帰路

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まるだまる( D6kL )
13/05/18 14:27(更新日時)

書いてみたくなったので
書いてみます


13/02/21 22:29 追記
高校生の舞台は学校だけじゃない!

木崎明人は、事情がありバイト生活を送っている高校2年生。

毎日でもしたいが、現状は安定しない、呼ばれた時だけバイトだった。

そんな時友人から紹介された店に行くと、そこには極道ぽい男と別種族ではないかと思える程の美人がいた。

さあ、どうなる

No.1904791 13/01/21 22:25(スレ作成日時)

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No.151 13/04/11 23:32
まるだまる ( D6kL )

「ふふふふふふふふふ……」

 レジの方向から怨霊じみた声がする。

 声に振り向くと美咲が目を細めてこっちを見ていた。

「あ~き~と~く~ん? そっち、終わったかな~?」

 美咲の口端は上がっているのに目が笑ってなくて怖かった。

 背後に黒い炎が見えるのは気のせいだろうか。

 最近これと似たようなものをどこかで見た気がするけど、どこでだったっけ?

「お、表周りは終わりです。後、店内ですね」

 少し恐怖に駆られてどもってしまう。

「あらそお~。それじゃあ、アリカちゃん。店内は私と回ろうか?」

 表情がそのままなので、アリカも引き気味に答える。

「は、はい、お願いします。…………ありがとね、明人」

 アリカは去り際に小さく呟くと足早に美咲のもとへ向かっていった。

 あれ、今、アリカ、初めて俺の名前を言ったのではないだろうか。 

 一人とり残された俺は、レジのところで清算している店長の所に行った。

「あの様子だとアリカちゃんと上手くやっていけそうだね~」

 作業をしながら、俺らのことを見ていたのか、店長は薄ら笑いを浮かべて言う。

「ええ、そうですね。なるべく喧嘩しないように気をつけます」

「今日は美咲ちゃんがちょっと様子おかしかったんだけど、心当たりある?」

「え? 様子ってさっきのですか?」

「いや~、あれなら俺も心配しないさ。さっきのはいつもの美咲ちゃんだよね。夕方くらいまでね、ちょっと様子がおかしかったんだよね~。ここで勤め始めた時の美咲ちゃんと同じ感じがしたんだよ。気のせいならいいけど」

 店長は店の奥にいる二人に視線を移す。

 それにつられて俺も視線を移すと、そこには二人が笑顔で柔道の試合でもやってるように構えあっている姿があった。

 お前ら……何やってんだ……。

「後でちょっと聞いてみますよ」

 二人の姿にため息を漏らしつつ店長に言う。

「そうだね~。ちょっと聞いてみてくれるかな」

 俺と店長が話をしている間に二人の戦いも終えたようで美咲とアリカが戻ってきた。

「お疲れ様、もう上がっていいからね~。帰り道気をつけるんだよ」

「「お疲れ様でした」」

 アリカはそのまま裏屋に向かい、美咲は更衣室に入っていく。

 俺は先に表に出て、自転車を押して戻ってくると、ちょうど美咲が扉の鍵を閉めたところだった。

「行きましょうか」

No.152 13/04/13 08:48
まるだまる ( D6kL )

「うん」と美咲はニコニコしながら返事した。さっきまでのドス黒い気とは打って変わった気がする。

 裏屋の方から一台のスクーターが、俺達の前を走り抜けようとして不意に止まった。

「お疲れ様。お先にー」

 運転していたのはアリカだった。

 手を振って挨拶すると、また颯爽と走らせていった。

「あいつ、バイクで来てたのか。いいな、俺も免許取ろうかな。でも取るんならビッグスクーター乗りたいから、そっちの方だなー」

「明人君もバイクとかに興味あるんだね」

「そうですねー。乗り物ってなんだか憧れちゃうんですよ。それにビッグスクーターだったら、二人乗りできるから美咲も乗せられるよ?」

 美咲の顔が真っ赤になると同時に、自分の頬を手でぐにぐにとしながらうろたえる。

「うにゃー、やっぱだめだー! 明人君ごめん、顔がニヤけちゃう!」

「なんで?」

「名前呼ばれると、なんかニヤけちゃうの」

「自分が呼び捨てで呼べって言っといて、何言ってんですか……」

「だから謝ってるじゃない」

「元に戻します? 俺はいいですよ?」

 ちょっとからかいたくなって、意地悪く聞いてみる。

「それは絶対いや!」

 案の定、顔をぶんぶんと振って拒否する。

「ところで、今日夕方頃まで様子がおかしかったって、店長から聞いたんですけど?」

「う……」

 俺が聞くと美咲は振っていた顔がぴたりと止まって驚いた表情になった。

「その事聞いて、それは俺からメールが来るまでの事だと推測したんですけど?」

「あう……」

 更に続けて言うと、今度は表情が段々と暗くなっていく。

「俺が本当に来るか不安だったからってところですか?」

 聞いてみると、美咲は俯きかろうじて聞き取れる小さな声で呟いた。

「だって……私、今までそういうの無いから、分からなかったんだもん。明人君の事だから、本当に来るって思ってたけど。なんか心配になっちゃって」

「美咲は心配しすぎです。もし無理になった時は、絶対連絡するし、今回は俺から言い出したことだから。…………顔、またニヤけてますよ?」

「うにゃあああああ、やっぱだめだー!」

 美咲はまた自分の頬を手でぐにぐにとしながら悶え始めた。

「やっぱり元に戻します?」

 笑いながら意地悪く言うと、

「明人君、それはいじめだよ!」

 目を潤ませて頬を膨らませながら睨む美咲。

「俺が美咲をいじめるわけないでしょ。あ、ほらまた顔」

「うにゃああああああああああ、なんでこうなるのー。明人君は意地悪だー!」

 恥しいからか、しゃがみこんで顔を隠す。

 次にからかったら地面でものたうちまわるのではないだろうか。

「俺は何もやってないでしょ?」

 俺が聞くとしゃがんだ姿勢のまま、美咲は俺を指差し、

「顔の事、指摘するの禁止!」

恥ずかしそうな顔をしながら言い、俺はため息をこぼしつつ「はいはい」と答えた。

No.153 13/04/13 21:05
まるだまる ( D6kL )

 俺が答えると美咲はゆっくり立ち上がり俯いたまま、とぼとぼと足を進め始めた。

 その歩調に合わせて俺も歩き出す。

「そういや、バイクの話してたよね」

 美咲は顔を上げて振り向きながら言う。

「ああ、そうでしたね。バイトやってるから、お金は大丈夫なんで、マジで取ろうかな」

「大学でもいっぱいいるよ。車での通学は駄目だけど、バイクで通学していいから。私は免許持ってないから、バスで通ってるけど」

「あ、バスで通ってたんですか。美咲のところからなら、自転車でも通えるんじゃないですか?」

 俺が聞くと、美咲は俯いた。

 ちなみに気付いてないかもしれないが、口元がニヤけてるぞ?

「……私、自転車乗ったこと無い」

 少し恥ずかしげに言う美咲。

「え、自転車乗った事ないの?」

 自転車に乗れる事が当たり前だと思っていた俺は驚いた。

「小、中、高と全部歩いていける距離だったし……遠い所に行くときは、バスと電車だったし。家族で出かけるときも車だったし。自転車なんて考えたことなかった」

 交通の便が良かったにしても自転車くらい乗りそうなものだけど。

「それじゃあ、店までバスで来てるの?」

 素朴な疑問を投げかける。

「うん、大学でお昼から受講してるのは一つだけだから、それ終わったら、バスで郵便局の所まで来てるの」

「前から不思議に思ってたけど、大学って授業そんなに少ないの?」

 美咲は大学生なのに、なぜ俺より早いのだろうと思っていた。

 小学校から中学校、高校になるにつれて、授業のコマ数は増えてきていたから、大学だともっと多いと思っていたからだ。

「学科にもよると思うけど、私のところは午前中二つ、午後一つだけだよ。私は部活とかサークルに入ってないから、二時半位には大学を出るよ。講義だって一時間丸々使うって事滅多に無いし、講義が終わったらすぐ先生帰っちゃうし」

「全然、勉強してないように聞こえるんだけど」

No.154 13/04/14 08:04
まるだまる ( D6kL )

「ふふん、明人君。そこは勘違いしているよ。一般的に高校生までは、既存の情報や学習方法を万遍に教わるの。正確に言うと、それしか教わっていないの。後は覚えるか、覚えられないかだけ。大学生からは、今までの学習方法を活かして、既存の情報を基に自分の専門分野を研究するのよ。何故今はそうなっているのか、根拠はこうだからとか、理論的な説明が求められるの。それが私達の宿題でもある課題レポートってわけ」

「うわ、なんか、美咲が凄く頭がいい人のように見えてきた」

「む! それちょっと聞き捨てならないわね?」

 少しだけ口元がニヤついているが、美咲はじろりと睨んでくる。

「い、いや、馬鹿にはしてないよ。それに、それだと、もっと授業受けないと分からないんじゃないの?」

 腕を組み、考え込みながら美咲は答える。

「あ、まだわかってないなー。既存の情報は講義から得れるでしょ。それを基に私達は自分なりの理論を出していく。つまり考えを深めるってことよ。考えを深めるためには時間が必要なのよ。講義の後に調査、研究してまとめる時間が与えられると言えばいいかな?」

「えーと、それって結局、講義の後は自習ってこと?」

「正確に言うと違うんだけど。感じで言うとそんな感じかな。まあ、ぶっちゃけちゃうと、講義が終わったら、学生はその後好き勝手にしてる人が多いかな。高校の延長みたいなものね。高校生だと先生から自習って言われても、ほとんどの人がしないでしょ。それと一緒」

 今時の高校生に自習なんていった日には飢えた獣を野放しにするようなもんだ。

 教室内でそれぞれ好き勝手な事をやる率のほうが非常に高い。

 自習時に配られるプリントも消化してしまえばやる事も無く、雑談したり、携帯をいじりだしたり、時には携帯ゲームでグループ狩りに出かける奴らもいたりと様々だ。

 時に騒ぎすぎて、隣で授業をしている先生が怒鳴り込んでくるのは、よくある光景だ。

「目的がある人や生真面目な人はちゃんとやるけど、大学ってのは、そんな感じね」

「うーん。分かったような分からんような」

「明人君も大学に行ったら分かるよ。特に進級がかかった課題なんてね……最悪だから」

 その課題が相当にきつかったのか、どんよりとした表情でいう美咲。

No.155 13/04/14 13:43
まるだまる ( D6kL )

「あれ、また話それちゃってたね」

「いやいや、俺が聞いたんだし。免許は教習所とか調べてみる」

 話をしながら進んでいるうちに、美咲のハイツが見えるところまで来ていた。

 今日は部屋の明かりが点いているから、はるなさんは部屋にいるようだ。

「あれ、もう着いちゃった。なんか今日は早かったね」

「うん。いつもより早く感じた」

「それじゃあ、また明日ね。明人君、今日はきてくれてありがとね」

「気にしない。俺が行くって言ったんですから」

「うん、それじゃ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 美咲さんが部屋に入るのを確認した後、少しして窓を見上げる。

 美咲さんとはるなさんが窓辺に近付いてきて、俺を見て小さく手を振っている。

 俺が手を振り返すと、はるなさんが美咲に何か言ったようで美咲が悶えていた。

……何やってんだか。
 


 俺は帰路へと足を向けて進んでいく。

 今日一日のことを思い返す。

 太一の家で本来の家族はああいう感じなんだと気付かされた。

 俺が失ったものは、あれだけ温かい物だったんだと思い知らされる。

 ファミレスのバイトのように、頑張っていれば認めてもらえることだってあるだろう。


 俺は親にどうして欲しいんだろう。

 認めて欲しい?

 何を?

 今の俺?

 存在自体? 

 逆に親は俺に何を求めてるんだろう。

 地位か名誉か?

 それは誰に対して?

 俺の?

 答えが出ない。

 いや、わからない。


 取り戻せる方法ってあるのだろうか……。

 いや、無理か。

 それならば忘れよう。

 誰かと一緒にいれば家のことなど忘れられる。

 俺が一人でいても、忘却できるようになればいいだけだ。

 一人思考の迷路をさまよっているうちに自分の自分の家にたどり着く。

 

No.156 13/04/14 13:46
まるだまる ( D6kL )

 自転車のかごの鞄からメールの着信音がした。

 鞄から携帯を取り出して見ると美咲からだった。

 『もう家に着いちゃったかな? 今日は嬉しかったよ。本当にありがとうね。』
 
 礼はいらないって言ってるのに、律儀な人だ。

 家のすぐ近くだったので、その事も合わせて返信し、携帯をポケットに入れた。

 家の前に着いた時、母親が使っている車が無いことに気付く。

 家の中も暗い。

 どうやら出かけているようだ。

 自転車を置き、家の鍵を開けて玄関に入る。

「……ただいま」

 返事が返ってくるはずも無いのに呟く。

 その時、ポケットの携帯が鳴った。

 ポケットから取り出して見ると美咲から着信。

 メールじゃない。電話の方だった。

「はい、もしもし」

「あ、明人君。美咲です」

「どうしたんですか? 電話なんて」

「えと、家に着いただろうなと思って」

「今ちょうど玄関ですよ。家に誰もいなかったけど」

「え? 誰もいないの?」

「無人でした。母親どっかにいってるみたいです」

「……おかえりなさい」

「え?」

「おかえりなさいって言ったの!」

「た、ただいま」

「えと、えーと、それじゃあ、おやすみ!」

 美咲は少し慌てたようにプツンと電話を切った。

 何だったんだろう?

 それにしても『おかえりなさい』か……久しぶりに言われたな……。


 部屋に戻り、荷物を置いてシャワーを浴びに風呂場に向かう。

 洗面所の前で鏡を見たとき、そこにはにやけている自分がいた。

 まるで美咲が帰り道に見せたようなにやけている顔だった。

No.157 13/04/15 18:17
まるだまる ( D6kL )

日曜日

 朝、目覚めてから朝食をとった後、次の日の学校の準備をしておく。

 準備しておくだけで、心に余裕ができるので、日曜日の朝の習慣にしている。

 今日は昼からてんやわん屋でバイトだから午前中はやる事がない。

 時計を見てもまだ九時にもなっていない。さて、どうするか。

 前までなら用事がないときはバイトを探しに駅の方まで出ていたが……。

 窓を開けて外を見てみると、今日も天気が良く、風も穏やかだ。

 ふと、下を見てみると母親の車が無い。

 昨日は帰ってこなかったようだ。

 家の留守電に何も入っていないところをみると、事故や事件に巻き込まれたわけでは無さそうなので気にしなくてもいいだろう。

 このまま家の中にこもっていて、母親の帰宅と鉢合わせになるのも煩わしい。

 こういう時は外出するに限る。

 昨日、話題にあがった教習所にでも行ってみようか。

 確か、美咲が通っている大学の近くにあったはずだ。

 大学までは自転車で行っても一時間くらいの距離なので、探して話を聞いてからでもバイトに遅れる事はないだろう。

 目的も決まったので、出かける事にした。

 愛用の自転車にまたがり颯爽とこぎ始める。

 頬に当たる穏やかな風は気持ちが良かった。

 途中、俺が通っていた中学校の脇を通った時、グラウンドから大きな声が聞こえた。

 グラウンドでは大きな声を出しながら、ボールを追っかけているサッカー部、ネット越しには、ラリーを続けているテニス部が元気そうに球を追っかけている。

 大会でも近いのだろうか、みんな真剣に励んでいるようだ。

 中学生の元気な姿を尻目に、俺は大学までの道を進めていく。

 家を出てから小一時間ほどで、俺は目的地の大学の正門前にたどり着いた。

「ここが美咲の通ってる大学か……。結構、大きいもんだな」

 大学の近くを通った事はあるが、まじまじと見るのはこれが初めてだった。

 正門前から見える建物だけでも四つあり、そのうちの一つは正面にそびえ立っていて、建物の中央には大きな時計塔が見える。

 時計塔は歴史があるのか、周りの建物よりも、かなり古びた感じだ。

 敷地の奥は建物で見えないが、グラウンドやその他の施設もあるのだろう。

 日曜日だというのに、人の出入りが散見される、部活やサークルだろうか。

 携帯を取り出して、目的地の教習所を調べると、今の位置から正門の右手を大学沿いに真っ直ぐに行けばたどり着けるようだ。

 携帯をしまい、目的地を目指して自転車を漕ぎ出した。

 しばらく大学沿いの道を進んでいると、清和教習所と書かれた看板が見えた。

 近くまで行ってみると、すでに教習所内で教習用の車が何台か走っていた。

No.158 13/04/16 23:14
まるだまる ( D6kL )

 自転車を駐輪場に置いて、受付に行くと事務の女の人が「入校希望ですか?」と聞いてきた。

「普通二輪の免許取りたいんですけど、手続きとか、費用とか教えてもらえますか?」

「はい。ではこちらの書類を見ていただけますか」

 事務の女性は慣れた手つきで俺に大きな封筒を手渡した。

 封筒の中には、入校案内のカタログと申請書、費用の書かれた一覧表が入っていた。

「入校に必要な記入書類は、今お渡しした封筒の中にある申請書だけです」

 事務の女性は言いながら、封筒の中と同じ書類をカウンターに並べた。

 俺が用意するものは、入校案内に書かれてある本籍地の記載してある住民票一通と身分を証明するもの、こちらは保険証もしくは学生証でも構わないと教えてくれた。

 事務員が指で示しながら丁寧に説明を続けていく。 

 写真も必要だが、教習所内でも撮れるようなので、用意しなくてもいいそうだ。

 後は、費用と印鑑を持って来れば入校手続きは完了するらしい。

「費用は最初に全額納付ですか?」

「全額納付じゃなくても問題ありませんよ。最初に入校費だけでもいいですよ」

 補足説明で言われたのは、検定不合格などで補習等が発生した場合は、再検定と補習の追加料金が発生するそうだ。

 事務の女性に礼を言い、俺はその場を後にした。

 封筒を鞄に入れた後、教習所内を見て回る。

 所内地図を見ると、二輪車は車とは違う所に練習コースがあり、敷地の奥にあった。

 見学がてら足を運んでみると、二台のバイクがコースを走っていた。

 その二台のバイクは慣れた感じだが、トロトロとゆっくり走っている。

『二番、曲がる時の安全確認が足りませんよ!』

 コースの端にあるスピーカーから注意を促す声がした。

 おそらく声の主は教官だろう。

 その声に答えるように一台のバイクが止まって手を挙げる。

 なるほど、こうやって教習を受けるのか。

 今、練習している人たちが、どの段階か分からないが、自分が受けるときの参考になりそうだ。

 五分ほど見学していたが、ぐるぐると同じコースを回るだけだった。

 代わり映えしない練習風景に飽きてしまい、練習コースを後にした。

No.159 13/04/19 00:13
まるだまる ( D6kL )

 寝る前にでも貰った入校案内を読んで、教習所に通うか真剣に検討してみよう。

 免許を取ったらバイクも欲しくなるだろうし。

 そういやビックスクーターって、値段はどれぐらいするんだろう。

 どこかに販売店は無いだろうかと、記憶を辿ってみるものの、普段気にした事がなかったせいか、どうにも思い出せない。

 鞄から携帯を取り出し、近場の販売店を検索してみると、二軒が表示された。

 どちらも、ここから十分ほどで行けそうな距離だ。

 とりあえず、最初に表示された販売店を目指して移動する事にした。

 しばらく自転車を漕いでいると、バイクの販売店が見えてきた。

 全国展開しているチェーン店のようで、想像していたよりも大きかった。

 店頭と店内には様々なバイクが所狭しと並んでいる。

 新車、中古車は区別されているようだ。

 店に入ってお目当てのビッグスクーターを見てみることした。

 このエリアは新車のエリアらしく、ピカピカのバイクが並んでいる。

 正直、性能とかよくわからない。

 興味はあるけど知識は全く無い。

 メーカーによって様々な外観をしているが、数台ある中で猫目のようなライトを装備したスクーターに惹かれてしまった。

 値段表を見てみると、乗り出し価格五十五万ポッキリと書かれていた。

 ……高い。バイクって、こんなに高いのか。

 バイトの給料は貯金している。

 買えない事は無い。

 しかし、教習所の費用とバイクの費用を足すとかなり減る事は明らかだ。

 これは厳しい……将来、家を出るときのための貯金だが、ここで使いすぎるのは厳しい。

 当然維持費も必要だ。

「うーん」

 俺が値段を見て唸っていると、販売店の店員が近付き声をかけてきた。

「ビッグスクーターに興味あるんですか?」

『興味あるから見てるんだけど』と、心の中で突っ込んでおく。

No.160 13/04/20 11:59
まるだまる ( D6kL )

 俺は今から免許を取りに行こうとしていることと、それでここに来たことを告げた。

「そうですよね。免許取りたいならバイクの費用とか気になりますよね」

 答えると店員は俺を値踏みするかのように流し見る。

「気に入ったものがあれば、見積もりだしますよ」

「初めて見にきたんですけど、高いんですね」

「新車だと、結構高くなりますねー。あちらの中古なんかどうですか?」

 店員は中古車の方を指差した。

 店員の話によると、ここの在庫は大学生が使っていたものが多いらしく、走行距離や外観の程度も悪くないものが多いそうだ。

 中古の値段は人気や使用度合いに左右されるが、新車よりもかなり割安らしい。

「初めてのバイク購入なら、中古車でもいいと思いますよ」

 店員に促されて中古車の所に行ってみると、整備されて外観が綺麗なものが多い。

「見る基準が分からないんですけど」

「うーん。まずは走行距離、その次が年式ですね」

「なるほど……」

 その後も店員に見る際にどう見ればいいかと質問すると、店員は親身に教えてくれた。

「これなんか、いいですよ」 

 お奨めされた中古車は、俺が新車のところで見ていたバイクと同じ型のものだ。

 年式的には五年ほど経っているが、走行距離は五千キロを少し越えたほどだった。

「前のユーザーさんが丁寧に使ってて上品です。五年前のものとは思えないくらいは良い状態ですよ」

「それだと高いんじゃないですか?」

「それが、このバイク今年の夏にモデルチェンジする予定なんですよ」 

 店員は店内に置いてある雑誌を持ってきて記事を見せてくれた。

「あれ? 外観かなり変わりますね」

「そうなんですよ。今のがいいって人多かったんですけどね……」

 店員もこのバイクが好きだったのか、惜しむような顔をしていた。

「俺もこれより今の方がいいなー」

「そうでしょう!」と喜ぶ店員。

「この流れるような先端からのフォルム、愛らしい猫のようなライト…………」


 ……………………。


 ……はい、五分ほど、このバイクの魅力を聞かせていただきました。

 相当に思い入れがあるようで、聞いていても悪い気はしなかった。


 愛だね、愛。

No.162 13/04/22 23:28
まるだまる ( D6kL )

 教えてくれないと、余計気になるじゃないか。

 バーベキューの時にでも、はるなさんに聞いてみよう。

「はるちゃんに聞こうとしても、駄目だからね!」

 くそ、ばれてる。

 相変わらず察知が早い。 

「はいはい、わかりました。もう聞きませんよ」

 美咲は荒れた息を整えると、ちょこんと椅子に座る。

「ねえ、明人君。今日のバーベキュー楽しみだね」

 表情も落ち着いていて、さっきまでの事が無かったかのようだ。

「そうですねー。 俺、バーベキューすごく久しぶりですよ」

「前はいつだったの?」

 首を傾げながら顔を覗き込むように聞いてくる。

「俺が中学の頃ですね。親父が単身赴任ばっかなんで、機会が無かったんです」

 中学までの頃はまだ家族って感じで過ごしていた。

 反抗期らしい反抗期など俺自身も感じることなく、良い親子関係を築けていたと思う。

 今となっては、家族というコミュニティがいかに脆く、不安定な存在である事を俺は知ってしまった。 

 とはいえ、回復させる手段を持たない俺にはどうすることもできない。

「あら、それじゃあ今日は楽しまないとね」

 俺の心中など知らない美咲は溢れんばかりの笑顔を向けてくる。

「そうですね」

「はっ! べ、別に明人君とご飯食べられるからって嬉しくなんかないんだからね!」

 美咲は思いついたが吉日とばかりにツンデレキャラを演じる。

「そのキャラはもういいです」

 俺の冷たい目線と言葉にがくりとうなだれる美咲。

「明人君が冷たい……。なに? 逆にツンデレなの? それも良いって思っちゃう私は何? M?」

 明らかに聞こえる声でぶつぶつと呟いているが、聞こえない振りをした。

「そういえばですよ。太一の家族も来ることになったんですよ」

「え、太一君もそうなの? それだと今回は人数多いわね」

「太一も?」

「アリカちゃんも妹を連れてくるって、昨日言ってた」

 アリカに妹がいたのか。確かにお姉ちゃんってキャラは似合いそうだ。

 あの偉そうな態度はそうやって培われたのかもしれないな。 

「へー。他の人たちも呼んでるんですかね?」

No.163 13/04/24 20:14
まるだまる ( D6kL )

「私は呼んでないけど。高槻さん所は奥さんと娘さんが来るわね。毎回来てるそうよ」

 美咲は答えながら、来るであろう人数を指で数えている。

「前島さんと立花さんはまだ独身ですよね」

「あ、でも、二人とも彼女いるから。多分連れて来るよ。あ、数わかんなくなった」   

 いや、数わからなくなったって、まだそれほど数多くないだろ。

「店長のご家族はくるんでしょうか?」

 店長が家族と別居している話を聞いてから、気になっていたことだった。

 美咲の話では、前のバーベキューの時には仲睦まじそうにしていたらしい。

 夫婦生活が完全に破綻しているわけではなさそうだし、なにか事情があるようだが店長に直接聞く勇気が無い。

 こういう機会を利用して、家族との交流を切に願う。

 多分、俺が取り戻せないものを、他の人には取り戻して欲しいと願っているのかもしれない。

「あ、それも昨日聞いたよ。奥さんと娘さん来れるんだって。店長嬉しそうだった」

 その話を聞いて心からほっとした。

「ホント、よかったです」 

「今日は初めて会う人が多そうだから。ちょっと緊張しちゃうな」

 手を胸に当てて呟く美咲。

「らしくないですね」

「やっぱり初めて会うのは緊張するよー。明人君の時だって緊張してたもん」

 美咲は俺の言葉に少しムッとして口を尖らせながら言う。

「初めてのときは緊張するってのは、わかるんですけど」

「けど、なーに?」

 俺の顔を覗き込みながら続きを聞いてくる。

「俺との時、全く緊張してるように見えませんでしたよ」 

「ふっふっふ、そこはホレ、私の演技力で」

 右手を胸に当て、左手は空を仰ぐようなポーズで答える美咲。

 ポーズ決めてドヤ顔するの止めてください。

「うわー、大根くせー」

No.164 13/04/25 21:39
まるだまる ( D6kL )

 小一時間ほど客の来ない店内で、他愛も無い話を続けていると、裏屋からの扉が開きアリカがやってきた。

 エプロンを着けているところをみると、表屋で勤務するよう言われてきたのだろう

「あら、アリカちゃん。こっちのお手伝い?」

「もうすぐ裏屋の方は準備にかかるから、表屋に行ってろって言われました」

 アリカはにっこりと美咲に答える。

「準備って……まだ、早いよな?」

「高槻さんバーベキュー好きだから辛抱できないみたい。店長も乗り気だし」

 ……それでいいのか、店長。

「そういや、アリカの妹も来るんだって?」

「そうそう、妹がね、前からここを見たいって言ってたのよ」

 俺は空いている椅子を俺と美咲の間に置き、ここに座れと指で示す。

 頷いて、カウンターの中に入ってきたアリカはちょこんと椅子に座る。

「それで、誘ったのか」

「うん、そういうこと。明人と同じ清高だよ」

「え、明人君と一緒の高校なの?」

 美咲は知っているかと問うような顔を向けてきたが、俺は顔を横に振る。

 学校にいる女子の顔をそんなに知ってるわけじゃないけど、アリカに似た女の子なんて見たことない。

「そうなんです。清高に今年入ったばっかりですよ」

「一年生か。妹はアリカに似てるのか?」

「妹はあたしと全然似てないよ。それにあたしより背が高いし……」

 こらこら、人生の敗北者みたいな顔してんじゃねえよ。

 コメントに困るじゃないか。

「アリカちゃんの妹さん、名前なんていうの?」

「愛っていうんですよ」

 苗字が愛里なのに愛って名前か。上から読んでも下から読んでも愛里愛だな。

「親はどうせ苗字は変わるから、気にしなかったって言ってましたね」

 いや、そこは気にしようよ。

 結婚しなかったらそのままだぞ。

「なんか名前に思い入れでもあったのかな? それとも字画がいいとか?」

 美咲が顔を傾げながら聞く。

「愛は愛情に包まれますようにって、親は言ってましたね」

 アリカはさっきから敬語とタメ口を使い分けている。

 器用な奴だ。

No.165 13/04/26 18:43
まるだまる ( D6kL )

「アリカは、自分の名前の由来聞いたことあるのか?」

「んー。美しくて好ましい人になるようにって、ママが言ってた。香って、そういう意味にもなるらしいの。そういう明人は?」

 自分のことを美化しているようで恥しいのか、ごまかすように聞いてくる。

「俺は、周りを照らす明るい人になれますようにって聞いたな」

 自分では名前負けしてると思ってるけど、響きも漢字も嫌いじゃない。


「へー、なんかあんたの髪の未来を象徴してそうね。美咲さんは?」

 おい、俺の髪の未来をそっち方面に固めないでくれ。

 親父だって薄く無いぞ。

 もしかして薄いのか? マジで薄いのか?

 大事な事なので、二回聞きたくなった。

 嫌な汗をかいている俺をスルーして美咲は淡々と名前の由来を告げる。

「私が産まれた病院の桜が綺麗に咲いてたんだって、それにちなんでお父さんが名づけたらしいよ」

 おー、なんか美咲にしっくりくる。お父さんグッジョブだ。

「桜ってことは、美咲さんも四月生まれですか?」

「「も?」」

 俺と美咲の声が重なる。

「あたしも四月なんですよ。誕生日、四月十日なんです」

「うわ!」

「まじか!」

 美咲と俺はそれぞれに驚嘆の声を上げる。

「うわー、明人君これ凄くない?」

 アリカの話を聞いて、少し興奮したように言う。

「ですね。偶然とはいえ、これは凄い」

 アリカは俺達が驚いてるのを不思議そうに眺めている。

「え、なんで? なにが凄いの?」

「私の誕生日、四月十二日」

「俺の誕生日、四月八日。しかも今、誕生日順に並んで座ってる」

「あ、ほんとだ!」

 アリカじゃなくて美咲が言った。

「えー、みんな誕生日近いんだ!」

 少し興奮気味に言うアリカ。

 確かに誕生日が近いのは、奇遇といえば奇遇で、できすぎと言えばできすぎだ。

 一瞬青くて丸い猫型ロボットを思い出したが、今は関係ないと、頭の中からはじき出す。

「星座占いとかも一緒だね。あ、明人君は男だから、ちょこっと違うかな」

「星座占いも男女の違いはあるでしょー。美咲さんとあたしは一緒ですね」

 女の子はオカルトめいたものにはしゃぎやすい傾向にあるのか、美咲とアリカは俺を置き去りにきゃっきゃうふふと盛り上がっている。

 女子会のノリ止めてください。

 ボッチは嫌です。

「星座だけの占いだと大雑把過ぎじゃね?」

 ボッチになるのは嫌なので話に食い込んでいく。

No.166 13/04/27 00:30
まるだまる ( D6kL )

「んー、そうだね。あとは血液型とか、あとなんだっけ、ほら、白色彗星みたいなの」

 美咲はどこの宇宙帝国の話をしてるんだ?

 しかも相当古いぞ、それ。

 占いの話だから、似たような言葉なのだろうけれど、俺には正解が分からない。


「…………それ一白水星じゃ?」 

 アリカが悩んだ様子で答えを引っ張ってくると、美咲はポンと手を叩いた。

「あ、それだ!」

「全然違うし……彗星関係ないじゃねーか。ヘールボップ彗星とか思い出したわ」 

「彗星ってのは合ってるじゃない!」

 開き直って胸を張る美咲。

 いやー、それなんか無理があると思う。

「美咲さん。水星って水の星って書くんですよ?」

 アリカがぼそっと美咲に突っ込むと、「え?」と目を丸くする美咲。

 どうやら美咲の脳内変換では水星じゃなく彗星のままだったらしい。

「そ、それくらいわかってるよ? やだなあ、アリカちゃんたら、ははは……」

 誤魔化すように視線を逸らす美咲。

 明らかに勘違いしていただろ。誤魔化そうとしても無駄だぞ。


「明人君とアリカちゃん、血液型なに?」

 話を元に戻そうとする美咲。いじめてもしょうがないので答えておく。

「俺はA型です」

「あー、明人君が言う前からA型だってわかっちゃった」 

 アリカも首をうんうんと頷いた。なにそれ、俺そんなにA型の性格してる?


「んじゃ、アリカのはわかる?」

 俺が聞くと、顎に手をやり少し考え、

「アリカちゃんはAB型だと思う!」

 アリカを指差して言う。

 だから人を指差すのは止めなさい。

「正解、あたしAB型です」

 片手を挙げて答えるアリカ。

 アリカはB型だと思ったのに外れたか。


「あら、みんな違うのね。私O型だもん」

 美咲がO型と言われると、なんかしっくりくる。

「あー、何となくそんな感じですね」とアリカ。

 ……アリカは絶対大雑把なO型ってところを考えたはずだ。

 アリカの顔がちょっと引きつってるのがいい証拠だな。


「うーん。でも血液型性格って、なんか微妙なんだよなー」

「まあ、四つにしか大別してないからね」

 頷いて言うアリカ。

「でも、男女の違いもあるから、それなりに信憑性はあるんじゃない?」

 血液型性格の信者なのだろうか、美咲は食い下がる。

「明人みたいに型にはまってたら、信憑性は高いと思うんですけどね。あたしはB型に間違えられることが多いもの。美咲さん、あたしがAB型って、よくわかったね」

「勘よ!」

 おい、根拠なさすぎだろ。それ、当てずっぽうって言うぞ。

 だから、そういう時にドヤ顔しなくていいから。

No.167 13/04/27 20:31
まるだまる ( D6kL )

「相性いいのは何と何かな?」

 アリカは顎に手をやり顔を傾げている。

「俺、相性とか全然知らない」

「あれって見るもので違う気がするけど。よくA型とB型は合わないって言うよね」

 美咲はA型の俺がいるからか、俺の顔をちらりと見て言う。

「太一がB型だけど、そういうの無い気がする」

 俺がそういうと美咲は「信憑性薄くなったー」と悲しそうな顔をした。

「思い込みってのもあるんじゃない? A型だからこう、みたいな」

 アリカは自分のツインテールの片方をクルクルと指に巻きながら言う。

 俺がアリカの行動を見ていることに気付いたのか、髪を指から解く。

 べ、別に俺も指に巻いてみたいなって思ったわけじゃないからな。

「それはわかる気がする。無意識にそうしてる場合もあるかもな」
 
 そもそも血液型にしても、星座にしても性格診断自体がどうかと思う。

 血液型に関しては、アリカがいうように四つにしか大別されない。

 星座を加味しても、十二種類と数は増えるが、生年月日と血液型が同じだったなら、同じ性格をしているのかという話になってしまう。

 やはり、性格というものは、個人が生まれ持った性格と、その後の生活環境なのではないだろうか。

 同じ家庭環境下の兄弟でも、性格が違う事を考えれば、理屈は間違いではない。

完全に依存する赤ん坊の時期。

 幼稚園や保育園で、初めて家族以外の他人と接する時期。

 小学、中学になるに連れて自分の置かれている環境を認識し、限界があることに気付き始める時期。

 これら個人を取り巻く環境が、性格に影響を及ぼし、形成されていくのではないだろうか。

 常に誰かに頼られてきた人ならば、逆に甘える事ができない性格になってしまうかもしれない。

 積極的に生きてきた人間からみると、消極的な人間はイラつく対象になるかもしれない。
 イラついた時に弱者を攻撃する人もいれば、我慢できる人もいる。

 寛容的でいられるのは、性格によって許容される範囲が広いか、狭いかで決められる。

 そんな事を考えていると、人間は誰一人として同じ性格などありえないような気がする。

「あ、明人君、またなんか考えてる!」

 不意に美咲から指摘されて我に返る。   

「あ、性格の事考えてた」

「明人君、たまに深く考え込んじゃうよね」

 家族と折り合いが悪くなってからの癖だが、これも俺を取り巻く環境が大きくかわったからだと思う。

No.168 13/04/28 00:21
まるだまる ( D6kL )

「その割には自分を持っていないようだけど?」

 アリカがちくりと嫌味を言う。

 痛いところ突くんじゃねえよ。

「お前に言われてから結構悩んでるんだぞ」

「あら、それはいい事じゃない。自分を見つめなおすって大事よ」

 アリカはふふんと鼻をならす。くそ、勝ち誇った顔しやがって。

 ――不意にアリカの視線が俺の後方に向けられる。 

「あれ、今の車――高槻さんのだ。買出しに出たのかしら?」

 俺越しに外を走っていた車が見えたのか、アリカは目を細めていた。 

「今日は客も来ないし、俺も準備の方に回りたいな」

「まあまあ、客が来ないのはいつもの事だし、明人君は主賓だから、今日は駄目よ」

 美咲……いつもの事って言ったら駄目だろ。

「ずっと話してるのもなんだから、店内の棚整理でもしますか」

「おー、明人君。ホントに真面目だねー。さすがA型だ」

 いや、血液型関係ないから、一応雇われてるんだから仕事しようよ。
 
 俺達はそれぞれ分かれて棚の整理や置物の配置を整理整頓をし始める。

 棚の商品は、美咲とアリカで担当することになり、俺は置物を担当する事になった。

 二人は高い位置の物は美咲が、低い位置の物はアリカと、住み分けしてやっている。

 俺は俺で重い置物をえんやこらと見えやすいように並び替えていく。

「ふぎゃああああああああああああああ!」

 唐突にアリカの叫び声が聞こえた。

 見ると美咲がアリカを後ろから抱きしめている。

 あー、美咲……衝動を抑え切れなかったか。

 油断したなアリカ……。  

「いやあああああああああ! 明人助けてえええええええ!」

 おお、アリカが俺に助けを求めるなんて信じられない!


 どうしよう……。


 ――うん、聞こえなかったことにしよう。


 俺はそのまま二人を放置して、置物の並び替えを続けた。



 俺が置物の整頓を終えて二人の手伝いに向かうと、目に涙を溜めて疲れ果てた表情のアリカが俺を恨めしそうに睨んできた。

「……あんた、見捨てたわね?」

「あの状態の美咲さんに俺が手出しできるわけ無いだろう。油断したお前が悪い」 

 そう返すと、アリカは今にも俺に向かってきそうな顔をして睨んでいた。

 美咲は美咲で満足そうな顔を浮かべて、鼻歌混じりに棚の商品を並び替えている。

 おい、美咲は満足かもしれないけれど、八つ当たりされてる俺はどうしたらいい。

No.169 13/04/28 08:37
まるだまる ( D6kL )

 程なくして店内の整頓が終わり、俺達は、またカウンターの所の椅子に並んで座る。

「まだ結構、時間あるね」

 美咲がポツリと言う。店内の時計は三時を回っていた。

「楽しみにしてるまでの時間は長く感じるもんですよ」と俺。

「……明人を潰す時間は十分にありそうね」とアリカ。

 まださっきの事恨んでるのか。

 アリカさん目が怖いです。マジでやりそうで怖いです。

 背中を嫌な汗が流れる。

 なるべくアリカに視線を向けないようにしよう。

 目が合った瞬間にやられそうな気がする。

「あ、ちょっとトイレ行って来ますね」

 アリカは立ち上がると裏の扉から出て行った。

「はあ、アリカちゃん、やっぱり可愛いわ」

 後姿を見送って美咲はため息を吐きながら呟いた。

「襲うから、八つ当たりされたじゃないですか」

 美咲に向かって愚痴をこぼす。

「だって、目の前で可愛い子がぴょこぴょこしてたら襲いたくなるでしょう!」

 いや、それもう犯罪者の発言だから。

 少ししてからアリカが戻ってきた。

 裏屋の様子も見てきたようで状況を教えてくれた。

「もう準備始めてたわ。前島さんと立花さんが材料の下ごしらえしてた。あ」

 状況を説明していたアリカが視線を外に向けていた。

 その視線の先を追ってみると、一台の高級外車が裏屋のほうに入っていった。

「オーナーも着いたみたいね」

 金持ちとは聞いていたけど、あんな車に乗ってるってことは本当だったんだな。

 オーナーが着いたってことは、はるなさんもいるって事だな。

 昨日、美咲に何を言ったんだろうか、あの悶え様は気になるな。

 やっぱり、美咲の目を盗んで聞いてみようかな。

 ちらりと美咲を見ると、何故かジト目で俺を睨んでいる。

「明人君、まだ諦めてないでしょ?」

 なんでこの人はわかるんだ。

 実は超能力持ってんじゃないだろうな。

「何の話?」

 アリカがキョトンとして聞いてくる。

「明人君が私に意地悪しようとしてる話だよ」

「それは許せませんね。やっぱり潰します?」

 その表現怖いよ。どこ潰す気だよ。思わず腰引いたじゃねえかよ。

No.170 13/04/29 00:30
まるだまる ( D6kL )

 もしかしたら子孫を残すことができないかもと、身の危険に怯えていると、裏屋からの扉が開く。

 見るとスタイル抜群なパンツスーツ姿の美人――はるなさんが手に大きめの鞄を持って現れた。

「やあ、ご無沙汰。元気にしてたかい?」

 相変わらずの男っぽい口調だけど、迫力のある胸が女性である事を認識させる。

「ちょっと更衣室を借りたくてね。さすがにこの格好でバーベキューするわけにはいかないから。明人君、着替え手伝ってくれるかい?」

「はい、喜んで――って違う! ちょっと、何言ってんですか!」

「うわ、最低」と、美咲が言う。

「死ねば?」と、言いながら睨むアリカ。

 俺は慌てて言い直したが、美咲とアリカから軽蔑のまなざしを取り消す事はできなかった。

 二人揃って、口々にそこまで言わなくてもいいじゃないか。

 はるなさん……現れて一分も経たないうちに俺を弄ぶの止めて……。

「はは、明人君は相変わらず、からかい甲斐があるね。本当に手伝ってもらおうかな」

「いや、だから、勘弁してください……」

「ふふ、んじゃ、ちょっと借りるね」

 ウィンク一つこぼすと、更衣室に向かって歩き出す。

 以前ここでバイトしてたこともあってか、手慣れた感じで更衣室に入っていく。

 視界の隅で頭が二つ近付いてコソコソと話している。

『美咲さん、はるなさんって胸どれくらいあるんですか?』

『えと、たしかFカップとか言ってた』

『マジですか? 羨ましすぎる!』 


 本人達は俺に聞こえないように言ってるつもりだろうが、聞こえてるんですけど。

 そうか……Fか。

 あの双丘は伝説のFクラスなのか。

 心のメモ帳にメモしておこう。


『お風呂の時とか、ブラつけてないのに垂れてないんだよ』

『えー! あんなに大きいのに?』

『しかもアンダーが小さいから細いよー。嫉妬しちゃう」

『うわー、見てみたいー」

 お前ら止めろ。はるなさんの顔が見れなくなる。

「っんん!」

 咳払いをして、俺が近くにいることをアピールする。

 二人揃って、俺をちらりと見ると、また頭を近付けあってコソコソ話し出す。

『今の聞いてて、絶対妄想してるよ』

『やっぱ、潰したほうが世のためじゃ?』

「お前らやめんかーい!」

 変なタッグ組まないで欲しい。俺に勝ち目が無いじゃないか。

「私に意地悪しようとした罰です! あ、別にハグでもいいよ?」

「そんなもんするか!」

 美咲とアリカの強力タッグに心がボロボロになりそうだった。

No.171 13/04/30 05:38
まるだまる ( D6kL )

 数分ほどして着替え終えたはるなさんが更衣室から出てきた。

 さっきまでの凛々しいパンツスーツ姿と打って変わってフェミニンな感じだ。

 服装一つでここまで変化するとは、正直、目が奪われてしまう。

 着替えたはるなさんの服装は、青を基調とした七分袖のワンピースだった。

 腰周りが絞られていて、はちきれんばかりの胸と腰のくびれのギャップがはるなさんの魅力を存分に引き出している。

 下には黒のレギンスで細い足首のラインが強調されて、全体のバランスを引き締めているように見える。

 雑踏の中にいても、この人なら目立って見つけられるんじゃないだろうか。

 それくらい輝きを放っているように見えた。

「明人君、そんな熱い視線を送るのやめてくれないか? 身体が火照るじゃないか」

 照れたように言うはるなさんは、自分の身体を抱きしめる。

 ところで火照るってなんですか? 俺、お子様なんでわかりません。

「いやー、凄い綺麗だなーって、――ぐあっ!」

 褒め称えようとした矢先、両のわき腹に手刀が突き刺さる。

「あはは、明人君なにやってるのかなー?」と、右側の美咲。

「うふふ、明人。何エロイ目線おくってんの?」と、左側のアリカ。

 二人とも口の端を吊り上げているのに、目が笑っていない。

 いつの間に背後に回りこんでんだよ!

 怖いよ。暴力反対!


「おや……。これは、ますます面白くなってきたな」

 俺達の様子を見て、はるなさんは何か得たような表情をする。 

 いや、あなたが招いた事でしょう、これ。俺は面白くない。

「表屋は五時までやるんだろ? 私は裏に行ってお手伝いしてくるから。また後でね」

 はるなさんは手を振ってそう言うと、裏屋の扉から出て行った。


 本日第一号のお客が来店するも、お目当てのものが無かったのか、何も買わずに出て行ってしまった。

 今日の売り上げ全然無いけどいいのか?

「そろそろ、家を出た頃かなー」

 店の時計を見ながらアリカは呟く。

「あ? ああ、妹か。気になるなら電話してみろよ。携帯は?」

「うん。ちょっと取ってくるわ」

 アリカはぴょんと椅子から立ち上がり裏屋に向かう。

 俺も太一がいつごろ来るか確認するために自分の携帯を取りに行く。

 俺が更衣室から出ると、ちょうどアリカも戻ってきていた。

「メール着てたわ。今から出るって」

「足は?」

「バスかな。帰りはパパが迎えに来てくれるから。今日はママとデート行ってるし」

「アリカちゃんのご両親、今でもデートするんだ?」

 美咲が少し驚き気味に聞く。

「うちの親、子供の前でもラブラブっていうか。外で一緒にいると恥しいくらいなんです」

「えー、いい事じゃない。年をとってもラブラブなんて」

No.172 13/04/30 05:56
まるだまる ( D6kL )

 俺は両親のそういう姿を見た事がない。

 そもそも、両親自体があまり会話をしないから、家族が全員揃っても家の中は静かだ。

 今思えば、父親が家にいても、何か他人行儀な感じがいつもしていた。

 母親が父親に対して敬語で話しているのが、そう思う原因かもしれない。

 うちの両親は見合い結婚だったと聞いたことがあるが、それも関係しているのだろうか。

 俺が幼い時に父親が「お前に兄弟がいればな」と呟いた事があった。

 その時は聞き流したが、あれはどういう意味だったんだろう。

 今となっては聞くこともできない。

 単身赴任先から家に帰ってきても、俺の姿を見て何一つ声をかけてこない。

 そこに俺がいないかのように家で過ごし、知らないうちにまた赴任先へと戻る。

 それが俺が高校に入ってからみる父親の姿だった。

 これはもう家族じゃない。

 そう俺の中で結論づけてしまっていた。


 太一の家で感じたあの温かい空気こそが、俺の求める家族像だ。


「明人? どうしたの? なんか難しい顔してる」

 怪訝そうな顔をして、アリカが俺の顔を覗き込んでいた。

「あ、悪い。考え事してた」

「え? うちの親がラブラブって話、聞いて嫌だった?」

 アリカが俺の表情を見ながら不安げな顔をしている。

 何かまずい事を言ったかと思ったのだろう。

 アリカのせいじゃないから、そんな顔するなよ。

「考えたのはアリカの話じゃないよ。両親がラブラブってのは、俺もいいことだと思うぞ。うちの両親にも見習わせたいくらいだ」

 俺が言うとアリカは少しほっとしたような顔をしたが、そんなに難しそうな顔をしていたのだろうか。

 俺はちらりと美咲の方に視線を向ける。

 美咲も何かいいたげな顔をしていたが、口を開く事はなかった。

「親父がさ、単身赴任中なんだけど。そういや、帰ってこないなって思っただけだよ」

 俺はとっさに嘘じゃない事実だけを伝える。

No.173 13/04/30 06:15
まるだまる ( D6kL )

「あんたのお父さん忙しいのね」

「みたいだな。あー、そうだ。携帯持ってきてるなら、ついでにアド交換しようぜ」

 このまま家族の話をしていて、ボロが出る事を恐れた俺は別の話を振った。

「え? な、なんで?」

 アリカの顔が段々と赤くなっていく。

 照れるような事じゃないだろ。

「いや、お前も表屋で働くだろ。連絡取りたい時あったら困るし。ほれ送るぞ」

 俺はポチポチと携帯を操作して、赤外線の準備をする。

「あ、う、うん」

 アリカもポチポチと携帯を操作して、俺に向けてきたので送信する。

『ピロリン』と音が鳴り、アリカの携帯に俺のアドレスが受信されたようだ。

「うん、登録した。次、あたしの送る」

 受信操作をすると『ボウーン』と変な音が鳴り、アリカのアドレスを受信した。

 毎回思うけど、このデフォルト音やっぱ、おかしい。

 作った会社の意図がわからん。

「まあ、あんまり使う事ないだろうけど。何かあったとき用だ」

「わ、わかってると思うけど。いたずらしたり、別の人に教えたりしないでよ」

「それはこっちの台詞だ」

 美咲もどうかと、顔を向けると「私、アリカちゃんとは交換済みだから」と言うだけだった。

 
 店の時計をみるとまもなく四時になりそうだ。

「アリカ、今日は妹と一緒に帰るのか?」

「うん。あたしも今日はバスで来たから」

「家遠いのか?」

「あたし? あたし清和西警察署の近くだよ」

 清和西警察署――それって俺がバイトしてたファミレスの近くだ。

「え、んじゃ、そんなに遠くないね。何でバイク?」

 美咲も気になったのか横から聞いてくる。

「前から乗りたかったんですよ。パパもバイク持ってるし。その影響ですね」

「アリカがバイクに乗ってるの見てさ、俺も乗りたくなったよ」

「あたしは普通二輪で免許とったけど、原付なら一日で取れるよ」

 このちっこい身体で普通二輪の免許を取るのは大変だったと思う。

 免許を取ったという事は、アリカはあの教習所に通ったのだろうか。

「教習所行って取ったのか?」

「うん。去年の夏休み前から通って、夏休みの前半で取れたよ。合宿っていう手もあったけど、それはパパが駄目だっていうから」

 アリカがパパとかママって言うのは、何度聞いてもしっくり来る。

「俺、今日午前中に教習所に行ってたんだよ。入校手続き聞いただけだけど」

「え、明人君、免許取りに行く事にしたの?」

 美咲が驚いたように聞いてくる。

「昨日帰りがけに言ったでしょ。どんなもんかなって思って、今日聞いてきました」

 俺がそういうと美咲の顔がまたにやけだしていた。

 おいおい、病気でてるぞ。

No.174 13/04/30 12:53
まるだまる ( D6kL )

「バイクいいよー。パパが高校のうちは原付で我慢しろっていうから、そうしてるけど。卒業したらバイト代貯めといて、大きいの買うの」

 少し残念そうに言うアリカだが、親の言うことをちゃんと聞いてるのは偉いと思う。

「俺も夏休み目標に通おうかな」

「そうね。夏休みだったら、免許取りに行くのに学校休まなくてもいいし」

 アリカは仲間が増える事が嬉しいのか微笑む。

「二人乗りとかできるから大きいのがいいんだよなー」

「あ、……明人。あのね……二人乗りは免許取ってから一年経たないと違反になるよ」

 俺の言葉を聞いて、アリカは言いにくそうに言ってきた。

「え、そうなの? 俺てっきり、すぐ乗せてもいいものだと思ってた」

「あたしも教習所でそれ知ってがっくり来た」

「んじゃ、……夏に免許とっても来年の夏まで乗せられないのか」

「うん、そういうこと……」

「でも取らないといつまでも乗せられないから。取る方向で考える」

 俺はそう言ってちらりと美咲の方を見ると、うんうんと頷いていた。

 ……頷くのはいいんだけど、顔をぐにぐにしながら頷くのやめようね?


「あ、愛だ!」

 アリカが椅子から立ち上がり入り口の方を見る。

 それにつられて俺と美咲も入り口の方を見やると、愛と呼ばれた女の子がトコトコとこっち向かって歩いてきている。

「あ。あれ?」

 まだ顔がよく見えないが、どこかで見たような気がする。

 同じ学校だから見たことがあるのかな。

「どうしたの? 明人君」

 俺が首を傾げていると気になったのか、美咲が聞いてきた。

「いや、気のせいかなと」

 俺の言葉に今度は美咲が首を傾げた。

 アリカは妹の愛を出迎えるためか、レジカウンターから離れ入り口に向かう。

「愛、こっちだよ。こっちこっち」

 入り口越しに愛と呼ばれた少女は、トコトコと歩きながら小さく手を振っている。

「あ~。香ちゃん、やっと着いたよー。バス乗り遅れちゃってー」

 お間抜けな台詞を吐きながら、乗り遅れた事など気にしていないようだった。

 お姉ちゃんじゃなくて香ちゃんか。

 なんか似合ってて可愛いな。

 アリカと合流した妹の愛は、確かにアリカより身長が高かった。

 どっちかというと、アリカの方が妹に見えるのは気のせいじゃないだろう。

 愛の服装は、薄い黄色を基調とした短めのワンピースで、各所にフリルがこしらえられている。

 下はホットパンツに膝上まであるニーソで可愛らしさが溢れていた。

 姉のアリカと違って、出るところは出ていて引っ込むべき所は引っ込んでいる、大人顔負けのスタイルだった。

No.175 13/04/30 13:02
まるだまる ( D6kL )

「どうもー。初めまして、香ちゃんの妹の愛です。姉がお世話になってま……」

 入り口から入ってくるなり、俺らに頭をぺこりと下げようとして――止まった。

 今までの緩慢な動作と打って変わり、素早く頭を上げ俺の顔を見つめる。

「ああ!」

 その声にアリカと美咲も驚いている。当然、俺もだが。

 俺の顔をじっと見つめ、はっとした表情を浮かべると、

「そ、その、その節は、ど、どうも、ありがとごじゃいました」

 滑舌悪く言って、愛は先ほど止めた頭を深く下げた。何のことだ?

 頭を下げた愛の髪はサイドに白いシュシュでまとめられプラプラしている。

 白いシュシュ……。

「あ!――自転車の子か!」

 美咲とアリカは「何のこと?」といった顔して俺を見ている。

「ほら、香ちゃん。ほら例の。自転車、直してもらった話」

 顔を上げた愛は困惑しているアリカに説明する。

「あ! あれ、明人のことだったの?」

 驚いて俺と愛を交互に見るアリカ。

「明人――さんですか。改めまして、愛里愛です。姉がお世話になってます」

 先日、バイトをてんやわん屋に一本化しようとして、他のバイト先に辞める事を告げに回っていた。

 その時に出会ったのが、この愛という少女だ。

 彼女の自転車のチェーンが外れ、自転車を押して歩いていた所を見かねた俺がその自転車を直しただけの話だ。

「こちらこそ。自転車の事は大したことじゃないから気にしなくていいよ」

「いえ、愛、あの時本当に泣きそうだったんですよ。明人さんに助けてもらって、すごい感謝してるんです。名前も聞けなかったし、同じ学校のはずが見かけないし」

 たかが自転車の事で大げさな言い方をする愛。

 それに学年違えば見かけないわな。

「家でも散々その話言ってたもんね」

 愛が、じーっと俺を見つめるので思わず視線を逸らす。

 なんか気恥ずかしい。

「愛の日頃の行いがいいからかな。やっぱり運命なのかも。愛、ちゃーんす!」

 愛はそう言って片手を挙げて高らかに声を挙げる。

 あ、この子可愛いけど、ちょっと変だ。

「うふふ、明人さん。あの、彼女さんとかいらっしゃるんですか?」

 そう言いながらずずいと距離を詰めてくる。

「え、いや。いないけど」

 あの、あまり近付かないで欲しい。

「年下の子って興味ないですか?」

 俺の気持ちなど知らずか、更に身体を近づけてくる。

 あの、胸が当たりそうなんだけど。

「え、そ、そんな事ないけど」

 俺がそう答えると、愛の目がきらきらと輝きクルクルと回りだした。

「来たコレ! 愛、びっくちゃーんす!」

 いや、何がビッグチャンスなのかわからないが、ちょっと怖い。

 俺は助けを求めるが如く、美咲とアリカに視線を送ると不機嫌そうに俺を睨んでいた。

 え、なんで? 俺、何もやってないでしょ?

No.190 13/05/12 10:51
まるだまる ( D6kL )

主です。

ミクルでの『帰路』は、今回の投稿を持ちまして終了させていただきます。

これまで稚拙な作品を読んでいただいた方々には、感謝いたします。

今までありがとうございました。





No.191 13/05/12 18:54
ミント ( 40代 ♀ 0Q5Kh )

とても楽しみに読んでました。

明人と美咲さんのこれからも気になります。

できたら、みんなの後日談も知りたいです。

No.192 13/05/12 20:21
まるだまる ( D6kL )

>> 191 主です。

お言葉ありがとうございます。

No.193 13/05/14 01:36
まるだまる ( D6kL )

>> 192 主です。

急激にHIT数が伸びているのにびっくりしました。

一応こちらを止めた理由書かせていただきます。

1、知人からの助言

2、帰路が長編な事

3、HⅰBBSなる複製サイトの存在(帰路170レスまで存在確認)

  他にも投稿している人たちの名前で複製されていました。
  これが一番大きい理由です。
  
   




No.195 13/05/16 07:36
小説大好き195 ( ♀ )

ありがとうございますm(__)m

主様の作品は、とても読みやすく、引き込まれてました。



添付されてるほうで、また読ませて戴きますm(__)m



ありがとうございますm(__)m


主様のペースで頑張って下さいm(__)m

楽しみを本当にありがとうございますm(__)m

No.196 13/05/16 22:19
まるだまる ( D6kL )

>> 195 主です。
レスありがとうございます。
楽しみと言っていただけて、嬉しいです。
書いていて良かったです。

更新は不定期ですが、お付き合いお願いいたします。m(__)m

No.197 13/05/16 22:28
名無し197 ( ♀ )

だるだたるさんに質問です🙇
貴女が、言ってるサイトは、無料なのですか❓
怖くて見に行けないのですが…
失礼な質問ごめんなさい💦

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