泥棒女猫(ネコ)
~~修羅場~~
周りにはそう見えたかも知れない。
でも、女は笑っていた…。
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お父さんの命日の時から、2ヶ月ほど経った頃だった。相変わらずメールと、一方的な電話と言う関係が続いていた。
春ちゃんの家に行った後だと、どうしても海斗の家の近くのスーパーが通り道になる。
その日は日曜で、チラシが入っていたらしく、お客さんが多かった。
夕方4時のタイムセールと言うやつらしい。
必要なものだけカゴに入れ、お買い得商品に目の色変えている主婦のレジの列に並んだ。
「この人達は、同じ商品を持って後何回並ぶんだろう…」
前の主婦のカゴを見ながらそんな事考えていた時だった。
私の後ろに並んだ人が、私のカゴにチラシの砂糖とティッシュを入れた。
「!?」
驚いて振り返ると、お母さんと海斗…
『桃ちゃんも協力してね~♪』
ここにもチラシを見て来た主婦がいた😅
『1人1個って書いてあるから、カイちゃん引っ張ってきたの~♪連れてきて正解♪♪』
お母さんは超ご機嫌だ。
『いつもこっちまで来るのか?』
海斗が私のカゴをヒョイッと取り上げた。
元々少し重かったのに、砂糖を入れたから更に重くなった。
でも持てないほどじゃない。
…けど…嬉しい…。
「春ちゃんの所からの帰りなの」
『あぁそうか。』
お母さんがニコニコ…いや、ニヤニヤしている。
『カイちゃん、お母さん歩いて先に帰っとくから、荷物車に乗せとくねぇ』
海斗のポケットから車のカギを取った。
『帰りは何時でもいいのよ♪熊は寝てたし』
「熊?」
もしや…
『うちのバカ嫁よぉ』
熊なんだ…
「今日は父も休みで家にいるから、あんまり遅くなれないんですよ」
笑いながら答えると
『あ、じゃ~私が桃ちゃん家に行けばいいんだ♪んでぇ、パパさんにご飯作れば問題なしねっ♪』
お母さんは…一度決めたら結構譲らない。
結局、そうなる事になった。
熊にエサはやらなくていいのかな…
車2台で私の家に行き、お母さんを降ろして事情を話、「ご飯だけ行ってくる」と伝えた。
『何時になってもいいんだぞ』
ここにもいた…笑
父は海斗との再会を本当に喜んだ。海斗も父に会いたかったらしかった。
「ねぇ…みんなで家で食べればいいんじゃないの?」パッとひらめいた。
『あ…』
『そっかぁ~』
誰も考えてなかった。
私と海斗は外に行く事しか考えてなかったけど、汐璃がいる訳じゃなし、どうせならみんなで食べた方がマシじゃないか。
で、そうする事になった。
海斗は自分の立場を理解している。
ご飯だけ食べたらお母さんを連れて帰ろうとした。
食べに出掛けても、食べたらすぐにお母さんを迎えに来て帰っただろう。
今の私達はそういう関係だから。
ただ…お母さんの方がかなり不満そう…笑
『んもぅ、カイちゃん、子供じゃないんだから😠』
連れて帰られる事に腹をたててるのか…律儀に何もせずに素直に帰る事に腹をたててるのか…。
とりあえず、駄々をこねるお母さんを適当にあしらいながら
『またね』
と帰って行った。
『海斗くんは変わらないな…お前も…もっと我が儘に育ててやればよかったな』
父が珍しく自分の育て方を反省している…。
「お父さん…気持ち悪…」
その言葉にハッとした父は、笑いながら私の頭をコツンと叩いた。
「いてっ」
私は父の娘でよかった。
世間的には…やっぱりこれは“不倫”になるのだろうか。
いつぞやあったドラマでは【昔の恋人が相手なんて、浮気よりもたちが悪い】
みたいな事を言っていた。
…私は悪い事をしているのだろうか……。
汐璃には面白くないだろう。けど…私はそれ以上の我慢をした。
夫婦でも、2年以上体の関係がなければ不貞をしても裁かれる確率が断然低くなる…と聞いた。
海斗と汐璃は、2年どころか、1度もそんな関係がない。
それって…どうなんだろう…。
男と女は難しい。
ただでさえわからないのに、法律なんて絡まれたらお手上げ。
私は…十分我が儘だ。
もしかしたら、海斗が1度でも汐璃を抱いていたら、今のように逢う事なんてできなかったかもしれない。…いや、できるはずもない。
きっと私は嫉妬で狂ってしまうはず…。
その前に…海斗は1度でも汐璃を抱いたら、大事にしただろう。
愛は無くとも妻は妻。
妻にはそれ相応の生活費を渡し、家事は一切しなくても…させていないのだけど…それでも文句も言わない。
“愛情”の反対語は、憎しみや恨み…なんて言葉ではない。
“愛情”の反対語は“無関心”…。
なるほど納得だった。
そういえば、何か歌にもなってたな…。
まさに、海斗の汐璃に対するモノは“無関心”だった。
世の中には、そんな汐璃を羨む人もいるだろう。
お金は黙っててもかなりの収入がある。子供はいない、家事はしなくてもいい、セックスもしなくていい。主婦の憧れではないだろうか。(そうじゃない方、ごめんなさい💦💦)
しかし…裏を返せば…
お金は黙ってても適当に使えと渡される。支払いなどは海斗がするから、後のお金は汐璃が自由に使えるお金。『俺は構わないから、好きにしろ』的な。
子供は…できる訳がない。抱くつもりはない…作る気もない。
家事はさせてもらえない。飯は作るな、掃除は自分の部屋だけやればいい…。
どうだろう…。
私なら耐えられないだろうな…。
そんなに妻の座は居心地がいいのだろうか。
お母さんは相変わらず暇になると現れる。
私が向こうを訪ねる訳にはいかないが…本当によく来てくれる。
…父とお酒が飲みたいだけかも知れないけど…笑
海斗はうちでご飯を食べてからは、お母さんを迎えに来る事に抵抗がなくなったらしい。
でも、絶対に家には上がらない。
私も無理には上げない。もちろん父も。
お母さんだけがいつも不満そうにしている。
『いつもすいません😅』
海斗は迎えに来るたびにそう言っている。
『うちも2人だからね、かまわないよ。早苗さんが居てくれると、娘がもう1人増えたみたいだよ』
あまり年が変わらない人をつかまえて娘とか言うし…笑
そしていつも
『またね』
と帰って行く。
穏やかな…幸せな時間だ。
『カイちゃんと桃ちゃんが一緒なら、あちこちしなくていいのにぃ😠』
お母さん…飲みすぎです…。
海斗は離婚はしないと思う。愛は無くとも世間体は保たねば。政治家になるのなら、妻の存在は不可欠だろう。
妻に拭いきれない負の部分を、私が取り払えたら…そう思っていた。
だから、海斗の隣は望まずとも、見えない所からそっと背中を押してあげたかった。
ある時、お母さんが言った。
『汐璃…桃ちゃんの事調べてる…』
「ん?」
お母さんが、汐璃を名前で呼ぶのは珍しい。
たぶん…徹底的に調べているのであろう事は…想像できた。
「平気ですよ。やましい事はありませんから」
『けど…桃ちゃんに何かあったら…』
刺される?殴られたり…縛られたり…監禁とか!
…犯罪ぢゃん…苦笑
―ピンポ~ン
「あ、誰かきたみたいですね」
『汐璃だったりして』
「まさか(笑)」
私の足音に反応した客人が、インターホンのマイクのボタンを押す前に口を開いた。
『郵便で~す』
「郵便屋さんだって」
『んもぅ、心臓に悪い』
お母さんはホッとしたようだった。
しかし…あながち間違いではなかった。
「夏木汐璃…」
差出人は汐璃。
やたらと切手が貼ってある。
『なぁに?』
「何でしょう…」
開けてみると、中の便箋に【内容証明】の文字。
「内容証明?」
『チッ。あのバカ…』
お母さんが舌打ちをした。最近、お母さんのキャラが変わりつつあるような気がする…😅
内容的には、不貞の疑いがある。晴らしたければ、堂々と話し合いの席に来られたし…と。
日にちと時間と場所を指定されていた。
「たいそうな話しですねぇ…」
『ホントに!自分がまいたタネなのに😠私も行こうか⁉』
「いえいえ、大丈夫」
お母さんが来ると、逆に話しがこじれそう…苦笑
そして…指定された日時に、指定された場所へ向かった。
汐璃は入り口に背を向けて座っていた。
何だか…日々丸みを帯びているような……。
ストレスとは恐ろしい…。
他にも何人かお客がいて、不貞の話しをするには…どうよ?って場所な気がする。
まだ指定の時間より前だ。
「お待たせしました」
汐璃の正面に立ち挨拶をした。
『始めまして………どっかで見た顔ね……』
「さて、どうでしょう」
『座ってください』
「失礼します」
さあ、汐璃毒舌ショーの幕開けです。
『ご存知の通り、夏木海斗の妻の汐璃です』
「神崎桃花です」
『あなたと主人の関係を教えてください』
「お調べになった通りですよ」
私と汐璃は年が10違う。年下に生意気な事を言われて少し顔色が変わった。
『自分の口で言いなさい』
強い命令口調。
「高2の時の副担任です。生徒と教師と言う関係でした(最初はね(心の声))」
嘘はついていない。
『は?違う!その後!』
「あなたと結婚するまで付き合ってましたよ」
『恋人同士だったのね』
「はい。あなたがしゃしゃり出てくるまでは」
『今は私の物です』
「海斗は物ではありませんよ」
あれ、私の毒舌ショーになってる?笑
しかし、チクチクと反抗する私に、年上として、妻としてのプライドがフツフツと煮えたぎっているのが顔に出始めた。
『今の関係は?』
汐璃にとって問題はここからだろう。
いくら調べても何も出ない。お母さんがうちに出入りしているのは調べればすぐにわかるだろう。
しかし海斗は…?
「何の関係もありませんけど。またに顔を見たら話しをしますけど(顔見たらね。メールはしてるけど)」
『嘘言いなさい。男女の関係なんでしょ。人の旦那を取るなんて泥棒。泥棒猫。薄汚い雌猫』
他の客に聞こえないようにだろう。一応声は押し殺しているが、すごい顔…。
だからこんな所選ぶから…。
「そんな汚い関係じゃありませんよ」
『嘘。外で晴らさずどこで晴らすのよ』
性欲の話しですか?
結婚当初の汐璃なら、抱いて惜しくない女だっただろうが…今は………。
好き嫌いが別れる風貌になっている…。
海斗にも選ぶ権利はあるだろう。
「不貞のお話だけですよね?私には関係のないお話です。そんなに気になるなら、余所に女でもいるんじゃないですか?」
『あんた以外は1人も浮かばなかったから、こうして話してるんでしょ!』
少し興奮した汐璃はテーブルを叩いた。
廻りの客が少し反応する。
コソコソとこっちを見ながら話しをしている。
~~修羅場~~
周りにはそう見えたかも知れない。
汐璃は、テーブルを叩い手を握りしめ、顔を下に向けて肩を震わせている。
「(帰っていいかなぁ)」
女同士でランチでもしに来たのであろう客の1人が、こちらの状態を勝手に想像して
『何だろ~修羅場ってんの?え、どっちが嫁な訳??下見てる方が負けっぽくない?』
そんな事言いながらケタケタ笑っていた。
私に聞こえたのだから、汐璃にも聞こえただろう。
だから場所考えればよかったのに…。
ずっと下を見ている汐璃を見ていたら、何だかおかしくなってきた。
私は笑った。
汐璃はそれに反応して、顔を上げた。
「あなたは、何がしたいんですか?話し、終わったなら帰っていいですか?」
そう言った瞬間、汐璃の顔は一気に鬼の形相になり、テーブルにあったコップの水を私にかけた。
まぁ…俗に言う修羅場です。笑
『人の旦那寝とっておきながら図々しい!!』
寝とってないし!被害妄想ですか!?
それから汐璃は、私が口を挟む間もないほどに文句の限りを言いだした。
やれ、泥棒だの売女だの、ただの盛りがついた雌猫だの…生意気だの非常識だの礼儀がなってないだの。
そりゃ~でっかい声で。
私は恥ずかしくないのかと、逆に心配になった。
言いながら、ものすごい汗をかいて息が切れてきた汐璃。
だんだん飽きてきた。
育ちがいいからだろうか…汐璃はボキャブラリーが少ない。
やっと黙った。
息を切らしている汐璃に、私は言った。
「汐璃さん。今あなたが言った言葉、そっくりそのままあなたにお返ししますよ」
微笑み混じりで言ってやった。
水をかけたくらいで大人しくなると思ったのだろうか。まぁ、多少は冷めただろうけど、汐璃の飲みかけのコーヒーをかけられるよりはマシか。
水も、氷が溶けていたから冷たいだけで痛くはなかった。
『最終的にあの人は私を選んだの!わかる?あなたは海斗さんに捨てられたのよ!』
「そうですね。だったら汐璃さんは、何のために私を呼び出したんですか?」
思い通りに事が運ばないもどかしさに、完全に汐璃はおかしくなった。
テーブルを両手で叩き、頭を掻きむしり、足をバタつかせ…
『あ~っ!!違う違う違う…違うっっ!!!』
さすがに見兼ねた店員が、店長らしき男性を呼んできた。
『お客様💦』
他の迷惑にもなるだろうし…何より心配だ…。
刃物でも持っていたら、襲いかかってきそうな勢いだ。
お母さんに
「海斗には内緒に」
と、口止めしたのが悔やまれる。
ま、刺されても目撃者はたくさんいる…死なない程度に…無理かな…😅
『どうぞ…』
店員の女性が、話しかけたのを機にタオルを差し出してくれた。
「すいません」
店員さんはタオルを渡すとそそくさとカウンターに戻った。
『警察呼びますか?』
店長さんらしき人が私を見て言う。
「大丈夫ですよ。もう帰りますから、すいません」
汐璃が反応した。
『誰が帰っていいって言った!!?』
またでかい声で私を怒鳴る。
はっきり言って、私には汐璃に話す事はない。
ヨリを戻した訳でも、男女の関係でもない。
先に奪ったのは汐璃の方だ。私には文句を言う権利はあっても、文句を言われる筋合いじゃない。
私は何も注文していないので席を立った。
「もう話す事はありません。あなたの考えるような関係ではありませんから」
店中がしんっ…として、こちらに神経を集中している。
汐璃の前を立ち去ろうとした時、店に客が入っていた。
『いらっしゃいませ💦』
店長さんらしき人は客に向かって慌てて笑顔を向けた。
中には帰りたい客もいたかも知れないけど…そんな雰囲気ではない。
『お一人様ですか?』
客は一人なのだろう。
バタバタバタ…
子供…?
『桃ちゃん!!』
この足音にこの声…
客を見ると、お母さん。
声に汐璃も反応し、入り口を振り返った。
『どうしたの、濡れちゃって💦雨!?ごめんね、迷っちゃって💦』
『お義母さん…どうしてここに!?』
『どうしてじゃありません!』
私にもわからない。
『あんたが呼んだんでしょ!?』
いやいや…全然…
『私が勝手にきたのよ!あんたが刃物でも持ち出すんじゃないかと思ってね!』
お母さん、ちょっぴり正解。“水”と言う飛び道具が出ました。
「お母さん、もう帰るとこなんですよ」
『まだ話しは終わってないって言ってるでしょ!!』
汐璃はまだ食らいつく。
『こんなとこではしたない!失礼でしょ!!話すならうちに来なさい!!!』
お母さん…怒れる人なんだ…。
汐璃はグゥの根もない。
千円札をテーブルに乱暴に置き、
『お釣りはいらないっ』
と、サクサク店を出た。
私とお母さんは顔を見合わせた。
『桃ちゃん、ごめんね💦場所がわかんなくて…何もされなかった?』
お母さんは私の体をペタペタとあちこち触って無事を確認した。
「大丈夫ですよ」
『水かけられたんですよ…彼女に』
わいわいと興奮していた客の女がお母さんに告げ口した。
「あ…」
『あのバカ嫁…💢』
困った…
店長さんらしき人は律儀にコーヒーのお釣りを持ってきた。
「いいのに…」
『いえ、またどうぞ』
そう言って笑ってくれた。
この人…騙されやすいタイプだろうな…。
「お騒がせしました」
他の客にも頭を下げて店を出た。
汐璃の姿はない。
『困った嫁だわ』
お母さんは呟いた。
ありがとうございます💦
読んでいただいてる方いらしたんですね😆💦
お粗末ですいません…
感想スレを立てる程、立派なモノではないので恐縮ですが………
私、誉められて伸びるタイプなので(笑)誹謗、中傷されたら泣いちゃうぞ⤴
な、感じですが…
それでも立てちゃいますか⁉
帰りしな、お母さんが
『とにかく着替えて』
と、服を買ってくれた。
お母さんは免許がないので、この近くまでタクシーで来たのだろう。
「何から何まですいません…」
本当に申し訳なくて、でも、とにかく謝る事しか思いつかなかった。
すると……
『なんで…なんで桃ちゃんが謝るのぉぉぉぉ~』
…泣き出してしまった。
しまった…やらかしてしまった…😅
通りの真ん中で遠慮なく泣いているお母さんをなだめながら、車を止めた駐車場まで歩いた。
汐璃も免許は持っていない。タクシーで先に帰っているはず。
少し気は重いけど、お母さんを車に乗せて夏木家に向かった。
時間はもう4時前…モタモタしていると海斗が帰ってくる。
お母さんは汐璃の前では“強いお義母さん”を演じているのだろう。
家が近付くにつれて、顔が険しくなる。
私はお母さんのそんな顔は見たくない…。
そっと手を握った。
「大丈夫ですよ」
すると、いつもの可愛らしさ顔で笑ってくれた。
夏木家に到着。
先にお母さんを降ろし、車を止めた。
汐璃はまともに話しができるのだろうか…。
私はもう話す事はない。
話したくない。
話せば話すほど…海斗が私の手の届かない人なのだと思い知らされる。
と、車から降りた私にお母さんが駆け寄ってきた。
『汐璃、帰ってきてない』
「え…だいぶ先に出ましたよね。どこかに寄ってるのかな」
私だけが上がって待つには気が引ける…何年ぶりかの夏木家。海斗の家…。
『何してるのかな、まったく…』
お母さんはイライラしている。
5時近くになっても帰らない。海斗が帰宅する……
「!もしかして、海斗待ってるんじゃ!?」
『カイちゃん?どうして?カイちゃん居たら逆に話しづらいでしょ』
確かに…キレて水かけるくらいだ。海斗にそんなトコは見られたくないだろう。
では……なぜ……
時計が6時を知らせる。
「…お母さん…私帰ります…海斗帰って来るだろうし…」
『カイちゃんは遅いから平気よ。でもお父さんのご飯の支度とかあるもんねぇ』
お母さんは悩んでいる。
『あっ♪お父さんも一緒にうちで食べたら~♪』
「お母さん!?」
『やっぱりダメかぁ~』
チェッと言いながら少し拗ねてしまった😅
『じゃ~気をつけて帰ってね~』
「はい。また」
お母さんに別れを言い、車に乗り込もうとした時、林さんの車が来た。
助手席には…汐璃が乗っている……。
「林さん…」
『なんで林さんと汐璃?』
お母さんが玄関先から駐車場に戻ってきた。
林さんが車から降りる。
汐璃は降りる気配がない…。
『こんばんは』
林さんが笑顔で挨拶をする。
「こんばんは」
『林さん、何事?』
私の挨拶とほぼ同時にお母さんが口を開いた。
『実は…』
林さんが困った顔をして話しはじめた。
林さんが汐璃を連れてきた…と言う事は、汐璃は海斗の所に行ったのだろう…それは想像できたが……。
林さんの話しをまとめる。
海斗の所に汐璃がやって来た。汐璃は濡れていたそうで、海斗は接客中なのでねで…と、応対した林さんが、とにかく着替えさせた。
とりあえず林さんは海斗に汐璃が来た事は伝えたけど、海斗は接客を優先させていたそうで…すると汐璃は突然キレて、海斗の部屋に怒鳴り込んでしまった…と。
来ていた客人もさることながら、海斗もビックリして汐璃の文句を黙って聞いていたとか。
客人は海斗のお父さんの知り合いで、海斗が小さな頃からよく知っている人だったからよかったものの…
それでも海斗は赤っ恥もいいとこだ。
客人は『また来るよ』と、帰って行ったそうで、それからが大変だったとか。
海斗が何故濡れているのかを尋ねると、
『その前に私を待たせた事に対して何もないの!?』と、すごい剣幕だったとか…。
海『来客中だったでしょう?急ぎの用事なら、先に電話でもくれてればいいんじゃないですか?』
汐『あなたは妻よりも仕事を優先させるの?私が今どんな気持ちで待っていたか!!』
海『ですから何の用なんですか?』
汐『あなたの女に呼び出されて、水をかけられたのよ!』
海斗は不思議な顔をしていたらしい。
海『女?誰のです?』
汐『あ・な・た・の・お・ん・な!!!神崎桃花!』
それを聞いた瞬間、海斗は大声で汐璃を問いただし始めたとか。
海『桃花!?お前、桃花を呼び出したのか!!?』
普段、海斗は汐璃に対して敬語を使う。
年上なのと、自分より階級(?)が上の娘なので、そうらしい。
しかし、その時ばかりは違った。
汐『私が呼び出されたの!あなたと別れろって…』
汐璃は泣くような素振りを見せたらしいけど…海斗の目には入っていなかった。
海『どうして…』
汐『…え?』
海『どうして桃花を巻き込むんです!?』
汐『だから、巻き込まれたのは私の方っ…』
海『あいつが今更そんな事する必要はない!あいつはそんな事しない…』
海斗は深くうなだれた…とか。
座って、頭をかかえ、下を見ている海斗を、立っている汐璃はものすごい形相で見下ろしていたとか。
汐『あなたがあの女と、もう何の関係もないって証明できる!?何故あなたは私に触れないの!!?』
それが1番聞きたかった事だろう…
何故触れないのか……。
海斗は言ったそう。
うなだれたまま…小さな声で、でもはっきりとした口調で…。
『俺の戸籍だけじゃ不満なのか』
林さんが言った。
『あんなにはっきり否定されたのは初めてなんでしょうね…それから一言もしゃべらなくなってしまいました…』
『海斗は?』
お母さんが林さんに尋ねた。
『もうすぐ帰って来ると思います。桃花ちゃんを心配してましたから。一度帰ってお宅を訪ねるって言ってたから、ここに居たら安心しますよ』
林さんはまた笑った。
お母さんが汐璃の所へ行く。
汐璃はお母さんに気付いたけど車から降りようとはしない。
助手席のドアを開け、お母さんが汐璃に降りるようにうながした。
汐璃は降りない。
返事もしない。
お母さんが汐璃と話している。声は聞こえるけど、何を話しているかはわからない。
林さんが話し掛けてきた。
『桃花ちゃん、大丈夫?何もされなかったの?』
「はい、大丈夫ですよ」
『海斗くんが…すごく心配しててね…汐璃さんを置いて飛び出そうとしたんだ。僕は止めたんだけどね…一応…汐璃さんは奥さんだからさ…』
「はい。それでよかったと思います」
『でも…海斗くんの気持ちはわかってるよね?』
「………はい………」
林さんは満足そうに笑った。
でも………
汐璃が車から降りてきた。こちらに近づいてくる。
お母さんが『やっと降りた』な、ため息をつくと同時に………
汐璃が私の頬を平手で叩いた。
意味わかりませんけど…
『汐璃っっ!!』
『汐璃さん!?』
汐璃は顔をしかめた瞬間、泣き出した。
泣くだけならよかったのだが…私の胸倉を掴み、何度も引っ張りながら叫び出した。
どうして私のような小娘なのか…どうして自分では海斗の心を満たせないのか…どうして…どうして………………
『とにかく桃ちゃんを離しなさい!!』
間に入ったお母さんに
『うるさいっ!』
と怒鳴った。
プチッ
ときた瞬間、お母さんは汐璃を平手打ちした。
そこへ海斗が帰ってきた。
しかしお母さんは汐璃から目を離さない。
汐璃は私から手を離した。地面にヘナヘナと座り込み…大泣きし始めた。
こっちが泣きたいよ…。
海斗が駆け寄ってくる。
修羅場の真ん中にいるはずの汐璃が泣いている。
海斗は私を見つめ、汐璃を見た。
『どうなったんだ?』
海斗は誰ともなく、汐璃を見ながら尋ねた。
『私が叩いたよ』
お母さんが言った。
海斗はとりあえず、汐璃を立たせた。
何か言いにくい事を言おうとしている…海斗の顔はそういう顔をしている。
『汐璃さん…』
海斗が口を開いた。
『汐璃さん………』
言葉を選んでいるのか…よほど言いにくい事なのか…海斗が口をキュッと閉めた。
『汐璃さん。俺は汐璃さんのものにはなれません』
はっきり言った。
『でも、戸籍はあげますから…桃花にはもう関わらないでください』
つまりは…一生妻の座は汐璃のモノ。
私は…一生海斗の心に留まるカセ……。
『いいですか』
海斗は汐璃に聞いた。
汐璃は………
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小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
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