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帰路

レス202 HIT数 24356 あ+ あ-

まるだまる( D6kL )
13/05/18 14:27(更新日時)

書いてみたくなったので
書いてみます


13/02/21 22:29 追記
高校生の舞台は学校だけじゃない!

木崎明人は、事情がありバイト生活を送っている高校2年生。

毎日でもしたいが、現状は安定しない、呼ばれた時だけバイトだった。

そんな時友人から紹介された店に行くと、そこには極道ぽい男と別種族ではないかと思える程の美人がいた。

さあ、どうなる

No.1904791 13/01/21 22:25(スレ作成日時)

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No.1 13/01/21 23:22
まるだまる ( D6kL )

水曜日長いHRが終わり、さっさと
帰り支度をすませ、教室から出て行こう
とする俺に。

「おい、木崎!お前帰るのはえーよ」

「あ?」
振り返ると数少ない友人である千葉だ

「まーたバイトか?勤労少年だな」

文言だけ見ると嫌みな感じに
聞こえるのに千葉が言うと
嫌みに聞こえないのがいつも不思議だ。
こいつの人柄のせいだろう。

「あーそうだ、いつもどおりだ。じゃな」
「あ、ちょっと待て。時間取らせないから」
「5分で終わらせろ」

つくづく無愛想だなと
自分でも思う返し方をしてしまうが
千葉は全く気にしていないように言った。
「知り合いがバイト探してんだけどさ、お前やらないか?」

No.2 13/01/21 23:26
まるだまる ( D6kL )

最後の言い回しがとてつもなく嫌な気分にさせられたがバイトの話はありがたい。

前に千葉にバイトがあったら
教えてくれって自分から言ってたし

時給が安かろうが高かろうが
バイトをしている方が
今の俺には楽だからだが。

「どんなバイト?短期?長期?」
「バイト代は並みぽいけど、期間は聞いてない。場所教えるから面接受けてくれよ」
「だから何のバイトよ?」
「中古屋だ」
「何の中古?」

「…バラバラだな、本とかもあるし」
「何でも扱う系か?」
「実際行ったら分かる。どうする?」

No.3 13/01/21 23:54
まるだまる ( D6kL )

バイトなら何だってウェルカムな俺は

「土曜の夕方バイト終わってからなら、面接行けるわ」

「OK!んじゃ店に伝えとく。場所は…」
千葉から話を聞いた後、学校を後にして
さっさとバイト先に向かう。

今日のバイトは卸会社での仕分けだ。
決まった区画に決められた物を分ける
頭もいらない単純労働だ。

しかし、俺以外にいるのは責任者の人と
同じくバイトの大学生だけなので
分担しようもなく毎回総力戦になる。

まあ、重たい荷物は少ないから
そんなに疲れないけどね

No.4 13/01/22 00:08
まるだまる ( D6kL )

荷物を運びながら千葉から聞いた
バイトの事を考えていた

「長期だと助かるんだけどなあ…」

最近不景気だか何だか知らないが
バイトまで人員整理がある

仕事が駄目でクビって理由ではなく
店自体がバイトを雇う余裕が無くなって
解雇されてしまうのが主な理由だ

「…やな世の中だ」

今手持ちのバイト先はここを入れて4つ
ここも毎日有るわけじゃなく週に2回だ。
他の所も似たような感じで
俺の希望する毎日でもいい!って
バイトは、はっきり言って全然無い

短期も募集があれば行くけど
無い時は全く無いので当てに出来ない

「はぁ…」

前線で働き疲れたサラリーマンのように
深いため息をつく

……いやいやいやいや!

まだ17歳なのに何やってんの?俺

期待しては駄目だけど
望みは捨てないようにしないとな

No.5 13/01/22 00:35
まるだまる ( D6kL )

「きっざきくーん!今日はこれで終わり」
一緒に荷物を運んでいた
責任者の田崎さんが
仕事の終わりを告げる

しかし、何でこの人は俺の名前に
小さい『っ』を入れるんだろ?

クセか?

些細な事を気にしつつも

「はい!お疲れ様でした!」

返事は元気良く、これはスキルだ
バイトを長くやろうと思うなら
絶対的な必修スキルである

「また、来週たのむね~」

ニコニコしながら田崎さんは言う

この人は家でも優しいんだろうなあ
慌てる姿は見たことあるけども
怒ったりイライラした姿を見たことが無い
俺は帰り支度を済ませ

「お先に失礼します!」

田崎さんらにぺこりと頭を下げて
倉庫を後にする
ちなみに帰りの挨拶も必修スキルだ
バイトといえども必要なものは必要だ

時計をチラッと見ると9時33分
家まで歩いて30分の距離だ

自転車だから本当なら10分程で着くが
帰路の時、俺はいつも押して帰っている

ただ家に帰るのが嫌なだけ
それが全ての理由だ

No.6 13/01/22 01:05
まるだまる ( D6kL )

「…ただいま」



相変わらず、返事の返ってこない我が家
いい加減諦めればいいのに
いつも『ただいま』を言ってしまう

玄関で靴を脱ぎ、そのまま2階の部屋へ
高校の制服をハンガーにかけ

シャワーを浴びるために着替えを持って
1階に降りる

リビングを通り過ぎた時

「あれ?あんた帰ってきてたの?」

テレビを見ながら化粧を落としている
母親がいた

「ああ、さっき帰ってきた…」

「ふ~ん?気付かなかったわ。」

「風呂入る」

「………」

予想通り、返事は返ってこなかった
もうこの生活に随分と慣れてしまった

俺の両親は共に公務員だ

親父はいわゆるエリートクラスらしく
この家を購入後、単身赴任の繰り返しだ

母親もエリートクラスだったらしいが
結婚と出産で出世競争から外れたようだ

それでも、それなりの位置ではあるようだ

No.7 13/01/22 01:43
まるだまる ( D6kL )

俺は今まで着ていた下着やTシャツを
脱ぎ、カゴに入れシャワーを浴びた

1日の汚れを落とした後、着替えて
洗濯機を回しキッチンへと向かう

冷蔵庫の中から適当にチョイスし
今日の晩飯をつくる

晩飯を食った後、片付けていたら
洗濯機が終了のメロディーを鳴らしていた
母親は俺が飯を作っている間に
風呂に入ったらしくリビングにいない

多分もうこっちには来ないだろう

時計を見ると…0時だ
もしかしたら寝ているかもしれない

学校の課題をやった後、少しだけ
ネットの海を泳いでから眠りにつく

コレが俺の毎日だ…


親は俺を捨てた
正確に言うならば捨ててはいない

衣食住と学校は与えられている
ただし、世話はしないのだ

このきっかけは受験の失敗だ

勉強は嫌いじゃなかったから
中学では上位だった

運動神経も悪くなかったから
人並みには十分できた

親が指定した学校に大きなミスさえ
しなければ十分に入れたはずだった


そして俺はミスをした

No.9 13/01/22 02:23
まるだまる ( D6kL )

俺は受験の日、余裕を持って家を出た
バスで駅まで向かい、電車に乗った

受験する学校は県内でも有数な進学校で
東大の合格者も毎年排出していた

自分でも十分に合格する自信はあったが
いよいよ本番だと思うと緊張するのは
仕方がなかった

頭の中でリラックスする事を考える
考えていると、乗り換える駅に着いた

ホームに降りると結構混雑していた
この駅は路線の集合している駅のため
普段から混雑していたのである

試験会場がある駅までの電車に乗り換え
人混みの多さに嫌気をさしながら
我慢して乗っていた

次の駅に着いた時、また人が増えた
我慢、我慢と踏ん張っていると

鼻腔に強烈な匂いが流れてきた
周りを見ると
周りの人達も顔をしかめていた

香水だ…しかもなんか濃い
誰が発生源か分からないが余りにも臭い

俺は息を口でしながら我慢していたが
だんだんと気分が悪くなり…

目的地に着いた時、トイレで吐きまくった

No.10 13/01/22 02:46
まるだまる ( D6kL )

試験が始まり、俺は集中出来なかった
体に付いた匂いのせいだ

移り香の匂いが微かに服に残っていて
その匂いを嗅ぐ度に吐きそうになった

そして試験は終わり俺は不合格だった

両親は不合格と聞いて俺を罵倒した
言い訳は見苦しいと聞いて貰えなかった

落ちる事を考えていなかった俺は
家から歩いても1時間位で着く
公立高の2次募集枠で進学する事になった
その後、父親は俺をまるで透明人間のように扱い、母親は毎日俺に文句を言い出し、そのうち俺を相手にしなくなっていった


家に居たくない
早く家から出たい
進学するにしても期待できない

資金がいる

ここから飛び出すためには

たくさん持っておかないと
それに経験も必要だ


こうして高校入学後、俺のバイト生活が
始まった

No.11 13/01/22 03:20
まるだまる ( D6kL )

金曜日の昼休み、千葉と一緒に学食に行くメシがてら面接に行く店を聞くためだ

「木崎、お前明日面接大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だバイトは3時に終わる」
「そっか、一応知り合いにゃ伝えてっから」

「サンキュ!マジ助かるわ」
俺は両手を合わせ千葉を拝む
本当に感謝だよ千葉…俺が女だったら
2秒だけ付き合ってもいいかなー…

「いいって、いいって!しかしよ~お前
バイトばっかして楽しいか?」

少し照れた感じだが、千葉が照れるのを
見ても面白くない、てか可愛くない
やっぱり俺が女でもコイツとは無理だな…

「前に言ったろ?金がいるんだよ」

千葉には、仲良くなった頃に
家族と仲が悪いから高校卒業したら
家を出るために金と経験をためてるんだ
と話はしてある

「そら、わかるけどよ?せっかくの高校生活がもったいなくね?」

千葉が言いたい事は俺だって分かってる
友達と遊びに行ったり、彼女だって欲しい行きたいとこや、したい事も沢山ある

「…わかってるよ」

No.12 13/01/22 12:50
まるだまる ( D6kL )

千葉の視線から逃れるように
俯きながら答えた。

「おいおーい?真剣に受け止めんな?」

千葉はカラカラと笑いながら言った

「たまには俺らと遊べって事だ」

本当にコイツはいい奴だ

「そうだな…明日面接終わったらメール送るわ。どっか行こうぜ?」

「おけおけ。予定も無いし、面接の話も聞きたいしな」

千葉は俺に任せろ的な顔で親指を立てる。

「そいやよ?俺も彼女出来ないけど、木崎もだよな?」

ちょっと待て!
今お前、自分のカテゴリーに俺を入れただろ?

「バイトばっかで、きっかけがねーんだよ」

不機嫌そうに答える

「バイト先にも女の子位いるだろ?」

ぐいっと顔を近付けながら
いたら紹介しろと言わんばかりだ

「バイト中話さねーし」

バイトは真面目にやらねーと

「ダメダメ君だな」
「うるせーよ!」




No.13 13/01/22 17:59
まるだまる ( D6kL )

千葉はいかにもお前と俺は同志!
みたいな顔してニヤニヤしやがって
くそ~

千葉の言うようにバイト先には
確かに女の子がいる所もある

全く会話をしないわけでもないし
不細工って訳でもない

俺自身恋愛に興味が無いわけではないが
今の生活を思うと積極的になれない

本やドラマのようにならないのが現実だ

フラグ立てすらしてない俺には
恋愛など月よりも遠い世界の話だ

「おい、それよりバイト先の事教えろよ」
まだまだ俺をいじりたかったみたいだが
ふぅとため息をついて

「中古屋だって言ったろ?」

「それしか情報無いのかよ?」

情報は沢山あるほうが良いに決まってる

「俺そこで釣竿買ったわ」

いやいやいやいや!
その情報いらねえよ

しかもお前情報じゃねーか

世の中には無駄な情報が有ることを
今思い知らされた。うん、覚えとこう

「そうじゃなくてよー場所とかさー」

軽く頭痛がしてきた

「木崎の家からはちょっと距離あるかな?自転車でも1時間はかかると思う」

「学校からは?」

「こっからなら、20分くらいだな」

すぐに話をかき回す千葉を相手に
昼休みを費やす羽目になったが
千葉が知っている範囲は話が聞けた

頭痛はますます酷くなったけど

No.14 13/01/22 18:53
まるだまる ( D6kL )

土曜日

俺はバイト先のファミレスで
お客さんに愛想を振りまきながら、
オススメの紹介をしつつ、
注文を聞いている

このバイトは、普通なら昼から出勤し
休憩を挟み、夜までやるのが通常だった

今回は早朝のパートさんが休むために
店長から入ってくれと頼まれたからだ

そのおかげで新しいバイト先に面接に
行けるから運が良い

もう少ししたらバイトも終わると
時計をチラッと見た時
女店長の中村さんから声をかけられた

「木崎君、もう上がっていいよ」

「はい、上がらせて貰います」

ぺこりと会釈して答える。

「朝早くからごめんね、次はいつもどおりでいいからね」

「大丈夫です。今日は俺も都合が良かったんで」

「それなら良かった。」

ニコッとしながら言う中村さんは
とても可愛らしかった

更衣室で私服に着替え、挨拶をして
店を出る

千葉から聞いた中古屋の場所まで
ここからなら20分くらいだな

伝えている時間は4時だから余裕だ
ゆっくりと自転車を漕いでいく

No.15 13/01/22 19:25
まるだまる ( D6kL )

「えと?郵便局の先だから…」

ああ、見えた。
あんまり来た事が無いエリアだったが
目立つ所に看板が立ててあった

『使える物なら買います!?』

何故?が入っているのかが分からない

店の表の雰囲気はコンビニぽいが
店の裏にザ・倉庫な感じの建物が見える

まだ時間はあるが面接してもらおうかと
考えていると

店の中から派手というよりも
変なアロハシャツ着た角刈りの
おっさんが出てきた

体格も良い上に目つきもやばい
普通に和服きてたらその道の人だろう

そのアロハとのギャップを俺に説明しろ

近付きたくないなーと考えていると
あれ?おっさんがこっちを見てる?

え?後ろを見てみたが誰もいない
恐る恐るおっさんの方を見直すと

おっさんが手招きし始めた
え?俺やられる?それとも掘られるの?

やばいマジ怖い。

No.16 13/01/22 20:02
まるだまる ( D6kL )

俺は自分の顔に指を差してみた
おっさんは手招きしつつ頷いた

マジ怖いんですけど。

恐る恐る近付いて行く。

頭の中に色々な方法が思い浮かぶが
実践的な事が思い浮かばない

「な、何か用ですか?」

自分で言って聞き方おかしいと思う。

用があるから呼ばれたんだよな
それが俺にとって不幸な事でもだ

「…坊主」

うわ…声まで怖い

「ははははいいいぃぃ!」

駄目だ!俺もう完全にびびってる
膝もカクカクしてきた

おっさんは両手を俺に突き出し
拳を握ったまま

「…どっちが良い?」

選んだ方の拳で殴るんですか?

「…どっちだ?」

…駄目だ…逃げられない

み、みだり!なんて言ったら
撲殺確定ぽいし…

あ、俺少しだけ余裕あるかも?

「み、みぎで…」

おっさんは右手をパッと広げると
チャリンと音がした

「…表だな」

え?何が?何起きてるの!?

No.17 13/01/22 20:23
まるだまる ( D6kL )

足元に落ちているのは鍵だ
三日月のキーホルダーが付いている

俺がブルブルしながら泡くっていると

「オーナー!何やってんですか!?」

女の人の声が響く

「…抽選」

オーナーと呼ばれたおっさんが呟く

「木崎君怖がってるじゃないですか!」

よくこんな怖いおっさんに怒鳴れるな
てか、なんで俺の名前知ってんの?

その女性を良く見てみると

スラリとした手足に胸元まで届いた黒髪
豊か過ぎず貧相でもない胸
何より顔が綺麗だ

何?このホモサピエンス?
絶対種族違うだろ

No.18 13/01/22 23:39
まるだまる ( D6kL )

「えーと?木崎明人君で良いよね?」

別種族の人が少し前屈みになって、頬にかかった髪をかきあげながら聞いてきた。
上目使いに俺を見るな、心臓が嫌な動きするだろ。

「は、はい!でも何で俺が木崎って?」

「…太一に聞いた」

太一って千葉じゃん!
知り合いって、このおっさんかよ

「で、でも顔知らないでしょ?」

「あは♪聞いてなかったのね?あなたの写真見せてもらってたのよ?」

何してくれてんだ千葉!
おかげで、おっさんに襲われそうになったじゃないか

「と、ところでさっきの何ですか?」

「…抽選」

何でこのおっさん溜めて話すんだ?

「だから何の抽選なんですか!?てかバイトの面接…」

「もー、オーナーちゃんと説明しないと、木崎君困ってるじゃないですか」

「…任せた」

オーナーのおっさんはそう言うと
くるりと周り店に向かって歩き出す

「もー!オーナー?(怒)」

別種族の人がおっさんに怒っているが、おっさんはこちらを見ずに右手を上げてプラプラさせている

「…まったく、適当なんだから…」

別種族の人はブツブツ文句を言いながら、俺の方を見て

「私、藤原美咲ここでバイトしてます。これからよろしくね♪」

No.19 13/01/23 14:10
まるだまる ( D6kL )

ニコッと笑う顔に心臓が跳ね上がる

「き、木崎明人です。よろしくお願いします」

自分の頬が軽く熱を持っているのが分かる

「えと?何から説明しよっか?」

こめかみに人差し指を当てながら、考えている

「あ、あの面接は?」

「さっきので終わりよ?」

「え?」

「オーナーと顔合わせしたでしょ?」

「や、雇って貰えるんですか?」

「私はオーナーから、新人が顔出しに来るって聞いてたわよ?」

「え、俺てっきり面接で決まるかと…」

「普通はそうよね…」

腕を組んだまま、顎に指先を当てながら、そう言った。

「ま、安心して。採用は決定済みよ。」

ウィンクしながら、教えてくれた
なんて自然にウィンクする人だろ
俺の心臓を何回暴れさせる気だ

「オーナーの甥っ子さんからの紹介でしょ?オーナーは電話でいつからでも良いって言ってたわね」

甥っ子?あいつ知り合いって言ってたじゃねーか!なんでまた…

「面接もしないで採用って…」

「甥っ子さんから、色々聞いた上で採用したんでしょ。当然、人柄とかね♪」

…やられた


No.20 13/01/23 14:52
まるだまる ( D6kL )

千葉のやろう・・・絶対俺がびびると思って仕組んだな。
あいつの仕掛けた罠にまんまと引っかかるとは・・・

「・・・あの・・・藤原さん?」

「あー私のことは名前で呼んでくれるかな?」

「え?むり」

素で返してしまった。無理だ無理
俺、今まで名前で呼び合ったことねーよ

「えー!私苗字で呼ばれると親しくないみたいでやなのー」

いわゆるブリッコちゃんスタイルでイヤイヤと体をゆする

「まだ親しくないし!!」

思わず突っ込んでしまう

「んっふっふ~いい反応ね~見込んだとおりだわ」

いやいやいやいや!ちょいあなた!!
そんな極上かもネギ見つけたみたいな顔しないで下さい

「それにオーナーも藤原よ?」

「はい?」

「うん、ふじわら」

「おやこ?」

「ちがう。次言ったら殴るわよ?」

そこは否定するのか

「たまたま?」

「えーそうね。明人君、気をつけてね、なんかセクハラぽいわ」

「誰もその事いってねぇ!!!!」

って、なんでもう俺の名前呼んでんだよ。
いかん・・・この人登場は普通だったけど、もしかしたらおっさんより
最悪かもしれない・・・顔は綺麗なのに・・・顔は綺麗なのにぃぃ

「もしオーナーがいるときに藤原さんって言ったら、オーナーが
『・・・何だ?』って言うわよ?」

溜める話し方まで真似して言わんでいい

「そん時に違うほうのって言いますよ」

「私は返事しないわよ」

「それダメだろ!!」

No.21 13/01/23 15:27
まるだまる ( D6kL )

「・・・名前で呼ばなきゃ返事しないわよ?」

頬を軽く膨らませながら横を向く
そんな顔でも様になってるから不思議だ。

「わ、わかりました。・・・み、みさきさん?」

うわ恥ずかしい。これでいいかよ。

「私みみさきさんじゃないわよ?」

「わかってるわい!!!」

やばいコレ千葉の10倍疲れる。
このままでは精神疲労度が増すばかりだ。

「美咲さん!」

「はい何でしょう?明人君」

ニコニコしながら答える顔に、また心臓が踊る

「あのさっきの抽選って?」

「あーあれね、私もされたわ」

「オーナーは表とか言ってたけど・・・」

「明人君は私と一緒で表の店で店子をするの」

「裏は何するんですか?」

「裏はね、買い取りとか回収とか修理がメインよ」

「そこに落ちてる鍵が表屋の鍵よ」

刺された指先にはおっさんが落としていった鍵
三日月のキーホルダーがついた鍵だ

「この鍵で表屋横の出入り口から入れるわ」

なるほど、従業員用の鍵を抽選で選んで
その鍵で開く場所が勤務先か意外とわかりやすい

「えと。とりあえずシフトとか教えてください」

「うちシフトないわよ?」

「へ?」

「オーナー変わってるからね、来たい時に来いって人なの」

「毎日来てもいいんですか?」

「私ほぼ毎日よ?」

「それって・・・」

毎日勤務できるなら、俺にとっては嬉しいけど
この人と毎日顔合わせるのか?

・・・・・・・・・・・・・・・・もつか?

「何か今嫌そうな顔しなかった?」

うお!?気づかれた?

「まぁいいわ、営業時間はお昼12時から夜10時までよ」

セーフセーフ

「開くの遅いんですね」

「オーナーの道楽だからね」


No.22 13/01/23 17:01
まるだまる ( D6kL )

「道楽?」

「ええ、そうよ。このお店はオーナーの道楽でやってるお店なの。
利益なんてほとんどないわね。店員の私が言うんだもの、間違いないわ」

って、それだとこの店潰れるんじゃないか?
美咲さんは俺が不安そうな顔をしているのに気づくと

「あー大丈夫よ。オーナー金持ちだから」

金持ちの道楽って聞くと嫌な気分にはなるが、それはそれ
俺をちゃんと雇ってくれるなら文句は言わない。

「条件いいからバイト希望者多いですよね?」

「希望したってこれないわよ?だって募集してないもの・・・」

「え?んじゃ俺はどうして?」

「甥っ子さんの頼みだからかな?。まぁ私も人から紹介してもらったけど♪」

くるりと背中を向けて店のほうを指差し

「ここで立ち話もなんだから中にいこ?」

普通にしてたらやっぱ綺麗な人だな。

美咲さんは、表屋と呼ばれた店の入り口に立つと振り返り、まるで映画のワンシーンのように手を上げながら、仰々しくまるでどこかの執事様みたいにぺこりとしながら言った。

「ようこそ!『てんやわん屋』へ♪歓迎するよ明人君」

No.23 13/01/23 17:57
まるだまる ( D6kL )

何?このネーミングセンス0の店の名は?絶対適当につけただろ。

美咲さんは、顔をヒクヒクさせている俺を放置したまま、店内に足を進めていく

俺も気を取り直して店内に入ってみると、コンビニの2倍くらいの面積に、種類ごとに陳列してある商品が目に止まった。

「裏屋で買い取ったものを陳列して、販売してるんだよ♪」

美咲さんはご機嫌な顔をしてそう言った。商品が同じのものは1個2個しかないが、種類が豊富だ・・・これ聞かれたら答えられるかな?

「大丈夫よ♪すぐに慣れるわ」

俺の不安を察知したのか、美咲さんはきれいな笑顔で慰めてくれた。

「・・・話終わったか?」

「ひっ!」

オーナーが突然後ろから声をかけてきて、驚きと恐怖に体が一瞬すくみ、声に出てしまった。

「脅かさないで下さい。びっくりしたじゃないですか!」

「・・・すまん」

反射的に文句を言ってしまったが、オーナーは素直に謝ってくれた。なるほど、美咲さんはこうやって慣れてきたのかもしれない。

「もー!オーナー足音立てずに近づくの止めてくださいよ」

実は声が聞こえた瞬間、美咲さんの体もびくっとなっているのに俺は気づいていたけど、言ったら何かいじくられそうだったので、何も言わなかった。
オーナーの声って、本能的恐怖を感じる声だから。

「えーと、まだ店の中見せてるだけですよ。オーナー」

「・・・少し出る」

「はい、今日は戻られます?」

「・・・いや」

オーナーもうちょっと会話しようよ。







No.24 13/01/23 22:55
まるだまる ( D6kL )

オーナーはそのまま、店の奥にある扉から出て行った。あの扉は裏屋に行く扉である事を美咲さんは教えてくれた。

「オーナーっていつも店にいるんですか?」

「週に2、3回位かしら?一応店長いるし」

「え?店長いるんですか?挨拶したいんですけど」

てっきりオーナーが店長兼務してると思っていたが、そうではないのか。

「今日はお休みなの。次来た時で大丈夫よ」

美咲さんがにこやかに言った。

その後、美咲さんから大体の仕事をかいつまんで教えて貰った。

「後は、実際に慣れてもらった方がいいわね」

「ありがとうございます。」

「あ、そうそう。更衣室教えるわね。」

店の右奥にある小部屋が従業員用部屋らしい。中に入ると窓も無く、小さなテーブルと椅子が2脚置いてあり、ここで食事とか出来そうだ。壁際にロッカーが並べてありそこで着替えるみたいだな。

「うちはユニフォーム無いから気軽よ」

美咲さんがエプロン姿でいることを考えると、俺も私服の方が良いな。学生服でエプロンとか嫌だし。

No.25 13/01/23 23:36
まるだまる ( D6kL )

「あれ?従業員用の更衣室って、男女共用じゃないですよね?」

今までのバイトの経験上、男女別の更衣室がない所もあったが、そういう場合は中に仕切りがされたりするものだが、この部屋を見る限り、仕切りもないので別の場所にでもあるのかと思って聞いてみた。

「え?ここ私も使ってるわよ?」

「あ、エプロンだけしかつけてないからですか?」

「たまに着替えるわよ。あら?着替え見たいの?」

美咲さんがニヤニヤしながらすすっと近寄ってくる。

「そういうこと言ってませんから!!」

この人、絶対俺をからかいたいだけだ。そういえばこの人何歳くらいなんだろ?明らかに俺よりは年上ぽいけど、女性に年齢聞くのって失礼だよな・・・。

「・・・何か聞きたいことできた?」

美咲さんは俺の心でも読んでるのか?やたらと察知が早い。

「あの失礼だとは思うんですけど・・・美咲さんっていくつなんですか?」

「あ、なんだ、ふふ。私は20になったばかりよ。」

「20歳ですか?」

「そうヤラハタよ!!」

「誰も聞いてねぇ!!!!」

拳をぐっと握りながら胸を張って、処女宣言するな。

「明人君たら・・・初対面の人にここまで告白させるなんて・・・」

モジモジしながら俺を見つめる。俺にどうしろというんですかあなたは?言われたほうが顔赤くなるわ!

「それは置いといて。俺も17になったばかりです。」

スルーしたことに対し軽く舌打ちされたような気がするけど、この人大丈夫なのかと心配になってきた。

「明人君も4月生まれなの?」

「そうです。誕生日早いんですよ。美咲さんもですか?」

「私は12日生まれよ。おひつじ座」

「あ、近いですね、俺8日です。星座も一緒だ」


No.26 13/01/24 00:05
まるだまる ( D6kL )

「気が合いそうだね。改めてだけどこれからよろしくね。」

美咲さんはそういうと今まで以上の笑顔で言った。俺の心臓を壊す気だな。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

頭をぺこりと下げた。

「やっぱり明人君。いい感じね」

急にそんなこと言われるとドキドキしてしまう。

「え?何がです?」

「ふふ。イイコってことよ。」

何か含まれているような気がしたが、とりあえず好印象は持ってもらえたみたいだ。人間関係はバイトだろうが正社員だろうが発生しやすいから、印象が大事だ。美咲さんに、日曜日は別のバイトがすでに入っているので、月曜日の夕方からバイトに入ることを伝え、美咲さんも店長に伝言しておくと言ってくれた。

「んじゃ月曜日まってるわね。」

「はい!よろしくお願いします。」

俺は美咲さんに見送られて、新たなバイト先である『てんやわん屋』を後にした。

なんかドタバタしたけど、美咲さんは美人だし・・・毎日来てもいいって、俺の条件にばっちりだし・・・これは運がいいとしか思えないな。

そうだ。千葉に面接終わったら遊ぶ約束をしてたんだ。あいつには言いたいこともあるし、メールして待ち合わせ決めよう。

俺は携帯を取り出し、千葉にメールを送る。それから数分後、返事が返ってきて、俺が今いる場所から近いファミレスで待ち合わせすることになった。

No.27 13/01/24 12:42
まるだまる ( D6kL )

千葉との待ち合わせにしたファミレスは、俺がバイトしている店のライバル店でもあるが、悔しいかな、客付きはこちらの方が多い。

低価格サイドメニューの豊富差で人気なのである。

まだ夕食の混雑が始まっていないのか、店に入るとパラパラと空席があった。

応対してくれた店員に、後から人が来る事を告げ、俺は席に着きドリンクバーだけ注文した。

ドリンクバーでジンジャーエールを入れて席に戻る。

来週てんやわん屋で働いてみて、他のバイトへの影響を考えておきたい。

今のところの俺のスケジュール。

日曜日、卸会社の仕分け※
月曜日、てんやわん屋
火曜日、ファミレス※
水曜日、卸会社の仕分け※
木曜日、本屋※
金曜日、皿洗い※
土曜日、ファミレス

※は連絡が無い場合、バイトが無くなる。これまで、何度となく連絡がこない事があったので、はっきり言って当てに出来ない。

固定しているのは、土曜日のファミレスくらいだ。

明日の日曜日のバイトは、田崎さんからメールが着ていたので、確定だ。

急にキャンセルになっても、てんやわん屋に入れば問題ない。

てんやわん屋が問題なければ、他を削る方が良いかもしれない。

No.28 13/01/24 22:32
まるだまる ( D6kL )

「おーす、待たせたか?」

声のする方を見ると、千葉が右手を上げながら、近寄ってきた。

「おっす。そうでもない。」

愛想の無い返事だが、千葉は気にした様子も無く、俺の向かいに座る。

千葉は店員を呼び、俺と同じくドリンクバーを注文し、俺に目配せすると、席から離れドリンクコーナーに向かった。

千葉はコーラを選んだらしく、持ったコップを置きながら、また元の席に座り直す。

「んで?どうだった?」

ニヤニヤとしながら、千葉は聞いてきた。

「お前はめたろ?マジびびったぞ?」

千葉を睨み付けながら言ったが、必殺技のコンボ決めてやったみたいな顔してやがる。

「まあ、そういうな。もう採用されてるって知ったら、つまんなさすぎだろ?」

「お前の叔父さん怖すぎんだよ!」

「へへ。俺も昔びびってた。」

鼻を擦りながら千葉は恥ずかしそうに言った。

「そら、そうだろ。」

しかし、千葉のおかげで新しいバイトが決まったから、お礼は言わないとだ。

「まじでサンキュな。待望の固定のバイト、しかも俺にとっては最高の待遇だ。」

そう言うと、千葉は何かばつが悪そうにしている。

「?」

俺がキョトンとしていると。

「いや実は、俺が叔父さんに頼んだわけじゃねーんだ。」

No.29 13/01/24 23:26
まるだまる ( D6kL )

「へ?」

「この話したの親なんだわ。母さんが話したんだ。」

「何でお前の親が?」

「わ、わりい。お前んとこの事情ちょこっと滑らせちまってな。」

あ、ばつが悪い顔はそのせいか。

「んで、叔父さんから電話かかってきて、お前の事教えろって言われてさ。」

「んで、採用された訳か。」

「そそ。んで水曜お前に言ったんよ。」

「わからん事がある。何で知り合いって言った?」

「親戚って言って、お世話したみたいに思われたら嫌だったんだよ!」

千葉は本当に良い奴だ。親御さんは良い育て方してるな。

「すまん。気を使わせたな。」

「それそれ!そういうのが嫌なんだよ!」

「ははは、わりい。お前の叔父さん、顔と声怖いけど、人情深いのか?」

「俺、あんまり知らねえんだ。まともに話したのも、今回が初だぜ?前に釣り道具買った時も、叔父さんの店って知らなかったし。」

何でオーナーが、俺を雇う気になったのか、よくわからなくなってしまったが、機会があれば聞いてみるか。


No.30 13/01/25 18:37
まるだまる ( D6kL )

「お前の叔父さんさ、話し方くせあるよな?」

俺はオーナーの溜めた話し方を思い出し、つい聞いてしまった。

「は?何言ってんの?普通だろ?」

また俺をからかいたいのか?と思って表情を見てみるが、千葉は本気でそう言ってるように見える。

「・・・演技?」

うは、今すっげぇオーナーぽい言い方になった。

「演技?何で叔父さんがわざわざ演技すんだよ?」

言われてみれば、確かにそうだ。たかだかバイトの面接で、高校生相手に演技する意味など無いだろう。うん、そうだな。真似して千葉に確認してみよう。

「わかんねーけどさ。言い方真似するから、何か話振ってみてくれよ。」

千葉は何か言いたそうだったが、天井を見ながら考え始めた。何か思いついたようで、周りに聞こえない小さな声で話始めた。

「・・・店に綺麗なねえちゃんいたろ?スリーサイズ聞いた?」

「そんなもん!聞くか!ぼけえええ!」

つい大声で叫んでしまった。隣の席にいる二人連れが何事って顔で見てくる。ついでに俺は、美咲さんの綺麗な顔と体つきを想像してしまい、顔が少し熱くなっていた。

「言い方、普通じゃねえか?」

「お前な・・・質問がおかしいだろ。」

「真似はしないのか?」

「あんな質問で真似できるか!」

「ところで、あのねえちゃん、まだいるんだ?」

「美咲さんかな?」

しまった!今取り返しのつかないこと言ってしまった!こいつの前で美咲さんって呼んでしまった。ヤバイ!絶対突っ込んでくる。

案の定、名前を聞いた瞬間、驚いた千葉は、目を細めると口元をニヤニヤしながら言った。


「ふ~ん?美咲さんねぇ?随分と親しくなったようじゃねえか?」

「そんなんじゃねえよ!向こうがそう呼べって言うから。」

ダメだ。なんてお決まりなセリフを言ってんだ、俺は。

「今度から楽しみだな。バイトの話よく聞かせろよ?」

「い・や・だ!」

No.31 13/01/25 20:01
まるだまる ( D6kL )

店をでた後、千葉がバッティングセンターに行きたいと言うので、付き合うことにした。その道中散々、美咲さんネタでいじられたのは言うまでもない。

バッティングセンターに久しぶりに来た。前に来たのは、去年のゴールデンウィークが過ぎた頃で、人数も6人くらいだった。その時千葉も一緒に来ていて、今思えば、その時がきっかけで仲良くなったんだった。

「懐かしくね?」

千葉は高速タイプのピッチングマシンを選んでいた。バッターボックスに立ち、投げ出される球を狙いつつ、ネットの向こうからそう言った。

「ばーか。去年のことじゃねーか。」

「そう・・・・・・かっ?」

話してる最中に球をマシンから投げられ、千葉は慌てて当てにいったが、打球はボテボテのゴロになった。

「あー、ちくしょう!当て切れなかった。」

千葉は悔しそうに顔をしかめた。

「ざまぁ!」

俺がそう言うと、千葉はうるせえよと笑い、ピッチングマシンを睨みつけていた。

千葉は何度か快音を響かせてるとマシンが止まった。俺も交代してやってみたが、久しぶりからか、最初の3球はかすりもしなかった。

結局、手応えのあったのは1発だけで、後は散々だった。千葉に何度もやじられた。くそー。

2人で何度か交代しながらやって、たまに休憩しながら、学校の話をした。主にクラスメートの誰が誰と付き合ってるみたいだけどマジ?みたいな事で盛り上がったが、千葉主観だから、信憑性は全く当てにはできないけど。

「腹減ったぞー。」

千葉が腹を押さえながらうめく。ファミレスではドリンクしか入れてないし、そのままバッティングセンターにきて、体動かしたんだから腹も減るわな。気づいた途端、俺も腹が減ってきた。

「飯どっかで食ってくか?家でメシ用意されてんじゃないの?」

千葉にそういうと

「ラーメン行こうぜ。ラーメン。家には食って帰るって言っちまったし。」

俺たちはラーメン屋に向かった。久しぶりに親友と遊べたことは正直嬉しかったし、楽しかった。ただ、いい感情が味わえた分だけ、こいつと別れた後、家に帰る足取りは重くなるだろうなという思いは消えてくれなかった。



No.32 13/01/25 21:48
まるだまる ( D6kL )

日曜日

白いYシャツの袖を肘までまくり上げ、ぽつぽつと白髪の生えた頭をかきながら、手にした書類を確認している。田崎さんは、俺に笑顔を向けながら言った。

「今日はちょっと大変だけど頑張ってね。」

確かに、今日はいつもの倍はある。

「はい!頑張ります。田崎さん、出荷時間とか、期限あるのは無いんですか?前にそれでえらい目にあいましたからね。」

以前に、出荷時間が当日設定されている作業を、田崎さんの勘違いで、後回しにしてしまったために、大慌てでやったことがあったのだ。

「今回は当日分は無いから大丈夫だよ。あの時はすまなかったね。」

「いえいえ、でも間に合って良かったですよね。」

「あぁ、そうだね。君達のお陰だ。」

田崎さんは優しく笑いながら言った。

俺たちはその後、ひたすら田崎さんの指示に従って、仕分け作業をし、バイトの終業時間までかかってしまったが、なんとか終わらせることができた。

「きっざきくーん、おつかれさまー。今日は終わりでいいよー」

倉庫の奥から、田崎さんが大声で作業終了の声をあげた。

「はい!おつかれさまでしたー。」

俺も田崎さんに聞こえるように大声で答える。

「今度もよろしく頼むねー。また連絡するからー。」

そんな声を張り上げなくても、近くに来て言えばいいのに。最後のチェックが田崎さんの仕事だが熱心な人だ。

「はい!わかりましたー。お先に上がらせてもらいます!おつかれさまでしたー。」

帰り支度をすませ、チェックをしてる田崎さんに挨拶した後、俺は帰路へとついた。

いつもと同じように自転車を押して歩く。

この時間は嫌いだけど、長くあって欲しいといつも思ってしまう。

いつか飛び立つ場所だけど、還る場所ではないあの家に・・・

No.33 13/01/25 23:18
まるだまる ( D6kL )

月曜日

どこかで音がなってる。音の正体は分かっているが、良い夢を見ていたような気がして、まだ眠りから覚めたくなかった。手で音の鳴る辺りをまさぐり、止めようとするも、手に感触が伝わらない。仕方なく身体を起こし、鳴り止まないアラーム時計を見つめる。

「学校行かなきゃ…」

まだ頭がぼんやりするが、口からこぼれ出た言葉が、俺を現実の世界へと導く。

鳴り続けていたアラーム時計を止め、洗面所に向かい顔を洗う。

タオルで顔を拭き終え、鏡に映る自分の顔に陰鬱さを感じてしまう。

家に居るときに、陰鬱な顔になってしまうのは、自分でも自覚している事だ。

今日の朝飯は、途中のコンビニでおにぎりでも買うことにしよう。何だか今日は、早く家から離れたい。

学校に行ったら、家の事は忘れられる。逃げていると言われてもも仕方がないが、何にどうやって立ち向かったらいいか、俺にはわからない。

だったら、せめて忘れていたい。

制服に着替えた俺は、バイト用の着替えをいれたリュックを背負い、通学用の鞄を持って家を出た。

自転車のカゴに通学用の鞄を放り込んで、学校へ向かった。

No.34 13/01/26 12:37
まるだまる ( D6kL )

学校での生活は俺にとって、嫌なものはない。千葉もいるし、友人こそ少ないものの楽しめているからだ。勉強だって嫌いじゃない。昔に比べると勉強の量は少なくなったが、成績は上位をキープできている。バイトが無い時に、できるだけ勉強するようにしているからだ。大学に進学したとしても、この近くにある大学に行かず、少しでも離れた場所の大学に行けば、親の面子を守りつつ堂々と家をでることも可能だからだ。家から飛び立つためには、自分の選択肢は多いに越したことはない。

昼休み、千葉をはじめとするクラスの奴らと雑談する。今日は、主にゲームの話が中心で、俺には、よくわからなかったが、千葉が気を使って補足説明をしてくれたおかげで、話題においていかれることはなかった。

この間、千葉に言われたからじゃないけど、もっと千葉達と遊べるように努力しよう。からかってくるけど、こんな奴探したって見つかるほうが少ないだろう。

千葉と仲良くなってから、観察していてわかったことだが、雑談中も一緒にいる奴等を、よく見ているのだ。表情を見てるというか、空気をよく見ているといったほうが、正解か。話を振られたら話せるけど自分からは振れないって奴は多い、千葉は、そういう奴に自然に話を振り、まともな返事なら同調して話を盛り上げ、的を得ていない返事でも、相手を馬鹿にしないやり方で盛り上げていく。俺にはできない芸当だ。

いつものように時間は過ぎていき、HRも終了した。俺が帰り支度をしていると、千葉が近づいてきた。

「美咲さんとこ、いくんだよなー?」

ニヤニヤしてやがる。いい加減そのネタ止めろ。

「ばーか。美咲さんとこじゃなくて、バイトに行くんだよ。」

「また話聞かせろよ。」

「わかった、わかった。んじゃ初出勤してくるわ。」

教室の入り口へ向かいながら、千葉に手を振り答えた。

「おーがんばれ、勤労少年。」

手を振りながら、千葉はいつものように笑って言った。




No.35 13/01/26 14:17
まるだまる ( D6kL )

学校を出て、自転車で、てんやわん屋へと向かう。初めての出勤からか、いつもと違う緊張感があった。

店長ともまだ顔をあわせしていない、そんなことを考えていたら益々緊張してきた。目印の郵便局が見えた。あの先に看板がある。

てんやわん屋に着いた。外から中を見る限りだと、誰もお客はいない。利益重視ではないにしても、こんなんでいいのだろうか?

店の横の邪魔にならないところに自転車を置いて、入り口から入る。

「いらっしゃ~い。」

覇気を全く感じさせない声、オーナーや美咲さんと違う。俺の知らない人だ。

声の主を見ると、店のレジのところでイスに座ったまま、雑誌を呼んでいた。見た目は30代後半だろうか、髪も耳にかかる程度だが、ひいき目に見てもボサボサな感じは否めない。顔つきもやる気がないってのが、丸わかりでぽつぽつと顎にも無精ひげがある。よれよれのシャツにジーパン、それに茶色いエプロンをつけているから店員とわかるが、それが無ければ、ただのおじさんだ。だらしがないってのが正直な印象だ。


「・・・何かお探しで?」

男は動作も緩慢に、こちらを見やると、しょうがないなーって感じで聞いてきた。

「あ、あの今日からこちらでお世話になります。木崎です。よろしくお願いします。」

そういうと男は、けだるそうに

「あ~、そういやそうだった。俺、ここの店長やってる金城ね。よろしく。んじゃ、バイト始めていいよ~。」

俺は唖然とした。

ちょっと待て!お前!おかしいだろ!?初めてバイトに来て、挨拶してきた人間に店長として何か言うことあるだろ!

金城はちらっと、俺を見ると、

「準備してきな~。」

金城はそう言うと、また雑誌を広げて読み始めた。

「はい、準備してきます・・・」

俺は憮然としながらも、更衣室に向かい扉を開け、中に入った。

更衣室に入った途端、

「明人君キターーーーーーーー!」

声の主、美咲さんが俺を指差しながら叫んできた。人を指差すのは止めなさい。

店の中にいないと思ったら、ここにいたのか。今日の美咲さんは黒の長袖のTシャツとジーパン、それに青地のエプロンといったラフなスタイルだ。顔は綺麗だし、スタイルもバランスがいいから存在感がある。これで巨乳だったら恐ろしかっただろう。

「こ、こんちわ、み、みさきさん」

俺はぺこりと頭を下げる。

「みみさきさんなんて、いないわよ?」

美咲さんは誰ソレ?見たいな顔して言った。

「どもっただけです!!!」

「明人君やっぱ反応いいなー。あ!私に惚れちゃダメだよ?苦労するよ?」

ニコニコとしながら美咲さんは言ったが、苦労するのが前提なんですね。

「あ、それは無いです。」

俺がさらっと返すと、美咲さんは後ろを向いて、「素で言われた・・・。」とぶつぶつ言っていた。しばらく、そうして落ち込んでて下さい。

No.36 13/01/26 16:32
まるだまる ( D6kL )

テーブルの上を見ると、ペットボトルのレモンティーと紙皿の上に食べかけのドーナツが置いてある。状況から察するに休憩中なのだろう。

「休憩中だったんですか?」

まだ何かぶつぶつ言ってる美咲さんに聞いて見ると、少しの間。何かに気づいたように、はっとすると、俺を指差し

「ちょっとドーナツ食べたかっただけよ!明人君がくると思って、ここで待ってたんじゃないんだからね!」

・・・美咲さん・・・思いついたからって、ツンデレキャラ演じるの止めろ。それよか、キャラ統一してください。まぁ、言ってる事は、事実なんだろうが。

「はいはい・・・わかりました。」

あきらめ口調で返答すると「これも違うか?」と、また美咲さんは、ぶつぶつ言い出したので放置することにした。

面接に来たときに教えてもらっていた自分のロッカーに、着ていた学生服をしまい、リュックの中から私服を出す。着ているYシャツを脱ごうとしたとき、背後から視線を感じた。

「・・・・・・何、見てるですか?」

後ろを振り返ると、両手をぐっと握り締めて、目をキラキラさせている美咲さんがいた。

「え?決まってるじゃない!明人君のお着替えシーンを堪能中よ!」

「何言ってんだ!あんたは!」

これが漫画だったら、美咲さんの周りにハァハァって文字が浮かんでそうだ。

「ほらほら!さっさと脱がんかい!」

「どこのおっさんだ!」




No.37 13/01/26 21:38
まるだまる ( D6kL )

この人は一体何なんだ・・・とりあえず俺は、着替えたいし・・・

「美咲さん・・・」

「はい!なんでしょう?」

美咲さんは、小学生のようにまっすぐ右手を上げ答える。

「後から来てなんですけど、着替えるんで出てもらっていいですか?」

俺は扉を開けながら、右手で外に出るよう促した。

「明人君のけち~。」

ぷくっと頬を膨らませ俺を睨む。けちってマジで見る気ですかあなた?

俺は、美咲さんの後ろに周り、肩を押すようにして美咲さんを誘導した。

「はいはい、わかりました。出ときますよ~だ!」

観念した美咲さん部屋を出て、ゆっくりと扉を閉めた。

閉めた途端、扉から叫び声が聞こえる。

「えーん、てんちょ~!明人君がいじめるんです~!」

ちょっと待て!人聞きの悪い言い方すんな!これはさっさと着替えて、俺の立場説明しないと。

すばやく私服に着替えた。今日は動きやすい格好がいいだろうと思い、シンプルに青地の長袖のTシャツとジーパンにした。そして、家に元々あった黒地のエプロンを着けて、俺は更衣室から出た。

レジのほうへ向かうと、美咲さんが店長に話かけている。

「美咲さん、人聞き悪い言い方しないで下さいよ。」

美咲さんは、え?何が?見たいな顔してこっちを見ている。

「みさきちゃんにいちいち構ってたら大変だよ~。」

やる気のない声でいう店長は、雑誌に目を向けたままだが、話は聞いているようだった。店長は呼んでいる雑誌を畳むと、立ち上がり俺らのほうを向いた。


「んじゃ~、二人とも俺裏いくから後よろしく~。」

美咲さん「はーい。」俺「え?」

店長は、そのまま裏の扉から出て行ってしまった。



No.38 13/01/26 23:25
まるだまる ( D6kL )

「どういう事ですか?」

美咲さんに聞いてみると、

「店長は裏屋の人だもの。」

美咲さんは淡々と答えた。裏屋の人って、表屋は俺がいなければ、美咲さんだけでやっているのだろうか。

「美咲さん。他に人いないんですか?」

「いないわよ。先月までは私の先輩がいたんだけどね。」

美咲さんは、寂しそうな顔を浮かべながら、教えてくれた。

「でも明人君が入って来たからね。」

本当に嬉しそうに微笑みながら言う、美咲さんを見ると、何となくだが、俺にテンション高く絡んできた理由が、分かったような気がする。

No.39 13/01/27 00:40
まるだまる ( D6kL )

美咲さんから聞いた話をまとめると、先月まで一緒にバイトをしていた先輩が、オーナーに紹介してくれて、ここで働くことになったようだ。

通常、表屋は2名での勤務スタイルだったが、先輩が辞めてしまったために、店長はサポート役にまわり、基本的には美咲さん一人でやっていたらしい。

店長は開店当時から、裏屋を主担当としているが、人が揃うまで表屋の店番をしていて、俺が来たときに居たのは、美咲さんが休憩中だったからのようだ。

俺が来たことで2人になるから、店長は自分の持ち場へと帰っただけの話なのか、色々合点がいった。

俺が一人の時も店長に連絡すれば、サポートして貰えるということか。

「・・・なるほど。この事、この間言ってなかったですよね?」

「・・・あれ?言って・・・なかったっけ?」

美咲さんは目を泳がせながら言った。本人も記憶がなかったらしい。

仕事の内容は聞いているので早速取り掛かかろう。実際やることはレジの操作と陳列棚の整理、商品の補充と一般的な販売店とやることは変わらない。ただ、商品の補充は裏屋にいって貰って来るって所が、違うだけだ。

陳列棚の整理を始めた俺は、着替えのとき美咲さんを追い出したこと思い出した。

「あ、美咲さん。まだ休憩中だったでしょ?助けて欲しいとき呼びますんで、続きどうぞ。ドーナツまだ全部食べてなかったし。」

「そうやって私を独りにするんだ~よよよ。」

泣真似しながらそう言うが、指の隙間からチラチラこっちをみているのがバレバレです。

「はいはい、後でゆっくり相手しますから。」

「え?ほんとに?絶対だよ?」

ぱっと目を輝かせながら俺を見つめる。あなたは子供ですか?地雷地帯に自ら入ったような後悔感はあったが、美咲さんはご機嫌な顔して、更衣室に向かい、ヒラヒラと手を振り、中に入っていった。

No.40 13/01/27 14:02
まるだまる ( D6kL )

てんやわん屋の陳列棚は、カテゴリー別に分けられていて、棚の整理といっても空いたスペースを、見栄え良く配置し直したりするだけなので、労力は要らない。俺が店に着いてから、まだ一人の客も来ていないから、そう頻繁に作業も起きないようだ。

俺はこの時間を利用して、カテゴリー別の棚にある商品を記憶していく。時折、見たことが無い器具や、地方の特産品らしい物があって、興味をそそる。しゃがみ込みながら特産品を手にして見ると、中国産と書かれていたりして、「どこの特産品?」と、突っ込みたくなった。

「おまたせ~。」

俺が特産品を見て唸っていると、美咲さんが思ったより早く出て来た。

「早かったですね?」

立ち上がりながら言うと、

「あ、びっくりした。逃げたかと思った。」

美咲さんは、ほっとした顔をしながら言うが、何で俺が逃げる必要がある。というか、何故そう思いに至ったのかが、そもそも疑問だ。

「何してたの?」

興味津々といった顔で俺に近づきながら聞いてきた。

「棚にある物把握しておこうと思って。」

「わー明人君まじめだねー。」

美咲さんは驚いたように、俺の顔を見つめながら言う。

「バイトはどこのバイトでも真面目にやりますよ?」

俺は苦笑いしながら答えた。

「ほほー、若いのに感心、感心。」

3つしか変わらないはずなのに、年寄りじみた言い方をする。本当に、美咲さんは会った時から、キャラの統一性がない。最初見たときは、頼りになりそうな人だと思ったのに、この人が、次にどんなキャラで攻めてくるかと、身構えてしまいそうだ。ただ、この人懐っこさで緊張感が飛んだのは確かだし、ツンケンされるよりかは、ましなので、徐々に慣れていこう。

No.41 13/01/27 16:29
まるだまる ( D6kL )

陳列棚をくるりと周り、俺がレジに向かうと、美咲さんもついて来た。レジに置いてあるイスを俺のほうに差し出しながら、

「普段は座っててもいいからね。」

俺に座るよう促してくれた。

俺はイスに座ると、美咲さんも、もう一つのイスに腰をかけて、俺のほうを見ている。俺は視線を避けるようにして、ふと入り口のほうを見やると、車が1台入ってきたのが見えた。

客なら、俺にとって最初のお客さんになる。

ふとレジのことで、疑問が浮かんだので美咲さんに聞いた。

「今までのバイト先では、清算の時、札のお釣りの場合はチーフか、店長のチェックあったんですけど。美咲さんにお願いすればいいですか?」

「え?そんなことやってたんだ?私に言わなくてもいいわよ。」

美咲さんは驚いた顔して言ったが、普通の店ではよくあることだ。


店員を信用しているのか、それとも疑いを持つことすら考えていないお人好しな経営なのか、勝手な思い込みだが、恐らく後者だろう。

実際、俺もチェックを受ける時、規則上仕方がないと分かっていても、信用されてないみたいで、嫌な気分になったこともある。

先程、入って来た車の主は、トランクから荷物を降ろし、そのまま右手に進んでいった。

「あの人は裏屋行きね。買い取り希望でしょうね。」

俺の視線の先を見て察したのか、美咲さんは俺に説明してくれた。

No.42 13/01/27 17:46
まるだまる ( D6kL )

お客が来ない。

バイトに来てかれこれ2時間経つというのに、お客が来ない。そのおかげで、美咲さんに「相手するって言ったよね?」と話し相手にされてしまった。

主に俺が質問されているが、時折、美咲さんの病気が出て、静かな店内に俺の声が虚しく響くことが度々あった。

「・・・ふーん。そっかー。そんなにいっぱいバイトしてるんだ?」

美咲さんが感心した顔で呟き、フムフムと頷く。

「高校生のとき、私そんなこと出来なかったな。」

しみじみと、昔を思い出したみたいに言う美咲さんの視線が、妙に遠いような気がしたのは気のせいか。

「経験を積みたいってのもありますよ。社会に触れるでしょ?」

偉そうな言い方してしまったなと、少し恥ずかしくなってしまったが、美咲さんは気にした様子もなく、

「明人君、自分で考えてやってるんだから凄いよね。」

真顔で言ってきた。そういうこと言われると非常に照れる、顔が赤くなっているのが自分でもわかる。言った当人の美咲さんの表情に少し影が見えたのが気になる。

『・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり私ダメだな。』

ボソッと何かを呟いていたが、聞き取りにくく、最後の言葉は聞こえた。

「何がダメなんです?」

聞こえた言葉の意味を聞いてみると、

「え?あ?な、なんでもない!なんでもない!」

両手を振りながら、顔を真っ赤にして否定していた。それは嘘だろうと思ったが無理強いして聞くのも野暮なので、そこはスルーすることにした。







No.43 13/01/30 20:40
まるだまる ( D6kL )

美咲さんが振り回している手を、突然、ピタっと止めると、俺の後方に視線が止まっていた。

「あ、明人君!お客さんかも?」

笑顔で指差しながら言い、美咲さんの示す方向を見ると、入り口越しに初老の夫婦が車から降りて、こちらに向かって来ていた。

夫婦は会話しながら、こっちに向かっているが、手に荷物も無いから、表屋に用事があるのは間違いないだろう。

入り口の自動ドアが開き、

「「いらっしゃいませ!」」

俺と美咲さんが同時にお客を声をかける。


夫婦は、一瞬こっちを見やると、店の中を見回し、目当ての物でも見つけたのか、奥の棚の方へ歩いていった。

「明人君、初のお客さんだね。買ってくれるといいけど。ふふ」

美咲さんは、お客さんの動向を見ながら嬉しそうに囁いた。

中古販売店だと、買いたい物があっても、物の程度によっては二の足を踏む物もあるし、俺が客でもそう思うから、ほとんどの人も同じだろう。


やっと来たお客なので、できれば何か買っていって欲しい所だ。


接客的には積極的に攻めた方が良いのだろうか?

疑問を客に聞こえないように囁いた。

「美咲さん、お客さんに、こっちから希望商品とか聞いたほうがいいんですか?」

「聞かれたら答えればいいわ。ノルマがあるわけでもないし、ノンビリ見てもらいたいしね」

「なるほど、中には店員に話しかけられるの嫌な人もいますもんね」

「・・・私もその口だわ」

No.44 13/01/30 21:08
まるだまる ( D6kL )

その言葉は俺にとって、今日の中で最も驚いた発言だった。


「またまた~、そんなキャラじゃないでしょう。店員さんを困らしてるんじゃないですか?」

意外な答えに俺は、思ったことをそのまま意地悪く笑って言うと、

「・・・明人君、君は私をそう見てるのか?」

少しむすっとした顔でジト目で睨んでくる。

美咲さんなら、店員を呼んで、あれでもないこれでもないって、楽しげにやり取りしてそうな気がしたんだが、そういうことはないような言い振りだ。

想像とは違ったが、買い物が苦手な人もいるから、実際はそうなのかもしれない。


モジモジしはじめ、こちらをチラリとみて、体をよじりながら

「だって、ほら私、人見知りだし・・・」

「だれが? なんだって?」

思わず素で聞き返した。

「だから・・・人見知り・・・」

「どの口がそう言ってんですかね?人見知りって意味わかってます?」

俺は引きつった笑いを浮かべながら、美咲さんに詰め寄った。

「そんなに近づかれると照れちゃう。ぽっ」

「いやいやいやいや!それもおかしいでしょ!しかも『ぽっ』って口で言ってるし!」

「くっ・・・気弱キャラもダメか!」

顔を背けながら悔しそうにしていた。・・・何狙ってんだ?この人は。

「どんだけキャラ演じたいんですか!」

「ふっふっふ。知りたくばワシを倒してみせい!」

「もうやだ、この人・・・」

軽く頭痛がしてきた。

No.45 13/01/31 17:43
まるだまる ( D6kL )

美咲さんは俺の方に向き直り、指を立てて軽くウィンクしながら、

「明人君、お客さんいるんだから、ふざけちゃダメですよ?」

「あんただ! あんた!」

俺は客が店内にいることを一瞬忘れてしまい、自分の声の大きさにびっくりして慌てて口を塞いだ。

幸い客はチラリとこちらを見ただけで、また商品に視線が移っていった所を見ると、気にされていないようで、危ない・・・怪しまれないように気をつけよう。

客は頷きあいながら、小型の空気清浄機を手にして、こちらに向かってくる。

「明人君がレジやってね。私は袋に入れるから」

「はい、わかりました」

美咲さんは小さな声で指示を出し、俺も同じく小さな声で返事した。

「こちらの商品は二千円になりますが、こちらでよろしいですか?」

そのスマイルいくらですか?と聞きたくなるくらいの笑顔で、美咲さんは商品の購入確認をする。

老夫婦の旦那さんのほうが、うんうんと頷く。

「かしこまりました。清算はこちらでお願いします」

俺のほうへ客を促し、バトンパスされた俺は、レジの操作にうつり、財布をもった奥さんに対応した。

その間に美咲さんは客から商品を預かると、強力パワーと書かれた空気清浄機をすっぽりと覆うような袋にすばやくしまい、旦那さんに渡した。

奥さんにレシートを渡すと「ありがとう」と言って、先に歩き始めた旦那さんを追いかけていった。

「おし! ひとつクリア!」

拳をぐっと握って、小さくガッツポーズする。

仕事を覚えていく喜びは、どんなバイトでも上手くいくとやっぱり嬉しい。

「お客が来たら美咲さんみたいにすればいいってのも、分かりまし・・・」

俺は美咲さんに向かって話しかけたが、美咲さんは小さくガッツポーズしながら、目をうるうるさせ、なにかぶつぶつ呟いてる。

「美咲さん?」

「・・・やった、やったわ。・・・明人君と最初の共同作業・・・いつかケーキとかにもしちゃうのね・・・うふふふふ」

「ちょっ! 一緒にレジやっただけで何でそうなるんですか!」

「・・・こうやって少しずつ、愛が深まっていくのね。うふうふふ」

「み、みさきさん! 正気にもどれ!」

「みみさきさんなんて、いないわよ!」

顔だけこっちに向け、ギョロッとした顔で怒ってくる。ちょっと怖い。

何故怒る?もしかしてトラウマか?

さっきまで怒った顔が、にっと表情を崩し美咲さんは俺の方に向き直り、笑顔でこう言った。

「いい? 明人君、私に惚れちゃダメだよ。苦労するよ?」

「あー、もう・・・どうでもいいです」

また頭が痛くなった。

No.46 13/02/01 17:27
まるだまる ( D6kL )

まもなく閉店の時間だ。

入り口の電気を消して、閉店中と書かれた看板を入り口の内側に置く。

美咲さんに教わりながら、閉店準備をしていると、店長が現れた。

「どうだった~? 明人君、初日の手ごたえは?」

抑揚のない声で聞いてくるが、美咲さんの影響か店長も俺を名前で呼んでいる。

「今日は結局お客さん五組だけでしたけど、いつもこんな感じですか?」

「ん~、表屋はそうだね~。売れない日もたまにあるし」

金城は店の売り上げなど全く気にしてないような言い方だった。

いくらオーナーが金持ちでも、赤字続きになると店を畳むのではないだろうか。

「稼ぎ少ないですよね?」

「ん~裏屋は結構お客来るし、修理依頼もあるからね~」

「裏屋って修理もやるんですか?」

修理の言葉に、ちょっと興味が沸いてくる。

「そうだよ、補償の切れた製品を直して欲しい人もいるからね~」

「それって部品無いんじゃ?」

「方法はいくらでもあるよ、直せないものもあるしね~」

店長は、頭をぼりぼりと掻きながら薄笑いを浮かべて言った。

No.47 13/02/02 08:56
まるだまる ( D6kL )

視界の隅には、美咲さんが棚の影から、じーっと頭だけ出して見つめている、いや、睨んでる?まるで、興味を持ってるけれど、あえて近づかない猫のようだ。

「あ、あの店長? 美咲さんあそこで何やってるんでしょうか?」

「ん~? 俺とばっかり話してるから怒ってるんじゃない? そんな感じするよ~?」

首を傾げながら言う店長に、俺は返答も出来ず深いため息だけがこぼれ出た。

「言ったでしょ~? 美咲ちゃんにいちいち構ってたら大変だよって~」

慣れた様子の店長の言い方を聞くと、美咲さんはいつもこんな感じなのか。

「でも、良い子なのは、すぐにわかっただろ?」

「・・・そうですね」

店長の問いを否定することは、俺には出来なかった。

「大体、片付けは終わったかな? 帰るときにこれ押して帰って~」

店長から手渡されたのはタイムカードだ、今日俺が入って来た時間は、既に記録されている。

上のところに呼び名は明人君でよろしく!とペン書きされた紙が張っている。


・・・誰だ・・・これ書いたの・・・


思い当たる人物に鋭い視線をやると、一瞬びくっとしながらも、まだ覗いている。


あれか?

もしかして、る~る~る~とかいう奴やって欲しいのか?

No.48 13/02/02 11:49
まるだまる ( D6kL )

俺は、ちょいちょいと手招きするが、美咲さんは顔をイヤイヤと横に振る。

これは・・・めんどくさいパターンか?

「おいで、おいで。何もしないから、こっちおいで~」

俺は、しゃがみこみながら極力優しい声でこっちへ来るよう促す。

少し警戒しながら、美咲さんはこっちへ近づいてくる。

「・・・別に優しい言い方されたからって来たんじゃないんだからね!」

「はいはい・・・わかりました、店長、獲物捕獲完了しました」

美咲さんのツンデレキャラを流すと、俺は悪乗りして店長に報告した

「あ~ご苦労さん。明人君ノリいいね~。美咲ちゃんと良いパートナーになれそうだ。美咲ちゃん? そこはモジモジしなくてもいいよ? そういう意味で言って無いからね?」

No.49 13/02/02 14:13
まるだまる ( D6kL )

見ると美咲さんは下を向き、両の指先をツンツンとしながら赤い顔している。

今日複数のキャラを見ているが、演じる能力が高い人だと思う。素ならかなり怖いが・・・

そういえば、最初の印象で店長に悪い印象を感じていたが、単にそう見えただけで本当はいい人なのかもしれない。

店長に対する美咲さんの態度を見ていてもそれは感じ取れる。

まだまだ自分が人を第一印象だけで判断しているだけなのかもしれないが。


店長が薄笑いを浮かべながら、

「明人君、他のバイトもやってるんだったね? うちはいつ来てもいいけど、来れるときは連絡して欲しいんだよね~。メールアドレス教えてくれる?」

「あ、そうですね。ちょっと携帯取ってきます。」

「ついでに帰る準備しておいで~、みさきちゃんもね」

「はーい」


店長の言葉に従い、俺は更衣室に入り、ロッカーから荷物を取り出す。

美咲さんも更衣室に入ってきたが、着替えるような様子はなく、ロッカーに上着と小さな鞄だけしか入れてなかったみたいで、着けていたエプロンをロッカーにしまうと、さっと上着を羽織り、鞄を肩からかけ、俺を見てニヤり、


「今、『服、脱がないのか残念』って思ったでしょ?」

No.50 13/02/02 16:02
まるだまる ( D6kL )

「思ってないし!」

「ふふ、でも気を使わせるのも悪いから、店長に言って仕切りつけといてもらうわね。ここは前まで、女の子しか使ってなかったから」

「そうしてもらえると助かります」

まともなことを言う時もあるので、美咲さんへの対応には困るときはあるが、店長が言うように良い人だってのは、俺も実感している。

鞄の中にしまってある携帯をチェックすると、メール無し。

ファミレス店長の中村さんから連絡が無いので、明日のファミレスでのバイトは無くなった。

平日のファミレスはバイト競争率が激しい。

どこの会社もそうだが、雇うなら高校生よりも大学生、大学生よりもパートタイムを優先させる傾向があり、長い時間定期的に確実に来てくれる方が良いのだ。

単なる小遣い稼ぎでやるバイト生と『俺は違う』と言っても、それは会社には関係ない事で、あくまで、一人の高校生が言う戯言にしか過ぎない。

実際、何度と無く見てきたことだが、遊びに行く用事が出来たと言って急に休むバカもいれば、ちょっと文句を言われただけでバイトを辞める奴もざらにいる。

悔しいが、高校生のカテゴリーとして、同一視されるのは仕方がないときがある。

携帯から視線を外すと、美咲さんが「どうかしたの?」という顔で見つめていた。

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