙り込む

『今まで見ててもクラスに馴染めてない、友達も居ない。何度言っても連絡無しで欠席。成績も×。身だしなみも…髪とか。そして暴力。先にも影響するだろう?』

『…放っといて。』
『それが出来ないからこうやって話してるんだ。』
『…。』
『小学校でもそんな態度か?』
(…過去は関係ないだろ)
『不利になると黙るなんて、小学生じゃないんだからな。全く手の焼ける。時間だ、戻りなさい。』
『話したら解決してくれるの、先生。』
『あー出来る事はする。早く行け。また今度聞くから。』
(何の為の呼び出しだよ…)

No.18 10/04/20 10:59
㍊ ( wPNK )

小学校の教員達も
心配してます風な口ばかりで
何も解決出来ない
上辺だけのクソばかりだった
二度と話すかよ…

職員室を出ると
両手をポケットに突っ込み
玄関に向かった

両親に捨てられ
期待した祖父母にも嫌われ
学校に居る人間達も
自分に対して
面白半分でしか近付かない

城にはもう人という人全てが
疎ましい存在でしかない

必要とされず
居場所も無く
死ねとか邪魔とか言われ…

(考えるだけ面倒くせぇ…)
人や自分に対して
誰が正しくて何が駄目なのか
もうわからない
感情の感覚も麻痺状態
全てがどうでも良かった

(あ、鞄。まぁ…いいや。何も入ってねーし。)

No.19 10/04/20 11:06
㍊ ( wPNK )

どのくらい寝ていたのか
もう日が傾き
下校する生徒達の声

その辺をうろついて
補導員に捕まると面倒なので
学校に行かない時は
決まってこの堤防の橋陰に居る

(ヤベ…帰らないと…)
携帯や時計なんて持ってるはずもなくハッキリした時間はわからない

その時の周りの様子や日の傾きで大体感じ取る

立ち上がった途端
目眩で足元がフラついた
酷い空腹で吐気もする

学校給食は
皆で食べなければならない事が苦痛だったから最初から頭にはない

(今日は飯貰えるかな…)
不安を抱えて家へ向かった

No.20 10/04/20 11:17
㍊ ( wPNK )

家に帰ると妙に静かだった

もしやと思って探すが
誰も居ない
鍵も掛けずに出かけたのか

こんなチャンスは滅多にない

冷蔵庫を開け
昨夜の残り物を漁ろうとする

…期待した自分が馬鹿だった
ろくな物がない
綺麗さっぱり片付いている
溜息しか出ない

ふと電源を入れっ放しの炊飯器が目に入り開ける

…あった!
僅か1合にも満たない程度だが
熱々で少し硬くなった米を
手ですくって貪るように食べた

少しの量で充分満たされた

祖母は学校給食があるし
金も払ってるからそれで充分
無駄に与える必要は無いと言う

だから晩飯は猫用またいな小皿に少ししか貰えない

それに体罰を与えられる以外は
空気のような扱いで完全無視

居間の隅に寝転がり
天井を見つめる

今2人が帰って来て
この行動を咎められ
暴行されても構わない
空腹が満たされて幸せだから

『殺してくれればいい。』
そう呟いて目を閉じた

No.21 10/04/20 11:33
㍊ ( wPNK )

20時頃車のバック音が聞こえ
城は起き上がった

帰って来たのは祖父一人
城を見て言う
『突然倒れて2、3日入院だ。』
『…原因は?』
『さぁ…明日色々検査してからだ。大した事はないらしい。』
(そりゃ残念だ)
珍しく普通に会話が成り立つ

祖父は制服のボタンを外した城の胸元をみて急に怒鳴り出す

『そんなだらしない格好で外を歩いてるのか?家では着替えろ!臭いと噂されても困るから風呂入れ。3分だぞ!』
『…ハイ。』

祖母が居ないだけで
気持ちが晴れやかになる

城は制服を脱いで足元に置く
祖父の視線をずっと感じる

『…何。』
不審に思ってつい眉間にシワを寄せ咎める
『何だ?生意気な。何でもない!早く脱いで入れ!』
(何なんだよ…)

先日の祖父による暴行で
痩せて骨張った体は痣だらけ
傷からもまだ多少出血している

制服を着ていればここまで細いのはわからない
ズボンも脱ぎ風呂場に向かう
『城!…大きくなったな。』

寒気がした
どこか様子がおかしい
確かに背は大きくなった
満足そうな笑みを浮かべるなんて…まぁ元々おかしい人間か…

シャワーを出していつものように
タイマーをセットした

No.22 10/04/20 11:42
㍊ ( wPNK )

祖母が突然入院して
一人になった祖父は
どこか覇気が無い

所詮偉そうに圧力かけてても
孤独になるとそんなもんか

心の奥でほくそ笑みながら
居間の隅に座る

TVの音だけが響く中
祖父は立ち上がり
寝室へ移動した

No.23 10/04/20 12:13
㍊ ( wPNK )

TVのチャンネルを変えても
口うるさい奴がいない

バスタオルを置き着替え
そのまま横になった

21時半を過ぎ
ウトウトしかけた頃
奥の寝室から祖父の声

『城!城!こっちへ来い!』

居間以外の部屋へ呼ぶなんて…
不審に思いつつ慌てて向かった

間接照明で薄暗い中
祖父はベッドに座りながら
入って来た城を更に呼ぶ

『城、こっちへ来い。』

吐気がする
この寝室がこいつらの部屋
そう思うだけで体が拒否反応
鳥肌が立つ

物凄い形相でまくし立てる

『聞こえないか!馬鹿が!早く来いと言っているんだ!!』
(何…するんだ…とうとう俺…殺されるのか…?)

恐る恐る近付くと
腕と肩を引っ張られ
祖父の隣りでベッドの脇にひざまずく体勢に…

No.24 10/04/20 12:31
㍊ ( wPNK )

何が起きたのか
何故こんな事になったのか
何を求められていたのか
何故この家庭に生まれなければならなかったのか
俺はわかるはずもない

父に褒められたくて
母に抱き締められたくて
必死だった幼少期

でも自分の存在は
父と母がそれぞれ自由を得る為の障害物でしかないって事
全て知っていたから…
顔色伺って接するしかなくて
結局不気味がられていた

祖父母と暮らせばもう
怖くて痛い思いをしなくていい
何故そう思ったんだろう

俺はあの日まで
祖父母の存在を知らなかった
近くに居ながら
生まれた時しか
孫に会いに来なかった人間

ここでも
愛されていなかったんだ…

この時期
学んだ物は何だったか

自分の存在が
芸能ニュース並の面白いネタとしての対象でしかなかった事
自分の口は飯もろくに貰えず
野郎の性欲処理機だったって事
自分の死を切に願われていた事

人間は糞だって事
自分も糞なんだって事…

―城―

No.25 10/04/20 12:45
㍊ ( wPNK )



中学3年の夏
城はすっかり変わっていた

2年になる頃には
家に帰らない日が増えた

それでも執拗に探す祖父母に
毎回連れ戻され
繰返されていた暴行

祖母が友人と外泊旅行する度に
祖父は城を寝室で弄んだ

抵抗する体力も力も無く
ただ耐えていた日々

たった一度
寝入った所をロープで絞め殺そうと試みたが
気付かれずにやり通すのは難しいもので

逆にベッドに二日間縛り付けられ更に傷が増えた

傷跡が化膿し痣が絶えず
空腹で倒れそうになる度
死の恐怖と闘った

死ねばこの生き地獄が終わる
そんなのはよく分かっていた
ただ…

喜ぶ奴等が居るから
だから死ねない
死にたくない!

それから学校も
昼は欠かさず居るようにした

自分を変える為に

No.26 10/04/20 14:18
㍊ ( wPNK )

下校時刻になり
玄関が混む時間を避けて
遅めに出る

『佐伯先輩!』
(…?)

振り向くと2年の女子生徒3人がこっちへ走って来る

『あの、カワカミサヤと言います、あの、あの、とりあえずコレ見てください!』
小さな手紙を城に渡すと
顔を真っ赤にして
緊張して上手く話せないからと
すぐに立ち去った

やったじゃん!と
サヤを囲む2人の友達が褒めているのが聞こえる

中を開けると
携帯番号とアドレスと一言
『先輩と仲良くなりたいです』

読んですぐ無造作に丸めてポケットへ押し込んだ
『俺、携帯ねぇし。』

体さえ見せなければ
容姿は良かった為
先輩後輩から何度かあった

それでも顔色ひとつ変えず
ウザイと一蹴していた

同学年からは大体が城の評判や態度を知っていたので全く無かったが…

20分位歩くと小さな車の整備工場が見えてきた

No.27 10/04/20 14:35
㍊ ( wPNK )

社員5人ばかりの小さな工場
着くとすぐ更衣室でツナギに着替え適当に仕事を見付けて片付ける

バイトをやっているなんて
学校も祖父母も知らない
去年卒業した
ヨウヘイという先輩の紹介だ
中学生がバイトなんて世間一般的に許可されるはずもなく特別だった

祖父母への憎しみが城を変えた

体力も力も無く抵抗する全が無いならどうするか…
食べて体質を変え力を付けるしかないだろう
思考を変えた

学校給食制に感謝
必ず昼を食べてサボるか
昼には登校する

唯一両親に容姿の面で感謝
自分で自分をモテるなんて
高飛車な考えは無い
ただこれを利用した
女子先輩に取り入る
家が極貧で贅沢出来ないと同情を買えば簡単に奢ってくれる

校則で寄道や飲食禁止
それを守るお利口さんな生徒達なんかとは付き合わない
仲間だと認めてもらい
困った時は利用する
勿論先輩だとか友達だしとか
微塵も思わない
猫かぶりで容赦ない性格

3年になった時にはその努力も実って見られても恥ずかしくない体付きになっていた
傷跡だけは見せたくないので上着を脱ぐ事はないが…

そして何とかバイトを始め
金に触れる所まで辿着いた

No.28 10/04/20 18:48
㍊ ( wPNK )

黙々と働く城の評判は良い

久々にヨウヘイが車で現れる
『ジョウ!元気か?真面目にやってんな(笑)!』
『先輩。チワす。』

ヨウヘイは真っ白でピカピカに磨き上げられた車を停め降りてきた

『え…免許は…。』
『あるワケない(笑)!兄貴のクラウン。ちょっと横乗るか?暇なんだろ。オレが頼んできてやるからさ。』

嬉しかった
車なんて乗せてもらうの
何年ぶりだろう…
ましてこんな高級セダンに乗るのは初めてだ

ヨウヘイとは中学の時
自分の不良グループの仲間にしようと城に声を掛けてきたのがきっかけで知り合った
自由で勝手で人の心を掴むのが上手い奴で
孤独な城を許される範囲で面倒を見た

困った時は使える奴だ
城は心を開いたフリをして
身になる事を色々学ぼうと近寄った

だからヨウヘイにだけは家事情を
簡単に打ち明けていた
親は居ない
祖父母の家に住んでるけど
上手く行かず
早く家を出たいんだと…

No.29 10/04/20 19:01
㍊ ( wPNK )

『どうやって動かす?』
『オートマなんて簡単だ。これでエンジン。右がアクセル。左がブレーキで…。』

こういった具合に
さり気なく運転の仕方を学ぶ

15分くらい走って戻る
覚えのいい城は
運転の仕方を完全に記憶した

『先輩。俺も車欲しい。』
『オレでも買えないし(笑)!金稼ぐしかないな。バイト代じゃキツイだろ。とりあえず中坊卒業してだな(笑)!それからならまた良い給料で使ってくれる所紹介するからよ。明日日曜だしバイクも教えてやる!またな!』

(車かバイク…。必要不可欠だな。けどまずは金だ。)

バイトを終え
車の資料を掻き集めて
ザッと目を通し
帰りたくない家に向かった

No.30 10/04/20 19:16
㍊ ( wPNK )

家に入る
タダイマなんてもう言わない

祖母の第一声
『あら、生きてたの。残念。』
(なら声掛けんな…)

城は制服や下着を全て脱ぎ
洗濯機に突っ込み
シャワーを浴びようとした

祖父が来る
『誰が勝手にガスを使えと言った?育ての親に感謝の足りない馬鹿は水が限度だ!3分!』
(何年も3分3分て…どっちが馬鹿なんだか)

まだ夏場だから水でもいい
真冬でもガスは厳禁だったから

祖母が別部屋へ移動した時
風呂場から出た城は視線を感じ
祖父に面と向かって言う

『ババァには夜の事は言わない。その分…倍にして返してやるからな。』

城の体格が良くなっているのに
祖父は気付いていた
しかしまだ自分に比べれば
細くて頼りない若造
最近帰りも遅く
調子に乗っているだけだ

『このっ…!』
初めて顔を…他人からも見える部分を殴った
城は裸のまま壁にぶつかる

祖母が戻ってくる音が聞こえ
途端に大声で叫ぶ
『ゴメンナサイ!言う事聞くからもう寝室はやめて!』

祖父は青ざめた
祖母が来て何事かと問う

部屋に去り行く祖父の背を見て
心の中で笑いながら着替える

No.31 10/04/20 19:29
㍊ ( wPNK )

ウ"ォン…
家の前に派手なバイクが停まる

音に反応して
祖父母が怪訝そうに窓を覗く
その隙に制服姿で飛び出す城

『まさか…城!!許さんぞ!』
『戻りなさい!』

『早く出して。』
『ジョウ…お前、制服は目立つだろ(笑)!』
『構わない。騒ぐなら騒げばいい。どうでもいい。』
『そうか(笑)!掴まれよ!』

こんな住宅密集地じゃ珍しいド派手なバイクが
爆音と共に走り去る
海岸沿いに出て疾走する

今日は快晴
太陽が海波に反射して
TVで見るよりもずっとずっと綺麗に輝いている

カモメが頭上スレスレに飛ぶ
初めて鳥の腹を見た

(凄ぇ…こんな所初めてだ)
感動した

風が気持ち良い
ヨウヘイのシャツがなびく…
ふと目に付いた
皮膚に絵が描いてある

人が居ない絶景ポイントで
バイクを停めて休憩

『どうよ、バイク。いいだろ?』
『最高。免許は勿論…?』
『無くても乗れるし(笑)!ここで教えてやる。乗れよ。』

簡単なもんだ
すぐに乗りこなせた

No.32 10/04/20 19:41
㍊ ( wPNK )

『センスあるなぁ、一発でそれだけ出来りゃ充分だ。』
『欲しい。』
『金はどのくらい貯まった?』
『クソババァにポケットに15万隠してたのバレて没収された。盗んだとか言われて。だからあまり残ってない。』

部屋も無いし
かさばる財布も持てない
隠す所が無い

『そうか…お前も大変だな。』
『何で皮膚に絵描いてる?』

気になって仕方無かった
刺青ってやつだろう
何となく分かる
ヤクザがする物だと思ってた

『アッチ系だと思ってビビる奴もいるんだ。本物ならこんなペローンと出すワケねぇってな(笑)!』
『俺もやりたい。』
『派手にやるなら何度か通うし金掛かるぞ?』
『構わない。今の有り金…これで足りるかな。』
『うーん…最初なら。まぁ兄貴の知り合いだし頼んでやるよ。乗れ!ただ、未成年に墨なんてバレたら彫師がヤバイから気を付けろよ。』

ヨウヘイに影響されて
どんどん城は変わって行く…

No.33 10/04/20 20:02
㍊ ( wPNK )

2日間帰らずに済んだ

彫師に背を見せた時
ヨウヘイはあまりの生々しい傷跡に
驚いていた

祖父に殴られた顔面からも
何となく察知し
深くは追及せず
同情して家に招いた

バイトも直接送迎し
飯もしっかり出してくれた

そんなヨウヘイの優しさも
城にとっては
利用価値のある人間だ
その程度にしか感じていない

『ジョウ、明日は女が来る。流石に3日以上逢わないからうるさいんだ…スマン!』
『いや、謝ることないし。むしろ色々勉強になったから、ありがたかった。』
『家…大丈夫か?そこが心配なんだよ…。』
『あぁ、もしかして傷?何ともない。たまたま殴り合いの喧嘩になって。』
『何かあったら連絡しろよ。つーか、携帯持て。連絡取れないじゃん今時!承諾もらってさ。車やバイクより携帯!バイト代でそれくらい余裕だろ。』
『(無理)…考えとく。』
『行こう、送るから。』

本音は帰りたくない
けどもう何されても慣れたし

どうでもいい気分で
家のドアを開けた

No.34 10/04/20 20:15
㍊ ( wPNK )

18時…
いつもなら晩飯の時間で
カチャカチャと食器の音でもするはずなのに…

『城か!?』
怒鳴り走り寄って来る祖父

(まさか…!)
すぐに祖母が外泊なんだと察知し靴を履き直して玄関を出ようとした

が、一歩遅かった
祖父が背後から首に腕を回し
暴れる城を強引に奥の寝室へ引きずって行く

居間では大声を上げられたら外に筒抜けになるからだ

『やめっ…苦しい!』

首にかかった腕を振りほどこうともがく
祖父はいきり立った牛の様な興奮状態で
城をベッドに叩き付ける

柔らかいみぞおちを狙い一発
くの字になり咳き込む
脇腹へもう一発
ベッドから落ちた所に
次は蹴り…蹴り…蹴り

この前啖呵切った後だし
こんな仕打ちは予想範囲内
時間経てば終わる
殺しはしない

いつもなら
こう自分に言い聞かせ続ける

大量に酒が入っているのか
今回は尋常じゃない

『死ぬ…人殺し!』
初めて口に出した
死への恐怖を…

No.35 10/04/20 20:31
㍊ ( wPNK )

『毎晩どこで何して食わせてもらってんのかはわからんが、この前はよくも偉そうに!馬鹿はやっぱり馬鹿みたいな人間としか組めないんだな!変なバイクに恥かしげもなく!暴走族の仲間入りか!え?あの後近所に何言われたか分かるか!?』

顔だけは守る
立つに立てない

『人殺しだァ?やるならとっくにやってる!お前があの女から生まれ、騙された息子は帰って来ない!いつかは顔を出しに来ると思ってても、お前が居るから来ないのかと思うと憎くて仕方無いんだ!』

自分に責任は無いじゃないか
親が悪いじゃないか

そう心で反発しながら
意識が遠のく

祖父も流石に疲れたのか
息を切らしながら
シャツを引き上げベッドへ投付けた
ボタンが弾け飛ぶ

破けようがお構いなしで
強引に脱がせ始めた

『…やめろ!クソジジィ!』
必死に抵抗して殴り返すが
効いていない

腹に乗っかり
片手で首を押さえ付ける

『嫌だ!嫌だ…!』
城のもがく顔を見て笑う…

No.36 10/04/20 20:45
㍊ ( wPNK )

『許して欲しけりゃ、この位は役に立て!口を開けろ!噛んだら…分かってるな!』

頭を掴み
無理矢理自分のモノを挿入する

汚ねぇ…!畜生!畜生!!
目を硬く閉じ嗚咽する

満足そうな祖父
かつて祖母が入院した病院の看護士らを見ては
性欲が旺盛になり
若く弱い城を利用した

呑み屋の若い娘達と遊んでは
余韻で城を犯した

もう抗う気力も無く
人形のような城をうつぶせに…

制服のズボンを剥ぎ取ろうと
手を掛けた時
薄暗い部屋の中
驚くものが目に飛び込んだ

No.37 10/04/20 20:57
㍊ ( wPNK )

『何だ、これは…。』
右肩から肩甲骨あたりに
鳥のような絵が描いてある

うつぶせに押さえ付けられ
むせ込む城に問う

『これは刺青か…?!』

まだ中途半端ではあるが
まさかこいつが刺青だなんて…
祖父は戸惑う

『ヤクザの仲間入りか!?許さんぞ!こんな物は!』

…ほらな
…刺青ってだけで顔色変えて
…俺がそっち系の奴と繋がってるなんて思い込んでビビッてる
…そういう世代なんだ
…怯えればいい

『…そうだ…覚えてろ。必ず復讐しに来てやる…。』

その言葉に血の気が引いた表情

城は内心
勝利を得た気分になり
追討ちの言葉を浴びせた

No.38 10/04/20 21:10
㍊ ( wPNK )

刺青くらいでビビッてるなら
もうこんな事しなくなるかも…
そんな期待もあった

祖父は手を放し
寝室を出て行く

城はすぐ起き上がり
もう1枚の制服のシャツを着ようと
ベッドを降りた

とりあえず家を出よう
裸では目立ち過ぎる…

フラフラだった
痛いなんてもんじゃなく
体中がきしむ
ドアまで遠く感じる

足音が近付く
何かを持って戻って来た

(嘘だろ…)
祖父の脇をすり抜けて逃げるつもりだったが
あまりにもダメージが大きい…
前へすら進めない

馬鹿力で首元を掴まれ
再びベッドに戻され
城の腰にドカッと座る
左手で頭が動かない様に
渾身の力でねじ伏せる

右手に持っている物を傾ける…

右肩に強烈な激痛が走る
悲鳴にならない悲鳴を上げ
初めて許しを乞う…

『熱ッ…!熱い!!許して!!やめて…!!』

…熱湯だった

No.39 10/04/20 21:21
㍊ ( wPNK )

酒に酔い
感情のままに動く祖父

どんなに叫んでも
頭さえ布団に押付けてやれば
外には聞こえない

刺青のあった場所が
赤く膨れ上がり
皮膚がめくれている…

全て注いだ後
フンと鼻で笑いながら
ベッドを降りて吐き捨てる

『寝るなら居間で寝ろ!』

…移動しなきゃ…
…また怒られる…
…熱湯かけられる…
…でももう動けないんだ…

つい最近ニュースで
熱湯風呂に沈められ
虐待死した子供の話を聞いた

肩だけでも酷い痛みと恐怖で
気が狂いそうなのに
皮膚が硬い俺でさえ
こんななのに…
可哀相な事を

虐待…?
俺【虐待】されているのか…?
皆に可哀相だって思われながら
これから生きて行くのか…?

薄れ行く意識の中で
初めて自分が置かれた状況を把握し深い深い眠りに落ちた…

No.40 10/04/21 05:44
㍊ ( wPNK )

俺 何か悪い事したかな

母さん
一番古い記憶は
城クン城クンと可愛がり
抱きながらキスをしてくれていた
父の乱暴な性格や悪戯を
よく止めて守ってくれていた

だからショックは大きかった
男優先で俺の存在を
『面倒』の一言で済ませ
否定したあの日…

父以外に男が出来てから
確実に変わっていったよな
邪魔なガキでごめんな

父さん
遺伝て凄いよ
じいちゃんにそっくりな人間に
アンタが育ったように
俺もアンタそっくりな人間になるのかな

だって俺は間違いなく
アンタの血を受継いでいるんだ
見え透いた自己中な作り話を信じる辺りもさ
アンタの親だと思うよ

…冗談じゃない
こんな血一生呪ってやる

No.41 10/04/21 05:54
㍊ ( wPNK )

ばあちゃん
まだ若くして孫が出来て
複雑な気持ちだったろ

俺のイメージ…祖父母ってのは
シワシワで小さくて白髪で弱い人
だから初めて見た時は
シワや白髪の少なさに正直驚いた
一番俺を守ってくれそうな
そんな予感がしていた

俺の何が気に食わないのか
小さ過ぎてわからなかったし
鋭利な言葉のナイフは
精神的致命傷を負った

ひとつ聞きたい
母さんの行いと俺は
関係あるの?
馬鹿息子に騙された事に気付けよな

俺、アンタの愛しい馬鹿息子の
正真正銘の子なんだ
言いたくないけどさ

じいちゃん
思い通りにならないと
力ずくで周囲を押さえ付けて
何かがズレると
慌てて周囲に弁明して
体裁を守るのにいつも必死

人間全てに好かれようなんて
無理だし貪欲過ぎなんだよ
だから上手く行かない

セイって怒鳴られる度
凄く恐ろしかった
だからその名前は封印

俺、アンタから一番学んだ
くだらない事をな!
アンタら親子に似たくないから
自分で歩いて行くけど
アンタにも質問

世間てそんな大事?
俺一人殺せないの?

―城―

No.42 10/04/21 08:00
㍊ ( wPNK )

…夢か
目が覚めて見回すと
居間のいつもの場所にいた
祖父が運んだんだろう

時計を見る
8時…
家に居るのは嫌だ
外は雨が降りそうだ
学校行くか
家よりはマシだ

頭が痛い…体も…
右背肩も…体中が熱い…

洗面台へやっとの思いで辿着く

後ろを向き
熱湯をかけられた場所を見る…

『ウッ…。』

あまりのただれ具合に
傷に…痣に言葉が出ない

涙が出た
泣いたのは10年振りだったが
声は出なかった

(俺、化物みてぇだ…)
サッとシャツを着る
擦れて血が滲むから
真夏だったが上着を着て
外へ飛び出した

No.43 10/04/21 08:09
㍊ ( wPNK )

ガラガラガラッ…

授業は始まっていて
皆が一斉に振り向き
城を見て驚いた顔をした

『佐伯…遅刻だな。』
(そんなの分かってる)
数学の担当教員の言葉も無視
自分の椅子に座る

『…あー、続ける。皆こっち見て…。』

久々の授業
内容は全くチンプンカンプン
でも殴り掛かってくる奴は
ここにはいないから
心底安心出来た

何より傷口がよろしくない
酷い痛みだった
化膿しかけて熱っぽい

眉間のシワを周りに悟られない様
うつぶせになって寝る

隣りの席の女子が
何故か怯えてる様に見える

でも誰も何も言わない
これでいい…

安心ついでに空腹に気付く
腹鳴りそうだ…
胃に力を入れる
つい小さく口走る
『腹…減った…』
ハッと気付いた時には遅かった

隣りの席の女子は
フフッと笑いながら
カロリーメイトをこっそり机に置いてくれた

『…どうも。』

3年になって
初めてクラスメイトに感謝した

No.44 10/04/21 08:22
㍊ ( wPNK )

時間が経つにつれ
痛みが更に増し
黙っていられなくなった

昼は何とか口に入れた
何しに来たんだと罵られながら
午後の授業も寝ながら耐えた
放課後職員室に来いと担任に呼び出されたが行く気もない

シャツが貼り付いて
動くと皮膚もめくれていくのがわかる

病院にかかる金も保険証も無い
保健室へ行くのも騒ぎになるから無理だ
バイト先の人間に何とかして貰おうかとも思った
この歳でこんな虐待されてるなんて知られたくない…

そうだ…先輩なら…
でも連絡手段が無い
番号も聞いてない

誰もいない…
家には絶対戻りたくない

雨が降り出し途方にくれた

こんな怪我で
こんな人生で終わりたくない
高熱からくる寒気が
体力消耗に拍車をかける

何か温かい物を買って…
薬屋で薬とガーゼと包帯…

目の前にコンビニが見えた
入口しか目に入らず
ワゴン車が車道から入ってくるのは全然見えてない

キキーッ!と車が音を立てて停まる
間一髪だった

No.45 10/04/21 11:28
㍊ ( wPNK )

驚いて倒れた城は
うめきながら体を起こす

(痛てぇ…立てねぇ…)

『当てたか!?』
『いや、ギリだったと…。』
ワゴン車から4、5人降りてきて
城を囲む

【〆〆〆建設】
頭にタオルを巻いたり
ダボダボの汚れたズボン
建設現場で働く男達だ

『おい、大丈夫か?どこに当たった?!』
城は首を横に振る
皆が安堵の溜息をつく

『ぶつかってない?良かった…立てるか?悪かったな。』
運転していた男が言う

目立ってしまう…
そう思って立ち上がろうとするがまた膝をつく

『おいおいおい…本当に大丈夫かよ…。』
『当たったんじゃね?』
『顔色悪いぞ?』

人を恐怖に感じた
通行人の何人かも見ている

『当たってない。放っとけよ…いいから!』

全員がカチンときた
赤っぽい髪型の男が出てきて
城の前にしゃがんで言う

『いや、お前立てねーんだろ?放っとけはねぇだろ。どっか打ったんじゃないかって心配してんだよ。あ?わかるか?ボーヤ。おい、サワ!とりあえずそこに車入れろ。』
『うぃす。』

(いいから行けよ!)
段々苛々してきて
また立ち上がろうとするが
背に激痛…

『痛ッ…!』

No.46 10/04/21 11:37
㍊ ( wPNK )

あまりにも様子のおかしい城が気になる

『…転んだだけでそこまで痛むかよ。こっちも人身事故なら警察との絡みもあるからさ。本当に当たってないんだな?』
『…ない。構うな。』

また全員カチンとくる
心配して大人の対応しているのにこのガキは…

『構うな?口のきき方ってあるだろ坊主。』
『中学か?高校か?』
(どうでもいいんだそんな事!早く解放しろ!)

城は無言でやっと立つ
赤い頭はしつこかった

『おぅお前ら!ちょっとこいつ車に乗せて休ませろ(笑)。』
『うーす。』

『誰も頼んでない!』
城は怒鳴った

『俺が皆に頼んだ(笑)。』
そう言って赤い頭は
コンビニに入って行った

No.47 10/04/21 12:07
㍊ ( wPNK )

男達の何人かは
コンビニで立ち読みを始めた

車に無理矢理乗せられる
『触るな!痛てぇだろ…!』
城は彼らの強引なやり方が気に食わない

『まぁ、落ち着け。キョウさん悪い人じゃないし。周りの目を気にしただけだから。な?』

城は黙った
もう動きたくない…だるい

キョウと言う赤い頭の男が買い物を済ませて戻ってきた

『おら、これで落ち着けよ。何もしねーから。』
ジュースとフランクフルトを差し出す

『どこが痛む?』

知らない奴だし
見られてもいいと思った
そして早く解放して欲しい

『背中…。』
『背?』
『だから…当てられてない…元々怪我してた所打っただけ…だし。』

顔が赤く息を切らせる
キョウは鋭かった

『お前…今熱あるんじゃないか? 背中打ったなら見せてみ。一応確認しなきゃ…俺らも安心できないから。』
『…汚い…から。あまり見られたくない…。』
うつむいて呟く

『汚い?(風呂入ってないとかかな)…関係ねぇ、ちょっとでいいから。てかこの暑い夏に上着かよ。』

上着をゆっくり脱ぎ始める

No.48 10/04/21 12:19
㍊ ( wPNK )

『…!』
上着を脱いだだけで
普通じゃない事を悟る

『ウワッ…!…お前これ…血じゃないか…。』
『シャツは触らないで…火傷もあるから。皮膚剥れるから…。』
『火傷?何で病院行かない?送ってやるから行け!腐るぞ。』
『行けるなら行ってる…行けないからこうなった。もういいだろ!降ろして。ご馳走さま!これ以上関わるな。』

城は上着を着て車から降りた
歩くのもやっとで
コンビニの脇に座り込んだ

丁度立ち読みを終えて
出てきた男達が車に乗り込む

『凄ぇモン見ちゃった…。』
『え、何?あいつ?何かあったの?』
『いや~…血だらけ。』
『は?』

そんな会話を尻目に
キョウはサッと車を降りて
城に近付き何か語りかけ
すぐ車に戻った

『キョウさん何話してきたの?大丈夫?あいつ…。』
キョウは考え込んで黙っている

ワゴン車はコンビニを出て
会社へと帰って行った

No.49 10/04/21 14:26
㍊ ( wPNK )

雨はとっくに止んでいた
貰ったジュースとフランクフルトを口にしながら先の事を考える

これからどうするか…

多分今頃車に乗って
自分を探し回っているはず
下手にウロつけない

バイトで稼いだ金は20万ある
けどまだ未成年で簡単に仕事を得られない先を考えると
派手には使えない額だ

やっぱり先輩に連絡付けて
何か方法を…
でも家は歩くには遠いし
場所がよくわからない

もういっそのこと
警察や病院に転がり込んで
事実をバラしてしまうか…
未成年には甘い世の中なのは
TVのニュースでよく知ってる

…いや駄目だ
俺は【可哀相】な人間じゃない
同情され生きてくなんて
そんなの真っ平だ

行き詰まる
面倒臭くなってきた…
今はこの痛みとだるさを
どうにか出来ればいい

(そういやさっきのキョウって奴…薬持ってくるって言ってたのに…苛々して言い返したけど貰っときゃ良かったな…。)

一時間近く経った頃
そろそろ移動しようと立つ

突然パッシングして
真っ黒い車がコンビニに侵入する
中は見えない
(…誰だ?)
城の場所を覆う様に停め
運転席が開く

『おぅボーヤ!偉い!待ってたか(笑)!』
キョウだった

No.50 10/04/21 14:37
㍊ ( wPNK )

『…待ってない。今移動しようとしてた。これ以上関わるなって言った。』

つくづく自分のひねくれた性格に飽きれ返る

『関わるつもりねーし。絡んでんだ(笑)。』
『…薬でも持って来たの。』
『いや無い。』
『…。』

何だこの男
さっき言ってたじゃないか
少しムッとする

『だってお前、さっき余計な事すんなつったろ?俺ぁ悪くねーよ?』
(本当に絡みに来ただけかよ。)

城はプイッと向きを変え
無視して歩き出した

『まぁまぁまぁ!そう怒るなって。からかってるワケじゃないんだ。気になって一応寄ったらまだ居たからよ。なぁ、ちょっと乗れ。訳有りっぽいし、傷だけ何とかしねーと。薬屋ならまだ開いてるし。』

それは助かる
薬屋がどこかも定かじゃない
そのまま先輩の所まで送ってもらえば全て良しだ
お人好しっぽい男だからな

城は黙って乗り込んだ

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