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いつか解き放たれる時まで…③

レス204 HIT数 49875 あ+ あ-

Poinsettia( ♀ oqFMh )
13/09/20 23:24(更新日時)

読んで下さっている皆様ありがとうございます。

③も宜しくお願いします。

No.1920824 13/02/28 21:23(スレ作成日時)

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No.151 13/06/19 14:56
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「どうしたの?、その荷物。」

「追い出されちゃいました。」

「えっ?、何、彼氏のとこ?」

「はい。」


「とりあえず乗って。」



小椋さんの車はエアコンが効いていてとても涼しかった。


「今日も暑いね。千鶴ちゃん白いから焼けるでしょ?。」


「はい。夏は嫌ですね。」


「髪切ったんですか?。」


「うん。なかなか忙しくて行けなかったんだよ。やっとこの前切ったよ。」


助手席に座る私を時々見ながら小椋さんは言った。


「追い出されたって事は、行くとこないって事?。」


「まぁ…、そんな感じです。」

「何があったか知らないけどひでー奴だな(笑)。」


「もう、お互いに気持ちなかったから。いつかこうなると思ってました。」


「もう好きじゃないの?。」


「はい。」



「じゃあ俺の女にしてもいい?。」



そう言うと彼は私に触れてきた。

No.152 13/06/19 15:17
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「少し時間取れるから、また別荘行かない?。この前ゆっくり出来なかったから。」


「はい。」


「今日一緒に飯作ろう。酒も買って行こうよ。」


「楽しみですね…。」



今はひとりでいられる自信がなかったから、小椋さんがいて良かったと思った。

No.153 13/06/19 23:25
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「何食いたい?。」

「えっ…。あぁ、どうしようかな。」

「俺カレー作るからさ、千鶴ちゃんはサラダ作って?。」

「サラダ…、どんなサラダがいいですかね。」


「任せる!。」



小椋さんはどんなカレーを作るんだろ。

野菜をゴロゴロ切った豪快な感じかな…。


サラダの担当になった私は、レタスとトマト、キュウリとツナ、そしてフレンチドレッシングをカゴに入れた。


「飲みたい酒あったらカゴ入れてね。」


「はい。」



どんな夜になるのだろう。


ちょっとワクワクしてきた。

No.154 13/06/22 00:04
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

買い物を済ませて別荘に向かった。


「夜も雨降んないといいんだけどな…。」


「どうしてですか。」


「夜の散歩。星がめちゃくちゃ綺麗なんだよ。あと夏には蛍も見れるんだ。」


「蛍…。最近は見なくなりましたよね。」


「うん。だから千鶴ちゃんに見せたいな。」


小椋さんは少し浅黒い。


痩せているほうではないけどでもおじさんぽくもない。


でも父親というだけあって落ち着いていて包容力がある。


「こんな事聞いたら失礼だけど。今日って朝までいいのかな?。」


「……。」


一瞬ドキッとしてしまった。


「はい、大丈夫です。」


「わかった…。」



小椋さんはチラッと私を見るとスカートから見える脚に目線が行った…。


下心が丸見えだった。



この人も所詮普通の男なんだな…。

No.155 13/07/06 23:12
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

普段締め切っている別荘は蒸し暑かった。


どこから入ったのかところどころに虫の死骸があった。


ほうきとちりとりを手にして私はさり気なく掃除をする。



「あっ、ごめんごめん。そんな事やらせちゃって申し訳ないなぁ…。」


「いえいえ大丈夫です。」


髪がベタベタ首筋にまとわりついて、私はシュシュで髪を束ねた。


小椋さんの強い視線を感じた…。


吹き抜けの窓に雨があたる音がした。



「降ってきたね…。今夜は散歩無理かな。」


少し残念そうだ…。



「早く飯作ってゆっくり酒飲もう。」


「はい…。」



小椋さんはバスルームの掃除も始めた。



着替えはある。



私はキッチンに立ちお米を研いだ。

No.156 13/07/06 23:20
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「俺さぁ、元嫁とこうやって台所に立って飯作った事ないの。だから凄くやりたかった事なんだ。」


私は黙って聞いていた。


「玉ねぎってみじん切りがいいですか?。」


「適当でいいよ、楽な方で。」

「ジャガイモとかはゴロゴロしてた方が好きですか?。」


「構わないよ。圧力鍋あるからすぐ出来るよ。」


難しい圧力鍋だとやだな。


ご飯は少し固めの水加減にした。


小椋さんがカレーの担当なのに中途半端に手を出してしまった。

No.157 13/07/06 23:31
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「サラダ私やりますね。シンプルなのしか作れないですけど。」

圧力鍋から蒸気が出てきた。

同時進行でサラダを作る。


ご飯も早炊きにする。



「手際いいね。」


「そんな事ないです。緊張します(笑)。」


「俺ベッドのシーツ換えてくるね。」


小椋さんは二階に上がって行った。


もう今夜のシチュエーションがすべて見えた。


テレビもつけずに音なしで過ごすのも悪くなかった。


あきひとと別れてきたこと。

秋田から逃げるように出てきたこと。


本当は泣きたい。


やるせない自分に情けなくて、

今こんなとこで私何やってんだろうって、


ザルを洗いながらこみ上げてくるものをぐっとこらえた…。

No.158 13/07/06 23:44
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「タバコ吸っていいからね。気を遣わないでね。」


「はい…。」



「いいな…。千鶴ちゃん。結婚したら楽しいだろうな。」



結婚て言葉は今の私には重すぎる。


「恋愛してるほうが幸せです、きっと…。そのほうが、ずっと相手に優しく出来るし愛せると思う…。」


「千鶴ちゃんは幸せな結婚じゃなかったの?。」


さり気なく聞かれた言葉に返す言葉はなかった。


「まっ…、でも本当そうかもな。実際俺も失敗してるから。」

「きっと結婚したら、自分のものにしたくなるから…。自由にやりたいことも出来なかったり、そうすると優しく出来なくなったり愛せなくなったり…。よくわからないけど、我慢の方が多いような気がします…。」


「千鶴ちゃんも色々あったんだね…。今は…、楽?。」


「楽?。う~ん、わからないです。男の人見抜けないみたい(笑)。」


小椋さんが笑った…。

No.159 13/07/06 23:57
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

ご飯が出来上がった。


木のテーブルに、木のベンチ。

カレーとサラダを並べて、グラスを置いた。


あまり使っていないのか、カトラリーはピカピカだ。


「じゃあ、乾杯しようか。」


「はい。お腹空きましたね。」

ずっと冷蔵庫で冷え冷えだった瓶ビールを小椋さんは持ってきた。


「お疲れ様。今日はゆっくりしてね。」


男の人にグラスに注いでもらうのは初めてだった。


「すみません、ありがとうございます。」


マニキュアが少し剥がれ気味で恥ずかしかった。


「お疲れ様でした。」


彼のグラスにも注ぐ…。


小椋さんはいつも私から目線を外さない。


普段から人と目を合わせるのが苦手な私はあまり小椋さんの目を見れなかった。



「好きだよ。」



突然何を言うのだろう…。



どんな顔すればいいの…。



心臓がバクバクした。

No.160 13/07/07 00:10
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんと初めての夜。

大胆にも彼の別荘に宿泊だ。


一緒に食器を洗ったり片付けたりを彼はずっと隣でしてくれた。

仕事の話や子供の話。


彼はおしゃべりで、ずっと話していた。


何度となく笑い、楽しい時間を過ごした。



「お風呂どうする?。」


11時を回って、小椋さんが聞いてきた。


酔いも回っていた私はどこか隙があったのだろうか。


「お背中流しましょうか…。」

自分でも恥ずかしい言葉を言ってしまった…。


「なんか昔臭い言い方だな。偉くなった気分だぞ。」



だって、どんな流れで彼とセックスすればいいのかわからない。


最初にお風呂って、ちょっと大胆かな…。



No.161 13/07/07 07:51
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「そうして欲しいところだけど照れるな…。」


「ですよね…失礼しました(笑)。」


「俺先にささっと入っちゃうから、千鶴ちゃんゆっくり入って?。」


「はい…。」



小椋さんを待っている間、私は着替えをバッグから取り出した。

なるべく綺麗な下着と部屋着を選んだ。


バスルームから聞こえるシャワーの音。

小椋さんの体はどんな風なんだろうと想像した。


自分はいやらしい女だと思った。

でも今の私は誰に遠慮もいらない。


ひとりなのだから。


No.162 13/07/07 08:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

なるべく待たせないように少し急いだ。

濡れたままの髪は嫌だしきちんと乾かしたい。


ほとんど化粧は崩れていたからすっぴんとさほど変わらない。

バスルームにもとからあったシャンプーを見て、奥さんが使っていたものかなと勝手に思ったりした。


それとも小椋さんには他にも女が居るとか…。


考えたらきりがない。


もう男の人には依存しないようになりたいのに。



「お待たせしてすみません。」

「全然待ってないよ。勝手に飲んでるから(笑)。」



エアコンの効いた広いリビングで、小椋さんはソファに座りながら焼酎を呑んでいた。


No.163 13/07/07 08:40
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「あれ?、千鶴ちゃんていくつだっけ…。」


「34です…。」


「じゃ、俺の6つ下かぁ…。」

小椋さん40なんだ…。


「若く見られるでしょ。」


「ん~、どうですかね。」


「何飲む?。」


「じゃ、同じのいただきます。」

「酒強いの?。」

「最近そんなに飲まないのでわかりませんけど、嫌いではないです。」


「それにしても、君色白だね。」


ノースリーブのマキシワンピースは腕がもろに出ていた。


「なんか透き通って血管まで見える(笑)。」


「あまり見ないで下さい…。」

「言葉悪いけど、雪女みたいだね(笑)。雰囲気的に…。」

「雪女ですか…。」


「うん…、目も細めだし、でも唇は色っぽい。」


「雪女なんて見たことないですから(笑)。ていうか小椋さんはちょっと熊っぽいですね。」

「あぁ、最近腹も出て来たしね(笑)。」


「なんか手が小さくて可愛い…(笑)。ちょっと黒いし本当熊みたい。」


「千鶴ちゃんも笑うと益々不気味な笑みだぞ。」



この人とセックスは出来るのだろうか…。


ちょっと滑稽に見えてきた。

「映画でも観る?。気になって買ったけど観ないまま置いてあるやつあるんだ。」


「映画、最近全然観てないですね…。是非観たいです。」



おつまみはチョコとナッツ。

字幕にするか日本語にするかでちょっと悩んだ末、日本語になった。

洋画のサスペンスだった。


「こっちおいで…。」


小椋さんに言われ、彼の肩に寄りかかった。


「好きだよ。」


「どうしてそんなに好きだって言うんですか。」


「好きだから。」


「私の事あまり知らないくせに…。」


「キスしていい?。」


小椋さんの顔が凄く近くなる。


初めてのキス。



私にとってキスはセックスよりも特別だった。



No.164 13/07/19 22:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

抵抗するわけでもなく、私は黙って彼を受け入れた…。

その時の私には感情がなくなっていた…。

どうあがいてもあきひとの所へは戻れないのだ。


小椋さんのことは好きになれそうにもなかった。


キスのやり方、愛撫…。

マメだけど私には長すぎた。

“気持ちいい?”


何度も聞いてきてうざいと思ってしまった…。


「ごめんなさい…、ちょっと痛いです。」


「えっ?、どこが?。ごめん気持ち良くないね…。」


すっかり渇いているのに刺激されても痛いだけ。


寝室にしまってあったのか、引き出しから何やらゴソゴソ持って来て私に無理矢理使おうとした。


奥さんとの時に使ったものなのだろうか。



気持ち悪い…。



「ごめんなさい、もうやめていいですか。」



「やだ?。嫌ならやめるね。ごめんね…、満足させられなかったね。」



嫌な空気が流れた。

No.165 13/07/19 22:08
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「千鶴ちゃんて、不感症なの?。」


一瞬耳を疑った。


「どういう意味ですか。」


「なかなか体が受け入れてくれなかったから、もしかしてそうかなって思っただけ。」


小椋さんはベッドで煙草をふかしながら言った。


こんなに濡れないのも珍しいんですけど。


心で呟いた。



「あまり経験ないの?。」



腹が立つ…。



「すみませんでした。気分を害したようでしたらごめんなさい。でも体は正直ですから。」


やっぱり体の相性は合わないようだ。






No.166 13/07/21 00:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

こんな山奥で帰りたくても帰れない。

ここが街中ならば、直ぐにでもこの場から立ち去れたのに。

「こんな話したくないんだけど…。」


小椋さんが言いかけた。


「嫁ともずっとレスだったんだ。息子が生まれてから数える位しかしてない。」



なるほどね…。



「何かそうなる理由みたいなのはあったんですか。」


「もともとそういう行為が嫌いだったのかな、セックスしても気持ち良くなかったみたい。」

それって…。


「俺に原因あるのかな(笑)。どんな風にしたら気持ちいいんだろ。千鶴ちゃんはどんな風にされるといいの?。」



真面目な顔で聞いてきたから、ないがしろに出来なかった。

No.167 13/07/21 00:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「考えた事ないです。でも、きっとセックスって考えながらするものじゃないような気がします。好きならば感じると思います。だから、本当なら好きな人としかしちゃいけないんだと思うけど…。」


「でも俺の事そんな好きじゃないのにOKだったんだ?。」


「矛盾してますね…。ごめんなさい…。今日はちょっと情緒不安定?…、なんです。」


「誰でもいいから慰めて欲しかった…みたいな?。」


苦笑い。



「ごめんね、変な話。」


「いいえ。」




その夜小椋さんはソファで眠り私はベッドで寝た…。

No.168 13/07/21 00:25
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は不思議な程にぐっすり眠った。

夢をいくつか見たけれど、どんな夢だったか覚えていない。

起きて小椋さんを探したけれど姿がなかった。


「小椋さん?。」


階段を降りるとテーブルに朝食が用意されていた。


手紙だ…。


“千鶴ちゃんおはよう。ぐっすり寝てたから声掛けなかったよ。ちょっと仕事行って来ます。夕方には帰って来るから、ゆっくりしててね。”



「小椋さん…。」



行く場所のない事を分かってくれていた。


それなのにきのう拒否してしまった…。


演技でもいいから最後まで続ければ良かった…。



“手紙読みました。ありがとうございます…。”


メールを送った。

No.169 13/07/21 00:41
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんの目玉焼きは半熟で、私が好きな目玉焼きだった。


ベーコンをカリカリになるまで焼かないのも私好みだった。

コーヒーも私が好きなものだった。


偶然なのだろうか…。



美味しい朝食をいただいて、私は身支度をした。


小椋さんが喜ぶ事がしたくて、何がいいか考えた末、別荘を掃除する事に決めた。


ラジオを聞きながら、掃除をしたり食器を洗う。


天気がいいので、勝手に洗濯をした。


別荘の周りに咲いている花に目をやると、とても癒された。

蝉の声も聞こえてくる。


ここで毎日暮らしていたら何も考えなくていいのかも…。


そんな生活もいいな…。


窓を全て開けて風を入れた。

半日かけて掃除機や窓拭きをやった。


No.170 13/07/21 07:22
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

意外と別荘は汚れていて、掃除に時間がかかった。

高い掃除機なのか、持ち運びが楽で吸引力も良く掃除が捗る。
モップもかけてピカピカになった。

バスタオルや枕カバーも、風と太陽で昼過ぎにはほぼ乾いていた。

食材はほとんど買ってないために、何も作れそうになかったけど、買い置きのパスタとソースを見つけた。

勝手にあちこち物色するのも失礼かな…。

携帯がなり、着信を見ると小椋さんだ。

「もしもし?。」

「もしもし千鶴ちゃん?。」

「はい。」

「何してたの?。ご飯は食べたかい?。」

「はい、いただきました。とっても美味しかったです。」

「それなら良かった~。あのさ千鶴ちゃんいきなりで悪いんだけど、今夜うちのチビ連れて帰っていいかな。」


「あっ、はい。大丈夫です。」

「ごめんね急に。今日預かってほしいって連絡来て…。迎え行って買い物してから帰るから6時くらいになるけど。」


「わかりました。気をつけて…。」


ちょっと動揺した。


という事はお泊まりだ…。

No.171 13/08/18 23:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

はっきりと聞いた事はなかったけど、離婚したのだろうか。それとも別居中なのだろうか…。

急に預かってほしいなんて、身勝手な母親だ。


でも人の事は悪く言えない。

私はもっと卑怯者だから。


子供は私に慣れてくれるだろうか。

もしも、パパの何?聞かれたらなんて答えたらいいのだろう。

No.172 13/08/20 22:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんは子供を連れて30分後に帰って来た。

チャイムが鳴り、「開けてくれる?」の声に玄関の扉を開けると、子供を抱っこして片手に買い物袋を持った小椋さんが居た。


「ただいま~。」


「お帰りなさい…。」


「藍斗、お姉さんにこんばんはって挨拶して…。」


「・・・・・。」

シーンとしてしまったからすかさず私から声をかけた。


「あっ、藍斗くんこんばんは。」

「パパだぁれ?。」


「ん?、パパのお友達だよ。」

藍斗くんはじっと私を見ていた。




No.173 13/09/06 23:31
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「パパゲームしたい。」

家に入るなり藍斗君が言った。

「ちゃんとご飯食べて風呂に入らないとゲームは無理だよ。」

藍斗君はちょっと不満そうだ。

「あの…、ご飯どうしましょう。」


「俺さっと炒飯でも作るよ。風呂は…、それからにしようかな…。」


「ご飯私作ります。お風呂入って下さい…。」


「本当?、ごめんね。じゃあ飯お願いしようかな。」


小椋さんは微笑んだ。


「藍斗君の着替えって…。」

「多分リュックに持たせてあるはずなんだけど。」


「分かりました。小椋さんのは二階ですよね。」


「うん、ベッドのとこのタンスに入ってる。」


「準備しておきますね。」


「ありがとう、千鶴。」


小椋さんが私を呼び捨てにした。

私は奥さんになった気分だった。

こんな風に子供とお風呂に入ってくれるパパっていいなと思っていた。


藍斗君のリュックには着替えが何枚か入っていて、あとはゲーム機が入っていた。


適当に詰めたような感じだった。


藍斗君はどこか表情が暗い。

笑った顔が見たいな…。


No.174 13/09/06 23:47
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

出来るだけ野菜を細かく刻んで炒飯を作った。


思い鉄鍋を使って作った炒飯は割と美味しそうに見える。


サラダとスープも作ってテーブルに並べた。



「千鶴~。」


バスルームから小椋さんが呼ぶ。


「ごめん、藍斗の体拭いてくれるかな?。」



ちょっと驚いたけど、言われた通りに藍斗君のお世話をする。

「気持ち良かった?。」


黙って頷く。


「お腹空いた?。」


ちょっと首をかしげた。


まだ私の様子をうかがっているようだ。


「藍斗ね、今日ひろみ先生と折り紙したんだ。」

パジャマを着せていると突然しゃべりだした。


「ん?、ひろみ先生?。」


「ひろみ先生ってわかる?。」

「う~んわかんないなぁ…。藍斗君はなにぐみさん?。」


「くま組だよ。」


「くまさんかぁ…。パパもくまさんみたいだよね。」



藍斗君が笑った…。



「藍斗ねぇ~パパとママと飛行機乗ったんだよ。」



「へぇ~すごいね~。」


「藍斗、お姉ちゃんと何話してるんだ?。」


小椋さんも出てきた。

No.175 13/09/06 23:56
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「なんかいい匂いするぅ。今日ご飯なに?。」


「チャーハンだよ~。藍斗君チャーハン好き?。」


「すき。でもね~ママあまりつくらないよ。」


「そっかぁ。お姉ちゃんのチャーハンおいしいといいんだけど心配だなぁ。」


「おっ、すげぇ!。藍斗~、サラダとスープもついてるぞ。」

「パパ早くたべたい~。」


「千鶴ありがとうね。」


「味は自信ないですけど…(笑)。」


「千鶴も風呂入っておいで?。」


「でも、藍斗君待たせたら可哀想だし。あとでゆっくり入ってもいいですか?。」


「そう?、じゃあみんなで食べよっか。」



「いただきます。」



藍斗君の元気な声が響いた。

No.176 13/09/07 00:18
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君は私に慣れてくると色んな話をした。


片言な所や、テレビのCMを見て一緒に歌ったり、突然戦いごっこを始めたり…。


私は男の子を育てた事がない。

だから藍斗君がとても可愛く思えた。


「藍斗、そろそろ歯磨きして寝ないと明日幼稚園だぞ。」


「あしたようちえんやすみたい。」


「だめだよ、ママと約束しただろ。」


「‥‥‥。」



「あいと、お姉ちゃんとあそびたいもん。」


私達は目を合わせた。


「ちゃんと幼稚園行かないとパパもママに怒られるんだよ。」

小椋さんがちょっときつく言った。


泣きそうだ。目に涙を溜めている。


「あいとくん?、お姉ちゃんあしたお仕事なの。だから遊べないんだぁ。ごめんね。」


藍斗くんは涙を拭いながら頷いた。


No.177 13/09/10 19:41
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君はお友達の話や、幼稚園のこと、担任の先生の話をとても楽しそうに話した。


「藍斗くん何をして遊ぶのが好きなの?。」


「うんとねぇ~、ブロックとね~、あと戦いごっこ。」


「そうなんだぁ…。」


「お姉ちゃんてパパと友達?。」

「ん?。あぁ…、そう。パパと友達だよ。」


小椋さんが言った。


「お姉ちゃんゲームしよう?。藍斗とたいこのゲームやろう?。」

「たいこのゲームって何?。」

「知らないの?。じゃあ藍斗が教えてあげるよ。」


「藍斗、明日必ず幼稚園行くんだぞ。約束だからな。」


藍斗くんは黙って頷いた。


洗い物は小椋さんがやってくれた。


私は藍斗くんとゲームをした。

No.178 13/09/10 19:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

たいこのゲームで、私のリズム感のなさがはっきりわかった。
しかも流行りの曲がわからない。

藍斗くんは私が弱すぎても楽しそうだった。


「藍斗くんいつも何時に寝てるの?。」


「わかんない。ママが寝てって言ったら。」



「千鶴、藍斗はもういいから風呂入っておいで。」


「あっ…、はい。でも大丈夫かな。」


「藍斗、歯磨きしよう。もうおしまいだ。」


藍斗くんはちょっと不満そうだったけどゲームをやめた。

No.179 13/09/17 18:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君が気になってゆっくりお風呂に入れなかった。


少しだけど私に懐いてくれているのが嬉しかった。


ママはどんな人なのだろう。

どうしてこの夫婦は壊れてしまったのかな…。


いつもより少し早めにあがった。

「ドン、ドン!」


脱衣所の扉を叩く音がして、振り向くと藍斗君らしき影だ。

「なに~?。」


「あけてもいーですか!」


「どうぞ!」


「おねえちゃん、まだ?。」

「ん?、もうあがったよ。」

藍斗君は待ちきれないようだ。

No.180 13/09/17 18:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「千鶴何飲む?。」

「じゃあビールで。」


小椋さんは優しい。

私は素直になれた。

「おねえちゃん、本よんで~?。」

「本あるの?。」


藍斗君は本棚から絵本を持って来た。

その絵本を見て思わずはっとした。

その絵本は私も記憶にあった。

梨華に買ってあげた本で、小さい頃によく読んでいた。


「藍斗君、この本好きなの?。」

「うん。おばけがてんぷらにされちゃうんだよ!。」


「藍斗…。」


小椋さんが私に気を遣った。


「じゃあ読んだらちゃんと寝る約束だよ~。」


「うん。」


藍斗君に絵本を読んでいるとちょっぴり切なくなった。


梨華はどうしているかな…。

No.181 13/09/17 18:28
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「はい、おしまい。」

藍斗君は苦笑いをしていた。
「じゃあ寝るぞ~。おねえちゃんにおやすみして…。」


「おやすみぃ…。」


「寝かせてくるからテレビ見てゆっくりしてて。」


「はい…。」



カーテンの隙間から外を見ると明るい月が出ていた。


これからどうしようかな。


深いため息をついた。

No.182 13/09/17 19:04
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「やっと寝たよ~。」

30分くらいしてから小椋さんが二階から降りてきた。


「すみません、ゆっくりしてました。」


「千鶴、色々ありがとね。」

ソファに腰掛けるなり小椋さんが手を握って来た。


「改めてなんですか、気にしないで下さい。」


「君さ…、子供いるの?。」

「えっ…。」


「なんか扱い慣れてるし、もしかしたらそうかなって。」


「います…。もう中学生です。」

「うそっ?、本当に?。いやぁ…、驚いたよ…。」


「私、実家が秋田なんです…。」

「秋田?。なんでまたこっちに?。」


「好きな人諦めきれなくて…。」


「……………。」



「置いてきたのか…。」



「はい…。」



それ以上、小椋さんは私に何も聞かなかった。

No.183 13/09/17 20:27
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「これからどうするか考えてるの…?。」


「考えてはいます。でも何から始めたらいいのかもわかりません…。もう何もないんです。明日行く場所も、何も…。」


「千鶴。お願いがあるんだけど。」


「お願いって…。」


「俺の家に居てほしい。」

「どういう意味ですか…。」

「あの家に藍斗を連れて帰りたいんだ。そしてあの家から幼稚園に通わせたい。でも今の俺の状況じゃ、藍斗の事ずっとみてやれないから。千鶴さえ良かったら、藍斗と俺と三人で暮らしたい。」


「小椋さん…。」


私にとってはありがたい話だった。

涙が出るほど嬉しかった。



「あの…。小椋さんは奥さんと離婚なさったんですか。」



「してない。藍斗をどうするかで揉めてる…。」


「まだ離婚なさってないのに上がりこむ訳にはいきません。勝手にそんな事出来ないです。」

「藍斗を行ったり来たりさせたくないんだ。もう俺が育てたほうがいいと思うんだ。あいつろくに幼稚園行かせないで平気で休ませたり、飯も適当だし藍斗が可哀想でみてられないよ。」

No.184 13/09/17 20:34
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「明日あいつと話をするから…。もう終わりにする…。」


「藍斗君の気持ちはどうなるんですか。藍斗君にとってはたったひとりのママなのに。」


「藍斗には必要ない母親だよ。平気で藍斗を預けて男と会ってるような女なんかいらないだろ。」



昔の自分の事を言われているような気がした。

No.185 13/09/17 20:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翌朝、小椋さんは藍斗君を幼稚園へ送りながら仕事に行った。

“お姉ちゃん、今日も遊ぼうね。”


藍斗君は不安な顔をしてそう言った。


“とりあえず今日はここに居て?。後で電話するから。”


今日は落ち着かない1日になりそうだ。


ある程度掃除も終わると暇になってしまう。


テレビもつまらなかった。


私は庭の雑草が伸びている事に気付いて、草取りをする事にした。

草の中から藍斗君のおもちゃが出てきた。


枯れた向日葵を抜くと、土の中からダンゴムシが出てきた。

ゴム手袋の中は蒸れてきて、汗もかいて気持ち悪くなった。

広すぎる庭の草取りはなかなか終わらない。



もうそろそろ終わりにしようかと思った時、一台の車が別荘に向かって来るのが見えた。


小椋さんではない。



まずい、隠れなきゃ…。

No.186 13/09/17 21:03
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は急いで家に入ると鍵をかけ、靴を持って藍斗君の寝ている部屋に隠れた。


どうしよう…。誰かな…。


部屋のカーテンからそっと外を覗くと、青い車からひとりの女性が降りてきた。


もしかして、奥さんかな。


玄関を開ける音がした。



きっとすぐにわかる。

人の気配を感じるはずだ。


私は冷や汗をかきながら、こっちに来ない事を祈った。


もし見つかったら、なんて言おう。



「誰かいるの?。」



下から上に向かって叫ぶ声。


まずい…。


No.187 13/09/17 21:18
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

車のドアを閉める音がして、私はてっきり奥さんが外に出たと思った。


「入って~。」


“えっ?”

誰か連れてきたの?。


それから男女の話し声がした。

奥さんらしき人はどうやら男の人を連れてきたようだった。

小椋さんは知ってるのかな。

いつまでここにいるつもりだろう…。


今日小椋さんは奥さんと話し合うんじゃなかったの…?。


連れてきた男の人は誰?。


私は携帯電話をリビングに置いていた事に気付いた。


まずい…。小椋さんから電話がかかってきたらどうしよう。

どうにかしてバッグと携帯を持ってこなきゃ。


No.188 13/09/17 23:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私はベッドの下に隠れていた。
汗まみれのまま、埃だらけになり不快でたまらない。

早くここから出たい。


二人が階段をあがって来る音がした。


やばい。本当にやばい。


もうおしまいかも…。


そう思った時、二人は藍斗君の部屋の前を素通りして、奥の夫婦の寝室らしき部屋に向かった。

きのう小椋さんが寝ていた部屋。

その部屋に男を連れ込む…?。

嘘でしょ…、あり得ないよ。


部屋のドアが閉まり、かすかに鍵をかける音がした…。


今だ…、今のうちに下に降りて家から出なきゃ。


慌てた私は柵に頭をぶつけた。

そっと部屋を出て静かに階段を降りた。


カウンターに置いてあるバッグを持ち出し、靴をもったまま家を出た。


鍵もかけて見つからないように裏を回って家から離れた。

No.189 13/09/17 23:09
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

見なかった事にしよう…。

何も見ていない…。


ずっと坂道を走って、別荘に続く十字路まで辿り着いた。


帽子を深く被り、日焼け防止の黒いアームカバーで腕全体を隠し、ロングスカートの私はちょっと怪しく、まるで逃げ出してきました感そのものだ。


森の中に道路だけで他は何もない。

車じゃないとどこにも行けない場所だ。


小椋さんに電話をかけようとすると圏外になっていた。


どうすればいいかな…。


急に空が暗くなり雨が降り出して来た。


いきなりの強い雨に慌てた。

傘もない。

No.190 13/09/17 23:21
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

道に迷いそうで怖かったけど、雨に濡れながらずっと道に立っていても怖い。


時々来る車に怪しまれないようにするのに必死だった。


小椋さんが来てくれたらいいのに…。


バス停らしきものを見つけて、錆びたベンチに座った。


“疲れた…。私何やってんだろう…。我慢して秋田にいればこんな事にはならなかったのに…。”


雨が小雨になり、気付けば二時間が経過していた。


もう帰ったかな…。

帰ってればいいな…。


私は別荘に向かって歩いてみることにした。

No.191 13/09/17 23:30
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

青い車はなかった。


良かった…。帰ったんだ…。

悪趣味だと思った。


でも寝室が気になって行ってみた。


ベッドが濡れていた…。


それに触れてしまった瞬間気持ち悪くなった。



なぜわざわざここでするのか意味が分からなかった。


私はシーツを洗濯して掃除機をかけた。


小椋さんに対するあてつけなのだろうか…。


何も知らずに今日ここで寝る小椋さんを思うと怒りがこみ上げてきた。

No.192 13/09/17 23:43
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は疲れていつの間にか眠っていた。

藍斗君のベッドが一番落ち着いた。


携帯の音に起こされ、慌てて出ると小椋さんだった。


「千鶴、今どこ?。」

「あぁ…ごめんなさい、別荘にいます。ちょっと寝ちゃってて。」


「大丈夫か?、何回も電話したよ。」


「大丈夫です。それより、どうなりましたか…。」


「今日あいつと連絡取れなくてさ、藍斗も預けっぱなしのくせに電話1本よこさないで、何やってんだか…。」


「奥さんて、車運転されますか?。」


「するけど、なんで?。」


「あっ…、ただ。幼稚園お迎え行くのかなって気になったから…。」


「今日どうしようか…。そこにいても不便だし、家来るか?。」

もし今日来た人が奥さんなら、何も遠慮はいらないかな…。


「はい…。行かせていただきます。」


「じゃ、今から迎えに行くからある程度支度しててくれる?。あとしばらくまた行かないかも知れないから戸締まりとか元栓もお願いしていいかな。」


「分かりました。」

ゴミをまとめ、水回りも綺麗にした。

まるで、コテージをチェックアウトするかのような気分だった。

No.193 13/09/17 23:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

1時間くらいして小椋さんが迎えに来た。


「藍斗君は?。」


「延長保育お願いしたよ。バタバタしちゃったから…。」


「じゃあすぐ迎えに行かないと…。」


「ゴミ、まとめてくれたんだね。ありがとう。」


「いえ…、当たり前ですから。」

不倫の証拠ともいえるゴミは二重に覆い、彼には見つからないようにした。


「明日うちの方可燃ゴミだからちょうど良かった。」



私はひたすら走った坂道を車で颯爽と通り過ぎた…。

No.194 13/09/17 23:57
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君の幼稚園は市内でも園児数が一番多い、人気の幼稚園と聞いた。


私は車で待っていた。


藍斗君が見えて車の中から手を振ると喜んで走って来た。


「お姉ちゃん迎えきたの?。」

「うん。藍斗君おかえり。」

「今日もお泊まりできる?。」

「どうかなぁ…、パパに聞いてみて?。」


「パパ、今日もお姉ちゃんお泊まりできる?。」


「お姉ちゃんにはずっとお泊まりしてもらうんだ…。なんてな(笑)。」


「今日藍斗のうちに帰るんだよ。藍斗の部屋で遊ぼうね。」


藍斗君は嬉しそうだった。


私はいつあの奥さんがいきなり帰って来るかと思うと気が気でなかった。

No.195 13/09/18 00:07
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんは近所の人に会いたくないからと、わざと遠くのスーパーに寄った。


私の存在を隠したいんだろう。

いつだって私はそんな女だ。

鍋の材料を買った。


買い物の途中、藍斗君がお菓子の所に行った隙に私は小椋さんに確認をした。


「奥さん、いきなり帰って来たらどうすればいいですか?。」

「その時ははっきり言うよ。俺の女だって。」


修羅場にならないかな…。


ただそれだけが心配だった。


「お姉ちゃん、お菓子一緒に買おう?。」

話の途中で藍斗君が走って来た。

「うん。」


「藍斗、もうレジするからな。急いで。」


藍斗君と一緒に味の違う同じお菓子を買った。

No.196 13/09/18 20:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんの家は新築の匂いがした。

玄関で立ち尽くしたまま、私は家の中に入れずにいた。


「入って…。」


「でも…。」


「もうしばらく帰って来てないから、今日も来ないと思うし。」

「‥‥‥‥‥、あの‥、やっぱり無理です。」


俯いた私に小椋さんは言った。

「でも、行くとこないんだろ。金もないのに、野宿でもする気か…?。」


「ごめんなさい。」



私は小椋さんの家を出た。


No.197 13/09/19 22:29
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「お姉ちゃん!、行かないで!。」

藍斗君が追いかけてきた。


「帰っちゃやだ。帰んないでよぉ!。」


「ごめんね…、お姉ちゃん藍斗君ちには行けないんだ。」


「お菓子食べようよ、ゲームしようよ~。」


「またね…。お利口にして待っててね…。」


小椋さんも外に出てきた。


「千鶴…。一緒に居てくれないか。」


「無理です。そんな資格ないですから。」


「藍斗の母親になってくれないか…。」


「はっ?…、何言ってるの?。」

「わかってるよ…。当たり前だよな…、でももう気持ち固まってんだよね…。千鶴とずっと一緒に居れたらいいなって、最近ずっと考えてたんだ。」


私は動揺した。


「ちゃんとけじめつけるから。だから、ずっと俺達のとこに居てくれないか。」


「小椋さん。私…、私今自分がこれからどう生きてったらいいかわかんなくて悩んでるんです。頭ぐちゃぐちゃだし、自分がしてきた事も悔やんでも悔やみきれないし、あなたに甘えてしまう事で、益々駄目な人間になってしまいそうで…。なんでそんな事言うんですか?。」


私は泣いた。

No.198 13/09/19 22:36
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「何をやってもうまく行かないし、自分消えちゃいたいって思ってる…。私なんかと一緒になったらあなたも藍斗君も不幸になる…。私に優しくしないで…。」


「千鶴、とりあえず家入って…。ゆっくり話しよう。」


藍斗君の前で泣くなんて最低だった。


小椋さんに抱きかかえられて家に入った…。


温かかった…。


本当は嬉しかったし、ほっとした。


でもまた人に甘えてしまうのが悔しくて情けなかったのだ。

私はなんて無力なんだろう。

男なしじゃ生きて行けないなんて…。

No.199 13/09/20 13:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんはそれから何度か奥さんと話し合いを重ね、1ヶ月後に離婚した。

藍斗君は小椋さんが引き取った。

奥さんが私物を取りに来るという日、私は家に居ないようにした。

何時に来るかも分からないし、夜まで戻らないようにした。

藍斗君は幼稚園を休み、小椋さんは仕事を休んだ。


小椋さんは私にお金を渡した。

「好きなように使っていいから。行きたいとこに行っておいで…。落ち着いたら電話するよ。」


「ありがとうございます。」

「千鶴?、もう敬語は使わないで…。俺の事も名前で呼んで欲しいな…。」


「名前…、小椋さんてなんて言うんですか(笑)。」


「あれっ、言ってなかったっけ??。」


「多分…。」


「雅樹だよ(笑)。」


照れながら言った…。


「雅樹…、雅樹さん?。」


「千鶴に言われると照れるな。名前で呼ばれたのも久しぶりだな…。」


「じゃあ…、行ってきますね…。」


今日は秋晴れで気持ちがいい。

No.200 13/09/20 17:05
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は知らず知らずのうちに、昌仁のところに向かっていた。

どうしているかな…。


ただそれだけが知りたかった。

会ってどうこうじゃなく、ただ元気な顔が見れたら…、それだけだった。


もしかしたら引っ越してるのかも知れない。


アパートの近くまで来た時、一人の女性に出会った。


その女性は妊婦さんだった…。

なんとなくまだ昌仁が住んでいるような気配がした。


ベランダにあるゴミ箱に見覚えがあった。

カーテンの色も変わっていない。


まだ居たんだ…。



私は胸がいっぱいになった。


きっとあの人は昌仁の奥さんだ。

本当に赤ちゃんが出来てたんだね…。


幸せになってね…。



私は来た道を戻った。



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