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匿名
13/03/03 10:29(更新日時)


だいぶ寒さも和らいできた4月の初め、家庭支援センターの小山さんと校庭の隅で話をしていた。


たわいもない家での子どもの様子を時々、笑いながら話す。


私たちの横を校舎に向かって、歩く同年齢くらいの女性。


春休みなのに、どこに行くのかな?


後ろ姿を見送りつつ、ふと、そんなことを思った。


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No.1873997 12/11/08 22:25(スレ作成日時)

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No.51 12/11/18 10:57
匿名0 





暖かな日差しが教室の窓から差し込み、私は新居先生が来るまで、ロッカー上に子どもたちの1学期の学習.生活のめあてと4月の思い出が入ったファイルを眺めていた。

学校のどこで撮ったのだろう?

コウタも恥ずかしそうにはにかんで笑っている写真の下、1学期の学習めあては“じをていねいに書く”。
生活めあては“ともだちといっぱいあそぶ”になっていた。


4月の思い出には学校探検で1年生を案内した絵が描いてあり、これもまた、たどたどしい字で“たのしかった”と書いてあった。


さっそうと新居先生が入ってきた。


「お待たせしてすみません。こちらにどうぞ」


子どもの小さな机を向かい合わせにして、先生は私を促した。

No.52 12/11/18 11:33
匿名0 



「暖かくなりましたね。今日はお忙しいところ、学校に来ていただいて、ありがとうございます」


大学ノートを広げ、今日の日付を書き込む。


「コウタくん、休み時間は元気に外で遊んでました」


ノートの上で指を組むと新居先生は今日の面談の内容を話し出した。


2年生になって、学校は休まず、また相談室にも行かないで、教室で頑張っている

ただ、去年、相談室にいたということで学習面で遅れがあり、それを本人が周りと比べ、気にし出して来ている

友だちとは本来のコウタくんの優しい可愛いところがあって、だいたいダイチくんと一緒にゆっくりくっついて遊んでいる

ただ大人数になると、外からみんなが遊んでいるのを見ている


「それでぼくが気になるのは、周りの子たちに気を使っていて、本来のコウタくんじゃない気がします。何だか人に合わせていないとダメに思ってる」


ん?
それはコウタの性格なのでは…?


「コウタくん、相談室ではもっと怒ったり泣いたり笑ったりしていたと思うんですよね。それが激しいってことじゃなくて、もう少し、自分の気持ちを外に出していた。だけど、教室ではなんだろう…早く自分を周りと同じにしたいと焦ってる感じがします」


焦ってる?


ふいに斉藤先生が言った“焦ってませんか?”の言葉が思い出され、私は新居先生を見た。

No.53 12/11/18 13:51
匿名0 



「…焦って、る?」


私はもう一度、繰り返した。


「ぼくはもっとコウタくんが自分の気持ちを言ってくれていいと思います。最初はぼくに対して遠慮かと思いましたが、言葉に迷ってるところがあります。…もしかしたら、相談室に行かないためにはどうしたらいいのか、
コウタくんが考えているのかもしれません」


新居先生はふぅと息をついて、腕組みをした。


「コウタくんにはまだまだ周りの
サポートが必要に思います。」


私は目を伏せた。


「…相談室はコウタが行かないんですよね」


「はい、行きたいようですが、ここにいなくちゃと無理しているようです…家の様子はいかがですか?」


私は下を向いたまま、答えた。


「家では、先生の話ばかりで…
コウタは何も話してないです」


…コウタ、、、。


自分の視界がぐらりと揺れた。

No.54 12/11/18 14:32
匿名0 



私は全然、強くない。


こんな、ちゃんとコウタのと向き合っていたら、コウタのサインを受け止めれたはず…。


目が熱くなり、涙がこぼれ落ちそう。


私は手をぎゅっと握り、かたく目を閉じた。


こんなことで新居先生の話が聞けなくなる?


ねぇ、私はどうしたらいい…?

No.55 12/11/18 15:06
匿名0 



「お母さん?大丈夫ですか?」


新居先生が心配して声をかけてくれる。


私は鼻をすすって、カバンからハンカチを取り出した。


「…ごめんなさい。私、全然、気付きませんでした。コウタは楽しくて嬉しくて、学校に行っているんだと思っていて」


「いや、ぼくの力不足です。もっと早くにお母さんにも相談しなくちゃいけないのに」


私は小さく首を振った。


「コウタくんが自分の気持ちを抑えないで済むように、ぼくも見ていきますから」


「私は知らず知らずのうちに、
コウタの話を聞いてなかったのかもしれません。コウタの気持ちを無視して、私は自分の気持ちを…」


私はまたうつむいてしまった。


斉藤先生の言葉が耳の奥で響く。

“コウタくんはコウタくんのままでいい”


「コウタくんはお母さんの気持ちに応えたかったのかもしれないし、誰かの期待に応えるってその人のことを好きだからなんだと思いますよ」


私が顔を上げると、新居先生がねっ?と優しく笑っていた。

No.56 12/11/18 15:40
匿名0 



家に帰るとコウタがすぐに私のところにやってきた。


「先生と何、話したの?ボク、先生、好きだよ。先生のクラスがいいッ!」


私は力なく、コウタな頭をなで、


「大丈夫だよ。コウタは新居先生のクラスだよ」


コウタは背伸びするように、身体に力を込めて言った。


「ボク、頑張るよ!まだ難しい漢字は書けないけど、みんなとおんなじになるから!さんすうも好きになるッ。だから…お母さん、ボクを…」


…コウタの言いたいことを全部、言わせたくなかった。


私はコウタを抱きしめて、もういいよ、大丈夫だよと優しく言った。


コウタの小さな肩に顔をうずめる。コウタの身体から力が抜けて、少しすると、私の背中をポンポンッとした。


「コウタ?」


「ボク、お母さん、好き」


身体を話してコウタを見ると、照れて笑うコウタがいた。


「お母さんもコウタのこと、好きだよ」


おでこをコツンと合わせて、私も少し照れて、でも、嬉しくなって、またコウタをぎゅっと抱きしめた。

No.57 12/11/18 16:39
匿名0 



次の日、コウタが学校に行くと、私は家庭支援センターに電話した。


小山さんに話を聞いてもらおうと思ったが、あいにく出張だという。


私は気が重くなった。


昼頃まで身体が動かせず、ダルさを感じた。


もう少ししたらコウタが帰ってくる。

私は無理に椅子から立ち上がると、お湯を沸かして温かなコーヒーをいれた。


いつもはインスタントコーヒーだけれど、今日はstarbacksのコーヒーエッセンス、
バニラ…。


ぜいたくな甘い香りが部屋に立つ。


「あ、これもインスタントか」


私はちょっと笑ってしまった。

No.58 12/11/18 17:48
匿名0 



⚠(´・ω・`)注意



夕方、家の電話が鳴る。
携帯からだった。


私はため息をついた。


「はい、田村です」


受話器の向こうから、気だるい重そうな声が聞こえてきた。


「…コウタくんのお母さん?」


「うん、どうしました?」


「あのねぇ、あっくんがぁ…」


あっくんこと、横井 アツシくん。
コウタと同じ小2。


家庭支援センターで知り合った親子で、その後、引越し、今は別の市の小学校に通っている。


「学校であれやこれができないから、友だちにバカ言われて…」


小学校に入ってからどうやら苦労続きのようで、彼女から愚痴りの電話が来るようになっていた。


私もそんなアドバイスなんてできる立場じゃないけど、お互い、近況を話して、頑張ろうね!と電話が切れたらいいけれど、彼女の場合は違っていた。


「担任の先生に言ってもぉ、あっくんが悪いって。あっくんが手を出すって。それでぇ、あっくんに学校行かなくてもいいって言うんだけどー、あっくん、学校に行くんだって」


「うん」


私は聞き役に徹するだけ。


No.59 12/11/18 18:19
匿名0 



⚠(´・ω・`)注意!



「相手の親からー、電話がかかってきてぇ、いつも親が悪いだの、ふざけるなばかり言われてぇ。学校来るなって言われてー、私は行かなくていいって言うんだよ。でも、あっくんが行くって。僕は普通だって」


「うん、そんな電話やだね」


「えっ!?何?聞こえないッ」


私は少し大きな声で繰り返す。


「うん、やだぁ。コウタくんはどう!?大丈夫!?」


「うん、コウタは教室にいるよ」


「え?聞こえないよ?」


「教 室 に い る よ」


「教室にいるんだぁ。コウタくんは何も言われない?バカとかぁ死ねとかぁ」


これが延々と30分続く。


語尾をのばして話す話し方も本人は全く意識していない。


彼女の中でストレスが限界までくると精神的に不安定になる。


ストレスで耳も聞こえにくくなる。


あっくんのことで“困ってる”を通り越して、壊れてしまう。


彼女と話しているとそう感じる。

No.60 12/11/18 19:58
匿名0 



ヤバイ…


気持ちが沈む……。


今日はもう何もできない。

No.61 12/11/19 14:00
匿名0 



翌日、家庭支援センターの小山さんに電話した。


少しだけ時間があるというので、コウタの話と横井さんの電話の件を簡単に話した。


「今日、夕方、時間あるから、
コウタくんとおいで」


私の話をひと通り聞いた小山さんが言った。


「…ありがとうございます」


私は少しホッとした。


話を聞いてもらえるとやっぱり楽になる。


小山さんも忙しいだろうに…でも、ありがたかった。

No.62 12/11/19 15:07
匿名0 



寒い冬から少しずつ暖かな陽気へと移り変わり、気持ちもホンワカとしていた。


大変だったコウタの1年生が終わり、桜の咲き誇る季節にゆったりゆっくりしていた私。


斉藤先生には2月終わりに指摘されていた今回のこと。


言葉に出していなくても、コウタは私の気持ちを敏感に感じ取り、また自分の気持ちを抑えて、教室や周りと一緒にいようとしていた。


小山さんに会って、私はここ数ヶ月のことを話した。


コウタは久しぶりに支援センターの中に入って、以前、訓練に通っていたときにお気に入りだったおもちゃで出してきて遊んでいる。


「コウタくんの成長だね。
お母さんの気持ちにコウタくんが気付いたのも、周りと自分の違いに気付いたのも、コウタくんがこの1年で成長したからだよ」


いいことじゃないと小山さんは
ニコちゃんになった。


「でも、私の気持ちにコウタを振り回してるようで…斉藤先生にも
コウタをちゃんと見てって」


斉藤先生にじっと見られたとき、目をそらしたのはそんな気持ちを見透かされたような感じがしたからだろうか?


「いいのよ、斉藤先生が何て言おうと!
お母さんはよくコウタくんのことを見てるわ。斉藤先生もいろんな子どもたちを見ているだろうからね。こういうことじゃないかってパッて分かったんだと思う。でも、お母さんはコウタくんだけでしょ?
ちゃんと説明しない斉藤先生も良くないわ」


小山さんは大らかに笑い声を上げたかと思ったら、急に声をひそめ、私に小さく、おいでをした。


「ね、新居先生、若くて熱心でかっこいい先生よね」


ニカッと小山さんは私と目を合わせる。


私はポッと頬が赤らんだ。

No.63 12/11/19 17:10
匿名0 



特別、意識したわけじゃなくて、新居先生の前で、涙もろくハンカチを出したことを思い出したからだった。


「それから、横井さんにはこちらから電話します。田村さんも私に連絡するように言ってくれたんですよね?」


赤ら顔をちょっと隠すように、頬をなでながらうなずいた。


「大丈夫よ!そんなに赤くないわ(笑)」


いや~(>_<)。
小山さんてば!


何か、恥ずかしかった。

No.64 12/11/20 20:38
匿名0 





その週の金曜、コウタの通級日。


いつも斉藤先生の話を聞いて帰るだけだったけれど、小山さんの大らかな笑い声とともに“気にすることない”と言ってもらえた気がして…


「斉藤先生…1年生の終わりに先生が私に“焦ってませんか?”って言いましたよね」


「え?ああ…でも、今はコウタくん、落ち着いてきてますよね。お母さんも…新居先生が受け入れてくれてるからかな」


私は少しためらってから、


「どうしてあのときに何も言ってくれなかったんですか?」


ストレートに聞いてみた。


斉藤先生は間をあけ、何かを思い出して…優しく笑っただけだった。


きゅん…


「コウタくんもお母さんも元気になって良かったです」


斉藤先生はそれだけを言うと、それじゃ、またと一礼をして帰っていった。


きゅんって…
あれ?今の何…?

No.65 12/11/20 21:02
匿名0 



新居先生と面談してから、コウタは新居先生手作りの宿題も合わせて持って帰ってきていた。


ひらがなやカタカナ、拗音の入った言葉を使って、新居先生のオリジナルの絵に合わせて正確を書いたり、穴埋め文字や虫食い漢字、迷路やしりとり文字埋めをしたり…簡単な計算式や絵の数を数えたり、動物クイズや□○△を使って絵を書いたり…コウタは楽しみでその宿題は大好きだった。


合わせて、みんなと同じ宿題を半分以上でできるところまでと新居先生と相談したらしく、それも頑張っていた。


今日は頑張った!とコウタが思うとき、宿題でもテストでもノートでも、新居先生のオリジナルキャラの怪盗が登場する。


コウタもクラスの子もそのキャラが大好きだった。

No.66 12/11/20 21:59
匿名0 



早いもので、1学期が終わる。


コウタは新居先生のクラスで、楽しみつつ、学校生活も学習も頑張っていた。


私も背伸びせずに、コウタのできることとちょっと頑張ったらできることを少しずつ見つけ、コウタとやってみた。


コウタができたときに見せる、嬉しそうに笑う顔がたまらない!


夏休み。


今年は川遊びをめいいっぱいしよう!

No.67 12/11/21 15:44
匿名0 




2学期、それは少しずつ始まった。

コウタが朝、今日は行きたくないとためらいがちに言ってきた。


暑さが残ってるから夏バテかな?


そのときはそう思った。


が、毎週、どこかで1日休みたいと言ってきた。


特別、何がイヤというわけでもないらしい。


でも、行かない日があり、コウタに聞いてみる。


「コウタ?学校、何かイヤ?」


顔を強ばらせ、身体がかたい。一点を見つめ、私を見ずにうんとうなずいた。

No.68 12/11/21 20:20
匿名0 



「友だちのこと?」


「勉強かな?」


「学校に行くこと?」


コウタの理由はコロコロと変わった。


坂本先生や新居先生とも何度も面談し、小山さんの知恵も借りた。


通級には相変わらず、行く。
斉藤先生にも学校の様子を話すけれど、何となく新居先生のやり方とは違っていて、私もだんだん何を考えて、何をしていくのか分からなくなってしまった。

全部が理由で全部が理由ではなかったから。

No.69 12/11/21 20:25
匿名0 



そうこうしているうちに、コウタはお布団から、クローゼットから、部屋から出てこなくなってしまった。

学校をお休みするとなると、泣き止み、頭もおなかも痛くなくなり、すぅと出てくる。


励ましたり、怒ったり、なだめ透かしたり、頑張ったらねとしてみたり、、、こちらもいろんなことをした。


でも、コウタの何かが分からないうちは何も効果がなく、その何かはたくさんの理由を隠れ蓑にして、ちゃんとあった。


そこにたどり着くまで、2学期間のほとんどを費やしてしまった。

No.70 12/11/22 16:07
匿名0 





「コウタくん、どうですか?元気にしてるかな?」


私が前の人と入れ替わりで教室に入ると新居先生が言った。
今日は個人面談…。


コウタのことで、電話や新居先生の空き時間にちょこちょこ話していたので、面談と言っても、それほど話すことはない。


「って言っても、一昨日に話しましたね。何回も学校に来ていただいて恐縮です」


コウタがずっと学校を休み始めるようになって2週間ほど経った頃の面談だった。


「コウタくん、学校に来ているときは楽しく笑って、友だちとも遊ぶし学習も遅れてるわけでもなかったんですが…何かあるんでしょうね」


「私も時間と気持ちの余裕があるときに聞いてみるんですが…いつもの答えで」

No.71 12/11/22 16:26
匿名0 



新居先生はホントに頑張ってくれている。


1学期もコウタの気持ちを大事にしてくれ、コウタが思ってることをゆっくりじっくりと引き出してくれた。


優しい、けど怒るときは怖い…そして一本筋が通っていて、大事ことが分かってる新居先生。
だけど、おっちょこちょいで、よく“忘れたッ”って言ってる。


子どもに慕われて、ポケモンが好きで、ちょっと子どもっぽいところもある(笑)。


ピアノが得意で、子どもたちにもたまに弾いて聴かせていた。


子どもの気持ちに寄り添ってくれる。


コウタも大好きな新居先生。

No.72 12/11/22 17:42
匿名0 



「ゆっくりやって行きましょう。……それで、朝、コウタくんのお迎えに行こうかと思っているのですが、、、」


え?朝?


「先生、それは大変ですよ💧…朝はコウタと長々、話していて、学校にいつも連絡が遅れてしまって。…すいません」


「いえ、それは大丈夫です。ぼくこそ、お母さんに負担をかけてしまって、朝、コウタくんにぼくが声をかけたり、迎えに行ったらどうかと思ったんです…」


新居先生の通勤途中に我が家があるのは知っていた。


コウタは毎朝、調子が違っていて、確かに新居先生に声をかけてもらったら、行くと言いそうなときは今までもあった。


だけど、きっと、大変…。

No.73 12/11/22 18:51
匿名0 



「それで、いけないことなんですが…メールで朝のやり取りができたらいいかなと思っていて、メルアドの交換をと思ってます」


メール?
メルアド?


「…先生、ありがとうございます。
でも朝はやっぱり大変だと思います。力づくで連れて行こうとは思っていないし、先生が声をかけて下さったら、コウタも気持ちが揺れると思います。
けど、お迎えに来てくれた先生とコウタが急に行きたくないと思ったとき、先生にご迷惑とコウタが先生に応えられなかったって別の意味で先生と距離ができてしまう気がします」


「コウタくん、イヤかな?」


「新居先生が大好きだからですよ。先生は“学校で待ってるよ”って言って下さるのがいいと思います」


私はコウタのことをいっぱい考えてくれたことが嬉しかった。


メルアドの交換はしなかった。


…このときは。

No.74 12/11/23 09:26
匿名0 



新居先生との15分程度の面談が終わり、教室を出ようとすると、

「あ、下まで」


新居先生が下の昇降口まで送ってくれた。


「でも、いつでも何でも言ってくださいね。ぼくもコウタくんの力になりたいから」


と言って、にっこり笑ってくれる新居先生。


そう言葉で言われると、何だか恥ずかしく照れくさい。


小山さんじゃないけど、やっぱり新居先生は若くて、熱心でかっこいい人。
そして実直で素直。


お母さんたちからも人気があるのが分かる。


保護者会が終わるといつも新居先生と話をしようと列ができるのだ。


私も少しだけ、話すから同じかな(笑)。

No.75 12/11/23 10:52
匿名0 



と、ちょうど次の面談の村山さんが来たところだった。
私は軽く村山さんにあいさつ。


「もう少し、話したかったな」


それはとても小さな呟きだった。私はすぐ隣に立つ新居先生を振り返る。


「田村さん、また。ありがとうございました」


村山さんは「遅れたーッ」と新居先生にドンッと身体を軽くぶつける。


「田村さん、お疲れさま~。先生のお見送り付き?いいなぁ。先生、私も送って♪」


「え?こうして出迎えたのに?やです」


「えーッ、じゃ今度のお楽しみ会、先生の嫌いなニンジン使っちゃお!ニンジンパンケーキ(笑)」


「それはやめてください💦」


村山さんはクラス役員…。
普段から接する機会が多い分、からかい口調に新居先生をいじる。
そして、いつものじゃれあい。


ちょっとうらやましかった。

No.76 12/11/24 06:52
匿名0 



11月に入り、今度は通級の個人面談。


こちらは時間に余裕があり、30分枠。


コウタがずっと学校を休んだままのときに面談をした。


斉藤先生はいつになく冷たい雰囲気で…もしかしてご機嫌ななめ?


「今日はお忙しい中、ありがとうございます」


斉藤先生はそれだけ言って黙ってしまった。


うわー何だろ?
話しにくい…。


「先生?…何かありました?」


「あ…いえ、さっき、新居先生と電話で話したんです。少しだけ」


新居先生と電話?


「お母さんを戸惑わせないで下さいと言われました。自分がよけいなことを言ってるみたいですね」

えーッ、新居先生💦💦


「コウタくん、今、学校に行けなくなっていますよね。
友だちや学習のことで何か言ってますか?」


早口ッ…


「特には。朝、学校に向かうまでがイヤなのかな?って最近は思っていて」


「コウタくん、こちらでも学校のことは言わないのですが、案外、新居先生が苦手なのかもしれませんね」


さらっと斉藤先生は言った。


「いえ、コウタは好きですよ」


しばらく、沈黙が流れた。


流れる空気が重たかった…。

No.77 12/11/24 12:03
匿名0 



たまらない重たい空気を壊そうとあのッと声をかけようとすると、


「自分は以前、こういうときは口を出してました」


斉藤先生がおもむろに話し出した。


「前、お母さんに焦っていませんか?と言ったときもそれ以上のことは言いませんでした。
お母さんも何で何も言わなかったのかって聞かれましたね…自分は前の赴任校で…」


「前任校ですか…?」


斉藤先生がふと私を見る。
私は目をそらさなかった。


斉藤先生が先に目を伏せた。


「いえ、何でもありません。でも惑わせてるつもりはないですよ」


それからは今まで通りの面談になり、淡々とコウタの今後の話をした。

No.78 12/11/24 14:18
匿名0 



翌日、私はコウタの自学習ノートを持って学校に行き、新居先生に昨日の面談のことを話した。


新居先生はクックッと笑った。


「もうッ!私、どうしたらいいのか分からなかったですよ💦」


「すみませんでした。
でも、いつもそんな感じですよ。自分の言いたいことだけ言って、こっちだってちゃんと相談したいんです」


ん?斉藤先生はちゃんと話を聞いてくれるよ?


「でも、意外ですね。お母さんを惑わせないでって効いたんですね」


新居先生はまた可笑しそうに笑った。

No.79 12/11/24 14:32
匿名0 



「あ、斉藤先生はコウタは新居先生が苦手じゃないか?って言ってましたよ」


今度は新居先生の動きが止まり、

「…斉藤先生、何言ってるんだろう?めちゃくちゃだよ~。コウタに嫌われるのやだなぁ😢」



だけど、経験からなのか、単に斉藤先生から新居先生へのいじわるなのか…、これが当たっていたのである。

No.80 12/11/24 14:36
匿名0 





コウタが学校に行けなくなった本当の理由…。

















“新居先生に嫌われたくない”

No.81 12/11/24 21:03
匿名0 




コウタは自分の気持ちがうまく言えなかったり、伝えられなくなっていたのは何も友だちだけではなかった。


新居先生が優しく聞いてきてくれることにも、どう答えたらいいのか分からなくなってしまっていた。


新居先生のコウタを思う気持ちとは裏腹に自分の言葉が相手に通じるか、コウタは悩み、分かってもらえないと思ってしまったのだった。

No.82 12/11/25 08:56
匿名0 



私もコウタからそれを聞いたとき、ショックだった。


そして、それを新居先生に伝えるのも、困ってしまった。


斉藤先生には言いたくなかったし、私はまた小山さんに相談した。


小山さんは私の話を聞いて、


「あらら」


と、ひと言。


それから、うーんと唸って、


「新居先生にはそれは言わないで、作戦を伝えましょう!」


と、いつものニコちゃんになった。

新居先生も頑張っているのに、すべてを伝える必要はないわというのが小山さんの意見だった。

No.83 12/11/25 12:38
匿名0 



小山さんの作戦はこうだった。


「いい?コウタくんは今まで学校に行ってないわよね。
コウタくんに新居先生が待ってるから行こうと、ちょっと無理やりだけど、連れて行って。ここはお母さんの腕の見せどころよ」


可愛くウィンクをしてみせる小山さん。。。


「それで、コウタくんには“今日は帰ります”だけのセリフね。
で、新居先生は“はい、分かりました。また明日”だけ」


「それだけ?」


「そうよ♪」


あっさりしすぎた作戦で、呆気に取られている私に、小山さんはニッと笑ってみせた。

No.84 12/11/26 14:56
匿名0 



小山さんのところから帰る途中、コウタには買い物をしてくると言って出てきたから、大型モールの中にあるスーパーに寄った。


最近、はまってるコウタのお菓子を見ていると、


「田村さーん♪」


と声をかけられた。


村山さんだった。


「買い物?ねぇ、コウタくん元気?」


するりと身体を寄せてくるのはいつものことだった。


「うん、元気。コウタの好きなお菓子を見てて」


「あ、それ、おいしいんだよね。ミナミにも買っていこっと」


私が手にしていたお菓子と同じものを商品棚から取る。


「ねぇ、今度、生活科で郵便局に行くよ。コウタくん、どうかしら?」


うーん…まだ分からないなぁ。


「ミナミ、コウタくんに会いたいって。早く学校、来ないかな?って言ってる」


ちょっと苦笑い。


「でも、ホントに待ってるよ。毎日じゃないけど、新居先生もコウタくんの話をしててね。あ、ほら、あの話。面白かった!」


クックッと村山さんは思い出し笑いをした。

No.85 12/11/26 17:23
匿名0 



新居先生、何を話しているんだろう?😥


私が学校に行ったときに話してるコウタのことだよね。


面白かった話かぁ…。


村山さんはひとしきり話してから、


「コウタくんのこと、みんな待ってるから」


と言い残して、じゃあね!といなくなった。


…風みたいな人だわ。


私は少し気持ちが軽くなって、
フフッと笑った。

No.86 12/11/26 20:07
匿名0 





スーパーの買い物から帰って、冷蔵庫にしまっていると、コウタが走ってきた。


リビングのテーブルには自由帳があり、コウタはいつも自分の空想の世界をつぶやきながら描いている。


「今度、新居先生のところに行こうね」


というと、目ざとく好きなお菓子を見つけたコウタは分かりやすく、ビクンッとした。


「やだ。行きたくない」


「コウタはずっとお休みしてるよね。新居先生が会いたいって」


「やだ。ボクは会いたくない」


「新居先生、コウタのこと、学校で待ってるよ」


「………」


ちらりと私の顔を見上げた。

No.87 12/11/26 20:42
匿名0 



不安そうなコウタに優しく言う。


「大丈夫、先生にあいさつしたら帰ろう?」


「あいさつだけ?」


「うん」


「それで帰っていいの?」


「いいよ」


私はにっこり笑う。


コウタはまだ半信半疑な顔で私を見ていた。

No.88 12/11/27 19:26
匿名0 



コウタはダイニングの椅子にぺとんと座り、


「……何てあいさつするの?」


目を伏せて、お菓子の袋をいじる。


「朝だったら、“おはようございます”だよ。それで“今日は帰ります”だけ」


コウタがびっくりした顔をした。


「先生、怒るよ」


「大丈夫。先生、怒んないよ」


「先生、学校おいでって言うよ」


「言わない」


「じゃ、一緒に勉強しよって言う!」


「言わない」


つとコウタは黙った。


「…先生は何も言わないの?」


私はちょっと考えた振りをしてから、


「“分かりました。また明日”って言うかも」


「ボクの言ったことに質問しない?何も聞かない?」


コウタのネックはここだった。
そして、小山さんの作戦のポイントなのだ。


「うん」


私はニコニコした顔でうなずいた。


コウタは私の顔をじっと見つめて、


「学校に…行ってみる」


と小さな声で言った。

No.89 12/11/27 20:40
匿名0 



夕陽が傾き始める頃、私は新居先生を訪ねて、教室にいた。


新居先生には小山さんの作戦とは伝えずに、簡単に話をした。


「コウタを学校に連れて行きます。それで、しばらくは先生にあいさつをして帰ります。
先生はコウタを引き止めないでほしいんです」


「コウタくん、学校に来ますか?」


「連れてきます。まだ友だちには会えないので先生の空き時間や休み時間とかにしますね」


「はい」


「それで、コウタは今日は帰りますって言うので、先生はたとえば“分かりました。また明日”って感じでお願いします」


私はどんなお願いをしているだろうか?


たったそれだけの会話は、ようやく学校に来たコウタを逆に突き放している感じもしなくはない。

No.90 12/11/27 21:11
匿名0 



新居先生が黙っている。


「…それで、コウタくんは何か変わるんですか?学校に来れるのだったら、ぼくのところにいてほしい」


「ごめんなさい、先生。コウタは今までずっと休んでました。泣いたりわめいたり、力いっぱい私にもイヤだと言って学校に来なかったです。少しの間、コウタのリハビリだと思ってください」


新居先生はまた黙ってしまった。今度は考え込むように。


「…分かりました。引き止めません」


私はその言葉を聞いて胸をなで下ろした。


「ありがとうございます」


明日から連れて来ることを伝えて私は教室を出る。


振り返ると新居先生は窓際に寄りかかり、オレンジ色の西の空を遠くに見ていた。


「あの…コウタは新居先生のこと、好きですから」


新居先生は寂しそうに小さく会釈した。


「…ぼくがコウタくんにできることって、ないんですね」


それは消えそうなくらいの哀しい声だった。

No.91 12/11/28 22:50
匿名0 



翌日、いつも通りに起きてきた
コウタに私はいつも通りに声をかけた。


今日は学校に行く…ただそれだけのことなのに、1つのめあてができたようで、私は気持ちが楽になった。


たとえ、それがあいさつをして帰るということでも、とても素晴らしいことをするようで、今日はコウタを思いきり、抱きしめてほめてあげようと思った。


中休みに間に合うように、10時には家を出ようと支度をした。


コウタが久しぶりにランドセルを背負う。

「…何も入れてないよ?いいんだよね?」


「うん」


私は今のコウタの姿だけで、すごく嬉しくて涙ぐむ。


コウタは少し緊張した面持ちで、その場に突っ立っていた。

No.92 12/11/29 15:41
匿名0 



中休みで子どもたちが校庭で遊んでいた。


体育館入り口の対面くらいに子どもたちの昇降口と事務室がある。


コウタはそこを少し隠れるようにしてささっと通った。


新居先生は多分、職員室。


職員室は2階なので、東階段をそっと上る。


コウタは久しぶりなのに、周りを見る様子もなく、口を一文字にしたまま、少し下を向いていた。


連れてくる途中途中で、やっぱり帰る!を言われるかと思ったけれど、校門近くでも学校の中でも、その歩みは止まらなかった。

No.93 12/12/01 08:24
匿名0 



廊下をゆっくり進んでいくと、突き当たりに職員室がある。


ガラスのはまった扉から2、3歩前でコウタは止まった。


私が扉に手をかけるとコウタが私の洋服の裾をつかんだ。


私はそれをそのままに、


「こんにちは。田村ですが新居先生、いらっしゃいますか?」


扉を静かに開け、言った。

No.94 12/12/01 23:26
匿名0 



自分の席にいた新居先生は扉を開けた私を見つけ、うなずいた。

扉まで来ると、ひょいと顔を廊下に出す。


「コウタくん」


新居先生の小さな声かけにコウタはささっと私の後ろに隠れてしまった。


「こんにちは。久しぶりだね」


廊下に新居先生も出てきて、


「コウタくん」


ともう一度、声をかけた。


コウタはぎゅっと私にしがみついてきた。


「コウタ、先生にあいさつできる?」


私は身体をねじらせ、コウタを見た。


コウタはイヤイヤと頭を振る。


「ん?できそう?」


もう一回、首を振った。

No.95 12/12/01 23:53
匿名0 



新居先生は小さく小さくふっと息を吐くと、その場にしゃがみ込み、コウタに声をかけた。


「いいよ。先生、待つよ。久しぶりだから、コウタくんの顔が見たいけど、我慢する!…コウタ、手でバイバイ」


恐る恐る振り向いてる私を見上げるコウタ。


私がうんとうなずくと、コウタはまた恐る恐る手だけを出した。


…バイバイ👋。


「ん、コウタ、また明日」


新居先生が言い終わるかどうかの内に、コウタは私から離れ、一目散に今、来た廊下を走っていった。


走り去ったコウタの背中を見送りながら、小さなため息…。


それは、私と新居先生のコウタがここまで来れた安堵感とこれから先への不安感が入り混じった…小さなため息だった。

No.96 12/12/03 18:01
匿名0 



次の日、今度は3時間目の音楽の授業で、新居先生は空き時間。


2階にある教室をそぉっとのぞいてみた。


「先生、こんにちは」


声をかけるとこちらに気付いて、先生が立ち上がり、


「コウタ、こんにちは」


出入り口の端っこからちょこっとのぞいたコウタに言った。


コウタは身動きせず、ただまた手を出して、バイバイ👋をした。

No.97 12/12/03 18:16
匿名0 



次の日は金曜日、今学期、最後の通級日だった。


斉藤先生にイヂワルなのか嫌みなのか…“コウタは新居先生が苦手”と言われた面談から今回、コウタの登校トライが始まった。


斉藤先生にはどんなトライをしてるかは具体的には伝えていなかった。


言いたくないのもあったから。


私自身、新居先生の味方…ぽくなっていた。

No.98 12/12/04 18:49
匿名0 



通級のお迎えの帰りがけ、いつものように斉藤先生と今日のコウタの様子を話した。


斉藤先生が淡々と話す。私はコウタがちょこちょこと動き回っているのを目で追いつつ、聞いていた。


私、斉藤先生の顔を全然、見てない…自分でそう分かった。


気まずい?何だろう?
イヤなの?

No.99 12/12/04 20:06
匿名0 



いつもなら斉藤先生は“また来週”と言うけれど、今日で今学期はおしまい。


今度の通級は3学期…なので、


「さようなら。良いお年を」


が、先生の別れのあいさつだった。


「先生も良いお年をお迎えください」


私もペコリと頭を下げた。


コウタを呼んで帰ろうとすると、戻りかけた斉藤先生が私を呼んだ。

「お母さん、登校シールがコウタくんには向いてると思いますよ」


斉藤先生は私の顔をしっかり見て、


「手帳でもいいので学校に行けたら、あいさつだけじゃなくて、シールを張るんです。そうするとコウタくんも自分が頑張ってるのが分かりますよ」


そう言い残して戻っていった。


私は返す言葉が見つからないというより、何を言われたのか、そのときはよく分からなかった。

斉藤先生に、私が先生と話したがらないのを察しられているのも気付かれているなんて、もっと分からなかった。

No.100 12/12/04 22:36
匿名0 



シール?
手帳?


“登校手帳+シール”


そんな感じで頭にポワン💡と浮かんだ。


土日の休みに100円shopで手のひらサイズの手帳と文房具屋さんをめぐり、可愛いどうぶつたちが✨👑✨ピカピカ王冠をかぶってる
シールを見つけた。


コウタに見せたら、なかなかご満悦な様子でシールを眺めてニタニタ🎵していた。


そんなコウタを見ていて、私は通級の連絡ノートをふと思い出した。


1年生のときの担任の先生との面談を頑張ったとき、斉藤先生が連絡ノートにコウタと同じ😺シールを張ってくれたっけ…。


あのシールを見つけたとき、自分の頑張りを応援してくれて、認めてもらえて、見守ってもらえていたように思えた。


すごく嬉しかった…コウタも同じかな?そんな感じなのかも。


コウタのニタニタ🎵を見ていて、そう思った。

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