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いつか解き放たれる時まで…③

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Poinsettia( ♀ oqFMh )
13/09/20 23:24(更新日時)

読んで下さっている皆様ありがとうございます。

③も宜しくお願いします。

No.1920824 13/02/28 21:23(スレ作成日時)

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No.1 13/02/28 21:38
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「お母さん…起きてる?。」

梨華が部屋に入って来た。


「なに?。」


「授業参観のお手紙きたから。卒業式の説明会とか色々話あるみたいだよ。」


「置いといて…。あとで見るから。」


「ご飯たべないの?。今日おでんだよ。」



梨華はそう言うと下に降りて行った。


人に会いたくないのに参観日なんて行けない。


下で母さんがぶつぶつ何か文句を言っている声が聞こえた…。



所詮私は邪魔なんだ…。



No.2 13/02/28 21:59
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

昼間寝ているからなのか夜は全く眠れない。

胃が小さくなっているから、何か少しつまむだけでお腹いっぱいになった。

部屋のテレビをつけて深夜番組を見るのが日課になっていた。


東京楽しそうだな…。



隠れ家的なお店や、賑わう街を見ていると行きたくなる。


また向こうで暮らしたいな。



「千鶴…、起きてるか。」


兄さんがノックしてきた。

仕事から帰ってきたのかな…。


慌ててテレビを消した。

「入っていいか。」



兄さんが部屋に入ってきた。

No.3 13/02/28 22:13
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「飯は食ったか?。」

「ちょっと食べたけど。」

「これ買ってきてやったから食いな。」


兄さんはコンビニでサンドイッチとおにぎりとレモンティーを買ってきてくれた。


「どっか具合悪いのか?。ずっと寝てるって聞いたから。」


「うん…ちょっとね。」

「千鶴あのさぁ、お前に先に話しておくけど…。俺結婚しよっかなって思ってんだ。」


「えっ…。兄さん相手いたの?。」


「うん。ずっと付き合ってるやつね。」


「・・・そうなんだ。おめでとう。」



「ここでお袋や親父と暮らしてもいいって言ってんだ。」


「同居嫌じゃないんだね…、珍しい。」



「お前が今家に居ること言ってないんだ。梨華の事もだけど。」


「・・・・・・。」



「とりあえずそんなとこだから…。じゃあ、お休み。」


「お休み…。」


No.4 13/02/28 22:16
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

兄が何を言いたいのか分かった…。


私に出ていけと言いたいのだ。


出戻りの小姑はお嫁さんにとっては嫌な存在だ。

梨華を連れて出て行く…。


もう本当にどうにかしなければ…。


また頭が痛くなってきた。


No.5 13/02/28 23:26
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私はここには居るべきではない。

私が出て行けば丸くおさまるのだから…。


梨華の中学入学を認めますという手紙も届き、益々秋田から動けなくなった。


資格も何もない私にはフルタイムで働ける仕事が見付からない。


パートを掛け持ちするしかないのかな…。


財布を整理しながら、私はふとある人の名刺が目に止まった。

この人誰だったかな…。
いつもらった名刺だったかな…。


あっ…。


宏武さんの店に来た客だ。

私に歌わないかと声を掛けてきた人だ。

No.6 13/02/28 23:39
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

宮内和彦。


名刺にはライヴハウスの名前と携帯番号があった。

人前で歌う事には抵抗がある…。


でも今はとにかく稼がなきゃないと思った。


ライヴハウスは夜だし梨華をひとりにさせてしまうけど、パートを掛け持ちしなくても、何とかなるかもしれない。


話だけでも聞きに行こうかな…。

でも今の私が果たしてちゃんと仕事が出来るかな。

それからまた私は布団に潜ってしばらく自分と葛藤した…。

No.7 13/02/28 23:48
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翌朝、梨華の“行ってきます”で目が覚めた。


兄がきのう買って来たサンドイッチを部屋で食べた。


久しぶりにカーテンを開けた。


まだ雪は残っているけれど春は確実に近付いている。


久しぶりに携帯の電源を入れるとたくさんのメールが入っていた。


メルマガの中に混じって翔太と昌仁からも来ていた。


翔太からのメールを恐る恐る開いた。


“ちぃ、連絡つかないね。どうしてるの?。また会って話がしたい。お互い本音で話したい。”


翔太は怒っていなかった。


“ごめん。ずっと部屋にこもってた。今凄く悩んでる。もう少し時間下さい。”


翔太に送った。

No.8 13/02/28 23:56
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

“千鶴~何かあった?。あきひと心配だよー。あきひとがこっちにおいでなんて言ったから余計千鶴悩ませてるのかなって思ってたよ。千鶴大好きだよー。”


昌仁は相変わらずだ。


“心配かけてごめんね。今凄く悩んでる。時間ちょうだい。”


同じ内容のメールを送った。


翔太も昌仁もなんでこんなに優しいんだろ。


2人とも私が自分以外の相手がいるとわかっているはずなのに…。


きっと私はいつか罰が当たる…。


No.9 13/03/02 21:39
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

昼過ぎ私は宮内というその人に電話をかけた。


5回くらい呼び出し音が鳴り、寝起きのような声で宮内さんは電話に出た。


「はい、もしもし。」


「もしもし…。あの…宮内さんの携帯でしょうか…。」


「はい。そうですが。」

「あの…、以前名刺をいただいて…気になってお電話をしたのですが…。」


「ん?、誰かな?。」


「あの…。駅裏のビルで働いてた凪子という名前の…。」


「・・・・・・・凪子?、あぁはいはいわかった。」



「あの、良かったらちょっとお話を聞きたいのですが…。」


「今日バンドメンバーの練習日だから、良かったら店に見に来るといいよ。」


「いいんですか?。」


「4時からやってるから。俺も行くよ。」


「分かりました…。ありがとうございます。」



ドキドキしながら電話を切った。


私、何やってんだろ…。本当に大丈夫かな…。


急に自分のしたことに驚いた。

No.10 13/03/02 21:47
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

シャワーを浴びて、久しぶりに化粧をした。


翔太がくれたワンピースに初めて袖を通した…。

袖の辺りがぴたっとフィットして、でもふんわりとしたスカートの私が好きな形の黒いワンピースだった。


時間をかけてブローをした。



“翔太。素敵なワンピースをありがとう。”



「兄さん…、ちょっといい?。」


起きがけの兄さんに声を掛けて私は出掛けた。



まだ梨華も母さんも帰って来ていない。



3時半過ぎのバスに乗って宮内さんの店へと向かった。

No.11 13/03/02 21:53
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

まだ飲み屋が開く時間ではないため、ほとんどの店は閉まっている。


ビルの中にある宮内さんのライヴハウスの店の前に着くと中からドラムやギターの音が聞こえてきた。


ドアを開けるのが怖かった。


自分から開けられずに立ち尽くしていると、ひとりの女性がエレベーターを降りてやってきた。


一緒目が合う…。


すぐにそらしてしまう。


「お客さんですか?。」

「あっ…、いえ…。違います。」


その女性は首を傾げると店に入って行った。



バンドのメンバーかな…。

No.12 13/03/02 22:05
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

その女性が店に入ってすぐに中から宮内さんが出て来た…。


「なんだ、来てるなら入れよ(笑)。」


「あっ…、すみません。」


宮内さんと一緒に店に入った。


「ちょっと見学させてやってな。」


宮内さんはそう一言バンドメンバーに言うと、私をカウンター席に座らせた。


さっきの女性と、もうひとりの女性、ドラム、ギター、ベース、キーボード…。


メンバーは私を一斉に見た。


No.13 13/03/02 22:13
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

軽くお辞儀をして私はカウンターの椅子に座った。


「凪子って本名じゃないよな?。」

「はい。」


「名前は?。」


「千鶴です。」


「千鶴か…。なるほど…。じゃあステージネームはチィだな。」


「チィ…ですか?。」

「嫌か?。」


「チィって言われてるので他の呼び方がいいです。」


自分でも思ってもみない事を言っていた。


「じゃあ…、そのまま(凪)Nagiにしよう。Nagiでいいか?。」


「はい。」



私はここで働く…。


そう自分に言い聞かせた。

No.14 13/03/02 22:54
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

バンドメンバーはみんな怖いイメージだった。

女性ヴォーカルの二人もきつそうな感じがした。

「とりあえずお前はあの二人を見て振りだとか歌い方だとか勉強してな。」


どこかで聞いた事があるような歌。


でも英語だった。


たまに日本語で歌うのもあったけど、ほぼ英語だった。


英語の歌詞の暗記。

英語の歌なんて果たして歌えるのだろうか…。



「夜のステージは見て行くか?。」


「何時からですか。」


「1回目は8時。」


まだ時計は4時半を回った所だった。

No.15 13/03/02 23:05
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「すみません、今日はこれで失礼します。また他の日にステージを見に来ます。」


「わかった…。まずゆっくり考えてみて。」


「はい。ありがとうございます。」


私はバンドメンバーにも礼を言って店を出た。


外に出ると雪が雨に変わっていた。


傘もない私は足早に駅のバス停に向かった。


あまり周りを見ていなかったせいかすれ違う人とぶつかってしまった。


「痛っ!!。」


少し背の高い男の人とぶつかった。


謝るでもなく通り過ぎて行こうとしたその人と目が合った。


「あっ…。」


「・・・・・・・。」


「ちぃちゃん?。」


「うん…。」





拓海との再会だった…。

No.16 13/03/02 23:14
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「元気…?。」


「うん…。久しぶりだね。」


しばらく私と拓海はその場に立ち尽くした。



「雨だし、どっか入る?。」


「そうだね。」


私と拓海は近くのファーストフード店に入った。

ホットコーヒーを2つ頼んで私達は少し話をした。


「秋田に居たんだね。」

「ちぃちゃんもね。」


「少し老けた??。」


「どういう意味だよ(笑)。」


「今何やってんの?。」

「何もしてない。無職だよ。」

「実家いんの?。」

「うん。」


「拓海君は?。」


「バイト。女んとこに住ましてもらってるけどね。」


No.17 13/03/02 23:28
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「付き合ってるの?。」
「う~ん…どうかな。俺はそんなに好きじゃないけど、金ないし楽っちゃあ楽かな。」



色んな人間がいるものだ。


「今日なんかあったの?。デートとか。」


「違うけど。どうして?。」


「ただ聞いただけ。」


拓海は以前よりずっと落ち着いた感じがした。


ジャラジャラつけていた頃が懐かしい…。


「ねぇちぃちゃん。」


「ん?。」


「久々だし、これから飲まない?。」


「ごめん。最近体調悪くてあまり飲めないんだ。」


「ふ~ん…そっかぁ。まぁ、とりあえず出よう。」

タバコを消して拓海は席を立った。


コーヒーがまだ飲み終わらないうちに私達は店を出た。

No.18 13/03/02 23:35
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

雨はひどくなっていた。
道はぐちゃぐちゃだ。


拓海は私の腰に手を回し抱き寄せるようにして歩いた。


「ちぃちゃんすげー可愛くなったね。」


至近距離で囁いてきた。

「ちょっと休憩しよ。」


拓海はホテル街に向かって歩いた。



「ごめん無理。私帰らなきゃ。」


「いいから。」


そのまま私は無理やりホテルに連れ込まれた。


No.19 13/03/02 23:40
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

拓海の腕がしっかり私を掴んで離さなかった。


適当に部屋を選んだ拓海はそのまま私を連れて行く。


久しぶりに再会したのにホテルに連れ込まれるなんて…。


No.20 13/03/06 21:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

お金あるのかな…。


拓海が選んだのはアジアンテイストな部屋だった。

拓海は髪が黒くなっていた。

ちょっと冷めたような目つきは変わっていない。

「拓海君は、今日バイトはないの?。」


「ん?バイト?。あぁ…まぁ入ってるけど、別に休んでもいいかなぁ~なんて。」


「どうして?、大丈夫なの?。」


「別に働かなくても食わしてもらえるし。」


「どんな関係なの?。そんな女の人っているんだね。」


「寂しいからひとりでいたくないらしいよ。」


「拓海君は…、誰でも抱けるの?。」


「えっ?。」


「あっ…いや、その女の人を好きならいいの。」

「あんま気になんないかも。」




やっぱり彼の事はよくわからないと思った…。

No.21 13/03/06 21:20
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「ちぃちゃんは、あのハーフみたいな奴とまだ付き合ってんの?。」


「ハーフ?。ハーフって…あぁ。」



翔太だ。



「付き合ってるのかな…。何とも言えないかな…。」


「また振り回してんの?」


「振り回す?。」



「女って怖いよな。何考えてんのかマジでわかんねーし。」



「必ず誰かひとりを好きでいなきゃだめなのかな?。」



「どうだかねぇ…。あんま気分いいもんじゃないよな…。」



ソファに腰掛けながら拓海と話をした。


拓海はタバコをふかしボーッとどこか一点をみつめている…。


少女漫画に出てくるような綺麗な顔だ。


「ちぃちゃん。」


「何?。」



「…いや。会えて嬉しいな…。」


「・・・・・・・・・・・・・。」



拓海の体には引っ掻き傷のようなものがたくさんあった。



「どうしたのこれ?ひどい…。」



「あぁ…。ちょっと変わった女なんだよね。」


「痛くないの?。」


「痛くないけどずっと消えないんだ。」


傷は全身にあった…。


「どうして一緒にいるの?。別れられないの?。」


「俺もひとりになりたくないしね。」



心の闇は深いと思った。

No.22 13/03/06 21:29
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

拓海は私に甘えてきた。

拓海をほっとけなかった。

拓海を優しく抱き締めて髪を撫でた。


「すげー落ち着くんだけど…。」


「私も…。なんか落ち着く。」



「たまに会ってくれる?。」


「うん。」



拓海の携帯は終始鳴りっぱなしだった。


あまりのしつこさに恐怖さえ覚えた。


拓海をかくまう女の人ってどんな人なんだろう。


No.23 13/03/06 21:37
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

拓海とセックスはしなかった。

ただ一緒にいるだけだった。


支払いは私が済ませた。


「じゃあね、ちぃちゃん。」


「うん…。何かあったら連絡してね。」


ホテルの前で別れた。


拓海はどこに向かったのだろう。


バイト先かな…。

女のとこかな…。



私も駅に向かった。



明日また出直してライヴを見に来よう。



帰り道も拓海がずっと気がかりだった。

No.24 13/03/06 23:02
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

頭の中は今日あった出来事でいっぱいだった…。

母さんに小言を言われても、さほど前より気にならなくなった。


あの場所で歌ってお金を貰う。

そして実家を出て梨華と暮らすんだ。


目標が出来た。


早く実家を出たい。


No.25 13/03/10 23:34
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翌日は梨華の参観日だった。


教室の後ろの隅に立っていると梨華が私に気付いた。


授業は国語だった。


終わってからの学年懇談会では卒業式の説明や謝恩会などの話があった。

なるだけ謝恩会も出なきゃな…。


仕事との時間調整を考えたら、卒業式が終わってからの方がいいような気もした。


周りはほとんど知らないお母さんばかりだ。


深雪ちゃんのお母さんを探せなかった私は少し心細かった。

No.26 13/03/10 23:41
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「梨華ちゃんのお母さん?」


説明会が終わって帰ろうとすると声を掛けられた。

「あっ…、こんにちは。」


深雪ちゃんのお母さんだった。


「どこに座ってました?」

「前に居ました(笑)。」

「全然わからなかったです(笑)。」


「お変わりないですか?なんか凄く久しぶりですね。」


「色々ありましたけどなんとか…(笑)。」


「深雪と梨華ちゃん二人で先に帰ったみたいですね。」



深雪ちゃんのお母さんは以前より明るくハキハキしていた。


「元気そうですね。体調もいいですか?。」


「おかげさまで…。あの…、実は主人内示が出まして秋田に戻って来ることになったんです。」

No.27 13/03/10 23:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私と深雪ちゃんのお母さんは廊下で少し話をした。

「そうなんですか?、それは良かったですね。」

「私、うちの姑と合わなくてそれでも今までずっと耐えてきたんですけど、思い切って主人に三人で暮らせないかなって話してみたんです。」


「ご主人は何て?。」


「あまりいい顔はしませんでしたけど、近くに住む事を条件にいいよって言ってくれました。」


「本当に…。それは良かったですね…。」


「私も姑には苦労したから…、なんかほっとしました。」


「ありがとう。」


「中学は勿論一緒なので少し家離れますけど今までみたいに梨華ちゃんと一緒に行ったり出来れば嬉しいです。」


「勿論です。宜しくお願いします。」



帰りは歩きのつもりでいたけど、深雪ちゃんのお母さんが車に乗せてくれた。



「ありがとうございます。助かりました。」


「ではまた~。」




深雪ちゃんのお母さんはニコニコ嬉しそうだった。


姑との同居生活がよほど辛かったのだろう。



No.28 13/03/11 00:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

最終の駅行きのバスの時間を見て帰った。


今日ステージを見に行けたらいいな…。


なるべく足を運ぶように宮内さんに言われ、時間があるなら店に通いたいと思った。


たとえ8時からのステージが間に合わなくてもその後のステージを見れたらいい…。



とりあえず私はみんなと夕飯を済ませ、片付けをして梨華が寝るまでは出なかった。


気持ちは行きたくても9時を過ぎるとさすがにそれからはタクシーを呼んで行くのが億劫になってくる。


化粧をして着替えて出るのが面倒だ。


迷っていると突然拓海から電話が来た。

No.29 13/03/11 00:21
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「もしもしちぃちゃん。」

「もしもし…。拓海君?、どうした?。」


「今話せる?。」

「いいよ。拓海君は話せるの?。」


「うん。今一人だから。」

「仕事に行ったの?、彼女。」


「うん。2時くらいまでは帰って来ないからゆっくり出来る。」


「きのうはあれからどうしたの?。」


「ん?、あぁ…。結局バイトさぼってパチンコ行った。」


「そっか…。」


「俺さぁ…、本当はこんな生活やなんだ…。いつもあいつに振り回されてこっから出られなくてさ。」


「どうして今の生活になったの?。」


「たまたま前のバイト先であいつ働いてて、そっから付き合い始めたんだ。」


「好きだったから付き合ったんだよね?。」


「う~ん、どうなんだかね。よくわかんない。ただ俺そん時金なかったしアパートも家賃滞納してたから出なきゃなくて住むとこなかったからね。あいつさ、いちいちうるさいんだよ。茶碗洗っといてとか洗濯たたんどいてとかさ。」



「やってないと怒る?」

「うん…。すげーキレる。そうなるとあいつが満足するまでやんなきゃない。」


「何を?。」


「ん…?。セックス…。」


「まるで彼女の言いなりだね…。」



「情けねーよな。」



「別れたら?。」


「そうしたいけど、あいつに金借りてるし返すまでは別れないって。」


No.30 13/03/11 00:26
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

拓海の彼女ってどんな人なんだろ…。


拓海はキャッチが入ったからと言って電話を切った。


出ないと浮気してると疑われるようだ。


私の存在がばれたらまずいはず…。


拓海には履歴は削除するように念を押した。


9時半を過ぎて私は今夜は行くのをやめた。



拓海が気になって仕方なかった。


今夜は彼女からどんな仕打ちを受けるのだろう。


前はあんな拓海じゃなかったのに…。


No.31 13/03/11 00:35
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

土曜日…。


やることをちゃんと終わらせた。


部屋の掃除もして家族の朝昼夜のご飯を作った。


母さんから外出許可をもらい、私はあの店に向かった。


今日はカジュアルな格好だ。


歌を録音するためにレコーダーを持った。


本当はダメなんだろうけど覚えるには必要不可欠だった。



宮内さんに電話を入れて8時からのステージを見ることが出来た。


ステージ衣装に着替えたメンバーがスタンバイをした。


女性ヴォーカルはふりふりのワンピースとウェスタンの衣装を着ていた。

お客さんは3組だ。


私はカウンターの椅子に座ってステージを見学した。

No.32 13/03/11 00:38
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

気付かれないように録音をした。


女性ヴォーカルは合間合間のMCも上手かった。


常連のお客さんと初めてのお客さんをうまくのせていた。


どこかで聞いた懐かしい音楽に私はすっかり酔いしれてしまった。


あっというまにステージが終わり、30分の休憩時間になった。

No.33 13/03/11 00:45
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

宮内さんに呼ばれ、私はバンドメンバーの楽屋に案内された。


「いいんですか?。」


「入って。」


「失礼します。」


メンバーはタバコを吸ったり携帯を見たりしていた。


「祥子の代わりに今度からステージにあがるナギだから。みんな可愛がってやってな。」



「・・・・・・・。」



無反応が怖かった。



「宮内さん?、あたしが教えるの?。」


祥子らしき人がきつい口調で言った。


「あぁ頼むな。」


「経験あるの?。」


「なし。だから1から教えてやって。」



かったるそうな表情の祥子は私と目を合わせなかった。


No.34 13/03/11 00:49
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

ステージではあんなにニコニコして可愛いキャラの祥子だったのに、楽屋では全くの別人だった。

もう一人の女性ヴォーカルが私に話しかけてきた。

「覚えんの大変だよー。祥子さんの歌難しいのばかりだし、最低10曲は出来ないとステージ回んないからね。」



「はい…。わかりました。」


誰も優しい言葉をかけてくれるメンバーは居なかった。

No.35 13/03/11 19:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は軽くお辞儀をして早々に楽屋を出た。

カウンター席に戻って曲のレパートリーを見たり した。


宮内さんが隣に座った。

「色々大変だと思うけど、お金もらうって事は楽じゃないからな。ナギも歌って客からお金もらうわけだから、一生懸命やってな。ナギの頑張り次第でステージにあげるから…。」



「はい…。」




今から歌詞を覚えたり、振り付けを覚えたりするのが自信なかった。


でもこんな私を宮内さんがスカウトしてくれた事が嬉しかった。


No.36 13/03/16 22:38
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「ステージ上がるの?。」

宮内さんが席を外した時お酒を作りながら音響をやっている男の人に話しかけられた。


「あっ…はい。上がれるようになりたいです。」

「顔良くても実力ないとメンバーから相手にされないよ。」



グサッときた。


顔がいいなんて思ってもいない。


そんな甘い考えなんかしてない。


「何か飲む?。」


「いいえ。いらないです。」



次のステージの時間になってメンバーがスタンバイに入った。


お客さんは5組になった。

男性ヴォーカルのバラードからステージは始まった。


どこでコーラスが入るのか、どのタイミングでステップをするのか細かくメモを取った。

No.37 13/03/16 22:44
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

このステージが終わったら今日は帰ろう。


しばらく連絡をしていなかった翔太からまたメールが来ていた。


“ちぃ今日会えないか?。話したい。”


“少しならいいよ。今駅前にいるから来れないかな?。”


“わかった。これから行くよ。”


翔太と待ち合わせをした。

話って何だろう。



今日もレコーダーにはたくさんの曲をおとす事が出来た。


メモも3ページ分書いた。

あまり時間がないから早く覚えなければ…。

No.38 13/03/16 23:04
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翔太とファミレスで待ち合わせをした。


私の方が早く着いて翔太がくるまでレコーダーを聞いていた。


祥子の歌を中心に聞いた。


翔太が来たことに気がつかず、肩を叩かれようやくわかった。


「何聞いてんの?、珍しいな。」


「あぁ、ちょっとね。」

「何か用事あって出てきたのか?。」


「うん。」


「何か話あった?。」


「ちぃ…。」


「何?。」


「俺達ってどんな関係なんだろ。」


「えっ…。あぁ…そうだね…、なんて言ったらいいのかな。」


「はっきりさせようよ。」


「そう…だね…。」


まともに顔が見れない。

No.39 13/03/17 05:39
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

>> 38 「何か食べる?。コーヒーとかは?。」


とりあえず切り出した。

「翔太来るまで何も頼んでなかったから、とりあえず飲み物頼も?。」


「あぁ…そうだな。じゃあコーヒーでいいよ。」

ボタンを押して店員を呼んだ。


「この前は悪かったね。剛志さんちには行ったの?。」


「うん。仁美さんちぃも来ると思ってたみたいでがっかりしてたけどな。」


「ごめんね。」


「ちぃ…、ひとつ聞いていいか?。」


「なに?。」


「俺の事好きか?。」



翔太は冷たい目で私を見た。

見下したような呆れたような何とも言えない目だった。


「わからない。今仕事をきちんとしなきゃって思ってて、あまり考えられないんだ。」

No.40 13/03/17 05:48
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翔太はしばらく黙っていた。


「はっきりしなくちゃいけないのかな…。」


「あのさぁ…ちぃは何人いんの?。」


「えっ?。」


「何人と付き合ってんだよ。」


翔太が怒り出した。


「いないよ。特定の人なんて…。」


「俺みたいな奴がゴロゴロいんの?。」


「ゴロゴロって…、そんなわけないじゃん。」


「翔太さ、あまり私に固執しないでくれるかな?。」


「はっ?。」


「私あまり縛られるの好きじゃない。」


「俺ちぃの事縛ってる?。」


「う~ん…。縛ってるっていうか、今は翔太の相手が出来ないから、それに対してどうなのとか好きなのとか聞かれるとちょっと困る。」


No.41 13/03/17 05:57
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「今は向き合えないの。自分の事でいっぱいだから。」


「俺はさ、ちぃが好きで美砂と別れたんだ。確かにあいつの借金が嫌で別れたのも理由だよ。でも今ちぃとこうなるなんて思ってなかったし、フリー同士堂々と付き合えると思ったよ。」


「うん…。確かにそうだったね。でもあの時とは状況も変わってきてるの。今はなかなか翔太に会う時間もないし、寂しい思いさせてるなら無理に付き合ってなくていい。」



私ははっきり伝えた。


翔太がしつこいと感じたくらいだった。


「わかった…。もう連絡しないから。」



そう言って翔太はコーヒーに口も付けずに居なくなった。

No.42 13/03/17 06:05
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

男と女って面倒だ。

もう恋愛の駆け引きとかどうでもいい。

翔太の事はもうきっと好きじゃなくなっていた。
優しくて頼りがいがあって、私を不安にさせたりしなかったし、彼氏には最高な人だと分かっていたけど。


きっと私には物足りなかった。


でもそれを認めたくなかったし、傷つけたくなかった。


はっきり好きじゃないからなんて言えない。


No.43 13/03/17 06:16
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

コーヒーを飲みながら少しだけファミレスで過ごし、タクシーを捕まえようと外に出た。


ぽつりぽつりとしかタクシーが見当たらない。


しかも乗車だ。


私は少し歩いてタクシーを探した。


「あれ、ちぃちゃん?。」


拓海に会った。



「何してるの?。バイトの帰り?。」


「じゃないけど、今から彼女迎え行くんだ。」


「歩いて迎え?。」


「車ないしね(笑)。」

「近いの?。」


「うん。そろそろ終わる頃だよ。」


「気をつけてね。」


「ちぃちゃんもね。」


拓海はフードをかぶり少し足早に去った。


迎えに来させるなんてどんな人なんだろ。


気になった…。



尾行したりするのは卑怯だし、やっては行けないと思った。



でも知りたかった…。

No.44 13/03/17 06:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

拓海に気づかれないように距離を置いて歩いた。

拓海はコンビニの前で立ち止まりタバコに火をつけた。


私は隠れる場所がなくて焦りながら手前の通りに身を潜めた。


他の人に怪しまれないように出来るだけ普通にした。


彼女が来るのだろうか。

拓海は青白い顔をしていた。

色白だけどちょっと顔色が悪そうに見えた。


ご飯食べてないのかな。

遠くを見るような眼差しがいつも私には気になった。


いきいきとした昔の拓海ではない。


ちらちら拓海を見ては隠れるを繰り返していると彼女らしき人が現れた。

「お疲れ。」

「ただいまぁ~。遅くなってごめんね。最後の客なかなか帰んなくて。」

二人は手を繋いでこちらに向かって歩き出した。

慌てて隠れる。


心臓がバクバクいった。

彼女らしき人の姿を見て私は目を疑った。


間違いであって欲しかった。


きっと人違いだ。


「たくぅ?、ラーメン食べたい。」


「ラーメン?。しょこちゃん本当ラーメン好きだね。この前食ったじゃん。」


二人が通り過ぎると私は逆方向に向かって歩き出した。


仲良そうな二人だった。

あの人あんな風に可愛い声が出るんだ。


拓海の体に引っ掻き傷を付けたり…、気に入らない事があればセックスで満たしたり…。



皮肉にも拓海の彼女は祥子だった。

No.45 13/03/17 07:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私はショックだった。

拓海の彼女だと分かってどうやって店に行けばいいのだろう。


せっかく見つけたのに…。

この仕事を頑張るって決めたとこだったのに…。

祥子はいづれ店を辞めたら拓海と結婚するのかな。

何で店を辞めるんだろ。

悔しいようなやり場のない怒りでグチャグチャな感情が湧いていた。


神様は私が何かを始めようとすると必ず行く手を阻むんだ。


やっと歩き出したのに…。


泣きながらしばらく歩いた。



やっぱり私は何をやってもうまく行かない。



このまま死んじゃいたい。

No.46 13/03/17 07:32
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

酒に走る訳じゃないけどそのまま家に帰りたくなかった。


「もしもし翔太。さっきはごめん。あのさぁ、迎えきて?。」



自分が何をしているのかわからなかった。



翔太は断ってきたけど一方的に電話を切った尋常じゃない私を心配したのか迎えに来てくれた。



「どうしたの?、別れたいって言ったのに。彼氏にふられたか?。」


「翔太、ホテル行かない?。」

「何で?。」


恥だと思った。


でも現実を受け止められずにいた。


「何も聞かないで。」


私は翔太に抱かれることで一瞬でもさっきあった事を忘れたかった。


ホテルにつくなり翔太に自らキスをした。


「ちぃ、シャワー浴びなくていいの?。」


「翔太抱いて。」


「何だよ、訳わかんねぇな(笑)。」


私は自ら服を脱いだ。


「翔太触って…。」


翔太の長い指を私の秘部へ持って行く…。


「あっ…💦。」


「どうしてほしい?。」

「もっと…もっと弄って…。」


「こう?。」

「うん…。気持ちいい。あっ…💦。翔太っ…。」

翔太の前で脚を広げて自ら求めた。


「いつからしてないの?」

「翔太としてからしてないよ。」


翔太はわざと音を立てながら指や唇で愛撫した。

下半身が疼いてたまらない…。


「ちぃ俺のも触って?。」


体を交互にして私達は互いに愛した。


拓海もこんな風に祥子にするのかな…。


嫉妬をするだびに翔太にされることで癒やしてもらっていた。


「お前はどうしようもない馬鹿な女だな。別れたらセックスしたくても出来ないよ?。」


翔太に馬鹿にされても構わなかった。

No.47 13/03/19 23:28
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翔太の舌は温かい…。


色んな私を知っているから、翔太となら何も苦労はしないのに…。


拓海…?。


祥子と私とどっちがいい?。


私なら拓海をいっぱい包んであげるのに…。


翔太に抱かれながら頭の中は拓海の事を想っては切なくなった。


今私の中に入っているのが拓海なら…。



翔太は気付いていたのかな…。


どこか機械的だった。


No.48 13/03/19 23:54
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「翔太…、どうして抱いてくれるの?。」


「どうして?。どうしてかな…。」


「あぁっ…。もっと突いて…。」


「ちぃが好きだからだよ。」


「嬉しいな…💦。こんな女なのに好きなんだ…?。」


「そんなに締め付けたらだめだよちぃ…。」


「だって…凄くいいんだもん。奥まで当たってるっ💦💦。」


「ちぃの彼氏とどっちがいい?。」


「翔太かも…💦。」



翔太は今度は私を寝かせ覆い被さると、自ら腰を激しく振ってきた…。



「ちぃは俺のものだよ。」


No.49 13/03/20 00:04
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

明け方ホテルを出た。


まだ外は薄暗い…。


セックス疲れで眠かった。


「なんか買うか?」


気づいたら車で寝ていた。

目を開けるとコンビニの駐車場だった。


「うん。」


翔太は迷わず缶コーヒーとタバコを買った。


私はレジ横のホットレモンを買った。


「また現実が始まるね。」


「そうだね。嫌だ?。」

「うん。」

No.50 13/03/23 00:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「吸うか?」


「ありがと…。でもやめとくね。」


「禁煙してるの?」


「うん…。なるべくね。」


「ちぃは謎が多いな…わからない事だらけだよ。」


翔太はため息をついた。


「ごめんね。振り回して最低だよね私。」


「まぁ…いいさ。そんなんでもお前好きだから。」


「翔太…。」


「家帰ったらちゃんと寝ろよ。」


「翔太これから魚市場だよね?、ごめんね、こんな遅くまで…。」



「あぁ…。いや、いいんだ。ちぃには言ってなかったけど、もう俺んち寿司屋閉めるんだ。」



「えっ?、そうなの?」

「お父さんが決めたの?。」


「うん。親父と話し合って決めたんだ。」

No.51 13/03/23 00:11
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「そんな事になってたんだね…。」


「まぁな…。やっぱ儲かんないよ。こんな田舎だし。」


「もう翔太の握るお寿司食べられないんだね。」


翔太は何とも言えない笑みを浮かべた。



「俺もわかんねーよ、これからどうすればいいかなんてさ。」


私達はしばらく無言のままだった…。


No.52 13/03/23 00:45
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「ごめんね…、私何も知らなかった…。」


「しばらく会ってなかったからな…。」


「次の仕事…、考えてた?。」


「だからさ…。参ったよ。仕事見つけなきゃな。俺が親父とお袋面倒見なきゃないしな。」


「そういう事になるんだね…。」


「実はさ、うちも兄さんがこの前言ってきたんだけど…。」


「ちぃのお兄さん?。あれ、家に居るんだっけ?。」


「うん…そうなの。それで、結婚するから私に出てけって…。」


「マジかよ…。」


翔太は困惑した。

No.53 13/03/23 00:51
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「当然梨華ちゃんもだよな…。」

「うん。だからマジで本当にやばくて私も仕事始めて家出なきゃないんだ。」


「でもそんなすぐには無理だろ…。アパートの敷金だってないんだろ?。」


「うん。厳しいかも…。私仕事続いたためしないし、お金なんてないよ。」



辺りはすっかり明るくなり、私達はとりあえずコンビニの駐車場を出た。

No.54 13/03/23 00:58
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

お互い仕事が決まって落ち着いたら連絡をしようということになった。


家に着くと案の定母さんに怒られた。


「いい加減にしなさいよ。朝帰りなんてみっともないからやめて。」


何も言い返せず、ただ二階に上がった。


兄さんの冷たい視線…。


梨華の無視。



もう少ししたら出てくから。


梨華もこのままここに居ればいいじゃん。


悲しくて悔しくて泣きたくなった。

No.55 13/03/23 01:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

昼過ぎまで私は眠り、それから洗濯機を回して乾いた洗濯物をたたみ、シャワーをした。


台所に行きご飯を温めて鍋にあった肉じゃがをおかずに食べた。


誰とも口をきかないまま支度をして家を出た。


今日も祥子を見て勉強だ。

かろうじて覚えた曲を丁寧にノートに書き写したものを持参した。


今日その曲のリクエストがなければ歌は聞けない。

No.56 13/03/24 00:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

その日祥子は凄く機嫌が悪そうだった。

挨拶をしても返してくれなかった。


拓海と何かあったのだろうか…。


にしても仕事にプライベートを持ち込むのは良くないと、祥子を少し見下してしまった。


1回目のステージは客が来なくて流れた。


宮内さんは仕事で関東らしく、今日は居なかった。

まだメンバーとコミュニケーションも取れていなかったから、話し相手は居なかった。


探しても見つからない曲の歌詞や音があった。

それを祥子から借りなければ覚えられなかった。

でも話しかけずらい。


よりによって今日は機嫌が悪そうだ。


しきりに携帯をいじっている…。


「ったく…、どこ行ってんのよ。」


独り言はしっかり聞こえていた。


タバコをふかしながらぶつぶつ言っている。

No.57 13/03/24 00:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

仕事は仕事だ。


怖がっているばかりじゃ駄目だ。


「祥子さん…。」


「ん、何?。」


「あの…、どこ探してもこの曲とこの曲が見つからなくて、良かったら音と歌詞を借していただけないでしょうか。」


「これは古い曲だから歌詞ないの。だから耳コピして…。あとこっちは歌詞なら楽屋にあるし、CDは明日持って来るから。」


怒っていたけど意外に親切だ。


「ありがとうございます。」


祥子が歌詞を見せてくれたものは彼女が手書きしたものだった。

No.58 13/03/24 00:32
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「あとわかんないのある?。」


「あっ、あのデュエットの曲はどれとどれですか?。」


「あたしはこれとこれ沢地くんと歌ってる。」


沢地くんとは男性ヴォーカルだ。


「キー高いから1こ下げてるよ。ナギさんは高いの出る?。」



“ナギさん”


祥子が初めて名前を呼んだ。


「あまり高いのは出ないと思います。」


「今客居ないからちょっと声出ししたら?。あたしのマイク使っていいよ。」


「でも、まだ覚えてなくて…。」


「歌詞見れば歌えるのあるでしょ、とりあえず適当でいいから歌ってみたら?。」


祥子はそう言ってメンバーに声をかけてくれた。

メンバーはステージに上がってスタンバイをしてくれた。


「皆さんすみません、ありがとうございます。」

No.59 13/03/24 00:42
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「はい!。」


祥子が私に自分のマイクを渡した。


四角で銀色のマイクはとても重かった。


「このマイク使ったことあるかないかわかんないけど上のこの部分しか声拾わないから。ちょっと声出してみて?。」


「あっ…、あーっ。」


マイクを通して私の声がライブハウスに響いた。

「いいじゃん。そうそう、そうやって使ってね。」


祥子がとても優しくて戸惑ってしまう。


「ちょっと見せて。」


祥子は私のノートを見た。

「これ歌ってみよっか。じゃあ○○やってくれる?。」


祥子がいきなりメンバーに言った。


「キーは?。祥子ちゃんと一緒?。」


キーボードの榎子さんが聞いてきた。


「一緒でお願いします。」


そう言うとドラムがカウントを出してその曲が始まった。


“どうしよう…めっちゃ緊張する…”


鼓動が早くなった。

No.60 13/03/24 00:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

カタカナをふった英語の歌詞をただ歌った。


早くて演奏についていけない。


歌にならない歌に沢地くんや榎子さんはコーラスを入れてくれた。


祥子は客席でじっと見ていた。


あっという間に1曲終わってしまった。


「うん…。当たり前だけど、まだ厳しいね…。ちょっと頑張って歌詞覚えて、あとステップだとか細かいとこもやんないとね…。経験なさそうだからちょっと大変かも。」


「はい。頑張って覚えます。」


2回目のステージ10分前になり、メンバーはまた楽屋に戻った。


一人一人に頭を下げた。


私の初声出しは終わった。

No.61 13/03/24 01:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

2回目のステージは5組客が入り、さっき練習した曲のリクエストがあった。


祥子は私に分かりやすいようにいつもより振り付けをオーバーにやってくれた。


私は祥子に感謝した。


嫌な女だと思った自分が恥ずかしかった。



4回目のステージが終わったあとのまかないを、厨房の方のご好意で私もメンバーと楽屋でいただいた。


「そこ座っていいよ。」

祥子に言われた場所に座らせてもらった。


メンバーの会話に加わる事はなかったけど、まかないのガーリックチャーハンとサラダが美味しかった。


「うまいでしょ。琳さんの料理最高だよ~。」


もうひとりの女性ヴォーカルが教えてくれた。

No.62 13/03/24 01:07
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

少しずつ私は店の雰囲気に慣れていった。


メンバーや店の人達の名前も覚えてきた。


最後のステージを終えてメンバーと帰り支度をした。


祥子やメンバーよりも先に帰る訳にはいかない。

私はカウンター席でみんなが出て来るのを待った。

今日は色々経験させてもらえた。


歌うって楽しいかもしれない…。


衣装を来て客の前で歌うって気持ちいいんだろうな…。


憧れの目でステージを見ていた。


「お疲れ様です。」


「お疲れー。」


メンバーが楽屋から出てきた。

No.63 13/03/24 01:16
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「何で帰んの?。」


「タクシー拾います。」

「金かかるじゃん!。毎日来てたらきつくない?。」


苦笑いを浮かべた。


「あんま無理しなくていいよ。私もすぐすぐは辞めないしさ。」


「はい。ありがとうございます。」


祥子と一緒に店を出てエレベーターに乗った。


祥子は携帯を取り出し電話をかけた。


「もしもし…たく?。どこ行ってんのよ~何回も電話したんだよ。」


祥子は私にお構いなしに拓海と会話をする。


「今どこいんの?。迎え来てよ~待ってるからさぁ…。」


一方的?に電話を切る。


「あっ、ごめんね。気にしないで。どうしようもないヒモ彼氏だから。」


エレベーターが1階に着いた。

No.64 13/03/24 01:20
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「あっ、先帰っていいよ。私彼氏待ってるから。」


「そうですか…、じゃあお先に失礼します。今日は本当に色々ありがとうございました。」


「またねぇー。」


祥子に頭を下げてビルを後にした。



今から拓海が迎えに来る。


会ってはいけない。


急がなきゃ。




“どうしようもないヒモ彼氏”



拓海…。



そんな事ないよね…。

No.65 13/03/24 01:31
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「遅刻じゃん、遅いよ。」

「ごめん。」

「たく何で電話出ないの?。」

「ごめん気づかなった。」

「あたしが仕事してんのに何やってんの?。」


「ごめん。」


「ご飯出来てる?。」


「ごめん作ってない。帰ったらすぐ作るから。」

「今から作るの?、何でちゃんとやってないわけ?。」


「本当ごめん。」




そんな会話をしたのだろうか…。



タクシーの中で思った。


今日は祥子さん優しかったよ…。


拓海君には嫌な女だね。


No.66 13/03/26 23:10
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

拓海…。

祥子さんのとこ着いたかな。



“なんかすんげー落ち着くんだけど…”


あの時の拓海の目が忘れられない。


拓海は本当は女の人に甘えたいんだよね…。


祥子さんはきっと拓海を優しく抱きしめたりとか話を聞いてあげたりとかしてない…。



拓海…。


私が守ってあげられたらいいのにね…。

No.67 13/03/26 23:21
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「たく!、遅いよ~。」
「ごめん。」

「風邪ひいたら仕事になんないっつうの。」

義務的に手を繋ぐ。

繋がないと怒るから。

「ご飯なに?」

「シチュー作った。」

「すごいじゃん。」

「風呂も沸かしといたから…。」

「ありがとう。今日新人に色々教えたから疲れたんだよねー。」


「新しい人入んの?。」
「じゃなきゃ私辞めれないし。」


「しょーこ、いつ辞めんの?。」

「その子が独り立ちしたら辞める。まぁあと1ヶ月ってとこかな。」

No.68 13/03/26 23:30
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「なんか謎なの。その子…。」

「謎?。何が?。」

「何考えてんのかわかんないし、素性を明かさないの…。そんなに若くもないんだけどさ。」


「珍しいね…、しょーこが他人にそこまで興味持つの。」


「なんか影があるのよねー。ひょっとしたらバツイチかも。」


くだらない。


人の事なんてどうだっていいだろ。



歩いて10分。


アパートは近い。


「ただいまー。いい匂いするぅ~。」


しょーこは靴も揃えない。


「たく?、お風呂一緒に入ろう?。」


「あぁ…。」



苦痛な時間が始まる。

No.69 13/03/26 23:42
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「たく?髪洗って?。」

しょーこの髪は黒くて長いから洗いにくい。


髪から体まで、いつも俺に洗わせた。


自分では顔しか洗わない。

「次、たく洗ってあげるから。」


「俺はいいよ、昼シャワーしたから。」


「あっそ。せっかく洗ってあげようとしたのに。」


「先あがるね。」


「一緒に温まろうよ~なんで~?。」




なんでこんなやつといんだろ…。



いつになったら別れられるかな…。

No.70 13/03/26 23:53
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「今日はありがとうございました。また明日お店行きます。宜しくお願いします。」


メールを見てベッドに携帯を投げた。


「誰から?。」


「新人のなぎこさーん。」


小馬鹿にした言い方だ。

「たく~?、私辞める前にステージ見に来ない?。」


「あぁ…、そうだね。」

「なんか嫌そう…。私に興味ないって感じだし。」


わかってんじゃん。



しょーこのくだらない話を聞きながらシチューを食べた。


No.71 13/03/27 00:09
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

祥子は気付いてないけど俺はため息ばかりついていた。


ここで何やってんだろ。

ちぃちゃんに会いてーな…。


ベランダでタバコを吸っている時だけが至福の時だった。


「たく~、寝るよ~。」


勝手に寝ろよ。



連日腕枕をせがまれた。

勝手にパジャマを脱いで誘ってくる。


「たく?、いい?。」


「ごめんちょっと腹痛いから無理。」


「嘘ばっかり…。最近全然してくれない。」


背中を向けた瞬間祥子は思い切り背中を引っ掻いてきた。


「いてーだろ。なにすんだよ。」


「言うこと聞けよ。居候のくせに。」



「悪かったな。いつでも出てってやるよ。」


「金もないくせに。」




祥子を抱かなくて済んだ。


ちぃちゃん…。


好きだよ…。



ちぃちゃんの顔を思い浮かべながら目を閉じた。

No.72 13/03/27 00:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

祥子が寝付いてからひとりでコンビニに向かった。


漫画を立ち読みして時間を潰した。



ちぃちゃん寝たかな。


話がしたかった。



“寝た?”


メールを送った。


“起きてるよ。どうしたの?”

すぐに返事がきた。


“少しだけ話せる?”


“いいよ。かけても平気?。”


“うん。”


ちぃちゃんは彼女が居るからと気を遣ってくれていた。


No.73 13/03/27 00:27
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「もしもし、拓海君?」
「ちぃちゃん、すげー声ききたかったよ。」

「どうしたの?、何かあった?。」

「もう俺無理だよ。あいつと別れたい。」


「どうして?。彼女と喧嘩でもした?。」


「もう本当無理。明日にでも出よっかな。」


拓海は限界のようだ。


「ちぃちゃん、会いたいよ…。」


「わかった…。とりあえず落ち着いて、今日は戻りなさい。明日彼女に別れたいって言ってみて?。」


「無理に決まってんじゃん。別れないって。」


「今どこ?」


「コンビニ。」


「風邪ひくといけないよ。今日は我慢して帰って…ねっ?。」


「そっか。ちぃちゃん実家なんだもんね。ごめんね。」



その後電話は切れてしまった。


かけ直しても留守電になった。


拓海に悪いことしちゃったかな…。


No.74 13/03/31 23:18
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

それからしばらく拓海と連絡が取れなくなった。


居ても立ってもいられず、あの電話を切った事をひどく後悔した。


祥子は仕事を休まずに来ていた。


拓海の事をどうにかして知りたいと、もどかしさでいっぱいになった。


常に彼女の会話に聞き耳を立てていた。


返事は来なくても電話が繋がらなくてもメールは送り続けていた。


どうか…、どうか無事でいて。

今度会えたら抱き締めるね…。


私の中からいつの間にか昌仁や翔太の存在が薄れていった。



祥子が付けていたネックレスが拓海と同じだった…。


それが分かった瞬間物凄く嫉妬し、そして拓海に惚れてると気付いた。



No.75 13/03/31 23:32
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「曲覚えた?。」


カウンター席で考え事をしていると沢地さんが話し掛けてきた。


「はい…、なんとか祥子さんのは覚えたんですけど、まだMCとかは全く無理で…。」


沢地さんは体も割とがっしりしていて日焼けをしていてサーファー系だ。


垂れ目がなんとなく癒し系だ。

「早く一緒にステージ上がろうね。頑張って。」


そう言うとタバコを吸いながら携帯をいじり始めた。



最近私は帰りが遅くなっていた。
母さんの目も厳しくて家を追い出されそうだった。


今日はもう帰ろうかな…。



席を立った時にちょうど宮内さんが店に顔を出した。


「ナギ来てたのか。偉い偉い。」

「はい…。」


「今日はラストまで居るか?」

「すみません、今日はこれで失礼してもいいですか?。」


「了解…。なんか顔が疲れてるからゆっくり休んでな。」


「ありがとうございます。」


そう言うと私は楽屋にも顔を出して挨拶をして店を出た。

No.76 13/03/31 23:44
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

店を出てすぐ私はまたダメもとで拓海に電話をした。


プルルル…。


電話が繋がった。



「もしもし…。」


かすれた声で拓海が電話に出た。


「もしもし?私。今どこ?。」


「ちぃちゃん…?。」


「もしもし?大丈夫なの?。この前はごめんね。」


「ひさびさだな…ちぃちゃんの声きくの。」


「ねっ、今どこ?。」


エレベーターを使わずに階段で下に降りた。



「今ね、店長のとこにいる。」

「店長?、店長ってラーメン屋の店長?。」



「わかる?。今からちぃちゃんも来ない?。」


「えっ…。」



拓海の居場所が分かってほっとしたけど、ずっと会っていない人に会うのは抵抗があった。

「ごめん遠慮するね。ねぇ拓海君、しょっ…、あっ…、じゃなくて彼女のとこには帰らないの?。」



「彼女のとこ?。なんで?。」

「いや…、別れられたのかな…なんて思って。」



「別れたよ。」

No.77 13/03/31 23:51
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「えっ…、本当に?。」


「うん。」


「彼女、わかってくれたんだ…。」


「俺ね、はっきり女いるから別れてって言ったの…、泣かれたけどね…。」



祥子は普段と変わりなかった。

まさか別れたとは思わなかった。


「ちぃちゃん…、好きだよ。」

「やだ、店長いるんでしょ。」

「寝てっから心配ないって。」

「お酒飲んでるの?。」


「うん。」




なぜか私は少し冷めた…。

No.78 13/04/01 00:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「またね…。」


電話を切るとタクシーに乗った。


男と女はわからない。


二人が簡単に別れられた事をなぜか素直に喜べなかった。



“ちぃちゃん、一緒に寝たいな…”

拓海からメールだった。



拓海はやっぱりまだ考えが幼いのだろうか。


私がおかしいのかな…。



No.79 13/04/01 00:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

それから数日後…。


宮内さんから祥子はしばらくまだ店を辞めないと連絡が入った。


拓海と別れたからなのだろうか…。


“ナギが気が向いた時でいいからまた見に来てな…”



今は必要なくなったって事か。


悲しいを通り越し、悔し涙も出ない。



誰にも怒りをぶつけれない。


理由を聞かなくとも私はなんでこうなったかわかっていた。



神様なんかいない。



私には味方になってくれるものなんかない。




やっと、やっと何か出来そうな事をみつけたのに…。

No.80 13/04/01 00:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

誰かと話をしたかった。


何も私の近況を知らない昌仁に突然電話をした。



「もしもし。」


「あきひと?、あたし。」


「久しぶりだなー、元気か?」

「うん、元気だよ。あきひとは?。」


「なんとかやってるよー。なんも変わってない。急に電話してきてなんかあったのか?。」


「なんもないよ。ただちょっと寂しくなったから。」


「なんだ?、カレシとうまくいってないのかー?。」


「カレシなんかいないって。」

「あきひとにそんな事言っては駄目だ。」



「・・・・・・。」



「もしもし?千鶴、聞こえるか。」



「あきひと…。」



「なに?。」



「会いに行っていい?。」

No.81 13/04/01 00:21
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

こらえていたものが溢れ出した。


「千鶴泣いてんのか?、おいおいどうした?大丈夫かよ。」


あきひとの優しさに益々泣けてきた。



「いいよ。おいで。」



「ありがと…。あきひとありがと…。」




私にはやっぱりこの人なのだろうか…。


この人にしか甘えられないのだろうか…。



一週間部屋にこもり死ぬほど考えた。





“梨華をお願いします”




母さんに置き手紙を残し、私は家を出た。



No.82 13/04/01 00:40
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

お金は底をついていた。


梨華のために取っておいたお金を使い、高速バスで東京に向かった。


小さな旅行カバンに財布と携帯と化粧品と時計。


あと少しの洋服と手帳を入れた。


今の私には梨華を育てていけるだけの力がない。


梨華を連れ戻した事は間違いだった。



母さんごめんね…。


私やっぱり駄目だ…。


母親やれないね…。



梨華ごめんね。



何もしてやれないねお母さん。



梨華に声をかけずに黙っていなくなった。



二回も同じ事をした。



逃げる事しか頭になかった。


誰もあきひとの連絡先を知らない。


秋田を離れたかった。




No.83 13/04/01 00:58
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

バスは夜が明けてから東京に着いた。



久しぶりの東京。



いつ以来だろう…。



「あきひとおはよう。今着いたよ。」


「遠かっただろ…、疲れたね。高速バス着くとこ今探して歩いてたからもう少し待ってて。」


「うん。」



あきひとに会える…。



半分泣いていた。


いっぱい甘えたい。


涙枯れるまで泣かせてほしい。




遠くで私に手を振る人がいた。

駆け足で私に向かってくる。


あきひとかな。




あっ、あきひとだ。



私も手を振る。




「千鶴~、お待たせ。」


朝から爽やかだ。


「あきひと花粉症なの?、またマスクだね(笑)。」


「今年花粉すげーんだよ、マジできついって。」


「なんだ、千鶴またやつれたな…(笑)。」



あきひとを見上げる目が涙でいっぱいだった。


「泣くな。もう大丈夫だよ…、お帰り。よく頑張ったな…。もう何も考えるな…。」



そう言ってあきひとは私を抱き寄せた。

No.84 13/04/01 01:10
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「俺今日年休取ったから休みなんだ…。ずっと一緒にいるからね。」


「うん…。」


あきひとの手は温かい。


「メガネかけてないね。見えるの?。」


「今コンタクト入れてる。マスク曇るしな(笑)。荷物かして?、持つよ。」


「いいの?。ありがとう。」

「なんだ、やたら軽いな。覚悟を決めて来た割には(笑)。」


私が涙でぐしゃぐしゃだったから、電車を使わずにタクシーであきひとの家まで直行した。


「懐かしい…。」


「だろ?。また千鶴連れてこれて嬉しいよ。」



早くあきひとと二人きりになりたかった。


タクシーの中でもずっと手を握りあっていた。



「買い物はきのうのうちにやっといたから大丈夫。部屋も掃除したよ(笑)。」


「わざわざありがとう。いつも通りでいいのに。」



あきひとのアパートに着いた。

No.85 13/04/01 01:20
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「お隣はいるの?。」


「この前出てった。上はいるけどね。」


「どうぞ。」


「おじゃまします。」


「狭くてごめんな(笑)。」

「ハハハ(笑)、相変わらずちっちぇーな。」


「うっさい馬鹿!。」


「でも…やっぱ可愛い。千鶴…おいで。」



「やっと二人きりになれたね。」


「寂しかったんだぞ。俺は。」

「ごめん。」



狭い玄関で抱き合った。

No.86 13/04/01 01:30
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「朝飯食おうか。あきひとが作ってやる。」


「一緒に作ろう?。その方が楽しいし。」


上着を脱いだ。



「可愛いね。黒のワンピース。似合ってる。」



慌てて着て来たのは翔太がクリスマスにくれたワンピースだった。


「あきひと病院は行ってるの?。」


「いや特に行ってないよ。薬も飲んでないし。ただ毎朝血圧は測ってるよ。」


「気をつけてね。」


「うん。ありがとな。」


野菜サラダにトースト、あとポトフを作った。



「さぁ食おう。ひさびさの再会にウーロン茶で乾杯だ。」


「休みなら飲んでも平気じゃない??。」


「そしたら一日中飲み続ける事になりそうだからやめておこう(笑)。」


「二人の再会を祝って乾杯!」

「乾杯…。」

No.87 13/04/01 01:46
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「梨華ちゃんは元気か?。確かもう中学生じゃない?。」


「うん…。」


「中学生の子供が居るようには見えないなぁ~千鶴若いから。」

「あきひとの子供達は元気なの?。」


「あいつら?。うんとね~娘は元嫁の店で働いてるらしい…。息子は最近ずっと連絡取ってないけど元気なんじゃないの?」


「たまに奥さんに会うの?」


「なんで?、会わないよ。」

「あっ、ごめん。」


「なんだ?、ほら食べなきゃ。益々やせちゃうぞ。あまり痩せたら抱いても気持ちよくないからやだな(笑)。」


「痩せたかどうか確かめる?。」

「こらこら、おじさんをからかってはいけないよ(笑)。」



私はあきひとの手を自分の胸元に持っていった。



「千鶴…。」



「あきひと…。」




私は自らあきひとを求めた。

あきひとは細くて切れ長の目で私をじっと見つめた。


胸を優しく揉みながら耳元で囁く…。


「したくなっちゃった?。ん?。」


「あっ…。んっ…。」



胸の鼓動が速くなる…。


あきひとが私の耳元に舌を這わせてきた。


「あぁっっ…。」



ずっと…、ずっと一日中あきひとにしてほしい。


何も考えたくない。

No.88 13/04/01 01:51
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

ほとんど食事には手をつけなかった。


あきひとの手がじかに私の胸を触り、下半身にも手がのびる…。


ストッキングを破かれ、無理やり下着に手を入れてきた。



「凄い…、どうしたの?。」

細くて長い指で上から下になぞる。


気持ち良くて声が出る。



翔太とはまた違う、ちょっと意地悪な触り方…。


あきひとはじらすのが好きだ。

No.89 13/04/01 02:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「カレシとどっちが感じる?」

「いないよ。そんなのっ…、いないっ…。」


「いつしたの?。最近?。」

「してないってば…。」


「しょうたにしてもらったのはいつ??、答えて。」



あきひと、翔太の名前何でわかってるの…。


あっ、温泉で携帯見たから…?。


心の中で自問自答した。



「しょうたの指とあきひとの指どっちが気持ちいい?。」


あきひとは中に指を挿れてきた。

気持ち良すぎて声が出ない。


「もっと…、もっとして…。」


床に寝転がり自ら脚を開いて私はあきひとにおねだりをする。

翔太がくれたワンピースを着て…。

No.90 13/04/01 02:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「俺としちゃって平気なの?。」

「そんなこと言わないで…。」


あきひとは舌を這わせる。


「千鶴はいけない子だな…。あきひとがお仕置きしないとね。」


「あきひとは…。あきひとはしてないの?。」


「ん?、どうかなぁ…。内緒。」


私にだけしてほしい…。



「ベッドいこう…。床は冷たいから。」


あきひとはお姫様抱っこで私をベッドに運んだ。


No.91 13/04/01 02:29
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「ここもっとお肉あったのになくなったね(笑)、つまめないよ。」


裸で触れ合いながら会話をするのは妙にいやらしい。


あきひとは少し汗ばんでいた。

脚を絡めたり抱き締めあったり私達は肌の感触を味わった。

あきひとは私の下半身に自分のをこすりつけてきた…。



「こんなになったのひさびさかも。」



誰かとしたのかな…。



「そろそろいい?、我慢出来なくなってきた。」


「うん…。」


あきひとのも愛した。


ちょっと苦しそうな切ない声で感じている様子をみて嬉しくなる。


「なんでこんなにうまいの千鶴って…。」


上から私を見下ろし髪を撫でる。


背が高いあきひとのをするのは小さい私にはちょっと苦しかった。


「もっと俺見て…。そう…。」

あきひとがいいと言うまで私は続けた。


顎が外れそうになった。



「千鶴…好きだよ。」



あきひとが私の中に入った瞬間…、頭の中は真っ白になった。

用意周到なあきひとの部屋にはちゃんと用意してあった。


いつでも女の子を抱けるようにしているんだと思うと嫉妬した。


No.92 13/04/05 08:45
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「やっぱ千鶴が一番いいかも。」


「一番て…、誰と比べてるの?。」


あきひとは私の問いかけに答えずに腰を振り続けた…。


「千鶴気持ちいい?、ん?。」

「うんっ…。」



ベッドをギシギシさせながら私達は久しぶりの互いの感触を味わった。



心の中は罪悪感でいっぱいだ。


今まであった事をなかった事にしたい。



これから私はどうしよう。



「千鶴…、もうどこにも行くなよ。あきひとのそばに居ろよ。」


「うん…。」



もう起こしてしまった事を今更悔やんでも仕方ない。

No.93 13/04/05 08:57
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

目を覚ますと電気が点いていた。

“あれ?ここって…どこ?”


周りを見回すと男の人の部屋。

「よく寝たか?。」


「あきひと…。」


「鼾かいてたぞ(笑)。」


「うそ…っ、恥ずかしい。」




そうか。私はあきひとの所に来たんだ。



「よっぽど辛い事でもあったのか?。寝言言ってたぞ…。やめてっ、そうじゃないのとかって。」


「本当に(笑)。」


「腹減らねーか?。俺温めて先に食っちゃったぞ。」



「あきひとは寝たの?。」


「千鶴の事ずっと見てたよ。ここに千鶴が居るのがまだ信じられないよ。」


No.94 13/04/06 00:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「もう何も考えるな…。」


そう言って頭を撫でてくれた。

「あきひと…。私って重い?。」

「重い?、何で?。」


天井の一点をただ眺めていた。

涙がポロポロ流れる…。


「そんな風に思った事なんて一度もないよ。千鶴が俺の前に現れてくれた事は奇跡だよ。俺は千鶴が好きなんだ。だから絶対離さない。」



「あきひと…。大好きだよ。」

「泣いちゃだめだ。千鶴は俺に助けて欲しかったんでしょ?。だから俺のとこにきたんだよね?。」


「千鶴を養うくらい何てことないさ。まっ、あまり贅沢はできないけどな(笑)。」




あきひとの微笑む姿はとても頼もしかった…。

No.95 13/04/06 00:36
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

それから私はあきひとの所に住み始めた。


あきひとが仕事に行っている間に洗濯をしたり掃除をしたりした。

食費として私に預けてくれたお金で毎日朝昼晩の食事を作った。

ただ家事が終わると何もする事がなくなって、考え込む時間もあった…。



携帯電話はあきひとの意向で解約をした。



梨華の入学式の日。



もう桜は散り始めていた。



向こうはまだ蕾になるかならないかくらいだろうか…。



拓海や翔太は私が居なくなった事知っているのかな…。



深雪ちゃんのお母さんも戸惑っているかな。



母さんや父さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。



あきひととの約束は、辛くなったらすぐメールすること。


ひとりで考え込まないこと。

勝手にいなくならないことだった。


No.96 13/04/06 00:41
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとの部屋には電話があった。


あきひとは携帯からよく電話をかけてきた。



「もしもし千鶴、何してた?」

「ぼーっとしてた。」


「また何か考えてるな。だめだよ。」


「うん。」



「今日さぁ、新入社員の歓迎会あるんだ。だから遅くなるけど平気か?。」


「大丈夫だよ。」


「ごめんな。終電までにでは帰るから。戸締まりしっかりしてな。」


「うん。」




今夜はひとりだ。

No.97 13/04/06 00:47
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

夕飯はうどんを茹でて食べた。

一本一本を噛み締めながらゆっくり食べた。


冷蔵庫の一本だけ残っているビールには手をつけないようにした。


今はあきひとに食べさせてもらっている身だから、もっと食べたくても飲みたくてもひたすら我慢をした。



No.98 13/04/07 09:33
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

お菓子が食べたいな…。


そんな風に思っても、預けてもらったお金を使う事に酷く抵抗があった。


働いて自分もお金を持っていないと、やっぱり厳しいものがある。


でも働きたいと言ったらあきひとは何て言うかな。



私はコンビニに行った。


お仕事情報誌をもらって、あとは街を少し散策することにした。


携帯電話がないからあきひとと連絡が取れない。


家にちょくちょく電話をかけてくるあきひとだからなるべく早く戻らなきゃ。


道に迷っても大変だし。



No.99 13/04/25 17:05
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

少しだけたまった洗濯物。

何かしなきゃ申し訳ないからこれも洗った方がいいのかな。
でもまとめて2日おきに洗っているって話してたから、勝手に洗ったら怒られるかな…。

私がきのう履いた靴下と下着。

そのままにしておくのも気になって洗濯機を回した。


外は少し汗ばむ陽気で、気持ちがいい。



寂しい。


あきひとが居ないと何もすることがない。


早く帰ってこないかな…。



洗濯が終わって、あきひとが干していたようにカーテンレールにハンガーをかけて乾かした。


あきひとの私物がしまってある押し入れがどうしても気になって仕方がない。



絶対勝手に見ちゃいけない。


見たっていいことないから。


私の心と裏腹に、私の手は押し入れの戸を開けようとしていた。

No.100 13/04/25 17:29
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

押し入れにはジャケットやダウン、スーツ。靴や雑誌など色々なものがぎっしり入っている。

奥に積まれたダンボール。


何が入っているんだろ。


あきひとの知りたくない一面を知ってしまったら、この先一緒に暮らせないかもしれない。

いきなりあきひとが帰ってきたらどうしよう。


やっぱりやめておこうかな。

ガムテープでとめてるわけでもなかった。


一個目のダンボールには色々な書類が入っていた。きちんとファイルに整理されている。


二個目のダンボール。


少し重くてガムテープでとめてある。


本とかアルバムなのかな。


剥がしたら絶対ばれる。


私は開けるのをやめた。


あきひとにはあきひとの過去がある。


私に知られたくない過去だってあるはず…。

No.101 13/04/25 17:48
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

うどんだけでは全然足りなかった。


お腹空いたな…。



私はあきひとに電話をかけた。

「もしもし?、千鶴?。何かあったか。」

「あきひと何時に帰ってくるの…。」


「ごめんな、遅くなって。今二軒目なんだけど、まだ帰れなくて。」


「お腹空いちゃった。」


「そっかぁ。冷蔵庫なんもなかっただろ?。なんか買って来て食べていいんだよ。」


「でも、お金使うの悪いし。」

「そんな事気にすんな。大丈夫だから、お菓子とか買って食っていいよ。」


「わかった。」


「なるべく早く帰るから。」


「うん。」



やった…。コンビニに行ける。


鍵をかけて私はコンビニに向かった。

No.102 13/04/25 22:43
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

カップラーメンとデザート、そして缶チューハイを買った。

怒られると思っていたからほっとした。


シャワーを浴びて、ゆっくりテレビを見ながらあきひとが帰って来るのを待った。



でも、あきひとはその夜帰って来なかった…。


何度電話をしても繋がらなかった。


何かあったのかな…。


心配で心配で眠れなかった…。

No.103 13/04/25 23:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

ガチャガチャとドアを開ける音で目が覚めた。


「あきひと…?。」


いつの間にか寝ていた私は音に気付いてベッドから出る。


「ただいま。千鶴…、ごめんな。朝帰りしちゃったね。」


「なんで電話に出なかったの?。何回もかけたよ。」


「ごめん…。話込んじゃって。」


「どこかに泊まってきたの?」

「同じ課のやつんとこにちょっとだけ寄って寝かしてもらった。」


思い切り欠伸をする。


適当にシャツを脱ぎ捨てスーツも床に置いたまま、あきひとはベッドに入った。


一言ごめんねと言っただけ。

私がどれほど心配したか…。

あきひとはすっかり寝てしまった。


スーツをハンガーにかけて胸ポケットに手を入れるとそこにはキャバクラの女の子らしき人物の名刺が入っていた。



さぞ楽しかったでしょうね…。


名刺を引きちぎり、ゴミに捨てた。

No.104 13/04/25 23:07
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は着替えて散歩に出た。

あきひとは寝ているだけだし顔を見るといらいらしてしまう。

気分転換をしよう…。


団地の中を歩いてみた。


新築の家や古い家など様々だ。

途中で犬に吠えられ驚いた。

タバコが吸いたくなって行き当たりばったりの公園に立ち寄ってみた。


缶コーヒーを買ってベンチに座った。

滑り台で子供と遊ぶ男の人が目に入った。


今日は休みなのだろうか。


奥さんに代わって子供みてんのかな…。


No.105 13/04/25 23:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとは私が出掛けた事すら気付いてないだろうな。


きっと昼過ぎまで寝てる。



「藍斗~ジュースどれがいい?。ママには内緒だぞ。」


男の人は子供を連れて自販機の前に歩いてきた。


見て見ぬ振りをしつつ、やっぱりちょっと気になって見てしまう。


ああいう子煩悩な旦那さんとどうやったら結婚出来るんだろ。

奥さんが羨ましい。



「パパ、おうち帰りたくない。ママ怖いもん。」


「ママ怖いのか?。藍斗が悪い事すればママ怒るだろ。」


「やだかえらないー。」


子供が泣き出した。



どんな事情があるんだろ。


別居とか?。


私はひとりで色々想像していた。

No.106 13/04/25 23:25
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

こんなイケメンで優しいパパなら何でもしてあげたくなるのに。

男運がない私には羨ましい限りだ。



間もなくしてママらしき人物が現れた。



子供は前にもまして激しく泣き出す。



泣く子供を無理やりパパから引き離し、女の人は子供を連れて車に乗り走り去った。



やるせなさでいっぱいの表情を浮かべて、男の人はポケットからタバコを取り出した。



ライターを何度かカチカチやっているけど火が点かないようだ。



「使いますか。」


私はライターを差し出した。


「えっ…、あっ…いいですか?。じゃあお借りします。」


凄く感じのいい人だ。



「みっともないとこ…、見せちゃいましたね。」

No.107 13/04/25 23:32
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「いいえ。何も見ていませんから…。」


少し微笑んでそう答えた。



「色々…、ありますね。生きてると。」



「そうですね。」



「今日は休みとかですか。」

「今働いてないんで。」


「ごめんなさい。余計な事聞きましたね。でも、今日はほんとに天気いいですね。」


「外ってこんなに気持ちいいんですね。」



お互いのプライバシーには触れずに私達は世間話をした。

No.108 13/04/26 16:46
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「この辺りに住んでるんですか?。」

「少し歩きますけど、まぁ近いです。」


「よく来ますか…、ここ。」

「いえ、初めてきました。行き当たりばったりで…。」


「あなたは?。」


「俺の話になるんですけど…。月イチで息子に会っていて…。今日はその日です。帰りはいつもああやって泣かれるんで辛いですね。」


「向こうが連れてったんですね。」

「はい…。やっぱ母親にはかなわないですよね。」



とても寂しそうな表情だ。



「俺そろそろ帰ります。ありがとう…、話を聞いてくれて。さようなら。」



「さよなら。」



私もそろそろ戻ろうかな…。


あきひとが寝ているうちに。



No.109 13/04/26 18:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとが起きないように静かに鍵を開けた。


「お帰り。どこ行ってきたの?。」

「起きてたんだ。」


「起きたら居ないから心配したよ。」


「ごめん。」


「どこ行ってたの?。」


「ちょっと散歩してきたの。」

あきひとが私をギュッと抱きしめた。


「タバコ臭いよ。吸ったのか?。」


「いけなかった?。」


「タバコ吸う千鶴はあまり好きじゃない。」



ちょっとムッとした。


「朝帰りするあきひともあまり好きじゃない。」


「俺は仕方なかったの。色々あるんだよ。」



No.110 13/04/26 18:08
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「あとさ…。俺の私物勝手に見たり捨てたりすんなよ。」


私の行動はすっかりお見通しだ。


「何もしてないけど。」


とりあえずやってないと言ってみる。


「あのさ、私仕事するね。何でも二倍かかるから。」


「あぁ…わかった。働いてもいいけど、ちゃんと家事とかもやってね。疲れて出来なかったとか、ずっと寝てたりとかなしだからな。」


「わかった。」



あきひとってこんなに厳しかったっけ…。

No.111 13/04/26 18:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「きのう洗濯したんだけど、良かったかな…。」


「ちょっと柔軟剤使いすぎじゃない?。こんなに匂いするまで入れなくてもいいよ。」


私は柔軟剤は少し多く入れるのが好みだった。


「ごめん。」


「あとさ、俺のYシャツだけどアイロンかけれる?。」


「アイロン?。」


「うん。まさかやれないとか?。」


私はアイロンがけが苦手だった。


「わかった。やるね。」


あきひとが毎回自分のYシャツにアイロンをかけていたなんて知らなかった。

No.112 13/04/26 18:30
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

アイロンがけと洗濯の事を言われ、荷が重かった。


あきひとと暮らすとなればあきひとに従わなければならないのはわかる。


でも、もっとやさしくしてくれると思っていた。


私の好きなようにしてもいいって言ってたのに。


家事はどちらかと言えば苦手だから、いちいち細かいあきひとに神経を遣うようになった。

一緒に暮らすようになってからあきひとはぱったりと私を抱かなくなった。


それが何故だかわからなかった。

私の事を好きではないのかな。


ずっと疑問だった。



いつも背中を向けて寝ていた。


「あきひと…。寝たの?。」

「まだ起きてるけど。」


そっと体を寄せた…。


私のサインに気付いているはずなのに、振り返ってくれない。

「あきひと…、抱いて…。」

「・・・・・・。」


勇気を出して言ってみた。

No.113 13/04/26 20:38
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

今私にはあきひとしか居ないの。

あきひとと一緒なら幸せになれるって思ってる。


いっぱい抱きしめてほしい。

あきひとでいっぱいにしてほしい。



「私の事嫌いになった?。」

「そんな事ないよ。」



「無理?。」


「ごめん…。今日は寝たい。」



(今日は)って…。


もうずっとしてないじゃん。


いいよ。



もう誘わないから。




No.114 13/04/26 20:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私はポスティングの仕事を始めた。


月曜日と木曜日。


それ以外は家に居て家事やアイロンがけをした。


慣れてきたらもっと日数を増やしたい。



あきひととはあれから引き続きずっとレスだった。


ただの同居人みたいな感じだった。


あきひとには他に女がいるのかも知れない。


いつも携帯にロックをかけていたし、残業だと言って電話が繋がらない事もよくあった。


私は携帯を買った。


登録しているのはあきひととポスティングの会社だけ。


友達も居ない。


木曜日のある日、いつものように仕事で団地を回っていた。


いつも深めに帽子を被って顔を隠していた。


「こんにちは。」


家主らしき男の人に挨拶をしながらポストにチラシを入れると声をかけられた。

No.115 13/04/26 21:13
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「すいません。うちチラシ要らないんでもう入れなくていいんで。」


普段からあまり人と目を合わせれない私は、一瞬ドキッとした。

「わかりました。すみませんでした。」


そう言ってすぐ立ち去ろうとすると、また呼び止められた。


「あの…、どこかで会いましたっけ?。」


「えっ…。」


その人の顔を見ても何も思い出せない。


「人違いだと思います…。失礼します。」


軽く会釈をしてまた隣の家に向かった。



いきなり話しかけて来ないでよ。

びっくりする…。



No.116 13/04/26 21:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

その日の夜私はカレーを作った。

あきひとは7時過ぎに帰って来た。


「おかえり。」


「ただいま。今日はカレーだね。昼にカレー食ったんだ。」


「そうだったの?。作る前にメールすれば良かったね。ごめん。」


「いや、いいよ。千鶴のカレーうまいから食べる。」



あきひとは帰ってくるとまずシャワーを浴びる。


いつもその間にご飯を温め直していた。


あきひとは家ではあまり携帯をいじらない。


その夜珍しく電話が鳴った。



「あきひと、電話鳴ってたよ。」


シャワーから上がったあきひとに伝えると、一瞬動揺したのを私は見逃さなかった。


「あぁ、わかった。」


「今日汗かいちゃって気持ち悪いから私も今シャワーいいかな。」


「いいよ。ゆっくりな。」




携帯いじれるね。



わざとゆっくりシャワーしてあげるよ。

No.117 13/04/26 21:34
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

浮気を容認していた。

ヤキモチは通り越し、どうでもよくなっていた。


ただ、今住むところがないしあきひとのとこに住ませてもらうしかなかったから多少は目をつむった。



私に気を遣っているのか、シャワーからあがるとテーブルにはカレーが準備してあった。



珍しい。


気を遣わなくていいのに。



「千鶴、何飲む?。」


「ビールがいいです。」



「早くパジャマ来てこっちおいで。」



わかりやすい人だ。

No.118 13/04/26 21:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

食べ終わったお皿やグラスを洗っていると、後ろからあきひとがいきなり抱きしめてきた。


「ちょっとどうしたの?、びっくりしたぁ。」



「今日しよっか。」


「えっ?。どうしたの?、無理しなくていいよ。」


「なんでそんな事いうの?。あんなにしたがってたくせに。」

胸元に手を入れてきた。


「ちょっと止めて。今手が泡だらけだよ。」



「ベッドで待ってるから。」




ほんとは私とはしたくないくせに…。


浮気をしている後ろめたさかな…。


なんて単純な男なんだろう。




その一週間後。


あきひとは私に内緒で1日有給を取っていた。


スーツで出掛けたけどバックに私服を隠して、おそらく駅で着替えたのだろう。



時々義務でするあきひとのセックスは前と明らかに違っていた。


自分本位のセックスだったのに優しく時間をかけるセックスに変わっていた。


不思議なのは彼女にしているようなセックスを好きでもない私にすることだった。


私は全くあきひとのセックスに感じなくなった。


ただ目を閉じて感じたふりをした。

No.119 13/04/26 22:08
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

いつものように仕事で同じ団地を回っていた。


チラシを入れないでくれと言われた家を抜かして配り歩いていた。


その日たまたま私は帽子を忘れて髪を下ろして歩いていた。


「あの…、すいません。」


振り向くと前に話しかけてきた男の人がわざわざ家から出て来て声をかけてきた。


「思い出しました。公園で会いましたよね。」



「公園…?。公園なんか行ったかな…。あっ…。」


今頃私はその人の事を思い出した。


「そうでしたね。やっとわかりました。先日は失礼しました。」


何故か嬉しそうな表情をしている。



「これからお仕事なんですか。」


スーツ姿のその人は重役なのだろうか。


今から出勤は遅い。



「はい。割と時間自由なんで…。チラシ配ってるんですね。」


「はい。」



「良かったらお茶でもどうですか?。」


「ありがとうございます。でもまだ仕事途中なので。」


「ですよね…。あの、良かったら連絡下さい。いつでもいいんで。」



一方的に名刺を渡して来た。


彼は会社を経営している人だった。



全くそんな気はないのに。



彼は私に名刺を渡してすぐ車で出掛けてしまった。



ポケットに名刺をしまうとまた仕事を再開した。

No.120 13/04/26 22:17
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとの浮気はエスカレートしていった。


たまに名前を呼び間違えた。

ただ苦笑いをしてスルーした。


あたしはみゆじゃねーよ(笑)。

あきひとのバカさ加減に呆れ心の中でいつも笑っていた。


あきひとのどこがいいんだか。

私も人の事言えないけど…。



“良かったらお茶でもどうですか”




悪くないかも。



あきひとも浮気してるんだし、私も適当に遊ぼうかな。



水曜の夜、私は密かな野望を抱いていた。

No.121 13/04/26 22:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとを見送って、いつもより少し丁寧に化粧をして出掛けた。


彼の家の近くにくると一気に胸が高鳴った。



車はある。



実は私は全てのチラシを配り終え、最後に彼の家に向かったのだ。


まだチラシが残っていると思わせるように肩からトートバッグを提げていた。



私を待っていたかのように彼はリビングの窓から私を見ていた。


私は彼に向かって微笑んだ。


今日はこれくらいにしておこう。


じわじわ彼を落としていく。


あきひとへの仕返し。



既にバッグは軽いけど、まだ仕事のふりをした。



やった…。成功。


また月曜日に。




それからずっと私は彼の事で頭がいっぱいになった。

No.122 13/04/26 22:30
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

夜はあきひとが寝静まると彼を思って密かにいやらしい事を考えていた。


あきひとに気付かれないように自分を慰めた。



彼としたい。彼に抱かれたい。


子供がいる包容力のある男性に憧れていた。



私は自分の中から過去を捨て去り女に戻っていた。



思わず声が漏れてあきひとが目を覚ました。


「ん、みゆ~、みゆ~。」



起きてない。寝言だ。


一瞬焦った。気をつけなきゃ。



彼は私からの連絡を待っている。


彼をじらすのが楽しかった。

No.123 13/04/26 22:46
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「千鶴、今日遅くなる。ご飯いらないから。」


「わかった。行ってらっしゃい。」


今日もみゆと会うのね。


そんなに大好きなんだ(笑)。


私は今日は仕事が休みだった。

アイロンがけを早めに終わらせて、彼に会うつもりで電話をかけてみた。



「もしもし。小椋さんですか。」


「もしかして、ポスティングの彼女ですか。」


「はい。」



「待ってたよ。」



「今日私休みなんです。良かったらお会い出来ませんか。」


「勿論。迎えに行くよ。どこがいい?。」





私は彼と会う事にした。




あきひとに対する後ろめたさはない。



あきひとは私が浮気に気付いているとわかっているくせに開き直っている。



あきひとより大人な彼と遊んで楽しもう。



内緒でこの日のために買った新しい服と靴で私は出掛けた。



彼の車はとても綺麗だった。

そして彼のスーツ姿は素敵だった。


「嬉しいよ。君名前何ていうの?。」


「千鶴。」


「千鶴かぁ…。あまり聞かない名前だね。今日何時くらいまで大丈夫なの?。」



「何時でもいいです。」


「ほんと?。じゃあとりあえずドライブしようか。」





私の浮気初日だった。

No.124 13/04/26 22:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

する事なんて最初から決まっている。


お互い寂しい者同士。



「千鶴ちゃんは一人暮らしなの?。」


「一人ではないです。」


「彼氏と同棲してるとか?。」


「なんで分かるんですか。」

「適当に言っただけだよ。」



「俺の事はいくらか分かるよね。今一人であの家に住んでるんだ。離婚して出て行ったからね。」


「わからないです。あんな素敵な家と旦那さんがいて出て行くのが。」


「ん?、今素敵って言った?。そんな風に言ってくれるのは千鶴ちゃんだけだよ。」


No.125 13/04/26 23:02
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんは都会から離れた静かな山あいにあるレストランに連れて行ってくれた。


景色を眺めながらゆっくりランチをした。


彼は色んな話をして私を楽しませてくれた。



「笑った顔最高に可愛いね。千鶴ちゃんは笑ってなきゃ駄目だよ。公園で会った時正直柄悪い姉ちゃんにしか見えなかったよ(笑)。」



「小椋さんは見た目そのままの素敵な方ですね。」



ある程度食事を終えて私達は店を出た。



「どこ行きたい?。行きたいとこあったら言って。」


「どこでもいいです。」



「じゃあ俺の別荘に連れてくよ。ここから近いんだ。」



どんだけ金持ちだよ。



「楽しみです。」



別荘に着く間に彼の携帯には時々仕事の電話が入っていた。



社員に慕われているような印象を受けた。



「ごめんね、せっかくのデートなのに。」


「気にしないで下さい。忙しい時間を私に費やして下さって逆にごめんなさい。」



No.126 13/04/30 14:33
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

バッグの中の携帯が鳴った。

着信はあきひとだ。



「出ていいよ、俺に気は遣わないでね。」


「大丈夫です。」



こんな時間に何だろう…。


普通に見送ったのに。


あきひとは浮気が始まってからほとんど昼は電話をかけてこないのだ。


楽しいはずのデート。一気にテンションが下がる。


私は着信を無視し続け、音を切っていた。


いつもかけて来ないくせに何なのよ…。



「もう着くよ。大丈夫?。」


「あっ、はい…。」



No.127 13/04/30 14:54
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「最近来てなかったから、家も冷え切って寒いけど、あがって?。」


「お邪魔します。」



「コーヒーでいいかな。」


「はい。」



あきひとからメールが入って来た。


私は小椋さんがキッチンに行った際にメールを見た。


“具合悪いから帰ってきた。どこ行ってんの?。早く帰って来いよ。”


ふざけんな。


みゆに面倒みてもらえばいいだろ…。



「彼氏から?。」


「えっ?、あっ、違います。友達でした。」



「コーヒー飲んだら帰ろうか。そのうち二人で泊まろう。」

そういう彼には全く悪気はないようだった。



むしろ、彼氏がいても構わないといった感じだった。


No.128 13/04/30 21:51
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「またタイミングあえば会おう。」


小椋さんと別れて、あきひとへの口実を考えた。


仕事着ではないし、確実に遊びに行ったと分かる格好だ。


友達もいないしごまかしがきかない。


とりあえず私はあきひとに電話をした。



「もしもし、ごめん、電話気付かなかった。」


「今どこ?。嘘つかなくていいから正直に言って。男と遊んでたのか?。」


「どうして?、そんな人居る訳ないじゃん。」


「んじゃあどこ行ってたの?。」


「ちょっとウィンドウショッピングしてた。」


「今どこ?、とりあえず話するから帰ってこい。」



あきひとは電話を切った。



No.129 13/04/30 22:09
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

携帯のメモリを消して、小椋さんの存在を消した。


嘘をつくのは慣れっこだ。



あきひとの部屋の明かりが見えた。


本当ならあきひとが帰って来る前に戻って何もなかったように振る舞うつもりだった。


「ただいま。」



「お帰り…。なんだその格好。新しい服いつ買ったの?。化粧も濃いね。」


「ひさびさだね、私の事きちんと見てくれたの。」


「はぁ?、いつも見てるよ。お前さぁ今日休みだったの?。」

「うん…。あきひとは何で帰ってきたの?、具合悪いってどうかしたの?。」


「風邪気味だったから、早退したの。てっきりお前仕事終わって帰って来てると思ったら居ないし参ったよ。」



「そういえば…。あきひとが仕事行ってから変な電話がきたの。」


「電話?。」


「ずっと黙ってて気持ち悪かった。でも何となく女の人みたいな気配がしたけど。」



あきひとの目が泳いだ。



「誰なんだろう…。うちの番号知ってる人いる?。」


「間違い電話かなんかだろ。気にすんな。」



「そう…?、あきひとに用があるんじゃないの?。」


「ていうかお前電話出たのか?。」


「出たよ、あきひとだと思ったし。出ちゃいけなかったの?。」


「いや…。別に。」


あきひとがバツ悪そうな顔をした。


馬鹿だ。


私の話を鵜呑みにするなんて。


電話なんか来てねーよ。



その夜あきひとはそれから私に何も問い詰めて来なかった。



私はうまくかわすことが出来た。

No.130 13/05/03 00:11
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「食欲はある?。」

「あまりない。でもなんか食わないとな…。」


「お粥かうどん作ろうか?。」

「お粥食いたいな。」


「わかった。出来たら言うから寝てて…。風邪薬も飲まなきゃね。」


「なぁ…。着替え手伝ってよ。」


「えっ?、着替えも出来ないの?。」



嘘だと思ったけど、やらなきゃやらないで不機嫌になるから手伝う事にした。

No.131 13/05/03 00:22
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「やっぱ熱ちょっと高いね。」

あきひとは背が高いからベッドに座らせてパジャマを着せた。

あきひとと目を合わせたくなくて目線を気にしないようにした。

でもあきひとは私をじーっと見ている。



「何?、どうかした?。」


「お前浮気してんのか?。」

「何、急に…。するわけないでしょ。そういうあきひとはどうなの?。」



急にあきひとが私を押し倒した。


「ちょっとびっくりするじゃない。やめてよ。」


「お前を外に出したくないんだよ。」


「はっ?。」



「俺のものだ。」



「よく言うよ…。浮気してるくせに…。」



「もう別れる。だから、お前も浮気するなよ。」




随分勝手な言い分だ。



私の浮気を疑うようになったら急に私が気になるんだね。


No.132 13/05/03 00:29
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとは別れると言ってたけど、女がしつこいのかなんとなくイライラしたり、携帯をうざそうに見たりする日々が続いていた。



私の前では開き直り、こんな事を口にした。



「嘘か本当かわかんねーけど生理遅れてるってさぁ…。」


疲れ切った表情だ。



「避妊しなかったの?。」



あきひとは無言だった。



もし彼女が妊娠していたら、どうする気だろう…。

No.133 13/05/08 16:25
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私には一切関係ないし、巻き込まれるのは嫌だった。


「好きなんでしょ。だったらいいんじゃない?。二人で分かっててしたことだよね?。」


「そんな見捨てたような言い方すんなよ。」


「だって、私には関係ないから。あきひとが浮気してHしてたとか知らなかったし。」



「やべぇな…。参ったよ。」


「心当たりはあるの?。」




あきひとは何も言わなかった。


No.134 13/05/09 19:46
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「もし妊娠が本当なら、どうするの?。」



「う~ん…。どうすっかなぁ。」


「いくつなの?、彼女って。」


「28…。」




私より若い。



私にはきちんと避妊しても、彼女にはしないんだ…。



「ごめん、ちょっと出てくる。遅くなると思うからカギかけて先に寝てていいからな。」



あきひとは出掛けた。



彼女に呼び出しくらったのかな…。


No.135 13/05/09 19:54
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は小椋さんにメールをした。

あきひとが居たら出来ないから絶好のチャンスだった。



“こんばんは。まだお仕事中ですか…。”



10分位してから返事がきた。


“メールありがとう。今日は会社の連中と飲んでるよ。”



“そうなんですか。お疲れ様です。”


“今度一緒にご飯でもどう?。君が都合いい日に連絡ちょうだい。”



“わかりました。”




嬉しかった。


あきひとの事なんかどうでもよかった。



早く会いたい…。



No.136 13/05/09 19:59
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

彼を想ってシャワーを浴びた…。


この身体を彼に愛してもらえると思うと自然と熱くなった。


彼の別荘で、思い切り彼に抱かれたい。



私はあきひとのバスルームで彼を想って自分を慰めた。



彼はどんなキスをするのだろう…。


どんな風に愛してくれるのだろう…。



No.137 13/05/09 23:14
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

12時過ぎ…。


電話もよこさずに、あきひとが帰ってきた。


酷く疲れた様子だった。


もうすぐ寝付けそうだったのに起こされてしまった。



「お帰り。思ってたより早かったね。大丈夫だったの?。」


「あぁ…。」



財布や携帯をテーブルに置いてあきひとはパジャマに着替えた。



「疲れたから寝る…。」



「おやすみ。」




あきひとは3分もしないうちに深い眠りについた。



No.138 13/05/14 23:08
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとより少し早く起きて朝ご飯の支度をした。

二合だけご飯を炊いて、お味噌汁を作り、目玉焼きを焼いた。

「あきひと、朝だよ。」


食べ物をテーブルに並べながら起こした。



まだ付き合ったばかりの時はキスをして起こしたり、優しく叩いたりして起こしていたのに今は声を掛けるのも面倒になってしまった。


奥さんでもないのになんで飯作って起こさなきゃないんだよ。

そんな感情さえ湧く事がある。


「遅刻するよ。」



あきひとはまだ眠そうだ。



No.139 13/05/14 23:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとは味噌汁に少しだけ口をつけただけだった。



「んじゃあ…行って来ます。」


「気をつけてね…。」



「お前今日仕事か?。」


「そうだよ。なんで?。」


「いや。ただ聞いただけ。」


「あきひと…?。」


「ん?。」


「彼女と何話したの?。」


「……………………。」



「妊娠は本当なんだね…。」


「一緒になりたいって言われた。」


「そうなんだ…。」


それ以上言葉が見つからなかった。


私はただあきひとの背中を見送った…。



No.140 13/05/14 23:23
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

もったいなかったな…。


ほとんど食べなかったし…。


さすがに朝から目玉焼きを二個も食べられなかった。



あきひとは固い目玉焼きが好きだ。


私は半熟が好きだ。



彼女の子供を認知するのかな。

あきひとは今から父親になれるのだろうか…。



私とは当然別れてこのアパートも引き払うんだよね…。



コーヒーを淹れてひとり色々考えていた。



No.141 13/05/23 22:56
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

自分が決めてあきひとの側に来たけど、それが失敗だったと認めたくなかった。

あきひとなら素の自分で居られると思ったし、私を守ってくれると信じていたから…。

全てを投げ出してあきひとの所に来たけど、互いに浮気をして別れる事になるなんて…。


私の覚悟ってなんだったんだろう…。


あきひとの事、本当はそんなに好きじゃなかったのかな…。

あきひともそんなに私を想ってなかったのかな。


茶碗を洗いながらふさぎこんだ。


神様、私はどうすればいいの?。

やっぱり間違いだったの?。

この部屋で命を絶ったらあきひとに迷惑がかかる。


死ぬなら誰にも気付かれない所じゃないと。


私が死んでも悲しむ人は一人もいない。


でも私を憎む人はたくさんいる。

なんでこんな風になってしまったのかな…。


私はその場にしゃがみこんでただただ泣いた。


No.142 13/05/23 23:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「千鶴…、千鶴…、大丈夫か?。」


「ん…、あれ?、どうしたの?。」


「こんな所で寝てたら駄目だろう。どうしたんだ。」


目を開けるとあきひとがいた。

「仕事は?。」


「午後は年休取ったんだ。千鶴とゆっくり話がしたかったから帰って来たんだよ。」


「あきひと…。」


「ん?。」


「私達…、別れるの?。」


「なんで?。」


「彼女と結婚するんだよね?。」


私はあきひとにすがって泣いた。


「千鶴…。」


「嫌っ…。彼女の所に行かないで…。私を捨てないで。」


あきひとは私を抱きしめた。

「千鶴を捨てたりなんかしないよ。」


「あきひと…。」



私はキスを求めた。


自らあきひとの手を胸元に持って行く…。


「いや…?。」



「嫌じゃない…。久々燃えてきた(笑)。」


「触って…。」


あきひとの手をスカートの中に持って行く…。


「千鶴、大胆だね…。」


あきひとを仰向けに寝かせ、またがった…。


彼女なんかどうでもよくなるくらい、あきひとを私でいっぱいにしてやる…。


「なに?、千鶴がリードしてくれんの?。」


自ら服を脱ぎ、下着だけになる。


「それも取っちゃえば?。」

言われた通りにブラも外した。

「いやらしいな…。」


私の乳房が髪の毛で隠れるたびに、あきひとは後ろに払う。

私の乳房を眺めながら指で悪戯する。


あきひとの下半身に私の局部をこすりつけ前後に動かしあきひとの上で自慰をしてみせる。


「欲しいの?。」


「うんっ…。欲しい…。」


思い切り淫らになってみる。

No.143 13/05/30 21:44
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私の声が外に洩れないように、あきひとは私の口を塞いだ…。

私は声を押し殺した。


ベッドでするのとはまた違って特別感じてしまう。



私は初めて生のあきひとを受け入れた…。


駄目だとわかっていたけれど言葉にならない気持ち良さにたまらなく感じた。



「千鶴、いいのか?。」


「うん、続けて…。」



彼女にもしているなら私にもして…。


あきひとと彼女を否定していたのに、同じ事をしてしまった。

No.144 13/06/14 21:58
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとが起き上がりキスをしてきた…。

ひとつになったままするキスは好きだ。


「千鶴…、腰振って…。」


「こう…?。」


「うん…、いいよ。あ~、すげーいい。」




もうどうなってもいいと思った。


なくすものもない…。



私の心は空っぽだった。


明日は何をして過ごせばいいか、どこにいたらいいのか…。


誰と居ればいいのか…。


考えたら怖くて怖くてたまらなかった。


No.145 13/06/14 22:22
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「雨だ…。」

暑くて窓を開けると久しぶりに雨が降っていた。


「雨の匂いってあるよね…。」

「ん?、匂い?。あんま気にした事ないけど…。」



「あきひと…。」


「ん?。」


「私怖いんだ…。」


「怖い?、何が…。」


「明日が来ることも、生きてく事も…すべて怖い。」


「俺もだよ…。明日死んじまうかもしんねーし、わかんねー事だらけだし。」



「私ここにいて迷惑じゃない?。」


「迷惑?、何で…。居なきゃ困るよ。」


「ほんと?。」


「本当だよ。」



「とりあえずパンツぐらい履くか(笑)。」



「そだね(笑)。」




もうしてしまった事を悔やんでも仕方がない。


ただ、たくさんの人を悲しませた事を今更ながらに悔やんでいた。


No.146 13/06/15 23:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

あきひとは結局みゆという女と別れなかった。

でも私を邪魔者扱いする事もなく出ていけとも言わなかった。
開き直って私に時々相談まで持ちかける事もあった。

聞くに耐え難い事を言われた時は話題を変えたりもした。


あきひとはどこまで無神経なんだろう…。


彼女とうまくいっている時ほど私も耐えられず浮気に拍車がかかった。


だけど、忙しそうな彼には連絡しにくくて我慢をした。


“お疲れ様です。早く会いたいです。”


精一杯のアピール…。


“ごめんね。なかなか時間なくて。また連絡するから。”


しつこいと嫌われるから、もうメールは控えよう。


「千鶴…?。」


「なに?。」


「今度うちに彼女連れて来たいんだけど…。」


「…。あぁ、私が邪魔なんだね。わかった、どこか行くから安心して…。」

No.147 13/06/18 22:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「女と住んでる部屋に来たいなんて子も変わってるね…。嫌じゃないのかな。」


「千鶴のこと、言ってない。」


「・・・・・・。」



「あっ…、あぁそうなんだ。私は内緒な存在なんだね。じゃあ私物とことん隠さなきゃね。」


それを聞いたとき、私は酷く傷ついた。



隠す。ではなく、消えなきゃ…。

そう思った。



結局は私よりみゆを取ったって事。

みゆの方が好きだったって事。

「邪魔ならはっきり邪魔って言って?、余計傷つく。」


蚊のなくような声しか出なかった。


あきひとは何も言わない。



私の荷物は旅行カバンひとつ分。

荷造りなんて10分あれば終わる。


No.148 13/06/18 22:58
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

何も言わずに部屋を出ようとした。

もう訳が分からなくて頭もぐしゃぐしゃだった。


きちんと靴も履かずにドアを開けた。


「千鶴…。」


私を呼ぶ声がした。



「元気でな…。」





こんなにあっさり…。



本当に悲しいくらい、私に気持ちなかったんだね。



No.149 13/06/18 23:36
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

行く場所がない事を分かっている癖に…。

わざわざ秋田から呼び寄せておきながらいらなくなったらポイだもんね。

あきひとを信じた私も馬鹿だった。

思い切って飛び込んだ胸は違った。


外は暑くてフラフラする。

重いバッグを持ちながらただ意味もなく歩いていた。


どこに行こうかな…。


暑さを凌ぐために公園の日陰のベンチに座る事にした。


自販機でお茶を買った。



No.150 13/06/19 14:40
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

偶然にも小椋さんから電話が来た。

「もしもし。」

「もしもし、今大丈夫?。」

「はい…。」


「ごめんね、なかなか連絡出来なくて…。」

「いいえ。大丈夫です。」


「良かったら迎えに行くけど会える?。」


「お願いします…。」



あきひとは迎えに来なかった。

もう本当に終わりなんだ。


心底疲れ果てた私は、ただ空を見あげていた。



小椋さんの車が見えた…。



私は椅子から立ち上がった…。

No.151 13/06/19 14:56
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「どうしたの?、その荷物。」

「追い出されちゃいました。」

「えっ?、何、彼氏のとこ?」

「はい。」


「とりあえず乗って。」



小椋さんの車はエアコンが効いていてとても涼しかった。


「今日も暑いね。千鶴ちゃん白いから焼けるでしょ?。」


「はい。夏は嫌ですね。」


「髪切ったんですか?。」


「うん。なかなか忙しくて行けなかったんだよ。やっとこの前切ったよ。」


助手席に座る私を時々見ながら小椋さんは言った。


「追い出されたって事は、行くとこないって事?。」


「まぁ…、そんな感じです。」

「何があったか知らないけどひでー奴だな(笑)。」


「もう、お互いに気持ちなかったから。いつかこうなると思ってました。」


「もう好きじゃないの?。」


「はい。」



「じゃあ俺の女にしてもいい?。」



そう言うと彼は私に触れてきた。

No.152 13/06/19 15:17
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「少し時間取れるから、また別荘行かない?。この前ゆっくり出来なかったから。」


「はい。」


「今日一緒に飯作ろう。酒も買って行こうよ。」


「楽しみですね…。」



今はひとりでいられる自信がなかったから、小椋さんがいて良かったと思った。

No.153 13/06/19 23:25
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「何食いたい?。」

「えっ…。あぁ、どうしようかな。」

「俺カレー作るからさ、千鶴ちゃんはサラダ作って?。」

「サラダ…、どんなサラダがいいですかね。」


「任せる!。」



小椋さんはどんなカレーを作るんだろ。

野菜をゴロゴロ切った豪快な感じかな…。


サラダの担当になった私は、レタスとトマト、キュウリとツナ、そしてフレンチドレッシングをカゴに入れた。


「飲みたい酒あったらカゴ入れてね。」


「はい。」



どんな夜になるのだろう。


ちょっとワクワクしてきた。

No.154 13/06/22 00:04
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

買い物を済ませて別荘に向かった。


「夜も雨降んないといいんだけどな…。」


「どうしてですか。」


「夜の散歩。星がめちゃくちゃ綺麗なんだよ。あと夏には蛍も見れるんだ。」


「蛍…。最近は見なくなりましたよね。」


「うん。だから千鶴ちゃんに見せたいな。」


小椋さんは少し浅黒い。


痩せているほうではないけどでもおじさんぽくもない。


でも父親というだけあって落ち着いていて包容力がある。


「こんな事聞いたら失礼だけど。今日って朝までいいのかな?。」


「……。」


一瞬ドキッとしてしまった。


「はい、大丈夫です。」


「わかった…。」



小椋さんはチラッと私を見るとスカートから見える脚に目線が行った…。


下心が丸見えだった。



この人も所詮普通の男なんだな…。

No.155 13/07/06 23:12
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

普段締め切っている別荘は蒸し暑かった。


どこから入ったのかところどころに虫の死骸があった。


ほうきとちりとりを手にして私はさり気なく掃除をする。



「あっ、ごめんごめん。そんな事やらせちゃって申し訳ないなぁ…。」


「いえいえ大丈夫です。」


髪がベタベタ首筋にまとわりついて、私はシュシュで髪を束ねた。


小椋さんの強い視線を感じた…。


吹き抜けの窓に雨があたる音がした。



「降ってきたね…。今夜は散歩無理かな。」


少し残念そうだ…。



「早く飯作ってゆっくり酒飲もう。」


「はい…。」



小椋さんはバスルームの掃除も始めた。



着替えはある。



私はキッチンに立ちお米を研いだ。

No.156 13/07/06 23:20
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「俺さぁ、元嫁とこうやって台所に立って飯作った事ないの。だから凄くやりたかった事なんだ。」


私は黙って聞いていた。


「玉ねぎってみじん切りがいいですか?。」


「適当でいいよ、楽な方で。」

「ジャガイモとかはゴロゴロしてた方が好きですか?。」


「構わないよ。圧力鍋あるからすぐ出来るよ。」


難しい圧力鍋だとやだな。


ご飯は少し固めの水加減にした。


小椋さんがカレーの担当なのに中途半端に手を出してしまった。

No.157 13/07/06 23:31
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「サラダ私やりますね。シンプルなのしか作れないですけど。」

圧力鍋から蒸気が出てきた。

同時進行でサラダを作る。


ご飯も早炊きにする。



「手際いいね。」


「そんな事ないです。緊張します(笑)。」


「俺ベッドのシーツ換えてくるね。」


小椋さんは二階に上がって行った。


もう今夜のシチュエーションがすべて見えた。


テレビもつけずに音なしで過ごすのも悪くなかった。


あきひとと別れてきたこと。

秋田から逃げるように出てきたこと。


本当は泣きたい。


やるせない自分に情けなくて、

今こんなとこで私何やってんだろうって、


ザルを洗いながらこみ上げてくるものをぐっとこらえた…。

No.158 13/07/06 23:44
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「タバコ吸っていいからね。気を遣わないでね。」


「はい…。」



「いいな…。千鶴ちゃん。結婚したら楽しいだろうな。」



結婚て言葉は今の私には重すぎる。


「恋愛してるほうが幸せです、きっと…。そのほうが、ずっと相手に優しく出来るし愛せると思う…。」


「千鶴ちゃんは幸せな結婚じゃなかったの?。」


さり気なく聞かれた言葉に返す言葉はなかった。


「まっ…、でも本当そうかもな。実際俺も失敗してるから。」

「きっと結婚したら、自分のものにしたくなるから…。自由にやりたいことも出来なかったり、そうすると優しく出来なくなったり愛せなくなったり…。よくわからないけど、我慢の方が多いような気がします…。」


「千鶴ちゃんも色々あったんだね…。今は…、楽?。」


「楽?。う~ん、わからないです。男の人見抜けないみたい(笑)。」


小椋さんが笑った…。

No.159 13/07/06 23:57
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

ご飯が出来上がった。


木のテーブルに、木のベンチ。

カレーとサラダを並べて、グラスを置いた。


あまり使っていないのか、カトラリーはピカピカだ。


「じゃあ、乾杯しようか。」


「はい。お腹空きましたね。」

ずっと冷蔵庫で冷え冷えだった瓶ビールを小椋さんは持ってきた。


「お疲れ様。今日はゆっくりしてね。」


男の人にグラスに注いでもらうのは初めてだった。


「すみません、ありがとうございます。」


マニキュアが少し剥がれ気味で恥ずかしかった。


「お疲れ様でした。」


彼のグラスにも注ぐ…。


小椋さんはいつも私から目線を外さない。


普段から人と目を合わせるのが苦手な私はあまり小椋さんの目を見れなかった。



「好きだよ。」



突然何を言うのだろう…。



どんな顔すればいいの…。



心臓がバクバクした。

No.160 13/07/07 00:10
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんと初めての夜。

大胆にも彼の別荘に宿泊だ。


一緒に食器を洗ったり片付けたりを彼はずっと隣でしてくれた。

仕事の話や子供の話。


彼はおしゃべりで、ずっと話していた。


何度となく笑い、楽しい時間を過ごした。



「お風呂どうする?。」


11時を回って、小椋さんが聞いてきた。


酔いも回っていた私はどこか隙があったのだろうか。


「お背中流しましょうか…。」

自分でも恥ずかしい言葉を言ってしまった…。


「なんか昔臭い言い方だな。偉くなった気分だぞ。」



だって、どんな流れで彼とセックスすればいいのかわからない。


最初にお風呂って、ちょっと大胆かな…。



No.161 13/07/07 07:51
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「そうして欲しいところだけど照れるな…。」


「ですよね…失礼しました(笑)。」


「俺先にささっと入っちゃうから、千鶴ちゃんゆっくり入って?。」


「はい…。」



小椋さんを待っている間、私は着替えをバッグから取り出した。

なるべく綺麗な下着と部屋着を選んだ。


バスルームから聞こえるシャワーの音。

小椋さんの体はどんな風なんだろうと想像した。


自分はいやらしい女だと思った。

でも今の私は誰に遠慮もいらない。


ひとりなのだから。


No.162 13/07/07 08:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

なるべく待たせないように少し急いだ。

濡れたままの髪は嫌だしきちんと乾かしたい。


ほとんど化粧は崩れていたからすっぴんとさほど変わらない。

バスルームにもとからあったシャンプーを見て、奥さんが使っていたものかなと勝手に思ったりした。


それとも小椋さんには他にも女が居るとか…。


考えたらきりがない。


もう男の人には依存しないようになりたいのに。



「お待たせしてすみません。」

「全然待ってないよ。勝手に飲んでるから(笑)。」



エアコンの効いた広いリビングで、小椋さんはソファに座りながら焼酎を呑んでいた。


No.163 13/07/07 08:40
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「あれ?、千鶴ちゃんていくつだっけ…。」


「34です…。」


「じゃ、俺の6つ下かぁ…。」

小椋さん40なんだ…。


「若く見られるでしょ。」


「ん~、どうですかね。」


「何飲む?。」


「じゃ、同じのいただきます。」

「酒強いの?。」

「最近そんなに飲まないのでわかりませんけど、嫌いではないです。」


「それにしても、君色白だね。」


ノースリーブのマキシワンピースは腕がもろに出ていた。


「なんか透き通って血管まで見える(笑)。」


「あまり見ないで下さい…。」

「言葉悪いけど、雪女みたいだね(笑)。雰囲気的に…。」

「雪女ですか…。」


「うん…、目も細めだし、でも唇は色っぽい。」


「雪女なんて見たことないですから(笑)。ていうか小椋さんはちょっと熊っぽいですね。」

「あぁ、最近腹も出て来たしね(笑)。」


「なんか手が小さくて可愛い…(笑)。ちょっと黒いし本当熊みたい。」


「千鶴ちゃんも笑うと益々不気味な笑みだぞ。」



この人とセックスは出来るのだろうか…。


ちょっと滑稽に見えてきた。

「映画でも観る?。気になって買ったけど観ないまま置いてあるやつあるんだ。」


「映画、最近全然観てないですね…。是非観たいです。」



おつまみはチョコとナッツ。

字幕にするか日本語にするかでちょっと悩んだ末、日本語になった。

洋画のサスペンスだった。


「こっちおいで…。」


小椋さんに言われ、彼の肩に寄りかかった。


「好きだよ。」


「どうしてそんなに好きだって言うんですか。」


「好きだから。」


「私の事あまり知らないくせに…。」


「キスしていい?。」


小椋さんの顔が凄く近くなる。


初めてのキス。



私にとってキスはセックスよりも特別だった。



No.164 13/07/19 22:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

抵抗するわけでもなく、私は黙って彼を受け入れた…。

その時の私には感情がなくなっていた…。

どうあがいてもあきひとの所へは戻れないのだ。


小椋さんのことは好きになれそうにもなかった。


キスのやり方、愛撫…。

マメだけど私には長すぎた。

“気持ちいい?”


何度も聞いてきてうざいと思ってしまった…。


「ごめんなさい…、ちょっと痛いです。」


「えっ?、どこが?。ごめん気持ち良くないね…。」


すっかり渇いているのに刺激されても痛いだけ。


寝室にしまってあったのか、引き出しから何やらゴソゴソ持って来て私に無理矢理使おうとした。


奥さんとの時に使ったものなのだろうか。



気持ち悪い…。



「ごめんなさい、もうやめていいですか。」



「やだ?。嫌ならやめるね。ごめんね…、満足させられなかったね。」



嫌な空気が流れた。

No.165 13/07/19 22:08
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「千鶴ちゃんて、不感症なの?。」


一瞬耳を疑った。


「どういう意味ですか。」


「なかなか体が受け入れてくれなかったから、もしかしてそうかなって思っただけ。」


小椋さんはベッドで煙草をふかしながら言った。


こんなに濡れないのも珍しいんですけど。


心で呟いた。



「あまり経験ないの?。」



腹が立つ…。



「すみませんでした。気分を害したようでしたらごめんなさい。でも体は正直ですから。」


やっぱり体の相性は合わないようだ。






No.166 13/07/21 00:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

こんな山奥で帰りたくても帰れない。

ここが街中ならば、直ぐにでもこの場から立ち去れたのに。

「こんな話したくないんだけど…。」


小椋さんが言いかけた。


「嫁ともずっとレスだったんだ。息子が生まれてから数える位しかしてない。」



なるほどね…。



「何かそうなる理由みたいなのはあったんですか。」


「もともとそういう行為が嫌いだったのかな、セックスしても気持ち良くなかったみたい。」

それって…。


「俺に原因あるのかな(笑)。どんな風にしたら気持ちいいんだろ。千鶴ちゃんはどんな風にされるといいの?。」



真面目な顔で聞いてきたから、ないがしろに出来なかった。

No.167 13/07/21 00:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「考えた事ないです。でも、きっとセックスって考えながらするものじゃないような気がします。好きならば感じると思います。だから、本当なら好きな人としかしちゃいけないんだと思うけど…。」


「でも俺の事そんな好きじゃないのにOKだったんだ?。」


「矛盾してますね…。ごめんなさい…。今日はちょっと情緒不安定?…、なんです。」


「誰でもいいから慰めて欲しかった…みたいな?。」


苦笑い。



「ごめんね、変な話。」


「いいえ。」




その夜小椋さんはソファで眠り私はベッドで寝た…。

No.168 13/07/21 00:25
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は不思議な程にぐっすり眠った。

夢をいくつか見たけれど、どんな夢だったか覚えていない。

起きて小椋さんを探したけれど姿がなかった。


「小椋さん?。」


階段を降りるとテーブルに朝食が用意されていた。


手紙だ…。


“千鶴ちゃんおはよう。ぐっすり寝てたから声掛けなかったよ。ちょっと仕事行って来ます。夕方には帰って来るから、ゆっくりしててね。”



「小椋さん…。」



行く場所のない事を分かってくれていた。


それなのにきのう拒否してしまった…。


演技でもいいから最後まで続ければ良かった…。



“手紙読みました。ありがとうございます…。”


メールを送った。

No.169 13/07/21 00:41
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんの目玉焼きは半熟で、私が好きな目玉焼きだった。


ベーコンをカリカリになるまで焼かないのも私好みだった。

コーヒーも私が好きなものだった。


偶然なのだろうか…。



美味しい朝食をいただいて、私は身支度をした。


小椋さんが喜ぶ事がしたくて、何がいいか考えた末、別荘を掃除する事に決めた。


ラジオを聞きながら、掃除をしたり食器を洗う。


天気がいいので、勝手に洗濯をした。


別荘の周りに咲いている花に目をやると、とても癒された。

蝉の声も聞こえてくる。


ここで毎日暮らしていたら何も考えなくていいのかも…。


そんな生活もいいな…。


窓を全て開けて風を入れた。

半日かけて掃除機や窓拭きをやった。


No.170 13/07/21 07:22
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

意外と別荘は汚れていて、掃除に時間がかかった。

高い掃除機なのか、持ち運びが楽で吸引力も良く掃除が捗る。
モップもかけてピカピカになった。

バスタオルや枕カバーも、風と太陽で昼過ぎにはほぼ乾いていた。

食材はほとんど買ってないために、何も作れそうになかったけど、買い置きのパスタとソースを見つけた。

勝手にあちこち物色するのも失礼かな…。

携帯がなり、着信を見ると小椋さんだ。

「もしもし?。」

「もしもし千鶴ちゃん?。」

「はい。」

「何してたの?。ご飯は食べたかい?。」

「はい、いただきました。とっても美味しかったです。」

「それなら良かった~。あのさ千鶴ちゃんいきなりで悪いんだけど、今夜うちのチビ連れて帰っていいかな。」


「あっ、はい。大丈夫です。」

「ごめんね急に。今日預かってほしいって連絡来て…。迎え行って買い物してから帰るから6時くらいになるけど。」


「わかりました。気をつけて…。」


ちょっと動揺した。


という事はお泊まりだ…。

No.171 13/08/18 23:01
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

はっきりと聞いた事はなかったけど、離婚したのだろうか。それとも別居中なのだろうか…。

急に預かってほしいなんて、身勝手な母親だ。


でも人の事は悪く言えない。

私はもっと卑怯者だから。


子供は私に慣れてくれるだろうか。

もしも、パパの何?聞かれたらなんて答えたらいいのだろう。

No.172 13/08/20 22:06
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんは子供を連れて30分後に帰って来た。

チャイムが鳴り、「開けてくれる?」の声に玄関の扉を開けると、子供を抱っこして片手に買い物袋を持った小椋さんが居た。


「ただいま~。」


「お帰りなさい…。」


「藍斗、お姉さんにこんばんはって挨拶して…。」


「・・・・・。」

シーンとしてしまったからすかさず私から声をかけた。


「あっ、藍斗くんこんばんは。」

「パパだぁれ?。」


「ん?、パパのお友達だよ。」

藍斗くんはじっと私を見ていた。




No.173 13/09/06 23:31
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「パパゲームしたい。」

家に入るなり藍斗君が言った。

「ちゃんとご飯食べて風呂に入らないとゲームは無理だよ。」

藍斗君はちょっと不満そうだ。

「あの…、ご飯どうしましょう。」


「俺さっと炒飯でも作るよ。風呂は…、それからにしようかな…。」


「ご飯私作ります。お風呂入って下さい…。」


「本当?、ごめんね。じゃあ飯お願いしようかな。」


小椋さんは微笑んだ。


「藍斗君の着替えって…。」

「多分リュックに持たせてあるはずなんだけど。」


「分かりました。小椋さんのは二階ですよね。」


「うん、ベッドのとこのタンスに入ってる。」


「準備しておきますね。」


「ありがとう、千鶴。」


小椋さんが私を呼び捨てにした。

私は奥さんになった気分だった。

こんな風に子供とお風呂に入ってくれるパパっていいなと思っていた。


藍斗君のリュックには着替えが何枚か入っていて、あとはゲーム機が入っていた。


適当に詰めたような感じだった。


藍斗君はどこか表情が暗い。

笑った顔が見たいな…。


No.174 13/09/06 23:47
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

出来るだけ野菜を細かく刻んで炒飯を作った。


思い鉄鍋を使って作った炒飯は割と美味しそうに見える。


サラダとスープも作ってテーブルに並べた。



「千鶴~。」


バスルームから小椋さんが呼ぶ。


「ごめん、藍斗の体拭いてくれるかな?。」



ちょっと驚いたけど、言われた通りに藍斗君のお世話をする。

「気持ち良かった?。」


黙って頷く。


「お腹空いた?。」


ちょっと首をかしげた。


まだ私の様子をうかがっているようだ。


「藍斗ね、今日ひろみ先生と折り紙したんだ。」

パジャマを着せていると突然しゃべりだした。


「ん?、ひろみ先生?。」


「ひろみ先生ってわかる?。」

「う~んわかんないなぁ…。藍斗君はなにぐみさん?。」


「くま組だよ。」


「くまさんかぁ…。パパもくまさんみたいだよね。」



藍斗君が笑った…。



「藍斗ねぇ~パパとママと飛行機乗ったんだよ。」



「へぇ~すごいね~。」


「藍斗、お姉ちゃんと何話してるんだ?。」


小椋さんも出てきた。

No.175 13/09/06 23:56
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「なんかいい匂いするぅ。今日ご飯なに?。」


「チャーハンだよ~。藍斗君チャーハン好き?。」


「すき。でもね~ママあまりつくらないよ。」


「そっかぁ。お姉ちゃんのチャーハンおいしいといいんだけど心配だなぁ。」


「おっ、すげぇ!。藍斗~、サラダとスープもついてるぞ。」

「パパ早くたべたい~。」


「千鶴ありがとうね。」


「味は自信ないですけど…(笑)。」


「千鶴も風呂入っておいで?。」


「でも、藍斗君待たせたら可哀想だし。あとでゆっくり入ってもいいですか?。」


「そう?、じゃあみんなで食べよっか。」



「いただきます。」



藍斗君の元気な声が響いた。

No.176 13/09/07 00:18
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君は私に慣れてくると色んな話をした。


片言な所や、テレビのCMを見て一緒に歌ったり、突然戦いごっこを始めたり…。


私は男の子を育てた事がない。

だから藍斗君がとても可愛く思えた。


「藍斗、そろそろ歯磨きして寝ないと明日幼稚園だぞ。」


「あしたようちえんやすみたい。」


「だめだよ、ママと約束しただろ。」


「‥‥‥。」



「あいと、お姉ちゃんとあそびたいもん。」


私達は目を合わせた。


「ちゃんと幼稚園行かないとパパもママに怒られるんだよ。」

小椋さんがちょっときつく言った。


泣きそうだ。目に涙を溜めている。


「あいとくん?、お姉ちゃんあしたお仕事なの。だから遊べないんだぁ。ごめんね。」


藍斗くんは涙を拭いながら頷いた。


No.177 13/09/10 19:41
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君はお友達の話や、幼稚園のこと、担任の先生の話をとても楽しそうに話した。


「藍斗くん何をして遊ぶのが好きなの?。」


「うんとねぇ~、ブロックとね~、あと戦いごっこ。」


「そうなんだぁ…。」


「お姉ちゃんてパパと友達?。」

「ん?。あぁ…、そう。パパと友達だよ。」


小椋さんが言った。


「お姉ちゃんゲームしよう?。藍斗とたいこのゲームやろう?。」

「たいこのゲームって何?。」

「知らないの?。じゃあ藍斗が教えてあげるよ。」


「藍斗、明日必ず幼稚園行くんだぞ。約束だからな。」


藍斗くんは黙って頷いた。


洗い物は小椋さんがやってくれた。


私は藍斗くんとゲームをした。

No.178 13/09/10 19:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

たいこのゲームで、私のリズム感のなさがはっきりわかった。
しかも流行りの曲がわからない。

藍斗くんは私が弱すぎても楽しそうだった。


「藍斗くんいつも何時に寝てるの?。」


「わかんない。ママが寝てって言ったら。」



「千鶴、藍斗はもういいから風呂入っておいで。」


「あっ…、はい。でも大丈夫かな。」


「藍斗、歯磨きしよう。もうおしまいだ。」


藍斗くんはちょっと不満そうだったけどゲームをやめた。

No.179 13/09/17 18:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君が気になってゆっくりお風呂に入れなかった。


少しだけど私に懐いてくれているのが嬉しかった。


ママはどんな人なのだろう。

どうしてこの夫婦は壊れてしまったのかな…。


いつもより少し早めにあがった。

「ドン、ドン!」


脱衣所の扉を叩く音がして、振り向くと藍斗君らしき影だ。

「なに~?。」


「あけてもいーですか!」


「どうぞ!」


「おねえちゃん、まだ?。」

「ん?、もうあがったよ。」

藍斗君は待ちきれないようだ。

No.180 13/09/17 18:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「千鶴何飲む?。」

「じゃあビールで。」


小椋さんは優しい。

私は素直になれた。

「おねえちゃん、本よんで~?。」

「本あるの?。」


藍斗君は本棚から絵本を持って来た。

その絵本を見て思わずはっとした。

その絵本は私も記憶にあった。

梨華に買ってあげた本で、小さい頃によく読んでいた。


「藍斗君、この本好きなの?。」

「うん。おばけがてんぷらにされちゃうんだよ!。」


「藍斗…。」


小椋さんが私に気を遣った。


「じゃあ読んだらちゃんと寝る約束だよ~。」


「うん。」


藍斗君に絵本を読んでいるとちょっぴり切なくなった。


梨華はどうしているかな…。

No.181 13/09/17 18:28
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「はい、おしまい。」

藍斗君は苦笑いをしていた。
「じゃあ寝るぞ~。おねえちゃんにおやすみして…。」


「おやすみぃ…。」


「寝かせてくるからテレビ見てゆっくりしてて。」


「はい…。」



カーテンの隙間から外を見ると明るい月が出ていた。


これからどうしようかな。


深いため息をついた。

No.182 13/09/17 19:04
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「やっと寝たよ~。」

30分くらいしてから小椋さんが二階から降りてきた。


「すみません、ゆっくりしてました。」


「千鶴、色々ありがとね。」

ソファに腰掛けるなり小椋さんが手を握って来た。


「改めてなんですか、気にしないで下さい。」


「君さ…、子供いるの?。」

「えっ…。」


「なんか扱い慣れてるし、もしかしたらそうかなって。」


「います…。もう中学生です。」

「うそっ?、本当に?。いやぁ…、驚いたよ…。」


「私、実家が秋田なんです…。」

「秋田?。なんでまたこっちに?。」


「好きな人諦めきれなくて…。」


「……………。」



「置いてきたのか…。」



「はい…。」



それ以上、小椋さんは私に何も聞かなかった。

No.183 13/09/17 20:27
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「これからどうするか考えてるの…?。」


「考えてはいます。でも何から始めたらいいのかもわかりません…。もう何もないんです。明日行く場所も、何も…。」


「千鶴。お願いがあるんだけど。」


「お願いって…。」


「俺の家に居てほしい。」

「どういう意味ですか…。」

「あの家に藍斗を連れて帰りたいんだ。そしてあの家から幼稚園に通わせたい。でも今の俺の状況じゃ、藍斗の事ずっとみてやれないから。千鶴さえ良かったら、藍斗と俺と三人で暮らしたい。」


「小椋さん…。」


私にとってはありがたい話だった。

涙が出るほど嬉しかった。



「あの…。小椋さんは奥さんと離婚なさったんですか。」



「してない。藍斗をどうするかで揉めてる…。」


「まだ離婚なさってないのに上がりこむ訳にはいきません。勝手にそんな事出来ないです。」

「藍斗を行ったり来たりさせたくないんだ。もう俺が育てたほうがいいと思うんだ。あいつろくに幼稚園行かせないで平気で休ませたり、飯も適当だし藍斗が可哀想でみてられないよ。」

No.184 13/09/17 20:34
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「明日あいつと話をするから…。もう終わりにする…。」


「藍斗君の気持ちはどうなるんですか。藍斗君にとってはたったひとりのママなのに。」


「藍斗には必要ない母親だよ。平気で藍斗を預けて男と会ってるような女なんかいらないだろ。」



昔の自分の事を言われているような気がした。

No.185 13/09/17 20:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

翌朝、小椋さんは藍斗君を幼稚園へ送りながら仕事に行った。

“お姉ちゃん、今日も遊ぼうね。”


藍斗君は不安な顔をしてそう言った。


“とりあえず今日はここに居て?。後で電話するから。”


今日は落ち着かない1日になりそうだ。


ある程度掃除も終わると暇になってしまう。


テレビもつまらなかった。


私は庭の雑草が伸びている事に気付いて、草取りをする事にした。

草の中から藍斗君のおもちゃが出てきた。


枯れた向日葵を抜くと、土の中からダンゴムシが出てきた。

ゴム手袋の中は蒸れてきて、汗もかいて気持ち悪くなった。

広すぎる庭の草取りはなかなか終わらない。



もうそろそろ終わりにしようかと思った時、一台の車が別荘に向かって来るのが見えた。


小椋さんではない。



まずい、隠れなきゃ…。

No.186 13/09/17 21:03
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は急いで家に入ると鍵をかけ、靴を持って藍斗君の寝ている部屋に隠れた。


どうしよう…。誰かな…。


部屋のカーテンからそっと外を覗くと、青い車からひとりの女性が降りてきた。


もしかして、奥さんかな。


玄関を開ける音がした。



きっとすぐにわかる。

人の気配を感じるはずだ。


私は冷や汗をかきながら、こっちに来ない事を祈った。


もし見つかったら、なんて言おう。



「誰かいるの?。」



下から上に向かって叫ぶ声。


まずい…。


No.187 13/09/17 21:18
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

車のドアを閉める音がして、私はてっきり奥さんが外に出たと思った。


「入って~。」


“えっ?”

誰か連れてきたの?。


それから男女の話し声がした。

奥さんらしき人はどうやら男の人を連れてきたようだった。

小椋さんは知ってるのかな。

いつまでここにいるつもりだろう…。


今日小椋さんは奥さんと話し合うんじゃなかったの…?。


連れてきた男の人は誰?。


私は携帯電話をリビングに置いていた事に気付いた。


まずい…。小椋さんから電話がかかってきたらどうしよう。

どうにかしてバッグと携帯を持ってこなきゃ。


No.188 13/09/17 23:00
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私はベッドの下に隠れていた。
汗まみれのまま、埃だらけになり不快でたまらない。

早くここから出たい。


二人が階段をあがって来る音がした。


やばい。本当にやばい。


もうおしまいかも…。


そう思った時、二人は藍斗君の部屋の前を素通りして、奥の夫婦の寝室らしき部屋に向かった。

きのう小椋さんが寝ていた部屋。

その部屋に男を連れ込む…?。

嘘でしょ…、あり得ないよ。


部屋のドアが閉まり、かすかに鍵をかける音がした…。


今だ…、今のうちに下に降りて家から出なきゃ。


慌てた私は柵に頭をぶつけた。

そっと部屋を出て静かに階段を降りた。


カウンターに置いてあるバッグを持ち出し、靴をもったまま家を出た。


鍵もかけて見つからないように裏を回って家から離れた。

No.189 13/09/17 23:09
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

見なかった事にしよう…。

何も見ていない…。


ずっと坂道を走って、別荘に続く十字路まで辿り着いた。


帽子を深く被り、日焼け防止の黒いアームカバーで腕全体を隠し、ロングスカートの私はちょっと怪しく、まるで逃げ出してきました感そのものだ。


森の中に道路だけで他は何もない。

車じゃないとどこにも行けない場所だ。


小椋さんに電話をかけようとすると圏外になっていた。


どうすればいいかな…。


急に空が暗くなり雨が降り出して来た。


いきなりの強い雨に慌てた。

傘もない。

No.190 13/09/17 23:21
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

道に迷いそうで怖かったけど、雨に濡れながらずっと道に立っていても怖い。


時々来る車に怪しまれないようにするのに必死だった。


小椋さんが来てくれたらいいのに…。


バス停らしきものを見つけて、錆びたベンチに座った。


“疲れた…。私何やってんだろう…。我慢して秋田にいればこんな事にはならなかったのに…。”


雨が小雨になり、気付けば二時間が経過していた。


もう帰ったかな…。

帰ってればいいな…。


私は別荘に向かって歩いてみることにした。

No.191 13/09/17 23:30
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

青い車はなかった。


良かった…。帰ったんだ…。

悪趣味だと思った。


でも寝室が気になって行ってみた。


ベッドが濡れていた…。


それに触れてしまった瞬間気持ち悪くなった。



なぜわざわざここでするのか意味が分からなかった。


私はシーツを洗濯して掃除機をかけた。


小椋さんに対するあてつけなのだろうか…。


何も知らずに今日ここで寝る小椋さんを思うと怒りがこみ上げてきた。

No.192 13/09/17 23:43
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は疲れていつの間にか眠っていた。

藍斗君のベッドが一番落ち着いた。


携帯の音に起こされ、慌てて出ると小椋さんだった。


「千鶴、今どこ?。」

「あぁ…ごめんなさい、別荘にいます。ちょっと寝ちゃってて。」


「大丈夫か?、何回も電話したよ。」


「大丈夫です。それより、どうなりましたか…。」


「今日あいつと連絡取れなくてさ、藍斗も預けっぱなしのくせに電話1本よこさないで、何やってんだか…。」


「奥さんて、車運転されますか?。」


「するけど、なんで?。」


「あっ…、ただ。幼稚園お迎え行くのかなって気になったから…。」


「今日どうしようか…。そこにいても不便だし、家来るか?。」

もし今日来た人が奥さんなら、何も遠慮はいらないかな…。


「はい…。行かせていただきます。」


「じゃ、今から迎えに行くからある程度支度しててくれる?。あとしばらくまた行かないかも知れないから戸締まりとか元栓もお願いしていいかな。」


「分かりました。」

ゴミをまとめ、水回りも綺麗にした。

まるで、コテージをチェックアウトするかのような気分だった。

No.193 13/09/17 23:50
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

1時間くらいして小椋さんが迎えに来た。


「藍斗君は?。」


「延長保育お願いしたよ。バタバタしちゃったから…。」


「じゃあすぐ迎えに行かないと…。」


「ゴミ、まとめてくれたんだね。ありがとう。」


「いえ…、当たり前ですから。」

不倫の証拠ともいえるゴミは二重に覆い、彼には見つからないようにした。


「明日うちの方可燃ゴミだからちょうど良かった。」



私はひたすら走った坂道を車で颯爽と通り過ぎた…。

No.194 13/09/17 23:57
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

藍斗君の幼稚園は市内でも園児数が一番多い、人気の幼稚園と聞いた。


私は車で待っていた。


藍斗君が見えて車の中から手を振ると喜んで走って来た。


「お姉ちゃん迎えきたの?。」

「うん。藍斗君おかえり。」

「今日もお泊まりできる?。」

「どうかなぁ…、パパに聞いてみて?。」


「パパ、今日もお姉ちゃんお泊まりできる?。」


「お姉ちゃんにはずっとお泊まりしてもらうんだ…。なんてな(笑)。」


「今日藍斗のうちに帰るんだよ。藍斗の部屋で遊ぼうね。」


藍斗君は嬉しそうだった。


私はいつあの奥さんがいきなり帰って来るかと思うと気が気でなかった。

No.195 13/09/18 00:07
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんは近所の人に会いたくないからと、わざと遠くのスーパーに寄った。


私の存在を隠したいんだろう。

いつだって私はそんな女だ。

鍋の材料を買った。


買い物の途中、藍斗君がお菓子の所に行った隙に私は小椋さんに確認をした。


「奥さん、いきなり帰って来たらどうすればいいですか?。」

「その時ははっきり言うよ。俺の女だって。」


修羅場にならないかな…。


ただそれだけが心配だった。


「お姉ちゃん、お菓子一緒に買おう?。」

話の途中で藍斗君が走って来た。

「うん。」


「藍斗、もうレジするからな。急いで。」


藍斗君と一緒に味の違う同じお菓子を買った。

No.196 13/09/18 20:15
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんの家は新築の匂いがした。

玄関で立ち尽くしたまま、私は家の中に入れずにいた。


「入って…。」


「でも…。」


「もうしばらく帰って来てないから、今日も来ないと思うし。」

「‥‥‥‥‥、あの‥、やっぱり無理です。」


俯いた私に小椋さんは言った。

「でも、行くとこないんだろ。金もないのに、野宿でもする気か…?。」


「ごめんなさい。」



私は小椋さんの家を出た。


No.197 13/09/19 22:29
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「お姉ちゃん!、行かないで!。」

藍斗君が追いかけてきた。


「帰っちゃやだ。帰んないでよぉ!。」


「ごめんね…、お姉ちゃん藍斗君ちには行けないんだ。」


「お菓子食べようよ、ゲームしようよ~。」


「またね…。お利口にして待っててね…。」


小椋さんも外に出てきた。


「千鶴…。一緒に居てくれないか。」


「無理です。そんな資格ないですから。」


「藍斗の母親になってくれないか…。」


「はっ?…、何言ってるの?。」

「わかってるよ…。当たり前だよな…、でももう気持ち固まってんだよね…。千鶴とずっと一緒に居れたらいいなって、最近ずっと考えてたんだ。」


私は動揺した。


「ちゃんとけじめつけるから。だから、ずっと俺達のとこに居てくれないか。」


「小椋さん。私…、私今自分がこれからどう生きてったらいいかわかんなくて悩んでるんです。頭ぐちゃぐちゃだし、自分がしてきた事も悔やんでも悔やみきれないし、あなたに甘えてしまう事で、益々駄目な人間になってしまいそうで…。なんでそんな事言うんですか?。」


私は泣いた。

No.198 13/09/19 22:36
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「何をやってもうまく行かないし、自分消えちゃいたいって思ってる…。私なんかと一緒になったらあなたも藍斗君も不幸になる…。私に優しくしないで…。」


「千鶴、とりあえず家入って…。ゆっくり話しよう。」


藍斗君の前で泣くなんて最低だった。


小椋さんに抱きかかえられて家に入った…。


温かかった…。


本当は嬉しかったし、ほっとした。


でもまた人に甘えてしまうのが悔しくて情けなかったのだ。

私はなんて無力なんだろう。

男なしじゃ生きて行けないなんて…。

No.199 13/09/20 13:19
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

小椋さんはそれから何度か奥さんと話し合いを重ね、1ヶ月後に離婚した。

藍斗君は小椋さんが引き取った。

奥さんが私物を取りに来るという日、私は家に居ないようにした。

何時に来るかも分からないし、夜まで戻らないようにした。

藍斗君は幼稚園を休み、小椋さんは仕事を休んだ。


小椋さんは私にお金を渡した。

「好きなように使っていいから。行きたいとこに行っておいで…。落ち着いたら電話するよ。」


「ありがとうございます。」

「千鶴?、もう敬語は使わないで…。俺の事も名前で呼んで欲しいな…。」


「名前…、小椋さんてなんて言うんですか(笑)。」


「あれっ、言ってなかったっけ??。」


「多分…。」


「雅樹だよ(笑)。」


照れながら言った…。


「雅樹…、雅樹さん?。」


「千鶴に言われると照れるな。名前で呼ばれたのも久しぶりだな…。」


「じゃあ…、行ってきますね…。」


今日は秋晴れで気持ちがいい。

No.200 13/09/20 17:05
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

私は知らず知らずのうちに、昌仁のところに向かっていた。

どうしているかな…。


ただそれだけが知りたかった。

会ってどうこうじゃなく、ただ元気な顔が見れたら…、それだけだった。


もしかしたら引っ越してるのかも知れない。


アパートの近くまで来た時、一人の女性に出会った。


その女性は妊婦さんだった…。

なんとなくまだ昌仁が住んでいるような気配がした。


ベランダにあるゴミ箱に見覚えがあった。

カーテンの色も変わっていない。


まだ居たんだ…。



私は胸がいっぱいになった。


きっとあの人は昌仁の奥さんだ。

本当に赤ちゃんが出来てたんだね…。


幸せになってね…。



私は来た道を戻った。



No.201 13/09/20 22:28
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

本当に本当に終わった…。

昌仁はあの人のもの…。

もう忘れなきゃ…。


なぜ昌仁と出逢ってしまったのか分からなかった。


最後こうなる運命ならば出逢わなければ良かった。


あなたは私に何を伝えたかったの…?。

私はあなたに何かしてあげられたかな…。


あの頃に戻りたいよ。


出逢った頃に戻りたい。


No.202 13/09/20 22:52
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

帽子は役に立つ。深めに被れば顔が見えないから…。


もうこの場所には来ることはないのかも知れない。


ひとつひとつの景色を目に焼き付けた。


“昌仁…。いつまでも忘れないよ。来世でまためぐり逢えますように。”


私は公園のベンチに座り、空に祈った。


「何やってんの?。」


ひとりの男の子が話しかけてきた。


「うんとね…。空に祈ってるの。」


「何をお願いしてるの?。」


「内緒。今日は天気いいね。」


「うん。」


「バイバイ。」


「バイバイ。」



私は公園をあとにした。


No.203 13/09/20 23:10
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

「ただいま。」

「おかえり~、大丈夫か?。」
「うん。ちょっとお腹張ってきたから今日はもうやめるね。」

「あまり無理するなよ。」


「うん…。そういえば…、なんかちょっと気になったんだけどね、うちのアパートじっと見てる女の人がいたの。」


「いつ?。」


「30分くらい前かなぁ。なんかここに何か思い出でもあるのかな…。様子がおかしかったんだ。すぐにいなくなったけど。」

「変なやついっぱいいるからな。」

「あきの元カノとかじゃないよね…。」


「はっ?。元カノって…?。そんなやつ忘れたよ(笑)。」


「だよね。もう昔の事は忘れたよね(笑)。あっ、今ここ蹴った!。」

「どれ…?。」


「ほら、ここ(笑)。」


「なんでか俺触ると動かないんだよな。」


「パパだといやなのかな(笑)。」


「なんだよそれ(笑)。」



「みゆ?。」


「なに?。」


「キスしよっか。」


「えっ?。」



「愛してるよ。」


「うん…。赤ちゃんさぁ、あきに似てるかな。」


「あたりまえだ。イケメンに決まってるよ。」


「もうお昼だね。ご飯作らなきゃ。」


「俺なんか買ってくるよ。」

「ありがとう。お願いしちゃおっかな。」

No.204 13/09/20 23:24
Poinsettia ( ♀ oqFMh )

雅樹さんからは何も連絡はなかった。

公園を出て、駅の方へ向かった。

藍斗君に何かおみやげ買って帰ろうかな…。


藍斗君今何が好きだったか聞いてなかったな…。


文房具屋に寄って店員に聞いてみた。


店員さんから今流行っていると言われ、私はこびとのはんこセットを買ってみる事にした。

そして、私は自分に手帳を買った。

もう来年の手帳が売っていた。

雅樹さんには、名刺入れを選んでみた。


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