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レス177 HIT数 58349 あ+ あ-

名無し
15/01/05 16:01(更新日時)



俺、好きな人いるんっすよ…



ただな…

これが、ちょっと…





No.1987259 13/08/12 19:56(スレ作成日時)

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No.51 13/10/28 18:15
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「今日も、コンビニ…?」


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか


話題を変えた神坂さん




さっき、コンビニに寄って買ってきた弁当の袋を見る俺。



「あ…、はい…。」


「食欲、まだないですか?」


「あ!いえっ…、あ……」



食欲、ないワケじゃねぇ…けど




昨日の先輩とのやり取りを思い出す。




「………」


「……小森さん?」



っ…

なんか言えっ…俺!



くそっ…




No.52 13/10/29 11:51
名無し0 




「あの…、ちょっと待ってくださいね!」


え?あ…


神坂さんが、自分の部屋へ戻っていく。






「………はぁ…」


ナンだよ、俺…

出てくんのってため息だけかよ…







弁当と一緒に買ってきた缶コーヒーを開けて。


一口飲む




「あったけー」



ふと見上げた夜空は






星がいっぱいで





実家を思い出した…



こうやって、昔、星眺めてたっけ…







母さんと。…………








No.53 13/10/29 12:08
名無し0 




『え?妹……?』



『そう…』



母さんが、知らない赤ん坊抱っこして玄関に立っていた。




『いや…、何言ってんの~』


何かの冗談だろ!


そう思って。




『陽平…』



母さんが俺の名前を呼ぶ。


『は?…』



『あなたの…妹、なの…』

妹……


『…妹、って…』






No.54 13/10/29 14:13
名無し0 




「すみませんー、お待たせして…!」



神坂さんが、急いで外に出てきた。



神坂さんの声に、現実に戻る俺…




「あ…?あぁ、はい…」



「これ、良かったら…!」


神坂さんの手には、ちょっと大きめのタッパーが握られている。



「?…え、これ…」

「あぁ、今日おでん作ったんです!沢山作っちゃったから、良かったらって」



「おでん…」

「あ!…もしかして、嫌い…?」

「ぁ…いや、そんな事ないですっ…」


「良かった~じゃ、これ。」


タッパーを渡す神坂さん


受け取る、俺…



「タッパーは、いつでもいいですから!じゃ。」


そう言って、神坂さんは自分の車の方へ走り出す



「!、あのっ…!」


振り返った神坂さん。





「あぁ!私、今から夜勤なんで…、」


え!

「夜勤…」


「はい、じゃ。行ってきます!」








No.55 13/10/29 14:27
名無し0 




気付けば…



俺は、神坂さんからもらったタッパー握りしめて


神坂さんの車、

見送ってた。




あ…!
「お礼…!」



言ってねぇや…



ありがとうございます…



心の中で呟く。









「弁当…どうすんだ…」


自分の部屋に入って


一人、また呟いていた




キッチンの小さなテーブルに、弁当とタッパーを置く。



ゆっくり、タッパーの蓋を開けた




まだ、暖かかった


「うまそー」





弁当とおでん、両方は無理だけど




とりあえず。



おでん、食おう…!






No.56 13/10/29 16:11
名無し0 




神坂さん…

夜勤って言ってたな



ってさ、昨日も夜勤って言ってたよな?…




神坂さん…


結婚してんのか?



いや、誰かと居るの見たことねぇし

って!まだ、ここに引っ越して2日じゃん?




そんな事、
どうでもいい…か




おでん、


うまかったな…





結局、俺、弁当も食ったけどさ



おでんがうますぎて、つい、な~





どんだけ食ってんだっつう話だよな~





!!

………


俺…
食欲、でてきてる…?





俺にしては珍しく、ソッコーで洗ったタッパーを、ぼんやりと見ながらそんな事を思っていた……





No.57 13/10/30 16:32
名無し0 




『妹って!…』



ガキの俺にだって、そんな事ぐらいわかる


居間に座った母さんと俺


母さんのすぐ横で、ぐっすり眠っている赤ん坊




母さんがちらっと、その赤ん坊を見た



それが、なぜか悔しくて

『母さんのっ…、子じゃ…、母さんが産んだんじゃないだろ!』


思わず、大きな声で叫んでた





今朝。
俺が学校行くまで、普通だった…




『陽平…、』

『なのに…、なんで!俺の…妹…なんだ…』




『……陽平』




『父さん…、浮気でもしたのかっ…!』



母さんの顔、睨みつけた俺



はっとする母さん


『ごめんね…、陽…』


っ…
父さんが、浮気…



ただ、
咄嗟にでた言葉だった
ただ…
思いつきで、放っただけだった…
のに…

認めた母さんが、許せなくて



『なんで…母さんが、謝んだ…!』

責めていた


『!…』

何の罪もない母さんを



『なんでっ…!!』


なんで…だよ……




俺の声に驚いて泣き出した赤ん坊を





母さんは、

黙って抱いていた





No.58 13/11/22 18:10
名無し0 




その日を境に


父さんは帰って来なくなった




理由なんか聞かない


母さんは、何か俺に言いたげだったけど


無視した。




理由なんか聞いて、どうすんだ…


俺が…
聞いたとして



なんか変わるのか



前のように


父さんと母さんと俺の…

3人の生活が戻ってくるのか?




父さんと…母さん…と、…俺……




誰が…


誰のせいで








No.59 13/11/22 18:33
名無し0 




そんなある日、家に帰ってきた俺。



玄関の鍵が空いていた


いつものように、何も言わずに家へ上がる。



台所を通り過ぎようとして…


『あら、陽平くん?』


え…

母さんの声じゃない



台所から出てきたのは、近所のおばさんだった。


『おばさん…?』

なんで…?


『あぁ、お母さんね~仕事で遅くなるって。』

『仕事…』



またか…


『そう。だから、おばさんが夕ご飯作るからね。』

『え?あのっ…』

『あぁ、気にしないで!たいしたもの作ってる訳じゃないしー』


『…いつも、すいません』

『いいから~!それより、陽平くん、來未ちゃんの事、ちょっと見ててくれない?』

來未……

『……』



『さっきね、保育所からおばさんが預かってきたんだけど、居間に寝かせてるのよー。お願いね。』


そう言ったおばさんは、俺に背中を向ける。




來未。


母さんが連れてきた、……



誰が名付けたかなんて、俺は知らない


興味なんてねぇし…






No.60 13/11/22 18:47
名無し0 




鞄を抱えたまま、居間に入る。



來未は、
……そいつは、小さな布団に寝かされてた




『………』


ぐっすり眠っている




『陽平に目元がそっくり…』


母さんは、來未を抱っこしながら、時々呟いていた


まじまじと顔を見る


『似てねぇよ…』



俺に…、
似てるとかっ…


『っ…!言うなっ…!』




持っていた鞄を投げつけた。



バンッ!!







寝ていた來未が泣き出した。





No.61 13/11/23 09:35
名無し0 




物音と泣き声に、

おばさんが慌てたように、居間に入ってくる。



『!…どうしたの!?』

はっとした…


『陽平くん…?』



『っ…』


俺……



『あらら、泣き出しちゃったのねー。』



そう言いながら。

おばさんは、俺の鞄を拾い上げ



そっと俺に渡した。…



『!………』


『ごめんね?陽平くん。』


え?


『受験の大変な時期なのにねー。來未ちゃん、頼んだりして。』


!……

ち!違……


『おばさん、ご飯の支度もう済んだから~。陽平くん、もう部屋に戻って勉強してね?』






『………』


俺…

『俺っ…』



『お母さんにも言われてたのよ~』


?…

母さんに?


『陽平くん、今大事な時期だから、負担掛けたくないって。』



『負担…』


負担って…




No.62 13/11/23 11:01
名無し0 




俺には、親以外親類と呼べる人はいなかった。



両親とも、自分たちの親は死んだって聞かされてて


だから、小さい頃から、このおばさんが何かと俺や家族の面倒をみてくれていた


年は母さんより、少し上で。


母さんも、このおばさんの事、ほんと頼りにしてた



元々、パートの仕事はしてたけど…
來未が来てから、常勤で働くようになって。



更に帰りは遅くなっていた。



だから、おばさんが來未を迎えに行って、母さんが帰ってくるまで、おばさんちで來未を預かってくれていた。


でも、今日は状況が違ってて…




『ごめんね~。おばさんち、おじさんが風邪ひいてて。』


『風邪…』

『そうなの。だから今日は、うちに來未ちゃん連れて行かない方がいいと思ってね。』


『…ぁ、…』



それって…


『お母さんね、來未ちゃんが居るから…って、…
陽平くんに、負担掛けられないって。
なのに、結局おばさんが陽平くんに負担かけちゃった…。』





來未が居るから…


來未が…





いなけりゃ








No.63 13/11/23 11:20
名無し0 




おばさんの…


『?』


『おばさんのせいじゃないですよ…』



『え?あ…、』


おばさんは座ったまま、泣きじゃくる來未をあやしている。




『悪いのは…!』

來未…


『!!陽平くんっ…!?』

來未さえ、いなけりゃ!

『!!…陽平くん!』




いつのまにか。


強く握りしめていた拳に気付く俺




『陽平くん!』


おばさんの顔を見た。




『!?…おばさん?』


目にいっぱいためていた涙に気付く…





『なんで…?』


おばさんが…泣くんだよ…?




『ごめん…、ごめん。…陽平くん……』






だから、なんでっ…


『なんで…おばさんが…』







No.64 13/11/23 11:35
名無し0 




『…ただいま。』



玄関から、母さんの声がした。



『あ…!』


おばさんが、また俺を見る。



呼吸が速くなる。



『ただいま…。…陽平?』


居間に入ってきた母さんが、俺を見つけて名前を呼ぶ。




母さん…


『え…、どうしたの?…』



突っ立ってる俺と、


來未を抱っこするおばさんを交互に見つめた後、



母さんは、

不安げに俺を見た。




俺?

何かあった事を敏感に感じ取った母さんは。





俺が、原因だって…


そう思ってんのか…!?



來未じゃなく…



俺なのか?






『そんな顔!すんなよっ!!!』






No.65 13/11/24 11:43
名無し0 




それから俺は、


家を遠ざけるようになる。



高校は、ほんとは行くつもりなくて


ただ、母さんの言葉が引っかかって



『お願いっ…。高校は、高校だけは、行って…!
……約束し…』


『約束?…、どうせ、父さんから何か言われたんだろ?』


『違っ…。とにかく…、お願い…高校は、ちゃんと行って…!』



何が違うんだっ…

出て行った父さん…

が、 ………


『今さら…!!』


父親面したって…



『母さんが、…母さんと一緒に居るのが嫌ならっ…!』



『は?』


『ぁ…、違うの!』

そういう事?


母さんも、俺の事、見放すんだ…



『分かったよ…』


父さんは、浮気相手選んで

母さんは、來未を選んで…




俺は


俺には、……






No.66 13/11/24 12:02
名無し0 




『母さんにとっては、陽平も來未も、大事なの…
比べる事なんてできない…!』

『………』


両方とも大事?

赤の他人と俺を…一緒にするのか?



『陽平…?』

『………』


『…それは、これからも変わらないから…』



変わらないか…

俺より、來未が…大事だって事だよな?















しばらくして


俺は、進路を決めた。





No.67 13/11/24 13:21
名無し0 




決めた先は、県外の高専。



田舎だったから、通っていくには無理で、



ちょうど学校の寮があったから、そこに入る事にした。



ま…寮があったから、そこに決めたっていう方が合ってんだけど…



電気の専門に興味があったし、普通高と違って、知識や技術も学べて、資格も取れるから



その時の俺には、ちょうどいいって思った。



進路を決めた時



母さんは、反対しなかった。



少し、はっとした顔を見せたけど…。








寮に入る日。


駅まで送っていくって言った母さんの言葉を遮って



『バスあるから、一人で行く。…』



『……じゃ、バス停まで』





荷物なんて、殆ど送ってたから、自分のバッグぐらいで…



だから俺は。…



母さんに言った時間より早く、家をでた。





No.68 13/11/24 13:57
名無し0 




早く、身軽になりたかった。


俺の中で、
母さんの事が…
重荷になってたのかもしれない。



靴を履いて。

不自然なくらい静か過ぎる家をもう一度見渡した。





『母さん……』



小さく、呼んだ。



…返事が


聞こえたような気がした。


んなわけ、ないか…





俺は静かに玄関を閉める。


そして、見慣れた家の鍵を、玄関脇にあるポストに入れた。


カツンと音がした…


もう二度と、この家に、母さんの所に、戻ってくるつもりはなかった。



俺は、バス停に向かって歩き出す―――







『陽平ーーー!!!』


家の中から、母さんの声がした。

俺の名前を呼ぶ母さんの声が―……

『!!』




俺は、走った。


無我夢中で。





意地しかなかった。


15の俺には、それぐらいでしか自分を見せる事ができなかったんだと思う。








No.69 13/12/01 11:18
名無し0 




翌朝。

俺は、タッパーを持って神坂さんの部屋の前に立っていた。



どうすっかなー

まだ朝はえーし


昨日、夜勤だって言ってたしな。


!、車…



駐車場を見ると、神坂さんの車はなくて


やっぱ、まだ帰ってきてねぇんだ…




俺は迷った挙げ句
袋に入れたタッパーを扉のノブに掛ける。







ありがとうございます!
…うまかったッス…




久々に思い出した昔のコトに


ちょっとざわついた夜





……母さん、

か…



また空を見上げる。



帰りは雨かな





No.70 13/12/01 15:15
名無し0 




神坂さんの部屋から、笑い声が聞こえてくる。



その日仕事から帰ってきた俺は、ふと足を止めて

神坂さんの部屋を見つめる。



誰か来てんのかな?


扉を見ると、今朝俺が掛けた袋が見当たらない。



気づいてくれたんだ…


どうすっか…


お礼、ちゃんとしたいけど


………


誰か来てるんじゃ



「また、今度にするか~…」




階段を2~3段上がり始めた時だった。




「小森さん…!!」



階段の手摺りに手を掛けて、そのまま振り返った。



「あ…、こんばんは…!」



神坂さんだった。



「あの!昨日…」

お礼を言おうとして。



「小森さん!ちょっと!」


神坂さんが、俺の腕を掴んで引っ張る。


「えっ!?」


No.71 13/12/01 15:32
名無し0 




半ば引っ張られるようにして



俺は、神坂さんの部屋の前まで連れていかれる。



「あ…、あの!?」



「あ!ごめんなさい!いきなり…!」



そう言った後、掴んでいた俺の腕をぱっと離す。



「え?あの…、神坂さん…?」




俺は、何がなんだか分からなくて、神坂さんの顔をじっと見る。




「あ…、えっとー…、ごめんなさいっ…」




神坂さんは、俺に謝るけど


「いえ…あ、俺の方が謝んないと…」

「え…?」

「あ、いや…、謝る…というか、…お礼を…、」

「お礼…?」


「はい!昨日のおでんの…!」






ガチャ…







神坂さんの部屋の扉がゆっくりと開いた。








No.72 13/12/01 15:53
名無し0 




そこには、見知らぬ女の子が立っていて





え…?

「誰…」


思わず、口にしていた。



「あ、え…?」

神坂さんが、俺の反応に驚いている。



いや…、俺の方が、びっくりなんすけど…?



「小森さん…?」

そんな俺に、声を掛けてきた神坂さん。





女の子に向けていた視線を、神坂さんに移す。



神坂さんの表情は明らかに、戸惑っていて

俺は、


どうしていいのか分からず…




また、女の子に視線を戻した。




まさか…

神坂さんの?





子ども…!?



目を見開いて、女の子を見る。





しばらくの間、俺と女の子はお互いを見つめるしかなくて…












「……お兄ちゃん?」






最初に答えを出したのは、俺ではなく
ましてや、神坂さんでもなかった。


………







No.73 13/12/01 16:20
名無し0 




「お兄ちゃん?……」


俺は、女の子が口にした台詞を繰り返す。





「…小森、さんっ…」


神坂さんの声にはっとして、

俺は、まぁ…
俺なりに、頭の中を整理しようとした。



………

お兄ちゃん…って
言ったよな?
今俺の事…
お兄ちゃん…って…





「來未…ちゃん…」

神坂さんが、ぼそっと呟くと




俺の中で何かが、弾けたような気がした…




來未…


來…未……



來未っ…!?






「來未…?」


…………




なのか…






No.74 13/12/15 17:44
名無し0 




「なんで…」


言葉が上手くでてこない。


「小森さ…」
「お兄ちゃんっ…」



神坂さんと來未の声が同時に聞こえた



…!


……

なんで…


「ここにいんだよ…」

「小森さん?…」



なんでっ…


「お前が…!っ…、こんなとこに!」




やっとでてきた言葉は、神坂さんだけじゃなく。
來未自身も、言葉を失うぐらい凍りついたもので…




ただ
俺は…

思った事を口にしただけで…


そう、深い意味なんか…

深い意味…なんて




ない

ないんだ…



意味…なんて……




俺の唇が震えている事に、俺自身も気付けないぐらい


俺は、自分を見失っていた。





No.75 13/12/15 18:13
名無し0 




「待って!」


神坂さんが、俺と來未の間に入る。



「っ…!?」



俺はいつの間にか、拳を握りしめたまま、來未に近寄っていて。




神坂さんの声にはっとする



「え?」




俺は、自分の手を見る。




神坂さんの手の温もりに

「いや、…」


俺…

「俺、…違っ…」



違いますって言いたくて、顔をまた上げた。



そこには。


驚いた顔の來未と

涙をためた神坂さんの顔があって。




俺の思考回路は、完全に止まってしまった。





No.76 13/12/23 17:40
名無し0 




「兄妹なんでしょう…?」

神坂さんの絞り出すような声


「え?」


兄妹…



「兄妹…なんかじゃっ…」


「ごめんなさい…。お兄ちゃん…!」



來未は、こぼれ落ちる涙を拭こうともしないで、俺をじっと見つめていた。



そして、一度神坂さんの部屋の中に戻ると、來未 は持ってきたであろう自分の荷物を手にして



俺と神坂さんの横を走り抜けた。



俺は体が硬直したまま、動けない。




その時、

目の前にいた神坂さんが走り出した。

「待って!來未ちゃん…!!」



動かない体を、どうする事もできない俺は、そんな状況をただ黙って見ているしかなかった。




來未…


なんで、来たんだ…


母さん…

!!…
母さんは、この事…知ってんのか!?

知ってて?

………

なにが…

どうなってんだよっ…


………



俺は突っ立ったまま、冬の闇に消えた來未と神坂さんの姿を無意識に辿っていた。






No.77 14/01/06 10:50
名無し0 




ぽつりと何かが顔に当たった気がして、俺は顔を上げる。



「雨……」

やっぱ、降ってきたんだ…

朝見上げた空を思い出す。



「お前、何やってんだ。」


え…

俺ははっとして、声のした方に目をやった。



「………先…輩?」


そこには、野中先輩が立っていて



「あの…」

「雨、降ってんぞ。」


あ…

「家、入んないのか?」

「あ…、いえ…」


何も返せなくて、黙り込むしかなかった俺。


「せっかく、インフルエンザ治ったのに、また病気になって、仕事休む気じゃないだろうな?」




「いえっ…。違い…」




「小森さん……」





その時、

消え入るような小さな声が聞こえてきた。







No.78 14/01/06 11:45
名無し0 




「神坂さん……」


俺の発した言葉に、先輩が反応して、神坂さんの方を見る。


「あ、…」

「あ…、えっと……」


お互い、初対面だ。


「あぁ。…私、野中と言います。小森は会社の後輩で。」



「ぁ…、はじめまして…。私…、神坂と言います…。小森さんとは、…」

「あぁ。小森から聞いてます。」


「え…」

「看護師さんで…、ここに引っ越して来た、あ……?…」



二人のやり取りをぼんやりとした頭で聞いていた俺は、先輩がある事に気付いた事に反応できなかった。




「娘さん、ですか…?」
娘…!

「先輩っ…!!!」


俺が出した大きな声に



神坂さんの後ろに隠れるように立っていた來未がびくりとした。

「小森、大きな声だすな。」



先輩の、俺を制するような静かな言葉に、來未が泣きだした。



No.79 14/01/06 13:31
名無し0 




異様な雰囲気に気付いた先輩は


「ここじゃ寒いし、雨も降ってきたんで、中に入りませんか?」



こんな言葉を神坂さんに掛ける。


「あ、はいっ…、…そうですね…」


そう返事をした神坂さんは、來未の手をしっかりと握り直して



「來未ちゃん、…」

來未と一緒に、神坂さんの部屋へ入ろうとした。


「あ、じゃあ、私はこれで。…」

「あの!」「先輩っ…!」


神坂さんと俺がほぼ同時に声を上げた。







No.80 14/01/06 13:43
名無し0 




「何があったんだ。」


先輩の少し威圧するような声が、俺の心臓を早める。



「…わかんないっすょ…」


「わかんないって。…」



結局。

俺たち4人は、今、俺の部屋に居るワケで。



「んな事言われても…」

俺の方が知りてぇ…



「すみません!野中さん…」
神坂さんが、先輩に謝っている。

「あ、いえ。俺はこいつに聞いてるんで。」

でも、神坂さんが謝る理由なんてないワケで…
だけど、今の俺には、ホント…ワケ分かんなくて……

「だから先輩…!俺にも…」



「小森さんっ…」

「あ…」

No.81 14/01/06 14:05
名無し0 




「さっき、來未ちゃんの事…、妹じゃないみたいに…、言ってましたよね…?」



「っ…!」


「は?妹…?」

先輩が、俺の顔をじっと見る。


胸がいてぇ…



「あの…、あなたの、神坂さんの娘さんじゃないんですか…?」


今度は、神坂さんに質問する先輩。


「違います。」

きっぱりと答える神坂さん。



「お前…妹なんていたのか?」



!!
「先輩…」


なんて言えばいいんだよ…



「野中さん…」

「?…」

先輩の疑問もだけど


「私も…、正直、迷ってて…、分からない事だらけで…。」


「神坂さん?」


俺の疑問もどんどん大きくなっていく。



「來未ちゃん?話してもいい?」



神坂さんの横に、ぴったりと着いて座っていた來未が小さく頷いた。






No.82 14/01/06 16:30
名無し0 




神坂さんが、静かに話し始めた。

「小森さんが帰って来る…ちょっと前に、私も帰ってきたんですけど。
そしたら、階段の下の方に、來未ちゃんがいて…
初めて見る子だったんですけど、なんだか気になって…声を掛けたんです。」


ちらっと來未を見ると、肩を小さくして俯いた。


「話を聞いたら、小森さんの妹だって言うから…、しかも一人で来たって…」



一人…


先輩は黙って聞いている。

一人ってっ…、
「お前…、まさかっ…母さんに黙って!?」


「らしいです…」


代わりに、神坂さんが答える。


「あ、だから、私が小森さんの実家の方にお電話させていただきました…。」



「えっ?神坂さんが…!?」



「はい…。余計な事だとは思ったんですけど…、やっぱり來未ちゃんやお母様さまの事、考えると…」



!!

母さんの事…


「でも…、お家にはどなたもいらっしゃらなくて…、」


「!…あ、仕事、…」


「はい…、來未ちゃんに確認したら、多分仕事で…って言ってました…。」




母さん

あなたは相変わらず、仕事、仕事…

なんだな…





No.83 14/01/06 17:18
名無し0 




「それで…、」

「…はい」


「小森さんが帰って来るまで…、勝手だと思ったんです…が…」


あ…

「預かってくれてた?…って事…」

「ごめんなさい!勝手に…」

「…」


「だから…!來未ちゃんを叱るのはっ…」


「叱るって…、俺!」


びくっとした來未に気付く。


「さっきも言っただろ。大きな声は出すな。」



「!!…先輩…、……はい…」



俺は、今日何度、こいつをびびらせてんだろ…



びびらせたくて

泣かせたくて



話してんじゃねぇ…


そんなつもりは…




…………




No.84 14/01/06 17:59
名無し0 




ないって

言えるのか…?

俺の本心…

は、


…わかんねぇっ…よ


自分でも、わかんねぇ…




「小森さん…」


神坂さんが俺を呼ぶ。


「……はい、」

「ごめんなさい…」


「…?神坂さん?なんで、謝るんすか…?」


「苦しんでるんですよね…」


「っ…、」


「詳しい事は、…私も分かりません…、でも、小森さんをつらい目に合わせてる。その事だけは…、私にも分かります…」



來未がまた、泣き出した。



來未…


「野中さんも、すみません…」


神坂さんは、來未の背中をそっとさすりながら、先輩にも謝ってきた。





No.85 14/02/28 14:48
名無し0 




「神坂さん。」

一瞬黙った先輩が、神坂さんに目をやりながら、声を掛けた。


「はい…。」


「コイツ、今パニクってるみたいなんで、ちょっと二人で話したいんですけど。」


先輩…?


「あ…、そう…です…よね…。
…分かりました。」





いきなりの先輩の提案に戸惑いながらも

とりあえず、來未を神坂さんに預けて、俺は先輩と一緒に自分の部屋へ入っていった。






自分の部屋なのに、緊張から抜け出せないように、黙ってしまう俺



「……」

先輩も何もしゃべらない



どうする…

いったい何から話せばいいんだ…




壁に掛けた時計の音と、雨音だけがやけに耳に付く。




No.86 14/02/28 15:07
名無し0 




「話せないか?」


静寂を破るように、先輩の声が静かに響く。



!?…
「先輩…」

「話したくないなら、無理に話さなくていい。」

先輩…

「違うんです…」

話せないんじゃなくて…


「何から話していいのかっ…、」


「………」






下には、來未がいる。…

來未…

何年ぶりなんだ?…



10年?…か?…


あいつ…







大きくなってたよな…

分かるワケねぇよ…



高校入ってから、一度も会ってないんだから



分かるワケ…






No.87 14/02/28 15:38
名無し0 




「俺…」


俺って…

「薄情なヤツですよね…」


自分の妹…

「を、…妹じゃ、ないとか…って」




「妹じゃないのか?」


先輩の言葉に、はっとして顔を上げた。


先輩は、ただ俺を見ている。




「…妹、」

來未は俺の…
「妹、です…」


「そうか。」

「はい…」

「ただ、訳あり。なんだろ。」




俺はまた、俯いていた顔を上げた。




「お前が、実家と上手くいってない事ぐらいは知ってるからな。」




「先輩…、」


遠くに住んでるワケでもないのに、盆も正月も…帰らない俺

この前のインフルエンザの時の事もある




俺がずっと、家を、來未を、…母さんを




避けてきた理由。








No.88 14/02/28 18:25
名無し0 




先輩は黙って聞いてくれた。


否定するワケでもなく、
肯定するワケでもない



ただ黙って俺の話を聞いてくれる




薄々、俺の事情に気付いてても、今まで何も聞いてくる事はなかった先輩


いつも、可愛がってもらってて、すげー世話になってる



先輩には、ほんと感謝してた


そんな先輩に今までの事を打ち明けていく
俺の中で、少しずつ気持ちが軽くなっていくのが分かった



全部話し終えた時

先輩が、初めて口を開いた。





No.89 14/03/02 10:49
名無し0 




「で、どうする?」


「え…?」

どうする…?


「來未ちゃんだよ。」


「來未…?」

「お前、何も思わないのか?」


「…?」

先輩の言いたい事がわかんねぇ…



「…妹が、兄貴に会いに来たんだろ?理由があるんじゃないのか?」


……!?



理由…?


「理由…って」


なんだ?…


來未が、俺に会いに来た理由




母さんに…
黙ってまで…?


…………






No.90 14/03/02 16:27
名無し0 




おばさんっ…


おばさんは、何か知ってんじゃ…?



俺が出て行った後も…、きっと來未の事、世話してた…



…………

……


っ…!
おばさんが知ってたら、今頃俺に連絡あってるはずだよな…



っつう事は―――……




「先輩…ちょっと俺…來未のとこ行ってきますっ…」




そう先輩に言い残して、部屋を出て行った。







神坂さんの部屋の前に来た俺。




來未と話そうと思って

ここまで来たのに


ドアを開く事にまだ、戸惑いを感じていた。




來未…


俺は―――……




No.91 14/03/02 16:47
名無し0 




ガチャ…


神坂さんの部屋の扉が開いた。



目を見開いて、扉の先を見ると神坂さんが立っていて


「足音がしたから…。」

「ぁ…」


「來未ちゃんに、でしょ?…」


「………はい。」





俺の部屋に連れて行こうとしたら、來未が嫌がって

結局、神坂さんの部屋に上げてもらう。



当然か…

さっきまで、俺、來未の事泣かせてばっかだったからな…。





だから、神坂さんが部屋を出て行こうとすると…

また來未が泣き出してしまい……




結局。

神坂さんと來未、そして俺の3人でテーブルを囲んでいるワケで…




No.92 14/03/02 18:28
名無し0 




そんな状況で

誰もが言葉を発しない事に、息苦しさを感じ始める。



どうすんだ…


ったく…しっかりしろよ、俺…



「來…」「お兄ちゃん。」


來未が、一瞬俺を先に呼んだ。……?



來未を見る。


「明日、…帰ります。」

は――…?

「來未ちゃん…」
神坂さんが苦しげに声を絞り出す。



いや…

帰る…って…


「どういう…」
「会いたくて、…」
「え…?」

「……会えたから。」
「会えた?…」
「お兄ちゃんに…、会いたくて…でも、会えたから…」
「俺…?」

俺に会いたかった?


來未が
俺に……


No.93 14/03/08 15:20
名無し0 




俺は…
一度だって会いたいと思った事はなかった


こいつだって、俺の事、覚えてるワケないのに…
会いたかった。って


…………


來未に目をやる

唇をぐっと噛み締めた來未。


……?


俺に会えた事で、目的を果たせたのか?


……違う?


「來未、お前…、何か話したい事あるんだろ?」


俺、どうしてこんな事聞いてんだ?


確かになんかあったんじゃないかって。思うけど…

スルーする事だって、できるのに…



なんで?…


黙り込んだままの來未。

「言いにくい…事か?」



俺の問い掛けに、ぴくりと肩を竦めた。




No.94 14/03/14 18:34
名無し0 




「お兄ちゃん…」

「ぁ…、あぁ…」

「お兄ちゃんと…」

?…俺と?


「いっしょに住みたいっ…」


は…?俺と…?



「來未…?」
「お母さん!…」
「!」
母さん…

「母さんが…?」



「來未は…お母さんの子どもじゃなかったの…」









―――…


…………………




……






No.95 14/03/14 18:51
名無し0 




俺が初めて、來未の存在を知ったのは中3の時



あの時の衝撃は、今でも俺を苦しめてる。


ただ、今の來未は…

確か…、小6

その頃の俺よりも、下だ

そんな來未が知ってしまった《事実》



こいつは、母さんの子じゃない…






「お母さん…ずっと、來未を騙してたのっ…!」



「………!」

騙してた…






世の中には、マジでお節介なヤツがいる


ほんとの母親ってヤツが現れて、來未に話したらしい



ほんとの母親か―――



母さん

じゃ、母さんは…


なんなんだ


こいつを…

來未を、今まで育ててきた母さんって






No.96 14/03/17 18:28
名無し0 




「母さんは…」
「…!?」

「その事、…知ってるのか?」


知ってたら…
なんて思うんだろ…


「たぶん、知らない…」
知らない…。

「でも…、もうすぐ…」
「もうすぐ?」
「來未…、手紙、書いてきたの…」
手紙?

「!…まさか、その手紙って!今日、置いてきたのか…!?」


頷く來未。

時計を見た

20時になろうとしていた。

そろそろ、帰ってくんじゃ?…


その時だった
俺の携帯の着信が鳴り響いた。


その場にいる全員が、ぴくりと反応する。





母さん……




No.97 14/03/21 16:38
名無し0 




「…もしもし」


数回の着信音の後、俺は電話にでた。



「陽平くん!?」


この声…
「おばさん…?」



俺たちをいつも世話してくれていた近所のおばさんだった。



話を聞くと、母さんよりも先に來未の置き手紙を見つけたらしく


驚いて、俺の携帯にかけてきたらしい。



とりあえず、心配かけたおばさんに謝って、今の状況を簡単に説明した。状況をのみこんだおばさんは、安心した後、…


「陽平くん…、お母さんには?」

やっぱり、そうくるよな…
「いえ、まだ…」


連絡しなきゃいけないんだろうけど…


「私が電話してもいいんだけど…」



電話…か


「あ…いえ、…俺がします」



「陽平くん…」


おばさんにも、來未の事で迷惑かけてる…



「すみません、來未…の事で、迷惑かけて」




俺は、とにかく謝るしかなくて。




No.98 14/03/21 16:54
名無し0 




「陽平くん…」


「はい…」

「一度、帰って来ない?」

「え?」

俺が?…

「あ、來未の事ですか…?」


けどな…

來未の事で、俺が帰ってもどんな意味があんだ?…

「違う…の、來未ちゃんの事だけじゃなくて…」
?…

「おばさん…?」



どういう…?


―――

………………






「あ!早希さんっ!!!」



早希…



母さんの名前だ…









No.99 14/03/28 19:18
名無し0 




「ょ…、陽平…」


久しぶりに聞いた母さんの声は

懐かしさよりも


切なく聞こえた





「ぁ…あぁ…」
ぎこちない返事しかできねぇ…

「………ごめんね。」
謝る母さん…


「…來未、ちゃんと側に居るから、…」

きっと母さんは、いきなり俺のとこに来た來未の事が心配で

「……陽平、…」

そんな、泣きそうな声…

「大丈夫だから、」

「迎えに行く…」

え…

「來未はよくても、陽平に…迷惑掛けるから、…」

母さん…

「もう遅いし…、とりあえず今日はこっちに泊めるから…、明日俺、休みだし」



「………ごめん、陽平、…」
また、謝んだ…

「いいから、…」



電話での距離は、俺と母さんの距離と同じように感じられて


また、連絡する…

と、だけ最後に話して電話を切った。




No.100 14/04/01 12:17
名無し0 




今、來未は神坂さんちで寝てる



母さんと話したのって、何年振りだ…?





今ひとり自分の部屋で、今日の出来事を思いだしていた


先輩は、結局俺が部屋に戻ってくるまで待っててくれて


でも、その後何にも聞かず


「じゃあな。」


って、帰っていった。


きっと、俺
めちゃめちゃ疲れた顔してたんだろな…




そんな俺に、先輩…

気ぃ使ってくれたんだ





來未…


母さん……。




もう既に日付の変わった時計を見ながら


俺は、明日からの事を想いあぐねていた。







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