悲しい女
短編小説です…
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ただ話しを聞いていた美穂が重い口を開けた
美穂 「もういいよ…貰っちゃお💦…」
夏子はあっけにとられた
夏子 「まじ?」
美穂 「そう…まじ……今から返しに行っても、もう遅いよ…
これはプレゼント…神様からの…」
夏子 「プレゼント?……神様から?」
美穂は…まるで自分に言い聞かせるようにゆっくり続けた
美穂 「そうプレゼント…私も夏子もさぁ、今まで頑張ってきたし…悪いことな~んもしてないよね…
だから一度だけ、悪いことだけど…このお金で、夏子も私も幸せを買おうよ…」
夏子 「幸せ?…」
美穂 「そう…大事に大事に…感謝しながら使わせてもらおうよ…」
夏子 「……そうだね…美穂…」
美穂「うん…。」
しばらく二人はただ黙って座っていた
夏子は立ち上がると冷蔵庫から缶ビールをとりだした
二人は無言で飲んだ…
そして、美穂は夜中に部屋へ帰ってきた…
お金は紙袋に入れて 押し入れの布団の下へそっと押し込んだ…
布団に入っても眠れなかった
あんな事言ってしまったけれど、神様のプレゼントなんて…
やってる事は、ただの置き引き、ネコババ…まして死体のそばから…
神様が聞いて呆れる
罪の意識が頭に充満してきた
その時
カタッ…
美穂 「なんだろ?…」
ザッ ザッ ザッ
砂利道を歩く足音がして、やがて…玄関前で止まった
美穂 「だれだろ?…
」
やはりあの金は…
え?!私は、付けられてた?!!…
体中に緊張がズキンと走った
ガチャガチャ…ドンドン!ガチャガチャ!!
ドアのノブが今にも壊れそうだ!
美穂 「ヤバい…ヤバい!助けて」
ガシャ!
ついにドアが開いて、黒ずくめの男が 近づいてきた
美穂に馬乗りになって首を閉めた!
美穂は声が出ない殺されるんだ…
美穂 「たす…け・て…大貴…大貴………」
「お母さ~ん」
遠くで大貴の声が聞こえる…
目が覚めた
夢だったのだ…
美穂の顔の前に大貴の顔があり、鼻をつまんで、ケタケタ笑っている
オバァ「もうお昼だよ~いつまで寝てるの~?いい天気だよ~」
オバァがカーテンを開ける
時計を見ると11時…
テレビをつけると昨日の事件が報道されていた…
美穂は、まるで犯罪者のようにドキッとしながらテレビに目をやった
あのフジミホテルが映っていた
その向かい側の空き地には、黄色いテープ、そして警察官が立っている
その前でリポーターがマイクで報道していた
リポーター「…警察の調べによると…殺された二人の身元はまだわかっていません、また今のところ、目撃情報もないと言う事です」
金は?まだ捜査中なのか、それとも何かしら報道できない理由でもあるのか、金の話しはなかった…
悶々としながら、月曜日になった
大貴を送り出して、工場へ向かった
そうだ!…京子の旦那の浮気調査の事、すっかり忘れていた、
事件の事で思考力は皆無だった
その話題にも、札束にも触れずに、三人は黙々と作業した…
お昼になった
それぞれに弁当を食べ終わりお茶を飲みながら美穂は話しをきり出した
美穂 「あの…京子の旦那さんの事だけど…」
言いかけたら、京子が待っていたかのように…
京子 「あ~、二人には本当に迷惑かけてごめんなさい…あの後、旦那が白状したの…やっぱり不倫してた…私色々考えたんだけどね~離婚する事にしたわ…」
夏子も美穂も唖然として京子を見る
京子 「長野へ帰る事にしたよ…ここも今月中に辞める…子供たちの転校手続きとか色々あるしね~」
京子の両親は、年金暮らしのはずだが…養育費とか慰謝料とか貰えたのだろうか…それとも裁判中なのだろうか…
美穂は気になったが…京子には、もう決めたから…みたいな雰囲気があった…
言いたくなったら自分から言ってくるだろうと、聞くのはやめた
そして12月に入ったある日曜日
京子は子供二人と三人で長野へ帰って行った
駅で見送って
久しぶりに美穂は夏子と話しをする
夏子 「寂しくなるね~」
大貴が美穂の自転車のペダルを回して遊んでいる
美穂「どうなった借金返せた?」
夏子 「おかげさまで、彼びっくりして、なんだその金?!って…あはは」
美穂 「なんてごまかしたの?」
夏子 「宝くじ…強引に宝くじ!ってねへへへ…」
二人は久々笑った
大貴「なに~どうしたの~?」
大貴を自転車の後ろに乗せながら
美穂「じゃ夏子またね ~」
夏子の乗った車は遠ざかり、やがて小さくなって行った
さすがに自転車は風が冷たくて寒さが身にしみた…
美穂 「たいきぃ~車買いに行こうか~?」
大貴 「なに~?なんて言ったの?」
美穂は力強くペダルをこいた
やがて…クリスマスで街が華やかになってきた頃
軽自動車に大貴を乗せた車がオバァの家に着いた
オバァ 「なに?どうしたのこの車、」
オバァが目を丸くして言った
美穂 「給料上がったから、買っちゃった~中古だよ」
オバァ 「へぇ~オバァも乗っけてよ~」
大貴 「オバァ~一緒に回転寿司食べに行こう!」
三人を乗せた車は動きだした
美穂は思った
大切な人たちがいて、それにほんのちょっとのお金があったら、より幸せになれる…
少しづつ 使わせてもらおうと美穂は神様に感謝した
だが、罪の意識は捨て切れてはいない
それは、渡ってはいけない橋の上を渡り初めて、もう戻れない…危ない綱渡りのような心境だった
だが、美穂は笑い飛ばした、なるようなれ…
そう思いかえした
そして何日かたったある日 夏子が言った
夏子 「京子の旦那さんから、電話が来て…京子の置き忘れがあるらしいんだって~
なんかよくわかんないけど…見に来て欲しいってさ~」
仕事の帰りに二人は京子の家へ向かった
京子のいない家には、見覚えのない花柄のカーテンや、お世辞にも趣味がいいとは言えない真っ赤なジュータンが敷きつめられていた
もう新しい女が住んでいるのだろうか
リビングで
旦那 「実は見て頂きたいものがあるのですが…」
そう言いながら、奥から大きめの紙袋を持ってきた
中から取り出したのはバックだった
二人は唖然とした
あの札束の入ったバックだっ!
あの日京子もあのホテルに来てどこからか見ていたのだ!!
旦那「このバックどう見ても京子の趣味じゃないし、もしかしてお二人さんからお借りしたものならお返ししなきゃと思いましてね~」
美穂 「い…いえ私たちのじゃありません」
旦那「そうですか、じゃこちらで処分しておきますね」
お茶でも、と言ってくれる旦那を丁重に断り
外へ二人は飛び出した…
二人は顔を見合わせて…
美穂 「京子バックごと持って行ったんだ…」
夏子「ね~私たち1200万円だったよね、あとどんぐらい残ってたの?」
夏子 「かなりあったよ~私がとったのはほんの一部だよ…」
美穂 「じゃ一億?」
夏子「京子は…8800万持ってったの?!」
二人は口をぽかんと開けたまま、立ちすくんでいた…
…完…
午前10時
女は家から出てきた、スーツ姿で高そうなバッグを肩から下げて、年は、50前後
玄関に鍵をかけ、家の前の車に乗り、出かけて行った…
それを男が見ていた
男は加えていたタバコを捨て、靴で揉み消す
そして、男はその家のインターホンを押した…
ポンポ~ン
男は作業着姿
返事のないインターホンに
やたらお辞儀をして
玄関脇の高い垣根の中へ姿を消した
誰が見ても 男は工事関係者である
男は綿の薄い手袋をはめた
そして、大胆に素早く、手当たり次第、窓をチェックして行く…
すると…勝手口が簡単に開いた
男はニヤリと笑い
ズボンのベルト左右にそれぞれ、脱いだ靴をはさんだ
そして中へ入って行った…
そこは台所…
男は鋭い目つきで見回すと、その先のカウンター続きのリビングをそっと覗いてみる
リビングのカーテンは開いていたが、家の周りを高い垣根が取り囲んでいて、外からは中が見えない
本棚、壺、ステンドグラスのランプ引き出し
男は物色し始めた
だが金目のモノはない
リビングを出て、ゆっくり廊下に出た…
左は玄関、右は部屋のドアが3つ
男は右に廊下をゆっくり、ゆっくり進んだ
突き当たりのドアは、曇りガラスが上部、横長についている、おそらくトイレだろう
その手前にドアが2つ並んでる
手前のドアノブをゆっくり 回す
男に一瞬の緊張感が走る
そこは夫婦の寝室らしくベッドが2つ並んでいた
窓際には、高級で重量感漂う真っ白いドレッサーがあった
引き出しを開けると 宝石箱があらわれた
中にはダイヤの指輪、イヤリング、ネックレス、そして真珠…など…など
奇麗にズラリとならんでいた…
男はポケットから布袋を取り出すと
次々無造作に袋へ詰め込み、作業服のズボンのポケットへ無理やり押し込めた
そしてタンスの小引き出しを開けると
ATMの封筒があった
薄目をあけて中を覗くと、一万冊が20枚ほど入っている…
それを上着の内ポケットへ押し込んだ
…もうこれでいいか…長居は禁物だ、さて出るか…
振り返って廊下へ出ようとした時💦
廊下に ぬうっと白髪の老婆が立っていた!!
男は仰天して
あっ!!
と声を上げた
男の頭は真っ白になった
…ここの家には年寄がいたのか…トイレから出て来たのか?…
…これだけ間近で顔を見られたからには…年寄りでも………
男の思考回路はぐじゃぐじゃに駆け巡り、パニックになった
男は、とっさに老婆の首に手をかけようとした…
その時
老婆 「俊夫かい?」
男はさっと手を下ろした
老婆は男の方を見てはいるが
老婆と男とは、視線がかなりずれている…
…え?!ひょっとしてこのばあさん目が悪いのか?
老婆 「おや違うかい…浅美さんなのかい?…クラス会へ行ったんじゃなかったのかい?」
大の男相手に、女の名前を呼ぶところを見ると
やはり目は、見えていないらしい
…そうか、目が見えないならこの老婆を手にかけなくていい…
男はほっと胸を撫で下ろした
…適当にあしらっておいて、ついでにお宝でもあったらラッキーだし…すぐ出て行けるし…慌てる事はないか…
そして男は少し大胆になった
男「オレだよ…」
そう答えてみた
…もし、空き巣と感づかれたら逃げればいい…
老婆は一瞬驚いた顔をしたが
老婆「その声は、もしかして安男か?安男じゃないか?」
…え?会話がつながっちまった
男「そうだ…や…安男だ…」
男はほんのからかい半分で応えた
老婆「お前生きていたのかい?15年も一体どこでどうしていたんだ?」
老婆は弱々しく痩せた手を伸ばして 男の腕をまさぐり手を握った
老婆「…安男!安男!会いたかった!母ちゃんは目が見えなくなって…お前に会うまでは死んでも死にきれんで…」
老婆は泣き出した
…なんだかややこしい事になってしまったなぁ…
男 「母ちゃん…俺も会いたかったよ…」
そう言って老婆の手を握りかえした
老婆「安男…父ちゃんも、お前を心配して、心配して、とうとう去年死んじまった…う…う…う」
今度は声を上げて泣き出した
老婆「顔を…顔を触らしておくれ…」
老婆は手をあげたが届かない
男は仕方なく座った
老婆も座り、男の顔を両手で大事そうにずっと撫でている
老婆 「安男…お前はいくつになったかね~」
…こんなバアサンの息子の年なんぞ俺が知るかッ!
それに、なんで知らない家でこんなバァさんに顔を撫でられて…しかも俺が座ってんのは廊下だよ…
男 「年か?…15年もたったら年なんか忘れたよ…母ちゃんはいくつになったんだ?」
老婆 「今年で76になったよ…昭和…10年生まれだからねぇ…」
…え?俺の母ちゃんと同い年だ…
老婆 「良かった、良かった…安男に会えて…」
老婆はニコニコ嬉しそうだ
…俺どうしよう、こんなに喜ばしちゃって…
老婆 「安男、ゆっくり…お茶でも飲みながら話ししよう…」
老婆はヨロヨロと立ち上がり歩き出した
老婆は小さくて首は子供のように細かった
男も立ち上がりその後について行く
そしてリビングへ行き、老婆はお茶を入れようと台所へ行ったが
手探りで、なかなか要領得ない、
転びそうで、危なっかしい
男「母ちゃん…俺お茶入れてやるから~椅子に座っとけ…」
老婆「安男ありがとう」
…俺はなにやってんだろ?すっかり安男だよ~トホホ
男は台所へ行ってやかんに水を入れガス台にのせた
そして点火
ボッと火がついた
ふとさっき自分が入ってきた勝手口を目見た
男は、面倒くさいから早くここから出て行こうと思った
…まてよ!お湯が沸いたら目の見えないばあさんはどうするんだ?もしも火傷でもしたら?!
仕方ないお茶でも飲んでから帰るとしよう…
男はしぶしぶリビングへ戻った
老婆 「ねぇ…安男は…今なんの仕事をしてるんだい?」
老婆はにっこり可愛いらしく問いかける
男 「仕事は…え…営業マンだ…うん…」
老婆「営業か…それで家族は?嫁さんはいるの?」
男「嫁…いるよ…息子も…大学生が二人…うん…」
…嘘だ10年前 働かない俺に愛想がつきて、女房は子供を連れて出て行った…今じゃごらんの通りの有り様…
老婆 「そうか…家族がいたのか?良かった、…そうか…安男に家族がなぁ…」
老婆は喜んでいる
…それにしても、15年も連絡をよこさないなんて、ろくでもない息子だよ!まぁ人の事は言えないか…
ピー
お湯が沸いた
男は急須と湯飲みを探してお茶を入れた
男 「母ちゃん…お茶だぞ…熱いから気をつけてな~」
男は老婆の手を湯飲みにそっと添えてやった
老婆 「安男…その辺に…」
男は、老婆の指差す方を見る、本棚があった
男 「本棚が?どうした?」
老婆 「本と同じような箱があるだろ、それとっとくれ…」
老婆の言う通り本棚の隅に本と同じような 箱が立ててあった
男 「これかい?」
老婆に手渡すと、箱を開けた
そこには、千円札や一万円札がギッシリ詰まっていた
…ゴクリッ!
男 「母ちゃんどうしたのこのお金?!」
老婆 「安男…お前が出て行ってから…お前が苦労してやしないかと思って…母ちゃんなんもしてやれんだったから…いくらかでもお金あった時に貯めておいたんだよ…お前が帰ってきたら渡そうと思ってな…
男「…。」
老婆「お前がいつ来てもいいように、玄関の鍵は閉めても勝手口だけは…開けておいた…」
男「…。」
老婆「母ちゃん、今日まで生きてきて良かった、やっとお前に渡せる…」
男「…。」
老婆 「安男、どうした?お前のお金だから、遠慮しなくてええ…」
老婆は箱のふたを閉めて男に押し出した
老婆「どうしたんじゃ?…」
男 「俺はうけとれん…」
老婆「なんでじゃ…遠慮せんでいい、受け取るのも、親孝行だよ…」
老婆は両手でお茶を美味しそうに飲んだ
男「違うんだよ…」
老婆「なにが違うんだい?」
男「ごめんよ…」
そして 男はもうすべて、正直に話そうと、心を決めたが
男「俺は…俺は…ごめん…ごめん…」
男はテーブルに頭を押し付けて、何度も謝ったが言い出せなかった
老婆「もうええから…頭あげて…言いたい事は…わかっとる…」
男はギョッとしたが、老婆の口調は優しい…
老婆 「あんたが何者かは知らん…でも…家の中で手袋して、ポケットのジャラジャラで…薄々はわかる…なんも言わんでええ…」
老婆は、お茶を飲み干した
老婆「…この年じゃから…もう…殺されても…命は惜しくはないよ…」
男 「俺を警察に突き出すのか?」
男の目はキツく老婆を睨んだ
老婆 「いやそんなことはせん!…いや最初はそう思っとった…」
老婆は首を左右にゆっくり振った
老婆「そう思ったけど…あんたは、ええ人じゃった…逃げよう思ったらいつだってできたろうに…さっきだって勝手口から出ていけたけど、お湯が沸いたら私が難儀だと思ったんじゃろぉ?…」
男「…安男はどこにいるんだ?」
男は…老婆を見た
老婆「…知らん…きっと どっかの橋の下か…わからん…」
男 「ホームレスか?」
老婆 「俊夫が言っとった…山田町で見たって…でも私ゃ目が悪いから…探しにも行けん…」
山田町の橋の下?
男は立ち上がった
そしてポケットから宝石と、ATMの袋をテーブルに置いた
そして札の入った箱を持った
男 「ばあさん、安男に届けてやる!」
老婆 「え?!」
男は飛び出して行った
男はアパートの家賃を滞納すると、
ホームレスの友達の所でたまに世話になっていた
よく河川敷であっちこっちのホームレスと合流したが、安男と言う名前は聞き覚えがない
男はホームレス仲間の所へ急いだ…
男 「武さ~ん」
ホームレスの武田は、川で釣りをしていた
武田 「お~い、どした?この頃顔見せねーから死んだかと思ってぜ💦」
男 「そんなに簡単には死なないよ…」
武田 「今日はどした?」
男 「安男 と言う男を知らないかな?」
武田 「安男?ヤスの事か?」
男 「あ~そうかヤスか?!」
武田 「多分…この何本か先の橋の…下に…いた奴じゃねぇか?…そのヤスがどうしたんだ?」
武田がふり向くと
男は もう走り出していた
男は息を切らして走り続けた
やがて街からは、ずいぶんはずれた橋の下にブルーシートが風にゆれているのが見えた…
あれだ…
錆びたトタンの外枠、ダンボールの壁、色あせてシミだらけの布団、人が一人寝られる程度の小屋の中に、その男はいた…
男 「おい💦ヤスか?」
暗がりから見上げた男の目がギロリ光った
ヤス 「あっ武さんとこの?~めずらしいな~なんか用か?」
男 「突然でわるいが…ちょっと…聞きたい事があってな…」
男は息をはずませながら言った
ヤス 「おれに…なんだ?」
男 「お前…安男か?」
ヤス 「安男だけど…」
男 「母ちゃんはいくつだ?」
ヤス 「なんなんだよ一体…」
男はじれったそうに…
男 「まぁいいから答えろ!…昭和何年生まれだ?」
ヤス 「10年…」
男 「そうか、そうか…それで兄貴の名前は?」
ヤス 「俊夫…」
男 「そうか…アハハハ…それで兄貴の女房は?なんて言う?」
ヤス「アサミ…」
男は笑い出して…
男 「そうか~ちょっと一杯やろう!俺のアパートへ行こう…こい💦」
安男は訳が分からないままこの上機嫌な男について行った
そして、つぎの日の朝…
10時…玄関から、スーツを着た、50がらみの女が出てきた
女はドアに鍵をかけ車で出かけた
それを二人の男が見ていた
一人の男がタバコを靴でもみ消した…
男 「ヤス…お前、風呂入ってヒゲそったらかなり男前になったよな…
それに、その俺の背広も似合ってるぞ…」
ヤス 「あの金俺一人で貰って…ほんとにいいのか?」
男 「あたりまえだ!お前の金だろ…」
男は、ヤスの肩をポンと叩くと
男 「さぁ行け…玄関左が勝手口だ…」
ヤス 「分かってるよ俺の家だ…」
ヤスは歩き出した…
…完…
悦子は 会社の帰りスーパーへ寄ろうと車を止めた
しかし財布がバッグに入っていない携帯もない
…あッ、お昼ランチに行ったまんま、デスクの引き出しに入れっぱなしだった…
悦子は仕方なく片道20分の会社へ引き返した
…もう誰もいないかもなぁ…
残業の人がいるのか、事務所は真っ暗だったが工場にはまだ明かりがついていた
…良かった…
会社の駐車場に車を止めて降りると
見覚えのある車が一台あった
それは、同僚の佐枝子の車だった
悦子は48歳
佐枝子は2つ年下の、46歳
年が近いこともあって二人は気が合い、長い付き合いになっていた
…佐枝子の車?ヘエ~残業か?…
事務所は鍵がかかっていた、仕方なく悦子は工場側のドアから入ろうとした
ドアは開きっぱなしだった
中へ入ろうとした時
男女の姿が見えた
悦子は立ち止まった…
男女は激しく抱き合い、男はキスをしながら、右手を女のスカートの中へ強引にすべり込ませていく…
あッ…佐枝子!
とんでもない光景を見てしまった
悦子は後ずさりして、車へ戻った
運転しながら、
佐枝子が?まさか不倫?!
いつも一緒に行動していたのに、佐枝子が不倫していたなんて、悦子は気づきもしなかった
相手は 安西、営業部長だ
あの二人いつからこんな事…
信じられない気持ちで自宅へ着いた
あの光景が頭から離れないまま、いつもの朝になり
悦子は出勤した
佐枝子 「おはよう~」
佐枝子が向かいのデスクから普段と変わりなく悦子に笑いかけて、パソコンへ目を移した
まさか 悦子に昨日の事を見られたなんて 佐枝子は夢にも思っていないだろう
お昼になって、いつもの会社近くのファミレスへ二人は行った
昼間の店内は、混み合って賑やかだ
窓際の二人掛けのテーブルが空いていた
二人はそこに腰掛けた
悦子は、佐枝子との会話は上の空だった
佐枝子との目線もなんとなく避けていた…
注文したパスタも食べ終わり 珈琲が運ばれて来て
会話が途絶えた時
悦子 「実はさぁ…昨日ねぇ、財布と携帯、会社に忘れちゃって…会社に取りに戻ろう…」
そこまで言いかけて佐枝子の反応を見ると
珈琲を飲みかけていた佐枝子の目が…確かに泳いだ
佐枝子 「…それで会社に戻ったの?」
佐枝子は悦子を見上げた
佐枝子は窓からの秋の日差しを浴び手入れの行き届いた長い髪
化粧がのって艶々した肌
眩しいほど輝いて見えた
恋する女は美しいという事か…
悦子は少し意地悪になった…
悦子 「私が取りに戻ったら、なんか都合の悪い事でも、あったりしてねぇ…」
佐枝子は悦子から視線をはずした
佐枝子 「…。」
悦子 「佐枝子、見ちゃったよ……悪いけど…」
佐枝子 「…」
罪悪感からなのか、佐枝子は黙りこんでしまった…
ところが、口元が笑い出した
佐枝子 「そうか、バレちゃったね~」
佐枝子は開き直ったのか、言い訳すらしない、満面の笑みで、
佐枝子「だって、好きになっちゃったんだもん…仕方ないよ…悦ちゃんには分かって貰えないかもしれないけど、私…今人生で一番幸せなんだよ…こうなる運命っていうのかな…」
佐枝子はまるで女高校生のように甘ったるい声で言った
悦子 「運命っ?…幸せって?…ど…どうすんの?まさか結婚するなんて気じゃないよね?」
佐枝子 「子供達ももう大きくなったしね~彼も、私と新しい人生を始めたいって…私と出会ってから、そう思うようになったって……」
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