俺のもの
俺、好きな人いるんっすよ…
ただな…
これが、ちょっと…
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「すみませんー、お待たせして…!」
神坂さんが、急いで外に出てきた。
神坂さんの声に、現実に戻る俺…
「あ…?あぁ、はい…」
「これ、良かったら…!」
神坂さんの手には、ちょっと大きめのタッパーが握られている。
「?…え、これ…」
「あぁ、今日おでん作ったんです!沢山作っちゃったから、良かったらって」
「おでん…」
「あ!…もしかして、嫌い…?」
「ぁ…いや、そんな事ないですっ…」
「良かった~じゃ、これ。」
タッパーを渡す神坂さん
受け取る、俺…
「タッパーは、いつでもいいですから!じゃ。」
そう言って、神坂さんは自分の車の方へ走り出す
「!、あのっ…!」
振り返った神坂さん。
「あぁ!私、今から夜勤なんで…、」
え!
「夜勤…」
「はい、じゃ。行ってきます!」
『妹って!…』
ガキの俺にだって、そんな事ぐらいわかる
居間に座った母さんと俺
母さんのすぐ横で、ぐっすり眠っている赤ん坊
母さんがちらっと、その赤ん坊を見た
それが、なぜか悔しくて
『母さんのっ…、子じゃ…、母さんが産んだんじゃないだろ!』
思わず、大きな声で叫んでた
今朝。
俺が学校行くまで、普通だった…
『陽平…、』
『なのに…、なんで!俺の…妹…なんだ…』
『……陽平』
『父さん…、浮気でもしたのかっ…!』
母さんの顔、睨みつけた俺
はっとする母さん
『ごめんね…、陽…』
っ…
父さんが、浮気…
ただ、
咄嗟にでた言葉だった
ただ…
思いつきで、放っただけだった…
のに…
認めた母さんが、許せなくて
『なんで…母さんが、謝んだ…!』
責めていた
『!…』
何の罪もない母さんを
『なんでっ…!!』
なんで…だよ……
俺の声に驚いて泣き出した赤ん坊を
母さんは、
黙って抱いていた
そんなある日、家に帰ってきた俺。
玄関の鍵が空いていた
いつものように、何も言わずに家へ上がる。
台所を通り過ぎようとして…
『あら、陽平くん?』
え…
母さんの声じゃない
台所から出てきたのは、近所のおばさんだった。
『おばさん…?』
なんで…?
『あぁ、お母さんね~仕事で遅くなるって。』
『仕事…』
またか…
『そう。だから、おばさんが夕ご飯作るからね。』
『え?あのっ…』
『あぁ、気にしないで!たいしたもの作ってる訳じゃないしー』
『…いつも、すいません』
『いいから~!それより、陽平くん、來未ちゃんの事、ちょっと見ててくれない?』
來未……
『……』
『さっきね、保育所からおばさんが預かってきたんだけど、居間に寝かせてるのよー。お願いね。』
そう言ったおばさんは、俺に背中を向ける。
來未。
母さんが連れてきた、……
誰が名付けたかなんて、俺は知らない
興味なんてねぇし…
物音と泣き声に、
おばさんが慌てたように、居間に入ってくる。
『!…どうしたの!?』
はっとした…
『陽平くん…?』
『っ…』
俺……
『あらら、泣き出しちゃったのねー。』
そう言いながら。
おばさんは、俺の鞄を拾い上げ
そっと俺に渡した。…
『!………』
『ごめんね?陽平くん。』
え?
『受験の大変な時期なのにねー。來未ちゃん、頼んだりして。』
!……
ち!違……
『おばさん、ご飯の支度もう済んだから~。陽平くん、もう部屋に戻って勉強してね?』
『………』
俺…
『俺っ…』
『お母さんにも言われてたのよ~』
?…
母さんに?
『陽平くん、今大事な時期だから、負担掛けたくないって。』
『負担…』
負担って…
俺には、親以外親類と呼べる人はいなかった。
両親とも、自分たちの親は死んだって聞かされてて
だから、小さい頃から、このおばさんが何かと俺や家族の面倒をみてくれていた
年は母さんより、少し上で。
母さんも、このおばさんの事、ほんと頼りにしてた
元々、パートの仕事はしてたけど…
來未が来てから、常勤で働くようになって。
更に帰りは遅くなっていた。
だから、おばさんが來未を迎えに行って、母さんが帰ってくるまで、おばさんちで來未を預かってくれていた。
でも、今日は状況が違ってて…
『ごめんね~。おばさんち、おじさんが風邪ひいてて。』
『風邪…』
『そうなの。だから今日は、うちに來未ちゃん連れて行かない方がいいと思ってね。』
『…ぁ、…』
それって…
『お母さんね、來未ちゃんが居るから…って、…
陽平くんに、負担掛けられないって。
なのに、結局おばさんが陽平くんに負担かけちゃった…。』
來未が居るから…
來未が…
いなけりゃ
それから俺は、
家を遠ざけるようになる。
高校は、ほんとは行くつもりなくて
ただ、母さんの言葉が引っかかって
『お願いっ…。高校は、高校だけは、行って…!
……約束し…』
『約束?…、どうせ、父さんから何か言われたんだろ?』
『違っ…。とにかく…、お願い…高校は、ちゃんと行って…!』
何が違うんだっ…
出て行った父さん…
が、 ………
『今さら…!!』
父親面したって…
『母さんが、…母さんと一緒に居るのが嫌ならっ…!』
『は?』
『ぁ…、違うの!』
そういう事?
母さんも、俺の事、見放すんだ…
『分かったよ…』
父さんは、浮気相手選んで
母さんは、來未を選んで…
俺は
俺には、……
決めた先は、県外の高専。
田舎だったから、通っていくには無理で、
ちょうど学校の寮があったから、そこに入る事にした。
ま…寮があったから、そこに決めたっていう方が合ってんだけど…
電気の専門に興味があったし、普通高と違って、知識や技術も学べて、資格も取れるから
その時の俺には、ちょうどいいって思った。
進路を決めた時
母さんは、反対しなかった。
少し、はっとした顔を見せたけど…。
寮に入る日。
駅まで送っていくって言った母さんの言葉を遮って
『バスあるから、一人で行く。…』
『……じゃ、バス停まで』
荷物なんて、殆ど送ってたから、自分のバッグぐらいで…
だから俺は。…
母さんに言った時間より早く、家をでた。
早く、身軽になりたかった。
俺の中で、
母さんの事が…
重荷になってたのかもしれない。
靴を履いて。
不自然なくらい静か過ぎる家をもう一度見渡した。
『母さん……』
小さく、呼んだ。
…返事が
聞こえたような気がした。
んなわけ、ないか…
俺は静かに玄関を閉める。
そして、見慣れた家の鍵を、玄関脇にあるポストに入れた。
カツンと音がした…
もう二度と、この家に、母さんの所に、戻ってくるつもりはなかった。
俺は、バス停に向かって歩き出す―――
『陽平ーーー!!!』
家の中から、母さんの声がした。
俺の名前を呼ぶ母さんの声が―……
『!!』
俺は、走った。
無我夢中で。
意地しかなかった。
15の俺には、それぐらいでしか自分を見せる事ができなかったんだと思う。
そこには、見知らぬ女の子が立っていて
え…?
「誰…」
思わず、口にしていた。
「あ、え…?」
神坂さんが、俺の反応に驚いている。
いや…、俺の方が、びっくりなんすけど…?
「小森さん…?」
そんな俺に、声を掛けてきた神坂さん。
女の子に向けていた視線を、神坂さんに移す。
神坂さんの表情は明らかに、戸惑っていて
俺は、
どうしていいのか分からず…
また、女の子に視線を戻した。
まさか…
神坂さんの?
子ども…!?
目を見開いて、女の子を見る。
しばらくの間、俺と女の子はお互いを見つめるしかなくて…
「……お兄ちゃん?」
最初に答えを出したのは、俺ではなく
ましてや、神坂さんでもなかった。
………
「兄妹なんでしょう…?」
神坂さんの絞り出すような声
「え?」
兄妹…
「兄妹…なんかじゃっ…」
「ごめんなさい…。お兄ちゃん…!」
來未は、こぼれ落ちる涙を拭こうともしないで、俺をじっと見つめていた。
そして、一度神坂さんの部屋の中に戻ると、來未 は持ってきたであろう自分の荷物を手にして
俺と神坂さんの横を走り抜けた。
俺は体が硬直したまま、動けない。
その時、
目の前にいた神坂さんが走り出した。
「待って!來未ちゃん…!!」
動かない体を、どうする事もできない俺は、そんな状況をただ黙って見ているしかなかった。
來未…
なんで、来たんだ…
母さん…
!!…
母さんは、この事…知ってんのか!?
知ってて?
………
なにが…
どうなってんだよっ…
………
俺は突っ立ったまま、冬の闇に消えた來未と神坂さんの姿を無意識に辿っていた。
「神坂さん……」
俺の発した言葉に、先輩が反応して、神坂さんの方を見る。
「あ、…」
「あ…、えっと……」
お互い、初対面だ。
「あぁ。…私、野中と言います。小森は会社の後輩で。」
「ぁ…、はじめまして…。私…、神坂と言います…。小森さんとは、…」
「あぁ。小森から聞いてます。」
「え…」
「看護師さんで…、ここに引っ越して来た、あ……?…」
二人のやり取りをぼんやりとした頭で聞いていた俺は、先輩がある事に気付いた事に反応できなかった。
「娘さん、ですか…?」
娘…!
「先輩っ…!!!」
俺が出した大きな声に
神坂さんの後ろに隠れるように立っていた來未がびくりとした。
「小森、大きな声だすな。」
先輩の、俺を制するような静かな言葉に、來未が泣きだした。
「さっき、來未ちゃんの事…、妹じゃないみたいに…、言ってましたよね…?」
「っ…!」
「は?妹…?」
先輩が、俺の顔をじっと見る。
胸がいてぇ…
「あの…、あなたの、神坂さんの娘さんじゃないんですか…?」
今度は、神坂さんに質問する先輩。
「違います。」
きっぱりと答える神坂さん。
「お前…妹なんていたのか?」
!!
「先輩…」
なんて言えばいいんだよ…
「野中さん…」
「?…」
先輩の疑問もだけど
「私も…、正直、迷ってて…、分からない事だらけで…。」
「神坂さん?」
俺の疑問もどんどん大きくなっていく。
「來未ちゃん?話してもいい?」
神坂さんの横に、ぴったりと着いて座っていた來未が小さく頷いた。
神坂さんが、静かに話し始めた。
「小森さんが帰って来る…ちょっと前に、私も帰ってきたんですけど。
そしたら、階段の下の方に、來未ちゃんがいて…
初めて見る子だったんですけど、なんだか気になって…声を掛けたんです。」
ちらっと來未を見ると、肩を小さくして俯いた。
「話を聞いたら、小森さんの妹だって言うから…、しかも一人で来たって…」
一人…
先輩は黙って聞いている。
一人ってっ…、
「お前…、まさかっ…母さんに黙って!?」
「らしいです…」
代わりに、神坂さんが答える。
「あ、だから、私が小森さんの実家の方にお電話させていただきました…。」
「えっ?神坂さんが…!?」
「はい…。余計な事だとは思ったんですけど…、やっぱり來未ちゃんやお母様さまの事、考えると…」
!!
母さんの事…
「でも…、お家にはどなたもいらっしゃらなくて…、」
「!…あ、仕事、…」
「はい…、來未ちゃんに確認したら、多分仕事で…って言ってました…。」
母さん
あなたは相変わらず、仕事、仕事…
なんだな…
「…もしもし」
数回の着信音の後、俺は電話にでた。
「陽平くん!?」
この声…
「おばさん…?」
俺たちをいつも世話してくれていた近所のおばさんだった。
話を聞くと、母さんよりも先に來未の置き手紙を見つけたらしく
驚いて、俺の携帯にかけてきたらしい。
とりあえず、心配かけたおばさんに謝って、今の状況を簡単に説明した。状況をのみこんだおばさんは、安心した後、…
「陽平くん…、お母さんには?」
やっぱり、そうくるよな…
「いえ、まだ…」
連絡しなきゃいけないんだろうけど…
「私が電話してもいいんだけど…」
電話…か
「あ…いえ、…俺がします」
「陽平くん…」
おばさんにも、來未の事で迷惑かけてる…
「すみません、來未…の事で、迷惑かけて」
俺は、とにかく謝るしかなくて。
「ょ…、陽平…」
久しぶりに聞いた母さんの声は
懐かしさよりも
切なく聞こえた
「ぁ…あぁ…」
ぎこちない返事しかできねぇ…
「………ごめんね。」
謝る母さん…
「…來未、ちゃんと側に居るから、…」
きっと母さんは、いきなり俺のとこに来た來未の事が心配で
「……陽平、…」
そんな、泣きそうな声…
「大丈夫だから、」
「迎えに行く…」
え…
「來未はよくても、陽平に…迷惑掛けるから、…」
母さん…
「もう遅いし…、とりあえず今日はこっちに泊めるから…、明日俺、休みだし」
「………ごめん、陽平、…」
また、謝んだ…
「いいから、…」
電話での距離は、俺と母さんの距離と同じように感じられて
また、連絡する…
と、だけ最後に話して電話を切った。
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