ー真実の愛ー
あの時、あなたに出会ってなければーーー
気付かなかったかもしれない、、、
本当の愛に。。。
※一部、不快に思われる場面があるかと思います。申し訳ありませんが、不快に思われた方はスルーをお願いします。🙏
新しいレスの受付は終了しました
- 投稿制限
- スレ作成ユーザーのみ投稿可
「いらっしゃいませー」
お店のドアが開く。
「あ、未来ちゃん。おはよう。いつものコーヒー!」
常連さんが私に、コーヒーの注文をする。
「おはようございます。ホットコーヒーですね~。」
カウンターに座った常連さんに、お冷やを出しながらー
「マスター!ホットコーヒーひとつお願いします!」
「了解!」
カウンターの中に居るマスターが、返事をしながら、常連さんと話をしてる。
そしてまた、お客さんが入って来るー
朝の8時からモーニングコーヒーを飲みに来るお客さんで、小さいお店はいっぱいになる。
私は、このコーヒーの香りが大好きだ。
だから、ここでバイトする事に決めたぐらいだった。
5人が座れるカウンターと、2人掛けのテーブル席が3つに、4人掛けのテーブル席が2つ。
決して大きいとは言えないお店ーーー
でも、マスターが煎れるコーヒーは結構人気がある。
常連さんを含め、他のお客さんもマスターのコーヒーを気に入って通ってきてくれてる。
私は、そんなこのお店が大好き。
そして、、、、
人気のコーヒーを煎れるマスター、、、、亮ちゃんの事も、、、、、。
私がここでバイトを始めたのは、大学に入ってすぐだった。
コーヒーの香りが好きだっのは勿論だけど、学費を稼ぐのが一番の目的で。
、、、、、私は、中学生の時に両親を交通事故で亡くした。
一人っ子だった私を引き取って育ててくれたのは、母の妹だった叔母。
だから、大学は勿論、高校だって行くつもりなくて、、、、
育ててくれた叔母に、働く事で少しでも負担を掛けないようにって思ってた、、、。
私は、運動は全く駄目だったけど、勉強だけは好きで。
特に、本を読むのが好きだった私は、国語の教師になるのが夢だった。
勿論、そんな話を叔母にした事はなかったんだけど、、、、
「未来ちゃん。
夢は実現させるためにあるものよ。亡くなった姉さん達も、同じ事言うと思うけど?」
嬉しかった、、、
涙が止まらなかった、、、、
自分の事、不幸だと思ってた。
一度に両親を亡くした私は、もう、誰からも愛されない、、、、
私も、パパやママのいる所に行きたい、、、、、
何度も何度も、そう思った、、、
でも、そんな私を叔母は広い心で優しく受け止めてくれた。
そして、第一志望だった大学にも無事合格して、ここでバイトを始めた。
その頃、亮ちゃん、、、亮介さんには奥さんがいた。
私がバイトをする前は、奥さんの響子さんも、お店を手伝っていたらしいんだけど、、、、。
いろいろあって、お店は勿論、家にも帰って来なくなって、、、
亮介さんもお店をやりながら、響子さんを捜したらしく、、、でも、結局、見つける事が出来なかったらしい、、、、、
そこで、アルバイトを雇う事になって、私が決まったって話を聞いていたーーー。
私がこのお店で働きだして、一度だけ響子さんに会った事がある。
突然、お店にやってきた響子さん、、、。
私を見るなり、
「あなたが未来ちゃん?」
いきなりの問い掛けに、びっくりしながらも、、、
「あ、、、! はい!」
なんて綺麗な人なんだろう、、、
ぼーっと見つめてると、、、
「申し訳ないんだけど、これ、亮介に渡してくれない、、、、?」
勿論、この時、亮介さんに対して恋愛感情とか、全くなくて。
慌てた、、、!
だって、その時亮介さんは買い物に出掛けてて、いなかったから!
ど、、、どうしよう!
響子さんが出て行った理由は、わかんないけど!
亮介さんが必死になって捜してた事、聞いてたから、、、!
「あ!!、、、、、あの、、、、ちょっと、もうちょっと待ってもらえませんか?」
その時、響子さんが寂しそうに笑った、、、
「未来ちゃん、亮介の事、、、、よろしくね。」
え、、、、?
「あの、、、!響子さん!よ、、、よろしくって、、、!」
響子さんは、また、にっこり微笑んで、店を出て行った、、、
私は、どうしていいのかわかんなくて、、、
立ちすくんでいた、、、。
ふと我に返って、慌てて響子さんの後を追う。
響子さんを乗せた車が、走り去るところだった、、、。
「未来ちゃん、ごめんな。」
買ってきた物を片付けながら、亮介さんが言う。
「、、、、あ、、、、いえ、、、」
本当に言葉が見つからない、、、
亮介さんの顔を見る、、、、
何故だかショックで落ち込んでるって顔には、見えなかった。
「、、、あ、あの、、、!」
亮介さんが私の方に顔を向ける。
そしてーーー
「どっかで、覚悟は出来てたんだろうな。俺、、、。
あいつが、、、響子が考えてる事、、、、、。」
え?、、、、
そう言いながら、さっき響子さんから渡された封筒をカウンターの上に置く。
「離婚届、、。」
「、、、、、、、」
お昼のランチタイムも終わって、今は休憩時間。
この時間を分かってて、、、、
そして、亮介さんがいない事も知ってて、持ってきたんだろうか、、、、
響子さん、、、
「コーヒー煎れるね。」
「あ、、!、、、、はい、、、」
「結婚して10年、、、か。」
豆を挽きながら、亮介さんがゆっくりと話し始めた。
「16の時だったかな?
俺と響子が初めて出会ったのって。」
「え?16って!?高校生の時ですか!?」
亮介さんは、ちょっとはにかみながら
「そう。って言っても、響子は学校行ってなくてさ。
働いてたんだ。
あいつ、、、中学生の時に親に捨てられたんだよ。」
え、、、、!?
響子さんも中学生の時に、親と、、、、
でも、、、、なんか、私とは違う気もする、、、、
「そう言えば、未来ちゃんも、、、だったよね?」
亮介さんがハッとしたように、言う。
「あ、はい。、、、でも、私には叔母がいてくれたから、、、。」
「うん。、、、、、響子には、誰も頼る人がいなかったからな、、。
しかも、弟もいたし。」
弟、、、、!
「そうだったんですか、、、。
響子さん、大変だったでしょうね、、、。」
私なんか、まだ幸せだ、、、。
「親の事も弟の事も、あんまり、話したがらなかったからさ。
詳しい事は、知らないんだけどね。
、、、、確か、弟は未来ちゃんと同じ歳じゃなかったかな?」
じゃあ、私とマスターと同じで、歳が離れてるって事、、、。
「そうなんですか。、、、じゃあ、今、その弟さんは、、、、?」
「うーん。わかんないだよね。、、、、ただ、その頃は、弟のためにって必死で働いてたよ。
ほんとに、可愛がってたんだろうな。」
コーヒーのいい香りが漂ってきた。
カップにコーヒーを注ぎながら、亮介さんは言う。
「俺も、親が離婚しててさ。、、、、母親に育てられてたんだ。
だから、早く大人になりたかったっていうかさ、一人前になりたかったんだよね。」
ちょっとだけ、亮介さんが寂しそうな顔になった。
黙ったまま、頷く私。
「はい、コーヒー。」
カウンターの椅子に座ってた私に、コーヒーを差し出す亮介さん。
「あ、ありがとうございます。」
カップに口をつけて、一口飲む私を優しい顔で見ながら、、、、
「高校卒業と同時にさ、家出て、響子と一緒に暮らし始めたんだ。
別々に住むより、金もかかんねぇし。
で、二十歳の時、籍入れたってわけ、、、。」
気になった事を聞いてみた、、、。
「あの、、、その頃、弟さんは?」
少し、俯いて
「響子にも聞いたんだけど、、、答えてくれなくてさ、、、
とにかく、元気だから、大丈夫だって!それしか、言わなかったんだ。」
「でも、マスター達が二十歳だった頃、弟さんて10歳とかでしょう!?」
マスターは、少し言いにくそうに、
「これは、俺の想像なんだけど、、、」
と前置きして、
「響子達が親に捨てられた時は、おそらく弟は施設に居たんじゃないかな。
でも、そのあと、、、
悪い連中と付き合ってたみたいだから、そっちの世界にいったんだと思う。」
10歳そこそこで、、、、
そんな世界に、、
黙り込んでしまった私を見て、
「でも、響子はさ、一緒に暮らし始めても、弟のためにずっと働いてたんだよ。仕送りするために。」
「そうなんですか、、。」
「あぁ。結婚してからも、それは変わんなかったしね。」
響子さんは、ほんとに弟さんの事、大事に想ってたんだ、、、。
「だからさ、俺も頑張って働いたんだ。
店を出すのが夢だったからね。
そして、25の時念願叶ってこの店出したってわけ。」
それからは、響子さんも仕事を辞めて、お店を手伝ってくれてたらしいんだけど、、、、、
亮介さんがコーヒーを飲む手を止めて、少し、遠くを見つめながら、、、
「俺たち、子ども出来なくてさ、、、。
最初は、店もオープンしたばっかで、忙しかったから、、、
それはそれで良かったんだけど。」
.......
「店の方も落ち着いてきた頃からかな、、?
なんか響子の様子がおかしくなってきて、、、」
亮介さんはやっぱり、響子さんが出て行った詳しい事情は言わなかった。
「結局、、、、
俺が悪いんだよ。
響子の事、ちゃんと守ってやれなかった、、、俺が、、、、。」
「、、、、マスター、、、」
ゆっくりと私の方に顔を向けた亮介さんは、
「未来ちゃんは、いい男見つけろよ!」
は、、、!?
「あはははっ」
と笑いながら、亮介さんは、残りのコーヒーを一気に流し込んだ。
無理して、、、、る?
亮介さん、、、、
「あ、そう言えば、、、
響子さん、なんで私の事知ってたんですか?」
一度も会った事のないのに、なぜか、妙な親しみみたいなものを感じてた。
あぁというような顔をして、
「実はね、一週間ぐらい前に電話があったんだ。響子から、、。その時にね、未来ちゃんの事話してて」
だから、、、
「響子、未来ちゃんが弟と同じ歳だって言ったら、なんていうか、、、
自分の弟と重ねたのかな、、?
未来ちゃんの境遇も話したからね。」
響子さん、、、、
私の事まで、気に掛けてくれたのかな、、、
「あ!」
「何?未来ちゃん」
響子さんに言われた事、今頃思い出した!
「あの、、、、
響子さんが、マスターの事よろしくね、、、、、って、、、、、」
・・・・・・・
「響子、、、、、が、、、
そっか!」
最後まで俺は、頼りない男だったな、、、。
「じゃあ、未来ちゃん!これからも、よろしくな~」
え??あの、、、!
ちょっと待って!
それって、どういう意味~~~
カウンターに居た常連さんが、私に向かって
「未来ちゃんも、ここ長いよね~」
確かに、そうなんです。
「あ、はい!無駄に長いって感じですよね~」
ちょっとおどけて、答えてみる。
「そんな事、誰も思ってないよ!」
、、、、、、、、、って、常連さんが、、、じゃなく、マスターが言った、、、、
「マスターだけじゃないよ。僕もそうだけど、他のお客さんだって、おんなじだと思うよ~」
一瞬、シーンとなった間を常連さんの一言が救ってくれたような気がした。
その日の営業も終わって、後片付けをしてると、、、
「、、、未来ちゃん、今日は、ごめん。」
急に、亮介さんが謝ってきた。
でも、なんて言ったらいいの、、、?
「俺にとっては、、、
未来ちゃんがいてくれたから!、、、、未来ちゃんのおかげなんだよ。、、、、」
、、、、?
「マスター、、、、?」
「は、、、、。俺、何言ってんだろ。いい歳して、、、」
「あの、マスター、、、」
私の言葉を遮るように
「とにかく!とにかくさ、未来ちゃんには、ほんと感謝してんだよ!
いや、違うな。
俺には、未来ちゃんが必要なんだ!」
マスター、、、、、、、、
「わ、私も、、、、です、、、」
消え入りそうな声で、言った、、、、
「え?今、、、、もしかして、、、、?」
気がつくとーーー
私は、亮介さんの胸の中にいた。
「未来ちゃん、、、。」
強く抱きしめられて、呼吸が苦しい、、、
何か喋りたくても、声が出ない、、、
やっとの思いで、
「マ、マスター、、、」
「未来ちゃん、マスターじゃないだろ?」
「、、、、、りょ、亮介、、、さん」
「ん?何?未来ちゃん。」
「く、苦、、、しい、、、よ」
「あ、ごめん。」
やっと離してくれたかと思ったら、
次に抱きしめられた時は、ほんとに息が出来なくてーーー
今まで、キスの経験が無かった訳じゃない。
でも、だからといって、それ以上の経験も、、、、無くて。
友達によく言われる。
〈未来は、真面目過ぎるんだよ~〉
真面目、、、
そうかもしれないな、、、けど、やっぱり、そういう事は、、、、
なんていうか、ほんとに好きな人と。
亮介さんは、、、亮ちゃんとは、あれ以来キス以外の事は無い。、、、、、
でも、私にはほんとに優しいし、卒業後の事まで心配してくれてて。
そう!
もうすぐ、卒業なんだ。私!
無事に大学を卒業した私は、今、また、ここに居てーーー。
「未来ちゃん~おはよう!いつもね~」
「ハーイ。ホットですね~」
常連さんがいつものように、カウンターに座る。
ーーーー
卒業したものの、就職は出来なかった。
晴れて教員免許は取ったんだけど、仕事を得るには結び付かなくて。
う、、、
現実は、厳しかった、、、。
でも、教師になる夢諦めた訳じゃない!
で、他の仕事とりあえず、見つけようと思ってたんだけどーーー
〈他に仕事さがすくらいなら、うちに居ればいいじゃん〉
、、、、、、
甘えてしまった、、、。
だから今は、採用試験に受かるまで、っていう事でここでバイトさせてもらってる。
亮ちゃん、ありがとう!
恵まれてるよね、私。
でも、、、、
ふっと思い出す事があるんだ。
響子さん、、、、
どうしてるかな、、、、
あれから、3年近くか、、、、、
亮ちゃんは、響子さんの事を口にする事はなかった。
もう、ほんとに忘れたのかな?、、、、、
お店のドアが、開くーーーー
「いらっしゃいませー。」
私は、いつものようにお絞りとお冷やを持って、お客さんのところへ行く。
「いらっしゃいませ。
なんになさいますか?」
初めて見る顔だな。、、、
「コーヒー。、、、ホットで」
「はい。ホットですね。」
私は、カウンターにいる亮ちゃんに声を掛ける。
しばらくして、そのお客さんのところへ煎れたばかりのコーヒーを運んだ。
「お待たせしました。
ホットコーヒーです。」
私は、そっと、カップをテーブルに置く。
その時、そのお客さんと目があった、、
はっ、、、!
一瞬だった、、、
でも
なぜか、怖いと思った、、、、
「ごゆっくり、、、」
早々に、テーブルを離れた、、、。
カウンターに戻って来た私を見て、
「どうかした?」
亮ちゃんが、小声で聞いてくる。
「ううん!なんでもない!」
慌てて、答える。
何だろ?
私、なんでこんなに、どきどきしてるんだろ?
ううん!どきどきじゃない!
やっぱり、怖い、、、!
「未来?」
また、亮ちゃんが心配して話し掛けてきた。
「あ、ごめんなさい!大丈夫!」
改めて、気付かれないように、そのお客さんを見る。
黒いスーツに、長い足を組み、煙草を吹かしながら、窓の外を眺めてる。
眺めてる、、、、っていうより、睨んでる?
と思ったら、急に立ち上がって、レジのところへ向かってきた、、、!
私は、慌てて伝票を受け取る。、、、、と同時に、、、、、、、、
お金を置いて、出て行った。
「あ、ありがとうございました!、、、、、、、」
ハァ、、、、
ほんと、緊張したー
私は、さっきのお客さんが座ってたテーブルに行く。
そして、カップを片付けようとして、、、、、
え!?
コーヒーは、一口も、口がつけられていなかった、、、、。
すっかり冷めてしまったコーヒー。
トレイの上に乗せると、カップの中でゆらゆらと揺れていた、、、、。
テーブルに椅子を乗せていく。
営業を終えたお店を掃除しながら、私は、あのテーブルに目をやる。
いったい、何だったんだ、、、、
コーヒーの注文して、飲まないで帰っちゃうなんて、、、
あの、、、、瞳
確かに怖かったんだけど、、、
なんだか寂しそうな瞳にも見えたんだよね、、、
「未来ー、終わった?」
カウンターの中で、伝票計算してた亮ちゃんが、私に声を掛けてきた。
「あ、うん。終わった。」
「俺も終わったから。そろそろ帰るか。」
私は、大学に入ってから一人暮らしを始めた。
叔母の家からは、遠すぎて通えなかったから。
それと、早く自活したいっていうのもあったし。
そんな私を、叔母は気持ち良く送り出してくれたっけ。
私が住んでるアパートは、大学には近くて、歩いて5分ぐらい。
だから、車の免許は取ったんだけど、使った事はほとんどなくて。
でも、ここまでだと20分ぐらいはかかる。
卒業してからは、ほぼ毎日のように、来てたから。
さすがに、歩きじゃ危ないって言われて、、、
亮ちゃんに。
そういうわけで、今は、いつも車で通ってた。
亮ちゃんはと言うと、自転車で5分ぐらいの所にあるアパートに住んでて。
響子さんと一緒だった頃に住んでたマンションは、一人には広すぎるからって、今のアパートに引っ越してきた。
店にも近いし、良いって言ってたな。
でも、私が住んでるアパートとはまったく逆方向で、、、、!
帰るって言っても、お店の外で、サヨナラなんだよね。
「一緒に、住まないか?」
大学を卒業するちょっと前に、亮ちゃんが言ってくれた。
ちょっぴり、嬉しかった。
でもーーー
まだ、就職もしてないし、何よりも結婚してる訳じゃないのに。
あ、、、
また、真面目な性格が出ちゃったかな、、、
って思ったけど、やっぱり、そこは曲げられないし。
亮ちゃんも、分かってくれたから。
だから、私たちは、、、
亮ちゃんと私は、まだ、、、
、、、、関係は、ない。
亮ちゃんも、私の気持ち分かってくれてるって思ってるし、、、、
何よりも、やっぱり、、、
私は、、、、、、、響子さんの気持ちを考えると、、、、
「じゃあ、出るぞ。」
「あ、うん!」
裏口から、先に亮ちゃんが出る。
その少しあとを私が出ようとした、、、、、
その時ーーー
お店の電話が鳴った、、、!
「あ!電話!」
亮ちゃんは、もう自転車に跨ってる。
「え?電話?」
「うん!私、とるから!亮ちゃん、雨降ってくるから、先に帰って~」
急いで、中に戻る私。
受話器を取ろうとした時、、、、
切れてしまった。
「あぁ、間に合わなかった、、、。」
諦めて、電話から離れようとした時ーーー
また、電話が鳴る。
「はい!もしもし。お待たせしました!」
<ツーツーツー、、、、、>
、、、、切れた。
ザー、、、、
あ、、、
窓の外を見ると、雨が降ってる。
やっぱり!
天気予報で言ってたからな。
亮ちゃん、濡れなかったかな、、、、
、、、、帰ろう、、、、。
手にしていた子機を戻す。
カサッ、、、
その音に、振り向く、、、、、
「あ、、、、!?」
「だ、、、、、、、誰、、、、、?」
僅かではあるが、外からの光で逆光になってるため、はっきりとはわからない、、、、
けど、、、、、
誰かが立っていた、、、、
「、、、、、、亮ちゃん?」
戻って来たの?
でも、その人、、、、は、何も答えてくれない、、、、
違う、、、、
亮ちゃん、、、じゃ、、、、ない、、、、、
思わず、後ずさりする、、、、
強盗、、、、、!?、、、、、!
どうしよう、、、、!!
、、、、、「お、お金なら」
「金なんていらねぇ」
え、、、!?
その男が近づいてくる、、、
また、後ずさりする、、、
どういう、、、、事、、、、?!
ガタン、、、!
テーブルに当たり、動きが止まってしまう、、、、
あ!今なら、、、
裏口の鍵が開いてるはず!
外にさえ出たら、、、
暗いとは言っても、まだ9時、、、
車や人の通りだって、まだある、、、!
「裏口から逃げようたって、無理だぜ。」
男が低い声で言う。
「え?!、、」
思わず、反応してしまった、、、
「仲間がいるからな。」
、、、、!!
「それに、、、、、オレから逃げられると思ってんのか?」
え、、、、っ!?
非常灯しか点いてない、薄暗い店の中でも、少しずつ目が慣れてくる、、、、
大きい、、、、
女の私が、かなうような相手じゃ、、、、ない、、、、
私、殺されちゃうのかな、、、、
また、更に男が近づいて来る、、、、
、、、、もう、体が動かない、、
だめ、、、、だ
絞り出すように
「、、、、、殺す、、、、の?」
動きを止めた男が
「殺す?、、、、、殺しやしねぇ。
、、、、、壊してやる。」
、、、、、???
壊してやる?、、、、?
昼間の光景が、鮮明に思い出される、、、
怖い、、、
改めて、あの時の気持ちが蘇ってくる、、、、、
下見、、、?
コーヒーを飲まずに帰ったのも、そのためだったんだ、、、、!
そっか、、、
そうだった、、、んだ、、、、。
そう思った瞬間、全身の力が抜けていく。
その時
腕を掴まれた、、、!
とっさに、腕を振り払う。
「もう、抵抗しねぇかと思ったけどな。」
え、、、、
「大声出せよ。やめてってさ。ほらっ。」
な、、、なに!?
「い!」
「この店、どうなるだろうね。」
私の声を遮るように、言った、、、
「あんたが今ここでさ、大きな声出したら?
いくら、外に仲間がいたって、騒ぎを駆けつけて、誰かが来るだろ?」
何、、、
何が言いたいの、、、、
「そして、あんたは助かるだろうけど。
さすがに、店は続けらんねえ。、、だろ?」
あ、、、
事件があったお店なんかに、お客さんが来る訳ない、、、、
じゃあ、私は、、、、
テーブルにぶつかって、動けなくなった私は、、、
また、腕を掴まれ、男の方によろめいてしまう。
はっとした瞬間、男に唇を奪われてて、、、
声が出せない分、体で抵抗するしかない。
思いっ切り、男の頬を叩いた、、、つもり、、、だったのに、、、、
私の右手は、男の左手に握られてて、
それでも、今度は空いていた左手で、男を殴ろうとした。
だけど、右手を掴まれたままじゃ、思うように力が入らなくて、、、
簡単に左手も、掴まれてしまう、、、、、
それでも、私は男を睨みつけた。
「は、、、。気のつえー女だな。」
、、、、、
手が駄目なら、、、!
足で蹴ろうとした瞬間、いきなり、掴まれていた腕を離されてしまった私は、反動で床に思いっきり倒れてしまった、、、
頭を打った訳じゃないけど、軽い目眩を起こした私は、、、、
気が付かない、、、
男が私の上に、馬乗りになってた事に、、、、
、、、、、、、、
「なんで、、、、なんで、、、、?」
「言ったろ。あんたを壊すって。」
その声には、憎しみしか感じられなかった、、、。
男性経験がない私にだって、分かる、、、
このあと、何をされるか、、、。
亮、、、、亮ちゃん、、、、
こんな事になるぐらいなら、亮ちゃんに、、、、
「何、考えてる?
アイツの事か?」
「、、、、、、、、」
無表情だった男の顔が、少し、笑ったように見えた。、、、、、、
、、、、、?
は!、、、、、殴られる!
ぎゅっと目を瞑った瞬間ーーー
白いブラウスが、引きちぎられるように破られた、、、、
「いや!」
男が、唇を重ねてくる。
私は、思いっきり顔を振る、、、
構わず、男は私の顔を押さえつけ、唇を押し付けてきた、、、、
ん、、、、
息が出来ない。
気持ち悪い、、、、
亮ちゃん、亮ちゃん!
助けて、、、、
体中をなめまわされる。
気持ち、、、、わるい
いやだ、、、、
でも、もう抵抗する力が残ってない、、、、
こんな、、、こんな男に、、、、
「やめて、、、」
残っていたのは、声だけで、、、、
「やめる訳ねぇだろう。アイツとオレと、どっちがいいか言ってみろよ。」
私の胸を弄びながら、男が言う。
「いや、、、、」
「いや?
、、、、、、ふざけんじゃねえ!」
、、、、、、、、、
次の瞬間、下腹部に激痛が走ったーーー
「きゃーーーーーーーっ」
、、、、、どれくらい、経ったんだろう、、、、
私は、意識を失ってた、、、、
一瞬、何がおきたのか理解できなかった。
亮ちゃん、、、、亮ちゃん、、、、、、
「亮ちゃん、、、、」
と、その時、電話の音が、、、、
え、、、?
お店の電話、、、、?
ふと、カウンターを見ると、、、、、、、、携帯が光ってる?
そのまま、ふらふらと立ち上がった、、、、
「携帯、、、、、私?の、、、」
携帯の画面を見る。
「亮ちゃん、、、」
どうしよう、、、
でも、今電話に出なかったら、亮ちゃんが心配する、、、、
「、、、、もし、、もし、、」
「あ!未来?どうした?」
え?何、、、、!?
「未来? 電話しただろう?俺に。」
電話、、、?
「私、、、、が?」
「そう!でも、俺がとったら、何も言わずに切れたからさ。
気になって。」
あの男が、私の携帯を使って亮ちゃんに電話したんだ、、、。
「未来、、、?」
「あ、ごめんなさい。
間違ってかけちゃったみたい、、、」
「そう?」
「、、、うん。」
、、、、、、、、
「未来、今、どこ?」
あ、、、
時計を見ると、、、、、10時を少し回っている。
こんな時間に、お店にいるなんて言ったら、、、
「アパートだよ、、」
「ほんと?」
「うん。ほんと、心配かけちゃってごめんね。
ちょっと、体冷えちゃったみたいだから、お風呂入る、、、ね。」
「あ、そっか!わかった。あ、早くお風呂入って、あったまれよ。
また、明日な。おやすみ。」
「うん。明日ね。
おやすみ。」
帰りたい。
早く、うちに帰らなきゃ。
カウンターに置いてたバックを取って、携帯を入れる。
そして、、、、
膝まで降ろされた下着を、履き直す。
肩紐だけのブラを着け直して、とりあえず、ブラウスもスカートの中に入れる。
裏口から出て、急いで車に乗り込んだ。
「う、、、、っ、、、ひっく」
あっーーー?
ふと、下半身を見ると、赤い線が太ももを伝っていくのが見える。
それと同時に、男が吐きだしたものも、流れて行くのが分かった。
、、、、、、、、、、、、、
涙が出てきた、、、、。
此処にきて、初めて泣いた。
出来るだけ、声を殺して泣く。
シャワーの音が、私の泣き声をかき消してくれるみたい。
そして、土砂降りの雨も、、、、
大声で、
泣いたーーー
浴室から出てくると、携帯が光ってた、、、
亮ちゃんからのメール、、、
携帯を開く。
【おやすみ】
時間は、11時を過ぎていた。
「亮ちゃん、、、、私、、、どうしたら、いいの、、、、?」
また、涙が溢れてきた、、、
気が付くと、朝になっていた。
携帯を握りしめたまま、寝ていたみたいだ。
ゆっくりと、体を起こす。
「痛い、、、!」
お腹、、、、腰、いろんなところが昨日より、痛い、、、、
うっ!
気持ち悪い!
トイレに駆け込む、、、!
吐いてしまった、、、、、
はー、、、、、
仕事、、、行かないと、、、、
携帯が鳴る。
亮ちゃんからだ、、、
「はい、、、。」
「未来?おはよう。
大丈夫か?」
「え?、、、、何が、、、」
「いや、昨日のメール、返信なかったし、今も、なんか元気ないみたいだからさ。」
、、、、、、、
今、亮ちゃんに顔見られたら、絶対、おかしいって思われちゃう、、、
それに、こんな腫れぼったい顔じゃ、お客さんの前にも出られない、、、
「昨日は、、、
雨に濡れちゃったからかな、、、ちょっと、風邪引いたかも、、、、」
「え!、、、そうか。わかった。
今日は、休んでいいぞ。」
「、、、、、ごめんね、亮ちゃん、、、」
「気にするな。それより、今日はちゃんと寝てるんだぞ。」
ありがとう、亮ちゃん、、、。
携帯を切って、また、ぼんやりとしていた。
窓の外に目をやると、昨日の雨が嘘みたいに、青く晴れ渡っていた。
嘘みたいに、、、、、
私、、、、、、レイプされたんだ、、、、。
あの男に。
夢だったって、嘘だったって。、、、、誰か、言ってくれないかな、、、、
警察になんか行けない。
ましてや、亮ちゃんにも、、、、、ううん、誰にも話せない。
そんな事したら、亮ちゃんのお店が、、、、
あの男の言うとおりだ、、、。
悔しいけど。
泣き寝入りするしかないんだ、、、、
忘れよう、、、
忘れなきゃ、、、、、
よく、、、、言うよね?
事故に遭ったって思えばいいって!、、、、、、
、、、、もう、2度と会う事はないんだから!、、、、、
、、、、、
ちょっと、休もうかな、、、
ベットに横になり、少しうとうとしだした、、、、
「、、、、、、、、、ん、、、、」
携帯の着信音、、、
電話だ、、、
「誰からだろう?、、、、亮ちゃん?」
画面を見る、、、、、と、知らない番号だった。
「え、、、、誰、、、?」
戸惑いながらも、電話に出た。
「はい、、、」
「アイツ、ひとりで大変そうだけど?」
ちょっと、小馬鹿にしたような言い方だった。
慌てていたせいか、表から入ってしまった上、思いっきり扉を開ける。
「未来!」
「未来ちゃん?」
亮ちゃんと常連さんが、同時に私の方を振り向いて、名前を呼んだ、、、!
でも、応える余裕もなくて、テーブル席に目を向ける、、、、
いた、、、、
あの男と、、、、もうひとり、、、、
仲間、、、、
仲間がいるって、言ってた、、、
もうひとりの男、、、、、は、二十歳ぐらいだろうか、、、
金髪に、ピアス、、、
どう見ても、普通じゃない、、、
私と目が合うと、二ヤッと笑った、、、。
あの男は、、、、
私には、目もくれない。
どうして!
何がしたいの、、、!
「未来!」
え?
「、、、、、亮、、、ちゃん?」
「、、、、未来ちゃん、、、」
常連さんの声も聞こえる、、、、ハァ、、、、ハァ、、、、
息が、、、、
息が、出来ない、、、
「未来!?おい!大丈夫か!!」
「く、、、、苦しい、、、い、、、息、、、、が、出来、、、ない、、、、、、、」
亮ちゃん、助けて、、、
「袋。」
男が、亮ちゃんに向かって言う。
「え!?、、、、袋!?」
「過呼吸、お越してんだよ。」
亮ちゃんが、慌てて袋を持ってきて、男に渡した。
床に座り込んだ私の横に、片膝を立てて、袋を口に当てようとした。
声が上手く出せない私は、力無く顔を振る、、、
「おとなしくしろ。楽になる。」
男が、低い声で話す。
「未来、大丈夫だから、、、!」
亮ちゃんが、男に合わせるように話し掛けてくる、、、
動きを止めた私に、改めて、男が、袋を当てて
「このまま、息をしろ。」
「ハァハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、、、、、、、、」
、、、、、、、、、、、、、、、
しばらくすると、呼吸が楽になってきた、、、。
意識も、はっきりしてくる、、、。
「未来、大丈夫か?、、、」
亮ちゃん、、、
「う、、ん、、、、、大丈夫、、、」
、、、、、、、、、、、、、
男が立ち上がった。
「あの、ありがとうございました!」
亮ちゃんが、頭を下げる。
男は、黙ってレジに向かって歩き出した。
「あ、代金は結構ですから!」
男に向かって、亮ちゃんが声を掛けたけど、男は、2人分の代金を置くと、、、、
「おい、行くぞ。」
もうひとりの男に、そう言って、店を出ていった、、、。
その様子を、私はぼんやりと見ていた。
「未来ちゃん、大丈夫?」
常連さんが、心配そうに私を見ていた。
亮ちゃんに支えられながら、ゆっくり立ち上がり、
「はい、、。、、、すいませんでした。、、、、ご迷惑おかけして、、、。」
改めて、お店を見渡すと、常連さん以外、お客さんはいなくて。
常連さんが、気を利かせて帰って行った、、、。
「亮ちゃん、、、、ごめんね。」
「いや。、、、、未来、送るから。」
亮ちゃんは、一時的にお店を閉めて、私のアパートまで送ってくれた。
「今日は、ほんとにごめんなさい、、、」
車を降りながら、俯いたまま、小さい声で謝った、、、。
すると、亮ちゃんがいきなり、私の腕を掴んできた。
一瞬にして、昨日の出来事が脳裏に浮かぶ。
とっさに、掴まれた腕を振り払う!
は、、、!
「、、、未来?」
亮ちゃんが、びっくりしたような顔で私を見る。
「あ、、、、あの、、、」
なんて言ったらいいのか、わかんない、、、、
「なんか、、、、あったのか、、?」
「何にもないよ!」
亮ちゃんの問いかけに、私は、思わず大きな声を出してしまった、、、。
「、、、、、そうか。、、、、、なら、いいんだ。、、、、、車、置いとくからな。」
私の車で送ってくれた亮ちゃんは、急いで、歩いて戻って行った。
そんな亮ちゃんに、私は掛ける言葉が見つからなくて、ただ黙って見送った、、、、、、、。
部屋に戻った私は、玄関口で座り込んでしまった。
何、、、?
何なの、、、、!
昨日は、私にあんな、、、、事しといて、、、、、さっきは、私を助けるような事して!
私の口に袋を当ててる間、あの男の顔がなぜか、悲しそうに見えた、、、
ほんとに心配してるような顔だった、、、、
わかんない、、、
何、考えてんの、、、、、
ゆっくり立ち上がって、ふと、時計を見る。
11時、、、、か、、、
「ランチタイムが始まる時間だ、、、。
、、、、亮ちゃん、大変だろうな。」
でも、今私が行っても、、、、
!!、、、、、電話、、、
携帯が鳴ってる。
、、、、、、、、、、、
止まない、、、、、、、、
「、、、、、、、、、はい」
「今すぐ、〇〇〇ホテルの312号室に来い。」
え?
「、、、、待って!どういう」
「来なかったら、また、店に行くからな。」
はっ、、、!
電話は、切れた、、、
、、、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、
足が竦んでしまう、、、、
戻りたい、、、!
心臓が張り裂けそう、、、
と、その時、ドアが開いた。
、、、、、、男が、
、、、、、、立っていた。
私は、引っ張られるようにして、部屋の中に入ってしまった、、、、
よろけそうになりながら、なんとか体制を整える、、、、。
男は、部屋の窓際にある椅子に座って、私を見ていた。
どうしたらいいのか、わからない私は、俯いたまま立ちすくんでいた、、、、。
「脱げよ。」
、、、、、!
男が、冷たく言い放つ。
、、、、、、、
わかってた、、、、
こうなる事は、、、、
でも、、、、、いや、、、、
「、、、、、いや、、、、」
震える体で、なんとか声を出す。
「ふっ!もっと、大きな声出していいんだぜ。ここなら、知り合いに聞こえるって事はないからな。」
「、、、、、、、!」
「但し、お前に拒否権はねえけど。」
、、、、、、、、、、。
男に、背中を向ける、、、
「こっち、向けよ。」
「、、、、、」
もう、やだ、、、、よ
男の方を向いたまま、私は、服を脱ぎだした、、、
手の震えが止まらなくて、服が上手く脱げない、、、。
涙が、出てきた、、、
下着姿になった私の腕を、男がぐいっと引っ張った。
「あ、、、!」
私を窓の外に向け、立たせたまま、いきなり後ろから抱きしめてくる、、、、
体をよじって、抵抗すると、
「オレが、初めてのオトコだったんだ。」
「、、!!」
「まさか、アイツとやってなかったとはな!
あははは。、、、、、壊し甲斐があるって事か。」
、、、、、、、、、、
「、、、、もう、やめて、、、」
「亮ちゃん、、、、」
思わず、名前を呼んだ。
私の言葉を聞いて、さらに、強める。
「!!、、、、痛い、、、!」
「黙れよ!、、、違うだろ。」
「、、、、」
「恭介って言えよ!」
「、、、、、、、」
「言え!」
「恭、、、介、、、、、、」
<恭介、、、、、>
薄れ行く意識の中で、男の名前だけが、私の中でこだましていた、、、、、。
気がついて辺りを見渡す。
男、、、、恭介の姿は無くて、、、、
窓の外を見ると、もう、薄暗くなっていた。
私、どれくらい意識失ってたんだろう、、、
起き上がろうとして、気づいた。
、、、私、何も、、、、、身に付けていない
でも、お布団が掛けられてた、、、、、
その時、部屋の電話が鳴る。
「はい、、、」
「フロントからです。」
「あ、あの、今すぐ出ます!」
「あ、いえ。明日の朝までにチェックアウトしていただければ、結構ですので。」
「あの、、」
「あ、料金の方は、既に頂いております。ですので、ごゆっくりどうぞ。」
わかんない、、、、
会えば会うほど、わかんなくなる、、、
壊す、、、私を、壊したいの、、、?
あの男、
恭介、、、、
「でも、帰んなきゃ。」
ベットから立ち上がって、歩き出そうとした。
倒れそうになる、、、、力が入んない、、、
体が、悲鳴をあげてた、、、、
シャワー、浴びたい、、、
でも、こんな所で、シャワーなんか、浴びてる場合じゃない・・・。
服を着て、急いでアパートに戻った。
なんとか、家にたどり着いた。
辺りは、すっかり暗くなっていて。
時間を確認しようと、車の中で携帯を開いた。
「、、、、、、、亮ちゃん!」
亮ちゃんからの着信が、10件も入ってた、、、。
心配して、かけてきたんだ、、、、
私は、すぐ、亮ちゃんにかけ直した。
「はい、、、。」
「亮ちゃん?ごめんね。心配かけて。」
「、、、、、、、、」
「亮ちゃん?どうしたの?」
「未来、、、、、今まで、あ、いや、、、、今、どこ?」
「あ、、、!あ、家、、、だよ。あれから、ずっと寝てて、、、亮ちゃんからの電話、気がつかなくて、、、」
部屋に入っても、亮ちゃんは何も喋らない。
いたたまれなくなった私は、
「お茶、煎れるね!」
「いいから。座って。」
亮ちゃんの顔をそっと見る。やっぱり、機嫌が悪そう、、
「あの、、、ね」
「未来、、、、これ。」
亮ちゃんの手のひらには、私のブラウスのボタンが握られていた、、、、
!!
「何!?、、、、なんで!」
「今朝、店で見つけた。未来の、、、だろう?」
「、、、、、!」
亮ちゃんに知られちゃいけない、、、!
「今日、未来の事、助けてくれたお客さん、、、、昨日も、来てたよな、、?」
あ、、、、
「未来、、、今日、どこ行ってたの、、?」
「、、、、、どうして、黙ってんの、、、、」
「、、、、亮ちゃん、、、!これは、このボタンは」
言い終わらないうちに、亮ちゃんが覆い被さってきた。
突然、床に倒された私は、パニックになる。
「亮ちゃん!やめて!!」
「あのお客さんと!」
「え、、?何!」
「あの男と寝たのか!」
亮ちゃん、、、、
亮ちゃんが、悲しい顔をして私を見てる、、、、
「ごめんなさい!」
「俺だって、、、!」
え、、、
「俺だって、我慢してきたんだよ!、、、なのに、、、、、、未来は、、、、他の奴と浮気して、、、、」
浮気、、、?、、、、!?
「だったら、、、、」
「、、、亮、、、」
「俺も、未来を抱いていいよね。、、、」
!!
「だめ!いや!」
抵抗した、、、、
亮ちゃんが、亮ちゃんの事が、嫌だった訳じゃない、、、。
でも、今の私は、、、、
優しさが欲しかった、、、
体じゃ、、、、なくて、心で、、、、繋がっていたかった、、、、、
あの男に、、、
恭介に、昨日、私の初めてを奪われて、、、
今日も、何度も抱かれて、、、
今、亮ちゃんにも、、、、
気がつくと、亮ちゃんが背中を向けて、私の横に座っていた。
終わったんだ、、、。
「ごめん。、、、、未来。」
亮ちゃんが、ぼそっと呟く。
なんで、謝るの、、、
「でも俺、、、未来の事好きだから。」
好き?
、、、、、、、、
だったら、抱かないで欲しかった、、、
謝んないで欲しかったよ、、、、、
そして、亮ちゃんはこんな事も話してきた。
今朝、私のブラウスのボタンを見つけた時は、特に、何も思わなかったって。
でも、今日、常連さんが亮ちゃんに話したらしい。
昨日の夜、常連さんが、たまたまお店の前を通った時ーーー
私の車が停まってた。
「随分、遅くまで仕事してんだな~」って思ってたらしい。
その時間は、私が亮ちゃんに家にいるって言ってた時間だった、、、。
そして、突然、店にやってきた私が、あの男を見た時の様子。
過呼吸をおこして倒れた事。
私を一度、送った後、何度連絡しても、つながらない。
気になって仕方なくて、今日は、いつもより早く店を閉めて、ここで、私のアパートの前で待ってたらしい。
亮ちゃんの顔が、引きつってる。
私の、せい?
私が、亮ちゃんを、優しかった亮ちゃんを、変えてしまったのかな、、、
ほんとの事、話したら、亮ちゃん、わかってくれる?
私、浮気なんかしてないよ、、、?
ほんとはね、最初の人は、、、亮ちゃんにって、、、決めてたんだよ、、、
なのに、、、、、、、!
「、、、未来。俺が初めての相手じゃ、なかったんだな。、、、、、しょうがないか。」
しょうがない?
「でも、俺、それでもいいよ。未来の事、許す、、、。」
許す、、、
「だから、、、、別れないから。」
それだけ言うと、亮ちゃんは出て行った。
やっぱり、私が悪いんだね、、。
汚れてしまった私でも、亮ちゃんは許して、付き合ってくれる。
、、、、、、、、、、、、
それで、いいのかも、、、
そしたら、あの男の事も、、、恭介の事も、忘れられる?
「お風呂、、、、入ろう、、。」
体を洗う。
泣き過ぎて?疲れ過ぎて?、、、、、、、、体の痛みを感じない、、、、、
浴槽に入る。
忘れられる、、、訳ないよね、、、恭介、、、、
壊すって、、、
私の事、壊すって、言ってたもんね、、、、、
私、どうなっちゃうんだろ、、、、、
お風呂から上がると、亮ちゃんからメールがきてた、、、、。
少し、憂鬱な気持ちで携帯を開く。
【明日、休みだから、うちに来ないか。】
明日、店休日だったな。
、、、、亮ちゃん、、、行きたくないよ、、、
今、亮ちゃんに会うのは、私には酷だよ、、、、
返信をしない私に、痺れを切らしたのか、また、亮ちゃんからのメールがきた。
【待ってるから】
こんなメール、ちょっと前までだったら、どんなに嬉しかっただろう。
【わかった】
返信ボタンを押す。
私、亮ちゃんの事、好きなのかな?
タオルで髪を拭きながら、これからの事、考えてみる。
、、、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、
やっぱり、思い浮かばないな、、、。
あ、、、、
夢、、、、
私の夢!
、、、、、、、私には、夢がある。
忘れちゃいけない、、、
そう!
少し、気持ちが落ち着いてきた。
明日、亮ちゃんにも話をしてみようーーー。
そういえば、喉、渇いたな。
私は、アルコールが全く駄目だ。
だから、お風呂上がりは、お茶を飲む。
友達には、年寄りみたいだって笑われたけど。
こんな事、考えられるようになるなんて、、、
ちょっと嬉しくなった。
朝、目が覚めると、やっぱり、体中が痛い、、、。
否が応でも、昨日の事が思い出されてしまうけど、、、、
亮ちゃんとは、11時に待ち合わせをしていた。
気持ちを切り替えて、身支度を整える。
携帯をバックに入れようとした時、着信音が鳴った。
、、、、、、、、、
、、、、恭介、、、、、、
あの時、何で名前を呼ばせたりしたんだろ、、。
やっぱり、気になる。
私と、何か関係あるのかな、、、、
その時、玄関のチャイムが鳴る。
「あ!誰か来た、、」
ドアを開ける。
「亮ちゃん、、!!、、どうしたの、、!?」
「いや、、。」
「私が、行く約束だったじゃない、、?」
「、、、、、!
、、携帯、、!誰と話してたの。」
え!?、、、
ふと、自分の手に目をやると、、、、
携帯を握ってて、、、
でも、さっきの会話、あの男にも、、、恭介にも、聞かれたんだ、、よね。、、、
「未来。、、」
「あ、、、、」
、、、、、、、、、、、、、、
「美味しいもの、食べに行こう!」
亮ちゃん、、、?
、、、、、
「あ、、、うん、、」
亮ちゃん、何、考えてんの、、?、、、
そして、亮ちゃんは、おしゃれで美味しいレストランに連れて行ってくれた。
食事中は、普通に会話してたんだけど、、、、
なんか、ちょっと、違う気がして、少し複雑だった。
亮ちゃん?無理してる、、、?
ご飯を食べた後は、ドライブにも連れて行ってくれた。
「未来、、、」
突然、立ち止まった亮ちゃんが話し掛けてくる。
「え!?なに?」
ちょっと、驚いて返事をする。
「、、、、、、、いや、何でもない。」
「、、、、、、?」
「入って。」
ドアを開けながら、亮ちゃんが言った。
ここできちんと、話をしなきゃ。
意を決して、
「お邪魔します。」ーーー
初めて入った亮ちゃんの部屋は、物があんまり無くて、どこか寂しい感じがした。
「なんも、ないだろう?」
「あ、、うん、、、、。」
亮ちゃんって、こんな部屋でずっと、暮らしてたんだ、、、。
「コーヒー、煎れるね。」
「あ、お願いします!」
ランチは、贅沢したから、夜はピザでいいって私が言って、帰りに買ってきていた。
「適当に座ってて。」
言いながら、亮ちゃんはコーヒーを煎れ始めた。
リビングのソファに座る。
それから、買ってきたピザをテーブルの上に置いた。
携帯を触る訳には、いかないけど、、、
何をしていいのか、わからなくて、時間を持て余していた。
「ここに引っ越した時にさ、使ってた家具とかは全部、処分したんだ。」
ピザを取り分けるお皿とフォークを手にしながら、亮ちゃんがリビングに入ってきた。
「、、、そっか、、、、。」
私は、お皿とフォークを受け取って、テーブルに並べる。
響子さんとの思い出の物、残したくなかったんだろうな、、、、
亮ちゃん、口には出さなかったけど、ずっと寂しかったのかも、、
「コーヒー、はいったみたいだから、持ってくるな。」
そう言って、亮ちゃんはまた、キッチンへ戻った。
ピザの入った箱を開けながら、昨日、亮ちゃんが言った言葉を思い出していた。
<俺だって、我慢してきたんだ>
我慢、、。
寂しさを、我慢してきた?、、、、、、の、、、?
でも、、、、
「はい、コーヒー、、、。」
亮ちゃんが、二人分のコーヒーカップをテーブルの上に置いた。
「俺さ、、」
私が、ピザを一口ほおばった後に、亮ちゃんが口を開く。
「え?何?」
「響子が、出ていってから、ずっと思ってたんだ、、。」
え、、?
「響子、寂しかったんだろうなってさ、、、
、、、、、、、、でも、、、、、、、、
俺も、、、、、、
寂しかった、、、、、、」
亮ちゃん、、、、。
「だから、、、さ、未来に対して、自信がもてなくて、、」
、、、?
「未来に告白した後も、そうだった。
、、、、、だから、未来が、、、他の男とって知った時、また、響子の時みたいに、、居なくなるんじゃないかって、、、、、」
「亮ちゃん、、、?」
「不安なんだ、、、!どうしようもなくさ。
、、、未来を、離したくなくて!」
「ねぇ!聞いて、亮ちゃん!私ね」
言い終わらないうちに、
「未来。」
声を荒立てる訳でもなく、亮ちゃんは静かに私の言葉を遮った、、、
「え!?」
「俺、あの店やるの、ほんと夢だったんだよね。」
「あ、、、う、、、、ん、、」
「これからもさ、頑張って行こうって思ってて。、、、、響子、いなくなっちゃったけど、、、、
未来が、、、居てくれたら。」
「あ、あの、、」
、、、、、、、、、、
「未来、、、あいつと別れてくれ!」
「別れてって、、そんな事、、!」
「俺より!あいつの方が好きなのか!」
亮ちゃんが、怒ってる、、
「違う、、!」
「だったら!」
違うの!
「聞いて!亮ちゃん、お願いだから聞いて!」
「何!俺の方が好きなら、別れられるだろ!!」
ソファに座っていた私の腕を、亮ちゃんが掴んだ。
「痛い!痛いよ、亮ちゃん!」
必死で、振り払おうとするけど、びくともしない。
「亮ちゃん!離して!」
腕を掴んだまま、私をソファの上に倒してきた。
亮ちゃんは、何も言わない。
こんな事、、、、、もう、、
「やだ、、、!!」
思いっきり、足をばたつかせた。
その時、亮ちゃんがソファから落ちる。
と同時に、テーブルの上にあったコーヒーカップが、亮ちゃんの足の上に落ちてきた。
「あ!!」
思わず、体を起こして
「亮ちゃん、、!」
「アツッ、、!」
「大丈夫!!、、?」
、、、、、、、、、
亮ちゃんが、足を押さえてる。
「早く!冷やした方が」
「帰って、、」
「え、、、」
「悪いけど、未来、、、帰って。」
「、、、、、、、」
亮ちゃんは、足を押さえながら、下を向いたまま黙ってる。
私は、、、何も言えず、、、
そのまま立ち上がり、バックをつかんで、足早に部屋を出た。
亮ちゃん、、、、
やっぱり、まだ、、、
響子さんの事、忘れられないんだ、、。
亮ちゃんは、私の事、ほんとに、、、好きなのかな、、、、、?
ひとり、歩いて帰る道は淋しいけど、また少し、冷静になれるような気がした。
- << 160 そんな事を考えながら、しばらく歩いていると、携帯の着信音が聞こえてきた。 「亮ちゃん、、?」 電話にでるかどうか迷いながらも、携帯を開いて通話ボタンを押す。 「、、、、、、はい。」 「今度は、でたか。」 ?、、、 「まあ、ひとりだったら、アイツにばれる事はないからな。」 、、!!、、、、、恭介、、、! !、、、、、なんで、ひとりって、、!
📝主です
おはようございます🙇
お話の途中で、申し訳ありません。
この度、実は<感想・ご意見スレ>を立てさせてもらいました。
初めての感想スレのため、非常に緊張しております💦
仕事をしていますので、お返事は遅くなる事もあると思いますが、宜しかったら、ご意見ご感想お願いします🙇
失礼しました🙇💦
携帯を耳に当てたまま、急いで後ろを振り返った。
亮ちゃんの家から私の家までは、車の通りが多い所もある。
ただ、私の家の近くは住宅街で、夜になると意外と車や人の通りも少なくなる。
だから、私は車を使っていた。
車も人も、いない、、、。
「ふー、、、」
ほっと、ため息をついた。
「あまいな。」
「え、、、!?」
もう一度、前を向くと、その瞬間、物凄い光に周りが見えなくなった。
あまりの眩しさに、腕で目を隠す。
「あ、、、!!」
私は、いつの間にか車の中に引きずり込まれていた。
は、、、?
この声、、、
恭介、、、、!!
ついさっきの電話のやり取りを思い出した。
ここは、車の中で、、、
!!
、、、前を向いた瞬間、恭介の乗った車のライトを、突然向けられて、、、
よく見えない状況で、車の中に拉致されたんだ、、、
一瞬静かになった私を、解放してくれるのかと思った。
、、、が、私の口に掌を当てたまま、恭介が言った。
さっきの怒鳴り声とは違う、低い声で
「逃げられると思うなよ。」
、、、、、、、
「わかったか?」
顔を小さく縦に振るしかなかった。
恭介が掌を離したと同時に、急いで車の端に身を寄せる。
黙ったまま、車の中をゆっくり見渡した。
私と恭介は、後部座席に座っている。
前の方に目を向けると、ルームミラー越しに運転席の男と目が合った。
ニヤリと笑いながら、
「あんた、もう大丈夫なのか~」
ふざけたような口調で聞いてきた。
え、、!?
もう一度、ルームミラーを見る。
「、、、、あ!」
過呼吸で倒れた時に、恭介と一緒に居た男だった。
過呼吸、、、
そういえば、、、、あの時、恭介が助けてくれたんだっけ、、、。
ゆっくりと、恭介の顔を見る。
暗くて、表情はよくわからない。
「竣也、余計な事は言うな。」
「あ、すいませ~ん」
竣也って言うんだ、、、
また、ルームミラーを見ると、竣也が舌を出しながら、笑ってた。
え?
この状況で、笑ってる!?
ちょうどその時、赤信号で車が停まった。
車の目の前を、中学生ぐらいの女の子を連れた家族が、仲良さそうに歩いていた。
、、、パパ、、ママ、、、
心の中で、呟いてみる。
この歳になっても、やっぱり、寂しさは拭えない。
鼻の奥が、ツンとした。
泣きそうになった顔を見られたくなくて、後部座席の窓ガラスに顔を向ける。
「チッ。」
え? 舌打ち!?
チラッと恭介を見る。
今は、外の灯りで顔が見えた。
前を向いたまま、眉間にしわを寄せている。
なにに、怒ってんの?
「おまえ、アイツと結婚すんのか?」
何!?
突然、予想もしなかった事を聞かれる。
「結婚って!、、、、、」
「結婚したって、、、、家族が出来たって、、、、いつかは壊れるんだよ!」
恭介?、、、
さっきの家族、、、?
なんか、あった、、、、、?
恭介も?、、、、、
「恭介さん、、」
竣也が呟く。
ついさっきまで、にやけてた竣也の顔が、少し暗くなったのがわかった。
信号が青に変わり、車が走り出す。
結婚か、、、
私には、まだまだ先の話だな。
、、、、、亮ちゃんと、結婚、、、、、、、、
私、、、私は、亮ちゃんと結婚するのかな、、、
窓ガラス越しに、外に目をやる。
仕事帰りの会社員、OL、仲良く手を繋いだカップル、いろんな人が歩いてる。
みんな、いろんな事抱えながら、生きてるんだろうなぁ、、
でも、それでも生きていけるのは、、、
やっぱり、夢が、、、あるから?、、、だよね?
それから、、、、、愛する人、、、家族、、、、
私には、夢はある、、、、けど、、、、、、
亮ちゃん、、、
もう、、、、、無理なのかも、、、
「オイ。、、何、考えてる?」
びくっ! 、、、、、、
「、、、なにも。」
私は、窓の外を見たまま、答えた。
私、おかしい!
誘拐されて、、
そう!
私、誘拐されたんだよ!
だから、、だから!
精神的におかしくなってるんだ!
誘拐、、、、、
!!
、、、、、、私、この後、どうなっちゃうんだろ、、、
今さら?
、、、、、、、、、
「恭介さん、もうすぐ着きます!」
竣也が、恭介に話し掛ける。
「あぁ。」
今度は、直接、恭介の顔を見た。
「私、、、殺されるの!?、、、、、、海に沈めるの!?、、、それとも!」
「うるさい。黙ってろ。」
「でも!」
「あははは!あんたって、おもしれぇな~」
恭介の代わりに?、竣也が答えた。
そのまま、ずるずると引っ張られるようにして、歩いていく。
逃げなきゃ!
ここで、助けてくれるとしたら、竣也しかいない。
一縷の望みをかけて、後ろを振り返る。
声にならない声で
「た・す・け・て、、、」
竣也は、手を振って車に乗り込み、駐車場を出て行く。
「、、、、、」
「乗るぞ。」
いつの間にか、地下駐車場にあるエレベーターの前に、立っていた。
ドアが開いて、乗り込む。
エレベーターの中は、密室状態だ、、、
もう、逃げる事は出来ない?
俯いて、そんな事を考えてた私は、エレベーターのドアが開いた事に気づかない。
恭介が出ていき、そのままドアが閉まる。
それでも、気がつかない。
<ガン!>
音に驚いて、顔を上げると、恭介の靴がドアに挟まっていた。
ガシッと手首を掴まれる。
エレベーターの中では離してくれてたけど、明らかにさっきより掴む力が強くなってる。
「え?、、、何!?」
恭介の歩くスピードも早くなっていた。
「ちょっ、、、!」
足が追いつかない。
今、気づくのも変だけど、恭介、足長い、、、
っていうか、背が高いんだ、、、、、
って、呑気な事を考えてる場合じゃない。
しかも、かなり怒ってたよね、、、、?
でも、もう、無理、、、!
こ、、転けそう、、、、、!
「うわっ!」
突然止まった恭介の背中に、思いっきりぶつかった。
それでも、恭介は何も反応しない。
カードキーを取り出し、玄関の扉を開ける。
手首は、掴まれたままだったから、恭介の後に続きながら、慌てて靴を脱いだ。
あまりの展開の早さに、声も出ないし、ただ着いて行くしかなかった。
カーテンが閉められていて、外の景色はわからない。
広すぎるリビングに、テレビ、ソファ、テーブル、どれもが大きい。
私の家と、つい比べてしまう、、、
この人って、何をやってるんだろ、、、
ちらりと、恭介の方を見る。
相変わらず、手首は掴まれたままだ。
「お前、、、ざけんなよ。」
え!?
あ!
「いや、、なんで怒ってんのか、わかんない、、」
掴まれていた手首を、そのまま、勢いよく上に持ち上げられる。
「い、、いたっ、、!」
「さっき、逃げようとしただろ!」
「さっき?、、、、、って、エレベーターの中で!?」
考えられるとしたら、その時の事しかない。
「違う!あれは、、、!」
恭介の顔を、じっと見た。
恭介も、私を見てる。
「逃げようとしたんじゃない!」
私は、大きな声で、はっきりと答えた。
「ふ、、、、っ」
え?
「お前、びびってんのかびびってねえのか、わかんねぇ女だな!」
「は!?」
「震えてたかと思ったら、大きな声出しやがって。」
さっきまでの怖い顔じゃない。
初めて、ちゃんと恭介の顔を見たような気がする。
私より、ふたつかみっつ年上かな、、、
やっぱり、デカい。
ん?どこかで見た事ある顔、、、
あ、、、!
ゴルフの石川遼くんに似てる!
なんて、、、
私、危機感無さ過ぎ、、?
思わず、少し後退りする。
「アイツの事、好きなんだろ?」
唐突な質問をしてくる恭介。
「アイツって、、亮ちゃん、、、、
好き、、、なのかな、、」
違う、、、、
私、亮ちゃんの事、好きじゃ、、、、ない、、
あんな亮ちゃん、、、
「来いよ。」
「え、、、、」
また、、、、?、、、、、、
あんな、、、亮ちゃんでも、、、、、
あのお店が亮ちゃんにとって、どんなに大切か、私にもわかってる、、、。
響子さんに、言われたあの言葉も、、、
<亮介の事、よろしくね、、>
忘れてない、、、
響子さん、、、、、、
死ぬほど恥ずかしい、、、
ほんとは、逃げたい。
出来ることなら、今すぐ、ここから。
私、、、
罰が当たったのかもしれない。
響子さんを差し置いて、亮ちゃんと幸せになりたいなんて
一度でも、考えてしまった事が、、、
神様の逆鱗に触れちゃったのかも、、、。
でも、でも、お店だけは、、、、守りますから。
恭介みたいに、お金持ちじゃないけど、、、
何にも持ってない私だけど、、、、、、、
あの日、突然やって来たのは、響子さんもお店の事が気になったから、、ですよね?
今なら分かるような気がする。
あの時の、響子さんの気持ちが、、、。
服を脱いだ私は、自分から恭介の前に歩み寄った。
そんな私を、恭介は下から上までゆっくりと見ていく。
顔から火が出るくらい、恥ずかしい、、、、
でももう、体が動かない気がした。
「キスしろ。」
「え、、、」
「お前から、オレにキスしろ。」
、、、っ
ソファに座ってる恭介にキスするには、私が座るしかない。
意を決して、恭介の前に両膝を着いた。
それでも、恭介の顔までは距離がある。
何も言わない恭介。
思い切って、恭介の太ももの両端に両手を着く。
ち、、、近い、、、
私は両手を着いたまま、俯いた。
頭の中が、真っ白になっていく、、。
でも、、、
何でだろ、、、う、、、?
「お前、なんで抵抗しない?、、、。」
やっと、唇を離した恭介が聞いてくる。
「ハァ、、ハァ、、、」
ここで初めて、息をしてなかった事に気付く。
「ハァ、、なんで、、、って、、、、、、、、あなたに関係ない、、ハァ、、でしょ、、。」
息を切らしながらも、今度は恭介の目を見ながら、答えた。
「、、アイツの、、ためか、、!」
違う。それだけじゃない。
答えようとして、口を開けた途端、また、息が出来なくなる。
さすがにまだ、呼吸が整ってなかった私は、恭介の胸を叩く。
抵抗した訳じゃない。
なのに、恭介は唇を離したかと思うと、物凄い顔で私を睨み付けてきた。
と、次の瞬間、膝を着いていた私を抱え上げ、ソファに押し倒した。
この状況になって、初めて恭介が自分の服を脱ぎ始める。
しかも、私を見ながら、ゆっくりと。
恥ずかしさの余り、目を逸らした。
「目を逸らすな。」
「無理、、!」
「見ろ。」
「、、、、、、」
!
慌てて胸を隠した。
<ちっちぇわりに、胸デカい>、、、って、私のコンプレックスだった。
私は、中学生の時から身長が伸びてない。
なのに、胸だけは成長してしまって、、、
友達は、羨ましいよ!って言ってたけど。
私にとっては、いつも悩みの種だった。
だって、体重は増えたり減ったりするのに、身長と胸はどうする事も出来なかったから、、、。
それを、、、
今度は、私が恭介を睨んだ。
「ふっ、、。 今さら、だろ?」
そう言うと、胸を隠していた私の腕を掴んで、顔の横に持っていく。
腕を固定されて、動けなくなった私に、
「よけい、壊したくなるな。」
私には、夢がある。
教師になって、教壇に立つ事ーーー。
亮ちゃんは、お店を持つ事、、、、
それは、叶えたわけで、、
、、、、その後は?、、、
、、そして、恭介は?
この人の夢、、、、って、何だろう?
、、、、あ!
私、なんでこんな事、考えてんだろ、、、!
ふと、目が覚めて、辺りを見回す。
足元のスポットライトで、ここが寝室だとわかった。
また、私は意識をなくしたみたいで、恭介が運んでくれたようだった。
時間を確認すると、夜中の3時だ。
あれから、また、何度も恭介に抱かれた。
横を見ると、恭介が寝息をたてている。
「余裕だな。」
「え!?起きてたの!?」
眠っていると思っていた恭介が、突然、話し掛けてくる。
「オレに、あれだけ抱かれといて、まだ、考えられる思考能力が残ってたとはな。」
私の方に体を向けて、ニヤリと笑った。
「違う!、、そんなんじゃない、、」
恭介に背を向ける。
「もう少し、寝ろ。」
「あ、、!いや、、」
「朝になったら、送ってやる。」
今のうちに、帰ろうって思ってたから、ちょっと驚いた。。
「え、、、、あ、うん」
2時間後ーーー
私は、そっと玄関の扉を閉める。
「ふぅ、、、、、帰ろ、、。」
小さく呟く。
外廊下を、なるべく、足音をさせないように歩く。
エレベーターのボタンを押して、扉が開くのを待った。
あっという間に、エレベーターが停まり、扉が開く。
一階のボタンを押そうとして、ここが最上階だと気づく。
しかも、30階。
「こんな所に住んでんだ、、。」
私と亮ちゃんが住んでるアパートは二階建てで、私の部屋は1K、亮ちゃんの部屋はちょっと広くて1LDK。
住む世界が、違う人なんだな、、
私が、ちょうど起きた頃だ。
「送ってくんで、乗って下さ~い。」
「あ、でも、、!」
「おれが、叱られるっすよ~」
ちょっと、とぼけたような顔で峻也が言う。
「、、、、あ、じゃあ、、、、駅まで!」
「了解!」
峻也がにっと、笑った。
いつのまに、、、
、、、、、あ!
私が寝室を出た後に、峻也に電話したんだ。
一度、起きた時もそうだったけど、、、
あの時も、起きてたんだ。
もしかして、、、!
ずっと、起きてたんじゃ、、!
「駅まででいいって、絶対言うから、そうしてやれって。」
「え!?」
「ほんとは、あんた、、、、あ、未来さんのうちまで送りたかったみたいっすけどね。恭介さん。」
「、、、、、、、、、、、、そう。、、」
送るって、恭介は言ったけど、私は、電車で帰るつもりだった。
でも、私は一言もそんな事言わなかったのに、、、。
なんで、わかったんだろう、、、
それに、私に気づかれないように、竣也に連絡したりして。
「ありがとう。、、、、竣也くん。」
「?、、、なんすか?」
「こんな早い時間に、送ってもらって。」
「おれは、大丈夫っすよ。うちも近いしー。」
「そうなんだ?」
「恭介さんは、『オレの家に住め。』って、言ってくれたんすけどね~さすがに、それは、、つって断ったんすよ。
そしたら、恭介さんのマンションのすぐ近くに、部屋見つけてくれて。」
、、、、、優しいんだね。
そんな会話をしているうちに、車は駅に着いた。
車だと5分ぐらいだった。
もし、歩いてたら30分はかかっていたはずだ。
それでも、間に合う時間だったけど、、、
その気遣いが、うれしかった。
車を降りると、振り向いて、竣也に軽く手を振る。
運転席の窓ガラスを開けた竣也も、軽く手を振り、車を発進させた。
どうかしてる、、、
、、、、、
どうして、、、
なんで、恭介に対してこんなふうに、、、
思っちゃうんだろう、、、
、、、、、、、、、
わかんない
わかんないよ、、、
自分でも、自分の気持ちが、、、、、、、、!
10分程で、電車は駅に着いた。
改札口を抜け、駅から歩いてアパートへ向かう。
足取りは重い、、、
5分くらいの距離が、とても長く感じた。
私は、アパートのドアを静かに開け、中に入った。
そして、バックをテーブルの上に置く。
「、、、、、、、、、はい」
昨日聞いたばかりの亮ちゃんの声が、なんだか遠くに感じた。
「あ、、、あの、、、、亮ちゃん、、、、、、話がある、、、の、、。」
「、、、、、、なに」
抑揚のない返事だった。
「あの、、、、ね、、、、、お店、、、、、バイト、、その、、辞めたいの、、、、、、、」
、、、、、言ってしまった。
亮ちゃん、、、、
なんて言うんだろ、、、、
やっぱり、怒る?、、、、よね?、、、
正直、亮ちゃんとは会いたくないって思ってた。
だから、バイトも辞めたかったから、、、
嬉しいはずなのに、、、
こんなに、あっさりと許してもらえるなんて、、、
亮ちゃん
私の事、諦めて、、、、くれたのかな、、、、
気がつくと、薄暗かった外が明るくなっている。
立ち上がり、閉めていたカーテンをゆっくりと開けた。
、、、亮ちゃんが、何を考えてるかなんて、、、
私に、
わかるはず、、、、ないよね、、、。
いくら考えても、人の気持ちを完全にわかるなんて事、、、出来ない、、。
どんなに、長く付き合ってても。
目が覚めると、もうお昼だった。
あれから、シャワーを浴びて、、、、
私、いつの間にか、眠ってたんだ、、、、。
起き上がって、ベットに座る。
「バイト、辞めたんだよね。私、、、。」
、、、、、、、、、、。
「仕事!、、、、見つけなきゃ。」
「いらっしゃいませ!」
亮ちゃんのお店も、ランチタイムになると、忙しかった。
でも、ここのファミレスの忙しさは半端じゃない。
接客業は経験あっても、慣れるまではちょっと大変そう。
でも、余計な事考えずに済むから、いいのかも、、、。
あれから、恭介からは何も連絡はない。
昨日、恭介の部屋から帰ってきて、亮ちゃんに電話して、、、
その日のうちに、今のバイトが決まって、今日から働いてる。
短い間に、いろんな事があって、、、、
やっぱり、戸惑っちゃうけど前に進んでいくしかないんだよね。
初日の仕事を終えて、ロッカールームで着替えながら、そんな事を考えていた。
バックを手に取り、いつものように携帯を開く。
、、、、亮ちゃん?
【バイト代の清算出来たから、取りに来て。
いつでもいいから。】
亮ちゃんからのメールだった。
「あ、、、」
、、、早いな、、。
このファミレスは、亮ちゃんのお店とは逆の方向にある。
亮ちゃんと顔を合わせたくなくて、わざとこの場所を選んだんだけど、、、。
それと、駅にも近くて電車でも通えるから、車も使わなくていいし。
アパートの最寄りの駅からでも、二駅で着くから、20分もかからない。
今日は、午前中からのシフトで、3時過ぎにはあがった。
時計を見ると、4時になろうとしている。
今から出れば、亮ちゃんのお店の営業時間が終わるまでには、充分間に合う。
【今から、行きます。30分くらい、かかりますが、、。】
私は、亮ちゃんに返信メールをして、店を出た。
アパートに戻った私は、そのまま車に乗り、亮ちゃんのお店へと向かう。
「どんな顔して、会えばいいんだろ、、、」
やっぱり、不安だった。
そんな事を考えているうちに、すぐ、亮ちゃんのお店に着いてしまった。
車を駐車場に止める。
、、、、、なんで、隠れてんだろう。私、、、、
「未来、、。」
!!
ゆっくり、振り向く。
「、、、、、、、亮ちゃん、、」
うつむき加減に、小声で名前を呼ぶ。
「今ちょうど、お客さん切れたとこだから。
入って。」
ドアを開けながら、立ち止まった私に気付いて、
「あ、、、明日、面接に来る子がいるんだ。」
「え、、? 、、、、あ、、、そうなんだ、、」
少し、複雑だった。
「入って。」
「あ、、うん」
亮ちゃんに促されて、私も中に入っていった。
何日も経っていないのに、この場所がなんだか遠くに感じてしまう。
ここは、何も変わってないのに。
変わったのは、
、、、、私、、、?、、、、、
「はい。、、バイト代。」
カウンターの中に入った亮ちゃんが、封筒を差し出した。
「あ、、、 、、、ありがとう、、。」
しばらく、沈黙が続く、、、。
何か、話さなきゃ、、
「あ、あの、、」
「新しい仕事、早く見つかるといいな。」
亮ちゃんは、窓の外を見ながら、煙草に火を点ける。
「あ、、、あの」
「え?」
「今日から、、、、働いてるの、、、。」
少し、驚いたような顔をして、
「そっか。 、、、、頑張れよ。」
どっちにしても、もう、、、、
亮ちゃんと会う事は、ないんだよね、、。
多分、今日が、、、最後、、、
いろいろあったけど、やっぱり、別れって寂しい、、、
「うん。 、、、、、ありがとう。 頑張る、、。」
話し掛けたのは、私なのに、言葉が出てこない。
何か、何か、、、
「ごめんな、、、」
え、、、!?
亮ちゃんが、いきなり謝ってきた。
「あ、、、!」
「未来を、、、傷つけて、、。」
「、、、、、、、、」
「俺、、、ほんと、進歩してないってゆうか、、、情けないよ、、。」
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、、、、いや、言い訳だよな。」
吸っていた煙草の火を消して、私を見る。
「未来を傷つけるつもりじゃなかったんだ。
俺、、、、俺から、離れてく未来を手放したくなくて、、、それで、、、、、、ごめん、、、ほんとに、ごめん!」
ずるいよ、、、
「謝って済む問題じゃないって事ぐらい、わかってる!、、、、でも、今の俺にはこんな事しか出来なくて!、、、、」
亮ちゃんばっかり、、、、
カウンターに、額をつけたまま、必死で謝ってる。
私だって、
私だって、言いたい事、たくさんあるのに、、、
涙が邪魔をして、上手く言葉が出てこない。
何も言わない私に気付いて、亮ちゃんが顔を上げる。
声も出さずに泣いてる私を見て、亮ちゃんも、俯いたまま黙ってしまった。
そんな亮ちゃんを見ていると、なぜだか少し落ち着いてきて、、、。
「、、、亮、、ちゃん?」
「!、、、、、、ん?、、、」
「亮ちゃん、、、まだ、、、、、、響子さんの事、、、、忘れ、、られないん、、、じゃ、ない、、、?」
「!!」
涙でまだ上手く喋れなかったけど、一番気になってた事を思いきって聞いてみた。
「、、、、わかってた。、、、響子が、出て行った時から。だから、未来と付き合いだしても、いつか、未来も、、、って。」
「、、、、、、」
「どうしようもないな。、、、、、俺。」
「でもな、未来?」
「ん、、、?」
「未来が、離れていった事でさ、やっぱり俺は、響子の事、忘れる事が出来てなかったんだって、気づいたんだよ。」
「亮ちゃん、、。」
「今さら。なんだけどさ。」
「、、、、、。」
「いや、、、だから、その、、、未来には感謝してる、、。 ありがとな。
それと、、、、未来、ほんとにごめん!。」
「亮ちゃん、、、」
「俺にはさ、もう何もしてあげる事って無いけど、、。
もし、何かあったらいつでも、、、あ!」
「、、、、え?」
ちょっと、はにかみながら、
「俺はもう、必要ないか!未来には、あいつがいるんだもんな。」
嫌みじゃなく、素直な気持ちが伝わってきた。
けど、、、、、
もう、今さら、、、
あの日の事、話しても何にもなんないよね。、、、
亮ちゃんも、ちゃんと前を見て頑張ろうとしてるんだし、、。
ここで、あの話をしても、、、、
「未来?」
「え!?、、、、あ!う、うん、、、、、そうだよね、、。」
「え!?そうだよねって、他人事みたいじゃん。」
不思議そうな顔をして、亮ちゃんが聞いてくる。
「あ、、、いや、」
「あ、ごめん、ごめん!余計なお世話か!」
あ、、、、
その時、
お店のドアが開いて、お客さんが入って来た。
「あ!いらっしゃいませ!」
亮ちゃんが、お冷やとおしぼりの準備を始めようとする。
「じゃあ、私帰るね。、、」
小さい声で、話し掛ける。
「あ、ごめんな。」
軽く頭を下げて、私を見る。
「ううん。 、、、ありがとう、、、。」
急いで、カウンターの椅子から立ち上がり、ドアに向かった。
お店の前を通る時、ちらっと中を見る。
いつものように、亮ちゃんがコーヒーを煎れていた。
亮ちゃん、、、、元気でね。
心の中で呟く。
駐車場に戻った私は、もう一度、お店の方を振り向き、そして車に乗り込んだ。
「あ、店長!お疲れ様です。」
店長と言っても、女性だ。
「ちょっと未来ちゃん~、(店長)は、やめてよ。仕事以外では、名前で呼んでね~。」
にこにこ笑いながら、店長が自分のロッカールームを開けている。
「あはっ、すいません。上原さんー!」
私も、笑いながら言葉を返した。
上原さんは、45歳。
ご主人と、大学生になる子どもさんがいる。
ご主人の仕事はサラリーマンなんだけど、最近の不景気で大変らしい。
子どもの学費もかかるという事で、ここで働いているって言ってた。
「どう?仕事。 少しは慣れた~?」
この一週間で、随分仲良くなって、何かと気にかけてくれる。
「あ、はい。 なんとか。」
私に、両親がいないという事は、面接の時に上原さんに話したので知っている。
だから、娘みたいに思ってくれてるらしい。
「未来ちゃんは、飲み込みも早いし、助かってるよ~。
ただ、あんまり無理しちゃダメよ。」
もし、ママが生きてたら、ママも、こんなふうに言ってくれたかな、、、、。
「未来ちゃん?」
「あ! すいません!
考え事してて!」
「そう?」
また、上原さんはにこにこ笑ってる。
「あの、上原さん!」
「ん?何?」
「仕事もして、家の事もして、大変じゃないんですか?」
しかも、店長までやってる。
素朴な疑問だった。
「うーん、そうね~。
全然大変じゃないって言ったら、うそになるけど。
うちの店ね、従業員の管理がしっかりしてて。」
着替えを終えた上原さんが、バックを抱えて、ロッカールームに備え付けてある椅子に座りながら、話し出す。
「私、店長やってるけど、ちゃんと休みもあるし。深夜に働く事もないしね。でも、ちゃんと店長手当てももらってるから。」
私も、着替えを終えて、上原さんの隣に座った。
「シフト決めの時もね、本部から社員が来て、一緒に決めるようになってるのよ。だから、私の負担も小さいし。」
「そうなんですか!?」
「うん。でも、珍しいんじゃないかな?うちみたいなお店。」
この業界の事は、私はよくわからないけど、本当に働きやすいところなんだと思った。
「あ、でも、一緒にシフトを決めるには、スタッフの事もちゃんと知らないと決められないんじゃないんですか?」
「そう!だからね、担当の社員は、ここの従業員の事、よく知ってるし、結構、頻繁にお店にも来てるのよ。」
「え!?そうなんですか?」
「あ!って言ってもね、監視とかっていう事じゃなくて。
従業員の悩み?とか、う~ん、苦情を聞くため?あとはいい意味で、任せられてるって感じ。」
「そうなんですね~。」
「そう。 だから、私でも長く働いていられるのかな。
うちのお店は、本部がしっかりしてるって事ね~。」
私も、教員の採用試験の勉強するために、夜は入ってないけど、何も言われた事がない。
そんなお店で、働ける私は幸せだよね。
ますます、勉強も仕事も頑張ろうって思っちゃう。
こんなふうに、前向きな気持ちになれたのって、久しぶりだな。
でも、、、、
恭介、、、、、
あの日から、一切連絡がない、、、
亮ちゃんのお店、辞めた事、、、知らないだろうし、、、
もし、知ったらーーー
、、、、、亮ちゃんに、あの事、、、、、
話す、、、、、?
「未来ちゃん?」
上原さんの声に、はっとする。
「あ、すいません!また、考え事しちゃって、、。」
「未来ちゃん。
何かあったら、言って。
あ、余計な事かもしれないけど、ね。」
「あ、、、いえ。 あ、、、、ありがとうございます。
何かあったら、相談に乗って下さい。」
「ふふっ。わかった!」
上原さんが、さっきみたいに、また笑った。
私には、上原さんの優しさが、嬉しかった。
「そろそろ、帰ろうか?」
椅子から立ち上がった上原さんが、言う。
「あ、はい。」
私も立ち上がり、バックを手にとって、上原さんと一緒に裏口から出た。
上原さんは、自転車で10分ぐらいの所から通っている。
「じゃあ、またね~。」
「あ!お疲れ様でしたー。」
上原さんと別れた私は、駅へと向かう。
、、、、、、、、
どうしよう、、、
連絡、、、、、、した方がいい?、、、
立ち止まって、携帯を開く。
恭介、、、、
なんで、急に連絡して来なくなったんだろう、、、
やっぱり、亮ちゃんのお店辞めた事、言った方がいいよね、、。
亮ちゃん、、、、
やっと、響子さんの事、乗り越えようとしてるのに。
いろいろあったけど、
やっぱり、亮ちゃん、、、と、響子さんの大事なお店を潰すような事は出来ないよ、、、
「未来さん?」
突然、名前を呼ばれて、驚いて辺りを見回す。
「やっぱり!」
「え?」
声のする方に目をやる。
「何してんすか!こんなとこで~。」
「あ、、!」
竣也だ。
車の運転席から、顔を覗かせている。
「あ、、、、、の、、」
どうしよう、、、
なんて言おう、、、、!
「もう、やめてよ!」
「だったら~、なんで~こんなとこに~いるんすか~」
はぁ、、、
軽い溜め息をついた。
、、、あ!こんな事、話してる場合じゃない!
なんとか、ごまかさなきゃ!
「竣也くんこそ!、、、何やってんの、、、?」
とっさに思いついて、質問した。
「あ、おれ、、、恭介さん、迎えに来たんすよ!」
え?、、、
そうだった、、。
この街に、恭介は住んでて、そして、この駅は、あの朝、竣也が私を送ってきてくれた駅だった。
、、、!
「、、、迎えにって?」
「あれ?知らなかったんすか?
恭介さん、あれから仕事で出張しててー、今日、帰ってくるんすよ!」
、、、、、そう、だったんだ、、、
だから、連絡、なかったんだ、、、。
「だから、おれ、てっきり未来さんが迎えに来てるんだとばっかり、思ってたっすよ。」
なんで、そんな事、、、
私が、知ってる訳ないじゃない、、。
「何を、ブツブツ言ってる。」
聞き覚えのある声に、はっとする。
振り向きたくない、、、
このまま、聞こえなかったふりをして、帰りたい、、、!
「恭介さん!お疲れっした!」
竣也が、大きな声で言いながら、急いで運転席から降りてきた。
恭介の荷物を受け取り、竣也が車のトランクに入れる。
私は、相変わらず、恭介を見る事が出来ない。
今更ながら、後悔した。
この街で、仕事をするという事は、恭介に会う可能性は充分あった。
でも、仕事を選り好みしてる余裕はなかった。
亮ちゃんのお店を突然辞めた私は、生活していくためにも、早く新しい仕事を見つける必要があったから。
でも、選りに選って、この状況で会うなんて、、、
「仕事休んで、オレに会いに来たか。」
後ろからさえも、威圧感のある声。
「違う、、、!そんなんじゃ」
「携帯握りしめて。
そんなに、オレの声が聞きたかったのか。」
あ!携帯、、、、
慌てて、携帯をバックにしまう。
、、、、、恭介に電話しようか迷ってたのは、確かだけど、、
「だから!そんなんじゃ、、、、、あ!」
いきなり、腕を捕まれる。
「来い。」
「え?、、、ちょっと、、、!」
後ろのドアを開けた恭介は、私を車の中に押し込んだ。
そして、恭介もその後に乗り込んでくる。
「竣也、いつもの所に行ってくれ。」
「あ、はい!了解。」
いつの間にか、運転席に座っていた竣也が答える。
突然、押し込まれた私は、体制を整えながら、
「え、、、、どこに!?」
恭介は、黙っている。
「ねぇ、、、!」
「うるさい。」
!!、、、、
5分程走ると、車は目的地に着いたみたいだった。
「降りるぞ。」
「、、、、、」
私に、選択権はないんだよね?
「竣也、悪いな。あと、よろしく。」
恭介が、運転席の竣也に声を掛ける。
「はい!じゃあ、荷物、マンションに置いておきますから!」
頭だけ後ろを向けた竣也が、答える。
「、、、、ここ、、」
立ち止まって、目の前の建物を見る。
「どうした。」
先に歩いてた恭介が、振り向いて聞く。
「あ、、!、、、ううん、何でもない、、!」
「そうか。」
恭介は、さほど気にする事もなく、また、歩き出した。
「あの、、、!なんで?」
「あ?」
眉間にしわを寄せながら、恭介が振り向く、、、
「あ、、、、」
怖い顔で聞いてくるから、言葉に詰まってしまった、、、
「お前、飯は?」
唐突な質問に驚きながら、
「まだ、、、。」
「オレもだ。」
「え?」、、、、
「だから、ここに来たまでだ。」
、、、、、、、?
、、、、、、、、、、、、、、。
「つべこべ言わずに、来い。」
恭介は、さっさと建物の中へ入って行った。
言葉を失いながらも、私も、慌てて入っていく。
ここは、前に、亮ちゃんと来たレストランだった。
お店の中へ入ると、恭介がスタッフらしき人と、話をしている。
「いらっしゃいませ。
お客様、ご案内いたします。」
「あ、、、はい。」
恭介の後について、スタッフに誘導される。
「こちらでございます。」
案内されたのは、個室だった。
こんな所、初めて入る、、、
亮ちゃんと来た時は、知らなかったから、、、
椅子に座ったものの、なんだか落ち着かない。
「何が食べたい。」
メニューを見ながら、恭介が聞いてくる。
私も同じメニューを見てるけど、値段も書いてないし、恥ずかしいけど、さっぱりわからない、、。
「あ、、、の、、、、、」
「なんだ。」
「、、、、、、わかりません、、。」
「じゃあ、オレに任せろ。」
わからないと言った私を、ばかにするでもなく、すぐにスタッフを呼び、何やら注文している。
こういうとこ、、、
優しいって言うのかな、、、、、
!! 、、、、、
また、こんな事思って、、!
、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「何を考えてる。」
恭介が、いきなり質問してくる。
「あ、、、?、、、、、、、」
こんな事、言えない?、、、、、
「アイツの事か、、。」
!
、、、そうだ、、、!
亮ちゃんのお店を辞めた事、言わないと、、、。
「今は、上手い飯が食いたい。
それだけだ。」
私の考えを見透かしたように、言う、、、、。
「、、うん。」
、、、、、、、
ーーーーーー
しばらくすると、料理が運ばれてきた。
あまりの豪華さに、目を見張る。
亮ちゃんと来た時は、ランチメニューだったから、こんなコースがあるなんて思いもよらなかった。
「食うぞ。」
ボーイさんが、出て行った後、恭介が言う。
「あ、うん、、」
こんな凄いコース料理を頼める恭介って、一体、何者?、、、、
「じろじろ見るな。
さっさと、食べろ。」
あ、、、
慌てて、料理を口にする。
次から次に運ばれてくる料理を、綺麗に平らげた恭介。
私は、
さすがに、全部は無理で、食べ残してしまった。
「ごめんなさい、、。全部、食べられなくて、、、」
部屋を出る時に、恭介に謝った。
「いや。」
特に、何も言わない恭介。
お店を出る時に、今度は、お店のスタッフに謝った。
恐縮されてしまったみたいだけど。
既に、カードで支払いを済ませた恭介と、店を出た。
「お前、変わってんな。」
「え? 何が?」
「残したからって、謝ったりして。」
あ、、、それは、、、、、
「私、、、、、中学生の時から、叔母さんに育ててもらったの。
だから、なんていうか、、、食べ物のありがたみとか、すごく考えちゃって、、、。」
「親は、、?」
!!、、、、、
俯いた私に、
「答えたくないなら、答えなくていい。」
そう言う恭介。
でも、何故だか、話したくなって、、、
「亡くなったの。、、、交通事故で。2人とも、、。」
「そうか、、。」
しばらく、沈黙の時が流れた。
どうして、私、
こんな事、恭介に、話しちゃったんだろ、、、
両親の事は、ショックだったし、今でも思い出すと、、、、、、つらい、、、。
でも今は、
恭介に、両親の事を話した自分の事の方が、
、、わからない、、、
つらい、、、、
「行くぞ。」
「え?、、、、どこに?」
「もちろん、オレの家だ。」
「、、、、、、、」
「話があるんだろ?」
いつの間にか、目の前に停まっていたタクシーに、恭介が、近づいていく。
タクシーの後部座席のドアが、自動で開いた。
そう、、、、
私は、恭介に話があった。
でも、
恭介の家に行く、っていう事は、、、、、、、、
立ち止まって、動かない私に、
「なんなら、アイツの店でも、構わないが。」
タクシーのドアに手を着いたまま、無表情で私を見下ろしている。
条件反射的に走り出した私は、恭介より先にタクシーに乗った。
「ふぅ、、、」
小さくため息をついた後、後から乗ってきた恭介を、さりげなく見る。
相変わらず、何もなかったかのような顔をしている。
顔を戻し、また、小さくため息をついた。
しばらく走ると、タクシーは、恭介のマンションの前で止まった。
今度は、先に出た恭介の後を、私が追う。
広いエントランスを通り、エレベーターに乗った。
ここに来たのは、二度目だけど、やっぱり慣れない、、、
マンションのエレベーターにしては、広すぎるくらいだけど、、、、
なんだか緊張して息苦しい、、。
恭介は、
黙ったままだ。
この無言が、更に緊張を高めてしまう、、。
あっという間に、最上階に着いたエレベーターを降りる。
「ふっ、、、今日は、ちゃんと着いてくるんだな。」
「あ!!」
恭介の後ろ姿を見ながら、思い出していた。
「あ、あの時は!そんな意味じゃなくて!」
「入るぞ。」
そう言うと、恭介はカードを取り出し、玄関の扉を開けた。
私は、途中まで話していた言葉を飲み込んで、扉の中に入る。
さっさと靴を脱ぎ、リビングの方へ向かう恭介。
少し、戸惑いながら、私も靴を脱ぐ。
そして、一旦振り返って、自分の脱いだ靴と恭介の靴を揃えて、私も、リビングに入って行った。
コートを脱ぎ捨て、この前のように、大きなソファにドサッと座る。
「座れよ。」
テーブルを挟んだもうひとつのソファに目をやる恭介。
「あ、でも、、、」
「それとも?」
「え?」
「ここに、座るか。」
恭介が座っていた横を、指で差す。
「私、、、、亮ちゃんの、、、あ、、、あのお店、辞めたんです!」
恭介の顔が、ぴくりとしたのがわかった。
「で?」
「え!?」
「それが、どうかしたのか。」
怒ってる、、、、?、、、、
、、、、、、、、
どうかしたのか、、、、、って、、、、
「だから。なんだ。」
いつもより、低い声で聞いてくる。
テーブルの横に立っている私には、恭介の顔がよくわかる。
絶対、怒ってるよね、、
、、、、でも、
いつかは、言わなきゃいけない事だもん、、、。
もう一度、深呼吸をして、
「あの事!、、、亮介さんには、言わないで下さい!」
「、、、、、、」
「あ、、、の、、、」
「そんなに、アイツの事が好きか。」
「、、、、、!!違う、、」
好き、、、だった、、、
、、、ううん、、、
ほんとは、好きだったのかも、わかんない、、、、。
「だったら、なんでそこまで気にする?」
それは、、、、
「こんな事、あなたには関係ないかも、、、しれないけど、、。」
「響子さん、、、あ!、、、亮介さんの、奥さん、、、だった人なん、、だけど。」
「、、、、、」
恭介は、黙って聞いている。
「私、、、一度だけ会った事があるの、、。
その時に、、、(亮介の事、よろしくね。)って、、言われて、、。」
もう、3年前になるのかな、、?
「その時は、意味が、よくわからなくて、、。
でも、、、今になって、わかったような気がしたの。」
響子さんが、何を言いたかったのか、、。
「あのお店、もちろん、亮介さんにとっても、夢だったんだけど。
響子さんにとっても、大切な場所で、、、亮介さんと同じくらい、、大事にしたいって、、、、、思ってたんじゃないかって。」
私の、勝手な憶測かもしれないけど、、。
「だから、、、、、だから、私に、あのお店を託そうとしたんじゃないかって、、、、」
間違ってますか?
響子さん、、、、
「人の男、横取りしといて、随分、偉そうだな。」
今まで、黙って聞いていた恭介が、突然、口を開いた。
「!?」
恭介の顔を見る。
私を、睨み付けているのがわかった。
「横取りって、、、!!」
「違うのか!」
声を荒げたのが、わかる。
、、、違う、、、
違う、、
「違う!!」
横取りなんて、、、してない!
それでも、恭介は私を睨み付けている。
怖い、、!
でも、私も、うそはついてない!
だから、恭介の視線から、目を離さなかった。
しばらく、お互い無言のままだった。
、、、、、、、、
すると、恭介の方が先に視線を外した。
、、、、、、
何も言わない恭介。
、、、、、
信じて、、、、、、くれた、、、、、、?
恭介の表情が少し、和らいだように見える。
話してみても、いい、、?、、、、、
「確かに、、、、亮介さんと付き合ってたのは、事実だけど。、、、
それは、響子さんと別れてからで、、、。」
ふと、恭介を見ると、目を閉じたまま、黙っている。
聞いて、くれてる?、、、
「、、、でも、、、、、
亮介さん、私と付き合うようになっても、響子さんの事、、、忘れてないんじゃないかって、感じる事があって、、、。」
今でも、響子さんが出て行ったほんとの理由は、わからないけど、、、。
「そんな時、、、、、」
恭介が、ちらっと私を見る。
「、、、、あなたが、、、、、、」
鼓動が、少し早くなる。
「その事、、を、知った、、亮、、亮介さんが、私に、、浮気してるのか、、って。
ても、、、、ても、ほんとの事は言えなくて、、」
息が、苦しい、、
「そしたら、、、そしたら、、、、亮介さん、、に、はぁ、、、はぁ、、、」
「!!、、、、おい。」
「違うって、、言っても、、、信じて、、、もらえ、、なくて、、、はぁ、、、」
恭介が、立ち上がったと同時に、私は、座り込んでしまう。
「おい!」
近寄ってくる恭介。
「だから、、、、亮介さんは、、響子、、さんの、、事、はぁ、、、やっぱり、まだ、忘れ、、、られなくて、、はぁ、、」
息が、息が、続かない、、
「わかったから、もう、喋るな、、」
だめ、、、
ちゃんと、最後まで言わなきゃ、、、
「その、、、時、気づいたの、、、私も、亮介さん、、、の、、事、はぁ、、、ほんとは、好きじゃなかったんじゃ、、、ないかって、、、
はぁ、、、だから、、」
視界が、狭くなっていく。
「おい!しっかりしろ!」
恭介に、肩を揺さぶられる。
!、、、
しっかり、しなきゃ、、。
深呼吸する。
、、、、少し、意識がはっきりしてきた。
「だから、だから、亮介さんに、された、、事は、忘れようって、、。」
「、、、、、」
また、恭介は黙って聞いている。
恭介が、静かに私の目を見てる。
ちゃんと、聞いてくれてるんだね、、、、、、
、、、、、
「、、、、それで、、、亮介さんと別れてから、気づいたの、、。
響子さんが、出て行った理由は、、、わかんないけど、、、響子さんにとっても、あのお店は大切な場所で、、、
だから、、、別れても、私に託したんじゃないかって、、。」
だから、、、
私に、わざわざ会いに来てくれたんですよね、、、?
響子さん、、、
「なんで、一度しか会った事ない相手の事を、そこまで、、、」
!
、、、、、、そうだよね、、。
「自分でも、よく、わからなくて、、、、。
、、、、私、兄弟いない、からかな?響子さんの事、お姉さんみたいな感じがして。」
「お姉さん、、?」
こくりと頷く。
「それに、、。」
「なんだ。」
「私にも、夢が、あるから、、、、。
響子さんの気持ち、よく、わかるの、、、」
「夢、、?」
頷く、私。
でも、亮ちゃんや響子さんのため、、、だけじゃ、ない、、のかも、、。
、、、、、、、、、、、、、
私のためでもある、、、?
短い間に、、、、、いろんな事があって、、、
気持ちが、折れてしまいそうだった、、、
「お願い。、、、します、、、
亮介さんには、、、、言わないで、、、下さい。」
「、、、、、、」
、、、、、、、、、、
「お願いします!」
床に手を着いて、頭を下げた。
勝手な言い分だよね、、、
自分のためにもって、、、。
恭介は、やっぱり、許しては、くれない、、、よね、、。
「顔、上げろ。」
頭上から、恭介の声が聞こえる。
え、、、!
、、、、、あ、、
「でも、、!」
頭を下げたまま、言う。
「上げろ。」
!!
、、、、、、、、、、
、、、、、、ゆっくりと、顔を上げる。
恭介の顔を見る。
「はあ、、、」
大きくため息をついて、恭介がソファに座り直した。
胸の前で腕を組み、目を閉じる。
、、、、もう、だめ?
、、、、、、、、、、、、、
「いつ、辞めたんだ。あの店、、。」
思いも掛けない事を聞かれて、少し戸惑った。
「駅の近くの、、、、、ファミレス、、、」
「駅、、って、、、。
!!、、おまえ、まさか、この街で、、」
やっぱり、言わない方がよかったのかな、、!
どうしよう、、、
でも、恭介はそれ以上、何も言わない。
「あの、私!、、、仕事、早く決めたくて!」
聞かれた訳じゃないのに、自分から理由を言う。
「、、、、、、、、、、、」
恭介は、難しい顔をしている。
言わない方が、良かった?
言って、良かった?、、、、、
思わず、テーブルに手を着いて、身を乗り出した。
「但し、条件がある。」
恭介が、目を開けて私を見る。
「!!、、、、、、条件、、、、」
条件って、、、、
その瞬間、テーブルに着いていた腕を引っ張られる。
「あっ、、、!」
よろけそうになった私を、軽々と引っ張り上げた恭介に、そのまま抱きしめられた。
一瞬の出来事に、抵抗すらできない。
息ができないくらい、強く抱きしめられる。
、、、苦しい、、、
でも、、、
目と目が合う。
なに?
何が、言いたいの、、、?
、、、、私だって、、、
言いたい事、、、、、ある。
<目は口ほどに物を言う>って、言う、、
お互い、何かを言いたいと強く訴えてはいるけれど、、、、
でも、言葉にしないと、やっぱり気持ちは伝わらない。
だから、私には恭介の気持ちはわかるはずもなく。
「送る、、。」
え、、、?
一言、発したかと思うと、立ち上がり携帯を取り出した。
、、、、、、、、、、?
恭介が、何を考えているのかわからない私は、ただ茫然と様子を見つめていた。
携帯を置いた恭介は、そんな私に、
「今から、竣也が迎えに来る。、、、5分ぐらいだろう」
え!?
「あ、、、、!帰って、、、、いいの!?」
、、、、、、、、
黙ったまま、恭介は、背中を向ける。
私は、広すぎるリビングに、ひとり取り残された。
、、、、、、、
このまま、帰れる事が嬉しい。
、、、、、はずなのに、、
気になってしまう、、、
恭介の、態度、、、、
さっきの、言葉の続きが、、、。
「あ、未来さん!、、、あの、恭介さんは?」
迎えに来た竣也が、出迎えた私に、ちょっと驚いたような顔をしながら、聞いてくる。
「あ、、、、今日は、疲れたから、寝るって、、。
今、、、、、シャワー浴びてると思う、、。」
少し、考えるような顔をして、
「そうっすか。わかりました!、、、、じゃあ、未来さん。送って行きますんでー」
私は、慌ててリビングに戻り、バックを手にする。
一瞬、このまま帰る事を躊躇した。
、、、が、竣也を待たせている事を思い出し、また、急いで玄関に行き、靴を履く。
そして、玄関の取っ手に手を掛ける。
もう一度、リビングの方を振り返った。
〈オレは、、、>
あの時、恭介は、何を言おうとしたんだろう。
やっぱり、気になる、、、。
竣也の背中を見ながら、考えていた。
「今日は、ちゃんと家まで送りますからー」
歩きながら、後ろを振り返って、竣也が言う。
先に、エレベーターに乗った竣也が振り返り、私の顔を見る。
「未来さん、、」
「!!」
今、私、、、
どんな顔、してる?、、、
エレベーターの前に立ったまま、微動だにしない私に向かって、竣也が言った。
「ケンカした、、、んすよね、、、?、、、恭介さんと?、、」
ちょっと、言いにくそうに、頭を掻きながら話す竣也。
!!
やっぱり、なんか、変だ、、、、、!
私は、その場の勢いでエレベーターに乗った。
「話が、、、あるの、、!」
「あ、、、、はい!おれで良ければ、いつでも相談にのりますよ!」
相談、、、
竣也は、もしかして、、
「、、、二人で、亮ちゃんのお店に、、来た事、あるよね、、?」
私は、気になった事を、聞いてみる事にした。
「亮ちゃん、、?
あー、未来さんが働いてる店っすよね~?」
言いながら、竣也は地下のボタンを押す。
竣也は、まだ、知らないんだ。
私が、亮ちゃんのお店、辞めた事。
「あ、、、、うん、まあ、、」
曖昧な返事をした私に、気づく事もなく、、、
「はい!ありますよー。あ、コーヒー、上手かったっすよ!
でも、それが、どうかしたんすかー?」
!!
ほんとに、その日が初めてだった?、、、、
「、、、、コーヒーを、、、、飲みに来た日じゃ、、、なくて、、
その、、、前の日、、、」
「前の日、、?」
竣也が、考え込んでいる。
そう、、、
あの日、私は、、、
恭介に、、、
「いや、、!行ってないっすよー。おれ、恭介さんに誘われたんすよ。
コーヒー飲みに行かないかって!」
、、、、、、、、、!
「だから、、、、あの日、初めて未来さんが働いてる店に行ってー、コーヒー飲んでたらー、、、、」
その時の事を思い出すように、話す。
嘘をついているようには、見えない。
「そしたら、未来さんが店に入って来て、、、あ!!未来さん、、!あの時、倒れたんすよね!」
そんな会話をしているうちに、エレベーターはとまり、扉が開いた。
そして、エレベーターから出た直後、
「あ!、、、、もしかしてー、その、前の日に、なんか、あったんすか~?」
「!!」
地下の駐車場は、少し暗い。
私の驚いた顔を見て、、、
「やっぱり!その時の事で、ケンカしたんすね~」
前日、何か、、、あった事は、確かだし、、、
その時の事で、さっき、恭介が黙り込んでしまった事も、事実、、だけど、、、、
明らかに、竣也は私の態度を勘違いしてる。
ほんとに、竣也は、何も知らないのかも、、、。
そう考えれば、これまでの竣也の態度も、納得がいく。
「未来さん。 、、、、おれが言うのも、なんすけど。」
いつの間にか、車を停めている場所に着いていた。
「え、、、?何?」
竣也が、車のドアノブに手を掛けながら、
「恭介さん、、、と、仲直りして、くれませんか?」
竣也がもし、何も知らないとして、、、
言った方がいいのか、、
悪いのか、、、
後部座席で、そんな事を考えていた。
「おれ、ほんと、感謝してるんすよ。恭介さんには。」
エンジンをかけ、ハンドルを握りながら、竣也が言う。
「え?」
「おれー、昔、かなり悪くって。」
「、、、、、」
車は、地下を抜け、表に出る。
「恭介さんとは、、、、、ある所で、、会ったんすけど。」
ある、所、、、
「中学の頃から、おれ、、かなり、荒れてて、、
でも、恭介さんと出会って。、、、立ち直れたっつうか、今のおれが、、、あるって感じなんすよ。」
、、、、、、、
「あ!すいません!言葉、悪くって!、、、、それに、これだけじゃ、全然、わかんないっすよね?」
頭を掻きながら、謝っている。
、、、、、、、、、
「おれ、頭、悪いんで!と、、とにかく、親がいなかったおれにとって、恭介さんほど、おれの事、、、考えてくれた人は、いなかった!、、、、、、んす、、。」
、、、、わかる、、、
わかるよ。
その、気持ち、、、。
どんな事情があったのかは、わからないけど、、
竣也も、いろいろ、あったんだね、、。
そして、
竣也は、恭介の事を本当に信頼してる。
その事も、よくわかった。
、、、、、
言えない、、
、、、、、、、
、、、、言わない。
、、、、、、、、、。
車が、赤信号で停まった。
「だから、おれ、、 恭介さんには、その、、、」
え、、、?
「幸せに、、、なってもらいたいんす、、、、!」
幸せ、、、、?
「恭介さんも、いろいろあって、、、、
あ、あんま詳しくは、わかんないっすけど!」
恭介は、、、
幸せじゃ、なかったの?、、、、、
「あ、未来さん。うちまで、送りますからー」
信号が青に変わり、車が走り出したと同時に、竣也が言う。
あ、、、!
いつの間にか、車は、駅の方ではなく、私のアパートの方へと向かっていた。
「、、、ありがとう。」
「あ、いえいえ!」
私は、竣也の言葉を通して、少しだけ、恭介の事を知る事が出来たような気がした。
「ありがとうございましたー。」
支払いを済ませたお客様に、頭を下げながら挨拶をする。
「あ、いらっしゃいませ!」
今日も、お店は目が回る程、忙しい。
この仕事を始めて、ひと月以上が経とうとしていた。
結局、あれから、恭介とは会っていない。
正確に言うと、恭介から連絡がないという事。
竣也は、恭介と私が付き合ってると思っているけど、もちろん、そんな事実はなくて。
だから、あれから恭介がどうしてるかなんて、知る由もない。
私も、相変わらず勉強と仕事で精いっぱいだった。
いつものように、お客様が帰った後のテーブルを、片付ける。
そこへ、隣のテーブルを片付けに来た上原さんが、小声で話し掛けてきた。
「未来ちゃん、大丈夫?」
「はい?何が、、、ですか?」
「あ、ううん!だったら、いいの。」
「、、、、、、?」
、、、、ゆっくりと、辺りを見回す。
そこは、どう見ても病院で、、、
、、、、、私は、ベットの上に寝かされていた。
「あの、、、」
「未来ちゃん、ごめんね、、。この2、3日、顔色悪かったから、気にはなってて、、。」
、、、、、あ、だから、さっき、、、声、掛けてくれたんだ、、
「あ、いえ!私の方こそ、、、すみませんでした、、。ご迷惑おかけして、、。」
「いいから。心配しないで。」
上原さんの言葉に、ちょっとほっとする。
「あの、私、、、貧血起こしたんですか?」
「うん、、、多分。、、、未来ちゃん、ご飯とか、、、ちゃんと、食べてた?」
、、、、、、あ!
「もうすぐ、試験なんです。教員採用の、、。」
「あー、、。」
「だから、、、勉強に集中してると、、、あんまり、ちゃんとしたものは、、。」
「そっか、、。でも、仕事に慣れるのも、大変だったんじゃない?」
上原さんが、心配そうな顔して聞いてくる。
「あ、大変じゃ、なかったですよ。、、確かに、忙しかったですけど、仕事、楽しかったし、、、。
何より、働きやすかったですから。」
そう言った後、笑って上原さんを見る。
上原さんも、笑ってる。
「そっかぁ。、、、あ、誰か知らせたい人とか、いない?」
知らせたい人、、、
「、、ん?あ、叔母さんには?」
「あ!叔母さんは、いいです。ただの、貧血ぐらいで、心配かけたくないし。」
「そう、、ね。わかった!他には、、?」
他に、、、、、
どうして、こんな時に、浮かんでしまうんだろう、、
恭介の、顔、、、。
「誰か、、、、、いる?」
上原さんが、もう一度聞いてくる。
「あ、、、、、いえ。、、誰も、いません、、。」
「そう、、、?
、、、、、、あ、未来ちゃん!目が覚めたら、先生に知らせて下さいって、言われてたから、呼んでくるね。」
上原さんが、病室を出ていく。
その日のうちに、自宅へ帰って来た私は、明日から3日間、仕事を休む事になった。
私が倒れた時に、たまたま居合わせた本部の人の車で送ってもらったんだけど。
一緒に、送ってきてくれた上原さんが、アパートの玄関先で言う。
「未来ちゃん!」
「あ、はい?」
「明日から3日間は、仕事を休む事!」
「え、、、」
「いい?これは、店長命令だから!」
ちょっと、怖そうな顔で上原さんが言った。
「、、、あ、あの、、、」
「フッ、、!冗談よ~」
「え、、、」
きょとんとした私の顔を見ながら、
「命令って、ちょっと言い過ぎちゃったけど~
3日間はゆっくり休んで、栄養のあるものを沢山摂る。そして、この3日間だけは、勉強もしない事。、、、、、なるべく、ね。」
言い終わった後、上原さんはニッコリ笑った。
!、、、、、
「、、、はい。」
私も、返事をしながら笑顔で返した。
明日から、休み、、、
ゆっくり休んで、、、、、
上原さん達が帰った後、ひとり、ぼんやりと考えていた。
「今日は、時間がなかったから~お惣菜で悪いんだけど、食べてね。」
帰り際に、上原さんが私に渡してくれた袋を開ける。
レバーの炒めものだ、、、。
他にも、いろいろ入ってる。
上原さん、、、
ありがとうございます、、、
涙が、出てきた、、、、。
他人の私を、ここまで心配して、気にかけてくれる、、、。
両親が亡くなった今、私の身内は叔母しかいない。
でも、、、、、
上原さんは、本当の家族みたいに、接してくれる。
こんな愛も、あるんだな。
夕ご飯を食べ終えて、お風呂から上がった私は、携帯を見つめていた。
恭介、、、
、、、、、、、、あれから、どうしてるんだろ、、、、
!!また、、、、
会ってる時より、会ってない時の方が、余計に気になるのは、なぜ、、、
恭介は、、、
私を、レイプした男、、、なのに、、、。
今日は、もう、寝よう、、。
上原さんとも、約束したんだもんね。
体の事を、ちゃんと考えなきゃ。
翌日、目が覚めた私は、まず、朝ご飯をきちんと作って食べた。
今まで、食べたり食べなかったり、だったから。
1日、3食きちんと食べる。
当たり前の事、なんだけど、、、。
出来てなかったなぁ、、、
昼食も、簡単なものではあったけど、きちんと食べた私は、外に干した洗濯物をたたむ。
特別な事じゃないんだけど、こんな普通の事に、ちょっと幸せを感じたりした。
午後3時。
「買い物、行こうかな。」
冷蔵庫に、ほとんど何も入っていない事に気づき、出掛ける準備をしていた。
「、、、、、どうして!」
「なんだ。」
「、、、、、、、」
私、何を言おうとしてるの、、、
、、、、、、、、、
あ、、、!
「今日、、、、、、、来いって、、、、、?」
「、、、、、、、」
何?
なんで、黙ってるの、、、?
ドアスコープで確認もしないで、玄関のドアを開ける。
「!!、、、、、」
「、、、、、、、!!」
見合わせた二人は、お互い、呆然としている。
「、、、、未来、、ちゃん。」
「、、、あ、、、、、、上原さん、、、、」
「いや、、、、インターホン鳴らしても、返事、ないから、、心配しちゃった~。」
「、、、、、」
「未来ちゃん?」
俯いている私に、上原さんは、心配そうに声を掛ける。
「上原さん、、、!」
気がつくと、私は、上原さんに抱きついていた。
涙が、溢れてきた、、、
「、、、未来ちゃん。」
上原さんは、何も言わずそっと抱きしめてくれる。
、、、、ママ、、、
年甲斐もなく、甘えてしまう自分が恥ずかしくて、また、涙が溢れてきた。
「よしよし、、。」
上原さんの声に、はっとして顔を上げた。
「あ、、!すみません!、、、」
ふっ、、、と、優しく笑った上原さんが、
「大丈夫?」
「あ、、、はい。あ!あの、どうぞ!」
玄関のドアを開けたまま、上原さんに抱きついていた事に気づいた私は、慌てて、上原さんを招き入れる。
「とりあえず、ドア、閉めるね。」
にこにこ笑いながら、上原さんが玄関のドアを閉めた。
「これ。」
上原さんが、買い物袋を渡す。
、、、?
受け取って、中を開いた。
「冷蔵庫、空っぽじゃないかって思って。
適当に、買ってきたの。
よかったら、使ってね。」
もう、だめだ、、、、
袋を握りしめたまま、今度は、ひとり、泣き出してしまう。
「あらあら~。未来ちゃん、泣き虫になっちゃったね。」
「ひっく、、、すいません、、なんか、嬉しくて、、、」
「泣き虫になるのは、嬉しいだけじゃないんだよ。」
「、、、、、?」
涙を拭きながら、上原さんの顔を見る。
「とりあえずさ、未来ちゃん、それ、冷蔵庫に仕舞おうか?」
そう言って、また、私から袋を受け取る。
「冷蔵庫、開けてもいい?」
「あ、はい、、」
泣きすぎたのか、頭がぼーっとしていた私は、上原さんを見ているだけだった。
あっという間に、買ってきたものを冷蔵庫に仕舞う。
「あ!ごめんね、未来ちゃん!余計な事しちゃって~じゃあ、私、、、帰るね!」
え、、!?
「あ、待ってください!」
「ん?」
「あの!、、、よかったら、夕ご飯一緒に食べませんか?」
、、、、、、、
「あ、、、、、だめ、、ですよね、、。ご主人も、いらっしゃるのに、、」
「ふっ、、。実はね、今日、主人、飲み会で遅くなるから、私も、遅くなるかもって、言ってきたんだよね~」
「、、、え?、、、、じゃあ、、」
にっこり笑った上原さんが、
「お世話になります!」
ぺこりと頭を下げた後、顔を上げて、、、、
ふたりで、笑った。
それから、ふたりで一緒にご飯を作った。
なんだか、こうやってると、親子みたい、、、
ふと、そんな事を考えていた。
「私ね~、娘と、こうやって一緒にご飯作ったりする事が、夢だったのよね。」
上原さんが、野菜を切りながら、話す。
「え、、!、、、そうだったんですか?」
考えていた事を言われて、驚く。
「うん。うち、子ども、男の子でしょ?だから、今まで、そんな事なかったし、これからも、恐らくないと思うしね~」
上原さんが、ちょっと舌を出しながら、言う。
出来上がったご飯を、ふたりで食べながら、いろんな話をした。
上原さんのご主人や、息子さんの事。
改めて、私の生い立ち、そして、両親の事故の事、、、。
どうしてだろう、、。
上原さんには、なんだか、たくさん、話してしまう。
「私の話、迷惑じゃ、、、ないですか?、、」
思わず、聞いてしまう。
少しの間があって、にっこり笑った上原さんが、
「話を、聞いてもらいたい時って、あるでしょ?誰にだって。」
「、、、、、、、、、」
俯く、、、
上原さんは、黙ったままだ。
「あ、、、、の、、、」
しばらくの沈黙の後、やっと出た言葉だった。
でも、それからが、つながらない、、、。
「お茶、煎れようか。」
上原さんが、優しく言う。
食べ終えていた食器を、上原さんが片付けようとする。
「あ、私がやります、、。」
立ち上がろうとした私を制して、
「大丈夫だから、未来ちゃんは座ってて。」
そう言って、手早くテーブルの上を片付けて、キッチンに持って行く。
「あ、、、はい。、、、ありがとうございます、、。」
座り直した私は、いろんな事を考えていた、、、。
「はい、どうぞ。」
上原さんが、いつの間にかお茶を煎れて持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます、、、。」
お礼を言って、テーブルの上にあるふたつのお茶を見る。
そして、上原さんを見た。
いつもの笑顔で、私を見ていた。
「私、、、実は、、」
「うん。」
「、、、、、!」
それでも、次の言葉が出てこない、、、
「未来ちゃん。」
「は、、い。」
「さっきも言ったけど、涙もろくなるのは、他にも理由があるって。」
「、、、、、、、あ、はい、、。」
湯呑みに手を添え、横を向いていた上原さんが、私の方に体を向けた。
「赤ちゃんが出来るとね、涙もろくなる事があるの。」
、、、、、、、、
「あ、、、、、、、あの、、、」
自分でも、声が震えているのがわかる。
「未来ちゃん、、、、、、、妊娠してんじゃない?」
「!!!」
驚いて、上原さんの顔を見る。
上原さんも、私を見ている。
「違う?」
、、、、、、、、、、、
「それだけじゃ、ないんだけどね。」
私の疑問に応えるように、上原さんが話を続ける。
「昨日、病院で先生と未来ちゃん、、話したでしょう?」
!!
「あ、、、はい」
「あの後の未来ちゃんの様子、明らかにおかしかったし、うーん、なんていうかな、、、
無理してるっていうのかな?そんな感じがしたから。」
わかってたんですね、、、
「あ、あとは、それまでの顔色とか見てて、ピンときたって感じかな?
、、、、、でも、未来ちゃんが話したくないんだったら、無理に聞こうとは思ってなかったんだけどね。」
「いえ!、、、、聞いてください、、、、、、聞いて欲しいです!」
少し、声に力が入ってしまう。
そんな私を見て、上原さんは優しく微笑んでくれた。
「昨日、、、、先生に、言われました、、、。
、、、、、、妊娠してる、、、って、、、、」
「そう、、。」
「でも、私、、、、、どうしたら、いいのかわかんなくて、、、、、、」
唇を、噛みしめる。
「相手の人には、言ったの?」
相手、、、、
「ほら、昨日、知らせたい人は居ないかって聞いた時、、、、未来ちゃん、居ないって言ったけど、、、、ほんとは、居るんじゃないかって思ってたから。」
「上原さん、、、、」
上原さんの顔を見る。
「ん?どうしたの?」
、、、、、、、、、
相手、、、、
考えられるのは、、、、
ふたり、、、、、
こんな事、、、、、言ったら、、
上原さん、どう思うだろう、、、
叔母さんにだって、言ってない、、、
どうしよう、、、、、、
「言いたくないなら、無理しなくていいのよ。」
悩んでいる私に、優しく話し掛けてくれた。
、、、、話そう。
話して、みよう、、、。
「実は、、、、」
、、、、、、、、、
恭介の事、、、
亮ちゃんとの事、、、、、
上原さんは、時折、眉間に皺を寄せている。
ほんとは、こんな話、聞きたくない筈なのに、、、
それでも、静かに聞いてくれている。
時々、声を詰まらせる私の背中をさすりながら、、、、、、
話終えた私は、なぜだか少し、ほっとしていた。
でも、やっぱり、上原さんの反応が気になる。
上原さんは、黙ったまま考え事をしているようだ、、、。
やっぱり、、、
「こんな話、、、、聞きたくなかった、、ですよね、、?」
、、、、、、、
「ありがとう。」
上原さんが、言う。
「え!?」
ありがとう?、、、
私をじっと見つめながら、
「つらかったでしょう?未来ちゃん、、、」
え、、、
「あ、、」
息をのむ、、
、、、、、、、
少しは、落ち着きを取り戻してはいた、、、。
でもやっぱり、思い出すとまだ、つらくて。
「、、、上原さん、、、」
「こんなつらい話、してくれて、、、、ありがとう。」
涙が、ぽろりとと落ちてきた、、、
少し泣くと、落ち着いてきた、、。
そんな私を見て、上原さんが話し始める。
「でも、未来ちゃん。」
「はい。」
「妊娠の事、言わなくていいの?、、、、、、その、ふたりに。」
「、、、実は、その事で悩んでるんです、、、。」
「何?」
私は、3週間程前の出来事を、話し始めた。
私は、いつものように仕事を終え、電車に乗って駅に降り立った。
改札口を抜けると、
「未来?」
声のする方へ、顔を向ける。
「亮ちゃん!」
自転車に跨った亮ちゃんが、いた。
「元気だった?」
少し、照れたように聞いてくる。
「うん。、、、、亮ちゃん、、、!あ!、、亮介、、さんは、、、、、どうしたの?」
<亮ちゃん>って、もう、呼んじゃ駄目だよね、、。
とっさに考えながら、私も聞き返す。
その事に気づいた亮ちゃんが、ちょっと苦笑いしながら、
「実はさ、、、、探偵事務所に、行って来たんだ。」
え!?
「、、、、探偵!?」
びっくりした私は、少し大きな声を出してしまい、慌てて口を押さえた。
「あははは!そりゃあ、びっくりするよな~」
私の反応に、亮ちゃんは笑いながら応える。
「!?、、、、亮、!介さん、、、、、?」
「響子の事、、、、、きちんと、捜してみようって思って。」
今度は、真顔で話す。
、、、、、、、、、、
「あ、だからって、もし響子が見つかったとしても、無理矢理会おうって訳じゃないんだ。
、、、もし、見つかったら。、、俺には、連絡先は教えないで下さいって、言ってあるんだ。」
「?、、、、どういう事?」
「手紙を渡すつもりなんだ。探偵を通してね。
今までの、、、俺の気持ちとか、、、これから先の事とか、書いて。」
「、、、、、、」
なんだか、ちょっと胸にじわっときた。
「響子の事、今まで、捜してなかった訳じゃないけどさ、、。
どっかで、俺、逃げてたんだよな、、、響子から。
だから、今度は本気で捜してみようって。」
「、、、うん。」
「もし、それで響子が、会いたくないって言ったら、、
諦めるよ。その時は。」
亮ちゃん、、、、
私も、応援するよ、、。
「響子さん、見つかるといいね。」
にっこり笑った亮ちゃんは、手を振りながら帰って行った。
ーーーー
「そうだったの。」
「はい。だから、私、、、、そんな亮介さんに、、、、妊娠の事を言うのは、、」
亮ちゃんとの出来事を話終え、今の気持ちを素直に上原さんに、伝えた。
「でも、未来ちゃん?亮介さんには申し訳ないって思うけど、、、その、響子さんの事?と、あなたの妊娠とは、別問題じゃないのかな?」
「はい、、。」
「でも、、、、」
「?、、、」
「最後は、未来ちゃんが決める事だと思うけど、ね。」
「上原さん、、、」
「恭介さんの事も、そうだけど、、、、、
未来ちゃんが、産むか産まないかも、、、、含めて、、、、、」
産むか産まないか、、、
「私は、未来ちゃんがどんな答えを出しても、、、、応援するから。」
「、、、、上原さん。」
「あと2日間、悩んで、よく考えて。」
あ、、、3日間の休みって!
そのために?
「それくらいじゃ、なかなか結論は出せないかもしれないけどね。」
また、優しく笑ってくれた。
どうしよう、、、
、、、、、どうしたら、いいんだろう、、
上原さんが帰った後、ベットの中で考えていた。
言うか、言わないか、、、
産むか、産まない、、、、か、、、、
こんな事になってしまって、、、
私が、ばかだったんだろうか、、、
妊娠してしまうなんて、、、、、、
あと、2日間で答えが出せるの、、、、
でも、
時間は、限られてる、、、、、、、、、
残り2日間の休暇を終えた私は、仕事に復帰した。
、、、あれから、
悩んで、悩んで、、、、
、、、結論を出した。
上原さんには、電話で伝えた。
叔母には、、、
さすがに、もう、黙っておく事は出来なかった、、。
本当なら、ちゃんと会って話すべきだった。
遠く離れた叔母に、まず、その事を謝った。
叔母は、私の話をただ黙って聞いてくれた。
そして、
「体は、大丈夫なの?
、、、、、落ち着いてからでいいから、一度、帰っておいで、、、、、。」
泣いているみたい、、、だった、、、。
ロッカールームで、着替えを終えた頃、上原さんがやって来た。
「あ、おはようございます。」
「あ!おはよう、未来ちゃん。、、、もう、大丈夫?」
電話で話していたとはいえ、やっぱり、心配そうな顔で聞いてくる。
「はい。
3日間お休みもいただいたんで。
体も元気になったし、、、本当ににありがとうございました。」
頭を下げる。
「うん。結論も、出したんだもんね。
これからの事は、私も協力するから。」
上原さんの言葉は、ほんとに心強かった。
私は、、、、この子を産む事にした。
簡単な事じゃないと思う。
、、、、父親が、誰かもわかんないなんて、、。
生まれてきた子どもに、なんて、説明するの?って、何度も何度も、自問自答した。
結局、答えはでていない。
でも、、、
じゃあ、もし、この子をおろしたら、、、
自分勝手な考えかもしれない、、、
子どもの人生、どうするつもりだって、責められるかもしれない、、、、
でも、産みたい、、、
これから先、何が起きるかわからないし、
もしかしたら、産んで後悔、、、するかもしれない。
でも、産まずに後悔するぐらいなら、、、、
全てを背負って、生きていく事が、私の運命だと考えたら。
強くなろう。
そして、一生懸命生きていこう。
そう、思えた。
だって私は、この子の母親、だから、、、。
恭介にも、亮ちゃんにも言わないと決めた。
恭介にだけ言う事に、違和感を感じたし、、、
そんな事、関係ないって言われるかもしれない。
確かに、、、そうかもしれない、、。
私は、レイプされた、、、んだから、、、、
でも、私は、ひとりじゃない。
叔母がいる。
上原さんも。
だから、、、、
恭介にも、言わない。
そう、決めた、、。
お昼のランチタイムが始まって、30分。
そろそろ、忙しくなってきた。
大勢のスタッフがいるとはいえ、広い店内は、目が回るような忙しさだ。
出来上がった料理を、運ぶ。
「お待たせいたしました。」
料理をテーブルに乗せようとして、はっとする。
「竣也くん!?」
二ヤっといたずらっぽく、笑いながら
「お久しぶりっす!」
「え!?、、、、なんで、、、、、、あ!」
「恭介さんに、聞いてきたんすよ、、、あ、聞いてきました!」
そっか、、、、
「すいません、言葉遣い気つけるように、してるんですけど!」
頭を掻きながら、竣也が言う。
少し笑いながら、改めて、運んできた料理をテーブルの上に載せる。
「元気、、、そう、、ですね?」
軽く、首を傾げながら聞いてきた。
あ、、、
「うん、元気。
、、、、、ひとり?、、、じゃないよね?」
運んできた二人分の料理を見る。
ちょっと、照れながら、
「彼女と、、、。あ!今、トイレ、、です。」
「あ!、、そう。」
にこにこ笑う私を見て、更に、照れている。
「じゃあ、ごゆっくり。」
「あ、はい!」
また、厨房へと戻っていった。
ちょうどレジの所に居た私に、
「ごちそうさまでした!」
竣也が声を掛けてきた。
ふと見ると、竣也の隣に女の子が立っている。
「こんにちは。あの、、、はじめまして、亜依っていいます」
ぺこりと頭を下げた。
竣也より、ちょっと年下っぽくて、可愛い感じの子だった。
「あ、こちらこそ。はじめまして!未来といいます。」
にっこり笑うと、亜依も少し顔を赤くしながら、笑い返してきた。
その横で、照れ笑いしていた竣也が真顔になって、
「あの、、、未来さん!
今日、仕事、何時に終わりますか?」
「え!?何、、?」
竣也は、困ったような顔をしながら、
「実は、、、ちょっと、恭介さんの事で、未来さんに相談したい事があるんですけど、、」
相談、、、、
恭介の事で、、、、、、、
迷っていると、
「お願いします!」
竣也が、頭を下げてきた。
!!
驚いた私は、
「わかったから!頭上げて。、、、、、、4時ぐらいには、出られると思うけど、、。」
頭を上げた竣也が、
「ありがとうございます!、、、、じゃあ、4時ぐらいに。 外で、待ってますから!」
そう言って、亜依と一緒に店を出て行った。
軽くため息をつく。
「はぁ、、」
何だろう、話って、、、
やっぱり、断った方が良かったかな?
でも、竣也が頭を下げてまで、私に相談したいって。
よっぽどの事なのかも、、、?
ランチタイムのピークを過ぎ、ちょっと落ち着いてきていた時間だった。
、、、、ひとり、私はレジの前で考えていた。
「さっきのお客様って、、」
いつの間にか、私の隣に来ていた上原さんが聞いてくる。
「あ!、、、、あの、、」
「もしかして、恭介さんの運転手やってるっていう?」
竣也の事も、上原さんには話していたから、すぐ理解してくれた。
「あ、はい。そうです。」
「、、、、、?」
「どうかしたんですか?」
「あ、ううん。何でもないよ~」
テーブルの片付けに行く上原さん。
私はまた、支払いの精算に来たお客様の対応に追われた。
時計を見る。
3時50分ーーー。
「じゃあね。未来ちゃん。」
「あ、お疲れ様でした。」
上原さんが、手を振りながら帰って行く。
竣也の事は、私から上原さんに話しておいた。
辺りをを見渡していると、車の運転席から、竣也が降りてきた。
「お疲れ様です!すいません、呼び出したりして。」
頭を掻きながら、近づいてくる。
「ううん。、、、、で、話って、、」
恭介の事、だよね、、、?
内心、どきどきしながら聞いた。
「あ、、、はい。あの、、、良かったら、車、乗りませんか?」
「?」
「ここじゃ、、、、なんなんで、、。」
あ、、、、
確かに、、、。
「わかった、、。」
私は車に乗り込み、お店を後にした。
近くの喫茶店に入る。
竣也は、コーヒーを、私はミルクティを注文した。
思い出すな、、。
亮ちゃんのお店、、、。
「未来さん。」
「あ、、、何?」
「恭介さんとは、、、、、会ってるんですか、、、?」
何!?突然、、、、
「話って、、、、そんな事、、?」
竣也が、はっとしたような顔をする。
「あ!いえ、、、。
あの、実は、、、、最近の恭介さん、なんか、変なんすよ。、、、、あ!すいません!変なんですよ、、、、、すいません、、、。」
言葉遣い、気にしてるんだ、、、。
「私の前では、気にしなくてもいいから。」
「え、、、!?、、、いや、、、」
「ふふっ。、、、だって、話しづらくない?言葉遣いにばっかり、気がいって。」
「あ、、、、!」
「だから、少なくとも私と喋ってる時は、竣也くんらしく話してもいいから。」
「あ、、、はい!」
なんだか、弟みたい。
そんな会話をしていると、コーヒーとミルクティが運ばれてきた。
あ、、、、
肝心な事、、、
「、、、何か、あったの、、、?」
「あ!、、、、それが、わかんないんす、、。だから、もしかして、未来さんなら、なんか、知ってんじゃないかって、、思って。」
何か、、、、
「飲もう?」
私は、運ばれてきたミルクティを、口にする。
「あ、はい!、、」
竣也も、コーヒーを一口飲む。
「私の事が、原因だって、、、、事、、?」
「いや!原因なんて!」
「あ、違うの!そんな意味じゃ、、、、なくて。
私と、、、、そのっ、、、会ってから、変わったって事なのかなって、、。」
「あ、、、、!」
考え込む、竣也。
、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、
「おれ、、、、恭介さんと未来さんが、いつ、どこで、どうやって知り合ったかなんて、知らないんすけど、、、
この1ヶ月くらい?、、特に、違うんす、、、。」
、、、、、、
1ヶ月、、、、
あの日以来、会ってないけど、、、。
竣也は、何にも知らない。
私と、、、、、恭介の関係、、、、
、、、、言わない。
私は、そう決めた。
「確かに、あれから、、、会ってないけど、、。」
「やっぱり!それが、原因っすよ!」
竣也が力を込めて、言う。
「私に、、、、そんな影響力は、無いよ。」
ミルクティをまた、一口飲む。
「!!、、そんな事、ないっす!」
少し大きな声に、驚き、竣也を見る。
「あ!、、、、、すいません、大きな声出して、、。」
、、、、、、、
「おれ、、、恭介さんと出会って、4、5年っすけど、、、」
「、、、、、?」
「あのマンションに、女の人入れたのって、初めてなんっすよ!」
?、、、
どういう事?
「恭介さん、男のおれから見ても超カッコイいっすよ!だから、モテるっつうか、あ!、、、すいません、、!」
なんて返事したら、いいのかわからなくて、、、
目線を落とした。
「あ、えーと、、、、、でも!とにかく!恭介さんが女の人を入れたのは、未来さんが初めてで、、、。」
「、、、、、、、、」
「つ、つまりですね、、、、おれが言いたいのは、恭介さん、未来さんの事、マジって事なんっすよ、、、!」
マジ、、、、、
だったら、、、
なぜ、、、、、
あんな事。
「そんな事、無いよ、、。」
「!!、、、、じゃあ、なんで!」
「え、、、、?」
「言ったじゃないっすか!」
「?」
「未来さんと会わなくなってから、恭介さんの様子がおかしくなったって、、、」
「それは、、!」
なんて説明していいのか、わからない、、、
私の方が、逆に聞きたい、、、くらいだったから、、、。
、、、、、、、、、
竣也も、黙っている。
「未来さん。」
竣也が話し掛けてきた。
「、、、、、、何?、、」
「お願いします。
恭介さんと、一度会ってくれませんか?」
テーブルに手を着いて、また、頭を下げる。
竣也の真剣な表情に、はっとする。
会うつもりは、なかった、、。
出来ることなら、
会わずにいたい、、、、
そう、思ってた、、。
でもーーー
無理、、、、、かも。
いつかは、分かってしまう、、、
「、、、、、分かった。
近いうちに、連絡してみるから、、。」
「あ!、、、」
え?
「、、、何?」
竣也が、困ったような顔をしている。
「実は、、、、すいません!未来さん、、、!」
「え!?どうしたの?」
言いにくそうに、
「あの、もう、恭介さんには、おれから言ってて、、、
今日、未来さんを、、、連れて来ますって、、、」
「、、、、、、今日!?」
いつの間に、そんな約束、、、。
「すいません、、。
もひとつ白状すると、、。未来さんが話があるって、、、恭介さんには言ってて、、。」
「え!?」
「ほんと、すいません!」
しきりに謝る竣也。
、、、、、、、
私の方に、話があるっていうのも、あながち嘘ではない。
「いいよ。分かったから。」
ほっとしたような表情になる。
ただ、、、、
どう、切り出せばいいんだろう、、、、、
そして、今、私は恭介の部屋の前に居る。
竣也にここまで送ってもらい、ひとり、エレベーターで上がって来た。
あとは、インターホンを押せば恭介が出てくる。
会うのは、ひと月ぶりか、、、、
ここまで来てはみたものの、やっぱり、迷ってしまう。
何から、話せばいいのかわからないし、、、、
「はぁ、、、、」
大きく溜め息をついたーーー
ガチャ、、、、
重厚な玄関扉が、開く。
!!
「何してる。」
「あ!、、、」
「さっさと、入れ。」
あ、、、、、
「はい、、。」
恭介の後に続く。
1ヶ月振りの、恭介のマンション。
何も、変わってない。
変わったのは、恭介、、、
少し、痩せた?、、、、
「また、、、痩せたか?」
リビングのドアを開けながら、恭介が聞いてくる。
え? 私、、、?
それに、またって?、、、
「前に会った時も、痩せたと思ったからな。」
前、、、
背中を向けたままの恭介。
表情は、わからない。
恭介の背中を見ていると、何も言えなくなってしまう、、、。
、、、、、、、
「話って、なんだ。」
相変わらず、背中を向けたまま話す恭介。
「あ、、、、!」
そうだ、、、。
「お前、ほんとにオレに話があるのか?」
「、、、どういう事?」
!!
まさか、、
「竣也に頼まれたんだろ。」
「それは!、、」
はっとして顔を上げると、恭介がいきなり振り向く。
「ちっ!まったく、、、。
お節介なヤツだな!」
舌打ちをしながら、悪態をつく。
今、なんて、、、!
「そんな言い方、、!!」
「なんだ。」
!!
「ひどいよ!そんな言い方!!、、、、竣也くんだって、私たちの事考えて!」
大きな声を出した私に、恭介は一瞬驚いた顔を見せた後、
「私たちの事って、なんだ?」
「あ、、、、、それは!、、」
、、、、、、
どう言ったら、、!
「オレたちに、何があるって言うんだ、、」
恭介の冷めた声に、また、言葉を失いそうになる。
「竣也くんは、あなたの事心配して!」
「それが、余計なお世話だって言ってんだ。」
どうして!
「どうして、素直になれないの!」
恭介の顔がぴくっと反応したのが、分かった。
は!、、、
近づいてくる、、
思わず後退りしそうになる自分を、必死で抑える。
目の前で止まった恭介。
私を見下ろす。
殴られるかもしれない、、。
でも、、、
私も、恭介を見上げたまま、視線を外さない。
私を見下ろしたまま、恭介が言う。
「お前に、関係ないだろ。」
ーーーーーー
その瞬間、私は恭介に掴み掛かっていた。
そんな事では、動じないとでも言いたいのか。
抵抗する素振りも見せない。
「私は、、!!」
「、、なんだ。」
、、、、、、
「妊娠、、、、、、」
「、、、、!!!」
恭介が、私の両肩を掴む。
痛い、、
「お前!今、、、妊娠って!」
更に、私の肩を強く掴む。
「痛い、、、っ」
でも、恭介には聞こえていない。
掴んだ手を緩める事なく、
「どういう事だっ!答えろ!!」
「、、、、、関係ないん、、、でしょ、、、!」
そう、、、、
恭介は、関係ないって言った。
私たちの事、、、、、、、、
「それは!オレの話だ!、、、、お前の事とは、違う!」
、、、、、、、、
「ほんとに、違うの?」
「?」
「あなたが、最近、変なのは、、、、私の事が!、、関係してるんじゃないの、、!」
私の肩を掴む手が、離れる。
「、、、、、、、」
顔を横に向ける恭介。
「ねぇ、何か言いたいんでしょ?、、、私に。」
今度は、離れた恭介の腕を、私が掴む。
それでも、恭介は黙ったままだ。
また、黙ったまま、うやむやにするの?
、、、、、、、、
恭介は、何も喋らない。
「、、、、分かった。もう、いいよ、、」
掴んでいた手を、離した。
やっぱり、私には関係のない事だったんだ。
ごめん、竣也くん、、
私、役に立てそうにないや、、、。
恭介は、私には何も話してはくれないから。
だから、
「ただ、、、竣也くんには、心配掛けないで欲しい、、。
あなたにとっては、お節介かもしれないけど。」
恭介の目を見ながら、静かな声で訴えた。
そして、ゆっくりと向きを変えようとした。
「待て。」
もう一度、振り返り、
「、、、何?」
「さっきの、、、、妊娠の話は、、?」
、、、、今さら、、。
「その話も、もう、いいよ。」
「いい事ないだろ!、、、、、、、!!お前、やっぱり!」
「!!、、大丈夫だから!」
「何が大丈夫だ!」
「迷惑は、掛けない、、」
迷惑、掛けない、、、、、、、、
、、、、あんな形で、授かった命かもしれないけど、、、
ちゃんと、私が、、、、育てる。
、、、、、、、、、
「迷惑って!、、、、、、オレの子」「!!やめて!」
オレの子、、、、!
やめて、、、、
「なぜだ!!」
「あなたの子どもか、わからないないから、、。」
「??、、、、、、、、!!」
「でも、、、!父親は、わからないけど、、、、母親は、私なの。私の子どもに、変わりはないから!」
涙が出そうになる。
「、、、、、、、」
「、、、、亮介さんには言ってない。
あなたにも、最初は言わないつもりだった、、、。
でも、この街で働いて、、、、、、、、あなたからも離れられない限り、いつかは分かってしまうと思ったから、、、、。」
亮ちゃんにだって、
いつかは、ばれちゃうかもしれないけど、、、
「でも、、、、自分で産むって決めたから。だから、、、、、あなたには関係ない、、!」
その時なぜだか、恭介が悲しそうな顔をしたように見えた。
、、、、どうして、そんな顔をするの、、、?
何も話さないなら、、、
わからないよ、、、。
「私の話は、それだけです、、。、、、、、じゃ、、、。」
そんな恭介の表情を切り捨てるように、私は背中を向けた。
自分で選んだ事だから、誰も恨んだりしたくない。
命があるのなら、大事に生きていきたい、、。
この子と、ふたりで。
足を進めながら、そっとお腹に手を当てた。
「お前を憎んでた、、。」
背中から刺すような、低い声。
!!
リビングのドアへと向かっていた足が止まる。
「めちゃくちゃにしてやりたいと思った」
私の事、、、、、
「だから、あの日、お前をレイプした、、」
振り返る事が、出来ない、、、、、。
それでも、話し続ける恭介。
「あの日、、、、お前達が店を出る時、電話をかけたのは、オレだ。」
電話、、、、?
!!
あの、、、電話って、、!
「お前を、店に引き止めるためだ。」
、、、、、、、、
「一人で、、、、そんな、事を、、、、?」
背中を向けたまま、震える声で聞く。
「仲間が居るって言った事か?」
頷く、私、、、
「そう、言えば、お前が諦めると思ったからだ、、。」
、、、、、、
やっぱり、、、
竣也は何も、知らなかったんだ。
、、、、こんな状況でも、ほっとした気持ちになる。
ーーーふと、思った。
今更、私に、こんな話をして、、、
なんになるの?
、、、、、、、
つづく。。。
新しいレスの受付は終了しました
お知らせ
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
満員電車とアタシとイケメン痴漢22レス 641HIT 修行中さん
-
君は私のマイキー、君は俺のアイドル9レス 187HIT ライターさん
-
タイムマシン鏡の世界7レス 184HIT なかお (60代 ♂)
-
運命0レス 90HIT 旅人さん
-
九つの哀しみの星の歌1レス 104HIT 小説好きさん
-
また貴方と逢えるのなら
見ると天井が見えた。 誰かが看病でもしてくれていたのかしら。 「す…(読者さん0)
12レス 392HIT 読者さん -
わたしとアノコ
【苺花目線】 あぁあゎわわわわゎわ,,,。。 やってしまったっー!…(小説好きさん0)
175レス 2887HIT 小説好きさん (10代 ♀) -
神社仏閣珍道中・改
(追記) …お護摩ではよい思いができなかった、こちらではあったの…(旅人さん0)
341レス 11730HIT 旅人さん -
西内威張ってセクハラ 北進
高恥順次恥知らずサイコパス(自由なパンダさん1)
111レス 3600HIT 小説好きさん -
北進
勘違いじゃねぇだろ本当に飲酒運転してるんだから高恥順次恥知らずサイコパ…(作家志望さん0)
24レス 530HIT 作家志望さん
-
-
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②4レス 147HIT 小説好きさん
-
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?11レス 153HIT 永遠の3歳
-
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令1レス 191HIT 小説家さん
-
閲覧専用
今を生きる意味78レス 535HIT 旅人さん
-
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 993HIT 匿名さん
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 147HIT 小説好きさん -
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 153HIT 永遠の3歳 -
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 191HIT 小説家さん -
閲覧専用
おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1427HIT 檄❗王道劇場です -
閲覧専用
今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 535HIT 旅人さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
家に帰るのが苦痛、ストレス。離婚したい。
週6勤務で、小遣い月1万。 ロクな昼飯も食べれないから晩飯が楽しみなのに、大体おかず1品だけ。盛り…
33レス 1840HIT 逡 (30代 男性 ) -
助けてください、もう無理です
生きるのに疲れました 親に制限されます あそんじゃだめ すまほだめ ゲームダメ など制限さ…
55レス 1044HIT 聞いてほしいさん -
馬鹿な子に「馬鹿」と言われたくない
頭が賢く、エリートな子から「君、馬鹿だね」と言われても納得はします。 ただ、頭が馬鹿な子に「馬鹿だ…
20レス 456HIT 東雲絵名 (10代 女性 ) -
まじでムカつく店員
会計の時現金で支払うって言ってるのに「すみません、もう一度言ってください」を言われて、これが3回続い…
12レス 437HIT おしゃべり好きさん -
マッチングアプリで知り合って、、
マッチングアプリで知り合った年下男性と毎日かなりLINEもして、電話も2回くらいしました。 アプリ…
24レス 929HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
男女は結婚したら不倫や浮気をするの?
人は結婚して1、2年は大丈夫と思うけど(すぐにする人も居る)大体の人って不倫しますよね 例えば男が…
13レス 334HIT 匿名さん - もっと見る