今後の私
✨始めに(注意事項)✨
🍀主な登場人物や場所等の名称は仮名・もしくはイニシャルで話を進めていこうと思います。
🍀この話は自分が経験した過去の出来事から回想を始め、今という時間を経由してこれからいずれなる三十路のまでの話を書いていこうと思います。経験談と架空の話を織り交ぜて書くので宜しくお願いします。
🍀毎日更新は出来ないかもしれません。時折、間が空く事もありますが御理解下さい。
🍀約束事として誹謗中傷はやめて下さい。
ではこれからスタートです🙋
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私は正月時に購入した縁結びの御守に密かに願掛けをしていた。
普通願掛けとは願いが叶うまで何か(自分の好物など)を絶つ事が主流だと思うが私の場合は少し違った形を取っていた。
願掛け中の頃は誰にもその願いを明かせなかったが、願いが叶った今なら明かせられる。
願いは2つ。その内1つを話す事にしよう。
それは恋愛方面である。もし次に恋人が出来たらどんな事があっても1年は付き合い続けると、固く自分の中で誓いを込めていた。
私は人との別れを経験し、別れた後の1年半以上臆病になった。考えも後ろ向きで、付き合いが1年すら満たない恋愛しか出来ないのは自分に原因があるのだと悩んでいた。
だが自分が努力する事で1年以上、人と付き合う事が出来れば、今後自分の自信に繋がるとその頃の私は信じて疑わなかった。
期間は1年。
とにかく私はこの1年を耐え抜いた。自分でもよくやったと思っている。
その当時、同じ派遣仲間で友人でもあったIには本当にMの件で相談に乗って貰い、相談する度に
「信じれない」
「別れた方がいいよ」
という言葉がIの定番台詞になった程だ。
ただIにも言えなかった事をここだけで書こうと思っている。
25歳の春、付き合って2か月になる頃までは本当に順調だった。ただ幸せを感じる穏やな日が続いていた。
ただ更に2か月が過ぎてからMの態度は豹変してゆく。季節は夏を迎えようとしていた頃である。
誰もが些細だと感じる出来事がMの琴線に触れた。その時、私に今まで見せなかったMのもう一つの顔が現れた。
元々繊細で掴みにくい性格だな…っと薄々感じ始めていた矢先の出来事だった。
自分の仕事の事は勿論、Mの仕事の事も極力聞かないようにしていた。
理由は簡単だ。
折角の休日、日頃のストレスを発散させるために骨休めをしている最中に仕事の話なんて話したくもないだろうと思っていたからだ。
“無粋な真似だ”と思って気を利かせた事が逆に仇となってしまった事に、Mが怒りを表すまで私は気付けなかった。
両手を掴まれ、ベッドに押し倒される形で私は倒れた。いつも違う扱いに私は戸惑った。
「俺の事、ホントは興味ないんだろう?」
湿度が高くジメジメした暑い日の夜、Mと私はいつものように休日の日中に会ってデートをし、今はホテルの中にいた。
「何?どうしたの??」
Mの言う言葉がいきなり過ぎて何を言っているか私は本当にわからなかった。
「普通、俺の仕事の事とか身体の心配をなんでしてくれないの?」
掴んだ私の手首に向かって、Mは徐々に力を込めて握ってゆく。
「いっ…痛いよ!ちゃんと答えるから離して!」
私はベッドの上で身体を捩り、腕を払い除けようと荒がいた。
「俺、お前に遊ばれたんだよな?」「お前さ、俺の金目当てだったんだろ?」
それでもMは私の腕を離さず、私に向かい信じられない事を怒りに任せて言い出した。
「何言ってるの?私がそんな奴に見えるッ!?」
「俺には見えるよ…」
その言葉を言った途端、無理矢理Mは私を抱き始めようとした。
その時、さっきまで掴まれ手が緩む。そして気が付くと私はMの顔をはたいていた。
…今でもあの時のMの冷たい顔とその言葉を私は忘れられずにいる。
Mの頬に平手打ちするとMは私を抱き始める事を止め、私をベッドから突き飛ばした。
ガタンッ
「‥‥ッ!」
突き飛ばされた拍子に壁に背を打ち、私は少し蹲った形になった。
その時、Mはベッドから立ち上がり、私の元に近付くと数枚の札を私に向かい投げ付けてきた。
私の目の前で札が舞う。
「やる気も失せたし、それで足りるだろ?」
「釣りやるから後払っててよ」
その言葉を残し、Mは私を残して外に出ようとした。
目の前で札が舞う…、その瞬間での出来事だったかもしれないが、私の中では限り無くスローモーションで札が舞ったように見えていた。
休日の醍醐味でもある楽しいデートのはずが、まるで天国から地獄へ突き落とされるようなそんな感覚を覚えた。
“何故私はここまで言われないといけない?”
“何故こんな扱いを受けないといけない?”
心の中でそう思うと私はMの後を直ぐさま追い、ドアに向かった。
料金を払う機械がドアの近くに設置されていないため、オートロックではなく鍵さえ開ければドアは簡単に開く。
今いるこのホテルは受付の所で料金を払うそんなシステムだ。そしてMは既にドアノブに手を掛け開けようとする寸前だった。
「‥‥待ってよ!」
そんな中、ドアを開けようとする寸前で私は背後から慌ててMの服を掴んだ。
Mは不機嫌な顔で振り返り私を見る。
「こんな一方的なの納得出来ないよ!」
「ちゃんと話し合おうよ!」
私は必死になっていた。なんとかこの日はどうにか無事に収まる事が出来た。しかし本格的に夏の到来とともにまたも同じような事が起きてしまった。
その日はとても耳障りなぐらい蝉が喧しく鳴き、あまりの暑さに外に出るのも億劫になった。こんな季節に私は生まれた。
そんな季節の夏、花火大会に向かうべくMと2人で郊外に出た。Mの車に乗ると、車を走らせ花火会場に向かう。
いい場所で見るためには数時間前から場所を確保しなくてはならなかった。
『現地に到着したらまずは場所取りに向かう』とMと事前に私はメールで打ち合わせをしていたが、実際にはその予定と異なる形となった。
Mが運転する車内で他愛もない事を互いに言い合い、笑い合ったのも束の間でMの顔がまた曇り始めつつあった。
助手席に座っていた私はすぐにMの機嫌が悪くなりつつあるのに気付き、
“また私何かしたか?”
と内心思うものの、自分に思い当たるフシもなく、私はその事を口には出さずにいた。
ふと前方を見ると前方から車が連なり、どうやら渋滞に巻き込まれようだ。Mの機嫌が悪くなったのは渋滞のせいだとわかると私は胸を撫で下ろした。
長い列が続き、車はなかなか進まない。Uターンするにも後ろにも車の列は続き、Mの車は板挟み状態だった。
どうやら工事中のようで交通規制がかかっているのか、とにかくスムーズには車が進められなかった。
車内ではラジオを掛けていたのでいくらか気が紛らわす事が出来たが、時間が長引くとそれも効力が半減する。
話す会話も途切れ始めたその時、Mがスピーカーのボリュームを突然上げ出した。
…ッ!…ッ!…ッ!!
激しい音に耳が痛く、
私の心臓はビックリした。Mは平気な顔で前を見ている。
「ちょ…っ…」
あまりの音に私の声は書き消された。当然、Mの耳には私の声は届いていない。私は堪り兼ねてボリュームを下げた。
「いきなりビックリするでしょ!」
音を下げた事でようやく私の声がMに届く。
Mは露骨に舌打ちするとこう言った。
「最近調子乗ってない?自分?」「何様な訳?」
“またこのパターンか”と私は思った。
そして車内の場は凍り付き、冷戦体勢となった。
こんな狭い場で喧嘩しても分が悪いのは私の方だ。私はMの暴言を現地に着くまで堪える事にした。
Mの機嫌が収まるまで私は無言を押し通そうとした。だが火が付いてしまったMの暴言は止まらない。
「自分の都合が悪ければ無視ですか?」
「人の話聞けよ、お前」
こんな調子で色んな言葉が飛び交い続ける。その時、私の中で異変が起き始めていた。
始めはギュッと締め付けられるような胸の痛みがあった。
それをなんとか堪えていると今度はどんどんなんだか息苦しくなってゆく。私は必死になって息を吸おうした。
時折、自分にしか聞こえない程の小さな音が喉元でヒューヒューと鳴っている。
そんな状況下の中で、ようやく長かった車での移動も終わりを告げる。目の前には屋外の駐車場が目前だった。
屋外駐車場に着くなり、私は車からすぐに離れようとした。急いで車のドアを開ける。密室の中、Mとこれ以上いるのが耐えられなくなっていた。
だがそんな自分の気持ちとは裏腹に、私の身体は車から出ると地面に崩れ落ちてしまった。Mは不機嫌ながらも反対のドアから車を出た後、そんな私の元へ近付いてきた。
「車酔いしたのか?」
一応心配する素振りは見せるものの、まだ機嫌が悪いのか?Mの口調は少し荒々しさが残ったままだった。
ぎこちない形ではあったが、Mは私の腕を掴むと私を立ち上がらせようとした。
身体に力が入らない私は、まるで操り人形のような形でMの手により立たされようとしていたが、Mは途中で私を立たすのを諦めた。
そしてまた私は地面にゆっくり崩れるようにしゃがみ込む。
そんな状態の中、やっとの思いでMを見ようとした時にはMの姿は遥か前方で私の目からは小さく映る程、既に遠く離れた距離にいた。
“こんな状態の私を置いていくんだ…”と思うものの、動く事も声を出す事も出来ず、そのままずっと私はその場にしゃがみ込んだままだった。
ほんの一瞬気を失いそうになった時、偶然にも私の異変に気付いてくれた通りすがり女性が私の側にやってきた。
「ちょっとどうしたの?大丈夫?!」
女性は私より年上で中年層ぐらいの人だ。だが、女性の問いにも私は声を出す事が出来ずにいた。
息が思うように出来ず、どんどん苦しさばかりが増してゆく。
そんな時、通りすがりの女性は持っていた鞄から袋を出すなり、私の口元に押さえ始めた。
突然の女性の行動に私は驚いたが、助けられているのには変わりはない。私はただ女性の指示に従った。
「袋の中でゆっくり息吸ってごらん」
「大丈夫、落ち着いて大丈夫よ」
と優しい声で女性は私に言い聞かせるように言った。
この時は自分でも自分の状態を認識する事が出来ず、それから数日経過した後に、あるテレビ番組の特集で自分の症状に気付く事になった。
私自身、ストレスからくる心因性の過呼吸になるとは当時は夢にも思わなかった。
女性のお陰でしばらくすると次第呼吸もスムーズになった。
ようやく声も出るようになると私は女性に感謝の気持ちを伝えた。
その後女性が去り、他にも幾多の人が私の前を通り過ぎた。私はというとMの車の横でただただじっとしていた。
Mを待っていた訳ではないが、帰ろうにもどう帰ろうかと思案している最中だった。
女性が去ってしばらくした後、Mがジュースを片手に戻ってきた。
「待たせたか?飲み物買ってきた」
どうやら車酔いをしたのだと勘違いしたまま、Mは私に冷たい物を飲ませようと缶ジュースを買いに行ったらしかった。
Mから缶ジュースを受け取るととりあえず一口口にした。
Mに自分の怒りをぶつけようとするフツフツとした感情の乱れはあったが、私は怒りを鎮火させるように、黙ったまま黙々のジュースを飲み続けた。
花火大会については良い場所を確保する事が出来、眺めの良い場所で夜空に見事に咲き乱れる大輪の華を見る事が出来たが、その鮮やかな花火とは逆に、私の心の中は不発に終わった爆弾が残ったままとなった。
ここまでがIにも話していない事である。
因みにこの拙い小説内では度々誕生日の話を登場させているが、
私の26歳の誕生日の日は散々なもので、誕生日にも関わらずロクな思い出が正直ない。
今まで私が生きてきた中で歴代のワースト1である。極端な言い方をすると私の中では人生の汚点とも言ってもいい。
誕生日当日もそうだったが、Mが豹変してからというもの、毎月のように別れ話が頻繁に出るようになった。
別れ話が度々出ると正直心身共にどっと疲れた。
別れるという事にエネルギーが注がれる訳だが、それはマイナスの力が強く働く訳だ。
マイナスの力に引かれるように仕事面でもこの頃から上手くいかなくなっていた。
すんなり別れられたらどれだけ楽になれただろう。
何故別れ話がこんなに頻繁に出るのに別れなれないのか、私自身ですらわからなくなっていた。
何度も別れ話が度重なっていたが、私はMと別れる事が出来ずにいた。
更にこの頃の私は悩みも頂点に達し、ノイローゼになっていた。
仕事も上手くいかず、恋愛ですら上手くいかない。ストレスで過呼吸になる頻度も増えつつあった。
身体に変調がきたのはそれだけに止まらず、原因不明の湿疹にも悩まされ、湿疹による痒みで睡眠不足にも陥る事が度々あった。
病院にも通うようになり、薬漬けのような毎日に嫌気が差した。
実際にはしていないが、“病院で処方された睡眠薬を全て飲んでしまおうか…”などとバカな事をよく考えていたもんだ。
花火大会以降、まともに仕事が出来なくなった私は派遣の契約を1年で打ち切る事にした。
仕事を辞めてからしばらくは身体の休息に時間を当て、一か月が過ぎようとする夏の終わり頃から就活始めた。幸い秋頃には就職が決まり、今度は社員として働く事になった。
派遣の頃はデザイン用のソフトが数多くなく、折角スクールで習ったソフトもあまり使えずにいたが、今度の職場は私がスクールで習ったソフト全てが使える環境が整っていた。
気になっている方がいるのかも不明であるが、派遣の頃の仕事と社員になってからの仕事内容を当たり障りない程度に触れようと思う。
派遣の頃はとあるサイトの制作を手掛けていた訳だが、これについては自分がしたかった事と若干ズレた事をしていた。
寧ろ社員になってからの仕事の方が自分がずっとしたかった事で、チラシやパンフレットなどの制作を主な生業とした。
次の仕事も決まり、それから数か月が過ぎた日の事だが、季節は新年を迎えた真冬の頃。
吐く息は白く、風は凍り付くように冷たく、
あまりの寒さに心臓が止まるのでは!?と思わず思ってしまう程の時期だった。
以前、就職祈願にと購入した縁結びの御守については有難い事に就職面での願いが叶い、
あとは恋愛での願掛けのみとなった。
そんな時、私は派遣時代の仲間Iから連絡を受けた。
1月の中旬頃だっただろうか?連絡はよくしていたが、派遣を辞めてからIと会うのは数か月振りであった。
Iとメールでバーに行こうという事になり、
Iと2人で久々に夜の街に出た。
この頃、Mの中で何かが変化しつつあった。
だがそんな事など露知らず、私は“春が来たら絶対今度こそ別れる!”という決意を胸に息巻いていた。
バーに着くとカウンターに腰を掛けた。Iは出だしからカルアミルクを頼み、私はジンライムを注文する。
オーダーが通され、お目当てのものがくるとまずは再会を祝して軽く乾杯した。アルコールが喉に通ると互いに気も緩む。
「早いもので私、今年27歳になるよ~」
「何言ってる?まだ若いじゃん!私なんで20代最後よ!」
なんて言いつつ、Iと2人でお酒を嗜みながら話に花を咲かせていった。
微酔い気分でバーから出ると駅に向かってIと2人で歩き始めた。
「あれ?ちょっとS!」
帰路の途中、Iが私を呼び、ある店の方向に向かい指を差す。
「ん~?」
何か面白い物でも見つけたのかと思い、Iの言う店に私は視線を向けた。
「はぁ…?!」
間抜けな声を上げ、そしてある光景に私は目を疑った。
ある居酒屋の店裏で、Mが居酒屋の従業員の格好をして、何か荷物を運んでる最中だった。
距離が少し離れていたのと、店の近くに止められたトラックが運良く死角となり、Mは私とIがいる事に気付いていない。
確かMはメーカー勤務のはずだ。何故こんな所で働いているのか、私には皆目検討がつかなかった。
この後、無事に駅に着いたのはいいが、見てはいけないものを見たような気まずさに微酔い気分は冷め、Iとは後味の悪い形でのその日は別れた。
Iと別れてから更に日数だけが経ち、気が付けば春はもうそこまでやっていた。季節は出会いと別れが交差する卒業式のシーズンである。
そういえば最近になってMとデートの回数が少くなり、会う時間も短くなったような気がする。
別れ話が毎月出れば自然とそうなってもおかしくない。自然消滅でもこの際いいと思ったが、私は何故かMの行動を次第に気になり始めていた。
目撃した居酒屋の件については生憎、私には調べる術がない。何よりMにも聞けずじまいだ。
まさか私の知らない所で、実は会社を辞めたのだろうか?別れ話が頻繁に出るようになってからは、互いにじっくり話す機会さえなくなりつつあった。
あまりMと話さなくなったのは“また別れ話だったらどうしよう?”などと私から避けていた部分もある。
自分が傷付くのが怖くて要は【聞く事も言う事もせず逃げていた】のである。これがすぐに別れる事が出来なかった理由にも繋がった訳だ。
人は嫌な事があると逃げたくなる。楽になりたいから逃げる。傷付きたくないから逃げる。理由はどうであれ、逃げてばかりだとなんの解決策にもならないのだ。
私は何故別れ話が出るのか、Mからちゃんとした理由を一度も聞こうとしなかった。
自分から別れ話をした時は、嫌な事は聞きたくない、ただ楽になりたい一心だった。
Mとはちゃんと話をしよう。私の思っている事もちゃんと話そう。何も言わずに終わって後悔だけが残るのは嫌だ。
時間もかかり、なかなか前に踏み込めずにいたが、ようやく私の中で決心がついた。
そして待ち望んだ日が…遂にこの日がやってきた。Mと付き合い始めてようやく1年を迎えた。
私にとっては長く、
とにかく長く感じた1年だった。
この日、桜を見るためにMと2人で花見をしに遠方に出掛けた。
お目当ての場所は言わずと知れた桜の人気スポットだ。流石、人気があるだけある。咲き誇る桜は独特の風情があり、とても美しい。
桜並木が続くメインストリートは大勢の花見客に溢れ、人波も凄いかった。桜に見取れる者や撮影をする者、そんな人達がとにかく多いので、道を進むにも思うように進めないのは無論である。
一方、Mと私は桜並木から少し外れたモダンな雰囲気の喫茶店で、休憩がてらにお茶をしていた。そしてこの店で本格的な話が始まった。
注文したホットコーヒーくるとMと私は同じ飲物を軽く口に含む。
店は観光客や花見客で賑わっていたが店の中にも関わらず、私は臆する事なく開口一番をこう口にした。
「あのね、なんで別れたいと思ったの?」
あまりにストレートな私の言葉だったがMも躊躇がない。
「別れたいからだよ」
この言葉に私はダメージを受けたが、怯んではダメだ。
「何故別れたいの?今日こそちゃんと話したいの。私に何か欠点でもあった?」
私の踏み込んだ問いにMは首を左右に振り即答した。
「Sに欠点なんてないよ。寧ろ俺に欠点があるんだよ」
私は目を丸くした。Mの欠点ってなんだろう?彼に悩みがあっただなんて知りもしなかった。
コーヒーカップを両手で包み込む手に無意識に力が入る。
「もしかしてそれ(欠点)が、別れ話に繋がる原因だったりするの?」
私は更に深く聞く事にした。私を一瞬見たかと思うとコーヒーを少し飲み、Mは頷いた。
窓際の席に座ったのはいいが、陽の光が逆光し、Mを照らすがその表情は読取りづらい。
だが、踏み込まないと同じ事(別れ話)の繰り返しになってしまう。人と関われば、いずれ波(衝突)が起きるのは当たり前の事なのだ。
今まで入った事のない領域に入らなければ2人の更に強い絆は生まれない。ここで逃げれば、これ以上歩む事もないのだ。
ここでいつものMなら暴言を吐く所だが、この日ばかりは流石に違った。
「俺、以前女に裏切られた事がある…」
次の言葉が出るまでに多少の間はあったがMが話始めた。私は傍らでただ静かに耳を傾けた。
「Sと知り合えて嬉しかったけど、前の事を思い出すと怖くなった」
「また裏切られるんじゃないかと思うと…Sは悪くないに…俺は…」
声にどんどん覇気がなくなってゆくM。そしてただ見ている私。この時、“怖い”と感じいたのは自分だけじゃないんだと思った。
Mを見ていると鏡に映った自分を見ているようだった。
どんなに恋をしてもその出会いに寄って、プラスにもマイナスにもなる。私にも苦い思い出があるが、それはMも同じみたいだった。
2人の欠点を上げるならば、過去の恋愛で自信を喪失した私。以前付き合っていた人の裏切りで、自分を守るために過剰防衛するしかなかったMといった感じだろうか?
こんな2人が出会ったのは何かの縁なのか?どんどん暗い話しかしなくなるMを見ていたが、気付けば私はそんなMを余所に笑ってしまっていた。
「俺、真剣に話してるんだけど何が面白いの?」
笑った私を見てMは少しムッとした顔したが、私は左右に手をヒラヒラさせながらMの言葉を遮った。
「散々別れ話ばかりで辛くて泣いたし、私も何度も別れたいって思ってたけど‥‥」
喫茶店に入ってからMは暗い言葉ばかりで、後ろ向きな発言しかしていなかったが、その言葉の端々に愛されているんだなと感じる煌めくものがあった。
きっと私にしか気付かない小さな煌めきのカケラだ。
「こんなに捻くれた愛され方されたの初めてだよ!」
とMに向かい私はとりあえずそこで言葉を結んだ。
「S、俺の話ちゃんと聞いてたか?」
私の予想外の言葉に、Mは不意を突かれたような顔した。
「聞いてたよ、簡潔に言うと好きって事だよね?」
Mとは逆に私の声には張りがあった。こんな瀬戸際でまさか自分に自信が生まれるとは誰が予想するだろう?私ですら驚きだ。
Mはしばらく黙ってしまったが最後に私はMに問う事にした。
ここで勇気を持って素直な気持ちを出さないともう2人が歩む事はないだろう。私にすれば最後のカケと言ってもいい。
私は笑うのを止め、真剣なまなざしでMを見た。
「これが最後だよ、Mは私と今後どうしたい?」
「それは‥‥」
一瞬言葉が止まったが、Mは私の気持ちに気付いたのか、私に向かって手を差し出してきた。
「俺とまだ一緒にいてくれるか?」
その言葉に頷くと、
私は差し出された手を握り締めた。
その後、店を出た私達は桜の木の下で互いの気持ちを確かめ合うように抱き締め合った。
空を見上げると、まるで紙吹雪のように舞い散る桜の花びらが、Mと今後の私に幸あれと祝福しているように思えた春の日の出来事で、今はこの話を終える事にしよう。
END
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