エレベーター
グダグダになるかもしれませんが読んでいただけたら幸いです😥
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「ドン!」
男はエレベーターのドアを蹴り、唾を吐いた。
「なんだ…このエレベーター動かねーじゃん」
廃墟と化したビルの一階、金髪の男女二人がエレベーターの前にいた。
「もういいじゃん…戻ろうよ…寒くなってきたよ」暗闇の中をジッポライターで照らしながら女が呟く。
「あんな噂はデマだな!電気通ってないんじゃ13階まで上がれねーじゃん!」
鼻で笑うと男は力まかせにドアを開けた。
郊外に建つラブホテル
『ロマンス』十数年前に殺人事件が起こって以来、客足が遠のき店は潰れ心霊スポットとして有名になっていた。
ビル解体に入った業者の作業員が13階から転落死する事故があってからというもの、どの解体業者も祟りを恐れて着手しなくなってしまっていた。
エレベーターがひとりでに動いたり、13階に行ったら帰れなくなる等の噂が若者の間で伝説となっていた。
エレベーターの分厚い鉄製のドアを力ずくで開けた男は身を中に入れた。
「おし!入れた。早紀も来いよ。照らしてくれ」
「マジで怖いんだけど」半分怒った口調で言うが渋々従った。
炎の光でエレベーター内を照らす。
「やだ…何これ…」
床を見つめる早紀の声は微かに震えていた。
「ヤベぇ…血だ!」
男の顔もひきつる。
エレベーター内の床に固まった赤茶色の血が点々と付いていたのだ。
「うぉっ!こっちにもベッタリ血ついてんじゃん!すげぇ」
男は興奮していた。
早紀はエレベーターに乗った時から鳥肌がおさまらない状態が続いていた。
「ここから出たい…」
手が震えていた為にジッポライターを落としてしまった。
「あ!!」
炎は消えてしまい周囲は完全な暗闇に包まれた。
「おい!落とすなよ!」怒りの声が飛ぶ。
「ご…ごめん。すぐ拾うから…」床を手で探る。
恐怖と焦りと不安で混乱していた。
ジッポに指が触れた瞬間、背筋がゾクゾクと寒くなり固まった。なぜなら妙な気配を感じたからだ。
(もう1人乗っている)
確信できるほど感覚に突き刺さる。男のすぐ隣に得体の知れない何かがいたのだ。
身の危険を感じ錯乱状態でエレベーターから飛び出た。
「誰かいる!!誰かいるよ!!」
早紀は狂気じみた声で叫んだ。
警告ともいうべき早紀の声はコンクリートに反響し響いていた
(早くエレベーターから脱出してよ!逃げなきゃ!)
気味の悪い存在を確かめる余裕などなく、言いしれぬ危機感を抱いていた。
「史也!早く来て!ヤバいから!」
扉は開いているし、簡単に出てこれる。そう思っていたが…
「ドン!ドン!ガン!」
必死に力を込めて叩く音が聞こえた。
「ちょっと!何?!」
早紀は動揺した。
「閉まってる!なんだよこれ!ふざけんな!」
動揺と焦りの声は壁に遮られたようにくもっていた。
電気の通っていないエレベーターの扉は史也を完全に閉じ込めていたのだ。
不安や恐怖を自分の力で対処できない時、怒りという感情が湧く。
そして激しい怒りを制御できずに暴走してしまう。まさに史也はそんな人間だった。
「くそ!空かねぇ!おまえ1人で出やがって!」荒々しい声で叫ぶ。
「ご…ごめん…」
早紀の声は弱々しく震えていた。
「そこから逃げんじゃねーぞ!!」
(きっと殴られる)
過去に史也から受けた暴力が頭をよぎった。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
涙が溢れ、全身の震えが止まらない。
「怒らないで…」
早紀は扉の隙間を手探りで確認したが細い指でも入らない。
「どうしよう…どうしよう」為す術もなく座り込んだ。
史也の怒号は勢いを増していた
「早紀!なんとかしろよ!」
[…にが…ない……さな…い…]
(!!…何?)
早紀は耳を疑った。
一瞬、史也の声と重なるように女性の声らしきものが交ざっていたのだ。
「何よ…今の声…」
不可解すぎて理解に苦しむが、はっきりと聞こえた。
やがて史也の声はピタリと止み、代わりにエレベーターの中で暴れるような音が聞こえてきた。
「ガン!ドタン!ギギギ!バタン!!バタン!」
拳で叩く音とはまるで違い、のたうつかのような苦しみもがくような音だった。
立ち上がれなかった。
(やっぱり誰か乗っていた…史也の他にもう1人…)
史也は抵抗して暴れているに違いない。そう直感した。
早紀は一刻も早くこの場を去りたい衝動にかられた。
腰を地に付けた状態でゆっくりとエレベーターから離れる。
途中、ポケットからはみ出ていた携帯ストラップが何かにひっかかり外れてしまったが気にする余裕もなく、だだ出口を探すことに焦っていた。
時折、エレベーターからは女の声が聞こえてきたが何を言ったのか把握できない。
すでに史也の声は全く聞こえなくなっていた。
(史也は殺されたかもしれない!どーなってるの!?)
恐怖で全身が思うように動かせない。手足は震え声も出せなかった。
しばらくしてL字型の通路の壁に背中が当たると外の音も聞こえてきた。
ザーザーと地面を打ち付ける土砂降りの雨と空気を重く響かせながらゴロゴロと雷が鳴る。
一瞬、落雷の光でビルの中が一部分だけ照らされると出口らしき場所を把握できた。
(あそこから出られるかもしれない!)
この建物に進入した時は鍵のかかっていない非常口だったが、今は正面入口付近に早紀はいたのだ。
早紀は這うようにして出口に向かった。
管理人の居ないフロントらしき小窓の向かい側にガラスの扉。
異世界と元の世界を隔てる境界に思えた。
「助けて……」
荒く乱れた息がガラスをくもらせる。
若干離れた道路の電信柱の街灯が唯一の光を放ち、微かにビル内部を照らす。
「!」
両開き式のガラスの扉は、二つの取っ手が鉄製の鎖で結ばれ、南京錠がかけられていた。
落胆した瞬間、早紀の右耳に恐れていた音が飛び込んだ。
「ガガ…ガガガ…ガコン……」
L字通路の先、エレベーターの扉が開いた音。
見えていなくとも容易に察しがついた。
息を殺し、ジっと暗闇を見つめた。
(…史也じゃない…あたしが逃げた事が分かったら怒鳴り散らすはず…)
史也か…史也を襲った者かがエレベーターの扉を開けた。それしか可能性は無い。
早紀は確かめようと声を振り絞った。
「ふ…史也?」
むしろ怒鳴られて罰を受ける方が救われる。
数十秒待ったが反応は無い…。
「史也!!」
祈る気持ちで叫ぶ。
早紀は目を凝らした。
落雷の光がパッと通路を照らしたとき異様な光景が視界に入った。
「!!」
顔だけこちらを凝視している女がいたのだ。
首から下はL字通路の角の壁に隠れて見えない。
(見られていた!!不気味な女がこっちを見ていた!!)
早紀は身体が硬直した。 瞬きすらできず、女がいた方角を見つめる。
暗闇に包まれた前方15メートルほど先に気味の悪い女がいる。右は閉ざされたガラス扉、左は人間が通れるか分からないほどのフロントの小窓。
「み…つ…け…た…」
喉が焼き付いたような不気味な声がした。闇に阻まれ姿は見えない。
(近づいてきた!!)
早紀の呼吸は激しく乱れ、水中で溺れているような感覚に陥っていた。
もう逃げ道がない…そう思った時、右手が突起物に当たった。
(!!)
ドアノブだった。
咄嗟に開くと身を滑り込ませ、すぐさま閉めた。
「バタン!!」
自分の後方、壁だと思い込んでいた場所に扉があったのだ。
「ガチャ!」
鍵を回すと呼吸を整える。
「はぁ…はぁ…はぁ」
急いで携帯電話を取り出して開く。
待ち受け画像の光が弱々しく青白く周囲に広がり、心許ないが視界を確保できた。
「逃げないと…」
階段が上に続いていた。
どうやら非常階段の扉だったらしい。
「ゲホ!ゲホ!」
(息が続かない…心臓が張り裂けそうだ…)
階段を駆け上がる事で口の中は乾き、脚は重くなっていた。
どれだけ登っただろうか…
女から逃げるために無我夢中で駆け上がってきたので自分が何階にいるのか把握できていない。
(どこかに身を潜めて隠れよう…)
すぐに非常階段から逸れる通路を見つけられた。
携帯で床や壁を注意深く照らしながら進む。
「31…」
部屋番号が書かれた扉を発見した。
「ガチャガチャ」
(鍵がかかってる)
次の部屋を探そうと通路を奥に進む。
「32号室…」
扉の発見と同時にチラリと妙な光が視界に入った。
…3…………4…………5………
暗闇の中、通路のもっと奥で不自然に赤いランプが点灯していた。
(エレベーターが動いている…)
おさまりかけた心臓の鼓動が再び激しく胸を打つ。
早紀は前方のエレベーターのドアに歩み寄っていた。
顔を歪ませ涙が溢れる。
「もう嫌だ……」
史也が迎えにきたのだ…そう解釈した。
電気の通わない廃ホテルでエレベーターが動くのは不自然だと頭で理解していたが、何かにすがりたい気持ちがそれを打ち消していた。
……8………9………10……
ドアは少し開いていて洞窟のような空間が縦に広がり、ワイヤーロープがゆらゆらと揺れているのが見えた。
錆び付いた金属の摩擦音と共にカゴの天井部分が目の前を通過する。
「史也!!」
ありったけの声を出す。
史也らしき人影が倒れていたように見えた。
ジーンズの裾と靴がチラリと確認できたのだ。
………12………13
早紀のいる階を通過し、13階で停止した。
「うぅ…」
不安は極限を越えていた。膝から折れ、その場に座り込んだ
しばらくすると上から拷問を受けている罪人のような声がエレベーターの洞窟を伝って聞こえてきた。
「あ゛ぁぁぐぁぁぁ!」
「ぎぁぁぁぅぁ!」
(史也の声だ…!)
13階に上がり史也を助けに行く。そんな気力は残っていない。精神が崩壊しそうで頭を抱えた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…許して」
震える指で着信履歴を操作する。
電池残量は残り僅かだった。
「トゥルルル…」
「トゥルルル…」
友人の茜(あかね)を呼びだす
「トゥルルル…」
1人では正気を保っていられるか分からなかった。
正常な世界の住人、茜に助けを求めようと携帯電話を強く握る
(茜…お願い…出て!)
早紀は捕食者に狙われる鼠のように身体がすくみ小さくなっていた。
「トゥルルルル…トゥルルルル…」
「……ぁい…早紀?」
落ち着いた声がした。
「茜!助けてっ」
早紀は何をどう説明すればよいのか焦った。
「ちょっ…何?」
「廃墟のホテル!史也が襲われて!変な女がいて!助けてっ」
呼吸が乱れ声が詰まる。
「は?廃墟ホテル?何??」
訳が分からないといった口調で聞き返された。
「お願い…助けに来…」
早紀がそう言葉を発した時、目の前のドアから不気味な『手』が伸びてきた。
「っ!!」
反射的に仰け反った。その拍子に携帯電話を床に投げ出してしまった。
絶叫すらできずにその
『手』を凝視する。
いつのまにかこのフロアにエレベーターが降りてきていたのだ
ヌロっと伸びた手は早紀の足首を掴む。
続けて死体の様な顔がエレベーターのドアの隙間から見えた。
「あ……あ゛ぁぁ」
史也の声だった。
死の淵にいる病人のように声はかすれていた。
「史也!!」
早紀は史也の腕を掴むと引っ張った。
20cmほどのドアの隙間では身体は通れない。
史也の顔のすぐ上にもう一つ顔が浮かんでいた。
不気味な女がこちらを睨みつけていたのだ。
「きゃぁぁ!」
背筋が凍りつく。
斬首された女の生首が浮いているかのようだった…目玉がギョロリと下を見る。
史也はエレベーターから出ようと、もがきながら唸る。
「ぐふ…ぐふ…」
腕を掴んでいた早紀は最悪の事態に気がついた。
「上がってる!」
エレベーターがゆっくりと動きだしたのだ。
「史也!戻って!!」
右肩と右腕、頭がドアの隙間から出ている。
「やめて!いやぁぁ!」
史也の身体の一部は宙に浮き天井に当たる。バキバキと骨が砕ける音がした。
見上げる早紀の顔面に大量の血液が雨のように降った。
寂れた商店街の片隅にポツリと営業している
音楽スタジオ『SONG GARDEN』
黒髪を困惑したように掻き上げた少女は、休憩室で携帯電話を持ったまま立ち尽くしていた。
(早紀の悲鳴が電話ごしに微かに聞こえた気がする…)
防音のドアが背後で開き、漏れた楽器の音で耳への集中が途切れた。
「あかね~なにやってんの~?早く~」
「あっごめん…」
振り返り、無理のある笑顔で返事をした。
再び携帯を見ると早紀からの電話は切れていた。
胸騒ぎがどうしても収まらない
「ちょっと急用で帰らなくちゃいけなくなっちゃった…ごめんなさい」
茜はバンドのメンバーに申し訳なさそうに言った
「何かあった?」
ボーカルの結衣が心配そうに茜を見る。
軽音部のOBで年上、面倒見のいい先輩だ。
「私の友達から連絡があったんです…」
「廃墟のホテルから助けてくれって…何か事件か事故に巻き込まれたかもしれないんです」
茜は上着を着るとギターを担いだ。
「まさか廃墟のホテルってロマンス?ヤバいっしょ」
ドラムの春菜は眉をひそめた。
「とりあえず今日は雨が降っているし、夜に行くのは危険だよ。明日もう一度その友達に連絡してみた方がいい」
茜を引き止めるように結衣は言った。
翌日(土曜日)AM9:30
茜は早紀の実家を訪ねたが帰ってきていない事が分かった。
携帯電話はアナウンスが流れるばかりで繋がらない。
車の助手席に戻り、ドアを閉めてため息をつく。
「やっぱり…帰ってませんね」
「行ってみるか………廃墟」
結衣はためらうように言うとギアをドライブにいれた。
「すみません…つきあわせてしまって」
悪い状況に墜ちていく…そんな不安を茜は抱いていた。
前日の大雨を降らせた低気圧は勢力を弱め、重苦しい灰色の雲が空を覆っていた。
市街地からしばらく離れると、人気の無い山林の道路を走る。
「茜ってさぁ霊感みたいなもん…ある?」
結衣は片手でハンドルを握り、棒付きの飴を口にふくませながら言った。
「私のお婆ちゃんが霊能力者だったとか…小さい時に教えられたことあります」
「凄っ!茜は霊能力者の孫だったのか!」
吹きだして笑われるかと思ったが、期待するような目で見つめられた。
「遺伝は…していないと思います。霊とか見たことないし…」
苦笑いで応えた。
早紀とは親友と呼べるほどの関係ではない。が、今はその彼女を捜している。
「悲鳴」が聞こえたことで無視するわけにはいかないし、恐怖に震える声で「助けてほしい」と頼まれて拒否もできない。
とにかく早紀を見つけて無事を確認すること
これが目標。
結衣先輩は車のステレオから流れる音楽を鼻歌まじりに聞いていた。
「~♪」
「結衣さん!あの看板!」
指差した先には【ロマンス】と書かれた看板があった。
そこから分岐するように道が別れ、木々が鬱蒼と茂る洞窟のような道路が続いていた。
「有名なホテルだからね…ずっと前に死体遺棄事件があって新聞にも載ってたな」
「えぇ!?そんなところだったのか…」
茜の顔はひきつり絶句した。
森に囲まれたロマンスの敷地内には粗大ゴミが投棄され、紙切れや材木が散乱していた。
ひび割れたアスファルトからは雑草が生え、誰も寄りつかない場所、放置された場所であることが分かる。
「車が停まってるね…」
黒い車が見えた。
「早紀の彼氏の車だ…前に見たことあります」
結衣と茜は車から降りる
20階はあろうかと思うほど建物は高く、外壁は剥げ落ち、何匹ものカラスが空を舞っていた。
「やっぱりここだ。まだここに彼氏といるんだよ」
結衣は真顔で言う。
「車に戻ってないってことは…そうなりますね…」
茜は辺りを見回した。
「しかし不気味だね…
寒気がしてくるよ」
結衣は上着のポケットに両手を入れ、建物を見上げた。
「日が暮れないうちに帰りたいですね」
茜は腕時計を見る。
【13:04】
二人は正面入り口のガラスから中を覗いた。
「鎖で封鎖されてるなぁ…中は暗いですね」
「懐中電灯が車にあるから持っていこうか」
結衣は自分の車へ歩いていった。
茜は独りで一階の内部をガラスごしに注意深く観察した。
少し遠くで何かが動いたような気がした。
「早紀~」
呼んでみるが応答は無い
茜は考え込んだ…早紀との会話を記憶から引きずり出す。
(早紀は彼氏と二人きり?いや…たしか変な女がいるとか言ってたような…変な女?いったい誰?早紀の知らない人間とこの建物で遭遇したのか…悲鳴が聞こえたし、まさか幽霊?不審者が住んでいて驚いたとか…警察に通報した方が良かったかな…)
「茜っちょっと手伝って~!」
後ろから結衣の苦しそうな声がした。両手に大きな石を持っていた。
「うわっ!結衣さん!何やって……」
「ガラス割る…」
「えー!?」
慌てて駆けより茜も石を持った。落としたら危険だからだ。
「せーので投げるよ!」
「重っ!!」
大胆な結衣の行動に戸惑いつつ一緒に石を振り子のように揺らした。
2人同時のかけ声で石は投げられ、ガラスの扉は粉々に砕け散った
割れたガラス扉は怪物の口のようにポッカリと穴が開き、茜はその鋭い牙を慎重に避けて通る。
「ジャリ…ジャリ…」
砕けた破片を踏む音が響いた。
建物内部は薄暗く、赤いカーペットが敷かれていた。
(さっき何か動いたんだけどな…)
L字通路まで来ると右にエレベーターが見える。
(ん…?)
靴の下には携帯ストラップが落ちていた。
モグラのマスコット
【モグ吉】の携帯ストラップが落ちていた。
最近、人気急上昇のキャラクターだ。
(誰かが落としたんだろう…)
背後から結衣が近づいてきた。
「どこに早紀ちゃんがいるのか…困ったね」
「各階を見て廻るしかないですよね…あのエレベーターが動けばいいけど」
冗談のつもりで言った。
「あれは動かないっしょぉ」
結衣はそう言うなりエレベーターへ歩み寄り、呼び出しボタンを数回押した。
「動くわけないね」
反応無しと言わんばかりに首を横に振る。
「…グォゥォ……」
エレベーターからモーターが回転するかのような音がした。
二人共、驚きの表情のまま顔を見合わす。
「………動いた」
フロア表示ランプが今にも消えそうなほどの光で点灯した。
【11】
「11階に誰かいるじゃん!!」結衣は声を張り上げた。
「でも何で動くの!?」
早紀がエレベーターを動かしている。もしそうだとしても理解に苦しむ。
数年間は放置され、封鎖された廃墟のエレベーターが突然動くのは普通ではない。
【12】
「上がった…」
結衣は困惑した表情を浮かべた。
【13】
(降りてこない…誰?)
エレベーターのフロア表示は13階で止まり、それ以上動く気配はなかった。
「きっと早紀ちゃんだよ。行ってみようよ」
結衣はエレベーターの呼び出しボタンを再び押す
神妙な顔で茜はうなずいた。
(何故上に昇ったんだろう…しかも電気が通っている?)
天井を見上げると照明器具は外され、床は埃が積もり、壁は汚れている。(ありえない…絶対におかしい)
「来ない!壊れてるよ」
何度もボタンを押しながら結衣は言った。
「非常階段とかないのかな…」
2人はエレベーターの右にある木製の扉に注目した。
扉を開けると階段はなく通路だった。外へ出られる裏口、ダクトや太いパイプに埋め尽くされたボイラー室、管理人の部屋へと繋がっていた。
早紀や早紀の彼氏がいないとも限らないので、周囲に気をくばる。
ダンボール箱が無造作に置かれ書類やらゴミが散乱していた。
「なんか臭いな…ここ…」結衣は鼻をつまむ。
「蠅が飛んでる」
「生ゴミかなにかが放置されてるかも」
通路は異臭に包まれていた。
通路は狭く、太陽の光が届かないので暗い。
懐中電灯を照らしながらボイラー室を隅々まで確認した。背丈ほどのタンク、大小さまざまなバルブ、配管は錆ついて腐食していた。
「いないですね…」
「あっちにも部屋があったよね」
通路に戻った二人は管理人室の前で立ち止まった。臭いが尋常ではない。
「きついかも…」
茜は腕で口と鼻を塞ぐ。
この部屋に臭いの原因がある事は間違いないだろう。
「ガチャ」
結衣はゆっくりと扉を開けた。
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