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さよなら、あなたへ

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旅人( ♀ )
15/02/15 16:28(更新日時)

エキサイトラブを書いている主です

いつも女心で物語を書いてるので、気晴らしに男サイドからの短編小説を書きます

すぐに終わります

よろしければ読んでください

宜しくお願いします



14/11/23 00:20 追記
◆お知らせ◆

もしまだ読んで下さっている方がいらっしゃいましたら、訂正があります

すぐに終わりますなんで、書いてしまいましたがすぐには終わらなさそうです(-人-;)

いつも、訂正ばかりで申し訳ございません

そして読んで下さっている方がおられましたら、ありがとうございます(*´∀人)



15/01/16 19:52 追記

http://mikle.jp/thread/2177109/

感想スレです
よろしくお願いします

タグ

No.2155848 14/11/07 22:09(スレ作成日時)

新しいレスの受付は終了しました

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No.101 15/01/15 17:59
旅人 ( ♀ )


☆主です

いつも読んで下さっている皆様ありがとうございます!

色々ありましたが、だいぶ立ち直ってきましたので、やはり感想があると違ってくることもあり、もうスレ立てしないと言いながら、よく考えて感想スレを再開致しました。

一言だけでも嬉しいので、宜しければ感想やご意見、宜しくお願い致します。


http://mikle.jp/thread/2177109/



次頁からは、お話が続きます!

No.102 15/01/16 13:44
旅人 ( ♀ )

>> 100 病気によるストレスからなのか、重症の蕁麻疹に悩まされた。 頭皮も顔も首も上半身、下半身全てが痛痒い。 掻くとみみず腫のように全身… 副腎皮質ホルモン剤を服用してから、顔が腫れ上がってきた。

ムーンフェイスと言うらしい。

ホルモン剤は長期間服用すると体に害があるのでサイクルを決めて一旦、お休みをしては、また服用する。


ホルモン剤が抜けたら、抗ヒスタミン剤を服用するがあまり効果がない。

体調は優れないけど、その変わり顔の腫れも収まる。

また腫れ上がるけど...

私の顔は、よく誉められていた。

パッチリ二重に長い睫毛、色白の小顔。

その顔も腫れ上がることにより破壊された。

気に入っていた大きめの二重も肉で埋まり一重になり、睫毛も抜け落ちた。


やりきれなかった。


その為、アイプチをしたりマツエクもした。


通院する病院先で気になるあの人のこと、少し顔に自信がある時は、まじまじと見つめたこともあった。


テキパキ仕事をこなし笑っているけど、やっぱり悲しい目をしてる。

横顔も綺麗なのに…





綺麗なのに、俯いた時の目が悲しげだよ。

あなたも寂しいの…?

出口の見えない迷路をさまようように生きてきたの?

受付で仕事をこなす彼をずっと見つめていると、目があったこともあった。


鼓動が激しくなる。


やっぱり、寂しくて人恋しい顔をしていた。


恋心は募るばかり。ただ遠くから見てるだけなのにね。


消えてなくなってしまった何かを、追い求めるようなあなたへ。



私も同じだよ。でも一方的で、あなたに近づけることはないよね…





No.103 15/01/16 19:48
旅人 ( ♀ )

そんな時、従姉妹で仲良くしてる杏ちゃんから電話があった。



『愛~!体調どう?落ちついてたらさ、コンパに出ない?私は行けないんだけど、前に紘菜ちゃんていう私の友達に会って連絡先交換したでしょ?
あの子と行ってー!』



杏ちゃんからコンパの話をもらい、嬉しくはなかったけど暇潰しに行くことにした。


杏ちゃんは誰もが認める美人。

当たり障りなく付き合う分には、サバサバしてるし窮屈な感じがしないから良い。

けど、杏ちゃんは危ない女だよ……


少し風俗で働いて、高級マンションに一人で住んで、仕事を辞めてからも海外旅行に行ったり高級品を揃えたり。

パトロンがいたみたいだけど、急死したみたい。

それからも無職なのに好き放題やって、借金作って…



闇の仲間と手を組んで、誰かを騙しお金を奪い捕っている。

借金がある場合の、ひったくりは罪にならないんだって。



杏ちゃんも罪深いけど………私はもっと罪深いね…



人殺しだから。




真っ黒な十字架に身も心も蝕まされていく。

苦しんで当然だ。



私は辛くて仕方なかったので、翌日のコンパは暗い自分を捨て別人の“愛”で参加すると決めた。





No.104 15/01/18 17:22
旅人 ( ♀ )

そのコンパで、まさかのことが起きたのだ。

恋してるあの人が私の隣の席に座った。

私は、お高くとまった女を演じた。

憧れてたんだ。

わがままで、すぐに不機嫌になるような、お嬢みたいな女の子に。

素の暗い私には誰も寄ってこない。

だからと言って、明るくて爽やかな女の子は、素が暗いので演じるには私には無理がある。



お高くとまった私は苦い記憶は一時消去して、普段のモヤモヤを発散するかのように、わがままな女になっていた。



『こんなに綺麗な子が来ると思わなかった』

『ふーん』

『名前は?俺、亮介』

『亮介ね。私は愛』





亮介って言うんだ。

亮介は私を口説きまくってきた。

女馴れしてる。

遊び人だと思う。



でもね、やっぱり亮介は寂しい目をしてるよ。

それにしても、まさかこんな場所で出逢えるなんてね。


『愛ちゃん、どんな仕事してるの?俺は病院の事務』

『私は洋服屋の~販売』


私はわざとチャラく話した。

チャラい方が近づきやすいでしょ?

簡単に遊べるでしょ?



亮介、病院勤務だって知ってるよ。

ずっと見てたよ。

亮介だけをずっと見てたよ。




このコンパが亮介に近づけるきっかけだった。




No.105 15/01/19 10:11
旅人 ( ♀ )

口から心臓が飛び出てしまいそうって、あの時の感情のことを指すんだ。

亮介と出逢ったコンパで、冷静を装っていた私の心は久しぶりに高波のように大きく動いた。



あれから…

わがままな女を演じ亮介と身体を重ね、付き合い始め、遊びだとわかっていても満たされていたよ。

私に本気にならなくたっていいの。

もうすぐ居なくなるんだから。

クリスマスに二人で行った、こじんまりとした家庭的な串揚げ屋。

あれが最後のクリスマス。

帰り道は夜空に星が煌めいていた。

星がシャワーになって舞い降りてくるような、ロマンティックな幻想に陥ったよ。

来年は何回、亮介に会えるかな?


私の知らない誰かと結婚するまで、たまにで良いから傍にいてよ…

亮介、恋してるもんね?

すぐにわかったよ…


私じゃない誰かと恋に落ちるなんて当然なのにね。
たまに傍にいてと願うことさえ、強欲なのに。



胸が痛いんだよ………

亮介……

亮介……


この想いを閉じ込めてしまいたいよ…

私が居なくなっても亮介は、痛くも痒くもないのにね。


バカみたいだね。早く死ねってね…


~♪♪♪~


その時スマホが鳴った。



誰!?




杏ちゃんからだった。


No.106 15/01/19 14:56
旅人 ( ♀ )

「もしもし…?」


『愛~!私、杏!』


「どしたの?」


『…ねぇ、今から飲まな~い?奢るからさ!渡辺さんの店だけど。ちょっと色々あってさぁ。ねぇ付き合って…』


渡辺さん…ロン毛で見た目はオタク。

杏ちゃんの闇の仲間。

よく、きょうだいと嘘をつきコンビを組んでるみたいだ。

気は乗らないけど……何でこうやって、激しく沈んでる時に誘いが来るかなぁ…


「うん……いいよ。渡辺さんのお店まで行けば良い?」

『うん!』


寂しさを埋めるために飲みに出ることにした。

今日は仕事が休み。

年末だし、どっちにしても忘年会シーズンでどこのお店も満員だろう。

渡辺さんのお店で正解かもしれない。


アレコレ思いながら、亮介からクリスマスプレゼントに貰った香水、ベルドゥミニュイを手首に適量つけ、耳元にもつける。

トップコートは甘さの中に苦味があり、ミドルコートは深い甘さに代わる。


私の好きな香りだ。


抗ヒスタミン剤から、ホルモン剤にサイクルが代わった時に、香水がつけれる。


ホルモン剤は魔法のクスリ。

体に負担がかかる代わりに、体の全てが楽になる。

痒みもない。



ただ、顔は腫れ上がってくる。

私は顔の両サイドを髪の毛で隠した。



そして家を出て、渡辺さんのお店へ向かう。





No.107 15/01/19 19:39
旅人 ( ♀ )

カラカラ…

渡辺さんのbarがあるビルに着き、渡辺さんが経営する〈blackwithblue〉の古びたドアを開けた。


「いらっしゃい」


渡辺さんは無精髭が目立っていた。
キシキシとした白髪混じりの長い髪も乱れ一層、清潔感は無いに等しい。


「あ~愛!」


カウンター席に杏がいた。

繁忙期だと言うのにその他に人はいない。

店内も椅子は皮が破れ壁にはヒビがあり、テーブルは指紋だらけ。

お酒の種類も少なくオツマミだってない。

挙げ句、渡辺さんも客商売なのに無愛想だ。

まぁ、このお店は、あらゆる人からお金を騙し取る隠れ家みたいな場所なのだろう。


私は杏ちゃんの隣に座った。


「久しぶりだね。杏ちゃん」

「ねっ!愛、お酒は?ジュースにする?」

「折角来たから飲むよ。ウーロン杯…いいかな」

「了解!渡辺さん、ウー杯お願い!」


本当は強い薬を服用してるから、お酒はドクターストップがかかっている。

でもいいよ…私の身体なんて…

消えることのない失望感を抱えながら、左隣の杏を見た。


濃いブルーのタイトなジーンズに真っ赤なドルマンニット。

首もとには繊細な作りのゴールドのネックレス。

杏ちゃんは決して見た目は派手な格好はしない。

どちらかと言うとシンプルだ。


きっと土台に自信がかるから身を包むものはシンプルに限るのだろう。


シンプルな服装に薄化粧でも目立つ美しい顔。


でも、この人中身は濃厚だ。


だからこそ魅力が強いのだろう。


亮介だって………杏ちゃんになら、ゾッコンになるかもね。


杏ちゃんに…………出逢って欲しくなんかないけど…………





No.108 15/01/20 20:38
旅人 ( ♀ )

杏ちゃんはロゼワイン、私はウーロン杯、渡辺さんは焼酎水割りで三人で乾杯した。


杏ちゃんは一気にワインを飲み干した。


お酒をやけに飲む姿が、こんなに様になる人はいるのだろうか…

「おかわりお願い」

「はいはい」


どうしたの?何があったの?私が聞こうとした時。


「愛~…最近、落とした男がいたんだけど、金とれなかったぁ…。まぁたまにあるんだけどさ!失敗も」

「そっか」

やっぱり、その話か。

「うん。なかなかイケメンでね。疑似恋愛も悪い気がしなかったの。セックスもうまかったし。イヴにはこれ、ネックレスしかもらえなかった」


杏ちゃんは胸元に光るネックレスを指差した。

ネックレスしかって……普通だけどね。


「そうなんだ」

「うん。結果的に金取れないんなら、良いものもらいたかったなー。まぁ、病院の事務の仕事と聞いた時点で止めときゃよかった!そんなに給料高くないしね」

病院の事務…?


「そうなんだ…どんな感じの人だったの?」

私は少し動揺しコップを強く握り締めた。



「ん?……あー写メあるわ。ちょっとまってね」

「うん………」



何故か胸騒ぎがしていた。

一秒が凄く永く感じる。

早く写メを見せて?



「あった!ラブホで撮ったやつ!……この人!けっこうカッコ良くない?整ってるし目元に色気もあるでしょ?」















杏ちゃんが見せてきた写メは、上半身裸の亮介だった。


No.109 15/01/20 20:55
旅人 ( ♀ )

落とした男………

イヴにネックレス……

セックスが上手かった………


私は、杏ちゃんの言葉で二人が愛し合う姿を想像し吐きそうな位、胸の内がざわめいた。

亮介………

亮介の恋した相手は杏ちゃんだったの?

杏ちゃんの決め細やかな肌やプルんとした唇にも触れたんだ………

私は絶望した。

亮介が誰かと恋をするのは当然なのに。

こんな魅力的な杏ちゃんと過ごしていて、裏切られたの?

失恋した気分と亮介が心配になる気持ちが、混ざりあっていた。



「やだ!愛?悲しそうな顔して…!まさか、この男バリバリタイプ?羨ましいの?」

杏ちゃんが高笑いしながら大きな声でいい、またワインを飲み干した。

「えっ?私、悲しい顔してた?やだな。そんなつもりなかったんだけどね」

「…ふーん。てか、愛さ、いつ死ぬの?自殺するんでしょ?」


杏ちゃんは酔っぱらってきていた。

杏ちゃんは私の心の葛藤を知っている。

人殺しの件も……



「うん………死ぬ………もう少ししたら………」


「あっそ。決行する時いいなー。燃炭でいんだよね?それとも放火?」


「まだ、ハッキリとは………」


「あっそ。燃炭なら知り合いに頼んだら手に入るからね!……燃炭って凄い苦しいみたいだね。歯を食い縛るから舌を噛んで穴もあくし歯も折れるって!愛、頑張ってね!フフッ」

「…」


やっぱり杏ちゃんは、普通じゃない。

私も普通じゃないけど、杏ちゃんも普通じゃない。



No.110 15/01/21 13:43
旅人 ( ♀ )

《亮介の気持ち》


見たみたいですよ


いつも、20時に〇〇駅の近くで待ち合わせしてたから、何となく違う誰かと一緒に居るような気がしたって


女の直感ってヤツッスかね


その一緒にいた人と、随分仲がよさげだったそうで


彼女ですか


アンタさ、何人彼女いんの


姉ちゃんとは結婚の約束もしてたんだろ


バカにしてんよな


女をモノとしか思ってないだろ


モノとしか見てないんだったらさ


みんな遊びにするべきだったな


姉ちゃん、きっとノイローゼになってたんだよ


アンタが追い詰めたんだぜ


かなりの悪質なことしてくれやがって


アンタのせいでさ





















姉ちゃん、自殺したんだから










ある日、彩の弟からスマホに電話が来た。

彩は俺のことを弟に話してたんだろう。

随分とチャラい口調だったが、まともなことは言ってたな。

はいはい。

ごめんなさい。

もう全員、遊びにします。



でもよ。

自殺ってよ、それだけ彩も弱かったんだろう。

俺だって、やめとけば?のサインは何度も出したんだぞ。

色んなことが重なって自殺ならまだしも恋愛ごときだろ?

女どもは恋愛ごとき?

なんて怒るだろうが、そうなんだよ。

恋愛の痛手のみで自殺なんてしてたら、何個命があってもたりねーよ。




俺だって自殺しないとダメじゃないか。

要は謝ればいんだろ?

本当は、こんなロクデナシには関わらないのが一番なんだけどな。


No.111 15/01/22 08:52
旅人 ( ♀ )

杏ちゃんのお店から出て一人飲み屋街をさまよっていた。


杏ちゃんに落ちた亮介。

亮介に抱かれた杏ちゃん。

イヴに過ごしたふたり…


通りでね…亮介がハッスルしてると思ったよ。
やっぱり的中か。


生きてる資格もないのに私に心がある限り、私は“自分”に苦しめられる。

ふと、道路に目が行った。

多数の車が走っている。



飛び込めば死ねるよね…

私は歩道から一歩二歩踏み出す…

私を侵す病。

いずれは死ぬでしょう。

だって再発しても治療費も、もうないから確実に死ねるわ。

けれど、最後に見つめるのが寂しい色をした天井なのは嫌。


だから…人ごみの中で…!



ありがとね、亮介。

短い期間だったけど幸せだったよ。

他愛もない話ってさ、一番幸せじゃない?

身も心も軽くてさ。

自由に言葉達が私達を繋ぐよね。



あ、そんな風に思うのは私だけか。

亮介にとって私は眼中にないよね。

たまーに暇を紛らわす相手だよね…

それでも好きだったよ。

何故、こんなに好きになったのかはわからないよ…



不思議だね。

私ね、さよならって言葉は不安なの。

二度と会えない気がして。

バイバイは笑顔になれるんだけどね。


でも、二度と会えなくなるから……



さよなら………



さよなら…………



さよなら……………




私は、道路に飛び出した。




No.112 15/01/22 15:06
旅人 ( ♀ )

私は交差する車や車の影、夜道を照す街灯、飲み帰りの陽気な人々の声を感じながら、また一歩踏み出し走れば…この意味のない命が終る。

そう思いながらも恐怖感もあった。

でも…

走る!





私は走った。











つもりだった。

私の右腕には温もりがある。

誰かにぶつかったわけじゃない。

しっかり私の右腕を誰かが握ってくれている。



亮介なの?

温もりの何もかもを亮介だと思う癖があった。

亮介が運命的に私を救いに………




ありもしないことを心の中で祈っていた。

振り返ると知らない男がいた。

爽やかだけど、ちょっとアクの強い顔の男がいた。


「…何するつもりだったの?動きがフラフラしてたよ」

「…」



知らない男。

亮介じゃない人に心配されても、ちっとも嬉しくなんかない。

八つ当たりしようかな?



「もう!死のうと思ってたんだけど!アンタのせいで止まっちゃった!はなしてぇ!」

こんな些細な我が儘な言い方さえ普段、生き人形の私には冒険なんだ。


「…何バカなこといってんだよ!こっちこい!」


知らない男は私を歩道まで引っ張った。


「強引…腕が痛い……」

ホントに腕が痛く、その男に言い顔をあげた。

すると、男はキョトンとした顔をしている。




「…あれ?どっかで会ったことあるな」

やだ。ナンパ?古いやり方。

「会ったことないですよ!」



「あるよ!…………あっ!愛ちゃんだ!」

「…えっ?」


知らない男は私の名前を言った。




No.113 15/01/22 17:15
旅人 ( ♀ )

「何で私の名前知ってるの…?」

私は少し挙動不審になり、一気に陽気な表情を浮かべた男に聞いた。




「ほら、前にコンパで会ったじゃん!」

「コンパ?」


コンパ…………あっ!もしかして!

「一也だよ!覚えてない?愛ちゃん殆ど亮介と話してたもんな」

「あー…思い出した。うん!髪切った?」


なんと亮介と出逢ったコンパに参加していた一也君だった。

一也君のことは覚えてるけど、今、短髪の一也君はコンパで会った時、毛先を遊ばせたようなフェミニンな髪型だったのだ。

だから…気付かなかった。


「髪…あ、うん。結構前だけど会社の上司に注意されて切ったんだ」

「そっか……」


「…でも死にたいなんてどうしたんだよ?…ここじゃなんだから、どっか店に入ろうか?」

「…」


一也君が、お店に誘う前に亮介のことを聞かないのは、亮介は私のこと一也君に伝えてない。

わかってはいたけど。やっぱりか。

最初から遊びだったか。

そりゃ…あんな軽いキャラだったし当然だよね!


「はぁーーー…。うん、行く」


私は大きなため息をついてそう言った。


気持ちがどうにもならなくて、冷静に考えることもなく一也君と並んで歩き出した。


「あ、500yenBarあるね。あそこで良い?」

「うん…」


500yenBarの近くに亮介と初めて二人で行ったイタリアンのお店があった。


夜のネオンがお店の外壁を照す……


ユラユラと揺れるネオンの光に、二度と戻らない甘く切ない時間を甦させられている感覚に陥っていた。





No.114 15/01/23 13:04
旅人 ( ♀ )

一也君と500yenBarに入店し二人用のテーブルに案内され向かい合わせになり座った。


何となくぎこちない。


「飲み放題にする…?あ…あんまり飲まない方がいいな。単品にしよう。俺はビール、愛ちゃんは?」

一也君…決断力がありそう。
それに比べて亮介は優柔不断な所もあったな。

あ……。

当然のように亮介と比べる自分が嫌で、またため息が出た。


「私は烏龍茶にする」

「オッケー」


一也君は、店員を呼び飲み物とオツマミセットを頼んだ。
そして私の顔を自然な目付きで見る。

へぇ。結構、瞳の奥がピュアなんだ。


この人はきっと恵まれた環境で生きてきた人だ。

分析が癖の私は瞬時にそう感じた。



「愛ちゃん、どうしたのさ?何かあったの?俺で良ければ聞くよ?」

「…」

突然何も言えないし、本当のことは言わない。



「男か?」

一也君は声を潜めて囁いた。


本当に亮介からは何も聞いてないんだ。

悲しいや。図々しいけど素直に悲しい。


「いや~…色んなことが重なったの。仕事や友達や家族のことが」

「そうか……例えばどんなこと?話したら楽になるかもよ」


「ううん…私はね、辛いことを話すと余計に辛くなるから。人の話聞くことで気が紛れるの!一也君の話聞かせてよ」



私は嘘をついた。本当は誰かに話を聞いて欲しい。


でも言えるわけないのよ……



No.115 15/01/23 14:50
旅人 ( ♀ )

一也君の話を聞きたいと言うと彼の表情が曇った。


「一也君こそ何かあった?」

「ん?んー…」


一也君はビールを一口飲み静かにジョッキーグラスをテーブルに置いた。


「私で良かったら話して?」

「怒んない?」


「えっ?」

「…コンパに行ったりしてたけど…俺、本命の彼女がいたんだ」


「あらっ…」

「…まっ、予想はつくと思うけどフラれちまった!
これでもね、彼女には好青年で通ってたんだよ(笑)」


「それって騙してるじゃない」

「はっ?騙してないよ(笑) 好きだから良く思われたいし矛盾してるけど不安にさせたくなかったし」


「ふぅん。じゃあ浮気がバレたの?」

「いや…遊んだ女はいても本気の子は彼女だけだったんだ。
何かさ!他に好きな人が出来たんだって」


「そうだったんだ…」

「うん…俺さこう見えてマメだし彼女には優しいし彼女にとって不安要素ゼロの男だったと思うんだ。
だからなのかな…つまんなさそうだった、いつも。本気で俺を好きだったかもわからないよ…」


「それはわからないよ…どんな感じの子だったの?遊んでる風な子?」

「いや、見た目も中身も真面目な子だったよ。あ…写メ見る?」

「うん…」


私は女々しく写メも取っといてるんだ思いながら、一也君が見せてきた写メを見た。


確かに凄く真面目そうな子………


あれ?


この子どこかで…………



No.116 15/01/23 23:02
旅人 ( ♀ )

どこかで見たことがある…

写メを見てしばらく考え込んだ。


「…愛ちゃん怖い顔してどうしたの?あっ、くそ真面目っぽい感じだから意外だった?」

「ううん…清楚で優しそうな子だね」


一也君と話してる時、思い出した。


そうだ!私のお店に亮介と一緒に来てた子だ!

亮介って…友達の彼女にも手を出すの?

あっ!単に友達の彼女だし、やましいことはなく一緒にいたってことかな?

私は後者の勘が的中なんだと、ちょっぴり肩の荷がおりた。


「うん、清楚で中身も誠実で本命はこいつしかないないって思ってたのにな。まぁ、俺も遊んでたしバチが当たったかな」

「そんなバチなんて言わないでよ…結婚前提だったの?」


「…ああ。俺の中ではね。彩…あ、彼女には伝えてなかったけど。まぁ結婚を考える割には家族にも友達にも会わせたことはなかったけどね」

友達にも?私の鼓動は一気に早くなる。


「そうなんだ。友達に写メも見せたことないの?」

「…えっ。いやー。あるよ。でも超美人の遊び相手の写メ見せてた。今考えると俺って最低だな…」


落ち込む一也君の目の前で私は、落胆した。

亮介、一也君の彼女だって知らない…

じゃあ、やだ…まさか本命……?


「…反省してるんだから、次はもっと良い恋ができるよ」

私は無機質な声で言った。

「そうか?何か逆に慰められてるね…ごめん。しかもさ、別れた彼女は好きになった人と付き合ってんだよ」

その言葉に更に鼓動が激しくなる。


「どうして知ってるの?」

「最近、電話があったんだよ。彼が冷たいって。辛そうだったけど結婚の約束もしてるんだってさぁ。トホホだよ…」


「そ………っか」

結婚…亮介、あの子と結婚するんだ…

そっか……結婚か……


「あ、あれ?愛ちゃん泣いてる?」


私は涙を堪えたつもりだったけど、涙が次々と流れた落ちていた。




No.117 15/01/24 12:18
旅人 ( ♀ )

「…あ、ごめんね。なんだろう…悲しくなって」

「ごめん、ごめん。俺が暗い話したからだな。明るい話しようか?」



一也君には申し訳ないけど、亮介のことでいっぱいになっていた。

亮介が結婚するんだもん……

じゃあ最後に……


「ごめんね。一也君…明日も仕事だし帰るね!お金…置いとくから!」

「ちょっ!愛ちゃん?」


私は一也君の言葉を聞かず、お店を飛び出した。


深夜の飲み屋街を一人切なく歩く。

涙で視界が揺れる。

綺麗なはずのネオンさえ悲しい色に見える。


亮介……亮介……

遊ばれてるとわかってる…

だけど…身も心も亮介から離れられない…

素肌で感じた亮介のぬくもり

亮介の無邪気な笑顔

思い出すだけで涙が出るよ

胸がしめつけられそうだよ



亮介……

辛い……

亮介を恋しく想うことが辛い…

それは実らなかった恋だから…

わかっていたはずなのに私、強欲だね…



最後のお願い……


最後に亮介のぬくもりが欲しい。


願いが叶ったら決行するから。


罪を償うから。



その時。


~♪♪♪~


亮介から着信があった。




No.118 15/01/24 22:54
旅人 ( ♀ )

《亮介の気持ち》




姉ちゃん可哀想だったよ


ざっくり切った手首を浴槽に沈めてさ


浴槽は血が広がって


血の海だったよ………



眉間にシワを寄せたまま目を閉じててさ


髪の毛も乱れててさ…


真っ白なニットにも血が飛び散っていた




真っ白なニットのように


真っ白な心を持つ姉ちゃんがさ


あんたのせいで





汚ない色がついたんだろうな



俺が慌てて近寄っても動かなくてさ



頬っぺたに触れると冷たいんだ



近くで見るとますます悲しい顔をしてて



俺……



どうにかなりそうだったぜ?



でもよ、自宅の浴槽で自殺をしようと考えたのはさ、もしかしたらSOSのサインでもあったのかもな



すぐに見つけてもらえるじゃん



家族がいるんだし



発見も早かったしよ



姉ちゃんは、自殺未遂で終わった



ハハッ



今あんた、ホッとしただろ



でもな?



姉ちゃんに深い傷を体にも心にも与えたのは、間違いないからな



あんたさ、女いっぱいいんだろ?



一人俺によこせよ



だったら許してやるよ



出し惜しみはダメだぜ



一人マシなレベルで良いからよこせ




・・・・・・



そうだと思ったぜ。

彩の弟から電話があったあと、姉が死んだのに何で声が弾んでんだよって。


すぐにまた電話が来て未遂だと伝えてきた。


つーかよ、擦れっ枯らしな弟だよな。

人の弱みにつけこむしかできねぇのかよ。

女くらい自分で探せ!

マシなレベルで良いなら、すぐに見つかるから。

適当に甘い言葉で乗せときゃ女なんてコロッと落ちるから。

















と、言いたいところだが、俺は一人女をあげることにした。

喜ぶだろうなお互いに。

あー…ろくなことがないな。

まぁ、自分で蒔いた種なんだが。

俺は缶コーヒーを飲み干しスマホを眺め「あ」行を開いた。




そして何故か電話をかけてしまった。









No.119 15/01/25 12:24
旅人 ( ♀ )

亮介………

単なる都合の良い女なのに、亮介から電話が鳴るだけで私は生き人形から、普通の人間に変わるんだ。



「…もしもし」

スマホを耳に強く強く当てる。

亮介の言葉を少しでも近くで感じられるように…


『おぅ!ザワザワしてるけど出先か?』

「うん。飲みに行ってこれから帰るところだよぉ」

私は、わざとバカっぽいしゃべり方になる。
でも亮介、バカの前に “お”をつけてね。

それなら少しは可愛らしい?


『ふーーん』

「なぁに?どしたの?都合の良い女、愛ちゃんに逢いたくなりましたかぁ?」

『…くっ、アハハ。自分で言うか?……明日仕事か?……時間あったら俺んち来ないか?朝、送るから』


「どぉしよう。こんなに可愛いレディが夜中にアポ?どぉしよう…でも亮介!大好きだから良いよ♡」

『アハハ!可愛いレディ様、申し訳ございません。今どちらですか?迎えに参ります』


「〇〇北7丁目です。ナンパされちゃうから早く来てよね!ブサカワ愛ちゃん結構モテるのよ♡」

『はーいよ。じゃ今から車で向かう』


私は“おバカキャラ愛”を演じきる。

ずっと……いや、あともう少しだけ。


辛くて仕方無いことも亮介の声を聞くと紛れる…


神様からの最後のプレゼントだね…


遊びでも、傍に入れるだけで満足だから……





No.120 15/01/25 18:08
旅人 ( ♀ )

私はクリスマスに亮介と行った串揚げ屋の前で待っていると伝えた。

丁度、道路に面してて道路の脇に駐車スペースもある。

亮介を待ちながら思い出していた。


アツアツで運ばれて来た茄子と蓮根、海老の串揚げ。

お腹が空いていて甘いソースを絡ませて、茄子の串揚げをパクッと食べた。







『あっつつつ!あっつ~~い!』

『来て早々かぶりつくからだよ(笑)』

あの時の何気ない会話楽しかったな…

串揚げも美味しかった。

食べ物を美味しいと思ったのは、亮介に近づけてからだよ。



ププーッ


私が思い出に浸っていると、亮介の車、シルバーのアコードが止まった。

脈が強く打ち始める。

車内には亮介がいて軽く手を振ってきた。


大好き。


私の王子様。


一緒に居る時は私だけの王子様。


私は切なくてたまらない気持ちのまま、おバカな愛に変わり車に乗り込み亮介に笑顔を見せた。

頬にブイサインを添えて。


「亮介、会いたかったぁ~」

「…今日は人が多いな」


バカみたいな私に呆れる顔も好きだよ。


そして亮介の家に向かった。



No.121 15/01/25 18:08
旅人 ( ♀ )

発泡酒500mlを二缶買い亮介の家に着いた。

『私~甘~いお酒しか飲まないしぃ』

おバカぶりッ子を続けたが、ハイハイと軽くあしらわれ亮介はレジに向かった。


私のぶりッ子もお見通しで、クールに宥める姿さえにもしびれてしまう。


亮介の家のリビングで二人用のソファに二人で座りビールを飲み始めた。


亮介の部屋は殺風景で寂しさが漂っている。
男の一人暮らしって感じだ。

だけど……結婚するんだもんね……

よりによって一也君の元カノと。


「結構、飲んだのか?」

亮介が口を開いた。

「ううん。ちょっとだけ……あのさ」


女の勘だけど亮介、結婚するでしょう?


聞いてみたい…抑えきれない。

“おバカな愛”なら聞けるよね?


「ねぇねぇ、亮介~~」

「何?」






























「亮介、私と結婚してよ…」

はっ?私…何言ってんの?

やだ…

でも亮介なら軽くあしらってくれる…

隣に座っている亮介の横顔を少し恐れながら見た。

驚いた……


悪魔のような横顔…一瞬、亮介じゃない人に見えた。


次の瞬間、亮介のその表情が消えたかと思うと、あからさまな作り笑いで私の方を向いた。


「…そういうこと簡単に言うんじゃねーよ!」


淡々とそう言い私の頭を撫でた。

No.122 15/01/25 19:00
旅人 ( ♀ )

「やだぁ♡ 亮介!本気にしたのぉ?私が冗談言ってあげたのよ」

「ハイハイ…」

一瞬、私は焦ったけど平常心を保ち、作られたキャラ愛で雰囲気を明るくしたかった…

なんてことを言ってしまったんだろう…


「愛ちゃん一気しまぁーす!」

「おぉ!!」


私は発泡酒を飲み干した。

結婚なんて言葉を口にしてしまった罪の意識を薄れさせるために…
私は、最後まで亮介のマリオネットでいるの!


「はーーー」

「おー!スゲー!」


時間は流れ私は亮介の性欲処理係になった。
私は玩具よ。

たくさん私の体で感じて…


愛なんてなくても平気よ。


ただ、亮介の温もりを感じられればいい…


愛されて散るよりも、愛されないまま枯れる方が私らしい人生の24時。


亮介が私の中で泳いでいる。

私は亮介とひとつになっている。

忘れないよ…記憶に焼き付けるから…


切なさと恋情に溺れ葛藤しながら、亮介と体を重ね、やがて亮介は果てた。


コトがすんだら、そっぽ向いて一言も話すこともなく眠る。
























良いのに、亮介は腕枕をしてくれる。


「こないだの香水の匂いがする」

「あ~!うん♡今日つけてるの。気に入ったよ、ありがと!だありん♡」


「…俺も、愛から貰ったネクタイつけてやってるぞ!」

「つけてやってるぅ?レディに失礼ね!」

「なんだよ。都合の良い女なんだろ?どっちだよ」

「…どっちもよ。あ~それより幸せ!亮介が隣にいる」


作られた私で言った言葉だけど本当に幸せを感じていた…





No.123 15/01/26 14:55
旅人 ( ♀ )

「…今年も、もうすぐ終わるな。来年は2015年か平成で言えば…ん?あれ?何年だっけ(笑)」

亮介が突然話題を変えてきた。

「27年だよ!私、平成元年生まれでーす。亮介って……まさか昭和?だよね!
何か古い人に思えてきたぁ」

「なんだと!(笑) あ、そーいや愛の実家はどこ?年末年始は帰省すんのか?」

「…私、実家ないの」


「えっ?何で……?」

「両親も弟も亡くなってるから。祖父母も。だから孤独な女愛ちゃんでーす♡」

「ホントかよ?演技?」

「想像におまかせ♡」


「…んー。もしホントなら俺と似てる。父親はロクデナシで絶縁したし母親は亡くなってる。弟は、あっち…ヤクザの世界に染まってからは疎遠だ」



亮介……

やっぱり……

私が感じた亮介の泣いているような寂し気な瞳は、その過去から来ていたんだ。


亮介……

抱き締めてあげたい。

もう、結婚するとわかっていても私が抱き締めてあげたい…


寂しくて寂しくて仕方なかったんでしょう?



No.124 15/01/26 15:00
旅人 ( ♀ )

《彩の気持ち》




やってしまった。

辛くて辛くて周りが見えなくなり、手首を切ってしまった…

怖かった…滲んでは流れを繰り返す血が。

それでも、この辛い気持ちに終止符を打つために浴槽の水に手首を浸した。

何故、自ら命をたつ場所が浴室だったのか。
何故、浴槽にお湯じゃなく冷たい水を流したのか。





それは死にたいと思っていても、どこかで亮介さんへの当て付けにしたかったのかもしれない…彼の困惑する姿も見たかったんだと思う。


浴室はキッチンも近く、洗面所も近いので家族が足を運びやすい。

お湯にしたなら血管は開き、ますます出血する。

冷水なら血管を収縮してくれる。

冷静になると、やっぱり亮介さんへの当て付けだ。

弟の敬太が亮介さんに私のスマホから連絡したらしい。


それも狙いだったのかもしれない。


慌てふためいて亮介さんから連絡が来ると期待していたけど全くこない……

やっぱり利用されていたの?


初めて好きになった人なのに。





一人、付き合ったことがある人はいる。

上田一也。一也も実家住まいで、ご近所だった。

二年前あたりから朝の通勤で何度も会い声を掛けられたのが付き合うことになったきっかけ。

でも、一也は私にとって単なる優しい人でしかなかった。

好きだったのかもわからない…




それなのに………一也に電話しようとしてる私って…

No.125 15/01/26 15:04
旅人 ( ♀ )

《杏の気持ち》



あと一日で今年も終わりかぁ。

借金はあと580万円。

新しいパトロンのじじぃを見つけたから全額返済してもらうのも良いけど、体を要求して来そうだからやめとく。
生活費だけ頂戴しとくわ!


それに疑似恋愛をして金を巻き上げるのって結構快感なのよ(笑)


大金持ちの調子こいてる若めの男をターゲットも一見、手っ取り早く思えるけど、そう言う男ってプライドも高いしドケチなのよねぇ!


だから!


亮介位の男は丁度良かった。

けど、アイツは意外と洞察力もなかなかで冷静さもあった。

失敗に終わったわよ。


イラつくけど、私は懲りないわ!

私は生まれついての悪女よ…

脳内メーカーをやっても、びっくり!全部脳内は、悪で埋まってたわよ(笑)



まだまだ続けるの…

それに……



亮介、ありがとうね。

本当にありがとう。

カモを探す手間が省けたわ!











伊藤 敬太 26歳。


紹介してくれて助かったわ!


敬太に私のスマホの番号教えてくれたのね?

チャラ~~イ声で電話が来たわよ。


早速、食事も付き合ってやったわ!


敬太は外車の営業マン。チャラいし若いしお金はもってなさそうだから、長期戦で行くわ!

まずボーナスは頂きで、貯金があったとしたら30万から交渉しようかな?フフッ


敬太はもう私の美貌と色香にもうメロメロよ!


クスッ……フフフフフ……



来年も悪どく頑張るわ…!





No.126 15/01/26 22:03
旅人 ( ♀ )

~1989年 6月~


私はこの世に生を受けた。

お母さんはよく言っていた。

『二人とも難産でね、とっても大変だったの。お母さんハンカチをくいしばって頑張ったの。愛と誠が生まれた時の感動忘れないよ…愛も誠も、お母さんとってかけがえのない宝物なんだよ』


私と2つ下の弟、誠に“宝物なんだよ”…この話をよく聞かせてくれた。



両親と私と弟の4人家族。



どこにでもあるような平凡な家庭。

朝、お母さんは二段ベッドで眠る私と誠を起こしに来る。
片手にはブラシを持って。


私が起きるとすぐに髪の毛を結んでくれた。

今の子はシュシュが主流だけど、私の時は、ぼんぼりやカラーゴムが主流だった。
私がその日つけたいぼんぼりで髪の毛を結んでくれたお母さん。

そのあとは食卓テーブルにベーコンエッグにグリーンサラダが並び、誠と目玉焼きの目玉が大きい方を取り合いするの。


お父さんは若干、怠惰な雰囲気はあったけど食卓テーブルの私の目の前の席でいつも私達を微笑ましく、見守るように眺めていた。


そして、お父さんは白いお米、私と誠にはこんがり焼いた食パンにマーガリンと手作りのイチゴジャムを塗って手渡ししてくれた。



No.127 15/01/27 10:03
旅人 ( ♀ )

私はお父さんとお母さんが一番大好きだった。

二番目に弟の誠が好きだった。


引っ込み思案で気の弱い私は、幼い頃から友達作りも下手だったし、いじめられることもあった。


それでも温かい家庭があるから幸せだった。
一緒に遊んでくれるお父さん。お母さんは美味しい手料理、そして手先が器用なので裁縫や編物も得意でスカートやマフラーも作ってくれた。


誠は私がいじめられて泣いてる時、いじめた相手に怒鳴り付けたこともあった。


家に誠と二人の時、私宛のいたずら電話にも『二度とかけてくるな!』と臆することなく応戦し私を庇ってくれた。


泣いてる私にも

『姉ちゃん……泣くなよ。僕が助けてあげるから!ねっ?』

そう言ってティッシュを私に差し出してくれていた。







ネエチャン……ナクナヨ……






幾度となく言ってくれた、この言葉…


今でも昨日のことのように脳裏に焼き付いてるよ……




お母さんが作ってくれたスカートやマフラーは……あの日消えてしまったけど全部私の宝物だった……





No.128 15/01/27 14:45
旅人 ( ♀ )

平凡に暮らしていたある日私はお母さんの異変に気がついた。

夜、眠れなくて、まだ小学校4年だった私は、お母さんと眠りたくリビングの向こうにある、お父さんとお母さんの寝室へ向かう途中。


リビングのソファでお母さんが嗚咽を漏らしながら泣いていた。

私は慌ててお母さんの傍へ行った。


『…お母さん…どしたの?』

『あら…やだ愛、起きてたの?やだな。……あのね、お母さん歌を聴いてて歌詞に感動して泣いてたの』


『…感動?悲しくない?…お父さんは?』

『…うん!悲しいわけじゃないの。大丈夫よ。お父さん………頑張って働いてまだ帰ってこないよ……』


あの時の、お母さんの悲しい表情…今でも忘れられないよ。


その時は、お父さんは仕事が忙しいんだと解釈したけど、時期にそうではないことに気づいた。


土日休日で殆んど家族と過ごしていたお父さんが、土日もいない。

夜遅くに帰宅しずっとお風呂に入っていた。

私は一度、お父さんのいる浴室を覗いたことがあった。

何度も何度も体を洗っていた。


何故なのかわからなかった。


その真実がわかる日はそう先ではなかった。

お父さんは他にお母さんよりも好きな人が出来たみたい。

今ならわかる。

妻ではない誰かを抱き、まだ中途半端だったお父さんは身の汚れを丹念に落としていたんだと。

もう中途半端な気持ちじゃなく他に愛する人が出来たお父さんは、お母さんに離婚を申し出て家を出た。



私は優しかったお父さんが遠くなる悲しみと同時に差別心が芽生えた。

家族を捨てるなんて信じられない。


そして、お母さんの悲しい嘘にも心を痛めた。


No.129 15/01/27 17:06
旅人 ( ♀ )

お父さんとお母さんが離婚し母子家庭になった。

持ち家は売り払い、そのお金と慰謝料で古い市営住宅に引っ越した。


私と弟は転校することになり、弟は私と違い明るく社交的な性格なので、すぐに友達を作った。


私は友達もできず、いつも一人だった。


お母さんは香りの専門店の商売を始める。
全財産をその商売に投資し借金なしでのスタートとなった。

決してきらびやかなお店ではない。

ファッションビルの小さなスペースのテナントで商売していた。

人件費を抑えるために、少数の従業員を雇い、その商売は成功した。


お陰で生活苦にはならなかったけど、お母さんは夜遅くまで家にいない。

誠も友達と遊ぶのに夢中で、私は一人晩御飯の支度をしていた。


お母さんに料理を教えてもらっても飲み込みが悪くまだ10歳の私は理解できなかった。


だから学校でクラスメイトと家庭科の時間に作ったカレーか、玉ねぎとハムの炒飯。
ウインナーのケチャップ炒め。

これを繰り返し作っていた。


ただ、ひたすら寂しさを抱えながら。


こんな毎日が続き、私は中学生になった。




そして中2の冬…



私は…



お母さんと誠を殺してしまった……


No.130 15/01/28 10:38
旅人 ( ♀ )

私は中学に上がり本格的にいじめにあうようになった。

暗い性格、人の目が怖いあまり瞼の下まである前髪。

そんな陰気臭さが、いじめのターゲットになった。

休み時間にトイレへ行くと、戸を塞がれ出してもらえない。
私の机だけ教室の片隅にある。

登校するだけで、『何来てんだよ!幽霊が居るとイライラすんだよ!』と暴言を吐かれるのは当たり前。

そして隠され続ける上履き。




いじめられた内容を並べるとキリがない。
それだけ過酷だった。




心が折れて家族にSOSを出す気力さえなかった。

お母さんは仕事で忙しく相変わらず家のこともやっていた。


何のために生まれてきたの…?


とっても哀れなお母さんの宝物だね。



苦しみと絶望しかない日々。

誠は私の前髪が長すぎると何度も指摘してきた。

でもね、気持ちはわかるけど、あんまり視界を広げたくないの…

皆が私をあざけ笑う顔、鮮明に見たくないのよ……


弱った私をお母さんも軽く気にしてくれたけど、仕事で疲れてる様子だった。


お母さんは様々な香水のテスターを私にくれた。


香水を手首に付け香りに酔う時だけが至福の時間。

興味本意でメンソールのタバコを隠れて吸ってたからタバコの臭いを紛らわすにも香水は役立った。


そしてシンシンと雪が舞い降りる夜、部屋でタバコを吸っていたが、箱の中身が空になったのでタバコを買いにコンビニへ出掛けた。


No.131 15/01/28 10:41
旅人 ( ♀ )

コンビニの前の自販機でヴァージニアスリムを一箱買った。

当時は今のようにtaspoもなかったし、例えコンビニ内で買っても年齢確認もなかった。


自販機でタバコを買い歩いて5分の自宅へ戻ろうとすると背後から声をかけられた。


『愛~~』



この声は…予想はついていたが、振り返るとやっぱり杏ちゃんだった。

杏ちゃんとは実家が近く、偶然に何度かよく会っていた。

杏ちゃんは3つ上で、その時は高2。

ヤンキーとギャルの中間くらいな容姿。

眉は激細だが服装はふんわり系ギャルファッション。


『あ~杏ちゃん』

『愛、こんな時間に何してんの?』

『へへっタバコ切れで』

『あ~杏と同じだ!愛、中学生にしてヘビースモーカー?』

『んー、どうなんだろ』


『フフッ話は変わるけど私ね………』


その後、杏ちゃんの他愛もない話に1時間近く付き合わされた。


『あっ!もう0時、愛、話に付き合わせてごめんね。……あ、サイレン……消防車だ!』

『ホントだ!……どこかで火事?』

『だね、怖い怖い…じゃーまたねー』

『またね…!』



杏ちゃんと別れ、家路まで歩く……

サイレンの音は止まっている………

家に近づく度、煙臭い!


そして左かどを曲がり自宅へ近づく…

たくさんの人が群がっている……


火事って…








まさか。

No.132 15/01/28 10:43
旅人 ( ♀ )

そのまさかは的中した。

私の家が燃えている…………


まって、まって、ちょっとまって…!


動揺のあまり足がカクカク震えていたが私は家に近づいた。


家の中には、お母さんと誠がいる!!


『お母さーーん!誠ーー!!』

『君、危ない!』

私は警官に体を抑えられ前に進めなかった。

『離してください!!ここ私の家なんです!!中には母と弟が……』

『…気持ちはわかるけど落ち着いて!』


・・・・・・・・・

燃え上がる我が家の前はロープで仕切られ進入禁止とされた。

たくさんの人が溢れている。

消防士が火を消そうと頑張っているが一向に火は消えない。


何故……火事に……

も…しかして…




『助けてくれーーーー!!!』


誠の声がした……

身体中にナイフが突き刺さったかのような衝撃とショック……

夢だよね……

やだやだやだやだやだ…!!

お母さん…誠ぉ…


『いやーーーーーーーー!!!』


気が狂っていたと思う。

喉が潰れそうになるまで泣き叫び何度もロープを越えようとした。

だけど両サイドから腕を捕まれ身動きできない。


何度か助けを求める誠の声も、もう聞こえない………


お母さん、誠、お母さん、誠―――


燃え上がる火が小さくなってきたのは一時間位してからだった。






両親の離婚、イジメ…

そんなことで暗くなってた私…バッカみたい。


本当のどん底は、その日から始まった……




No.133 15/01/28 18:28
旅人 ( ♀ )

私の家は全焼した。



焼け跡から……お母さんと………誠の遺体が発見された。



胎児のように丸くなり真っ黒になった遺体を家族である私は確認させられた。

焼死の場合、自然と体がうずまっていくらしい。

火元はタバコの不始末。

私の部屋から火が広がったのだ。

確かに小さな灰皿に向かい乱暴に吸い殻を投げつけた。

きっと知らぬ間に火が消えぬまま何かに燃え移ったのだろう。

今でも変わり果てたお母さんと誠の亡骸を思い出すと気が狂いそうになる…



あの日から私は生き人形になった。

私が原因で、お母さんと誠は死んだのだから逮捕して死刑にしてくださいと警官に頼み込んだ。

でも、これは事故なんだよと、そう片付けられた。



あの時の辛い気持ちは言葉で言い表すことはできない。



何でそのあと、さっさと自殺できなかったんだろう。



私はお母さん方の祖父母に引き取られた。

高校も行かせてもらった。

お婆ちゃんは死ぬまで私を怨み呪った。

当然だ。

ご飯はいつも、白いご飯と味噌汁、お爺ちゃんとお婆ちゃんの余ったおかず。

女グセは悪かったお爺ちゃんだけど私には優しかった。


お婆ちゃんにわからないように私の茶碗に煮物や魚を数回に分けて入れてくれて、夜眠る前に私の4畳の狭い部屋に来てフルーツやお菓子を持ってきてくれた。


お爺ちゃんの優しさに泣きたいくらい胸が打たれたけど心が渇ききっていて、あの時は涙も出なかった。



ただ一人味方でいてくれたお爺ちゃんもお爺ちゃんが他界した2年後に亡くなった。




No.134 15/01/29 12:22
旅人 ( ♀ )

「ハッ…ハァハァ…」


やだ……

またあの時の夢…

あれから12年経った今でも頻繁に、あの時の夢を見る。


お母さんと誠を殺して12年もヌケヌケと生きてきたんだ。


ごめんなさい……

ごめんなさい……!


怖かったの…何度も決意しても死が怖かった…

“あの病気”になった時に尽きてしまえば良かったのに…


でもね、もうそろそろこの数奇な運命に終止符を打つから…


ところで今は何時?

私は壁にかけてある水色の枠の丸い時計を見た。


夜中の3時20分だった。

30日が仕事納めで帰宅し疲れてすぐ眠ってしまったんだ。

今日は31日。

2014年も終わる。



2014年も生きてしまってごめんなさい。



そして不意にスマホを見るとLINEに亮介からメッセージがあった。

〈元旦の昼間、初詣行かない?〉

初詣…?

元旦に?

婚約者じゃなくて私と?


もしかして…


私は亮介が一也君の元カノと別れたのでは?と脳裏に過った。

理不尽な喜びが込み上げる。


でも…もう…


メトローノームのように感情が大きく揺れる。


罪と罰はセットのはずなのに罰をいつまで伸ばすの?


もう、私はいません…


来年は何度、亮介に会えるかな?なんてふざけたことも思いません…


私はいません…
















わかってはいるのに亮介が恋しくて断れない愚かな私がいた。



No.135 15/01/29 14:13
旅人 ( ♀ )

《亮介の気持ち》


今年も終わりか!

仕事は可もなく不可もなく淡々としていたな。

愛車のアコードも今年は無傷…と。

去年は軽く駐車場出る時に隣の車にすったりしちまったからな。

趣味のキャンプは全くせずと…

あー綺麗な湖で来年はカヌー漕ぎたいぜ!

野郎同士も良いけど可愛い彼女と一緒なら最高だ。



今年もロクな女に出会わなかった。

まぁ、毎度のこと。

ホンキで女を好きになる気も好きになれそうな気もしないしな。


それでも悪くないなと思えるような彼女は欲しいよな。

もう“結婚”については考えないようにしよう。

どうせ、ただの所有物になりそうな女を選んでしまうし彩のような事になったら面倒だしよ。

あれから彩から着信はあったがスルーしている。


もう俺に関わるな。


今回の失敗を糧に男を見る目を養え。

でもよ。傷つけた俺も俺だけどよ。

失恋ごときで命を無駄にするなんて信じられないね。


生きたくても生きられない人もいるんたよ。


命さえあれば、何でも可能性は無限大なんだ。

…母ちゃんだって生きたくて仕方なかったのに無念な思いに哀しみながら旅立ったんだしよ。



あー!辛気臭くなってきたな。

ビールでも一気するか?

愛みたいによ(笑)


愛………


何だよ、杏に利用されたうっぷんで誰かを求めてるのか?


わからない。


わかりたくもない。


ただ、笑って過ごしたい。





俺は様々なことを考え、その後、自然と愛にLINEで連絡していた。

元旦に初詣行かないか?と。




No.136 15/01/30 12:11
旅人 ( ♀ )

《敬太の気持ち》



姉ちゃん………


糞真面目で、有り得ねーと思った時もあったけど世界でたった一人の俺の姉ちゃん。


自殺未遂なんてもう二度とするな!


姉ちゃんが溺れた男に電話して色々言ってやったけどさ。

アイツ姉ちゃんよりずっとうわてだぜ。

よくも悪くもうわてなんだよ。


そう言う、うわてな雰囲気を出す男はな。
女を守りたいとか大事にしたいとか誠意の欠片もねぇんだよ。


それにな、姉ちゃんには似合わねぇ男だ。
アイツと居ても背伸びしすぎて気ぃばっか使って疲れるだけだと思うぞ。


それなら一也だっけ?

遊び人とぼっちゃんのハーフみたいなヤツ。

アイツの方が数倍、姉ちゃんに合ってるよ。

悲しいけどさ、どんなに恋い焦がれたって合う合わないはあるんだよ。

上手く行かないことが大半の世の中なんだよ。


だから一喜一憂しすぎるな。

今度、悩んだら俺に相談しろ。


俺はこの思いの丈を姉ちゃんに伝えた。

姉ちゃんは、わかった…としか言わなかった。

心配だ。




そしてアイツに女を一人よこせと言ったらマジでよこしてくれた!

しかもSSランクの女だぜ!

水野 杏 …めっちゃ最高じゃん!


顔よし性格よし。

アイツ何だかんだ言って多少は罪悪感あんだな。

こんな最強な女くれてよ。


もうヤバイぜ俺。


今世紀最後の恋になるかも…




No.137 15/01/30 15:03
旅人 ( ♀ )

《一也の気持ち》




彩……


バカだなオマエ。


なにやってんだよ。


昨日、彩からか細い声で電話が来て彼氏に遊ばれていたみたいで手首を切ったと聞いた。


そんなに傷は深くないらしいが傷跡は残るみたいだ。


後悔してると泣いていた。


電話してごめんと泣いていた。


誰かと話してないと壊れそうだと泣いていた。


身勝手でごめんと泣いていた。



確かに身勝手だ。

だけど俺だってズルかった。

彩と付き合ってる時、陰で遊びまくってたんだから。

それもあるし、何だかんだ言って彩…。



俺は今でも彩が好きだ。



ほっといたら壊れてしまいそうで守ってやりたくなるんだよ。

だから身勝手でも許す。

好きだから許す。



そして、もう一度チャンスをくれ。

今度は彩がいつも笑顔でいられるような男に成ってみせるから。



この想い彩に伝えた時、想いが届くと良いな。







No.138 15/01/30 19:07
旅人 ( ♀ )

新しい年が始まった。

2015年…

多分私が生きる最後の年。

元旦の今日は、これから亮介と初詣に行く。

もう十分だよ…


ちゃっかり幸せな思いまでしちゃっけどこれで思い残すことなく、お母さんと誠…お父さんのところにも行ける。


お父さんも5年前に車の事故で亡くなっている。


~♪♪♪~

その時スマホが鳴った。


「もしもーし!…あ、だありん♡今出るね!」


亮介が私の家まで迎えに来てくれた。


ここから、おバカな愛に変身する。


私は膝丈のピンクベージュのダウンを羽織り家を出た。


亮介の車が道路の端に止まっていて、胸がきゅんとする。


まるで彼氏と彼女みたい…


切なくて仕方ない恋心を抱き亮介の車に乗り込んだ。



「だありん♡あけましておめでとー!」

おバカな愛で亮介の腕を組む。

亮介の温もり。

亮介の柔らかな匂い。

もうすぐ、さよならだよ……



「おめでと。さー行くか!」

亮介はさらっとそう言いさりげなく私の腕を振りほどいた。






No.139 15/01/31 20:21
旅人 ( ♀ )

神社の側の歩道には車が行列を作って駐車していた。


「止めるとこねーかな」

「あっ!一台抜けた!」

「おー!良かった」


こんなどってことのない会話さえ私は嬉しくて仕方なかった。

例えば、この先があるとして亮介と夫婦になれば、ずっとずっと、こんな気持ちなんだ…


やだ!罰当たりなこと思ってしまった。


「…愛、おりないの?」

「えっ!あ、うん!おりるぅ♡神社だ!」


私がぼやっとしている間に駐車し車をおりて神社の鳥居に向かって亮介と歩いた。


「うわぁ!だありん、凄い人だ!」

「だなー…元旦ってこんなに混んでるんだ」

「まぁ、仲良くお話しながら気長にガラガラまで並ぼうねぇ♡」

「ガラガラってなんだよ?」

「神様のまえの太いロープ!でかい鈴!」


「ああ…拝殿か…」

「ハイデン?電気?」


「はっ?拝殿は拝殿だよ」

「んー。わかんないよ。愛ちゃん可愛らしいおバカさんだもん」


「おいおい(笑) まじでわかんないの?拝殿は御参りするところ。鈴もあるだろ?」

「へぇ!あの場所って電気走ってるんだ?知らなかった♡」


「本気で言ってる?」

「えっ?本気ってだありんが教えてくれたんだよ…」



その後、何故だかわからないけど亮介は爆笑していた。



No.140 15/02/01 12:27
旅人 ( ♀ )

配電?まで並んでる途中、手水があったので柄杓でお水を飲んだ。

「冷たくて美味しい♡」

「なっ!体も心も清められるな」


清められるか…

私には意味がない…

生きる資格がないのだから。

亮介…

今、幸せだよ…

ありがとう。



やがて配電に着きお参りをした。


今、隣にいる人がずっと幸せでありますように

幸せな結婚生活を送り、たまに…たまーに私のことを思い出してくれますように


そう願った。

亮介は何を願ったのだろう。

仕事のこと。健康面のこと。結婚のこと。

どれを一番に願ったのだろう。


「ねぇ、だありん願い事は?」

「ん?宝くじがあたりますよーに。だよ」


「ふーん。あ、あそこ電気だって聞いたから、しめ縄揺らす時、電気走ってこないかちょっと焦っちゃったぁ♡」

「…大丈夫かよ、全く。あっ…」


おみくじ売り場まで歩いていると、亮介が急に立ち止まった。


「どうしたの?」

「…いや」


亮介の視線の先を私も追った。

No.141 15/02/01 18:58
旅人 ( ♀ )

視線の先には見覚えのある男女がいた。


男の方は…一也君だ!

一也君としっかり手を繋ぎ、俯きながら一也君の肩に頭を寄せている女……

あっ…一也君の元カノじゃない!

あの子、亮介と結婚するんでしょ?

何で……?

私は混乱し隣に居る亮介の横顔を見ると唖然とした顔をしている…


「…ねぇ、だありん、あそこにいるのコンパの時の一也くんと、私のお店に亮介が一緒に来てた子……じゃないかな?」

私は我慢出来ず亮介に聞いた。

「…ああ。ちょっと声かけてみるわ」


亮介が足早に、その二人に近づき私も亮介の背中を追った。

亮介が一也君に近づくと二人共、亮介に気が付いた。


一也君たちは驚いた顔をしている。


「よう!一也。一也も初詣か?」

「ああ……」

「お隣は?」

「……えっと、元カノ?…いや彼女」

「えっ?そうなのか!」

私達4人の間に気まづい雰囲気が漂った。


一也君、鄰の子を彼女だと亮介に紹介してないし、でも何故?

亮介は一也君の鄰の子と結婚するんでしょ?



亮介が結婚するはずの子は、俯き目を大きく見開らいていた。


No.142 15/02/02 12:24
旅人 ( ♀ )

「…じゃ、亮介また飲みにでも」

「ああ…」


一也君は少し頬がひきつり苦笑し、彼女の手を引きその場から去った…

どういうこと?

何であの子と一緒に?

私の心も混乱するけど4人、皆が混乱してるはずだ。

一也君からしたら亮介と私が一緒にいること。
遊び相手の美人さんの写メを彼女だと亮介にも伝えていたなら、気まずいはず。

一也君の元カノ…?からしたら結婚するはずの亮介が他の女の私といる。


亮介は、結婚するはずの彼女がどうして一也君といるのか。
美人さんの写メの子じゃないとも混乱しただろう。


私は…

思いきりおバカになり…


「ねぇ…亮介ぇ?あの子さぁ、前に私のお店に一緒に来た子だよねぇ?どーいう関係よ?一也君の彼女なんでしょ?」

「彼女だとは知らなかったよ。スポーツジムで逆ナンされて、しつこかったから何度か会っただけだよ」


え…?

今は?

結婚するんじゃないの?


「…もぉ、浮気じゃん!今も続いてんの?…まさか実は結婚とかしちゃわないよね?」

「今は全く無関係だよ。愛だけだよ!」


亮介は面倒くさそうに言うと、私の右腕を引っ張った。

無関係?私だけ?

杏ちゃんとも遊んでたくせに…

わかってはいるのに、すんなり信用なんて出来ないのに亮介の手の温もりにキュンとしてしまう…

その時!


「………あ………亮介………」


「…ん?……どうした?」



No.143 15/02/02 14:50
旅人 ( ♀ )

頭がグラリとした。

体がほてる。

関節が痛む。



「…ごめんねぇ、ちょっと目眩がしただけ」

「…おい、大丈夫かよ。手に汗もかいてるぞ…」


亮介が私の手を強く握りしめている。

手を繋いでいる。

今、亮介と繋がっている……



「ごめん。ホント目眩がして焦っただけ。人混みに酔っちゃったかなぁ」

「…そうか…じゃ帰ろうか?送るよ」

「いや!!」


帰りたくない。

まだ亮介と一緒にいたい……


「でも具合悪そうだから…」

「だぁいじょうぶ♡ おみくじ引こう?」

私は目眩や倦怠感を覚えながらも無意識に亮介と繋いだ手を強く握り返し、おみくじ売り場まで亮介の手を引っ張った。


「本当に大丈夫かよ?」

やだ…亮介優しい…

「うん!おみくじ引こっ?」

「ああ…何かさ、おみくじってやけに当たるんだよな。過去の経験からすると」

「あはっ♡亮介びびってる?」

「……ん?別に」


強がっている亮介が可愛かった…

その後、私達はおみくじを引いた。

私からおみくじを開く。


「何が出た?」


子供みたいに私のおみくじを覗く亮介。


「中吉!良かった!凶じゃなくて」

「ほぉ……おっ!俺も中吉だった。大吉じゃないのか~」

「オソロだ♡ 何かね、おみくじの大吉は嬉しいけど運を持続させるのは難しいから小吉や中吉くらいで始まる方が良いみたいだよ♡」

「へぇ~そうか!じゃあ一番良い感じじゃん」


亮介の子供みたいに無邪気に笑う顔が愛しく思った。


そして私達は、おみくじの内容を読み始めた。




No.144 15/02/02 18:44
旅人 ( ♀ )

おみくじの中身を開くと、無意識に恋愛に目が行った。


亮介の言うように、おみくじって不思議と当たる。


え……?

















恋愛成就…って書いてる…

そんなわけあるわけないのに…

自分の運命にもうじきピリオドを打とうとしてるのに恋愛成就の文字に未来を予想してしまう。

私の恋愛が成就なら、相手は亮介になる…

胸が痛い…

そんなことが現実になったなら、幸せ過ぎて胸が痛いよ…


複雑な思いで健康に視線をずらした。


あ……









苦しむ。要注意。

そう書いてあった。


恋愛成就で健康は苦しむって意味がわからないよ…

やっぱり、おみくじはおみくじか。


「だありん、何書いてあったぁ?」

「まぁ当たり障りないことだけど、見ろよ。恋愛のところ」

私は亮介の、おみくじを覗いた。











恋愛のところに、献身的な愛と書いてあった。


「献身的な愛?だありんか?♡私に?♡」

「ばーか。俺は誰にも献身的にはならないですよ!やっぱ当たんねぇな」


悪いけど私もそう思った。

亮介が献身的…な、わけがない。

尽くされる方だもんね。



私は、おみくじが当たる当たらないじゃなくて亮介と一緒に過ごせるこの時間が大切だった。


No.145 15/02/04 12:57
旅人 ( ♀ )

「おみくじも引いたしお参りもしたし、飯でも食いに行くか!」

「うん♡」

私は口の中が熱かった…

関節も痛い…

高熱があるんだと思う。

それでも亮介と一緒に居たかった。


亮介の車でラーメン屋に向かった。

着いたお店は〈食べてMITEYO〉。

亮介が一度行って美味しかったからと連れてきてもらった。


店内に入り、カウンター席に亮介と並んで座る。

「俺、豚骨醤油!愛は?」

「じゃ塩ラーメン♡」

ホントは食欲なんてなかった。

でも食べないと空気を壊しちゃう。

私は頭が朦朧とする中、いいや…と軽い気持ちになり一也君と偶然会ったこと。

あの子と亮介が結婚することを聞いた。


亮介は運ばれて来たラーメンを大胆にすすった後そんな話はないよと言った。

向こうは亮介のことを好きかもしれないけど、亮介にその気はないって。


亮介……

本当なの?

やだな。

私、日替りメニューみたくコロコロ気持ちが変わる。

もう、さよなら。と決心したり。

亮介の結婚がホントにないならば、嬉しくなったり。

これが女心なのかな。


でも……


やっぱり人生を終えると決めたんだから。


お母さんと誠への償いなの。


私は幸せになっちゃいけないの。



そして目眩が悪化し箸を追いた。

「…どうした?やっぱり具合悪いんだろ?もう送る。風邪薬あるか?」

亮介、優しくしないで…

泣きたくなるから…



それにこれは風邪ではないのよ…





No.146 15/02/04 13:28
旅人 ( ♀ )

亮介に私のアパートまで車で送ってもらった。


「…おい。顔も赤いし…」

亮介は車を私のアパートの前に停車すると、私のおでこを触ってきた。

胸が苦しい…優しさが辛いなんておかしいね…

「…体休めれば大丈夫よ…♡」

「いやいや、スゲー熱じゃねぇか!ヤバイよ。うーん。正月だしな…どっかやってる病院ないかネットで調べるか」


「亮介……ありがとう!でも病院の解熱剤、家にあるから大丈夫だから…じゃ……ね!」

私は亮介の車を降りようとした。


亮介は私の右腕をしっかり掴んだ。

「一人じゃヤバイだろ?着いててやるよ」

「ううん!大丈夫♡ 一人でじぃっとしてたいの。唸ってる顔見られたくないしぃ」


私は亮介の腕を振り払い車から降りてアパートの階段まで走った。


本当は振り返りたかった。


亮介の顔を最後に見たかった。


でもね…


私、きっと泣いちゃうから。


亮介が恋しくなって、また甘えてしまいそうだから…振り返らないよ。


そして自宅に入って涙が次々と頬を伝った。


あんな風に心配してくれる亮介を見たのは初めてだったよ。


亮介、ありがとう…


そして、ごめんね…


私はやるせない思いのまま違和感のある首に触れた。




No.147 15/02/04 16:37
旅人 ( ♀ )

頭から寒気がした。

高熱だけのせいじゃない。

心に強いダメージを受けたショックから来る寒気だと思う。


同時に“あの時”を思い出した。

私が23歳の時に突然、振りかかってきた試練の時を。

ただ、ただ辛かった。

数えきれない位泣いた。

私は泣くために生まれてきたんだと運命を呪った。



ネエチャン…ナクナヨ…



昔、よく弟の誠が言ってくれた言葉が幻聴として聴こえていた。

その慰めの言葉の他に、あの火事の日に 誠の助けを求める悲痛な声も聴こえていた…


誠、お母さん。私を許してくれるわけがないものね。

あの世で憎んでるよね。

ごめんね…

ごめんね…

ごめんね……













私、また病気が再発したと思うよ…

もう助からない。

でも悲しい色をした天井を眺め、寂しさで包まれているベッドの上で死ぬなら、慣れ親しんだこの部屋で命を止めるよ。



さよなら、さよなら、さよなら…



“愛”さよなら、あなたへ



あなたは、この世から末梢されるのよ…










No.148 15/02/04 21:03
旅人 ( ♀ )

一也の最近別れた元カノが彩だったとは。

一也のヤツ、ちょ~美人の写メ見せてきてこれが彼女だって自慢してたのは嘘だったんだな。


オマエらしい。オマエは昔から見栄っ張りだからよ。

まぁ一也が遊び呆けてた気持ちもわかるぜ。

彩なら物足りないもんな。

それにしてもよ。

彩、あんたヤるな。困った時に元カレに依存かよ。

一也も彩が大事で仕方ないような顔してよ。

あんなんのどこが良いの?

よし、一也を飲みに誘うか。



その前に愛………

アイツ大丈夫かよ………

あんなにおでこが熱くて。

でも一人で居たいなら仕方ないけど…



俺は無意識にスマホを手に取り愛に電話をかけた。


・・・・・


・・・・・


出ない。


大丈夫かよ?


何だ?この心配は?


わからない……


わからないんだ。


愛の、あの人恋しそうな表情が、どこか 俺と重なる気がして。

愛が一人ぼっちだということが本当なら俺と同じだ。

家族がいないのって寂しいよな。

成人したら大人だけどよ。

いくつになっても家族は恋しいよな。



愛もそう思ってるのか…?

ホントは能天気に見えて心に闇があるのか?


それなら体調が悪くて一人じゃますます孤独だろ。


俺はテーブルの上に放り投げたキーケースを掴み家を出た。




No.149 15/02/05 10:41
旅人 ( ♀ )

車を走らせ愛のアパートの前に到着した。

シートベルトを外し直ぐ様車から下りる。


階段をのぼり始めると上段に、あの女がいた。


何でだよ。

一瞬、心臓が強くドクンといった。

そして何でアンタがここにいんの?

このアパートにもカモがいるのかよ。

















その女は杏だった。

杏は少し悲し気な顔でピンヒールでカンカンと音を出し階段をおりてきた。

俺はすぐに杏から視線を反らし構わず階段をのぼり始めた。




「ここに知り合いいるの?」

すれ違い様、杏がさりげなく声をかけてきた。

抑揚のない冷静な声のトーンだった。


「ああ…」

「そう。偶然ね。私もここに従姉妹がいるのよ…まだ26歳なのにね、大病をわずらってるの」

「26?」

「えっ?やだ、若いから興味が湧いたの?」

「違うよ。俺の知り合いも26だから」


「…もしかして、愛?」


なんだよコイツ愛の従姉妹?

マジかよ…

それになんだ?前より穏やかじゃねーか。


「ああ、言っとくが、ただの知り合いだ…大病って何だよ?」

「えっ?……ううん!何か高熱あるみたい。私、タクシーで家帰ろうとしたらお金なくて街から近い愛のアパートまで歩いてお金借りにきただけなんだ!」

「ふーん…金ね」

「……あっ!敬太、いいヤツだよ!いつも癒やされてる!じゃあね!」


杏は少し気まずそうにその場を去った。

アクの強さはどこへ行った?

杏の雰囲気がやわらかくなっていた。

まぁ、それより大病って……



俺は愛の部屋のドアの前に立ち、チャイムを押した。




No.150 15/02/05 15:55
旅人 ( ♀ )

何度かチャイムを押すが出てこない。


「愛ーー!…亮介だ!大丈夫かー?!」


俺は愛の部屋のドアを乱暴に叩きなから叫んでいた。





カチャ……





少しして愛がドアを開けてくれた。

少し開いたドアの隙間から青白い愛の顔が見えた。

「だ…りん…」

「おい、大丈夫かよ?…顔、真っ青だよ…」



「どうして来てくれたの……」

愛はそう言うと涙をホロホロ流し始めた。

「…入ってもいいか?」

「うん……」

俺は愛の部屋に入った。

真っ暗だった。


「…熱はどうだ?」

「少し下がったよ」


愛はそう言うと部屋の明かりをつけた。

明るいところで見る愛の顔は本当に青白かった…


「少し下がったって…顔真っ青だぞ。夜間病院に行こう!」

「いいの!…大丈夫だからぁ…今さっき従姉妹が来てくれて脇の下を、氷のうで冷やしてもらったり飲み物も買ってきてもらったから…」


従姉妹が来てくれたじゃなくて金を借りにこられたんだろ?


俺の何とも言えないこの気持ちは言い表すことが難しい。


ただただ、愛が心配なのは確かだ。


いつもバカみたいに笑ってる愛が憔悴しきった顔をしているのが、たまらなくもどかしかった。


そして愛の頬を濡らす涙が…切なかった。






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