注目の話題
背が高い事で仕事で怒られました。
初めて会った彼に体型の事を言われました、、、
仕事を辞めると言う時期

お題リレー短編小説

レス500 HIT数 33305 あ+ あ-

高校生さん( 10代 ♂ 7JsUh )
11/06/24 14:02(更新日時)

普通のリレー小説では無いんですが!
お題リレー小説をしませんか?

つまりお題に沿った超短編小説(小話)を書きます。
書き終われば何か1つお題を出して次の方に回します。

お題をもらう。

お題に沿った小説(小話)を書く。

次の方にお題を出す。

こう言った感じです。
俳句や短歌、ポエムなんかでも全然OKです
尚、出すお題については“なるべく”自分の書いた話しに関与している物にして下さい。
例)
―――――――――
「もらったお題(タイトル)」

************
************
************



「渡すお題(タイトル)」
―――――――――
注)物語が終わらず続く物は禁止です。かならず1レスで物語を終わらせましょう。

お題をタイトルにしましょう。

お題(タイトル)は物語の初めに必ず書いて下さい。次に出すお題(タイトル)も物語の最後に必ず書いて下さい。

では、スタートです。

初めのお題「秋」

No.1160585 09/09/05 05:50(スレ作成日時)

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No.351 10/11/09 03:22
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 349 【婚約指輪】 嵐の晩、海辺で宿を開く寡婦マリアは若者を一人泊めた。 翌日、レオと名乗る若者は言った。 「暫く、ここで働かせて下さい」 「こ… [海]

台風が近づいて来ると

いつもは穏やかな海が
もう1つの凶暴な顔を見せる。

煽られるまま踊らされる
荒れ狂う海に向かって

次々と
嬉々として
飢えたサーフボードが
荒ぶる海へと飛び込み
より危険で
うねる高波を求め
征服して行く。

人間が自然に
無謀にも挑戦する様子に

海は
一袖でモノともせずに
容赦なく襲いかかり
一瞬にして引き離された
サーフボードと人間が
宙に舞った。

「あ~あ‥
やられちゃった」。

はぐれた相方を抱えながら
浜辺に戻ってくると

我も我もと
うねる危険な高波を
征服し続ける
貪欲な彼らに
「浜辺に上がれ」の
合図を送った。

合図を見て
次々と潔く浜辺に上がる彼らが

いよいよ荒ぶる海を
いよいよ危険で高くなる波を

「まだまだ足りない」。
名残惜しい思いで
海を見つめていた。



次は「潔さ」。

No.352 10/11/09 03:27
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 351 次の方へ

陽子さんの
お題で
お願いします🙇

No.353 10/11/09 21:44
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 352 【オリオンビール】【潔さ】

「乾杯!」
慶彦と香奈はジョッキをかち合わせた。
「泡盛もいいけど、やっぱオリオンだな」
「披露宴で潰れないでよー」

「ご結婚のお祝いですか?」
不意に、隣席の青い目の老人が尋ねた。
「ええ」
随分達者な日本語だと訝りつつ、香奈は頷く。
「私からもお祝いを」

《8時のニュースをお伝え致します。》
《先月拘束中のナポリ署から逃走した怪盗ブルー・オリオンことレオ・フェリーニ容疑者の使用したヘリコプターが、アドリア海沖に残骸となって発見されました》
《フェリーニ容疑者の行方は依然として不明です》

「ありゃ、生きてねえな」
TVを眺めて慶彦は呟いた。
「あの、どちらからいらしたんですか?」
香奈は老人に目を向けた。
「ナポリです」
「ブルー・オリオンの噂って何か聞きました?」
「いや、ただの馬鹿ですよ」
老人は苦笑する。
「罪を潔く認められないと、一生孤独に逃げ回ることになる」

《もしも、君じゃなかったら、こんなに愛せない》

酔いの回った慶彦が不意に歌い出した。

「お二人はどうぞ、お幸せに」

老人は微笑して香奈に告げると席を立った。

次は【逃走】

No.354 10/11/09 23:38
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 353 【逃走】

ウェンディングドレスと白いヒールで走りながら、
『ここ坂ばっかり』


今日は今日子と徹也の結婚式。
高台にある教会で挙式し、教会内で披露宴も開かれる。


その教会から、今日子は逃走した。
2週間前に、2年前に今日子を振った章から突然電話が来た。

『今日子、あの時は新入社員として必死で、今日子とのこと考えられなくなって、逃げたんだ。でも今日子のことはずっと想ってた。
今日子が結婚するって友達経由で聞いて、後悔した。
今日子、俺、おまえを愛してる。あの時と変わらず愛してるんだ。
俺と結婚してくれ!』

今日子はウェンディングドレスの裾を持ち上げ、必死に走った。
自分が徹也と徹也の家族に、そして自分の両親に酷いことをしていることは分かってる。
しかし、教会の厳粛な空気に触れた時、一番好きな人と居たい。
そう思った私が徹也さんと結婚する資格はない。

そして教会から逃走した。

これから先のことは分からない
しかし今日子は坂を必死で走り続けるしかないと思った。

次は【坂】

No.355 10/11/10 01:40
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 354 【坂】
「本当に申し訳ありません」
花嫁が式場を突如逃げ出し、残された両親が土下座する。
「謝らないで下さい」
新郎の徹也は寂しげに笑った。
「今日子さんの気持ちが一番大事ですから」

「あたしは許さない」
明日香は幼い顔に涙を浮かべて言った。
「お姉ちゃんを探して取っ捕まえてくる!」
言うが早いか水色のドレスの背を見せて走り出す。
「明日香ちゃん、ダメだ!」
白タキシードの徹也が後を追う。

「あいたたた…」
少女は石段の途中でドレスのスカートを広げる様にして転んだ。
「大丈夫かい?」
「捻挫しちゃった」
「慣れないヒールで走るからだよ」

徹也は明日香の靴を拾い上げて履かせると、ドレスに着いた砂を払った。

「じゃ、戻るよ」
「私、もう歩けない」
「仕方ないな」

徹也は明日香を背負う。

「戻ってどうするの?」
「式は中止と皆に伝えるよ」
「恥ずかしくない?」
「そりゃ辛いさ」
徹也の背が震えた。
「でも、僕まで逃げるわけにいかない」

それきり徹也は黙って坂を上り続ける。

明日香は白タキシードの肩にそっとピンクのキスマークを付けると、何も言わずに頬を寄せた。

次は【妹】

No.356 10/11/10 03:07
pure ( ♀ dKpJh )

>> 355 🎵【妹】
妹の明日香は、姉の婚約者徹也が好きだった。姉は過去に二人の彼氏を親に紹介した。一人は大学生の時、そしてその次に連れてきたのが徹也だった。
大学生の時の彼は、明日香もまだ小学生だったからよく覚えていない。

正直、徹也を見た時、何でお姉ちゃんばかりもてるのだろうとしゃくにさわった。
だけど、お姉ちゃんも大好きだから、幸せになって欲しいと思ったし、徹也と兄妹になれることで良しとしようと言い聞かせていた。

ところが、結婚式当日に、姉の今日子はウエディングドレスのまま、教会から走り去ってしまった。
兄妹になる夢も潰えて、なおかつ、大好きな徹也に恥をかかせた姉を憎いとさえ思った。

両親の憔悴しきった表情。徹也の親族の怒り。映画のような出来事が、まさか身内に起こるなんて、誰が想像出来ただろう。まるで悪夢のような1日になってしまった。

明日香は
「ごめんね、お姉ちゃんがバカなことして。本当にごめんね」と泣きじゃくった。

「いや、今日子が元カレに未練があるのはわかってたんだ」
徹也は苦笑いでそう答えた。

次のお題は
【未練】

No.357 10/11/12 01:16
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 356 【未練】
白いウェディングドレスの今日子がベールを棚引かせて逃げていく。
全速力で追い掛けてベールを鷲掴みにし、石段から突き落とす。
足を挫き怯えている彼女を捕え、ドレスを引き裂く。

「また、この夢だ」
目覚めた徹也は汗を拭う。

「徹也さん!」
姉妹でも性格は全然違う。明日香の笑顔を目にした徹也は思う。
今日子は内気だったが、この子は直情だ。
「いきなり呼び出してごめんなさい」

「で、君もK大の英文科に進みたいの?」
もうこの子もそんな年か。
「ええ。だから色々聞きたいと思って」
あの時はまだ子供だったのに。
「僕が受験したのはもう十年も前だから、参考になるかなあ」
徹也は苦笑いする。俺も年を取った。

「お姉ちゃんにね、赤ちゃんが生まれたの」
明日香がカップに目を落としたまま不意に言った。
「旦那さんそっくりの男の子」
「そうかい」
徹也は圧し殺した声で答えた。
「おめでとう」

「徹也さん!」
徹也は足取りを早めた。

「徹也さん!」
徹也は涙が溢れるまま振り向かずに進む。

「置いてかないで」
明日香が泣きながら抱きつく。

二人はそのまま動かなくなった。

次は【情】

No.358 10/11/12 05:12
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 357 【情】
挙式間際に、花嫁になる筈だった今日子に逃げられた徹也は、時が過ぎてもなかなか立ち直れずにいた。

そんな徹也に、今日子の妹の明日香が、少女のセンチな想いからなのか、恋心を抱いているのを、徹也は感じていた。

明日香から今日子が母親になったと聞き、抑え切れず涙が溢れてきてしまった。

それを見た明日香が駆け寄り徹也を抱き締めた。

『俺は何やってんだ!
いつまでこんな未練たらしいことしてんだ!
少女の情にすがるな!』

徹也は明日香の手を外し、笑顔で
「明日香ちゃん、ごめん。大丈夫だから。
実はね、最近僕にも気になる女性が現れたんだ。
同じ課の人でね。
これからデートなんだぁ~。
今度は幸せになるよ!
今まで心配してくれてありがとう。
明日香ちゃんも、大学行ったら彼氏見つけなよ。受験頑張ってね!
じゃあ、行くわ!
元気でね」


呆然としている明日香に背を向けて、徹也は歩きだした。


『本当に彼女見つけるか!
明日香ちゃん、ごめんな!』


明日香の初恋は終わった。

次は【初恋】

No.359 10/11/12 08:07
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 358 【初恋】
「エミール、遊ぼうよ」
僕が声を掛けると彼は笑顔で頷いた。
「ゼルダの家に行こう」
「そうしよう」

ゼルダは僕らのクラスで一番可愛い女の子だ。お母さんは早くに亡くなっていて、お父さんと年の離れたお姉さんのエレナと住んでいる。

遊びに行くと、お姉さんと焼いた美味しいパイやケーキをご馳走してくれる。
エミールに一度連れてってもらってから、僕もゼルダとパイを目当てに毎日行く様になった。

「お邪魔します」
家に行くと、姉妹の他に、背広の若い男がいた。
「姉さんの婚約者のアルベルトさんよ」
大人っぽいよそ行きの服のゼルダが言う。
いつもと違い綺麗に化粧したエレナも男に笑顔で僕らを指し示す。
「ゼルダのお友達なの」

「まあ、エミール」
ゼルダが綺麗な眉を吊り上げた。
「膝が破けてるじゃない」
「うるせえやい!」
エミールはゼルダの頬を平手打ちすると走り去った。

「あの位でぶつことないじゃないか!」
エミールは僕の言葉に首を振って啜り上げた。
「姉さんが、僕のエレナ姉さんが結婚しちゃう…」

その時初めて、僕は彼ゼルダの家に毎日通っていた理由が分かった。

次は【パイ】

No.360 10/11/12 08:42
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 359 【パイ】

ランドセル揺らして早紀が家に帰ると、甘い良い匂いがした。

「ただいま~!
お母さん!お母さん!何かすっごい良い匂いがする~!な~に?
何?」

「アップルパイ!」

母の文枝が嬉しそうな顔で答えた。

「アップルパイ?
えっ!どうしたの?」

「お母さんが作ったのっ!」

「えーっ!お母さんが?!」

「そうよ!」


町の婦人会で、陶器で作る講習会があったそうで、文枝は陶器を購入してアップルパイを作って来たと言う。


早紀は嬉しかった。
文枝はお菓子作りなど今までしたことなど無かったから。

アップルパイはとても美味しかった。

しかし、後にも先にもそれ一回だけ。

早紀は思った。
『あの陶器買わされたんだ。お母さんには無理だったな、やっぱり』


少し自慢そうにしていた母は可愛かった。
青い陶器と一緒に当時を思い出す。

「アップルパイ出来たよ~」
早紀は娘達を呼んだ。

次は【手作り】

No.361 10/11/13 20:16
pure ( ♀ dKpJh )

>> 360 🎵【手作り】
はるか昔の遠いお話。
今はお金さえ有れば、何でも買える時代になってしまったけど…おばあちゃんが珍しく、自分の若い頃の話を始めた。

子供の頃は、洋服も仕立て屋さんがあって、好きな生地を買って作って貰ったのよ。
編み物だって、編み物棒を使って、セーターやマフラーも手作りしたの。
好きな彼が出来たら、みんな学校の休み時間を使って、編み物をしたわ。
おばあちゃんは、遠い昔を思い出すように、私に語りかけてくれた。

そうそう、
何か思い出したのか、タンスからゴソゴソと何かを持って来た。

ほら、あった、あった。
それは深緑色をした手編みのセーターだった。
これはね、おじいちゃんと婚約して(お見合いだったらしい)クリスマスプレゼントに編んだ物なのよ。おじいちゃんが喜んで、デートの時はそれを着てくれたらしい。

そう言えば、手芸屋さんも見かけなくなってしまった。


おばあちゃんとおじいちゃんの生きてきた時代。素敵な思い出を語るおばあちゃんに、私は自分のルーツを感じずにはいられなかった。

次のお題は
【ルーツ】

No.362 10/11/13 21:16
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 361 【ルーツ】
「馬鹿!どうしてインクを目に入れたりしたの?」
母さんは切れ長の目を吊り上げて、あたしの頬を打つ。
「小蓉(シャオロン)、見えなくなったらどうするの?」
黒い目が今度は潤む。
「もううちにはお金がないのよ」
「母さんと同じ目になりたかったんだもの」
あたしを見詰める奥二重の両目が瞬く。
この切れ長の黒い目の、奥二重の瞬きが、あたしの一番欲しいものだった。

緑の目をした爺さんと屋敷で暮らしていた頃、母さんはいつも絹の旗袍(チャイナドレス)に翡翠の耳環(イヤリング)をしていた。
屋敷に来る客は口々に母さんの美しさを誉めそやし、特にその目を「蘇州美人の瞳」だと称えた。

母さんと二人で狭苦しい部屋に住む様になると、爺さん譲りの幅広い二重瞼に、茶緑の目をしたあたしは、近所の悪ガキや、下手をすると大人にまで、「アイノコ」「狼の目」と石をぶつけられる様になった。

「あたしの目、どうしてこうなの?」
「お父様に似たのよ」
「ずっとこうなの?」
「いいえ」
母さんの黒い目が瞬く。
「大人になれば変わるわ」

あれから十余年。絹の旗袍で着飾るあたしの目は茶緑のままだ。

次は【瞳】

No.363 10/11/14 03:16
彬かな遊の好き ( rOBIh )

>> 362 【瞳】


黒い瞳が二つ。
黒い瞳が二つ。
黒い瞳が一つ。
黒い瞳が……消えた……














紅い唇。










【おやすみ】

No.364 10/11/15 01:29
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 363 【おやすみ】
「どうすれば、僕が本気だと信じてくれる?」
「もし、今日から百日間、毎晩、『おやすみ』を言いに来てくれたら、」
美月は草平に言いました。
「その時は貴方のものになるわ」

十夜目。満月の晩。
「思ったよりしぶといのね、貴方」
「君が言い出したことだよ、おやすみ」

三十夜目、雨の晩。
「びしょびしょじゃない、まるで濡れ鼠だわ」
「このくらい平気だよ、おやすみ」

六十夜目、風の晩。
「今日は市長様の息子とお食事したの」
「それじゃ疲れただろ、おやすみ」

九十九夜目。
「いよいよ、明日が最後ね」
「そうだね」
草平は優しく笑いました。
「よくおやすみ」

百夜目。
高く上った満月の下、美月は寝巻き姿のまま一人浜辺までさ迷い出ました。

「草平!」

船着き場の小船に横たわり、目を閉じた草平の顔は、いつも「おやすみ」と告げる時の様に穏やかでした。

冷たくなった手には、飲み干した毒薬の瓶が固く握られていました。

「どうして?どうしてなの?」

浜辺では、花開いたばかりの月見草が揺れていました。

次は【月夜】

No.365 10/11/15 19:12
彬かな遊の好き ( rOBIh )

>> 364 【月夜】


明るい夜道に退屈していた君の細い目が前髪のすぐ上に満月を見つけてびっくりする。夜空をくり貫いている月光が網膜の隅々まで行き渡り、眼球は光に満たされた。
「ウァラ、ビューーティフォ」
人間はすべて嘘だ。下界で一生嘘つきの伴奏を無理に続けなくてもいい。満月の夜の透明な光に食い殺されたらしまいにできる。小さく張り詰めた孤独な胸を真正面から咀嚼してくれ。
顎が夜空へ昇る。君は咽に溜まっている月の光子を飲み込んだ。
優しい自分の影をパートナーに、出会いと別れのワルツを踊り始める。
「ム~ン ウリヴ~ ワ~イダンナダサ~」
2010年12月21日、たぶん君は秋に見た夕焼けの方角を一瞬見上げ、最新の夜を受け入れると、体が覚えたコースで家へ帰って無難に就寝する。
19年前の1991年12月21日の月食を見たのか。
19年後の2029年12月21日の月食を見るのか。
携帯か手帳を開いて、今年の12月21日は早めの夕食に、満月をレアで食べる予定を入れて置いてくれないか。
遅れてもいいけど先にやってるよ。
「ユ~ アン ミ~」



【毛ガニで朝食を】

No.366 10/11/15 22:07
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 365 【毛ガニで朝食を】
「小偉(シャオウェイ)、明日の昼は、」
仕事帰りに、達哥(ダー兄貴)が呼び掛けた。
「華姐(ホア姐さん)が上海蟹をご馳走してくれるそうだ」
「本当ですか?」

「やったぜ!」
広東(カントン)から上海に来て半年。
そんな珍味にありつけるなんて、ついてる。

「ここを掻き出して、味噌に付けて食うんだ」
達哥の言葉に俺は皿の上の毛ガニを見下ろして愕然とする。
食べられる部分って、まさかこれだけ?

「今が丁度食べ頃なのよ」
上座で華姐は箸で器用に蟹の肉を摘まみながら微笑む。
「あんた、もっと綺麗に食べなさい」
肉の掻き出しに苦戦していた蓉蓉は赤くなった。

「とっても美味しいです」
俺はそれだけ言うと後はひたすら茶を腹に流し込んだ。

空きっ腹を茶で誤魔化した昼が過ぎて夜になったので、舞庁(ダンスホール)に行く。

「顔色良くないな」
俺は踊りの相手になった蓉蓉にそっと耳打ちした。
「朝から、あれしか食べてないから」
彼女は俯く。
「俺が偉くなったらさ、」
俺は囁いた。
「デカい上海蟹を腹いっぱい食わせてやる」
彼女は微笑んだ。
「きっとよ」

次は【約束】

No.367 10/11/16 06:29
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 366 [約束]

サクッサクッ‥

白い砂浜に
今だけ残る足跡を
綴って
歩いて
風の一扇ぎが瞬いた。

「お願い‥少しだけ待って‥」。

サクッサクッ‥

戯れる風の扇に
逃げない足跡が
震えて綴り返す砂浜に
約束の時まで続いて行く。

「あの人との約束の時までに
私が此処に居る事があの人に
わからなければ」。

「あっ‥」。
気紛れに煽る風の扇が
一瞬で吹き消した。

サクッサクッ

「えっ‥」。

風の中から
自分とは
明らかに違う足音が
白い砂浜に重なる

約束の時間がやって来た。


次は「足音」。

No.368 10/11/16 14:56
pure ( ♀ dKpJh )

>> 367 🎵【足音】

終電に乗って、帰宅途中。いつもなら最寄り駅からタクシーに乗るが、今夜はほろ酔い気分で歩くことにした。
コートのファーが首元を暖かく包む。ブーツの足音がパンプスとは違った足音を奏でる。

息子はもう夢の中…おじいちゃん、おばあちゃんの間に挟まれて、スヤスヤと眠っていることだろう。

女が子供を抱えて生きていくのは結構辛い。仕事は仕事。私情は挟めない。子供を理由に、仕事を休んだり出来るのは、いつでも辞められる既婚者だけだ。

私は、息子が自立出来るまで、いや、息子が自立した後も私自身が自立し続ける生き方をしなくてはならない。それがせめてもの息子に対する償いなのだ。

結婚を選択したのも、離婚したのも自己責任に他ならない。時過ぎて、離婚から得るものより、失うものが大きい気持ちに苛まれる。

夜道を歩きながら、あなたのためならママは頑張れると言い聞かせて、足早に歩く。

商店街の街頭に照らされた自分の影は、何故か自分の心を表現するように様々な形に変化する。

「ただいま」
囁く声で帰宅し、すかさず息子の寝顔を見る時、明日への鋭気を養う自分がいた。

次のお題は
【鋭気】

No.369 10/11/18 01:54
彬かな遊の好き ( rOBIh )

>> 368 【鋭気】
「聞いて下さい」
長靴で詰め寄る新進気鋭の女記者は靴音まで攻撃的だったのでボスはほんの一瞬目を合わせるとすかさずファイルの横に押し込まれていたビニル袋をまさぐり出した。
「杏子ちゃん。英気を養ったらって話ししただろ」
毛沢東主義者の鬼編集長が手渡してきたものは箱入りポッキー烏龍茶味?
機械的に口をついた有難う御座いますの後の沈黙が杏子の鋭気をくじいた。
「なんだっけ。子供の名前」
「私のですか」
ボスの表情は楽しそうだが、杏子の返事はアレキサンダーではなく溜め息だった。
「それ開けないの」
ボスはPを取り返すとバリリッと一発開封し常習者の手口で次々に小袋を切り開き、枝豆ペースで頬張っていく。Pゲームで出世したこの元革命家がケータイとマウスとPPに囲まれた小スペースでお菓子の外装を平たい資源ゴミに変えようと画策し始めた時、これが洗脳された人間の姿だと察した。
「…人よりおカミを信じて…世界が…地球が…」
その夜も杏子は我が子の肉体的実在感に愛を感じるばかりで、自分の施す常識がアレキサンダーを政府の子供へと作り変えていることに気がつかなかった。

【地球破滅型新聞】

No.370 10/11/18 03:37
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 369 【地球破滅型新聞】
《2099年4月1日午前、全世界で津波と洪水発生》

助手席の彼女は一面の見出しを読み上げると、つまらなそうに新聞を折り曲げて後部座席に放った。

「おい、折角買ったんだから最後まで読めよ」
運転席の彼がたしなめる。
「インク臭いし、一面のCG写真からしてチープ過ぎるわ」
彼女は欠伸する。

「ま、確かにネタからして去年の使い回しだしな」
彼も呆れた様に息を吐く。
「新聞なんてエイプリルフールしか需要ないんだから、もっと気合い入れて作りゃいいのに」
「お爺さんたちのボランティアだから仕方ないわよ」
「あと十年もしたら新聞作れる人もいなくなるな」
「絶滅危惧種ね」

「綺麗な海」
車窓の外に視点を移した彼女が言う。
「ああ」
言いながら、彼は訝る。
さっきより、水平線のが高くなった気がする。

「ホテルまであとどのくらい?」
「このトンネル抜けたらすぐ…」
前を向いた彼は、彼女の問いに答え掛けて凍り付いた。

二人が最後に目にしたのは、トンネルから流れ出した大量の水が、先行車を飲み込み押し寄せてくる光景だった。

次は【洪水】

No.371 10/11/18 10:06
pure ( ♀ dKpJh )

>> 370 🎵【洪水】
父の故郷に遊びに行った時だ。ちょうど夏祭りがあり、山車が出るので出かける準備をしていた。

折しも、昼間はうだるような暑さ。
「こんな日は必ず夕立が来る」
北の山にかかる雲の形を見て、父は幼い頃の記憶を蘇らせて私に言った。

まるでその言葉を待っていたかのように、ポツポツと小雨が降り出し、あれよあれよと言う間に雷雨がひどくなった。

父の実家は、利根川に面していた。まだ河川の整備もままならない時代。
この日はどういうわけか、夕立では済まなかった。川は濁流を形成し、河川敷の車も飲み込む洪水へと化した。

地方テレビはその様を実況し、地元の有線では避難勧告を呼びかけ、けたたましい消防車のサイレンが遠くで聞こえる。

父の実家も、あっという間に浸水し、風呂やトイレの排水がプカプカと浮いたのを記憶している。

父の実家は自然災害から持ちこたえたが、ある家は、思い出のアルバムさえ流されたと言う。

その後、ダム建設のラッシュで、今では氾濫するほどの災害は免れているようだ。しかし結局のところ、人間は自然の猛威には逆らえないものかもしれない。

次のお題は
【アルバム】

No.372 10/11/18 13:00
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 371 [アルバム]

アルバムの1ページ には
産まれたばかりの私

ゆっくりと
ページをめくる毎に
写真の中の私が成長していく

「こんな格好してたんだ」
「此処って
まだ残ってるかな」

懐かしハズかし

色褪せた写真が
投げかける今の私

「まぁま~
なぁに、見てるの?」
小さな頃の私を
小さな私の娘が覗き込む
ずっしりと重いアルバムには

今だから
今でないと
わからない1ページがあった。


次は「懐古」。

No.373 10/11/19 12:31
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 372 [懐古]

チリンと鳴ってドアが開く
「いらっしゃいませ」。

ご主人が
アンティーク達と共に
上品な微笑みで迎える

「窓際のベネチアングラスを」。

「こちらですね
お代は明日で結構ですよ」。

ふと目に止まった
日差しを集めて光る
一対のベネチアングラスに
我を忘れて
店のドアを開けた私は
挨拶もそこそこに
家路を急いだ

何故か
あのベネチアングラスを
独り占めしたくなったのだ

帰宅して
昼間は日差しを集め
夜はキャンドルの灯に
眺めて楽しんでいた

夜も更けた頃
ワインを注がれた
一対の
ベネチアングラスの水面に
アポロンと見紛う
美しい青年が映った

「⁉」

やがて
美しい青年が
グラスの中から
光と共に姿を現し

もう1つのグラスに注がれた
ワインを飲み干した

翌朝
一人で目覚めた裸の私は
ベネチアングラスが
無いことに気付いて
懐古の店に急いだ

「あのベネチアングラスが‥」

飛び込んで来た私に
ご主人の目配せした 先で

昨日の位置のままで
アンティーク達に囲まれた

バッカスと呼ばれる
一対のベネチアングラスが
したり顔で光を集めていた



次は「ワイン」

No.374 10/11/19 14:16
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 373 【ワイン】
「これ、材料変わったのかな?」
ラスクをかじりながら俺は薇薇(ウェイウェイ)に尋ねた。
「ずっと同じだと思うけど」
「そうか」
俺は赤ワインを流し込む。
「何かしょっぱくなった気がする」

「この前久し振りにチョコクッキーを食った時も、妙に苦くなってた」
薇薇が笑う。
「阿建(アジェン)、あんたの舌が変わったのよ」
「昔はこんな美味いもんがあるかと思ったんだがな」
俺はグラスの残りをあおる。

「昔、蓉姐(ロンジエ)の家で摘まみ食いしてよく怒られた」
「姐さんの所で盗み食いなんて命知らずねえ」
薇薇はコロコロ笑った。

「あの頃はとにかく腹が減ってたのさ」
俺も苦笑いする。
「小明(シャオミン)や莉莉(リリ)だって同じだろう」
二人の名が出ると、薇薇の目にも陰が射した。

あの頃に戻りたいわけじゃない。
もう一度、腹ペコの下働きをしたいわけじゃない。
でも、あの頃から失ってしまった何かが、酷く俺を悲しくさせる。

眠らせてくれ…。
俺は涙の出ない目に手を当てたまま、早く寝入ろうと努めた。

暗闇の中、隣の薇薇は、眠っているのかいないのか、顔を窓に向けている。

次は【窓】

No.375 10/11/19 18:52
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 374 [窓]
朝の窓越しのバルコニーに
次々と鳥たちの挨拶が続く
「今日も賑やかね」。

窓に居る
鳥たちの会話に
娘たちも興味深々だ。
「お母さん
カァくん来たよ」。

一羽のカラスが
羽根を休めていると

後から
優雅に降り立った
もう1羽のカラスに
せっせと口伝いに
パンの欠片を
あげている

「カァくんの方が
甲斐性あるのね
行ってきまーす」。

「それにラブラブだわ(笑)」。
‥頭もいいし。

娘たちを送り出した後も

昨日とは違うカラスとの
愛の会話は止むことは無く
鳥たちの会話が続いていた。

朝の窓から1日が始まる。


次は「会話」。

No.376 10/11/20 01:30
みき ( Clg0nb )

★ー『会話』ー★




『あ~!!もうやめろよ~この馬鹿!』

『うるせーかす』

『ノート返せってばこの馬鹿野郎』

『奪えるもんなら奪ってみやがれ~』


この呆れる位,定番な言い合い。


・・・ねぇ何がそんなに楽しいの?

そんなに笑える事なの?





,...ねぇーっ


どうしてあなたは喋れるのに
私は声が出ないの?



私に声があったらあの女から,彼を奪えるのに。

私に声があったら
あの子みたいに,何でもない事も
笑い合えたのにな。




そう...私はまるで人形。

ただ
彼を見つめるだけ。


ねぇー...
私も喋りたいよ。

触れたいよ。


あなたが...
好きだよ。






そう思ってたら
彼が急に私の元へー


『どうしたの?』
私は心の中で彼に問いかけた。



彼は言った。
夢のような言葉を私に。


・・・・
好きだよ。




だって。


世界が...
昨日までの景色と違うキラキラした世界に一変した。




お題→『世界』

No.377 10/11/20 15:28
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 376 【世界】
《花の様な時代(花様的年華)》

どこからか聞こえるレコードの高く甘い裏声。

これはきっと周旋(ジョウ・シュエン)の歌だ。
当たりを付けながら、あたしは夜の仕事場に急ぐ。

「大世界(ダスカ)」は上海最大の娯楽施設。麻薬、賭博、売春、何でもあり。全てを失って屋上から飛び降りた人間は数知れず。

あたしはその一角で今夜も身をひさぐ。

「今夜は大勝したんだ」
紺地の上着を脱ぎながら客は乾いた声で笑った。
「ここに来るのも今夜が最後だ」
耳元で囁く声に阿片の匂いが混じる。
「運がいいのね」
「今日で一生分使い果たした」

目覚めると男の姿は無かった。
あたしは客が枕元に残した金をバッグに詰める。
いつもの倍は儲かった。

入り口を出ると掃除夫のぼやきが耳に入った。
「また飛び降りかよ」
目をやると、倒れた紺地の背中が目に入る。
「賭けに負けでもしたたんだろう」

あたしは震えを抑えながら、有り金を抱き締めて道を急ぐ。
今日は朝飯にあの子の好きな肉饅頭をたくさん買って帰ろう。

《美しい人生(美麗的生活)》

どこからか、周旋の高く甘い歌声がまた響いてきた。

次は【歌声】

No.378 10/11/20 19:30
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 377 【歌声】

スッスッスッ
足音がして、ドアが開いた。
「拓ちゃん起きて~♪朝よ~♪」

妻の爽子がいつも歌うように起こしてくれる。
僕は彼女の歌声をずっと聴いていたくて、なかなか起きないんだ。
ホントは廊下を急ぐ足音する前から、
いや、彼女がそっと起きて、キッチンに行く時から起きている。

キッチンで彼女は鼻歌を歌うんだ。
毎朝僕は、微かに聴こえてくる歌声を、耳をすませて聴いている。

「もう、遅刻しちゃいますよ~♪拓ちゃん♪」

覗き込んだ彼女の体を、両腕で挟んで
「奥さん、おはよう、今日もよろしく!」
て言うんだ。

彼女は歌うように笑って
「旦那様、おはよう♪今日もよろしく♪」
って、チュッしてくれる。

彼女は急いで息子の純を起こしに行く。

純もなかなか起きない。
奴め甘えてやがるな!

僕の女だぞ!
おまえもいつか良い女見つけて来い!

髭を剃りながら心で呟く。

洗面所に純が来て
「パパおはよう」
「おはよう」

また一日が始まった。
次は【朝】

No.379 10/11/21 14:46
pure ( ♀ dKpJh )

>> 378 🎵【朝】
冬の朝はいつもにも増して空気が澄んでいる。今年初めて車のフロントガラスに真っ白な霜が舞い降りた。

子供を最寄りの駅まで乗せていくのが日課のわが家。冬だけはいつもより早い時間に準備をする。低血圧で寝つきが悪い私は、なかなかベッドから起き上がれない。
「あ~、しんどい」ため息混じりにベッドで少し体を動かして、覚悟を決めたようにベッドを後にする。

夫と子供が朝食を食べている間に、お弁当をサッと仕上げていく。テレビの音がBGM。画面の時刻を気にしながら、それぞれが行動している。
「行ってきます」「行ってらっしゃい」
一足先に出勤する夫を玄関まで見送り、次は子供を駅まで送り届ける。


先日、他県で生活する大学生の娘が帰省した。
駅に迎えに行った私に、雨の日も風の日も送り迎えしてくれたことに感謝とねぎらいの言葉が返ってきた。一人暮らしで、全てを自分でやなければならない日常の中で、当たり前が当たり前ではないことに気づいたと言う。
「こっちはこんなに寒いのね」気候の差に驚いた娘は、懐かしさと自分の環境が違う様を身にしみて感じたようだ。

次のお題は
【感謝】

No.380 10/11/21 16:54
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 379 【感謝】
「パパ、お小遣いありがとう!」
リサは貰ったばかりのバッグに入れると、玩具売り場に走った。

「持ってるのばっかり」
リサは軽く失望する。金髪碧眼にドレスを着たバービーなら、もう何人も持っている。

と、褐色の肌に黒い瞳の人形が目に入った。
これは持ってない!

「ちょっと、それ、私のよ!」
「僕のだい!」
褐色の肌をした少年は大きな目でギョロリと睨む。
「ずっと欲しかったんだ」
人形の箱を手に一目散にレジに走る。

「坊や、あと一ドル足りないわよ」
錆びたコインと皺くちゃの紙幣を数え終えた店員が告げる。
「そんな…」
「これで足りる?」
リサは真新しい百ドル札を一枚出した。

「どうもありがとう」
少年は寂しげに笑うと、綺麗に包装された箱をリサに差し出した。
「これは君のだよ」

「どうして男の子なのにバービーを欲しがるの?」
「妹に上げたかったんだ」
少年は目を伏せる。
「バーゲンでもなきゃ買えない」

「何も買わなかったのかい?」
父親は車のキーを挿し込みながら、リサに微笑む。
「うん」

リサの視線の先では、箱を抱いた少年が笑顔で手を振っていた。

次は【バーゲン】

No.381 10/11/21 21:29
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 380 【バーゲン】

美千代は若い頃、バーゲンで品物取り合うおばさん達を見て、
『逞しいなぁ、私には無理だわ』
と思っていた。


そんな美千代も結婚七年目にして、バーゲンに赴くことになった。
主婦は独身の頃のように自由に買い物など出来ないのだ。


今日は、デパートの特設会場で子供服、婦人服、紳士服にバッグ、靴、ベルト等のバーゲンがある。
広告では、一流メーカーの物ばかりで、安かろ悪かろうでは無いので安心だ。

娘の紗季は母に預けてと思ってたら、紗季が一緒に行くと泣き出し、音無しくすると約束させて連れて来たが、バーゲン会場は長い列、小さい紗季が潰されやしないかと心配になった。
不安そうにしていた美千代に、前に並んだベテラン主婦らしき人が
「会場に子供が遊べる場所があるわよ」
と教えてくれた。

紗季を子供の遊戯場に置いて
「ママ頑張ってくるね!」
とバーゲン場に向かった。

入口で透明の大きなビニールバッグを手渡され、美千代は
「ヨシッ!」と気合い入れ、闘いの場に向かった。

遠くから
「ママ頑張って!」
と紗季の声が小さく聞こえた。

次は【闘い】

No.382 10/11/22 01:43
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 381 【闘い】
「何だよ、その絵は」
パブロは笑って指差した。
「マリーの下手っぴ」
「静かになさい!」
画塾の教師はパブロをいなすが、マリーはうなだれる。
どうして私は上手く描けないんだろう?
「君は君の絵を描けばいいんだよ」
教師は笑って少女の頭を撫でた。

数年後、教師が死んだ。故人はまるで無名だが、新進画家パブロが葬儀に参列したのでちょっとした話題になった。

「先生…」
数日後、マリーは一人新しい墓に花を供えた。
不意に背後から固く抱き締められる。
「君の大好きな先生が死んじゃった」
震えるパブロの声が嘲笑うかの様に響く。
「このゲス男!」
パブロの蒼ざめた頬に赤い跡が付いた。
「二度と私の前に現れないで!」

再び数年後。
「随分偉くなったのね」
画廊を通りかかったマリーは呟く。そこはパブロの絵を見に詰めかけた人々で込み合っていた。

と、シャッターの音とフラッシュの光を浴びながら当代随一の画家が姿を現した。

「マリー!」
彼女は走り出す。
蔑まれるのはもう沢山!
「待ってくれ!」
急ブレーキの音が響いた。

「先生、俺、負けたよ」
天才画家の最期の言葉である。

次は【絵】

No.383 10/11/22 09:29
pure ( ♀ dKpJh )

>> 382 🎵【絵】
10年前のクリスマスに新築の家に越してきた。
その時、まだ幼稚園と小学生だった子供たちと10年後の家族に向けた手紙を書いた。

夫の仕事場の机の奥にしまい忘れたその手紙は、ひょんなことから見つけられ、10年の歳月を経て家族の元に返ってきた。
手紙が汚れないようにビニールで密閉され、「20×年クリスマスに開けること」と主人の角張った字が記されている。

今は、私と夫と次女の3人での生活。

胸の高鳴りを抑えて、長女、長男、次女からの手紙を開いた。
まだ幼児だった次女の手紙は、家族全員と新しい家をモチーフにした笑顔の絵が描かれていた。
作者であった高校生の次女は、いつもは反抗的なのに、クリスマスケーキのろうそくの灯火に揺られ、はにかんだ表情をしている。

10年前の子供たちからの手紙を読みながら、懐かしさが込み上げる。

その時、夫が急に泣きだした。10年前、家族が離れて生活するとは思わなかった。そう言って泣いた。

そんな夫を眺めながら、私はそっと夫の手を握った。

次のお題は
【タイムカプセル】

No.384 10/11/22 18:42
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 383 【タイムカプセル】 父の葬式も済み、今日は実家の整理に向かった。兄達と四人で一日で片付ける予定だ。
一番近い私が、一足先に着いた。
重い開き戸をガタピシさせて、家に入るとひんやりしていた。
雨戸開け、窓開け、空気を入れ
『さぁ、サッサッか始めるか』
台所から始めた。
全て廃棄することになっている。
棚の奥から古い蒸し器が出てきた。
『あっ!』

ランドセル背負ったままの私は、『お母さんお芋蒸したの?』湯気が出てる蒸し芋見て喜んだ。母が『熱いけん気ぃつけないけんよ』

当時の風景がパッと浮かぶ。

蒸し器の側に水筒が有った。蓋に方向計磁石が付いていて、父が写生の時に持って行っていた。私も遠足の時に持たされて、友達の可愛い水筒が羨ましかった。

玄関の開き戸ガタピシさせて次兄が来た。
「おっ!ご苦労さん!」
兄は父の部屋を片付け始めた。ガタガタ、ガタンガタンと音させてたが、静かになった。兄も懐かしい思いが浮かんでいるんだろう。

次々兄達が来て、手分けして片付けた。みんな懐かしい物見つけては、懐かしい話で盛り上がり、片付けが捗らない。

仕方ない、私達はタイムカプセルを開けたのだから。
次は【片付け】

No.385 10/11/22 22:54
pure ( ♀ dKpJh )

>> 384 🎵【片付け】
「いい加減、片づけなさい」この言葉を何回言っただろう。

息子の部屋は、いつもぐちゃぐちゃでどうしようもない。

年頃になった息子の部屋に母親が入るのは愚かだ。体の成長と共に、見てみぬフリも大切。そう夫に促され、言葉だけで促すも、整理整頓が苦手な息子は部屋を片付ける様子も見られない。

「彼女でも出来れば少しは身綺麗になるのかな」そんなことを夫に言ったこともあったが、中高時代は部活に明け暮れ、期待は裏切られ、彼女の存在すら見当たらなかった。

進学先が決まり、生まれ育ったこの土地を離れることになった。

そんな矢先、私は病に倒れ、入院を余儀なくされた。年の離れた妹たちの面倒を見て、家事も率先して協力してくれたらしい。

夫と息子で下宿先を決め、一足先に引っ越すことになった息子を見送るために、外泊許可をもらい自宅に戻って来た私は、久しぶりに家族の団欒を楽しんだ。

出発の朝
「元気でね。無理すんなよ」
息子は私に握手を求め、この地を後にした。

別れた後、息子の部屋に行くと、床まできれいに磨かれていた。
私は寂しさで嗚咽混じりの泣き声をあげた。

次のお題は
【嗚咽】

No.386 10/11/22 23:13
美鈴 ( ♀ V9a6h )

【片付け】

私の片付けはなかなか終わらない。苦手なんだと思う。

毎日続く私の日常。

朝からドタバタ!
「朝だよ!学校!ご飯食べて~」

台所に立つ私の足元に絡みつくネコ。

私が早口に子どもたちにかける声の合間に
「にゃーにゃー」
ご飯の催促。

足を踏まれ、シッポを踏まれ、ときには体を蹴られてしまう。

それでも「にゃー」と鳴かないとご飯はもらえない。

「ちょっと待ってね」
「さっきあげたよ!」
「もう!またナナに食べられてる~」

「ネコにまた怒ってるよ(笑)」
パパや子どもたちが笑って見てる毎日の日常風景。

朝から1つずつ片付けていく毎日の「やること」。


だけど、1つだけ片付けられないものが私にはある。

ここ数年、持ち続けてるこの想い。持ってはいけない恋心。

いつか思い出になることを願い、だけど、消えてくれない。

片付けはやっぱり苦手だ。



次は【苦手意識】

No.387 10/11/23 00:35
pure ( ♀ dKpJh )

>> 386 🎵【苦手意識】

私は恋愛に苦手意識がある。何故なんだろう。

元々活発な方じゃないし、男女関係なく、人間としてどうかってところが重要だと思ってる。

恋愛って面倒くさいし、異性として好きって感情がわからない。だから、まだファーストキスも経験が無い。

友だちは、もうすぐクリスマスだよ?彼氏いなきゃ寂しいじゃん。と言って、血眼になって出会いを探している。

ママに恋愛観を聞いてみたら、自分も若い頃はそうだった。本当に人を好きになるって感情が分からなかったって言ってた。恋愛=結婚みたいな考えの両親に育てられ、思いっきりインプットされたらしい。

そんなママが、私にお願いをしてきた。
もしあなたに彼氏出来て、キスしただのHしただのなんてことは絶対報告しないでって。

何でも相談できる関係だから、ママの口止めが無ければ、私は相談しちゃったかも。

①避妊すること
②自分を大切に、決して後悔しないこと
③相手の親をチェックすること
④惚れられる方が楽
⑤処女は恥ずかしいことじゃない

我が家の恋愛五箇条だと言われた時、私もパパみたいな人と結婚したいなって思ったよ。

次のお題は
【結婚】

No.388 10/11/23 22:07
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 387 【結婚】
「この女の人、シーツを着てるわ」
あたしは額縁の写真を指差して言った。
「小蓉(シャオロン)、それは花嫁衣装よ」
母さんは笑う。
「中国の花嫁さんは紅い服だけど、お父様の国では白なの」
「母さんはどっちを着たの?」
母さんの笑顔が寂しくなる。
「桃色よ」
「変なの」

ある日の朝、あたしは真っ白な服の母さんに起こされた。
「これを着なさい」
服と同じ顔色の母さんは、あたしにも白い服を着せた。

「結婚式に行くの?」
初めての汽車にわくわくしながら、あたしは尋ねた。
「いいえ」
母さんの目は赤かった。
「母さんの母さんが死んだの」

「今更、何しに来た!」
白装束の男は拳を振り上げて怒鳴った。
「私が報せたの」
これも白装束の女が宥める。
「お義母さんだって死に際に逢いたがって…」
「黙れ!」
あたしは初めて妻を殴る男を見た。

「さっさとその餓鬼を連れて帰れ!」
男は忌々しげにあたしを指差す。
「洋人の子は白(バイ)家の者と認めない!」
「解ったわ」
母さんの白い頬を涙が伝う。
「私ももう兄さんとは思わない」

白は、中国では悲しみと喪失の色なのだ。

次は【涙】

No.389 10/11/24 03:25
pure ( ♀ dKpJh )

>> 388 🎵【涙】
更年期かな。時折不安でナーバスになる。

夫の浮気がバレた時、子供の精神的ケアが最優先で、私は気丈に振る舞った。

自分を責め、何故?どうして?と一日中理由を探し求め、結局結論なんて出なかった。

女として自信が持てず、嫁として冠婚葬祭を一手に引き受け、私は夫に利用されていた…そんな気持ちが、心の奥底に眠っている。

冬の寒い夜。泣いて、泣いて流した涙が、寒さでかじかんで、肌が突っ張った記憶。

どうもこの季節になると、それが蘇り、何故か時々泣きたくなる。

夫と買い物に出かけると、いつもさりげなく私の肩を抱く。嬉しい仕草を演技しながら、あの女にも同じようにしたんだろうな…と、こっそり思う。

裏切る者は、自分の過ちを早く忘れる。裏切られた者は、許そうと思えば思うほど、根深い怨念が見え隠れする。

修復を選んだ以上、決してその怨念は言葉に出せない。もし言葉に出せば、今度は人として自分自身の醜さに苦悩するから。だから、黙って耐えなきゃいけない。

冬の夜空を眺める時、私は意味の無い涙を時々流す。

その涙の意味も、その涙さえも夫は知らない。

次のお題は
【修復】

No.390 10/11/25 17:51
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 389 [修復]

ふと
100均で見つけた

黄色のフェルトに
赤色のステッチで包まれて

古いコースターが
新しい顔で
堂々と居座っている

「こんなのあったっけ?」
「リニューアルよ」

無邪気に笑う
彼のマグカップの
尻の下に敷かれた屈辱の続きに

修復された
昔の男からのコースターが

次は
私のマグカップの尻の下に
敷かれる屈辱を
仕方無く待っていた

次は「リニューアル」。

No.391 10/11/28 05:51
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 390 【リューアル】

『へぇ~、ミスティ、リニューアルしてたんだ!オーナーが辞めて閉めるって聞いてたから、もう無いと思ってたよ』

友人の信吾が同窓会の連絡をくれ、懐かしい話で盛り上がった時、ミスティが今もやっていることを聞いた。


ミスティと聞いて
ハートが微かに疼いた。


朋子がジャズが好きだと知って、先輩がピアノを弾いているジャズクラブ、ミスティに連れて行った。
彼女はすっかり気に入り、デートの最後は毎回ミスティだった。
他のジャズクラブに行っても、物足りない様子をしてる彼女に
「ミスティに行く?」と訊くと、即座に
「うん!」と答えた。

彼女とは別れてしまったが、彼女はその後も行っていたらしい。
ミスティは僕の場所だったのに、彼女の場所になってしまった。


リニューアルしたミスティに、彼女は行ってるだろうか?


ミスティ…

行ってみようかな?

やっぱり…止めとこう。

終わったんだ。

次は【ジャズ】

No.392 10/11/28 14:37
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 391 【ジャズ】
「歓迎光臨(フアンイングアンリン)」
いらっしゃいませ、という挨拶を耳にして、朋子は思わず入り口を振り返る。

また違う人だった。

まだ学生にしか見えない若いカップルは、早口の中国語で何事か笑い合いながら、脇を通り過ぎる。

彼がここに来る訳はないのに。
朋子は自嘲的に笑いながらグラスを傾ける。
ここは上海の“Mistery”であって、二人で通ったあの“Misty”とは違うのだから。

ただ、ここでジャズを聴きながらカウンターに腰掛けていると、どうしても彼がやって来る気がする。

この店は流す曲といい、雰囲気といい、あの店にそっくりなのだ。

「歓迎降臨…一位?」
たまに耳に入るのが中国語なのを除けば。

“Misty”は、オーナーも代わり改装したとのことだが、一度も行かないまま上海に転勤した。

毎日、仕事ずくめ…。
朋子が息を吐いた瞬間、ディーン・マーティンの“fly”が着メロ特有の電子音で響き渡った。

「もしもし?」

朋子が携帯電話を取り出す前に、曲が男の声に変わる。

「信吾?俺、今、上海。“Misty”のオーナーが開いたバー、ガイドで見つけてさ…。」

次は【再会】

No.393 10/11/30 19:54
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 392 [再会]

男は以前と変わらず
「黒ビール」を頼む

隣の女は
以前の私と男が通っていた
無国籍料理店で
働いていた女だった

別れ際に約束した
「私と来た店には
他の女とは行かないで」

2人で通った店に
男と
お古を譲り受けた女が現れた

「ここまで
約束を守れない男だったとはね」

男とすれ違う時に
男だけ聞こえるようにに呟く

「裏切り者」

顔形に体型は変われても
変われない以前の私の声が
男を凍り付かせた


次は「声」

No.394 10/12/01 04:20
pure ( ♀ dKpJh )

>> 393 🎵【声】

電話から聞こえる彼の声。低くて渋い声に惹かれるのは何故だろう。

元々、面食いでもなく、人物重視だが、男の甲高い声はいただけない。

お互い仕事が忙しく、なかなか会えない日が続く。夜中の電話デートは、私を癒やしてくれる音色だった。彼のもしもし~って声がたまらなく好き。

久しぶりのデートで、彼と会ってもドキドキしない。だけど、彼の声を聞くとドキドキする。

彼の腕枕で横たわる。耳元で囁く彼の声にゾクゾクする。

私はおそらく声フェチなんだ。彼と出会って、そのことに気づかされた。

メールは嫌い。
だって文字には音が無いから。声の音色、質、抑揚が、私の心を刺激する。

「愛してるよ…」
吐息を含んだ彼の低い声を聞くたびに、私は彼の虜になった。

次のお題は
【虜】

No.395 10/12/01 19:27
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 394 [虜]

玄関の扉を開けた瞬間
迎え入れる
お香の残り香に酔った

お香と出会ったのは
ある店のメイクルームだった

芳しいプライドに溢れた
お香は
私を虜にして
私の部屋の住人になった

今では
堂々と玄関の顔となって
迎える人を
知らん顔で
次々と「虜」にしてゆく

「いい香り‥何の香り?」

「虜」にする人間を
お香の飢えた白い煙が
蜘蛛の糸のように
包み込んでいく


次は「煙」

No.396 10/12/02 16:42
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 395 【煙】
「慮」の字の「思」を「男」に変えると「虜(とりこ)」になる。
私に教えてくれたのは、お父様だ。

「男子たる者、思うところが無ければ、虜として一生を終えるのだ」
色褪せた絹の長衣を纏ったお父様はそう呟くと、天井に向かって阿片の煙を吐き出した。

「明日は、これを着ろ」
帰国してお父様の葬儀を終えるや否や、お兄様は英国の煙草を燻らせて言った。
「こんな服、私には合いません」
紫煙の奥からお兄様の眼鏡が冷たく光った。
「関係ない」

「宋(ソン)くん、これが、僕の妹だ」
花嫁さながら真っ赤な洋服を着た私は俯く。袖も丈も明らかに大きすぎる。
「ちょうど今みたいな海棠(かいどう)の盛りに生まれたから、この子は『棠榮(タンロン)』と言うんだ」
女衒(ぜげん)さながら捲し立てるお兄様に頷きながら、あの人は笑って私を眺めている様だった。
「よそにはない美しさだ」
振り向くと、川向こうにも海棠の木が並んでいて、薄紅の花が煙の様に散っていた。

「旦那様からです」
執事が三月ぶりに宋の手紙を差し出す。

汽車が煙を引いて遠のく音を聞きながら、私は窓辺で封を切る。

次は【手紙】

No.397 10/12/06 08:30
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 396 【手紙】
《画家パブロ・マルケス氏、事故死》
「マリーの下手っぴ」
才走った少年の顔と声が突然蘇る。
あの頃からパブロの才能は群を抜いていた。
でも、あたしは人を馬鹿にする彼が大嫌いだった。

「まあ、成功した方が勝ちよね」
マリーは読み終えた新聞を放った。

数日後、マリーの下に彼の母から小包が届いた。
中身は、一枚のメモと切手まで貼った三通の手紙。
《あの子の引き出しから見つけました。そのまま送ります。》

一番古い手紙は、子供の頃住んでいた家宛だ。
《マリーへ
今日は僕の正直な気持を書くよ。君が大好きだ。パブロ》

次に“マリー・ベル”と呼び捨てた宛名の封を開くと、殴り書きの文面が飛び出した。
《どうして俺の気持ちに気付かない?いいよ、これを最後にお前の事は忘れてやる!》

最後の手紙は今の部屋宛だ。
《マリーへ
ジョルジュとソフィからこちらの住所を聞きました。画塾の頃からあの二人は仲良しだったけど、もう三人目の子供が生まれるそうだ。君はまだ一人って本当?
ところで今度個展をやる。チケットを同封する。必ず来て欲しい。》

末尾の日付から、まだ半月経っていない。

次は【片思い】

No.398 10/12/10 01:14
秋扇公主 ( aVaWh )

>> 397 【片思い】
「あはは、ジャン王子にミナ姫か」
ルイは白い歯を見せて笑い転げた。
「その劇のせいで、卒業するまで、あたしの渾名は『ジャン王子』だったの」
本当は結構、辛い記憶。

「そん時の写真とかある?」
ルイが見てるのは、ゴツい黒髪のあたしではなく、輝く金髪にハート形のロケットをしたミナ。
「まだ持ってる?」
可憐なミナがあたしに問う。
「さあね」

林檎の木陰で、ルイもミナも切なげな顔をしていた。
「…だから、貴方とは付き合えない」
「俺、ずっと待つよ」
「ジャンヌ…!」
先に気付いたのはミナだった。
ルイは、邪魔者でも見る様な目であたしを眺めた…。

「あたしに気兼ねせず付き合いなよ」
追ってきたミナにあたしは無理に笑顔を作る。
「もう関わらないから」

「ジャンヌ、今すぐ病院に来てくれ!」
真夜中の電話でルイの声は酷く怯えていた。
「ミナが睡眠薬を…」

待合室で、ルイは鎖の切れたハート形のロケットをあたしに寄越した。

「彼女が愛してるのは、お前なんだ」

開かれたハートの中では、「ジャン王子」が笑っていた。

次は【薬】

続けて下さる方がいなくて私ばかり連投しています😥

No.399 10/12/10 13:49
ヴァノーラ ( URR6h )

>> 398 [薬]

眠る前の儀式

繋げては壊す
途切れ途切れの記憶と
幻聴と幻覚が
当たり前の日常

疲れ果てた掌に
転がる「薬」が

喉に転がり落ちる呪文と共に

記憶を
日常を
意識の彼方へと導いていく

次は「記憶」。

No.400 10/12/12 02:56
陽子 ( ♀ oQ9K )

>> 399 【記憶】
小春日和の昼下がり、公園のベンチに寂しそうに座ってる女性に近付き、
「こんにちは、暖かい日ですね」と、声を掛けた。
女性は空を見上げ、次に僕を見て
「暖かいです」
少しぎこちない笑顔を見せて答えた。

厚かましいが女性の座るベンチに離れて腰を下ろした。

女性は特に反応もしなかった。

「この公園にはよく来るんですか?」

女性に尋ねた。

「分かりません」
「そうですか…」
昔来たかもしれません。でも違うかもしれません。どうだったか…分かりません」
「僕はこの公園が好きでよく来てたんですよ。帰りにカフェに寄って珈琲を飲みました。」
「まぁ、珈琲ですか。私も珈琲大好きです。」
少し声のトーンが上がった女性に
「珈琲は何が好きですか?」と尋ねると
「ブルーマウンテン!」
またトーンが上がった。そして
「私、この公園来たことあります!」
嬉しそうに言った。

そこへ迎えの女性が現れ
「では戻りましょう」
そう言ってベンチの女性を立たせ、腕を回し、僕に一礼して去った。
僕は静かに彼女の後ろ姿を見送った。
妻はもうすっかり僕の記憶が無い。
明日は珈琲を持って来よう。
笑顔は見れるから。

次は【公園】

  • << 401 【公園】 その公園の真ん中には 像の滑り台があった。 水色の体に ぽっかりと穴が空き 中の階段を登ると 鼻から滑り降りる仕組みになっている。 私は この通称『ぞうさん公園』を 通勤の通り道にしていた。 横切ると近道だったから。 ある朝 ぞうさんの鼻の先の砂場が 朝日に照らされて キラキラと光っていることに気付いた。 なんだろ…? 近付くと そこにはビール瓶の破片が散らばっていた。 子供が怪我をしたらどうするつもりだと 憤慨しながらも 通り過ぎた。 夜には 綺麗に取り除かれていた。 きっと 役所かお母さん方が 掃除をしたのだろうと 納得した。 しかし…。次の朝も。次の朝も 破片はあった。 悪意を持っての いたずらだろう。 いたちごっこのように 続いたある晩、私は 目にした。 犯人を…。 私の勝手な予想を裏切り それは 女だった。 ビール瓶を 像の鼻先に叩き付けるその姿は 夜叉のようであった。 あまりの異様な光景に 私は後ずさる。 振り返る女の顔が 私の顔を捕らえる。 私は 逃げ出した。 次の朝 私の玄関先に ビール瓶の破片が キラキラと輝いていた。 次のお題は【夜叉】
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