注目の話題
不倫相手を忘れらず、家庭に向き合えません
駅でおかしな人に遭遇
友人に裏切られ、どう対応して良いのか分かりません。

しあわせいろ

レス383 HIT数 44524 あ+ あ-

モモンガ( PZ9M )
10/03/14 06:39(更新日時)

私の前には広がる風景があります


目には見えないけどそれは沢山の線となり形となり私のまぶたの裏で形になります


それが私にとって当たり前の風景だった


ずっとこのまま



この当たり前の風景の中で生きていくのだと思っていたよ



あなたと会うまでは




花の色も
海の色も
空の高さも



みんな知らなかった


音が香りが全てが指先を通って私に世界を



光を見せてくれた




目に見える光はどんな色ですか?




私の心の中にはいつも暖かい色があります



ねぇ




幸せってどんな色で描けばいいのかな…

No.1162024 09/08/31 02:16(スレ作成日時)

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No.351 10/03/10 02:22
モモンガ ( PZ9M )

週末は予想に反して暖かい日で…

穏やかな快晴となった

私は斎藤さんと最寄りの駅で待ち合わせをした

どうせなら一台で行こうかと言う話になったからだ

私はこの朝


久しぶりに望くんがくれた指輪を左手にしっかりとはめた


気のせいだろうか少しサイズが合わなくなっている気がする…


気持ちゆるくなった薬指で遊ぶようにキラキラと指輪が光る


『まぶしいな…』


はきなれた白いスニーカーとこの空みたいな色の淡い水色のシャツワンピ―スを着た下には黒の細身のパンツを合わせた


髪は相変わらず短く耳の辺りで揺れている



『…さて、行かなくちゃね…』



行きなれた駅までの道をゆっくり歩く



駅までは斎藤さんが迎えにきてくれる



足が自然と歩きなれた道を通ろうとしている


目は見えるのに足が無意識に進んでいるのがよくわかる



この道を何度望くんと歩いたんだろう…


少し厚くてごつごつした指で必ず私を右側によせて歩く




私は一歩後ろで望くんの右腕をつかむ



『大丈夫?早くない?』



点字が消えるたびに聞いてくれた

No.352 10/03/10 02:37
モモンガ ( PZ9M )

はじめてあった日

そう言えば望くんを女の子とまちがえたんだっけ…


あのときは図々しく思えて何か好きになれなくて…


でも健常者でもそうでなくても『そんなの関係ない』って私自身をちゃんと見てくれた人だった



小さな子にも大人の人にも


人間に、あったかい人だった…



風景の見えない私にも



高い空や広い海を教えてくれた



生きにくい現実を必死に生きている仲間を教えてくれた



私にも前が見えるんだと夢を見つけようと言った



雪の降る日には私にも恋ができるんだと教えてくれた



こんなにたくさんの風景をみせてくれたのに



目の前にはあなたはいない



あるのは果たせなかった再会の約束と、うわついた気持ちに悩んでいた小さな私


あなたを笑顔にすることもできずにあなたはたった一人でいってしまった…



だんだん歩幅が広くなり目の前には駅前のロータリ―が広がっていた



その近くに有道先生のカフェもあったが顔を向けることができなかった

No.353 10/03/10 02:54
モモンガ ( PZ9M )

約束は朝の10時時間まではあと30分近くもある…


ロータリ―の中に入ると春休みに入っているからか人混みが人波に変わっていた



コンビニにクリーニングやさん



喫茶店に本屋さんが立ち並ぶ



私は駅の入り口にあるからくり時計の下に腰をおろした



『10時になったら何が出るのかな…』



そう言いながらため息をついた



くやしい位に穏やかな空




首を上に上げてぽっかり浮かぶ白い雲を真上に見上げていた



その時不意に知った顔がよぎった




『よぉ~久しぶりじゃな

ことりちゃんじゃないかい?』




そこには久しぶりに見るカフェのおじいちゃん先生が笑顔でたっていた



『伊藤先生…!どうしたんですか?週末の忙しい時に…もうすぐお店開いちゃいますよ?』


白衣を脱いでいる先生は青いアロハシャツにチノパンで赤と白のボーダ―のバンダナをしていたお洒落なおじいちゃんだった



相変わらずくわえタバコで煙を吐きながらにっこり白い歯をだして笑う



『今日は彼女とデートなの


働いてばっかりじゃつまらんじゃろ?』


そう言ってまた笑った

No.354 10/03/10 03:17
モモンガ ( PZ9M )

『デートですか…

いいなぁ…』



私がそう言うと先生は胸から携帯灰皿を取り出してキュッと火を消した



『わしねぇ…初恋は親戚のおばちゃんだったのよ』



先生が急に話し出した



私が黙って頷くと先生は懐かしそうに遠くを見つめた



『何歳の頃だったかなぁ…



親父の妹、あ、ワシのおばちゃんね


その人が結婚してさぁ



そりゃあ悲しくてさ


結婚式でワンワン泣いて大変だったっちゅうわ



ワシ、今でも覚えとるもんなぁ




そんときにおばちゃんが抱っこしてワシにこう言ったんさ



「有希には有希の幸せが必ずあるのよ



有希にはいろんな人の幸せがたくさんくっついてるの



だから今度は有希がたくさん幸せを分けてあげられる人を探しなさい」ってね



わしの『有希』っつう字ね


昔おばちゃんがつけた名前からとった大切な名前なんやって



だからわしも有道に『有』の字つけたんじゃ



ありがとう


の『有』ってな』

No.355 10/03/10 03:33
モモンガ ( PZ9M )

『親父もおふくろもよく言っとったわ


幸せっちゅうのは必ず続くもんだって


例え途中で悲しくなったり辛くなったりしても逃げたさずに真っ正面から生きた人間には必ず神様からご褒美があるんだって



おふくろは看護婦やったからないろんな人の生き死にを見とったし、ほんとによくいっとったわ


悲しみは雨
笑顔は晴れ
悩みは曇り
怒りは雷


でもどれもずっと同じ空には続かない


いつかは晴れるしいつかは降る


でもそうやっていくうちに人間は成長するんだって



人間も植物も同じなのよって


だから人間も木と同じで意志がなくなっても消えるわけじゃない


その根に残った幸せの種は必ずまだ芽吹くってね


だから人間は咲くのを諦めたらあかん』


先生はそう言うとまた胸からたばこを一本取り出した


『幸せは…続く…』

『そう。ここで終わりじゃなわけで

第二章っちゅうもんがある

三章も四章もね

悲しみだけじゃない幸せだけじゃない


続きは自分で見つけなきゃ』


そう言うと先生は駅から出てきた可愛らしいご婦人に手をふった

No.356 10/03/10 03:45
モモンガ ( PZ9M )

『あ~ちゃ~ん!』


先生は駅の入り口まで走っていくとぽっちゃりした可愛らしいご婦人の手をとった



彼女らしきそのご婦人は私を見ると恥ずかしそうに頭を下げた



うきうきした先生がまたこちらへ走ってきた



『可愛らしいお人やろ?



こないだ北海道行った時に友達になったん


お互いフリーやしな

デートに誘ったんや』



先生は白い歯をまたみせた


『三度目の恋がうまくいくように祈っといてや!』



そう言うとまるでスキップするように彼女のもとへと歩いていった



彼女のもつキャリーバックを右手に持つと空いた左手で彼女の手をとって歩く



まるで昔からの恋人同士みたいだった



きっとあの二人はうまくいくだろう…




なぜかそんな予感が心にわいた



口元が自然に緩むのがわかる



『幸せが…今きっと先生に巡ってきてるんだね』



青く晴れた雲の上から祝福の歌が聞こえたような気がした…

No.357 10/03/10 04:01
モモンガ ( PZ9M )

頭上では『イッツ・ア・スモールワールド』にあわせてからくりの人形達が出たり入ったりを繰り返して10時の時を知らせていた


顔を左右にふるとロータリーに止まる白い車から身を乗り出して手をふっている男の人がいた



『ことりちゃん、こっちこっち!』



以前にあったのが三年前だからもうすっかり今は大人っぽくなっていた斎藤さんがそこにはいた



聞いた話では今、とある施設で介護福祉士として働いているらしい


その笑顔が望くんと重なってみえる


『お久しぶりです』
『お久しぶり…ことりちゃん変わらないからすぐわかったよ

変わったのって髪型だけじゃないの?』

意地悪な言葉とはうらはらに出る優しい笑顔



やはりこの人は望くんの親友だ


何故かそう思った

白いシャツに黒いブラックデニム


黒いスニーカーをはいた斎藤さんは少し日に焼けた肌にうっすらかいた汗を肘で軽くこすった


『じゃあ…行きましょうか…』


どちらからともなく車に乗り込んだ車には昔望くんと聞いたEXILEがかかっていた

No.358 10/03/10 04:14
モモンガ ( PZ9M )

『この曲…よく聞きました


望くんと…』



そう言って軽く目を閉じると『望もね…昔きみと同じこと言ってたよ』と斎藤さんは曲のボリュームを少し上げた



道はあの日の海へと向かってまっすぐ走っていた



空は高くて風も穏やかで…



あのときの私達も今みたいに走っていたのだろうか…



思ったよりスムーズに道は進んで約束の正午には海の駐車場に車を止めていた



途中コンビニに立ち寄って買ったお茶に口をつけると


先に来ていた大学のみなさんと小さかった真希くん達が大人目いた顔つきでそこに立っていた

No.359 10/03/11 03:20
モモンガ ( PZ9M )

『あ…あなた』


そういいかけると車イスに固定された少年はニコッと笑ってみせた


『ことりねえちゃん…!』


聞き覚えのあるあの時の声とは少し違う


でも懐かしい声



『真希くん…ね?

久しぶりだね


元気…?』



初めて目にする痛々しい姿


でも目の前の彼はいたって普通に


少しうつむいた顔で言った



『望にいちゃん…


残念だったね…



僕…また兄ちゃんに合いたかった…』



そう言うと海の一番近くに歩みよっている茶色のジャケットを羽織った中年の男性に目をやった



私が不思議そうな顔をしていると後ろから斎藤さんが小さく言った



『望のお父さんだよ


見たら驚くよ


望によく似てるから』



そう言われた通り



波間に見える光に包まれた望くんのお父さんは望くんに本当によく似ていた



身長もさほど変わらず望くんをそのまま年をとらせたかのような風貌だった



茶色のジャケットにブルーのデニム


中は白いシャツで中に黒い色のネクタイをはめていた



両手には白い箱がちいさく抱かれていた

No.360 10/03/11 03:29
モモンガ ( PZ9M )

その横顔は寂しさよりも


力強い



意思をもった表情だった




あの日空港であった望くんの目にも似ていた



お父さんは私や回りのお友達に気がつくと深々と頭を下げた



『本日は…忙しいなかをお集まり頂きまして誠にありがとうございます…



この場所にあいつがいないことが何より残念ですが…



どうか




あいつによくやったって




声をかけてやって下さい



遺骨は半分こちらに持ち帰りました



望の意思で半分は日本にまいてほしいというものでした…



あいつの最後のワガママを聞いてくださり本当にありがとうございます…』




左右前後から小さな並みのようにすすり泣く声が聞こえる



ハンカチを目にあて必死にこらえる人



声をだして抱き合う人



歯をくいしばって目を赤らめる人…



私のように表情も変えずに見据えている人間なんておそらくいないだろうな…

No.361 10/03/13 02:23
モモンガ ( PZ9M )

誰ともなくおじさんのいる場所へと足を運んだ



みんながおじさんのもっている小さな箱に手を合わせてから中に入った粉のようなものを波にそっと置くようにまいた




一度砂浜に打ち寄せられた小さな波は望くんを確認するかのように穏やかにそれを海へと持ち帰っていった




また一人



また一人




お別れの言葉を言いながら




海に叫びながら…





目の前の海には


対照的に穏やかなブルーと白い波と雲が美しい日常を作り出していた




白い花束がまるで小舟のように海を進んでいる




大学のお友達が一通り終わり


お世話をしていた小学生も泣きながら手を振って別れを惜しんだ




気づけばあとは私と斎藤さんだけになっていた



『ことりちゃん…


大丈夫かい?』



心配した斎藤さんが顔をのぞきこむ



『大丈夫ですよ


斎藤さん…先にどうぞ』私は真顔で前を見つめた



彼は黙って頭を下げると見守る大学の仲間を背に海へと近づいた

No.362 10/03/13 02:33
モモンガ ( PZ9M )

斎藤さんは時折肩を震わせながら握ったそれをしばらく見つめていた



そして何かを言うと波打ち際にそっと流した



そしてまたしばらく手を合わせていた




戻ってきた斎藤さん は泣きはらしたような赤い目をしていた



私も望くんのお父さんも表情を帰ることはなかった




『…斎藤さん


私…少し望くんのお父さんと話がしたいので良かったら先に帰っててください


近くの駅まではバスもありますし



少し…歩きたい気分なんです




ごめんなさいね』



斎藤さんの顔を見て少し力なく笑った




『それなら近くの駐車場で…』



いいかけた台詞を遮るように顔を左右にふった



私は黙って頭を下げると望くんに一歩一歩近づいていった




三年ぶりに会う彼は



小さな




小さなチョークを削ったようなサラッとした粉に姿を変えていた



『望くん…』




その残りをゆっくり丁寧に手のひらにのせた



片手で余るその姿に



しばらく足が動かずにいたが



望くんのお父さんが『一番会いたかった人がきたな…』



そう呟いた

No.363 10/03/13 02:44
モモンガ ( PZ9M )

『望くん


私に会いたがっていましたか…?』



横はむかずに前を見たまま聞いた




『…ええ



最後に呼吸器の中でもあなたの名前を呼んでいましたよ



『ことり…』ってね



壁にかけられた白いスニーカーも



その前に届いたプレゼントも



くじけそうになると『負けたくない』ってね




そりゃあ…アイツ頑張ってましたよ』



おじさんは優しい目をすると手のひらにのった小さな姿になった息子に言った



『なぁ望



お前頑張ったよな…』




足から崩れるように砂浜へと体が倒れていった



両手は砂を叩き


体は大きく震えていた



見守っていた参列者も顔を背けて泣いていた




私は視線を手のひらに落とすとそれをそっと口元へと運んだ



最初で最後の彼へのキスだった




唇についた粉をぬぐわずにそっと波の中へと足を進めた




春といっても水温はかなり冷たかった





白いスニーカーは全てが波の中に入りふくらはぎまであっという間だった

No.364 10/03/13 02:56
モモンガ ( PZ9M )

『望くん…


よく頑張ったね



私も負けないように頑張ったよ




二人ともよく頑張ったよね





だから



もう頑張らなくてもいいからね…』




そう言うと両手の粉をそっと海の中へと沈めた




手のひらからこぼれるそれは流れるように緩やかに海へと帰っていった




彼の一つの命はこれで終わった




あったかい背中も



大きな手も




甘い香りも




響く声も




体さえも




もう


何もなくなった





そう思った瞬間



体の中から吹き上がるような孤独感と喪失感が込み上げた



『…っッ…


まっ…て…



待って!待って!!

行かないで!!』



私は海の中にザバザバ入ると両手を掻き分け望くんのあとを追いかけた




体が半分以上海に浸かって胸の辺りまで波がきた時におじさんと斎藤さんに脇を抱えられて岸へと引き戻された

No.365 10/03/13 03:07
モモンガ ( PZ9M )

…はァッ…はァッ…


ゴホッ

ゴホ…ッ



三人の息が絡み合う砂浜で斎藤さんが声をあげた



『…ッ


バカなことすんな!


ことりちゃんがそんなことしてどうなるんだよ!!




ちゃんと望にサヨナラしてやってくれよ…!!』




斎藤さんの頬からは海水と涙が交互に落ちていた


手のひらには細かい砂利が無数につき



それでも気にすることなく顔をこすった



おじさんは私の頭を撫でると優しく言った



『ことりさん…



あいつねぇ…本当によく頑張ってましたよ



介護の勉強も強い副作用も


絶対最後は笑って帰るんだってね



愚痴も一言も言わなかった



『もうことりに弱い自分はみせたくない




最後までことりの好きなままの俺でいるんだ』ってね



君の携帯ばっかり見ていたよ』




そう言うとジャケットのポケットからシルバーの携帯を一台取り出した




画面には笑顔で笑う髪の長い私がいた



そこには


何回も



何回も見たんだね




あせた色がにじんでついていた

No.366 10/03/13 03:18
モモンガ ( PZ9M )

黙ってそれを見ていると未送信のメールが一通入っていることに気づいた



日付は3月



望くんの亡くなる前の日付だった




メールボックスを恐る恐る開けると



宛先は『ことりへ』



私になっていた




私はお父さんに断って携帯を見せてもらうことにした



もう危険な事はしないからとみんなには帰ってもらい



日の当たる砂浜で一人




あの日のクリスマスに望くんが倒れていた場所まで歩いた





腰を下ろすと携帯を静かに開いた




『ことりへ』




『ことり


元気かな



ことり




会いたいな…




なんでだろう


たまに意識がなくなる



もう本当にヤバいのかも知れない




頑張るけど



念のためにメールうちます



指もなかなか思うように動かない



めっちゃ遅いんだ



でも打ちながらことりのこと考えてます




なぁ、ことり




もしもこれを見てるってことは



俺は多分この世にはいないんだよな




だっていたら俺は多分このメール消すもんな



ことり



ごめんな』

No.367 10/03/13 03:32
モモンガ ( PZ9M )

『ことり

俺がもしいなくても悲しまないでな


って無理か


ことり泣き虫だもんな


でも泣かんといてな


俺、ことりを泣かしたままで行きたくないわ


行けんわ…


なぁ、ことり


ことりからもらったペンダント


2つあるから俺は多分うまく飛べる気がする



もし今度生まれ変わっても


ことりをまた見つける


絶対


ちゃんと探しだすからごめんけどこれからは一人で生きてな


俺に謝るとか俺に悪いとかそんなんやめてな


俺が最後にする神様へのお願いはことりの幸せ



ことりの幸せは今からたくさん見つかる


友達も
仕事も
家族も
好きな人も


ずっとことりの側におる


だから負けんな


絶対しあわせになれ


俺が空からチェックしとるからな


泣いたりいじいじしたりしてたらまた両手でしあわせ隠してしまうぞ



だからいつも笑っといてな


それが俺の最後の願い』

No.368 10/03/13 03:52
モモンガ ( PZ9M )

『ことり


最後にしりとりしよっか



『ありがとう』



次はことりの番な



今度あったら絶対にげんなよ



中村ことり




しあわせになれ



ことりに会えてめちゃめちゃしあわせだったよ



2010.3月



加藤望』





その写真には2つのペンダントを握り、力いっぱい笑望くんが帽子をかぶっていた




あの日


絶対迎えにくるからと笑った



あの笑顔のままだった





私は携帯のディスプレイを静かに閉じた



望くんのお父さんに『形見だから』とさっき渡されたペンダントを2つカバンから取り出した




その2つを手に乗せると静かに砂の中に埋めた

No.369 10/03/14 03:34
モモンガ ( PZ9M )

>> 368 私はその場所でしばらく空を真上に仰向けになった



羽を手にいれた望くんは今はどこにいるんだろう…




果たせない約束を胸に抱きながら



ただ私を想って…



なのに私は…





望くんのメールを見ながらくやしくて


自分が許せなくて


やりきれなかった



自分がこんなにも小さい人間だったなんて



今はもうきっと空から私を見て



嘘つきって



きっと思ってるよね…




決めた



私もう誰も好きになんかならない



こんなに愛してくれた人を受け入れられなかった私なんか人を好きになる資格なんかない




22歳の春




初めての恋が


私の最後の恋となった



しあわせなんか




しあわせなんか


私には何もみつけられない…




心からそう思った…

No.370 10/03/14 03:45
モモンガ ( PZ9M )

その日



結局家についたのはかなり日が落ちてからだった



帰るまでに斎藤さんから何度も着信やメールがあったがどうしても返す事ができなかった…



お母さんもお父さんも衣服の乱れた真顔の私に驚いて駆け寄ってきたが



何も聞いてはこなかった




すぐに着替えをもってお風呂に入ると頭までお湯の中に潜った



こんな私なんか



泡になっていなくなっちゃえばいいのに



望くんの代わりに


私がいなくなればよかったのに



それでも



そう思っても息が苦しくなると顔を出してしまう



結局私は自分が可愛いんだ





世界で一番自分が嫌い



この気持ちを押さえることがどうしても


どうしてもできなかった





私はその日




嘘つきな私に罰を与えた




手首を切ってしまったのだ




薄れいく意識の中で



温かい


綺麗な赤が瞼の裏に残った




ごめんね



ごめんね…




そう呟きながら私は意識を失いながら浴槽の中に沈んでいった…

No.371 10/03/14 03:54
モモンガ ( PZ9M )

次に目が覚めた時は強烈な痛みを頬に感じていた


『いたたたた…』



左頬が強烈に痛い



目を覚ますと見たこともない顔で望くんが怒っていた




『こら!!バカもの!!




お前は俺のメール読まんかったのか!




生きろって書いただろうが!



誰か死んでくれなんて頼んだんだよ!』


私は慌てて身をおこそうとするが左手が痛くてなかなかうまく起き上がれない



『なん…で?


夢?



夢…だよね…



ごめんね望くん


わたし全然約束なんて守れなかったよ



望くんはあんなに私のことを思ってくれたのに…』



うつむく私に夢の中の望くんは大きなため息を1つついた




『ことり…


ことりバカだなぁ



そんな事で死のうとしたのか?



こら!こっち見る!



ことりにとって命ってそんなに軽いのか?



俺があんなに頑張ってもつかめなかった物をそんなに簡単に捨てる事ができるのか…?』

No.372 10/03/14 04:06
モモンガ ( PZ9M )

望くんにつねられた左頬がまだジンジンする




命を軽くなんてみてないよ



たった1つの命だもん




だけど私は自分が許せなかった




自分が望くん以外の人に恋をしはじめた事を認めたくなかった



そんな恩知らずな人間になりたくなかった




どうすればよかったのかわからなかった




私が下を向いて黙っていると望くんが言った



『ことり


しりとりしよ』



そう言うと望くんは私の左横に座った




いつもの位置だ




並べた肩が暖かい…



『メールで書いただろ?ありがとうって


だから

ありがとうの『う』からな』



私の顔を覗きこむと優しい笑顔でくしゃっと笑った



夢の中の望くんは白い帽子にグレーのTシャツを着て白いマフラーをしていた



『あちぃな』



帽子を取るとチクチクした坊主頭が現れ恥ずかしそうに撫でてみせた




私はそっと触れながら懐かしい昔を思い出していた




『う』だぞ?再度望くんに言われて私は少し考えた



『うそつき…』




私が言うと望くんは優しい笑顔で黙って笑った

No.373 10/03/14 04:16
モモンガ ( PZ9M )

『きらいになんかならない』



望くんが言う



『いくじなし』


『心配かけんな』



『泣き虫』



『しかたない』




『いいわけばっか』



『悲しい顔すんな』



『情けなくて自分が嫌い』



『いつだって大事だ』



『大好きだったのに…』




私がそう言うと望くんは横から肩を抱き締めてくれた




『ことり…




俺な

覚悟はしてたよ?



ことりに世界が戻って、目のなかに色んなものが蘇ったら…


きっと見えていなかった本当の気持ちに気がつく事があるだろう…って




だから




ことりが俺じゃない誰かを好きでいるとしても



それは普通のことなんだよ



寂しくないっていったら嘘になるけどね



目が見えていても
見えていなくても



人の気持ちに『絶対』なんてのはないんだよ



でも

それでいいんだ


そういう時もあるんだよ…』




望くんは抱いていた肩をポンポンと叩くと最後にバシッと背中を叩いた

No.374 10/03/14 04:27
モモンガ ( PZ9M )

『じゃあ最後な


『にげんなことり


前を見ろ



お前を大切に思う人がいる限り生きろ



俺を好きだった気持ちを嘘にしたくないならまた人を好きになれ



俺が好きだったことりの笑顔で生きろ



俺から


自分から逃げんな



わかった…?』




そういうと望くんは私を両腕にギュウっと抱き締めた




そして小さく短いキスをした



『行くわ、ことり



時間だ




今話したこと忘れんなよ?



今度アホなことしたら化けて出てやるからな』




望くんはいたずらっぽい顔でまたクシャクシャな笑顔を作った




『やだ…待って…』



追いかけようとする私に望くんは首をふって制止する



『ここからはくんな』



そう言って私に背を向けた




背中には二枚


白い羽がついていた



『天国でもどうもじいちゃんやばあちゃんがいっぱいいるみたいでさ



ヘルパー大募集だってさ



だからもう行くわ




ことり



自分に嘘はつくな



自分の目を信じろ



お前ならできる』




望くんはそう言うと背中の羽を大きく動かした

No.375 10/03/14 04:42
モモンガ ( PZ9M )

目の前が白い羽で一瞬見えなくなった



目を細めた先には大きく羽を広げた望くんが『さよなら』

と…



そう言いながら飛び立つ姿が見えたような気がした




金色に辺りが輝きだし眩しさにまた目を細めた



私はそのままの体勢で転げ堕ちるように



深い底へと体ごと下へ落ちていった…






次に目が覚めたのは白い天井が見える医薬品の臭いがする病院の一室だった



身を乗り出したお父さんとお母さん



そして




傍らには有道先生がいた




『な…?



どうして…』



私が口を開くとお母さんが一気に顔を高揚させて泣き伏せた



あまりの泣き声に驚いたが



お母さんの体の重みで左腕の痛みを再び確認することができた




そっか…


私、死のうとしたんだ…



お母さんの横でお父さんも黙ったまま声を出さずに泣いている



『お母さん…



お父さん…』



思わず涙がでそうになった




ベッドの右側にいた有道先生が口を開いた

No.376 10/03/14 04:51
モモンガ ( PZ9M )

『気がついてよかった…



生きていて…』




有道先生は店に今さっきまでいたかのような姿で私の右手を握った




『なん…で?』



顔を右に寄せるとお父さんが口を開いた




『あんまりお前が元気がなかったから気になってお母さんが覗いたんだよ



そしたらこんな…



気が動転してうまく救急車を呼べなくて



お菓子の教室に電話して救急車、呼んでもらったんだよ』




それで先生が…




そっか…




再度顔を右に向けると有道先生の目から涙が溢れていた




『こんな事…


もう二度としないでくれ…』




そういうと握った手に少し力を込めた




私はまぶたを閉じると黙ってうなずいた



傷は思ったより深くなく発見も早かったため




私は念のためにともう1日入院しただけで次の日には退院していた

No.377 10/03/14 05:21
モモンガ ( PZ9M )

退院の日病室には両親が迎えにきてくれた

手首に巻かれた白い包帯はまだ生々しいが一刻も早く家に帰りたい気持ちでいっぱいだった


久しぶりの自分の部屋はあの日のままだった



脱いだ服とカバンがあり、そして…望くんの携帯電話も



恐る恐る電話を開くと


そこにはもう未送信メールはなかった


私が読んでいるうちにうっかり消してしまったのものかも知れないが、望くんが『言いたい事は全部言ったから』…って


あえて消してしまったのかもしれない



そんな事を考えたりした



ふと見ると

ベッドの上には見知らぬ箱が1つ置いてあった


宛先はわたし…


送り主は…『加藤隆利…?』



住所を見ると望くんのお父さんからだった


中には


『ことりさんへ


これは息子が渡航する前に私が預かった荷物です

もし万が一自分に何かあったらあなたに渡してくれと頼まれました


息子の気持ちです受けとってやってください

加藤』



包みの中には白い便箋に達筆な文字で書かれた手紙が入っていた




中身は長細い筒のような段ボールの箱ねような箱だった

No.378 10/03/14 05:46
モモンガ ( PZ9M )

『なんだろう…』



左手はまだ痛むので左脇に包みを抱えながら右手でガムテープをゆっくりはがしていく





中身は画用紙だった



中を空けると一枚



色んな色鉛筆で書かれた文字でこうかかれていた




『卒業証書



中村ことり殿



あなたは今まで沢山努力をしてがんばりました




そして俺と出会いました



これからも頑張れば今まで以上の幸せをつかめるとここに宣言します




2010年3月




加藤望より卒業して下さい





これからのことりの幸せを願います



2007年3月



加藤望』





名前の下には『よくがんばりました』のピンクの桜マ―クのシ―ルが貼ってあった




私は何回も何回も書かれた言葉を繰り返して読んだ



彼はどんな気持ちでこれを渡航する前のあの病室で書いたのだろう




もしも自分が死んでしまったあとに



私が行き詰まらないように




私が迷わないように…




それだけのために…




くせのある右上がりの文字をゆっくり指でなぞった




ポタポタと卒業証書が水玉模様になっていく

No.379 10/03/14 05:59
モモンガ ( PZ9M )

それは望くんが死んだと聞いてから私が流す初めての涙だった




どんなに自分が愛されていたか



どんなに優しい人だったか




どんなに素敵な恋だったのか




それに初めて気が付いたのに



彼はもう



どこにもいなかった




声を上げて涙が渇れるまで泣いた




まぶたの裏では望くんが優しく笑っていた




生きろと



生き続けるんだと



私に命をかけて教えてくれた恋だった




こんなに人を愛する事ができるんだと教えてくれた恋だった



『望くん


望くん…』



白い卒業証書は私の忘れられない卒業証書となった…






あの日からまたたく間に3年が過ぎた




私はもう25歳になっていた





そして今日26歳を迎える



世の中は大晦日になり町は師走で賑わっている




人も町も活気にみちあふれて輝いている

No.380 10/03/14 06:12
モモンガ ( PZ9M )

私はあれから工房を退社して自分で小さなアトリエを持った



もっと本格的にガラスを学ぶためにイタリアに飛んだ



以前から気になっていた作家の工房に弟子入りを志願した



勿論イタリア語なんて話せるわけもなく生活は大変なものだった



それでも2年を過ぎたころ作品をギャラリーで発表したりと何とか生活していくだけの力はついていった




くじけそうになるときはネックレスにかけたム―ンストーンの指を空にかざして眺めて過ごした




そして今年の春



日本で個展を開き

小さな店でガラス雑貨を作りながら喫茶店を開くことになった



髪を後ろに束ね


花柄の三角巾をキュッとしばる



店に広がる甘い香りと入れたての紅茶



厨房からは聞き覚えのある元気なおじいちゃんとおばあちゃんの声




そして…



『ことり、イチゴのチ―ズタルトワンホ―ル追加しとくからな』



慌ててショウケ―スにケ―キを収めると慌ただしく車を走らせる





喫茶店の名前は『happy.cafe』



訪れる人がみんな幸せな気持ちで過ごせますように



そんな気持ちでつけた

No.381 10/03/14 06:24
モモンガ ( PZ9M )

右手の薬指には真新しいベネチアンガラスで作った指輪



透きとおった綺麗な蒼


あの日みた海と空を忘れないように…




ねぇ




望くん



今私はどんな顔で笑っていますか?



あなたが示してくれた幸せに進めていますか?




私の前には今道があります




生きるという人生の 道




時には厳しく
時には楽しく



積み重ねて
失敗しながらも



私はまた生きていきます




望くん

あなたに会えてよかった


いま心からそう思うよ



しあわせの線
しあわせの形
しあわせの色



みんな重なると笑顔になるんだね




あなたに会えたから私は気づいたんだよ



心からありがとう



ハッピーバースデー


新しいわたし



これからも沢山の笑顔を作っていけるように空から見ていてね

No.382 10/03/14 06:31
モモンガ ( PZ9M )

また新しい笑顔が店の中にはじける



『いらっしゃいませ!ようこそ』




道に迷ったり
自信のない方はいませんか?



そんな時にはぜひ当店へ



暖かい紅茶と
とびきりのケ―キでしあわせな気持ちになっていきませんか?




厨房の新婚おしどり夫婦も待っていますよ



スタッフ一同お待ちしております




中村ことり




2010.3.14




P・S
素敵なホワイトデーをお過ごしくださいね





(fin)

No.383 10/03/14 06:39
モモンガ ( PZ9M )

(あとがき)



みなさま


なかなか進まない更新にお付き合い頂き



遅筆で粗末なお話に最後まで目と耳を傾けて下さりありがとうございました🙇💦



お話を書きながら本当に色んな事を思い


考えました



人間だれしもいつもハッピーではありません



でもずっと不幸せでもありません



生きていく力は誰しも持っている最高の力だとももんがは思います




とりわけ最初からリレー形式で始め



参加して下さったみなさんにも心からありがとうございます🙇💦




今後は休止している『山川弘美の日常』を開始したいと思います



待ってくださっている方



レスを下さった方



お待たせいたしました🙇💦



そして『しあわせいろ』を読んで下さった全てのみなさんに感謝を込めて…😺❤



2010.3.14


🌱ももんがより🌱

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