泥棒女猫(ネコ)
~~修羅場~~
周りにはそう見えたかも知れない。
でも、女は笑っていた…。
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お母さんが動いた。
『うぅん…寒いぃ…』
「あ…」
お母さんが体を起こした。
『あれあれ、カイちゃん、おはょぉ』
『はい、おはよ。帰れるか?』
海斗はお母さんに問い掛ける。
『うん』
私は海斗の握っている手を、空いている手でポンポン叩き、手を離すように促した。
理解した海斗はすぐに手を離してくれた。
私はコップに水を入れて、お母さんに渡した。
『あ、ありがとぉ』
まだ寝ぼけている。
時間は9時半を回ったところ。
『帰ろうか?』
『片付けなきゃ』
「大丈夫ですよ。私やりますから。そんなにたくさんじゃないし」
食べながらちょこちょこ片付けてたから、テーブルの上にあるお皿は数えるくらい。
『じゃ~お願いします』
お母さんはペコッと頭を下げた。
「はぁい」
覚束ない足どりで玄関まで歩く。
『また連絡するから』
海斗が振り返った。
「うん。気をつけてね。お母さんも、風邪ひかないでくださいね~」
『はぁ~い♪』
父が起きてきた。
『あ~寝てたな…。早苗さん、また来てくださいね。海斗くん、気をつけて帰るんだよ』
『はい』
『はぁい。また来まぁ~す』
2人は帰って行った。
私と海斗の過去に、恋愛感情や肉体関係がなければ、一緒に出掛けたり、ご飯を食べに行ったり…なんて、何のやましい事でもなかったんだろうな…。
私は海斗と別れて以降、職場の人に告白された事があった。
何も考えずに、その人を好きになれば…幸せになれたかも知れない。
けど…心はヨソを見ているのに、真正面にいる人と真剣に向き合える訳がない…。
もちろん断った。
私は、そんなに性に対して欲求がない。
今でも海斗が最後。
では海斗は……?
健全な男。性欲だって人並みだろう。
我慢してる……?
どこかで、誰かと……。
眠れない夜には、いつも海斗の事を考えた。
閉ざされた海斗の部屋と同じように、私の気持ちも開けないまま…。
お母さんから聞いた話し…。私はいつまで心に秘めておけばいいのか。
海斗に貰った指輪を見て、ため息をつく。
「愛って難しい…」
汐璃からの誘いを断った日曜日。
海斗から昨日のうちにランチのお誘いを受けていた。
♪~♪♪~♪
電話の着信。
知らない番号…
こないだ登録外着信拒否を解除したままだった。
「もしもし…」
『桃花さん?汐璃です』
げげっ💦何で番号…
『あっ切らないでね。用事が入ったって聞いたから。お仕事?』
「いぇ…あの…親戚の法事がありまして……」
『そう。残念。次の日曜日は大丈夫よね?私、早く会いたいの!』
「ちょっとまだわかりません…😓」
『ふんっ…まぁいいわ。また連絡するから、登録しといてね』
「あの、し…ぉ…」
すでに切れていた。
そうか…海斗の携帯見てるんだもん。番号くらい調べられるか…。
海斗とは、人目につかない場所で待ち合わせをして、よく行った“ビックリ箱”のお店に行った。
前みたいに他愛ない話しをして、ご飯を食べて…
「ねぇ…海斗……」
『ん?どうした?』
「あの…海斗は……その……」
聞けない…。
エッチしたくならないの?どうしてるの?
誰か…いるの?
「ぁの……やっぱいぃ」
『何だよ』
ふっと笑う。
その顔を見たら、何だか本当にどうでもいい話しに思えた。
私達は今、恋人同士な訳じゃない。
私だって彼氏を作っても、海斗は文句は言えない。
私が他の男に抱かれても、海斗は………
『桃…男……できた?』
「えっ、うぅん」
『何か…色っぽくなったかな…って』
「もう大人ですから」
『ハイハイ』
2人で見つめ合って笑った。
海斗が言った。
『俺ね、辛抱強いんだ♪心配しなくていい。なんなら右手もあるしな(笑)』
そこまで聞いてないけど💦笑
気持ちは通じていたみたいだ😅
「そっか」
『桃は…俺なんて忘れて幸せになってもいいんだぞ。お袋だってわかってくれるよ』
「大丈夫。私、辛抱強いの。右手は使わないけど」
『ハハハ(笑)そっか、そっか…ごめんな…待っててな……』
「ん?」
『いんや、何でもない』
“待っててな”
あの事かな………。
ご飯を食べて、話しをして、どこか行く?と聞かれて「帰ろ」と言った。
笑って言えた。
海斗も笑って『そうだな』と言った。
車に乗って、ドアを閉めた瞬間、腕を引っ張られて抱きしめられた。
『好きだ。すげー好き。………好き………』
驚いた。
汐璃と結婚してからは、そんな事口にはしなかった。どちらに対しての罪悪感なのだろう…。
そして、何故今なんだろう…。
「海斗…?」
『桃は?ごめんな。まだ好きか?』
海斗は真剣な顔をしている。私の頬に手を当てて、真っすぐに私の目を見ている。
「好きよ」
海斗の顔がほころんだ。
私の大好きな笑顔。
海斗も…不安だったんだ…。少し、心が暖かくなった。そして、家に帰った。
たまたま好きな人に奥さんがいただけ。
よく聞く不倫の常套句。
恋愛は愛の数だけ。結婚は早い者勝ち。
そう。たまたま海斗は私より早く汐璃と結婚して、たまたま他の女の旦那(モノ)になった。
開き直ってしまえば、元は海斗は私の男。汐璃がいなければ私と結婚していたかもしれない。
それに、取ったのは汐璃の方。
たまたま…が重なり、たら、ればの世界が広がる。
私は敗者だ……。
勝ち負けはないかもしれない。けど…海斗は私のモノではない。
それだけで十分…。
最近は汐璃から遠慮なしに電話がくる。
水曜日だけ電話がなかった。
次の日曜日は仕事になった。
汐璃から電話がきた時にそれを伝えた。
代休はないの?約束したじよない!私に会いたくないのね!海斗さんを自分だけのものにしようとしてるんでしょ!!
ヒスは相変わらず…な感じもある。会いたくない…は当たってる。
『あっ海斗さん…』
平日昼間に海斗が家に?
『またかけるわ』
もういいし💦💦
……切れてるし。
その日の夕方…汐璃からまた電話がきた。
ため息をつき、一呼吸おいてから電話に出た。
「もしも…」
『あんたね!!海斗さんに変な事吹き込んだの!!』
懐かしい怒号が響く。
そして、サッパリ意味がわからない。
「何の話しですか」
『とぼけるなっっ!私に男がいるなんてデタラメ海斗さんに吹き込んでっっ!そんなに私が憎いっ!?嫌いっ!!?』
はい!!嫌いです😆👍
いやいや……
「私じゃありませんけど…何の話しですか?」
『あんた、よくも……』
汐璃の顔が目に浮かぶ。
私は知っていた。
いや、みんな知っていた。汐璃に男がいる事……。
相手に愛情はなかったかも知れない。寂しさを埋めたかっただけ……。
そういう気持ちだったんだろうと思う。
けど…それを弱みに付け込まれる可能性があるんだから、行動には細心の注意を払うべきだった。
相手は例の探偵。
海斗は探偵を探偵に探らせた。
事の発端はあの日…汐璃が実家に帰ると言った日…。
汐璃は実家には帰らなかったそうだ。
ずっとあの探偵と過ごしていたらしい。
汐璃の行動は全て探偵の入れ知恵。
そりゃそうだ。
いつの間にか、あんなに大きくなり、旦那の不貞騒動で里帰り…なんてシャレにならない。
お父さんの面汚し。
そうでなければ、あの安東の事だから、乗り込んで来ると思っていた。
お母さんに聞いた話し。
『汐璃ね、男がいるの。今、海斗が調べてる…』
私は、敗者復活戦に臨むような気持ちだった。
「とうとうはじまったな」
私は当事者ではない。
汐璃に責め立てられても、本当に関係ない。
黙って事の行く末を見守るしかなかった。
水曜日。
それが汐璃と探偵の愛欲の日だったらしい。
探偵には妻がいた。
汐璃は探偵の事務所やホテルで寝泊まりしていたらしい。
海斗の事を調べてもらううちに…探偵は汐璃が可哀相になったのだろう。
家にまで出入りしていたあの頃から、何かしらの関係があったらしい。
最初に気付いたのはお母さんだったらしい。
出入りするには、あまりに頻度が多過ぎる。
小一時間もしたら、そそくさと帰って行く。
当時はほぼ毎日。
お母さんは聞き耳を立てた。
息を荒げる2人の声。
汐璃を求める探偵の声。
…って、それだけで十分なんだろうけど……
完璧に離婚に至るまでの、たくさんの証拠を海斗は集めた。
だから、私は知らないフリをしなくてはならなかった。汐璃に気付かれたら終わりだから。
実家に帰っていたとされる2ヶ月間。
毎日探偵に張り込ませていたらしい。
それが1番の証拠。写真もたくさんある。…あったらしい。(私は見てない💦)
汐璃は『知らない、私じゃない!』と言い張ったとか。
汐璃は…海斗を本当に愛していたのだろうか。
捨てられないように…プライドが邪魔をしていたのでは……。
海斗は汐璃に言ったそう。
『お父さんには、言わないから。離婚は自分から言い出したと言ってもらっても構いません…』
汐璃は最後の最後まで離婚には応じなかった。
私にも何度も電話がきた。
『あんたさえいなければ。あんたのせいだ!あんたが…あんたに…あんたの………………』
私はずっと聞いていた。
汐璃の悲痛な叫びを。
「私も思ってますよ。あんたさえいなけるばって…」
『お望み通り、いなくなってあげるわ』
最後まで強気な人…。
「ねぇ、汐璃さん…海斗を愛してた?」
ガシャッ!ツーッ…ツーッ
これが答えだったんだろうな。
汐璃の性格からして、愛していたら、その愛の全てをぶちまけてきただろう。
その電話から2日後…事態はまた汐璃の思惑により、複雑になっていく。
汐璃が私を嫌いなのはわかっている。
妻と愛人が分かり合えるはずもない。
ただ…汐璃が私を嫌いなのは、“海斗の事”だけではない気がしてならない。
汐璃から電話がきた。
『明日(日曜日)は休み?』
「休みですよ」
『今夜うちに来て』
「嫌です」キパッ😆
『いいから来なさい!』
すぐに声がデカくなるのは相変わらずだなぁ…
「理由は?」
『来てから話します』
「私は関係ないですよね?」
汐璃がだんだんイライラしているのがわかる。
『あんたにも関係があるから呼ぶんでしょ!いいから黙って来ればいいの!いちいち面倒臭い女ねっ』
…百歩譲っても汐璃だけには言われたくない…
「人に来てもらおうって態度ですか?」
『うるさいっっ!!』
ガシャッ!ツーッ…ツーッ…ツーッ…ツーッ…
はぁ………
一体、何をどうしたら私まで出張らなきゃならないんだろう…
夫婦の問題だろうに。
何時になるかわからないから、父にはメールを入れた。
【今夜は出掛けま~す😄ご飯とおつまみは用意しとくね😆✋】
【了解。あまり遅くならないようにね。】
そういえば何時に行けばいいのかな……😓
ま、7時くらいが妥当?
お母さんいるだろうし…そのくらいでいいかな…
とりあえず、7時着。
海斗はまだ帰って来ていない。
早かったかな…
車の音に気付いたお母さんが玄関から顔を出した。
『あれ、桃ちゃん!?どうしたの??』
「ん?汐璃さんに呼ばれて……」
『汐璃に?』
「は…い……。??」
お互い、不思議な顔をしている。
『車の音がしたから、カイちゃんかと思って…まっ、汐璃が呼び出したなら、上がって♪』
家に上がるのはいつぶりだろう…懐かしい匂いがする。お母さんはお香をたく。その香りがとても懐かしい。
お母さんがお茶を入れに行った隙に、汐璃が自分に宛がわれた部屋から出てきた。
『早かったのね』
「時間を指定されなかったもので」
『ふんっ、海斗さんに早く会いたかっただけでしょ。残念ね。まだ帰ってなくて』
「ところで何のご用なんですか?」
『話しは海斗さんが帰ってからよ』
お母さんがお茶を持ってきた。
『あら、あんたももう出てきたの』
『すぐ下がります』
『そう。はい、桃ちゃん。熱いからね』
「あ、ありがとうございます」
その光景を見て、またふんっと鼻を鳴らして部屋に戻って行った。
お母さんが汐璃の出て行ったドアを見つめながら言った。
『海斗の嫁じゃなければ、あの子ももっといい人生があったろうにね…』
「お母さん…」
『海斗が、桃ちゃんを先に連れて来てなければ、あの子の事受け入れられたと思うのよ…』
お母さんは鬼ではない。
汐璃が私を嫌う別の理由…それは“お母さん”だ。
私はそう思った。
お母さんは海斗のお父さんで結婚は2度目…。
最初の結婚は散々だったそうだ。
相手の親から猛反対された挙げ句に結婚して、お母さんに子供ができる前に、相手が他の女を妊娠させ、離婚。
海斗のお父さんは、結婚前に言い切ったそう。
『俺は浮気する。でも、他の女に本気になったりしない。帰るのはお前の所だけだ』
えっ…それがプロポーズ⁉と驚いた。
お母さんは笑っていた。
『あんなにはっきり浮気するなんて言うからビックリよぅ。でも、どんなに女の匂いがしても毎晩帰ってきたわよ~♪最初のうちは、やっぱり喧嘩してたけどねぇ~(笑)』
さらに笑いながら続けた。
『だからカイちゃんは、あんな風にならないように仕込んだの♪』
仕込まれたんだ(笑)
~回想終了~
現在に戻る………
『悪い子じゃないのはわかってるんだけどね』
「汐璃さんには伝えたんですか?」
『何を?』
「お母さんがそういう風に思ってる事…」
お母さんが困ったように笑った。
『桃ちゃん…前にも言ったけど、私は海斗が選んで連れてきたあなたのお母さんになりたいの』
「お母さん……」
痛い…久しぶりに痛い。
『海斗も雄一さんと同じで女好きだったからね。もしかしたら、誰にも本気になんてならないかも知れないって思ってたのよ』
親なりの心配…
『それはそれでいいんだけどね。でも…初めて桃ちゃん見た時、嬉しくて嬉しくて……』
お母さんは少し目が潤んでいる。
お母さんの携帯が鳴った。
『あら、噂をすればね』
海斗からだ。
『もしもし……』
汐璃にとって、私は目の上のたんこぶ。
いくら何でも、結婚したら海斗も諦めると思っていたんだろうな。
もしかしたら、海斗は抱こうと思ったかも知れないけど…最初の頃に触れていないのに、タイミングがなくなっただけかも知れない。
『カイちゃん、急いで帰るって♪』
「何の話しですかねぇ」
『ん~何だろね~?』
お茶を飲みながら、海斗の帰りを待っていた。
海斗が帰ってきた。
『ただいま…桃…』
「おかえり」
『お帰りぃ~♪』
『汐璃さんは?』
『お部屋よぉ』
『呼んでくるわ』
海斗は汐璃の部屋へ行った。
『離婚はしないと思ってたのよ。正直な話し…。海斗が政界に出るから…とかじゃなく……でも汐璃から言い出したの』
「えっ…」
『何でかなぁ…』
海斗は離婚は自分から切り出した風な言い方だった。
海斗が戻ってきた。
『すぐ行きますだって。着替えてくる』
海斗は私の頭をポンポンと叩いて、部屋を出て行った。
テーブルを囲んで座る。
普通はどう座るかわからないけど、真四角のテーブルに、海斗と汐璃さんが向かい合って座り、私とお母さんが向かい合って座った。
誰も口を開かない。
私が率先して話すのも変だ。
『で、何の話しなの』
お母さんが口を開いた。
汐璃は持っていた紙を広げて、テーブルの上に出した。
“離婚届”
もう1枚…
“婚姻届”………?
『私と別れてください』
ひぇ~超強気……
『ただし、私の受けた屈辱は言葉では言い表せないものです。でも…慰謝料はいりませんが、これからも、ここに住まわせてもらいます』
『…はっ!?』
お母さんビックリ。
いや、みんなビックリだけど……💦
『それから、これ(婚姻届)はあなた達の分です。結婚するんでしょ?一緒に住むんだから、これからも仲良くしてね』
汐璃さぁん…💦何言ってんのよ~😱
汐璃の実家には、もう兄夫婦が住んでいる。汐璃は兄嫁と仲が悪いらしい。
だから帰りたくないのかな……。
『さ、海斗さんは2枚書かなきゃいけないのよ。明日には両方提出するんだから、早く書いて』
『汐璃さん💧意味わからないんですけど💧💧』
『わからない?私が選んだ、皆が幸せになれる方法なんだけど』
汐璃はニコニコと話しを続ける。
『私はあなたと離れたくない。でも、私のした事は許されない…離婚は当然でしょ?』
ここまでは理解できる。
『だから、籍は抜くけど、ここで暮らすの』
こっからまったく意味がわからん😓💧
『海斗さんと桃花さんは愛し合ってる。私と籍を抜けば結婚できるでしょ。海斗さんの妻になるんだからここで暮らすのは当然でしょ』
何故お前が決める😆✋💦
そして何故明日⁉
日曜だから手続き面倒じゃん💦💦離婚届はいいけどさ…ってそんな話しじゃな~いっっ😱‼
「汐璃さん💦落ち着いて考えてくださいね😅」
『私は至って冷静よ』
うそぉ~ん💦
『愛し合ってるって事は…私はお邪魔なんだろうけど、どうせ元々いない存在って感じだったものね』
いやいや…もっすげ~存在感でしたけど…😅
『気にしないで』
何かやっぱり汐璃さんペース…
やっとお母さんが口を開いた。
『汐璃さん』
『はい?』
『離婚するなら、この家は出てもらいます。ここは夏木家です。関係のない人間を住まわせる訳にはいきません』
『お義母さんは、どこまでも私がお嫌いなんですね…私、いい嫁になろうって努力すらさせてもらえなかった…』
汐璃が泣きだした。
あぁ…帰りたい…泣
『あなたの努力って何だったの?料理にしたって、私が作ると言っただけで、手伝うなと言った覚えはない。掃除にしてもそう。ここは広いから、まずはあなたの部屋だけ綺麗にしときなさいと言っただけ』
おやおや…?汐璃さん……嫁の何たるかを、実家では教わって来なかったのかな……😓
お母さんの話しは続いた。汐璃には嫁としての選択権がたくさんあったのに、自分から気づかずに放棄していたのだ…。
『私は努力すらさせなかった覚えはない。あなたが努力しなかったのよ』
汐璃は…ぐぅの根もなかった…。
『私は、夏木の家に嫁いで来て、義理の母から自主的に何かを教えてもらった事はありません。自分で見て、盗み、主人に聞き、それでもわからない事は初めて母に聞きました』
海斗は黙って聞いている。お母さんはバツイチだったので、義母に嫌われないように…と必死だったらしい。
『教えてくれれば…教えてくれればよかったじゃないですか!私はわかりませんでした。海斗さんだって何も言ってくれなかったし……』
『嫁としての心得は、自分の母親から学ぶものです。誰かに教えてもらう事ではありません』
『それでも私は、海斗さんと離れたくないんです!』
私は…いない方がいいんじゃないか…?
『とりあえず、離婚も結婚も、ちゃんと話そう』
海斗が切り出した。
汐璃はわんわん泣いて話しにならない。
いっとき経って落ち着いてから汐璃が言い出した。
『みんなが幸せなんだもの!いいじゃない!私はどうしていつも邪魔者扱いなの!?』
その前に…常識的にどうなんだろう…とは考えないのだろうか。
汐璃の気持ちはわからなくはないけど…。
例えば、汐璃の言うような生活をしたとして…
汐璃の立場は何になる?
私はお母さんともうまくやっていける。海斗とも愛し合っていけるだろう。
汐璃さんに対して、どう接すればいい?
…それが狙い?
汐璃がいる事での、ぎこちない夫婦関係。ぎこちない嫁姑。ぎこちない生活。
結局は破綻…なんて…
考え過ぎかな。
「汐璃さん。私も結婚はそんなに軽々しくはできません」
『ほぉら。聞いた?海斗さん。これが桃花さんの本音よ。あなたを愛しているフリをして、いざとなったら結婚はできませんって』
汐璃は海斗に叩きつけるように言った。
『汐璃さん。俺もあなたと離婚したから、すぐに桃花と結婚とは考えませんよ』
汐璃の動きが止まった。
『愛し合ってるんでしょ?一緒になればいいじゃない。別れてあげるって言ってるのに…』
私は海斗を見た。
海斗もこちらを見て、汐璃に向き直した。
『汐璃さん。あなたは何故俺と結婚したんですか?』
『それは、海斗さんが好きだったから…』
汐璃は困ったように答える。
『では、何故離婚を?』
『それは…私が…他の男性と…………』
汐璃は下を向く。
『汐璃さん…俺………』
結局、話し合いで離婚はしない事になった。
『遅かったね』
「さすがに途中から混んでたからね」
『そっか。ご飯は?』
「まだだよ」
『この後、林さん達と祝賀会なんだ。一緒に行くだろ?』
「もちろん。あなたの妻ですからね、海斗」
『にしても、やっぱり林さんが出馬(で)てよかったな~俺なら落選だ(笑)』
「奥さんも嬉しそうね」
『汐璃さん…俺………』
海斗が覚悟を決めたように話しだした。
『俺、教師に戻るつもりなんです』
皆初耳だった。
もちろんお母さんすら知らなかった。
『どうして…父はあなたを信じてるのよ!?あなたの将来をっ!あなたは立派に父の後を継げるって…』
汐璃は海斗に縋り付く。
『お願い、やめて!そんな事絶対に許さない!じゃなきゃ私が残る意味がないじゃない!!』
『やっぱり…』
汐璃がハッとした。
『汐璃さん…あなたの人生はあなたのモノですよ?どうしてお父さんの犠牲になるんですか?』
『父は絶対なの!あなたは父が認めた人だから…父が後継者にしてみたいって言った人だから結婚したのにっ!』
結局、汐璃は…安東のコマにすぎなかった。
自ら進んでコマになったとは言え……
父親が認めた男だから惚れたのだろうか…そこは定かではなかったけど、とにかく汐璃は納得しなかった。
『とにかく、離婚の話しは待ってください。一緒に安東さんに会いに行きましょう…』
『嫌だってば!お父さんに嫌われてしまう!こんな体だし…行きたくないっ!』
『じゃあ、俺1人で行ってきます』
『やめて…やめて…やめてっ!!』
汐璃はうずくまって、耳を塞ぐ。
私はいたたまれなくなった。
汐璃は…海斗に父親を重ねていただけだったのか…。海斗自身を愛していた訳ではなかったのか……。
「私…帰ります…」
誰に…ともなくそう言って部屋を出た。
玄関で靴を履いていると、海斗が追いかけてきた。
『桃花』
「何か…あれだね。イロイロ…難しいね」
涙が溢れてきた。
私が…好きで好きで諦めた想いは何だったんだろう。痛い、痛いと削った気持ちは…。
水をかけられても、叩かれても…変わらなかった気持ちが初めて揺れた…。
海斗に対する愛情が揺らいだ訳ではない。
“愛”と言うもの自体が不安になった。
あんなに海斗を愛していると思ってたのに…海斗を通して父親を見ていた?
その為にあんなにも周りを巻き込んで……
『明日、安東さんに会ってくる』
「うん……」
『桃…泣くな……』
「うん…」
必死に涙を止めた。涙を止めるのと同時に息も止めていた。
苦しい……💦
「プハッ」
『馬鹿💦💦何やってんだ💦💦』
ふふふ…久しぶりに笑いが込み上げた。
「いってらっしゃい」
海斗はものすごく抱きしめたかったらしい…
でも私は、振り向かずにまっすぐ帰った。
明日は我が身だ💡
海斗から朝一で
【いってきます】
メールがきていた。
結局、1人で行ったらしい。
何を話しに行ったのか…それは今でもわからない。
私もあえて聞かない。
それは、海斗と汐璃、安東家の話しだから。
昼前に
【もうすぐ安東さんの家に着く…緊張してきた…💦】
【喰われるかもよ…】
【それは大変だな😄ありがとう】
【頑張れ】
それからメールが途切れた。
夜になって電話がきた。
『今大丈夫?』
「いいけど、家には電話したの?」
『まだ』
「家が先でしょ。お母さん心配してるだろうし、汐璃さんだって落ち着かないはずだよ」
『わかった。とにかく…声聞きたくて…』
「待ってるから」
『はいよ』
道理に背いてはいけない…そう思ったから。
本当は嬉しかったけど、私はまだ1番に話せる身分じゃない。
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