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まじでムカつく店員
マッチングアプリで知り合って、、
男女は結婚したら不倫や浮気をするの?

さよなら、あなたへ

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旅人( ♀ )
15/02/15 16:28(更新日時)

エキサイトラブを書いている主です

いつも女心で物語を書いてるので、気晴らしに男サイドからの短編小説を書きます

すぐに終わります

よろしければ読んでください

宜しくお願いします



14/11/23 00:20 追記
◆お知らせ◆

もしまだ読んで下さっている方がいらっしゃいましたら、訂正があります

すぐに終わりますなんで、書いてしまいましたがすぐには終わらなさそうです(-人-;)

いつも、訂正ばかりで申し訳ございません

そして読んで下さっている方がおられましたら、ありがとうございます(*´∀人)



15/01/16 19:52 追記

http://mikle.jp/thread/2177109/

感想スレです
よろしくお願いします

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No.2155848 14/11/07 22:09(スレ作成日時)

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No.1 14/11/07 22:19
旅人0 ( ♀ )

俺は、貧乏育ちだ。

父親が趣味は転職と引っ越しで、母親と俺と弟を困らせた。

小学校の頃は、服が3パターンしかもってないと同級生にからかわれた。

給食のパンは家に持って帰り、小さな弟に食べさせた。

母親は体が弱く俺達、兄弟を残し他界した。

最低な父親の背中を見て育ち、俺は絶対こんな男にならないと強く思っていた。


それなのに。


大人になり仕事は、まともにしているが、俺は女癖が悪い。

女癖が悪いと言うか、勘違いしてる女が溢れていて嫌気がさす。


普通の容姿のくせに美人気取りの女もいて二股掛けられたこともあった。


その女のブログで、ユミの二股記録簿♡を見つけた時は殺意を抱いた。


No.2 14/11/07 22:29
旅人0 ( ♀ )

でも、こんな女のために殺意なんてハイレベルなエネルギーなんて使ってられない。

俺の容姿は、そこそこですぐに女は釣れる。

もちろん釣れたら餌はやらないが、お金出すから私を抱いてよ♡
なんていうセックスマシーンもいた。

金は有難いが、理性のない動物のような性欲の塊が気持ち悪くてすぐに捨てた。

後に知ったが、そいつは人妻で人妻サイトのサクラで稼いだお金で俺とのセックスに溺れていたみたいだ。


だらしない女ばかりだ。

バカだな。

そんなにしたいなら、鉛筆でも差しとけよ!


そう思うのと同時に、女も裏切り者が多いし、そんな女ばかりに当たるのは俺も見る目がなく、質の悪い父親に育てられ自分も質が悪いからだと冷静に分析してた。


蛙の子は蛙ってヤツだな。


No.3 14/11/07 22:43
旅人0 ( ♀ )

そんなある日のこと。

「なぁ。亮介、今度、コンパあるんだけどお前もこいよ」

「お前、好きだなコンパ。彼女が知ったら泣くぞ」

「それは、それ。これは、これだ。コンパつぅかヤリコンだな」

「はいはい。悪友に染まって参加させて頂きます」

「よく言うよ!(笑)お前こそ悪のくせに(笑)」

「一也には負けるさ」

俺、河内亮介と上田一也は30にもなり、バカげた会話をしていた。


一也から誘われたコンパで知り合ったのが愛だった。

細いけど胸があって小顔にくっきり二重。

ちょうど良い大きさの鼻。

ぽってりした唇。

決め細やかな白い肌。

柔らかそうな長い栗色の髪の毛。


綺麗だ。


話した感じは、自分の美貌に甘んじて性格は悪そうだ。

それでもいい。

この女を抱いてみたい。

俺は、そのコンパで運良く愛の隣だったので、個人プレーで愛を誉め殺しにした。


誉められるのなんて当然だけど?


そんな傲慢な表情も魅力的だった。



No.4 14/11/07 23:04
旅人0 ( ♀ )

俺と愛は連絡先を交換し、ラインをするようになった。

愛は26歳。ファッションビルのギャル服売り場の店員だ。

ちなみにラインの最後には♡愛♡と必ず記して来る。

自分にかなり酔ってるな。

これがブスなら俺をイラつかせるが、綺麗な愛だからスルーすることができた。


やがて俺達は飲みに行くことになった。

女が好きそうなイタリアンのお店を予約する。

待ち合わせは、駅の近くで。

一度目と二回目は食事だけにして、三回目はドライブにしようかな?

そのあとは男と女の関係になる予定。

このプランは俺の中では、かなり誠実なプランである。

No.5 14/11/08 00:38
旅人0 ( ♀ )

食事当日。

待ち合わせに10分前に到着。

今日行く店は、何度か違う女と行った
ことがあるが、愛には行ったことはないが、ネットの口コミが良かったんでと嘘をついた。


で、今日は早目に待ち合わせ場所へ来て、お店の場所を調べてきたと更に嘘を重ねる予定。


男って基本、嘘つきなんだよ。

でも、それは一種の優しさなんだけどね。

浮気したってすぐに認める男は少ないんじゃないかな?

認められるのが一番辛いからね。


考え事をしていると、愛が俺に向かって歩いてきた。

「まったぁ?」

「ううん?大丈夫だよ。行こうか」

「お店の場所わかるのぉ?」

「ああ。30分前に来て、店の場所確認してきた。初めて行くし、迷ったら愛ちゃんに悪いしね」

「気が効くねー!ありがとう!」

愛は俺にお礼を言う時、上目遣いをしていた。


やっぱり私って♪さすがだよね♪やっぱり極上の女は私だよね♪


そんな顔をしていた。


No.6 14/11/08 00:51
旅人0 ( ♀ )

お店に着いた。

「19時に予約した河内です」

店員に告げ席に案内される。


愛と向かい合い座り、彼女の顔を見ると本当に綺麗だ。

軽そうなところが、またいい。

固い美人は嫌いだ。

セックスまでの道のりがめんどくさい。

俺も軽いから、女も適度に軽い方がいい。


「好きなもの、じゃんじゃん頼みなよ!お酒も好きなの頼んで!」

スパークリングワインか?

カールアミルクか?

カシスオレンジか?


女の中で実はビール一辺倒か、どぶろくや焼酎ロックガンガン飲むくせに、最初が肝心だから♪って可愛く思われたい飲みもの頼むヤツいるよな!


「抹茶ミルクにしよぉかなぁ?」

おっと、惜しい。

「何か、可愛らしいね!飲むものまで可愛いんだね!」

「ミルク系が好きなのぉ」

まぁ…こないだのコンパでウイスキーロック飲んでたの見てたけどね。

「そっか。料理は何にする?」

「たくさーん、いろーんなものが食べたいなっ」


愛はバカだ。


あまり頭の良い子じゃないな。良かった。

No.7 14/11/08 17:10
旅人0 ( ♀ )

食事をしながら。

「ホント綺麗だよね。モテるでしょ?」

パスタを食べて口元が気になったのか手鏡で、顔をチェックする愛に言った。

愛は、はぁ!?と言うような不服そうな顔をした。

なんでだ?

あっ...そうか。


「ごめん。ごめん!モテるなんて当然だよね!」


俺がそう言うと、まぁね~♪と言いたげな顔をした。

しっかし、愛はちんたら食べるな。

早く食べろ!


No.8 14/11/08 23:35
旅人0 ( ♀ )

これがブスなら声に出して言っただろう。

だけど可愛いから許すってヤツだ。

内心は、かなりイラついているが。

やがて愛がトイレに行ったので、その間に会計を済ませた。

男は女を、食事に誘うなら大方は下心がある。

俺もそうだ。

できることなら今日にでも愛の体を頂きたいが、失敗したら、今日のこの我慢が泡になる。


その時、愛が戻ってきた。

香水の匂いがキツイ。

アリュ―ルか!?俺の好き匂いだよ。

しかし、愛は瞬きをあまりしないんだよな。

目がデカイのに平気なのか?


まぁいい。


「会計、済ませたから出ようか!」

「え~♡そうなの?…甘えちゃっていいですかぁ?」

甘えちゃってって金にか?

日本語変だぞ?

どうせ、何かの雑誌に男心をくすぐる方法特集みたいなヤツがあって書いてあったんだろ。


「いいよ。ご馳走さまって言ってくれれば」

「ご馳走さまでぇす!」


愛は、やっぱり♪私って♪奢られて当然だよね♪と言うような顔をしていた。


お店の外へ出て。


「じゃあ、今日はこの辺にしようか。…また会ってくれる?」

「えっ!あっうん。ねぇ…」

「何!?」

「もう帰るの?」

「あっ…もう一件行く?」

めんどくせぇな!

「えー…ん~」


おっ?上目遣いで、くねくねしてる。


もしかすると想像以上に軽い女なのか!?


顔に、しよっ?って書いてるぞ!


ありがとう!



No.9 14/11/09 20:16
旅人0 ( ♀ )

「ホテル行く?」

単刀直入に聞く素敵な俺。

愛は、ゆっくりと首を縦に振り俺の横に来て腕を組んできた。


ツイてるな。嬉しくてたまらなかった。


ラブホに到着し、フロントで部屋を選び、その部屋に入る。

部屋に入るなり、愛は言った。

「ブルーライトに設定して?」

甘い、甘い声だった。

「ああ」

ブルーライトに設定した後、交互にシャワーを浴びた。


下半身にタオルを巻いている俺。

鎖骨の下からタオルを巻いている愛。

二人は自然と寄り添い、キスをしてベッドに入った。

床には、難雑に放り投げたバスタオルがある。


ベッドの上では快楽に溺れる俺達がいる。


ごめんね、愛。



愛のことは可愛いと思うけど気持ちは無いから、すぐに尽きるよ俺は。

愛のないセックスは、これで何度目だろうか。

きっと、これからも限りなく続くだろう。


俺は、最後にスピードをあげて腰を振ったあと、尽きた。


「終わっちゃったの?」

「ああ…」

「もう一回してぇ」

「…」


愛は結構な、擦れっ枯らしかもしれない。


セフレがまた一人増えることになりそうだ。


一也に感謝だな!






No.10 14/11/09 22:56
旅人0 ( ♀ )

カチッ。

俺は3回のセックスを終えたあと、タバコに火をつけた。

「…タバコ吸うの?」

「うん、たまに」

「私にも一本、ちょうだい?」

「吸うのか?」

「ううん。吸ったことはないけど、見ていると吸ってみたくなっちゃった」

嘘をつくな!本当はタバコ大好きなんだろう!

「はい」

俺は、思いとは裏腹に愛にタバコを一本渡した。

愛は手慣れた手つきでライターの火をつけ、臆することなくタバコの灰を肺に入れた。


「ねぇ」

「何?」

「愛ってこれから呼んで?…亮介って呼んで良い?」

ダメだ。図々しいな!

「ああ…」

やっぱり思いとは裏腹だ。めんどくさい。

セックスをして丸裸にして、お前のことなど、もう何も興味はないんだ。


「亮介ってカッコいい。カッコいい彼氏ができて嬉しいなー♡」

「はっ?」

「だってぇ、したでしょ?私、彼氏にできない人とするような軽い女じゃないよ!!」

軽いよ!

それに、なんだよ。その一方的な考え。

相思相愛って言葉を知らないのか?


俺の胃が、キリキリしてきた。

調子に乗んな、公衆便所!


そんなことを思いつつも、何も言えなかった。

No.11 14/11/10 21:56
旅人0 ( ♀ )

「いいよ。これからは彼氏彼女だね」

本来ならば、やり捨てして連絡も無視を貫く。

或いは、割切っている女はセックスだけの関係。


ただ、愛は可愛いから彼女にしても良いと思ったし、こんなに軽い女だから男のストックは溢れているのだろう。お互い様だ。


もちろん好きではないさ。

好きになれそうにもないさ。

だけど好きってなんだよ?

恋愛ってなんだよ。

結局、自分に酔ってるだけなんだ。

はっきり言って錯覚だ。

気持ちの良い勘違いだ。

相思相愛なんて奇跡に等しい。


だから簡単に付き合って、たくさんセックスして簡単に別れよう。


そう考えている俺に愛が、また苛つくことを言い出した。


「いいよって何?女はね、愛されてなんぼなの!
受け身なの!守られる立場なの!
だから、やり直し!亮介から告白してよねっ!」

どこまでバカなんだよ。

まぁ、作られたキャラだとは思うが、キレるヤツならキレてるぜ。


「僕と付き合ったください」

また胃がキリキリしてきた。

「やんだ!めっちゃ棒読み♡かわゆい!」

やんだ?あまちゃんか!?

あまちゃんなんて、とっくに終わってるぞ!

No.12 14/11/10 22:13
旅人0 ( ♀ )

愛とは、付き合いだしたが周りには非公開だ。

毎朝、アヒル口を作り虫歯ポーズをした自分撮りの写メが送られてくる。

非常に不愉快な朝の始まりだ。


しかし、これ幸い!

俺は総合病院の医療事務で、隔週土曜と毎週日曜日が休日。

昔、ラグビー部で腰を痛めたので事務職を選んだ。

しかし、セックスはできちゃうんだよな。

そして愛は平日が休みだから、夜しか会わずに済む。

けど、夜のみのデートでも愛は俺を苛つかせた。

まず、食事をすると相変わらず食べるのが遅い。

腐ってないから、さっさと食え!

そして会計時に払うつもりもないくせに財布を持つポーズをとる。

挙げ句「あるよ♡」と端数の3円くらいを「私が払うから!」と得意気に出す。


その後はゲーセンでお決まりのプリクラ。

400円ごときで、「あれ?あれ?あれ?あれ?」
財布を見て血迷うふり。

コイツ完璧に金で愛の深さを計るか、男=お支払係って思ってんな!

見え見えなんだよ!


「ほらぁ♡亮介も頬に手を当てて、ウィンクしてみて♡」

虫歯ポーズのことか?

やるわけねぇだろ!いい加減にしろ!



No.13 14/11/11 01:04
旅人0 ( ♀ )

プリクラのポーズなど、やるわけもない俺を諦めて愛は俺の腕を組んだ。

やがてプリクラが画面に完成されスタンプしたり、文字つけよ♡と言う。

「NO!」

俺は完全拒否。

すると、愛がほっぺたを膨らせた。

「ぶぅ~~~!そんな態度はNO!…おしおきに、こんなこと書いてやる!」

ぶぅ?笑わせんなよ、お嬢ちゃん。おしおきってお前はサドだったのか?


心の中で、愛、バッシングの嵐を続ける俺に、愛が印刷されたプリクラを渡してきた。

ふたり、腕を組み、愛だけ笑顔のプリクラにはこう書かれていた。


さよなら、あなたへ。


「亮介、悲しくなったでしょ!私にサヨナラ言われたら寂しいでしょぉ!ねっ?はい!」

愛は、さよなら、あなたへのプリクラを俺から奪い返しぐちゃぐちゃにした。

そして、ふたりは永遠♡と書かれたプリクラを再度渡してきた。

「う・れ・し?」

上目遣いで俺を見る、愛。

この女、重症。

俺がお前に、ぞっこんラブだとでも思ってんのか!?


怒り狂いそうな心境だったが、プライドが邪魔をして黙っていた。


常に愛は俺をイラつかせる。

こんな女は初めてだ。


愛を送る帰り道。

「亮介!車を止めて!」

愛がコンビニを指さし、そう言った。

「少し、待ってて!」

愛は急いでコンビニへ入り込み、少しして出てきて車に乗ってきた。

「はい!これ!私の奢りよ♡」

愛は、甘酒を渡してきた。

普段、高いところで金を出させ、こう言う場面で点数稼ぎをしようとするムカつく女だ。

甘酒なのも勘に触った。





No.14 14/11/11 23:37
旅人 ( ♀ )

「ねぇ、亮介、家に寄ってかない?」

ああ、何やってんだ俺。

愛にイラつきすぎて、ヤツの体を楽しむことを忘れていた。

愛の一人暮らしのアパートには何度か行ったことがある。

キティちゃんとピンクと白で埋め尽くされた部屋は落ち着かないが清潔にされてるのが救いだった。

「ああ、寄らせてもらうよ」

「おいでやす~♡」

「…(無視)」

愛のアパートに着くと雨が振りだした。

「亮介!ジャケットを脱いで!姫様の頭にかけて!」

俺は拳を握りしめ、スルーして階段へ行った。

愛も「いやだぁ~雨!困るんですけどーーー」

そう叫びながら内股で爪先走りで階段まできた。

そして愛の部屋に到着。

あれ?

「愛ってパーマだったの?いつもコテで伸ばしてたのか?」

「う、うん」

まぁ、真っ直ぐでも波をうっていても、どうでも良い。

俺は愛に、強引にキスをした。

会話など、もういらない。

ベッドに愛を押し倒した。

顔を見ず、下半身だけ脱がせる。


ごめんね、愛。


愛のことは可愛いと思うけど気持ちがないから、段々雑になり、すぐに尽きるよ。


愛の下半身を刺激し、ひとつになった。

ふと愛の顔を見ると普段髪の毛で顔を隠しがちでセックスの時も何故か顔を隠すが、濡れた前髪を気にかけ、いじっている愛。

サイドの髪が全開になっている。

毛はふわふわ。

小顔だと思っていた顔は、横長だった。


一玉のキャベツに見えた。


No.15 14/11/13 17:24
旅人 ( ♀ )

横長の一玉のキャベツから一転、目元も雨で濡れたせいで、マスカラが頬に流れ落ちている。

パッチリ二重だと思ってた瞼は、ノリのようなものがぐちゃりと付き、パンパンの一重ではないか。

白くて丸い顔に、黒く汚れた頬。

まるで勢い良く床に落とされた汚れたマショマロだ。


騙されたんだな俺。一気に萎えてくる。


待て、亮介!ヤツの顔を見るな!

そして無心になれ!

俺は何度か、カルピスに似たアレを出すことが出来た。


事が終わると、愛は慌てて洗面所へ。

「うわぁ!!!」

愛の激しい動揺の声が聞こえた。


愛、ごくろうさん。

ゲームオーバーだよ。

さすがに、あそこまでブスだと性欲処理係としても考えてしまうよ。


やがて愛が髪の毛と顔を整え戻ってきた。


「えへ♡乱れた私を見られちった!付き合いが深まったね。亮介」


何!?コイツ図太いな!


「愛には騙されたよ」


「…私に手錠をかける?」

No.16 14/11/15 20:57
旅人 ( ♀ )

「…」

わけわかんねぇ!ブスだとわかると苛つきが倍増するもんだな。


「手錠をかけられないなら、私に罪はないもんっ」

よく、あんな顔を見られてまでブリッコできるもんだ!
IQが低いんだな。

でも。

頭の悪いヤツって、ある意味幸せだよな。

まぁ、俺もだけど。


「帰るよ」

「亮介、冷たい…」

「よく言われる」

「不安になっちゃう。レディを不安にさせるなんてカッコ悪いよ!」

レディ!?いちいちムカツクな!

「黙れ!ブスッ」

「化粧して可愛いから、良いじゃない!…もしも私から離れたら大変よ。女はね、ヤルたびに好き度が上がるの。
今、私を振ったなら私…病気が悪化しちゃうわ」

「病気って何だよ?」

「興味ある?」

「興味ないけど、聞いてやる」

「あはっ♡聞きたいなら私に興味あるじゃない!
今日は……」


愛は、そこまで言うと俺に抱きついてきた。

石鹸の香りがした。

フルールド・オウか?

アリュールは辞めたのか?使い分けだな。

使い分けする女は気が多い。

俺は、今までの女に誕生日プレゼントは全員香水にしてきた。

だってさ、激安店行ったら安いし香水って無難だから。

だから香水には詳しい。

「…何だよ?」

「今日は泊まってってね。明日の朝ごはんはフレンチトーストです♡」

No.17 14/11/15 21:16
旅人 ( ♀ )

めんどくさいから、泊まることにした。

愛に病気があるって、きっと嘘だな。

ただ、気を引きたいだけだ。

俺は疲れてきて、仕方なく愛のシングルベッドでふたり窮屈に体を並べた。

「しりとりしよう♡」

「やだ」

「じゃあ、こうしちゃう!」

愛は俺の鼻をつまんできた。

「やめろよ!!」


「あはっ♡しりとり、開始!あい。い。だよ!」

「…いしきふめい」

「いるか」

「かい」

「いもり」

「りかい」

「いちゃいちゃ」

「やっかい」

「いないいないばぁ」

「あらそい」

「…いなか」

「かない」

「…い……もぉ!亮介の意地悪!!私、い。ばっかりじゃない!!意地悪!!」

「あっはっはっはっは(笑)」


えっ!?

やべぇ~…笑ってしまった!

しかも、何か楽しくて。

やべぇ~…!


「…寝るぞ!ブスッ!」

「ぶさかわの愛ちゃんでーす♡」

「お前は犬か!」

「ワンッU^ェ^U」

「…おやすみ」

「おやすみなさい!好き好きダーリン♡」


カチャ。

やっと電気が消えた。



「ごぉ~!ごぉ~~~~!ごぉ~~~!」




すげぇイビキ…

あーあ!





No.18 14/11/17 00:25
旅人 ( ♀ )

あれ以来、俺は愛の部屋によく泊まるようになっていた。

素顔は、この世の果てと言っても過言じゃないが化粧をしたら180度化けやがる。

セックスだって拒んだことはない。


ある日、愛に言った。

「愛は、自分のこと都合の良い女だって思わない?」


「思うぅ♡」


「わかってたんだ」


「亮介知らないの?」


「何が?」


「恋愛は、ある程度、都合が良くないと成立しないわ。都合が悪かったらいつ会うの?」


「日程のことかよ?」


「ううん。全てにおいての都合よ。亮介、子供ね…………」


そう言い、俺に抱きついてきた。



濃厚な香りがする。



プアゾンか?水商売の女が好む香りだ。



プアゾン=毒

毒が、愛を背伸びさせているように感じた。



ま、あとの殆どは愛らしい。

「レディは壁がわに座るの!ありえない!どけてよ!」

食事へ行けば、女は~なのと、愛のルールがある。


「ちょっと亮介!メニューはレディから見るの!学んでよね!」


続けてうるさい。


オマエのくせによ!イライライライラするぜ!









No.19 14/11/17 15:20
旅人 ( ♀ )

「ごめんね!亮介、待ったぁ?」

ある日の夜、愛と映画を観に行くため待ち合わせをしていた。

「いや、大丈夫」

適当に利用して付き合って行くつもりが愛のペースに持ってかれてるような気がする。

しっかりしろ!亮介!

愛は俺の腕を組み、もたれ掛かる。


「会いたかった♡」


また、愛から香りがした。

ランコム...ミラクか!?

女っぽい香りだよな。

使い分けと言っても、ずいぶん種類があるんだな?
香水が趣味なのかな?

聞いてみたいけど、イチイチ勘違いした反応するだろうし、いいや!


愛を車に乗せ、映画館につく。


「亮介!お腹すいたね!私ね、デパ地下の食品売場に友達がいてお寿司貰ったよ!お寿司食べながら観ようよ!」

「おっいいねぇ」

つーか、映画観ながら寿司食べるヤツって初めてだ。

やがて観る予定のアクション映画の上映時間になった。

愛と上段の席に座る。

「はい♡亮介。一緒にお寿司食べよ」

「ありがとう!いただきまーす」

「あっ!!」

「何だよ?」

「お手つき!私も縁側食べたかったの!次は罰に亮介はガリね」

愛は、頬っぺたを膨らませた。

うぜぇし。

No.20 14/11/17 15:32
旅人 ( ♀ )

俺は、愛がうざいので映画に集中する。

ピストルのシーンがある度。


「ばっきゅーん!ばっきゅーん!!どうだ参ったか~」


愛がひとり言を呟いている。

どうせ、可愛いって思われたいんだろ。

全然、可愛くないから。

スッゲー、頭の悪い、痛い子って感じだから。


「私を襲う悪魔も…殺してよ…ばっきゅー…ん」


えっ?

私を襲う悪魔?なんだそれ?

なんのこと?って聞けば良い話だが聞いたら、やっぱ私にゾッコンね♡とか腹正しいことを言いそうだから止めとく。


私を襲う悪魔ねぇ。

...

そういえば、私の病気が悪化しちゃうなんて言ってたことあったよな。


嘘だとは思うが。


映画を観ながら、考え事をしていた。

すると、椅子が合わないのか腰が痛んできた。

いてぇし。

筋肉強化しなきゃダメだな。


よーし、明日からスポーツクラブ再開しよう!


No.21 14/11/17 23:07
旅人 ( ♀ )

翌日の仕事後、スポーツクラブに二ヶ月振りに行く。

月払いにしてるのに、勿体無いことしたな。

これからはマメに行くか!


俺はTシャツと半ジャージに着替え、腹筋、わき腹、太もも、二の腕などのマシーン、そしてランニングマシーンで汗を流していた。

ランニングマシーンで走りながら考えていた。

俺も、もう30か…

適当にうろうろしてる場合じゃないな。

図々しくも結婚はしたいんだよな。

やっぱ一生、一人じゃ寂しいだろうし。

結婚して、したくなったら、チョロチョロ浮気すれば良い話だし。

こんな風に、今の現状はヤバイと考えていた。


そして、少し疲れたのでスポーツクラブ内にある横長のベンチに座り命の水ポカリスゥエットを体内に流し込む。


「ふぅ」


一息ついた時。


「…あの、スミマセン……」


左隣から蚊の泣きそうな声が聞こえた。


「はい?」


声の主の顔を見た。

俺より少し若いかな?

地味で冴えない女がいた。

ブスではないが可愛くもない。

けど、おそらく素っぴん。

その割りにはマシかな?と言うようなレベル。


瞬時に判断する俺って、やっぱりプレイボーイ!





No.22 14/11/17 23:27
旅人 ( ♀ )

「…ここにいる人の熱気で暑いですね…!これ!私も飲んでます」

女はアクエリアスを見せてきた。

「あー、暑いね。夏は特にね。アクエリアス?俺はポカリ派」

俺はクールに会話を繋げた。

「あっ、私のポカリかと思ってた………。夏、暑いですよね。今の方がまだ涼しいですよね!
…週に何回位来てます?」

もしかして逆ナンかな。

「まったくこない週もあれば、集中してくる週もあるよ」

「そうですか………」


おっ、戸惑ってるな。俺が声かけたわけじゃないし疑問系は、あまりしてあげないよ?


「…名前、聞いても良いですか?………あっあっ私は伊藤彩と言います」

「どうして名前聞くの?」

優しくスルーしないのにスルーしようとするフリをする俺。


「…え……。ずっと前から、素敵な人だなって…近づきたいなって……」

おっ!勇気に拍手。

俺は心の中で拍手したが、この程度の女に好かれてもねぇ……でも……


「そうなんだ!ありがとう!俺は河内です。たまに、来てるから見かけたら声かけて!じゃあ…」

俺は立ち上がった。

「あっ…………あのぅ………!」

引き留めてきたな。

「どうしたの?」

「ば、晩ごはん食べました?」

「いや…」

「じゃあ、ジムが終わったらラーメン食べに行きませんか?」

誘われた。

誘われるのを何となく待っていた。

新鮮に感じたんだ。

理由はすぐにわかった。


愛に限界を感じていたから。


これが彩との出逢いだった。



No.23 14/11/20 01:25
旅人 ( ♀ )

彩と初対面でラーメンを食べに行った。

「食べてMITEYOって言うラーメン屋さん知ってます…?」

「いや、俺、0141でごやす。しか行かないから」

「あ、あ、あ、… 0141でごやす。に行きますか?意見聞かなくてごめんなさい!!」

彩は頭を下げてきた。

必死だな。


「いいよ。彩ちゃんの、お勧めのお店行ってみたいな。美味しいの?」

「は、はい!薄味だけど、コクがしっかりあるんですよ!」

「へー。楽しみ」

彩お勧めの店に入った。

店に入って座ると彩はオシボリで何度も自分の手を拭いている。

緊張の証だな。

「ここ、よく来るの?」

話かけてあげた。

「あ、はい!3回くらい。弟に教えてもらって」

「弟、いるんだ」

「えぇ…ちょっと、チャラいんですよ。すぐ女の子ナンパしちゃうみたい…」

俺もだよ。

「あらら。俺、ナンパとか、したことないな。気が弱いんだろうね。断られたら傷つくし」

嘘だよ。

「そ、そうなんですか!ぜっんぜん、私のチャラい弟より、良いです!…やっぱり……か、河内さんは素敵です」

見る目がないね、彩。

君みたいな純朴そうな子は誠実な男を選ばないと失敗するよ。



やがて、ラーメンが運ばれてきた。

No.24 14/11/20 01:38
旅人 ( ♀ )

「はい!河内さん、お箸!あと一味と、胡椒、爪楊枝、ニンニク目の前に置きますね!」

「あ、いいのに。ありがとう」

ホント必死だな。

愛とは大違いだ。

その時、パーカーのポケットに入ってるスマホが鳴った。

デカイ音で。


「あっ…携帯、鳴ってますよ!気にせずどうぞ」

「うん…ラインだと思うんだけど」

俺はスマホを取り出し、ラインを開いた。


愛からだった。


〈だありん♡今、携帯小説読んでまぁす♡エキサイトラブってやつ!主人公がめっちゃ調子子いててむかつく!!たらしなの!!
愛わ、だありんだけぇ♡ちゅっ〉

この内容と、今日のコーデの全身写メが添付されていた。

愛、なんでこんなに低能なんだよ!

イラつかせるな!

さらばだよ、愛。


「何か急用ですか?」

「いや!大丈夫。食べようか!」

「そうですね!」

「いただきまーす!」


.......

.......


「どうですか?美味しいですか?」




No.25 14/11/22 23:08
旅人 ( ♀ )

「うん!うまい!」

「良かったー…」

俺の良い返事に、彩はホッとした表情を見せた。

彩は、まだラーメンを食べてない。


「食べなよ。伸びちゃうよ」

「あ、ですね!あ、ペーパーナプキンどうぞ」

彩はペーパーナプキンを三枚取り俺の前に置いた。


よく気がつく、女子力の高い子ってヤツを目指してるのか?
それとも素なのか。

いずれにせよ。彩、あんまり気を使われると、こっちまで気を使ってしまうんだよ。

彩、緩急つけることが大切さ。

「ありがとう」

俺は、心の中でアレコレ思いながらお礼を言った。



その日、彩に連絡先を尋ねられた。

「あ…………、彼女さんとかっていますか?」

彩が怖がるように言う。


「いないよ。いたら、二人で会わないよ (笑)」

嘘だよ。

「そ、そうですか!もしいたら、連絡先交換なんて悪いかなと思って」

彩は恐縮しながらも、トキメキを隠せない表情をしている。


ごめんね、愛。前に、しりとりで『い』ばかり愛に押し付けたけど、もう『い』じゃないよ。
特に『あ』の次はね。






No.26 14/11/22 23:23
旅人 ( ♀ )

彩とは、連絡を取り合ううちに映画に誘われた。

大人しそうな外見とは裏腹に、肉食系女子かもしれない。

年齢も28だし、そんなに魅力もない。

結婚相手候補か?

結婚相手に魅力なんていらない。

俺の言うことを、素直に聞いてれば良い。

亭主関白ね!なんてボヤかれた日には、さだまさしの関白宣言熱唱してあげるよ。

魅力は外で求める。

それが男。

そうじゃない男もいるが、俺はそう言う男。



~映画当日~

待ち合わせ場所に、細身の黒いパンツに紫色と黄色のダイヤ柄のチュニックを着た彩がいた。

パンプスのヒールが高いせいか、大人っぽく見える。
まぁ、大人なんだけどさ。

「彩ちゃん!」

「あっ!」

俺に気付き、彩の目が潤んでいた。


このトキメキ、止められない。好き……です。


そんな顔をしている。

俺も心の中では勘違い男だから、痛いことを思ってるもんだ。


「待った?」

「いえ?」

おっと!カッパ口。

緊張してるけど最高な瞬間です。なんて顔だな。


俺はカッパ口の彩と映画館に向かう。

アヒル口を作る愛の連絡は、完全無視をしながら。

No.27 14/11/23 15:17
旅人 ( ♀ )

上映時間になり、映画館に入り座る。

真ん中くらいの席に彩と座った。

「あ、右が良いですか?左が良いですか?」

「どっちでもいいよ」

「…左の方が、観やすいかな…どうぞ!」


座ると、彩は鞄の中から何かを出した。

「河内さん………これ!ベーグルサンドです。良ければ食べて下さい!あ、無理はしないでくださいね!」

「えー!映画館でピクニックみたいだね (笑) 有り難く頂くよ、ありがとう」

俺が受けとると、彩はまたカッパ口になった。

好きな人にお礼を言って貰えてる…………う・れ・し・い。

心の中はそんなところかな?

俺はアレコレ思いつつ、予告編が流れてる時にベーグルを食べ始めた。


「あ、美味し………いですか?」

「うん!…ハムが厚めでうまいわ!」

本気で旨かった。


「実は………パンも私が焼いて、ハムは鶏ハムなんですが3日間かけて味を染み込ませつくったんです…」

「へぇー!スゲーじゃん!それは感激だ」

大袈裟にコメントする俺。

河内さんの………私に対する好感度バロメーター…………ビビビビーン!とかなり、上がったかも?
よし!!!

心の中はそんなとこだろ。

目が潤んでる。生まれたての赤ちゃんみたいに純粋そうだな。

No.28 14/11/23 15:31
旅人 ( ♀ )

愛なんて、朝ごはんはフレンチトーストでぇす!

なんて告知しといて朝起きたら、食パンの上にマヨネーズでフレンチトーストって書いてるだけだったからな。

ホントに大違いだ。


おっ映画が始まった。

俺が最も苦手とする恋愛の感動系だ。

前世で生き別れた恋人同士が来世でまた再会するストーリー。

しかも主人公の名前は彩。

絶対、当て付けだよな~。

なんて可愛らしい。

でもね、彩。前世と来世がある根拠はなんだい?

男は、そこら辺が気になるんだよ。

まぁ、いいさ。

適当にポイントだけ押さえといて、あとは寝てるから。

多分、彩は映画にうっとりして、この胸の高鳴り…………止められない。心臓の音聞こえちゃわないかな?
って自分のトキメキに酔うところだろう。


さっさと3回くらいデートして、キミをもらいたい。

もう少しの我慢だ。亮介。


映画のあとは、どうしようかな?


大サービスで彩のリクエストに応えてあげようか。


亮介!紳士だぜ!

No.29 14/11/23 18:17
旅人 ( ♀ )

☆映画のワンシーン『彩...何かさ俺、彩と初めて会った気がしないんだよな』

『学...私も!何かね、綺麗な川の前で会った気がする』

『えっ?本気で言ってる?俺も、そんな感覚なんだよ。…これってなんだろう』

『もしかして...前世でも、恋人だった?』

『前世?………そうかも…………彩………』

ほー!キスが、始まった。

次にエッチだな。

つーかさ、生まれ変わってまで同じ女とヤりたいなんて思わないよな!

変わったヤツだ!

俺は、映画を観てる間、彩じゃない隣に頭を傾け寝ていた。

たまに目が醒めて、くだらない内容に得意の心の中で毒を叫ぶをやっていた。


あー、まだ終わんねぇのか、くそったれ‼

この際、彩に、俺たちも前世からの繋がりじゃないか?
そうだよ、きっと!だから、決まりだね。

ホテル行っちゃうか!と強引に手を引っ張り、中抜けしたいぜ。

...でも、そんなことしたら、お断りします‼
って号泣しそう。

あーあ、優しいよな、俺って。


おっ!終わった?


No.30 14/11/23 19:19
旅人 ( ♀ )

エンドロールが終わり、席を立つと彩がハンカチで涙を拭っていた。

流石だな。

けど、こんな糞くだらない映画で泣けるなんて幸せだよなー…

俺は何年泣いていないのだろう。

ラグビーの試合で逆転負けした時の、悔し涙が最後だろうか。

そう思いながら、彩と地下街へ出た。


映画の余韻が抜けてない彩。

「河内さん…」

あっ!きっと素晴らしい映画でしたね。そう思いませんか?…みたいなことを聞いてくるか?

「どしたの?」

「好きな言葉は何ですか?」

へっ?流石、図書館勤務だぜ…

「うーん。彩ちゃんは?」

「あっ!ごめんなさい!ごめんなさい!聞く前に自分のことも伝えないとですよね!」

そうだ!



「私は……………………………………………………………偕老洞穴………です」

「はっ?かいろうどうけつ?………あ、ああ!夫婦が白髪になるまで一緒に歳を重ねましょう。みたいな意味だっけ?」

「はぃ………」

おー!顔が、唐辛子みたく赤くなってるな。

ハバネロ食いたくなってきた。


つーか、スゲー重いアピール。

好きな言葉っつうか、やっぱ当て付けじゃん。

「おー!良いねぇ」

この返事が俺の精一杯。


No.31 14/11/23 19:36
旅人 ( ♀ )

「そうですか?そうですか?良かったです!…河内さんは?」

「俺?」

どーすっかな。真面目な言葉…えーと。はぁ。

「公明正大かな」

嘘だよ。ホントは酒池肉林かな。


「公明正大!良いですねぇ!…河内さんにピッタリ!真っ直ぐで素直で…」

「いいや。彩ちゃんのことだよ」

「えっ…」

おっ!また真っ赤だな。

ホントは、酒池肉林なのに。楽しくどんちゃん騒ぎが一番なんだよ。

「彩ちゃんって、素直で真っ直ぐな印象だから」

「えっ…」

そうですか?そうですか?わかりますか?もしかして……私に気がありますか?

幸せな期待で、頭からアドレナリンが爆発してるってとこだな。


「俺、嘘はつけないから。あのさ、これから彩ちゃんの好きな場所行こうよ」

「えぇ!とんでもない!河内さんの好きな場所行きましょ‼」

ホテル!

「いいよ。彩ちゃんの行きたいところに俺も行きたい」

「そんなぁ…観たい映画も付き合ってもらったのに…」

「良いんだよ。凄く良い映画だったし。星5つだよ!」

スッゲーつまんなかった。最初で最後だぞ!あんな映画。

「ですよね!!すっごく良い映画でしたね!良かった…えと、じゃあ買い物付き合ってもらえますか?」

No.32 14/11/23 22:42
旅人 ( ♀ )

はぁ~!?

買い物だぁ?

だっりーな!何買うんだよ?
あ、文具か。

「いいよ。何買いたいの?」

「…キャミソールですっ」

服かよ?

...彩は〇協か、L〇CKY、100均あたりだろ?

ここ街なのに、スーパーまで移動すれってか?

ちょっと調子こいてきてないか?


「ラブラブ愛を叫ぼうビルに行きたいんです。ここから近いし、あっ!すぐ終わりますから!すぐですから!」

ラブラブ愛…、あれ?愛の働いてるファッションビルか?

ファッションビルの中にも、今はスーパーが入ってるのか?

「うん、いいよ。ゆっくり見なよ。行こう」

あずさ2号くらいのスピードで終えろよな!

「…河内さん、ありがとうございます!嬉しいです!」


愛の働いてるビルだけど、ヤツはギャル服売り場だから会うことはないだろう。


と、思ってた。


ビルに入りエスカレーターに乗る。

彩が先に乗り、全身を舐めるように見てあとをつく。

貧相な体っぽいな。痩せてる。

「どこのお店行くの?」

スーパーはどこ?

「キャンギャルーです」


はぁ?

愛の店じゃん。

何でギャル服なんだよ?

つぅか、行きたくねぇし!

No.33 14/11/24 17:48
旅人 ( ♀ )

行きたくねぇと、心が拒否るも...

「二階だから、この階です!」

二階らしく、着いてしまった。

逃げればいい。

しかし…良い獲物を見つけたんだ。

彩と結婚すれば、極悪非道のまま自由人でいられそうだし。

そう思うと逃げることは出来ず、ついに愛の店へ。

つぅかよ!

なんで、彩みたいな地味っ子が、ギャル服の店行くんだよ!

似合わねぇんだよ!買うだけ無駄だ!

ハゲが床屋に行くのと同じだからな!

「私……、痩せてるから、このお店のキャミソールが合うんです。
ギャルさんの服って細身に作られてるから」

あっそうなんだ。

俺は、店内に進む彩を追わず入り口あたりのモテ♡カワ ゆるふわシフォンワンピ今なら1980円!
買うしかないよね?の前にいた。

今なら1980円って、本当は1980円なんだろ!
通常の値段が、ぼったくりだろ!

ったく世の中は嘘ばっかだな。


「河内さーん!あ、いた!……あの、キャミソール、ボーダーとドットどっちが良いか見てもらいたいんです……」

はぁ?なんだよ?線でも玉でも何でもいんだよ!

俺は裸にしか興味ねぇから。


「いらっしゃいませぇ!何かお探しですか?」


やべっ!愛だ!愛が彩に接客にきた!



No.34 14/11/25 17:06
旅人 ( ♀ )

愛は、彩の顔を見た次の瞬間に俺の顔を見て、一気に表情が曇った。

別に愛は失っても良い。


ただ、彩に俺の本当の事情がバレるのが嫌だった。

愛のことだから、何こそ言い出すか...


「あ、キャミソールを買いに来たんです。もう決まってるので大丈夫です。ありがとうございます」

彩が律儀に愛の接客に答えた。

「そうなんですね!ごゆっくりご覧ください」

愛は笑顔で、そう言いクルりと後ろ姿になり向こうへ歩いていった。

ほのかにフェラガモの香りがした。

品のある香りをサラッとつけて、サラッとした女を頑張ったのか?

わからない。

内心は怒っているのだろう。

けど、彩が無事で良かったよ。

俺はほっとして安堵の溜め息が出た。


「キャミソール……どこだい?」

「あ、こっちです」

仕方なく俺は彩のキャミソールを見てあげた。


「うーん。彩ちゃんなら、どっちも似合いそうだから難しいなぁ」

嘘。興味ねぇし。

彩は、また顔を赤らめた。


結局、彩はキャミソールを二枚買った。

No.35 14/11/25 17:14
旅人 ( ♀ )

       【愛のキモチ】 


亮介...最近、連絡がとれないと思っていたら、やっぱりか...

新しい女なのか、遊び相手なのか、わかんないけど、あの子にするの?


仕方ないのかな。

今の私の顔なんて男たちは、みんな嫌だよね…




悪魔さえいなければ、こんな顔にならなかったのに。

でも悪魔が、いたから亮介に出逢えて恋に落ちたんだもんね。


あなたは天使?悪魔?


どっちにしても、亮介が遠くなる...


悲しいよ。切ないよ。苦しいよ...


諦め切れないよ。


亮介...









ずっと前から好きだったよ。

私に戻ってきてよ...




No.36 14/11/25 17:27
旅人 ( ♀ )

       【彩のキモチ】


嬉しい…

スポーツジムで素敵だなって一目惚れした河内さんと、こんなに近づけるなんて!


それも、話をすると真面目だし、しっかりしてるし優しいし...

完璧すぎるよ...

もう、この気持ちは止められない。


好きです。河内さん...


憶測だけど、河内さんも私を気に入ってくれている気がする。

気立ても良くしたつもりだし!

頑張ってベーグルを作ったし!

好きな言葉でも知的にアピールしたし!


好感持ってくれたよね?

あー…河内さん、また会いたい。

また、誘ってみよっと。

受け身でいても始まらない!

行動あるのみ!


はぁ…河内さんのことばかり考えてる。

恋は盲目?

ヤバイ!


頭の中が桃色すぎて、おかしくなりそう。

あ、エキサイトラブ更新されてたな。

読んでみよう。


.........


げっ!

この、紘菜っていう女も最悪だけど、清人って男も彼女と、セ、セフレ?
両方いるの?

最低!

誠実な河内さんとは大違いだわ!

No.37 14/11/28 00:25
旅人 ( ♀ )

あれ以来、愛から質問攻めのメールが来る。


〈亮介?あの子は妹?姉?従姉?教えて!〉

〈どぉして返事くれないの?もしかして死んだ?〉

〈亮介!いい加減にしなさい!私の質問に答えなさい!〉

〈亮介……………お願い。連絡して〉


ああ、うぜぇ…

拒否設定すりゃいい話だが、あの日のコンパのメンバーと全員でも連絡先交換したしな。


ハッキリ、他に好きな人ができたって言えば良いのか。

好きじゃないけど。

ま、彩からの告白を待つか。


つぅか、週末また食事誘われたんだよな。

良かった!メシで!

水族館とか遊園地だったらキツいもんな。


とりあえず、彩が手に入ったら愛を捨てることにした。

天秤にかけないなんて、うーん♪やっぱり俺は優しいな。

~♪♪♪~

メール?

ん?彩からだ。


〈河内さん、こんばんは!部屋の窓から星を眺めてます。
北斗七星が綺麗なので写メとりました。綺麗じゃないですか?〉

きっと、目も星になってるんだろうな。

スターダストメモリーな夜だね、彩。

でもね、俺の心は綺麗な星では、ちっとも動かない。

汚い男なんだよ。



No.38 14/11/28 17:46
旅人 ( ♀ )

後日、彩と食事に行く日、駅の近くで待ち合わせると彩がもう到着していた。


「ごめんね、彩ちゃん待った?」

「いいえ♪大丈夫です」

河内さんを待つ時間さえ、幸せです……………なんて思ってたりしてな~!

ハハハ俺、痛いぜ。

ん?彩、手首にストーンがあるな。

ピンクオンリーじゃん。

恋愛運に掛けてるんだな。

まさか、そのストーン月に照らしてマメに浄化とかしてないよな?

昔、そう言う女が居たんだよ。

「それなら良かった。どこのお店行こうか?」

「き、今日は河内さんの行きたいお店へ行きましょ!」

え?行きたいお店つぅか、コンビニ弁当買ってラブホに持ち込みが良いけど!

「そっか。どうしようかな……」

めんどくせぇな。店、考えるなんてよ。


「あ、任せるのも悪いですね!何が食べたいですか?そこからお店考えましょうか!」

だから、ホテルでコンビニ弁当食べてから彩も食べたい。

「そうだね。じゃあ韓国料理は?俺、美味しいとこ知ってるよ。そこで良いかな?」

大・大・大サービスだからな!


俺と彩は韓国料理店、エキサイトソウル~キムチもビビンバも~へ向かった。

No.39 14/11/29 00:34
旅人 ( ♀ )

「面白い店名ですね。よく来るんですか?」

店内に入り席につき、彩が俺に聞く。

面白い店名?面白くねーよ!

何かムカつくし、変なだけだ!

「うん、友達に教えてもらって。石焼きビビンバ旨いよ」

コンパで使った店だよ。


「そうなんですね!頼みましょうか。はい、河内さんメニュー表」

「ありがとう」

今日も、気が利く素敵女子アピールだな。

勝手に気ぃ使ってろ。

俺は今日は食う。腹使う。


俺達は、メニューを選び店員に頼んだ。


つぅか、ピンクのニットにピンクのチークにピンクのハートのイヤリングじゃん。

好きだな。風水。

…今日、勝負に出るのかもな。


おっ、食事が運ばれてきた。


海鮮チゲ鍋、チャプチェ、石焼きビビンバ。

韓国風サラダ。

飲み物は、モッコリ(マッコリ)


「じゃ、彩ちゃん乾杯しよう!」

「はいっ!」


俺にとってはめでたい乾杯。

彩にとっては苦い罠にハマった完敗。

「マッコリうまい!」

「そうですね!美味しいです」

「彩ちゃんみたいな素敵な女性と呑むから旨いんだなきっと…」

「え、そんな、そんな…」


やっぱり私と河内さん両思いですか?
恋愛の神様は、ほ、微笑んでる?

って思ってるかもね。

100%そうかもね!


No.40 14/12/02 13:27
旅人 ( ♀ )

彩は頬をほんのり赤く染めながら、海鮮チゲを小皿にもってくれている。

ほー!ピンキーリングしてるんだな。

ピンキーリングにもピンクっぽい石がついてる。

ラピスラズリか?

しかも、手が震えてるぜ!


((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル


とても緊張するわ!あ、お野菜も豊富に入れて、健康管理も気遣える女をアピールしなくちゃ!


って思ってても無駄だ!
俺は肉と白米が好きなんだよ。
長ネギ入れんなよ!
ネギ食べたら死んじゃうかもしれないぜ?

俺の守護神は、きっと犬(U´・ェ・)

だから守るが弱い。

すなわち幸せを掴みたいのにぱっとした幸せをがないんだ。

「はい!どうぞ」

「ありがとう」

「長ネギは体を温めますし、喉にも良いです。ニラはエネルギーになりますし、お豆腐は肝臓に良いです」

やっぱりな!

「へぇ…彩ちゃん、詳しいね。家庭的っぽいなぁ」

「え、え?そ、そんなぁ!そんなことないです」


そうですか?そうですか!?

河内さん………………私にヤッパリ………


ってな風に彩の淡い期待は七色に輝くってか?





No.41 14/12/02 13:40
旅人 ( ♀ )

そして、それは突然に彩の告白が俺の耳に入ってきた。


「か、か、河内さん。あの…私と…………つ、つ、付き合ってもらえませんか?」

「えっ?俺なんかで良いの?」

「俺なんかじゃありません!!河内さんだからです!!」

わかってるってぇ!


「俺は、彩ちゃんみたいな素敵な子なら、お願いしてでも付き合いたいよ」

「ほ、本当ですか?」

「うん……ちなみに俺の下の名前は亮介。早く聞いて。これからは亮介でいいよ。
彼女だから。彩って呼んでも良いかい?」

「はい、はい、はい!!よろしくお願いします!」

こっちこそ、色んな意味でお世話よろしくな。


こうして俺達は付き合うことになった。


~ある日の勤務時間~


うおー!

今日は混雑してるぜ。

風邪流行ってるもんな。



ん?

あれ?

......

愛だ。

No.42 14/12/03 17:57
旅人 ( ♀ )

確か俺が此処で働いてるって知ってたよな?

わざと姿を見せに来たのかよ!

ストーカー気質ありかよ…

俺は愛と目を合わさずにパソコン画面だけを見つめた。

そして、チラッと愛の行き先を見ると自動会計機で清算している。

なんだ?風邪かよ?

それに心なしか顔がほっそりしているように見えた。

俺の脳裏に、愛の言葉がリピートされる。

『私の中の悪魔も殺してよ…』


私の中の悪魔…一体…

な、な、何、愛にとらわれてるんだ!

あんなの、もうどうだって良い。

今度、連絡が来たらハッキリと他に相手が出来たって伝えてあげるよ。

ラブストーリーは突然に相手が変わるもんなんだよ。

特に打算的な俺の場合はな。


やがて勤務が終わり、車で帰宅中。

「うわ!!」

左折したら女が、転んだのか荷物落として横断歩道をウロウロしてる。

危うく引くところだった。


俺は無意識に車からおりた。

「大丈夫ですか?」

「はい…すみません」


その瞬間、俺の視線は女の顔に釘付けになった。


美人だったから。


俺は落としたものを拾ってあげた。


車の教習所のテキストがあった。

ふーん。〇〇自動車学校に通ってんのか。

No.43 14/12/03 20:57
旅人 ( ♀ )

「これから教習所?送ってあげるよ」

ダメ元で密かにナンパする俺。

「えぇぇ?」

美人が、目を丸くして驚いている。

美人なのに素敵にスルーしないんだな。

「あ、嫌ならいいよ……」

「い、いえ…あなた…花柄のネクタイしてますね?」

「ん?ああ…」

昔のセフレにバレンタインにもらったネクタイだ。
男の小花の花柄はおしゃれだって。

「し、身長は176くらいかしら!?」

「おっぴったり正解!」


「乗るわ!車に乗って連絡先も交換しましょ!」

はっ?なんか…意味不明な女だな。

ま、いいか…10人いたら、2~3番目に入る美人だしよ。

親しくなって裸にして、この美人の桃色吐息を聞いてみたい。


「うん、じゃあ乗って!」

「はい!」

俺は美人を車に乗せた。



「さっきの花柄のネクタイへの反応って何?」

「えっ………」

しばらく黙る美人。

信号が赤になり、彼女の横顔を見る。


自然な長い睫毛。

すっと鼻筋が通った程よく高い鼻。

無造作に巻かれた柔らかそうな長い髪。

その髪の毛をいじる細くて白い指先。

華奢な肩。



綺麗だ。




No.44 14/12/04 18:58
旅人 ( ♀ )

※主です

読んで下さってる方々ありがとうございます

申し訳ないのですが
少しお休みします



本当にごめんなさい

No.45 14/12/07 20:52
旅人 ( ♀ )

「…霊感タロット占いで、近々身長176cmで花柄のネクタイをした30歳の男性と恋に落ちると…」

美人は静寂を破った。

つぅか、占い?

女って占い好きだよな。


「えー!まじでぇ?ちなみに俺、30だよ!」

俺はオーバーにリアクションをした。

「ホントですか?じゃあ私たち………」

うん。たくさん、たくさん、する運命さ。

「運命的な出逢いだね…びっくりだよ」

「連絡先、交換しましょ!お付きあい開始しましょ!
私の名前は水野杏(あん)29歳、タロット占い師の卵です」

占い師の卵?…まじかよ…

何か宗教なみに占いを過信してる雰囲気。

美人だけど彼女にするにはなぁ。

セフレってことで、良いか!

「俺は、河内亮介、病院勤務」


俺たちは連絡先を交換した。

「自動車学校着いたよ」

「ありがとう。あなた。今日のラッキーカラーは赤だから真っ赤なカーディガン着てきた!
じゃあ行ってきます!」


あなた?

もう家内気取りかよ?

ホント体以外は無理だな。

結婚相手は彩で良い。


それにしても。

最近、出逢う女は『あ』がつくぜ。

愛、彩、杏。

『あ』の次を並べると、いやん♡


No.46 14/12/08 00:18
旅人 ( ♀ )

杏の容姿は久々のヒットだった。

しかし占いに洗脳されている所が病んでるぽいと言うか、浮世離れと言うか...

俺は、杏に関わるのを迷っていた。


でも迷ってたのは、ほんの束の間。


電話で『会おうね♡』って甘い声で囁かれた。

思わず、無類の女好きの俺はオッケーした。

声って半分不思議だ。

自分のツボにハマる声を出されると許してしまう。


ある日の夜、俺は杏にbarに行こうと誘われた。

「あなた!おまたせ!さぁ行きましょう♪チャーミーグリーンみたく手を繋いでスキップしながら行きましょう!」

「…」

やっぱり変だ。

奇人変人だ。

俺はスルーした。


「あなたってシャイな人~!」

杏はスルーされても一人でスキップしながら、たまに俺の腕をタッチしてきた…


やがて杏の行き着けのbarに着く。

うわ!

何だよ?お香くせぇ!

でっかい水晶や、占い本もたくさんある。

カウンターに中年で黒い、きしんだロン毛の怪しい男がいた。

「お兄ちゃん!私の伴侶になるかもしれない人を連れて来たわよ!」


お兄ちゃん?


「ああ…ミオン先生の占いの内容にぴったりの男か?」


「うん!お兄ちゃんの義理の弟にかるかもよ…ううん、なるわ…」




No.47 14/12/08 00:48
旅人 ( ♀ )

ミオン先生とか何だよ?

「あ、あのね。私、ミオン先生の弟子なの。ミオン先生の占いは完璧よ!
的中率100%!」

「へぇ!やり手なんだね!」

バーロ~!占いで人生決めれたら誰も苦労しないだろうがよ。

「うん!超、や・り・て☆ あ、お兄ちゃんはね、前世占いができるのぉ!お兄ちゃん、私のフィアンセを占って!」

フィアンセ…orz

「いいよ。君……好きな時代っていつ?」

好きな時代?

今でしょ!気軽に女と知り合えるしよ。

「……大化の改新」

「はっ?た、た、たい…」

知らねぇのか?動揺で杏の兄貴、髪の毛かきあげやがってフケがとんできたぜ!
占いばっかしてねぇで髪くらい洗え!

「すいません……他は?」

他は!だと?情けない男だな!温水洋一もびっくりするぞ!


「うーん、じゃあ新選組の時代かな」

「あー、はいはい。なるほど!ちょっと集中しますね……」

さすがに新選組はわかったみたいだな!

「はい」

「……………両手で二刀流を振り回してる姿が見えますね……そこで敵に殺られてますm(_ _)m杏とは夫婦で、杏と生き別れして現世で巡りあってますね」

何がよ!!この、おたんこなすがよぉ!!

二刀流なんて、両手で振り回さないだろ!!

「え…お兄ちゃん、私の前世はシスターって言ったじゃない…?」

杏が不思議そうに言った。いいぞ。

「……夢でも見てたんじゃないか?(笑) 杏の前世は農民だよ!」

「ふぅん!そっかぁ!でも…………前世でも、あなたと…………」






No.48 14/12/09 15:49
旅人 ( ♀ )

前世でも、あなたと繋がってたって言うんだろ?

俺は下半身の繋がりしか求めちゃいないのに。


「前世でも、あなたと繋がってたのね。……お兄ちゃん占いありがとう」

やっぱりな!


「なんもだよ!杏、幸せになるんだよ。……あっキミに、幸運の青いしずくって言うカクテル特別に作ってあげるよ。
本来は2000円するんだけど杏の伴侶になるってことで…サービス!」

「はぁ…」

幸運の青いしずくってなんだよ。

怪しいな。

コイツら怪しいな…


「お兄ちゃんの幸運の青いしずくは、世界一美味しいカクテルよ♪」

「そうなんだ…」



..........


「はい、お待たせ!幸運の青いしずくですm(_ _)m」

この…

糞バカヤロウ!!!


見えたぞ?

ガリガリくんソーダ味を解かしてウォッカ足してるとこをな!


「ありがとうございます……あ、ガリガリくんみたいで美味しいっすね!」

「ガリガリくん?……知らないなぁ?なにそれ?お寿司のガリのこと?」


しらばっくれんじゃねぇ!!

やっぱり怪しい。


「あ、いえ。アイスのことです。あ、俺、この辺で帰るよ」

「え…あなた……じゃあ私も。あなたって節度のある人~♪」


違うつぅの!関わりたくねぇだけだよ。

残念だけど、下半身の繋がりもいらねぇわ!


No.49 14/12/09 22:24
旅人 ( ♀ )

杏の兄貴のbarを出て、俺はそそくさと帰る気でいた。

A級の美人なのに勿体無いが関わってろくなことがない気がする。

「じゃあ、俺、市電だから」

そう言い、杏に背を向けた。


「まってぇ………」

杏は後ろから俺に抱きついてきた。

おいおい、人込みだろ!!

俺は、杏を振り払い振り返った。

杏の顔を見るとチワワみたいに愛くるしい目にツヤツヤの唇を人差し指でツンツンいじっている。

なんだよ...可愛いし!


「もう、帰るよ…」

「いやっ!まだ一緒にいたいっ」

たまに、引っくり返る甘く高い声。

騙されないぜ...でも...


「また今度ゆっくりとね」

「いやぁ!今晩は離さないで………」

杏は俺に抱きついてきた。

GUCCI エンビィの甘い香りがする。

甘い顔付きに、甘い声、甘い香り...


くっそー!だめだ!甘さに俺も杏に甘くなってきている。

しかも…下半身が…

つぅかよ、今夜は離さないでって、良いのか?




「どこに行くんだよ?」

「あなたと二人になれる場所ならどこでも…」


俺の理性は何処かに飛んでいた。

杏の手をしっかり握り、ホテルに向かっていた。


No.50 14/12/10 17:48
旅人 ( ♀ )

ホテルに着き選んだ部屋に入ると杏が甘えるように抱きついてきた。


随分と軽い女だな...


頭の芯が冷静でありながらも、下半身は暴走寸前。

「シャワー浴びてくるね…あなたも一緒に入らない?」

「……こんなこと言っちゃなんだけど、会って間もないのに…良いのかい?」

「……うん。だって生涯の伴侶になる人だもの……」

そう言うと杏は俺の後ろに周り、俺のパーカーのチャックをゆっくりと下げていく。

そして横に来て背伸びをし、俺の耳の中をぺろりと舐めてきた。


もうダメだった。


俺は杏を抱き締め、そのあと杏の顎を持ち上げ激しいキスをした。

俺のキスの激しさに困惑することもなく、エロく舌を絡ませ激しさを返してくる。


一緒にシャワーを浴びた時も、体をタオルで隠すことなく全裸だった。

華奢な体にしては意外な豊乳。

きゅっと絞られたウエスト。

プルんとたお尻。


二人、シャワーのしぶきに当たりながら長いキスをする。


「幸せ………好きよ………」


唇が離れると杏は、とろけそうな顔付きで、そう言った。

俺は自然と杏を強く抱き締めた。


ヤバイかも知れねぇ…


体だけじゃなく心まで………


No.51 14/12/12 15:58
旅人 ( ♀ )

杏は、とんでもなく床上手だった。

風俗経験ありか?

エロくソフトにバードに、時に壊れそうな雰囲気を醸し出したり。

甘い甘い夜。

スイートメモリーズな夜だった。


「また………すぐに会おうね………亮介が私の生活の励みだ・か・ら!」


いつもならムカつきそうな言葉さえ、杏の美貌とたまらないセックスを思い出すと許してしまう。


杏を車で家まで送り杏は車から降りる時、さりげなくウインクをした。


まるで天使のウインク。


おい!亮介!どうした?

やめとけ。オカルト女だぜ?

わかってる……けどよ、何だよ、この胸のザワメキ。


自分との闘いだった。


ふと杏の家を見ると高層マンション。

一人暮らしだよな?

パトロンでもいるのか?

まさか………男がいるのか?



あ゛~~~~!!

意外な展開過ぎるよ。

女に対して、こんなザワメキを感じたのは少年時代以来だ。


はぁ…何か30にもなって女に振り回されて、僕笑っちゃいます。


アレコレ考えながら、スマホを見た。


彩から着信とメールがあった。


彩...そうだ。


俺には彩がいたんだ。


No.52 14/12/13 15:48
旅人 ( ♀ )

地味な彩と結婚して外で刺激を求めるんだ。

妻は妻。彼女は彼女。

スッゲーだっせぇ発想だけど一度きりの人生、楽しんだもん勝ちだぜ!



俺は乗り気なんて少しもないが彩を土曜日に、女が好きそうな自然食ビュッフェ、日帰り温泉に連れて行き帰り道はドライブしながら、そこら辺の景色を見させておいた。


スマホの音は切っておいたが杏から連絡がないか、何度も確認してる自分がいた。

朝に〈今日も好きよー♪〉とLINEにあったくらいだ。


「ごめんなさい………!お手洗いに行きたいんです……どこかコンビニで止めてもらえませんか?ごめんなさい!」


「うん、いいよ!あ、コンビニあった」


俺はコンビニの駐車場に車を止めた。


「ごめんなさい…!すぐ戻りますから!」


すぐってことは、小か?まさか生理じゃねぇだろうな?


そう思いながら、スマホをジャケットのポケットから出した。

あっ…

手にスマホを取った瞬間、着信が!

杏だ!

ナイスタイミング!


「もしもし」

俺は、わざとクールに声を出す。

『……亮介………やっと出てくれたね………』


えっ?この声………


愛じゃん!


おい!亮介!

なんで愛と杏を読み間違えるんだよ…


老眼かよ…



No.53 14/12/13 16:05
旅人 ( ♀ )

「あ、ああ」

他に女が、できたって言うか!

さよなら、愛へ。今から伝えるよ。

「あの……」


俺が話し出すと愛と言葉が被った。


『……亮介………嬉しいよ。やっと声が聞けた……ずっと連絡が取れなくて寂しかったよ………?』

な、な、何だよ。

外にいるせいか愛の声が、ツボにハマる。

ちょい。寒気がしている…

やばいぜ!亮介!相手は愛だぞ!


「ごめ…………」

俺が話し出すと、やっぱり愛と言葉が被った。

『亮介の都合の良い日にまた泊まりに来てくださーい!
都合の良い女、愛ちゃんで~す♡朝はモーニングコーヒー飲もうよ!二人で』

「あ、うん………」

『良かったぁ!良かったぁ~!いつ来てくれる?』

「んー、来週の火曜………」



バカだ俺。愛にまでほだされた…


「ごめんなさい!戻りました!」

彩が戻ってきた。

「大丈夫だよ」

すると彩は俺が手にスマホを握ってることに気づいた。

「なんか……急用とかありました?」

「いや!仕事関係の人からちょっとした用件で連絡あっただけだよ。
いこうか!」


浮気関係の人からの連絡だよ。



「そうですか……」


彩は安心した声を出した。




No.54 14/12/15 16:41
旅人 ( ♀ )

その後、俺の部屋に彩と一緒に帰り彩は晩御飯の支度をしてくれた。

鯖の味噌煮、揚げ出し豆腐、いんげんのごま和え、長芋の味噌汁。

純和食の手料理に、遠い記憶が蘇る。


死んだ母さんの煮魚や味噌汁。


母さんは俺が母の日にあげたお椀をずっと使っていてくれた。


母さんの手料理と母さんの笑顔が好きだった。

.....彩は母さんと重なる。

やっぱり結婚相手に相応しい。


俺は過去を、これ以上思い出したくなくてビールを淡々と飲み始めた。

「いつも…ビールですか?」

「いや、酒なら何でも」

「…そうですか。飲みすぎには注意して下さいね」

次の瞬間、俺は彩をギロリと睨んだ。

うっせーんだよ。

黙って傍にいればいーんだよ!



「あ、ごめんなさい!ごめんなさい!大きなお世話ですよね!ごめんなさい!」

「……あはっ。うーん。小さなお世話かな」

「…」


彩が萎縮しているのがわかった。

それでいーんだよ。

彩は俺の所有物なんだから。

それに彩は、そんな俺に夢中だろ?

振り回されるのも悪くないだろ?






その夜、俺は彩を抱いた。

彩は構えてて体がガチガチだった。

つまらない女。

つまらないセックス。



やっぱり結婚相手に最適じゃねぇか。



No.55 14/12/15 23:19
旅人 ( ♀ )

後日、杏から連絡がありクリスマスイヴにプレゼントあるから一緒に独身最後のイヴを過ごそうと言われた。


躊躇する俺。

普通に可笑しいよな。

占いで相手を決めるなんてよ。


頭の芯でわかっていながらも、杏の甘い声、甘い顔付きを思い出すとオッケーしてしまった…

ま、存分に杏を楽しんだらフェイドアウト。

俺らしく軽く考え、愛の家に泊まりに行く日が来た。



体が動くうちは!色んな女とヤル。

愛の家に着くと、玄関のドアを開けるなり愛が抱きついてきた。


「会いたかった!会いたかった!会いたかった!」


珍しく今日の愛は無臭だった。

そして、やっぱり顔がほっそりした気がする。

痩せた?なんて聞くと、注目してる?なんて付け上がりそうだから、止めとく。


「ダーリン♡ これからパスタ作るねぇ!たらスパ♡だよ~~~ん!」

「ああ…」


バサバサ…………パッ…………ガチャン。

ピッピッピッ。ピッ!ダ~ン…。


ん?


ピロリピロリ♪ピロピロリ~!

ガチャン…バサバサ…


「あつぅ‼ 出来たぁ~~~~!」


ばっかやろってよ~。

冷凍パスタ、チン!じゃねぇか。

見えなければバレないと思ってんだな。


No.56 14/12/17 16:03
旅人 ( ♀ )

「ダーリン♡愛ちゃん特性のタラスパ完成で~す!召し上がれ~!」


愛はピンクの絵の具のような、いかにもって感じの冷凍パスタとカットして袋売りしているようなサラダをテーブルに並べた。

皿を持つ手が若干腫れてるように感じた。

もちろん面倒だから指摘はしないが。


「サンキュ。……タラスパってどうやって作るの?」


オバサンみたいに意地悪な質問をする俺。


「え~…パスタ炒めてタラコからだし汁とって…塩コショウしたり…まっヒミツ‼」

タラコからだし汁って…

素直に料理は出来ないって言えば良いのにな。



「ねぇ、亮介。もうすぐイヴだね。一緒に過ごそうねぇ」

ダメだ。その日は杏の日だから。

「あー、仕事だし夜、地元から友達来るんだよ」

「えーー!やだぁ!少しくらい逢えないの?」

「25日なら大丈夫。イヴにこだわらず、ゆっくり逢える日が良いだろ」

つーか、なんで愛と関係を切らないかな俺。

女遊びは一種の病気だってのはホントだ。


「うん!そだねー!オシャレなホテルで食事して泊まろうよ~!」

めんどくせぇ!

ぜってー生理になんなよな!

「ああ…」

「楽しみ♪楽しみ♪」


向かいにいた愛は、トトトトと俺の後ろにきて後ろから抱きついてきた。


さっさと飯くって愛の体を楽しむか。


No.57 14/12/17 20:50
旅人 ( ♀ )

久しぶりに愛を抱く。


下半身だけいつも脱がせるが、たまには乳も見たくて上も脱がせた。


「ダーリン……電気真っ暗にして………」

「何でだよ?いつも明るいとこでヤってたじゃん」

「何かはずかしーの!消すね」

恥ずかしいだと?

そんなわけがない。

きっと体に秘密ができたんだろうが何も聞かない。

めんどくさい。

俺は真っ暗闇の中、愛に愛撫した。


「あ…………」


何故だろう?

暗闇の中にいると孤独だった過去が蘇る。

ろくでなしの父親。

優しかった母親。

父親の背中を本気で何度も睨んだ。

七夕には学校での短冊のお願いごとに、元気なお母さんが欲しいと書いた。

それを知って母さんは静かに泣いていた。

泣かないで。

そう言うと、ごめんねって掠れた声で言ったんだ。

泣いちゃって、ごめんね。

そう解釈してた。


でも違ったんだ。

俺達兄弟を残してしまう、ごめんねの涙だったんだ。


俺らしくもなく心の闇に入り込んでしまったので愛を乱暴に抱いた。

何故だか愛の体の所々が熱かった…



「今日は………激しいね…………」



暗闇の中、愛が言う。

目がなれてきてうっすら愛の顔が見えてきた。


切なくて人恋しい顔をしていた。


No.58 14/12/19 16:50
旅人 ( ♀ )

愛も人恋しいのかよ。

俺と同じだな。

珍しく俺は邪心が無いまま愛とひとつになった。


すると。


「あっ…ダーリン!待ってちょっと待ってて!」



突然、愛は上にいる俺を押し退け寝室から出てった。

何だよ、急に!

珍しく良い気分だったのによ!

まさかトイレか?大じゃないだろうな…

でもトイレへ行ったような物音はしない。


ただ、洗面所の水が流れる音が聴こえる。


なんだ?吐いてるのか?


しばらくして愛が戻った。

「えへっ。ごめんね」

愛は困ったように笑い俺の上に乗り、愛撫をしてきた。

時折触れる愛の両腕が冷たかった。


「腕、何でこんなに冷たいの?」

「…ダーリンから離れたから。きっとすぐあったまるよ」


不思議な女だと思った。

何かをはぐらくてるはずなのに余裕があるんだ。


そのまま、愛と快楽の時を共にした。


事が終わると。


「亮介、他に女いるんだね」

ダーリンじゃなくて亮介と呼ばれた。

それも疑いではなく確信をついてきた。

やるじゃないか。

でも簡単に尻尾は出さないぞ。


「いないよ。俺、そんなに器用じゃないから」

「じゃあ私だけ?」

「…ああ」

「あ~嬉しい!」


愛は、それ以上なにも聞かず猫のように俺の二の腕に顔を擦り付けてきた。


なかなか賢いところもあるんだな。




No.59 14/12/19 20:05
旅人 ( ♀ )

愛の次の日は彩と会う日だ。

病院で仕事をしていると弱った老人、ピンピンした老人、程よい雰囲気の老人、様々な老人がいる。


俺はピンピンした老人になりたい。

その為にも妻は必要だよな。

一生独身は早死にするって聞くし。


仕事を終え明後日のイヴのために、杏にTIFFANYのネックレス、愛に香水のベルドゥミニュイ、彩に同じく香水のラルフローレンロマンスを買った。


杏に3万もかけて自分でもどうかしてると思う。

ある程度の物をあげるなんて、杏に対して自信がなく惹かれている証拠のような気がする。


いいじゃん。この際。

駆け引きなんて棄てればいい。

それに俺には彩がいる。

ダメになっても戻る場所がある!


そう思いながら、彩の家の近くのコンビニまで車で迎えに行く。

既に手に買い物袋を下げて、彩がまっていた。


車の助手席に乗り込む彩。


「お疲れ様…」

「おう。お疲れ」

彩は未だに俺の名前を呼ばない。

最初の勢いはどうした?


「あの…今日も料理しますね。食材買ってきました」

「ああ…ありがとう」


相変わらず気の利く女だと思われたいんだな。


女は、あるがままの姿を愛されることが一番幸せなのにな。





No.60 14/12/20 00:21
旅人 ( ♀ )

「今日は何作ってくれるの?」

「…ホントは聞こうと思ったんです…何食べたいか……けど気づけば仕事中で。
私が先に買い物した方がスムーズに行くと考えました」


「で、何作ってくれるの?」

「あっごめんなさい、ごめんなさい!鰈の唐揚げです」

「ふーん」

「嫌いですか…?」

「いや」


会話の途中で俺の家に着いた。


「じゃあ、………亮介さんがお腹空かないうちに作りますね!」

亮介さん…?

さすが彩だ。

つぅか、もう腹は減ってるが。


トントン……

グツグツ……


料理してる音。

本来なら幸せを感じる音なのに何も感じない。

ただ、退屈に感じるだけだ。


しばらくして。


「出来ました!お皿借りますね…」

「ああ…」


彩は作った料理を並べ始めた。

「お米……私ももらって良いですか?」

「はっ?うん」

食材費も自分で出してんだろ?

どこまで謙虚なんだよ。

限度があるとイラつくんだよ。


少しイラつきながら、彩の作ったメニューを見た。

鰈の唐揚げにピーマンもやし人参の餡掛けをかけたもの
カボチャの煮付け、ブロッコリーを何かで和えたもの。

豆腐とワカメの味噌汁。

あ~俺の嫌いなものばかりだ。

「亮介さん、どうぞ…」

「うん、いただきます」

俺は魚を口に入れた。

「どうですか……?」


「美味しいけど、こないだも和食だったし洋食が良かったな」

「あっ……そうですね!ごめんなさい!ごめんなさい!………あの、クリスマスイヴ、何でも食べたいもの言ってください!作りますから!」


No.61 14/12/21 14:05
旅人 ( ♀ )

「イヴは用事があるんだよね」

俺が無愛想な声で言うと彩の表情は固まった。


「そうですか…勝手に空いてると思ってごめんなさい!…じゃあ25日はどうですか?」

「その日も用事がある。26日で良いかな?」

良いかな?なんて、あたかも会ってやるみたいな上からの言葉。


彩は涙を浮かべていた。

それでも。


「良いです!ありがとうございます!……何が食べたいですか?ローストビーフでもケーキでも何でも作ります!!」


彩は無理に作り笑いをした。

まだまだな女だ。

悲しい笑顔だとすぐにわかる。

それなら思ってることを叱られても言えば良いんだ。


「その日は外食しようよ。たまには美味しいもの食べたいじゃん」

「え……。あ、そ、そうですね!」

まるで彩の手料理が不味いようなこの言い方。

彩は悲しそうに俯いている。

だけどな、そう言う男を選んだのも自分なんだぞ。

あとあとになり騙された!なんて怒り狂う女もいたが騙される方も悪いんだよ。

利口じゃなくて弱いんだ。

強くなれば自分にあった男しか目の前に現れないから。


俺はまさしく痛々しいが俺様になっていた。

そして。

財布から2万円を出した。


「はい」

彩に渡す。

「え、えぇ?」



「今までかかった食材費やこれからのデート代。彩がやりくりして。なくなったら教えて」


彩は躊躇しながらも地獄から這い上がったような顔をしていた。




No.62 14/12/22 17:42
旅人 ( ♀ )

「そ、そんな…………あ、私も半分出します…それでやりくり…しますね」

「良いから。僅かながらの男の可愛いプライドだと思って俺の金でやりくりして」


彩は俺の顔色を伺っている。

仕方ないからニッと笑ってやったぜ。


「…良いんですか?……すみません…ありがとうございます…」

「良いよ。彩のことは先々のことも考えて付き合ってるから」

「先々……?」

「まぁ、結婚てことだよね。彩も28だし責任もって付き合ってるよ。
もし無理なら言って」

「そんな、そんな!無理なわけありません!……凄く……嬉しいです。………末永く宜しくお願いします……」


固いな。

感動して目が潤んでる。

心の中ではどんなラブソングが流れてるんだろう?

古くて固い感じだから祝い船ってとこか?


彩に喜びを与え、しばらくした後、彩を抱いた。

相変わらずガチガチで声もあまり出さない。


杏みたいにエロい声出してみろよ?


「……もっと声出して。彩の声が聴きたい」

いや、杏だと思ってヤりたい。

「え………ハァ………」

ただの溜め息じゃねぇか!


「もっと!」

俺は彩を愛撫する。

「あ…………あん……」

「もっと!!」



「あん…………好きです………亮介さん」

「さんは要らないよ」

「…」

「恥ずかしがらないで。今呼ばなかったらずっと呼びづらくなるよ」


「りょ…うすけ…」


彩が初めて呼び捨てで俺を呼んだ。

まったく心は動かなかった。


No.63 14/12/22 22:47
旅人 ( ♀ )

~12月24日~

街はクリスマス一色。

20時に杏と駅の近くで待ち合わせをした。

ホントは着替える時間はあったが今日はスーツで決めたくて、スーツのまま待ち合わせ先へ。


キャメル色の膝丈のコートを着た杏が待っていた。

杏が俺に気づきしなやかな指先を揺らしながら手をふっている。

心臓の鼓動の度に胸の奥がぎゅっと痛むのを感じていた。


「おぅ!待った?」

「ううん。大丈夫よ!」

今日も艶やかな杏はニコリと微笑み俺の横に並んだ。


「〇〇ホテルのフレンチのお店予約しといたから」

「嬉しい!あんな人気のお店~」

杏は俺の腕を組んできた。

あたたかい。じんわりと幸せを感じる。


店に着き窓際のテーブルに向かい合い座った。

「うわー!夜景綺麗ね、あなた」

「ああ…」


綺麗な夜景より杏に、とらわれているよ。

今年流行りのブルーのニットワンピは胸元が大きめに開いている。

鎖骨が綺麗だ。

シンプルな服装が杏の魅力を引き立たせている。

本当に綺麗だ。


料理がコースで運ばれてくる。

パイ包みの茸のクリームシチュー。

サーモンのソテー。

フォアグラステーキ。


「おーいしい!……あ、これ私からのクリスマスプレゼント」


杏がラッピングされた青いリボンがついた小さめの箱を渡してきた。


No.64 14/12/24 01:35
旅人 ( ♀ )

俺は中身を確認せずクールに装っていたが内心、喜びが込み上げてきていた。

「…俺にはいいのに。あ……俺からも」

杏は気づいて居ただろう。

俺がTIFFANYの小さな手さげ袋を持っていることを。


だからそれを渡しても杏は大きくは驚かなかった。

「…えーTIFFANY?…ブランドもの貰ったの初めて!…開けていい?」

嘘つけ!数えくれないくらいもらってんだろ。

それに杏クラスの女なら男が〈初めて!〉の言葉が悪くなく感じることだってお見通しなはずだ。


…それでも杏の笑顔が眩しかった。
杏は中身を開けている。


「わ~~!可愛い!オープンハート!」

「両面で使えるよ。柄なしと、ダイヤが散りばめられてる方と」

「ホントだ~~!…あなた、ありがとう…嬉しい!すっごく嬉しい……私、大したものあげれてないのに」

杏は笑顔を消して申し訳なさそうな顔をした。

「……開けていい?」

「うん………」


俺はゆっくりとリボンをほどき包装紙を開いた。

重みがあり揺れている、


中身はBVLGARIプールオム30㎎だった。


瞬時に見抜いた。


ド〇キホーテで安く買い、100均でラッピングセットを買ったんだと。

やっぱり数うちの一人だよ、俺は。

結婚を迫るなんて俺が彩に企んでることと同様か?

テンションは下がるが一定の感情であるフリを装い続けた。


「うわ!ありがとう!…この香水大好きなんだ。これは嬉しいわ!」


俺は多分、嬉しそうに笑っていた。




No.65 14/12/24 20:01
旅人 ( ♀ )

「良かった…でも、もっと良いものあげたかったな。まだ占い師の卵だし稼ぎも悪いの…」

稼ぎが悪くて何であんな高級マンションに一人暮らしなんだよ…

「何言ってんだよ!気持ちでしょ?気持ち!」

「うん…気持ちはたーくさん詰まってるよ♪旦那様になる人だもの」


そう言いながら杏は柔らかい笑顔を見せてくれた。

天使みたいだ。

ふわんとしてて、ぼんやりしていたら何処かに天使の羽で飛んで行ってしまいそうだ。

………ダメだ!しっかりしろ!亮介。

流されないで思ったことを伝えるんだ。


「…でもさ、占いで俺って決めたんだよね?それはちょっと悲しいからお互いをよく知っていこうよ」

「ううん…占いだけじゃない。純粋にあなたが好きよ。ダメ?あなたは私を好きじゃない?」


くぅ……ダメ?って首かしげる所がたまんないな。


「そんなことないけど…」

「…良かった。あなたってシャイな人だもんね♪私がリードしなきゃ♪…運命の縁を逃したら一生後悔する……占いはまだまだだけど私のインスピレーションは鋭く働くの。
私たち縁がある………」


悪戯に真剣に、そして笑顔に変わるその表情の変化に俺のハートは鷲掴みされる。

縁なんてどうだっていい。

早く二人きりになりたいな。


「そうか……じゃあ食事のあとはどうする?」

「……身体中で愛し合いたい。愛し合お?」


そうだ。ベストアンサーだ!いいぞ!


No.66 14/12/25 17:47
旅人 ( ♀ )

その後、俺達はホテルの一室で快楽の時に溺れていた。

下半身さえ気持ちよけりゃ良いはずなのに、俺の汚れたハートがズキンズキンと痛みやがる。
まだ純な部分があったのか?

杏の艶っぽい顔、俺を惑わす仕草や動作、耳の鼓膜が溶けそうなくらいに刺激する甘く切ないエロイ声。


この女は一色では塗りつぶせない。

魅力的過ぎて鼻血が出そうだ。


「あなた……好き………」


杏は俺の上で動きながら囁き俺の唇を指先で触れてきた。

俺は、その指をなぞるように舐めた。


溺れている、杏に。

杏はどうなんだろうか?

知りたい。杏のことを。知り尽くしたい。





~12月25日~


仕事中も俺は昨夜の余韻に浸っていた。

公私混同はダメだぜ~

なんてな。表面に出さずミスさえしなけりゃいい。

つぅか今日の夜は愛か。

店も予約してないな。

ごめんね、愛。

こんなに粗末にするくらいなら愛を完全に離してあげればいいよな。

けどな、離れていかない愛も賢くないんだよ。

まぁ一度きりの人生、失敗も成功もたくさんしろ。

俺は心の中で愛に話しかける度、優越感に浸っていた。

我ながら手に負えないバカだと思う。


そして20時に愛と駅の近くで待ち合わせ。

適当に深いベージュのダウンをはおり中はダークグレーのセーターに下は黒いパンツ。

楽だ。

楽だと思いながら待ち合わせ場所に向かうと楽な女、愛がチドリガラの膝丈のコートを着て待っていた。



No.67 14/12/25 19:24
旅人 ( ♀ )

「ダーリン♡」

愛は俺の姿を見付けるなり小走りで近づいてきた。

「おぅ!」

「おぅ!じゃないでしょ?待たせてごめんなさいでしょ?」

チッ!都合の良い女だと認めながら、また“女”を全面に出してきやがった。


「ごめんねー」

「心がこもってないし!」

調子に乗んな!隠れブスが!


「僕、好きな子には照れ屋なんだよね」

愛は悪くないような顔で照れ笑いをしてる。

そう言う簡単な所いいぞ。


「もう…僕って言ったら可愛いと思われるとでも?ガキね~!さぁ、どんなお店に連れてってくれるの?予約したよね」

「ごめん…仕事忙しくてさ…予約してない」


「はぁ?綺麗な夜景が見えてピアノの演奏でもあるお店に行くかと思ってたのに!!」

「悪い悪い!ほら、俺って人間らしいからミスが多いんだよ。何が食べたい?」


また愛はすぐ怒った顔からニヤケ顔になった。

惚れてんだな。

惚れたもん負けなのに、こんなに優しくしてもらって感謝しろよ!


「食べたいもの……串揚げかなぁ?茄子の串揚げ大好き♡」


愛は俺の横で俺の手を握り、背の高い俺を見上げてきた。

……今日はまた顔がパンパンだな?

香りもする。


甘酸っぱいベビードールの香りが。


つぅか串揚げの店ってよ。

綺麗な夜景もピアノ演奏もないし。


そう言う頑固じゃない所もいいぞ。


「オッケイ!美味しい串揚げ屋、知ってるから行こうか!」

「は~い♡ 茄子!長芋!椎茸!エビ!わ~い♡」


俺達は手を繋ぎながら串揚げ屋に向かった。




No.68 14/12/26 23:15
旅人 ( ♀ )

>> 67 串揚げ屋は15分程、待つことになった。

それでもカウンター席だ。

カウンターの方がいい。

別に愛の顔は見たくないから。


「ダーリン♡これ!クリスマスプレゼント!」

会計近くの長椅子に座って待ってる間、愛が縦長の紙袋を渡してきた。

知っていた。

手元にぶら下げていたから。

コムサデモードの袋だ。

ふーん。無難なブランドじゃん。


「ありがとう!はい、俺からも」


俺もダウンのポケットの包まれた香水を愛に渡した。


「ありがとう~!ねぇ、ダーリンから開けて♡」

「ああ」


中身は小さめの白いドット柄の濃紺のネクタイだった。

ネクタイを見ると杏と出逢った日を思い出す。

会ってすぐに『花柄のネクタイしてる!』って驚いてな。



「あっ!ダーリン♡にやけちゃって!良かったぁ!気に入った?」

「あ、ああ…なかなかセンスいいじゃないか」

「えへへ♡」


愛はほっぺたあたりでブイサインみせてきた。

ごめんね、愛。にやけたのは杏のことを思い出したから。

それにね。愛。顔が横に丸くてブイサインされでも蟹にしか見えない。

全然可愛くないよ。


「私も開けるね!」

「ああ」


愛は包装紙をはがし中身を見てしばらく香水を真顔で見つめていた。

どうせ『レディにこんな安いものなんてありえない!』とか言うんだろ。




「えへへ。香水だ。嬉しい♡」

意外なリアクションで愛はまたほっぺたにブイサインをした。


やがて時間が経ち串揚げを食べる。


「あ~っつつ、あっつーい!」

「来て早々かぶりつくからだよ(笑)」


愛といて自然に笑ってる俺がいた。



夜は愛の部屋に行き、また体を重ねる。

今日の愛はちょうどよい体温だった。

部屋の明かりを消してとも言わず人恋しい表情が全快だった。


No.69 14/12/27 16:25
旅人 ( ♀ )

【杏の気持ち】




内心私を屈服させたいとでも思ってる?


取り合えず遊んでおこうと始まったのに、あなた私にどっぷりハマってきてるわね。


でも、あなたも結構イイ男だし冷静な部分もあるみたいね。


表情を見ていたら良くわかるわ。


でもね、どうして一番不可解なあのことを疑わないの?



やっぱり男は単細胞よ。

男の下心を利用して、私の魅力と色香に夢中にさせるの。


ねぇ、あなた。………亮介さん?

私の性行為のテクニックは長けていたでしょう?

やっすい香水のことなんて忘れちゃったでしょう?



あの香水ね、他の男から貰ったの。

シャネルの財布と、シャネルの手袋と、あの香水。

なんで香水だけ超安物よ(笑)

呆れて、部屋のタンスの上に起きっぱなしだったの。



いらないから箱のホコリをはらってあなたに包み直してあげたわ。

それにしてもTIFFANYのネックレス……こんな安いものだけがプレゼントとは……



あなたの冷静な部分に私も冷静になるわよ。



目標達成となるかしらね?



もし達成したら、あなたにとって私は幻なる。



今回の占いから始まるシチュエーションもなかなか楽しかったわ!




フッ…フフフフフ…………




No.70 14/12/27 22:38
旅人 ( ♀ )

【彩の気持ち】


亮介さんのことを相談した友達からの言葉が耳に残っている。


“ただただ気を使って思ったことも言えない男なんて止めときなよ。疲れるだけでしょ?何が良いの?顔?それともエッチ?結婚って言葉が彼にとって彩へのエサなんだよ”

と、ラン。



“26日がクリスマス?ぜっったい他にも女いるって!あと二人位いるんじゃない?彩、利用されてるんだよ。止めときなよ。傷つくだけだよ”

と、スー



“うーん。色んな男がいるからねぇ。それに男って第一に仕事だし脳の働きも女と違うじゃん?自分と価値観が違って戸惑うけど自分の気持ちに嘘つける?好きなんでしょ?”


と、ミキ。



亮介さんの何が良いのか…?

確かに最初は外見と雰囲気。

クールそうなんだけど目が合うと優しそうな目をしてて。

顔も好き、凄く好き。



体も………亮介さんの温もりが離れない。

思い出すだけで気が狂いそう…



だけど、優しかったのは最初だけ…

いつも素っ気ない。

温度差を感じずにはいられない。


不安になる。

何を考えてるかわからない。


利用されてる?傷つくだけ…?


いや……そんなのいや………こんなに誰かを好きになったのは初めて…

何か…息が苦しい…


でも、お金もくれたもん。

やりくりしてって。

結婚の二文字はエサなんかじゃない!


ミキの言う通り色んな男がいて価値観も違う!


それに好きな気持ちに嘘はつけない………


だから亮介さんを信じる。


愛することは信じることだもん………



No.71 14/12/28 17:52
旅人 ( ♀ )

【愛の気持ち】



亮介………また会えて良かった。

どうやら恋してるみたいだけどね。

わかるよ。


自然に笑ってくれたり、いつもより優しかったり…

恋すると男も女も身体中が嬉しくなっちゃうもんね。



私は、我が儘な女を楽しんだから、もう素に戻るよ。

構ってくれるだけでいい………

こんな私だもん。


亮介の隣に居れるだけで幸せだよ。

嬉しくて私も自然と笑顔になるよ。


いつか亮介が私の知らない誰かと結婚するまで、たまに隣にいてよ。


一緒に笑ってよ。


ホントは生きる資格なんて私にはない。

その証拠に悪魔が私を責めるの。


これでもか、これでもかと。


亮介……………熱いよ、熱い……………



香水ありがとうね。



体調の良い時に使わせてね。



ベルドゥミニュイ………真夜中の美女。

私は美女ではないけど、決行の日は、あの日と同じ時間にしようと思うの。



あの日も真夜中だった。



亮介、寂しいよ、とてつもなく寂しいよ。



涙がポロポロ流れる。



涙の一粒一粒に亮介と私がいて、流れて消える。


  • << 73 ~12月26日~ ああ…疲れた。 さすがに3日連続、女と会うとなると体がダルい。 杏に会うなら疲れ知らずなんだろうが、何せ今日は彩と会う日だ。 適当に何とも言えない味のイタリアンの店を予約しといた。 理由は料理が安くて店内は小綺麗だからだ。 彩にぴったりじゃないか。外から見たら汚れなき人生を送っているような彩。 しかし与えられるものは安っぽい言葉や愛しかないんだよ。 彩を始め女どもよ。 男に騙された。復讐してやる。生き霊送ってやる。 よくそう思うよな。 勝手にしろ。 こっちだって粗末にしてやってんだからサインを送ってるんだよ。 傷心を乗り越えて絶対、後悔する女になってやる! はぁ!?笑わせんな。 お前らにはもう会うことはない。 どうやって後悔させるんだよ。 俺は渋々、彩に会うので意味不明な悪意しかないつぶやきを心の中で繰り返していた。 待ち合わせは20時、駅の近くで。 三日連続、同じ場所で待ち合わせだ。 20時10分になっても焦ることもなく、悪いとも思わずダラダラ歩いていた。

No.73 15/01/04 21:21
旅人 ( ♀ )

>> 71 【愛の気持ち】 亮介………また会えて良かった。 どうやら恋してるみたいだけどね。 わかるよ。 自然に笑っ… ~12月26日~

ああ…疲れた。

さすがに3日連続、女と会うとなると体がダルい。

杏に会うなら疲れ知らずなんだろうが、何せ今日は彩と会う日だ。


適当に何とも言えない味のイタリアンの店を予約しといた。

理由は料理が安くて店内は小綺麗だからだ。

彩にぴったりじゃないか。外から見たら汚れなき人生を送っているような彩。

しかし与えられるものは安っぽい言葉や愛しかないんだよ。

彩を始め女どもよ。

男に騙された。復讐してやる。生き霊送ってやる。
よくそう思うよな。


勝手にしろ。


こっちだって粗末にしてやってんだからサインを送ってるんだよ。

傷心を乗り越えて絶対、後悔する女になってやる!


はぁ!?笑わせんな。


お前らにはもう会うことはない。

どうやって後悔させるんだよ。


俺は渋々、彩に会うので意味不明な悪意しかないつぶやきを心の中で繰り返していた。


待ち合わせは20時、駅の近くで。


三日連続、同じ場所で待ち合わせだ。


20時10分になっても焦ることもなく、悪いとも思わずダラダラ歩いていた。







No.74 15/01/05 16:02
旅人 ( ♀ )

彩の姿が視界に入った。

膝丈の白いコートを着てるな。

地味な彩が白いコートかよ。

どうせ♡男ウケコートは白♡とか雑誌で読んだんだろ。

俺、白いコートって安っぽくて嫌いなんだ。

やっぱ杏みたくベージュの方が品があって好きだな。

あ…やべぇ。杏、杏って…やべぇ。やべぇ。

俺はちんたら歩いていたが杏にとらわれてるのが怖くなり、遂に走り出した。


「ごめんね、遅れて」

全然悪いだなんて思ってないよ。

「ううん。気にしないで…」

おっ!瞳がウルウルしてんな。しかたねーな。

惚れてんだな。


あ、今日は顎までの髪の毛のサイドを編み込みしてんな。

彩は編み込みあたりを指で触れた。


亮介さん…………?私、可愛くないですか?
編み込みしてるんですよ?


そんなことを思ってるんだろう。


可愛くないから。

編み込み、全然可愛くないから。

しめ縄にしか見えないからさ。SMがお好きで?としか思えないんだよな。
俺は。



「お店予約しといた。イタリアンでいいだろ?」

「はい!!」


はい!!じゃなくて、うん!!♡って可愛く言えねーーのかよ?

それにイタリアン?私の希望も聞いてよ!

みたいに我が儘言えないのかよ。

だから所有物なんだぜ。


我が儘と言えば、愛は最近、我が儘言わなくなったな…

  • << 76 な、何で愛なんかのことを考えるんだ! 杏ならともかく愛だぜ? 「彩、いこうか」 「はい…」 俺は今の感情を消したくて、彩の腰に手を回し歩き始めた。 キャッキャした今時の子なら、腰に手を回したりカラオケで歌に対し足の爪先でリズムをとると、ありえないしー! とか思うんだろうが彩なら大丈夫だ。 素朴女子代表格だからな。 やがて店に着き、俺は彩にメニュー表も見せずさっさと料理を頼んだ。 私にも見せてよぉ!……みたく言えないからやっぱり所有物だぜ。 ペスカトーレや生ハムが載ったカナッペ、寒鰤のカルパッチョを食べながら適当に話をし時間が流れるのを待った。 「亮介さん…これ」 彩は大きめのバッグからプレゼントらしき小さな箱と少し大きめのラッピングされた袋を渡してきた。 「えっ……いいの?ありがとう」 当たり前だよな。プレゼントは。 「いいえ…」 「あ、俺からも」 俺も彩にプレゼントの香水ラルフローレンロマンスを渡した。 彩は、また瞳を潤ませている。 「わぁ…私に?ありがとう…嬉しいです」 彩は相変わらず恐縮した言葉を添えてプレゼントを受け取った。 「彩からのプレゼント開けていい?」 「あっ、はい。是非!」 中身が気になり、ゆっくりと包装紙を剥がしていった。 さぁ中身は何かな?

No.75 15/01/05 17:23
旅人 ( ♀ )

※主です

いつも読んで下さっている皆様ありがとうございます。

私事ですが、待ち人さんがいるのでこの場に書き込みさせて頂きます。

不快に思われた方がいらっしゃいましたら先に謝ります。
申し訳ございませんm(_ _)m


........


事情があり、感想スレを閉鎖し、もう建てる予定もありません。

でも、お部屋が好き、ファンだと言って下さった方、そして、はにちゃん、つゆママ、ようこさん、ミナヨちゃん、まきちゃん見てますか…?

雑談板の何でも雑談、フレンドリー☆女子トークに私います。


無理強いはしませんが、ご縁を大切にしたくまた再会できたらいいなと図々しく思ってます(>_<)
ごめんなさい。


気が向いたらで良いので来てくれたら嬉しいです。


らぶ






※次頁からは、お話が続きます!

No.76 15/01/05 17:46
旅人 ( ♀ )

>> 74 彩の姿が視界に入った。 膝丈の白いコートを着てるな。 地味な彩が白いコートかよ。 どうせ♡男ウケコートは白♡とか雑誌で読ん… な、何で愛なんかのことを考えるんだ!

杏ならともかく愛だぜ?


「彩、いこうか」

「はい…」


俺は今の感情を消したくて、彩の腰に手を回し歩き始めた。

キャッキャした今時の子なら、腰に手を回したりカラオケで歌に対し足の爪先でリズムをとると、ありえないしー!
とか思うんだろうが彩なら大丈夫だ。

素朴女子代表格だからな。

やがて店に着き、俺は彩にメニュー表も見せずさっさと料理を頼んだ。

私にも見せてよぉ!……みたく言えないからやっぱり所有物だぜ。

ペスカトーレや生ハムが載ったカナッペ、寒鰤のカルパッチョを食べながら適当に話をし時間が流れるのを待った。

「亮介さん…これ」

彩は大きめのバッグからプレゼントらしき小さな箱と少し大きめのラッピングされた袋を渡してきた。

「えっ……いいの?ありがとう」

当たり前だよな。プレゼントは。

「いいえ…」

「あ、俺からも」

俺も彩にプレゼントの香水ラルフローレンロマンスを渡した。

彩は、また瞳を潤ませている。

「わぁ…私に?ありがとう…嬉しいです」

彩は相変わらず恐縮した言葉を添えてプレゼントを受け取った。

「彩からのプレゼント開けていい?」

「あっ、はい。是非!」


中身が気になり、ゆっくりと包装紙を剥がしていった。

さぁ中身は何かな?


  • << 90 彩からのプレゼントを開けるとノーブランドのキーケースに黒いマフラーだった。 このキーケース、スーパーだな。 これだから彩みたいな素朴の塊の女には参るよ。 ファッションビルとスーパーも同系だと思ってるんだ。 惚れた男にスーパーでプレゼント買うとは。 誠に遺憾だ。 俺は面白くなかったが当然の結果のプレゼントなので、感情をしずめた。 「ありがとう。ちょうどキーケースもマフラーも欲しかったんだ」 あ…俺、マフラーなんて窮屈なものは嫌いだし杏と今度、目隠しプレイをする時に使お………な、な、何でだ。 やっぱり杏にとらわれすぎている。 俺はまた感情をしずめた。 「……良かったです!……あと、マフラーは手編みなんです。編み目が増える度、嬉しくなりながら作りました…」 あ?手編みだ?そう言う重さがイラつかせるんだよ。 ちゃんと私は確かに愛されてると確信した時に作るもんだろ。 まぁ、イニシャルが入っていないだけ救いだが。 「そうなんだ。サンキュー」 「はい……」 俺が素っ気なく返事をしたがために、彩の顔色が曇った。 イチイチ振り回されるから、やっぱり所有物だ。 そのあと、素早く飯を食い、店を出た。 彩は俺を見上げしめ縄を触っている。 このあと…………亮介さんの家で…………結ばれるんですよね? 下着は今日も純白の白です。 男の人は清楚な色が好きですよね? なんて思ってるんだろ?

No.77 15/01/06 13:48
旅人 ( ♀ )

☆主です

すみません……この小説、続けて欲しい方いますか?

複数いたら続けますし、いなかったらちょっと色々あり、精神的に病んでるので保留にしたいのです。

一時、誰でも書き込める設定にしておきます。

ネットってこわいですね

  • << 79 はい、読みたいです。是非続けて下さいm(_ _)m
  • << 80 一番大好きな作品です🙌 でも主様が心配です 大丈夫ですか?😢

No.81 15/01/06 14:25
旅人 ( ♀ )

☆主です

皆さんありがとうございます。

体調が落ち着き次第、頑張ります。

非常に今、辛いです。

もしかしたらミクル利用停止になるかもしれません、

だとしたら、ごめんなさい。

ごめんなさい。

  • << 83 ありがとうございますm(_ _)m 待っていますから ゆっくり休んで元気になれたら書いて下さいね

No.86 15/01/06 15:19
旅人 ( ♀ )

>> 82 読んでます! 1番好きな作品です、涼介がどうなるのか愛の病気は杏の真意は? 気になることがいっぱいです、 どうか続けてください… ママのあとに私がやりましたって書いちゃったしょ?
それを運営がこのユーザーはNGだと判断したら利用停止だと思うよ。

自業自得だけど、ああ書けば、ママが出てくると思ったんだ

はにちゃん、悩みがあったらあっちのスレで吐き出してね

私で良ければ、いくらでも聞くから!

はにちゃん、ありがとうね

らぶ

No.87 15/01/06 15:24
旅人 ( ♀ )

>> 84 作者様。 握った手は離さないよ。 ゆっくり更新して下さいね。 完結目指してね。 影ながら応援しています。 ガン… ねんね、ありがとう!

今は少し休んでまた再開します( ^ω^ )

今、肋骨が折れて寝込んでます

ネットばかり見ています

小説を書くという原点に戻るよ!

ねんねは正しかったよ(´▽`)

らぶ

No.88 15/01/06 15:27
旅人 ( ♀ )

>> 85 ずっと待ってるから… 焦らなくていいからゆっくりとで大丈夫だよ✌ ようこ ようこさん、本当にありがとう!

ようこさんの優しさに少し安心してきました。

ゆっくりですが、完結させます( ´∀`)

らぶ


☆この辺で閉めます

皆さんありがとう!


No.89 15/01/08 14:22
旅人 ( ♀ )



***

アリサだよ(o’∀`)♪

みんなぁ、私のこと知ってる?

勘違い女アリサのア・リ・サ☆

アリサって誰もが羨む美貌の持ち主で心も仏なの(-ι-З)

あ、嫉妬しないでね┐(-。-;)┌

らぶちゃんにアリサが励ましの言葉をかけたの☆

何でもありさ‼ ファイトだよ?

アリサみたく素敵女子になれるように、らぶちゃんもスタートラインにたとう?ってね。

らぶちゃん納得してたけど、ちょっとアリサに嫉妬してる感じだった┐(-。-;)┌

次頁からは、さよなら、あなたへが続くみたいだよ!

みんなぁ!勘のいいアリサは

みんなの声が聴こえるよ("⌒∇⌒")

アリサさん、素敵すぎる~~!

はいはーい(●´∀`●)∩ストーップ!

アリサが魅力のある子で、その点らぶさんは…

と思ったよね?

でもね、アリサが奇跡の女なの。

だから♪さよなら、あなたへも応援してあげて♪

神に選ばれた娘、不動の絶対的センター存在♪

アリサ姫でした("⌒∇⌒")

***

No.90 15/01/08 14:49
旅人 ( ♀ )

>> 76 な、何で愛なんかのことを考えるんだ! 杏ならともかく愛だぜ? 「彩、いこうか」 「はい…」 俺は今の感情を消… 彩からのプレゼントを開けるとノーブランドのキーケースに黒いマフラーだった。

このキーケース、スーパーだな。

これだから彩みたいな素朴の塊の女には参るよ。

ファッションビルとスーパーも同系だと思ってるんだ。

惚れた男にスーパーでプレゼント買うとは。

誠に遺憾だ。


俺は面白くなかったが当然の結果のプレゼントなので、感情をしずめた。


「ありがとう。ちょうどキーケースもマフラーも欲しかったんだ」

あ…俺、マフラーなんて窮屈なものは嫌いだし杏と今度、目隠しプレイをする時に使お………な、な、何でだ。
やっぱり杏にとらわれすぎている。

俺はまた感情をしずめた。


「……良かったです!……あと、マフラーは手編みなんです。編み目が増える度、嬉しくなりながら作りました…」


あ?手編みだ?そう言う重さがイラつかせるんだよ。

ちゃんと私は確かに愛されてると確信した時に作るもんだろ。

まぁ、イニシャルが入っていないだけ救いだが。


「そうなんだ。サンキュー」

「はい……」


俺が素っ気なく返事をしたがために、彩の顔色が曇った。

イチイチ振り回されるから、やっぱり所有物だ。

そのあと、素早く飯を食い、店を出た。


彩は俺を見上げしめ縄を触っている。

このあと…………亮介さんの家で…………結ばれるんですよね?

下着は今日も純白の白です。

男の人は清楚な色が好きですよね?



なんて思ってるんだろ?

No.91 15/01/08 19:01
旅人 ( ♀ )

それは大きな間違いだ。

本当に愛した女なら全てが愛しいが、利用的存在の女は穴さえあれば良いんだよ。


それに俺はヤりすぎで腰が辛かったので、その日は食事だけで終えることにした。


彩へのプレゼントの香水ラルフローレンロマンスを渡したが彩は身震いしながら喜んでいた。


引いた。


「じゃ、今日はバイバイ。また」

俺はさっさと帰りたかったので、早口でそう彩に告げた。

「えっ……」

彩の顔がひきつった。

そんなにセックスがしたいのか?

快楽を覚えたんだな。

極太マジックでも刺しとけよ。


「ごめん、疲れてるんだ。じゃあ」

俺は彩の言葉を待たずに彼女に背を向けた。

「ま………た………」


彩の悲痛な声が聴こえる。

俺は構わずスマホをジャケットのポケットから取り出した。

ホント俺は腐ってる。

父親と同じだ。

やっぱり蛙の子は蛙。

薄っぺらな人間なんだよ。




そしてスマホを見るとLINEに杏からメッセージが入っていた。


〈あなた~♪イヴに会ったばかりだけど明日会えない?
お酒飲みに行かない?〉


行く!行く行く!絶対行く!

疲れは一気にぶっ飛びテンションが上がる。

すぐに返事をしようと思ったが、じらしも必要だ。

俺はにやけていたと思う。

通りすがりのデブスが不信な顔で俺を見ていたから。


No.92 15/01/09 15:17
旅人 ( ♀ )

俺は自宅へ着き、杏からの誘いを受け入れる返事をした。

どこか店を予約する?と聞いたが新しいお店の発掘も良くない?
と提案され確かに…と思った。

「♪~♪~♪」

無意識に口笛を吹いていた。


待ち合わせは明日の20時に駅の近くで。





~翌日~

約束の時間より前に待ち合わせ場所に着いた。

杏を思い描くだけで下半身がヤバイ。

白くて決め細やかな、しっとりとした肌。

程よく豊満な乳。

プルんとしヒップアップしてる尻。

無敵と言っても過言ではない美貌。

興奮をマックスにするような魅力的な美声。


最高だ。


けれど、外から見た好きであって、彼女の内面を好きだと言うわけではない。

要は下心があるだけだ。


「あなた~♪」

俺が下らないことを考えていると杏が俺に向かって走ってきた。

赤いマフラーに鴬色の膝丈のコート。

マフラーの側で遊ぶようになびく髮。

いつも通りの艶っぽい美貌。


綺麗だ。


「おぅ!」

俺は平常心を保ち、到着した杏を見つめた。

「会いたかった~!さぁ行きましょう!」

「どんな店に行こうか?」

「あ~…あのね、今日急に、お兄ちゃんから連絡があってね、お客さんから美唄の焼鳥と室蘭の豚串をたくさんもらったんだって。
だからお兄ちゃんのお店いこ?」

はぁ~?あのインチキ不潔野郎の店か。

ぜってーやだ。



No.93 15/01/09 17:47
旅人 ( ♀ )

「え…他行こうよ。杏と二人で話がしたいな」

俺がそう言うと杏は、深く俯いた。

「どした?」

「…」

なしたんだ?

その時、杏の長い髮に涙が流れ落ちた。


「何だよ?どうしたの?ん?」

「………凄く辛いことがあって…………」

「辛いこと?」


杏は呼吸が速くなっている。

かなりの動揺だ。

顔を上げてくれたが、次から次と杏の柔らかな頬に涙が伝っている。

「…」

「どうした?ゆっくりで良いから話そう。やっぱり二人きりになれる場所が良いだろ?」


泣くな、杏。

杏には笑っていてほしい。

杏、好きだ……………



はっ…俺………もしかして………



「………辛かった…事情を話すと…呼吸が苦しくなるの………私、こんなに弱かったなんて………。お兄ちゃんが事情を知ってるから、お兄ちゃんに聞いて欲しいの。
私は辛くて話せないの……そのあとは二人になろう………私を離さないで………」


杏は涙ながらにそう言うと俺の胸にうずくまってきた。

柔らかな香りがする。

身体も柔らかい。

髪の毛に触れても柔らかい。


杏の柔らかさに触れ、俺はもう拒否できない心境になっていた…


「わかったよ…」


一体、杏に何があったんだ………



No.94 15/01/11 21:11
旅人 ( ♀ )

涙が止まらない杏の肩を抱き、インチキ不潔野郎のbarへ向かった。

兄貴から話すって家族の問題か?

混乱しながらbarに到着しカビの前兆の赤い汚れがついたドアを開ける。




店内は誰も居なかった。

「いらっしゃい……」

杏の兄貴がカウンターの椅子に座り足を組ながら浅く礼をしてきた。


「あなた…座ろう?」

ようやく杏が言葉を発した。

「ああ…」


二人でカウンターの席に座ると、兄貴は立ち上がりカウンター内に入った。


「何飲む?」


兄貴は冷静に俺に聞いてきた。

「大事な話があるみたいだから、コーヒーで」

「……わかった」


兄貴は、俺と杏にアイスコーヒーをいれてくれた。

「何かあったんですよね?」

俺が聞くと兄貴は、口元を押さえ目が泳ぎ始めた。

ん?……人は嘘をつく時、目が泳ぎ口元を触る。


今まで嘘をついてきた奴らはそうだった。


嘘つきの俺も嘘をつく時、そのような仕草に走りやすい。

亮介、落ち着け。

罠だ、きっと。罠なんだ。

俺は冷静さを保ち兄貴の言葉を待った。



「実はね………」

「はい」


「杏の師匠のミオン先生の話をしただろ?」

「ミオン……ああ、はい」


「騙されたんだよ、杏が」

「騙された?」


俺は兄貴の次の言葉が想像ついていた。

No.95 15/01/12 16:59
旅人 ( ♀ )

「うん、要はインチキ占い師だったんだな。杏は200万払って弟子入りした。なのに姿をくらましたんだよ」

「そうなんですか…」


だから、金をくれって言うんだろ?


「うっうっう……」

杏は嗚咽を漏らして泣いている。

ごめんね、杏。

俺、バカだけど、この話の魂胆くらいはわかるよ。

最初から金だったんだろ……

どうしてなのか胃がキリキリしてきた。

「でね…」

兄貴が口を開いた。

「はい」



「恥ずかしながら俺は借金抱えてるし、杏を助けたくても助けられないんだ……君、杏の婚約者だよね?
杏を助けてあげてくれないかな。200万……何とかならないかな…」

「婚約者じゃありませんよ。勝手に杏が騒いでただけです」


俺が、あっさりそう言うと杏は険しい顔でこう言った。

「…婚約者じゃないって!………あんなにしたのに?遊びだったの?ねえ?………遊び?遊びだったの?
あなたまで裏切るの……?」


名演技だな。

構ってらんねーわ。

やっぱり、この世は裏切りが大半だよ。

すると。

兄貴がカウンター内から飛び出し、土下座を始めた。


「この通りだ………!頼る人が君しかいないんだよ。頼む……」

兄貴は土下座して下を向いたまま、そう言った。


ん?


兄貴のヨレヨレの黒いシャツの胸元………





No.96 15/01/13 17:36
旅人 ( ♀ )

「なんか熱いな」

兄貴は顔を上げ、シャツのボタンをひとつ外し、更に胸元が強調された。








兄貴の胸元には刺青が刻まれていた。

それをわざと強調するように、胸元を広げやがって。

脅してるつもりかよ。


「君が納得してくれるまでこのままでいるよ。頼む!大事な妹なんだ。助けてやってくれ」

そうやって金を騙しとるんだろ?

俺より悪質な男だよ。ああ、ずっと土下座スタイルで居ればいいさ。



「すいません……自分バイトなんで金なんてありません。失礼します」

俺はバイトだと嘘をつき、兄貴のbarを出た。


すると、すぐに兄貴と杏が追ってきた。

兄貴の額に血管が浮き彫りとなっている。


「おまえ、俺の大切な妹をおちょくったのか?」

「何度も言いますが、杏が勝手に結婚、結婚と騒いでいてセックスしたくて仕方ないようだったので抱いてあげました」



「何だと!貴様!」


兄貴は俺の胸元を鷲掴みにし持ち上げた。

が、力はないな。

俺は両手で兄貴を振り払った。

騙してんのに逆ギレかよ!?


そのまま俺は走った。

勉強は出来なかったが運動神経は、なかなかなんだよ。

兄貴と杏も追いかけてきたが、俺がエレベーターに乗った瞬間、扉は閉まった。


エレベーターの扉の向こうには、悪魔のように怒りを放った目付きの杏の顔が見えた。



No.97 15/01/13 21:23
旅人 ( ♀ )




さよなら、見慣れたこの景色。


さよなら、大好きだった本たち。


さよなら、仲良くしてくれた数少ない友。


さよなら、大好きな雑貨たち。


さよなら、励ましてくれた曲たち。


さよなら、ずっと変わらぬたくましい樹木。


さよなら、変化を続けても存在する風。


さよなら、思い出のアルバムたち。


さよなら、河川敷の下の仔猫ちゃん。


さよなら、温もりをくれたおふとん。


さよなら、遠くで待ってくれていた未来。






さよなら、大好きな青空。


さよなら、煌めく星たち。


さよなら、やんちゃな弟。


さよなら、お父さんお母さん。





さよなら、苦しくて仕方ないこの気持ち。


さよなら、初めての恋心。


さよなら、惨めな私、カッコ悪い私。








そして









さよなら、あなたへ


さよなら、あなたへ





描かれない空に向かって指で、そうなぞるよ…








No.98 15/01/14 21:00
旅人 ( ♀ )

バカだった。


自分に呆れながら、その日はタクシーに乗った。

彩からもらったマフラーで杏とアレコレしようだの、浮かれて口笛を吹いていたり。あーあ。

情けない男だよ。


思えば出会いから変だったんだ。

“花柄のネクタイしてる、私の運命の人。”


この世に、そんなドンピシャな予言できるヤツなんていない。

最初から、胡散臭かったのに杏の美貌に負けていたんだ。

女どもにいつも心の中で暴言を吐きながら、俺だって簡単に騙されるバカな男だよ。

やっぱり、あーいうモテそうな女は調子に乗ってんだ。

簡単に裏切る。簡単に利用する。



人にしたことは自分に返ってくるってホントだな。

アハッ。

おとなしく彩を彼女にしといて、適当にあしらい、たまに愛をバカにして、また新たに遊び相手でも見つけるか。

懲りない男だよ。俺は。



その時、スマホのメール音がなった。

何故かドキッとする。












彩からだった。


なんだ彩か。とがっくりきながらメールを開いた。











〈まちあわせは 駅の 近く 20時

見たよ

私、信じてたのに


さよなら 探してもくれないだろうけど 探してもどこにもいないから さよなら………〉



いつも綺麗な配列でメールをよこす彩だが、文が乱れていた。


なんだこれ?


見たよ?さよなら?





さよなら………………





No.99 15/01/14 22:04
旅人 ( ♀ )

私は生まれた時から、大変なものを背負ってきた。

けれど、それはただ背負っているだけ。




人に深く愛され、人を深く愛すことができる女性になりますように。

そう願いを込め母が私に付けてくれた名前。


“愛”


私は愛を背負い生きてきた。

この名の如く愛に満ちた人生ならば良かったのに。

悲しいことに、ただ背負っているだけだ。




笹原 愛、26歳。

誰からも愛されてはいないけど、好きな人はいる。

河内 亮介、30歳。

彼が好き。大好き。

でも、愛してるのかはわかりません。

なぜなら私の心は激しく寂れていて、愛が残っているのかは分からないから。



私は病気を抱えている。

いずれ死に至るんだと思う。

それなのに、亮介に恋をした。

最後の恋。実りなき最後の恋。



あと少し、亮介の傍にいることができたなら、私は死を待たずに自らこの世を去ろうと思っている。


私には生きている資格なんてないから。


生きている資格もないのに、図々しく恋をして。


自分が情けない。






私は、最愛の母と弟を殺した。


この罪の深さは計り知れない。


だから、私も死ぬんだ。


さっさと死ねと急かすように、悪魔が私を苦しめるよ……





No.100 15/01/15 17:32
旅人 ( ♀ )

病気によるストレスからなのか、重症の蕁麻疹に悩まされた。

頭皮も顔も首も上半身、下半身全てが痛痒い。

掻くとみみず腫のように全身が盛り上がり、ケロイドのように赤くなる。


たかだか蕁麻疹と言う人もいるが、地獄の苦しみだ。

みみず腫は、時間が経てば引くけど血管が広がるような熱い場所に行くと、また激しい痒みが襲ってくる。


我慢出来なく掻けば掻くほど気が狂いそうになる。

そして全身が盛り上がり痛くヒリヒリし、熱くなる………



熱くなる度、思うんだ。

これは私への警告なんだと。

人殺しが、ぬけぬけと何故生きているんだと。


だから、もうひとつの病気で死に至る前に私は死ぬ。


それなのに神様は意地悪だ。

私の蕁麻疹は重症で、副腎皮質ホルモン剤を間隔をあけて服用している。

皮膚科も、もうひとつの病と同じ総合病院に掛かっていた。



ある日。

精算機の場所が変わって、血迷っていた。

傍に事務員らしき背の高い男の人がいたから、声をかけた。


『すいません……』

私が呼び掛けると、男性は振り返った。

その時、衝撃が走った。

何故なのかはわからない。

背が高くてイケメンで、タイプだと言うことは確かだ。でもそれだけじゃない。

『どうしました?』

『あ………精算機の場所変わりましたか?』

『ああ、そうなんですよね。ここから真っ直ぐ………………』


丁寧に説明してくれる男性は、口元は笑っていても…目が泣いていた。


涙が流れてる訳ではない。


悲しく儚げな視線だと私には感じたんだ…




  • << 102 副腎皮質ホルモン剤を服用してから、顔が腫れ上がってきた。 ムーンフェイスと言うらしい。 ホルモン剤は長期間服用すると体に害があるのでサイクルを決めて一旦、お休みをしては、また服用する。 ホルモン剤が抜けたら、抗ヒスタミン剤を服用するがあまり効果がない。 体調は優れないけど、その変わり顔の腫れも収まる。 また腫れ上がるけど... 私の顔は、よく誉められていた。 パッチリ二重に長い睫毛、色白の小顔。 その顔も腫れ上がることにより破壊された。 気に入っていた大きめの二重も肉で埋まり一重になり、睫毛も抜け落ちた。 やりきれなかった。 その為、アイプチをしたりマツエクもした。 通院する病院先で気になるあの人のこと、少し顔に自信がある時は、まじまじと見つめたこともあった。 テキパキ仕事をこなし笑っているけど、やっぱり悲しい目をしてる。 横顔も綺麗なのに… 綺麗なのに、俯いた時の目が悲しげだよ。 あなたも寂しいの…? 出口の見えない迷路をさまようように生きてきたの? 受付で仕事をこなす彼をずっと見つめていると、目があったこともあった。 鼓動が激しくなる。 やっぱり、寂しくて人恋しい顔をしていた。 恋心は募るばかり。ただ遠くから見てるだけなのにね。 消えてなくなってしまった何かを、追い求めるようなあなたへ。 私も同じだよ。でも一方的で、あなたに近づけることはないよね…

No.101 15/01/15 17:59
旅人 ( ♀ )


☆主です

いつも読んで下さっている皆様ありがとうございます!

色々ありましたが、だいぶ立ち直ってきましたので、やはり感想があると違ってくることもあり、もうスレ立てしないと言いながら、よく考えて感想スレを再開致しました。

一言だけでも嬉しいので、宜しければ感想やご意見、宜しくお願い致します。


http://mikle.jp/thread/2177109/



次頁からは、お話が続きます!

No.102 15/01/16 13:44
旅人 ( ♀ )

>> 100 病気によるストレスからなのか、重症の蕁麻疹に悩まされた。 頭皮も顔も首も上半身、下半身全てが痛痒い。 掻くとみみず腫のように全身… 副腎皮質ホルモン剤を服用してから、顔が腫れ上がってきた。

ムーンフェイスと言うらしい。

ホルモン剤は長期間服用すると体に害があるのでサイクルを決めて一旦、お休みをしては、また服用する。


ホルモン剤が抜けたら、抗ヒスタミン剤を服用するがあまり効果がない。

体調は優れないけど、その変わり顔の腫れも収まる。

また腫れ上がるけど...

私の顔は、よく誉められていた。

パッチリ二重に長い睫毛、色白の小顔。

その顔も腫れ上がることにより破壊された。

気に入っていた大きめの二重も肉で埋まり一重になり、睫毛も抜け落ちた。


やりきれなかった。


その為、アイプチをしたりマツエクもした。


通院する病院先で気になるあの人のこと、少し顔に自信がある時は、まじまじと見つめたこともあった。


テキパキ仕事をこなし笑っているけど、やっぱり悲しい目をしてる。

横顔も綺麗なのに…





綺麗なのに、俯いた時の目が悲しげだよ。

あなたも寂しいの…?

出口の見えない迷路をさまようように生きてきたの?

受付で仕事をこなす彼をずっと見つめていると、目があったこともあった。


鼓動が激しくなる。


やっぱり、寂しくて人恋しい顔をしていた。


恋心は募るばかり。ただ遠くから見てるだけなのにね。


消えてなくなってしまった何かを、追い求めるようなあなたへ。



私も同じだよ。でも一方的で、あなたに近づけることはないよね…





No.103 15/01/16 19:48
旅人 ( ♀ )

そんな時、従姉妹で仲良くしてる杏ちゃんから電話があった。



『愛~!体調どう?落ちついてたらさ、コンパに出ない?私は行けないんだけど、前に紘菜ちゃんていう私の友達に会って連絡先交換したでしょ?
あの子と行ってー!』



杏ちゃんからコンパの話をもらい、嬉しくはなかったけど暇潰しに行くことにした。


杏ちゃんは誰もが認める美人。

当たり障りなく付き合う分には、サバサバしてるし窮屈な感じがしないから良い。

けど、杏ちゃんは危ない女だよ……


少し風俗で働いて、高級マンションに一人で住んで、仕事を辞めてからも海外旅行に行ったり高級品を揃えたり。

パトロンがいたみたいだけど、急死したみたい。

それからも無職なのに好き放題やって、借金作って…



闇の仲間と手を組んで、誰かを騙しお金を奪い捕っている。

借金がある場合の、ひったくりは罪にならないんだって。



杏ちゃんも罪深いけど………私はもっと罪深いね…



人殺しだから。




真っ黒な十字架に身も心も蝕まされていく。

苦しんで当然だ。



私は辛くて仕方なかったので、翌日のコンパは暗い自分を捨て別人の“愛”で参加すると決めた。





No.104 15/01/18 17:22
旅人 ( ♀ )

そのコンパで、まさかのことが起きたのだ。

恋してるあの人が私の隣の席に座った。

私は、お高くとまった女を演じた。

憧れてたんだ。

わがままで、すぐに不機嫌になるような、お嬢みたいな女の子に。

素の暗い私には誰も寄ってこない。

だからと言って、明るくて爽やかな女の子は、素が暗いので演じるには私には無理がある。



お高くとまった私は苦い記憶は一時消去して、普段のモヤモヤを発散するかのように、わがままな女になっていた。



『こんなに綺麗な子が来ると思わなかった』

『ふーん』

『名前は?俺、亮介』

『亮介ね。私は愛』





亮介って言うんだ。

亮介は私を口説きまくってきた。

女馴れしてる。

遊び人だと思う。



でもね、やっぱり亮介は寂しい目をしてるよ。

それにしても、まさかこんな場所で出逢えるなんてね。


『愛ちゃん、どんな仕事してるの?俺は病院の事務』

『私は洋服屋の~販売』


私はわざとチャラく話した。

チャラい方が近づきやすいでしょ?

簡単に遊べるでしょ?



亮介、病院勤務だって知ってるよ。

ずっと見てたよ。

亮介だけをずっと見てたよ。




このコンパが亮介に近づけるきっかけだった。




No.105 15/01/19 10:11
旅人 ( ♀ )

口から心臓が飛び出てしまいそうって、あの時の感情のことを指すんだ。

亮介と出逢ったコンパで、冷静を装っていた私の心は久しぶりに高波のように大きく動いた。



あれから…

わがままな女を演じ亮介と身体を重ね、付き合い始め、遊びだとわかっていても満たされていたよ。

私に本気にならなくたっていいの。

もうすぐ居なくなるんだから。

クリスマスに二人で行った、こじんまりとした家庭的な串揚げ屋。

あれが最後のクリスマス。

帰り道は夜空に星が煌めいていた。

星がシャワーになって舞い降りてくるような、ロマンティックな幻想に陥ったよ。

来年は何回、亮介に会えるかな?


私の知らない誰かと結婚するまで、たまにで良いから傍にいてよ…

亮介、恋してるもんね?

すぐにわかったよ…


私じゃない誰かと恋に落ちるなんて当然なのにね。
たまに傍にいてと願うことさえ、強欲なのに。



胸が痛いんだよ………

亮介……

亮介……


この想いを閉じ込めてしまいたいよ…

私が居なくなっても亮介は、痛くも痒くもないのにね。


バカみたいだね。早く死ねってね…


~♪♪♪~


その時スマホが鳴った。



誰!?




杏ちゃんからだった。


No.106 15/01/19 14:56
旅人 ( ♀ )

「もしもし…?」


『愛~!私、杏!』


「どしたの?」


『…ねぇ、今から飲まな~い?奢るからさ!渡辺さんの店だけど。ちょっと色々あってさぁ。ねぇ付き合って…』


渡辺さん…ロン毛で見た目はオタク。

杏ちゃんの闇の仲間。

よく、きょうだいと嘘をつきコンビを組んでるみたいだ。

気は乗らないけど……何でこうやって、激しく沈んでる時に誘いが来るかなぁ…


「うん……いいよ。渡辺さんのお店まで行けば良い?」

『うん!』


寂しさを埋めるために飲みに出ることにした。

今日は仕事が休み。

年末だし、どっちにしても忘年会シーズンでどこのお店も満員だろう。

渡辺さんのお店で正解かもしれない。


アレコレ思いながら、亮介からクリスマスプレゼントに貰った香水、ベルドゥミニュイを手首に適量つけ、耳元にもつける。

トップコートは甘さの中に苦味があり、ミドルコートは深い甘さに代わる。


私の好きな香りだ。


抗ヒスタミン剤から、ホルモン剤にサイクルが代わった時に、香水がつけれる。


ホルモン剤は魔法のクスリ。

体に負担がかかる代わりに、体の全てが楽になる。

痒みもない。



ただ、顔は腫れ上がってくる。

私は顔の両サイドを髪の毛で隠した。



そして家を出て、渡辺さんのお店へ向かう。





No.107 15/01/19 19:39
旅人 ( ♀ )

カラカラ…

渡辺さんのbarがあるビルに着き、渡辺さんが経営する〈blackwithblue〉の古びたドアを開けた。


「いらっしゃい」


渡辺さんは無精髭が目立っていた。
キシキシとした白髪混じりの長い髪も乱れ一層、清潔感は無いに等しい。


「あ~愛!」


カウンター席に杏がいた。

繁忙期だと言うのにその他に人はいない。

店内も椅子は皮が破れ壁にはヒビがあり、テーブルは指紋だらけ。

お酒の種類も少なくオツマミだってない。

挙げ句、渡辺さんも客商売なのに無愛想だ。

まぁ、このお店は、あらゆる人からお金を騙し取る隠れ家みたいな場所なのだろう。


私は杏ちゃんの隣に座った。


「久しぶりだね。杏ちゃん」

「ねっ!愛、お酒は?ジュースにする?」

「折角来たから飲むよ。ウーロン杯…いいかな」

「了解!渡辺さん、ウー杯お願い!」


本当は強い薬を服用してるから、お酒はドクターストップがかかっている。

でもいいよ…私の身体なんて…

消えることのない失望感を抱えながら、左隣の杏を見た。


濃いブルーのタイトなジーンズに真っ赤なドルマンニット。

首もとには繊細な作りのゴールドのネックレス。

杏ちゃんは決して見た目は派手な格好はしない。

どちらかと言うとシンプルだ。


きっと土台に自信がかるから身を包むものはシンプルに限るのだろう。


シンプルな服装に薄化粧でも目立つ美しい顔。


でも、この人中身は濃厚だ。


だからこそ魅力が強いのだろう。


亮介だって………杏ちゃんになら、ゾッコンになるかもね。


杏ちゃんに…………出逢って欲しくなんかないけど…………





No.108 15/01/20 20:38
旅人 ( ♀ )

杏ちゃんはロゼワイン、私はウーロン杯、渡辺さんは焼酎水割りで三人で乾杯した。


杏ちゃんは一気にワインを飲み干した。


お酒をやけに飲む姿が、こんなに様になる人はいるのだろうか…

「おかわりお願い」

「はいはい」


どうしたの?何があったの?私が聞こうとした時。


「愛~…最近、落とした男がいたんだけど、金とれなかったぁ…。まぁたまにあるんだけどさ!失敗も」

「そっか」

やっぱり、その話か。

「うん。なかなかイケメンでね。疑似恋愛も悪い気がしなかったの。セックスもうまかったし。イヴにはこれ、ネックレスしかもらえなかった」


杏ちゃんは胸元に光るネックレスを指差した。

ネックレスしかって……普通だけどね。


「そうなんだ」

「うん。結果的に金取れないんなら、良いものもらいたかったなー。まぁ、病院の事務の仕事と聞いた時点で止めときゃよかった!そんなに給料高くないしね」

病院の事務…?


「そうなんだ…どんな感じの人だったの?」

私は少し動揺しコップを強く握り締めた。



「ん?……あー写メあるわ。ちょっとまってね」

「うん………」



何故か胸騒ぎがしていた。

一秒が凄く永く感じる。

早く写メを見せて?



「あった!ラブホで撮ったやつ!……この人!けっこうカッコ良くない?整ってるし目元に色気もあるでしょ?」















杏ちゃんが見せてきた写メは、上半身裸の亮介だった。


No.109 15/01/20 20:55
旅人 ( ♀ )

落とした男………

イヴにネックレス……

セックスが上手かった………


私は、杏ちゃんの言葉で二人が愛し合う姿を想像し吐きそうな位、胸の内がざわめいた。

亮介………

亮介の恋した相手は杏ちゃんだったの?

杏ちゃんの決め細やかな肌やプルんとした唇にも触れたんだ………

私は絶望した。

亮介が誰かと恋をするのは当然なのに。

こんな魅力的な杏ちゃんと過ごしていて、裏切られたの?

失恋した気分と亮介が心配になる気持ちが、混ざりあっていた。



「やだ!愛?悲しそうな顔して…!まさか、この男バリバリタイプ?羨ましいの?」

杏ちゃんが高笑いしながら大きな声でいい、またワインを飲み干した。

「えっ?私、悲しい顔してた?やだな。そんなつもりなかったんだけどね」

「…ふーん。てか、愛さ、いつ死ぬの?自殺するんでしょ?」


杏ちゃんは酔っぱらってきていた。

杏ちゃんは私の心の葛藤を知っている。

人殺しの件も……



「うん………死ぬ………もう少ししたら………」


「あっそ。決行する時いいなー。燃炭でいんだよね?それとも放火?」


「まだ、ハッキリとは………」


「あっそ。燃炭なら知り合いに頼んだら手に入るからね!……燃炭って凄い苦しいみたいだね。歯を食い縛るから舌を噛んで穴もあくし歯も折れるって!愛、頑張ってね!フフッ」

「…」


やっぱり杏ちゃんは、普通じゃない。

私も普通じゃないけど、杏ちゃんも普通じゃない。



No.110 15/01/21 13:43
旅人 ( ♀ )

《亮介の気持ち》


見たみたいですよ


いつも、20時に〇〇駅の近くで待ち合わせしてたから、何となく違う誰かと一緒に居るような気がしたって


女の直感ってヤツッスかね


その一緒にいた人と、随分仲がよさげだったそうで


彼女ですか


アンタさ、何人彼女いんの


姉ちゃんとは結婚の約束もしてたんだろ


バカにしてんよな


女をモノとしか思ってないだろ


モノとしか見てないんだったらさ


みんな遊びにするべきだったな


姉ちゃん、きっとノイローゼになってたんだよ


アンタが追い詰めたんだぜ


かなりの悪質なことしてくれやがって


アンタのせいでさ





















姉ちゃん、自殺したんだから










ある日、彩の弟からスマホに電話が来た。

彩は俺のことを弟に話してたんだろう。

随分とチャラい口調だったが、まともなことは言ってたな。

はいはい。

ごめんなさい。

もう全員、遊びにします。



でもよ。

自殺ってよ、それだけ彩も弱かったんだろう。

俺だって、やめとけば?のサインは何度も出したんだぞ。

色んなことが重なって自殺ならまだしも恋愛ごときだろ?

女どもは恋愛ごとき?

なんて怒るだろうが、そうなんだよ。

恋愛の痛手のみで自殺なんてしてたら、何個命があってもたりねーよ。




俺だって自殺しないとダメじゃないか。

要は謝ればいんだろ?

本当は、こんなロクデナシには関わらないのが一番なんだけどな。


No.111 15/01/22 08:52
旅人 ( ♀ )

杏ちゃんのお店から出て一人飲み屋街をさまよっていた。


杏ちゃんに落ちた亮介。

亮介に抱かれた杏ちゃん。

イヴに過ごしたふたり…


通りでね…亮介がハッスルしてると思ったよ。
やっぱり的中か。


生きてる資格もないのに私に心がある限り、私は“自分”に苦しめられる。

ふと、道路に目が行った。

多数の車が走っている。



飛び込めば死ねるよね…

私は歩道から一歩二歩踏み出す…

私を侵す病。

いずれは死ぬでしょう。

だって再発しても治療費も、もうないから確実に死ねるわ。

けれど、最後に見つめるのが寂しい色をした天井なのは嫌。


だから…人ごみの中で…!



ありがとね、亮介。

短い期間だったけど幸せだったよ。

他愛もない話ってさ、一番幸せじゃない?

身も心も軽くてさ。

自由に言葉達が私達を繋ぐよね。



あ、そんな風に思うのは私だけか。

亮介にとって私は眼中にないよね。

たまーに暇を紛らわす相手だよね…

それでも好きだったよ。

何故、こんなに好きになったのかはわからないよ…



不思議だね。

私ね、さよならって言葉は不安なの。

二度と会えない気がして。

バイバイは笑顔になれるんだけどね。


でも、二度と会えなくなるから……



さよなら………



さよなら…………



さよなら……………




私は、道路に飛び出した。




No.112 15/01/22 15:06
旅人 ( ♀ )

私は交差する車や車の影、夜道を照す街灯、飲み帰りの陽気な人々の声を感じながら、また一歩踏み出し走れば…この意味のない命が終る。

そう思いながらも恐怖感もあった。

でも…

走る!





私は走った。











つもりだった。

私の右腕には温もりがある。

誰かにぶつかったわけじゃない。

しっかり私の右腕を誰かが握ってくれている。



亮介なの?

温もりの何もかもを亮介だと思う癖があった。

亮介が運命的に私を救いに………




ありもしないことを心の中で祈っていた。

振り返ると知らない男がいた。

爽やかだけど、ちょっとアクの強い顔の男がいた。


「…何するつもりだったの?動きがフラフラしてたよ」

「…」



知らない男。

亮介じゃない人に心配されても、ちっとも嬉しくなんかない。

八つ当たりしようかな?



「もう!死のうと思ってたんだけど!アンタのせいで止まっちゃった!はなしてぇ!」

こんな些細な我が儘な言い方さえ普段、生き人形の私には冒険なんだ。


「…何バカなこといってんだよ!こっちこい!」


知らない男は私を歩道まで引っ張った。


「強引…腕が痛い……」

ホントに腕が痛く、その男に言い顔をあげた。

すると、男はキョトンとした顔をしている。




「…あれ?どっかで会ったことあるな」

やだ。ナンパ?古いやり方。

「会ったことないですよ!」



「あるよ!…………あっ!愛ちゃんだ!」

「…えっ?」


知らない男は私の名前を言った。




No.113 15/01/22 17:15
旅人 ( ♀ )

「何で私の名前知ってるの…?」

私は少し挙動不審になり、一気に陽気な表情を浮かべた男に聞いた。




「ほら、前にコンパで会ったじゃん!」

「コンパ?」


コンパ…………あっ!もしかして!

「一也だよ!覚えてない?愛ちゃん殆ど亮介と話してたもんな」

「あー…思い出した。うん!髪切った?」


なんと亮介と出逢ったコンパに参加していた一也君だった。

一也君のことは覚えてるけど、今、短髪の一也君はコンパで会った時、毛先を遊ばせたようなフェミニンな髪型だったのだ。

だから…気付かなかった。


「髪…あ、うん。結構前だけど会社の上司に注意されて切ったんだ」

「そっか……」


「…でも死にたいなんてどうしたんだよ?…ここじゃなんだから、どっか店に入ろうか?」

「…」


一也君が、お店に誘う前に亮介のことを聞かないのは、亮介は私のこと一也君に伝えてない。

わかってはいたけど。やっぱりか。

最初から遊びだったか。

そりゃ…あんな軽いキャラだったし当然だよね!


「はぁーーー…。うん、行く」


私は大きなため息をついてそう言った。


気持ちがどうにもならなくて、冷静に考えることもなく一也君と並んで歩き出した。


「あ、500yenBarあるね。あそこで良い?」

「うん…」


500yenBarの近くに亮介と初めて二人で行ったイタリアンのお店があった。


夜のネオンがお店の外壁を照す……


ユラユラと揺れるネオンの光に、二度と戻らない甘く切ない時間を甦させられている感覚に陥っていた。





No.114 15/01/23 13:04
旅人 ( ♀ )

一也君と500yenBarに入店し二人用のテーブルに案内され向かい合わせになり座った。


何となくぎこちない。


「飲み放題にする…?あ…あんまり飲まない方がいいな。単品にしよう。俺はビール、愛ちゃんは?」

一也君…決断力がありそう。
それに比べて亮介は優柔不断な所もあったな。

あ……。

当然のように亮介と比べる自分が嫌で、またため息が出た。


「私は烏龍茶にする」

「オッケー」


一也君は、店員を呼び飲み物とオツマミセットを頼んだ。
そして私の顔を自然な目付きで見る。

へぇ。結構、瞳の奥がピュアなんだ。


この人はきっと恵まれた環境で生きてきた人だ。

分析が癖の私は瞬時にそう感じた。



「愛ちゃん、どうしたのさ?何かあったの?俺で良ければ聞くよ?」

「…」

突然何も言えないし、本当のことは言わない。



「男か?」

一也君は声を潜めて囁いた。


本当に亮介からは何も聞いてないんだ。

悲しいや。図々しいけど素直に悲しい。


「いや~…色んなことが重なったの。仕事や友達や家族のことが」

「そうか……例えばどんなこと?話したら楽になるかもよ」


「ううん…私はね、辛いことを話すと余計に辛くなるから。人の話聞くことで気が紛れるの!一也君の話聞かせてよ」



私は嘘をついた。本当は誰かに話を聞いて欲しい。


でも言えるわけないのよ……



No.115 15/01/23 14:50
旅人 ( ♀ )

一也君の話を聞きたいと言うと彼の表情が曇った。


「一也君こそ何かあった?」

「ん?んー…」


一也君はビールを一口飲み静かにジョッキーグラスをテーブルに置いた。


「私で良かったら話して?」

「怒んない?」


「えっ?」

「…コンパに行ったりしてたけど…俺、本命の彼女がいたんだ」


「あらっ…」

「…まっ、予想はつくと思うけどフラれちまった!
これでもね、彼女には好青年で通ってたんだよ(笑)」


「それって騙してるじゃない」

「はっ?騙してないよ(笑) 好きだから良く思われたいし矛盾してるけど不安にさせたくなかったし」


「ふぅん。じゃあ浮気がバレたの?」

「いや…遊んだ女はいても本気の子は彼女だけだったんだ。
何かさ!他に好きな人が出来たんだって」


「そうだったんだ…」

「うん…俺さこう見えてマメだし彼女には優しいし彼女にとって不安要素ゼロの男だったと思うんだ。
だからなのかな…つまんなさそうだった、いつも。本気で俺を好きだったかもわからないよ…」


「それはわからないよ…どんな感じの子だったの?遊んでる風な子?」

「いや、見た目も中身も真面目な子だったよ。あ…写メ見る?」

「うん…」


私は女々しく写メも取っといてるんだ思いながら、一也君が見せてきた写メを見た。


確かに凄く真面目そうな子………


あれ?


この子どこかで…………



No.116 15/01/23 23:02
旅人 ( ♀ )

どこかで見たことがある…

写メを見てしばらく考え込んだ。


「…愛ちゃん怖い顔してどうしたの?あっ、くそ真面目っぽい感じだから意外だった?」

「ううん…清楚で優しそうな子だね」


一也君と話してる時、思い出した。


そうだ!私のお店に亮介と一緒に来てた子だ!

亮介って…友達の彼女にも手を出すの?

あっ!単に友達の彼女だし、やましいことはなく一緒にいたってことかな?

私は後者の勘が的中なんだと、ちょっぴり肩の荷がおりた。


「うん、清楚で中身も誠実で本命はこいつしかないないって思ってたのにな。まぁ、俺も遊んでたしバチが当たったかな」

「そんなバチなんて言わないでよ…結婚前提だったの?」


「…ああ。俺の中ではね。彩…あ、彼女には伝えてなかったけど。まぁ結婚を考える割には家族にも友達にも会わせたことはなかったけどね」

友達にも?私の鼓動は一気に早くなる。


「そうなんだ。友達に写メも見せたことないの?」

「…えっ。いやー。あるよ。でも超美人の遊び相手の写メ見せてた。今考えると俺って最低だな…」


落ち込む一也君の目の前で私は、落胆した。

亮介、一也君の彼女だって知らない…

じゃあ、やだ…まさか本命……?


「…反省してるんだから、次はもっと良い恋ができるよ」

私は無機質な声で言った。

「そうか?何か逆に慰められてるね…ごめん。しかもさ、別れた彼女は好きになった人と付き合ってんだよ」

その言葉に更に鼓動が激しくなる。


「どうして知ってるの?」

「最近、電話があったんだよ。彼が冷たいって。辛そうだったけど結婚の約束もしてるんだってさぁ。トホホだよ…」


「そ………っか」

結婚…亮介、あの子と結婚するんだ…

そっか……結婚か……


「あ、あれ?愛ちゃん泣いてる?」


私は涙を堪えたつもりだったけど、涙が次々と流れた落ちていた。




No.117 15/01/24 12:18
旅人 ( ♀ )

「…あ、ごめんね。なんだろう…悲しくなって」

「ごめん、ごめん。俺が暗い話したからだな。明るい話しようか?」



一也君には申し訳ないけど、亮介のことでいっぱいになっていた。

亮介が結婚するんだもん……

じゃあ最後に……


「ごめんね。一也君…明日も仕事だし帰るね!お金…置いとくから!」

「ちょっ!愛ちゃん?」


私は一也君の言葉を聞かず、お店を飛び出した。


深夜の飲み屋街を一人切なく歩く。

涙で視界が揺れる。

綺麗なはずのネオンさえ悲しい色に見える。


亮介……亮介……

遊ばれてるとわかってる…

だけど…身も心も亮介から離れられない…

素肌で感じた亮介のぬくもり

亮介の無邪気な笑顔

思い出すだけで涙が出るよ

胸がしめつけられそうだよ



亮介……

辛い……

亮介を恋しく想うことが辛い…

それは実らなかった恋だから…

わかっていたはずなのに私、強欲だね…



最後のお願い……


最後に亮介のぬくもりが欲しい。


願いが叶ったら決行するから。


罪を償うから。



その時。


~♪♪♪~


亮介から着信があった。




No.118 15/01/24 22:54
旅人 ( ♀ )

《亮介の気持ち》




姉ちゃん可哀想だったよ


ざっくり切った手首を浴槽に沈めてさ


浴槽は血が広がって


血の海だったよ………



眉間にシワを寄せたまま目を閉じててさ


髪の毛も乱れててさ…


真っ白なニットにも血が飛び散っていた




真っ白なニットのように


真っ白な心を持つ姉ちゃんがさ


あんたのせいで





汚ない色がついたんだろうな



俺が慌てて近寄っても動かなくてさ



頬っぺたに触れると冷たいんだ



近くで見るとますます悲しい顔をしてて



俺……



どうにかなりそうだったぜ?



でもよ、自宅の浴槽で自殺をしようと考えたのはさ、もしかしたらSOSのサインでもあったのかもな



すぐに見つけてもらえるじゃん



家族がいるんだし



発見も早かったしよ



姉ちゃんは、自殺未遂で終わった



ハハッ



今あんた、ホッとしただろ



でもな?



姉ちゃんに深い傷を体にも心にも与えたのは、間違いないからな



あんたさ、女いっぱいいんだろ?



一人俺によこせよ



だったら許してやるよ



出し惜しみはダメだぜ



一人マシなレベルで良いからよこせ




・・・・・・



そうだと思ったぜ。

彩の弟から電話があったあと、姉が死んだのに何で声が弾んでんだよって。


すぐにまた電話が来て未遂だと伝えてきた。


つーかよ、擦れっ枯らしな弟だよな。

人の弱みにつけこむしかできねぇのかよ。

女くらい自分で探せ!

マシなレベルで良いなら、すぐに見つかるから。

適当に甘い言葉で乗せときゃ女なんてコロッと落ちるから。

















と、言いたいところだが、俺は一人女をあげることにした。

喜ぶだろうなお互いに。

あー…ろくなことがないな。

まぁ、自分で蒔いた種なんだが。

俺は缶コーヒーを飲み干しスマホを眺め「あ」行を開いた。




そして何故か電話をかけてしまった。









No.119 15/01/25 12:24
旅人 ( ♀ )

亮介………

単なる都合の良い女なのに、亮介から電話が鳴るだけで私は生き人形から、普通の人間に変わるんだ。



「…もしもし」

スマホを耳に強く強く当てる。

亮介の言葉を少しでも近くで感じられるように…


『おぅ!ザワザワしてるけど出先か?』

「うん。飲みに行ってこれから帰るところだよぉ」

私は、わざとバカっぽいしゃべり方になる。
でも亮介、バカの前に “お”をつけてね。

それなら少しは可愛らしい?


『ふーーん』

「なぁに?どしたの?都合の良い女、愛ちゃんに逢いたくなりましたかぁ?」

『…くっ、アハハ。自分で言うか?……明日仕事か?……時間あったら俺んち来ないか?朝、送るから』


「どぉしよう。こんなに可愛いレディが夜中にアポ?どぉしよう…でも亮介!大好きだから良いよ♡」

『アハハ!可愛いレディ様、申し訳ございません。今どちらですか?迎えに参ります』


「〇〇北7丁目です。ナンパされちゃうから早く来てよね!ブサカワ愛ちゃん結構モテるのよ♡」

『はーいよ。じゃ今から車で向かう』


私は“おバカキャラ愛”を演じきる。

ずっと……いや、あともう少しだけ。


辛くて仕方無いことも亮介の声を聞くと紛れる…


神様からの最後のプレゼントだね…


遊びでも、傍に入れるだけで満足だから……





No.120 15/01/25 18:08
旅人 ( ♀ )

私はクリスマスに亮介と行った串揚げ屋の前で待っていると伝えた。

丁度、道路に面してて道路の脇に駐車スペースもある。

亮介を待ちながら思い出していた。


アツアツで運ばれて来た茄子と蓮根、海老の串揚げ。

お腹が空いていて甘いソースを絡ませて、茄子の串揚げをパクッと食べた。







『あっつつつ!あっつ~~い!』

『来て早々かぶりつくからだよ(笑)』

あの時の何気ない会話楽しかったな…

串揚げも美味しかった。

食べ物を美味しいと思ったのは、亮介に近づけてからだよ。



ププーッ


私が思い出に浸っていると、亮介の車、シルバーのアコードが止まった。

脈が強く打ち始める。

車内には亮介がいて軽く手を振ってきた。


大好き。


私の王子様。


一緒に居る時は私だけの王子様。


私は切なくてたまらない気持ちのまま、おバカな愛に変わり車に乗り込み亮介に笑顔を見せた。

頬にブイサインを添えて。


「亮介、会いたかったぁ~」

「…今日は人が多いな」


バカみたいな私に呆れる顔も好きだよ。


そして亮介の家に向かった。



No.121 15/01/25 18:08
旅人 ( ♀ )

発泡酒500mlを二缶買い亮介の家に着いた。

『私~甘~いお酒しか飲まないしぃ』

おバカぶりッ子を続けたが、ハイハイと軽くあしらわれ亮介はレジに向かった。


私のぶりッ子もお見通しで、クールに宥める姿さえにもしびれてしまう。


亮介の家のリビングで二人用のソファに二人で座りビールを飲み始めた。


亮介の部屋は殺風景で寂しさが漂っている。
男の一人暮らしって感じだ。

だけど……結婚するんだもんね……

よりによって一也君の元カノと。


「結構、飲んだのか?」

亮介が口を開いた。

「ううん。ちょっとだけ……あのさ」


女の勘だけど亮介、結婚するでしょう?


聞いてみたい…抑えきれない。

“おバカな愛”なら聞けるよね?


「ねぇねぇ、亮介~~」

「何?」






























「亮介、私と結婚してよ…」

はっ?私…何言ってんの?

やだ…

でも亮介なら軽くあしらってくれる…

隣に座っている亮介の横顔を少し恐れながら見た。

驚いた……


悪魔のような横顔…一瞬、亮介じゃない人に見えた。


次の瞬間、亮介のその表情が消えたかと思うと、あからさまな作り笑いで私の方を向いた。


「…そういうこと簡単に言うんじゃねーよ!」


淡々とそう言い私の頭を撫でた。

No.122 15/01/25 19:00
旅人 ( ♀ )

「やだぁ♡ 亮介!本気にしたのぉ?私が冗談言ってあげたのよ」

「ハイハイ…」

一瞬、私は焦ったけど平常心を保ち、作られたキャラ愛で雰囲気を明るくしたかった…

なんてことを言ってしまったんだろう…


「愛ちゃん一気しまぁーす!」

「おぉ!!」


私は発泡酒を飲み干した。

結婚なんて言葉を口にしてしまった罪の意識を薄れさせるために…
私は、最後まで亮介のマリオネットでいるの!


「はーーー」

「おー!スゲー!」


時間は流れ私は亮介の性欲処理係になった。
私は玩具よ。

たくさん私の体で感じて…


愛なんてなくても平気よ。


ただ、亮介の温もりを感じられればいい…


愛されて散るよりも、愛されないまま枯れる方が私らしい人生の24時。


亮介が私の中で泳いでいる。

私は亮介とひとつになっている。

忘れないよ…記憶に焼き付けるから…


切なさと恋情に溺れ葛藤しながら、亮介と体を重ね、やがて亮介は果てた。


コトがすんだら、そっぽ向いて一言も話すこともなく眠る。
























良いのに、亮介は腕枕をしてくれる。


「こないだの香水の匂いがする」

「あ~!うん♡今日つけてるの。気に入ったよ、ありがと!だありん♡」


「…俺も、愛から貰ったネクタイつけてやってるぞ!」

「つけてやってるぅ?レディに失礼ね!」

「なんだよ。都合の良い女なんだろ?どっちだよ」

「…どっちもよ。あ~それより幸せ!亮介が隣にいる」


作られた私で言った言葉だけど本当に幸せを感じていた…





No.123 15/01/26 14:55
旅人 ( ♀ )

「…今年も、もうすぐ終わるな。来年は2015年か平成で言えば…ん?あれ?何年だっけ(笑)」

亮介が突然話題を変えてきた。

「27年だよ!私、平成元年生まれでーす。亮介って……まさか昭和?だよね!
何か古い人に思えてきたぁ」

「なんだと!(笑) あ、そーいや愛の実家はどこ?年末年始は帰省すんのか?」

「…私、実家ないの」


「えっ?何で……?」

「両親も弟も亡くなってるから。祖父母も。だから孤独な女愛ちゃんでーす♡」

「ホントかよ?演技?」

「想像におまかせ♡」


「…んー。もしホントなら俺と似てる。父親はロクデナシで絶縁したし母親は亡くなってる。弟は、あっち…ヤクザの世界に染まってからは疎遠だ」



亮介……

やっぱり……

私が感じた亮介の泣いているような寂し気な瞳は、その過去から来ていたんだ。


亮介……

抱き締めてあげたい。

もう、結婚するとわかっていても私が抱き締めてあげたい…


寂しくて寂しくて仕方なかったんでしょう?



No.124 15/01/26 15:00
旅人 ( ♀ )

《彩の気持ち》




やってしまった。

辛くて辛くて周りが見えなくなり、手首を切ってしまった…

怖かった…滲んでは流れを繰り返す血が。

それでも、この辛い気持ちに終止符を打つために浴槽の水に手首を浸した。

何故、自ら命をたつ場所が浴室だったのか。
何故、浴槽にお湯じゃなく冷たい水を流したのか。





それは死にたいと思っていても、どこかで亮介さんへの当て付けにしたかったのかもしれない…彼の困惑する姿も見たかったんだと思う。


浴室はキッチンも近く、洗面所も近いので家族が足を運びやすい。

お湯にしたなら血管は開き、ますます出血する。

冷水なら血管を収縮してくれる。

冷静になると、やっぱり亮介さんへの当て付けだ。

弟の敬太が亮介さんに私のスマホから連絡したらしい。


それも狙いだったのかもしれない。


慌てふためいて亮介さんから連絡が来ると期待していたけど全くこない……

やっぱり利用されていたの?


初めて好きになった人なのに。





一人、付き合ったことがある人はいる。

上田一也。一也も実家住まいで、ご近所だった。

二年前あたりから朝の通勤で何度も会い声を掛けられたのが付き合うことになったきっかけ。

でも、一也は私にとって単なる優しい人でしかなかった。

好きだったのかもわからない…




それなのに………一也に電話しようとしてる私って…

No.125 15/01/26 15:04
旅人 ( ♀ )

《杏の気持ち》



あと一日で今年も終わりかぁ。

借金はあと580万円。

新しいパトロンのじじぃを見つけたから全額返済してもらうのも良いけど、体を要求して来そうだからやめとく。
生活費だけ頂戴しとくわ!


それに疑似恋愛をして金を巻き上げるのって結構快感なのよ(笑)


大金持ちの調子こいてる若めの男をターゲットも一見、手っ取り早く思えるけど、そう言う男ってプライドも高いしドケチなのよねぇ!


だから!


亮介位の男は丁度良かった。

けど、アイツは意外と洞察力もなかなかで冷静さもあった。

失敗に終わったわよ。


イラつくけど、私は懲りないわ!

私は生まれついての悪女よ…

脳内メーカーをやっても、びっくり!全部脳内は、悪で埋まってたわよ(笑)



まだまだ続けるの…

それに……



亮介、ありがとうね。

本当にありがとう。

カモを探す手間が省けたわ!











伊藤 敬太 26歳。


紹介してくれて助かったわ!


敬太に私のスマホの番号教えてくれたのね?

チャラ~~イ声で電話が来たわよ。


早速、食事も付き合ってやったわ!


敬太は外車の営業マン。チャラいし若いしお金はもってなさそうだから、長期戦で行くわ!

まずボーナスは頂きで、貯金があったとしたら30万から交渉しようかな?フフッ


敬太はもう私の美貌と色香にもうメロメロよ!


クスッ……フフフフフ……



来年も悪どく頑張るわ…!





No.126 15/01/26 22:03
旅人 ( ♀ )

~1989年 6月~


私はこの世に生を受けた。

お母さんはよく言っていた。

『二人とも難産でね、とっても大変だったの。お母さんハンカチをくいしばって頑張ったの。愛と誠が生まれた時の感動忘れないよ…愛も誠も、お母さんとってかけがえのない宝物なんだよ』


私と2つ下の弟、誠に“宝物なんだよ”…この話をよく聞かせてくれた。



両親と私と弟の4人家族。



どこにでもあるような平凡な家庭。

朝、お母さんは二段ベッドで眠る私と誠を起こしに来る。
片手にはブラシを持って。


私が起きるとすぐに髪の毛を結んでくれた。

今の子はシュシュが主流だけど、私の時は、ぼんぼりやカラーゴムが主流だった。
私がその日つけたいぼんぼりで髪の毛を結んでくれたお母さん。

そのあとは食卓テーブルにベーコンエッグにグリーンサラダが並び、誠と目玉焼きの目玉が大きい方を取り合いするの。


お父さんは若干、怠惰な雰囲気はあったけど食卓テーブルの私の目の前の席でいつも私達を微笑ましく、見守るように眺めていた。


そして、お父さんは白いお米、私と誠にはこんがり焼いた食パンにマーガリンと手作りのイチゴジャムを塗って手渡ししてくれた。



No.127 15/01/27 10:03
旅人 ( ♀ )

私はお父さんとお母さんが一番大好きだった。

二番目に弟の誠が好きだった。


引っ込み思案で気の弱い私は、幼い頃から友達作りも下手だったし、いじめられることもあった。


それでも温かい家庭があるから幸せだった。
一緒に遊んでくれるお父さん。お母さんは美味しい手料理、そして手先が器用なので裁縫や編物も得意でスカートやマフラーも作ってくれた。


誠は私がいじめられて泣いてる時、いじめた相手に怒鳴り付けたこともあった。


家に誠と二人の時、私宛のいたずら電話にも『二度とかけてくるな!』と臆することなく応戦し私を庇ってくれた。


泣いてる私にも

『姉ちゃん……泣くなよ。僕が助けてあげるから!ねっ?』

そう言ってティッシュを私に差し出してくれていた。







ネエチャン……ナクナヨ……






幾度となく言ってくれた、この言葉…


今でも昨日のことのように脳裏に焼き付いてるよ……




お母さんが作ってくれたスカートやマフラーは……あの日消えてしまったけど全部私の宝物だった……





No.128 15/01/27 14:45
旅人 ( ♀ )

平凡に暮らしていたある日私はお母さんの異変に気がついた。

夜、眠れなくて、まだ小学校4年だった私は、お母さんと眠りたくリビングの向こうにある、お父さんとお母さんの寝室へ向かう途中。


リビングのソファでお母さんが嗚咽を漏らしながら泣いていた。

私は慌ててお母さんの傍へ行った。


『…お母さん…どしたの?』

『あら…やだ愛、起きてたの?やだな。……あのね、お母さん歌を聴いてて歌詞に感動して泣いてたの』


『…感動?悲しくない?…お父さんは?』

『…うん!悲しいわけじゃないの。大丈夫よ。お父さん………頑張って働いてまだ帰ってこないよ……』


あの時の、お母さんの悲しい表情…今でも忘れられないよ。


その時は、お父さんは仕事が忙しいんだと解釈したけど、時期にそうではないことに気づいた。


土日休日で殆んど家族と過ごしていたお父さんが、土日もいない。

夜遅くに帰宅しずっとお風呂に入っていた。

私は一度、お父さんのいる浴室を覗いたことがあった。

何度も何度も体を洗っていた。


何故なのかわからなかった。


その真実がわかる日はそう先ではなかった。

お父さんは他にお母さんよりも好きな人が出来たみたい。

今ならわかる。

妻ではない誰かを抱き、まだ中途半端だったお父さんは身の汚れを丹念に落としていたんだと。

もう中途半端な気持ちじゃなく他に愛する人が出来たお父さんは、お母さんに離婚を申し出て家を出た。



私は優しかったお父さんが遠くなる悲しみと同時に差別心が芽生えた。

家族を捨てるなんて信じられない。


そして、お母さんの悲しい嘘にも心を痛めた。


No.129 15/01/27 17:06
旅人 ( ♀ )

お父さんとお母さんが離婚し母子家庭になった。

持ち家は売り払い、そのお金と慰謝料で古い市営住宅に引っ越した。


私と弟は転校することになり、弟は私と違い明るく社交的な性格なので、すぐに友達を作った。


私は友達もできず、いつも一人だった。


お母さんは香りの専門店の商売を始める。
全財産をその商売に投資し借金なしでのスタートとなった。

決してきらびやかなお店ではない。

ファッションビルの小さなスペースのテナントで商売していた。

人件費を抑えるために、少数の従業員を雇い、その商売は成功した。


お陰で生活苦にはならなかったけど、お母さんは夜遅くまで家にいない。

誠も友達と遊ぶのに夢中で、私は一人晩御飯の支度をしていた。


お母さんに料理を教えてもらっても飲み込みが悪くまだ10歳の私は理解できなかった。


だから学校でクラスメイトと家庭科の時間に作ったカレーか、玉ねぎとハムの炒飯。
ウインナーのケチャップ炒め。

これを繰り返し作っていた。


ただ、ひたすら寂しさを抱えながら。


こんな毎日が続き、私は中学生になった。




そして中2の冬…



私は…



お母さんと誠を殺してしまった……


No.130 15/01/28 10:38
旅人 ( ♀ )

私は中学に上がり本格的にいじめにあうようになった。

暗い性格、人の目が怖いあまり瞼の下まである前髪。

そんな陰気臭さが、いじめのターゲットになった。

休み時間にトイレへ行くと、戸を塞がれ出してもらえない。
私の机だけ教室の片隅にある。

登校するだけで、『何来てんだよ!幽霊が居るとイライラすんだよ!』と暴言を吐かれるのは当たり前。

そして隠され続ける上履き。




いじめられた内容を並べるとキリがない。
それだけ過酷だった。




心が折れて家族にSOSを出す気力さえなかった。

お母さんは仕事で忙しく相変わらず家のこともやっていた。


何のために生まれてきたの…?


とっても哀れなお母さんの宝物だね。



苦しみと絶望しかない日々。

誠は私の前髪が長すぎると何度も指摘してきた。

でもね、気持ちはわかるけど、あんまり視界を広げたくないの…

皆が私をあざけ笑う顔、鮮明に見たくないのよ……


弱った私をお母さんも軽く気にしてくれたけど、仕事で疲れてる様子だった。


お母さんは様々な香水のテスターを私にくれた。


香水を手首に付け香りに酔う時だけが至福の時間。

興味本意でメンソールのタバコを隠れて吸ってたからタバコの臭いを紛らわすにも香水は役立った。


そしてシンシンと雪が舞い降りる夜、部屋でタバコを吸っていたが、箱の中身が空になったのでタバコを買いにコンビニへ出掛けた。


No.131 15/01/28 10:41
旅人 ( ♀ )

コンビニの前の自販機でヴァージニアスリムを一箱買った。

当時は今のようにtaspoもなかったし、例えコンビニ内で買っても年齢確認もなかった。


自販機でタバコを買い歩いて5分の自宅へ戻ろうとすると背後から声をかけられた。


『愛~~』



この声は…予想はついていたが、振り返るとやっぱり杏ちゃんだった。

杏ちゃんとは実家が近く、偶然に何度かよく会っていた。

杏ちゃんは3つ上で、その時は高2。

ヤンキーとギャルの中間くらいな容姿。

眉は激細だが服装はふんわり系ギャルファッション。


『あ~杏ちゃん』

『愛、こんな時間に何してんの?』

『へへっタバコ切れで』

『あ~杏と同じだ!愛、中学生にしてヘビースモーカー?』

『んー、どうなんだろ』


『フフッ話は変わるけど私ね………』


その後、杏ちゃんの他愛もない話に1時間近く付き合わされた。


『あっ!もう0時、愛、話に付き合わせてごめんね。……あ、サイレン……消防車だ!』

『ホントだ!……どこかで火事?』

『だね、怖い怖い…じゃーまたねー』

『またね…!』



杏ちゃんと別れ、家路まで歩く……

サイレンの音は止まっている………

家に近づく度、煙臭い!


そして左かどを曲がり自宅へ近づく…

たくさんの人が群がっている……


火事って…








まさか。

No.132 15/01/28 10:43
旅人 ( ♀ )

そのまさかは的中した。

私の家が燃えている…………


まって、まって、ちょっとまって…!


動揺のあまり足がカクカク震えていたが私は家に近づいた。


家の中には、お母さんと誠がいる!!


『お母さーーん!誠ーー!!』

『君、危ない!』

私は警官に体を抑えられ前に進めなかった。

『離してください!!ここ私の家なんです!!中には母と弟が……』

『…気持ちはわかるけど落ち着いて!』


・・・・・・・・・

燃え上がる我が家の前はロープで仕切られ進入禁止とされた。

たくさんの人が溢れている。

消防士が火を消そうと頑張っているが一向に火は消えない。


何故……火事に……

も…しかして…




『助けてくれーーーー!!!』


誠の声がした……

身体中にナイフが突き刺さったかのような衝撃とショック……

夢だよね……

やだやだやだやだやだ…!!

お母さん…誠ぉ…


『いやーーーーーーーー!!!』


気が狂っていたと思う。

喉が潰れそうになるまで泣き叫び何度もロープを越えようとした。

だけど両サイドから腕を捕まれ身動きできない。


何度か助けを求める誠の声も、もう聞こえない………


お母さん、誠、お母さん、誠―――


燃え上がる火が小さくなってきたのは一時間位してからだった。






両親の離婚、イジメ…

そんなことで暗くなってた私…バッカみたい。


本当のどん底は、その日から始まった……




No.133 15/01/28 18:28
旅人 ( ♀ )

私の家は全焼した。



焼け跡から……お母さんと………誠の遺体が発見された。



胎児のように丸くなり真っ黒になった遺体を家族である私は確認させられた。

焼死の場合、自然と体がうずまっていくらしい。

火元はタバコの不始末。

私の部屋から火が広がったのだ。

確かに小さな灰皿に向かい乱暴に吸い殻を投げつけた。

きっと知らぬ間に火が消えぬまま何かに燃え移ったのだろう。

今でも変わり果てたお母さんと誠の亡骸を思い出すと気が狂いそうになる…



あの日から私は生き人形になった。

私が原因で、お母さんと誠は死んだのだから逮捕して死刑にしてくださいと警官に頼み込んだ。

でも、これは事故なんだよと、そう片付けられた。



あの時の辛い気持ちは言葉で言い表すことはできない。



何でそのあと、さっさと自殺できなかったんだろう。



私はお母さん方の祖父母に引き取られた。

高校も行かせてもらった。

お婆ちゃんは死ぬまで私を怨み呪った。

当然だ。

ご飯はいつも、白いご飯と味噌汁、お爺ちゃんとお婆ちゃんの余ったおかず。

女グセは悪かったお爺ちゃんだけど私には優しかった。


お婆ちゃんにわからないように私の茶碗に煮物や魚を数回に分けて入れてくれて、夜眠る前に私の4畳の狭い部屋に来てフルーツやお菓子を持ってきてくれた。


お爺ちゃんの優しさに泣きたいくらい胸が打たれたけど心が渇ききっていて、あの時は涙も出なかった。



ただ一人味方でいてくれたお爺ちゃんもお爺ちゃんが他界した2年後に亡くなった。




No.134 15/01/29 12:22
旅人 ( ♀ )

「ハッ…ハァハァ…」


やだ……

またあの時の夢…

あれから12年経った今でも頻繁に、あの時の夢を見る。


お母さんと誠を殺して12年もヌケヌケと生きてきたんだ。


ごめんなさい……

ごめんなさい……!


怖かったの…何度も決意しても死が怖かった…

“あの病気”になった時に尽きてしまえば良かったのに…


でもね、もうそろそろこの数奇な運命に終止符を打つから…


ところで今は何時?

私は壁にかけてある水色の枠の丸い時計を見た。


夜中の3時20分だった。

30日が仕事納めで帰宅し疲れてすぐ眠ってしまったんだ。

今日は31日。

2014年も終わる。



2014年も生きてしまってごめんなさい。



そして不意にスマホを見るとLINEに亮介からメッセージがあった。

〈元旦の昼間、初詣行かない?〉

初詣…?

元旦に?

婚約者じゃなくて私と?


もしかして…


私は亮介が一也君の元カノと別れたのでは?と脳裏に過った。

理不尽な喜びが込み上げる。


でも…もう…


メトローノームのように感情が大きく揺れる。


罪と罰はセットのはずなのに罰をいつまで伸ばすの?


もう、私はいません…


来年は何度、亮介に会えるかな?なんてふざけたことも思いません…


私はいません…
















わかってはいるのに亮介が恋しくて断れない愚かな私がいた。



No.135 15/01/29 14:13
旅人 ( ♀ )

《亮介の気持ち》


今年も終わりか!

仕事は可もなく不可もなく淡々としていたな。

愛車のアコードも今年は無傷…と。

去年は軽く駐車場出る時に隣の車にすったりしちまったからな。

趣味のキャンプは全くせずと…

あー綺麗な湖で来年はカヌー漕ぎたいぜ!

野郎同士も良いけど可愛い彼女と一緒なら最高だ。



今年もロクな女に出会わなかった。

まぁ、毎度のこと。

ホンキで女を好きになる気も好きになれそうな気もしないしな。


それでも悪くないなと思えるような彼女は欲しいよな。

もう“結婚”については考えないようにしよう。

どうせ、ただの所有物になりそうな女を選んでしまうし彩のような事になったら面倒だしよ。

あれから彩から着信はあったがスルーしている。


もう俺に関わるな。


今回の失敗を糧に男を見る目を養え。

でもよ。傷つけた俺も俺だけどよ。

失恋ごときで命を無駄にするなんて信じられないね。


生きたくても生きられない人もいるんたよ。


命さえあれば、何でも可能性は無限大なんだ。

…母ちゃんだって生きたくて仕方なかったのに無念な思いに哀しみながら旅立ったんだしよ。



あー!辛気臭くなってきたな。

ビールでも一気するか?

愛みたいによ(笑)


愛………


何だよ、杏に利用されたうっぷんで誰かを求めてるのか?


わからない。


わかりたくもない。


ただ、笑って過ごしたい。





俺は様々なことを考え、その後、自然と愛にLINEで連絡していた。

元旦に初詣行かないか?と。




No.136 15/01/30 12:11
旅人 ( ♀ )

《敬太の気持ち》



姉ちゃん………


糞真面目で、有り得ねーと思った時もあったけど世界でたった一人の俺の姉ちゃん。


自殺未遂なんてもう二度とするな!


姉ちゃんが溺れた男に電話して色々言ってやったけどさ。

アイツ姉ちゃんよりずっとうわてだぜ。

よくも悪くもうわてなんだよ。


そう言う、うわてな雰囲気を出す男はな。
女を守りたいとか大事にしたいとか誠意の欠片もねぇんだよ。


それにな、姉ちゃんには似合わねぇ男だ。
アイツと居ても背伸びしすぎて気ぃばっか使って疲れるだけだと思うぞ。


それなら一也だっけ?

遊び人とぼっちゃんのハーフみたいなヤツ。

アイツの方が数倍、姉ちゃんに合ってるよ。

悲しいけどさ、どんなに恋い焦がれたって合う合わないはあるんだよ。

上手く行かないことが大半の世の中なんだよ。


だから一喜一憂しすぎるな。

今度、悩んだら俺に相談しろ。


俺はこの思いの丈を姉ちゃんに伝えた。

姉ちゃんは、わかった…としか言わなかった。

心配だ。




そしてアイツに女を一人よこせと言ったらマジでよこしてくれた!

しかもSSランクの女だぜ!

水野 杏 …めっちゃ最高じゃん!


顔よし性格よし。

アイツ何だかんだ言って多少は罪悪感あんだな。

こんな最強な女くれてよ。


もうヤバイぜ俺。


今世紀最後の恋になるかも…




No.137 15/01/30 15:03
旅人 ( ♀ )

《一也の気持ち》




彩……


バカだなオマエ。


なにやってんだよ。


昨日、彩からか細い声で電話が来て彼氏に遊ばれていたみたいで手首を切ったと聞いた。


そんなに傷は深くないらしいが傷跡は残るみたいだ。


後悔してると泣いていた。


電話してごめんと泣いていた。


誰かと話してないと壊れそうだと泣いていた。


身勝手でごめんと泣いていた。



確かに身勝手だ。

だけど俺だってズルかった。

彩と付き合ってる時、陰で遊びまくってたんだから。

それもあるし、何だかんだ言って彩…。



俺は今でも彩が好きだ。



ほっといたら壊れてしまいそうで守ってやりたくなるんだよ。

だから身勝手でも許す。

好きだから許す。



そして、もう一度チャンスをくれ。

今度は彩がいつも笑顔でいられるような男に成ってみせるから。



この想い彩に伝えた時、想いが届くと良いな。







No.138 15/01/30 19:07
旅人 ( ♀ )

新しい年が始まった。

2015年…

多分私が生きる最後の年。

元旦の今日は、これから亮介と初詣に行く。

もう十分だよ…


ちゃっかり幸せな思いまでしちゃっけどこれで思い残すことなく、お母さんと誠…お父さんのところにも行ける。


お父さんも5年前に車の事故で亡くなっている。


~♪♪♪~

その時スマホが鳴った。


「もしもーし!…あ、だありん♡今出るね!」


亮介が私の家まで迎えに来てくれた。


ここから、おバカな愛に変身する。


私は膝丈のピンクベージュのダウンを羽織り家を出た。


亮介の車が道路の端に止まっていて、胸がきゅんとする。


まるで彼氏と彼女みたい…


切なくて仕方ない恋心を抱き亮介の車に乗り込んだ。



「だありん♡あけましておめでとー!」

おバカな愛で亮介の腕を組む。

亮介の温もり。

亮介の柔らかな匂い。

もうすぐ、さよならだよ……



「おめでと。さー行くか!」

亮介はさらっとそう言いさりげなく私の腕を振りほどいた。






No.139 15/01/31 20:21
旅人 ( ♀ )

神社の側の歩道には車が行列を作って駐車していた。


「止めるとこねーかな」

「あっ!一台抜けた!」

「おー!良かった」


こんなどってことのない会話さえ私は嬉しくて仕方なかった。

例えば、この先があるとして亮介と夫婦になれば、ずっとずっと、こんな気持ちなんだ…


やだ!罰当たりなこと思ってしまった。


「…愛、おりないの?」

「えっ!あ、うん!おりるぅ♡神社だ!」


私がぼやっとしている間に駐車し車をおりて神社の鳥居に向かって亮介と歩いた。


「うわぁ!だありん、凄い人だ!」

「だなー…元旦ってこんなに混んでるんだ」

「まぁ、仲良くお話しながら気長にガラガラまで並ぼうねぇ♡」

「ガラガラってなんだよ?」

「神様のまえの太いロープ!でかい鈴!」


「ああ…拝殿か…」

「ハイデン?電気?」


「はっ?拝殿は拝殿だよ」

「んー。わかんないよ。愛ちゃん可愛らしいおバカさんだもん」


「おいおい(笑) まじでわかんないの?拝殿は御参りするところ。鈴もあるだろ?」

「へぇ!あの場所って電気走ってるんだ?知らなかった♡」


「本気で言ってる?」

「えっ?本気ってだありんが教えてくれたんだよ…」



その後、何故だかわからないけど亮介は爆笑していた。



No.140 15/02/01 12:27
旅人 ( ♀ )

配電?まで並んでる途中、手水があったので柄杓でお水を飲んだ。

「冷たくて美味しい♡」

「なっ!体も心も清められるな」


清められるか…

私には意味がない…

生きる資格がないのだから。

亮介…

今、幸せだよ…

ありがとう。



やがて配電に着きお参りをした。


今、隣にいる人がずっと幸せでありますように

幸せな結婚生活を送り、たまに…たまーに私のことを思い出してくれますように


そう願った。

亮介は何を願ったのだろう。

仕事のこと。健康面のこと。結婚のこと。

どれを一番に願ったのだろう。


「ねぇ、だありん願い事は?」

「ん?宝くじがあたりますよーに。だよ」


「ふーん。あ、あそこ電気だって聞いたから、しめ縄揺らす時、電気走ってこないかちょっと焦っちゃったぁ♡」

「…大丈夫かよ、全く。あっ…」


おみくじ売り場まで歩いていると、亮介が急に立ち止まった。


「どうしたの?」

「…いや」


亮介の視線の先を私も追った。

No.141 15/02/01 18:58
旅人 ( ♀ )

視線の先には見覚えのある男女がいた。


男の方は…一也君だ!

一也君としっかり手を繋ぎ、俯きながら一也君の肩に頭を寄せている女……

あっ…一也君の元カノじゃない!

あの子、亮介と結婚するんでしょ?

何で……?

私は混乱し隣に居る亮介の横顔を見ると唖然とした顔をしている…


「…ねぇ、だありん、あそこにいるのコンパの時の一也くんと、私のお店に亮介が一緒に来てた子……じゃないかな?」

私は我慢出来ず亮介に聞いた。

「…ああ。ちょっと声かけてみるわ」


亮介が足早に、その二人に近づき私も亮介の背中を追った。

亮介が一也君に近づくと二人共、亮介に気が付いた。


一也君たちは驚いた顔をしている。


「よう!一也。一也も初詣か?」

「ああ……」

「お隣は?」

「……えっと、元カノ?…いや彼女」

「えっ?そうなのか!」

私達4人の間に気まづい雰囲気が漂った。


一也君、鄰の子を彼女だと亮介に紹介してないし、でも何故?

亮介は一也君の鄰の子と結婚するんでしょ?



亮介が結婚するはずの子は、俯き目を大きく見開らいていた。


No.142 15/02/02 12:24
旅人 ( ♀ )

「…じゃ、亮介また飲みにでも」

「ああ…」


一也君は少し頬がひきつり苦笑し、彼女の手を引きその場から去った…

どういうこと?

何であの子と一緒に?

私の心も混乱するけど4人、皆が混乱してるはずだ。

一也君からしたら亮介と私が一緒にいること。
遊び相手の美人さんの写メを彼女だと亮介にも伝えていたなら、気まずいはず。

一也君の元カノ…?からしたら結婚するはずの亮介が他の女の私といる。


亮介は、結婚するはずの彼女がどうして一也君といるのか。
美人さんの写メの子じゃないとも混乱しただろう。


私は…

思いきりおバカになり…


「ねぇ…亮介ぇ?あの子さぁ、前に私のお店に一緒に来た子だよねぇ?どーいう関係よ?一也君の彼女なんでしょ?」

「彼女だとは知らなかったよ。スポーツジムで逆ナンされて、しつこかったから何度か会っただけだよ」


え…?

今は?

結婚するんじゃないの?


「…もぉ、浮気じゃん!今も続いてんの?…まさか実は結婚とかしちゃわないよね?」

「今は全く無関係だよ。愛だけだよ!」


亮介は面倒くさそうに言うと、私の右腕を引っ張った。

無関係?私だけ?

杏ちゃんとも遊んでたくせに…

わかってはいるのに、すんなり信用なんて出来ないのに亮介の手の温もりにキュンとしてしまう…

その時!


「………あ………亮介………」


「…ん?……どうした?」



No.143 15/02/02 14:50
旅人 ( ♀ )

頭がグラリとした。

体がほてる。

関節が痛む。



「…ごめんねぇ、ちょっと目眩がしただけ」

「…おい、大丈夫かよ。手に汗もかいてるぞ…」


亮介が私の手を強く握りしめている。

手を繋いでいる。

今、亮介と繋がっている……



「ごめん。ホント目眩がして焦っただけ。人混みに酔っちゃったかなぁ」

「…そうか…じゃ帰ろうか?送るよ」

「いや!!」


帰りたくない。

まだ亮介と一緒にいたい……


「でも具合悪そうだから…」

「だぁいじょうぶ♡ おみくじ引こう?」

私は目眩や倦怠感を覚えながらも無意識に亮介と繋いだ手を強く握り返し、おみくじ売り場まで亮介の手を引っ張った。


「本当に大丈夫かよ?」

やだ…亮介優しい…

「うん!おみくじ引こっ?」

「ああ…何かさ、おみくじってやけに当たるんだよな。過去の経験からすると」

「あはっ♡亮介びびってる?」

「……ん?別に」


強がっている亮介が可愛かった…

その後、私達はおみくじを引いた。

私からおみくじを開く。


「何が出た?」


子供みたいに私のおみくじを覗く亮介。


「中吉!良かった!凶じゃなくて」

「ほぉ……おっ!俺も中吉だった。大吉じゃないのか~」

「オソロだ♡ 何かね、おみくじの大吉は嬉しいけど運を持続させるのは難しいから小吉や中吉くらいで始まる方が良いみたいだよ♡」

「へぇ~そうか!じゃあ一番良い感じじゃん」


亮介の子供みたいに無邪気に笑う顔が愛しく思った。


そして私達は、おみくじの内容を読み始めた。




No.144 15/02/02 18:44
旅人 ( ♀ )

おみくじの中身を開くと、無意識に恋愛に目が行った。


亮介の言うように、おみくじって不思議と当たる。


え……?

















恋愛成就…って書いてる…

そんなわけあるわけないのに…

自分の運命にもうじきピリオドを打とうとしてるのに恋愛成就の文字に未来を予想してしまう。

私の恋愛が成就なら、相手は亮介になる…

胸が痛い…

そんなことが現実になったなら、幸せ過ぎて胸が痛いよ…


複雑な思いで健康に視線をずらした。


あ……









苦しむ。要注意。

そう書いてあった。


恋愛成就で健康は苦しむって意味がわからないよ…

やっぱり、おみくじはおみくじか。


「だありん、何書いてあったぁ?」

「まぁ当たり障りないことだけど、見ろよ。恋愛のところ」

私は亮介の、おみくじを覗いた。











恋愛のところに、献身的な愛と書いてあった。


「献身的な愛?だありんか?♡私に?♡」

「ばーか。俺は誰にも献身的にはならないですよ!やっぱ当たんねぇな」


悪いけど私もそう思った。

亮介が献身的…な、わけがない。

尽くされる方だもんね。



私は、おみくじが当たる当たらないじゃなくて亮介と一緒に過ごせるこの時間が大切だった。


No.145 15/02/04 12:57
旅人 ( ♀ )

「おみくじも引いたしお参りもしたし、飯でも食いに行くか!」

「うん♡」

私は口の中が熱かった…

関節も痛い…

高熱があるんだと思う。

それでも亮介と一緒に居たかった。


亮介の車でラーメン屋に向かった。

着いたお店は〈食べてMITEYO〉。

亮介が一度行って美味しかったからと連れてきてもらった。


店内に入り、カウンター席に亮介と並んで座る。

「俺、豚骨醤油!愛は?」

「じゃ塩ラーメン♡」

ホントは食欲なんてなかった。

でも食べないと空気を壊しちゃう。

私は頭が朦朧とする中、いいや…と軽い気持ちになり一也君と偶然会ったこと。

あの子と亮介が結婚することを聞いた。


亮介は運ばれて来たラーメンを大胆にすすった後そんな話はないよと言った。

向こうは亮介のことを好きかもしれないけど、亮介にその気はないって。


亮介……

本当なの?

やだな。

私、日替りメニューみたくコロコロ気持ちが変わる。

もう、さよなら。と決心したり。

亮介の結婚がホントにないならば、嬉しくなったり。

これが女心なのかな。


でも……


やっぱり人生を終えると決めたんだから。


お母さんと誠への償いなの。


私は幸せになっちゃいけないの。



そして目眩が悪化し箸を追いた。

「…どうした?やっぱり具合悪いんだろ?もう送る。風邪薬あるか?」

亮介、優しくしないで…

泣きたくなるから…



それにこれは風邪ではないのよ…





No.146 15/02/04 13:28
旅人 ( ♀ )

亮介に私のアパートまで車で送ってもらった。


「…おい。顔も赤いし…」

亮介は車を私のアパートの前に停車すると、私のおでこを触ってきた。

胸が苦しい…優しさが辛いなんておかしいね…

「…体休めれば大丈夫よ…♡」

「いやいや、スゲー熱じゃねぇか!ヤバイよ。うーん。正月だしな…どっかやってる病院ないかネットで調べるか」


「亮介……ありがとう!でも病院の解熱剤、家にあるから大丈夫だから…じゃ……ね!」

私は亮介の車を降りようとした。


亮介は私の右腕をしっかり掴んだ。

「一人じゃヤバイだろ?着いててやるよ」

「ううん!大丈夫♡ 一人でじぃっとしてたいの。唸ってる顔見られたくないしぃ」


私は亮介の腕を振り払い車から降りてアパートの階段まで走った。


本当は振り返りたかった。


亮介の顔を最後に見たかった。


でもね…


私、きっと泣いちゃうから。


亮介が恋しくなって、また甘えてしまいそうだから…振り返らないよ。


そして自宅に入って涙が次々と頬を伝った。


あんな風に心配してくれる亮介を見たのは初めてだったよ。


亮介、ありがとう…


そして、ごめんね…


私はやるせない思いのまま違和感のある首に触れた。




No.147 15/02/04 16:37
旅人 ( ♀ )

頭から寒気がした。

高熱だけのせいじゃない。

心に強いダメージを受けたショックから来る寒気だと思う。


同時に“あの時”を思い出した。

私が23歳の時に突然、振りかかってきた試練の時を。

ただ、ただ辛かった。

数えきれない位泣いた。

私は泣くために生まれてきたんだと運命を呪った。



ネエチャン…ナクナヨ…



昔、よく弟の誠が言ってくれた言葉が幻聴として聴こえていた。

その慰めの言葉の他に、あの火事の日に 誠の助けを求める悲痛な声も聴こえていた…


誠、お母さん。私を許してくれるわけがないものね。

あの世で憎んでるよね。

ごめんね…

ごめんね…

ごめんね……













私、また病気が再発したと思うよ…

もう助からない。

でも悲しい色をした天井を眺め、寂しさで包まれているベッドの上で死ぬなら、慣れ親しんだこの部屋で命を止めるよ。



さよなら、さよなら、さよなら…



“愛”さよなら、あなたへ



あなたは、この世から末梢されるのよ…










No.148 15/02/04 21:03
旅人 ( ♀ )

一也の最近別れた元カノが彩だったとは。

一也のヤツ、ちょ~美人の写メ見せてきてこれが彼女だって自慢してたのは嘘だったんだな。


オマエらしい。オマエは昔から見栄っ張りだからよ。

まぁ一也が遊び呆けてた気持ちもわかるぜ。

彩なら物足りないもんな。

それにしてもよ。

彩、あんたヤるな。困った時に元カレに依存かよ。

一也も彩が大事で仕方ないような顔してよ。

あんなんのどこが良いの?

よし、一也を飲みに誘うか。



その前に愛………

アイツ大丈夫かよ………

あんなにおでこが熱くて。

でも一人で居たいなら仕方ないけど…



俺は無意識にスマホを手に取り愛に電話をかけた。


・・・・・


・・・・・


出ない。


大丈夫かよ?


何だ?この心配は?


わからない……


わからないんだ。


愛の、あの人恋しそうな表情が、どこか 俺と重なる気がして。

愛が一人ぼっちだということが本当なら俺と同じだ。

家族がいないのって寂しいよな。

成人したら大人だけどよ。

いくつになっても家族は恋しいよな。



愛もそう思ってるのか…?

ホントは能天気に見えて心に闇があるのか?


それなら体調が悪くて一人じゃますます孤独だろ。


俺はテーブルの上に放り投げたキーケースを掴み家を出た。




No.149 15/02/05 10:41
旅人 ( ♀ )

車を走らせ愛のアパートの前に到着した。

シートベルトを外し直ぐ様車から下りる。


階段をのぼり始めると上段に、あの女がいた。


何でだよ。

一瞬、心臓が強くドクンといった。

そして何でアンタがここにいんの?

このアパートにもカモがいるのかよ。

















その女は杏だった。

杏は少し悲し気な顔でピンヒールでカンカンと音を出し階段をおりてきた。

俺はすぐに杏から視線を反らし構わず階段をのぼり始めた。




「ここに知り合いいるの?」

すれ違い様、杏がさりげなく声をかけてきた。

抑揚のない冷静な声のトーンだった。


「ああ…」

「そう。偶然ね。私もここに従姉妹がいるのよ…まだ26歳なのにね、大病をわずらってるの」

「26?」

「えっ?やだ、若いから興味が湧いたの?」

「違うよ。俺の知り合いも26だから」


「…もしかして、愛?」


なんだよコイツ愛の従姉妹?

マジかよ…

それになんだ?前より穏やかじゃねーか。


「ああ、言っとくが、ただの知り合いだ…大病って何だよ?」

「えっ?……ううん!何か高熱あるみたい。私、タクシーで家帰ろうとしたらお金なくて街から近い愛のアパートまで歩いてお金借りにきただけなんだ!」

「ふーん…金ね」

「……あっ!敬太、いいヤツだよ!いつも癒やされてる!じゃあね!」


杏は少し気まずそうにその場を去った。

アクの強さはどこへ行った?

杏の雰囲気がやわらかくなっていた。

まぁ、それより大病って……



俺は愛の部屋のドアの前に立ち、チャイムを押した。




No.150 15/02/05 15:55
旅人 ( ♀ )

何度かチャイムを押すが出てこない。


「愛ーー!…亮介だ!大丈夫かー?!」


俺は愛の部屋のドアを乱暴に叩きなから叫んでいた。





カチャ……





少しして愛がドアを開けてくれた。

少し開いたドアの隙間から青白い愛の顔が見えた。

「だ…りん…」

「おい、大丈夫かよ?…顔、真っ青だよ…」



「どうして来てくれたの……」

愛はそう言うと涙をホロホロ流し始めた。

「…入ってもいいか?」

「うん……」

俺は愛の部屋に入った。

真っ暗だった。


「…熱はどうだ?」

「少し下がったよ」


愛はそう言うと部屋の明かりをつけた。

明るいところで見る愛の顔は本当に青白かった…


「少し下がったって…顔真っ青だぞ。夜間病院に行こう!」

「いいの!…大丈夫だからぁ…今さっき従姉妹が来てくれて脇の下を、氷のうで冷やしてもらったり飲み物も買ってきてもらったから…」


従姉妹が来てくれたじゃなくて金を借りにこられたんだろ?


俺の何とも言えないこの気持ちは言い表すことが難しい。


ただただ、愛が心配なのは確かだ。


いつもバカみたいに笑ってる愛が憔悴しきった顔をしているのが、たまらなくもどかしかった。


そして愛の頬を濡らす涙が…切なかった。






No.151 15/02/06 12:07
旅人 ( ♀ )

その後、半ば 無理矢理、愛を夜間救急病院へ連れて行った。


ふらつく愛を支えながら病院に入る途中、愛は何度も何度も、ありがとうと消えそうな声で囁いた。

凄くやるせない気持ちだった。

いつもバカみたいなことを言ってバカみたいに無防備に笑う愛を思い描くと、早く元の愛に戻って欲しいなと願った。


愛は一時間ほど点滴をしその間、俺は考えていた。

彩を自殺未遂までに追い込んだこと。

杏に騙されたこと。

正直いい気はしない。

反省もせぬまま、また適当に女を探そうと思っていたが、感情が止まっている。

何故なんだ?

亮介…!どうしたんだ?


自問自答を繰り返すうちに愛が処置室から出てきた。

点滴をしていた右腕を擦りながら。

夜間の看護師が愛と俺の顔を交互に見ながら言った。


「今はあくまで熱を下げる点滴をしただけで、少し落ち着いてもまた熱が上がる可能性があります。なので再度病院へ必ず行ってくださいね」


隣にいる愛は物憂げに看護師の話を聞いていた。


それから病院を後にし車で愛を送る中、愛の顔の血色も良くなってきて、いつも通りの、フニャッとした笑顔と、おっとりした口調で俺に甘えてきた。


もう大丈夫と愛は自宅へ戻り、俺は安定した愛にホッとした。


ただ気になる。


杏の言う愛の大病が。



No.152 15/02/06 16:48
旅人 ( ♀ )

《愛の気持ち》



杏ちゃんがタクシー代を私の家に借りに来たあの日。

私は遺書も書かずにベルトをドアノブにくぐらせ首を吊ろうとした。


その時にチャイムが止むこともなく鳴りチャンスを逃した。

杏ちゃんは、いつもの汚れた雰囲気じゃなかった。

恋をしてると言っていた。

深いことは聞かなかったけど、私の体調を珍しく心配してくれて氷のうでおでこや脇の下を冷やしてくれたり、飲み物も買ってきてくれた。


杏ちゃんは一生、恋なんてしないと思ってたのに。

恋ってここまで人を変えるんだ。


杏ちゃんの父親も悪い人で殺人未遂を犯している。

母親は父親と離婚し再婚相手と時計屋を経営。
アクセサリーも兼ねて販売し複数のファッションビルにテナントを構え成功している。

私と杏ちゃんのお母さんは商売上手みたいだ。


杏ちゃんはその代わりほったらかしにされていた。

それが原因で汚れた人間とばかり付き合い杏ちゃんも染まっていった…

杏ちゃんも寂しかったんだ。



ただ杏ちゃんの過ちは私と比べたら可愛いものだ。

私は…私は…



杏ちゃんが帰ったあと亮介が来てくれた。

終わるはずだったこの命は尽きることなく、燃え上がっていく……


亮介の顔を見るだけで生き人形の私は一人の人間に変化するようだった。


亮介の中の眠っていた優しさは、誰にも比べられないくらいあたたかい。


それは私が


亮介に恋をしているから。


愛、あなたにさよならを何度したの?


何故、生きたいなんて思うの?


誰が助けて………










No.153 15/02/06 21:13
旅人 ( ♀ )

愛には頻繁に連絡をするようになっていた。

あんなにウザかった愛なのによ、隠れブスなのによ。


何だよ。この気持ち。


例えば何が楽しいことや辛いことがあったら真っ先にアイツの顔が浮かぶんだ。


30年間生きてきて、こんな気持ちは二回目だ。

一度目は母ちゃん…

そして二度目が愛だ。

認めたくはないが愛には不思議な抱容力がある。

一見はバカっぽくて薄っぺらなヤツに感じたが、話せば話すほど居心地が良い。

だからと言って彩のように人の顔色を伺ってばかりで受け身なだけでもないんだ。


好きとか嫌いとかそんなものはわからない。

ただ何かを伝えたい。愛にも伝えてもらいたい。

それだけだ。

連絡をすると仕事は休んでるらしいが、何とか生きてるよ…なんて言う。


何とか生きるじゃなくて、しっかり生きてくれよ。


俺はまた愛の自宅へ行った。


熱は下がったみたいだけど随分やつれていた。


賞味期限切れのスナック菓子と、おかわり自由の水道水でもてなす愛がバカみたいで微笑ましかった。



そして、ある日の夜一也から電話が来た。

近々飲みに行かないかと。


俺もそう思ってたからタイミングの良い誘いだった。



No.154 15/02/07 14:55
旅人 ( ♀ )

文具用品店の営業課で働く一也も土日が休日だ。

なので金曜の夜に一也と大衆居酒屋で飲むことにした。

その居酒屋は、よく一也と来ていて店のすぐそばの薬局の前が俺たちの待ち合わせ場所だ。


20時に待ち合わせ、ちょっきりに到着すると既に一也の姿があった。


「よう!」

「おう…」


俺は明るめに声をかけたが一也の顔はひきつっていた。


オマエは、どんなことがあっても表面上はにこやかで心で泣く男だった。


そんなオマエの顔がひきつるのは、彩から事実を聞いたのだろう。

別に良い。

俺は何も知らなかったし彩から近づいて来たんだから。


俺達は居酒屋に入店し、込み合っていたのでカウンター席に座りビールを注文した。

「…」

「…」


沈黙が流れる。

苦手な雰囲気だ。

俺が一也に話しかけようとした時。



「俺さ、彩と結婚することにした。彩もオッケーしてくれた」

「マジか!…そりゃおめでとう」


めでたいのに暗いのは俺と彩が関係があったからだろ。


「一也」

「ん?」


「彩とはそんな深い付き合いじゃなかったんだよ」

「…深くないのに結婚しようとしたのかよ」

一也の声のトーンが下がる。


「ああ…結婚するには真面目そうで良いかなと思って」

「……ばかやろ。彩を傷つけやがって。一発殴らせろ」


「ここでか?」

「一度、外へ出ろ」


俺は一也に言われるがままビルに入っている居酒屋から出た。

一也が俺の後を追う。


地下に下る階段の側が人気がなくそこに俺は立ち尽くし顔を上げた。


顔を上げた瞬間、左頬にパンチをくらった。


情けないくらい緩いパンチだった。







No.155 15/02/08 13:27
旅人 ( ♀ )

「……なんだ。しょぼいパンチだな。もっと思いきりこいよ」

「そうしたいけどな。彩が許してやってくれだと。亮介のことを。傷つけられて自殺未遂までしたのにバカだな。だから俺と彩の中間のパンチだ」


なんだよ。一也。ホントに彩が大事なんだな。


「…そっか。好きなんだな。彼女のこと」

「ああ、俺も陰で遊んでたけど、もう卒業だ。アイツを幸せにしてやりたい。アイツが幸せなら俺も幸せだ。そんな風に思える相手ってそうそう居ないと思わね?」

「…ハイハイ。ノロケだね。ごちそーさま」

「…なんだよ」


そのあと俺達はお互いわだかまりから開放されたのか心から笑いあった。


居酒屋の店内に戻り酒を飲み始める。

酒も入り一層気分がほぐれる。

俺は一也と笑いながら話が出来て嬉しかった。

やっぱり一也はかけがえのない親友だ。


「そう言えばよ…」

一也がホルモンの唐揚げを口にしながら言った。

「なに?」

「愛ちゃん。この間、たまたまススキノで偶然会ってちょっと飲んだんだ。…つーか、亮介、愛ちゃんとどんな関係だよ?」

「…適当にたまに会う女だよ」


「ふーん…何かよ」

「ああ」





「ススキノで偶然見かけた時、あの子道路に飛び出そうとしてたんだぜ」

「えっ?」

「たまたま見かけて、引き留めたら愛ちゃんでさ、死のうと思ってたのに邪魔しないでよってかなり乱れた感じで言ってたんだ。だから気になって飲みに誘ったんだ」

「……マジか」


死のうと思ってた?

愛が?



一也に詳しく聞いたら色んなことが重なって。と言っていたみたいだ。

俺はぐちゃぐちゃな気持ちになりその日帰宅した。



愛……

何を抱えてるんだよ?

愛……



それからというもの俺の頭の中は愛のことで占領された。


No.156 15/02/09 09:06
旅人 ( ♀ )

俺は愛と出逢った頃、アイツがウザくて気になることなんて右から左へ流していた。

薄っぺらい軽い女だと思っていたよ。


段々と印象が変わり愛の懐の深さを本能で感じ取るようになっていた。


それでも昔の俺なら最初のように気になることもサッとスルーしなきゃ癪に障る。

でもよ、最近芽生えたこの気持ち。

愛に伝えたい、愛にも伝えてもらいたい。

そして…

一也が言っていたように相手が幸せなら自分も幸せだ。

その気持ちは愛へ当てはまる。

見返りなんて何にも要らない。

ただ、いつも思うけど愛には笑っていて欲しい。


ごめんね、愛。



















今更だけど多分俺は愛が好きだ。

悔しいけど誰よりも好きだ。

恋は突然やって来るって本当なんだな…

三十路にして初めて知ったよ。

哀れな男だよな。

大事なことに目を背け適当に遊んできた。

いい歳して親のせいにもしてよ。

愛、俺は杏からの痛手も、もう何とも思っちゃいない。

ただひたすら心の中に

尾崎豊の、ohmy littlegirlが流れるよ。

笑ってくれ。

笑われてもいい。




俺はお前のことが知りたい。




そして俺は愛に連絡した。

今にも消えそうな声だった。

俺は電話より会いに行って状況を確かめたく、また直ぐ様家を出て愛のアパートへ向かった。



愛が何に追い詰められ死にたかったのか、愛を襲う大病はなんなのか俺は聞き出し、どんなに過酷な内容でも受け入れる覚悟を決めていた。





No.157 15/02/09 12:07
旅人 ( ♀ )

愛のアパートに着きチャイムを押した。


しばらくすると。


カチャ……


ドアが少し開いた。


ドアが少し開いた隙間から、愛の顔半分が見える。

あれ?

長い髪の毛を切ったのか?

愛の髪の毛が顎までのストレートになっていた。

顔の血色も良いじゃないか。

なんだ…

俺は安心した。

やっぱり声だけじゃわからないもんな。


「よう!」

俺は愛の部屋のドアを開けた。





そして隙間から見えていた愛の顔が全開になった。


その愛の顔を見た瞬間、心臓が震えるように早く脈を打ち始めた。


何で?


ふと周りを見渡す。


確かにここは愛のアパートだ。


賃貸アパートで3階建て。


全部で6部屋しかない小さなアパートだ。


ドアの前は殺風景で言っちゃ悪いが貧乏臭さが漂っている。
オートロックでもなく鍵だ。


お向かいさんのドアノブの上には、チラシお断りと書いてある。


愛の部屋に表札はないが、お向かいさんには表札があり〈田原〉とある。


初めて見た時トシちゃんかよ。


アハハ~!!ってよく思ってたよな。


俺は短い時間で脳内がグルグルとしながらアレコレ考えていた。


やっぱりここは確かに愛のアパートだ。


それなのに、何で?



No.158 15/02/09 20:42
旅人 ( ♀ )

《彩の気持ち》




チューリップ

ひまわり

胡蝶蘭

マーガレット

タンポポ……



どの花たちも綺麗に咲くよね…

命は短いのにそれでも綺麗に咲き誇り私たちに優美さを与えてくれる。



私とは正反対…


命を無駄にしようとしたんだから。


私の父は資産家で父自身も大手企業勤務で、何不自由なく育ててくれた。


欲しいものは何でも手に入った。


でも欲しいものは私の意思ではなく母親の意思で決められた。

物だって進学する学校だって。

お金に恵まれてるのは幸せだったけど私には“自分”がなかった。

初めて付き合った一也だって、家族が賛成してくれるから付き合っていた部分も拭いきれない。


だから一度で良いから冒険をしてみたかった。


決められたレールから外れてみたかった。


その外れた先に現れたのが亮介さんだった。

今時の外見とは裏腹に中身も誠実。

初めて自分の意思で恋をし手に入れた人だった。



けど、なんて惨めな結末。

私、見る目ないな。

利用されていただけだったんだ……

凄く好きだったのに。

だから辛くて辛くて仕方なくなってあんなことを。


でもね、今は良い経験したって思う。

恋い焦がれ例え粗末な対応をされても、傍にいれれば幸せだと解釈する人もいれば、私のように苦しくて仕方なくなる人もいる。


結局、温質な家庭で育った私は、安定が一番なのよ。

その私から背伸びをしてみたかったけど、私は私でいんじゃないかな。

決められたレールを真っ直ぐに歩いても外れた道を選んでも、みんな同じ人間。

ただ、自分に合った道を歩けば良い。


一也、ごめんね。


今更だけど一也がたまらなく好きだよ。


一番大切なのは優しさと思いやりなんだ。


何気なく傍にいる人がとっても大切なんだ。


一也がいたから、私は伸び伸びと生きてこれた。


もう刺激なんて求めない。


一也がくれる、私にだけの優しい気持ちに包まれていたい。

私も一也を包んであげれるように頑張るから…


いつか、綺麗に咲き誇る凛とした花たちのように私も咲けますか?


一也見ていてね…





















そんな話を聞いてくれた愛ちゃん。



私も愛ちゃんの心の闇を聞いてしまった。



言葉がなかなか見つからなかったよ。




No.159 15/02/09 20:46
旅人 ( ♀ )

ドアを開けて目の前に立っていたのは、愛ではなかった。














彩……彩が立っていた。


俺はなかなか視点が定まらない。


彩の手首には包帯が巻いてある。


それを隠すかのように手を組み、華奢な肩に今にも泣きそうな表情に良心の呵責を感じた。


「亮介さん……。あ、愛ちゃんに伝えるね。待ってて」

「ちょっ……」


俺が何故、彩がここにいるのかを疑問を投げ掛ける前に、彩はそそくさと玄関から姿を消した。


何でなんだ。

頭の中がアッパラパーだ。

かなりのパルプンテだ。

二人は知り合いだったのか?

愛からはそんなことは一言も……

まさか。








俺に知恵がついてきた。

二人はグルだったのか?

二人で俺を騙し陰であざけ笑っていたのか?


愛…………


愛を想うと心が壊れそうだった。


ヤバイ。俺、こんなに愛が好きだったのかよ。

信じられねぇ。


河内 亮介 30歳。元遊び人。


箸にも棒にも引っ掛からないような、ろくでなし。


好きな漫画はろくでなしブルース。


一番好きな曲は吉川晃司のモニカ。


本当に好きな言葉は酒池肉林。


一番好きな映画は私をスキーに連れてって。


好きな芸能人は、モーニング娘。何でかって言うと人数が多いから。
女は一人より多数の方が良かったから。


AKBは〇元が嫌いだから論外だ。


俺は自分自身を振り返っていた。


すると。



「…だありん」

愛がやつれた顔で玄関に出てきた。


その、やつれた顔は演技とは到底思えない。


全てが真実なら何で二人は一緒にいるんだ。



「おお…愛……調子悪そうだな。大丈夫か?」

「ん?…そうでもないよぉ。入って♡」



愛は俺の腕を引っ張った。












No.160 15/02/10 09:44
旅人 ( ♀ )

☆主です

更新じゃなくてごめんなさいm(_ _)m

スマホに少し書き貯めしてるので、今日その分は更新させて下さい


その後、少しお休みするかもしれません

いつも、こんな私の作品を楽しみにしてくれている方の言葉が嬉しくて頑張って来ました

本当に感謝しています


昨日ちょっと過呼吸になるほどショックなことがあり、誤解だったにせよ私が傷ついても優しい風は逆方向へ向かい
私には夜の海辺の冷たい風しか吹きません


そう思ったり傷ついたりするのは自己中だとわかっています


ごめんなさい…


素直になったらこんなに見苦しいまるで悲劇のヒロインです



でも私にも感情があり凄く理不尽さを感じています



傷ついてへこへこ謝って私バカみたいです




こんな作者だったのかと残念に思う方もたくさんいると思います




休むなら、ただ休みます

だけでいい。

それなのに、こんなにウダウダ書くのは寂しさや悔しさから来てると思います




朝から暗いお知らせ申し訳ありません



時間がかかっても必ず完結します



もしよろしければ、読んで下さいね



いつも支えてくれてる皆様ありがとうございます


No.161 15/02/10 17:15
旅人 ( ♀ )

俺はスニーカーを脱ぎリビングに入った。

彩がソファに座り水らしきものが入ったコップを持っている。

おかわり自由の水道水か?

つーーか!

何で彩が?な・ん・で・だ・よ。




「…亮介さん、ご無沙汰してます」

彩が完璧に他人行儀で声をかけてきた。

しかし緊張した面持ちで肩もすくんでいる。

…どうやら、彩は彩だ。

俺の知っている、どこかおっかなびっくりな彩だ。


「…ああ久しぶり。何でここに?」

やっと聞けた。

そのあと。

「だありん……彩ちゃんに酷いことしたのね!ダメよ」

愛が少し怒った口調で言った。

やっぱりグルだったか?

これから二人に責められるんだな。

俺のテンションはこれ以上さがれないほど下がっていた。


そのあと彩が口を開き、何故一緒にいるのかを伝えてくれた。

その内容は……









今日の昼間、愛はさほど体調が悪くなくそしてお腹が空いたが家に食べる物がなかった。


ふと、元旦に俺と行ったラーメン屋〈食べてMITEYO〉を思い出し歩ける距離だったので一人で向かったそうだ。


一方、彩は有給を消化するため平日の今日は休日だったが一也も仕事で友達とも予定が合わず、昼間に大好きなラーメン〈食べてMITEYO〉へ一人で車で向かった。


このラーメン屋は彩の弟、敬太が美味しい店だと彩に教え、それを彩は俺に教え、俺は愛をこのラーメン屋に連れていった。


口伝てに知った店で彩と愛はカウンター席で隣になったらしい。



そこからが問題だった。




No.162 15/02/10 20:08
旅人 ( ♀ )

彩は豚骨醤油、愛は昔ながらの醤油を頼んだらしいが店員が間違って二人に逆を渡した。


何度か来店してる彩はすぐに気付き、店員に言った。


その直後、愛も匂いで気付いたらしく二人のラーメンが逆だったことがわかる。


まったく口をつけてなかったので交換したその時!


二人の間の空気が固まったそうだ。


無理もない。

愛の店でも偶然に会っているし、初詣でも合った。

愛から話しかけたみたいだ。

俺の知り合い…ですよねと。

彩は愛の冷静さと人の良さそうな表情に複雑な心境はほぐれ、すぐにすーっと愛に馴染めたようだ。

それから二人の会話が弾み、彩は俺を悪いヤツだとわかってるから愛を心配し騙された事実を話した。



愛はショックで上を向き深呼吸したという……

ラーメンを食べ終え二人が席を立った時に…愛が倒れたらしい…

驚いた彩や店員は、愛に近寄り大丈夫?と声をかけた。

愛は軽い貧血だから大丈夫だと立ち上がったみたいだが、彩は心配で愛を車で愛の自宅まで送ったとのこと。


愛の自宅についても愛がふらついていたため、彩は愛の部屋にお邪魔し愛をベッドまで運んであげた。



ベッドに入った愛は亮介の愛が欲しかった…と泣き出したという。



なんてこった。

世の中狭すぎる。

更に愛、彩共に傷つけてしまった。



二人が何故一緒なのかを彩は話したあとこう言った。



「愛ちゃんを大事にしてあげて……知ってるんでしょ?愛ちゃんの病気を……」





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