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まじでムカつく店員
家に帰るのが苦痛、ストレス。離婚したい。
助けてください、もう無理です

堕天使

レス295 HIT数 44374 あ+ あ-

クロス( ♀ gAVFh )
11/11/21 10:37(更新日時)



高校時代
同タイトルで
脚本を かきました。

人間不信の少女が
廃屋のビルの地下室で
復讐のため 爆弾をつくるという内容のものでした。


真実は
私にとって 永遠のテーマ。



時が流れ 絵空事ではない 不信感や絶望を知ることになった 私の お話しです。



No.1686010 11/10/11 02:32(スレ作成日時)

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No.101 11/10/18 02:47
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 100

いつでも
神がかり的な事を言う

40代後半の男性と


私は 何度も偶然に繋がった。



絶対に
自宅の番号を教えてはいけない

会っては いけない


サクラの条件だ。





そもそも このオッサンは

そんな事
望んではいない様に感じた。


私は ただ

オッサンに癒されていた。


傷ついた気持ちが
和んでゆく…





2時間 3時間と
オッサンと喋るうち

あまり考えたことなかったが


男性の側は かなりの金額を 使ってるんだろうなぁ…
と 思い始めた。



いつか

オッサンも
金が尽きるかもしれない

ここへ
突然
やって来なくなるかもしれない





私は

オッサンに


自宅の番号を教えてしまった。




そして 結局



オッサンと寝てしまったのだ。



No.102 11/10/18 03:07
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 101

そして



反動。






みごとな 喪失感。








会いたい

会いたい

会いたい…





夫に


抱かれたい。







どうして

あの人の 腕の中にいるのが


私じゃないの?




なぜ あの女ばかり

優しさを 独り占めしてるの?








どうして 私は


好きでもない男に

抱かれているの…?











オッサンは



けっこう しつこかった。


もう2度と会うつもりの なかった私への 執拗な電話。



イライラして来た。


自分でまいた種なのに

怒りが わいて来る。





「夫とよりを戻しました。 もう2度と かけて来ないで!」




オッサンは

私の生活から 消えた。






オッサンに ついた

嘘の言い訳だけが



私の中に
こだましつづけた。



No.103 11/10/18 04:15
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 102

しかし


意外にも



とんだところで

オッサン効果が あらわれた。




私の中に

夫への 余裕が生まれたのだ。




私も

ルールを おかした。



同じ

ラインに立った。




たった それだけの事に

なんだか安心した。



簡単に言えば

仕返しをした気に

なっただけかもしれない。







無性に

夫の顔が 見たくなり


静かに雪の降る夜



私は


ここへ来た。







階下で はしゃぐ摩耶。


「元気そうだな…」

「うん!毎日 Nちゃんと遊んでるしね。 私も Nちゃんママに 遊んでもらってるし(笑)」



こちらの やわらかい態度に

夫も 笑顔になる。



何ヶ月ぶりだろう…

彼の笑顔。




クリスマス

年越し


お正月





何年も 夫と過ごして来た

たくさんのイベントたちを



摩耶のためだけに

たくさんの人たちの力を借り
楽しく過ごした。




夫が どうしているのか

頭の中から 追い出す作業は

それはそれは
激しい 苦痛を
ともなったけれど…




「あたしね パパ

仕事してんだ」


「仕事?」


「うん!Q2のサクラ(笑)」


「家で出来るんだな…
じゃあ
摩耶も寂しくないしな」



反応に
少し ガッカリする。




「まさか 会ったり…

してねんだろ?」



「会ったよ。 やったし。」




夫が


かじょうに反応した。




No.104 11/10/18 05:08
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 103

「うそ…



だろ…?」


「嘘じゃないよ(笑)」



不謹慎だが

ワクワクして来る私。




「なんで…」





あきらかに

ひどいショックを受けている。






「おあいこね。」







私の中の悪魔が

高笑いを はじめた。






「俺は…


責められないんだよな」


「そうだね」





「待っててくれって…


言うつもりだったのに…」




なぜか私は

夫の この言葉には


後悔を感じなかった。




「なんでだよ…」







涙を浮かべながら

「しょうがないんだよな…


俺が 悪いんだもんな…」



繰り返し

繰り返し つぶやいている。









正直


笑い出したかった。




『勝った』




と思った。









「アパートに
遊びにおいでよ パパ」




「 … 」



「摩耶だって

パパと 遊びたいんだよ」








私は



見えない女が


そこにいるかのように





肩をおとす彼の

背後に向けて



明るく そう言った。




No.105 11/10/18 11:58
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 104

昨夜の雪が

辺り一面を覆っている
冬の朝



ゴミを 集積所へ運ぶ私…


めんどくさがりな上に
起きぬけの姿では
絶対に外へ出ない私は

とんでもない早起きを 強いられる この 逃れられない仕事が 大嫌いだった。



おまけに 足首までの雪…




昨日までの私なら

「今日は や~めた…」



また布団をかぶっただろう。


ただでさえ 気力のない
毎日だったから。






けれど







「わぁ~… 綺麗…」

真っ白な世界が
キラキラ輝いていた。


重いゴミ袋を持つ手にも
力が こもり
一歩 一歩の足どりも軽い。


自然と…


笑顔になる。








朝早い 電話のベル

それだけで


私は 相手が夫であることが
わかった。




「今日 行ってもいいか?」




流れが




変わった。




私が 変えたんだ。





失った自信が

かえってくる。



私は 私を




また


好きになれる。








「おはようございます!」


すれ違う近所の人の

怪訝そうな顔さえも


今の私には


お腹の底から おかしかった。



No.106 11/10/18 14:04
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 105

そんなに

あまい話しでもなかった…



別居後 少しして

あの家へ行った時


玄関先で
義母が 泣きながら
こう言った。


「夕べ カレーをつくったの

雄太が…
食べてくれない。


『まずい』って


ママのつくったカレーが


食べたいって…」








私は


数ヶ月ぶり

彼のために



カレーを つくろうとしていた…







『遅い時間になる』




夕方 夫からの電話で

ため息とともに


その手は とまった。










摩耶が 眠ってから

やって来た夫。



思った通り

女の愚痴が始まる。



激しく執着され
身動きの
とれなくなっている夫。


私が 家を出たことを
夫の口から聞いた女は

最初は 安心したものの

私の環境に 不安をおぼえ

終始 夫が家にいることを
確認するようになっていた。



私もバカだが


女も 相当な バカだ。




私には

都合がいいけれど…






夫は 若い頃から
よく モテた。

容姿がいいのに 加えて
明るい。


そして

つき合えば 一途。



こんな状態の時

それを知る


会社の 同僚にまで
告白をされてしまった


と 夫は頭を抱えている。





バカな女たちに

翻弄されてる 夫が





やっぱり




1番の 馬鹿だ。




No.107 11/10/18 16:04
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 106

「リエ…」





名前を呼ぶ 彼の声が
なつかしすぎて


それだけでも私は
高ぶり 歓喜にむせんだ。





もともと夫は

セックスの時以外
私を 名前で呼ばない。




愛してる

この人が欲しいと


その あたたかい身体に
しがみつく






「愛してる…

リエ…


愛してるよ」









私は




冷めてゆく気持ちに

困惑した。





あんなにも

待っていた言葉。




私の 望み…








突如

今までの

ありとあらゆる感情が
私を襲う。



はねのけたい気持ちを
必死にこらえ


私は ただ




女への復讐心だけで

彼が 果てるのを待った。










愛してるの?


私…




この人を愛してる?











彼も また


私を求めたのは



他の男に抱かれた
『自分のもの』への

意地だったのではないだろうか…





2人分の

タバコの煙りが




お互いの顔を








隠してゆく。




No.108 11/10/18 18:37
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 107

「必ず 別れるから

待っていてほしい」



私は もちろん

YESと 答えた。






もっと もっと もっと


もっと


もっと





もっと


嬉しいはずだった。





少なくとも



出口は

見えたのだから。







なぜだろう。



求め過ぎたからだろうか…





いつの間にか


すりかわっていた気がする



欲しいものの


カタチが。







人形には

あたえられなかった





自由を



知ってしまったせいかも

しれない。









「もしもし♪」


『こんばんは!』


「あれ…

もしかして T君?」


『やった!ルミさんだ♪』



私は ちゃっかり 幼なじみの名前を 拝借していた。



「すごい偶然だよね…

何度目?」


『… 5度目だ!』

「こんな事って あるんだね」


『運命だよ』

「ふふふ♪ 運命ね♪」




私は 異常な 猫好き。

なかでも アメリカンショートヘアきちがいである。



T君は その アメショを飼っており 1度も飼ったことのない私は そこに 食いついた。


盛り上がる 盛り上がる。


オッサン同様
何時間も 話してしまう。



T君は

私が サクラであることを
知っている。


濁した言い方で
それを伝えると

T君は 察してくれた。







なんだか…





騙したくなかったのだ。



No.109 11/10/18 19:33
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 108

私は

自分の気が変わることを
恐れた。



早く

早く


元の生活に

かえらなければ…




早く

早く



摩耶と 夫と

笑いながら 暮らすのだ。





私のYESに 安心した夫の

自堕落さは悪化した。



『今すぐ』

ではなくて いい事を

『今』やる人間ではない。




私は

摩耶と 自分のために

女との別れを
急かしつづけた。






雪は とけ


季節は 春になる…




なんだかんだと
言い訳を くっつけ

私に渡すお金も 額が減り


しまいには



0に なった。






親に すがるしかない。

いつしか

私の側の人間も
離婚を うながすように
なって来た。





私も また

自堕落だったのだ。




被害者意識と

自由に

いつまでも あまえ




気づいたときには


金銭面も メンタル面も


すべて

大学を卒業したばかりの



T君に あまえていた。



No.110 11/10/19 03:03
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 109

おままごとは

始まっていた。





アナタ オトウサンネ

ワタシ オカアサン

チッチャイカラ

マヤチャンハ コドモ…





オトウサンハ
オカアサンガダイスキデ

オカアサンモ
オトウサンガダイスキ


マヤチャンハ

オトウサンモ
オカアサンモ


ダ~イスキ


マイニチ タノシイネ

ダイスキナヒトトイルト

タノシイネ



ハイ アナタ

ゴハンデキマシタ


オベントウモデキテルワヨ



トウサン エノキハ キライダッテ イッタジャナイカ
カアサン


ウソダー
オトウサン エノキダイスキダッテイッタヨ
ネー オカアサン

アラアラ マヤチャンハ
ヨクシッテルワネ


イッテラッシャイ
オトウサン


オカアサン マヤ
イッテキマス
キョウモ ハヤク
カエッテクルカラネ


カエッテキタラ

イッパイアソボウネ
オトウサン!


イッテラッシャイ


アー

オトウサントオカアサン
チュウシテルー


ハイ

マヤニモ チュー

アハハハハ


アハハハハハ…








おままごとを始めちゃ

どうして いけなかった?



偽物でも

家族を演じるのは
いけないことだった?




だって

寂しかったんだもん。




日曜日は とくに

寂しかったんだもん。




摩耶と2人きりの
日曜日は

心から笑えなかった私が


日曜日が 楽しみなママ
になるのは




そんなに

そんなに




そんなに







いけない事だったの…?



No.111 11/10/19 03:55
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 110

狂ったように鳴らされる
ドアチャイムで


私とT君の顔から
笑顔が消えた


日曜日の夜。





「誰か来たよ」

「シッ…」

摩耶の唇に
人差し指をソっと あてる。



T君と 目くばせをし
摩耶を連れ 奥の和室に
3人で身を寄せた。




ドンドン!!

ガンガン!ガンガン!!


ドアを殴り 蹴りつける音。


ガチャガチャガチャ!!
ガン!ドンドンドン!!



「こわいよ…」


摩耶が 泣き出す。


「大丈夫。
ママもT君もいるでしょ」

摩耶の頭を 抱き寄せる。




「いるんだろ!?!?
あけろっっ!!!!!」


立ち上がりかけたT君の腕を つかみ引き寄せて、首をふる。




『出たら 殺される』



私は 歯止めのきかない
暴力的な夫を よく知っている…




ガンガンガンガン!!!

音が 近づいた。



この部屋は1階だが 南側には 高いベランダが ついている


どうやって
登ったんだろう…



「出て来い!!!
この野郎っ!!!!!」
ダンダンダン!!
ガンガンガンガン!!




このままでは

窓を割られる…!



と思ったとき



「リー! 俺だ!
俺もいるから!!」






J君の声だ…




「大丈夫だ リー。
安心して 出てきて!」




No.112 11/10/19 12:24
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 111

「いい? 絶対に 絶対に
出て来ないで…!

摩耶と ここにいて」




T君に
そう言い残し
私は 玄関から外へ出た。




J君の声を聞いて

少し落ち着いた私は


さほどの恐怖も感じず
ドアを開けることが出来る…




2棟並ぶ 同じ形のアパート

建物と 建物の間に
3台分の 駐車スペース


そこに 彼らは居た。





挑みかかるような
夫の顔…


私は

無表情を 装ったが
内心

すごく腹が 立っていた。



何かが


沸き上がって来るのを

強く感じる。







「てめぇは
何やってんだ!?!?!?」

「雄!」


夫の 馬鹿デカい声を
J君が 制す。




耐え切れず

「自分だって…」と
夫へ罵声を浴びせようとした時



すごい音と衝撃とともに

私の身体が
反対側の建物へ叩きつけられた




マンガのように

本当に 星が見えた。


平手で殴られて 身体が飛ぶって ものすごい力だ…



「手をあげるなって
言っただろ!!!」

J君が怒鳴る。




鼻血が
ボタボタと流れた…



倒れたまま 顔をあげ
夫を 睨みつける。



「なんだ その目は!?」


なおも 私を殴ろうとする夫を

J君が 羽交い締めで とめる

「雄!もう やめろ!!」


とても




悲しそうな叫びだった。






「リー… 大丈夫か?

こいつ興奮してるから
俺連れて帰るから

リーは もう中入れ…

立てるか?」



夫の身体を おさえつけたまま

J君が言う。



私は

コクンとだけ うなずくと


フラフラと
部屋へ戻ろうと歩き出した…





私の背中へ

夫が叫ぶ。






「摩耶を返せ!!!」





殴られた以上の衝撃が




私を襲った。




No.113 11/10/19 14:16
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 112

T君は

長い間

私を抱こうとしなかった。




私の外見にだけ
心を奪われた この若い青年は


まるで女神のように

私を あつかった。




会うたびに
歯の浮くような賛辞を
臆面もなく 口にする。


人間的なことなんか
どうだっていい

容姿が自分の好みであれば
相手に合わせて
自分が変わればいいだけの話し


今でも 納得できない
彼の持論だ(笑)



私を 人に自慢したい。
私を 安く扱うことを
ひどく嫌がる。

どんなに お金を使ってでも

私を綺麗に 飾る事を好む。


そして

そんな私達が

男と女になるのは


きちんと

それなりの場所で


摩耶にも 充分 楽しい思いをさせてあげられる 場所で…



出会ってスグから

私達は3人で
旅行の計画を たて始めた。




夫と女に ズタボロにされた

私の『女』としての自信。

楽しそうに 彼と 絡まり合って遊ぶ摩耶を見る 私の
『母』としての笑顔。



彼は みんな みんな

取り戻させてくれたんだ。








倫理をおかすから 不倫

同じ穴のムジナ





幼稚な私には



もっと深い落とし穴が




見えてなかった。







摩耶と 引き裂かれる。

摩耶が




取られる…?




No.114 11/10/19 15:05
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 113

夫に 知らせたのは

舅だった。



注意が…


足りなかった。







ドライブ帰り
遠くのスーパーで
3人で 夕飯の買い出し

アパートの前
車から降り 玄関までの
わずかな距離…


もう暗いから平気

と思ってしまってた…。





「知らない男と摩耶が 手をつないで… 3人で家族みたいな顔して 楽しそうに アパート入ってったぞ!!」








T君は

部屋へ戻った私を見て
激しく動揺した。


摩耶には 気づかれたくないな…



「大丈夫。
マー 疲れて眠っちゃったよ」

T君は
とてもとても悔しそうに

「痛い? クソっ…
俺の顔なのに…

跡でも残ったら
どうするつもりだ!!」






少し トンチンカンである。



不思議な憤慨をして

一生懸命タオルで
私の顔を 冷やしてくれる。



「S…

呼んでもいいかな?T君…」



「もちろん!」







私はまた

方向を 見失い


彼女に 助けを求めた。



No.115 11/10/19 18:02
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 114

「どっちにいてほしい?」


Sはまた

私に 選ばせる。




「2人ともいてくれってんなら 別にそれで いんだけど…」





私の顔を
冷やしつづけるT君に

「今日は… ごめんね。」
と ふせ目がちに謝った。




「うん!いいよ わかった(笑) ちゃんと冷やしてるんだよ! じゃあSさん リエちゃん お願いします!!」


「う… うん。

なんか悪いね💦💦」


「いいえ 全然(笑)」






T君が出てゆくと


「引き際を心得たやっちゃ」

と Sは したり顔。


「あいかわらず
変わってるけどな(笑)」
と言ってから


「もしかして あたし よけいな事言ったか? あんた T君にそばにいて欲しかった?」


私は 首を横にふる

「痛っ…」



「あ~ あ~…
ほら もう…」




Sは わかってる。


T君が 今 そばにいたら

本当の話しが出来ないこと。



見せかけだけの

綺麗ごとの


話しに なること…






所詮


おままごと





だからね。





No.116 11/10/19 21:25
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 115

「S ストロー持って来て…」

「何すんの❓」


「ビール飲むの」



「バカか!?おまえは(笑)
今日ぐらい飲むなよ!」


「飲まなきゃ やってらんね」


「オヤジか(笑)」



と言いながら
キッチンへ行き 飲みかけの缶ビールに ストローをさし 口元へ運んでくれる。


唇も かなり切れている…




「あんた 今
そうとうマヌケな顔してるよ」



両方の鼻の穴に
ティッシュが詰め込まれ
ソファーのひじ掛けに
頭をのせて その上にタオル

ストローで 缶ビールを飲んでる女の姿が マヌケとは
なんだ!?(笑)




「ぶへっ 泡だ…」




そりゃ そうだろう。





「はぁ~あ…」


Sが 大袈裟に ため息をつく

「なに?」


「本気でさ
殺されなくて良かった
って 思ったんだよ…」




「…うん」





「あたし
ずっと後悔してんだ」


「何を?」

「あんたに『男でついた傷は…』 なんて言ったこと…」

「どして?」


「T君と つき合いだした時 『そういう事じゃね~よ💦』って 焦ったよ あたしゃ!」


笑い事じゃないが

私は クスクスと笑った。






「雄君のこと…



まだ 好き?」





私は










鼻から抜いたティッシュを

Sの顔面に 放った。



No.117 11/10/19 22:00
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 116

好きかと問われたら…






好き

だろう。





「ちょ…っ!
なにすんだよ(笑)」



「とまった」
ヘヘっと 笑う。





「じゃあ どっちが好き?」



ゴミ箱へ丸まったティッシュを 捨てながら Sが聞く。











「T君」


ほんとだろうか…?







「… 雄君の女のことは?」

「憎い」
即答。




「世の中さ… こんなケース いくらでもあるよね…」


「うん…」



みんな 子供のために…

って 我慢するんだ。
それは わかる。


実際 平々凡々と暮らして来たつもりの我が家でも

母は いつも
父の 女グセの悪さで
泣かされていたらしい。


こうなって
初めて聞いた 話しだ。




けど…


なぜ 私には出来ない?





摩耶のことだけ


なぜ 考えられない?








「雄君 今ひとつ 摩耶ちゃんにたいして 情がないからなぁ」



そうなのだ。


私の母も

夫婦が離れるのは わかる。
そもそも他人だから…


だけど
雄太が摩耶に 会いたがらないのが 不思議でしょうがない


と つねづね言っていた。





「摩耶…


返せだって」


「え?」

Sが驚く。





「誰が…?」



「主人が(笑)」

パパと呼ぶのが悔しかった。




「いつ?」



「さっき…」








言いながら

数時間前のことが



なんだか

遠い 遠い
昔のことのように感じた。




No.118 11/10/19 23:03
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 117

6月…




「はい!パパ!」

「ありがと~♪♪♪」


「お父さん ありがとう」

「作ったのか すごいな~!」




折り紙で
模様のつけられた
牛乳パックの ペン立て。




「パパ ありがとう」


「摩耶 ありがとう…」




幼稚園の 父の日のイベント。

似顔絵と一緒にプレゼント


受け取る 夫。





「摩耶ちゃんパパ
来たんですねっ!!」


「仮面夫婦だから(笑)」



「おっ♪Nちゃんパパも
頑張ってんじゃん(笑)」

「今日ぐらいは…(笑)」







あの 次の日


家に来るよう
夫から連絡があった。


顔の傷のひどさに
「ごめん」
と 謝られたものの

沸点が 少し下がった程度の夫の怒りは まだ続いていた。




理不尽な傷の痛みのせいで

つっかかりたいのを
抑えることが出来る…



摩耶のために。




父の日の ために。







「Jちゃん…

すげぇショック受けてたぞ…


リーにだけは

あんな事
してほしくなかったって…」




少し

心が痛む。







「とりあえず…




摩耶は 渡してもらう」











私は 狂い


泣き叫んだ…




No.119 11/10/20 02:55
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 118

こわかった。


本当に 取られてしまいそうで…







摩耶が



私のそばから いなくなる…?


想像すら出来ないよ。






「絶対 渡さない!!
私の子供なの!!!!」

「俺の子供だ!!!」


「摩耶は 私がいなくちゃ 何もできない!私から離したら ダメなの!!!!!」



もう
何を言ってるのか

わからなかった…




「いや!いや!いや!
絶対にいやぁ!!!」





心臓が痛い…






「やめて…


とらないで…」







『マー
ママがいればいいよ』









「… あんたに


あんたに 何が出来んのよ…」



「あんたになんか

摩耶を幸せにできない!!!」

「じゃあ

母親でだけいろ!!!」











「別れろ」


「…え?」



「男と別れろ」









冷静になれば


殴られることより
理不尽であるとが わかった…




はずだけれど













「わかった」






私は

深い安堵に包まれてしまった。



摩耶がいれば

何も いらない。





摩耶さえ いれば…




No.120 11/10/20 04:33
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 119

「よく降る雨だなぁ…」






タバコが まずい。





「だいたい おまえさぁ…

俺に『おあいこ』
って言ったけど 俺1回だろ?
おまえ2回(笑)」





罪の重さは 人数か…?





「腹へった…

ラーメンつくって」





お願い。

早く帰って…




「うん」






窓をたたく 雨の音が

強くなる…





「このまま ここで寝ていけりゃあな… あ~ めんどくせ」



夫は 大きなアクビを

ひとつすると


ゴロリと横になった。






あなたが
帰らなくちゃならない
理由は ナニ?



女を 安心させるため…


でしょう?








私は また




都合のいい人形に戻ったのだ。













「しかたないよ…」


と T君は言った。



「マーの お父さんは

あの人だ…」




私は ただ泣いて
詫びるしかなかった。




見たことのない

険しい表情で


たった1度
こぶしで 壁を殴り




T君は 消えた。










私が




消したんだ。











夫の 軽いいびきが
わずらわしくて


どうか この雨が


もっと もっと
強く降りますようにと





心から願った。



No.121 11/10/20 05:10
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 120

夫が帰ると


私は 急いで 冷蔵庫から
缶ビールを取り出す。





プルタブを引く音が

雨の音に重なる。









「はい♪乾杯♪」


いつも 2人で
浴びるほど飲んでいた。


あったかくても 食べたがるお鍋は 就職したばかりの会社の事務員さんから いただいたレシピ。


私のつくった お弁当を

『愛妻弁当だ』と
からかわれると 笑う。







1人で飲むビールが


こんなに 苦いなんて…










突然
鳴り響いた電話のベルに
「キャッ」
と 短く 声をあげる。





胸が ひどく高鳴り

急いで 受話器をあげた。








『俺…』






『開けて…


リエちゃん』








私は 急いで受話器を置くと

玄関へと走る。



ドアチェーンを
はずすのも もどかしい…




早く


早く






早く 会いたい。












強い雨の音と一緒に


今 1番欲しいものが











そこには あった。



No.122 11/10/20 11:31
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 121

何度も


何度も 求め合う…







もう

どうなってもいいと




唇を重ねながら 思う






セックスは 麻薬だ…







欲しくて



欲しくて


たまらなくて…






何も



考えられない…





「好きよ…


好き



すごく




… っ 好き」





若い彼が



身体の上で

愛おしそうに


私の顔を 両手で包み




「目を… あけて」


と ささやく






彼を 見つめただけで


快楽の波が おし寄せる



「本当に…?



俺が 好き?」





「好き


大好き…!」




「目を見て 言って…」



「大好き」


「可愛い… 」

彼が微笑む





激しいキスをしながら



このまま

時間が止まればいい



とさえ思った。








いい事も


悪い事も





そんなこと知らない…




欲しいものを 欲しがって


なぜ いけないの?









こんなにも 愛おしいのに…






身体が

よろこびを得る毎に




私は また






堕ちて…






堕ちて…









堕ちてゆく。





No.123 11/10/20 12:14
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 122

白い煙りが


私を覆う。







夫との 苦痛なセックスの後



苛立ちで吸ったタバコの味が

少しだけ よみがえる。






「リエちゃん…


今 後悔してるでしょ?」



T君は

いつも図星をさしてくる。


物事に あまり動じない彼は

観察力が 鋭い。





そんな彼が


あれから毎日

ここへ来ていたこと…



私の部屋のあかりを

外から ずっと
眺めていたこと…




雨の中

夫といた私を

知りながら待ちつづけたこと…





知っていたら?


もしかして



それを 私が知っていたら


こうはならなかったのでは
ないだろうか…










追われると 逃げたくなるのは


本能だ。





私には

守るべきものが ある。





だけど 逃れられない


離したくない現実も
ここにある。





「大丈夫だよ リエちゃん」

彼が笑う。




「俺 バカな事はしない」




「今までみたいに ここで暮らすような事は しないよ…」








焦りとも

悲しみともつかない気持ちが


私を支配する。











そして



わかった。



わかってしまったんだ。






夫の 気持ちが…



No.124 11/10/20 14:17
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 123

T君は 私に条件を出した。




絶対に

夫と セックスしない事。



「リエちゃんは

俺のものだよ…」



求められることの幸福。

幸福への降伏。




私は もう

今までの私では なかった。








Aちゃんは

ずっと
電話で私を
励ましつづけてくれていた。


あの闇から


深い深い 穴の底から

救いあげてくれた あの夜から

ずっと…




そんな 彼女の望む道は

ただ ひとつ。



夫との修復である。






いつの間にか

私だけが



道から それた…





深く関わってくれたがために


彼女も また 私を
愛してくれていたがために



摩擦が起きる。





私を 間におかず
2人きりのつき合いは ないが

AちゃんとSも友人同士…



彼女たちの仲も


私のせいで

くるってゆく。





私が 変わってゆく事を
恐れるAちゃん。



変えたのは 自分だと

主張する S。




あの頃の 私の憔悴ぶりが
Aちゃんには 見えていないから そんな事を 言うのだと
Sが言えば

Sには子供が いないから わからないとAちゃんは憤怒する




傷をなめてあげるのが

良い事なのか
悪い事なのか…





2人の思いは 平行線のまま


Aちゃんだけが

動き出した。



No.125 11/10/20 16:54
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 124

「なんなんですか!?それ!」



梅雨の晴れ間

子供達は
園庭のぬかるみを 駆け回って
歓声を あげている。



「お友達なんですよね!?」

Nちゃんママが
目を まんまるにする。


「おもしろく…
なかったんじゃないかな…

私のしてること」




この時 私には

Aちゃんの真意が 見えておらず 怒りと軽蔑だけを 彼女に向けていたのだった。




「パパに告げ口するようなマネ…

信じられないです!!」


「私も 耳を疑ったよ(笑)

かなり…

酷い事言っちゃったし(笑)」





友達と口論。

ドラマの中だけだと思ってた。


しかも 大声で罵る自分なんて
想像したこともない。





Aちゃんの言うように

私は 今


『おかしい』んだろうか…


『変わった』んだろうか…





自分が 1番知ってるくせに。









「キャーっ!!」

「なに!?」



ぎゃははは♪
子供達が ワーワーと
逃げてゆく。


「も~う💦」
「どしたの?」


Nちゃんママが
自分のお尻を 指さす。

園児の男の子に モテモテのNちゃんママの お尻には

泥んこの 小さな手形…




女性らしいプリントの ハンカチで ごしごしと ジーンズのお尻を擦りながら



「摩耶ちゃんママは

摩耶ちゃんママです」







今日も

ありがとう。



No.126 11/10/20 19:30
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 125

「なんで邪魔すんだよ!?」

『リエは おかしいよ!』


「何が… どこが!?」



『しちゃいけない事でしょ?

…なんで わかんないのよ』


たまらず泣き出す彼女。


「なんで 私だけが、しちゃいけないの!? あいつは? あいつが良くて 私がダメな理由は なんなの!?」



『摩耶ちゃんでしょう…

そんな事もわからない?
ねぇ リエ…』



「摩耶は… T君に よく懐いてる。 あんな男より ずっと ずっと!!」

『そういう事じゃない!!!』


「じゃあ 何!?
綺麗ごとばっか言って!!!」


私は 言いながら
シンクの下の 扉を蹴った。




とまらない憎悪。





Aちゃんに聞いた



勝ち誇ったような
夫の顔が
頭から 離れない…




「いったい あんたは
どっちの味方なんだよ!?!?」


『摩耶ちゃんだよ…』








『リエ


  頼むから…』


「うるさい!うるさい!
うるさい!!!!!」



『リエ!』



「たとえ Aちゃんが 私と同じ立場になっても 私は絶対に 旦那さんにチクるようなまねは しない!! 絶対… 絶対に!! 」


『 … 』



「摩耶取られたら…

Aちゃんのせいだからね!!


一生 恨んでやるから!!!」





力をこめて電話を切ると

私は 子機を抱いたまま



なぜか
玄関マットに うずくまり


大声で 泣いた。




No.127 11/10/20 20:53
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 126

絡まりながら

ほどけなくなってゆく…


もし みんな

自分のことだけを考えて

生きてゆけたなら




悲しみも

憎しみも


生まれないのだろうか




幸せも

生まれないかわりに…









「おまえが

約束を 破ったんだからな」



もう…

どうでもいい。




おかしい事なんて
ごまんとある。

そもそも
なぜ 今だ この男が まだ女と続いてる事実は 棚の上で


自分だけが 責められる?


あんたの女は
死ぬんじゃなかったの?


舅 姑も
なぜ私に 謝らない?

私も 不貞をしたから?

いや

しなくても

きっと同じ…


結納金も もらってない

結婚式 披露宴 折半。


生活費だって
7年近く うちの親に
毎月 いくら出させた?

同居なのに…

情けない。





所詮



他人。




愛は ない。





「うちの親も
摩耶は手放せって…

私はまだ若いし
これから先の人生に

摩耶は 邪魔だろうって…」



夫の 表情が

変わるのが わかった。




「男を とるのか…?」


「どう思われたっていいよ」





もういいんだ…









疲れたんだ。




No.128 11/10/20 21:31
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 127

「つめてぇんだな…」




入りそうになるスイッチを

全力で とめる。





夫もまた

かすかに 震えている。





「私ね…

わかった事がある。
わからなくて
よかったんだけど…」



あんなに

あんなに求めていた
夫の 心の内。

のぞいても のぞいても
見えなかったのに…





恋をすると

馬鹿になるね。



『ワカラナイ』が増えて

考える力をなくす。



夫も 私も 器用じゃない。

お互い以外に
まともな恋愛を していない。


経験が


足りなかった…。








「コタエを



急がせて ごめんね。」





泣いているのだろうか…


顔が


見えない。






「摩耶は

こちらの家に お渡しします。



私は…


2度と 会いません。」




涙が

筋になって 流れ落ちる。




「優しく してあげてね。
パパ…

今までの分も たくさん…


摩耶が 寂しくないように

ずっと
そばにいてあげてね…



お願い…」








手をついて
頭を下げる私の 肩をつかみ

夫が 揺さぶる。



「本気で 言ってんのか!?」



No.129 11/10/20 22:56
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 128

人形のように

力の入らない私の身体は

クタクタと
首も 背中も
彼の力のまま あやつられる。



もう 声も出ず

涙だけを とうとうと流す私を
夫は 押し倒し

覆いかぶさる。






「俺も 摩耶もすてるのか!」





私は

涙をこぼした 能面だ。










「くっそ…」




スカートに手がかかる…








「…やめて!!!」



呆気にとられた
夫の下から すりぬけると

私は 急いで立ち上がった。




「… また 嘘なのね」






「摩耶が欲しいなんて…

嘘なんでしょう?




私を…


私を困らせたかっただけ…







摩耶を道具にすんな!!!」






「…おまえから
摩耶を離そうなんて 俺は
最初から思ってない…」


「 … 」



「取られそうになって
狂ったおまえ見たら…

なおさらだ」





俺は 卑怯だと 夫は言った。


おまえが 知らない女に見えて 怖かったんだ と夫は言った。






「マ~マ~!!」

階下から 摩耶が私を呼ぶ。



「摩耶! 上がって来い!」



階段の上から 夫が叫んだ。



No.130 11/10/21 01:26
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 129

混乱していた。



どうしたいのかが


わからないのだ。

自分のことなのに…





取り戻したい。

逃げたい。



つらくても

目的がハッキリしている時は
少しずつでも 前に進める。


だけど 今は…






あの日

夫が 2階に呼んだ摩耶と
3人で

昔のように

当たり前のように


私達の部屋で過ごした。



何もなかった日々が
かえって来たようで
心が 弾んだ。


3人で 笑い ふざけ合い
たくさん 話しをして…




2階からの笑い声に

義家族は


『終わった』


と 勘違いすらしただろう。








ポケットで PHSが鳴る…



「はい」

『俺…』

「うん…」


『今 どこ?』


「 … Nちゃんち行こうかな~ と思って… 車だよ」


『家に戻れる距離?』


「ううん。 もう けっこう走っちゃったよ…」

『そう…』



嘘だ。


本当は 駐車場に居る。




『何時頃 帰るの?』


「う~ん…
まだ わかんないなぁ…」



『そっか…
じゃ また電話する♪』


「は~い…」










ヘタをしたら

1時間おきの電話…


もちろん
T君が 私に買い与えた
ピッチ…










混乱の原因は

ここにも ある。



No.131 11/10/21 03:42
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 130

私は


天使などではない


最初から

悪魔だったのだ。



自分の欲望しか 見えない…








夏が来た。


1年中で 1番好きな季節



今だ どっちつかずの夫婦に

あきれて 口を出す者も
いなくなって来た。



ふりまわすだけ ふりまわして

いつの間にか


このバカな夫婦には
別な連帯感が
生まれつつあった。

お互いにしかわからない
同じものを抱えながら…





蒸し暑い夜


Tシャツに トランクス姿のT君と 枝豆と ビール…


かすかに聞こえる花火の音に

「楽しいね」


って 笑い合う。




隣の部屋からは
摩耶の 静かな寝息…




地に足のついていない感覚と
酔いの フワフワの中の

偽物の幸福。







ピンポ~ン




こんな時間に 誰だろう…



ドアアイをのぞく。




「だ~れ?」


私は 振り向きながら


「わかんない…

かなり太った女の人…」




T君の顔色が 変わった。



No.132 11/10/21 04:40
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 131

自分でも

いやらしい女だと思う。


私は 異常なメンクイである

異性にも…

同性にもだ(笑)



友人が 綺麗なコばかりなのは

今でも 私の自慢のひとつだ。







そんな私の 目の前に立つ
お世辞にも 綺麗と言い難い ふくよかな女性は

予想通り


「T君いますか?」
と 言って来た。


「うん いますよ。
ちょっと待ってね…」



お客さんだよ と 呼ぶと

「出たくない💦
リエちゃん 帰らせて💦」


… はぁ。


「あのね
T君出たくないって…」

「…私
T君と 一緒に暮らす約束してるんです!T君 返してくれませんか!?!?」


勢いこんでるところ
大変申し訳ないのだが

私は
おかしくてしかたなかった…


「子供さん
いるんですよね?」

「うん… 」
リサーチ済みか。


「T君は?」


「すごい可愛がってくれるよ♪
『帰んないで~』
って泣いちゃうくらい。」


少し 意地悪してしまった。

「私には
『子供嫌い』って言うのに…」

いまいましそうな顔だ。


「今 無理矢理連れて来てあげるよ。 私には関係ないことだから 2人で話して…」




この 余裕はなんだ?



わかってるくせに…




「ほら!T君 話して来て!

じゃなきゃT君も
帰ってもらうからね!」


私は

恐い顔をしてみせた。




No.133 11/10/21 13:13
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 132

なんの焦りも



嫉妬すら感じない自分を
寂しく思う。



T君の 異様な私への執着。

間違った安心感。


植えつけられた

いらない自信。


何よりも

自分でも
気づいていなかったであろう

『戻る場所』
がある事への おごり。








「あ…」

無意識に つまんでいた枝豆のせいで 手がベタベタだ。



洗面所の激しい水の音

鏡の中で 微笑むのは


完全なる 悪魔。











ガチャ。


「おかえり」

最高の笑顔で 迎える。



「 … 」


「なに?」


「可愛いな~と思って。

見とれた…」






今度は 私が絶句。




「(笑)あいつ リエちゃん見て 白ハタあげたよ。 『あきらめる』って…

勝ち目ないって
わかったんでしょ(笑)」





もともと聞いてはいた。


別れた女に
しつこくされて困る… と。



怖い女だから
一緒に居るふりして 突然いなくなろうとしてたって…


財布のレシートで この場所を つきとめたのだと言う。




「ブスがっ…」

吐きすてるように言うと

「ところで リエちゃんは 俺に嫉妬とかしてくれないの?」






お姉さんは

キミが 怖い。




「… T君」


私は ふうっとため息をついて
言った。





「そんな事 言ってると

いつか 刺されるよ」










すぐ 刺された。



No.134 11/10/21 23:55
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 133

「見て見て!Nちゃんママ!」


「うわっ💦… 嘘… 」



顔を覆って
指の隙間から のぞく彼女。




「ナイキの
マークみたいっしょ!?」





それ 私が言ったんだよ…



「ほんとだ~💦💦」













脇腹の

この傷だけじゃない。


右手と 左手
両方の手の指に
深い傷。

とりわけ左の中指が深い。




忘れ物を取りに行ったT君を

帰って来てくれたと思った彼女は 彼の好物を ウキウキしながら 支度し始める。




「いらね~よ

あきらめたんじゃないのかよ」



「帰らないで…」

「しつけ~し」


「行かないで」

「うるせぇよ!」



「行かせない!!!」










… ジ・エンド。






今だから

笑い話しに 出来る。





電話をもらった あの夜は


明けないのではないかと思う程



長かった…






ピピピピ…
【公衆電話】


ん?



『俺…』


「携帯 どしたの?」



『…さ …れた』


「え? よく聞こえない!」



『刺…されたん…だよ』









…!!

瞬時に 夫かと思ったのだ。



「誰に!?」


『デブ…』



「 …  冗談やめなよ(笑)」

『冗談じゃねぇよ!』




嘘。


「病院行って!!」




ツー…






電話は 切れた。







No.135 11/10/22 00:26
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 134

急いで 携帯に電話した。




通じない…







私は ただオロオロと

部屋の中を 動きまわる…




なに?



どうして…?






きっと








だよね?




私の気を

ひきたいだけでしょ?





『冗談じゃねぇよ!』





初めて聞く

乱暴な 言葉。



嘘じゃ… ない。









私は

ひとりでは 抱えきれず


咄嗟にSに 電話をした。





「S… S どうしよう。

T君…

女に刺されたって…」



泣き出す 私に


「落ち着きな!!

こんな風に いつかなるような気がしてたよ…


とにかく あんたは今

この状況に酔っちゃダメ!!」




状況に…



酔う?



「あんたのしてることは
ドラマでも 夢物語でもないんだよ! 現実なんだ!!


あんたには 守らなきゃないものが あるでしょ…?」








「摩耶ちゃんに とばっちりが来たら どうする? あんたは 悔やんでも悔やみきれないよ…



リエ!!

目ぇ 覚ましな!!!」






心臓が

少しずつ 音を 緩める。




「…うん」




「電話かけられるんだ(笑)


たいしたことないって…」





「… うん」








それでも

彼の顔を見るまでは



私のすべては





あの時






彼のものだった。




No.136 11/10/22 01:29
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 135

「あんた 刺した人か!?」






傷の手あてに来た病院で

待合室にいた 私と摩耶。


診察室から出て来たT君に

「T君 痛い?」
と 摩耶は 心配顔…

「ぜ~んぜん!!

マー 何 食べたいっ?」


「手… 使えるの?」

「あ… う~ん…」



なんて話しをしていると

なぜか診察室から 出て来た外科医からの あのセリフ。



「ちがいますっ!!」


声が そろう。




「ガハハハハ」

ちらっと 摩耶をみとめると


「女房の方か」



下世話な医者である…







「色男!!
ほどほどにしとけよ(笑)」




スタスタと立ち去る。








「あんなブスと リエちゃん 一緒にすんな。 ば~か!!」








いくら 動じないT君でも

気が動転した あの夜は
『死ぬんじゃないか』
と 思ったらしい。



とにかく 彼女から逃げて

私に 連絡しなくてはと
這うように
公衆電話に たどり着いた。




電話を切ったのは 彼女だ。


そのまま

この町医者に



連れて来られたらしい。






『警察に 届けるか?』

と たずねられたが


これ以上 関わりたくない

と 断った。





泣きつづけ 謝る彼女と

一晩を過ごし






明くる朝







私のもとへ やって来た。






すべて T君の話しだ。



真実は



今でも わからない…




No.137 11/10/22 03:46
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 136

身体を洗うことも


もちろん シャンプーも
ままならない。




T君は しばらく会社を休み

私は つきっきりで
世話をした。




いつでも そうなんだ。



心が夫に かたむきかけると

何かが起きる。



ゴシゴシと
彼の頭を 泡立てていると

目を しばしば またたきながら
無理矢理に こちらを向き


「これで 天下晴れて 俺は リエちゃんだけのものだよ!」





「いいから…」


と言いながら

シャワーで流す。


「ぶはっ! 言ってよ~💦💦」











私だけのものに



ならないでほしい。





そう願う私は


やはり彼を

愛しては いないのだろうか…





どんなに
彼に心を奪われようと

私から 夫が


消えることはない。




理解し 許したカタチの今

夫への憎しみは消えても



女への憎しみは




消えない。





女とは 不思議だ。




なぜ 女は 女を恨むのか…






信じてる


からだろう。




築いた歴史と ぬくもり。


パートナーがそれを
忘れるわけがないと…


惑わせたのは


女であると

疑わない。




彼は 去ったのではなく

奪われたのだと。






T君の女も また

私を恨むだろうか…






「あいつ 男いるしね」



…また
心の内を見透かされた

と思いつつ



バカな女の多さに落胆した。



No.138 11/10/22 12:22
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 137

そばにいない方の

人間のことばかり考える…



私はまた

理解しがたかった夫の思いに


触れる。








「ねぇ… 何してんの?」

「見てんの」



ニコニコと
洗濯を干す私を
居間から寝転び眺めるT君。


「 … 」




「ちょっと…
邪魔なんだけど…」


掃除機をかける私の後ろを
ついてまわるT君。




洗面所の鏡にうつる私に

必ず 重なってくるT君。



トイレの扉を開けて

用をたす私を


最初から最後まで 見届ける…





T君。







最初は 楽しかった

こんなバカなことが



だんだんと 苦痛になり始め

愛しさが 消えかかる。






失いそうにならないと

私は 人を愛せないのか?


と 妙な錯覚に
おちいってしまう。






彼は 私の離婚を

急かさないかわりに
『監視』する。



「どこかに
行っちゃいそうだ」


いつも 背中から私を
ギュっと抱きしめる彼の

愛し方が


よく見えない。






そうして私はまた


夫との時間が 欲しくなる。







1番の理解者である彼に



会いたくなる。




No.139 11/10/22 15:14
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 138

「別居… なんですよ」


反応が 気になる。



私の部屋で コーヒーを飲みながら D君ママが 少し目を見開いた。





Eちゃんに怪我をさせた日



そう


あの




はじまりの日。



あの日

私達4親子は
D君宅で お茶を飲んでいた。


D君ママは 私達の中で
ひとりだけ かなり年上だった



落ち着いた 話しのわかる
D君ママが 私は好きだ。




最近 私は

別居を隠そうとしない。


若い彼氏がいる




という うぬぼれなんだろう。


少し

カッコイイとさえ



思ってたから…







部屋を見回し D君ママが

「だからなんだ…」
と言った。

「ん? 何がですか?」



「女の子の部屋っぽい インテリアだな… って思ってた」






T君は
ようやく 今日から仕事に出た


申し訳ないが

開放感でいっぱいの私は
誰かと お喋りしたくて しょうがなくなった。




Nちゃんママは 今日はご用事


2人きりで遊んだ事はないが

私は 思いきって 朝 車で幼稚園に来ていたD君ママを
誘ってみた。



とても喜んでくれたことが
嬉しかった。








「彼… いるでしょう?
摩耶ちゃんママ(笑)」


「えっ!?!?」



本気でビックリした。


まさか D君ママの口から
そんな言葉が出るとは
思ってもいなかったから…






『同じ においがする』



そう言って

D君ママは


私を 2度 おどろかせた。



No.140 11/10/22 17:08
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 139

言わないわけがない。




「Nちゃんママ!!
ニュース!ニュース!」




次の日さっそくか…


女の口も

おそろしい。








「え~~~!?」


「えっ!? え~~!?」

コンビニの袋を ガサゴソと開き 新発売の辛いお菓子を ひっぱり出しながら 彼女は 私を 3度見ぐらいした。



「オススメです💖」

と テーブルに置いてから


「だって 普通の 太った おばちゃんじゃないですか!?」




また 恐ろしい事を言う。



「D君のパパだって
あんなに子煩悩なのに…」




そうなんだ。

夫とこうなってから


私は ますます
D君の家庭が 羨ましかった。



入園式から 行事のたびに
ずっと

D君パパは 必死でビデオカメラを まわしていた。


まわりの父親達より 少し年老いた彼は いつも ニコニコと D君にも ママにも 私達にさえ 優しく接する人だった。


私の理想の お父さん像。






… なにが不満で?









パートに出ていた D君ママは

そのパート先の社員の
ひとまわり以上年下の彼と
つき合っていた。




つまらない男。





そんなD君パパを

D君ママは




そう言った。



No.141 11/10/22 20:38
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 140

違う…


と 思った。




恋をすれば誰だって

自分たちの愛は


純粋なのだと信じる。



不倫ならば なおさらだ…



出逢う順番を間違えただけ

間違いを



受け入れるな。





先にされたから


そんな状況も 関係ない。



はたから見れば

D君のママも



私も


してる事は同じ。

客観的に見なくても
自分自身で そう感じる。



人の…


親なのだ。





摩耶に 恥ずかしい生き方は

見せたくない。




今さらだけど

強く思った。








家の電話が 鳴る。



『俺』


「うん…」


『なにしてたの?』




30分前に 話したばかりだよ…



「考えごと」

『俺のこと?』

「うん…」



嘘ではない。








『好きだよ…』


「うん… 私も 好きだよ…」




『今 何時? …うっわぁ もうすぐ11時じゃん! 急いで終わらせて帰るからね!




… いい子で 待っててね♪』









… 家に彼が着くまで


あと何度

この
電話のベルが 鳴るのだろう。





私は もう1度



頭の中を

整理し直さなければ

ならなくなった。



No.142 11/10/22 21:23
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 141

「離婚してください」



私は 頭を下げた。






「…!なんだよ 突然」




「私達 このままじゃ

ダメだよ パパ…」




「女とは別れるって 言っただろ!? 今すぐは無理なだけだ…

いずれ やり直そうって
2人で決めたじゃないか

だから おまえの男のことも 俺は認めたんだ。



何が不満だ?」




「摩耶に…


失礼だよ」




「摩耶の人生からみたら ほんの短い間だ。 おぼえてもいないかもしれないだろ!?」



「私が 嫌なんだよ パパ…

私が彼と別れれば 話しは済むのかもしれない。

だけど

いつ終わるかわからない事を
ひとりで待てる程 私


強くない…」








黙り込む 静かな時間を


PHSの電子音が こわす。





ポケットを探る私に


「出るな!!」














「俺は…
どっちも失いたくないんだ…」






「頼むから…


別れるなんて…




言わないでくれよ」









ふざけるな!

と なぜ言えないのか…













鳴りやまない
PHSの音を聞きながら



私は



夫に 抱かれた。



No.143 11/10/23 00:48
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 142

どうしよう


どうしよう






どうしよう…





なんて言い訳しよう…







私はT君との
約束を破ったかわりに


夫と

ある約束をして来た。







とりあえず 今は

目先のことだ。





1分たりと
鳴りやむ事のないPHS


私は ひとつ大きく息を吸い
吐き出すと


通話ボタンを押した。





「はい…」


『俺…』


「うん!ごめんね!」



『どこ… 行ってたの?』


「お豆腐買いに行っててさ💦

ピッチ持って出るの
忘れちゃってね…」


『ほんとに?』
「ほんとだよぉ!!」



『嘘ついてない?』

「嘘つく必要ないでしょう?」


『ふ~ん…』




心臓の音が
電話から 伝わりそうで

私は 右手で胸をおさえた。


『今 家だよね?』

「そうだよ」


『じゃあ 家電にかける』



そう来ると思っていた。

着いてから
出て よかった。










その夜の

彼のセックスは
執拗で異常だった。


まるで

確かめるように

しつこい汚れでも
おとすかのように


何度も 何度も



私を求め



強く抱いた。




「俺のものだから」

を くり返しながら…






そして

疲れきり

激しい睡魔に襲われる私に




T君は言ったんだ。













「豆腐買ったレシート見せて」



No.144 11/10/23 03:42
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 143

束縛を


愛と とるか



自由を




孤独と とるか






この時の私には


何も見えていない。



怒りのエネルギーって

とてつもないから



夫や女に向けて放出した分で

燃えカスみたいに
なってたのかもしれない。



流れに 逆らうことに


疲れてた…






気づけば


『はじまり』の日から


1年が経ち

私の嫌いな 秋が始まる





約束の日は


静かに 近づく…








「衣更えすると とたんに暑くなりますよね~…」

暑がりのNちゃんママが
冷房を入れる。



「N!制服かけて来なさい!」

制服を着たままの摩耶と
リビングで大騒ぎしている Nちゃんには 聞こえない。


「N!! … もう。」


Nちゃんママは
とりあえず 子供には厳しい。


あまり叱ることをしない私には
とても お母さんらしく映る。




お母さんらしい…

か。




彼女にも

女の部分はある。


母親たちは みんな
いつまでも 女だ。



なのに

男は それを忘れる。


母親になった
かつての恋人への トキメキを…







「鳴ってますよ♪」

「…ん?」


「ラブコール♪」



私は 大袈裟に ため息をつく。



そして 電話に出ると

「ごめんね💦 Nちゃんママ💦

電話かわってって…」


と 彼女に差し出す。

「はいはい♪」


毎度のことだ…






「心配しないの~! …」


彼女の声を聞きながら

エスカレートする彼の束縛を



また考えはじめる…



No.145 11/10/23 04:33
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 144

「マー 明日 F君に
サインもらいに行くんだ~♪」

「サイン?」



帰りの車の中

興奮ぎみに 摩耶が話す。

「Nちゃんと約束したの!
だから 明日は マーの おうちで 遊ぶんだからね!ママ!」



F君は 幼稚園が一緒だった
ひとつ年上の男の子。

小学1年生で
家が アパートの近所にある。



「どうしてサイン欲しいの?」

「やだな~ ママ… 好きだからに決まってるでしょ!!」




ちっちゃな女が

ここにも ひとり…






「イヤって言われたら
…どうする(笑)?」

「もらえるまで帰んない!」








娘よ…



母はF君に

彼女がいない事を 祈るよ。








「さ~て
今夜は何を 食べようか?」



「ガーリックの お肉~♪

T君も好きだもんね!」












忘れていた…



No.146 11/10/23 05:05
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 145

春も 夏も 冬も
だんだんと
静かに やって来るのに


秋は 突然はじまる。

夏が


突然 終わるせいだ…





小さな頃から 秋が嫌い。

理由が わからなかった私に



ひとつ 理由が出来た。








出会って1年だね…


なんて話してるのかな。



夫は 女の私より
そういう事に まめだった。


3度目の正直で
つき合い出した 18の夏。

1ヶ月目には
鏡とブラシのプレゼント。


『リーが いつでも
可愛くいれますように』
って 手紙を添えて。



それから 毎月 毎月
その日が来ると
プレゼントと手紙を くれた。



今となっては
日づけすら おぼえていない…







会いたい気持ちが つのる。


また 焼けるように
胸の中が熱くなる。



忘れたはずの痛みが


嵐のように
身体中を 駆けめぐる。




どうして こうなった?

なんで
私は 苦しい?




あてつけみたいに した恋は

結局 自分を堕としただけ…






たすけて…





たすけて…









No.147 11/10/23 05:41
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 146

T君の反乱。




眠れなくて
寝返りを 何度もうつ私。


それだけで
私の心が 夫にあることを
悟る。





あの頃

彼の気持ちをくむ事を
忘れていた…





愛されていることに

あぐらをかいていた私は


お姫さまのように
お城の中で

ただ じっとしてたんだ。




大切にされるのは

あたりまえ。




私がいなくちゃ

生きてゆけない… でしょ?











電話が 鳴らない。



朝 出かけたきり

お昼になっても


夕方になっても






電話が鳴らない。






あの時の

言いようのない 気持ち。


必死で理由を探す。






見つからない。






私は今でもそうだが


自分から
電話をかけることをしない。



必要とされれば
応えるが


こちらからは 求めない。

こわいんだ。
拒まれる ことが…







何も 考えられない。




また



捨てられたんだろうか








真っ黒な雲が

私の全部を 覆い




お姫さまの お城は

音をたてて



崩れてゆく…



No.148 11/10/23 14:30
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 147

「やめて!!」






「… さわらないで!!」













「近づくな!!!!!」



私は 手の中で


握ったナイフを確認する。




とても






安心した。







刃の先を


彼に向けたまま 後ずさる…




「さわるな…」


「私に さわるな…」





呪文のように

繰り返し繰り返し




つぶやきながら…










「そんなこと言うなよ…」




「愛してるんだ」



近づいて来る。











狂ってる






狂ってる









彼は 狂っている







そして 私も














ずっと




ずっと













狂っていたんだ…





No.149 11/10/23 15:11
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 148

真実は


ひとつしかない。







残念だけど


嘘が存在するから




真実も また生まれる。








人を信じることは


難しいね。






裏切りは



ある日 突然







やって来るから…











平成9年 4月1日




私と夫は 離婚した。



摩耶が
小学生になる年を選んで






もうひとつ







エイブリルフールを



選んで。









あの日の 夫との約束は


これである。









エイブリルフールに
届けを出せば



「なんちゃって!」



って

なかったことにできそう…







という
哀しいバカな想い。


最後まで馬鹿な


2人の約束。









そんなにも

お互いに未練を残し
離婚する私達を


まわりは わをかけて

馬鹿だ 馬鹿だと言った。




馬鹿は



百も承知だ!












私は


とても清々しい気持ちだった。




笑顔で…


というよりも




バカ笑いしながら
離婚届けを提出された
役所の おじさんだけが



ただ 困惑していた。









そして…




No.150 11/10/23 17:41
クロス ( ♀ gAVFh )

>> 149

5年後…






私は T君に

やいばを 向けた。









何度も


別れようとした。


それでも

愛に飢えていた私は


彼に すがるしかなかった。








1日中

電話のなかった あの日


彼の反乱に

屈した お姫さまは



奴隷へと変わった。







求められなければ

自分を保てない私を



T君は 知った。





あの日の私は


夫のことも

女のことも





頭の 片隅にすら
思い浮かべなかったんだ。




「愛してる…




愛してる」




口にしたことのない言葉が


泣きながら
私を抱きすくめる


彼に


向かう。







あの日をさかいに


監視の目は さらに強くなり



私はまた

溺れはじめる…









自由なんか いらない。


愛されていれば




それでいい。




  • << 151 「摩耶ちゃんは 本当に しっかりしてるから… 私が頼ってしまうんですよ(笑)」 春 5年生の家庭訪問。 入学した時から 毎年 担任の先生に 同じことを言われる。 …私が …そうしたんだな。 離婚を機に 私は 公営の住宅へ引っ越し 会社勤めを 始めた。 「Nちゃんの おうちは? うちの後でしたっけ?」 猫好きだと言う 小太りな 若い女性担任は 飼い猫のアメリカンショートヘアを 愛しそうに撫でながら 「さっき 行って来ました! 奥から出て来たの見て 私 Nちゃんの お姉さんかと 思いましたよ💦💦」 美は 健在である。 彼女もまた 外で 働きはじめた。 もちろん 「私も 恋したいなぁ…」と 冷えた夫婦関係をなげきつつも 悪さはしていないが(笑) Sは 高校生(!)と つき合いはじめ 奮闘中。 Aちゃんには 離婚をした日 電話で 心から詫びた。 私が 会社にいる間 摩耶は あの家にいる。 かつての義父母と義弟は 全力で 摩耶を可愛がってくれた。 そして 夫は あの家から 消えた。 「じゃあ 1年間 よろしくお願いします」 立ち上がり 歩き出す先生の足に 猫が じゃれつく。 「チャオ!!」 ま~るい目が 私を 見つめた…。
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