いつか解き放たれる時まで…③
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その日祥子は凄く機嫌が悪そうだった。
挨拶をしても返してくれなかった。
拓海と何かあったのだろうか…。
にしても仕事にプライベートを持ち込むのは良くないと、祥子を少し見下してしまった。
1回目のステージは客が来なくて流れた。
宮内さんは仕事で関東らしく、今日は居なかった。
まだメンバーとコミュニケーションも取れていなかったから、話し相手は居なかった。
探しても見つからない曲の歌詞や音があった。
それを祥子から借りなければ覚えられなかった。
でも話しかけずらい。
よりによって今日は機嫌が悪そうだ。
しきりに携帯をいじっている…。
「ったく…、どこ行ってんのよ。」
独り言はしっかり聞こえていた。
タバコをふかしながらぶつぶつ言っている。
「あとわかんないのある?。」
「あっ、あのデュエットの曲はどれとどれですか?。」
「あたしはこれとこれ沢地くんと歌ってる。」
沢地くんとは男性ヴォーカルだ。
「キー高いから1こ下げてるよ。ナギさんは高いの出る?。」
“ナギさん”
祥子が初めて名前を呼んだ。
「あまり高いのは出ないと思います。」
「今客居ないからちょっと声出ししたら?。あたしのマイク使っていいよ。」
「でも、まだ覚えてなくて…。」
「歌詞見れば歌えるのあるでしょ、とりあえず適当でいいから歌ってみたら?。」
祥子はそう言ってメンバーに声をかけてくれた。
メンバーはステージに上がってスタンバイをしてくれた。
「皆さんすみません、ありがとうございます。」
「はい!。」
祥子が私に自分のマイクを渡した。
四角で銀色のマイクはとても重かった。
「このマイク使ったことあるかないかわかんないけど上のこの部分しか声拾わないから。ちょっと声出してみて?。」
「あっ…、あーっ。」
マイクを通して私の声がライブハウスに響いた。
「いいじゃん。そうそう、そうやって使ってね。」
祥子がとても優しくて戸惑ってしまう。
「ちょっと見せて。」
祥子は私のノートを見た。
「これ歌ってみよっか。じゃあ○○やってくれる?。」
祥子がいきなりメンバーに言った。
「キーは?。祥子ちゃんと一緒?。」
キーボードの榎子さんが聞いてきた。
「一緒でお願いします。」
そう言うとドラムがカウントを出してその曲が始まった。
“どうしよう…めっちゃ緊張する…”
鼓動が早くなった。
祥子は気付いてないけど俺はため息ばかりついていた。
ここで何やってんだろ。
ちぃちゃんに会いてーな…。
ベランダでタバコを吸っている時だけが至福の時だった。
「たく~、寝るよ~。」
勝手に寝ろよ。
連日腕枕をせがまれた。
勝手にパジャマを脱いで誘ってくる。
「たく?、いい?。」
「ごめんちょっと腹痛いから無理。」
「嘘ばっかり…。最近全然してくれない。」
背中を向けた瞬間祥子は思い切り背中を引っ掻いてきた。
「いてーだろ。なにすんだよ。」
「言うこと聞けよ。居候のくせに。」
「悪かったな。いつでも出てってやるよ。」
「金もないくせに。」
祥子を抱かなくて済んだ。
ちぃちゃん…。
好きだよ…。
ちぃちゃんの顔を思い浮かべながら目を閉じた。
「もしもし、拓海君?」
「ちぃちゃん、すげー声ききたかったよ。」
「どうしたの?、何かあった?。」
「もう俺無理だよ。あいつと別れたい。」
「どうして?。彼女と喧嘩でもした?。」
「もう本当無理。明日にでも出よっかな。」
拓海は限界のようだ。
「ちぃちゃん、会いたいよ…。」
「わかった…。とりあえず落ち着いて、今日は戻りなさい。明日彼女に別れたいって言ってみて?。」
「無理に決まってんじゃん。別れないって。」
「今どこ?」
「コンビニ。」
「風邪ひくといけないよ。今日は我慢して帰って…ねっ?。」
「そっか。ちぃちゃん実家なんだもんね。ごめんね。」
その後電話は切れてしまった。
かけ直しても留守電になった。
拓海に悪いことしちゃったかな…。
「曲覚えた?。」
カウンター席で考え事をしていると沢地さんが話し掛けてきた。
「はい…、なんとか祥子さんのは覚えたんですけど、まだMCとかは全く無理で…。」
沢地さんは体も割とがっしりしていて日焼けをしていてサーファー系だ。
垂れ目がなんとなく癒し系だ。
「早く一緒にステージ上がろうね。頑張って。」
そう言うとタバコを吸いながら携帯をいじり始めた。
最近私は帰りが遅くなっていた。
母さんの目も厳しくて家を追い出されそうだった。
今日はもう帰ろうかな…。
席を立った時にちょうど宮内さんが店に顔を出した。
「ナギ来てたのか。偉い偉い。」
「はい…。」
「今日はラストまで居るか?」
「すみません、今日はこれで失礼してもいいですか?。」
「了解…。なんか顔が疲れてるからゆっくり休んでな。」
「ありがとうございます。」
そう言うと私は楽屋にも顔を出して挨拶をして店を出た。
店を出てすぐ私はまたダメもとで拓海に電話をした。
プルルル…。
電話が繋がった。
「もしもし…。」
かすれた声で拓海が電話に出た。
「もしもし?私。今どこ?。」
「ちぃちゃん…?。」
「もしもし?大丈夫なの?。この前はごめんね。」
「ひさびさだな…ちぃちゃんの声きくの。」
「ねっ、今どこ?。」
エレベーターを使わずに階段で下に降りた。
「今ね、店長のとこにいる。」
「店長?、店長ってラーメン屋の店長?。」
「わかる?。今からちぃちゃんも来ない?。」
「えっ…。」
拓海の居場所が分かってほっとしたけど、ずっと会っていない人に会うのは抵抗があった。
「ごめん遠慮するね。ねぇ拓海君、しょっ…、あっ…、じゃなくて彼女のとこには帰らないの?。」
「彼女のとこ?。なんで?。」
「いや…、別れられたのかな…なんて思って。」
「別れたよ。」
バスは夜が明けてから東京に着いた。
久しぶりの東京。
いつ以来だろう…。
「あきひとおはよう。今着いたよ。」
「遠かっただろ…、疲れたね。高速バス着くとこ今探して歩いてたからもう少し待ってて。」
「うん。」
あきひとに会える…。
半分泣いていた。
いっぱい甘えたい。
涙枯れるまで泣かせてほしい。
遠くで私に手を振る人がいた。
駆け足で私に向かってくる。
あきひとかな。
あっ、あきひとだ。
私も手を振る。
「千鶴~、お待たせ。」
朝から爽やかだ。
「あきひと花粉症なの?、またマスクだね(笑)。」
「今年花粉すげーんだよ、マジできついって。」
「なんだ、千鶴またやつれたな…(笑)。」
あきひとを見上げる目が涙でいっぱいだった。
「泣くな。もう大丈夫だよ…、お帰り。よく頑張ったな…。もう何も考えるな…。」
そう言ってあきひとは私を抱き寄せた。
「俺今日年休取ったから休みなんだ…。ずっと一緒にいるからね。」
「うん…。」
あきひとの手は温かい。
「メガネかけてないね。見えるの?。」
「今コンタクト入れてる。マスク曇るしな(笑)。荷物かして?、持つよ。」
「いいの?。ありがとう。」
「なんだ、やたら軽いな。覚悟を決めて来た割には(笑)。」
私が涙でぐしゃぐしゃだったから、電車を使わずにタクシーであきひとの家まで直行した。
「懐かしい…。」
「だろ?。また千鶴連れてこれて嬉しいよ。」
早くあきひとと二人きりになりたかった。
タクシーの中でもずっと手を握りあっていた。
「買い物はきのうのうちにやっといたから大丈夫。部屋も掃除したよ(笑)。」
「わざわざありがとう。いつも通りでいいのに。」
あきひとのアパートに着いた。
「朝飯食おうか。あきひとが作ってやる。」
「一緒に作ろう?。その方が楽しいし。」
上着を脱いだ。
「可愛いね。黒のワンピース。似合ってる。」
慌てて着て来たのは翔太がクリスマスにくれたワンピースだった。
「あきひと病院は行ってるの?。」
「いや特に行ってないよ。薬も飲んでないし。ただ毎朝血圧は測ってるよ。」
「気をつけてね。」
「うん。ありがとな。」
野菜サラダにトースト、あとポトフを作った。
「さぁ食おう。ひさびさの再会にウーロン茶で乾杯だ。」
「休みなら飲んでも平気じゃない??。」
「そしたら一日中飲み続ける事になりそうだからやめておこう(笑)。」
「二人の再会を祝って乾杯!」
「乾杯…。」
「梨華ちゃんは元気か?。確かもう中学生じゃない?。」
「うん…。」
「中学生の子供が居るようには見えないなぁ~千鶴若いから。」
「あきひとの子供達は元気なの?。」
「あいつら?。うんとね~娘は元嫁の店で働いてるらしい…。息子は最近ずっと連絡取ってないけど元気なんじゃないの?」
「たまに奥さんに会うの?」
「なんで?、会わないよ。」
「あっ、ごめん。」
「なんだ?、ほら食べなきゃ。益々やせちゃうぞ。あまり痩せたら抱いても気持ちよくないからやだな(笑)。」
「痩せたかどうか確かめる?。」
「こらこら、おじさんをからかってはいけないよ(笑)。」
私はあきひとの手を自分の胸元に持っていった。
「千鶴…。」
「あきひと…。」
私は自らあきひとを求めた。
あきひとは細くて切れ長の目で私をじっと見つめた。
胸を優しく揉みながら耳元で囁く…。
「したくなっちゃった?。ん?。」
「あっ…。んっ…。」
胸の鼓動が速くなる…。
あきひとが私の耳元に舌を這わせてきた。
「あぁっっ…。」
ずっと…、ずっと一日中あきひとにしてほしい。
何も考えたくない。
「ここもっとお肉あったのになくなったね(笑)、つまめないよ。」
裸で触れ合いながら会話をするのは妙にいやらしい。
あきひとは少し汗ばんでいた。
脚を絡めたり抱き締めあったり私達は肌の感触を味わった。
あきひとは私の下半身に自分のをこすりつけてきた…。
「こんなになったのひさびさかも。」
誰かとしたのかな…。
「そろそろいい?、我慢出来なくなってきた。」
「うん…。」
あきひとのも愛した。
ちょっと苦しそうな切ない声で感じている様子をみて嬉しくなる。
「なんでこんなにうまいの千鶴って…。」
上から私を見下ろし髪を撫でる。
背が高いあきひとのをするのは小さい私にはちょっと苦しかった。
「もっと俺見て…。そう…。」
あきひとがいいと言うまで私は続けた。
顎が外れそうになった。
「千鶴…好きだよ。」
あきひとが私の中に入った瞬間…、頭の中は真っ白になった。
用意周到なあきひとの部屋にはちゃんと用意してあった。
いつでも女の子を抱けるようにしているんだと思うと嫉妬した。
それから私はあきひとの所に住み始めた。
あきひとが仕事に行っている間に洗濯をしたり掃除をしたりした。
食費として私に預けてくれたお金で毎日朝昼晩の食事を作った。
ただ家事が終わると何もする事がなくなって、考え込む時間もあった…。
携帯電話はあきひとの意向で解約をした。
梨華の入学式の日。
もう桜は散り始めていた。
向こうはまだ蕾になるかならないかくらいだろうか…。
拓海や翔太は私が居なくなった事知っているのかな…。
深雪ちゃんのお母さんも戸惑っているかな。
母さんや父さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
あきひととの約束は、辛くなったらすぐメールすること。
ひとりで考え込まないこと。
勝手にいなくならないことだった。
少しだけたまった洗濯物。
何かしなきゃ申し訳ないからこれも洗った方がいいのかな。
でもまとめて2日おきに洗っているって話してたから、勝手に洗ったら怒られるかな…。
私がきのう履いた靴下と下着。
そのままにしておくのも気になって洗濯機を回した。
外は少し汗ばむ陽気で、気持ちがいい。
寂しい。
あきひとが居ないと何もすることがない。
早く帰ってこないかな…。
洗濯が終わって、あきひとが干していたようにカーテンレールにハンガーをかけて乾かした。
あきひとの私物がしまってある押し入れがどうしても気になって仕方がない。
絶対勝手に見ちゃいけない。
見たっていいことないから。
私の心と裏腹に、私の手は押し入れの戸を開けようとしていた。
押し入れにはジャケットやダウン、スーツ。靴や雑誌など色々なものがぎっしり入っている。
奥に積まれたダンボール。
何が入っているんだろ。
あきひとの知りたくない一面を知ってしまったら、この先一緒に暮らせないかもしれない。
いきなりあきひとが帰ってきたらどうしよう。
やっぱりやめておこうかな。
ガムテープでとめてるわけでもなかった。
一個目のダンボールには色々な書類が入っていた。きちんとファイルに整理されている。
二個目のダンボール。
少し重くてガムテープでとめてある。
本とかアルバムなのかな。
剥がしたら絶対ばれる。
私は開けるのをやめた。
あきひとにはあきひとの過去がある。
私に知られたくない過去だってあるはず…。
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