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悲しい女

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秋子( yuBCh )
12/02/20 07:31(更新日時)

短編小説です…

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No.1698360 11/11/03 02:34(スレ作成日時)

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No.1 11/11/03 02:38
秋子 ( yuBCh )

秋晴れの朝

台所で朝ごはんの支度をしながら、リビングの時計を見る

7時

涼子は、旦那の明彦を起こしに、寝室へ入った

「あなた 時間ですよ~」


明彦は目を開けて両手を広げた


涼子は笑顔で明彦の唇に軽くキスをして

その腕に抱かれた…


焼き魚にサラダ
湯気のたつ味噌汁
甘い卵焼き納豆

それを美味しそうに 明彦は食べ終えた

No.2 11/11/03 02:43
秋子 ( yuBCh )

「ごちそうさま~おいしかった」

明彦は、美しい涼子を優しく見上げる

朝食をすませて珈琲を飲みながら
明彦は思い出したように言った


「あ~今夜青木夫婦が来るんだったよね~
涼子もタイヘンだろうけど精一杯もてなしてあげてね~」


「はい…」

涼子は微笑みながら素直に返事を返した


「俺は定時刻には帰るから…さ~てと…」


読みかけの朝刊をキッチリ畳むと

明彦は出勤準備にとりかかる

明彦…橋場明彦は35歳
日本でも代表的な某銀行のエリート社員
キリリとした顔立ちに細い黒縁の眼鏡をかけている、

長身で足が長い明彦には背広が完璧過ぎるほど似合っていた

No.3 11/11/03 02:47
秋子 ( yuBCh )

玄関には、いつもピカピカに磨き上げた皮靴が揃えてある

涼子は手早く靴ベラを明彦に差し出す

靴をトントンと履き揃えると、ズボンの脇と裾をパンパン払い

壁の姿見で自分の顔、横、後ろ姿

全てチェックする
明彦のいつもの出勤前光景である


高級住宅が立ち並ぶ高台の途中に、涼子と明彦の住む家はあった

涼子は明彦の鞄を持ち、明彦のあとから玄関を出る

ガレージから明彦の乗る車が出てくると


「行ってらっしゃ~い」

涼子は明るく元気に手を振る


車が坂道を下り信号機の前で左折する

見えなくなるまで大きく手を降り続ける

No.4 11/11/03 02:51
秋子 ( yuBCh )

「橋場さんの奥さ~ん おはようございま~す」

隣の気さくなKさんの奥さんが、涼子に挨拶をする


「あ~おはようございます」

涼子は軽く頭を下げる

「橋場さんの奥さんいつもキチンとしてらっしゃる、やだ私~恥ずかしいです~あはは」

…寝ぐせのついたパーマの頭を手で直しながらKさんは話しを続けた

「旦那さんが見えなくなるまで手を振ってるなんて ほんとに仲の良いご夫婦でらっしゃいますよね~」

話しの長い人だが、涼子はこの気軽さや 大らかさが羨ましかった


Kの旦那がゴミ袋を片手に持ち、重たいだの、カッコ悪いだのブツブツいいながら出勤して行くのを涼子は微笑ましく見送り
小走りに玄関に向かった

誰も居なくなった家に入ってドアに内鍵をかける

居間のカーテンを両手でさっと閉める

そして誰もいない部屋の中を
キョロキョロ見渡す

爪先立ちでシンク上の開き扉を開け茶筒を取り出す

蓋を開けると、お茶の入っているはずの茶筒の中から
何故か煙草が出てくる
換気扇のスイッチを押し
ライターに火をつけ
煙草を奥深く吸いこんだ

フ~💨

煙りは換気扇の中へフワフワ吸い込まれて行った

No.5 11/11/03 02:56
秋子 ( yuBCh )

夕方5時

今夜のお客さんの為に 涼子は忙しく動き回っていた

テーブル中央に明彦の好きな赤い薔薇を10数本ほど、硝子の花瓶にさして形を整える

4人分の箸、ワイングラス、取り皿そして、作りたての料理が所狭しと並ぶ…


時計を見上げるともうすぐ6時

洗面所で鏡を見ながら 髪、化粧を整える


ピンポーン

「ただいま~準備はできてるかなぁ~」

明るい明彦の声


「おかえりなさ~い」
涼子は明彦の鞄を受けとる


「お~涼子の料理はおいしそうだね~ それにこの薔薇 美し過ぎるよ~ありがとう」

明彦ははしゃいでいた

まもなく青木夫婦がやってきた

No.6 11/11/03 02:59
秋子 ( yuBCh )

青木圭介…

明彦とは職場の同期入社でライバルでもある…
青木は長いこと札幌支店へ転勤して先月明彦のいる本店へ帰ってきた


今夜はささやかなその歓迎会となった


「こんばんは~あっ涼子さんお久しぶりでした…
相変わらずキレイですね~」


青木は気さくな性格だが明彦ほど身長は高くはなく、
顔は釣りバカの浜ちゃんに少し似ていた

「なに言ってんだよ それよりお前の奥さん紹介してくれよ」

明彦が苦笑しながら言った


「あぁそうだったよな~ 妻の奈緒美です… 初対面だったかな?」

青木に紹介されてにっこり微笑むその人は、ぽっちゃり系でほっぺのエクボが愛らしかった

No.7 11/11/03 03:01
秋子 ( yuBCh )

ワインで乾杯をして

「お口にあいますかどうか…さぁどうぞ召し上がって下さい…」


涼子は控えめに声をかけた


昔話しやお互い夫婦の馴れ初め

仕事の話しなど

一通りの話題が終わった所で青木が言った


「そういえば、橋場んとこ 結婚して何年だ?」

「5年になるかな?…お前俺達の結婚式に出てくれたじゃないか~その次の年に札幌へ行ったんだよ確か…それで、そっちで結婚して子供も作ったんだよな~こんな可愛い嫁さん貰ってさ~」


明彦は楽しそうに話した


すると酒も回った青木が…

「5年もたつのに子供はどうしたんだ?…子供はかわいいぞ~お前~やることちゃんとやってんだろな~ガハハハ」

みんなどっと笑った
涼子も下を向き少し笑った


デザートにラ・フランスをテーブルに出した所で、奈緒美が言った


「あなた そろそろ帰らないと、お義母さんやお義父さんに悪いわ~」

青木夫婦の子供は、青木の両親に今夜は預けてきたらしい

時計を見上げるともうすぐ10になろうとしていた

「そうだな~そろそろお開きにいたしゃしょうか~」

青木がよろけた足で立ち上がり奈緒美が支えて

やがて2人は帰って行った

No.8 11/11/03 03:04
秋子 ( yuBCh )

さっきまでの賑やかさはなくなり

しんと静まり返った部屋で


涼子はテーブルの汚れた食器を片付けはじめた


明彦はまだ テーブルの椅子に座ったままだったが…

いきなり立ち上がり

バッシーン💦


涼子を平手打ちにした


その勢いで涼子は床へ倒れ

薔薇もフローリングへ落下した

硝子の花瓶は粉々に散乱した

涼子は一瞬痛みで意識は遠のいたが
…また始まった…なんで?…なにが悪かったの…あんなに誉めてくれたじゃない…


肩で息をつき興奮した明彦は鬼の形相で
怒鳴り始めた


「なんなんだよ!お前は!
子供ができないのは俺のせいなのか!?💦
答えろ!答えろ!」

「…いえ…あなたのせいじゃ…ありません…私のせいです…」

涼子は殴られた左頬が燃えるように熱かったが、

腕をふんばり起き上がり乱れた髪の毛もそのままで…
正座して答えた



「おまえ、あの時笑ってたじゃないか!…俺を完全に馬鹿にしやがって!!」


明彦は涼子の背中を蹴った 倒れても

腰、股を

この野郎💢この野郎💢
そう叫びながら蹴った…

そしてドタバタ、ドタバタ
足音を残して外へ出て行った…

No.9 11/11/03 03:08
秋子 ( yuBCh )

どのくらい時間がたったのか

明彦が出て行ってわずかの安堵感が流れた


痛みで起き上がれない…
水びたしになった床の上 飛び散った硝子 折れ曲がった薔薇…全てが涙で見えなくなった…

もう何年もこんな事が続く
明彦の怒りのスイッチが分からない…

ヨロヨロ立ち上がると涼子は片付け出した

体の痛みと心の痛みで

涙が後から後から床へポタポタ落ちた…


全て片付けて布団に入って枕元の時計を見ると

午前一時 明彦はまだ帰って来ない

涼子はそのまま眠りについた

No.10 11/11/03 03:10
秋子 ( yuBCh )

朝になった

6時の目覚ましが
ピッピッとなる

こんな時でも平気で眠れる

もう慣れた

悲しい習慣である

リビングは昨日の惨劇はなかったかのように 整然としている…

いつものように朝食の支度を始めた…

今日は土曜日で明彦の仕事は休み

でも土曜日は夫婦で出かける日と決めていた…

世間には良き夫、涼子は美しく料理が上手で品のいい妻…

明彦は外では優しかったし、同僚やお得意先には評判がすこぶる良かった

そして涼子には、料理教室とエステに通わせた…

夫はこうあるべき妻はこうあるべき
明彦のマニアルだった…

外見だけの

No.11 11/11/03 03:13
秋子 ( yuBCh )

朝食はできたが明彦はいない…

時計は11時を少し過ぎていた

突然💦
玄関のドアが開いた


「ただいまぁ~ただいま帰りましたぁ~」

明彦はピンクのリボンのついた一目でプレゼントと分かる紙袋を抱えてニコニコしてリビングへ入ってきた

有頂天な明彦の声とは裏腹に
涼子は一気に体が凍りついたが 普通を装った

「…おかえり~」


「涼子さぁこの間欲しがってたハイヒールー買ってきてあげたよ~
ほら袋開けて💦」

涼子は静かに紙袋を開けた
中から真っ赤なハイヒールが出てきた…

「…あっ…ありがとうほしかったの…とっても」

顔は引きつっていたが…無理に精一杯明彦には笑顔を振りまく…

前に
殴られた後…ワンピースを買って貰ったが…
素直によろこべない涼子は素っ気ない態度をとった

それがまた明彦の勘に触って更に酷い暴力をうけてしまった事があった…

妻は夫のプレゼントには、最高の表情で感謝をあらわさなければならない…

そう明彦マニアルには書いてあるらしい

No.12 11/11/03 03:16
秋子 ( yuBCh )

「ね~履いてみたい?…俺が履かせてあげるから~」

明彦が子供みたいに甘えてハイヒールを涼子にはかせた

「ほらね~やっぱりぴったりだろ~」


どんなに優しくされようが、明彦の眼鏡の奥の瞳はいつも冷たく光っている…


明彦は涼子を人形のように抱き上げると

ベッドへ連れて行って寝かせる

ハイヒールを履いた涼子の形のいい足を抱き寄せ…

ストッキングを脱がせ太ももに顔をうずめた…


人をズタズタにしておいて…その後必ずセックスをする…


異常だ…まるで人の形をした野獣だ…


涼子は歯を食いしばり目を閉じた…

No.13 11/11/03 03:20
秋子 ( yuBCh )

月曜日、また虚しい朝がきた

いつも通りに食事の支度をして

明彦を起こし、キスをして、抱きしめられる…

左頬の、あざを隠すため、涼子は化粧を濃いめにした

明彦は気付いただろうか?

見送りに玄関へ行く

「涼子…今日の予定は?」

「はい…午後から料理教室へ…その帰りに、買い物をして、4時には戻ります…」

「分かった…今夜も美味しいご飯が楽しみだよ~」

冷たい瞳の明彦は笑いながら涼子の反応を見ている

「お任せ下さい…」
涼子は明彦に見られている時だけは笑顔を装う

明彦は涼子のその日の行動を 把握する…

妻は…必要意外は家にいるべきだから携帯は必要ない
…今時涼子は携帯も持たせてもらえない…

車も電車があるから必要ない

友達との外出も、それは不倫の始まりだと言って…許してはくれなかった

携帯 車 友達

それは明彦の自己マニアルの中には影も形もないのである

涼子は全ての自由を奪われていた…
明彦を送り出すと
換気扇の下でタバコを吸った

ふぅ~💨

今はそれだけが、せめてもの楽しみになっていた…

No.14 11/11/03 03:25
秋子 ( yuBCh )

そんなある週末
明彦が

「涼子さ~明日里田へ行こうよ…今頃 紅葉真っ盛りじゃないかな~涼子はどう思う?」

涼子はどう思う?って涼子には、

はい…
分かりました…
ありがとう…
嬉しい…

それだけの返事の権利しかない

でも…
いえ…
いや…
違います…

そんな返事をしようものなら
涼子は、ウサギが熊の餌食のごとく散々な目に会うだろう

すかさず涼子は応える

「いいですね~嬉しいなぁ~」

里田とは、涼子の実家である
涼子は生まれて間もなく両親が交通事故で亡くなり、母方の祖母、里田はるに育てられたのだった
今はるも年をとりひっそりと一人暮らしをしている
明彦は涼子と結婚する時からずっと、はるに月々の金銭的援助をしていた…

はるにとって明彦は素晴らしい孫の婿であり

涼子は幸せ者だと近所に自慢していた

No.15 11/11/03 03:28
秋子 ( yuBCh )

秋空が澄み切った朝だった

里田へは、いつものように一泊の予定
涼子は荷造りをしていた


明彦は車にワックスをかけながら…
隣のKさんの奥さんと話しているのか賑やかな声が響いていた

はるに会えるのは嬉しいが、いつも明彦が一緒だった

結婚して三年たったあたりに、明彦の暴力に耐えかねた涼子は、

着の身着のまま里田に向かった、

逃げ出したい一心だった

親兄弟のない涼子にははるだけが、自分を受け入れてくれるただ一人の身内だった…


だが、里田へたどり着いたとき、明彦が先回りしていた…

あの時は、家につくなり、殴られ…
「いいかおまえのあのクソババァはだれのおかげで飯が食えるんだ?!
今度逃げて、俺の顔に泥をぬったら、殺してやる!!」


そう怒鳴られた

その時の涼子は顔も手足もあざがついて
3ヶ月も外に出られなかった…

あれ以来逃げる気力もなくなった

明彦の涼子への躾
それは体で覚えさせられたものだった…


…お~い準備できたか~

外で明彦がさけんでる

ピカピカに磨かれた車は

心が氷ついた涼子を乗せて動き出した

No.16 11/11/03 03:34
秋子 ( yuBCh )

はるの住む所は、
ひなびた温泉の山あいの小さい村にあった

涼子の家からさほど距離はないが、山のまわりを行く道は険しく車で一時間 ほどはかかる


「よく来たね~」

はるが家の前で車から降りる明彦と涼子を出迎える

白くなった頭を整えながら 明彦に何度も頭をさげる

夜は三人で食卓を囲む
明彦がはるを覗き込むように話し出す
「ばぁちゃんは、まだ一人で暮らせるんですか?…寂しくなったり辛くなったら、いつでもうちらと一緒に暮らしましょう…遠慮しなくていいのですよ…なぁ涼子…」

「はい…」

はるは箸を置いて
「ありがとう、気持ちだけでも嬉しくて…涼子はほんとに優しくていい旦那さんと一緒になった…ありがたい…」

…はるは何も知らずに泣いている


なんて外面のいい男なんだろう

心にもない言葉…
明彦は満足げに、ビールを飲み干した

朝 年老いたはるを後に二人は帰って行った

No.17 11/11/03 03:37
秋子 ( yuBCh )

「やっぱり紅葉がきれいだよ~涼子どうだ~俺の言った通りだろ~」

運転する明彦はなごやかでイキイキしていたが


涼子は助手席の窓から景色だけ眺めていた


道が下り坂にさしかかると左下に渓谷が見え 色鮮やかな紅葉がどこまでもつづいている

緩やかな下り坂は車のスピードを段々早めていった


「俺はいつもこの下り坂が恐いんだよな~でも今日は雪の季節じゃなくて良かったよ~
ほらそれに、この急カーブ 先が見えないし、対向車が真ん中走ってきたら、ハンドル左にきっちゃうだろ~
谷底に真っ逆さまに落ちちゃうよ~お陀仏だぜ~」



涼子は一人で喋り続ける明彦の話しなど聞いてはいなかったが、

急カーブ…

真っ逆さま…

その言葉に ハッとした…

涼子は 今まで思っていても はっきり出てこなかった…明彦への殺意が

その時くっきり浮かび上がったのだ

No.18 11/11/03 03:41
秋子 ( yuBCh )

そして 時は流れ
いつしか11月になっていた

はるの家に行って
帰って来てからの涼子の心の中には

明彦への殺意が棲み着いてしまった…

あれからの生活は
神経をすり減らしながら明彦の機嫌をとる
そんな相変わらずの毎日だった

時間は淡々と流れて行った

ふと、部屋の中を見渡す

そこは、涼子が五年間、耐えに耐え 忍んできた
血と汗が染み付いた 冷たく絶望的な空間だった

部屋に少しでもホコリがたまれば

…おまえ!昼間なにやってるんだ💢

と怒鳴られ

またある朝には 明彦の靴がみがかれていないと

「…俺に恥をかかすつもりかおまえは💢」

と言って朝からぶたれて口から血を流した事もあった
そして、朝は化粧し身支度整えてから明彦を起こしキスをする

愛してもいない人とキスをする

笑ってしまう

暴力で全て支配しようとする明彦に
改めて憎しみが込み上げてくる

涼子は、こんな傷ついた自分が悲しくて

声をあげて泣いた…

No.19 11/11/03 03:43
秋子 ( yuBCh )

明彦を殺してやりたい…

この世から消し去ってしまいたい


明彦への愛情はすでにない…


でも…どうやって…


もし捕まったら?
あんな男のために一生刑務所で暮らしたくはない

しかし、この先の明彦との生活だって刑務所となんら変わりはないではないか…

「…刑務所?…そうだ、私は今刑務所にいるんだ…あっ…ハッハッハハハハハハハハハハハハ」

涼子は大きな声で笑い出してしまった

あの男が生きている限り、私に自由などないのだ…

涼子の頭の中で

悪魔が囁く…


殺せ…

完璧に…

No.20 11/11/03 03:46
秋子 ( yuBCh )

それから2ヶ月たったある日

夜、涼子は一人で家にいた…

電話のベルがなった…

「もしもし…橋場でございます…」
「橋場さんですか…こちらは〇〇警察所です…橋場明彦さんのお宅ですよね…大変お気の毒ですが…ご主人は交通事故に合われて…先ほどお亡くなりになりました…」

「え!?…」

「大変申し訳ありませんが…ご遺体の確認に…」


涼子はタクシーを飛ばした

遺体安置所には、全身白い布で覆われた明彦がいた…
顔を確認して、

「あなた…あなた~な…なんでこんな事に…うッうッ…」
泣き崩れる涼子…

涼子を支える警察官

明彦は、死んだ

No.21 11/11/03 03:53
秋子 ( yuBCh )

通夜 告別式は、明彦の世間的人柄の良さに…
沢山の弔問客が訪れた

そして初七日の夜の事だった


ピンポーン

刑事が二人、涼子の家を訪ねてきた

明彦の仏壇に手を合わせて

テーブルに二人の刑事が座った

「奥さん…我々が調べた事で、2・3質問があるのですが……」


涼子は、明彦が亡くなって以来、無表情で生気がなくなっていた…


「はい…」

No.22 11/11/03 03:59
秋子 ( yuBCh )

「あの日、旦那さんは、どうしてあの場所を車で通ったのですか?」

涼子はゆっくり目線を落としたまま答える

「…私の祖母に、届け物があったんです…」


「届け物ですか?」

「はい…祖母は最近階段で転倒して…いえ…歩けるようにはなったんですが、主人が杖を買って届けたいって言うものですから…」


「お一人で?奥さんはどうして一緒に行かなかったのですか?…」

No.23 11/11/03 04:05
秋子 ( yuBCh )

「私はあの日風邪をひいていましたので…主人が寝ているように言いましたもので…」


「そうですか…我々の調べでは、ご主人は…里田はるさんにはとても優しくしていましたね…里田さんが、とても悲しんでいましたよ…そしてあなたにもいい旦那さんだったのですね…近所でもお二人はとても仲がいいと、隣のkさんが言ってました……」


「…」
涼子は目頭を押さえる…


「今回は事故と言う事で…あの坂道は本当に危ないですね~私も先日現場検証に行きましたが…対向車がセンターオーバーして来たらしいですわ~なんとも痛ましい…その対向車の行方も調べているんですが…なかなか分からなくて…それじゃ…奥さんお力落としなく…では我々はこれで…」

二人の警察官は出したお茶に手をつけず、玄関へ向かった…

涼子は靴ベラを手早く差し出す…

「どうもお邪魔しました…」

二人は帰って行った…

内鍵をかける

涼子はリビングに戻った…

No.24 11/11/03 04:14
秋子 ( yuBCh )

涼子は キッチンの茶筒を取り出す

蓋を開ける
タバコと…携帯電話を取り出す

電話をかける

「もしもし…和夫?私…今ね~刑事が来てぇ~もうびっくりだよ~…ん?大丈夫、もう帰っちゃったから……対向車の事はわからないみたいだって〰」

和夫「そうか…俺のことはばれてないのか?…良かった」

涼子「すべてうまくいったわ💦

和夫「完全犯罪か?」

No.25 11/11/03 04:20
秋子 ( yuBCh )

涼子「そうよ…やったわ~
でもさぁ~明彦もバカよね~里田のばぁちゃんが亡くなったから、私一足先に里田に来ています!あなたの礼服は持ってきたけど…荷物一つ忘れてきたから持ってきてくださらないかしら~あなた💦私ショックでどうしたらいいのか…あなた早く来てちょうだい
なんて、泣き真似したら…車ですっとんで~笑える」

和夫「それほど涼子を愛してたって事だろ」

涼子「冗談じゃないわよ…あんな暴力男、いつも私と和夫の事疑って、嫉妬して…自由もなんにもないし…でもさぁ聞いてよ…あいつ子種がないのよ…」

和夫「まじ?」

No.26 11/11/03 04:28
秋子 ( yuBCh )

涼子「そうよ…私ほら、子供ができないから産婦人科へ通ってたじゃない~…そしたらお医者さん、原因は奥さんじゃなくて旦那様にあるね~なんて言ってたもの…まぁ今となったら子供いなくて良かったけどね~あははは」


和夫「涼子これからどうすんの?」

涼子「そうね~明彦の生命保険と…それに…ここの家、明彦が死んでローンがなくなったの…売ったらいくらになるかな~それで…しばらく里田に帰るつもり」

和夫「そうか…でもたまに逢おうぜ」


涼子「もちろんよ~その前に、パーッと沖縄あたりに旅行に行こうよ~え?…奥さん?…出張とかっていっとけばいいじゃない?早く和夫に会いたいよ~」

和夫「そうだな~やっと涼子と会える…」





…完…

No.27 11/11/05 01:17
秋子 ( yuBCh )

第二章…

負け組の女…

No.28 11/11/05 01:18
秋子 ( yuBCh )

夕方4時

秋はあっという間に日が暮れる…

美穂は小学校へ向かって、猛スピードで自転車をこいで行く

学校へ着くと、黄色い帽子にランドセルの、大貴が待っていた…

「お母さ~ん」

「たいき~」

大貴は 美穂に飛びついてくる

「大貴~待ったか~~?」

「 ううん…お母さん早かったね…」
「 お母さんは、自転車に乗ったら早いんだぞ~~」

大貴のアゴをくすぐる…

「ぎゃははは~」


大貴の笑顔を見ると美穂は 仕事の疲れも飛ぶ…

1日で一番この瞬間が好きだ…

夕暮れの街を、美穂は自転車を押し、大貴と並んで帰って行く

No.29 11/11/05 01:20
秋子 ( yuBCh )

「 ねぇ~お母さん…車、買ったら?」

「なんで~?自転車があるでしょ…」

「だって、ゆう君ちも、しょうちゃんちも…車あるんだよ…車って、たかいの?」


「たかいよ…それに…保険とか税金とか、車検…とか色々かかるからさぁ~お母さんのパートだけじゃお金足りないよ…」

「ふ~ん…。」

「大貴…早く大きくなって、お母さんに車買ってちょうだ~い…」

「 うん!わかった!」

美穂は32歳

女に狂った 亭主と別れて、もう三年になろうとしていた

それ以来、美穂と大貴は肩を寄せあって必死で生きてきた…

大貴と一緒なら、なんにもいらない、そう思っていたけれど

お金があったらもっと幸せなんだろうなぁ…

私って負け組かっ?…

そう思うと、なんだか…気持ちがシュンとなった…

No.30 11/11/05 01:22
秋子 ( yuBCh )

朝…学校へ行く大貴の後ろ姿を見送って、家事をすませると、美穂はパート先へ向かった…

そこは、電子部品工場

ここで知り合った仲間が二人いた

夏子と京子だった

夏子は30歳独身…
京子は35歳…結婚している…

単純 流れ作業の仕事だけど、仲間がいてくれるから、楽しく働けた…
昼になった

いつものように三人で弁当を食べる

No.31 11/11/05 01:25
秋子 ( yuBCh )

工場の 裏庭の芝生で、三人が、それぞれ自分の手作り弁当を広げた…
「まるで お花見みたいだね~♪」

一番若い夏子が言う

夏子は、彼の事…

美穂は、息子の事…

話しはつきない…

そんな二人に対して、京子はどちらかといえば、いつも聞き役…

だが今日はいつもと違っていた…

京子が、二人に顔近づけ、小声で、こう言った

「実は…ちょっと悩みがあって…」
京子は穏やかで、痩せ方の美人だった…

No.32 11/11/05 01:27
秋子 ( yuBCh )

京子 「実は…旦那が、不倫してるみたいなの…いや…まだはっきりとは…」

夏子 「…」

美穂 「…」

夏子も美穂もびっくりして言葉に詰まっているが…

京子は続ける
「旦那、最近さぁ~帰りは遅いし…おかしいなぁと思ってたのよ、お酒飲めない人なのにやたら、接待、接待って…
そしたら…旦那のズボンのポケットから、ホテルの領収書が出てきたの…」

京子は、財布からクシャクシャを伸ばしてたたんだ、領収書を出した

「フジミホテル?…」

領収書を見て、夏子が言った

No.33 11/11/05 01:29
秋子 ( yuBCh )

美穂 「夏子…知ってんのそのホテル…」

夏子 「知ってるよ隣町だよ…私も彼と何回か行った事あるよ…だってこの近辺じゃ…な~んか恥ずかしいし……」
言ってしまってから夏子が照れくさそうな顔をする

美穂 「でもまだそうと決まった訳じゃないんでしょう?…」
美穂は言葉をえらびながら聞いた


京子 「だったらいいんだけど…今日…金曜日でしょ?…また接待なんだって…」

夏子と美穂は顔を見合わせた

No.34 11/11/05 01:33
秋子 ( yuBCh )

夏子 「京子さ~旦那に、はっきり聞いたら?」

夏子が身を乗り出す

京子 「…なんて聞けばいい?…それに、ホントの事なんか言うわけないよ……隠したいわけでしょ…それに…もしホントに…本当に不倫だったら…悲しいよ…。」
京子の目にから涙がこぼれそう…

美穂 「じゃ少し黙って様子みたら?…」

京子「…。」

夏子 「じゃ…私と美穂とで確かめてあげるよ!あのホテルで…今夜!」
美穂 「え?…わ…私もかい?」

夏子 「美穂…今夜行ってみよう…そのフジミホテルへ…」

No.35 11/11/05 01:35
秋子 ( yuBCh )

夜7時
夏子が車で美穂を迎えに来た…

夏子 「あれ?大貴は?」

美穂 「オバアの家にお泊まり…よろこんで行ったよ~」

夏子 「そうだよね…小学一年生はラブホは、まだ早いよね~あははは」

美穂 「笑い事じゃないでしょ…とにかく行ってみるか…」

夏子 「へい…」

美穂 「どうでもいいけど夏子さぁ~その帽子とサングラス…帽子はともかくサングラスいらなくね?」

夏子 「え?一応張り込み…てか、尾行だから、目立っちゃいけないし~い」

美穂 「てか余計目立つし…」

車はホテルへ着いた…

No.36 11/11/05 01:37
秋子 ( yuBCh )

賑やかな大通りから少し路地に入った所にホテルはあったが…かなり静かな所だ

ホテル入り口が見える空き地に車を止め、エンジンを切ると あたりは、人通りもまばらでホテルのネオン以外に光はなく暗闇だ…

二人はソファーを倒して体制を低くした

夏子 「まじ張り込みだな~」

たまにカップルが腕を組んで入って行くが、京子の旦那らしき人はいない

No.37 11/11/05 01:39
秋子 ( yuBCh )

夏子 「ねぇ…京子の旦那もう入っちゃったかな?」

美穂「まだ来てないかもね~まだ8時だしね…」

夏子が自販機で缶コーヒーを買ってきて飲んだ…

夏子 「もう10時だよ…」

美穂 「眠くなってきたよ…」

夏子「 あっ…あれ!」

ホテルを見ると、男女の人影が出て来る…

夏子 「ちがうか~京子の旦那じゃないな…」

No.38 11/11/05 01:41
秋子 ( yuBCh )

男はヤクザ風の黒っぽい背広、女は痩せ形のロン毛、どう見ても水商売風…

女が不釣り合いな大きめのバックを抱えて、大通りとは反対側へ走る

それをヤクザが追う…

美穂 「なにやってんのあの二人…」
夏子「シー…こっちに来る…」

夏子は美穂の頭を押さえて、二人は頭を引っ込めた…

No.39 11/11/05 01:48
秋子 ( yuBCh )

夏子の車には人の気配がないと思ったのか、女は夏子の車のすぐ近くまで来て、追いかけて来た男に手首を捕まれた…

男 「話しが違うだろ…そのバックこっちへよこせ!」
バックを必死でかばい、嫌がる女ともめ始めた…

やがて、どこから出したのか、女はいきなり男の腹に…キラッと光るモノ、ナイフを刺した!!

それを見ておどろいた夏子は
「ギ〰〰ん💦」

美穂は叫ぼうとする夏子の口を押さえた…

ここに目撃者がいたらまずい!

二人は震えながらまた窓の外を見た!
すると腹を刺された男は、なんと 自分の腹からナイフを抜き取り、女の腹を刺した!

No.40 11/11/06 17:20
秋子 ( yuBCh )

女は…腹を押さえ、膝を付き前かがみに倒れた…

男も2・3歩フラフラよろめいたが、横に崩れ倒れた

二人はそのまま動かない…




また静寂が戻った
なにもなかったかのように、ホテルのネオンが煌めいている

No.41 11/11/06 17:22
秋子 ( yuBCh )

美穂と夏子は恐怖で 抱き合ったまま ガタガタと震えていた…

いままでテレビや映画でしか見た事のない映像が…目の前で起きたのだ…
特にいい事もなかった人生だけど、こんな惨状にもあった事はない…

はっと我にかえった美穂が…

美穂「ねぇ…あの二人まだ生きてるかも知れない…救急車とか…ほら警察とか…」

夏子「死んだかな…?」

美穂 「分かんないよ…」

夏子「かかわりたくないよ…ほっとこ…逃げよう!…」

夏子はエンジンをかけ、ライトをつけた…

No.42 11/11/06 17:25
秋子 ( yuBCh )

車のライトで闇はあたり一面明るくなった

倒れた二人の横を車で進みかけた時

二人が取り合っていた黒いずっしりとした大きめのバッグが無造作に落ちていた…

すると、開きかけたファスナーの中から札束がはみ出ていた…

夏子 「なにあれ?!」

夏子は急に車を止まると 外に飛び出した

その間わずか10秒…

夏子 「ほら!」

助手席の美穂に札束を放り投げると…

車を急発進させた
美穂 「なんで?なにこれ?!」

夏子「…。」

戸惑う美穂の言葉を振り切るように
車は大通へ出た

No.43 11/11/06 17:27
秋子 ( yuBCh )

美穂 「夏子ダメだよ!こんなこと!人のもんだよ!
夏子!夏子!」

まっすぐ前を向きハンドルを握る夏子は、無言だった
美穂は 膝の上の見たこともない、札束をジャンバーの左右の裾で隠しながら…

美穂 「ね~置いて来ようよ、まだ間に合うから…」

夏子が口を開いた
夏子 「アイツらきっとヤクザがらみだよ…ろくなお金じゃないよ…たいした額じゃないし…黙ってれば分からないよ…」

美穂 「どんなお金だって、人のもんでしょう?」

夏子 「美穂はいつだってそうだよねっ!…きれいごとばっかし言って!」

美穂 「きれいごと?……。」

夏子 「美穂は、お金欲しくないの?」

美穂 「……。」

夜の賑やかな道を夏子の車はただ黙々と走り続けた

No.44 11/11/06 23:44
秋子 ( yuBCh )

キーッ…

車は夏子のアパートの前で止まった
二人は階段を一挙に駆け上がった

ドアのカギを開ける夏子の手は震えている

中からカギをかけ、窓のカーテンを勢いよく閉める…

美穂はジャンバーでくるんでいた物をテーブルの上に開けた…

No.45 11/11/06 23:49
秋子 ( yuBCh )

バサバサ…札束が現れた

夏子 「いくらあるかな?…」

美穂 「これひとつ百万?…」

夏子 「1つ2つ………10…12…」

二人は同時に

「1200万円~!」

大きい声でそう言い、はッとして口を押さえた

No.46 11/11/06 23:55
秋子 ( yuBCh )

夏子「ひとり600万…」

夏子はそう言うと、束を6つづつ重ねて二列に並べ、片方を美穂の前に差し出した

夏子 「美穂…もう後戻りできないよ…大丈夫だから!ね!ね!」

夏子は正座したままの美穂の肩を両手でつかんで揺り動かしながら言った

美穂 「…。」

少し沈黙が流れた

No.47 11/11/06 23:59
秋子 ( yuBCh )

夏子 「コーヒーでも飲んで空気変えようか?


夏子は立ち上がり台所へ振り返った時…

美穂が話し始めた
美穂 「お金見たらもうダメだよ…私…やっぱり…欲しくなっちゃった…」

そして両手で顔を覆って泣きだした

No.48 11/11/07 00:02
秋子 ( yuBCh )

夏子もべったり座って
「やってしまったね…」
と…ボロボロ泣き出した…

夏子 「私の彼氏、会社の金に手をつけたの…。」

美穂は涙だらけの目を夏子に向けた
美穂 「いくら?…」

夏子「400万ぐらい…かな…わからない…」

美穂 「夏子、結婚するんでしょ?」

No.49 11/11/07 00:09
秋子 ( yuBCh )

夏子 「彼の友達が居酒屋やるから…連帯保証人になったの親友だったし…応援してたのに…うまくいかなかった…
結局夜逃げして…
彼も一生懸命返済してたんだけど…ちょっと借りるつもりが、どんどん……
年末までに会社に返さなきゃどうなるか…結婚どころじゃないよ…」

美穂 「…」

No.50 11/11/07 00:16
秋子 ( yuBCh )

夏子 「私さぁ最近、毎日、毎日、お金のことばっかり考えててねぇ…」

美穂は夏子の肩を撫でながら、相槌をうち黙って聞いている…

夏子 「やっと大好きな人と結婚して、これから幸せになるはずだったのに……
目の前にあんな大金あるんだもん…気が付いたら…あんな事しちゃってた…ごめんね…美穂…
返してくる?…返してもいいよ…やっぱりこんなの間違ってるよね…」

No.51 11/11/07 20:07
秋子 ( yuBCh )

ただ話しを聞いていた美穂が重い口を開けた

美穂 「もういいよ…貰っちゃお💦…」

夏子はあっけにとられた

夏子 「まじ?」

美穂 「そう…まじ……今から返しに行っても、もう遅いよ…
これはプレゼント…神様からの…」

夏子 「プレゼント?……神様から?」

美穂は…まるで自分に言い聞かせるようにゆっくり続けた

No.52 11/11/07 20:12
秋子 ( yuBCh )

美穂 「そうプレゼント…私も夏子もさぁ、今まで頑張ってきたし…悪いことな~んもしてないよね…
だから一度だけ、悪いことだけど…このお金で、夏子も私も幸せを買おうよ…」

夏子 「幸せ?…」
美穂 「そう…大事に大事に…感謝しながら使わせてもらおうよ…」

夏子 「……そうだね…美穂…」

美穂「うん…。」

しばらく二人はただ黙って座っていた

No.53 11/11/07 20:26
秋子 ( yuBCh )

夏子は立ち上がると冷蔵庫から缶ビールをとりだした
二人は無言で飲んだ…

そして、美穂は夜中に部屋へ帰ってきた…

お金は紙袋に入れて 押し入れの布団の下へそっと押し込んだ…

布団に入っても眠れなかった

あんな事言ってしまったけれど、神様のプレゼントなんて…
やってる事は、ただの置き引き、ネコババ…まして死体のそばから…

神様が聞いて呆れる
罪の意識が頭に充満してきた

その時

カタッ…

美穂 「なんだろ?…」

ザッ ザッ ザッ

砂利道を歩く足音がして、やがて…玄関前で止まった

No.54 11/11/07 20:32
秋子 ( yuBCh )

美穂 「だれだろ?…

やはりあの金は…
え?!私は、付けられてた?!!…

体中に緊張がズキンと走った


ガチャガチャ…ドンドン!ガチャガチャ!!


ドアのノブが今にも壊れそうだ!

美穂 「ヤバい…ヤバい!助けて」

ガシャ!

ついにドアが開いて、黒ずくめの男が 近づいてきた

美穂に馬乗りになって首を閉めた!
美穂は声が出ない殺されるんだ…


美穂 「たす…け・て…大貴…大貴………」

No.55 11/11/07 20:45
秋子 ( yuBCh )


「お母さ~ん」

遠くで大貴の声が聞こえる…


目が覚めた

夢だったのだ…

美穂の顔の前に大貴の顔があり、鼻をつまんで、ケタケタ笑っている

オバァ「もうお昼だよ~いつまで寝てるの~?いい天気だよ~」

オバァがカーテンを開ける

時計を見ると11時…

テレビをつけると昨日の事件が報道されていた…

No.56 11/11/07 20:59
秋子 ( yuBCh )

美穂は、まるで犯罪者のようにドキッとしながらテレビに目をやった

あのフジミホテルが映っていた

その向かい側の空き地には、黄色いテープ、そして警察官が立っている
その前でリポーターがマイクで報道していた

リポーター「…警察の調べによると…殺された二人の身元はまだわかっていません、また今のところ、目撃情報もないと言う事です」

金は?まだ捜査中なのか、それとも何かしら報道できない理由でもあるのか、金の話しはなかった…

No.57 11/11/07 21:11
秋子 ( yuBCh )

悶々としながら、月曜日になった

大貴を送り出して、工場へ向かった
そうだ!…京子の旦那の浮気調査の事、すっかり忘れていた、

事件の事で思考力は皆無だった

その話題にも、札束にも触れずに、三人は黙々と作業した…

お昼になった
それぞれに弁当を食べ終わりお茶を飲みながら美穂は話しをきり出した

美穂 「あの…京子の旦那さんの事だけど…」

言いかけたら、京子が待っていたかのように…

京子 「あ~、二人には本当に迷惑かけてごめんなさい…あの後、旦那が白状したの…やっぱり不倫してた…私色々考えたんだけどね~離婚する事にしたわ…」

No.58 11/11/07 21:16
秋子 ( yuBCh )

夏子も美穂も唖然として京子を見る
京子 「長野へ帰る事にしたよ…ここも今月中に辞める…子供たちの転校手続きとか色々あるしね~」

京子の両親は、年金暮らしのはずだが…養育費とか慰謝料とか貰えたのだろうか…それとも裁判中なのだろうか…

美穂は気になったが…京子には、もう決めたから…みたいな雰囲気があった…
言いたくなったら自分から言ってくるだろうと、聞くのはやめた


そして12月に入ったある日曜日
京子は子供二人と三人で長野へ帰って行った

No.59 11/11/07 21:26
秋子 ( yuBCh )

駅で見送って

久しぶりに美穂は夏子と話しをする

夏子 「寂しくなるね~」

大貴が美穂の自転車のペダルを回して遊んでいる

美穂「どうなった借金返せた?」

夏子 「おかげさまで、彼びっくりして、なんだその金?!って…あはは」

美穂 「なんてごまかしたの?」

夏子 「宝くじ…強引に宝くじ!ってねへへへ…」

二人は久々笑った

大貴「なに~どうしたの~?」

大貴を自転車の後ろに乗せながら

美穂「じゃ夏子またね ~」

夏子の乗った車は遠ざかり、やがて小さくなって行った

さすがに自転車は風が冷たくて寒さが身にしみた…

美穂 「たいきぃ~車買いに行こうか~?」

大貴 「なに~?なんて言ったの?」

美穂は力強くペダルをこいた

No.60 11/11/07 21:52
秋子 ( yuBCh )

やがて…クリスマスで街が華やかになってきた頃

軽自動車に大貴を乗せた車がオバァの家に着いた

オバァ 「なに?どうしたのこの車、」

オバァが目を丸くして言った

美穂 「給料上がったから、買っちゃった~中古だよ」

オバァ 「へぇ~オバァも乗っけてよ~」

大貴 「オバァ~一緒に回転寿司食べに行こう!」

三人を乗せた車は動きだした

美穂は思った

大切な人たちがいて、それにほんのちょっとのお金があったら、より幸せになれる…

少しづつ 使わせてもらおうと美穂は神様に感謝した
だが、罪の意識は捨て切れてはいない
それは、渡ってはいけない橋の上を渡り初めて、もう戻れない…危ない綱渡りのような心境だった
だが、美穂は笑い飛ばした、なるようなれ…

そう思いかえした

No.61 11/11/07 22:16
秋子 ( yuBCh )

そして何日かたったある日 夏子が言った

夏子 「京子の旦那さんから、電話が来て…京子の置き忘れがあるらしいんだって~
なんかよくわかんないけど…見に来て欲しいってさ~」

仕事の帰りに二人は京子の家へ向かった

京子のいない家には、見覚えのない花柄のカーテンや、お世辞にも趣味がいいとは言えない真っ赤なジュータンが敷きつめられていた

もう新しい女が住んでいるのだろうか

リビングで
旦那 「実は見て頂きたいものがあるのですが…」
そう言いながら、奥から大きめの紙袋を持ってきた

No.62 11/11/07 22:35
秋子 ( yuBCh )

中から取り出したのはバックだった

二人は唖然とした

あの札束の入ったバックだっ!

あの日京子もあのホテルに来てどこからか見ていたのだ!!

旦那「このバックどう見ても京子の趣味じゃないし、もしかしてお二人さんからお借りしたものならお返ししなきゃと思いましてね~」

美穂 「い…いえ私たちのじゃありません」

旦那「そうですか、じゃこちらで処分しておきますね」

お茶でも、と言ってくれる旦那を丁重に断り

外へ二人は飛び出した…

二人は顔を見合わせて…

美穂 「京子バックごと持って行ったんだ…」

夏子「ね~私たち1200万円だったよね、あとどんぐらい残ってたの?」

夏子 「かなりあったよ~私がとったのはほんの一部だよ…」

美穂 「じゃ一億?」

夏子「京子は…8800万持ってったの?!」


二人は口をぽかんと開けたまま、立ちすくんでいた…

…完…

No.63 11/11/09 10:30
秋子 ( yuBCh )

第三章

…目の見えない女…

No.64 11/11/09 10:32
秋子 ( yuBCh )

午前10時

女は家から出てきた、スーツ姿で高そうなバッグを肩から下げて、年は、50前後

玄関に鍵をかけ、家の前の車に乗り、出かけて行った…


それを男が見ていた

男は加えていたタバコを捨て、靴で揉み消す

そして、男はその家のインターホンを押した…

No.65 11/11/09 10:40
秋子 ( yuBCh )

ポンポ~ン

男は作業着姿

返事のないインターホンに

やたらお辞儀をして

玄関脇の高い垣根の中へ姿を消した
誰が見ても 男は工事関係者である

男は綿の薄い手袋をはめた
そして、大胆に素早く、手当たり次第、窓をチェックして行く…

すると…勝手口が簡単に開いた
男はニヤリと笑い
ズボンのベルト左右にそれぞれ、脱いだ靴をはさんだ
そして中へ入って行った…

No.66 11/11/09 10:49
秋子 ( yuBCh )

そこは台所…
男は鋭い目つきで見回すと、その先のカウンター続きのリビングをそっと覗いてみる

リビングのカーテンは開いていたが、家の周りを高い垣根が取り囲んでいて、外からは中が見えない

本棚、壺、ステンドグラスのランプ引き出し

男は物色し始めた
だが金目のモノはない

リビングを出て、ゆっくり廊下に出た…

No.67 11/11/09 10:55
秋子 ( yuBCh )

左は玄関、右は部屋のドアが3つ

男は右に廊下をゆっくり、ゆっくり進んだ

突き当たりのドアは、曇りガラスが上部、横長についている、おそらくトイレだろう

その手前にドアが2つ並んでる

手前のドアノブをゆっくり 回す

男に一瞬の緊張感が走る

No.68 11/11/09 16:48
秋子 ( yuBCh )

そこは夫婦の寝室らしくベッドが2つ並んでいた

窓際には、高級で重量感漂う真っ白いドレッサーがあった

引き出しを開けると 宝石箱があらわれた
中にはダイヤの指輪、イヤリング、ネックレス、そして真珠…など…など

奇麗にズラリとならんでいた…

男はポケットから布袋を取り出すと
次々無造作に袋へ詰め込み、作業服のズボンのポケットへ無理やり押し込めた

No.69 11/11/09 16:52
秋子 ( yuBCh )

そしてタンスの小引き出しを開けると
ATMの封筒があった
薄目をあけて中を覗くと、一万冊が20枚ほど入っている…

それを上着の内ポケットへ押し込んだ

…もうこれでいいか…長居は禁物だ、さて出るか…

振り返って廊下へ出ようとした時💦

廊下に ぬうっと白髪の老婆が立っていた!!

No.70 11/11/09 17:01
秋子 ( yuBCh )

男は仰天して

あっ!!

と声を上げた

男の頭は真っ白になった

…ここの家には年寄がいたのか…トイレから出て来たのか?…

…これだけ間近で顔を見られたからには…年寄りでも………

男の思考回路はぐじゃぐじゃに駆け巡り、パニックになった

男は、とっさに老婆の首に手をかけようとした…

No.71 11/11/09 17:06
秋子 ( yuBCh )

その時

老婆 「俊夫かい?」

男はさっと手を下ろした

老婆は男の方を見てはいるが

老婆と男とは、視線がかなりずれている…

…え?!ひょっとしてこのばあさん目が悪いのか?

老婆 「おや違うかい…浅美さんなのかい?…クラス会へ行ったんじゃなかったのかい?」

大の男相手に、女の名前を呼ぶところを見ると

やはり目は、見えていないらしい

No.72 11/11/09 17:11
秋子 ( yuBCh )

…そうか、目が見えないならこの老婆を手にかけなくていい…

男はほっと胸を撫で下ろした

…適当にあしらっておいて、ついでにお宝でもあったらラッキーだし…すぐ出て行けるし…慌てる事はないか…

そして男は少し大胆になった

男「オレだよ…」
そう答えてみた

…もし、空き巣と感づかれたら逃げればいい…

No.73 11/11/09 17:17
秋子 ( yuBCh )


老婆は一瞬驚いた顔をしたが

老婆「その声は、もしかして安男か?安男じゃないか?」

…え?会話がつながっちまった

男「そうだ…や…安男だ…」

男はほんのからかい半分で応えた

老婆「お前生きていたのかい?15年も一体どこでどうしていたんだ?」
老婆は弱々しく痩せた手を伸ばして 男の腕をまさぐり手を握った

老婆「…安男!安男!会いたかった!母ちゃんは目が見えなくなって…お前に会うまでは死んでも死にきれんで…」
老婆は泣き出した

No.74 11/11/09 17:26
秋子 ( yuBCh )

…なんだかややこしい事になってしまったなぁ…

男 「母ちゃん…俺も会いたかったよ…」
そう言って老婆の手を握りかえした

老婆「安男…父ちゃんも、お前を心配して、心配して、とうとう去年死んじまった…う…う…う」
今度は声を上げて泣き出した

老婆「顔を…顔を触らしておくれ…」

老婆は手をあげたが届かない

男は仕方なく座った
老婆も座り、男の顔を両手で大事そうにずっと撫でている

老婆 「安男…お前はいくつになったかね~」

…こんなバアサンの息子の年なんぞ俺が知るかッ!
それに、なんで知らない家でこんなバァさんに顔を撫でられて…しかも俺が座ってんのは廊下だよ…

No.75 11/11/09 17:31
秋子 ( yuBCh )


男 「年か?…15年もたったら年なんか忘れたよ…母ちゃんはいくつになったんだ?」

老婆 「今年で76になったよ…昭和…10年生まれだからねぇ…」

…え?俺の母ちゃんと同い年だ…

老婆 「良かった、良かった…安男に会えて…」

老婆はニコニコ嬉しそうだ

…俺どうしよう、こんなに喜ばしちゃって…

老婆 「安男、ゆっくり…お茶でも飲みながら話ししよう…」

老婆はヨロヨロと立ち上がり歩き出した

No.76 11/11/09 17:40
秋子 ( yuBCh )

老婆は小さくて首は子供のように細かった

男も立ち上がりその後について行く

そしてリビングへ行き、老婆はお茶を入れようと台所へ行ったが


手探りで、なかなか要領得ない、

転びそうで、危なっかしい

男「母ちゃん…俺お茶入れてやるから~椅子に座っとけ…」

老婆「安男ありがとう」

…俺はなにやってんだろ?すっかり安男だよ~トホホ

No.77 11/11/09 17:45
秋子 ( yuBCh )

男は台所へ行ってやかんに水を入れガス台にのせた

そして点火
ボッと火がついた

ふとさっき自分が入ってきた勝手口を目見た

男は、面倒くさいから早くここから出て行こうと思った

…まてよ!お湯が沸いたら目の見えないばあさんはどうするんだ?もしも火傷でもしたら?!
仕方ないお茶でも飲んでから帰るとしよう…

男はしぶしぶリビングへ戻った

No.78 11/11/09 22:19
秋子 ( yuBCh )

老婆 「ねぇ…安男は…今なんの仕事をしてるんだい?」
老婆はにっこり可愛いらしく問いかける

男 「仕事は…え…営業マンだ…うん…」

老婆「営業か…それで家族は?嫁さんはいるの?」

男「嫁…いるよ…息子も…大学生が二人…うん…」

…嘘だ10年前 働かない俺に愛想がつきて、女房は子供を連れて出て行った…今じゃごらんの通りの有り様…

No.79 11/11/09 22:23
秋子 ( yuBCh )

老婆 「そうか…家族がいたのか?良かった、…そうか…安男に家族がなぁ…」

老婆は喜んでいる

…それにしても、15年も連絡をよこさないなんて、ろくでもない息子だよ!まぁ人の事は言えないか…

ピー
お湯が沸いた
男は急須と湯飲みを探してお茶を入れた

男 「母ちゃん…お茶だぞ…熱いから気をつけてな~」
男は老婆の手を湯飲みにそっと添えてやった

No.80 11/11/09 22:25
秋子 ( yuBCh )


老婆 「安男…その辺に…」

男は、老婆の指差す方を見る、本棚があった

男 「本棚が?どうした?」

老婆 「本と同じような箱があるだろ、それとっとくれ…」

老婆の言う通り本棚の隅に本と同じような 箱が立ててあった

男 「これかい?」
老婆に手渡すと、箱を開けた

そこには、千円札や一万円札がギッシリ詰まっていた

No.81 11/11/09 22:28
秋子 ( yuBCh )


…ゴクリッ!

男 「母ちゃんどうしたのこのお金?!」

老婆 「安男…お前が出て行ってから…お前が苦労してやしないかと思って…母ちゃんなんもしてやれんだったから…いくらかでもお金あった時に貯めておいたんだよ…お前が帰ってきたら渡そうと思ってな…

男「…。」

No.82 11/11/09 22:31
秋子 ( yuBCh )


老婆「お前がいつ来てもいいように、玄関の鍵は閉めても勝手口だけは…開けておいた…」

男「…。」

老婆「母ちゃん、今日まで生きてきて良かった、やっとお前に渡せる…」

男「…。」

老婆 「安男、どうした?お前のお金だから、遠慮しなくてええ…」

老婆は箱のふたを閉めて男に押し出した

No.83 11/11/09 22:34
秋子 ( yuBCh )


老婆「どうしたんじゃ?…」

男 「俺はうけとれん…」

老婆「なんでじゃ…遠慮せんでいい、受け取るのも、親孝行だよ…」

老婆は両手でお茶を美味しそうに飲んだ

男「違うんだよ…」
老婆「なにが違うんだい?」

男「ごめんよ…」

そして 男はもうすべて、正直に話そうと、心を決めたが

男「俺は…俺は…ごめん…ごめん…」

No.84 11/11/09 22:46
秋子 ( yuBCh )

男はテーブルに頭を押し付けて、何度も謝ったが言い出せなかった

老婆「もうええから…頭あげて…言いたい事は…わかっとる…」

男はギョッとしたが、老婆の口調は優しい…

老婆 「あんたが何者かは知らん…でも…家の中で手袋して、ポケットのジャラジャラで…薄々はわかる…なんも言わんでええ…」
老婆は、お茶を飲み干した

老婆「…この年じゃから…もう…殺されても…命は惜しくはないよ…」

No.85 11/11/09 23:05
秋子 ( yuBCh )

男 「俺を警察に突き出すのか?」

男の目はキツく老婆を睨んだ

老婆 「いやそんなことはせん!…いや最初はそう思っとった…」

老婆は首を左右にゆっくり振った

老婆「そう思ったけど…あんたは、ええ人じゃった…逃げよう思ったらいつだってできたろうに…さっきだって勝手口から出ていけたけど、お湯が沸いたら私が難儀だと思ったんじゃろぉ?…」

No.86 11/11/09 23:32
秋子 ( yuBCh )

男「…安男はどこにいるんだ?」

男は…老婆を見た

老婆「…知らん…きっと どっかの橋の下か…わからん…」

男 「ホームレスか?」

老婆 「俊夫が言っとった…山田町で見たって…でも私ゃ目が悪いから…探しにも行けん…」

山田町の橋の下?

男は立ち上がった

そしてポケットから宝石と、ATMの袋をテーブルに置いた

そして札の入った箱を持った

男 「ばあさん、安男に届けてやる!」

老婆 「え?!」

男は飛び出して行った

No.87 11/11/10 00:02
秋子 ( yuBCh )

男はアパートの家賃を滞納すると、
ホームレスの友達の所でたまに世話になっていた

よく河川敷であっちこっちのホームレスと合流したが、安男と言う名前は聞き覚えがない

男はホームレス仲間の所へ急いだ…

No.88 11/11/10 00:13
秋子 ( yuBCh )

男 「武さ~ん」

ホームレスの武田は、川で釣りをしていた

武田 「お~い、どした?この頃顔見せねーから死んだかと思ってぜ💦」

男 「そんなに簡単には死なないよ…」

武田 「今日はどした?」

男 「安男 と言う男を知らないかな?」

武田 「安男?ヤスの事か?」

男 「あ~そうかヤスか?!」

No.89 11/11/10 12:37
秋子 ( yuBCh )

武田 「多分…この何本か先の橋の…下に…いた奴じゃねぇか?…そのヤスがどうしたんだ?」

武田がふり向くと

男は もう走り出していた

男は息を切らして走り続けた

やがて街からは、ずいぶんはずれた橋の下にブルーシートが風にゆれているのが見えた…

あれだ…

錆びたトタンの外枠、ダンボールの壁、色あせてシミだらけの布団、人が一人寝られる程度の小屋の中に、その男はいた…

No.90 11/11/10 12:40
秋子 ( yuBCh )

男 「おい💦ヤスか?」

暗がりから見上げた男の目がギロリ光った

ヤス 「あっ武さんとこの?~めずらしいな~なんか用か?」

男 「突然でわるいが…ちょっと…聞きたい事があってな…」

男は息をはずませながら言った

No.91 11/11/10 12:42
秋子 ( yuBCh )

ヤス 「おれに…なんだ?」

男 「お前…安男か?」

ヤス 「安男だけど…」

男 「母ちゃんはいくつだ?」

ヤス 「なんなんだよ一体…」

男はじれったそうに…

男 「まぁいいから答えろ!…昭和何年生まれだ?」

ヤス 「10年…」

男 「そうか、そうか…それで兄貴の名前は?」

ヤス 「俊夫…」

男 「そうか…アハハハ…それで兄貴の女房は?なんて言う?」

ヤス「アサミ…」

男は笑い出して…
男 「そうか~ちょっと一杯やろう!俺のアパートへ行こう…こい💦」

安男は訳が分からないままこの上機嫌な男について行った

No.92 11/11/10 12:48
秋子 ( yuBCh )

そして、つぎの日の朝…
10時…玄関から、スーツを着た、50がらみの女が出てきた
女はドアに鍵をかけ車で出かけた

それを二人の男が見ていた

一人の男がタバコを靴でもみ消した…

男 「ヤス…お前、風呂入ってヒゲそったらかなり男前になったよな…
それに、その俺の背広も似合ってるぞ…」

ヤス 「あの金俺一人で貰って…ほんとにいいのか?」

男 「あたりまえだ!お前の金だろ…」

男は、ヤスの肩をポンと叩くと

男 「さぁ行け…玄関左が勝手口だ…」

ヤス 「分かってるよ俺の家だ…」

ヤスは歩き出した…


…完…

No.93 11/11/14 13:13
秋子 ( yuBCh )

第4章

…僻む女…

No.94 11/11/14 13:14
秋子 ( yuBCh )

悦子は 会社の帰りスーパーへ寄ろうと車を止めた

しかし財布がバッグに入っていない携帯もない

…あッ、お昼ランチに行ったまんま、デスクの引き出しに入れっぱなしだった…

悦子は仕方なく片道20分の会社へ引き返した

…もう誰もいないかもなぁ…

残業の人がいるのか、事務所は真っ暗だったが工場にはまだ明かりがついていた

…良かった…

会社の駐車場に車を止めて降りると
見覚えのある車が一台あった

それは、同僚の佐枝子の車だった

No.95 11/11/14 13:17
秋子 ( yuBCh )

悦子は48歳

佐枝子は2つ年下の、46歳
年が近いこともあって二人は気が合い、長い付き合いになっていた

…佐枝子の車?ヘエ~残業か?…

事務所は鍵がかかっていた、仕方なく悦子は工場側のドアから入ろうとした

ドアは開きっぱなしだった
中へ入ろうとした時


男女の姿が見えた

悦子は立ち止まった…

男女は激しく抱き合い、男はキスをしながら、右手を女のスカートの中へ強引にすべり込ませていく…

No.96 11/11/14 13:22
秋子 ( yuBCh )

あッ…佐枝子!

とんでもない光景を見てしまった

悦子は後ずさりして、車へ戻った

運転しながら、

佐枝子が?まさか不倫?!

いつも一緒に行動していたのに、佐枝子が不倫していたなんて、悦子は気づきもしなかった

相手は 安西、営業部長だ

あの二人いつからこんな事…

信じられない気持ちで自宅へ着いた

あの光景が頭から離れないまま、いつもの朝になり

悦子は出勤した

No.97 11/11/14 13:24
秋子 ( yuBCh )

佐枝子 「おはよう~」

佐枝子が向かいのデスクから普段と変わりなく悦子に笑いかけて、パソコンへ目を移した

まさか 悦子に昨日の事を見られたなんて 佐枝子は夢にも思っていないだろう

お昼になって、いつもの会社近くのファミレスへ二人は行った

昼間の店内は、混み合って賑やかだ
窓際の二人掛けのテーブルが空いていた

二人はそこに腰掛けた

No.98 11/11/14 13:30
秋子 ( yuBCh )

悦子は、佐枝子との会話は上の空だった

佐枝子との目線もなんとなく避けていた…


注文したパスタも食べ終わり 珈琲が運ばれて来て

会話が途絶えた時

悦子 「実はさぁ…昨日ねぇ、財布と携帯、会社に忘れちゃって…会社に取りに戻ろう…」
そこまで言いかけて佐枝子の反応を見ると


珈琲を飲みかけていた佐枝子の目が…確かに泳いだ

No.99 11/11/14 13:34
秋子 ( yuBCh )

佐枝子 「…それで会社に戻ったの?」

佐枝子は悦子を見上げた

佐枝子は窓からの秋の日差しを浴び手入れの行き届いた長い髪
化粧がのって艶々した肌

眩しいほど輝いて見えた

恋する女は美しいという事か…

悦子は少し意地悪になった…

悦子 「私が取りに戻ったら、なんか都合の悪い事でも、あったりしてねぇ…」

佐枝子は悦子から視線をはずした

佐枝子 「…。」


悦子 「佐枝子、見ちゃったよ……悪いけど…」


佐枝子 「…」

No.100 11/11/14 13:42
秋子 ( yuBCh )

罪悪感からなのか、佐枝子は黙りこんでしまった…

ところが、口元が笑い出した

佐枝子 「そうか、バレちゃったね~」

佐枝子は開き直ったのか、言い訳すらしない、満面の笑みで、

佐枝子「だって、好きになっちゃったんだもん…仕方ないよ…悦ちゃんには分かって貰えないかもしれないけど、私…今人生で一番幸せなんだよ…こうなる運命っていうのかな…」

佐枝子はまるで女高校生のように甘ったるい声で言った

悦子 「運命っ?…幸せって?…ど…どうすんの?まさか結婚するなんて気じゃないよね?」

佐枝子 「子供達ももう大きくなったしね~彼も、私と新しい人生を始めたいって…私と出会ってから、そう思うようになったって……」

No.101 11/11/14 13:48
秋子 ( yuBCh )

悦子「いつからなの?」

佐枝子「…夏ごろかな…前から私のことが気になってたらしくて…
夏の懇親会の時アドレス聞いてきたの……」

不倫相手の安西は50歳、既婚者

話しも面白く、包容力があり女子社員には人気があった
だが、まさか不倫する人だとは…

悦子はショックだった

…まして親友の佐枝子と

No.102 11/11/14 13:53
秋子 ( yuBCh )

不倫がばれた佐枝子は、聞いて欲しくてしょうがない様子で
あけっぴろげに言い始めた


佐枝子「ずっとメールだけの付き合いだったんだけどね…
昨日は安西さん、仕事が残業で、誰もいないからおいでっ…会いたいって…そしたら、あんな事になって…
お互い気持ちがおさえられなくなってしまったの…
私も…好きで…嬉しくて、頭の中は安西さんの事でいっぱいになって…おかしくなりそう…」


誰かが言ってたが、不倫する人の頭の中には、チューリップやタンポポが咲いているらしい…その通りだと悦子は思った

No.103 11/11/14 13:57
秋子 ( yuBCh )

会社へ戻り 午後の仕事が始まろうとしている頃

悦子と佐枝子はトイレにいた

佐枝子は手を洗い、化粧直しを始めた
ふと 二人の顔が鏡に映った

オシャレで顔形の整った佐枝子とは違って、悦子は地味で老け顔だった

結婚当初悦子の夫は
悦子は化粧なんかしなくても素顔がかわいい…
なんて言ってくれたのを良いことに、特別な時以外は化粧なんてした事もなかった

No.104 11/11/14 14:00
秋子 ( yuBCh )

自分と佐枝子は会社では常に一緒に行動した

そして、懇親会や、誰かの歓送迎会でも、一緒に並んで座った

特別、悦子は安西を好きという訳じゃないし、佐枝子も安西の気を引くこともなかったように思う

なのに、安西は佐枝子を選んだ


佐枝子は男を惹きつける魅力的な恋する女…

自分は、母、妻
それだけの普通の女

悦子は同じ女として情けなくなってしまった

No.105 11/11/14 14:05
秋子 ( yuBCh )

夜、悦子は洗い物を片付け、風呂から出てきた

旦那の正直は好きなお酒を飲んで
気持ち良さそうにソファーで寝ている…

その姿を見て悦子は思った

メタボのポッコリお腹に、薄くなった頭…

安西と正直は同じ年だが、安西はメタボではなく筋肉質で 営業マンらしく 背広姿はすっきりきまっていた

この違いは、自分と佐枝子との違いに似ているような気がして、

悦子は余計虚しくなった

正直は、名前の通り、ただまじめに人生を歩いてきた人…

悦子は、そこが良くて結婚した

だが今は、ただそれだけの人…と思えてしまう

No.106 11/11/14 14:08
秋子 ( yuBCh )

気がつけば、正直との夜の生活もすでになくなって、二年…

佐枝子のようないい女が相手なら、正直も興奮するのだろうか?

正直が寒いのか体を丸めた

悦子「お父さん、風邪ひきますよ、布団いきますよ…」

旦那がしぶしぶ寝室へ行った

悦子は一人になると、久しぶりに顔のマッサージを始めた…
明日は久々に化粧をしてみようと思った

No.107 11/11/14 14:16
秋子 ( yuBCh )

朝…久々の化粧は照れくさかった

ファンデーションを薄く伸ばし 頬紅も 口紅もやはり薄くした

正直は化粧に気づいているのか 悦子をチラッと見て
「行ってきま~す」と普通に出かけて行った

会社で佐枝子と目が合った 一瞬反応が気になった

No.108 11/11/14 14:19
秋子 ( yuBCh )

佐枝子 「ちょっと悦子、かわいい~…でもどうしたのお化粧なんかして?」

どうしたの?お化粧なんか?
その一言は余計だとは思ったが

悦子 「あ~もう年だし、身だしなみだよアハハ」

笑ってごまかした

悦子は佐枝子に対して自分では気付かないが、対抗意識が芽生えていた

お昼また…ランチに行った

食事の最中でも、佐枝子の携帯のバイブはうなっていた

おそらく、安西からだろうか、佐枝子は、返すのに必死だ…

No.109 11/11/14 14:26
秋子 ( yuBCh )

佐枝子の旦那はかなり前から単身赴任で大阪へ行ったきりだった

息子は、国家公務員、娘は、総合病院で看護士として働いていた…

それに比べて悦子の息子は…
県外で就職はしたもののなんだかんだで、今は契約社員

悦子は小さくため息をもらした

佐枝子は気づかない

悦子 「佐枝子~安西さんから?」

佐枝子 「そう、週末、温泉行くかもしれない…」

佐枝子は嬉しさを隠しきれない様子
白い歯が見えた

やめなよ、旦那さんにばれたらどうすんの?!

喉まででかかった言葉だが、悦子は飲み込んだ

野暮な事言って、僻んでると思われたくはなかった

No.110 11/11/14 14:36
秋子 ( yuBCh )

週末になった
今頃、佐枝子は安西と旅行へ行ってるのだろうか?

悦子は気分転換に美容室へ行った

どういたしましょうか?

若い美容師が愛想良く聞いてきた

悦子「どうしようかな?こんなオバチャンだし、よくわからなくて…」

若い美容師は悦子の束ねた髪をほどいて…

「バッサリ切ったらどうです?!絶対似合いますよ!あと白髪も染めましょう!」

ショートはやったことはなかった
だが、佐枝子の不倫発覚以来、悦子は自分の何かを変えたかった


悦子 「お任せします…」

こっくり頭をさげた

No.111 11/11/14 14:44
秋子 ( yuBCh )

しばらくして

悦子は、鏡を見ておどろいた
短くはなったが、頭のボリューム、両脇は薄く短い…
どこかの女子アナがこんなかんじだった
髪型でこんなに顔って違って見えるのか?
もう老け顔はどこにもない


「どうです?垢抜けたでしょう?」

悦子 「はい…とっても気に入りました」
悦子は子供のようにニッコリ笑った

家に帰って ソファーで 寝そべってテレビを見ている正直に


悦子 「ねえ…髪切ったのどう?」

正直はチラッと悦子を見て

「ああ…」と一言、それっきり正直はまたテレビを見始めた

No.112 11/11/14 14:49
秋子 ( yuBCh )

悦子は鏡を見るのが楽しくなった

月曜日…化粧して 新しい髪型で出勤した

みんなの視線は悦子に釘付けだった
会う人会う人に
…悦子さんて美人ですよね~綺麗ですよね…

悦子は…美人・綺麗と言う言葉を久々きいた

素直に嬉しかったし、気持ちも明るくなった


そんなある昼のランチ

佐枝子 「悦っちゃん…まじ変わった」


悦子 「えへへ…」

佐枝子 「人生は一回きり、だから花を咲かせなきゃ~好きな人とかいないの?」


悦子「はぁ?なんでそっち行くかな~?」

佐枝子 「だってもうすぐ50だよ、このままなんにもなく老け込みたいわけ?…」

佐枝子は自信ありげにそう言い放った

No.113 11/11/14 14:52
秋子 ( yuBCh )

悦子 「でも、不倫は嫌だよ…」

佐枝子 「今は不倫かもしれないけど、私は違う、本気だもの…やっと出会ったのよ、本当に好きな人に…」

またお花畑かい?
悦子は心の中で、あざ笑っていた

悦子 「だって離婚とかって?たいへんでしょう?」

佐枝子 「うちの旦那だってやってるよ…不倫…」

悦子 「ほんとに?」

佐枝子 「前大阪の旦那の部屋へ突然行ったことあったけど、赤い歯ブラシあったもん…単身長いから居たって不思議じゃないよ…」

悦子 「…」

佐枝子「悦っちゃんとこの旦那さんだって分からないよ…男だし…」

悦子 「アハハ、ないない!」

悦子は吹き出した

No.114 11/11/14 14:55
秋子 ( yuBCh )

夜 相変わらず飲んで食べてソファーでいびきをかいて寝ている正直

ため息をつきながら、寝室へ押しやると

悦子はマッサージを始めた

そして 携帯の出会い系サイトをアクセスしてみた

初めての事でよくわからない
なかなか登録できないで 諦めかけた時

登録完了になった
年齢は48歳そのままで 名前は適当に変えた

30分もたたないうちにメールが2つまた一つ

20代30代40代

こんなオバチャンに20代の男性からも?

顔も見えない相手なのにドキドキした…

40代の関東に住む落ち着きのある男とやり取りが数回続いた

気がつくと 午前一時になって

慌てて、電気を消して寝室へ行った

No.115 11/11/14 14:59
秋子 ( yuBCh )

朝起きて携帯を見ると、大量なメールに驚いた

登録を解約したいけどなかなかできない

正直が起きた気配に驚いて、携帯をバイブにしてエプロンのポケットに入れた…

まるで不倫しているみたいな変な気分だ…

会社の帰り、携帯ショップへ駆け込んだ

恥を忍んで、サイトの登録の取り消しをお願いした

恥ずかしかった

…私一体なにやってんだろ…

悦子は落ち込んだ

No.116 11/11/14 15:03
秋子 ( yuBCh )

そんなある日曜日
電話がなった

悦子 「もしもし…」

有香 「有香です…」

佐枝子の娘だった
悦子 「えっ有香ちゃん…久しぶりね~…」

有香 「ちょっと母の事で相談が…あるのですが…」

人気のない静かな喫茶店で有香と待ち合わせた

有香は佐枝子と似て色白でかわいい子だった

No.117 11/11/14 15:05
秋子 ( yuBCh )

挨拶もそこそこに有香はいきなり白い封筒を出した

有香 「これ、見て下さい」
数枚の写真を取り出し
裏返しにそっと悦子の前に出した

悦子は写真を見て慌てて伏せた…

どれも佐枝子と安西の二人が映っていた

ホテルへ入る二人
ホテルから出てくる二人

車の中での熱烈キスも…

そうか佐枝子、ばれたんだ いつまでも花なんか咲いてないよねぇ…
悦子は、内心いい気味だと思った

No.118 11/11/14 15:10
秋子 ( yuBCh )

有香 「…うちの母が不倫をしてるんです、最近おかしいと思って私、興信所へ依頼したんです…そしたら…間違いないみたいで…」

悦子とは違って有香の必死さと深刻さが伝わってくる

有香「母はなんで不倫なんか、汚らしい!…なんにも知らないお父さんが可哀想!」

キレイな頬から涙が一筋流れた

可哀想に、誰にも言えず一人で苦しんできたのだろうか…

佐枝子の馬鹿!
娘がこんなに悲しんいるのに…
なにがたった一度の人生だ?!

悦子は腹が立った

No.119 11/11/14 15:57
秋子 ( yuBCh )

悦子 「有香ちゃん、ごめん、私知ってたのよ…
おばちゃんだってお母さんに目をさまして欲しい…でも…人を好きになった気持ちって誰にも…どうにもならないみたいなのよ…」

有香 「好きになったら?なにをしてもいいんですか?!平気で自分の旦那を裏切れるんですか?!」

有香は、張り詰めていた心の糸が切れたみたいに興奮して唇は震えていた

悦子 「ね~あなたが知ってしまった事佐枝子には?…」

有香「まだ言ってません…私も夜勤とかあるし、母とはすれ違いが多いので…今日も朝から…いい年をして派手な格好で朝早く出かけました……。」

No.120 11/11/14 16:02
秋子 ( yuBCh )

いい年をして派手な格好か…
なるほど有香の年代から見れば、私達がオシャレをして化粧すると、そういう風にみられるのか…

悦子は寂しい気持ちになった


有香 「私、父の所へ何度か行ったんです…でも忙しそうで、優しい父に母の不倫の事なんか、とても言いだせなくて…」


悦子 「お父さん真面目な方なのね…でも佐枝子がお父さんの部屋で…その…赤い歯ブラシがあったって…」

有香 「あっ?あの赤い歯ブラシですか?…あれは…去年、看護士仲間と大阪旅行した時、一晩父の部屋へ私だけ泊まったんです、私の置き忘れですよ…また来て欲しいから捨てられないって父が…」

No.121 11/11/14 16:06
秋子 ( yuBCh )

なんだ 佐枝子の勘違いか…
悦子は佐枝子はつくづく馬鹿だと思った…

悦子 「なんか私にできる事あるかな?」


有香 「いえ、もういいんです…なんか話したらスッキリしました、そのうち母には…娘の私から話します、分かって貰えるまで…」

有香は深々と頭をさげると、喫茶店を出て行った

ところがその夜の事だった…

No.122 11/11/14 16:12
秋子 ( yuBCh )

メールが届いた
佐枝子からだった

佐枝子↓
・とんでもないことになった・

佐枝子にしては、絵文字もなく、短い文章だった

悦子↓
・どうしたの?


5・6分して返事がきた

佐枝子↓
・娘が安西さんの自宅に行って、写真 ばらまいた・

悦子は、おどろいた!

有香ちゃんが安西さんの家に乗り込んだらしい!!

No.123 11/11/14 16:16
秋子 ( yuBCh )

悦子↓
それで?どうなったの?どうするの?


返事はそれっきりなかった…

携帯へ電話をしても佐枝子は出なかった

朝、悦子は会社へ急いだ…

だが佐枝子の姿がない

安西はいた…普通だった 特に変わった様子もない

佐枝子は無断欠勤らしい

会社が終わると悦子は佐枝子の家へ向かった

No.124 11/11/14 17:24
秋子 ( yuBCh )

インターホンを押したが…

音沙汰なし、ドアに手をかけると開いた

悦子 「佐枝子~佐枝子~いるの?上がるわよ~」

部屋の窓はカーテンをかけて薄暗い

佐枝子はソファーに寄りかかったまま、動いうごかない…

悦子「佐枝子!」

佐枝子「悦っちゃん~」

佐枝子は悦子にしがみついて泣き出した

化粧っ気もなく泣きはらしただろう佐枝子の顔には
いつもの華やかさなど微塵もない…

No.125 11/11/14 17:27
秋子 ( yuBCh )

しばらく泣いていた佐枝子は、握りしめていた携帯を開いて

安西からの受信メールを悦子に見せた


安西↓
・別れたい、今までの事はなかった事にしてほしい、短い間だったけど楽しかったさようなら・

だった

佐枝子 「それで終わり、送信できないの、アドレス変えたみたい、電話しても拒否されてて…う、う、」

途中から涙声に変わった

No.126 11/11/14 17:39
秋子 ( yuBCh )

佐枝子 「あんなに愛してるって一生放さないって…死ぬまで一緒って…」
佐枝子は号泣している

悦子は、なんて言葉をかけていいやらわからなかった

昨日、有香との話し合いがこじれたのだろうか?

有香はずいぶん思い切った事をした…

でも、不倫は、誰かが何かを壊さなきゃ 終わらないものなのだろう…
そう悦子は思った

悦子は、佐枝子の泣き顔を見ると、
哀れで悲しくなった…

今まで佐枝子が羨ましいと思った気持ちは

何処かへ消えていた…

No.127 11/11/14 17:44
秋子 ( yuBCh )

悦子 「佐枝子!もう目をさましなよ!…安西さんは、佐枝子をそのときは愛していたかもしれないけど、結局家庭を壊したくないんだよ!
悦子も家庭大事にしなよ、いい旦那さんがいるじゃないの!」


佐枝子 「なに言ってんの?恋愛もしたことない、男と女の事…知りもしない、あんたに何がわかるの?!!…あの人は、奥さんにいいようにされてんのよ、あんなババァより私の方がいいに決まってるでしょう!…携帯も没収されたに違いない!あ~腹が立つ!!」


佐枝子は髪を振り乱して悦子の腕に掴みかかった

悦子 「…狂ってるよ…」


悦子は佐枝子の手を振り払い

佐枝子の家を後にした

No.128 11/11/14 18:01
秋子 ( yuBCh )

次の日 佐枝子はいつも通りの華やかさで出勤してきた…


だが悦子には目も合わせない


悦子も無視をした…


昼間も悦子は会社の食堂にいた


佐枝子も外にはいかず、食堂の隅に一人で座っている

時より安西が通りかかると、佐枝子の安西を追う鋭い視線が気になったが…


悦子は、無関心を装っていた…

No.129 11/11/14 19:24
秋子 ( yuBCh )

それから2、3日たった
それは、夕方だった

悦子は台所にいた

正直は風呂へ入っていた

悦子は、携帯のバイブに気づいた


佐枝子からだった
悦子 「もしもし…」

佐枝子「………」

悦子 「佐枝子?どうしたの?」

佐枝子 「やって…し…まった…」

佐枝子の異様さに悦子は嫌な予感がした…

佐枝子 「あの人を刺した…」


悦子 「どこ?!今どこ?!佐枝子!」

佐枝子 「彼の家…前…」

悦子は全身ガクガク震え出した

ジャンバーと車の鍵をとると

風呂の正直に

「用事が出来てでかけます」
そう言うと、正直の返事も聞かないまま…

悦子は玄関を抜け、車に飛び乗った

体の震えはずっと続いて、悦子はハンドルにしがみつきながら、やっと運転していた…

No.130 11/11/14 19:28
秋子 ( yuBCh )

安西の家の近くまで来た時

すでに家の前には人だかりがあり

救急車、パトカーもいた

担架で運ばれる安西…

警察官に両脇をはさまれた佐枝子の姿が見えた

悦子「佐枝子!佐枝子!!佐枝子~」

どんなに大きい声を出しても佐枝子はうつむいたままパトカーに乗り込んだ

悦子は声をあげて泣きながら冷たいコンクリートに座り込んだ

No.131 11/11/14 19:33
秋子 ( yuBCh )

そんな悦子の肩を抱えて立たせてくれた男がいた

悦子は泣きながら振り返ると

それは正直だった

悦子 「どうしてあなたここに…」

そういいながら悦子は正直に抱きついて、また大きな声をあげて泣き出した

正直 「帰ろう…」

悦子の車は近くの空き地に止めて

正直の車の助手席に悦子は乗った

No.132 11/11/14 19:52
秋子 ( yuBCh )

正直はタバコに火をつけ
ふ~~と吐き出すと、悦子にポツリと言った

正直 「お前じゃなくて良かった…」

悦子「え?…」

正直 「浮気してたと思ってたよ…」

悦子 「まさか、私が?」


正直 「だって最近きれいになったし、携帯持ち歩くし…さっきだっていきなり飛び出して…男に会いに行くんだと思って…後をつけて来た…」

悦子はおどろいた

正直は悦子になどまるで感心がないと思っていた

悦子 「私になんか全然感心ないと思ってた…」

悦子は鼻水をすすりながら言った


正直 「自分の奥さんに感心が無いわけないだろう…キレイになったなんて…この年で恥ずかしくてそんな…言えないし……自惚れて浮気でもされたらな~」


悦子は正直の横顔を見た…

悦子の目から嬉しい涙が溢れ出し幾つ幾つも流れた


安西が声をかけたのが、もし…自分だったら、佐枝子は悦子だったかもしれない…

自分の馬鹿さ加減に呆れた…

悦子は心の中で何度も正直に詫びた

…ごめんなさい…

正直 「今度いつか旅行でも行くか?…」


「うん…」

悦子はそう、うなずいた



…完…

No.133 11/11/19 21:10
秋子 ( yuBCh )


第五章

…利用された女…

No.134 11/11/19 21:14
秋子 ( yuBCh )

朝になったらしい…

カーテンの隙間から陽が漏れている

外から、車の通り過ぎて行く音が頻繁に聞こえる

ここはどこだろう

ノリのきいたシーツと枕カバー、その肌触り

ホテルのようだ

男が加奈の顔を覗きこんでいる

だが にぶい頭痛と、目を開けるとひどい吐き気がして…

加奈はまた目を閉じた

No.135 11/11/19 21:17
秋子 ( yuBCh )

この状況はなんだろう

どうして自分はホテルなんかに…

まして、正人以外の男と…

ぼんやりした頭の中で記憶をたどってみた

昨日 恋人の正人と二人で焼き鳥の美味しい居酒屋に行った

そこを出て めずらしく、もう少し飲もうと正人が言うので、酒の苦手な加奈だったが、たまには付き合う事にした

ジュテームという、カウンターとボックスが2つだけの小さい飲み屋に入った

着物姿の愛想のいいママさんがカウンターの中にいて
「あら~正人さん、よくいらしたわね~さぁこっちへ」

正人と加奈はそのカウンターの椅子に腰掛けた

No.136 11/11/19 21:22
秋子 ( yuBCh )

正人は、よくそこを会社の接待で使っていたらしく、ママさんとは馴染らしい

ママさんに加奈を紹介して、客のいない店内で三人は、話しをしながら静かに飲んでいた

そこに現れたのが森田だった

森田、そうだ!

さっき加奈の顔を覗き込んだ男

それは森田だった
でも、なぜ?
私はどうして森田とこんなホテルにいるのだろう

正人はどうしたのだろう?

そして加奈は自分が裸であることに気がついて血の気が引いた…

No.137 11/11/19 21:26
秋子 ( yuBCh )

なんで! どうして!…

そして、残酷な記憶が鮮明に目をさました


ゆうべ加奈はかなり酔っていた

森田にここに連れ込まれて

このベッドに倒された

必死で抵抗したが、強いお酒でも飲まされたのか

力も入らず

森田のなすがままだった

加奈の体中を好きなようにもてあそび

加奈の体の上で森田の荒い息

ハァハァ…ハァハァ…

その息づかいのたび体は上下へ揺らされた

森田の、肉付きのいい脂ぎった頬と、口元の盛り上がったホクロ…

はっきりと蘇ってきた…

No.138 11/11/19 21:32
秋子 ( yuBCh )

正人に知られたくない…

正人…ごめん

早くこんな所から出よう


我に返った加奈は半身を起こし 服を椅子から引っ張り取った

ヨロヨロしながら着始めた


森田は起き上がった加奈に気づき

森田「加奈ちゃん…怒ってるのか?…悪いことしたな……」

加奈はなにも聞きたくない
そう否定するように夢中で服を着ている

森田「加奈ちゃん…俺…一度だけ加奈ちゃんを抱いてみたかったんだよ…そんなに俺が嫌いか?…」


加奈「嫌いです!誰があんたなんか!…汚らわしい!!」」

加奈は吐き捨てるように言った

そして出口へ向かった

すると森田は

森田 「この事は正人も承知だ!…」

No.139 11/11/19 21:44
秋子 ( yuBCh )

「え??」

加奈は一瞬意味がわからなかった

正人も承知?
なんの事?
耳を疑った…

加奈を呼び止めるための、口からでまかせだろう

そう思って、また歩き始めようとした時

森田が強い口調で言った

森田 「正人は自分の会社をつぶさない為に、やったんだ!」

加奈は固まってしまった

森田が近寄ってきて

森田 「まぁ聞け…」

加奈の肩を押して椅子へ座らせた

No.140 11/11/19 21:47
秋子 ( yuBCh )

森田は、森田整備会社の社長 55歳

森田 「…正人の工場も、もう危ないよな~もちろん正人も頑張ってはいるが、俺のとこも不況の煽りで…」

正人は従業員20人足らずの、小さな板金工場の社長をしていた

父親が脳溢血で突然亡くなって、正人は東京から帰ってその後を継いだ
五年前の事だ

加奈も事務で三年前から働き…

二人が社内でつき合うようになってもう二年

正人は27歳
加奈は25歳

森田の会社は正人の会社の親会社だった

No.141 11/11/19 21:50
秋子 ( yuBCh )

森田 「不景気でよぅ…俺のとこも苦しいんだよなぁ…子会社は正人んとこばっかじゃないし…みんな次々倒産して行くからな~…正人も辛かったんだよ
それでだいぶ前に正人に、加奈ちゃん抱かしてくれたら、おまえんとこは絶対見捨てない…なんていっちまって…なに、酒呑んだ上の冗談だったんだよ……正人、それを間にうけたんだろうな…なんたって従業員の生活がかかってっからよ…」

信じられない話しだった

森田に抱かれたのもショックだが

それ以上に正人の加奈に対する気持ちが信じられなかった

私は、正人にとってなんだったのだろう…

私はモノか?

情けなかった…

裏切られた…

涙も出なかった…

森田 「俺も大人気なさすぎた…昨日は完全に調子にのりすぎた…ごめん加奈ちゃん…」

森田は頭を下げた

No.142 11/11/19 22:02
秋子 ( yuBCh )

送って行くという森田の言葉に返事もせず加奈はホテルを出て、歩き出した

一人になりたかった

タクシーを拾い
行き先を告げると
タクシーは動き出した

昨日、ママさんがカクテルを作ってくれた、ピンクや赤、紫…

みんなが
飲め💦飲め💦

飲まされた…

加奈が、お酒に弱い事を知っている正人まで、止めなかった…

そして、こっそり居なくなった正人…

あの三人はグル?!

酷い!酷すぎる!許せない!

No.143 11/11/19 22:06
秋子 ( yuBCh )

耐えきれず加奈は声を上げて泣き出した

タクシーの運転手が驚いて

『どないしました?大丈夫ですかぁ?』

心配して声をかけたが
加奈は泣き続けた

そして加奈は涙をふくと、思いつめたように、運転手に言った


加奈「行き先を変えたいのですが……」

やがてタクシーが止まった

そこは正人のアパートだった

No.144 11/11/19 22:08
秋子 ( yuBCh )

いつも幸せに満ちたりていた、正人の部屋のドアだった

だが、今日は怒りに震えながらチャイムを鳴らした

正人が出てきた

「あッ…か…加奈…」

加奈 「ふざけないでよ!馬鹿にしないで!!💢人をなんだと思ってるの!!」

加奈は思いっきり正人の頬を殴った

No.145 11/11/19 22:12
秋子 ( yuBCh )

正人は土下座した

正人 「ごめん加奈……」

加奈 「なんで?!どうして…私がこんな目にあわなきゃないの?!」

正人は加奈の膝にすがりながら

正人 「許してくれよ!…ああでもしないと、この工場は…やっていけないんだ…分かってくれ加奈!」

加奈 「私の気持ちはどうでもいいの?!」

正人 「だから…謝るよ、お前のおかげで工場はもちなおした…さっき森田さんから電話があって…だから…これから加奈と結婚して、二人で工場やって行こう…」

No.146 11/11/19 22:16
秋子 ( yuBCh )

加奈 「結婚?…」

そうだ…加奈は正人からのプロポーズを待ち望んでいた…

だが、人の気持ちを散々に傷つけておいて…

こんな時に、こんな形で結婚の話しなど聞きたくはなかった…

加奈の未来の幸せはボロボロに崩れて行く…

許せない!

加奈は台所へ行き

包丁を握って正人へ向かって行った

No.147 11/11/19 22:18
秋子 ( yuBCh )

「あなたと森田とママは、グルなんでしょう?三人とも殺してやる!!」

おどろいた正人は狭い部屋の中を逃げ回った

正人「加奈!止めてくれ!!」

加奈 「私が殺人犯で逮捕されたら、洗いざらいぶちまけてやる!!あなたの工場も森田の会社もジュテームも、みんななくなってしまえばいい!!!」

No.148 11/11/19 22:21
秋子 ( yuBCh )

加奈の怒りは止められない

正人は壁際に追い詰められた…


加奈は正人の顔を見た…

恐怖に怯え、頬に流れた涙の後が光っている…

これが、私の愛した人、一緒に幸せになるはずだった人
今でも、その腕の中に飛び込みたい、甘えたい…

だけど、この心の傷を抱えたまま、この人との未来はない

加奈は両手で握った包丁を一気に突き刺した!

No.149 11/11/19 22:27
秋子 ( yuBCh )

正人 「あッーー!」

正人は目を固く閉じた…

だが、包丁は…壁に突き刺さった

加奈は、わざとはずした

正人は力が抜け、ヘタヘタ座り込んだ

加奈 「…くだらない…もう嫌だ……もういい…」

静かに言うと、加奈は涙をこらえて正人のアパートから出た


雨が激しく降り出している

情けなさと喪失感で力が抜けた

駐輪場の柱に寄りかかって、あたりかまわず声を上げて泣いた…

No.150 11/11/19 22:36
秋子 ( yuBCh )


そんな時

涙と雨でずぶ濡れた加奈を誰かが、そっと傘に入れた

『大丈夫かぁ?様子がへんやったから、ちょっと待っとったんですわ、乗っておくれやす…』

さっきのタクシーの運転手だった

加奈は煩わしかったが…早く帰りたかった

見ず知らずの運転手に支えられて、タクシーに乗った

自分の部屋の近くで、タクシーから降りようとした時

加奈はよろけて、転んでしまった

タクシーの運転手が、駆け寄り

『ねぇちゃん、だいじょうぶか?』
そう言って加奈の肩に手をかけた時

加奈「やめて!」

一瞬森田の顔がよぎった

No.151 11/11/19 22:41
秋子 ( yuBCh )

加奈は自分で立ち上がった

雨は強く振り続いている

『…こら悪い事してもうた…かんにんや…よっぽど、嫌なめにあったんやな~ねぇちゃん、
嫌な事や、嫌な人間の事は捨ててしもうたらええねん…新しくうまれかわったらええねんやで!』

加奈にはもう誰の言葉も、耳には響かなかった

まして前向きの説教なんかたくさんだった

部屋へ入ってカギをかけた

タクシーのドアが閉まる音がして、エンジンが遠くへ消えて行った

そしてザーザー雨の音だけが残った

加奈の運命を変えた、昨日からの長い長い時間が過ぎて行った…

No.152 11/11/19 22:58
秋子 ( yuBCh )

加奈はシャワーに入った

正人は工場のために、この加奈の体を利用したのだ…

加奈は、石鹸をつけた体を、何度も何度も洗い流した

森田やママ…そして…正人の裏切り…

心が張り裂けそうに痛い…


この先なんの為に、何を信じて生きていけばいいのだろう

もう無理だ!
何もかも無くした!
生きて行けない!

風呂を出るなり、脱いだ服をゴミ箱へ投げ捨てた

そして 包丁を取って 手首にあてた…

冷たい刃先を肌に押し当てた…

思いっきり引いたら、動脈から赤い血が吹き出るだろう…


だけど…

怖くてできなかった…

殺す事も、死ぬ事もできない…

加奈は子供のように声をあげて泣いた

No.153 11/11/19 23:07
秋子 ( yuBCh )

そして週は明けた

もう会社へは行く気力もない

携帯には友達からと正人からのメール、正人からの着信があった

もう正人の顔など見たくもなかった

誰とも会いたくなかった

正人に最後のメールをした

加奈↓
しばらく休みます

それだけ送ると
正人からの返事を待つ事もなく、アドレスを変え、正人の携帯番号も拒否した

何回か正人がアパートのベルを鳴らして、加奈を呼ぶ声がしたが

返事は一切しなかった

加奈は全てから心を閉ざした

No.154 11/11/19 23:13
秋子 ( yuBCh )

食欲もなく、なにもする気もなく布団から出られなくなった

一週間過ぎたころ…

体重は減り、起き上がると、ふらふらになった


ふと死を意識した

このまま餓死してもいいやと思った

このまま加奈が死んでしまったら…

あの三人は、どう思うだろう


おそらく反省などはしないだろう…

私利私欲に走り、邪魔な者は排除された…三人は、酒盛りでもするのだろうか?


もう…どうでもいいや…

目が自然に閉じた

ふと、いつかのタクシーの運転手の言葉を思い出した

『嫌な事や嫌な人間の事は捨ててしもうたらええねん…
新しくうまれかわったらええねんやで!』

No.155 11/11/19 23:27
秋子 ( yuBCh )

あの運転手のおっさん、優しかったなぁ…

あの関西弁、癒やされる…

雨の日は、せっかく転んだ私を気づかってくれたのに…悪いことした…

加奈は、今度会ったら謝ろうと思った

ふと、コンビニでも行ってみようという気になった

No.156 11/11/19 23:34
秋子 ( yuBCh )

久々のコンビニは眩しかった…

商品を探す人、レジに並ぶ人、店員の笑顔

活力が伝わってきた

カップ麺と サンドイッチ、おでんにおにぎり

帰って来て モリモリ食べた…

満腹になってふと思った

そうだ あの三人が居ない所へ行こう…

いや、自分の事を誰も知らない、遠い土地へ行って暮らそう…

新しく生まれかわりたい

出来るだろうか?

何処へ行こうか?住む所も探さなきゃ…

加奈は久しぶりにパソコンを開いた

No.157 11/11/19 23:42
秋子 ( yuBCh )

正人との結婚資金にと、頑張ってかなりお金は貯めていた…

アパートを借りて新しい仕事を見つけるまで、当分の生活費も充分足りる

工場の再建資金に使われなくて良かった

あんな男…結婚する前に、分かって良かった…


もう一度生まれ変わりたい!

こんな事で死んでしまうのは悔しい!

でもこの先、何があるか分からない
でも今よりはましだ!

No.158 11/11/19 23:59
秋子 ( yuBCh )

あの地獄の出来事から1ヶ月が過ぎた頃

引っ越し荷物を乗せたトラックを見送ると

加奈は新幹線に飛び乗った

引っ越し先は京都にした

これといった、たいした理由もなかったが、関西弁が妙に気に入ったせいでもある

それに、東京の思い出は消したかった…

久々の新幹線は、音も静かで快適だった

窓の景色を見ながら、見知らぬ土地への不安がよぎった…

一人ぼっちでこの先どうなるか…気持ちが沈みかけた時…

ふいに声をかけられた

『あんときの、ねぇちゃんやないか?!』

見ると、なんとあのタクシーの運転手だった

加奈「あ~ッ」

『元気になりはって、よろしおましたな~…あら?わしの座席……ねぇちゃんの隣ですがな~奇遇でんな~アハハ…』

運転手は、勝手に陽気に話し出した
『へ~ねぇちゃんも京都ですか?わしも京都までですねん!奇遇でんな~アハハ…』

加奈もつられて笑った
久しぶりの笑顔になった


元気を出そう
色んな人に出会って、楽しく生きて行こう!

加奈は前を向いた


…完…

No.159 11/11/25 21:25
秋子 ( yuBCh )

第六章

…復讐する女…

No.160 11/11/25 21:28
秋子 ( yuBCh )

佐藤隆史は30歳

同年代の妻と、幼稚園へ通う4歳の娘との3人家族

さほど裕福でもないが、平凡で幸せな毎日が続いていた

隆史は、その日会社の懇親会へ出席していた

夕方6時に乾杯で始まり、9時には一応オヒラキになった

当然のように、同期の仲間4人で二次会へ行く事になるわけだが

仲間の一人、鈴木がこう言い出した
「今夜は、合コンだぞ!綺麗どころがズラリ~」

No.161 11/11/25 21:33
秋子 ( yuBCh )

隆史はそんな話しは聞いていなかったが、手筈はすでに整っていたらしい

その鈴木と、もう一人の中山は独身

隆史と池田は、妻子持ちだ

池田 「なぁ佐藤、たまには、独身になろうぜ!」

池田はそう隆史に悪戯っぽく囁くと、これ見よがしに薬指の指輪を外して、背広姿のポケットに入れた

No.162 11/11/25 21:41
秋子 ( yuBCh )

隆史は、あまり気乗りはしなかったが、この雰囲気を、邪険に断ることもできず

…途中で適当に帰ろう…

そう思って、この三人に付いて行った

カラオケで賑わうわりと広くて感じのいい店だった

合コン相手の女達はもう来ていた

ボックス席に、4人ずつ向かい合って座る形になった
女達は、今風におしゃれで20代前半なのか、みんな初々しくて、綺麗だった

カンパーイ

華やかな雰囲気に宴は盛り上がってきた

隆史は、自分は独身ではないのに、こんな所に居ていいんのだろうか?という罪悪感

それでいて、既婚者だと思われたくない…という相反する、2つの気持ちに挟まれていた

No.163 11/11/25 21:58
秋子 ( yuBCh )

女達との会話は、普段の平凡な生活とは、違って隆史の気持ちをワクワクさせた…

ちょっとくらい羽目をはずしてもいいんじゃないか

隆史は、そう勝手に自分を許していた

ふと妻子持ちの池田に目をやると

すでに気に入った女の子の手をとり、手相を見てあげる などと盛り上がっている

隆史は、指輪をそっとはずして、背広のポケットへ入れた…

No.164 11/11/25 22:05
秋子 ( yuBCh )

やがて、段々カップルが決まって

次々店を移動して行った

隆史は、最初から向かい側に座っていた景子と必然的に二人だけになった

二人はカウンターへ移動してゆっくり話しをしながら飲んだ

景子は控え目で聞き役だった

そして、キレイな目をしていた…

No.165 11/11/25 22:10
秋子 ( yuBCh )

気がつくと12時になっていた

景子 「私、酔っちゃった、佐藤さん、送って…」

景子が愛らしく言う

タクシーで送って、そのまま自分も帰ろう

久々の合コンは楽しかった~

そして 店のマスターにタクシーを頼んだ

やがてタクシーが来て二人は乗りこんだ

楽しかった余韻を残して、名残惜しい気もしたが

まじめに千佳子と真子が待っている家へ帰ろう…

そう思った

隆史「景子ちゃん、今日はホント楽しかったよ…」

そう隆史が言うと…

景子は隆史にぴったり体を寄せてきた

No.166 11/11/25 22:14
秋子 ( yuBCh )

「あれ?景子ちゃん酔っちゃったの?」

景子はミニスカートの艶めかしい太ももを隆史の膝の上に絡めてきた

隆史は見て見ぬ振りをしたが

景子はふいに隆史の手をとると、自分の太ももに押し付けた

隆史は、はっとして手をはなした

すると今度は景子がいきなりキスをしてきた

隆史は驚いて景子の肩をそっと押して自分から離した

隆史は景子の柔らかい唇の感触にドキドキした

こんな久々の新鮮な興奮に、隆史の下半身は熱くなってしまった…


景子が隆史の耳元で囁く

「ねぇ…お茶でも飲んで行って…」
隆史はますますドキドキした

No.167 11/11/25 22:18
秋子 ( yuBCh )

タクシーが止まり
隆史は景子に引きずり込まれるようにアパートへ入って行った

どちらかとも無く激しいキスになった

景子は隆史のズボンのベルトをはずすと、ファスナーをゆっくりおろした
そして興奮した隆史のそれを、口に含んだ

『あぁ…』隆史は小さく嗚咽をもらした

快楽に酔いした隆史にはもう、理性のかけらなど微塵もなかった

二人は獣のように、無我夢中で愛し合った…

No.168 11/11/25 22:24
秋子 ( yuBCh )


どのくらいの時間がたったのだろう
全てが終わった

隆史はシャワーへ入った

隆史の脳裏に
妻と娘

千佳子と真子が浮かんだ

俺はなんと言う馬鹿な事を!…

千佳子以外の女とこんな事…!

時計を見ると午前2時

隆史は、服を着る

景子がシャワーに入ったのを確認すると

隆史は部屋を飛び出した

急いでタクシーを拾い家へ着いた

千佳子と真子が安らかな寝息を立ててる


二人はぐっすり眠っている

隆史はほっとして布団に潜り込んだ

景子は初めて会った男と、すぐあんな事をする女だから、自分との事は、きっと一夜のアバンチュールに違いない…

もう会う事もないだろう

隆史はそう高をくくって眠りに着いた

No.169 11/11/25 22:28
秋子 ( yuBCh )

朝になって
幼稚園が休みの真子が

真子「パパ~ゲームセンター行きた~い」

せがまれて、妻の千佳子と三人で出かけた

ゲームセンターはショッピングモールの中にあった

隆史と千佳子の間で真子が手をつなぐ

ぶら下がったり、歩いたりして真子は、はしゃいでいる

真子と千佳子の顔を見て、隆史は昨日の景子との熱い夜を思い出し、罪悪感でいっぱいになった

何も知らないこの二人は、俺をいい亭主、いい父親だと信じて疑わない…

もう二度とあんな事はするまいと固く心に決めた

No.170 11/11/25 22:34
秋子 ( yuBCh )

遊んだ後は、レストランで食事をとり、家へ帰ろうと三人は駐車場を歩いて行く

一台の赤い車が少し放れた先で止まり、女が降りた

長い髪、短いコートの下はミニスカート…そしてサングラスをしている

あれはまさか!

まさか!

景子?!

隆史は、背筋に冷たい矢がつき刺さる思いがして固まった

女は三人に近寄り、そのまますれ違ってやがて通り過ぎた

隆史には女の視線は感じなかった

違ったか?違った!あぁ…良かった!


そうだよ…昨日のタクシーの距離からしたら、隆史の家から千佳子のアパートまでは、10キロはあった

景子は都会に住んでいるし、わざわざこんな田舎まで買い物に来るなんて考えられない

隆史は、ほっとした…

No.171 11/11/25 22:39
秋子 ( yuBCh )

家に着き千佳子と真子が先に家の中へ入る

最後に隆史が車から一人降りる

ロックした車はピカピカと光った

その時、携帯電話がなった

見覚えのない携帯番号…

仕事関係の人で登録してない人もいるからめずらしい事ではない

そう思って隆史は電話に出た…

隆史「もし、もし…」

「…」

隆史「もし、もし?どちら様ですか?」

景子「佐藤さん?景子です…昨日はどうも…」

隆史は驚いた

いつ?俺の電話番号を?頭が真っ白になった

景子「結婚してたの?楽しそうな家族の休日?…フフ…」

さっきの女は、やっぱり景子だったのか…

今もどこからか見ているのか?

隆史「…」

景子「それでもいいの…私…佐藤さんの事…忘れられない…
佐藤さんも景子の事…愛してるって言ってくれたよね…
…また会ってくれるでしょう?」

No.172 11/11/25 22:44
秋子 ( yuBCh )

隆史「頼むよ…電話は止めてくんないかな?…」

景子「うん…分かった…だったらメールする…アドレス知ってるから!」

隆史はまた仰天した

アドレスまで知ってる?

あの時、隆史がシャワーに入った時携帯を盗み見たのか?…

隆史は焦った

どうしよう…

また氷の槍が体につきささった…

背筋が固まった


真子「パパ~」

玄関で真子が呼んでいる

隆史は携帯の電源を切って家の中へ入った

No.173 11/11/25 22:48
秋子 ( yuBCh )

やがて夜になった

寝つきの悪い真子がやっと眠った

隆史は眠ったふりをしていたが、千佳子の寝息が聞こえてくると

起きあがった

リビングへ行き ウイスキーに氷を入れて飲んだ…

携帯の電源を入れてみた

景子からのメールが12件

… 昨日はいつの間に帰ったの?

…奥さんそばにいて、返事できないんだね😅いいよ気にしないで…

…愛してる隆史さん❤

…気持ちがいい…こんなの生まれて初めてだ…なんて言ってくれたよね~❤

…今度いつ会えるの?


隆史はまた背筋が寒くなった…もう見たくなかった
全て削除した

景子はもうすっかり恋人気分だ

俺はなんて馬鹿な事をしたんだろう

No.174 11/11/25 22:52
秋子 ( yuBCh )

何とかしなきゃ

悪いのは俺だ…

一度会って きちんと謝らなきゃ…

縁を切りたい!

はっきり言って、わかってもらうしかない…



そう決めて、隆史は眠りについた

No.175 11/11/25 22:57
秋子 ( yuBCh )

携帯の電源は、相変わらず切ったまんまだった

朝会社に着くと電源を入れた

大量のメール…

見ないで全て消去した…

池田 「よ~昨日どこに行ってたんだ?何回も電話してんのに全然繋がらなかったぞ…

…てか…あれからどうした?あの夜だよ…」


隆史「帰ったよ…」

池田「まじかよ!ほんとお前は真面目だよな~…俺は…やっちゃったよ!いい女だった最高のボーナスだったぜ!」

お気楽な奴だと隆史は思った

自分も池田のような性格なら、気楽に、あと腐れなく…女と遊べたかも知れない…だが違う

最悪な状況だ…

No.176 11/11/25 23:02
秋子 ( yuBCh )

その夜は真子の5歳の誕生日だった

隆史は気分を変えて真子にバースデープレゼントを抱えて帰った

ケーキと料理が並んでいる

ろうそくを立てる千佳子、吹き消す真子…

隆史はこの幸せはどんな事があっても守ろうと思った

そんな時

ピンポーン

千佳子「誰かしら今ごろ?」

少しして玄関から千佳子が大きなピザの箱を抱えてくる

千佳子「誰からかしら…私頼んでないわ…あなたなの?お金も払ってあるって…」

…もしかしたらあいつか?!
真子の誕生日までなんで知ってんだ?!

隆史は平静を装って、すかさず答えた

隆史「あ、俺だ…頼んでおいたのすっかり忘れてた…」

真子「パパ~ありがとう、ご馳走いっぱいだね~」

千佳子と真子は何も知らずに喜んでいる…

No.177 11/11/25 23:06
秋子 ( yuBCh )

隆史はもう限界だった…

早く景子に会って、はっきりさせよう

隆史は景子にメールを初めて送った

隆史↓

今日仕事の帰りに会ってくれないかな?話しがある

5分もしないうちに返事が来た

景子↓
嬉しい❤

No.178 11/11/25 23:14
秋子 ( yuBCh )

千佳子には、
得意先をまわってから帰るから、少し遅くなる、先にご飯食べてて

そう電話をすると
隆史は景子の指定してきた喫茶店へ向かった

そこは、景子の住む街にあった

景子はもう来て、店の奥の窓側のテーブルにいた

景子はあの時と同じミニスカートをはいて足を組んで座っている

景子 「佐藤さん、こっちこっち」

あどけなく手を振っている

隆史はニコリともせず座った

No.179 11/11/25 23:20
秋子 ( yuBCh )

コーヒーを注文すると隆史は景子をまっすぐに見すえた

そして生つばをごくりと飲みこんだ

隆史 「実は…君に謝らなければならない事があって…」

景子 「どうしたの?どうして謝るの?」

隆史「その…俺は結婚しているし、子供もいる、君との事は、…その…なかったことにして欲しい……」

景子の顔はみるみるゆがんで行く

景子「…家族があるなら、いえ!家族あってもいい…大切なのはお互いの気持ちでしょう…」

No.180 11/11/25 23:25
秋子 ( yuBCh )

隆史 「いや、俺は君と付き合うつもりはないよ!」


景子「なに言ってんの?愛してるって何度も言ってくれたじゃない!」

隆史「いや…それは……」

景子の目に涙が溢れている

隆史「お願いだから、俺の事は忘れてくれ!メールも電話も止めてくれ、そしてもう、俺をつけ回すのも…お願いだから…止めて欲しい…」

景子は泣き出した
隆史は辺りを気にしながら

隆史「ごめん ごめん…」

そう何度も繰り返した

景子「じゃ私とはただ…遊んだだけだったって言うの?!」

隆史「…」

景子「あんな事しておいて今更…ひどい!ひどすぎる…」

隆史「その…誘ったのは君の方だろ…君だってそのつもりだったんじゃ?…」

景子「はぁ?…」

隆史「いや、悪いのは俺だ!とにかくもうこれっきりにしてくれ…」

隆史は立ち上がった、

景子「待って!」

隆史は、呼び止める景子の声にも、気付かないふりをして
喫茶店から出て行ってしまった

No.181 11/11/25 23:32
秋子 ( yuBCh )

そして、気持ちの落ち着かない日が過ぎて行った

2・3日たっても景子からメールも電話もない…

諦めてくれたんだろうか…

そして3日目の日曜日だった

いつものように、家族三人で買い物をして車は家の前に着いた

先に降りた千佳子がなにかに驚いて悲鳴をあげた

「キャー!」

見ると、真子の三輪車に血がベットリ、大量についていた

三人は呆然とした
真子は泣き出して千佳子にしがみついている

隆史が三輪車に近づいた

隆史「これケチャップだよ…」

千佳子「誰がこんないたずらを!ヒドい!」

千佳子は玄関前の水道のホースで水をかけ始めた

まさか?!
景子の仕業か?

俺に断られた祓いせに…

隆史は愕然とした

No.182 11/11/25 23:37
秋子 ( yuBCh )

そして、また何日かして…

隆史が会社へ出かけ、千佳子は真子を幼稚園に送っていった

そして、ゴミを出しに行って家の中へ戻った

千佳子が家を開けた、ほんの2・3分の間にそれは起こった

ビニールの焼けるような焦げ臭い匂いが家中に充満している

あわてて台所へ行くと
火がついたガスの上に、置いたはずのない、フライパンがかけてあり

その中に、熱で焦げた真子のビーチサンダルが入って煙りを出してくすぶっている

千佳子はすぐガスを止めた

あわてて換気扇をつけ、窓を開けた

千佳子は、恐怖に打ちのめされた

誰がこんな事を?!

体中ワナワナと震え出した

No.183 11/11/25 23:42
秋子 ( yuBCh )

夜、隆史は真子の寝顔を眺めると…ドアを閉めた

千佳子は昼間のその出来事を隆史に話した


景子だ…景子に決まってる!
隆史はそう思って胸が張り裂けそうになった

千佳子は、ショックで食事を作る気にもならず

コンビニ弁当の食べかけがテーブルにあった

千佳子は椅子に座ったまま憔悴しきって動かない

千佳子「なんで?なんでこんなひどい目に合うの?私なんにも悪いことしていないのに…」

思い詰めたようにポツリと言った

隆史は横に座って黙って千佳子の頭を撫でている

No.184 11/11/25 23:47
秋子 ( yuBCh )

だが隆史には、千佳子に、全て話してしまう勇気なんてなかった…

千佳子 「この間の三輪車、今回はビーチサンダル、真子に対してやってるとしか思えないよ…真子がかわいそう…怖いよ…」

千佳子は隆史にすがって泣いた

全て俺のせいだ
景子に激しい憎悪を抱いた

隆史は家を飛び出した

千佳子「あなたどうしたの?あなた!」

隆史の怒りは爆発した!

そして景子のアパートへ向かった

怒りでハンドルを両手で何度もバンバン叩いた

No.185 11/11/25 23:55
秋子 ( yuBCh )

景子の部屋のインターホンを鳴らした

景子が出てきた

隆史は景子の胸ぐらを両手で掴むと

隆史「てめえふざけやがって!」


景子「止めて…お願い…!」


隆史「殺すぞてめえ!!」


景子「苦しい…」


隆史は、はっとして手を放した

隆史「なんであんな嫌がらせするんだよ?!!娘になんの恨みだ!」


景子「あら、なんの事かしらね~」

景子はしらばっくれて首を痛そうに撫でている

隆史「頼むよ、もう金輪際俺達には、関わらないでくれ!!」


隆史は涙を流して哀願した


景子「よく分からないけど、私に逢いに来てくれたの?嬉しい…」

隆史は唖然として景子を見た

隆史「バカか!…お前はまだ若い、こんな俺よりいい男がいっぱいいるだろう!」

景子「…」

隆史「 この次なにかやってみろ…本当に殺すぞ!!」

アパートのドアが壊れるくらい思いっ切り閉めて

隆史は帰っていった…

No.186 11/11/26 00:05
秋子 ( yuBCh )

家へ着くと

千佳子はまだ椅子に座ったまま動かない

隆史「千佳子大丈夫か?」

すると千佳子が手に何かを握りしめていた

千佳子「あなた、これ…」

隆史「どうした?手の中になにか入ってんのか?」

千佳子は手を開いた

それは、隆史の結婚指輪だった

隆史の顔色が変わった

千佳子「この指輪、あなたの背広のポケットから出てきたの…」

隆史は、合コンの時に外してそのままだった事を思い出した

千佳子「あの夜よねぇ朝方帰ってきたでしょうあなた…ピンときたわ!いつ言ってくれるか待ってたよ…」

No.187 11/11/26 00:11
秋子 ( yuBCh )

隆史にまた旋律が走った

千佳子 「この間のピザね~あれは、私が頼んだの…あなたが頼んだなんて言い出して…あれで確信したわ…フフフ…」


隆史「じゃケチャップもビーチサンダルもか?」


千佳子「やり過ぎかも知れなかったけど、あなたがきっと彼女を懲らしめてくれると思ってね…」


さっきまで泣いてすがったあの弱くておどおどした千佳子とは、もはや別人の千佳子だった

隆史「ほんの出来心だったんだよ…許してくれ千佳子!」

千佳子「…」

隆史「たった一度の間違いじゃないか…もう絶対あんな事はしない…許してくれ…」

床に座って両手をついて隆史は謝った

千佳子「一度だけ?甘いよ一度やる人は必ずまたやるわ…貞操観念がないのよあなたは!もう終わりよ…」

No.188 11/11/26 00:15
秋子 ( yuBCh )

それから何日かして隆史は大きなバックを両手に持ち家を出て行った

真子「パパ、遠くでお仕事?ママ…真子寂しいよ…」

千佳子「大丈夫よ、月に一度は、会えるから…」

隆史の車は遠ざかって行った


…完…

No.189 11/11/27 00:08
秋子 ( yuBCh )

読んで下さっている方へ

始めまして秋子です
(*^_^*)✋

秋に書き始めたので秋子にしました
特別な意味はありませんです😅

初めて短編小説を書いています

何度も読み返して書いているつもりですが、誤字や脱字そして話しに辻褄のあわない箇所もあり、ハラハラドキドキ…反省しきりです😆

まだまだ未熟ですが、これからも書いて行きたいと思っています

よろしくお願いします

(*⌒▽⌒*)

No.190 11/12/02 16:32
秋子 ( yuBCh )

第7章

…泣きボクロの女…

No.191 11/12/02 16:52
秋子 ( yuBCh )

それは、幸男が法事で実家に行き

その帰り道での事だった

長い高速を降りて、一般道へ出たのはもう夜10時近かった

自宅まではまだかなりある、夜道は暗くすれ違う車もまばらなになってきた

やがて、前方にいつも通勤で渡る橋が見えてきた

もう少しで着くと安心した時…

よく見るとなにやら前方左側に人影が見えた

ライトで照らされその人影は白く光った

そしてその白は、一瞬で近付いた

慌ててブレーキを踏んだ

アッ〰〰!!

ひいてしまったか?

動転して背筋が寒くなった

No.192 11/12/02 16:57
秋子 ( yuBCh )

だが車に衝撃はなかった

幸男は急いで車から降りた

恐る恐る、あたりを見渡した…

だが、何もない

四つん這いになって車の下も覗き込んたが…

誰もいない…

橋はしんと夜の闇に包まれている

こんな時間、寂しい橋の上に人がいる訳がない

長時間運転して目が疲れたのか?


幸男はほっとしてまた車に乗って走り始めた


アパートに着いたのは11時近かった

シャワーに入ってビールを飲み

ベッドへ入った

ウトウトし始めた頃

誰かが布団の上に居る

その重圧で目が覚めた

目を開けると

目の前に 頭から血を流した女の顔があった

No.193 11/12/02 21:47
秋子 ( yuBCh )


幸男は驚愕した!

「うッ…う…」

声がでない…

か…体が…動かない…

お化けだ!

助けてくれ!

助けてくれ!!!

心の中で必死に叫ぶが、誰にもどこにも届くはずもない

女はゆっくり枕元に座った


幸男は、夢か幻か…わけもわからないまま

底知れない恐怖にもがいていた

「おどろかないで…」

女が言葉を発した…

それは音として聞こえてくるのか

この女が伝えるテレパシーのようなものなのか?

幸男には確かに女の声が聞こえた


今まで味わった事のない不気味な空気

頭の中は恐怖の思考回路に支配された

ただ、この女はもう死んでいるのだと…


それだけは、分かった

No.194 11/12/02 21:53
秋子 ( yuBCh )


「私はもう、死んでしまったのでしょうか……」

また女の言葉に恐怖が駆け巡ったが…

それは、涙をこらえるような…

悲しみがにじみ出るような弱い声だった…

幸男はこれが金縛りというものか?

動かない体のまま、そっと女を見た…

長いストレートの黒い髪、整った顔立ち…

年は20代だろうか?

女と目が合った

いくら美人でも血だらけの顔は流石に恐ろしい

幸男は、再び目を閉じた…

No.195 11/12/02 21:57
秋子 ( yuBCh )

死んでいるのならさっさと、あの世へ行ってくれ!

なんで俺にとりつくんだ?

俺があんたに何をした?

お願いだから早く消えてくれ!

心の中で叫びつづけた

すると…

女は、ティッシュで顔の血を拭き取っている

なんと、そこにはキレイな女の顔が現れた

「ごめんなさい…驚かせて…あなたにはなんの怨みもありません…」

お化けが謝った…

ふいに幸男の体が少し軽くなった…

だがその分、緊張は現実味を帯びてきた…

No.196 11/12/02 22:00
秋子 ( yuBCh )

まさか 俺がさっきやっぱり車でひいちゃったのか?

「いえ…あなたはひいてません、あなたの車が止まったので、私が勝手に乗ってしまいました…」

俺の車に乗っていたのか?

俺が連れて来てしまったのか?

ギョっとした

だが、まるで幸男の心の声が分かるのか、

女は幸男の疑問に答えてくる

お化けと不思議な意志の疎通が始まった…

別に幸男に対して悪さをする感じではなさそうた…

でも相手は幽霊だ油断はできない

No.197 11/12/02 22:04
秋子 ( yuBCh )

「こんなに急に死んでしまうなんて…」

そう言うと、女はうつむいた…

泣いているのだろうか?

幸男は48歳で独身、仕事が忙しくてそのうちそのうちと思っているうちに、婚期を逃し
こんな年になってしまった

人並みの幸せではないかもしれないが、独りでのんびり暮らしてきた


多分この女は俺の人生の半分も生きてはいないのだろう

あまりに早すぎる死だ

気の毒っちゃ気の毒だよな…

俺になんか頼み事とか、誰かに伝えたい事とかあるのだろうか?

まるで江原さんみたいだが…

そう思った時

「お願い聞いてもらえますか?…」

No.198 11/12/02 22:10
秋子 ( yuBCh )

どんな願い事なんだろう、皆目見当もつかない

だが、とにかく一刻も早くこの女お化けには、出て行って欲しい!

その一心だった

お…俺に出来る事なら…

女は話し始めた

女 「…実は、あるものを私が住んでいたアパートの部屋においたまんまなんです…気になって…死んでも死にきれないのです…」

幸男「…それはなんですか?」

女 「恥ずかしくて…とても…」

女は顔をそむけた

幸男は困惑している

女は意を決して
言った

No.199 11/12/02 22:18
秋子 ( yuBCh )

「実は…その…バイブ…なんです…」

女は両手で顔を隠した

幸男 「はぁ?!…あの…一人で…その…?…バ…バイブですか?」

幸男は、恐怖もへったくれもどこかへ吹っ飛んだ

女は親族が片付けに来る前に…それを処分して欲しい…そう必死に頼んだ

そして自分の住んでいたアパートの住所と、説明を補足すると

「お願いします…」
そう言って、やがて消えた…


幸男はホッとすると、酷く疲れて深い眠りについた…

No.200 11/12/02 22:22
秋子 ( yuBCh )

朝になった

昨日の事が蘇ってきた…

夢だったのか?

だが…

ゴミ箱の中には血のついたティッシュが あった

幸男はしばし放心した

そうだバイブだ!

誰も来ないうちになんとかしなきゃ

やがて ゆっくり起き上がると

出かける準備をした

女の住んでいたアパートの前に来た

No.201 11/12/02 22:27
秋子 ( yuBCh )

女の言うとおり、植木鉢の下に合い鍵があった

静かに中へ入っていった

女の子らしく、可愛いらしい部屋だ

いい香りがする

だが、そんな事をしている余裕はない

目的に取りかかった

クローゼットの右下一番奥

床に膝をつき、そっと手を入れた

指の先に箱の感触があった

ん?これか?

引っ張り出してみた

ピンクの厚紙の箱

これだ!


と思った瞬間に

つい手元が狂って、箱を落としてしまった!

中身があらわになった

なんと

ほんとにバイブだった!!!

幸男はそれを拾って手に持った瞬間

突然 玄関のドアが、開いた!

中年の夫婦が表れた

多分女の両親だろう…

悲しみに打ちひしがれた両親が

娘の部屋で バイブを握って突っ立っている男を見て

一体どう思っただろう?!

説明しても、納得して貰える訳がない

とっさに幸男は、それをしっかり握って

ベランダから、逃げ出した!!

No.202 11/12/02 22:33
秋子 ( yuBCh )

危ないところだった…

えらい目にあった

だが一応目的は達成した


夜になった

枕元にまた 女が表れた!


女「ありがとうございました…これで安心しました…」

丁寧にお礼を言い

さらにこう言った

女「なにかお礼がしたいのですが…」


幸男 「そんなことは 気にしなくてもいいけど…それより…これ…どうしようかと思って…」


幸男は引き出しの中からピンクの箱を取り出した


中は当然アレだ…

女「ゴミにでも出してもらえたら…」


幸男「これは、燃えるゴミ?
燃えないゴミ?
まさか…資源ゴミじゃ…?」

女は恥ずかしそうにして

やがて消えた

No.203 11/12/02 22:40
秋子 ( yuBCh )

翌朝…

味噌汁の香りがたちこめる中で幸男は目がさめた

台所に あの女がエプロンをして

忙しく動きまわっている


幸男はおどろいた

台所のテーブルには 日本旅館の朝食の風景がならんでいる

女 「さぁどうぞ……遠慮はいりません、ほんのお礼ですから…」

幸男は唖然としながらも

椅子に座って食べ始めた…

アジの干物、ヒジキの煮物、キュウリの浅漬け
豆腐と油揚げの味噌汁…

なんで俺の好物を知っているんだろう…

女「はい、お薬とお水…」

毎朝飲んでいる 血圧の薬まで覚えている

ワイシャツ 背広、靴下、仕事用バックの中には、忘れてはならない今日の会議の資料までキチンと入っていた

女「いってらっしゃい…」

幸男はキツネにつままれた思いで、出勤して行った

No.204 11/12/02 22:48
秋子 ( yuBCh )

仕事が終わると幸男は 仲間からの飲みの誘いも断った

そして一目散に部屋へ帰った

女はまだいるだろうか?

もしかしたら、もうあの世へ行ってしまっただろうか?

心はソワソワ、ドキドキしていた

幸男の部屋を見ると、電気がついていた

ドアを開けると女が出迎えた

女 「おかえりなさい…」

いた

幸男は嬉しかった
いつも真っ暗な部屋へ帰って来て、それが当たり前だったのに

誰かが待っていてくれる明るい部屋へ、今日は帰ってきた…

No.205 11/12/02 22:55
秋子 ( yuBCh )

なんともいえない、暖かくて幸せな気持ちだった

女 「お風呂にしますか…それともご飯?…」


こんな事を一度聞かれてみたかった

幸男 「お風呂…」

カビだらけの風呂はタイルもピカピカ、目地まで真っ白だ

いつも面倒でシャワーですませていた

だが今夜は浴槽にあったかいお湯だ

部屋の中も台所も整理整頓して 幸男の部屋じゃないと思うほど


見違えてしまった

女がビールをついでくれた


そして、美味しいご飯を食べた

だが夜、幸男がベッドに入ると、女は消えた

No.206 11/12/02 23:05
秋子 ( yuBCh )

次の日も、その次の日も女は来た

長い髪を後ろで束ねている

よく見ると、目の下にホクロがある

それが、何故か悲しげでもあり

色っぽくもあり、幸男の男心をゆさぶった

幸男の毎日は変わった…

週末には、二人で買い物にもでかけた

女がおばけという事も、時々忘れた

カートを押す幸男の耳元に、女は

人参 ピーマン、豆腐、牛肉…
などと…ささやく

それをカゴに幸男が入れて行く

女の姿は、幸男にしか見えないらしい


独り言を言いながら、カートを押す中年のオヤジは、

まわりの人には、さぞ小気味悪い人間に見えるだろう

だが幸男は女がおばけでも、この世の人でなくても

どうでも良かった
女といる時は楽しかったし幸せだった


だが女は…夜になると消えてしまう

No.207 11/12/02 23:13
秋子 ( yuBCh )

幸男は布団に入ろうとした時

思い切って女に言った

幸男「今夜はそばに居て欲しい…いや…なんにもしないから…」

すると女は

女 「してもいいですよ…」


恥ずかしそうに言った

幸男はあっけにとられた

女は幸男のベッドに入ってきた…

幸男はドキドキした…

女 「電気を消して頂戴…」

幸男は電気を消した

女と向かい合って見つめた

そして

幸男 「君の事が…好きだ…」

幸男をあのホクロの目が見つめる

幸男 「君が欲しくてたまらないんだよ…」

女は幸男に軽くキスをした…

おばけなのに、確かに感触がある

幸男はほっぺのホクロに触った

佐知子「それはね~泣きボクロっていうの…」

幸男 「そう泣きボクロか?…ねぇ…君の名前は?…」

女「佐知子…」


幸男「佐知子かぁ…俺は、」

女「幸男さんでしょ…」

やがて幸男は初めて佐知子の体に触った

No.208 11/12/02 23:20
秋子 ( yuBCh )

乳房も、手も足も、感触はあった

なんともいえない若い女の弾力だった

まるで生きてるようだ

幸男は佐知子の体が愛おしくて

首筋、乳首、手のひらから、足の先まで、すみからすみまで舐めた

佐知子の足をそっと広げ…秘部に顔をうずめて優しくゆっくり舐めていく…

幸男にはその溢れ出る蜜のひと滴さえ愛おしく感じた

佐知子はシーツを握って 息を殺している

幸男は、風俗にはよく行ったが

愛のあるセックスは 生まれて初めてだった…

そして、幸男と佐知子は一つになった

No.209 11/12/02 23:27
秋子 ( yuBCh )

幸男は、夢のような毎日を送っていった

仕事中でも、いつも佐知子を思って心は熱くなった

家に帰って佐知子の顔を見ると、

たまらなく抱きたくなって

そのまま台所で愛し合う事もあった

有頂天の毎日が過ぎて行った

だが…この幸せはいつまで続くのか

佐知子はこの世の人ではないのだから…

いつもその不安が心のどこかで、頭を擡げた…

そんなある夜

佐知子が言った

佐知子「私がどうして死んだか?幸男さん知ってる?…」

そういえば、そのことはすっかり忘れていた

幸男「しらなかったよ…どうしたの?事故?」

佐知子「私…自殺したの…」


幸男「……どうして?…一体なにがあったの?」

佐知子は話し出した

No.210 11/12/02 23:36
秋子 ( yuBCh )

佐知子 「私には、恋人がいたの…三年ほど付き合って、結婚まで約束してたわ…」

幸男「…」

佐知子「それなのに、彼ったら取引先の社長令嬢に好きって告白されたら…あっさり乗り換えたの…」


幸男「ヒドい男だな!…」


佐知子「そしてあの女、私に、あんなもの送ってよこして…
…彼は私のものよ、あなたはこれで慰めてね…
なんて言われたの…」


幸男「あのバイブは、その女が送ってきたのか?…くそ女だな!!」

佐知子「なにもかも嫌になった…誰も信じられなくなってしまって…そしてあの橋から……
幸男さん、もう一つお願いがあるの私の最後の頼みよ…あのバイブを女に返してきて頂戴!」


幸男は佐知子の頼みを聞いた

No.211 11/12/02 23:40
秋子 ( yuBCh )

佐知子の願いを聞いてやるのはいいが

それが終わったら佐知子は消えてしまうのではないか

そう幸男は思った

この世に未練がなくなったら佐知子は…


そう思うと不安でいっぱいになった

幸男の腕の中で佐知子は眠っている

その寝顔を幸男は朝まで、ずっと見ていた…

No.212 11/12/02 23:43
秋子 ( yuBCh )

ある高級ホテルへ幸男は訪れた


それはあの佐知子を裏切った男とその彼女が今夜泊まる事になっていた

コンコン!

部屋をノックする

「はぁい…」

化粧の派手な女だった

幸男「あの…佐知子さんから、頼まれてきました、これを、あなたに返して欲しいそうです…」

幸男はバイブを直接女に手渡した

女は奇声をあげてその馬にバッタリ倒れた!

奥で男が
「どうした?!」

そう叫んでる

幸男はドアを閉めてゆっくり帰って行く

ホテルの外へ出ると救急車がサイレンを鳴らしてもう来ていた

最後の目的は達成された

幸男は自分の家へ向かった

イヤな予感がした

No.213 11/12/02 23:54
秋子 ( yuBCh )

幸男の家には灯りがついていない

ドアを開ける手は自信なく震えた

幸男 「佐知子~佐知子~」

佐知子の姿はもうどこにもなかった

台所のテーブルに置き手紙があった

佐知子からだ

…幸男さん、お世話になりました

佐知子は20年早く生まれていれば良かった…

そしたら幸男さんとめぐり逢えたかも知れない…

幸男さんと二人で暮らした この1ヶ月とても楽しかった

死んだ事を後悔しています

でも、もう行かなければなりません

幸男さん、愛しています

ありがとう

さようなら…

佐知子

幸男は声を殺して泣いた…

やっぱり…消えてしまった…

とうてう 恐れていた事が起きてしまった…

No.214 11/12/03 00:00
秋子 ( yuBCh )

また独りの生活にもどった…

冬の木枯らしが吹き付けるような

侘びしい生活が始まった

灯りのついていない家へ帰ってくるのは、とても寂しい事だった

佐知子のあの置き手紙もいつしか

文字は消えていた…

二人で撮った写真もみんな幸男一人しか映っていない

全ては幻だった…

幸男は幻を抱いたのだ

だがまだ佐知子の皮膚の感触だけは残っている

佐知子との思い出を 一枚づつめくるように

大切に、暮らして行こうと思った

No.215 11/12/03 00:07
秋子 ( yuBCh )

ある日
仕事帰りに、ふと橋の上で車を止めてみた

ここで佐知子と出会った…

しみじみ懐かしかった

幸男は佐知子を忘れない

佐知子は幸男を愛している

そう言った

一生の宝物だ…


家へついて、コンビニ弁当を食べた

佐知子が作ってくれた料理を思い出し

涙が出た…

そして一人で布団に入ると

佐知子を想って、また涙を流した

そして眠りについた…


夜中…

幸男は重圧で目が覚めた!

佐知子だ!

佐知子にちがいない!

どんなに逢いたかったことか!

佐知子!


目を開けた

すると

見知らぬ男が頭から血を流して立っている、

男 「あなたの車が橋の上で止まったので乗ってしまいました…」



幸男「ギェーーーーーーーーー!!!」




…完…

No.216 11/12/10 00:10
秋子 ( yuBCh )

第8章

…冷たい女…

No.217 11/12/10 00:16
秋子 ( yuBCh )

夜…

浩二の携帯がなった

浩二 「もしもし…」


麻子 「ねぇすぐ…来て…」


浩二 「これから?…すぐ?…」


もう11時を過ぎている

麻子 「そう…すぐ来て~おねがい……」


ほどなくして浩二は麻子の部屋へ着いた

No.218 11/12/10 00:25
秋子 ( yuBCh )

浩二がドアを開けると

麻子は待ちきれないように

浩二の手を引き寄せる

バスローブの下はすでに全裸の麻子だった


浩二の服を急いで脱がせ始めた


キスをしながら浴室へと引きずり込む


シャワーが勢いよく二人に降りそそぐ


浩二は麻子を抱き寄せ、麻子の柔らかい乳房を揉み、乳首を舌先で転がす


麻子「あぁ…」


浩二 「足開いて…」


浩二は麻子の恥部を指で開くと

指はゆっくりと、往復する…

浩二 「もうこんなに濡れて……」


麻子がたまらず浩二に抱きつく

浩二 「欲しいの?…」

麻子 「うん…欲しい…」

No.219 11/12/10 00:30
秋子 ( yuBCh )

浩二 「俺の事、好きか?…」


麻子 「好き…あ…愛してる…早く………おねがい…」

浩二「どのくらい好き?…」


麻子「いっぱい…死ぬほど…あぁん…いじわるしないで…おねがい…」

恍惚とした目で懇願する麻子

浩二は麻子の腰に手を当て

麻子は壁に手をつく

後ろから麻子の中へ自分を入れる

滑りよく強く何度も突き上げる

麻子「 あぁ…あぁッ…あぁ…いい…浩二……もっと…もっと…」

麻子は何度も何度も絶頂を迎える


麻子の欲情する淫らな声・淫らな姿…

浩二「麻子…愛してる…あぁ……」

やがて、浩二も果てた

No.220 11/12/10 00:35
秋子 ( yuBCh )

浩二は煙草をくわえながら、ベッドでぐったりしている麻子の隣に座った


浩二 「ねぇ一緒に住もうよ…結婚しよう…毎日一緒にいたい…」


麻子「フフ…同居人はいらないわ……結婚?とんでもない…そんな面倒くさいこと!…」


浩二 「…俺の事愛してないのか?…」


麻子 「…興奮したら誰にだって愛してるって、言えるわよ~…」


浩二 「お前は自分を満たすためだけに俺と寝るのか?…愛情はないのか?」


麻子 「 もう…いつも同じ事ばっかり言うのね!まるで女のくさったのみたい…嫌なら来なきゃいいでしょ!…」

浩二「終わってしまうと、もうどうでもいいのか?…いつもそうだよな!…」

麻子「もう眠いの帰ってッ!…ちゃんと、カギ閉めてってね…」

麻子は軽い寝息をたて始めた


セックスが終わると麻子の態度は急変する


浩二はため息をつきながら麻子の部屋を後にした

No.221 11/12/10 00:43
秋子 ( yuBCh )

麻子と浩二は、会社の同僚

同期入社で、八年になる


麻子は仕事が出来る女で、昇進も早かった

今では、浩二の上司にまでのし上がった


ある仕事の完成パーティーで、二人は一夜を共にした

それから、こんなセックスだけの付き合いが始まった…


もう三年になる


…俺を部下扱いして

…麻子を抱くのも命令のつもりなのか?

もう誘われても二度と来るもんか!

浩二はそう思った

いや…

いつもそう思うのだった

No.222 11/12/10 00:51
秋子 ( yuBCh )

会社での、麻子は完璧な仕事の為なら、妥協は許さない女だった


ミスは誰であろうと容赦しない


口調もきつい


同僚には敵が多かったし、心の通じ合う友人など誰もいなかった


だが、いつも億単の仕事を担う麻子には、誰もが一目置いていた


麻子と同年代の女子社員たちが、花束を抱えて次々と寿退社して行くのを、何度も見送っていたが


麻子は焦るどころか、羨ましいなどという気持ちはさらさらなかった


結婚して子供を産み、家庭に入って…男に一生を捧げる


そんな人生になどなんの魅力もない

それより、やりがいのある好きな仕事をして、一生自由、気ままに生きていきたい


そっちの考えだったのである…

No.223 11/12/10 00:54
秋子 ( yuBCh )

浩二は、麻子からの誘いはもう断ろうといつも決めていた

だが…


電話であの甘い声の誘いが来ると

なぜかたまらなく麻子を抱きたくなった

見えない糸に操られるように

麻子のマンションへ行ってしまうのだ

抱かれている時の麻子は、会社でのキャリアウーマンとは一変して


浩二に抱きすがるただの可愛い女にすぎない…


だが会社では浩二は全くの他人

いち同僚でしかない

他の男性社員の間でも、麻子の話題は多い

美人で、頭も良く、スタイル抜群の麻子は、良くも悪くも目立つ存在だった

だが…

誰が口説いても堕ちない女

キツい女

冷たい女

そう噂されていた

だが俺だけは、麻子の女の部分を知っている

浩二は心の中でそう自負していた

No.224 11/12/10 00:57
秋子 ( yuBCh )

だが浩二も、30歳を目前にしていた

家庭を持たない男は仕事でも信用に欠ける

そろそろ結婚を考えた方がいい

酒の席で、よく上司にそう言われていた


いつまで待っていても麻子は結婚を受け入れてはくれないだろう


仮に麻子と結婚したとしても

料理や掃除、洗濯、そして子育てなどを甲斐甲斐しくやる女ではない事を浩二は百も承知だ


家庭的とは程遠い女なのだ

No.225 11/12/10 01:01
秋子 ( yuBCh )

そんなある日

中途採用された若い女が、麻子と浩二の課へやってきた

春菜 「吉田春菜です、よろしくお願いします…」

明るく、素直そうな娘だった

春菜が来てから浩二達の職場は花が咲いたように、明るく変わっていった

No.226 11/12/10 01:04
秋子 ( yuBCh )

麻子は春菜をまるで、自分の世話人のように用事を言いつけた

仕事以外にもコピー お茶…挙げ句の果てに、自分の煙草まで買いにやらせた

しかし春菜は

…はい…はい…と、嫌な顔ひとつせずテキパキ雑務をこなしていた

もともと優しい性格の浩二は

春菜を気づかい、励ましの言葉をかけた

そして自分の手が空いた時などは春菜を手伝ったりもしていた


やがて、食堂でも二人は一緒にお昼を食べるようになった

帰る方向も同じで一緒に帰ったりもした

「いよ💦独身はいいなぁ~」

などと二人は冷やかされた

No.227 11/12/10 01:14
秋子 ( yuBCh )

浩二 「やだな~俺は、春菜ちゃんから見たらもうオヤジだよ…春菜ちゃんに悪いだろ~」

春菜は、23歳だった

この様子を麻子はどんな風に見ているのか

ひょっとして、ヤキモチでも妬いてくれないかと

浩二は時々麻子の反応を伺ったが、

麻子は忙しく仕事に追われて、相変わらず無表情だった

課の飲み会でも、浩二はわざと春菜の隣にいて場を盛り上げた

麻子とは恋人でもなんでもない…

将来を誓い合った仲でもないのだ

誰と何をしようが麻子に関係ない

みんなが二次会へ連れ立って歩き出した

だが、麻子はさっさと家へ帰って行った


その麻子の後ろ姿を浩二は見送ると

なんだかひどく拍子抜けしてしまった

No.228 11/12/10 01:17
秋子 ( yuBCh )

そういえば、最近麻子から連絡はない…

10日に一度のペースで電話が来ていたが

もうかれこれ20日にもなる

浩二はあの甘えた電話が段々恋しくなった

だが、このまま麻子から連絡がなくなったら

それはそれでいいのだろう

麻子が別れたがっているのかもしれない

別れるもなにも…最初から付き合っている訳じゃない…

自然消滅だってあり得る

麻子は会社では相変わらずのキャリアウーマンぶりを発揮していた

月曜の朝礼では、会社の貢献に尽くした人を讃える
社長直々の感謝状授与式があった

授与される中に麻子もいた

壇上の麻子は輝いていた

浩二は、俺と麻子は、格が違う

麻子がとても遠い人のように思われた

No.229 11/12/10 01:22
秋子 ( yuBCh )

夜…携帯を何度見ても、麻子からの電話もメールもない


別れる気か?

他にいい男でもできたのだろうか?

麻子と俺の体の相性はびったり合っていたじゃないか

麻子を満足させられる奴なんか他にいない!


そんな奴いるもんか!


なぜだ?

なんで電話がこない?

今電話で 来てって言われたら、俺はすっ飛んで行くのに…

結婚しなくてもいい
麻子を抱きたい
離したくない…

誰にもとられたくない!

浩二はイライラしながらやがて、眠ってしまった

No.230 11/12/10 01:26
秋子 ( yuBCh )

会社に麻子はいた
相変わらず、綺麗で 色っぽい腰つきだった

だが浩二とは目を合わせない


麻子のパソコンを打つ手

その指も…その形のいい唇も…柔らかい胸も…そして…あそこも

みんな俺のものだったはずだ

少なくともセックスしている時だけは、麻子の愛を感じた…


そしてあんなに、淫らに俺をほしがって、しがみついてきたじゃないか

一体どうしたんだよ

なんとか言ってくれ


麻子!麻子!

心の中で叫んだ

こんなに近くにいても麻子には届かない


そんな時誰かに

トントンと肩をたたかれた

No.231 11/12/10 01:34
秋子 ( yuBCh )

はっとして我に返ると

春菜がコーヒーを浩二の机に置いた

浩二 「あ…ありがとう…」


そして麻子にも春菜がコーヒーを持って行った

麻子の机にコーヒーを置いた瞬間

麻子の顔色が変わった

麻子 「あなた!なにやってるの?大事な書類の上に!こんな所にコーヒーなんか置いて!!!」

その声はフロアー中に響き渡り、みんなが一斉にこっちを見ている

春菜「す…すいません!」

春菜はびっくりして麻子の机からコーヒーを手に持った

顔は今にも泣きだしそうだ

とっさに浩二はいった

浩二 「チーフ(麻子のこと)別に書類が汚れた訳じゃないし…そんなに大きい声ださなくても…アハハ…」

その場を笑ってなごまそうとした


いつもの麻子は、逆に浩二をおもいっきり怒鳴りつけるだろう

浩二は怒鳴られてもいい、むしろ今の状態なら、どんな形でも俺に注目して欲しい

そう思った

だが…

麻子 「あ…今度から気をつけてね…」


意外にも手応えはなく

ぽつりと春菜に言うと、一瞬浩二をチラッと見てまた書類とパソコンに目を移した

信じられなかった
こんな、穏やかな麻子を今まで見た事がない

No.232 11/12/10 02:01
秋子 ( yuBCh )

夜 浩二は麻子に電話をした

5・6回呼んで麻子は出た

麻子 「もしもし浩二なの?」

久しぶりの麻子との会話に心が弾んだ

浩二 「麻子、元気?どうしてる?」

麻子 「毎日会社で会ってるでしょ…元気に決まってるわよ…」


浩二 「そうだね、たまに逢いたいなと思って…」


麻子 「逢う?…あのね…私…彼ができたの、出会い系っていうの?
出会ってしまったわ…フフフ…」

浩二 「出会い系っ?!…」

麻子 「…たまに違う男ともしたくなって…」

浩二 「………」


麻子「それに、浩二は結婚とかって、ホントうざいの!…だから情に絡まない男にしたわ…彼とってもあれが上手くて…もう浩二とは…」


浩二は、話しの途中で ブチ切れた

携帯を部屋の床に力任せに

たたきつけた!

バァーン💦

携帯は、床から壁にぶつかりまた床で、空しくクルクル回っている


なんという女だ!

くそメスブタ野郎が!!

No.233 11/12/10 02:06
秋子 ( yuBCh )

虚しい日々が過ぎて行った

そしてある昼休み
浩二は春菜と社員食堂にいた


春菜 「浩二さん、今度映画でも見にいきません?」


春菜が誘ってきた

浩二は春菜が自分に気があると薄々気が付いていた

自分は結婚して平和な家庭に憧れていたはずだ

春菜とならそれができるかも知れない

麻子の事は、もう忘れよう…

浩二 「いいよ…」

そして土曜日

春菜と初めてデートをした

映画を見て、春菜の好きなイタリアン料理で夕飯を済ませた

そういえば、麻子とは三年もあんな事をした

だが一度もデートらしき事をした事がなかった

街を春菜と歩いていると

ショーウインドのマネキンが麻子に似ていたり…

長い髪の女を、はっとして目で追ったりした

知らず知らずいつも麻子を探している浩二だった

No.234 11/12/10 02:10
秋子 ( yuBCh )

その後何度か春菜とデートした

そんなある帰り道の事だった

春菜「浩二さん、私の事どう思ってる?」


浩二「どうって?…」


春菜「浩二さん、今日で5回目のデートよ…」


浩二 「そうだった?」


春菜 「浩二さん、私の手も握らない…キスもしてくれない、私ってそんなに魅力ないですか?」


浩二 「いや…そんな事ないよ、かわいい…とっても魅力的だよ君は…」

春菜「浩二さんは心…ここにあらず…じゃない?…私の事を見ていない…」


浩二は答えられなかった

麻子に未練を残したまま、春菜をその気にさせている

春菜を傷つけてはいけない…


まだ麻子の事が忘れられない

未練がましい自分が、浩二は情けなかった

女の腐った奴と麻子に言われた事があったが


その通りだと思った

春菜「ホテルへ行きません?」

唐突な春菜の発言に浩二は

返事に困った

春菜はまだ子供だ、職場ではまだあどけない印象でしかない彼女に

性的な感情は浩二にはなかった

だが 今夜の春菜は、男をホテルに誘う 大人の女だった…

浩二「いいよ…」

No.235 11/12/10 02:23
秋子 ( yuBCh )

春菜を抱いたら

麻子への想いを断ち切れるかも知れない


ホテルへ入った


浩二は先にシャワーをあび


春菜もやがて、バスタオル姿で


浩二の前に現れた

浩二は、春菜のまだ乾いていない体を抱き上げ


ベッドへ寝かせた

バスタオルがはだけて、春菜の熟れていない果実のような胸があった


浩二は、胸を優しくさわり乳首に口を近づけた


その時

麻子を思った…

春菜は麻子ではない

このまま春菜を抱けば

俺は春菜を麻子と思いながら抱くだろう

それは…

できない


浩二 「ごめん、できない…俺…好きな人がいる…」


言ってしまった


春菜は無言だった
二人の間に流れる空気が止まった

これで、もう春菜との関係は切れるだろう

それでも仕方がない…浩二はそう思った

春菜「そう…好きな人いたんだ…でもそれでもいい、抱いてほしかった、…浩二さんの事が好きだから……」

春菜はそう言うと服を来て

出て行った

麻子の事は、忘れなければ

だけど…

忘れようとすればするほど

麻子への想いは募って行く


浩二は、ベッドに座ったまま

男泣きに…泣いた

No.236 11/12/10 02:27
秋子 ( yuBCh )

次の日

春菜は意外にも

浩二をいつもの社員食堂へ誘った

しばらく無言の二人だったが


春菜「昨日は悲しかったな…」

浩二「ごめん…」

春菜「浩二さん、好きな人がいるのに…結ばれないの?」


浩二 「ああ…多分ね…」


春菜「浩二さんの好きな人って…もしかしたら…チーフ?」


浩二の顔は一瞬緊張でピクリと反応した


春菜はそれを見逃さなかった


浩二「まさか…あんな女…」


春菜「そう…ちがった?…そんなら私待つよ、浩二さんが私を好きになってくれるまで……」


春菜の、泣きはらしたであろう腫れぼったい目が浩二を見つめる…


浩二は素直な春菜の言葉に心打たれた

だが、また心のどこかで麻子と比べていた

この素直さの半分でも麻子にあったら…

No.237 11/12/10 02:31
秋子 ( yuBCh )

その夜
麻子にメールが届いた

春菜からだった

春菜からは、仕事の用件で、よくメールが来ていた

…春菜から
こんばんは~(^-^)/

突然ですが、チーフにお願いがあって勇気を出してメールしました

チーフは浩二さんを愛してるいるのですか…そしてどんな関係なんですか?

浩二さんは、結婚出来ない相手だと言っていました

チーフにその気がないならもう浩二さんのこと、そっとしておいてもらえないでしょうか

今夜私達結ばれたんです…
浩二さん優しくてセックスがとてもうまくて…
あっ!チーフごめんなさい…

浩二さんも私の事愛してるって言ってくれてます

そのうち私達結婚します
私なら浩二さんをきっと幸せに出来ます

どうか、私達の事はチーフの立場で見守っていただきたいと思います

失礼いたしました
m(_ _)m

だった…

No.238 11/12/10 02:37
秋子 ( yuBCh )

麻子は春菜が会社に表れた時から

予感していた

春菜は浩二をきっと気に入るだろう

麻子は母子家庭で育った
仕事の忙しい母から手作りの料理らしい食べ物を作って貰った記憶はない

母は
結婚なんかしなければ良かった
お前なんか生まなければ良かった

それを年中聞かされて育った麻子は

結婚なんかしないで仕事で生きていけばいい

子供心にそう思って今日まで生きてきた

なのに浩二を愛してしまった

浩二に愛されれば愛されるほど

怖くなった

自分のような半端者と結婚しても浩二を幸せにできない

そう思った

春菜なら浩二を幸せにしてくれる

そう思って、泣く泣く浩二と別れる決心をした…

No.239 11/12/10 02:40
秋子 ( yuBCh )

そんなメールが麻子に届いていたとは夢にも思わない浩二は

春菜と頻繁に逢うようになった

浩二は春菜の部屋へも遊びに行った

春菜の料理はうまかったし部屋の中も小綺麗に片付けられていた

もし春菜と結婚したら…

子供の二人でもできて、きっと幸せな家庭が築けることだろう…

あれからまだ春菜とは体の関係はなかったが…

春菜は浩二が自分を愛してくれる日が来る事を、じっと待っている

その意地らしい気持ちに応えたい…
浩二は春菜との結婚を決めた

そして麻子ともなにもないまま

月日は流れた…

No.240 11/12/10 02:45
秋子 ( yuBCh )

二人は結婚準備に追われていた

その後、麻子とは毎日顔を合わせているが、浩二と仕事以外の会話はなかった…

社内でも、浩二と春菜の結婚はみんなの知る所となっていた

当然麻子の耳に届いていない訳がない

だが麻子は相変わらず無表情だった

これから春菜と結婚しても、俺は麻子と毎日顔を合わせる事になる…

春菜との幸福の絶頂にいるはずなのに

浩二の気持ちには、すきま風が吹き抜けるような寂しさがあった…

このまま、本当に結婚してもいいのだろうか…

なにを今更…

引き返せもしないことを…

麻子には男が…

浩二の心にはいつもそんな思いが、くすぶり続けていた

No.241 11/12/10 02:50
秋子 ( yuBCh )

そんなある日…

同僚との飲み会での事だった

後輩の 直子がこんな事を言った

直子「さっきさぁここ来る前、居酒屋に寄ったら…チーフがいたよ、一人で飲んでた…なんか…寂しそうだったな…そこのローソンの隣の…」

麻子がいた?

浩二は動揺した

浩二 「俺連れてくるよっ…」


思わず浩二は飛び出して行った

No.242 11/12/10 02:58
秋子 ( yuBCh )

居酒屋のカウンターの隅っこに麻子はいた…

会社帰りのようだった…

浩二 「よッ!…」

麻子は浩二に驚いたようだったが…

陽気に

麻子 「浩二君!結婚おめでとうございま~す…」

そう言った

浩二 「まずは乾杯しよう…」

麻子 「あら?なんの乾杯かしらね~」

浩二 「さぁ~チーフに振られた…お祝いかな?あはは…」

浩二も明るく言い返した

No.243 11/12/10 03:02
秋子 ( yuBCh )

麻子 「なにをおっしゃる…このモテモテ男が!」

ふと二人の目が合った…

浩二は麻子の手を握ってカウンターの下へ隠すように移動させた

もうこれで、麻子にふれるのも最後になるだろう…

麻子も黙って握られたままだ…

麻子の手の柔らかい感触が妙に悲しかった

このまま、麻子をどこかへ連れて行ってしまいたい

そして思いっきり抱きしめたい

そんな衝動にかられていた…

無言の二人だった
店内は酔っ払いで賑やかだ


浩二 「麻子…幸せになれよ…」

やっと浩二が口を開いた

麻子 「…なにしに来たのよ…」

浩二 「最後に麻子と飲みたくてさ…」

麻子の目から一筋涙がこぼれた

麻子 「良かったね…春菜だったら浩二も幸せまちがいなしだよ…」


浩二「麻子…どうして泣く?…」

麻子の顔を覗き込むと

麻子はバックから財布を取り出し
カウンターにお金を置いた…

麻子「さようなら…」

そう言い残して店から出て行ってしまった

金を払って店を出ると

麻子の姿は人ごみの中で段々小さくなって、やがて消えた…

もうこれ以上追いかけてはいけない…

お互い違う人生に向かっているんだ

浩二はずっとたたずんでいた

No.244 11/12/10 03:17
秋子 ( yuBCh )

やがて…

結婚式はいよいよ明日になった

麻子にも招待状を出したが

出張を理由に断られた

同じ職場にいて、明日出張の予定なんて有り得ない事を、浩二は知っていた…


やはり欠席か…

もう未練は完全に断ち切れた…

そう自分に思い込ませていた…


だが…居酒屋で握った麻子の手の温もりを思い出していた

そしていつまでも女々しい男だと自分を責めた…

No.245 11/12/10 03:26
秋子 ( yuBCh )

朝になった

さぁ新しい春菜との未来へ気持ちを切り替えよう

そして式場へ向かった

チャペルでは、聖歌が流れ


友達、家族がもう揃って二人を祝ってくれている


ウエディングドレスの春菜と父親がバージンロードを歩く…


回りを囲むみんなが祝福の花を散りばめる


そしていよいよ指輪の交換になった

その時だった

「まって!浩二!!」


教会入り口に立つ一人の女の姿が

叫んだ!


麻子だ!

浩二は心臓が飛び出る程おどろいた

麻子は浩二の所まで走って来た


そして浩二の腕を掴んで走り出した

一瞬の事でみんなはポカンと見ている


だが二人は教会を走り抜けて…


やがて…風のように消えてしまった

No.246 11/12/10 03:33
秋子 ( yuBCh )

一年後…

浩二 「麻子~もう起きないと遅れるよ…」


麻子 「はぁい…」

麻子は化粧に着替えに忙しい


浩二「ご飯ちゃんと食べて…」


麻子 「うわッ…浩二君うまそう…いただきます~」


浩二 「浩二君は止めろよ!俺は亭主だ…麻子の部下じゃね~っうの…」

麻子 「浩二…いつもありがとう、仕事頑張ってくるね~」

あの結婚式以来、浩二は会社を辞めた

春菜もひっそり
消えた

浩二と麻子は結婚した

そして浩二は主夫になった


結婚式をぶち壊した当事者の麻子は、会社にはなくてはならない存在…
社員からは、針のむしろだったが、麻子はそんなの平気だった…


麻子「 浩二…じゃ行ってくる~」


浩二 「おう…気をつけてな~」


麻子 「今夜どんな体位がいい?」


浩二 「麻子がよだれたらして、ヒイヒイ喜ぶことしてやるよ~あはは」

麻子は元気に会社へ向かった



…完…

No.247 11/12/16 19:09
秋子 ( yuBCh )

第9章


…怯える女…

No.248 11/12/16 19:13
秋子 ( yuBCh )

その日…

結婚式をあげたばかりのカップル


純也(25歳)と亜美(25歳)は、温泉めぐりに出発した


純也のワゴン車に荷物を積み込み


車の旅となった


純也 「 亜美…新婚旅行こんなんで良かったのか?…ハワイとかオーストラリアとか…海外の方が良かったんじゃね?」


亜美 「あみ、飛行機…怖いから~乗りたくない~日本でいいの~それに~車だと~純ちゃんと二人っきりになれるし~」


純也 「そうだね…亜美、愛してる…」


純也は、亜美の足を左手でさわりながら亜美の唇にキスをした


チュッ!


亜美 「…いや~ん、純ちゃん、ちゃんと前見て運転しなきゃ~ダメよ~」


亜美が純也の口にチョコレートを入れる


純也「あ~ん…おいしい!…亜美チョコレート入れてくれてありがと、お礼に、夜は……入れてあげるからぁ~!ガハハ」


亜美「キャハハハ…」


新婚の二人は浮かれまくりだった

No.249 11/12/16 19:22
秋子 ( yuBCh )

ハシャぎまくる二人の前に…


大きなダンプカーが見えて来た


純也は時速70キロをキープしながら、安全運転していた

だが、前のダンプはノロノロ運転だった


純也 「まったくトロいダンプだなぁ、50キロだよ!…まるでカメだよ!亀!…」


亜美 「純ちゃん、イライラしないでね…」


純也 「でも…前見えないし!…」


純也は、追い越すタイミングを待っていた


後続車はいない


そして道路は、直線になって見通しも良くなった


対向車も全く見えていない


純也はダンプの追い越しに取りかかった


スピードを上げ、センターラインを超えた


そしてダンプと並ぶと、一気に追い越した

No.250 11/12/16 19:31
秋子 ( yuBCh )

ダンプの前に出ると、途端に前方の見通しがよくなった


どこまでも視野は広がって行く


後ろのダンプは小さくなって行った


純也 「あ~さっぱりしたよ…いくらなんでも50キロは遅すぎるっしょ…」


亜美 「あんまり無茶しないでね~あみ、怖かった!…」


純也 「分かった…もうしないよ…亜美ごめんね…」


亜美はまた純也の口にチョコレートを入れる


缶コーヒーのふたを開けて、純也に手渡す


ふとバックミラーを見ると


なんと、さっきのダンプが猛スピードで迫って来ていた…

No.251 11/12/16 19:41
秋子 ( yuBCh )

純也 「…はぁ?…なんだよ?…こいつ!」


亜美 「う…後ろにいるなんて…」


ダンプは、右にウインカーを付けると地鳴りを上げて

純也の車を追い越した!


純也も、亜美も、驚いた


純也 「なんだよ、あいつ…俺に追い越されて頭に来たのか?」


亜美 「 急ぎの用事でも出来たんじゃないの?…トイレとか…あはは」


亜美の冗談に純也も笑った


亜美 「純ちゃん…相手にしないで…こんな事で、殺人事件とかって…前にあったよね…怖いよ…」


純也 「…」

No.252 11/12/16 19:52
秋子 ( yuBCh )

すると…


だいぶ前を走っているはずだった


あのダンプが…


まるで純也達の車を待っていたかのようにスピードをゆるめて…


また目の前に表れた


大きなタイヤが不気味に前方をゆっくりふさいだ…


圭司 「なんだよこいつ?💢頭いかれてんじゃねぇか?…また50キロだよ!…ふ…ふざけやがって!💢…」


亜美は口を手でふさいで、大きい目を開けて

じっと前を見ている…

No.253 11/12/16 20:01
秋子 ( yuBCh )

亜美 「…わざとかな?…やだな…怖いよ…」


亜美は怯えている

しばらくカーブが続いた


純也はイライラしながら、ノロノロとダンプの後ろを走り続けた


やがて、直線に入った


純也 「見てろ!💢…」


純也はスピードを加速してセンターラインを超えた


やがてダンプと並んだ


一気に追い越そうとしたが


あろう事か、ダンプはスピードを加速し始めた


二台は平行して走る形になった



圭司 「この野郎!!なんのつもりだ💢!!」


ものすごいスピードで二台並んで走っている


亜美 「キャー!」

ダンプはスピードを緩めない


そうしているうちに 対向車線、前方にバスが見えた!


バスは目前に迫っている!!


純也 「あ〰〰ッ!」


亜美「キャ〰〰ッ…」


純也は、あわててブレーキを踏むと


ダンプの後ろへ入った

No.254 11/12/16 20:15
秋子 ( yuBCh )

純也 「くそ!!バカヤロ〰!💢危ねぇーじゃねぇか!💢」


純也は怒りに震えて、ダンプの後ろを睨み付けている


麗子 「あ~怖かった…あの人頭おかしいんじゃない?…」


純也 「キチガイだよ💢ッたく」


亜美 「どこかで休憩しようよ…ね~純ちゃん…このダンプ先にやっちゃおッ!!…関わり合いたくない!」


純也は苛立っていたが、亜美の言うとおり…


冷静さをとりもどすために


近くのコンビニで車を止めた


ダンプはそのまま走り去って行った


純也は、タバコに火をつけた


亜美 「あぁダンプ行っちゃった…良かった…でも…震えが止まらないよ…」


亜美は純也の手を握った


純也 「あと一時間くらいで、今夜泊まるホテルに着くよ…亜美、元気だせよ…」


ナビに左折の指示がある


亜美 「え?そう?…テレビでも有名な、温泉なんだよ…憧れてたんだ!…」


亜美に少し笑顔が戻った


純也「さぁ…行こうか?…暗くなる前に着きたいからね…」


亜美 「そうだね…行こう…」

二人は 再び移動し始めた

No.255 11/12/16 20:25
秋子 ( yuBCh )

やがて 〇〇温泉17キロ…


左へ誘導する看板が見えた


左折して山道へ入って行くと


紅葉で 真っ赤に色づいた山々が、夕陽に照らされて絵葉書のように艶やかだ


亜美 「うわ~キレい…」


亜美は元気を取り戻した


純也 「ほんと、絶景だね…」


亜美 「やっぱり来て良かったね~純ちゃん…」


広い 展望台へ車を止めて、二人は景色を眺めた


写メや、デジカメを撮りながら二人は、景色を満喫していた


だが…


聞き覚えのあるエンジン音が近づいて来た


ダッ ダッ ダッ ダッ ダッ ダッ ダッ ダッ !!!


あのダンプだ!


シュパーン~💨


やがてダンプは展望台の入り口で停車した…

No.256 11/12/16 20:32
秋子 ( yuBCh )

純也は亜美を横に強く抱き寄せた


また…さっきの忌まわしい記憶に二人は…襲われた


運転席の 男を見ると…


ガッチリした肩幅…


ツバのついた帽子に サングラス 口ひげ、


見たからに危なそうな感じを受ける

だが、表情は読み取れない…


だがこれは、偶然ではない


明らかに純也達、二人へなんらかの意図がある


もう間違いない


純也 「亜美、もうすぐたがら…温泉まで行ってしまおう…」


亜美 「純ちゃん…怖いよ…怖いよ…」


亜美は泣きそうだ
ガクガク震えていた…



夕闇は刻々と迫っていた…

No.257 11/12/16 20:54
秋子 ( yuBCh )

得体の知れない恐怖を背後に感じながら


純也の車は、出発した…


純也 「亜美…シートベルトしめた?」


亜美 「うん‥」


純也 「飛ばすからね!…」


亜美 「分かった!…」


亜美は目を固く閉じた…


ダンプは、スピードをアップした純也の車に気付いたらしく


エンジンを唸らせながら、追いかけてくる


どんどん近づいて来る!


振り返った亜美が

亜美 「やだ!…純ちゃん…ダンプがぶつかりそう!!」


純也 「止めてくれ!チクショウ!チクショウ!!」


純也も目一杯アクセルを踏み込むが、カーブや坂道で、あっという間にダンプに追いつかれてしまう

No.258 11/12/16 20:59
秋子 ( yuBCh )

まるで恐怖を煽るように


ダンプのクラクションが鳴る


ブオ〰ン! ブオ〰ン!


下り坂で、ついにダンプが、純也の車の後部を


ガン! ガン!

ガン!ガン!


ぶつけて来た…!

その衝撃が2人に伝わり…


2人の体は、前へ突き出される


このままだと川へ落ちてしまう…


亜美 「止めて〰〰お願い〰お願い〰〰〰」


亜美は泣き叫ぶ…


純也は必死にアクセルとブレーキを何度も踏み変える!



ダンプは二人の狂乱振りをあざ笑うかのよう、追い続ける…

No.259 11/12/16 21:05
秋子 ( yuBCh )

やがて坂道はなだらかになり、平地になった


わき道があった


とっさに純也はその道に入った


ダンプが通れる広さはない


車を止めてあたりを見渡すと


そこは、砂利道だが川のすぐそば


あたりは結構な広さがあった


純也「はぁ!…ここなら、あいつも来れないだろう、亜美!…亜美!」


亜美は震えながら純也にしがみついた


亜美「う…ぅ…ぅ…」


亜美は泣いていて、声も出ない


純也 「ここには、ダンプは入ってこれないから…あいつだって、きっと諦めて帰るよ!…」

No.260 11/12/16 21:51
秋子 ( yuBCh )

だが、休憩もつかの間


ダッ ダッ ダッダッ!
ダッ ダッダッ…


木々や 枝をなぎ倒しながら


化け物のような
ダンプはやって来てしまった!


純也と亜美は固まった!


ダンプから男が降りて来た


手には、猟銃を持っている


男 「降りろ!!!」


純也と亜美は…


これからどうなるのか?


撃たれるのか?

殺されるのか?

想像絶する中…

ゆっくりと降りて行った

No.261 11/12/16 21:55
秋子 ( yuBCh )

体格のいい作業服姿の男だった


男 「なめやがって!!」


男は左手に猟銃を持ち、

右の拳で純也の顔面を…続けざまに二発思いっきり殴った


更に、よろける純也の腹に膝蹴りを入れた


純也は、苦しそうに腹部を抑えた


そして力なくヨロヨロ倒れた


亜美 「ギャー純ちゃん!純ちゃん!…」

No.262 11/12/16 22:04
秋子 ( yuBCh )

泣き叫びながら、亜美は純也に駆け寄ったが


男に羽交い締めにされ


男 「うるせーアマだな!!!おめぇの色男はよえ~なぁ~」


男 「車に乗れ!」

男は猟銃を亜美の背中に突きつけた

亜美は泣きながら、今まで座っていた助手席に戻らされた


純也はどうなったのだろう

ひょっとして、殴られた場所が悪くて


死んでしまったのではないだろうか

心細さに気が遠くなって行く


そして…次は私が殺されるんだ!


川へ放り込まれるのだろうか?


亜美は今まで味わったことのない


命に関わる恐怖に

ワナワナ震えながら座ったまま動けないでいた


さっき入ってきた道は、ダンプで塞がれている、


誰もこの異変に気づくはずなどない

No.263 11/12/16 22:17
秋子 ( yuBCh )

男は…

車に積んであったガムテープを見つけると


砂利道に倒れて動かない純也の、手足をガムテープでグルグルに巻いた

陽はすっかり落ちて、あたりは闇の中だ


運転席のドアが開いて


男は、純也がさっきまでいた運転席に座った


亜美に身を寄せてくる


心臓が…バクバクする💦


何をされるのだろう


男は、亜美の口にガムテープを貼り付けた


亜美…声が…でな…


亜美は怯えて、ひたすら泣き続けた

男 「騒ぐと!殺すぞ!」


深い穴の底から響くような男の恐ろしい声だった


亜美の両手を後ろ手に、やはりガムテープでグルグルに巻いた


そして、ワゴン車後ろの座席を倒した


車内は広くなった

No.264 11/12/16 23:06
秋子 ( yuBCh )

そこへ 亜美を押しこんだ


うつ伏せに寝かされた亜美の後ろから


男が覆い被さってきた

セーターとブラジャーをまくしあげ
亜美の露わになった胸を、両手で荒々しく揉んだ


亜美…い…痛ッい…


亜美を抱き起こし乳首に吸い付く


男のヒゲ面の頬を押しつけてくる


亜美…止めて、止めて…


ガムテープでふさがれた口からは…声は出ない


やがて、男は、亜美のスカートの下へ手を入れた


亜美…いや!いや!止めて…お願い〰お願い〰純也!助けて〰!


涙が溢れて流れ出した


激しく抵抗する亜美に男が…


バッチーン💦


平手打ちをした

No.265 11/12/16 23:10
秋子 ( yuBCh )

亜美は、仰向けに倒れた


黙って耐えるしか助かる方法はない

殺されるよりはまだましだ…


おとなしくしていよう…


じっと我慢しよう…


亜美はそう思った


男は亜美の敏感な部分を優しく、愛撫した


そして自分のズボンを下ろし始めた

亜美 …や…やられる…


外は暗く純也の姿さえ見えない


男はゆっくり入ってきた


亜美は泣きながら男を受け入れた


男 「なに嫌がってんだ!……ビジョビジョのくせしやがって……アァ…アァ…」


ヒゲの口もとから嫌らい嗚咽がもれた


男「ハァ、ハァ、ハァハァ…」



長い長い 地獄の時間は続いた


そして男の果てる声と共に

終わった…

No.266 11/12/16 23:20
秋子 ( yuBCh )

男は…

亜美の口からガムテープをはがした

男 「さて終了だ~!」


亜美 「…良かった…いい…感じだった…」


亜美は、うっとりしている…


男は外へ出て行くと


男 「純也!…だいじょうぶか?」


手足を解放された純也が車にやってきた


男 「…ぶん殴ったのが三発で、ダンプのレンタル料…しめて…30でいいか?」


純也 「アニキ!…あの坂道…まじ怖かったッスよ…もう少し…」


男は付けヒゲを剥ぎ取ると、その後をボリボリ掻きながら


男 「じゃ~40…いや50だな…」


純也 「アザース…」


男は金を袋に入れると、純也に手渡した


純也 「アニキの奥さんの性癖にも、こまったもんッスね…かなり変わってますよね~」


男 「まったくだぜ…金かかってしょうがない…あッ純也!…お前亜美に何回キスした?…足も触ったよな~二万返せ!」


純也 「へへ~じゃ帰りま~す…」


男 「おう…気をつけてな~追い越しなんかすんなよ~」


ダッ…ダッ…ダッ…

ブォ〰ン💦

ブォ〰ン💦


ダンプはバックして、やがていなくなった





…完…

No.267 11/12/26 22:45
秋子 ( yuBCh )

第10章

…隣の女…

No.268 11/12/26 22:55
秋子 ( yuBCh )

俺が長年住んでるボロアパートに


ある日…隣の部屋へ女が越してきた

ピンポーン

女 「あの~隣に越してきた山田です…どうぞよろしくお願いします…」


俺「あ~どうも栗田です…」


俺は平静を装っていたが…


内心はドキドキだ…

女は、セーターとジーンズのラフな格好だったが…

体が派手つうか‥

胸は大きく、くびれたウエスト、とんがった尻…キュッと引き締まった足首…


いい女だった…


俺の悪い癖は、いい女は性格もいい…


そう勝手に思い込む事だ…

No.269 11/12/26 22:58
秋子 ( yuBCh )

ピンポーン


また来た…

女 「あの~電気がつかないんですけど‥見ていただけないでしょうか?…」


俺「あ~いいっすよ…」

俺は動揺を隠しながら、素っ気なく答えた…


女のクルンクルン動く桃尻の後について、部屋へ入っていった


まだ片付かないのかダンボール箱がゴロゴロあった…

俺は椅子に上がって、蛍光灯を調べた


接触が悪かったのかパッと明かりがついた

女 「あ~良かった…」

ホッとしている女を上から見下ろすと…

女の胸元から…ピンク色の山が2つ見えた…


女「ありがとうございました…」

俺 「いいえ…」

俺はクールに言って、部屋へ戻った…


なんだか得した気分で…俺はニカッと笑った…

No.270 11/12/26 23:02
秋子 ( yuBCh )

それから何日か過ぎた

俺は朝8時には出勤するが


女は部屋にいた


夜7時に帰宅しても


やはり女はいつも部屋にいた…


仕事をしている気配はなかった


足音…水道…シャワー…トイレ


音はかなり聞こえた…


女との進展はあれっきりなかったが

隣に人が暮らしてるってだけで


…妙に安心感がある


俺は女の音を聞くのが習慣になった

男はいるのだろうか

あんなにいい女だ…男がほっとく訳はないだろうが…


だが…もしいなかったら…


夜になって一人布団に入ると

俺は女を思って…
モンモンとした…


だが…

No.271 11/12/26 23:09
秋子 ( yuBCh )

隣から…


女の走り出すような足音が聞こえた

ガチャ…

誰か来たのだろうか…


女の足音の他に

力強く…重そうな足音…


枕元の時計は12時を過ぎている


ボソボソ話し声が聞こえる


やがて…


ドン💦

音がした


俺は隣と、この部屋を隔てている壁に

そっと

耳を付けてみた


「やめて…ァ…ァ…お願い…」


「いいだろ…やっと会えた…玲子、愛してる…」


「やめて!いや!…」


ガチャン💦

コップの割れる音がした…

女は嫌がっているのか…


俺は助けてやろうと立ち上がった


だが…

壁に耳をあてて聞いていたとも言えず


じっとガマンして

また耳をあてた


「ァ…ァ…ン」


「持ちいいだろ…」


「ァ…ン…ン…」


俺は悲しかったが…


黙って聞いていた…


「濡れてる…入れてほしいか?…」

「入れて……ァ…ァ」


カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ


ベッドのきしむ音…


…入れたんだ…


くそ…嫌がってたくせに


馬鹿やろう!!…

No.272 11/12/26 23:14
秋子 ( yuBCh )

やがて…

玄関のドアが閉まる音がした…

帰ったか?

俺は、忍者のように足音を忍ばせ

真っ暗な 風呂の窓を少しだけ開けて

外を見た…

男は、高さも横も大きい

マッチョだった…

夜にいきなり来て、女を犯しやがって

…いや…女も…まんざらではなかった


淫らな女だ!

こんな夜中に…男を部屋へ上げるなんて…


俺の…ほのかな恋心は空しく消えた

No.273 11/12/26 23:25
秋子 ( yuBCh )

だが…2日後

ピンポーン

女が立っていた

女 「あの…この間は蛍光灯…ありがとう……カレー作ったんですけど~作り過ぎちゃって…ご飯も、いっぱい炊いたし…うちに来て一緒に食べてくれないかな?」

俺は嬉しい顔を、必死で抑えて


少し面倒くさそうな顔で

「いいっすよ…」


桃割れの後ろを、ルンルンでついて行った

カレーのいい香りがした…

女 「私のオリジナルなの、ナスや、キノコも入ってるのよッ」

俺 「いただきます!」

女は俺の食べるのをじっと見て…反応を見ているようだ


女 「どう?おいしい?…まずかったかな?…」


俺は親指を立てて
俺 「うまいッ…とっても!」


女 「あ~良かった…ほっとした…まずかったらどうしようかと思っちゃった~」

…俺にそんなに気を使って
あのマッチョは、きっと嫌な奴だったんだろう
可愛そうに、別れたくても別れられないでいるのか…

No.274 11/12/26 23:28
秋子 ( yuBCh )

カレーを食べ終わると俺は…

俺 「御馳走様…じゃ…」

そう言って腰を上げた…

女の様子を見た

あら~まだいいじゃないですか~

その甘い言葉を期待した…

だが…

女 「そう…じゃ~またね~」


だった…


俺はやはりクールに部屋を出た

…意外に、この女はまともなのかも知れない…

俺は腹も気持ちも満足になって部屋へ帰った…

No.275 11/12/26 23:35
秋子 ( yuBCh )

だがそ夜…

風呂へ入っていると 窓から人影が通り過ぎた

ピンポーン


隣に誰か来た

俺は急いで濡れた体を拭き

壁に耳を当てた

低い声が聞こえる
女 「カレー作っておいたのよ、例のナスキノコ入り…」


男 「どれどれ…」

女 「おいしいわよ~」


男 「うん!こりゃ美味しいよッ…」


女「でしょう~いっぱい食べてね~」


…?


……俺…もしかしたら毒味させられたのか?

…しかもマッチョの事、嫌いだったんじゃねぇのか?

No.276 11/12/26 23:39
秋子 ( yuBCh )

がっかりした俺…

女心は…わかんねぇ~


ビールを飲み干して…


布団に入った…


カシャ カシャ カシャ


…また始まった…

また壁に耳を当てた…


違う意味で耳にタコができそうだ…

男「あ~そこ…感じる…あ~」


女 「アん…ん…ん…ァ…ん」



…くそッ マッチョのあれを舐めてんじゃね〰よ〰💦


カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ カシャ


…いつまで続くんだ!はやく二人とも いっちまえよ〰〰!!


マッチョが不気味な声をあげて


…終わった…


なんだか 俺も疲れた

No.277 11/12/26 23:48
秋子 ( yuBCh )

やがて玄関の閉まる音がした


俺はマッチョがどんな顔しているのか見たくて、また忍者の足で風呂場へ急いだ…


そっと窓を開けた

すると…


すらっとした背広姿のサラリーマンだった!


…マッチョとは似ても似つかないタイプ


まるで別人だった…


てことは、こっちが本命か?


おととい マッチョとナニして…

今日はサラリーマンとナニした?!…

あの女はただの淫売か?!…

No.278 11/12/26 23:52
秋子 ( yuBCh )

それから何日もたたないうちに

女の部屋へいつものように誰かが
入った…

すると 30分もたたないうちに

また誰かが来たようだ


俺は頭で計算した
女1 男 2


どうなってんだ?

まさか…


まさか…


3人で?


3P…?


カシャカシャカシャカシャ

色んな喘ぎ声が乱れ飛ぶ


女を二人の男が…

俺は頭がグジャグシャだった…


なんなんだよ💢


いい加減にしてくれ〰〰💢


俺は布団を頭からかぶった…


でも…


カシャカシャカシャカシャ


耳から離れない!

カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

No.279 11/12/27 00:00
秋子 ( yuBCh )

女の所に来るのはマッチョとサラリーマン

他にもいるのか?

一体何人なのか?

毎日…毎日


カシャカシャ
ア~~ん


俺は完全に睡眠不足だった…


疲れ切っていた…


ある日 大家に電話した


俺 「…そう言うわけなんでぇ~はっきり言って迷惑なんですよ!なんとかして下さい!」


大家はすぐ来てくれた


ピンポーン

大家 「山田さん…山田さ~ん…」


…しめしめ隣のあの女に注意しに行ってくれた


…これで少しは静かになるだろう


俺はホッとした…

No.280 11/12/27 00:06
秋子 ( yuBCh )

すると…

ピンポーン

女だった…


女 「栗田さん…ご迷惑かけちゃってごめんなさい…」

女は…頭を深々と下げて謝った

俺はなんの事?
みたいにとぼけた顔をした

だが…相変わらずいい女だった…

女 「お詫びに、お茶でもいかが?シフォンケーキがあるの…あッ…今夜は誰も来ないから……ねッ…」


女はウインクしながら俺を誘った


唇がたまらなく可愛い


俺は腕時計をみながら

俺「ちょっとだけならいいよ…」



その甘さが…

間違いだった…

No.281 11/12/27 00:13
秋子 ( yuBCh )

小洒落た花柄の珈琲カップ…


シフォンケーキにたっぷり生クリームがのっている



女 「さ~どうぞ…」


俺は一口珈琲を飲む…


奥の部屋には大きなダブルベッド


…あのカシャカシャだ…


女「やだ…なんか暑くなってきちゃった…」


女はトレーナーを脱いだ


半袖の首が大きく開いたTシャツになった


胸元にふくらみが2つ露わになった


蛍光灯の時見たあのピンク桃


色っぽ過ぎる


ガチャガチャ

ガチャン💦


ま…まずい…


俺は、珈琲を、ズボンにこぼしてしまった

No.282 11/12/27 00:18
秋子 ( yuBCh )

女 「あらタイヘン!熱くないの?」

俺 「いや大丈夫!」


女はタオルで、俺の…


俺の…


アソコを拭き始めた…


女 「まだ濡れてるかしら?…」


…この世で一番敏感な所を素手で触りはじめた…


…やばい!


俺のアソコが!


でかくなる!!


目の前はあの唇と胸…


ついに…


俺のアソコが!


鉄筋棒に!!


女はかまわず触り続ける


そして、ズボンを脱がそうとしている


女「乾かしましょう!アイロンで、すぐ乾くから…」

とうとうズボンは脱がされた


俺は…


もう…


ダメだ…


必死で鉄筋棒を抑えていた


頭は方針状態…


ピンポーン!
ピンポーン!

No.283 11/12/27 00:29
秋子 ( yuBCh )

?!!


一体誰だ?!!


女は焦りだした…

玄関から俺の靴を持ってくると


ズボンを引きずらせて


俺と靴とズボンはベランダへ出された


シャッ💦シャッ💦

カーテンが閉められた


中の様子は分からない…


俺はコンクリートの塀を乗り越えて

隣の自分のベランダへ移った…


だが靴を片方落とした


すると、なんとあのマッチョが


ベランダへ出て来て

俺の靴を拾った…

マッチョ 「本当に誰もいねぇ~のか?お前浮気してんじゃねぇだろうな~もし男がいたら、叩き殺してやる!!…」


俺はしゃがみ込んだが!…

マッチョがこっちのベランダを覗き込んで…

俺と目が合った!!


マッチョ「誰だてめぇ~そこで何してんだ?!!…なんでズボン履いてねぇんだ?」


俺は…俺のベランダの戸を開けようとするが


いつもは開いているはずなのに

今夜に限って

閉まっている!!…

No.284 11/12/27 00:35
秋子 ( yuBCh )

マッチョに捕まった俺は…


ベランダから女の部屋へ入った…


恐る恐るズボンを履いた


マッチョの肩には竜の刺青があった

竜は俺を睨んでいる…


俺の鉄筋は…腐ったナスのようになった…


マッチョ 「俺の女に手を出すなんていい度胸してんじゃね~か?」


俺 「な…なにもしてません…


マッチョ「なにもしてねぇだと?ズボン脱いで、これからいいことしようとしてたんじゃねぇのか?!!」


…とんでもない事になった…


マッチョ 「そうだな…300万でどうだ?」


…美人局だったのか?…


マッチョ「明日持って来い!それでキレいさっぱり忘れてやるぜ!」


逆らえない…

警察に訴えたら、何をされるか分からない…


絶対逆らえない!

理不尽だが…


俺 「はい…」


俺はしぶしぶ…了解した…

No.285 11/12/27 00:38
秋子 ( yuBCh )

部屋へ帰った俺は…


有り金全部と貯金通帳…持って









夜逃げした…

No.286 11/12/27 00:44
秋子 ( yuBCh )

朝になった


大家 「やれやれ…やっと出てってくれたか…ここに、デッカいマンションが建つらしい…土地は売却しなきゃならん…なのに、栗田は、出てくれなくて弱っちまってた…無理やりは法に触れるんでなぁ~良かった…あとで事務所に来てくれ、報酬は、たっぷり任せて下さいよ…」


女「はぁ~い」


マッチョ「お~いつもわりぃね…」


サラリーマン「またいつでも、お任せ下さい…」






…完…

No.287 12/01/03 00:33
秋子 ( yuBCh )

第11章

…骨を欲しがる女…

No.288 12/01/03 00:45
秋子 ( yuBCh )

「もしもし!津川さんですか?奥さん?!
…旦那さんが…建設中の建物から落ちて…救急車で病院へ運ばれました!
…すぐ来て下さい…病院は…」

夫の同僚からの知らせで、世津子は病院へ急いだ


脳挫傷で意識はない

朝いつものように会社へ出勤して行った夫…まさか


おとうさん!

おとうさん!


おとうさん!!


何度も、何度も泣き叫び続けた…


緊急手術の甲斐もなく


事故から3日後…

あっけなく夫は逝ってしまった


信じられないが、
夫との永遠の別れが…

突然…おとずれてしまった…


津川 健一 55歳…

結婚生活28年目の秋の事だった

No.289 12/01/03 00:50
秋子 ( yuBCh )

妻…世津子…52歳

世津子は、喪主として通夜・告別式を慌ただしく、淡々とこなした


故人を偲んで…

親戚、息子、娘達もかけつけた

葬儀を終え…

これから、世津子が一人で寂しく生きて行くであろう事を案じながらも

みんなそれぞれの生活へ戻って行った…


そして…


とうとう一人になってしまった…




普通なら…


広すぎる部屋の中で…


寂しさ、悲しみに苛まれるのだろうが…


世津子にはそれができなかった…


健一の遺影を見ながら…


一つの疑問が頭から離れないでいた…

No.290 12/01/03 00:54
秋子 ( yuBCh )

そんなある日


冷たい雨の降る午後…


見知らぬ女が訪ねて来た


「西本建設の幸田と申します…津川課長には、お世話になりました…お線香を上げさせていただきたいのですが… 」


女は、傘についた雨の雫をドアの外で払いながら言った


西本建設とは、津川家の生活の糧

健一は設計の仕事を30年近く勤めていた会社だ


世津子 「どうも主人も喜ぶと思います…さぁどうぞ…」


女は黒いパンプスを揃えながら

「失礼します…」


そう言い…


部屋の中をチラッと見渡した


世津子は、女を仏間へ案内した…


礼服姿の女は仏壇の前に静かに座った


花に囲まれた健一の写真をしばらく見つめ…


深いため息をついた


そして二本の線香に火をつけた…


細い煙がすっと天井に伸びて行く


女は目を閉じて合掌した…

No.291 12/01/03 00:59
秋子 ( yuBCh )

お茶を入れ


座布団を差し出す

世津子 「ありがとうございました…さぁお茶でもどうぞ…」


女は座布団の横に華奢な膝を並べて正座し


「この度は…突然のことで…」


両手を八の字に揃えて深々と頭を下げた…


世津子 「ご丁寧に…どうも…」


女「…津川課長には、とってもお世話になりました…」


いったい、どんなお世話なんだろう…


世津子「あの…お世話って?…あぁ…お仕事でね……」


女 「あ…はい…いい方でした…とっても……」


世津子 「あの…あなた…お名前はなんと仰ったかしら?…」


女 「幸田です…
幸田 亜希子です…」

No.292 12/01/03 01:03
秋子 ( yuBCh )

世津子は…


あきこという名前に、驚いた


健一は朦朧とした昏睡状態の中である女の名前を、呼んだ


低い声だったが


あ・き・こ…


世津子には…はっきりそう聞こえた

夫の死に際に呼んだ名前


それは…妻でも、最愛の子供達でもなく…


聞いたこともない女の名前


あきこ…


あれ以来…世津子は、夫との長い長い歴史の時が…


止まったままになっていた

No.293 12/01/03 01:13
秋子 ( yuBCh )

女は、おそらく30半ばだろうか?


綺麗な女だったが、しっかり閉じた口元には、意志の強さが感じられた

あの健一に女がいた?


想像もできない


真面目で一本気な健一のどこに


不倫するという甲斐性があったのだろう


自分の夫に限って…


そう信じて安心しきっていた…28年間


その28年間の世津子を全否定するかのように


女が今、目の前に表れたのだ…


まして健一が、居なくなった今


まさか、こんな落とし穴が…


頭の中は渦巻いていた…

No.294 12/01/03 01:22
秋子 ( yuBCh )

女は、会社での健一の様子…

部下に信頼があった事などを 静かに話していた


だが…


世津子は力なく相づちだけうっていた…


…今更なんか用事でもあるのか?


世津子「あの…お線香あげに来ただけですか?…なんか…他に…」


亜希子は目を大きく見開くと


キリットした口元が開いた


亜希子「あの…実は…言いにくい事なのですが…」


世津子の心臓は高鳴った…


世津子「…なんです?…」


亜希子「実は…課長…いえ津川さんの…骨を少しいただけないかと…思いまして…」


世津子は唖然とした


世津子「骨?…主人の遺骨ですか?…」


…それほど、健一を愛していたとでも言いたいのだろうか?

No.295 12/01/03 01:29
秋子 ( yuBCh )

世津子 「あなた!……あ…頭がおかしいんじゃない?!…」


世津子は強い口調になっていた…


亜希子 「欲しいんです…ほんのひとかけらでいいので…お願いします…お願いします…」

世津子 「バカにしないで!!…あなたと主人が…なにがあったか知らないけど…私は妻ですよ!…」

世津子は怒りで声が震えている


…なにがあったのだろう…

自分の知らない
健一とこの女の世界…


惨めになりたくなかった…


世津子「帰って!!…帰りなさい!!…早く!!」

No.296 12/01/03 01:35
秋子 ( yuBCh )

亜希子は意固地になったのか


眉間にシワを寄せると


立ち上がり…


仏間へ向かった


健一の遺影の隣にある遺骨を両手で抱えた…


世津子は逆上した

両手を広げて出口をせき止めた


世津子 「ふざけないで!!これは私のものよ!…あなたなんかに渡すもんですか!!…図々しいにもほどがある!!!」


世津子が遺骨を取り上げようとするが


亜希子の力は強い…


二人は遺骨の取り合いになった…


亜希子 「妻、妻ってなによ!!…津川さんは…津川さんは…私の…」


その時…遺骨が宙を飛んだ


ドンと鈍い音がして畳の上に落下した…


二人は我に返った…


世津子は遺骨にすがって…


あなた!!!…

あなた!…


泣き叫んだ…


亜希子「ごめんなさい!!…ごめんなさい…」


亜希子の足音がして


玄関からやがて消えた…

No.297 12/01/03 01:41
秋子 ( yuBCh )

あなた…


いったいなにがあったの?


あの女はなんなの?


最後の最後に…


私を裏切ったの?

写真の健一は優しく微笑んでいる…

世津子は泣き続けた…


陶器でできた骨壺は畳がクッションになり


破損はしていなかった…


骨が欲しいなんて、どういう了見なんだろうか?


ふと 亜希子が最後に言いかけた言葉を思い出した


「津川」さんは…私の…」


私の?


なんだろう…

私のもの?

私の愛した人?

私の大事な人?


なにが言いたかったのだろう


世津子の心は重く、鉄の鉛が住み着いたようだ…


何事もなかったように


健一の遺影の隣にまた遺骨を置いて

手を合わせた…

No.298 12/01/03 01:58
秋子 ( yuBCh )

玄関に…

慌てて帰った亜希子が、傘を忘れている…


気がつくと、雨はあがり 、秋の太陽が出ていた…


傘を取りに戻るだろうか?


世津子は玄関ドアに鍵をかけた…


下駄箱の姿見に映る自分の顔を見た…

やつれて、老け込んだ顔がそこにあった


この顔で亜希子を怒鳴り散らした…

まるで鬼婆だ…


健一と世津子は、心では繋がっていたかもしれないが

若い女が良かったはずだ…


当たり前か…


ソファーに横になった…


また涙が溢れた…

鉄の重い心に…

孤独まで重なってきた…

No.299 12/01/03 02:14
秋子 ( yuBCh )

どのくらい眠ったのか


うつらうつらしていた時…


「せつこ…せつこ…」


夢の中で誰かが呼んでいる


それは…

懐かしい…

健一の声…


…あなた あなたなの?


健一が、にこにこ笑っている…


あなた…

会いたかった

会いたかった

私が辛い時、そばにいて助けてくれたよね…


久しぶりの健一の温もりに涙が流れた…


嬉しい




だけど…




聞きたい事があるの…


お願い…


ちゃんと説明して…





穏やかな健一の顔が…

急に険しく、厳しい顔に変わった…

そして…

健一の後ろ姿が

寂しく消えた


あなた…

あなた…

行かないで…



目が覚めた

No.300 12/01/03 02:28
秋子 ( yuBCh )

見て下さっている方へ✋


途中ですが…

もう遅いので、続きは明日また書きます😅

今年もよろしくお願い致します😄

おやすみなさいませ💤

m(_ _)m

No.301 12/01/03 10:33
秋子 ( yuBCh )

どうしたのだろう

49日前は、まだ自宅に魂が居ると聞いたことがある…

お別れに来たのだろうか?


でも あの厳しい顔…


寂しそうな後ろ姿…


何かを言いたいのだろうか?


女の事を詫びたいのか?


世津子はぼんやり仏壇の健一を眺めていた…

No.302 12/01/03 10:39
秋子 ( yuBCh )

それから、たびたび健一は世津子の夢の中へ現れて…消えた…


健一が何か言いたそうで…

世津子は気になって仕方なかった


不倫していたとしても、もう健一はこの世の人ではない


それより、幸せだった28年間が世津子には確実にあるのだ…



健一が何か大切な事を伝えたいとしたら…


安心して眠りにつけないとしたら


亜希子が来てから数日がたっていた


傘はまだ玄関にあった…


亜希子は健一の骨まで欲しがった…


異様な予感がしてならない


たとえ健一に裏切られていたとしてもいい


本当の事が知りたい


世津子は亜希子に会う決心をした…

No.303 12/01/03 10:47
秋子 ( yuBCh )

健一の会社の友人、藤田に夜電話した…

健一の葬儀では一番に協力をかって出てくれた人だ…

まずは、そのお礼と…

幸田亜希子の事をそれとなく聞く為だ


まさか 二人がどんな仲なのか…なんて聞ける訳もなかった…


幸田亜希子は確かに存在していた…

藤田は余計な事はなにも言わなかった…


それは、当たり前といえば至極当たり前の事だ


電話で健一が不倫していたなどと話せる訳がない…


だが…亜希子へ傘を届けたいという理由を話し…


住所だけは聞き出せた

No.304 12/01/03 11:09
秋子 ( yuBCh )

亜希子の住む所までは結構な距離があった

車で一時間ほどかかってしまった


亜希子が西本建設に通うにしても、かなり遠いはずだ…


亜希子の家へ着いた


『幸田』表札があった…

あまり新しくない一軒家だが…庭は手入れが行き届き…小綺麗な感じだ…


勿論連絡などしてはいない…

さすがに突然の来訪は、かなりの度胸が必要だった…

ピンポーン


押した


何から話そう…

何を聞きたいのか…


ドアが開いた


世津子より年配の女が顔を出した…
髪を後ろに束ねて、化粧っ気のない肌は自然の艶があった…


亜希子の母親だろうか?


「どちら様?…」


世津子「津川と申します…幸田亜希子さんのお宅でしょうか?…」


「津川さん?…亜希子は仕事からまだ帰っておりませんが…よろしかったら中でお待ちになりません?…」

世津子は傘だけ置いて帰るわけにはいかない

時間をかけてわざわざ来たのだ…


決着をつけたい


世津子「待たせて頂いていいですか?…」


待たせて貰う事にした…

No.305 12/01/03 11:14
秋子 ( yuBCh )

中へ入った…


短い廊下のすぐ右にリビングがあった…


ゆっくり女の後ろについて行った…


「お茶でも入れます…ソファーにどうぞ…」


女は愛染良く言うと、台所へ行った


世津子「すみません…おかまいなく…」


ソファーに腰掛け部屋を見渡すと


古いサイドボードの上に写真立てが何枚か並んでいた


一枚の写真を見ると


桜満開の下で 若い女が笑っている

その隣に学生服の男子…


見覚えがある…


まさか…


これは!


健一?!

No.306 12/01/03 11:18
秋子 ( yuBCh )

似ているだけなのか?

世津子はバックからメガネをとりだし…

じっくり見た…


ずっと昔の若い日の健一だ!

古くても写真は鮮明で顔ははっきりしている


なぜ?

どうして?

こんな所に健一が??!


「さ~どうぞ…」


女がお茶を運んで来た…


世津子「あの…この写真…」


世津子の指が写真を指差している


女はお茶を一口飲むと


「一生黙っているつもりだったけど…
あなたが来てしまったから…

それは、私と…健一さん…津川健一さんです…

あなたは…奥さん…ですね?」


そう言って世津子を見た…

世津子は驚いてたが


世津子「はい…健一の妻です!」

はっきりそう言った

No.307 12/01/03 11:25
秋子 ( yuBCh )

だが…

訳がわからない

世津子の夫を健一さんと呼ぶこの女は?

世津子 「ど…どういう事ですか?…」


「…まぁ…落ち着いて、…お茶でも飲んで下さいな……
私は、幸田紀子と申します…」


世津子には始めて聞く名前だ


「そうですか…健一さんは、何も話してないんですね…
健一さん、亡くなったんですってね…」



健一は昔からの知り合い?

親戚か?

でも親戚なら健一にさん付けなどするだろうか?


世津子の知らない健一の過去がある…


この女は一体何を言おうとしているのか?


世津子は…恐ろしくなったが


聞かなければ…



世津子は覚悟を決めて紀子という女に…問い詰めた

No.308 12/01/03 11:42
秋子 ( yuBCh )

世津子「あの…あなたと夫はどんな関係なんですか?…」

女は答えた

紀子「健一さんが高校生の時塾へ通っていたの…
今でいう進学塾みたいな…

私はそこの教師をしていたわ…

その写真は、健一さんの大学の合格発表を見にいった時…

それが健一さんと会った最後になってしまったわね…」

紀子は遠い記憶をたどるように

話し続けた

そして…

紀子「これは、二人しか映ってないけど…本当は…三人映っているの…」


…どう見ても二人だ…なんのこと?

紀子「私のお腹の中には…赤ちゃんがいたの…健一さんのね…」


世津子「……!」


世津子は凍りついた…

紀子「驚いたでしょう?…

あなたを苦しめようなんて、思っていません…

でも聞いてほしいの…」

紀子の話しを遮るように

世津子「夫は健一は…知っていたんですか?」
早口で聞いた…


紀子「知らなかったはずよ…教えてなかったからね…」


世津子 「まさか…まさか…亜希子さんが?!!」


紀子「そう…健一さんの子です…」
紀子は…頭をゆっくり下げて頷いた…


亜希子は、健一の娘だったのか…

不倫相手ではなく娘だったんだ…

No.309 12/01/03 11:49
秋子 ( yuBCh )

世津子「…でも…なぜ…赤ちゃんが出来た事を健一に言わなかったのですか?…」


紀子「たった一度の…関係で亜希子が出来てしまった……
でも健一さんはこれから大学へ行く人…
健一さんの御両親もどんなに息子さんに期待していたことでしょう…

結婚なんて有り得ないでしょう?

だって私…健一さんより7つも年上なんですよ…フフ…」


世津子が動揺しているのに…

紀子は落ち着いている…


世津子「どうして産もうと?…」


紀子はかすかに微笑んで


紀子「おろしても良かったんですよね…私もまだ若かったし…

…先にどんな幸せがあったかも……
でも…健一さんの事が…好きだった…

忘れられなかった…

結婚できなくても
…子供がいる…

それだけで嬉しかった……」


健一が18の時の子供…

亜希子は、37歳…
37年もの長い間?…


世津子「…もし健一に妊娠した事を話していたら、健一はどうしたでしょう?」


紀子「…さぁ分からない……。」

No.310 12/01/03 11:56
秋子 ( yuBCh )

世津子「その間…結婚は一度も?…」

紀子「一度結婚したんです…でもダメでした…」

紀子は子供のように肩をすぼめて小さく笑った…


世津子「…でも亜希子さん、夫と同じ職場ですよね…それは?…」


紀子「亜希子が物心ついた時…

私にはどうしてお父さんがいないのって私に聞くんです…

一度だけ…津川健一
…この人があなたのお父さんよって教えました…

覚えてたんですね…

たまたま友達と行ったファミレスで、健一さんが名刺を落として行ったらしいです…

名前を見て…

父親に会いたかったんでしょうね…
長く勤めた教師を辞めて西本建設へ職替えしたんです……」

あの時…亜希子が言った言葉

津川さんは、私の…

私の…お父さんよ

そう言いたかったのだ…

世津子は…切なくなった…

No.311 12/01/03 12:03
秋子 ( yuBCh )

玄関に人の気配がした…

亜希子 「ただいま~お腹すいた~あら…お客さ…」


亜希子は世津子に気づいて、口を噤んだ…

そして世津子をキツい目で見た…

紀子 「アキちゃん…もう、みんな話しちゃったから…

あの…亜希子がなんか無理なお願いしたらしいですが…気になさらないでくださいね…」

世津子 「はい…」

亜希子に目をやると顔の表情はすでに和んでいる…


亜希子「私…お父さんと何回かランチしたの…とても嬉しかった……死んだなんて…だから…せめて…遺骨だけでも欲しかった……誤解されるような事して…ごめんなさい…」

亜希子は…
わっと泣き出した…


世津子「…そうだったの…もういいのよ…

私もいらない詮索して…

それで?…

どんなお父さんだった?…」


亜希子 「娘だと分かったら、驚いていました…一緒に泣いてくれました…

でも…とても…可愛がってくれて………」

亜希子は泣きじゃくりながら話した…

紀子も泣いているようだった…


世津子 「夫は、私には一言も言いませんでした…」


紀子「健一さん優しい人だったから…奥さんに心配かけたくなかったんでしょうね…」

No.312 12/01/03 12:12
秋子 ( yuBCh )

でも…

好きな人の子共を たった一人で産み育てる…

その父親は、他に家族がいるのに…

そんな事夢にも思わず…世津子は健一と幸せに暮らしていたというのに…


37年も…ただ一人を愛し続けて

ひっそりと生きていた親子…


そんな女に…私はなれない…


そう世津子は思った…


紀子と亜希子が…世津子の車を見送りに出て来た

世津子は運転席の窓を開けて


世津子「あの…紀子さん、…まだ健一を愛していますか?…」


そう…聞いてみた

紀子はにっこり笑って

紀子 「さぁ…それは…内緒…」


世津子は幸田家を後にした…



それから…

何ヶ月かして


健一の墓を建て
家族で納骨式をすませた…


世津子は…

健一の最近の写真と、遺骨の一部を幸田家へ送った…




…完…

No.313 12/01/09 08:34
秋子 ( yuBCh )

代12章


…寂しい女…

No.314 12/01/09 09:46
秋子 ( yuBCh )

今日も1日仕事を終えた…


駅のホームへ降りると、冷たい風が頬から耳へ突き抜けて行く


コートの襟を立て改札口を出る


スーパーで、一人分の食材と赤ワインを一本買った


イルミネーション華やかなアーケード街を抜けると


雪がチラチラ舞っている


落ちては消える…
淡くて弱い雪の上を、小走りにアパートの部屋へ向かった

No.315 12/01/09 09:54
秋子 ( yuBCh )

カンカン…カンカン…


階段を登り鍵を回す…


底冷えのする暗い部屋に明かりをつけ


コタツで丸くなった

少し温まったところで、台所へたち煮込みうどんを作る…


ワインを一口飲み小さい土鍋に入ったうどんを…つっつき始めた


リモコンに手を伸ばし、テレビをつけると…


大きなクリスマスツリーが画面いっぱいに煌めいていた

若いカップルや家族連れが、それを楽しそうに見上げている

見知らぬ都会の街並みだった…


…今年もクリスマスだ…

沙織はクリスマスが嫌いだ…


お盆や正月や誕生日より…


何故か、クリスマスは…

寂しさが、しみじみ身にしみた…


20代最後のクリスマスなのに…


今年もたった一人…


沙織はうどんを、半分も食べないうちに

箸を置いて…ワインを飲み始めた


やがて…コタツでウトウト眠ってしまった


熊木沙織、29歳

独身…

No.316 12/01/09 10:10
秋子 ( yuBCh )

朝の出勤途中…


国道手前の路地裏には…


赤提灯の店が10軒ほど並んでいる


その中に最近開店した、居酒屋…


『桐畔』があった


先週末…会社の後輩の久美子と宴会の帰り、なんとなく入った


職人気質で無口なマスターと…


パートの女の子だけの、こじんまりとした、静かな店だった


居心地の良さに女二人で、ついつい話し込んでしまい

とうとう閉店まで居てしまった…


その『桐畔』の、前を、今朝もマスターがほうきで玄関前を掃いている

一度しか飲みに行っていない

それにもかかわらず


マスターは

「おはようございます…」

そう沙織に声をかけてくる


開店してまだ間もないせいか

お客様を大事にしているのだろう…

沙織「おはようございます…」


沙織も軽く会釈をし、通勤の人波に紛れて通り過ぎた…

No.317 12/01/09 10:52
秋子 ( yuBCh )

退社時間の6時にもうすぐなろうとしていた頃


上司の前田から

前田「急に、この資料明日まで10部作んなきゃないんだよ、手伝ってくんないかな?…」


沙織「残業ですか?…」

沙織は辺りを見渡し…

…別に私じゃなくても若い女子社員がいっぱいいるじゃないですか…

そんな視線を前田に投げかけた

が…

前田「…若い子達は…みんな用事があるらしくって……キミなら…いや…キミにしかこの仕事は頼めなくて…悪いけど…」


沙織「………はい…」

沙織はしぶしぶ承諾した

No.318 12/01/09 10:58
秋子 ( yuBCh )

用事がないのは…私だけってことなんだ…


ムリヤリ自分も用事を作れば良かったかも知れない…

誰だって好き好んで残業なんかしたくはない


沙織は性格的に、はっきり断る事ができない自分に腹がたった…


その、はっきり断れない性格を、前田も分かっていて頼んでいるのだろうか…


前田をはじめ…男性社員達は、若い女子社員には、チヤホヤする


そのくせ…頼みづらい事は、いつも沙織に押し付けてくるのだ…

No.319 12/01/09 11:09
秋子 ( yuBCh )

沙織が何年か前に

30過ぎても居座る女子社員の事を、

…あの人の給料で…新卒者の二人は雇えるのによ、早く辞めてくれないかな…


そう陰口を叩く上司の言葉を聞いたことがあった


自分も今、そう思われているのだろう…


だから少々理不尽な仕事が回ってきても、沙織は黙って引き受けていた


時間は8時を過ぎていた


前田「そろそろ出来上がる…あ~良かった…助かったよ…」


沙織「じゃ…私はこれで…そろそろ帰ってもいいでしょうか?…」


前田「ありがとう…どう帰りに一杯?…」

前田が口の横で指を丸くして言った


沙織「いえ…もう遅いんで帰ります…」


机の上を片付けながらそう言うと


前田は後ろからいきなり沙織に抱きついてきた

No.320 12/01/09 11:24
秋子 ( yuBCh )

そして…

強引に唇を重ねようとしている

沙織「止めて下さい…なにするんですか?」


机の上に沙織を押し倒そうとしながら


前田「いいじゃないかちょっとぐらい…キミだって、…寂しいんだろ…」


前田はタバコのヤニ臭い息を近づけてくる


…馬鹿にして!…

はらわたが煮えくり返った


沙織は机の上にあって右手に触れた物、それがなんだか知らないが

前田を叩きつけた!

前田が額を痛そうに手で庇った瞬間

ドアへ走った

前田は祓いせに


最低な言葉を沙織に投げつけてきた…


前田「あんた…いつも、寂しい寂しいって顔してるよ!…慰めてやろうとしてんだよこっちは…チェッ!!…」


沙織は思いっきりドアを閉め

コートとバックを握りしめると

木枯らしの外へ飛び出した

No.321 12/01/09 14:42
秋子 ( yuBCh )


残業まで引き受けて…

挙げ句が慰めてやる?…


ふざけんな!!


最低なヤツ!!


馬鹿やろう!!


馬鹿やろう!!


…?


慰めてやる?


誰を?

私を?

寂しそう?

私が?

私が寂しそう?


媚びてでもいるように思われたのか?


惨めだった…


電車に飛び乗り

気がつくといつもの

イルミネーションアーケードの中を歩いていた

沙織は立ち止まった

一人の部屋へ帰りたくなかった…

No.322 12/01/09 14:47
秋子 ( yuBCh )

バックから携帯を取り出し


友達の久美子に電話をした


久美子「もしもし…沙織?どうしてた?…」


久美子の声にホッとして…涙が溢れて声が詰まった…

沙織「…」


久美子「あ~沙織なんかあったんでしょう~元気ないな~」


久美子は結婚して四年前、沙織を残し…会社を辞めた


だが…旦那の度重なる浮気にとうとう離婚を決め


3歳の子供を連れ…調停中で実家へ帰ってきていた…


沙織「なんか…頭に来てさ~」


久美子「どした?…飲みに出る?

私もモヤモヤしてたとこなんだよね~
マユも寝たし…今どこ?」


沙織 「良かった来れる?」


10分ほどして白いマフラーを巻いた久美子が現れた


二人は『桐畔』へ向かった

No.323 12/01/09 14:52
秋子 ( yuBCh )

「いらっしゃいませ~」


店は平日にもかかわらず…混んでいた…

10人ほど座れる畳み席は全てふさがり

カウンターの中から

「こっちへどうぞ~」

マスターの声がかかった

カウンターへ座った…

久美子「とりあえず生2つだね…」

ビールで乾杯した

冷えたビールは、さっきまで煮えくり返っていた
はらわたに…キュッと染み渡って行った

No.324 12/01/09 15:00
秋子 ( yuBCh )

久美子「…あははは…それで?
なんで殴ったの?手に何を持ったわけ?
明日…前田のデコにタンコブできてんじゃね?
…うける~」

沙織も笑った…

沙織 「あ~なんか話したら、さっぱりしたよ~
ごめんね久美子もタイヘンな時に…」

久美子「いいって、いいって、
慰謝料は相手も納得したのよ、
後は親権争い…
マユは絶対渡さない…」

久美子が口を堅く噤んだ


沙織「そう…久美子負けないで!!
飲もっ!!飲もっ!またビール?なんにする?」


久美子「ビールじゃなくて……」


久美子が迷っていると

「カルピス杯ですか?」

マスターが言った

前に二人で飲みに来た時に頼んだカルピス杯

ちゃんと覚えていてくれたんだ…

No.325 12/01/09 15:08
秋子 ( yuBCh )

…てか 二人の話しはマスターに筒抜けかも知れない…

だが…その振りも見せず

黙々と清潔な指先で刺身の盛り合わせを作っている…

久美子「そう…カルピス杯2つ…」

やがて座敷の客は居なくなって

愛ちゃんというパートの子がテーブルの上を片付け出した…


また店内は二人だけになった…

マスターは奥へ行って石油ストーブを運んでくると

二人の後ろへ置いた

客の出入りで戸が開くたび、冷たい風が二人を吹き付けていた事を

気にかけてくれていたのだろう…


さり気ない優しさが嬉しかった…

マスターは相変わらず無口で二人の話しに割り込む事はしなかった…

No.326 12/01/09 15:22
秋子 ( yuBCh )

何日かして…

前田のタンコブが普通に戻った頃


沙織に突然の移動があった…

営業から製造へ移る事になった

製造は工場二階に事務所があった


会社の中では製造の事務は、いてもいなくてもたいして支障はない


半年も前に事務が辞めてからは空席になったままだ


…ついに降格か…

あのタンコブ野郎にやられたと沙織は思った…


いっそ 会社を辞めてやろうかと思ったが…

この不景気に正社員として雇ってくれる所が簡単に見つかるとは思えなかった…

No.327 12/01/09 15:33
秋子 ( yuBCh )

さて…仕方ない…
沙織は腕を捲った…

作業員が工場行き来するため


製造の事務所はホコリにまみれていた…

沙織は…

バケツと雑巾で部屋中きれいに磨きあげた…

そこへ係長の鈴木が入ってきた

鈴木「ほぅ~綺麗になったなぁ~熊木…」


沙織 「え?私の事ですか?…」

鈴木「お前じゃなくて事務所の中だよ…なに勘違いしてんだ~がははは」


沙織「係長…よろしくお願いします」

鈴木は…酒のみだが…冗談好きで話しは面白い…

宴会ではいつも沙織を笑わしてくれた…

50代半ばで頭も薄く…出世は遅い

課長よりはるかに年上だ


鈴木「まぁよろしくな~」

沙織の肩をポンと叩くと…

携帯がなり 忙しそうに現場へ向かった

その鈴木の後ろ姿を見ながら

前田の下で働くよりはよっぽど気楽でいい…


沙織はそう思った

No.328 12/01/09 18:41
秋子 ( yuBCh )

そんな…会社からの帰り道


桐畔の前にマスターがいて

暖簾をしまいかけて…沙織に気づいて目があった


沙織 「こんばんは~」


「あ~この間はどうも…今日は、もう閉めようかと思いましてね…」


…まだ…8時前だ
沙織「え?ずいぶん早いですね…」

マスター「愛ちゃんが休んじゃったし…それに私も…ちょっと風邪気味でして…」


沙織「あ~そうですか~おだいじにね…」

沙織が立ち去ろうとすると

マスター「あッ!…でも…おでんをいっぱい仕込んじゃって…ご飯まだなら…食べていきません?…」

マスターが呼び止めた…


沙織「いいんですか?…今夜何食べようか…考えてた所でした…嬉しいです…」

マスター「どうぞ…今…暖簾片付けてしまいますからね…」

No.329 12/01/09 20:26
秋子 ( yuBCh )

湯気のたつ鍋から…大根 ちくわ 牛スジ 卵 がんも…

マスター 「さ…熱いうちに…遠慮しないでどうぞ…」

あまり広くない店だが、二人でいると…広く感じた


久々のおでんは味がよく染みていた

沙織「美味しいです…とっても…」

マスター「もし良かったらビールもどうぞ…私に付き合って飲んで下さい…」


沙織にコップを渡すとマスターはビールを注いだ


角刈りでさっぱりした頭…太い眉…きりっとした目鼻立ち

誠実と清潔感が漂っていた…

沙織は…

マスターはステキな男性だと思った…

だけど沙織が気にいった男達はみんな結婚していた…

沙織「まだ帰らなくていいんですか?…家族は?」


家族がいたと分かったら

余計寂しくなるだろう…

だが、他にこれといった話題もなかった…

No.330 12/01/09 20:40
秋子 ( yuBCh )

マスターが初めて自分の事を言う…

マスター「自分ですか?…独り者ですよ…」

タバコに火をつけ…沙織に煙が行かないように

横にふーッと煙を吐き出した


沙織「 板前修行で婚期を逃したとか?…」


マスター「まぁそんなとこですかね…」

マスターが珍しく白い歯を出して笑った…

沙織「ここもお客さん増えたんじゃないですか?」

マスター「…お陰様でこの店も繁盛してましてね…実は…ここは支店なんですよ…本店は東京です…名古屋と埼玉にもあります…」

沙織はびっくりしてマスターを見た
マスター「ここが安定したら、誰かに店を任せて、東京へ帰るつもりです…そして…身を固めたいと思っています…」


…やっぱり恋人がいたんだ…


沈黙が流れた…

No.331 12/01/09 20:46
秋子 ( yuBCh )

マスター「沙織さん?でしたっけ?…」

沙織は一瞬はっとしたが

即答した


沙織「そうです…」

マスター「いきなりで…なんですが…良かったら
…自分と付き合ってくれないでしょうか?…」

沙織は言葉を疑った!

沙織「わ…私とですか?…」

マスター「あの…失礼だとは思いましたが…
沙織さんとお友達との…その…
会話を聞いているうちに…
あ…立ち聞きしてすまないです…
あの…それで…
気になっていて…突然じゃ困りますよね…
返事は考えてからでいいので…その」

マスターは緊張しているのか

額から汗が吹き出ている

沙織は…ドキドキしていた…

まさか…私の事を?

夢のようだった…
なぜか急に涙がポロポロこぼれた…

No.332 12/01/09 20:57
秋子 ( yuBCh )

マスターは…沙織の横に座り…

沙織の涙を指でふいて…

横から沙織を抱きしめた…

…溶けていきそうだった

今まで たった一人ぼっちで…

歯をくいしばり
頑張って…頑張って…

生きてきたのだ…

やっと自分を包み込んでくれる人が表れた…


嬉しかった…

マスターは沙織の顔を引き寄せ

軽くキスをした

そして沙織の耳元でささやいた

マスター「…愛してる…こうして二人きりになるチャンスをずっと待っていた…告白できて…
良かった…
返事はいそがないでいいからね…」

沙織「ありがとう…とっても…嬉しい…」


マスター「もう…泣かないで…」


濃厚なキスになった…

沙織は身体中が熱くなり下半身が敏感に反応して行くのが分かった…

マスターは沙織を抱き上げ

奥へ入って行った…

マスター「ごめん…もうガマンできない…」

沙織は身を任せた…

久しぶりに男の体に抱かれた…

裸で一つになった時…

もう一人ではない…
一人じゃないんだ…

そう心は甘く満たされていった…

No.333 12/01/09 21:09
秋子 ( yuBCh )

鈴木「おいおい…熊木!なんかいい事あったのか?」

沙織「なんで?普通ですよ~」


鈴木「…顔に打ち上げ花火がバンバンあがっとる!…」



沙織の世界は大きく変わった…

人生は捨てたもんじゃない…


桐畔では 愛ちゃんがパートを辞めた

沙織は仕事が終わってから…お店を手伝うようになった…

店を閉めると…マスターと愛しあい

朝部屋へ戻って出勤する生活になって行った…

夜…

マスターが母親に電話をしたらしい
マスター「今代わるからね…」

沙織「もしもし…初めまして、熊木沙織です…お母さんですか?…」


「はい…達郎の母です初めまして、達郎がお世話になります…どうぞ一度おいでになって下さいね…」


優しそうなお母さんだった…


愛のある揺るぎない生活が続いていた…

No.334 12/01/09 21:48
秋子 ( yuBCh )

鈴木「熊木…お前彼氏、できただろう?…」


沙織「ど…どうしてわかったんですか?…
…一段と綺麗になったとか?…」


鈴木「違う!…首にキスマークがついとる!…」


沙織「え〰〰っ!」

鈴木「うそだよ!…ガハハハ」


そんな楽しい毎日が過ぎ

クリスマスイブになった

お店が終わってから…二人は

ホテルの最上階のバーで夜景を見ながら乾杯した…

こんなに幸せでいいのだろうか?

夢なら覚めないで…

沙織は、いつもそう願っていた…


そんな時…マスターの携帯がなった…

No.335 12/01/09 21:52
秋子 ( yuBCh )

マスター「もしもし…そう…え?…嘘だろ?…500万?だって…銀行?…とりあえずってなんだよ…とりあえずって…分かった…なんとかする」


沙織「どうしたの?…なんかあった?」

マスター「いや…君には関係ない事だから…心配しなくていい…」

沙織「関係ないって?私達結婚するのよ…秘密はなしにして…ね…お願い」

マスター「実は…名古屋支店の、店長が…退職して独立するんだよ…
俺も資金援助を約束していたんだ……
それは前からの約束だったからね~
その資金が急に必要になって…泣きついてきたんだ…弱ったよ、東京行って用立てたいけど、会計係が年末で海外行ってしまってて…
……来年じゃないと…いやいや…困ってしまった……」

沙織「さっき500万とかって?…来週なら私なんとかしますよ…」

マスター「冗談じゃないよ…君から?まさか…」


沙織「…来年返してくれたら済む事でしょう?」

マスター「そんな事…できないよ…」

沙織 「私達結婚するのよ…任せて…」

沙織はマスターの手を握って微笑んだ…

No.336 12/01/09 22:50
秋子 ( yuBCh )

そして週は変わった…

沙織は銀行でお金を下ろすと

マスターへ渡した…

沙織 「さぁこれを持って名古屋へ行ってあげて!…」

マスター「ありがとう…沙織…愛してる…水曜日には戻るから…」

そして二人はキスをした…

マスターを駅まで見送り…電車をいつまでも見ながら


良かった…マスターの役にたてて…

そう沙織は満足していた


そして…


No.337 12/01/09 22:58
秋子 ( yuBCh )

忙しいのかマスターからは、丸一日しても電話が来ない…


沙織が電話をしても
「…只今電波の届かない…」

むなしくテープが回っていた…


水曜日になっても、一週間たってもマスターから電話はなかった…


どうしたのだろう
なにかあったのだろうか?

交通事故か…?

病気か…?


全然連絡もなにも取れないまま


年は明けた…

それは新年3日の事だった

桐畔に暖簾が風で揺れていた

マスターが帰って来た


沙織は喜び勇んでドアを開けた

沙織「マスターマスター」

すると、カウンターから顔を出したのは見知らぬ、マスターよりはるかに年のいった男だった…


男「あ~今日から私がマスターですよろしく…何か?ひょっとして前いた人の事かな?…」


沙織「前いた人?…」


男「私入院してまして…代わりにここやって貰ってたんですよ…去年いっぱいまでね…」

沙織「まさか…ここは支店じゃないの?本店は東京…」

男「はぁ?…桐畔はここだけですよ…前いた人?
知らないんですよ…ネットで探して来て貰っただけですからね…」

No.338 12/01/09 23:03
秋子 ( yuBCh )

騙された?

嘘でしょう?

まさかマスターが私を裏切るなんて…

お母さんとも話したし…


放心したまま部屋へ戻った…

受け入れる事ができない…

嘘よ…

嘘…

絶対なにかの間違い…


鈴木 「熊木?どうした?ボケーッとして…元気ないぞ…」


沙織「…」

沙織は…泣き出した

No.339 12/01/10 00:01
秋子 ( yuBCh )

鈴木「どうした?なにかあったのか?」

沙織は泣き止まなかった…

心配になった鈴木は…車で沙織のアパートまで送った…

そして…久美子を呼んだ

沙織は…階段も登れないほど憔悴していた…

鈴木は沙織を抱えて階段を上り


沙織のバックから鍵を取り出して

部屋の中へ入れた…

鈴木「俺はお前の父親だ!…そう思え…」

沙織に聞こえているのか

聞こえていないのか

返事はない…


コタツの中へ沙織を押し込め頭に枕をあてがった…

しばらく…鈴木も沙織の部屋へいた…

息を切らして久美子が来た…

No.340 12/01/10 00:09
秋子 ( yuBCh )

久美子「どうしたの?沙織!沙織!…」

鈴木「わけが分からん…お前心当たりないのか?」

久美子「彼氏ができたって…結婚するってメール来てたから…桐畔のマスターと…」

沙織がまた泣き出した…

沙織「騙されたよ…」


沙織は起き上がり…

しばらくして

二人に全てを話した…


鈴木「それは…結婚詐欺だよ!…」

沙織「詐欺?まさかマスターが?…」

鈴木「多分…熊木だけじゃなくて、色んな人騙してるはずだよ」

沙織「でも…マスターのお母さんとも確かに話したよ…」

久美子「…携帯電話で?…それさぁ…便利屋サイトだったかな…頼んだらなんでもしてくれるよ…モーニングコールでも…お母さんにだって、簡単になってくれる…」


沙織「…酷い…酷い…」

鈴木「 500万か?…」

沙織「…もう何にも信用できない…死にたい…うッう~」

No.341 12/01/10 00:42
秋子 ( yuBCh )

鈴木「…酷い男がいるもんだよな~」

久美子「…いい人だと思ったのに…」

沙織 「…私が悪い…人を見る目がなかった…」

ポツリと沙織が呟いた…


ふと…沙織の携帯がなった…

鈴木と久美子が沙織と一緒に携帯を覗き込む

沙織「…誰だろ…はい…もしもし…」


「こちら〇〇警察です…熊木沙織さんの携帯ですか?

沙織「…はいそうです…」

「赤田 実さんご存知ですか?あの…桐畔のマスターって本人が言ってます…」

沙織「…マスター?…は…はい…知っています…」

沙織は音を外へ切り替えて、みんなで聞けるようにした

No.342 12/01/10 00:55
秋子 ( yuBCh )

「実は…今自首して来たんですよ…結婚詐欺で指名手配されてましてね…お金をあなたに返したいと言ってます…」


三人は顔を見合わせた…

沙織「あの…どういう意味ですか?…」


「本人も反省したんでしょうな…足を洗いたいらしいですわ…熊木さんはいくら取られたんですか?」

沙織「…取られてなんかいません!…貸しただけです…金額は…500万です…」

「そうですか貸しただけですね?…金額は合ってます…申し訳ないですが…こちらまでご足労願いませんか?手続きして…お金返しますから…」

沙織「…はい…はい…」

沙織は涙を拭きながら警察の住所を書き留めた…

鈴木「そうか自首したのか…良かったな…」


沙織「…鈴木さん久美子!…一緒に行ってくれる?」

鈴木「いいよ…行ってやるぞ!…」

久美子「勿論…私も…!」


沙織「ありがとう…」

沙織に少し…笑顔が戻った…





…完…

No.343 12/01/15 08:56
秋子 ( yuBCh )

結婚詐欺にあった沙織…

その後どうなったか…

…第13章…


…寂しい女・2…

No.344 12/01/15 09:11
秋子 ( yuBCh )

鈴木の運転する車で三人は〇〇警察を目指していた


何時だろう…

車はライトをつけて走っている

鈴木も久美子も沙織を気遣っているのか無言だった…

沙織は窓ガラスに映る自分の顔を見ていた…

また一人に戻ってしまった…


沙織の幸せな未来予想図…それは粉々に打ち砕かれかれた


仮にお金が返って来たとしても、マスターを愛した沙織の気持ちは奪われたままだ…


付き合い出して1ヶ月もたたないのに…独りよがりで自分から金を出すと言った…

マスターは最初から騙すつもりで沙織に的を定めていたのだろうか…


三十路の女に、白馬の王子が簡単に現れるはずもない…


全ては…
自分が寂しい女に見えていた…だから、心の隙間にそっと忍び込んで来たマスター

簡単に沙織は罠にかかった


騙して欲しくなかった…

幸せになりたかった…

いつもそばにいて欲しかった…

マスターの為ならお金なんて惜しくなんかない…そう思っていたのに


ばかだなぁ…

二人に気づかれないように、そっと涙を拭いた

No.345 12/01/15 09:41
秋子 ( yuBCh )

やがて…〇〇警察署に着いた

三階建ての建物だった…

ふと上を見上げると…

明かりのついた部屋が何ヶ所かある

マスターはこの部屋のどこかで取り調べを受けているのだろうか


あぁ…

逢いたいなぁ…

この期に及んでも沙織はそう思った…

だが騙されていた事実が…沙織を孤独に引きずり戻して行く…

体がブルブルと寒くなった

No.346 12/01/15 10:54
秋子 ( yuBCh )

警察の入り口を入って行った

久美子は沙織の肩を抱き、鈴木はその後ろを付いてくる

会議室と書かれた部屋へ案内され…三人は椅子に腰掛けた

丸い石油ストーブの上のやかんから湯気が小さく上がっている

中年の痩せ型の警察官の田島が、お茶を三人に差し出した


田島「いやーお金だけでも戻って来て…良かったですね~…」

沙織「…どうも」

二十歳そこそこの若い娘ならまだしも、三十路にもなろうとする女が男に騙されていた…
さぞかし滑稽だと思われているだろう

沙織のプライドはズタズタだった…

田島「もちろんそれだけじゃなくて…結婚詐欺っていうのは…精神的に傷つけられますからね…
結婚式の日取りまで決まっていた人なんか…
勤め先にいられなくなったり…
プライドが傷ついて…
被害届出さないで泣き寝入りするケースもあるんです
悪質ですよ…」


鈴木「そのマスターはどんな男だったのですか?」

黙りこくっていた鈴木が腕を胸の前で組んで警官に聞いた

No.347 12/01/15 11:14
秋子 ( yuBCh )

田島「それが赤田は、板前の腕がありながら…なんで…詐欺なんかしとるのかわからんです…」

そして、沙織をチラッと見て

田島「結婚もしてるんですよ…子供も二人いました…」

久美子「結婚してたんですか?…」
久美子も呆れたように口を開いた


マスターは結婚して子供もいた…


真実は沙織の心をかき乱す

もう何も聞きたくなかった

田島「おっと…まだあまり他言できんので…これは私の独り言ということにしておいて下さい……それから…被害届けだしますか?」

警察官はそう聞いてきたが…

沙織「いえ…」

田島「そうですか…じゃお金受け取ってお引き取り下さって結構です…お疲れ様でした…」

No.348 12/01/15 12:04
秋子 ( yuBCh )

三人は警察署の玄関までの廊下を歩きだした

すると…

警察官が向こうから来る

その隣に私服の男が一緒に歩いてくる

両腕を手錠でつながれている

よく見ると…

マスターだった

三人は唖然とした

沙織「…マスター」

近寄る沙織を、田島が駆けつけ鈴木と引き止めた

マスターは気付いて驚いたようだが

その目は明らかに沙織を探している

沙織と目が合うと
マスター「…すみませんでした…」
目を一瞬固く閉じ立ち止まって一礼した

そして警察官に背中を押されながら階段を登って行った…

No.349 12/01/15 12:15
秋子 ( yuBCh )

マスターの後ろ姿を見送る沙織

その腕を、久美子が引き寄せ…玄関へ導いて歩き始めた


沙織は田島の顔を見て

沙織「あの人はこれからどうなるのですか?…刑務所に入るのでしょうか?…」
そう聞いた

田島「…いやまだそれは…分かりません…」

沙織「なにか分かったら連絡貰えないでしょうか?…」

沙織はまだマスターに未練があると思った鈴木は、強い口調で

鈴木「もう…あんなヤツの事はどうだっていいだろう!…沙織帰るぞ!…」

久美子「もう…忘れなきゃだめだよ…ねッ…」

久美子は沙織の腕を掴んだまま離さない


沙織 「うッ…うッ…」

泣き出した

田島は何も言わず三人が乗った車を見送った…

No.350 12/01/15 12:53
秋子 ( yuBCh )

お金より、騙された事より…

沙織はただ…マスターに会いたかった…

あんな形でも一目マスターに会えた嬉しさだけが残った


バカだなぁ


これからマスターを忘れるために、長く辛い日々が待っているというのに…

頭の中では、よく分かっている

架空の恋…

虚偽の恋

かなわない恋


騙された女達はみんなこんな気持ちになるのかもしれない…

結婚詐欺は、金を奪い…心も奪う

もう立ち直れないかも知れない…

沙織はそう思った…

No.351 12/01/15 13:28
秋子 ( yuBCh )

三人はファミレスへ入った

ラーメンを啜りながら
鈴木「熊木よ~…辛いだろうけど、お前はまだ若い…美人だし…いい女だし…その…あれだ…」

鈴木がなんとか沙織を励まそうとするが…言葉が見つからないらしい

鈴木「とにかく明日も会社へ出てこいよ…月日がたてば…なぁ久美子…」

久美子「そうだよ…沙織は運が悪かっただけだよ…いい男なんて、いっぱいいるんだし…ねッ…」
パスタを食べながら久美子が明るく言う


鈴木「久美子がそれ言うと…説得力ないかもな~?」

久美子「も~うるさいなぁ~私も運がわるいって事かい?アハハ…」

二人は笑っているが…

沙織はあまり食欲はなく…目は宙を舞っていた…

だけど…こんなに沙織を気づかい、二人は遅くまでつき合ってくれている…

有りがたかった…

沙織「ありがとう…心配してくれて…でも、大丈夫だよ…明日も仕事は行くから…」


から元気だったが、沙織はそう言った…

No.352 12/01/15 14:09
秋子 ( yuBCh )

力が抜けベッドへ倒れ込んだ


未来への希望や、新しい恋など

そんなものはもはや、一ミリも頭の中にはなかった






やがて朝…

メールの着信で目がさめた

久美子からだ…

「おはよう~元気出せ~仕事行けよ~(^-^)/~~」

久美子が心配している

仕方なく沙織は出勤準備を始めた


熱いシャワーをあびながら


ふと…思った…


何故マスターは自首したのだろう


黙って500万持って逃げられたはずなのに…


そして、警察署で手錠をかけられた痛々しい姿のマスターを思い浮かべた


マスターは沙織に謝った…


それは沙織と遭遇して、たまたま謝っただけだろうが…


何故自首したのか?


沙織はそれが疑問だった…

その疑問は、やる気を失せた沙織に変な勇気を与えた…

そして…普段通りに出勤した…

No.353 12/01/15 14:44
秋子 ( yuBCh )

気持ちは沈みがちだったが…

鈴木や久美子に励まされながら…


ゆっくりと月日は流れて行った…


ある夜…携帯に着信音がなった


見知らぬ番号だった…

沙織「…」

田島「もしもし熊木さん?〇〇警察署の田島です…」

沙織「あッ…あの時のお巡りさん?…」

田島「…この間…元気無くされて…ちょっと心配だったもので…」


沙織「…なにか分かったんですか?…マスター…いや赤田さんの事…」
沙織は一瞬緊張した

そして耳を携帯に強く押し当てた…

No.354 12/01/15 19:54
秋子 ( yuBCh )

田島「あの…話しが長くなりますが…今…よろしいでしょうか?」


沙織「大丈夫です…話して下さい」

田島は事務的に淡々と話し始めた


田島「 赤田は結婚してはいるのですが…
赤田は初婚、妻は子連れ再婚です

赤田は寿司屋の店主をしておりました…
寿司屋を回転寿司屋に改装しようとして…

その開店資金、2000万円…
妻が前の旦那に横流ししたらしいです…
妻の前の旦那は借金があって…
それで離婚したらしいのですが…
まだ夫婦は繋がっていたらしいですね~
要するに、赤田は騙されて結婚したんですよ~
逆上した赤田は妻を殴ってしまったらしいのです
そして妻が倒れてそのまま動かなくなってしまい…
てっきり殺してしまったと思ったんでしょうね…
そのまんま逃げた訳です…」


沙織「それで…奥さんは亡くなったんですか?…」

田島「 いえ、いえ、軽い脳しんとうみたいでした…」

沙織はホッとした…

No.355 12/01/15 20:10
秋子 ( yuBCh )

マスターの私生活が垣間見えてきた…

沙織はさらにじっと聞いていた…

田島「その後…赤田は、女に敵意って言うか…
各地を転々としているうちに、結婚詐欺を繰り返して行ったらしいです…」


…マスター自身も騙されていたのだ…

しかもお金も取られて…

騙された惨めな気持ちを知っている…

それなのに…


何故沙織や他の女達を騙したのか?

妻への仕返しのつもりだったのだろうか?

沙織には分からなかった…

No.356 12/01/15 20:26
秋子 ( yuBCh )

田島は続けた

田島「…ところがです…
余罪は五件あったんですが…
騙しとったお金1500万…
手付かずに持ち歩いていました…

妻に穫られたお金を取り戻すつもりだったんでしょうかね
金は…いずれ被害者に戻ると思いますが…

…まぁこんな所ですね…
それじゃ…」


沙織「ちょっと待って下さい…赤田さんが、自首した理由はなんですか?…」


田島「…別に…その情報はなにも…ただ…」


沙織「ただ?…ただなんです?…」

田島「いや…熊木さん、もう忘れた方がいいです……あなたのためですから…」


田島は…

「…ただ…」

そう言いかけて止めた…


沙織は気になったが…

もうそれ以上聞いてはいけないような気がして…


沙織「…ありがとうございました…」

そうお礼を言って電話を切った…

No.357 12/01/15 21:40
秋子 ( yuBCh )

それ以来

沙織の気持ちはだいぶ落ち着いて来ていた…

久々鈴木と久美子を誘って飲みに出た

この二人には…随分助けられた

「カンパーイ」

沙織「今夜は私のおごり!どんどん飲んで、食べてね~」

鈴木「熊木!元気になって良かった!…お前のしょぼくれた顔なんか、もう見たくねぇよ…」


久美子「…そうだよ!もう忘れて…楽しくやろう!…」

沙織「…心配かけてごめん…もう大丈夫だよ…」

鈴木「…でもまた寂しくなったらいつでも言って来い!…」

久美子「…鈴木さ~ん…私も寂し~い…」

鈴木「よしよし…二人まとめて俺が面倒みてやるから~いい男探してやるぞ~」



沙織「…男はもういらない…当分は一人でいい…」

沙織がポツンと呟いた

久美子「…沙織…なに言ってんの?あたしは…また男見つけるんだ!…今度は嘘のない…素朴で…真面目な人!…」

鈴木「…そうそう…俺みたいな?!…」

久美子「…やだ~私にも選ばせて下さい…アハハ」

やがて、盛り上がる二人を置いて沙織は先に部屋へ帰った…

また、一人の生活に戻った…

マスターの事はまだ頭から離れないままだったが…

No.358 12/01/15 21:55
秋子 ( yuBCh )

あんな裏切り方をされたにもかかわらず

それでも…まだマスターの事を忘れられないでいる

沙織は自分の気持ちに戸惑っていた…

それは以前のような、ただ好きという気持ちではなく…

マスターの事情を知ってから…

同情にも似た…新しい思いに変わったような気がする…

この先マスターはどんな生き方をするのか?

幸せになれるのだろうか?…


…どうしようもないバカだなお前は…

沙織は自分にそう言って…

寂しく笑った…

No.359 12/01/15 22:53
秋子 ( yuBCh )

そんなある日

鈴木「…熊木!…実は…今俺…」


沙織「…どうしたんですか?鈴木さん鼻の穴広がってますよ!…ヒャハハハ…」

鈴木「…実は…久美子とその…付き合っている…」

沙織「…え?…うそ~うそ~まさか…」

鈴木「…ホントだ…こんな爺さんだけど…久美子と…マユちゃんを…守りたいと思って…」

沙織「あッ…この間の話し…冗談かと思っていたら久美子もまんざらじゃなかったんだ……んで?結婚するんですか?」


鈴木「離婚は成立して親権も取れたっつうのに……それが…マユちゃんが…俺の顔見ると、怖がって泣くんだよ…なついてくれなくて……」


沙織「…アハハそりゃ泣くかもですね~」

沙織はいい話だと思った…

鈴木なら…久美子を裏切らない…

微笑ましくて…ちょっぴり羨ましいと思った…

No.360 12/01/15 23:03
秋子 ( yuBCh )

やがて季節は桜の蕾が膨らみかけた春になろうとしていた…

マユちゃんを連れて久美子が鈴木と結婚した…

沙織は久美子と鈴木の新居に…入り浸りだった…

鈴木はまるで娘と孫にかこまれているみたいだ!

そう幸せそうな愚痴を言い

久美子は
「マユ…じじにお茶持ってって~」
と冷やかしている…

こんな楽しい家族が沙織にも作れるのか自信はなかったが…

ここに来るのは楽しかった…

だが…夜はやっぱり寂しい沙織だった…

No.361 12/01/15 23:40
秋子 ( yuBCh )

やがて桜は散り…暑い暑い夏も過ぎ紅葉の秋になった…

沙織の一人の時間がゆっくり流れて通り過ぎて行った…


ある会社帰り


カンカン…カンカン…

階段を上がると


沙織の部屋の前に男が立っていた…

誰だろう?


よく見ると、そこには意外な人物



マスターだった…






沙織は頭が真っ白になって立ちすくんでしまった…


今更…何の用事だろう

沙織を騙して…


沙織の心を持って行ったまま…


一年たった


沙織の気持ちはまだあの時のまま…

必死で忘れようとしていたのに…


一体なにしに来たのだろう


二人はしばらく見つめ合ったままだったが…


マスター「君に謝ろうと思って…」

沙織「…」


マスター「許して貰えないだろうけど…すまなかった…」


…懐かしい…


沙織の心の中は…

泣いている…


なにも言えないまま…


黙って部屋のカギを開け…


中へ入ってカギを閉めた…


ドアにもたれた時…

涙が溢れた……


沙織「…帰って頂戴!…」

No.362 12/01/16 00:11
秋子 ( yuBCh )

マスター「…分かった…だけどこれだけは…言わせて欲しい…
君のような人と ちゃんと生きていきたいと思った

だから…自首した……」



沙織「…また私を騙すの?!…」


マスター「…君を愛している…分かって欲しい…」


沙織「…もう騙されたくないの…帰って頂戴!お願い…」


沙織は、ベッドに突っ伏し…泣いた

会いたかった!
会いたかった!

元気そうで良かった!

だが…もう騙されたくはない

もう傷つきたくない!


やがて…

カンカン…カンカン…

マスターは階段を降りて帰って行った…

No.363 12/01/16 00:38
秋子 ( yuBCh )

コノヤロウ!帰れ!馬鹿野郎!


怒鳴り声とドアにぶつかる音


沙織は驚いた


その大声に聞き覚えがあった…


鈴木だ!


ドアを開けると


鈴木はマスターの胸ぐらを掴み、殴りかかっている!


マスターは抵抗しない…


足元には…ふたの開いたタッパーと

惣菜らしきものでぐじゃぐじゃに汚れている…


足音は鈴木が階段を上がる音だった

沙織「止めて!止めて!…殴らないで!お願い!…」
沙織はマスターを庇った


鈴木「沙織!こいつは結婚詐欺師だぞ!ペテン師じゃねぇかッ!」


鈴木は肩で息をつき凄い形相でマスターを睨んでいる


沙織「…でももう罪をつぐなって私に会いに来てくれたの!…謝罪に来てくれたの!…」

鈴木「まさかお前…まだこいつの事を?…」


沙織「…」


鈴木「また騙されたいのか?!沙織!」


沙織「騙されてもいい…私はこの人が…好きです…ごめんなさい…」


沙織はマスターの手を引っ張り階段を駆け降りた…


鈴木はポカンと上から二人を見ていた…

No.364 12/01/16 00:49
秋子 ( yuBCh )

二人は息がきれるまで手を繋いで走り続けた…


やがて…見知らぬ公園で二人は立ち止まり


マスターは沙織を抱きしめた…


マスターが泣いている…


沙織「…騙されてもいい…マスターと一緒にいたい…」


マスター「…ありがとう…もう放さない…」



枯れ葉が二人の上を静かに廻って落ちて行った…



…完…

No.365 12/01/23 23:34
秋子 ( yuBCh )

第14章

…過去を紐解く女…

No.366 12/01/23 23:40
秋子 ( yuBCh )

秋のある日、

葉子は母を総合病院へ連れて行った

母…みつ70歳は最近胃の不調を訴えていた


食欲が無くなったのは年のせいだとみつは言うが、日に日に顔の色艶も悪くなり、やつれてきていた


葉子が病院へ行くよう促しても、さっぱり自分では行く様子はない


そこで葉子は仕事を休み…みつを病院へ連れて来たのだ…


内科は人で溢れていた…


葉子「時間かかりそうだね~…」


みつ「…どんな検査するのかねぇ…」

長年働いて指の節がゴツゴツ硬くなった手の甲を、片方の手で無意識にさすりながら…


みつは心配そうに…診察室を見つめていた

No.367 12/01/23 23:43
秋子 ( yuBCh )

葉子「…かぁちゃんずっと働きづめで疲れが出たのよ…すぐ良くなるって…

いつまでも、一人で暮らしてないで、そろそろ私らの家に来たらいいでしょう?…」

葉子の子供達も大きくなって

長男は都会へ就職し、二男は大学生でやはり都会へ出ていた…

葉子は夫の勝治と二人暮らしだった…

だが…そんな葉子からの同居の話しに返答はせず

みつは

みつ「なぁ…もし悪い病気なら……手術とか、生き長らえる事…なぁんもしなくていいからな…」


葉子「…またそんな事ばっかり言って……」


みつ「…もういっぱい生きたから……もういい…」

膝の上に両肘を付いて細い目をこすりながらみつは言った

No.368 12/01/23 23:46
秋子 ( yuBCh )

葉子「…なに言ってるのよ…まだ70でしょう?…今は…80歳は普通…90歳だってざらだし…長生きしてよ…ねっ…」

やがて一時間ぐらいしてやっと…

『金田 みつさ~ん』

看護師にみつが呼ばれ

葉子が付き添い診察室へ入って行った

眼鏡をかけて、つきたての餅のような

色白の若い男の医者が

仰向けに寝たみつのお腹をゆっくり押す…


「明日検査しましょう 今夜は早くご飯食べて寝て下さい…」

そう言った


みつは痩せた背中を丸めて

「よろしくお願いします…」

昔から…

人には迷惑をかけず、謙虚に コツコツ生きてきたみつは…

丁寧に頭を下げた

No.369 12/01/23 23:52
秋子 ( yuBCh )

葉子は病院の出入り口へ車をつける

運転席から手を伸ばし助手席のドアを開けると


「どっこいしょ…」小さく掛け声をかけ

みつはシートに腰を落とした


貴子「まっすぐ帰る?…」
そう言いながら車を発進させると

みつは、ひどく疲れたのか

あぁ…と、小さく溜め息のような返事をした


葉子の父…みつの夫、英三郎は、漁師をしていたが…

葉子が小学校へ入学する前の年に


漁へ出たまま帰らなかったらしい…

みつは葉子をなんとか高校を卒業させ…

嫁に出すまで、昼は缶詰め工場で働き、夕方から日が暮れるまで畑で野菜を作った…


何年も働き詰めだった…


再婚する訳でもなく…

お洒落をして友達と旅行に出かける訳でもない

娯楽など一切したことのないみつだった

葉子は、自分の子供が独り立ちしたら、みつを温泉にでも連れて行きたい…

親孝行らしいことをしよう

そう思った矢先、
みつは体調を壊した…

寝ているのか、頭を下げ目を閉じている、みつの横顔を見て

貴子は心細くなった…

No.370 12/01/24 00:02
秋子 ( yuBCh )

小さい港に漁船が見えて来た…


坂道を登り、やがてみつの家の前に車はついた


玄関前の畑には、

収穫前の大根が土から白い肌を出して並んでいる


車を降りたみつと葉子がゆっくり家の中へ入って行く

家の中へ入ると土間…

そして黒光りした板張りの床…


縁側からは一面青い海が広がっていて

よく晴れた日には遠くに地平線が見える…

いつ来ても懐かしい場所だ…

No.371 12/01/24 00:05
秋子 ( yuBCh )

ふと久しぶりに父の写真を見上げる…

父親の事は、葉子が5歳までしか記憶にはないが

頭に手拭いをぐるりとまいて無造作におでこの横でしばり


葉子に頬ずりする父親の無精ひげがチクチク痛かった

痛がる葉子にわざと髭を押し付けて
アハハハと笑う父親の顔…

それだけは、四十年たった今でも、はっきりと覚えている

No.372 12/01/24 00:10
秋子 ( yuBCh )




みつの病名は…


末期の胃癌だった…

手術も出来ず


余命半年…


葉子は自分の家へみつを連れて来た…

残されたみつの余生を大切に…


一緒に過ごそうと葉子は仕事を辞めた…


夫の勝治と三人の穏やかな生活となり

昼間は母と娘の会話が増えた…


もっぱら孫である葉子の子供達の話しに集中する


そして…

事みつ「…父ちゃんより40年も長く生きてしまった…」

みつは…

指を順番におりながらぽつりと言った

No.373 12/01/24 00:15
秋子 ( yuBCh )

葉子「…母ちゃんが父ちゃんの話しするの…なんだか珍しいね…」


みつ「…」


みつと葉子の親子の会話は絶えないが

葉子の幼少期や、父の話題になると

何故か二人は無意識にそれを避けた

みつは夫の英三郎の話しはしない…

それは葉子がまだ小さい頃…


父親は、漁に出たまま帰らないとみつから聞いてはいたが…


近所の悪餓鬼に…

…お前の父ちゃんは、女としんじゅうしたんだぞ…


そう言われた事があった

No.374 12/01/24 00:20
秋子 ( yuBCh )

葉子は…

しんじゅうという言葉も意味も知らなかった…


だが漁に出て居なくなったはずの父の船は


実は港にあったのだった…


ある日母ちゃんに

しんじゅうってなに?…

そう聞いてみた


母ちゃんは…

笑い顔から、困った顔になり、目から涙をポロポロ流した


後ろ向きに涙を拭うみつを見て、

葉子も何故か泣いてしまった記憶がある


なにか途轍もない深い意味があるのだと、葉子は子供心にそう感じて


父の話しはもう、しない方がいいのだとその時思った…

No.375 12/01/24 00:23
秋子 ( yuBCh )

だが…

思春期で好奇心旺盛な中学生ぐらいの年頃になると


それは葉子の中で大きく膨らんで行った


夢の中での父ちゃんは

いつも酒を飲み赤い顔で軍歌を唄う

だが…その隣には霧に包まれた女の姿があった…

一体誰だろう

人の父ちゃんと色恋沙汰になり

一緒に死んだ女

No.376 12/01/24 00:29
秋子 ( yuBCh )

ある日みつの弟の清おじちゃんに


怒られてもいいから


意を決してそれを聞いた事があったのだが…



崖の上に二人の靴が並べて置いてあった事ぐらいで


…もう聞くな…


そんな曖昧な答えが返ってきたと思う…


男女の靴を並べて、崖から手に手を取り落ちて行った二人…


その想像は


当時の葉子に衝撃的に残った…

No.377 12/01/24 00:32
秋子 ( yuBCh )

やがて…葉子も結婚して家庭を持つようになると


自分の夫にそんな死に方をされたみつの事を考えるようになった


みつは一体どんな思いで葉子を育ててきたのか


心の中に色んな思いを押し込めたままみつは生きて来たのだろう


ふとみつに目をやると


ソファーに横になり眠っているようだ…

No.378 12/01/24 00:40
秋子 ( yuBCh )

年は明けた…

病院通いと薬と…

みつは痩せ衰えてはいたが

我慢しているのか、特に体の不調を訴える事なく過ごしていた…


そして…春になった…


春の日差しが暖かくなったある日…

みつを連れて

港町の家に出かけた…

家主を失った懐かしい家の周りには

雑草が生い茂り淋しく無残な光景だった…


みつは歩き出すと

草だらけの畑を通り越し


ある場所まで行くとピタリと止まった


みつ「…ごめんな…ごめんな…こんなに…草茫々にして…」

そう言い

丸くなるり…いきなり素手で草をむしり始めた


そこは畑の隅っこに…

穏やかに蕾を膨らませていた…沈丁花の根のまわりだった…


葉子「…かぁちゃん止めなよ…疲れるよ…あとで私が草刈りにくるから…」


そう葉子が言っても


みつは夢中で草をむしっている

そのむしり方は、異様なほど早く…

狂乱じみてさえ見える


みつ「…ごめんよ…ごめんよ…」


そしてやがて泣き声に変わった…

No.379 12/01/24 00:46
秋子 ( yuBCh )

その日から何日かしてみつの容態は急に悪くなり


入院した…


若い色白の先生は

「会わせたい人がいたら会わせて下さい」


そう言った…


それから、みつは沈丁花の花を見る事なく


ひっそり逝った…

親戚が集まり、ささやかに…みつの弔いをした…

No.380 12/01/24 00:54
秋子 ( yuBCh )

清おじちゃんとも久しぶりに会った…

夫の勝治と清おじちゃんが飲みながら話しをしていた

そこへ葉子はビールを持って行った

清「葉子…ここへ座れ…」


清は酔っているのか、目尻にシワを寄せて

葉子の肩をトントンと叩いてそう言った


清「かぁちゃん…今頃…父ちゃんと会ってるかもな…」

葉子は、座りながら言う


葉子「…そうかな?…そうだったらいいね…」


清「…かぁちゃんに口止めされてたけど…もう話してもいいだろう…」

葉子ははっとして耳を傾けた

No.381 12/01/24 00:57
秋子 ( yuBCh )

清「父ちゃんの遺体はとうとう見つからなかったなぁ…」


えッ?

知らなかった…

勝治も意外な顔をしている


葉子「そうなの?…それで…相手の人は?…」


清「…女の方はすぐあがったんだよなぁ…でもあそこは波が複雑に入り組んでいて…父ちゃんは沖に出て流されちまったかもな~」


葉子「そ…それで…相手の人って一体誰だったの?」

No.382 12/01/24 01:05
秋子 ( yuBCh )

清「…そうか…葉子はなんにも覚えてなかったんだな…
…ほら…
浜の近くに食堂があったろ?…
今はもちろん…影も形もないけど…」


食堂?!



そうだ!


…思い出した…


父ちゃんが浜で網の繕いをしているとき

葉子はよく父ちゃんを迎えに行って一緒に帰ってきた

その途中に確かに
食堂があった


父ちゃんはいつもコップ酒を飲んでいた



そのコップに一升瓶を両手で持って

酒を注いでいた女がいた…


着物の上に白い割烹着を着た…


あの人だ…

No.383 12/01/24 01:10
秋子 ( yuBCh )



葉子はしばらく呆然として…

おぼろげに遠い昔を思い出していた…


あの女の顔は思い出せないが


髪を綺麗に結い

髪の束ねた隙間に赤いクシを刺していた…


清「…母ちゃんは…葉子をあの食堂に…よく父ちゃんを迎えにやらせてたよな…」


葉子「…そうだったの……」


二人が変な関係にならないようにと願ったのか

それとも…

女に父ちゃんの家族を意識させる為だったのだろうか

母ちゃんは葉子を迎えにやらせていたのだった…

No.384 12/01/24 01:14
秋子 ( yuBCh )

みつがいなくなって…


葉子はみつの家を訪れた…


草刈りに来ると言いながら


みつが入院して以来すっかり


家も畑も荒れ放題になっていた…


ふと沈丁花を見ると…


毎年この時期にいい香りを漂わせ咲いていたのを思い出す…


今年は誰にも見てもらう事もなく、散ってしまった…

だが…あの狂ったようなみつの草むしりは


一体何故だろう?…


ごめんよ…ごめんよ…


涙まで流して…

No.385 12/01/24 01:18
秋子 ( yuBCh )

ふと葉子は思った

そういえば、この沈丁花はいつからここに咲いていたのだろう


昔はこの辺り一面ジャガイモ畑だったはず…


そしてこの奥には行ってはならない場所があった…


大人の背丈ほどの竹藪がしばらく続き


その先は雑木林になっているが…


山菜が沢山とれた

だが…山菜を取りながら進むと


やがて…眼下は絶壁になっていて


高さは20メートルもあろうか


うっかり足を踏み外したら海に真っ逆様に落ちる…


絶対行ってはいけないと


葉子はみつに何度も言われていた…

だが…


葉子は思い出してしまった…


それは…


遠い日の記憶を紐解くように…

No.386 12/01/24 01:23
秋子 ( yuBCh )

あの日…


父ちゃんは、あの赤いクシをさした女と

笑いながら


この竹藪へ入って行った…


それを、葉子は見ていた…


そして…母ちゃんに


『父ちゃん、食堂のおばちゃんと…
危ないとこへ入って行ったよ…』


そう言ったんだ…

No.387 12/01/24 01:29
秋子 ( yuBCh )

そのあと 母ちゃんは…


山菜をとりに行くと言って


紐の長い袋を首にさげ


鎌を持って…


あの竹藪に入って行った…


葉子は、家へ入ってお菓子を食べ


テレビで豚の人形劇のブーフーウーを夢中で見ていた…


そして…そのまま眠ってしまった…

母ちゃんに起こされたのは


夜だった…


そして…


そして…


父ちゃんが海へ漁にでたまま戻って来ない!


そう言って母ちゃんは大きな声を出して泣いていた…

No.388 12/01/24 01:32
秋子 ( yuBCh )

あの日だ…

たしか

あの日だった

葉子はしゃがみ込んだ…

あの後 あの三人は一体どうなったのか?


先に入って行った男と女は楽しそうで…

とても心中するとは思えない


だとすると


その情事を母ちゃんは見てしまったのだろうか?


父ちゃんの遺体はみつからない


葉子には…

ある恐ろしい想像が渦巻いた


家続きの小屋に向かって走ると


スコップを持って来て


沈丁花を掘り出した…


もしかして…

もしかして…


根は何処までも深く、

葉子は狂ったように掘り続けた

No.389 12/01/24 01:40
秋子 ( yuBCh )

やがて…


沈丁花はひっくり返り


根の下から…


白い骨がボロボロと姿を表した…


父ちゃんだ!

これは、

父ちゃんだ!


葉子は強烈な吐き気に襲われ


ゲーゲー吐いた…


母ちゃんは…

母ちゃんは…


父ちゃんを…



葉子は気が狂ったように

叫び続けた


『あ──────────────────────────────────』



…完…

No.390 12/01/29 10:11
秋子 ( yuBCh )

…第15章…

…画面に写る女…

No.391 12/01/29 10:19
秋子 ( yuBCh )

俺の名前は小村昭夫

35歳独身…

ぽっちゃり系で背は低く、口下手で小心者…


女とはとんと縁のない男だ…


ある日社内でソフトボール大会があった…

運動神経も悪い俺は、キャッチボールをしていて


「こむら~」

そう誰かに呼ばれて横を向いた瞬間

ボールが左目を直撃した…


目から火花が飛び散り激痛が走った

「いてて…て…」


「大丈夫…か?」

目を押さえて、かがみ込む俺に同僚が駆け寄るが


人のいい俺は

「大丈夫です…」

目を冷やして試合はベンチで観戦した…


痛みも収まり、時々目を開けてみるが、長く押さえていたせいか

左目はぼんやりとしか見えない

同僚に

「病院行った方がいいんじゃね~?」

そう言われたが


「明日になったら治るべ…」

そう言い、打ち上げでたらふく飲み食いして


家に帰ってきた

No.392 12/01/29 10:23
秋子 ( yuBCh )

夜、右目を抑えて左目だけを開けてみる


蛍光灯がチカチカして、ぼんやりしか見えない

痛みはないが目の奥に違和感が残っている

やっぱり明日病院へ行こう

失明したら大変だ
酔いも回ってやがて俺は爆睡してしまった…

No.393 12/01/29 10:28
秋子 ( yuBCh )

朝、まだ違和感はあったが

昨日よりはいくらか良くなった気がする

鏡を見ると、目の回りが紫色に内出血して真っ黒に見える


ふと映画で見た明日のジョーを思い出し


「立て!…立つんだジョー!……」
拳を突き出し、思わず吹き出した


眼科か…

面倒くさいな…

左目はぼんやりだったが右目がカバーしてくれるせいで…

それ程支障はない

もう少し様子を見よう…

眼帯をかけ普通に出社した…

No.394 12/01/29 10:35
秋子 ( yuBCh )

会社へ着くと

眼帯の俺はみんなの注目を浴びた


「小村さ~ん大丈夫ですか?」


女の子たちが声をかけてくれる

優しくしてくれる…

俺はなんだか転校生の気分だ


昼休み、普段から憧れていた…あの園美ちゃんまで

園美「だいじょうぶ?…病院行ってきたんですか?…」

そう声をかけてきた


う…嬉しかった

小村「大丈夫ですよ…だだ目のまわりが酷いことになって…いや見せられないですけどね…」


園美「…ちゃんと見えてます?…」

園美ちゃんの目が近づいてくる…

小村「…どうだろ眼帯してるからよくわかんないよ…」

園美「…ちょっと眼帯はずしてみせて…」

園美ちゃんの弟もサッカーしていてボールが目にあたり、網膜剥離になったと説明してくれた

小村「…笑わないで下さいよ…薗美ちゃんにだけ特別に見せちゃいますから…」

眼帯をはずした

No.395 12/01/29 10:43
秋子 ( yuBCh )

左目をゆっくり開けた


おかしい…

なんだこれは…


真ん中が映っていない

まるで壊れ掛けのテレビ画面のように縁だけしか映っていない


薗美「…やだ…目が真っ赤よ…」


そう言う薗美ちゃんを見た時


俺は…

見えない目で…


あるものが…


見えたんだ…


壊れかけた真ん中に浮かび上がる映像…



No.396 12/01/29 10:50
秋子 ( yuBCh )

画面の真ん中に薗美ちゃんがいた…

男と抱き合い、見たくないがキスをしている…

相手は知らない男…

イケメンで背が高そうだ…

薗美ちゃんは幸せそうで

薗美ちゃんの回りにオレンジ色の明るいオーラが出ていた


しかし男のオーラは…

薄汚れた灰色だった…


薗美「…ダメよ小村さん、病院行かなきゃ!…」

薗美ちゃんの少々真剣で、張り詰めた声が聞こえて

俺は我に返った…

No.397 12/01/29 10:53
秋子 ( yuBCh )

薗美ちゃんは色々アドバイス的な話しを続けてくれていたが


俺はさっきの映像が頭から離れないでいた…


また薗美ちゃんを
壊れ掛けの画面に映るように

見た…




…男はいた…


さっきのイケメンのあの男だ…


暗闇のベッドの上で

女と絡み合っている…

実に嫌らしいセックス描写だ…


相手は…

薗美ちゃんではない

派手な頭ギンギン色の女だ…


薗美「小村さん聞いてるの?」


やがて昼休みは終わり

薗美ちゃんへ適当にお礼を言い


俺は再び眼帯をかけて仕事に戻った…

No.398 12/01/29 11:55
秋子 ( yuBCh )

ボーっとしていた

目の異常と…

薗美ちゃんと…

男と…

セックス…


だが…

俺の目に映ったというだけの事だ…

現実ではない…


目の神経は脳に一番近いから


俺の…妄想が映っただけなのかも…

仕事に全然集中できないまま


退社時間になっていた…


会社の前で薗美ちゃんが近づいてきて


紙に書いたメモを渡した


薗美「ここの眼科 ね…弟も看てもらって…いいお医者さんなの…必ず行ってね…必ずよ!…」


小村「ありがと必ず行くね…あの…園美ちゃん…」


園美「…なに?…」

小村「…園美ちゃん…彼氏いるの?…」


園美「…ん……どうして?…」


小村「…はっき答えてくんない?…」


園美ちゃんは…


多分…俺が園美ちゃんに気があると思っただろう


それでもいい


俺はどうしても聞いておきたかったんだ…

No.399 12/01/29 20:18
秋子 ( yuBCh )

園美「彼氏…いるよ…」


園美ちゃんは、俺に申し訳なさそうに…

そして…

だから諦めて…

みたいな雰囲気で言った

小村「…そう、分かったよ!…」


俺は、少し寂しかったが…妙に納得して

園美ちゃんと別れた…

夜…園美ちゃんに貰ったメモをよく見ると…

眼科の住所と…


*迷ったら連絡頂戴
ヽ(^^)

携帯の番号も書いてあった

なんて可愛い文字だろう…

俺は携帯に園美ちゃんを登録した

虚しさと…嬉しさが半分半分だったが…

No.400 12/01/29 20:35
秋子 ( yuBCh )

朝…

俺は園美ちゃんのメモを見ながら眼科へ向かった


手術とか、最悪失明したら…

でも片方の目があるから…

なんて心配しながら待っていると

「小村昭夫さん」


俺は診察室に入って行った


若い男の先生がパソコンから目を離し、俺の方を向いた

その先生の顔を見て…


俺は驚愕した!!


あのイケメン野郎だ!!

間違いない!

こいつが園美ちゃんの彼氏なのか!

驚いて固まっている俺に

「どうかしましたか?眼帯はずして下さい…」

イケメン野郎が眼帯をはずして俺の目を覗いた


すると…

また…見えた

イケメン野郎が画像に浮かび上がった…

それは…

イケメンが女と二人、椅子に座って下を見ている…


まさか読書でも?

よく見ると…

腕に…注射器…

まさか…

まさか…

覚せい剤?…


「…ウ…ウ…ウオ〰〰〰〰〰〰〰〰💦」


気がつけば俺は病院を飛び出し、夢中で走り出していた…

No.401 12/01/29 20:54
秋子 ( yuBCh )

まさか…

あいつ…

まさか…

あの可愛い園美ちゃんの腕にあんなものを注射する気じゃ?!


園美ちゃん!

園美ちゃん!

俺は頭の中で

呪文のように何度も何度も繰り返し園美ちゃんを呼び続けた

そしていきなり立ち止まると

園美ちゃんに電話をかけていた…


でも…なんて言えばいいんだろう…

俺の妄想?

夢?

こんな昼間に夢なんか見る訳ないだろう

でも…妄想なら

俺は完全に園美ちゃんに嫌われる…

No.402 12/01/29 20:59
秋子 ( yuBCh )


園美「もしもし…」

小村「…園美ちゃん…俺…小村です…」

園美「…あぁ…小村さん?どうしたの?病院分かった?まさか迷子になっちゃったとか?…」

園美ちゃんは呑気に笑っている…

小村「実は…話しがあって…」

園美「…目の話し?結果分かったの?…あっじゃ…昼休みに…会社の近くの…」

俺は園美ちゃんが指定してきたファミレスへ急いだ…

No.403 12/01/29 21:38
秋子 ( yuBCh )

ファミレスへは早く着いてしまった

俺は食欲もなく珈琲だけ頼んだ…


水を持ってきて、注文を聞いたウエイトレスが

俺の顔をじっと見ている…

…あッ俺あわてて眼帯忘れてた

酷い顔してんだろな~俺…


すると…

ウエイトレスが画面に浮かび上がった


ウエイトレスらしき女の子の横にはベッドがあり、酸素マスクをして眠っている人がいる…お父さんだろうか?


俺はウエイトレスに聞いてみた

小村「…あの…もしかしてお父さん病気?…」

ウエイトレスは驚いて…

「…どうして知っているんですか?父と…お知り合いの方ですか?」


小村「…いえ…ちがいます…なんとなく…」

ウエイトレスは困惑顔でやがていなくなった

No.404 12/01/29 21:41
秋子 ( yuBCh )

そして隣のボックスに、2人の男が向かい合って食事をしている


俺を見てニヤニヤしている


話の一部だけ聞こえた


「…パンダ…」

パンダ?

俺のアオアザを笑っているのか?

俺はそいつらを見た

またまた映像が…
二人で船釣りに行って…鯛を釣り上げたところだ…


小村「…おおきい鯛が連れたみたいですね~」


男達は驚いて、ゴホゴホと

食べ物が気管に詰まってむせている…


驚いているのは俺も同じだ…

やっぱり俺は…

見えるんだ…

やがて園美ちゃんがやって来た…

No.405 12/01/29 22:04
秋子 ( yuBCh )

園美「…お待たせしちゃって…」

園美ちゃんはパスタを注文した


俺は何から話そうか頭の中で整理しようとするが…


ただ…黙って園美ちゃんの顔を見ているだけだった


園美「…それでどうだったの?…あのお医者さんはねぇ…すごく優秀でね…弟も……」


何も知らない園美ちゃんは、あんな恐ろしい男を優秀だなどと…


小村「…園美ちゃん!…園美ちゃんの彼氏ってあの先生だったの?…」

俺は苛つきながら言った


園美「えッ?…なんで知ってるの?…」

園美ちゃんの口元は幸せそうに笑っていた…

No.406 12/01/29 22:16
秋子 ( yuBCh )

小村「…あの男は…ダメだよ園美ちゃん…あの男は、園美ちゃんの他にも女はいるし……それに…」


園美「…小村さん…一体なにが言いたいの?先生に女?…まさか…何を根拠に…」


園美ちゃんは顔が見る見るキツくなった…


小村「…俺には見えるんだ…いい先生なんかじゃない…覚醒剤も打ってるし、恐ろしい人なんだってば!…」

あぁ言ってしまった…

No.407 12/01/29 22:26
秋子 ( yuBCh )

園美「…女?…覚せい剤?…」


園美ちゃんはショックだろう


悲し過ぎるよな…

俺だって言いたくなんかない…

だけど…

だけど…

園美ちゃんの為だ…

園美ちゃんを守りたいんだよ…


だが…

苦しい胸の内の俺の期待を見事に裏切って園美ちゃんは言った


園美「…小村さん…私に振られて傷ついたかもしれないけど…なにも…そこまでして…嘘を並べ立てなくても…」


園美は、笑い出した!

笑い事じゃないのに…

No.408 12/01/29 22:39
秋子 ( yuBCh )

小村「…園美ちゃん…園美ちゃんは可愛いから色んな男が言い寄ってくる!でも…いい男だから医者だからって、必ずしもいい人間とは限らないんだよ!…もっと内面を見なきゃダメだよ!…」



あれ?

俺…やっぱり振られた男のヒガミ?

そう思われた?


園美「…もういいわ!…小村さんって…最低ッ!」


や…やっぱり

当たりだった…

園美ちゃんの頼んだパスタ

遅すぎだよ…

園美ちゃんは、後ろ姿に怒りを見せたまま

出て行った…

No.409 12/01/29 23:01
秋子 ( yuBCh )

俺は部屋へ帰ってずっと考えていた…


俺はなんて言い方が下手くそなんだろう…


園美ちゃんにこれ以上なにか言ったら


俺は変態ストーカーで捕まるだろうな~


壁の鏡で顔を見ながらそう思った


だが…

…俺の見えたものが本当なら

園美ちゃんはマジで危ない

どうすればいいんだろう

俺は頭を抱えて、髪の毛をポリポリかきむしった…

No.410 12/01/29 23:26
秋子 ( yuBCh )

俺はなんとなく携帯の写メを見ていた

園美ちゃんの顔があった

いつか園美ちゃんの友達のA子に頼んで写して貰った…

俺はたまにそれをボケ~と眺めてる時があった


いかにも、小心者でモテない男のする事だよな~

そう苦笑いしながら園美ちゃんを見ていたら


…なんと

映ってしまった

また見えてきた!…

写真でも見えるんだ!


それは、園美ちゃんがあのイケメン野郎と車に乗っている映像だった!

No.411 12/01/29 23:35
秋子 ( yuBCh )

二人は楽しそうに話している…

車が走っている所は俺もよく知っている馴染みの街並みだ…

どこへ行くのだろう…

右折した…

あッ…そっちは!ホテル街だ!

園美ちゃん!

ダメだよ!

ダメだっつうの!


俺は部屋を飛び出した!…


No.412 12/01/30 00:04
秋子 ( yuBCh )

俺はただ夢中でタクシーを拾って

そのホテル街へ向かった…

見える…

ホテルの名は

…サクラ…
113号室


小村「……ホテルさくらへ行ってくれ!…頼む急いでくれないか!」

ホテルで、これから二人は一体なにをするのか

ホテルですることといったら…

あぁ!嫌だ!!

俺は園美ちゃんの淫らな姿なんか見たくもない

だが…

俺は携帯の園美ちゃんを

祈るように見た…


やがて…

怪しげな部屋の中へ入って行く

二人の姿が…見えてきた

No.413 12/01/30 00:28
秋子 ( yuBCh )

タクシーはホテルへ着いた


俺の心臓は戦闘態勢に入った

バクバクいってる!

二人はベッドに腰掛けて

イケメン野郎は園美ちゃんの手を握り

耳元でなにか話してる

園美ちゃんの嬉しそうな顔に

俺は苛ついた


やがて…イケメンは園美ちゃんを押し倒した


クソッ!


キスしている…


一分は経過した


な…長すぎるじゃねぇかッ!

俺は携帯をパカッと 閉じた!

No.414 12/01/30 00:36
秋子 ( yuBCh )

もう止めた!

アホらしい!

園美ちゃんがどうなろうが

別に俺の女じゃねぇし

なんで俺がこんな所で

二人のイチャイチャを見てなきゃねぇんだよ!

俺は帰る!!…

ホテルを後にして歩き出した

No.415 12/01/30 00:51
秋子 ( yuBCh )

ふと注射器が頭に浮かんだが…

医者が注射器持っていても別に不思議じゃない

誰かに、栄養剤でも打ってやってたのかもな~

女の一人や二人いたって別に、それは金持ちの世界なら普通の事なのかも知れない…

所詮、俺みたいなモテない人間とは住む世界が違うっつう事なんだ…


俺はポケットに携帯を突っ込んで


歩き続けた…

No.416 12/01/30 01:06
秋子 ( yuBCh )

しばらく歩いて…

ポケットの携帯のバイブが振動を伝えている…


着信を見ると

園美ちゃんだ!

あわてて俺は出た
小村「…もしもし…園美ちゃん?」

園美「……」


小村「…どうしたの?園美ちゃん!…」


携帯を耳に押し当てた…

「イヤ…ヤメテ…」

かすかに聞こえる園美ちゃんの声だ!…

「ドタバタ…ガチャン…」

部屋で暴れる音…
どうなってる?


ホテルで一体なにが?

俺は震える指で携帯の園美ちゃんを捜した

見えた!…

下着姿の園美ちゃんはイケメンに羽交い締めにされ


ベッドのシーツには注射器が転がっている


俺は来た道を引き返した!

No.417 12/01/30 01:21
秋子 ( yuBCh )

俺はホテルへ駆け込むと


従業員へ警察へ連絡してくれるように頼んだ


そして俺は115の部屋を探して


ドアを思いっきり叩いた


ドンドン!

ドンドン!

「園美ちゃん!園美ちゃん!…」


ガチャ…


中から下着姿の園美ちゃんが出て来た


そして、なんとこの俺にしがみついて泣き出した


俺はジャンバーを脱いで 園美ちゃんにかけてやった…


小村「…もう大丈夫だよ…大丈夫だよ…」


俺まで泣けてきた…


やがて警察が来てイケメン野郎は捕まった…


イケメン野郎にはもう未来はないだろう


そう俺は思った…

No.418 12/01/30 01:40
秋子 ( yuBCh )

それから俺は、別の眼科へ行った


網膜剥離で手術になった


術後は、苦しい態勢で何日も耐えなければならなかった…


だが…園美ちゃんは、毎日俺に会いに病院へ通って来てくれた


おかげで、俺の視力はドンドン回復していった


いつの間にか、あれはもう見えなくなっていた


園美ちゃんからバレンタインデーにチョコレートを俺は貰った…


そして…

そして…


園美「これからもずっと一緒にいたい…」


そう園美ちゃんは俺に言ったのだ…

俺は世界で一番の幸せ者だ…





…完…

No.419 12/01/30 01:59
秋子 ( yuBCh )

こんばんはヽ(^^)

訂正があります

ホテルさくら113号室

いつの間にか115号室になっていました
(゚Д゚)

ごめんなさい

そして…おやすみなさいませ

(-_-)zzz

No.420 12/02/06 21:59
秋子 ( yuBCh )

…第16章…



…笑う女…

No.421 12/02/06 22:08
秋子 ( yuBCh )

夜…大雪注意報が出ていた

朝…

「おい!すごい雪だぞ!…これじゃ車が出れないだろう!…早くどうにかしろ!…」


夫の靖彦は不機嫌そうに部屋へ戻って行った


幸恵は長靴を履き…ジャンバーを羽織ると


ズボズボと雪をこいで


車庫前の積もった雪をスコップで掻き始めた


時々吹きつける突風に身をかがめて収まるのを待った

「おい!早くしろよ!会社遅刻するだろ……トロトロすんな!…」


痩せた幸恵が、吹雪と除雪に格闘しているにもかかわらず


大の男の靖彦はぬくぬくと、家の中から早くしろと怒鳴っている


やっと車一台通れる位の幅ができあがると


靖彦は幸恵がこいで来た足の穴に皮靴を突っ込み、


バランスをとりながら出て来た…

そして、寒そうに背広のズボンについた雪をはらうと…車に乗り


後輪を左右へ滑らせながら出て行った

No.422 12/02/06 22:18
秋子 ( yuBCh )

幸恵は靖彦をろくに見送りもせず

黙々と除雪を続けた


一時間ほどしてどうにか雪を片付け終えると

幸恵の肩も腰も悲鳴をあげ、クラクラとめまいがした

部屋へ入ると

洗い終った洗濯物が、そのまま籠からあふれている…

パジャマ姿の姑の敏子が

加えていた煙草を指に挟んで立っている

姑は55歳

どっぷり脂のついた頬とくっきりした二重顎

煙を吐き出したその口で言った

敏子「幸恵さん雪かきご苦労さま…
でも…私の若い頃は朝早く起きてすませたわ…
あらあら…洗濯物もしわくちゃね…」


幸恵「はい…すみません…」

幸恵はそう言うと

洗濯籠を持ち上げ、洗濯機に放り込み

再びスイッチを入れた…


敏子を見ると

リビングのソファーにもたれて

珈琲を飲みながら韓国ドラマを見ている

No.423 12/02/06 22:30
秋子 ( yuBCh )

家事を終え、二階の窓から街を眺めると

いつの間にか青空が広がり一面の銀世界で眩しかった…


敏子「幸恵さん!ちょっと出かけてきますよ!」

敏子が下から叫んでいる


幸恵「はぁ~い」

昨日はダイエットでスポーツクラブへ行き…

今日は友達とランチに行くらしい…


靖彦の給料はボーナスも含め全て敏子が管理している


それは幸恵が嫁に来る前からの習慣であり

嫁が来たからといって改善される事はなかった

だから幸恵は靖彦の給料の額を未だに知らない

月に、食費・備品・として六万、敏子から渡されるだけだ…


敏子は夫の遺族年金、そして靖彦の給料を自在に扱っている


幸恵が下に降りると敏子が派手な毛皮のジャンバーを着て

車に乗り、出かけて行くのが見えた

…ふと見ると

テーブルには敏子が使った花柄の珈琲カップがあり

飲み残しの珈琲が少し入っている

幸恵はそれを手に持つと

台所のシンクに叩きつけた

花柄の陶磁器は粉々に壊れた…

No.424 12/02/06 22:36
秋子 ( yuBCh )

夜…

なんとなく感じる気配…

隣のベットで寝ていた靖彦が


幸恵のベットへ入ってくる


寝たふりをするが

靖彦「おい…幸恵…」

靖彦にゆさぶり起こされた


靖彦は幸恵の頭を持ち上げると

ひざまづいて自分のそれに幸恵の顔をあてがわせた

幸恵はそれを口に入れる


靖彦「…ァ……ァ…お前は下手だなぁ…もっと舌を使え‥」


お前は?

一体誰と比べているのか

ヘドが出そうな、その行為をしばらく続けると


靖彦「もういい!…お前じゃ満足しない…なんてつまらない女だ………」


そう言うと下着を履き部屋からぷいと出て行った

やがて車で出て行く音が聞こえた

No.425 12/02/06 22:42
秋子 ( yuBCh )

朝…靖彦はまだ帰っていない

ふと外を見ると

昨日ほどではないが雪は積もっていた

敏子に嫌みを言われたくない

幸恵は起き上がった

玄関をゆっくり開ける

外は暗く、完全防備でも寒さが深々と伝わってくる


ガサガサ音がして振り返ると


向かいに住む中畑がいた

中畑は自分の除雪を終えスコップを片付けようとしていた…


中畑「おはようございます…降りますね~」


幸恵「…ほんと毎日ですね~もう終わったのですか?早いですね~」

中畑「…手伝いますよ…」

幸恵「…えっ…そんな悪いですよ…」

中畑「まだ出勤には早いし…」


そう言うと中畑は幸恵の家の前・車庫の前

黙って雪を片付け始めた…

中畑は子供二人と妻との四人家族

休日には車で何処かへ出かけて行く

仲のよい4人の姿を幸恵は二階の窓からよく見ていた

二人はただ黙々と除雪し続けた

No.426 12/02/06 22:49
秋子 ( yuBCh )

やがて雪も片付き

ジャンバーの下から汗が吹き出してきた


幸恵は家の中からコーラを二本持ってきて一本を中畑に渡した

幸恵「…ありがとうございました…助かりました…」

中畑「…あぁどうも、…」


幸恵「…除雪は嫌だけど、終わると気持ちいいですね…」

中畑「ほんと…また降るでしょうけどね…」

中畑はフーっと煙草を上手そうに吐き出した

やがて空に朝日がさしてきた

中畑「…じゃ…」

中畑はスコップを持って自宅へ入って行った

寡黙で優しい中畑…

こんな優しい男性もいるんだ…

私はどこで間違えたのだろう

夫の靖彦は結婚してから、変わったのではない

結婚前からこういう性格だった

それを自分は見破れなかったのだ

中畑の奥さんは幸せなんだろうなぁ…

幸恵は羨ましかった

No.427 12/02/06 23:06
秋子 ( yuBCh )

中へ入ると敏子はもう起きていた…

幸恵「おはようございます…除雪終わりました…」

敏子はテレビ画面から目を離さずに
敏子「…そう…あなたは子供がいないから…楽よね~」

また嫌みたっぷりにそう言った

…その時…

靖彦が玄関の戸を開けリビングへ顔を出した

敏子「あらヤッちゃん(靖彦)?こんなに朝早くからどこ行ってたの…」

昨夜…靖彦が出かけたのを知らない敏子が不思議そうに聞いた

靖彦「…あッ…ちょっと煙草買いに…」

明らかな嘘だったが、靖彦は二階へ上がって行った

敏子「……煙草ぐらい買い置きしておけばいいのに…やっちゃん寒かったでしょうに…可愛そう…」

敏子は階段を見上げている


可愛そう?


暗いうちから除雪をしている私は可哀想じゃないのか?

結婚した時はあんなにいい夫、いい姑をアピールしておきながら

気がつけば

思いやりの欠片もない、ただのモラハラ親子だった

情けなくて…呆れるが

真紀子は笑顔で言う

真紀子「…はい今度から買い置きしておきます…」


敏子は満タンの珈琲ポットを片手に持ちながら

敏子「…あのカップどこやったかしら…」

ブツブツ言いながら食器棚をあっちこっち探している

No.428 12/02/06 23:09
秋子 ( yuBCh )

それから雪が降った朝は

中畑が幸恵の雪かきを手伝ってくれるようになった

申し訳ないとは思いつつも

幸恵は中畑の優しさが嬉しくて、断りきれないですっかり甘えてしまっていた

そしてそれはやがて二人だけの日課になって行った…

雪かきが終わるとどちらからともなく飲み物を持ってきて一緒に飲み


夜が明けるまでのほんの短い間…

話し込んだ

たいした会話ではなかったが

幸恵にとって楽しいひとときだった…

No.429 12/02/06 23:22
秋子 ( yuBCh )

そんな事がつづいたある日

いつものように二人は除雪を終えて…

中畑が煙草に火をつけようとするが

ライターの火は風で力なく消えた

何度かその仕草を続ける中畑の手に

幸恵の手も一緒に風よけに重ねようと手を添えて…

二人が接近したその時だった

中畑家の玄関が開き

中畑の妻が上着も着ないまま出てきた

幸恵が挨拶しようとして構えた時

妻は…

幸恵の頬を…

ピシャリと叩いた!

あまりに突然の事に驚いてなにがなんだかわからないまま

頬を押さえると

中畑の妻は興奮して言った

「人の旦那に色目使うんじゃないよ!!!…」

強い言葉だった…

中畑が妻の腕を引っ張り

中畑「すみません…こいつは、勘違いしてるんですよ…」

だが妻は怒りが治まらない様子で

「ちょっといい女だと思って…いい気になってんじゃないの?!!…」


予想外の冷たい言葉を投げつけた


幸恵「誤解です!…そんなつもりありませんから…」

中畑は幸恵に何度も謝り…

妻をなだめ…

やがて二人は中へ入って行った…

雪の上には中畑のライターが落ちている

幸恵はショックでしばらくその場を動けなかった…

No.430 12/02/06 23:42
秋子 ( yuBCh )

それから雪が降っても

中畑は夜中に雪かきを済ませているのか

家の周りは整然としており中畑の姿を見る事はなかった…


ふと車の音がした
靖彦が帰ってきたのだ


最近靖彦が不可解な行動をするようになった

いつも通りに会社から帰宅した後

風呂へ入り夕飯を済ませると

何かに理由をつけては出かけて行くようになっていた

No.431 12/02/06 23:44
秋子 ( yuBCh )

車から降りる靖彦に

真紀子「…お帰り…」

そう声をかけると

靖彦「旦那が朝帰りしても、なんとも思わんのか?…呆れる…」

そう言うと靖彦は雪の上に

ぺッ…とツバを吐いて中へ入って行った…


幸恵は中畑の家の玄関をチラッと見て

玄関の戸を閉めた

No.432 12/02/06 23:59
秋子 ( yuBCh )

家へ入ると敏子がいつものパジャマ姿で靖彦を見上げ

敏子「やっちゃん…夜いつもどこへ行っているの?」

最近の靖彦の行動に疑問を持ち、思い詰めていたのか敏子がそう聞いた

すると靖彦は幸恵を見ながら

靖彦「…こんな陰気臭い家になんかにいられないよ!…俺だって楽しい所に行きたいからね…」

さも敏子に同調して欲しそうに言ったが


敏子「…そんな、やっちゃんまさかあなた…………?」


まさかあなた…浮気でも…と言いたかったのだろうか?…

だが、敏子は幸恵を見て言葉を飲み込んだ

靖彦は二階へ上がった

幸恵は靖彦の後ろ姿を見ながら

顔を両手で覆い泣き出した

敏子「ゆ…幸恵さんなに泣いてるの?…あなたが陰気だから…靖彦だって…」


靖彦だって?…浮気の一つや二つと言いたいのだろうか…


幸恵「…お義母さん…やっぱり…靖彦さんは不倫してるのでしょうか?…ウッ…」

幸恵は泣き続ける

敏子「あなたねぇ…浮気は男の甲斐性よ…妻なら黙って耐えなさい!!」


江戸時代か明治時代の話しじゃあるまいし

笑い出したい腹の中を必死で堪えながら幸恵は続けた

No.433 12/02/07 00:06
秋子 ( yuBCh )

幸恵「…もし…離婚とかって…ウッウッ…私はどうすればいいんですか?慰謝料…頂だけるのでしょうか?……お義母さん!!…」


敏子は唇を震わせながら

敏子「…慰謝料?慰謝料貰って靖彦と別れるつもり?…なんて怖い人なのあなたは!!…!」

敏子はそう言い切ると、逃げる様に自分の部屋へ入って

バタンとドアを閉めた


幸恵は…

ニヤリと笑って、朝食の支度にとりかかった

No.434 12/02/07 00:15
秋子 ( yuBCh )

そして…

ある昼下がりの買い物での事だった…

スーパーの中に中畑の、あの妻がいた…


幸恵に気がつくと一瞬たじろぎ、目が丸くなっている

その妻の顔をまじまじと見ると

顔の真ん中でアグラをかいたような大きな鼻…

やたら小さい目…

スタイルもいまいちだった

幸恵「…こんにちは中畑さん…先日は失礼しました」

意外に陽気な幸恵に

呆気にとられたのか

妻は素っ気なく通り過ぎようとした

その背中に幸恵は言葉を突き刺した

幸恵「…その顔じゃ旦那さんが私に言い寄るのも仕方ないわね~ぷっ…フフフ…」

怒り顔で振り返った妻に…

幸恵は髪をかきあげわざと色っぽい顔をして見せた

妻の小さい目はつり上がりまるでキツネのようだ…


「あ…あなたは…なんて…失礼な人なの?!」

幸恵は含み笑いを浮かべた…

そして頭を下げて立ち去り…

スーパーを出て大通りでゲラゲラ笑い出した…

No.435 12/02/07 00:40
秋子 ( yuBCh )

申し訳ありません

また眠くなりました…

また明日書き込みます

読んで下さって
とても、とても、嬉しく思います

ありがとうございます…

では…では…

また明日✋

オヤスミナサイませ

m(_ _)m💤

No.436 12/02/07 18:19
秋子 ( yuBCh )

お詫びです

一部 幸恵の事を真紀子と記載してしまいました

真紀子は登場しておりません


ごめんなさい

m(_ _)m

No.437 12/02/07 18:24
秋子 ( yuBCh )

そんなある日…

幸恵は久しぶりに美容院へ出かけた…

美容院の鏡はどうしてこんなに大きいのだろう


その道路をはさんで向かい側には

高級料亭『牡丹』があり

その入り口が鏡にはっきり映っている…

そこに一人の中年の女が派手な毛皮のジャンバーを着て

誰かを待っているのか…

寒そうに右を見たり左を見たりしている


それが姑の敏子だと気がついたのは

幸恵がこの鏡の前に座り…

美容師がロッドを巻き終わって

持ち場を離れた時だった…

No.438 12/02/07 18:28
秋子 ( yuBCh )

友達と買い物へ行くと言って出かけたはずの敏子は

いったい誰を待っているのか

幸恵が敏子に気がついてから

かれこれ10分は経過していた…

やがて、敏子は誰かに手を振り

ここ… こっち…
そう叫んでいるようだ


待ち人…それは…

若い男だった…


年頃は…靖彦と同じくらいかそれよりもっと上だろうか?


栗色のツヤツヤした前髪をたらし垢抜けた横顔…



ホスト風だ…


二人は料亭『牡丹』へ入って行った…

No.439 12/02/07 18:40
秋子 ( yuBCh )

それから一時間ほどして幸恵は美容院から出た


二人が牡丹から出た様子はない…

幸恵は隣りの本屋で立ち読みをして
牡丹を見張っていたが


諦めて、文庫本を一冊買って本屋を出ようとした時


遭遇した…

不釣り合いに腕を組み歩く二人

その後を幸恵はつけて行った…


やがて二人が何処かへ入って行き

その姿は消えた


その建物はホテルだった…


やっぱり…

敏子は…幸恵が見ているなどとは夢にも思っていないだろう


…偶然とは怖ろしいものだ…

幸恵はそう呟いてニヤリと笑った…

No.440 12/02/07 18:45
秋子 ( yuBCh )

そしてある夜の事だった…

また靖彦が何処かへ出かけて行った…

幸恵はそれを窓から見送った…


敏子「…靖彦も寂しいのね…楽しみぐらい持たないと…」


幸恵「…お義母さんも…お楽しみがありそうですものねぇ…」

意味あり気に幸恵は敏子に言った

そして反応を伺った

敏子「…楽しみ?私の?…」

敏子はあいかわらず高飛車だが…

幸恵「…お義母さんも…お寂しいのですよね…」

敏子の顔色が ガラリ変わった

No.441 12/02/07 19:51
秋子 ( yuBCh )

敏子「…なにを馬鹿な事言ってるの?!……あなたとなんか話したくもないわ!…」

話しを終わらせたい敏子は立ち上がり

自分の部屋へ行きかけたが…

幸恵はそれを止めるように言った

幸恵「…見ましたよ!…牡丹……それから…フフフ」

敏子は立ち止まり体中が固まったようだ


幸恵「…いえ…いえ…お義母さんは靖彦さんとは違って、独身ですもの…」


敏子「な…なにが言いたいの?」

幸恵「…やだ…大丈夫ですよお義母さん…中高年女性と、息子ほど年が違う男の人と愛し合うのは…今時全然ありですよ…なんにも悪い事じゃありません…」

敏子「…」


幸恵「……ただね…」

No.442 12/02/07 19:55
秋子 ( yuBCh )

敏子「…ただ?…ただ…なんです?!!」


怒りと不安が入り混じって混乱した敏子だった

幸恵「…お義母さん…靖彦さんは?知ってるんですか?……あぁ…靖彦さんは公認だったのですか?…」


敏子「いえ…知らないわ…靖彦には…靖彦には…言わないで!…」


高飛車な天狗は鼻が折れ

幸恵にすがるようにそう言った

完全に今までとは立場が逆転した

断然有利な幸恵は味わった事のない快感に酔いしれていた…

No.443 12/02/07 20:03
秋子 ( yuBCh )

幸恵「…あぁ…やっぱりね……分かりますよお義母さん……息子には知られたくないですよね~」


敏子「…止めて…もう止めて…」

幸恵「…お義母さん…もし靖彦さんが知ったら…ショックでしょうね…靖彦さんお母さん大好きですもんね…」

緊張した沈黙の時間が流れた…

やがて大きく敏子は深呼吸すると


敏子「…幸恵さん…靖彦に黙っていてくれたら…私…なんでもします…」


幸恵「やだ…なにを仰るのお義母さん!………」


横目で、鋭く幸恵を睨むと

敏子「…で?…いくら欲しいの?……」


真剣にそう言った…

No.444 12/02/07 20:12
秋子 ( yuBCh )

幸恵「お金?…まるで口止め料みたいじゃないですか?…」


敏子「…はっきり言いなさい!…いくら欲しいんですか?」


幸恵「…仕方がないですね~お義母さんのお願い…最後に聞いてあげないと…」


幸恵は人差し指を一本立てた

敏子「…一千万!?…」

幸恵「これで、靖彦さんに知られずに済んだら…安いものですよ…ねぇお義母さん…」


敏子「…分かりました…でもあなた靖彦からも慰謝料とるつもり?」

幸恵「…靖彦さんの不倫?…全然気になりません…私…靖彦さんを愛してませんもの…フフフ…
それに私は…出て行きますから…あとの事はもう関係ありませんので…」


やがて、話しが終わり幸恵が二階に上がると


唸るような敏子の泣き声が聞こえてきた…

No.445 12/02/07 20:18
秋子 ( yuBCh )

やがて…

ある日、幸恵の銀行口座に振り込みがあった…

確かに一千万…敏子から振り込まれていた…

幸恵の結婚生活に対する精神的慰謝料…


幸恵は銀行から外へ出て

笑い出した

笑いが止まらなかった…

あはははは~

あははははは~


その時…

幸恵の後ろ、右わき腹に激しく熱い痛みが体を突き抜けた…


振り返るとあの中畑の妻が

刃先が真っ赤に染まった刺身包丁を持って立っていた…




妻「…いくら…いい女でも…死んだら…終わりだよねぇ……フフフ…あははははははは…」


幸恵は血で染まった雪の歩道に


ゆっくり倒れた…


…完…

No.446 12/02/07 22:16
秋子 ( yuBCh )

秋子です✋

読んで下さってる方へ…

物語の殆どが妄想でありフィクションです
これが小説と呼べるほどのものかどうか

本当は自分でも恥ずかしい限りです
色んな女を書くたびに、まるで自分がその女達に生まれ変わり、魂が乗り移るような、ハラハラ・ドキドキする感覚を味わいました

とても楽しいかったです(*^_^*)

それで…

今回はこれで終わりにしたいと思っております

読んで戴きまして心から感謝いたします

皆様も風邪などひかれませんようにお体に気を付けて下さいませ


では…では…

またいつかどこかで…

m(_ _)m

  • << 450 主さん😃 いつも楽しく読ませて頂いてます😃 出来れば 悲しい女2も書いて頂いたら嬉しいです😊

No.447 12/02/08 08:47
秋子 ( yuBCh )

残りのレスを使い
悲しい女 全16

レスを解放いたしましたので
どんな事でもかまいません
感想をお寄せ下さいませ


m(_ _)m

No.451 12/02/08 09:35
秋子 ( yuBCh )

>> 448 いつも楽しみに更新待ってました。終わってしまうなんてとても寂しいです。是非また近い将来にでも書いて下さいね。待っています。 あいさん
ありがとうございますm(_ _)m

また書いてもいいですかね?
あまり自信がなかったのでとっても嬉しいです

ありがとうございました(*^_^*)

  • << 453 是非書いて下さい。待っています(^O^)

No.457 12/02/08 13:40
秋子 ( yuBCh )

>> 449 今、『そこまで書いといて放置かい😥』の方がほとんどの中、主様の物語は、短編でありながらも、内容が色濃く、本当に、面白かったです😃 いつも… 恋歌さん

お礼が遅くなってごめんなさい

なるべく早く読み切れるようにと短編にしました

ただ、私自信経験もなく想像だけの文章なので どういう風に伝わるか心配でした

読んで戴いて、本当にありがとうございました

m(_ _)m

No.458 12/02/08 13:42
秋子 ( yuBCh )

>> 450 主さん😃 いつも楽しく読ませて頂いてます😃 出来れば 悲しい女2も書いて頂いたら嬉しいです😊 ふうさん

お礼が遅くなってごめんなさい

また書きたいと思ってしまいました
読んで戴いてありがとうございましたm(_ _)m

No.459 12/02/08 13:44
秋子 ( yuBCh )

>> 452 いつも楽しみに読んでました。終わってしまってホント残念です😢 またいつか、主さんの作品にお目にかかれることを楽しみにしています。 お疲れ… 匿名さん

お礼が遅くなってごめんなさい

残念と思っていただけるなんて幸せです

読んで戴いてありがとうございましたm(_ _)m

No.460 12/02/08 13:46
秋子 ( yuBCh )

>> 454 【悲しい女】楽しみにしてました😉終わってしまうの寂しいです😱 凄く読みやすかったですよ~第○章とあったので…まとめて読んでました😁 また… aikoさん

お礼が遅くなってごめんなさい

はい…嬉しい女ですね😅

頑張ります

読んで戴いてありがとうございましたm(_ _)m

No.461 12/02/08 13:48
秋子 ( yuBCh )

>> 455 毎回楽しみにしていました。お疲れさまでした😃 もし新作書かれるのでしたら、必ず読みますね😊 面白かったです。 匿名さん

お礼が遅くなってごめんなさい

面白かったですか?嬉しいです😢

読んで戴いてありがとうございましたm(_ _)m

No.462 12/02/08 13:50
秋子 ( yuBCh )

>> 456 はじめまして(^o^) とても楽しみにいつもいつもワクワクしながら読ませて頂いてました)^o^( ぜひとも主さんのお話しまた機会があれば読ま… ほあママさん

お礼が遅くなってごめんなさい

また書きたいです
その時は、ぜひ読んで戴きたいです

読んで戴いてありがとうございましたm(_ _)m

No.464 12/02/08 15:31
秋子 ( yuBCh )

>> 463 きんさん

昼は何かに落ち着かないので

投稿するのはいつも自由になる深夜が多かったです

ぜひまた書きたいと思います


読んで戴いてありがとうございますm(_ _)m

No.467 12/02/08 16:21
秋子 ( yuBCh )

>> 465 毎回更新されるのを待っていました☺ 読みやすくどんでん返しもあってワクワクしてました。 書き終え、お疲れ様でした😃 また書いて下さい😊 ま… みいさん

ありがとうございました

一人で書いている時は、こんなの読んでくれる人なんかいないだろうな~
なんて結構孤独に感じる時もありました

でもみいさんや皆さんの感想を戴いて、書いて良かったとしみじみ思っています😅

また書きたいと思います

その時はぜひ読んで下さい

お願い致します
(*^_^*)

No.468 12/02/08 16:27
秋子 ( yuBCh )

>> 466 こんなに読み応えのある作品をありがとうございました🙇 しかし、楽しみが1つ減って残念でなりません😭 ご事情許すようでしたらまたお目にかかりた… ガチャピンさん

ありがとうございます

またぜひ書きたいと思っています

その時はお付き合い下さい

よろしくお願い致します
(*^_^*)

No.470 12/02/08 18:07
秋子 ( yuBCh )

>> 469 にゃんこさん

ありがとうございますm(_ _)m

心配していた文章が無事に伝わっていたと聞いてとても嬉しいです

はい また書きたいです

よろしくお願い致します(*^_^*)

No.472 12/02/08 20:33
秋子 ( yuBCh )

>> 471 りんさん

誉めていただき嬉しい限りです

m(_ _)mm(_ _)m


勇気が湧いてきました
また頑張りたいと思います

ありがとうございました(*^_^*)

No.474 12/02/08 21:56
秋子 ( yuBCh )

>> 473 独おばちゃんさん

忙しい中読んでいて下さったんですね…

本当にありがたい事です😢

また挑戦したいです

ありがとうございました(*^_^*)

No.476 12/02/08 22:46
秋子 ( yuBCh )

ももさん

嬉しい感想ありがとうございます

負け組の女は 三人の女が悪い結果にならないように…
ハッピーエンドにしたかったのであの形になりました
(*^_^*)


紐とく女は、私がいつも山菜をとりに行く場所に、あまりに怖い崖っぷちがあったので、つい想像が膨らんでしまいました…


私はただの妄想女ですね😅

また妄想を書きたいと思っています
よろしかったら今後もお付き合い下さいませ

ほんとにありがとうございました
m(_ _)m

No.478 12/02/09 12:45
秋子 ( yuBCh )

>> 477 どすこい倶楽部さん

お礼が遅くなってごめんなさい

とんでもないです、作家でも先生でもありません

私はただの主婦です😅😅


私もサスペンスが好きです

特に最後の…

大どんでんがえし
これがたまらなく好きなんです

はい またよろしかったらお付き合いお願い致します
(*^_^*)

No.480 12/02/10 07:23
秋子 ( yuBCh )

>> 479 白犬さん

お礼が遅くなってごめんなさい

そうですか 最初から読んでいただいたんですか😢とても嬉しいです

はい もう少ししたらまた 書きたいと思っています

またよろしかったらお付き合いお願い致します(*^_^*)

No.483 12/02/11 07:35
秋子 ( yuBCh )

>> 481 秋子さん。 初めまして♪ いつも楽しみに読んでました。 終わってしまうなんて、残念過ぎます。 ぜひとも続編を… 私… りんさん

おはようございます

いつも読んでいて下さって ありがとうございます
m(_ _)m

はい 私もサスペンス好きなんです
古畑任三郎
今は亡き 藤田まことさんのはぐれ刑事
あと松本清張原作のドラマも好きです

はい また書きたいです

よろしくお願い致します(*^_^*)

No.484 12/02/11 07:56
秋子 ( yuBCh )

>> 482 始めから読ませて頂いてました。 感想が書き込めるようになってたので、嬉しいです😊 文章がとても上手で、どんどん引き込まれていきまし… 夏さん
おはようございます

最初から読んでいただいて嬉しく思います


骨を欲しがる女は
今時こんな一途な女がいてもいいと思って書きました


はい また書きたいです

よろしかったらまたお付き合いお願い致します

(*^_^*)

No.486 12/02/12 21:47
秋子 ( yuBCh )

>> 485 ともさん

読んでくださってありがとうございます

m(_ _)m


松本清張は

黒皮の手帳
地方紙を買う女

が 好きです

またお付き合いお願い致します

おやすみなさいませ
(*^_^*)💤

No.487 12/02/12 22:21
秋子 ( yuBCh )

>> 486 黒皮→黒革

でした😅

m(_ _)m💤

No.489 12/02/14 07:08
秋子 ( yuBCh )

>> 488 ともさん

おはようございます😄

私は読書は苦手ですから読んだ事はないのですよ😅

テレビドラマで見ただけなんです😅

黒革の手帳の米倉涼子さん素敵でした😌

地方紙…もかなり前にやっぱりテレビで見ました

でも、役者さんが誰だったかは忘れてしまいましたけどね😅

レスありがとうございます

(*^_^*)

No.491 12/02/17 23:07
秋子 ( yuBCh )

>> 490 あいさん秋子です😄

またよろしくお願い致します

m(_ _)m

No.493 12/02/17 23:42
秋子 ( yuBCh )

>> 492 独おばちゃんさん
いつもありがとうございます

また妄想にお付き合いを、お願い致します

おやすみなさいませ

(*^_^*)

No.496 12/02/19 08:33
秋子 ( yuBCh )

>> 494 主さん 嬉しい女 早速読みました(^^) またワクワクドキドキするお話読めるので、嬉しいです!頑張って下さいね!応援しています! … ふうちゃんさん

おはようございます😄

また ボチボチ書いて行きたいと思っています

これからもよろしくお付き合い下さいませm(_ _)m

(*^_^*)✋

No.497 12/02/19 08:45
秋子 ( yuBCh )

>> 495 一気にハラハラしながら読みました😃ホントにハラハラしちゃってオチに笑ってしまいました😂 ありがとうございました! みいちゃんさん

おはようございます😄

ほんとにただサラッと笑っていただきたい

そう思っていつも書いています

どうぞこれからもお付き合い下さいませ

(*^_^*)✋

No.499 12/02/20 07:15
秋子 ( yuBCh )

>> 498 ともさん

おはようございます😄

いつも励ましの言葉をありがとうございます😄

ゆっくりですが…更新して行きたいと思っています

お付き合いお願い致します

(*^_^*)✋

No.500 12/02/20 07:31
秋子 ( yuBCh )

読んで下っている皆様へ

たくさんの嬉しい感想ありがとうございました😄

皆様のおかげでまた書く勇気がわいてきました

とても感謝 感激しております
m(_ _)m


どうか、嬉しい女も引き続き よろしくお願い致します


ありがとうございます(*^_^*)✋

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